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特発性門脈圧亢進症〔IPH:Idiopathic portal hypertension〕

1 疾患概要■ 概念・定義特発性門脈圧亢進症(idiopathic portal hypertension:IPH)とは、肝硬変、肝外門脈閉塞、肝静脈閉塞、およびその他の原因となるべき疾患を認めずに門脈圧亢進症を呈するもので、肝内末梢門脈枝の閉塞、狭窄により門脈圧亢進症に至る症候群をいう。なお、門脈圧亢進症とは門脈系の血行動態の変化により、門脈圧(正常値100~150mmH2O)が常に200mmH2O(14.7mmHg)以上に上昇した状態である。■ 疫学IPHは比較的まれな疾患で、年間受療患者数(2004年)は640~1,070人と推定され、人口100万人当たり7.3人の有病率と推定されている(2005年全国疫学調査)。男女比は約1:2.7と女性に多く、発症のピークは40~50歳代で平均年齢は49歳である。欧米より日本にやや多い傾向があり、また都会より農村に多い傾向がある。■ 病因本症の病因はいまだ不明であるが、肝内末梢門脈血栓説、脾原説、自己免疫異常説などがある。中年女性に多発し、血清学的検査で自己免疫疾患と類似した特徴が認められ、自己免疫疾患を合併する頻度も高いことからその病因として自己免疫異常、特にT細胞の自己認識機構に問題があると考えられている。■ 症状重症度に応じ食道胃静脈瘤、門脈圧亢進症性胃腸症、腹水、肝性脳症、汎血球減少、脾腫、貧血、肝機能障害などの症候、つまり門脈圧亢進症の症状を呈す。通常、肝硬変に至ることはなく、肝細胞がんの母地にはならない。■ 予後IPH患者の予後は静脈瘤(出血)のコントロールによって規定され、コントロール良好ならば肝がんの発生や肝不全死はほとんどなく、5年および10年累積生存率は80~90%と極めて良好である。また、長期観察例での肝実質の変化は少なく、肝機能異常も軽度である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ IPH診断のガイドラインIPHの診断基準は、厚生労働省特定疾患:門脈血行異常症調査研究班の定めた「門脈血行異常症ガイドライン2018年改訂版」1)のIPH診断のガイドラインに則る。1)一般検査所見(1)血液検査 1つ以上の血球成分の減少を示し、特に血小板数減少は顕著である。(2)肝機能検査正常または軽度異常が多い。(3)内視鏡検査食道胃静脈瘤を認めることが多い。門脈圧亢進症性胃腸症や十二指腸、胆管周囲、下部消化管などにいわゆる異所性静脈瘤を認めることもある。2)画像検査所見(1)超音波、CT、MRI、腹腔鏡検査a)巨脾を認めることが多い。b)肝臓は病期の進行とともに、辺縁萎縮と代償性中心性腫大となる。c)肝臓の表面は平滑なことが多いが、全体に波打ち状(大きな隆起と陥凹)を呈するときもある。d)結節性再生性過形成や限局性結節性過形成などの肝内結節を認めることがある。e)脾動静脈は著明に拡張している。f)著しい門脈・脾静脈血流量の増加を認める。g)二次的に門脈に血栓を認めることがある。(2)上腸間膜動脈造影門脈相ないし経皮経肝門脈造影肝内末梢門脈枝の走行異常、分岐異常を認め、その造影能は不良で、時に門脈血栓を認めることがある。(3)肝静脈造影しばしば肝静脈枝相互間吻合と「しだれ柳様」所見を認める。閉塞肝静脈圧は正常または軽度上昇にとどまる。(4)Scintiphotosplenoportography (SSP)SSPは経皮的に脾臓より放射性物質を注入し、その動態で最も生理的に近い脾静 脈血行動態のdynamic imageが得られるだけではなく、そのデータ処理にてさまざまな情報が得られる検査法である。SSPにより門脈血に占める脾静脈血の割合を求めると、正常では18.6%、慢性肝炎では48.0%、肝硬変では47.8%、IPHでは73.8%であった2)。つまりIPHでは、脾静脈血流が著明に増加している。3)病理検査所見(1)肝臓の肉眼所見時に萎縮を認める。表面平滑な場合、波打ち状や凹凸不整を示す場合、変形を示す場合がある。割面は被膜下の実質の脱落をしばしば認める。門脈に二次性の血栓を認める例がある。また、過形成結節を認める症例がある。肝硬変の所見はない。(2)肝臓の組織所見肝内末梢門脈枝の潰れ・狭小化、肝内門脈枝の硬化症および側副血行路を呈する例が多い。門脈域の緻密な線維化を認め、しばしば円形の線維性拡大を呈する。肝細胞の過形成像がみられ結節状過形成を呈することがあるが、周囲に線維化はなく、肝硬変の再生結節とは異なる。(3)脾臓の肉眼所見著しい腫大を認める。(4)脾臓の組織所見赤脾髄における脾洞(静脈洞)の増生、細網線維や膠原線維の増加、脾柱におけるGamna-Gandy結節を認める。本症は症候群であり、また病期により病態が異なることから、一般検査所見、画像検査所見、病理検査所見によって総合的に診断されるべきである。確定診断は肝臓の病理組織学的所見の合致が望ましい。除外疾患は肝硬変症、肝外門脈閉塞症、バッド・キアリ症候群、血液疾患、寄生虫疾患、肉芽腫性肝疾患、先天性肝線維症、慢性ウイルス性肝炎、非硬変期の原発性胆汁性胆管炎などが挙げられる。■ 重症度分類「門脈血行異常症ガイドライン2018年改訂版」1)ではIPHの重症度分類も定められている。重症度I  診断可能だが、所見は認めない。重症度II 所見は認めるものの、治療を要しない。重症度III所見を認め、治療を要する。重症度IV身体活動が制限され、介護も含めた治療を要する。重症度V 肝不全ないし消化管出血を認め、集中治療を要する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 治療適応IPHの治療対象は、門脈圧亢進症に伴う食道胃静脈瘤、脾機能亢進に伴う汎血球滅少症、脾腫である。治療法としては、食道胃静脈瘤症例では内視鏡的治療、塞栓術、手術療法など、内科的治療が難しい脾腫・脾機能亢進症例では塞栓術または手術療法を施行する。■ 食道静脈瘤1)食道静脈瘤破裂では輸血、輸液などで循環動態を安定させながら、内視鏡的静脈瘤結紮術(または内視鏡的硬化療法)にて一時止血を行う。内視鏡的治療が施行できない場合や止血困難な場合はバルーンタンポナーデ法を施行し、それでも止血できない場合は緊急手術も考慮する。2)一時止血が得られた症例では、全身状態改善後、内視鏡的治療や待期手術を考慮する。3)未出血の症例(予防例)では、「門脈圧亢進症取扱い規約【第3版】」3)に従って静脈瘤所見を判定し、F2、3またはRC陽性の場合、内視鏡的治療や手術を考慮する。4)手術療法としては、選択的シャント手術として選択的遠位脾腎静脈吻合術(DSRS)や、直達手術として下部食道離断+脾摘+下部食道・胃上部血行郭清を加えた食道離断術または内視鏡的治療と併用して脾摘術+下部食道・胃上部の血行郭清(ハッサブ手術)を行う。■ 胃静脈瘤1)食道静脈瘤と連続して存在する噴門部静脈瘤に対しては食道静脈瘤の治療に準じて対処する。2)孤立性胃静脈瘤破裂例では輸血、輸液などで循環動態を安定させながら、内視鏡的硬化療法にて一時止血を行う。内視鏡的治療が施行できない場合や止血困難な場合はバルーンタンポナーデ法を施行し、それでも止血できない場合はバルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(balloon-occluded retrograde transvenous obliteration:B-RTO)などの塞栓術や緊急手術も検討する。 3)一時止血が得られた症例では、全身状態改善後、内視鏡的治療追加やB-RTO などの塞栓術、待期手術(DSRSやハッサブ手術)を検討する。4)未出血症例(予防例)では、胃内視鏡所見を参考にして内視鏡的治療、塞栓術、手術(DSRSやハッサブ手術)を検討する。■ 脾腫、脾機能亢進症巨脾に合併する症状(疼痛、圧迫)が著しい場合および脾機能亢進症(汎血球減少)による高度の血球減少(血小板5×104以下、白血球3,000以下、赤血球300×104以下のいずれか1項目)で出血傾向を認める場合は部分的脾動脈塞栓術(PSE)または脾摘術を検討する。PSEは施行後に血小板数は12~24時間後に上昇し始め、ピークは1~2週間後である。2ヵ月後に安定し、長期的には前値の平均2倍を維持する。4 今後の展望IPHの原因はいまだ解明されていない。しかし、静脈瘤のコントロールが良好ならば、予後は良好であるため静脈瘤のコントロールが重要である。予後が良いため長期的に効果が持続する手術療法が施行されている。近年、低侵襲手術として腹腔鏡下手術が行われており、食道胃静脈瘤に対する手術も腹腔鏡下手術が中心となっていくであろう。5 主たる診療科消化器外科、消化器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病センター 特発性門脈亢進症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班. 門脈血行異常症ガイドライン 2018年改訂版. 2018.2)吉田寛. 日消誌. 1991;88:2763-2770.3)日本門脈圧亢進症学会. 門脈圧亢進症取扱い規約 第3版. 金原出版.2013.公開履歴初回2021年03月29日

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非代償性肝硬変へのアルブミン、予後を改善せず/NEJM

 非代償性肝硬変の入院患者の治療において、目標血清アルブミン値を30g/L以上に設定したアルブミン投与は、英国の現在の標準治療と比較して感染症や腎機能障害、死亡の発生を改善せず、重症度の高い有害事象や生命を脅かす重篤な有害事象の頻度が高いことが、同国ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのLouise China氏らが実施した「ATTIRE試験」で示された。研究の詳細は、NEJM誌2021年3月4日号に掲載された。非代償性肝硬変患者では、感染症や全身性炎症の亢進が臓器障害や死亡の原因となる。前臨床試験ではアルブミンの抗炎症作用が示されているが、検証のための大規模臨床試験は行われていなかった。英国35病院の非盲検無作為化試験 本研究は、非代償性肝硬変の入院患者において、目標血清アルブミン値を30g/L以上とし、20%ヒトアルブミン溶液を連日静注することで、標準治療に比べ感染症や腎機能障害、死亡の発生率が低下するかを検証する非盲検無作為化試験であり、2016年1月~2019年6月の期間にイングランド、スコットランド、ウェールズの35の病院で患者登録が行われた(英国Health Innovation Challenge Fund[HICF]の助成による)。 対象は、年齢18歳以上、非代償性肝硬変による急性合併症の診断で入院し、入院後72時間以内(早期の投与は後期の投与よりも有効である可能性が高いため)の血清アルブミン値が30g/L未満で、無作為化の時点で入院期間が5日以上と予測される患者であった。 被験者は、アルブミン値35g/L以上での維持を目標に20%ヒトアルブミン溶液の投与(100mL/時)を最長で14日間、あるいは退院のいずれか早い時点まで受ける群、または標準治療を受ける群に無作為に割り付けられた。治療は入院後3日以内に開始された。 主要エンドポイントは、入院後3~15日または退院日(15日より前の場合)に発生した新規の感染症(原因は問わない)、腎機能障害、死亡の複合であった。複合主要エンドポイント:29.7% vs.30.2%、個々の要素にも差はない 777例が無作為化の対象となり、アルブミン群に380例(平均年齢[±SD]53.8±10.6歳、女性123例[32.4%])、標準治療群には397例(53.8±10.7歳、104例[26.2%])が割り付けられた。 肝硬変の原因は、アルコールがアルブミン群91.3%、標準治療群88.2%で、C型肝炎がそれぞれ6.3%および8.8%、非アルコール性脂肪性肝疾患が6.8%および7.3%であった。全体では、26.4%がアルコール離脱の治療を受けており、24.9%がアルコール性肝炎で、平均アルブミン値は23.2±3.7g/Lであった。試験期間中の平均入院日数は、アルブミン群が8日(IQR:6~15)、標準治療群は9日(6~15)だった。 標準治療群の49.4%がアルブミンの投与を受けず、試験期間中の患者1例当たりのアルブミン総投与量中央値は、アルブミン群が200g(IQR:140~280)であったのに対し、標準治療群は20g(0~120)であった(補正後平均群間差:143g、95%信頼区間[CI]:127~158.2)。アルブミン群は、3~15日目の期間の平均アルブミン値が30g/Lを超えたが、標準治療群が30g/Lを超えた日はなかった。 intention-to-treat解析では、主要エンドポイントのイベントが発生した患者の割合はアルブミン群が29.7%(113/380例)、標準治療群は30.2%(120/397例)であり、両群間に有意な差は認められなかった(補正後オッズ比[OR]:0.98、95%CI:0.71~1.33、p=0.87)。また、退院時または15日目でデータを打ち切りとする生存時間解析を行ったところ、同様に、両群間に有意な差はみられなかった(ハザード比[HR]:1.04、95%CI:0.81~1.35)。 主要エンドポイントの個々の構成要素は、いずれも両群間に有意な差はなかった(新規感染症:アルブミン群20.8% vs.標準治療群17.9%、補正後OR:1.22[95%CI:0.85~1.75]、腎機能障害:10.5% vs.14.4%、0.68[0.44~1.11]、死亡:7.9% vs.8.3%、0.95[0.56~1.59])。 重症度の高い有害事象(Grade3:アルブミン群28例、標準治療群11例)および生命を脅かす重篤な有害事象(Grade4:17例、13例)の頻度は、アルブミン群が標準治療群よりも高かった。とくに、アルブミン群では重篤な肺水腫/体液過剰(アルブミン群23例、標準治療群8例)が高頻度に認められた。 著者は、「これらのデータは、肝硬変患者におけるアルブミン投与の再評価の必要性を支持する」としている。

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『NAFLD/NASH診療ガイドライン2020』発刊―肝線維化の早期発見へ

 日本消化器病学会と日本肝臓学会が合同制作した『NAFLD/NASH診療ガイドライン2020』が2020年11月に発刊された。今回5年ぶりの改訂を迎えたNAFLD/NASH診療ガイドラインには、非ウイルス性肝疾患、とくに非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の増加を背景とした診療の進歩が取り入れられている。そこで今回、作成委員長を務めた徳重 克年氏(東京女子医科大学消化器病センター消化器内科 教授・講座主任)にNAFLD/NASH診療ガイドラインの改訂ポイントや活用方法を伺った。NAFLD/NASH診療ガイドライン2020、非専門医にも活用意義あり 今回のNAFLD/NASH診療ガイドライン改訂における注目ポイントは、NAFLDの進展に深く関わっている『肝線維化進展例の絞り込み』『脳・心血管系疾患リスクの絞り込み』に関するフローチャートやClinical Question(CQ)が追加された点である。 NAFLD/NASHの予後や肝硬変への病態進展に影響を及ぼす肝線維化は、診断時に肝生検を要するなど非専門医による診断が難しく取りこぼしの多い病態であった。しかし、肝線維化の有病率は日本でもNAFLDの増加に比例し、線維化ステージ3以上のNAFLDは2016年時点で66万人、2030年では99万人に達すると予測されているくらい深刻な状況である(BQ1-2:NAFLD/NASHの有病率は増加しているか?)。また、脂質異常症や糖尿病などの生活習慣病、高齢化が線維化進展のリスクであることから、このような患者を診察する非専門医にも「NAFLD/NASH診療ガイドラインを役立ててほしい」と徳重氏は話した。 そこで、今回のNAFLD/NASH診療ガイドライン2020より肝線維化進展例の絞り込みフローチャートを非専門医向け(1)と専門医向け(2)の2種類設けることで、それぞれの視点で線維化を評価できるようになっている。今回のフローチャート作りでは「肝線維化を拾い上げ、早期治療に介入できることで肝硬変や肝がんへの進展を抑え込む」ことを目的としているため、非専門医と専門医の評価方法を分けることで評価時の負担軽減につながる工夫もなされている。たとえば、評価時のネックになっていたエラストグラフィや肝生検を、かかりつけ医らによる1次スクリーニングではFIB-4 indexや線維化マーカー(ヒアルロン酸、IV型コラーゲン7S…)に留めている。これについて、「FIB-4 indexは血液検査の4項目(AST、ALT、血小板数、年齢)から算出されたデータを基に線維化の進展を評価する方法。肝線維化の進展を調べるのに肝生検を全例に実施するのは現実的ではないが、このスコアリングシステムを用いれば、おおよその予後をステージ区分できたり、肝生検実施の絞り込みを行ったりするのに役立つ。さらには非専門医が専門医へコンサルテーションする手立てにも有用」と同氏はこの評価基準に期待を示した。一方で、「80歳以上の高齢者やアルコール性肝疾患はスコアの整合性がとれないためFIB-4 indexの使用は控えたほうが良い」とデメリットも挙げた(CQ3-3:NAFLD/NASH患者の肝線維化進行度の評価に血液学的バイオマーカーおよびスコアリングシステムは有用か?)。NAFLD/NASH診療ガイドライン2020では心血管リスク考慮のフローチャートが追加 NAFLD/NASH診療ガイドライン2020の第5章『予後、発癌、follow up』のBackground Question(BQ)で述べられているように、NAFLDでは心血管イベントのリスクが増加すると多数報告されている。これを踏まえ、肝線維化の程度に応じ、肝関連疾患(肝硬変・肝がん)だけではなく心血管イベントなどを考慮したフォローが必要であることが明記、フローチャートが追加された(CQ5-1 NAFLD/NASHのfollow upは、どのように行うのが適当か?)。これについては、「心血管リスクが現段階でなかったとしても、前述のFIB-4 indexを活用して2~3年ごとに確認を行ってほしい」と説明した。SGLT2阻害薬やGLP-1アナログほか、将来に期待する薬剤多数 NASH症例は患者の約50%以上が肥満である。それを逆手にとり、現在では体重減少作用のあるSGLT2阻害薬や糖尿病治療薬GLP-1アナログを使用したNAFLDに対する治験が進行中である。SGLT2阻害薬は血液生化学検査での改善や脂肪肝の減少が見られることからNAFLD/NASH患者に対し弱い推奨(CQ4-5 SGLT2阻害薬はNAFLD/NASHに有用か?)、GLP-1アナログは血液生化学検査や肝組織検査でも有用性が示されているもののデータ不十分なため、現時点では糖尿病を有するNASH患者において、弱い推奨となっている(CQ4-6 GLP-1アナログ、DPP-4阻害薬などのインクレチン関連薬はNAFLD/NASHに有用か?)。今後、多数例での検討結果が期待される。 このほか、将来性のある薬剤として、高脂血症治療剤ペマフィブラート(商品名:パルモディア)をはじめ14品目の臨床研究が進行中である。同氏は「ペマフィブラートは国内治験のサブ解析でも肝機能改善効果が得られているので、脂質異常症を併存する患者に使用するのは有用ではないか」とコメントした。NAFLD/NASHの線維化が進行した肝がんスクリーニングに課題 NAFLD/NASHの線維化が進行すれば肝がんを発症しかねないが、その発症率の少なさや医療経済的な側面が壁となり全症例への肝がんスクリーニングはそぐわないという。それゆえ、これまで同氏が述べてきたような線維化の早期発見や線維化進展抑制のための治療が功を奏する。“沈黙の臓器”の所以ともいえる自覚症状なき肝臓の線維化。その進展食い止めの重要性を強調してきた同氏は、「ぜひ、肝線維化の理解を深めてもらいたい」と述べるとともに「より簡便な肝がんスクリーニング方法の確立を目指したい」と締めくくった。

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第25回 その吐血、緊急内視鏡は必要ですか?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)上部消化管出血を疑うサインを知ろう!2)緊急内視鏡の判断を適切に行えるようになろう!【症例】45歳男性。自宅で洗面器1杯分の吐血を認めたため、両親の運転する車で救急外来を受診した。独歩可能な状態で、その後吐血は認めていない。どのようなマネジメントが適切だろうか?●受診時のバイタルサイン意識清明/JCS血圧128/51mmHg脈拍95回/分(整)呼吸20回/分SpO297%(RA)体温36.0℃瞳孔3/3 +/+既往歴高血圧内服薬定期内服薬なしはじめに吐血を主訴に救急外来を受診する患者さんは多く、救急外来が血の海になることも珍しくありません。バイタルサインの管理、内視鏡のタイミング、輸血のタイミングなど悩んだ経験があるのではないでしょうか?今回はまず押さえておくべき上部消化管出血の管理についてまとめておきます。上部消化管出血を疑うサインとは新鮮血の吐血やコーヒー残渣様の嘔吐を認める場合には、誰もが上部消化管出血を疑うと思いますが、それ以外にはどのような場合に疑うべきでしょうか。黒色便、鉄欠乏性貧血などは有名ですね。救急外来などの外来で見逃しがちなのが、訴えがはっきりしない場合です。脱力など自宅で動けない、元気がない、倦怠感などの主訴で来院した場合には、消化管出血に代表される出血性病変を考えるようにしましょう。その他、急性冠症候群、カリウムやカルシウムなどの電解質異常、そして敗血症や菌血症を考えるとよいでしょう。[失神・前失神を見逃すな]失神は以前に「第13回 頭部外傷その原因は?」でも取り上げましたが、診察時には状態は安定しており重症度を見誤りがちです。しかし、心血管性失神を見逃してしまうと致死的となり得ます。また、出血に伴う起立性低血圧も対応が遅れれば、予後はぐっと悪くなってしまうため必ず出血源を意識した対応が必要になります。ちなみに、前失神は失神と同様に危険なサインであり、完全に意識を失っていなくても体内で起こっていることは同様であり軽視してはいけません。意識を失ったか、失いそうになったかは必ず確認しましょう。緊急内視鏡の適応は?目の前の上部消化管出血疑い患者さんの内視鏡はいつ行うべきでしょうか?ショックバイタルでマズい場合には誰もが緊急内視鏡が必要と判断できると思いますが、本症例のように、一見するとバイタルサインが安定している場合には意外と判断は難しいものです。いくつかの指標が存在しますが、今回は“Glasgow Blatchford score(GBS)”(表1)を覚えておきましょう。GBS≦1の場合には入院の必要性はなく、緊急での対応は一般的には不要です1,2)。前述した通り、失神は重要なサインであり、点数も2点と黒色便よりも高く設定されています。失神を認める上部消化管出血は早期の内視鏡治療が必要と覚えておきましょう。1分1秒を争うわけではありませんが、血圧が普段よりも低めであるが故に止まっているだけですので、処置を行うことなく帰宅の判断はお勧めできません。表1  Glasgow Blatchford score(GBS)画像を拡大するちなみに、Hb値は濃度であり、また早期に変化は認められないため、Hb値が問題ないからと出血はたいしたことないと判断してはいけません。黒色便を認める場合には、数日の経過が経っていることが多く、Hb値も普段よりも低下しています。GBSも2点以上となりますが、即刻内視鏡なのか、24時間以内に内視鏡なのか、より具体的な緊急度は、その他バイタルサインやNSAIDs、抗血栓薬などのリスク因子も考慮し判断します。[抗血栓薬内服中の患者ではどうする?]絶対的な指標はありませんが、頭部外傷患者の対応と同様に、内服しているから緊急かというとそうではありません。しかし、リスクの1つではあるため、具体的な処方薬と用量、内服している理由、効果の評価(PT-INRなど)などと共に慎重な経過観察が必要となります。抗血栓薬を止めるのは簡単ですが、そのおかげで脳梗塞などを引き起こしてしまっては困りますよね。明らかな出血を認めている場合に内服を中止することはもちろんですが、その後の具体的な対応をきちんと決めておく必要があります。GBS以外の有名なリスクスコアに“AIMS65”(表2)がありますが、それにはPT-INRの項目が含まれており、緊急度に関わるとされます3)。また、PT-INRが1.5未満であってもDOAC(Direct oral anticoagulants)内服中の患者では、早期の内視鏡が推奨されています。そのような理由から、抗血栓薬を内服している患者さんでは、早期の内視鏡(24時間以内)を行うのが理想的でしょう。※GBSもAIMS65も覚えるのは大変ですよね。私は“MDCalc”というアプリをスマホに入れて計算しています。表2 AIMS65画像を拡大する現実問題として、夜間や時間外などに来院した患者の内視鏡をすぐに行うのか、一晩様子をみてOKなのかどうかを判断する必要があります。上記の内容を頭に入れつつ、施設毎の対応を構築しておきましょう。消化器内科医師などがいつでもすぐに対応可能な施設であれば、GBS≧2でも輸液や輸血でバイタルサインが安定している場合には一晩待てるかもしれませんが、そうではない場合には、「GBSで◯点以上の場合」、「肝硬変患者の吐血の場合」、「抗血栓薬を内服している場合」には緊急で行うなど、具体的なプランを立てておくとよいでしょう。スコアは絶対的なものではありませんが、GBSやAIMS65などを意識しておくと、確認すべき項目を見落とさなくなるでしょう。失神の有無は前述の通り重要ですし、抗血栓薬などの影響から凝固線溶機能に異常を来している場合には拮抗薬など追加の対応が必要なこともありますからね。最後に、上部消化管出血に伴い緊急内視鏡の判断をした場合には、気管挿管など気道の管理が必要ないかは必ず意識してください。ショックや重度の意識障害は気管挿管の適応であり、バイタルサインが不安定な場合には確実な気道確保目的の気管挿管が必須となります。慌てて内視鏡室へ移動し、不穏になり急変、誤嚥して酸素化低下などは避けなければなりません。救急外来で人数をかけ対応することができればベストですが、どうしても少ない人数で対応しなければならない場合には、確実な気道確保を行い万全の状態で内視鏡を行うようにしましょう。まとめ失神・前失神を伴う上部消化管出血は緊急性が高い!GBSやAIMS65を参考に、患者背景・薬の内服理由も考慮し対応を!緊急内視鏡を行う場合には、気管挿管など気道管理の徹底を!1)Blatchford O, et al. Lancet. 2000;356:1318-1321.2)Stanley AJ, et al. BMJ. 2017;356:i6432.3)Saltzman JR, et al. Gastrointest Endosc. 2011;74:1215-1224.

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治療フローが様変わり、「肝硬変診療ガイドライン2020」の変更点とは

 肝硬変の非代償期と聞けば誰しもが諦めていたものだが、時代遅れと言われぬよう、この感覚をアップデートさせねばならないようだー。2020年11月、『肝硬変診療ガイドライン2020(改定第3版)』が発刊された。第2版が発刊された2015年から5年もの間に肝硬変治療に関する知見が数多く報告され、治療法は目まぐるしく変化している。そのため、海外の最新治療ガイドライン(GL)と齟齬がないように、かつ日本の実地診療に即したフローとなるよう留意し、日本肝臓学会と日本消化器病学会が対等の立場で初めて合同作成した。今回、その作成委員長を務めた吉治 仁志氏(奈良県立医科大学消化器・代謝内科 教授)に非専門医もおさえておくべき変更点やGLの活用方法についてインタビューした。肝硬変症状、プライマリケアでも早期発見を 今回の改訂において、“実地医家(プライマリケア医)にも使いやすい”を基本に作成を進めたと話した吉治氏。同氏によると、肝硬変は肝臓専門医による診療だけではなく、実地医家による日々の診療からの気付きが重要だという。「これまで非代償期の患者は予後不良で治療も困難であった。しかし、肝硬変は非代償期からも可逆性である事が明らかとなると共に、この5~10年の間に新薬が次々と登場し肝硬変治療に対する概念が変わったことで、非代償期を含めた肝硬変を非専門医にも診察してもらう意味がある」と説明した。 今回のフローチャートの見やすさや検査項目の算出のしやすさは、そんな状況変化を反映させ刷新しており、肝硬変診断のフローチャートの身体所見に『黄疸』『掻痒感』が追加されたのもその一例である。同氏は「黄疸は進行例で発見されることが多く実地医家では診療が困難であったため、これまで所見として含まれていなかったが、現況を顧みて追加した」と補足した。一方、掻痒感については「多くの非専門医は肝臓疾患がもたらす痒みの認識が薄いように感じる。そのため、抗ヒスタミン薬などで経過観察され、その間に肝疾患が進行してしまう場合も散見される。冬場は乾燥によるかゆみを訴える患者も多いが、肝疾患によるかゆみは抗ヒスタミン薬が無効である例が多く、ほかの所見もあれば血液検査を行い肝臓疾患の有無について判別を行ってほしい」と訴えた。栄養療法を簡単に個別化できるフローチャートへ 肝硬変治療で重要となる栄養療法もフローチャートが明確になり非専門医でも利用しやすくなっているが、これには近年の肝硬変患者の成因変化が影響している。2008年の肝硬変成因別調査

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COVID-19の院内死亡率、10代はインフルの10倍にも

 インフルエンザとCOVID-19は、類似した感染様式を伴う呼吸器疾患である。そのため、インフルエンザの流行モデルは、COVID-19の流行モデルの検証にもなり得ると考えられる。ただし、両者を直接比較するデータはほとんどない。フランス・ディジョンのUniversity of Bourgogne-Franche-Comté(UBFC)のLionel Piroth氏ら研究グループが、国の行政データベース(PMSI)を用いて後ろ向きコホート研究を実施したところ、入院を要するCOVID-19患者と季節性インフルエンザの患者の症状にはかなりの差異があり、11〜17歳におけるCOVID-19の院内死亡率は、インフルエンザの10倍にも上ることが明らかになった。The Lancet Respiratory Medicine誌2020年12月17日付のオンライン版に掲載。 本研究には、2020年3月1日~4月30日にCOVID-19で入院した全患者、および2018年12月1日~2019年2月28日にインフルエンザで入院した全患者が含まれ、年齢層ごとに層別化されたデータを基に、患者間の危険因子、臨床的特徴、および転帰の比較が行われた。 主な調査結果は以下のとおり。・8万9,530例のCOVID-19患者および4万5,819例のインフルエンザ患者が、それぞれの研究期間中にフランス国内で入院した。患者の年齢中央値は、COVID-19で68歳(四分位範囲[IQR]:52~82)、インフルエンザでは71歳(IQR:34~84)だった。 ・COVID-19患者は、インフルエンザ患者よりも肥満または太り過ぎの傾向があり、糖尿病、高血圧および脂質異常症が多く見られたのに対し、インフルエンザ患者は、心不全、慢性呼吸器疾患、肝硬変、および欠乏性貧血が多かった。 ・COVID-19の入院患者では、インフルエンザと比べ急性呼吸不全、肺塞栓症、敗血症性ショック、または出血性脳卒中の発症頻度が高かったが、心筋梗塞や心房細動の発症頻度は低かった。・院内死亡率は、COVID-19患者のほうがインフルエンザ患者よりも高く(1万5,104例[16.9%]/8万9,530例 vs.2,640例[5.8%]/4万5,819例)、相対死亡リスクは2.9(95%信頼区間[CI]:2.8~3.0)、年齢標準化死亡比は2.82であった。・入院患者のうち、18歳未満の小児の割合はインフルエンザよりもCOVID-19のほうが少なかった(1,227例[1.4%] vs.8,942例[19.5%])。・5歳未満では、インフルエンザよりもCOVID-19のほうが集中治療を要する頻度が高かった(14/613例[2.3%] vs.65/6973例[0.9%])。・11〜17歳におけるCOVID-19の院内死亡率は、インフルエンザよりも10倍高かった(5/458例[1.1%] vs.1/804例[0.1%])。 本結果について著者らは、対象患者数が少ないため、限定的な知見ではあるものの、入院を要するCOVID-19患者と季節性インフルエンザ患者の症状にはかなりの差異があること、小児においてはCOVID-19の入院率はインフルエンザよりも低いが、院内死亡率が高いことを指摘。本結果により、COVID-19の適切な感染予防策の重要性およびワクチンや治療の必要性が浮き彫りになったと述べている。

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重症低血糖に迅速対応できる初の点鼻グルカゴン製剤「バクスミー点鼻粉末剤3mg」【下平博士のDIノート】第65回

重症低血糖に迅速対応できる初の点鼻グルカゴン製剤「バクスミー点鼻粉末剤3mg」今回は、重症低血糖治療薬「グルカゴン点鼻粉末(商品名:バクスミー点鼻粉末剤3mg、製造販売元:日本イーライリリー)」を紹介します。本剤は、患者の意識がない場合であっても家族などが使いやすい経鼻投与のグルカゴン製剤で、重症低血糖の迅速な救急処置が可能になると期待されています。<効能・効果>本剤は、低血糖時の救急処置の適応で、2020年3月25日に承認され、同年10月2日より発売されています。<用法・用量>通常、グルカゴンとして1回3mgを鼻腔内に投与します。なお、飢餓状態、副腎機能低下症、頻発する低血糖、一部糖原病、肝硬変などの場合は血糖上昇効果がほとんど期待できず、アルコール性低血糖の場合は血糖上昇効果がみられません。<安全性>日本人1型および2型糖尿病患者を対象とした国内第III相臨床試験(IGBJ試験)において、安全性評価対象症例71例中12例(16.9%)に副作用が報告されました。主な副作用は、鼻痛6例(8.5%)、血圧上昇、悪心各4例(5.6%)、嘔吐、耳痛各2例(2.8%)でした(承認時)。なお、重大な副作用として、ショック、アナフィラキシー(いずれも頻度不明)が現れる恐れがあります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、低血糖を起こした際の救急処置に用います。肝臓に働きかけてブドウ糖の放出を促すことで、血糖を一時的に上げます。2.「意識がはっきりしない」「口から糖分を摂れない」など、周りの人の助けが必要な低血糖状態になったときに使用する1回使い切りタイプの点鼻粉末薬です。3.包装フィルムは使用する直前まではがさないでください。使用時は、赤い部分を引っ張って、容器から噴霧器を取り出します。噴霧器を支える人差し指また中指が鼻に当たるまで、点鼻容器の先端を片方の鼻の穴にゆっくり差し込んでから、注入ボタンを緑色の線が見えなくなるまで押し切ってください。4.噴霧後は、すぐに主治医に連絡し、医療機関を受診してください。その際、低血糖の発生状況や使用した結果などを主治医に伝えてください。5.本剤の効果は一時的なものなので、意識がある場合は速やかに糖分を摂取してください。追加投与による効果は期待できないため、本剤またはほかのグルカゴン製剤の追加投与は行わないでください。<Shimo's eyes>糖尿病治療による低血糖は、症状が起きたときに速やかかつ適切に対処することができれば回復が見込めますが、進行すると重症低血糖に陥り、昏睡や痙攣、脳障害などの後遺症を起こすほか、死に至ることもあります。従来、医療機関外であっても緊急時に対処できるようにグルカゴン注射薬が用いられていますが、使用時の手順が複雑で、患者およびその看護者(家族など)の負担が大きいという問題があります。本剤は、注射薬以外の低血糖治療薬として初のグルカゴン製剤です。室温で持ち運びができる1回使い切りタイプの点鼻粉末製剤で、看護者などが投与することで重症低血糖の救急処置を行うことができます。本剤は鼻粘膜から吸収されるため吸入や深呼吸の必要がなく、意識がない患者にも使用可能です。患者およびその看護者が、本剤を必要とする場面で迅速に対処できるように、投与方法・保管方法について十分に指導する必要があります。いざという場面で戸惑わないために、デモ機などを活用して理解度に合わせた指導を行いましょう。参考1)PMDA 添付文書 バクスミー点鼻粉末剤3mg

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セマグルチド、NASH治療に有効な可能性/NEJM

 非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の治療において、セマグルチドはプラセボに比べ、肝線維化の悪化を伴わないNASH消散が達成された患者の割合が有意に高いが、肝線維化の改善効果には差がないことが、英国・バーミンガム大学のPhilip N. Newsome氏らの検討で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2020年11月13日号で報告された。NASHは、脂肪蓄積と肝細胞損傷、炎症を特徴とする重度の非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)であり、肝線維化や肝硬変と関連し、肝細胞がんや心血管疾患、慢性腎臓病、死亡のリスク増大をもたらす。また、インスリン抵抗性は2型糖尿病と肥満に共通の特徴で、NASHの主要な病因とされる。2型糖尿病治療薬であるグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬セマグルチドは、肥満および2型糖尿病患者の減量に有効で、血糖コントロールを改善し、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)値や炎症マーカーを抑制すると報告されているが、NASH治療における安全性や有効性は明らかにされていない。16ヵ国143施設が参加したプラセボ対照無作為化第II相試験 本研究は、セマグルチドが組織学的なNASHの消散に及ぼす効果を評価する目的で実施された二重盲検プラセボ対照無作為化第II相試験であり、日本を含む16ヵ国、143施設が参加し、2017年1月~2018年9月の期間に患者登録が行われた(Novo Nordiskの助成による)。 対象は、年齢18~75歳(日本は20~75歳)、生検でNASHが証明され、ステージF1、F2、F3の肝線維化を有し、2型糖尿病の有無は問われず、BMI>25の患者であった。被験者は、3つの用量(0.1、0.2、0.4mg)のセマグルチドまたはそれぞれに対応するプラセボを1日1回皮下投与する群に、各用量群とも3対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、72週の時点における肝線維化の悪化のないNASHの消散とした。NASH消散は、NASH Clinical Research Networkの分類で炎症性細胞の軽度残存以下(スコア0~1点)で、かつ肝細胞の風船様腫大がない(スコア0点)場合と定義された。副次エンドポイントは、NASHの悪化がなく、かつ肝線維化の1ステージ以上の改善であった。これらのエンドポイントの解析は、肝線維化がステージF2またはF3の患者に限定して行われ、他の解析は全ステージの患者で実施された。肝酵素や体重減少も用量依存性に改善 320例(肝線維化のステージF2、F3は230例)が登録され、セマグルチド0.1mg群に80例、同0.2mg群に78例、同0.4mg群に82例、プラセボ群には80例が割り付けられた。全体の平均年齢は55歳、61%が女性、62%が2型糖尿病であり、平均体重は98.4kg、平均BMIは35.8であった。肝線維化のステージ別では、F1が90例(28%)、F2が72例(22%)、F3は158例(49%)だった。 72週時において線維化の悪化がなくNASHが消散した患者の割合は、0.1mg群が40%、0.2mg群が36%、0.4mg群が59%で、プラセボ群は17%であった。0.4mg群のプラセボ群に対するオッズ比(OR)は、6.87(95%信頼区間[CI]:2.60~17.63)であり、0.4mg群で有意に優れた(p<0.001)。一方、72週時の肝線維化の1ステージ以上の改善は、0.4mg群では43%、プラセボ群では33%の患者で達成されたが、両群間に有意な差は認められなかった(OR:1.42、95%CI:0.62~3.28、p=0.48)。 ALTおよびアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)は、いずれもセマグルチドの用量依存性に低下し、72週時のベースライン時に対する測定値の比は、0.4mg群が0.42であったのに対し、プラセボ群は0.81だった(比が小さいほど、低下率が大きい)。また、72週時の体重減少率は用量依存性に増加し、0.4mg群が12.51%、プラセボ群は0.61%であった。セマグルチド群では、2型糖尿病の有無を問わず、糖化ヘモグロビン値の低下率が大きかった。 0.4mg群はプラセボ群に比べ、悪心(42% vs.11%)、便秘(22% vs.12%)、嘔吐(15% vs.2%)の発生率が高かった。悪性新生物は、セマグルチド群で3例(1%)報告されたが、プラセボ群ではみられなかった。全体として、新生物(良性、悪性、詳細不明)の発生率はセマグルチド群で15%、プラセボ群では8%と報告され、特定の臓器での発生のパターンは観察されなかった。 著者は、「NASH消散と用量依存性の体重減少に関して大きな有益性が得られたとはいえ、肝線維化の改善に有意差がなかったという事実は予想外であった。肝線維化の重症度が高い患者が多かったことから、72週という期間では、肝線維化のステージの改善が明確になるまでの時間が十分でなかった可能性がある」としている。

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亜鉛欠乏症診療ガイドライン、味覚障害など症例別の治療効果が充実

 亜鉛欠乏症は世界で約20億人いるものの、世界的に認知度が低い疾患である。そして、日本も例外ではないー。日本臨床栄養学会ミネラル栄養部会の児玉 浩子氏(帝京平成大学健康メディカル学部健康栄養学科教授・学科長)が委員長を務め、2018年7月に発刊された『亜鉛欠乏症診療ガイドライン2018』の概要がInternational Journal of Molecular Sciences誌2020年4月22日号に掲載された。 亜鉛欠乏症診療ガイドライン2018にて、同氏らは亜鉛欠乏症の診断基準を以下のように示した。(a)症状(皮膚炎、口内炎、味覚障害など)/検査所見(ALP:血清アルカリホスファターゼ低値)のうち、1項目以上を満たす(b)他の疾患が否定される(c)血清亜鉛が低値-血清亜鉛値60μg/dL未満:亜鉛欠乏症、血清亜鉛値60~80μg/dL未満:潜在性亜鉛欠乏とする。(d)亜鉛補充により症状が改善する。亜鉛欠乏症診療ガイドラインは亜鉛投与による治療効果、基礎疾患ごとの症例を豊富に記載 亜鉛欠乏症はさまざまな病態で併発する。その症状はさまざまで、とくに皮膚炎や味覚障害、貧血、易感染などを訴える患者については血清亜鉛濃度の測定が望ましい。一方、慢性肝疾患、糖尿病、慢性炎症性腸疾患、腎不全では、しばしば血清亜鉛値が低値であるにも関わらず、前述のような症状を訴えない場合もある。亜鉛投与により基礎疾患の所見・症状が改善する場合があることから、亜鉛欠乏症診療ガイドライン2018には「これら疾患を有する患者では亜鉛欠乏症状が認められなくても、亜鉛補充を考慮してもよい」と記載されている。 亜鉛欠乏症診療ガイドライン2018の一番の特徴は、投与前後の血清亜鉛値や改善率などが書かれているため処方時に有用である点だ。治療効果を“亜鉛欠乏の症状がある患者に対する亜鉛投与の治療効果”と“基礎疾患の改善を目的に行う亜鉛投与の治療効果”に区分し、表で示している。 前者には低身長症、皮膚炎、口内炎、骨粗鬆症などの症例を提示、後者では慢性肝疾患、糖尿病などの症例を挙げている。 このほか、亜鉛補充時の注意事項として「亜鉛投与の効果はすぐには現れないため、治療は少なくとも3ヵ月間の継続が必要」「亜鉛投与による有害事象として、消化器症状(嘔気、腹痛)、血清膵酵素(アミラーゼ、リパーゼ)上昇、銅欠乏による貧血・白血球減少、鉄欠乏性貧血が報告されているため、これらの臨床症状や検査値が見られた場合には亜鉛投与量の減量・中止、銅や鉄補充などの対処が必要」などが盛り込まれている。  亜鉛欠乏症診療ガイドライン2018では、2016年版からの改訂にあたり、炎症性腸疾患(IBD)と肝硬変にも焦点が当てられた。研究者らは「亜鉛欠乏症はマクロファージの活性化を介して腸の炎症を促進するので、IBDでの炎症や亜鉛欠乏症の病理学的メカニズム検討している」とし、「肝硬変患者の窒素代謝障害にも影響している可能性がある。亜鉛補給は、アンモニア代謝だけでなく、タンパク質の代謝も改善することができる」とも述べている。

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肝型・筋型糖原病

1 疾患概要■ 概念・定義グリコーゲン代謝経路の解糖系酵素の欠損による(表1、図)。「糖原病」は歴史的にはグリコーゲンが臓器に蓄積し腫大することから命名されたが、グリコーゲンの臓器蓄積は病型によって程度がさまざまであり、「糖原病」と呼ぶよりも「グリコーゲン代謝異常症」と呼ぶのが妥当であるが、本稿では従来使われている診断名を踏襲する。表1 糖原病の分類と一般的な特徴の一覧画像を拡大する図 解糖系代謝マップ画像を拡大する■ 疫学わが国における本症の発生頻度は不明であるが、肝型糖原病は約1:2万人と考えられている。最も多い病型はIX型で、その他ではI、II、III、V、VI型が多く、この6病型で全糖原病の約90%を占める。■ 病因・病態(表2)現在までに16種類の病型が知られている。解糖の目的は(1)ATPを産生、(2)グルコースを産生することであり解糖経路の障害により前者の障害は主に筋型で「エネルギー供給障害型」、後者の障害は主に肝型で「グルコース供給障害型」とに分けられる。表2 基本的な糖原病の病態生理画像を拡大する■ 症状・検査所見・治療酵素発現の臓器特異性により、一般的には症状の出方から肝型、筋型、肝筋型と大別する(表1)。本稿では糖原病の約90%を占める6病型を中心に概略を述べる。1)糖原病I型(フォン・ギールケ病)Ia型(グルコース-6-ホスファターゼ欠損)、Ib型(グルコース-6-P-トランスロカーゼ欠損)がある。Ia型が80~90%、Ib型が10~20%を占める。Ia型とIb型の症状は類似するが、Ib型では好中球減少、易感染性、炎症性腸疾患などを伴う。著明な肝腫大が認められるが脾腫は認めない。頬部がふっくらし、人形様顔貌を示す。成長障害がみられ、低身長となる。2次性の病態として血小板機能の障害による鼻出血、頬部のクモ様毛細血管拡張、高脂血症による黄色腫、高尿酸血症による痛風、尿酸結石もみられる。成人では肝腺腫およびその悪性化、 腎不全などの合併症が問題となる。糖新生、解糖の両経路からのグルコース産生が障害されるため、低血糖の程度は糖原病の中では強い。低血糖に伴い高乳酸血症、代謝性アシドーシスなども増悪する。低血糖の予防が重要で、血糖のコントロールを良好にすることで2次的な代謝異常、成長障害の改善が期待できる。頻回食が基本であるが糖原病治療乳(昼間用および夜間用)が開発されているので乳幼児期には有用である。未調理コーンスターチ療法と組み合わせることで一定の血糖維持が期待できる。Ib型の好中球減少に対してはG-CSFを用いる。高尿酸血症に対してはアロプリノールを用いる。成人になり多発性の肝腺種、悪性化を伴っているもの、内科的に代謝異常のコントロールが困難なものに対しては、肝移植が適応とされているが長期予後は不明である。2)糖原病II型(ポンペ病)発症時期により乳児型、遅発型に分けられる。乳児型は生後早期に筋緊張低下、巨舌、心拡大、肝種大がみられる。1歳前後で心不全、呼吸不全で死亡する。心電図ではPR短縮、QRSの増高、心肥大がみられる。胸部X線では著明な心拡大、心エコーでは両心室壁と心室中隔が肥厚し、左室流出路の閉塞を来す場合もある。遅発型では幼児期から成人期に主に筋力低下で発症する。心筋、肝臓の罹患は認めないか、あっても軽度である。肢帯型筋ジストロフィーと症状が類似することがあり、肢帯型筋ジストロフィーの診断症例の中に一定程度混在していると推測されている。遅発型では四肢筋力低下に比較して不釣合いに呼吸障害を強く認める例もある。治療では酵素補充療法の導入により乳児型の生命予後は劇的に改善した。本症のスクリーニングは乾燥ろ紙血を用いた簡便な検査が提供されている。3)糖原病III型(フォーブ-スコーリー病)脱分枝酵素の欠損により、分枝が多く残存したlimit dextrineが蓄積する。肝筋型のIIIa型(約85%)と肝型のIIIb型(約15%)がある。乳幼児期に肝種大、低血糖で気付かれる。I型に比較すると低血糖は軽症で、思春期以降改善する。一部肝障害が遷延し、肝硬変や肝線腫その悪性化なども報告されている。IIIa型では筋力低下、心筋障害進行する症例もあり、定期的な心機能のチェックが必要である。近年IIIa型では修正Atkins法による低炭水化物、高蛋白、高脂肪食が試され心筋障害の改善が認められている。4)糖原病V型(マッカードル病)典型例では運動時の筋痛、筋硬直、横紋筋融解症などである。まれに発症時期が乳児の例や、無症状例があり中高年では筋力低下例もある。阻血下(または非阻血下)前腕運動負荷試験では乳酸の上昇が認められない (表3)。横紋筋融解症を来さないように日常の生活指導が大切である。なお、日本人の本症の一部ではビタミンB6が有効である。表3 前腕阻血(非阻血)運動負荷試験の評価画像を拡大する5)糖原病VI型(ハーズ病)乳幼児期に低血糖、肝種大、成長障害で気付かれる。症状は年齢と共に次第に軽快していく。6)糖原病IX型ホスホリラーゼキナーゼ(PhK)は4種類のサブユニット(α、β、γ、δ)からなり(表4)、肝型(IXa、IXc)、筋型(IXd)、肝筋型(IXb)がある。最も頻度の多いIXaの予後は良好で成長と共に肝種大、低血糖などの症状は軽快する。IXcは低血糖症状も強く、後に肝硬変に進行したり、肝腺腫の報告もある。表4 糖原病IX型の亜型とその詳細画像を拡大する■ 分類1)欠損酵素による病型分類(ローマ字表記)16病型があり、基本的には報告年代順にローマ数字で命名されてきた(表1)。2)症状から見た分類肝腫大、低血糖を呈する肝型、筋力低下、運動不耐、筋硬直、横紋筋融解症などの筋症状を示す筋型、両方の症状を持つ肝筋型がある(表1の症状参照)。■ 予後I型は成人期になると、肝腫瘍、腎不全、高尿酸血症など、多臓器の障害がみられてくる。II型では特に乳児型で心不全、呼吸障害のため死に至る。遅発型では四肢筋に比較して不釣り合いな呼吸障害が認められるのが特徴である。IIIa型では肥大型心筋症により、心不全が進行する例がある。V型の典型例では筋負荷による横紋筋融解症を予防することが有用である。VI型、IX型は一般に予後は良好であるが、一部肝線維化などがみられる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 肝型糖原病の診断1)Fernandesの負荷テスト(表5)肝型糖原病の病型鑑別の負荷テストである。負荷物はブドウ糖、ガラクトース、グルカゴン(空腹時、および食後2時間)で行われるが、酵素診断、遺伝子診断と併用することですべての負荷が必須ではない。特にガラクトース、グルカゴン負荷はI型では異常な高乳酸血症を引き起こし、酸血症になる例も報告されているため「新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2019」では推奨されていない。表5 肝型糖原病・病型診断:Fernandesの負荷テスト画像を拡大する2)画像検査超音波検査で輝度上昇のため、脂肪肝と診断されることが多い。肝臓CTでは信号強度の上昇がみられることから脂肪肝とは区別ができる。3)好発遺伝子変異の検索日本人Ia型患者では、好発変異c.648G>Tが90%以上の患者にみられる。また、Ib型ではp.Trp118Argが約半数にみられる。4)肝生検肝型では肝組織に正常あるいは異常グリコーゲンが蓄積するため著明なPAS染色性と、肝細胞のバルーニングが認められる。また、ジアスターゼによりPAS陽性物質が消化されない場合は糖原病IV型が疑われる。5)酵素診断表1にある検体で酵素診断は可能である。■ 筋型糖原病の診断1)阻血下(または非阻血下)前腕運動負荷試験(表3)運動負荷後に血中乳酸の上昇を認めない(ただし0型、II型、IV型、IXd型を除く)。負荷試験後の筋硬直・筋痛などの苦痛を考慮して最近では非阻血下での運動負荷試験も行われている。2)血清creatine kinase (CK)筋型糖原病では程度の差はあるがCKは上昇していることが多い。一時的なCKの上昇かどうかを判断するために、2週間後以降に再検する。3)好発遺伝子変異を持つ筋型糖原病原病V型(マッカードル病)では日本人患者の約50%にp.Phe710delが認められる。4)筋生検筋型糖原病では筋組織に程度の差はあるがグリコーゲンの増加が認められる。なかでもIIIa型の肝筋型(コーリー病)では筋組織に空胞が多発している(Vacuolar Myopathy)。5)酵素診断生検筋組織を用いた酵素診断が確定診断となる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)症状で先述したが基本的には、肝型糖原病では低血糖の予防、筋型糖原病では横紋筋融解症の予防が重要である。4 今後の展望糖原病は古典的な代謝異常症であるが、近年多彩な臨床症状や新たな知見も報告され、併せて病態解明の進歩とともに病態に即した治療法の開発が進んでいる。5 主たる診療科糖原病は先天性の疾患であり、特に肝型は小児期に発見されることが多く、小児科が主たる診療科となる。筋型はその症状から学童期~成人期に診断されることから小児科、神経内科が主たる診療科となる。いずれにせよ適切な時期でのトランジションも課題となる。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 筋型糖原病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 肝型糖原病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)杉江秀夫(総編集). 代謝性ミオパチー.診断と治療社. 2014.p.31-83.2)日本先天代謝異常学会(編集). 新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2019. 診断と治療社.2019.p.181-199.3)矢崎義雄(総編集). 内科学 11版.朝倉書店.2017.公開履歴初回2020年03月16日

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第18回 高齢糖尿病患者の脂質管理、目標値や薬剤選択は?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第18回 高齢糖尿病患者の脂質管理、目標値や薬剤選択は?Q1 治療介入の必要な値、介入後の目標値は? 80歳以上でも同じように管理しますか?心血管イベントの発症はADL低下や要介護状態を招き、QOLを低下させうるため、予防が重要です。高齢者においてもスタチンは冠動脈疾患の2次予防効果のエビデンスがありますので、2次予防の患者さんには年齢にかかわらずできるだけ投与、継続しています。患者さんの忍容性があれば、動脈硬化性疾患診療ガイドラインに準拠して通常の成人同様にLDL-C<100mg/dLを目標としています。1次予防については、少なくとも前期高齢者においては、高LDL-C血症に対するスタチン投与による心血管イベント減少が認められていることから、投与を考慮します。レベルとしては、やはりガイドラインに従い、糖尿病患者では冠動脈疾患高リスク群になりますので、LDL-C<120mg/dLを目標としています。75歳以上の高齢者に対する1次予防介入エビデンスはほとんどありません。Cholesterol Treatment Trialists’ (CTT) Collaborationの最新のRCTのメタアナリシスでも、2次予防では有効でしたが、1次予防では有効性が示されませんでした1)。一方で、2019年に本邦75歳以上のハイリスク高LDL-C血症患者に対する、エゼチミブ単独投与の有用性を検討したEWTOPIA75の結果が発表され、エゼチミブ投与群では心臓突然死・心筋梗塞・冠血行再建術、脳卒中の複合イベントが34%減少しました2)。これは糖尿病患者に限った研究ではありませんが、治療を考慮する年齢が引き上げられる可能性があります。ただし、これら介入試験の多くは外来通院可能な比較的健康な患者さんを対象としています。認知症やフレイルがあったり施設入所されている患者さんに対し、スタチンが1次、2次にかかわらず心血管イベントを減少させたという明確なエビデンスはありません。80代や90代の患者さんについても同様です。私は、これらの患者さんには2次予防の場合はできるだけ治療を行うが、1次予防には厳格なコントロールは不要ではないかと考えています。Q2 TG高値への介入は? 定期的なエコーが必要な症例TG高値自体が高齢者の心血管疾患を増やすという明確なエビデンスはありません。ただし、とくに肥満を伴う高TG血症では低HDL-C血症や高nonHDL-C血症を伴うことが多く、本邦の観察研究におけるサブ解析において、前期高齢者で高nonHDL-C血症が致死的冠動脈疾患の発症と関連したという報告があります3)。高齢糖尿病患者への介入研究(J-EDIT, 平均年齢71歳)の2次解析でも、nonHDL-Cが高値の群(≧163mg/dL)で全死亡や糖尿病関連イベントが増加しました(図)4)。肥満症例ではメタボリック症候群(Mets)を伴っていることが多く、Metsはインスリン抵抗性を生じ、前期高齢者では心血管疾患発症と関連するという報告が複数あります。後期高齢者のMetsと心血管疾患発症の関連は明らかではありません。画像を拡大するしたがって、前期高齢者でMets合併例やnonHDL-Cが高い症例では治療を考慮します。この場合、運動、アルコール/糖質の過剰摂取是正指導に加え、必要によりフィブラート等を併用し、nonHDL-C<150mg/dLを目指します。TGの値が下がりすぎて問題となることはほとんどありませんが、もともとTGが著明に低い人の中に低栄養が隠れていることがあるので注意が必要です。一方後期高齢者、および前期高齢者でもMetsや低HDL-C血症・高nonHDL-C血症を伴わないTG単独高値の場合はよほどの高値でない限り経過をみることもあります。なお、著明なTG高値は膵炎発症のリスクとなり、発症時の重症度にも影響するといわれているため、TGが500mg/dLを超えるものには膵炎予防の観点からも介入を考えます。一方、TG高値のものの中に、肝機能障害を伴っているものがあります。アルコール多飲は原因の1つとなりますが、飲酒がなくても肥満、脂肪肝をきたし、インスリン抵抗性を呈して肝炎や線維化が進行する病態(NASH)があります。NASHは肝硬変、肝細胞がんに至ることもあるため、このような症例では定期的に肝臓のエコーを行っておくとよいでしょう。Q3 薬剤選択と投与量の考え方について教えてくださいQ1で述べたように心血管イベント予防に対し最もエビデンスがあるのはスタチンですが、EWTOPIA75の結果により、エゼチミブ投与の有効性も注目されています。PCSK9阻害薬は FHまたは冠動脈2次予防でスタチン最大量にエゼチミブ併用でもLDL-Cが目標値に達しない場合に使用され、かつ2週間あるいは4週間に1回自己注射を行わなければならず、高齢者で適応となる症例は一部に限られます。やはりスタチン投与が中心になるでしょう。米国心臓協会(AHA)が2019年1月に発表した、「スタチンの安全性と有害事象に関する声明」によると、スタチン投与による重篤な横紋筋融解症の発症頻度は0.01%程度ときわめてまれです(AHA)5)。高齢者ではリスクが上昇することが知られているものの、年齢だけでスタチンを回避する理由にはしていません。またCKD患者自体が冠動脈疾患のハイリスクになっているので、腎疾患患者でもスタチンは投与します。腎機能低下例だからといって、使用できないスタチンはありませんが、横紋筋融解症の多くは高用量のスタチン使用と関連するため、高齢者では常用量の最小量からはじめ漸増しています。また脱水を避けるように指導します。スタチンとフィブラートの併用はともに横紋筋融解症のリスクがあるため、腎機能低下リスクの高い高齢者ではとくに注意して投与します。LDL-CとTGの両者が高い場合は、スタチン使用を優先し、フィブラートに変えてEPA含有製剤やエゼチミブを併用する場合もあります。なお、フィブラートは中等度以上の腎不全では単独でも横紋筋融解症のリスクがあるため中止します。スタチンが重篤な肝障害を起こすことはさらにまれであり、0.001%程度と報告されています5)。肝機能障害を懸念して投与を行わない、ということは通常ありません。Q4 逆に減薬できるのはどんなときか前述のとおり、冠動脈疾患の2次予防症例ではできる限りスタチンは継続としています。75歳以上の1次予防で投与されている場合には、老年医学会も主治医判断としているように、ケースバイケースです。最近、スタチンの中断によって、心血管イベントによる入院が増えるという後ろ向きコホート研究の結果が報告されましたが6)、白人のデータで、糖尿病患者でのサブ解析では有意差が認められず、まだまだエビデンスが不足していると考えられます。私たちはまず、コレステロールが明らかに低値の患者さんには減量、中止を試みています。長期間減量することによるリバウンドが懸念される場合は、次回外来の1週間前から減量するなどして変化を確かめています。コレステロールが比較的高値のものでも、たとえば認知機能の低下があるポリファーマシーの患者さんで、服薬間違いがむしろリスクになるという患者さんなどでは中止を考慮しています。また余命が1年以内と見込まれるエンドオブライフの患者さんにおいても、投薬の中止はむしろQOL向上に寄与する可能性があり、中止を考慮します。一方、認知機能やADLが保たれている患者で、LDLがかなり高値だったり(たとえば≧180mg/dL)、頸動脈に不安定プラークがあったりするものでは継続することが多いです。1)Cholesterol Treatment Trialists' Collaboration. Lancet. 393: 407-415, 2019.2)Ouchi Y, et al.Circulation.140: 992-1003, 2019.3)Ito T, et al. Int J Cardiol.220: 262-267, 2016.4)Araki A, et al. Geriatr Gerontol Int.12.Suppl 1:18-28, 2012.5)Newman CB, et al. Arterioscler Thromb Vasc Biol.39: e38-e81, 2019.6)Giral P, et al. Eur Heart J.40:3516-3525, 2019.

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脂肪萎縮症〔lipodystrophy〕

1 疾患概要■ 概念・定義脂肪萎縮症は、脂肪細胞機能の異常により、脂肪組織が全身性あるいは部分性に減少・消失し、それに起因する糖脂質代謝異常(糖尿病、高中性脂肪血症)および脂肪肝などを合併する疾患の総称で、エネルギー摂取不良による痩せとは区別される。■ 疫学脂肪萎縮症の有病率についての報告は少ない。わが国においては、1985年の厚生省特定疾患、難病の疫学調査研究による脂肪萎縮性糖尿病の全国調査の結果、2007年の日本内分泌学会内分泌専門医を対象としたアンケート調査の結果から、有病率は約130万人に1人と推定される。米国では、100~500万人に1人と推定されている。■ 病因脂肪萎縮症は、全身の脂肪組織が減少・消失する全身性脂肪萎縮症と、下肢などの特定の身体領域に限局して脂肪組織が減少・消失する部分性脂肪萎縮症に大別される。原因として、遺伝子異常、自己免疫、ウイルス感染、薬剤などが知られている。主に、脂肪細胞の発生・分化や、脂肪組織における脂質蓄積に関わる遺伝子変異が原因であることが知られているが、その詳細は明らかではない。原因遺伝子としては、先天性全身性脂肪萎縮症ではAGPAT2、BSCL2、CAV1、PTRF遺伝子が、家族性部分性脂肪萎縮症ではLMNA、PPARG、AKT2、PLIN1、CIDEC、LIPE遺伝子が報告されている。遺伝性が疑われるが、原因遺伝子が特定されていない症例もある。また、脂肪萎縮を発症しやすい特定の自己免疫疾患やウイルス感染は解明されていない。薬剤性としては、ヌクレオチド系逆転写酵素阻害薬やプロテアーゼ阻害薬などのHIV治療薬による後天性部分性脂肪萎縮症がある。■ 症状先天性全身性脂肪萎縮症では、生下時より全身性の脂肪組織の減少・消失が認められるが、家族性部分性脂肪萎縮症では、乳幼児期の脂肪組織分布は正常で、小児期あるいは思春期に四肢の脂肪組織が減少・消失してくることが多い。また、後天的に脂肪萎縮症を発症する症例の中には、ウイルス感染を契機として、短期間に全身の脂肪萎縮に至る症例もある。脂肪萎縮症では、原因のいかんにかかわらず、糖尿病、高中性脂肪血症などの糖脂質代謝異常および脂肪肝を高頻度に合併する。脂肪萎縮の程度と、代謝異常の重症度は相関するとされている。脂肪萎縮に伴う糖尿病は、とくに「脂肪萎縮性糖尿病」とも呼ばれ、重度のインスリン抵抗性のために従来の経口血糖降下薬は無効であり、インスリンを大量に使用しても十分な血糖コントロールが得られないことがしばしばである。また、黒色表皮腫、女性症例では多嚢胞性卵巣を伴う月経異常が高頻度に認められる。脂肪萎縮症では、脂肪細胞由来ホルモンであるレプチンは著しく低下し、食欲は亢進する。まれに精神発達遅滞、下顎顔面異形成、早老症を合併することもある。■ 分類脂肪萎縮症は、脂肪萎縮の程度や部位により、全身性脂肪萎縮症あるいは部分性脂肪萎縮症に大別される。さらに脂肪萎縮の原因により、それぞれ先天性あるいは後天性に区別されることから、典型的には先天性全身性脂肪萎縮症、後天性全身性脂肪萎縮症、家族性部分性脂肪萎縮症、後天性部分性脂肪萎縮症の4つに分類される。薬剤の皮下注射や皮下脂肪織炎、圧迫などにより、狭い範囲に限局した脂肪萎縮が起こることがあるが、脂肪萎縮に起因する代謝異常の合併はない。■ 予後脂肪萎縮症は、糖尿病合併症、非アルコール性脂肪肝炎、肝硬変、肥大型心筋症などにより、平均寿命は30~40歳ともいわれる予後不良な疾患である。レプチン補充治療は、合併する代謝異常の改善に有効で、予後の改善が期待される。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)〔診断基準〕■ 脂肪萎縮症の診断脂肪組織の萎縮の確認低栄養や消耗性疾患などによる痩せの除外病歴聴取による先天性、後天性の判断先天性→遺伝子解析により原因遺伝子に異常を認めた場合には確定後天性→発症原因が明らかである場合には確定インスリン抵抗性高中性脂肪血症脂肪肝※中尾一和・編. 最新内分泌代謝学. 診断と治療社; 2013. より引用■ 脂肪萎縮症を強く示唆する臨床的特徴脂肪萎縮症の主要臨床症候全身あるいは部分的な皮下脂肪の減少または欠損家族性部分性脂肪萎縮症の主要臨床症候思春期以降に発症する四肢や臀部の皮下脂肪の減少(頭頸部や腹部の脂肪は残存もしくは過剰に蓄積)脂肪萎縮症を示唆する臨床的症候1)重度のインスリン抵抗性を伴う糖尿病の存在(1)高用量のインスリン治療を必要とする糖尿病(200単位/日以上、2単位/体重kg/日以上、U-500インスリン製剤の使用など)(2)ケトーシスに陥りにくい糖尿病2)重度のインスリン抵抗性を示唆するその他の所見(1)黒色表皮腫(2)PCOSあるいはPCOS様の症候(高アンドロゲン血症、過少月経、多嚢胞性卵巣など)3)高中性脂肪血症の存在(1)重度の高中性脂肪血症(500mg/dL以上)(2)食事療法などの治療への反応が乏しい(250mg/dL以上)(3)高中性脂肪血症に起因する膵炎の既往4)脂肪肝や脂肪性肝炎の存在(1)明らかな原因(例: ウイルス感染)のない、肝腫大や血中トランスアミナーゼ値の上昇などの非アルコール性脂肪肝に合致する所見(2)脂肪肝の画像所見(超音波検査やCT)5)身体的症候や脂肪組織の減少に関する家族歴6)四肢の著明な筋肥大や静脈の怒張7)体格に見合わない過食(食事を止められない、空腹で目が覚める、食欲と葛藤しているなど)8)2次性の性腺機能低下(男性)、原発性あるいは2次性の無月経(女性)※米国臨床内分泌学会[AACE]のコンセンサスステートメントより引用3 治療 (治験中・研究中のものも含む)脂肪萎縮症の治療は、脂肪萎縮に対する治療と脂肪萎縮に起因する合併症に対する治療に大別される。最近承認されたレプチン補充治療は、脂肪萎縮に起因する合併症を改善させる。■ 脂肪萎縮に対する治療現時点では、脂肪萎縮に対する根本的な治療法はない。後天性の脂肪萎縮については、原因疾患の治療、すなわち皮下脂肪織炎の治療、自己免疫異常の治療、HIV関連脂肪萎縮症ではHIV感染によるものと治療薬によるものを区別して治療する必要がある。脂肪細胞分化のマスターレギュレーターであるPPARγを活性化させるチアゾリジン誘導体は、全身性脂肪萎縮症では無効、部分性脂肪萎縮症では残存脂肪組織を肥大させたのみで脂肪分布異常を改善しなかったと報告されている。また、後述するレプチン補充治療によっても、脂肪萎縮は改善しない。■ 脂肪萎縮に起因する合併症に対する治療従来は、低脂肪食を中心とした食事療法や運動療法のみであった。わが国ではIGF-I製剤による治療が試みられたが、その治療効果は限定的である。脂肪萎縮症では、脂肪細胞由来ホルモンであるレプチンが欠乏しており、生理量のレプチン(商品名: メトレレプチン)を補充するレプチン補充治療は、脂肪萎縮に起因する糖脂質代謝異常(糖尿病、高中性脂肪血症)、脂肪肝などの合併症を改善させる。さらに、亢進した食欲を抑制し、食事療法を行いやすくする。レプチン補充治療は、2013年に世界で初めてわが国で承認され、2014年には米国でも承認された。4 今後の展望今後、脂肪萎縮に対する根本的な治療法の開発が期待される。とくに原因遺伝子が同定されている脂肪萎縮症については、脂肪萎縮の発症機序を明らかにすることで、脂肪の再生治療を含めた、新規治療法が開発される可能性がある。また、最近、少数例ではあるが、全身性あるいは部分性の脂肪萎縮とともに付随する特徴的な身体徴候(早老症様顔貌、皮膚病変、骨病変など)を呈する疾患群が報告されてきており、典型例とは区別する必要がある。5 主たる診療科内分泌代謝内科、糖尿病内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 脂肪萎縮症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)認定NPO法人日本ホルモンステーション 脂肪萎縮症委員会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Garg A. J Clin Endocrinol Metab. 2011;96:3313-3325.2)海老原健ほか.肥満研究. 日本肥満学会. 2011;17:15-20.3)中尾一和 編. 最新内分泌代謝学. 診断と治療社;2013.4)Handelsman Y, et al. Endocr Pract. 2013;19:107-116.5)Ebihara K, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2007;92:532-541.6)Brown RJ, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2016;101:4500-4511.7)日本内分泌学会. 脂肪萎縮症診療ガイドライン. 2018;94:1-31.公開履歴初回2015年02月12日更新2020年02月03日

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「しょっちゅうこむら返りになる」という患者さん【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第29回

■外来NGワード「この薬さえ、飲んでおけば大丈夫です!」(運動療法に触れない)「何か、運動しなさい!」(あいまいな運動指導)「糖尿病の合併症ですよ。もっと血糖値を下げないと!」(医学的脅し)■解説 有痛性筋痙攣(muscle cramp)、いわゆる「足がつる」状態や「こむら返り」は、健康な人でも久しぶりに運動したときなどに起こります。一方、糖尿病や肝硬変の患者さんでは、ふくらはぎなどの下肢だけでなく、上肢に起こる人もいます。高齢者糖尿病ではとくに頻度が高く、日中にも症状が出現することが報告されています。また、利尿薬、スタチン、β2刺激薬(吸入薬)を使用している人は、リスクが高まるといわれています。この有痛性筋痙攣は、時に睡眠を妨げ、患者さんのQOL(生活の質)を低下させる恐れがあります。しかし、この「こむら返り」をかかりつけ医に相談していない事例も多いようです。高リスクの患者さんには、よく眠れているか確認してみましょう。症状が出たときの対処法としては、膝を押さえ下腿三頭筋を他動的に伸展させる方法がよく用いられています。芍薬甘草湯などの漢方薬が汎用されますが、寝る前のストレッチや足の軽い運動なども効果があるので、運動療法と併せて治療を行うことが大切です。 ■患者さんとの会話でロールプレイ患者最近、夜中に足がつることが多くて…。医師それは大変ですね。最近、血糖が高い状態が続いているので、何か関係しているのかも。患者やっぱり、糖尿病のせいなんですか?(やや不安そうな顔)医師影響は考えられますね。整形外科的な疾患ではないと思うので…。患者夜中に、痛くて目が覚めてしまうんです。どうしたらいいですか?医師漢方薬などもありますが、もっといい方法がありますよ。患者なるべく薬は増やしたくないので、教えてほしいです!(興味津々)医師寝る前にできる、簡単な足の運動です。ちょっと、一緒にやってみませんか?患者(実際に足を動かして)これぐらいなら、一人でもできそうです。医師お風呂上がりやテレビを見ているとき、歯磨きの後などでもいいので、寝る前にぜひやってみてください。患者はい。わかりました。(嬉しそうな顔)■医師へのお勧めの言葉「寝る前にできる、簡単な足の運動です。ちょっと、一緒にやってみませんか?」1)餘目千史ほか.日本糖尿病教育・看護学会誌. 2016;20:211-220.

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自己免疫性肝炎〔AIH:Autoimmune hepatitis〕

1 疾患概要■ 概念・定義自己免疫性肝炎(AIH)は、中年以降の女性に好発し慢性、進行性に肝障害を来す疾患である。本疾患の原因は不明であるが、肝細胞障害に自己免疫機序が関与し、免疫抑制剤、とくに副腎皮質ステロイドが奏効することを特徴とする。臨床的にはトランスアミナーゼの上昇、抗核抗体、抗平滑筋抗体などの自己抗体陽性、血清IgG高値を高率に伴う。■ 疫学2016年を調査年として厚労省研究班で実施された疫学調査では、推定患者数は3万330人、有病率は23.9、男女比が1:4.3と過去調査と比較して患者数と男性患者の比率が増加している1)。また、2018年のAIHの全国調査では、診断時年齢(中央値)は63歳である。■ 病因本症は、何らかの機序により自己の肝細胞に対する免疫学的寛容が破綻し、自己免疫反応によって生じる疾患とされる。本邦例の遺伝的要因としてHLA-DR4との相関があるが、海外で報告されているSH2B3やCARD10との関連は認められていない。免疫学的要因では、自然免疫でのToll-like receptorの機能異常、DAMPsによる樹状細胞の活性化、獲得免疫での制御性T細胞の異常、IL -17、Th17細胞の増加などが報告されている2)。 発症誘因として先行する感染症や薬剤服用、妊娠・出産との関連が示唆されており、ウイルス感染や薬物代謝産物による自己成分の修飾、外来蛋白と自己成分との分子相同性、ホルモン環境などが発症に関与する可能性がある。■ 症状本症に特徴的な症候はなく、発症型により無症状から食欲不振・倦怠感・黄疸といった急性肝炎様症状を呈するなどさまざまである。初診時に肝硬変へ進行した状態で肝性脳症や食道静脈瘤出血にて受診する症例も存在する。また、合併する慢性甲状腺炎、シェーグレン症候群、関節リウマチなどの症状を呈することもある。■ 分類自己抗体の出現パターンにより1型と2型に分類される。1型は抗核抗体や抗平滑筋抗体が陽性で多くは中高年に発症する。2型は抗肝腎ミクロソーム(LKM)-1抗体陽性で、主に若年に発症する。わが国では1型が多く、2型はきわめて少ない。■ 予後AIHの予後は、わが国においては10年生存率90%以上と良好であるが、急性肝不全の対応が予後の改善に重要である。また、肝硬変例はAIHの約20%を占め、その多くは初診時すでに肝硬変である。とくに経過観察中に肝硬変へ進展する例は、非肝硬変例と比較し有意に再燃率、免疫抑制剤の使用率が高く、治療抵抗性であることが報告されている。線維化進行例では肝細胞がんの合併もあることから、他の肝疾患と同様に定期的な画像検査が重要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)AIHの診断は、わが国の診断指針(表1)3)ならびにInternational Autoimmune Hepatitis Group(IAIHG)が提唱した改訂版あるいは簡易版国際診断基準が用いられている。改訂版は診断感受性に優れ自己抗体陽性、IgG高値などの所見が目立たない非定型例も拾い上げて診断することができ、簡易版は特異性に優れステロイド治療の決定に参考となる。重症度判定は表2の基準を用いて行う3)。鑑別診断では、ウイルス性肝炎および肝炎ウイルス以外のウイルス感染(サイトメガロウイルス、EBウイルスなど)による肝障害、健康食品による肝障害を含む薬物性肝障害、非アルコール性脂肪性肝疾患、他の自己免疫性肝疾患などとの鑑別を行う。とくに薬物性肝障害や非アルコール性脂肪性肝疾患では抗核抗体が陽性となる症例があり、詳細な薬物摂取歴の聴取や病理学的検討が重要である。最近ではIgG4関連疾患や免疫チェックポイント阻害薬による肝障害との鑑別も課題となっている。表1 自己免疫性肝炎の診断指針・治療指針(2021年)●診断1.抗核抗体陽性あるいは抗平滑筋抗体陽性2.IgG高値(>基準上限値1.1倍)3.組織学的にinterface hepatitisや形質細胞浸潤がみられる4.副腎皮質ステロイドが著効する5.他の原因による肝障害が否定される典型例上記項目で、1~4のうち3項目以上を認め、5を満たすもの非典型例上記項目で、1~4の所見の1項目以上を認め、5を満たすもの表2 自己免疫性肝炎の重症度判定画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)治療の基本は、副腎皮質ステロイドによる薬物療法である。プレドニゾロン導入量は0.6mg/kg/日以上とし、中等症以上では0.8mg/kg/日以上を目安とする3)。早すぎる減量は再燃の原因となるため、ゆっくり漸減し、最低量のプレドニゾロンを維持量として長期投与する。ウルソデオキシコール酸は、副腎皮質ステロイドの減量時に併用あるいは軽症例に単独で投与することがある。再燃例では、初回治療時に副腎皮質ステロイドへの治療反応性が良好であった例では、ステロイドの増量または再開が有効である。繰り返し再燃する例やステロイドを使用しにくい例ではNUDT15遺伝子多型検査で問題が無ければアザチオプリン(1~2mg/kg/日、成人では50~100mg/日)の併用を考慮する3)。重症例では、ステロイドパルス療法や肝補助療法(血漿交換や血液濾過透析)などの特殊治療を要することがある。また、非代償性肝硬変例や急性肝不全例では肝移植が有効な治療法となる場合がある。4 今後の展望急性肝炎様に発症する症例では、抗核抗体陽性やIgG高値といった典型像を呈さないことがあるため、疾患特異的な診断マーカーの探索が求められている。ステロイド剤やアザチオプリンで抵抗性あるいは不耐例に対する2nd line治療が課題となっており、海外で多く使用されているミコフェノール酸モフェチルのわが国における使用についても保険適用も含め検討が必要である。5 主たる診療科肝臓内科・消化器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 自己免疫性肝炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究ホームページ(医療従事者向けのまとまった情報)1)Tanaka A, et al. Hepatol Res. 2019;49:881-889.2)Christen U, et al. Int J Mol Sci. 2016;17:2007.3)厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班:自己免疫性肝炎(AIH)の診療ガイドライン(2021年).2022.公開履歴初回2020年2月3日更新2023年7月13日

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ウルソの特性を生かしたアドヒアランス改善提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第12回

 今回は、患者さんの服薬管理方法に着目し、用法をまとめたことでアドヒアランスが改善した事例を紹介します。分3内服の典型薬剤であるウルソデオキシコール酸の意外な特性を活かした処方提案ですので参考になれば幸いです。患者情報70歳、女性(施設入居)基礎疾患:原発性胆汁性肝硬変、心不全、糖尿病、逆流性食道炎内服管理:自己管理処方内容(介入時)1.ウルソデオキシコール酸100mg 3錠 分3 毎食後2.ラベプラゾール錠10mg 1錠 分1 朝食後3.フロセミド錠40mg 1錠 分1 朝食後4.インスリンリスプロ注 1日3回 毎食直前 朝4−昼4−夕4単位5.インスリングラルギン注 1日1回 就寝前 6単位本症例のポイント施設入居時、残薬だけで3ヵ月は生活できるほど大量に薬が余っていました。血糖コントロールは当然不良でしたが、患者さんに危機感はなく、「血糖自己測定(SMBG)は家事の際にしみて痛いから嫌だ」、「毎食後の注射は煩わしいから嫌だ」と訴えていました。薬剤師の訪問開始後、治療の必要性を伝えたり手技を確認したりしたものの、それでも毎回のように残薬があり、インスリンリスプロの単位数は4-4-4→6-6-4→6-6-6と、だんだん増量となっていきました。そうこうしているうちに、HbA1cは15.6まで上昇し、医師より血糖管理不良の判断がなされ、インスリングラルギンの単位数が16単位へ増量となりました。なお、ウルソデオキシコール酸については、昼・夕分はほとんど手が付けられておらず、肝機能も悪化気味でした。インスリン注射をきちんと打てていない理由は何かあらためて探ってみたところ、この患者さんは間食が大好きで、一日中何かしら食べていることが判明。さらに、インスリン単位数を上げているので間食を増やしてもいいのだと都合よく解釈し、実際には打っていないこともわかりました。そのような治療意識の低さが日々の内服薬の服薬アドヒアランスにも影響していました。患者さんの問題点を整理すると、(1)患者さんの病識不足による血糖管理不良、(2)内服アドヒアランス不良に伴う肝機能・心不全の悪化の2点だと考えました。患者さんにとって現状で何が一番負担かを聴取すると、毎食前のインスリンと毎食後の内服薬だという話を聞くことができました。ほぼすべてが負担と感じている状況ですが、服薬回数を減らすことでアドヒアランス向上につながる可能性があると思い、ウルソデオキシコール酸の服薬回数に着目しました。ウルソデオキシコール酸(UDCA)の薬理作用<利胆作用>:細胞障害性の胆汁酸トランスポーター発現→胆汁量増(胆汁うっ滞改善作用)<置換作用>:細胞障害の強い疎水性胆汁酸とUDCA(親水性:細胞障害なし)と置き換わることによる肝障害の軽減上記の置換作用は、投与回数ではなく総投与量が相関しているため、1日1回にまとめることは可能。ただし、消化器系副作用が増加するという報告もあるため注意が必要。このことから、ウルソデオキシコール酸を朝にまとめることで内服回数を1日1回に減らすことが可能と考えました。また、根本の問題である血糖管理も、インスリンリスプロ注をほとんど使用していないためであり、朝の内服に合わせたインスリングラルギンによる治療管理の提案と間食の節制などの指導を行うこととしました。処方提案と経過医師にトレーシングレポートを用いて、ウルソデオキシコール酸を朝にまとめることと、インスリングラルギンを朝単回にしてリズムを作るのはどうか提案しました。医師もコンプライアンスについて問題視していたため、まずはきちんと内服とインスリンを打つことが先決との返答をいただき、承認を得ることができました。その後、ウルソデオキシコール酸とほかの内服薬の服用タイミングがそろったことから一包化しました。すると、内服管理が朝のみになったことで本人の負担が軽減され、飲み忘れることがなくなりました。また、内服とインスリンの使用機会も同一となり、インスリンを確実に打てるようになりました。血糖推移も血糖管理手帳によると300~400台から120~200台まで改善しました。結果が良くなってきたことで、患者さんの意識が少しずつ変化し、今ではかなり自信がついたと感じています。間食をダラダラ食べ続けることが減ったことも影響していると考えます。なお、ウルソデオキシコール酸の投与回数を1回/日にまとめたことで消化器系副作用が懸念されていましたが、胸焼けや悪心などの症状の出現はなく経過しています。上垣佐登子ほか. 肝臓. 2007;48:559-561.

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オベチコール酸、NASHによる肝線維化を有意に改善/Lancet

 非アルコール性脂肪肝炎(NASH)患者に対するオベチコール酸25mgの1日1回投与は、肝線維症およびNASH疾患活動性の主要要素を有意に改善することが示された。米国・Inova Health SystemのZobair M. Younossi氏らが、1,968例を対象に行っている多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験「REGENERATE試験」の中間解析の結果を報告し、「今回の計画されていた中間解析の結果は、相当な臨床的ベネフィットを予測させる臨床的に有意な改善を示すものであった」とまとめている。NASHは一般的にみられる慢性肝疾患の1つで、肝硬変に結び付く可能性がある。farnesoid X receptor(FXR)作動薬であるオベチコール酸は、NASHの組織学的特色を改善することが示唆されていた。Lancet誌2019年12月14日号掲載の報告。オベチコール酸投与によるNASH寛解または線維症1ステージ以上改善を評価 研究グループは2015年12月9日~2018年10月26日にかけて、NASHの確定診断を受け、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)活動性スコア4以上、肝線維症ステージF2~F3、またはF1で併存疾患が1つ以上の成人患者を対象に試験を行った。 被験者を無作為に1対1対1の3群に分け、プラセボ、オベチコール酸10mg、オベチコール酸25mgをそれぞれ1日1回投与した。なお、肝硬変、ほかの慢性肝疾患、アルコール摂取量の増加、その他の交絡因子となる状態がある場合には、被験者から除外した。 18ヵ月後の中間解析における主要エンドポイントは、NASH非増悪で線維症が1ステージ以上改善(線維症改善エンドポイント)、または線維症非増悪でNASH寛解(NASH寛解エンドポイント)のいずれかの達成とした。1回以上の試験薬投与を行ったF2~F3の患者で、事前に決めた中間解析日までに18ヵ月経過した被験者を対象にITT解析を行った。また、NASHや線維症の組織学的・生物学的マーカーや安全性についても検証した。オベチコール酸25mg群のNASH寛解の達成率12%、プラセボ群8% 被験者登録は線維症ステージF1~F3の1,968例で、そのうち中間解析にはF2~F3の931例(プラセボ群311例、オベチコール酸10mg群312例、オベチコール酸25mg群308例)が包含された。 線維症改善エンドポイントの達成率は、プラセボ群37例(12%)に対し、オベチコール酸10mg群55例(18%、対プラセボのp=0.045)、オベチコール酸25mg群は71例(23%、同p=0.0002)だった。 NASH寛解エンドポイントの達成率は、それぞれ25例(8%)、35例(11%、対プラセボのp=0.18)、36例(12%、p=0.13)だった。 全登録被験者(F1~F3の1,968例)を対象に行った安全性に関する解析では、最も多かった有害事象はかゆみで、発現はプラセボ群123例(19%)、オベチコール酸10mg群183例(28%)、オベチコール酸25mg群336例(51%)であり、重症度は概して軽度~中等度だった。重篤な有害事象の発現頻度は、それぞれ75例(11%)、72例(11%)、93例(14%)で同程度だった。 本試験は臨床的アウトカムを評価するために現在も継続進行中である。

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「酸化コレステロール」を含んだ食品は食べないのが一番/日本動脈硬化学会

 メタボリックシンドロームにしばしば合併する脂肪肝だが、実は動脈硬化リスクも伴う。自覚症状に乏しいことから、一般メディアでは“隠れ脂肪肝”などと呼ばれ、患者から質問されることも珍しくない。しかし、脂肪肝だからと言って、ただ“脂モノ”を控えるという対処は正しくないという。 先日、日本動脈硬化学会(理事長:山下 静也)が開催したセミナーにて、動脈硬化と関連の深い「脂肪肝/脂肪肝炎」と「酸化コレステロール」について、2人の専門医が解説した。脂肪肝/脂肪肝炎は、肝硬変・肝がんだけでなく心血管疾患リスクにも はじめに、小関 正博氏(大阪大学大学院 医学系研究科循環器内科)が、脂肪肝の病態とリスクについて講演を行った。アルコールの影響を受けていない脂肪肝は、脂肪が肝臓に蓄積した「非アルコール性脂肪肝(NAFL)」と、さらに炎症や線維化を伴った「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」に分類される。しかし、区別が難しいため、NAFLとNASHの総称として「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」とも呼ばれる。 NASHは、炎症を繰り返すうちに線維化が進み(肝硬変)、肝がんに至るケースもあるとわかってきた。20年ほど前は、「脂肪肝は、がんにならない」と言われていたが、ウイルス性肝炎由来の肝細胞がんが治療法の進歩により減り、相対的に、脂肪肝炎由来のがん症例の増加が浮き彫りになっているという。 小関氏は、「NASHがウイルス性肝炎と決定的に違うのは、虚血性心疾患のリスクを伴う点。米国において、NAFLD患者は肝がんより心血管疾患で死亡する例のほうが多いという報告1)もある。脂肪肝と脂肪肝炎は、今後さまざまな診療科が連携して診療していくべき疾患だ」と強調した。線維化の段階を評価し、NASHが疑われる場合は専門医へ NAFLDは、肥満や糖尿病をはじめとする生活習慣病と高率に合併し、国内の有病率は、男性では40~59歳の40%以上、女性では60~69歳の30%以上との報告がある。また、NAFLD患者の生存率は、肝線維化と強く関連することがわかっている。 脂肪肝は、腹部エコーで腎皮質よりも白く映る(肝腎コントラスト陽性)所見により、健診などで発覚し、その後は『NAFLD/NASH診療ガイドライン20142)』のチャートに従って診断される。線維化の段階を評価するためには、FIB-4 index(肝線維化の進行度を非侵襲的に推測するためのスコアリングシステム/日本肝臓学会)や、MR Elastographyを用いた画像化による方法があり、NASHが疑われる場合は、専門医の受診が勧められる。動脈硬化性疾患のリスクに潜む“隠れ脂肪肝”を、今後見過ごすわけにはいかない。酸化コレステロールが「超悪玉コレステロール」のプラーク形成促進 次に、的場 哲哉氏(九州大学病院 循環器内科)が、酸化コレステロールと動脈硬化の関連性について説明した。動脈硬化は、高血圧、脂質異常症、糖尿病などによってダメージを受けた血管壁に、LDLが入り込むことで進行する。 通常、LDLはコレステロールを肝臓から末梢に運んでいるが、生活習慣病の人には、血管壁に入り込みやすい、小型で密度の高いLDL(small dense LDL)が存在するという。これは、“超悪玉コレステロール”とも呼ばれ、近年注目を集めている。このsmall dense LDLが、動脈硬化を強力に誘発すると考えられ、血清脂質値が正常にもかかわらず、動脈硬化を引き起こした例も報告されている。 血管壁に入り込んだLDLは、「酸化」されることで白血球のターゲットとなり、プラークの形成をもたらす。LDLの酸化反応は、身近な食品中にも含まれる「酸化コレステロール」によって促進され、とくに、small dense LDLは酸化しやすい。 つまり、動脈硬化を防ぐためには、酸化コレステロールが多く含まれる食品を避けたほうがよい。例えとして、焼き鳥の皮の部分、インスタントラーメンの麺、マーガリンやマヨネーズの変色した部分、二度揚げされた揚げ物、漬け込み保存された魚卵、加工肉食品、するめやビーフジャーキーなどUV照射を受けた食品などが挙げられた。酸化コレステロールを含んだ食品は食べないのが一番 続いて的場氏は、酸化コレステロールと心血管疾患との関連を裏付ける研究結果を紹介した。経皮的冠動脈インターベンション後の治療薬による効果をスタチン単独とスタチン+エゼチミブでランダム比較した「CuVIC Trial3)」では、冠動脈疾患患者において、血中酸化コレステロール高値が、LDL-コレステロール高値とともに冠動脈内皮機能障害と関連することが明らかになった。この内皮機能障害は、エゼチミブのコレステロール吸収阻害作用によって軽減されることが示された。 酸化コレステロールについてはさまざまな研究が行われているが、まだ解明できていない点も多く、現行のガイドラインには記載されていない。酸化コレステロールをバイオマーカーや治療標的として利用するためには、引き続き研究を重ねる必要がある。 同氏は、「酸化コレステロールを特異的に下げる薬はまだない。まずは酸化コレステロールの摂取を避け、食事療法と運動療法を組み合せた生活習慣の改善が重要」と締めくくった。

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経口の糞便移植で死亡例、その原因は?/NEJM

 糞便微生物移植(FMT)の臨床試験に参加した被験者で、死亡1例を含む4例のグラム陰性菌血症が発生していたことが明らかにされた。米国・ハーバード大学医学大学院のZachariah DeFilipp氏らによる報告で、そのうち術後にESBL産生大腸菌(Escherichia coli)血症を発症した2例(1例は死亡)は、別々の臨床試験に参加していた被験者であったが、ゲノムシークエンスで同一ドナーのFMTカプセルが使用されていたことが判明したという。著者は、「有害感染症イベントを招く微生物伝播を限定するためにもドナースクリーニングを強化するとともに、異なる患者集団でのFMTのベネフィットとリスクを明らかにするための警戒を怠らない重要性が示された」と述べている。FMTは、再発性/難知性クロストリジウム・ディフィシル感染症の新たな治療法で、その有効性・安全性は無作為化試験で支持されている。他の病態への研究が活発に行われており、ClinicalTrials.govを検索すると300超の評価試験がリストアップされるという。NEJM誌オンライン版2019年10月30日号掲載の報告。使用されていたのは検査強化前の冷凍FMTカプセル 研究グループは、術後にESBL産生大腸菌血症を発症した2例(1例は死亡)について詳細な調査報告を行った。 まずドナースクリーニングと、カプセル製剤手順を検証したところ、ドナースクリーニングは施設内レビューボードと米国食品医薬品局(FDA)による承認の下で行われており、集められたドナー便はブレンダーでの液化や遠心分離などの処置を経て懸濁化され、熱処理などを受けて製剤化が行われていた。ただし、2019年1月にFDAの規制レビューを受けてドナースクリーニングを強化していたが、件の2例に使用されたFMTカプセルは2018年11月に製造されたものであったという。この時に強化された内容は、ESBL産生菌、ノロウイルス、アデノウイルス、ヒトTリンパ親和性ウイルス タイプ1およびタイプ2抗体を検査するというものであった。規制レビューを受けた後も、それ以前に製剤化・冷凍保存されていたFMTカプセルについて、追加の検査や廃棄はせず試験に使用されていた。FMT前の被験者の便検体からはESBL産生菌は未検出 患者(1)は、C型肝炎ウイルス感染症による肝硬変の69歳男性で、難治性肝性脳症の経口カプセルFMT治療に関する非盲検試験に参加した被験者であった。2019年3月~4月に、15個のFMTカプセルを3週間に5回にわたって移植。術後17日(2019年5月)までは有害事象は認められなかったが、発熱(38.9度)と咳を呈し、胸部X線で肺浸潤を認めレボフロキサシンによる肺炎治療が行われた。しかし、臨床的改善が認められず2日後に再受診。患者(1)は、その際に前回受診時での採血の血液培養の結果でグラム陰性桿菌が確認されたことを指摘され、ピペラシリン・タゾバクタムによる治療を開始し入院した。培養されたグラム陰性桿菌を調べた結果、ESBL産生大腸菌であると同定された。患者(1)の治療はその後カルバペネムに切り替えられ、さらに14日間のメロペネム投与(入院治療)、さらにertapenem投与(外来治療)を完了後、臨床的安定性を維持している。フォローアップ便検体のスクリーニングでは、ESBL産生菌は検出されなかった。 患者(2)は、骨髄異形成症候群の73歳男性で、同種異系造血幹細胞移植の前後に経口カプセルFMTを行う第II相試験に参加していた。15個のFMTカプセルを、造血幹細胞移植の4日前と3日前に移植。造血幹細胞移植の前日に、グラム陰性菌血症リスクを最小化するためのセフポドキシム予防投与を開始した。しかし、造血幹細胞移植後5日目(最終FMT後8日目)に発熱(39.7度)、悪寒、精神症状の異変を呈した。血液培養の採血後、ただちに発熱性好中球減少症のためのセフェピム治療を開始したが、その晩にICU入室、人工呼吸器装着となる。予備血液培養の結果、グラム陰性桿菌の存在が示され、メロペネムなど広域抗菌薬を投与するが、患者の状態はさらに悪化し、2日後に重篤な敗血症で死亡した。最終血液培養の結果、ESBL産生大腸菌が検出された。 なお患者(1)(2)とも、FMT前の便検体からESBL産生菌は検出されなかったという。

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