サイト内検索|page:2

検索結果 合計:245件 表示位置:21 - 40

21.

低リスク骨髄異形成症候群の貧血にluspaterceptは?/Lancet

 赤血球造血刺激因子製剤(ESA)による治療歴のない低リスクの骨髄異形成症候群(MDS)患者の貧血治療において、エポエチンアルファと比較してluspaterceptは、赤血球輸血非依存状態とヘモグロビン増加の達成率に優れ、安全性プロファイルは全般に既知のものと一致することが、ドイツ・ライプチヒ大学病院のUwe Platzbecker氏らが実施した「COMMANDS試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年6月10日号に掲載された。26ヵ国の第III相無作為化対照比較試験 COMMANDSは、26ヵ国142施設が参加した第III相非盲検無作為化対照比較試験であり、2019年1月~2022年8月の期間に患者の登録が行われた(CelgeneとAcceleron Pharmaの助成を受けた)。今回は、中間解析の結果が報告された。 対象は、年齢18歳以上、ESAによる治療歴がなく、WHO 2016基準でMDSと診断され、国際予後判定システム改訂版(IPSS-R)で超低リスク、低リスク、中等度リスクのMDSと判定され、赤血球輸血を要し、骨髄芽球割合<5%の患者であった。 被験者は、luspaterceptまたはエポエチンアルファの投与を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。luspaterceptは3週間に1回皮下投与され、1.0mg/kg体重から開始して可能な場合は最大1.75mg/kgまで漸増した。エポエチンアルファは週1回皮下投与され、450IU/kg体重から開始して可能な場合は最大1,050IU/kgまで漸増した(最大総投与量8万IU)。 主要エンドポイントは、intention-to-treat集団において、試験開始から24週までに、12週以上で赤血球輸血非依存状態が達成され、同時に平均ヘモグロビン量が1.5g/dL以上増加することであった。 356例(年齢中央値74歳[四分位範囲[IQR]:69~80]、男性 56%)が登録され、luspatercept群に178例、エポエチンアルファ群にも178例が割り付けられた。中間解析には、24週の投与を完遂、および早期に投与中止となった301例(luspatercept群147例、エポエチンアルファ群154例)が含まれた。主要エンドポイント達成率はluspatercept群59%、エポエチンアルファ群31% 主要エンドポイントを達成した患者は、エポエチンアルファ群が48例(31%)であったのに対し、luspatercept群は86例(59%)と有意に高率であった(奏効率の共通リスク差:26.6、95%信頼区間[CI]:15.8~37.4、p<0.0001)。 また、(1)24週のうち12週以上で赤血球輸血非依存状態を達成した患者(luspatercept群67% vs.エポエチンアルファ群46%、名目p=0.0002)、(2)24週のすべてで赤血球輸血非依存状態を達成した患者(48% vs.29%、名目p=0.0006)、(3)国際作業部会(IWG)基準で8週間以上持続する赤血球系の血液学的改善効果(HI-E)(74% vs.51%、名目p<0.001)は、いずれもluspatercept群で有意に良好だった。 投与期間中央値は、エポエチンアルファ群(27週[IQR:19~55])よりもluspatercept群(42週[20~73])が長かった。最も頻度の高いGrade3/4の治療関連有害事象(患者の≧3%)として、luspatercept群では高血圧、貧血、呼吸困難、好中球減少症、血小板減少症、肺炎、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、MDS、失神が、エポエチンアルファ群では貧血、肺炎、好中球数減少症、高血圧、鉄過剰症、COVID-19肺炎、MDSがみられた。 luspatercept群の1例(78歳)が、3回目の投与後に急性骨髄性白血病と診断されて死亡し、担当医により試験薬関連と判定された。 著者は、「これらの結果をより強固なものにし、低リスクMDSの他のサブグループ(SF3B1遺伝子の変異なし、環状鉄芽球なしなど)に関する知見をさらに精緻なものにするために、今後、長期のフォーアップと追加データが求められるだろう」としている。

22.

第165回 案から閣議決定までに一部変更?『骨太の方針2023』の医療関連項目をピックアップ

岸田 文雄政権が考える重要課題や来年度予算編成に関する基本的な方向性を示す「経済財政運営と改革の基本方針2023」(通称・骨太の方針2023)が6月16日に閣議決定された。時々、友人・知人から「あの『骨太の方針』って何?」とよく聞かれることがある。この大枠を決めているのは、中央省庁再編が行われた2001年1月、内閣設置法に基づきスタートした「経済財政諮問会議」である。首相を議長に経済関係閣僚と民間有識者で構成され、首相の諮問を受け、構成メンバーが経済全般や財政の運営方針、予算編成の基本方針を調査審議する。経済財政諮問会議の歴史と『骨太の方針』の謂れご存じのように日本では長らく政策立案や予算編成は官僚主導、もっと踏み込んで言えば財務省(旧大蔵省)が官庁の中のキング・オブ・ザ・キングスとして強大な権限を握り、政治家は彼らの担いだ神輿に乗っかるのが慣例だった。これに対して経済財政諮問会議の設置以降、首相の音頭で同会議の経済関係閣僚と民間議員などが政策を議論し、それをまとめたものを基本方針として閣議決定。この閣議決定後に各大臣が基本方針を所轄省庁に持ち帰り、方針内に記述された関連事項を省内で具体的に政策化したうえで再度同会議に持ち帰って発表する手続きとなった。つまり政治主導の政策・予算決定というわけだ。同会議のスタート時は省庁内での政策具体化の際に骨抜きにされる可能性は残ったが、たまたま本格スタート時の首相は、郵政三事業の民営化を掲げ、総裁選では「自民党をぶっ壊す」と叫んでいた政治主導の権化とも言われる小泉 純一郎氏だったこともあり、それなりに政治主導が発揮され、今に至っている。さらに付け加えると、2014年に安倍 晋三氏(故人)の政権下で、各省庁の幹部人事を決定する内閣人事局が内閣官房に設置されたことで省庁側は人事権で首根っこを押さえられた形になり、良くも悪くも政治主導がほぼ完成されている。ちなみになぜ通称で『骨太の方針』と呼ばれているかだが、同会議発足当初、森 喜朗首相の下で財務相を務めていた元首相の宮澤 喜一氏が同会議の議論を「骨太の議論」と呼んだことが始まりとされている。さてこの『骨太の方針』のより具体的な作成プロセスだが、毎年2~4月に同会議で民間委員の提言を受け、各省庁の大臣と民間委員の間で個別テーマについて議論が行われる。そこで『骨太の方針』の骨子案が作成され、5月中旬くらいに各省庁に降りる。各省庁ではその内容が実現可能かを関係各方面との調整や表現の修正検討を行い、それらが再び同会議に意見として提出される。また、同時期には政権与党の部会や関係する議員連盟などからもさまざまな政策提言が行われ、こうしたものも盛り込まれたうえで、『骨太の方針』の案が公表される。今回の『骨太の方針2023』は6月7日に案が公表された。その後は閣議決定までの間に与党の政務調査会などによる事前審査が行われるほか、各省庁や関係団体から与党の有力議員に働き掛けも行われる。その結果、一部文言などが修正された最終案が閣議決定されるという具合だ。「医療」「看護」「薬」「介護」のキーワードで検索、案と閣議決定文を比較さて今回の『骨太の方針2023』は、公表案から閣議決定文に至るまで実に100ヵ所以上の文言が修正されたと報じられている。医療・介護関係でどんな修正があったのだろうか?ざっくりとそれを調べてみた。比較結果を記述する前に簡単に概説すると、近年の『骨太の方針』は、第1章が経済状況の現状分析、第2章が国内を意識した経済成長戦略、第3章が国際的な視野に基づく経済成長戦略、第4章が財政運営方針と次年度以降の予算政策の4章立て。医療・介護については概ね第4章で触れられることがほとんどだ。これは言わずもがな、少子高齢化に伴う社会保障費の増大をどのように抑制するかに力点が置かれているからだ。さてどんなところが変更されていたのだろうか? 最初に目についたのは、第4章:中長期の経済財政運営の2.持続可能な社会保障制度の構築の項の「社会保障分野における経済・財政一体改革の強化・推進」の部分である。下線部分が閣議決定文に追記された。1人当たり医療費の地域差半減に向けて、都道府県が地域の実情に応じて地域差がある医療への対応などの医療費適正化に取り組み、引き続き都道府県の責務の明確化等に関し必要な法制上の措置を含め地域医療構想を推進するとともに、都道府県のガバナンス強化、かかりつけ医機能が発揮される制度の実効性を伴う着実な推進、地域医療連携推進法人制度の有効活用、地域で安全に分娩できる周産期医療の確保、ドクターヘリの推進、救急医療体制の確保、訪問看護の推進、医療法人等の経営情報に関する全国的なデータベースの構築を図る。(骨太の方針 閣議決定文)周産期医療に関しては、おそらく岸田首相が唱える異次元の少子化対策を踏まえたものと考えられる。ちなみに「看護」というキーワードが骨太の方針で登場するのはここだけだ。たぶん案の段階で看護に関する言及が皆無だったことを受け、日本看護協会周辺が働きかけたのではないだろうかと予想している。すぐ後の医療DXに関する一文も軽微ながら変更が加えられている(下線部分)。医療DX推進本部において策定した工程表に基づき、政府を挙げて医療DXの実現に向けた取組を着実に推進する。(骨太の方針 案)↓医療DX推進本部において策定した工程表に基づき、医療DXの推進に向けた取組について必要な支援を行いつつ政府を挙げて確実に実現する。(骨太の方針 閣議決定文)こちらは閣議決定文でより強い表現になっている。以前の本連載でも触れたが、今後の社会保障費増大を抑制するうえでデジタルヘルスの推進は必要不可欠なもの。そこに対する政府の決意の強さを表していると言えようか。今、揉めに揉めているマイナンバー関連では、マイナ保険証への一本化について否定的な世論調査結果も報じられているが、案、閣議決定文とも“2024年秋の健康保険証廃止”という一文は維持されており、それまでに現在の問題点を走りながら修正する意向なのだろう。実際、医療DXについて後に続く一文でも修正がある(下線部分)。※取り消し線部分:案にのみ記載その際、セキュリティを確保しつつ、医療DXに関連するシステム開発・運用主体の体制整備、電子処方箋の全国的な普及拡大に向けた環境整備、標準型電子カルテの整備、医療機関等におけるサイバーセキュリティ対策等を着実に実施する。(骨太の方針 閣議決定文)案ではどちらかというと「従」の扱いだったセキュリティ対策が、医療DXで推進すべき各項目と並列的に記載されている。というか、個人的には「そりゃそうだろう」と言いたいところだが。さてその後の創薬などの医薬品関連でも文言の修正が見て取れた(下線部分)。創薬力強化に向けて、革新的な医薬品、医療機器、再生医療等製品の開発強化、研究開発型のビジネスモデルへの転換促進等を行うため、保険収載時を始めとするイノベーションの適切な評価などの更なる薬価上の措置、全ゲノム解析等に係る計画の推進を通じた情報基盤の整備や患者への還元等の解析結果の利活用に係る体制整備、大学発を含むスタートアップへの伴走支援、臨床開発・薬事規制調和に向けたアジア拠点の強化、国際共同治験に参加するための日本人データの要否の整理、小児用・希少疾病用等の未承認薬の解消に向けた薬事上の措置と承認審査体制の強化等を推進する。これらにより、ドラッグラグ・ドラッグロスの問題に対応する。さらに、新規モダリティへの投資や国際展開を推進するため、政府全体の司令塔機能の下で、総合的な戦略を作成する。医療保険財政の中で、こうしたイノベーションを推進するため、長期収載品等の自己負担の在り方の見直し、検討を進める。大麻に関する制度を見直し、大麻由来医薬品の利用等に向けた必要な環境整備を行うほか、OTC医薬品・OTC検査薬の拡大に向けた検討等によるセルフメディケーションの推進、バイオシミラーの使用促進等、医療上の必要性を踏まえた後発医薬品を始めとする医薬品の安定供給確保、後発医薬品の産業構造の見直し、プログラム医療機器の実用化促進に向けた承認審査体制の強化を図る。また、総合的な認知症施策を進める中で、認知症治療の研究開発を推進する。献血への理解を深めるとともに、血液製剤の国内自給、安定的な確保及び適正な使用の推進を図る。(骨太の方針 閣議決定文)補足することでより正確な記述にしたというのが率直な感想だが、個人的には「プログラム医療機器の実用化促進に向けた承認審査体制の強化を図る」が付け加えられたところにやや目が留まった。実は『骨太の方針』案が公表されるのと同時期に田村 憲久元厚労相らのヘルステック推進議員連盟が加藤 勝信厚労相に提言の申し入れを行っているからである。与党での法案審査をより無難に通過させるためには、こうした議連の提言が盛り込まれることがよくある。一方、血液の安定確保に関しては、確保の方向性だけでなく、医療現場ではやや使い過ぎという声もある血液製剤の適正使用に踏み込んだのは、個人的にはなかなか細かいところに気を遣ったと感じている。さて、介護に関しては本文の修正はなかった。急速な高齢化が見込まれる中で、医療機関の連携、介護サービス事業者の介護ロボット・ICT機器導入や協働化・大規模化、保有資産の状況なども踏まえた経営状況の見える化を推進した上で、賃上げや業務負担軽減が適切に図られるよう取り組む。が、実は欄外の注釈が1ヵ所修正されている(下線部分)。「介護職員の働く環境改善に向けた取組について」(令和4年12月23日全世代型社会保障構築本部決定)では、現場で働く職員の残業の縮減や給与改善などを行うため、介護ロボット・ICT機器の導入や経営の見える化、事務手続や添付書類の簡素化、行政手続の原則デジタル化等による経営改善や生産性の向上が必要であるとされており、取組を推進する。(骨太の方針 閣議決定文)注釈ゆえに大した修正ではないとも言えるかもしれないが、わざわざ最終段階で修正したわけだから一定の意味があると考えるのが自然。そしてこの修正内容を見る限り、介護業界関係団体からの与党議員への働きかけの結果というよりは、厚労省あるいは財務省、あるいはデジタル庁から与党議員への働きかけの結果と解釈するのが妥当と考える。つまり業務効率化により強く国が関与してくる可能性があり、次回の介護報酬改定にこの部分で何らかの改革が行われる可能性を念頭に置いても良いかもしれない。いずれにせよこれらの答え合わせは下半期の“お楽しみ”というところだろうか。一応、はずすのを承知で個人的な予想をすると、もし文言通りにいかないことがあるとするならば、実は政権の強い意向が示されている健康保険証の廃止時期かな、と思っていたりもする。

23.

血小板数が少ない症例に血小板輸血は?(解説:後藤信哉氏)

 血小板数が5万を切ると出血性合併症は増える。自然出血も増えるかもしれない。そんな症例でも中心静脈にカテーテルを入れる必要がある場合はある。カテーテル挿入にエコーを利用するようになって、合併症リスクは減少している。カテーテル挿入は必要である。しかし、血小板数が低いときに、一時的にでも血小板輸血をするか? 日常臨床に直結した疑問である。この疑問に対してランダム化比較試験を行ったのが本研究である。 血小板数1~5万の症例を対象とした。中心静脈カテーテル挿入前に血小板輸血をする群としない群にランダムに振り分けた。カテーテルによるGrade2~4の出血を主要エンドポイントとした。血小板輸血をしても、出血リスクは事前に設定した非劣性マージンを超えなかった。 一般論として血小板減少に対して何も考えずに血小板輸血をするのは良くない。中心静脈カテーテル挿入が必要であってもエコー下にて施行すれば血小板輸血は必ずしも必要ない。日常臨床に役立つ試験結果である。

24.

第152回 新型コロナウイルス、アドバイザリーボードが夏の感染拡大の可能性を指摘/厚生労働省

<先週の動き>1.新型コロナウイルス、アドバイザリーボードが夏の感染拡大の可能性を指摘/厚生労働省2.骨太の方針を閣議決定、防衛費増額とともに子育て支援を強化へ/内閣府3.391項目の規制緩和策を盛り込んだ新たな規制改革実施計画を決定/政府4.ドクターカーの運用に関する全国調査、人員不足が課題/厚労省5.旧優生保護法下での強制不妊手術問題、調査報告書全文が判明/国会6.医療脱毛クリニックが破産手続き、被害者は900人以上に1.新型コロナウイルス、アドバイザリーボードが夏の感染拡大の可能性を指摘/厚生労働省厚生労働省は6月16日に新型コロナウイルス対策を助言する「アドバイザリーボード」を開催した。厚労省の定点把握データに基づき、新型コロナウイルス感染者数が夏の間に一定の拡大が生じる可能性があるとの見解をまとめた。定点把握による感染者数は前週比で1.12倍増加し、全国で36都府県で感染者数は増加していた。会合では高齢者など重症化リスクのある人々に対するワクチン接種の検討を求める一方、基本的な感染対策の重要性も強調された。専門家からは、感染拡大の可能性や医療提供体制についての懸念が述べられた。また、変異ウイルスのオミクロン株の亜系統「XBB」の増加や免疫逃避性の変異などにも注意が必要とされた。これに先立ち、日本小児科学会は6月6日に、新型コロナワクチンの子どもへの接種を「すべての小児に推奨する」と発表しており、「コロナ対策の緩和によって多くの子供が感染する可能性があるため、ワクチン接種は重要であり、重症化を防ぐ手段として有効だ」と主張している。同学会側は、WHOが子供へのワクチン接種を支持しており、複数の研究でも予防効果が確認されていることを指摘している。参考1)第122回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和5年6月16日)2)コロナ感染「夏に拡大恐れ」=定点把握は前週比1.12倍-「5類」後初会合・厚労省助言組織(時事通信)3)コロナ1カ月で2倍に、沖縄注意 専門家組織「夏に拡大の可能性」(朝日新聞)4)新型コロナワクチン「すべての小児に接種推奨」日本小児科学会(NHK)5)小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方[2023.6追補](日本小児科学会)2.骨太の方針を閣議決定、防衛費増額とともに子育て支援を強化へ/内閣府政府は6月16日に「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」を閣議決定した。少子化対策の財源について具体的な言及はなく、新たな税負担も考えていないとした。防衛費の財源については増税の実施時期を2025年以降と先送りする方針だが、具体的な財源の確保は困難であり、実現するためには安定した財源が必要とされている。政府は年末までに具体化を進める予定。骨太の方針の中で、社会保障分野については、引き続き経済・財政一体改革の強化・推進を行い、限りある資源を有効に活用して質の高い医療介護サービスを提供するために、医療の機能分化と連携のさらなる推進を行い、医療・介護人材の確保や育成にあたるほか、働き方改革の実現のために医療DXの推進、医療費適正化や地域医療構想の推進のために、地域医療連携推進法人制度の有効活用などの推進が盛り込まれた。介護の分野では、高齢者の自己負担2割の対象者を拡大するか否かを年末に判断することを正式に決めた。参考1)経済財政運営と改革の基本方針2023 加速する新しい資本主義~未来への投資の拡大と構造的賃上げの実現~(内閣府)2)政府、骨太の方針を閣議決定 防衛増税後ろ倒し示唆、歳出増ずらり(朝日新聞)3)骨太の方針のポイント 物価安定・賃金上昇狙う 少子化対策 児童手当や育休給付拡充(日経新聞)4)終身雇用など日本の“常識”見直しへ 骨太方針閣議決定(産経新聞)3.391項目の規制緩和策を盛り込んだ新たな規制改革実施計画を決定/政府政府が391項目の規制緩和策を盛り込んだ新たな規制改革実施計画を6月16日の閣議で決定した。この中には、医療データの個人情報を加工すれば同意が不要で研究開発に利用できる法整備や、AIを活用した契約書審査のガイドライン作成、医師の業務を一部看護師にも許可するなど、さまざまな分野での規制緩和が含まれている。また、都市部でもオンライン診療のための診療所を開設できるよう検討し、診療所管理者の常勤要件の緩和や特定行為の範囲拡充も検討する。これにより、医療のデジタル化や効率化が進む見込み。さらに、医療データの2次利用の同意不要化や、在宅患者への薬剤提供体制整備、プログラム医療機器の保険適用の検討なども行われている。この実施計画は2023年中に結論を出す予定。参考1)『規制改革実施計画』[令和5年6月16日閣議決定](内閣府)2)参考資料[内閣府規制改革推進室作成](同)3)規制緩和策 391項目盛り込んだ政府の計画 閣議決定(NHK)4)都市部でも公民館でオンライン診療、年内に結論 新たな規制改革実施計画を閣議決定(CB news)4.ドクターカーの運用に関する全国調査、人員不足が課題/厚労省厚生労働省が行なったドクターカーの運用に関する全国調査の内容が判明した。これによると、24時間体制で運用している病院は全体の約20%に過ぎず、手術可能なドクターカーは約30%、輸血可能なドクターカーは約10%であることが明らかになった。この中で人員不足が主な課題とされており、厚労省は効率的な運用のための指針を策定し、救命率の向上につなげたいと考えている。調査は厚生労働省調査研究事業「ドクターカーの運用事例等に関する調査研究事業」として全国ドクターカー協議会によって実施され、約140病院が回答した。調査によると2021年1月~2022年9月にかけて、ドクターカーで診療された患者は約5万4,800人。しかし、夜間運用や手術能力、輸血能力に関しては課題があり、運用している病院は限られていた。また、ドクターカーの購入費用は装備を含めて1台当たり1,000~4,000万円かかり、国の補助もあるが、病院の負担も大きい。全国ドクターカー協議会は、データ収集と分析を行い、ドクターカーの診療能力向上のために、車内診療の訓練コースなどを設けるなどの取り組みを行っていく考えを示している。参考1)ドクターカー「24時間」運用2割、人員不足など課題…「手術可能」は3割(読売新聞)5.旧優生保護法下での強制不妊手術問題、調査報告書全文が判明/国会旧優生保護法下で障害者らに不妊手術が強制された問題について、衆参両院がまとめた調査報告書原案の全文が判明した。調査では、手術の65%が本人の同意なしに行われ、盲腸など別の手術と偽って手術が行われたり、審査会を開催せずに書類だけで手術を決定するなど、ずさんな実態が浮かび上がった。最年少の被害者は9歳で、児童施設や福祉施設の入所条件として手術が行われた事例も認められた。報告書によれば、旧法に基づき全国で実施された手術は2万4,993件で、本人の同意なしの手術は1万6,475件だった。被害の背景には経済的な困難や家族の意向、福祉施設の入所条件などがあった。報告書の原案は衆参両院に提出され、公表される予定。この問題について、国会の議長や厚生労働委員会の委員長は謝罪の意を表明した。参考1)盲腸と偽り不妊手術、最年少9歳 同意なし65%、旧優生報告判明(東京新聞)2)強制不妊、最年少は9歳 国の報告書全文判明 旧優生保護法、衆参議長提出へ(時事通信)3)旧優生保護法 いきさつなど調べた国会の報告書案まとまる(NHK)6.医療脱毛クリニックが破産手続き、被害者は900人以上に医療脱毛クリニック「ウルフクリニック」が突如として全店舗を休業し、破産手続きの準備を進めていることが明らかになった。クリニックはコース契約を結んだ患者に対する返金も行わず、従業員の給与も未払いのままで、被害総額は約1億8,000万円と推定されている。男性の医療脱毛を扱うウルフクリニックは東京、神奈川、愛知、大阪に5店舗を展開していたが、今年4月に全店舗を休業し、先月末に突然の破産を発表した。被害者たちは、返金対応がずさんであることを、クリニックの会議の録音や返金対応マニュアルから明らかにした。運営会社の幹部の会議の録音データからは、クリニックが自転車操業に陥っており、客からの入金がなくなったために従業員への給与支払いができなくなったことが判明している。被害者は900人以上を上回っており、被害者らは集団訴訟を起こす見込み。参考1)「通い放題」トラブル相次ぐ脱毛サロン、倒産が過去最多に 年度内には業界大手「脱毛ラボ」が破綻、一般利用者3万人に被害(産経新聞)2)「マジ終わった」脱毛クリニック破産手続き準備 被害総額1億8,000万円か 集団提訴へ(テレビ朝日)

25.

重症血小板減少症のCVC関連出血、輸血で予防可能か/NEJM

 重症血小板減少症の患者においては、中心静脈カテーテル(CVC)留置に関連する出血を防ぐための予防的な血小板輸血の必要性に疑問が提起されている。オランダ・アムステルダム大学医療センターのFloor L.F. van Baarle氏らは「PACER試験」においてこの問題を検証し、超音波ガイド下CVCの留置前に予防的な血小板輸血を行わない非輸血戦略は、行った場合と比較して、Grade2~4のカテーテル関連出血の発生は非劣性マージンを満たさず、出血イベントが多いことを示した。研究の詳細は、NEJM誌2023年5月25日号に掲載された。オランダ10病院の無作為化非劣性試験 PACER試験は、オランダの10ヵ所の病院が参加した無作為化対照比較非劣性試験であり、2016年2月~2022年3月の期間に患者の登録が行われた(オランダ保健研究開発機構[ZonMw]の助成を受けた)。 血液内科病棟または集中治療室で治療を受けている重症血小板減少症(血小板数:1万~5万/mm3)の患者を、超音波ガイド下CVC留置前に、予防的に1単位の血小板輸血を行う群、または血小板輸血を行わない群に無作為に割り付けた。 主要アウトカムはGrade2~4のカテーテル関連出血で、主な副次アウトカムはGrade3または4のカテーテル関連出血であった。非劣性マージンは、相対リスクの90%信頼区間(CI)の上限値3.5とされた。総費用は、1件当たりは安価だが、24時間では高額に 338例に施行された373件のCVC留置がper-protocol解析に含まれた。血小板輸血群はCVC留置188件(患者の年齢中央値58歳[四分位範囲[IQR]:47~65]、女性33.5%)、血小板非輸血群は185件(59歳[50~65]、37.8%)であった。 Grade2~4のカテーテル関連出血は、輸血群では188件中9件(4.8%)、非輸血群では185件中22件(11.9%)で発生した。両群間の絶対リスク差は7.1ポイント(90%CI:1.3~17.8)で、相対リスクは2.45(90%CI:1.27~4.70)であり、非輸血戦略の非劣性は示されなかった。 Grade3/4のカテーテル関連出血は、輸血群では188件中4件(2.1%)、非輸血群では185件中9件(4.9%)で発生した(相対リスク:2.43、95%CI:0.75~7.93)。 有害事象は全体で15件観察された。このうち13件が重度と判定され、いずれもGrade3のカテーテル関連出血であった(輸血群4件、非輸血群9件)。 血小板輸血と出血イベントに関連する総費用は非輸血群より輸血群で高く、カテーテル留置1件当たりの総費用は非輸血群で410ドル安価であった。一方、CVC留置後24時間の輸血費用は、非輸血群のほうが血小板輸血と出血関連の輸血の頻度が高かったため、高額であった。 著者は、「輸血後に血小板数が少ない患者にみられた高い出血リスクは、CVC関連出血の予防には十分な量の血小板(血小板輸血を含む)が重要との考え方を、さらに裏付けるものである」としている。

26.

帝王切開時のトラネキサム酸、産科異常出血を予防せず/NEJM

 帝王切開時のトラネキサム酸の予防的投与は、プラセボと比較して母体死亡および輸血の複合アウトカム発生を有意に低下させることはなかった。米国・テキサス大学のLuis D. Pacheco氏らが無作為化試験の結果を報告した。これまでに、帝王切開時のトラネキサム酸の予防的投与は、出血量を減じることが示唆されていたが、輸血の必要性に関する影響については不明であった。NEJM誌2023年4月13日号掲載の報告。米国の31の病院でプラセボ対照無作為化試験 研究グループは、米国の31の病院で帝王切開を受ける妊婦を、臍帯クランプ後にトラネキサム酸またはプラセボを投与する群に無作為に割り付け追跡評価した。 主要アウトカムは、母体死亡または輸血(退院までもしくは出産後7日までのいずれか早いほう)の複合。副次アウトカムは、術中の推定1L超の失血、出血および関連合併症への介入、ヘモグロビン値の術前術後の変化量、出産後の感染性合併症などであった。有害事象も評価した。母体死亡・輸血の相対リスク0.89、有意差なし 2018年3月~2021年7月に1万1,000例が無作為化された(トラネキサム酸群5,529例、プラセボ群5,471例)。このうち、トラネキサム酸群2,768例(50.1%)、プラセボ群2,693例(49.2%)が予定通り帝王切開にて出産した。 主要アウトカムの発生は、トラネキサム酸群201/5,525例(3.6%)、プラセボ群233/5,470例(4.3%)であった(補正後相対リスク:0.89、95.26%信頼区間[CI]:0.74~1.07、p=0.19)。 術中の推定1L超の失血の発生は、トラネキサム酸群7.3%、プラセボ群8.0%であった(相対リスク:0.91、95%CI:0.79~1.05)。出血関連合併症への介入発生は、それぞれ16.1% vs.18.0%(相対リスク:0.90、95%CI:0.82~0.97)、ヘモグロビン値の変化量は、-1.8g/dL vs.-1.9g/dL(平均群間差:-0.1g/dL、95%CI:-0.2~-0.1)、出産後の感染性合併症の発生は、3.2% vs.2.5%(相対リスク:1.28、95%CI:1.02~1.61)であった。 母体の血栓塞栓性イベントおよびその他の有害事象の発現頻度は、両群で類似していた。

27.

釣り針が刺さった【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第2回

皆さんは釣りをしますか? 私は学生時代に釣りの楽しさを知り、よく遠征していました。「魚の引き」に快感を覚えるタイプで、学生時代はカジキマグロ、福井で働いているときは玄達瀬でアジ科最大種のヒラマサを釣り上げました。地域にもよると思いますが、救急外来で働いていると釣り針が刺さった患者を診る機会がしばしばあります。一般の方は釣り針が刺さったときに何科を受診したらよいかわからないため、かかりつけ医や意外な診療科にふらっとやって来ることもあります。そういうときに対処方法やコツを知らないと本当に困ることになりますよ! 下記は私が経験した苦い経験です。指に釣り針の刺さった強面のお兄さんが受診。疑似餌を用いて釣りをしていたようで、ゴム製の疑似餌が付いたままであった。除去しようとして疲れたのか、ややイライラしながら「痛くないようにしてくださいよ!」とプレッシャーをかけてくる。String pull technique(後述)による抜去に慣れてきたころだったのでトライしてみたが、緊張のためか変な力が入って釣り針はうまく抜けない。激しい痛みが生じたようで、顔をゆがめながらものすごい目つきでこちらを見てくる…。皆さんなら初めの段階に、もしくはこの後どうされますか? このようなことにならないように、今回は釣り針が刺さったときの対処方法とそのコツを紹介します。釣り針の構造釣りをされる方であれば一度は経験すると思いますが、釣り中に釣り針が服に引っ掛かって取れなくなってしまうことがあります。服を傷つけないように取ろうとしてもなかなか難しいですよね。釣り針には下図のように「カエシ」という突起があり、釣り針を抜こうとするとカエシが引っかかって抜けない仕組みになっています。強引に抜こうとすると皮下組織を損傷してしまい、かなりの痛みが伴います。また、餌が外れにくくするための突起である「ケン」にも注意しなければいけません。これらの複雑な構造が釣り針の抜去を難しくしています。画像を拡大する釣り針の抜去方法4選一般的に指に刺さった釣り針を抜去する手法は4つあります1)。(1)Retrograde techniqueRetrograde techniqueは、釣り針を刺さった方向と逆向きにそのまま引き抜くという方法です。釣り針を指側に押して、カエシが引っかからないように抜去します。報告によると成功率は74%とありますが、私の印象ではなかなかこの方法で釣り針を抜去することは難しいです2)。魚を簡単に逃がさないための人類の工夫ですので簡単に取れても困りますもんね…。画像を拡大する(2)String pull techniqueString pull techniqueは、最も傷が小さいと言われる方法です。釣り針を糸で結び、指側に押しながら、釣り針が刺さった方向と逆向きに糸を引っ張ります。屋外でもできることが利点ですが、しっかりとした固定が必要なので耳たぶなどの固定が難しい部位では行えません。画像を拡大する(3)Needle cover techniqueNeedle cover techniqueは、釣り針の針穴に18Gの注射針を挿入し、内腔にカエシを入れ、カエシが皮下組織に引っ掛からないようにカバーしながら抜去する方法です。注射針の先端を直接見ることができないのが難点で、成功率は高くない(47%)という報告があります。私は一度トライしましたが、カエシに注射針が入っているのかよくわからず、「かぶさった」という感覚があったものの結局皮下で引っかかって断念しました。それ以降はやっていません。画像を拡大する(4)Advance and cut techniqueAdvance and cut techniqueは、釣り針を刺さった方向に押し進め、カエシを皮膚から出してペンチなどで切断する方法です。カエシの手前で釣り針を切りますが、切った瞬間に断端が飛んでしまう危険があるため、私は釣り針をガーゼなどで覆ってから切るようにしています。カエシがなくなれば釣り針は逆向きから簡単に抜けるようになります。デメリットは釣り針による穴が2ヵ所できることでしょうか。画像を拡大するケンがある釣り針の場合は注意が必要で、刺さった方向に押し進める際に最初の針穴にケンが入り込んでしまうとそこで抜けなくなります。そのため、あらかじめケンを切っておくか、釣り針の根元を切断して、そのまま刺さった方向に押し進めて針先側から釣り針を抜く方法もあります。画像を拡大する私は基本的には(1)か(2)をトライしてダメなら(4)で抜去しています。(4)で抜けないということはまずないです。鎮痛釣り針の抜去の手技には痛みが生じることが多いため、私は処置の前に局所麻酔(1%キシロカイン)で鎮痛しています。(2)の処置では鎮痛は必要ないとも言われていますが、失敗したときの痛みはかなりのものなので私は鎮痛しています。インターネットで「String pull technique, fish hook」と検索すると動画が見れますが、なかなか簡単にはいきません。なお、痛みを抑えるコツは釣り針を素早く引っ張ることです!抗菌薬と創部処置抗菌薬に関しては基本的に推奨されていません。しかし、免疫抑制状態や糖尿病、肝硬変がある場合や、釣り針が関節内や靭帯や皮下の深いところまで到達している場合は予防投与が検討されます。予防の目的の1つに最近注目を集めるようになったエロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)があります。これは淡水、河口部、海水に広く常在するグラム陰性の通性嫌気性桿菌であり、治療にはフルオロキノロンが適応となります。海や川で使用した釣り針で傷を負い、抗菌薬の予防投与が必要な場合はフルオロキノロンを検討しましょう。また、患者の予防接種歴を確認し、基礎免疫がある場合は最終接種から5年以上経過している場合は破傷風トキソイドを投与し、基礎免疫がない場合は破傷風トキソイドに加えて抗破傷風人免疫グロブリンの投与を検討します3)。創部処置では、針穴を密閉すると感染リスクが高まるので控え、軟膏を塗布もしくは通気性がよいガーゼなどで保護します1)。もし、院外で釣り針が刺さった患者に遭遇した場合、私は(2)のString pull techniqueはあまり推奨しません。冒頭の苦い経験のように、うまくいかないとどうしても強い痛みが生じるからです。院外で遭遇したら無理をせず病院受診を促し、院内ではどの手法を使うにしても鎮痛をしっかりしたほうがよいでしょう。ちなみに、冒頭の強面のお兄さんの釣り針は、結局(4)のadvance and cut techniqueで抜去しましたが、最後に一言「最初からこれでやれよ」と言われてしまいました。ものすごい目つきでにらまれた記憶が今でも残っています…。1)Gammons MG, et al. Am Fam Physician. 2001:63;2231-2236.2)McMaster S, et al. Wilderness Environ Med. 2014:25;416-424.3)Callison C, et al. In:StatPearls [Internet]. Tetanus Prophylaxis. Treasure Island(FL):StatPearls Publishing. 2022.

28.

大量輸血の外傷患者、4F-PCCの有効性認められず/JAMA

 大量輸血のリスクがある外傷患者において、高比率輸血戦略に4因子含有プロトロンビン複合体濃縮製剤(4F-PCC)を追加しても24時間の血液製剤消費量の有意な減少は認められず、血栓塞栓イベントの発生が有意に増加した。フランス・グルノーブル・アルプ大学のPierre Bouzat氏らが「PROCOAG試験」の結果を報告した。外傷性出血における最適な輸血戦略は不明である。最近の観察研究では、4F-PCCの早期投与と新鮮凍結血漿(FFP)の併用により、血栓塞栓イベントが増加することなく血液製剤の消費量と死亡率が低下することが示されていた。今回の試験を受けて著者は、「大量輸血のリスクを有する患者における4F-PCCの使用は支持されない」とまとめている。JAMA誌2023年4月25日号掲載の報告。24時間血液製剤消費量を4F-PCC群とプラセボ群で比較 「PROCOAG試験」は、フランスのレベルI外傷センター12施設において実施された無作為化二重盲検プラセボ対照優越性試験。 研究グループは、2017年12月29日~2021年8月31日の期間に、大量輸血が予想される外傷患者連続症例を登録し、4F-PCC群(第IX因子25 IU/kg[1mL/kg]静脈内投与)またはプラセボ群(生理食塩水1mL/kg静脈内投与)に無作為に割り付けた。全例、入院時に濃厚赤血球(PRBC)とFFPの比率が1対1から2対1の輸血を早期に受け、欧州外傷性出血ガイドラインの勧告に従って治療された。最終追跡調査日は2021年8月31日であった。 主要アウトカムは、24時間の血液製剤消費量(有効性)、副次アウトカムは動脈または静脈血栓塞栓イベント(安全性)とした。24時間血液製剤消費量に有意差なし、血栓塞栓イベントは4F-PCC群で増加 4,313例がスクリーニングされ、適格基準を満たした350例のうち327例が無作為化され、同意撤回を除く324例が解析対象となった(4F-PCC群164例、プラセボ群160例)。患者背景は、年齢中央値39歳(四分位範囲[IQR]:27~56)、Injury Severity Score中央値36(IQR:26~50[大外傷])、入院時血中乳酸値の中央値4.6mmol/L(IQR:2.8~7.4)。入院前動脈収縮期血圧90mmHg未満の患者割合は59%(179/324例)、233例(73%)が男性、226例(69%)が緊急の出血コントロールを要した。 24時間の血液製剤消費量の中央値は、4F-PCC群12 U(IQR:5~19)、プラセボ群11 U(IQR:6~19)であり、両群間に有意差はなかった(絶対差:0.2 U、95%CI:-2.99~3.33、p=0.72)。 少なくとも1つの血栓塞栓イベントが発現した患者は、4F-PCC群56例(35%)に対し、プラセボ群では37例(24%)で、4F-PCC群のほうが多かった(絶対差:11%[95%CI:1~21]、相対リスク:1.48[95%CI:1.04~2.10]、p=0.03)。

29.

CAR-T細胞療法はがん患者のQOLを向上させる

 CAR(キメラ抗原受容体)-T細胞療法と呼ばれる免疫系を強化する治療法は、特定のがん患者を長生きさせるだけでなく、QOL(生活の質)も高めることが、新たな研究で明らかにされた。米マサチューセッツ総合病院(MGH)の腫瘍学者Patrick Connor Johnson氏らが実施したこの研究の詳細は、「Blood Advances」に3月20日掲載された。 CAR-T細胞療法は、患者自身の血液から免疫細胞のT細胞を取り出し、がんを標的とするように遺伝子を改変した後に、再び患者に戻す治療法である。この治療法の対象となるのは、標準的な治療が奏効しない難治性の白血病やリンパ腫などの血液がんである。CAR-T細胞療法は、血液がん患者の治療に革命を起こした。進行した血液がん患者でも、この治療法によりがん細胞が一掃され、何年間もがんが再発することなく生存している人もいるくらいだ。その一方で、治療後の患者のQOLについての研究報告は限られている。 Johnson氏は、「CAR-T細胞療法は、がんを寛解に導くことができる一方で、約2週間の入院を必要とする集中治療法でもある。患者に重篤な副作用が生じないかを見張っておく必要もある」と説明する。CAR-T細胞療法で最も懸念される副作用は、サイトカイン放出症候群である。これは、患者の体内に戻されたT細胞からサイトカインと呼ばれる生理活性物質が大量に放出されることで、高熱、血圧の急激な低下、呼吸困難などが生じる状態であり、重症化すると命にも関わる。サイトカイン放出症候群以外にも、頭痛、錯乱、平衡感覚障害、会話困難など、神経系に問題が生じることもある〔免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)〕。Johnson氏によると、こうした副作用はたいていの場合、治療開始後10日ほどで現れるという。 今回の研究では、CAR-T細胞療法を受けた患者100人を対象に、治療により患者のQOLや身体症状、精神的苦痛がどのように変化するのかを調べた。患者の平均年齢は66歳(範囲23〜90歳)で、男性が63%を占め、疾患はリンパ腫(71%)、多発性骨髄腫(28%)、B細胞性急性リンパ芽球性白血病(1%)であった。 その結果、56%の患者が完全奏効、24%の患者が部分奏効または最良部分奏効を達成した。全体で76%の患者にサイトカイン放出症候群が、また33%にICANSが生じた。T細胞の輸注から中央値14.5カ月(範囲0.4〜36カ月)の追跡期間中に、38%の患者が死亡した。患者のQOLスコアの中央値は治療開始から1週間でベースラインより低下したものの(77.9点→70.0点)、1カ月後にはベースラインレベルに回復した(76.0点)。その後、3カ月後と6カ月後にはスコアはさらに上昇し(同順で83.5点、83.7点)、平均的な米国人のQOLスコアと同等のレベルになっていた。 ただし、多くの患者には、治療から6カ月後でも身体症状と精神的苦痛が残っていた。Johnson氏によると、治療から6カ月後でも、臨床的に重大な不安、抑うつ、PTSDの症状が認められた患者の割合は、それぞれ22%、29%、22%であった。また、身体症状についても、67%の患者が、治療から6カ月が経過しても、痛みや疲労などの軽度から中等度の身体症状を訴えた。 Johnson氏は、「これらの問題が、がん、先行治療、またはCAR-T細胞療法のうちのどれと関連しているのかは不明だ。しかし、それらの"混合"である可能性が高い」との見方を示す。 米メモリアルスローン・ケタリングがんセンターの血液・腫瘍学者であるJae Park氏は、「この研究結果は、われわれの施設の患者が経験することと一致するようだ。入院の必要性、治療関連の副作用、感染症、輸血の必要性などにより、最初の30日間は、一般的に患者のQOLが急激に低下する。しかし、ほとんどの患者はこれらの副作用から回復し、幸いなことに、治療に反応する」と話す。そして、「CAR-T細胞療法に反応を示すなら、通常は、化学療法のような他の治療を見送ることができ、日常生活に戻ることができる」と付け加えている。 一方でPark氏は、「CAR-T細胞療法を受けた患者の多くが、治療後も長期にわたって身体症状と精神的な苦痛を持ち続けていることを認識し、その理由を解明する必要がある」とも述べている。

30.

輸血ドナーの性別、レシピエントの死亡率には影響せず/NEJM

 血液ドナーの特性が輸血レシピエントのアウトカムに影響を及ぼす可能性を示唆する観察研究のエビデンスが増えているという。カナダ・モントリオール大学のMichael Chasse氏らは「iTADS試験」において、女性の赤血球ドナーからの輸血を受けた患者と男性の赤血球ドナーからの輸血を受けた患者で、生存率に有意差はないことを示した。研究の詳細は、NEJM誌2023年4月13日号で報告された。カナダの二重盲検無作為化試験 iTADS試験は、カナダの3施設が参加した二重盲検無作為化試験であり、2018年9月~2020年12月の期間に患者の登録が行われた(カナダ保健研究機構の助成を受けた)。 赤血球輸血を受ける患者が、男性ドナーの赤血球を輸血する群、または女性ドナーの赤血球を輸血する群に無作為に割り付けられた。無作為化は、血液供給業者による過去の配分とマッチさせるため、60対40(男性ドナー群対女性ドナー群)の割合で行われた。 主要アウトカムは生存(無作為化の日から死亡または追跡期間終了の日まで)であり、男性ドナー群が参照群とされた。 8,719例が登録され、輸血前に男性ドナー群に5,190例が、女性ドナー群に3,529例が割り付けられた。ベースラインの全体の平均(±SD)年齢は66.8±16.4歳、女性が50.7%であった。入院患者が79.9%、外来患者が11.3%、救急患者が6.9%であり、入院患者のうち外科治療が42.2%、集中治療が39.7%を占めた。MRSA感染リスクは女性ドナー群で高い ベースラインの輸血前ヘモグロビン値は79.5±19.7g/Lであった。女性ドナー群の患者は平均5.4±10.5単位の赤血球の投与を受け、男性ドナー群の患者は平均5.1±8.9単位の投与を受けた(群間差:0.3単位、95%信頼区間[CI]:-0.1~0.7)。 平均追跡期間11.2ヵ月の時点で、女性ドナー群の1,141例、男性ドナー群の1,712例が死亡した。生存率は女性ドナー群が58.0%、男性ドナー群が56.1%で、死亡の補正後ハザード比(HR)は0.98(95%CI:0.91~1.06)であり、両群間に有意な差は認められなかった(p=0.43[log-rank検定])。 30日、3ヵ月、6ヵ月、1年、2年時の生存率にも、両群間に有意差はみられなかった。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染の発生率は、男性ドナー群よりも女性ドナー群で高かった(HR:2.00、95%CI:1.15~3.46)。入院患者における平均入院日数は、女性ドナー群が21.0±26.6日、男性ドナー群は20.8±27.3日だった(群間差:0.2日、95%CI:-1.1~1.5)。 著者は、「サブグループ解析では、男性ドナー群の男性患者に比べ女性ドナー群の男性患者で死亡リスクが低く(HR:0.90、95%CI:0.81~0.99)、20~29.9歳のドナーから輸血を受けた患者においては男性ドナー群に比べ女性ドナー群の患者で死亡リスクが高かった(HR:2.93、95%CI:1.30~6.64)が、これらの知見は偶然によるものと考えられる」としている。

31.

血小板無力症〔GT:Glanzmann thrombasthenia〕

1 疾患概要■ 定義血小板無力症(Glanzmann thrombasthenia:GT)は、1918年にGlanzmannにより初めて報告された1)一般的な遺伝性血小板障害(Inherited platelet disorders:IPD)であり、その中でも最もよく知られた先天性血小板機能異常症である。血小板インテグリンαIIbβ3(alphaIIbbeta3:いわゆる糖蛋白質[glycoprotein:GP]IIb/IIIaとして知られている)の量的欠損あるいは質的異常のため、血小板凝集機能の障害により主に中等度から重度の粘膜皮膚出血を伴う出血性疾患である。インテグリンαIIbβ3機能の喪失により、血小板はフィブリノーゲンや他の接着蛋白質と結合できなくなり、血小板による血栓形成不全、および多くの場合に血餅退縮が認められなくなる。 ■ 疫学血液凝固異常症全国調査では血液凝固VIII因子の欠乏症である血友病Aが男性出生児5,000人に約1人,また最も頻度が高いと推定される血漿蛋白であるvon Willebrand factor(VWF)の欠損症であるvon Willebrand病(VWD)については出生児1,000人に1人2、3)と報告される(出血症状を呈するのはその中の約1%と考えられている)。IPDは、これらの遺伝性出血性疾患の発症頻度に比べてさらに低くまれな疾患である。UK Haemophilia Centres Doctors Organisation(UKHCDO)に登録された報告2)では、VWDや血友病A・Bを含む凝固障害(87%)に比較して血小板数・血小板機能障害(8%)である。その8%のIPDの中ではGTは比較的頻度が高いが、明らかな出血症状を伴うことから診断が容易であるためと想定される(GT:5.4%、ベルナール・スーリエ症候群:3.7%、その他の血小板障害:90.1%)。凝固異常に比較して、IPDが疑われる症例ではその分子的な原因を臨床検査により正確に特定できないことも多く、その他の血小板障害(90.1%)としてひとくくりにされている。GTは、常染色体潜性(劣性)遺伝形式のために一般的にホモ接合体変異で発症し、ある血縁集団(民族)ではGTの発症頻度が高いことが知られている。遺伝子型が同一のGT症例でも臨床像が大きく異なり、遺伝子型と表現型の相関はない1、4)。血縁以外では複合ヘテロ接合によるものが主である。■ 病因(図1)図1 遺伝性血小板障害に関与する主要な血小板構造画像を拡大するインテグリンαIIbサブユニットをコードするITGA2B遺伝子やβ3サブユニットをコードするITGB3遺伝子の変異は、インテグリンαIIbβ3複合体の生合成や構造に影響を与え、GTを引き起こす。片方のサブユニットの欠落または不完全な構造のサブユニット生成により、成熟巨核球で変異サブユニットと残存する未使用の正常サブユニットの両方の破壊が誘導されるが、例外もありβ3がαvと結合して血小板に少量存在するαvβ3を形成する5)。わが国における血小板無力症では、欧米例とは異なりβ3の欠損例が少なく、αIIb遺伝子に異常が存在することが多くαIIbの著減例が多い。また、異なる家系であるが同一の遺伝子異常が比較的高率に存在することは単民族性に起因すると考えられている6)。このほかに、血小板活性化によりインテグリン活性化に関連した構造変化を促す「インサイドアウト」シグナル伝達や、主要なリガンドと結合したαIIbβ3がさらなる構造変化を起こして血小板形態変化や血餅退縮に不可欠な「アウトサイドイン」シグナル伝達経路を阻害する細胞内ドメインの変異体も存在する。細胞質および膜近位ドメインのまれな機能獲得型単一アレル変異体では、自発的に受容体の構造変化が促進される結果、巨大血小板性血小板減少症を引き起こす。「インサイドアウト」シグナルに重要な役割を果たすCalDAG-GEFI(Ca2+ and diacylglycerol-regulated guanine nucleotide exchange factor)[RASGRP2遺伝子]およびKindlin-3(FERMT3遺伝子)の遺伝子変異により、GT同様の臨床症状および血小板機能障害を発症する。この機能性蛋白質が関与する他の症候としては、CalDAG-GEFIは他の血球系、血管系、脳線条体に存在し、ハンチントン病との関連も指摘されており、Kindlin-3の遺伝子変異では、白血球接着不全III(leukocyte adhesion deficiency III:LAD-III)を引き起こす。LAD-III症候群は常染色体潜性(劣性)遺伝で、白血球減少、血小板機能不全、感染症の再発を特徴とする疾患である5)。■ 症状GTでは鼻出血や消化管出血など軽度から重度の粘膜皮膚出血が主症状であるが、外傷・出産・手術に関連した過剰出血なども認める。男女ともに罹患するが、とくに女性では月経や出産などにより明らかな出血症状を伴うことがある。実際、過多月経を訴える女性の50%がIPDと診断されており、さらにIPDの女性は排卵に関連した出血を起こすことがあり、子宮内膜症のリスクも高いとされている7)。■ 分類GTの分類では、インテグリンαIIbβ3の発現量により分類される。多くの症例が相当するI型では、ほとんどαIIbβ3が発現していないため、血小板凝集が欠如し血餅退縮もみられない。発現量は少ないがαIIbβ3が残存するII型では、血小板凝集は欠如するが血餅退縮は認める。また、非機能的なαIIbβ3を発現するまれなvariant GTなどがある1、5)。■ 予後GTは、消化管出血や血尿など重篤な出血症状を時折引き起こすことがあるが、慎重な経過観察と適切な支持療法により予後は良好である。GTの出血傾向は小児期より認められその症状は顕著であるが、一般的に年齢とともに軽減することが知られており、多くの成人症例で本疾患が日常生活に及ぼす影響は限られている。診断された患者さんが出血で死亡することは、外傷や他の疾患(がんなど)など重篤な合併症の併発に関連しない限りまれである1)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)血小板機能障害は1次止血の異常であり、主に皮膚や粘膜に発現することが多い。出血症状の状況(部位や頻度、期間、再発傾向、出血量)および重症度(出血評価ツール)を評価することは、出血症状を呈する患者の評価における最初の重要なステップである。出血の誘因が年齢や性別(月経)に影響するかどうかを念頭に、患者自身および家族の出血歴(術後または抜歯後の出血を含む)、服薬状況(非ステロイド性抗炎症薬)について正確な問診を行う。また、IPDを疑う場合は、出血とは無関係の症状、たとえば眼病変や難聴、湿疹や再発性感染、各臓器の形成不全、精神遅滞、肝腎機能など他器官の異常の可能性に注意を払い、血小板異常機能に関連した症候群型の可能性を評価できるようにする7)。【遺伝性血小板障害の診断】症候学的特徴(出血症状、その他症状、家族歴)血小板数/形態血小板機能検査(透過光血小板凝集検査法)フローサイトメトリー免疫蛍光法、電子顕微鏡法分子遺伝学的解析(Boeckelmann D, et al. Hamostaseologie. 2021;41:460-468.より作成)出血症状に対するスクリーニング検査は、比較的簡単な基礎的な臨床検査で可能であり非専門施設でも実施できる。血液算定、末梢血塗抹標本での形態観察、血液凝固スクリーニング、VWDを除外するためのVWFスクリーニング(VWF抗原、VWF活性[リストセチン補因子活性]、必要に応じて血液凝固第VIII因子活性)などを行う(図2)。上記のスクリーニング検査でIPDの可能性を検討するが、IPDの中には血小板減少を伴うものもあるので、短絡的に特発性血小板減少性紫斑病と診断しないように注意する。末梢血塗抹標本の評価では、血小板の大きさ(巨大血小板)や構造、他の血球の異常の可能性(白血球の封入体)について情報を得ることができ、これらが存在すれば特定のIPDが示唆される。図2 遺伝性血小板障害(フォン・ヴィレブランド病を含む)での血小板凝集のパターン、遺伝子変異と関連する表現型画像を拡大する血小板機能検査として最も広く用いられている方法は透過光血小板凝集検査法(LTA)であり、標準化の問題はあるもののLTAはいまだ血小板機能検査のゴールドスタンダードである。近年では、全自動血液凝固測定装置でLTAが検査できるものもあるため、LTA専用の検査機器を用意しなくても実施できる。図3に示すように、GTではリストセチンを除くすべてのアゴニスト(血小板活性化物質)に対して凝集を示さない。GTやベルナール・スーリエ症候群などの血小板受容体欠損症の診断に細胞表面抗原を測定するフローサイトメトリー(図4)は極めて重要であり、インテグリンαIIbβ3の血小板表面発現の欠損や減少が認められる。インテグリンαIIbβ3活性化エピトープ(PAC-1)を認識する抗体では、活性化不全が認められる8)。図3 血小板無力症と健常者の透過光血小板凝集検査法での所見(PA-200を用いて測定)画像を拡大する図4 血小板表面マーカー画像を拡大するGTでは臨床所見や上記の検査の組み合わせで確定診断が可能であるが、その他IPDを診断するための検査としては、顆粒含有量および放出量の測定(血小板溶解液およびLTA記録終了時の多血小板血漿サンプルの上清中での血小板因子-4やβトロンボグロブリン、セロトニンなど)のほか、血清トロンボキサンB2(TXB2)測定(アラキドン酸由来で生理活性物質であるトロンボキサンA2の血中における安定代謝産物)、電子顕微鏡による形態、血小板の流動条件下での接着および血栓形成などの観察、細胞内蛋白質のウェスタンブロッティングなどが参考となる。遺伝子検査はIPDの診断において、とくに病態の原因と考えられる候補遺伝子の解析を行い、主に確定診断的な役割を果たす重要な検査である。今後は、次世代シーケンサーの普及によるジェノタイピングにより、遺伝子型判定を行うことが容易となりつつあり、いずれIPDでの第一線の診断法となると想定される。ただしこれらの上記に記載した検査については、現段階では保険適用外であるもの、研究機関でしか行えないものも数多い。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)予防や治療の選択肢は限られているため、日常生活での出血リスクを最小限に抑えること、出血など緊急時の対応に備えることが必要である(図5)。図5 出血性疾患に対する出血の予防と治療画像を拡大する罹患している病名や抗血栓薬など避けるべき薬剤などの医療情報(カード)を配布することも有効である。この対応方法は、出血性疾患でおおむね同様と考えられるが、たとえばGTに対しては血小板輸血による同種抗体生成リスクを可能な限り避けるなど、個々の疾患において特別な注意が必要なものもある。この抗血小板抗体は、輸血された血小板除去やその機能の阻害を引き起こし、輸血効果を減弱させる血小板不応の原因となる。観血的手技においては、出血のリスクと処置のベネフィットなど治療効率の評価、多職種(外科医、血栓止血専門医、看護師、臨床検査技師など)による出血に対するケアや止血評価、止血対策のためのプロトコルの確立と遵守(血小板輸血や遺伝子組み換え活性化FVII製剤、抗線溶薬の使用、観血術前や出産前の予防投与の考慮)が不可欠である。IPD患者にとって妊娠は、分娩関連出血リスクが高いことや新生児にも出血の危険があるなどの問題がある。最小限の対策ですむ軽症出血症例から最大限の予防が必要な重篤な出血歴のある女性まで状況が異なるために、個々の症例において産科医や血液内科医の間で管理を計画しなければならない。重症出血症例に対する経膣分娩や帝王切開の選択なども依然として難しい。4 今後の展望出血時の対応などの臨床的な役割を担う医療機関や遺伝子診断などの専門的な解析施設へのアクセスを容易にできるようにすることが望まれる。たとえば、血友病のみならずIPDを含めたすべての出血性疾患について相談や診療可能な施設の連携体制の構築すること、そしてIPD診断については特殊検査や遺伝子検査(次世代シーケンサー)を扱う専門施設を確立することなどである。遺伝性出血性疾患の中には、標準的な治療では対応しきれない再発性の重篤な出血を伴う若い症例なども散見され、治療について難渋することがある。こうした症例に対しては、遺伝性疾患であるからこそ幹細胞移植や遺伝子治療が必要と考えられるが、まだ選択肢にはない。近い将来には、治療法についても革新的技術の導入が期待される。5 主たる診療科血液内科(血栓止血専門医)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター 血小板無力症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)国立成育医療研究センター 先天性血小板減少症の診断とレジストリ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)大阪大学‐血液・腫瘍内科学 血小板疾患研究グループ山梨大学大学院 総合研究部医学域 臨床検査医学講座(医療従事者向けのまとまった情報)1)Nurden AT. Orphanet J Rare Dis. 2006;1:10.2)Sivapalaratnam S, et al. Br J Haematol. 2017;179:363-376.3)日笠聡ほか. 日本血栓止血学会誌. 2021;32:413-481.4)Sandrock-Lang K, et al. Hamostaseologie. 2016;36:178-186.5)Nurden P, et al. Haematologica. 2021;106:337-350.6)冨山佳昭. 日本血栓止血学会誌. 2005;16:171-178.7)Gresele P, et al. Thromb Res. 2019;181:S54-S59.8)Gresele P, et al. Semin Thromb Hemost. 2016;42:292-305.公開履歴初回2023年3月30日

32.

米FDA、男性同性愛者の献血の制限緩和に向けた指針を提案

 同性愛者やバイセクシュアルの男性からの献血は長年にわたって制限されてきたが、近い将来、よりきめ細かな方針に変わる可能性がある。米食品医薬品局(FDA)は1月27日、輸血によるヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染のリスクを軽減するための献血者の評価方法を、これまでのように時間を基準にしたものから、性差別的ではない、個人のリスクに基づく質問へと変更することを提案した。 具体的には、パートナーと一夫一婦制の関係を築いている同性愛者の男性は、献血前に性行為を控える必要は一切なくなりそうだ。1980年代以降に施行された規則では、採取された血液のHIV汚染リスクを理由に、同性愛者などが献血をする場合には、定められた期間、性行為を控えることが要求されていた。しかし、LGBT組織からの圧力や、血液スクリーニング技術の向上、血液バンクや米国医師会からの情報提供などを受け、FDAはその規則の再検討を行っていた。 FDAのこの新しい提言案は、「輸血によるHIV感染リスクを低減するための個人的なリスクを基にした質問」を中心に据えている。FDAは、「今回の提言案は、このアプローチを導入した、同様のHIVの疫学を有するカナダや英国などの国のデータや、米国の血液供給に関する継続的なサーベイランス情報など、入手可能な情報の慎重なレビューに基づくものだ」と述べている。 以下に挙げるものが、今回提案された新たな指針である。1)男性と性行為を行う男性(MSM)およびMSMと性行為を行う女性が献血を行うにあたり設けられていた、時間を基準にした性行為に関する規定を撤廃すること、2)現行の献血者に対する問診票を、過去3カ月間に新しい、または複数の性的パートナーがいたかどうかを尋ねる内容に改訂すること、3)過去3カ月間に新しい、または複数の性的パートナーがいたことを報告した人には、同期間中にアナルセックスを行ったかどうかを確認すること、4)過去3カ月間に新しい、または複数の性的パートナーがいたことと、アナルセックスを行ったことを報告した人での献血は延期されること。 ただし、過去にHIV検査で陽性の判定を受けたことがある人は、引き続き献血が禁止される。また、採血事業者は、献血された全ての血液の検査を行い、輸血を介してHIV、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスに感染する恐れがないかを確認する必要がある。 以上のような提言内容は、パブリックコメントを得るために60日間公開される。FDAは、「この指針を最終決定する前に、全てのコメントをレビューし、検討する」と述べている。

33.

骨髄線維症の症状改善、新規クラスJAK阻害薬の有用性は?/Lancet

 新規クラスのJAK阻害薬momelotinibは、ダナゾールとの比較において、骨髄線維症関連の症状、貧血および脾臓の症状を有意に改善し、安全性は良好であることが示された。米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのSrdan Verstovsek氏らが、195例の患者を対象に行った第III相の国際二重盲検無作為化試験「MOMENTUM試験」の結果を報告した。著者は、「今回の所見は、骨髄線維症患者、とくに貧血患者への効果的な治療法としてmomelotinibの今後の使用を支持するものである」と述べている。Lancet誌2023年1月28日号掲載の報告。骨髄線維症に対して承認されたJAK阻害薬は、脾臓および関連症状を改善するが貧血の改善は有意ではない。momelotinibは、新規クラスのACVR1ならびにJAK1およびJAK2の阻害薬で、貧血に対しても効果があることが示されていた。骨髄線維症症状評価フォーム総症状スコアの50%以上減少を評価 MOMENTUM試験は、貧血および中または高リスクの骨髄線維症を有するJAK阻害薬既治療の症候性患者を対象に、momelotinibと実薬対照としてダナゾールを比較し、momelotinibの臨床的利点を確認する試験。21ヵ国、107ヵ所の医療機関を通じて被験者を登録して行われた。 適格患者は、原発性骨髄線維症、または真性多血症から移行した骨髄線維症、本態性血小板血症から移行した骨髄線維症の確定診断を受けた18歳以上だった。 研究グループは被験者を無作為に2対1の割合で2群に分け、一方にはmomelotinib(200mg、1日1回経口投与)+プラセボ(momelotinib群)、もう一方にはダナゾール(300mg、1日2回経口投与)+プラセボ(ダナゾール群)を投与した。総症状スコア(TSS、22未満vs.22以上)、脾臓サイズ(12cm未満vs.12cm以上)、無作為化前8週間以内の赤血球または全血ユニット輸血の有無(0ユニットvs.1~4ユニットvs.5ユニット以上)、試験場所による層別化も行った。 主要エンドポイントは、24週時点の骨髄線維症症状評価フォーム総症状スコア(MF-SAF TSS)反応率で、最終28日間の平均MF-SAF TSSが、ベースラインから50%以上低下した患者の割合と定義した。MF-SAF TSS反応率、momelotinib群25%、ダナゾール群9% 2020年4月24日~2021年12月3日に、195例が無作為化を受けた(momelotinib群130例[67%]、ダナゾール群65例[33%])。 主要エンドポイントを達成した患者の割合は、ダナゾール群よりもmomelotinib群で有意に高率だった(32例[25%]vs.6例[9%]、群間差:16ポイント、95%信頼区間[CI]:6~26、p=0.0095)。 最も頻度の高いグレード3以上の緊急治療を要する有害イベントは、両群ともに検査値に基づく血液学的異常で、貧血(momelotinib群79例[61%]vs.ダナゾール群49例[75%])、血小板減少症(36例[28%]vs.17例[26%])だった。最も頻度の高い非血液学的有害イベントは、両群ともに急性腎障害(4例[3%]vs.6例[9%])と、肺炎(3例[2%]vs.6例[9%])だった。

34.

第146回 マウスの老化を巻き戻し / 武田薬品の紫斑病薬が承認申請される

山中因子でマウスの老化を巻き戻し10年ほど前に京都大学の山中伸弥教授をノーベル賞へと導いたiPS細胞(人工多能性幹細胞)の素が個体の老化を巻き戻して若返らせうることを2つの研究チームが報告しました。今では山中教授の名を冠して山中因子と呼ばれるそのiPS細胞の素は4つのタンパク質(転写因子)で構成され、分化した成体細胞を多能性の幹細胞(iPS細胞)へと変えることで知られます。今回米国・カリフォルニア州サンディエゴのバイオテック企業Rejuvenate Bio社のチームはそれら山中因子のうちの3つOct4、Sox2、Klf4を届ける遺伝子治療で老化マウスがより長生きになったことを報告しました1,2)。ハーバード大学の抗老化治療研究者David Sinclair氏が率いる別のチームはRejuvenate社と同様の手段により、マウスの老化状態を若い状態へと回復させうることを示しました3,4)。頭文字をとってOSKと呼ばれるOct4、Sox2、Klf4はそれらどちらの研究でもメチル化などのDNA取り巻き・エピゲノムをより若い状態へと回復させたようです5)。Rejuvenate社はヒトの治療に即した手段を検討するべく、ヒトの遺伝子治療で使われているアデノ随伴ウイルス(AAV)を運搬役としてOSK遺伝子を老齢(生後124週間)のマウスに投与しました。するとその後の余命はより長くなり、対照群マウスが9週間ほどしか生きられなかったのに対してOSK遺伝子投与マウスはその約2倍の約18週間生存しました。加えて、健康指標が向上してより丈夫になったことがうかがわれました。分子レベルでもどうやら若返りしており、より若い頃に特有なメチル化特徴の幾らかをどうやら取り戻していました。山中因子はがんを生じやすくしうることが先立つ研究で示唆されていますが、幸いにも取るに足る害は今のところ認められていないとRejuvenate社の最高科学責任者(CSO)Noah Davidsohn氏は言っています5)。ハーバード大学のSinclair氏のチームが目指したのはDNA切断などのDNA配列の乱れではなくDNA取り巻きのエピゲノム情報の損失こそ老化の原因であるという仮説(information theory of aging)が正しいことの証明です。同チームはICE(inducible changes to the epigenome)という一工夫を加えたマウス(ICEマウス)のゲノムの20箇所のDNAをいったん切断してその後完全に修復させました5)。するとDNA切断の完全な修復とは裏腹にDNAメチル化や遺伝子発現は広範囲に渡って変化し、マウスのエピゲノムはメリハリの乏しい老化マウスにより似たものとなりました6)。また体調も損なわれ、体毛や色素を失い、弱々しくなって組織の老化を呈しました。エピゲノム情報の損失が老化の原因であるなら若返りをもたらす治療でエピゲノム情報も回復するはずです。そこでSinclair氏のチームもRejuvenate社と同様にOSK遺伝子を老けて見えるICEマウスに投与したところ、果たせるかなエピゲノム情報の回復が認められ、組織も若返りの兆候を呈しました。戻すことも可能なエピゲノム情報損失こそ老化の原因であることを今回の結果は示しているとSinclair氏のチームは結論していますが、若返りを研究するAltos Labs社が去年開設したAltos Cambridge Institute of Scienceの長Wolf Reik氏はそう断言するのは時期尚早と見ています。エピゲノム変化を引き出した大掛かりなDNA切断(とその修復)は他にも影響があったかもしれず、そうして生じたDNAエピゲノム変化を老化の原因とするのは困難であるとReik氏は言っています。それに、DNA切断(とその修復)を強いたマウスが自然に老化したマウスとどれだけ似ているかも分かっていません。米国・Albert Einstein College of Medicineの遺伝学者Jan Vijg氏によると、老化は種々の要因が絡んで進行していくものであることを忘れてはいけません。今回の2つの報告でのOSK遺伝子投与の効果はそれほどでもなく、1つでは寿命がいくらか伸びた程度で、もう1つでは強いて発生させた症状が部分的に解消したに過ぎません。老化は戻すことが可能な情報処理(program)であるとそれらの研究をもって結論することはできないとVijg氏は言っています。そのような批評はさておきRejuvenate社もSinclair氏のチームも臨床試験へと駒を進めることを目指します。Rejuvenate社はOSK治療効果の仕組みを研究し、治療の体内への運搬手段や成分の手直しをしています。同社の上述のCSO・Davidsohn氏によると治療成分はOSKに決定しているわけではありません。Sinclair氏はエピゲノム情報を回復させる治療に取り組むバイオテック企業Life Biosciencesを設立し、まずは霊長類の視力を改善させる研究を進めています6)。サルの眼へのOSK遺伝子投与の試験が進行中であり、その試験が成功してヒトにも十分安全らしいことがわかれば失明疾患の臨床試験の開始をすぐに米国FDAに申請するとSinclair氏は言っています5)。前々回紹介の武田薬品の紫斑病薬が承認申請される本連載の前々回(第144回)で取り上げた武田薬品の紫斑病薬TAK-755が良好なピボタル(主要な)第III相試験中間解析結果を受けて承認申請されます7,8)。今月5日に発表されたその中間解析の結果、同剤が投与された先天性血栓性血小板減少性紫斑病(cTTP)患者の血小板減少症事象は標準治療である血漿製剤使用群に比べて60%少なくて済み、その95%信頼区間の上限は100%未満に収まっていました(95%信頼区間:30~70%)。cTTPは血液凝固の制御に携わる血中タンパク質ADAMTS13の欠乏によって生じます。TAK-755はその不足を補う人工のADAMTS13です。【前々回の記事の誤解の訂正】前々回の記事で人工ADAMTS13(TAK-755)は現在第III相試験(NCT04683003)9)が進行中と記しましたが、その試験とそれに先立つもう1つの第III相試験(281102 試験/NCT03393975)10)が実施されています。前々回の記事で抜けていた281102 試験こそ今月5日に武田薬品が中間結果を発表したピボタル第III相試験です。Clinicaltrials.govによるとどちらの試験も本記事執筆時点で被験者組み入れが進行中です。お詫びして修正いたします。参考1)Gene Therapy Mediated Partial Reprogramming Extends Lifespan and Reverses Age-Related Changes in Aged Mice. bioRxiv. January 05, 2023. 2)Rejuvenate Bio Announces New Preclinical Research Evaluating Cellular Reprogramming for Age Reversal / BUSINESS WIRE3)Yang JH, et al. Cell Jan 9:S0092-8674.01570-7[Epub ahead of print].4)Loss of Epigenetic Information Can Drive Aging, Restoration Can Reverse It / Harvard Medical School5)Two research teams reverse signs of aging in mice / Science 6)Epigenetic Manipulations Can Accelerate or Reverse Aging in Mice / TheScientist7)Takeda Announces Favorable Phase 3 Safety and Efficacy Results of TAK-755 as Compared to Standard of Care in Congenital Thrombotic Thrombocytopenic Purpura (cTTP) / BUSINESS WIRE8)先天性血栓性血小板減少性紫斑病(cTTP)に対する標準治療と比較したTAK-755の良好な安全性および有効性を示す臨床第3相試験の結果について / 武田薬品9)A Study of TAK-755 in Participants With Congenital Thrombotic Thrombocytopenic Purpura(Clinical Trials.gov)10)A Study of BAX 930 in Children, Teenagers, and Adults Born With Thrombotic Thrombocytopenic Purpura (TTP) (Clinical Trials.gov)

35.

第126回 改正感染症法が成立、公的病院に病床確保義務/厚労省

<先週の動き>1.改正感染症法が成立、公的病院に病床確保義務/厚労省2.電子処方箋に必須、HPKIカード発行を病院一括申請で支援/日医3.「かかりつけ医」を定義、役割を法律に明記へ/厚労省4.現役世代の負担軽減のために社会保障制度改革を/財政諮問会議5.電子カルテへのランサムウエア被害から1ヵ月、復旧の遅れで患者は半減/大阪6.来年度の薬価改定に向け、議論開始/中医協1.改正感染症法が成立、公的病院に病床確保義務/厚労省新たな感染症に対応し、医療体制を強化するための感染症法改正案が12月2日に開かれた参議院本会議で与党や立憲民主党などの賛成多数で可決、成立した。改正法では、国や都道府県の権限を強化し、各都道府県は感染症対応の予防計画を医療計画などで定め、入院、発熱外来や検査の実施件数などの目標数値を設定する。また、都道府県が事前に医療機関と協議し、有事の際の病床確保などを約束する協定を締結しておき、感染症拡大時に病床提供を義務付け、守らない場合には、勧告や指示を行い、病院名を公表するなど、協定を守るように求めるもの。施行は第8次医療計画の策定に合わせて、令和6年4月1日となっている。(参考)感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律等の一部を改正する法律案の概要感染症法等の一部を改正する法律案について(参考資料)改正感染症法が成立、公的病院に医療提供義務づけ…従わなければ勧告・指示が可能(読売新聞)中核病院に病床確保義務 改正感染症法成立(産経新聞)地域の医療提供体制強化 改正感染症法など成立 参院本会議(NHK)2.電子処方箋に必須、HPKIカード発行を病院一括申請で支援/日医日本医師会は11月30日の記者会見で、電子処方箋に必須となるHPKIカード(医師資格証)の普及について、これまでの日本医師会の取り組みと、今後、医療機関に向けた支援策について公表した。来年から本格的に開始する電子処方箋の発行時には電子署名が必要となる。このためHPKIカードが必要となるが、医療機関の電子カルテにカードリーダーがなくても電子処方箋を発行できるようにセカンド電子証明書も発行できるように対応するほか、病院単位で一括申請・交付を行うことで、発行の迅速化(最短2週間)をするなど、すべての医師に対して発行を進めていくことを表明した。(参考)電子処方箋運用、HPKIの不安払拭へ 日医、病院向け方針を再周知(Medifax)電子処方箋普及に向けた医師資格証(HPKIカード)の対応について(「日医君」だより)電子処方箋に向けた大学病院含む病院向け医師資格証(HPKIカード)に関する対応方針 (日本医師会)3.「かかりつけ医」を定義、役割を法律に明記へ/厚労省厚生労働省は11月28日に社会保障審議会医療部会を開催し、「かかりつけ医機能」について議論を行った。かかりつけ医機能は「身近な地域における日常的な医療の提供や健康管理に関する相談などを行う」と定義し、外来患者の診療のほか、休日や夜間の対応、在宅医療の提供など対応ができるかを各都道府県に報告し、都道府県が公表する方針を明らかにした。また、かかりつけ医に継続的に通院する患者には医療機関と書面を交わすことなども求めていくことを提案した。今後、さらに議論を重ね、早ければ来年の通常国会に法律の改正案を提出し、かかりつけ医の役割の強化を図りたいとしている。(参考)かかりつけ医機能について(厚労省)「かかりつけ医」の定義、役割を法定化へ(産経新聞 )「かかりつけ医」に求められる役割 法律に明記の方向で検討(NHK)「かかりつけ医機能」報告制度創設へ 厚労省が骨格案、医療法改正も視野(CB news)4.現役世代の負担軽減のために社会保障制度改革を/財政諮問会議岸田内閣は経済財政諮問会議を12月1日に開催し、来年度の予算編成に向けた議論を行った。この中で今後大幅な増大が見込まれる社会保障費について意見が交わされた。民間企業などの有識者議員からは、賃金・所得の上昇に加え、さらに社会保障制度改革を行い、現役世代の社会保険料負担の上昇を抑制することが強く求められた。また、医療・介護分野の成長力強化という社会保険制度の外の改革にも取り組むよう求められた。同日、厚生労働省が開催した社会保障審議会医療保険部会でも、現役世代の負担軽減のために、後期高齢者の医療保険の拠出による支援制度を見直し、大企業の健康保険組合の負担を増加させ、代わりに中小企業の従業員が加入する「協会けんぽ」の負担を減らす方針を示している。(参考)医療保険制度改革について(厚労省)経済・財政一体改革における重点課題(経済財政諮問会議)岸田首相 現役世代の保険料負担の上昇抑制へ 制度改革など指示(NHK)65~74歳の医療費支援見直し 健保組合の負担増案提示 厚労省(同)削減した財源「すべて現役世代の負担軽減に充当を」被用者保険者間の格差是正で、関係5団体(CB news)5.電子カルテへのランサムウエア被害から1ヵ月、復旧の遅れで患者は半減/大阪1ヵ月前にランサムウエアによるサイバー攻撃によって、電子カルテが使用できなくなった大阪急性期・総合医療センターは、現在も検査や診療に影響が出ている。原因は、外部の給食業者のネットワークセキュリティ機器が、セキュリティ対策が古いまま使用していたため、病院側のサーバ接続時にランサムウエアの攻撃を受け、基幹システムやバックアップデータに影響が及んでいたことが明らかになっている。11月10日から電子カルテの一部参照が可能となったことから、3次救急患者受け入れや小児救急診療の一部を再開しているが、採血や輸血管理システムは復旧していないため手書きでの対応のほか、新規の外来診療の受け付けは停止など診療に影響が出ており、システムの完全復旧は来年1月の見通し。(参考)患者数は通常の「50%」 大阪の病院、サイバー攻撃から1カ月(朝日新聞)サイバー攻撃で病院被害1カ月、影響続く 患者対応は半減 大阪(毎日新聞)大阪の病院は取引業者からランサムウエアがなぜ広がった?「攻撃の横展開」に注意(日経クロステック)6.来年度の薬価改定に向け、議論開始/中医協厚生労働省は12月2日に中央社会保険医療協議会の薬価専門部会を開催し、令和4年医薬品価格調査(薬価調査)の速報値を元に、来年度の薬価改定について議論を行った。診療側からは医薬品の安定供給が問題になっている現状を踏まえ、約7.0%の平均乖離率を超えている品目のみ改定として、大幅な引き下げに対して異論が唱えられた。予算を編成する財務省としては薬価の引き下げ対象品目を広げ、患者負担の軽減や医療費の伸びの抑制を目指している。ただ、製薬業界からは、薬価引き下げの対象品目から特許期間中の新薬などを外す意見が出ているため、さらに議論を行われる。今月末の予算編成までに、中医協で薬価改定の幅と対象品目について結論を出し、来年の春に改定が行われる見通し。(参考)令和4年医薬品価格調査(薬価調査)の速報値(中医協)医薬品の市場価格、公定価格より7%低く 厚労省調査(朝日新聞)市場価格、薬価を7%下回る 23年度引き下げ改定へ(日経新聞)今年の薬価調査、平均乖離率は約7.0%…23年度改定、議論大詰めへ(Answers News)

36.

映画「心のカルテ」(後編)【なんでやせ過ぎてるって分からないの?(エピジェネティックス)】Part 3

やせの謎の答えは?先ほどの社会性メモリー(エピジェネティックな変化)による「やせアイデンティティ」の確立が、神経性やせ症に病識がない原因であると考えることができます。つまり、エレンの根っこの心理を代弁すれば「このまま(少食のまま)でいい」です。「やせたい」ではないです。「やせたい」という気持ちは現代のダイエット文化の影響による後付けであると考えることができます。そうすれば、すでにやせ過ぎているのにあまり食べないというやせ願望(肥満恐怖)や、やせ過ぎていてもそう思わないボディイメージの障害などの症状があるのも納得がいきます。また、男性は妊娠能力がなく、適応的生殖抑制を働かせる必要がないため、そもそも神経性やせ症にはなりにくいです。これが、神経性やせ症の顕著な男女差の原因であると考えられます。一方で、女性は児童期までに妊娠能力がなく、適応的生殖抑制を働かせる必要がありません。これが、神経性やせ症の好発年齢が児童期以前ではなく思春期に多い原因であると考えられます。また、成人期以降ではアイデンティティの確立はすでに終わっています。これが、神経性やせ症の好発年齢が成人期以降ではなく思春期に多い原因であると考えられます。さらに、エレンは子どもをつくれなくても、妹の子どものサポート役になることができます。そして、その子が思春期になった時に、過激なダイエットをしてしまえば、神経性やせ症になる可能性があるでしょう。これが、神経性やせ症を発症させる遺伝子が残っている(遺伝率が高い)原因です。つまり、直接的には子孫(遺伝子)を残せませんが、血縁者をサポートすることで間接的に「やせ遺伝子」を残すことになるというわけです。真の治療とは?神経性やせ症の正体は、過激なダイエットや食べ吐きなどによる栄養不足への反応のしやすさ(代謝メモリー)、栄養不足のストレスへの過敏さ(愛着メモリー)、栄養不足(やせ)へのアイデンティティ(社会性メモリー)という3つのエピジェネティックな変化であることがわかりました。つまり、神経性やせ症は、最終的にはアイデンティティという生き方の問題であり、説教や説得をしてもあまり効果がないことがわかります。もっと言えば、食事制限は、宗教的な理由から輸血を拒否することと同じとも捉えられます。早死にするリスクがあっても本人がその生き方を望むなら、私たちは神経性やせ症を病気として特別視せず、生き方の違いとして捉え直し、静かに見守ることが必要です。逆に言えば、本人に同意のない経鼻栄養(強制栄養)は、輸血を拒否する人に輸血をするのと同じ人権侵害に発展する恐れがあります。また、過激なダイエットも、生き方の問題として止められない点で、食べ吐きと同じ行動依存(嗜癖)であると捉えることができます。それでは、この神経性やせ症の正体を踏まえたうえで、ここからその真の治療を捉え直します。エレンが生活するグループホームでの取り組みを通して、主に3つ挙げてみましょう。(1)病識を促す-集団療法グループホームでは、メンバーたちが集まって話し合うミーティングが1日に朝と夕に1回ずつあります。心理カウンセラーが「夕方は反省会。今日の悪かったことと良かったことをテーマにします」と始めています。日常生活を通して、お互いの気持ちを聞き合い、励まし合ったり、慰め合ったりしています。1つ目は、病識を促すための集団療法です。これは、本人に自分と似た人を実際に見てもらうことで、「やせアイデンティティ」を見つめ直してもらう効果があります。また、仲間と一緒にいるという集団心理によって、同調の効果もあります。アルコール依存症と同じく、自助グループとしての取り組みです。ただし、同調によって、やせとして生きるアイデンティティが逆に強化される場合もあるため、カウンセラーのような方向付けをする役割が必要です。(2)治療意欲を高める-行動療法グループホームでは、目標の体重に戻るための生活上のさまざまなルールがあり、それを守るとポイントが加算され、破ると減点されます。ポイントが貯まると、外出などの自由が増えていきます。2つ目は、治療意欲を高めるための行動療法です。これは、行動を変えていくことで、生き方(アイデンティティ)を変えていく効果があります。アルコール依存症と同じく、飲酒を誘発する行動をしないようにする取り組みです。ただし、この取り組みも、本人が同意していないと、人権侵害になるリスクがあるため、日々のコミュニケーションが必要です。(3)家族が距離感を知る-家族療法実は、エレンの家族関係は複雑でした。そんな彼女のために、主治医のベッカム先生は「誰も責めない」と言い、家族を集めて、語らせます。しかし、言い争いになって、収集がつかなくなるのでした。3つ目は、家族が本人との距離感を知るための家族療法です。これは、家族が本人や誰かを責めるのではなく、本人をほど良くサポートする効果があります。アルコール依存症と同じく、家族が関わり方を学ぶ取り組みです。なお、ラストのほうで、実母がエレンを赤ちゃんに見立てて擬似授乳するシーンがあります。うまく育まれなかった愛着形成のやり直しをすることで、遠い記憶の上書きの象徴として描かれています。しかし、愛着メモリー(エピジェネティックな変化)は基本的に不可逆であることから、模擬授乳の実際の治療的な効果は不明です。予防は?映画のストーリーのその後に、もしもエレンが回復して、ルークと結ばれて娘を生んだとしたら、どうでしょうか?もちろん、幸せな家庭になってもらいたいです。ただし、その娘はもちろん「やせ遺伝子」を色濃く引き継ぎます。なお、エレンとルークのやせのエピジェネティックな変化も、娘に引き継がれるかどうかについては、現時点でまだはっきりしたことがわかっていません。植物や動物などにおいて、いくつかの特定のエピジェネティックな変化が次の世代に引き継がれていることがすでに確認されています。人間においても、いくつか可能性の報告はあるものの、遺伝子レベルで確認されているわけではありません。この現象はあったとしても、その影響度は植物や動物と比べて小さいものであることが推定されます。その理由は、人間は、植物やほかの動物と違い、文化も引き継いでいるからです。人間においてのエピジェネティックな変化の報告はどれも、現時点で、文化について触れられていませんでした。人間は、遺伝と並んで、文化(家庭外環境)の影響が大きいことから、エピジェネティックな変化が次の世代に引き継がれる必要がないとも言えます。この点で、「(エピジェネティックな変化によって)遺伝子は後から変わる」と言い切ることには慎重になったほうが良いと思われます。以上より、神経性やせ症への予防のヒントが見いだせます。それは、過激なダイエットをすることは、エピジェネティックな変化を招き、食べ吐きと同じように止められなくなり(依存的になり)、危険であるという事実を、もっと世の中に啓発して文化的に広めていくことです。そうすることで、神経性やせ症をはじめとする摂食障害の予防を徹底することができます。そんな文化の社会になった時、エレンとルークから生まれた娘は、神経性やせ症にならないことが期待できるのではないでしょうか?3)標準精神医学(第8版)P402:医学書院、20214)進化医学P184:羊土社、20135)もっとよくわかる!エピジェネティックスP162:羊土社、20206)摂食障害の進化心理学的理解の可能性P47:日本生物学的精神医学会誌Vol. 23 No. 1、20127)摂食障害の最近の動向」P148:心身医学、日本心身医学会、20148)人間と動物の病気を一緒にみるP295:バーバラ・N・ホロウィッツ、インターシフト、20149)進化と人間行動P167:長谷川寿一ほか、東京大学出版会、2022<< 前のページへ■関連記事ちびまる子ちゃん(続編)【その教室は社会の縮図? エリート教育の危うさとは?(社会適応能力)】

37.

ガイドライン改訂ーアナフィラキシーによる悲劇をなくそう

 アナフィラキシーガイドラインが8年ぶりに改訂され、主に「1.定義と診断基準」が変更になった。そこで、この改訂における背景やアナフィラキシー対応における院内での注意点についてAnaphylaxis対策委員会の委員長である海老澤 元宏氏(国立病院機構相模原病院 臨床研究センター長)に話を聞いた。アナフィラキシーガイドライン2022で診断基準が改訂 改訂となったアナフィラキシーガイドライン2022の診断基準では、世界アレルギー機構(WAO)が提唱する項目として3つから2つへ集約された。アナフィラキシーの定義は『重篤な全身性の過敏反応であり、通常は急速に発現し、死に至ることもある。重症のアナフィラキシーは、致死的になり得る気道・呼吸・循環器症状により特徴づけられるが、典型的な皮膚症状や循環性ショックを伴わない場合もある』としている。海老澤氏は「基準はまず皮膚症状の有無で区分されており皮膚症状がなくても、アナフィラキシーを疑う場面では血圧低下または気管支攣縮または喉頭症状のいずれかを発症していれば診断可能」と説明した。◆診断基準[アナフィラキシーガイドライン2022 p.2]※詳細はガイドライン参照 以下の2つの基準のいずれかを満たす場合、アナフィラキシーである可能性が非常に高い。1.皮膚、粘膜、またはその両方の症状(全身性の蕁麻疹、掻痒または紅潮、口唇・下・口蓋垂の腫脹など)が急速に(数分~数時間で)発症した場合。さらに、A~Cのうち少なくとも1つを伴う。  A. 気道/呼吸:呼吸不全(呼吸困難、呼気性喘鳴・気管支攣縮、吸気性喘鳴、PEF低下、低酸素血症など)  B. 循環器:血圧低下または臓器不全に伴う症状(筋緊張低下[虚脱]、失神、失禁など)  C. その他:重度の消化器症状(重度の痙攣性腹痛、反復性嘔吐など[特に食物以外のアレルゲンへの曝露後])2.典型的な皮膚症状を伴わなくても、当該患者にとって既知のアレルゲンまたはアレルゲンの可能性がきわめて高いものに曝露された後、血圧低下または気管支攣縮または喉頭症状が急速に(数分~数時間で)発症した場合。 また、アナフィラキシーガイドライン2022はさまざまな国内の研究結果やWAOアナフィラキシーガイダンス2020に基づいて作成されているが、これについて「国内でもアナフィラキシーに関する疫学的な調査が進み、ようやくアナフィラキシーガイドライン2022に反映させることができた」と、前回よりも国内でのアナフィラキシーの誘因に関する調査や症例解析が進んだことを強調した。アナフィラキシーガイドライン2022に盛り込まれた変更点 今回の取材にて、同氏は「アナフィラキシーに対し、アドレナリン筋注を第一選択にする」ことを強く訴えた。その理由の一つとして、「2015年10月1日~2017年9月30日の2年間に医療事故調査・支援センターに報告された院内調査結果報告書476件のうち、アナフィラキシーが死因となる事例が12件もあった。これらの誘因はすべて注射剤で、造影剤、抗生物質、筋弛緩剤などだった。アドレナリン筋注による治療を迅速に行っていれば死亡を防げた可能性が高いにもかかわらず、このような事例が未だに存在する」と、アドレナリン筋注が必要な事例へ適切に行われていないことに警鐘を鳴らした。 ではなぜ、アナフィラキシーに対しアドレナリン筋注が適切に行われないのか? これについて「アドレナリンと聞くと心肺蘇生に用いるイメージが固定化されている医師が一定数いる。また、アドレナリン筋注を経験したことがない医師の場合は最初に抗ヒスタミン薬やステロイドを用いて経過を見ようとする」と述べ、「アドレナリン筋注をプレホスピタルケアとして患者本人や学校の教員ですら投与していることを考えれば、診断が明確でさえあれば躊躇する必要はない」と話した。 アナフィラキシーを生じやすい造影剤や静脈注射、輸血の場合、症状出現までの時間はおよそ5~10分で時間的猶予はない。上記に述べたような症状が出現した場合には、原因を速やかに排除(投与の中止)しアドレナリン筋注を行った上で集中治療の専門家に委ねる必要がある。 また、アドレナリン筋注と並行して行う処置として併せて読んでおきたいのが“補液”の項目(p.24)である。「これまでは初期対応に力を入れて作成していたが、今回はアナフィラキシーの治療に関しても委員より盛り込むことの提案があった」と話した。 以下にはWAOガイダンスでも述べられ、アナフィラキシーガイドライン2022に盛り込まれた点を抜粋する。◆治療 2.薬物治療:第一選択薬(アドレナリン)[アナフィラキシーガイドライン2022 p.21]・心疾患、コントロール不良の高血圧、大動脈瘤などの既往を有する患者、合併症の多い高齢患者では、アドレナリン投与によるベネフィットと潜在的有害事象のリスクのバランスをとる必要があるものの、アナフィラキシー治療におけるアドレナリン使用の絶対禁忌疾患は存在しない1)・アドレナリンを使用しない場合でもアナフィラキシーの症状として急性冠症候群(狭心症、心筋梗塞、不整脈)をきたすことがある、アドレナリンの使用は、既知または疑いのある心血管疾患患者のアナフィラキシー治療においてもその使用は禁忌とされない1)・経静脈投与は心停止もしくは心停止に近い状態では必要であるが、それ以外では不整脈、高血圧などの有害作用を起こす可能性があるので、推奨されない2)◆治療 2.薬物治療:第二選択薬(アドレナリン以外)[アナフィラキシーガイドライン2022 p.23]・H1およびH2抗ヒスタミン薬は皮膚症状を緩和するが、その他の症状への効果は確認されていない3) このほか、同氏は「食物アレルギーの集積調査が進み、国内でも落花生やクルミなどのナッツ類や果物がソバや甲殻類よりも誘因として高い割合を示すことが明らかになった」と話した。さらに「病歴の聞き取りが不十分なことで起こるNSAIDs不耐症への鎮痛薬処方なども問題になっている」と指摘した。 なお、アナフィラキシーガイドライン2022は小児から成人までのアナフィラキシー患者に対する診断・治療・管理のレベル向上と、患者の生活の質の改善を目的にすべての医師向けに作成されている。日本アレルギー学会のWebからPDFが無料でダウンロードできるのでさまざまな場面でのアナフィラキシー対策に役立てて欲しい。

38.

妊娠中の不眠症~12年間の米国調査

 米国・サウスフロリダ大学のAnthony M. Kendle氏らは、全米の代表的な大規模データベースを用いて、12年間にわたる妊産婦の不眠症有病率とその傾向を推定し、不眠症、妊産婦の併存疾患、重度の妊産婦罹患率(SMM)との関連を調査した。その結果、妊産婦の不眠症の有病率は年々増加しており、不眠症はSMMの独立した予測因子であることが明らかとなった。Sleep誌オンライン版2022年7月28日号の報告。 2006~17年の入院患者サンプルより、米国の妊娠関連入院の連続横断的分析を実施した。分娩中および非分娩中の不眠症および産科併存疾患の診断には、ICD-9およびICD-10コードを用いた。主要アウトカムは、分娩中のSMM診断とした。不眠症とSMMの傾向を推定するため、ジョインポイント回帰を用いた。 主な結果は以下のとおり。・分娩入院件数約4,700万件のうち、不眠症と診断された女性は2万4,625例であった。・研究期間中の不眠症の年間発症率は、1万人当たり1.8から8.6に増加していた。・不眠症の粗発症率は、分娩以外の入院の場合で6.3倍高かった。・不眠症患者は、とくに神経筋疾患、精神疾患、喘息、物質使用障害などを併存していることが多かった。・非輸血SMMの有症率は、不眠症患者で3.6倍高かった(2.4% vs.0.7%)。・不眠症患者のSMMの割合は、年11%(95%信頼区間[CI]:3.0~19.7)で増加していた。・併存疾患で調整した後においても、不眠症患者のSMMの割合は、24%増加していた。

39.

古いほど良い:友と酒とCABG?(解説:今中和人氏)

 血行再建後の抗血小板療法に関して熱く議論されてきたPCIに引き換え、CABGだって術後は何かしら抗血小板薬を投与はするものの、PCIと違って新製品なんて出てこないし、それ以上に外科医の“さが”というか、どうしても手技そのものにばかり関心が向いてしまって、グラフト素材やオフポンプ手術に比べて、投薬については議論が盛り上がっていない印象は否めない。 本論文の中心テーマは、大伏在静脈を用いたCABG術後のチカグレロル追加の便益で、アスピリン単剤かチカグレロル併用DAPT、またはチカグレロル単剤を投与した患者で、中期遠隔期のグラフト開存性を確認した前向き無作為化試験4本のメタ解析である。用量はアスピリン81~100mg、チカグレロルは90mgで、1次エンドポイントは12ヵ月以内の静脈グラフト不全と出血イベント、2次エンドポイントはMACCEとした(実際は4論文中2本がアスピリン単剤とDAPTの比較、1本はアスピリン単剤とチカグレロル単剤の比較、1本がアスピリン単剤、DAPT、チカグレロル単剤の3群比較)。 静脈グラフト不全はCTかCAGでの閉塞ないし50%以上の狭窄と定義し、出血イベントはBleeding Academic Research Consortium(BARC)の基準を用いている。これは医学的に問題とならないType 1から致死的なType 5まで分かれており、本論文では臨床的に有意で対処を要するType 2、Hb 3g/dLを超える低下や輸血を要するType 3、致死的出血であるType 5の3カテゴリーを「出血イベント」と定義した。 DAPT 435例とアスピリンSAPT 436例の比較では、年齢は67歳と66歳(男性85%)、人工心肺下手術は両群69%、平均バイパス本数2.3本、内視鏡的静脈採取が4.6% vs.6.1%であった。12ヵ月以内の静脈グラフト不全はDAPT群11.2% vs.SAPT群20.0%、閉塞は9.6% vs.16.2%と、チカグレロルの併用により有意に抑制された一方、出血イベントはDAPT群22.1% vs.SAPT群8.7%と有意に増加した(致死的なType 5は両群ゼロ)。このあたりのtrade-offはPCIのスタディで毎度おなじみである。 ただし画像上のグラフト不全は減ったものの、心臓死はともに0.7%、急性心筋梗塞は1.8% vs.1.4%、追加血行再建は2.8% vs.1.6%と有意差はないがむしろDAPT群で多く、脳卒中が1.4% vs.2.5%とDAPT群で少なかった。つまりアスピリン単剤で臨床的に重要なキー・グラフトの開存は同等に得られており、出血イベントは断然少ない。なお、チカグレロル単剤群はメリットもデメリットも有意差がないので、抗血小板薬は古い「ほど」良い、では言い過ぎで、古い「けど」良い、といったところ。 印象的だったのはサブ解析で、人工心肺下CABG術後の静脈グラフト不全はDAPT群10.0%、SAPT群15.4%だが、オフポンプ手術ではDAPT群14.0%に対しSAPT群32.1%に跳ね上がる。換言すると、オフポンプCABG後にアスピリン単剤では1年以内に3分の1がグラフト不全になってしまう。ぜひともDAPTを入れたくなる結果だが、DAPTにすればもちろん、前述の出血イベントを覚悟せねばならない。すると当然、「そもそもオフポンプCABGのメリットって何だっけ?」という疑問が湧いてくる。 この議論はとても長くなるが、10年前、オフポンプCABGは不利益が多い、と喝破した前向き無作為化のROOBY試験に対して、「これはVA(退役軍人病院)のスタディだから、技術レベルが低いだけだ」という、ちょっと大声では言いにくい反論がかなりあった。今回は有名施設も含む北米、オランダ、中国からの前向き無作為化論文のメタ解析である。症例数は十分多いとは言えないが、オフポンプ派のご意見はいかがであろうか? 古いほど良いと言えば友と酒、女房と鍋釜が定番のようだが、もしかしてCABGも?

40.

輸血してもヘモグロビンが低下!DHTRの可能性は?【知って得する!?医療略語】第17回

第17回 輸血してもヘモグロビンが低下!DHTRの可能性は?輸血後、数日してから副作用が起きることがあるんですか?遅発性の副作用があり、今回はその1つであるDHTRを見てみましょう≪医療略語アプリ「ポケットブレイン」より≫【略語】DHTR【日本語】遅発性溶血性輸血副作用【英字】Delayed Hemolytic Transfusion Reaction【分野】輸血関連【診療科】全診療科【関連】急性溶血性輸血副作用AHTR(Acute Hemolytic Transfusion Reaction)実際のアプリの検索画面はこちら※「ポケットブレイン」は医療略語を読み解くためのもので、略語の使用を促すものではありません。貧血患者さんに赤血球輸血をしても、思うようにヘモグロビン濃度が上昇しないばかりか、むしろ低下する場合があります。こんな時、筆者は輸血の原因が出血疾患であれば、出血の持続、大量輸液による血液希釈、輸血量の相対的不足を考えがちです。しかし、輸血をしてもヘモグロビンが上昇しない、あるいは低下する時には、「遅発性溶血性輸血副作用(DHTR:delayed hemolytic transfusion reaction)」の可能性を想起する必要があります。DHTRは発熱や貧血、溶血所見を来すとされますが、輸血後24時間以降に発症するため、患者さんの症状や検査所見と輸血イベントの関連性に気が付き難い可能性があります。臨床現場では採血手技的に伴う「溶血」に遭遇することは多々あり、輸血を要する患者さんが感染症などを合併し、発熱することも日常茶飯事です。むしろ感染症や慢性炎症のために消耗性貧血を来し、赤血球輸血をすることも多々あります。このため、輸血して数日経ってから生じる「溶血」や「発熱」と聞いても、輸血副作用を連想することが難しいのではないかと想像します。そんな見逃されやすい要素を持つDHTRですが、2013年に前川氏が「輸血療法とその副作用―見逃されている臨床病態」として取り挙げていたので、共有したいと思います。遅発性溶血性輸血副作用DHTR : delayed hemolytic transfusion reaction【概略】輸血の遅発性副作用の1つ輸血後24時間以降に生じる輸血の溶血性副作用ほとんどは2度目以降の輸血で発症(初回輸血例は稀)【病態】過去に輸血や妊娠で赤血球に対する同種抗体を産生した既往(感作)がある場合、対応抗原陽性の赤血球が輸血されると、抗原刺激によりメモリーB細胞が数日で抗赤血球抗体を急速産生する(二次免疫反応)。この抗体と赤血球が反応し溶血反応が起きる。溶血は主に血管外溶血(まれに血管内溶血)。なお、一次免疫応答による溶血が起きるケースが稀にあり、この場合は輸血後10~20日に発症するとされる。【頻度】輸血5,000~1万回に1回【発症】輸血後24時間以降(典型例は輸血後3~14日)【症状】発熱・黄疸・悪寒・倦怠感・血尿(血色素尿)・掻痒感【検査】貧血(ヘモグロビン濃度低下)・球状赤血球・総ビリルビン上昇・LDH上昇【予後】軽度な溶血例~死亡例まであり【補足】過去の輸血や妊娠による同種抗体は、年月が経つと測定感度以下に低下することがあり、この場合は不規則抗体検査や交差適合試験では同種抗体は検出できないことがある。このためDHTRを完全防止するのは難しいとされる。1)前川 平. 日内会誌. 2013;102:2433-2439.2)前川 平ほか.臨床血液. 2008;22:1306-1314.3)澤部 孝昭ほか. 日本輸血学会雑誌. 1993;39:974-978.4)安全な輸血療法ガイド5)日本輸血・細胞治療学会 輸血療法委員会 輸血副作用対応ガイド6)日本赤十字社HP 医薬品情報-溶血性副作用7)小林航太ほか. 仙台市立病院誌2017;37.39-42.

検索結果 合計:245件 表示位置:21 - 40