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ラムシルマブ+エルロチニブ、EGFR陽性NSCLCの1次治療で主要評価項目を達成/リリー

 イーライリリーアンドカンパニーは、2019年3月12日、ラムシルマブ(商品名:サイラムザ)の第III相試験(RELAY)で、サイラムザ+エルロチニブ併用療法がプラセボ+エルロチニブの併用に比べ、主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)を統計学的に有意に延長したことを発表。本試験は、転移のあるEGFR変異陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)患者の1次治療で、サイラムザ+エルロチニブの併用療法をプラセボ+エルロチニブの併用と比較したもの。 RELAY試験で認められたラムシルマブ+エルロチニブの併用療法の安全性のプロファイルは、これまでラムシルマブおよびエルロチニブにおいて報告されている安全性のプロファイルと同様であった。プラセボと比較してラムシルマブ群で5%以上高く発現したGrade3以上の主な副作用は、高血圧、ざ瘡様皮膚炎、下痢であった。 有効性及び安全性の結果の詳細は2019年の医学学会で発表予定。

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肺がんの予後、正常組織の肺マイクロバイオームと関連

 腸内フローラなどとともに注目されている“ヒトマイクロバイオーム”が、肺がん予後に関わるという興味深い知見が示された。ヒトマイクロバイオームは、局所の発がんまたはがん進行に寄与する可能性のある多くの機能を有しているが、これまで肺がんの予後と肺マイクロバイオームとの関連は知られていなかった。米国・ニューヨーク大学のBrandilyn A. Peters氏らは、予備研究として少数例で解析を行い、正常な肺マイクロバイオームが肺がんの予後と潜在的に関連していることを初めて明らかにした。さらに大規模な研究が必要ではあるが、著者は「予後に関する細菌バイオマーカーを定義することが、肺がん患者の生存アウトカム改善につながる可能性がある」とまとめている。Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention誌オンライン版2019年2月7日号掲載の報告。 研究グループは、非小細胞肺がん(NSCLC)19例を対象に予備研究を行った。 同一肺葉/区における腫瘍組織および遠隔正常組織のペア検体を用いて16S rRNA解析を施行し、腫瘍または正常組織のマイクロバイオーム多様性/構成と無再発生存(RFS)/無病生存(DFS)との関連を調べるとともに、腫瘍組織と正常組織のマイクロバイオーム多様性/構成を比較した。 主な結果は以下のとおり。・正常組織におけるマイクロバイオームの豊富さ(richness:操作的分類単位[OTU]数が高い)と多様性(diversity:Shannon指数が高い)が、RFS低下(OTU数に関するp=0.08、Shannon指数に関するp=0.03)およびDFS低下(それぞれp=0.03、p=0.02)と関連していた。・正常組織では、Koribacteraceae科の豊富さがRFSおよびDFSの上昇と関連していた。一方で、Bacteroidaceae科、Lachnospiraceae科およびRuminococcaceae科の豊富さはRFSおよびDFSの低下と関連していた(p<0.05)。・腫瘍組織におけるマイクロバイオームの多様性と全体の構成は、RFSおよびDFSと関連していなかった。・腫瘍組織では対応する正常組織と比較し、マイクロバイオームの豊富さと多様性が低かったが(p≦0.0001)、全体の構成に差はなかった。

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がんサバイバーのオピオイド使用、米国での実態/JCO

 オピオイド依存が深刻な米国では、疼痛マネジメントへの懸念も高いようだ。米国・スローン・ケタリング記念がんセンターのTalya Salz氏らは、「がんサバイバーは、オピオイド関連被害を受けるリスクが高い可能性がある」として、オピオイドの継続的使用と高用量使用について、大腸がん、肺がん、乳がんの高齢がんサバイバーと非がん対照集団の比較解析を行った。これまで、診断後のオピオイド使用の経時的傾向は知られていなかったという。解析の結果、がん種によって継続的使用の実態は異なること、診断後3~5年はサバイバーのほうが高用量の継続的使用が多い一方、診断後6年で継続的使用の差はみられないことなどが明らかになった。著者は「がん治療中および治療後の適切な疼痛マネジメント戦略では、オピオイドの高用量継続的使用のリスクを考慮しなければならない」と述べている。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2019年2月28日号掲載の報告。 研究グループは、米国のがん登録データベース「SEER」と高齢者向け公的医療保険「メディケア」のデータを用いて、オピオイドの継続的使用(90日以上連続)について、2008~13年に大腸がん、肺がん、乳がんと診断されたオピオイド未使用サバイバーと、マッチングされた非がん対照を比較するマルチレベルロジスティック回帰分析を行った。 サバイバーと対照の継続的使用における、高用量(モルヒネ換算1日平均90mg以上)オピオイド使用の割合を比較した。 主な結果は以下のとおり。・解析は、サバイバー4万6,789例、非がん対照13万8,136例で行われた。・3つ(大腸がん、肺がん、乳がん)の高齢がんサバイバーの大規模集団において、オピオイドの継続的使用傾向は、がん種により異なることが確認された。・診断日後の1年間において、大腸がんおよび肺がんサバイバーにおけるオピオイドの継続的使用は、対照のオピオイドのそれを上回っていた。大腸がんサバイバーのオッズ比(OR)は1.34(95%CI:1.22~1.47)、肺がんサバイバーのORは2.55(95%CI:2.34~2.77)であった。・上記の差は年々短縮した。・乳がん患者の継続的使用は対照の継続的使用と比べて、各年いずれも少なかった。・診断から3~5年の継続的使用において、サバイバーは対照よりも高用量使用が多い傾向がみられた。一方で、診断後6年におけるサバイバーの継続的使用者は対照よりも多い傾向はみられなかった。

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NSCLC:ニボルマブ治療後のドセタキセル・ラムシルマブ併用の有効性

 肺がんへの免疫療法後の化学療法による有効性を評価した論文が、国内で報告された。 今回、埼玉医科大学国際医療センターの塩野 文子氏らによる後ろ向き研究で、非小細胞肺がん(NSCLC)患者において、抗PD-1抗体ニボルマブによる治療に病勢増悪後、ドセタキセルとラムシルマブを併用投与した場合、ニボルマブ投与なしのレジメンと比較して高い奏効率が得られた。Thoracic Cancer誌オンライン版2019年2月27日号に掲載。 本試験では、2016年2月~2017年12月に当施設でニボルマブを投与されたNSCLC患者152例から、ニボルマブ治療後にドセタキセルとラムシルマブを投与された20例について、全奏効率(ORR)、無増悪生存期間(PFS)、および全生存期間(OS)を調査した。 患者の年齢中央値は70歳(範囲:55~77歳)で、男性12例、女性8例だった。そのうち、16例が腺がん、3例が扁平上皮がん、1例がその他であった。 主な結果は以下のとおり。・18例(90%)に予防的なG-CSF製剤の投与が行われた。・20例の患者のうち、12例が部分奏効(PR)を達成し、ORRは60%だった。・6例が安定(SD)を示し、病勢コントロール率は90%だった。・PFSは169日、OSは343日だった。・消化器系の有害事象が19例の患者で観察された。

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副作用の強い分子標的薬の開始用量は?【忙しい医師のための肺がんササッと解説】第6回

第6回 副作用の強い分子標的薬の開始用量は?1)Cho BC, et al. Efficacy and Safety of Ceritinib (450 mg/day or 600 mg/day) With Food vs 750 mg/day Fasted in Patients With ALK-Positive NSCLC: Primary Efficacy Results From ASCEND-8 Study. J Thorac Oncol. 2019 Mar 6. [Epub ahead of print]2)Cho BC, et al. ASCEND-8: A Randomized Phase 1 Study of Ceritinib, 450 mg or 600 mg, Taken with a Low-Fat Meal versus 750 mg in Fasted State in Patients with Anaplastic Lymphoma Kinase (ALK)-Rearranged Metastatic Non-Small Cell Lung Cancer (NSCLC). J Thorac Oncol. 2017;12:1357-1367.EGFR・ALK陽性例など、1つのドライバー変異に対して複数の分子標的治療薬が承認されている状況は珍しくなくなりつつある。選択肢が広がった一方で、なかには有害事象が思ったより強い薬剤も散見される。支持療法の強化でマネジメントできれば言うことないのだが、それでも減量を強いられる症例は少なくない。ましてや事前に有害事象のデータがわかっていれば、なおさら最初から減量して開始したほうがよいのでは、という考えが生じるが、これまで成功例は少なかった。ALK阻害剤であるセリチニブは消化器毒性の発現が多く、当初の開始量では約8割が用量調整を要する薬剤として知られている(Soria JC, et al. Lancet. 2017;389:917-929.)。今回、セリチニブの投与法を工夫することで、減量しても同等の有効性・毒性の軽減を示すことに成功した臨床試験を紹介する。ASCEND-8試験は前向き・非盲検の3群試験。残念ながら日本は参加していないが、韓国・台湾などのアジア人患者が参加している。本試験は3群試験であり、従来の開始量である750mg/日・空腹時群に対して450mg/日・食後群、600mg/日・食後群が設定された。この試験の重要なポイントとして、PK解析が行われている点が挙げられる。2017年のJournal of Thoracic Oncology(JTO)誌に137例を対象にしたpart Iの結果が報告されているが、450mg/日・食後群のPKは750mg/日・空腹時群と同等で、消化器毒性が少ない可能性が示唆されていた。今回報告されたのは306例まで患者数を増して行ったpart 2の結果で、有効性・安全性を中心とした結果となっている(注:有効性は198例の未治療例に限ったデータ)。ORRは750mg/日・空腹時群:75.7%に対して、450mg/日・600mg/日の食後群では78.1%、72.5%であった。PFS中央値は750mg/日・空腹時群:12.2ヵ月に対して、450mg/日および600mg/日の食後群では未到達、17.0ヵ月であった。18ヵ月時点の無増悪生存率は同様に36.7%に対して52.9%、61.1%となっている。dose intensityは450mg/日・食後群が100%と最も優れていた。消化器毒性を呈した患者の割合は750mg/日・空腹時群の91.8%に対して、450mg/日および600mg/日・食後群では75.9%、82.6%であった。解説連日内服する分子標的薬の有害事象は、投与後、徐々に回復してくる細胞傷害性薬剤のそれとは異なり、持続してしまうことが厄介である。なので、患者の実際のしんどさは最悪時点のgradeのみでは測りにくく、減量率や休止率なども重要な指標となる。過去にこのような有害事象頻度の高い薬剤については、(1)減量した患者群でも有効性が同等である可能性を後方視的に検討したり(アファチニブ:Yang JC, et al. Ann Oncol. 2016;27:2103-2110.)、(2)減量開始による前向き試験(エルロチニブ:Yamada K, et al. Eur J Cancer. 2015;51:1904-1910.)が検討されてきた。ただしあくまで後付けであったり、後者のように主要評価項目にmetしなかった試験も報告されており、原則は「可能な限り、承認された開始用量で始める」というコンセンサスがあった。今回の試験が新しかったのは、きちんとPKを行い、これを基に投与時期の変更と用量調整を行っている点である。実際、本邦・海外において、この新しい用量設定が承認されていることは大変重要な成果だと思う。この試験の弱点を強いて言えば、300例超という大きな試験であるにもかかわらず、「この人数の設定には統計学的根拠がない」と記載されていることだろうか。また、非盲検試験であるため、dose intensityや毒性評価のデータはこれらを差し引いて読む必要があるかもしれない。前述したように、連日経口投与する分子標的薬の場合、従来の毒性評価は不十分かもしれず、今後検討の価値がある。一方そのような場合でも、いたずらな減量開始には注意が必要である。科学的根拠に基づいて用量の再設定をした本試験は非常に重要な意義を持つ。

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NSCLC1次治療のニボルマブ+低用量イピリムマブにおけるORR:PD-L1 1%以上 vs.1%未満(CheckMate-568)/JCO

 転移のある進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者の1次治療として、ニボルマブと低用量イピリムマブ併用の効果と安全性を評価した、オープンラベル第II相CheckMate-568試験。 今回、米国・Duke University Medical CenterのNeal Ready氏らによる結果が、Journal of clinical oncology誌オンライン版2019年2月20日号に掲載された。ニボルマブ+低用量イピリムマブは、転移のある進行NSCLCの1次治療として有効かつ忍容性が高いことが示唆された。 本試験では、未治療StageIVまたは再発StageIIIBのNSCLC患者288例を対象として、ニボルマブ3mg/kgを2週間ごと、イピリムマブ1mg/kgを6週間ごとに投与した。主要評価項目は、PD-L1の発現率が1%以上の患者および1%未満の患者における客観的奏効率(ORR)。副次的評価項目として、腫瘍変異負荷(TMB)に基づく有効性についても検討された。 主な結果は以下のとおり。・対象の患者群のうち、288例中252例(88%)でPD-L1が評価され、120例中98例(82%)でTMBが評価された。・PD-L1レベル別のORRは、PD-L1 1%以上群で41%、PD-L1 1%未満群で15%であり、PD-L1の発現レベルは、ORRに関与した。・TMB別でみると、TMB10mut/mB未満の群と比較して、TMB10mut/mB以上の群では、PD-L1の発現レベルにかかわらずORRが高かった(12% vs.44%)。・無増悪生存期間(PFS)も、TMB10mut/mB未満の群に対し、TMB10mut/mB以上の群でより延長がみられた(2.6ヵ月 vs.7.1ヵ月)。・Grade3~4の治療に関連する有害事象は、患者の29.2%に認められた。

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血液1滴で13がん種を同時診断、日本発miRNA測定技術

 血液中に含まれるマイクロRNA(miRNA)をマーカーとして、13種類のがんを同時診断する検査システムの開発が進み、実用化が近づいている。2019年3月1日、都内で「1滴の血液や尿で、がんが分かる時代へ」と題したメディアセミナーが開催された(共催:日本臨床検査薬協会、米国医療機器・IVD工業会)。落谷 孝広氏(国立がん研究センター研究所分子細胞治療研究分野)が登壇し、自身が開発のプロジェクトリーダーを務めるmiRNAによるリキッドバイオプシーの精度や、実用化に向けた動きなどについて解説した。miRNAはctDNAと何が違うのか リキッドバイオプシーの解析対象としては、米国を中心に開発の進む血中循環腫瘍DNA(ctDNA)が知られている。ctDNAなどの従来の腫瘍マーカーが、がん細胞のアポトーシスに伴って血液中で検出されることと比較し、miRNAはがん細胞の発生初期から血液中を循環するため、より早期の診断が可能だという。 本邦では、「体液中マイクロRNA測定技術基盤開発プロジェクト」が2014年から始動。国立がん研究センター(NCC)、国立長寿医療研究センター(NCGG)が保有するバイオバンクを活用し、膨大な患者血清等の検体を臨床情報と紐づけて解析、血中miRNAをマーカーとした検査システムの開発に取り組んできた。miRNA、13がん種について高い感度で診断可能なことを確認 日本人に多い13種類のがん(胃がん、大腸がん、食道がん、膵臓がん、肝がん、胆道がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、膀胱がん、神経膠腫、肉腫)をターゲットとして、対照群を含めて約5万3,000検体(2019年2月現在)が解析された。その結果、たとえば乳がんの場合、5つのmiRNAの組み合わせによって、感度97%/特異度92%で診断できることが確認された1)。「特異度92%というのは、乳がんではない100人のうち、8人が乳がんと診断される(偽陽性)ということ」と落谷氏。「100%でない限り、もちろん過剰診断には留意しなければならない。しかし非侵襲的であることも含め、次の検査につなげる早期のスクリーニングツールとしては、非常に有力だといえる」と話した。 その他、卵巣がん(感度99%/特異度100%)2)、膵がん(98%/94%)、大腸がん(99%/89%)、膀胱がん(97%/99%)3)、前立腺がん(96%/93%)など、いずれもmiRNAのマーカーとしての高い感度が確認されている。miRNAは認知症や脳卒中のマーカーとしても有望 これらの研究成果をもとに、現在4社が実用化に向けて開発を進めている。血液検体から13種類のがんを全自動で検出するための機器、検査用試薬や測定キットなどが開発中だという。また、今回の研究結果とこれまでのmiRNA関連の研究結果を機械学習に入れ込み、全部で2,655種類あるmiRNAの中から、現状では、およそ500種類程度をチェックするがんの診断モデルが構築されている。このモデルは、判別精度をより高めるためのブラッシュアップが続けられているという。 miRNAはエクソソームに内包されており、エクソソームは分泌元となる細胞の特徴を反映することから、がん以外の疾患のマーカーとしても活用が期待される。本プロジェクトではすでに、認知症と脳卒中で有望な結果がでている。認知症では、アルツハイマー病、血管性認知症、レビー小体認知症をmiRNAは高感度で判別した。また、症例数が少ないデータではあるが、軽度認知機能障害32例で、半年後の認知症への進行の有無が100%の確率で予測されている4)。さらに、これまで有力なマーカーが確認されていない脳卒中のリスクマーカーとしてもmiRNAは有用であることが確認され、近く発表が予定されている。(2019年12月25日 記事の一部を修正いたしました)

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最新鋭のがん患者用手引きHPで公開-静岡がんセンター

 近年、がん治療の分野では、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤などの新薬が次々に発売されている。また、多剤併用による治療、外来患者の増加により、治療・副作用対策の指導が複雑なものになりつつある。そんな折、2019年2月25日に静岡県立静岡がんセンターは、これらの問題を解決するべく、「処方別がん薬物療法説明書【患者さん向け】」をホームページ上に公表した。 この説明書は、抗がん剤治療の全貌がわかるように作成されている。そして、これを患者に渡すのは医師であり、がん薬物療法の決定後、治療前に患者へ手渡しされる。その後、薬剤師や看護師がその冊子を用いて、必要に応じて説明を行うそうだ。 今回作成されたのは、同センターにおいて使用頻度が高い70療法91冊(消化器、呼吸器、皮膚科)。ニボルマブなど新薬との併用療法についても公開されており、そのほかのがん種の冊子については、順次拡大を予定しているとのこと。<特長>◆その1:病気の種類別、使用する薬の組み合わせ別に冊子が作成されているこれからがん薬物療法を受ける、または、すでに受けている患者やその家族向けに、がん薬物療法の理解を深め副作用の対処が行えるよう、病気の種類・使用する薬の組み合わせ別に治療スケジュールや注意事項、副作用とその対処法、医療者に報告する目安などが1冊にまとめられている。◆その2:がん薬物療法を受ける際に患者・家族が心構えできる治療の概要、どんな副作用がいつ現れるのかなどを治療前に理解してもらえるよう、主な副作用の現れやすい時期や頻度が一覧表になっている。◆その3:副作用の対処法がわかる 副作用の対処と工夫(病院への連絡の目安、予防を含めた具体的対処法)が写真を交えて記載されているため、治療を行う前に、生活の見通しや副作用対策を患者自らが立てやすくなっている。◆その4:地域の医療関係者が患者への指導の参考として活用できるすべての冊子は同じ構成で作られているため、患者・家族、そして医療者が効率よく利用できるようになっている。 同センターの広報担当者によると、「これまでこのような類の手引きは存在していない。医師、看護師、薬剤師などの医療従事者が共通して使用することで、患者さんの抗がん剤治療の副作用に対する理解が深まるのではと考えている」。■参考静岡県立静岡がんセンター:処方別がん薬物療法説明書【患者さん向け】

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糖尿病患者への禁煙指導/糖尿病学の進歩

 喫煙は、血糖コントロール悪化や糖尿病発症リスク増加、動脈硬化進展、がんリスク増加などの悪影響を及ぼす。禁煙によりこれらのリスクは低下し、死亡リスクも減少することから禁煙指導は重要である。3月1~2日に開催された第53回糖尿病学の進歩において、聖路加国際病院内分泌代謝科の能登 洋氏が「喫煙と糖尿病合併症」と題して講演し、喫煙と糖尿病発症・糖尿病合併症・がんとの関連、禁煙指導について紹介した。タバコ1日2箱で糖尿病発症リスクが1.5倍 糖尿病患者の喫煙率は、日本の成人における喫煙率とほぼ同様で、男性が31.9%、女性が8.0%と報告されている。男女ともに30代がピークだという。喫煙は、血糖コントロール悪化、糖尿病発症リスク増加、HDL-コレステロール低下、動脈硬化進展、呼吸機能悪化、がんリスク増加、死亡リスク増加といった悪影響を及ぼす。喫煙による糖尿病発症リスクは用量依存的に増加し、国内の研究では、1日当たり1箱吸う人は1.3倍、2箱吸う人は1.5倍、発症リスクが増加すると報告されている。また、受動喫煙でも同様の影響があり、受動喫煙による糖尿病発症リスクは、国内の研究ではオッズ比が1.8と報告されている。 喫煙による糖尿病発症機序としては、コルチゾールなどのインスリン抵抗性を増やすホルモンの増加や、不健康な生活習慣(過食や運動不足)で内臓脂肪の蓄積を引き起こしインスリン抵抗性が惹起されることが想定されている。さらに、喫煙者は飲酒する傾向があるため、それも発症に関わると考えられる。また喫煙は、脂肪組織から分泌されるサイトカインやリポプロテインリパーゼに影響を与え、糖代謝や脂質代謝にも直接悪影響を与える。さらに、ニコチンそのものがインスリン抵抗性を惹起することが想定されている。禁煙後の糖尿病発症リスクの変化、体重増加の影響は? では、禁煙した場合、糖尿病発症リスクはどう変化するのだろうか。禁煙後半年から数年は、ニコチンによる食欲抑制効果の解除、味覚・嗅覚の改善、胃粘膜微小循環系血行障害の改善により体重が増加することが多く、また数年後には喫煙時の体重に減少することが多い。体重増加は糖尿病のリスクファクターであるため、禁煙直後の体重増加による糖尿病リスクへの影響が考えられる。実際に禁煙後の糖尿病発症リスクを検討した国内外の疫学研究では、禁煙後5年間は、糖尿病発症リスクが1.5倍程度まで上昇するが、10年以上経過するとほぼ同レベルまで戻ることが報告されている。さらに、禁煙後の体重変動と糖尿病発症リスクを検討した研究では、禁煙後に体重が増加しなかった人は糖尿病発症リスクが減少し続け、体重が10kg以上増えた人は5年後に1.8倍となるも、その後リスクが減少して15~30年で非喫煙者と同レベルにまで下がること、また禁煙後の体重増加にかかわらず死亡率が大幅に減少することが示されている。能登氏は「禁煙して数年間は糖尿病が増加するリスクはあるが体重を管理すればそのリスクも減少し、いずれにしても死亡リスクが減少することから、タバコをやめるのに越したことはない。禁煙するように指導することは重要であり、禁煙直後は食事療法や運動療法で体重が増えないように療養指導するべき」と述べた。 喫煙と糖尿病合併症との関連をみると、とくに糖尿病大血管症リスクとの関連が大きい。また、糖尿病によってがんリスクが増加することが報告されているが、喫煙によって喫煙関連がん(膀胱、食道、喉頭、肺、口腔、膵臓がん)の死亡リスクが4倍、なかでも肺がんでは約12倍に増加するため、糖尿病患者による喫煙でがんリスクは一層高まる。また、糖尿病合併症である歯周病、骨折についても喫煙と関連が示されている。禁煙は「一気に」「徐々に」どちらが有効か 禁煙のタイミングについては、喫煙歴が長期間であったとしても、いつやめても遅くはない。禁煙半年後には、循環・呼吸機能の改善、心疾患リスクが減少し、5年後には膀胱がん、食道がん、糖尿病の発症リスクが減少することが示されている。 では、どのような禁煙方法が有効なのだろうか。コクランレビューでは、断煙法(バッサリやめる)と漸減法(徐々にやめる)の成功率に有意差はなかった。短期間(6ヵ月)に限れば断煙法の禁煙継続率が高いという報告があるが、個人差があるため、まず患者さんの希望に合わせた方法を勧め、うまくいかなければ別法を勧めるというのがよいという。代替法としてはニコチンガムやパッチなどがあるが、近年発売された電子タバコ*を用いる方法も出てきている。最近、禁煙支援で電子タバコを使用した場合、ニコチン代替法より禁煙成功率が1.8倍高かったという研究結果が報告された。能登氏は、「煙が出るタバコの代わりに電子タバコを吸い続けるというのは勧めないが、禁煙するときに電子タバコを用いた代替法もいいかもしれない」と評価した。 能登氏は最後に、「糖尿病とがんに関する日本糖尿病学会と日本癌学会による医師・医療者への提言」から、日本人では糖尿病は大腸がん、肝臓がん、膵臓がんのリスク増加と関連があること、糖尿病やがんリスク減少のために禁煙を推奨すべきであること、糖尿病患者には喫煙の有無にかかわらず、がん検診を受けるように勧めることが重要であることを説明した。がん検診については、聖路加国際病院では患者さんの目につく血圧自動測定器の前に「糖尿病の方へ:がん検診のお勧め」というポスターを貼っていることを紹介し、講演を終えた。*「電子タバコ」は「加熱式タバコ」(iQOS、glo、Ploom TECHなど)とは異なる

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ごく早期に発現するがん悪液質の食欲不振とグレリンの可能性/JSPEN

 本年(2019年)2月、第34回日本静脈経腸栄養学会学術集会(JSPEN2019)が開催された。その中から、がん悪液質に関する発表について、日本緩和医療学会との合同シンポジウム「悪液質を学ぶ」の伊賀市立上野総合市民病院 三木 誓雄氏、教育講演「がんの悪液質と関連病態」の鹿児島大学大学院 漢方薬理学講座 乾 明夫氏の発表の一部を報告する。前悪液質状態の前から起きている食欲不振 伊賀市立上野総合市民病院 三木 誓雄氏は「がん悪液質の病態評価と治療戦略」の中で次のように発表した。 がん悪液質の出現割合は全病期で50%、末期になると80%にもなる。また、がん患者の30%は悪液質が直接の原因で死亡する。EPCR(European Palliative Care Research Collaborative)のガイドラインでは、がん悪液質は前悪液質(Pre-Cachexia)、悪液質(Cachexia)、不可逆的悪液質(Refractory Cachexia)の3つのステージに分けられる。ESPEN(European Society for Clinical Nutrition and Metabolism:欧州静脈経腸栄養学会)のエキスパートグループは、食欲不振・食物摂取の制限は前悪液質となる前から現れると述べている。 この食欲不振の原因は全身性炎症反応である。McMahon氏らの研究では、未治療の肺がん患者のCRPは、手術侵襲のピーク時を超える高値で持続するとされる。全身性炎症反応の最も大きな原因は、腫瘍から放出されるTNFα、IL-6、IL-1などの炎症性サイトカイン。「炎症性サイトカインが中枢神経に働きかけて、まず食欲が失われ、それに伴って悪液質が始まり、代謝異化に向かい体重減少し、最後にはサルコペニアに至る」という。悪液質の発現で変わるがん治療効果 全身性炎症はまた、がんの治療効果にも影響を及ぼす。全身性炎症が亢進すると、薬物代謝酵素である肝臓のチトクロームP450活性が低下する。薬の代謝が抑制されるため薬物毒性が増える。一方、代謝を受けて薬効を示すプロドラッグなどは効果が減弱する。Carla氏らの報告では、非悪液質患者の抗がん剤の毒性出現頻度は約20%だが、悪液質患者では約50%と上昇する。抗がん剤の治療成功期間(Time to progression)も、非悪液質に比べ悪液質では約400日短縮する。 三木氏らは、伊賀市立上野総合市民病院で、5%以上の体重減少があるがん化学療法施行消化器がん患者179例に対して栄養療法(EPA 1g/日含有栄養剤:300kcal)のトライアルを行った。結果、栄養支持療法なし群だけをみると悪液質(体重減少5%以上かつCRP 0.5以上)は20%に発現し、この悪液質発現群では非発現群と同様の化学療法を受けていても全生存期間が有意に短かった(p<0.01)。また、栄養支持療法あり群では、がん化学療法施行時中もCRPは上昇せず、骨格筋量、除脂肪体重は増加した。栄養支持療法なし群ではCRPは上昇し、骨格筋量、除脂肪体重は増加しなかった。がん化学療法継続日数は栄養支持療法あり群で80日延長した(388.8日 vs.308.0日)。これら栄養支持療法による生命予後改善は、悪液質患者に限ってみられた(全患者:p=0.84、悪液質患者:p=0.0096)。「栄養支持療法をすることで、悪液質患者を非悪液質患者と同じ抗がん剤治療の土俵へ上げることができたことになる」と三木氏は述べる。がん悪液質におけるグレリンの役割 鹿児島大学大学院 漢方薬理学講座 乾 明夫氏は「がん悪液質と関連病態」の中でグレリンについて次のように述べた。 グレリンは胃から分泌され、摂食促進、エネルギー消費抑制に働く。グレリンはグレリン受容体(成長ホルモン分泌促進受容体)に結合し、食欲促進ペプチドである視床下部の神経ペプチドY(NPY)に作用し食欲を増やす。また、下垂体前葉において成長ホルモンの分泌を促進しサルコペニアを改善する。 がん悪液質では、グレリンの相対的分泌低下とレプチンの相対的上昇があり、食欲抑制系が優位状態となっていることが、動物実験で示されている。そのため「外部からグレリンを投与し補充することは理論的」と乾氏は言う。動物実験では実際に、グレリンを投与すると空腹期強収縮が起こり、胃の中に食物があっても空腹期様の強収縮を起こすことも示されている。 グレリン化合物には、多くの開発品がある。anamorelinは、グレリン受容体に強力な親和性を有する経口のグレリンアゴニストである。すでに4つの第II相試験と2つの第III相試験を実施している。StageIII/IVの悪液質を有する非小細胞肺がん患者174例を対象にした第III相試験においては、主要評価項目である除脂肪体重(p<0.0001)に加え、全体重も有意に改善した(p<0.001)。握力はp=0.08で有意な改善は示さなかったものの、「悪液質の診断がついて早期に使えば、より大きな効果を期待できるであろう」と乾氏。 さらに、グレリン・NPYを活性化するものに人参養栄湯がある。グレリン分泌の促進とグレリン非依存性のNPY活性化という2つの作用を有する。食欲、サルコペニア、疲労・抑うつの改善など、重症がん患者に対する支持療法としてさまざまな効果がある。「将来はグレリンアゴニストと人参養栄湯をドッキングして使われることもあると思う」と乾氏は言う。

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NSCLCの4ドライバー遺伝子を同時診断、オンコマインに追加承認

 進行非小細胞肺がん(NSCLC)の一次治療の選択において、これまで多くの検査時間と検体量を用いながら1つずつ診断してきた複数のドライバー遺伝子を、一度の解析で同時診断することが可能になる。サーモフィッシャーサイエンティフィック ジャパングループ(グループ本社:東京都港区、代表:室田 博夫)は2月26日、次世代シーケンシング(NGS)技術を用いた遺伝子診断システム「オンコマイン Dx Target Test CDxシステム」の対象を、NSCLCの4ドライバー遺伝子に拡大し、8種類の分子標的薬治療の適応判定を可能とする一部変更承認を厚生労働省より取得したことを発表した。 同システムはBRAF遺伝子変異を有するNSCLCに対する、ダブラフェニブ・トラメチニブ併用療法のコンパニオン診断薬として承認(2018年4月)・保険償還(同12月)されている。今回の一部変更承認の取得で、BRAF遺伝子変異(V600E)に加え、EGFRエクソン19欠失変異およびEGFRエクソン21 L858R変異、ALK融合遺伝子、ROS1融合遺伝子の検出が可能となり、コンパニオン診断システムとして下記の分子標的薬における治療適応の判定ができるようになる。EGFR遺伝子変異:ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、オシメルチニブALK融合遺伝子:アレクチニブ、クリゾチニブROS1融合遺伝子:クリゾチニブBRAF遺伝子変異:ダブラフェニブ+トラメチニブ併用(2018年承認済) 今回、同システムの臨床性能評価はLC-SCRUM-Japanに蓄積された検体、遺伝子解析データを活用して行われ、これまでの1遺伝子1検査の検査法と同等の検出性能を有することが確認されている。今後はマルチ遺伝子診断法として、保険償還が検討される予定。 なお、今回の承認に伴い、「オンコマイン Dx Target Test CDxシステム」に製品名が一部変更されている。■参考サーモフィッシャーサイエンティフィック ジャパングループプレスリリース国立がん研究センタープレスリリース■関連記事ダブラフェニブ・トラメチニブ併用、BRAF変異肺がんに国内承認分子標的治療薬の新たな薬剤耐性メカニズム発見/LC-SCRUM-Japan

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EGFR変異陽性例のSCLC転化とは何なのか? どう対応するか?【忙しい医師のための肺がんササッと解説】第5回

第5回 EGFR変異陽性例のSCLC転化とは何なのか? どう対応するか?1)Marcoux N, et al. EGFR-Mutant Adenocarcinomas That Transform to Small-Cell Lung Cancer and Other Neuroendocrine Carcinomas: Clinical Outcomes. J Clin Oncol. 2019;37:278-285.2)Ferrer L, Levra MG, et al. A Brief Report of Transformation From NSCLC to SCLC: Molecular and Therapeutic Characteristics. J Thorac Oncol 2019;14:130-134.EGFR変異陽性例の耐性に際して、少数ながら小細胞肺がん(SCLC)への転化が報告されているが、どの程度生じるのか、その対応策についてはまとまった報告がなされてこなかった。また、検体を用いた分子生物学的な解析も十分ではない。Journal of Thoracic Oncology(JTO)誌、Journal of Clinical Oncology(JCO)誌に、SCLC転化に関するまとまった報告がなされているので、併せて紹介する。1)について米国から、8つの病院におけるレトロ解析。2006~18年まで、67例を集積。うち、SCLCやLCNECなどの混合型は9例(13%)。患者背景は、年齢中央値56歳、女性57%、非喫煙者73%。NSCLCの診断からSCLC転化までの中央値は17.8ヵ月。前治療として、オシメルチニブを含んだ第3世代EGFR-TKIが約3割に使用されている。全生存期間中央値は31.5ヵ月。うち、SCLC転化後の生存期間中央値は10.9ヵ月であった。SCLC転化時の検体においても、NSCLC診断時にみられたEGFR変異が全例で確認されている。T790M陽性例は経過中に29%で認められたが、SCLC転化時には約80%で消失していた。SCLC転化時の検体において最も多く認められた変異はTP53(79%)であり、RB1(58%)、PIK3CA(27%)と続く。なお、次世代シークエンサーにて解析できた検体に限ると、TP53は91%で認められている。化学療法の効果については、プラチナ+エトポシドが53例と最も多く用いられており、ORRは54%、PFSは3.4ヵ月であった。タキサンが21例で用いられており(うち単剤が14例)、ORRは50%と高い。一方で、ドセタキセルはわずか6例ではあるものの全例で奏効しなかった。免疫チェックポイント阻害剤は17例で使用されているが、ORRは0%であった。2)についてイタリアとフランスの31施設によるレトロ解析。2005~17年まで、61例を集積。こちらは、SCLCやLCNECなどの混合型は省かれているが、EGFR変異陰性例を13例含む。(以降、EGFR変異陽性例のみの解析結果を示す)患者背景は、年齢中央値61歳、女性69%、非喫煙者62%。NSCLCの診断からSCLC転化までの中央値は、1)と同じで26ヵ月。全生存期間中央値は28ヵ月。うち、SCLC転化後の生存期間中央値は9ヵ月であった。この論文では遺伝子変異に関する解析は充実していないものの、やはりEGFR変異は84%で検出されている。化学療法の効果については、やはりプラチナ+エトポシドが最も多く用いられており、ORRは45%と良好であった。免疫チェックポイント阻害剤に関する検討はなされていない。解説2011年のSequistらによる報告(Sequist LV, et al. Sci Transl Med. 2011;3:75ra26.)では14%で認められるとされたSCLCへの転化、実臨床における頻度はもう少し低い気はするが確かに遭遇する機会があるし、自信をもって対処しにくかった。今回紹介した2報では、欧米におけるこれらの治療状況や予後に関して紹介されている。予想どおりであったのは主にレジメン選択・治療効果に関する内容で、SCLCに準じた治療が行われるべき、という結果であった。面白いのは、1)で紹介されているタキサンで、腺がんから発生しているSCLCであることを考えると、両者に対して有効とされるタキサンの選択は理にかなっていると思われる。逆に、少数例ながらドセタキセル単剤・免疫チェックポイント阻害剤単剤がまったく無効であった点も示唆に富む。意外だったのは、SCLC転化後の大多数でEGFR変異が検出された点ではないだろうか。患者背景も若年・女性・非喫煙者が多く、一般的なSCLCの患者背景とは合致しない。それではEGFR遺伝子変異陽性肺がんのどのような集団がSCLC転化をするのか、という疑問が生じることになるが、1)、2)いずれの報告でも紹介されている2017年JCO誌の報告(Lee JK, et al. J Clin Oncol. 2017;35:3065-3074.)が興味深い。EGFR変異陽性・SCLC転化例の全エクソン解析では、SCLC転化前後で両者に同じ変異(truncal mutation)を共有していることが示されている。つまり、腺がん検体の一部にSCLCクローンが含まれているわけではなく、腺がんから発生したSCLCと考えるのが妥当ではないか、という結果である。また、同じ論文で行われたSCLC転化例と非転化例との比較(腺がん時点での検体を使用)では、前者においてRb・p53のinactivationが有意に多かった(82% vs.3%、オッズ比131 !!)という。TCGAデータベースではRB1変異・TP53変異をともに持つ腺がんが約5%存在しており、これは彼らのコホートにおけるSCLC転化の頻度とほぼ合致していた。つまり、SCLC転化の種が診断時より存在している可能性を示唆している。彼らは、初回診断時に、スクリーニングとしてこれらのRb・p53免疫染色を提案しているが、さすがに現実的ではない。ただし、1)の文献でも述べられているように、耐性時における遺伝子変異解析全盛の時代に、生検診断の重要性に関する一石を投じた論文といえる。

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EGFR変異陽性NSCLC1次治療の新たな選択肢ダコミチニブ

 ファイザー株式会社は、ダコミチニブの承認にあたり、本年(2019年)2月、都内で記者会見を開催した。その中で近畿大学医学部内科学腫瘍内科部門 中川 和彦氏と国立がん研究センター中央病院 先端医療科長/呼吸器内科 山本 昇氏がEGFR変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC)治療とダコミチニブについて紹介した。 2000年時点のNSCLCの標準治療はプラチナ併用化学療法で、当時の全生存期間(OS)は約1年だった。昨年、オシメルチニブが1次治療薬に承認となったEGFR変異陽性NSCLCは、無増悪生存期間(PFS)でさえ19.1ヵ月1)となった。EGFR-TKI、化学療法と治療選択肢が増えるなか、「EGFR陽性NSCLCの今の問題は、治療シーケンスである」と、中川氏は述べる。ダコミチニブの効果と安全性 そのような中、2019年1月8日にダコミチニブ(商品名:ビジンプロ)が承認になった。ダコミチニブはEGFR(HER1、ErbB1)だけでなく、HER2、HER4も不可逆的に阻害する第2世代EGFR-TKI。今回の承認は、EGFR変異陽性NSCLCの1次治療における国際共同無作為化非盲検第III相ARCHER1050を中心とした複数の臨床結果に基づくもの。この試験でダコミチニブはゲフィチニブに比べPFS、OSの改善を示した。主要評価項目であるPFSは、全集団においてダコミチニブ群14.7ヵ月、ゲフィチニブ群9.2ヵ月(HR:0.59、95%CI:0.47~0.74、p<0.0001)。日本人集団では、ダコミチニブ群(n=40)18.2ヵ月、ゲフィチニブ群(n=41)9.3ヵ月(HR:0.544、95%CI:0.307~0.961、p=0.0163)と、いずれもダコミチニブ群で有意に改善した。全生存率はダコミチニブ群34.1ヵ月、ゲフィチニブ群26.8ヵ月と、ダコミチニブ群で良好であった(HR:0.780、95%CI:0.582~0.993)であった(日本人集団は未達)。 一方、安全性について。ダコミチニブ群は皮膚系統(爪囲炎、ざ瘡様皮膚炎など)の有害事象が多いことが特徴である。有害事象の発現時期は早く、代表的な副作用である下痢、口内炎、ざ瘡様皮膚炎の初回発現の時期は全集団で7~14日、日本人集団で5~10日であった。また、ダコミチニブ群では減量例が多くみられ、減量経験のある患者の割合は全集団で66.1%、日本人集団では85.0%であった。相対用量強度は全集団で平均73.3%、日本人集団では55.7%という数値であったが、「この用量強度でも十分な効果(PFS)を示すことから、十分な副作用管理と用量調整が重要」と山本氏は述べた。2018年ガイドラインの選択肢としていかに活用するか ダコミチニブは、「肺癌診療ガイドライン2018」にもEGFR変異陽性の1次治療に選択肢の1つとしてあげられている(CQ.51 b:ダコミチニブを行うよう提案する:2B)。 EGFR変異陽性NSCLCの生命予後は大きく向上しており、「複数の治療選択肢を効率よく適用することが、患者の予後改善、QOL維持に重要。ダコミチニブは新たな選択肢として期待できる薬剤」と山本氏は言う。 ダコミチニブの日本人集団におけるPFSはオシメルチニブに匹敵する。ダコミチニブを有効に活用するポイントとして山本氏は次のように述べる。まず治療前に治療の適用を見極めること。それにはARCHER1050試験の選択・除外規準が参考になる。そして、治療開始後には減量を含めた早期の副作用対策である。一方、中川氏は減量について、「用量強度が多少低くても長く続けられることが重要」だと述べる。国際臨床試験において、日本の医師は早期に減量・休薬する傾向にある(ARCHER1050試験でも減量開始時期は全体の12週に対し日本人では8.79週)。しかし、結果としてこれが日本人集団の有効性の高さにつながっている可能性があるという。 EGFR変異陽性NSCLCの1次治療にダコミチニブが参入した。さらなる予後改善のため、この後、より良い治療シークエンスの開発が期待される。1)Ohe Y, et al. Osimertinib versus standard-of-care EGFR-TKI as first-line treatment for EGFRm advanced NSCLC: FLAURA Japanese subset. Jpn J Clin Oncol. 2019;49:29-36.■関連記事dacomitinib、EGFR変異肺がん1次治療でOS延長(ARCHER1050)/ASCO2018FLAURA試験日本人サブセット、PFS19.1ヵ月/JJCOダコミチニブ、EGFR変異陽性NSCLCに国内承認/ファイザー

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日本人の進行NSCLC患者に対するニボルマブ治療における転移臓器が治療奏効に与える影響

 これまで、進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者におけるニボルマブの効果予測因子として、臨床的に有意な転移部位についての詳細はわかっていなかった。今回、大阪国際がんセンターの田宮 基裕氏らにより、わが国の3施設において、2015年12月17日~2016年7月31日(フォロー期間は2017年3月31日まで)にニボルマブで治療された全症例が後ろ向きに抽出され、効果予測因子の検討が行われた。 その結果、ニボルマブによる治療を受けた進行NSCLC患者では、肝および肺への転移と全身状態(PS)不良の状態が、無増悪生存期間(PFS)中央値の短縮と関連していることが示唆された。PLoS ONE誌2018年2月22日号に掲載。 本試験では、大阪国際がんセンター、大阪はびきの医療センター、近畿中央胸部疾患センターから合計201例の患者が登録された。ニボルマブ投与時の年齢の中央値は68歳(27~87歳)で、135例が男性だった。全症例のうち、157例で喫煙歴があり、153例でPSが0か1、42例が扁平上皮がんで、37例がEGFR変異を有していた。この試験の追跡期間中央値は12.2ヵ月だった。 主な結果は以下のとおり。・全患者におけるPFS中央値は2.86ヵ月(95%信頼区間[CI]:2.01〜3.62)だった。性別、喫煙状況、扁平上皮/非扁平上皮、胸部リンパ節・脳・骨転移の状況、および悪性胸水の状況による差はなかった。・ECOG PS 0〜1でのPFS中央値は3.25ヵ月(95%CI:2.47~4.64)、PS2以上では1.48ヵ月(同:1.12~3.12)だった(p<0.001)。・肝転移なし群でのPFS中央値は3.25ヵ月(95%CI:2.66~4.50)、肝転移群では1.15ヵ月(同:1.05~1.51)だった(p<0.001)。・肺転移なし群でのPFS中央値は3.52ヵ月(95%CI:2.47~5.92)、肺転移あり群では2.27ヵ月(同:1.61~3.32)だった(p<0.01)。・多変量解析の結果、PS2以上におけるハザード比[HR]は1.54(95%CI:1.05~2.25;p<0.05)、肝転移のHRは1.90(95%CI:1.21~2.98;p<0.01)、肺転移のHRは1.41(95%CI:1.00~1.99;p<0.05)であり、それぞれの因子は、統計学的に有意に短いPFSと、独立した相関が認められた。 以上の結果より、肝転移・肺転移・PS不良は、進行NSCLCがんに対するニボルマブ治療において、独立した効果予測因子である可能性が示唆された。

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セリチニブ、用法・用量変更で奏効率と安全性が向上/ノバルティス

 ノバルティス ファーマ株式会社は、2019年2月21日、ALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんの治療薬セリチニブ(商品名:ジカディア)について、用法・用量を「450mg、1日1回食後投与」に変更するための製造販売承認事項一部変更承認を取得した。 セリチニブの用法・用量は、これまで「750mg、1日1回空腹時投与」であったが、主な副作用である悪心、嘔吐、下痢といった消化器症状が、治療継続の課題となっていた。今回、用法・用量が「450mg、1日1回食後投与」に変更されたことで、このような消化器症状の低減が期待される。 今回の承認は、ALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発非小細胞肺がん患者267例が参加したASCEND-8試験の結果に基づいている。独立中央画像評価機関の判定による奏効率は、450mg食後投与群で78.0%(95%CI:62.4~89.4)、750mg空腹時投与群で70.0%(95%CI:53.5~83.)であった。 450mg食後投与89例中74例(83.1%)で認められた主な副作用は、下痢(50.6%)、悪心(34.8%)、ALT(GPT)増加(32.6%)、AST(GOT)増加(25.8%)、γ-GTP増加 (25.8%)、嘔吐(24.7%)等であった。750mg空腹時投与90例中82例(91.1%)で認められた主な副作用は、下痢(70.0%)、嘔吐(46.7%)、悪心(45.6%)、ALT(GPT)増加(30.0%) AST(GOT)増加(27.8%)、腹痛(22.2%)、疲労(20.0%)等であった。■関連記事ALK-TKIセリチニブの450mg食後投与を国内申請セリチニブ、食事との服用で有効性維持と毒性低減を両立(ASCEND-8)/WCLC2017

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扁平上皮NSCLC1次治療における抗EGFR抗体necitumumabの効果/Lung Cancer

 扁平上皮非小細胞肺がん(NSCLC)のほとんどには上皮成長因子受容体(Epidermal Growth Factor Receptor、以下EGFR)が発現しており、腫瘍形成に関与している。抗EGFR抗体necitumumabは、第III相SQUIRE試験でゲムシタビン・シスプラチンとの併用(GC+N)で進行扁平上皮NSCLCの1次治療における全生存期間(OS)を改善した。しかし、この試験では日本人患者は含まれていない。わが国の同じ患者集団の1次治療におけるGC+N療法を評価した多施設共同非盲検第Ib/II相試験の結果がLung Cancer誌2019年3月号に報告された。 第Ib相試験は第II相のゲムシタビンの推奨用量を決定する用量設定試験。第II相は、患者をGC+Nまたはゲムシタビン+シスプラチン(GC)に1:1で割り付けた無作為化比較試験。第II相パート・対象:未治療のStageIV扁平上皮NSCLC日本人患者・試験薬群:ゲムシタビン1,250mg/m2(day1、day8)+シスプラチン75mg/m2(day1)、+necitumumab 800mg(day8)、3週ごと。GCは最大4サイクル、necitumumabは進行または忍容できない毒性が発現するまで継続・対照薬群:ゲムシタビン1,250mg/m2(day1、day8)+シスプラチン75mg/m2(day1)、+necitumumab 800mg(day8)、3週ごと。最大4サイクル・評価項目:[主要評価項目]OS、[副次評価項目]無増悪生存期間(PFS)、客観的奏効率(ORR)、治療成功期間(TTF)など第II相パートの主な結果は以下のとおり。・181例の患者がGC+N群91例またはGC群92例に無作為に割り付けられた。・OS中央値はGC+N群14.9ヵ月、GC群10.8ヵ月とGC+N群で有意に改善された(HR:0.66、95%CI:0.47~0.93、p=0.0161)。・PFS中央値はGC+N群4.2ヵ月、GC群4.0ヵ月と改善が観察された(HR:0.56、95%CI:0.41~0.78、p=0.0004)。・ORRはGC+N群51%、GC群21%とGC+N群で良好であった(p<0.0001)。・生存はEGFR陽性腫瘍の患者においても、GC群に比べGC+N群で有意に延長した。・GC群に比べGC+N群で発現率が5%以上高かったGrade3以上の治療関連有害事象項目は、好中球減少(42% vs.35%)、熱性好中球減少症(12% vs.3%)、食欲減退(11% vs.4%)、ざ瘡様皮膚炎(6% vs.0%)であった。■参考Clinicaltrials.govWatanabe S, et al.Lung Casncer.2019;129:55-62.

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FLAURA試験日本人サブセット、PFS19.1ヵ月/JJCO

 未治療のEGFR変異陽性進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者においてオシメチニブと標準治療(ゲフィチニブまたはエルロチニブ)を比較した多施設二重盲検第III相FLAURA試験。全体ではオシメルチニブで有意に良好な無増悪生存期間(PFS)が示されたこの試験の日本人のサブセット解析がJapanese Journal of Clinical Oncology誌2019年1月1日号で発表された。 FLAURA試験・対象:未治療のEGFR変異陽性NSCLC患者・試験薬:オシメルチニブ 80mg/日・対照薬:標準的なEGFR-TKI(ゲフィチニブ250mg/日またはエルロチニブ150mg/日)・評価項目:[主要評価項目]無増悪生存期間(PFS)、[副次評価項目]全生存期間(OS)、客観的奏効率(ORR)、病勢コントロール率(DCR)、奏効期間(DoR)および安全性 日本人サブセットの主な結果は以下のとおり。・日本では、2014年12月から2017年6月までに、120例がオシメルチニブ65例またはゲフィチニブ55例に無作為に割り付けられた。・PFS中央値はオシメルチニブ群19.1ヵ月(95%CI:12.6~23.5)、ゲフィチニブ群13.8ヵ月(95%CI:8.3~16.6)であった(HR:0.61、95%CI:0.38~0.99、p=0.0456)。・OS中央値はどちらの治療群でも未達であった。・ORRはオシメルチニブ群75.4%、ゲフィチニブ群76.4%であった。・DoR中央値はオシメルチニブ群18.4ヵ月、ゲフィチニブ群9.5ヵ月であった。・Grade3以上の有害事象発現率はオシメルチニブ群47.7%、ゲフィチニブ群56.4%、Grade3以上の間質性肺疾患と肺臓炎発現は両群とも1例であった。 FLAURA試験における日本サブセットの有効性は、試験全体と一致した結果であった。■参考FLAURA試験(Clinical Trials.gov)FLAURA試験(N Engl J Med)■関連記事オシメルチニブ、FLAURA試験の日本人サブグループ解析/日本肺癌学会2017

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第19回 肺がん見落としの背景に制度全体の問題点~医療者と受診者の認識ギャップも【患者コミュニケーション塾】

 2018年12月13日、社会医療法人河北医療財団(以下、河北医療財団)の特別調査委員会の委員の一人として記者会見に出席しました。一部のニュースで報じられて、ご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。この記者会見では、社会に対する大きな問題提起をしました。そこで今回は、その内容についてご紹介したいと思います。特別調査委員会設置に至る経緯特別調査員会は、河北医療財団の施設である東京都杉並区の河北健診クリニックで健康診断・肺がん検診を受けていた女性の肺がんを見落としていたという発表を受け、その原因究明と再発防止策を検証するために設置されました。私は健診を受ける立場からの意見を求められ、委員に就任しました。特別調査委員会は5名の委員で、委員長は弁護士が務め、放射線科医師、健診制度に詳しい医師、安全工学の専門家と私で構成されました。そして、9月から12月まで7回の委員会を経て、12月11日に河北医療財団に調査報告書を提出し、13日の記者会見に至りました。肺がんを発症した女性は、2005年から2018年1月まで、河北健診クリニックで10回にわたり健診・検診を受けていました。30代の間は成人健診や区民健診、40代になってからは肺がん検診を受診しています。それら健診・検診のいずれの胸部X線検査においても、異常なしと判定されていました。ところが、2018年3月に足の張りや痛みの症状で他の医療機関を受診し、その際に受けた胸部単純CT検査で右肺に異常な影があると指摘されました。その後、河北総合病院の呼吸器内科を受診して精密検査を受け肺がんであることが判明し、転院先の病院で同年6月に死亡されています。河北総合病院では肺がんが判明した直後に緊急対策会議を開催し、2014年7月、2015年7月、2018年1月の胸部X線写真には肺がんを疑う陰影が写っていると判断し、2014年7月に肺がんを疑う徴候があったと結論付けました。その後、画像診断学の権威である医師を外部委員とした院内検証委員会を立ち上げ、遅くとも2014年以降には腫瘤影があるにもかかわらず、2014年7月以降の3回の健診・検診で「異常なし」との判定をしたと判断。その原因は胸部X線検査の精度管理が不十分であったことや、2名の医師による読影の方法に問題があったこと、読影医が2名とも放射線科、呼吸器内科でない組み合わせが発生していたなどの問題点を指摘しました。河北医療財団ではそれを受けて見落としを認め、2018年6月にご遺族に謝罪するとともに、7月には理事長が記者会見で公表しました。これらの健診・検診は杉並区の委託で行われていたため、杉並区は河北健診クリニックに2014年9月以降の区民肺がん検診受診者約9,400名の再読影の実施を要請するとともに、杉並区肺がん検診外部検証等委員会を設置しました。このような経緯を受け、河北医療財団では河北総合病院での院内検証委員会だけではなく、客観的かつ公正な調査の実施を行いたいと、外部の委員で構成する特別調査委員会の設置を決定したというのが大きな流れです。専門医でも判断に迷う陰影だった!?私はこの経緯について説明を受け、明確に2014年7月の見落としが認められていることから、当初は明らかな肺がんの見落としなのだろうと思っていました。そのため、特別調査委員会は客観的に原因究明と再発防止策の提言をする場になるのだろうと考えて委員会に臨みました。第1回の特別調査委員会で、後方視的に見ると2014年7月の胸部X線写真に陰影が写っていると説明を受けました。そして、それは健診の判定時にも指摘されていて、腫瘤ではなくニップル(乳頭)と判断していたことがわかりました。さらに、2014年7月と2015年7月の胸部X線写真は1方向から撮影された写真だけで、2018年1月になって初めて肺がん検診になったため、2方向から撮影されていることもわかりました。それらの説明を受けて、私が確認したかったことは、医師であれば誰の目にも明らかに2014年7月の陰影は肺がんを疑わないといけないものなのか、それとも放射線科の専門医でなければ疑うことができないものなのかということでした。というのも、これまでCOMLの活動を通して私が知り得た知識から、胸部X線検査だけで肺がんを早期に見つけることは難しいのではないかと思っていたからです。そして医師の間では、胸部X線検査の限界や、早期検出におけるCTの優位性が広く認識されているとも感じていました。そのため、私自身、肺がんの検診を受ける手段として胸部X線検査は選択肢に考えたことがありませんでした。そこで特別調査委員会の席で、放射線科専門医にそのことを質問したのです。すると、「2018年1月の胸部X線写真は2方向で撮影されているので、ニップルでないことは位置からも明らか。この時点で異常なしと判定したことは問題がある。しかし、2014年7月と2015年7月のものは私でも腫瘤だと判断する自信はない」という見解だったのです。そして、河北総合病院の放射線科医も同様の見解を持っているということが紹介されました。つまり、放射線科の読影の専門医ですら、判断に迷う陰影だということがわかったのです。「見落とし」だと指摘した院内検証委員会の専門医(外部委員)は、ニップルにしては位置が高いと判断されたようです。しかし、女性によっては乳房の大きさに差があり、検査台に強く胸を押し当てればニップルの位置はかなり大きく変化する可能性があるということ。そのような説明を専門医から聞くと、いかに判断が難しい問題かが理解できました。さらに、1方向の撮影だと骨や心臓の死角になって病変が見えないこともあること、どれだけ高性能のX線写真であっても、小さな病変は検出しづらいという分解能の限界があるという説明も受けました。 その後、特別調査委員の間では、「胸部X線検査が肺がんによる死亡率を減少させる科学的根拠がそもそも不十分であり、低線量CT検査が、胸部X線検査と比較して肺がん死亡率を約20%減少させたというデータもある。それにもかかわらず、そのような胸部X線検査の限界を知らされないまま、国民は胸部X線写真による肺がん検診を受け“異常なし”という判定を受けて安心していること自体に問題があるのではないか」という論点で話が進んでいきました。「知らされないこと」による被害件の女性が若くして肺がんで命を落とされる結果になったことは本当に残念なことです。30代のときから健診を受け、胸部X線検査で“異常なし”と判定されて、安心を重ねてこられたのだと思います。もし、「胸部X線検査だけで早期の肺がんを見つけることには限界がある」と知っていたら、果たして漫然とこの健診・検診を受けてきただろうかと考えると、まさしく「知らされていない」被害者だったのではないかと思います。実際に、杉並区の「がん検診のお知らせ」を見ると、「肺がん検診」の検査内容は「問診」「胸部X線検査」と記載されていますから、これらの検査さえ受けていれば肺がんが見つかると期待してしまうでしょう。特別調査委員会では、もちろん河北健診クリニックの検診体制の問題点も指摘し、再発防止策の提案もしました。しかし、最も問題視したのは、河北医療財団が肺がんの早期発見や死亡率を減少させる検診の方法として胸部X線検査に限界があると知りながら、漫然と杉並区の健診・検診を引き受けてきたことではないかということでした。これは河北医療財団だけでなく、健診事業を引き受けている多くの医療機関にも共通するのではないでしょうか。現時点でわかっている情報をもとに、ときには軌道修正していくことも求められると思います。今回の特別調査委員会の提言が、受診者に対する情報提供のあり方も含め、世の中で巨額の予算を投じて漫然と行われている胸部X線検査による肺がん検診制度全体の見直しにつながることを願って止みません。1)社会医療法人河北医療財団 特別調査委員会「調査報告書」

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