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「下半身切断術」が行われた1例【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第308回

「下半身切断術」が行われた1例ご存じでしょうか。hemicorporectomy(下半身切断術)という術式が存在することを。腰椎を離断し、脊髄を切り、骨盤と両下肢をまるごと外科的に取り去る。文字にするだけで戦慄が走るこの術式、世界での報告例はわずか79例です。今回その伝説の術式の報告が、トルコから届きました。読み始めた瞬間に「えっ、これ本当にやったの?」と声が出てしまう1例です。Saglam F, et al. Hemicorporectomy: a case report on a last-resort surgical procedure. World J Surg Oncol. 2026;24:105.主人公は67歳男性、診断は脱分化型仙骨脊索腫。2年前に「お尻が痛い、尿便失禁する」と他院を受診し、S1から発生した巨大腫瘍を指摘されたものの、初回生検が非診断的だったところで本人が音信不通になります。2年後、今度はイレウスで他院に緊急搬送。開腹したら骨盤いっぱいに腫瘤がぎっしり詰まっていて手も足も出ず…という状況でした。膀胱・下行結腸・直腸への直接浸潤、両側内腸骨動静脈への浸潤、両側仙腸関節の破壊、臀部への浸潤、後腹膜進展はL4まで到達。多職種カンファレンスの結論は、こうです──「もう、下半身ごと取るしかない」。そして11時間の手術。途中で循環血液量減少性ショックと神経原性ショックが1回ずつ起こりますが、さまざまな診療科が協力して無事終了。出血520mLというのが、もはやどこを基準に多寡を語ればよいのかわからなくなります。驚くのは術後の経過です。創部感染で2回のデブリードマンと肺水腫を乗り越え、術後3ヵ月で退院。ベッド上で座位がとれ、車椅子で移動できるレベルまで戻りました。泌尿器科・形成外科・心臓血管外科・麻酔科・集中治療・精神科・リハビリ・感染症科──この症例の背後には、数えきれないほどの専門家の手が重なっています。「最後の砦」と呼ばれる術式が成立すること自体が、現代医療の総力の結晶なのだと感じさせられる1例でした。…しかしその後は残念な経過でした。断端陰性だったにもかかわらず、術後6ヵ月で両側肺転移が出現し、9ヵ月後に永眠されているのです。日本で行われることはないでしょうが、こんな術式があったのですね…。

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ハンタウイルス感染症に気を付けろッ! その1【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。大阪大学の忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。もはや誰も覚えていない不定期連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」ですが、読者の皆さまが忘れたころに新興再興感染症というものは起こるものなのです。そうです、現在世間では「ハンタウイルス感染症」なるものが毎日ニュースをにぎわせています。今回はこの「ハンタウイルス感染症」の気を付け方について学んでいきましょう。感染症学習に使えるアプリさて、ハンタウイルス感染症について知りたい場合、一番手っ取り早いのは、そう、私が自作したiPhoneアプリ「くつ王感染症クイックリファレンス」で調べることです!トップ画面で「ハンタウイルス」と入れれば、あっという間に要点が丸わかり!App Storeで「くつ王感染症クイックリファレンス」を検索してみよう!アプリの詳細は最後の方をご覧ください!ハンタウイルスの概要宣伝はこれくらいにしておきまして…ハンタウイルス感染症は、ウイルス性出血熱の一群に含まれる重要な人獣共通感染症であり、世界各地に分布しています。まず、大事な事実として本疾患は臨床的に2つの主要な症候群を呈します。ヨーロッパおよびアジアでは腎症候性出血熱(HFRS)が、アメリカ大陸ではハンタウイルス肺症候群(HCPS)(またはハンタウイルス心肺症候群)が主に報告されています1, 2)。これらは別の疾患として捉えられていますが、血管透過性の亢進という共通の病態生理を基盤としており、臨床像においても多くの重複が見られるのが特徴です。図 ハンタウイルス感染症の流行地域と感染経路(文献1よりNotebookLMで作成)さらに、ハンタウイルスは、Bunyavirales目Hantaviridae科のOrthohantavirus属に分類されるウイルスの総称であり、表のようにヨーロッパ・アジアでHFRSを起こすハンタウイルス、そして、アメリカ大陸でHCPSを起こすハンタウイルスにもそれぞれ複数の種類が知られています。表 主要な原因ウイルスと臨床的特徴の比較画像を拡大する(文献1より作成)ハンタウイルスの症状、診断と治療なんか急に話がややこしくなってきたと思われるかもしれませんが、それぞれの細かいウイルスまで覚える必要はありません。主な自然宿主は齧歯類です。ウイルスは宿主の唾液、尿、糞便中に排泄され、人間はそれらが含まれるエアロゾルを吸入することで感染します。特筆すべき例外として、中南米のアンデスウイルス(ANDV)は、例外的にヒトからヒトへの感染が確認されている唯一のハンタウイルスであり、密接な接触がリスク要因となります3,4)。たとえば、誕生日のパーティーやお通夜への参加、同じ車内で長時間一緒に過ごしたなどの場面での感染が報告されています。注意すべき点としては、これまでに患者から医療従事者への感染例も報告されていることです。症状ですが、まず潜伏期間が長いのが特徴です。今回問題になっているANDVでは平均18日程度と報告されており、正確な渡航歴・接触歴・曝露歴の聴取が不可欠です。HFRS(腎症候性出血熱)では典型的には5つの病期(発熱期、低血圧期、乏尿期、利尿期、回復期)をたどります。高熱、頭痛、腹痛、背部痛に加え、視覚異常が感染者の最大70%に見られます。HCPS(ハンタウイルス肺症候群)では2~7日間の前駆症状(発熱、筋肉痛など)を経て、呼吸不全が急激に進行します。これは肺血管透過性の亢進により、数時間以内に非心原性肺水腫、呼吸不全、心原性ショックが進行するというものです。画像所見では、両側性の隔壁肥厚やすりガラス影、胸水貯留が急速に拡大します。どちらの病型にも共通している病態が「血管透過性の亢進」でありまして、HFRSでは主に腎髄質の毛細血管が、HCPSでは主に肺の毛細血管が強く影響を受けることがわかっています。先述の表にも記載していますが、致死率はHFRSでは1~12%、HCPSではなんと最大45%にも及びます。きわめて重症度の高い感染症です。診断は抗体検査またはPCRによって行います。IgMは通常、発症初期から検出可能とされます。RT-qPCRは高感度であり、抗体出現前の早期診断にきわめて有用です5)。治療については、リバビリンや高用量ステロイド、回復者血漿療法などが検討されてきましたが、現時点で確立した治療法はありません6,7)。体外式膜型人工肺(ECMO)が注目されており、血管透過性亢進が回復するまでECMOを使用することで予後が改善したという報告があります8)。とまあ、このように恐ろしいハンタウイルス感染症ですが、果たしてわが国に持ち込まれるリスクはどれくらいあるのでしょうか?次回はそこんとこを検討していきたいと思います。1)Vial PA, et al. Lancet Infect Dis. 2023;23:e371-e382.2)Manigold T, Vial P. Swiss Med Wkly. 2014:144:w13937.3)Padula PJ, et al. Virology. 1998;241:323-330.4)Martinez VP, et al. N Engl J Med. 2020;383:2230-2241.5)Guzman C, et al. Expert Rev Anti Infect Ther. 2015;13:939-946.6)Mertz GJ, et al. Clin Infect Dis. 2004;39:1307-1313.7)Vial PA, et al. Antivir Ther. 2015;20:377-386.8)Wernly JA, et al. Eur J Cardiothorac Surg. 2011;40:1334-1340.

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第61回 クルーズ船で広がったハンタウイルス。「アンデスウイルス」の正体と私たちが知っておきたいこと

2026年4月、アルゼンチンを出港したクルーズ船で発生したハンタウイルスの集団感染が、世界中の関心を集めています。WHOによれば、これまでに少なくとも8人が感染し、うち3人が亡くなっています。原因として同定されたのは、南米で知られる「アンデスウイルス」と呼ばれるウイルスでした。この聞き慣れないウイルスは、これまで知られているハンタウイルスの中で唯一、ヒトからヒトへの感染が確認されているという、少し特殊な存在でもあります。今回はその全体像を整理してみたいと思います。ネズミからヒトへ、そしてヒトからヒトへハンタウイルスは、Hantaviridae科Orthohantavirus属に属するRNAウイルスの総称で、世界に40種以上、そのうち22種ほどがヒトに感染することが知られています。共通しているのは、いずれも野生のげっ歯類を自然宿主としている点です。アンデスウイルスの宿主は、南米南部に生息する「コリラルゴ」と呼ばれる小型のネズミで、アルゼンチンとチリのアンデス山脈周辺に広く分布しているそうです。通常の感染ルートは、ネズミの尿・糞・唾液に含まれるウイルスがエアロゾル化し、それをヒトが吸い込むことです。換気の悪い物置や山小屋の掃除など、屋内での曝露がとりわけ危険とされています。典型的には、ネズミに咬まれたり直接触れたりした記憶がなく、知らないうちに吸入してしまっていたケースが大半のようです。ここで重要になるのが、アンデスウイルスだけが備える「ヒト-ヒト感染」の能力です。アルゼンチンで起きた大規模アウトブレイクでは34人が感染し、11人が亡くなりました。家族内、とくに性的パートナー間での感染リスクが、ほかの同居者の十数倍高いことも疫学研究から報告されています。最も感染伝播しやすいのは発症前後の初期段階で、血液・唾液・呼吸器分泌物・尿からウイルスRNAが検出されるため、症状が出る前から感染源になり得るのです。とはいえ伝播には「濃厚かつ長時間の接触」が必要とされており、新型コロナウイルスのように街中で容易に広がるものではないと報告されています。今回のクルーズ船の事例で問題になっているのも、まさに長期航海という限定された空間で乗員乗客が密に過ごしたという特殊な条件です。WHOは濃厚接触者に対して、1潜伏期分にあたる約45日間の健康監視や隔離を勧告しており、複数の国にまたがる追跡調査が現在も進められています1, 2, 3)。風邪のような症状から数時間で急変する「ハンタウイルス心肺症候群」潜伏期間は感染源への曝露から2〜3週間(中央値14〜18日、最長で7週間)と長く、初期の症状はそれほど特徴的ではありません。発熱・悪寒・激しい筋肉痛(とくに大腿や腰背部)、頭痛、悪心、嘔吐、腹痛、下痢といった、いわゆる「胃腸症状を伴うインフルエンザのような」経過をたどります。鼻水や咽頭痛など、上気道の症状をほとんど欠くというのが、いわゆる「風邪」との区別のヒントになります。この「前駆期」は2〜8日ほど続きます。問題はその後です。「ハンタウイルス心肺症候群」と呼ばれるこの病態の本質は、血管内皮の機能不全によるびまん性の毛細血管漏出にあります。ウイルスはβ3インテグリンなどを介して血管内皮細胞や血小板に侵入し、サイトカインの放出と血管透過性の亢進を引き起こします。その結果、肺胞内に大量の血漿成分が漏れ出して非心原性肺水腫を生じ、同時に心筋抑制から心原性ショックに陥ります。乾性咳嗽と呼吸困難の出現を皮切りに、数時間という単位で肺水腫、ショック、不整脈、凝固障害へと急速に進行し、亡くなる方の多くは心肺期に入ってから最初の24時間以内に命を落としてしまいます。検査では、血小板減少、白血球増多と幼若球の出現、免疫芽球の増加、血液濃縮、LDHの上昇といった所見が鋭敏な手がかりになります。確定診断は、ELISAによる血清IgM/IgG抗体検出と、PCRによるウイルスRNA検出で行います。致死率は、アンデスウイルスなどの重症型で30〜50%、軽症型でも10〜30%と非常に高いのが特徴です。生存できた場合でも、倦怠感や息切れが数ヵ月にわたって残ることがあり、急性期を乗り越えても回復には時間がかかると報告されています1, 4)。治療の鍵は「早期搬送」、そして私たちにできる予防策ハンタウイルスに対する特効薬は、残念ながらありません。リバビリンは腎症候性出血熱には有効ですが、心肺症候群に対する効果は複数の臨床試験で否定されています。ステロイドの有用性も示されていません。したがって治療の中心は、集中治療による全身管理になります。人工呼吸器、循環作動薬、そして体外式膜型人工肺(ECMO)を用いた呼吸循環補助が、命を救う鍵を握ります。毛細血管漏出が進む病態のため、敗血症と異なり「輸液は控えめに、昇圧薬は早めに」というのが治療の原則です。実際、ECMOを要する重症例でも救命率は60%を超えると報告されており、「疑った段階で、ECMOが使える施設へ早く搬送する」ことが予後を左右する最重要事項のようです。予防はまず、ネズミとの接触を断つことに尽きますが、アンデスウイルス患者を診る医療従事者には、N95マスク、ゴーグル、ガウン、手袋による空気感染予防策が推奨され、濃厚接触者は1潜伏期分(約45日)の健康監視あるいは隔離が求められます。ワクチンは現時点で承認されておらず、曝露を避けることが唯一の現実解と言ってよいでしょう2, 4, 5)。パンデミックに至るリスクをどう見るかここで気になるのが、「ハンタウイルス、とくにアンデスウイルスがパンデミックを引き起こす可能性はあるのか」という点ではないでしょうか。結論からお伝えすると、現時点でその可能性は低いと考えられています。理由は大きく2つあります。1つ目は感染経路の特性です。ハンタウイルスの主たる感染経路は、あくまでネズミからのエアロゾルです。アンデスウイルスは唯一ヒト-ヒト感染を起こしますが、それも「濃厚かつ長時間の接触」が必要で、咳やくしゃみで広がる新型コロナやインフルエンザのような効率の良い飛沫感染ではありません。実際、基本再生産数(R0)は1前後と推定されており、適切な隔離下であれば速やかに収束しやすい性質を持ちます。2つ目は、「重症度の高さ」そのものが拡大の歯止めになっているという点です。30〜50%という致死率はこのウイルスの恐ろしさを示すものですが、感染者は急速に発症し、短時間で歩行すら困難な状態に陥ります。社会の中を動き回って他人に伝播させるという、パンデミックを成立させる動線がきわめて作りにくいのです。ただし、安心しきってよいわけでもありません。発症前から感染伝播する可能性があること、気候変動や森林伐採で宿主となるネズミの分布が変動していること、そして今回のように長期クルーズや国際移動によって、本来「南米南部の風土病」だったウイルスが思わぬ場所に運ばれ得ること。これらは公衆衛生上の警戒シグナルとして決して軽視できません。今後アンデスウイルスの新たな変異の獲得により、効率的な飛沫感染能を獲得すれば、状況は一変する可能性もないわけではありません。だからこそ、WHO・CDC・各国当局による監視と早期対応が欠かせないでしょう2, 3, 5)。クルーズ船という閉鎖空間で起きた今回のアウトブレイクは、本来「南米の風土病」と思われていたウイルスが、国境を越えて広がり得ることを示す出来事です。日本国内での流行リスクは依然として低いと考えられますが、流行地への渡航歴がある発熱患者さん、とくに筋肉痛と血小板減少を伴う症例では、本疾患を鑑別の片隅に置いておきたいところです。早く疑い、早く動くこと。それが、この致死率の高い感染症と向き合うために大切なアクションです。1)Vial PA, et al. Pathogenesis, epidemiology, and diagnosis of hantavirus infections. UpToDate. 2026 May 8.2)World Health Organization. Disease Outbreak News: Hantavirus cluster linked to cruise ship travel, Multi-country. 2026 May 4.3)Martinez VP, et al. "Super-Spreaders" and Person-to-Person Transmission of Andes Virus in Argentina. N Engl J Med. 2020;383:2230-2241.4)Harkins M, et al. Hantavirus cardiopulmonary syndrome. UpToDate. 2026 May 8.5)Shmerling RH. Hantavirus explained: What to know after the cruise ship outbreak. Harvard Health Publishing. 2026 May 6.

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喘鳴をみたら喘息?【喘息・COPDのここが知りたい!】第1回

皆さま、こんにちは。神奈川県川崎市にあります日本鋼管病院という地域の総合病院で呼吸器内科医として働いています田中 希宇人(たなか きゅうと)と申します。ネット上では「キュート先生」の名前で医療情報発信を行っています。川崎南部地域は肺がん・COPD・喘息など、呼吸器疾患の患者さんが多く、呼吸器の症状で困っている方を10年以上診療してきています。喘息・COPDのガイドラインはしっかり策定されておりますが、すべての患者さんがガイドラインに当てはまるわけではありません。本連載では、それらのガイドラインの隙間を埋めるような実臨床で役立つ内容、悩む状況などについて一緒に考えていきたいと思います。ぜひご意見やご感想もお寄せいただけますと幸いです。喘鳴をみたら喘息?はじめに:その喘鳴をどう診ますか?日常診療において、患者さんが「ゼーゼーする」「ヒューヒューいう」と訴えて来院された際、真っ先に頭に浮かぶのは「喘息」ではないでしょうか。実際に喘息は非常に頻度の高い疾患であり、その症状の1つに「喘鳴(ぜんめい)」があります。喘鳴とは、気道が狭くなることで「ゼーゼー」や「ヒューヒュー」といった異常な呼吸音が連続的に発生する状態を指します。この音は、狭くなった気道を空気が無理に通過する際に生じる振動によるものです。喘鳴は、聴診器を使わなくても聞こえることもあります。息を吸う時に聞かれる「吸気性喘鳴」と吐く時に聞かれる「呼気性喘鳴」があります。音が聞こえるタイミングや、気道のどの部分が狭くなっているかで病気を推測できる場合があります。しかし「All that wheezes is not asthma(喘鳴がすべて喘息とは限らない)」1,2)という言葉があります。ガイドラインには「喘息の治療法」については詳しく書いてありますが、「この喘鳴が本当に喘息なのか」という診断や鑑別プロセスについては、多くを語ってくれません。ましてや、目の前の患者さんが「喘息なのか」については教えてくれません。本連載では、ガイドラインの行間に隠れた、実臨床での「診療のコツ」をお伝えしていきたいと考えています。第1回は多くの先生方が最も迷いやすく、かつ見逃してはならない「喘鳴の鑑別」について深掘りしていきます。喘鳴の「音」を解剖する:stridorとwheeze聴診器を当てて何か「音がする」だけで満足してはいけません。その異常な音が「いつ」「どこで」聞こえるかが、診断の最大のヒントになります。外来診療では長い時間がとれないため、患者の頸部で聴診します。深呼吸で、呼気は勢いよく最後の最後まで吐ききってもらいます。典型的な喘息の喘鳴は、呼気終末に聴取されます。喘鳴が聞かれる場合に、まず重要なのは音が吸気時(息を吸うとき)に強いのか、呼気時(吐くとき)に強いのかという点です。呼気性喘鳴(wheeze)主に末梢気道が狭窄しているサインです。喘息やCOPDの典型的な音です。吸気性喘鳴(stridor)主に上気道・中枢気道の閉塞を示唆します。喉頭浮腫、声帯機能不全、異物、気管腫瘍などが疑われます。もし吸気時に強い「ヒュー」という音が聞こえたなら、それは喘息の増悪ではなく「上気道の緊急事態」かもしれません。この見極め一つで対応が劇的に変わります。次に、聞かれる音がmonophonic(単音性)なのか、polyphonic(多音性)かということがわかると、さらに病気が絞られます。monophonic聴診してどこの部位で聞いても同じ高さの「ピー」という音が聞こえる状態。これは、特定の太い気道が1点で狭まっている、腫瘍や異物などの病態の可能性を考えます。polyphonic胸のあちこちで異なる高さの音が混ざって聞こえる状態。これは喘息のように、肺全体であちこちの気道が狭くなっている病態を示します。喘息と間違えやすい3つの病態咳・息切れ・喘鳴などの症状があると「喘息」が疑われ、呼吸器外来を受診することが多いです。そこで気を付けなければいけない、喘息と間違えやすい代表的な3つの疾患を紹介しましょう。(1)心不全最も頻度が高く、かつ命にかかわるのが心不全です。左心不全による肺水腫で気管支粘膜が浮腫を起こすと、喘息そっくりの喘鳴が聴取されます。見分けるポイントがいくつかあります。喘息の喘鳴は「夜間・早朝」に強く認められますが、心不全は「横になる時(臥位)」に症状が悪化します。また、心不全徴候であるIII音の聴取、下腿浮腫や頸静脈怒張の有無、X線で心拡大やバタフライシャドウ、採血でBNP高値などをあわせて確認します。喘息の既往がある高齢者が「最近ゼーゼーがひどい」と受診した場合、じつは心不全がベースにあるケースは珍しくありません。喘息とうっ血性心不全が合併していることがあり、私も気管支拡張薬、ステロイド、利尿薬、降圧薬を同時に投与したことがあります。(2)声帯機能不全(VCD)喘息と考えて吸入ステロイドや気管支拡張薬など各種吸入薬を使ってもまったく症状が改善しない「難治性喘息」の中に紛れ込んでいるのが、声帯機能不全(Vocal Cord Dysfunction:VCD)です。本来、息を吸うときに開くはずの声帯が上手に開かない病態です。VCDによる喘鳴が最も強く聞こえるのは「胸」ではなく「首」です。また、喘息増悪(発作)時にはSpO2が低下することが多いですが、VCDでは正常に保たれていることが多いのも特徴です。「吸入薬が効かない」と訴える方や、心理的ストレスを抱える方では、VCDの可能性を考え耳鼻科医に診察してもらうことも重要です。(3)中枢気道病変(腫瘍・異物)ときどき呼吸器外来で診るのが、肺がんや気管支結核、あるいは高齢者の誤嚥による異物などが原因の喘鳴です。肺がん・気管支がんなどの悪性腫瘍、異物などによる物理的閉塞による喘鳴は「片側だけ」「ある特定の部位だけ」で聞こえます。喘鳴は全肺野で聞かれるはず、という思い込みを捨て、左右の胸の音を丁寧に聞き比べるとわかることがあります。また、喘息増悪で聞かれる喘鳴は、比較的急な経過で聴取されますが、悪性腫瘍が原因の場合には徐々に症状が強くなることが特徴です。喫煙歴のある高齢者の喘鳴で安易に「喘息やCOPDが原因」と決めつけるのは危険です。X線やCTでの精査を躊躇してはいけません。喘鳴を正しく見極めるためのコツ喘鳴が聴取される患者さんで喘息か他疾患の病態かで迷ったとき、実際の医療現場で行っているいくつかのコツを紹介しましょう。(1)SABA(短時間作用性β2刺激薬)に対する反応をみるまず比較的簡単にできるのが、喘息増悪に準じてメプチンなどのSABAをネブライザーで吸入させ、その場で喘鳴が消失あるいは軽減するかを確認することです。これは、非常に有用な診断的治療になります。喘息であれば反応が良いはずですが、心不全や腫瘍による気道の物理的狭窄では反応が乏しいことがわかります。(2)「いつもの喘鳴」との違いを聞いてみる喘息増悪を繰り返す患者さんが一番自分の状態をわかっています。しかし、喘息患者さんでも別の病気を合併することがあります。「今回の症状は、今までの喘息発作と同じ感じですか?」という一言が、別の病気を見つけるカギになることがあります。患者さんが感じる「今回はなんか違う、息が吸い込みにくい感じがする」といった症状には注意が必要です。(3)喘鳴の起こり方を探る喘息の増悪は何かをきっかけに発作的に起こりますが、COPDや心不全の増悪は、動いたときの息切れが先行し、徐々に症状が悪化することが多いです。そのようなきっかけ、安静時の喘鳴なのか労作時の喘鳴なのか、など喘鳴の起こり方を探ってみましょう。おわりに:診断の「質」が治療の「質」を決める喘息治療の進歩により、多くの患者さんが発作を経験せずに平穏に過ごせるようになりました。喘息死も私が研修医だった20年前に比べるとだいぶ減りました。しかし、その一方で咳・息切れ・喘鳴のような症状がある場合に、「とりあえず喘息として吸入薬を出す」ことが、本来見つけるべき他の疾患を見逃すリスクを生んでいる側面もあります。「喘鳴=喘息」という思考をいったんやめて、聴診器から聞こえる音の正体を疑ってみる姿勢が第一歩です。正しい診断が下されれば、正しい治療につながります。そこで既存のガイドラインがさらに活きてくるものと考えています。 1) Jackson C. BMQ. 1865;16:86 2) Kaminsky DA. Chest. 2015;147:284-286.

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急性低酸素性呼吸不全、高流量酸素療法vs.標準酸素療法/NEJM

 急性低酸素性呼吸不全において、高流量鼻カニュラ酸素療法(HFNC)は標準酸素療法と比較して28日死亡率を有意に低下しなかった。フランス・Centre Hospitalier Universitare de PoitiersのJean-Pierre Frat氏らが、同国42ヵ所のICUで実施した無作為化非盲検試験「SOHO試験」の結果を報告した。急性低酸素性呼吸不全患者において、標準的な酸素療法と比較したHFNCの気管挿管および死亡率に関するデータが必要とされていた。NEJM誌オンライン版2026年3月17日号掲載の報告。主要アウトカムは28日死亡率 研究グループは、急性低酸素性呼吸不全によりICUに入院した18歳以上の成人患者連続症例を、HFNC群または標準酸素療法群に無作為に割り付けた。適格基準は、呼吸数25回/分以上、胸部画像検査での肺浸潤影、10L/分以上の酸素投与下での動脈血酸素分圧(PaO2)/吸入酸素濃度(FiO2)比200以下で、主な除外基準は動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)>45mmHg、慢性閉塞性肺疾患またはその他の慢性肺疾患の増悪、心原性肺水腫、抜管後または腹部・心臓胸部手術後7日以内の呼吸不全などであった。 HFNC群では、加温加湿器を介して50L/分以上、目標酸素飽和度92~96%で、48時間以上酸素を投与した。標準酸素療法群では、10L/分以上で酸素飽和度92~96%を目標に、48時間以上、回復または挿管まで継続した。 主要アウトカムは、無作為化後28日間の全死因死亡、主な副次アウトカムは無作為化後28日間の気管内挿管、無作為化から挿管までの期間、無作為化から28日間の人工呼吸器非使用日数などであった。28日死亡率は両群とも14.6%、副次アウトカムの28日挿管率は42.4%vs.48.4% 2021年1月~2024年10月に計1,116例が無作為化された。このうち、同意撤回5例を含む計6例を除く1,110例(HFNC群556例、標準酸素療法群554例)が解析に含まれた。 28日死亡率は、HFNC群14.6%(81/556例)、標準酸素療法群14.6%(81/554例)(群間差:-0.05%、95%信頼区間[CI]:-4.21~4.10、p=0.98)であった。 28日までの挿管率は、HFNC群42.4%(236/556例)、標準酸素療法群48.4%(268/554例)(群間差:-5.93%、95%CI:-11.78~-0.08)、無作為化から気管挿管までの期間の中央値はそれぞれ24時間(四分位範囲[IQR]:10~67時間)、23時間(IQR:10~47時間)(絶対群間差:0.4時間、95%CI:-6.8~6.5)、人工呼吸器非使用日数の中央値は28日(IQR:11~28日)、26日(IQR:10~28日)(絶対群間差:2.0日、95%CI:0.0~4.0)であった。 安全性については、自発呼吸中の重篤な有害事象(心停止または気胸)はHFNC群で13例(2.3%)(心停止3例、気胸10例)、標準酸素療法群で6例(1.1%)(それぞれ2例、4例)に発生した。 なお、著者は、COVID-19のパンデミック下でウイルス性肺炎患者の割合が高かったこと、挿管されなかった患者では順守状況のデータが前向きに収集されなかったことなどを研究の限界として挙げ、「今後の研究では、HFNCを対照群として、個別化された非侵襲的アプローチを含む呼吸補助戦略の評価が望まれる」とまとめている。

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脳卒中管理で非専門医が押さえておきたい重要ポイントは?「脳卒中治療ガイドライン」改訂

 一次・二次予防でさまざまな診療科との連携が必要になる脳卒中。2025年8月には『脳卒中治療ガイドライン2021[改訂2025]』が発刊され1)、本書より「改訂のポイント」が各章の冒頭に新設、前版からの改訂点やその経緯が把握しやすい仕様に変更された。近年の知見もタイムリーに反映し、140項目中52項目のエビデンスレベルが見直されている。そこで今回、非専門医が本書を手に取る際に理解しておきたい改訂点や取りこぼしてはいけない点を中心に、ガイドライン作成委員長の黒田 敏氏(富山大学脳神経外科 教授)に話を聞いた。急性期は降圧せず、病期で異なる血圧管理 本書は7項目から章立てられ、14個のClinical Questionが掲載されている。このなかでも非専門医が目を通しておきたいのは、第I章「脳卒中一般」(p.2~56)である。 同章の脳卒中発症予防には、高血圧、糖尿病、脂質異常症といった危険因子ごとのアプローチ方法が示され、とくに高血圧管理については、第I章の全身管理(2)血圧、脈、心電図モニター(p.31)に示されている。本書と同時期に発刊された『高血圧管理・治療ガイドライン2025』(日本高血圧学会編)では、全年齢で「原則的に収縮期血圧130mmHg未満を降圧目標とする」と発表されており2)、亜急性期・慢性期の脳卒中の管理目標がこれに該当する。ただし、“超急性期や急性期では転帰不良が増加することから、急性脳梗塞では状況に応じた降圧治療が必要になり、原則的に降圧しない”や“脳出血では専門医への紹介前から降圧療法を考慮してもよい”と記され(高血圧治療・管理ガイドラインの第9章、p.109)、その根拠の詳細が本書の上述の項や脳出血の血圧管理(p.134)にて解説されている。 また、血圧管理における薬物療法については、2022年10月にLancet誌に報告された論文3)などを踏まえ、各個人が服用しやすい時間、アドヒアランス向上、副作用などを考慮した推奨となった。 一方で、超急性期では血栓溶解療法、機械的血栓回収療法のどちらを実施予定かで管理目標がやや異なり、今回の改訂では後者を行う場合の血圧の管理について新たな推奨文が追加、血栓回収時での過度な降圧回避を考慮した設定となった。この理由について黒田氏は「脳梗塞発症時脳血流が低下しているため、この状況で血栓を回収すると、健常状態よりも血流が多くなり、健常よりも回収時に血圧が大きく増加する。また、血栓回収終了後の厳格な降圧も予後不良に相関することが2つのRCTから示されている」と説明した。―――――――――――――――――――<I. 脳卒中一般 脳卒中急性期 2-1 全身管理(2)血圧、脈、心電図モニター>「機械的血栓回収療法を施行する場合、血栓回収前の降圧は必ずしも必要ないが、血栓回収後には収縮期血圧180mmHg以下に速やかな降圧を行うことは妥当である(推奨度B、エビデンスレベル中)。一方、血栓回収中および回収後には収縮期血圧140mmHg以下の過度な血圧低下は、避けるよう勧められる(推奨度E、エビデンスレベル中)」―――――――――――――――――――アルツハイマー病新薬の処方歴に注意! rt-PAの使用判断に注意 第II章「脳梗塞・TIA」では、機械的血栓回収療法が可能なタイミング、抗血小板薬シロスタゾールの脳領域での評価が反映されているが、診療科横断的な注意事項として、アルツハイマー病に対する抗アミロイド抗体治療薬の投与を受けている患者への脳梗塞超急性期治療についてはぜひ押さえておきたい。同氏は「静注血栓溶解(rt-PA)療法は、急性脳内出血を発症し、死亡例が報告されている。これを踏まえ、rt-PA検討時に慎重に適応を判断するためにMRI検査が必要とされ4)、また、アルツハイマー病の既往や治療歴を確認するためには問診が重要となる。さらに抗アミロイド抗体治療中の18ヵ月間は脳梗塞の発症にも注意してほしい」と強調した。 そして、睡眠中に脳梗塞を発症する発症時刻不明(Wake-up Stroke)患者の場合、これまでは正確な発症時刻がわからず、就寝時刻=最終健常時刻と判断されてきた。たとえば、22時に就寝、6時に起床して症状に気付いた患者では、脳梗塞の発症から8時間経過したと考えざるを得なかった。しかし近年では、頭部MRI画像検査で拡散強調画像(DWI)と水抑制画像(FLAIR)を撮影し、「FLAIR画像から明け方の発症も把握できるため、そのような症例にも血栓回収療法の実施が推奨されるようになった。さらに、重症度の高い患者(大脳半球の6~7割を占める大きな脳梗塞を起こした例)などでも、いくつかの条件を満たせば血栓回収療法により予後良好となるエビデンスが出てきている」と述べ、血栓回収療法の対象患者拡大について言及した。 脳梗塞再発予防については、慢性動脈閉塞症に基づく症状改善に使われていたシロスタゾールにおいて、ラクナ梗塞のような微小出血を有する患者への脳梗塞再発予防効果が示され、推奨文が一部改訂されている。―――――――――――――――――――<II. 脳梗塞・TIA 脳梗塞急性期 1-2 頸動脈的血行再建療法> 最終健常確認時刻から6時間を超えた内頚動脈または中大脳動脈M1部の急性閉塞による脳梗塞では、神経徴候と画像診断にもとづいて救済可能領域が十分にあると判断された患者に対して、最終健常確認時刻から24時間以内に機械的血栓回収療法を開始することが勧められる(推奨度A、エビデンスレベル高)<II. 脳梗塞・TIA 脳梗塞急性期 1-3 抗血小板療法>シロスタゾール200mg/日の単独投与や、低用量アスピリンとの2剤併用投与は、発症早期(48時間以内)の非心原性脳梗塞患者の治療法として考慮してもよい(推奨度C、エビデンスレベル中)―――――――――――――――――――専門医のなかで注目されているポイント、そして新たな脳卒中リハビリとは 第IV章のくも膜下出血の領域では、遅発性脳血管攣縮の予防・治療に関して変更点がある。まず、脳血管攣縮予防のための腰椎ドレナージは、近年のシステマティックレビュー結果を基に推奨度が上がった(推奨度B、エビデンスレベル中)。その一方で、治療ではエンドセリン受容体拮抗薬クラゾセンタンによる術後管理の普及に伴い、多量補液による肺水腫発症が広く認識されていること、triple H療法*によりうっ血性心不全や出血性合併症リスクが増加するといった報告を考慮して、「科学的根拠がないtriple H療法は行うべきではない」(推奨度E、エビデンスレベル低)としている。*循環血液量増加療法(Hypervolemia)、血液希釈療法(Hemodilution)、高血圧療法(Hypertension)の3つを組み合わせて脳血流を維持・改善する方法 このほかにも、リハビリテーション診療の領域では、上肢機能障害のリハビリ効果を高めるためにAI技術の導入が進んでおり、脳卒中後の機能回復にブレイン・マシン・インターフェイス(BCI)を応用した訓練の推奨度がCからBへ上がった。BCIとは、脳と機械を直接つなぎ、脳内情報を読み取ることで脳機能を補填・増進させる技術の総称で、「たとえば、手にロボットを装着した患者が“手を動かしたい”と考える。すると脳波の変化をAIが読み取り、ロボットが指を曲げたり伸ばしたりする」と解説。「片麻痺の患者は“手を動かしたい”というイメージができなくなっているため、それを思い出させるためのBCIの活用はリハビリ効果を高める」と推奨度が上がった理由を述べた。ガイドライン改訂の経緯 本書は6年に1回ごとに改訂、2年ごとに追補版が出版される。2019年からガイドライン作成委員長を務める同氏は本書改訂を振り返り、「これまで2021年、2023年とマイナーアップデートにも携わってきたが、新たな知見が報告されるたびに脳卒中の治療可否において実臨床とガイドラインで乖離が生じはじめ、先生方の誤解を招く可能性があった。また、これまでは追補には新たな知見だけを掲載していたが、矛盾点などが存在する項目はあわせて改訂することになり、今回は"改訂版”と表現を変えた」と説明した。 なお、日本脳ドック学会が脳卒中や認知症予防などに役立つ最新知見をまとめた『脳ドックのガイドライン2026』が2月26日に発刊されたので、あわせて一読されたい。

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ショック状態に対する治療をしない場合は責任を負う?【医療訴訟の争点】第17回

症例近年、高齢患者の急変時対応では、基礎疾患・予後を踏まえた治療方針の選択が重要となる。本稿では、ショック状態に陥った患者に対し救命処置を行わなかった医師の判断の適否が争われた、東京地裁令和7年2月27日判決を紹介する。<登場人物>患者76歳・男性(既往歴:間質性肺炎、双極性障害、糖尿病)原告患者の配偶者および子被告医療法人(内科・精神科を標榜する病院)事案の概要は以下の通りである。事案の概要を見る平成28年7月咳が続く・胸痛があると訴えて被告病院を受診。被告病院の紹介により国立病院を受診し、間質性肺炎と診断平成30年5月内服薬の処方中止後も咳が再燃しなくなったため、通院終了平成31年1月25日ここ数日食事が取れない、具合が悪いなどと訴えて、被告病院再受診。精査目的で入院。入院時のバイタル値は、体温36.8℃、脈拍93回/分、血圧149/90mmHg、SpO2 98%、呼吸は平静。腹部CT検査上は異常所見を認めなかった。細菌性の感染症疾患を疑い、抗菌薬の点滴投与と補液を開始。1月26日午前9時28分頃胸部CT検査。前日からこの日までの間に、両肺下葉に新たな浸潤影が出現。午前10時頃右肺の雑音や著明な痰がらみが見られ、白黄色痰が大量に吸引。午後3時頃肺雑音が両肺に生じ、再び白黄色痰が大量に吸引。37.6℃の発熱、呼吸がやや努力様、SpO2 76~80%に低下。酸素投与(2L/分)開始。午後4時40分頃酸素投与量が増量(7L/分)。両肺の雑音や発熱は続くも、痰がらみが消失して呼吸も平静、SpO2 96%。午後8時頃ジクロフェナクナトリウム(商品名:ボルタレン、解熱剤)の投与などもされ、体温は36.8℃に低下、肺の雑音も消失。1月28日午前2時熱(38℃)午前5時白黄色痰が大量に吸引担当医は、抗菌薬投与にかかわらず呼吸状態の悪化が続いていることから、細菌性の感染症ではなく、間質性肺炎の急性増悪であると判断し(ただし、細菌性の感染症を鑑別するための血液検査や細菌培養検査は行っていない)、抗菌薬の点滴投与を中止して、ステロイドミニパルス療法(ソル・メルコート500mg/日に生理食塩水100mL/日を付加したものを点滴投与)を開始。以後、発熱が断続的に見られたものの、肺の雑音は認められなくなり、呼吸は平静のままで経過。1月30日午前11時20分酸素投与量が7L/分から6L/分に減量。午後1時頃呼吸が促拍するようになる。午後3時SpO2 98%であるも、発熱(37.4℃)や少量の白色痰が見られる。血圧148/87午後5時30分SpO2 90%に低下、発熱(38.5℃)と肺雑音が見られ、黄色痰が大量に吸引される。血圧114/81。解熱のためジクロフェナクナトリウム投与。午後8時頃両肺の雑音や多量の黄色痰が見られ、SpO2 94%に低下し、努力様呼吸になって呼吸状態が急激に悪化。収縮期血圧が74/64に低下し、心拍数は120~130回/分に上昇。膝から下にチアノーゼが出現し、四肢が脱力した状態。担当医は、容体急変は間質性肺炎の急性増悪による(血圧低下についてはジクロフェナクナトリウムの影響もある)もので、ステロイドミニパルス療法が奏功しない限り救命困難と判断。ステロイドミニパルス療法と酸素投与(6L/分)のほかに治療は行わず、容体急変の原因を探るためのCT検査や血液検査などの検査も行わなかった。午後10時頃SpO2が上昇(午後9時時点で99%、午後10時時点で96%)、収縮期血圧も90台まで上昇(午後9時時点で90/23mmHg、午後10時時点で92/78)も、四肢の脱力、努力様呼吸や黄色痰が大量に吸引される状態が継続。1月31日午前0時下顎様呼吸、瞳孔拡大、血圧およびSpO2が測定不能。午前2時15分死亡2月2日午後3時他院において病理解剖。要旨は以下のとおり。(1)死因に関与した臓器を挙げるならば、肺または心臓と考えられる。(2)肺については、胸膜直下~隔壁の高度な線維化、線維化巣内の蜂巣構造、線維芽細胞巣(fibroblastic foci)を認め、隣接する領域の肺胞構造は保たれており、UIP(通常型間質性肺炎)パターンと考えられた。肺は、UIPパターンの間質性肺炎であるが、病理解剖時に採取した血液を用いた間質性肺炎マーカー検査の結果(KL-6値274U/mL〔基準値:500U/mL未満〕、SP-A値18.9ng/mL〔基準値:43.8ng/mL未満〕、SP-D値82.8ng/mL〔基準値:110ng/mL未満〕)からも活動性の低いものではなかったかと疑われ、これのみで死に至るものか疑問が残る。(3)心臓は、不安定プラークを疑う冠動脈病変を伴っており、心筋にも全周性の虚血性変化が見られたが、この変性像は区域性には見えず、アーチファクトの可能性もある。あえて推測すれば、剖検時に冠動脈に明らかな血栓形成はないが、肺うっ血水腫の存在と併せて、新鮮な心筋梗塞による心原性ショックは否定できない。(4)臓器別に病理組織学的検索を行った範囲では、直接死因を確定することは困難であり、臨床情報と併せて判断する必要がある。実際の裁判結果本件において、1月30日午後8時頃の急変・ショック状態(収縮期血圧は74mmHg、心拍数120〜130回/分、尿量減少、四肢チアノーゼ、努力様呼吸など)につき、担当医は、間質性肺炎急性増悪が原因であり救命は困難、輸液は肺水腫の悪化を招くとして、酸素投与以外の処置を行わず、ステロイドミニパルス療法のみにより経過を見る方針とした。これに対し、原告(患者の相続人ら)は、輸液負荷、昇圧薬、気管挿管、原因鑑別のための血液検査・画像検査などの救命処置をすべきであったと主張した。裁判所は、以下の点を指摘し、「1月30日午後8時の時点での本件患者の状態は、輸液剤や血管収縮薬の投与といった救命処置を行い、ショックの原因を把握した上で、それに対する治療を行うべきものであった」とした。ショックでは、血圧低下、心拍の異常(頻脈など)、呼吸の異常(頻呼吸)、皮膚の異常(末梢血管の収縮など)といった症状が見られ、一般的に、収縮期血圧90mmHg以下がショックの基準となる。午後8時時点において、本件患者は、血圧74/64と著しい低下、心拍数の120~130回/分への上昇、努力様呼吸、膝から下のチアノーゼの出現は、いずれもショックの症状というべきであり、とくに収縮期血圧については、ショックの基準値を大きく下回るので、本件患者はショックに陥って容体が急変したといえる。ショックは、迅速な原因の同定と治療介入がされなければ臓器不全を来し、死に至る症候群であるため、一般に、まずは、生命の危機的状況を避けるための救命処置を行う必要がある。本件患者に見られた1月30日の収縮期血圧の低下は、持続的に生じている上、膝から下にチアノーゼが生じ、末梢の循環不全を来すものであった。末梢の循環不全を来したショックについて、救命処置を行わずに血圧低下が持続すると、不可逆的な転帰を招く可能性があった。本件において被告病院は、「呼吸状態の悪化や血圧低下といった当時の本件患者の状態は、間質性肺炎の急性増悪や数時間前に投与したジクロフェナクナトリウムの影響によるものであって、救命不可能な状態に陥っており、輸液剤の投与などは肺水腫を招くなどかえって死期を早めるため、それらの投与を行うべきではなかった」と主張していた。これに対し、裁判所は、以下の点を指摘し、「被告病院の担当医には、1月30日午後8時頃、本件患者に対し、輸液剤や血管収縮薬の投与といった救命処置を行い、ショックの原因を把握した上で、それに対する処置・治療を行うべき注意義務があった」として、これらの処置を行わなかった注意義務違反(過失)があると判断した。血圧低下については、その数時間前に投与されたジクロフェナクナトリウムの影響はあったと認められるものの、呼吸状態の悪化など当時の本件患者の症状に照らし、ジクロフェナクナトリウムの影響だけで血圧低下の説明が付けられるかは疑問が残ること。血圧低下がジクロフェナクナトリウムによるものであったとしても、ショックに対する初期対応が不要となるものでもないこと。間質性肺炎の主症状の一つは乾性咳嗽(痰を伴わない乾いた咳)であり、典型的な間質性肺炎の急性増悪は痰を伴わない一方、黄色痰は感染症の可能性を示す所見であること。本件患者は、呼吸がやや努力様になった1月26日には白黄色痰が大量に吸引されており、1月30日午後5時30分や呼吸状態が急激に悪化した同日午後8時にも大量の黄色痰が見られているため、間質性肺炎の急性増悪とは必ずしも整合せず、細菌性肺炎などの感染症に罹患していたことを疑わせる所見があったこと。担当医は、本件患者に対して細菌培養検査などの感染症を除外鑑別するための検査を行っておらず、感染症の除外鑑別も積極的に行われていなかったため、当時の客観的な状態としては、感染症の罹患もなお疑うべきものであったこと。次に、裁判所は、本件患者の死後に行われた病理解剖の結果も踏まえてショックおよびショックに続く死亡の原因を検討し、以下のように、間質性肺炎急性増悪の可能性が相対的に高いものの、死亡原因は特定できないとした。「本件患者のショック(容体急変)ないしそれに続く死亡の原因は、間質性肺炎の急性増悪であった(少なくとも一定の寄与があった)可能性が相対的に高いものの、これと断ずることはできず、細菌性肺炎などの感染症による敗血症性ショックや心筋梗塞などによる心原性ショックが原因であった可能性も否定できず、その特定は困難であるといわざるを得ない」その上で、裁判所は考えられるそれぞれの原因につき、以下の点を指摘した上で「1月30日午後8時の段階で本件患者に対して救命処置が行われていたとしても、本件患者の上記死亡を回避できたとの高度の蓋然性があるということはできない」として、注意義務違反(過失)と本件患者の死亡との因果関係を否定し、被告の損害賠償責任を否定した。心筋梗塞などによる心原性ショックが原因である場合には、救命処置によって本件患者に生じた死亡を回避できた蓋然性があるが、そもそも、心原性ショックであった可能性も否定できない程度のものにとどまる。このため、この点をことさら強調するのは相当ではない。ショックなどの原因が敗血症性ショックであった場合でも、救命処置によって一定の効果があり、いったんは生命の危機的状況を脱し得た可能性はある。しかし、本件患者に生じた死亡を現実に回避するためには、感染症に対する治療として、血液培養検査などを行って同定した起炎菌に合う抗菌薬を投与する必要があり、これら一連の対応を執るのには相応の時間を要する。このため、本件患者にショックが生じてから死亡する約6時間のうちに、これら一連の対応を執って何らかの治療・救命効果が発揮されたということはできない。原因としての可能性が相対的に高い間質性肺炎の急性増悪については、「いったんは酸素化が安定しても、最終的には努力性呼吸から低酸素血症となり、死に至る」経過をたどることとなる。しかし、本件患者は、この努力様呼吸や下顎様呼吸が認められたのであるから、救命処置によってこれらの努力様呼吸などに至るのを回避できた現実的な可能性はなかった。注意ポイント解説本件は、ショック状態の患者に対する救命処置の要否が争点となった事案である。裁判所は、医師に輸液・昇圧薬などの救命処置を行う義務を認めつつ、その不履行と死亡との因果関係は否定し、結論として医療機関の損害賠償責任を否定した。すなわち、注意義務違反が成立しても、結果(死亡)との法的因果関係が認められない場合に責任が否定される典型例といえる。この点、注意義務違反がある場合に、義務違反と生じた結果との間の法的な因果関係があれば、損害賠償責任が肯定されることとなる。この法的因果関係については、「経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明すること」がなされた場合に認められる。本件は、考えられるショックおよびその後の死亡の原因のそれぞれについて、救命処置をとったことで死亡を回避できた「高度の蓋然性」が認められなかったために、法的因果関係がないものとされた。もっとも、「高度の蓋然性」が認められない場合であっても、「死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性」が認められる場合には、その可能性を侵害した損害が認められることとなる。そして、この「相当程度の可能性」については、比較的緩やかに肯定される傾向が否めない。このため、注意義務違反(過失)があるとされる場合において、「相当程度の可能性」すらも否定されて損害賠償責任が否定されるケースは少ない傾向にある。本件では、死亡の原因を特定しえないため、救命処置により「死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性」を証明のしようもないことから、相当程度の可能性も否定され、損害賠償責任が否定されたものである。なお、本件では、担当医が看取りを視野に入れた方針転換をしつつも、これを家族に説明していなかったという事情があり、裁判所は「遺族が強い不満を抱くことは理解できる」としている。このため、本件は医師が「治療方針転換をする際の説明の在り方」と「急変時の最小限の救命処置の必要性」を再確認させるものでもある。医療者の視点本判決において、裁判所は「ショック状態に対する輸液や昇圧薬の投与、原因精査を行うべき注意義務があった」とし、これを行わなかった医師の過失(注意義務違反)を認定しました。臨床現場の感覚としては、間質性肺炎の急性増悪が強く疑われる局面において、肺水腫を助長しうる輸液負荷や、全身状態が悪い中での負担の大きい検査を躊躇するのは、医学的には理解できる判断です。しかし、裁判所は当時の客観的なバイタルサイン(著しい血圧低下など)に基づき、まずは原因特定と標準的な救命処置を行うべきであったと判断しました。とくに本件で教訓とすべきは、担当医が「救命困難」と判断し、実質的に「看取り」の方針へ転換していたにもかかわらず、その説明と同意が家族となされていなかった点です。実臨床において、医学的に予後不良が明白であり、侵襲的な処置が患者の利益にならないと医師が確信する場合であっても、家族への十分な説明と合意(アドバンス・ケア・プランニングなど)のプロセスを経ずに標準治療を省略することは、法的責任を問われるリスクがあることを再認識する必要があります。Take home message高齢者・基礎疾患を抱える患者の急変時対応では、救命可能性が低い場合でも、診療録や家族への説明を含めた臨床判断のプロセスが重要である。とくに、救命処置をしない場合、家族への説明と同意の取付けは不可欠である。キーワード間質性肺炎、ショック、救命処置、看取り、法的因果関係、高度の蓋然性、相当程度の可能性

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胎児循環という神業、突貫工事の心臓が生み出す奇跡【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第90回

「オンギャー」それは新たな生命の始まりを告げる、母親にとって祝福の合図です。肺が初めて外の空気を抱きしめた瞬間の歓声でもあります。単なる泣き声ではありません。その声によって呼気に陽圧がかかり、肺の中の小さな部屋である肺胞が均一に拡がるのです。お母さんのお腹の中で沈黙していた肺は水(肺水)で満たされており、その水が空気に置き換わるために必要なのが、この「オンギャー」なのです。生命誕生の瞬間は感動に満ちていますが、その背景には驚くほど精巧でダイナミックな仕組みが隠れています。分娩に立ち会った日の感動30年ほど前に医学生として初めて分娩に立ち会った日のことを、今も忘れられません。手術室の光の下で静かな緊張が漂っています。帝王切開が始まり、産科医の手が正確に、しかし驚くほど柔らかに母体を守りながら進んでいきます。胎児の頭が見えた瞬間に、室内の空気が一変しました。手術という医療行為が、次の瞬間には生命の誕生に姿を変えたのです。自然分娩も見学する機会がありました。文字通り、「ぬるり」と赤ん坊の全身がこの世に現れ、産声が響きます。その声は思ったよりも高く、そして強かったです。母親の目に涙が浮かび、スタッフの顔がほころびます。医療の現場で、ここまで純粋な歓喜が生まれる瞬間を、自分はそれまで知らなかったのです。産科の先生が言いました。「この瞬間だけは、何度立ち会っても胸が熱くなるんですよ」その言葉の意味が少しわかる気がしました。医学生としての私が目の当たりにしたのは、人間としての最も根源的な喜びだったのです。あのとき分娩室で聞いた「オンギャー」の声は、今も私の心に響いています。いま目の前で成人先天性心疾患の患者さんの鼓動を聴くとき、私はあの産声の続きを聴いているのかもしれません。胎児循環の不思議、命が宿る初めの拍動人の心臓は、胎児の姿が豆粒のようなころ、すでに鼓動を始めています。それは、胎児の成長を支えるために血液を送り出す必要があるからです。ひとつ大きな問題があります。胎児はまだ肺呼吸をしていません。空気を吸っていないのに、血液をどうやって酸素化するのか? その答えが「胎盤」です。胎盤は、まるで人工心肺装置のECMOのように、母体の血液から酸素を取り込み、それを臍帯(へその緒)という管を通じて胎児へ送ります。母親がいわば酸素供給装置で、胎盤が人工肺、そして臍帯が回路チューブです。ECMOの回路図を、神が先に描いていたのです。胎児の脳に酸素化された血液が十分に届くように、そして未完成の肺に血液をあまり送らずに済むよう、右心房から左心房へ血液をバイパスさせる「卵円孔」と、肺動脈から大動脈への抜け道である「動脈管」があります。道路工事の仮設バイパスのように、胎児だけが使う特別ルートが設けられているのです。この神業のような仕組みを、胎児はごく短期間で完成させなければなりません。肺は、出産後から機能し始めれば良いのと対照的に、心臓は胎児期から循環を支える必要があります。受精後わずか3週間余りで、心臓は拍動を開始しています。この早さは、人間の発生のなかでも際立っており、心臓が「生命の最初の臓器」と呼ばれるゆえんです。いわば突貫工事で、胎児が、心房・心室・弁・中隔を形づくり、稼働を開始します。建築現場でも、急ぎの工事ではどうしても小さなズレや継ぎ目の不整合が生じるように、この過程で生まれる“設計上のゆらぎ”が、先天性心疾患の一因となることがあります。命を守るために早く動かさねばならない心臓が、ギリギリのバランスで仕上げた証ともいえます。生まれたあと、卵円孔や動脈管が閉じ、肺が働き始めて、赤ちゃんは独り立ちの循環系を完成させます。その瞬間、胎児循環という仮設システムは退場します。分娩・出産を集中治療室の患者に例えれば、肺水腫で人工呼吸器とV-A ECMOという補助循環装置をつけた状態から、抜管とECMO離脱を同時に行うようなものです。この荒業を成功させた赤ちゃんの雄叫びが「オンギャー」です。成人先天性心疾患へ、そしてその先に生まれつきの心臓病である先天性心疾患は、長い間、子供の病気と見られてきました。生まれつき心臓に小さな“ゆらぎ”を抱えた子どもたちは、今や成人となり、自分の人生を力強く生きています。これらを成人先天性心疾患(ACHD:Adult Congenital Heart Disease)と呼びます。心臓外科手術治療の発達、内科治療の進歩によって先天性心疾患の子供の85%以上は思春期、成人期まで到達する事が可能になってきました。複雑な先天性心疾患の子供も学校に通い社会に出ていく時代になっているのです。こうして突貫工事でつくられた心臓は、生まれた瞬間に肺呼吸へと切り替わり、そのまま何十年も鼓動を続けていきます。成人先天性心疾患の患者さんの心臓もまた、あの仮設バイパスの名残をどこかに抱えながら、けなげに働いているのです。思えば、あの胎児循環こそ、神様による究極の応急工事だったのかもしれません。もし建築基準法の審査があったら、「構造的に無理があります」と一蹴されていたことでしょう。それでも見事に稼働し、命を支え続ける。医者としてどれほど工夫を凝らしても、この“神業の設計図”にはとうていかなわないと思うのです。

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わが国初の点鼻噴霧のアナフィラキシー薬「ネフィー点鼻液1mg/2mg」【最新!DI情報】第50回

わが国初の点鼻噴霧のアナフィラキシー薬「ネフィー点鼻液1mg/2mg」今回は、アナフィラキシー補助治療薬「アドレナリン(商品名:ネフィー点鼻液1mg/2mg、製造販売元:アルフレッサ ファーマ)」を紹介します。本剤は、蜂毒、食物および薬物などに起因するアナフィラキシー反応に対する補助治療薬であり、点鼻液であるため簡便かつ迅速な投与が可能になると期待されています。<効能・効果>本剤は、蜂毒、食物および薬物などに起因するアナフィラキシー反応に対する補助治療(アナフィラキシーの既往のある人またはアナフィラキシーを発現する危険性の高い人に限る)の適応で、2025年9月19日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、体重30kg未満の患者にはアドレナリンとして1回1mgを、体重30kg以上の患者にはアドレナリンとして1回2mgを鼻腔内に投与します。<安全性>重大な副作用として、肺水腫、呼吸困難、心停止(いずれも頻度不明)があります。その他の副作用として、鼻部不快感、鼻粘膜障害、鼻腔内感覚鈍麻、鼻痂皮、鼻痛、鼻漏、鼻閉、咽喉刺激感、咳嗽、口腔咽頭不快感、口腔咽頭痛、咽頭感覚鈍麻、動悸、頻脈、血圧上昇、心拍数増加、胸内苦悶、不整脈、顔面潮紅・蒼白、頭痛、振戦、浮動性めまい、不安、口の感覚鈍麻、悪心、嘔吐、そう痒症、過敏症状など、悪寒、熱感、発汗、疼痛、びくびく(いずれも頻度不明)があります。過量投与により過度の昇圧反応を起こす可能性があり、急性肺水腫、不整脈、心停止などの重篤な有害事象を生じる恐れがあるので、過量投与に対して注意が必要です。<患者さんへの指導例>1.この薬は、アナフィラキシーが発現したときの緊急の補助治療のための点鼻薬です。交感神経を刺激する作用により、ショック症状を改善します。鼻以外には絶対に投与しないでください。2.医療機関での治療に代わるものではありませんので、この薬を使用した後には必ず医療機関を受診し、医師の治療を受けてください。3.患者向けの説明文書などをよく読み、練習用見本を用いて、この薬の使用方法に慣れておいてください。4.噴霧器には1回(1噴霧)分の薬が入っています。試し噴霧や再使用はしないでください。<ここがポイント!>アナフィラキシーは急速に症状が発現し、致死的な気道・呼吸・循環器症状を引き起こし得る重篤な全身性アレルギー反応です。アナフィラキシー発現時には、迅速な対応が不可欠であり、現在では補助治療の第一選択薬として、アドレナリン注射液自己注射キット(エピペン注射液)が広く使用されています。しかし、自己注射キットの用法は大腿部中央の前外側への筋肉注射であり、自己注射という特性上、患者本人や家族などの介護者が事前に投与訓練を受ける必要があります。そのため、自己注射以外のより簡便で迅速に投与できる製剤の開発が望まれていました。本剤は、アドレナリンを有効成分とする鼻腔内投与製剤で、わが国で初めて「蜂毒、食物および薬物などに起因するアナフィラキシー反応に対する補助治療」の適応を取得した点鼻薬です。本剤には、鼻腔内投与時のバイオアベイラビリティー向上を目的として、界面活性剤であるドデシルマルトシド(DDM)が配合されています。また、非加圧式ディスペンサー(ポンプ式噴霧器)を採用しており、ポンプ作動時には微細な霧状で薬液が噴霧されます。1回の作動で全量を使い切る単回使用製剤であり、試し噴霧や再使用はできません。なお、本剤の処方には医師の会員サイトでの登録が必要であり、適正使用のための流通管理が行われています。鼻アレルゲン負荷試験(OFC)によって誘発した症状を有する患者を対象とした国内第III相試験(EPI JP03試験)において、主要評価項目である投与15分後または投与15分後までの代替治療前の最終評価時点における主症状※の投与前からの改善率は、本剤1.0mg投与群の83.3%で1グレード以上の改善が認められ、本剤2.0mg投与群では66.7%でした。全体での1グレード以上の改善率は73.3%でした。総合グレードの推移は、いずれの用量群でも、本剤投与から5分以内(最初の評価時点)に各器官症状の総合グレードの平均値が低下し始めました。※主症状:OFCにより誘発されたアナフィラキシーガイドラインに基づくグレード2以上の症状(消化器症状、呼吸器症状または循環器症状)。複数の器官に同じグレードの症状が認められた場合は、その器官症状の重篤性より循環器症状>呼吸器症状>消化器症状の順に主症状を定めた。

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心不全に伴う体液貯留管理(1):ポケットエコーで評価する2つの指標【Dr.わへいのポケットエコーのいろは】第7回

心不全に伴う体液貯留管理(1):ポケットエコーで評価する2つの指標今回から、4回にわたって心不全に伴う体液貯留管理へのポケットエコーの応用を紹介します。ここでは「下大静脈の径と呼吸性変動を見て右房圧を推定する」「VMTスコアを評価して左室充満圧を推定する」「利尿薬の導入・増量・減量の判断をする」という目標を設定して、解説していきます。ポケットエコーで血行動態を評価する心不全の増悪、非代償性の心不全への進行の評価には、血行動態の評価が非常に重要です。左心不全を例にとって考えると、起座呼吸、夜間発作性呼吸困難などの症状、レントゲン所見(バタフライシャドウ[肺水腫])、心エコー所見(左室充満圧:TRPG、E/A、E/e'、LAVI[左房容積係数])が参考になります。そのなかでも、血行動態の評価において心エコーが非常に大きな役割を果たします。さまざまな心エコー手法(カラードプラ、パルスドプラ、連続波ドプラ、組織ドプラ)を用いて、左室充満圧や左房圧上昇を評価することで、有用な情報が得られるのです。しかし、詳細な心エコーの実施が難しい状況もあります。そのような場合でもポケットエコー、つまりBモードだけで評価することができれば、有用な情報が得られます。ポケットエコーでは、VMTスコア(後述しますが、左心不全の要素と考えてください)、下大静脈(IVC)の2つを評価するのが基本的な戦略となります(表)。表 ポケットエコーで評価する血行動態指標画像を拡大する下大静脈の径と呼吸性変動を見て右房圧を推定する推定右房圧の一般的な分類は、3mmHg、8mmHg、15mmHgの3つに分けるのが主流です。下大静脈径は21mmがカットオフ値になりますが、長軸で評価するのが慣習だと思います。しかし、短軸の断面像でも断面の円形化が右房圧上昇を示唆するのではないかという報告があります。そのため、長軸だけでなく短軸で判断することも重要となります。肝臓を窓にして見ると、心窩部で観察しにくい人も肋間から下大静脈を観察することができます。それでは、動画を見てみましょう。下大静脈の観察短軸像でも、右房圧の判断ができることがおわかりいただけたのではないでしょうか。VMTスコアとは?ここで、聞き慣れないVMTスコアという指標を紹介します(図)。図 VMTスコア:時相解析に基づく左室充満圧指標画像を拡大するVMTは、僧帽弁と三尖弁の開放の時相差を見ていきます。生理的には、通常は三尖弁が先に開くのですが、左房圧(左室充満圧)が徐々に上がっていくにつれて、僧帽弁が先に開くようになります。これをBモードで観察していくと、左房圧と相関することが発見され、この指標が開発されました。これに加えて、先ほど解説した下大静脈径から推定する右房圧と組み合わせ、総合的に0~3点でスコア化することで、いわゆる非代償性の左心不全および両心不全の判断に有効な指標となります。それでは、VMTスコア0~3点について、詳しく見ていきましょう。点数の分類は以下のように解釈できます。0点三尖弁が先行して開き、下大静脈の拡張もない1点三尖弁と僧帽弁が同時に開くが、下大静脈の拡張はない2a点三尖弁と僧帽弁が同時に開き、下大静脈の拡張もある(右心不全の要素が強い)2b点僧帽弁が先行して開くが、下大静脈の拡張はない(左心不全の要素が強い)3点僧帽弁が先行して開き、下大静脈の拡張もある(両心不全を示唆)このなかで、VMTスコアが2a点以上の場合は、代償性の慢性心不全というよりは非代償性である可能性が高く、治療介入を検討すべき状態であることが示唆されます。 では、動画でVMTスコアの見かたを見てみましょう。細かく止めながらみるのがコツとなります。VMTスコアの見かた心不全評価の手技の到達目標心不全の評価におけるポケットエコーの手技の到達目標を以下にまとめます。【下大静脈(IVC)】さまざまなアプローチで描出できる肝静脈との合流部を意識できる右房への流入を観察できる【VMTスコア】心窩部で4腔像を描出できるシネを用いてVMTを評価できる心尖部で4腔像を描出できる次回は、この目標に基づいて手技を学んでいきましょう。

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定義変更や心肺合併症患者の分類に注意、肺高血圧症診療ガイドライン改訂/日本心臓病学会

 『2025年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症ガイドライン』が2025年3月に改訂された。本ガイドラインが扱う静脈血栓塞栓症(VTE)と肺高血圧症(PH)の診断・治療は、肺循環障害という点だけではなく、直接経口抗凝固薬(DOAC)の使用や急性期から慢性期疾患へ移行していくことに留意しながら患者評価を行う点で共通の課題をもつ。そのため、今回より「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン」「肺高血圧症治療ガイドライン」「慢性肺動脈血栓塞栓症に対するballoon pulmonary angioplastyの適応と実施法に関するステートメント」の3つが統合され、VTEの慢性期疾患への移行についての注意喚起も、狙いの1つとなっている。 本稿では本ガイドライン第5~13章に記されているPHの改訂点について、本ガイドライン作成委員長を務めた田村 雄一氏(国際医療福祉大学医学部 循環器内科学 教授/国際医療福祉大学三田病院 肺高血圧症センター)が第73回日本心臓病学会学術集会(9月19~21日開催)で講演した内容をお届けする(VTEの改訂点はこちらの記事を参照)。PHの定義が変わった 本ガイドラインは、PHにおける改訂目的の1つを「どの施設でも適切な診断・初期治療が行えること」とし、診断基準の変更と第7回肺高血圧症ワールドシンポジウム(WSPH)で提案された概念を世界で初めてガイドラインに取り入れた点を改訂の目玉として作成された。田村氏は「これまで議論されてきた診断基準は、WSPHならびに日本の研究を踏まえ、PHの定義をRHC検査により測定した安静仰臥位の平均肺動脈圧(mPAP)>20mmHg(推奨クラスI、p.68)とした」と説明。しかし、治療の側面からはこの定義の解釈に注意が必要で、「肺動脈性肺高血圧症(PAH)を対象とした臨床試験はmPAP≧25を対象に行われていることから、21~24mmHgではPH治療薬のエビデンスが乏しい状況にある。そして、PHの第4群に該当する慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の場合、慢性血栓塞栓性疾患(CTED)の概念でこの21~24mmHgというボーダーラインも治療されるケースがあるため、CTEPHとPAHでの解釈の違いにも注意してほしい」とコメントした。 次に「肺血管抵抗(PVR)を2.0以上」としたことも世界と足並みを揃えた点だが、この解釈についても「体格の小さい日本人は心拍出量が欧米人よりも少ないため、PVR 2.0をたまたま超えてしまうケースもある。ボーダーライン患者の場合、背景に病気の有無を確認することが重要」と、同氏は本指標の判断に対して注意喚起した。また、WSPHでも議論された「肺動脈楔入圧(PAWP)の引き下げについては、現状は変更せず15mmHgの基準を維持、13~15mmHgに該当する患者については心疾患合併を考慮してほしい」と説明した。臨床的分類、第3群に変化 臨床的分類はバルセロナ分類2024を引き継ぐかたちになっている。とくに注目すべきは、第3群において機能別(閉塞性、拘束性など)で表記されていたものが、ほかの群と同様に「慢性閉塞性肺疾患(COPD)に伴うPH」「間質性肺疾患(ILD)に伴うPH」のように疾患と紐付けることでそれぞれのエビデンスが変わる点を明確化した。このほか、第1群にCa拮抗薬長期反応例、第2群に特定心筋症(肥大型心筋症または心アミロイドーシス)が追加されたことにも留意したい。初期対応/鑑別アルゴリズムを明確に 日本において、PHの症状発現から診断までに費やされる平均期間は18.0ヵ月と報告されている(PAHは20.2ヵ月、CTEPHは12.2ヵ月)。加えて、就学・就業率は罹病期間が長期化するにつれて経時的に減少することが明らかになっている1)。このような現状において、プライマリ・ケアや地域中核病院、専門医が共に患者をフォローアップしていくためには、PHの初期対応アルゴリズム(図14、p.80)と鑑別アルゴリズム(図15、p.81)の活用が大きなポイントとなる。同氏は「初期対応アルゴリズムでは医療機関や専門医の役割を明確化した。心疾患や肺疾患の評価を行うなかで医師らが相互にコンサルトすることで、CTEPHを見逃さないだけではなく、第2群や第3群の要素の評価を目指す。PHセンターへ早期に紹介すべき患者像も明確化できるようにしている」とし、「鑑別アルゴリズムについては、急性血管反応試験を実施する対象を規定したほか、PAWP 13~15mmHgやHFpEFリスクを有する患者は純粋な1群と判断しかねるため、心肺疾患をもつPAHの特徴を明記し、2群などとの鑑別を念頭に置いてもらえるようなフローを作成した」と改訂の狙いを説明した。新規PH患者も高齢化、治療前の合併症評価を 典型的なPAH患者というと若年者女性を想像するが、近年では新規診断患者の高齢化がみられ、心肺疾患合併例が増加傾向にあるという。この心肺疾患合併の有無は治療選択時の重要なポイントとなることから、まずは心肺疾患合併PAHを示唆する特徴を捉え、単なるPHではなく第3群の要素も併せ持っているか否かを判断し(図17、p.90)、その後、治療アルゴリズム(図18、p.92)に基づいた治療介入を行う。 この流れについて、「心肺疾患合併がある場合に併用療法を行ってしまうと肺水腫のような合併症リスクを伴うため、それらを回避するための手立てとして、まずは単剤での開始を考慮してほしい。決して併用療法を否定するものではない」と説明した。またPAWPが高めのPAHの分類や治療時の注意点として、「PAWPが12~18mmHgの患者は境界域として解釈に注意すべきゾーンであるため、PAWPだけで分類評価をするのではなく、病歴や画像所見、負荷試験結果などを複合的に評価してほしい」ともコメントした。 さらに、診断時/フォローアップ時のリスク層別化については、国内レジストリデータに基づいたJCSリスク層別化指標(表30、p.83)が作成されており、これにのっとり薬物治療を進めていく。低リスク・中リスクの場合にはエンドセリン受容体拮抗薬(アンブリセンタンあるいはマシテンタン)+PDE5阻害薬タダラフィルの2剤併用療法を行い(推奨クラスI)、高リスクの場合は静注/皮下注投与によるプロスタグランジン製剤(エポプロステノール、トレプロスチニル)+エンドセリン受容体拮抗薬+PDE5阻害薬の3剤併用療法を行う(推奨クラスI、エビデンスレベルB)。薬物療法開始後の注意点としては「初回治療開始後は3~4ヵ月以内に評価」「薬剤変更・追加後は6ヵ月以内に再評価」「中リスク以上の場合はカテーテル検査実施」が明記された。 なお、ガイドライン発刊後の2025年8月にアクチビンシグナル阻害薬ソタテルセプトが日本でも発売され、第1群の治療強化という位置付けで本ガイドラインにおいても推奨されている(推奨クラスIIa、エビデンスレベルB)。 このほか、CTEPHの治療について、心臓外科医らとの丁寧な協議を進めた結果、従来は手術適応の有無が最初に評価されていたが、本ガイドラインでは完全血行再建を目指すなかで肺動脈内膜摘除術(PEA)、バルーン肺動脈形成術(BPA)、あるいはハイブリッドという選択肢のなかで最適な方法を多職種チーム(MDT)で選択して治療を進めていくことが重視される。 最後に同氏は「ガイドラインの終盤には専門施設が満たすべき要素や患者指導に役立つ内容も記載しているので、ぜひご覧いただきたい」と締めくくった。

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胃腸炎を伴う重度急性栄養失調児、経口補液vs.静脈内補液/NEJM

 胃腸炎を伴う重度急性栄養失調児に対して、経口補液療法と静脈内補液療法の間に、96時間時点の死亡率に関して差異があるとのエビデンスは認められなかった。英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのKathryn Maitland氏らGASTROSAM Trial Groupが非盲検優越性無作為化試験の結果を報告した。国際的な勧告では、体液過剰への懸念から重度急性栄養失調児への静脈内補液療法は推奨されていないが、その懸念を裏付けるエビデンスは不足していた。一方で、現行勧告下での高い死亡率から、静脈内補液療法戦略を選択肢の1つとすることによるアウトカム改善への可能性が期待されていた。NEJM誌オンライン版2025年6月13日号掲載の報告。アフリカの4ヵ国6病院で生後6ヵ月~12歳児対象の無作為化試験 研究グループは、アフリカの4ヵ国6病院(ウガンダ2、ケニア2、ニジェール1、ナイジェリア1)で、静脈内補液療法(急速または緩徐)が標準的な経口補液療法と比べて死亡率低下と結び付くかを評価する、治験担当医師主導の要因デザインを用いた多施設共同非盲検無作為化優越性試験を実施した。 胃腸炎かつ脱水症状を伴う重度急性栄養失調の生後6ヵ月~12歳児を、2対1対1の割合で次の3種類の補液戦略のいずれか1つを受けるよう割り付けた。(1)経口補液+ショックに対する静脈内ボーラス投与(経口群)、(2)乳酸リンゲル液100mL/kgを3~6時間で投与+ショックに対するボーラス投与(急速静注群)、(3)乳酸リンゲル液100mL/kgを8時間で投与(緩徐静注群) 主要エンドポイントは、96時間時点の死亡率であった。96時間時点の死亡、経口群8%、静注群7% 2019年9月2日~2024年10月27日に計272例が無作為化された(経口群138例、急速静注群67例、緩徐静注群67例)。被験児の年齢中央値は生後13ヵ月であり、28日間追跡調査(最終フォローアップ)を受けた。4例(1%)が中途で脱落したが、全例をすべての解析に組み入れた。経鼻カテーテルを用いた補液が、経口群126/135例(93%)、静注群82/126例(65%)で行われた。ショックに対するボーラス投与が入院期間中に行われたのは経口群12例(9%)、急速静注群7例(10%)、緩徐静注群はなしであった。 96時間時点で死亡は、経口群11例(8%)、静注群9例(7%)(急速群5例[7%]、緩徐群4例[6%])で報告された(リスク比:1.02、95%信頼区間[CI]:0.41~2.52、p=0.69)。 28日時点における死亡は、経口群17例(12%)、静注群14例(10%)(急速群8例[12%]、緩徐群6例[9%])であった(ハザード比:0.85、95%CI:0.41~1.78)。 重篤な有害事象の発現は、経口群32例(23%)、急速静注群14例(21%)、緩徐静注群10例(15%)で報告された。肺水腫、心不全、体液過剰のエビデンスは認められなかった。

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クラゲ刺傷【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第24回

今回はクラゲ刺傷に関してお話しします。私は幼少期、海で泳いでいるときにクラゲに刺されたことが何回かあります。大事はなく、受診はしませんでしたが、もし皆さんの外来にクラゲに刺された患者が来た場合はどうすればよいでしょうか?<症例>28歳、男性主訴たぶんクラゲに刺された。受診日に海で泳いでいたところ、足に痛みを感じて受診した。たぶんクラゲに刺されたのだろうとのこと。バイタルBP 128/42、P 82、SPO2 99%、BT 36.2℃上記のような患者が来院した場合どうしましょうか? 答えは、基本的には触手の除去と対症療法です。「えっ?」となるかもしれませんが、残念ながらそれ以上できることはありません。クラゲは全世界に1万種類いるとされ、そのうち100種類が毒を持っています1)。触手に刺胞というものが存在し、人間の皮膚などに接触すると浸透圧で破れて毒素が外に出ます。この毒素を移行させる速度は生物の中で最も早いとのことです2)。受診前の対応として、受傷時に酢で洗う、50℃くらいのお湯で洗うなどの方法があります。いずれも毒であるタンパクを分解することを目的にしています。しかし、酢は効果があるクラゲと効果がないクラゲがいて、刺胞が残っている場合は浸透圧の関係でさらに破れて毒が回る可能性があるためお勧めできません。お湯も同様です。よほどクラゲに詳しくない限り、現場ではクラゲの触手が残っているときは海水で洗い流すのが無難です(水道水だと刺胞が破れることがあります)。では受診してからはどうしましょうか? これは救急のABC(気道、呼吸、循環)のチェックと同じです。というのも、クラゲの毒の作用機序はほぼ同じですが、毒の強さが異なります。わが国で毒素の強いクラゲはカツオノエボシ(図1)とハブクラゲ(図2)が挙げられます。カツオノエボシは思わず触ってしまいそうですね。図1 カツオノエボシ図2 ハブクラゲカツオノエボシは本州の太平洋沿岸にカツオが到来する時期に海流に乗って来て、浮き袋の見た目が烏帽子に似ていることから三浦半島や伊豆半島でカツオノエボシと呼ばれるようになりました。主に本州以南の太平洋沿岸で春から秋にかけて発見され、被害は7月と8月に多いです3)。ハブクラゲは傘高20cmに達する大型のクラゲで、国内では琉球列島にのみ生息しています。傘の四隅に触手を7~9本備えていて、ハブに例えられる強烈な刺胞毒を持ち、刺されると電気が走ったような痛みとともにミミズ腫れになることもあります4)。双方とも重症化した場合、全身症状としては、局所症状の後、30~120分以内の背部痛や筋肉痛、痙攣、頭痛、嘔吐、高血圧、急性心不全、急性肺水腫、脳浮腫などを認め、死亡することもあります。全身症状は内因性カテコールアミンの上昇が関与していると考えられていて、イルカンジというクラゲによって生じるという報告があり、イルカンジ症候群と呼ばれています。受傷したとしても必ず重症化するわけではなく、カツオノエボシの重症度は軽症が66.9%、中等症が10.4%、重症が0.7%、死亡が0.05%、不明が22.0%です。いずれにせよABCに異常がある場合は、すぐに高次医療機関への転院が必要です。長くなりましたが症例に戻ります。順を追って対応しましょう。(1)ABCのチェック通常、独歩で受診する人はABCが崩れていることはないですが、万が一に備えて確認しましょう。(2)傷口の観察まず確認するのはクラゲの触手が残っていないかどうかです。残っていた場合、素手では取らず、手袋をして、さらに可能であれば鑷子で取り除きましょう。クラゲの傷であれば触手に沿った水ぶくれをみとめます。(3)治療治療は基本的には対症療法です。痛みに対しては、痛み止めの内服薬を処方します。以上が、クラゲ刺傷の処置になります。まれに重症化するクラゲに刺されることがありますが、それ以外は基本的に怖い病態ではありません。図3のように海岸に打ち上げられていることもあるので、むやみにクラゲを触るのはやめましょう。図3 打ち上げられたクラゲ1)Cegolon L, et al. Mar Drugs. 2013;11:523-550.2)Tardent P. BioEssays. 1995;17:351-362.3)稲葉大地 ほか. 医学のあゆみ. 2022;281:291-295.4)黒潮生物研究所公:ハブクラゲ

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静注鎮静薬―機械呼吸管理下ARDSの生命予後を改善(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

 成人呼吸促迫症候群(ARDS:acute respiratory distress syndrome)の概念が提唱されて以来約70年が経過し、多種多様の治療方針が提唱されてきた。しかしながら、ARDSに対する機械呼吸管理時の至適鎮静薬に関する十分なる検討結果は報告されていなかった。本論評では、フランスで施行された非盲検無作為化第III相試験(SESAR試験:Sevoflurane for Sedation in ARDS trial)の結果を基に成人ARDSにおける機械呼吸管理時の至適鎮静薬について考察するが、その臨床的意義を理解するために、ARDSの病態、薬物治療、機械呼吸管理など、ARDSに関する臨床像の全体を歴史的背景を含め考えていくものとする。ARDSの定義と病態 ARDSは1967年にAshbaughらによって提唱され、多様な原因により惹起された急激な肺組織炎症によって肺血管透過性が亢進し、非心原性急性肺水腫に起因する急性呼吸不全を招来する病態と定義された(Ashbaugh DG, et al. Lancet. 1967;2:319-323.)。ARDSの同義語としてacute lung injury(ALI:急性肺損傷)が存在する。ALIは1977年にMurrayらによって提唱された概念で、ALIの重症型がARDSに相当する(Murray JF. Am Rev Respir Dis. 1977;115:1071-1078.)。 ARDS発症1週以内は急性期と呼称され、肺胞隔壁の透過性亢進に起因する肺水腫を主体とするびまん性肺組織損傷(DAD:diffuse alveolar damage)を呈する。発症より1~2週が経過すると肺間質の線維化、II型肺胞上皮細胞の増殖が始まる(亜急性期)。発症より2~4週以上が経過すると著明な肺の線維化が進行し、肺組織破壊に起因する気腫病変も混在するようになる(慢性期)。本論評では、ARDS発症より2週以内をもって急性期、2~4週経過した場合を亜急性期、4週以上経過した場合を慢性期と定義する。 ARDSにおける肺の線維化は特発性間質性肺炎(肺線維症)の末期像に相当するものであり、10年の経過を要する肺線維症の病理像がわずか数週間で確立してしまう恐ろしい病態である(急性肺線維症)。急性期ARDSの主たる死亡原因が急性呼吸不全(重篤な低酸素血症)であるのに対して、慢性期のそれは急性肺線維症に起因する慢性呼吸不全に関連する末梢組織/臓器の多臓器障害(MOF:multiorgan failure)である。以上のように、ARDSにおける急性期病変と慢性期病変は質的に異なる病態であり、治療方針も異なることに留意する必要がある。急性期ARDSの薬物治療―歴史的変遷 新型インフルエンザ、新型コロナなど、人類が免疫を有さない新たな感染症のパンデミック時期を除いて、ARDSの年間発症率は2~8例/10万例と想定されており、急性期の致死率は25~40%である。ARDS発症に関わる分子生物学的病態解明に対する積極的な取り組み、それらを基礎とした多種多様の急性期治療が試みられてきた。しかしながら、ARDSの急性期致死率は上記の値より少し低下してきているものの、2025年現在、明確な減少が確認されていないのが現状である。 世界各国において独自のARDS診療ガイドラインが作成されているが、本邦でも、日本呼吸療法医学会(1999年、2004年)、日本呼吸器学会(2005年、2010年)ならびに、日本集中治療医学会、日本呼吸器学会、日本呼吸療法医学会の3学会合同(2016年、2021年)によるARDS診療ガイドラインが作成された。これらの診療ガイドラインにあって2021年に作成された3学会合同のガイドラインには、成人ARDSに加え小児ARDSの治療、呼吸管理に関しても項目別にコメントが示されており臨床的に有用である(ARDS診療ガイドライン2021作成委員会編. 日集中医誌. 2022;29:295-332.)。 以上のARDS診療ガイドラインの臨床現場における有用性は、2020年3月~2023年5月の約3年間にわたる新型コロナパンデミックに起因する中等症II(呼吸不全/低酸素血症を合併)、重症(ICU入院、機械呼吸管理を要する)のARDSを基に検証が進められた。新型コロナ惹起性重症ARDSに対する薬物治療にあって最も重要な知見は、免疫過剰抑制薬としての低用量ステロイドによるARDS発症1ヵ月以内の生命予後改善効果である(RECOVERY Collaborative Group. N Engl J Med. 2021;384:693-704.)。以上に加え、低用量ステロイド併用下で免疫抑制薬であるIL-6拮抗薬トシリズマブ(商品名:アクテムラ)が新型コロナ関連ARDSの早期生命予後を改善することが報告された(RECOVERY Collaborative Group. Lancet. 2021;397:1637-1645.)。さらに、抗ウイルス薬レムデシビル併用下で免疫抑制薬JAK-STAT阻害薬であるバリシチニブ(商品名:オルミエント)が新型コロナによる早期ARDSの生命予後を改善することも示された(RECOVERY Collaborative Group. Lancet. 2022;400:359-368.)。 以上の結果を踏まえ、本邦における中等症II以上の重篤な新型コロナ感染症に対する急性/亜急性期の基本的薬物治療として上記3剤の使用が推奨されたことは記憶に新しい。しかしながら、以上の結果は、早期の新型コロナ感染に対する知見であり、感染後1ヵ月以上経過した慢性期(肺線維症形成期)に対するものではない。 ARDSの慢性期においてステロイドを持続的に投与すべきか否かに関する確実な検証(投与量、期間)はなされておらず、ARDSの慢性期を含めた長期生命予後に対してステロイドがいかなる効果をもたらすかは今後の重要な検討課題の1つである。さらに、ARDSの病態を呈しながら中/高用量のステロイド投与の効果が証明されているARDSも存在することを念頭に置く必要がある(脂肪塞栓、ニューモシスチス肺炎、胃酸の誤飲、高濃度酸素曝露、異型性肺炎、薬剤性、急性好酸球性肺炎などに起因するARDS)。一方、グラム陰性桿菌の敗血症に起因する重症ARDSに対しては、新型コロナ感染症の場合と同様に低用量ステロイド投与を原則とする(Bone RC, et al. N Engl J Med. 1987;317:653-658.)。以上のように、重症ARDSに対する初期ステロイドの投与量はARDSの原因によって異なることに留意する必要がある(山口. 現代医療. 2002;34(増3):1961-1970.)。ARDSの呼吸管理―静注鎮静薬による生命予後の改善 重症ARDSの呼吸管理は、非侵襲的陽圧換気(NPPV:non-invasive positive pressure ventilation)や高流量鼻カニュラ酸素療法(HFNC:high flow nasal cannula)など、気管挿管なしの非侵襲的呼吸補助から始まる。しかしながら、気管挿管の遅れはARDSの死亡リスクを上昇させる危険性が指摘されている。非侵襲的手段で呼吸不全が管理できない場合には、気管挿管下の呼吸管理に早期に移行する必要がある。 気管挿管下の呼吸管理は、一回換気量(TV:tidal volume)を抑制したlow tidal ventilation(L-TV、TV=4~8mL/kg)に比較的高い呼気終末陽圧呼吸(PEEP:positive end-expiratory pressure、PEEP=10cmH2O以上)を加味して開始される(肺保護換気)。L-TVはARDSで損傷した肺組織のさらなる損傷悪化を抑制すると同時に生体内CO2貯留を許容する換気法でpermissive hypercapniaとも呼称される。L-TVの効果を上昇させるものとして腹臥位呼吸法がある(肺の酸素化効率を上昇)。急性期ARDSに対するpermissive hypercapniaの臨床的重要性(早期の生命予後改善効果)は1990年から2000年代初頭にかけて世界で検証が試みられたが、確実に“有効”と結論できるものではなかった(cf. Acute Respiratory Distress Syndrome Network. N Engl J Med. 2000;342:1301-1308.)。人工呼吸器管理で酸素化が維持できない場合に、肺保護の一環として体外式膜型人工肺(ECMO:extracorporeal membrane oxygenation)が適用される。ECMOによる肺保護治療が注目されたのは、2009年の新型インフルエンザパンデミックの発生時であった。その教訓を生かし、2020年における本邦のECMO設置率は50病床に1台と、世界有数のECMO保有国に成長した。しかしながら、高額医療であるECMO導入によって急性期ARDSの生命予後が真に改善するかどうかに関する臨床データは不十分であり、今後の検証が望まれる。 以上のように、現在のところ、呼吸管理法としていかなる方法がARDSの生命予後改善に寄与するかを確実に検証した試験は存在しない。今回論評するSESAR試験は、フランス37ヵ所のICUで施行された侵襲的機械呼吸施行時における吸入鎮静薬(セボフルラン、346例)と静注鎮静薬(プロポフォール、341例)の比較試験である。SESAR試験は、新型コロナ感染症が猛威を振るった2020~23年に施行されたもので、試験対象の50%以上が新型コロナに起因する中等症以上の成人ARDSであった。しかしながら、敗血症、誤飲、膵炎、外傷など、他の原因によるARDSも一定数含まれ、ARDS全体の動向を近似的に反映した試験と考えてよい。本試験において、ARDSの重症度、抗菌薬、ステロイド、機械呼吸の内容を含め、鎮静薬以外の因子は両群でほぼ同一に維持された。primary endpointとして試験開始28日以内の機械呼吸なしの日数、key secondary endpointとして試験開始90日での死亡率が検討された。その結果、28日以内の機械呼吸なしの日数、90日での死亡率はともに、静注鎮静薬プロポフォール群で有意に優れていることが判明した(90日目の死亡率:プロポフォール群でセボフルラン群に比べ1.3倍低い)。以上の内容は、ARDS発症後の慢性期(ARDS発症後4週以上で肺線維症形成期)に対しても静注鎮静薬による急性期呼吸管理が有利に働くことを示したものであり、ある意味、驚くべき結果と言ってよい。 以上、静注鎮静薬による初期呼吸管理がARDS慢性期の生命予後を有意に改善することが示されたが、今後、多数の侵襲的呼吸管理法の中でいかなる方法が急性~慢性期のARDSの生命予後改善に寄与するかに関し、組織的な比較試験が施行されることを望むものである。

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急性呼吸不全、高流量経鼻酸素vs.非侵襲的人工換気/JAMA

 急性呼吸不全患者への呼吸支持療法として、高流量経鼻酸素療法(HFNO)は非侵襲的人工換気(NIV)に対して非劣性なのか。ブラジル・Hcor Research InstituteのAlexandre Biasi CavalcantiらRENOVATE Investigators and the BRICNet Authorsは、急性呼吸不全患者を原因で5群に層別化して、無作為化非劣性検証試験「RENOVATE試験」を行い、4群(免疫不全の低酸素血症、呼吸性アシドーシスを来したCOPD増悪、急性心原性肺水腫[ACPE]、低酸素血症を伴うCOVID-19)について非劣性が示されたことを報告した。ただし、サンプルサイズや感度分析の観点から結果は限定的であるとしている。急性呼吸不全患者の呼吸支持療法として、HFNOとNIVはいずれも一般的に用いられている。JAMA誌オンライン版2024年12月10日号掲載の報告。ブラジルの33病院で実施、5群で7日以内の気管内挿管または死亡を評価 試験は2019年11月~2023年11月にブラジルの33病院で行われ、急性呼吸不全を呈し入院した18歳以上の患者を5群に層別化し、7日時点の気管内挿管または死亡の発生率について、HFNOのNIVに対する非劣性を検証した。5群の内訳は、(1)非免疫不全の低酸素血症群、(2)免疫不全の低酸素血症群、(3)呼吸性アシドーシスを来したCOPD増悪群、(4)ACPE群、(5)低酸素血症を伴うCOVID-19群(2023年6月26日に試験プロトコールに追加)であった。最終フォローアップは2024年4月26日。 主要アウトカムは、7日以内の気管内挿管または死亡で、患者群間の動的利用(dynamic borrowing)法を用いた階層ベイズモデルで評価した。非劣性は、オッズ比(OR)が1.55未満となる事後確率(NPP)が0.992以上と定義された。低酸素血症を伴うCOVID-19群でHFNOの非劣性を検証 1,800例が登録・無作為化され、1,766例(平均年齢64[SD 17]歳、女性707例[40%])が試験を完了した(HFNO群883例、NIV群883例)。 主要アウトカムの発生率は、HFNO群39%(344/883例)、NIV群38%(336/883例)であった。 非免疫不全の低酸素血症群では、主要アウトカムの発生率はHFNO群57.1%(16/28例)、NIV群36.4%(8/22例)であった。同患者の登録は無益性により途中で中止され、最終ORは1.07(95%信用区間[CrI]:0.81~1.39)、非劣性のNPPは0.989であった。 免疫不全の低酸素血症群では、主要アウトカムの発生率はHFNO群32.5%(81/249例)、NIV群33.1%(78/236例)であった(OR:1.02[95%CrI:0.81~1.26]、NPP:0.999)。 ACPE群では、主要アウトカムの発生率はHFNO群10.3%(14/136例)、NIV群21.3%(29/136例)であった(OR:0.97[95%CrI:0.73~1.23]、NPP:0.997)。 低酸素血症を伴うCOVID-19群では、主要アウトカムの発生率はHFNO群51.3%(223/435例)、NIV群47.0%(210/447例)であった(OR:1.13[95%CrI:0.94~1.38]、NPP:0.997)。 呼吸性アシドーシスを来したCOPD増悪群では、主要アウトカムの発生率はHFNO群28.6%(10/35例)、NIV群26.2%(11/42例)であった(OR:1.05[95%CrI:0.79~1.36]、NPP:0.992)。 しかしながら、5群にわたる動的利用法を用いない事後解析では、呼吸性アシドーシスを来したCOPD増悪群、免疫不全の低酸素血症群、ACPE群でいくつかの質的に異なる結果が示された。著者は、「これら患者群についてはさらなる試験が必要」としている。 重篤な有害事象の発現率は、HFNO群(9.4%)とNIV群(9.9%)で同程度であった。

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第204回 アドレナリンを「打てない、打たない」医者たちを減らすには(前編) アナフィラキシーが呼吸器系の症状や循環器症状が単独で起こった場合は判断が難しい

インタビュー: 海老澤 元宏氏(国立病院機構相模原病院 臨床研究センター長)昨年11月8日掲載の、本連載「第186回 エピペンを打てない、打たない医師たち……愛西市コロナワクチン投与事故で感じた、地域の“かかりつけ医”たちの医学知識、診療レベルに対する不安」は、2023年に公開されたケアネットのコンテンツの中で最も読まれた記事でした。同記事が読まれた理由の1つは、この事故を他人事とは思えなかった医師が少なからずいたためだと考えられます。そこで、今回と次回はこの記事に関連して行った、日本アレルギー学会理事長である海老澤 元宏氏(国立病院機構相模原病院 臨床研究センター長)へのインタビューを掲載します。愛西市コロナワクチン投与事故の背景には何があったと考えられるのか、「エピペンを打てない、打たない医師たち」はなぜ存在するのか、「アナフィラキシーガイドライン2022」のポイントなどについて、海老澤氏にお聞きしました。(聞き手:萬田 桃)アドレナリンは“心肺蘇生に使う薬”というイメージを抱いている方がまだまだ多い――この記事が多くの読者に読まれた理由について、先生はどうお考えですか。海老澤タイトルにあるように、「エピペンを打てない、打たない医師」は実際に少なくなく、そうした方が読んだということが1つ考えられます。また、ワクチンの集団接種会場ということで、医師会などから依頼されて医師等が接種を行うわけですが、アナフィラキシーなど、万が一のことが起こった場合に、その場ですぐに全身管理ができるような体制は多くの会場で整っていなかったと考えられます。そういった意味で、「自分にも起こり得た事件だった」と捉えた方も多かったのかもしれません。――「エピペン」こと、アドレナリンを「打てない、打たない医師」はまだ結構いるのでしょうか。海老澤アドレナリンの筋肉注射については、僕らの世代から上の医師だと、”心肺蘇生に使う薬”というイメージを抱いている方がまだまだ多い印象です。最近は、医師国家試験でもアナフィラキシーの時のアドレナリン筋注は第一選択だということが設問になるくらいで、若い医師たちには十分浸透していることだと思います。しかし、一方で少し世代が上になると、「まずアドレナリン筋注」とは考えない医師は存在します。使った経験がない人だと躊躇してしまうことはある――今回のコロナワクチンのアナフィラキシーに最初に対応した医師は、事故報告書によれば「内科医、医師歴5年以上10年未満」となっていました。海老澤比較的若い医師だったのですね。今回のケースに当てはまるかどうかはわかりませんが、アナフィラキシーの患者にこれまで遭遇したことがある医師は、アナフィラキシーの患者を目の前にして、すぐに筋注しても問題はないと理解していると思うのですが、使った経験がない人だと躊躇してしまうことはあると思います。これまでにアナフィラキシーの患者さんを1人も診たことがなく、対処法に慣れていない医師は全国で少なくないと思います。仮に病院での治療中に起きたアナフィラキシーだったら、筋注後すぐにICUに運びルートを取り、アドレナリンを希釈して投与することも可能です。酸素投与もできます。また、手術中であればすでにルートが取れているので、即時対応が可能です。しかし、アナフィラキシーの初期対応としてアドレナリン筋注(0.1%アドレナリンの筋肉内注射、またはアドレナリン自己注射用製剤〈エピペン0.3mg製剤の投与〉)が第一選択だというのは基本中の基本です。もちろん、糖尿病や高血圧、動脈硬化など基礎疾患があるような方だと、アドレナリンを打って血圧が急上昇して脳出血を起こしたりするリスクは全くゼロではありません。そうしたリスクとベネフィットを考えて投与するわけですが、打って害になることは少ないと思います。アナフィラキシーが呼吸器系の症状や循環器症状が単独で起こった場合は判断が難しい――報告書によれば、看護師の1人は、アナフィラキシーの可能性を考え、アドレナリン1mgプレフィールドシリンジに22ゲージ針を付け、医師の指示があればいつでも筋注できるよう準備をしていましたが、「医師の判断を尊重するため、アドレナリンの準備ができていることを積極的に伝えようとはしなかった」とのことです。海老澤なるほど。ただ、そこは医師の判断ですから難しいですね。あともう1つ考えられるのは、アナフィラキシーの症状が典型的なパターンではなく、それが見逃しにつながった可能性です。――報告書では、「接種前から体調不良、呼吸苦があったようだという看護師からの情報と、粘膜所見、皮膚所見、掻痒感、消化器症状など『アナフィラキシーで典型的な症状』がなかったことから、女性の病態はアナフィラキシーの可能性が低いと判断し、アドレナリンの筋肉内注射を第一治療選択から外した」と書かれています。海老澤アナフィラキシーが呼吸器系の症状や、血圧低下などの循環器症状が単独で起こった場合は、判断が難しいというのは確かにあります。2022年に改訂した「アナフィラキシーガイドライン」1)では、診断基準が2つに集約されました。1つは、「皮膚、粘膜、またはその両方の症状(全身性の蕁麻疹、瘙痒または紅潮、口唇・舌・口蓋垂の腫脹など)が急速に(数分~数時間)で発症した場合」。もう1つが「典型的な皮膚症状を伴わなくても、当該患者にとって既知のアレルゲンまたはアレルゲンの可能性が高いものに曝露された後、血圧低下または気管支痙攣または咽頭症状が急速に(数分〜数時間)で発症した場合」となっています。この2番目は、循環器症状と呼吸器症状の単独の場合を言っているわけです。アナフィラキシーの基本は皮膚症状なのですが、典型的な皮膚症状がなくても、アナフィラキシーを疑う場面で、血圧低下または気管支攣縮、咽頭症状などの呼吸器症状があればアドレナリンを打つ、というのが2022年改訂の大きなポイントです。ワクチンもそうですが、薬剤等の場合にこうした呼吸器症状、循環器症状単独のアナフィラキシーが起こりやすく、かつ症状が進行するスピードも早く時間的余裕もないので、そこはとくに注意が必要です。重症の方の場合、アドレナリン投与1回では効かないこともある――今回の事故で「打たなかった」背景にはいろいろな原因が考えられるわけですね。海老澤今回の事例に直接当てはまるかどうかは軽々に言えませんが、「アナフィラキシーの典型的な症状ではなく判断が難しかった」「アナフィラキシーに対する医療者の経験値、慣れが足りなかった」「何か起こった場合に対応する医療体制が乏しかった」ことなどが教訓として挙げられると思います。ただ、症状の進行はものすごく速かったと考えられるので、アドレナリンの1回の筋注で軽快していたかどうかはわかりません。重症の方の場合、アドレナリン投与1回では効かないこともあります。それでもダメな場合は、ルートを取って輸液したり、酸素を投与したりと全身管理が必要になってきます。救命できるかどうかは、そういった一連の流れの中で決まってきます。(この項続く)(2024年1月23日収録)【事故の概要】2022年11月、愛知県愛西市の集団接種会場で、新型コロナワクチンを接種した女性(当時42)が直後に容体が急変し死亡しました。愛西市がまとめた報告書2)によれば、接種4分後から女性に咳嗽と呼吸苦が発現したにもかかわらず、看護師らは「ワクチン接種前からマスク着用の圧迫感による過呼吸発作状態にあったもの」と解釈していました。また、体調不良者が出たことで対応を依頼された医師も「接種前から体調不良、呼吸苦があったようだ」という看護師からの情報と、粘膜所見、皮膚所見、掻痒感、消化器症状など「アナフィラキシーで典型的な症状」がなかったことから、女性の病態はアナフィラキシーの可能性が低いと判断し、アドレナリンの筋肉内注射を第一治療選択から外してしまいました。女性は接種14分後に心停止、3次救急病院に搬送されるも到着時にはすでに心肺停止状態で、心肺蘇生を試みた後、死亡が確認されました。報告書で愛西市医療事故調査委員会は、「ワクチン接種後待機中の患者の容体悪化(咳嗽、呼吸苦の訴え)に対し、看護師らがアナフィラキシーを想起できなかったこと、問診者に接種前の患者の状態を確認することなく、患者は接種前から調子が悪かったと解釈したことは標準的ではなかった。また、その情報に影響を受け、ワクチン接種後患者の容体変化に対し、アドレナリンの筋肉内注射が医師によって迅速になされなかったことは標準的ではなかった」とし、「本事例は、ワクチン接種後極めて短時間に患者が急変し、死亡に至ったものである。非心原性肺水腫による急性呼吸不全及び急性循環不全が直接死因であると考えられ、この両病態の発症にはアナフィラキシーが関与していた可能性が高い。本事例は短時間で進行した重症例であることから、アドレナリンが投与されたとしても救命できなかった可能性はあるが、特に早期にアドレナリンが投与された場合、症状の増悪を緩徐にさせ、高次医療機関での治療につなげ、救命できた可能性を否定できない」と結論付けました。参考1)アナフィラキシーガイドライン2022/日本アレルギー学会2)事例調査報告書/愛西市

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既往帝王切開、多面的介入で周産期合併症が減少/Lancet

 帝王切開分娩歴が1回の女性において、分娩方法の選択を支援しベストプラクティスを促進する多面的な介入により、帝王切開分娩や子宮破裂の発生率が増加することなく、主要な周産期合併症および妊産婦合併症の罹患率が有意に減少した。カナダ・ラヴァル大学のNils Chaillet氏らが、多施設共同クラスター無作為化非盲検比較試験「PRISMA試験」の結果を報告した。帝王切開分娩歴のある女性は、次の妊娠で難しい選択に直面し、再度帝王切開分娩を行うにしても経膣分娩を試みるにしても、いずれも母体および周産期合併症のリスクがあった。Lancet誌2024年1月6日号掲載の報告。意思決定支援やベストプラクティスなどの介入群vs.非介入(対照)群 研究グループはカナダ・ケベック州の公立病院40施設を、1年間のベースライン期間後にブロック無作為化法により医療レベル(地域病院、基幹病院、3次病院)で層別化して介入群と非介入(対照)群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 介入群には、帝王切開分娩歴のある女性の分娩期ケアに対するベストプラクティスに関する研修や臨床ツール(陣痛モニタリングの臨床アルゴリズムと改良パルトグラフ、分娩方法に関する意思決定支援ツール)の提供を行い、ベストプラクティスの実施、経膣分娩の可能性や超音波検査による子宮破裂リスクの推定などを実施することとした。対照群は介入なしとした。実施期間は5~8ヵ月で、介入期間は2年であった。 主要アウトカムは、死亡を含む主要周産期合併症(分娩時または新生児死亡、Apgarスコア5分値4未満、代謝性アシドーシス、重症外傷、脳室内出血、脳室周囲白質軟化症、痙攣発作、侵襲的人工呼吸、重大な呼吸器疾患、壊死性腸炎、低酸素性虚血性脳症、新生児敗血症、昇圧剤を要する低血圧)の複合リスクとし、帝王切開分娩歴が1回のみで、参加施設で出産し、新生児の在胎週数が24週以上、出生時体重500g以上の単胎妊娠の女性を解析対象とした。介入群で主要周産期合併症、母体の主要合併症が有意に減少 2016年4月1日~2019年12月13日に分娩した適格女性は、2万1,281例であった(介入群1万514例、対照群1万767例)。追跡不能例はなかった。 主要周産期合併症罹患率は、対照群ではベースライン期間の3.1%(110/3,507例)から介入期間は4.3%(309/7,260例)に増加したが、介入群では4.0%(141/3,542例)から3.8%(265/6,972例)に減少し、介入群において対照群と比較しベースライン期間から介入期間の主要周産期合併症罹患率の有意な減少が認められた(補正後オッズ比[OR]:0.72[95%信頼区間[CI]:0.52~0.99]、p=0.042、補正後絶対群間リスク差:-1.2%[95%CI:-2.0~-0.1])。介入の効果は、病院の医療レベルにかかわらず同等であった(交互作用のp=0.27)。 母体の主要合併症(妊産婦死亡、子宮摘出、血栓塞栓症、4日以上のICU入室、急性肺水腫、心原性ショック、敗血症、内臓損傷、子宮破裂)の罹患率も、対照群と比較して介入群で有意に減少した(補正後OR:0.54、95%CI:0.33~0.89、p=0.016)。 軽度の周産期合併症および母体合併症の罹患率、帝王切開分娩率、子宮破裂率については、両群間で有意差は確認されなかった。

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デキサメタゾン製剤、アセタゾラミドなどに「重大な副作用」追加/厚労省

 厚生労働省は1月10日、アセタゾラミドやデキサメタゾン製剤などの添付文書について、使用上の注意改訂指示を発出した。炭酸脱水酵素阻害薬のアセタゾラミド、アセタゾラミドナトリウム(商品名:ダイアモックス)には重大な副作用として「急性呼吸窮迫症候群、肺水腫」が、デキサメタゾン製剤(経口剤および注射剤)や副腎皮質ホルモン製剤(経口剤および注射剤)のうちリンパ系腫瘍の効能を有する製剤には重大な副作用として「腫瘍崩壊症候群」が追加された。重大な副作用「急性呼吸窮迫症候群、肺水腫」追加 急性呼吸窮迫症候群および肺水腫関連の症例を評価した結果、アセタゾラミド、アセタゾラミドナトリウムと急性呼吸窮迫症候群および肺水腫との因果関係が否定できない症例(国内11例のうち9例、海外6例のうち4例)が集積したため。<該当医薬品>アセタゾラミドアセタゾラミドナトリウム重大な副作用「腫瘍崩壊症候群」追加 腫瘍崩壊症候群の症例を評価した結果、デキサメタゾン製剤(経口剤および注射剤)、プレドニゾロン製剤(経口剤および注射剤)、メチルプレドニゾロン製剤(経口剤および注射剤)、およびヒドロコルチゾン製剤(注射剤)について、腫瘍崩壊症候群との因果関係が否定できない症例(国内17例のうち6例、海外34例のうち22例)が集積したため。<該当医薬品>1.デキサメタゾン(経口剤)2.デキサメタゾンパルミチン酸エステル3.デキサメタゾンリン酸エステルナトリウム(注射剤)4.プレドニゾロン(経口剤)5.プレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム6.プレドニゾロンリン酸エステルナトリウム7.メチルプレドニゾロン8.メチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム9.メチルプレドニゾロン酢酸エステル10.コルチゾン酢酸エステル11.ヒドロコルチゾン12.ヒドロコルチゾンコハク酸エステルナトリウム(効能又は効果にリンパ系腫瘍を含む)13.ヒドロコルチゾンコハク酸エステルナトリウム(効能又は効果にリンパ系腫瘍を含まない)14.ヒドロコルチゾンリン酸エステルナトリウム 1、3~5、7~12のように効能又は効果にリンパ系腫瘍を含む製剤については「重要な基本的注意」と「重大な副作用」の項に腫瘍崩壊症候群に関する記載を追記される。それ以外の製剤については「重要な基本的注意」の項に追記される。 なお、プレドニゾロン製剤(注腸剤)およびコルチゾン・ヒドロコルチゾン製剤(経口剤)については、腫瘍崩壊症候群の症例の集積はないが、同一の活性体などの集積を踏まえ、同内容に改訂することが適切と判断された。一方で、トリアムシノロン製剤(経口剤および注射剤)およびベタメタゾン製剤(経口剤、坐剤、注射剤および注腸剤)については、腫瘍崩壊症候群の症例の集積がないことから、現時点では使用上の注意の改訂は不要と判断された。

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第70回 「道頓堀肺」

道頓堀川の溺水Unsplashより使用阪神タイガースが38年ぶりに日本一になったことを受けて、大阪・ミナミの道頓堀川に37人が飛び込んだことが話題となりました。カーネルサンダースのコスプレをした人や、女子のスクール水着で飛び込む人がいたので、テンションが上がって目立ちたい一心で飛び込んだのでしょう。道頓堀川は、水深が3メートル以上あり、石タイルの歩道によじ登るのが至難の業であることから、泳げない人にとっては溺水のリスクが高い川とされています。周囲にたくさん人がいるので、引き上げてくれる人がいるというのは利点ですが、飛び込みによって過去に溺水で何人か死亡している現状があります。かれこれ10年ほど前になりますが、私が年始に大阪市内の医療機関で当直バイトをしていたところ、溺水症例が運ばれてきたことがありました。戎橋で新年を祝っていたところ、盛り上がって思わず飛び込んでしまったというのです。溺水の程度としては軽いもので、すぐに退院となったわけですが、溺水のためかちょっと肺水腫様のすりガラス陰影とCRP上昇がありました。一緒に当直していた医師が、「うーむ、これはいわゆる『道頓堀肺』だな」とウマイことを言っていました。呼吸器内科目線で修正すると、「○○肺」というのは基本的に抗原を吸入して起こる過敏性肺炎のときに使われる用語なので、不適当なのですが。まあ、細かいことはおいといて。道頓堀川は汚いのか?道頓堀川は、高度経済成長期に工場排水や下水が流れ込み、川底には黒いヘドロが溜まっていました。大阪市はヘドロや粗大ごみを何度も撤去したり、水門を操作して上流から比較的きれいな水を流し込んだりしてきました。2002年のサッカーワールドカップでは、2,000人近くが飛び込みました。お腹が痛くなったり目の病気になったりする人が続出したことが報道されたので、当時はまだかなり川は汚かったと思います。しかし、現在は、魚介類が住める環境になっているそうです。生物化学的酸素要求量はアユで3mg/L以下が目安ですが、道頓堀川は2018年時点で、これを下回っているとされています。なので、現在の道頓堀の溺水症例は、通常の都市河川の溺水とそんなに変わらないのかもしれません。

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第186回 エピペンを打てない、打たない医師たち……愛西市コロナワクチン投与事故で感じた、地域の“かかりつけ医”たちの医学知識、診療レベルに対する不安

新型コロナワクチン接種後に女性が死亡した問題で事故調査委員会が報告書公表こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。MLBのワールドシリーズ、NPBの日本シリーズが終わり、今年の野球シーズンも終幕を迎えました。ワールドシリーズは、テキサス・レンジャーズがアリゾナ・ダイヤモンドバックスを4勝1敗で破り、初優勝を飾りました。総じて地味で大味な戦いでしたが、かつてヤクルト・スワローズに在籍したことがあるという、ダイヤモンドバックスのトーリ・ロブロ監督の、バントや盗塁を駆使した日本の高校野球のような戦い方(「スモール・ベースボール」と呼んでいました)はなかなか興味深かったです(レンジャーズに1勝しかできませんでしたが…)。一方、第7戦までもつれた日本シリーズは、第6戦の山本 由伸投手の目が覚めるような完投劇があったものの、勢い勝った阪神タイガースの38年振りの日本一で幕を閉じました。オリックス第7戦登板の宮城 大弥投手は、立ち上がりはとてもいい出来に見えました。しかし、阪神のシェルドン・ノイジー外野手に投げたチェンジアップが少しだけ甘く入り、先制3ラン。あの失投さえなければ投手戦がそのまま続き、勝敗はどうなっていたかわかりません。いずれにせよ、山本投手はいいお土産を持って米国に渡ることになります。これから1、2ヵ月は大谷 翔平選手、山本投手のFA移籍先報道が熱くなるでしょう。さて今回は、昨年、愛知県愛西市で新型コロナワクチン接種後に女性が死亡した問題で、1ヵ月ほど前に愛西市医療事故調査委員会が公表した調査報告書について書いてみたいと思います。「早期にアドレナリンが投与された場合、救命できた可能性を否定できない」と結論付けた報告書ですが、なぜ、アドレナリンが適切に投与されなかったのか、アナフィラキシーを起こしている患者を前にしてその判断ができなかった医師は、どんなキャリアでどれくらいの診療レベルだったのかについて、報告書には詳細に書かれていません。「かかりつけ医機能」が発揮されるための制度整備が議論されている中、地域の医師会の医師たちの医学知識、診療レベルを疑うような事例だけに、せっかく報告書を公表するならば、そのあたりまで突っ込んでもらいたいと思いました。「早期にアドレナリンが投与された場合、救命できた可能性を否定できない」と結論この事故は、昨年11月、愛西市の集団接種会場で、新型コロナワクチンを接種した女性(当時42)が直後に容体が急変し死亡した、というものです。専門家らで構成された愛西市医療事故調査委員会は9月26日、調査報告書1)を公表、「本事例は、ワクチン接種後極めて短時間に患者が急変し、死亡に至ったものである。非心原性肺水腫による急性呼吸不全及び急性循環不全が直接死因であると考えられ、この両病態の発症にはアナフィラキシーが関与していた可能性が高い。本事例は短時間で進行した重症例であることから、アドレナリンが投与されたとしても救命できなかった可能性はあるが、特に早期にアドレナリンが投与された場合、症状の増悪を緩徐にさせ、高次医療機関での治療につなげ、救命できた可能性を否定できない」と結論付けました。医療者たちの対応はことごとく「標準的ではなかった」さらに、「ワクチン接種後待機中の患者の容体悪化(咳嗽、呼吸苦の訴え)に対し、看護師らがアナフィラキシーを想起できなかったこと、問診者に接種前の患者の状態を確認することなく、患者は接種前から調子が悪かったと解釈したことは標準的ではなかった。また、その情報に影響を受け、ワクチン接種後患者の容体変化に対し、アドレナリンの筋肉内注射が医師によって迅速になされなかったことは標準的ではなかった」と、医療者たちの対応はことごとく「標準的ではなかった」と結論付けました。病態はアナフィラキシーの可能性が低いと医師が判断、アドレナリン筋肉内注射をせず報告書によれば、接種4分後から女性に咳嗽と呼吸苦が発現したにもかかわらず、看護師らは「ワクチン接種前からマスク着用の圧迫感による過呼吸発作状態にあったもの」と勝手に解釈していたとのことです。また、体調不良者が出たことで対応を依頼された医師も「接種前から体調不良、呼吸苦があったようだという看護師からの情報と、粘膜所見、皮膚所見、掻痒感、消化器症状など『アナフィラキシーで典型的な症状』がなかったことから、女性の病態はアナフィラキシーの可能性が低いと判断し、アドレナリンの筋肉内注射を第一治療選択から外し」てしまいました。そんな中、看護師の1人は「アナフィラキシーの可能性を考え、アドレナリン投与を想定し、注射器に22ゲージの針をつけ、医師の指示があればいつでも筋注できるよう準備をし」ていましたが、「医師の判断を尊重するため、アドレナリンの準備ができていることを積極的に伝えようとはしなかった」とのことです。接種14分後に心停止、3次救急病院に搬送されるも到着時にはすでに心肺停止状態さらに対応を依頼された医師は、「アナフィラキシーガイドライン2022」(日本アレルギー学会)の存在は認識していましたが、アナフィラキシーに比較的よくみられる所見や情報が乏しかったことに影響され、ガイドライン等に沿った対応、すなわち「0.1%アドレナリン(ボスミン1/2A)の筋肉内注射、またはアドレナリン自己注射用製剤(エピペン0.3mg製剤)の投与」を行いませんでした。なお、新型コロナウイルスワクチンの接種事業に協力する医師に対して海部医師会(医師たちが所属する医師会)は、医師たちに事前に準備された「アナフィラキシー対応マニュアル」を読んでおくよう指示していたとのことです。結局、この女性にアドレナリンが投与されることはなく、接種14分後に心停止、その後救急隊が呼ばれ、3次救急病院に搬送されるも到着時にはすでに心肺停止状態で、心肺蘇生を試みた後、死亡が確認されています。ハチ毒はアレルギーを獲得した後2回目に刺された時のアナフィラキシーが怖いエピペン(アドレナリン自己注射用製剤)については、私も少々苦い思い出があります。20年ほど前の秋、奥秩父の登山中にハチに刺されたことがあります。ハチ毒は、アレルギーを獲得した後の2回目に刺された時のアナフィラキシーが怖いと言われています。そこで私は近所の内科診療所を訪れ、エピペンの処方を頼みました。実は私の友人がその数年前、ハチに刺された数ヵ月後に蜂の子を食べ、アナフィラキシーで生死をさまよいました。その話を聞いていたので、「今後、山に登る時はエピペン所持が必要だ」と考えたのです。開業医にエピペン処方を断られるエピペンの日本での歴史はそう古くはありません。1995年、国有林で働く林業従事者のハチ毒対策のために米国で製造販売されていた製品を「治験扱い」で使用されたのが始まりです。その後、民有林での使用要望も出され、2003年に厚生労働省の製造販売承認が下りています。つまり、林業従事者のハチ毒対策が日本でのエピペン普及のきっかけだったのです。この時の適応は「蜂毒に起因するアナフィラキシー反応に対する補助治療(アナフィラキシーの既往のある人またはアナフィラキシーを発現する危険性の高い人に限る)」で、該当者は処方を受けて所持・使用することができるようになりました。その後、2005年には食物や薬物等によるアナフィラキシー反応および小児への適応も取得しています(ただし2011年までは保険が効かず自費)。私がハチに刺されたのは2003年の製造販売承認後だったので、内科診療所の医師は処方できたはずだったのですが、医師(60歳代)は「処方したことがない」「自分で打つのは危険だ」「全額自費だよ」などとさまざまな理由を挙げて、結局処方してもらえませんでした。「次、山で刺されたらアナフィラキシーで死ぬかもしれない」という私の切実な訴えも、まったく無視されました(その後、別の医療機関で入手し、数年間は登山時に所持)。ちなみに現在、エピペンの処方には講習受講と登録が必要となっています。アナフィラキシーを除外した医師は「内科医、医師歴5年以上10年未満」そんな経験があったため、愛西市の新型コロナワクチン接種後に女性がアナフィラキシーで死亡した事故を知った時、対応した医師は、私にエピペンを処方しなかった医師同様、比較的年配で、アドレナリン自己注射用製剤を患者に使用させた経験がなかったのではないか、さらにはアナフィラキシーというものを教科書では読んだことがあるが、自身では経験したことがなかったのではないかと思いました。しかし、私の予想は外れました。報告書によれば、最初にこの女性の対応を任され、アナフィラキシーを除外した医師は、海部医師会愛西市班に所属する医師で「内科医、医師歴5年以上10年未満」となっています。むしろ、こちらのほうが驚きです。医師になって10年未満、エピペンの使い方も一般化し、アナフィラキシー時の対応についても十分に学んでいるはずの世代が大きな判断ミスを犯したということになるからです。医学や診療技術は、日々進歩していますが、学ぼうとしない医師も一定数います。この「医師歴5年以上10年未満」の医師は、どういう経歴で、日々の診療はどういうもので、どのように最新の医学情報をアップデートしていたのでしょうか。「かかりつけ医」機能が議論される中、報告書には判断ミスを犯した医師の資質についても言及されるべきだったのではないでしょうか。「医療事故調査制度の制度趣旨に反している」との批判もところで、今回、この事故に関して、愛西市医療事故調査委員会の委員長らが記者会見し、報告書を公表、医学的評価の判断をマスコミ等に説明したことについて、「医療事故調査制度の制度趣旨に反している」との批判が一部にあるようです。公表が医師や看護師個々人への責任追及を促す危険性をはらんでいるからです。それはそれで一理あります。しかし、仮にことの原因が、個々の医療機関の安全管理体制等ではなく、医師の教育体制(卒後教育含む)にもあるとしたらどうでしょう。個々の医療機関に報告するだけで問題は解決するのでしょうか。愛西市のワクチン事故は、今の医療事故調査制度にも一石を投じたようです。参考1)新型コロナウイルスワクチン集団接種会場で発生した死亡事案について/愛西市

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