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第164回 ワクチン否定派がコロナワクチン接種に踏み切った、ある薬の功罪

先日、久しぶりに会った友人から次のように言われた。「半年ほど肩こりがひどかったんだけど、近くのクリニックに行って薬をもらって飲んだら、驚くほど良くなってさ。本当にびっくり。いつもお前(筆者)に『薬を不当に悪者にするな』と言われていたけど、その意味がよくわかった」ちなみにこの友人は大の医療機関嫌い、薬嫌いである。もちろんワクチンはもってのほかという人物である。ただし、余計なワクチン陰謀論にはまっていないことだけは唯一の救いでもある。約1年前に会った時は新型コロナウイルス感染症のワクチンも接種していなかったが、この肩こりが治ったのを機に新型コロナワクチンを接種したと聞いて驚いた。これほど人は変わるものかと思いながら話を聞いていると、彼が微妙に引っかかることを口にした。「その肩こりの薬がすごいのよ。気分もすっきりしてさ」嫌な予感がした。さりげなく、どのような薬を飲んでいるのかを尋ねてみると、ごそごそとカバンから取り出して見せてくれた。ああ、やっぱりか。2錠ほどすでに服用済みのシートには、はっきりと「デパス0.5mg」と印刷されていた。精神安定薬のデパスこと、エチゾラムという薬そのものに罪はないし、個人的にもまったく恨みつらみもない。しかし、本連載の読者にはもはや言うまでもなく、依存をはじめとする問題が少なくない薬である。「うん? どうした? なんかまずい薬?」友人は私の表情の変化に気付いてしまったらしい。私がとっさに「まあ、効果が強めの薬だからね。肩こりが治ったのなら、次の受診の時に先生と話して、薬を終わりにするのも選択肢の1つかな」と言ったのに対し、「うん、そのつもり。治ったのに薬を飲み続ける必要もないしね」とにっこり笑ったのを見て、少し安堵した。しかし、非医療従事者と医療の話をするのは本当に難しい。とりわけこの友人のように医療不信を根底に抱えた人だと余計に気を遣う。しかも、この薬がきっかけで、今まで拒否していた新型コロナワクチンの接種まで至ったならば、なおさらである。そんなこんなで久しぶりにNDBオープンデータを開いてみた。最新の令和2年度のレセプト情報によると、デパスの汎用規格である0.5mg錠の外来(院外)処方量は約2億5,334万錠。同データの精神神経用剤の分類では堂々の第1位である。この数字は年々減少してはいるが、ジェネリック品(以下、GE)で最も処方が多いエチゾラム錠0.5mg「トーワ」の外来(院外)処方量が約9,830万錠であり、先発品であるデパスはダブルスコアで上回っている。昨今のGE使用促進策、とくに後発医薬品調剤体制加算の影響で処方量の多い薬ほどGEに切り替えが進んでいる。GE登場から約半年で、数量ベースで先発品の約7割がGEに置き換わるというアメリカ市場に限りなく近い状況が日本でも珍しくなくなった。にもかかわらず、デパスについてはこの“有様”である。念のためNDBオープンデータをざっと眺めまわしてみたが、GE登場から10年以上経過してもなお、先発品の処方量が、同一規格で適応症も同じGEの最多処方量の銘柄を上回っているのはデパスと認知症治療薬のアリセプトD錠5mg(一般名・ドネペジル)くらいだ。実際、過去に私がデパスの依存性問題を取材した際、「この薬の場合、GEに切り替えようとしても服用者が拒否をしがち。『デパスという名前が入っていないと嫌』とまで言われる」という趣旨の話を複数の薬剤師から聞かされている。まさにこれこそ依存の極みと言っても過言ではないだろう。そしてNDBオープンデータの性別・年齢別の処方量を見ると、相変わらず70~80代前半にボリュームゾーンがある。ざっくり言えば、現役世代の頃に服用し始めた人が依存性のために止められず、キャリーオーバーしていると捉えるのが最も妥当な解釈だろう。しかし、肩こりを訴えた現役世代にポンとこの種の薬が処方されてしまう現象がいまだあることにはやや首をかしげざるを得ない。そんなこんなをつらつら思ってしまったのは、厚生労働省で6月12日に開催された「医薬品の販売制度等に関する検討会」での議論に関する報道を目にしたからである。報道によると、同検討会では若年者で増加しているOTC薬の鎮咳薬や総合感冒薬の濫用問題に関して、防止策としてこれらOTC薬の“小包装化”を厚生労働省が提案。これに賛同する医師側委員などと、家庭内常備薬として大包装販売を訴える販売者側が意見対立したというもの。厚生労働省の提案には一理あるが、改めてこのデパスの問題に遭遇し、データで現実を俯瞰すると、それと同時というか、むしろその前にやらなければならないことがあるのでは? と思うのだが。

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第151回 はしか感染の拡大、ワクチン接種率低下に警鐘/国立感染症研究所

<先週の動き>1.はしか感染の拡大、ワクチン接種率低下に警鐘/国立感染症研究所2.骨太方針の原案、賃上げ継続と少子化対策を強化/経済財政諮問会議3.急性期充実体制加算未届け出の病院、手術実績が主な理由と判明/中医協4.新マイナンバーカード導入と母子健康手帳の統合を決定/内閣府5.ゲノム医療法が成立、ゲノム解析による新薬開発を促進へ/国会6.初の経口人工妊娠中絶薬、オンライン診療では処方不可、入院可能な有床施設で使用を/厚労省1.はしか感染の拡大、ワクチン接種率低下に警鐘/国立感染症研究所新型コロナウイルス感染の沈静化とともに、はしか感染が各地で相次いでいることが報じられている。国立感染症研究所などの報告によると、今年1月から6月1日までの感染者数は計11人に達しており、去年の報告者数を上回り、注意喚起を行っている。国内土着のウイルスの報告ではないため、新型コロナウイルスの水際対策の緩和により、海外から入国してきた渡航者によって持ち込まれたウイルスが広がったとされている。はしかは非常に感染力が強く、免疫がない大人でも重い症状が出ることがある。症状としては、高熱や発疹が現れ、肺炎や中耳炎を合併することもあり注意が必要。特別な治療薬はなく、先進国でも千人に1人が死亡すると言われ、感染は空気感染や飛沫感染、接触感染によって広がる。わが国ではワクチン接種が進んでおり、世界保健機関(WHO)も「排除状態」と認定しているが、入国制限の緩和に伴い、茨城、東京、神奈川、大阪、兵庫などで感染者が報告されている。専門家は接種率の低下と感染者増加の関連性を指摘し、ワクチン接種を呼びかけている。とくに1回目の接種率が93.5%、2回目の接種率が93.8%であり、前年度より減少していることが指摘され、未接種者への対応が急がれる。参考1)【医療機関のみなさまへ】麻しん発生状況に関する注意喚起[2023年5月23日現在](国立感染症研究所)2)はしか感染、各地で相次ぐ 専門家「大人でも重い症状」(日経新聞)3)大阪市で2人のはしか感染確認 2020年以来(毎日新聞)4)はしか急増中!ワクチン2回打ってる?大人世代は特に要注意!23歳~51歳に迫る危機(毎日放送) 2.骨太方針の原案、賃上げ継続と少子化対策を強化/経済財政諮問会議政府の経済財政諮問会議は7日、「経済財政運営と改革の基本方針2023」(骨太方針)の原案を示した。新型コロナウイルス感染症の対応から一転して、財政健全化への姿勢を強調する内容となった。また、長年据え置かれてきた賃金の引き上げを持続的なものとし、中間層の復活を促すために、リスキリング支援や税制対応策などの具体策も含まれている。さらに子ども・子育て政策も抜本的に強化され、少子化の傾向を反転させる政策の充実を図るとしている。医療面では、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが5類に変更されたことに伴い、医療体制、公費支援など段階的に通常体制へ移行を進めるとともに、来年度の診療報酬と介護報酬の同時改定で、物価高騰や賃金の引き上げへの対応、患者負担の抑制を踏まえ、「必要な対応」を取る方向性を盛り込んだ。そのほか、医薬品については、革新的な医薬品の開発強化などイノベーションを推進する一方、長期収載品などの自己負担のあり方の見直し、バイオシミラーの使用促進、後発医薬品などの安定供給確保、後発医薬品の産業構造の見直しを盛り込んでいる。一方、財政の健全性を保つために黒字化目標は維持しつつ、中期的な経済財政の枠組み作りのための検証も行われる。この原案は与党との調整を経て、今月中に閣議決定される予定。参考1)経済財政運営と改革の基本方針2023(仮称)原案(経済財政諮問会議)2)物価高と患者負担抑制への対応を併記、骨太原案 24年度のトリプル改定で(CB news)3)「骨太の方針」原案 “賃上げ持続” “少子化反転へ対策強化”(NHK)4)コロナで緩んだ財政を「平時に」 骨太の原案、社会保障費減に懸念も(朝日新聞)3.急性期充実体制加算未届け出の病院、手術実績が主な理由と判明/中医協厚生労働省は、6月8日に中央社会保険医療協議会の「入院・外来医療等の調査・評価分科会」を開催した。この中で、令和4年度に行われた実態調査の結果報告が行われ、2022年度の診療報酬改定で新設された施設基準の「急性期充実体制加算」を届け出ていない病院が、取得できない理由として「手術実績」が主な理由であることが明らかにされた。届け出をしていない理由について病床規模別に集計したところ、200床以上の病院で手術実績を挙げる割合が最も高かった。また、急性期充実体制加算の未取得の400床以上の病院では「門内薬局、敷地内薬局」が設置されているためと回答する施設もあった。急性期充実体制加算は、手術件数の実績や感染防止対策、早期回復などが要件とされており、加算を届け出ている病院の方が入院期間が短く、病床利用率が高い傾向もみられた。急性期充実体制加算と総合入院体制加算とは、一方の算定しか認められないため、「どちらの加算を取得すべきか」を悩む病院も少なくないが、より点数の高い「急性期充実体制加算」に移行を選択して、「総合入院体制加算」で要件となっていた分娩対応・精神科対応を廃止する病院が一部にあることが問題視されている。参考1)令和5年度 第2回 入院・外来医療等の調査・評価分科会(厚労省)2)急性期充実加算、届け出の課題「手術実績」「200-399床」「400床以上」でトップに(CB news)3)スーパーICU評価の【重症患者対応体制強化加算】、「看護配置に含めない看護師2名以上配置」等が大きなハードル-入院・外来医療分科会(2)(Gem Med)4.新マイナンバーカード導入と母子健康手帳の統合を決定/内閣府6月9日に政府はデジタル施策に関する「重点計画」を閣議決定した。重点計画では、2026年中にプライバシーに配慮した新しいマイナンバーカード(マイナカード)を導入し、今年度中に母子健康手帳とマイナカードの一体化を一部自治体で始めることが盛り込まれているほか、マイナンバー制度におけるトラブルに対応するための安全対策も取り入れられている。また、各種証明書との一体化も計画されており、健康保険証は2024年秋に廃止され、運転免許証の機能もマイナカードに統合される。今後は、マイナカードの利用機会を拡大し、トラブルに対しては万全の対策を実施する。さらに、オンラインでの本人確認にもマイナカードを使用する方針が示された。参考1)令和5年度「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(デジタル庁)2)今回の「デジタル社会の実現に向けた重点計画」の主なポイント(同)3)母子手帳、免許証…マイナとの一体化が続々 「重点計画」閣議決定(朝日新聞)4)マイナカード利用機会拡大 26年に新カード発行、閣議決定(東京新聞)5.ゲノム医療法が成立、ゲノム解析による新薬開発を促進へ/国会6月9日、遺伝情報を活用したゲノム医療の推進と差別防止を目指す「ゲノム医療法」が与野党の賛成多数により参院本会議で可決・成立した。この法律は遺伝情報に基づく治療の推進と差別の防止を目指しており、ゲノム医療の研究と開発を進め、遺伝情報や健康情報の管理・活用の基盤整備を行う。法律には、医師や研究者がゲノム情報の取得や管理に関して守るべき指針も含まれている。ゲノム医療は、個人の遺伝情報を解析し、病気の診断や最適な治療法や薬の選択に役立つ一方、保険や雇用、結婚などでの差別や不利益の懸念があり、とくにがん患者の40%以上が懸念を示しており、3%以上が遺伝情報による差別的な扱いを経験したと回答している。遺伝情報に基づく差別などに対しては、罰則のある法律が必要とする意見もあり、具体的な事例や罰則の必要性について検討が進められることが期待されている。参考1)良質かつ適切なゲノム医療を国民が安心して受けられるようにするための施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律案(参議院)2)ゲノム医療法成立…難病治療・遺伝差別防止 国費投入(読売新聞)3)ゲノム医療法 参院本会議で可決・成立 差別防止なども掲げる(NHK)6.初の経口人工妊娠中絶薬、オンライン診療では処方不可、入院可能な有床施設で使用を/厚労省厚生労働省は、国内で初めて承認された経口の中絶薬「メフィーゴパック」(一般名:ミフェプリストン/ミソプロストール)について、母体保護法指定医師の確認下での投与が必要であり、病院や有床診療所での使用が必要であると発表した。この薬はオンライン診療では処方できず、緊急対応が可能な施設で使用する必要がある。厚労省は適正な使用体制を確立するまで、「入院可能な有床施設」での使用を求めている。また、医療現場に対しては、適切な管理と医療連携体制の確立を呼びかけている。この経口中絶薬には重大な副作用のリスクがあり、使用者は下腹部痛、嘔吐、重度の子宮出血、感染症などに注意する必要がある。厚労省は使用者向けに留意事項を示し、オンライン診療ではなく医療機関に来院する必要があることを強調している。参考1)いわゆる経口中絶薬「メフィーゴパック」の適正使用等について(厚労省)2)ミフェプリストン及びミソプロストール製剤の使用にあたっての留意事項について(同)3)初の経口人工妊娠中絶薬、厳格運用で慎重スタート(産経新聞)4)経口の中絶薬「メフィーゴパック」、母体保護法指定医師の確認下で、病院・有床診での投与が必要、オンライン診療で処方不可?厚労省(Gem Med)

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事例025 レボフロキサシン錠の査定【斬らレセプト シーズン3】

解説再燃を繰り返す尿路感染症の患者に抗菌薬のレボフロキサシン錠(一般名:レボフロキサシン水和物、以下「同錠」)を処方したところ、D事由(告示・通知の算定要件に合致していないと認められるもの)にて査定となりました。同錠の添付文書をみてみると、必ず1日量を1回で投与することが求められているのみで、投与日数は適宜増減と記載されています。カルテをみると、初診時以降は細菌感受性検査などが行われておらず、再来時には同錠7日分が繰り返し処方されていました。「再燃」のコメントも入っています。投与日数の適宜増減から考えると問題が無いようにみえます。しかしながら、抗菌薬の使用目的は炎症を鎮めるためであり、耐性菌を防ぐために最小限の使用が求められます。過去の事例を見返したところ、ある返戻の理由に「尿路感染症に対する抗生剤・抗菌剤の算定は、診療開始日から2週間程度が基本となります。尿路感染症を繰り返す症例については診療開始日にご留意ください」と注意喚起されていたものをみつけました。今回の事例では、診療開始日が古いにもかかわらず、検査もなく繰り返し同一の抗菌薬が処方されていたため、「再燃」がコメントされていたとしても漫然投与とみなされ査定になったものと推測できます。今後の対応として医師には、今回のような投与を行った場合には、病名開始日を新しくしたうえで、病名に「増悪」「再燃」などを付けること、もしくはコメントを追加していただくようにお願いして査定対策としました。

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コロナ感染2年後、18%に罹患後症状/BMJ

 感染前にワクチン未接種であった重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染者の約18%に、感染後2年まで新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の罹患後症状が認められ、未感染者と比較して感染者には症状の過剰リスクがあることが、スイス・チューリッヒ大学のTala Ballouz氏らが実施した「Zurich SARS-CoV-2 Cohort研究」のデータ解析で示された。研究の成果は、BMJ誌2023年5月31日号で報告された。スイスの人口ベースの前向き縦断コホート研究 Zurich SARS-CoV-2 Cohort研究は、スイス・チューリッヒ州の一般住民を対象とする進行中の前向き縦断コホート研究である。研究グループは同データを用いて、SARS-CoV-2感染者における罹患後症状に関連する長期的な症状および健康アウトカムの評価を行った(Swiss School of Public Health[SSPH+]の助成を受けた)。 SARS-CoV-2感染が確認された感染前ワクチン未接種の成人参加者1,106例(年齢中央値50.0歳[四分位範囲[IQR]:35.0~66.0]、女性51.2%)と、未感染の成人参加者628例(65.0歳[45.0~72.0]、51.3%)が解析に含まれた。 主要アウトカムは、感染から6、12、18、24ヵ月時点の自己報告による健康状態およびCOVID-19関連症状の推移と、未感染の参加者と比較した感染後6ヵ月時点での症状の過剰リスクであった。1割以上が無症状と有症状を交互に繰り返した SARS-CoV-2感染から6ヵ月の時点で、感染者の22.9%(95%信頼区間[CI]:20.4~25.6)が、完全に回復していないと報告した。その後、未回復と報告した患者の割合は、12ヵ月時には18.5%(16.2~21.1)、24ヵ月時には17.2%(14.0~20.8)へと減少した。 自己報告による健康状態の変化の評価では、多くの感染者が経時的に、回復を続けている(68.4%、95%CI:63.8~72.6)か、全体として改善している(13.5%、10.6~17.2)と答えた。一方、5.2%(3.5~7.7)は健康状態が悪化している、4.4%(2.9~6.7)は回復と健康障害を繰り返していると報告した。 また、経時的に、COVID-19関連症状の点有病率も減少し、重症度は軽減した。24ヵ月の時点で、症状を訴えたのは18.1%(95%CI:14.8~21.9)だった。 感染者の8.9%(95%CI:6.5~11.2)が、フォローアップの4つの時点(6、12、18、24ヵ月)のすべてで症状を報告し、12.5%(9.8~15.9)は、無症状と有症状の時期を交互に繰り返していた。味覚・嗅覚の変化や労作後倦怠感などの過剰リスクが高い 症状の有病率は、6ヵ月の時点で感染している参加者のほうが、この時点で未感染の参加者よりも高かった(補正後群間リスク差:17.0%、95%CI:11.5~22.4)。 未感染者と比較した感染者における個々の症状の過剰リスク(補正後群間リスク差)は、2~10%の範囲であった。感染者で最も過剰リスクが高かった症状は、味覚・嗅覚の変化(9.8%、95%CI:7.7~11.8)、労作後倦怠感(PEM)(9.4%、6.1~12.7)、集中力低下(8.3%、6.0~10.7)、呼吸困難(7.8%、5.2~10.4)、記憶障害(5.7%、3.5~7.9)、疲労(5.4%、1.2~9.5)の順であった。 著者は、「COVID-19の罹患後症状の負担軽減に資する、効果的な介入法を確立するための臨床試験が求められる」としている。

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コロナ罹患後症状、スコアに基づく定義を提案/JAMA

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染後に生じる持続的であり再発を繰り返す、あるいは新規の症状は、罹患後症状(postacute sequelae of SARS-CoV-2 infection:PASC)と呼ばれ、long COVIDとしても知られている。米国・マサチューセッツ総合病院のTanayott Thaweethai氏らは、米国国立衛生研究所(NIH)によるRECOVER(Researching COVID to Enhance Recovery)Initiativeの一環として、RECOVER成人コホート9,764例のデータを解析し、SARS-CoV-2感染者では非感染者と比較して37症状が感染後6ヵ月以上の時点で多く認められ、このうち12症状の症状スコアに基づき、PASCを定義する予備的ルールを開発した。著者は、「PASCの実用的な定義のためには、他の臨床的特徴をさらに組み込み反復的な改良が必要である」とまとめている。JAMA誌オンライン版2023年5月25日号掲載の報告。NHIによるRECOVER成人コホートのデータを解析 研究グループは、米国の33州とワシントンDC、ならびにプエルトリコの85施設(病院、保健所、地域団体)において、18歳以上のSARS-CoV-2感染者および非感染者を登録し(RECOVER成人コホート)、前向き観察コホート研究を行った。登録は現在も行われており、今回の解析は2023年4月10日以前に登録された参加者を解析コホートとした。 感染者は、COVID-19の疑い、可能性および確定のWHO基準を満たしていることとし、COVID-19発症日またはSARS-CoV-2検査陽性日を指標日とした。また、非感染者は、SARS-CoV-2感染歴がなく、過去のSARS-CoV-2検査が陰性であった日を指標日とした。参加者は受診および遠隔により症状調査を受け、指標日から6ヵ月以上後の調査を完了している参加者を解析対象とした。 主要アウトカムは、参加者が報告した44の症状の有無で、これらの症状を用いてPASCを特定する予備的定義を作成し、PASCの頻度について解析した。PASCスコアに寄与する12症状を特定 解析対象は、適格基準を満たした9,764例(感染者8,646例、非感染者1,118例)。対象集団の背景は、女性71%、ヒスパニック/ラテン系16%、非ヒスパニック系黒人15%、年齢中央値47歳(四分位範囲[IQR]:35~60)であった。 全体において、44症状のうち、37症状が頻度2.5%以上かつ補正後オッズ比1.5以上(感染者vs.非感染者)であった。頻度(重症度閾値を使用)の絶対差が15%以上の症状は、労作後倦怠感(PEM)、疲労、浮動性めまい、ブレインフォグおよび消化管症状であった。 37の各症状に推定係数に基づいてスコアを割り付け、PASCを特定するためのスコア閾値を求めた結果、12の症状(労作後倦怠感、疲労、ブレインフォグ、浮動性めまい、消化管症状、動悸、性的欲求・性機能の変化、嗅覚・味覚の喪失または変化、口渇、慢性咳嗽、胸痛、異常行動)が特定され、各症状のスコアは1~8で、PASCスコアの閾値は合計12点以上であった。 2021年12月1日以降(オミクロン株流行期)に初感染し、感染後30日以内に登録された参加者2,231例のうち、6ヵ月時点でのPASC陽性者は224例(10%、95%信頼区間:8.8~11)であった。

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γ-GTPが高い、アルコール性肝障害の可能性は?

 大塚製薬主催のプレスセミナー(5月22日開催)において、吉治 仁志氏(奈良県立医科大学消化器内科学 教授)が「肝機能異常を指摘されたときの対処法」について講演し、アルコール性肝障害を疑うポイントやかかりつけ患者に対する対応法ついて解説を行った。病院の受診を検討すべきタイミングなどの基準、また減酒治療を検討する基準は? 肝機能障害は“人間ドック受診者の3人に1人が指摘を受ける項目”と言われており、臓器治療としては断酒治療が最も有効だが、ハードルが高い患者さんには「断酒をいきなり強く求めると治療が続かないことが多く、その場合まずは減酒から始める」と吉治氏は話した。医学界では各学会が「熊本宣言 HbA1c7%未満」「stop-CKD eGFR60未満」などのスローガンを掲げて市民に対して疾患啓発を行っている一方で、肝機能については提言が存在しなかった。そこで、日本肝臓学会は6月15、16日に開催される『第59回日本肝臓学会総会』にて“Stop CLD(Chronic liver disease) ALT over 30U/L”(ALTが30を超えたらかかりつけ医を受診しましょう)を『奈良宣言』として掲げることにしたという。この数値の根拠ついて「この値は特定健診基準や日本人間ドック協会のALTの保健指導判定値であり、日本のみならず脂肪肝がとくに問題になっている米国でも医師への相談基準」とコメントした。 このほかに、「飲酒習慣スクリーニングテスト」(AUDIT:The Alcohol Use Disorders Identification Test)において15点超ではアルコール依存症が疑われるが「それを満たさない段階(8~14点)でも減酒支援を行う必要がある」とも話した。健診で「γ-GTPが高い」と言われた。アルコール性肝障害の可能性は? γ-GTPはアルコールだけではなく、脂肪が蓄積した脂肪肝の状態、胆汁の流れが悪くなった場合(胆石・膵臓がんなど)でも上昇するが、アルコールに起因する場合は、AST(GOT)やALT(GPT)も異常値が出るのでそれらの数値を併せて確認することが基本となる。なお、“アルコール性”の定義は『長期(通常は5年以上)にわたる過剰の飲酒が肝障害の原因と考えられる病態』で、以下のような条件を満たすものを指す。<アルコール性の定義を満たす条件>1)過剰の飲酒とは、1日平均純エタノール60g以上の飲酒(常習飲酒家)をいう。ただし女性やALDH2欠損者では、1日40g程度の飲酒でもアルコール性肝障害を起こしうる。2)禁酒により、血清AST、ALTおよびγ-GTPが明らかに改善する。3)肝炎ウイルスマーカー、抗ミトコンドリア抗体、抗核抗体がいずれも陰性である。 また、アルコール性肝障害は性差も関わる。近年、女性の飲酒率は増加傾向だが、男性との体格差があるため、同じ飲酒量ではより過剰になってしまうことにも注意が必要だ。同氏は「実際に女性は男性に比べて2/3程度の飲酒量で肝障害が出現することも明らかになっている」と話した。 このような疾患を予防するためには“正確な飲酒量の把握”が最も重要で、本人の過少申告を防ぐためにも家族・知人から聴取することが必要不可欠となる。そのほかにも「肝機能の低下が他臓器の治療介入にも影響を及ぼすことから早期治療を促すことも大切」と説明した。アルコール性肝障害は将来的にどんなリスクがある? 日本人のアルコール関連死因の中で肝・消化器関連は87%と最も多い。しかもコロナの影響を受け、在宅時間の長さに伴い飲酒量も増えて肝・膵疾患が著明に増加している1)。ほんの10年前までは肝硬変や肝がんの原因と言えばウイルス性肝炎が8~9割を占めていたが、治療方法が確立した昨今ではB型/C型肝炎以外の疾患によるものが半数以上を占め、アルコールが起因している例が増えている2)。また、肝炎治療によりウイルスを排除できた後でもアルコール摂取によって、肝がん発症リスクが増加することも報告3)されている。 また、アルコールによってサルコペニアが進行すると言われているが、一方で「サルコペニアが肝疾患患者の生命予後を悪化させてしまう。このような状況において、診療ガイドがない点が長年の課題だったが、2022年に『アルコール性肝障害(アルコール関連肝疾患)診療ガイド』がついに発刊された」と話した。 なお、海外ではアルコール性肝障害=アルコール依存症を想起することが問題視されていることから、国内でも将来的には「アルコール・リレイテッド」と表現されるようになるかもしれない。減酒治療をするにはどこに受診したらよい? 受診先について同氏は「断酒・禁酒をすることが一番の治療法であるため、精神科の先生に相談することがベストであるが、かかりつけ医はいるけれど健診結果の専門的な相談まではできていないという場合も多いと思われる。2021年から一般内科医も日本アルコール・アディクション医学会および日本肝臓学会が主催するeラーニング研修を受けることで、飲酒量低減薬を処方することが可能になった。そのため、医師の皆さまには、かかりつけ患者に健診結果でALTが30超であった場合には相談するように呼び掛けてほしい。そして、飲酒量が男性で60g/日以上、女性で40g/日以上かつAST・γ-GTP異常がある場合にはアルコール性肝障害を疑って専門医へコンサルテーションするようにお願いしたい」と述べ、「近隣の肝臓専門医は日本肝臓学会のホームページより検索することが可能なので、専門医紹介時にぜひ活用いただきたい」と締めくくった。

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エムポックス、ワクチン2回接種で優れた予防効果/NEJM

 全米の電子健康記録(EHR)データを用いた症例対照試験の結果、エムポックス(日本では2023年5月26日に感染症法上の名称を「サル痘」から「エムポックス」に変更)患者は対照患者よりも、天然痘/エムポックスワクチン(modified vaccinia Ankara[MVA]ワクチン、商品名:JYNNEOS、Bavarian Nordic)の1~2回接種を受けていないことが示唆された。米国疾病予防管理センター(CDC)のNicholas P. Deputy氏らが報告した。米国では2023年3月1日時点でエムポックスが3万例超報告され、とくにトランスジェンダー、ゲイ、バイセクシャル、男性間性交渉者で流行が認められている。JYNNEOSは、2019年にFDAが承認し(1回0.5mL皮下投与)、2022年8月9日には緊急使用(1回0.1mL皮内投与)が認められた。しかし、リアルワールドでの有効性データはいずれの投与についても限定的であった。NEJM誌オンライン版2023年5月18日号掲載の報告。エムポックス成人患者を症例群、HIV感染者を対照群として試験 研究グループは、Epic Researchの全米EHRデータベース「Cosmos」を基に症例対照試験を行い、医療ケアを要するエムポックス成人患者について、ワクチン接種の有効性を評価した。 症例群は、エムポックス診断コード、オルソポックスウイルスまたはエムポックスウイルス陽性の検査結果が認められた患者とした。対照群は、2022年8月15日~11月19日にHIV感染症の新規診断またはHIV感染の事前曝露予防薬の処方が確認された患者とした。 条件付きロジスティック回帰モデルで、交絡因子補正後のオッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を推定。ワクチン有効性は(1-症例群ワクチン接種ORと対照群ワクチン接種ORの比)×100で算出した。ワクチン2回接種シリーズの有効性は66.0% 症例群2,193例と対照群8,319例において、ワクチン2回接種(完全接種)を受けていたのは、症例群25例に対し対照群335例で、同集団の推定補正後ワクチン有効性は66.0%(95%CI:47.4~78.1)だった。 また、ワクチン1回接種(部分的接種)を受けていたのは、症例群146例、対照群1,000例で、同集団の推定補正後ワクチン有効性は35.8%(95%CI:22.1~47.1)だった。 筆者は、「今回の試験結果では、JYNNEOSワクチンはエムポックスの予防に有効であること、2回接種シリーズがより優れた予防効果をもたらすことが示唆された」とまとめている。

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喘息既往、CT所見から判断すべき追加検査は?【乗り切れ!アレルギー症状の初診対応】第2回

喘息既往、CT所見から判断すべき追加検査は?講師東海大学医学部 呼吸器内科学教授 浅野 浩一郎 氏【今回の症例】52歳の女性。35歳ごろに喘息を発症したが、中用量の吸入ステロイド薬治療でここ数年間の症状は安定していた。3ヵ月前から粘膿性喀痰を伴う咳嗽を自覚するようになった。撮影した胸部X線写真で、左下肺野の浸潤影を指摘された。発熱は認めない。末梢血白血球数9,000/μL(好中球48%、リンパ球18%、好酸球22%、単球12%)、血液生化学異常なし、CRP 1.38mg/dL、IgE 1,247 IU/mL。喀痰細菌培養陰性。胸部CTの所見を下に示す。追加で行うべき検査は何か?1.血清プロカルシトニン2.アスペルギルス・フミガーツスIgE3.鳥抗原IgG抗体4.MPO-ANCA

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第166回 現金給付と死亡率低下が関連

世界銀行の推定によると2019年には世界人口の10人に1人近く(8.4%)が極度の貧困の指標である1日当たり2.15ドル未満での暮らしを強いられていました1)。また、今や世界人口の70%を占める“中の上”(upper middle-income)所得国の人々の貧困の指標である1日当たり6.85ドル未満での生活を強いられている人の割合は世界の半数ほどの47%にも上ります。新型コロナウイルス感染症(以下「コロナ」)の流行で貧困層は拡大し、世界の極度の貧困者数は2020年に1億人近く(9,700万人超)増えたと推定されています。貧困を減らして治安を守る取り組みの1つとして100を超える低~中所得国が過去20年間に個人や家庭への現金給付を行いました。コロナ流行中に現金給付の裾野はさらに広がりました。世界銀行の昨年(2022年)2月の報告によると203ヵ国での962種類の現金給付のうち672の取り組みはコロナ流行中に新たに導入されたものであり、世界人口の実に17%に相当する13.6億人がコロナ流行中に現金給付を受け取ったと推定されています。政府が運営する大規模な現金給付は貧困の減少に成功し、受給者の経済的自立、就学、小児の栄養、女性の地位向上、保健サービス使用の改善をもたらしています。また、現金給付の導入で新たな感染症が減ったこともいくつかの試験で示されています。現金給付のそういった数々の効果が明らかになっている一方で究極の転帰である死亡率への効果はあまりはっきりしていません。そこで米国・ペンシルバニア大学のチームは低~中所得の37ヵ国の2000~19年の小児や成人700万人超の記録を使って現金給付の死亡率への影響を検討しました2,3)。それら37ヵ国のうち29ヵ国はサハラ以南のアフリカ、3ヵ国はラテンアメリカとカリブ諸国、4ヵ国はアジアパシフィック地域、1ヵ国は北アフリカに位置します。調査期間に成人約433万人(432万5,484人)と小児約287万人(286万7,940人)のうちそれぞれ約13万人(12万6,714人)と約16万人(16万2,488人)が死亡し、解析の結果、現金給付は成人女性の死亡率の20%低下、5歳未満小児の死亡率の8%低下と関連しました。現金をよりあまねく給付することやより高額を給付することは死亡率の一層の低下をもたらしました。現金給付と死亡率低下の関連が男性に認められず女性に限られたのは妊娠関連死亡の大幅な低下が主な要因でした。今回の解析で認められた幼い小児の死亡率低下も加味すると現金給付による貧困の減少は若い家族をとりわけ助けるのでしょう。現金給付などの貧困防止の取り組みで世間の人々の健康を改善して死亡を減らしうることを今回の解析は裏付けています。参考1)Half of the global population lives on less than US$6.85 per person per day / World Bank2)Richterman A et al. Nature. 2023 May 31. [Epub ahead of print]3)Social science: Cash transfer programmes reduce risk of death in low- and middle-income countries / Nature

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第150回 改正マイナンバー法可決、来年秋に健康保険証は廃止、マイナンバーカードに1本化/国会

<先週の動き>1.改正マイナンバー法可決、来年秋に健康保険証は廃止、マイナンバーカードに1本化/国会2.コロナの検査数の水増しで183億円の補助金請求、取り消しへ/東京都3.電子カルテ共有化を2024年度から開始/医療DX推進本部4.30年ぶりに看護師の確保指針を初改定へ/厚労省5.2025年までに地域医療構想の実現を確実に/経済財政諮問会議6.子宮頸がん予防に関する報告書を国立がん研究センターが公表1.改正マイナンバー法可決、来年秋に健康保険証は廃止、マイナンバーカードに1本化/国会2024年秋に現行の健康保険証が廃止され、マイナンバーカードと1本化する、改正マイナンバー法など改正関連法が6月2日に、参議院本会議で賛成多数で可決、成立した。これにより「マイナ保険証」が導入され、高齢者や障害者などマイナカードの取得が困難な人々には「資格確認書」が発行される。また、マイナンバー法の改正により、マイナンバーカードは年金受給者の預貯金口座とひもづけられるほか、行政機関がマイナンバーを活用できる範囲が広がることも含まれている。その一方で、マイナ保険証に他人の情報と誤ってひもづけされるトラブルが相次いでいる問題に関しては、再発防止が求められている。参考1)マイナンバー法等の一部改正法案について(厚労省)2)いまの健康保険証、24年秋に原則廃止 改正マイナンバー法が成立(朝日新聞)3)マイナンバーカードと健康保険証が一体化へ 改正法可決・成立(NHK)2.コロナの検査数の水増しで183億円の補助金請求、取り消しへ/東京都東京都の新型コロナウイルスのPCR検査などの無料検査事業で不正が発覚し、11の事業者に対して補助金交付の取り消しなどの処置が行われたことが明らかとなった。東京都によると、新型コロナウイルスの無料検査事業で初の不正発覚となった。不正を行った事業者は検査数の水増しを行い、補助金を不正に受け取ろうとしたとされ、不正に申請された額はおよそ183億円で、そのうち17億円がすでに交付されていた。東京都は補助金を受け取った事業者に対して返還命令を出した上で、不正な申請をした11の事業者には、補助金交付決定の取り消しなどを行っている。参考1)令和4年度PCR等検査無料化事業補助金 交付決定の取消し等について(東京都)2)無料PCR検査で11業者が不正 183億円補助取り消し 東京都(朝日新聞)3)東京都のコロナ無料検査事業、不正申請183億円(日経新聞)3.電子カルテ共有化を2024年度から開始/医療DX推進本部政府は、6月2日に医療分野のデジタル化を議論する第2回医療DX推進本部を首相官邸で開催し、「医療DX」の工程表を発表した。2024年度から「全国医療情報プラットフォーム」を順次運用し、全国の医療機関や薬局で電子カルテの情報の共有を開始する。さらに電子カルテの導入を推進し、30年までにほぼすべての医療機関での導入を目指す。24年度中にプラットフォームを構築し、調剤情報など共有できる情報を徐々に増やしていくほか、電子カルテの導入については、厚生労働省は診療所などが使いやすい標準型の電子カルテの規格を定め、2030年までにほぼすべての医療機関で導入を完了し、電子カルテの情報共有がすべての医療機関で可能となるようにする予定。また、来年度の診療報酬改定に向けて、医療機関の事務作業の効率化を図るため、共通のプログラムを開発し、コスト削減に取り組む。診療報酬改定DXは、2026年度から本格的に実施し、診療報酬の算定や患者の窓口負担の自動計算を行う共通算定モジュールが提供される。参考1)第2回 医療DX推進本部(内閣府)2)医療DX加速へ 全国で患者情報共有 24年度からシステム稼働(朝日新聞)3)電子カルテ情報、来年度から共有 政府が医療DX工程表(日経新聞)4.30年ぶりに看護師の確保指針を初改定へ/厚労省厚生労働省は、5月29日に医道審議会・保健師助産師看護師分科会の検討部会を開催し、策定から約30年間、1度も見直しをしていない「看護婦等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針」の改正に向け、議論を始めた。現行指針は1992年に制定され、看護師の人材確保や養成、処遇改善、資質向上、就業促進などが基本的な方針として記載されている。しかし、看護現場の状況が変わっているため、改定が求められており、自民党の厚生労働部会・看護問題小委員会も指針改定を要望していた。部会では少子高齢化の進展に伴い看護師などの確保が非常に重要であり、新興感染症への対応も考慮して指針改定が決定された。議論は、今年秋に告示される基本指針の改正に向けて進められる。また、指針の名称も「看護『婦』等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針」から「看護『師』等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針」に改められる予定。参考1)第1回医道審議会保健師助産師看護師分科会看護師等確保基本指針検討部会(厚労省)2)看護師の確保指針を初改定へ 今秋にも、少子高齢化で(東京新聞)3)30年ぶりに「看護師等確保」基本指針見直し、少子高齢化が進む中での看護職員確保策、専門性向上支援策などが鍵-看護師確保基本指針検討部会(Gem Med)5.2025年までに地域医療構想の実現を確実に/経済財政諮問会議政府が5月26日に開催した経済財政諮問会議で、地域医療構想に関する議論が行われた。この中で、民間議員は実効性を担保するために法制上の措置を講じるべきだと主張、目標年限の2025年に向けて都道府県の権限強化だけでは不十分と指摘し、地域医療介護総合確保基金やかかりつけ医機能報告制度の見直しを求めた。さらに診療報酬・介護報酬改定にあたっては、タスク・シフト/シェアや地域包括ケアシステムの重要性を強調し、徹底した給付見直しを指示するよう要請した。さらに地域医療構想の実現や医療・介護提供体制の構築を進めるよう意見が出された。厚生労働省が5月25日に開催した「地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ」の資料によれば、公立・公的医療機関などで具体的対応方針の再検証が必要とされた医療機関については、対応方針の「検証済み」(「措置済み」を含む)の割合が、3月は医療機関単位58%、病床単位62%。昨年9月の53%、56%に比べて進捗が確認されている。参考1)社会保障分野における経済・財政一体改革の重点課題とマイナンバー制度の利活用拡大(経済財政諮問会議)2)地域医療構想調整会議における検討状況等調査の報告(厚労省)3)地域医療構想、協議・検証未開始は約3000施設 地域医療構想調整会議で外来・在宅医療の実態に即した議論も必要(日経メディカル)4)2025年度に全国の病床数総量は119万床で「必要量と一致」するが、地域ごとの過剰・過少がある―地域医療構想・医師確保計画WG(1)(Gem Med)6.子宮頸がん予防に関する報告書を国立がん研究センターが公表国立がん研究センターは、子宮頸がんの予防方法についての報告書を公表した。報告書では、HPVワクチンの接種と子宮頸がん検診の重要性を強調し、わが国では子宮頸がんの死亡率が他の先進国より高いことを指摘した。報告書によれば、近年の20~30代の若年層で子宮頸がんの発症率が上昇しており、HPV感染ががんの原因の95%を占めているという。しかし、依然として国内のHPVワクチンの接種率は低く、検診受診率も43.7%にとどまっている。報告書では、子宮頸がんは予防可能ながんであり、ワクチンと検診の両方を受ける必要があることを訴えている。本報告書は「ファクトシート」の名称で国立がん研究センターの下記のホームページで公開されている。参考1)子宮頸がんとその他のヒトパピローマウイルス(HPV) 関連がんの予防ファクトシート 20232)子宮頸がんの対策を 最新の報告書公表 国立がん研究センター(NHK)3)子宮頸がん、もっと知って 「ワクチン・検診で予防を」-高い死亡率・国立センター報告書(時事通信)

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麻疹・風疹の違いは?

麻疹・風疹の違いは?麻疹(はしか)風疹(3日はしか)原因ウイルス 麻疹ウイルス(Paramyxovirus科Morbillivirus属)風疹ウイルス(Togavirus科Rubivirus属)感染経路空気感染、飛沫感染、接触感染感染力が非常に強い飛沫感染感染力が強い(1人の感染者が12~17人感染させる)(1人の感染者が5~7人感染させる)潜伏期間10~12日間14~21日間症状発熱(38℃前後、発疹期は39.5℃以上)、上気道炎症状(せき、鼻みず、のどの痛み)、結膜炎症状(結膜充血、目やに、まぶしさ)、消化器症状(下痢、腹痛)、発疹、コプリック斑(口腔内の白色の小斑点)など発熱(約半数)、発疹、リンパ節の腫れが3つの特徴的な症状とされる関節炎が出る場合もある(成人の5~30%)麻疹より症状は軽く、無症状が15~30%注意が必要な合併症肺炎、脳炎、亜急性硬化性全脳炎(麻疹の二大死因は肺炎と脳炎)中耳炎、クループ症候群(喉頭炎、喉頭気管支炎など)、心筋炎など先天性風疹症候群(妊娠20週までの妊婦さんが感染すると、生まれた子が発症して、先天異常など、さまざまな症状があらわれる)血小板減少性紫斑病、急性脳炎分類5類感染症国立感染症研究所. 風疹とは(https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/430-rubella-intro.html)国立感染症研究所. 麻疹とは(https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/518-measles.html)より作成Copyright © 2023 CareNet,Inc. All rights reserved.麻疹・風疹の発生状況(2023年5月24日現在)麻疹風疹(例)(例)3,0003,0002,5002,5002,0002,0001,5001,5001,000165 18602,2981,0007445002,9415002791066126129102016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023年101121552016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023年国立感染症研究所. 感染症発生動向調査(IDWR):2023年5月24日現在(https://www.niid.go.jp/niid/ja/hassei/575-measles-doko.html)(https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ha/rubella.html)より作成Copyright © 2023 CareNet,Inc. All rights reserved.

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第47回 コロナ後遺症の新たな定義

定義を明確にすべきという論調Unsplashより使用日本ではCOVID-19後に持続的に起こる医学的な影響のことを「罹患後症状」と定めています。手引き1)では「COVID-19罹患後に、感染性は消失したにもかかわらず、他に明らかな原因がなく、急性期から持続する症状や、あるいは経過の途中から新たに、または再び生じて持続する症状全般」と定義されています。英語論文では、PASC(postacute sequelae of SARS-CoV-2 infection)、Long COVIDなどと呼ばれています。そもそもこの病態を明らかにするためには、コンセンサスある定義が必要なのですが、いまだにナラティブな位置付けになっています。信頼性の高いデータセットを用いてこれを提唱した報告がJAMAに掲載されました2)。12症状をスコアリング85施設において、SARS-CoV-2感染30日以内の2,248例、30日以降の6,398例、そして非感染の1,118例の合計9,764例が登録されました。年齢中央値は47歳(IQR 35~60歳)でした。頻度が2.5%以上だった37の症状について解析されました。PASCスコアに寄与する症状を抽出し、LASSO回帰により1~8の範囲で重み付けを行い、対応スコアを有する12の症状を表のように定めました。脱毛は有意なスコア因子には含まれませんでした。表. PASCスコア(参考資料2より引用)感染から30日を超えた場合のPASCの割合は、オミクロン株流行期ではそれ以前よりも低いという結果でした(17%[95%信頼区間[CI]:15~18]vs.35%[95%CI:34~37])。また、オミクロン株によるPASCは、ワクチン接種を受けていない参加者よりもワクチン接種を完了した参加者のほうが低頻度でした(16% vs.22%)。まとめ今回のスコアはあくまで提唱であるため、今後これが実臨床において有用かどうか検証を重ねられていくことになるでしょう。それにしても、脱毛が有意なスコアリングとしてエントリーされなかったのは意外でした。参考文献・参考サイト1)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント 第2.0版2)Thaweethai T, et al. Development of a Definition of Postacute Sequelae of SARS-CoV-2 Infection. JAMA. 2023 May 25. [Epub ahead of print]

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せっけん手洗いで、低中所得国の急性呼吸器感染症が減少/Lancet

 低中所得国において、せっけんによる手洗い励行の介入は急性呼吸器感染症(ARI)を減少可能であることが示された。英国・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のIan Ross氏らが、システマティックレビューとメタ解析の結果を報告した。ARIは、世界的に罹患および死亡の主な原因で、ARIによる死亡の83%は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック以前の低中所得国で発生していたという。結果を踏まえて著者は、「低中所得国においてせっけんによる手洗いはARIによる大負荷を防ぐのに役立つと考えられる」とまとめている。Lancet誌2023年5月20日号掲載の報告。低中所得国におけるせっけん手洗いに関する研究26件についてメタ解析 研究グループは、MEDLINE、Embase、Web of Science、Scopus、Cochrane Library、Global Health、Global Index Medicusを用いて、2021年5月25日までに発表された低中所得国におけるせっけんによる手洗いに関する研究を検索し、家庭、学校または保育の場で実施された介入の無作為化および非無作為化比較研究を特定し、システマティックレビューとメタ解析を行った。せっけんによる手洗い以外の手指衛生励行の介入、および医療施設や職場における介入は除外された。 主要アウトカムは、あらゆる病原体に起因するARI罹患率。副次アウトカムは、下気道感染症、上気道感染症、診断検査で確認されたインフルエンザ、診断検査で確認されたCOVID-19、および全死因死亡であった。 研究結果の統合にはランダム効果メタ解析を、異質性の評価にはメタ回帰を用い、相対リスク(RR)を算出した。個々の研究のバイアスリスクはNewcastle-Ottawaスケールを用いて評価し、GRADE(Grading of Recommendations, Assessment, Development, and Evaluation)を用いてエビデンスの確実性を評価した。 適格基準を満たした26件の研究(合計16万1,659例)から、27件の比較(無作為化比較は21件)が解析に組み込まれた。せっけん手洗い励行で、急性呼吸器感染症罹患率は低下 せっけんによる手洗い励行の介入は、手洗いなしと比較してARIを減少させた(RR:0.83、95%信頼区間[CI]:0.76~0.90、I2:88%、27件)。 副次アウトカムについては、下気道感染症(RR:0.78、95%CI:0.64~0.94、I2:64%、12件)および上気道感染症(0.74、0.59~0.93、91%、7件)は減少したが、インフルエンザ(0.94、0.42~2.11、90%、3件)、COVID-19(比較なし)および全死亡(死亡率比:0.95、95%CI:0.71~1.27、1件)は抑制しなかった。 ARIの異質性共変量に有意性は認められなかった(p<0.1)。GRADE評価によるエビデンスの質は「中」であった。

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学校でのコロナ感染対策、マスクの効果が明らかに

 本邦では、2023年5月8日に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染症法上の分類が5類に引き下げられ、文部科学省は、5類移行後の学校でのマスクの着用や検温報告を原則不要とする方針を、各教育委員会に通知している1)。しかし、スイスの中学校で実施された研究において、マスク着用の義務化はウイルス感染に重要な役割を果たすとされるエアロゾルの濃度を低下させ、新型コロナウイルス感染リスクを大幅に低減させたことが報告された。本研究結果は、スイス・ベルン大学のNicolas Banholzer氏らによってPLOS Medicine誌2023年5月18日号で報告された。マスク着用に新型コロナウイルスの感染予防効果 研究グループは、2022年1~3月(オミクロン株の流行期)において、スイスの2つの中学校(90人、1教室あたり平均18人)を対象として、マスク着用や空気清浄機の有無による新型コロナウイルス感染リスクの変化を検討した。7週間の期間(マスク着用義務化[学校A:2週間、学校B:4週間]、非介入[それぞれ3週間、1週間]、空気清浄機使用[いずれも2週間])において、疫学データ(新型コロナウイルス感染症の症例)、環境データ(CO2濃度、エアロゾル濃度など)、分子データ(唾液とバイオエアロゾル[ウイルスなどの生物に由来する粒子])が収集された。 マスク着用や空気清浄機の有無による新型コロナウイルス感染リスクの変化を検討した主な結果は以下のとおり。・唾液262サンプル中21サンプルにウイルスが含まれ(19サンプルが新型コロナウイルス)、バイオエアロゾル130サンプル中10サンプルにウイルスが含まれた(9サンプルが新型コロナウイルス)。・新型コロナウイルスが含まれた唾液サンプルの割合は、非介入時11.5%であったのに対し、マスク着用義務化時5.7%、空気清浄機使用時7.7%であった。新型コロナウイルスが含まれたバイオエアロゾルサンプルの割合は、非介入時8.1%であったのに対し、マスク着用義務化時7.1%、空気清浄機使用時5.0%であった。・CO2濃度(日平均値±標準偏差[SD])は1,064±232ppmであった。・エアロゾル濃度(日平均値±SD)は非介入時177±109個/cm3に対し、マスク着用義務化時49±52個/cm3(調整変化率:-69%)、空気清浄機使用時84±56個/cm3(調整変化率:-39%)であった。・新型コロナウイルス感染リスクは、非介入時と比べてマスク着用義務化時で低かった(調整オッズ比[aOR]:0.19、95%信用区間[CrI]:0.09~0.38)。空気清浄機使用時は非介入時と同様であった(aOR:1.00、95%CrI:0.15~6.51)。・試験期間中、マスク着用義務化により新型コロナウイルス感染が9.98件(95%CrI:2.16~19.00)回避されたと推定された。 本研究結果について、著者らは「時間の経過とともに感受性の高い学生の数が減少したことから評価期間による交絡の可能性は否定できず、空気中のウイルスの検出は曝露を意味するが、必ずしも伝播とは限らないという限界がある」としつつも、「一般的なマスクの着用により新型コロナウイルス感染が予防されたことから、感染対策によって学校の教室での呼吸器感染症の伝播を減らせることが示唆された」とまとめた。

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コロナ死の要因はウイルスではなく細菌感染?

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染により集中治療室(ICU)で治療を受ける患者は、ICU入室期間や人工呼吸器装着期間が長いことが報告されている。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者のICU入室期間が長い理由の1つとして、サイトカインストームによる多臓器不全が挙げられている。しかし、米国・ノースウェスタン大学のCatherine A. Gao氏らが機械学習アプローチを用いて実施した研究によると、COVID-19患者におけるICU入室期間の長さは、呼吸不全を特徴とする臨床状態に起因していたことが示された。また、二次的な細菌感染による人工呼吸器関連肺炎(VAP)の発生率が高く、VAPが主な死亡の原因となっていることが示唆された。本研究結果は、Journal of Clinical Investigation誌オンライン版2023年4月27日号に掲載された。 研究グループは、重症肺炎が疑われてICUに入室し、呼吸不全により人工呼吸器が装着された585例を対象とした前向きコホート研究を実施した。対象患者は、試験登録時および臨床的に肺炎が疑われるたびに気管支肺胞洗浄(BAL)により、肺炎の原因となる微生物が調べられた。ICU入室期間が異なる(COVID-19患者はICU入室期間が長い)グループ間でICU入室中のイベントを比較するという課題に対処するため、CarpeDiemという機械学習システムが用いられた。 主な結果は以下のとおり。・対象患者585例の内訳は、COVID-19関連肺炎190例、ほかの呼吸器ウイルス関連肺炎50例、細菌性肺炎252例、肺炎以外の呼吸不全93例であった。・COVID-19患者のICU入室期間の長さは、主に呼吸不全を特徴とする臨床状態に起因していた。・対象患者のうち、ICU入室中に少なくとも1回以上VAPを発症した患者の割合は35.5%であった。COVID-19の有無別にみると、非COVID-19患者では25.0%であったのに対し、COVID-19患者では57.4%と有意に高率であった(p<0.001)。・COVID-19患者は非COVID-19患者と比べてVAPの罹患期間が有意に長かった(p<0.001)。・VAPを1回発症した患者において、緩和ケアまたは死亡に至った割合は、VAPの治療に成功した患者が17.6%であったのに対し、VAPの治療転帰が不確定または治療失敗の患者では76.4%と有意に高率であった(p<0.001)。 本研究結果について、著者らは「VAPの治療失敗は死亡率の上昇に関連していた。重症COVID-19関連肺炎による死亡は、VAPの治療失敗のリスクを高める呼吸不全と関連し、多臓器不全との関連性は低いことが示唆された」とまとめた。

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コロナ禍の日本人の自殺念慮に最も影響した要因は?/筑波大

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行時に孤独感を感じていた日本人では、収入減少や社会的孤立などの他の要因に比べ、自殺念慮のリスクが最も高かったことが、筑波大学 医学医療系災害・地域精神医学の太刀川 弘和氏らの研究により明らかになった。BMJ Open誌2023年5月15日号掲載の報告。 日本における自殺者数は、2020年は2万1,081人、2021年は2万1,007人、2022年は2万1,881人で、COVID-19流行前の2019年の2万169人よりも多いままである。自殺の多くは多様かつ複合的な原因および背景を有しているが、新型コロナウイルスへの感染の恐怖や失業などの経済問題に加え、ソーシャルディスタンスなどによる社会的孤立や孤独感の悪化があるとされている。しかし、自殺念慮にはこれらのどれが、どのように影響するかは不明である。そこで、研究グループは、COVID-19流行時の孤独感が自殺念慮に直接的・間接的にどのような影響を与えるかを明らかにするため調査を行った。 調査には、「日本におけるCOVID-19問題による社会・健康格差評価研究(JACSIS study)」の2回目のアンケートデータ(2021年2月8~26日実施)が用いられた。自殺念慮への社会的孤立、孤独感、抑うつ状態の影響度が、男女別に年代や経済状態などで調整して分析された。 主な結果は以下のとおり。・分析には、20~59歳の男性6,436人、女性5,380人のデータが用いられた。・COVID-19流行時に自殺念慮があったのは、男性で15.1%、女性で16.3%であった。そのうち、初めて自殺念慮を抱いた人は、男性で22.8%、女性で19.8%であった。・孤独を感じている群では、感じていない群よりも自殺念慮の保有率が男性で4.83倍、女性で6.19倍高く、コロナ感染(男性1.61倍、女性1.36倍)、収入減少(1.28倍、1.26倍)、生活苦(2.09倍、1.68倍)、社会的孤立(1.61倍、1.03倍)よりも強い影響がみられた。・抑うつ状態の有無で調整すると、孤独感を感じている群の自殺念慮の保有率は男性3.60倍、女性4.33倍に低下したが、抑うつ状態のみの群(男性2.30倍、女性2.75倍)よりも高かった。・COVID-19流行時に初めて孤独感や自殺念慮が生じた群では、抑うつ状態の影響がより強かった。・女性では、COVID-19流行時に悪化した孤独感と新たに生じた自殺念慮が最も強く影響していた。 これらの結果より、研究グループは「孤独感が直接的に、また抑うつ状態を介して間接的に自殺念慮に強い影響を与えることが明らかとなった。孤独感を抱いている人への心理的なサポートが、孤立・孤独対策のみならず自殺対策としても重要である」とまとめた。

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第149回 昨年の救急出動件数、コロナ感染拡大で過去最高に/全消協

<先週の動き>1.昨年の救急出動件数、コロナ感染拡大で過去最高に/全消協2.サイバーセキュリティ対策で医療情報安全管理ガイドライン第6.0版へ/厚労省3.出生数は今年1~3月5.1%減、人口減さらに加速か/厚労省4.社会保障費の歳出改革で1.1兆円の財源確保、少子化対策へ/経済財政諮問会議5.肺がんの読影レポート見落とし、患者は1年4ヵ月後に死亡/兵庫県6.介護保険制度の見直し、結論は年末まで延期/厚労省1.昨年の救急出動件数、コロナ感染拡大で過去最高に/全消協全国の消防職員で作る自主組織「全国消防職員協議会」(全消協)は5月22日に、2022年の救急出動件数が過去最多だったことを明らかにした。調査結果によると、加盟団体の80%で通常運用の救急車すべてが出払う事態が発生し、一部の団体では予備救急車の出動も頻繁に行われていた。救急車の不足は火災や事故の対応の遅れにつながる恐れがあり、新型コロナなど感染症の拡大に備えて国に体制強化を求めている。また、全消協の調査では、2022年には、コロナウイルスの感染拡大により、救急搬送が困難事例が加盟職場の約8割で起きていたことが明らかになった。救急出動件数が過去最多を記録した職場の69%では、搬送先の医療機関がみつからず現場滞在時間が30分以上になった事例があり、78%では医療機関への受け入れ照会回数が4回以上になった事例もあった。さらに、通常使用している救急車がすべて出払ったり、遠方から救急車を回す必要があり、現場到着が遅れた事例も約8割の職場で起きていた。そのほか、92%の職場は救急隊の増員や救急車両の購入などの対応を検討していないことも明らかになった。全消協は、地方の医療体制の脆弱さから救急体制の構築が必要であり、人員や予算の増加を訴えている。(参考)「コロナ禍における救急体制の実態調査の結果」に関する報道発表について(全国消防職員協議会)救急車出払い、80%が経験 消防職員の全国組織調査(東京新聞)救急搬送困難ケース「あった」8割 コロナ禍の22年 全消協調査(毎日新聞)2.サイバーセキュリティ対策で医療情報安全管理ガイドライン第6.0版へ/厚労省厚生労働省は、5月24日に「健康・医療・介護情報利活用検討会医療等情報利活用ワーキンググループ」を開催、医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6.0版について提案し、おおむね了承され、5月31日に公表される見通しとなった。ガイドラインは概説編、経営管理編、企画管理編、システム運用編の4項目から構成され、公表に先立ちパブリックコメントを募集し、この意見を反映させた内容となっている。特に経営管理編においては、セキュリティ投資予算やリソースの確保についての記載が不足していたため、重要性が追記された。また、医療機関へのサイバー攻撃に対応するため、日本医師会と警察庁サイバー警察局が相互連携する覚書を締結した。覚書では、攻撃発生時と平時の対応を想定し、報告や協力、捜査などの内容が規定されている。この連携は、医療機関へのサイバー攻撃被害が増加する中で重要視されており、厚労省もサイバー攻撃への対応を医療分野のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の一環と位置付けている。(参考)医療情報ガイドライン第6.0版、31日に公表へ ワーキンググループが案を概ね了承(CB news)サイバー攻撃防止・早期復旧へ連携、日医と警察庁 覚書締結、業務に配慮して捜査(同)第17回健康・医療・介護情報利活用検討会医療等情報利活用ワーキンググループ資料について(厚労省)3.出生数は今年1~3月5.1%減、人口減さらに加速か/厚労省厚生労働省は、5月26日に最新の人口動態統計を発表した。これによると2023年1~3月の出生数は前年同期比5.1%減の18万2,477人となり、少子化の加速が再び明らかになった。同じく婚姻数も14.2%減の13万4,852組となり、出生数との差にあたる自然減は25万6,506人となった。2022年の出生数は初めて80万人を下回り、22年には統計開始以来初めて80万人を割ったことが明らかとなっている。外国人を除いた「概数」は今後公表される予定で、女性1人が生涯に産む人数を示す「合計特殊出生率」も算出される。政府は少子化対策を重要課題とし、児童手当の拡充や育児休業給付の引き上げなどを柱とする対策をまとめ、具体化を急いでいる。一方で、専門家からはわが国の出生数が70万人台前半まで落ち込むとの予想も出ている。原因として若者の経済的な理由による結婚や出産への意欲の低下が続いていることが指摘されている。生産年齢人口の減少や社会保障の持続性にも懸念が広がっており、政府は異次元の少子化対策を訴え、児童手当の拡充などを盛り込んだ強化策を打ち出しているが、若者の結婚や出産を後押しする経済環境作りも重要とされている。(参考)人口動態統計速報[令和5年3月分](厚労省)出生数、1~3月は前年比5.1%減 婚姻は14.2%減(毎日新聞)出生数、年70万人前半も 1~3月は5%減の18万2000人(日経新聞)4.社会保障費の歳出改革で1.1兆円の財源確保、少子化対策へ/経済財政諮問会議政府は、経済財政諮問会議を5月26日に開き、経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)の骨子を提示した。骨子案では、社会保障費の歳出改革で1.1兆円の財源を捻出し、少子化対策に充てる方針。会議では、民間議員が介護保険の利用者負担の引き上げを早期に結論付けるよう促し、歳出改革と応能負担の強化の必要性を指摘した。また、加藤厚生労働省大臣も診療報酬や介護報酬の大幅な増額が必要であると述べ、物価上昇や報酬の不足が医療・介護機関の経営に悪影響を及ぼしていることを指摘した。政府は近く大枠の方針を固め、介護保険の利用者負担の引き上げや報酬の増額を反映させる予定。政府の動きに対して、日本医師会や薬剤師会、看護協会は5月25日に合同声明を発表し、新たな「骨太の方針」の策定に対して、物価高騰対策や賃上げを行うためには財源が必要であると、来年度の診療報酬改定や介護報酬改定への対応を求めている。(参考)令和5年第7回経済財政諮問会議(内閣府)医療・介護関係12団体で「医療・介護における物価高騰・賃金上昇への対応を求める合同声明」をまとめる (日本医師会)加藤厚労相「診療報酬・介護報酬の大幅な増額が必要」 諮問会議で言明(JOINT)日医らが共同声明 物価高対策で必要財源確保「骨太明記を」 少子化対策で財源の「切り崩し」を牽制(ミクスオンライン)5.肺がんの読影レポート見落とし、患者は1年4ヵ月後に死亡/兵庫県兵庫県は、県立丹波医療センター(丹波市)で、70代女性患者が肺がんの疑いを示すCT検査結果を見落とされ、1年4ヵ月後に死亡したことを明らかにした。2021年8月、70代女性患者がめまいを訴えて同院の救急外来を受診し、CT検査が行われた。放射線科医は肺の下部に異常陰影を指摘し、精密検査を必要とするリポートを作成した。しかし、当直医と日勤医のいずれもがこのリポートを確認せず、精密検査は実施されなかった。1年後、女性が体調不良を訴えて別の病院で検査を受けた結果、末期の肺がんと診断された。さかのぼって調査した結果、丹波医療センターの担当医がリポートを見落としていたことが判明した。兵庫県は過失を認め、女性の遺族に1,125万円の損害賠償を支払い、和解することを明らかにしている。この医療機関では4年前にも同様にがんの見落としがあり、患者が死亡するという事故が起きており、再発防止策が進められていた。県は今回の事故を受けて、オンラインリポートの未読を知らせるシステムを導入するなど、再発防止に努めることを明かにしている。(参考)県立丹波医療センターで検査結果見落とし女性が死亡 賠償へ(NHK)女性患者の肺がん疑い、当直医が検査報告確認せず1年4カ月後死亡 4年前にもがん見落とす医療ミス 兵庫・丹波医療センター(神戸新聞)6.介護保険制度の見直し、結論は年末まで延期/厚労省厚生労働省は、5月24日に社会保障審議会介護給付費分科会を開催した。2024年度の介護報酬改定に向けて、報酬と基準に関する考え方を12月までにまとめる方針を示した。具体的な議論の方向性は今年の夏頃まで行い、その後、事業者団体などからのヒアリングを経て、10月~12月にかけて議論を進め、12月にまとめる予定であり、来年1月には介護報酬改定案の諮問・答申が行われる見通し。今回の改定に際しては、地域包括ケアシステムの深化・推進、自立支援・重度化防止、介護人材の確保と介護現場の生産性向上、制度の安定性・持続可能性の確保という4つのテーマを重視することが提案され、了承された。また、高所得者の保険料引き上げや自己負担の増加、施設入所者の部屋代の在り方など、利用者の保険料やサービス利用の負担について検討していたが、これらについても年末まで結論を先送りする。(参考)介護分野の最近の動向について(厚労省)24年度介護報酬改定の考え方、年内に取りまとめ 厚労省 介護給付費分科会にスケジュールを示す(CB news)介護保険負担増、年末に結論延期 政府、少子化対策の財源検討(東京新聞)介護保険制度の見直し 結論を年末まで再延期の方針 厚労省(NHK)

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北里大、コロナへのイベルメクチン第III相の論文公表

 北里大学が主導して実施した、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者を対象としたイベルメクチンの第III相臨床試験「CORVETTE-01」の結果については、2022年9月に同大学によって、主要評価項目においてプラセボとの統計学的有意差がなく、有効性が認められなかったことが発表されていた1)。本試験の結果が、Frontiers in Medicine誌2023年5月22日号に掲載された。 軽症~中等症COVID-19患者に対するイベルメクチンの有効性と安全性を検証するための多施設共同二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験「CORVETTE-01」は、2020年8月~2021年10月の期間に、RT-PCR検査でCOVID-19と診断された国内の221例を対象に実施された。試験期間中は、アルファ株とデルタ株が優勢であった。被験者は20歳以上で、SpO2が95%以上、体重40kg以上とした。対象者をイベルメクチン群とプラセボ群に1対1で割り付け、イベルメクチン(200μg/kg)またはプラセボを絶食下で単回経口投与した。主要評価項目は、SARS-CoV-2に対するRT-PCR検査結果が陰性になるまでの期間とし、層別log-rank検定およびCox回帰モデルを用いて検証した。 主な結果は以下のとおり。・被験者のベースラインは、イベルメクチン群(106例)では、平均年齢47.9歳(SD 15.1)、男性68.9%、73.6%が肺炎を発症し、9例(8.5%)がワクチンを接種していた。プラセボ群(106例)では、平均年齢47.5歳(SD 15)、男性62.3%、肺炎発症が72.6%、ワクチン接種済7例(6.6%)であった。・RT-PCR検査陽性から治験薬の投与までの期間は、イベルメクチン群とプラセボ群ともに2.7日(SD 1.1)であった。・RT-PCR検査の陰性化について、イベルメクチン群とプラセボ群の間に有意差は認められなかった(ハザード比[HR]:0.96※、95%信頼区間[CI]:0.70~1.32、p=0.785)。※HR<1ではプラセボが有利、HR>1ではイベルメクチンが有利。・RT-PCR検査が陰性化するまでの期間の中央値は、イベルメクチン群では14.0日(95%CI:13.0~16.0)、プラセボ群では14.0日(12.0~16.0)だった。・最長45日間の追跡調査期間において、イベルメクチン群で82.1%(87例)、プラセボ群で84%(89例)がRT-PCR検査陰性を達成した。・患者登録日から15日目までで、イベルメクチン群(17.9%)とプラセボ群(21.7%)では、同程度の割合で症状の悪化がみられた(オッズ比:0.77、95%CI:0.38~1.54、p=0.462)。・有害事象について、イベルメクチン群では29例(27.1%)、プラセボ群では28例(26.2%)で報告された。Grade3以上の有害事象は、イベルメクチン群1例(CPK上昇)、プラセボ群2例(肝機能障害)で発現した。試験中止に至る治療起因性有害事象はなかった。本試験追跡期間中における患者の死亡も報告されなかった。 本結果により、軽症~中等症COVID-19患者に対するイベルメクチンは、RT-PCR検査陰性化までの期間の短縮にはつながらないことが示された。

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第161回 高齢者に熱中症対策を促す際、エアコンより厄介なのは…

ウクライナ危機に端を発した燃料費の高騰により、大手電力7社が申請していた6月からの電気料金の値上げが決定した。値上げ率は各社で異なるが、15.3~39.7%と大幅な値上げだ。これだけの値上げとなると、暑くなる時期にエアコンの使用を控える人も出てくるだろう。しかも、よりによってこの時期に記録的な暑さとなっている。5月17日には全国250地点以上で30℃超の真夏日となり、岐阜県揖斐川町では5月として観測史上最高の35.1℃の猛暑日を記録した。翌18日も各地で真夏日となり、東京都では5月中旬としては観測史上初の2日連続の真夏日。しかも、今年の6~8月は平年と比べ、かなり酷暑になると予想されている。2022年6~8月は国内で平均気温統計を開始した1898年以降、2番目の暑さだったと言われているが、もしかしたらそれを超えるかもしれない状況だ。こうなると危惧されるのが熱中症患者の増加だ。消防庁によると、2022年5~9月の全国の熱中症による救急搬送者の累計は7万1,029人。前年の2021年同時期の4万7,877人より大幅に増加し、搬送者数の調査が開始された2008年以降では3番目に多い数となった。この増加は前述した昨年の暑さのレベルで説明がつく。ちなみに2020年のコロナ禍以降、ユニバーサルマスク推奨で熱中症が増えたのではないかと、一部の人が指摘することがある。しかし、2019~21年までの夏の熱中症搬送者の累計は右肩下がり。2020年は東日本を中心に2019年よりも年平均気温が高かったにもかかわらずだ。この点は日本救急医学会・日本臨床救急医学会・日本感染症学会・日本呼吸器学会による「新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえた熱中症診療に関するワーキンググループ」が公表した「新型コロナウイルス感染症流行下における熱中症対応の手引き(第2版)」でも、論文調査結果からマスク着用が熱中症の危険因子となるエビデンスはないと明記されている。熱中症に弱いのは高齢者であることはよく知られている。高齢者では体液貯留機能も有する筋肉量も若年者より減少していることが多く、さらに腎機能低下により老廃物排出時にはより多くの水分が必要となる傾向にあり、そもそも脱水気味であることが一因だ。さらに加齢による感覚機能の低下で暑さに対する感度も低下している。過去のデータを見ると、熱中症で死亡した高齢者では約9割がエアコンを使用していなかったというデータもあるが、これはたぶん節約というよりは暑さに対する感度の低下が要因ではないかと個人的には考えている。しかし、ここに今回のような電気料金の大幅な値上げがあると、独居老人を中心に「電気料金を節約する」という行動が強まり、今夏は高齢者の熱中症増加が深刻化する可能性は十分にある。その意味で熱中症対策として頻繁に耳にする「暑い時には適切にエアコンを使う」という呼びかけの強化は必須だろう。もっとも電気料金の問題を脇に置けば、実は高齢者へのエアコンの使用推奨は、まだハードルが低いかもしれない。というのも、たとえば「真夏日、猛暑日予報の日は午前10時~午後3時過ぎぐらいまでの間は、緩やかにでもエアコンを使い続けてください」などの呼びかけも可能だからだ。こうした注意喚起は“実行しやすさ”がカギとなるため、極論を言えば、高齢者にありがちな、なんとなくテレビをつけているのと同じ感覚で使うことを推奨することはできなくもない。しかし、この熱中症対策についての記事を書く、あるいは自分の周囲に呼びかける際に私がいつも頭を悩ませてしまうのは、「喉の渇きがなくとも水分補給を」というフレーズである。前述の感覚機能の低下により、高齢者では喉の渇きを感じるのがやや周回遅れになりがちという点を踏まえてのことだが、言うほど簡単ではない。テレビやエアコンのつけっぱなしとは違い、なんとなくはできない行為だ。介護施設や同居人がいる高齢者宅ならば、周囲が気を配り定期的にお茶の時間を設けるなど自然な形で水分摂取の習慣を作ることも可能だろう。だが、独居高齢者ではよほど本人が自覚的に時間を決めて水分を取るなどの几帳面さがない限り、結構、難易度が高いのではないかと思う。多くの高齢者個人が熱中症対策で日内の定期的な水分摂取を習慣化することが容易ならば、よくある高齢者の服薬アドヒアランスの低下は問題にならないだろう。私自身はまだ高齢者ではないものの、尿酸値が高めのため、高尿酸血症の患者向けパンフレットにある「1日2L以上の水分摂取を」という推奨を意識して実行している。しかし、高齢者よりは喉の渇きに鋭敏であるはずなのに、真夏でもこの2Lのクリアはなかなか大変である。ちなみに自分の場合、どのように習慣付けているかというと、まず起床直後すぐに500mLペットボトルの半分近くの水分を摂取し、それから排尿を済ませてペットボトルの残りを飲み切る。その後は仕事場のPC脇に満タンにした2Lのペットボトルを置き、仕事の合間にちびちびこれを飲む。視覚的に残りが確認できるので夜7時くらいまでにこれを飲み切る。水分摂取の励行だけでも高齢者にとってはそれなりにハードルが高いと思われるのだが、最近では「熱中症予防のためには水分だけではなく塩分も」とメディアで呼びかけている。これは医学的には極めて正しいが、喉の渇きも感じないのに水分も取って、さらに塩分も取れと言われても高齢者では混乱してしまうのではないだろうか? ドラッグストアで売られている経口補水液を使えば良いとは言っても、こうした非日常的な対応はやはり簡単ではない。そう考えた時に、今でも地方ではありがちな高齢者が三々五々集まって「漬物をつまみながら、お茶を飲む」という習慣は、過度にならないのならば水分と塩分を同時に摂取できる合理的なものだと感じ入ってしまうのだが、コミュニティが希薄化している都市部ではそうはいかないケースも多い。私は地方の実家に高齢の両親がおり、やはり近所の人が時おり集まってお茶を飲むこともあるのを知ってはいる。これに加えて念のため、厚生労働省が行っている「あんぜんプロジェクト」の尿の色で脱水症状をチェックするという試みを伝えて、両親に注意を促しているものの、それでも心もとない。その意味では単に「喉の渇きがなくとも水分摂取を」の言葉だけでなく、実践しやすい事例を探しているのだが、ピンとくるものは少ない。この機会に読者の皆さんから「私はこんなふうに指導してますよ」という事例があれば、ぜひともお知恵を拝借したい。

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成人肺炎診療ガイドラインを先取りした肺炎の予防戦略/日本呼吸器学会

 肺炎は日本人の死因の5位に位置する主要な疾患である。高齢になるにつれて発生率、死亡率が高くなり、65歳以上の高齢者が死亡者全体の95%以上を占めている。したがって、高齢者肺炎の予防が重要といえる。本邦において、医療関連肺炎(HCAP)では肺炎球菌に加えて口腔内連鎖球菌、嫌気性菌が多かったという報告もあり1)、高齢者肺炎の予防戦略は「肺炎球菌ワクチン」と「口腔ケア」が2本柱といえる。改訂中の成人肺炎診療ガイドラインでは、これに対応して「肺炎の予防に口腔ケアを推奨するか」というCQ(クリニカルクエスチョン)が設定され、システマティックレビュー(SR)が実施された。ワクチンについては、すでに確立された予防戦略と判断されたことから、2017年版の内容が引用され、「インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンの併用接種」が推奨された。そこで、第63回日本呼吸器学会学術講演会において丸山 貴也氏(三重県立一志病院 院長)は、肺炎診療ガイドラインの改訂にあたって実施した口腔ケアのSRの結果や、それに基づく委員会での推奨、ワクチンに関する最新の情報について紹介した。成人肺炎診療ガイドラインで口腔ケアのCQ設定 改訂中の成人肺炎診療ガイドラインでは、「肺炎の予防に口腔ケアを推奨するか」というCQが設定され、人工呼吸器関連肺炎(VAP)/非VAP、クロルヘキシジン使用/不使用に分けてSRが実施された。その結果、非VAPについて、クロルヘキシジン不使用の口腔ケア実施群で、非実施群と比べて肺炎による死亡が有意に減少し、肺炎発症率も有意に低下した。以上の結果などから、推奨は「実施することを弱く推奨する」とする予定と報告された。今回、“弱く”推奨するとなっているのは、認知症や精神疾患などによって口腔ケアの実施が難しい場合が考えられるためであるという。したがって、丸山氏は「口腔ケアにはしっかりとしたエビデンスがあり、原因微生物とストラテジーもはっきりしている。侵襲性も少ないことから、ぜひ実践してほしい」と述べた。成人肺炎診療ガイドラインではワクチン併用接種を引き続き推奨 現行の成人肺炎診療ガイドライン2017では、「高齢者の肺炎予防において、インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンの併用接種は推奨されるか」というCQが設定され、併用接種が強く推奨されている2)。改訂中の成人肺炎診療ガイドラインでは、すでに確立された予防方法として2017年版でのSRの結果を引用しながら、新たなワクチンについても解説するという。 インフルエンザウイルスに感染すると、気道や全身に変化が起こり、肺炎球菌などへの2次感染が生じやすくなる。実際に、本邦においてインフルエンザウイルス感染により入院した患者の合併症として肺炎が最も多く、36.4%を占めていた。また、インフルエンザ関連肺炎の原因微生物として、肺炎球菌が多く、死亡例の80%が肺炎を合併し、インフルエンザ関連肺炎の死亡率は9.5%であった。多変量解析によっても肺炎の発症がインフルエンザウイルス感染の予後規定因子として特定されており3)、インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンの併用接種が重要といえる。 肺炎球菌ワクチンについて、日本呼吸器学会と日本感染症学会の合同委員会は、2023年3月24日に「65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第4版)」を公表している。そこでは、65歳以上の健康な高齢者については「定期接種の機会を利用してPPSV23(23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン)を接種」、ハイリスク者については「PCV13(沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン)またはPCV15接種後1年以内のPPSV23接種を検討(とくに免疫不全者には推奨)」としている4)。改訂中の成人肺炎診療ガイドラインでは、この内容を追随する予定と報告された。

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