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小児の胃腸炎は医療現場で見かけることの多い疾患の1つです。下痢や嘔吐を伴うことが多いため、注意すべきはなんといっても脱水症状でしょう。小児では、体液量のバランスが脱水で崩れやすいので、電解質を補うために早期から経口補水液などを取ることが大切です。そこで、今回は軽度の胃腸炎がある小児に対して、電解質維持用の経口補水液または薄めたりんごジュースを与えた際の治療成功率を検討した以下の単盲検ランダム化比較試験を紹介します。補水液の味を嫌がる小児も多いので、このような研究を知っておくと役に立つかもしれません。Freedman SB, et al. JAMA. 2016;315:1966-1974.研究はカナダのトロントにある3次小児救急病院の単施設で、2010~15年に行われました。同病院は年間5万5,000例もの小児ケアを行っており、うち約3,000例が胃腸炎です。対象となりうる小児は、トリアージの後、看護師によって脱水の評価を受けて研究に組み入れられています。組み入れられたのは、生後6~60ヵ月で次の条件のうち3つ以上を満たす小児でした。1.過去24時間以内に3回以上の嘔吐または下痢がある2.症状発現から 96時間未満3.体重8 kg以上4.最低レベルの脱水(脱水レベルは4項目からなる計8段階のスコアで評価)平均28.3ヵ月の小児647例がコンピューターでランダム化され、りんごジュース群(323例)と経口補水液群(324例)に割り当てられました。各群のベースラインは類似しており、比較としては良さそうです。りんごジュース群では、カナダでポピュラーなFairleeというブランドの果汁100%りんごジュースを2倍に薄め、経口補水群と同じ中身の見えないボトルに入れたとあります。なお、研究資金調達にりんごジュースメーカーの関与はなく、著者らの利益相反はないと書かれています。経口補水液群には、電解質を保つために塩と砂糖を混ぜ、りんごジュースの色、フレーバー、甘味を付けた補水液が与えられました。介入効果の相違を知るうえで味の違いも一要素となるため、厳密な味のマッチングは行われてはいません。また、すべての患児は退院後に家でも同じ介入を継続できるように、割り当てられたドリンクを2L与えられました。参考として、子供は下痢のエピソードごとに10mL/kg、嘔吐のエピソードごとに2mL/kgを与えるのがよいという案内がなされています。プライマリアウトカムとして、登録から7日以内の治療失敗が設定され、それは以下のいずれかの項目から定義される複合アウトカムとして評価されました。1.入院または点滴による補水が必要になった2.嘔吐や下痢があり、緊急の受診やケアを要した3.長期にわたる症状4.割り当てられた介入とは異なる介入とクロスオーバーをすべきと医師が判断した5.3%以上の体重減少または脱水スコア5以上アウトカムは、盲検下で看護師が小児の介護者に毎日電話し、24時間無症状であることが確認されるまで聴取を行いました。また、介護者には、受診歴や下痢、嘔吐頻度などの重要な情報を記録する日記が提供され、最終的にりんごジュース群で118例分、経口補水液で86例分が返送されました。2歳以降では薄めたりんごジュースのベネフィットが大きい結果として、 647例(うち男児331例)中644例(99.5%)がフォローアップを完遂しました。治療の失敗率は、りんごジュース群16.7%(323例中54例、95%信頼区間:12.8-21.2)に対し、経口補水液群では25.0%(324例中81例、95%信頼区間:20.4~30.1%)と、有意な差がみられました(p<0.01)。入院率と下痢および嘔吐頻度について、群間で有意差はありませんでした。6ヵ月ごとの月齢の失敗率をみると、24ヵ月未満の小児ではりんごジュース群のベネフィットが小さい傾向にあり、12~24ヵ月ではむしろりんごジュース群の治療失敗率がやや高くなっています。一方、24ヵ月以降ではりんごジュース群のベネフィットが顕著に出ているため、味に慣れが生じ始める2歳以降の小児ではメリットがあることが示唆されています。ちなみに生後6ヵ月未満の小児では、まれではあるもののりんごジュースのようにナトリウム濃度の低い溶液を与えていると水中毒を発症するリスクが高まるため、本試験結果を適用するのは避けたほうが無難でしょう。一見、胃腸炎にりんごジュースが効くかのような印象を持ってしまいそうですが、今回の研究ではりんごジュースで軽度の脱水が良くなるのかが試験されているのであって、胃の痛みの改善や感染を防ぐ効果が検討されているわけではないことに注意が必要です。また、組み入れられた小児は希釈されたりんごジュースを飲み続ける前に、医師の診察を受け、重度の脱水やその他重篤疾患の兆候がないことがあらかじめ確認されていました。したがって、点滴の必要がある、別の慢性消化器疾患にかかっている、激しい嘔吐や出血性の下痢などがある、といった症例では本結果の適用が保証されるものではありません。とはいえ、日本を含む比較的衛生状態の良い国では重度の感染症リスクは低いですから、軽度の脱水がある2~5歳くらいの小児の水分補給として身近で入手できるりんごジュースを薄めて与えるという選択肢を持っておくのはとても有用かと思います。とくに補水液の味を嫌がるお子さんの場合には勧めてもよいのではないでしょうか。Freedman SB, et al. JAMA. 2016;315:1966-1974.