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クラスター発生の飲食店と発生していない飲食店、違いはどこに?/厚労省アドバイザリーボード

 7月14日開催の第43回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードにおいて、飲食店における国推奨の感染対策チェックリストの遵守状況とクラスター発生との関連についての調査結果が公表された。感染対策の遵守率はクラスター発生店で低く、個別の感染対策としては、アクリル板の設置や他グループと1m以上の距離をとること、トイレ等への消毒設備の設置のほか、就業時の検温などスタッフ側の対応もクラスター発生防止との関連性が高いと考えられた。[調査概要] 2020年10月~2021年5月に国内でクラスター(※1)の発生した12施設(和歌山県8施設、岐阜県2施設、沖縄県[宮古島]2施設)および対照群(※2)19施設(すべて宮古島)に対し、有症者・接触・飛沫・エアロゾル感染対策を中心として、計18問(※3)の質問アンケート調査を実施。※1:クラスターは、上記期間中に8人以上の感染者が生じた施設とする。※2:対照群は、同期間中に感染者数2人以下の施設で、クラスターの発生した施設と規模や業務形態が同程度の施設を抽出した。※3:有症者対策3項目、接触感染対策6項目、飛沫感染対策5項目、エアロゾル感染対策4項目の計18項目[クラスターの有無における感染対策の遵守率]・18項目のうち、対策を行っていると答えた割合(感染対策遵守率)は、クラスター発生群44.4%に対し、対照群では85%であった(p<0.001)。[18項目のうちクラスターとの関連性が考えられた感染対策]・トイレなど公共の場に消毒設備を設置:クラスター発生群(該当対策を行っていた施設の割合)50% vs. 対照群100%(p<0.001)・他のグループとの距離を1メートル以上とっている:18.2% vs.94.7%(p<0.001)・他のグループとの間にアクリル板が設置されている:9.1% vs.89.5%(p<0.001)・スタッフは就業時に体温測定と体調確認をしている:54.5% vs.100%(p=0.001)・飲食時以外はマスクを着用するよう客に促している:33.3% vs.89.5%(p=0.001)・客が入れ替わるタイミングでテーブル等を消毒している:60% vs.100%(p=0.003)・スタッフは客が触れた物を扱ったあと手指衛生を行っている:60% vs.100%(p=0.003)・スタッフは常にマスクを着用して接客している:50% vs.94.7%(p=0.004)・カラオケを提供していない:16.7% vs.68.4%(p=0.005)・窓やドアを開けて定期的に換気している:60% vs.94.7%(p=0.019)・スタッフに症状を認めるときは検査を受けさせている/保健所の指示に従っている/休ませている:40% vs.90.9%(p=0.040)・トイレにペーパータオルを設置している:80% vs.100%(p=0.043)

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新型コロナ外来患者へのbamlanivimab+etesevimab、第III相試験結果/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化リスクが高い外来患者において、bamlanivimab+etesevimab併用療法はプラセボと比較して、COVID-19関連入院および全死因死亡の発生率を低下し、SARS-CoV-2ウイルス量の減少を促進することが示された。米国・ハーバード大学医学部・マサチューセッツ総合病院のMichael Dougan氏らが、同併用療法の第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験「BLAZE-1試験」の結果を報告した。基礎疾患を有するCOVID-19患者は重症化リスクが高い。ワクチン由来では時間をかけて免疫がつくのに対し、中和モノクローナル抗体は即時に受動免疫をもたらし、疾患の進行や合併症を抑制できる可能性が期待されていた。NEJM誌オンライン版2021年7月14日号掲載の報告。軽症~中等症外来患者、bamlanivimab 2,800mg+etesevimab 2,800mgをプラセボと比較 研究グループは、12歳以上で重症化リスクが高い軽症~中等症のCOVID-19外来患者を、SARS-CoV-2陽性判明後3日以内に中和モノクローナル抗体bamlanivimab(2,800mg)とetesevimab(2,800mg)の併用療法群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、単回静脈内投与した。 主要評価項目は、29日目までのCOVID-19に関連した入院または全死因死亡であった。29日目までのCOVID-19関連入院および全死亡は併用療法群で有意に減少 計1,035例が無作為化を受けた(併用療法群518例、プラセボ群517例)。患者の平均(±SD)年齢は53.8±16.8歳で、52.0%が女性であった。 29日目までのCOVID-19関連入院または全死因死亡は、併用療法群で11例(2.1%)、プラセボ群で36例(7.0%)に認められ、絶対リスク差は-4.8%(95%信頼区間[CI]:-7.4~-2.3、相対リスク差:70%、p<0.001)であった。 併用療法群では死亡例の報告がなく、プラセボ群のみ10例が報告され、そのうち9例は治験責任医師によりCOVID-19関連死と判定された。 7日目におけるSARS-CoV-2ウイルス量(log)のベースラインからの減少は、併用療法群がプラセボ群より大きかった(ベースラインからの変化量のプラセボ群との差:-1.20、95%CI:-1.46~-0.94、p<0.001)。

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第67回 例外だらけのコロナ治療、薬剤費高騰と用法煩雑さの解消はいずこへ?

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に対するワクチン接種の進行状況が注目を浴びている陰で、治療薬開発もゆっくりではあるが進展しつつある。中外製薬が新型コロナの治療薬として6月29日に厚生労働省に製造販売承認申請を行ったカシリビマブとイムデビマブの抗体カクテル療法(商品名:ロナプリーブ点滴静注セット)が7月19日に特例承認された。この抗体は米国のリジェネロン・ファーマシューティカルズ社が創製したものを提携でスイス・ロシュ社が獲得、ロシュ社のグループ会社である中外製薬が日本国内での開発ライセンスを取得していた。両抗体は競合することなくウイルスのスパイクタンパク質の受容体結合部位に結合することで、新型コロナウイルスに対する中和活性を発揮する薬剤。日本での申請時には、昨年11月に米国食品医薬品局(FDA)で入院を要しない軽度から中等度の一部のハイリスク新型コロナ患者に対する緊急使用許可の取得時にも根拠になった、海外第III相試験『REGN-COV 2067』と国内第I相試験の結果が提出されている。「REGN-COV 2067」は入院には至っていないものの、肥満や50歳以上および高血圧を含む心血管疾患を有するなど、少なくとも1つの重症リスク因子を有している新型コロナ患者4,567例を対象に行われた。これまで明らかになっている結果によると、主要評価項目である「入院または死亡のリスク」は、プラセボ群と比較して1,200mg静脈内投与群で70%(p=0.0024)、2,400mg静脈内投与群で71%(p=0.0001)、有意に低下させた。また、症状持続期間の中央値は両静脈内投与群とも10日で、プラセボ群の14日から有意な短縮を認めた。安全性について、重篤な有害事象発現率は1,200mg静脈内投与群で1.1%、2,400mg静脈内投与群で1.3%、プラセボ群で4.0%。投与日から169日目までに入手可能な全患者データを用いた安全性評価の結果では、新たな安全性の懸念は示されなかったと発表されている。今回の承認により日本国内で新型コロナを適応とする治療薬は、抗ウイルス薬のレムデシビル、ステロイド薬のデキサメタゾン、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬のバリシチニブに次ぐ4種類目となった。従来の3種類はすべて既存薬の適応拡大という苦肉のドラッグ・リポジショニングの結果として生み出されたものであったため、今回の薬剤は「正真正銘の新型コロナ治療薬」とも言える。「統計学的に有意に死亡リスクを低下させる」とのエビデンスが示されたのはデキサメタゾンについで2種類目であり、これまでに行われた臨床試験の結果からは、なんと家族内感染での発症予防効果も認められている。発症予防効果は米国国立衛生研究所(NIH)傘下の国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)と共同で実施した第III相試験『REGN-COV 2069』で明らかにされた。本試験は4日以内に新型コロナ陽性と判定された人と同居し、新型コロナウイルスに対する抗体が体内に存在しない、あるいは新型コロナの症状がない1,505例が対象。プラセボと1,200mg単回皮下注射で有効性を比較したところ、主要評価項目である「29日目までに症候性感染が生じた人の割合」は、プラセボ群に比べ、皮下注射群で81%減少したことが分かった。また、皮下注射群で発症した人の症状消失期間は平均1週間以内だったのに対し、プラセボ群の3週間と大幅な期間短縮が認められている。死亡率低下効果に予防効果もあり、なおかつ限定的とはいえ軽度や中等度の患者にも使用できるというのは、やや手垢のついた言い方だが「鬼に金棒」だ。もっとも冷静に考えると、そう単純に喜んでばかりもいられない気がしている。まず、そもそも今回の抗体カクテル療法も含め、新型コロナを適応として承認された治療薬は、いずれも従来の感染症関連治療薬とは毛並みが異なり、現実の運用では非専門医が気軽に処方できるようなものではない。今後承認が期待される薬剤も含めてざっと眺めると、もはや従来の感染症の薬物治療からかけ離れたものになりつつある。もちろん現行では非専門医がこうした薬剤を新型コロナ患者に処方する機会はほとんどないが、専門医でも慣れない薬剤であるため、それ相応に臨床現場で苦労をすることが予想される。その意味では治療選択肢の増加にもかかわらず、新型コロナの治療自体は言い方が雑かもしれないが、徐々にややこしいものになりつつある。一方、隠れた問題は治療費の高騰である。現在、新型コロナは指定感染症であるため、医療費はすべて公費負担である。そうした中でデキサメタゾンを除けば、薬剤費は極めて高額だ。レムデシビルは患者1人当たり約25万円、バリシチニブも用法・用量に従って現行の薬価から計算すると最大薬剤費は患者1人当たり約7万3,900円。今回の抗体カクテル療法は薬価未収載で契約に基づき国が全量を買い取り、その金額は現時点で非開示だが、抗体医薬品である以上、安く済むわけはない。しかも、これ以前の3種類がいずれも中等度以上であることと比べれば、対象患者は大幅に増加する。本来、疾患の治療は難治例の場合を除き、疾患の解明が進むほど、選択肢が増えて簡便さが増し、時間経過に伴う技術革新などで薬剤費や治療関連費は低下することが多い。ところが新型コロナでは世界的パンデミックの収束が優先されているため、今のところ治療が複雑化し、価格も高騰するというまったく逆を進んでいる。そうした現状を踏まえると、やはりワクチン接種のほうがコストパフォーマンスに優れているということになる。こうした時計の針がどこで逆に向くようになるのか? 個人的にはその点を注目している。

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モデルナ製ワクチン後の急性期副反応に備えた、予診票の確認ポイント/自衛隊中央病院

 自衛隊東京大規模接種センターにおける「COVID-19 ワクチンモデルナ筋注」接種者約20万人のデータについて、急性期副反応の詳細を速報としてまとめたデータを自衛隊中央病院がホームページ上で公開した。本解析では急性期副反応を「同センター内で接種後経過観察中(最大30分間)に、何らかの身体的異常を自覚し、同センター内救護所を受診したもの」と定義し、得られた経験・知見を可能な限り医療従事者と共有することで、今後のCOVID-19ワクチン接種の対応向上に資することが目的としている。<解析の対象と方法>・2021年5月24日~6月15日に行われたワクチン接種者20万8,154人を対象(すべて1回目接種)。・ワクチン接種者の基礎的臨床情報は、厚生労働省より配布される「新型コロナワクチン予診票」を用いて収集・解析。・急性期副反応発症者については全件調査を行い、非発症者についてはランダムサンプリングによる調査を行った。非発症者の母集団平均値の95%信頼区間の許容誤差が2%以下になるよう、サンプルサイズを設定した(n=3,000)。・急性期副反応に関する詳細は、同センター救護所で使用した医療記録を用いて収集・解析を行った。アナフィラキシーの診断は、ブライトン分類に基づき2名の医師(内科医および救急医)により判定した。 主な結果は以下のとおり。・急性期副反応は、合計395件(0.19%)確認された。センター内における急性期副反応発生者のうち、合計20件(0.01%)が他医療機関へ救急搬送された。ブライトン分類を用いてアナフィラキシーと診断されたのは0件であった。・急性期副反応発症者の平均年齢は70才、非発症者数の平均年齢は69才で、両群において年齢分布に統計学的有意差は認めなかった(p=0.867)。・発症者の72.9%が女性であり、非発症者(44.6%)と比較し有意に高値であった(オッズ比[OR]:3.3、95%信頼区間[CI]:2.7~4.2、p<0.001)。・甲状腺疾患(OR:2.8、95%CI:1.6~5.0、p<0.001)、喘息(OR:3.6、95%CI:2.2~5.7、p<0.001)、悪性腫瘍(OR:1.9、95%CI:1.1~3.3、p=0.02)、食物または薬剤に対するアレルギーの既往(OR:7.9、95%CI:6.1~10.2、p<0.001)、過去ワクチン接種時の副反応の既往(OR:2.0、95%CI:1.4~2.9、p=0.001)がある接種者については、急性期副反応の発症リスクが高い傾向にあった。一方、抗凝固薬/抗血小板薬の使用中の接種者は、発症リスクが低い傾向にあった(OR: 0.4、95%CI:0.3~0.8、p=0.003)。・急性期副反応として観察された最も多い症状は、めまい・ふらつき(98 件、24.8%)であり、続いて動悸(71 件、18.0%)であった。発赤・紅斑・蕁麻疹等などの皮膚症状は 58 件(14.7%)に認めた。呼吸困難感を訴えたものは 17 件(4.3%)であった。ブライトン分類を用いてアナフィラキシーと診断されたのは、0 件であった。・発症者395件中、バイタルサインが観察された発症者は203件。バイタルサイン異常として最も高率に観察されたのは、接種後の高血圧で、収縮期血圧180mmHg以上または拡張期血圧110mmHg以上を伴う高血圧は、34件(16.7%)に認めた。低血圧は4件(2.0%)に認め、いずれもアナフィラキシーの基準は満たさず、発症エピソードや徐脈の合併から迷走神経反射と診断された。・救急搬送が実施された20件の急性期副反応の症状としては、6件(30.0%)に頻呼吸を認め、5件に持続する高血圧(収縮期血圧>180mmHgまたは拡張期血圧>110mmHg)を認めた。いずれもアナフィラキシーの基準は満たさなかった。 本解析の結果から、急性期副反応を予測するための予診票確認時におけるポイントは、性別(女性)、基礎疾患の有無(甲状腺疾患、喘息、悪性腫瘍)、食物または薬剤に対するアレルギーの既往、過去ワクチン接種時に体調不良を起こした既往と考えられる。また、急性期副反応発生者の16.7%に高血圧を認めた点について、迷走神経反射による低血圧よりも高率に認められていると指摘。mRNAワクチン接種後経過観察中に二次性高血圧が発生するとの報告1)があることに触れ、とくに高齢者では心血管病の既往がある場合も少なくないため、ワクチン接種に伴うアナフィラキシーや迷走神経反射における低血圧のみならず、接種後高血圧に関しても、十分な注意と対策が必要としている。 本報告における全接種者の平均年齢が69歳と比較的高齢であることに留意を求め、今後若年者についても解析を続けていく予定とされている。また同報告では、遅発性皮膚副反応についても、自験例について提示している。

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PTEN欠損mCRPC、ipatasertib+アビラテロンでPFS延長/Lancet

 未治療で無症候性/軽度症候性の転移のある去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)へのipatasertib+アビラテロン併用投与は、アビラテロン単独投与に比べ、PTEN欠損を有する患者において無増悪生存(PFS)期間を有意に延長したことが示された。ただしITT集団における有意差は認められなかった。安全性プロファイルは既知のものだったという。米国・ダナ・ファーバーがん研究所のChristopher Sweeney氏らが、1,100例超を対象に行った第III相多施設共同プラセボ対照無作為化二重盲検試験の結果を報告した。mCRPCでは、PI3K/AKTおよびアンドロゲン受容体経路の調節不全が認められ、PTEN欠損を有する腫瘍ではAKTシグナル伝達の過剰な活性が知られている。こうしたことから研究グループは、AKT阻害薬ipatasertib+アビラテロンによる二重の経路阻害はアビラテロン単独よりも効果が大きい可能性があるとして検討を行った。Lancet誌2021年7月10日号掲載の報告。26ヵ国、200ヵ所で試験 検討では、PTEN欠損を問わず未治療mCRPC患者を対象に、併用vs.単独を比較することを目的とし、26ヵ国、200ヵ所の医療機関を通じて試験を行った。 被験者は、18歳以上、未治療の無症候性/軽度症候性mCRPCで進行性、ECOGパフォーマンスステータス0/1だった。 研究グループは被験者を無作為に2群に分け、一方にはipatasertib(400mg、1日1回)+アビラテロン(1,000mg、同)+プレドニゾロン(5mg、1日2回)を(併用群)、もう一方にはプラセボ+アビラテロン(同用量)+プレドニゾロン(同用量)を(単独群)、それぞれ経口投与した。病勢進行や不耐容の毒性、試験からの離脱や試験終了まで追跡した。 層別化は、ホルモン感受性前立腺がんに対するタキサン療法歴、進行のタイプ、内臓転移、免疫組織染色による腫瘍PTEN欠損の有無によって行った。患者、研究者、試験スポンサーは、治療割り付けを知らされなかった。 主要エンドポイントは2つで、免疫組織染色に基づく腫瘍PTEN欠損患者とITT集団における、試験担当医が評価した画像診断によるPFS期間だった。PTEN欠損でのPFS期間中央値、併用群18.5ヵ月、単独群16.5ヵ月 2017年6月30日~2019年1月17日に患者1,611例に対して適格性のスクリーニングが行われ、うち1,101例(68%)が被験者として登録された。併用群は547例(50%)、単独群は554例(50%)。2020年3月16日のデータカットオフ時点で、追跡期間中央値は19ヵ月(範囲:0~33)だった。 PTEN欠損患者(521例[併用群260例、単独群261例]、47%)におけるPFS期間中央値は、併用群18.5ヵ月(95%信頼区間[CI]:16.3~22.1)、単独群16.5ヵ月(13.9~17.0)だった(ハザード比[HR]:0.77、95%CI:0.61~0.98、p=0.034、α=0.04で有意)。 一方ITT集団では、PFS期間中央値は、それぞれ19.2ヵ月(95%CI:16.5~22.3)、16.6ヵ月(15.6~19.1)だった(HR:0.84、95%CI:0.71~0.99、p=0.043、α=0.01で非有意)。 Grade3以上の有害事象は、併用群386/551例(70%)、単独群213/546例(39%)で発生した。治療中断に至った有害事象の発生は、それぞれ116例(21%)、28例(5%)だった。治療に関連すると考えられる有害事象による死亡は、両群ともに2例ずつ(<1%)報告された。死亡の内訳は、併用群が高血糖症1例と化学性肺炎1例、単独群は急性心筋梗塞1例と下気道感染症1例だった。 著者は、「これらのデータは、ipatasertib+アビラテロンによるAKTとアンドロゲン受容体シグナル伝達経路の阻害は、予後不良集団であるPTEN欠損mCRPC男性患者への潜在的な治療法であることを示唆するものである」とまとめている。

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コロナ感染者の脈拍をウェアラブルデバイスで追跡、その結果は?

 新型コロナに感染すると、その後も自律神経の機能障害から心筋損傷までさまざまな後遺症に悩まされる。長期にわたる新型コロナ症状は発症後最大6ヵ月間認められるとも言われるが、これまでのところ定量化はされていない。 今回、米国・Scripps Research Translational InstituteのJennifer M Radin氏らはこの問題解決のために、ウェアラブルデバイスのデータを利用し感染後の症状回復に関する調査を実施した。近年では日頃からスマートウォッチなどのウェアラブルデバイスを使い、心拍数などのデータ測定を行う人が増えているため、(感染前の)健康な状態から感染の過程、ベースラインに戻るまでの個人の生理学的および行動的指標を継続的に追跡することができる。この調査の結果、一過性の徐脈は、症状の発症から約9〜15日後に認められ、新型コロナ感染による初期症状と初期の安静時心拍数(RHR)の変化が、このウイルスからの回復時間に関連している可能性があることを示唆した。JAMA Network Open誌2021年7月7日号リサーチレターでの報告。 本研究は、新型コロナ陽性者と陰性者の回復期間や変動を調べることを目的とし、2020年3月25日~2021年1月24日までの期間に登録された3万7,146例を調査した。RHRは、ベースラインからの偏差=毎日のRHR-ベースラインの平均RHRで求めた。また、陽性者は症状発現後28~56日のベースラインからのRHRの平均偏差(一分間の拍動数[bpm]が1未満、1~5、5超)によってもグループ化された。 主な結果は以下のとおり。・対象者875例で、そのうち新型コロナの陽性者は234例(平均年齢:45.3歳[範囲:18~76歳]、女性:164例[70.9%])、陰性者は641例(平均年齢:44.7歳[同:19~75歳]、女性:455例[71.1%])だった。・陽性者と陰性者を比較すると、RHRで最も顕著だった。陽性者は平均して最初に一過性の徐脈を経験後、症状発症後79日までベースラインに戻らず、相対的に頻脈を経験した。・歩数と睡眠量は、RHRよりも早くベースラインに戻った(陽性:32日vs.陰性:24日)。・回復期間中、陽性者は陰性者と比較して、RHRが正常に戻る際に異なる臨床経過をたどり、陽性者のサブグループ32例(13.7%)は、133日以上正常に戻らず、RHRのbpmが5超のままだった。・新型コロナの急性期において、このサブグループ32例の患者は咳を訴える者が多かった。なお、一分間の拍動数[bpm]1未満、1~5、5超で比較すると、咳(57例[55.3%]vs. 57例[57.6%]vs. 27例[84.4%])、体の痛み(42例[40.8%]vs. 35例[35.4%]vs. 20例[62.5%])、息切れ(9例[8.7%]vs. 6例[6.1%]vs. 9例[28.1%])だった。 研究者らは「これは長期間のウェアラブルセンサーデータを調査した最初の研究である。新型コロナ感染の長期的な生理学的影響は、平均して約2〜3ヵ月続くが、自律神経系のさまざまなレベルの機能障害や進行中の炎症を反映している可能性があり、かなりの個人内変動が見られた」とし、「将来的には、より大きなサンプルサイズと包括的な参加者報告の結果から、新型コロナからの回復における個人内変動の要因をよりよく理解することが可能になるだろう」と結論付けた。

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新型コロナ抗原迅速検査、無症状病原体保有者の特定に有用か/BMJ

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のイムノクロマト法による抗原迅速検査(LFT)は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の無症状病原体保有者、とくに他者へ感染させる可能性が高い、高ウイルス量の無症状病原体保有者の特定に有用である可能性が示された。英国・リバプール大学のMarta Garcia-Finana氏らが、リバプール住民を対象にInnova LFTとRT-qPCR法を比較した大規模パイロット試験の結果を報告した。BMJ誌2021年7月6日号掲載の報告。RT-qPCR法と比較したLFTの感度、特異度、予測値を評価 研究グループは、症候性の人の検査精度の評価報告は充実しているが、無症候性の人への使用に関するデータは入手が限られていることから、リバプールのCOVID-19検査センターで、コミュニティLFTパイロット試験を実施。2020年11月6日~29日に48ヵ所の検査センターを訪れた一般成人集団(18歳以上の無症状ボランティア)5,869例を対象に、LFTとRT-qPCR法の性能を評価する観察コホート試験を行った。 被験者は、検査センターで、監視下自己スワブにて検体を採取し、Innova LFTおよびRT-qPCR法の両検査を受けた。 主要評価項目は、COVID-19の典型的症状のない被験者について、COVID-19流行期におけるRT-qPCR法と比較したLFTの感度、特異度および予測値とした。感度40.0%、Ct<18.3では同90.9%、<24.4では69.4%、≧24.4では9.7% 5,869例の検査結果のうち、LFTの結果22例(0.4%)、RT-qPCRの結果343例(5.8%)が無効(30分以内に検査キットにコントロールラインが表示されない)であった。 無効データを除外したRT-qPCRと比較したLFTの感度は40.0%(95%信頼区間[CI]:28.5~52.4、28/70例)、特異度は99.9%(99.8~99.99、5,431/5,434例)、陽性的中率90.3%(74.2~98.0、28/31例)、陰性予測値は99.2%(99.0~99.4、5,431/5,473例)であった。 無効とした結果は陰性であったと仮定した場合、感度は37.8%(95%CI:26.8~49.9、28/74例)、特異度は99.6%(99.4~99.8、5,431/5,452例)、陽性的中率84.8%(68.1~94.9、28/33例)、陰性予測値は93.4%(92.7~94.0、5,431/5,814例)であった。 RT-qPCRサイクル閾値(Ct)が18.3未満(おおよそのウイルス量>106RNAコピー/mL)の被験者において、感度は90.9%(95%CI:58.7~99.8、10/11例)、Ctが24.4未満(>104RNAコピー/mL)では同69.4%(51.9~83.7、25/36例)であり、Ctが24.4以上(<104RNAコピー/mL)では同9.7%(1.9~23.7、3/34例)であった。 LFTは、RT-qPCR検査結果が陽性でウイルス量高値1,000人のうち、少なくとも5分の3、最大で998例を検出できることが示唆された。 これらの結果について著者は、「陽性者が多い状況での単独LFTの使用は、Ct低値の無症状の成人について、数は少ないけれども見逃しがあると見なす必要がある。また高ウイルス量の症例についても、一部は見逃される可能性があり、検査結果をどのように解釈するのか、一般市民との明解で正確なコミュニケーションが重要になる」と述べ、最後に「LFTによるウイルス抗原の検出とRT-qPCRの概算ウイルス量から、感染状況を読み解くためのさらなる研究が必要である」とまとめている。

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第66回 一般市民がやる気になる緊急事態宣言の解除基準とは

今週から東京都では4回目となる新型インフルエンザ等特別措置法(特措法)に基づく緊急事態宣言が発出された。あまりこういう書き方はしたくないのだが、本連載の第63回のような内容を書いた私としては、今回ばかりはどんなに抑え込もうとしても「そら見たことか」と言いたくなる。政府や自治体からすれば、「何もしなかったわけではなく、緊急事態宣言からまん延等防止等重点措置(まん防)に移行していたのだから」と言いたいのかもしれないが、それが意味をなさないのは、すでに過去の結果を見れば明らかである。ただ、一部に「まん防なんぞ、そもそも効果がない」という人がいるが、それは乱暴な物言いだとも思う。たとえば、宮城県や愛媛県のようにまん防に移行しても緩やかに感染者が減少している自治体はある。ワクチン接種の進行度合いも影響しているのではないかという見方も成り立つかもしれないが、東京都と宮城県、愛媛県で接種率に極端な違いはない。要は人口密度が高く、かつ高齢化率が低い、そこに人流が多いというファクターが加わると、強い措置でなければ効果が望めないということだろう。もっとも緊急事態宣言は感染者減少に対する一定の効果はあるものの限界はある。とりわけ緊急事態宣言に基づく対策の軸となる自治体から飲食店への営業自粛や営業時間短縮の命令に違反しても行政罰に留まるだけであるため、実際には違反店が散見される状態になっている。この点は大きな抜け穴である。今回政府が違反店の出現を防ぐ目的で、飲食店への休業支援金の先渡し方針を明らかにしたまでは良かったのだが、これに加え「違反店情報を金融機関へ提供する」とか「酒類卸売販売業者に違反店への販売を行わないよう要請する」通知を発出。これが世論の猛反発を浴び、通知は撤回に追い込まれた。そもそもこの要請のナンセンスな点は、商売をやっている人に取引先を事実上取り締まれと言っていることだ。金融機関にしろ酒類卸売業者にしろ、取引先の飲食店がつぶれてしまっては元も子もない。つぶれて融資や売掛金が回収できなくなるくらいならば、違反営業することを黙認するだろう。また、違反するならば「融資しません」「販売しません」と言えば、その飲食店は他の取引先に流れるだけで根本的な解決にはならない。しかも金融機関や卸売業者は自分の売上を落とすだけになる。ついでに言うと、この仕組みでは「違反店の情報を国や自治体が金融機関に提供する」としているが、そうした情報は国や自治体よりも金融機関のほうが持っているはずで、仕組みとしてもあまり有効ではない。そもそも今回の一連の混乱の原因は、過去にも指摘したが違反への対処が行政罰で、しかもそれが徹底されていないからだ。現に緊急事態宣言下などでの違反営業に対する行政罰に関する報道を見ると、最近になってようやく東京都で4店が過料を科され、これが全国初のケースのようである。しかし、東京都での違反店数がたった4店でないことは明らかである。要は目立つところ、訴えやすいところが標的にされただけと言っても良い。その意味では改正特措法施行後3回の緊急事態宣言を経験している中で、そろそろ緊急事態宣言やまん防の効果などを詳細に検討したうえで、将来的には特措法での行政罰の刑事罰化も選択肢の一つとして考える必要があるのではないかと個人的には考えている。そもそも私個人は国などによる私権制限などを伴う規制はどんないかなる場合であっても最小限に留めるべきと従来から考えている。しかし、対抗手段のない新興感染症のパンデミック収束のためには、どうしても強制力が伴う対策が必要になる点は否めないとも痛感している。また、今回の特措法のように行政罰となると、違反店への対応は自治体が主体となるため、市街地が広大にもかかわらず、自治体のマンパワーが限られた東京都のような地域では、どうしても目立った店舗のみが行政罰を科せられ、違反店と遵守店の間だけでなく、違反店同士でも不公平感が生まれる罰則適用になってしまう。その点、刑事罰の場合は、各地域に配置された警察署、派出所が対応でき、行政罰の時と比べ、マンパワー不足は解決される。また、「警察」が乗り出すことに対する民間での心理的負荷は大きいため、行政罰と比べれば違反や再発への抑止効果もあると考えられる。一方で、こうした法律とは別に個人的には従来から必要だと思っていることがある。それは出口指標の明確化だ。今でも政府の「新型コロナウイルス感染症対策分科会」が示した感染状況を示す4つのステージで、ステージ4相当が緊急事態宣言発出で、解除については「ステージ3相当から安定的にステージ2に向けて指標が低下しつつある」としてはいる。しかし、この解除基準は明らかに経済横にらみでさじ加減を調整することを念頭に置いているため曖昧さが多く、感染ステージ評価が複数の指標で成り立っていることから一般市民に分かりにくいものになっている。その意味ではこのステージ分類は維持しつつも、ステージ分類で使用している指標の中の1~2つを利用して、一般市民向けに緊急事態宣言解除の具体的目安を示すべきではないかと考えている。たとえば一部の専門家がメディア向けに東京都での解除基準を問われた時によく出てくる「1日の感染者報告が100人以内」といった類のものだ。そうすれば一般市民も出口に向けて今どのような状況にあるかがわかり、自身の感染対策の振り返りや見直しにもつながりやすいのではないだろうか?もしかしたらこうしたやり方をすれば、行政罰のまま現在の緊急事態宣言やまん防を運用できるかもしれないとさえ思うことがある。いずれにせよ、従来のような緊急事態宣言の運用は、少なくとも首都圏では限界にあることは改めて認識する必要があるだろう。

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コロナワクチンのアナフィラキシー、患者さんに予防策を聞かれたら?

 7月に入り、新型コロナワクチン接種が65歳未満でも本格化している。厚生労働省の副反応報告1)によると、現時点では「ワクチンの接種体制に直ちに影響を与える程度の重大な懸念は認められない」との見解が示されており、アナフィラキシーやその他副反応のリスクよりも新型コロナの重症化予防/無症状感染対策というベネフィットが上回るため、12歳以上へのワクチン接種は推奨される。 しかし、接種対象者の年齢範囲が広がることで問題となるのが、SNS上での根拠のないワクチン批判である。その要因の1つが「アナフィラキシー」だが、患者自身で出来る予防策はあるのだろうかー。今回、日本アレルギー学会のCOVID-19ワクチンに関するアナウンスメントワーキンググループのひとりである中村 陽一氏(横浜市立みなと赤十字病院アレルギーセンター センター長)に話を聞いた。ワクチンだけを恐れる矛盾を指摘 まず、中村氏はワクチン不安に陥る前に、あらかじめ知っておくべきこととして2点を提示した。一つは「腕の痛みなどの注射部位反応や筋肉痛、頭痛、寒気、倦怠感、発熱などの反応は、ワクチンに対する身体の正常な免疫反応を反映している」ということで、それらは数日以内に消失する。もう一つは「わが国における新型コロナワクチン接種後に起こったアナフィラキシーの報告で信頼に足るものは100万回あたり7件と報告されており、医療機関で使用される造影剤(100万回あたり約400件)や肺炎などの感染症で使用される抗生物質(100万回あたり100~500件)に比べると極めて少ない」という事実である。今回の新型コロナワクチンに限らず一般にワクチンはほかの医薬品に比べてアナフィラキシーが少ないと言われているにもかかわらず、接種を怖がる人が多いのは、「一部マスコミの注意喚起が強調され過ぎたのかもしれない。ただし、ごく稀とはいえ誰にでも新型コロナワクチンによるアナフィラキシーがあり得るのは事実であり、個人的にできる予防策があればそれに越したことはない」とも話した。 アナフィラキシーを増強させる促進要因(飲酒、運動、月経前状態など)2)はいくつか明らかになっているものの、実際にアナフィラキシーが発症する際にはさまざまな要因が絡み合うため、「これという確かな予防策は存在しない」と同氏はコメント。しかし、予防策が断定できなくとも患者が心得ておくべきは、「ワクチン接種日の数日前から体調を整えておくこと」であり、医療者の役割は「自分の患者からワクチン接種の可否について相談された場合にリスク因子の有無を正確に見極めること」と話した。その際に参考になるのは、アナフィラキシーの主な原因が新型コロナワクチンの主成分ではなく添加物(ポリエチレングリコール[PEG]やポリソルベートなど)との報告である。実際にファイザー製やモデルナ製にはPEGが、アストラゼネカ製にはPEGに交差反応性のあるポリソルベート80が添加されている。 一方、これらの賦形剤は多くの医薬品(注射薬、錠剤、外用薬、など)や化粧品に(PEGはマクロゴールの名称で)広く含有されており、同氏は「私の所属する医療機関で扱っている医薬品4,000種類以上に含まれている。そして、多くの患者は普段から定期的にこれらを体内に取り込んでいることになる。もちろん、その接種経路により症状誘発の程度が異なることはあり得るが、自分が担当する患者さんにワクチン接種の可否を訊ねられた際には、定期処方薬にそれらが含有されていることを確認した上で、『あなたは一般に新型コロナワクチンの原因と言われている成分を毎日服用しているのに普段何ともないのですから、そんなに心配することはないですよ』とアドバイスをして安心していただくようにしている」と、添加物の実状と患者の不安を払拭させるような声掛け方法を例示した。 現在、PEGは日本薬局方には医薬品添加物として、分子量200、300、400、600、1000、1500、1540、4000、6000、20000が登録されており、添付文書ではマクロゴール◯◯や下記のようにPEG◯◯などと記載されていることが多い(◯◯は分子量)。<各ワクチンに含有される主な添加物>・コミナティ筋注(ファイザー):2-[(ポリエチレングリコール)-2000]- N,N-ジテトラデシルアセトアミド・COVID-19ワクチンモデルナ筋注(モデルナ):λ1, 2-ジミリストイル-rac-グリセロ-3-メチルポ リオキシエチレン(PEG2000-DMG)、トロメタモール(アナフィラキシー報告あり)・バキスゼブリア筋注(アストラゼネカ):ポリソルベート80アナフィラキシーの“既往なし”でも注意したい患者 加えて、PEGやポリソルベートに対するアレルギーが考えにくい場合でも、ワクチン前に受診を薦めたい患者として「喘息患者のなかでもコントロール不良な人、そして、“かくれ喘息”の人」を挙げた。喘息はアナフィラキシーの重症化リスクの1つであるため、「喘息治療をしていないが、ゼーゼー、ヒューヒューと喘息様の症状を有する人、治療を続けていても発作が多かったりコントロールが不良だったりする人は、ワクチン前にしっかり診断と治療を受け、コントロールしておくことも重要」とし、接種後には「通常の2倍の時間、30分間は経過観察が必要」とも話した。 これらを踏まえ、アナフィラキシー発症リスクの高い例と注意すべき患者像を以下のように示す。<アナフィラキシーに注意すべき患者像>( )内は主な可能性・高齢者(薬剤に過敏歴がある場合、化粧品使用とその経験が長い)・女性(化粧品の使用率が高く、PEGへの経皮感作の可能性がある)・喘息の既往(コントロール不良、発作が多い)、かくれ喘息<アナフィラキシーの発生リスクを探る>(優先順)1)アナフィラキシーに最もリスクがある患者は“PEGやポリソルベートによるアナフィラキシー歴あるいは1回目のワクチン接種でアナフィラキシーがあった”人。その場合には接種を見送る/2回目接種を見送る必要がある。2)次に注意すべきは、“原因不明あるいは不特定多数の医薬品などによるアナフィラキシー歴(PEGやポリソルベートに対するアレルギーの可能性を有する)”がある人。この人は可能な限り主治医に事前相談し、集団接種会場ではなく医療機関での個別接種が望ましい。3)“アナフィラキシー歴はあるが、PEG・ポリソルベートなどの賦形剤以外の物質(食物、金属など)が原因として確定している”人は通常通りワクチン接種を行っても差し支えないと言える。 アレルギー反応にはアナフィラキシーや花粉症、食物アレルギーなどを引き起こすI型、II型(血小板減少症など)、III型(SLEや関節リウマチなど)、IV型(接触皮膚炎など)が存在するが、食物アレルギーはアナフィラキシーと同型に分類されるため、食物アレルギーを抱える患者は接種に不安を抱え、ためらうこともあるかもしれない。これについては、日本アレルギー学会が今年3月に公開したアナウンスメント3)にも「少なくとも現時点では花粉、食物などの特定の抗原に対する I 型アレルギーや、アナフィラキシー症状を伴わない喘息、アトピー性皮膚炎などのアトピー疾患であることが、新型コロナウイルスワクチンに対する過敏性を予測するものではないことを意味する」と示されている、と強調した。医療者としての声掛けー新型コロナワクチンに不安な被接種者へ 新型コロナに罹患した際の症状は死に至る場合もある。感染から回復しても長引く後遺症(疲労感・倦怠感や息切れ…)に悩まされることになり、それらの症状からいつ完全回復を遂げられるかはまだ明らかにされていない。ワクチン接種時の一時的な副反応症状(発熱、倦怠感など)と発症率が低く適切な治療により致命的になることがほとんどないアナフィラキシー、どちらのリスクが自分にとって危険であるのかを天秤にかけた場合、「ワクチンを接種せずに新型コロナに罹患することだけは避けるべきであるのは自明」と同氏は繰り返した。 最後に、ワクチン接種に関し医療者が患者にできることとして、「今後の変異株の拡大などにより若い人でも重症化することが懸念されている現状では、患者にワクチンを諦めさせるのではなく、推奨することが大切なのではないか」とワクチン接種が患者の命を救う最善の手立ての1つであることを強く訴えた。中村 陽一(なかむら よういち)氏横浜市立みなと赤十字病院アレルギーセンター長1955年香川県生まれ。81年徳島大卒。91年医学博士取得および米国ネブラスカ大学留学。2000年国立病院機構高知病院臨床研究部長を経て05年より現職および昭和大学医学部客員教授。日本アレルギー学会功労会員。同学会アナフィラキシー対策委員会委員長。

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COVID-19入院患者へのIL-6受容体拮抗薬、メタ解析で全死亡抑制/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者を対象とした臨床試験の前向きメタ解析の結果、IL-6受容体拮抗薬は通常の治療やプラセボと比較し、28日全死因死亡率の低下と関連していることが認められた。WHO Rapid Evidence Appraisal for COVID-19 Therapies(REACT)Working Groupメンバーで、英国・St Thomas' HospitalのManu Shankar-Hari氏らが報告した。COVID-19入院患者へのIL-6受容体拮抗薬の有効性を評価した臨床試験では、有益、有効性なし、有害とさまざまな報告がされていた。JAMA誌オンライン版2021年7月6日号掲載の報告。27試験の1万930例について、前向きメタ解析を実施 研究グループは、2020年10月~2021年1月に、電子データベースを検索して試験を特定し(試験状況や言語による制限なし)、さらに専門家への連絡を介して追加の試験を特定した。適格としたのは、COVID-19入院患者を対象に、IL-6受容体拮抗薬投与群と、IL-6受容体拮抗薬あるいはコルチコステロイドを除く他の免疫調整薬のいずれも投与しない群に無作為に割り付けた試験とした。 可能性のある適格試験72件のうち、27件(37.5%)が試験の選択基準を満たした。 主要評価項目は、無作為化後28日全死因死亡率、副次評価項目は侵襲的人工換気への移行または死亡、28日までの2次感染リスクなど9項目である。 Cochrane Risk of Bias Assessment Toolを使用してバイアスリスクを評価し、試験結果の不一致はI2統計量を用いて評価した。主要解析は、28日全死因死亡率のオッズ比(OR)の逆分散加重固定効果メタ解析とした。 27試験の計1万930例(年齢中央値61歳[中央値の範囲52~68]、女性3,560例[33%])が解析に組み込まれた。IL-6受容体拮抗薬群で、通常治療またはプラセボ群と比較し28日全死因死亡率が低下 無作為化後28日間に、IL-6受容体拮抗薬群6,449例中1,407例、通常治療またはプラセボ群4,481例中1,158例が死亡した(要約OR:0.86、95%信頼区間[CI]:0.79~0.95、固定効果メタ解析のp=0.003)。 これはIL-6受容体拮抗薬群の絶対死亡リスクは22%、通常治療またはプラセボ群の推定死亡リスクは25%に相当し、対応する要約ORは、トシリズマブが0.83(95%CI:0.74~0.92、p<0.001)、サリルマブは1.08(0.86~1.36、p=0.52)であった。 コルチコステロイドの投与を受けた患者では、通常治療またはプラセボ群と比較した死亡の要約ORは、トシリズマブ0.77(95%CI:0.68~0.87)、サリルマブ0.92(0.61~1.38)であった。 侵襲的人工換気への移行または死亡のORは、通常治療またはプラセボ群と比較して、IL-6受容体拮抗薬群全体で0.77(95%CI:0.70~0.85)であり、トシリズマブで0.74(0.66~0.82)、サリルマブで1.00(0.74~1.34)であった。 28日目までの2次感染の発生率は、IL-6受容体拮抗薬群21.9%、通常治療またはプラセボ群17.6%であった(OR:0.99、95%CI:0.85~1.16)。

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中国製コロナワクチン、入院を87.5%抑制/NEJM

 チリの公的国民医療保険加入者を対象に行ったコホート試験で、不活性化コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン「CoronaVac」について、COVID-19への予防効果(重症化および死亡)が明らかにされた。チリ・保健省のAlejandro Jara氏らが、2021年2月から実施している同ワクチンの全国接種キャンペーンの効果について、コホート試験を行ったもので、「結果はワクチン第II相試験の結果と一致するものであった」と述べている。NEJM誌オンライン版2021年7月7日号掲載の報告。公的国民医療保険加入の16歳以上について追跡 研究グループは、公的国民医療保険に加入する16歳以上を対象に前向きコホート試験を行い、COVID-19感染と関連する入院、ICU入室、死亡を調べ、不活性化SARS-CoV-2ワクチンの予防効果を検証した。 時間とともに変化するワクチン接種状況を考慮に入れ、拡張Cox比例ハザードモデルを用いてハザード比を算出。部分免疫(1回目接種後の14日以降で2回目接種前)、完全免疫(2回目接種後14日以降)のハザード比の変化を推算した。 ワクチンの有効性は、被験者個々の人口統計学的特徴や臨床的特徴で補正し算出したワクチン有効性、対入院は87.5%、対ICU入室は90.3% 試験期間は2021年2月2日~5月1日で、約1,020万人がコホートに包含された。 完全免疫を獲得した人におけるCOVID-19予防に関する補正後ワクチン有効性は、65.9%(95%信頼区間[CI]:65.2~66.6)であった。 入院に関する有効性は87.5%(86.7~88.2)、ICU入室に対しては90.3%(89.1~91.4)で、COVID-19関連死の予防に対する有効性は86.3%(84.5~87.9)だった。

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総合内科専門医試験オールスターレクチャー 膠原病

第1回 関節リウマチ 乾癬性関節炎第2回 痛風 成人スチル病 ベーチェット病第3回 全身性エリテマトーデス シェーグレン症候群第4回 全身性強皮症 混合性結合組織疾患 皮膚筋炎・多発性筋炎第5回 大型血管炎第6回 ANCA関連血管炎 総合内科専門医試験対策レクチャーの決定版登場!総合内科専門医試験の受験者が一番苦労するのは、自分の専門外の最新トピックス。そこでこのシリーズでは、CareNeTV等で評価の高い内科各領域のトップクラスの専門医11名を招聘。各科専門医の視点で“出そうなトピック”を抽出し、1講義約20分で丁寧に解説します。キャッチアップが大変な近年のガイドラインの改訂や新規薬剤をしっかりカバー。Up to date問題対策も万全です。膠原病については、杏林大学医学部付属病院の岸本暢將先生がレクチャー。多彩な疾患に分類される膠原病。問題文に散りばめられた症状や検査所見などの膨大な情報の中から、診断のポイントを拾い上げるスキルを学びます。※「アップデート2022追加収録」はCareNeTVにてご視聴ください。第1回 関節リウマチ 乾癬性関節炎膠原病の問題では、膨大に提示された症状や検査所見の数値から、素早く異常を見つけるスキルが問われます。読み解くポイントについて、疾患別に例題を使って解説します。第1回は、国内に70万人以上の患者がいるとされ、日常診療でもよくみられる関節リウマチ。各治療薬と副作用の組み合わせや、症状別に禁忌の薬剤について確認します。乾癬性関節炎は、付着部炎など関節周囲から炎症が起きる点が関節リウマチと異なります。第2回 痛風 成人スチル病 ベーチェット病赤く腫れる症状が特徴的な自然免疫系の疾患を取り上げます。痛風は、急性期に尿酸降下薬を使用すると急性発作を誘発することがあるので注意。発作を誘発する食品や薬剤を押さえましょう。ピンク色の皮疹が現れる成人スチル病は、悪性腫瘍、感染症、薬剤アレルギーとの除外診断がポイント。白血球増多に注目します。20~30代に多いベーチェット病。症状として、口内炎やざ瘡様皮疹、結節性紅斑、ぶどう膜炎が現れます。第3回 全身性エリテマトーデス シェーグレン症候群リンパ球に関わる獲得免疫系の疾患を取り上げます。全身性エリテマトーデスSLEを発症するのはほとんどが女性で、多彩な症状を呈します。血小板数、白血球数、赤血球数の低下、CH50、C3、C4の低下が非常に特徴的な所見です。疾患と関連する抗核抗体も試験に出やすいポイント。ループス腎炎はSLEに起因する糸球体腎炎です。口腔乾燥やドライアイを呈するシェーグレン症候群。悪性リンパ腫のリスクにもなります。第4回 全身性強皮症 混合性結合組織疾患 皮膚筋炎・多発性筋炎皮膚や内臓が硬化、線維化する全身性強皮症SSc。限局皮膚型とびまん皮膚型に分けられ、手指にレイノー現象がみられます。抗体の種類によって合併する臓器障害が異なる点が試験でもよく問われます。混合性結合組織疾患MCTDの診断のポイントは、抗U1-RNP抗体と肺高血圧症。皮膚筋炎・多発性筋炎PM/DMでは、悪性腫瘍と急速進行性の間質性肺炎に要注意。肘や膝などにみられるゴットロン徴候が特異的な皮疹です。第5回 大型血管炎血管炎のうち大型血管炎に分類される高安動脈炎と巨細胞性動脈炎について解説します。小型血管炎に比べて症状が出にくい大型血管炎。間欠性跛行や大動脈解離など深刻な症状が起きる前に見つけるには、不明熱、倦怠感、体重減少、関節痛などの症状で疑うことが重要です。高安動脈炎の9割が女性、発症年齢は20歳前後がピーク。X線、CT、MRIの画像検査がメインです。巨細胞性動脈炎は高齢者にみられ、側頭動脈の生検がポイント。第6回 ANCA関連血管炎ANCA関連血管炎は、国内では高齢者が多いため顕微鏡的多発血管炎MPAが多く、対して海外では多発血管炎性肉芽腫GPA、好酸球性多発血管炎性肉芽腫EGPAの比率が多くなっています。小血管が破れるか詰まるため、紫斑や爪下出血など目に見える症状が出やすいのが特徴的。薬剤誘発ANCA関連疾患も頻出ポイント。MPA、GPA、EGPAを鑑別できるように、症状の似た他疾患の除外と、各診断基準を押さえます。

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1回目AZ、2回目Pfizerワクチン接種で十分な免疫応答/Lancet

 初回にChAdOx1-S(AstraZeneca製)ワクチンを接種した人に、2回目はBNT162b2(Pfizer/BioNTech製)ワクチンを接種した結果、強固な免疫反応が誘導されたことが確認され、忍容性も良好であった。スペイン・マドリード自治大学のAlberto M. Borobia氏らが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の2種類の異なるワクチンを接種した場合の免疫原性および反応原性を評価した第II相多施設共同無作為化非盲検比較試験「CombiVacS試験」の結果を報告した。これまで、ヒトにおける種類の異なるCOVID-19ワクチンを組み合わせた接種スケジュールに関する免疫学的データは報告されていなかった。Lancet誌オンライン版2021年6月25日号掲載の報告。1回目ChAdOx1-S接種者を、2回目BNT162b2接種と非接種(経過観察)に無作為化 研究グループは、スクリーニングの8~12週間前にChAdOx1-Sワクチンによる1回目接種を受け、SARS-CoV-2感染歴のない18~60歳の成人を、BNT162b2ワクチン0.3mL単回筋肉内投与群(介入群)または経過観察群(対照群)に2対1の割合で無作為に割り付けた。 主要評価項目は、14日目の免疫原性とし、SARS-CoV-2三量体スパイクタンパク質および受容体結合ドメイン(RBD)の免疫測定で評価した。抗体の機能は偽ウイルス中和アッセイを用いて、細胞性免疫反応はインターフェロン-γ免疫アッセイを用いて評価した。安全性の評価項目は7日目の反応原性とし、局所および全身の有害事象を評価した。 主要解析対象集団には、BNT162b2ワクチンの接種を受けベースライン後に少なくとも1回有効性評価を受けたすべての参加者を組み込んだ。安全性解析対象集団は、BNT162b2ワクチン接種を受けたすべての参加者とした。なお、本試験は現在も進行中である。2回目異種ワクチン接種で高い免疫反応を誘導 2021年4月24日~30日に、スペインの5つの大学病院で676例が登録された(介入群450例、対照群226例)。平均(±SD)年齢は44±9歳、女性が382例(57%)、男性が294例(43%)で、663例(98%)が14日間の試験を完遂した(介入群441例、対照群222例)。 介入群では、RBD抗体の幾何平均抗体価は、ベースラインの71.46 BAU/mL(95%信頼区間[CI]:59.84~85.33)から14日時には7,756.68 BAU/mL(7,371.53~8,161.96)に上昇した(p<0.0001)。 同様に、三量体スパイクタンパク質に対するIgGは、98.40 BAU/mL(95%CI:85.69~112.99)から3,684.87 BAU/mL(3,429.87~3,958.83)に増加した。介入群/対照群の比は、RBDで77.69(95%CI:59.57~101.32)、三量体スパイクタンパク質IgGで36.41(29.31~45.23)であった。 介入群で7日間に収集された有害事象1,771件のうち、ほとんどは軽度(1,210件、68%)または中等度(530件、30%)であった。主な有害事象は、局所反応が接種部位の疼痛(395例、88%)、硬結(159例、35%)、全身性の副反応が頭痛(199例、44%)、筋肉痛(194例、43%)、倦怠感(187例、42%)であった。 なお、著者は、臨床試験を計画した時点でスペインではChAdOx1-Sワクチンの使用が中止されていたため、2回目もChAdOx1-Sワクチンを接種する対照群を設定できていないことを研究の限界として挙げている。

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2種類のコロナワクチン、副反応疑いの報告状況/厚労省

 厚生労働省は、7月7日に今までに報告された新型コロナワクチンの副反応疑い報告など、ワクチン接種後の副反応(副作用)に関する情報をまとめたレポートを「新型コロナワクチンの副反応疑い報告について」として公開した。 レポートは、ワクチンの接種後に生じうる副反応を疑う事例について、医療機関などに報告を求め、収集したものを同省の審議会に報告し、専門家による評価を行ったもの。副反応疑いについて対象期間:令和3年2月17日~6月27日副反応の頻度:・ファイザー社ワクチン(商品名:コミナティ筋注)は0.04%(3,921万8,786回接種中1万5,991例)・武田/モデルナ社ワクチン(同:COVID−19ワクチンモデルナ筋注)は0.02%(95万9,165回接種中191例) いずれのワクチンも、これまで通り安全性において重大な懸念は認められないと評価された。なお、ワクチンにより接種対象者の年齢や接種会場などの属性が大きく異なるため、両ワクチンの単純な比較は困難であり、注意が必要。死亡例について対象期間:令和3年6月27日までの集計・ファイザー社ワクチンは453例・武田/モデルナ社ワクチンは1例 追加で7月2日までに両ワクチンを合わせて102例の報告 死亡例の報告に関しては、現時点において引き続きワクチンの接種体制に影響を与える重大な懸念は認められない。アナフィラキシーについて・ファイザー社ワクチンは1,632件(100万回接種あたり42件)が報告され、うち289件(100万回接種あたり7件)が専門家によりアナフィラキシー(ブライトン分類1~3)と評価された。・武田/モデルナ社ワクチンは医療機関から14件(100万回接種あたり14.6件)が報告され、うち1件(100万回接種あたり1.0件)が専門家によりアナフィラキシー(同)と評価された。 アナフィラキシーの報告に関しても、現時点において引き続きワクチンの接種体制に影響を与える重大な懸念は認められない。その他の懸念事項 接種後の心筋炎・心膜炎に関し、ワクチンの添付文書に本症について追記の改訂内容が報告された。心筋炎関連事象について検討が行われ、現時点においてワクチンの接種体制に影響を与える重大な懸念は認められないとされた。ワクチンの不正確な情報に惑わされないための注意 同省では【ご注意ください】を掲示し、下記のようにワクチン接種におけるデマや流言への注意喚起も行っている(以下に一部抜粋)。・国内外で、注意深く調査が行われていますが、ワクチン接種が原因で、何らかの病気による死亡者が増えるという知見は得られていません。・海外の調査によれば、接種を受けた方に、流産は増えていません。・接種後の死亡と、接種を原因とする死亡はまったく意味が異なります。接種後の死亡にはワクチンとは無関係に発生するものを含むにもかかわらず、誤って、接種を原因とする死亡として、SNSやビラなどに記載されている例があります。

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Novavax製コロナワクチンの有効率89.7%、第III相試験/NEJM

 健康成人への遺伝子組み換えナノ粒子ワクチンNVX-CoV2373(米国Novavax製)の2回接種はプラセボと比較して、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の感染予防の有効率が89.7%と高率で、B.1.1.7変異株(α株)にも同程度の効果を有することが、英国・ロンドン大学セントジョージ校のPaul T. Heath氏ら研究グループが実施した「2019nCoV-302試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2021年6月30日号に掲載された。英国33施設のプラセボ対照無作為化第III相試験 本研究は、SARS-CoV-2感染の予防におけるNVX-CoV2373の安全性と有効性の評価を目的とする評価者盲検プラセボ対照無作為化第III相試験であり、2020年9月28日~11月28日の期間に、英国の33施設で参加者の登録が行われた(米国Novavaxの助成による)。 対象は、年齢18~84歳の男性または非妊娠女性で、健康または安定期慢性疾患(多剤併用療法[HAART]を受けているHIV感染、心疾患、呼吸器疾患の患者を含む)の集団であった。 被験者は、21日間隔で2回、NVX-CoV2373ワクチン(遺伝子組み換えナノ粒子スパイク蛋白5μg+Matrix-Mアジュバント50μg)の筋肉内注射を受ける群またはプラセボ群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 有効性の主要エンドポイントは、ベースラインで血清学的に陰性の参加者において、2回目接種から7日以降に発症し、ウイルス学的に確定された軽症、中等症、重症のSARS-CoV-2感染とされた。 1万5,187例が無作為化の対象となり、1万4,039例(ワクチン群7,020例、プラセボ群7,019例)が有効性のper-protocol集団に含まれた。全体の年齢中央値は56歳(27.9%が65歳以上)、48.4%が女性であった。44.6%が、米国疾病管理予防センターの定義で重症新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のリスク因子とされる併存疾患を1つ以上有していた。65歳以上の有効率88.9%、B.1.1.7変異株86.3% 2回目の接種から7日以降に症状の発現が認められ、ウイルス学的に確定されたSARS-CoV-2感染者は、ワクチン群が10例(6.53/1,000人年)、プラセボ群は96例(63.43/1,000人年)であり、ワクチンの有効率は89.7%(95%信頼区間[CI]:80.2~94.6)であった。 ワクチン群のSARS-CoV-2感染者10人に入院および死亡者はなく、このブレークスルー例のうち8人がB.1.1.7変異株(α株)に感染していた。また、重症COVID-19感染症は5例報告され、いずれもプラセボ群であった(入院1例、救急診療部受診3例、自宅療養1例)。 65歳以上のワクチン有効率は88.9%(95%CI:12.8~98.6)であった。事後解析では、B.1.1.7変異株に対する有効率は86.3%(71.3~93.5)、B.1.1.7以外の変異株では96.4%(73.8~99.5)だった。 非自発的な報告による局所的有害事象(痛み、圧痛、紅斑、腫脹)の頻度は、初回(57.6% vs.17.9%)および2回目接種(79.6% vs.16.4%)ともワクチン群で高く、全身性有害事象(頭痛、疲労、悪心・嘔吐、倦怠感、筋肉痛、関節痛、体温上昇)も、初回(45.7% vs.36.3%)および2回目接種(64.0% vs.30.0%)のいずれもワクチン群で高かった。 自発的な報告による有害事象はワクチン群で多かった(25.3% vs.20.5%)が、重篤な有害事象(0.5% vs.0.5%)、接種中止の原因となった有害事象(0.3% vs.0.3%)、COVID-19でとくに注目すべき有害事象(0.1% vs.0.3%)の発現率はいずれも両群で同程度で、頻度は低かった。また、反応原性(reactogenicity)は全般に軽度で一過性であり、反応は高齢者で頻度が低く、より軽度で、2回目以降に多かった。 著者は、「NVX-CoV2373は標準的な冷蔵温度で保存でき、スパイク蛋白抗原の多くのエピトープへの反応を誘導する可能性がある。これらの特性は、新たな変異株に対する継続的なワクチン接種の必要性を考慮すると、このワクチンの世界に向けた効率的な導入において重要である」と指摘している。

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第65回 潤沢なワクチン在庫は一体どこへ、実はわれわれのすぐそばに届いていた!?

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)のワクチン2回目の接種を数日前に完了した。さてその男性、52歳の接種後の状況だが、現時点で接種から2日経過したが、これまでのところ体温計で測定した体温は平熱の範囲。ただ、接種翌日の朝からなぜか足の裏が熱い感じがほぼ丸一日続いた。それと接種翌日の昼間、外を歩いて何とも言えない倦怠感に襲われた。初めは気のせいだと思っていたが、夕方にスポーツジムに行き、あまりの倦怠感で、普段と同じ時間をかけても計算上の消費カロリーにして6割程度の運動量しかこなせなかった。しかも、いつもと比べ、明らかに発汗量が多い。今は7時間の睡眠を経て、驚くほどすっきりしている。これが副反応だったのかもわからない。ただ、一つだけ分かったのは「若い人ほど発熱がある」というのが事実だとすれば、自分は若くはないということだろうか?さてそのワクチンだが、連日の報道によると「供給不足」が懸念されているという。ただ、私はこの報道についてはやや疑問に思っている。「ないものはない」ではなく、「あるけどない」とみているからだ。少なくともモデルナ製ワクチンについては、どうやら予定通りの供給になっていなかったということをワクチン担当の河野 太郎大臣が明らかにしている。しかし、ファイザー製もそうだろうか?まず、厚生労働省が発表しているファイザー製ワクチンの一般接種向けの供給状況のデータを見てみよう。7月の予定供給量は2,527万2,000回分で、前月の6月分が3,451万5,000回分だから確かに7月は6月の27%減。そして8月以降の見通しは、報道によると2週間おきに約1,170万回になる見込み。つまり8月の予定供給量は約2,340万回分。7月比で7%減となる。確かに数字上は減少している。ただ、すでに7月末までの供給量は回数にして約1億78万回分となる。ちなみに前述の河野大臣によるモデルナ製ワクチンの供給状況の数字と合わせれば、日本国内全体としては約1億1,400万回分が供給されていることになる。そして7月6日現在の一般接種の総接種数は4,143万4,655回。現時点では国内に約7,257万回分が残されていることになる。日本国内の計算上の接種対象者(12歳以上)は約1億1,500万人であり、ここには優先接種対象となった医療従事者が含まれている。首相官邸のホームページに掲載されているデータ上では、「医療従事者等」枠で2回の接種を終えた人は7月2日時点で約499万人。また、高齢者も含む一般接種で2回の接種を終えた人は7月6日時点で約1,251万人。ここからすると、残る高齢者を含む一般住民の接種対象者は9,750万人となる。現在一般接種で1回目を終え、2回目待ちが約1,300万人、同じく医療従事者枠で2回目待ちが約100万人、合計で2回目接種待ちが約1,400万人。この2回目接種待ちの人に優先的にワクチンが配布されると仮定すると、残る国内の接種対象者は約8,350万人に対して、ワクチンの国内在庫は約5,800万回分残されていることになる。もっとも残る国内接種対象者の試算はあくまでワクチンの適応上の年齢をカットオフ値にして算出したもので実際の接種希望者とは異なる。おそらく、このうちの2~3割は接種を希望しないと考えられる。そのように考えると、今後のワクチン供給速度の多少の減速を考慮しても、一部で騒ぐような「供給不足」とまでなるのかは正直疑問を感じている。この件について私は2週間ほど前からいくつかのメディアから取材を受けているが、問題の本質は、都市部を中心にまだ優先接種対象者のみの接種段階で留まっている自治体の一部医療機関で、ワクチン在庫が滞留しているからではないかとみている。今回のワクチン接種では自治体が高齢者に対する接種を細々と開始していた5月に菅 義偉首相が突如「1日100万回接種」の目標を公言。これを機に自治体が集団接種会場での接種枠を増加させ、防衛省が運営する大規模接種センター、職域接種などがスタートして接種機会の選択肢が大幅に増加した。この頃から私はワクチン接種を担当している都市部の中小医療機関で「接種の予約枠が埋まらない」という話をよく耳にした。前述のように接種機会が増えたことで、なるべく早く接種したい人ほど多少遠い場所でも予約が入りやすそうな接種会場を選ぶ傾向が強まり、結果として「灯台下暗し」で市中の中小医療機関で予約枠に空きが生まれてしまっていたのだ。こうした状況に、自治体が「(接種担当医療機関の)かかりつけ患者ならば、優先接種対象者でなくとも余った予約枠で接種しても良い」などの柔軟な対応をしていれば、問題はなかったのかもしれないが、多くの自治体側は高齢者や基礎疾患のある人という接種順位をきっちり横並びで守っている。地方自治体としてはやはり「出過ぎた真似」はできないということなのだろう。こうした状態は今でも結構あちこちで聞こえてくる。しかも今の仕組みでは自治体側が個々の接種医療機関の在庫を必ずしもリアルタイムで把握できないため、どこに滞留ワクチンがあるのかもわからない。この状況を「劇薬」で改善するならば、一つは接種券を広く配布して、優先接種順位を維持しつつも原則先着順で誰でもが受けられるようにすることだ。もっともこれを行えば、強烈な「副産物」が2つ発生する。1つは、ただでさえマンパワー不足で悩む地方自治体のワクチン関連業務のさらなるひっ迫である。悩ましい問題ではあるのだが、これまでのワクチン関連のイベントの動向をみると、新たな動きから1~2週間後にはピークアウトが起こる。実例は防衛省が運営する大規模接種センターでの予約状況などだ。正直、ここは地方自治体の職員の皆さんに「短期間だけ我慢して」とお願いするよりほかにない。もう1つは滞留在庫もはけた後の本格的なワクチンの供給不足である。これについての解決策は、現在公的接種では使用されていないアストラゼネカ製ワクチンを使うことだ。このワクチンは、接種した人でごくまれながらも重篤な血栓症の副反応が報告されたことから、日本では製造販売を承認しながら公的接種での使用を控えている。しかし、すでにデータで示されているが、この血栓症の発症確率は約25万分の1。それによる死者は血栓症発症者の5人に1人なので、このワクチンを接種することで死亡する確率は約125万分の1という低頻度である。本来ならば使用を控えるまでの頻度ではないし、若年者で発生しやすいことも分かっているので、対象者を絞り込んで接種することで頻度をより低く抑えることも不可能ではない。とはいえ政府側では、たとえ低頻度でも重篤な副反応が発生することが分かっているワクチンを使用して実際に副反応が報告された場合、今回の新型コロナのワクチン接種全体への信頼性低下につながる可能性があることを危惧し、公的接種での採用を控えたのだろう。だが、現在はまさに非常時。そろそろ政府も一歩踏み出した決断とそれに伴うリスクコミュニケーションを身に付けて欲しいのだが…。

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中国製不活化ワクチン、3~17歳に良好な安全性と免疫応答

 新型コロナワクチンの成人に対する接種が世界的に広がっているが、小児に対する有用性を検証することを目的とした臨床試験も進んでいる。中国において3~17歳の小児および青年を対象とした研究の結果が発表された。The Lancet Infectious Diseases誌オンライン版6月28日号掲載の報告。 中国・河北省にある疾病対策センターで、3~17歳の健康な小児および青年を対象に、中国Sinovac Biotech社の不活化ワクチン「CoronaVac」(WHO緊急使用リストおよび33ヵ国で承認済み)の二重盲検無作為化比較第I/II相試験を行った。 参加者はSARS-CoV-2への曝露または感染歴のある人は除外され、ワクチン群と対照群(ミョウバンのみ)に割り付けたうえで、2回接種(0日目と28日目)を受けた。 第I相試験は、72例を対象に、各年齢層(3~5歳、6~11歳、12~17歳)を低用量段階(ブロック1)から高用量段階(ブロック2)へ順に割り付けた。ブロック1は低用量ワクチン群(1.5μ)または対照群(ミョウバンのみ)、ブロック2は高用量ワクチン群(3.0μg)または対照群に3:1で無作為に割り付けた。 第II相試験は、480例を対象に、3ブロックに分け、ブロックごとに低用量ワクチン群(1.5μg)、高用量ワクチン群(3.0μ)、対照群に2:2:1で無作為に割り付けた。 安全性の主要評価項目は、少なくとも1回の接種を受けた全参加者における28日以内の有害反応であった。免疫原性の主要評価項目は、2回目接種から28日後のSARS-CoV-2に対する抗体陽転率だった 主な結果は以下のとおり。・2020年10月31日~12月2日に72例が第I相、2020年12月12日~30日に480例が第II相に登録され、計550例がワクチンまたはミョウバンのみを少なくとも1回接種された(第I相71例、第II相479例)。・第I相と第II相を合わせた安全性プロファイルでは、接種後28日以内に何らかの副反応が発生したのは、1.5μg群56/219(26%)、3.0μg群63/217(29%)、対照群27/114(24%)であり、有意差はなかった(p=0.55)。・副反応の多くは軽度および中等度であった。最も高い頻度で報告されたのは注射部位の痛み(73/550[13%])で、1.5μg群36/219(16%)、3.0μg群35/217(16%)、対照群2/114(2%)に発生した。・2021年6月12日現在、対照群で肺炎の重篤な有害事象が1件報告されているが、ワクチン接種とは無関係と考えられている。・第I相試験では、2回目接種後に抗体陽転が1.5μg群27/27(100%)、3.0μg群26/26人(100%)に認められた。第II相試験では、1.5μg群180/186(96.8%)、3.0μg群180/180(100%)に認められた。対照群では検出可能な抗体反応はなかった。 研究者らは、この研究は不活化ワクチンを3~17歳の小児および青年を対象に試験を実施した初めての報告であり、CoronaVacは3~17歳の小児および青年において忍容性が高く安全であり、体液性免疫応答を誘導した。3.0μg投与で誘導された中和抗体価は1.5μg投与よりも高い免疫応答を示し、今回の結果は小児および青年を対象とした今後の研究において3.0μgの投与量と2回の免疫スケジュールの使用を支持するものである、としている。

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AZ製ワクチン接種後の血栓症の診療の手引き・第2版/日本脳卒中学会・日本血栓止血学会

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種が始まり、全国で一般市民に対しても接種が急速に進んでいる。その一方で、2021年3月以降、アストラゼネカ社アデノウイルスベクターワクチン(商品名:バキスゼブリア)接種後に、異常な血栓性イベントおよび血小板減少症を来すことが報道され、4月に欧州医薬品庁(EMA)は「非常にまれな副反応」として記載すべき病態とした。また、ドイツとノルウェー、イギリスなどからもバキスゼブリア接種後に生じた血栓症のケースシリーズが相次いで報告され、ワクチン接種後の副反応として血小板減少を伴う血栓症が問題となった。この血栓症は、ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)と類似した病態と捉えられ、VITTやVIPITという名称が用いられた(本手引きでは血小板減少症を伴う血栓症[TTS]を用いる)が、本症の医学的に適切な名称についてはいまだ議論があるところである。 海外では、国際血栓止血学会、米国血液学会などからTTSに関する診断や治療の手引きが公開されており、WHOからも暫定ガイドラインが発表された。海外と医療事情が異なるわが国には、これまで本疾患に対する診療の手引きは存在しなかったため、日本脳卒中学会と日本血栓止血学会は、COVID-19ワクチンに関連した疾患に対する診断や治療をまとめ、日常診療で遭遇した場合の対応方法を提言するために2021年6月に「アストラゼネカ社COVID-19ワクチン接種後の血小板減少症を伴う血栓症の診断と治療の手引き・第2版」(2021年6月)を作成、公開した。まれだが発症すると致死的なTTS TTSの特徴は1)ワクチン接種後4~28日に発症する、2)血栓症(脳静脈血栓症、内臓静脈血栓症など通常とは異なる部位に生じる)、3)血小板減少(中等度〜重度)、4)凝固線溶系マーカー異常(D-ダイマー著増など)、5)抗血小板第4因子抗体(ELISA法)が陽性となる、が挙げられる。TTSの頻度は1万人~10万人に1人以下と極めて低いが、これまでに報告されたTTSの症例は、出血や著明な脳浮腫を伴う重症脳静脈血栓症が多く、致死率も高い。また、脳静脈血栓症以外の血栓症も報告されているので、極めてまれな副反応であるが、臨床医はTTSによる血栓症を熟知しておく必要がある。目次はじめに1 TTSの診断と治療の手引きサマリー 1)診断から治療までのフローチャート 2)候補となる治療法2 TTSの概要 1)TTSとは 2)ワクチン接種後TTSの発症時期と血栓症の発症部位3 TTSとHITとの関連4 TTSの診断 1)TTSを疑う臨床所見  2)検査 3)診断手順 4)鑑別すべき疾患と見分けるポイント5 TTSの治療 1)免疫グロブリン静注療法 2)ヘパリン類 3)ヘパリン以外の抗凝固薬 4)ステロイド 5)抗血小板薬 6)血小板輸血 7)新鮮凍結血漿 8)血漿交換 9)慢性期の治療おわりに 付1)血栓症の診断 付2)脳静脈血栓症の治療 血栓溶解療法(局所および全身投与)/血栓回収療法/開頭減圧術/抗痙攣薬 付3)COVID-19ワクチンとは 文献 同手引きでは「おわりに」で「TTSは新しい概念の病態であり、確定診断のための抗体検査(ELISA法)の導入、治療の候補薬の保険収載、さらにはワクチンとの因果関係の解明など、多くの課題が残されている。今後、新たな知見が加わる度に、本手引きは改訂していく予定」と今後の方針を記している。

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第64回 オリンピック入国者のコロナ“ザル検疫”、関係者が語る意外な事実と驚愕の見通し

東京オリンピックが今月末から開催される。続々と各国選手団や関係者が入国する中、6月19日、事前合宿のために来日したアフリカのウガンダ選手団9人のうち1人が成田空港検疫で新型コロナのPCR検査で陽性となったことはすでに報じられているとおりだ。該当の選手は検疫による隔離が行われたが、驚くべきことに残り8人はそのままバスで事前合宿地の大阪府泉佐野市に移動。その中からさらに1人の陽性が判明し、泉佐野市職員までもが濃厚接触者に認定されるに至った。ちなみに最初に空港検疫で陽性が判明した選手は、国の療養解除基準を満たしたことから、7月1日未明、泉佐野市の宿舎に到着したと発表されている。濃厚接触の疑いがある選手に移動を許してしまう「ザル検疫」にはかなり驚きだが、実は濃厚接触の判断は自治体(ウガンダ選手団の場合はホストタウンの泉佐野市)が行うとの方針に基づくもの。ただ、残りの選手の移動を許し、移動地で新たな陽性者が発生したことには批判が多く、今後は空港段階で濃厚接触者の特定を行う方針を検討しているという。やや口汚い言い方かもしれないが、この検討そのものが何とも間の抜けたレベルにしか思えない。もっとも空港検疫に限界があることも事実だ。たとえば今回のウガンダ選手団の場合、全員がアストラゼネカ社製ワクチンの2回接種を済ませ、出国96時間以内に2回のPCR検査を受けて陰性だったとの証明書を持参していたという。ここではまず科学的な限界がある。ワクチンで十分な抗体価を獲得できるのは接種完了から1~2週間後で、その効果も100%ではないこと。また、感染から4日後までは感染者の半数以上がPCR検査で偽陰性になってしまう。さらに空港検疫でスクリーニングに使われている抗原検査は、PCR検査と比べれば感度は落ちる。今回のケースはたまたま抗原検査で結果が出なかった選手に念押しのPCR検査を行った結果、陽性になったという結果論から言えば「不幸中の幸い」のようなケースだ。一方、実務上も限界がある。来日する外国人が提示するワクチンの接種証明書やPCR検査の陰性証明書に実施医療機関が記載されていても、空港検疫の窓口ではその医療機関が実在するのか否かを確認している余裕はない。それ以上にそれらの証明書の真贋を判断しきれないのが現実だ。約1ヵ月前、偶然にも検疫業務関係者と話す機会があった。その時この関係者が語っていたのは「陰性証明書を有していても入国時の抗原検査で陽性になるケースは一定程度あり、とくに航空機の場合、この陽性率は到着便の離陸国によって明らかに違う」ということだった。端的に言えば、法制度の運用が先進国ほど厳格ではない国からの到着便の搭乗客が提示する陰性証明書には、偽造が疑われるものが紛れ込んでいる可能性が高いということだ。しかし、この関係者が最も懸念していたことはほかにもあった。たとえば空港検疫で陽性が判明した入国者は、検疫所が用意した宿泊施設で経過観察が行われる。こうした宿泊施設は各入国ポイント近くに存在する。成田空港ならばその周辺すなわち千葉県内である。そしてこの経過観察中に重症化すれば千葉県内の新型コロナ病床に収容される。この現実が意味することは次のようなことだ。10万人程度が来日すると言われる今回のオリンピックでは、主な入国ポイントは成田空港、羽田空港になると思われるが、この水際で感染者を捕捉できたとしても、そこから発生する重症者は東京都、千葉県の新型コロナ病床に入院し、結果的に地域の病床ひっ迫に影響しかねないのである。そして場合によっては地域住民から発生するであろう新型コロナ重症者と病床を取り合ってしまうことさえ想定できるというのだ。ここでやや荒っぽい試算をしてみる。オリンピック関係の想定入国者は10万人と言われる。このうち1%から陽性者が見つかったとしよう。その数は1,000人。感染者のおおむね2割が重症化するのでその数は200人。そしてこちらのデータからは、新型コロナの重症者対応病床は千葉県が101床、東京都が1,207床となっている。2019年出入国管理統計によれば、同年に日本に入国した外国人は3,118万7,179人、うち成田空港からが897万8,773人、羽田空港からが 428万8,078人である。1年間に日本に入国する外国人は成田空港からが29%、羽田空港からが14%を占める。つまり前述の重症者試算にこの割合を加味すると、成田空港からのオリンピック関係入国者からは58人、羽田空港から28人の重症者が出ることになる。試算した成田空港での発生重症者が千葉県の新型コロナ重症者対応病床に入院することになれば、なんとその50%以上を占有することになる。東京都は幸い2%強で済む。ちなみに2019年出入国管理統計での成田空港、羽田空港の入国者がわりに少ないと思った人も多いだろう。これ以外で入国者が多いのは関西国際空港の837万8,039人で、割合にして27%。前述の試算と同様の計算を行えば、このルートで発生する重症者は54人。大阪府の重症者対応病床数は841床で、その7%弱に当たる。もっとも今回のオリンピックはあくまで開催地が東京であることを考えれば、過去の出入国管理統計データで示されるよりも成田空港、羽田空港からの関係者入国割合は多くなるはずだ。しかも、いま首都圏では東京都を中心に感染の再拡大傾向が見え始めている。6月30日時点の新規感染者の前週比は東京都が1.20倍、千葉県が1.09倍。そしてこの傾向が続けば東京オリンピックの開会式の頃に緊急事態宣言発出となる可能性がある。ここにオリンピック関連入国者から見つかる陽性者、そこから引き続く重症者が前述のように発生したらどうなるだろうか?何とも嫌な時期にオリンピックを開催するのだと、正直溜息しか出てこない今日この頃である。

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関節リウマチ診療ガイドライン改訂、新導入の治療アルゴリズムとは

 2014年に初版が発刊された関節リウマチ診療ガイドライン。その後、新たな生物学的製剤やJAK阻害薬などが発売され、治療方法も大きく変遷を遂げている。今回、6年ぶりに改訂された本ガイドライン(GL)のポイントや活用法について、編集を担った針谷 正祥氏(東京女子医科大学医学部内科学講座膠原病リウマチ内科学分野)にインタビューした。日本独自の薬物治療、非薬物治療・外科的治療アルゴリズムを掲載 本GLは4つの章で構成されている。主軸となる第3章には治療方針と題し治療目標や治療アルゴリズム、55のクリニカルクエスチョン(CQ)と推奨が掲載。第4章では高額医療費による長期治療を余儀なくされる疾患ならではの医療経済的な側面について触れられている。 関節リウマチ(RA)の薬物治療はこの20年で大きく様変わりし、80年代のピラミッド方式、90年代の逆ピラミッド方式を経て、本編にて新たな治療アルゴリズム「T2T(Treat to Target)の治療概念である“6ヵ月以内に治療目標にある『臨床的寛解もしくは低疾患活動性』が達成できない場合には、次のフェーズに進む”を原則にし、フェーズIからフェーズIIIまで順に治療を進める」が確立された。 薬物治療アルゴリズムの概略は以下のとおり。<薬物治療アルゴリズム>(対象者:RAと診断された患者)◯フェーズI(CQ:1~4、26~28、34を参照)メトトレキサート(MTX)の使用を検討、年齢や合併症などを考慮し使用量を決定。MTXの使用が不可の場合はMTX以外の従来型抗リウマチ薬(csDMARD)を使用。また、MTX単剤で効果不十分の場合は他のcsDMARDを追加・併用を検討する。◯フェーズII(CQ:8~13、18、19、35を参照)フェーズIで治療目標非達成の場合。MTX併用・非併用いずれでの場合も生物学的製剤(bDMARD)またはヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬の使用を検討する。ただし、長期安全性や医療経済の観点からbDMARDを優先する。また、MTX非併用の場合はbDMARD(非TNF阻害薬>TNF阻害薬)またはJAK阻害薬の単剤療法も考慮できる。◯フェーズIII(CQ:14を参照)フェーズIIでbDMARDまたはJAK阻害薬の使用で効果不十分だった場合、ほかのbDMARDまたはJAK阻害薬への変更を検討する。TNF阻害薬が効果不十分の場合は非TNF阻害薬への切り替えを優先するが、その他の薬剤については、変更薬のエビデンスが不足しているため、future questionとしている。 このほか、各フェーズにて治療目標達成、関節破壊進行抑制、身体機能維持が得られれば薬物の減量を考慮する仕組みになっている。過去にピラミッドの下部層だったNSAIDや副腎皮質ステロイド、そして新しい治療薬である抗RANKL抗体は補助的治療の位置付けになっているが、「このアルゴリズムは単にエビデンスだけではなく、リウマチ専門医の意見、患者代表の価値観・意向、医療経済面などを考慮して作成した推奨を基に出来上がったものである」と同氏は特徴を示した。新参者のJAK阻害薬、高齢者でとくに注意したいのは感染症 今回の改訂で治療のスタンダードとして新たに仲間入りしたJAK阻害薬。ただし、高齢者では一般的に有害事象の頻度が高いことも問題視されており、導入の際には個々の背景の考慮が必要である。同氏は、「RA患者の60%は65歳以上が占める。もはやこの疾患では高齢者がマジョリティ」と話し、「その上で注意すべきは、肝・腎機能の低下による薬物血中濃度の上昇だ。処方可能な5つのJAK阻害薬はそれぞれ肝代謝、腎排泄が異なるので、しっかり理解した上で処方しなければならない」と強調した。また、高齢者の場合は感染症リスクにも注意が必要で、なかでも帯状疱疹は頻度が高く、日本人RA患者の発症率は4~6倍とも報告されている。「JAK阻害薬へ切り替える際にはリコンビナントワクチンである帯状疱疹ワクチンの接種も同時に検討する必要がある。これ以外にも肺炎、尿路感染症、足裏の皮下膿瘍、蜂窩織炎などが報告されている」と具体的な感染症を列挙し、注意を促した。非薬物療法や外科的治療―患者は積極的?手術前後の休薬は? RAはQOLにも支障を与える疾患であることから、薬物治療だけで解決しない場合には外科的治療などの検討が必要になる。そこで、同氏らは“世界初”の試みとして、非薬物治療・外科的治療のアルゴリズムも作成した。これについては「RAは治療の4本柱(薬物療法、手術療法、リハビリテーション、患者教育・ケア)を集学的に使うことが推奨されてきた。今もその状況は変わっていない」と述べた。 非薬物治療・外科的治療アルゴリズムの概略は以下のとおり。< 非薬物治療・外科的治療アルゴリズム>◯フェーズI慎重な身体機能評価(画像診断による関節破壊の評価など)を行ったうえで、包括的な保存的治療(装具療法、生活指導を含むリハビリテーション治療、短期的ステロイド関節内注射)を決定・実行する。◯フェーズII保存的治療を十分に行っても無効ないし不十分な場合に実施。とくに機能障害や変形が重度の場合、または薬物治療抵抗性の少数の関節炎が残存する場合は、関節機能再建手術(人工関節置換術、関節[温存]形成術、関節固定術など)を検討する。場合によっては手術不適応とし、可能な限りの保存的治療を検討。 患者の手術に対する意識については「罹病期間が短い患者さんのほうが手術をためらう傾向はあるが、患者同士の情報交換や『日本リウマチ友の会』などの患者コミュニティを活用して情報入手することで、われわれ医療者の意見にも納得されている。また、手術によって関節機能やQOLが改善するメリットを想像できるので、手術を躊躇する人は少ない」とも話した。 このほか、CQ37では「整形外科手術の周術期にMTXの休薬は必要か?」と記載があるが、他科の大手術に関する記述はない。これについては、「エビデンス不足により盛り込むことができなかった。個人的見解としては、大腸がんや肺がんなどの大手術の場合は1週間の休薬を行っている。一方、腹腔鏡のような侵襲が少ない手術では休薬しない場合もある。全身麻酔か否か、手術時間、合併症の有無などを踏まえ、ケース・バイ・ケースで対応してもらうのが望ましい」とコメントした。患者も手に取りやすいガイドライン 近年、ガイドラインは患者意見も取り入れた作成を求められるが、本GLは非常に患者に寄り添ったものになっている。たとえば、巻頭のクイックリファレンスには“患者さんとそのご家族の方も利用できます”と説明書きがあったり、第4章『多様な患者背景に対応するために』では、患者会が主導で行った患者アンケート調査結果(本診療ガイドライン作成のための患者の価値観の評価~患者アンケート調査~)が掲載されていたりする。患者アンケートの結果は医師による一方的な治療方針決定を食い止め、患者やその家族と医師が共に治療方針を決定していく上でも参考になるばかりか、患者会に参加できない全国の患者へのアドバイスとしての効力も大きいのではないだろうか。このようなガイドラインがこれからも増えることを願うばかりである。今後の課題、RA患者のコロナワクチン副反応データは? 最後に食事療法や医学的に問題になっているフレイル・サルコペニアの影響について、同氏は「RA患者には身体負荷や生命予後への影響を考慮し、肥満、骨粗鬆症、心血管疾患の3つの予防を掲げて日常生活指導を行っているが、この点に関する具体的な食事療法についてはデータが乏しい。また、フレイル・サルコペニアに関しては高齢RA患者の研究データが3年後に揃う予定なので、今後のガイドラインへ反映させたい」と次回へバトンをつないだ。 なお、日本リウマチ学会ではリウマチ患者に対する新型コロナワクチン接種の影響を調査しており、副反応で一般的に報告されている症状(発熱、全身倦怠感、局所反応[腫れ・痛み・痒み]など)に加えて、関節リウマチ症状の悪化有無などのデータを収集している。現段階で公表時期は未定だが、データ収集・解析が完了次第、速やかに公表される予定だ。

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