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ROS1陽性肺がんの血栓塞栓イベント/Lung Cancer

 オーストラリアの6施設がROS1融合遺伝子陽性非小細胞肺がん(NSCLC)の静脈および動脈血栓塞栓症(TE)の発生率、転帰に関するプール解析を行った。Lung Cancer誌オンライン版2020年1月22日号の掲載報告。 主な結果は以下のとおり。・登録患者42例の患者のうち、20例(48%)がTEを経験した。・TEの内訳は、動脈塞栓症1例(2%)、肺塞栓症13例(31%)、深部静脈血栓症12例(29%)であった。・TE患者のうち、6例(30%)が複数のイベントを経験した。・TEは診断期前・中・後いずれの時期にも発現した。・TEはまた治療戦略に関係なく発生した。・TE合併患者の全生存期間中央値は、TE合併患者21.3ヵ月、TE非合併患者では28.8ヵ月であった(HR:1.16、95%CI:0.43~3.15)。・化学療法1次治療群の全奏効率(ORR)は、TE合併患者で50%、TE非合併患者では44%であった。・標的治療薬1次治療群のORRは、TE合併患者で67%、TE非合併患者で50%であった。 ROS1融合遺伝子陽性肺がんでは、治療戦略に関係なく、診断期間を超えてTEリスクが持続的することがリアルワールドデータで示された。著者らは、ROS1融合遺伝子陽性肺がんでは、1次血栓予防の検討が推奨されると述べている。

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慢性血栓塞栓性肺高血圧症〔CTEPH:chronic thromoboembolic pulmonary hypertension〕

1 疾患概要■ 概念・定義慢性肺血栓塞栓症とは、器質化した血栓により肺動脈が閉塞し、肺血流分布および肺循環動態の異常が6ヵ月以上にわたって固定している病態である。また、慢性肺血栓塞栓症において、平均肺動脈圧が25mmHg以上の肺高血圧を合併している例を、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromoboembolic pulmonary hypertension:CTEPH)という。■ 疫学正確な疫学情報はない。わが国において、急性例および慢性例を含めた肺血栓塞栓症の発生頻度は、欧米に比べ少ないと考えられている。剖検輯報にみる病理解剖を基礎とした検討でも、その発生率は米国の約1/10と報告されている。米国では、急性肺血栓塞栓症の年間発生数が50~60万人と推定され、急性期の生存症例の約0.1~0.5%がCTEPHへ移行するものと考えられてきた。しかしその後、急性例の3.8%が慢性化したとも報告され、急性肺塞栓症例では、常にCTEPHへの移行を念頭におくことが重要である。わが国における指定難病CTEPHの患者数は3,790名(2018年度)である。■ 病因肺血管閉塞の程度が肺高血圧症成立機序になる。しかし、画像所見での肺血管の閉塞率と肺血管抵抗の相関は良いとは言えない。この理由として、血栓反復、肺動脈内での血栓の進展が関与していることも考えられており、さらに、(1)肺動脈性肺高血圧症でみられるような亜区域枝レベルの弾性動脈での血栓性閉塞、(2)血栓を認めない部位の増加した血流に伴う筋性動脈の血管病変、(3)血栓によって閉塞した部位より遠位における気管支動脈系との吻合を伴う筋性動脈の血管病変など、small vessel disease の関与も示唆されている。また、わが国では女性に多く、深部静脈血栓症の頻度が低いHLA-B*5201やHLA-DPB1*0202と関連する病型がみられことが報告されている。これらのHLAは、急性例とは相関せず、欧米では極めて頻度の少ないタイプのため、欧米例と異なった発症機序を持つ症例の存在が示唆されている。■ 症状1)労作時の息切れ2)急性例にみられる臨床症状(突然の呼吸困難、胸痛、失神など)が、以前に少なくとも1回以上認められている3)下肢深部静脈血栓症を疑わせる臨床症状(下肢の腫脹および疼痛)が以前に少なくとも1回以上認められている。4)肺野にて肺血管性雑音が聴取される5)胸部聴診上、肺高血圧症を示唆する聴診所見の異常(II音肺動脈成分の亢進など)が挙げられる■ 分類CTEPHの肺動脈病変の多くは深部静脈からの繰り返し飛んでくる血栓が、肺葉動脈から肺区域枝、亜区域枝動脈を閉塞し、その場所で血栓塞栓の器質化が起る。この病変は主肺動脈から連続して肺区域枝レベルまで内膜肥厚が起っている場合(中枢型)と、主に区域枝から内膜肥厚が始まっている場合(末梢型)がある。血栓塞栓の部位によらず薬物療法は必要であるが、侵襲的治療介入戦略が異なるため、部位により次のように大別している。1)中枢型:肺動脈本幹から肺葉、区域動脈に病変を認める(肺動脈内膜摘除術:PEAの適用を考慮)2)末梢型:区域動脈より末梢の小動脈の病変が主体である(バルーン肺動脈形成術:BPAの適用を考慮)■ 予後平均肺動脈圧が30mmHgを超える症例では、肺高血圧は時間経過とともに悪化する場合も多く、一般には予後不良である。CTEPHは肺動脈内膜摘除術(PEA)によりQOLや予後の改善が得られる。また、最近ではカテーテルを用いたバルーン肺動脈形成術(balloon pulmonary angioplasty:BPA)が比較的広く施行されており、手術に匹敵する肺血管抵抗改善が報告されている。また、手術適用のない症例に対して、肺血管拡張薬を使用するようになった最近のCTEPH症例の5年生存率は、87%と改善がみられている。一方、肺血管抵抗が1,000~1,100dyn.s.cm-5を超える例の予後は不良である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 診断診断は(肺動脈内の血栓・塞栓の存在診断)+(肺高血圧症の存在診断)である(図1、2)。1)右心カテーテル検査で肺高血圧症の存在診断(1)肺動脈圧の上昇(安静時の平均肺動脈圧が25mmHg以上)(2)肺動脈楔入圧(左心房圧)が正常(15mmHg以下)2)肺換気・血流シンチグラム所見で肺動脈内の慢性血栓・塞栓の存在診断換気分布に異常のない区域性血流分布欠損(segmental defects)が、血栓溶解療法または抗凝固療法施行後も6ヵ月以上不変あるいは不変と推測できる。3)肺動脈造影所見、胸部造影CT所見で肺動脈内の慢性血栓・塞栓の存在診断慢性化した血栓による変化が証明される。図1 CTEPH症例の画像所見画像を拡大するCTEPH症例の胸部X-Pおよび胸部造影CT(自験例)胸部X-Pで肺動脈陰影の拡大を認める胸部造影CTで肺動脈主幹部に造影欠損(慢性血栓塞栓症の疑い)を認める図2 CTEPH症例のシンチグラフィ所見画像を拡大する慢性血栓塞栓性肺高血圧症 症例の肺血流シンチおよび肺換気シンチ(自験例)換気分布に異常のない区域性血流分布欠損(segmental defects)が認められる■ 鑑別診断肺高血圧症を来す病態を除外診断する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)本症に対し有効であることがエビデンスとして確立されている治療法としては、肺動脈血栓内膜摘除術(PEA)がある。わが国では手術適応とされなかった末梢側血栓が主体のCTEPHに対し、カテーテルを用いたバルーン肺動脈形成術(balloon pulmonary angioplasty:BPA)の有効性が報告されている。さらに、手術適用のない末梢型あるいは術後残存あるいは再発性肺高血圧症を有する本症に対して、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬であるリオシグアト(商品名:アデムパス)が用いられる。CTEPHの治療方針としては、まず確定診断と重症度評価を行うことである(図3)。ついで病状の進展防止を期待して、血栓再発予防と二次血栓形成予防のための抗凝固療法を開始する。抗凝固療法が禁忌である場合や抗凝固療法中の再発などに対して、下大静脈フィルターを留置する場合もある。低酸素血症対策、右心不全対策も必要ならば実施する。重要な点は、本症の治療に習熟した専門施設へ紹介し、PEAまたはBPAの適応を検討することである。図3 CTEPHの診断と治療の流れ画像を拡大する4 今後の展望PEAの適用やBPAの適用に関してさらなる症例集積が必要である。可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬であるリオシグアト以外の肺血管拡張薬が承認される可能性がある。5 主たる診療科循環器内科、呼吸器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)Mindsガイドラインライブラリ 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)診療ガイドライン(日本肺高血圧・肺循環学会)(医療従事者向けのまとまった情報)難治性呼吸器疾患・肺高血圧症に関する調査研究(医療従事者向けのまとまった情報)公開履歴初回2020年02月03日

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膝関節術後のVTE予防、osocimabは有効か/JAMA

 膝関節置換術を受ける患者の術後静脈血栓塞栓症の発生(主要アウトカム10~13日時点)に関して、osocimabの術後投与(0.6、1.2、1.8mg/kg量)はエノキサパリン投与に対して非劣性を示す基準を満たし、osocimab術前投与(1.8mg/kg量)はエノキサパリン投与に対して優越性を示す基準を満たしたことが示された。カナダ・マックマスター大学のJeffrey I. Weitz氏らが、第II相の国際多施設共同非盲検無作為化試験「FOXTROT試験」の結果を報告した。osocimabは、XI因子を阻害する長時間作用型の完全ヒトモノクローナル抗体である。これまでXI因子阻害が血栓塞栓症の予防に効果があるかについては明らかになっていなかった。JAMA誌2020年1月14日号掲載の報告。osocimabの術前・術後投与について、エノキサパリン、アピキサバンと比較 研究グループは、膝関節置換術を受けた患者の血栓塞栓症に関して、異なるosocimab用量群投与とエノキサパリンおよびアピキサバン投与を比較することを目的とし、試験は判定者盲検下、osocimab投与について試験オブザーバーには盲検下で行われた。13ヵ国54病院で片側の膝関節置換術を受ける成人を対象とし、2017年10月~2018年8月に無作為化を行い、2019年1月まで追跡した。 被験者は、osocimab静脈投与を術後に単回(用量:0.3mg/kg、0.6mg/kg、1.2mg/kg、1.8mg/kg)、同術前に単回(用量:0.3mg/kg、1.8mg/kg)、またはエノキサパリン40mg皮下注を1日1回、あるいは経口アピキサバン2.5mgを1日2回のいずれかを、10日間以上または静脈造影検査を受けるまで投与された。 主要アウトカムは、術後10~13日の間に発生した静脈血栓塞栓症。術後10~13日時点の実施を義務付けた両側性静脈造影検査、または症候性の深部静脈血栓症あるいは肺塞栓症の確認で評価した。エノキサパリンとの比較による非劣性マージンは5%とした。 また、安全性のアウトカムは、大出血または臨床的に意味のある非大出血とし、術後10~13日まで評価した。エノキサパリンに対する非劣性、優越性を確認 813例(平均年齢66.5歳[SD 8.2]、BMI 32.7[5.7]、女性74.2%)が無作為化を受けた(osocimab術後0.3mg/kg群107例、0.6mg/kg群65例、1.2mg/kg群108例、1.8mg/kg群106例、osocimab術前0.3mg/kg群109例、1.8mg/kg群108例、エノキサパリン群105例、アピキサバン群105例)。主要解析のためのper-protocol集団には600例が包含された(それぞれ76例、51例、79例、78例、77例、80例、76例、83例)。 主要アウトカムの発生は、osocimab術後投与では0.3mg/kg群18例(23.7%)、0.6mg/kg群8例(15.7%)、1.2mg/kg群13例(16.5%)、1.8mg/kg群14例(17.9%)であった。またosocimab術前投与では、0.3mg/kg群23例(29.9%)、1.8mg/kg群9例(11.3%)であった。 エノキサパリン群は20例(26.3%)、アピキサバン群は12例(14.5%)。 osocimabの術後投与はエノキサパリン投与に対して非劣性に関する基準を、0.3mg/kgを除く用量群で満たした。リスク差は0.6mg/kg群10.6%(片側95%信頼区間[CI]:-1.2~∞)、1.2mg/kg群9.9%(-0.9~∞)、1.8mg/kg群8.4%(-2.6~∞)であった。術前投与では、1.8mg/kg群がエノキサパリンに対する優越性の基準を満たした。リスク差は15.1%(両側90%CI:4.9~25.2)であった。 0.3mg/kg群は術後、術前の両投与群とも規定の非劣性基準を満たさなかった。リスク差は術後群が2.6%(片側95%CI:-8.9~∞)、術前群が-3.6%(両側95%CI:-15.5~∞)であった。 大出血または臨床的に意味のある非大出血は、osocimab投与群では最大で4.7%(術前1.8mg/kg群)、エノキサパリン群は5.9%、アピキサバン群は2%観察された。 結果を踏まえて著者は、「osocimabの静脈血栓塞栓症予防としての標準投与に関する有効性、安全性を確立するため、さらなる試験を行う必要がある」とまとめている。

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肺血栓塞栓症の診断―人工知能本格利用の前に―(解説:後藤信哉氏)-1158

 NEJMの論文にて、本文を読むだけでは理解できない論文は少なかった。本論文は内容を読むだけでは理解しきれない。肺血栓塞栓症の診断は容易でないことが多い。筆者は30年臨床医をしているので勘が利く。しかし、医療を標準化するためには経験を積んだ臨床医の「勘」を定量化する必要がある。本論文では肺塞栓症を疑う臨床症状を有する3,133例から出発した。明確な除外基準に該当しない2,017例を研究対象とした。これらの症例がWells scoreにより層別化された。静脈血栓症の少ない日本ではWells scoreの知名度も低い。Wells scoreを覚えるのは面倒くさい。臨床的に静脈血栓症らしければ3点、肺塞栓症以外の病気らしくなければ3点などかなりソフトな因子により分類する。本研究では、このソフトなWells scoreとd-dimerを組み合わせたことによる肺塞栓症診断精度を評価している。 かつてNEJMに掲載された論文は質の高いエビデンスと評価された。最近、とくに循環器領域では「?」と思う論文が増えた。本論文は「NEJM大丈夫かな?」と思わせる論文の1つである。 本論文はカナダの大学病院の臨床データベースである。外来症例と入院症例を合わせているが大学病院というだけで一般診療に広げるにはバイアスが強い。d-dimerの計測値はハードパラメーターであるが、臨床的なclinical pre-test probability(c-PTP)はかなり主観的指標である。またc-PTPとしてのWells scoreも世界に普及しているとは言い難い。圧倒的多数の症例はc-PTPにてlow riskとされた。d-dimerは日本ではμg/mLを使用している。本研究ではc-PTPが低く、d-dimer 1μg/mL以下の症例1,285例では3ヵ月以内の肺塞栓症なしと報告されている。c-PTPが低くともd-dimer 1μg/mL以上の症例ではそれなりに肺塞栓症が含まれている。c-PTPにてmoderate riskとされた218例ではd-dimer 0.5μg/mLをカットオフにしている。同一研究において、baseline riskに応じて検査の閾値を変えた研究がNEJMに発表されたのは驚きである。 肺塞栓症の診断は難しい。臨床医として一定の見落としがあるのは仕方ないと理解している。本研究はc-PTPを数値化し、d-dimerを計測すれば著しいlow riskの症例を除外できる根拠としては意味がある。しかし、システム的な臨床研究を採択していたNEJMの一般水準には達していない。電子カルテの情報をスーパーコンピューターにて扱えば、本研究よりもはるかにシステム的に肺塞栓症の除外診断が可能である。本研究はdigital health技術普及前の一過性の意味しかない。NEJMもdigital healthを取り込めるか否かにてlow grade journalに転落するリスクがあることが本論文から示唆された。

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糖尿病妊婦の子供は早発性CVDリスクが高い/BMJ

 糖尿病の母親の子供は、小児期から成人期初期に、非糖尿病の母親の子供に比べ早発性の心血管疾患(CVD)の発生率が高く、とくに母親がCVDや糖尿病性合併症を併発している場合はCVDリスクがさらに増加することが、デンマーク・オーフス大学のYongfu Yu氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2019年12月4日号に掲載された。最近の数10年間で、世界的に子供や若年成人のCVD有病率が高くなっている。妊娠前および妊娠中の母親の糖尿病は、子供のメタボリック症候群や先天性心疾患のリスク上昇と関連するとされるが、母親の糖尿病への出生前の曝露が、生命の初期段階にある子供の早発性CVDに影響を及ぼすか否かは知られていないという。糖尿病妊婦の子供を40年追跡したコホート研究 研究グループは、妊娠前または妊娠中に診断された母親の糖尿病と、その後40年間における子供の早発性CVDの関連を評価する目的で、住民ベースのコホート研究を行った(デンマーク・Lundbeck Foundationなどの助成による)。 データの収集には、デンマークの全国的な健康関連の登録システムを用いた。1977~2016年の期間に、デンマークで出生し、先天性心疾患のない243万2,000例の子供が解析の対象となった。追跡は出生時に開始され、CVDの初回診断、死亡、海外移住、2016年12月31日のうち、いずれかが最も早く到来するまで継続された。 曝露因子は、母親の糖尿病合併妊娠(1型糖尿病[2万2,055例]、2型糖尿病[6,537例])と妊娠糖尿病(2万6,272例)であった。 主要アウトカムは、病院の診断によって定義された早発性CVD(先天性心疾患を除く)とし、母親の糖尿病と子供の早発性CVDリスクとの関連を評価した。また、Cox回帰を用いて、この関連への、母親のCVDおよび糖尿病性合併症の既往歴の影響を検討した。糖尿病単独で29%、合併症併発で60%、CVD併発で73%増加 5万4,864例(2.3%)の子供が、母親の糖尿病合併妊娠(1型糖尿病0.9%、2型糖尿病0.3%)または妊娠糖尿病(1.1%)に曝露していた。40年の追跡期間中に、糖尿病の母親の子供1,153例と、非糖尿病の母親の子供9万1,311例が、CVDと診断された。 糖尿病の母親の子供は、非糖尿病の母親の子供に比べ、早発性CVDの発生率が29%高かった(ハザード比[HR]:1.29、95%信頼区間[CI]:1.21~1.37)。母親の糖尿病に曝露しなかった子供の40歳時の累積CVD発生率は13.07%(12.92~13.21)であった。曝露と非曝露の子供の累積CVD発生率の差は4.72%(2.37~7.06)だった。 また、同胞コホートで近親デザイン(sibship design)の解析(共通の遺伝的、家族的な背景因子に起因する未調整の交絡を評価)を行ったところ、マッチングを行っていないコホート全体の主解析とほぼ同様の結果(1.26、1.18~1.35)であった。 糖尿病合併妊娠(HR:1.34、95%CI:1.25~1.43)および妊娠糖尿病(1.19、1.07~1.32)のいずれにおいても、子供のCVDは増加していた。また、個々の早発性CVDの発生率の増加の割合は多様であり、増加率の高かったCVDとして、心不全(1.45、0.89~2.35)、高血圧性疾患(1.78、1.50~2.11)、深部静脈血栓症(1.82、1.38~2.41)、肺塞栓症(1.91、1.31~2.80)が挙げられた。 CVD発生率の増加は、母親の糖尿病の種類にかかわらず、小児期から、40歳までの成人期初期の個々の年齢層で認められた。 CVD発生率の増加は、糖尿病合併妊娠のみの母親の子供(HR:1.31、95%CI:1.16~1.48)に比べ、糖尿病性合併症を併発した母親の子供(1.60、1.25~2.05)で、より顕著であった(合併症併発の非併発に対するHR:1.22、95%CI:0.92~1.62)。また、母親が糖尿病とともにCVDを併発していた場合、子供の早発性CVDの発生率はさらに高く(1.73、1.36~2.20)、これは併発CVDの付加的影響であったが、糖尿病とCVDの交互作用に起因するものではなかった(交互作用の相乗スケールのp=0.94)。 著者は、「出産可能年齢の女性における糖尿病の予防、スクリーニング、治療は、女性の健康の改善だけでなく、子供の長期的なCVDリスクの抑制においても重要と考えられる」としている。

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C-PTPとDダイマーで、肺塞栓症リスクの同定が可能/NEJM

 肺塞栓症で経過観察中の患者では、臨床的検査前確率(C-PTP)が低く、Dダイマー値<1,000ng/mLの場合、肺塞栓症リスクは低いことが、カナダ・マクマスター大学のClive Kearon氏らが行った前向き試験「PEGeD試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2019年11月28日号に掲載された。いくつかの後ろ向き解析により、肺塞栓症は、C-PTPが低い患者ではDダイマー値<1,000ng/mL、C-PTPが中等度の患者ではDダイマー値<500ng/mLで除外されることが示唆されている。C-PTPとDダイマー値で肺塞栓症が除外されるとの仮説を検証 研究グループは、C-PTPが低くDダイマー値<1,000ng/mLであるか、C-PTPが中等度でDダイマー値<500ng/mLの患者は、それ以上の検査を行わなくても肺塞栓症が除外されるとの仮説を検証した(カナダ国立保健研究所[CIHR]の助成による)。 対象は、年齢18歳以上、肺塞栓症の症状がみられるか、その徴候が示唆される外来および入院患者であった。被験者は、Wellsスコア(0~12.5点、点数が高いほど肺塞栓症の可能性が高い)に基づき、低C-PTP(0~4.0点)、中等度C-PTP(4.5~6.0点)、高C-PTP(6.5点以上)に分けられた。 低C-PTP/Dダイマー値<1,000ng/mLまたは中等度C-PTP/Dダイマー値<500ng/mL以外のすべての患者は、胸部画像検査(通常、CT肺血管造影)を施行された。肺塞栓症と診断されなかった患者は、抗凝固療法を受けなかった。静脈血栓塞栓症を検出するために、全患者を3ヵ月間追跡調査した。C-PTPとDダイマー値で肺塞栓症が除外される戦略で胸部画像検査を減少 2015年12月~2018年5月の期間に、肺塞栓症で経過観察中の患者2,017例(平均年齢52±18歳、女性66.2%)が登録され、評価が行われた。低C-PTPが86.9%、中等度C-PTPが10.8%、高C-PTPは2.3%であった。診断の初回検査で7.4%(149例)に肺塞栓症が認められた。 低C-PTPの1,752例中1,285例、中等度C-PTPの218例中40例で、Dダイマー値が陰性(それぞれ<1,000ng/mL、<500ng/mL)であった。このDダイマー値陰性の1,325例(67.3%)には抗凝固療法を行わなかったが、追跡期間中に静脈血栓塞栓症が認められた患者はいなかった(95%信頼区間[CI]:0.00~0.29%)。 初回検査で肺塞栓症と診断されず、抗凝固療法を受けなかった1,863例のうち、1例(0.05%、95%CI:0.01~0.30、低C-PTP/Dダイマー値陽性[1,200ng/mL])で静脈血栓塞栓症がみられた。 低C-PTP/Dダイマー値陰性(<1,000ng/mL)で抗凝固療法を受けなかった1,285例では、追跡期間中に静脈血栓塞栓症は認められなかった。このうち315例は、低C-PTPでDダイマー値が500~999ng/mLであった(95%CI:0.00~1.20%)。また、中等度C-PTP/Dダイマー値陰性(<500ng/mL)で、抗凝固薬を受けなかった40例では、追跡期間中に静脈血栓塞栓症はみられなかった(95%CI:0.00~8.76%)。 追跡期間中に、大出血エピソードが7件、小出血エピソードが23件認められた。34例が死亡したが、中央判定で肺塞栓症による死亡とされた患者はいなかった。 この研究のPEGeD診断戦略では、患者の34.3%が胸部画像検査を受けた。これに対し、低C-PTPでDダイマー値が<500ng/mLの場合は、肺塞栓症は除外されるとする戦略であれば、胸部画像検査を受ける患者の割合は51.9%となった(差:-17.6ポイント、95%CI:-19.2~-15.9)。 著者は、「PEGeDアルゴリズムは、肺塞栓症が疑われる患者における胸部画像検査の件数を実質的に減少させることが示された」としている。

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低用量コルヒチン、心筋梗塞後の虚血性心血管イベントを抑制/NEJM

 低用量コルヒチンは、心筋梗塞患者における虚血性心血管イベントのリスクをプラセボに比べ有意に低減することが、カナダ・モントリオール心臓研究所のJean-Claude Tardif氏らが行ったCOLCOT試験で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2019年11月16日号に掲載された。炎症は、アテローム性動脈硬化およびその合併症において重要な役割を担うことを示す実験的および臨床的なエビデンスがある。コルヒチンは、イヌサフランから抽出された抗炎症作用を有する経口薬で、痛風や家族性地中海熱、心膜炎の治療に使用されている。発症後30日以内の心筋梗塞の無作為化試験 本研究は、12ヵ国167施設が参加した医師主導の二重盲検プラセボ対照無作為化試験であり、2015年12月~2018年8月の期間に患者登録が行われた(カナダ・ケベック州政府などの助成による)。 対象は、登録前の30日以内に心筋梗塞を発症し、経皮的血行再建術を受け、強化スタチン治療を含む国のガイドラインに準拠した治療を受けている成人患者であった。 被験者は、低用量コルヒチン(0.5mg、1日1回)またはプラセボを投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 有効性の主要エンドポイントは、心血管死、心停止からの蘇生、心筋梗塞、脳卒中、冠動脈血行再建術の原因となった狭心症による緊急入院の複合とした。主要複合エンドポイント:5.5% vs.7.1% 4,745例が登録され、コルヒチン群に2,366例、プラセボ群には2,379例が割り付けられた。追跡期間中央値は22.6ヵ月だった。 ベースラインの全体の心筋梗塞発症後平均期間は13.5日、平均年齢は60.6歳、女性が19.2%であった。また、20.2%が糖尿病を有し、93.0%が心筋梗塞に対し経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けており、98.8%がアスピリン、97.9%が他の抗血小板薬、99.0%がスタチンの投与を受けていた。 主要複合エンドポイントの発生率は、コルヒチン群が5.5%と、プラセボ群の7.1%に比べ有意に低かった(ハザード比[HR]:0.77、95%信頼区間[CI]:0.61~0.96、p=0.02、log-rank検定)。 主要複合エンドポイントの構成要素のうち、心血管死(コルヒチン群0.8% vs.プラセボ群1.0%、HR:0.84、95%CI:0.46~1.52)、心停止後の蘇生(0.2% vs.0.3%、0.83、0.25~2.73)、心筋梗塞(3.8% vs.4.1%、0.91、0.68~1.21)の発生率には両群間に有意な差は認められなかったが、脳卒中(0.2% vs.0.8%、0.26、0.10~0.70)と血行再建術の原因となった狭心症による緊急入院(1.1% vs.2.1%、0.50、0.31~0.81)の発生率はコルヒチン群で有意に低かった。 副次複合エンドポイント(心血管死、心停止後の蘇生、心筋梗塞、脳卒中)(コルヒチン群4.7% vs.プラセボ群5.5%、HR:0.85、95%CI:0.66~1.10)および有効性の探索的エンドポイントである死亡(1.8% vs.1.8%、0.98、0.64~1.49)、深部静脈血栓症/肺塞栓症(0.4% vs.0.3%、1.43、0.54~3.75)、心房細動(1.5% vs.1.7%、0.93、0.59~1.46)の発生率には、両群間に有意な差はみられなかった。 治療薬関連の有害事象は、コルヒチン群が16.0%、プラセボ群は15.8%で認められた。重篤な有害事象はそれぞれ16.4%、17.2%でみられた。消化器イベントの頻度が高く(コルヒチン群17.5%、プラセボ群17.6%)、そのうち下痢がコルヒチン群で9.7%、プラセボ群で8.9%(p=0.35)、悪心がそれぞれ1.8%、1.0%(p=0.02)で発現した。 著者は、「主要複合エンドポイントの改善は、主に脳卒中と血行再建術の原因となった狭心症による緊急入院の発生率の低下によってもたらされた」としている。

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世界初、経皮吸収型の統合失調症治療薬「ロナセンテープ20mg/30mg/40mg」【下平博士のDIノート】第36回

世界初、経皮吸収型の統合失調症治療薬「ロナセンテープ20mg/30mg/40mg」今回は、抗精神病薬「ブロナンセリン経皮吸収型製剤(商品名:ロナセンテープ20mg/30mg/40mg)」を紹介します。本剤は、統合失調症治療薬として初めての経皮吸収型製剤であり、これまで経口薬での管理が困難だった患者のアドヒアランス向上が期待されています。<効能・効果>本剤は、統合失調症の適応で、2019年6月18日に承認され、2019年9月10日より発売されています。<用法・用量>通常、成人にはブロナンセリンとして40mgを1日1回貼付します。患者の状態により、1日量上限の80mgを超えない範囲で適宜増減することができます。本剤は、胸部、腹部、背部のいずれかに貼付し、24時間ごとに貼り替えて使用します。<副作用>国際共同第III相試験における安全性解析対象例521例中、臨床検査値異常を含む副作用が310例(59.5%)に認められました。主な副作用はパーキンソン症候群(14.0%)、アカシジア(10.9%)、適用部位紅斑(7.7%)などでした。また、国内第III相長期投与試験における安全性解析対象例200例中、臨床検査値異常を含む副作用が137例(68.5%)に認められました。主な副作用は適用部位紅斑(22.0%)、プロラクチン上昇(14.0%)、パーキンソン症候群(12.5%)、適用部位そう痒感(10.0%)、アカシジア(9.0%)、不眠(8.0%)などでした。なお、同成分の経口薬では重大な副作用として、高血糖(0.1%)、悪性症候群、遅発性ジスキネジア、麻痺性イレウス、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群、横紋筋融解症、無顆粒球症、白血球減少、肺塞栓症、深部静脈血栓症、肝機能障害、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡(いずれも頻度不明)が認められているため、経皮吸収型製剤でも注意喚起されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、脳内のドパミン、セロトニンなどのバランスを整えることで、幻聴、妄想、不安、緊張、意欲低下などの症状を和らげます。2.毎日同じ時間を目安に、前日に貼った薬を剥がしてから、前回とは異なる場所に新しい薬を1日1回貼ってください。3.胸部、腹部、背部のいずれにも貼付可能ですが、発疹、水ぶくれ、過度の日焼けやかゆみが生じることがあるので、貼付時~2週間程度は貼付部位が直射日光に当たらないようにしてください。4.使用後は、接着面を内側にして貼り合わせ、子供の手の届かないところへ捨ててください。5.眠気、注意力・集中力・反射運動能力の低下などが起こることがあるので、自動車の運転など危険を伴う機械の操作に従事しないでください。6.本剤の使用により、高血糖が現れることがあります。喉の渇き、過度の水分摂取、尿の量が多い、尿の回数が多いなど、いつもとは違う症状が現れた場合はすぐに受診してください。<Shimo's eyes>本剤は、世界で初めて統合失調症を適応として承認された経皮吸収型製剤です。本剤および同成分の経口薬(錠剤・散剤)は、非定型抗精神病薬のセロトニン・ドパミン拮抗薬(SDA)に分類され、既存のSDAとしては、リスペリドン(商品名:リスパダール)、ペロスピロン(同:ルーラン)、パリペリドン(同:インヴェガなど)があります。統合失調症の治療では、アドヒアランス不良による再発・再燃率の高さがしばしば問題となります。貼付薬である本剤には、貼付の有無や投与量を視認できるため、投薬管理が容易にできるというメリットがあります。また、食事のタイミングを考慮する必要がなく、食生活が不規則な患者さんや嚥下困難などで経口服薬が困難な患者さんへの投与も可能ですので、アドヒアランスの向上が期待できます。消化器系の副作用軽減も期待できますが、一方で貼付部位の皮膚関連副作用には注意が必要です。貼付薬は激しい動きによって剥がれることもありますが、患者さん自身が剥がしてしまうこともあります。かゆみなどの不快感で剥がしていることもありますので、理由や希望を聞き取るとよいでしょう。なお、薬物相互作用については経口薬と同様となっていますが、グレープフルーツジュースとの相互作用は主に消化管で生じるため、本剤では併用注意は設定されていません。経口薬から本剤に切り替える場合、次の投与予定時刻から本剤を使用することが可能です。一方で、本剤から経口薬へ切り替える場合には、添付文書の用法・用量に従って、1回4mg、1日2回食後経口投与より開始し、徐々に増量する必要があります。患者さんが安心して治療継続できるよう、副作用や併用薬、残薬などの聞き取りを行い、しっかりサポートしましょう。

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わが国の肺がんの静脈血栓塞栓症の発生率(Rising-VTE)/WCLC2019

 静脈血栓塞栓症(VTE)は、悪性腫瘍でよくみられる合併症である。しかし、肺がんの診断時のVTEの発生率についてはほとんど知られていない。日本の40施設を対象とした多施設前向き観察研究Rising-VTE/NEJ037について、県立広島病院の濱井 宏介氏が世界肺癌学会(WCLC2019)で発表した。 Rising-VTE/NEJ037の対象は、切除または放射線治療不能な非小細胞肺がん(NSCLC)患者。VTEは造影CTまたは下肢エコー検査に基づき診断された。試験の主要評価項目は、中央判定委員会が評価する登録後2年間の症候性および無症候性の再発または新たに診断されたVTEの発症率である。  主な結果は以下のとおり。・2016年6月〜2018年8月に手術または放射線療法不能なNSCLC患者1,021例が登録され、ベースラインデータとして1,013例の患者のデータが利用可能であった。・年齢の中央値は71歳、組織型は、腺がん(63.7%)、扁平上皮がん(17.8%)、小細胞肺がん(13.5%)、その他(5.1%)であった。・VTEの発生は6.0%(61例)であった。・VTEの内訳は、深部静脈血栓症(DVT)が47.5%、肺塞栓症(PE)が12.1%、DVTとPEの併存が27.9%であった。・ VTEの90.2%は腺がんであった。 同研究の主要評価項目は、登録から2年間の症候性/非症候性VTEの再発または新規発症率。最終結果は2021年の予定で、現在追跡調査が進行中。

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わが国の進行固形がん患者におけるVTE発生頻度~多施設共同前向き観察研究/日本がんサポーティブケア学会

 がんは静脈血栓塞栓症(VTE)のリスク因子であるといわれている。しかし、日本においては固形がん患者を対象に積極的なスクリーニングを用いてVTEの評価をする大規模な研究は報告されていない。そこで、日本人の進行固形がん患者におけるVTEの発生割合を、造影CT、下肢静脈エコー、D-ダイマーを用いたスクリーニングにより前向きに評価する多施設共同観察研究VISUAL Studyが行われた。その結果を第4回日本がんサポーティブケア学会学術集会にて静岡市立静岡病院の佐竹 康臣氏が発表した。 対象は、初回全身治療を28日以内に予定している切除不能または進行・再発の固形がん患者(PS0~2)。主要評価項目は、登録時から登録後24週までのVTEの発生割合。副次評価項目は、VTE発生割合(登録時、12週、24週)、がん種別のVTE発生割合、症候性のVTEの発生割合、肺塞栓症の発生割合、VTEの治療状況であった。 主な結果は以下のとおり。・860例が対象集団として登録された。・登録時から登録後24週までのVTEの発生割合は22.6%(860例中194例)であった。・登録時のVTE発生割合は11.3%、12週後では16.8%、24週後では14.1%であった。・がん種別のVTE発生は肺がん24.1%、消化器がん17.7%、肝胆膵がん25.6%、婦人科がん32.1%であった。・症候性のVTE発生割合は4.0%、肺塞栓症の発生割合は1.0%であった。・登録時にVTEを認めなかった患者においても、化学療法開始後には12.7%にVTEが発症した。・治療前のVTEの独立したリスク因子は、女性、D-ダイマー高値であった。 インテンシブなVTEのスクリーニングを行った本試験では、わが国の進行固形がん患者におけるVTE発生頻度は、過去の報告と比較しても高いことが示された。

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第28回 空飛ぶ心電図~患者さんの命を乗せて~(後編)【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第28回:空飛ぶ心電図~患者さんの命を乗せて~(後編)前回に引き続き、クラウドを利用した12誘導心電図伝送システムの救急現場での活用について、谷口先生にお話を伺います。2回シリーズの後編は、やや非典型例も扱いつつ、プロジェクト成功の秘訣や苦労した点、課題、さらには今後の展望までDr.ヒロがズバッとインタビューします!◆聞き手:Dr.ヒロ(以下、ヒロ)◆ゲスト:谷口 琢也先生(以下、谷口)谷口 琢也氏京都府立医科大学医学部卒業。松下記念病院で心筋虚血(核医学)に関する薫陶を受け、2007年より国立循環器病センター心臓血管内科CCUに所属、モバイルテレメディシンシステムに触れる。2013年からは京都府立医科大学附属北部医療センターで心不全レジストリなどの臨床研究を主導すると共に、クラウド型12誘導心電図伝送システムを導入。2018年に京都大学大学院で臨床疫学の方法論を系統的に学び、現在、母校にて社会に還元できる臨床研究の推進に取り組む。医学博士、社会健康医学修士、総合内科専門医、循環器専門医、心血管カテーテル治療専門医を取得。趣味は美食探訪、得意な家事は皿洗い。(ヒロ)今回も谷口 琢也先生を迎え、京都府立医科大学附属北部医療センターで取り組まれた、救急現場におけるクラウド型心電図伝送システムについて教えていただきます。<質問内容>【質問1】心電図伝送の試みを開始しようと思ったキッカケはありますか?【質問2】この心電図伝送システムが適応された症例の原因疾患の内訳はどうでしょうか?【質問3】実際に伝送された心電図所見の内訳はどのようになっていますか?【質問4】急性冠症候群(ACS)/STEMI以外で有用と思われる病態はありますか?【質問5】心電図伝送システムが適用された症例のうち、急性冠症候群など「ではなかった」印象的な症例はありますか?【質問6】心電図はどこに保存しますか?カルテに取り込むのですか?【質問7】心電図伝送システムと電子カルテを紐付けしていますか?【質問8】伝送された心電図データの保存期間はありますか?【質問9】心電図伝送システムのハード面、ランニングコストや通信費用はどれくらいですか?【質問10】実際に病院が払うコストはどれくらいですか?【質問11】心電図伝送システムの長所は何ですか?【質問12】この心電図伝送システムが成果を上げることができた要因はなんですか?【質問13】実際の成果で学術論文になったものはありますか?【質問14】このシステム上で「正しい心電図をとる」ために救急スタッフ(救急隊)への指導や教育、啓蒙活動などの運用についての取り組みはありますか?【質問15】市町村や地域住民に向けた広報活動、そのほかメディアへの拡散はどのように行っていますか?【質問16】今後の方向性や新しい取り組みに関して、将来ビジョンを教えて下さい。【質問1】心電図伝送の試みを開始しようと思ったキッカケはありますか?(谷口)以前から病院前心電図の重要性を認識していました。この心電図伝送の試みは、地域の消防組合とタイアップして行っています。宮津与謝消防組合が管轄するエリアから北部医療センターへの救急搬送率は、ほぼ100%。病院派遣型救急ワークステーションが院内にあり救命救急士とも顔の見える関係なので、心電図伝送を用いた救急医療に地域として取り組みましょうということになったんです。(ヒロ)病院と地域の消防との間に普段から良好な関係があったからこそ、機運が高まったのですね。救急隊と病院の“1:1対応”というのも、心電図や患者をどこに送るか悩む必要がなく、プレホスピタル心電図伝送に適した状況ですよね。(谷口)2016年にトライアルを行い運用するメリットが確認できたため、2017年12月1日から本稼働することになりました。宮津与謝消防組合が有する救急車4台すべてにシステムを搭載して運用を開始しました。【質問2】この心電図伝送システムが適応された症例の原因疾患の内訳はどうでしょうか?(谷口)約半数が循環器疾患です(図1)。(図1)心電図伝送システムの適応疾患と詳細画像を拡大する(ヒロ)心電図をとる範囲を広く設定しても、やはり半数は心疾患なのですね。胸と“みぞおち”(心窩部)を含むので肺とか胃腸疾患が入ってくるのも納得です。【質問3】実際に伝送された心電図所見の内訳はどのようになっていますか?(谷口)円グラフで示しました(図2)。これも前回お話した2017年の152例のデータです。STEMI(ST上昇型急性心筋梗塞)は11例、類縁疾患を含むST上昇が14例(9%)、ST低下が13例(9%)です。(図2)伝送された心電図所見の内訳画像を拡大する(ヒロ)これも貴重なデータですね。心房細動も24例(16%)と多いですね。正常心電図が約3分の1(33%)な点も興味深いです。約半数を占める心外疾患の多くはここでしょうしね。【質問4】急性冠症候群(ACS)/STEMI以外で有用と思われる病態はありますか?(谷口)この疾患(病態)というのは明確に言えない面もありますが、もしかしたら心室頻拍(VT)や心室細動(VF)も検出できるかもしれないですね。(ヒロ)不整脈ですね。心房細動・粗動や発作性上室性頻拍などは、救急要請がなされても病院に到着する前に停止してしまっていることも、しばしばです。現着後間もない心電図を記録することで、動悸などの“原因”が分からずじまいという、もどかしい状況が減るかも知れませんね。【質問5】心電図伝送システムが適用された症例のうち、急性冠症候群など「ではなかった」印象的な症例はありますか?【症例】84歳、男性。【主訴】胸部絞扼感、倦怠感、呼吸苦【現病歴】高血圧症で内服中。COPDによる入院歴あり。ADLは自立。2017年12月X日、昼食時にお茶を飲むときにむせて、その直後から強い喘鳴を伴う呼吸苦と胸部絞扼感が出現したため、救急搬送となった。【身体所見】脈拍数:91/分・整、呼吸数25/分、血圧220/93mmHg、酸素飽和度89%(マスク8L/分)(ヒロ)なるほど。食事中に出現した呼吸苦と胸部しめつけ感ですね。この方の伝送心電図はどのような波形を示していたのでしょうか?(谷口)以下に示します(図3)。心拍数は100弱/分で右軸偏位、不完全右脚ブロック、一部にST変化もあります。(図3)伝送された12誘導心電図画像を拡大する(ヒロ)これも同時相、5秒間の心電図ですね。前回のSTEMI症例よりはノイズが目立ちますが、十分に評価できるレベルですね。5拍目に心房期外収縮(PAC)もありますね。ほかには時計回転の所見も指摘したいですね。先生ご指摘の所見も含めて右心系負荷を考えたくなります。酸素飽和度も低いようですが、原因は何だったのですか?(谷口)気胸でした。痛みで著明な高血圧と心不全も呈していました。(ヒロ)確かに、そう言われると、胸部誘導は上から下までR波がほとんど増高していませんね。そうか!よく心電図の教科書でも取り上げられている「左」の気胸ですか、これは?(谷口)いえ、実際は「右」気胸でした。(ヒロ)なるほど。勉強になります。COPDもあるようですから、自然気胸以外にお茶でむせた時にブラが破裂した可能性なんかもあるんですかね。病院に以前の記録があったら比べたいですが…。図3のような心電図では、このほかに肺塞栓症や肺炎も大事な鑑別疾患ですね。(谷口)もちろん、気胸は伝送心電図だけで診断するものではないですが、ACS以外でも有用な情報を与えてくれることがある、という一例でした。【質問6】心電図はどこに保存しますか?カルテに取り込むのですか?(谷口)本システムでは、心電図はクラウドに保存され、電子カルテには取り込まれません。しかし、電子カルテにプレホスピタルの情報として入れている施設があると聞いています。【質問7】心電図伝送システムと電子カルテを紐付けしていますか?(谷口)心電図データは電子カルテに紐付けされないので、管理はわれわれ医師がしています。(ヒロ)場合によっては、紙ベースで印刷した物を残したり、スキャンしたりでしょうかね。【質問8】伝送された心電図データの保存期間はありますか?(谷口)受信側の病院は1週間、送信側の救急隊は1ヵ月(30日間)、データを見ることができます。【質問9】心電図伝送システムのハード面、ランニングコストや通信費用はどれくらいですか?(谷口)費用は施設ごとに異なる可能性もありますが、初期費用として心電計、伝送用のタブレット端末やスマートフォンの購入費用が必要です。メンテナンス費用には各機材の保証も含まれているので、タブレットが割れても大丈夫です。レンタルプランもあるようです。【質問10】実際に病院が払うコストはどれくらいですか?(谷口)救急車4台すべてに心電計を搭載し、この費用は市町と病院が半分ずつ負担して運用しています。【質問11】心電図伝送システムの長所は何ですか?(谷口)このシステムの長所は、何よりもDoor To Balloon Time(DTBT)を短縮し、予後改善できるということだと思います。(ヒロ)前回提示いただいた症例もそうでしたね。どのプロセス・時間が短縮できているのでしょうか?(谷口)ACSが疑われたらカテラボを立ち上げる1)のが重要ですが、そこに時間がかかります。その準備時間を短縮できることが重要だと思います。peak CK、壊死心筋量を少なくするとよく言われますが、VT/VFのリスクにさらされる時間が減ることも予後改善につながっているのではと考えています。(ヒロ)DTBT短縮は、保険診療上のメリットもあると聞きますが…。(谷口)はい。平成26年度の診療報酬改定から、急性心筋梗塞に対して冠動脈インターベンション(PCI)を行った場合、DTBTが90分以内では10,000点が加点できます(症状発現後12時間以内の来院症例)。1)カテ室のセットアップと各部署(看護師、放射線技師、臨床工学技士など)への連絡や人員確保のこと【質問12】この心電図伝送システムが成果を上げることができた要因はなんですか?(谷口)いくつかあると思いますが、北部医療センターは丹後医療圏で唯一、救急の受け入れを断らない病院であり、競合病院も少ないため救急隊が搬送先に悩む必要がない点です。(ヒロ)救急応需率100%は素晴らしいですね。しかも“1:1対応”というか、行く先が決まっている点も好都合ですね。これは都心部ではなかなか難しい点ですかね。消防組合との関係性も良好だったのですね。(谷口)ええ。また、院長の働きかけにより市町から援助・協力をいただけ、そして何より院内の風通しが良く、救急科やコメディカル・スタッフのおかげでシステム導入にあたってのハードルが低かった点でしょうか。【質問13】実際の成果で学術論文になったものはありますか?(谷口)われわれの成果は、まだ論文として報告していないのですが、12誘導心電図伝送の“SCUNA”(スクナ)というシステムからは論文が3報出ていると聞いています2)、3)、4)。(ヒロ)ぜひとも谷口先生グループの成果も、論文で読んでみたいです。2:Takeuchi I, et al. Int Heart J. 2013;54:45-47.3:Takeuchi I, et al. Int Heart J. 2015;56:170-173.4:Yufu K, et al. Circ Rep. 2019;1:241-247.【質問14】このシステム上で「正しい心電図をとる」ために救急スタッフ(救急隊)への指導や教育、啓蒙活動などの運用についての取り組みはありますか?(谷口)本システムでは、救急隊員が現場で患者に接触、心電図を取る必要があるかを判断して、はじめて伝送が行われるシステムです。ですから、救急隊員の意識を高めることはとても重要です。北部医療センターでは、月に1回、救急隊員と救急室ナース、われわれ循環器医などが集まって「心電図伝送症例を見直す会」というのを開催しています。(ヒロ)ブラボー! 関係スタッフみんなで良い意味での「反省会」をしているのですね。年150症例とのことでしたから、毎月12~13件ですかね。(谷口)ええ。心電図伝送がどれだけ有効であったのかを現場にフィードバックすることで、救急隊の方々も自分のしている行為がどれだけ現場に還元できているのかを、身を持って感じることができるはずです。その結果、12誘導心電図をもっと知りたい、講義をして欲しいという意識が高まり地域としても非常に良いと思います。【質問15】市町村や地域住民に向けた広報活動、そのほかメディアへの拡散はどのように行っていますか?(谷口)本システムの導入にあたり、新聞社などから取材を受けました。また、NHK京都放送局が取り組みに対する特集を組んでくれたおかげで、それがメディアに流れ非常に反響が大きかったというのがあります。【質問16】今後の方向性や新しい取り組みに関して、将来ビジョンを教えて下さい。(谷口)今実施している地域のみならず、近隣にも範囲を拡充し、もう少し広いエリアで本システムを導入したいと考えています。具体的には京丹後市の隣接地域がすべて網羅できれば、丹後医療圏という二次医療圏すべてにおいて包括的にこのシステムを導入できるので、それができれば理想かなと考えています。(ヒロ)まずは二次医療圏の制覇ですね。都市部への展開も魅力的ですが、要請数や医療施設数も多く、一筋縄ではいかなそうです。(谷口)もう一つの可能性として、このシステムは心電図のみならず、動画情報も送ることができます。身体所見、外表面の状況という現場の緊迫感も含めて伝送することで、病院にいる医師の受け入れ体勢の改善や準備、診断への時間短縮にもつながるので、そのような方向での応用も考えています。(ヒロ)心臓病以外の疾患にも使っていく方向性はどうですかね。具体的には、時間との戦いである脳卒中とか、交通外傷や災害医療トリアージなどにも使えそうですね。前編・後編の2回に分けて、救急現場でのクラウド型12誘導心電図伝送システムの有用性についてお話いただき、非常に魅力的なインタビューとなりました。国内の救急医療において、こうしたシステムが都心・地方を問わず“どこでも”、そして“当たり前”に使われる日は意外にそう遠くはないのかもしれません。谷口先生、どうもありがとうございました!1)The firefighter. 近代消防社;2018.p.100-105.【古都のこと~松花堂弁当のルーツ~】皆さんは「松花堂弁当」を聞いたこと、あるいは食したことがありますか? ご推察の通り、前回紹介した松花堂にルーツがあるそうです。松花堂(八幡市)で隠居していた僧昭乗は、内側を十字型に区切った「四つ切り箱」を煙草盆や絵具箱として用いていました。もとは農家の種入れ器だったようで、斬新なセンスの光る自己流アレンジでしょうか。そして時は流れ昭和初期、茶会に登場した“昭乗箱”にピンときた主が湯木貞一*に同器を用いた茶懐石弁当の創作を命じたそうです(西田幾多郎ら)。それはいつしか「松花堂弁当」と呼ばれるようになり、今ではちょっと高級な和食弁当の代名詞にもなっています。洗練された見た目の美しさに加えて、パーテーションの存在が各料理の味・香り・温度を別々に供する実用性を提供しています。京都吉兆はボクお気に入りの市外おもてなしスポットですが、至高の景観を前に由縁を知って松花堂店で食す弁当は格別でした。*:のちに料亭「(京都)吉兆」の創始者となった。

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悪性黒色腫におけるBRAF阻害薬・MEK阻害薬併用の心血管リスク

 悪性黒色腫患者の治療におけるBRAF阻害薬・MEK阻害薬併用療法による心血管有害事象の特徴が明らかになった。ドイツ・エッセン大学病院のRaluca I. Mincu氏らによるシステマティックレビューおよびメタ解析の結果、BRAF阻害薬・MEK阻害薬併用療法はBRAF阻害薬単独療法と比較し心血管有害事象のリスクが高いことが示された。著者は「今回の結果は、悪性黒色腫治療の有益性と、心血管疾患の発症および死亡とのバランスをとるのに役立つと思われる」とまとめている。JAMA Network Open誌2019年8月2日号掲載の報告。 研究グループは、悪性黒色腫患者におけるBRAF阻害薬・MEK阻害薬併用療法と心血管有害事象との関連について、BRAF阻害薬単独療法と比較する目的で、システマティックレビューおよびメタ解析を行った。PubMed、Cochrane、およびWeb of Scienceを用い、2018年11月30日までに発表された論文について、ベムラフェニブ、ダブラフェニブ、エンコラフェニブ、トラメチニブ、ビニメチニブ、cobimetinibをキーワードとして検索した後、悪性黒色腫患者を対象にBRAF阻害薬単独療法とBRAF阻害薬・MEK阻害薬併用療法を比較し心血管有害事象について報告している無作為化臨床試験を解析に組み込んだ。データの評価はPRISMAガイドラインに従い、ランダム効果および固定効果分析を用いて相対リスク(pooled relative risk:RR)および95%信頼区間(CI)を算出した。また、心血管有害事象に関連する患者特性を評価する目的でサブグループ解析を行った。 主要評価項目は、肺塞栓症、左室駆出率低下、高血圧、心筋梗塞、心房細動およびQTc間隔延長であった。 主な結果は以下のとおり。・無作為化臨床試験5件、悪性黒色腫患者計2,317例が解析に組み込まれた。・BRAF阻害薬+MEK阻害薬併用療法はBRAF阻害薬単独療法と比較して、肺塞栓症のリスク増加(RR:4.36、95%CI:1.23~15.44、p=0.02)、左室駆出率低下(RR:3.72、95%CI:1.74~7.94、p<0.001)および高血圧(RR:1.49、95%CI:1.12~1.97、p=0.005)と関連することが認められた。・心筋梗塞、心房細動およびQTc間隔延長に関してはRRに有意差は認められなかった。・Grade3以上の心血管有害事象についても同様の結果であった。Grade3以上の左室駆出率のRR:2.79、95%CI:1.36~5.73、p=0.005、I2=29%、Grade3以上の高血圧のRR:1.54、95%CI:1.14~2.08、p=0.005、I2=0%。・Grade3以上の肺塞栓症に関しては、RRに有意差はなかった。・左室駆出率低下のリスクは平均年齢が55歳未満のサブグループで高く(RR:26.50、95%CI:3.58~196.10、p=0.001)、肺塞栓症のリスクは平均追跡期間が15ヵ月超のサブグループで高かった(RR:7.70、95%CI:1.40~42.12、p=0.02)。

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急性期PE、年間症例数が多い病院で死亡率低下/BMJ

 急性症候性肺塞栓症患者では、本症の年間症例数が多い病院(high volume hospitals)へ入院することで、症例数が少ない病院に比べ、30日時の本症に関連する死亡率が低下することが、スペイン・Ramon y Cajal Institute for Health Research(IRYCIS)のDavid Jimenez氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2019年7月29日号に掲載された。hospital volumeは、内科的/外科的疾患のアウトカムの決定要因として確立されている。一方、急性肺塞栓症発症後の生存に、hospital volumeが関連するかは知られていないという。16ヵ国353病院が参加したコホート研究 研究グループは、急性症候性肺塞栓症でマネジメントを受けた経験(病院の症例数を反映)と死亡率との関連を評価する目的で、人口ベースのコホート研究を実施した(特定の研究助成は受けていない)。 解析には、16ヵ国の353病院が参加するRegistro Informatizado de la Enfermedad TromboEmbolica(RIETE)レジストリの、2001年1月1日~2018年8月31日のデータを用いた。対象は、急性症候性肺塞栓症の診断が確定した患者3万9,257例であった。 病院は、hospital volume(RIETE参加期間中の平均年間症例数)で4群に分けられた(Q1:症例数<15例/年[253施設、8,596例、平均年齢65.6歳、男性47.1%]、Q2:15~25例/年[52施設、8,130例、67.2歳、46.2%]、Q3:>25~40例/年[28施設、9,750例、68.0歳、47.1%]、Q4:>40例/年[20施設、12,781例、67.7歳、46.7%])。 主要アウトカムは、診断から30日以内の肺塞栓症関連死とした。30日肺塞栓症関連死亡率は、Q4群がQ1群より44%低い hospital volumeは施設によって1~112例の幅があり、中央値は7例(IQR:4~16)であった。hospital volumeが高い施設は低い施設に比べ、患者の年齢が高く、併存疾患(がん、慢性肺疾患、うっ血性心不全、最近の出血)が多い傾向がみられた。 30日時のコホート全体の全死因死亡率は5.4%(2,139/3万9,257例)、肺塞栓症関連死亡率は1.7%(668/3万9,257例)であった。hospital volumeを連続変数(1~112例)として解析したところ、30日肺塞栓症関連死の補正後オッズは、hospital volumeが高くなるにしたがって直線的に低下した(線形傾向:p=0.04)。 hospital volumeと肺塞栓症関連死には、有意な逆相関の関連が認められた。すなわち、30日時の肺塞栓症関連死は、Q1群の施設と比較して、Q2群は34%(補正後リスク:1.5% vs.2.3%、補正後オッズ比[OR]:0.66、95%信頼区間[CI]:0.43~1.01、p=0.06)低く、Q3群は39%(1.4% vs.2.3%、0.61、0.38~0.99、p=0.05)、Q4群は44%(1.3% vs.2.3%、0.56、0.33~0.95、p=0.03)低かった。 30日時の全死因死亡率は、Q4群とQ1群に差は認めなかった(補正リスク:5.2% vs.6.4%、補正後OR:0.78、95%CI:0.50~1.22、p=0.28)。また、Q4群とQ1群で、生存例における非致死的な静脈血栓塞栓症の再発(OR:0.76、95%CI:0.49~1.19)および非致死的な大出血(1.07、0.77~1.47)には、ほとんど差はなかった。 著者は、「(1)hospital volumeの低い病院における臨床医の臨床的専門性を改善する戦略の開発、(2)厳選された高リスク患者のサブグループのトリアージと搬送、(3)集学的なpulmonary embolism response teams(PERTs)が、患者アウトカムの改善をもたらすかを評価するために、新たな研究を要する」としている。

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抗凝固療法終了後のVTE、10年で3分の1以上が再発/BMJ

 非誘発性の静脈血栓塞栓症(VTE)の初回エピソードを発症し、3ヵ月を超える抗凝固療法を終了した患者における累積VTE再発率は、2年で16%、5年で25%、10年では36%に達することが、カナダ・オタワ大学のFaizan Khan氏らMARVELOUS共同研究グループの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2019年7月24日号に掲載された。抗凝固療法は、非誘発性VTEの初回エピソード後のVTE再発リスクの抑制において高い効果を発揮するが、この臨床的な有益性は抗凝固療法を中止すると維持されなくなる。抗凝固療法を無期限に中止または継続すべきかの判断には、中止した場合のVTE再発と、継続した場合の大出血という長期的なリスクとのバランスの考慮が求められるが、中止後のVTE再発の長期的なリスクは明確でないという。中止後の長期のVTE再発率をメタ解析で評価 研究グループは、非誘発性VTEの初回エピソード例において、抗凝固療法中止後のVTE再発を評価し、最長10年の累積VTE再発率を検討する目的で、系統的レビューとメタ解析を行った(カナダ保健研究機構[CIHR]などの助成による)。 2019年3月15日までに、医学データベースに登録された文献を検索した。対象は、非誘発性VTEの初回イベントを発症し、3ヵ月以上の抗凝固療法を終了した患者において、治療中止後の症候性VTEの再発について報告した、無作為化対照比較試験または前向きコホート研究とした。 2人の研究者が独立的に試験選出・データ抽出を行い、バイアスリスクを評価。適格と判定された試験のデータについて、各論文執筆者に確認を求めた。個々の研究の抗凝固療法中止後のVTE再発イベントの発生率および追跡期間の人年を算出し、変量効果メタ解析でデータを統合した。男性で再発率が高い傾向、再発による死亡は4% 18件の研究(7,515例)が解析に含まれた。4件が前向き観察コホート研究、14件は無作為化対照比較試験であった。すべての研究が、Newcastle-Ottawaスケールで「質が高い」と判定された。 抗凝固療法中止後100人年当たりのVTE再発率は、1年時が10.3件(95%信頼区間[CI]:8.6~12.1)、2年時が6.3件(5.1~7.7)、3~5年が3.8件/年(3.2~4.5)、6~10年は3.1件/年(1.7~4.9)であった。また、累積VTE再発率は、2年時が16%(13~19)、5年時が25%(21~29)、10年時は36%(28~45)であった。 男女別の抗凝固療法中止後1年の100人年当たりのVTE再発率は、男性が11.9件(95%CI:9.6~14.4)、女性は8.9件(6.8~11.3)であり、10年時の累積再発率はそれぞれ41%(28~56)および29%(20~38)であった。 VTE再発率は、孤立性肺塞栓症患者と比較して、近位深部静脈血栓症患者(率比:1.4、95%CI:1.1~1.7)および肺塞栓症+深部静脈血栓症患者(1.5、1.1~1.9)で高かった。また、遠位深部静脈血栓症患者における中止後1年時の100人年当たりのVTE再発率は1.9件(95%CI:0.5~4.3)であった。VTE再発による死亡率は4%(2~6)だった。 著者は、「これらのデータは、非誘発性VTEの診療ガイドラインの策定に役立ち、患者に予後を説明する際の信頼度を高め、長期のマネジメントに関する意思決定の支援に有用と考えられる」としている。

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循環器医もがんを診る時代~がん血栓症診療~/日本動脈硬化学会

 がん患者に起こる“がん関連VTE(Venous Thromboembolism、静脈血栓塞栓症)”というと、腫瘍科のトピックであり、循環器診療とはかけ離れた印象を抱く方は多いのではないだろうか? 2019年7月11~12日に開催された、第51回日本動脈硬化学会総会・学術集会の日本腫瘍循環器病学会合同シンポジウム『がん関連血栓症の現状と未来』において、山下 侑吾氏(京都大学大学院医学研究科循環器内科)が「がん関連静脈血栓塞栓症の現状と課題~COMMAND VTE Registryより~」について講演し、循環器医らに対して、がん関連VTE診療の重要性を訴えた。なぜ循環器医にとって、がん関連VTEが重要なのか 循環器医は、虚血性心疾患、不整脈、および心不全などの循環器疾患を主に診療しているが、血栓症/塞栓症のような“血の固まる病気”への専門家として、わが国ではVTE診療における中心的な役割を担っている。VTEは循環器医にとって日常臨床で遭遇する機会の多い身近な疾患であり、山下氏は「VTE診療は循環器医にとって重要であるが、その中でもがん関連VTEの割合は高く、とくに重要である」と述べた。発症原因のはっきりしないVTEでは、がんに要注意! 「循環器医の立場としては、VTEの発症原因が不明で、なおかつVTEを再発するような患者では、後にがんが発見される可能性があり、日常臨床で経験する事もある」と述べた同氏は、VTE患者でのがん発見・発症割合1)を示し、VTEの原因としての“がん”の重要性を注意喚起した。さらに同氏は、所属する京都大学医学部附属病院で2010~2015年の5年間に、肺塞栓症やDVT(Deep Vein Thrombosis、深部静脈血栓症)の保険病名が付けられた診療科をまとめた資料を提示し、循環器内科を除外した場合には、産婦人科、呼吸器科、消化器科および血液内科などの腫瘍を多く扱う診療科でVTEの遭遇率が高かったことを説明した。 近年では、がん治療の進歩によりがんサバイバーが増加し、経過観察期間にVTEを発症する例が増えているという。がん患者と非がん患者でVTE発症率を調査した研究2)でも、がん患者のVTE発症率が経年的に増加している事が報告されており、VTE患者全体に占めるがん患者の割合は高く、循環器医にとって、「VTEの背景疾患として、がんは重要であり、日常臨床においては、循環器医と腫瘍医との連携・協調が何よりも重要」と同氏は強調した。がん関連VTEの日本の現状と課題 本病態が重要にも関わらず、現時点での日本における、がん関連VTEに関する報告は極めて少なく、その実態は不明点が多い状況であった。そこで同氏らは、国内29施設において急性症候性VTEと診断された3,027例を対象とした日本最大規模のVTEの多施設共同研究『COMMAND VTE Registry』を実施し、以下のような結果が明らかとなった。・活動性を有するがん患者は、VTE患者の中で23%(695例)存在した(がんの活動性:がん治療中[化学療法・放射線療法など]、がん手術が予定されている、他臓器への遠隔転移、終末期の状態を示す)。・がんの原発巣の内訳は、肺16.4%(114例)、大腸12.7%(88例)、造血器8.9%(62例)が多く、欧米では多い前立腺5.2%(36例)や乳房3.7%(26例)は比較的少数であった。・がん患者のVTE再発率は非常に高く、活動性を有するがん患者ではVTE診断後1年時点で11.8%再発し、なかでも遠隔転移を起こしている患者では22.1%と極めて高い再発率であった。・がん患者の総死亡率は極めて高く、とくに活動性を有するがん患者では49.6%がVTE診断後1年時点で亡くなっていた。・死亡した活動性を有するがん患者(464例)の死因は、がん死が81.7%(379例)で最多であったが、それに次いで、肺塞栓症4.3%(20例)、出血3.9%(18例)であった。 この結果を踏まえ、「再発率だけでなく、死亡率も高いがん関連VTE患者を、どこまでどのように介入するか、今後も解決しなければならない大きな問題である」とし、がん治療中のVTEマネジメントが腫瘍医および循環器医の双方にとって今後の課題であることを示した。 欧米でVTE治療に推奨されている低分子ヘパリンは、残念ながら日本では使用できず、ワルファリンやDOACが使用されている。しかし、ワルファリンは化学療法の薬物相互作用などによりINRの変動が激しく、用量コントロールにも難渋する。また、前述の研究の結果によると、活動性を有するがん患者ではワルファリンによる治療域達成度は低かった。このような患者に対し、VTE治療のガイドライン3)では抗凝固療法の長期継続を推奨しているが、「実際は中止率が高く、抗凝固療法の継続が難しい群であった」と現状との乖離について危惧し、「DOAC時代となった日本でも、がん関連VTEに対する最適な治療方針を探索する研究が必要であり、わが国から世界に向けた情報発信も期待される」と締めくくった。

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がん患者の偶発的肺塞栓症の再発リスクは?

 画像診断技術の進展により、がん患者に偶発的な所見が見つかる割合は高まっており、その治療に関する検討が各種報告されている。オランダ・アムステルダム大学のNoemie Kraaijpoel氏らは、国際共同前向き観察コホート研究において、偶発的な肺塞栓症を有するがん患者で、抗凝固療法を行った場合の再発リスクについて評価した。その結果、治療を行っても静脈血栓塞栓症の再発リスクが懸念されることが示されたという。リスクは、亜区域枝の肺塞栓症患者と、より中枢部の血栓を有する患者で同等であった。がん患者における偶発的な肺塞栓症は、ルーチンの画像検査で最高5%に発見されるという。しかし、とくに遠位血栓に関して、臨床的な関連や最適な治療法は明らかになっていなかった。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2019年5月22日号掲載の報告。 研究グループは、がん患者で偶然発見された肺塞栓症について、現在の治療戦略と長期予後を評価する目的で、2012年10月22日~2017年12月31日に国際共同前向き観察コホート研究を行った。対象は、任意抽出された、偶発的な肺塞栓症の診断を受けた活動性のがんを有する成人患者であった。 評価項目は、追跡期間12ヵ月における静脈血栓塞栓症の再発、臨床的に著明な出血および全死因死亡で、中央判定で評価した。 主な結果は以下のとおり。・合計695例の患者が解析に組み込まれた。平均年齢66歳、58%が男性で、大腸がん(21%)が最も多く、次いで肺がん(15%)であった。・抗凝固療法は675例(97%)で開始され、うち600例(89%)は低分子ヘパリンが用いられた。・再発性静脈血栓塞栓症41例(12ヵ月累積発生率:6.0%、95%CI:4.4~8.1)、大出血39例(同:5.7%、4.1~7.7)、死亡283例(同:43%、39~46)の発生が認められた。・再発性静脈血栓塞栓症の12ヵ月発生率は、肺塞栓が中枢部の患者で6.0%に対し、亜区域枝の患者では6.4%で、有意差は認められなかった(部分分布のハザード比:1.1、95%CI:0.37~2.9、p=0.93)。

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JAK1阻害薬の単剤療法、MTX不応RAのアウトカム改善/Lancet

 メトトレキサート(MTX)の効果が不十分な関節リウマチ(RA)患者の治療において、選択的ヤヌスキナーゼ(JAK)1阻害薬upadacitinibの単剤療法はMTXの継続投与に比べ、臨床的および機能的アウトカムを改善することが、オーストリア・ウィーン医科大学のJosef S. Smolen氏らが行ったSELECT-MONOTHERAPY試験で示された。研究の成果はLancet誌オンライン版2019年5月23日号に掲載された。upadacitinibは、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)への反応が不十分なRA患者の治療において、従来型合成DMARD(csDMARD)との併用による有効性が報告されている。2つの用量とMTX継続を比較する無作為化試験 本研究は、日本を含む24ヵ国138施設で実施された二重盲検ダブルダミープラセボ対照無作為化第III相試験であり、2016年2月~2017年5月に患者登録が行われた(AbbVieの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、米国リウマチ学会(ACR)/欧州リウマチ学会(EULAR)のRAの分類基準(2010年版)を満たし、MTXによる治療を行っても活動性RAが認められる患者であった。被験者は、MTXからJAK1阻害薬upadacitinib 15mgまたは30mg(1日1回)に切り替える群、あるいは試験開始前と同一用量のMTXを継続投与する群に無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、14週時のACR基準で20%の改善(ACR20)および低疾患活動性(DAS28[CRP]≦3.2)の達成割合とした。JAK1阻害薬の単剤療法は疾患コントロールを可能にする治療選択肢となりうる 648例が登録され、JAK1阻害薬upadacitinib 15mg群に217例、同30mg群に215例、MTX継続群には216例が割り付けられた。598例(92%)が試験を完遂した。 患者の約8割が女性で、平均年齢は54.3(SD 12.1)歳、RA診断からの期間は平均6.6(7.6)年であり、79%がリウマトイド因子(RF)または抗シトルリン化ペプチド(CCP)抗体が陽性であった。患者は、平均3年以上のMTX療法にもかかわらず高い疾患活動性を示し、ベースラインのMTXの平均用量は16.7(4.4)mg/週だった。 14週時のACR20達成率は、15mg群が68%(147/217例)、30mg群は71%(153/215例)であり、MTX継続群の41%(89/216例)に比べ有意に良好であった(2つの用量群とMTX継続群の比較:p<0.0001)。 DAS28(CRP)≦3.2の達成率は、15mg群が45%(97/217例)、30mg群は53%(114/215例)と、MTX継続群の19%(42/216例)よりも有意に優れた(2つの用量群とMTX継続群の比較:p<0.0001)。 14週時のDAS28(CRP)≦2.6、CDAI≦10(低疾患活動性)、CDAI≦2.8(寛解)、SDAI≦11(低疾患活動性)、SDAI≦3.3(寛解)のいずれの達成率も、upadacitinibの2つの用量群のほうが優れた。また、健康評価質問票による機能評価(HAQ-DI)もupadacitinib群で良好だった。 有害事象の報告は、15mg群が47%(103例)、30mg群が49%(105例)、MTX継続群は47%(102例)であった。帯状疱疹が、それぞれ3例、6例、1例に認められた。 また、悪性腫瘍が3例(15mg群2例[非ホジキンリンパ腫、乳がん]、MTX継続群1例[基底細胞がん])、主要有害心血管イベント(MACE)が3例(15mg群1例[動脈瘤破裂による出血性脳卒中で死亡]、30mg群2例[心筋梗塞、脳卒中]、いずれも試験薬との関連はないと判定)、肺塞栓症が1例(15mg群、試験薬との関連はないと判定)、死亡が1例(15mg群、動脈瘤破裂による出血性脳卒中)であった。 著者は、「MTXの効果が不十分だが、さまざまな理由で併用治療が困難な患者において、JAK1阻害薬の単剤療法は、疾患コントロールを可能にする治療選択肢となりうる」としている。

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外来がん患者でのリバーロキサバンの血栓予防効果/NEJM

 Khoranaスコアが2以上の高リスク外来がん患者に対し、リバーロキサバンの投与により、試験期間180日間において、静脈血栓塞栓症や静脈血栓塞栓症による死亡などのリスクに有意な低下はみられなかったことが報告された。一方でリバーロキサバン投与期間中については、同イベントの発生は約6割低下し、重大出血の発生も低かった。米国・クリーブランドクリニックのAlok A. Khorana氏らが、800例超を対象に行った第III相無作為化プラセボ対照二重盲検試験の結果で、NEJM誌2019年2月21日号で発表した。全身性のがん治療を受けている外来患者は、静脈血栓塞栓症について異なるリスクが認められる。一方で、これらの患者の血栓予防のベネフィットについては確認されていなかった。下肢近位DVT、肺塞栓症、静脈血栓塞栓症による死亡などの複合エンドポイントを比較 研究グループは、静脈血栓塞栓症リスクの指標となるKhoranaスコアが2以上の、高リスク外来がん患者を対象に試験を行った。 スクリーニング時点で深部静脈血栓症(DVT)の認められなかった被験者を無作為に2群に分け、一方にはリバーロキサバン(10mg)を、もう一方の群にはプラセボを、最長180日間まで連日投与し、8週間ごとにスクリーニングを実施した。 主要有効性エンドポイントは、客観的に確認された下肢近位DVT、肺塞栓症、症候性上肢DVTまたは下肢遠位DVT、静脈血栓塞栓症による死亡の複合エンドポイントで、180日目まで評価した。 同集団を対象にした事前規定の補助解析では、投与期間中(試験薬の初回投与から最終投与プラス2日後まで)の同複合エンドポイントを評価した。 主要安全性エンドポイントは、重大出血とした。投与期間中のエンドポイント発生リスク、リバーロキサバン群は6割低下に 試験に登録された1,080例のうち、49例(4.5%)にスクリーニング時に血栓症が認められた。 無作為化を受けた841例のうち、180日目までに主要エンドポイントが発生したのは、リバーロキサバン群420例中25例(6.0%)、プラセボ群421例中37例(8.8%)だった(ハザード比[HR]:0.66、95%信頼区間[CI]:0.40~1.09、p=0.10)。 事前規定の投与期間中についての解析では、主要エンドポイントの発生は、リバーロキサバン群11例(2.6%)、プラセボ群27例(6.4%)だった(HR:0.40、95%CI:0.20~0.80)。 重大出血の発生は、リバーロキサバン群405例中8例(2.0%)、プラセボ群404例中4例(1.0%)だった(HR:1.96、95%CI:0.59~6.49)。

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アキレス腱断裂、手術・非手術とも再断裂リスクは低い/BMJ

 アキレス腱断裂の手術療法は、非手術療法に比べ、再断裂のリスクが有意に低いもののその差は小さく(リスク差:1.6%)、他の合併症のリスクが高い(リスク差:3.3%)ことが、オランダ・ユトレヒト大学医療センターのYassine Ochen氏らの検討で示された。アキレス腱断裂は遭遇する頻度が高く、最近の研究では発生率の増加が報告されている。観察研究を含まない無作為化対照比較試験のみのメタ解析では、手術療法は非手術療法に比べ、再断裂リスクが有意に低い(リスク差:5~7%)が、他の合併症のリスクは16~21%高いとされる。BMJ誌2019年1月7日号(クリスマス特集号)掲載の報告。観察研究を加えたメタ解析 研究グループは、アキレス腱断裂の手術療法と非手術療法における再断裂、合併症、機能的アウトカムを比較する目的で、文献を系統的レビューし、メタ解析を行った(研究助成は受けていない)。 手術療法には低侵襲修復術、観血的修復術が、非手術療法にはキャスト固定、機能装具が含まれた。アキレス腱断裂以外の合併症は、創感染、腓腹神経損傷、深部静脈血栓症、肺塞栓症などであった。 医学関連データベース(2018年4月25日現在)を用いて、アキレス腱断裂の手術療法と非手術療法を比較した無作為化対照比較試験および観察研究を選出した。データの抽出は、4人のレビュアーが2人1組で、所定のデータ抽出ファイルを用いて別個に行った。アウトカムは変量効果モデルを用いて統合し、リスク差、リスク比、平均差と、その95%信頼区間(CI)を算出した。再断裂率:全体重負荷では手術が良好、加速的リハビリでは差なし 29件の研究に参加した1万5,862例が解析に含まれた。無作為化対照比較試験が10件(944例[6%])、観察研究が19件(1万4,918[94%])で、手術療法が9,375例、非手術療法は6,487例であった。全体の加重平均年齢は41歳(範囲:17~86)、男性が74%で、フォローアップ期間の範囲は10~95ヵ月だった。 再断裂率(29件[100%]で検討)は、手術群が2.3%と、非手術群の3.9%に比べ有意に低かった(リスク差:1.6%、リスク比:0.43、95%CI:0.31~0.60、p<0.001、I2=22%)。 合併症の発生率(26件[90%]で検討)は、手術群は4.9%であり、非手術群の1.6%に比し有意に高かった(リスク差:3.3%、リスク比:2.76、95%CI:1.84~4.13、p<0.001、I2=45%)。合併症発生率の差の主な原因は、手術群で創傷/皮膚感染症の発生率が2.8%と高いことであった(非手術群は0.02%)。非手術群で最も頻度の高い合併症は深部静脈血栓症(1.2%)だった(手術群は1.0%)。 スポーツ復帰までの平均期間(4件[14%]で検討)にはばらつきがみられ、手術群で6~9ヵ月、非手術群では6~8ヵ月の幅があり、メタ解析におけるデータの統合はできなかった。また、仕事復帰までの期間(9件[31%]で検討、そのうち6件は情報が不十分のため3件のデータを統合)にも、両群間に差を認めなかった。 全体重負荷による再断裂率は、早期(4週以内、9件[31%]で検討、リスク比:0.49、95%CI:0.26~0.93、p=0.03、I2=9%)および後期(5週以降、15件[52%]で検討、0.33、0.21~0.50、p<0.001、I2=0%)のいずれもが、手術群で有意に良好であった。 早期可動域訓練による加速的リハビリテーション時の再断裂率(6件[21%]で検討)は、手術群と非手術群に差を認めなかった(リスク比:0.60、95%CI:0.26~1.37、p=0.23、I2=0%)。 統合効果推定値に関して、無作為化対照比較試験と観察研究の間に差はみられなかった。 著者は、「アキレス腱断裂の管理の最終的な決定は、個々の患者に特異的な因子および共同意思決定(shared decision making)に基づいて行う必要がある」と指摘し、「本レビューは、手術療法後の客観的アウトカムの評価のメタ解析では、質の高い観察研究を加えることの潜在的な便益を強調するものである」としている。

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がん患者の静脈血栓塞栓症予防、アピキサバンが有望/NEJM

 がん患者は静脈血栓塞栓症のリスクが高いとされる。カナダ・オタワ大学のMarc Carrier氏らAVERT試験の研究グループは、中等度~高度の静脈血栓塞栓症リスク(Khoranaスコア≧2)を有し、化学療法を開始した外来がん患者では、アピキサバンにより静脈血栓塞栓症の発生が抑制されることを示し、NEJM誌オンライン版2018年12月4日号で報告した。Khoranaスコアは静脈血栓塞栓症のリスクが高いがん患者を同定し、予防治療により便益を得ると考えられる患者の選定に役立つ可能性がある。また、直接経口抗凝固薬は、がん患者の血栓予防薬として、利便性や費用も含め、非経口薬よりも優れる可能性が示唆されている。静脈血栓塞栓症の予防におけるアピキサバンの有用性を評価 本研究は、化学療法を開始した外来がん患者の静脈血栓塞栓症の予防におけるアピキサバンの有用性を評価する二重盲検プラセボ対照無作為化試験である(カナダ保健研究機構およびBristol-Myers SquibbとPfizerの提携組織の助成による)。 対象は、年齢18歳以上、新規に診断されたがんまたは完全/部分寛解後に進行した既知のがんを有し、治療期間が最短でも3ヵ月の化学療法を新たに開始する患者であった。Khoranaスコア(0~6点、点数が高いほど静脈血栓塞栓症のリスクが高い)は、≧2(中等度~高度のリスク)とした。 被験者は、アピキサバン(2.5mg×2回/日)またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられた。 主要な有効性評価項目は180日後の静脈血栓塞栓症(近位深部静脈血栓症、肺塞栓症)の発現であり、主な安全性評価項目は大出血エピソードとした。 2014年2月~2018年4月の期間に、カナダの13施設で574例(アピキサバン群291例、プラセボ群283例)が無作為割り付けの対象となり、563例(288例、275例)が修正intention-to-treat解析に含まれた。静脈血栓塞栓症の発生率はアピキサバン群が有意に低い 全体の平均年齢は61歳、女性が58.2%であった。がん種は多い順に、婦人科がん(25.8%)、リンパ腫(25.3%)、膵がん(13.6%)であった。転移病変を有する固形がんの患者が、アピキサバン群に73例、プラセボ群には67例含まれた。治療期間中央値はそれぞれ157日、155日、追跡期間中央値は両群とも183日だった。 追跡期間中の静脈血栓塞栓症の発生率は、アピキサバン群が4.2%(12/288例)と、プラセボ群の10.2%(28/275例)に比べ有意に低かった(ハザード比[HR]:0.41、95%信頼区間[CI]:0.26~0.65、p<0.001)。治療期間中の静脈血栓塞栓症の発生率は、それぞれ1.0%(3例)、7.3%(20例)であり、アピキサバン群で有意に低かった(0.14、0.05~0.42)。 一方、大出血エピソードの発生率は、アピキサバン群は3.5%(10/288例)であり、プラセボ群の1.8%(5/275例)に比し有意に高かった(HR:2.00、95%CI:1.01~3.95、p=0.046)。治療期間中の大出血の発生率は、それぞれ2.1%(6例)、1.1%(3例)であり、有意差は認めなかった(1.89、0.39~9.24)。 死亡率はアピキサバン群が12.2%(35例)、プラセボ群は9.8%(27例)であった(HR:1.29、95%CI:0.98~1.71)。死亡した62例中54例(87%)の死因は、がんまたはがんの進行に関連していた。 著者は、「全生存に差がないのは、最も一般的な死因である進行がんの患者が多かったという事実を反映している可能性がある。静脈血栓塞栓症の予防が死亡率の低減に結びつくのが理想だが、この課題に取り組むには、異なるデザインの、より大規模な試験を要するだろう」としている。

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