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スタチン+降圧薬のポリピル、アスピリン併用で心血管イベント抑制/NEJM

 心血管疾患がなく、中等度以上の心血管リスクを有する集団において、スタチンと3つの降圧薬の合剤であるポリピル(polypill)とアスピリンの併用療法はプラセボ+プラセボと比較して、心血管イベントの発生率が約3割低いことが、カナダ・マックマスター大学のSalim Yusuf氏らが行ったTIPS-3試験で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2020年11月13日号に掲載された。世界では毎年、心血管疾患による死亡が約1,800万件発生しており、その80%以上を低~中所得国が占めるという。血圧上昇とLDLコレステロール値上昇は、心血管疾患の最も重要な修正可能なリスク因子であり、降圧薬と脂質低下薬を組み合わせたポリピルが有益な可能性が示唆されている。一方、アスピリンは、心血管疾患患者に対する有用性が証明されているが、心血管疾患の1次予防における単独での役割、あるいはポリピルに含まれる1剤としての役割は明らかにされていない。ポリピル単独とアスピリン単独とポリピル+アスピリン併用を比較 本研究は、2×2×2ファクトリアルデザインの二重盲検プラセボ対照無作為化試験であり、9ヵ国(インド、バングラデシュ、フィリピン、マレーシア、インドネシア、コロンビア、カナダ、タンザニア、チュニジア)の86施設が参加し、2012年7月~2017年8月の期間に患者登録が行われた(Wellcome Trustなどの助成による)。 対象は、心血管疾患がなく、INTERHEARTリスクスコア(0~48点、点数が高いほど心血管リスクが高い)で中等度または高リスクの50歳以上の男性および55歳以上の女性であった。被験者は、ポリピル(シンバスタチン40mg、アテノロール100mg、ヒドロクロロチアジド25mg、ramipril 10mgを含有)またはプラセボを毎日、アスピリン75mgまたはプラセボを毎日、ビタミンDまたはプラセボを毎月投与する群に無作為に割り付けられた。 今回は、ポリピル単独とプラセボ、アスピリン単独とプラセボ、ポリピル+アスピリンとダブルプラセボの比較の結果が報告された。 ポリピル単独およびポリピル+アスピリンとそれぞれのプラセボとの比較における主要アウトカムは、主要心血管イベント(心血管死、心筋梗塞、脳卒中、心停止への蘇生術、心不全、動脈血行再建)の複合とした。アスピリンとプラセボの比較における主要アウトカムは、心血管死、心筋梗塞、脳卒中の複合であった。ポリピル+アスピリン併用群の主要アウトカム:4.1% vs.5.8% 5,713例が無作為化の対象となり、平均フォローアップ期間は4.6年であった。参加者はインドが47.9%と最も多く、次いでフィリピンが29.3%であった。ベースラインの平均年齢は63.9歳、52.9%が女性で、高血圧/血圧上昇が83.8%、糖尿病/血糖値上昇が36.7%で認められ、平均収縮期血圧は144.5mmHg、平均心拍数は77.0拍/分、平均LDLコレステロール値は120.7mg/dL(3.1mmol/L)だった。 試験期間中、ポリピル単独とポリピル+アスピリン併用を合わせた群はプラセボ群と比較して、平均収縮期血圧が5.8mmHg低く、平均心拍数が4.6拍/分少なく、平均LDLコレステロール値が19.0mg/dL(0.50mmol/L)低かった。 ポリピル比較の主要アウトカムは、ポリピル群(2,861例)が126例(4.4%)、プラセボ群(2,852例)は157例(5.5%)で発生した(ハザード比[HR]:0.79、95%信頼区間[CI]:0.63~1.00)。また、アスピリン比較の主要アウトカムは、アスピリン群(2,860例)が116例(4.1%)、プラセボ群(2,853例)は134例(4.7%)で発生した(HR:0.86、95%CI:0.67~1.10)。 ポリピル+アスピリン比較の主要アウトカム(初発)は、ポリピル+アスピリン群(1,429例)が59例(4.1%)、ダブルプラセボ群(1,421例)は83例(5.8%)で発生した(HR:0.69、95%CI:0.50~0.97)。初発と再発を合わせた主要アウトカムは、ポリピル+アスピリン群が64例、ダブルプラセボ群は93例で発生した(HR:0.68、95%CI:0.48〜0.96)。 副作用により試験を中止した参加者数は、ポリピル+アスピリン群とダブルプラセボ群で同程度であった(筋肉症状:5例、7例、消化管出血:3例、1例、胃腸症[dyspepsia]:3例、3例、胃炎:19例、22例、消化性潰瘍:3例、3例)。また、低血圧およびめまいの発生率は、ポリピルを投与された群が、それぞれに対応するプラセボ群に比べて高かった。低血圧およびめまいにより試験薬を中止した参加者は、ポリピル+アスピリン群が45例、ダブルプラセボ群は22例だった。大出血は、ポリピル+アスピリン群が9例、ダブルプラセボ群は12例で報告された。 著者は、「併用群の心血管イベントに関する有益性は、LDLコレステロール値と血圧の適度な低下に、アスピリンによる有益性が加わった場合に予測されたものと一致していた」としている。

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消化性潰瘍の予防法が明確に-『消化性潰瘍診療ガイドライン2020』

 消化性潰瘍全般の国内有病率は減少傾向を示す。しかし、NSAIDs服用患者や抗凝固薬、抗血小板薬服用患者の潰瘍罹患率は増加の一途をたどるため、非専門医による予防対策も求められる。これらの背景を踏まえ、今年6月に発刊された『消化性潰瘍診療ガイドライン2020』(改訂第3版)では、「疫学」と「残胃潰瘍」の章などが追加。また、NSAIDs潰瘍と低用量アスピリン(LDA:low-dose aspirin)潰瘍の予防に対するフローチャートが新たに作成されたり、NSAIDsの心血管イベントに関する項目が盛り込まれたりしたことから、ガイドライン作成委員長を務めた佐藤 貴一氏(国際医療福祉大学病院消化器内科 教授)に、おさえておきたい改訂ポイントについてインタビューを行った(zoomによるリモート取材)。消化性潰瘍診療ガイドライン2020で加わった内容 消化性潰瘍診療ガイドライン2020では、主に治療や予防に関する疑問をCQ(clinical question)28項目、すでに結論が明らかなものをBQ(background question)61項目、今後の研究課題についてFRQ(future research question)1項目に記載し、第2版より見やすい構成になっている。CQとFRQにはそれぞれ「出血性潰瘍の予防」「虚血性十二指腸潰瘍の治療法」に関する内容が加わった。佐藤氏は、「NSAIDs潰瘍やLDA潰瘍の治療、とくに予防においてはフローチャートに基づき、プロトンポンプ阻害薬(PPI)による適切な対応をしていただきたい」と話した。 続いて、高齢者診療で慢性胃炎、他剤の副作用回避のために処方されることが多いPPIやヒスタミン2受容体拮抗薬(H2RA)の長期処方時に注意すべきポイントについては、「PPI服用による、肺炎、認知症、骨折などの有害事象が観察研究では危惧されているが、昨年報告された3年間にわたるPPIとプラセボ投与の大規模無作為化試験1)で有意差が見られたのは腸管感染症のみだった。とはいえ、必要以上に長期にわたってPPIを投与するのは避けるべき」と漫然処方に対し注意喚起した。一方で、H2RAは、せん妄など中枢神経系の副作用が高齢者でみられることが報告され注意が必要なため、「PPIやH2RAの有害事象を今後のガイドラインに盛り込むかどうか検討していきたい」とも話した。消化性潰瘍診療ガイドライン2020で強く推奨された服用例 H.pylori陰性、NSAIDsの服用がない患者で生じる特発性潰瘍は増加傾向を示し、2000~03年の潰瘍全体の中の頻度は約1~4%であったのが、2012~13年には12%となっている。同じくLDA服用者において、Nakayama氏ら2)が2000~03年と2004~07年の出血性潰瘍症例を比較した結果、 LDA服用者の比率が9.9%から18.8% へと有意に増加(p=0.0366)していたことが明らかになった。この背景について、同氏は「LDA服用例に消化性潰瘍や出血性潰瘍の予防がなされていなければ、それらの患者はさらに増加する恐れがある。LDA服用例の出血性胃潰瘍症例は2000年代前半より後半で有意に増加したと報告されている」とし、「すでに循環器内科医の多くの方はPPIを用いた潰瘍予防を行っている。今後は消化性潰瘍既往のある患者はもちろん、既往のない場合は保険適用外のため個別の症状詳記が必要になるが、高齢者にはPPI併用による潰瘍予防策を講じていただきたい」と話した。消化性潰瘍診療ガイドラインでは、抗血小板2剤併用療法(DAPT)時にPPI併用による出血予防を行うよう強く推奨している。消化性潰瘍診療ガイドライン2020でおさえておきたい項目 今回の消化性潰瘍診療ガイドライン2020の改訂でおさえておきたいもう1つのポイントとして、「BQ5-13:NSAIDsは心血管イベントを増加させるか?」「CQ5-14:低用量アスピリン(LDA)服用者におけるCOX-2選択的阻害薬は通常のNSAIDsより潰瘍リスクを下げるか?」の項目がある。NSAIDsの心血管イベントの有害事象については、これまでナプロキセン(商品名:ナイキサン)服用者のリスクが低いとされてきた。しかし、今回の文献検討では必ずしもそうではなかったと同氏は話した。「潰瘍出血のNSAIDsとLDA服用例で、セレコキシブ(商品名:セレコックス)+PPI群とナプロキセン+PPI併用群の上部消化管出血再発を比較したRCT3)では、セレコキシブ群で再発率が有意に低く心血管イベントの発生には差を認めなかったため、LDA服用の心血管疾患例でNSAIDs併用投与時にはセレコキシブ+PPIが有用」と説明。また、セレコキシブの添付文書には心血管疾患者への投与は禁忌とあるが、これは冠動脈バイパス術の周術期患者のみに該当し、そのほかの心血管患者は慎重投与であることから、個々の患者の状態に応じた柔軟な治療選択を提唱した。消化性潰瘍診療ガイドライン2020の治療フローチャート このほか、消化性潰瘍の治療フローチャートには治療に残胃潰瘍、特発性潰瘍の診断が消化性潰瘍診療ガイドライン2020に追加された。残胃潰瘍とは、外科的胃切除術後の残胃に生じる潰瘍を示す病態だが、現時点では有病率のデータはない。同氏は「近年では残胃で潰瘍を経験するなど実臨床で遭遇する機会が増えているため、新たに章立てしフローチャートに追加した。胃亜全摘術後の胃と小腸の吻合部分の潰瘍は吻合部潰瘍として知られており、これまで吻合部潰瘍が取り上げられていた。しかし、吻合部だけでなく、残胃内に潰瘍が生じることが多いため、今回取り上げた。その中にはNSAIDs潰瘍もあるが、ピロリ陽性、陰性の潰瘍もある」とコメントした。 最後に佐藤氏は「日常診療において、ピロリ菌除菌時に処方される薬剤、とくにクラリスロマイシンは併用注意薬や併用禁忌薬が多い。そのため、患者の紹介を受けた際には常用薬に該当薬剤が含まれていないか注意しながら治療選択を進めている」と、消化器潰瘍の診察時ならではの見逃してはいけないポイントを話した。

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糖尿病患者の残薬1位は?-COVID-19対策で医師が心得ておきたいこと

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の実態が解明されるなか、重症化しやすい疾患の1つとして糖尿病が挙げられる。糖尿病患者は感染対策を行うのはもちろん、日頃の血糖コントロール管理がやはり重要となる。しかし、薬物治療を行っている2型糖尿病患者の血糖コントロール不良はコロナ流行以前から問題となっていた。今回、その原因の1つである残薬問題について、亀井 美和子氏(帝京平成大学薬学部薬学科 教授)らが調査し、その結果、医療者による患者への寄り添いが重要であることが明らかになった。 このアンケート結果は、9月30日に開催されたメディア勉強会『処方実態調査の結果にみる、糖尿病患者さんの課題~新たな日常で求められるシンプルな治療、服薬アドヒアランスの向上~』の「服薬アドヒアランスと患者支援 2型糖尿病患者の処方実態調査結果より」で報告され、同氏が血糖コントロールに不可欠な残薬問題解決の糸口について語った。このほか、糖尿病患者のCOVID-19への影響を踏まえ、門脇 孝氏(虎の門病院 院長)が「服薬アドヒアランス向上のために医師ができること」について解説した(主催:日本イーライリリー)。糖尿病患者の残薬1位、α-グルコシダーゼ阻害薬 残薬が生じる原因には、薬物の服用回数の多さ、服用タイミングなどの問題が挙げられる。2013年2月、残薬による日数調整の対象となりやすい薬剤について薬局薬剤師3,001人に調査した結果によると、第1位に挙げられた薬剤はα-グルコシダーゼ阻害薬、消化性潰瘍治療薬、下剤などであった。これは、「薬の効果を感じにくい」「症状があるときだけ使用する薬(自己調節が可能)」「用法が食前」などの理由が原因とされる。また、糖尿病患者の残薬理由を尋ねた調査では、「飲み忘れ」「持参し忘れ」などが特徴付けられた。 このような結論をより具体的にするために亀井氏らは2型糖尿病患者の服薬アドヒアランスと治療の負担感について調査を行った。  本調査は、日本在住で20歳以上の電子お薬手帳サービス「harmo」利用者のうち、2020年4月30日時点でID登録がされており、過去3ヵ月間(2020年1月1日~4月10日)に2型糖尿病の経口薬を処方されていた患者5,504 例の人口統計的変数、治療状況、経口薬の服薬状況、ライフサイクル(起床/就寝時間)に関する情報を収集した横断的観察研究。調査期間は2020年4月30日~5月10日、調査方法はスマートフォンやタブレット端末、パソコンなどを用いたインターネット・アンケートだった。 主な結果は以下のとおり。・実際に回答を得られたのは675例で、男性は499例、女性は176例だった。・平均2.1剤の経口糖尿病薬を服用し、1日あたりの服薬回数は平均2.0回であった。・糖尿病薬を服薬するタイミングで最も多かったのは朝食後74.4%であった。・32.4%の患者さんで服薬アドヒアランスが不良であった。・服薬アドヒアランス良好の患者さんに比べ、不良の患者さんのほうが1日あたりの服薬回数が多かった。・服薬アドヒアランス不良の患者さんはHbA1cの値が高い傾向であった。・服薬アドヒアランス不良の患者さんの38.4%が服薬に負担を感じていた。患者が服薬しないのは、情報不足・認識の低さ・副作用経験から この結果を踏まえ、亀井氏は「服薬アドヒアランス不良の患者では直近のHbA1cが高い傾向にあることから、合併症予防の観点からも治療の負担感を軽減し、服薬アドヒアランスを高めていく必要がある」と述べ、「残薬が発生するに原因には、薬自体や処方の特徴、そして患者の特徴が影響している。これを解決できていないのは患者と医療者とのコミュニケーション不足が原因」と話した。 そこで、質的研究として同氏らは個々に向かい合い、“服薬しない”行動原理を探索した。そこには“理解不足”はもちろんのこと、「複数の情報による混乱」「情報を都合よく解釈」「副作用への不安」「受け身の治療」などの個々の考えが大きく影響していることが示唆された。このような患者の考えには、「さまざまな情報や適切な情報の不足、病気の認識が低い、自他の副作用経験が影響し、意図的に(時には意図的ではなく)服用しない、という行動に結びつく」と同氏はコメント。実際に個別に応じた対応を行った結果、改善したと回答した薬局が97.6%にものぼっていた。医師による服薬アドヒアランス向上が糖尿病のCOVID-19重症化を防ぐ 続いて、門脇氏は糖尿病患者のCOVID-19対策時における注意点を説明。「外出自粛に伴う運動量の減少、食習慣の変化による体重増加や高血糖を防止するため、積極的な活動を心がけ、食事の取り方に十分注意する必要がある。また、外出自粛を理由に糖尿病患者が医療機関への受診を極端に控えることは、血糖コントロールや病状の悪化につながる可能性があるため、個々の糖尿病患者の状態に応じて適切な間隔での受診・検査・投薬が必要である」と強調した。 この注意点を解決していくためにはやはり患者とのコミュニケーションが重要となる。同氏は血糖コントロール管理の上で欠かせない医師と医療者のコミュニケーションが日本では世界と比べ不足していることを指摘し、「この原因は診療時間が十分に取れない環境にあるが、医療者は患者のQOLアウトカム(日常生活・社会生活の制限、自由の剥奪感、精神的負担など)を留意する必要がある。そのためには、医師自身がベストと考える治療法を説明し患者さんの同意を得るInformed Consentと、患者へ結果に大きな差のない複数の治療法について説明して患者が選択するInformed Choiceを取り入れていくことが必要である。これが“糖尿病患者の治療意欲とアドヒアランスを高める”ことにつながる」と述べ「糖尿病患者が治療に向き合っていること、糖尿病患者がスティグマ(社会的偏見)に苦しんでいることも医療者は理解しなければならない」と締めくくった。

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Dr.水谷の妊娠・授乳中の処方コンサルト

第1回 【妊娠中】解熱鎮痛薬・抗菌薬・抗インフルエンザ薬第2回 【妊娠中】抗てんかん薬・抗うつ薬・麻酔薬第3回 【妊娠中】β刺激薬・チアマゾール・レボチロキシン第4回 【妊娠中】経口血糖降下薬・ワルファリン・制酸薬第5回 【妊娠中】抗リウマチ薬・抗アレルギー薬・タクロリムス外用薬第6回 【妊娠中】漢方薬・CT,MRI検査・悪性疾患の治療方針第7回 【授乳中】解熱鎮痛薬・抗菌薬・抗ウイルス薬第8回 【授乳中】抗てんかん薬・向精神薬・全身麻酔第9回 【授乳中】胃腸薬・降圧薬・抗アレルギー薬第10回 【授乳中】ステロイド・乳腺炎への対処・造影検査後の授乳再開 臨床では妊娠中・授乳中であっても薬が必要な場面は多いもの。ですが、薬剤の添付文書を見ると妊婦や授乳婦への処方は禁忌や注意ばかり。必要な治療を行うために、何なら使ってもいいのでしょうか?臨床医アンケートで集めた実際の症例をベースとした30のQ&Aで、妊娠中・授乳中の処方の疑問を解決します。産科医・総合診療医の水谷先生が、実臨床で使える、薬剤選択の基準の考え方、そして実際の処方案を提示します。第1回 【妊娠中】解熱鎮痛薬・抗菌薬・抗インフルエンザ薬臨床医アンケートで集めた妊婦・授乳婦への処方の疑問を症例ベースで解説・解決していきます。初回は、妊娠中の解熱鎮痛薬、抗菌薬、抗インフルエンザ薬の選択についてです。明日から使える内容をぜひチェックしてください。第2回 【妊娠中】抗てんかん薬・抗うつ薬・麻酔薬妊娠を機に服薬を自己中断してしまう患者は少なくありません。そして症状の悪化とともに受診することはよくあります。今回は抗てんかん薬、抗うつ薬の自己中断症例から妊娠中の薬剤選択について解説します。緊急手術時に必須の麻酔薬の処方についても必見です。第3回 【妊娠中】β刺激薬・チアマゾール・レボチロキシン喘息は妊娠によって症状の軽快・不変・増悪いずれの経過もとりえます。悪化した場合にβ刺激薬やステロイド吸入など一般的な処方が可能のか?甲状腺関連の疾患では妊娠の希望に応じて、バセドウ病患者はチアマゾールを継続していいのか?橋本病ではレボチロキシンを変更すべきなのか?といった実臨床で遭遇する疑問を解決します。第4回 【妊娠中】経口血糖降下薬・ワルファリン・制酸薬今回のクエスチョンは弁置換術既往の妊婦の抗凝固薬選択。ワルファリンからヘパリンへの変更は適切なのでしょうか?降圧薬の選択では妊娠週数に応じて使用可能な薬剤が変わる点を必ず押さえましょう!そのほか、妊娠中の内視鏡検査の可否とその判断、2型糖尿病の薬剤選択についても取り上げます。2型糖尿病管理は、薬剤選択とともに血糖管理目標についてもチェックしてください。第5回 【妊娠中】抗リウマチ薬・抗アレルギー薬・タクロリムス外用薬膠原病があっても妊娠を継続するにはどのような薬剤選択が必要なのでしょうか?メトトレキサートや抗リウマチ薬の処方変更について解説します。花粉症症状に対する抗アレルギー薬処方、アトピー性皮膚炎へのタクロリムス外用薬の継続可否など、臨床で頻用される薬剤についての解説もお見逃しなく。第6回 【妊娠中】漢方薬・CT,MRI検査・悪性疾患の治療方針妊娠中に漢方薬を希望する患者は多いですが、どういうときに漢方薬を使用すべきなのでしょうか?上気道炎事例を入り口に、妊婦のよくある症状に対する漢方薬の処方について解説します。CTやMRIの適応判断に必要な放射線量や妊娠週数に応じたリスクを押さえ、がん治療については永久不妊リスクのある治療をチェックしておきましょう。第7回 【授乳中】解熱鎮痛薬・抗菌薬・抗ウイルス薬今回から授乳中の処方に関する質問を取り上げます。授乳中処方のポイントはRID(相対的乳児投与量)とM/P比(母乳/母体濃度比)。この2つの概念を理解して乳児への影響を適切に検討できるようになりましょう。今回取り上げるのは、解熱鎮痛薬、抗菌薬、抗インフルエンザ薬といった日常診療に必要不可欠な薬剤。インフルエンザについては、推奨される薬剤はもちろん、家庭内での感染予防に対する考え方なども必見です。第8回 【授乳中】抗てんかん薬・向精神薬・全身麻酔ほとんどの母親は服薬中も授乳継続を希望します。多くの薬剤は添付文書上で授乳中止が推奨されていますが、実は授乳を中断しなくてはならないケースはあまり多くありません。育児疲労が増悪因子になりやすい、てんかんや精神疾患について取り上げ、こうした場合の対応を解説します。治療と母乳育児を継続するための、薬剤以外のサポートについても押さえておきましょう。第9回 【授乳中】胃腸薬・降圧薬・抗アレルギー薬授乳中の処方で気を付けるべきは、薬剤の児への移行だけではありません。見落としがちなのが、乳汁分泌の促進・抑制をする薬剤があるということ。症例ベースのQ&Aで、胃腸薬、降圧薬、抗アレルギー薬など日ごろよく処方する薬の注意点を解説していきます。OTC薬で気を付けるべき薬剤やピロリ菌除菌の可否なども押さえておきましょう。第10回 【授乳中】ステロイド・乳腺炎への対処・造影検査後の授乳再開ステロイド全身投与で議論になるのは児の副腎抑制と授乳間隔。どちらも闇雲に恐れる必要はありません。乳腺炎については、投与可能な薬剤だけでなく再発を予防するための知識を押さえておきましょう。造影剤使用後の授乳再開については日米での見解の違いを臨床に活かすための知識を伝授します。

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マスク着用時の口臭対策の基本とは?専門家がアドバイス

 新型コロナウイルス感染症流行の長期化に伴い、マスクを着けることが日常化している。マスク装着時に気になるのが自分の口臭の問題だ。乳酸菌食品メーカーであるオハヨーバイオテクノロジーズは「マスクの中の“臭い”気になりませんか?」と題したプレス資料の中で、口臭の原因と対策について解説している。マスク装着時の口臭対策は着用直前の口腔ケア 口臭の原因は、大きく分けて2つ。1つ目は「体」に原因がある場合で、消化不良や肝機能低下、糖尿病などが考えられる。2つ目は「口の中」に原因がある場合で、歯や舌の汚れや虫歯、歯周病などが要因となる。口臭のうち8割以上が口の中に原因があるとされ、とくに舌の上が白くなる舌苔の増加と歯周病菌による歯茎の炎症やメチルメルカプタンの発生による口臭が代表的な要因だ。 オハヨーバイオテクノロジーズの研究に協力する歯科医・日本大学客員教授の若林 健史氏は、「マスクの装着が常態化したことによって通常時よりも話す機会・時間が少なくなると口周りの動きが減る。それによって唾液の分泌が減少し、口内の循環が減ることで、悪玉菌が留まりやすくなって口内環境が悪化しやすくなる。マスクをしながらの会話は口呼吸になりやすいので口内に乾燥が起こることも考えられる」と述べる。 マスク着用時の口臭対策としては、「マスクを着用する直前に口腔ケアを徹底することが効果的。とくに舌苔を取り除き、増殖を抑制することが大切になる。舌ブラシで舌をきれいにし、歯ブラシ、歯間ブラシでブラッシングを徹底、さらに洗口液でうがいを行うとよい」(若林氏)。加えて、マスク着用の直前に匂いのきついものを食べないようにする、口内環境を整える良質な乳酸菌を食品などから摂り入れることも手軽にできるマスク着用時の口臭対策という。 医療者として、受診患者や入院患者の口臭に気づいた場合はどうすればよいか。「院内や関係医療機関の歯科衛生士を紹介して欲しい。入れ歯をしている方であれば、入れ歯の手入れを食事のすぐあとに徹底して行うことが効果的。口臭は原因によって対処方法が異なるので、専門家に相談することを薦めていただきたい」と若林氏はアドバイスする。 口臭対策品の広告等において、「日本人は欧米人に比べて口臭を持つ人が多い」とされることがあるが、「日本人の歯周疾患の保有率は上昇しているが1)、他国と比べて有意に多いというデータはない」(若林氏)という。多くの場合、口臭の原因は口内にあるため、ブレスケア製品でごまかすのではなく、しっかりとした歯磨きと舌ブラシでのケアがマスク着用時の口臭対策の基本になるという。

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長期に消化性潰瘍の再発を予防するアスピリン+PPI配合薬「キャブピリン配合錠」【下平博士のDIノート】第58回

長期に消化性潰瘍の再発を予防するアスピリン+PPI配合薬「キャブピリン配合錠」今回は、「アスピリン/ボノプラザンフマル酸塩配合錠(商品名:キャブピリン配合錠、製造販売元:武田薬品工業)」を紹介します。本剤は、アスピリンとプロトンポンプ阻害薬(PPI)を配合することで、胃・十二指腸潰瘍の再発低減と服薬負担の軽減によるアドヒアランスの向上が期待されています。<効能・効果>本剤は、狭心症(慢性安定狭心症、不安定狭心症)、心筋梗塞、虚血性脳血管障害(一過性脳虚血発作[TIA]、脳梗塞)、冠動脈バイパス術(CABG)あるいは経皮経管冠動脈形成術(PTCA)施行後における血栓・塞栓形成の抑制の適応で、2020年3月25日に承認され、2020年5月22日より発売されています。なお、本剤の使用は、胃潰瘍または十二指腸潰瘍の既往がある患者に限られます。<用法・用量>通常、成人には1日1回1錠(アスピリン/ボノプラザンとして100mg/10mg)を経口投与します。<安全性>国内で実施された臨床試験において、安全性評価対象431例中73例(16.9%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められました。主な副作用は、便秘8例(1.9%)、高血圧、下痢、末梢性浮腫各3例(0.7%)などでした(承認時)。なお、重大な副作用として、汎血球減少、無顆粒球症、白血球減少、血小板減少、再生不良性貧血、中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、多形紅斑、剥脱性皮膚炎、ショック、アナフィラキシー、脳出血などの頭蓋内出血、肺出血、消化管出血、鼻出血、眼底出血など、喘息発作、肝機能障害、黄疸、消化性潰瘍、小腸・大腸潰瘍(いずれも頻度不明)が発現する恐れがあります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、血小板の働きを抑えて血液が固まるのを防ぐことで、血栓や塞栓の再形成を予防します。長期服用によって胃潰瘍・十二指腸潰瘍が再発しないよう、胃酸を抑える薬も併せて配合されています。2.解熱鎮痛薬や風邪薬で喘息を起こしたことのある方、出産予定日12週以内の妊婦は使用できません。3.割ったり砕いたりせず、噛まずにそのまま服用してください。4.手術や抜歯など出血が伴う処置を行う場合は、医師に必ず本剤の服用を伝えてください。<Shimo's eyes>本剤は、低用量アスピリンとPPIの配合剤であり、アスピリン/ランソプラゾール配合錠(商品名:タケルダ)に次ぐ2剤目の薬剤です。虚血性心疾患、脳血管疾患による血栓・塞栓形成抑制には、アスピリンなどの抗血小板薬投与が有効であり、国内外の診療ガイドラインで推奨されています。しかし、アスピリンの長期投与によって消化性潰瘍が発症・再発することから、低用量アスピリン療法時には原則としてPPIが併用されます。この際に併用できるPPIとしては、ランソプラゾール(同:タケプロン)、ラベプラゾール(同:パリエット)、エソメプラゾール(同:ネキシウム)、ボノプラザン(同:タケキャブ)があります。PPI併用の低用量アスピリン投与による消化性潰瘍発生に対する予防効果については、国内第III相試験(OCT-302試験)の副次評価項目として調べられています。胃潰瘍または十二指腸潰瘍の既往のある患者にアスピリン100mgを投与した後の胃潰瘍または十二指腸潰瘍の再発率は、投与12、24、52、76、104週後において、ランソプラゾール15mg併用群ではそれぞれ0.9%、2.8%、2.8%、3.3%、3.3%であったのに対し、ボノプラザン10mg併用群ではいずれも0.5%であり、ボノプラザン併用群で有意に低下していました(p=0.039)。本剤は、アスピリンを含む腸溶性の内核錠を、ボノプラザンを含む外層が包み込んだ構造となっているため、噛まずにそのまま服用する必要があります。本剤の適応には、「胃潰瘍または十二指腸潰瘍の既往がある患者に限る」という制限がありますが、現在消化性潰瘍を治療中の患者さんには禁忌となっているので注意が必要です。参考1)PMDA 添付文書 キャブピリン配合錠

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1日1回で空腹時血糖と食後血糖の両方を改善する「ソリクア配合注ソロスター」【下平博士のDIノート】第57回

1日1回で空腹時血糖と食後血糖の両方を改善する「ソリクア配合注ソロスター」今回は、持効型溶解インスリンアナログ製剤/GLP-1受容体作動薬「インスリン グラルギン/リキシセナチド配合製剤(商品名:ソリクア配合注ソロスター、製造販売元:サノフィ)」を紹介します。本剤は、1日1回の投与で空腹時血糖と食後血糖を同時に改善することで、より良い血糖コントロールを得ることが期待されています。<効能・効果>本剤は、インスリン療法が適応となる2型糖尿病の適応で、2020年3月25日に承認され、2020年6月8日より発売されています。<用法・用量>通常、成人には、5~20ドーズ(インスリン グラルギン/リキシセナチドとして5~20単位/5~20μg)を1日1回朝食前に皮下注射します。1日1回5~10ドーズから開始し、患者の状態に応じて増減できますが、1日20ドーズを超えることはできません。<安全性>日本人2型糖尿病患者を対象に実施された国内第III相試験では、主な副作用として、悪心(5%以上)、腹部不快感、下痢、嘔吐、消化不良、便秘、胃腸炎、食欲不振、めまい、振戦、注射部位反応(内出血、紅斑、浮腫、そう痒など)、疲労(いずれも1~5%未満)、腹部膨満、腹痛、多汗症、傾眠、倦怠感、空腹感(いずれも1%未満)が認められています(承認時)。なお、重大な副作用として、低血糖、急性膵炎、ショック、アナフィラキシーが発現する恐れがあります。<患者さんへの指導例>1.この薬には、空腹時血糖を調節する成分と、食後血糖を調節する成分の2種類が配合されていて、1日1回の注射で血糖コントロールを改善します。2.めまいやふらつき、動悸、冷や汗などの低血糖症状を起こすことがあるので、高所作業、自動車の運転など危険を伴う作業を行う際は注意してください。これらの症状が認められた場合は、ただちに糖質を含む食品を摂取してください。3.嘔吐を伴う持続的な激しい腹痛が現れた場合は、使用を中止し、速やかに医師の診断を受けてください。4.未使用の薬剤は冷蔵庫内に保管してください。凍結すると使用できなくなるので、直接冷気に触れないように注意してください。なお、旅行などに出掛ける場合、短期間であれば室温に置いても差し支えありません。5.使用開始後は冷蔵庫に入れず、キャップをしっかり閉めて涼しいところに保管してください。直射日光の当たるところや自動車内などの高温になる恐れのあるところには置かないでください。6.使用開始後31日を超えたものは使用しないでください。<Shimo's eyes>本剤は、持効型インスリン製剤とGLP-1受容体作動薬の配合皮下注射製剤で、インスリン デグルデク/リラグルチド(商品名:ゾルトファイ配合注フレックスタッチ)に次ぐ国内2剤目の薬剤です。インスリン グラルギン(同:ランタス)とリキシセナチド(同:リキスミア)が日本独自の配合比である1単位:1μgで配合されていて、デバイスにはプレフィルドペン型注入器「ソロスター」が採用されています。主に空腹時の血糖コントロールを改善する持効型インスリン製剤も、主に食後の血糖コントロールを改善するGLP-1受容体作動薬も国内外で広く使われていますが、持効型インスリン製剤は低血糖および体重増加に注意が必要で、GLP-1受容体作動薬は胃腸障害に注意が必要です。本剤は、国内第III相試験で、空腹時血糖と食後血糖のいずれも改善し、インスリン グラルギン単剤と比較して、低血糖と体重増加のリスクを増やさずに統計学的に有意なHbA1cの低下を示しました。また、安全性に関しても、各配合成分の既知の安全性プロファイルと同等であることが確認され、リキシセナチドと比較して、胃腸障害の副作用リスクを低減しました。持効型インスリン製剤とGLP-1受容体作動薬を組み合わせた治療法は「BPT(Basal supported post Prandial GLP-1 Therapy)」と呼ばれています。本剤を用いることで、経口糖尿病薬が効果不十分で新しく注射薬を導入する場合や、ほかの注射薬から切り替える場合などに、1日1回の投与でBPTが可能となります。なお、DPP-4阻害薬はGLP-1受容体を介した血糖降下作用を有するため、本剤と併用する場合は疑義照会が必要です。参考1)PMDA 添付文書 ソリクア配合注ソロスター

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急性上部消化管出血の内視鏡検査、最適な施行時期とは/NEJM

 急性上部消化管出血を発症し、再出血または死亡のリスクが高い患者では、消化器科コンサルテーション後6時間以内の内視鏡検査は、6~24時間の検査と比較して、30日死亡率を抑制しないことが、中国・香港中文大学のJames Y.W. Lau氏らの検討で示された。研究の詳細は、NEJM誌2020年4月2日号に掲載された。International Consensus Groupのガイドラインでは、急性上部消化管出血患者には、受診後24時間以内に内視鏡検査を行うよう推奨されている。一方、24時間より短い時間枠内に施行される内視鏡検査の役割は、十分に明らかではないという。緊急と早期施行で、30日死亡率を比較する無作為化試験 研究グループは、再出血や死亡のリスクが高いと予測される急性上部消化管出血患者では、コンサルテーション後6時間以内の内視鏡検査は、6~24時間の検査に比べ、再出血を未然に防ぎ、転帰を改善するとの仮説を立て、これを検証する目的で無作為化試験を実施した(香港特別行政区食品衛生局保健医療基金の助成による)。 対象は、上部消化管の急性の顕性出血(吐血、下血、これら双方)が認められ、Glasgow-Blatchfordスコア(0~23点、点数が高いほど、再出血または死亡のリスクが高い)が12点以上の患者であった。 被験者は、消化器科コンサルテーション後6時間以内に内視鏡検査を受ける群(緊急内視鏡群)、または6~24時間に検査を受ける群(早期内視鏡群)に無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、無作為化から30日以内の全死因死亡とした。30日死亡と再出血の双方が、緊急施行で多い傾向 2012年7月~2018年10月の期間に516例が登録され、緊急内視鏡群に258例(平均年齢69.6±16.0歳、男性60.9%)、早期内視鏡群にも258例(71.4±14.9歳、65.1%)が割り付けられた。消化性潰瘍が出血源の患者は、緊急内視鏡群61.2%(158例)、早期内視鏡群61.6%(159例)で、食道胃静脈瘤が出血源の患者はそれぞれ9.7%(25例)および7.3%(19例)であった。 救急診療部受診から消化器科コンサルテーションまでの平均時間は、緊急内視鏡群7.4±6.2時間、早期内視鏡群8.0±7.1時間であり、コンサルテーションから内視鏡検査施行までの平均時間は、それぞれ2.5±1.7時間および16.8±6.8時間であった。したがって、受診から内視鏡検査施行までの平均時間は、緊急内視鏡群9.9±6.1時間、早期内視鏡群24.7±9.0時間となった。 30日死亡率は、緊急内視鏡群8.9%(23/258例)、早期内視鏡群6.6%(17/258例)であり、両群間に有意な差は認められなかった(ハザード比[HR]:1.35[95%信頼区間[CI]:0.72~2.54]、p=0.34、群間差2.3ポイント[95%CI:-2.3~6.9])。 30日以内の再出血率は、緊急内視鏡群10.9%(28例)、早期内視鏡群7.8%(20例)であり、有意差はなかった(HR:1.46[95%CI:0.83~2.58]、群間差:3.1ポイント[95%CI:-1.9~8.1])。 消化性潰瘍患者では、活動性出血または露出血管を伴う潰瘍は、緊急内視鏡群の66.4%(105/158例)と早期内視鏡群の47.8%(76/159例)で認められた。また、内視鏡的止血術は、緊急内視鏡群の60.1%(155例)と早期内視鏡群の48.4%(125例)で行われた。 著者は、「緊急内視鏡群では、活動性出血や大きな出血斑を伴う潰瘍が多かったため、内視鏡治療の頻度が高かったが、これは再出血や死亡の抑制には結び付かなかった。一方、早期内視鏡群は1晩の酸分泌抑制薬治療を受けており、内視鏡検査までの期間が長く投薬期間が長いほど、活動性出血や大きな出血斑を伴う潰瘍が少なかった。内視鏡検査前の酸分泌抑制薬治療は、内視鏡治療を必要とする患者を減少させる可能性がある」としている。

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胃がん家族歴ありH.pylori感染者、除菌でリスク低下/NEJM

 第1度近親者に胃がんの家族歴があるHelicobacter pylori感染者では、H. pyloriの除菌治療によって胃がんのリスクが低下することが、韓国・国立がんセンターのIl Ju Choi氏らの検討で示された。研究の成果は、NEJM誌2020年1月30日号に掲載された。H. pylori感染と胃がんの家族歴は、胃がんの主要なリスク因子とされる。第1度近親者に胃がん罹患者がいるH. pylori感染者の胃がんリスクが、H. pylori除菌治療で低下するかは明らかではなかった。除菌治療の有無で胃がん発生を比較する単一施設の無作為化試験 本研究は、韓国の単一施設(国立がんセンター、高陽市)で実施された二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2004年11月~2011年12月の期間に患者登録が行われた(韓国・国立がんセンターの助成による)。 対象は、年齢40~65歳、第1度近親者に1人以上の胃がん患者がいるH. pylori感染者であった。胃がんや他臓器のがんの既往歴のある患者や、H. pylori除菌治療歴のある患者は除外された。 被験者は、H. pylori除菌治療を行う群またはプラセボ群に無作為に割り付けられた。H. pylori除菌治療は、ランソプラゾール(プロトンポンプ阻害薬)30mg+アモキシシリン1,000mg+クラリスロマイシン500mgが、1日2回、7日間投与された。 主要アウトカムは胃がんの発生とした。事前に規定された副次アウトカムは、追跡期間中のH. pylori除菌の状況別の胃がんの発生であった。胃がんリスクが55%、除菌達成例では73%低下 1,838例が無作為化の対象となり、除菌治療群に917例(平均年齢48.8±6.0歳、男性49.9%)、プラセボ群には921例(48.8±6.3歳、49.1%)が割り付けられた。1,676例(修正ITT集団、除菌治療群832例、プラセボ群844例)が主要アウトカムの解析に含まれた。主要アウトカム評価の追跡期間中央値は9.2年(IQR:6.2~10.6)、全生存率評価の追跡期間中央値は10.2年(8.9~11.6)だった。 胃がんは、除菌治療群が832例中10例(1.2%)で発生し、プラセボ群の844例中23例(2.7%)と比較して、頻度が有意に低かった(ハザード比[HR]:0.45、95%信頼区間[CI]:0.21~0.94、log-rank検定のp=0.03)。試験期間中に、1例の胃がんの予防に要する治療必要数(NNT)は65.7(95%CI:35.1~503.8)であった。胃がん発生例33例のうち、30例(90.9%)がStageI、3例(9.1%)はStageIIだった。 H. pylori除菌の状況別の胃がんの発生は、1,587例(H. pylori除菌達成例608例、持続感染例979例)で評価が可能であった。胃がんは、H. pylori除菌達成例が608例中5例(0.8%)で発生し、持続感染例の979例中28例(2.9%)に比べ、頻度が有意に低かった(HR:0.27、95%CI:0.10~0.70)。胃がんが発生した除菌治療群の10例のうち、5例(50.0%)にH. pyloriの持続感染が認められた。持続感染例では、除菌治療群とプラセボ群で胃がんの発生は類似していた。 除菌治療群の917例中16例(1.7%)およびプラセボ群の921例中18例(2.0%)が死亡し、全生存率に関して両群間に有意な差はなかった。また、胃がんによる死亡はみられなかった。 薬剤関連有害事象は全般に軽度であり、頻度は除菌治療群がプラセボ群よりも高かった(53.0% vs.19.1%、p<0.001)。除菌治療群で多い有害事象は、味覚変化(32.3% vs.3.5%、p<0.001)、悪心(6.6% vs.3.2%、p=0.001)、下痢(22.3% vs.6.1%、p<0.001)、腹痛(4.6% vs.0.9%、p<0.001)であり、有意差はないが消化不良(7.9% vs.6.1%)の頻度も高かった。 著者は、「本試験の結果からは、除菌が達成されなかった患者の胃がんリスクは、除菌治療群とプラセボ群で同様と考えられる。したがって、これらのデータは、test-treat-testアプローチ(検査の適応があり、検査結果が陽性の者は誰もが治療を受けるべきで、治療終了後は検査で除菌を確認)が推奨するように、除菌成功の確認の必要性を強調するものである」としている。

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進行非小細胞肺がんへの初回治療としての免疫治療薬併用療法について(解説:小林英夫氏)-1176

 2018年のノーベル医学賞を受賞された本庶 佑博士が発信されたがん免疫療法は、実地臨床でも急速に普及している。肺がん治療の柱は、手術療法、化学療法(殺細胞性抗悪性腫瘍薬)、放射線療法、さらに1990年代以降に加わった分子標的治療薬の4者が基本である。この分子標的治療薬の中でも腫瘍細胞が宿主免疫機構から逃避する機序を阻害する、そして本来有している免疫応答機能を回復・保持する治療薬が免疫チェックポイント阻害薬(がん免疫療法)である。治療の4本柱をどのように使い分けるか、またどう組み合わせれば治療効果をより高めるかについて、これまでもそして現在も精力的な検討がなされている。 本論文はがん免疫療法薬の中から、抗PD-1(programmed cell death 1、プログラム細胞死1)抗体であるニボルマブ(商品名:オプジーボ)と、抗CTLA-4(cytotoxic T lymphocyte antigen 4、細胞傷害性Tリンパ球抗原4)抗体であるイピリムマブ(商品名:ヤーボイ)の併用効果を検討している。両者の併用は他の悪性腫瘍に有効であることがすでに報告されている。結果は、進行非小細胞肺がんの初回治療としてニボルマブ+イピリムマブ併用群は、白金製剤を主とした化学療法群よりもOS(overall survival、全生存率)が優れることが確認された。ただ、本論文は大規模研究(CheckMate-227)のpart 1報告であるため、設定した対象群や方法のすべてが結果章で記載されておらず、やや消化不良な側面もある。また本報告の要約は、「ニボルマブ+低用量イピリムマブ、NSCLCのOS有意に改善(CheckMate-227)/ESMO2019」(2019年10月22日配信)でもう少し詳しく掲載されている。 本結果の最大の注目点はPD-L1発現レベルの多寡を問わず、化学療法よりも免疫療法併用群が臨床的に意味のあるOS改善を示したことにある。すなわち、有効性を期待できる症例が大きく増加する可能性が示唆されたことが大きな成果であろう。そして、免疫療法薬同士にとどまらず、他の治療法との組み合わせも含めて肺がん治療はまだまだ発展が期待できる。 ちなみに、本研究には日本のデータも含まれているが、現時点では本邦におけるヤーボイは肺がんへの適応は未取得であり、これからの追加取得が待ち遠しい。

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BRCA変異陽性膵臓がんにオラパリブを承認/FDA

 米国食品医薬品局(FDA)は2019年12月27日、プラチナベースの1次治療化学療法レジメンで16週間以上疾患が進行しなかった生殖細胞系列BRCA(gBRCA)変異陽性の転移を有する膵臓がんの成人患者の維持療法として、オラパリブ(商品名:リムパーザ)を承認した。オラパリブのPFS中央値は7.4ヵ月、プラセボは3.8ヵ月 FDAはまた、コンパニオン診断として、BRACAnalysis CDxテスト(Myriad Genetic Laboratories、Inc.)も承認した。 オラパリブの有効性は、転移を有するgBRCA変異膵腺がん患者154例においてオラパリブとプラセボを比較した多施設二重盲検無作為化プラセボ対照試験POLOで検討された。 主要有効性評価項目は、盲検独立中央委員会による無増悪生存期間(PFS)、追加の有効性評価項目は、全生存期間(OS)および全奏効率(ORR)であった。 PFS中央値は、オラパリブ投与患者7.4ヵ月、プラセボ投与患者では3.8ヵ月であった(HR:0.53、95%CI:0.35~0.81、p=0.0035)。OS中央値は、オラパリブおよびプラセボで18.9ヵ月および18.1ヵ月であった(HR:0.91、95%CI:0.56~1.46、p=0.683)。ORRは23%および12%であった。 POLO試験で観察されたオラパリブの一般的な副作用は既報のものと一致していた。10%以上の項目は、悪心、疲労、嘔吐、腹痛、貧血、下痢、めまい、好中球減少症、白血球減少症、鼻咽頭炎/上気道感染症/インフルエンザ、気道感染症、関節痛/筋肉痛、味覚障害、頭痛、消化不良、食欲減退、便秘、口内炎、呼吸困難、血小板減少であった。

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腎機能を考慮したファモチジンの変更提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第1回

 千葉県柏市にある在宅医療特化型薬局「つなぐ薬局」の鈴木です。私は現在、施設往診同行や在宅訪問などで積極的に医師とコミュニケーションを取り、処方提案を行っています。これまの学びを処方提案という形でアウトプットすることで、薬剤師の立場と視点による薬物治療の適正化を推進し、患者さんがより良い状態になっていくことを実感しています。このコラムでは、薬学的管理の質を向上させる処方提案の重要性とともに、薬局薬剤師の視点での提案のコツをお伝えしたいと思います。処方提案する際には、ご家族からの訴えが重要な手掛かりとなることがあります。認知症様の症状が生じていると聞き取り、検査値や処方薬を見直したところ、高齢者では注意が必要な薬剤がありました。今回は腎機能を起点に処方提案した症例についてご紹介します。患者情報75歳、女性、身長:140cm、体重:45kg現病歴:脳梗塞、認知症同居の家族から、最近話が通じにくいことが多いと訴えあり。処方内容アスピリン腸溶錠100mg 1錠 分1 朝食後マニジピン錠10mg 1錠 分1 朝食後プラバスタチン錠10mg 1錠 分1 朝食後ファモチジン錠20mg 2錠 分2 朝夕食後酸化マグネシウム錠330mg 2錠 分2 朝夕食後メマンチン錠20mg 1錠 分1 夕食後前月の検査値(L/D)Scr:1.02mg/dL、eGFR:40.63mL/min/1.73m2、Mg:2.0mg/dLHDL:45mg/dL、LDL:118mg/dL本症例の着眼点この患者さんは、脳梗塞の2次予防のために低用量アスピリンを服用継続していて、その消化性潰瘍予防のためファモチジンを服用していました。処方箋の受付時に家族から聴取した「会話のつじつまが合わないことが多い」という訴えは、認知症に伴う周辺症状の可能性もありますが、ファモチジンによるせん妄や意識障害の可能性も示唆されます。腎機能が低下している場合、腎排泄型のH2受容体拮抗薬であるファモチジンの血中濃度が持続して過量投与となることがあります。『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015』において、「すべてのH2受容体拮抗薬は可能な限り投与を控える。とくに入院患者や腎機能低下患者では、必要最小限の使用にとどめる」ということが記載されています。腎機能を正しく評価して薬剤投与設計を行うために、下記の評価を行いました。腎機能の評価Cockcroft-Gaultの式を用いて推算CCrを算出することができます。計算するために必要なパラメータはScr(血清クレアチニン)、年齢、体重、性別で、女性は筋肉量が少ないため、係数の0.85を乗じます。<Cockcroft-Gaultの式>男性:CCr(mL/min)=(140-年齢)×体重(kg)/(72×Scr)女性:CCr(mL/min)=(140-年齢)×体重(kg)/(72×Scr)×0.85通常は上記の簡易式が用いられるが、身長が考慮されていないので、肥満患者では腎機能を過大評価してしまう可能性がある。そのため、実体重ではなく標準体重や理想体重を用いて計算することもある。<標準体重(男女共通)>身長(m)×身長(m)×22(係数)<理想体重>男性=50+{2.3×(身長-152.4)}/2.54女性=45+{2.3×(身長-152.4)}/2.54今回の患者さんの場合、CCr(Cockcroft-Gaultの式にて推算):33.9mL/min、体重未補正eGFR:30.5mL/minであり、60mL/min>CCr>30mL/minの場合のファモチジンの推奨投与量は、20mg 1日1回あるいは10mg 1日2回となります。本症例において、ファモチジンは過量投与です。なお、腎機能が低下している場合、マグネシウムの蓄積に伴う高Mg血症を評価することも重要ですが、検査結果は基準値内であり、自覚症状の面からも高Mg血症は否定的です。処方提案と経過腎機能を評価したところ、ファモチジンが過量投与となっており、減量が望ましいと判断しました。また、せん妄のような症状も現れており、H2受容体拮抗薬が影響していることも考えられます。そこで、処方医に電話で、ファモチジンを1日1回に減量あるいは肝代謝型のPPI(プロトンポンプ阻害薬)に変更してみるのはどうか提案しました。その結果、ファモチジンは中止となり、ランソプラゾールOD錠15mgが開始となりました。後日家族に確認したところ、会話のつじつまが合わないということは減ったと聴取しました。本症例のポイント・定期的に血液検査の結果と身長・体重を聴取する。・薬物投与設計のための腎機能評価を正しく理解する。・H2受容体拮抗薬は腎排泄型薬剤が主であり、高齢者においてはせん妄や意識障害のリスク因子となる。「透析患者に対する投薬ガイドライン」, 白鷺病院,(参照:2019年6月24日)日本老年医学会ほか 編. 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015. メジカルレビュー社;2015.

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ピロリ除菌、親が失敗なら子の失敗リスク高い

 クラリスロマイシン(CAM)耐性Helicobacter pylori(H. pylori)とCYP2C19多型は、何世代にもわたって受け継がれる可能性があり、H. pylori除菌失敗の危険因子として知られている。しかし、親がCAM3剤併用療法による除菌失敗歴を有する患者における失敗リスクを評価した研究はなかった。今回、出口 尚人氏(京都大学/武田薬品工業)らの横断研究により、CAM3剤併用療法での親の除菌失敗歴が子孫の除菌失敗の危険因子であることが示された。Journal of Gastroenterology and Hepatology誌オンライン版2019年7月1日号に掲載。 本研究は、被保険者310万人の大規模な診療報酬請求データベースを使用。2005年1月~2018年2月に、1次除菌のCAM3剤併用療法の記録と親の記録の両方を有する404例を同定した。父親または母親のCAM3剤併用療法の失敗を、親のCAM3剤併用療法の失敗歴とした。オッズ比は、年齢・性別・真性糖尿病・消化性潰瘍で調整したロジスティック回帰モデルを用いて推定した。 その結果、CAM3剤併用療法の除菌失敗率は22.5%(91/404)であった。単変量解析では、オッズ比が1.90(95%信頼区間:1.10~3.29)、多変量解析ではオッズ比1.93(同:1.10~3.39)であり、親のCAM3剤併用療法の失敗歴は子孫のCAM3剤併用療法の失敗に関連していた。

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抗精神病薬使用と胃がんリスクとの関係

 台湾・桃園長庚紀念病院のYi-Hsuan Hsieh氏らは、抗精神病薬使用と胃がんの発症率との関連を明らかにするため、検討を行った。これまで、抗精神病薬の使用と胃がんリスクとの関連は、明らかとなっていなかった。Cancer Medicine誌オンライン版2019年6月10日号の報告。 ネステッド・ケース・コントロール研究を用いて、1997~2013年の台湾全民健康保険研究データベースより、胃がん患者3万4,470例および非胃がん患者16万3,430例を抽出した。交絡因子の可能性を調整するため、条件付きロジスティック回帰モデルを用いてデータ分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・抗精神病薬の使用は、潜在的な交絡因子(収入、都市部、薬剤、身体疾患、アスピリン使用、NSAIDs使用、3剤併用療法)で調整した後、胃がんリスクと独立した逆相関が認められた。・さらに、胃がんリスクに対する各種抗精神病薬(thioridazine、ハロペリドール、スルピリド、クロザピン、オランザピン、クエチアピン、amisulpride、リスペリドン)の用量依存的傾向も示された。・感度分析では、消化性潰瘍疾患の有無にかかわらず、胃がんリスク減少に対し、第2世代抗精神病薬の有意な用量依存的作用が認められた。 著者らは「抗精神病薬の使用は、胃がんリスクと逆相関が認められた。また、いくつかの抗精神病薬において、胃がんリスクに対する用量依存的作用が認められた」としている。■「スルピリド」関連記事スルピリドをいま一度評価する

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PPI服用、心血管疾患・CKD・上部消化管がんの過剰死亡と関連か/BMJ

 プロトンポンプ阻害薬(PPI)の服用は、心血管疾患・CKD・上部消化管がんに起因する過剰死亡と少なからず関連することが明らかにされた。米国・セントルイス退役軍人ヘルスケアシステムのYan Xie氏らによる長期観察コホート研究の結果で、BMJ誌2019年5月29日号で発表した。著者は「結果はPPI服用への警戒感を高めることを支持するものだった」とまとめている。これまでに、PPI服用は重篤な有害事象と関連しており、全死因死亡リスクを増大することが報告されていた。PPI服用と全死因死亡および死因別死亡との関連を評価 研究グループは、米国退役軍人省のデータベースを用いた長期観察コホート研究で、PPI服用と全死因死亡および死因別死亡との関連(PPI服用1,000患者当たりの報告された起因性死亡数)を推算し評価した。 被験者は、PPI(15万7,625例)またはH2ブロッカーの新規服用者(5万6,842例)であった。PPI服用1,000患者当たりの全死因過剰死亡は45.20例 PPI服用1,000患者当たりの過剰死亡は45.20例(95%信頼区間[CI]:28.20~61.40)であった。死因別にみると、循環器系疾患が17.47例(95%CI:5.47~28.80)、新生物12.94例(1.24~24.28)、感染症および寄生虫症4.20例(1.57~7.02)、泌尿生殖器系疾患6.25例(3.22~9.24)であった。 PPI曝露の累積期間と、全死因死亡および循環器系疾患・新生物・泌尿生殖器系疾患による死亡には、段階的関連性が認められた。 サブ死因別解析では、PPI服用と、心血管疾患(15.48、5.02~25.19)およびCKD(4.19、1.56~6.58)による過剰死亡との関連が示唆された。 酸分泌抑制薬に関わる消化器系の記録のない患者(11万6,377例)を対象とした解析では、PPI服用は心血管疾患(22.91、11.89~33.57)、CKD(4.74、1.53~8.05)、上部消化管がん(3.12、0.91~5.44)による過剰死亡と関連することが示唆された。形式交互作用解析により、これらサブ要因による死亡リスクは、心血管疾患、CKD、上部消化管がんの既往によって変化しないことが示された。 PPI服用は、腸管機能関連死や消化性潰瘍性疾患死(ネガティブ対照アウトカム)の過剰な負荷とは関連していなかった。

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ICUにおける消化管出血のリスクに対するpantoprazoleの有用性は?(解説:上村直実氏)-954

 ICU患者3,298例を対象として、ICUにおけるプロトンポンプ阻害薬(PPI)の有用性を検証する目的で、pantoprazole群(n=1,645)とプラセボ群(n=1,653)に分けた欧州6ヵ国の多施設共同無作為比較試験の結果がNEJM誌に報告された。主要評価項目である90日までの死亡者数はPPI群510例(31%)、プラセボ群499例(30%)で両群に差はなく、また、副次評価である臨床的に重要なイベント(肺炎、クロストリジウム・ディフィシル感染、心筋虚血の複合)の発生率にも差を認めなかった。さらに、臨床的に重篤な消化管出血は、PPI群(2.5%)に比べてプラセボ群(4.2%)が多かったが、症例数が少なく統計学的に有意な差といえなかった。 本論文は注意深い吟味が必要と思われた。論文の考察でも述べられているが、研究開始時にリクルートされた10,000例のうち胃酸分泌抑制薬内服者4,197例と消化性潰瘍患者207例を含む6,650例(66.5%)がエントリーから除外されている点は重要である。明らかな消化性潰瘍がなく胃酸分泌抑制薬の内服がない患者、すなわち出血性消化性潰瘍のリスクが低い集団を対象として、ICU在院中の死亡率低下に対するPPIの有用性を検討した研究として捉える必要がある。 以上の条件内でPPIの持続静注はICUにおける死亡率低下に対する有用性が乏しいことが示唆されたわけである。一方、臨床的に重篤な消化管出血はPPI群(2.5%)がプラセボ群(4.2%)に対して少ないことが示されているが、出血の原因が特定されていないため、本研究からPPIの胃酸分泌抑制作用による出血性潰瘍リスクに対する影響については不明である。さらに、考察で述べられているが、逆に消化性潰瘍患者や胃酸分泌抑制薬の内服者を対象とした試験を行っていれば、異なった結果が得られた可能性もある。 ICU入院に際して、胃酸分泌抑制薬の常用者でなく、明らかな消化性潰瘍を認めない患者において、消化管出血のリスク低下を目的とするPPI投与の有用性は乏しいことが立証された点が非常に重要な研究結果といえる。

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小児の胃酸関連疾患の治療課題とPPIなどの薬物療法

 2018年7月13日アストラゼネカ株式会社は、第一三共株式会社と共同販売するプロトンポンプ阻害薬(PPI)エソメプラゾール(商品名:ネキシウム)が、1歳以上の小児への追加承認を本年1月に受け、4月に同薬の懸濁用顆粒分包が新発売されたことを期し、「進化する酸関連疾患治療~子どもの酸関連疾患の治療課題とPPIがもたらす変革を考える~」をテーマとするメディアセミナーを開催した。セミナーでは、小児の胃食道逆流症など酸関連疾患の診療と今後の展望などが解説された(写真は、左:中山 佳子氏、右上:木下 芳一氏、右下:清水 俊明氏)。小児向け治療薬の臨床試験数が少ない日本の現状 はじめに中山 佳子氏(信州大学医学部小児医学教室 講師)を講師に迎え、「小児酸関連疾患の実情とアンメットニーズ」をテーマに講演が行われた。 冒頭、エソメプラゾールが、ほかの国から10年近く遅れて小児適応が承認されたことに触れ、わが国の小児医薬品の開発状況を概説した。今回の小児適応拡大は、2006年に日本小児栄養消化器肝臓学会から出された要望が、ようやく実ったもの。現在でも成人治療薬の約20%程度しか小児適応がないという。とくに小児領域では、対象年齢層(新生児~思春期)が広いこと、対象患者数・投与量の少なさによる採算性からメーカの躊躇などの理由があると、世界的にみても治験数が少ないわが国の問題点を指摘した。 つぎに小児の酸関連疾患の特徴として胃食道逆流症と胃潰瘍、十二指腸潰瘍について説明を行った。小児の胃潰瘍、十二指腸潰瘍ではPPIが有効 小児の胃食道逆流症は、10歳未満の患児3.2%にあると推測され、14歳まででは約3.7万の患児がいると推計されている。こうした患児の主訴は「嘔吐・嘔気」「腹痛」であり、胸やけや呑酸の訴えがない、またはできないために、見逃されやすいという。そのため、咳嗽や喘鳴、体重減少・成長不良、胸痛など消化管外症状について、医療者が医療面接で気付き、本症を想定できるかが重要だと語る。 小児の胃食道逆流症診療では、診断として上部消化管造影検査、食道pHモニタリング、上部消化管内視鏡検査などが実施される。また、鑑別診断では、好酸球性食道炎、消化性潰瘍、代謝性アシドーシスなどとの鑑別が必要となる。治療では、家族への説明、生活指導から始まり、授乳方法の改善(少量頻回、増粘ミルク、アレルギー疾患用ミルクなど)、そして、PPIなどの薬物療法へと移行する。実際、エソメプラゾールで治療する場合、1日10~20mgを約2週間投与し、症状の改善を確認。有効ならば、4~8週間の治療継続を行うことになるが、無効・再燃例では、小児専門医に紹介が必要となる。 小児の胃潰瘍、十二指腸潰瘍では、十二指腸潰瘍の頻度が高く、主症状は年齢により異なるという。新生児~乳児期では反復性の嘔吐、消化管出血、幼児期では臍周囲痛など非特異的な痛み、学童期では上腹部圧痛を伴う心窩部痛が多くなる。とくに患児が主訴で「お腹がモヤモヤする」と訴えた場合、十二指腸潰瘍を疑い、必要な検査などの施行が望まれる。また、危険兆候として、夜間睡眠中の腹痛による覚醒、嘔吐や貧血、ヘリコバクター・ピロリ感染の家族歴も参考になる。診断では、臨床所見のほか、検査で腹部エコーや上部消化管内視鏡検査で潰瘍の診断を確実にすることが必要とされる。治療では、PPIが著効するため、1歳以上の本症確定例の小児ではエソメプラゾール10~20mgを第1選択薬として、早期の症状消失、潰瘍治癒を促すとしている。 最後に中山氏は、「小児の酸関連疾患では、腹痛や嘔吐などを繰り返すため、患児は活動制約、成長障害などの合併症を来しうるとともに その保護者もケアの負担や成長への不安など日常で苦労が重積する。こうした疾患に早期診断、早期治療介入をすることで、患児と保護者のQOLの改善につなげていく必要がある。また、PPIのアンメットニーズとして、長期投与、1歳未満の乳児への使用、ヘリコバクター・ピロリ除菌への補助などまだ解決されるべきことも多い」と課題を呈し、講演を終了した。小児に使用できない治療薬の保険承認への呼び水に セミナー後半では、木下 芳一氏(島根大学医学部内科学講座第二 教授)を座長に、清水 俊明氏(順天堂大学大学院医学研究科 小児思春期発達・病態学講座 主任教授)と中山氏をパネリストに「幼児・小児の酸関連疾患の早期発見、早期診断・治療につなげるには」をテーマにパネルディスカッションが行われた。 ディスカッションでは、「酸関連疾患、早期発見のコツ」について木下氏が尋ねたところ、清水氏が「不規則な位置や時間に腹痛があれば酸関連疾患を疑う。家族歴の聴取も大事だ」と回答し、中山氏が「患児向けに『胸やけ』などの言葉の言いかえをあらかじめ示しておく。保護者に患児の表情や気になる点を細かく聴取するべき」と回答し、臨床に役立つポイントが語られた。また、今後の展望について、清水氏は「今回のエソメプラゾールの保険適用が、別の小児に使用できない治療薬の保険承認への呼び水になればよいと思う」と述べ、中山氏は「安全に患児に使える治療薬の拡大を望みたい」と語り、ディスカッションを終えた。■参考アストラゼネカ ニュースリリースプロトンポンプ阻害剤「ネキシウム」の小児用法・用量の追加を目指し、新たに臨床試験を開始

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「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」通知へ:厚労省

 厚生労働省の高齢者医薬品適正使用検討会は 5月7日の会合で、「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」について大筋で了承した。本指針では65歳以上の高齢者、とくに平均的な服薬薬剤数が増加する75歳以上に重点をおいて、処方見直しの基本的な考え方や評価・減薬までの流れ、よく使われる薬剤の高齢者における留意点などをまとめている。 早ければ5月中旬を目途に、関連団体や都道府県宛に通知が発出される見通し。また、同検討会では引き続き、主に急性期での対応をまとめた本指針の追補として、外来・在宅などの療養環境別の特徴を踏まえた「高齢者の医薬品適正使用の指針(詳細編)」の作成を開始し、2018年度中のとりまとめを目指す。 本指針は多剤服用やポリファーマシーといった言葉の概念から、処方見直し時のポイントや進め方のフローチャート、減薬する際の注意点などをまとめた本文と、薬効群ごとの薬剤処方における留意点、慎重な投与を要する薬物リストなどの別表から構成される。別表1「高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点」では、A~Lの12の薬効群ごと(下記参照)に薬剤選択や投与量・使用法に関する注意点、他の薬剤との相互作用に関する注意点が一覧化されている。A.催眠鎮静薬・抗不安薬B.抗うつ薬(スルピリド含む)C.BPSD 治療薬D.高血圧治療薬E.糖尿病治療薬F.脂質異常症治療薬G.抗凝固薬H.消化性潰瘍治療薬 I.消炎鎮痛剤J.抗微生物薬(抗菌薬・抗ウイルス薬)K.緩下薬L.抗コリン系薬剤 なお、詳細編では認知症や骨粗鬆症、COPDなどについても取り上げることが検討されている。■参考厚生労働省「高齢者医薬品適正使用検討会」

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O型女性は胃十二指腸潰瘍リスクが高い~日本ナースヘルス研究

 ABO式血液型でO型の日本人女性は、他の血液型の女性よりも胃十二指腸潰瘍の発症リスクが有意に高いことが、群馬大学のLobna Alkebsi氏らの研究により明らかになった。また、1955年以前に出生した群は、それ以降に出生した群よりも高リスクであった。Journal of epidemiology誌オンライン版2017年10月28日号の報告。 血液型Oが消化性潰瘍リスク上昇と関連するという報告があるが、日本人対象の調査はほとんどない。そのため、著者らは、日本人女性の大規模コホート研究である日本ナースヘルス研究※(n=15,019)の前向き/後ろ向きデータ両方を用いて分析を行い、ABO式血液型と胃十二指腸潰瘍発症リスクとの関連性を調査した。胃十二指腸潰瘍発症リスクに対するABO式血液型の影響は、Cox回帰分析を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・血液型Oの女性は、それ以外の血液型(A、B、AB)の女性と比較して、出生時から胃十二指腸潰瘍の発症リスクが有意に高かった(多変量調整ハザード比 1.18、95%CI:1.04~1.34)。・血液型Oで1955年以前に出生した女性は、それ以降に出生した女性よりも、胃十二指腸潰瘍の累積発生率が高かった。 1955年以前群:多変量調整ハザード比 1.22、95%CI 1.00~1.49 1956年以降群:多変量調整ハザード比 1.15、95%CI 0.98~1.35※日本ナースヘルス研究(JNHS:Japan Nurses' Health Study) 女性の健康増進に役立てるため、日本の女性看護職員を対象に、生活習慣や女性ホルモン剤の利用が健康にどのような影響を及ぼすかを研究している。

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HER2陽性乳がんの延長アジュバントにneratinib承認

 米国食品医薬品局(FDA)は2017年7月17日、早期のHER2陽性乳がんの長期アジュバント治療に、pan-HERチロシンキナーゼ阻害薬neratinibを承認した。neratinib治療は、この対象患者で初となる延長アジュバント療法であり、がんの再発リスクをさらに下げるため初回治療後に行われる。neratinibの適応患者はトラスツズマブレジメンの既治療患者である。 今回の承認は、第III相ExteNET 試験と、第II相CONTROL 試験の結果に基づくもの。ExteNET 試験の初回解析では、2年間の無浸潤無病生存率(iDFS)は、neratinib治療患者では94.2%、プラセボ患者では91.9%であった(HR:066、95% CI:0.49-0.90、p=0.008)。 neratinibの安全性と有効性は、過去2年間にトラスツズマブで治療を完了した早期HER2陽性乳がん患者2,840例の無作為化試験で研究された。neratinibの主な副作用は、下痢、悪心、腹痛、疲労感、嘔吐、皮疹、口内炎、食欲不振、筋痙攣、消化不良、肝障害(ASTまたはALT上昇)、爪障害、乾燥皮膚、腹部膨満、体重減少、尿路感染症であった。 国立がん研究所(NCI)は、本年、米国では約25万人の女性が乳がんと診断され、4万人が乳がんにより死亡すると推定している。また、HER2陽性患者は乳がんの約15%である。■参考FDAニュースリリース

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