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武漢の新型コロナ抗体陽性率は約7%/Lancet

 中国の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)アウトブレイクの発生地である武漢市において、無作為抽出した住民のSARS-CoV-2抗体陽性率は6.92%で、このうち39.8%が中和抗体を保有していた。中国・武漢疾病管理予防センターのZhenyu He氏らによる血清疫学調査の結果、明らかとなった。調査は、ワクチン接種戦略の進展に役立てる目的で実施したものだという。著者は、「今回の結果は、再流行を防ぐためには集団免疫をもたらす集団ワクチン接種が必要であることを示唆している」とまとめている。Lancet誌2021年3月20日号掲載の報告。無作為抽出で約1万人を対象に、2020年4月、6月および10~12月の3回調査 研究グループは、多段階層別クラスター抽出法を用い武漢市13地区から100のコミュニティを選択し、縦断的・横断的研究を実施した。各コミュニティから体系的に選択された対象世帯の家族全員が研究に参加することとし、2019年12月1日以降に14日間以上、武漢市に居住していた人を適格とした。 研究に同意した参加者は、人口統計学的および臨床的な質問からなる標準化された電子調査票に記入し、COVID-19関連症状とCOVID-19診断歴を自己報告した。 2020年4月14日~15日に免疫学的検査のため血液を採取し、SARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質に対する全免疫グロブリン(Ig)、IgM、IgAおよびIgG抗体の有無ならびに中和抗体について評価した。また、同年6月11日~13日および10月9日~12月5日にも血液を採取し、2回連続して追跡調査を実施した。 無作為抽出された4,600世帯のうち、3,599世帯9,702例が初回調査に参加し、十分な検体が得られた3,556世帯9,542例が解析対象となった。2020年4月の抗体陽性率は6.92%、うち中和抗体陽性率は39.8% 9,542例中532例(5.6%)がSARS-CoV-2に対する全Ig陽性で、母集団のベースラインにおける補正後血清抗体陽性率は6.92%(95%信頼区間[CI]:6.41~7.43)であった。全Ig陽性者532例のうち、437例(82.1%)は無症状であった。また、532例中IgM抗体陽性は69例(13.0%)、IgA抗体陽性は84例(15.8%)、IgG抗体陽性は532例(100%)、中和抗体陽性は212例(39.8%)であった。 2020年4月に中和抗体を有していた全Ig陽性者の割合は、2回の追跡調査において安定していた(同年6月:363例中162例44.6%、同年10月~12月:454例中187例41.2%)。 3回の調査すべてに参加した全Ig陽性者335例においても、中和抗体レベルは調査期間中に有意な低下を認めなかった(中央値:ベースライン時1/5.6[IQR:1/2.0~1/14.0]vs.初回追跡調査時1/5.6[IQR:1/4.0~1/11.2]、p=1.0、vs.2回目追跡調査時1/6.3[IQR:1/2.0~1/12.6]、p=0.29)。ただし、無症状者のほうが、感染者および有症状者と比較して中和抗体価が低下した。 IgG抗体価は経時的に減少したが、IgG抗体陽性率はあまり減少しなかった(感染者:ベースライン100%[30/30例]→2回目追跡調査時89.7%[26/29例]、有症状者:同100%[65/65例]→同92.1%[58/63例]、無症状者:同100%[437/437例]→同90.9%[329/362例])。

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新型コロナワクチン、12~15歳に100%の有効性/ファイザー・BioNTech

 米国・Pfizerとドイツ・BioNTechは3月31日、両社の新型コロナウイルスワクチン(BNT162b2、商品名:コミナティ筋注)の12~15歳の青年を対象とした第III相試験で、以前報告された16~25歳を対象とした試験結果を超え、100%の有効性と強力な抗体反応を示したという速報をプレスリリースで発表した。両社は、米国食品医薬品局(FDA)および欧州医薬品庁(EMA)に緊急使用許可を申請する意向を示している。  本試験には、米国で12~15歳の青年2,260例が登録された。結果は、プラセボ群(1,129例)で18例の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が観察されたのに対し、ワクチン接種群(1,131例)では観察されなかった。また、ワクチン接種は、SARS-CoV-2中和抗体の幾何平均抗体価(GMT)1,239.5を誘発し、2回目の投与から1ヵ月後のサブセットで強い免疫原性を示した。これは、以前の分析で16~25歳の参加者に誘発されたGMT(705.1)に劣っていなかった。さらに、副反応は16~25歳の参加者で観察されたものとおおむね一致しており、良好な忍容性が示された。すべての参加者は、2回目の投与後さらに2年間、長期的な予防効果と安全性について引き続き観察される。 なお、両社はさらに、6ヵ月~11歳の子供を対象としたワクチンの安全性、忍容性、免疫原性を評価するために、国際共同シームレス第I/II/III相試験を計画している。この研究では、6ヵ月~2歳、2~5歳、5~11歳と3つの年齢グループに分け、2回投与スケジュール(約21日間隔)で評価する。5~11歳のコホートではすでに先週投与が開始されており、来週にも2~5歳のコホートで投与を開始する予定だ。

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コロナ流行下で小児のライノウイルス感染リスクが2倍超

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行が1年以上続き、マスクや手洗いなどのコロナ感染予防はいまや一般常識レベルに浸透している。この対策はCOVID-19のみならず、あらゆる感染症予防に有用と考えられる。東京大学の河岡 義裕氏(医科学研究所感染・免疫部門ウイルス感染分野教授)は、共同研究グループと共にCOVID-19流行下の呼吸器感染症ウイルス検出状況を調査したところ、全年齢層においてインフルエンザをはじめとする代表的な呼吸器感染症ウイルスの検出率は低下していた一方、10歳未満の小児では、風邪を引き起こすライノウイルスの検出率が著しく上昇していたことを発見した。研究結果は、Influenza and Other Respiratory Viruses誌オンライン版2021年3月15日号に掲載された。ライノウイルス検出率はCOVID-19流行期に著しく上昇 本研究では、COVID-19流行前後における呼吸器感染症ウイルスの検出状況を比較するため、2018年1月~2020年9月の期間、横浜市で2,244例の呼吸器疾患患者(COVID-19患者を除く)から採取された呼吸器検体(鼻腔ぬぐい液、咽頭ぬぐい液、鼻汁、唾液、気管吸引液、喀痰)を解析し、代表的な呼吸器感染症ウイルス(インフルエンザウイルス、ライノウイルス、コクサッキーウイルスA/B、エコーウイルス、エンテロウイルス、ヒトコロナウイルス229E/HKU1/NL63/OC43、ヒトメタニューモウイルス、パラインフルエンザウイルス1/2/3/4、パレコウイルス、RSウイルス、アデノウイルス、ボカウイルス、パルボウイルスB19、単純ヘルペスウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス)の検出を行った。 COVID-19流行前後におけるインフルエンザウイルスやライノウイルスなど呼吸器感染症ウイルスの検出状況を比較した主な結果は以下のとおり。・2,244例の内訳は、男性1,197例(53.3%)、女性1,044例(46.5%)、性別不明3例(0.1%)。年齢分布は、10歳未満1,119例(49.9%)、10歳以上1,105例(49.2%)、不明20例(0.9%)。・全検体のうち、最も多く検出されたのはインフルエンザウイルス(592例)で、次いでライノウイルス(155例)だった。475例からは、その他の呼吸器感染症ウイルスが検出された。・インフルエンザウイルスやその他の呼吸器感染症ウイルスの検出率は、全年齢層でCOVID-19流行後に低下していた。対照的に、ライノウイルス検出率はCOVID-19流行期に著しく上昇し、例年の2倍以上だった。 本研究では、インフルエンザ症例数の増加期にはライノウイルス感染数が減少しており、インフルエンザウイルスがライノウイルスに何らかの干渉作用がある可能性が示唆された。著者らは、SARS-CoV-2出現後、感染対策が奏功し市中のインフルエンザ感染者が減少したことが、10歳未満の小児におけるライノウイルス感染増加と関連しているのではないかと指摘している。ライノウイルスは、コロナウイルスやインフルエンザウイルスと異なり、ノンエンベロープウイルスであるため、アルコール消毒よりも石鹸と水を使った手洗いが有効だという。

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ICU入室COVID-19へのエノキサパリン、中等量vs.標準量/JAMA

 集中治療室(ICU)に入室した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者に対し、予防的抗凝固療法としてエノキサパリンの中等量(1mg/kg/日、クレアチニン・クリアランス値により調整)の投与は同標準量(40mg/日)の投与と比べ、30日以内静脈または動脈血栓症・体外式膜型人工肺(ECMO)の使用・死亡の複合アウトカムについて、有意差は認められなかった。イラン・Iran University of Medical SciencesのParham Sadeghipour氏ら「INSPIRATION無作為化試験」研究グループが約600例の患者を対象に行った試験結果を報告した。COVID-19重症患者において、血栓性イベントの報告頻度は高い。抗血栓予防療法の強度を高めることに関するデータは限定的であり、今回の検討が行われた。研究グループは、「結果は、ICU入室COVID-19患者に対して非選択的に中等量の予防的抗凝固療法をルーチン投与することを支持しないものであった」とまとめている。JAMA誌オンライン版2021年3月18日号掲載の報告。イラン10ヵ所の医療センターで試験 研究グループはイランの大学医療センター10施設を通じて、ICUに入室したCOVID-19患者を対象に、2×2要因デザインを用いて多施設共同無作為化試験を行った。 本試験で被験者は、エノキサパリン中等量(体重120kg未満でクレアチニン・クリアランス値30mL/分超に対し、1mg/kg/日)または同標準量(40mg/日)による予防的抗凝固療法と、スタチンまたはプラセボ(第2の仮説、本論では結果報告なし)を、それぞれ投与(両群の投与量について、体重とクレアチニン・クリアランス値に応じて調整)。割り付け治療は、30日間のフォローアップ完遂まで行うよう計画された。 被験者の募集期間は2020年7月29日~11月19日で、主要アウトカムの30日間フォローアップの最終日は2020年12月19日だった。 有効性の主要アウトカムは、30日以内の静脈または動脈血栓症・ECMOの使用・死亡の複合だった。試験の適格基準を満たし割り付け試験薬を1回以上投与された被験者を対象に分析を行った。 事前に規定した安全性に関するアウトカムは、BARCによる大出血(タイプ3または5)の非劣性評価(非劣性マージン:オッズ比[OR]1.8)、重症血小板減少症(血小板数:20×103/μL未満)などだった。大出血発生率も非劣性示せず 600例が無作為化を受け、主要解析には562例(93.7%)が含まれた(年齢中央値62歳[範囲:50~71]、女性は237例[42.2%])。 主要有効性アウトカムの発生は、中等量群126例(45.7%)、標準量群126例(44.1%)だった(絶対リスク差:1.5%[95%信頼区間[CI]:-6.6~9.8、OR:1.06[95%CI:0.76~1.48]、p=0.70)。 大出血の発生は、中等量群7例(2.5%)、標準量群4例(1.4%)で、ORは1.83(片側97.5%CI:0.00~5.93)と非劣性は示されなかった(非劣性のp>0.99)。重症血小板減少症の発生は、中等量群でのみ6例(2.2%)で認められた(6 vs.0、リスク差:2.2%[95%CI:0.4~3.8]、p=0.01)。

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国内の新型コロナ変異株、9割超が英国株/厚労省

 厚生労働省は、3月23日時点で確認された国内の新型コロナウイルスの変異株の累計感染者数は549例で、空港検疫で報告された100例を合わせて649例に上ると発表した。前週から164例の増加となる。緊急事態宣言が全都道府県で解除され、日々の新型コロナ感染者数および重症者数は早くも増加傾向を示している。来月から新年度がスタートし、さらに人の動きが活発化することは必至で、感染動向を注視する必要がある。 厚労省によると、国内で確認された変異株549例は、26都道府県から報告されたもの。このうち最も確認数が多かったのは兵庫県161例(前週比で+67)で、大阪府105例(+33)、埼玉県58例(+1)、新潟県32例(±0)、神奈川県30例(+2)などが続く。 変異株の内訳は、英国株501例(前週比で+127)、南アフリカ株13例(+5)、ブラジル株35例(+18)となっている。26都道府県のうち、23都道府県は英国株のみ、あるいは英国株が多数を占めているが、千葉県(18/20例)および山梨県(2/2例)はブラジル株のみ、あるいはブラジル株が多数を占めている。岐阜県(9/9例)で確認されたのは、すべて南アフリカ株だった。このほか、確定には至っていないものの、新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理システム(HER-SYS)で把握した変異株PCR陽性者数は、累計で792例(速報値)となっている。

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新型コロナ、高齢者は再感染しやすい可能性/Lancet

 デンマークでは2020年2月~12月の期間に、毎週平均で国民の約10%がPCR検査を受けており、全体の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染後の再感染防御率は80%を超えたものの、65歳以上では50%未満と低く、これら高齢の既感染者へのワクチン接種が重要であることが、同国Statens Serum InstitutのChristian Holm Hansen氏らの調査で示された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2021年3月17日号に掲載された。SARS-CoV-2への感染が、その後の再感染をどの程度まで防御するかはよくわかっていない。2020年、デンマークでは、大規模な無料PCR検査戦略の一環として、約400万人(人口の69%)が1,060万件の検査を受けたという。再感染防御効果を評価する観察研究 研究グループは2020年の全国的なPCR検査データを用いて、SARS-CoV-2への再感染に対する防御効果を評価する目的で、観察研究を実施した(特定の研究助成は受けていない)。 デンマーク微生物学データベース(Danish Microbiology Database)から2020年の個人レベルのデータを収集し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行の第2波期間中(2020年9月1日~12月31日)の感染率を、第1波期間中(同年3月~5月)のPCR検査の陽性率および陰性率と比較した。主解析では、第1波と第2波の間に初めて検査で陽性となった集団や、第2波の前に死亡した集団は除外された。 また、代替的解析の手法を用いて、第2波だけでなく流行期全体を通じた再感染率の検討を実施。日付に関係なく、3ヵ月以上前に感染が確定された集団と確定されていない集団で、年間を通じた感染率を比較した。また、この代替コホート解析では、年齢層別、性別、感染後の経過期間別の違いを評価した。 潜在的な交絡因子を補正した率比(RR)を算出し、再感染防御率を1-補正後RRの式で推定した。性別、感染後の経過期間別の再感染防御率に差はない デンマークにおけるSARS-CoV-2のPCR検査の施行能力は、2月の最初の検査から年末にかけて、2020年を通じて急速に向上し、毎週平均、人口の約10%が検査を受けた。感染流行が急増した第1波期間中(6月以前)に、53万3,381人がPCR検査を受け、そのうち1万1,727人(2.20%)が陽性で、第2波の時期まで追跡された52万5,339人のうち、第1波期間中に陽性だったのは1万1,068人(2.11%)であった。 第1波期間中のPCR検査陽性者のうち、72人(0.65%、95%信頼区間[CI]:0.51~0.82)が第2波期間中に再び陽性であったのに対し、第1波で陰性の51万4,271人のうち、第2波で陽性となったのは1万6,819人(3.27%、3.22~3.32)で、補正後RRは0.195(95%CI:0.155~0.246)であり、感染後の推定再感染防御率は80.5%(95%CI:75.4~84.5)であった。代替コホート解析では、初回感染から90日以降の再感染防御率は、ほぼ同様の結果であった(補正後RR:0.212[95%CI:0.179~0.251]、再感染防御率:78.8%[95%CI:74.9~82.1])。 また、代替コホート解析では、年齢65歳以上の再感染防御率は47.1%(95%CI:24.7~62.8)と、他の年齢層(0~34歳82.7%、35~49歳80.1%、50~64歳81.3%)に比べて低かった(p<0.0001)。一方、性別(男性78.4%[95%CI:72.1~83.2]vs.女性79.1%[73.9~83.3])および感染後の経過期間別(3~6ヵ月79.3% vs.≧7ヵ月77.7%)の再感染防御率には有意な差はなかった。 著者は、「これらの知見は、人口のどの層にワクチンを接種すべきかの判断に有益な可能性があり、とくに自然の防御能が低下している高齢の人々においては、既感染者への接種を提唱するものである」としている。

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新型コロナ学級内クラスターの発生はわずか、スイス/BMJ

 2020年8月から再開されたスイスの初等~中等学校では、いくつかの予防措置が講じられたことで、地域社会の重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の伝播が中等度~高度で全体的な血清有病率が上昇した時期にあっても、血清陽性の子供の小規模感染者集団が発生した学級はごくわずかであったことが、同国・チューリヒ大学のAgne Ulyte氏らの調査で明らかとなった。研究の詳細は、BMJ誌2021年3月17日号に掲載された。SARS-CoV-2感染症の伝播における児童生徒の役割には議論の余地があるが、現に学校での感染爆発は起きており、子供の血清有病率は成人と同程度の可能性がある。児童生徒におけるSARS-CoV-2感染の伝播とその影響を理解することは、適切な緩和策の実施のために重要とされる。チューリヒ州の6~16歳の前向きコホート研究 研究グループは、2020年6月~11月の期間に、スイス・チューリヒ州において、SARS-CoV-2の血清有病率の長期的な変動を調査し、学級内で血清陽性となった子供たちにおける小規模感染者集団の発生状況を明らかにする目的で、前向きコホート研究を行った(Swiss School of Public Health[SSPH+]の調達資金などから助成を受けた)。 スイスは、2020年秋に欧州で発生した最大規模の第2波SARS-CoV-2パンデミックの一角を占めた。この時期に学校を再開したことで、中等度~高度な曝露環境となったため、SARS-CoV-2感染の調査が実施された。 地区ごとに無作為に選ばれた学校および学級の子供たちが、SARS-CoV-2の血清検査を受けるよう要請された。保護者は、社会人口統計学的な質問と健康に関する質問に答えた。検査では、SARS-CoV-2の4つの標的(受容体結合ドメイン、スパイクタンパク質S1とS2、ヌクレオカプシドタンパク質N)に対する免疫グロブリン(IgG、IgM、IgA)を解析した。 要請を受けた156校のうち55校が調査に参加し、この中から275の学級(6~16歳)が無作為に選ばれた。参加者数は、2020年6月~7月(夏期)が2,603人、同年10月~11月(晩秋期)が2,552人であった。 主要アウトカムは、2020年6月~7月と10月~11月のSARS-CoV-2血清検査、学級内の小規模感染者集団、子供の症状とされた。血清有病率の解析にはベイズロジスティック回帰法が用いられた。陽性者の40%が陰性化、陽性者3人以上は7学級(5%)のみ 血清検査の陽性者は、夏期は検査を受けた2,496人中74人であったが、晩秋期には2,503人中173人に増加した。SARS-CoV-2の血清有病率は、夏期が2.4%(95%信用区間[CrI]:1.4~3.6)で、夏期に陽性でなかった子供における晩秋期の新規陽性率は4.5%(3.2~6.0)であり、血清陽性の子供の割合は7.8%(6.2~9.5)であった。 地区ごとの血清有病率にはばらつきがあり、晩秋期は1.7~15.0%の幅が認められた。低学年(6~9歳)、中学年(9~13歳)、高学年(12~16歳)で、夏期陽性者と晩秋期新規陽性者を併せた割合に差はなかった(それぞれ8.5%、8.0%、6.4%)。また、性別の違いで血清有病率に差はなかった。 夏期と晩秋期の両方で血清検査を受けた2,223人のうち、夏期に陽性の70人のうち28人(40%)が晩秋期には陰性化し、夏期に陰性の2,153人のうち109人(5%)が陽性化した。 症状は、血清陰性者の22%(420/1,923人)および夏期以降の新規陽性者の29%(29/101人)にみられた。血清陽性者で頻度の高い症状は、頭痛(13.9%)、鼻水/鼻詰まり(11.9%)、咽喉炎(11.9%)、疲労(8.9%)であった。また、SARS-CoV-2感染症の診断を受けた子供の血清陽性者に対する比は、2020年1月~11月の期間が1対13で、2020年7月~11月の期間は1対8だった。 少なくとも1人の子供が新規に血清陽性となったのは、55の学校中47校、275の学級中90学級であった。生徒の参加率が高かった130の学級のうち、血清陽性者が発生しなかったのは73学級(56%)、陽性者1~2人は50学級(38%)で、3人以上の陽性者が発生したのは7学級(5%)だった。 著者は、「SARS-CoV-2の新たな変異株や、地域社会での感染レベルの活発な変動が起きた場合に、これらの知見も変化するかに関しては、確実なことはいえない」としている。

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新型コロナ、4ヵ月後も7割に胸部CT異常/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による長期的な後遺症の詳細は知られていない。フランス・パリ・サクレー大学のLuc Morin氏らCOMEBAC試験の研究グループは、COVID-19で入院した患者の、退院4ヵ月後の健康状態を調査した。その結果、約半数が少なくとも1つの、COVID-19罹患前にはなかった新たな症状(疲労、認知症状、呼吸困難など)を訴え、勧奨を受けて外来を受診した患者の約6割に胸部CTで肺の異常所見(多くはわずかなすりガラス状陰影)が、約2割に線維化病変が認められるなどの実態が明らかとなった。JAMA誌オンライン版2021年3月17日号掲載の報告。フランスの単一施設の前向きコホート研究 本研究は、2020年3月1日~5月29日の期間にCOVID-19でパリ・サクレー大学病院(Bicetre病院)に入院し、その後退院した成人患者を対象とする前向きコホート研究である(フランスAssistance Publique-Hopitaux de Paris[AP-HP]の助成による)。 患者が退院後3~4ヵ月の時点(同年7月15日~9月18日)で、電話による診察が行われた。関連症状が持続している患者や、集中治療室(ICU)に入室していた患者は、外来を受診して追加の健康評価を受けるよう勧められた。 電話では、Q3PC認知スクリーニング質問票と症状チェックリストを用いて、呼吸器、認知機能、機能的症状などの評価が行われた。外来受診患者には、肺機能検査、肺CT検査、心理測定/認知検査(36-Item Short-Form Health Survey[SF-36]、20-item Multidimensional Fatigue Inventory[MFI-20]を含む)が施行され、元ICU入室患者や症状が持続している患者には心エコー図検査が実施された。元ICU入室患者の23%で不安、18%でうつ状態、7%で心的外傷後症状 478例(平均年齢61[SD 16]歳、女性201例[42%])が電話による診察を受け、このうち177例(37%、平均年齢56.9[13.2]歳、女性68例[38.4%])が外来を受診した。478例中142例が元ICU入室患者で、このうち外来を受診したのは97例だった。 電話診察では、244例(51%)が、COVID-19罹患前にはなくCOVID-19で入院中に新たに発症し、この電話診察時まで持続する症状が1つ以上あると申告した。症状は、疲労(31%)、呼吸困難(16%)、持続性の知覚障害(12%)、ベースラインから5%以上の体重減少(9%)などであった。また、21%に認知症状がみられ、Q3PC質問票による認知検査で18%が記憶障害と判定された。 MFI-20(145例)の意欲低下スコア(1[最良]~5[最悪]点)中央値は4.5点(IQR:3.0~5.0)、精神的疲労感スコア(1[最良]~5[最悪]点)中央値は3.7点(3.0~4.5)であった。また、SF-36(130例)の下位尺度である「身体的理由による活動の一部制限」のスコア(100[最良]~0[最悪]点)中央値は25点(25.0~75.0)だった。 外来受診では、肺CT検査で63%(108/171例)に異常が認められ、42%(72/170例)はわずかなすりガラス状陰影であった。線維化病変は19%(33/171例)にみられ、1例を除き、病変の範囲は肺実質の25%未満であった。急性呼吸促迫症候群(ARDS)と診断された49例のうち19例(39%)に線維化病変が認められた。 元ICU入室患者(94例)では、23%(22例)に不安、18%(17例)にうつ状態、7%(7例)に心的外傷後症状がみられた。元ICU入室患者(83例)の10%(8例)が、左室駆出率50%未満であった。また、新規慢性腎臓病が元ICU入室患者の2例で発生した。 血清検査では97%(172/177例)が抗SARS-CoV-2抗体陽性であった。この172例中3例は、RT-PCR法でSARS-CoV-2陽性となったことが一度もなかったが、臨床所見とCT所見によりCOVID-19と診断されていた。 著者は、「コホートに対照群はおらずCOVID-19罹患前の評価が行われていないことから、本調査で得られた知見は限定的なものとなる。より長期のアウトカムや、これらの知見が疾患との関連を反映しているかを解明するには、さらなる研究を要する」としている。

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AZ製コロナワクチン、米国第III相試験の主要解析で安全性・有効性を確認

 アストラゼネカ英国本社は3月25日発信のプレスリリースで、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンAZD1222の米国における第III相試験の主要解析において、安全性と有効性が確認されたと発表した。事前に規定された統計解析計画では、中間解析で少なくとも75例、主要解析で少なくとも150例の判定症例が必要であったが、両解析におけるワクチンの有効性は一致しており、結果に齟齬はなかった。 AZD1222を巡っては、日本を含む各国で臨床試験が進行中。このうち米国第III相試験(D8110C00001)は、健康な、もしくは医学的に安定した慢性疾患を有し、SARS-CoV-2やCOVID-19曝露のリスクが高い18歳以上の成人3万2,449 例の被験者を対象に、米国、ペルー、チリの88の治験施設で実施。本主要解析には、全被験者のうち190例の症候性COVID-19症例が含まれており、中間解析から49例増加していた。被験者はワクチン群とプラセボ群に2:1で無作為に割り付けられた。本試験の主要評価項目である症候性COVID-19 発症予防に対するワクチンの有効性は、4週間隔で2回接種後、15日以降において76%(信頼区間[CI]:68%~82%)だった。 また、すべての年齢集団における結果も同程度で、65歳以上におけるワクチンの有効性は85%(CI:8%~95%)だった。副次評価項目である重症・致死性な疾患、および入院予防に対する有効性は100%であった。本主要解析において、8例のCOVID-19重症化が見られたが、いずれもプラセボ群だった。ワクチンの忍容性は良好で、安全性上の懸念は特定されなかった。 アストラゼネカは、本主要解析を基に、今後数週間のうちに米国食品医薬品局(FDA)に対し、COVID-19 ワクチンとしての緊急使用許可申請を行う。

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BNT162b2(コミナティ筋注)のReal-World Settingにおける有効性と免疫回避変異ウイルスの発生など今後の課題(解説:山口佳寿博氏)-1367

 2021年3月20日現在、Pfizer社のBNT162b2ワクチンは米国FDA、欧州連合(EU)医薬品庁(EU-EMA)の製造承認に加えWHOによる使用正当性の承認(validation)を得ており、スイス、ニュージーランド、バーレーン、サウジアラビア、ブラジルの5ヵ国で完全使用が、英国、米国など37ヵ国(EUを含む)で緊急使用が承認されている(The New York Times 3/20, 2021)。本邦においても、2021年2月14日、厚生労働省は本ワクチンを特例承認し、2月中旬より医療従事者に対する接種が開始されている。BNT162b2の接種は人口923万人の小国イスラエルにおいて最も速く積極的に推し進められ、2020年12月20日から2021年2月6日までの間に60歳以上の高齢者の90%が1回目のワクチン接種を、80%が2回目のワクチン接種を終了した(Rossman H, et al. medRxiv. 2021;2021.02.08.21251325.)。本論評で取り上げた論文は、2020年12月20日から2021年2月1日までの間にワクチンを接種したイスラエルの成人596,681人と同数の非接種成人(対照)を対象としてワクチンの効果を検証したもので(Dagan N, et al. N Engl J Med. 2021 Feb 24. [Epub ahead of print])、対象者数はイスラエル総人口の13%に相当する大規模解析である。この場合、知っておかなければならない事実として、当時のイスラエルに蔓延していたウイルスはD614G株から英国株に移行しつつあった時期であり、データ集積の最終時点では英国株が80%を占めるようになっていたことである。南アフリカ株、ブラジル株は検出されていなかった。すなわち、本研究はD614G株と英国株が混在する状況下でのBNT162b2の効果を検証したものと考えなければならない。 この1年間における新型コロナウイルスの変遷に関する詳細は他紙に譲るが(山口. 日本医事新報 5053:32-38, 2021)、2020年9月ごろまでは武漢原株から変異したD614G株が世界を席巻していた。9月以降、D614G株にさらなる変異が加わったN501Y株(英国株:B.1.1.7、南アフリカ株:B.1.351、ブラジル株:P.1)が世界の各地で検出されるようになった。とくに、12月以降はN501Y株の占める割合が上昇している。これら新たな3種類の変異株の中で南アフリカ株、ブラジル株は免疫回避変異を有し、武漢原株のS蛋白に関する遺伝子情報から作成された現行ワクチンの中和反応を著明に抑制する。一方、英国株は免疫回避変異を有さず、現行ワクチンの効果を有意に抑制することはない。世界各国で承認されつつある現行ワクチンの第III相試験は、2020年の夏から秋にかけて施行されたものであり、その時点で流布していた主たるウイルスはD614G株であった。すなわち、現行ワクチンの第III相試験はD614G株に対する効果を検証したものであることを忘れてはならない。 本研究にあっては、BNT162b2の第III相試験(Polack FP, et al. N Engl J Med. 2020;383:2603-2615.)の場合と異なり、発症予防効果(有症状で鼻咽頭液のPCR陽性者に対する予防効果)だけではなく感染予防効果(症状の有無にかかわらずPCR陽性者に対する予防効果)、重症化予防効果、入院予防効果、死亡予防効果を解析している。2回目のワクチンは95%の対象において1回目のワクチンより24日以内に接種された。ワクチン2回接種の効果は、第III相試験の場合と同様に2回目のワクチン接種後7日以上経過した時点で判定され、発症予防効率:94%、症状の有無にかかわらない全体的感染予防効率:92%、重症化予防効率:92%、入院予防効率:87%であった。発症予防効率を見る限り、第III相試験において得られた値(95%)と確実に一致、他の指標においても90%内外の予防効果を示しておりBNT162b2の高い臨床的有用性を示している。さらに、本研究の結果は、BNT162b2がD614G株だけではなく英国株に対しても有効な抑制作用を発揮することを示唆している。同様の結果は、アデノウイルス(Ad)をベクターするPfizer社のChAdOx1、Johnson & Johnson社のAd26.COV2.Sにおいても確認されている(Fontanet A, et al. Lancet. 2021; 397:952-954.)。これら2種類のAdワクチンは、D614G株、英国株に対しては有効な発症予防効果を示したが南アフリカ株に対する発症予防効果は明確に抑制されていた。 本研究にあって特記すべき事項は、BNT162b2の1回接種による効果が検証されていることである。1回接種の効果を1回目のワクチン接種後21~27日の期間で判定すると、発症予防効率:66%、症状の有無にかかわらない全体的感染予防効率:60%、重症化予防効率:80%、入院予防効率:78%、死亡予防効率:84%であった。発症予防効率を見る限り、単回接種のAdワクチンとして米国FDA、EU-EMA、WHOの承認を受けているJohnson & Johnson社のAd26.COV2.Sの発症予防効果(66%)と同等である。すなわち、RNAワクチンであるBNT162b2も2回接種ではなく単回接種でも十分なる臨床的有効性を発揮するものと思慮され、パンデミックのワクチン不足が深刻なときにはワクチン接種計画を練り直し単回のBNT162b2接種を推し進めることも間違いではないはずである。 BNT162b2を中心としたワクチン接種が世界レベルで推し進められた場合、D614G株に対するワクチン疑似感染による集団免疫を獲得する地域/国が増加する(おそらく英国株に対しても集団免疫が確立されるものと予測される)。あるウイルスに対する集団免疫はその集団に属する人の40%以上が自然あるいは疑似感染した場合に確立される(山口. 日本医事新報 5026:26-31, 2020)。D614G株、英国株に対する集団免疫が確立されると、南アフリカ株、ブラジル株と同等、あるいは、それ以上の集団免疫を無効にする強力な免疫回避変異が形成される可能性がある。これは、ウイルスの環境適応であり、強固な集団免疫形成下でも自らの生存を維持するためのウイルスの自然発生的進化である。以上の内容を、ブラジル株、南アフリカ株の発生をもとに考えてみよう。ブラジルの大都市マナウスでは昨年の5月に感染ピークを有するD614G株に起因する重篤な1次波を経験した。その結果、住民の70%以上がD614G株に感染し、この地域においてD614G株に対して完全な集団免疫が確立された。マナウスでは、夏から秋にかけて感染増大もなく新型コロナはD614G株に対する集団免疫の結果として終息したと考えられた。しかしながら、2020年12月より再発を含むコロナ感染/入院患者数が急増しD614G株ではない新たな株による感染が強く疑われた。遺伝子検査の結果、新規変異株であるブラジル株が蔓延していることが判明した。ブラジル株は外来のウイルスではなくブラジル国内で自然発生した変異株である。ブラジル株には、免疫回避変異を認め、D614G株の自然/疑似感染に対して強い抵抗性を示す複数の変異が同定された。南アフリカにおいてもD614G株による重篤な1次波を経験した地域(東ケープタウン州)で免疫回避変異を有する新規の南アフリカ株(外来ではなく南アフリカ国内で発生)が検出され、12月初旬には南アフリカ全土において南アフリカ株がウイルスのほぼ100%を占めるようになった。以上のブラジル、南アフリカでの免疫回避変異を有するウイルスと同等の新規変異株がワクチン疑似感染によるD614G株に対する集団免疫が確立されてから数ヵ月前後で本邦でも発生する可能性がある。それ故、現行のワクチン接種をコロナ感染症制御の最終段階と考えるのではなく、それ以降の免疫回避変異を有する変異ウイルスの推移を十分なる警戒心を持って見守る必要があることを強調したい。

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第50回 宮城の新型コロナ急増と4つの原因

新型コロナウイルス感染症(COVID-19、以下、新型コロナ)の感染者急増に伴い、1都3県に対して発出されていた新型インフルエンザ等特別措置法に基づく緊急事態宣言が3月21日一杯で解除された。これにより2ヵ月半ぶりに日本国内に緊急事態宣言対象地域は無くなったことになる。しかし、すでに各地で感染は拡大傾向を示している。その中でも顕著なのが宮城県。3月24日時点で直近1週間の人口10万人あたりの感染者数は33.30人。以下順に沖縄県の23.19人、東京都の15.57人、山形県の12.80人、大阪府の12.21人、千葉県の11.46人、埼玉県の10.60人となり、以下は10人未満になる。ちなみに一桁台の筆頭は北海道の8.72人である。私は宮城県出身で中高時代は仙台市で過ごし、今も両親は現地に住んでいる。しかも、実は約2週間前は仙台市に滞在していた。これは10年の節目を迎えた東日本大震災の取材と今年2月13日に福島県沖を震源として発生したマグニチュード7.3の地震で、実家が震度6弱の揺れに襲われ、家財の一部などが破損したことなどから実家の様子を見に行ったからである。しかし、なぜ宮城県でこれほど感染者が増加したのかという思いもある。そもそも総人口約230万人、県庁所在地の仙台市が人口約110万人という宮城県では2020年中の1日当たりの最大感染者報告数は12月26日の56人。その直前の12月中は1日当たり40人台後半の感染者が報告されていたことが多く、宮城県と仙台市はすでに12月23日、東北最大の歓楽街と言われる仙台市青葉区国分町周辺の飲食店に対し、12月28日~今年1月11日までの15日間、午後10時までの営業時間短縮を要請した。この時短要請地域はほぼ正方形で450m×400mという極めて限定したものだったが、ここに約2400店舗の飲食店があると言われている。私はちょうど年末年始も仙台にいたが、この政策は国分町で営業する地元飲食店関係者にはすこぶる不評だった。というのも、この時短要請地域からわずか徒歩10分程度で、JR仙台駅周辺に行け、そこは時短要請対象外。しかも、仙台駅周辺は東京資本の飲食店などが多く、地元飲食店経営者からすれば「みすみすヨソ者に儲けさせている」との不満が出てきてしまうのだ。もっともこの時短要請は期限間近で地域限定のまま14日間延長され、さらに延長期限直前には市全域を対象として追加で14日間延長、2月8日で解除となった。解除直前の宮城県全体での1日当たりの平均感染者報告数は一桁となり、確かに一定程度の効果があったと考えられる。ところが月末の2月27日には1日の感染者報告数が19人となり、これ以降次第に右肩上がりで感染者が増加し始めた。月末から上がり始めたということは、その感染の機会はおおむねの潜伏期間5~7日を考えれば、2月14日(日曜日)の週からということになる。ところが単純に考えると、それでは辻褄が合わない。というのも、前述の福島沖での地震の結果、東北新幹線は栃木県の那須塩原駅から岩手県の盛岡駅の区間は2月13日~23日まで完全に運休してしまったからだ。もっとも首都圏から宮城県への抜け道はほかにもあった。太平洋沿岸を走る常磐線で運行していた特急ひたちと、この事態に応じて全日空と日本航空が臨時で運行した羽田-仙台便の空路、さらには仙台に向かう高速バスである。もっとも代替手段があるとはいえメインである「早い・安い」の東北新幹線が運休した影響は大きかったはずで、データはないもののこの期間に本来想定された人の移動は、一定程度減少したはずである。なのになぜ感染者が増えてしまったのか? 実はその一端はすでに報道されている。そしてこれについて取材に応えているのは、ほとんどが厚生労働省のクラスター班でも活躍する東北大学大学院歯学研究科の小坂 健(おさか けん)教授である。代表的な記事は地元紙河北新報の「宮城でコロナなぜ拡大? 専門家『多様な要因が複合的に作用』」だ。ここから抜粋すると、その原因は以下のようになる。(1)大学入試による受験者の移動(2)福島県沖地震の復旧や被害査定の関係者の県外からの来訪(3)飲食業支援策「Go To Eat」のプレミアム付き食事券の再販売(4)東日本大震災関連行事の参加者・取材者の流入ちなみにこの箇条書きは上から順に時系列となっている。(1)だが、宮城県は国公立大学より一足早く入試が始まる私立大学が12校あり、その入試は概ね2月上旬、合格発表が2月中旬である。実はこの点に着目すると、やや興味深い相関が見える。宮城県にある私立大学で最も学生数が多く、偏差値も高いのが東北学院大学である。ちなみにその学生数は1万1,000人弱で、東北を代表する旧帝国大学の総合大学、東北大学よりも学生数は若干多い。ちなみに同大学は宮城県出身が受験者・最終入学者の半数以上を占めるが、他の東北5県からの受験者・最終入学者も合計3割強となる。そして前述のような時短要請のため宮城県は2月上旬から中旬にかけて感染者数が減少していたが、実はデータを見るとこの時期、他の東北5県は感染者報告数が一時的に軽い山、すなわち増加傾向にあった。ここでは東北学院大学を代表例としたが、宮城県内の私立大学の受験者・最終入学者の出身県などは、おおむね他の大学も似たような傾向がある。その意味では現在の宮城県の第4波ともいえる感染者増加のベースにあったのは私立大学受験者の移動とも考えられる。そこにきて次なるインパクトとして(2)~(4)があり、さらに(3)~(4)の間に(1)のうち国公立大学入試が行われている。正直、これらの要因どれ一つとっても、その動きの背後に「悪意」はまったくない。今回の新型コロナパンデミックを機に頻用されるようになった「不要不急」という言葉を使うならば、それに該当する筆頭は(3)(4)、とりわけ(3)となるかもしれない。もっとも生き物としてのヒトの生業として食は必要であり、なによりヒトはコミュニケーションをする生き物であることを考えれば、私は(3)ですら「不要不急」という言葉を当てはめたくない。今回の宮城県のケースは、誰もほぼ悪意のない活動の結果、ヒトの移動と接触が一次的に増加・蓄積することで感染の急拡大を招くという、ヒトの急所を突くこのウイルスのいやらしさを改めて思い知らされる。そして今、次なる歓迎できない動きが見え始めている。それは宮城県と隣接する山形県での感染者急増である。もともと宮城県の県庁所在地である仙台は俗に「東北の首都」とも言われ(もっとも仙台人と言ってもよい私のような人間がこの言葉を使うと他の東北5県の人たちからは嫌な顔をされるのだが)、周辺各県との人の往来は多い。とりわけ山形市や福島市、岩手県南部の一関市などの住民は、仙台市まで電車・新幹線、あるいは車で最大所要時間1時間程度ということも手伝って、買いものなどで気軽に仙台を訪れる。つまり宮城県の感染者急増が山形市の感染者急増を招いていると言え、同じことは東北の他の地域でも十分起こり得る。こうした嫌な感染急増モデルは、名古屋市を中心とする東海地域、金沢市を中心とする北陸地域、福岡市を中心とする九州北部地域など、「地域首都」とそれを取り巻く経済圏という類似した構造を持つ地域にとっても対岸の火事ではない。まして感染者が下げ止まらず、やや「投げやり的」とも言える緊急事態宣言解除に至った首都圏は、最も感染再急増の危険にさらされている。このように宮城県の事例を眺めるにつけ、相当気を引き締めないと首都圏は休む間もなく第4波にのまれるのではないかとの懸念を改めて強くしている。

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J&Jの新型コロナワクチン、単回接種で速やかな免疫応答を誘導/JAMA

 Janssen Pharmaceuticalsが開発中の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)新規ワクチン候補「Ad26.COV2.S」について、第I相試験の一部として米国マサチューセッツ州ボストンの単施設で実施された無作為化二重盲検比較試験において、Ad26.COV2.Sの単回接種により速やかに結合抗体および中和抗体が産生されるとともに、細胞性免疫応答が誘導されることが示された。米国・ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターのKathryn E. Stephenson氏らが報告した。COVID-19パンデミックのコントロールには、安全で有効なワクチンの開発と導入が必要とされている。JAMA誌オンライン版2021年3月11日号掲載の報告。25例で、ワクチン2用量の免疫原性をプラセボと比較 研究グループは、Ad26.COV2.Sワクチンのヒトにおける免疫原性(SARS-CoV-2スパイク特異的液性および細胞性免疫応答の動態、強さ、表現型など)を評価する目的で、2020年7月29日~8月7日の期間に25例を登録し、Ad26.COV2.Sをウイルス粒子量5×1010/mL(低用量)、同1×1011/mL(高用量)、またはプラセボを、1回または2回(56日間隔)筋肉内投与する群に無作為に割り付けた。 液性免疫応答として接種後複数時点でのスパイク結合抗体および中和抗体、細胞性免疫応答としてT細胞反応(ELISPOTおよび細胞内サイトカイン染色法)を評価した。 本論では、中間解析として71日目までの追跡調査(2020年10月3日時点)に関する結果が報告されている。持続性に関する追跡調査は2年間継続される。単回接種後、結合抗体および中和抗体の速やかな産生と細胞性免疫応答が誘導 全25例(年齢中央値42歳[範囲:22~52]、女性52%、男性44%、区別なし4%)が71日時点の中間解析評価を受けた。 初回接種後8日までに、結合抗体はワクチン接種者の90%に、中和抗体は25%で検出された。57日目までに、両抗体は単回接種者の100%で検出された。 ワクチン接種者において、71日時点のスパイク特異的結合抗体の幾何平均抗体価は2,432~5,729、中和抗体の幾何平均抗体価は242~449であった。また、さまざまな抗体のサブクラス、Fc受容体結合能、抗ウイルス機能が誘発されたこと、CD4+およびCD8+ T細胞応答が誘導されたことも確認された。 現在、Ad26.COV2.Sの有効性を評価するため、2件の第III相試験が進行中である。

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異種アデノウイルス混在ワクチン(Gam-COVID-Vac, Sputnik V)の特性を読み解く (解説:山口佳寿博氏)-1366

 ロシアGamaleya研究所によって開発された遺伝子ワクチンはアデノウイルス(Ad)をベクター(輸送媒体)とし、そのDNAに新型コロナウイルスのS蛋白全長をコードする遺伝子情報を組み込んだ非自己増殖性ワクチン(Ad-vectored vaccine)の一種である。本ワクチンは“Gam-COVID-Vac”と命名されたが別名“Sputnik V”とも呼称される。“Sputnik”は1957年に旧ソ連が世界に先駆け打ち上げに成功した人工衛星の名前であり、ロシアのプーチン大統領は“Sputnik”という名称を用いることによって本ワクチンが新型コロナに対する世界初のワクチンであることを強調した。本ワクチンは2020年8月11日にロシアで承認、2021年3月18日現在、ロシアを含め世界53ヵ国で早期/緊急使用が承認されており、第III相試験を終了したワクチンの中で最も多くの国に導入されている(The New York Times 3/18, 2021)。しかしながら、現時点においてWHOはSputnik V使用に関する正当性(validation)を保証していない。さらに、欧州連合(EU)も製造を承認していない(現在、欧州医薬品庁(EMA)に製造認可を申請中とのこと)。ロシアはSputnik Vの医学的正当性(副反応を含む)の詳細を正式論文として発表する前からワクチン不足が深刻な貧困国、低開発国に対してワクチン外交を積極的に推進してきた。ワクチンの正当性が医学的に担保されていない段階でワクチン配布を政治的な具として利用するロシアの姿勢は医学的側面からは許容できるものではない。ロシアと同様の政治姿勢は中国においても認められるが、少なくとも中国の場合、中国製ワクチンに関する学問的内容を早期に正式論文として発表するという良識を有していた。 現在のところ、本ワクチンの本邦への導入は計画されていない。本ワクチンは臨床治験(第I~III相)の結果が正式論文として発表される前にロシア政府が承認したためワクチンの基礎的事項、臨床効果(副反応を含む)が不明確で世界の批判を浴びたことは記憶に新しい。しかしながら、2020年9月4日に第I/II相試験の結果(Logunov DY, et al. Lancet. 2020;396:887-897.)、次いで2021年2月2日に第III相試験の結果(Logunov DY, et al. Lancet. 2021;397:671-681.)が正式論文として発表され、ようやく本ワクチンの基礎的、臨床的意義が他の遺伝子ワクチンと同じレベルで議論できるようになった。 Sputnik VはAstraZeneca社のChAdOx1(ベクター:チンパンジーAd)、Johnson & Johnson社のAd26.COV2.S(ベクター:ヒトAd26型)など他のAd-vectored vaccineとは異なりpriming効果を得るための1回目ワクチン接種時にはヒトAd5型を、booster効果を得るための2回目ワクチン接種時にはヒトAd26型をベクターとして用いており、“異種Ad混在ワクチン(heterologous prime-boost COVID-19 vaccine)”と定義すべき特殊なワクチンである。ChAdOx1ならびにAd26.COV2.Sの基礎的研究で明らかにされたように、同種のAdを用いたワクチンでは1回目接種後にベクターであるAdに対して中和抗体が生体内で形成され、2回目ワクチン接種後には使用Adに対する中和抗体価がさらに上昇することが確認された(Ramasamy MN, et al. Lancet. 2021;396:1979-1993.、Stephenson KE, et al. JAMA. 2021 Mar 11. [Epub ahead of print])。すなわち、同種AdワクチンではAdに対する中和抗体によって一部のAdウイルスが破壊され、とくに、2回目のワクチン接種時にS蛋白に対する遺伝子情報の生体導入効率が低下、液性/細胞性免疫に対するbooster効果の発現が抑制される(山口. 日本医事新報(J-CLEAR通信 124) 5053:32-38, 2021)。異種Ad混在ワクチンに用いられるAdに対する中和抗体の推移については報告されていないが、2回目接種時には1回目接種時とは異なるAdをベクターとして用いるので2回目のワクチン接種後のAdを介したS蛋白遺伝子情報の生体への導入効率は同種Adワクチンの場合ほど抑制されないものと推察される。すなわち、異種Ad混在ワクチンの新型コロナ感染症に対する予防効果は同種Adワクチンよりも高いことが期待される。 以上のような視点で異種Ad混在ワクチンであるSputnik Vの新型コロナ発症予防効果を見てみると、第III相試験(n=19,866)において2回目ワクチン接種(1回目ワクチン接種21日後)7日目以降の発症予防効果は91.1%、重症化予防効果は100%であった(Logunov DY, et al. Lancet. 2021;397:671-681.)。一方、チンパンジーAdをベクターとしたAstraZeneca社の同種AdワクチンChAdOx1の2回目ワクチン接種後14日以上経過した時点での新型コロナ発症予防効果は、第III相試験(n=23,848)に関する中間報告において標準量(SD量:5×1010 viral particles)をある一定期間(中央値で69日)空けて2回接種した場合に62.1%と報告された(Voysey M, et al. Lancet. 2021;397:99-111.)。しかしながら、その後の第III相試験に関する最終報告では、発症予防効果が1回目と2回目のワクチン接種間隔に依存して変化することが示され、ChAdOx1の発症予防効果は、6週間以内にワクチンを2回接種した場合に55.1%、12週間以上空けて2回接種した場合に81.3%と訂正された(Voysey M, et al. Lancet. 2021;397:881-891.)。ChAdOx1に関して報告されたすべての発症予防効率値を考慮したとしても、新型コロナ発症予防効果は、同種AdワクチンChAdOx1に比べ異種Ad混在ワクチンSputnik Vのほうが高い。同種AdワクチンとしてJohnson & Johnson社のAd26.COV2.S(ベクター:ヒトAd26型)が存在するが、このワクチンは単回接種を目指したものであり2回接種を原則として開発が進められてきた異種Ad混在ワクチンSputnik Vとの比較は難しい。しかしながら、パンデミックという人類の緊急事態を鑑みたとき、Sputnik Vにおいても第III相試験の結果を再解析し、単回接種によってどの程度の新型コロナ発症予防効果を発揮するかを提示してもらいたい。 AstraZeneca社のChAdOx1 nCoV-19は本邦への導入が計画されている。しかしながら、前述した医学的解析結果を根拠として、2回接種のAdワクチンを本邦に導入するならばAstraZeneca社のChAdOx1ではなくロシア製の異種Ad混在ワクチンSputnik Vを導入すべきだと論評者は考えている。

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AZ製ワクチン、南アフリカ変異株への有効性みられず/NEJM

 2回投与の新型コロナウイルスワクチン「AZD1222」(アストラゼネカ製ChAdOx1)は、南アフリカ共和国で最初に見つかったB.1.351変異型による、軽度~中等度の症候性COVID-19発症に対する有効性は認められないことが示された。同国・ウィットウォーターズランド大学のShabir A. Madhi氏らによる、約2,000例のHIV非感染者を対象に行った試験の結果で、NEJM誌オンライン版2021年3月16日号で発表された。HIV非感染の18~65歳を対象に試験 研究グループは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対するワクチンの安全性と有効性の評価は、さまざまな集団を対象に行うことが必要であり、南アフリカ共和国で最初に同定されたB.1.351変異型をはじめとする新たな変異型に対するワクチンの有効性についても、同様に調査が必要だとして本検討を行った。 同国在住でHIV非感染の18~65歳を対象に、多施設共同無作為化二重盲検試験を行い、「AZD1222」の安全性と有効性を検証。被験者を無作為に1対1の割合で2群に割り付け、一方にはワクチン(含有ウイルス粒子量5×1010)を、もう一方にはプラセボ(0.9%塩化ナトリウム溶液)を、21~35日間隔でそれぞれ2回投与した。 被験者25例から2回投与後に血清サンプルを採取し、擬似ウイルスと生ウイルス中和試験を実施。変異前のD614G型ウイルスとB.1.351変異型に対する中和活性を測定した。 主要エンドポイントは、2回投与後14日超における、検査で確定した症候性COVID-19に対するワクチンの安全性と有効性とした。中和試験では変異株への抵抗性示す 2020年6月24日~11月9日に、HIV非感染成人2,026例(年齢中央値30歳)が登録され、1回以上のプラセボまたはワクチン投与を、それぞれ1,010例、1,011例が受けた。 血清サンプル評価では、擬似ウイルス、生ウイルス中和試験ともに、B.1.351変異型に対する抵抗性は、プラセボ群に比べワクチン群でより大きかった。 軽度~中等度の症候性COVID-19の発生例は、プラセボ群23/717例(3.2%)、ワクチン群19/750例(2.5%)で、有効性は21.9%(95%信頼区間[CI]:-49.9~59.8)だった。 症候性COVID-19を呈した42例のうち、B.1.351変異型は39例(92.9%)で、変異型に対するワクチンの有効性は10.4%(95%CI:-76.8~54.8)だった。 重篤な有害事象の発生は、両群間で均衡がとれていた。

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ChAdOx1 nCoV-19(AZ社)における1回接種の有効性と血栓形成を含む新たな展開 (解説:山口佳寿博氏)-1364

 AstraZeneca社のChAdOx1 nCoV-19(別名:AZD1222)は、チンパンジーアデノウイルス(Ad)をベクターとして用いた非自己増殖性の同種Adワクチンである(priming時とbooster時に同種のAdを使用)。ChAdOx1に関する第I~III相試験は、英国、ブラジル、南アフリカの3ヵ国で4つの試験が施行された(COV001:英国での第I/II相試験、COV002:英国での第II/III相試験、COV003:ブラジルでの第III相試験、COV005:南アフリカでの第I/II相試験)。それら4つの試験に関する総合的評価は中間解析(Voysey M, et al. Lancet. 2021;397:99-111.)と最終解析(Voysey M, et al. Lancet. 2021;397:881-891.)の2つに分けて報告された。 ChAdOx1に関する治験には種々の問題点が存在し、中間報告時から多くの疑問が投げ掛けられていた。最大の問題点は、最も重要な英国でのCOV002試験において37%の対象者に対して、ワクチン初回接種時に正式プロトコールで定められたAdウイルスの標準量(SD:5×1010 viral particles)ではなく、その半量(LD:2.2×1010 viral particles)が接種されていたことである。これは、Adウイルス量の調整間違いの結果と報告されたが、治験の信頼性を著しく損なうものであった。2番目の問題点は、ワクチンの1回目接種と2回目接種の間隔が正式プロトコールでは28日と定められていたにもかかわらず、多くの症例で28日間隔が順守されていなかったことである。たとえば英国のCOV002試験において、SD/SD群(初回接種:SD量、2回目接種:SD量)では中央値69日間隔、LD/SD群(初回接種:LD量、2回目接種:SD量)では中央値84日間隔の接種であり、SD/SD群における53%の症例で12週以上の間隔を空けて2回目のワクチンが接種されていた。ワクチン接種の間隔が一定でなかったことから、発症予防効果がワクチン接種の間隔に依存するという興味深い副産物的知見が得られたが、臨床試験の面からは許容されるべき内容ではない。3番目の問題点は、LD/SD群の発症予防効果(90%)が正式プロトコールのSD/SD群の発症予防効果(62%)を明確に凌駕していたことである(Voysey M, et al. Lancet. 2021;397:99-111.)。この現象を科学的に説明することは困難である。ただ、ChAdOx1の治験にあっては、他のワクチンで採用された有症状感染を評価指標とした発症予防効果に加え、無症候性感染を含めた感染全体に対する予防効果も評価されたことは特記に値する。 ChAdOx1の正式プロトコールであるSD/SD群における最終解析から得られた重要な知見(Voysey M, et al. Lancet. 2021;397:881-891.)は、(1)2回のワクチン接種間隔が12週以上の場合のS蛋白に対する中和抗体価(幾何学的平均)は、ワクチン接種間隔が6週以下の場合に比べ2倍以上高い。ただし、この現象は、55歳以下の若年/中年者において認められたもので56歳以上の高齢者では認められなかった。(2)その結果として、ワクチン接種間隔が12週以上の場合の発症予防効果(2回目ワクチン接種後14日以上経過した時点での判定)は、ワクチン接種間隔が6週以内の場合に比べ明らかに優っていた(12週以上で81.3% vs.6週以内で55.1%)。(3)無症候性感染に対する感染予防効果は、ワクチン接種間隔が6週以内の場合で-11.8%、12週以上の場合で22.8%であり共に有意な予防効果ではなかった。以上の結果より、ChAdOx1ワクチンの発症予防に関する最大の効果を得るためには、SD量のワクチンを12週間以上空けて接種すべきだと結論された。 ChAdOx1の治験では、LD/SD群、SD/SD群のすべてを対象として1回目のワクチン接種後22日目から90日目までの発症予防効果、無症候性感染予防効果が検討された(Voysey M, et al. Lancet. 2021;397:881-891.)。1回目ワクチン接種の発症予防効果は76.0%(有効)、無症候性感染予防効果は-17.2%(非有効)であった。一方、LD/SD群、SD/SD群のすべてを対象とした2回接種の発症予防効果は66.7%(有効)、無症候性感染予防効果は22.2%(非有効)であった。すなわち、ChAdOx1の1回接種は2回接種の発症予防効果に比べ優勢であっても劣勢であることはなく、ChAdOx1の2回接種の必要性に対して本質的疑問を投げ掛けるものであった(山口. ジャ-ナル四天王-1352「遺伝子ワクチンの単回接種は新型コロナ・パンデミックの克服に有効か?」、山口. 日本医事新報(J-CLEAR通信124). 2021;5053:32-38.)。3月18日現在、ChAdOx1は2回接種の同種AdワクチンとしてEU医薬品庁(EMA)の製造承認、WHOの使用に関する正当性(Validation)承認を得ているが、米国FDAの製造承認は得られていない。米国FDA、EU-EMAならびにWHOの全機関の承認を得ている単回接種の同種AdワクチンとしてJohnson & Johnson社のAd26.COV2.S(ベクター:ヒトAd26型Ad)が存在するが、その発症予防効果は米国、中南米、南アフリカにおける治験の平均で66%と報告された(山口. 日本医事新報(J-CLEAR通信124).2021;5053:32-38.)。すなわち、ChAdOx1の1回接種の発症予防効果はAd26.COV2.Sよりも優れており、パンデミックという緊急事態を考慮した場合、ChAdOx1を2回接種ではなく単回接種ワクチンとして発展させることを考慮すべきではないだろうか? 2021年2月7日、南アフリカはChAdOx1の導入計画を中止した。これはChAdOx1の南アフリカ変異株に対する予防効果が低いためであった(Fontanet A, et al. Lancet. 2021;397:952-954.)。3月に入りChAdOx1の使用を一時中断する国が増加している。2021年3月11日以降、デンマーク、アイスランド、ノルウェー、アイルランド、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、オランダなど、欧州各国が相次いでChAdOx1の接種を一時中断すると発表した(The New York Times. March 18, 2021)。この原因は、ChAdOx1接種後に脳静脈血栓を含む全身の静脈血栓症が相次いで報告されたためである。2021年3月10日までにChAdOx1を接種した500万人にあって脳静脈血栓症による死亡者1人を含む30人に血栓症の発生が確認された。すなわち、ChAdOx1接種後の血栓症全体の発症頻度は6人/100万人、脳静脈血栓症の発症頻度は0.2人/100万人と推定された。重篤な脳静脈血栓症の一般人口における発症頻度は0.63人/100万人(ドイツ国立ワクチン研究機関ポール・エーリッヒ研究所)とされており、ChAdOx1接種後に観察された現時点での脳静脈血栓症の発症頻度は、一般人口における発症頻度を超過するものではなかった。このようなことから、2021年3月18日現在、EU-EMAはChAdOx1と血栓症との因果関係を否定し、欧州各国にChAdOx1の接種再開を呼びかけた。その提言を受け、ドイツ、フランス、イタリア、スペインはChAdOx1の接種を再開したが、ノルウェー、スウェーデンなど北欧諸国は一時中断を継続すると発表した。WHO、EU-EMAが示唆しているように、ChAdOx1接種後の静脈血栓の発症率は一般人口における血栓発症率を超過するものではない。しかしながら、米国CDCの副反応報告では、Pfizer社BNT162b2、Moderna社mRNA-1273の接種後(1,379万4,904回)に全身の静脈血栓発生を認めず(Gee J, et al. MMWR. 2021;70:283-288.)、ChAdOx1接種後のみに、頻度が低いものの血栓症が発生している事実は看過できない問題だと論評者は考えている。

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mRNAワクチン、無症候性感染リスクも低下/大規模調査

 新型コロナウイルスワクチンは無症候性感染にも有効なのか。米国・メイヨークリニックのAaron J. Tande氏らによる大規模調査によって、ワクチン接種によって 無症候性の感染リスクも低下することがわかったという。Clinical Infectious Diseases誌オンライン版2021年3月10日号掲載の報告。 該当地域においてワクチン接種が始まった2020年12月17日から2021年2月8日の間に、処置/手術前にSARS-CoV-2検査を受けた無症状の患者(3万9,156例)の検査4万8,333件を対象として、後ろ向きコホート研究を実施した。 mRNAワクチン(ファイザーもしくはモデルナ社製)を1回以上接種した群(接種群)と、同じ期間内に接種しなかった群(未接種群)の間でSARS-CoV-2検査の陽性率を比較し、相対リスク(RR)を算出した。RRは混合効果log-binomial回帰を用いて、年齢、性別、人種/民族、病院と居住地の相対位置(医療アクセス)、地域の医療システム、反復検査について調整した。 主な結果は以下のとおり。・患者の年齢中央値は54.2(SD:19.7)歳で、2万5,364例(52.5%)が女性だった。接種群の検査数は3,006件(6.2%)、未接種群は4万5,327件(93.8%)だった。・接種群の初回接種から検査までの日数の中央値は16(四分位範囲:7~27)日だった。・接種群の検査3,006件中、陽性は42件(1.4%)、未接種群の検査4万5,327件中、陽性は1,436件(3.2%)だった(RR:0.44、95%CI:0.33~0.60、p<0.0001)。・接種群が未接種群と比較して調整後RRが低かった検査時期は、ワクチンの初回接種後11日以降2回目の接種前(RR:0.21、95%CI:0.12~0.37、p<0.0001)、および2回目の接種翌日以降(RR:0.20、95%CI:0.09~0.44、p<0.0001)だった。 研究者らは、mRNAワクチンは症候性の感染同様に無症候性感染のリスクも減らすことが裏付けられた、としている。

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mRNAワクチン後のアナフィラキシー、医療者で報告多い?/JAMA

 Pfizer-BioNTech社およびModerna社のmRNA新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンについて、米国の医療従事者約6万5,000人を対象に、初回接種後の急性アレルギー反応発生状況について調査が実施された。マサチューセッツ総合病院のKimberly G. Blumenthal氏らによる、JAMA誌オンライン版2021年3月8日号リサーチレターでの報告。 2020年12月16日~2021年2月12日(フォローアップは2月18日まで)に、mRNA COVID-19ワクチンの初回投与を受けたMass General Brigham(MGB;ボストンを拠点とする非営利の病院および医師のネットワーク)の従業員が前向きに調査された。ワクチン接種後3日間、従業員は電子メール、テキストメッセージ、電話、スマートフォンアプリケーションのなどを通じて症状を報告した。 報告が求められた急性アレルギー反応の症状には、接種部位以外の発疹またはかゆみ、じんましん、口唇・舌・目・顔の腫脹、喘鳴・胸部圧迫感または息切れが含まれた。報告された症状は、Brighton Criteria2および国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)/食物アレルギー・アナフィラキシーネットワーク(FAAN)基準を使用して評価され、2つのうち少なくとも1つの基準を満たした場合にアナフィラキシーと判定された。 主な結果は以下の通り。・ワクチン初回接種を受けた6万4,900人のうち、2万5,929人(40%)がPfizer-BioNTech社、3万8,971人(60%)がModerna社のワクチンを接種した。・5万2,805人(81%)が1回以上回答した。・自己申告の急性アレルギー反応は、全体で1,365人から報告され(2.10%[95%CI:1.99~2.22%])、Pfizer-BioNTech社と比較してModerna社のワクチンでより頻繁に報告された(2.20%[2.06~2.35%] vs.1.95%[1.79~2.13%]、p=0.03)。・アナフィラキシーは16人で確認された(0.025%[95%CI:0.014~0.040%])。Pfizer-BioNTech社ワクチンでは7例(0.027%[0.011~0.056%])、Moderna社ワクチンでは9例(0.023%[0.011~0.044%])報告された(p=0.76)。・アナフィラキシーが確認された人の平均年齢は41(±13)歳、94%(15人)が女性だった。63%(10人)はアレルギー歴があり、31%(5人)はアナフィラキシー歴があった。・アナフィラキシー発症までは平均17(±28、1~120)分であった。・1人が集中治療室に入り、9人(56%)がエピネフリンの筋肉内投与を受け、全員がショック療法または気管挿管なしで回復した。 著者らは、本コホートで得られたアナフィラキシー発生率(2.47回/1万回ワクチン接種)は、CDCによる受動的サーベイランス(自発的報告)による報告(0.025~0.11回/1万回ワクチン接種)と比較して高いことに言及。それでも、mRNA COVID-19ワクチンによるアナフィラキシーの全体的なリスクは非常に低く、他の一般的な医療行為と同等としている。また、 本コホートの参加者は主に医療従事者であったため、自己申告データの信頼性は高い可能性があると考察している。 また、成人の約5%が重度の食物アレルギー歴、約1%が重度の薬物アレルギー歴を有していることを考慮すると、安全にワクチン接種された人のうち重度の食品または薬物アレルギー歴を持つ約4,000人が含まれている可能性があるとしている。

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COVID-19疑いへのアジスロマイシン追加の臨床的意義/Lancet

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の市中感染疑い例の治療において、アジスロマイシンを通常治療に追加するアプローチは通常治療単独と比較して、回復までの期間を短縮せず、入院リスクを軽減しないことが、英国・オックスフォード大学のChristopher C. Butler氏らPRINCIPLE Trial Collaborative Groupが行った「PRINCIPLE試験」で示された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2021年3月4日号に掲載された。アジスロマイシンは、抗菌作用と共に抗ウイルス作用や抗炎症作用が期待できるためCOVID-19の治療に使用されているが、市中の無作為化試験のエビデンスは不足しているという。英国のプライマリケアの適応的プラットフォーム試験 本研究は、英国のプライマリケアをベースとし、合併症のリスクの高い市中COVID-19疑い例の治療における複数の薬剤の有用性を同時に評価する、非盲検無作為化適応的プラットフォーム試験である(英国研究技術革新機構[UKRI]と同国保健省の助成による)。本研究ではこれまでに、ヒドロキシクロロキン、アジスロマイシン、ドキシサイクリン、吸入ブデソニドの検討が行われており、今回はアジスロマイシンのアウトカムが報告された。 対象は、年齢65歳以上または1つ以上の併存症を有する50歳以上で、直近の14日以内にCOVID-19(確定例、疑い例)による症状(発熱、新規の持続的な咳嗽、臭覚または味覚の変化)がみられる患者であった。被験者は、通常治療+アジスロマイシン(500mg/日、3日間)、通常治療+他の介入、通常治療のみを受ける群のいずれかに無作為に割り付けられた。 無作為化から28日以内に2つの主要エンドポイントの評価が行われた。1つは患者の自己申告による初回の回復(ベイズ区分指数モデルで評価)、もう1つはCOVID-19関連の入院または死亡(ベイズロジスティック回帰モデルで評価)であった。 2020年4月2日にPRINCIPLE試験の最初の参加者が登録され、アジスロマイシンの試験には、2020年5月22日~11月30日の期間に英国の1,460の総合診療施設から2,265例が登録された。このうち2,120例(94%)で追跡データが得られ、500例がアジスロマイシン群、823例が通常治療単独群、797例は他の介入群だった。 11月30日、予定されていたデータ監視・安全性審査委員会による中間解析において、事前に規定された無益性基準を満たしたため、PRINCIPLE試験運営委員会によりアジスロマイシン試験への患者の割り付けの中止が勧告された。28日回復割合:80% vs.77%、入院/死亡割合:3% vs.3% アジスロマイシン試験(1,388例、アジスロマイシン群526例、通常治療単独群862例)の全体の平均年齢は60.7(SD 7.8)歳、女性が57%で、88%が併存症を有し、無作為化前の罹病期間中央値は6日(IQR:4~10)、83%がポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法による重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の検査を受け、全体の31%が陽性だった。アジスロマイシン群の87%がアジスロマイシンの1回以上の投与を受け、71%は全3回の投与を受けた。 28日以内に回復したと報告した患者の割合は、アジスロマイシン群が80%(402/500例)、通常治療単独群は77%(631/823例)であった。初回回復の報告までの期間に関して、アジスロマイシン群は通常治療単独群と比較して意義のある有益性は認められず(ハザード比[HR]:1.08、95%ベイズ信用区間[BCI]:0.95~1.23)、初回回復までの期間中央値の有益性の推定値は0.94日(95%BCI:-0.56~2.43)であった。回復までの期間が臨床的に意義のある有益性を示すとされる1.5日以上の短縮を達成する確率は0.23だった。 入院は、アジスロマイシン群が3%(16/500例)、通常治療単独群も3%(28/823例)で認められた(絶対有益性割合:0.3%、95%BCI:-1.7~2.2)。死亡例は両群ともみられなかった。入院/死亡が臨床的に意義のある有益性を示すとされる2%以上の低下を達成する確率は0.042であった。 また、安全性アウトカムは両群で同程度だった。試験期間中に、COVID-19と関連しない入院が、アジスロマイシン群で1%(2/455例)、通常治療単独群で1%(4/668例)に認められた。 著者は、「抗菌薬の不適切な使用は抗菌薬耐性の増加につながるため、今回のCOVID-19の世界的大流行中は抗菌薬の適正使用の支援が重要な意義を持つことを、これらの知見は示している。他の研究により、今回の世界的大流行中の英国におけるアジスロマイシン使用の増加のエビデンスが報告されている」とまとめ、「これまでのエビデンスと今回の知見を統合すると、市中でも病院でも、アジスロマイシンはルーチンの使用を正当化する十分な有効性を持つ治療ではないことが示唆される」と指摘している。

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