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イミフィンジ:独自のコンセプトでがんの完治を目指す

2019年8月、抗悪性腫瘍剤イミフィンジは本邦での発売1周年を迎えた。化学放射線療法(CRT)後にイミフィンジを投与し、がん根治の可能性を高めることを目指す」というコンセプトは、他に類を見ない画期的なものであり、現在ではガイドラインにも記載され、CRT後の患者の約半数がイミフィンジを使用しているとも言われている。根治の可能性を高める、独自のコンセプトステージIIIの非小細胞肺がん(NSCLC)に対しては、化学放射線療法(CRT)が標準治療であり、イミフィンジ発売までの約20年間、画期的に治療が変わるような新たな治療薬が登場しなかった。ステージIIIのNSCLCに対するCRTの5年生存率は15~20%であり、根治を達成できる患者の数は決して多くなかった。そのような状況を打開すべく登場したのが、イミフィンジだ。抗PD-L1抗体製剤としては3番目に発売されたイミフィンジは、CRT後に使用し、がんに対して「根治の可能性を高めていく」薬剤であり、同じクラスの他剤とはコンセプトが異なる。がんに罹患したマウスへの放射線照射により、がん微小環境が変化し、免疫チェックポイント分子のリガンドであるPD-L1の発現が誘導されるという報告があった。ヒトにおいてもCRTの前後で、PD-L1の発現状況が異なると発表されている。イミフィンジは、この放射線治療時に発現するPD-L1を治療ターゲットとしたのである。免疫治療薬として唯一、切除不能なステージIII NSCLCの3年生存率を示すでは、イミフィンジの有用性について、見ていこう。イミフィンジの第III相臨床試験であるPacific試験は、白金製剤を用いたCRTの後に、進行が認められなかった切除不能なステージIIIのNSCLC患者713例を対象に、イミフィンジを逐次投与したプラセボ対照試験である。主要評価項目は、無増悪生存期間(PFS)および、全生存期間(OS)となっている。イミフィンジ投与群では、プラセボ群と比較してPFSとOSが有意に延長し、死亡リスクが32%低減した(対プラセボ群)。そして2019年の米国腫瘍学会(ASCO)では、追加解析である3年生存率の解析結果が発表され、死亡リスクが31%低減し(対プラセボ群)、一貫した有効性が示されたのである。切除不能なステージIIINSCLCの3年生存率は、フェーズ3においては他の免疫治療薬ではまだ示されておらず、イミフィンジのみで示されているデータである。イミフィンジは有効性を示したものの、一方で、CRT後という患者の身体への負担が大きい状況で導入することに対して、安全性を懸念する声もあった。特に放射線科の医師からは、放射線治療で肺が炎症を起こしているところに生物学的製剤を使えば肺臓炎が必発すると、懸念されていた。しかし、肺臓炎の発症率について比較すると、全グレードで見た場合はイミフィンジ群33.8%、プラセボ群24.8%と差があるが、グレード3、4といった重症例の発症率は、イミフィンジ群3.4%、プラセボ群2.6%とほぼ差がない。つまり、イミフィンジの投与によって、軽度の肺臓炎は増えたが、重篤なものについてはあまり差がないのである。イミフィンジ登場から1年で変わったNSCLCに対するCRT後の治療と、今後の展望イミフィンジの登場から1年が経ち、いまやCRT後の患者の約半数にイミフィンジが導入されており、肺癌診療ガイドライン2018でもイミフィンジによる治療が提案されている。それに伴い、CRT後の治療も変わってきている。特に「治療スケジュール」と「医師どうしの連携」に顕著な変化が表れているのである。まず、治療スケジュールであるが、従来CRT後は経過を観察するのみ、というのが一般的だった。そのため数カ月にわたって、放射線照射や化学療法による副作用からの回復を待つというケースも少なくなかった。しかし、イミフィンジをCRT後に投与するには、CRT終了直前から副作用の状況をより精査に確認する必要がある。そのためCRT終了直後にⅩ線、CTなどの画像を確認することが多くなり、放射線肺臓炎などが早期に発見されるケースも見られている。また、肺臓炎の診断のために呼吸器専門医と放射線専門医との間で、ディスカッションなどの連携の機会も増えているという。現在、イミフィンジはさまざまな固形がんに対して、化学療法との併用療法が検討されている。NSCLCよりも悪性度の高い、小細胞肺がん(SCLC)に対して、イミフィンジと化学療法を併用し、有効性を検討したCASPIAN試験の結果が発表公開された他、ステージI、IIといった早期のNSCLC術前補助療法にイミフィンジを用い、がんの治癒率を検討する試験も進行中である。今後もイミフィンジを用いたがん治療の進歩から目が離せない。

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飲酒と喫煙に対する健康政策はがん死を減らせるのか

 長期の飲酒と喫煙はがんの危険因子として認識されているが、飲酒と喫煙に対する公衆衛生政策ががんの死亡率に与える影響は検討されていない。今回、オーストラリア・メルボルン大学のHeng Jiang氏らが、オーストラリアにおける1950年代~2013年の飲酒および喫煙に関する政策とがん死亡率の変化との関連を検討した結果、いくつかの政策変更が飲酒・喫煙の変化とその後20年間のがん死亡率の変化に関連することが示された。BMC Medicine誌2019年11月号に掲載。 本研究では、アルコールとタバコの1人当たり消費量の1911~2013年における集団ベースの時系列データと、1950年代~2013年の頭頸部(口唇、口腔、咽頭、喉頭、食道)がん、肺がん、乳がん、大腸および肛門がん、肝臓がん、がん全体の死亡率を、オーストラリア統計局(Australian Bureau of Statistics)、ビクトリア州がん協会(Cancer Council Victoria)、WHOがん死亡データベース(WHO Cancer Mortality Database)、オーストラリア保健福祉研究所(Australian Institute of Health and Welfare)から収集した。アルコールとタバコの消費量の変化と重大な関係がある政策を初期モデルで特定後、主要な公衆衛生政策やイベントに基づいて推定遅延を伴う介入ダミーを作成し、時系列モデルに挿入して、政策変更とがん死亡率との関係を推定した。 主な結果は以下のとおり。・1960年代のアルコール販売免許の自由化は、飲酒人口の増加とその後の男性のがん死亡率の増加と有意に関連していた。・1976年以降のオーストラリアにおける任意呼気検査の導入は、飲酒人口の減少とその後の男女両方のがん死亡率の減少に関連していた。・1962年と1964年のタバコに関する英国と米国の公衆衛生報告書の発表と1976年のテレビとラジオでのタバコ広告禁止は、オーストラリアにおけるタバコ消費量の減少とその後のがん(肝臓がん除く)の死亡率の減少に関連していた。・1960年代~1980年代の飲酒と喫煙に関する政策の変更は、女性より男性でより大きな変化と関連していた(とくに頭頸部がん、肺がん、大腸がん)。

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高齢者肺がんの治療満足度は?GAを用いた多施設共同臨床試験「ENSURE-GA」 【肺がんインタビュー】 第29回

第29回 高齢者肺がんの治療満足度は?GAを用いた多施設共同臨床試験「ENSURE-GA」出演:島根大学医学部 呼吸器・化学療法内科 津端 由佳里氏高齢者総合的機能評価(GA)を用いた肺がんの多施設共同臨床試験ENSURE-GA試験が実施される。治験責任者の島根大学 津端 由佳里氏に試験の背景と実施内容を聞いた。参考ENSURE-GA試験(UMIN-CTR)ENSURE-GA試験に関する問い合わせ

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PD-L1高発現NSCLC、ペムブロリズマブ単剤の5年生存率は25%以上(KEYNOTE-001)/JCO

 PD-L1陽性進行非小細胞肺がん(NSCLC)に対するペムブロリズマブ単剤療法の長期5年の追跡結果が示された。米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校のEdward B. Garon氏らは、第Ib相KEYNOTE-001試験の結果で、未治療および既治療の進行NSCLC患者におけるペムブロリズマブ単剤療法による5年全生存率は高く、とくにPD-L1高発現患者(TPS≧50%)では25%以上で、長期安全性プロファイルは良好であることを明らかにした。ペムブロリズマブ単剤療法は、PD-L1陽性進行NSCLCに対し持続的な抗腫瘍活性を発揮することが示されていた。Journal of Clinical Oncology誌2019年10月号掲載の報告。 研究グループは、局所進行/転移NSCLC患者を対象に、22C3抗体を用いた免疫組織化学染色法によりPD-L1を評価し、ペムブロリズマブを3週間間隔で2mg/kg、あるいは2週間または3週間間隔で10mg/kgを静脈内投与した。 主要評価項目は奏効率(ORR)、副次評価項目は全生存期間(OS)および奏効期間であった。 主な結果は以下のとおり。・未治療患者101例、既治療患者449例が登録された。・追跡期間中央値は60.6ヵ月(範囲:51.8~77.9ヵ月)であった。・データカットオフ日2018年11月5日において、死亡は450例(82%)確認された。・OS中央値は、未治療群22.3ヵ月(95%信頼区間[CI]:17.1~32.3ヵ月)、既治療群10.5ヵ月(95%CI:8.6~13.2ヵ月)、5年OS率はそれぞれ23.2%および15.5%であった。・腫瘍細胞のうちPD-L1発現陽性細胞の割合を反映するTPSスコアが50%以上の患者では、5年OS率は未治療群29.6%、既治療群25.0%であった。・3年時解析と比較し、新たに発現したGrade3以上の治療関連有害事象は3例のみであった(高血圧、耐糖能障害および過敏反応、全例回復)。・遅発性のGrade4または5の治療関連有害事象は認められなかった。

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血液1滴で13種のがん検出、2時間以内に99%の精度で―東芝

 東芝は11月25日、血液中のマイクロRNAを使ったがん検出技術を開発したと発表した。同社によると、独自のマイクロRNA検出技術を使った健康診断などの血液検査により、生存率の高いStage 0の段階でがんの有無を識別することが期待できるという。早期の社会実装に向け、来年から実証試験を進めていく。 リキッドバイオプシーの解析対象となるマイクロRNAを巡っては、2014年に「体液中マイクロRNA測定技術基盤開発プロジェクト」が始動。国立がん研究センターや国立長寿医療研究センターが保有するバイオバンクを活用し、膨大な患者血清などの検体を臨床情報と紐づけて解析。血中マイクロRNAをマーカーとした検査システムの開発が進んでいる。この研究成果をベースに、国内メーカー4社が、日本人に多い13種のがんについて、血液検体から全自動で検出するための機器や検査用試薬、測定器キットなどの開発に取り組んでいる最中だ。 東芝も本プロジェクトに当初より参画。東京医科大学と国立がん研究センターとの共同研究において、このほど膵臓がんや乳がんなど13種類のがん患者と健常者について、独自の電気化学的なマイクロRNA検出技術を活用し、2時間以内に99%の精度で網羅的に識別することに成功した。この中には、Stage 0の検体も含まれていたという。本研究により、13がん種いずれかのがんの有無について、簡便かつ高精度に検出するスクリーニング検査の実現が期待される。独自のマイクロRNAチップと専用の小型検査装置を用いることで、検査時間を2時間以内に短縮し、即日検査も可能になるという。 東芝は、本技術の詳細を12月3~8日に福岡で開催される日本分子生物学会で発表する。

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EGFR変異NSCLC、ゲフィチニブ+化学療法併用(NEJ-009)/JCO

 EGFR遺伝子変異陽性の進行非小細胞肺がん(NSCLC)の1次治療について、標準療法のEGFR-TKI単独療法 vs.EGFR-TKI+化学療法を比較した、日本発の検討結果が発表された。がん・感染症センター東京都立駒込病院の細見幸生氏らによる、未治療のEGFR遺伝子変異陽性進行NSCLC患者を対象とした第III相臨床試験「NEJ009試験」の結果で、ゲフィチニブ+カルボプラチン+ペメトレキセド併用療法はゲフィチニブ単独療法群と比較して、毒性プロファイルは許容でき、無増悪生存期間(PFS)および全生存(OS)期間が延長することが示されたという。ただし、著者は、「OSの有益性についてはさらなる検証が必要である」とまとめている。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2019年11月4日掲載の報告。NEJ009試験でゲフィチニブ+化学療法併用のPFSが優位に優れていた 研究グループはNEJ009試験で、未治療のEGFR遺伝子変異陽性進行NSCLC患者345例を、ゲフィチニブ+カルボプラチン+ペメトレキセド併用療法群(GCP群)またはゲフィチニブ単独療法群(G群)に無作為に割り付け、疾患増悪(PD)または許容できない副作用の発現等まで継続した。 NEJ009試験の主要評価項目は、無増悪生存(PFS)期間、PFS2およびOS期間で、階層的逐次検定法を用いて優越性を検証した。なお、PFS2は、事前計画ではG群におけるランダム化から2次治療のPDまたは死亡までの期間と定義(GCP群はPFS=PFS2と定義)されていたが、今回の解析では、最初のPDから2次治療開始までの期間を差し引いた修正PFS2が用いられた。副次評価項目は奏効率(ORR)、安全性およびQOLであった。 NEJ009試験の主な結果は以下のとおり。・GCP群はG群に対し、ORRおよびPFSが有意に優れていた。 ORR:84% vs.67%、p<0.001 PFS:20.9ヵ月 vs.11.9ヵ月、ハザード比(HR):0.490、p<0.001・PFS2は、事前計画の定義では両群で同程度であったが(GCP群20.9ヵ月、G群20.7ヵ月、HR0.99、p=0.90)、修正PFS2はGCP群が長いことが示された(20.9ヵ月 vs.18.0ヵ月、p=0.092)・OS中央値は、GCP群でG群より有意に延長した(50.9ヵ月 vs.38.8ヵ月、HR:0.722、p=0.021)。・Grade3以上の治療関連有害事象(血液学的毒性など)の発現頻度は、GCP群がG群より高かったが(65.3% vs.31.0%)、QOLに差はなかった。・GCP群で治療に関連した死亡が1例認められた。

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扁平上皮肺がんの抗EGFR抗体ネシツムマブ発売/日本化薬

 日本化薬株式会社(本社:東京、代表取締役社長:涌元厚宏、以下「日本化薬」)は、2019年11月22日、抗悪性腫瘍剤ヒト型抗EGFRモノクローナル抗体ネシツムマブ(商品名:ポートラーザ)を発売した。ネシツムマブは、進行・再発扁平上皮非小細胞肺がんの治療薬としてイーライリリー・アンド・カンパニーが2015年より欧米にて販売しているヒト型抗EGFRモノクローナル抗体である。2019年8月1日付で日本化薬が日本イーライリリー社より製造販売権を承継し、発売準備を行っていた。・製品名:ポートラーザ点滴静注液 800mg・一般名:ネシツムマブ(遺伝子組換え)・効能・効果:切除不能な進行・再発の扁平上皮非小細胞肺癌・用法・用量:ゲムシタビン及びシスプラチンとの併用において、通常、成人にはネシツムマブ(遺伝子組み換え)として1回800mgをおよそ60分かけて点滴静注し、週1回投与を2週連続し、3週目は休薬する。これを1コースとして投与を繰り返す。なお、患者の状態により適宜減量する。

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脊髄小脳変性症〔SCD : spinocerebellar degeneration〕

1 疾患概要■ 概念・定義脊髄小脳変性症は、大きく遺伝性のものと非遺伝性のものに分けられる。非遺伝性のものの半分以上は多系統萎縮症であり、多系統萎縮症では小脳症状に加えてパーキンソン症状(体の固さなど)や自律神経症状(立ちくらみ、排尿障害など)を伴う特徴がある。また、脊髄小脳変性症のうち、遺伝性のものは約3分の1を占め、その中のほとんどは常染色体優性(顕性)遺伝性の病気であり、その多くはSCA1、SCA2などのSCA(脊髄小脳失調症)という記号に番号をつけた名前で表される。SCA3型は、別名「Machado-Joseph病(MJD)」と呼ばれ、頻度も高い。常染色体性劣性(潜性)遺伝形式の脊髄小脳変性症は、頻度的には1.8%とまれであるにもかかわらず、数多くの病型がある。近年、それらの原因遺伝子の同定や病態の解明も進んできており、疾患への理解が深まってきている。多系統萎縮症は一般的に重い病状を呈し、進行がはっきりとわかるが、遺伝性の中には進行がきわめてゆっくりのものも多く、ひとまとめに疾患の重症度を論じることは困難である。一方で、脊髄小脳変性症には痙性対麻痺(主に遺伝性のもの)も含まれる。痙性対麻痺は、錐体路がさまざまな原因で変性し、強い下肢の突っ張りにより、下肢の運動障害を呈する疾患の総称で、家族性のものはSPG(spastic paraplegia)と名付けられ、わが国では遺伝性ではSPG4が最も多いことがわかっている。本症も小脳失調症と同様に、最終的には原因別に100種類以上に分けられると推定されている。細かな病型分類はNeuromuscular Disease CenterのWebサイトにて確認ができる。■ 症状小脳失調は、脊髄小脳変性症の基本的な特徴で、最も出やすい症状は歩行失調、バランス障害で、初期には片足立ち、継ぎ足での歩行が困難になる。Wide based gaitとよばれる足を開いて歩行するような歩行もみられやすい。そのほか、眼球運動のスムーズさが損なわれ、注視方向性の眼振、構音障害、上肢の巧緻運動の低下なども見られる。純粋に小脳失調であれば筋力の低下は見られないが、最も多い多系統萎縮症では、筋力低下が認められる。これは、錐体路および錐体外路障害の影響と考えられる。痙性対麻痺は、両側の錐体路障害により下肢に強い痙性を認め、下肢が突っ張った状態となり、足の曲げにくさから足が運びにくくなり、はさみ歩行と呼ばれる足の外側を擦るような歩行を呈する。進行すると筋力低下を伴い、杖での歩行、車いすになる場合もある。脊髄が炎症や腫瘍などにより傷害される疾患では、排尿障害や便秘などの自律神経症状を合併することが多いが、本症では合併が無いことが多い。以下、本稿では次に小脳失調症を中心に記載する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 鑑別診断小脳失調症については、治療可能なものを調べる必要がある。治療可能なものとして、橋本脳症が多く混ざっていることがわかってきており、甲状腺機能が正常かどうかにかかわらず、抗TPO抗体、抗TG抗体陽性例の測定が必要である。陽性時には、診断的治療としてステロイドパルス療法などの免疫療法の反応性を確認する必要がある。ステロイド治療に反応すれば橋本脳症とするのが妥当であろう。その他にもグルテン失調症などの免疫治療に反応する小脳失調症も存在する。また、抗GAD抗体陽性の小脳失調症も知られており、測定する価値はある。悪性腫瘍に伴うものも想定されるが、実際に悪性腫瘍の関連で起こることはまれで、腫瘍が見つからないことが多い。亜急性の経過で重篤なもの、オプソクローヌスやミオクローヌスを伴う場合には、腫瘍関連の自己抗体が関連していると推定され、悪性腫瘍の合併率は格段に上がる。男性では肺がん、精巣腫瘍、悪性リンパ腫、女性では乳がん、子宮がん、卵巣がんなどの探索が必要である。ミトコンドリア病(脳筋症)の場合も多々あり、小脳失調に加えて筋障害による筋力低下や糖尿病の合併などミトコンドリア病らしさがあれば、血清、髄液の乳酸、ピルビン酸値測定、MRS(MRスペクトロスコピー)、筋生検、遺伝子検査などを行うことで診断が可能である。劣性遺伝性の疾患の中に、ビタミンE単独欠乏性運動失調症(ataxia with vitamin E deficiency : AVED)という病気があり、本症は、わが国でも見られる治療可能な小脳変性症として重要である。本症は、ビタミンE転送蛋白(α-tocopherol transfer protein)という遺伝子の異常で引き起こされ、ビタミンEの補充により改善が見られる。一方、アルコール多飲が見られる場合には、中止により改善が確認できる場合も多い。フェニトインなど薬剤の確認も必要である。おおよそ小脳失調症の3分の1は多系統萎縮症である。まれに家族例が報告されているが孤発例がほとんどである。通常40代以降に、小脳失調で発症することが多く、初発時にもMRIで小脳萎縮や脳血流シンチグラフィー(IMP-SPECT)で小脳の血流低下を認める。進行とともに自律神経症状の合併、頭部MRIで橋、延髄上部にT2強調画像でhot cross bun signと呼ばれる十字の高信号や橋の萎縮像が見られる。SCAの中ではSCA2に類似の所見が見られることがあるが、この所見があれば、通常多系統萎縮症と診断できる。さらに、小脳失調症の3分の1は遺伝性のものであるため、遺伝子診断なしで小脳失調症の鑑別を行うことは難しい。遺伝性小脳失調症の95%以上は常染色体性優性遺伝形式で、その80%以上は遺伝子診断が可能である。疾患遺伝子頻度には地域差が大きいが、わが国で比較的多く見られるものは、SCA1、 SCA2、 SCA3(MJD)、SCA6、 SCA31であり、トリプレットリピートの延長などの検査で、それぞれの疾患の遺伝子診断が可能である。常染色体劣性遺伝性の小脳失調症は、小脳失調だけではなく、他の症状を合併している病型がほとんどである。その中には、末梢神経障害(ニューロパチー)、知的機能障害、てんかん、筋障害、視力障害、網膜異常、眼球運動障害、不随意運動、皮膚異常などさまざまな症候があり、小脳失調以上に身体的影響が大きい症候も存在する。この中でも先天性や乳幼児期の発症の疾患の多くは、知能障害を伴うことが多く、重度の障害を持つことが多い。小脳失調が主体に出て日常生活に支障が出る疾患として、アプラタキシン欠損症(EAOH/AOA1)、 セナタキシン欠損症(SCAR1/AOA2)、ビタミンE単独欠乏性運動失調症(AVED)、シャルルヴォア・サグネ型痙性失調症(ARSACS)、軸索型末梢神経障害を伴う小脳失調症(SCAN1)、 フリードライヒ失調症(FRDA)などがある。このうちEAOH/AOA1、SCAR1/AOA2、 AVED、ARSACSについては、わが国でも見られる。遺伝性も確認できず、原因の確認ができないものは皮質小脳萎縮症(cortical cerebellar atrophy: CCA)と呼ばれる。CCAは、比較的ゆっくり進行する小脳失調症として知られており、小脳失調症の10~30%の頻度を占めるが、その病理所見の詳細は不明で、実際にどのような疾患であるかは不明である。本症はまれな遺伝子異常のSCA、多系統萎縮症の初期、橋本脳症などの免疫疾患、ミトコンドリア病などさまざまな疾患が混ざっていると推定される。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)小脳失調症の治療は、正確な原因診断に関わっている。上記の橋本脳症、GAD抗体小脳失調、そのほかグルテン失調症など他の自己抗体の関与が推定される疾患もあり、原因不明であれば、一度はステロイドパルスをすることも検討すべきであろう。ミトコンドリア病では、有効性は確認されていないがCoQ10、L-アルギニンなども治療薬の候補に挙がる。ミトコンドリア脳筋症、乳酸アシドーシス、脳卒中様発作症候群(MELAS)においてはタウリンの保険適用も認められ、その治療に準じて、治療することで奏功できる例もあると思われる。小脳失調に対しては、保険診療では、タルチレリン(商品名: セレジスト)の投与により、運動失調の治療を試みる。また、集中的なリハビリテーションの有効性も確認されている。多系統萎縮症の感受性遺伝子の1つにCoQ2の異常が報告され、その機序から推定される治療の臨床試験が進行中である。次に考えられる処方例を示す。■ SCDの薬物療法(保険適用)1) 小脳失調(1) プロチレリン(商品名:ヒルトニン)処方例ヒルトニン®(0.5mg) 1A~4A 筋肉内注射生理食塩水(100mL) 1V 点滴静注2週間連続投与のあと、2週間休薬 または 週3回隔日投与のどちらか。2mg投与群において、14日間連続投与後の評価において、とくに構音障害にて、改善を認める。1年後の累積悪化曲線では、プラセボ群と有意差を認めず。(2) タルチレリン(同:セレジスト)処方例セレジスト®(5mg)2T 分2 朝・夕食後10mg投与群において、全般改善度・運動失調検査概括改善度で改善を認める。28週後までに構音障害、注視眼振、上肢機能などの改善を認める。1年後の累積悪化曲線では、プラセボ群と有意差を認めず。(3) タンドスピロン(同:セディール)処方例セディール®(5~20mg)3T 分3 朝・昼・夕食後タンドスピロンとして、15~60mg/日有効の症例報告もあるが、無効の報告もあり。重篤な副作用がなく、不安神経症の治療としても導入しやすい。2) 自律神経症状起立性低血圧(orthostatic hypotension)※水分・塩分摂取の増加を図ることが第一である。夜間頭部挙上や弾性ストッキングの使用も勧められる。処方例(1) フルドロコルチゾン(同:フロリネフ)〔0.1mg〕 0.2~1T 分1 朝食後(2) ミドドリン(同:メトリジン)〔2mg〕 2~4T 分3 毎食後(二重盲検試験で確認)(3) ドロキシドパ(同:ドプス)〔100mg〕 3~6T 分3 毎食後(4) ピリドスチグミン(同:メスチノン)〔60mg〕 1T/日■ 外科的治療髄腔内バクロフェン投与療法(ITB療法)痙性対麻痺患者の難治性の症例には、検討される。筋力低下の少ない例では、歩行の改善が見られやすい。4 今後の展望多系統萎縮症においてもCoQ2の異常が報告されたことは述べたが、CoQ2に異常がない多系統萎縮症の例のほうが多数であり、そのメカニズムの解析が待たれる。遺伝性小脳失調症については、その原因の80%近くがリピートの延長であるが、それ以外のミスセンス変異などシークエンス配列異常も多数報告されており、正確な診断には次世代シークエンス法を用いたターゲットリシークエンス、または、エクソーム解析により、原因が同定されるであろう。治療については、抗トリプレットリピートまたはポリグルタミンに対する治療研究が積極的に行われ、治療薬スクリーニングが継続して行われる。また、近年のアンチセンスオリゴによる遺伝子治療も治験が行われるなど、遺伝性のものについても治療の期待が膨らんでいる。そのほか、iPS細胞の小脳への移植治療などについてはすぐには困難であるが、先行して行われるパーキンソン病治療の進展を見なければならない。患者iPS細胞を用いた病態解析や治療薬のスクリーニングも大規模に行われるようになるであろう。5 主たる診療科脳神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 脊髄小脳変性症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)Neuromuscular Disease Center(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報全国脊髄小脳変性症・多系統萎縮症友の会(患者、患者家族向けの情報)1)水澤英洋監修. 月刊「難病と在宅ケア」編集部編. 脊髄小脳変性症のすべて. 日本プランニングセンター;2006.2)Multiple-System Atrophy Research Collaboration. N Engl J Med. 2013; 369: 233-244.公開履歴初回2014年07月23日更新2019年11月27日

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brigatinibのALK陽性肺がん1次治療の結果、ESMO Asiaで発表/武田

 武田薬品工業は、2019年11月25日、同社グローバルサイトにて、ALK阻害薬による治療歴のない進行ALK陽性の非小細胞肺がんの成人患者に対するbrigatinibとクリゾチニブを評価した臨床第III相ALTA-1L試験の最新情報を発表した。 試験結果では、2年以上の追跡後も、brigatinibが登録時に脳転移を有した未治療の患者に対する治験責任医師評価において、病状進行または死亡リスクを76%低下させることが示された(ハザード比[HR]:0.24、95%信頼区間[CI]: 0.12~0.45)。また、brigatinibは、全患者においても病状進行または死亡リスクを57%低下させることを示した(HR:0.43、95%CI::0.31~0.61)。これらのデータは、シンガポールで11月22~24日に開催された欧州臨床腫瘍学会アジア大会(ESMO Asia)2019のPresidential Sessionで発表された。 なお、主要評価項目である独立審査委員会(BIRC)による無増悪生存期間の評価では、2回目の中間解析のデータカットオフ時点(2019年6月28日)におけるHRは、0.49(95%CI: 0.35~0.68、log rank p<0.0001)であった。

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ゲノム医療時代、医師はどう学ぶべきか【Doctors' Picksインタビュー】第5回

国立がん研究センター東病院で消化器がんの専門医としてキャリアを積んだ高橋 秀明氏。キャリアの初期にゲノム医療に関わったことをきっかけに、がん領域における横断的アプローチや情報収集の有用性に気付いた、という氏に、その独自の視点の持ち方と日々の学びについて聞いた。私は昔から「変わっている」と言われることが多くて。変わり者が多い医師の世界ですが、その中にあっても「医師らしくない」と言われることがよくあります。自分ではあまりわからないのですが、「わからないことがあれば、すぐ人に聞く」「知らないことを恥ずかしがらない」というあたりが大きいようです。今年の5月から医師向けの情報サイトDoctors’Picksで記事を選定する役割である「Expert Picker」の任を受け、毎日気になった記事を皆さんにシェアしています。私はFacebookやTwitterでの情報発信はやっていないので、ネットでの情報発信はこの活動だけですね。選ぶ記事の種類は自分の専門である消化器がん(肝胆膵がん)の話題が中心ですが、ほかのがんや医療一般の記事や論文も、面白いものがあればどんどんアップしています。医師の仕事は専門性が高く、私はしかも国立がん研究センターという、ことに専門性を求められる職場で働いています。そんな環境にあって、ほかの領域にも関心を持つようになったきっかけは、私のこれまでのキャリアにあるのかもしれません。ゲノム医療で他科への目が開かれたがん研究センターは、2012年からがんゲノム医療への取り組みを始めました。当時、私はその担当になっていました。入職して日の浅い若手でしたから、完全に実働部隊となり、多くのことを勉強させてもらいました。当時は、「がんの部位を横断した治療」という発想は現実的なものではありませんでした。そもそもの遺伝子検査が、臨床で使えるものとしては、肺がんや大腸がんで一つひとつの遺伝子を調べているくらいで、ほかのがんでは遺伝子検査の結果を治療選択に役立てることができていませんでした。一方、海外では50以上の遺伝子変異を同時に調べる検査が一般化しはじめており、「これを日本でもできるようにしないと」という強い思いを持つ先生の旗振りの下、院内のチームで取り組みを進めてきたのです。とはいえ、当時の状況からすれば、本当に小さな生検検体から複数の遺伝子異常を調べられるのか、検査室や病理部などの対応は可能なのか、誰がどのように評価して担当医に結果を返すのか、まさに手探りでした。現在、リキッドバイオプシーの時代が訪れようとしていることを考えると、この10年の間にがん臨床は大きな変貌を遂げた、という思いを新たにしています。ゲノム医療は、まさに「ほかの領域のがんに効いた薬が、自分の領域のがんにも効くかもしれない」という可能性を追究する分野です。もちろん、「何でもいい」というわけではなく、遺伝子異常のタイプ、種類、ほかのがん種と同じことが言えるのか、という点を常に考察しながらの医療になります。がんゲノム医療は2019年から保険適用となり、一気に広がりつつあります。そしてさらに前述のリキッドバイオプシーを含めて医療環境は劇的に変貌を遂げると想像されます。がん治療に関わる医師としては、常に最新の情報に目を光らせねばならない時代になった、と言えるでしょう。横串×専門=「がん」という疾病の特殊性一方で、「がん」という分野の特殊性は、言って言い過ぎることはないでしょう。もともとは臓器別で手術を中心とした研究・治療をしてきたものが、1990年代後半から有効な抗がん剤が多数出現し、同時に内視鏡を使った低侵襲手術、粒子線など放射線治療の局所療法も進歩しました。現在はゲノム検査を筆頭とした個別化によってそれらを組み合わせ、最大の治療効果を出すことが大きなテーマとなっています。米国で先行していた動きに追いつこうと、日本でも2000年代から「腫瘍内科」が生まれ、薬物療法を専門とする内科医が誕生しました。こうした複雑化・高度化した治療に対し、臓器別に横串を刺したうえで、がんという共通テーマで専門的な研究・臨床を行う。こうしたスタイルはほかの疾病にはない、独特なアプローチです。がん薬物療法専門医、がん治療認定医などの腫瘍内科の専門医はがん全般を勉強しているため、この知識が議論の土台となります。このような歴史と状況を踏まえ、「ほかの部位のがんについても学ばなければ」という機運が高まっている、と感じます。それは、あるがんの薬や療法が別のがんにも応用できることが実証されてきたためです。「肺がんで効いたあの薬が使えるのでは」「乳がんでやっているあの組み合わせが応用できるのでは」といった具合に、他領域における新しい薬や治療法の情報が非常に参考になります。いきなり臨床の場で使えなかったとしても、勉強会や論文のネタになりますし、そこから何かが生まれるかもしれません。このように、がん領域は、専門以外の部分も聞きかじっておくと役立つことが随分とあるのです。各分野の専門情報サイトはありますが、「肺がんの専門医だが、別領域のがんについてちょっと知っておきたい」というときに情報収集・交換ができる場があると助かります。Doctors’Picksではそのような視点から記事を選んでいます。加えて、がん治療の精度が上がるにつれ、再発や転移、働きながらの治療や患者の高齢化など、これまでは周辺的な位置付けだった問題の比重も大きくなっています。ここでも部位を横串にした知識や経験が役立つはずです。他科の医師を肌感覚で理解する普段から他科の医師とコミュニケーションをとっておくことは、直接的な情報収集以外にもメリットがあります。同じがん専門医でも、部位によって治療の選択肢やその困難度は大きく異なります。私が専門とする膵臓がんは、早期発見が困難かつ治療の選択肢が少ない、難しいがんです。そうなると、たとえば「2~3割の患者さんに効果がある治療法」があった場合に、私たち膵がんの医師は「おお、それは期待できる治療法だ」と反応します。一方、効果が見込める治療の選択肢が多い肺がんや乳がんの専門医の場合であれば、「2~3割? ふーん、あんまりたいしたことがないね」という反応になる。こうした肌感覚の差異を知っておくことは重要です。例を挙げましょう。がん遺伝子パネル検査を行う際には「エキスパートパネル」という専門家チームを設置して、解析結果を読み解き、具体的な治療方針を決定し、主治医とコミュニケーションを図る必要があります。こうした活動の際にも、専門ごとの感覚の違いを知ったうえでコミュニケーションをとることが非常に重要だと感じます。今後は、さらに他院の医師やコメディカル、ゲノムを専門とする検査薬メーカーやその他スペシャリストとチームを組んで動く場面も増えることでしょう。ゲノムに少しでも関わるならば、他科の動きを勉強しておくことは避けて通れない、と感じます。加えて、私は膵臓がんという難しいがんが専門なので、脳腫瘍や小児がんなど、がんの中でも治療が困難な希少がんを専門とする医師にシンパシーを抱いています。いずれも患者数は少なく、診療情報は貴重で、病状が重篤になりやすい。「きっと、あちらの先生も苦労されているはず。そうした方にも情報が届けばいいな」と思って情報を発信しています。専門外の医師の方も、メジャーながんの情報は日々届くでしょうが、希少がんの情報は手に入りにくいですから、積極的に情報を発信していくことで「ああ、今はそんなに治療が進んでいるんだ。それなら患者を紹介してみようかな」と思ってもらえるとありがたいですね。肺がんが、がん領域を引っ張る日々目を通しているがん関連の論文・記事の中でも、飛び抜けてトピックスが多く、更新頻度も高いのが「肺がん」の分野です。新薬が続々と開発され、臨床に結び付く研究が非常に多い。肺がんが、最近のがんの世界をリードしていると感じます。私の専門である消化器、肝胆膵がんの分野ではなかなかこうはいきません。最近では、肝内胆管がんで、IDH1遺伝子バイオマーカーになりそう、進行膀胱がんと同様にFGFR阻害薬が有効かもしれない、というトピックスがありましたが、やはり腫瘍の特性によるところは大きく、肺がんのトピックスの豊富さには到底かないません。ドラスティックに動く肺がん治療の世界を追いつつ、消化器の分野に応用させられないか、日々動向を追っています。学び続けるために必要な力最近はとくに発表される論文数が膨大になり、ジャーナルも追いきれないほど多数あります。専門だからといってそのすべてを読んでいては、いくら時間があっても足りません。私が情報収集のために一番使っているのはTwitterです。フォローしているのは海外の研究者や関心のある領域の医師。数は70人程度にとどめる代わり、彼らが発信する情報や推薦する論文は欠かさずチェックしています。あとはジャーナルや医学メディアから来るメールを流し読みして、気になったものを読んでいます。最初の段階で、いかに自分にとって価値ある情報だけに接触するか。そのためには他者の視点が欠かせませんし、それを取り入れるためのフィルターも必要。そうした今の時代に合った情報収集力が大切だと感じます。情報は山のようにある時代ですから、それをどうひも付け、自分の中に蓄積していくか、という学び手の編集力も大切です。関連したサイトを集積できたり、用語に自動的に解説が付いたり、医学情報サイトも、そうしたユーザー自らが編集できるような機能を充実させてくれるとうれしいですね。そして、冒頭でもお話ししましたが、わからないことはどんどん他人に聞けばいい。「あいつ、こんなことも知らないのか」と思われるかもしれませんが、別にいいじゃないですか。多くの双方向ツールのある素晴らしい時代なのですから、専門外のことは自分で調べるよりも聞いちゃえばいい、と思います。いわゆる質問力ですね。その代わり、私も自分の専門についての質問には、できる限り答えていきたいと思っています。このインタビューに登場する医師は医師専用のニュース・SNSサイトDoctors’ PicksのExpertPickerです。Doctors’ Picksとは?著名医師が目利きした医療ニュースをチェックできる自分が薦めたい記事をPICK&コメントできる今すぐこの先生のPICKした記事をチェック!私のPICKした記事ビワの種子を使用した健康茶等に、「がんに効果がある」成分は含まれていません!さまざまな記事をご紹介していますが、一番反応があるのはどの科にも共通する話題。疼痛緩和のサプリや禁煙指導、健康食品などのトピックスは反応が良いですね。この記事は、日本医師会が声明で「ビワの種に抗がん作用はない。実は毒性もある」と発信した、というもの。こうした注意喚起のシェアも重要だと思います。今後も、ジェネラルな話題と専門的な話題のバランスをとりながら発信していきたいと思います。

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間質性肺炎合併NSCLCに対するカルボプラチン+nabパクリタキセルの成績

 間質性肺疾患(ILD)を合併する非小細胞肺がん(NSCLC)の予後は不良であり、また、肺がん治療によりILD悪化のリスクが高まる。とくに、化学療法を受けた患者の5~20%でILDが増悪するとされる。静岡県立静岡がんセンターの釼持 広知氏らは、間質性肺炎を合併したNSCLC患者に対するカルボプラチン+nabパクリタキセルの効果と安全性を評価する多施設第II相試験を実施、その結果が発表された。Cancer Science誌オンライン版2019年10月13日号掲載の報告。カルボプラチン+nabパクリタキセルで間質性肺炎の無増悪の割合95.7%・対象:軽度~中等度のILDを合併した進行NSCLC患者・介入:カルボプラチン(AUC6 day1)+nabパクリタキセル(100mg/m2 day1、8、15)3週ごと4サイクル(最大6サイクル)・評価項目:[主要評価項目]プロトコール治療28日後のILD無増悪の割合[副次評価項目]奏効率(RR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、ILD増悪の割合、毒性 間質性肺炎を合併したNSCLC患者に対するカルボプラチン+nabパクリタキセルの効果と安全性を評価した主な結果は以下のとおり。・間質性肺炎を合併したNSCLC患者94例が登録され、92例がプロトコール治療を受けた。・間質性肺炎を合併したNSCLC患者の年齢中央値は70歳、非扁平上皮がんが58%を占めた。・カルボプラチン+nabパクリタキセルのプロトコール治療28日後の間質性肺炎の無増悪の割合は95.7%(92例中88例)であった。・RRは51%(95%信頼区間:40~62)であった。・PFS中央値は6.2ヵ月、OS中央値は15.4ヵ月であった。・頻度の高いGrade3/4の有害事象は好中球減少75%、白血球減少53%、血小板減少20%で、治療関連死は2例であった。

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深刻度高い膵がんの悪液質 シリーズがん悪液質(6)【Oncologyインタビュー】第13回

固形がんの中でも予後が悪いとされる膵臓がん。この膵臓がんと悪液質の関係について、国立がん研究センター東病院 肝胆膵内科医長 兼 先端医療開発センター バイオマーカー探索トランスレーショナルリサーチ分野に所属する光永 修一氏に話を聞いた。膵臓がんでの悪液質の特徴を教えていただけますか。膵臓がんでの悪液質の特徴としてまずあげられるのは、合併頻度の高さです。初診時、つまり新たに膵臓がんと診断された時点ですでに5~6割の患者さんが悪液質を合併しているとの報告があります。アメリカでの観察研究では膵臓がん患者は、診断前から悪液質の兆候が認められると報告されていますし、治療経過中に膵臓がんの全体の8割に悪液質が合併するという報告もあります。悪液質が発症すると、患者さんのQOLは著しく低下するといわれています。従来から膵臓がんは予後がきわめて不良ながんとして知られていますので悪液質の合併による深刻度は、ほかのがん種に比べても、さらに高いといえます。膵臓がんでの悪液質の原因や病態進行との関係については現在どのようなことがわかっているのでしょうか。悪液質の原因としては、炎症性サイトカインの活性化やホルモンの異常が指摘されています。炎症性サイトカインにはインターロイキン-1(IL-1)、インターロイキン-6(IL-6)、腫瘍壊死因子(TNF-α)があります。これら炎症性サイトカインを阻害する治療に関する研究も行われていますが、その結果は必ずしも良好だとはいえません。たとえばIL-1を阻害する治療に関する研究報告は非常に解釈がむずかしい結果でした。また、ホルモンの分泌異常についてもいくつかの研究報告はありますが、やはり確定的な結果とはいえません。結局、実験的なレベルで認められる悪液質の原因が治療応用に結びつく形にはなっていないのが現状なのです。そうした中、われわれが行った研究では、食欲を促進するホルモンである活性化グレリンの比率が低下している膵臓がん患者さんでは、食欲不振が著しいという結果がわかりました。この結果から、グレリンの活性化の低下、グレリンの分泌量低下が悪液質に関わっているのかもしれないとも推察しています。膵臓がんでは悪液質の合併が実際の治療にどのような影響を及ぼすのでしょうか。悪液質では全身状態が低下しています。具体的な研究報告はありませんが、一般的に全身状態が低下している患者さんでは、抗がん治療の毒性が強く出やすく、またその頻度が高いことが知られています。その観点からは膵臓がんでも抗がん治療による毒性が強く出やすいと考えられます。その毒性の中でも抗がん剤による消化器毒性と全身状態の低下には相関関係があることがわかっています。膵臓がんでも悪液質を合併している患者さんでは抗がん剤による消化器毒性が強く出る可能性が高いと考えられます。膵臓がんで悪液質を合併しているかを見分けるポイントはあるのでしょうか。悪液質以外で膵臓がんの患者さんに体重減少が起こる原因は、主に3つあります。1つは外分泌機能の異常、簡単に言えば消化吸収の能力が落ちてしまうことで体重が減少してしまうというものです。2つ目は膵臓がんそのものの増大による、とくに十二指腸などの上部消化管の閉塞、3つ目は膵臓がんの増大で上部消化管の動きが悪くなるというものです。基本的にこれら3つの原因による体重減少と悪液質による体重減少は合併していることが多く、どちらが体重減少の原因かを見分けることはきわめてむずかしいのが現状です。悪液質が優勢で体重減少が起きているか否かを見極める手段としては、炎症反応、具体的にはCRP値を測定することだと思います。実際、悪液質を合併している膵臓がん患者さんではCRP値の上昇が認められます。しかし、具体的なCRP値の基準はありません。膵臓がんでは胆管炎が起こりやすく、その場合もCRP値が上昇しますので、胆管炎の治療をしてもCRP値が改善しない場合は悪液質と診断するという流れになります。そもそも悪液質では炎症性サイトカイン活性化と同様に代謝異常が起こっています。この悪液質による代謝異常を見分けられるバイオマーカーがあれば、診断は容易になるでしょうが、現時点では代謝異常の適切なバイオマーカーはありません。さまざまな除外診断をして、悪液質か否かを判断するのが臨床現場での方策だと考えています。最近では高齢進行非小細胞肺がん/膵臓がんに対する早期栄養・運動介入の前向き単群の第I相試験(NEXTAC-ONE試験)が行われましたが、この結果についてはどのように受け止めていますか。NEXTAC-ONE試験では非小細胞肺がんと膵臓がんを分けた解析は行っていませんが、全体で見た場合に早期の栄養・運動介入で体組成や筋力は維持されているという結果が得られました。ただ、同試験は2つのがん種を併せて30例と症例数が少なく、膵臓がんのみで何らかの有用な示唆を得られる状況にはないと考えています。現在、目標症例数を130例に設定した多施設無作為化比較試験である第II相試験「NEXTAC-TWO試験」が行われていますので、この結果で非小細胞肺がんと膵臓がんで層別解析した際に膵臓がんでの栄養・運動介入の意義がわかるでしょう。悪液質に関する臨床研究はどのような方向に進むでしょうか。現在、悪液質に関する臨床研究の流れは、原因に対する治療法の研究と悪液質の症状に対する支持療法の研究の2つに大別されます。支持療法についてはNEXTAC試験に代表されるような栄養療法、運動療法で、現時点ではこの2つが最も効果が高いと考えられていますので、日本では前述したNEXTAC-TWO試験を適切に実施しながら今後の方向性を検討していくことになります。一方、原因に対する治療としては炎症性サイトカインの活性化や骨格筋の減少を抑制する薬剤が開発されています。現時点では良好な成績が認められているものはありませんが、徐々に開発が進みつつある状況です。こうした薬剤で臨床試験に至っているものはまだ年間数件ですが、世界中で開発が模索されています。がん治療に関わる医療従事者へのメッセージがあればお願いします。がんでは、がんそのものが原因で悪液質以外にもさまざまな症状が発現するため、症状が悪液質によるものなのか、判断が難しいことが少なくありません。これまでわかっていることを総合すれば、なるべく早めに悪液質の傾向が強いかどうかを判断し、悪液質の優勢が疑われれば、早期に筋力の維持に有効な運動・食事療法を提案するといった介入を検討することで望ましい結果を生む可能性があると思います。がん悪液質の診断基準では、過去6ヵ月間の体重減少が5%以上を1つの基準としていますが、海外で医療従事者を対象にしたアンケートでは、多くの回答者が体重減少15%程度で悪液質と判断するという結果が明らかになっています。その意味ではもう少し早めの介入を検討してほしいと思います。こうした認識の違いは、早期に診断をしても現時点では決定的な治療法がない、あるいは悪液質を改善した時にどんなベネフィットがあるかが明確ではないことに起因しているのだとも考えられます。一方で運動療法や栄養療法への信頼性が高まってきています。海外の取り組みや国内でのNEXTAC試験の取り組みで、早期介入がどのような良い結果をもたらすのか…介入による臨床的意義を示すための努力が、われわれスペシャリストに求められていると思います。本試験は2019年3月に全予定症例の登録が完了しました。現在は追跡期間中であり、2021年に主要評価項目に関する解析を予定しています。参考わが国の膵臓がん悪液質、7割に発症、有害事象発現も高く/日本癌治療学会がん悪液質に対する早期の栄養・運動介入…NEXTAC試験 シリーズがん悪液質(5)高齢者進行非小細胞肺がん、膵がん患者に対する早期運動・栄養介入の多施設共同ランダム化第II相試験(NEXTAC-TWO)

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最近の話題:小細胞肺がん【侍オンコロジスト奮闘記】第83回

第83回:最近の話題:小細胞肺がんPaz-Ares L, et al. Durvalumab plus platinum-etoposide versus platinum-etoposide in first-line treatment of extensive-stage small-cell lung cancer (CASPIAN): a randomised, controlled, open-label, phase 3 trial.Lancet. 2019 Oct 4.[Epub ahead of print]小細胞肺がんに対するデュルバルマブ+化学療法の成績(CASPIAN)/ESMO2019

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新型タバコを吸っている患者に伝えたいこと(1)【新型タバコの基礎知識】第12回

第12回 新型タバコを吸っている患者に伝えたいこと(1)Key Points第一に伝えたいことは、タバコを吸っている人が1番のタバコの被害者だということ。タバコ問題を正しく伝え、自主的な禁煙を促すことがポイント。タバコ問題の新たな局面、新型タバコ時代を迎えた日本において、タバコ問題および新型タバコ問題とどう向き合い、従来からのタバコおよび新型タバコを吸っている患者にどう対処していけばよいのか? 皆さんとともに考えていきたいと思っています。まず、どうやったら禁煙支援がうまくいくのか、について簡単に話しておきたいと思います*1。禁煙を成功させる秘訣の1つは、“急がば回れ”のようですが、タバコ問題に関するしっかりとした理解を進めることだと思います。喫煙者がタバコ産業から搾取されている実態や、タバコがいかに残酷な製品かを知ってもらうことが禁煙につながり、喫煙の再開防止に役立ちます。ポスターの掲示やチラシの配布など(図)簡単にできることからでも取り組んでいただければと思います。画像を拡大する科学的根拠に基づき推奨される禁煙方法はさまざまありますが、代表的な方法は(1)禁煙外来を受診して禁煙治療薬の処方を受ける(2)禁煙外来もしくは薬局等で得たニコチンパッチやニコチンガムを使うの2つです。しかし、多くの喫煙者は禁煙を勧める本*2を読むなどして自力で止めることができています。本からタバコ問題に関する情報が得られ、それを知ることにより禁煙することの重要性がよりよく理解できるようになります。*1:なぜ禁煙支援が必要なのかについては日本における健康増進計画、健康日本21等にも理由が明記されており、本稿では触れていません。詳しくはこれらをご参照ください。*2:川井治之『頑張らずにスッパリやめられる禁煙』サンマーク出版、磯村毅『「吸いたい気持ち」がスッキリ消える リセット禁煙』PHP文庫、アレン・カー『禁煙セラピー』KKロングセラーズ社、など紙巻タバコを吸っている人へ伝えたいこと、伝えてほしいこと新型タバコの話題の前に、紙巻タバコを吸っている人全員に伝えたいことがあります。タバコを吸っている人に第一に伝えたいことは、タバコを吸っている人が1番のタバコの被害者だということです。タバコを吸っている人は、当然ですが、悪者ではありません。むしろ、タバコを吸っている魅力的な人が沢山います*3。タバコを吸っているという理由で、頭ごなしに否定するようなことは、もちろん良い結果にはつながりません。タバコを吸っているのは、好奇心が旺盛な証拠かもしれない。もしかしたら、反骨精神のためかもしれない。反骨精神があったり、好奇心旺盛であったりしたが故に、たまたまタバコを吸うという方向に興味が向き、ニコチン依存症になって、やめられなくなった。よくある話です。そんな魅力的な人がずっとタバコを吸っていたら、タバコのせいで寿命がおおよそ5~15 年短くなり、男性であれば50 代後半~60 代という年齢で亡くなってしまう可能性が高くなります。タバコを吸っていると何歳で死ぬのか、これまでの研究のデータから分かっている通りに、若くして亡くなってしまうことが多いのです。たとえば、2012年に、とても魅力的な歌舞伎役者の十八代目中村勘三郎さんが57歳で亡くなられたことは本当に残念な出来事です。原因は食道がんでした。しかし、それは意外な出来事ではありませんでした。タバコもお酒も豪快だったとのことですから、中村さんが50代後半で亡くなってしまったことは、まさしくデータの通りともいえるのです。魅力的な人が早くに亡くなってしまうのは本当につらいことです。長く生きて活躍し続けてほしい、だからこそ絶対に禁煙してほしいと願っています*4。できるだけ早くにやめた方がいいのですが、何歳からでも禁煙すれば、良い効果があると分かっています。“自主的に”禁煙できるよう促すには?今タバコを吸っている人は、自身の意志により吸っているのでしょうか? ほとんどの人がそうだと思っているかもしれません。しかし、実はニコチン依存症のためにそう思い込まされていると分かっています。タバコには大きな害があります。タバコを吸っていると病気になって早くに死亡する可能性が高くなります。タバコは人をニコチン依存症にして、その他のことから本来得られるはずの幸せを奪っているのです(第9回参照)。このように禁煙してほしいと伝えたとしても、必ずしも禁煙してくれるわけではないと理解しています。「勉強しなさい」と子どもに怒鳴っても、子どもは勉強するようになってくれないのと同じです。どんなことでも自分からやる気にならなければ、何かを成し遂げることはできないのです。タバコを吸い続けるということは、タバコ会社に搾取され続けるということです。タバコ会社の役員は巨額の報酬を得て、自分はタバコを吸わず、社会的に不利な状況な人がタバコを吸うように仕向けている、というのはとても有名な話です。英BBC放送のドキュメンタリーによると、1980年代初め、米国のタバコ会社はある有名人を広告のイメージキャラクターにしました。彼がタバコを吸っていると、タバコ会社の幹部が「何だ、君、タバコなんて吸うのか」と言います。「吸わないんですか」と聞くと、幹部は「冗談じゃない」と首を振り、「“喫煙権”なんざ、ガキや貧乏人、黒人やバカにくれてやるよ」と言い放った後、「1日当たり数千人の子どもを喫煙に引きずり込むことが君の仕事だ。肺がんで死ぬ喫煙者の欠員補充だ。中学生ぐらいを狙え」と語ったというのです。本当にひどい話です。タバコ会社は表向きは子どもにタバコを売らないとしながら、子どもに喫煙させることを仕事にしているのです。なお、タバコ会社の子ども向け喫煙防止キャンペーンは、ほとんど効果がないということが分かっています。ぜひ、タバコ問題について詳しく知って、禁煙の動機にしてほしいと思います。*3:当然ですが、タバコを吸っていない魅力的な人も沢山います。*4:もちろん禁煙するとともに、多量飲酒も控えてほしいです。補足コラム:週末禁煙法と医療者にできる励まし禁煙外来に行ける人には是非行ってほしいのですが、タバコをやめる方法は禁煙外来だけではありません。実際に禁煙した方の約80%は、自力でやめることができた人です。禁煙外来には行けない場合や行けない事情がある場合もあるでしょう。自力で禁煙するというのもいい方法だと思います。次のようなタイミングに禁煙を始めるといいかもしれません。人によって、ちょうどいいタイミングがあると思います。たとえば、金曜の夕方に仕事を終え、土日に家族と一緒に過ごして月曜の朝まで禁煙すれば、ほぼ3 日間はタバコをやめられます。3 日間禁煙すれば、平均的にはニコチンの離脱症状もおさまる頃です。そのままずっとやめてみるよう勧めてみてください。それで、いつの間にかやめられたという人が結構います。タバコを吸いたくなったら、水を飲んだり、ガムをかんだり、走ったり、うまく紛らわせられるといいですね。もちろん、禁煙が1回でうまくいくとは限りません。金曜夜からの禁煙に毎週チャレンジしてもらってもいいと思います。いつか禁煙に成功できると思います。もっと極端なことをいえば、毎日、朝起きたときには、もうすでに7~8時間は禁煙に成功しています。当たり前ですが、人間の体はタバコを吸わなくても大丈夫なようにできています。毎日でも禁煙にチャレンジしてほしいと思っています。毎週でも毎日でも、失敗を恐れず、何度でもチャレンジしてほしいです。1回で禁煙できなかったとしても、それは意志が弱いからではありません。タバコ会社によって意図的に誘導されたニコチン依存の結果なのです。タバコ製品そのものが悪いのであって、喫煙者は被害者です。何度でも禁煙にチャレンジすれば、いつか必ず禁煙できます。いろいろな方法で禁煙すればいいのです。1回や2回禁煙に失敗しても、10 回、20 回とチャレンジして、最終的に禁煙できたら必ずいいことがあると励まし続けていただきたいと思います。第13回は、「新型タバコを吸っている患者に伝えたいこと(2)」です。

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小細胞肺がん、PARP阻害薬veliparibの追加でPFS改善/JCO

 小細胞肺がん(SCLC)に対して、化学療法へのPARP阻害薬veliparib追加の有効性が確認された。veliparibは、非臨床試験で標準化学療法の効果を増強することが示されており、米国・エモリー大学のTaofeek K. Owonikoko氏らは、未治療の進展型SCLC(ES-SCLC)患者を対象に第II相無作為化臨床試験を行った。その結果、シスプラチン+エトポシド(CE)へのveliparib追加併用療法により、無増悪生存(PFS)期間が有意に延長したことが示されたという。Journal of Clinical Oncology誌2019年1月20日号掲載の報告。 研究グループは、未治療ES-SCLC患者をveliparib(CE+V)群(1~7日目に100mgを1日2回経口投与)またはプラセボ(CE+P)群に、性別および血清乳酸脱水素酵素(LDH)値で層別化して無作為に割り付け、いずれもCE療法4サイクルと併用投与した。 主要評価項目はPFS。全体の片側(0.10値)log-rank検定を用い、試験の検出力は88%で、PFSのハザード比(HR)37.5%減少と設定した。 主な結果は以下のとおり。・適格基準を満たしプロトコールの治療を受けた患者は、計128例であった。・患者背景は、年齢中央値66歳、52%が男性、ECOG PSは0が29%、1が71%であった。・PFS中央値は、CE+V群6.1ヵ月、CE+P群5.5ヵ月であり、CE+V群が優れていた(層別化前HR:0.75[片側p=0.06]、層別化後HR:0.63[片側p=0.01])。・全生存(OS)期間中央値は、CE+V群10.3ヵ月、CE+P群8.9ヵ月であった(層別化後HR:0.83、80%信頼区間[CI]:0.64~1.07、片側p=0.17)。・全奏効率(ORR)は、CE+V群71.9%、CE+P群65.6%であった(両側p=0.57)。・層別解析の結果、LDH高値の男性患者ではCE+V群でPFSの有意な延長(PFSのHR:0.34、80%CI:0.22~0.51)が認められたが、他の患者集団では治療群間で有意差はなかった(PFSのHR:0.81、80%CI:0.60~1.09)。・Grade3以上の血液学的毒性の発現頻度はCE+V群がCE+P群よりも高かった(CD4リンパ球減少症:8% vs.0%[p=0.06]、好中球減少症:49% vs.32%[p=0.08])。

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TNM分類と取扱い規約は統合可能か?/日本癌治療学会

 本邦では、臓器別に各学会が作成する取扱い規約が使われてきたが、世界中の日本以外の国で主に使用されるのは国際対がん連合(UICC)/米国がん合同委員会(AJCC)によるTNM分類である。国際的な臨床試験への参加時や、論文投稿時に生じる齟齬への対応策はあるのか。第57回日本癌治療学会学術集会(10月24~26日)で、がん研究会有明病院消化器外科の佐野 武氏が、「日本の取扱い規約とUICC/AJCC TNM分類は統合可能か? 」と題した講演を行った。TNM分類の用語や分類を混同するケースが問題 はじめに佐野氏は、取扱い規約とTNM分類の本質的な違いについて解説。取扱い規約が日本人患者のみを対象に、臓器ごとのルールに則り、病期・病理・治療・効果判定を扱っているのに対し、TNM分類はグローバルな使用を目的に、全臓器共通の原則に則り、臓器ごとの病期のみを扱うものである。両者の目的や枠組みの違いを混同すべきではなく、「TNM分類に従った治療などというものはない。日本の臨床医にとって、取扱い規約は目の前の患者に最も適した診断・治療法を探るための規約であり、独自の分類があることはメリットといえる」と話した。 問題は、TNM分類への正確な翻訳ができない、あるいは一部が似ているために用語や分類を混同するケースがある点だと同氏は指摘。胃がん領域では、2010年に国内で取扱い規約とガイドラインの改訂が行われ、同時期にTNM分類も改訂が予定されていた。両者を比較すると、例えば“M1”は胃癌取扱い規約では腹腔外転移を表すが、TNM分類では領域リンパ節転移以外の転移すべてを表していた。また領域リンパ節(N)の扱いや、深達度(T)で表す対象としてリンパ管侵襲(Ly)と静脈侵襲(V)を含むかどうか、なども異なっていた。TNM分類に翻訳可能な形に整理された胃癌取扱い規約 そこで、胃癌取扱い規約(第13版→第14版)および治療ガイドライン(第2版→第3版)の改訂にあたって、大規模な整理が行われた。最も大きな問題とされたのは、領域リンパ節の扱い。TNM分類では単純に転移リンパ節個数のみを評価するが、取扱い規約では各リンパ節に番号が振られ、どのリンパ節への転移かによってグルーピングし、病期を評価してきた歴史がある。表記としては同じN1~N3が、指し示す内容としては全く異なるものとなっていた。胃癌取扱い規約の第14版では、このグルーピングをなくし、ステージングについてはTNM分類と一致させる方向で改訂を行った。従来のリンパ節番号や肝転移(H)、腹膜転移(P)の考え方は残しつつも、TNM分類に翻訳可能な形に整理されている。 治療についてはガイドラインに移行させ、紙面上では規約独自のものは黒字、TNM分類と共通のものは青字と区別できるようにした。一方、同時期に行われていたTNM第6版から第7版への改訂過程において、AJCCは食道がんのみのデータに基づいて食道と胃でステージングを統一しようと動いていた。これに対し、日本側は日本と韓国のデータベースに基づく新たな胃がんのステージングを提案し、実際に採用された経緯がある。さらに、国際胃癌学会(IGCA)を通じて、世界中から2万例以上のデータを集めて解析した結果をもって提案した新たなステージングが、取扱い規約第15版およびTNM分類第8版に採用されている。 佐野氏は「日本が長年にわたり蓄積してきた詳細で正確なデータベースは国際的な分類の改訂にも貢献できるもの」と話し、UICC/AJCCに対する積極的な働きかけも必要であることを強調した。「両者を統合することはできないし、する必要はない」とし、「ただし、ステージングに関しては日本の規約がTNMを受け入れることで国際的な齟齬はなくなるであろう。わが国は、診断、病理、治療の分野で独自性を維持すればよいのではないか」として講演を締めくくった。TNM分類と読み替えできる「領域横断的がん取扱い規約」 国内に目を向けると、各取扱い規約の間で臓器別に異なる用語・記載法・記載順が採用され、改訂時期もバラバラな状態が続いてきた。国際的・臓器横断的なバスケット試験も増加する中、日本癌治療学会では日本病理学会と共同で、日本におけるがんの病期分類の標準化をめざして、「領域横断的がん取扱い規約 第1版」を刊行した。 本規約は、胃がん、大腸がん、肺がん、乳がんなど22領域を網羅。病理医や腫瘍科医にとって大きなフラストレーションとなっていた「臓器によって情報の掲載順・掲載方法が異なる」点を改善し、臨床情報→原発巣→組織型→病期分類と記載順と形式を統一している。記号や用語の違いについても、本書における「総則」を冒頭で定義し、それとは異なる点については側注で解説している。また、TNM分類と共通の記述については青字で区別し、適宜側注で解説が加えられて、読み替えができるよう構成されている。

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ESMO2019レポート 肺がん

レポーター紹介ESMO(European Society for Medical Oncology)2019はスペインのバルセロナで、2019年9月27日~10月1日の期間に行われた。今年は9月初めに世界肺がん学会がESMOとまったく同じ会場であるスペインのバルセロナで行われていたが、昨年のESMOと比べると、肺がんの分野においても注目演題が複数個存在した。とくに、Presidential Symposiumにおいて、肺がんからFLAURAとCheckMate-227の2演題が報告されており、各試験への関心の高さがうかがわれた。また、約30,000人が参加し、多くの演題が報告された。肺がん領域ではこの2つの演題を中心に、いくつか紹介する。分子標的治療のトピックFLAURA試験学会開催前から、全生存期間(OS)において統計学的有意差が出ていることが報告されており、どのような生存曲線が描かれ、その差がどれくらいなのか、全生存中央期間がどれくらいなのかと、注目されていたFLAURA試験のOSが報告された。FLAURA試験は、30ヵ国556例を対象に行われた。EGFRのcommon変異(Del19/L858R)を有する進行NSCLCを、オシメルチニブ群(279例)と標準療法群:ゲフィチニブもしくはエルロチニブ(277例)に1対1の割合で割り付けて行われた。脳転移がある患者も神経学的に安定している患者は参加可能とされ、標準療法群で増悪となり中央判定でT790Mが同定された場合にはオシメルチニブへのクロスオーバーが可能であった。主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)は、有意差をもって、オシメルチニブ群が標準治療群より延長することが示されていた。今回のOSの結果は、OS中央値はオシメルチニブ群が38.6ヵ月(95%信頼区間[CI]:34.5~41.8)、標準療法群が31.8ヵ月(95%CI:26.6~36.0)で、ハザード比(HR)は0.799(95%CI:0.641~0.997)、p=0.0462であり、有意にオシメルチニブ群でOSが延長していた。また、OSのサブグループ解析では、アジア人のHRと遺伝子変異がL858RのグループのHRがそれぞれ0.995および0.996と、ほぼ1に近い数字であった。とくに、アジア人におけるOSのカプランマイヤー曲線は38ヵ月頃で交差しており議論の余地を残す結果になっている。一方、非アジア人は9ヵ月頃から曲線の差が開き始め、その後、差は広くなっており、アジアと非アジアではやや異なる結果となった。PD後の後治療をみると、各群ともに約30%が次治療を受けておらず、日本の実臨床に合わない印象があった。さらに、標準療法群の85例(次治療に移行した群の47%)がオシメルチニブにクロスオーバーされていた。今後は、日本人のOSサブグループ解析がどのような結果になっているのかが注目されるところである。S.S. Ramalingam, et al. LBA5免疫療法のトピックCheckMate-227試験CheckMate-227 Part 1試験は、非扁平上皮がん、扁平上皮がんの組織型を含む未治療の進行NSCLC患者を対象にした非盲検フェーズ3試験。Part 1a、Part 1bから構成されている。Part 1aは、PD-L1陽性患者(1%以上)1,189例を、ニボルマブとイピリムマブ併用療法群、ニボルマブ単剤療法群、化学療法群に1対1対1の割合で割り付け、Part 1bは、PD-L1陰性患者550例を、ニボルマブとイピリムマブ併用療法群、ニボルマブと化学療法併用群、化学療法群に1対1対1の割合で割り付けて評価した。この試験も、学会前より、OSにおいてPart 1aで有意差を認め、Part 1bでは有意差を認めないことが報告されており、その詳細な結果が注目されていた。Part 1には2つの主要評価項目が設定されていた。1つはPart 1aに組み入れられた患者で評価するPD-L1発現陽性患者におけるOSの評価。もう1つは、Part 1aと1bに組み入れられた患者で評価した腫瘍遺伝子変異量(TMB)10mut/Mb以上の患者における盲検下独立中央判定によるPFSの評価。TMB10mut/Mb以上の患者において、ニボルマブとイピリムマブ併用療法群が化学療法群よりも有意にPFSを延長することはすでに報告されている。今回のOSの評価では、PD-L1陽性患者(Part 1a)におけるニボルマブとイピリムマブ併用療法群(396例)のOS中央値は17.1ヵ月、化学療法群(397例)は14.9ヵ月、HR:0.79(97.72%CI:0.65~0.96)、p=0.007で有意にニボルマブとイピリムマブ併用療法群で延長していた。なお、ニボルマブ単剤療法群(396例)のOS中央値は15.7ヵ月であった。1年OS率はニボルマブとイピリムマブ併用療法群が63%、化学療法群が56%、ニボルマブ単剤療法群が57%、2年OS率はニボルマブとイピリムマブ併用療法群が40%、化学療法群が33%、ニボルマブ単剤療法群が36%となっており、併用群は化学療法やニボルマブ単剤療法群よりtail効果が高い所に出ている可能性があり、今後の長期予後調査が楽しみな結果であった。また、PD-L1発現が50%以上の患者に限定すると、ニボルマブとイピリムマブの併用療法群(205例)のOS中央値は21.2ヵ月、化学療法群(192例)は14.0ヵ月で、HRは0.70(95%CI:0.55~0.90)となった。ニボルマブ単剤療法群(214例)のOS中央値は18.1ヵ月、化学療法群に対するHRは0.79(95%CI:0.63~1.01)で、免疫チェックポイント阻害薬が含まれる群の効果が高まった。奏効率、PFS、DORも同様だった。一方、PD-L1陰性患者(Part 1b)におけるニボルマブとイピリムマブ併用療法群(187例)のOS中央値は17.2ヵ月、化学療法群(186例)は12.2ヵ月で、HRは0.62(95%CI:0.48~0.78)と探索的研究ではあるが、ニボルマブとイピリムマブ併用療法群で有意に延長していた。PD-L1の発現にかかわらず、全患者におけるOS中央値は、ニボルマブとイピリムマブの併用療法群(583例)は17.1ヵ月、化学療法群(583例)は13.9ヵ月、HRは0.73(95%CI:0.64~0.84)であり、ニボルマブとイピリムマブ併用療法群で有意にOSが延長していた。また、OSのサブグループ解析において、TMBの高低にかかわらず、ニボルマブとイピリムマブ併用療法群は化学療法群と比べOSの延長が示唆されており、以前に発表されたPFSとは異なる結果となり、今後の展開が期待される。S. Peters, eta la. LBA4IMpower110試験IMpower110試験は、PD-L1発現がTCまたはICで1%以上の未治療非小細胞肺がん(NSCLC)患者で、アテゾリズマブ単剤療法とプラチナ製剤を含む2剤併用化学療法を比較する、フェーズ3、非盲検ランダム化比較試験である。主要評価項目は、EGFRおよび/またはALKの遺伝子変異陽性を有する患者を除外した患者群におけるOSである。OSの検証は、PD-L1のサブグループにより、TC3またはIC3、TC2/3またはIC2/3、TC1/2/3またはIC1/2/3の順に段階的に行われ、これら3つの患者群すべてでOSがポジティブな結果となった場合、PFSの正式な検証を行うこととされた。本研究では、TC3またはIC3群では、アテゾリズマブ群20.2ヵ月(95%CI:16.5~NE)、化学療法群13.1ヵ月(95%CI:7.4~16.5)、HR:0.59(95%CI:0.40~0.89、p=0.0106)となり、PD-L1高発現(TC3またはIC3-野生型)の患者に対する1次治療として、アテゾリズマブ単剤療法は、プラチナ製剤を含む2剤併用化学療法と比べてOSを有意に延長することが示された。TC2/3またはIC2/3の患者では、アテゾリズマブ群18.2ヵ月(95%CI:13.3~NE)、化学療法群14.9ヵ月(95%CI:10.8~16.6)、HR:0.72(95%CI:0.52~0.99、p=0.0416)となった。ただし、この解析では事前に定めた境界を超えなかったため、TC1/2/3またはIC1/2/3-野生型の患者におけるOSの解析は正式な検証とならなかった。結果的には、まだ検証は続くものの、ペムブロリズマブのPD-L1高発現(50%以上)に追随するような結果であった。D.Spigel, et al. LBA78その他のトピック個人的には、宮本先生がLC-SCRUMの変遷を発表され、その発表の中でラグビー日本代表がアイルランド代表に勝ったことを話されたときに聴衆から大きな拍手が起こったことが一番印象に残っている。REMORA試験REMORA試験は、プラチナ製剤を含む化学療法を受けている既治療胸腺がんに対して、マルチチロシンキナーゼ阻害薬であるレンバチニブの有効性をみる単群フェーズ2試験である。胸腺がんは、化学療法のレジメンが限られており、治療法の開発が切望される分野である。今回、レンバチニブは胸腺がんに対して、PFS中央値9.3ヵ月、OS中央値未到達、奏効率38.1%、病勢制御率95.2%と単群試験ではあるが非常に有用な試験結果が報告された。今後の開発が楽しみである。S. Itoh, et al. 1844O

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長期再発リスクが高い早期肺がんの病理学的所見は?

 早期肺がんで再発リスクが高い病理学的所見が明らかにされた。広島大学の津谷 康大氏らが、「胸部薄切CT所見に基づく肺野型早期肺癌の診断とその妥当性に関する研究」(JCOG0201)の10年追跡結果を報告。浸潤成分径>2cm、臓側胸膜浸潤陽性または血管侵襲陽性の再発リスクが高いことが示されたという。Annals of Thoracic Surgery誌2019年11月号掲載の報告。 JCOG0201は前向き多施設共同研究で、再発リスクが高い病理学的Stage I肺腺がん患者を特定する目的で行われた。被験者は、肺葉切除を受け登録された病理学的Stage I肺腺がん患者536例。lepidic成分を除く浸潤成分の大きさを腫瘍径としデータを解析した。 Kaplan-Meier法で無再発生存(RFS)率を推定し、多変量Cox比例ハザードモデルを用いてRFS不良に関連する独立した予後因子を特定した。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値は10.2年で、10年RFSは83.9%であった。・多変量Cox解析の結果、年齢65歳超(ハザード比[HR]:2.60、95%信頼区間[CI]:1.66~4.07)、浸潤成分径2cm超(HR:2.70、95%CI:1.40~5.23)、臓側胸膜浸潤(HR:2.17、95%CI:1.23~3.81)、および血管侵襲(HR:2.59、95%CI:1.47~4.55)がRFSの独立した予後因子であった。・再発の高リスク群(浸潤成分径>2cm、あるいは、臓側胸膜浸潤陽性または血管侵襲陽性:124例)と低リスク群(浸潤成分径≦2cm、かつ、臓側胸膜浸潤陰性または血管侵襲陰性:408例)に分けた場合、両群間でRFSに有意差が認められた(高リスク群のHR:3.61、95%CI:2.35~5.55)。

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新抗体薬物複合体DS-7300、固形がんを対象とした臨床試験開始/第一三共

 第一三共株式会社(本社:東京都中央区)は、再発・進行性の固形がん患者を対象としたDS-7300(B7-H3を標的とした抗体薬物複合体[ADC])の第I/II臨床試験において、最初の患者への投与を開始した。抗体薬物複合体DS-7300は用量漸増パートと用量展開パートで試験 B7-H3は、肺がん、頭頸部がん、食道がん、前立腺がん、子宮内膜がん、乳がんなど様々のがん種において過剰発現しているたんぱく質の一種で、がんの進行や予後の悪化に関係していると言われているが、現在、がん治療を対象に承認されているB7-H3を標的とした治療薬はない。抗体薬物複合体であるDS-7300は、独自のリンカーを介して新規のトポイソメラーゼI阻害剤(DXd)を抗B7-H3抗体に結合させ、1つの抗体につき約4個のDXdが結合。薬物をがん細胞内に直接届けることで、薬物の全身曝露を抑えるよう設計されている。 今回、抗体薬物複合体DS-7300の投与を開始した同試験は、日本と米国における再発・進行性の固形がん患者(頭頸部がん、食道がん、非小細胞肺がん等)を対象とした第I/II相臨床試験で、2つのパートからなる。パート1(用量漸増パート)では、約40例の患者を対象に、DS-7300の投与量を段階的に増やしながら安全性と忍容性を評価し、最大耐用量と推奨用量を決定する。パート2(用量展開パート)では、約120例の患者を対象に、DS-7300の推奨用量での安全性と忍容性を評価すると共に、客観的奏効率、奏効期間、無増悪生存期間及び全生存期間を含む有効性を評価する。

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新型タバコの発がんリスク【新型タバコの基礎知識】第11回

第11回 新型タバコの発がんリスクKey Points1件のモデル研究で、発がんリスクが大きい順に“紙巻タバコ>>加熱式タバコ>>電子タバコ”と推定されたが、解釈には注意が必要。日本で大流行している加熱式タバコのリスクは、欧米で流行している電子タバコよりもかなり大きいと考えられる。新型タバコの健康リスクのうち、データがないことを理由として評価が先送りにされそうなのが発がんリスクです。通常、がんの発症までには数10年の年月がかかる場合が多く、リスクの正確な評価には時間がかかるからです。しかし、タバコの健康リスクを考えるうえで重大なリスクである発がんリスクに関する考察を、先送りにするわけにはいかないのではないでしょうか。化学物質による発がんリスクを評価する標準的な手法として、個々の化学物質のユニットリスク(単位濃度μg/m3に生涯曝露された際の発がん確率)とその摂取量(濃度)の積からリスクを推定するという方法があります。タバコの煙に含まれる有害化学物質の情報(第5回参照)に基づき、紙巻タバコ、加熱式タバコ、電子タバコなど各種のタバコ製品による発がんリスクをモデル式により推定した研究があります1)。この研究では、発がんリスクが大きい順に、“紙巻タバコ>>加熱式タバコ>>電子タバコ”と推定されました。紙巻タバコを1日15本吸った場合の生涯の発がんリスクは10万人当たり2,400人であったのに対し、加熱式タバコを1日15スティック吸った場合には10万人当たり57人の発がんリスク、電子タバコを1日30L(平均的吸入量)吸った場合には10万人当たり9.5人の発がんリスクだと推定されました。つまり、新型タバコに替えると発がんリスクが大きく減るとの結果です。ただし、この結果を鵜呑みにはできません。そもそも、紙巻タバコと比較することは正しいことなのか? という点がありますが、これについては後述します。鵜呑みにできない理由としては、少なくとも3つあります:[理由その1]この研究では、タバコ会社が選択的に報告したデータが主に使用されています。過去の紙巻タバコに関する研究結果から、一部の有害物質だけの情報を用いて推定したタバコのリスクは、実際よりも非常に少なく見積もられてしまう可能性があると考えられます。タバコ会社は、加熱式タバコの方が少なかったという化学物質を選択的に報告している可能性も否定はできません(第6回参照)。加熱式タバコには、発がん性があると考えられる物質も含め、推定モデルに含まれていない未知の成分が多く存在しているのです。[理由その2]リスクを少なく見積もってしまう原因となる、有害物質の複合曝露の影響がこの推定モデルでは考慮されていません。複合曝露の影響を完全に解明することは不可能です(図)。そのため、タバコから出る特定の有害物質の量を測定するというリスクの推定方法には、どうしても解決できない限界として複合曝露の問題が残り続けます。画像を拡大する[理由その3]現実世界でのタバコの吸い方は単純ではありません。紙巻タバコを1日15本吸っていた人が、モデルの設定で想定しているように、加熱式タバコにスイッチしたら1日15スティック吸うようになるとは限りません。加熱式タバコにスイッチすると紙巻タバコの時よりも吸う回数が増えるとの報告もあります2)。また、そもそもスイッチできるとも限りません。2017年に日本で実施したインターネット調査では、加熱式タバコを吸っている人の約70%は紙巻タバコとの併用でした3)。こういった理由から、現実世界における加熱式タバコによる発がんリスクは、冒頭のモデル研究が推定するよりもかなり大きい可能性があると考えています。過去の紙巻タバコの研究から、1日の喫煙量が多いことよりも、喫煙期間が長いことの方が、より大きな肺がんリスクになると考えられます4,5)。加熱式タバコにスイッチして有害物質の量を仮に減らせたとしても、長期間吸っていたら発がんリスクは大きくなると推測されるのです。さらには、新型タバコの発がんリスクを考える上でキーになる物質は、ホルムアルデヒドなどのアルデヒド類の可能性があります。前述の推定モデルには、この観点も抜けています。動物実験および細胞実験の結果から、タバコ煙の発がん性物質のなかでも、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒド等を含むアルデヒド類が、他の発がん性物質よりも発がんに強く関与していると報告されています6)。もともとアルデヒド類はタバコ煙のタールに占める比重が高いため、煙に多く含まれるアルデヒド類の関与が大きいとする結果は妥当だろうと考えられます。紙巻タバコと比べ、新型タバコでどれだけリスクを低減できる可能性があるのか推定する場合には、もともと多く含まれていて有害性の高い物質であるアルデヒド類に注目していく必要があります。加熱式タバコや電子タバコでは他の有害物質と比べて、アルデヒド類が比較的多く検出されていることから、加熱式タバコや電子タバコではアルデヒド類を介した有害性が大きいだろうと考えられるのです。また、有害化学物質の絶対量が重要だとも考えられます。紙巻タバコと比べた相対的なデータ、すなわち%だけをみていては、絶対量の問題に気付かないかもしれません。もともと非常に少なく、リスクの程度の小さい化学物質であれば、量が2倍になっても半分になってもたいした影響はないでしょう。気を付けないと、そういう数字のマジックにも騙されてしまう可能性があります。ただし、今回取り上げたモデル研究から分かることで、とくに日本で重要な観点があります。日本で大流行している加熱式タバコの発がんリスクは、欧米で流行している電子タバコよりもかなり大きいと推計された、という点です。そもそもの問題:新型タバコのリスクを何と比較するか本連載では、新型タバコのリスクについてみてきましたが、そもそもの問題として、加熱式タバコがタバコ製品でなければ、市場に出てくることすらなかったはずです。タバコ製品だけはたばこ事業法のもと“タバコ”として扱われ、発がん性物質などの有害物質が検出されても、問題になるわけでもなく、それはタバコだから、となるわけです。新型タバコで検出される有害物質の量は紙巻タバコと比べて低いかもしれませんが、それは有害物質の塊である紙巻タバコと比較するからです(第10回参照)。新型タバコを、化粧品や食品などタバコ以外の商品と比較すれば、明らかに新型タバコの方が有害だと考えられます。タバコ会社は紙巻タバコから加熱式タバコへスイッチすることを積極的に勧めていますが、せっかく紙巻タバコをやめるなら、新型タバコもやめて、もっと安全な選択をしてもらいたいと願っています。第12回は、「新型タバコを吸っている患者に伝えたいこと」です。1)Stephens WE. Tob Control. 2018; 27: 10-17.2)Simonavicius E, et al. Tob Control.2019;28:582-94.3)Tabuchi T, et al. Tob Control.2018;2:e25-e33.4)Leffondre K, et al. Am J Epidemiol. 2002; 156: 813-823.5)Flanders WD, et al. Cancer Res. 2003; 63: 6556-6562.6)Weng MW, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2018; 115: E6152-E6161.

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