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1 疾患概要■ 概念・定義成人T細胞白血病・リンパ腫(ATLL)は、レトロウイルスであるヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)に感染したT細胞が、腫瘍化して起こる悪性腫瘍である。■ 疫学HTLV-1の推定感染者数は最近の統計では108万人で、以前より減少傾向にあるとされる。しかしながら、1,000人/年ほどのATLLの発症数があるとされている。九州、沖縄のほか、紀伊半島、三陸海岸、北海道などの沿海地域に感染者数の多い地域がある。また、人口の移動に伴い東京・大阪などの大都市圏での感染者も増えている。HTLV-1の感染経路としては母児感染(主に母乳を介する)、輸血(現在はスクリーニングにより新たな感染はない)、性的接触などがある。HTLV-1感染者が生涯にわたって、ATLLを発症するリスクは5%程度と考えられており、通常、40年近い潜伏期間を経て発症するので、発症年齢中央値は70歳前後と高齢である。■ 病因HTLV-1のpX領域にコードされるTax遺伝子やpX領域のマイナス鎖にコードされるHBZなどが、HTLV-1感染T細胞の不死化や細胞増殖に関与していると考えられている。キャリアの状態では、これらの遺伝子の働きによる細胞増殖と宿主の免疫とのバランスがとれているが、新たな遺伝子異常が加わることや宿主免疫に異常を来すことが、腫瘍化に関与していると考えられている。■ 症状(表)画像を拡大する1)血液中異常細胞(フラワー細胞)出現ATLLの典型的な血液腫瘍細胞の形態は、強い分葉のある核をもつフラワー細胞である。多くの場合、CD4+、 CD25+で、CD7発現が消失していることが多い。2)リンパ節腫大・肝脾腫3)皮膚病変紅斑や腫瘤などがみられる。4)高カルシウム血症ATLL細胞が、血清カルシウム値を上昇させる副甲状腺ホルモン関連蛋白(PTHrP)を産生するために起こる。高カルシウム血症のため全身倦怠感、多尿、腎障害、意識障害を来す。5)日和見感染症ATLL患者では、正常T細胞の減少がみられ、その結果として細胞性免疫低下に関連した日和見感染症(帯状疱疹、サイトメガロウイルス感染症、ニューモシスチス感染症、各種真菌症、糞線虫症などの寄生虫感染症など)を起こしやすい。■ 予後急性型・リンパ腫型の予後は、きわめて不良とされている。最近行われた多施設後方視研究では、生存期間中央値7.7ヵ月であった。Ann Arbor分類で病期3以上、身体活動度2以上、年齢・血清アルブミン、可溶性IL-2受容体などの連続変数からなるATL予後指数が報告されており、高・中間・低リスク群での生存期間中央値はそれぞれ3.6、7.3、16.2ヵ月、2年生存割合は4、17、39%であった。しかし、同種造血幹細胞移植施行例では、一定の割合で長期無増悪生存が得られ、治癒が期待できる。慢性型・くすぶり型の患者の予後は、従来良好とされていたが、長崎大学からの報告では生存期間中央値4.1年で5、10、15年生存割合はそれぞれ、47.2、25.4、14.1%と必ずしも予後良好とはいえない結果であった。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)さまざまな症状で医療機関を受診した際に、一般血液検査で白血球増加症、とくに末梢血塗抹標本でフラワー細胞の出現がみられたり(図)、異常T細胞の増加がみられた場合にATLLが疑われる。このほか、リンパ節腫大の鑑別診断も挙げられる。画像を拡大する日本人でリンパ節や節外病変の生検でT細胞リンパ腫と診断された際には、ATLLの可能性を鑑別する必要がある。特徴的な検査値異常として、可溶性IL-2受容体(sIL-2R)高値、血清カルシウム高値などがある。1)HTLV-1抗体まず、粒子凝集(PA)法や化学発光法などによる、スクリーニング検査を行う。ただし、これらの検査は、高感度であるものの偽陽性の可能性があるため、確認検査としてウエスタンブロット(WB)法を行う。2)HTLV-1プロウイルスDNA定量(保険未収載)WB法で判定保留の際に、HTLV-1感染の有無を確認するために用いられる。3)リンパ節生検・皮膚生検他疾患との鑑別のため、腫大リンパ節や皮膚などの節外病変の生検を行い、病理組織検査、フローサイトメトリー、染色体検査、HTLV-1プロウイルスDNAサザンブロットなどを行う。4)骨髄検査骨髄浸潤を確認するために行われる。白血病化している場合でも、骨髄中の腫瘍細胞は目立たないことが多い。5)HTLV-1プロウイルスDNAサザンブロット(保険未収載)HTLV-1感染患者に発症したT細胞腫瘍をATLLとみなすこともあるが、ATLLと正確に診断するためには、腫瘍細胞でHTLV-1が単クローン性に増殖していることをサザンブロットにより確認する。6)フローサイトメトリーATLL細胞は形態的には、正常リンパ球との区別が困難な場合があるため、フローサイトメトリーで異常な免疫形質のT細胞集団の有無を確認する。ATLL細胞の典型的な免疫形質は、CD3+、CD4+、CD7-、CD8-、CD25+、CCR4+である。7)画像検査・内視鏡検査病変の広がりを確認するため、CT、PET-CT、上部消化管内視鏡検査などを行う。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 急性型・リンパ腫型アントラサイクリン系抗腫瘍薬を用いた多剤併用化学療法を行う。初回多剤併用化学療法としては、mLSG15(VCAP-AMP-VECP)療法、CHOP療法、EPOCH療法などが用いられている。また、中枢神経再発予防として抗腫瘍薬の髄注を行う。65~70歳未満の患者では、多剤併用化学療法に引き続いて、同種造血幹細胞移植を行うことが勧められる。このため治療開始とともにドナー検索も進めていく。血縁者にHLA一致同胞ドナーがいる場合には血縁者間同種移植、ドナーがいない場合には非血縁者間骨髄移植や臍帯血移植の可能性を検討する。移植前処置として、50~55歳未満で臓器障害のない患者では骨髄破壊的前処置、50~55歳以上の患者や臓器障害のある患者などでは、強度減弱前処置が用いられることが多い。年齢・臓器障害などのために多剤併用化学療法が行えない場合には、経口抗腫瘍薬を投与する。エトポシド(商品名:ベプシド、ラステット)、ソブゾキサン(同:ペラゾリン)などが用いられることが多い。CCR4陽性の再発・治療抵抗性例に対して、抗CCR4抗体モガムリズマブ(同:ポテリジオ)が治療選択肢となる。なお、CCR4陽性ATLL初発例に対して、モガムリズマブ併用mLSG15療法の臨床試験の結果が報告されており、mLSG15療法単独と比較して完全奏効割合が高くなることが示されている。■ くすぶり型、予後不良因子を伴わない慢性型無治療で経過観察を行い、進行がみられた時点で治療を開始するのが一般的である。しかし、これらの病型の患者の予後が必ずしも良好でないことから、インターフェロンα/ジドブジン(同:レトロビル)併用療法による介入治療の意義をみるため、ランダム化第3相試験が行われている(2015年12月)。皮膚病変を有する患者では、外科的切除、放射線療法、PUVA療法などの局所療法が行われる。■ 予後不良因子のある慢性型慢性型でもLDH>正常値上限、BUN>正常値上限、アルブミン<正常値下限、に該当する場合には予後不良とされるため、急性型・リンパ腫型と同様の治療が行われることが多い。4 今後の展望妊婦健診の導入や献血時のスクリーニングによって、今後、新たなHTLV-1感染は減少することが期待される。しかし、100万人近くいるHTLV-1感染者からのATLLの発症は今後も続くと思われる。同種造血幹細胞移植によって、ATLL患者の一部で治癒が期待できるようになったことは画期的であり、ATLLに対する同種免疫効果が有効であることを強く示唆する。同種移植については、今後も有利な移植片源や前処置を探る研究が引き続き必要だろう。一方、多くのATLL患者は高齢であったり、初回化学療法に対して抵抗性であったりして、同種造血幹細胞の恩恵を得られていない現状もある。抗CCR4抗体モガムリズマブの位置づけの検討や、さらなる新規治療薬の開発が重要な課題であろう。5 主たる診療科血液内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療に関する情報HTLV-1情報サービス(厚生労働省科学研究費補助金 がん臨床研究事業 「HTLV-1キャリア・ATL患者に対する相談機能の強化と正しい知識の普及の促進」)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報グループ・NEXUS(悪性リンパ腫の患者、患者家族の全国団体の情報)1)Shimoyama M, et al. Br J Haematol.1991;79:428-437.2)Tsukasaki K, et al. J Clin Oncol.2009;27:453-459.3)Katsuya H, et al. J Clin Oncol.2012;30:1635-1640.4)Tsukasaki K, et al. J Clin Oncol.2007;25:5458-5464.5)Ishitsuka K, et al. Lancet Oncol.2014;15:e517-526.公開履歴初回2013年07月18日更新2015年12月22日