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フレッシュな赤血球輸血だと手術合併症も少ない?

 大手術を受ける患者は濃厚赤血球輸血(packed red blood cell、以下PRBC)の投与を受ける機会も多い。しかし、PRBCの経年程度(輸血前の保存期間)が、周術期の手術成績に与える影響はいまだ明らかになっていない。 当試験には2009~14年にジョンズホプキンス大学病院で、肝・膵臓および結腸直腸の外科的切除術を受け、1単位以上の赤血球輸血を受けた1,365例の患者が登録された。そこからPRBCの保存期間、臨床病理的特徴、そして周術期の結果を入手し多変量解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・合計5,901単位のPRBCが輸血され、1患者当たりの中央値は2単位であった。・保存期間35日未満のPRBCを受けた患者(新鮮なPRBC群)は936例(58.6%)、保存期間35日以上の投与を受けた患者(古いPRBC群)は429例(32.4%)であった。・全体の周術期合併症は32.8%であった。・古いPRBC群の手術合併症発生率は42.7%、新鮮なPRBC群では28.3%と、古いPRBC群で有意に高かった(p<0.01)。・交絡因子調整後も古いPRBCは周術期合併症のリスク増加に関連していた(RR:1.02、p=0.03)。 古いPRBCの使用は、肝・膵臓および結腸直腸手術術後合併症の独立した予測因子であり、術後合併症のリスク上昇に寄与する可能性が示唆された。

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血管止血デバイスの安全性評価に有用な監視システム/NEJM

 DELTA(Data Extraction and Longitudinal Trend Analysis)と呼ばれる前向き臨床登録データサーベイランスシステムを用いた検証により、血管止血デバイスの1つであるMynxデバイスが、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後の有害事象増加と関連しており、最初の1年以内で他の血管止血デバイスと有意差がみられることが明らかとなった。米国・Lahey Hospital and Medical CenterのFrederic S. Resnic氏らが、PCI後の有害事象増加が懸念されているデバイスの安全性モニタリングについて、DELTAシステムを用いた戦略が実現可能かを評価したCathPCI DELTA試験の結果、報告した。これまで、医療機器の市販後の安全性を保証する過程は、有害事象の自主報告に依存しており、安全性の評価と確認が不完全であった。NEJM誌オンライン版2017年1月25日号掲載の報告。Mynxデバイスの安全性に関する傾向スコア解析を実施 DELTAは、オープンソースのデータベース管理および統計解析ツールを結合する統合ソフトウェア・コンポーネントで、臨床登録と他の詳細な臨床データから安全性シグナルを前向きにモニターするサーベイランスシステムである。 研究グループは、DELTAシステムを使用し、CathPCI Registryに登録された患者を対象に、Mynxデバイスの安全性を他の承認済み血管止血デバイスと比較する傾向スコア解析を実施した(Mynxは、シースを抜く際に大腿動脈の穿刺部を、生体に吸収されるポリエチレングリコールで止血するデバイス)。 主要評価項目は、全血管合併症(穿刺部出血、穿刺部血腫、後腹膜出血、その他の処置を要する血管合併症)、副次評価項目は治療を要する穿刺部出血および施術後輸血であった。他の血管止血デバイスと比較し、Mynxデバイスで血管合併症リスクが有意に増加 2011年1月1日~2013年9月30日の間に、大腿部アプローチによるPCI後にMynxデバイスを使用した患者7万3,124例のデータが解析された。 Mynxデバイスは、他の血管止血デバイスと比較して、全血管合併症のリスクが有意に増加した(絶対リスク1.2% vs.0.8%、相対リスク:1.59、95%信頼区間[CI]:1.42~1.78、p<0.001)。同様に、穿刺部出血(同:0.4% vs.0.3%、1.34、1.10~1.62、p=0.001)、および輸血(1.8% vs.1.5%、1.23、1.13~1.34、p<0.001)も有意なリスク増加が確認された。 Mynxデバイスによる血管合併症に関する警告(増加が有意であることが最初に認められたこと)は、モニタリング開始後12ヵ月以内に発生した。相対リスクは、事前に定義した3つのサブグループ(糖尿病、70歳以上、女性)でより高かった。 FDAの指示により追加された2014年4月1日~2015年9月30日の間の別の4万8,992例を対象とした解析でも、すべての評価項目に関して最初の12ヵ月以内に警告が確認された。

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上部消化管出血患者のリスク評価スコア5種を比較/BMJ

 上部消化管出血患者のリスク評価は、Glasgow Blatchfordスコアが治療の必要性や死亡に関する予測精度が最も高い。英国・グラスゴー王立診療所のAdrin J Stanley氏らが、複数のシステム(admission Rockall、AIMS65、Glasgow Blatchford、full Rockall、PNED)について予測精度と臨床的有用性を比較する国際多施設前向き研究を行い明らかにした。ただし、Glasgow Blatchfordスコアも、その他のエンドポイントに関しては臨床的有用性には限界があるという。上部消化管出血患者の管理では、リスク評価スコアを用いて外来管理か緊急内視鏡検査、またはより高度な治療を実施するかを決定することが推奨されているが、これまで、予測精度や普遍性、リスクを判断する最適閾値などが不明のままであった。BMJ誌2017年1月4日号掲載の報告。上部消化管出血患者の5つのリスク評価スコアを比較 研究グループは、欧州・北米・アジア・オセアニアの大規模病院6施設において、2014年3月~2015年3月の12ヵ月間にわたり上部消化管出血患者連続3,012例について評価した。 主要評価項目は、複合評価項目(輸血、内視鏡治療、画像下治療[IVR]、外科手術、30日死亡率)、内視鏡的治療、30日死亡率、再出血、在院日数で、内視鏡検査前のリスク評価スコア(admission Rockall、AIMS65、Glasgow Blatchford)と内視鏡検査後のリスク評価スコア(full Rockall、progetto nazionale emorragia digestive[PNED])を比較するとともに、低リスク患者と高リスク患者を特定するための最適スコア閾値を求めた。Glasgow Blatchfordスコアが介入や死亡の予測に最も有用 結果、介入(輸血、内視鏡治療、IVR、手術)の必要性または死亡を予測するうえで最も有用なのは、Glasgow Blatchfordスコア(GBS)であった。ROC曲線下面積(AUROC)は、GBSが0.86であったのに対し、full Rockallは0.70、PNEDは0.69、admission Rockallは0.66、AIMS65は0.68であった(すべてのp<0.001)。また、GBS 1点以下が、介入不要の生存を予測する最適閾値であった(感度98.6%、特異度34.6%)。 内視鏡治療の予測には、AIMS65(AUROC:0.62)やadmission Rockall(0.61)と比較して、GBS(0.75)が適していた(両比較のp<0.001)。GBS 7点以上が、内視鏡治療を予測する最適閾値であった(感度80%、特異度57%)。 死亡の予測には、PNED(0.77)およびAIMS65(0.77)が、admission Rockall(0.72)およびGBS(0.64)より優れており最も予測に有用であった(p<0.001)。死亡を予測する最適閾値はPNED 4点以上、AIMS65は2点以上、admission Rockallは4点以上、full Rockallは5点以上であった(感度65.8~78.6%、特異度65.0~65.3%)。 再出血や在院日数の予測に役立つスコアは、なかった。 著者は、上部消化管出血発症時にすでに入院中の患者は除外されていることや、患者の31%は内視鏡検査が未実施であったことなどを研究の限界として挙げている。そのうえで、「救急部門でのGBS利用が多くの国々で拡がることにより、上部消化管出血患者の最大19%は外来患者として安全に管理できる可能性がある」とまとめている。

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CORONARY試験:冠動脈バイパス術後5年目成績はオフポンプとオンポンプでは同等(解説:大野 貴之 氏)-629

 オフポンプ冠動脈バイパス手術(CABG)は、人工心肺を使用した心停止下CABGと比較すると、熟達するまでの執刀経験は多く必要であることは否定できない。しかし、“心臓を動かしたまま”手術するといっても、スタビライザーを使用し、冠動脈末梢吻合部は静止した状態で吻合施行するので、慣れればそんなに難しい手技ではない。 オンポンプCABGとオフポンプCABGを比較した最初のランダム試験は、2,203例を対象としたROOBY試験である1)。この試験では、執刀医の資格はオフポンプCABG経験数20例以上と少なく(平均50例)、レジデントも含まれていた。追跡期間1年で心臓死はオフポンプ群で有意に高値であった。これは、オフポンプ群の12.4%が術中オンポンプに移行(conversion)しており、平均吻合数もオンポンプ群と比較して少ないことから、オフポンプCABGの手技が未熟であったことが影響している。一方、CORONARY試験は4,752例を対象としたオンポンプCABGとオフポンプCABGを比較したランダム試験で、執刀医の資格はレジデント終了後2年以上かつオフポンプCABGを100例以上経験していることである。 術後早期成績の報告では、輸血率、再開胸率、腎不全率および呼吸器合併症はオフポンプ群において低率であったが、再血行再建率はオフポンプ群ではやはり高率(0.7% vs.0.2%:p=0.01)であった2)。 2015年、Deppe氏らは51本のランダム試験を統合した1万6,904例のメタ解析でオフポンプCABGはオンポンプCABGと比較して、脳梗塞発症、腎機能障害、縦隔炎発症は低いが、グラフト不全、再血行再建術は高いと報告している。心筋梗塞、死亡に関しては有意差を認めなかった3)。 今回、CORONARY試験の追跡期間5年結果を報告した論文では、オフポンプ群とオンポンプ群で死亡・脳梗塞・心筋梗塞・腎不全・医療費、QOLは両群で同等であった。再血行再建術もオフポンプ群66例(2.8%)、オンポンプ群52例(2.3%)と同等であった。 オフポンプCABGは、技術的に熟達するために多くの経験数は必要であるが、慣れればオンポンプCABGと同等に安全で有効な手術である。

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ヘパリン起因性血小板減少症〔HIT:heparin-induced thrombocytopenia〕

1 疾患概要■ 定義ヘパリン起因性血小板減少症(heparin-induced thrombocytopenia: HIT)は、治療のために投与されたヘパリンにより血小板が活性化され、血小板減少とともに新たな血栓・塞栓性疾患を併発する病態である。■ 疫学HITの頻度は報告によりさまざまであるが、欧米では約1~3%とされている。わが国においては多施設共同前向き観察研究の結果、ヘパリン治療を受けた患者の0.1~1%程度の発症率と考えられ1)、海外と比較してやや低い発症率と考えられる。■ 病因HITの発症において、血小板第4因子(platelet factor 4: PF4)とヘパリンの複合体に対する抗体(HIT抗体)が中心的な役割を果たす。PF4は、血小板α顆粒に貯蔵されているケモカインであり、血小板活性化に伴って流血中に放出される。PF4は血管内皮細胞上のヘパラン硫酸などのヘパリン様物質と結合するが、投与されたヘパリンはこの内皮細胞上のPF4と複合体を形成し、その結果PF4に立体構造の変化、新たなエピトープが露出すると推定されている。PF4・ヘパリン複合体に対してHIT抗体が産生され、HIT抗体はそのFab部分でPF4分子を認識する一方、そのFc部分が血小板上のFcγRIIA受容体に結合して、血小板を強く活性化する。また、HIT抗体は血小板のみならず、血管内皮細胞や単球の活性化も引き起こし、最終的にはトロンビンの過剰生成につながる。トロンビンは凝固系の中心的役割を担うだけでなく、血小板も強く活性化し、HITにおける病態の悪循環形成に関与していると考えられる2)。■ 症状典型例ではヘパリン投与の5~10日後にHITの発症を見るが、過去3ヵ月以内にヘパリンを投与された既往のある症例などでは、すでにHIT抗体が存在するためにヘパリン投与後HITが急激に発症することもある。通常血小板数は50%以上、また10万/μL以下に減少する。HIT症例では注射した部位に発赤や壊死などが起きやすい。HIT症例の35~75%に動静脈血栓症が起きるが、血栓症がすぐに起きない症例でもヘパリンを中止し、他の抗凝固療法を行わないと血栓症のリスクが高くなる。静脈血栓症としては深部静脈血栓、肺梗塞、脳静脈洞血栓などが知られるとともに、静脈血栓症より頻度は少ないが、動脈血栓症としては上下肢の急性動脈閉塞、脳梗塞、心筋梗塞などが起きる。■ 分類従来、ヘパリン投与後の血小板減少症は2つの型に分類されてきた。1型はヘパリン投与患者の約10%に認められ、ヘパリンの直接作用による非免疫性の機序で血小板減少が起きる。ヘパリン投与直後より、一過性の軽度から中等度の血小板減少が起きるが、血小板数は10万/μL以下になることは少なく、また、血栓症を起こすこともない。現在では本当の意味のHITではないと考えられ、ヘパリン関連性血小板減少症とも呼ばれる。2型は、免疫学的機序による血小板減少症と動静脈血栓症が起きるもので、現在はHITというと、この2型を意味する。2型には血小板減少が、ヘパリン投与後5~14日で起きる典型例と、直近(約100日以内)のヘパリン投与などにより、HIT抗体が高抗体価である患者にヘパリン投与した場合、数分から1日以内に急激に発症する症例があり、「急速発症型」と名付けられている。■ 予後HITの適切な治療が行われなかった場合、約50%の患者に動脈血栓症、静脈血栓症が起き、死亡率は10%を超える。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 臨床診断ヘパリン投与後の血小板減少の程度、発症期間、血栓症の合併、注射した部位の発赤や壊死などのHITの臨床的特徴を用いた4T スコアリングシステムが開発され、臨床的に有用とされている3)(表)。低スコア(0~3)の場合は、ほぼHITの存在が否定できる。中間スコア、高スコアとHITの確率は高くなるが、血清学的診断の結果も考慮して、総合的に診断を行うことで、現在散見されるHITの過剰診断を防ぐことができる。画像を拡大する■ 血清学的診断免疫測定法などによるPF4・ヘパリン複合体検出法とHIT抗体が血小板を活性化させることを利用した機能的測定法がある。1)免疫測定法ELISA法、ラテックス凝集法、化学発光免疫測定法などがあり、後2法は保険収載されている。HIT検出の感度は高い(80~100%)が、特異度はやや低いとされており、免疫測定法によるHIT抗体陰性の症例はほぼ(90~99%)HITを否定しても良いとされている。偽陽性率が多い原因は、臨床的に意味がないと考えられているIgMやIgAを、実際にHITを引き起こすIgGとともに測り込んでしまうためと考えられている。強陽性例(とくにIgG抗体)は、弱陽性例よりもHITである可能性が高いと報告されている。2)機能的測定法HIT抗体が実際に血小板を強く活性化させるかどうかを判定する機能的測定法は、とくに特異度に優れており、臨床的にHITが疑われ、機能的測定法が陽性であれば、HITの診断に強く繋がる。患者血漿、ヘパリンを健康な人の血小板に加え、血小板凝集能を測定する方法、セロトニン放出などでHIT抗体の存在を評価する方法が行われている。ただ、機能的測定法は、高いクオリティコントロールと標準化を必要とし、わが国では研究室レベルにとどまる。最近、わが国では、HIT抗体により活性化された血小板より産生される血小板マイクロパーティクルをフローサイトメトリーで測定することにより、機能検査を行っている施設があり、臨床的に有用との評価を得ている4)。3 治療HITが疑われる場合は、ただちにヘパリンを中止し、HITの確定検査を行いながら、代替の抗凝固療法を始める。治療薬として投与されているヘパリンのみならず、ヘパリンロック、ヘパリンコーティングカテーテルなども中止する必要がある。また、HITによる血栓症がすでに起きてしまった場合は、血栓溶解療法、外科的血栓除去術も必要になることがあるが、この適応についてのわが国でのエビデンスは乏しい状態である。ワルファリン単独療法は、protein C、Sなどの低下によりかえって血栓症を増悪し、皮膚壊死などを来すので、禁忌である。ワルファリンは、抗トロンビン剤などの投与により血小板数がある程度回復したときに、投与を始め、臨床症状が安定化してからワルファリン単独投与に切り替える。アスピリンなどの抗血小板剤も、適応のある治療法とは認められていない。■ アルガトロバンとダナパロイドHITの治療法としてわが国で使用可能な薬剤は、アルガトロバン(商品名: ノバスタンHI、スロンノンHI)とダナパロイド(同: オルガラン)である。1)アルガトロバン合成トロンビン阻害剤であり、以前より脳血栓急性期、慢性動脈閉塞症などで認可されているが、最近になり医師主導型治験の結果、HITの治療薬として薬事承認された。アルガトロバンの初期投与量は、アメリカでは2.0μg/kg/分であり、aPTTを使用として投与前値の1.5~3倍になるように投与量を調節することが推奨されているが、日本人でこの量では出血傾向が起きるようであり、わが国での推奨初期投与量は0.7μg/kg/分(肝機能障害者では0.2μg/kg/分)である。2011年にはさらにHIT患者における体外循環時の灌流血液の凝固防止、HIT患者における経皮的冠動脈インターベンション(PCI)にも適応が拡大された。2)ダナパロイド低分子量のヘパリノイドであり、ヨーロッパ、北米などでHIT治療薬として使用され、その有効性は確認されている。わが国では播種性血管内凝固症候群(DIC)への適応は承認されているが、HITへの治療量についてはまだ確立していない。ダナパロイドの添付文書では、HIT抗体がこの薬剤と交差反応する場合は、原則禁忌と記載されているが、最近の大規模臨床研究では、ヘパリンとの交差反応(血清反応および血小板減少や新規の血栓症発生などの臨床経過より評価)は3.2%とかなり低い値であった5)。アルガトロバンと異なり胎盤通過性がないなどの利点があり、症例によってはわが国でも選択されるべき薬剤の1つであろう。4 今後の展望HITは、わが国における一般の認識度の増加とともに症例数が増加してきており、簡便で信頼性のある診断方法の開発が望まれる。新規経口抗凝固薬(NOAC)のHIT治療薬としてのエビデンスはまだ少ないが、これから検討が進むことが期待される。5 主たる診療科輸血部、心臓血管外科、循環器内科 など患者を紹介すべき施設国立循環器病研究センター病院 輸血管理室6 参考になるサイト診療・研究情報国立循環器病研究センター病院 輸血管理室(医療従事者向けのまとまった情報)NPO法人 血栓止血研究プロジェクト HITセンター(医療従事者向けのまとまった情報)1)Kawano H, et al. Br J Haematol. 2011;154:378-386.2)Warkentin TE. Curr Opin Crit Care. 2015;21:576-585.3)Greinacher A. N Engl J Med. 2015;373:252-261.4)Maeda T, et al. Thromb Haemost. 2014;112:624-626.5)Magnani HN, et al. Thromb Haemost. 2006;95:967-981.公開履歴初回2016年12月6日

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CABG手術時のトラネキサム酸投与は、術後出血リスクを半減する(解説:許 俊鋭 氏)-608

【要約】バックグラウンド トラネキサム酸(商品名:トランサミン)は心臓手術症例の出血リスクを減少させるが、治療成績の改善につながるかどうかは不明である。一方、トラネキサム酸は血栓形成促進による心筋梗塞・脳梗塞の発症や、痙攣発作を惹起するリスクを有する可能性が懸念される。方法 2×2要因デザインによる臨床試験は、冠動脈バイパス手術(CABG)を受ける予定症例で周術期合併症のリスクがある患者をプラセボ群、およびトラネキサム酸群に無作為に割り付けて実施した。主要転帰(primary outcome)は、手術後30日以内死亡と血栓性合併症(非致死的心筋梗塞、脳卒中、肺塞栓症、腎不全、または腸梗塞)の複合結果とした。結果 同意し登録した4,662例の患者のうち、4,631例がCABG手術を受けアウトカムデータが使用可能であった。2,311例はトラネキサム酸群に、2,320例はプラセボ群に割り付けられた。 主要転帰イベントはトラネキサム酸群で386例(16.7%)、プラセボ群で420例(18.1%)に発生した(相対リスク、0.92、95%信頼区間:0.81~1.05、p=0.22)。入院中に輸血された血液製剤の総量は、トラネキサム酸群で4,331単位、プラセボ群で7,994単位であった(p<0.001)。再手術を必要とした大出血または心タンポナーデは、トラネキサム酸群で1.4%、プラセボ群で2.8%の患者に発生(p=0.001)し、痙攣発作はそれぞれ0.7%と0.1%で発生した(p=0.002、Fisher’s exact testによる)。結論 CABG症例でトラネキサム酸投与は術後出血の合併症リスクを低下させ、手術後30日以内の死亡または血栓性合併症のリスクを高めることはなかった。一方、トラネキサム酸は術後痙攣発作のリスクを高めた。 コメント トラネキサム酸投与は開心術に伴う術後の出血傾向を抑制し、再手術を必要とした大出血または心タンポナーデの合併症を半減(1.4% vs.2.8%)させるという結論がこのRCTで証明され、逆にトラネキサム酸により血栓形成促進による非致死的心筋梗塞、脳卒中、肺塞栓症、腎不全、または腸梗塞を増加させないことが証明された。今後、手術成績を向上させるうえでトラネキサム酸投与は有効である可能性が示唆された。

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冠動脈手術時のトラネキサム酸はアウトカムを改善するか/NEJM

 合併症リスクのある冠動脈手術患者に対し、トラネキサム酸を投与しても、死亡や血栓性合併症のアウトカムは改善しない。トラネキサム酸を投与した群では、プラセボ群に比べ、大出血や再手術を要する心タンポナーデのリスクは減少したものの、痙攣発生率は増大が示された。オーストラリア・モナシュ大学のPaul S. Myles氏らが行った、無作為化プラセボ対照二重盲検試験の結果、明らかにした。トラネキサム酸は、冠動脈手術の際に出血リスクを減少することは知られていたが、アウトカムを向上するかどうかは不明だった。また、トラネキサム酸の持つ血栓形成促進性や痙攣誘発性効果についての懸念も指摘されていた。NEJM誌オンライン版2016年10月23日号掲載の報告。術後30日の死亡・血栓性合併症の発生率を比較 研究グループは、2006年3月~2015年10月にかけて、冠動脈手術が予定されており周術期合併症リスクがある患者4,631例を対象に、2×2要因デザインを用いて、トラネキサム酸またはプラセボ、アスピリンまたはプラセボを投与した。 主要評価項目は、術後30日以内の死亡または血栓性合併症(非致死的心筋梗塞、脳卒中、肺塞栓症、腎不全、腸梗塞)の複合エンドポイントだった。被験者の平均年齢は、トラネキサム酸群が66.8歳、プラセボ群が67.0歳だった。 痙攣発生率、プラセボ群0.1%、トラネキサム酸群0.7% その結果、複合エンドポイント発生率は、トラネキサム酸群が16.7%(386/2,311例)、プラセボ群が18.1%(420/2,320例)と、両群で同等だった(相対リスク:0.92、95%信頼区間:0.81~1.05、p=0.22)。 入院中に注入した血液製剤の総量は、プラセボ群が7,994単位だったのに対し、トラネキサム酸群では4,331単位と有意に少なかった(p<0.001)。 大出血や再手術を要する心タンポナーデの発生率も、プラセボ群が2.8%だったのに対し、トラネキサム酸群は1.4%と、有意に低率だった(p=0.001)。 一方で、痙攣発生率は、プラセボ群が0.1%に対しトラネキサム酸群では0.7%と、有意に高率だった(p=0.002、フィッシャーの正確確率検定による)。

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“経口”の血小板産生促進剤、ムルプレタ

 2016年8月30日、塩野義製薬株式会社主催の第2回「いのちを考える」プレスセミナーが開催された。そのなかで、武蔵野赤十字病院 院長の泉 並木氏は「慢性肝疾患の検査・治療に伴う様々なリスクをどう乗り越えるか」と題して、慢性肝疾患における血小板減少症に対する既存治療とムルプレタ(一般名:ルストロンボパグ)の登場による今後の展望について述べた。慢性肝疾患における血小板減少症とその治療 慢性肝疾患では、造血因子であるトロンボポエチン(TPO)の産生低下や脾臓での血小板破壊亢進により、血小板が減少する。血小板が減少すると出血リスクが高まることから、ラジオ波焼灼療法(RFA)などの出血を伴う手技が制限されてしまうことがある。そのため、従来は部分的脾動脈塞栓術(PSE)、脾臓摘出、血小板輸血といった治療法によって血小板の補充が行われていた。なかでも侵襲性の低い血小板輸血が主に用いられているが、泉氏曰く、血小板輸血による医師の治療満足度は高くはない。さらに、血小板輸血ではアレルギーなどの副作用が懸念されるほか、保存方法や有効期間について厳密な管理方法が定められている。血小板輸血による諸問題を解消する薬剤、ムルプレタの登場 そのようななか、経口投与(1日1回7日間)によって血小板産生を促進することのできる薬剤、ムルプレタが登場した。ムルプレタは、第III相臨床試験において血小板輸血回避率がプラセボと比較して有意に高く(ムルプレタ3mg群:79.2%、プラセボ群:12.5%、p<0.0001)、血小板数5万/μL以上の維持期間も有意に長いことが示された(ムルプレタ3mg・血小板輸血回避群:22.1日間、プラセボ・血小板輸血実施群:3.3日間、p<0.0001)。本薬剤は投与開始から血小板数の増加が認められるまでに数日を要することから、手技施行予定日の8~13日前を目安に投与を開始する。血小板減少治療に“経口”という選択肢を 血小板減少は、慢性肝疾患の検査・治療の障壁となることもあり、その治療にはリスクが伴ってきた。そこに登場した、経口の血小板産生促進剤である「ムルプレタ」は、まさに待望の薬剤といえるだろう。 泉氏は、「血小板輸血を行わなくても、経口で血小板の産生が可能」とムルプレタの臨床的意義を強調した。高齢化により、ますます患者負担の少ない治療が求められていることからも、経口薬という選択肢の持つ可能性は大きい。血小板減少はほかの分野の疾患でも認められるため、慢性肝疾患だけでなく、今後の適応拡大も大いに期待される。

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1000-10X【Dr. 中島の 新・徒然草】(125)

百二十五の段 1000-10X卒後1年目は大学の麻酔科で研修をしました。いろいろな失敗をしでかしましたが、幸い大事に至らずに済みました。というのも、当時は研修医の何倍もの数の上級医がいたからです。私の尻を拭いてくれた先生方には今でも感謝しております。当時、よくやった失敗の1つに、輸血開始の遅れがあります。というのも、輸血には感染症をはじめとしたいろいろな副作用があるといわれており、できるだけしないほうが良いということを信じていたからです。手術中に何やかやで出血が多くなり、術者が止血に追われているのに、麻酔担当の私が輸血開始を躊躇していると、当然のことながら「いきなり血圧低下、上級医コール、あわててポンピング!」ということが時々ありました。そのようなことを何回も繰り返していると、さすがに「これはマズイ、何とかしなくては!」と思うようになりました。それで考え出したのがタイトルの「1000-10X」という式です。ここで「X」には患者さんの年齢を入れます。そして出血量がカウントで「1000-10X」を超えたら何らかのアクションを起こそう、と心に決めました。患者さんの年齢が、20歳なら出血量800mL50歳なら出血量500mLに達した時点で機械的に何か行動を起こします。多くの場合、私は術者に相談しました。中島「あの…出血量がカウントで535mLになりまして」術者「500超えよったか」中島「それで輸血をどうしようかと迷っているんですけど。ちなみにヘモグロビンの値のほうはですね」術者「入れてくれ、入れてくれ。輸血頼むわ」中島「わかりました。輸血開始します」ヘモグロビンの値を述べるまでもなく、「輸血してくれ」と言われることが大半でした。卒後1年目の研修医が、手術中の教授や助教授に声を掛けるのは憚られたのですが、出血量の報告や輸血開始の相談をすると、皆さん例外なく喜んでくれました。また、いきなり血圧が低下して慌てる、ということもなくなりました。時は経ち、自分が手術する側に回ってみると、当時の術者の気持ちがよくわかるようになりました。そもそも輸血したことによる合併症の発生は予測不能である一方、もし起こったとしても術後管理で何とかしよう、と思えます。しかし、手術中に輸血開始が遅れてしまったら、取り返しのつかないことになりかねません。また、外科の立場になると、スムーズな手術進行には麻酔科医とのコミュニケーションも大切だということもわかるようになりました。私は、外傷など大量出血の予想される手術のタイムアウトの時などには、患者さんの名前と術式と予想出血量を確認するだけではなく、輸血開始は麻酔科の判断で結構ですが、開始したという事は教えて下さい。収縮期血圧が1回でも90を切ったら教えて下さい。ポンピングを始めたら教えて下さい。ということを麻酔科医に頼んでおくことがあります。案外、術者は血圧低下に気付かないからです。ヘモグロビン値が8mg/dLだとか、循環血液量の20%の出血量だとか、手術中の輸血開始にはいろいろな目安が提唱されています。でも、自分自身の経験から、カウントの出血量が「1000-10X」という数字に達したら自働的に何らかのアクションを起こす、というやり方は、今の時代でも悪くないんじゃないかと思います。最後に1句数値超え 破綻の前に 何かしろ!

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本当にあった医学論文3

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赤芽球癆〔PRCA : pure red cell aplasia〕

1 疾患概要■ 概念・定義正球性正色素性貧血と網赤血球の著減および骨髄赤芽球の著減を特徴とする造血器疾患である。再生不良性貧血が多系統の血球減少(ヘモグロビン濃度低下、好中球減少、血小板減少)を呈するのに対して、赤芽球癆では選択的に赤血球系のみが減少し、貧血を呈する。病因は多様であるが、赤血球系前駆細胞の分化・増殖障害によって発症する。病型・病因によって治療が異なるので、赤芽球癆の診断のみならず、病因診断がきわめて重要である。■ 疫学急性型赤芽球癆の発生頻度はわかっていない。慢性型赤芽球癆はまれな疾患で、発症頻度は再生不良性貧血の約10分の1である。厚生労働省特発性造血障害に関する調査研究班の患者登録集計から、年間発生率は人口100万人に対し0.3人と推定されている。日本血液学会2011年次血液疾患症例登録によれば、全国における1年間の新規発生例は100例に満たない。特発性造血障害調査研究班が2004年度と2006年度に行った全国調査により集積された特発性72例、胸腺腫関連41例、大顆粒リンパ球性白血病関連14例の計127例における解析によれば、年齢中央値は62歳(18~89歳)、男女比は51:76で女性にやや多かった。■ 病因造血障害の発生部位は、赤血球へと分化が運命づけられた赤血球系前駆細胞のレベルであると考えられている。赤血球系前駆細胞に障害が発生するメカニズムとして、ウイルスや薬剤、遺伝子変異、造血前駆細胞に対する自己傷害性リンパ球や抗体などによるものがある。さらに、内因性エリスロポエチンに対する自己抗体による赤血球系造血不全も報告されている。腎性貧血に対するヒトエリスロポエチン製剤投与の後に抗エリスロポエチン抗体が産生されて、赤芽球癆が発生することがある。赤芽球癆の発生メカニズムは多様であるが、赤芽球の減少に基づく網赤血球の減少と貧血が共通にみられる。■ 症状自覚症状は貧血による全身倦怠感、動悸、めまいなどである。通常白血球数や血小板数は正常であるが、続発性の場合には基礎疾患によって異常を呈することがある。続発性では、その基礎疾患に応じた症状と身体所見が認められる。■ 分類赤芽球癆は大きく先天性と後天性に分類される。先天性赤芽球癆としてDiamond-Blackfan貧血が有名である。後天性赤芽球癆には基礎疾患を特定できない特発性と、胸腺腫、リンパ系腫瘍、骨髄性疾患、感染症、自己免疫疾患、薬剤投与などに伴う続発性がある。発症様式により急性と慢性に分類される。前述の特発性造血障害に関する調査研究班の調査によれば、わが国の後天性慢性赤芽球癆の原因として最も多いのは特発性であり、次いで胸腺腫関連、大顆粒リンパ球性白血病を始めとするリンパ系腫瘍である。■ 予後急性赤芽球癆は急性感染症の治癒に伴い、あるいは薬剤性の場合には被疑薬の中止により貧血は自然に軽快する。ただし、外因性エリスロポエチンの投与に伴う抗エリスロポエチン抗体による赤芽球癆は自然治癒しないことが多い。特発性慢性赤芽球癆は、免疫抑制薬により貧血の改善が得られるが、治療の中止は貧血の再燃と強く関連することが知られている。また、胸腺腫関連および大顆粒リンパ球性白血病関連赤芽球癆においても、免疫抑制薬が有効であるが、治療の中止が可能であるとするエビデンスはない。免疫抑制薬によって寛解が得られた慢性赤芽球癆においては、免疫抑制薬による維持療法が必要な場合が多い。予測される10年生存率は、特発性赤芽球癆で95%、大顆粒リンパ球性白血病関連赤芽球癆で86%であり、胸腺腫関連赤芽球癆の予測生存期間中央値は約12年である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)厚生労働省特発性造血障害に関する調査研究班により、赤芽球癆の診断基準が作成されている(図)。画像を拡大する診断基準の構成は、末梢血液学的検査および骨髄の形態学的検査所見に基づく赤芽球癆の診断基準と、病因・病型診断のための検査手順から成る。赤芽球癆は網赤血球数の著減が特徴的であり、通常1%未満である。2%を超える場合には、ほかの疾患を考慮すべきである。次いで、貧血の発症に先行する感染症の有無と薬剤服用歴の情報を収集する。後天性慢性赤芽球癆の多くは中高年に発症するが、妊娠可能年齢の女性が赤芽球癆と診断された場合、妊娠の有無を確認する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)初期治療の方針は、被疑薬の中止と、約1ヵ月間の経過観察である。薬剤や急性感染症による赤芽球癆は、通常3週間以内に改善する。ヒトパルボウイルスB19感染による赤芽球癆は、通常self-limitedであるが、HIV感染症のある患者では持続感染となりうるので、慢性型赤芽球癆であってもヒトパルボウイルスB19感染の有無はチェックするべきである。貧血が高度で日常生活に支障がある場合には赤血球輸血を行う。この経過観察期間中に病因診断のための検査を行い、基礎疾患があれば治療を行う。基礎疾患の治療を行っても貧血が軽快しない場合には、免疫抑制療法を考慮する。特発性赤芽球癆、胸腺腫関連赤芽球癆、大顆粒リンパ球性白血病関連赤芽球癆に対してシクロスポリン(商品名:サンディミュンほか)、副腎皮質ステロイド、シクロホスファミド(同:エンドキサン)などの薬剤が選択される。いずれの薬剤が最も優れているかについて検証した前向き試験は、海外を含めてこれまで行われていない。特発性造血障害調査研究班による調査研究によれば、特発性赤芽球癆に対する初回寛解導入療法の奏効率は、シクロスポリン74%、副腎皮質ステロイド60%、シクロスポリンと副腎皮質ステロイドの併用100%であり、胸腺腫関連赤芽球癆に対するシクロスポリンの奏効率は95%であった。大顆粒リンパ球性白血病関連赤芽球癆に対する初回寛解導入療法奏効率は、シクロホスファミド75%、シクロスポリン25%、副腎皮質ステロイド0%であった。したがって、後方視的疫学研究の結果ではあるが、特発性赤芽球癆および胸腺腫関連赤芽球癆に対する第1選択薬は、現時点においてはとくに禁忌がない限り、シクロスポリンであると考えられる。4 今後の展望後天性慢性赤芽球癆の主な死因は、感染症と臓器不全である。免疫抑制療法中の感染症の予防と治療、そして赤血球輸血依存性症例における輸血後鉄過剰症に対する鉄キレート療法は、予後を改善することが期待される。なお、平成27年7月1日から後天性慢性赤芽球癆は指定難病に認定され、所定の診断基準および重症度を満たすものについては医療費助成の対象となった。5 主たる診療科(紹介すべき診療科)血液内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)特発性造血障害に関する調査研究班(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター(後天性赤芽球癆)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報特定非営利活動法人血液情報広場つばさ(患者とその家族向けの情報)1)澤田賢一、廣川 誠ほか. 赤芽球癆.In:小澤敬也編.特発性造血障害疾患の診療の参照ガイド 平成22年度改訂版.2011;38-52.2)廣川 誠、澤田賢一. 日本内科学会雑誌.2012;101:1937-1944.3)廣川 誠. 内科.2013;112:285-289.4)廣川 誠. 臨床血液(教育講演特集号).2013;54:1585-1595.4)廣川 誠. 臨床血液.2015;56:1922-1931.公開履歴初回2014年02月13日更新2016年05月10日

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急性前骨髄球性白血病〔APL : acute promyelocytic leukemia〕

1 疾患概要■ 概念・定義急性前骨髄球性白血病(acute promyelocytic leukemia:APL)は急性骨髄性白血病の1つで、FAB分類ではM3に分類される。大部分の症例でt(15;17)(q22;q12)を認め、15番染色体q22上のpromyelocytic leukemia(PML)遺伝子と17番染色体q12上のretinoic acid receptor α(RARA)遺伝子の融合遺伝子を形成するため、WHO分類ではt(15;17)(q22;q12); PML-RARAを伴う急性前骨髄球性白血病という一疾患単位が設定されている。線溶亢進型の播種性血管内凝固症候群(DIC)を高率に合併し、脳出血など致命的な臓器出血を来しやすく、出血による早期死亡が寛解率を低下させていたが、ビタミンAの一種である全トランス型レチノイン酸(all-trans retinoic acid: ATRA、一般名:トレチノイン、商品名:ベサノイド)を寛解導入療法に用いることで、APL細胞を分化させるとともにDICが軽減され、きわめて高い寛解率が得られるようになった。また、APL細胞はP糖蛋白の発現が低く、アントラサイクリン系薬をはじめ抗腫瘍薬に対する感受性も高い。したがって十分な寛解後療法を行えば再発の危険性も低く、急性白血病の中では化学療法により完治を得る可能性が最も高い疾患と認識されている。■ 疫学わが国において白血病は、年に10万人当たり男性で約6人、女性で約4人に発症し、その約60%が急性骨髄性白血病、さらにその10~15%がAPLといわれている。世界的にみると、イタリアやスペインなど南ヨーロッパで発症率が高い。ほかの急性骨髄性白血病よりも発症年齢が若い傾向がある。■ 病因15番染色体q22上のPML遺伝子と17番染色体q12上のRARA遺伝子は、骨髄系細胞の増殖抑制、分化の調整を行うが、相互転座の結果PML-RARA融合遺伝子が形成されると、骨髄系細胞の分化が抑制され、前骨髄球レベルで分化を停止した細胞が腫瘍性に増殖することで発症すると考えられる。■ 症状1)出血最も重要な症状は出血で、主としてDICに起因する。皮膚の紫斑・点状出血のほか、歯肉出血、鼻出血などを来す。抜歯など、観血的な処置後の止血困難もしばしば診断のきっかけになる。脳出血など、致命的な出血も少なくない。2)貧血骨髄での赤血球産生低下と出血のため貧血となり、動悸、息切れ、疲れやすさなどを自覚する。3)感染、発熱正常な白血球、とくに好中球数が低下し、発熱性好中球減少症を起こしやすい。病原微生物として、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌や表皮ブドウ球菌、腸球菌、緑膿菌などの細菌、カンジダやアスペルギルスなど真菌が多い。感染部位として菌血症、肺炎が多いが、起因菌や感染部位が同定できないことも少なくない。■ 予後寛解導入療法に広くATRAが用いられるようになった1990年代以後、寛解率は90%を超えている。非寛解例の多くが出血による早期死亡であり、初期にDICをコントロールできるかどうかが生存に大きく影響する。いったん寛解に入り、十分な寛解後療法を行えば再発しにくく、70%以上の患者は無再発での長期生存が可能である。とくに白血球数が少なく(≦10,000/mm3)、血小板数が比較的保たれた(>40,000/mm3)症例では再発のリスクが低い1)。一方、地固め療法後にRQ-PCR法にてPML-RARAが消失しない、あるいはいったん消失したPML-RARAが再出現する場合は、血液学的再発のリスクが高い2)。ただし、再発した場合も多くは亜ヒ酸(一般名:三酸化ヒ素、商品名: トリセノックス)が奏効し、さらに自家造血幹細胞移植も有効であるため、急性白血病の中で最も予後良好といえる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 血液検査所見白血球数は減少していることが多い。APL細胞はアズール顆粒が充満しており、アウエル小体が束状に存在するFaggot細胞として存在するものもある。貧血もほぼ必発で大部分が正球性である。産生低下およびDICにより、血小板数は著しく低下する。DICのため、プロトロンビン時間(PT)延長、フィブリン分解産物(FDP)およびD-ダイマー高値、フィブリノーゲン低値を示す。DICは線溶亢進型で、トロンビン-アンチトロンビン複合体(TAT)、プラスミン-α2プラスミンインヒビター複合体(PIC)ともに高値となる。アンチトロンビンは正常のことが多い。■ 骨髄所見骨髄は末梢血と同様の形態をもつAPL細胞が大部分を占め、正常な造血は著しく抑制される。APL細胞は、ペルオキシダーゼに強く染まり、細胞表面マーカーはCD13、CD33が陽性、CD34、HLA-DR陰性である。染色体および遺伝子検査では90%以上にt(15;17)(q22;q12)が、約98%にPML-RARA融合遺伝子が証明される。t(15;17)(q22;q12)以外の非定型染色体転座にt(5;17)(q35;q12); NPM1-RARA、t(11;17)(q23;q12); ZBTB16(PLZF)-RARA、t(11;17)(q13;q12); NUMA1-RARAなどがある。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)ATRAを中心とした初回寛解導入療法、寛解導入後の地固め療法や維持療法、再発例に対する治療、造血幹細胞移植などがある。■ 初回寛解導入療法診断が確定したら、ATRAを寛解到達まで内服する。ATRA単独の寛解導入療法はATRAと従来の化学療法剤との併用療法に比べ寛解率に差はないが、再発のリスクが高いとする報告もあり3)、とくに診断時白血球数の多い症例、ATRA投与中に白血球数増加を来した症例、APL分化症候群を合併した症例では積極的にイダルビシン(商品名: イダマイシン)などのアントラサイクリンやシタラビン(同:キロサイド)を併用する。初回寛解導入療法中の重篤な合併症として、DICに伴う出血とAPL分化症候群がある。DICに伴う致命的な出血を予防するため、最低でも血小板数は50,000/mm3、フィブリノーゲンは150mg/dLを保つように血小板および新鮮凍結血漿の輸血を行うとともに、トロンボモジュリン(同:リコモジュリン)などDICに対する薬物療法を行う。APL分化症候群は、ATRAや亜ヒ酸の刺激を受けたAPL細胞から過剰産生される、さまざまな炎症性サイトカインやAPL細胞の接着分子発現増強などにより発症する。80%以上の患者に発熱や低酸素血症による呼吸困難が認められるほか、体重増加、浮腫、胸水、心嚢水、低血圧、腎不全などを来す。両側の間質性肺炎様のX線あるいはCT所見は診断に有用である。好発時期は寛解導入療法開始後1~2週間であり、ATRAや亜ヒ酸投与期間中に白血球数の増加を伴って発症することが多い。治療にはステロイドが有効で、重篤な場合はATRAや亜ヒ酸を中止するとともに、未投与であればアントラサイクリンやシタラビンを投与する。■ 地固め療法寛解導入後には、地固め療法としてイダルビシン、ダウノルビシン(同:ダウノマイシン)などアントラサイクリンや同様の作用機序を有するミトキサントロン(同:ノバントロン)の3~5日間点滴を、約1ヵ月おきに2~4回繰り返す。シタラビンについては意見が分かれるが、診断時の白血球数が10,000/mm3未満の症例では、十分なアントラサイクリンが投与されればその意義は低く、むしろ再発を高める可能性もある一方で、10,000/mm3以上の症例では高用量での投与が有用と報告されている4)。■ 維持療法ATRAを中心とした維持療法は再発予防に有用である。通常、地固め療法終了後にATRA 14日間の内服を約3ヵ月間隔で2年間繰り返す。6-メルカプトプリン(同:ロイケリン)やメトトレキサート(同:メソトレキセート)の併用はさらに再発抑制効果を高める可能性がある5)。■ 再発例に対する治療亜ヒ酸が第1選択薬であり80%以上の再寛解が期待できる。ゲムツズマブ オゾガマイシン(同:マイロターグ)や合成レチノイド、タミバロテン(同:アムノレイク)も有用である。なお、血液学的寛解中であってもRQ-PCR法でPML-RARA陽性となった場合は再発と判断し、上記の再寛解導入療法を開始する。■ 造血幹細胞移植本症はATRAを中心とした化学療法が有効であり、通常第1寛解期には造血幹細胞移植は行わない。第2寛解期では造血幹細胞移植が推奨される。第2寛解期での自家造血幹細胞移植は、同種造血幹細胞移植に比べ再発率は高いものの治療関連死が少なく、全生存率は同種造血幹細胞移植を上回っている6)。そのため、地固め療法後にRQ-PCR法でPML-RARA陰性例には自家移植、陽性例には同種移植を考慮する。4 今後の展望今後もATRAを中心とした化学療法が治療の主体であると考えられる。診断時の白血球数や地固め療法後のPML-RARA融合遺伝子の有無など、リスクファクターによる層別化治療を寛解導入療法のみならず寛解後療法においても広く用いることにより、再発リスクと有害事象の軽減が図れると期待される。さらに寛解導入療法でのATRAと亜ヒ酸の併用や、地固め療法での亜ヒ酸の積極的使用により、治療成績はさらに向上する可能性がある。5 主たる診療科血液内科あるいは血液腫瘍内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報JALSGホームページ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)がんプロ.comホームページ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)公益財団法人先端医療振興財団 臨床研究情報センター「がん情報サイト」(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報つばさの広場(血液疾患患者とその家族の会)海好き(白血病患者とその家族の会)1)Sanz MA, et al. Blood. 2000; 96: 1247-1253.2)Gallagher RE, et al. Blood. 2003; 101: 2521-2528.3)Fenaux P, et al. Blood. 1999; 94: 1192-1200.4)Adès L, et al. Blood. 2008; 111: 1078-1084.5)Adès L, et al. Blood. 2010; 115: 1690-1696.6)de Botton S, et al. J Clin Oncol. 2005; 23: 120-126.公開履歴初回2014年03月20日更新2016年04月26日

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deferredステント留置はSTEMIの予後を改善するか/Lancet

 ST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者の治療において、ステント留置を即座には行わないdeferredステント留置と呼ばれるアプローチは、従来の即時的な経皮的冠動脈インターベンション(PCI)に比べて、死亡や心不全、再発心筋梗塞、再血行再建術を抑制しないことが、デンマーク・ロスキレ病院のHenning Kelbaek氏らが行ったDANAMI 3-DEFER試験で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2016年4月3日号に掲載された。STEMI患者では、ステント留置を用いたPCIによって責任動脈病変の治療に成功しても、遺残血栓に起因する血栓塞栓症で予後が損なわれる可能性がある。これに対し、梗塞関連動脈の血流が安定した後に行われるdeferredまたはdelayedステント留置は、冠動脈の血流を保持し、血栓塞栓症のリスクを低減することで、臨床転帰の改善をもたらす可能性が示唆され、種々の臨床試験が行われている。deferredステント留置の有用性を無作為試験で評価 DANAMI 3-DEFER試験は、デンマークの4つのPCIセンターが参加する3つのDANAMI 3プログラムの1つで、STEMI患者においてdeferredステント留置と標準的PCIの臨床転帰を比較する非盲検無作為化対照比較試験(デンマーク科学技術革新庁などの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、胸痛発症から12時間以内で、心電図の2つ以上の隣接する誘導で0.1mV以上のST上昇または新規の左脚ブロックの発現がみられる患者であった。 被験者は、deferredステント留置または即時的に標準的なプライマリPCIを施行する群に無作為に割り付けられた。プライマリPCIは薬剤溶出ステント留置が望ましいとされた。 deferred群では、病院到着時の冠動脈造影で梗塞関連動脈の血流が安定化する可能性がある場合は約48時間(最短でも24時間以上、この間にGP IIb/IIIa受容体拮抗薬などを4時間以上静脈内投与)後に再造影を行い、血流の安定化が確認されればステント留置を行わないこととした。 主要評価項目は、2年以内の全死因死亡、心不全による入院、心筋梗塞の再発、予定外の標的血管の血行再建術の複合エンドポイントとした。 2011年3月1日~14年2月28日までに1,215例が登録され、deferred群に603例、標準的PCI群には612例が割り付けられた。予定外の標的血管血行再建術はdeferred群で高頻度 年齢中央値はdeferred群が61歳、標準的PCI群は62歳、男性がそれぞれ76%、74%であった。糖尿病がそれぞれ9%、9%、高血圧が41%、41%、喫煙者が54%、51%、心筋梗塞の既往歴ありが6%、7%含まれた。多枝病変は41%、39%であった。 発症から施術までの期間中央値は両群とも168分であり、フォローアップ期間中央値は42ヵ月(四分位範囲:33~49)だった。 主要エンドポイントの発生率は、deferred群が17%(105/603例)、標準的PCI群は18%(109/612例)であり、両群間に有意な差は認めなかった(ハザード比[HR]:0.99、95%信頼区間[CI]:0.75~1.29、p=0.92)。 主要エンドポイントの個々の項目のうち、全死因死亡(p=0.37)、心不全による入院(p=0.49)、非致死的心筋梗塞の再発(p=0.49)には差がなかったが、予定外の標的血管の血行再建術はdeferred群のほうが有意に多かった(HR:1.70、95%CI:1.04~2.92、p=0.0342)。 また、心臓死(p=0.58)、PCIによる標的血管の血行再建術(p=0.11)、冠動脈バイパス・グラフト術(CABG)による標的血管の血行再建術(p=0.15)にも差はみられなかった。18ヵ月時の左室駆出率は、deferred群がわずかに良好だった(54.8 vs.53.5%、p=0.0431) 手技関連の心筋梗塞、輸血または手術を要する出血、造影剤誘発性腎症、脳卒中を合わせた発生率は、deferred群が4%(27/603例)、標準的PCI群は5%(28/612例)であり、両群間に差を認めず、個々の項目にも差はなかった。 著者は、「現在、類似の3つの臨床試験(MIMI試験、INNOVATION試験、PRIMACY試験)が進行中であり、これらの試験の結果がSTEMIにおけるdeferredステント留置の概念にさらなる光を投げかける可能性がある」としている。

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第31回 特別編「医療事故調査制度」の概要と展望

2015年10月より医療事故調査制度が正式に始まった。医療事故調査・支援センターとして指定された「日本医療安全調査機構」には、2016年3月現在、累計で188件の医療事故報告(相談は累計1,012件)が行われている。今後、さらに報告を収集・分析していくことで、同じような医療事故を防ぐ防波堤となり、患者さんの医療安全へつながることが期待されている。本コンテンツでは、厚生労働省の「医療事故調査制度の施行に係る検討会」の構成員として、わが国の医療安全を担う新制度の構築に参画してきた医師・弁護士であり、「MediLegal」の執筆者である大磯 義一郎 氏(浜松医科大学医学部医学科医療法学 教授)に新制度の概要を聞いた。2015年10月に発足した医療事故調査制度の概要について教えてください。この医療事故調査制度の目的は、医療法の「第3章 医療の安全の確保」に位置付けられているとおり、「医療の安全を確保するために、医療事故の再発防止を行うこと」です。また、医療法上、この制度の対象となる医療事故は、「当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であって、当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかったもの」とされています。そして、新医療事故調査制度では、この「医療事故」については、医療事故調査支援センターへの報告義務と調査義務が各医療機関の管理者(院長や施設長)に課せられています。どのような場合が「報告対象」に当たるかについては、1)「予期しなかった死亡」、かつ、2)「医療に起因する死亡」の2つの要件を満たす必要があります。1)の「予期しなかった死亡」とは、「当該死亡又は死産が予期されていなかったものとして、以下の事項のいずれにも該当しないと管理者が認めたもの」(医療法施行規則1条の十の二 第1項)と定義されており、国語辞典的な「そのようなことが起こるとは想定していなかった」という意味ではありません。省令では、(1)あらかじめ患者さんに説明していた場合、(2)診療録その他の文書等に記録していた場合、(3)管理者が医療従事者や医療安全管理委員会からの意見を聞き、当該死亡が予期できたと認めた場合のいずれにも該当しないと管理者が認めた場合には、本制度における「予期しなかった死亡」となるとしています。医療機関に対し、積極的に患者に情報提供をしたり、記録化を進めることで、報告義務を免除するというインセンティブを与えているのです。2)「医療に起因する死亡」とは、原則的には、侵襲的な医療行為(手術、処置、投薬、検査、輸血など)をいい、単なる療養、転倒や転落、誤嚥などの行為は本制度での「医療」には当たらず、報告の対象外とされています。発生した事故が、1)と2)の要件を満たすかどうかを最終的に管理者が判断することになります。その際、現場の医療従事者個人に過重な責任を負わせてきた過去の苦い反省を踏まえ、「当該医療事故に関わった医療従事者などから十分事情を聴取したうえで、組織として判断する」とされています。新制度では、院内調査が中心となり、その主体、調査手法については、管理者の幅広い裁量に委ねられています。したがって、外部委員を入れることは必須ではありません。最後に、医療機関が「医療事故」として医療事故調査・支援センターに報告した事案について、遺族または医療機関が医療事故調査・支援センターに調査を依頼した時は、医療事故調査・支援センターが調査を行うことができます。調査終了後、医療事故調査・支援センターは、調査結果を医療機関と遺族に報告することになります。画像を拡大する医療安全の議論から新制度発足まで、10年近くを要した経緯を教えてください。医療安全への取り組みは、一般に医療萎縮が始まったとされる大野病院事件が起こる、少し前からあった議論です。ただ、当時は医療安全が主たる目的ではなく、過熱した医療紛争の処理が中心的な課題でした。したがって、「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」では、個別事案の医学的評価、すなわち、誰の責任かを明らかにすることが中心的な活動となりました。その後、大野病院事件が発生し、医療領域への司法の過剰介入により医療萎縮が起こり、日本の医療が崩壊しかけました。このままでは日本の医療は本当に崩壊してしまうというところまで来て、ようやくトカゲのしっぽ切り的な責任追及ではなく、真面目に医療安全を行おうという機運が生まれてきました。そこで、ちょうどモデル事業が終了するということで、厚生労働省の支援により「医療安全」を主目的に、さらに発展拡大する本制度、組織の発足へとつながりました。この新しい制度では、医療事故事例を収集・集積し、内容を分析することで、次の事故の発生を防止し、患者さんの安全に役立てようということが理念として掲げられました。事故を起こした個人の責任追及の場には、決してしないということです。ただ、患者訴訟団体やその他の団体のそれぞれの思いもあり、本制度の設計の際には議論が難航しました。しかし、最終的に当初の理念通り、2015年10月に正式にスタートすることとなりました。制度構築の途中でとくに議論された事項は何ですか?新制度構築の中でとくに議論された内容は、その理念と運用です。この制度の理念は「医療安全」です。これについては、審議会でも、ほぼ異論なく受け入れられました。しかし、運用については、議論の途中で「医療事故を起こした個人への責任追及」や「裁判で使える文書作成」などさまざまな意見も出されました。そこで、わが国の医療安全のエキスパートに意見を聞いたり、諸外国の同じような制度との比較・検討により、医療安全のためには『WHOドラフトガイドライン2005』でも示しているように、「非懲罰性」と「秘匿性」を報告システムに盛り込むことが重要となりました。「医療安全」とは、将来の同種事故の発生リスクを低下させることで、患者さんの生命を守ることを目的としています。それに加え、患者さんに直接医療行為を行う頻度が高いことから、「加害者」の立場に立たされやすい未来ある若い医師、看護師など医療従事者を守ることも重要です。そうでないと、再び医療萎縮が再燃し、かえって患者さんの利益を害することになりかねないからです。医療事故は、確率的に何万回かに1回は、必ず起きます。これは人的、物的さまざまな要因により、完全に防ぐことは不可能です。ですから、たまたまそのときに行為者となった医療者だけに責任を負わせるような従来の事故対応では、今後も事故の発生を減少させることはできません。そこで、今回の制度では、個人責任追及ではなく、医療をシステムとして捉え、科学的に検証を行い、医療安全という結果を出していこうということが話し合われました。何よりも大事なことは、これまでの「収集事業」のように、医療事故のデータを収集するだけではだめで、分析、検証し、次のアクションへつなげることが重要です。一例を紹介しますと、米国でも日本と同じように脊髄撮影造影剤での事故が起きています。当初、日本と同じように造影剤の添付文書に警告を入れましたが、また同じような事故が起こった。なぜ同じ事故が起こるのか、分析し、検証することで医療者のダブルチェック体制の構築や薬剤保管場所の分離、臨床現場での啓発など具体的な行動が推奨され、事故を防止する対策が取られています。そして、この間、日本で行われたような個人への責任追及は行われていません。新しい医療事故調査制度では、医療事故データを集め、きちんとPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルを回すこと。すなわちデータ収集・分析後、対応策を考え、その効果検証を行い、さらにブラッシュアップし、新しいサイクルを回すことが運用として求められます。日本では、約十数年の間、医療安全対策について何ら結果が出せていない状態でした。そのため、医療事故を科学的に検証し、ブラシュアップしていくことで、アウトカムを出そうということになりました。医療事故発生時の対応やグレーゾーン事案での対応はどうなりますか?医療事故発生時のフローは最初に述べたようになりますが、新制度で重要なことは、事故が起こった場合に、最初に本制度における「医療事故」に該当するか判断しなければなりません。新制度では、予期要件(患者さんへの説明と同意、カルテに記載など)があれば、医療機関へのインセンティブとして報告を免除する仕組みもあり、同じ態様の死亡事故でも、個々のケースで報告するか・しないかが変わってきます。医療起因性があるかどうかも含め、報告事案になるかどうかを、管理者は初めに見極める必要があります。原則として、病院などが患者さんへインフォームドコンセントやカルテへの記載で死亡のリスクを明示していれば、報告の必要はありません。しかし、そうでない場合、当該事故が予期できなかったのかおよびその事故がはたして医療に起因する死亡事故なのかどうか、判断する必要があります。ここで注意しておきたいのが、誤診のようなそもそも事故ではない場合や介助などの医療起因性のない場合は含まないということです。本制度は管理者に幅広い裁量権を認めておりますので、グレーゾーン事案では、管理者の判断に負うところが大きいと言えます。新制度はそのように規定していますので、管理者が判断し、事故の報告をする・しないを決定することになります。ただ、将来的にはグレーゾーン事案も、医療事故調査・支援センターへの報告が望ましいと全国の管理者が考えるようになればと考えています。そのためにも、医療事故調査・支援センターは、これまでのように、個別事案の評価を行い、個人責任の追及を支援していくのではなく、医療安全をサイエンスとして分析・検証し、医療安全という結果を示すことができる組織へと変身していく必要があると考えています。今後の新制度の展望について教えてください。また、個々の医療機関でできることには何があるでしょうか。まず、新制度に望むものとして、医療事故として報告された事例を収集するだけでおしまいではなく、医療安全のために、集めたデータを解析して、対策を立て、それを現場に落とし込んで、その効果を検証するというサイクルを回してほしいということです。検証していくことが、日本の医療をより良くしていきます。その中で医療事故調査・支援センターの役割は、大きくなる可能性があります。センターは、個別具体的な事案に捉われるのではなく、将来の同種事故を防ぐため、サイエンスとして医療安全を行い、結果を出していくことが重要になってくるでしょう。また、個々の医療機関でできることとして、院内でも事故防止のため独自に決めたPDCAサイクルを回しながら、日々の診療に当たることです。その際、患者さんへのインフォームドコンセントやカルテへの記載など、きちんと行うべきことは必ず実施してほしい事項です。関連リンク厚生労働省医療安全対策日本医療安全調査機構

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冠動脈手術前のアスピリンは中止すべきか?/NEJM

 冠動脈手術前のアスピリン術前投与は、死亡および血栓性合併症のリスクを低下させることはなく、出血リスクも増加しない。オーストラリア・アルフレッド病院のPaul S. Myles氏らが、冠動脈手術を受ける高リスク患者においてアスピリンが死亡率や血栓性合併症の発症率を減らすかどうかを評価する目的で行ったATACAS試験の結果、明らかとなった。ほとんどの冠動脈疾患患者は、心筋梗塞・脳卒中・死亡の1次または2次予防のためにアスピリンを投与されている。アスピリンは、出血リスクを高めるが、冠動脈手術前に中止すべきかどうかは不明であった。NEJM誌オンライン版2016年2月25日号掲載の報告。冠動脈手術予定患者を対象に2×2要因試験を実施 ATACAS試験は、2×2要因デザインを用いた二重盲検無作為化比較試験で、2006年3月~13年1月に5ヵ国19施設にて患者登録が行われた。対象は、冠動脈手術が予定されている周術期合併症リスクを有する患者で、アスピリン群またはアスピリンとマッチさせたプラセボ群、ならびにトラネキサム酸群またはトラネキサム酸とマッチさせたプラセボ群に無作為化された。 本論文は、アスピリン試験についての報告である。2,100例がアスピリン群(1,047例)とプラセボ群(1,053例)に無作為化され、それぞれ手術1~2時間前にアスピリン100mgまたはプラセボを投与された。ワルファリンとクロピドグレルは、手術の少なくとも7日前に中止されることになっていた。 主要評価項目は、術後30日以内の死亡・血栓性合併症(非致死的心筋梗塞、脳卒中、肺塞栓、腎不全、腸梗塞)の複合エンドポイント。事前に定めた副次評価項目は、死亡、非致死的心筋梗塞、重大出血、心タンポナーデおよび輸血であった。主要評価項目および副次的評価項目いずれもイベント発生率に両群で有意差なし 主要評価項目のイベント発生は、アスピリン群202例(19.3%)、プラセボ群215例(20.4%)であった(相対リスク:0.94、95%信頼区間:0.80~1.12、p=0.55)。 再手術を要する大出血の発生率は、アスピリン群1.8%、プラセボ群2.1%(p=0.75)、心タンポナーデはそれぞれ1.1%、0.4%(p=0.08)であった。死亡、脳卒中、肺塞栓、腎不全、腸梗塞の発生率は両群間で類似していた。 主要評価項目に関して、治療群と患者の性別・年齢・左室機能・出血リスク・術式・直近のアスピリン曝露量との間に、有意な交互作用は認められなかった。 著者は、「アスピリン群で出血リスクが増加しなかったのは、患者の選択、低用量(100mg)、患者の半数で抗線溶療法を行っていたことが関与していると考えられる」との見解を示している。

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成人T細胞白血病・リンパ腫〔ATLL : adult T-cell leukemia-lymphoma〕

1 疾患概要■ 概念・定義成人T細胞白血病・リンパ腫(ATLL)は、レトロウイルスであるヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)に感染したT細胞が、腫瘍化して起こる悪性腫瘍である。■ 疫学HTLV-1の推定感染者数は最近の統計では108万人で、以前より減少傾向にあるとされる。しかしながら、1,000人/年ほどのATLLの発症数があるとされている。九州、沖縄のほか、紀伊半島、三陸海岸、北海道などの沿海地域に感染者数の多い地域がある。また、人口の移動に伴い東京・大阪などの大都市圏での感染者も増えている。HTLV-1の感染経路としては母児感染(主に母乳を介する)、輸血(現在はスクリーニングにより新たな感染はない)、性的接触などがある。HTLV-1感染者が生涯にわたって、ATLLを発症するリスクは5%程度と考えられており、通常、40年近い潜伏期間を経て発症するので、発症年齢中央値は70歳前後と高齢である。■ 病因HTLV-1のpX領域にコードされるTax遺伝子やpX領域のマイナス鎖にコードされるHBZなどが、HTLV-1感染T細胞の不死化や細胞増殖に関与していると考えられている。キャリアの状態では、これらの遺伝子の働きによる細胞増殖と宿主の免疫とのバランスがとれているが、新たな遺伝子異常が加わることや宿主免疫に異常を来すことが、腫瘍化に関与していると考えられている。■ 症状(表)画像を拡大する1)血液中異常細胞(フラワー細胞)出現ATLLの典型的な血液腫瘍細胞の形態は、強い分葉のある核をもつフラワー細胞である。多くの場合、CD4+、 CD25+で、CD7発現が消失していることが多い。2)リンパ節腫大・肝脾腫3)皮膚病変紅斑や腫瘤などがみられる。4)高カルシウム血症ATLL細胞が、血清カルシウム値を上昇させる副甲状腺ホルモン関連蛋白(PTHrP)を産生するために起こる。高カルシウム血症のため全身倦怠感、多尿、腎障害、意識障害を来す。5)日和見感染症ATLL患者では、正常T細胞の減少がみられ、その結果として細胞性免疫低下に関連した日和見感染症(帯状疱疹、サイトメガロウイルス感染症、ニューモシスチス感染症、各種真菌症、糞線虫症などの寄生虫感染症など)を起こしやすい。■ 予後急性型・リンパ腫型の予後は、きわめて不良とされている。最近行われた多施設後方視研究では、生存期間中央値7.7ヵ月であった。Ann Arbor分類で病期3以上、身体活動度2以上、年齢・血清アルブミン、可溶性IL-2受容体などの連続変数からなるATL予後指数が報告されており、高・中間・低リスク群での生存期間中央値はそれぞれ3.6、7.3、16.2ヵ月、2年生存割合は4、17、39%であった。しかし、同種造血幹細胞移植施行例では、一定の割合で長期無増悪生存が得られ、治癒が期待できる。慢性型・くすぶり型の患者の予後は、従来良好とされていたが、長崎大学からの報告では生存期間中央値4.1年で5、10、15年生存割合はそれぞれ、47.2、25.4、14.1%と必ずしも予後良好とはいえない結果であった。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)さまざまな症状で医療機関を受診した際に、一般血液検査で白血球増加症、とくに末梢血塗抹標本でフラワー細胞の出現がみられたり(図)、異常T細胞の増加がみられた場合にATLLが疑われる。このほか、リンパ節腫大の鑑別診断も挙げられる。画像を拡大する日本人でリンパ節や節外病変の生検でT細胞リンパ腫と診断された際には、ATLLの可能性を鑑別する必要がある。特徴的な検査値異常として、可溶性IL-2受容体(sIL-2R)高値、血清カルシウム高値などがある。1)HTLV-1抗体まず、粒子凝集(PA)法や化学発光法などによる、スクリーニング検査を行う。ただし、これらの検査は、高感度であるものの偽陽性の可能性があるため、確認検査としてウエスタンブロット(WB)法を行う。2)HTLV-1プロウイルスDNA定量(保険未収載)WB法で判定保留の際に、HTLV-1感染の有無を確認するために用いられる。3)リンパ節生検・皮膚生検他疾患との鑑別のため、腫大リンパ節や皮膚などの節外病変の生検を行い、病理組織検査、フローサイトメトリー、染色体検査、HTLV-1プロウイルスDNAサザンブロットなどを行う。4)骨髄検査骨髄浸潤を確認するために行われる。白血病化している場合でも、骨髄中の腫瘍細胞は目立たないことが多い。5)HTLV-1プロウイルスDNAサザンブロット(保険未収載)HTLV-1感染患者に発症したT細胞腫瘍をATLLとみなすこともあるが、ATLLと正確に診断するためには、腫瘍細胞でHTLV-1が単クローン性に増殖していることをサザンブロットにより確認する。6)フローサイトメトリーATLL細胞は形態的には、正常リンパ球との区別が困難な場合があるため、フローサイトメトリーで異常な免疫形質のT細胞集団の有無を確認する。ATLL細胞の典型的な免疫形質は、CD3+、CD4+、CD7-、CD8-、CD25+、CCR4+である。7)画像検査・内視鏡検査病変の広がりを確認するため、CT、PET-CT、上部消化管内視鏡検査などを行う。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 急性型・リンパ腫型アントラサイクリン系抗腫瘍薬を用いた多剤併用化学療法を行う。初回多剤併用化学療法としては、mLSG15(VCAP-AMP-VECP)療法、CHOP療法、EPOCH療法などが用いられている。また、中枢神経再発予防として抗腫瘍薬の髄注を行う。65~70歳未満の患者では、多剤併用化学療法に引き続いて、同種造血幹細胞移植を行うことが勧められる。このため治療開始とともにドナー検索も進めていく。血縁者にHLA一致同胞ドナーがいる場合には血縁者間同種移植、ドナーがいない場合には非血縁者間骨髄移植や臍帯血移植の可能性を検討する。移植前処置として、50~55歳未満で臓器障害のない患者では骨髄破壊的前処置、50~55歳以上の患者や臓器障害のある患者などでは、強度減弱前処置が用いられることが多い。年齢・臓器障害などのために多剤併用化学療法が行えない場合には、経口抗腫瘍薬を投与する。エトポシド(商品名:ベプシド、ラステット)、ソブゾキサン(同:ペラゾリン)などが用いられることが多い。CCR4陽性の再発・治療抵抗性例に対して、抗CCR4抗体モガムリズマブ(同:ポテリジオ)が治療選択肢となる。なお、CCR4陽性ATLL初発例に対して、モガムリズマブ併用mLSG15療法の臨床試験の結果が報告されており、mLSG15療法単独と比較して完全奏効割合が高くなることが示されている。■ くすぶり型、予後不良因子を伴わない慢性型無治療で経過観察を行い、進行がみられた時点で治療を開始するのが一般的である。しかし、これらの病型の患者の予後が必ずしも良好でないことから、インターフェロンα/ジドブジン(同:レトロビル)併用療法による介入治療の意義をみるため、ランダム化第3相試験が行われている(2015年12月)。皮膚病変を有する患者では、外科的切除、放射線療法、PUVA療法などの局所療法が行われる。■ 予後不良因子のある慢性型慢性型でもLDH>正常値上限、BUN>正常値上限、アルブミン<正常値下限、に該当する場合には予後不良とされるため、急性型・リンパ腫型と同様の治療が行われることが多い。4 今後の展望妊婦健診の導入や献血時のスクリーニングによって、今後、新たなHTLV-1感染は減少することが期待される。しかし、100万人近くいるHTLV-1感染者からのATLLの発症は今後も続くと思われる。同種造血幹細胞移植によって、ATLL患者の一部で治癒が期待できるようになったことは画期的であり、ATLLに対する同種免疫効果が有効であることを強く示唆する。同種移植については、今後も有利な移植片源や前処置を探る研究が引き続き必要だろう。一方、多くのATLL患者は高齢であったり、初回化学療法に対して抵抗性であったりして、同種造血幹細胞の恩恵を得られていない現状もある。抗CCR4抗体モガムリズマブの位置づけの検討や、さらなる新規治療薬の開発が重要な課題であろう。5 主たる診療科血液内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療に関する情報HTLV-1情報サービス(厚生労働省科学研究費補助金 がん臨床研究事業 「HTLV-1キャリア・ATL患者に対する相談機能の強化と正しい知識の普及の促進」)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報グループ・NEXUS(悪性リンパ腫の患者、患者家族の全国団体の情報)1)Shimoyama M, et al. Br J Haematol.1991;79:428-437.2)Tsukasaki K, et al. J Clin Oncol.2009;27:453-459.3)Katsuya H, et al. J Clin Oncol.2012;30:1635-1640.4)Tsukasaki K, et al. J Clin Oncol.2007;25:5458-5464.5)Ishitsuka K, et al. Lancet Oncol.2014;15:e517-526.公開履歴初回2013年07月18日更新2015年12月22日

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免疫性血小板減少症〔ITP:immune thrombocytopenia〕(旧名:特発性血小板減少性紫斑病)

1 疾患概要■ 概念・定義特発性血小板減少性紫斑病(ITP:idiopathic thrombocytopenic purpura)は、厚生労働省の特定疾患治療研究事業対象疾患(特定疾患)に認定されている疾患であり、他の基礎疾患や薬剤などの原因がなく、血小板の破壊が亢進し減少する後天性の自己免疫疾患と考えられている。欧米では本疾患に対し、免疫性(immune)あるいは自己免疫性(autoimmune)という表現が用いられており、わが国においても本疾患の病名を免疫性血小板減少症(ITP:immune thrombocytopenia)へと改定する予定である。血小板が減少していても、必ずしも出血症状を伴うわけではないことが“purpura”を削除した理由であり、この考え方は本疾患の治療戦略とも密接に関連する。■ 疫学わが国におけるITPの有病者数は約2万人で、年間発症率は人口10万人当たり約2.16人と推計される。つまり年間約3,000人が新規に発症している計算になる。最近の調査では、慢性ITPの好発年齢として20~40代の若年女性に加え、60~80代でのピークが認められるようになってきている。高齢者の発症に男女比の差はない。急性ITPは5歳以下の発症が圧倒的である。■ 病因ITPの病因はいまだ不明な点が多いが、その主たる病態は血小板の破壊亢進である。ITPでは血小板膜GPIIb-IIIaやGPIb-IXなどに対する自己抗体が産生され、それらに感作された血小板は早期に脾臓を中心とした網内系においてマクロファージのFc受容体を介して捕捉され、破壊されて血小板減少を来す。これらの自己抗体は主として脾臓で産生されており、脾臓は主要な血小板抗体の産生部位であるとともに、血小板の破壊部位でもある。さらに最近では、ITPにおける抗血小板自己抗体は巨核球の分化・成熟にも障害を与え、血小板産生も正常コントロールと比べ減少していることが示されている。■ 症状症状は皮下出血、歯肉出血、鼻出血、性器出血など皮膚粘膜出血が主症状である。血小板数が1万/μL未満になると血尿、消化管出血、吐血、網膜出血を認めることもある。口腔内に高度の粘膜出血を認める場合は、消化管出血や頭蓋内出血を来す危険があり、早急な対応が必要である。血友病など凝固因子欠損症では関節内出血や筋肉内出血を生じるが、ITPでは通常、これらの深部出血は認めない。■ 分類ITPはその発症様式と経過より、急性型と慢性型に分類され、6ヵ月以内に自然寛解する病型は急性型、それ以後も血小板減少が持続する病型は慢性型と分類される。急性型は小児に多くみられ、ウイルス感染を主とする先行感染を伴うことが多い。一方、慢性型は成人に多い。しかしながら、発症時に急性型か慢性型かを区別することはきわめて困難である。最近では、12ヵ月経過したものを慢性型とする意見もある。■ 予後ITPでは、血小板数が3万/μL以上の場合、死亡率は正常コントロールと同じであり、予後は比較的良好と考えられている。しかし、3万/μL以下だと出血や感染症が多くなり、死亡率が約4倍に増加すると報告されている。この成績より、血小板数3万/μL以上を維持することが治療目標となっている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)ITPの診断に関しては、いまだに他の疾患の除外診断が主体であり、薬剤性やC型肝炎など血小板減少を来す他の疾患を鑑別しなければならない。とくに血小板数が3~5万/μL以下の症例で無症状の場合や検査コメントに血小板凝集(+)と記載されている場合は、末血用スピッツ内のEDTAにより誘導される「見かけ上」の血小板減少(EDTA依存性偽性血小板減少症)を除外すべきである(治療の必要なし)。ITPと同様に免疫学的機序で血小板が減少する二次的ITPとして、全身性エリテマトーデスなどの膠原病やリンパ系腫瘍、ウイルス肝炎、HIV感染などが挙げられる。詳しい病歴の聴取や身体所見、時には骨髄穿刺により先天性血小板減少症や薬剤性血小板減少症、さらには血小板産生障害に起因する骨髄異形成症候群や再生不良性貧血などの鑑別を行う。骨髄検査において典型的ITPでは、幼若な巨核球が目立つが巨核球数は正常あるいは増加しており、その他はとくに異常を認めない。PAIgG(Platelet-associated IgG:血小板関連IgG)は2006年に保険収載されたが、PAIgGは血小板に結合した(あるいは付着した)非特異的なIgGも測定するため、再生不良性貧血などの血小板減少時にも高値になることがあり、その診断的意義は少ない。2023年に血漿トロンボポエチン濃度と幼若血小板比率(IPF%)を組み込んだ新たなITPの診断基準が公表されている。一方、これらのバイオマーカーの測定は現時点で保険適用外であり、その保険収載が急務の課題である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ ITPにおける治療目標ITPの治療目標は血小板数を正常化させることではなく、危険な出血を予防することである。具体的には血小板3万/μL以上かつ出血症状が無い状態にすることが当面の治療目標となる。「成人ITP治療の参照ガイド2019改訂版」では、初診時血小板が3万/μL以上あり出血傾向を認めない場合は、無治療での経過観察としている。血小板数を正常に維持するために高用量の副腎皮質ステロイドを長期に使用すべきではないとの立場である。図に「成人ITP治療の参照ガイド2019 改訂版」の概要を示す。なお、本ガイドは、https://www.jstage.jst.go.jp/article/rinketsu/60/8/60_877/_pdfにて公開されている。画像を拡大する1)第1選択治療(1)ピロリ菌除菌療法(2010年6月より保険適用)わが国においては、ITPに関してH.pylori(ピロリ菌)除菌療法の有効性が示されている。ピロリ菌感染患者には、第1選択として試みる価値がある。出血症状を伴う例に対しては、ステロイド療法をまず選択し、血小板数が比較的安定した時点で除菌療法を試みる。(2)副腎皮質ステロイド療法ピロリ菌陰性患者や除菌無効例には、副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン)が第1選択となる。副腎皮質ステロイドは網内系における血小板の貪食および血小板自己抗体の産生を抑制する。血小板数3万/μL以下の症例で出血症状を伴う症例が対象である。とくに口腔内や鼻腔内の出血を認める場合は積極的に治療を行う。50~75%において血小板が増加するが、多くは副腎皮質ステロイド減量に伴い血小板が減少する。初期投与量としては0.5~1mg/kg/日を2~4週間投与後、血小板数の増加がなくても8~12週かけて10mg/日以下にまで漸減する。経過が良ければさらに減量する。2)第2選択治療(1)トロンボポエチン(TPO)受容体作動薬ITPでは血小板造血が障害されているものの、血清TPO濃度は正常~軽度上昇に止まる。この成績より、血小板造血を促進する治療薬としてTPO受容体作動薬が開発され、2011年より保険適用となっている。薬剤としては、ロミプロスチム(商品名:ロミプレート/皮下注)やエルトロンボパグ オラミン(同:レボレード/経口薬)があり、優れた有効性が示されている。血栓症の発症や骨髄線維化のリスクがあるため、これらに関しては慎重にモニターすべきである。妊婦には使用できない。(2)リツキシマブB細胞に発現しているCD20抗原を認識するヒトマウスキメラモノクローナル抗体で、B 細胞を減少させ、抗体産生を低下させる作用がある。わが国では2017年3月よりITPに対して適応拡大されている。(3)脾臓摘出術(脾摘)発症後6~12ヵ月以上経過し、各種治療にて血小板数3万/μL以上を維持できない症例に考慮する。寛解率は約60%。摘脾の1週間前より免疫グロブリン大量療法(後述)にて血小板を増加させる。近年では、TPO受容体作動薬などの新規薬剤の登場により、脾摘施行例は減少している。(4)新規ITP治療薬「成人ITP治療の参照ガイド2019改訂版」公開後に新たに上市されたITP治療薬として、ホスタマチニブ([Syk阻害剤]およびエフガルチギモド(胎児性Fc受容体阻害剤)が挙げられる。これらの薬剤の治療上の位置付けに関しては、今後の検討課題である。3)難治ITP症例への治療法(第3選択治療)本項で述べる薬剤は、ITPへの適応は無いものの、文献などにて有効性が示唆されている薬剤である。4)緊急時の治療診断時、消化管出血や頭蓋内出血などの重篤な出血を認める症例や、脾摘など外科的処置が必要な症例には、免疫グロブリン大量療法やメチルプレドニンパルス療法にて血小板を速やかに増加させ、出血をコントロールする必要がある。血小板輸血は一般には行わないが、活動性出血を伴う重症例では血小板輸血も積極的に考慮する。4 今後の展望上記以外の新たなITP治療薬として、BTK阻害薬、新規TPO受容体作動薬、抗CD38抗体薬など種々の薬剤が開発、治験されており、これらの薬剤の上市が待たれる。5 主たる診療科血液内科、あるいは血液・腫瘍内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)成人特発性血小板減少性紫斑病治療の参照ガイド2012年版(医療従事者向けのまとまった情報)妊娠合併特発性血小板減少性紫斑病診療の参照ガイド(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報つばさのひろば(血液疾患患者とその家族の会)1)Cines DB, et al. N Engl J Med.2002;346:995-1008.2)冨山佳昭. 臨床血液. 2011;52:627-632.3)柏木浩和ほか. 臨床血液. 2019;60:877-896.4)柏木浩和ほか. 臨床血液. 2024;64:1245-1257.公開履歴初回2013年03月28日更新2015年11月02日更新2024年9月16日

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発作性夜間血色素尿症〔PNH : paroxysmal nocturnal Hemoglobinuria〕

発作性夜間血色素尿症のダイジェスト版はこちら1 疾患概要■ 定義発作性夜間血色素尿症(発作性夜間ヘモグロビン尿症、paroxysmal nocturnal hemoglobinuria: PNH)は、血管内溶血を特徴とする後天性の血液疾患で、PIG-A遺伝子に変異を有する造血幹細胞がクローン性に増加するために発症する。■ 疫学欧米におけるPNHの発症頻度は100万人あたり15.9人とされているが、わが国では100万人あたり3.6人ときわめてまれである〔1998年(平成10年)度の厚生労働省の疫学調査研究班による〕。男女比はほぼ1:1で、わが国における診断時年齢は20~60代(平均年齢45.1歳)と、広く分布する。欧米例では血栓症の合併が多いのに対し、わが国では造血不全症状が主体になることが多い。■ 病因PIG-A遺伝子に変異があると、GPIアンカー型の膜蛋白の発現が低下する。補体制御蛋白CD55やCD59もGPIアンカー型膜蛋白であり、PIG-A遺伝子の変異があるとその発現が低下する。このように、PIG-A遺伝子変異のためにCD55やCD59の発現を欠失した血球をPNH型血球と呼ぶ。PNH型血球は補体に対する感受性が高まっており、血管内溶血を生じやすい。PNH型血球が選択されて増加する機序は完全には解明されていないが、まずPIG-A遺伝子変異の入った造血幹細胞が免疫学的な攻撃を免れて相対的に増加し、さらに何らかの別な遺伝子異常が加わってクローン性に増加するものと考えられている。■ 症状典型的には、血管内溶血による貧血と褐色尿(ヘモグロビン尿)が症状の主体となる。溶血性貧血に伴い、全身倦怠感、労作時の息切れ、黄疸がみられる。ウイルス感染などによって補体が活性化されると溶血発作が生じ、急激な貧血の進行をみる。溶血で生じたヘモグロビン尿は、腎障害を引き起こし、むくみなどが生じる。また、深部静脈血栓症や肺塞栓症などの血栓症をしばしば合併する。わが国のPNH患者は造血不全を合併する頻度が高く、貧血に加えて白血球や血小板数の減少がみられることがある(汎血球減少)。汎血球減少がみられる患者においては、感染症や出血のリスクも増加している。■ 分類1)臨床的PNH:溶血所見がみられるもの古典的PNH:末梢血のPNH型血球の比率が高く、溶血症状あるいは血栓症状が顕著。骨髄不全型PNH:骨髄が低形成で汎血球減少を呈する型。再生不良性貧血―PNH症候群とも呼ばれる。混合型PNH2)PNH型血球を有する骨髄不全症:明らかな溶血所見を欠くが、末梢血に少数のPNH型血球が検出され、再生不良性貧血あるいは骨髄異形成症候群の診断基準を満たすもの。PNH型血球陽性の骨髄不全症では、抗胸腺免疫グロブリンやシクロスポリンなどによる免疫抑制療法に反応して血球が増加することが多い。■ 予後わが国におけるPNH患者の診断後の平均生存期間は32.1年、50%生存期間も25.0年と長く、慢性の疾患といえる。この間、溶血発作を反復したり、造血不全、腎障害などが徐々に進行したりするため、QOLは必ずしもよくない。死亡原因としては出血、感染、血栓症が多く、骨髄異形成症候群などの造血器腫瘍への移行、腎障害、および血栓症が予後を大きく左右する。近年、中等症以上の患者に対して、補体C5に対するヒト化モノクローナル抗体のエクリズマブ(商品名:ソリリス)が積極的に用いられるようになった。こういった治療法の進歩によって、患者のQOLと生命予後の改善が期待されている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 主な検査と診断血液検査、尿検査によって血管内溶血の所見を確認する。貧血、網状赤血球数増加、血清LDH値上昇、血清間接ビリルビン値上昇、血清ハプトグロビン値低下、尿潜血(ヘモグロビン)反応陽性は、血管内溶血を疑う所見である。PNHの診断には、フローサイトメトリーを用いたPNH型血球(CD55、CD59を欠損する血球)の検出が不可欠である。古典的なHam試験と砂糖水試験は、最近ではフローサイトメトリーにとって代わられている。FLAER法を用いたフローサイトメトリーでは、非常に高感度にPNH型血球を定量できる(保険診療外)。さらに骨髄検査によって、PNH型血球陽性の造血不全症(再生不良性貧血や骨髄異形成症候群)との鑑別や、PNHの病型分類を行う。■ 重症度分類と指定難病特発性造血障害に関する調査研究班では、溶血所見に基づいた重症度分類を作成している。これによると、ヘモグロビン7g/dL未満または定期的な赤血球輸血を必要とする貧血か、あるいは血清LDHが正常上限の8~10倍程度の高度な溶血を認める場合を「重症」、ヘモグロビン10g/dL未満の貧血か、あるいは血清LDHが正常上限の4~5倍程度の中等度の溶血を認める場合を「中等症」とし、これに該当しない場合を「軽症」としている。ただし、血栓症の既往があれば、溶血の程度に関わらず「重症」とされる。平成27年1月から、PNHは「難病患者に対する医療等の法律」による指定難病となった。これにより、中等症以上の患者の医療費負担が大幅に軽減されるようになった。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)PNHの根治を目指す治療法は同種造血幹細胞移植(骨髄移植、末梢血幹細胞移植、臍帯血移植)のみであるが、この治療法自体のリスクが大きいために、適応は若年で、かつ重症の骨髄不全症を伴う場合に限られる。さまざまな感染症が溶血発作の引き金になるため、日常生活では感染症の予防が重要である。溶血が長期にわたると、尿から鉄が失われるために鉄欠乏になったり、需要の増大のために葉酸欠乏になったりするので、血清フェリチン値や葉酸値をみながら鉄や葉酸の補充を検討する。溶血発作時には少量の副腎皮質ステロイドを用いることがあるが、糖尿病の発症や易感染性などの副作用のため、長期的な使用の有用性については意見が分かれる。貧血が高度の場合は赤血球輸血を行う。溶血により生じた遊離ヘモグロビンによる腎障害を防止するためには、輸液や利尿剤を用いるほか、高度の溶血発作時には人ハプトグロビン(商品名:ハプトグロビン)を投与することもある。血栓症の予防と治療には、ヘパリンやワーファリン製剤による抗血栓療法を行う。骨髄不全型PNHでは、蛋白同化ホルモンや免疫抑制剤が用いられる。最近、保険適用となったエクリズマブ(同:ソリリス)は、補体溶血を抑制することによって、貧血をはじめとするさまざまな臨床症状を劇的に改善する。この薬剤には血栓症の予防効果もみられる。重症例では積極的適応、中等症では相対的適応とされる。ただし、エクリズマブ治療導入の際には、点滴治療を定期的、継続的に行う必要があること、エクリズマブを中止する際には高度の溶血発作が生じうること、髄膜炎菌など一部の感染症に対する免疫能の低下が起こりうること、および高額な薬剤であることを十分に説明し、髄膜炎菌に対するワクチンの接種を行ってから開始する。エクリズマブ治療開始後に、LDHが低下したにもかかわらず貧血の改善が乏しい場合には、赤血球の膜上に蓄積した補体による血管外溶血あるいは骨髄不全の合併を考える。エクリズマブ治療には、PNHに合併した骨髄不全の改善効果は期待できない。PNH患者の妊娠に関しては、血栓症による流産のリスクが高く、また貧血もしばしば高度になる。平成26年度に、特発性造血障害調査に関する調査研究班および日本PNH研究会によって「妊娠ガイドライン」が作成された。このガイドラインでは、妊娠前の治療状況や血栓症の既往の有無によって、ヘパリンあるいはエクリズマブの使用が推奨されている。4 今後の展望病態面では、PNH型血球クローン増加の機序、血栓症がみられる機序などに関し、さらなる研究の進展が期待される。治療に関しては、エクリズマブの登場によってPNHの治療戦略が刷新された。今後、エクリズマブ不応例への対応や、血管外溶血が顕在化してくる症例に対する治療、妊娠管理などに関して、さらなる知見の集積と指針の充実が待たれる。現在、エクリズマブ以外にも補体系を標的とした新薬の開発が進んでおり、今後、PNH患者のQOLや予後のさらなる改善が期待される。5 主たる診療科血液内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 発作性夜間ヘモグロビン尿症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)特発性造血障害調査に関する調査研究班(診療の参照ガイドがダウンロードできる)日本血液学会(血液専門医研修施設マップで紹介先の候補を検索できる)日本PNH研究会(患者向けと医療者向けのかなり詳しい情報)患者会情報NPO法人PNH倶楽部(PNH患者と家族の会)公開履歴初回2013年02月28日更新2015年10月13日

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PNH妊婦へのエクリズマブ、有効性と安全性を確認/NEJM

 発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)に対するエクリズマブ投与は、胎児生存率が高く、母親の合併症発生率も低いことが明らかにされた。英国のセント・ジェームス大学病院のRichard J. Kelly氏らが、PNH妊婦の妊娠75件について調べて明らかにした。エクリズマブ使用に関してPNHの妊娠中女性を対象とした試験は初めてという。NEJM誌2015年9月10日号掲載の報告より。国際PNH専門家会議メンバーらに質問票を送付 研究グループは、国際PNH専門家会議(the International PNH Interest Group)のメンバーと、国際PNHレジストリに参加する医師に対して質問票を送付し、PNH患者の妊娠に関する調査を行った。 出生児の出生・発達記録と母親の有害イベントについて調べ、PNHの妊婦に対するエクリズマブの安全性と有効性について検証した。妊婦死亡なし、胎児死亡率は4% 発送した質問票94通のうち、回答が得られたのは75通(回答率80%)だった。 61例のPNH妊婦、75件の妊娠について分析を行った。その結果、妊婦の死亡はなく、胎児の死亡は3例(4%)であった。妊娠第1期の流産は、6例(8%)だった。 赤血球輸血の必要性は、妊娠前6ヵ月は0.14単位/月だったのに対して、妊娠中は0.92単位/月へと増量した。 妊娠第1期を経過した妊婦の54%で、エクリズマブ投与量または投与頻度の増加が必要だった。 出血イベントは10例で、血栓イベントは2例発生し、血栓イベントのいずれもが産褥期に発生した。早産は22例(29%)だった。 臍帯血サンプル20例について調べたところ、エクリズマブが検出されたのは7例だった。また、母乳栄養を行った乳児25例のうち10例について調べたところ、いずれの母乳にも、エクリズマブは検出されなかった。

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TRIGGER試験:急性上部消化管出血に対する限定的輸血対自由な輸血;実用的・非盲検かつ集団をランダム化した実現可能性試験(解説:上村 直実 氏)-368

 臨床現場で上部消化管出血(UGIB)患者に対する診療においては、迅速に出血源を発見して止血することと同時に、輸血を行うか否かを判断することが重要となる。「非盲検集団無作為化試験」が、この輸血施行の判断基準に関するエビデンスを得るための研究デザインとして、適切であるか否かを検証するために施行されたTRIGGER試験の結果が公表された。 TRIGGER試験では、大量出血症例を除くUGIB全症例を登録し、病院単位でヘモグロビン(Hb)濃度が8g/dL未満で輸血を行う制限群と、10g/dL未満でも輸血できる非制限群の2群に割り付けて検討した結果、「集団無作為化デザインは、両群共に被験者の迅速なエントリーが可能で、高いプロトコル順守率および貧血の解消に結び付き、有意ではないが制限群で赤血球輸血の減少に寄与する可能性が示唆された」。すなわち「臨床診療ガイドラインでUGIB患者に対する輸血の基準を明確にするためには、『非盲検集団無作為化試験』が適切な研究デザインであり、その実施が必須である」と結論されている。 UGIB患者に対する輸血に関して明確な基準はなく、大規模研究によるエビデンスの構築が期待されるところである。しかし、緊急症例に対するエントリー率や診療現場での無作為割り付けの困難性、さらに症例バイアスが大きいなどの理由から、実現可能で精度の高い介入試験デザインが探索されてきた。TRIGGER試験の結果から、施設を無作為に分ける方法が信頼性の高いエビデンス構築に有用であると示されたことから、今後、同デザインを用いた大規模なRCTが実践されるであろう。しかし、わが国におけるUGIBに対する診療の中心は、内視鏡検査での出血源の確認に引き続く内視鏡的止血の成否により輸血の必要性を決定することが多く、日本で本デザインを使用した多施設共同試験を実施する際には、各施設間において異なる内視鏡診療精度が課題となろう。

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