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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第28回

第28回:子供の発疹の見分け方監修:吉本 尚(よしもと ひさし)氏 筑波大学附属病院 総合診療科 小児科医、皮膚科医でなくとも、子供の風邪やワクチン接種の時などに、保護者から皮膚トラブルの相談をされることがあると思います。1回の診察で診断・治療まで至らないことがあっても、助言ぐらいはしてあげたいと思うのは私だけではないと思います。文章だけでははっきりしないことも多いため、一度、皮膚科のアトラスなどで写真を見ていただくことをお勧めします。 以下、American Family Physician 2015年8月1日号1) より子供の発疹は見た目だけでは鑑別することが難しいので、臨床経過を考慮することが大切である。発疹の外観と部位、臨床経過、症状を含め考慮する。発熱は、突発性発疹、伝染性紅斑、猩紅熱に起こりやすい。掻痒はアトピー性皮膚炎やばら色粃糠疹、伝染性紅斑、伝染性軟属腫、白癬菌により起こりやすい。突発性発疹のキーポイントは高熱が引いた後の発疹の出現である。体幹から末梢へと広がり1~2日で発疹は消える。ばら色粃糠疹における鑑別は、Herald Patch(2~10cmの環状に鱗屑を伴った境界明瞭な楕円形で長軸が皮膚割線に沿った紅斑)やクリスマスツリー様の両側対称的な発疹であり、比較的若い成人にも起こる。大抵は積極的な治療をしなくても2~12週間のうちに自然治癒するが、白癬菌との鑑別を要する場合もある。上気道症状が先行することが多く、HSV6.7が関与しているとも言われている。猩紅熱の発疹は大抵、上半身体幹から全身へ広がるが、手掌や足底には広がらない。膿痂疹は表皮の細菌感染であり、子供では顔や四肢に出やすい。自然治癒する疾患でもあるが、合併症や広がりを防ぐために抗菌薬使用が一般的である。伝染性紅斑は、微熱や倦怠感、咽頭痛、頭痛の数日後にSlapped Cheekという顔の発疹が特徴的である(筆者注:この皮疹の形状から、日本ではりんご病と呼ばれる)。中心臍窩のある肌色、もしくは真珠のようなつやのある白色の丘疹は伝染性軟属腫に起こる。接触による感染力が強いが、治療せずに大抵は治癒する。白癬菌は一般的な真菌皮膚感染症で、頭皮や体、足の付け根や足元、手、爪に出る。アトピー性皮膚炎は慢性で再燃しやすい炎症状態にある皮膚で、いろいろな状態を呈する。皮膚が乾燥することを防ぐエモリエント剤(白色ワセリンなど)が推奨される。もし一般的治療に反応がなく、感染が考えられるのであれば組織診や細菌培養もすべきであるが、感染の証拠なしに抗菌薬内服は勧められない。※本内容にはプライマリ・ケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) Allmon A, et al. Am Fam Physician. 2015;92:211-216.

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化学放射線療法適応の頭頸部がん、PET-CT監視の効果は/NEJM

 化学放射線療法が適応の頭頸部がん患者の頸部リンパ節転移の治療において、PET-CTによる注意深い監視(PET-CT-guided surveillance:PET-CT監視)は、事前に予定された頸部郭清術(planned neck dissection:planned ND)に比べ予後は劣らないことが、英国・バーミンガム大学のHisham Mehanna氏らPET-NECK Trial Management Groupの検討で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2016年3月23日号に掲載された。頸部リンパ節転移の管理では、前向き無作為化試験が行われていないため、種々の対処法が採られているという。planned NDは、予後の改善効果が示唆されているが、不要な手術や合併症のリスクを伴う。PET-CTは、メタ解析で良好な陰性予測値(94.5~96.0%)が報告されており、不要な手術の適応を抑制し、合併症を回避できる可能性がある。PET-CT監視の有用性を無作為化非劣性試験で評価 研究グループは、化学放射線療法適応の頭頸部がんの頸部リンパ節転移に対する治療において、PET-CT監視とplanned NDを比較する前向き無作為化非劣性試験を行った(英国国立健康研究機構[NIHR]医療技術評価プログラムなどの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、Stage N2/N3のリンパ節転移を有する中咽頭、下咽頭、喉頭、口腔、原発巣不明の頭頸部の扁平上皮がんで、化学放射線療法の適応と判定された患者であった。 被験者は、化学放射線療法施行後にPET-CT監視を12週行う群、またはplanned NDの前後のいずれかに化学放射線療法を実施する群に無作為に割り付けられた。PET-CT監視群のうち、PET-CTで完全奏効が確証されないか、境界的と判定された患者には4週以内にplanned NDが行われた。 主要評価項目は、全生存期間(OS)であった。 2007年10月~12年8月までに、英国の37施設に564例が登録され、PET-CT監視群に282例、planned ND群にも282例が割り付けられた。約80%で頸部郭清術が不要に、費用対効果も優れる 平均年齢はPET-CT監視群が57.6±7.5歳、planned ND群は58.2±8.1歳で、男性がそれぞれ79.1%、84.0%を占めた。全体の84%が中咽頭がんで、79%がN2a/N2bであり、74%が喫煙者/元喫煙者であった。また、75%が、がんの原因がヒトパピローマウイルス(HPV)であることの指標であるp16蛋白が陽性であった。 頸部郭清術は、PET-CT監視群が54例に行われたのに対し、planned ND群は221例に施行された。合併症の発生率は、それぞれ42%、38%とほぼ同等であった。 2年OSは、PET-CT監視群が84.9%(95%信頼区間[CI]:80.7~89.1)、planned ND群は81.5%(同:76.9~86.3)であった。死亡のハザード比(HR)は0.92(同:0.65~1.32)とPET-CT監視群でわずかに良好であり、planned ND群に対する非劣性が示された(95%CIの上限値<1.50、p=0.004)。 疾患特異的死亡率や他の原因による死亡率も両群間に有意な差はみられなかった(それぞれ、p=0.80、p=0.41)。また、p16陽性例(HR:0.74、95%CI:0.40~1.37)および陰性例(同:0.98、0.58~1.66)のいずれにおいても、両群間にOSの差は認めなかった。 重篤な有害事象は、PET-CT監視群が113例、planned ND群は169例に発現した。また、EORTC QLQ-C30による全般的健康状態(global health status)スコアは、6ヵ月時はPET-CT監視群のほうが良好であった(p=0.03)が、この差は12ヵ月時には小さくなり(p=0.09)、24ヵ月時には消失した(p=0.85)。 試験期間中の1例当たりの医療費は、PET-CT監視群がplanned ND群よりも1,492ポンド(約2,190米ドル)安価であった。 著者は、「両群のOSはほぼ同等であったが、PET-CT監視群では約80%の患者で頸部郭清術が不要となり、郭清術の遅延による不利益もなく、費用対効果が優れていた。HPV陽性例と陰性例の効果は同じであった」としている。

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サルマラリアに気を付けろッ!【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。第19回となる今回は、前回のジカウイルス感染症との蚊つながりで、マラリアについてご紹介いたします。マラリアは古典?「おいおい、マラリアなんて超古典的な感染症じゃねえかよ、どこが新興再興感染症なんだよ」と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、今回取り上げるのはそのマラリア原虫の中でも、最近注目を集めているサルマラリアの1つPlasmodium knowlesiというものです(このP.knowlesi以外にもサルに感染するマラリアはたくさんあり、それらをひっくるめていわゆる「サルマラリア」と呼びます)。マラリアは、結核とHIVに並ぶ世界3大感染症の1つであり、今もアフリカを中心に2億人を越える感染者を出しています1)。その大半が熱帯熱マラリア(Plasmodium falciparum)または三日熱マラリア(Plasmodium vivax)によるものであり、残りの数%が四日熱マラリア(Plasmodium malariae)と卵形マラリア(Plasmodium ovale)によるものです。しかし、これまで4種類とされてきたヒトに感染するマラリア原虫に第5の刺客が登場したのですッ! それがP.knowlesiなのですッ! ちなみに“knowlesi”の発音ですが、「ノウレジ」と言う人もいますが、通は「ノウザイ」と発音するようです。“Dengue”を「デング」と呼ぶか、「デンギー」と呼ぶかと同じで、まあどっちでもいいかと思いますが。知っておきたいP.knowlesiの発生地域P.knowlesiは、アカゲザルやカニクイザルなどのサルを固有の宿主とするマラリア原虫の1種で、1965年にマレーシアでヒトへの自然感染例が初めて報告されましたが、ヒトに感染するのはきわめてまれな感染症であると考えられていました。しかし、マレーシアでこれまで四日熱マラリアと診断されていた症例の大部分が、実はどうやらP.knowlesi感染症であったことが近年明らかとなり、現在ではP.knowlesiはマレーシアの他、タイ、ベトナム、カンボジア、ミャンマー、インドネシア、シンガポールなど東南アジアの森林地帯に分布していることがわかっています(図1)2)。すでに日本でも1例の輸入例が報告されています。これは国立国際医療研究センターで診断された症例で、私も診療に加わらせていただいた症例です3)。画像を拡大するP.knowlesiの症状と診断P.knowlesiの臨床症状は、他のマラリアと同じく非特異的な発熱であり、発熱以外には頭痛、関節痛、筋肉痛、下痢などの症状を呈することがあります。卵形マラリアや三日熱マラリアは48時間、四日熱マラリアは72時間周期の発熱を呈することがありますが、P.knowlesiは24時間周期といわれています。これはマラリア原虫の体内での分裂周期が、この時間だから周期的な発熱になるわけですが、発症してしばらくは原虫の周期がそろわず、かならずしも周期的な発熱にならないこともしばしばです。周期性が出てくるのはだいたい発症から5~7日くらいとされています4)。マラリア原虫種の鑑別には、ギムザ染色による顕微鏡検査がゴールドスタンダードです。たとえば図2がP.knowlesiのギムザ染色での所見です。画像を拡大する感染赤血球の大きさが変化していないので熱帯熱マラリアか四日熱マラリアかP.knowlesiかということがわかりますし、環状体が少し変形しているので後期栄養体かな? とかまではわかりますが、P.knowlesiは後期栄養体の帯状体が四日熱マラリア原虫と類似していたり、早期栄養体の環状体が熱帯熱マラリア原虫との鑑別を要することもあるため、なかなかギムザ染色だけでは原虫種まではわかりません。確定診断のためにはPCR検査を依頼することが、望ましいとされます(マラリア原虫のPCR検査は、国立国際医療研究センター研究所 マラリア研究部で行うことができます)。P.knowlesiの治療と発熱渡航者に気を付けろP.knowlesi感染症はほとんどが軽症~中等症ですが、まれに重症化する症例が報告されており、注意が必要です。P.knowlesi感染症の治療としては、海外ではクロロキンが第1選択薬として使用されていますが、わが国ではクロロキンは使用できないため、本症例ではメフロキン(商品名:メファキン)またはアトバコン・プログアニル(同:マラロン)を使用することになります。ただし、重症例では他のマラリア原虫種同様、アーテミシニン併用療法による治療が推奨されます。幸いなことにアーテメーター・ルメファントリン合剤(同:リアメット)が国内でも承認されましたので、もうすぐ使用できるようになります。また、P.knowlesiは休眠体をつくらないため、プリマキンによる根治療法を行う必要はありません。P.knowlesi常在地から帰国後の発熱患者に血液塗抹標本で、四日熱マラリア原虫に似た原虫を認めたら、P.knowlesi感染症を疑うようにしましょう!次回は最近あまり注目されていないけれど、地味に感染者を出している「H7N9インフルエンザ」についてご紹介いたしますッ!1)World Health Organization. World Malaria Report 2015.(参照 2016.3.23).2)Singh B, et al. Clin Microbiol Rev. 2013;26:165-184.3)Tanizaki R, et al. Malar J. 2013;12:128.4)Taylor T, et al. Hunter's Tropical Medicine and Emerging Infectious Diseases. 9th ed. Philadelphia:Saunders Elsevier;2012. p.696-717.

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経口フルオロキノロン処方後10日間、網膜剥離リスク増大

 経口フルオロキノロン系抗菌薬の服用と網膜剥離のリスクが注目され、その関連が議論されている。フランスNational Agency for Medicines and Health Products Safety(ANSM)のFanny Raguideau氏らは、医療データベースを用いた疫学研究により、経口フルオロキノロン服用開始後10日以内に網膜剥離を発症するリスクが有意に高いことを明らかにした。著者は、「経口フルオロキノロンの服用と網膜剥離発症リスクとの関連について、さらに検討しなければならない」とまとめている。JAMA Ophthalmology誌オンライン版2016年3月10日号の掲載報告。 研究グループは、経口フルオロキノロンの服用と網膜剥離(裂孔原性および滲出性)発症との関連を評価する目的で、フランスの医療データベースを用い、2010年7月1日~13年12月31日にかけて、網膜剥離の成人患者を対象に症例クロスオーバー研究を行った。網膜剥離発症の6ヵ月以内に網膜剥離や網膜裂孔、眼内炎、硝子体内注射、脈絡膜網膜硝子体内生検およびヒト免疫不全ウイルス感染症の既往歴または入院歴のある患者は除外された。 主要評価項目は、リスク期間中(網膜剥離の手術直前1~10日)の経口フルオロキノロンの服用で、対照期間(61~180日前)と比較した。また、中間リスク期間(最近[11~30日前]および過去[31~60日前])における服用との関連や、経口フルオロキノロンや網膜剥離の種類別についても検討した。 主な結果は以下のとおり。・選択基準を満たした網膜剥離患者2万7,540例(男性57%、年齢[平均±SD]61.5 ±13.6歳)中、663例が経口フルオロキノロンを服用していた。リスク期間中の服用が80例、対照期間(61~180日前)中が583例であった。・経口フルオロキノロン処方後10日間に、網膜剥離発症リスクの有意な増大が認められた(調整オッズ比:1.46、95%信頼区間[CI]:1.15~1.87)。・裂孔原性(調整オッズ比:1.41、95%CI:1.04~1.92)および滲出性(同:2.57、95%CI:1.46~4.53)いずれの網膜剥離も、有意なリスクの増大が認められた。・経口フルオロキノロンの最近服用(調整オッズ比:0.94、95%CI:0.78~1.14)および過去服用(同:1.06、0.91~1.24)は、網膜剥離発症のリスクと関連していなかった。

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原発性胆汁性胆管炎〔PBC : Primary Biliary Cholangitis〕

1 疾患概要■ 概念・定義原発性胆汁性胆管炎(PBC)は、病因・病態に自己免疫学的機序が想定される慢性進行性の胆汁うっ滞性肝疾患である。中高年女性に好発し、皮膚掻痒感で初発することが多い。しかし、多くの症例では無症候性の時期にたまたま発見され、長く無症候性のまま経過する。黄疸はいったん出現すると、消退することなく漸増することが多い。一部の症例では門脈圧亢進症状が高頻度に出現する(表1)。画像を拡大する従来、病名は「原発性胆汁性肝硬変」となっていたが、現在は早期に診断することができるようになり、またウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid;UDCA)の効果もみられることから、現在診断されている多くの患者は肝硬変には至っていない。実際は肝硬変ではないにもかかわらず「肝硬変」が病名に入っていることで、患者の精神的負担が大きい、との患者団体の要請に応じ、2016年より世界的に、英文字略語のPBCはそのまま残し、「Primary Biliary Cholangitis(PBC)」と改名された。日本語では、「原発性胆汁性胆管炎」と改名されることになった。■ 疫学男女比は約1:7、診断時平均年齢は50~60歳で、幼小児期での発症はみられない1)。発生数は1980年の調査開始以来増加傾向にあったが、1990年代以降は横ばいで推移している。新たに診断される症例のうち約70~80%は無症候性PBCである。無症候性PBCを含めた総患者数は全国で約5万~6万人と推計される1)。■ 病因本症は種々の免疫異常とともに、自己抗体の1つである抗ミトコンドリア抗体(Anti-mitochondrial antibody:AMA)が特異的(90%)かつ高率(90%)に陽性化し、また、慢性甲状腺炎、シェーグレン症候群などの自己免疫性疾患や膠原病を合併しやすい。さらに、組織学的には障害胆管周囲にT細胞優位の高度の単核球浸潤がみられることなどから、病態形成には自己免疫学機序が強く関与していると考えられる。多くの疾患同様、本疾患も多因子疾患であり、遺伝学的要因を基盤に環境要因が作用することよって発症し、病態形成がなされることが想定されている。家族集積性のあることや一卵性双生児における一致率がきわめて高いことなどから、発症には遺伝的素因の関与が示唆される。HLA-DR8 (DRB1*08)が人種を超えて疾患感受性遺伝子として働いている可能性が想定され、ゲノムワイド関連解析(GWAS)により、HLA-DR以外の新たな疾患関連遺伝子多型の情報が集積されつつある2)。環境因子としては、大腸菌などの細菌からの感染が想定されている。また、工業地帯や汚染廃棄物処理施設の近郊で発症が多いとの疫学研究などより、大気汚染や化学物質、化粧品などによる抗原の修飾がPBC発症のきっかけとなっている可能性が想定されている。■ 症状本疾患にみられる症状は、(1)胆汁うっ滞に基づく症状(2)肝障害・肝硬変および随伴する病態に伴う症状(3)合併した他の自己免疫疾患に伴う症状に分けて考えることができる。病初期は無症状であるが(無症候性PBC)、黄疸を呈する以前から胆汁うっ滞に基づく搔痒感が出現する。身体所見としては、症候性PBCでは黄疸のほか、掻痒のために生じた掻き傷、高脂血症に伴う眼瞼黄色腫が観察され、肝臓は腫大していることが多い。本疾患は他の自己免疫性疾患・膠原病を合併しやすく、なかでもシェーグレン症候群、慢性甲状腺炎、関節リウマチの頻度が高い。門脈圧亢進症状を早期から呈しやすく、高齢者や進行例では肝細胞がんの併発も考慮する必要がある。■ 分類1)臨床病期分類皮膚搔痒感、黄疸、食道静脈瘤、腹水、肝性脳症など肝障害に基づく症候を伴う症候性PBC(sPBC)とこれらの症候を欠く無症候性PBC(aPBC)に分類される。症候性PBCはさらに、皮膚掻痒感のみ認め血清総ビリルビン値が2.0mg/dL未満のs1PBCと、血清総ビリルビン値が2.0mg/dL以上の黄疸を認めるs2PBCに細分される1)。2)組織学的病期分類わが国の診療ガイドラインでは、サンプリングエラーを最小限にするように工夫された中沼らによる新しい分類の使用が推奨されている。1期(no progression)、2期(mild progression)、3期(moderate progression)、4期(advanced progression)の4期に分類される。3)特殊型特殊なタイプとして、以下の病態がある。(1)PBC-AIHオーバーラップ症候群(PBC-AIH overlap syndrome)PBCの特殊な病態として、肝炎の病態を併せ持ちALTが高値を呈する本病態がある。副腎皮質ステロイドの投与によりALTの改善が期待できるため、PBCの亜型ではあるが、PBCの典型例とは区別して診断する必要がある。(2)AMA陰性PBC、自己免疫性胆管炎(AIC)AMAは陰性であるが、PBCに特徴的な臨床像と肝組織像を呈し、PBC症例の約10%を占める。これらのうち抗核抗体陽性を呈する病態に対しautoimmune cholangiopathyあるいはautoimmune cholangitis(AIC)などの名称が提唱された。副腎皮質ステロイドの投与が奏効する症例もあり、UDCAの効果がみられない症例に対して試みられる。■ 予後PBCの進展形式は、緩徐進行型、門脈圧亢進症先行型、黄疸肝不全型の大きく3型に分類される(図)。多くは長期間の無症候期を経て徐々に進行するが(緩徐進行型)、黄疸を呈することなく食道静脈瘤が比較的早期に出現する症例(門脈圧亢進症型)と早期に黄疸を呈し、肝不全に至る症例(黄疸肝不全型)がみられる。肝不全型は比較的若年の症例にみられる傾向がある。黄疸期(s2PBC)になると進行性で予後不良である。5年生存率は、血清総ビリルビン値が5.0mg/dLで55%、8.0mg/dLを超えると35%となる。画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断は、厚労省研究班の診断基準(表1)に則って行うが、(1)血液所見で慢性の胆汁うっ滞所見(ALP、γ-GTPの上昇)(2)AMA陽性所見(間接蛍光抗体法またはELISA法)(3)肝組織学像で特徴的所見(CNSDC、肉芽腫、胆管消失)の3項目が重要である1)。〔肝組織像が得られる場合〕(1)組織学的にCNSDCを認め、検査所見がPBCとして矛盾しないもの。(2)AMAが陽性で、組織学的にはCNSDCの所見を認めないが、PBCに矛盾しない(compatible)組織像を示すもの。〔肝組織像が得られない場合〕AMAが陽性で、しかも臨床像および経過からPBCと考えられるもの。■ 臨床検査成績慢性の胆道系酵素(ALP、γ-GTP)の上昇、血清IgMの高値、AMAの出現が特徴的である。■ 抗ミトコンドリア抗体(AMA)と抗核抗体AMAの対応抗原として、ピルビン酸脱水素酵素E2コンポーネント(PDC-E2)をはじめとするミトコンドリア内膜に存在するオキソ酸脱水素酵素複合体を構成する蛋白が明らかになっている。PDC-E2反応性CD4陽性T細胞がPBC患者の肝臓、所属リンパ節および末梢血で有意に増加していることが示され、本疾患の成立・維持に重要な役割を果たしていることが想定される。PBCではAMAのほか、抗セントロメア抗体、抗核膜孔抗体(抗gp210抗体)、抗multiple nuclear dot抗体(抗sp100抗体)など数種の抗核抗体も陽性化する。核膜孔の構成成分に対する抗gp210抗体は特異度ほぼ100%と疾患特異性が高く、PBC患者の約20~30%で陽性化する。本抗体は予後不良なPBC症例で陽性になる率が高く、PBCの臨床経過の予測因子として有用であることが示されている1)。■ 肝組織像自己免疫機序を反映する肝内胆管病変(CNSDC)がPBC肝の基本病理所見であり、肉芽腫の形成も特徴的である。肝内小型胆管が選択的に進行性に破壊される。その結果、慢性に持続する肝内胆汁うっ滞が出現し、肝細胞障害、線維化、線維性隔壁が2次的に形成され肝硬変に進行する。■ 鑑別診断・除外診断画像診断(超音波、CT)で閉塞性黄疸を完全に否定したうえで、慢性の胆汁うっ滞性肝疾患および自己抗体を含む免疫異常を伴った疾患という観点から鑑別診断が挙げられる(表2)。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)根治的治療法は確立されていないが、ウルソデオキシコール酸はPBC進展抑制効果を有し、現在第1選択薬である。予後の改善も期待でき、実際UDCAが投与される以前の時期と比較するとPBCの予後はかなり改善している。進行したPBCではUDCAで進展を止めることは難しく、肝硬変・肝不全に進行すれば肝移植が唯一の治療手段となる。血清総ビリルビン値が5.0mg/dL以上になると肝移植を考慮し、肝移植専門医へ紹介することが望まれる。■ 薬物療法1)ウルソデオキシコール酸(UDCA)(商品名:ウルソなど)胆道系酵素の低下作用のみでなく、組織の改善、肝移植・死亡までの期間の延長効果が確認されている1)。通常1日600mgが投与されるが、効果が不十分の場合は900mgに増量される。2)ベザフィブラート(同:ベザトールSR、ベザリップなど)UDCAの効果が乏しい症例でベザフィブラート(400mg/日)が有効な症例もみられる1)。UDCAとは作用機序が異なることから併用投与が望ましいとされる。3)副腎皮質ステロイド通常のPBCに対する投与は病態の改善には至らず、とくに閉経後の中年女性においては骨粗鬆症を増強する副作用が表面に出てくるので、むしろ禁忌とされている。PBC-AIHオーバーラップ症候群で肝炎所見が明瞭である場合は、本剤の投与が推奨される1)。■ 肝移植胆汁うっ滞性肝硬変へと進展した場合は、もはや内科的治療で病気の進展を抑えることができなくなるため、肝移植が唯一の救命法となる1)。肝移植適応時期の決定は、Mayo(updated)モデルや日本肝移植適応研究会のモデルが用いられている。移植後は免疫抑制薬を投与し、術後合併症、拒絶反応、再発、感染に留意し経過を追う。4 今後の展望本疾患を含め、自己免疫疾患の病因および発症原因の早期解明は期待しがたい。したがって、根本治療の開発にはまだ長い期間がかかるものと思われる。しかし、UDCAについては確実に長期効果もみられており、また、ベザフィブラートについては長期効果のレベルの高いデータは得られていないものの、作用機序に関する基礎データを含め、臨床データも集積しつつあり、UDCAとの併用効果が確立するものと思われる。一方、細胞レベルでの解析や、疾患感受性および進行に関与する遺伝子の解析データも出つつあり、病因の解明とともに、個別化医療が可能となる日もそう遠いものではないと思われる。5 主たる診療科内科、肝臓内科、消化器内科、肝臓移植外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)診療ガイドライン厚生労働科掌研究費補助金難治性疾患克服研究事業「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班:原発性胆汁性胆管炎(PBC)の診療ガイドライン2012(医療従事者向けのまとまった情報)厚生労働省難病情報センターホームページ 原発性胆汁性胆管炎(PBC)ガイドブック(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)公的助成情報難病情報センター 各相談窓口紹介(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会東京肝臓友の会(患者向けの情報)大阪肝臓友の会(患者向けの情報)1)厚生労働省難治性疾患克服研究事業「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班.原発性胆汁性胆管炎(PBC)の診療ガイドライン(2012年). 肝臓. 2012; 53: 633-686.2)厚生労働省「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班. 原発性胆汁性胆管炎(PBC)の診療ガイド. 文光堂. 2010.3)厚生労働省難治性疾患克服研究事業「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班. 患者さん・ご家族のための原発性胆汁性胆管炎(PBC)ガイドブック. 研究班2013事務局. 2013.4)The Intractable Hepatobiliary Disease Study Group supported by the Ministry of Health, Labour and Welfare of Japan Guidelines for the management of primary biliary cirrhosis. Hepatol Res. 2014; 44: 71-90.公開履歴初回2014年01月09日更新2016年03月29日

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ジカウイルスとギラン・バレー症候群の関連、初のエビデンス/Lancet

 ジカウイルスがギラン・バレー症候群を引き起こすという、初となるエビデンス報告が、Lancet誌オンライン版2016年2月29日号で発表された。仏領ポリネシアのタヒチにあるInstitut Louis MalardeのVan-Mai Cao-Lormeau氏らの研究グループが、症例対照研究の結果、報告した。Cao-Lormeau氏は、「ジカウイルス感染症が南北・中央アメリカ中に広がりをみせている。リスクに曝されている国では、ギラン・バレー症候群患者を集中的に治療するための十分なベッドを確保しておく必要がある」と警告を発している。仏領ポリネシアでは2013年10月~14年4月の間に、ジカウイルス感染症の大規模なアウトブレイクを経験。同期間中に、ギラン・バレー症候群の患者が増大したことが報告され、ジカウイルスとの関連が指摘されていた。アウトブレイク中の患者を対象に症例対照研究で関与を検証 研究グループは、ギラン・バレー症候群発症において、ジカウイルス感染症およびデング熱ウイルス感染症が関与しているかを調べる症例対照研究を行った。 症例は、前述したアウトブレイク期間中に、タヒチ島の首都パペーテにあるCentre Hospitalier de Polynesie Francaiseで、ギラン・バレー症候群と診断された患者とした(症例群)。 対照は、年齢・性別・住所でマッチした非発熱性疾患患者(対照群1:98例)、年齢でマッチした急性ジカウイルス感染症患者で神経症状はみられない患者(対照群2:70例)とした。 症例群、対照群の感染ウイルス特定には、RT-PCR法、蛍光抗体マイクロスフェア(microsphere immunofluorescent)法、血清中和アッセイ法などが用いられた。ギラン・バレー症候群の診断では、ELISA法および複合マイクロアッセイを用いて、血清糖脂質抗体の測定が行われた。ギラン・バレー症候群患者98%がジカウイルスIgM/IgG陽性 試験期間中にギラン・バレー症候群と診断された患者は42例であった。そのうち41例(98%)がジカウイルスIgMまたはIgG陽性であった。 症例群の全患者(100%)が、ジカウイルス中和抗体を保有していた。一方、対照群1(98例)における保有者は54例(56%)であった(p<0.0001)。 症例群のうちジカウイルスIgM陽性は39例(93%)で、また、37例(88%)は、神経症状発症の中央値6日(IQR:4~10)前に、ジカウイルス感染症に罹患したことを示唆する一過性の疾患を有していた。 症例群では、電気生理学的検査で軸索型(AMAN)の所見、および急速進行(急速進行初期[installation phase]中央値6[IQR:4~9]日、静止期[plateau phase]中央値4[3~10]日)の所見が認められた。呼吸補助を必要としたのは12例(29%)、死亡例はなかった。 ELISA法による血清糖脂質抗体陽性は、13例(31%)で認められた。そのうちGA1抗体保有者が最も多く8例(19%)の患者で認められた。また、入院時の糖アッセイでは19/41例(46%)が陽性を示した。なお、典型的なAMANに関連する抗糖脂質抗体を有していた患者はまれであった。 デング熱ウイルス感染症歴については、症例群(95%)と、2つの対照群(89%、83%)で有意差はみられなかった。

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コミュ障の克服【Dr. 中島の 新・徒然草】(108)

百八の段 コミュ障の克服コミュ障とは「コミュニケーション障害」の略で、いわゆるネットスラングです。人とうまく話をすることができないので、職場でもプライベートでも人間関係をうまく築くことができず、つい引き籠りになってしまう、というのが典型的なパターンですね。もちろん、コミュニケーションが苦手だと、就職にも結婚にも差し支えることが容易に想像できます。で、そんなコミュニケーション障害を持つ人が、どのようにしてそれを克服したか、という体験談がネットで披露されていました。なかなか示唆に富む記事だったのでここに紹介いたします。その人は20代の男性。自分で編み出した「高速音読」という方法でコミュ障を克服したそうです。ゆっくり読んでもダメだし、黙読でもダメで、とにかく高速で音読するのが大切だということです。高速音読の対象として何を選んだかは詳しくは書かれていませんでしたが、新聞もそのひとつだったようです。なんでも高速音読を行うと、滑舌が良くなって言葉による切り返しがうまくなるのだとか。「これは凄い!」と思った私は、さっそく女房に教えました。中島「高速音読をやると滑舌が良くなって、コミュ障を克服できるらしいぞ」女房「コミュ障ってのは滑舌だけの問題なの?」中島「そう言われれば、人と会話するという心理的障壁もあるし」女房「話題をみつけるのも苦手なんでしょ」中島「他にもいろいろありそうやなあ」確かに滑舌が良くなったからといって話題が豊富になるかというと、あまり期待できそうにありません。中島「でもな。ワシら全員、英語ではコミュ障やろ」女房「は?」中島「日本語でも英語でも、問題は一緒やと思うんやな。つまり外国人としゃべるという心理的障壁とか、話題をみつける難しさとか。それに込み入った話を英語で表現するのも大変やがな」女房「確かにそうかも」中島「第一、英語の滑舌なんか全然アカンし」女房「ずいぶん説得力あるわね、それ」ということで、自ら英語高速音読を始めてみました。やってみると黙読とはまったく違います。たとえば、アクセントの位置です。黙読なら曖昧なままで済みますが、音読ではそうもいきません。例を挙げましょう。勘違いしていたもの "politics" 長い間、pol-i-ticsの「i」にアクセントがあるものと思っていましたが、実は「pol」でした。すみません。複数あるもの "in detail"de-tailの「de」にアクセントを置く人と「tail」にアクセントを置くアナウンサーが同じ「NHK WORLD English News」でしゃべっていました。3通りあるもの "Clostridium difficile"皆さんおなじみの細菌の名前で、たぶん第1音節にアクセントを置く人が多いと思いますが、第2音節にアクセントを置く人も第3音節に置く人もいるようです。ということで、頑張って英語高速音読を毎日やっているところです。三日坊主にならないよう継続するコツについても同じ記事に出ていたので、広く応用可能な方法として次回に紹介したいと思います。とりあえず1句英語なら 貴方も私も コミュ障だ

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高校スポーツ界の皮膚感染症、初の全国疫学調査

 米国では高校のスポーツ選手、とくにレスリング選手において以前から、皮膚感染症が大きな問題であったが、これまで全国的に高校のスポーツ選手における皮膚感染症についての疫学を調査した報告はない。米国・ミシガン州立大学のKurt A. Ashack氏らは、便宜的標本を用いて解析し、皮膚感染症は高校のスポーツ関連有害事象の1つとして重要であることを明示した。著者は、「スポーツ関連皮膚感染症の疫学を理解することが、皮膚感染症の認識とエビデンスに基づく予防を促進するだろう」とまとめている。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2016年1月29日号の掲載報告。 研究グループは、High School Reporting Information Onlineにおける2009/2010から2013/2014までの便宜的標本を用い、報告されたスポーツ関連皮膚感染症について調査した。 主な結果は以下のとおり。・調査期間において、athlete-exposures(1人の選手が1回の練習または試合へ参加する単位。以下、AE)は2,085万8,781例で、474件の皮膚感染症が報告された。発生頻度は、2.27件/10万AEであった。・皮膚感染症の発現率が最も大きかったスポーツはレスリング(73.6%)で、次いでフットボール(17.9%)であった。・最も頻度の高い皮膚感染症は、細菌感染症(60.6%)と白癬感染症(28.4%)であった。・発現部位は頭部/顔面(25.3%)が最も多く、次いで前腕(12.7%)であった。・本研究の限界として、全米アスレチックトレーナー協会(NATA)に加入しているスポーツトレーナーがいる高校のみを対象としていることが挙げられる。ただし、データの報告者はスポーツトレーナーであり、データの質改善に寄与していた。

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ポリオワクチンの追加接種を4歳時に

 2016年2月18日、サノフィ株式会社は「『ポリオ』未だ残る日本のワクチンギャップ解消へ~グローバル化の進展に伴い、高まる子どもの感染症リスク」と題し、都内でプレスセミナーを開催した。 ポリオ(急性灰白髄炎)は、小児期にかかることが多い感染症で、重い後遺症を残すことから「小児麻痺」とも呼ばれている。セミナーでは、諸外国と異なる日本のワクチン接種の現状について、小児感染症のエキスパートがレクチャーを行った。ポリオが輸入感染症になる日 「海外における最新の予防接種動向と日本に残る“ワクチンギャップ”」と題し、中野 貴司氏(川崎医科大学小児科学 教授)が解説を行った。 「わが国では、『暗黒の20年』と呼ばれるように、小児へのワクチン接種が、海外から遅れをとった時期があった」と過去を振り返りつつ、日本と米国の予防接種の状況を比較した。日米では、接種できるワクチンがほぼ同じである。しかしながら、日本ではまだ任意接種のレベルであるロタウイルス、インフルエンザ、おたふく風邪などが、米国では定期接種となっていること、また、接種スケジュールについても、わが国が就学前に集中しているのに対し、米国では就学後でも定期接種が行われている点が異なると説明した。 続いて、ポリオに関して、WHO(世界保健機関)が2018年を目標に「ポリオ最終根絶計画」を打ち出し、全世界で封じ込め対策がとられている現状を紹介した。その一環として、多くの国で安価・簡単という理由で使用されている生(経口)ワクチンから、安全性が高く、ワクチンからの感染を起こさない不活化ワクチンへの切り替えが、全世界で進められている(わが国では2012年に不活化ワクチンに変更)。 現在確認されているポリオ発生地域として、野生株ウイルスではアフガニスタン、パキスタンが、ワクチン由来ウイルスではギニア、ラオス、ミャンマー、ウクライナなどが報告されており、こうした国々からの輸入感染が懸念されている。 ポリオは、症状が現れにくい感染症であり、不顕性の場合も多い。そのため、根絶宣言がなされた地域へ、非根絶地域から感染者が流入する可能性が危惧されている。実際に、過去、日本に飛来した航空機からポリオウイルスが検出された例もある。「今後、日本でさまざまなイベントが開催される中で、多くの外国からの入国者が見込まれる。今、こうした感染症への対策が求められている」と問題を提起した。4歳で再度ポリオワクチンの接種を 続いて、「不活化ポリオワクチン就学前接種を追加する意義」と題し、松山 剛氏(千葉県立佐原病院小児科部長)が解説を行った。 わが国のポリオ患者は、1960年代の生(経口)ポリオワクチンの導入以来、急激に減少し、1980年代以降はワクチン関連麻痺性ポリオの報告を除き、患者はみられなくなった。 また、現在わが国においてポリオワクチン接種は、3回の初回接種に加え、1歳以降に1回の追加接種が行われている。これは海外の追加2回接種と比べ、その回数が少ないことが以前より指摘されている。通常、乳幼児期の追加免疫接種後、上昇した抗体価は継時的に減衰する。そのため現在の接種回数は、抗体価の維持に不安を残すものであるという。 そこで、不活化ポリオワクチン(商品名:イモバックスポリオ皮下注)の追加接種(2回目)による免疫原性および安全性の検討が行われた(製造販売後臨床試験)1)。試験は、就学前の小児60例(男児35例、女児25例)を対象に不活化ポリオワクチンを皮下注射し、接種前と接種後1ヵ月後の変化をみたものである。 試験結果によれば、追加免疫反応率(接種前と比べ各抗体価が4倍以上上昇した被験者の割合)は、ポリオ1型~3型でいずれも78.0%以上に達し、発症防御レベル以上の中和抗体保有率も各型で100%だった。また、安全面では、注射部位反応として紅斑、腫脹が、全身性反応として倦怠感、発熱などが報告されたが、いずれも軽微なものだった。 先述のように、わが国では2回目の追加免疫接種が定期接種として実施されていない。しかし、欧米各国では、4歳以降に追加免疫接種が実施されている。米国予防接種諮問委員会(ACIP)の勧告や米国疾病管理予防センター(CDC)の推奨でも、4歳以上での追加免疫接種の必要性がうたわれている。日本全体のワクチン接種率をみると、就学前のほうが就学後と比較した場合、ワクチンの接種率が高く、4歳での接種は期待できる2)。 現在のように、海外からわが国へポリオウイルスが持ち込まれるリスクがある以上、「諸外国と同じように追加免疫接種を4歳以後に行うことで、ポリオ禍から子供たちを守ることが大切である」とレクチャーを終えた。詳しくはサノフィ株式会社プレスリリースまで(PDFがダウンロードされます)(ケアネット 稲川 進)参考文献1)佐々木津ほか.小児科臨床.2015;68:1557-1567.2)厚生労働省 定期の予防接種実施者数

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電子カルテ時代に抗菌薬不適切使用を減らす手法はあるか?(解説:倉原 優 氏)-484

 当然ながら、上気道感染症のほとんどに抗菌薬の処方は不要とされている。しかしながら、多くの病院やクリニックでは、安易に抗菌薬が処方されている。これは、患者からの希望、クリニックの評判、何か処方しないと満足度が得られない、抗菌薬が不要であることのインフォームドコンセントの時間が十分取れない、など医学的な側面以外の問題が影響しているかもしれない。当院でも、上気道症状を有する患者の多くは、すでに近医でフルオロキノロンを処方された状態で来院してくる。 この研究は、抗菌薬の不適切使用を減らすにはどうしたらよいかという疑問に基づいて、アメリカの47のプライマリケア施設で実施された臨床試験である。試験デザインは、クラスターランダム化比較試験で、同施設に勤務する248人の臨床医が登録され、合計18ヵ月間で介入を受けた。 具体的な介入方法としては、代替治療の提案(電子カルテで上気道炎に対して抗菌薬を処方しようとすると不適切使用のアラートが表示)、抗菌薬使用の理由をフリーコメント欄に記載(コメントは電子カルテ上に表示される)、同僚との比較(全参加者の中で自分の抗菌薬不適切使用の頻度を表示し、順位も定期的に配信)の3経路である。これら介入を単独あるいは組み合わせて実施された。また、全群で抗菌薬処方の教育が介入前に実施された。プライマリアウトカムは、介入前後の抗菌薬不適切処方の変化率である。どうだろう、どの手法が1番効果的と思われるだろうか。 その結果、抗菌薬の不適切使用の割合は、とくに処方理由を電子カルテにコメントさせること、同僚との順位付け比較を行うことで有意に減少した。そりゃそうだろう、という結果だ。抗菌薬が不適切だと電子カルテでも非難されて、それでもなお処方できる医師などそう多くはないはずである。 これら介入による弊害はどうだろうか。抗菌薬を処方しなかった患者のうち、細菌感染のため再受診した割合は、代替治療提案+理由記載の群でのみ1.41%と有意な増加があったが、それ以外では有意差はなかった。 ふむふむ、不適切使用は確かに減るだろう。とくに理由を記載するというアイデアは良いと思う。しかし、順位付けというのが、どうしても過剰な介入に思えてならないのは私だけだろうか。おそらく、そうしたレベルを分けた介入を行うことも本研究の意図だったのだろう。 日本の場合、上気道炎や感冒という病名をつけて抗菌薬を処方する医師はいない。おそらく、細菌性肺炎、細菌性気管支炎など抗菌薬の処方が明らかに妥当と認識されるよう病名をつけることが多いだろう。保険診療の根幹に根付く こうした“しきたり”に介入できる試験は、いつの日か日本で実施可能だろうか。

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ジカウイルス感染症に気を付けろッ! その3【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。第18回となる今回は、前回、前々回に引き続きジカウイルス感染症を取り上げたいと思います。「おいおい、どんだけジカウイルス感染症で引っ張るんだよ」と思われる読者の方もいらっしゃるでしょう。私もちょっと引っ張り過ぎかな~なんて思っています。でも…担当I氏が「ジカウイルス感染症、閲覧数伸びてます…伸びすぎてますよ~!!」と殊のほか喜んでおり、「まさかこの連載がこんなに注目されるとは…この勢いでもう1回、ジカウイルス感染症いっちゃいましょう! まだ絞れば何か出てくるでしょう!」と無茶を言うので、今までどんだけ人気なかったんだこの連載とちょっと心配になりつつも、せっかくですのでもう一度ジカウイルス感染症について語りたいと思います。われわれ医療従事者にとって大事なことは、海外でジカウイルス感染症に感染して日本で発症した患者さんを早期に診断して、その患者さんがそれ以上蚊に咬まれないようにすることです。ジカウイルス感染症を正しく診断することが、国内流行の防止につながるのです!というわけで、今回は輸入感染症の診断の原則も振り返りつつ、実際の症例アプローチについて考えてみましょう。南太平洋の楽園には危険もいっぱい【症例 とくに既往のない20代男性】●現病歴受診4日前昼過ぎから発熱と頭痛が出現。熱は微熱程度であった。夜からは全身の関節痛も出現した。受診3日前朝起きた際に、顔・体幹に皮疹が出ていることに気付いた。受診当日皮疹の原因が気になり、当院を受診した。ジカウイルス感染症患者さんは、このような経過で病院を受診されます。私が診た3名の方は、皆さん「皮疹が出てビックリしたので」というのが受診理由でした(図1)。デング熱の患者さんは「熱がつらくて」「頭が痛くて」といった主訴で受診するので、この「重症感のなさ」はジカウイルス感染症の特徴かと思います。●身体所見体温 37.2℃、脈拍数 75/分、血圧 119/69mmHg、呼吸数 12/分、SpO2 97%(RA)両後頸部リンパ節の腫脹・圧痛あり顔面・体幹に一部癒合し浸潤を触れない紅斑を認めるその他、特記すべき異常所見なし画像を拡大する皮疹の性状だけでジカウイルス感染症と診断するのは困難でしょう。デング熱、麻疹・風疹、梅毒、急性レトロウイルス症候群などさまざまな疾患との鑑別になります。試しに『ヒフミル君』(医師のための簡単・無料の診断支援サービス)に皮疹の写真を送ってみましたが、ジカウイルス感染症という診断は返ってきませんでしたッ!(麻疹・風疹というご回答でした)注目すべきはバイタルサインです。体温37.2℃。微熱です。以前の名称「ジカ熱」と言いつつ、発熱と呼べるほどの高熱ではありません。ジカウイルス感染症患者では発熱がみられないことすらあります。そういう意味では「ジカ熱」という名称よりも、「ジカウイルス感染症」のほうが正しいと言えるでしょう。輸入感染症診療のロジック名著『症例から学ぶ 輸入感染症 A to Z』(中外医学社)に書かれているように、輸入感染症の診断の第一歩は「海外渡航歴の有無を確認すること」から始まります。発熱、下痢、皮疹のいずれかの症状のある患者さんを診たら、海外渡航歴を聴取する習慣を付けましょう!●海外渡航歴:受診の12日前から5日前までタヒチのボラボラ島などで観光していたなんと! これは驚きですッ! 海外渡航歴がありましたッ!まあこの患者さんはジカウイルス感染症なので、海外渡航歴があるのは当たり前ですね。さて、しつこいようですが、名著『症例から学ぶ 輸入感染症 A to Z』(中外医学社)には「輸入感染症診療のロジック」として「『(1)渡航地 (2)潜伏期 (3)曝露歴』の3つから鑑別を絞り込むべし」と書かれています。最初の渡航地とは渡航していた国、地域ですね。アフリカでかかる病気と東南アジアでかかる病気とでは大きく違います。各地域の疫学を知っておくことが重要です。本症例の渡航地であるタヒチ島があるオセアニア地域ではデング熱、チクングニア熱、ジカウイルス感染症の新興蚊媒介性感染症の三兄弟(私が勝手に呼んでるだけです)が、三つ巴状態で流行しています。本症例でもこれら3疾患は鑑別に加える必要があるでしょう。また、オセアニアではマラリア、A型肝炎、腸チフスなども鑑別に挙げる必要があります。次に潜伏期です。輸入感染症の診断において潜伏期の考え方は非常に重要です。この患者さんは受診の12日前から5日前までタヒチ島にいて、4日前から発熱が出現しています(図2)。そうしますと、この患者さんがタヒチ島で感染したと仮定すれば、この感染症の潜伏期は1~8日ということになります。この潜伏期がわかることによって、大幅に鑑別診断を絞ることができます。表は主な輸入感染症の潜伏期を3つに区切ってまとめたものです。本症例はこの表中の「短い潜伏期」グループに属します。つまり、この時点でマラリア、腸チフス、A型肝炎などは除外することができます。画像を拡大する画像を拡大する3つ目は曝露歴です。ジカウイルス感染症を考えた場合は、蚊に刺されたかどうかが重要になるわけですが、実際に自分が旅行中に蚊に咬まれたかなんて覚えてない人のほうが多いので、「具体的にどのような防蚊対策をしていたのか」を聞くことによって、蚊の曝露量を推定します。これまでわが国の輸入ジカウイルス感染症患者さんは、皆さん防蚊対策がされていませんでした。渡航者への防蚊対策の指導も、われわれ医療従事者の大事な仕事です。いよいよ確定診断へ渡航地、潜伏期、曝露歴などからデング熱、チクングニア熱、ジカウイルス感染症が鑑別に挙がりました。もちろん発熱と皮疹を呈する疾患として、これら輸入感染症とは別に、国内で感染した梅毒や急性レトロウイルス症候群なども鑑別に挙がるかと思います。さて、血液検査を見てみましょう。●血液検査WBC 4310/μL、RBC 488×104/μL、Hb 14.0 g/dL、Hct 41.5%、Plt 16.9×104/μL、CRP 0.48mg/dL、TP 7.6g/dL、Alb 4.2g/dL、AST 21IU/L、ALT 15IU/L、LDH 207IU/L、γ-GTP 20IU/L、ALP 189IU/L、T-bil 0.6mg/dLこの血液検査から何が言えるでしょうか? ここから言えることは「何も言えねえ by 北島康介」ってことです。ジカウイルス感染症の血液検査所見は、これといった特徴がなく、血液検査所見で診断を詰めるのは困難です。ここまでの病歴・身体所見・渡航歴から、デング熱、チクングニア熱、ジカウイルス感染症、梅毒、急性レトロウイルス症候群などが鑑別疾患として挙がりました。さあ…ここからジカウイルス感染症までどう絞り込むのかが、今回の最大のポイント…ではなく、もうここまで絞り込めたら十分なのです。デング熱を鑑別に挙げたときには、ジカウイルス感染症も一緒に鑑別疾患として挙げる。これがボトムラインです。これさえ忘れなければ、ジカウイルス感染症を見逃すことはかなり少ないと言えるでしょう。というわけで、ここからはジカウイルス感染症の検査を保健所に依頼しましょう。血清のRT-PCRを行ってジカウイルスを検出することで診断となりますが、ジカウイルスは発症から数日で血中から消失すると考えられています。一方で、尿中からはもう少し長く検出されることがわかっています。ですので、発症から時間が経っている場合には、血液だけでなく尿も検体として採取しましょう。抗体検査による診断も可能です。デング熱と同様に、急性期と回復期のペア血清による診断を行います。この症例では、尿からジカウイルスが検出され、ジカウイルス感染症と診断されました。2016年2月15日よりジカウイルス感染症は「4類感染症」に指定されましたので、ジカウイルス感染症と診断した医師は、ただちに保健所に届け出なければなりません。そして、しつこいようですが、大事なことは患者さんが日本国内で蚊に咬まれないことです(とくに蚊が多い夏場は要注意)。さて、いかがでしたでしょうか。輸入感染症としてのジカウイルス感染症のイメージが湧きましたでしょうか? 次に輸入ジカウイルス感染症を診断するのは、あなたかもしれません。輸入ジカウイルス感染症症例に備え、日ごろからイメトレをしておきましょう!1)忽那賢志. 症例から学ぶ 輸入感染症 A to Z.中外医学社;2015.2)Centers for Disease Control and Prevention. Emergency Preparedness and Response: Recognizing, Managing, and Reporting Zika Virus Infections in Travelers Returning from Central America, South America, the Caribbean, and Mexico.

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上気道炎での不適切な抗菌薬処方を減らすには?/JAMA

 プライマリケアにおける急性上気道炎の抗菌薬不適切処方を減らすには、処方理由を書かせること、不適切処方割合の順位付けを行いメールで知らせる(ピア比較)介入が効果的である可能性が、米国・南カリフォルニア大学のDaniella Meeker氏らが248人のプライマリケア医を対象に行ったクラスター無作為化試験の結果、示された。JAMA誌2016年2月9日号掲載の報告。電子カルテシステム上で3つの介入を行い効果を比較 研究グループは、急性上気道炎の外来患者に対する抗菌薬の不適切処方(ガイドラインと一致しない)の割合を調べ、行動科学に基づく介入の効果を調べる検討を行った。 ボストンとロサンゼルスの47のプライマリケア施設で248人の医師を登録し、全員に登録時に抗菌薬ガイドラインの教育を受けさせ、次の3つの介入のいずれかもしくは複数または未介入(すなわち介入数0~3)を18ヵ月間受ける群に割り付けた。3つの介入は電子カルテを活用したもので、(1)選択肢の提示:処方オーダーセットをサポートするシステムとして急性上気道炎を選択すると、抗菌薬不要の治療であることが表示され、代替治療が表示される、(2)根拠の書き込みを促す:患者の電子カルテに自由記載で抗菌薬を処方する理由を書き込むよう促す、(3)ピア比較:不適切処方割合について最も少ない医師をトップに順位付けを行い、高位の医師には毎月「トップパフォーマー」であることを知らせる一方、低位の医師には「トップパフォーマーではない」こと、および順位、不適切処方割合を知らせ、急性上気道炎に抗菌薬は不要であること、トップパフォーマーとの不適切処方割合の差を知らせる。 介入は2011年11月1日~12年10月1日に開始、最終フォローアップは14年4月1日に終了した。なお対象患者のうち、併存疾患および感染症がある成人患者は除外された。 主要評価項目は、抗菌薬が不要な患者(非特異的上気道炎、急性気管支炎、インフルエンザ)に対して行われた抗菌薬不適切処方割合で、介入前18ヵ月間(ベースライン)と介入後18ヵ月間について評価した。各介入効果について、同時介入、介入前の傾向を補正し、診療および医師に関するランダム効果も考慮した。処方理由の書き込み、不適切処方割合の順位付けを知らせた群で有意に低下 抗菌薬不要の急性上気道炎の外来患者は、ベースライン期間中1万4,753例(平均年齢47歳、女性69%)、介入期間中は1万6,959例(同48歳、67%)であった。 抗菌薬が処方された割合は、対照(ガイドライン教育のみ)群では、介入スタート時点では24.1%、介入18ヵ月時点で13.1%に低下していた(絶対差:-11.0%)。一方、選択肢の提示群では22.1%から6.1%に低下(絶対差:-16.0%、対照群の差と比較した差:-5.0%、95%信頼区間[CI]:-7.8~0.1%、経過曲線差のp=0.66)。根拠の提示を促す介入群では、23.2%から5.2%(絶対差:-18.1%)へと低下し、対照群との有意差が示された(差:-7.0%、95%CI:-9.1~-2.9%、p<0.001)。ピア比較の介入でも19.9%から3.7%へと有意な低下が認められた(絶対差:-16.3%、差:-5.2%、95%CI:-6.9~-1.6%、p<0.001)。 なお、介入間で統計的に有意な相互作用(相乗効果、相互干渉)はみられなかった。

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中絶胎児で小頭症を確認、脳内からジカウイルス検出/NEJM

 ブラジルで妊娠初期にジカウイルスに感染したと考えられる25歳の欧州女性が、妊娠32週で人工中絶。その胎児解剖の結果、小頭症が認められ、脳内からはジカウイルスが検出された。スロベニア共和国・リュブリャナ大学のJernej Mlakar氏らによる症例報告で、NEJM誌オンライン版2016年2月10日号で発表した。中南米とカリブ地域では2015年、ジカウイルス感染症の流行が報告され、同ウイルスに感染した母親から生まれた新生児の小頭症が増加していることが重大な懸念として持ち上がっている。妊娠13週でジカウイルス感染疑い 報告によると欧州出身のこの女性は、2013年12月からブラジル北東部のナタールに住んでおり、15年2月に妊娠した。その後妊娠13週で高熱を出し、重度筋骨格・球後痛とかゆみを伴う全身性斑点状丘疹を呈した。同地域ではジカウイルス感染症が流行していたため、妊婦についても感染が疑われたものの、ウイルス診断テストは実施しなかったという。 その後、妊娠14週と20週の超音波検査では、胎児に解剖学的な異常や成長の遅れはみられなかった。妊娠29週で胎児奇形、32週で小頭症 この女性は妊娠28週で欧州に帰国。妊娠29週で超音波検査を受けたところ、胎児奇形が認められ、同大学病院に紹介された。その時点でこの女性は、胎児の動きが少なくなったことを感じていたという。 妊娠32週の超音波検査では、子宮内胎児発育遅延が確認された。胎盤の厚さは3.5cmと正常値だったものの、複数箇所に石灰化が認められた。また胎児の頭囲が、妊娠周期に対して2パーセンタイル未満であり、小頭症が確認された。 妊娠32週時点で人工中絶が行われ、その3日後に胎児と胎盤の解剖を実施した。 その結果、胎児の脳の小頭症が観察され、ほぼ完全な無脳回症と水頭症、および大脳皮質と皮質下白質に多病巣性異栄養性石灰化が認められ、また皮質の偏位と軽度病巣性炎がみられた。さらに胎児の脳の組織片からは、RT-PCR法によりジカウイルスを検出した。電子顕微鏡下でも確認し、ジカウイルスの完全ゲノムも得られた。

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ベーチェット病〔BD: Behcet’s disease〕

※疾患名にある「Behcet's」は「」が正しい綴りですが、WEB上では正しく表示されない場合があるため、本ページでは「Behcet's」としています。1 疾患概要■ 概念・定義ベーチェット病(BD)は、多臓器侵襲性の非肉芽腫性炎症性疾患であり、病因はいまだ不明の多因子疾患で、口腔粘膜のアフタ性潰瘍、皮膚病変、眼病変、外陰部潰瘍を4主病変として、急性炎症性発作を繰り返すことを特徴とする疾患である。病名の由来は、1937年、トルコのイスタンブール大学皮膚科のベーチェット教授の報告に基づく。近年、新患症例の減少と病態の軽症化が指摘されている。■ 疫学1972(昭和47)年にスモン、重症筋無力症、全身性エリテマトーデス(SLE)とともに最初に厚生労働省(当時は厚生省)の特定疾患の治療研究事業対象疾患として指定された。疾患の伝播経路から「シルクロード病」ともいわれる。特定疾患医療受給者数は、2万35人で(2015年3月末現在の特定疾患医療受給者数は1万9,147人)、男女比はほぼ同数だが特殊型や重症型は男性に多い。■ 病因(図1)遺伝的にはHLA-B51やHLA-A26との関連、環境因子としてS.sanguinisや熱ショック蛋白(HSP)との関連などが報告されている。近年では、IL-10、IL23R/IL12RB2のほか、ERAP-1(Endoplasmic reticulum aminopeptidase 1)、TLR-4(Toll-like receptor 4)、NOD2(Nucleotide-binding oligomerization domain-containing protein 2)およびMEFV(Mediterranean fever)などの関与も報告されているが、病因はいまだ不明の多因子疾患である。近年、MEFVの関与を含め、臨床所見やコルヒチン(商品名:コルヒチン[わが国ではベーチェット病・同ぶどう膜炎に対しては未承認])に対する有効性などの類似所見から家族性地中海熱などの範疇である自己炎症症候群との関連が報告されている。画像を拡大するBDの病態は、獲得免疫および自然免疫の双方から説明される。獲得免疫では、IL-12などが関与するTh1型の免疫反応が生じることが報告されている(IL-10はTh1型の免疫反応には抑制的)。それらの過程にHLA-B51、HLA-A26などのMHCクラスⅠ遺伝子の関与が推測されているが、近年、BDにMHCに付与するペプチドをトリミングする網内系アミノぺプチダーゼ(ERAP)のSNPが疾患感受性遺伝子として報告され、BD発症におけるHLA-B51陽性との相乗効果が示唆されている。自然免疫では、臨床所見の類似性などから家族性地中海熱などの自己炎症症候群との関連が指摘されていたが、近年、家族性地中海熱の原因遺伝子MEFV M694Vが疾患感受性遺伝子であることが報告された。実際に、それらの疾患に過剰に産生される炎症性サイトカイン(IL-1、TNF)はBDの治療標的でもある。また、Toll様受容体4(TLR-4)およびヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)の異常も指摘されていたが、近年の遺伝学的解析により、TLR4やNOD2も疾患感受性遺伝子として同定された。炎症性サイトカインの分子標的治療に加えて、将来、IL-10、HO-1、ERAPおよび細菌を標的とした治療の開発も期待できる。(田中良哉編. 免疫・アレルギー疾患の分子標的と治療薬事典. 羊土社; 2013. p. 230. より改変)■ 症状(図2)口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍、毛嚢炎様皮疹、結節性紅斑様皮疹、皮下の血栓性静脈炎、外陰部潰瘍などの粘膜皮膚病変および虹彩毛様体炎、ぶどう膜炎などの眼病変を主病変とする。また、大関節を主とする関節炎や副睾丸炎、さらには、生命予後にも影響を与える腸管、神経、血管病変を副病変とする。画像を拡大する■ 分類(表1)口腔粘膜のアフタ性潰瘍、皮膚病変、眼病変、外陰部潰瘍の4主病変すべてを併せ持つ完全型、および4主病変と5副病変(関節炎、副睾丸炎、腸管病変、血管病変、神経病変)の組み合わせにより、不全型(3主病変 or 2主病変+2副病変 or 眼病変+1主病変または2副病変)、疑い(主病変の一部のみ)、その他に分類される。また、副病変のうち、生命に関わるもの、あるいは後遺症を残す腸管、血管、神経病変が主病変で、不全型以上のものは特殊型として分類されている。画像を拡大する■ 予後重症の眼病変は日常生活動作を著しく障害するが、概して、特殊型を除き生命予後はよい。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)BDには疾患特異的な組織像やバイオマーカーがなく、経過を通じての再発性アフタ性潰瘍炎、皮膚病変、眼病変、外陰部潰瘍の4主病変、関節炎、副睾丸炎、腸管病変、血管病変、神経病変などの5副病変の臨床症状の組み合わせにより診断される。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)(表2)病因が不明で特異的な治療法はなく、一般的な生活指導のほかに、局所療法をはじめとした対症療法が主体となる。2007年1月に世界に先駆けて保険収載(効能追加)された難治性ぶどう膜炎に対するインフリキシマブ(商品名:レミケード)や、シクロスポリン(同:サンディミュンほか)および眼症状、皮膚粘膜症状、関節炎などに対するコルヒチン(未承認)は効果が認められている。消化器病変、血管病変、中枢神経病変の特殊型には副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬が有効な場合があるが、2013年5月、腸管BDにアダリムマブ(同:ヒュミラ)が、2015年8月には特殊型3型(腸管、血管、神経)のすべてにインフリキシマブが保険収載(効能追加)された。画像を拡大する4 今後の展望近年、病態の軽症化が指摘されている。理由は不明だが、その1つとしてインフラ整備の影響が考えられる。また、BDはTh1型の疾病であるが、Th2型の疾病であるアレルギー体質の増加なども指摘されている(シーソー現象)。病因に関しては、主として自然免疫系が関与する自己炎症症候群に分類する試みがあるが、BD患者には有意にHLA-B51が多いことから、自然免疫、獲得免疫の双方の関与が示唆される。さらに、近年の遺伝子学的研究により、IL-10、IL23R/IL12RB2、ERAP-1、TLR-4、NOD2、MEFVなどの疾患感受性遺伝子が新たに発見されており、今後、それらの機能解析によりさらなる進歩が期待できる。なお、厚生労働省ベーチェット病研究班では、世界的な診断、治療の標準化を目指して、特殊型の診療ガイドライン、眼病変の診療ガイドラインを報告しているが、平成28年度をめどにCQを含む新たなガイドライン作成のために厚労省BD班を中心として検証中である。治療面では、難治性ぶどう膜炎にインフリキシマブ、腸管BDに対してアダリムマブ、特殊型(腸管、血管、神経)に対してインフリキシマブが保険収載(効能追加)された。現在も、アプレミラストをはじめ、多くの臨床治験が施行中であり、さらなる治療の選択肢の増加が期待される。5 主たる診療科リウマチ・膠原病内科、眼科、皮膚科、その他の内科(消化器内科、神経内科、血管内科、循環器内科)、外科(血管外科、消化器外科)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報ISBD(International Society For Behcet’s Disease)(国際ベーチェット病協会の英文での疾患説明)公的助成情報難病情報センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)厚生労働省科学研究費補助金 ベーチェット病に関する調査研究班(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病ドットコム ベーチェット病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報ベーチェット病友の会(ベーチェット病患者と患者家族の会)NPO法人 海外たすけあいロービジョンネットワーク(眼炎症スタディーグループより改名)(眼炎症患者と患者家族の会)1)腸管ベーチェット病診療ガイドライン平成21年度案 ~コンセンサス・ステートメントに基づく~. ベーチェット病に関する調査研究 平成20~22年度(総括・分担研究報告書.研究代表者 石ヶ坪良明). 2011 ; p.231-234.2)腸管ベーチェット病診療コンセンサス・ステートメント案(2012). ベーチェット病に関する調査研究 平成24年度(総括・分担研究報告書 研究代表者 石ヶ坪良明). 2013; p.149-154.3)神経ベーチェット病の診断予備基準. ベーチェット病に関する調査研究 平成20~22年度(総括・分担研究報告書 研究代表者 石ヶ坪良明). 2011; p.239-234.4)ベーチェット病眼病変診療ガイドライン. ベーチェット病に関する調査研究 平成20~22年度(総括・分担研究報告書 研究代表者 石ヶ坪良明). 2011; p.197-226.5)Yoshiaki Ishigatsubo,editor. Behcet's Disease From Genetics to Therapies.Tokyo:Springer;2015.公開履歴初回2013年08月22日更新2016年02月16日

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「シンバイオティクス」がアトピー性皮膚炎治療に有望

 アトピー性皮膚炎は、アレルギー疾患に罹患しやすい免疫環境を助長する腸内細菌叢の変化と関連している可能性があることから、アトピー性皮膚炎の予防と治療に、プロバイオティクスとプレバイオティクスを組み合わせたシンバイオティクスが用いられるようになってきた。台湾・国立陽明大学のYung-Sen Chang氏らによるメタ解析の結果、シンバイオティクスは、とくに混合細菌を用いた場合と1歳以上の小児に用いた場合に、治療効果が認められることを報告した。ただし、アトピー性皮膚炎の1次予防効果に関しては、さらなる研究が必要だとまとめている。JAMA Pediatrics誌オンライン版2016年1月25日号の掲載報告。 研究グループは、PubMed、MEDLINE、EMBASE、Cochran-e Central Register of Controlled TrialsおよびCAB Abstracts Archiveを用い、2015年10月15日までに発表されたアトピー性皮膚炎に対するシンバイオティクスの予防および治療効果を検討した無作為化比較試験の論文について、言語を問わず検索した。選択基準は、シンバイオティクスの経口投与による介入が行われ、アトピー性皮膚炎の疾患重症度評価(Scoring Atopic Dermatitis[SCORAD]指標)および予後評価(発症頻度)がなされているものとした。 主要評価項目は、治療効果検討試験ではSCORAD、発症予防効果検討試験ではアトピー性皮膚炎の相対リスクとした。 主な結果は以下のとおり。・検索で確認された257試験のうち、選択基準を満たした8試験(治療効果検討試験6件;0ヵ月~14歳の小児369例、予防効果検討試験2件;6ヵ月までの乳児が対象の1件と生後3日未満の新生児が対象の1件、計1,320例)を解析に組み込んだ。・治療効果については、6試験のメタ解析の結果、治療8週時のSCORAD変化量は-6.56(95%信頼区間[CI]:-11.43~-1.68、p=0.008)で、有意に低下した。・サブグループ解析の結果、有意な治療効果が認められたのは、混合細菌使用時(加重平均差:-7.32、95%CI:-13.98~-0.66、p=0.03)、および1歳以上の小児(同:-7.37、-14.66~-0.07、p=0.048)であった。・予防効果については、プラセボと比較したシンバイオティクス投与によるアトピー性皮膚炎の相対リスク比は、0.44(95%CI:0.11~1.83、p=0.26)であった。

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悪性胸膜中皮腫へのシスプラチン+ペメトレキセド+ベバシズマブ療法(解説:小林 英夫 氏)-478

 悪性胸膜中皮腫は早期発見が困難で、診断時点では進行期である症例が大多数を占める。2003年のVogelzang 氏らの報告に基づいて、ペメトレキセドが世界初の悪性胸膜中皮腫治療薬として米国で承認され、わが国でも2007年に薬価収載された。現在、悪性胸膜中皮腫標準化学療法はペメトレキセド+シスプラチン併用と認識されている。しかし、その治療成績は必ずしも満足できるレベルには到達しておらず、胸膜肺全摘除術や片側全胸郭照射などを組み合わせたマルチモダリティー療法などが検討されている。 こうした中、中皮腫において血管内皮増殖因子(VEGF)シグナルが重大な役割を果たすことが示唆され、2010年以降いくつかの試験が実施された。そこで、VEGFをターゲットとする抗血管新生治療薬ベバシズマブの上乗せ効果について、Zalcman氏らによる本検討(第III相試験)が実施された。その結果、彼らは「循環器系の有害事象が増えるものの予想範囲内のものであり、ベバシズマブ上乗せは全生存期間(OS)を有意に改善する」とまとめている。Appendixを閲覧すると循環器系有害事象のほとんどは高血圧であった。 本研究デザインは、フランスの73病院において、18~75歳の切除不能悪性胸膜中皮腫、化学療法未治療、Eastern Cooperative Oncology Group PSスコア0~2、重大な心血管疾患の併存なし、CTで評価可能病変が少なくとも1つあり、余命12週超の症例が対象である。除外基準は、脳転移、抗血小板薬使用中、ビタミンK拮抗薬・ヘパリン・非ステロイド性抗炎症薬の投与中などであった。被験者は、ペメトレキセド+シスプラチン+ベバシズマブ投与のPCB群、またはベバシズマブの代わりにプラセボを投与するPC群に無作為に割り付け、3週間に1回を最大6サイクル、病勢進行または毒性効果が認められるまで投与した。主要アウトカムはOSである。 計448例が無作為化され、PCB群223例、PC群225例、男性75%、年齢中央値65.7歳、上皮型中皮腫81%であった。6サイクルを完遂したのは、PCB群74.9%、PC群76.0%。フォローアップ中央値は39.4ヵ月で両群に差はなかった。 主要アウトカムであるOS中央値は、PC群(16.1ヵ月、95%信頼区間[CI]:14.0~17.9)と比べPCB群(18.8ヵ月、15.9~22.6)で有意に延長した(ハザード比[HR]:0.77、95%CI:0.62~0.95、p=0.0167)。なお、PFS(無増悪生存)もPCB群で有意な改善が認められた(9.2ヵ月 vs.7.3ヵ月、HR:0.61、95%CI:0.50~0.71、p<0.0001)。 Grade3/4の有害事象は、PCB群158/222例(71%)、PC群139/224例(62%)であった。PC群と比べてPCB群では、Grade3以上の高血圧症(51/222例[23%] vs.0例)、血栓イベント(13/222例[6%]vs. 2/224例[1%])の頻度が高かった。 これまで進行性悪性中皮腫へのペメトレキセド+カルボプラチン療法効果は、OS中央値は約12ヵ月、無増悪生存(PFS)中央値は約6ヵ月、とされていた。抗血管新生治療の上乗せ効果は期待できそうだが、それでも5年生存率は20%弱であり、さらなる検討が望まれる。また、血清VEGF値により治療効果に差が生じる可能性も示唆されており、今後、中皮腫のバイオマーカーとして活用していくことも考慮される。 悪性胸膜中皮腫の臨床試験は、現在本邦で4試験が実施されている。免疫チェックポイント阻害薬トレメリムマブ、がん抑制遺伝子アデノウイルスベクター、シスプラチン+ペメトレキセド+Napabucasin、アネツマブ・ラブタンシン、の第I、II相試験であり、どのような結果が得られるのか注視していきたい。なお、胸膜腫瘍WHO分類は2015年に改訂され、Journal of thoracic oncology誌2016年2月号(オンライン版2015年12月22日号)1)で発表されている。

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単純性膀胱炎に対するイブプロフェンの効果(解説:小金丸 博 氏)-476

 女性の単純性膀胱炎は抗菌薬で治療されることが多い疾患だが、自然軽快する例も少なからずみられる。また、尿路感染症の主要な原因菌である大腸菌は、薬剤耐性菌の増加が問題となっており、耐性菌の増加を抑制するためにも、抗菌薬を使用せずに膀胱炎の症状緩和が図れないか研究が行われてきた。79例を対象としたPilot studyでは、症状改善効果に関してイブプロフェンは抗菌薬(シプロフロキサシン)に対して非劣性であり、イブプロフェン投与群の3分の2の患者では、抗菌薬を使用せずに改善したという結果が得られた。さらなる評価のため、規模を拡大した研究が実施された。 本研究は、女性の単純性膀胱炎に対するイブプロフェン投与が、症状増悪、再発、合併症を増やさずに抗菌薬の処方を減らすことができるかどうかを検討した二重盲検ランダム化比較試験である。下部尿路感染症の典型的な症状(排尿障害、頻尿/尿意切迫、下腹部痛)を呈した18~65歳の女性494例を対象とし、イブプロフェン投与群(400mg×3錠)とホスホマイシン投与群(3g×1錠)に分けて、28日以内の抗菌薬投与コース回数と、第7日までの症状負担度スコアの推移をプライマリエンドポイントとして評価した。両群ともに症状の経過に応じて抗菌薬を追加処方した。上部尿路感染症状(発熱、腰部叩打痛)、妊婦、2週間以内の尿路感染症、尿路カテーテル留置があるものは試験から除外された。症状負担度スコアは、排尿障害、頻尿/尿意切迫、下腹部痛をそれぞれ0~4点(計12点満点)で評価した。 28日以内の抗菌薬投与コース回数は、イブプロフェン投与群で94回、ホスホマイシン投与群で283回であり、イブプロフェン投与群で有意に減少した(減少率66.5%、95%信頼区間:58.8~74.4%、p<0.001)。イブプロフェン投与群で抗菌薬を投与された患者数は85例(35%)だった。 第7日までの症状負担度スコアの平均値は、イブプロフェン投与群が有意に大きく、症状改善効果に関してホスホマイシンに対する非劣性を証明できなかった。イブプロフェン投与群では、排尿障害、頻尿/尿意切迫、下腹部痛すべての症状の改善が有意に不良だった。 近年「抗菌薬の適正使用」が叫ばれており、不適切な抗菌薬投与を減らそうとする動きが世界的に広がっている。本研究では、女性の単純性膀胱炎を対象として、安全に抗菌薬投与を減らすことができるかどうかが検討されたが、症状改善に関してイブプロフェンは抗菌薬の代替薬としては不十分な結果となった。膀胱炎症状を呈した女性に対しては、従来通り、抗菌薬治療を第1選択とすべきであろう。 しかしながら、本研究でもPilot studyと同様に、イブプロフェン投与群の約3分の2の膀胱炎患者では抗菌薬を投与せずに症状が改善したのも事実である。サブグループ解析の結果では、尿培養が陰性だった患者に限ると、症状増悪に関して2群間で有意差はなかった。尿のグラム染色などで細菌性膀胱炎かどうかを見極めることができれば、抗菌薬を処方しない症例を増やすことができる可能性がある。著者らも述べているが、症状が比較的軽度で、症状が増悪した場合に遅れて抗菌薬を投与することを許容してくれる患者であれば、初回はイブプロフェン投与で経過をみるのも1つの選択肢になりうると考える。

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ネフローゼ症候群〔Nephrotic Syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義ネフローゼ症候群は高度の蛋白尿(3.5g/日以上)と低アルブミン血症(3.0g/dL以下)を示す疾患群であり、腎臓に病変が限局するものを一次性ネフローゼ症候群、糖尿病や全身性エリテマトーデスなど全身疾患の一部として腎糸球体が障害されるものを二次性ネフローゼ症候群と区別する(表1)。ネフローゼ症候群には浮腫が合併し、高コレステロール血症を来すことが多い。ネフローゼ症候群の診断基準を表2に示す。また、治療効果判定基準を表3に示す。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する■ 疫学新規発症ネフローゼ症候群は、平成20年度の厚生労働省難治性疾患対策進行性腎障害調査研究班の調査では年間3,756~4,578例の新規発症があると推定数が報告されている。日本腎生検レジストリーの中でネフローゼ症候群を示した患者の内訳は図1に示すように、IgA腎症を含めると一次性ネフローゼ症候群が2/3を占める。二次性ネフローゼ症候群では糖尿病が多く、ループス腎炎、アミロイドーシスが続く。ネフローゼ症候群を示す各疾患の発症は、図2に示すように年齢によって異なる。15~65歳ではループス腎炎、40歳以上で糖尿病、アミロイドーシスが増加する。図2に示すように一次性ネフローゼ症候群は、40歳未満では微小変化型(MCNS)が最も多く、60歳以上では膜性腎症(MN)が多くなる。巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)は全年齢を通じて発症する。画像を拡大する画像を拡大する■ 病因ネフローゼ症候群において大量の蛋白尿が出るときには、糸球体上皮細胞(ポドサイト)が障害を受けている。MCNSの場合には、この障害に液性因子が関連している可能性が示唆されているが、その因子はいまだ同定されていない。FSGSは、ポドサイトを構成するいくつかの遺伝子の異常が同定されており、多くは小児期に発症する。特発性のFSGSは成人においても発症するが、原因は不明である。MNの原因の1つに、ホスホリパーゼA2受容体(PLA2R)に対する自己抗体の存在が証明されており、ポドサイトに発現するPLA2Rに結合して抗原抗体複合物を産生することが示されている。MPGNは糸球体基底膜の免疫複合体の沈着位置によってI、II、III型に分類される。I型の原因は、補体の古典的経路による活性化が原因と考えられている。III型も同じ原因との説があるが、まだ明確にはわかっていない。II型は補体成分に対する、後天的な自己抗体が産生されることによるとされている。最近、MPGNはC3腎症として定義され、C3が主として糸球体に沈着する腎症群とする考え方に変わってきた。■ 症状1)浮腫ネフローゼ症候群には浮腫を合併する。浮腫の発症機序を図3に示す。画像を拡大する浮腫の発生には2つの仮説がある。循環血漿量不足説(underfill)と循環血漿量過剰説(overfill)である。underfill仮説は、低アルブミン血症のために、血漿膠質浸透圧が低下するとStarlingの法則に従い水分が血管内から間質へ移動することにより循環血漿量が低下する。その結果、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)や交感神経系が活性化され、二次的にNa再吸収を促進し、さらに浮腫を増悪するとされる。2つ目はoverfill仮説であり、遠位尿細管や集合管におけるNa排泄低下・再吸収の亢進が一次的に生じて、Na貯留により血管内容量が増加した結果、静水圧が高まり浮腫を生じるというものである。この原因に、糸球体から大量に漏れてくるplasminなどの蛋白分解酵素が、遠位尿細管や集合管に存在する上皮Naチャネルの活性化に関連し、Na再吸収が亢進するとの報告もある。低アルブミン血症が徐々に進行する場合には膠質浸透圧勾配はほとんど変化しないこと、ネフローゼ症候群患者では必ずしもRAS活性化がみられないことなど、underfill仮説に反する報告もあり、とくに微小変化型ネフローゼ症候群の患者が寛解する際、血清アルブミン値が上昇する前に浮腫が改善し始めるという臨床的事実は、overfill仮説を支持するものである。浮腫成立の機序は必ずしも単一ではなく、症例ごと、また同じ症例でも病期により2つの機序が異なる比率で存在するものと思われる。2)腎機能低下ネフローゼ症候群では腎機能低下を来すことがある。MCNSでは低アルブミン血症による腎血漿流量の低下から、一過性の腎機能低下はあっても、通常腎機能低下を来すことはない。それ以外の糸球体腎炎では、糸球体障害が進めば腎機能の低下を来す。3)脂質異常症肝臓での合成亢進と分解の低下から、高LDLコレステロール血症を来す。■ 予後MCNS、FSGS、MNの治療後の寛解率を図4に示す。画像を拡大するMCNSは2ヵ月以内に85%が完全寛解する。FSGSは6ヵ月で約45%、1年で約60%が完全寛解する。MNは6ヵ月では30%しか完全寛解しないが、1年で60%が完全寛解する。平成14年度厚生労働省難治性疾患対策進行性腎障害調査研究班の報告で、膜性腎症と巣状糸球体硬化症に関する予後調査の結果が報告されている。膜性腎症1,008例の腎生存率(透析非導入率)は10年で89%、15年で80%、20年で59%であった。巣状糸球体硬化症278例の腎生存率は10年で85%、15年で60%、20年で34%と長期予後は不良であった。2 診断 (病理所見)ネフローゼ症候群の診断自体は尿蛋白の定量と血清アルブミン値、血清総蛋白量を測定することにより行うことができる。しかし、実際の治療に関しては、二次性ネフローゼ症候群を除外した後、腎生検によって診断をする必要がある。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 浮腫に対する治療浮腫に対しては、利尿薬を使用する。第1選択薬としてループ利尿薬を使用する。効果がみられない場合には、サイアザイド系利尿薬を追加する。それでも効果のない場合や、低カリウム血症を合併する場合には、スピロノラクトンを使用する。アルブミン製剤は使用しないことが原則であるが、血清アルブミン値2.5g/dL以下で、低血圧、急性腎不全などの発症の恐れがある場合に使用する。しかし、その効果は一過性であり、かつ利尿効果はわずかである。利尿薬に反応しない場合には、体外限外濾過による除水を行う。■ 腎保護を目的とした治療1)低蛋白食ネフローゼ症候群への食事療法の有効性に十分なエビデンスはないが、摂取蛋白量を減少させることにより尿蛋白が減少することが期待できるため、通常以下のように行う。(1)微小変化型ネフローゼ症候群蛋白 1.0~1.1g/kg体重/日、カロリー 35kcal/kg体重/日、塩分 6g/日以下(2)微小変化型ネフローゼ症候群以外蛋白 0.8g/kg体重/日、カロリー 35kcal/kg体重/日、塩分 6g/日以下2)身体活動度ネフローゼの治療において運動制限の有効性を示すエビデンスはない。しかし、身体活動を制限することにより、深部静脈血栓のリスクが増大する。このため、入院中の寛解導入期であっても、ベッド上での絶対安静は避ける。維持治療期においては、適度な運動を勧める。3)レニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬微小変化型ネフローゼ症候群を除き、尿蛋白の減少と腎保護を目的として、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、あるいはアンジオテンシン受容体拮抗薬を使用する。このとき高カリウム血症に注意する。RAS阻害薬を使用することにより、血圧が低下して、臓器障害を起こす可能性がある場合には、中止する。利尿薬との併用は、RAS阻害薬の降圧作用を増強するので注意する。アルドステロン拮抗薬を追加することにより、尿蛋白が減少する。■ 合併症の予防1)感染症の予防ネフローゼ症候群では、IgGや補体成分の低下がみられ、潜在的に液性免疫低下が存在することに加え、T細胞系の免疫抑制もみられるなど、感染症の発症リスクが高い。日和見感染症のモニタリングを行いながら、臨床症候に留意して早期診断に基づく迅速な治療が必要である。肺炎球菌ワクチンの接種を副腎皮質ステロイド治療前に行う。ツベルクリン反応陽性、胸部X線上結核の既往がある者、クオンティフェロン陽性者は、イソニアジド300mgを6ヵ月投与する。副腎皮質ステロイド・免疫抑制薬の治療と並行して投与を行う。1日20mg以上のプレドニゾロンや免疫抑制薬を長期間にわたり使用する場合には、顕著な細胞性免疫低下が生じるため、ニューモシスチス肺炎に対するST合剤の予防的投薬を考慮する。β-Dグルカン値を定期的に測定する。2)血栓症の予防ネフローゼ症候群では、発症から6ヵ月以内に静脈血栓形成のリスクが高く、血清アルブミン値が2.0g/dL未満になればさらに血栓形成のリスクが高まる。過去に静脈血栓症の既往があれば、ワルファリンによる予防的抗凝固療法を考慮する。D-dimer、FDPにて、血栓形成の可能性をモニターする。静脈血栓症由来の肺塞栓症が発症すれば、ただちにヘパリンを投与し、APTTを2.0~2.5倍に延長させて、血栓の状況を確認しながらワルファリン内服に移行し、PT-INRを2.0(1.5~2.5)とするように抗凝固療法を行う。肺塞栓症が発症すれば、ただちにヘパリンを経静脈的に投与し、APTTを2.0~2.5倍に延長させる。また、経口FXa阻害薬を投与する。■ 各組織型別の特徴と治療1)微小変化型(MCNS)小児に好発するが、成人にも多く、わが国の一次性ネフローゼ症候群の40%を占める。発症は急激であり、突然の浮腫を来す。多くは一次性であるが、ウイルス感染、NSAIDs、ホジキンリンパ腫、アレルギーに合併することもある。副腎皮質ステロイドに対する反応は良好である。90%以上が寛解に至る。再発が30~70%で認められる。ステロイド依存型、長期治療依存型になる症例もあり、頻回再発型を示す場合もある。わが国で行われた無作為化比較試験にて、メチルプレドニゾロンを使用したパルス療法は、尿蛋白減少効果において、経口副腎皮質ステロイドと変わらないことが示されている。寛解導入後の治療は、少なくとも1年以上継続して行ったほうが再発が少ない。(1)再発時の治療プレドニゾロン20~30 mg/日もしくは初期投与量を投与する。患者に、検尿試験紙を持たせて、自己診断できるように教育し、再発した場合にすぐに来院できるようにする。(2)頻回再発型、ステロイド依存性、ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群免疫抑制薬(シクロスポリン〔商品名:サンディミュン、ネオーラル〕1.5~3.0 mg/kg/日、またはミゾリビン〔同:ブレディニン〕150 mg/日、または、シクロホスファミド〔同:エンドキサン〕50~100 mg/日など)を追加投与する。シクロスポリンは、中止により再発が起こるリスクが高く、寛解が得られる最小量にて1~2年は治療を継続する。頻回再発を繰り返す症例や難治症例ではリツキサンを500mg/日 1回点滴静注投与することも検討する。2)巣状分節性糸球体硬化症巣状分節性糸球体硬化症(focal segmental glomerulosclerosis:FSGS)は、微小変化型ネフローゼ症候群(minimal change nephrotic syndrome:MCNS)と同じような発症様式・臨床像をとりながら、MCNSと違ってしばしばステロイド抵抗性の経過をとり、最終的に末期腎不全にも至りうる難治性ネフローゼ症候群の代表的疾患である。糸球体上皮細胞の構造膜蛋白であるポドシン(NPHS2)やα-アクチニン4(ACTN4)などの遺伝子変異により発症する、家族性・遺伝性FSGSの存在が報告されている。(1)初期治療プレドニゾロン(PSL)換算1mg/kg標準体重/日(最大60mg/日)相当を、初期投与量としてステロイド治療を行う。重症例ではステロイドパルス療法も考慮する。(2)ステロイド抵抗性4週以上の治療にもかかわらず、完全寛解あるいは不完全寛解I型(尿蛋白1g/日未満)に至らない場合は、ステロイド抵抗性として以下の治療を考慮する。必要に応じてステロイドパルス療法3日間1クールを3クールまで行う。a)ステロイドに併用薬として、シクロスポリン2.0~3.0 mg/kg/日を投与する。朝食前に服用したシクロスポリンの2時間後の血中濃度(C2)が、600~900ng/mLになるように投与量を調整する。副作用がない限り、6ヵ月間同じ量を継続し、その後漸減する。尿蛋白が1g/日未満に減少すれば、1年間は慎重に減量しながら、継続して使用する。b)ミゾリビン 150 mg/日を1回または3回に分割して投与する。c)シクロホスファミド 50~100 mg/日を3ヵ月以内に限って投与する。シクロホスファミドは、骨髄抑制、出血性膀胱炎、間質性肺炎、発がんなどの重篤な副作用を起こす可能性があるため、総投与量は10g以下にする。(3)補助療法高血圧を呈する症例では積極的に降圧薬を使用する。とくに第1選択薬としてACE阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬の使用を考慮する。脂質異常症に対してHMG-CoA還元酵素阻害薬やエゼチミブ(同:ゼチーア)の投与を考慮する。高LDLコレステロール血症を伴う難治性ネフローゼ症候群に対してはLDLアフェレシス療法(3ヵ月間に12回以内)を考慮する。必要に応じ、蛋白尿減少効果と血栓症予防を期待して抗凝固薬や抗血小板薬を併用する。3)膜性腎症膜性腎症は、中高年者においてネフローゼ症候群を呈する疾患の中で、約40%と最も頻度が高く、その多くがステロイド抵抗性を示す。ネフローゼ症候群を呈しても、尿蛋白の増加は、必ずしも急激ではない。特発性膜性腎症の主たる原因抗原は、ポドサイトに発現するPLA2Rであり、その自己抗体がネフローゼ症候群患者の血清に検出される。PLA2R抗体は、寛解の前に消失し、尿蛋白の出現の前に検出される。特発性膜性腎症の抗体はIgG4である。一方、がんを抗原とする場合の抗体はIgG1、IgG2である。約1/3が自然寛解するといわれている。したがって、欧米においては、尿蛋白が8g/日以下であれば、6ヵ月間は腎保護的な治療のみで、経過をみることが一般的である。また、尿蛋白が4g/日以下であれば、副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬は使用しない。わが国における本症の予後は、欧米のそれに比較して良好である。この原因は、尿蛋白量が比較的少ないことによる。このため、ステロイド単独投与により寛解に至る例も少なくない。通常、免疫抑制薬の併用により尿蛋白が減少し、予後の改善が期待できる。(1)初期治療プレドニゾロン(PSL)0.6~0.8mg/kg/日相当を投与する。最初から、シクロスポリンを併用する場合もある。(2)ステロイド抵抗性ステロイドで4週以上治療しても、完全寛解あるいは不完全寛解Ⅰ型(尿蛋白1g/日未満)に至らない場合はステロイド抵抗性として免疫抑制薬、シクロスポリン2.0~3.0 mg/kg/日を1日1回投与する。朝食前に服用したシクロスポリンの2時間後の血中濃度(C2)が、600~900ng/mLになるように投与量を調整する。副作用がない限り、6ヵ月間同じ量を継続し、その後漸減する。尿蛋白1g/日未満に尿蛋白が減少すれば、1年間は慎重に減量しながら、継続して使用する。シクロスポリンが無効の場合には、ミゾリビン 150 mg/日、またはシクロホスファミド 50~100 mg/日の併用を考慮する。リツキサン500mg/日 1回を、点滴静注することにより寛解することが報告されており、難治例では検討する。(3)補助療法a)高血圧(収縮期血圧130mmHg 以上)を呈する症例では、ACE阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬を使用する。b)脂質異常症に対して、HMG-CoA還元酵素阻害薬やエゼチミブの投与を考慮する。c)動静脈血栓の可能性に対してはワルファリンを考慮する。4)膜性増殖性糸球体腎炎膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)はまれな疾患であるが、腎生検の6%を占める。光学顕微鏡所見上、糸球体係蹄壁の肥厚と分葉状(lobular appearance)の細胞増殖病変を呈する。係蹄の肥厚(基底膜二重化)は、mesangial interpositionといわれる糸球体基底膜(GBM)と内皮細胞間へのメサンギウム細胞(あるいは浸潤細胞)の間入の結果である。また、増殖病変は、メサンギウム細胞の増殖とともに局所に浸潤した単球マクロファージによる管内増殖の両者により形成される。確立された治療法はなく、メチルプレドニゾロンパルス療法に加えて、免疫抑制薬(シクロホスファミド)の併用の有効性が、観察研究で報告されている。4 今後の展望ネフローゼ症候群の原因はいまだに不明な点が多い。これらの原因因子を究明することが重要である。膜性腎症の1つの原因因子であるPLA2R自己抗体は、膜性腎症の発見から50年の歳月をかけて発見された。5 主たる診療科腎臓内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本腎臓学会ホームページ エビデンスに基づくネフローゼ症候群診療ガイドライン2014(PDF)(医療従事者向けの情報)日本腎臓学会ホームページ ネフローゼ症候群診療指針(完全版)(医療従事者向けの情報)進行性腎障害に関する調査研究班ホームページ(医療従事者向けの情報)難病情報センターホームページ 一次性ネフローゼ症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)厚生労働省「進行性腎障害に関する調査研究」エビデンスに基づくネフローゼ症候群診療ガイドライン作成分科会. エビデンスに基づくネフローゼ症候群診療ガイドライン2014.日腎誌.2014;56:909-1028.2)厚生労働省難治性疾患克服研究事業進行性腎障害に関する調査研究班難治性ネフローゼ症候群分科会編.松尾清一監修. ネフローゼ症候群診療指針 完全版.東京医学社;2012.3)今井圓裕. 腎臓内科レジデントマニュアル.改訂第7版.診断と治療社;2014.4)Shiiki H, et al. Kidney Int. 2004; 65: 1400-1407.5)Ronco P, et al. Nat Rev Nephrol. 2012; 8: 203-213.6)Beck LH Jr, et al. N Engl J Med. 2009; 361: 11-21.公開履歴初回2013年09月19日更新2016年02月09日

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心不全への遺伝子治療、AAV1/SERCA2aは予後を改善するか/Lancet

 アデノ随伴ウイルス1(AAV1)をベクターとして筋小胞体/小胞体Ca2+-ATPase(SERCA2a)を導入する遺伝子治療(AAV1/SERCA2a)は、試験用量では心不全患者の予後を改善しないことが、米国・カリフォルニア大学サンディエゴ校のBarry Greenberg氏らが行ったCUPID 2試験で示された。SERCA2aは、心臓拡張期にサイトゾル由来のCa2+を筋小胞体内へ輸送することで心筋細胞の収縮と弛緩を調整している。心不全患者はSERCA2a活性が不足しており、遺伝子導入によってこの異常を是正することで心機能が改善する可能性が示唆されている。Lancet誌オンライン版2016年1月20日号掲載の報告。250例を登録した無作為化第IIb相試験 CUPID 2試験は、左室駆出率が低下した心不全患者に対して、AAV1/SERCA2aによる遺伝子導入治療の臨床的な有効性と安全性を評価する、多施設共同二重盲検プラセボ対照無作為化第IIb相試験(Celladon Corporation社の助成による)。 対象は、年齢18~80歳、虚血性または非虚血性の心筋症に起因する安定期慢性心不全(NYHA心機能分類:II~IV)で、左室駆出率≦0.35、最適な薬物療法を安定的に30日以上受けていた高リスクの外来患者であった。 被験者は、AAV1/SERCA2aのデオキシリボヌクレアーゼ(DNase)耐性粒子(1×1013)を冠動脈内に1回、経皮的に注入する群またはプラセボ群に無作為に割り付けられた。国および6分間歩行距離で層別化した。 主要評価項目は再発イベント(心不全関連の入院、心不全の増悪に対する外来治療)、副次評価項目は末期イベント(全死因死亡、心臓移植、機械的循環補助デバイスの恒久的な装着)の発生までの期間とした。 2012年7月9日~14年2月5日に、米国、欧州、イスラエルの67施設に250例が登録され、AAV1/SERCA2a群に123例、プラセボ群には127例が割り付けられた。243例(97%、AAV1/SERCA2a群:122例、プラセボ群:121例)が、修正ITT解析の対象となった。試験用量では効果なし、増量が必要か? 平均年齢はAAV1/SERCA2a群が60.3(±9.77)歳、プラセボ群は58.4(±12.26)歳で、女性はそれぞれ17%、20%であった。全体で、冠動脈疾患患者が56%、虚血性の心不全患者が約半数含まれた。 フォローアップ期間中央値17.5ヵ月の時点における再発イベント発生率は、AAV1/SERCA2a群が62.8/100人年、プラセボ群は73.9/100人年であり、両群間に有意な差を認めなかった(ハザード比[HR]:0.93、95%信頼区間[CI]:0.53~1.65、p=0.81)。 末期イベント発生率にも有意差はみられず(21.7 vs.16.7/100人年、HR:1.27、95%CI:0.72~2.24、p=0.41)、全死因死亡も改善されなかった(HR:1.31、95%CI:0.73~2.36、p=0.37)。 死亡は、AAV1/SERCA2a群が25例(21%)、プラセボ群は20例(16%)で、このうち心血管死がそれぞれ22例、18例だった。 事後解析として、AAV1/SERCA2aの有効性が示されたCUPID 1試験(用量設定試験 、23例)との違いを検討したところ、導入効率に影響を及ぼす可能性のある中空ウイルスカプシド(empty viral capsid、蛋白カプシドのみを含み単鎖DNAは含まない)の含有率に差があることがわかった(CUPID 1試験:85%、CUPID 2試験:25%)。 著者は、「CUPID 1試験の有望な結果にもかかわらず、試験用量のAAV1/SERCA2aでは、左室駆出率が低下した心不全患者の臨床経過は改善しなかった」とまとめ、「増量により中空ウイルスカプシド数を増やした試験を行う十分な根拠があるが、心不全以外の患者を含めるなど試験デザインを見直す必要もあるだろう」と指摘している。

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卵アレルギーと弱毒生インフルエンザワクチン(解説:小金丸 博 氏)-475

 インフルエンザワクチンの製造には、インフルエンザウイルスを鶏卵に接種し培養する工程があるため、ワクチンにはオバルブミンなど卵の成分が含まれる。そのため、卵アレルギーのある人にインフルエンザワクチンを接種すると、重大な副反応が起こる可能性があると広く認識されている。近年、オバルブミン含有量の少ない不活化インフルエンザワクチンは、卵アレルギーのある患者に安全に接種できるとの報告があるが、経鼻的に投与される弱毒生インフルエンザワクチン(LAIV)の安全性に関しては、十分なデータがなかった。 本研究は、卵アレルギーのある若年者(2~18歳)に対するLAIVの安全性を評価するために行った多施設前向きコホート研究である。卵アレルギーと診断されたことのある779例に対してLAIVを投与し、ワクチン接種後2時間以内の有害事象の発生率(プライマリアウトカム)や、1ヵ月後の喘息コントロールスコアの変化などを調査した。試験には卵アナフィラキシー歴がある児が270例(34.7%)、喘息または反復性喘鳴と診断されたことがある児が445例(57.1%)含まれていた。卵アナフィラキシーで侵襲的な呼吸器管理が必要となったことがある児や、重症喘息の児は試験から除外された。 結果、ワクチン接種後2時間以内の全身性アレルギー反応は1例も報告されなかった(95%信頼区間上限値は全集団で0.47%、卵アナフィラキシー歴があった児で1.36%)。9例で軽度のアレルギー症状(鼻炎、局所の蕁麻疹、口腔咽頭の掻痒)を認めた。ワクチン接種後2~72時間に221例の副反応が報告され、62例が下気道症状を呈した。入院が必要となった児はいなかった。また、ワクチン接種1ヵ月後の喘息コントロールテストに有意な変化はみられなかった。 本研究では、卵アレルギー歴がある児でも安全にLAIVを接種できる可能性が示された。試験にはアナフィラキシー歴や喘息を持つ児が数多く含まれており、貴重な報告と考える。アレルギー反応(とくにアナフィラキシー)はとても怖い副反応である。医療従事者にとって、卵アレルギーのある人にインフルエンザワクチンを接種することは勇気が必要なことと思われるが、本試験の結果をみる限り、アレルギー反応を怖がり過ぎているのかもしれない。アナフィラキシーが起こるのを予測することは難しいので、ワクチンを接種する医療機関では、アナフィラキシーが起こったときに対応できるように十分準備しておくことが重要である。 本研究で用いられた経鼻弱毒生インフルエンザワクチンは、2~49歳を対象に欧米で使用されている。不活化ワクチンと比較し発病防止効果が期待できること、非侵襲的であることから、本邦での導入が待たれる。

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