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第161回 高齢者に熱中症対策を促す際、エアコンより厄介なのは…

ウクライナ危機に端を発した燃料費の高騰により、大手電力7社が申請していた6月からの電気料金の値上げが決定した。値上げ率は各社で異なるが、15.3~39.7%と大幅な値上げだ。これだけの値上げとなると、暑くなる時期にエアコンの使用を控える人も出てくるだろう。しかも、よりによってこの時期に記録的な暑さとなっている。5月17日には全国250地点以上で30℃超の真夏日となり、岐阜県揖斐川町では5月として観測史上最高の35.1℃の猛暑日を記録した。翌18日も各地で真夏日となり、東京都では5月中旬としては観測史上初の2日連続の真夏日。しかも、今年の6~8月は平年と比べ、かなり酷暑になると予想されている。2022年6~8月は国内で平均気温統計を開始した1898年以降、2番目の暑さだったと言われているが、もしかしたらそれを超えるかもしれない状況だ。こうなると危惧されるのが熱中症患者の増加だ。消防庁によると、2022年5~9月の全国の熱中症による救急搬送者の累計は7万1,029人。前年の2021年同時期の4万7,877人より大幅に増加し、搬送者数の調査が開始された2008年以降では3番目に多い数となった。この増加は前述した昨年の暑さのレベルで説明がつく。ちなみに2020年のコロナ禍以降、ユニバーサルマスク推奨で熱中症が増えたのではないかと、一部の人が指摘することがある。しかし、2019~21年までの夏の熱中症搬送者の累計は右肩下がり。2020年は東日本を中心に2019年よりも年平均気温が高かったにもかかわらずだ。この点は日本救急医学会・日本臨床救急医学会・日本感染症学会・日本呼吸器学会による「新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえた熱中症診療に関するワーキンググループ」が公表した「新型コロナウイルス感染症流行下における熱中症対応の手引き(第2版)」でも、論文調査結果からマスク着用が熱中症の危険因子となるエビデンスはないと明記されている。熱中症に弱いのは高齢者であることはよく知られている。高齢者では体液貯留機能も有する筋肉量も若年者より減少していることが多く、さらに腎機能低下により老廃物排出時にはより多くの水分が必要となる傾向にあり、そもそも脱水気味であることが一因だ。さらに加齢による感覚機能の低下で暑さに対する感度も低下している。過去のデータを見ると、熱中症で死亡した高齢者では約9割がエアコンを使用していなかったというデータもあるが、これはたぶん節約というよりは暑さに対する感度の低下が要因ではないかと個人的には考えている。しかし、ここに今回のような電気料金の大幅な値上げがあると、独居老人を中心に「電気料金を節約する」という行動が強まり、今夏は高齢者の熱中症増加が深刻化する可能性は十分にある。その意味で熱中症対策として頻繁に耳にする「暑い時には適切にエアコンを使う」という呼びかけの強化は必須だろう。もっとも電気料金の問題を脇に置けば、実は高齢者へのエアコンの使用推奨は、まだハードルが低いかもしれない。というのも、たとえば「真夏日、猛暑日予報の日は午前10時~午後3時過ぎぐらいまでの間は、緩やかにでもエアコンを使い続けてください」などの呼びかけも可能だからだ。こうした注意喚起は“実行しやすさ”がカギとなるため、極論を言えば、高齢者にありがちな、なんとなくテレビをつけているのと同じ感覚で使うことを推奨することはできなくもない。しかし、この熱中症対策についての記事を書く、あるいは自分の周囲に呼びかける際に私がいつも頭を悩ませてしまうのは、「喉の渇きがなくとも水分補給を」というフレーズである。前述の感覚機能の低下により、高齢者では喉の渇きを感じるのがやや周回遅れになりがちという点を踏まえてのことだが、言うほど簡単ではない。テレビやエアコンのつけっぱなしとは違い、なんとなくはできない行為だ。介護施設や同居人がいる高齢者宅ならば、周囲が気を配り定期的にお茶の時間を設けるなど自然な形で水分摂取の習慣を作ることも可能だろう。だが、独居高齢者ではよほど本人が自覚的に時間を決めて水分を取るなどの几帳面さがない限り、結構、難易度が高いのではないかと思う。多くの高齢者個人が熱中症対策で日内の定期的な水分摂取を習慣化することが容易ならば、よくある高齢者の服薬アドヒアランスの低下は問題にならないだろう。私自身はまだ高齢者ではないものの、尿酸値が高めのため、高尿酸血症の患者向けパンフレットにある「1日2L以上の水分摂取を」という推奨を意識して実行している。しかし、高齢者よりは喉の渇きに鋭敏であるはずなのに、真夏でもこの2Lのクリアはなかなか大変である。ちなみに自分の場合、どのように習慣付けているかというと、まず起床直後すぐに500mLペットボトルの半分近くの水分を摂取し、それから排尿を済ませてペットボトルの残りを飲み切る。その後は仕事場のPC脇に満タンにした2Lのペットボトルを置き、仕事の合間にちびちびこれを飲む。視覚的に残りが確認できるので夜7時くらいまでにこれを飲み切る。水分摂取の励行だけでも高齢者にとってはそれなりにハードルが高いと思われるのだが、最近では「熱中症予防のためには水分だけではなく塩分も」とメディアで呼びかけている。これは医学的には極めて正しいが、喉の渇きも感じないのに水分も取って、さらに塩分も取れと言われても高齢者では混乱してしまうのではないだろうか? ドラッグストアで売られている経口補水液を使えば良いとは言っても、こうした非日常的な対応はやはり簡単ではない。そう考えた時に、今でも地方ではありがちな高齢者が三々五々集まって「漬物をつまみながら、お茶を飲む」という習慣は、過度にならないのならば水分と塩分を同時に摂取できる合理的なものだと感じ入ってしまうのだが、コミュニティが希薄化している都市部ではそうはいかないケースも多い。私は地方の実家に高齢の両親がおり、やはり近所の人が時おり集まってお茶を飲むこともあるのを知ってはいる。これに加えて念のため、厚生労働省が行っている「あんぜんプロジェクト」の尿の色で脱水症状をチェックするという試みを伝えて、両親に注意を促しているものの、それでも心もとない。その意味では単に「喉の渇きがなくとも水分摂取を」の言葉だけでなく、実践しやすい事例を探しているのだが、ピンとくるものは少ない。この機会に読者の皆さんから「私はこんなふうに指導してますよ」という事例があれば、ぜひともお知恵を拝借したい。

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第162回 止められない人口減少に相変わらずのんきな病院経営者、医療関係団体(後編) 「看護師に処方権」「NP国家資格化」の行方は?

ジャニーズの性加害問題報道でNHKが「反省」の弁こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末、メディアはG7広島サミットの話題に加え、ジャニーズ事務所の「謝罪」動画、歌舞伎役者の自殺未遂事件など社会部ネタが頻発し、バタバタだった模様です。ジャニー喜多川氏によるジャニーズJr.の少年への性的虐待については、この連載の「第155回 日本はパワハラ、セクハラ、性犯罪に鈍感、寛容すぎる?WHO葛西氏解任が日本に迫る意識改造とは?(後編)」でも簡単に触れたのですが、「謝罪」動画公開後の5月17日にNHKで放送された「クローズアップ現代」(クロ現)はなかなか興味深い内容でした。「“誰も助けてくれなかった” 告白・ジャニーズと性加害問題」と題されたこの回の「クロ現」では、元ジャニーズJr.の男性が実名で登場、自身が受けた性被害の詳細を語っていました。印象的だったのは、桑子 真帆キャスターが、「なぜこの問題を報じてこなかったのか。私たちの取材でもこうした声を複数いただきました。海外メディアによる報道がきっかけで波紋が広がっていること。私たちは重く受けとめています」と反省の弁を述べ、番組の最後に「私たちは、これからも問題に向き合っていきます」と語ったことです。日本で長年に渡って起こっていた性被害事件にもかかわらず、日本のメディアで報道してきたのは週刊文春などごくわずかです。英国BBCのドキュメンタリーが放映されたので渋々動きました、というのではNHKも報道機関としての存在意義が問われても仕方ありません。今回、NHKの顔とも言えるキャスターが番組で反省の弁を述べたというのは、とても大きな意味があることだと思います。逆に言えば、ジャニーズ事務所に忖度し、BBCのドキュメンタリーや今回の「謝罪」動画に関しても、お茶を濁した報道しかしていない民放(「クロ現」ではジャーナリストの松谷 創一郎氏が「民放の人たち、テレビ朝日やフジテレビなんかはとくにそうですけれども」と名指しして批判していました)は、報道機関としては完全に“失格”と言えそうです。人口減少に対する、医療関係団体の希薄過ぎる危機感さて、今回も4月26日に厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所が公表した「将来推計人口」に関連して、日本の医療に及ぼす影響について考察してみます。前回は、一向に進まない地域医療構想や、病院の役割分担の明確化や病床削減などへ取り組みの遅れなど、医療提供体制における問題点について書きました。今回は、急速に進む人口減少が招くであろう医療・介護人材難に対して、日本医師会や日本薬剤師会といった医療関係団体の危機感が希薄過ぎる点について書きます。訪問看護ステーションに配置可能な医薬品の拡大案に「断固反対」と日本薬剤師会会長5月12日付のメディファクス等の報道によれば、日本薬剤師会の山本 信夫会長は5月10日に開かれた三師会の会見で、政府の規制改革推進会議で議論が進められている、訪問看護ステーションに配置可能な医薬品の拡大案について、「配置可能薬を拡大するということについては断固反対という立場だ」と述べたとのことです。この案は、規制改革推進会議の医療・介護・感染症対策ワーキング・グループで3月6日、医師の佐々木 淳専門委員(医療法人社団 悠翔会理事長)と弁護士の落合 孝文専門委員が提案したものです。佐々木氏は関東を中心に在宅医療専門のクリニックを複数ヵ所運営する医療法人を経営しています。佐々木氏らが提案したのは、訪問看護ステーションに配置する薬剤の種類を増やし、訪問看護師がある程度自由に使用できるようにするための新しいスキームです。現状では看護師が薬局で薬剤を入手してから患者宅に向かうか、看護師から連絡を受けた薬剤師が薬剤を配達しているのですが、このスキームによって患者への薬剤提供が効率化される、としています。このスキームでは、薬剤師はオンラインで訪問看護ステーションに配置された薬剤を遠隔管理(倉庫室温、ピッキングの適切性、在庫など)し、薬局がステーションに随時医薬品を授与します。一方、ステーションの看護師は、必要に応じて医師の指示内容を薬局と共有、処方箋の写しに基づいてステーションの倉庫から薬剤をピッキング、患者に投薬します。なお、倉庫内に配置する薬剤としては、脱水症状に対する輸液、被覆剤、浣腸液、湿布、緩下剤、ステロイド軟膏、鎮痛剤などを想定しているとのことです。薬剤師の調剤権を著しく侵害することにつながり「極めて問題がある」現状、薬剤師法などで、調剤を行えるのは、医師、歯科医師、獣医師が自己の処方箋により自ら調剤するときを除いて薬剤師に限られています。山本会長は、この改革案は医師の処方権、薬剤師の調剤権を著しく侵害することにつながり「極めて問題がある」と述べたそうです。その上で、在宅医療の提供について、「チームを組んで医療を提供するのが本来の姿。専門職が集まってその患者さんに対してどんな医療が必要か、医師や看護師、薬剤師など各専門職種が議論していくことが大前提だ。それを抜きにして、ただ置けばいいという発想について私どもとしては大変断固反対だ」と述べたとのことです。他の医療・看護・介護拠点が薬局機能を代替して何が悪い?「薬局の遠隔倉庫」案と呼ばれるこの案、患者が薬剤を手に入れるまでの時間が短縮されるだけでなく、調剤をする薬局自体がない地域や、土日や夜間は営業しない薬局しかない地域では、とても便利で現実的な方策に見えます。「薬剤師の調剤権を侵害」「チーム医療が本来の姿」と山本会長は語っています。しかし、そもそも薬局薬剤師が機能しない地域や時間帯があるなら、ほかの医療・看護・介護拠点がその機能を代替して何が悪いというのでしょう。山本会長の発言は、薬剤師のことは考えているが、患者のことは考えていないように感じます。ちなみに、令和4年度の厚生労働白書によれば、2020年度において、無薬局町村は34都道府県で136町村あるそうです。「包括指示」の仕組みを活用、「訪問看護師に一定範囲内の薬剤の処方箋を発行できるようにする」案も規制改革推進会議の医療・介護・感染症対策ワーキング・グループは先週、5月15日にも開かれ、佐々木氏は「薬局の遠隔倉庫」案をベースとした、もう一歩踏み込んだ改革案を提案しています。5月16日付のCBnewsマネジメントの報道によれば、佐々木氏は一定の条件下で訪問看護師が処方箋を発行して投薬できる規制緩和策を検討すべきだと提案したとのことです。具体的には、医師に連絡がついたものの処方箋を発行できない場合、看護師は医師の指示に基づいて処方箋を発行できる医師と連絡がつかない場合、看護師は医師の包括的指示に基づいて処方箋を発行できる24時間対応を標榜する薬局がある場合、薬剤師は迅速・確実に患者宅に薬剤を届ける。24時間対応の薬局がなければ訪問看護事業所に薬剤を配備し、看護師がその備蓄から薬剤を使用することができる24時間対応する薬局の有無にかかわらず、訪問看護事業所内への輸液製剤の配備を可能とするなお、佐々木氏は、これらの対象となる薬剤(輸液製剤を含む)の範囲をあらかじめ指定しておくことも提案しています。医師から看護師への「包括指示」の仕組みを活用して、「訪問看護師に一定範囲内の薬剤の処方箋を発行できるようにする」という大胆な提案です。日本薬剤師会が再び激怒しそうですが、働き方改革や人材難を背景に、タスクシフト/タスクシェア推進が叫ばれる中、とても理に適った提案ではないでしょうか。「NPを導入し、国家資格として新たに創設するというのは適切ではない、反対だ」と日本医師会政府の規制改革会議ですが、その議論や提案はいつもラジカルで、旧態依然とした医療関係団体を時折怒らせています。2月13日、規制改革推進会議の医療・介護・感染症対策ワーキング・グループは、医師と看護師のタスクシェア、とくにナース・プラクティショナー(NP)について日本医師会等にヒアリングを実施しました。NPとは、端的に言えば、医師と看護師の中間的な技量を有した医療専門資格です。現行の特定行為研修を修了した看護師ができる医療行為の範囲を超えて、“医師のように”自主的に医療行為が行える新しい国家資格(NP)をつくろうというのがNPの国家資格化のコンセプトです。米国においてNPは医師の指示・監督がなくても診察、診断、治療・処方のオーダーができる資格として確立しています。この回のワーキング・グループに日本医師会から参加した常任理事の釜萢 敏氏は「外国で行われているものを日本に導入すれば必ずうまくいくというものでは決してない。特定行為研修の修了者を増やしていくという方向に大きく踏み出したので、まずそれをしっかり実現することが喫緊の課題。NPという新たな職種を導入し、国家資格として新たに創設するというのは、現状において適切ではない、反対だ」と述べました。日本医師会などが慎重な姿勢を示してきたため業務範囲の拡大は遅々として進まず医療・介護分野のタスクシェア・タスクシフトを巡っては、これまで日本医師会などが慎重な姿勢を示してきました。そのため、実際の医療現場での業務範囲の拡大は遅々として進んでいません。2021年5月の医療法等改正においても、業務範囲が拡大されたのは診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、救急救命士のみで、“本丸”とも言える看護師には踏み込んでいません(「第66回 医療法等改正、10月からの業務範囲拡大で救急救命士の争奪戦勃発か」参照)。政府の規制改革推進会議が昨年5月に決めた令和4年度の最終答申には「医療・介護分野のタスクシェア・タスクシフトの推進」は記述されていますが、より本格的な検討は今期の同会議の“宿題”となりました。その後、議論を進めてきた規制改革推進会議は、昨年12月に当面の改革テーマに関する中間答申をまとめました。そこには、医師や看護師が職種を超えて業務を分担する「タスクシェア」の推進が明記され、医師の業務の一部を看護師らに委ねる「タスクシフト」も進めると書かれました。それを踏まえ、看護師らが担える業務の対象拡大を主要テーマとして、医療・介護・感染症対策ワーキング・グループが議論を進めてきた、というのがこれまでの流れです。6月にまとめられる規制改革推進会議の最終答申に注目それにしても、医師や薬剤師がタスクシェア・タスクシフトをこうも毛嫌いする理由はなんでしょう。自分たちの仕事が、「看護師ごときには対応できないほど高度なもの」とでも考えているのでしょうか。あるいは逆に、「意外に簡単で誰にでもできそうであることがバレるのが怖い」のでしょうか。確か、日本医師会は医師増(医学部新設)にも反対していましたから、単に自分たちの既得権を守りたいだけなのかもしれません。前回の冒頭で書いた青森の下北半島ではないですが、現状、医師確保にあえいでいる地域は全国にたくさんあります。人口減が今以上に進めば、無医町村も増えていくでしょう。そんな中、相応の資格を得た訪問看護ステーションなどの看護師が、処方を含む医療行為を自らの判断で行うことができるようになれば、地域医療に一定の安心感を与えるのではないでしょうか。また、老人保健施設や介護医療院は医師でなければ施設長になれませんが、高齢者医療を専門とするNPが施設長になることができれば、貴重な医師人材の節約にもつながります。今年6月にもまとめられる予定の令和5年度の規制改革推進会議の最終答申に、医師から看護師への包括指示の活用や、訪問看護師への処方権付与、NP国家資格化といった、ワーキング・グループで議論されてきた内容がどれくらい盛り込まれることになるか、注目されます。

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英語で「1日の排尿回数」は?【1分★医療英語】第36回

第36回 英語で「1日の排尿回数」は?I think my child does not have an appetite recently.(最近、うちの子の食欲があまりないような気がします)I see. Do you remember how many times a day she had a wet diaper yesterday?(なるほど、昨日は1日に何回くらいおしっこをしたか覚えていますか?)《例文》患者She had only four wet diapers today. Is it normal?(私の娘は今日4回しかおしっこをしていません。これって普通ですか?)医師Yes, it is totally normal for her age!(娘さんの年齢でしたら、まったく問題ないですよ!)《解説》今回は小児特有の英語表現をお伝えします。日本語に直訳しづらいのですが、“a wet diaper”で「オムツをしているお子さんのおしっこ」を示します。“two wet diapers”は「2回おしっこをした」(直訳では「オムツが2回濡れた」)というように、排尿回数を表すことができます。生後から3歳前後まではオムツをしている子が多いかと思いますが、赤ちゃんや幼児が陥りやすい脱水症状の指標として“wet diaper”の回数を聞くことは医療者にとって必須です。上記の表現のように“How many times a day does your baby have a wet diaper?”と聞く以外にも、“How many wet diapers does your baby have every day?”という表現も使われ、同様の意味となります。いずれも聞きたいのは「オムツをしている赤ちゃんの排尿回数」です。オムツを卒業した子どもの場合は、“pee”を用いて“How many times did you pee yesterday?”(昨日何回おしっこをしましたか?)と聞きます。さらに大きくなった青少年期や大人に対してはいろいろな表現がありますが、“go to the bathroom”を用いて、“How many times a day do you go to the bathroom?” で「1日に何回排尿しますか?」と聞くことが多い印象です。「排尿する」には“urinate”という単語がありますが、子どもの患者さんや家族に対して使うとかなり仰々しい印象になるので、医療者同士の会話以外ではあまり使われません。小児領域では医療者同士の会話でも“wet diaper”や“pee”を使う人が多いです。上記の表現をマスターし、子どもの患者さんが来た際にはぜひ使ってみてください。講師紹介

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Dr.田中和豊の血液検査指南 電解質編

第1回 総論1:生理学第2回 総論2:体液第3回 総論3:輸液第4回 総論4:尿第5回 総論5:酸塩基平衡の歴史第6回 総論6:酸塩基平衡障害の評価方法第7回 総論7:酸塩基平衡評価の実際第8回 各論1:高Na血症第9回 各論2:低Na血症第10回 各論3:K(カリウム)第11回 各論4:CaとP第12回 各論5:Mg、微量元素とビタミン 「Dr.田中和豊の血液検査指南」シリーズの第3弾となる電解質編は総論と各論の2部構成。 電解質総論では生理学、体液、輸液、尿、酸塩基平衡について、基礎となる部分を解説します。苦手な人も多い「電解質」。そんな方にも理解しやすいよう尿細管やイオンチャネル、煩雑な数式などはできるだけ使用せず、簡略化し、エッセンスだけを解説していきます。電解質各論では、Na、K、Ca、P、Mgなど血液検査でそれぞれの電解質の異常を診たときのDr.田中和豊式“鉄則”と“フローチャート”を示して電解質異常へのアプローチを徹底的にレクチャーします。医学生、臨床研修医は必見です!もう「電解質は苦手」とは言わせません!※この番組をご覧になる際に、「問題解決型救急初期検査 第2版(医学書院)」ご参考いただくと、より理解が深まります。書籍はこちら ↓【問題解決型救急初期検査 第2版(医学書院)】第1回 総論1:生理学Dr.田中和豊の血液検査指南の第3弾、電解質編がスタート。生理学からレクチャーしていきますが、その前に、苦手意識を持つ人も多い「電解質」。なぜ電解質がわからないのか を確認してみましょう。そこに苦手意識を解消するヒントが隠れているからです。生理学では、人間の細胞とその環境を理解するために、生命の誕生と進化についてお話します。その後、体液維持のメカニズム、浸透圧調節系、容量調節系についてわかりやすい図を用いて解説します。第2回 総論2:体液Dr.田中和豊の血液検査指南「電解質編」の第2回は「体液」を解説します。人体の60%を占める液体のうち、40%は細胞内液で20%が細胞外液です。そして、20%の細胞外液のうち、15%は細胞と細胞の間の細胞間質液で、残りの5%が血漿です。脱水症や電解質異常の場合、その体液分画の比率に異常が生じている可能性があります。そのような疾患の体液分画異常を推定するために用いられるのが体液評価の指標で、容量調節系であるNa平衡を評価する指標と浸透圧調節系である水平衡を評価する指標が存在します。これらの指標を使って、どのように体液を評価していくのか。Dr.田中和豊のわかりやすい解説で、理解を深めていきましょう! 第3回 総論3:輸液Dr.田中和豊の血液検査指南「電解質編」の第3回は「輸液」の解説です。「輸液」についてどう感じていますか?「計算が面倒」「時間がない」「なんとなく」などさまざまなご意見があるのではないでしょうか?この番組では、計算しなければならないという輸液に対する「強迫観念」を捨て、「おおざっぱ」な輸液方法をお教えします。第4回 総論4:尿前回の第3回では“輸液”で水分を“入れる”ことを確認しました。今回は“尿”、すなわち水分を“出す”、“出る”ことについて考えていきましょう。尿とは、水溶性老廃物を溶質、水を溶媒とする水溶液。しかし、単なる水溶液ではありません。人間が陸上で生きていくためには、人体の体液量と濃度を一定に調整することが必要なのです。そのため、生体は、尿の量と濃度をリアルタイムでコントロールして排出しているのです。それではその尿の量や濃度はどのようにコントロールされているのでしょうか。Dr.田中和豊がわかりやすく解説します。第5回 総論5:酸塩基平衡の歴史1884年に初めて化学上、「酸塩基」が定義されました。その後、生体における酸塩基平衡はCopenhagenアプローチ、Bostonアプローチ、Stewartアプローチなどさまざまな理論が展開されてきました。それはどのような考え方から生まれたのか、そしてその議論の決着は?Dr.田中和豊が酸塩基平衡の歴史を興味深く紐解いていきます。第6回 総論6:酸塩基平衡障害の評価方法今回は、酸塩基平衡の評価方法について確認していきましょう。前回で紹介したいくつかの評価方法の中でも、医師国家試験や内科専門医試験に出題されるのはBoston Approachによる酸塩基平衡の評価方法です。ですので、まずはこの評価方法を身に付けていきましょう。Dr.田中和豊公安の、人体の酸塩基平衡の状態を見立てた「酸塩基平衡の海」。これを基に考えていくことによって、そのときの人体の状況と、どのように治療すればよいのかなどが理解できるようになります。第7回 総論7:酸塩基平衡評価の実際総論編の最終回、酸塩基平衡障害の実際の症例を基に評価を行っていきます。これまでに出てきた酸塩基平衡の海や、Dr.田中和豊式チャートを使って評価を進めていきましょう。さらには、二次性反応の簡易判定法の計算式を語呂合わせで覚えるなど、実際の臨床の現場で役立つ内容となっています。また、総論の総まとめでは、これまで示してきた輸液・電解質・酸塩基平衡の三角形だけではなく、新たに六面体という考え方を示しています。ぜひご確認ください。第8回 各論1:高Na血症今回から、各論に入っていきます。電解質異常の緊急性を考えると、高K血症>高Ca血症>Na異常の順になりますが、番組では、Na→K→Ca/P→Mg/Zn/Cuの順に解説していきます。まずは高Na血症からです。高Na血症の定義、発生機序を理解することから。そのうえで、高Na血症の際、どのようにアプローチするのかをDr.田中和豊式フローチャートで確認しましょう。どのように治療するのか、輸液の選択、輸液量や速度の決め方についてもお教えします。Dr.田中和豊のシンプルでわかりやすい解説でしっかりと頭の中に入ってくることでしょう。第9回 各論2:低Na血症各論の第2回は低Na血症です。まずは、低Na血症の定義と、その症状を確認しましょう。そのうえで、どのように診断・治療していくのかをDr.田中和豊式フローチャートで確認し、実際の治療については症例も提示しながら解説します。輸液の種類は?量は?スピードは?それらをどのように決定していくのか、またそのほかにも3%食塩水の作り方など、臨床で迷うところをしっかりとカバーします。第10回 各論3:K(カリウム)今回はK(カリウム)についてみていきます。Kの基準値を覚えておくことは重要です。Kの値を見て、すぐに行動に移す必要があるからです。とくに高K血症は、電解質異常の中で一番緊急性が高いので、まずは治療を行います。慌てずにしっかりと対応できるよう、やるべきことを確認しておきましょう。低Na血症は、比較的緊急性は高くありませんが、原因探索を行い、適切な治療を行えるよう、Dr.田中和豊式フローチャートと鉄則で確認しましょう!第11回 各論4:CaとP各論の第4回目はCa(カルシウム)とP(リン)について解説します。CaとPはホルモンでコントロールされるため、腎臓内科ではなく、内分泌内科で扱われることが多い電解質です。ですが、CaやPの異常は日常的によく遭遇するため、専門領域に関係なく、すべての医師にとって知っておかなければならない電解質です。それぞれの基準値、定義などから実際の治療例までをDr.田中和豊がわかりやすく解説します。第12回 各論5:Mg、微量元素とビタミン電解質編の最終回は、マグネシウム、微量元素とビタミンについて確認していきます。マグネシウムはルーティーンの生化学検査ではチェックしません。しかしながら、Mg異常は全身の臓器にさまざまな症候を起こしえます。そのため、まずMg異常で起こる症候を知り、症候から異常を疑って検査することが重要です。微量元素とビタミンは、栄養の領域で、医師の仕事ではなく、栄養士の仕事という先入観がありませんか?しかし、実は栄養を改善するだけで多くの病態が改善します。不要な検査や薬物を削減するためにも、しっかりと確認しておきましょう。電解質はNa, K, Ca, Pだけではなく、Mg、そして微量元素とビタミンまで日常診療で注意することが、臨床力アップにつながります!

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ロタウイルスワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第12回

ワクチンで予防できる疾患ロタウイルスは、乳幼児の急性胃腸炎を引き起こす代表的な病原体である。発熱と嘔吐から症状が始まり、水様性下痢を伴うようになる。ほとんどの場合は1週間程度で自然軽快するが、激しい嘔吐や下痢のために脱水症を起こし、点滴治療や入院が必要になる場合もある。5歳未満の急性胃腸炎の入院患者のうち、40〜50%はロタウイルスが原因である。また、脱水症の他にも、けいれん、腎不全、脳症などを起こすことがあり、5歳未満児の急性脳症の起因病原体としては、インフルエンザウイルス、ヒトヘルペスウイルス-6に次いで3番目に多い1)。ロタウイルスは糞口(経口)感染により拡大するが、非常に感染力が強く、衛生状態に関係なく5歳までにほとんどすべての乳幼児が感染すると言われている。重症例は初感染時に起こりやすく、繰り返し感染することで徐々に軽症化するため、年長児以降では不顕性感染になることも多い。わが国でのロタウイルス胃腸炎は冬から春に多く報告されているが、新型コロナウイルス感染症の流行が始まった2020年以降はロタウイルスによる感染性胃腸炎の患者報告数は激減している(図)。図 定点あたり報告数画像を拡大する国立感染症研究所. 感染症発生動向調査2022年第3週より抜粋ロタウイルス感染症には抗ウイルス薬などの特異的な治療方法はなく、対症療法が中心となる。また、感染力が非常に強いため、適切な感染対策を行っても完全に予防することが困難である。そのため、乳児へのワクチン接種によるロタウイルス感染予防および重症化予防が重要となる。ロタウイルスワクチンの概要わが国では、1価ロタウイルスワクチン(商品名:ロタリックス)および5価ロタウイルスワクチン(同:ロタテック)の2種類の経口生ワクチンが認可されている(表)。表 ロタウイルスワクチン接種スケジュール画像を拡大するカバーする血清型は異なるが、1価ワクチンは交差免疫により他の血清型にも効果を発揮するため、同等の有効性が認められている2)。ロタウイルスワクチンは、前述のようにロタウイルス胃腸炎が2回目以降は軽症化するという性質を応用したものであり、その効果は、胃腸炎感染予防74~87%、重症化予防85~98%と非常に高い3)。効果の持続期間も生後2~3年まで確認されている。また、国内においてもワクチン接種による5歳未満児の入院率減少の効果が報告されている4)。ワクチン接種後に易刺激性、下痢、嘔吐などの副反応が国内で報告されているが、いずれも数日以内に回復し、重篤なものはまれである。頻度は非常に低いが(2~10万人に1人3))、初回接種後に腸重積を起こすことがある。第一世代のロタウイルスワクチン(同:RotaShield)が導入された際に、腸重積発症頻度の増加が確認されたため販売中止となった。現在使用されているワクチンは、腸重積発症リスクがRotaShieldの1/5~1/10と低くワクチン接種のメリットがリスクをはるかに上回る4)が、注意深く観察する必要がある。接種のスケジュールロタウイルスワクチンの接種スケジュールを表に示す。1価ロタウイルスワクチンと5価ロタウイルスワクチンでは接種回数が異なるため注意が必要である。原則として同じ種類のワクチンでスケジュールを完遂することが望ましい。しかし、転居後にいずれか一方のワクチンしか実施されていないなどの理由により、原則によることができないやむを得ない事情があると当該市町村長が認めた場合には、他方のワクチンにて接種することが可能である(具体的な接種方法については定期接種実施要領を参照5))。また、月齢3ヵ月以降に腸重積の発症率が増加するため、ワクチンの初回接種はできるだけ早い時期に実施することが必要である。出生15週0日以降の初回接種については安全性が確立されていないため、出生14週6日までに初回接種を完了させることが望ましい。日常診療で役立つ接種ポイントロタウイルスワクチンは経口生ワクチンであり、接種後1週間程度は便中にウイルスが排出されるため、おむつ交換時の手洗いなどの感染対策について説明しておくと良い。また、接種後の吐き出しを避けるために、接種前後は授乳を控えるように説明する。少量でも飲み込んでいれば一定の効果があり、ロタウイルスワクチンは複数回接種することから、万が一吐き出した場合でも1回投与と考え、追加の投与は必要ない5)。ロタリックスについては添付文書上、任意接種としての再投与が可能となっているが推奨はされていない。重篤な副反応として腸重積の可能性についても事前に保護者などに説明しておく必要がある。接種後1週間以内に、激しく泣く、機嫌が良かったり悪かったりを繰り返す、嘔吐を繰り返す、血便が出るなどの症状があった場合には、必ず医療機関を受診するように伝えておく。今後の課題・展望ロタウイルスワクチンは非常に効果の高いワクチンであるが、わが国では長年任意接種のために接種率が上がらなかった。ようやく2020年10月より定期接種化され、今後のロタウイルス胃腸炎および合併症の減少が期待されるところである。参考となるサイトこどもとおとなのワクチンサイト予防接種Q&A1)国立感染症研究所. IASR. 2019;40:209-210.2)Jonesteller CL, et al. Clin Infect Dis. 2017;65:840-850.3)CDC. The Pink Book. Chapter19:Rotavirus. 4)国立感染症研究所. 日本におけるロタウイルスワクチンの効果. 2019;40:212-213.5)厚生労働省. 定期接種実施要領.講師紹介

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Dr.須藤の輸液大盤解説

第1回 基礎編1 輸液を理解するための基本的生理学第2回 基礎編2 水・Naの生理学/水と塩の問題第3回 基礎編3 避けて通れないADHの話第4回 大盤解説 症例1 フロセミドが処方されていた78歳男性第5回 大盤解説 症例2 脳梗塞で自宅介護されていた72歳女性第6回 大盤解説 症例3 意識障害で救急搬送された38歳女性第7回 大盤解説 症例4 嘔気と低Na血症で紹介された78歳男性第8回 大盤解説 症例5 ストーマがあり慢性下痢の41歳男性 「Dr.須藤のやりなおし輸液塾」から12年。「輸液の名講義」と言えば須藤先生、「須藤先生」と言えば輸液の名講義、と言っても過言でないくらい、輸液講義のエキスパートであることが知られています。その須藤先生が満を持して輸液の新番組!今シリーズでは“大盤”を使って解説します。大盤解説とは将棋盤などを模した大きなパネルを使って戦況・戦局を解説すること。そしてこの番組は「輸液」大盤解説。大盤には、実際の症例の検査数値が時系列に並べられていきます。その状況を見ながら、どのように輸液をセレクトし、治療を進めているのかを須藤先生自らが実況し、解説していきます。すなわち須藤先生の思考の過程をつぶさに見ることができるのです。前半は、輸液に関する基礎を講義します。後半は、実症例を基に大盤解説を行います。ひふみんよろしく、須藤先生の着物姿も見逃せません。第1回 基礎編1 輸液を理解するための基本的生理学 大盤を使用しての実症例を基にした輸液の臨床推論…の前に、輸液を行ううえで、必ず理解しておかなければならない基本的な生理学を確認しましょう。体液の恒常性の保持とは?体液の組成や区分、役割は?浸透圧を一言で定義すると?張度と浸透圧の違いは?輸液したときに体のどこに分布?ぞれぞれの輸液製剤の違いは?など、なんとなくわかっていたつもりになっていたことも、実ははっきりわかっていなかったことに気づかされるかもしれません。それらをすっきりと整理して解説します。第2回 基礎編2 水・Naの生理学/水と塩の問題水とNaの生理学を考えるにあたっては、まずは2つの体液貯留である「浮腫」と「低Na血症」について理解しておくことが重要です。そう「浮腫」はNaの過剰であり、低Naは水が過剰であるということ。そこで、輸液を必要とする「脱水症」とはいったい何なのでしょうか?水が足りないということでしょうか?実はそこでも、Naの欠乏と水の欠乏と分けて考えていくことになります。欠乏したものを補液することが大まかな意味での輸液であると言えるでしょう。今回は簡単な症例で肩慣らしをしてみましょう。Dr.須藤の実症例を基にした解説付きです。第3回 基礎編3 避けて通れないADHの話水とNa代謝異常について解説します。Na代謝異常とは、「量」の異常でしょうか、それとも「濃度」の異常でしょうか。実は、Naの量の異常が、Naバランスの異常、そして、Naの濃度の異常が水バランスの異常です。水とNa代謝異常は、それぞれ過剰・欠乏の2つの座標軸で考えていきましょう。また、低Na血症を理解するには、「ADH:抗利尿ホルモン」を理解しておくことが重要です。きちんと整理して考えてみましょう。次回よりいよいよ大盤解説に入ります。ネクタイ姿の須藤先生は今回まで。ネクタイをよーく見てみると…。何がが見えてくる…。ヒントは「臨床“推”論」。これもDr.須藤のこだわりです!第4回 大盤解説 症例1 フロセミドが処方されていた78歳男性いよいよ大盤解説がスタート!須藤先生が経験した実症例を基に解説します。大盤に患者の検査数値を時系列に提示していきます。その状況を見ながら、どのように輸液をセレクトし、治療を進めているのかを須藤先生自らが実況します。今の患者の状況はどうなのか?そのために必要な輸液・治療は?1例目は施設入所中の78歳男性の症例です。須藤先生の頭の中を覗いてみましょう!第5回 大盤解説 症例2 脳梗塞で自宅介護されていた72歳女性大盤解説の症例2は、陳旧性脳梗塞で自宅で介護の72歳女性です。1週間前から食事がほとんど取れない状態で反応が鈍くなってきたため救急搬送されました。血圧が低下、皮膚ツルゴールも低下し、明らかに体液量が落ちた状態のようです。さあ、Dr.須藤はどのような治療を進めていくのか。第6回 大盤解説 症例3 意識障害で救急搬送された38歳女性大盤解説の症例3は、もともと健康な38歳女性です。1週間前くらいから感冒症状、全身倦怠感などを訴え、意識レベルが低下してきたため救急搬送されました。搬送されてきた時点で、明らかなショック状態です。入院時の検査データから著明なアシドーシス、高血糖、クレアチニン上昇などが見られ、DKA(糖尿病性ケトアシドーシス)であることが判明しました。さあ、どのように治療していくのか。また、症例のまとめの後には、Dr.須藤がDKAの場合に実際に使用しているDKAフローシートを提示。実際の使用例を基に、解説します。ぜひ、今後の診療に活用してみては?第7回 大盤解説 症例4 嘔気と低Na血症で紹介された78歳男性大盤解説の症例4は糖尿病、高脂血症、高血圧で通院中の78歳男性の症例です。1週間程度前に、膝の痛みを訴え、他院にてデュロキセチンが処方され、服用後から徐々に食欲低下、嘔気を自覚したとのことです。食事もとれなくなり、かかりつけ医が低Na血症を指摘して紹介されました。受診時の検査によって、低Na血症、濃縮尿、細胞外液量の低下が読み取れました。そこから、薬剤性のSIADHも疑われましたが、Dr.須藤はこの判断をある点から否定。さあ、どの数値からこの患者の状態を読み取ったのか。そして、その治療は?一緒に考えていきましょう。また、患者の経過に合わせて、低Na血症の補正「Rule of 6」など、知っておくべきことを補足解説します。第8回 大盤解説 症例5 ストーマがあり慢性下痢の41歳男性大盤解説の症例5はDr.須藤の思い入れの強い症例。クローン病にて、小腸・大腸切除術、人工肛門造設術を受け、慢性下痢の41歳男性です。3週間ほど前から、体調不良、耳下腺炎などで状態が悪化し、受診。受信時のバイタルサインや身体所見から、脱水、アシドーシス、ショックなどが疑われる状態でした。検査データからも腎不全、低Na血症、低K血症、著名なアシドーシスなど、さまざまな状態であることが読み取れました。ここまでの状態で、どう対応できるのか。そもそも輸液で改善できるのか。Dr.須藤の次の一手は!

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「ゾメタ」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第18回

第18回 「ゾメタ」の名称の由来は?販売名ゾメタ点滴静注 4mg/100mLゾメタ点滴静注 4mg/5mL一般名(和名[命名法])ゾレドロン酸水和物(JAN)効能又は効果○悪性腫瘍による高カルシウム血症○多発性骨髄腫による骨病変及び固形癌骨転移による骨病変用法及び用量ゾメタ点滴静注 4mg/100mL<悪性腫瘍による高カルシウム血症> 通常、成人には1ボトル(ゾレドロン酸として4mg)を15分以上かけて点滴静脈内投与する。なお、再投与が必要な場合には、初回投与による反応を確認するために少なくとも1週間の投与間隔をおくこと。<多発性骨髄腫による骨病変及び固形癌骨転移による骨病変> 通常、成人には1ボトル(ゾレドロン酸として4mg)を15分以上かけて3~4週間間隔で点滴静脈内投与する。ゾメタ点滴静注 4mg/5mL<悪性腫瘍による高カルシウム血症> 通常、成人にはゾレドロン酸として4mgを日局生理食塩液又は日局ブドウ糖注射液(5%)100mLに希釈し、15分以上かけて点滴静脈内投与する。なお、再投与が必要な場合には、初回投与による反応を確認するために少なくとも1週間の投与間隔をおくこと。<多発性骨髄腫による骨病変及び固形癌骨転移による骨病変> 通常、成人にはゾレドロン酸として4mgを日局生理食塩液又は日局ブドウ糖注射液(5%)100mLに希釈し、15分以上かけて3~4週間間隔で点滴静脈内投与する。警告内容とその理由警告<効能共通>1.本剤は点滴静脈内注射のみに用いること。また、投与は必ず15分間以上かけて行うこと。5分間で点滴静脈内注射した外国の臨床試験で、急性腎障害が発現した例が報告されている。<悪性腫瘍による高カルシウム血症>2.高カルシウム血症による脱水症状を是正するため、輸液過量負荷による心機能への影響を留意しつつ十分な補液治療を行った上で投与すること。禁忌内容とその理由禁忌(次の患者には投与しないこと)1.本剤の成分又は他のビスホスホネート系薬剤に対し、過敏症の既往歴のある患者2.妊婦又は妊娠している可能性のある女性※本内容は2020年9月23日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2019年9月改訂(第14版)医薬品インタビューフォーム「ゾメタ®点滴静注4mg/100mL・ゾメタ®点滴静注4mg/5mL」2)ノバルティス ファーマ:DR's Net

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第12回 内科からのホスホマイシンの処方【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 予想される原因菌は?Salmonella enterica(サルモネラ)・・・10名Campylobacter(カンピロバクター)・・・9名Escherichia coli(大腸菌)・・・8名ノロウイルス、サポウイルス、ロタウイルスなどのウイルス・・・4名大腸菌へのホスホマイシン投与 奥村雪男さん(薬局)ひどい下痢・腹痛、食事内容から、細菌性腸炎の可能性があります。起因菌は疫学的にはカンピロバクター、サルモネラ、下痢原性大腸菌の場合が多いですが、ユッケは通常生の牛肉を使用していること、ホスホマイシンが選択されていることから、大腸菌が最も疑われている、もしくは警戒しているかも知れません。「JAID/JSC 感染症治療ガイドライン 2015─腸管感染症─」では、成人の細菌性腸炎のエンピリックセラピーとして、第一選択にはレボフロキサシン、シプロフロキサシンといったキノロン系抗菌薬、アレルギーがある場合の第二選択としてアジスロマイシンやセフトリアキソンが挙げられています。O157 などの腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic Escherichia coli ; EHEC)の場合、溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome ;HUS)※発症が問題となりますが、「発症から2日以内のホスホマイシンの使用はHUSの発症リスク低下と関連していた(補正後オッズ比0.15, 95%CI 0.03~0.78)」という報告1)があり、処方の際、それを意識されたのかも知れません。※ベロ(志賀)毒素を産生するO157などのEHEC感染をきっかけに、下痢症状を伴った溶血性貧血、血小板減少、急性腎不全を主な症状とする可能性は低いがノロウイルスかも JITHURYOUさん(病院)O111、O157などのEHEC、カンピロバクター、サルモネラ、貝類等を食している可能性を否定できないので、可能性は低いですがノロウイルス、ロタウイルスも考えられます。大腸菌がもっとも疑わしい 荒川隆之さん(病院)生肉による食中毒と思われるので、大腸菌やカンピロバクター、サルモネラなどが原因菌として考えられます。ただ、サルモネラの場合はニューキノロン系抗菌薬、カンピロバクターの場合はマクロライド系抗菌薬が第一選択となります。今回の症例はホスホマイシンを使用していることから、大腸菌が最も疑わしいかと思います。Q2 患者さんに確認することは?副作用歴、併用薬、採便をしたか 中堅薬剤師さん(薬局)抗菌薬関連の副作用歴、併用薬と、採便をしたかどうかを確認します。基礎疾患の有無 奥村雪男さん(薬局)薬(特にキノロン系抗菌薬)のアレルギーがあるか確認します。重症化のリスク因子となる免疫不全などの基礎疾患の有無も確認します。経過をもう一度確認 キャンプ人さん(病院)単なる胃腸炎の可能性もあるかもしれないので症状発現までの時間を確認します。便の培養結果はどうだったか。ノロウイルスの迅速結果はどうだったか(自費なので行わない施設もあるかもしれません)。便の色 柏木紀久さん(薬局)併用薬、便の色や状態(血が混じっているかどうか)、尿は出ているか、また尿の色などの状態はどうか、嘔吐や発熱はあるか、水分は摂取できているか。食事は摂れるか 中西剛明さん(薬局)食事の摂取が可能かどうか聞きます。用法に関連するからです。家族の情報も聞き出す わらび餅さん(病院)妻と子供の症状を尋ねます。患者と同じか、いつからか、血便や腹痛の場所、発熱の有無など患者や家族の症状詳細を聞き、家族としての原因菌や重症度の評価をします。また、妻や子供は現在、何の点滴をしているか、家族に処方箋は出たのかも確認したいです。脱水状態 JITHURYOUさん(病院)利尿薬やSGLT2阻害薬の併用確認をすることは重要だと思います。感染性胃腸炎では脱水により急性腎障害リスクが高くなり、これらの薬剤はもともとの薬理作用からそのリスクを助長する可能性があります。もしこれらの薬剤を使用していたら、一時休薬する必要性があると思います。他にも休薬すべき糖尿病治療薬はありますが、とりわけ脱水という視点で言うとこれらの薬剤になります。本症例では、現在意識清明で、脱水としても重症感はないのですが、ツルゴール反応※や尿量など確認したいと思います。※ ツルゴールとは皮膚の緊張のことで、前腕あるいは胸骨上の皮膚をつまみ上げて放し、2秒以内に皮膚が元の状態に戻れば正常と判断し、2秒以上かかるようであれば脱水症の可能性がある。Q3 疑義照会する?する・・・6人ホスホマイシンの使用量 荒川隆之さん(病院)ホスホマイシンの使用量が少ないので疑義照会します。ただEHECの場合、抗菌薬使用により菌の毒素放出が亢進されHUS発症の危険性が増すとの報告もあるので、使用量を加減しているのかもしれません。海外においては、EHECの場合に抗菌薬の使用を推奨しないことが多いのですが、国内ではホスホマイシンが有効であったとの報告1)もあり、議論の残るところです。腎障害を考慮しての減量の場合もあるかもしれませんが、もともと経口では血中濃度が上がりにくい抗菌薬ですので、ある程度ならば通常用量でよいと考えています。医師の処方意図、真意を探ることも意識して疑義照会を行います。用法の提案も 中西剛明さん(薬局)抗菌薬が必要か確認します。うっかり投与すると菌の破壊で毒素放出量が増加し、HUSを発症するかもしれないからです。個人的には、ホスホマイシンは使用しない方が安心できます。ホスホマイシンを投与するなら、食事を取れない可能性を考慮して、用法は食後ではなく、8時間ごとを提案します。抗菌薬は必要? JITHURYOUさんホスホマイシン投与量1.5g/日と投与期間について疑義照会します。仮にEHECとしても、抗菌薬治療に対しては要・不要双方の見解があります。本症例は、救急外来で点滴後に朝一番の来局ということもあり、重症感があまり感じられないこと、ホスホマイシン投与量が絶対的に少ないことなどを勘案すると、抗菌薬自体不要ではないのでしょうか。仮に必要だとして、このままホスホマイシンを続けるのか、JAID/JSC 感染症治療ガイドライン2015では1日2gとなっていること、第一選択薬であるニューキノロン系抗菌薬にしないのかを確認したいです。抗菌作用以外の効果(HUS予防や炎症性サイトカイン抑制)を狙っているのかも併せて確認したいです。しない・・・4人EHECの可能性の場合もあるので現状で様子見 清水直明さん(病院)疑義照会はしません。入院はしていないようなので、症状は軽症~中等症だと想定すると、カンピロバクター属菌、サルモネラ属菌やノロウイルス・サポウイルスなどのウイルス性の場合、抗菌薬投与は不要であると思います。しかしながら、万が一、O157を代表とするEHECの可能性がある場合には、HUSや脳炎などを併発して重篤化することが多いので、ホスホマイシンの投与で様子を見てもいいと思います。ただし、EHECに対する抗菌薬投与の是非については、専門家の間でも意見が分かれているようです。投与量はやや少なめですが、腸管内での作用を期待しており、ホスホマイシンのバイオアベイラビリティは比較的低く(吸収率は12%)、腸管内に高濃度でとどまるのでそのままとします。用量で迷うが・・・ ふな3さん(薬局)ホスホマイシンの量が少ない(2~3g/日が適当)と思います。微妙な量なので、疑義照会をするか非常に悩ましいところです。ホスホマイシンの有効性については議論があるところなので、疑義照会はしないと思います。Q4 抗菌薬について、患者さんに説明することは?抗菌薬の服用タイミング、抗菌薬を飲みきる 中堅薬剤師さん(薬局)抗菌薬は食後である必要はなく、食事できない場合でも、普段の食事の時間に合わせて服用してよいことを伝えます。採便をしたことが分かれば、ホスホマイシンはつなぎの治療であることを説明します。もし採便しておらず、再受診指示もないのであれば、自ら再受診した方がよいと助言します。再受診の目安 柏木紀久さん(薬局)注意してもらうのは脱水と二次感染、EHECだった場合はHUSへの移行が心配です。また、「血尿、浮腫、貧血、痙攣などが出たら再度受診してください」とも伝えます。下痢止めは使用しないこと 清水直明さん(病院)「指示された通りに正しく最後まで服用してください。ただし、服用の途中であっても、便に血が混じってきたり、意識障害など普段と違った様子が見られた場合は、すぐに救急外来を受診してください。市販の下痢止めは症状を悪化させることがあるので、使用しないでください。」水分補給と二次感染予防 ふな3さん(薬局)「食欲がなく食事が取れなくても、1日3回5日分、しっかり飲みきってください。下痢によって脱水症状が心配されますので、経口補水液などで、しっかり水分補給をしてください。(外出先での排便により感染を広げる可能性があるので)下痢が治まるまでは、自宅で過ごすようにしてください。自宅に他の同居家族がいる場合には、ドアノブ・便器の消毒やタオルの共用を避けるなど注意してください。」Q5 その他、気付いたことは?検査結果までのつなぎ 中堅薬剤師さん(薬局)経験上ですが、開業医は便検査結果が出るまでの「つなぎ」として、ホスホマイシンを数日分処方することがあります。本症例でも、夜間救急で対応した医師も専門ではなく、便検査もできないため、同じような意図で対応したのではないか、と推測します。重篤化のリスクと再受診について 荒川隆之さん(病院)小児ではないので可能性は低いと思うのですが、EHECでは、5~10%の患者さんでHUSを起こし重篤化することが知られているため、元気がない、尿量が少ない、浮腫、出血斑、頭痛、傾眠傾向などの症状が見られた場合にはすぐに受診するように伝えます。時間経過の重要性 キャンプ人さん(病院)菌やウイルスにより潜伏期間が異なるため、丁寧に時間経過を聞くことが大切だと思います。原因菌や経過は分からないことが多い わらび餅さん(病院)実際、このような腸管感染の原因菌は培養提出しないとはっきりせず、ほとんどの場合分からないままです。すぐに元気になってほしいと願うばかりで、正しい選択だったのか経過の確認も難しいです。とりあえず抗菌薬? JITHURYOUさん(病院)本症例は軽症である可能性があり、前述したように抗菌薬投与が必須ではないと考えることもできます。水分を取っても吐くような状況であれば、点滴が必要となります。対症的に五苓散(柴苓湯)などの併用の提案も考慮したいです。ひどい下痢ということから、整腸剤も最大投与量を提案したいです。また考えたくないのですが、夜間診療ということで「とりあえず抗菌薬を処方しておけばなんとかなる」という考えもあったかもしれません。後日談(担当した薬剤師から)用量について疑義照会をしましたが、処方医が外部の非常勤の医師で、既に当直を終えて帰宅しており、回答が得られませんでした。本来は、疑義が解決していないのでこのまま調剤してはいけないのですが、カルテを確認してもらい、特に不自然な点もないことから、急性疾患の患者を待たせることはできないという状況もあり、やむなくそのまま調剤しました。1回きりの来局で、その後の経過は不明です。1)Clin Nephrol 1999; 52(6): 357-362. PMID:10604643

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第6回 小児胃腸炎の脱水対策にはりんごジュースが有益【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 小児の胃腸炎は医療現場で見かけることの多い疾患の1つです。下痢や嘔吐を伴うことが多いため、注意すべきはなんといっても脱水症状でしょう。小児では、体液量のバランスが脱水で崩れやすいので、電解質を補うために早期から経口補水液などを取ることが大切です。そこで、今回は軽度の胃腸炎がある小児に対して、電解質維持用の経口補水液または薄めたりんごジュースを与えた際の治療成功率を検討した以下の単盲検ランダム化比較試験を紹介します。補水液の味を嫌がる小児も多いので、このような研究を知っておくと役に立つかもしれません。Freedman SB, et al. JAMA. 2016;315:1966-1974.研究はカナダのトロントにある3次小児救急病院の単施設で、2010~15年に行われました。同病院は年間5万5,000例もの小児ケアを行っており、うち約3,000例が胃腸炎です。対象となりうる小児は、トリアージの後、看護師によって脱水の評価を受けて研究に組み入れられています。組み入れられたのは、生後6~60ヵ月で次の条件のうち3つ以上を満たす小児でした。1.過去24時間以内に3回以上の嘔吐または下痢がある2.症状発現から 96時間未満3.体重8 kg以上4.最低レベルの脱水(脱水レベルは4項目からなる計8段階のスコアで評価)平均28.3ヵ月の小児647例がコンピューターでランダム化され、りんごジュース群(323例)と経口補水液群(324例)に割り当てられました。各群のベースラインは類似しており、比較としては良さそうです。りんごジュース群では、カナダでポピュラーなFairleeというブランドの果汁100%りんごジュースを2倍に薄め、経口補水群と同じ中身の見えないボトルに入れたとあります。なお、研究資金調達にりんごジュースメーカーの関与はなく、著者らの利益相反はないと書かれています。経口補水液群には、電解質を保つために塩と砂糖を混ぜ、りんごジュースの色、フレーバー、甘味を付けた補水液が与えられました。介入効果の相違を知るうえで味の違いも一要素となるため、厳密な味のマッチングは行われてはいません。また、すべての患児は退院後に家でも同じ介入を継続できるように、割り当てられたドリンクを2L与えられました。参考として、子供は下痢のエピソードごとに10mL/kg、嘔吐のエピソードごとに2mL/kgを与えるのがよいという案内がなされています。プライマリアウトカムとして、登録から7日以内の治療失敗が設定され、それは以下のいずれかの項目から定義される複合アウトカムとして評価されました。1.入院または点滴による補水が必要になった2.嘔吐や下痢があり、緊急の受診やケアを要した3.長期にわたる症状4.割り当てられた介入とは異なる介入とクロスオーバーをすべきと医師が判断した5.3%以上の体重減少または脱水スコア5以上アウトカムは、盲検下で看護師が小児の介護者に毎日電話し、24時間無症状であることが確認されるまで聴取を行いました。また、介護者には、受診歴や下痢、嘔吐頻度などの重要な情報を記録する日記が提供され、最終的にりんごジュース群で118例分、経口補水液で86例分が返送されました。2歳以降では薄めたりんごジュースのベネフィットが大きい結果として、 647例(うち男児331例)中644例(99.5%)がフォローアップを完遂しました。治療の失敗率は、りんごジュース群16.7%(323例中54例、95%信頼区間:12.8-21.2)に対し、経口補水液群では25.0%(324例中81例、95%信頼区間:20.4~30.1%)と、有意な差がみられました(p<0.01)。入院率と下痢および嘔吐頻度について、群間で有意差はありませんでした。6ヵ月ごとの月齢の失敗率をみると、24ヵ月未満の小児ではりんごジュース群のベネフィットが小さい傾向にあり、12~24ヵ月ではむしろりんごジュース群の治療失敗率がやや高くなっています。一方、24ヵ月以降ではりんごジュース群のベネフィットが顕著に出ているため、味に慣れが生じ始める2歳以降の小児ではメリットがあることが示唆されています。ちなみに生後6ヵ月未満の小児では、まれではあるもののりんごジュースのようにナトリウム濃度の低い溶液を与えていると水中毒を発症するリスクが高まるため、本試験結果を適用するのは避けたほうが無難でしょう。一見、胃腸炎にりんごジュースが効くかのような印象を持ってしまいそうですが、今回の研究ではりんごジュースで軽度の脱水が良くなるのかが試験されているのであって、胃の痛みの改善や感染を防ぐ効果が検討されているわけではないことに注意が必要です。また、組み入れられた小児は希釈されたりんごジュースを飲み続ける前に、医師の診察を受け、重度の脱水やその他重篤疾患の兆候がないことがあらかじめ確認されていました。したがって、点滴の必要がある、別の慢性消化器疾患にかかっている、激しい嘔吐や出血性の下痢などがある、といった症例では本結果の適用が保証されるものではありません。とはいえ、日本を含む比較的衛生状態の良い国では重度の感染症リスクは低いですから、軽度の脱水がある2~5歳くらいの小児の水分補給として身近で入手できるりんごジュースを薄めて与えるという選択肢を持っておくのはとても有用かと思います。とくに補水液の味を嫌がるお子さんの場合には勧めてもよいのではないでしょうか。Freedman SB, et al. JAMA. 2016;315:1966-1974.

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認知症患者に水を飲ませるには?高齢者のかくれ脱水症対策

 連日の猛暑により熱中症患者が後を絶たない。総務省によると、今年度の全国の熱中症による救急搬送人員数は5万7,000人(7月29日時点)であり、昨年の同時期(3万1,000人超)と比較し2万人以上も多い。とりわけ高齢者の救急搬送者数は全体の50%以上を占め、対応が遅れた場合は入院どころか死に至るケースもあり、脱水や室温管理に対する早めの行動が鍵となる。2018年8月1日、教えて!「かくれ脱水」委員会が主催する「真夏の介護現場における高齢者の脱水対策セミナー」が開催され、秋山 正子氏( 株式会社ケアーズ 代表取締役、白十字訪問看護ステーション統括所長ほか)が訪問看護師の立場から警鐘を鳴らした。室内でもあなどれないのが熱中症 高齢者の熱中症は室内で多く起こっているケースが多く、以下に示す傾向の患者にとくに注意が必要である。例)・クーラーが嫌い、あっても使わない・日頃から食事量が少なく、夏に向かうにつれ食事量が低下する・防犯のために窓を閉める(足が悪く一階を居住とする場合が多いため)・体温調節ができないため厚着をしている・“トイレに行きたくなる”と極力水分摂取を避ける(とくに夜間)高齢者の熱中症リスク 高齢者は、 熱中症I度の症状である、1)大量の発汗、2)めまい、立ちくらみ、3)こむら返りを訴えることが多く、「同居家族や訪問者には高齢者のこれらの症状に十分注意してほしい」と同氏は訴えた。訪問時にゼリータイプの経口補水液を また、在宅医療の現場における高齢者の救急搬送の原因は、発熱、脱水、誤嚥などがある。なかでも、脱水は重症化すると入院期間が長引き、廃用症候群や認知症の悪化が懸念されるため、日頃の予防が重要となる。訪問看護の現場では、「訪問した時すぐに補水が出来るように、補水液をかばんに常備しておくことを心がけている。その際、嚥下困難な場合も考慮し、ゼリータイプも準備している」と秋山氏は述べた。水分補給を嫌がる認知症患者 高齢者のなかでも認知症を発症している場合、われわれが思うように当事者は水分を摂取してくれない。同氏はその理由に、“1つのことに集中するとほかのことに手がつけられなくなる”ことを挙げ、「たとえば、市役所から封筒が届き、それを督促状と勘違いする。その勘違いが解決しないと、いくら水を飲むように勧めてもいっこうに飲もうとしない。つまり、その人が不安になっていることを1つずつ解決することが飲水への近道」であると、医療者や介護する側の“聞く姿勢”の重要性についても語った。経口補水液のメリットと注意点 最後に、秋山氏は「経口補水液には、梅干し1個分のナトリウムが含まれているため血圧や腎臓、心臓などの疾患を抱えている場合には、かかりつけ医に相談し、量を調節しながら与える工夫をしている。一見、認知症が疑われるような状態の方でも、経口補水液を与えることでシャキッとして、会話が可能になる場合がある。少しでもおや?と思ったら、いつでもどこでも与えるようにしている」と述べ、熱中症が疑われた場合には「水分・塩分の補給に加え、涼しい場所の確保、衣類を緩める、保冷剤などで脇の下など太い血管のある部分を冷やす。それでも改善しなければ救急受診を行う」など、病院受診までの応急処置についても呼びかけた。■関連記事熱中症対策は小児と高齢者に注目全年齢で注意!「熱中症」の怖さ…死亡や後遺症も高率屋外作業時は「体感温度30度未満」でも熱中症に注意

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脱水気味の高齢者に水分補給させるコツ

 2017年7月24日、「教えて! 『かくれ脱水』委員会」は、夏季の脱水症のシーズンを迎え、とくに高齢者の脱水を防ぐための「かくれ脱水」対策啓発プレスセミナーを開催した。高齢者の水分補給介助は難しい はじめに、同委員会が行った「高齢者の水分補給に関する意識調査」の速報が報告された。このアンケートは、65歳以上の男女高齢者(n=516)と65歳以上の親を持つ30・40代の男女(n=316)、30・40代の男女介護従事者(n=516)を対象に行われた。 高齢者への「食事に含まれる水分以外で、1日にどれくらい水分を補給していますか?」という質問では、73.6%が1日の必要量(1,000~1,500mL)未満と答え、高齢者の日常での水分不足をうかがわせた。また、高齢者の子世代に「親に水分補給を勧めても飲まなかった経験がありますか?」と質問したところ、28.6%が「経験がある」と回答。そのほか、介護従事者で「高齢者の水分補給の介助は難しいと思いますか?」との質問に「難しい」と回答したのは「非常に」と「たまに」を含めて90.6%になり、多くが難しさを感じていることが明らかとなった。 今後、調査の詳細はとりまとめられた後、あらためて発表される。高齢者の脱水で起こる負のスパイラルを断ち切る 次に「高齢者の脱水リスクとその弊害について」をテーマに、高瀬 義昌氏(たかせクリニック理事長)がレクチャーを行った。 高瀬氏は、東京・大田区で約400名の患者を訪問診療する、在宅療養支援診療所を運営している。今回は、介護者を悩ませる「せん妄」に焦点を当て、脱水との関連を説明した。 せん妄は突発的に起こる認知機能障害、行動不穏であるが、その発生については、認知症や高齢という素因に、脳神経疾患、薬剤(ベンゾジアゼピン系)、熱中症といった直接因子と、心理的ストレス、環境の大きな変化という促進因子が相まって起こる。とくに高齢者が在宅で注意すべきは、熱中症による脱水や薬剤でせん妄を起こし、転倒して骨折することであるという。転倒骨折はさらに認知機能を悪化させ療養介護を難しくさせるほか、脱水状態が認知機能を悪化させることもあり、脱水状態にしないことが負のスパイラルを断つために重要だと語る。そして、水分補給の際は水分だけでは不十分で、失われたナトリウムなども補給する必要があると、経口補水療法を例に説明した。そのためには、「診療で軽度~中等度の脱水状態を診たら、市販の経口補水液などを活用してもらいたい」とレクチャーを終えた。高齢者の脱水を防ぐ水分補給のコツ 続いて「水を向けても飲まない人へ ~誘い水としての経口補水ゼリーの効用~」をテーマに、秋山 正子氏(株式会社ケアーズ 代表取締役、白十字訪問看護ステーション統括所長ほか)が、在宅看護の視点から高齢者への水分補給のコツを説明した。 高齢者の脱水で危険な時期は、5月の大型連休明けからであり、季節の変わり目で前日が寒く、翌日気温や湿度が高い日は、とくに脱水になりやすいと指摘する。 高齢者は、加齢により喉の渇きを感じにくくなっているほか、トイレを気にして水分補給をしないこともある。また、認知症であれば、自律神経の働きが落ちるため脱水を起こしやすく、脱水状態でも自覚することがないため、周囲が観察し、気が付くことが大切だという。 そして、高齢者によっては嚥下機能の低下により、普通の水やお茶だとむせてしまい、これが水分補給をしない遠因となる場合がある。そんなときは、市販の経口補水液ゼリーが最適であり、失われた電解質も補給されることから、はじめにゼリーを使い、これを誘い水に水やお茶を飲んでもらうとスムーズな水分摂取ができると説明した。 最後に「脱水は静かに進行するので、早め早めの対応が必要」と語り、レクチャーを締めくくった。高齢者の脱水予防に水分補給の自験例 最後に介護者の視点から「五感でお声かけすること」をテーマに北原 佐和子氏(女優・介護福祉士)が、高齢者への接遇について語った。 介護で大切なことは、「高齢者が居心地いい」と感じることが大切だと語り、そのためには、介護者が豊かな明るい表情で五感に訴える(たとえば季節感などを出す)挨拶や会話をすることが求められるという。また、脱水予防では、拒水されないように被介護者の嗜好の把握や、ひと言飲み物の説明をすることで、スムーズに水分補給が進む場合があるなど自験例を述べた。さらに「介護者も脱水にならないように、こまめに休憩、水分補給することは大事」と注意を喚起し、講演を終えた。

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第9回 SGLT2阻害薬による治療のキホン【糖尿病治療のキホンとギモン】

【第9回】SGLT2阻害薬による治療のキホン―どのような患者さんに適しているのでしょうか。 健康成人では、1日に約180gのグルコースが腎臓の糸球体でろ過され、一旦、尿中に排泄されますが、尿中に排泄されたグルコースは、近位尿細管の細胞膜上に発現しているトランスポーター(共輸送体)であるSGLTを介して再吸収され、血液中に運ばれます。SGLTには1~5の5つのサブタイプがあり、腎臓にはSGLT1およびSGLT2が発現していますが、近位尿細管におけるグルコースの再吸収は、約90%はSGLT2が、残りの約10%をSGLT1が担っています1)。 SGLT2阻害薬は、選択的にSGLT2を阻害し、近位尿細管におけるグルコースの再吸収を阻害して、そのまま尿中に排泄させることで、血糖を低下させます。インスリン分泌を介さずに血糖を低下させるという特徴に加え、血糖低下以外にも、尿糖排泄によるエネルギー漏出の代償として、体重減少が期待できるという特徴があります(約65~80g程度のグルコースが排出され、1日当たり260~360kcalのエネルギー消費に相当2))。尿糖排泄は血糖依存性で、血糖値が高ければ高いほど尿糖排泄量は増加するため、食後の高血糖改善に適しているように思えますが、尿細管での再吸収阻害による尿糖排泄速度が、食後の腸管からの糖の吸収速度には追いつかないため、どちらかというと食後よりも空腹時に対する効果が期待できます。そのため、空腹時血糖値が高く、肥満があり、高インスリン血症を来しているような患者さんが適しています。 単独、併用、いずれにおいても血糖低下効果は期待できますが、これまでのインスリン分泌やインスリン感受性に働きかけて血糖を低下させる薬剤とまったく異なる作用機序であるため、第1選択薬として用いるよりも、第2、第3の薬剤として用いることで、他の薬剤との併用による上乗せ効果を得やすいという特徴があります。 SGLT2阻害薬は、インスリン分泌を介さずに、尿中への糖の排泄を促進することで、強力、かつ速やかに血糖を低下させるため、糖毒性が軽減できることが明らかになっています3)。他の経口血糖降下薬を使っていても血糖コントロール不良で、高血糖が持続し、糖毒性を来していると考えられる患者さんに上乗せすることで、膵β細胞を休ませながら、速やかに血糖を低下させ、糖毒性を解除するという使い方ができます。 糖毒性が解除されると、それまで使っていた薬剤の効果が増強されます。例えば、DPP-4阻害薬を使っていても血糖コントロール不良な患者さんの場合、高血糖状態の持続により、膵β細胞のGLP-1受容体の発現が低下してしまいます。そのため、DPP-4阻害薬の効果が十分発揮できていない可能性があります。そこにSGLT2阻害薬を上乗せすると、インスリン分泌を介さない速やかかつ強力な血糖低下作用により、急速に糖毒性が解除され、ブドウ糖応答インスリン分泌(食後のインスリン追加分泌)が回復します。加えて、低下していたGLP-1受容体の発現が増加し、それにより、高血糖状態が持続していた時に効きの悪かったDPP-4阻害薬の効果が増強されるようになります。実際に、フロリジンを投与した膵切除高血糖ラットで、膵臓β細胞におけるGLP-1受容体の増加がみられたことが報告されています4)。 糖毒性が解除され、既存の薬剤の効果が増強されると、急激に血糖値が下がってくる恐れがあるため、低血糖を惹起しやすいSU薬などを併用している場合は注意が必要です。高用量のSU薬を使っている場合は、SGLT2阻害薬を併用する際には、減量を検討したほうがよいでしょう。 SGLT2阻害薬については、血糖低下作用以外に、体重減少が期待でき、体重についても、血糖低下と同様、投与初期から効果がみられるため、それを期待して肥満の患者さんに投与することがありますが、前述したように、尿糖排泄により、エネルギーが漏出するため、最初は体重が減少するものの、しばらくするとエネルギーの枯渇により空腹感が増したり、甘いものが食べたくなるなどして、体重が増加してしまうケースがあります。実際に、自由摂餌下でSGLT-2阻害薬を投与した食餌性肥満ラットにおいて、摂餌量の増加が認められたことが報告されています5)。SGLT2阻害薬を投与した患者さんでは、定期的に食事療法をチェックし、問題があれば見直す必要があります。 SGLT2阻害薬を使っていて、体重が増加してしまうような患者さんに対して、食欲抑制効果を有するGLP-1受容体作動薬を併用するのも良い方法です※。実際に、海外で行われた、GLP-1受容体作動薬エキセナチド(商品名:ビデュリオン)と、ダパグリフロジンの併用療法の効果をみたDULATION-8試験で、それぞれの単独療法よりも、血糖低下および体重減少において効果が認められたことが示されています6)。 ※現在、日本でSGLT2阻害薬との併用が認められているのは、1日1回投与のリラグルチド(商品名:ビクトーザ)と週1回投与のデュラグルチド(商品名:トルリシティ)のみ。―各製剤の特徴について教えてください。 2014年に最初のSGLT2阻害薬が発売され、今では6種類7製剤のSGLT2阻害薬が臨床使用できるようになりました(2016年3月現在)。これらSGLT2阻害薬の血糖低下作用はおおむね同等と思っていますが、私は、腎でグルコースの再吸収を担うSGLT2と同じファミリーであるSGLT1に注目しています。 前述したように、腎における糖の再吸収の約90%はSGLT2阻害薬が主にターゲットとしているSGLT2によりますが、残り10%はSGLT1が担っています1)。SGLT1は主に小腸上部に存在し、腸管からの糖の吸収・再吸収という役割を担っています7)。SGLT2に選択性が高いSGLT2阻害薬の場合、腎における糖の再吸収抑制という点ではよいのですが、食直後に消化管から糖が吸収されるスピードに、尿細管での糖の再吸収阻害がどうしても追いつかない、つまり食後の高血糖を十分是正できない、という問題が出てきます。これがSGLT2阻害薬の弱点でもあるのですが、SGLT2阻害薬の中にはSGLT2に対する選択性が低い、つまりSGLT1の阻害作用を持つ薬剤もあり、そのような薬剤では、食後の小腸における糖の吸収遅延による食後高血糖の改善が期待できます。実際に、健康成人を対象に、SGLT2に対する選択性が低いカナグリフロジン(商品名:カナグル)とプラセボを投与した無作為化二重盲検比較試験で、カナグリフロジンで、小腸での糖の吸収を遅らせ、食後の血糖上昇を抑制したという報告があります8)。また、健康成人を対象に、カナグリフロジンと、カナグリフロジンに比べてSGLT2に対する選択性が高いダパグリフロジン(商品名:フォシーガ)の薬力学的効果を比較した無作為化二重盲検クロスオーバー試験で、カナグリフロジンで食事負荷試験後の血糖上昇を抑制したことが報告されています9)。これは、小腸における糖の吸収遅延により食後高血糖を改善するα-GIと同じ作用と考えてよいでしょう。このSGLT1の小腸における糖の吸収・再吸収という作用に着目し、SGLT2とSGLT1の両方を阻害するデュアルインヒビターが現在、海外では開発中です。―尿路感染症や性器感染症が心配です。実際、どのくらいの頻度で発生するのでしょうか。 SGLT2阻害薬では、尿糖排泄作用により、尿中の糖が増えることで、尿路および生殖器が易感染状態となり、尿路感染症や性器感染症が発現しやすくなる可能性があります。発現頻度については、各薬剤の治験および市販後調査の結果が発表されていますので、そちらを参考にしていただければと思います。 SGLT2阻害薬を処方する際には、尿路感染症や性器感染症が発現しやすくなることをあらかじめ患者さんに伝えたうえで、尿意を我慢しないこと、陰部を清潔に保つことを心掛けてもらい、排尿痛や残尿感、陰部のかゆみ、尿の濁りなどがあればすぐに受診するよう、伝えます。また、適宜、問診や検査を行って発見に努めるようにします。―高齢者における安全性はどのように考えればよいのでしょうか。 尿糖排泄を促進するSGLT2阻害薬では、浸透圧利尿作用が働き、頻尿・多尿になり、体液量が減少するために、脱水症状を起こすことがあります。この循環動態の変化に基づく副作用として、引き続き重症の脱水と脳梗塞の発生が報告されているため、脱水には十分注意する必要があります。高齢者は特に脱水を起こしやすいため、高齢者への投与は無理をせず、慎重に行います。 日本糖尿病学会による「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation(2016年5月12日改訂)」10)では、高齢者に対するSGLT2阻害薬の使用については、「75歳以上の高齢者あるいは65歳から74歳で老年症候群(サルコペニア、認知機能低下、ADL低下など)のある場合には慎重に投与する」としています。 SGLT2阻害薬の尿糖排泄促進作用は、血糖に依存します。つまり、血糖値が高ければ高いほど、尿へ排泄される糖の量が多くなるため、尿量も増加します。そのため、血糖値が高い投与初期は、とくに注意する必要があります。患者さんには、SGLT2阻害薬で脱水を生じる可能性があることを伝えたうえで、意識して水分を多く摂取するよう指導します。尿量が指標になるため、尿量が多いと感じたら、いつもより水分を多めに摂取するように、というのもよいでしょう。また、夜に糖質の多い食事をたくさん食べてしまうと、夜間の尿量が増え、排尿のために睡眠が妨げられてしまうことがあります。快適な睡眠のためにも、夜は糖質の多い食事を控えるのもよいでしょう。発熱や嘔吐・下痢などがあるとき、食欲がなく、食事が十分とれないときには(シックデイ)、脱水の原因にもなりますので、休薬してもらいます。 SGLT2阻害薬を投与しているときは、血液検査所見で脱水がないかどうかを定期的に観察します。脱水の代表的な指標はヘマトクリット(Ht)値ですが、腎に作用するSGLT2阻害薬では、腎から分泌され、赤血球の産生を促すホルモンである、エリスロポエチンに影響を及ぼす可能性が指摘されていますので、合わせてBUNやCreでみるのがよいと思います。1)Fujita Y, et al. J Diabetes Investig. 2014;5:265-275. 2)羽田勝計、門脇孝、荒木栄一編. 糖尿病最新の治療2016-2018. 南江堂;2016.3)Bailey CJ. Trends Pharmacol Sci. 2011;32:63-71.4)Gang Xu et al. Diabetes 2007; 56: 1551-15585)Devemy J et al. Obesity 2012; 20(8):1645-16526)Frias JP, et al. Lancet Diabetes Endocrinol. 2016;4:1004-1016.7)稲垣暢也編. 糖輸送体の基礎を知る. SGLT阻害薬のすべて. 先端医学社;2014.8)Polidori D, et al. Diabetes Care. 2013;36:2154-2161.9)Sha S, et al. Diabetes Obes Metab. 2015;17:188-197.10)SGLT2阻害薬の適正使用に関する Recommendation. 日本糖尿病学会「SGLT2阻害薬の適正使用に関する委員会」

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熱射病で意識不明となった高校生を脳震盪と誤診したケース

救急医療最終判決判例時報 1534号89-104頁概要校内のマラソン大会中に意識不明のまま転倒しているところを発見された16歳高校生。頭部CTスキャンでは明かな異常所見がなかったため、顔面打撲、脳震盪などの診断で入院による経過観察が行われた。当初から意識障害があり、不穏状態が強く、鎮静薬の投与や四肢の抑制が行われた。入院から約3時間後に体温が40℃となり、意識障害も継続し、解熱薬、マンニトールなどが投与された。ところが病態は一向に改善せず、入院から約16時間後に施行した血液検査で高度の肝障害、腎障害が判明した。ただちに集中治療が行われたが、多臓器不全が進行し、入院から約20時間後に死亡確認となった。詳細な経過患者情報学校恒例のマラソン大会(15km走)に参加した16歳男性経過1987年10月30日13:30マラソンスタート(気温18℃、曇り、湿度85%)。14:45スタートから約11.5km地点で、意識不明のまま転倒しているところを発見され、救急室に運び込まれた。外傷として顔面打撲、口唇、前歯、舌、前胸部などの傷害があり、両手で防御することなくバッタリ倒れたような状況であった。診察した学校医は赤っぽい顔で上気していた生徒を診て脱水症を疑い、酸素投与、リンゲル500mLの点滴を行ったが、意識状態は不安定であった。15:41脳神経外科病院に搬送され入院となる(搬送時体動が激しかったためジアゼパム(商品名:セルシン1A)使用)。頭部・胸部X線写真、頭部CTスキャンでは異常所見なし。当時担当医は手術中であったため、学校医により転倒時に受傷した口唇、口腔内の縫合処置が行われた(鎮静目的で合計セルシン®4A使用)。18:30意識レベル3-3-9度方式で100、体動が激しかったため四肢が抑制された。血圧98(触診)、脈拍118、体温40℃。学校の教諭に対し「見た目ほど重症ではない、命に別状はない」と説明した。19:00スルピリン(同:メチロン)2A筋注。クーリング施行。下痢が始まる。21:00血圧116(触診)、体動が著明であったが、痛覚反応や発語はなし。マンニトール250mL点滴静注。10月31日00:00体温38.3℃のためメチロン®1A筋注、このときまでに大量の水様便あり。03:00体温38.0℃、四肢冷感あり。体動は消失し、外観上は入眠中とみられた。このときまでに1,700mLの排尿あり。引き続きマンニトール250mL点滴静注。その後排尿なくなる。06:00血圧測定不能、四肢の冷感は著明で、痛覚反応なし。血糖を測定したところ測定不能(40以下)であったため、50%ブドウ糖100mL投与。さらにカルニゲン®(製造中止)投与により、血圧104(触診)、脈拍102となった。06:40脈拍触知不能のため、ドパミン(同:セミニート(急性循環不全改善薬))投与。その後血圧74/32mmHg、脈拍142、体温38.3℃。08:00意識レベル3-3-9度方式で100-200、血糖値68のため50%ブドウ糖40mL静注。このときはじめて生化学検査用の採血を行い、大至急で依頼。09:00集中治療室でモニターを装着、中心静脈ライン挿入、CVP 2cmH2O。10:00採血結果:BUN 38.3、Cre 5.5、尿酸18.0、GOT 901、GPT 821、ALP 656、LDH 2,914、血液ガスpH7.079、HCO3 13.9、BE -16.9、pO2 32.0という著しい代謝性アシドーシス、低酸素血症が確認されたため、ただちに気管内挿管、人工呼吸器による間欠的陽圧呼吸実施、メイロン®200mL投与などが行われた10:50心停止となり、蘇生開始、エピネフリン(同:ボスミン)心腔内投与などを試みるが効果なし。11:27急性心不全として死亡確認となる。当事者の主張患者側(原告)の主張1.診察・検査における過失学校医や教諭から詳細な事情聴取を行わず、しかも意識障害がみられた患者に対し血液一般検査、血液ガス検査などを実施せず、単純な脳震盪という診断を維持し続け、熱射病と診断できなかった2.治療行為における過失脱水状態にある患者にマンニトールを投与し、医原性脱水による末梢循環不全、低血圧性ショックを起こして死亡した。そして、看護師は十分な観察を行わず、担当医師も電話で薬剤の投与を指示するだけで十分な診察を行わなかった3.死亡との因果関係病院搬入時には熱射病が不可逆的段階まで達していなかったのに、診察、検査、治療が不適切、不十分であったため、熱射病が改善されず、低血糖症を併発し、脱水症も伴って末梢循環不全のショック状態となって死亡した病院側(被告)の主張1.診察・検査における過失学校医は意識障害の原因が脳内の病変にあると診断して当院に転医させたのであるから、その診断を信頼して脳神経外科医の立場から診察、検査、経過観察を行ったので、診察・検査を怠ったわけではない。また、学校医が合計4Aのセルシン®を使用したので、意識障害の原因を鑑別することがきわめて困難であった2.治療行為における過失マンニトールは頭部外傷患者にもっとも一般的に使用される薬剤であり、本件でCTの異常がなく、嘔吐もなかったというだけでは脳内の異常を確認することはできないため、マンニトールの投与に落ち度はない3.死亡との因果関係搬入後しばらくは熱射病と診断できなかったが、輸液、解熱薬、クーリングなどの措置を施し、結果的には熱射病の治療を行っていた。さらに来院時にはすでに不可逆的段階まで病状が悪化しており、救命するに至らなかった裁判所の判断1. 診察・検査における過失転倒時からの詳細な事情聴取、諸検査の実施およびバイタルサインなどについての綿密な経過観察などにより、熱射病および脱水を疑うべきであったのに、容易に脳震盪によるものと即断した過失がある。2. 治療行為における過失病院側は搬送直後から輸液、解熱薬の投与、クーリングなどを施行し、結果的には熱射病の治療義務を尽くしたと主張するが、熱射病に対する措置や対策としては不十分である。さらに多量の水様便と十分な利尿があったのにマンニトールを漫然と使用したため、脱水状態を進展させ深刻なショック状態を引き起こした。さらに、夜間の全身状態の観察が不十分であり、ショック状態に陥ってからの対処が不適切であった。3. 死亡との因果関係病院側は、患者が搬送されてきた時点で、すでに熱射病が不可逆的状態にまで進行していたと主張するが、当初は血圧低下傾向もなく、乏尿もなく、呼吸状態に異常はなく、熱射病により多臓器障害が深刻な段階に進んでいるとはいえなかったため、適切な対策を講ずれば救命された可能性は高かった。8,602万円の請求に対し、6,102万円の支払命令考察まずこのケースの背景を説明すると、亡くなった患者は将来医師になることを目指していた高校生であり、その父親は現役の医師でした。そのため、患者側からはかなり専門的な内容の主張がくり返され、判決ではそのほとんどが採用されるに至りました。本件で何よりも大事なのは、脱水症や熱射病といった一見身近に感じるような病気でも、判断を誤ると生命に関わる重大な危機に陥ってしまうということだと思います。担当された先生はご専門が脳神経外科ということもあって、頭部CTで頭蓋内病変がなかったということで「少なくとも生命の危険はない」と判断し、それ以上の検索を行わずに「経過観察」し続けたのではないかと思います。しかも、前医(学校医)が投与したセルシン®を過大評価してしまい、CTで頭蓋内病変がないのならば意識が悪いのはセルシン®の影響だろうと判断しました。もちろん、搬入直後の評価であればそのような判断でも誤りではないと思いますが、「脳震盪」程度の影響で、セルシン®を合計4Aも使用しなければならないほどの不穏状態になったり、40℃を越える高熱を発することは考えにくいと思います。この時点で、「CTでは脳内病変がなかったが、この意識障害は普通ではない」という考えにたどりつけば、内科的疾患を疑って尿検査や血液検査を行っていたと思います。しかも、頭部CTで異常がないにもかかわらず、意識障害や不穏を頭蓋内病変によるものと考えて強力な利尿作用のあるマンニトールを使用するのであれば、少なくとも電解質や腎機能をチェックして脱水がないことを確認するべきであっと思います。ただし、今回の施設は脳神経外科単科病院であり、緊急で血液検査を行うには外注に出すしかなかったため、入院時に血液生化学検査をスクリーニングしたり、容態がおかしい時にすぐに検査をすることができなかったという不利な点もありました。とはいうものの、救急指定を受けた病院である以上、当然施行するべき診察・検査を怠ったと認定されてもやむを得ない事例であったと思います。本件から得られる重要な教訓は、「救急外来で意識障害と40℃を超える発熱をみた場合には、熱射病も鑑別診断の一つにおき、頭部CTや血液一般生化学検査を行う」という、基本的事項の再確認だと思います。救急医療

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肺炎・気管支喘息で入院した乳児が低酸素血症となって死亡したケース

小児科最終判決判例時報 1761号107-114頁概要2日前からの高熱、呼吸困難を主訴として近医から紹介された2歳7ヵ月の男児。肺炎および気管支喘息の診断で午前中に小児科入院となった。入院時の医師はネブライザー、輸液、抗菌薬、気管支拡張薬、ステロイドなどの指示を出し、入院後は診察することなく定時に帰宅した。ところが、夜間も呼吸状態は改善せず、翌日早朝に呼吸停止状態で発見された。当直医らによってただちに救急蘇生が行われ、気管支内視鏡で気管分岐部に貯留した鼻くそ様の粘調痰をとりのぞいたが低酸素脳症に陥り、9ヵ月後に死亡した。詳細な経過患者情報気管支喘息やアトピーなどアレルギー性疾患の既往のない2歳7ヵ月男児。4歳年上の姉には気管支喘息の既往歴があった経過1995年1月24日38℃の発熱。1月25日発熱は40℃となり、喘鳴も出現したため近医小児科受診して投薬を受ける。1月26日早朝から息苦しさを訴えたため救急車で近医へ搬送。四肢末梢と顔面にチアノーゼを認め、β刺激薬プロカテロール(商品名:メプチン)の吸入を受けたのち総合病院小児科に転送。10:10総合病院(小児科常勤医師4名)に入院時にはチアノーゼ消失、咽頭発赤、陥没気味の呼吸、わずかな喘鳴を認めた。胸部X線写真:右肺門部から右下肺野にかけて浸潤影血液検査:脱水症状、CRP 14.7、喉にブドウ球菌の付着以上の所見から、咽頭炎、肺炎、気管支喘息と診断し、輸液(150mL/hr)、解熱薬アセトアミノフェン(同:アンヒバ坐薬)、メフェナム(同:ポンタールシロップ)、抗菌薬フルモキセフ(同:フルマリン)、アミノフィリン静注、ネブライザーメプチン®、気道分泌促進薬ブロムヘキシン(同:ビソルボン)、内服テレブタリン(同:ブリカニール)、アンブロキソール(同:ムコソルバン)、クロルフェニラミンマレイン(同:ポララミン)を指示した(容態急変まで血液ガス、経皮酸素飽和度は1回も測定せず)。10:30体温39.5℃、陥没気味の呼吸(40回/分)、喘鳴あり。11:15喘鳴強く呼吸苦あり、ステロイドのヒドロコルチゾン(同:サクシゾン)100mg静注。14:00体温36.7℃、肩呼吸(50回/分)、喘鳴あり。16:30担当医師は看護師から「喉頭部から喘鳴が聞こえる」という上申を受けたが、患児を診察することなく17:00に帰宅。19:30喉頭部の喘鳴と肩呼吸(50回/分)、夕食を飲み込めず吐き出し、内服薬も服用できず、吸入も嫌がってできない。22:00体温38.3℃、アンヒバ®坐薬使用。1月17日02:20体温38.1℃、陥没気味の呼吸(52回/分)、喘鳴あり。サクシゾン®100mg静注。06:30体温37.1℃、陥没気味の呼吸、咳あり。07:20ネブライザー吸入を行おうとしたが嫌がり、機器を手ではねつけた直後に全身チアノーゼが出現。07:30患児を処置室に移動し、ただちに酸素吸入を行う。07:40呼吸停止。07:55小児科医師が到着し気管内挿管を試みたが、喉頭部がみえにくくなかなか挿管できず。マスクによる換気を行いつつ麻酔科医師を応援を要請。08:10ようやく気管内挿管完了(呼吸停止後30分)、この時喉頭部には異常を認めなかった。ただちにICUに移動して集中治療が行われたが、低酸素脳症による四肢麻痺、重度意識障害となる。10:00気管支鏡で観察したところ、気管および気管支には粘稠な痰があり、とくに気管分岐部には鼻くそ様の固まりがみられた。10月26日約9ヵ月後に低酸素脳症により死亡。当事者の主張患者側(原告)の主張肺炎、気管支喘息と診断して入院し各種治療が始まった後も、頻呼吸、肩呼吸、陥没呼吸、体動、喘鳴がみられ呼吸障害は増強していたのだから、気管支喘息治療のガイドラインに沿ってイソプレテレノールの持続吸入を追加したり気管内挿管の準備をするべきであったのに、入院時の担当医師は入院後一度も病室を訪れることなく、午後5:00過ぎに帰宅して適切な指示を出さなかった。夜間帯の当直医師、看護師も、適切な病状観察、病態把握、適切な治療を怠ったため、呼吸不全に陥った。病院側(被告)の主張小児科病棟は主治医制ではなく3名の小児科医による輪番制がとられ、入院時の担当医師は肺炎、気管支喘息の患者に対し適切な治療を行って、起坐呼吸やチアノーゼ、呼吸音の減弱や意識障害もないことを確認し、同日の病棟担当医であった医師へきちんと申し送りをして帰宅した。その後も呼吸不全を予測させるような徴候はなかったので、入院翌日の午前7:00過ぎに突発的に呼吸不全に陥ったのはやむを得ない病態であった。裁判所の判断入院時の担当医師は、肺炎、気管支喘息の診断を下してそれに沿った注射・投薬の指示を出しているので、ほかの小児科医師に比べて格段の差をもって病態の把握をしていたことになる。そのため、小児科病棟では主治医制をとらず輪番制であったことを考慮しても、患者の治療について第一に責任を負うものであり、少なくとも夜間の当直医とのあいだで綿密な打ち合わせを行い、午後5:00に帰宅後も治療に遺漏がないようにしておくべきであった。ところが、入院後一度も病室を訪れず、経皮酸素飽和度を測定することもなく、ガイドラインに沿った治療のグレードアップや呼吸停止に至る前の気管内挿管の機会を逸し、容態急変から死亡に至った。患者側1億545万円の請求に対し6,950万円の判決考察1. 呼吸停止の原因について裁判では呼吸停止の原因として、「肺炎や気管支喘息に起因する気道閉塞によって、肺におけるガス交換が不十分となり呼吸不全に陥った」と判断しています。そのため、小児気管支喘息のガイドラインを引用して、「イソプロテレノールの持続吸入をしなかったのはけしからん、気道確保を準備しなかったのは過失だ」という判断へとつながりました。ところが経過をよくみると、容態急変後の気管支鏡検査で「気管および気管支には粘稠な痰があり、とくに気管分岐部には鼻くそ様の固まりがみられた」ため、気管支喘息の重積発作というよりも、粘調痰による気道閉塞がもっとも疑われます。しかも、当直医が気管内挿管に手間取り、麻酔科医をコールして何とか気管内挿管できたのは呼吸停止から30分も経過してからでした。要するに、痰がつまった状態を放置して気道確保が遅れたことが致命的になったのではないかと思われます。裁判ではなぜかこの点を重視しておらず、定時の勤務が終了し午後5:00過ぎに帰宅していた入院時の担当医師が(帰宅後も)適切な指示を出さなかった点をことさら問題としました。2. 主治医制をとるべきか当時この病院では部長医師を含む小児科医4名が常駐し、夜間・休日の当直は部長以外の医師3名で輪番制をとっていたということです。昨今の情勢を考えると、小児医療を取り巻く状況は大変厳しいために、おそらく4名の小児科医でもてんてこ舞いの状況ではなかったかと推測されます。入院時の担当医師は、肺炎、気管支喘息と診断した乳児に対し、血管確保のうえで輸液、抗菌薬、アミノフィリン持続点滴を行い、ネブライザー、各種内服を指示するなど、中~大発作を想定した気管支喘息に対する処置は行っています。それでも呼吸状態が安定しなかったので、ステロイドのワンショット静注を2回くり返しました。通常であれば、その後は回復に向かうはずなのですが、今回の患児は内服薬を嫌がってこぼしたり、ネブライザーの吸入をさせようとしてもうまくできなかったりなど、医師が想定した治療計画の一部は実施されませんでした。そして、当直帯は輪番制をとっていることもあって、入院時にきちんとした指示さえ出しておけば、後は当番の病棟担当医がみてくれるはずだ、という認識であったと思われます。そのため、11:00過ぎの入院から17:00過ぎに帰宅するまで6時間もありながら(当然その間は外来業務を行っていたと思いますが)一度も病室に赴くことなく、看護師から簡単な報告を受けただけで帰宅し、自分の目で治療効果を確かめなかったことになります。もし、帰宅前に患者を診察し、呼吸音を聴診したり経皮酸素飽和度を測るなどの配慮をしていれば、「予想以上に粘調痰がたまっているので危ないぞ」という考えに至ったのかも知れません。ところが、本件では血液ガス検査は行われず、急性呼吸不全の徴候を早期に捉えることができませんでした。そして、裁判でも、「入院時の担当医師はほかの小児科医師に比べて格段の差をもって病態の把握をしていたため、小児科病棟では主治医制をとらず輪番制であったことを考慮しても、患者の治療について第一に責任を負うものであり、少なくとも夜間の当直医とのあいだで綿密な打ち合わせを行い、午後5:00に帰宅後も治療に遺漏がないようにしておくべきであった」という、耳が痛くなるような判決が下りました。ここで問題となるのが、主治医制をとるべきかどうかという点です。今回の総合病院のように、医師個人への負担が大きくならないようにグループで患者をみる施設もありますが、その弊害としてもっとも厄介なのが無責任体制に陥りやすいということです。本件でも、裁判では問題視されなかった輪番の小児科当直医師が容態急変前に患者をみるべきであったのに、申し送りが不十分なこともあってほとんど関心を示さず、いよいよ呼吸停止となってからあわてて駆けつけました。つまり、入院時の担当医師は「5:00以降はやっと業務から解放されるので早く帰宅しよう」と考えていたでしょうし、当直医師は「容態急変するかも知れないなんて一切聞いてない。入院時の医師は何を考えているんだ」と、まるで責任のなすりつけのような状況ではなかったかと思われます。そのことで損をするのは患者に他なりませんから、輪番制をとるにしても主治医を明確にしておくことが望まれます。ましてや、「輪番制であったことを考慮しても、(入院指示を出した医師が)患者の治療について第一に責任を負う」という厳しい判決がおりていますので、間接的ではありますが裁判所から「主治医制をとるべきである」という見解が示されたと同じではないかと思います。小児科

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イプラグリフロジンの適正使用への想い

 2014年4月17日、2型糖尿病治療薬のイプラグリフロジン(商品名:スーグラ錠25mg、同50mg)が発売された。イプラグリフロジンは日本初の選択的SGLT2阻害薬であり、糖尿病診療医からの注目も高い。そこで今回、アステラス製薬株式会社 本社担当者に話を聞いた。【イプラグリフロジンへの期待-低血糖リスク軽減と体重管理-】 2型糖尿病の治療は血糖管理を取り巻く諸問題に悩まされてきた。具体的には低血糖、体重増加などである。2014年、新たに登場した選択的SGLT2阻害薬イプラグリフロジンは、原尿からのグルコース再吸収に関わるSGLT2を選択的に阻害することで、余分なグルコースを尿から排泄させ血糖値を下げる。この作用はインスリン非依存的で、作用機序から低血糖が発現しにくいと考えられている。また、体重低下も期待されている。つまり「低血糖リスクの軽減」「体重コントロール」につながる薬といえる。【高齢者、女性、痩せ型、罹病期間の長い症例は注意】 しかし、新規作用機序の薬ゆえに安全性については慎重な判断が求められる。選択的SGLT2阻害薬全般にいえることだが、特に、浸透圧利尿による脱水、尿路・性器感染症、尿中ケトン体上昇には注意が必要である。この場を借りて、あらためて各項目について注意喚起をしたい。 「脱水」:高齢者、脳卒中リスク症例は避けるべきであり、とくに高齢者は脱水症状に気づきにくいことが考えられる。脱水を予防する為には、適度な水分摂取が必要となる。 「尿路・性器感染症」:日本国内での報告は海外よりも少ないものの、性器感染症はとくに女性で報告が多い。症状としてはかゆみやおりものがあるが、患者さん自ら訴え出るには抵抗感があるだろう。製薬会社提供の指導箋などをご活用いただくことで、患者さんの話しやすい環境作りの手助けになればと考えている。 「尿中ケトン体上昇」:インスリン分泌能が低下している場合、尿中ケトン体が上昇しやすい。インスリン分泌能が少ないと考えられる症例、たとえば、罹病期間が長い人や高用量のSU薬をすでに服用している人は注意が必要となる。 まとめると、高齢者、脳卒中リスク例、女性、痩せている方、罹病期間が長いなどインスリン分泌能が低下している方では注意が必要となる。【イプラグリフロジンの投与を考慮すべき患者像は若く、太った患者】 以上のことを踏まえると、イプラグリフロジンの投与を考慮すべき患者像は若く、太っていて、罹病期間の短い方が望ましいといえる。太っている目安としては、いわゆるBMI 25以上の肥満傾向の患者が挙げられる。また、ベースラインの血糖値が高い方が効果を発揮しやすいとのデータから、投与前のHbA1c値が高い症例、具体的数値としては7.0%以上の場合、効果を発揮しやすいのではないかと考えている。【イプラグリフロジン50mg投与でHbA1c変化量-1.24%】 イプラグリフロジンの血糖降下作用についても補足する。国内第III相試験の結果で、HbA1c変化量がイプラグリフロジン50mg投与でプラセボとの差が-1.24%と報告されており、優れた血糖降下作用が期待される。新薬ではあるが日本の治験データが多く、症例数が多いことが本剤の特徴である。ほかの経口血糖降下薬との併用試験についても二重盲検比較試験で実施した試験が多い。SU薬、BG薬、チアゾリジン薬の併用に関する3試験はいずれも二重盲検比較試験で実施されており、データのクオリティが高い。【イプラグリフロジンは長期的に評価していただきたい】 現在、種々の選択的SGLT2阻害薬が登場し、各社が選択性、生物学的半減期、服薬コンプライアンスなどさまざまなメッセージを打ち出している。しかし、イプラグリフロジンも含め、いずれも臨床での使用はこれからであり、まずは適正使用を推進していきたいと考えている。乱暴な話だが、たとえば、80歳の痩せた女性や脳卒中のリスク症例への投与による予期せぬ副作用などが出てしまうことは新薬として望ましくない。だからこそ、SGLT2阻害薬のメリットが享受できる症例を選んでいただき、適正に判断をしていただけたらと願っている。また、使い方はさまざまだが、新患、既存薬への追加が望ましいと個人的には考えている。切り替えの場合、前薬のメリットがなくなる可能性がある。まずは、前述したような症例像へ、新規や追加といった形での処方を通じて、先生方の眼で「SGLT2阻害薬」という薬を評価いただきたいと考えている。【取材後記】 今回、印象深かったのは、アステラス製薬本社担当者の「イプラグリフロジンの適正使用」を望む真摯な姿勢であった。新薬取材では得てして自社品のPRポイントを中心に語られることが多い。むろん、薬剤情報は重要だ。しかし、それ以上に適正な情報提供こそが製薬会社の責務であろう。安全性の部分へのコメントが多かった点に、命に関わる医薬品を販売する側としての正しい姿勢を感じた。今後、SGLT2 阻害薬の適正使用が進むことを期待している。

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脱水症の診断が遅れて死亡した8ヵ月女児のケース

小児科最終判決判例タイムズ 952号256-265頁概要右眼充血の精査目的で総合病院眼科へ入院した生後8ヵ月の女児。全身麻酔下の眼圧、眼底、隅角検査にて先天性緑内障、ぶどう膜炎と診断された。全身麻酔から覚醒後、発熱、下痢が出現し、感冒性消化不良症の診断で小児科に転科となった。補液、止痢薬投与などが行われたが、3日間にわたって頻回の下痢が継続し、嘔吐もみられるようになった。そして、発症から4日後の深夜に持続点滴が自然抜針し、大泉門陥没、顔色不良、四肢冷汗など脱水症を示唆する症状がみられた。当直医による血管確保が試みられたがうまくいかず、静脈のカットダウンを行おうとした矢先に噴水状の嘔吐、それに続き心肺停止となり、救急蘇生の効果なく死亡確認となった。詳細な経過患者情報生後8ヵ月、体重7,710gの乳児経過1988年11月頃右眼充血に気付き、近医眼科を受診して治療を受けるが改善せず。12月23日某総合病院眼科受診、全身麻酔下の眼圧、眼底、隅角検査などが必要と判断された。12月24日精査目的で眼科に入院。胸部X線写真、心電図では異常なし。12月25日外泊(このとき兄弟がインフルエンザに罹患していた)。12月26日全身麻酔下の精密検査にて、先天性緑内障、ぶどう膜炎と診断。治療については年明けに大学病院へ転医して検討することになった。麻酔から覚醒後、38.9℃の発熱、水様便が3回みられた。12月27日39.5℃、アセトアミノフェン(商品名:アンヒバ)坐薬投与。小児科に依頼するとともに退院を延期。小児科担当医の診察では、咽頭発赤、皮膚の緊満度がやや減少、血液検査でNa 135、BUN 7、Ht 35.6%、Hb 11.1であり、発熱、下痢が続いていたことから感冒性消化不良症(インフルエンザ疑い)と診断。水様便が15~17回みられたので止痢薬を投与するとともに、20mL/hrで輸液を開始。12月28日38.7℃、解熱薬メフェナム(同:ポンタール)シロップを適宜内服。1時間に2回くらいの水様便、さらに嘔吐もみられるようになる。12月29日病院は年末年始体制へ移行。小児科担当医は当直明けの午前中に診察し、咽頭発赤、下痢、やや粗い呼吸音が聴取されたが、皮膚の緊満度には問題はないと判断し帰宅した。この日も1時間に1回くらい黄色泥状便がみられた。12月29日23:0036.0℃、脈拍142、呼吸数40回、ぐずつきが続き、活気がなく衰弱が激しいと母親は看護師に訴えた。小児科担当医に電話連絡を取ったところ、眼科領域の問題ではないかと考えて眼科医へ連絡するように指示。連絡を受けた眼科医は3日前の検査で眼科的な疾病が原因で衰弱することはないと認識していたため、鎮静薬ジアゼパム(同:セルシン)シロップの投与を指示。12月30日00:00セルシン®シロップ0.7mg哺乳瓶に入れて投与。01:40ようやく入眠。この時看護師は眼窩部のへこみを確認(担当医に上申せず)。03:00母親が抱っこしようとした時に右足に入れていた点滴がぬけていることに気付く。看護師が駆けつけると点滴はシーネごと外れており、足に巻かれた包帯はかなり濡れていた。患児は元気なくぐったりしていて、顔色不良、四肢の冷感が強く、大泉門陥没が認められた。輸液の再開のため四肢を暖め、電気あんかを入れ保温に努めた(深夜ということもありすぐに小児科担当医へは上申せず)。04:10母親が心配したため看護師は内科系の当直に診察を依頼(この日小児科当直は不在)。04:20内科系当直により末梢からの血管確保が試みられたが不成功。06:00再度内科系当直医が末梢血管から点滴を試みたが失敗したため、小児科担当医に連絡。06:45小児科担当医が駆けつけ、経皮的静脈穿刺を試みたが失敗。患児は次第に元気がなくなり、ぐったりしてきた。07:30末梢からの血管確保ができないので静脈のカットダウンが必要と判断し、外科系当直医と産婦人科当直医に応援依頼。この時患児の脈拍は弱くなり、循環不全の症状が出現。07:50応援医師が到着。静脈カットダウンの準備をしている時に患児の呼吸が微弱となったため酸素投与開始。ところがまもなく噴水状の嘔吐を来たし、これを吸い込んで呼吸停止。ただちに吸引して吐物を除去。08:30心停止。気管内挿管、鎖骨下静脈穿刺、心腔内アドレナリン(同:ボスミン)投与などの救急蘇生を行ったが、効果はみられず。09:25死亡確認。病理解剖の同意は得られなかった。当事者の主張患者側(原告)の主張1.小児科担当医は脱水症状を疑うべきであったのに、頻繁に診察することを怠り、血液検査は小児科初診時のみで、かつ体重測定を怠った結果、脱水症の悪化を見落としたため死亡した2.点滴が自然抜針したのであればただちに血管確保するべきであったのに、看護師が担当医師への報告したのはかなり時間が経過してからであり、さらに何度も経皮的静脈穿刺に失敗したのであればただちにカットダウンを行うべきであった病院側(被告)の主張1.死亡するまでの水分補給は十分であり、死亡直前まで脱水症を疑う臨床症状はなかった。点滴が自然抜針してから約5時間半輸液は行われなかったが、それまでの水分補給量に照らすと脱水症によって死亡することはあり得ない2.死亡したのはインフルエンザからライ症候群となったことが原因である裁判所の判断頻回の下痢による水分喪失に対し、死亡前の輸液量、経口水分摂取量、大泉門の陥没、眼窩のくぼみ、四肢冷汗、顔色不良などの所見を総合すると、中等症の脱水症があったと考えられる。それに対し医師および看護師らは脱水症に陥り得ることを予測するべきであったのに、体重測定、血液検査などの十分な観察を怠り、点滴注射が抜針したあとも輸液路の確保を怠ったため、循環不全を起こして死亡した。病院側が主張するライ症候群については、経過中にけいれんがみられなかったこと、脳圧亢進を示す大泉門膨隆とは逆の大泉門陥没が認められたことを考えると採用できない。原告側合計3,390万円の請求に対し、3,190万円の判決考察本件では小児科担当医、内科当直医、眼科医師、小児科看護師などの複数のスタッフが関与していながら、事の重大さを認識することができずに、本来であれば死亡するとは考えにくい乳児が最悪の転帰となってしまいました。もちろん病院側の事情、たとえば容態が急変した時間帯がたまたま年末年始の当直体制とかさなっていたこと、小児科担当医が卒後2年目の研修医であったこと、点滴が抜けたのが深夜であり当直明けの小児科医を呼び出すのがためらわれたこと、直ぐに静脈のカットダウンを行うほど切迫した状況とは思えなかったことなどを考えると、同情すべき点が多々あることも事実です。とはいうものの、以下の点については重要な教訓として今後の参考にしたいと思います。1. 各担当医の認識不足まず、本件の場合には全身麻酔後に出現した発熱、下痢ということで、小児科担当医は「単なる感冒で点滴でもすればいずれ落ち着くだろう」という程度の認識であり、ご両親の主張にもある通り頻繁に患児のもとに診察に訪れなかったと思われます。そして、点滴自然抜針の約4時間前(この時患児を診察していれば脱水症状に気付いていたはず)の23:00に、「呼吸数40回、ぐずつきが続き、活気がなく衰弱が激しい」という看護師の上申を自宅で受けた時も、「きっと眼科的問題によるものだろう」と判断して眼科医の判断を仰ぎました。その根拠としては、約12時間前の診察でとくに異常はみられなかったことが頭にあったのだと思います。この時点で(たとえ当直明けであっても)面倒くさがらずに病院まで赴き患者を診察するか、あるいは内科の当直医師に診察を依頼するなどの対策を講じていれば、最悪の結果を回避できた可能性があったと思います。ところが眼科医にボールを投げてしまったために(眼科医も眼科的には問題ないと確信していたために)、脱水状態にある患児にセルシン®投与を指示し、さらに状態を悪化させたのではないかと思います。この眼科医にしても、頻回の下痢や嘔吐を十分に把握しないままセルシン®を投与したのですから、認識不足は否めないと思います。また、今回の小児科担当医師を監督する立場にある小児科部長医師も、卒後2年目の研修医に適切な指示を与えなかった点において由々しき問題があったと思います(小児科医師同士のコミュニケーション不足も潜在していたのでしょうか)。そして、看護師が点滴再挿入を内科当直医に依頼したのは点滴自然抜針に気付いてから1時間以上経過してからであり(それも母親に催促された)、依頼を受けた内科当直医にしても、当初はおそらく「自分の役割は点滴を入れることだけだ」という程度の認識であり、その当時の患児を注意深く観察せずに眼窩のくぼみ、大泉門陥没などの脱水症状に気付きませんでした。そして、何度も針を刺したもののうまくいかず、いよいよあきらめたのが1時間40分も経ってからでした。このように、本件を担当した病院スタッフはみな脱水症の危険性を念頭におかないばかりか、責任もって観察するという姿勢に欠けていたと思われます。2. 頻回の下痢、嘔吐が続いていながら体重測定や血液検査を怠ったこと。本件は体重わずか7,710gの乳児でした。しかも発症してから3日間はひどい時で1時間に2回という頻回の下痢がみられていましたので、当然脱水症に陥らないように配慮しなければならない状況でした。ところが、血液検査を行ったのは小児科初診時の1回きりであり、以後死亡するまでの3日間は電解質のチェックすら行っていませんし、たいして手間のかからない体重測定も指示しませんでした。しかも頻回の下痢に加えて嘔吐まで出現したのですから、現行の輸液(最初から輸液量20mL/hrで変更なし)でよいのか見直すのはむしろ当然ではなかったかと思います。3. 病理解剖の重要性感冒による発熱、下痢、嘔吐で入院治療中の8ヵ月乳児が4日後に急死したとあれば、病院側のミスを疑うのがむしろ当然ではないかと思います。裁判では「ライ症候群」の可能性、つまり死亡したのは不可抗力であったと主張しましたが、血液検査が行われたのは小児科入院時の1回きりであり、しかも急性脳症を疑う所見は嘔吐だけで脳圧亢進症状(大泉門膨隆)やけいれん発作もなく、臨床上はライ症候群とするには無理があったと思います。もちろん経過中にご家族へはライ症候群という説明はありませんでしたし、判決でもライ症候群の主張は一蹴されました。やはりこのような時、つまり死因が特定できず病院側の不備を指摘されかねない状況では、是が非でも病理解剖を行うべきであったと思います。今回のケースではご遺族の同意が得られず病理解剖ができなかったということですが、はっきりと死因が特定できない場合には少々ためらわれても異状死体として「行政解剖」の手続きをとり、医学的な裏付けをとっておかないと正当性を主張するチャンスを失うことになると思います。今回のようなケースは、日常の診療でも遭遇する機会が多いのではないかと思います。このコーナーをご覧頂いている先生方の多くは診療に対する問題意識が高いと思いますので、もし本件を担当していれば発熱、下痢、嘔吐などの症状から脱水症を早期に発見し、適切な対応を行うことができたのではないかと思います。そうはいっても、本件のようにさまざまな要因が重なって適切な診断へのプロセスが妨げられることもあり得ますので、まずは先入観にとらわれることなく基本的な診察(本件では脱水症の所見を確認すること)をきちんと行うとともに、主治医となって担当する患者さんには可能な限りのコミットメントを行うことが肝心だと痛感しました。小児科

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非小細胞肺がんに有望な新規ALK阻害薬/NEJM

 未分化リンパ腫キナーゼ遺伝子(ALK)再構成を有する非小細胞肺がん(NSCLC)に対し、新しいALK阻害薬であるセリチニブは有望である可能性が示された。米国・マサチューセッツ総合病院のAlice T. Shaw氏らが、ALK阻害薬クリゾチニブ投与中に増悪した例を含む進行ALK再構成NSCLC患者を対象とした第I相臨床試験の結果、ALK耐性変異の有無にかかわらず高い活性が示された。ALK再構成NSCLCは、クリゾチニブに感受性を示すが、大多数の患者において耐性が生じる。セリチニブは、クリゾチニブよりも強い抗腫瘍効果を示すことが前臨床試験で示され、新たなALK阻害薬として期待されている。NEJM誌2014年3月27日号掲載の報告より。ALKに遺伝子変化を有する進行がん患者を対象に検討 試験は、ALKに遺伝子変化を有する進行がん患者を対象に、セリチニブ50~750mgを1日1回経口投与して行われた。試験の拡大期には、最大耐用量が投与された。 患者のセリチニブに対する安全性、薬物動態特性、抗腫瘍活性について評価した。なお、クリゾチニブの投与中に増悪したNSCLC患者群において、ALKの耐性変異の有無を調べるため、セリチニブ投与前に腫瘍生検を行った。 2012年10月19日時点で、合計130例の患者が治療を受けた。59例が用量漸増期に登録され、71例は拡大期の登録であった。 被験者130例の年齢は中央値53歳、ECOGスコア1の被験者が68%、NSCLC患者は94%であった。セリチニブ1日400mg以上NSCLC、全奏効率58%、無増悪生存期間中央値7.0ヵ月 セリチニブの最大耐用量1日1回750mgの投与下において、用量制限毒性イベントとして、下痢、嘔吐、脱水症状、アミノトランスフェラーゼ値の上昇、低リン酸血症などが認められた。 NSCLC患者においてセリチニブ1日400mg以上を投与された114例の全奏効率は58%(95%信頼区間[CI]:48~67)だった。同患者の無増悪生存期間中央値は7.0ヵ月(同:5.6~9.5)であった。 また、クリゾチニブ投与歴があった80例の奏効率は56%(同:45~67)であった。奏効は、ALKにさまざまな耐性変異がある患者および変異が検出されなかった患者においても認められた。同患者の無増悪生存期間中央値は6.9ヵ月(同:5.3~8.8)であった。クリゾチニブ投与歴がなかった34例では、無増悪生存期間中央値は10.4ヵ月(同:4.6~算出不可)であった。

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急性心筋炎を上気道炎・胃潰瘍と誤診して手遅れとなったケース

循環器最終判決平成15年4月28日 徳島地方裁判所 判決概要高血圧症で通院治療中の66歳女性。感冒症状を主訴として当該病院を受診し、急性上気道炎の診断で投薬治療を行ったが、咳・痰などの症状が持続した。初診から約2週間後に撮影した胸部X線写真には異常はみられなかったが、咳・痰の増悪に加えて悪心、食欲不振など消化器症状が出現したため、肺炎を疑って入院とした。ところが、次第に発汗が多く血圧低下傾向となり、脱水を念頭においた治療を行ったが、入院4日後に容態が急変して死亡した。詳細な経過患者情報本態性高血圧症の診断で降圧薬マニジピンなどを内服していた66歳女性経過平成9年2月19日感冒症状を主訴として来院し、急性上気道炎と診断して感冒薬を処方。その後も数回通院して投薬治療を続けたが、咳・痰などの感冒症状は持続した。3月4日胸部X線撮影では浸潤陰影など肺炎を疑う所見なし。3月6日血圧158/86mmHg、脈拍109/min。発熱はないが咳・痰が増悪し、悪心(嘔気)、食欲不振、呼吸困難などがみられ、肺全体に湿性ラ音を聴取。上腹部に筋性防御を伴わない圧痛がみられた。急性上気道炎が増悪して急性肺炎を発症した疑いがあると診断。さらに食欲不振、上腹部圧痛、嘔気などの消化器症状はストレス性胃潰瘍を疑い、脱水症状もあると判断して入院とした。気管支拡張薬のアミノフィリン(商品名:ネオフィリン)、抗菌薬ミノサイクリン(同:ミノペン)、抗菌薬フロモキセフナトリウム(同:フルマリン)、胃酸分泌抑制剤ファモチジン(同:ガスター)などの点滴静注を3日間継続した。この時点でも高熱はないが、悪心(嘔気)、食欲不振、腹部圧痛などの症状が持続し、点滴を受けるたびに強い不快感を訴えていた。3月7日血圧120/55mmHg。3月8日血圧89/58mmHg、胸部の聴診では湿性ラ音は減弱し、心音の異常は聴取されなかった。3月9日血圧86/62mmHgと低下傾向、脈拍(100前後)、悪心(嘔気)が激しく発汗も多くなった。血圧低下は脱水症状によるものと考え、輸液をさらに追加。胸部の聴診では肺の湿性ラ音は消失していた。3月10日06:00血圧80/56mmHg、顔色が悪く全身倦怠感、脱力感を訴えていた。09:30点滴投与を受けた際に激しい悪心が出現し、血圧測定不能、容態が急速に悪化したため、緊急処置を行う。13:30集中治療の効果なく死亡確認。担当医師は死因を心不全によるものと診断、その原因について確定診断はできなかったものの、死亡診断書には急性心筋梗塞と記載した。なお死亡前の血液検査では、aST、aLT、LDHの軽度上昇が認められたが、CRPはいずれも陰性で、腎不全を示す所見も認められなかった。当事者の主張患者側(原告)の主張通院時の過失マニジピン(降圧薬)の副作用として、呼吸器系に対して咳・喘息・息切れを招来し、心不全をもたらすおそれがあるため、長期投与の場合には心電図検査などの心機能検査を定期的に行い、慎重な経過観察を実施する必要があるとされているのに、マニジピンの投与を漫然と継続し、高血圧症の患者には慎重投与を要するプレドニゾロンを上気道炎に対する消炎鎮痛目的で漫然と併用投与した結果、心疾患を悪化させた入院時の過失3月6日入院時に、通院中にはなかった呼吸困難、悪心(嘔気)、食欲不振、頻脈、肺全体の湿性ラ音が聴取されたので、心筋炎などの心疾患を念頭におき、ただちに心電図検査、胸部X線撮影、心臓超音波検査を実施すべき義務があった。さらに入院2日前、3月4日の胸部X線撮影で肺炎の所見がないにもかかわらず、入院時の症状を肺炎と誤診した入院中の過失入院後も悪心(嘔気)、頻脈が持続し、もともと高血圧症なのに3月8日には89/58mmHgと異常に低下していたので、ただちに心疾患を疑い、心電図検査などの心機能検査を行うなどして原因を究明すべき義務があったが、漫然と肺炎の治療をくり返したばかりか、心臓に負担をかけるネオフィリン®を投与して病状を悪化させた死亡原因についてウイルス性上気道炎から急性心筋炎に罹患し、これが原因となって心原性ショックに陥り死亡した。入院時および入院中血圧の低下がみられた時点で心電図検査など心機能検査を実施していれば、心筋炎ないし心不全の状態にあったことが判明し、救命できた可能性が高い病院側(被告)の主張通院期間中の過失の不存在通院期間中に投与した薬剤は禁忌ではなく、慎重投与を要するものでもなかったので、投薬について不適切な点はない入院時の過失の不存在3月6日入院時にみられた症状は、咳・痰、発熱、呼吸困難などの感冒症状および腹部圧痛などの消化器症状のみであり、また、肺の湿性ラ音は肺疾患の特徴である。したがって、急性上気道炎が増悪して急性肺炎に罹患した疑いがあると診断したことに不適切な点はない。また、心筋炎など心疾患を疑わせる明確な症状はなかったので、心電図検査などの心機能検査を実施しなかったのは不適切ではない入院中の過失の不存在入院後も心筋炎など心疾患を疑わせる明確な所見はなく、総合的に判断してもっとも蓋然性の高い急性肺炎および消化器疾患を疑い、治療の効果が現れるまで継続したので不適切な点があったとはいえない死因について胃酸や胆汁の誤嚥により急速な血圧低下が生じた可能性がある。入院中、胸痛、心筋逸脱酵素の上昇、腎機能障害など心疾患を疑わせる明確な所見もみられなかったので、急性心筋炎などの心疾患であるとの確定的な診断は不可能である。死因が心筋炎によるものであると確定的に診断できないのであるから、心筋炎に対する診療を実施したとしても救命できたかどうかはわからない裁判所の判断本件では入院後に胸部X線撮影や心電図検査などが行われていないため、死因を確定することはできないが、その臨床経過からみてウイルス性の急性上気道炎から急性心筋炎に罹患し、心タンポナーデを併発して、心原性ショック状態に陥り死亡した蓋然性が高い。診療経過を振り返ると、2月中旬より咳・痰などの急性上気道炎の症状が出現し、投薬などの治療を受けていたものの次第に悪化、3月6日には肺に湿性ラ音が聴取され呼吸困難もみられたので、急性肺炎の発症を疑って入院治療を勧めたこと自体は不適切ではない。しかし入院後は、肺炎のみでは合理的な説明のできない症状や肺炎にほかの疾病が合併していた可能性を疑わせる症状が多数出現していたため、肺炎の治療を開始するに当たって、再度胸部X線撮影などを実施して肺炎の有無を確認するとともに、ほかの合併症の有無を検索する義務があった。しかし担当医師は急性肺炎などによるものと軽信し、胸部X線撮影を実施するなどして肺炎の確定診断を下すことなく、漫然と肺炎に対する投薬(点滴)治療を開始したのは明らかな過失である。さらに入院後、3月8日に著明な低血圧が進行した時点で心筋炎による心不全の発症を疑い、ただちに胸部X線撮影、心電図検査、心臓超音波検査などを実施するとともに、カテコラミンを投与するなどして血圧低下の進行を防ぐ義務があったにもかかわらず、漫然と肺炎に対する点滴治療を継続したのは明らかな過失である。そして、血圧低下の原因は、心筋炎から心タンポナーデを併発しショック状態が進行した可能性が高い。心タンポナーデは心嚢貯留液を除去することにより解消できるから、心電図検査などの諸検査を実施したうえで心タンポナーデに対し適切な治療行為を実施していれば救命できただろう。たとえ心タンポナーデによるものでなかったとしても、血圧低下やショックの進行は比較的緩徐であったことから、ただちに血圧低下の進行を防ぐ治療を実施したうえでICUなどの設備のある中核病院に転送させ、適切な治療を受ける機会を与えていれば、救命できた可能性が高い。原告側合計5,555万円の請求に対し、4,374万円の支払い命令考察今回のケースは、診断が非常に難しかったとは思いますが、最初から最後まで急性心筋炎のことを念頭に置かずに、「風邪をこじらせただけだろう」という思いこみが背景にあったため、救命することができませんでした。急性心筋炎の症例は、はじめは風邪と類似した病態、あるいは消化器症状を主訴として来院することがあるため、普段の診療でも遭遇するチャンスが多いと思います。しかも急性心筋炎のなかには、ごく短時間に劇症化しCCU管理が必要なこともありますので、細心の注意が必要です。本件でもすべての情報が出揃ったあとで死亡原因を考察すれば、たしかに急性心筋炎やそれに引き続いて発症した心タンポナーデであろうと推測することができると思います。しかし、今までに急性心筋炎を経験したことがなければ、そして、循環器専門医に気軽に相談できる診療環境でなければ、当時の少ない情報から的確に急性心筋炎を診断し(あるいは急性心筋炎かも知れないと心配し)、設備の整った施設へ転院させようという意思決定には至らなかった可能性が高いと思います。もう一度経過を整理すると、ICUをもたない小規模の病院に、高血圧で通院していた66歳女性が咳、痰を主訴として再診し、上気道炎の診断で投薬治療が行われました。ところが、約2週間通院しても咳、痰は改善しないばかりか、食欲不振、悪心などの消化器症状も加わったため、「肺炎、胃潰瘍」などの診断で入院措置がとられました。入院2日前の胸部X線撮影では明らかな肺炎像はなかったものの、咳、痰に加えて湿性ラ音が聴取されたとすれば、呼吸器疾患を疑って診断・治療を進めるのが一般的でしょう。ところが、入院後に抗菌薬などの点滴をすると「強い不快感」が出現するというエピソードをくり返し、もともと高血圧症の患者でありながら入院2日後には血圧が80台へと低下しました。このとき、入院時に認められていた湿性ラ音が消失していたため、担当医師は抗菌薬の効果が出てきたと判断、血圧低下は脱水によるものだろうと考えて、輸液を増やす指示を出しました。しかしこの時点ですでに心タンポナーデが進行していて、脱水という不適切な判断により投与された点滴が、病態をさらに悪化させたことになります。心タンポナーデでは、心膜内に浸出液が貯留して静脈血の心臓への環流が妨げられるため、心拍量が低下して低血圧が生じるほか、消化管のうっ血が強く生じるため嘔気などの消化器症状がみられます。さらに肺への血流が減少して肺うっ血が減少し、湿性ラ音が聴取されなくなることも少なくありません。このような逆説的ともいえる病態をまったく考えなかったことが、血圧低下=脱水=補液の追加という判断につながり、病態の悪化に拍車をかけたと思われます。なお本件では、肺炎と診断しておきながら胸部X線写真を経時的に施行しなかったり、血圧低下がみられても心電図すら取らなかったりなど、入院患者に対する対応としては不十分でした。やはりその背景には、「風邪をこじらせた患者」だから、「抗菌薬さえ投与しておけば安心だろう」という油断があったことは否めないと思います。普段の臨床でも、たとえば入院中の患者に一時的な血圧低下がみられた場合、「脱水」を念頭において補液の追加を指示したり、あるいはプラスマネートカッターのようなアルブミン製剤を投与して経過をみるということはしばしばあると思います。実際に、手術後の患者や外傷後のhypovolemic shockが心配されるケースでは、このような点滴で血圧は回復することがありますが、脱水であろうと推測する前に、本件のようなケースがあることを念頭において、けっして輸液過剰とならないような配慮が望まれます。循環器

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