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HIV 感染症を難病指定に

神戸大学感染症内科岩田 健太郎2012年11月16日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行※本記事は、MRIC by 医療ガバナンス学会より許可をいただき、同学会のメールマガジンで配信された記事を転載しております。厚生労働省によると、これまで56しかなかった難病指定疾患を300以上に増やす予定だという。この難病にHIV感染症および後天性免疫不全症候群(エイズ)(以下、HIV感染症とまとめる)を含めるべきだ、というのが本論の主旨である。以下にその理由を示す。難病対策委員会によると、難病の選定基準は1. 患者数が人口の0.1%程度以下2. 病気が未解明3. 治療法がないか、治療法があっても症状が良くなったり悪くなったりする4. 生活への支障が生涯にわたる5. 診断基準か客観的な指標があるの全てを満たす場合に対象となるという(朝日新聞2012年10月31日朝刊より)。HIV感染症は現在482あるという難病研究事業の対象にはなっていないが、患者は現在分かっているだけで数万人規模であり(1)、条件1は満たす。条件2と3についてはどうだろうか。エイズはヒト免疫不全ウイルス(HIV)が原因の細胞性免疫不全である。病気のメカニズムはある程度分かっており、抗ウイルス療法も存在する。しかし、この疾患はいまだ治癒に至る方法は解明されていない。「解明」がどの程度を意味するものなのかは分からないが、難病指定されている筋萎縮性側索硬化症(ALS)などもスーパーオキシド・ジスムターゼ(SOD1)の遺伝子異常など、病態生理はある程度「解明」されているので、HIV感染症を除外する根拠には乏しいと考える(2)。抗ウイルス療法を用いて患者の予後は劇的に改善したが、症状が悪くなる場合も少なくない。治療は生涯にわたり、生活への支障は続く(条件4)。診断基準は明確だ(HIVの各種検査を行う、条件5)。難病指定してはいけない、という根拠は乏しい。現在、HIV感染患者には診療費の公費助成がある。その主たるものは免疫不全の程度に応じて得られる身体障害者認定と自立支援医療である(3、4)。もともと、薬害エイズ事件など「薬害」の要素が大きかったこの感染症患者の救済の手段として身体障害者制度は活用された(5)。しかし、現実には多くの患者には「身体障害」は存在せず、そういう患者では日常生活を送ったり仕事をすることも可能であるから、この制度をアプライするには若干の無理がある。また、「症状の固定」まで4週間の経過を見なければ障害者認定は受けられないため、その分、治療が遅れたり余分な(そして高額な)治療費がかかる。近年のHIV感染治療は激変している。以前は免疫抑制がかなり進んでから抗ウイルス療法を開始していたが、治療薬の進歩と臨床試験データの蓄積から、治療はどんどん前倒しするようになった。日和見感染症があっても早期(2週間以内。ただし結核などを除く)に治療を始めたほうが予後が良いケースも多いことが分かっている。障害者認定にかかる「4週間の遅れ」は無視できない遅れなのである。今年発表された診療ガイドライン(International Antiviral Society-USA, IAS-USA)では、すべてのHIV感染者に抗ウイルス療法を提供するよう推奨されている(6)。しかし、免疫不全が進んでいない患者では低い等級の身体障害者認定しか得られないため、十分な診療支援はかなわない。感染早期に治療を始めれば、体内にあるウイルスの量を減らし、さらなる感染者発生防止にも役に立つ。日本は先進国でも新規発生患者が増加している稀有な国の一つである。HIV感染の診療費は生涯1億円程度かかると言われる(7)。患者の早期発見、早期治療、そして予防は医療費の有効活用という観点からも重要である。(免疫不全の程度にかかわらず)すべてのHIV感染者を速やかに難病指定し、適切な治療を提供できるようにする必要がある。患者救済という目的のもと、HIV患者の身体障害者認定は一定の成果を上げてきた。しかし、その成果は「歴史的成果」と称すべきで、現状維持を正当化する根拠にしてはならない。厚生労働省は現状を鑑み、HIV感染者を難病指定に切り替えるべきである。1. 日本のHIV感染者・AIDS患者の状況(平成23年12月26日~平成24年3月25日) IASR Vol. 33 P. 171-173 http://www.nih.go.jp/niid/ja/aids-m/aids-iasrd/2274-kj3888.html2. 筋萎縮性側索硬化症(公費対象) 難病情報センター http://www.nih.go.jp/niid/ja/aids-m/aids-iasrd/2274-kj3888.html3. HIV感染者の身体障害者認定について 厚生労働省 http://www1.mhlw.go.jp/houdou/0912/h1216-1.html4. 自立支援医療(更生医療)の概要 厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/jiritsu/kousei.html5. HIV感染者が免疫機能障害として、身体障害者認定を受けるまでの経緯をご存知ですか? はばたき福祉事業団 http://old.habatakifukushi.jp/hiv_medical_welfare/medical_treatment_welfare_system/hiv_55.html6. Lawn SD,Antiretroviral Treatment of Adult HIV Infection. IAS-USA. https://www.iasusa.org/content/antiretroviral-treatment-adult-hiv-infection-07. 世界は減少、日本は増加…1人に約1億円医療費必要なHIV感染症を知る 日経トレンディネット 2011年2月28日 http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20110224/1034622/

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結核薬耐性の最大リスク因子は「2次抗結核薬の投与歴」

 超多剤耐性結核(XDR-TB)を含む抗結核薬耐性の最大のリスク因子は、「2次抗結核薬の投与歴」であることが、米国疾病対策予防センター(CDC)のTracy Dalton氏らの調査(Global PETTS)で示された。多剤耐性結核(MDR-TB)は、Mycobacterium tuberculosisを原因菌とし、少なくともイソニアジドとリファンピシンに対する耐性を獲得した結核で、XDR-TBはこれら2つの1次抗結核薬に加え、2次抗結核薬であるフルオロキノロン系抗菌薬および注射薬の各1剤以上に耐性となった結核と定義される。XDR-TBの世界的発生は実質的に治療不能な結核の到来を告げるものとされ、MDR-TBに対する2次抗結核薬の使用拡大によりXDR-TBの有病率が増大しつつあるという。Lancet誌2012年10月20日号(オンライン版2012年8月30日号)掲載の報告。2次抗結核薬の耐性を前向きコホート試験で評価Global PETTS(Preserving Effective TB Treatment Study)の研究グループは、8ヵ国における2次抗結核薬に対する耐性の発現状況を評価するプロスペクティブなコホート試験を実施した。2005年1月1日~2008年12月31日までに、エストニア、ラトビア、ペルー、フィリピン、ロシア、南アフリカ、韓国、タイにおいて、MDR-TBが確認され、2次抗結核薬治療を開始した成人患者を登録した。CDCの中央検査室で、以下の11種の抗結核薬の薬剤感受性試験を行った。1次抗結核薬であるエタンブトール、ストレプトマイシン、イソニアジド、リファンピシン、2次抗結核薬としてのフルオロキノロン系経口薬(オフロキサシン、シプロフロキサシン)、注射薬(カナマイシン、カプレオマイシン、アミカシン)、その他の経口薬(アミノサリチル酸、エチオナミド)。2次抗結核薬に対する耐性のリスク因子およびXDR-TBを同定するために、得られた結果を臨床データや疫学データと比較した。2次抗結核薬耐性率43.7%、XDR-TB感染率6.7%解析の対象となった1,278例のうち、1つ以上の2次抗結核薬に耐性を示したのは43.7%(559例)であった。20.0%(255例)が1つ以上の注射薬に、12.9%(165例)は1つ以上のフルオロキノロン系経口抗結核薬に耐性を示した。XDR-TBの感染率は6.7%(86例)だった。これらの薬剤に対する耐性発現の最大のリスク因子は「2次抗結核薬の投与歴」で、XDR-TB感染のリスクが4倍以上に増大した(フルオロキノロン系経口薬:リスク比4.21、p<0.0001、注射薬:4.75、p<0.0001、その他の経口薬:4.05、p<0.0001)。フルオロキノロン系抗菌薬耐性(p<0.0072)およびXDR-TB感染(p<0.0002)は男性よりも女性で高頻度であった。2次抗結核注射薬に対する耐性は、失業、アルコール依存、喫煙との間に関連を認めた。その他のリスク因子については、各薬剤間、各国間でばらつきがみられた。著者は、「XDR-TBを含む抗結核薬耐性の一貫性のある最大のリスク因子は、2次抗結核薬の投与歴であった」と結論し、「今回の特定の国における調査結果は、検査体制に関する国内的な施策や、MDR-TBの効果的な治療に関する勧告の策定の参考として他国にも外挿が可能と考えられる」と考察している。

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XDR結核患者へのリネゾリド追加投与、約9割が半年以内に喀痰培養陰性化

 超多剤耐性(XDR)の結核患者に対してリネゾリド(商品名:ザイボックス)を追加投与することで、6ヵ月時点までに87%で喀痰培養陰性化が認められたことが報告された。一方で、リネゾリドを投与した人の8割で、臨床的に明らかな有害事象が認められた。韓国・International Tuberculosis Research CenterのMyungsun Lee氏らが、40人弱について行った無作為化試験の結果で、NEJM誌2012年10月18日号で発表した。リネゾリド600mg/日を投与、4ヵ月以降は半数に300mg/日を投与研究グループは2008~2011年にかけて、喀痰培養陽性の広範囲薬剤耐性の結核患者で、過去6ヵ月間にいずれの化学療法にも反応しなかった41例を対象に試験を行った。被験者を無作為に2群に分け、一方にはリネゾリド600mg/日の投与を即時開始し、もう一方の群には、2ヵ月後から追加投与を開始した。いずれも、それまでの服用レジメンは変更しなかった。主要エンドポイントは、試験登録後4ヵ月間の、喀痰培養の固体培地上での陰性化までの期間だった。陰性化または4ヵ月後のいずれか早い時点で、被験者を再び無作為に2群に分け、一方にはリネゾリド600mg/日を、もう一方の群には300mg/日を、18ヵ月以上投与した。なお、その間毒性に関する検査も行った。リネゾリド投与後6ヵ月以内の陰性化は87%、一方で有害事象82%その結果、投与開始4ヵ月までに喀痰培養が陰性化したのは、リネゾリド即時開始群の19例中15例(79%)に対し、リネゾリド待機開始群は20例中7例(35%)と、即時開始群が有意に高率だった(p=0.001)。38例中34例(87%)がリネゾリド投与後6ヵ月以内に喀痰培養が陰性化した。一方で、リネゾリドを投与した38例中31例(82%)で、リネゾリドに関連する可能性がある、臨床的に明らかな有害事象が認められ、うち3例は投与を中止した。2度目の無作為化でリネゾリド300mg/日を投与した群では、600mg/日投与群に比べ、有害作用発生率は少なかった。また、治療を完了したのは13例で、そのうち治療期間中に再発がみられなかったのは6例、追跡期間6ヵ月以内では4例、同12ヵ月以内では3例だった。リネゾリドへの耐性獲得が認められたのは4例だった。著者は、「リネゾリドは治療抵抗性XDR結核患者の培養陰性化達成に有効である。しかし一方で、有害事象について注意深くモニタリングしなければならない」と結論している。

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100年前と比べ統合失調症患者の死亡は4倍増、最大の死因は自殺、とくに若者で

 英国・Hergest UnitのHealy D氏らは、統合失調症および関連する精神病の死亡動向について、20世紀初頭と直近とを比較するコホート研究(1875~1924年コホートvs.1994~2010年コホート)を行った。その結果、死亡率は4倍に増大しており、最大の死因は自殺であることなどが明らかとなった。筆者は、「死亡率は大幅に増大した。しかしながら特定領域については介入が可能であり、解析データは、早期介入が、統合失調症患者に標準的な寿命を与える可能性があることを示している」とまとめた。BMJ誌オンライン版2012年10月8日号の掲載報告。 2つの疫学的な完全データが入手できる患者コホートを対象とした。コホートの患者は、北ウェールズのメンタルヘルスサービスに関するフォローアップデータが、1年以上、最長10年間存在した。これらのデータを用いて、統合失調症および関連精神病患者の生存率と標準化した死亡率を算出した。 第1コホートは、北ウェールズのデンビー精神病院に、1875~1924年に入院した統合失調症および関連精神病患者3,168例(患者症例ノートの記録からデータを収集)であった。第2コホートは、北西ウェールズ地区総合病院精神科に、1994~2010年に入院(統合失調症および関連精神病による初回入院)した患者355例であった。 主な結果は以下のとおり。・統合失調症および関連する精神病による標準化された死亡率は、第1コホートと比べて第2コホートは4倍であった。・第1コホートでは75%、第2コホートでは90%の10年生存の可能性を認めた。・自殺は第2コホートの最も頻度の高い死因であった(SMR 35)。一方で、第1コホートでは、最も頻度の高い死因は結核であった(SMR 9)。・第2コホートのデータでは、高齢者の死亡は心血管系の原因により、若者の死亡は自殺が原因であった。関連医療ニュース ・自殺リスクの危険因子の検証、年齢別のうつ症状との関係は? ・自殺予防に期待!知っておきたいメンタルヘルスプログラム ・検証!向精神薬とワルファリンの相互作用

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多剤耐性結核、PA-824を含む3剤併用レジメンが有望

 薬剤感受性の多剤耐性結核の新規治療法として、PA-824+モキシフロキサシン+ピラジナミド併用療法は適切なレジメンであり、今後、開発を進める価値があることが、南アフリカ共和国Stellenbosch大学のAndreas H Diacon氏らの検討で示された。薬剤抵抗性の結核による世界的な疾病負担を軽減するには、投与期間が短く耐性になりにくい新規薬剤の開発が求められる。近年、種々の新規抗結核薬の臨床評価が進められ、なかでもbedaquiline(ジアリルキノリン、TMC207)とPA-824(nitroimidazo-oxazine)は用量依存性の早期殺菌活性(early bactericidal activity; EBA)が確認され有望視されている。Lancet誌2012年9月15日号(オンライン版2012年7月23日号)掲載の報告。6つのレジメンのEBAを無作為化試験で評価研究グループは、肺結核に対する新規多剤併用レジメン14日間投与法の将来的な開発の適合性を評価するために、EBAに関するプロスペクティブな無作為化試験を行った。2010年10月7日~2011年8月19日までに、南アフリカ・ケープタウン市の病院に入院した薬剤感受性の単純性肺結核患者(18~65歳)を対象とした。これらの患者が、bedaquiline単独、bedaquiline+ピラジナミド、PA-824+ピラジナミド、bedaquiline+PA-824、PA-824+モキシフロキサシン+ピラジナミドあるいは陽性対照としての標準的抗結核治療(イソニアジド+リファンピシン+ピラジナミド+エタンブトール)を施行する群に無作為に割り付けられた。治療開始前の2日間、夜間の喀痰を採取し、開始後は毎日、薬剤投与までに喀痰を採取した。喀痰の液体培養中のM tuberculosisのコロニー形成単位(CFU)および陽性化までの時間(TTP)を測定した。主要評価項目は14日EBAとし、喀痰1mL中のlog10CFUの毎日の変化率を評価した。3剤併用レジメンのEBAが最良、標準治療に匹敵85例が登録され、標準治療群に10例、各治療レジメン群には15例ずつが割り付けられた。平均14日EBAは、PA-824+モキシフロキサシン+ピラジナミド群(13例、0.233[SD 0.128])が最も優れ、bedaquiline単独群(14例、0.061[SD 0.068])やbedaquiline+ピラジナミド群(15例、0.131[0.102])、bedaquiline+PA-824群(14例、0.114[0.050])との間に有意差を認めたが、PA-824+ピラジナミド群(14例、0.154[0.040])とは有意な差はなく、標準治療(10例、0.140[SD 0.094])との同等性が確認された。いずれのレジメンも忍容性は良好で、安全性が確かめられた。PA-824+モキシフロキサシン+ピラジナミド群の1例が、プロトコールで事前に規定された判定基準に基づき、補正QT間隔の過度の延長で治療中止となった。著者は、「PA-824+モキシフロキサシン+ピラジナミド併用療法は少なくとも標準治療と同等の有効性を示し、薬剤感受性の多剤耐性結核菌の治療として適切なレジメンである可能性が示唆される」と結論し、「多剤併用療法のEBA試験は、新たな抗結核治療レジメンの開発に要する時間の短縮化に寄与する可能性がある」と指摘している。

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トファシチニブの第III相試験の中間解析結果(ORAL Start試験)

米国ファイザー社は7月31日、関節リウマチ(RA)治療薬として開発中の経口JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害剤、トファシチニブの第III相ORAL Start試験の中間解析結果を発表した。また、米国食品医薬品局(FDA)からトファシチニブの新薬承認申請(NDA)に含まれる既存データについて追加解析を求められたことから、追加データを提出すると発表した。よって、FDAの審査には処方薬ユーザーフィー法(PDUFA)の期限日である8月21日以降、さらに時間を要する可能性があるとしている。ORAL Start試験は現在進行中の2年間にわたる試験で、今回の報告は1年目の中間解析から得られたものである。対象はメトトレキサート(MTX)未治療の中等度から重症の活動性RA患者958例で、1日2回、トファシチニブ5mgまたは10mgの単剤療法群と、MTX投与群に無作為に割り付けられた。主要評価項目は関節構造の維持、徴候および症状の軽減、MTX投与群と比較した安全性および忍容性であった。6ヵ月時点でMTX投与群と比較して評価された結果、トファシチニブ投与群はmodified Total Sharp Score(mTSS)1)で評価した構造的破壊の進展の防止、ACR70反応率2)による徴候および症状の軽減において統計学的有意差が認められ、主要評価項目を達成した。また、トファシチニブ投与群の安全性プロファイルは、過去に実施された臨床開発プログラムで確認されたプロファイルと一致した。なお、このプログラムで観察された結果には、結核、帯状疱疹などの重篤または重大な感染症、リンパ腫を含む悪性腫瘍、好中球数の減少、好中球減少症および脂質上昇が含まれていた。現在、トファシチニブは米国、ヨーロッパ、日本などで承認申請中であり、承認されれば炎症性サイトカインネットワークで重要な役割を果たす細胞内伝達経路に作用するという、新しい作用機序をもったRA治療薬となる。1)modified Total Sharp Score(mTSS)手足のX線写真を用いてRA患者の関節破壊を評価する指標2) ACR70反応率RAの臨床的改善を評価する指標で、治療前に比べて主要項目が70%以上改善した割合ファイザー社プレスリリース(2012年8月6日)http://www.pfizer.co.jp/pfizer/company/press/2012/2012_08_06.html

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HIV母子感染、抗レトロウイルス薬28週治療が有効:BAN試験

授乳に代わる安全な育児法がない環境においては、HIVに感染した母親あるいは未感染乳児に対する28週の抗レトロウイルス薬予防治療により、乳児へのHIV感染が減少することが、米国疾病対策予防センター(CDC)のDenise J Jamieson氏らの検討で示された。HIVの母子感染は世界的に減少傾向にあるが、医療資源が乏しい地域では解決すべき課題とされる。WHOは、医療資源が限られ、授乳に代わる安全な育児法がない環境では、授乳期間中は母親あるいは乳児のいずれかに対する抗レトロウイルス薬の予防投与を推奨している。Lancet誌2012年6月30日号(オンライン版2012年4月26日号)掲載の報告。母親あるいは乳児に対する予防治療の有効性を無作為化試験で評価BAN(Breastfeeding、 Antiretrovirals、 and Nutrition)試験は、HIV感染母親から子どもへの感染予防における母親あるいは乳児に対する抗レトロウイルス薬の28週投与の有効性を検討する無作為化対照比較試験。2004年4月21日~2010年6月28日まで、アフリカ南東部の国マラウイの首都リロングウェ市で実施された。HIVに感染し、CD4陽性リンパ球細胞数≧250個/1μLの授乳期の母親2,369人とその乳児を対象とし、3つのレジメンのいずれかに無作為に割り付けた。すべての母親と乳児に、ネビラピン(商品名:ビラミューン)(母親:200mg/kg、乳児:2mg/kg)を1回経口投与し、ジドブジン(商品名:レトロビル)(母親:300mg/kg、乳児:2mg/kg)+ラミブジン(商品名:エピビル)(母親:150mg/kg、乳児:4mg/kg)の合剤(母親は錠剤、乳児はシロップ)を1日2回、7日間投与した。対照群(668人)にはこれ以上の治療は行わなかった。母親に対する抗レトロウイルス薬3剤併用療法群(849人)には、ジドブジン+ラミブジン合剤(商品名:コンビビル)を28週投与し、ネビラピンは出産後最初の2週は1日1回、15日~28週は1日2回投与した。乳児に対するネビラピン療法群(852人)は、出生後最初の2週は10mg/kgを、3~18週は20mg/kgを、19~28週は30mg/kgをそれぞれ1日1回投与した。なお、ネビラピンは、その肝毒性に関するFDA勧告に基づき、2005年2月以降はネルフィナビル(商品名:ビラセプト)に、2006年2月以降はロピナビル+リトナビル合剤(商品名:カレトラ)に変更した。母親には産後24~28週の離乳が推奨された。治療割り付け情報は、現地の医療従事者と患者には知らされたが、それ以外の研究者にはマスクされた。主要評価項目は48週時の乳児のHIV感染とした。48週乳児HIV感染率:対照群7%、母親3剤併用群4%、乳児ネビラピン群4%母親3剤併用群の676組、乳児ネビラピン群の680組、対照群の542組が、48週のフォローアップを完遂した。産後28週以降は授乳を中止した母親は2つの介入群を合わせ96%、対照群は88%だった。生後2~48週の間にHIVに感染した乳児は、母親3剤併用群が30人、乳児ネビラピン群が25人、対照群は38人で、そのうち28人(30%)は28週の治療終了以降に感染していた(それぞれ9人、13人、6人)。48週までの乳児HIV感染リスクは、対照群の7%に比し、母親3剤併用群が4%(p=0.0273)、乳児ネビラピン群も4%(p=0.0027)と、いずれも有意に良好だった。乳児における重篤な有害事象の頻度は、治療期間中よりも治療終了後(29~48週)のほうが有意に高く(1.1件/100人・週 vs 0.7件/100人・週、p<0.0001)、下痢、マラリア、発育不良、結核、死亡のリスクが高かった。産後2~48週の間に9人の母親が死亡した(母親3剤併用群:1人、乳児ネビラピン群:2人、対照群:6人)。著者は、「医療資源が限られ、授乳に代わる安全な育児法がない環境では、母親あるいは乳児に対する抗レトロウイルス薬の28週予防投与により乳児のHIV感染が減少するが、6ヵ月での離乳は乳児の罹病率を増加させる可能性がある」と結論している。なお、WHOは現在、本試験を含む知見に基づき、授乳期12ヵ月間の抗レトロウイルス薬予防治療を推奨しているという。(菅野守:医学ライター)

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中国全土に深刻な薬剤耐性結核が蔓延

深刻な薬剤耐性結核が中国に蔓延していることが、中国・疾病管理予防センター(CDC)のYanlin Zhao氏らが2007年に行った中国全国サーベイの結果、報告された。公衆衛生および病院医療(特に結核病院)での不適切治療が、多剤耐性(MDR)結核を招いており、大半の症例は一次感染であったという。中国全国にわたる薬剤耐性結核の蔓延状況についての調査はこれが初めて。NEJM誌2012年6月7日号掲載報告より。全結核患者の4分の1が薬剤耐性、10分の1がMDR調査は、公衆衛生システム下の結核症例について集団無作為抽出法で同定し、第1選択の抗結核薬であるイソニアジド(商品名:イスコチンほか)、リファンピシン(同:リファジンほか)、エタンブトール(同:エブトール、エサンブトール)、ストレプトマイシン、および第2選択薬のオフロキサシン(同:タリビットほか)、カナマイシンについて耐性検査を行い、中国における薬剤耐性発生率を推定した。この結果と公表されている推定結核発生率から、薬剤耐性結核発生率を算出した。また、患者インタビューによる情報を用いて、薬剤耐性につながる因子を同定した。2007年4月1日~12月31日の間に、新規発症患者は3,037例、治療歴あり患者は892例が登録され、そのうち多剤耐性(MDR)結核(少なくともイソニアジドとリファンピシンに耐性を示すと定義)だったのは、新規発症患者の5.7%(95%信頼区間:4.5~7.0)、治療歴あり患者の25.6%(同:21.5~29.8)だった。全結核患者の約4分の1がイソニアジドとリファンピシン、または両方に耐性を示し、10分の1はMDR結核だった。MDR結核患者の約8%は、広範囲薬剤耐性(XDR)結核(少なくともイソニアジド、リファンピシン、オフロキサシン、カナマイシンに耐性を示すと定義)だった。最後に結核病院で治療を受けた患者におけるMDR結核が最も高リスクで13.3倍2007年のMDR結核の症例数は11万例(95%信頼区間:9万7,000~13万)、XDR結核の症例数は8,200例(同:7,200~9,700)だった。MDR結核およびXDR結核の症例の大半は一次感染によるものだった。MDR結核のリスクが最も高かったのは、過去に複数回治療を受けており、最後に結核病院で治療を受けた患者だった(補正オッズ比:13.3、95%信頼区間:3.9~46.0)。治療歴のあるMDR結核患者226例のうち43.8%は最後まで治療を完了しておらず、その多くは病院で治療を受けた患者だった。治療を完了していた患者では、公衆衛生システム下で治療を受けた後で結核を再発していた人が大半だった。(朝田哲明:医療ライター)

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関節リウマチ治療薬への新たな期待 【アバタセプト全例調査 中間解析結果】

2012年4月に開催された第56回日本リウマチ学会総会・学術集会(JCR2012)において、アバタセプト(商品名:オレンシア)の使用成績調査(全例調査)の中間解析結果が報告された。これを受けて2012年5月25日、ブリストル・マイヤーズ株式会社による記者発表会が開催され、産業医科大学第1内科学講座の田中良哉氏によって講演が行われた。関節リウマチとは?関節リウマチは手指や膝など全身の関節に腫れや痛みが生じ、症状が進行すると関節破壊・変形が起こるため、生活や仕事に影響を及ぼす自己免疫疾患である。また、関節破壊は発症後、約2年間で急激に進むため、早期からの適切な治療が求められる。日本の患者数は70万人とも100万人ともといわれ、30~40歳代の女性に好発する。関節リウマチの診断基準関節リウマチは関節破壊が起こる前に治療を開始することが求められるため、早期診断・早期治療を推奨することを目的に米国リウマチ学会(ACR)と欧州リウマチ学会(EULAR)により、関節リウマチ分類基準(ACR/EULAR2010)が発表されている。この基準によると、1ヵ所以上の関節腫脹を認め、他の疾患と鑑別された場合に、下記スコアリングによる分類基準において10点中6点以上であれば関節リウマチと診断される。 腫脹または圧痛関節数1個の中~大関節   0点2~10個の中~大関節   1点1~3個の小関節   2点4~10個の小関節   3点11個以上の関節(1つの小関節を含む)   5点血清学的検査RFも抗CCP抗体も陰性   0点RFか抗CCP抗体のいずれかが低値の陽性   2点RFか抗CCP抗体のいずれかが高値の陽性   3点滑膜炎の期間6週未満   0点6週以上   1点急性期反応CRPもESRも正常値   0点CRPかESRのいずれかが異常値   1点標的部位の異なる生物学的製剤現在、関節リウマチ(RA)治療に用いられる生物学的製剤はTNF阻害剤が4製品、IL-6阻害剤とT細胞阻害剤がそれぞれ1製品発売されている。T細胞阻害剤であるアバタセプトは抗原提示細胞とT細胞間の共刺激シグナルを遮断し、T細胞の活性化とサイトカイン産生を阻害する薬剤である。これまでのTNFαやIL-6をターゲットとした生物学的製剤とはコンセプトの異なる薬剤として注目されている。3,000例を目標とする全例調査アバタセプトは使用実態下における臨床経過や有効性、安全性に関する情報を収集することを目的に全例調査の実施が承認条件となっている。2010年9月から症例登録が開始され、目標症例数は3,000例(24週の観察期間を終了する症例数)である。本中間解析では登録開始後の初期1,000例を対象として解析された。 <患者背景>性別 男性18.1%、女性81.9%平均年齢 61.4歳生物学的製剤の使用歴 未使用27.2% 既使用72.8%メトトレキサートの併用状況 非併用35.7% 併用64.3%安全性について有害事象は236例(23.6%)、うち重篤な有害事象は33例(3.3%)にみられ、副作用は160例(16.0%)、うち重篤な副作用は24例(2.4%)であった。有害事象のうち、重点調査項目であった重篤な感染症は8例、重篤な過敏症は1例、悪性腫瘍は3例であった。また、生物学的製剤を投与する際には結核等の再燃が危惧されるが、本中間解析において結核の報告はなかった。なお、重篤な副作用発現に対するリスク因子として、リンパ球数1000mm3未満と体重40kg未満が示唆された。バイオナイーブ群ではより高い改善効果DAS28(CRP)*1平均値は投与前は4.34であったが、24週時点で3.32まで低下した。 SDAI*2、CDAI*3はそれぞれ投与前が23.9、22.1であったのに対し、投与後は14.6、13.5まで改善した。また、生物学的製剤による前治療の有無別にみると、既投与例ではDAS28(CRP)は4,36(投与前)から3.48(24週時点)へ低下したのに対し、未投与(バイオナイーブ)群では4.26(投与前)から2.84(24週時点)まで低下していたことから、バイオナイーブの患者でより大きな改善がみられた。より高い治療効果への期待全例調査の中間解析により、アバタセプトは比較的副作用の発現頻度が低く、安全性の高さが示唆された。また、田中氏は、「アバタセプトはバイオナイーブ症例で有効性が高く、他の生物学的製剤と遜色がなかったことから、生物学的製剤の第一選択となり得る」と考察を述べた。アバタセプトの全例調査は承認条件が解除されるまで継続され、現在、長期使用における安全性や有効性に関する調査も実施されており、今後さらなるデータの蓄積が期待される。 *1 DAS28(CRP)28の関節のうちの圧痛・腫脹関節数、患者による健康状態の評価、CRP(C反応性蛋白)による評価*2 SDAI28の関節のうちの圧痛・腫脹関節数、患者による全般評価、医師による全般評価、CRPによる評価*3 CDAI28の関節のうちの圧痛・腫脹関節数、医師による全般評価(ケアネット 森 幸子)

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【第56回日本リウマチ学会】アバタセプト全例調査 中間解析結果

第56回日本リウマチ学会総会・学術集会(JCR2012 )が2012年4月26日から28日にかけて品川で開催された。その中で産業医科大学第1内科学講座の田中良哉氏によって、生物学的製剤のアバタセプト(商品名:オレンシア)の使用成績調査(全例調査)の中間解析結果が報告された。標的部位の異なる生物学的製剤現在、関節リウマチ(RA)治療に用いられる生物学的製剤はTNF阻害剤が4製品、IL-6阻害剤とT細胞阻害剤がそれぞれ1製品発売されている。T細胞阻害剤であるアバタセプトは抗原提示細胞とT細胞間の共刺激シグナルを遮断し、T細胞の活性化とサイトカイン産生を阻害する薬剤である。これまでのTNFαやIL-6をターゲットとした生物学的製剤とはコンセプトの異なる薬剤として注目されている。3000例を目標とする全例調査2010年9月から症例登録が開始され、目標症例数は3000例(24週の観察期間を終了する症例数)である。本中間解析では登録開始後の初期1000例を対象として解析された。 性別 男性18.1%、女性81.9%平均年齢 61.4歳生物学的製剤の使用歴 未使用27.2% 既使用72.8%メトトレキサートの併用状況 非併用35.7% 併用64.3%安全性について有害事象は236例(23.6%)、うち重篤な有害事象は33例(3.3%)にみられ、副作用は160例(16.0%)、うち重篤な副作用は24例(2.4%)であった。重篤な副作用のうち感染症は8例(0.3%)で、そのうち呼吸器は6例、皮膚は1例、消化器は1例であった。また、生物学的製剤を投与する際には結核等の再燃が危惧されるが、本中間解析において結核の報告はなかった。なお、重篤な副作用発現に対するリスク因子として、リンパ球数1000mm3未満と体重40kg未満が示唆された。バイオナイーブ群ではより高い改善効果DAS28(CRP)*1平均値は投与前は4.3であったが、24週時点で3.3まで低下した。SDAI*2、CDAI*3はそれぞれ投与前が23.9、22.1あったのに対し、投与後は14.6、13.5にまで改善した。また、生物学的製剤による前治療の有無別でDAS28(CRP)の経時的推移をみたところ、既投与例は24週時点で2.3未満の寛解状態に達している患者は18.3%であったのに対し、未投与(バイオナイーブ)群では35.3%となり、バイオナイーブの患者でより大きな改善がみられた。より高い治療効果への期待全例調査の中間解析により、アバタセプトは比較的副作用の頻度が少なく、安全性の高さが示唆された。また、田中氏は、「アバタセプトは生物学的製剤未投与の患者で有効性が高かったため、より高い治療効果を得るには、バイオナイーブ症例への導入が鍵となる」と述べた。また、アバタセプトは効果発現の時期に関して、使用状況の異なる臨床でのイメージのみで議論されることがあるが、バイオナイーブ症例では、効果発現や有効性がTNF阻害剤と同等であるという報告もあり、今後さらなるデータの蓄積が期待される。 *1 DAS28(CRP)28の関節のうちの圧痛・腫脹関節数、患者による健康状態の評価、CRP(C反応性蛋白)による評価*2 SDAI28の関節のうちの圧痛・腫脹関節数、患者による全般評価、医師による全般評価、CRPによる評価*3 CDAI28の関節のうちの圧痛・腫脹関節数、医師による全般評価(ケアネット 森 幸子)

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結核に対するrifapentine+イソニアジド、イソニアジド単独と予防効果同等

潜在性結核感染症に対するrifapentine+イソニアジド(商品名:イスコチンほか)の3ヵ月投与は、イソニアジド単独の9ヵ月投与と予防効果は同程度で、治療完遂率はより高いことが、オープンラベル無作為化非劣性試験の結果、報告された。現在有効とされる標準療法はイソニアジド単独9ヵ月投与だが、毒性作用(特に肝臓における)や、治癒完遂率が低い(30~64%)ことが懸念されていた。試験は米国CDCが資金提供し、米国・ヴァンダービルト医科大学のTimothy R. Sterling氏らPREVENT TB試験チームにより行われた。NEJM誌2011年12月8日号(オンライン版2011年11月13日号)掲載報告より。4ヵ国で結核リスクの高い7,731例を登録し、オープンラベル無作為化非劣性試験試験は、米国、カナダ、ブラジル、スペインから登録され適格となった結核リスクの高い7,731例を、直接監視下にてrifapentine 900mg+イソニアジド900mgを週1回、3ヵ月間服用する、併用投与群(3,986例)と、自己管理でイソニアジド300mgを9ヵ月間服用する単独投与群(3,745例)に割り付け行われた。主要エンドポイントは、結核の確定診断とされた。非劣性マージンは0.75%。追跡期間は33ヵ月間だった。併用群の非劣性証明、治療完遂率はより高い修正intention-to-treat解析の結果、結核発症は、併用群7例(累積発症率0.19%)、単独群は15例(同0.43%)で、両群差は0.24ポイント(95%信頼区間上限値差0.01%)と、併用群は単独群に対し非劣性であることが認められた。治療完遂率は、併用群82.1%、単独群69.0%で、併用群のほうが高かった(P<0.001)。一方で、有害事象発生による投与中断の割合は、併用群4.9%、単独群3.7%で、併用群のほうが多かった(P=0.009)。試験担当医が認めた薬剤関連の肝毒性作用の発生率は、併用群0.4%、単独群2.7%だった(P<0.001)。Sterling氏は、「併用群は単独群と予防効果は同程度であり、治療完遂率はより高かった」とまとめたうえで「長期安全性のモニタリングが重要となるだろう」と結論している。(武藤まき:医療ライター)

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結核/HIV二重感染患者へのART療法開始時期 その1

ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染患者で結核感染が認められた二重感染患者について、抗レトロウイルス療法(ART)の開始時期に関する試験結果が報告された。フランス・ビセートル病院(パリ)のFrancois-Xavier Blanc氏らCAMELIA試験グループによる本報告は、ART開始時期について抗結核療法開始2週後と8週後を比較したもので、2週後のほうが生存が有意に改善されたという。本報告の被験者のCD4+T細胞数中央値は25個/mm(3)だった。NEJM誌2011年10月20日号掲載報告より。カンボジアの5病院から被験者を募り、2週後開始vs. 8週後開始を検討CAMELIA(Cambodian Early versus Late Introduction of Antiretrovirals)試験グループは、カンボジアの5つの病院から被験者を募り、ART開始について抗結核療法開始2週後と8週後とを比較する多施設共同前向き無作為化非盲検優越性試験を行った。具体的には、2006年1月31日~2009年5月27日に被験者を募り、「新たに結核と診断されたCD4+T細胞数200個/mm(3)以下のARTを受けていないHIV患者では、ARTの開始時期が死亡率に有意な影響をもたらす」との仮説検証を目的とした。ART療法は、スタブジン+ラミブジン+エファビレンツの3剤併用療法だった。被験者は、結核の標準治療(6ヵ月間の抗結核療法)開始後、無作為に早期ART開始群(抗結核療法開始2週±4日後に開始)か待機的ART開始群(同8週±4日後に開始)に割り付けられ、生存を主要エンドポイントに追跡された。待機的ART群と比べた早期ART群の死亡リスクは0.62倍と有意に低下試験には661例(早期ART群332例、待機的ART群329例)が登録され、中央値25ヵ月間追跡された。被験者のCD4+T細胞数中央値は25個/mm(3)、ウイルス量中央値は5.64 log(10)コピー/mLだった。結果、各群の死亡は、早期ART群は59/332例(18%)だったのに対し、待機的ART群は90/329例(27%)で、早期ART群のハザード比0.62(95%信頼区間:0.44~0.86、P=0.006)と同群死亡リスクが有意に低かった。一方で、結核関連の免疫再構築症候群(IRIS)リスクは、早期ART群の有意な上昇が認められた(ハザード比:2.51、95%信頼区間:1.78~3.59、P<0.001)。また両群とも、CD4+T細胞数増大の中央値は114個/mm(3)であり、50週時点でウイルス量は患者の96.5%で検出されなくなっていた。(武藤まき:医療ライター)

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結核/HIV二重感染患者へのART療法開始時期 その2

ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染患者で結核感染が認められた二重感染患者について、抗レトロウイルス療法(ART)の開始時期に関する試験結果が報告された。米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のDiane V. Havlir氏らAIDS Clinical Trials Group Study A5221試験グループによる本報告は、ART開始時期について抗結核療法開始2週以内の早期開始群と同8~12週以内の待機的開始群とを比較したもので、AIDS疾患の新規発症率および死亡率に両群間で有意差は認められなかったという。被験者のCD4+T細胞数中央値は77個/mm(3)だった。なお試験では無作為化の際、CD4+T細胞数50個/mm(3)未満と50個/mm(3)以上とで階層化しての検討も行っており、その結果50個/mm(3)未満群においては早期開始群でのAIDS疾患の新規発症率および死亡率は有意な低下が認められたという。NEJM誌2011年10月20日号掲載報告より。ART開始について抗結核療法開始後2週以内開始vs. 8~12週開始を比較本試験は、2006年9月~2009年8月に4ヵ国26施設から被験者809例が登録されて行われた非盲検無作為化試験だった。被験者は、CD4+T細胞数250個/mm(3)以下の、ARTを受けていない、結核感染が確認または疑われる患者だった。被験者は、抗結核療法開始後、2週間以内にARTを開始する早期ART群と、同8~12週以内開始の待機的ART群に無作為化され追跡された。また無作為化に際し、被験者をCD4+T細胞数50個/mm(3)未満と50個/mm(3)以上とで階層化した。なおART療法は、エファビレンツ+エムトリシタビン・テノホビル ジソプロキシル フマル酸の併用療法だった。主要エンドポイントは、48週時点で生存および新規AIDS疾患の発症が認められなかった患者の割合とした。CD4+T細胞数50個/mm(3)未満群では早期ART群の生存が有意被験者809例の基線でのCD4+T細胞数中央値は77個/mm(3)、HIV-1 RNAウイルス量中央値は5.43 log(10)コピー/mLだった。48週時点までのAIDS疾患新規発症および死亡の発生率は、早期ART群12.9%、待機的ART群16.1%で、早期ART群の有意な低下は認められなかった(発生率差の95%信頼区間:-1.8~8.1、P=0.45)。しかしCD4+T細胞数50個/mm(3)未満の患者における同値は、早期ART群15.5%、待機的ART群26.6%で、早期ART群での有意な低下が認められた(同:1.5~20.5、P=0.02)。結核関連の免疫再構築症候群(IRIS)は、早期ART群のほうが待機的ART群より頻度が高かった(11%対5%、P=0.002)。ウイルス抑制率は48週時点で74%で、両群間の差はなかった(P=0.38)。(武藤まき:医療ライター)

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喫煙は世界的な結核症例を増大し、死亡を増大する

喫煙は、将来的な結核症例数および死亡例を相当に増大することが、米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のSanjay Basu氏らが行った数理モデル解析の結果、報告された。現在、喫煙者は世界で約20%だが、その割合は多くの貧困国で上昇すると予測されている。喫煙が喫煙者自身の結核感染および死亡のリスク増大と結びついているが、これらリスクが集団へ及ぼす影響については明らかにされていなかった。BMJ誌2011年10月8日号(オンライン版2011年10月4日号)掲載報告より。現在の傾向で喫煙者が増えていけば2050年までに結核1,800万人、死亡4,000万人過剰に発生研究グループは、2010年から2050年までのWHO加盟国における結核の発生率、有病率、死亡率を算出し、喫煙傾向、症例の検出、治療の成功、HIV有病率により推定値がどう変化するかを推計した。結果、もし現在の趨勢で喫煙者が増えていけば、2010~2050年の間に、結核症例は1,800万症例(標準誤差:1,600万~2,000万)過剰に発生し、結核による死亡は4,000万人(同:3,900万~4,100万)過剰に生じることが予測された。積極的喫煙コントロールで、結核死亡例を2,700万例回避し得る喫煙による結核症例は、喫煙を原因としなかった場合と比べて7%上昇(2億7,400万vs. 2億5,600万)、同比較の死亡は66%上昇(1億100万vs. 6,100万)することが推計された。また喫煙は、1990年から2015年までに結核死亡率を半減するという国連のミレニアム開発目標を遅らせることも予測された。一方で推計モデルから、積極的な喫煙コントロールの介入(喫煙が根絶するまで1%/年ずつ喫煙有病者の割合を減らしていく)が、2050年までの喫煙を起因とする結核による死亡を、2,700万例回避し得ることが示された。しかし、もし喫煙者成人の割合が50%まで増大したら(喫煙率の高い国で認められたとして)、2050年までの結核による死亡はさらに3,400万例起こり得ると推計された。

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イソニアジドの結核一次予防的投与、未発症、未感染を改善せず:南アフリカHIV曝露児対象試験

結核治療薬イソニアジド(商品名:イスコチンなど)の乳児への一次予防的投与について、南アフリカで行われた試験の結果、結核の未発症や未感染を改善しなかったことが報告された。試験対象児は、結核感染リスクの高いHIV感染児あるいは周産期にHIVに曝露された乳児で、いずれも生後30日までにBCGワクチンは摂取されていた。サハラ以南では結核が蔓延しており、特にHIV感染成人が多い地域での感染率の高さが問題となっており、イソニアジドによる結核予防戦略が提唱されているという。南アフリカ共和国・ヴィトヴァーテルスラント大学のShabir A. Madhi氏らは、イソニアジドは感染者からの感染が明らかな患児での治療効果は示されているが、サハラ以南のような結核感染リスクが高い環境下にいる乳児を対象とした試験は行われていないとして、多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験を行った。NEJM誌2011年7月7日号掲載報告より。イソニアジド群、プラセボ群に無作為化し96週投与、その後108週までの転帰を比較試験は、南アフリカ共和国3施設とボツワナ共和国1施設から、生後91~120日で、30日までにBCGワクチン接種を受けていた、HIV感染児548例とHIV非感染児804例を登録して行われた。被験児は無作為に、イソニアジド群(10~20mg/kg体重/日)か同用量のプラセボ群に割り付けられ、96週間投与を受けた。その後108週までの間の、HIV感染児については結核発症と死亡について、HIV非感染児については潜在性結核感染症、結核発症、死亡を主要転帰として検討された。なお、HIV感染児には試験中、抗レトロウイルス治療が行われた(98.9%に実行)。HIV感染児にとって結核は、抗レトロウイルス治療環境が整っても負荷が大きい疾病結果、HIV感染児群、HIV非感染児群ともに主要転帰についてイソニアジド群とプラセボ群とで有意差は認められず、HIV感染児群での結核発症と死亡の発生は、イソニアジド群52例(19.0%)、プラセボ群53例(19.3%)だった(P=0.93)。この結果は、抗レトロウイルス治療開始時期、結核の母子感染歴で補正後も同様であった(P=0.85)。HIV非感染児群では、潜在性結核感染症・結核発症・死亡の複合発生率が、イソニアジド群(39例、10%)と、プラセボ群(45例、11%)で有意差がなかった(P=0.44)。結核罹患率は、HIV感染児群は121例/1,000児・年(95%信頼区間:95~153)、一方HIV非感染児群では41例/1,000児・年(95%信頼区間:31~52)であった。安全性に関して、グレード3以上の臨床毒性あるいはラボ毒性は、イソニアジド群とプラセボ群とで有意差は認められなかった。Madhi氏は、「イソニアジドの一次予防としての投与が、BCGワクチンを受けたHIV感染児の結核未発病生存を、また同HIV非感染児の結核非感染生存を改善しなかった。HIV感染児にとって結核の疾病負荷は、抗レトロウイルス治療を受けられる環境が整っても高いままだった」と結論している。(武藤まき:医療ライター)

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結核患者へは、4種固定用量合剤が個別投与よりも好ましい

新たに肺結核の診断を受けた患者に対する、リファンピシン、イソニアジド、ピラジナミド、エタンブトールを含む固定用量合剤(FDC)の投与と、各薬剤の個別投与とを比較するオープンラベル非劣性無作為化試験「Study C」が、WHOのChristian Lienhardt氏ら研究グループにより、アフリカ、アジア、ラテンアメリカの9ヵ国11ヵ所で行われた。FDCは薬剤耐性の出現を防ぐ方法として提唱されたものだが、これまで有効性や安全性の評価に関する無作為化試験はほとんど行われていなかった。JAMA誌2011年4月13日号掲載より。4種FDC投与か個別薬剤投与を8週間毎日投与、18ヵ月後の細菌培養陰性率を比較研究グループは、2003~2008年にかけて、新たに診断を受けた塗抹陽性肺結核の成人1,585人について試験を行った。研究グループは被験者を無作為に二群に分け、一方の群(798人)には4種FDCを、もう一方の群(787人)には4種の薬剤を個別に、それぞれ8週間毎日投与した。両群ともに、投与量はWHOの勧告に従って、被験者の体重により調整した。その後18ヵ月は、両群ともに、2種(リファンピシン、イソニアジド)FDCを週3回投与した。主要アウトカムは、治療開始18ヵ月後の細菌培養陰性の割合だった。プロトコルに沿った被験者のみを分析したPPB分析と、治療を試みた全員を分析したITT分析2種の合わせて3種の分析を行い、非劣性マージンは4%と定義した。3分析中2分析で、FDCの非劣性を示す結果、PPB分析において18ヵ月後に細菌培養が陰性であったのは、FDC群は591人中555人(93.9%)に対し、個別投与群は579人中548人(94.6%)だった(リスク差:-0.7%、90%信頼区間:-3.0~1.5)。ITT分析の一つ目の分析方法では、細菌培養が陰性だったのは、FDC群684人中570人(83.3%)、個別投与群664人中563人(84.8%)だった(リスク格差:-1.5%、90%信頼区間:-4.7~1.8)。二つ目のITT分析では、同陰性は、FDC群658人中591人(89.8%)に対し個別投与群647人中589人(91.0%)だった(同:-1.2%、-3.9~1.5)。研究グループは、「3つの分析結果のうち2つで、FDCの個別投与に対する非劣性が示された。非劣性の証明は完全ではなかったが、FDC投与のほうが優位である可能性が示されたことにより、FDC投与のほうが好ましく優先される」と結論している。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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結核症にビタミンD補助薬は有効か?

結核症の集中治療期に標準的な抗生物質治療を受けている患者に、高用量のビタミンD補助薬を投与すると、ビタミンD受容体TaqI tt遺伝子型の患者で喀痰培養陰転時間の短縮効果を認めることが、イギリス・ロンドン大学クイーン・メアリーのAdrian R Martineau氏らの検討で明らかとなった。抗生物質が普及する以前は、ビタミンDが結核症の治療に用いられており、その代謝産物はin vitroで抗マイコバクテリア免疫を誘導することが知られている。これまでに、ビタミンDが喀痰培養菌に及ぼす影響を評価した臨床試験はないという。Lancet誌2011年1月15日号(オンライン版2011年1月6日号)掲載の報告。ビタミンD補助薬の喀痰培養陰転時間を評価する無作為化プラセボ対照試験研究グループは、ロンドン市在住の喀痰塗抹陽性肺結核症患者に対するビタミンD補助薬の効果を検討する多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照試験を実施した。146例が、ビタミンD3 2.5mgあるいはプラセボをそれぞれ4回(ベースライン、標準的な抗生物質治療開始後14、28、42日)投与する群に無作為に割り付けられた。主要評価項目は、抗生物質治療開始から喀痰培養陰転までの期間とした。ビタミンD受容体であるTaqIおよびFokIの遺伝子多型解析を行い、ビタミンD受容体遺伝子型がビタミンD3に対する反応に及ぼす効果を評価するために相互作用解析を実施した。喀痰培養陰転時間に差はなし126例(ビタミンD群62例、プラセボ群64例)で主要評価項目の解析が可能であった。喀痰培養陰転までの期間の中央値は、ビタミンD群が36.0日、プラセボ群は43.5日であり、両群間に有意な差は認めなかった(補正ハザード比:1.39、95%信頼区間:0.90~2.16、p=0.14)。TaqI遺伝子型ではビタミンD補助薬が喀痰培養陰転時間に影響を及ぼしており(相互作用p=0.03)、TaqI tt遺伝子型で陰転時間の短縮効果が認められた(補正ハザード比:8.09、95%信頼区間:1.36~48.01、p=0.02)。FokI遺伝子型ではビタミンD補助薬の効果は認めなかった(相互作用p=0.85)。56日目における平均血清25-hydroxyvitamin D濃度は、ビタミンD群が101.4nmol/L、プラセボ群は22.8nmol/Lと有意な差が認められた(両群の差の95%信頼区間:68.6~88.2、p<0.0001)。著者は、「肺結核症に対する集中治療を受けている患者にビタミンD3 2.5mgを補助的に4回投与すると、血清25-hydroxyvitamin D濃度が増加した。全体としてビタミンDは喀痰培養陰転時間を短縮しなかったが、ビタミンD受容体TaqI遺伝子多型がtt遺伝子型の患者では有意な短縮効果が認められた」とまとめている。(菅野守:医学ライター)

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教授 向井秀樹先生「患者さんと真摯に向き合う中から病態は解明される」

1951年東京都生まれ。76年北里大学医学部卒業。81年同大皮膚科助手、84年同大皮膚科講師兼医局長。91年横浜労災病院皮膚科部長。2007年より現職。日本皮膚科学会専門医・代議員、日本アレルギー学会専門医・指導医・代議員、日本皮膚悪性腫瘍学会評議員他。皮膚科医に求められるもの人と話すことが好きな私は、本当は神経内科医になりたかったのですが、師匠である教授との出会いがきっかけで皮膚科医を選択しました。教授が「向井君、この患者さんはγ-GTP100だよ」と、手や皮膚の状態を見ただけで内臓のことまで言い当てたのです。皮膚科医としての知識を元に視診で内臓までを診てしまう。私はそこに魅力を感じたのです。皮膚疾患は目に見える症状がほとんどのため、そこから発生する患者さんの精神的ストレスは深刻な問題となっています。したがって、皮膚科医には患者さんのメンタルをケアすることも重要な治療の一つなのです。その点からみても、話好きな私にはとてもよい選択だったと考えています。「皮膚科は死なないからいいよね」と言われることがありますが、決してそうではありません。病としての生き死にではなく、病状による精神的苦痛で自殺してしまうケースもあります。だからこそ、精神面でのサポートも考慮しつつケアしてあげるという心構えで、皮膚疾患を治していくことが常に求められているのです。たかが皮膚病ではなく、それに伴う精神的苦痛は個々によりレベルが違うもので測り知れません。今後も私はそこを踏まえた上での最善の治療を、皮膚科医として追求していきたいと考えています。患者さんと医師の信頼関係を構築する間違った情報を鵜呑みにしてステロイドへの偏見を持ち、薬を処方通りに使わなかったり、誤った民間療法に頼ったり、医師との信頼関係を築けないまま治療にも専念できない患者さんもいます。その結果、かえって症状を悪化させているケースも少なくありません。東邦大学ではアトピー性皮膚炎の思い切った治療として、入院をすすめています。これは、仕事などで忙しくて毎日のスキンケアがままならず、症状が悪化して不眠状態になっている状態をクールダウンさせる意味もあります。皮膚炎が起こる原因の中には生活習慣や住環境も関わりますから、その点でも改善指導できますし、日常のストレスからの解放も期待できます。その上で、すべての治療をこちらに任せてもらい、ディスカッションしながら薬の塗り方、包帯の巻き方等まで、こまごまと指導できる利点があります。そうすれば患者さんは退院した後も、症状が悪化した場合には自分で処置することができるようになる。つまり、治療をしながら生活全般の教育指導もできるのが入院の利点です。将来的には、栄養士による食事指導も加えたいと考えています。ステロイドへの偏見をなくしたいステロイドのガイドラインとして現在も使用されている安全塗布量は、40年以上前に海外でステロイドを使う必要のない正常な人を対象にして行われたデータで、その後の追試はありません。では、実際にアトピー性皮膚炎の入院患者さんに多量のステロイドを使用した場合、安全塗布量を超えると副腎機能に影響を与えるのかどうか、私は入院時と退院時の血液や尿を採取して調べました。驚いたことに、入院時のコルチゾール値は平均3.7μg/dLと正常値より明らかに低く、0.1μg/dL以下と極めて強く副腎機能が抑制されている患者さんは半数以上でした。つまり、入院を要するほどの患者さんは、ステロイド治療をする前に皮膚状態の悪化で、すでに副腎機能が強く抑制されていたのです。入院を要しない軽症例では抑制がかかっていないことから、副腎機能の抑制は重症度に起因するという新事実をみつけました。さらに、入院中大量のステロイドを使用したにもかかわらず、退院時のコルチゾール値は11.5μg/dLと正常化していました。入院中に皮膚状態を改善するために使用したステロイドの量は、臨床効果とともに漸減し薬効ランクも落としています。この治療法によって副腎機能に及ぼす副作用は認められず、安全性の高いものといえる結果となりました。同時に測定したACTH値も同様で、退院時には正常値に回復していました。入院での治療は皮膚症状を劇的に改善させるだけでなく、抑制されていた副腎・下垂体機能を大幅に正常化するという画期的なデータでした。しかし、なぜ副腎機能が抑制されてしまうのかはまだ不明で、これからの研究課題です。ホルモンが分泌されない原因のファクターとしては、ストレスや睡眠障害などが挙げられています。確かに来院した患者さんから「眠れなくて、体がだるくて、成績が落ちたり、仕事上でのミスが多くなったりして上司から怒られる。でも、睡眠薬を使うと寝坊してしまう」との意見が大半でした。ところが、入院することによってまず不眠が解消され、リラックスした精神状態になり、熟睡できた喜びを口にした患者さんが7割から8割を占めたのです。これによってインペアード・パフォーマンスも大きく改善されました。尋常性乾癬における最新治療乾癬に関しては劇的な治療薬ができました。これまで患者さんは、お風呂から出て、時間をかけて全身に薬を塗って、包帯を巻いて……という作業を毎日繰り返していました。患者さんの負担はかなり重いものでした。それが、TNF-α阻害薬が出てきたお陰で、今では注射1本で済んでしまう。患者さんのQOLは飛躍的に向上しました。これは大変画期的なことだと思います。私が東邦大学に来る前の病院で、5、6回入退院を繰り返している、30代の関節症性乾癬の男性がいました。それまで、できうる限りの治療を行ったのにもかかわらず、結局車椅子の生活を余儀なくされた患者さんです。TNF-α阻害薬が治験できるとなった時に、真っ先にその彼に声をかけました。しかし、彼には「これまで先生の言うことはすべて聞いてきたが、結局治らなかった。訳のわからない治療法で、もっと悪くなるかもしれない」と断られてしまいました。それでも私は1時間以上かけて説得しました。やっと彼を治せるかもしれない治療薬が出てきたからです。今、彼は杖で歩けるまで回復しています。少し前までは治せなかった難病も、今では治せてしまう。医学の進歩にはいつも驚かされます。ただし、このTNF-α阻害薬ですが、高い臨床効果の一方、免疫を抑えることにより副作用として細菌性肺炎や肺結核など重篤な感染症の発現が危惧されています。日本皮膚科学会では"TNF-α阻害薬の使用指針および安全対策マニュアル"を作成し、本薬の使用に際して、(1)乾癬の診断・治療や合併症対策に精通した皮膚科専門医が行うこと (2)副作用発現に留意して、定期的な検査および重篤な合併症に対して迅速な対応すなわち呼吸器内科や放射線医と密接な連携で対処すること、の2点を挙げていますので注意が必要です。私ども東邦大学大橋病院皮膚科はTNF-α阻害薬使用施設として正式に認定され、すでに2例の患者さんに治療を開始しております。病気の原因究明こそ臨床の醍醐味外来で若手医師に指導する時は「なぜこういう現象が起きたのか?」を自分の頭でよく考えさせるようにしています。単に病状や治療についての説明をするのではなく、なぜこの患者さんはこうなったのか、その"なぜ"を考えさせるようにしています。ありふれた皮膚病は、生活習慣に起因していることが多いのです。だからこそ患者さんのライフスタイルを知り、なぜそうなったのか? 原因となっているものは何か? を見極めないことには治療もできません。たとえば、道を歩いているだけなのに、急にアナフィラキシーショックを起こして倒れた人がいました。朝食にパンを食べて、その後に運動をする。満員電車の中でどっと汗をかいたらアナフィラキシーショックを起こして倒れた。ご飯ならば発作は起こらないのに、パンだとなぜだかショックを起こす。また、就寝時にアナフィラキシーショックを起こす例がありました。なぜか納豆を食べた日に限り、発作を起こしていました。いずれの方も発作を2、3回繰り返し、そのつど救急搬送されるのですが、病名どころか何が原因かさえわからない。前者は小麦アレルギーでした。小麦を食べて運動をする、抗炎症薬のアスピリンを服用する、飲酒、疲労、ストレスといったファクターが加わるとアナフィラキシーショックを起こす。また後者は、まだ10例ほどしか発見されていませんが、納豆アレルギーでした。納豆を食べて30分や1時間で症状が出れば誰でも納豆アレルギーとわかりますが、食べてから10何時間か経って就寝時に出てくるので、何が原因なのかわからなかった。実は納豆のネバネバ成分がアレルゲンをコーティングしているため、腸管からの吸収が遅れ、すぐには症状が出なかったのです。このような患者さんが今まで原因がわからず病院を転々としてきて、それを自分が究明できた時の喜びは大きいですね。臨床の面白さや醍醐味はそこにあると思います。また、最近の技術的進歩も著しいものがあります。これまで皮膚科領域で治療に難渋していた疾患が、上述した生物学的製剤のような画期的な薬剤の登場で治療できてしまう。虚血性壊死を起こした状態でも、皮膚や筋肉に注射して血管を新生する遺伝子治療もそろそろ世に出てくる。たとえば、糖尿病で足先がすでに壊死を起こしている場合、まず内科で糖尿病のコントロールを行い、皮膚科で外用療法をし、最終的には整形外科や形成外科で切断するのが主流となっていたのが、この遺伝子治療により血管を再生することによって指先を切断しなくても済むようなるというものです。これまで、難病といわれてきたものが、最新の治療によって難病ではなくなる時代に変わってきています。これからの皮膚科学は、ますます面白くなってくると思います。質問と回答を公開中!

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教授 向井秀樹先生の答え

アトピー性皮膚炎30年間悩まされています。昨年近医にてネオーラル処方され、症状改善し漸減中止しました。が、症状悪化しネオーラル再開(一回50mg一日2回)しました。この量でないと有効でないようで…飲み続けてもいいのでしょうか?皮膚の良い状態がこんなに楽なのもかと思い知り、ステロイドだろうが免疫抑制剤だろうが(副作用が多少あっても)なんでも使いたい!という思いです。 シクロスポリンは使用ガイドラインが出来ており、体重当たり3mg換算とされています。効果があれば12週間を1クールにして、最低2週間以上の休薬とあります。スタンダードな治療法として有用だと思います。但し、極めて重症度の高い方には中止が出来ない、再度内服するという方も少なくありません。さらに高価なお薬のため経済的にも再燃時のショックは大きいのは理解できます。文章からは十分に理解しているとは言えないかも知れませんが、ダラダラと服用しているより、2クール目&3クール目と繰り返すうちに症状が安定する場合も経験します。焦らず頑張って下さい。そして併用している外用剤ですが、内服していると痒くないからといって使用していない、使用量が大幅に減っていないことはありませんか? こんな高級品を使っているのです、今こそ徹底的に改善して寛解状態を得て元を取るぞ!という覚悟で頑張って下さい。そして、悪化時の原因を考え悪化要因の対処法などの工夫、アドバイスを貰うなどの積極性を出すこと!綺麗な肌を取り戻して下さい!発汗異常について手汗がひどく悩んでいる方がいます。来年4月から社会人になりますが事務関係で書類を触るのに用紙がくしゃくしゃになってしまい、仕事に支障がでてしまうのではないかと・・手術以外になにか方法がありませんか?漢方 刑芥蓮ぎょう湯を服用して様子を見ています。程度は個人差がありますが、お悩みのことと推察いたします。大学時代の友人がひどい汗かきで、いつもタオル持参で授業内容を記載していました。現在会って話をすると昔より良くなっているそうですが完治はしていないとのことです。一般的に自律神経を安定させる内服薬を飲み続け、汗を抑える塩化アルミニウム溶液を外用します。漢方薬を試されているようですが、防己黄耆湯や補中益気湯はお飲みになりましたでしょうか?漢方薬は一般的にすぐに効果がでる訳ではありません、最低1~2ヶ月間は内服してみて下さい。手術に関しては現在しない方向です。脇の下の交感神経を切断するは一時流行りました。確かに手の効果はありますが、背中や胸などが代償性に発汗するようになり患者さんの生活の質が低下するので行わない方が良いようと思います。専門に手術する施設が増えましたが、医療問題にまで発展し陰が薄くなりました。発汗を専門とする施設は少ないですが、東京医科歯科大学皮膚科には専門外来があります。塩化アルミニウム溶液を器械で皮膚に導入するイオントフォレーシス法を行っており、それなりの有用性を報告しています。機会があれば受診してみて下さい。まずは、一般初診を受診して専門外来にまわしてくれるそうです。研究分野について東邦大学大橋病院での研究分野について教えてください。どのような研究をされているのでしょうか?ホームページを拝見しましたが、「研究について」のページを見ても、「爪白癬動物モデルを用いた病理組織学的検討」しかなかったので、もう少し情報を頂きたく思います。(後期研修先を探している研修医です)大橋皮膚科はアトピー性皮膚炎の治療を専門にしております。1~2週間の入院療法は、短期間で急速&確実に改善する方法を言えます。しかし、入院期間に多量に使用する極めて強いステロイド外用剤の副腎機能に関する影響に関して、明らかな文献は見当たりません。そこで、入院前後の血中コルチゾール値を測定してみました。その結果は予想に反して、重症例では入院前のステロイド外用量と関係がなく血中コルチゾール値は大幅に低下。この変化は不可逆性で退院時には上昇して正常値に戻るという結果が得られました。そこで次に、血中ACTHや1日尿中コルチゾール値を測定しました。両者とも同様の推移を呈することより、皮疹の重症度に相関して不可逆性の副腎機能抑制状態が生じていることを昨年11月の日本皮膚科学会誌に報告いたしました。これから入院する患者さんにもその結果をお話して、入院で使用するステロイドの安全性を強調する共に検査し確認を取る旨を了承して頂いております。なお、このデータは昨年の第26回日本臨床皮膚科学会で金賞そして学内の柴田奨学助成金をめでたく選考授賞&授与することが出来ました。次に、この入院期間の前後で治療効果を判定できる"短期的な治療マーカー検査"を検討し、昨年日本アレルギー学会で発表しました。皮膚の改善やかゆみの程度で患者さんは退院を希望されます。明らかな検査データを示し改善度を示すことは疾患の理解を更に深めると思います。大橋皮膚科で行っている入院療法の有用性を評価するために、患者さんを対象にしたアンケート調査を行いこの2月に行なわれる東京支部学術大会で発表します。今年度からは重症例に多くみられる睡眠障害に関して研究を始めます。激しい痒みに伴うものと基礎にある心因反応に伴うものに大別できます。そこで、入院前後の睡眠障害を詳細に分析しその違いを見つけ、後者の人に関しては早期に入眠剤や心療内科的アプローチを検討します。さらに、外来患者にも行い重症度の違い、罹患率など調査していく予定です。ホームページにある"爪白癬動物モデルを用いた病理組織学的検討"は、日本真菌学会および国際学会で報告したので掲載したものです。動物モデルを使って、爪に感染後の経過を臨床面と爪の病理組織像を同時に立体的に観察した興味あるデータです。近く真菌専門の英文誌に掲載されますので、機会があればご一読下さい。この他に、帯状疱疹後の神経痛に関する薬剤間の比較、各種皮膚良性腫瘍におけるダーモスコープ所見の検討、炭酸ガスレーザーを用いた難治性皮膚疾患の治療の試みなどいろいろと考えて行っています。化粧品会社や製薬会社の研究所とも連携して研究し、その成果を順次発表しております。大橋皮膚科では目の前にいる患者さんの疾患をみて、その病態を考えどのようなアプローチをすべきか、解明のための臨床研究を積極的に行っています。珍しい疾患の解明ばかりでなく、ありふれた疾患の新しい考え方や治療法なども発信できればと思っています。やる気のある方は大歓迎です、是非とも来て下さい。アトピー性皮膚炎、診断のコツ研修中なので基本的な質問ですみません。アトピー性皮膚炎の診断について、治療ガイドラインの診断基準を見ながら勉強しているのですが、確信を持って診断を下すことができません。診断間違ってステロイドを処方すると悪化する症例もあるので、少し怖くなっています。今は当然ながら自分一人で診察をして診断を下すわけではないのですが、皮膚科を目指しているので、どうにかしたいです。診断のコツや、先生がどのように勉強されてきたか?などアドバイスいただけると幸いです。難しい問題だと思います。でも専門とする私でも治療&診断ガイドラインは講演のときに使う程度で診療の際に見ることはありません。患者さんを見れば検査をしなくとも100%診断が付きます。皮膚科の醍醐味とはそういうもので、見たことがある、本で読んだ、学会で聞いたなどで診断が出来るのです。要するに、長年たくさんの患者さんを見ることで感じ覚えていくのだと思います。とくにアトピーの難しさは年齢によって皮膚症状の好発部位や臨床像も変化します。時期ごとに出やすい部位、臨床像を整理して覚え、鑑別疾患を挙げその違いを頭の中で除外していく必要性があります。アトピー素因の有無は必要です、そして皮膚所見が有用で湿疹病変と分かってもかぶれもありますし,自家感作性皮膚炎や皮脂減少性皮膚炎もあります。年齢や部位などが役立ちます。血清IgEや各種アレルゲン特異抗体価も診断に有用です。症例をたくさん見て、いろいろな鑑別疾患を整理して頭の中に入れることが重要です。疑問があれば上級医を呼んで,診断の決め手や考え方を教えてもらうのも良いと思います。重症のアトピーとして治療していたら皮膚リンフォーマという事例もあります、皮膚生検も時として有用です。よく見てよく考え疾患の特性を理解して下さい。患者さんを診て、患者さんから教えられる、学ぶものです。民間療法との戦いについて皮膚の疾患、特にアトピーなどは民間療法が多くて困っています。全てを否定するわけではないですが、処方した薬を使わなくなったり、通院しなくなったりするので(大体症状が悪化して戻ってきますが…)かなり厄介です。先生も当然同じような状況かと思います。先生のこれまでのご経験から「このように民間療法と戦っている!」「こんな説明をすると有効だ!」というものがあれば是非ご伝授いただきたく思っております。宜しくお願いします。日本皮膚科学会の努力もあり民間療法は20年前に比べるとかなり淘汰された感はあります。随分日常診療でその対策と説明に苦労させられて来ましたし、重症で入院を要する患者さんの半数以上が民間療法経験者でした。皮膚科医以外の医師や医療関係者が行っている場合が多いようです。患者自身が現在の治療法に不満を抱いているのは事実だと思います。頭ごなしに否定することなく、ゆっくり時間を掛けて話をする・聞くことを心掛けています。どうしてもしたいと言ってくるものに関しては、現在の治療を中止せず併用することや部分使用を認めています。専門家の私が冷静に判断してその効果を認めるなら、継続すべきだし、効果が見えない場合にこだわって皮膚が悪化することは避けたいと話します。ただ、使用しているステロイド剤の副作用を強調して中止を強要し高額な治療費を請求するものは絶対的に反対します。ステロイド治療に不満や不安が強い人が多いので、ステロイドの使用法や安全性を十分説明する必要はあると思います。いずれにせよ、本人は悩んでの事ですから、頭ごなしに叱らない、救済方法を残すやり方で指導しております。 電子付加治療は効きますか?患者より、アトピー性疾患治療として電子付加治療というものがあると聞きました。私も調べてみたのですが、日本アトピー治療学会という聞きなれない学会が推奨しているようです。一見理にかなっているようには見えるのですが、実際のところ如何なものでしょうか?もし電子付加治療について何かご存知でしたらご教示お願いします。残念ながら実態は良く分かりません。私の外来では慢性かつ難治性の重症例が多く受診されますが、受診前の治療法としても電子付加治療は初耳です。アトピー性皮膚炎の治療&診断ガイドラインにも電子付加治療などは記載されていません。日本アトピー治療学会と実にもっともそうなネーミングですが、所属会員がどれほどいるのか?我々のような皮膚科専門医、アレルギー専門医や指導医がいるのか疑問です。これでは質問のお返事とはなりません。丁度インフルエンザAに罹患して自宅待機の身ですので、ホームページをしっかりと拝見しました。基本的におかしいのがアトピーの原因を酸化アレルゲンとして一つに括っていることだと思います。この論理はアトピー性皮膚炎診療&治療ガイドラインをご一読されればすぐ分かります。どこにも記載されている言葉ではありません。アトピーの発生機序は、最近北大皮膚科が皮膚の角層に日本特有のフィラグリン遺伝子多型を30%の症例に発見以来、バリア機能の破綻が発症の第一要因とされました。これに伴い、環境にいるダニやハウスダストが経皮的に侵入してアレルギー炎症が生じるのです。但し乳児は卵など食事の関与が強い時期ですし、年齢的&季節的にアレルゲンや増悪因子は変化します。また最近ではフィラグリン遺伝子多型がなく血清IgE値が正常&主に金属アレルギー関与が示唆される内因性という概念も出ていますし、現代人が抱える心理的なストレスも大きな要因の一つです。またいくつかの要因が複雑に絡み合い病態を複雑にしています。酸化が皮膚の老化以外に種々の炎症を起こすことは知られています。同じ論理で四国の方では活性酸素の除去を目的とした外用剤や内服を行っています。理論は同じで酸素の毒を取り除くというもので、当初大した効果はありませんでした。そこでステロイドを外用剤に混ぜるようになりました。アトピーの機序はすでにお話したように実に複雑で、単に酸素の毒を抑えられても寛解できるか疑問です。理論とシェーマと治療前後の臨床写真だけで基礎的な実験データがありません。ところで、以前中国で何にもよく効く漢方薬がネット上で評判になり日本のアトピー患者も購入者が続発しました。とにかくステロイド張りのすごい臨床効果なのです。そこで成分を調査したところ、何と最強のステロイドが入っていたのです。われわれ専門家でも滅多に使用しない最強のステロイド入りとは驚きです。本当に良い薬は正式に承認され薬価が付きます、新薬の欲しい薬品会社がほっとくわけはありません。入院療法の期間アトピー性皮膚炎に対する治療として「入院療法」が紹介されていましたが、入院期間はどの程度必要なのでしょうか?全国で少数ですが入院療法を当科のように展開しているところはあります。ばらばらで決まり残念ながらありません。治療ガイドラインをみても、マニュアル通りの治療で効果のない場合は入院とありますが期間に関する記載はありません。以前私のいた横浜労災病院では徹底的に良くなるまで入院させました。全国から多数の患者さんが来られたので皮膚症状や検査所見の改善、試験外泊で悪化症状のなしを目安にしたところ平均26.5日という入院期間でした。入院後のアンケート結果をみると、退院時の皮膚症状は改善以上の有効率は93.3%で極めて高く、不変や悪化例はいません。また、調査時の皮膚症状に関しても88.1%と高率に症状が改善維持できていることが判明しました。一方で10%の患者さんが入院期間の長さを指摘、33.3%の方が悪化時の再入院を"出来れば外来で頑張りたい"と答えています。確かに仕事を持つ社会人が1ヶ月近く休むということは問題ですし、家庭を任された主婦そして通学、受験や試験などの問題を抱えた学生にとって長すぎます。そこで、東邦大学に来てからは2週間を原則に致しました。1週間で徹底的に皮膚症状を抑え、残りの1週間で安定化を図る。退院後しばらく頑張ればコントロールできると考えたからです。その結果は2月の東京支部学術大会で発表します。退院時の皮膚症状は改善以上の有効率は92%で極めて高く、調査時の皮膚症状に関しても76%の方が改善維持できていました。一方で9%の患者さんが入院期間の長さを指摘、43%の方が悪化時の再入院を"出来れば外来で頑張りたい"と答えています。重症度や対象患者の遠距離度が異なるかも知れませんが、平均年齢は30歳代と同様でした。やはり2週間でも患者さんにとって長すぎるのかもしれません。そこで次の裏付けデータをもとに1週間に減らしています。そのデータとは、質問3でお答えした入院前後で血中のコルチゾール値を測定した結果を参考にしました。重症度と血中コルチゾール値が相関するなら、入院時に正常値以下まで低下したものが何日入院すると正常値に戻るのか?入院期間と血中のコルチゾール値の推移で計算すると4.8日という値が出ました。そこで、約1週間の入院期間で一過性の副腎機能低下状態は改善できると判断しました。現在、極めて治しにくい重症度の極めて高い皮膚症状を有する例を除き、1週間の入院を基本として初診患者に説明しております。TNF-α阻害薬について乾癬の患者さんがTNF-α阻害薬での治療に興味をもっております。乾癬であれば全て有効なのでしょうか?また、感染症の発現が危惧されると聞きましたが、大橋病院さんではどのような体制で望んでいるのでしょうか?差し支えなければ、これまでの成績も含めて教えていただけると大変参考になります。この治療はどこの施設でも自由に行える訳ではありません。副作用として重要な感染症に対して、診療体制のとれる呼吸器内科医や放射線医の常勤が必要で、皮膚科学会に正式に申請してTNF-α阻害薬使用施設として認定される必要があります。TNF-α阻害薬は2種類あり、多少適応疾患が異なります。詳細は大橋病院皮膚科のホームページを参考にして頂くと役立ちます。本剤の副作用の最も多いのが感染症です。潜在的に持っている、感染しやすいものを発症させます。日本は結核が多く、治験段階で最も危惧されたところです。ところが、しっかりとした体制が奏功したのか肺結核はおらず、細菌性肺炎が見られています。致死的な副作用は今のところありません。勿論、私どもの症例も毎回診察していますが副作用はありません。対象は、重症、難治性&治療抵抗性の乾癬および関節症性乾癬の患者さんです。罹患部位が全身で外用剤のみでコントロール不良な症例、ネオーラルやチガソンの内服でも不安定ないしその薬剤の副作用で中止した例、関節症状のコントロール不良例、さらにステロイド外用剤による局所の副作用が生じている例などです。今後あちこちの施設から有用性のデータが報告されると思いますが、有用率90%は全国の諸施設で行った治験結果の驚異的な数字です。私の経験でとくに驚いたのが、関節症性乾癬の患者さん達です。その効果は患者さんのQOL向上に素晴らしいものです。但し、最大の難点が支払い額の高さです。高額療養費制度を用いて医療費が還付されますが、それでも負担金は極めて高く、投与前に概算を示し了解を得ないと継続した治療が受けられなくなります。また、今後判明してくると思いますが予後が問題です。投与中は良いのですが、中止できるのか再燃しやすいのか、検討課題だと思います。また新薬も開発中で楽しみです。ステロイドの安全塗布量、参考文献先生の記事を拝見して「ステロイドのガイドラインとして現在も使用されている安全塗布量は、40年以上前に海外でステロイドを使う必要のない正常な人を対象にして行われたデータで、その後の追試はありません。」ということを初めて知りました。大変びっくりしています。ステロイドの安全塗布量について他に参考になる文献等がありましたらご教示お願いします。本においてステロイド(ス)外用剤は1953年から登場し、現在までに30種類以上の外用剤が開発。薬効の強さから上位からI~V群の5つに分類され使用されています。幅広い皮膚疾患に有効で、従来まで治療法のなかった疾病の治療薬として大いに役立ったことは事実です。全身皮膚が障害し多量の外用を必要とする症例の中で、Cushing様症状、骨粗しょう症や小児の発育遅延など極めて少ない確率ですが起こることが判明。多量にス外用剤を使用例が突然中止すると、皮疹悪化以外に発熱、悪寒、悪心、嘔吐などの全身症状を呈するものを離脱反応、これは一種の副腎クリーゼの状態です。質問5でお答えした民間療法が横行した時期に、ス外用剤を中止してこの反応を起こしQOLが大幅に悪化、私どもの病院に入院した症例を数多く経験しました。外用を再開し症状を改善させました。全身的な副作用を知るには、主に視床下部-下垂体-副腎皮質機能がどの程度抑制されるのかをチェックします。日常で処方される外用量、成人で10~30g/週程度では抑制は起こりません。この全身的な副作用に関しては1960~1970年代に精力的に研究されたのですが、それ以降はほとんど行われていません。薬効ランクⅢ群(リンデロン)を成人入院に1日30g、幼小児に1日13gと大量塗布した結果。1.副腎皮疹機能は一過性に生じるが、中止後1~2日で回復。2.症例によっては継続中でも抑制が回復。その理由は、皮膚が改善して経皮吸収率が低下する。3.密封療法を行うと経皮吸収率が高まり、臨床効果も上がるが抑制は顕著となる。4.小児では成人より抑制は起こりやすいので強い薬効ランクのものは控える。また、外用方法として1日5~10gで開始し、症状に合わせて漸減し3ヶ月間使用しても、一過性&可逆性の抑制は生じても不可逆性の抑制は生じないとされています。私どもの入院を要する重症例では1日12gも投与しましたが、抑制例は2例と少なくしかも正常範囲内で何ら身体的にも問題は起きませんでした。それどころが、正常値以下に抑制された症例の多くが逆に正常に復したという事実は大きな驚きでした。十分な診察もせず漫然と使い続けるのではなく、メリとハリの要領で使用量や部位別に上手に使うことが大切です。最近外来で勧めているのがプロアクティブ治療です。適切な薬剤で十分量の使用で寛解状態を作り、その後すぐに休薬するのではなく、週2回は外用することで再燃効果を大幅に減少することが出来ます。何も全身同時に開始することはありません。顔からでも、腕からでも良くなった場所はスタートO.K !眼に見えない副作用に怯えることなく、上手に使うことが重要なのです。尋常性ざ瘡(にきび)の食事療法について最近、20~30代の女性の患者様から肌に関するちょっとした質問を受けます。医者なので、ある程度はアドバイスしてあげたいのですが、尋常性ざ瘡の方の食事に気をつけることや最近の新しい治療の動向を、他科医師として知っておくべき事はありますでしょうか?御教示よろしくお願いします。一般的によく言われていることですが、甘いものや脂っこいものは避けるべきです。スナック菓子も同様です。ただ、肌に良くないからといって全部やめようと話しても難しいと思います。食べる回数や量を減らすことが大切です。また女性には生理があります。ホルモンバランスの変化する生理前に悪化する例が多く、イライラする精神的なストレス以外にヤケ食いや飲酒など食生活が悪化要因の場合があります。ディフェリンと言う新しいにきび用の外用薬が発売されています。効果は従来品のアクアチムクリームやダラシンゲルより期待出来ます。但し、皮膚のカサツキがでる場合がありますので注意して下さい。基本的なこととして、入浴時の洗顔が大切です。オイリー肌用の石鹸で十分に洗うこと、とくにベタツク&症状の強い部位は2度洗いを勧めます。入浴後、ご自身の肌にあった化粧水を塗るとかさつきは予防できますが、べたつくクリームやローションは毛穴をつぶしてしまうので禁止です。難治性の症例には、このほかピーリングが行なわれています。毛穴が詰まって角質の溜まった白ニキビや炎症の強い赤ニキビに有効です。自費診療になりますが、皮膚科専門医で行なっている施設は少なくありません。総括いろいろとご質問を頂き感謝しております。話すのは自信が多少あるのですが、文章では相手の理解度が伝わりません。また質問があれば聞いて下さい。実は私が大橋病院ホームページ委員会の責任者なのですが、機械音痴と雑用が多く皮膚科ホームページの更新が遅れ気味なのです。時間があるときに更新いたしますので、時々見て下さい。研修希望者に:どんどん大橋皮膚科を見学に来て下さい。大橋病院は歴史的な作りで驚くかもしれませんが、アットホームな環境で仲良く頑張っています。教える体制はしっかりしています。何をしたいのかをはっきり明示してそれが努力に値する仕事なら全面的にサポートします。ただ、まず皮膚科医としての基本を覚えなければいけません。皮膚科は奥が深く、自己完結型の科と言えます。ある程度オールラウンドの皮膚科医を目指し、その上で疑問、難問の解決を同時進行で行うと臨床が100倍楽しくなります。教授 向井秀樹先生「患者さんと真摯に向き合う中から病態は解明される」

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2015年へのカウントダウンに向け、妊婦、子どもの健康関連ODAは改善されたか?

2003~2008年の6年間で、開発途上国への妊婦、新生児、子どもの健康に関する政府開発援助(ODA)の供与額は増加したが、他の健康領域を含む総額も増加したため相対的に優先度には変化がないことが、イギリス・ロンドン大学公衆衛生学・熱帯医学大学院のCatherine Pitt氏らの調査で明らかとなった。効果的な介入を広範に行ってミレニアム開発目標(MDG)4(2015年までに5歳未満児の死亡率を1990年の水準の3分の1に削減する)およびMDG5A(2015年までに妊産婦の死亡率を1990年の水準の4分の1に削減する)を達成するには十分な資金が必要だが、2015年へのカウントダウンに向けた支援の優先国68ヵ国の多くがODAに依存しているのが現状だという。Lancet誌2010年10月30日号(オンライン版2010年9月17日号)掲載の報告。ニーズが最も高い被援助国に対して供与すべきODAを調査研究グループは、2007年と2008年の妊婦、新生児、子どもの健康に対する援助の流れ、および以前に実施された2003~2006年の予測の達成度を解析した。研究グループが開発したODAの追跡法を用いて、2007年と2008年の経済協力開発機構(OECD)の援助活動の完全データベースを手作業でコード化して解析を行った。援助供与額および推定人口の新たなデータを用いて、2003~2006年のデータを改訂。妊婦および子どもの健康に関するニーズが最も高い被援助国に対して、援助国はどの程度のODA供与の対象とすべきかを解析し、2003~2008年の6年間の傾向を調査した。2007、2008年の妊婦、子どもの健康関連OADの70%以上が優先国へ全開発途上国における妊婦、新生児、子どもの健康関連の活動への支援として、2007年に47億米ドル、2008年には54億米ドルが供与されていた(2008年の不変ドル換算)。これらの総額は2003年から2008年までに105%増加したが、健康関連ODAの総額も同じく105%増加したため相対的には不変であった。2015年へのカウントダウンの優先国は、2007年に34億米ドル、2008年には41億米ドルを受け取っており、これは妊婦、新生児、子どもの健康に対する全供与額のそれぞれ71.6%、75.6%に相当するものだった。妊婦および子どもの死亡率が高い国へのODAは6年間で改善されていたが、この期間を通じて、死亡率がより低く所得が高い国に比べ一人当たりのODAがはるかに低い国もあった。2003~2008年のワクチン予防接種世界同盟(GAVI Alliance)の基金および世界エイズ・結核・マラリア対策基金(Global Fund to Fight AIDS, Tuberculosis and Malaria)は、各国機関による中核的基金を上回っており、二国間共同基金も特にイギリスとアメリカによるものが著明に増加していた。著者は、「2003~2008年の妊婦、新生児、子どもの健康に対するODAの増加は歓迎すべきであり、より多くのニーズのある国へのODAの配分も多少改善している。にもかかわらず、これらの供与額の増加は他の健康分野に比べて優先順位が高くなったことを示すわけではない」と結論している。(菅野守:医学ライター)

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