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トファシチニブ、心血管リスクの高いRA患者での安全性を検討/NEJM

 心血管リスクの高い関節リウマチ患者において、トファシチニブ5mgまたは10mgの1日2回投与は腫瘍壊死因子(TNF)阻害薬と比較し、主要有害心血管イベント(MACE)および悪性腫瘍の発現率が高く、非劣性基準を満たさなかった。米国・メイヨー・クリニックのSteven R. Ytterberg氏らが30ヵ国323施設で実施した、無作為化非盲検非劣性第IIIb-IV相安全性評価試験「ORAL Surveillance試験」の結果、明らかとなった。日和見感染症、帯状疱疹および非黒色腫皮膚がんの発現率もトファシチニブ群が高率であることが示された。NEJM誌2022年1月27日号掲載の報告。トファシチニブ2用量の安全性をTNF阻害薬と比較 研究グループは、2014年3月~2020年7月に、メトトレキサート治療を受けているにもかかわらず活動性の関節リウマチであり、心血管リスク因子(現喫煙者、高血圧、HDLコレステロール値40mg/dL未満、糖尿病、早発性冠動脈疾患の家族歴、関節リウマチの関節外病変、冠動脈疾患の既往歴)を1つ以上有する50歳以上の患者を、トファシチニブ5mgの1日2回投与群、同10mgの1日2回投与群、TNF阻害薬投与群に1対1対1の割合で無作為に割り付けた。TNF阻害薬の投与は、米国、プエルトリコ、カナダを含む北米ではアダリムマブ40mgを2週間ごと、それ以外の地域ではエタネルセプト50mgを週1回とした。 主要評価項目は、外部委員会判定によるMACEおよび悪性腫瘍(非黒色腫皮膚がんを除く)。TNF阻害薬群と比較して、トファシチニブ2用量統合群のハザード比の両側95%信頼区間(CI)の上限が1.8未満の場合、トファシチニブの非劣性を示すものとした。MACE、悪性腫瘍のいずれもトファシチニブで発現リスクが高い 解析対象は、トファシチニブ5mg群1,455例、トファシチニブ10mg群1,456例、TNF阻害薬群1,451例であった。 追跡期間中央値4.0年において、MACEおよび悪性腫瘍の発現率は、トファシチニブ統合群でそれぞれ3.4%(98例)、4.2%(122例)、TNF阻害薬群で2.5%(37例)、2.9%(42例)であり、トファシチニブ統合群で高率だった。ハザード比は、MACEが1.33(95%CI:0.91~1.94)、悪性腫瘍が1.48(95%CI:1.04~2.09)で、いずれもトファシチニブの非劣性は示されなかった。 また、日和見感染症(帯状疱疹、結核を含む)、すべての帯状疱疹(非重篤および重篤)、および非黒色腫皮膚がんの発現率も、TNF阻害薬群よりトファシチニブ5mg群および10mg群で高かった。 有効性は3群で同等であり、2ヵ月目から認められた改善は試験終了まで持続した。

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死に至る薬剤耐性菌感染症、最も多い疾患と原因菌は/Lancet

 薬剤耐性(AMR)は、世界中で人々の健康を脅かす主要な原因となっている。これまでのAMR研究は、特定の地域における限られた病原体と薬剤の組み合わせについて、感染症の発生率や死亡数、入院期間、医療費に及ぼすAMRの影響の評価を行い、広範な地域や、病原体と薬剤の網羅的な組み合わせに関する包括的な検討は行われていないという。米国・ワシントン大学のMohsen Naghavi氏らAntimicrobial Resistance Collaboratorsは、今回、AMR負担に関して現時点で最も包括的な検討を行い、2019年に世界で495万人が細菌のAMRに関連する感染症で死亡し、このうち127万人は薬剤耐性菌感染症が直接の原因で死亡したことを明らかにした。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2022年1月18日号に掲載された。204の国と地域で、88件の病原体と薬剤の組み合わせを評価 研究グループは、2019年時点の204の国と地域における、23種の病原体および、88件の病原体と薬剤の組み合わせについて、細菌のAMRに起因する死亡と、これによる障害調整生存年数(DALY)などを推算した(ビル&メリンダ・ゲイツ財団などの助成を受けた)。 データは、文献の系統的レビュー、病院やサーベイランスのシステム、その他の情報源から収集された。解析には4億7,100万件の患者記録や分離株が含まれ、調査地の数×年数は7,585であった。 予測統計モデルを用いて、データのない場所を含むすべての地域のAMR負担の推定値が算出された。AMR負担には、次の5つの一般的な要素が含まれた。(1)感染症に起因する死亡数、(2)特定の感染性症候群に起因する感染性の死亡の割合、(3)特定の病原体に起因する感染性症候群による死亡の割合、(4)対象となる抗菌薬に対する特定の病原体の耐性の割合、(5)この耐性に関連する死亡または感染期間の過剰リスク。 これらの要素を用いて、2つの反事実的シナリオ(AMR菌に起因する死亡、AMRに関連する死亡)に基づく疾病負担が推定された。世界全体および地域別の最終的な推定値とその95%不確実性区間(UI)が算出された。負担は下気道感染症、関連死は大腸菌、死亡はMRSAで多い 2019年、世界全体における細菌のAMRに関連する死亡数は495万件(95%UI:3.62~6.57)であり、このうちAMR菌に直接起因する死亡数は127万件(91万1,000~171万)と推定された。 地域別のAMR負担は、サハラ以南のアフリカ西部で最も高く、AMR関連の全年齢死亡割合は10万人当たり114.8件、AMR菌に起因する死亡割合は10万人当たり27.3件であった。これに対し、AMR負担が最も低かったのはオーストララシアで、AMR関連の死亡割合は10万人当たり28.0件、AMR菌に起因する死亡割合は10万人当たり6.5件だった。 また、2019年の世界全体のAMR負担は、主に3つの感染性症候群(下気道感染症/胸部感染症、血流感染症、腹腔内感染症)の割合が大きく、AMR菌に起因する死亡の78.8%をこれらが占めた。さらに、下気道感染症だけで、AMR関連死亡が150万件以上、AMR菌に起因する死亡は40万件以上に達し、最も負担の大きい感染性症候群だった。 世界全体のAMR関連死亡の最も多い原因となった病原体は大腸菌で、次いで黄色ブドウ球菌、肺炎桿菌、肺炎球菌、Acinetobacter baumannii、緑膿菌の順であった。これら6つの主要な病原体による2019年のAMR関連死亡は357万件(全495万件中)で、AMR菌に起因する死亡は92万9,000件(全127万件中)に達していた。 一方、2019年にAMR菌に起因する死亡数が10万件を超え、DALYが350万年以上であった病原体と薬剤の組み合わせは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)(12万1,000件)だけであった。 また、AMR菌に起因する死亡数が5万~10万件の組み合わせは6つあり、死亡数が多い順に、超多剤耐性菌(XDR)を除く多剤耐性(MDR)結核菌(6万4,600件)、第3世代セファロスポリン耐性大腸菌(5万9,900件)、カルバペネム耐性Acinetobacter baumannii(5万7,700件)、フルオロキノロン耐性大腸菌(5万6,000件)、カルバペネム耐性肺炎桿菌(5万5,700件)、第3世代セファロスポリン耐性肺炎桿菌(5万100件)であった。 著者は、「AMRは、世界各地で主要な死因であり、低医療資源環境では最大の負担となっている。AMR負担と、その原因となる病原菌と薬剤の組み合わせを理解することは、とくに感染予防や管理計画、必須抗菌薬の評価、新たなワクチンや抗菌薬の研究開発に関して、十分な情報を得たうえで地域ごとの施策を決定する際にきわめて重要である。低所得国の多くでは深刻なデータ不足があり、この重要な健康上の脅威に関する理解を深めるためには、微生物学研究所の能力とデータ収集システムの拡充が必要である」と指摘している。

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咳嗽も侮れない!主訴の傾聴だけでは救命に至らない一例【Dr.山中の攻める!問診3step】第10回

第10回 咳嗽も侮れない!主訴の傾聴だけでは救命に至らない一例―Key Point―咳は重大な疾患の一つの症状であることがある詳細な問診、咳の持続時間、胸部レントゲン所見から原因疾患を絞り込むことができる慢性咳に対するアプローチを習得しておくと、患者満足度があがる症例:45歳 男性主訴)発熱、咳、発疹現病歴)3週間前、タイのバンコクに出張した。2週間前から発熱あり。10日前に帰国した。1週間前から姿勢を変えると咳がでる。38℃以上の発熱が続くため紹介受診となった。既往歴)とくになし薬剤歴)なし身体所見)体温:38.9℃ 血圧:132/75mmHg 脈拍:88回/分 呼吸回数:18回/分 SpO2:94%(室内気)上背部/上胸部/顔面/頭部/手に皮疹あり(Gottron徴候、機械工の手、ショールサインあり)検査所見)CK:924 IU/L(基準値62~287)経過)胸部CT検査で両側の間質性肺炎ありCK上昇、筋電図所見、皮膚生検、Gottron徴候、機械工の手、ショールサインから皮膚筋炎1)と診断された筋力低下がほとんど見られなかったので、amyopathic dermatomyositis(筋無症候性皮膚筋炎)と考えられるこのタイプには、急性発症し間質性肺炎が急速に進行し予後が悪いことがある2)本症例ではステロイドと免疫抑制剤による治療を行ったが、呼吸症状が急速に悪化し救命することができなかった◆今回おさえておくべき臨床背景はコチラ!急性の咳(<3週間)では致死的疾患を除外することが重要である亜急性期(3~8週間)の咳は気道感染後の気道過敏または後鼻漏が原因であることが多い慢性咳(>8週間)で最も頻度が高い原因は咳喘息である【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2】緊急性のある疾患かどうか考えよう咳を伴う緊急性のある疾患心筋梗塞、肺塞栓、肺炎後の心不全悪化重症感染症(重症肺炎、敗血症)気管支喘息の重積肺塞栓症COPD (慢性閉塞性肺疾患)の増悪間質性肺炎咳が急性発症ならば、心血管系のイベントが起こったかをまず考える心筋梗塞や肺塞栓症、肺炎は心不全を悪化させる心筋梗塞や狭心症の既往、糖尿病、高血圧、喫煙、脂質異常症、男性、年齢が虚血性心疾患のリスクとなる3つのグループ(高齢、糖尿病、女性)に属する患者の心筋梗塞は非典型的な症状(息切れ、倦怠感、食欲低下、嘔気/嘔吐、不眠、顎痛)で来院する肺塞栓症のリスクは整形外科や外科手術後、ピル内服、長時間の座位である呼吸器疾患(気管支喘息、COPD、間質性肺炎、結核)の既往に注意するACE阻害薬は20%の患者で内服1~2週間後に咳を起こす【STEP3-1】鑑別診断:胸部レントゲン所見と咳の期間で行う胸部レントゲン写真で肺がん、結核、間質性肺炎を確認する亜急性咳嗽(3~8週間)の原因の多くはウイルスやマイコプラズマによる気道感染である細菌性副鼻腔炎では良くなった症状が再び悪化する(二峰性の経過)。顔面痛、後鼻漏、前かがみでの頭痛増悪を確認する百日咳:咳により誘発される嘔吐とスタッカートレプリーゼが特徴的である2)【STEP3-2】鑑別診断3):慢性咳か否か8週間以上続く慢性咳の原因は咳喘息、上気道咳症候群(後鼻漏症候群)、逆流性食道炎、ACE阻害薬、喫煙が多い上記のいくつかの疾患が合併していることもある咳喘息が慢性咳の原因として最も多い。冷気の吸入、運動、長時間の会話で咳が誘発される。ほかのアレルギー疾患、今までも風邪をひくと咳が長引くことがなかったかどうかを確認する非喘息性好酸球性気管支炎(NAEB:non-asthmatic eosinophilic bronchitis)が慢性咳の原因として注目されている3)上気道咳症候群では鼻汁が刺激になって咳が起こる。鼻咽頭粘膜の敷石状所見や後鼻漏に注意する夜間に増悪する咳なら、上気道咳症候群、逆流性食道炎、心不全を考える【治療】咳に有効な薬は少ないハチミツが有効とのエビデンスがある4)咳喘息:吸入ステロイド+気管支拡張薬上気道咳症候群:アレルギー性鼻炎が原因なら点鼻ステロイド、アレルギー以外の原因なら第一世代抗ヒスタミン薬3)逆流性食道炎:プロトンポンプ阻害薬<参考文献・資料>1)Mukae H, et al. Chest. 2009;136:1341-1347.2)Rutledge RK, et al. N Engl J Med. 2012;366:e39.3)ACP. MKSAP19. General Internal Medicine. 2021. p19-21.4)Abuelgasim H, et al. BMJ Evid Based Med. 2021;26:57-64.

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アトピー性皮膚炎を全身治療する経口JAK阻害薬「サイバインコ錠50mg/100mg/200mg」【下平博士のDIノート】第89回

アトピー性皮膚炎を全身治療する経口JAK阻害薬「サイバインコ錠50mg/100mg/200mg」今回は、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬「アブロシチニブ(商品名:サイバインコ錠50mg/100mg/200mg、製造販売元:ファイザー)」を紹介します。本剤は、全身療法が可能な経口剤であり、既存治療で効果不十分な中等症~重症のアトピー性皮膚炎の新たな選択肢として期待されています。<効能・効果>本剤は、既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎(AD)の適応で、2021年9月27日に承認され、同年12月13日に発売されました。なお、ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬などの抗炎症外用薬による適切な治療を一定期間施行しても十分な効果が得られず、強い炎症を伴う皮疹が広範囲に及ぶ患者に使用します。<用法・用量>通常、成人および12歳以上の小児には、アブロシチニブとして100mgを1日1回経口投与します。患者の状態に応じて200mgを1日1回投与することもできます。なお、中等度の腎機能障害(30≦eGFR<60)では50mgまたは100mgを1日1回投与し、重度の腎機能障害(eGFR<30)では50mgを1日1回経口投与します。本剤投与時も保湿外用薬は継続使用し、病変部位の状態に応じて抗炎症外用薬を併用します。なお、投与開始から12週までに治療反応が得られない場合は中止を考慮します。<安全性>AD患者を対象に本剤を投与した臨床試験の併合解析において、発現頻度2%以上の臨床検査値異常を含む有害事象が確認されたのは3,128例中2,294例でした。主な副作用は、上咽頭炎、悪心、アトピー性皮膚炎、上気道感染、ざ瘡、筋骨格系および結合組織障害などでした。なお、重大な副作用として感染症(単純ヘルペス[3.2%]、帯状疱疹[1.6%]、肺炎[0.2%])、静脈血栓塞栓症(肺塞栓症[0.1%未満]、深部静脈血栓症[0.1%未満])、血小板減少(1.4%)、ヘモグロビン減少(ヘモグロビン減少[0.9%]、貧血[0.6%])、リンパ球減少(0.7%)、好中球減少症(0.4%)、間質性肺炎(0.1%)、肝機能障害、消化管穿孔(いずれも頻度不明)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、皮膚バリア機能を低下させたり、アレルギー炎症を悪化させたりするJAKという酵素の産生を抑えることで、アトピー性皮膚炎の症状を改善します。2.本剤には免疫を抑制させる作用があるため、発熱や倦怠感、皮膚の感染症、咳が続く、帯状疱疹や単純ヘルペスなどの感染症の症状に注意し、気になる症状が現れた場合は、すみやかにご相談ください。3.この薬を服用している間は、生ワクチン(麻疹、風疹、おたふく風邪、水痘・帯状疱疹、BCGなど)の接種ができません。接種の必要がある場合は主治医に相談してください。4.(女性に対して)この薬を服用中、および服用中止後一定期間は適切な避妊をしてください。5.これまで使用していた保湿薬は続けて使用してください。<Shimo's eyes>近年、ADの新しい治療薬が次々と発売されており、難治例における治療が大きく変化しつつあります。本剤と同じ経口JAK阻害薬のほかにも、ヒト型抗ヒトIL-4/13受容体モノクローナル抗体製剤や外用JAK阻害薬などがすでに発売されています。本剤は、ADの適応を得た経口JAK阻害薬として、バリシチニブ(商品名:オルミエント錠)、ウパダシチニブ水和物(同:リンヴォック錠)に続く3剤目となります。また、12歳以上のアトピー性皮膚炎患者に使用できる製剤としてはウパダシチニブに続いて2剤目となります。相互作用については、フルコナゾール、フルボキサミンなどの強力なCYP2C19阻害薬、あるいはリファンピシンのような強力なCYP2C19および CYP2C9誘導薬との併用に注意が必要です。これらの薬剤と併用する場合、可能な限りこれらの薬剤をほかの類薬に変更する、または休薬するなどの対応を考慮します。経口JAK阻害薬は、肺炎、敗血症、ウイルス感染などによる重篤な感染症や結核の顕在化および悪化への注意が警告に記載されています。生ワクチンの接種は控え、帯状疱疹やB型肝炎ウイルスの再活性化にも注意する必要があります。調剤時の注意に関しては、抗うつ薬/慢性疼痛治療薬デュロキセチン(商品名:サインバルタカプセル)と販売名が類似していることから、取り違え防止案内が発出されています。薬剤の登録名や調剤棚の表示などを工夫して、取り違えを防ぎましょう。本剤は、米国においてブレークスルー・セラピー(画期的治療薬)の指定を受け、優先審査品目に指定されています。参考1)PMDA 添付文書 サイバインコ錠50mg/サイバインコ錠100mg/サイバインコ錠200mg

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「今後のコロナ医療に必要なことは?」感染症内科医・岡秀昭氏インタビュー(後編)

 2021年も残すところあと数週間。昨年の年明け早々に始まった新型コロナウイルス感染症との闘いは、2年近くになる。医療現場のみならず、社会全体を激変させたコロナだが、その最前線で治療に当たってきた医師は、最大の患者数を出した第5波を乗り越え、今ようやく息をつける状態となった。この休息が束の間なのか、しばらくの猶予となるのかは不明だが、諸外国の状況やオミクロン株の出現などを鑑みると、それほど悠長に構えていられないのが現在地点かもしれない。 第6波は来るのか。これまでのコロナ政策で今後も闘い続けられるのか―。地域のコロナ拠点病院で重症患者治療に奔走した感染症内科医・岡 秀昭氏(埼玉医科大学総合医療センター)に話を伺った。 前編「五輪の裏で医療現場は疲弊し、ギリギリまで追い詰められていた」はこちら。*******――当面続くと見られるコロナ診療。これまでの経緯を踏まえると、重症者に特化した病院とプライマリとの分担および連携が肝要では? そこが最も重要なポイントだと思う。結局、物事を回転させていくには、ヒト・モノ・カネのバランスが必要で、それらがすべて噛み合うことで回転し、物事が前に進んでいく。しかし、報道や国や政治が声高に強調するのは、モノとカネの支援。だから、「ベッドの占有率が〇%だ」とか、「日本は病床数が世界最大規模なのに、現場がなぜ回らないのか」というズレた議論、医療者はけしからんという論調になる。今、圧倒的に足りないのはモノでもカネでもなく、「ヒト」なのだということをきちんと理解してほしい。例えるなら、航空機のボーイングが何台もあって、飛ばせと言っても、小型機のパイロットしかいなければ飛ばせないのと同じ理屈だ。われわれ医療者に引き寄せて考えてみてほしい。医師免許を持っている人が全員、人工呼吸器を使えて、特殊な感染症が診られるのか。つまり、「ヒト」の考え方がまったく欠落している。今回、コロナで盛んにECMOが取り上げられたが、所有していたところで、それを扱える医療従事者がほとんどいないという現実がまったく知られていない。見当外れの世論を助長させた一端には、モノ・カネ偏重の政策とメディアの報じ方があったのではないかと考える。 コロナ医療を「ヒト」の視点で考える際、軽症と重症に分ける必要がある。軽症は、感染対策が可能な病院や医師ならば誰でも診られると言っていい。問題は、風評被害への懸念、未知の感染症への恐れなど、どちらかというと精神的側面が大きい。そもそも現時点で重症リスクがない患者には有効な薬剤がないので、軽症であれば、周りにうつらないように自然軽快を観察していくことになる。一方、重症者治療となると対応が大きく変わる。厳重な感染対策のもとで細やかな循環呼吸管理をしていかなければいけない。しばしば人工呼吸器やECMOの操作も必要となり、これは集中治療の領域だ。 日本の医療界は、歴史的に集中治療医と感染症医のような臓器横断的に診る医師が圧倒的に少ない。病床数が多かろうと、医師免許を持った人がそれなりにいたとしても、病床の大部分が療養型だったり、精神科病床だったりする。そのような中、カネを出してハード面を整えたとしても、十分に扱える人員がいないのが現状。重症者を診る医師が絶対的に足りないのは、そうした背景がある。 今後、第6波以降に重症者が増えたとしたら、再び医療逼迫が起きるのは必至。現在、感染者数は抑制できているが、今後は患者数が増えてきた場合に、重症者をどれだけ抑えられるかにかかっていると思う。軽症~中等症Iであれば、付け焼刃でも医師免許を持っている人たちへの促成教育は有効だと考える。実際、私は埼玉県に提案し、県のトレーナー制度でコロナ治療に協力してくれる医療機関、医師に対する指導をすでに始めている。しかし、重症を診る人材の育成は即席では難しく、短期的な視点では限界があり、重症者を診る人員が足りないという現実はそう簡単に変わらない。 今回のコロナ・パンデミックに関して新たな人材育成の猶予はないので、やはりポイントは「重症者を増やさない」ことに尽きる。国の対策としては、悪いほうにシナリオを考え、本当に機能する重症者病床は、これ以上増やせないことを理解してほしい。増やすことを仮定した対策ではなく、現状のベッド数で医療が回る対策が必要だ。 私の聞くところであるが、重症者を診るのが大学病院や一部の大病院に限られている上に、呼吸器内科、救急科、集中治療、感染症、総合内科のような一部の診療科の医師がほぼ診ている状態。自院に関しては、感染症と救急の医師に、少数の派遣医師で回しているのが実情。もともと人数の少ない診療科の医師だけで回さざるを得ず、皆が疲弊し切っている。 なぜ、救急や集中治療、感染症、総合診療の医師が育ってこなかったか。理由の1つは、専門としていまだに認められていないということ。麻酔科の経緯に照らして考えるとわかるだろう。外科医が1人で手術をする際、現在ならば麻酔科医が麻酔をかける。しかし、術後感染症が起きたとしたら、外科医が診ることになる。術後、抗がん剤治療を開始する場合、米国ではオンコロジストが担当するが、日本では外科医が抗がん剤治療も行う。さらには、緩和治療をも外科医が一手に引き受けなければならないのが実状。こんな多忙な外科医に、感染管理ができるのだからコロナを一緒にやってくれとはとてもじゃないが言えない。それどころか、本来やるべき手術などがいっさい回らなくなるだろう。それでもやるなら、通常医療を捨てざるを得ないという本末転倒に陥ることになる。その先には病院の収益の問題につながる。 将来的な対策として長期的視点で必要なことは、集中治療医、感染症科医を育て、それなりの病院では現在の麻酔科医のように必須にすること。これは外科医の負担軽減だけでなく、患者にとってもメリットが大きい。集中治療しかり、感染管理しかり、麻酔しかり、専門医が担当することは、医療の質の担保にもつながる。もはや、日本の根性論、精神的頑張りに負うような医療体制は通用しない。今回のコロナを巡る医療逼迫の背景にも、こうした日本独特の医療体制に一端がある。つまり、臓器別の縦割り診療科は認められているので志す人は多く、臓器に関係ない感染症科や麻酔科や集中治療といった横割りの診療科には人が来ない。今後のパンデミックに備えるには、こうした診療科の医師が足りていないということをまずは認め、本腰を入れて養成に入るべき。 感染症科医を例にすると、コロナのような何十年に1度という事態に直面した時には必要性が感じられるが、平時には割に合わないのではないか、というのが一般的な考え方で、経営にもそういう考え方の人が多いのは確かだ。しかしそれは間違っている。感染症指定医療機関でなくても、結核、HIVはもちろん、輸入感染症の患者が来る可能性は十分にあるし、多くの結核患者は咳や微熱で一般病院を受診し、診断を受ける。今回のコロナ禍で、「空気感染を予防できる設備がないのでコロナは診られない」という病院がいくつもあったが、それはおかしいとはっきり言いたい。 病院というのは、そもそもコロナにかかわらずインフルエンザでも結核でも水疱瘡でも日常的に診ている。感染症が未知の種類だから診られないというのはおかしい話で、どんな新興感染症が突然現れたとしても、周りの人が守られるような安全対策が取られているのが「病院」であるべき。何十年に1度のパンデミックに備えて設備投資するのは見合わないなどと言うのは本末転倒で、海外往来が当たり前のこの現代、もうすでにどこの病院にもそのような患者は来ていることを自覚し、備えるのが正しい在り方だろう。さらに、急性期病院は、例えば200床につき1人以上の感染症医を置き、診療報酬上でも加算化する。集中治療医に関しても、そういう形で、必要不可欠にしていくことで専門性が認められていくべきだと思う。他科から診察依頼やコンサルテーション があった場合にも、対価として診療報酬が支払われるべきだろう。そうでなければ、こうした専門医が定着するのは難しい。 私の懸念は、今回のコロナ禍の経験で、厚労省がますます病床数を増やそうという方向に加速していくことだ。必要なのは、増やすことではなく有効に回せるベッドをいかに残すか。診る医師も設備もないのに、病床数をやみくもに増やしても、「日本は世界に誇るベッド数を準備しているのになぜ回らない」と批判的な世論を生むだけだ。――メディアでは“幽霊病床問題”として大きくクローズアップされた。 その通り。まるで病院や医療従事者が対応していないかのような論調だが、そもそも人員が足らないのだから患者を受け入れられないのは当たり前。でも一般市民にはそれはわからない。厚労省は、ベッドの多さ、患者の多さを基準に病院を評価しがちだが、たくさん受け入れたことが偉いという評価基準それ自体が間違っている。その先、医療の実態はどうなのかというところまできちんと確認するべきだ。 当院は40床のコロナ病床を準備したが、人員に照らしたキャパシティを考慮すると38床の受け入れが限界だった。なぜなら、受け入れた患者さんはもちろん、働くスタッフの医療安全上の問題なども考えなければいけなかったからだ。例えば、50床あるのに患者2人しか受け入れないというのは明らかに悪質だが、7~8割の病床を埋めて頑張っているところを責めるのはおかしい。 ECMOの稼働率がメディアに取り上げられたこともあったが、それを扱える人的リソースの問題で「使わない」という選択をすること批判が集まった。しかしわれわれは、人工呼吸器よりも圧倒的に人的負担がかかるECMOにリソースを割くことよりも、その分、人工呼吸器の患者をより多く受け入れて、より多くの患者を救命しようという方針だった。 コロナはある意味、災害医療とも言える。そこにはトリアージの考え方があった。ECMOへのこだわりを持っていると、本来は受け入れられる人を受け入れられなくなり、助けられた人を助けられないということが起こり得た。――最後に、コロナ第6波あるいはもっと長い闘いを想定するとき、医療者はどう備えるべき? これからの戦略を立てる以前に、まずはこれまでの総括・検証が必要だ。少なくとも、五輪開催時期を巡っては、少しでも後ろ倒しにしてワクチン接種率を上げてからにすべきという医療者側の切実な訴えは、政府に聞いてもらえなかった。メディアでは、五輪までにコロナが収束するなどという“有識者”の発言もあったが、とんだデタラメだった。したがって、政策の検証だけでなく、どの専門家の発言が信頼に足るのかというメディアの発信の仕方についても検証が必要だろう。 次に、次のピークに向けた戦略として私が言えるのは、重症者病床がこれ以上増えないという仮定のもとで動くべきだということ。大事なのは「増やす」ではなく「増えない」前提のプランを準備し、明確にしておくこと。実際、第6波において重症者が増えるのか否かは不明だ。しかし、デルタ株に対して重症化を防ぐワクチンの効果は確実なので、ワクチン接種は引き続き進めていくべき。そして、抗体カクテルや今後登場するであろう治療薬をワクチン代わりにはしないこと。ただし、プライマリで重症化リスクのある患者に対し、抗体カクテルや治療薬が確実に使える体制を整えることはとても重要。これは、プライマリの先生方に望むことにもつながるが、軽症や中等症の治療を第5波まではわれわれがやってきた。今後は、プライマリの先生方と協力し、役割分担しつつ、重症者病床は現状から増えないという想定で、ワクチンや抗体カクテル、薬で治療を進めていくべきと考える。 もう1つ、医療にひずみが出ている問題がある。コロナ医療を巡っては、医療と報酬が見合っていない。中には、コロナ重症者を診るスタッフの給与よりも、ワクチン接種のアルバイト報酬のほうが高いといったケースも見られた。これは明らかにおかしい。病院に寝泊まりして、重症コロナ患者を懸命に診て疲弊しきっているスタッフの月給が、ワクチン接種に従事する人の日給と同程度なんてあんまりだと思う。 医療には、その負担や技術・能力に見合った適正価格がある。このような状況では、将来的にも感染症や集中治療を目指す医師はいないだろうと危惧する。将来的なことだけではなく、目下の第6波に備えるためのモチベーションにもつながる。医療の水準に対する正当な評価。これをなくしてコロナ医療は前に進まない。

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潰瘍性大腸炎の寛解導入および維持療法における低分子医薬品ozanimodの有用性(解説:上村直実氏)

 選択的スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)受容体調節薬ozanimodの潰瘍性大腸炎(UC)に対する有用性を検証した第III相臨床試験の結果、中等度から重度UCの寛解導入および寛解維持に有効性を認めたことがNEJM誌に掲載された。選択的S1P受容体調整薬ozanimodはUC患者の大腸粘膜へのリンパ球の浸潤を抑えることで炎症を抑制する効果が期待されている新規の低分子医薬品である。UCは特定疾患に指定されている原因不明の炎症性腸疾患(IBD)であり、現在の患者数は約18万人である。UCに対する薬物治療については、5-ASA製剤、ステロイド製剤、免疫調節薬、生物学的製剤が使用されているが、最近、ステロイドの長期投与に伴う副作用や依存性の懸念が強まり、ステロイドからの離脱や減量を目的として生物学的製剤や低分子医薬品の開発が盛んに行われている。すなわち、抗TNF阻害薬、インターロイキン阻害薬ウステキヌマブ、インテグリン拮抗薬vedolizumab、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬フィルゴチニブ、今回のozanimodなど新規薬剤の有用性を示す試験結果が報告されて次々と上市されている。今後、さらなる難治性のUCに対しては生物学的製剤と低分子医薬品の併用の有用性と安全性の検証が必要となることも予測される。 ozanimodを含めてUCに対する有用性と安全性を検証する臨床試験の研究デザインは国際間多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験でほぼ一致しているが、最近のアウトカムは、一昔前の下痢や血便回数などの臨床的改善度のみでなく内視鏡を用いた肉眼的な粘膜治癒に加えて生検組織に好中球浸潤を認めないといった厳密なものに代わっている。したがって、試験結果の信憑性は高く、一般診療現場における有用性も十分に期待できるようになっている。 一方、薬剤の効果があればあるほど副作用ないしは安全性に関しては注意が必要となる。UCやリウマチなど自己免疫性疾患に対する新規薬剤のリスクとして結核やB型肝炎ウイルスの再活性化はよく知られているが、まれなものとして重篤なウイルス性脳疾患である進行性多巣性白質脳疾患(PML)の発現も報告されている。さらに市販後数年経過して心血管血栓症や死亡リスクの上昇が判明した事案の報告もあり、観察期間が限定されている臨床試験では検証できない長期使用の安全性については市販後に注意深く検証されるべきであり、今後、市販後の長期安全性に関する精緻な検証体制が重要である。

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統合失調症における呼吸器系疾患の有病率~メタ解析

 統合失調症患者は、死亡リスクが高く、その主な原因は呼吸器系疾患であるにもかかわらず、有病率などの調査は十分に行われていない。オーストラリア・クイーンズランド大学のShuichi Suetani氏らは、統合失調症患者における呼吸器系疾患の有病率を明らかにするため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Schizophrenia Research誌オンライン版2021年9月11日号の報告。統合失調症患者の呼吸器系疾患の有病率は有意に高かった 2020年4月27日までに公表された統合失調症患者(可能であれば対照群を含む)の呼吸器系疾患について調査した研究を、主要な電子データベースより検索した。分析では、ランダム効果メタ解析を実施した。 統合失調症患者における呼吸器系疾患の有病率を分析した主な結果は以下のとおり。・引用文献1,569件中21件をメタ解析に含めた。対象数は、統合失調症患者61万9,214例、対照群5,215万9,551例であった。・統合失調症患者は、対照群と比較し、COPD(オッズ比[OR]:1.82、95%CI:1.28~2.57)、喘息(OR:1.70、95%CI:1.02~2.83)、肺炎(OR:2.62、95%CI:1.10~6.23)の発症率が有意に高かった。・統合失調症患者の主な呼吸器系疾患の有病率は、以下のとおりであった。 ●COPD:7.7%(95%CI:4.0~14.4) ●喘息:7.5%(95%CI:4.9~11.3) ●肺炎:10.3%(95%CI:5.4~18.6) ●結核:0.3%(95%CI:0.1~0.8)・出版バイアスで調整した後、統合失調症患者のCOPD有病率は、19.9%(95%CI:9.6~36.7)まで増加した。 著者らは「今回調査した呼吸器系疾患の有病率は、一般集団よりも統合失調症患者において有意に高かった。統合失調症患者の死亡リスクを軽減するためにも、呼吸器系疾患の予防やマネジメントの改善に焦点を当てる必要がある」としている。

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「クラビット」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第73回

第73回 「クラビット」の名称の由来は?販売名クラビット®錠250mgクラビット®錠500mgクラビット®細粒10%※クラビット錠剤/細粒と点滴静注(バッグ)はインタビューフォームが異なるため、今回は情報を割愛しています。ご了承ください。一般名(和名[命名法])レボフロキサシン水和物(JAN)効能又は効果〈適応菌種〉本剤に感性のブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌、腸球菌属、淋菌、モラクセラ(ブランハメラ)・カタラーリス、炭疽菌、結核菌、大腸菌、赤痢菌、サルモネラ属、チフス菌、パラチフス菌、シトロバクター属、クレブシエラ属、エンテロバクター属、セラチア属、プロテウス属、モルガネラ・モルガニー、プロビデンシア属、ペスト菌、コレラ菌、インフルエンザ菌、緑膿菌、アシネトバクター属、レジオネラ属、ブルセラ属、野兎病菌、カンピロバクター属、ペプトストレプトコッカス属、アクネ菌、Q熱リケッチア(コクシエラ・ブルネティ)、トラコーマクラミジア(クラミジア・トラコマティス)、肺炎クラミジア(クラミジア・ニューモニエ)、肺炎マイコプラズマ(マイコプラズマ・ニューモニエ)〈適応症〉表在性皮膚感染症、深在性皮膚感染症、リンパ管・リンパ節炎、慢性膿皮症、ざ瘡(化膿性炎症を伴うもの)、外傷・熱傷及び手術創等の二次感染、乳腺炎、肛門周囲膿瘍、咽頭・喉頭炎、扁桃炎(扁桃周囲炎、扁桃周囲膿瘍を含む)、急性気管支炎、肺炎、慢性呼吸器病変の二次感染、膀胱炎、腎盂腎炎、前立腺炎(急性症、慢性症)、 精巣上体炎(副睾丸炎)、尿道炎、子宮頸管炎、胆嚢炎、胆管炎、感染性腸炎、腸チフス、パラチフス、コレラ、バルトリン腺炎、子宮内感染、子宮付属器炎、涙嚢炎、麦粒腫、瞼板腺炎、外耳炎、中耳炎、副鼻腔炎、化膿性唾液腺炎、歯周組織炎、歯冠周囲炎、顎炎、炭疽、ブルセラ症、ペスト、野兎病、肺結核及びその他の結核症、Q熱用法及び用量通常、成人にはレボフロキサシンとして1回500mgを1日1回経口投与する。なお、疾患・症状に応じて適宜減量する。 肺結核及びその他の結核症については、原則として他の抗結核薬と併用すること。腸チフス、パラチフスについては、レボフロキサシンとして1回500mgを1日1回14日間経口投与する。警告内容とその理由該当しない禁忌内容とその理由(原則禁忌を含む)禁忌(次の患者には投与しないこと)1.本剤の成分又はオフロキサシンに対し過敏症の既往歴のある患者2.妊婦又は妊娠している可能性のある婦人3.小児等ただし、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人及び小児等に対しては、炭疽等の重篤な疾患に限り、治療上の有益性を考慮して投与すること。※本内容は2021年10月13日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2019年11月改訂(第16版)医薬品インタビューフォーム「クラビット®錠250mg/500mg、クラビット®細粒10%」2)第一三共MedicaL Library:製品一覧

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ショパンの死因は結核性心膜炎だった?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第195回

ショパンの死因は結核性心膜炎だった?pixabayより使用現在、ポーランドで第18回ショパン国際ピアノコンクールが開催されています。私も、時間があるときに注目のピアニストの演奏を聴いています。インターネットがなかった頃は、音楽誌の速報を見るしかなかったので、YouTubeすごいなと感心します。さて、ショパンは誰もが知る作曲家で、「別れの曲」や「革命のエチュード」などが有名ですね。そんな彼の死因についての論文です。ちなみに、10月17日が彼の命日です。Witt M, et al.Inheritance vs. infectivity as a mechanism of malady and death of Frederic ChopinJ Appl Genet . 2021 Aug 4. doi: 10.1007/s13353-021-00651-2.タイトルにもう答えが書いているんですが、ショパンは長らく結核を罹患していることはわかっていたものの、直接的な死因についてはよくわかっていませんでした。結核病棟の患者さんをたくさん診ていますが、結核の死亡は多くが呼吸不全です。しかし、ショパンは違ったのかもしれません。実は、2014年にショパンの心臓が肉眼的に解析されたことがあります。すると、どうやら結核性心膜炎を罹患していたことがわかりました。結核において心膜炎の合併はまれなのですが、当時は治療薬などなかったですから、これが急速な病状悪化につながったのではないかと、この論文では論じられています。ただ、ショパンを実際に診察した医師の記録によれば、彼は階段の昇り降りだけで強い呼吸困難感を訴えており、もしかすると在宅酸素療法が必要なくらい慢性呼吸不全がひどかった可能性があります1)。そのため、心膜炎も併発していたが、肺もボロボロだったのではないかと考えられます。一方で、20年間血痰の症状があったという記録もあって、さすがに結核の自然経過には合わないのではないかとする研究者もいます。家族にも同様の症状があったことから、嚢胞線維症だったのでは、という学説もあります2)。まぁ現時点で菌の証明ができていないので、すべて推測に過ぎないんですけど……。ショパンを病理解剖したCruveilhier医師の剖検記録は、第2次世界大戦のパリ戦火によって失われてしまいました。診断書に書かれている「肺結核」「喉頭結核」という言葉のみが、唯一残された病名なのです。1)Hazard J. The adventures of doctor Jean Matuszinski, friend of Frederic Chopin, from Warsaw in 1808 to Paris in 1842. Hist Sci Med. 2005 Apr-June;39(2):161-8.2)Majka L, et al. Cystic fibrosis--a probable cause of Frederic Chopin's suffering and death. J Appl Genet. 2003;44(1):77-84.

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新しい病気の登場(解説:後藤信哉氏)

 人類は時代に応じて各種疾病と戦ってきた。ペストの時代があり、結核の時代があり、心血管病の時代があった。数の多い疾病に対して、発症メカニズムを解明し、予防、治療手段を開発してきた。新型コロナウイルスも人類が克服すべき疾病である。ワクチンは新型コロナウイルス感染に対する人類の反撃の第一歩である。 ヒトの細胞にウイルスの蛋白を作らせる新型コロナウイルスワクチンも歴史的な医学の進歩として記録されるだろう。しかし、革新的ワクチン特有の副反応も見つかってきた。ワクチンによる免疫血栓症(vaccine-induced immune thrombotic thrombocytopenia:VITT)も新規に出現した問題である。実証的な英国医学では理論よりも現実を注視する。英国の規制当局は、ワクチン接種を担う医師たちにワクチン接種後の脳静脈洞血栓症の報告を依頼した。本研究では2021年4月1日から5月20日までに報告された99例の脳静脈血栓症のまとめである。70例はVITTとされた。新しい病気に対する新しいワクチンなので、どんな合併症がどれだけ起こるか、誰も知らない。新型コロナウイルス感染による死亡を減らせるのであれば、まずワクチンを使ってみよう! しかし、合併症があれば、公開してみんなで議論しよう! というのは英国人の良いところである。 新しい病気の新しいワクチンによる合併症の治療法は誰も知らない。VITTに類似した血栓症であるヘパリン惹起血小板減少・血栓症ではヘパリンは増悪因子となる。ヘパリン以外の抗凝固薬は効くかもしれないし、免疫グロブリンは有効かもしれない。よくわからないけれども、わかるところだけは公開しようとの英国の姿勢を反映した論文である。しかし、厄介な病気が増えたものだ。ペスト、結核、心血管病のように、予防、治療の基本が明確になるまでどのくらいかかるのだろうか?

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「尿路感染症はとりあえずキノロン」の医師へST合剤を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第41回

 今回は、尿路感染症にはフルオロキノロン薬を第1選択と考える医師に対し、代替薬としてST合剤をどのように提案したのか紹介します。フルオロキノロン薬は使いやすい抗菌薬ですが、経口第3世代セフェム系抗菌薬と同様に薬剤耐性に注意が必要です。医師は使用経験が少ない代替薬には抵抗があるものですが、薬剤師が共同でモニタリングする姿勢を示すことで、医師の治療選択肢を増やすことができました。患者情報70歳、女性(施設入居)基礎疾患高血圧症、骨粗鬆症介護度要介護1服薬管理施設職員が管理処方内容1.アムロジピンOD錠5mg 1錠 分1 朝食後2.カンデサルタンシレキセチル錠4mg 1錠 分1 朝食後3.ラロキシフェン塩酸塩錠60mg 1錠 分1 朝食後4.酸化マグネシウム錠330mg 3錠 分3 毎食後本症例のポイント訪問診療に同行した際、施設看護師より、昨日から患者さんに倦怠感・頻尿・濃尿・尿臭があると相談を受けました。医師より、尿路感染症の可能性が高く、抗菌薬治療が必要なので、レボフロキサシン500mgを5日間処方しようと思うがどうかと聞かれました。医師としては、尿路感染症に対しては長年フルオロキノロン薬をほぼ一択で処方しており、治療効果も満足していることから、今回もレボフロキサシンでよいだろうという認識でした。フルオロキノロン薬は組織移行性に優れた広域抗菌薬であり、また1日1回服用と服薬負担も少ない薬剤ですが、薬剤耐性が問題となっています。そこで下記のポイント(1)、(2)を整理して代替薬の提案をすることにしました。なお、βラクタム系の抗菌薬に関しては、医師より菌種のカバーや治療成績から積極的には使用したくないと回答を得ています。(1)フルオロキノロン薬の薬剤耐性と相互作用の懸念近年の報告において、尿路感染症の主要な起炎菌である大腸菌のフルオロキノロン耐性率は40%となっています。薬剤耐性(AMR)対策アクションプランの目標である「25%以下」を大きく超えており、今後も薬剤耐性対策として適正使用を進め、使用量を減らす必要があります。また、この患者さんは便秘治療で酸化マグネシウムを服用していますが、フルオロキノロン薬との相互作用が問題となります。同時服用ではキレート形成による吸収低下から抗菌効果が減弱する可能性があるため、時間をずらして服用することになりますが、服薬時刻を指定すると施設側の介護負担が増大するため、他剤へ変更するほうがよいと考えました。(2)代替薬としてST合剤を検討ST合剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリム配合錠)は、腸内細菌科細菌を広くカバーしており、消化管吸収や前立腺などの組織移行性も良好な薬剤です。そのため、尿路感染症においては腎機能低下や妊娠などの問題がなければ第1選択薬となります。ただし、ワルファリンカリウムやフェニトイン、レパグリニド、メトトレキサートなどとの相互作用があり、併用が困難な場合もあるため注意が必要です。幸いこの患者さんは相互作用がある薬剤の服用はなく、腎機能も年齢相応(Scr:0.75mg/dL、推算CCr:47.38mL/min、K値:3.5mEq/L)であることから、治療薬候補として妥当と考えました。処方提案と経過上記のポイント(1)、(2)を医師に伝えてST合剤を提案したところ、使用経験が少ないので不安もあるとのことでしたが、薬剤師と施設スタッフの共同モニタリングを行うことで安心してもらい、スルファメトキサゾール・トリメトプリム配合錠 4錠 分2、7日間の処方となりました。医師としては、フルオロキノロン薬の大腸菌の耐性化が全国的に進んでいることに驚かれ、今後の治療選択肢としてST合剤やセファレキシン、セファクロルも考慮するとのことでした。治療開始2日目の夜より患者さんの頻尿や尿臭の訴えが改善し、その後も有害事象はなく経過も順調だったため、7日間でST合剤による治療は終了となりました。薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書2020. 厚生労働省健康局結核感染症課;2021.高山義弘 著. 高齢者の暮らしを守る 在宅感染症診療. 日本医事新報社;2020.

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在宅吸入可能な肺非結核性抗酸菌症治療薬「アリケイス吸入液590mg」【下平博士のDIノート】第78回

在宅吸入可能な肺非結核性抗酸菌症治療薬「アリケイス吸入液590mg」今回は、「アミカシン硫酸塩(商品名:アリケイス吸入液590mg、製造販売元:インスメッド合同会社)」を紹介します。本剤は、内服薬による多剤併用療法の抗菌効果が不十分な肺非結核性抗酸菌(NTM)症に上乗せすることができるアミノグリコシド系抗菌吸入薬です。<効能・効果>本剤は、アミカシンに感性のマイコバクテリウム・アビウムコンプレックス(MAC)による肺NTM症の適応で、2021年3月23日に承認されました。なお、本剤の適用は、肺MAC症に対する多剤併用療法による前治療において効果不十分な患者に限定されています。<用法・用量>通常、成人にはアミカシンとして590mg(力価)を1日1回、専用ネブライザ(ラミラネブライザシステム)を用いて吸入投与します。なお、使用に当たっては、ガイドラインなどを参照し、多剤併用療法と併用します。喀痰培養陰性化が認められた以降も、一定期間は本剤の投与を継続します。臨床試験においては、喀痰培養陰性化が認められた以降に最大12ヵ月間、本剤の投与を継続しました。投与開始後12ヵ月以内に喀痰培養陰性化が得られない場合は、本剤の継続投与の必要性を再考する必要があります。<安全性>肺NTM症患者を対象とした第II、第III相試験の併合結果404例中330例(81.7%)で副作用が確認されました。主な副作用として、発声障害172例(42.6%)、咳嗽125例(30.9%)、呼吸困難57例(14.1%)、喀血42例(10.4%)、口腔咽頭痛37例(9.2%)、疲労29例(7.2%)、耳鳴り21例(5.2%)などが報告されています。重大な副作用として、過敏性肺臓炎(2.7%)、気管支痙攣(21.5%)、第8脳神経障害(15.1%)、急性腎障害(3.2%)、ショックおよびアナフィラキシー(頻度不明)が現れる可能性があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、在宅で吸入する抗菌薬です。肺の奥まで浸透することで感染細胞に取り込まれ、抗菌作用を発揮します。2.冷蔵庫(2~8℃)で保管し、凍らせないでください。25℃の室温で最大4週間保管が可能ですが、一旦室温に戻した場合は、未使用であっても4週間で廃棄してください。3.使用するときは、冷蔵庫から取り出して室温(20~25℃)に戻し、内容物が均一になるように10~15秒間激しく振り混ぜます。電池を入れるかACアダプターを接続した専用の吸入器を用いて、1日1回、約14~20分間吸入します。4.吸入後は、毎回洗浄・消毒をして、乾燥させてください。エアロゾルヘッドは週1回の超音波洗浄を行い、ハンドセット(吸入部)は1ヵ月ごとに新しいものに取り替えます。5.本剤を使用中に、咳、息切れ、発熱、呼吸困難、疲労感、発疹、めまい、耳鳴り、難聴、むくみ、尿量減少、食欲不振、悪心・嘔吐などの症状が現れたら、ただちに医師に連絡してください。<Shimo's eyes>近年、わが国の肺NTM症の罹患率および死亡率が増加しており、MACが原因菌種の80~90%超を占めています。治療は通常、リファンピシン、エタンブトール、クラリスロマイシンの3種類による多剤併用療法が選択され、必要に応じてストレプトマイシンまたはカナマイシンの併用を行います。しかし、選択肢が限られ、副作用や耐性化により治療が難しくなっているという課題があります。なお、本剤と同成分であるアミカシンの注射製剤もありますが、肺への浸透性が低く、重大な全身的副作用のリスクもあることから在宅での投与は困難です。本剤は、専用ネブライザを用いることで、吸入により、全身曝露を抑えて副作用を軽減しつつ、肺末梢の肺胞まで薬剤が効率的に分布して、感染細胞であるマクロファージへの取り込みを促進します。単剤では用いずに、上記の多剤併用内服療法に加えて使用します。国際共同第III相試験(CONVERT試験)では、投与6ヵ月目までの培養陰性化率は、GBT(ガイドラインに基づく多剤併用療法)単独群よりも本剤+GBT群のほうが高いことが認められました。海外のATS/ERS/ESCMID/IDSAガイドライン2020では、すでに難治性肺MAC症の推奨治療に組み込まれています。副作用としては、気管支痙攣のほか、第8脳神経障害が現れることがあるので、血中濃度が高くなりやすい腎機能障害がある患者、高齢者ではとくに注意が必要です。また、急性腎障害の報告もあります。治療早期には症状が見られないこともあるので、定期的なフォローを欠かさないようにしましょう。本剤による治療は、MAC菌が検出されなくなった最初の月から、12ヵ月後まで治療を継続することが推奨されています。長期間・連日の吸入となりますので、アドヒアランスや器具の取り扱い、副作用の確認のほか、治療モチベーションの維持についてもサポートしましょう。参考1)PMDA 添付文書 アリケイス吸入液590mg

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直腸と膀胱を貫通させた、ある行為【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第187回

直腸と膀胱を貫通させた、ある行為Photo-acより使用おどろき医学論文の連載も200回近くになってきました。ここまで来ると、膀胱や直腸の異物ごときでは驚かなくなります。ただ、その両方の臓器がやられてしまった、となると話は別ッ!Hosni A, et al.A rectal foreign body: An unexpected cause of a rectovesical fistula with hematuriaUrol Case Rep . 2021 Feb 4;36:101596.50歳の男性が、尿閉を訴えて救急外来を受診しました。排尿障害の病歴はなく、とくにこれといった既往歴もなさそうです。とりあえず導尿をしてから、泌尿器科へコンサルトされました。尿閉どころか、肉眼的血尿が出てくるようになり、これはいよいよおかしいぞということで造影剤を用いてCT尿路検査が行われました。おや……おやや!ぞ、造影剤が、膀胱から直腸に流れているぞ……?――こ、これは「膀胱直腸瘻」だっ!患者に直腸出血の可能性はないかと尋ねましたが、答えはNOでした。また、骨盤内手術や結核などの慢性炎症の既往もありませんでした。直腸診でも、これといった異常もありませんでした。いや、なぜ直腸と膀胱に穴が開いているんだ。頼むから、隠していることを言ってくれ。そうお願いしたのでしょうか、再び患者に詳しい問診と検査を開始し始めたとき、こんな回答が返ってきました。「便秘の自己治療のために、長いブラシを肛門に突っ込んで使っていた」おかしな性癖があって異物を入れる症例は、過去何度も紹介してきましたが、便秘治療でブラシを突っ込んで膀胱直腸瘻をつくるって、あーた、どんなに強く入れたの!しかも、普通のブラシではなく、排水管の詰まりを取るような、長いアレです。あれを膀胱が貫通するほど突っ込んでいたということになります。膿瘍化したり重症化したりせずにこの症例は治癒に至りましたが、便秘のときに摘便するがごとくブラシを突っ込んでしまう事態、高齢者では起こる可能性があるため、注意が必要です。

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AIが探索したCOVID-19の治療薬/日本イーライリリー

 日本イーライリリーは、SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)による肺炎に対する治療薬として、適応追加承認を取得した経口ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤バリシチニブ(商品名:オルミエント)に関するプレスセミナーを開催した。バリシチニブは関節リウマチ、アトピー性皮膚炎の治療薬として承認されている薬剤。 今回のセミナーでは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への適応拡大で行われた臨床試験の経過、使用上の詳細について説明が行われた。COVID-19のサイトカインストームを抑えるバリシチニブ はじめに齋藤 翔氏(国立国際医療研究センター 国際感染症センター 総合感染症科)が、「新型コロナウイルス感染症の病態、治療の現状と課題 JAK阻害剤の臨床的位置づけ」をテーマに、バリシチニブの臨床的な位置付けや使用上の注意点などを説明した。 COVID-19の病態はすでに広く知られているようにウイルス応答期と宿主炎症反応期に分けられる。そして、治療では、軽症から中等症では抗ウイルス薬のレムデシビルが使用され、病態の進行によっては抗炎症治療薬のデキサメタゾンが併用されているが、今回追加適応されたバリシチニブは中等症以上で顕著にみられるサイトカインストームへの治療として期待されている。 バシリニブの適応追加では、米国国立衛生研究所(NIH)傘下の国立アレルギー感染症研究所(NIAID)主導によるACTT試験が行われた。特にACTT-2試験は、他施設共同・アダプティブ・無作為化・二重盲検・プラセボ対照・並行群間比較検証試験で実施され、COVID-19と診断された成人入院患者を対象にバリシチニブとレムデシビル群(n=515)とプラセボとレムデシビル群(n=518)を比較し、有効性および安全性を評価した。その結果、有効性として回復までの期間はバリシチニブ群で7日に対し、プラセボ群で8日だった(ハザード比[95%CI]:1.15[1.00-1.31] p=0.047)。また、無作為化後14日時点の死亡率では、バリシチニブ群で8例に対し、プラセボ群で15例だった(ハザード比[95%CI]:0.55[0.23-1.29])。 安全性では、グレード3(高度)または4(生命を脅かす可能性のある事象)の有害事象はバリシチニブ群で41%、プラセボ群で47%であり、重篤な有害事象ではバリシチニブ群で15%、プラセボ群で20%だった。また、死亡に至った有害事象はバリシチニブ群で4%、プラセボ群で6%だった。 次に使用上の注意点として禁忌事項に触れ、「結核患者」、「妊婦または妊娠の可能性のある女性」、「敗血症患者」、「透析患者」などへは事前の問診、検査をしっかり実施して治療に臨んでもらいたいと説明した。AIが探索したバリシチニブの可能性 次に「オルミエント錠、SARS-CoV-2による肺炎への適応追加承認と適正使用について」をテーマに吉川 彰一氏(日本イーライリリー株式会社 バイスプレジデント・執行役員/研究開発・メディカルアフェアーズ統括本部)が適応承認までの道程と適正使用について説明した。 もともと本剤は関節リウマチ、アトピー性皮膚炎の治療薬として使用されていたが、COVID-19の流行とともに治療薬の探索が急がれていた。その中で「Benevolent AI社が、バリシチニブがCOVID-19の治療薬になる可能性があるとLancetに発表1)、この報告後、in vitroでの薬理作用が確認され、2020年5月にACTT試験が開始された」と語った。 作用機序は、COVID-19による急性呼吸窮迫症候群について、JAK-STATサイトカインシグナル伝達を阻害することで、増加したサイトカイン濃度を低下させ、抗炎症作用を示すという。 追加された効能は、SARS-CoV-2による肺炎(ただし酸素吸入を要する患者に限る)。用法および用量は、成人にはレムデシビルとの併用においてバリシチニブ4mgを1日1回経口投与し、総投与期間は14日間。本剤は、酸素吸入、人工呼吸管理または体外式膜型人工肺(ECMO)導入を要する患者を対象に入院下で投与を行うものとされている。また、経口投与が困難な場合、懸濁させた上で経口、胃瘻、経鼻または経口胃管での投与も考慮できるとしている。 最後に吉川氏は同社の使命である「『世界中の人々のより豊かな人生のため、革新的医薬品に思いやりを込めて』を実現し、患者の豊かな人生へ貢献していきたい」と語り講演を終えた。●参考文献1)Richardson P, et al. Lancet. 2020;395:e30-e31.

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総合内科専門医試験オールスターレクチャー 呼吸器

第1回 慢性閉塞性肺疾患(COPD) オーバーラップ症候群(ACO)第2回 特発性間質性肺炎(IIPs)第3回 咳嗽・喀痰第4回 喘息第5回 肺炎第6回 肺癌 総合内科専門医試験対策レクチャーの決定版登場!総合内科専門医試験の受験者が一番苦労するのは、自分の専門外の最新トピックス。そこでこのシリーズでは、CareNeTV等で評価の高い内科各領域のトップクラスの専門医を招聘。各科専門医の視点で“出そうなトピック”を抽出し、1講義約20分で丁寧に解説します。キャッチアップが大変な近年のガイドラインの改訂や新規薬剤をしっかりカバー。Up to date問題対策も万全です。呼吸器については、島根大学医学部附属病院の長尾大志先生がレクチャーします。ガイドラインの改訂がとくに顕著な呼吸器領域。疾患の概念や治療方針に関する大きな変更点、新たに採用された診断基準に注目します。※「アップデート2022追加収録」はCareNeTVにてご視聴ください。第1回 慢性閉塞性肺疾患(COPD) オーバーラップ症候群(ACO)タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することで生じる慢性閉塞性肺疾患(COPD)。2018年のガイドライン改訂により、炎症だけでなく非炎症性機転も重視され、FEV1の数値と合わせて、各症状の程度を加味した総合的な重症度の判断が求められるようになりました。喘息とCOPDを合併したACOは、COPD全体の10~20%を占め、治療には吸入ステロイドを併用します。増悪した際の治療手順も試験で問われやすいポイントです。第2回 特発性間質性肺炎(IIPs)特発性間質性肺炎(IIPs)は、明らかな原因を特定できない間質性肺炎の総称。主要6疾患と、その他の希少疾患に分類されます。各疾患名だけでなく、対応する病理組織パターンもしっかり確認しておきましょう。中でも重要なのが特発性肺線維症(IPF)。IPFの診断は、病理診断は必須ではありませんが、アルゴリズムに沿って複数の項目をチェックします。他のIIPsと唯一異なるIPF治療のポイントは、ステロイドを使用しないこと。第3回 咳嗽・喀痰「咳嗽喀痰の診療ガイドライン2019」では、咳嗽と密接に関連している喀痰の項目を新たに追加。咳嗽と喀痰の原因疾患は、急性と慢性に大別されます。狭義の感染性咳嗽、いわゆる風邪には、抗菌薬は不要です。多彩な疾患が鑑別に上がる遷延性・慢性の咳嗽。鑑別診断では、結核や肺癌など危険な疾患を見逃すことなく、後鼻漏の原因となる好酸球性副鼻腔炎や、喘息、胃食道逆流症なども念頭に置きます。※この番組は2020年3月に収録したものです。新型コロナウイルス感染症については取り上げていません。第4回 喘息変動性を持った気道狭窄や咳などの症状を起こす喘息。これまで明確な診断基準は示されていませんでしたが、「喘息とCOPDのACO診断と治療の手引き2018」に、呼気一酸化窒素濃度(FeNO)値が診断に有効な指標として記載されました。近年の重要な治療方針の変更点は、以前は重症のみに使用されていた抗コリン薬が、比較的初期から吸入ステロイドと併用可能になったこと。重症例に効果的な抗体医薬も増えているので、しっかり押さえておきましょう。第5回 肺炎市中肺炎、院内肺炎、医療・介護関連肺炎の3つの肺炎が統合されたガイドラインが2017年に発表されました。終末期の症例が含まれる院内肺炎と医療・介護関連肺炎を1つの診療群とし、市中肺炎と区別した診療プロセスが示され、終末期における患者の意志やQOLを尊重した治療・ケアのあり方が重要なトピックとなっています。肺炎の種別の重症度スコアリング法や、段階別の治療戦略、適応できる薬剤を解説します。第6回 肺癌今回は非小細胞肺癌について詳しく解説します。肺癌については新規薬剤の開発が盛んで、それに伴ってガイドラインもオンラインで頻繁に更新されています。まずTMN分類で、手術、放射線治療、または薬剤治療のどれを採用するか適応判断。キナーゼ阻害薬や免疫チェックポイント阻害薬の登場によって、生存期間の延長が見込めるようになりました。副作用に耐えられるか、患者さんの体力も考慮しながら使用できる薬剤を選択します。

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「アクテムラ」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第46回

第46回 「アクテムラ」の名称の由来は?販売名アクテムラ®点滴静注用80mgアクテムラ®点滴静注用200mgアクテムラ®点滴静注用400mgアクテムラ®皮下注162mgシリンジアクテムラ®皮下注162mgオートインジェクター一般名(和名[命名法])トシリズマブ(遺伝子組換え)(JAN)効能又は効果【点滴静注用製剤】○既存治療で効果不十分な下記疾患関節リウマチ(関節の構造的損傷の防止を含む)、多関節に活動性を有する若年性特発性関節炎、全身型若年性特発性関節炎、成人スチル病 ○キャッスルマン病に伴う諸症状及び検査所見(C反応性タンパク高値、フィブリノーゲン高値、 赤血球沈降速度亢進、ヘモグロビン低値、アルブミン低値、全身けん怠感)の改善。ただし、リンパ節の摘除が適応とならない患者に限る。 ○腫瘍特異的T細胞輸注療法に伴うサイトカイン放出症候群 【皮下注製剤】既存治療で効果不十分な下記疾患 ○関節リウマチ(関節の構造的損傷の防止を含む) ○高安動脈炎、巨細胞性動脈炎用法及び用量【点滴静注用製剤】 〈関節リウマチ及び多関節に活動性を有する若年性特発性関節炎〉通常、トシリズマブ(遺伝子組換え)として1回8mg/kgを4週間隔で点滴静注する。〈全身型若年性特発性関節炎、成人スチル病及びキャッスルマン病〉 通常、トシリズマブ(遺伝子組換え)として1回8mg/kgを2週間隔で点滴静注する。なお、 症状により1週間まで投与間隔を短縮できる。〈サイトカイン放出症候群〉通常、トシリズマブ(遺伝子組換え)として体重30kg以上は1回8mg/kg、体重30kg未満は1回12mg/kgを点滴静注する。【皮下注製剤】〈関節リウマチ〉通常、成人には、トシリズマブ(遺伝子組換え)として1回162mgを2週間隔で皮下注射する。なお、効果不十分な場合には、1週間まで投与間隔を短縮できる。〈高安動脈炎、巨細胞性動脈炎〉通常、トシリズマブ(遺伝子組換え)として1回162mgを1週間隔で皮下注射する。警告内容とその理由【点滴静注用製剤:〈効能共通〉】【皮下注製剤】1.感染症本剤投与により、敗血症、肺炎等の重篤な感染症があらわれ、致命的な経過をたどることが ある。本剤はIL-6の作用を抑制し治療効果を得る薬剤である。IL-6は急性期反応(発熱、CRP増加等)を誘引するサイトカインであり、本剤投与によりこれらの反応は抑制されるため、感染症に伴う症状が抑制される。そのため感染症の発見が遅れ、重篤化することがあるので、本剤投与中は患者の状態を十分に観察し問診を行うこと。症状が軽微であり急性期反応が認められないときでも、白血球数、好中球数の変動に注意し、感染症が疑われる場合には、胸部X線、CT等の検査を実施し、適切な処置を行うこと。【点滴静注用製剤】〈効能共通〉2.治療開始に際しては、重篤な感染症等の副作用があらわれることがあること及び本剤が疾病を完治させる薬剤でないことも含めて患者に十分説明し、理解したことを確認した上で、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ本剤を投与すること。〈関節リウマチ及び多関節に活動性を有する若年性特発性関節炎〉3.本剤の治療を行う前に、少なくとも1剤の抗リウマチ薬の使用を十分勘案すること。また、本剤についての十分な知識といずれかの疾患の治療経験をもつ医師が使用すること。〈全身型若年性特発性関節炎及び成人スチル病〉4.本剤についての十分な知識といずれかの疾患の治療の経験をもつ医師が使用すること。〈サイトカイン放出症候群〉5.本剤についての十分な知識と腫瘍特異的T細胞輸注療法に伴うサイトカイン放出症候群の治療の知識・経験をもつ医師が使用すること。【皮下注製剤】2.治療開始に際しては、重篤な感染症等の副作用があらわれることがあること及び本剤が疾病を完治させる薬剤でないことも含めて患者に十分説明し、理解したことを確認した上で、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ本剤を投与すること。3.本剤の治療を行う前に、各適応疾患の既存治療薬の使用を十分勘案すること。4.本剤についての十分な知識と適応疾患の治療の知識・経験をもつ医師が使用すること。禁忌内容とその理由禁忌(次の患者には投与しないこと)【点滴静注用製剤】【皮下注製剤】 1.重篤な感染症を合併している患者[感染症が悪化するおそれがある。]2.活動性結核の患者[症状を悪化させるおそれがある。]3.本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者※本内容は2021年4月7日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2021年1月改訂(第27版)医薬品インタビューフォーム「アクテムラ®点滴静注用80mg・アクテムラ®点滴静注用200mg・アクテムラ®点滴静注用400mg/アクテムラ®皮下注162mgシリンジ/アクテムラ®皮下注162mgオートインジェクター」2)中外製薬:PLUS CHUGAI

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「ビソルボン」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第45回

第45回 「ビソルボン」の名称の由来は?販売名ビソルボン®錠4mgビソルボン®細粒2%※ビソルボン吸入液と注射液はインタビューフォームが異なるため今回は情報を割愛しています。ご了承ください。一般名(和名[命名法])ブロムヘキシン塩酸塩(JAN)効能又は効果ビソルボン錠4mg・細粒2%:下記疾患の去痰急性気管支炎、慢性気管支炎、肺結核、塵肺症、手術後用法及び用量ビソルボン錠4mg:通常成人には1回1錠(ブロムヘキシン塩酸塩として4mg)を1日3回経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。ビソルボン細粒2%:通常成人には1回0.2g(ブロムヘキシン塩酸塩として4mg)を1日3回経口投与する。 なお、年齢、症状により適宜増減する。警告内容とその理由該当しない禁忌内容とその理由(原則禁忌を含む)禁忌(次の患者には投与しないこと)本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者※本内容は2021年3月31日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2017年7月改訂(改訂第7版)医薬品インタビューフォーム「ビソルボン®錠4mg/ビソルボン®細粒2%」2)サノフィ e-MR:製品情報

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死亡例の約2割がCOVID-19、アフリカ・ザンビアの首都調査/BMJ

 アフリカでは、南アフリカ共和国を除き、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の感染範囲や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響についてほとんど知られていない。米国・ボストン大学公衆衛生大学院のLawrence Mwananyanda氏らは、ザンビア共和国のルサカ市でCOVID-19の死亡への影響についてサーベイランス研究を行った。その結果、予想に反して、同市の約3.5ヵ月間の死者の約2割がCOVID-19で、COVID-19が確認された死亡例の年齢中央値は48歳、66%が20~59歳であることなどが明らかとなった。研究の成果は、BMJ誌2021年2月17日号に掲載された。アフリカは、COVID-19のデータがないため、COVID-19はアフリカを飛び越えて伝播し、影響はほとんどないとの言説が広く醸成されている。これは、「エビデンスはない」が、「非存在のエビデンス」として広範な誤解を招く好例とも考えられている。アフリカの都市部での系統的死後サーベイランス研究 研究グループは、アフリカの都市部におけるCOVID-19の死亡への影響を直接的に評価する目的で、プロスペクティブな系統的死後サーベイランス研究を行った(Bill & Melinda Gates財団の助成による)。 対象は、ザンビアで最大規模の3次病院であるルサカ市のUniversity Teaching Hospital(UTH、他施設からの紹介を含め市の80%以上の死亡を登録)の死体安置所で、死後48時間以内に登録された全年齢層の死亡例であった。 死後の鼻咽頭拭い液を用いて、定量逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法でSARS-CoV-2の検査を行った。死亡例は、COVID-19の状況、死亡場所(施設[UTH] vs.市中[UTH以外でのすべての死亡で、他施設からUTHへの紹介を含む])、年齢、性別、リスク因子としての基礎疾患で層別化された。 2020年6月15日~9月30日の期間に死亡した372例が試験に登録された。PCR検査の結果は364例(97.8%)で得られ、施設が96例(26.4%)、市中が268例(73.6%)であった。患者がまれではなく、検査が少ないから過少報告に SARS-CoV-2は、PCR法の推奨サイクル閾値(CT値)である<40サイクルによる測定では15.9%(58/364例)で検出された。CT値を40~45サイクルに拡張すると、さらに12例でSARS-CoV-2が同定され、死亡例の陽性率は19.2%(70/364例)となった。このうち69%(48/70例)が男性だった。 SARS-CoV-2陽性死亡例の死亡時年齢中央値は48歳(IQR:36~72)で、このうち市中死の患者は47歳(34~72)、施設死の患者は55歳(38~73)だった。COVID-19が確認された死亡例の割合は年齢が高くなるに従って上昇したが、76%(53例)は60歳未満であり、このうち46例(66%)は20~59歳だった。 COVID-19が確認された死亡例の多くは市中死(73%[51/70例])であり、このうち死亡前にSARS-CoV-2の検査を受けた患者はいなかった。施設死(27%[19/70例])では、死亡前にSARS-CoV-2検査を受けていたのは6例のみだった。 COVID-19が確認された死亡例の症状に関するデータは70例中52例で得られ、このうち44例(63%)でCOVID-19に典型的な症状(咳、発熱、息切れ)が認められたが、死亡前にSARS-CoV-2検査を受けていたのは5例のみだった。 19歳未満では、7例(10%)でCOVID-19が確認され、このうち死亡前に検査を受けたのは1例のみであった。年齢別の内訳は、1歳未満が3例で、3歳、13歳、16歳が1例ずつ(いずれも市中死)であり、1歳の1例のみが施設死だった。 COVID-19死亡例で最も頻度の高い合併症は、結核(22例[31%])、高血圧(19例[27%])、HIV/AIDS(16例[23%])、アルコール乱用(12例[17%])、糖尿病(9例[13%])であった。 著者は、「COVID-19が確認された死亡例のほとんどは、検査能力のない市中死であったが、施設死であっても、COVID-19の典型的な症状を呈しているにもかかわらず、死亡前に検査を受けた患者はほとんどいなかった。したがって、COVID-19患者がまれだったためではなく、検査がまれにしか行われなかったことが原因で、COVID-19の報告が過少であったと考えられる」とまとめ、「これらのデータが一般化可能であるとすると、アフリカにおけるCOVID-19の影響はかなり過小評価されていることになる」と指摘している。

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第42回 民間検査で陽性、陰性、陰性、陽性…、ころころ変わる結果に振り回された友人の話

周囲でもポツリポツリと陽性者がこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。1月7日に緊急事態宣言が出せれてからまもなく3週間が経とうとしています。東京都の1日当たりの陽性者数は1月26日時点で1,026人と、2,000人を超えた1月7~9日と比べるとずいぶん落ち着いて来たようには見えます。しかし、街の賑わいは変わらず、変異ウイルスの伝播も考えられるため、そうは簡単に500人レベルまでは下がらない気もします。さて、私の周囲でもポツリポツリと陽性者が出ています。症状があったにもかかわらず、最初に民間の検査を受けてしまった友人(Aさん、都内在住)のケースが興味深かったので、本人の了解を得たうえで紹介します。発熱相談センターにつながらず民間検査へAさんは50代の男性。正月明けの1月5日に寒気、喉の痛み、発熱の症状が出ました。「これはコロナかも?」と思い、東京都発熱相談センターに電話したのですが、まったくつながりません。ちょうど東京都の患者数が激増していた頃で、発熱相談センターもパニックになったいたのかもしれません。幸い症状は軽く、重症化する感じもなかったので、この日はそのまま様子を見ることにしました。翌1月6日、熱がさらに上がり、症状も悪化してきたため、止むなくマスコミでも大きく報道された、木下グループが運営する「新型コロナPCR検査センター」新宿店をネットで予約しました。同センターは新橋、新宿の2店舗ありますが、新宿店のほうが空いていたそうです。それでも最短の予約日は1月9日でした。検査当日、Aさんは山手線で新宿に向かい、歌舞伎町の入り口近くにある新宿店で検査を受けました。方法は、店内のブースで採取セットを使って自分で唾液を採取し、提出する、というものです。Aさんによれば「店舗のスペースは小さな立ち食いそば屋くらい。狭くて外に検査待ちの行列ができていた」とのことです。症状が出て、陽性が疑われる人間が公共交通機関を使って繁華街にある検査所に行く、という行為は少々責められるべきかもしれませんが、都の発熱相談センターにアクセスできなかったのですから、ここは大目に見てあげたいところです。検査料金は3,190円(税込)と激安だったそうです。未承認の研究用試薬で料金圧縮か同センターのWebサイトには、検査について次のように説明されています。「厚生労働省健康局結核感染症課及び国立感染症研究所が、『臨床検体を用いた評価結果が取得された2019nCoV遺伝子検査方法について(2020年9月30日版)』として公表している中で、感染研法との陽性一致率及び陰性一致率を求めた結果が、陽性一致率及び陰性一致率ともに100%である製品となります。本検査は、この製品を用いたリアルタイムPCR法による遺伝子検査を行います」。試薬は東洋紡の「SARS-COV-2 Detection Kit Multi NCV-403」。医薬品医療機器等法に基づく体外診断用医薬品としての承認を受けていない研究用試薬です。東洋紡のWebサイトでは100回用セットが9万8,000円となっており、そうしたところで料金の低廉化を図っているのかもしれません。なお、民間のPCR検査としては、一部の診療所が自費検査を実施していますが、料金の相場は2〜3万円と高額です。本連載の「第12回 夏本番!冷やし中華ならぬ『抗体検査始めました』の怪」でも書きましたが、最近はPCR検査も「外来患者が減った医療機関にとっては、割のいい“臨時収入”」となるため、導入するところが増えています。しかし、そうした医療機関に限って、東京都発熱相談センターからの紹介患者を受ける「新型コロナ外来」には協力してないという話も聞きます。それはそれで問題と言えそうです。「陽性2、陰性2だから、まだわからないな」さて、Aさんの検査結果は翌10日24時(11日0時)までに新型コロナPCR検査センターからメールで届くことになっていました。検査後は自宅にこもって療養していたAさんに結果が届いたのは、10日の23時過ぎでした。結果は「感染が疑われる結果となりました」。予想はしていたもののショックを受けたAさんでしたが、その5分後に再び届いたメールで混乱に陥ります。同じセンターから今度は、「結果は、陰性となりました」という内容が届いたのです。Aさんはすぐさま同センターに対し、「どちらが正しいのか? 検査結果に不備があるなら返金してほしい」とメールで質問しました。すると、約30分後に「記載に不備があり、大変申し訳ございません。訂正して、再送させていただきます。結果は陰性となりました」というメールが届きました。この時点で「ひとまず安心」と思ったAさんですが、さらにその30分後。今度は「お詫び」というタイトルでメールが届きました。なんと4通目です。その内容は「システム上に不備があり、急ぎ、代替システムを使用する過程において誤動作がありました。正しい情報は『感染が疑われる結果となりました』です」というものでした。この時点で、怒りを通り越して呆れたAさんは、「陽性2通、陰性2通だから、まだわからないな」と考えることにし、お酒を飲んで寝てしまったそうです。なお、12日の夜、再び「念のため再度送ります。感染が疑われる結果となりました」という旨のメールが届いたため、同センターの結果は「3対2で陽性有利」となったそうです。結局、近所の「新型コロナ外来」へシステム上の不備とはいえ、このドタバタはちょっとひどいですね。おそらく、この日の同センターの結果報告の混乱はAさんだけではなく、相当数の被害者がいたに違いありません。11日朝、Aさんは私に怒りの電話をしてきました。「3,000円をドブに捨てた。どうしたらいいか?」と聞かれたので、「根気よく都の発熱相談センターに連絡し、つながったら『民間検査で陽性になった。近所で検査してもらえる医療機関を紹介してくれ』と相談したら」とアドバイスしました。結果、その日の夕方に何とか電話がつながり、Aさんは翌12日朝に、近所の診療所で検査を受けられることになりました。診療所から検査結果を伝える電話が来たのは14日の夕方で、「陽性でした。保健所からの連絡を待って下さい」と言われました。保健所から連絡が来たのはそのまた2日後の16日の夕方でした。この間、咳がひどくなったり、倦怠感が続いたりはしましたが、とくに重症化することなく徐々に軽快していったAさん。保健所の担当者からも「(医師と相談した結果)発症から10日以上経って、軽快されているので、もう自宅療養も解除していいです」と言われ、一件落着となったとのことです。Aさんは「最初から近所の診療所に行けばよかった」と後悔しきりでしたが、東京都は埼玉県のように公費(行政検査)でPCR検査をする「新型コロナ外来」がある医療機関名を公開していません(基本、発熱相談センターの担当者が必要と判断した場合のみ、医療機関名を教える仕組みになっています)。そのあたりも今後、改善の余地がありそうです。急拡大する民間PCR検査マーケット1月16日付の日本経済新聞の「民間検査 医療機関と連携」という記事によれば、「厚生労働省は新型コロナウイルスの検査で、民間検査機関に医療機関との連携を促す。現在は結果が陽性でも医療機関に連絡が届かず、患者の治療や隔離が進まない場合がある。感染症法の改正で医療機関との連携を国が勧告できるようにする」とのことです。この記事では「日本経済新聞社の調べによると、木下グループやソフトバンクグループなど主要4社の1日あたりの検査可能件数は2月末に計7万5,000件になる見通しで、12月末比で3倍強に膨らむ」と民間検査会社の急拡大も報じています。民間検査会社と医療機関を連携させることは妥当な対策だとは思いますが、システムがぐちゃぐちゃで、陰性か陽性もはっきりしない、利用者を混乱させるだけの結果しか出せない企業も存在することを考えると、安易に結果だけを医療機関と連携しても、混乱がさらに増すだけのような気もします。幸い私の友人は軽症で済みましたが、万が一重症化していたら、このケースは事件になっていた可能性もあります。民間検査会社に対しては、単に検査の精度向上を求めるだけではなく、全体の運用についても、相応の監視システムやレギュレーションが必要ではないかと切に感じたお正月の出来事でした。

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COVID-19の論文が量産され過ぎな件【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第179回

COVID-19の論文が量産され過ぎな件pixabayより使用私は普段から医学論文を読んでいるのですが、テーマやジャーナルのレベルを絞りながら読むように心掛けています。最近、COVID-19の論文が多過ぎて、オイオイそれはおかしいやろと驚いたので、せっかくだからこの連載でちょっと考察してみたいと思います。中世から近現代にかけてよくわからない論文が流行した時期もあるので、PubMedで検索可能な1900年以降の医学論文について「タイトル検索」を実施してみました。検索時に、PubMedに[title]というタグを入れることで、医学論文のタイトルにその語句が含まれたものだけを抽出する方法があるのです。たとえば、伝統的な感染症である、「結核(tuberculosis)」をタイトル検索すると、1950年代に論文数の第1ピークを起こし、その後現代にいたるまで数多くの論文が刊行されています。その数、14万を超えます。さすがですね、結核。画像を拡大するマラリア(malaria)は4.7万件、梅毒(syphilis)は1.7万件、麻疹は「measles」で1.5万件、「rubeola」で200件です。世界的に有名な感染症なのに、ここらへんは、思ったより少ないですね。そ、そ、そ、そしてCOVID-19は途中で病名が変わったにもかかわらず、なんと6.1万件です。1年足らずで、なんとマラリアの総件数超え!!!いやいや、おかしいでしょうと。PubMedユーザーに困った現象も起こしていまして、たとえば「肺炎(pneumonia)」で、やたらCOVID-19が引っかかるようになったのです。現在、約5万件がヒットしますが、2020年にいきなり3倍に増えているのです。グラフがビューン。細かくみると、この多くがCOVID-19 pneumoniaによる増加だとわかります(矢印)。画像を拡大する…というわけで、COVID-19の論文が量産され過ぎている現状が透けて見えるわけです。アクセプトの閾値が下がっているため、査読リテラシーが問われる案件であると危惧しております。ひどいものでは、「COVID-19時代の原因不明の肺炎」(中身を見てみるとPCR陰性で病原微生物がよくわからなかったというヒドイもの)という論文もあって、よくこんな論文をアクセプトしたなぁと感心するものもありました。

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