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第46回 新型コロナの緊急事態宣言、感染拡大の二の舞を踏まないための最適な解除時期は?

今年1月7日、新型インフルエンザ等特別措置法に基づく緊急事態宣言が首都圏の1都3県にて発令されてから7週間が経過しようとしている。1月13日には宣言対象地域を栃木県、愛知県、岐阜県、京都府、大阪府、兵庫県、福岡県の2府5県に拡大。当初2月7日としていた期限は、栃木県を除き3月7日まで延長された。ただ、政府は延長当初から状況が改善された都府県に関しては、専門家の意見を聴取したうえで、3月7日を待たずに前倒しで宣言を解除する方針を明示。解除目安として昨年8月、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会が提言した「今後想定される感染状況と対策について」で示された感染状況の分類、ステージI~IVのうちステージIIIになることとの方針も明らかにした。そして、ここにきて政府は関西3府県、中京2県について月内で宣言を解除する腹積もりがあるらしい。この記事が公開された頃には、たぶん5府県は宣言が解除されているのだろうと予想する。ちなみに前述の感染状況のステージとは、ステージIが「感染散発段階」、ステージIIが「感染漸増段階」、ステージIIIが「感染急増段階」、ステージIVが「感染爆発段階」のように分類され(カギカッコ内表記は分科会発表資料の趣旨を要約)、ステージIIIとステージIVは数値基準がある。ステージIIIは(1)入院者・重症者それぞれの病床使用率が20%以上、(2)10万人当たりの療養者数15人以上、(3)PCR陽性者率10%以上、(4)10万人当たりの新規感染報告数が1週間で15人以上、(5)直近1週間の新規感染者数が先週1週間の新規感染者数比で1倍以上、(6)新規感染者に占める感染経路不明率50%以上、となっている。ステージIVは、ステージIIIの(3)、(5)、(6)はそのままで、(1)が50%以上、(2)が25人以上、(4)が25人以上となった場合である。2月24日現在、関西3府県と中京2県の6指標はすべてステージIII以下である。具体的に説明すると、岐阜県は入院者の病床使用率が22%、愛知県は入院者病床使用率が30%で重症者病床使用率が25%、京都府は入院者病床使用率が30%で10万人当たりの療養者数16人、大阪府は入院者病床使用率が35%で重症者病床使用率が38%、兵庫県は入院者病床使用率が40%で重症者病床使用率が41%だ。これらがステージIIIに該当している以外は各項目ともステージII以下の水準である。確かに数字だけを見ればステージIII以下。ただ、改めて言うとステージIIIとは「感染急増段階」、あくまで一時的に最悪の状態を回避できているに過ぎない。ちょっとでも油断すれば、あるいは何かボタンを一つ押し間違えば一気にステージIVに達しかねないレベルである。たとえば、1日の感染者(PCR陽性者)報告で考えると、大阪府の場合、ステージIIIは189人、ステージIVが314人となる。大阪府の過去の数字に照らし合わせると、ちょうど昨年11月第1週がステージIIIに達したくらいだったが、11月第3週半ばにはステージIV水準になる。この間、要したのはわずか半月弱である。その後はスポットで感染者報告が減ることはあってもほぼステージIV水準を維持し続け、ステージIII水準に戻るのは1月第4週である。途中で緊急事態宣言という「劇薬」を使って、ざっと2ヵ月強かかっている。整理すると、わずか半月で起きた感染拡大を鎮火させるのに、半ば強制じみた措置を援用して2ヵ月以上かかったのだ。ちなみに現状の大阪府の1日当たりの新規感染者報告はすでに100人を切っているが、昨年この水準だったのは10月下旬である。そこから考えてもステージIV相当になるのに3週間である。しかも現状の大阪府の入院者、重症者の病床使用率はステージIIIの水準である。ここで感染者が増加に転じれば、感染者発生から重症者発生までの1週間強のタイムラグを考慮しても、最短で1ヵ月程度で病床使用率は再びステージIV水準に達してしまうだろう。すでに菅首相は高齢者のワクチン接種を4月12日には開始する旨を発表している。大阪府を例にとれば、いま宣言解除をすれば、下手をすると高齢者がワクチン接種のために出歩かなければならなくなる時期に感染爆発を招く恐れがある。その意味では、大阪府では1日の感染者報告数が50人前後、すべての指標がステージII水準になるぐらいが宣言解除時期としてより適切ということになるのではないだろうか?また、すべての指標がステージII段階とすれば、現時点で宣言解除の可能性が生まれ始めているのは、今の状態をあと1~2週間維持できれば、すべての指標がステージII入りすると推定できる愛知県、岐阜県ぐらいとなる。経済への影響を懸念する声があるのはもちろん承知しているが、現在の状況は1回目の緊急事態宣言発令時とは比較にならないほど感染が拡大している。1回目当時は最後まで緊急事態宣言が解除できずに残った5都道県のうち北海道と神奈川県は、政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の提言を受けて策定した緊急事態宣言解除の数値基準を満たさなかったにもかかわらず、あれこれと理屈をつけて解除に踏み切った。結局その後2ヵ月足らずで第2波に突入し、それが収まるか収まらないかという綱引きが続くなかで、泥縄的に第3波入りし、今に至っている。もちろん緊急事態宣言が解除されたからと言って、自治体が飲食店の時短営業要請などを一気に緩和するわけではないことは百も承知している。しかし、宣言解除という事態が一般に与える心理的な効果、敢えて言えば気の緩みは小さくないものだと考えている。緊急事態宣言の解除が一部に見え始めている今だからこそ、情報を発信する側も気が抜けないと感じている。

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中等~重症COVID-19に高用量ビタミンD3単回投与は有益か?/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の入院患者において、高用量のビタミンD3単回投与はプラセボと比較し、在院日数を有意に減少させることはないことが示された。ブラジル・サンパウロ大学医学部のIgor H. Murai氏らが、ブラジル・サンパウロの2施設で実施した無作為化二重盲検比較試験の結果を報告した。COVID-19に対するビタミンD3補給の有効性はこれまで不明であったが、結果を受けて著者は、「中等症~重症COVID-19患者の治療として高用量ビタミンD3の使用は支持されないことが示された」と述べている。JAMA誌オンライン版2021年2月17日号掲載の報告。中等症~重症のCOVID-19入院患者でビタミンD3の有効性をプラセボと比較 研究グループは、2020年6月2日~8月27日の期間に中等症~重症COVID-19入院患者240例を登録し、ビタミンD3投与群(20万IU単回経口投与)(120例)またはプラセボ群(120例)に無作為に割り付け、2020年10月7日まで追跡した。 主要評価項目は在院日数(無作為化から退院までの期間と定義)、事前に設定した副次評価項目は在院死亡、集中治療室(ICU)への入室、人工呼吸器を必要とした患者の割合および人工呼吸器装着期間、血清25-ヒドロキシビタミンD値、総カルシウム濃度、クレアチニン、C反応性蛋白(CRP)などであった。両群で在院日数に有意差なし 無作為化された患者240例のうち、237例が主要解析に組み込まれた。解析対象患者の平均(±SD)年齢は56.2±14.4歳、女性が104例(43.9%)、ベースラインの平均(±SD)25-ヒドロキシビタミンD値は20.9±9.2ng/mLであった。 在院日数は中央値で、ビタミンD3群7.0日(四分位範囲[IQR]:4.0~10.0日)、プラセボ群7.0日(IQR:5.0~13.0日)で、両群間で差はなかった(log-rank検定p=0.59、退院の補正前ハザード比:1.07[95%信頼区間[CI]:0.82~1.39]、p=0.62)。 また、ビタミンD3群とプラセボ群との間で、在院死亡率(7.6% vs.5.1%、群間差:2.5%[95%CI:-4.1~9.2]、p=0.43)、ICU入室率(16.0% vs.21.2%、群間差:-5.2%[95%CI:-15.1~4.7]、p=0.30)、人工呼吸器装着率(7.6% vs.14.4%、群間差:-6.8%[95%CI:-15.1~1.2]、p=0.09)で有意差は確認されなかった。血清25-ヒドロキシビタミンD値は、ビタミンD3群においてプラセボ群より有意に増加した(44.4ng/mL vs.19.8ng/mL、群間差:24.1ng/mL[95%CI:19.5~28.7]、p<0.001)。 有害事象は確認されなかったが、介入と関連した嘔吐がみられた。

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COVID-19ワクチンの今と筋注手技のコツ/日本プライマリ・ケア連合学会

 今月より医療者を対象に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種が開始された。開始されたワクチンは、ファイザーの「コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2)」(商品名:コミナティ筋注)であるが、今後別の種類のワクチンの承認追加も予定されている。 実際、これらワクチンの効果や安全性はどの程度わかっているのであろう。また、現状接種は、筋肉注射による接種であるがインフルエンザの予防接種などで広く行われている皮下注射とどう異なり、接種の際に注意すべきポイントはあるのだろうか。 今後、高齢者や基礎疾患を持つ一般人への接種も始まる中で、日本プライマリ・ケア連合学会(理事長:草場 鉄周)は、2月22日に同連合学会のホームページ上で2つのコンテンツを公開した(コンテンツは予防医療健康増進委員会 感染症プロジェクトチームが監修)。 1つは、2月17日にオンライン講演で行われたものを録画した『新型コロナウイルスワクチンについて いまわかっていること、まだわからないこと』であり、COVID-19ワクチンについて次の内容がレクチャーされている。概要1. ウイルスと免疫のしくみ2. 新型コロナワクチンのしくみ3. 新型コロナワクチンの効果4. 新型コロナワクチンの副反応5. 新型コロナワクチンの具体的な接種法6. 新型コロナワクチンについてまだわからないこと7. 新型コロナワクチンについての不安やデマ8. 新型コロナワクチンみんなで気を付けること質疑応答 全体で約2時間にわたる講演であるが、臨床に携わる医療者からの質疑応答には長時間を割き、丁寧かつコンパクトに説明を行っている。 また、もう1つは『新型コロナワクチン 筋肉注射の方法とコツ』の動画である。動画では、注射針の選定からシリンジの長さ別の注射のポイント、接種部位の指定、接種時の注意点などが約8分の動画でまとめられている。 いずれの動画も視聴のうえ、今後のワクチン接種時の参考にしていただきたい。【追記】 筋肉注射の解説動画については、公開後のさまざまな意見などを踏まえ、3月15日に「2021年3月版」として新たな接種部位の紹介と接種肢位の注意点などの情報を更新し、公開している。

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COVID-19入院患者への早期予防的抗凝固療法、30日死亡率を低下/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者において、早期予防的抗凝固療法は非投与と比較して、重大出血のイベントリスクを増大することなく30日死亡率を有意に低下することが示された。英国・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のChristopher T. Rentsch氏らが、4,297例の入院患者を対象に行った観察コホート試験の結果で、BMJ誌2021年2月11日号で発表した。COVID-19患者の死亡原因の一部として、静脈血栓塞栓症および動脈血栓症が報告されている。抗凝固療法は、血栓形成を予防し、抗ウイルス性および潜在的な抗炎症性作用も有し、COVID-19患者に有効であることが期待されている。今回の結果を踏まえて著者は、「今回の所見は、COVID-19入院患者の初期治療として、予防的抗凝固療法の実施を推奨するガイドラインを支持する、強力なリアルワールドのエビデンスを提供するものである」と述べている。抗凝固療法歴のない4,297例を対象に観察コホート試験 研究グループは、米国退役軍人省が運営する全米医療システムに加入し、2020年3月1日~7月31日に、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染が確認された入院患者で、抗凝固療法歴のない4,297例について観察コホート試験を行った。早期予防的抗凝固療法の実施と、死亡率との関連を検証した。 主要アウトカムは、30日死亡率だった。副次アウトカムは、入院死亡率、抗凝固療法の実施(血栓塞栓症など臨床的増悪の代用アウトカム)、輸血を要する出血だった。予防的抗凝固療法で輸血を要する出血リスクは増大せず 4,297例のCOVID-19入院患者のうち、入院後24時間以内に予防的抗凝固療法を行ったのは3,627例(84.4%)だった。そのうち99%超の3,600例が、ヘパリンまたはエノキサパリンの皮下投与を受けた。 入院後30日以内の死亡は622例で、うち予防的抗凝固療法群の死亡は513例だった。 inverse probability of treatment weighted解析にて、入院30日時点の累積死亡率は、予防的抗凝固療法群14.3%(95%信頼区間[CI]:13.1~15.5)、非予防的抗凝固療法群18.7%(95%CI:15.1~22.9)で、予防的抗凝固療法群の30日死亡率に関するハザード比(HR)は0.73(95%CI:0.66~0.81)と27%のリスク低下が認められた。同様の関連性が、入院患者の死亡率と予防的抗凝固療法の実施についても認められた。 一方で、予防的抗凝固療法による輸血を要する出血リスク増大は認められなかった(HR:0.87、95%CI:0.71~1.05)。 量的バイアス分析では、同試験結果は計測されない交絡因子に対してロバストであることが示された(30日死亡率に関するe値の95%CI下限値は1.77)。感度解析でも結果は維持された。

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cemiplimab単独療法、PD-L1≧50%進行NSCLCのOSとPFSを延長/Lancet

 未治療のプログラム細胞死リガンド1(PD-L1)発現率≧50%の進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者の治療において、cemiplimab単剤療法はプラチナ製剤ベースの2剤併用化学療法と比較して、全生存(OS)期間および無増悪生存(PFS)期間を有意に延長し、1次治療の新たな選択肢となる可能性があることが、トルコ・バシケント大学のAhmet Sezer氏らが行った「EMPOWER-Lung 1試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌2021年2月13日号に掲載された。cemiplimabは、PD-1に直接的に作用する強力な完全ヒト・ヒンジ安定化IgG4モノクローナル抗体。根治的手術や根治的放射線治療が適応とならない転移を有する/局所進行皮膚有棘細胞がんの治療薬として米国などで承認されており、進行固形腫瘍では他のPD-1阻害薬と同程度の抗腫瘍活性と安全性プロファイルが確認されている。24ヵ国138施設の無作為化第III相試験 研究グループは、進行NSCLCの1次治療におけるcemiplimabの有用性を評価する目的で、国際的な非盲検無作為化対照比較第III相試験を実施した(Regeneron PharmaceuticalsとSanofiの助成による)。2017年6月~2020年2月の期間に、24ヵ国138施設で患者登録が行われた。 対象は、年齢18歳以上、組織学的または細胞学的にStageIIIB/IIIC/IVのNSCLCと確定され、全身状態(ECOG PS)が0/1の患者であった。生涯非喫煙者は除外された。 被験者は、cemiplimab(350mg、3週ごと)またはプラチナ製剤ベース2剤併用化学療法薬の投与を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。化学療法群の患者は、病勢進行後にcemiplimabへのクロスオーバーが許容された。 主要エンドポイントは、マスクされた独立審査委員会の評価によるOS期間およびPFS期間とし、intention-to-treat(ITT)集団および米国食品医薬品局(FDA)の要請で事前に規定されたPD-L1発現率≧50%の集団で評価された。有害事象の評価は、少なくとも1回の投与を受けたすべての患者で行われた。死亡リスクが43%低減、2年OS率は50% 710例(ITT集団)が登録され、cemiplimab群に356例(年齢中央値63歳、女性12%)、化学療法群には354例(64歳、17%)が割り付けられた。このうちPD-L1発現率≧50%の患者は563例で、cemiplimab群283例(63歳、12%)、化学療法群280例(64歳、18%)だった。化学療法群の病勢進行例は203例で、このうち150例(74%)がクロスオーバーとしてcemiplimabの投与を受けた。 PD-L1発現率≧50%の集団におけるOS期間中央値は、cemiplimab群が未到達(95%信頼区間[CI]:17.9~評価不能)、化学療法群は14.2ヵ月(11.2~17.5)であり、ハザード比(HR)は0.57(0.42~0.77)と、cemiplimab群で有意に良好であった(p=0.0002)。また、2年OS率は、cemiplimab群50%(36~63)、化学療法群27%(14~43)だった。 同集団のPFS期間中央値は、cemiplimab群が8.2ヵ月(95%CI:6.1~8.8)と、化学療法群の5.7ヵ月(4.5~6.2)に比べ有意に延長した(HR:0.54、95%CI:0.43~0.68、p<0.0001)。また、1年PFS率は、cemiplimab群41%(34~48)、化学療法群7%(4~12)だった。 同集団の客観的奏効率は、cemiplimab群が39%(111/283例、CR:6例[2%]、PR:105例[37%])、化学療法群は20%(57/280例、3例[1%]、54例[19%])であり(オッズ比[OR]:2.53、95%CI:1.74~3.69、p<0.0001)、奏効期間中央値はそれぞれ16.7ヵ月および6.0ヵ月であった。 一方、ITT集団でも、高いクロスオーバー率(74%)にもかかわらず、OS期間中央値(22.1ヵ月[95%CI:17.7~評価不能]vs.14.3ヵ月[11.7~19.2]、HR:0.68[95%CI:0.53~0.87]、p=0.0022)およびPFS期間中央値(6.2ヵ月[4.5~8.3]vs.5.6ヵ月[4.5~6.1]、0.59[0.49~0.72]、p<0.0001)は、いずれもcemiplimab群で有意に良好であった。 治験薬投与中に発現したGrade3/4の有害事象は、cemiplimab群が28%(98/355例)、化学療法群は39%(135/342例)で認められ、cemiplimab群では肺炎(16例[5%])、貧血(12例[3%])、低ナトリウム血症(9例[3%])の頻度が高く、化学療法群では貧血(56例[16%])、好中球減少(35例[10%])、血小板減少(28例[8%])が高頻度にみられた。 著者は、「探索的解析では、PD-L1発現の増加と良好な転帰に相関が認められ、有効性の腫瘍バイオマーカーとしてのPD-L1のエビデンスがもたらされた」としている。

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COVID-19の重症度、現在より過去の喫煙が関連か/日本疫学会

 喫煙者の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)重症化リスクについては、海外から相反する結果が報告されている。また、過去喫煙者と現在喫煙者では重症化リスクが異なるとの報告もある。日本人COVID-19入院患者を対象に、喫煙歴と重症度の関連を検討した結果を、1月27~29日にオンライン開催された第31回日本疫学会学術総会で、大曲 貴夫氏(国立国際医療研究センター 国際感染症センター長)が発表した。 解析に使われたのは、国立国際医療研究センターが中心となり日本全国の施設からCOVID-19入院症例を登録するレジストリ研究COVIREGI-JP1)のデータ。2021年1月12日時点で、872施設から2万4,017例が登録されている。このうち、日本国籍を有し、転院・転送例を除く20~89歳の患者1万853例が解析対象とされた。 重症度は入院中の治療等により0~5の6段階で定義された(重症度0:酸素投与なし、重症度1:非侵襲的な酸素投与、重症度2:ハイフロー・NIPPV、重症度3:侵襲的機械換気[ECMO以外]、重症度4:ECMO、重症度5:死亡[治療内容は問わず])。 主な結果は以下の通り。・解析対象患者の属性は、男性6,321例、女性4,532例。20代が2,091例と最も多く、50代(1,917例)、40代(1,729例)、30代(1,534例)と続く。・喫煙歴は、[男性]現在喫煙者:1,581例(28.8%)、過去喫煙者:1,717例(31.2%)、喫煙歴なし:2,198例(40.0%)[女性]現在喫煙者:574例(15.0%)、過去喫煙者:453例(11.8%)、喫煙歴なし:2,803例(73.2%)・重症度は、[男性]0:4,655例(73.6%)、1:1,186例(18.8%)、2:132例(2.1%)、3:100例(1.6%)、4:15例(0.2%)、5:233例(3.7%)[女性]0:3,783例(83.5%)、1:598例(13.2%)、2:40例(0.9%)、3:15例(0.3%)、4:0%、5:96例(2.1%)・男女ともに年齢が上がるほど重症化リスクが高い傾向がみられた。・年齢で調整後も、女性より男性で重症化リスクが高い傾向がみられた。・心血管疾患、COPD、糖尿病、肥満などの既報にて重症化との関連が指摘されている併存疾患を有する場合、併存疾患なしの場合と比較して重症化リスクが有意に増加していた。・男性では、とくに重症度1および4/5との比較において、過去の喫煙者で重症化リスクが高まる傾向がみられた(重症度0を対照群、喫煙歴なしを基準としたオッズ比):[重症度1(1,186例)]現在喫煙者:年齢調整後0.88(95%信頼区間:0.73~1.07)、年齢・併存疾患調整後0.84(0.69~1.03)過去喫煙者:年齢調整後1.28(1.09~1.52)、年齢・併存疾患調整後1.23(1.04~1.46)[重症度2(132例)]現在喫煙者:年齢調整後0.62(0.36~1.07)、年齢・併存疾患調整後0.60(0.35~1.04)過去喫煙者:年齢調整後1.14(0.76~1.71)、年齢・併存疾患調整後1.08(0.72~1.64)[重症度4/5(248例)]現在喫煙者:年齢調整後0.97(0.55~1.69)、年齢・併存疾患調整後0.88(0.48~1.62)過去喫煙者:年齢調整後1.61(1.11~2.33)、年齢・併存疾患調整後1.29(0.86~1.93)・女性では、男性でみられたような傾向はみられなかった。・現在喫煙者と比較して過去喫煙者のほうが、うっ血性心不全、脳血管障害、高血圧症、重症糖尿病などの併存疾患を有する割合が高かった。 これらの結果から、大曲氏は喫煙歴とCOVID-19重症化リスクについて、下記のように考察した:1.過去喫煙者は何らかの疾患に罹患したことで禁煙した可能性がある2.過去喫煙者は禁煙したものの、併存疾患により重症化リスクが高いのではないか3.現在喫煙者はまだこれらの疾患に罹患していないために、重症化リスクが上がらないのではないか4.現在の喫煙そのものは現在の重症化リスクとは直接関係しないが、他の疾患に罹患することで将来COVID-19に罹患した場合には重症化リスクが高まるのではないか また、女性では過去の喫煙と重症度との間に関連がみられなかったことについて、女性では全体として喫煙者が少なく、検出力が不足していた可能性を指摘した。

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「新型コロナワクチンについて 第1版」を公開/国立感染研

 国立感染症研究所が、「新型コロナワクチンについて 第1版(2021年2月12日現在)」を公開した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチンの国内での接種開始にあたり、現在得られている知見を概要としてまとめたもの。これまで見つかっている3種類の変異株への効果についても考察されている。 本ページには、以下の内容が引用文献とともに掲載されている。・新型コロナウイルスの感染成立のメカニズムについて・日本で使用が検討されている3つの新型コロナワクチンの種類、組成、ベクターについて・海外での臨床試験における評価項目、臨床試験成績について・有効性の持続期間と今後の接種スケジュールの展望について・新規変異株に対するワクチン有効性について

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肺血栓塞栓症はCOPD増悪の原因と考えてよいか?(解説:山口佳寿博氏)-1355

 まず言葉の定義から考えていく。COPDの分野にあって、“急性増悪”という言葉が使用されなくなって久しい。現在では、単に“増悪(Exacerbation)”という言葉を使用する。さらに、増悪は“気道病変(炎症)の悪化を原因とする呼吸器症状の急性変化”と定義される(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease (GOLD) 2006以降)。GOLD 2003では、増悪は狭義のもの(一次性原因)と広義のもの(二次性原因)の2種類に分類されたが、GOLD 2006以降では、気道病変(炎症)の悪化を原因とする“狭義の増悪”を“増悪”と定義し、それ以外の原因に起因する“広義の増悪”は増悪ではなく“増悪の鑑別診断/修飾因子”として考慮することになった(肺炎、肺血栓塞栓症、気胸、胸部外傷、胸水、心不全/不整脈、麻薬/鎮静剤、β blocker。GOLD 2011以降では、麻薬/鎮静剤、β blockerが鑑別から除外)。増悪の定義が厳密化されたのは、増悪様症状を示した症例のうち80%以上が感染性(気道感染)、非感染性(環境汚染など)による気道炎症の悪化に起因し、それに対してSteroid、抗菌薬を中心とした基本的治療法が確立されたためである。その意味で、肺血栓塞栓症(PTE:Pulmonary thromboembolism)は増悪を惹起する原因ではなく、増悪の鑑別診断となる病態であることをまず理解していただきたい。 COPDとPTEの合併に関しては古くから多くの検討がなされ、COPD患者におけるPTEの合併率は、19%(Lesser BA, et al. Chest. 1992;102:17-22.)から23%(Shetty R, et al. J Thromb Thrombolysis. 2008;26:35-40.)と報告されている。これらのPTE合併頻度は本邦の一般人口におけるPTEの発症頻度(剖検例での検討:無症候性の軽症を含め18~24%)とほぼ同等であり、COPD自体がPTE発症を助長しているわけではない。しかしながら、原因不明のCOPD増悪(一次性原因と二次性原因を含む)症例を解析した論文では、その3.3%(Rutschmann OT, et al. Thorax. 2007;62:121-125.)から25%(Tillie-Leblond I, et al. Ann Intern Med. 2006;144:390-396.)にPTEの合併を認めたと報告された。本論評で取り上げたCouturaudらの論文では、COPD増悪様症状を呈した症例の5.9%にPTEの合併を認めたと報告されている(Couturaud, et al. JAMA. 2021;325:59-68.)。これら3論文を合わせて考えると、増悪様症状を呈したCOPD患者のうち少なくとも10%前後に、二次性原因としてのPTEが合併しているものと考えなければならない。以上の解析結果は、安定期COPDはPTEの発生要因にはならないが、COPDの増悪様症状を呈した患者にあってはPTEに起因するものが少なからず含まれ、COPDの真の増悪(一次性増悪)の鑑別診断としてPTEは重要であることを示唆する。PTEの合併はCOPD患者のその後の生命予後を悪化させ、1年後の死亡率はPTE合併がなかったCOPD患者の1.94倍に達する(Carson JL, et al. Chest. 1996;110:1212-1219.)。 Couturaudらのものを含め現在までに報告された論文からは、COPDの真の増悪とPTEとの関連を明確には把握できない。COPDの増悪がPTEの危険因子となる、あるいは、逆にPTEの合併がCOPDの真の増悪をさらに悪化させるかどうかを判定するためには、増悪様症状を呈したCOPD患者を真の増悪(一次性原因)とそうでないもの(二次性原因)に分類し、各群でPTEの発症頻度を評価する必要がある。COPDの真の増悪は、一秒量(FEV1)関連の閉塞性換気指標の悪化、喀痰での好中球、好酸球の増加、喀痰中の微生物の変化などから簡単に判定できる。これらの変化は、PTEなどの二次性原因では認められないはずである。以上のような解析がなされれば、COPDの真の増悪とPTE発症の関係が正確に把握でき、COPDの真の増悪がPTE発症の危険因子として作用するか否かの問題に決着をつけることができる。今後、このような解析が世界的になされることを念願するものである。本邦のPTEガイドライン(cf. 10学会合同の『肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症[静脈血栓塞栓症]予防ガイドライン』[2004])では、COPDの増悪がPTEの危険因子の1つとして記載されているが、この場合の増悪がいかなる意味で使用されているのか、再度議論される必要がある。

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コロナワクチン「コミナティ」使用時の具体的な注意点

 「SARS-CoV-2による感染症の予防」を効能・効果として2月14日に特例承認されたファイザーの「コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2)」(商品名:コミナティ筋注)について、同日、本剤の使用に当たっての具体的な留意事項の通知が、厚生労働省から都道府県などの各衛生主管部(局)長宛に発出された。 本通知には、薬剤調製、接種時の具体的な注意点が記載されており、以下に一部抜粋する。■解凍方法・冷蔵庫(2~8℃)で解凍する場合は、解凍および希釈を5日以内に行う・室温で解凍する場合は、解凍および希釈を2時間以内に行う・解凍後は再冷凍しない■希釈方法・希釈前に室温に戻しておく・本剤のバイアルに日局生理食塩液1.8mLを加え、白色の均一な液になるまでゆっくりと転倒混和する。振り混ぜない・希釈後の液は6回接種分(1回0.3mL)を有する。デッドボリュームの少ない注射針または注射筒を使用した場合、6回分を採取することができる。標準的な注射針および注射筒等を使用した場合、6回目の接種分を採取できないことがある。1回0.3mLを採取できない場合、残量は廃棄する・希釈後の液は2~30℃で保存し、希釈後6時間以内に使用する。希釈後6時間以内に使用しなかった液は廃棄する■薬剤接種時の注意・通常、三角筋に筋肉内接種する。静脈内、皮内、皮下への接種は行わない また本剤の適正使用として、本剤の成分に対して重度の過敏症の既往歴のある者等は予防接種を受けることが適当でないとし、本剤の成分を示している。・トジナメラン(有効成分)・[(4-ヒドロキシブチル)アザンジイル]ビス(ヘキサン-6,1-ジイル)ビス(2-ヘキシルデカン酸エステル)・2-[(ポリエチレングリコール)-2000]-N,N-ジテトラデシルアセトアミド・1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン・コレステロール・精製白糖・塩化ナトリウム・塩化カリウム・リン酸水素ナトリウム二水和物・リン酸二水素カリウム そのほか、注射による心因性反応を含む血管迷走神経反射としてあらわれる失神への対処、妊婦または妊娠している可能性のある女性への接種の考え方なども記載されている。

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COVID-19関連小児多系統炎症性症候群、IVIG+ステロイドが有効/JAMA

 小児多系統炎症性症候群(MIS-C)の初期治療は、免疫グロブリン静注療法(IVIG)とメチルプレドニゾロンの併用療法がIVIG単独と比較し有効であることが、フランス国内のサーベイランスシステムのデータを用いた後ろ向きコホート研究の結果で明らかとなった。同国・パリ大学のNaim Ouldali氏らが報告した。MIS-Cは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の感染に関連する最も重症の小児疾患で、死に至る可能性もあるが、最適な治療戦略はわかっていない。JAMA誌オンライン版2021年2月1日号掲載の報告。フランス全例調査、IVIG+メチルプレドニゾロン併用療法vs.IVIG単独の有効性を比較 2020年4月に欧州と米国で小児の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と関連すると思われるMIS-Cが報告されて以降、フランスではMIS-Cが疑われる症例はすべて同国の公衆衛生局に報告された。 研究グループは、このサーベイランスシステムのデータを用い、MIS-Cの初期治療としてのIVIG+メチルプレドニゾロン併用療法とIVIG単独の有効性について、傾向スコアマッチング法により後ろ向きに解析した。研究期間は2020年4月1日~2021年1月6日。 主要評価項目は、初期治療開始2日後の発熱持続、または7日以内の発熱再発で、これらを治療失敗と定義した。副次評価項目は、2次治療、血行動態補助、初期治療後の急性左心室機能不全および小児集中治療室在室期間であった。併用療法群で治療失敗リスクが有意に低い MIS-Cが疑われる小児患者は181例で、このうち111例が世界保健機関(WHO)の定義を満たした(女児58例[52%]、年齢中央値8.6歳[四分位範囲:4.7~12.1])。111例中5例は、併用療法およびIVIG単独療法のいずれも受けていなかった。 治療失敗は、併用療法群34例中3例(9%)、IVIG単独群72例中37例(51%)に認められた。併用療法群はIVIG単独群と比較して、治療失敗のリスク低下と関連していた(絶対リスク差:-0.28[95%信頼区間[CI]:-0.48~-0.08]、オッズ比[OR]:0.25[95%CI:0.09~0.70、p=0.008])。 併用療法群はIVIG単独群と比較して、2次治療実施のリスクも有意に低下した(絶対リスク差:-0.22[95%CI:-0.40~-0.04]、OR:0.19[95%CI:0.06~0.61、p=0.004])。また、血行動態補助(同:-0.17[-0.34~-0.004]、0.21[0.06~0.76])、初期治療後の急性左心室機能不全(-0.18[-0.35~-0.01]、0.20[0.06~0.66])、および小児集中治療室在室期間(中央値4日vs.6日、群間日数差:-2.4、95%CI:-4.0~-0.7)についても同様であった。

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新型コロナウイルスワクチンを特例承認/厚生労働省・ファイザー

 厚生労働省は、2月14日にファイザー株式会社から製造販売承認が申請されていた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンについて、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」の第14 条の3に基づく特例承認を行った。 特例承認とは同法の規定に基づき、「(1)疾病のまん延防止等のために緊急の使用が必要、(2)当該医薬品の使用以外に適切な方法がない、(3)海外で販売等が認められている」という要件を満たす医薬品につき、承認申請資料のうち臨床試験以外のものを承認後の提出としても良いなどとして特例的な承認をする制度。 本ワクチンの特例承認では、主要な国際共同第II/III相試験のデータと、本剤の日本人における安全性、忍容性および免疫原性を評価した国内第I/II相試験の主要なデータを含む包括的な科学的エビデンスに基づいている。 国際共同第II/III相試験では、2回目接種7日後から評価したSARS-CoV-2感染歴のない参加者の集団(1つ目の主要評価項目)、SARS-CoV-2感染歴のある参加者と感染歴のない参加者を含む集団(2つ目の主要評価項目)の両方において、本剤の発症予防効果は95%だった。また、国内第I/II相試験では、海外試験結果と同様の安全性および免疫原性が示された。本試験は継続中であり、安全性については最終接種から12ヵ月後まで収集し、試験結果は今後査読のある論文などで公表する予定としている。 これによりわが国でも医療従事者からCOVID-19ワクチンの接種が本格的に開始される。コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン概要販売名:コミナティ筋注一般名:コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2)効能または効果:SARS-CoV-2による感染症の予防効能または効果に関連する注意:本剤の予防効果の持続期間は確立していない。用法および用量:日局生理食塩液1.8mLにて希釈し、1回0.3mLを合計2回、通常、3週間の間隔で筋肉内に接種する。用法および用量に関連する注意:・接種対象者:本剤の接種は16歳以上の者に行う。・接種間隔:1回目の接種から3週間を超えた場合には、できる限り速やかに2回目の接種を実施すること。製造販売承認取得日:2021年2月14日製造販売元:ファイザー株式会社技術提携:BIONTECH

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アジスロマイシン、COVID-19入院患者への効果は?/Lancet

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の入院患者において、アジスロマイシンによる治療は生存期間および臨床転帰(侵襲的人工呼吸器装着または死亡)を改善しなかったことが、無作為化非盲検対照プラットフォーム試験「RECOVERY試験」の結果、明らかとなった。英国・オックスフォード大学のPeter W. Horby氏ら「RECOVERY試験」共同研究グループが報告した。アジスロマイシンは免疫調節作用を有していることから、COVID-19に対する治療として提案されてきたが、これまでの無作為化試験では、COVID-19の治療におけるマクロライド系抗菌薬の臨床的有益性は示されていなかった。結果を踏まえて著者は、「COVID-19入院患者に対するアジスロマイシンの使用は、明らかに抗菌薬の適応である患者に制限されるべきである」とまとめている。Lancet誌オンライン版2021年2月2日号掲載の報告。通常治療単独群とアジスロマイシン併用群で28日死亡率などを比較 RECOVERY(Randomised Evaluation of COVID-19 Therapy)試験は、英国の病院176施設で進行中の無作為化非盲検対照アダプティブプラットフォーム比較試験である。研究グループは、適格基準を満たし同意が得られたCOVID-19入院患者を、通常治療群または通常治療+アジスロマイシン(500mg 1日1回経口/静脈投与)群(以下、アジスロマイシン群)のいずれかに、ウェブシステムを用いて2対1の割合で無作為に割り付けた。投与は、10日間または退院まで(あるいはRECOVERY試験の他の治療群に割り付けられるまで)行われた。 主要評価項目は、intention-to-treat集団における無作為化から28日間の全死因死亡率であった。なお、患者と各病院の医療スタッフは治療の割り付けに関して盲検化されていないが、本試験に関わる他のすべての関係者は、臨床転帰に関するデータについて盲検化された。28日死亡率、生存退院までの期間、28日以内の生存退院率に有意差なし 2020年4月7日~11月27日に、RECOVERY試験の登録患者1万6,442例中、9,433例(57%)が適格基準を満たし、7,763例がアジスロマイシン群および通常治療群に無作為に割り付けられた(それぞれ2,582例および5,181例)。患者の平均(±SD)年齢は65.3±15.7歳で、約3分の1(2,944例、38%)が女性であった。 全体で無作為化から28日以内に、アジスロマイシン群で561例(22%)、通常治療群で1,162例(22%)が死亡した(率比:0.97、95%信頼区間[CI]:0.87~1.07、p=0.50)。生存退院までの期間中央値は、アジスロマイシン群10日(IQR:5~>28)、通常治療群11日(IQR:5~>28)で、28日以内の生存退院率はアジスロマイシン群69%(1,788/2,582例)、通常治療群68%(3,525/5,181例)で(率比:1.04、95%CI:0.98~1.10、p=0.19)、いずれも両群間で有意差は確認されなかった。 ベースラインで侵襲的人工呼吸管理を受けていない患者で、侵襲的人工呼吸管理または死亡に至った割合も有意差はなかった(リスク比:0.95、95%CI:0.87~1.03、p=0.24)。 なお、著者は、本無作為化試験は非盲検試験であり、ウイルス量や炎症の程度、非マクロライド系抗菌薬の使用などに関する情報、ならびに放射線学的または生理学的な転帰に関する情報が不明であることを研究の限界として挙げている。

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新型コロナ予防、マスク二重着用の有効性は?/CDC

 不織布マスク(サージカルマスク)の上から布マスクを着用することで密着度が高まり、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染の予防により効果的である可能性が実験で示された。米国疾病予防管理センター(CDC)が2021年2月10日に発表した。 不織布マスクや布マスクはN95マスクと比較すると密着性が低く、マスクの端、とくに左右両端から空気が漏れる可能性 がある。そこでCDCではシミュレーション実験により、不織布マスクの効果を改善するための2つの方法を評価した。1つは上から布マスクを重ねることで、もう1つはひもに結び目、タックを作る(余分な素材を顔の近くに折込んで平らにする)ことによる密着度の向上である。咳をした場合の状況をシミュレーションし、発生者と曝露者の各組合せが評価された。 シミュレーションには、エラストマー製ヘッドフォーム(発生者と曝露者)が使用され、発生者側のマウスピースから発生されたエアロゾル(<10μm [SARS-CoV-2の感染に最も重要であると考えられるサイズ])に対する効果が評価された。各手法について、15分間×3回の実験が行われた。 結び目等のない不織布マスクだけを着用した場合、シミュレートされた咳からの粒子の42.0%を遮断し(標準偏差[SD]:6.70)、布製マスクだけでは44.3%を遮断した(SD:14.0)のに対し、不織布マスクの上に布製マスクを重ねた場合(二重マスク)は92.5%を遮断した(SD:1.9)。 また、発生者が二重マスクをした場合、不織布マスクに結び目等を作り密着度を高めた場合に、マスクをしていない曝露者の累積曝露量は両者がマスクをしていない場合と比較してそれぞれ82.2%(SD:0.16)および62.9%(SD:0.08)削減された。 逆に発生者がマスクをしておらず、曝露者が二重マスクをした場合、不織布マスクに結び目等を作り密着度を高めた場合には、曝露者の累積曝露量はそれぞれ83.0%(SD:0.15)および64.5%(SD:0.03)削減された。 発生者と曝露者の両者が、二重マスクをした場合、不織布マスクに結び目等を作りマスクの密着度を高めた場合には、曝露者の累積曝露量はそれぞれ96.4%(SD:0.02)および95.9%(SD:0.02)削減された。 CDCでは今回の結果について、実験室レベルの検討であること等の限界に触れたうえで、マスク自体の性能にかかわらず、その密着性を高めることで効率が上昇する可能性があるとしている。布の上に布、不織布マスクの上に不織布マスク、または布の上に不織布マスクなど、マスクの他の組み合わせについては検討されていないことについても指摘している。 また、小さな子どもや髭のある男性などには一般化できない可能性もあり、一部の着用者では呼吸を妨げたり、周辺視野を妨害したりする可能性があるため、注意が必要であるとしている。

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第44回 新型コロナ治療薬アビガンの承認に立ちはだかる日本特有のバイアス

新型コロナウイルス感染症に対する最初のワクチン承認は2月12日に厚生労働省の薬事・食品衛生審議会(薬食審)医薬品第二部会で審議されることが決まり、ここでの承認は確実とみられている。ところが同じ厚労省薬食審医薬品第二部会は昨年12月21日の審議で富士フイルム富山化学が有する抗インフルエンザ薬ファビピラビル(商品名:アビガン)の新型コロナに対する適応拡大について承認を見送った。実はこの一件、今でもネットでは話題となっており、一部には「富士フイルム富山化学が厚労省の天下りを受け入れないから、嫌がらせをされた」などという見当違いな陰謀論まで展開されている。また、そこまでひどくはないものの、中には医療従事者が必ずしも科学的とは言えない見地から、今回の承認先送りを批判しているケースも見受けられる。承認先送りにはなんの矛盾もないそもそもアビガンの適応拡大に関する承認先送りに関しては、厚労省から記者向けに「薬食審で単盲検試験という設定が結果に与えた影響について議論され、現時点で得られたデータから有効性を明確に判断することは困難との結論になった」旨が説明されている。加えて承認不可ではなく、富士フイルム側が中国、ロシア以外での製造販売ライセンスを供与しているインドの製薬大手ドクター・レディーズ・ラボラトリーズがアメリカやクウェートで実施しているプラセボ対照の二重盲検試験の結果を待って判断する方針を示している。ただ、この直後に富士フイルム側が単盲検試験という設定について、一部の報道機関の取材に「審査機関に提示して合意を得たもの」とコメントしたことが、「お役所の手続きに従ったのになぜ?」というあらぬ憶測を呼んだとみられる。ちなみにここで言う審査機関とは、製薬企業が新薬の製造承認を申請した際に提出したデータの1次的審査をする厚労省所管の独立行政法人「医薬品医療機器総合機構(PMDA)」のことである。PMDAは製薬企業が新薬候補の動物実験やヒトでの臨床試験を行う際の法令への適合や科学的妥当性などを助言する事前相談業務も行っているのは周知のこと。今回のような緊急性の高い医薬品では、製薬企業はほぼ確実にPMDAに事前相談するはずであり、富士フイルム側の「合意を得たもの」というコメントも事前相談でのことを指すと思われる。ただ、これまで分かっている断片的な情報から判断したとしても、事前相談でPMDAが単盲検試験での臨床試験実施に同意していたことと、今回の承認先送りは何ら矛盾しない。まず、事前相談に当たって富士フイルム側は国内外も含めた臨床試験計画の全貌、つまり国内で単盲検試験、アメリカ、クウェートで二重盲検試験を実施することはPMDAに説明していたはずである。そう考えると、国内の単盲検試験はあくまで海外で二重盲検試験を行うという「保険」がついてのPMDAの「同意」であったことは想像に難くない。そもそも多くの医療従事者がご存じのように、歴史的に日本は新薬候補の臨床試験環境が良好とは言えない。たとえば、アメリカは医療保険が民間保険中心で一部には無保険者もいるため、臨床試験参加で治療機会を得ようとする人もいる。この結果、臨床試験実施の最大の難関である患者確保が従来から比較的容易である。しかし、国民皆保険制度の中で、有病者は安価に最善の治療を行われるのが当たり前の日本では、従来から実質無治療のプラセボ投与の可能性がある二重盲検試験は容易に実行できなかったのが実状だ。そして今回の新型コロナは致死率2%とはいえ死ぬ感染症。昨年来、タレントの志村 けんさんや岡江 久美子さんがこの感染症で命を落としたニュースに多くの人が接している。臨床試験環境が良くないベースの上に、死ぬかもしれない感染症という明確なイメージが流布されている中で、無治療に当たってしまうかもしれないプラセボ対照の二重盲検試験では感染者は参加をかなり尻込みしてしまうはずである。一方で中等症から数時間で一気に重症化することがある新型コロナの特性を考えると、二重盲検試験では医師もが試験参加に躊躇する可能性もある。これは臨床試験参加中の患者で急速な重症化が起きた場合、医師は最短で最適な対処法を模索しなければならず、急変する患者を目の前に関係各方面に連絡を取り、対象患者の試験脱落とキーブレイクを要請する手間暇が必要になるからだ。さらに生活習慣病などと違って、いつどこで患者が発生するかわからない感染症では、臨床試験の実施そのもののハードルがもともと高い。さらに世界的に見ると感染者が少ないという日本の現状は公衆衛生上好ましいことだが、この感染症に対する臨床試験環境としては好ましくないという皮肉な現実もある。いずれにせよ緊急性も踏まえ、日本で円滑な臨床試験を実施するためには単盲検試験という設定は致し方なかったと考えるのが順当だ。こうしたことなどを考えると、富士フイルム富山化学もPMDAも日本国内では単盲検試験という、とりあえず走り出しやすいスキームで先行し、そこで極めて良好な結果が得られた場合はその段階で、そうでなかった場合は二重盲検試験の結果を待って薬食審が適切に判断してくれるだろうという腹積もりがあったと思われる。臨床試験での気になるバイアスさてそこで行われた臨床試験だが、新型コロナウイルスのPCR検査で陽性となり、重篤ではないが胸部画像での肺病変(いわゆる肺炎)や37.5℃以上の発熱がある20~74歳までの入院患者156人が対象となった。患者全員に標準的な肺炎治療を行いながら2群に分け、一方にアビガン、もう一方にプラセボをそれぞれ追加投与した。主要評価項目は「症状(体温、酸素飽和度、胸部画像所見)の軽快かつPCR検査で陰性化するまでの期間」、副次評価項目は「有害事象」と「7段階スケールによる患者状態推移」である。主要評価項目はより具体的には▽体温の改善(37.4℃以下)▽酸素飽和度の改善(96%以上)▽胸部画像所見が最悪の状態から改善、の3条件が満たされた症例で1回目のPCR検査を実施し、そこからさらに48時間後に2回目のPCR検査を実施して2回とも陰性だった患者だけを選び出し、アビガンあるいはプラセボの投与開始から1回目のPCR検査陰性までの期間を比較するというものだ。この結果は論文では公表されていないが、富士フイルム側が公表したプレスリリースでは主要評価項目はアビガン投与群で11.9日、プラセボ投与群では14.7日となり、調整後ハザード比(HR)は1.593 (95%信頼区間[CI]:1.024~2.479、p=0.0136) となり、アビガン投与群で有意に症状を改善する可能性が示された。きわめておおざっぱな言い方をすれば、アビガン群で症状改善までの期間が3日弱短縮したわけだが、単盲検試験である前提で気になるのがPCR検査前の3条件のうちの「胸部画像所見判定」である。論文未発表のため画像判定の際、画像診断の評価を主目的とする臨床試験のように評価者2人以上での判定を突き合わせているかは定かではない。ただ、この感染症に対する労力、緊急性、医療現場のマンパワーの現状などを考えると、シンプルな主治医判定になっている可能性が十分考えられる。となると、わずか3日弱の差にこの「バイアス」が含まれているという非常に微妙な結果になる。この結果を前提に、催奇形性という重大な副作用の可能性が指摘されていることも加味すると、薬食審の委員が承認に慎重になってしまうのは不自然ではなく、むしろ当然とさえいえるだろう。承認を海外試験に託して良いものかそして薬食審で承認先送りにした際に結果を待つとされていた二重盲検試験のうち、クウェートでの試験結果の一部を1月27日、ドクター・レディーズ・ラボラトリーズがニュースリリースで公表している。試験は中等症から重症で入院中の新型コロナ患者353人を対象に症状改善までの時間を評価したが、アビガンを投与されたグループとプラセボを投与されたグループでは統計学的有意差が認められなかったとのこと。ただ、参加患者をよりリスクの低い(おそらく中等症)患者181人のみに絞って解析すると、アビガンを投与されたグループではプラセボを投与されたグループに比べて退院までの期間が3日短縮したという。もっとも一般的にエンドポイントの設定で「退院」はバイアスが入る余地があるソフトエンドポイントに分類されるため、これまた何とも微妙な結果となっている。残るはアメリカでの二重盲検試験だが、同試験が軽症から中等症者を対象に症状改善や入院・ICU入りリスクの軽減を評価する目的で行っているというと聞くと、正直ややため息が出てしまう。何でもかんでも難癖をつけるつもりはないのだが、新型コロナの軽症者はほぼ無治療でも回復するのが常識と言われている中で、この設定が妥当と言えるのか、そしてはたまたこの設定で劇的な効果は示せるのか、との疑念がわいてくる。いずれにせよ、何とも悩ましい「メード・イン・ジャパン・メディスン」なのである。

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医師の8割が新型コロナワクチンを希望、その本音は?/医師1,000人に聞きました

 新型コロナウイルスのワクチン接種が世界中で始まり、接種者は1億人を突破した。2月下旬より医療者を対象に接種が始まる日本でも、さまざまな新型コロナワクチンに関する情報が次々と飛び込んできており、そんななかで医師のワクチンに対する心境に変化はあるのだろうかー。 今回、医師の接種希望に関する心境の変化やその理由を探るため、昨年10月に会員医師へ行った新型コロナワクチン接種に関するアンケートの回答者1,027人に対し、2回目のアンケートを実施した[1月27日(木)~2月3日(水)]。980人から回答を得た結果より、医師のワクチン接種希望者は1回目のアンケートでは61.2%だったのが、2回目では82%に増加したことが明らかになった。 本アンケートでは30代以上の医師(勤務医、開業医問わず)を対象とし、新型コロナワクチン接種希望の有無や現状での懸念点などについて調査。集計結果を年代や病床数、診療科で比較した。また、今回のアンケートでは新型コロナ患者の対応有無で接種希望に違いがあるのかも比較するため、Q1では新型コロナ患者の対応状況を確認した。ワクチン接種希望の本音と建前 ワクチン接種の希望について質問(「Q2:ワクチンを接種したいとお考えですか?」)したところ、82%(799人)の医師が「はい」と回答。10月時点のアンケートと比較して、各年齢や各診療科で希望者が増加していた。とくに糖尿病・代謝・内分泌内科(46%→75%)、救急科(36%→79%)、脳神経外科(44%→81%)での伸びが顕著であり、主な理由として「接種に伴う問題が少しずつ明らかになってきた(50代、救急科)」「若干の有害事象はあるが大きな問題でないこと(50代、糖尿病・代謝・内分泌内科)」「ワクチンの効果が見え始めているので接種しようと考えを改めた(50代、脳神経外科)」など、安全性に関する情報が入手できるようになってきた影響が大きいようだ。一方で、「医療従事者が接種しなければ誰も接種しないと思う(30代、内科)」「医療従事者は仕方ない(60代、脳神経外科)」など、職務上やむを得ないというコメントもみられた。新型コロナ患者の対応有無で接種希望に差 さらに、新型コロナ対応医師(510人)の接種希望者が86%(440人)であったのに対し、未対応医師(470人)では76%(359人)と、対応状況によって接種意向に10%の差がみられた。 このほか、アンケート結果ではワクチンを希望しない医師に対し「どのような状況になったら接種したいか」を、10月と比べて心境に変化のあった医師に対し「その理由はなにか」を尋ね、回答を得た。アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。「新型コロナワクチン接種に対する1月時点の意向をお聞かせください」

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新型コロナ感染症に対する回復期血漿療法は有効か?(解説:山口佳寿博氏)-1353

 新型コロナに対する治療の一環として自然感染から回復した患者血漿を投与する療法が試みられている。これと同様の治療法はS蛋白の種々なる領域に対するMonoclonal抗体治療である(本誌論評-1326参照)。しかしながら、Monoclonal抗体製剤は高価であり世界のすべての地域で簡単に施行できる方法ではなく、費用対効果の面から安価な回復期血漿療法(一種のPolyclonal抗体療法)が多くの国で試みられている。 患者の回復期に得られた血漿を新たな患者に輸血する方法はエボラ出血熱、SARS、MERS、鳥インフルエンザなど種々の感染症において施行されてきた。新型コロナにあっても、ニューヨーク州Andrew Cuomo知事は回復期血漿を新たな感染者に投与することを表明した(2020年3月24日)。これを受け、米国FDAは回復期血漿の緊急使用を承認した。米国における動向を受け本邦の厚生労働省も回復期血漿投与を保険適用外治療として承認した。 非盲検化観察研究では回復期血漿投与を有効とする報告が多いが(Shen C, et al. JAMA. 2020;323:1582-1589.、Liu STH, et al. Nat Med. 2020;26:1708-1713. )、RCTによる検討結果は本法の臨床的効果を必ずしも肯定するものではなかった。インド39施設におけるRCT(PLACID trial、中等症の患者が対象、対照群:229人、血漿投与群:235人、輸血:ランダム化時と24時間後の2回に分けて200mLずつ投与)では、輸血後7日以内のウイルス陰性化率は血漿投与群で有意に高く臨床所見も改善することが示された(Agarwal A, et al. BMJ 2020;371:m3939.)。しかしながら、経過観察中の中和抗体価、種々の炎症マーカー(LDH、CRP、D-dimer、Ferritin)、28日以内の重症化率、死亡率は両群間で有意差を認めず、回復期血漿投与の臨床的効果は非常に限られたものであることが示唆された。アルゼンチンの12施設で施行されたRCT(PlasmAr trial、肺炎を認めた中等症患者が対象、対照群:105人、血漿投与群:228人、輸血:IgG抗体価が800倍以上のものを500mL、症状発現後8日以内)では、血中のウイルスに対するIgG抗体価は輸血後2日目において血漿投与群で有意に高値であったものの、それ以降では対照群との間で有意差を認めなかった(Simonovich VA, et al. N Engl J Med. 2020 Nov 24. [Epub ahead of print])。輸血30日後の臨床所見、死亡率は両群で差がなく、血漿投与の臨床的に意義ある効果は確認されなかった。一方、PlasmAr trialと同様にアルゼンチンで施行された入院高齢者を対象とした別のRCT(75歳以上、あるいは、65~74歳で危険因子としての併存症を少なくとも1つ有する高齢者を対象、対照群:80人、血漿投与群:80人、輸血:症状発現より3日以内)では、回復期血漿投与が呼吸不全への進展(SpO2:93%以下 or RR:30/min以上)を阻止したと報告された。しかしながら、Life-threating state(ARDS、MOF、死亡など)への進行は、対照群と血漿投与群で有意差を認めなかった。以上のように、回復期血漿治療を有効とも無効ともいえない状況が続いていたが、各試験における解析対象者数が少なかったことが回復期血漿治療に関する是非の判断を困難にした要因の一つであった。 以上の問題を解決するため、2021年1月13日、米国Mayo Clinic主導で施行された多数例(PCR確定、18歳以上の入院患者3,082人)を対象とした観察研究の結果が報告された(Joyner MJ, et al. N Engl J Med. 2021 Jan 13. [Epub ahead of print])。この観察研究では、S蛋白に対する特異的IgG抗体価がウイルスに対する中和抗体価と比例するものと仮定し、輸血したIgG抗体価をもとにLow titer群(n=561)、Middle titer群(n=2,006)、High titer群(n=515)の3群に分類してS蛋白を標的としたPolyclonal IgG抗体の効果が解析された。重要な知見として、輸血後30日以内の死亡率は、Low titer群に比べHigh titer群で有意に低く、その効果は機械呼吸を導入されていなかった比較的重症度の低い症例で顕著であったことが示された。さらに、早期に輸血した対象(診断後3日以内)の生命予後は、遅く輸血した対象(診断後4日以上)に比べて有意によかった。Mayo Clinicの治験結果は、回復期血漿治療はできる限り早く感染初期の比較的軽症の時点で導入すべきもので、かつ、S蛋白に対するIgG抗体価が高い血漿を輸血すべきであることを示唆している。Mayo Clinicの試験結果は、回復期血漿治療の本質が生体内ウイルス量の制御であることを考えると十分に納得いくものであり、回復期血漿治療の臨床的有効性を確実に示したものと評価できる。 回復期血漿治療において今後注意しなければならない問題は、ウイルスの変貌(遺伝子変異)である。武漢原株に始まり、2020年春から秋ごろまではD614G変異株(S蛋白の614部位のアミノ酸がアスパラギン酸[D]からグリシン[G]に置換)が世界に流布するウイルスの主体を占めていた。それ故、現状の回復期血漿はD614G変異株のS蛋白に対するPolyclonal抗体を保有する血漿だと考えなければならない。2020年12月以降、英国、南アフリカ、ブラジルにおいてD614G株からさらに変異したN501Y変異株(S蛋白の501部位がアスパラギン[N]からチロシン[Y]に変異)が世界の多くの地域で検出されるようになった(Kirby T. Lancet Respir Med. 2021;9:e20-e21.)。N501Y株に関する正式名称は、英国株:B.1.1.7、南アフリカ株:B.1.351、ブラジル株:P.1である。これら3種類のN501Y変異株は互いに独立したウイルスであり、各地域でD614G株から独自に進化を遂げたものである。これら3種類のN501Y変異株にあって、南アフリカ株、ブラジル株のS蛋白における変異は相同性が高く、“免疫回避変異”を有することが判明している(Ho D, et al. Res Sq. 2021 Jan 29. [Epub ahead of print])。すなわち、南アフリカ株、ブラジル株に対しては、D614G株に罹患した人から集積した回復期血漿のウイルス予防効果が低く、今後は、流行しているウイルス株に対応した血漿を集積していく必要がある。この点は、種々のMonoclonal抗体製剤、現行のワクチンに関しても同様に成立する内容であり、ウイルス制御を目的とする各治療分野にあって新たな変異株を標的とした治療法の確立を目指す必要がある。 2020年の夏、オランダ、デンマークのミンク農場で人からミンクへの感染、ミンクから人への逆感染が発生した(214例)。コロナはほぼすべての哺乳動物に感染し(Lam SD, et al. Sci Rep. 2020;10:16471.)、他の哺乳動物から人へ逆感染する場合には予測できない遺伝子変異を有している可能性がある。それ故、人類の中でのウイルス変異に加え他の哺乳動物内での変異についても細心の注意を払う必要があることを付け加えておきたい。

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中国製COVID-19ワクチン、アジュバント併用で免疫反応増大/Lancet

 中国のバイオテクノロジー企業Clover Biopharmaceuticalsが開発中の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン「SCB-2019」について、免疫増強剤(AS03またはCpG/Alum)の配合投与(アジュバントワクチン)により、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対する強力な液性免疫および細胞性免疫が認められ、高い中和抗体価も得られたことが示された。西オーストラリア大学のPeter Richmond氏らによる第I相無作為化二重盲検プラセボ対照試験の結果で、著者は、「いずれのアジュバントワクチンとも忍容性は良好であり、さらなる臨床開発に適する」と述べている。SARS-CoV-2ワクチンの開発加速の一手段として、アジュバントワクチンの検討が進められている。著者らは、2つの異なるアジュバントを組み合わせたスパイクタンパク質安定化三量体(S-Trimer)を含有する、タンパク質サブユニットワクチン候補SCB-2019の用量設定とアジュバントの正当性を検証した。Lancet誌オンライン版2021年1月29日号掲載の報告。18~54歳、55~75歳に21日間隔で2回投与 試験はオーストラリアの臨床試験センター1施設を通じ、18~54歳(若年成人)、55~75歳(高齢者)の健康成人ボランティアを登録し、SCB-2019について試験を行った。被験者は、研究資金提供者(Clover Biopharmaceuticalsと感染症流行対策イノベーション連合[CEPI])が作成したリストを使用して、ワクチン群またはプラセボ群に無作為に割り付けられ、SCB-2019(3μg、9μg、30μgのいずれか)またはプラセボ(0.9%塩化ナトリウム)の投与を21日間隔で2回受けた。 SCB-2019群については、アジュバントなし(S-Trimerタンパク質単独)またはアジュバントあり(AS03またはCpG/Alum)の3通りで接種した。接種は、割り付けマスキングを維持するため、不透明な注射器を用いて行われた。 各ワクチン投与後7日間、反応性を評価。液性免疫反応はSCB-2019結合IgG抗体とACE2競合阻害IgG抗体をELISA法で測定し、中和抗体は野生株SARS-CoV-2マイクロ中和試験法で測定した。さまざまなSタンパク質ペプチドに対する細胞反応については、フローサイトメトリー細胞内サイトカイン染色法で測定した。SCB-2019+免疫増強剤で、年齢問わず免疫反応 2020年6月19日~9月23日に、151人の健康成人ボランティアが登録された。試験を中止したのは3人(個人的理由2人、治療とは無関係の重篤有害事象[下垂体腺腫]1人)。2回接種後4週間以上追跡を受けた148人が本解析に包含された(データベースロック2020年10月23日)。 ワクチン接種の忍容性は良好で、非自発的に報告されたGrade3の有害事象は2件報告された(9μg AS03アジュバント群と9μg CpG/Alumアジュバント群での疼痛)。ほとんどの局所有害事象は注射部位の軽度の痛みで、局所イベントはSCB-2019+AS03群(44~69%)が、SCB-2019+CpG/Alum群(6~44%)またはSCB-2019単独群(3~13%)よりも発生頻度が高かった。全身性有害事象の発現頻度は、初回接種後では若年成人(38%)が高齢者(17%)に比べ高かったが、2回接種後にはそれぞれ34%と30%で、同レベルに高かった。 SCB-2019+アジュバント群では、若年成人、高齢者ともに結合IgG抗体および中和抗体の高い力価とセロコンバージョン率が得られた。36日時点の抗SCB-2019・IgG幾何平均抗体価(GMT)は、SCB-2019+AS03群1,567~4,452、SCB-2019+CpG/Alum群174~2,440だった。一方で、アジュバントなしのSCB-2019単独群では、免疫反応性の誘発は最小限で、50日目までにセロコンバージョンが認められた被験者は3人のみだった。 SCB-2019+AS03の全用量群と、SCB-2019+CpG/Alum 30μg群の力価は、COVID-19患者からの回復期血清サンプルよりも高かった。また、いずれのアジュバントSCB-2019においても、Tヘルパー1バイアスCD4+ T細胞反応性が誘発された。

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遺伝子ワクチンの単回接種は新型コロナ・パンデミックの克服に有効か?(解説:山口佳寿博氏)-1352

 現在、新型コロナに対する世界のワクチン争奪戦は熾烈を極め、ワクチンが世界全域に満遍なく配布されるかどうかは微妙な問題である。本邦にあってもPfizer社、Moderna社、AstraZeneca社と総計3.14億回分(2回接種として1億5,700万人分で全国民に行き渡る量)のワクチンが契約されているが、各製薬メーカーのワクチン生産能力には限界があり、契約されている全量が滞りなく納入されるという保証はない。それ故、世界全体で新型コロナのパンデミックを乗り切るためにはワクチンの2回接種ではなく1回接種を考慮する必要がある。少なくとも、2回目のワクチン接種を各ワクチンの第3相試験で推奨された時期(Pfizer社のBNT162b2:1回目接種より21日後、Moderna社のmRNA-1273:28日後、AstraZeneca社のChAdOx1:28日後)よりも遅らせて接種することを考える必要がある(cf. 米国CDC 1/21, 2021)。 1回接種に適したワクチンは、アデノウイルス(Ad)のDNA鎖にコロナのS蛋白に関する塩基配列情報を封入し宿主細胞に導入する遺伝子ワクチンである(Ad-vectored vaccine)。以下にその理由を述べる。Adをベクターとしたワクチンを生体に接種すると、生体はAdを異物として認識、それに対する特異抗体を産生する。この抗体産生はAdの種類によらず発現する。その結果、ブースター効果を意図して投与される2回目のワクチン接種時には遺伝子情報を封入したAdが1回目のワクチン投与時に形成された特異抗体の攻撃を受け、その一部は破壊される。そのため、Adをベクターとするワクチンでは2回目のワクチン接種時、遺伝子情報封入Adの一部しか宿主に導入されずブースター効果が不十分で液性/細胞性免疫賦活化が阻害される(Ramasamy MN, et al. Lancet. 2021; 396: 1978.)。それ故、Adをベクターする遺伝子ワクチンは2回目のワクチン接種の意義が薄く、単回接種を基本とするワクチンだと定義すべきだと論評者は考えている。 この原則に則って第II相試験が施行されたのがCanSinoBIO社のヒトAd5型をベクターとするAd5-nCoVであり、ワクチン単回接種1ヵ月後には有意な液性/細胞性免疫が惹起されることが報告された(Zhu FC, et al. Lancet. 2020; 396: 479-488)。同様に、Johnson & Johnson社のヒトAd26型をベクターとするAd26.COV2.Sも単回投与を意識して開発が進められてきた(Sadoff J, et al. N Engl J Med. 2021 Jan 13. [Epub ahead of print])。2021年1月29日、Johnson & Johnson社はAd26.COV2.Sの単回接種に関する第III相試験(ENSEMBLE study)の結果をPress Releaseで公表し、本ワクチンの単回接種1ヵ月後の感染予防有効性は全対象で66%、重症化阻止率は85%に達すると報告した(PRNewswire 1/29, 2021)。Ad26.COV2.Sの第III相試験は、米国、中南米、南アフリカを対象地域として施行されたが(n=43,783)、米国における感染予防有効性が72%であったのに対し、南アフリカでのそれは57%と低値であった。南アフリカでの有効性が低かった理由は、治験が施行された時期の南アフリカでは“免疫回避変異”を有するN501Y(S蛋白の501部位のアミノ酸がN[アスパラギン]からY[チロシン]に置換)変異株の1つである南アフリカ株が流布していたウイルスの95%を占めていたためである(Tegally et al. medRxiv. December 22, 2020. [Epub ahead of print])。にもかかわらず、Ad26.COV2.Sの単回接種後の感染予防有効性は中国Sinovac Biotech社の不活化ワクチン(CoronaVac)の2回接種後の感染予防有効性(50.4%)を凌駕し(The New York Times 2/2, 2021)、かつ、WHOのワクチン有効性に関する最低ラインを満足するものであった。 ENSEMBLE studyによって得られた重要な知見は、Ad26.COV2.Sが免疫回避変異を有する南アフリカ株に対しても臨床的に有用な感染予防効果を示したことである。南アフリカ株は、自然感染後の液性免疫、Monoclonal抗体製剤、ワクチンによる液性免疫効果を減弱させる免疫回避変異を発現しており、このウイルスが世界を席巻するようになると現在開発されているすべてのワクチンの抜本的見直しが必要になる可能性がある。しかしながら、その変異株に対して、Ad26.COV2.Sが低いながらも有効域の感染予防効果を示したことは人類にとって大きな福音である。以上の治験結果をもとに、Johnson & Johnson社は、2021年2月4日、Ad26.COV2.Sの単回接種に関する緊急使用許可を米国FDAに申請した(The New York Times 2/6, 2021)。残念なことに、Adをベクターする先行遺伝子ワクチンであるAstraZeneca社のChAdOx1における単回接種の効果は報告されていない。 基本的には2回接種を原則とするRNAワクチンにおいても単回接種における感染予防有効性が報告されている。Pfizer社のBNT162b2の1回接種後の感染予防有効性は52%(Polack FP, et al. N Engl J Med. 2020; 383: 2603-2615.)、Moderna社のmRNA-1273のそれは50.8%(FDA Briefing Document 12/17, 2020)と報告された。以上のように、少なくとも3種類の遺伝子ワクチン(Ad26.COV2.S、BNT162b2、mRNA-1273)は1回接種でWHOの基準を上回る感染予防効果を発揮することが判明したので、世界的にワクチン量が不足している現在、2回接種ではなく緊急避難的に1回接種を奨励すべきだと論評者は考えている。しかしながら、問題点は、単回接種による生体の液性/細胞性免疫の賦活がどの程度の期間維持されるかの見極めである。Ad26.COV2.Sでは少なくとも単回ワクチン接種後2.5ヵ月目まではウイルスに対する中和抗体形成の中心的役割を担うS蛋白特異的IgG抗体が安定して高値を維持することが判明している(Sadoff J, et al. N Engl J Med. 2021 Jan 13. [Epub ahead of print])。Sadoffらによって報告された図を見る限りもっと長期にIgG抗体価は維持されるように見えるが、確実な経過観察のデータ集積が必要である。

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新型コロナ軽症例に出現、味覚障害以外の口腔病変とは?

 ブラジル・ブラジリア大学のDos Santos氏らは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の口腔徴候と症状の有病率に関するエビデンスの系統的レビューを行い、味覚障害以外の口腔病変について明らかにした。Journal of Dental Research誌2021年2月号掲載の報告。 本レビューはPRISMAチェックリストに基づき、文献は6つのデータベースと灰色文献から検索されたCOVID-19患者の口腔症状と徴候に言及する研究が含まれた。バイアスのリスクはJBI(Joanna Briggs Institute)の評価ツールを用いて評価した。このレビューには33件の横断的研究と7件の症例報告の計40件の研究が含まれていた。 主な結果は以下のとおり。・全19ヵ国の1万228例(男性:4,288例、女性:5,770例、不明:170例)が評価された。・最も一般的な口腔症状として、味覚障害の有病率は45%(95%信頼区間[CI]:34~55、I2=99)だった。・さまざまな味覚障害についてプールされた適格なデータによると、味覚障害の有病率は38%、味覚減退は35%で、味覚消失は24%であった。・COVID-19による味覚障害のオッズ比[OR]は12.68(95%CI:6.41〜25.10、I2=63、p

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