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コロナワクチン接種後心筋炎とコロナ感染後心筋炎の18ヵ月後予後〜関心はさらに長期的予後に(解説:甲斐久史氏)

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、COVID-19 mRNAワクチン接種と抗SARS-CoV-2ウイルス薬の普及、さらには急性期における重症化予防と重症例治療法の確立により、パンデミックの収束を迎え、いまやCOVID-19と共生する時代“Withコロナ時代”となった。今後は、感染者の10〜20%に長期間認められる罹患後症状(PCC:post-COVID-19 condition)をはじめ、未知の後遺症など長期的・超長期的影響が大きな課題となる。その1つが、COVID-19罹患後心筋炎やCOVID-19ワクチン接種後心筋炎である。 COVID-19罹患後心筋炎は、COVID-19感染者10万人当たり約150例(0.15%)に発症する。ワクチン接種後心筋炎は、mRNAワクチン接種(初回、2回目)10万回当たり1例(0.01%)に発症するが、10〜20代男性の2回目接種では発症率0.16%である。COVID-19罹患後心筋炎およびワクチン接種後心筋炎は、ほとんどが軽症であり、対症療法により軽快する。パンデミック初期には、通常の心筋炎と比較して劇症化率が高いものの、劇症化しても適切な治療により回復すると報告された。しかしながら、長期的な心筋炎再発・慢性化、心血管疾患発症や死亡のリスクについては検討が必要である。 Laura Semenzato氏らは、フランスのNational Health Dataシステムに登録された心筋炎4,635例を、ワクチン接種後心筋炎(ワクチン接種後7日以内発症)558例、COVID-19罹患後心筋炎(COVID-19発症30日以内発症)298例とその他の通常型心筋炎3,779例に分類し、退院後18ヵ月間の心筋心膜炎による再入院、その他の心血管イベント、総死亡およびそれらの複合アウトカムと医療管理状況を検討した。標準化複合アウトカム発生率は、通常型心筋炎の13.2%と比較して、ワクチン接種後心筋炎では5.3%と有意に低く、COVID-19罹患後心筋炎では12.1%と同等であった。総死亡は、ワクチン接種後心筋炎で0.3%とCOVID-19罹患後心筋炎の1.3%、通常型心筋炎の1.3%と比較して低値であったが、心筋心膜炎による再入院とその他の心血管イベントは3群間で差は無かった。また、心筋心膜炎以外による全入院は、ワクチン接種後心筋炎12.2%で、COVID-19罹患後心筋炎21.1%、通常型心筋炎19.6%より有意に低くかった。また、退院から18ヵ月後までの画像診断検査、トロポニン検査、負荷テストなどの検査や薬剤処方の頻度は、ワクチン接種後心筋炎およびCOVID-19罹患後心筋炎と通常型心筋炎で差はなかった。 本研究は、フランス全国に及ぶ大規模で悉皆性の高いデータベースに基づき、かつ18ヵ月というこれまでで最も長期間にわたる検討である。COVID-19罹患後心筋炎では、心臓MRIを用いた検討により、退院3ヵ月後の42%に心機能低下、26%に心筋炎症所見が認められたという報告や、急性期には入院を必要としない軽症例でも1年後になんらかの自覚症状が残存しているものでは、びまん性心筋浮腫所見が多くみられるという報告があり、慢性期における心不全など心血管イベント増加が危惧された。しかしながら、本研究により、少なくとも、発症18ヵ月の時点では、COVID-19罹患後心筋炎の心筋炎再発、心血管合併症発症と死亡のリスクは通常型心筋炎と同等であり、ワクチン接種後心筋炎ではさらにリスクが低いことが明らかとなった。医療処置や薬物処方については、心筋炎発症後18ヵ月間としては、わが国でも通常診療と思われる範囲内であり、各群ともに経時的に減少傾向である点に注目したい。 COVID-19パンデミックという特殊な状況下で、無症状やきわめて軽症なCOVID-19に対しても、心臓MRIや血中トロポニン検査を用いた高感度な心筋炎スクリーニングが行われた。その結果、感染急性期のみならず数ヵ月間にわたり潜在性心筋炎症、心機能障害が持続することが明らかとなっている。これらが今後、慢性心筋炎や心不全などの発症リスクとなるかについて、さらに数年、数十年といった時間軸での長期的・超長期的観察が必要となる。COVID-19罹患後心筋炎やワクチン接種後心筋炎で得られる知見の蓄積を通じて、今後、通常型心筋炎の慢性化やHFrEFや拡張型心筋症の概念、診断や治療にも大きな変化がもたらされるかもしれない。

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第211回 医師研修マッチング中間結果、都市部病院が上位独占/医師臨床研修マッチング協議会

<先週の動き>1.医師研修マッチング中間結果、都市部病院が上位独占/医師臨床研修マッチング協議会2.高齢社会対策大綱を改定、高齢者医療費の3割負担拡大を検討/政府3.臓器移植、509人が医療機関の態勢不足で手術を受けられず/厚労省4.特定機能病院の9割に改善指摘、安全管理体制強化を求める/厚労省5.病院経営の厳しさ浮き彫り、病院団体は特例的な財政支援を要請へ/四病協6.訪問看護の過剰請求にメス、厚労省が実態調査を開始/厚労省1.医師研修マッチング中間結果、都市部病院が上位独占/医師臨床研修マッチング協議会医師臨床研修マッチング協議会は、2024年度の医師臨床研修マッチングの中間結果を発表した。大学病院では、順天堂大学が最も多くの1位希望者(76人)を集め1位となり、続いて東京大学(60人)、東京医科歯科大学(56人)がそれぞれ2位、3位となった。順天堂大学は充足率も181.0%でトップ、帝京大学(117.9%)、東京慈恵会医科大学(103.1%)がこれに続き、いずれも定員を大幅に超える希望者を集めている。今年度、大学病院の1位希望者数は1,699人となり、昨年度の1,757人から58人減少し、減少傾向が続いている。大学病院の定員も減少しており、2021年度の3,715人から2024年度は3,467人となった。特筆すべきは、兵庫医科大学が32位から5位へと大きく順位を上げたことや、帝京大学が32位から10位へ急上昇したことだ。一方で、九州大学や浜松医科大学など、順位を大幅に下げた大学もみられた。市中病院では虎の門病院が1位希望者数で首位を獲得し、充足率は390.5%に達した。2位は川崎市立川崎病院、3位は市立豊中病院で、都市部に位置する病院が上位を占めた。とくに東京都立広尾病院は募集定員6人に対して45人が希望し、充足率750.0%で圧倒的な人気を誇った。この結果は、都市部の市中病院の人気が根強いことを示しており、医師志望者の関心がますます都市に集中していることがうかがえる。参考1)2024年度 医師臨床研修マッチング 中間公表(医師臨床研修マッチング協議会)2)【医師臨床研修マッチング2024】中間結果ランキング マッチング中間、大学病院は順天堂が1番人気に(日経メディカル)2.高齢社会対策大綱を改定、高齢者医療費の3割負担拡大を検討/政府政府は2024年9月13日、新たな「高齢社会対策大綱」を閣議決定し、75歳以上の高齢者の医療費負担拡大を検討する方針を示した。現行の制度では、75歳以上の高齢者の窓口負担は原則1割、一定の所得がある場合は2割、そして「現役並みの所得」がある場合は3割とされている。今回の大綱改定では、この「現役並み所得者」の3割負担対象を拡大し、社会保障制度の持続を図る狙いがある。高齢者の医療費は急増しており、政府はその抑制に向けて制度改革を進めている。すでに2023年末に決定された「社会保障改革工程表」にも、2028年度までにこの対象範囲の見直しを含めた議論を行う方針が明記されている。また、大綱では、年齢にかかわらず、能力に応じて社会を支える「全世代型社会保障」を目指す考えが示されている。高齢者が支えられるだけでなく、状況に応じて支える側にも回る社会を築くことを目指す。高齢者の就業促進も大綱に盛り込まれ、2029年までに65歳以上の就業率を大幅に引き上げる目標が掲げられている。現行の65~69歳の就業率は52%だが、2029年には57%まで高める方針。また、60~64歳の就業率も現在の74%から79%に引き上げることが目標とされている。これにより、少子化による労働力不足や経済規模の縮小への対応を図り、同時に高齢者の社会保障費負担を抑制しようとしている。一方で、認知症や孤立した高齢者に対する支援体制の強化も大綱では重視している。身寄りのない高齢者や単身世帯が増える中、身元保証制度や地域での見守り体制の充実が求められているため、民間事業者が提供する終身サポート事業の適正運営を促し、孤立を防ぐための取り組みが進められる見込み。医療費負担の拡大により、現役世代の負担軽減を図ることが期待される一方、高齢者にはさらなる負担が求められる。政府は、高齢者が安心して暮らせる社会の実現に向けて、医療や年金制度の見直しを進める方針を強調している。参考1)高齢社会対策大綱[令和6年9月13日閣議決定](内閣府)2)身寄りない人の支援 医療費3割負担の拡大検討も盛る 高齢大綱改定(朝日新聞)3)75歳医療費、負担増検討 高齢化対策指針に明記(東京新聞)4)医療費3割負担拡大「検討」 高齢社会大綱6年ぶり改定(日経新聞)3.臓器移植、509人が医療機関の態勢不足で手術を受けられず/厚労省2023年に行われた脳死者からの臓器移植で、509人の患者が医療機関の態勢が整わないことを理由に移植手術を受けられなかったことが、厚生労働省の初めての調査で明らかになった。移植を担当する医療機関の人員不足や集中治療室(ICU)の満床などが主な理由。この調査では、脳死者から提供された臓器のうち、複数の医療機関が移植を辞退したために成立しなかったケースが192件あり、心臓6件、肺25件、肝臓9件、膵臓45件、腎臓8件、小腸99件の移植ができなかった。辞退の理由として多かったのは「ドナーの医学的な理由」(2,195人)、「体格・年齢差」(573人)、院内態勢の不備(509人)が挙げられた。臓器移植を希望する患者が、医療機関を複数登録できるようにするなど、移植辞退を減らすための新たな仕組みも検討されている。移植希望者が手術を受けられなかった問題を受け、厚労省は今後、医療機関の受け入れ体制を強化する方針。日本臓器移植ネットワークによると、国内の移植待機期間は心臓で平均3年半、腎臓では14年9ヵ月と長期化している。臓器提供数を増やす取り組みが進められる一方で、医療機関の対応力不足が移植の実施を阻んでいる現状が浮き彫りとなった。参考1)臓器移植断念2023年に25施設、人員・病床不足が理由…厚労省が初の調査結果発表(読売新聞)2)臓器移植 去年509人が手術を希望するも不成立 医療機関の態勢整わず 厚労省が初調査(テレビ朝日)3)臓器移植、延べ3,706人の手術見送り 受け入れ態勢整わず 厚労省(毎日新聞)4)脳死からの提供臓器、2割が移植辞退 医学的理由や院内体制など理由(朝日新聞)4.特定機能病院の9割に改善指摘、安全管理体制強化を求める/厚労省厚生労働省は、2023年度に全88の特定機能病院に対して行った立入検査の結果、77病院に「医薬品や医療機器の安全管理体制」や「事故報告書の作成・提出」などに関して若干の改善が必要であることがわかった。9月20日に公表された報告によれば、指摘を受けた病院では、今後の改善状況については、次年度の立入検査で確認される予定。特定機能病院は国内最高水準の医療を提供する施設であるが、過去に発生した医療事故を受け、医療安全管理体制の強化が進められてきた。2023年度の立入検査では、88病院中77病院(87.5%)において改善指摘が行われ、とくに「医薬品、医療機器の安全管理体制の確保」に関する指摘が多くみられた。指摘は主に口頭で行われ、書面で「検討を要する事項」として通知された病院は6件に止まった。特定機能病院は重要な役割を担う施設であるため、多くの病院で医療安全管理の徹底や院内感染対策の強化が求められている。そのため医療法に基づく検査では、施設の安全基準や適切な人員配置が確認され、問題がある場合は翌年度の立入検査で改善状況がチェックされる仕組みとなっている。2023年度の検査では。新型コロナウイルス感染症の影響で一時的に縮小されていたが、24年度は通常通り全施設に対して実施された。今回の検査結果を受けて、医療機関はさらなる安全管理体制の強化に向けた取り組みが求められており、特定機能病院の質の向上が期待されている。参考1)特定機能病院に対する立入検査結果について(令和5年度)(厚労省)2)すべての特定機能病院で立入検査実施、「医薬品、医療機器の安全管理体制」や「事故等報告書の作成・提出」に若干の問題あり-厚労省(Gem Med)3)特定機能病院の9割弱に指摘事項、立ち入り検査で「不適切な事項」は該当なし 23年度(CB news)5.病院経営の厳しさ浮き彫り、病院団体は特例的な財政支援を要請へ/四病協四病院団体協議会は2024年9月25日に開催された総合部会で、深刻な経営不振に陥っている病院への特例的な財政支援を国に求める方針を発表した。日本病院会の相澤 孝夫会長は、病院経営定期調査の中間報告を基に、病院の収益減少とコスト増加による減収減益が顕著であり、とくに建築費の高騰により改修や設備投資が困難な状況にあることを指摘した。調査によれば、2024年6月時点で病院の医業収益は前年同月比で減少しており、医業費用は増加、結果として多くの病院が赤字となっている。経常赤字病院の割合は、2023年度の約22.7%から2024年度には51.0%と大幅に増加した。また、診療報酬改定やコロナ関連の補助金減少が収益減少に拍車をかけ、給与費や物価の上昇によりさらなるコスト増が経営を圧迫している。この状況を受け、記者会見で相澤会長は「このままでは来年にはさらに厳しい状況が予測され、地域医療が立ち行かなくなる恐れがある」として、2024年度中の診療報酬改定も含めた支援策を求めた。11月には調査結果の最終報告を国に提出し、財政支援の要望を行う方針。また、9月27日に総務省が発表した2023年度の地方公営企業等決算では、全国681の病院事業は2,055億円の赤字を計上し、4年ぶりに赤字に転落したことが明らかになっており、新型コロナウイルス感染症関連の補助金が減少し、人件費や薬剤費の高騰が大きな影響を与えていることがうかがえた。これにより累積欠損金が1兆6,974億円に達するなど、地域医療の維持のためには、政府に早急な対応が必要となってきている。参考1)四病協、中間年改定含む財政支援要請へ 日病相澤氏「病院は深刻な経営不振」(CB news)2)病院経営は減収・減益の危機的な状況、期中の診療報酬対応も含めた病院経営支援を国に強く要請へ-四病協(Gem Med)3)2024年度 病院経営定期調査-中間報告-(3病院団体)4)公立病院事業4年ぶり赤字 2023年度、コロナ補助金減少や人件費高騰影響(産経新聞)5)令和5年度地方公営企業等決算の概要(総務省)6.訪問看護の過剰請求にメス、厚労省が実態調査を開始/厚労省精神科訪問看護において一部の事業者が患者の状態に関係なく訪問回数を増やし、診療報酬を不適切に請求している問題を受け、厚生労働省は実態調査を行い、仕組みを見直す方針を固めた。訪問看護サービス最大手の「ファーストナース」などが不正な運用をしていると指摘されており、同社の訪問看護ステーションでは患者の必要度にかかわらず週3回の訪問を指示し、利益確保を優先していたことが明らかになった。厚労省は、2024年度に科学研究費を活用し、訪問看護の実態を把握する特別調査を実施する予定。訪問看護の役割や訪問回数の適正化、連携体制などを詳細に調査し、2026年度の診療報酬改定に反映させる考えだ。過剰な訪問を是正し、適切な支援を行うための新しい基準が検討される一方で、真面目に運営している事業者が評価される仕組みも求められている。ファーストナースの内部資料や元社員の証言によると、経営陣は売上増加を最優先とし、訪問回数や時間を操作して診療報酬を最大限に引き出すよう指示していた。また、社員には「ロレックスキャンペーン」など高額報酬を餌に、売上増を奨励していたという。今後、厚労省は、調査結果を基に訪問看護ステーションの基準を見直し、報酬体系の適正化を図る予定。過剰請求の是正と同時に、利用者の状態に応じた適切な支援が評価される仕組みが期待される。参考1)精神科の訪問看護、見直しへ 過剰請求受け、厚労省が実態調査(東京新聞)2)精神科訪問看護 見直し方針に期待と要望「良質な事業者評価を」(山陰中央新報)3)「ロレックスぐらいは買える!!」精神科の訪問看護最大手が社内LINEでハッパをかけた「売り上げ最大化」(共同通信)

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重症インフルエンザに対する抗ウイルス薬の有効性(解説:小金丸博氏)

 入院を要する重症インフルエンザに対する抗ウイルス薬の有効性を評価したシステマティックレビューとネットワークメタ解析の結果が、Lancet誌2024年8月24日号に報告された。評価対象としたアウトカムは、症状改善までの期間、入院期間、ICU入院、侵襲的機械換気への移行、機械換気の期間、死亡、退院先、抗ウイルス薬耐性の発現、有害事象、治療関連有害事象、重篤な有害事象に設定された。季節性インフルエンザによる入院期間は、オセルタミビル(平均群間差:-1.63日、95%信頼区間:-2.81~-0.45)およびペラミビル(-1.73日、-3.33~-0.13)投与において有意な短縮を認めたものの、エビデンスの確実性は「低(low)」であった。ランダム化比較試験のデータが乏しく、死亡率など重要な患者の転帰に及ぼす効果について確実性の高いエビデンスは得られなかった。 インフルエンザは入院を要するウイルス性呼吸器感染症の重要な原因である。季節性インフルエンザの入院患者は、重症肺炎、呼吸不全、多臓器不全、二次的な細菌感染症などの合併症を発症し、死亡につながる可能性がある。インフルエンザで入院した成人の致死率は4~8%程度であるが、新型インフルエンザによるパンデミックの際や免疫不全の患者では致死率が高くなる場合がある(10~15%以上)。したがって、重症インフルエンザに対する効果的な治療法を特定することは、公衆衛生上重要な課題である。 ノイラミニダーゼ阻害薬などの抗ウイルス薬は、重症インフルエンザ患者に対して投与することが推奨されている。過去に報告されたシステマティックレビューとメタ解析では、ノイラミニダーゼ阻害薬による早期治療は、治療が遅れたり治療しなかった場合と比較して、死亡率の低下や入院期間の短縮につながる可能性があることが示唆されていた。ただし、重症インフルエンザに対して利用可能なすべての抗ウイルス薬治療を評価したネットワークメタ解析はなく、最適な抗ウイルス薬は不明であった。 本研究では8件のランダム化比較試験がシステマティックレビューに含まれ、そのうち6件がネットワークメタ解析の対象となった。重症インフルエンザで入院した患者において、オセルタミビルとペラミビルは標準治療またはプラセボと比較して入院期間を短縮する可能性が示されたが、含まれているランダム化比較試験の数が少なくデータが不足していたため、証拠の確実性は低いものであった。同様の理由で、すべての抗ウイルス薬が死亡率やその他の重要な患者の転帰に及ぼす影響を正確に評価することは困難であった。そのため、重症インフルエンザ患者に対する抗ウイルス薬の有効性を精密に評価するためには、十分な検出力を持つ臨床試験を行う必要があると述べられている。 本研究のLimitationとして、二次性細菌感染症やインフルエンザのタイプ(A型、B型)が結果に与える影響を評価することができなかったことや、小児および高齢者に対する抗ウイルス薬の有効性を検討できなかったことが挙げられる。また、本研究では重症インフルエンザ患者を対象としており、われわれが日常で診療することが多い外来レベルのインフルエンザ患者に対する抗ウイルス薬の有効性については言及できない。

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第230回 迫る自民党総裁選、立候補者の言い分は?(後編)

自民党総裁選は本日、ついに投開票が行われ、新総裁が決定する。与党の自民党と公明党が衆参両院の過半数を占めている現状では、当然ながら自民党総裁=日本国総理大臣となる。巷の報道では、議員票や党員・党友票、都道府県連票の票読みが行われているが、今回は上位2人による決選投票が確実視されているだけに、その段階で一気に票読みの困難度が増す。とりわけ自民党の総裁選は過去から権謀術数が渦巻く世界だ。現在の推薦人制による立候補となった1972年以降、決選投票となったのは3回。初めての決選投票は、1972年の田中 角栄氏vs. 福田 赳夫氏。第1回投票では第1位の田中氏と第2位の福田氏はわずか6票差だったが、決選投票では票差が92票まで開き、田中氏が総裁に選出された。残る2回のうち1回は2012年。この時は党員・党友票の過半数を獲得した石破 茂氏が1回目で安倍 晋三氏に58票もの差をつけて1位となったが、決選投票では逆に安倍氏が石破氏を19票上回り、逆転で総裁となった。ちなみに1972年以前の自民党でも決選投票が2回あり、1956年の初の決選投票では同じく1回目の1位、2位の逆転が起きた。この時勝利したのは石橋 湛山氏、逆転負けを帰したのは“昭和の妖怪”の異名を持つ安倍氏の祖父・岸 信介氏である。最も直近の決選投票は前回2021年の総裁選で1位の岸田 文雄氏と2位の河野 太郎氏の1回目の票差はわずか1票。これが決選投票では87票差となり、岸田氏が勝利した。このように概観するだけでも自民党総裁選は魔物である。さて誰が当選するのか? 前回紹介しきれなかった自民党総裁選候補者(五十音順)である小林 鷹之氏、高市 早苗氏、林 芳正氏、茂木 敏充氏の社会保障、医療・介護政策を独断と偏見の評価も交えながら紹介する。小林氏(千葉2区)今回、真っ先に出馬表明した小林氏だが、閣僚経験があるとはいえ、最も世間的には知名度が低かったのではないだろうか? 小林氏は東大法学部卒業後、旧大蔵省に入省。2010年に退官し、自民党の候補者公募に応募して2012年の衆議院で初当選して現在に至っている。大蔵省・財務省在籍中にはハーバード大学ケネディ行政大学院に留学し、公共政策学修士号を取得している。小林氏の特設ページでは、「世界をリードする国へ」をキャッチフレーズに掲げている。政策については直ちに取り組む3本柱とこれも含めたより詳細な7項目ごとの政策を披露している。前者では“02.暮らしを明るく:中間層「ど真ん中」の所得向上を実現”として以下の2点を挙げている。地方や若者も多く従事する介護・看護・保育従事者の賃上げ(「物価を超える処遇改善ルール」導入)。若年層の保険料負担軽減を図る「第3の道」の具体化。「社会保障未来会議(仮称)」立ち上げ。介護関係者などの賃上げは、ほかの候補者も挙げているが「物価を超える処遇改善ルール」とより具体的なのは小林氏だけである。もっとも現在の物価高騰を考えれば、介護報酬改定などでは相当な引き上げが必要になる。後者については小林氏の特設ページの7項目のうちの「V. 教育・こども・社会保障」では以下のように記述している(下線は筆者によるもの)。「社会保障未来会議(仮称)では、(1)データに基づく人的物的資源の適正配分、(2)ロボット、AI、アプリ等による健康管理、(3)健診・予防・リハビリ・フレイル対策・軽度認知症対策などの「健康づくり」とその行動や成果へのインセンティブ付与、(4)DX による効果的・効率的なサービスの提供を通じた費用の抑制に資する取組、などを通した医療・介護需要の低減を進めます。あらゆるアイデアをすべて俎上に載せ、国民の皆様とともに広く社会保障制度を考え、方向性を共有して、新たな時代の社会保障制度を作り上げます」DX(Digital Transformation)、EBPM(Evidence based policy making、エビデンスに基づく政策立案)、PHR(Personal Health Record)などを通じて、まずは需要そのものを適正化したいということらしい。もっとも日本記者クラブの候補者討論会では、「若い世代の社会保険料の軽減を主張していますが、財源はどこにあるんですか。結局、一定以上の所得・資産のある高齢者に負担を求める、かなり抵抗が強い方向になると思いますが、そういった覚悟はありますか」と問われたのに対し、前述の社会保障未来会議の説明を平たく語っただけでスルーしてしまっている。高齢者の負担増に関しては今の時点で単にかわしたか、あるいは念頭にあるからこそ敢えてかわしたかのどちらかではないだろうか? (ちなみに私は高齢者の負担増に反対ではない)この項では、ほかに以下のような政策を列挙している。家族等にとって大きな不安の源となる現役世代の怪我や疾病に対しサポート体制を築き、医療サービスの面からも現役世代を支えます。また、DXやイノベーションを通じ、健康医療分野でも世界をリードします。医師の地域偏在と診療科偏在を是正し医療へのアクセスを確保していきます。また、公的サービスの安定供給を前提に、医療法人等の経営改革も進めます。医療・介護・障害福祉等の人材確保を進めます。地域特性に応じた地域包括ケア体制を確立し、住み慣れた場所で生き生きと暮らせる社会の実現を目指します。あらゆるがん対策や研究支援を分野横断で進めると共に、腎疾患、アレルギー疾患等の重症化予防、移植手術の利用推進等に努めます。このなかで個人的に注目したのは2番目である。「医師・診療科の偏在是正」「医療法人等の改革」は若さゆえに繰り出せるパワーワードだろうか? これに手を突っ込めば、医療界、とりわけ日本医師会からの最強度の抵抗を受けることを小林氏は承知して言っているのか定かではない。むしろ、具体的にこれらをどのように実現したいかの詳細があれば、ぜひ聞いてみたいものである。また、これらとは別に「II.経済」では“創薬産業の競争力強化”を掲げ、そこでは「官民の連携を強化し、創薬のエコシステムと政府の司令塔機能を強化します。医療・介護分野のヘルスケアスタートアップを大胆に支援します。『ゲノミクスジャパン』を早期に構築し、ゲノム医療で世界と伍する創薬産業にします」と記述している。これについては7月30日に岸田首相の肝入りで開催された「創薬エコシステムサミット」に酷似した政策である。同サミットは医薬品産業を成長産業と位置付け、必要な予算を確保し、国内外から優れた人材や資金を集結させることで、日本を世界の人々に貢献できる『創薬の地』としていくというものだ。政策の大枠について異論はないが、現行では国際レベルと大きく差が開いた日本の創薬力を引き上げるのは容易ではない。また、コロナ禍中に開催された2020年4月3日の衆議院厚生労働委員会での小林氏の質疑を読むと、新型コロナウイルス感染症のワクチン、治療薬の国産を強く促しているが、失礼ながら製薬業界の現在地に対する理解はやや甘いようである。高市氏(奈良2区)意外と知られていないようだが、高市氏はもともと野党出身の政治家である。神戸大学経営学部経営学科卒業後、松下政経塾に入塾し、その資金提供を受けて米・民主党下院議員のもとで研修を積み、帰国後は日本経済短期大学(後の亜細亜大学短期大学部)助手に就任するとともに、テレビ朝日、フジテレビの番組でキャスターを務めた。テレビ朝日の番組では立憲民主党の前参院議員の蓮舫氏、フジテレビでは日本維新の会の参院議員の石井 苗子氏も同じ番組のキャスターだったのは、今となればなんと因果な巡り合わせかと思う。1992年の参院選・奈良県選挙区で自民党に公認申請をするも公認は得られず、無所属で出馬して落選。翌1993年には中選挙区時代の衆院選奈良全県区から再び無所属で出馬して初当選した。高市氏の当選時は折しも自民党が下野し、細川 護熙政権が発足した時期である。その後高市氏は、自民党を離党した柿澤弘治氏らが結党した自由党に参加。さらに非自民の自由改革連合(代表:海部 俊樹元首相)、新進党を経て、96年に新進党を離党して自民党に入党している。これまで衆院選は9選しているが、自民党入党以降は小選挙区で2度落選している(うち1度は比例復活)。さて安倍 晋三氏の秘蔵っ子とも言われるほど、自民党内でも保守色の強い政治家として知られる高市氏だが、特設サイトでは「日本列島を、強く豊かに。」とのスローガンを掲げている。このスローガンの下、総合的な国力を強化するための6項目のポリシーを掲げており、全体として経済、安全保障に関する高市氏の思考が背骨となっている印象だ。このため社会保障、医療・介護に関する政策もいくつかの項目に散らばっている。政策集を読むと、明らかにもっとも注力しているのは、ポリシー01の「大胆な『危機管理投資』と『成長投資』で、『安全・安心』の確保と『強い経済』を実現。」である。端的に言うと、積極的な財政出動で経済浮揚を図るという考え。そもそもご本人は昨今の日本銀行による利上げを「アホやと思う」とまでこき落としているほど積極財政論者である。そしてポリシー01では、さらに6つの詳細プランを提唱。プラン05の「健康医療安全保障の構築」では、以下のような政策が箇条書きで示されている。国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が実施している「革新的がん医療実用化研究事業」「スマートバイオ創薬等研究支援事業」「医療機器開発推進研究事業」を促進します。AMEDが支援してきたiPS細胞由来の心筋細胞移植の臨床試験が大きく前進しました。「再生・細胞医療、遺伝子治療分野」における研究開発を推進し、その成果を早期に患者の皆様にお届けできるよう、取り組んでまいります。今後のパンデミックに備えるべき「重点感染症」の見直しと医薬品等の対応手段確保のための研究開発支援、有事において大規模臨床試験を実施できる体制の構築、緊急承認については新たな感染症発生時の薬事承認プロセスの迅速化に資する準備を進めます。CBRNEテロ(化学・生物・核・放射線兵器や爆発物を用いたテロ)の対策を検討する専門家組織を創設します。テロに悪用された微生物・化学物質などの特定と拮抗薬やターニケット(止血用の緊縛バンド)の使用が迅速に行われる体制の構築方法を検討します。「国民皆歯科健診」の完全実施に加え、PHRの活用と、「予防医療」や「未病」の取組へのインセンティブを組み込んだ制度設計を検討します。また、プラン06「成長投資の強化」では“工業製品、環境、エネルギー、食料、健康・医療など適用分野が広く、経済安全保障の強化にもつながる『バイオ分野の事業化・普及』に向けた取組を促進します”と謳っている。概観すると、成長が見込めそうな分野への財政出動を通じた徹底投資とそれに伴う製品の国産強化という方針だ。実はこの政策を列挙する前に「ワクチンや医薬品の開発・生産は、海外情勢に左右されてはならず、安全保障に関わる課題です。原材料・生産ノウハウ・人材を国内で完結できる体制を構築します」との基本的考えを示している。この辺は高市氏の保守色の強さを如実に表している。現在、世界水準からはかなり立ち遅れつつある創薬・バイオを安全保障の観点から捉えて強化する方針そのものに異論はない。むしろ日本に欠けているのは、安全保障の観点である。ただ、創薬・バイオは消費・貢献対象の多くが民生分野であり、安全保障視点が過度だと、逆に産業発展を阻害する面もある。また、コロナ禍での国政選挙の際の各政党の政策でも批判してきたことだが、創薬・バイオ技術のグローバル化が進展する今、国産にこだわり過ぎれば、国内での技術開発や社会還元はスピーディーさを欠く結果となる。ポリシー02「『全世代の安心感』を、日本の活力に。」で掲げているのは以下。私は、生涯にわたってホルモンバランス変化の影響を受けやすい女性の健康をサポートする施策の検討に平成25年に着手し、ようやく令和6年度新規事業として「『女性の健康』ナショナルセンター機能の構築」が開始されました。女性特有の疾患や不調について、予防・病態解明・治療・社会啓発の取組を推進します。人手不足の中でも就労時間調整の一因となっている「年収の壁」と「在職老齢年金制度」を大胆に見直し、「働く意欲を阻害しない制度」へと改革します。高齢者だけではなく、現役世代も将来に年金を受け取ることを踏まえ、年金に対する課税の見直しを検討します。物価が上昇する中で年金の手取りが減らないよう、公的年金等控除額の拡大を提案します。国民年金受給額と生活保護受給額の逆転現象を解消するため、低年金と生活保護の問題を一体的に捉えた新たな制度の在り方を検討します。ここに見える年金政策では、既存の制度内で負担と給付のバランスを取るというよりは、給付の拡充とそれによる消費拡大のほうに重点を置いているようだ。その意味で、高市氏は社会保障制度改革も経済政策の一環として捉える思考がほかの候補と比べても極度に強い「経済バカ一代」のような印象である。林氏(山口3区)旧大蔵相・旧厚生相を務めた林 義郎氏の長男。祖父・高祖父も衆院議員歴がある政治一家育ち。東大法学部卒業後、三井物産、サンデン交通(林家のファミリー企業)、山口合同ガスを経てハーバード大学ケネディ・スクールに入学、米・下院議員のスタッフや米・上院議員のアシスタントを経験した。父・義郎氏の大蔵相就任に伴い大学院を休学して帰国し、大臣秘書官を務めた(後に復学、修了した)。1995年の参院選で自民党公認として山口県選挙区で初当選し、同選挙区で連続5回当選。2021年の衆院選で鞍替えして当選。衆院議員としてはまだ1期目である。特設サイトでは「人にやさしい政治。」のキャッチフレーズの下で3つの安心を掲げる。このうちの1つ「底上げによる格差是正と、生活環境の改善・地域活性化を通じた、少子化対策」として「医療・介護DXの推進や医療・介護・福祉人材の処遇改善、医薬品の安定供給、医師の偏在是正、大学病院の派遣機能強化、歯科保健医療提供体制の構築、看護師確保対策などを推進します」と謳っている。概ねほかの候補と共通する政策だが、石破氏と同じく数少ない医薬品安定供給を掲げているほか、林氏の政策にのみ見られるのが「大学病院の派遣機能強化」である。もっとも後者に関して、そのためにどのようにするのかはわからない。また、日本記者クラブでの討論会では、林氏が出馬表明時にマイナ保険証に関して「皆さん納得の上でスムーズに移行してもらうための必要な検討をしたい」と述べたことの意味を問われた。以下は林氏の回答の要約である。林氏廃止という言葉でお伝えをしていたが、実際は新しい切り替えがなくなるということ。紙の保険証は12月3日以降、次の期限までは使え、その期限後は希望すれば資格確認書が発行される。聞くところによると、(資格確認証は)今の保険証とほぼ同じようなものであるとのことなので、私は廃止と言わずに新規発行がなくなることを丁寧に説明するだけで、かなりの不安は解消するのではないかと思っている。いや果たしてそうだろうか? デジタル慣れしていない高齢者などはそうかもしれないだろうが、若年者でマイナ保険証を躊躇する層は、これまでに明らかになったずさんな個人情報管理を問題視しているのが多数のように感じるのだが。この辺はやや危機感に欠けている印象は拭えない。茂木氏(栃木5区)東大経済学部卒業後、丸紅、読売新聞、マッキンゼー社を経て政界入りした茂木氏。政界入り前にはハーバード大学ケネディ行政大学院に留学し、行政学修士号も取得している。以前の立憲民主党代表選の時も触れたが、政界入りは政治改革を掲げた元熊本県知事の細川 護熙氏が立ち上げた日本新党を通じてであり、この時の当選同期が今回の立憲民主党代表に選出された元首相の野田 佳彦氏、野田氏と同代表選で決選投票を戦った枝野 幸男氏である(ほかに日本新党の当選同期は東京都知事の小池 百合子氏、名古屋市長の河村 たかし氏など)。日本新党が解党して新進党に合流した時に無所属となり、その後、自民党に入党して現在に至る。世間的には必ずしも知名度は高くないが、閣僚経験数は実は石破氏や高市氏よりも多い(もっともその多くは内閣府特命担当大臣ではあるが)。今回は「経済再生を、実行へ」をキャッチフレーズに掲げ、その下で6つの実行プランを掲げている。特設サイトを見ると、実行プラン3として「『人生100年時代』の社会保障改革 年齢ではなく経済力に応じた公平な負担へ」を謳っている。茂木氏の各実行プランは「何をする?」「具体的にどうする」の順で目指す政策の概念と具体的な施策を開示している点が特徴だ。実行プラン3の「何をする?」では、デジタル化で個々人の立場に応じた負担と給付へ。“余力のある人には払ってもらい、困難な人への負担軽減と支援拡大”。あらゆる世代が活躍し、生きがいを実感できる社会へ」とし、「具体的にどうする」では以下の3項目を列挙している。社会保障分野にデジタルを完全導入。“標準世帯”から“個々人のデータ”に基づく、負担と給付へ(標準報酬月額の上限も見直し)。在職老齢年金制度の見直しによる中高年層の労働意欲向上。給付手段の簡素化(スマホ搭載のマイナンバーカードにキャッシュレス決済機能を付与し、ここへの給付を可能に)。要はデジタル化で国民個々人の所得状況をガラス張りにし、そのデータを基に応分の負担を求めるということ。カッコ内でさらりと標準報酬月額上限の見直しに触れているが、前段で「余力のある人には払ってもらい」と書いている以上、上限見直しとは上限の引き下げ、すなわち高額所得者や高齢者を中心に保険料負担の引き上げを想定していると思われる。同時に年金の見直しの「中高年層の労働意欲向上」も聞こえを良くしただけで、素直に解釈すれば、給付開始年齢の引き上げや給付水準の引き下げで“労働意欲を持たざるを得ない”状況にするということではないだろうか?いずれにせよある程度“物は言い様”は確かだが、総理総裁を目指そうとするならば、それなりに意図していること臆せず表現する度胸も必要だと思うのだが…。さてさて9候補も紹介するとなると、なかなか骨が折れる。現時点での各社報道によると、上位3人は石破氏、小泉氏、高市氏だという。いずれにせよこの記事公開後、半日も経たずに日本の首相が決まることになる。

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肛門扁平上皮がん1次治療、新規抗PD-1抗体上乗せが有用(POD1UM-30)/ESMO2024

 肛門管扁平上皮がん(SCAC)は、肛門がんの主要なリスク因子であるHPVウイルス感染の増加などを背景に、患者が増加傾向にある。新たな抗PD-1抗体であるretifanlimab単剤療法は、化学療法で進行したSCAC患者において抗腫瘍活性を示すことが報告されている1)。未治療の進行SCAC患者を対象に、retifanlimabの標準化学療法への追加投与を評価するPOD1UM-303試験が行われ、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2024)Presidential Symposiumで、英国・Royal Marsden HospitalのSheela Rao氏が初回解析結果を発表した。・試験デザイン:第III相二重盲検比較試験・対象:手術不適、化学療法未治療の局所再発/転移SCAC患者・試験群:retifanlimab 500mgを4週ごと(最長1年)+標準化学療法(カルボプラチン+パクリタキセル、6サイクル)・対照群(プラセボ群):プラセボ+標準化学療法、PD後のクロスオーバー可・評価項目:[主要評価項目]無増悪生存期間(PFS)[副次評価項目]全生存期間(OS)、奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、安全性など 主な結果は以下のとおり。・2020年11月~2023年7月に308例(試験群154例、プラセボ群154例)が登録された。年齢中央値は62(SD 29~86)歳、72%が女性、87%が白人、4%がHIV陽性、36%が肝転移あり、90%がPD-L1≧1だった。・PFS中央値は、試験群9.3ヵ月(95%信頼区間[CI]:7.5~11.3)に対し、プラセボ群は7.4ヵ月(95%CI:7.1~7.7)で、試験群が有意に良好な結果だった(ハザード比[HR]:0.63、95%CI:0.47~0.84、p=0.0006)。・OSは未成熟であるものの、試験群29.2ヵ月に対しプラセボ群23.0ヵ月と、試験群で改善傾向が認められた。クロスオーバー群のOSはプラセボ群とほぼ変わらない結果だった。・ORRは試験群55.8%に対してプラセボ群44.2%、DOR中央値は14.0ヵ月と7.2ヵ月だった。・Grade3以上の治療関連有害事象は試験群83.1%、プラセボ群75.0%に発生した。うちGrade5はそれぞれ2.6%(4例)、0.7%(1例)だった。Grade3以上で多かったものは好中球減少症(35.1%と29.6%)、貧血(19.5%と20.4%)などだった。 Rao氏は「本試験は転移SCACにおける最大規模のランダム化試験であり、標準化学療法に比べてretifanlimab併用の有効性を示した。安全性シグナルもこれまでの免疫チェックポイント阻害薬の併用療法と一致していた。retifanlimabと化学療法の併用は、進行SCAC患者の新たな標準治療となる可能性がある」とまとめた。 ディスカッサントを務めたドイツ・シャリテー病院のDominik P. Modest氏は「retifanlimab群におけるPFSのハザード比は非常に良好で、しかも早い段階から効果が出ているのが印象的な結果だ。一方、クロスオーバー群はretifanlimabのベネフィットを受けておらず、投与が遅いと効果が出ない可能性もある。本試験のOSや、ニボルマブの化学療法への上乗せ効果を検討したEA2176試験などの結果を見て、さらに検証する必要があるだろう」とした。 retifanlimabは米国・インサイトが開発したPD-1阻害薬で、米国では再発性局所進行メルケル細胞がんに対して承認されている。また、今回のPOD1UM-30試験には日本の施設も参加している。

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第115回 レプリコンワクチンの誹謗中傷、許されるのか?

炎上する「レプリコンワクチン」10月から始まる新型コロナワクチン接種。その中でも注目を集めているのが、Meiji Seika ファルマが開発した次世代mRNAワクチン、通称「レプリコンワクチン」です。しかし、このワクチンを巡り、SNSではさまざまな議論が巻き起こっています。立場を明確にしておきますが、エビデンスもしっかりそろえたうえで承認となっているので、個人的には懸念していません。気になる点があるとすれば、このワクチンは1瓶で16人分の設定になっているため、個人接種よりも集団接種に向いている仕様だということです。さて、「レプリコン」というなじみのない名前が原因なのか、SNSではフルボッコで叩かれているように思います。思い出してみてください、メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンが登場したときも、RNAという言葉に対して「遺伝子が改変されるのでは?」といった誤解や不安が広がったことがありました。この手の不安や誤解に敏感な人たちが、コロナ禍を通して浮かび上がってきました。私がかつて尊敬していた医師でさえも、いつの間にか反ワクチン派に転じ、「ワクチン後遺症にイベルメクチンを」という主張を繰り返すようになりました。また、大学時代の恩師も、今年に入ってから「ワクチンはむしろ薬害だ」という発言をするようになり、驚きを隠せません。とくに懸念すべきは、こうした陰謀論を広めるのがただのSNSインフルエンサーではなく、政治家もその一部にいるということです。彼らはワクチンの仕組みを十分に理解していなくても、人々に納得感を与える発信力を持っています。販売元への誹謗中傷レプリコンとは「自己増幅能」と言う意味です。細胞内でRNAが増殖するため、少量投与によって新型コロナの免疫が引き出されるという仕組みです。タンパクを作り出すのであって、ウイルスそのものが増殖するわけではありません。そもそも、これを言い出すと、じゃあ生ワクチンはどうなるんだということになりますので…。いずれにしても生ワクチンとはまったく異なるもので、従来のmRNAワクチンよりも少ない成分量で高い中和抗体価を維持できる次世代型のmRNAワクチンと言えます。注射部位のmRNAは投与してから8日以降で急速に低下することから、安全性にはほとんど問題ないとされています。レプリコンワクチンによってウイルスが体外に放出されることに反対するコメントを出している団体もありますが、医学的にはワクチンを接種したことで他者に何か影響が起こるということは、起こりません。Meiji Seika ファルマも明確にこの現象を否定しています。「もう薬害」「周囲へ感染を広げる兵器」「原爆と同じ人を殺すもの」といった販売元に対する度が過ぎた誹謗中傷は、個人的には訴訟されるリスクを天秤にかけたほうがよいのでは…とも感じます。

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高齢NSTEMI患者に、侵襲的治療は有益か/NEJM

 非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)の高齢患者では、保存的治療と比較して侵襲的治療は、心血管死または非致死的心筋梗塞の複合のリスクを改善しないことが、英国・ニューカッスル大学のVijay Kunadian氏らBritish Heart Foundation SENIOR-RITA Trial Team and Investigatorsが実施した「SENIOR-RITA試験」で示された。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2024年9月1日号で報告された。約3分の1がフレイルのNSTEMI患者集団で侵襲的治療の有用性を評価 SENIOR-RITA試験は、高齢NSTEMI患者における侵襲的治療の有用性の評価を目的とする非盲検無作為化対照比較試験であり、2016年11月~2023年3月にイングランドとスコットランドの48施設で参加者のスクリーニングを行った(英国心臓財団[BHF]の助成を受けた)。 年齢75歳以上のNSTEMI患者1,518例(平均年齢82歳、女性44.7%、フレイル32.4%、認知機能障害62.5%)を登録し、侵襲的治療戦略を受ける群に753例、保存的治療戦略を受ける群に765例を割り付けた。侵襲的治療群は、冠動脈造影と血行再建術を施行し、有効性が最も高いと考えられる薬物療法を行った。保存的治療群は薬物療法のみを行った。 主要アウトカムは、心血管系の原因による死亡と非致死的心筋梗塞の複合とし、time-to-event解析で評価した。心筋梗塞は少ないが主要アウトカムに差はない 追跡期間中央値4.1年の時点で、主要アウトカムのイベントは、侵襲的治療群で193例(25.6%)に、保存的治療群では201例(26.3%)に発生し、両群間に有意な差を認めなかった(ハザード比[HR]:0.94、95%信頼区間[CI]:0.77~1.14、p=0.53)。 心血管系の原因による死亡は、侵襲的治療群で119例(15.8%)、保存的治療群では109例(14.2%)に発生し(HR:1.11、95%CI:0.86~1.44)、非致死的心筋梗塞はそれぞれ88例(11.7%)および115例(15.0%)に発生した(0.75、0.57~0.99)。手技に関連した合併症は1%未満 副次アウトカムである全死因死亡と非致死的心筋梗塞の複合は、侵襲的治療群で319例(42.4%)、保存的治療群で321例(42.0%)に発生し(HR:0.97、95%CI:0.83~1.13)、致死的または非致死的心筋梗塞はそれぞれ100例(13.3%)および124例(16.2%)に発生した(0.79、0.61~1.02)。 また、一過性脳虚血発作は、侵襲的治療群で18例(2.4%)、保存的治療群で9例(1.2%)に発生し(HR:2.05、95%CI:0.92~4.56)、出血イベント(BARCタイプ2以上)はそれぞれ62例(8.2%)および49例(6.4%)に発生した(1.28、0.88~1.86)。侵襲的治療群では、手技に関連した合併症の発生率は1%未満だった。 著者は、「臨床医は、出血や手技関連合併症への懸念からフレイルの高齢者に侵襲的な処置を行うことに消極的だが、本研究では最新の血管造影とインターベンション戦略を用いたためこれらの合併症の発生は最小限であった」とし、研究の限界として「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行は、とくに併存疾患の負担が大きいフレイルの高齢患者の募集に影響を及ぼし、予定されていた症例数に達しなかった」と述べている。

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腹部CT画像の見落としの有無【医療訴訟の争点】第4回

症例腹痛を訴えて受診をする患者は珍しくなく、夜間であれば研修医などの消化器系非専門医がその診察を担当することも多い。本件では、腹痛を訴えて夜間に受診をした患者につき、撮影したCT画像の読影に見落としがあったかが争われた静岡地裁令和3年8月31日判決を紹介する。なお、争点は多岐にわたるが、本稿では画像読影の点を取り上げることとする。<登場人物>患者83歳・女性(A)夜間、自宅で腹痛を発症し、浣腸して便が出るも腹痛が収まらないため、救命救急センターを受診。既往歴はなし。原告患者の子被告総合病院(二次救急病院・地域医療支援病院)、B医師(初期臨床研修1年目)事案の概要は以下の通りである。平成27年10月24日午後9時頃自宅にて腹痛を発症。午後10時過ぎ同居している子(原告)と共に被告病院の救命救急センターを受診。午後11時55分B医師の診察。この際、Aは午後9時頃に「お腹が痛くなり、浣腸をして便が結構出た」「お腹の痛みは治らない」旨を訴えた。10月25日午前0時過ぎ腹部CT検査、血液検査および心電図検査を実施。血液検査を含め、結果は午前1時までに判明。なお、午前0時30分~6時30分までの間、電子カルテシステムがメンテナンスのため、普段と異なるシステムでの画像判読が必要であった。午前2時頃B医師は、腹部CT画像に異常がないと判断したが、C医師(初期臨床研修2年目)に相談。C医師は、同CT画像を確認し、左下腹部の圧痛の原因は便貯留による閉塞性腸炎によるものと判断したものの、緊急性はなく、帰宅可能と判断。午前2時37分B医師は帰宅を指示し、Aは被告病院から帰宅。午前7時頃Aは茶色物を嘔吐午前7時30分頃被告病院に電話し、症状を伝えるとともに再受診する旨を伝えた。C医師は、復旧した電子カルテシステムでCT画像を再度確認したところ、腹部に遊離ガス(free air)を認めたことから、消化管穿孔を疑い、D医師(外科医長)に相談し、画像読影を依頼。午前8時24分頃D医師はCT画像を確認し、胃の腹側および脾臓の前面に遊離ガスを認めたため、改めて腹部CT検査および血液検査を指示。午前8時44分頃2回目の腹部CT画像にて、腹部の遊離ガスおよび腹水の著明な増加を認めたため、D医師は大腸穿孔による急性汎発性腹膜炎からの敗血症ショック状態と判断。午前10時15分頃緊急手術を実施。開腹したところ、穿孔部位は下行結腸であり、周囲には便汁がみられ、腹腔内全体には便汁様の膿が貯留していた。穿孔部を仮縫合し閉鎖した後、腹腔内を洗浄し、口側腸管に人工肛門を造設するなどして手術を終了。10月26日午後0時52分、Aは敗血症を原因とする多臓器不全で死亡。実際の裁判結果裁判所は、以下の各点を指摘した上で、腹部CTが終わり血液検査結果の出た平成27年10月25日午前1時の時点までには、これらの検査結果等に基づき患者Aに発症した消化管穿孔を疑うべきであり「自らあるいは他の医師に依頼するなどして、緊急手術としての開腹による穿孔部への処置と腹腔内洗浄・ドレナージを実施すべき注意義務があった」として、これを行わなかったことについて注意義務違反があるとした。<判決が指摘したポイント>下部消化管穿孔は、比較的高齢者に好発するものであること患者Aが70歳を超える高齢者であったこと特発性大腸穿孔は、慢性的な便秘や排便等、発症の誘因となる動作が認められることが多いこと下部消化管穿孔は、細菌を含む糞便が腹腔内に漏れることにより細菌性腹膜炎を来し、敗血症となり、ショック・播種性血管内凝固症候群(DIC)・多臓器不全に移行することがあり、一般に予後が悪いため、早期の的確な診断と手術をすべきであることCT画像上、上腹部の前腹壁直下および下行結腸周囲にも遊離ガスが認められたこと患者Aが腹痛を訴えて被告病院を受診し、排便を契機として腹痛が生じたなどの経緯を説明したことなお、病院側は、本件当日は電子カルテシステムが停止中であったため、普段使い慣れていない代替システムを用いての画像閲覧を余儀なくされたこと、代替システムで腹部CT画像を閲覧する場合の初期設定は、ガスと脂肪が同じような濃度に見えたため、遊離ガスの検出は難しかったことを主張した。これに対して裁判所は、代替システムの画像濃度値を変更すれば初期設定よりも鮮明に空気と脂肪の区別が比較的容易となること、代替システムが初期設定の状態であっても注意深く観察すればCT画像上の遊離ガスの発見は困難ではなかったこと、B医師もこの点を自認していること等を指摘し、「代替システムを用いてCT画像を読影せざるを得なかったからといって、遊離ガスの発見が困難であったとは言い難い」とした。また、病院側は、B医師は、C医師に相談しており、研修医としての能力的限界を常に自覚しながら誠実に医療に携わっていたとして、B医師に注意義務違反はない旨を主張したが、裁判所は、「過失の判断は、診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準によるべきであって、Bが研修医であったかどうかはこの点において考慮されるべき事情ではない」と判断した。注意ポイント解説本件では、下部消化管穿孔が一般に予後が不良であるため、早期の的確な診断と手術が求められている中で、患者Aが下部消化管穿孔の好発する高齢者であり、その誘発原因となる経過を述べていたこと、CT画像を注意深く見れば下部消化管穿孔を積極的に疑う所見である遊離ガスを認め得たことから、医療機関側の注意義務違反を認める判断がなされた。この点、本件では普段使い慣れているシステムがメンテナンス中であり、使い慣れていない代替システムを用いて読影を余儀なくされたという事情があるほか、研修医が上級医に相談しているという経緯もあり、必ずしも医師の対応に大きな問題があったとまでは言えない部分がある。しかし、医療水準が、医療機関の性格に応じて判断されるものであることからすれば、当日に代替システムを用いざるを得なかったことや、担当医が研修医であったか否かは、医療機関の行っている医療行為のレベルに直接的な関係がないため、医療水準の判断に直ちに影響することにはならない。このため、医療機関は、代替システムの利用方法の周知や、研修医と上級医の連絡・相談体制の構築についても対応していく必要がある。また、連絡・相談体制があっても、上級医が相談しにくい雰囲気を出していれば相談がなされず有名無実化するため、研修医が上級医に相談しやすい環境の醸成を含めた対応が必要である。医療者の視点救急時間帯の画像読影はとてもストレスの大きいタスクです。同じ勤務時間帯に脳、胸部、腹部などすべての領域の専門医が揃うことはほとんどありません。研修医や非専門領域の医師が協力して読影せざるを得ない場面も多くあるかと思います。そのような状況下では、どれだけ注意深く読影しても診断困難な症例に遭遇することがあると予想されます。しかしながら、裁判所や患者さんには医療者側の事情を聞き入れてもらえないことがある、という典型的な事案かと思います。このような事態を引き起こさないための取り組みとしては、(1)自身の読影能力を向上させる、(2)専門医に相談できる体制を整える、(3)救急時間帯も放射線科による読影体制を構築する、(4)画像読影AIを導入する、などが挙げられます。とくに(3)はリモートでも実施可能ですし、(4)の有用性を支持する論文も多数発表されていますので、このような診療補助ツールを駆使することもお勧めです。Take home message画像読影につき、普段使用しているシステムがメンテナンス等で使用できない場合の代替システムの使用方法について把握しておくこと、研修医等の専門性発展途上の医師と上級医の連絡・相談体制(相談しやすい環境づくりを含む)を構築しておくこともまた重要である。キーワード画像所見の見落とし画像所見の見落としがあるとされるか(読影における注意義務違反があるか)は、集団検診におけるものであるか、人間ドックにおけるものか、一定の疾患が疑われた上での精査の場面であるかによっても求められる水準が異なる。誤解を恐れずに言えば、当該画像撮影がなされた検査において、その検査に携わる一般的な医師が指摘可能な所見であったか否かにより、判断されることとなる。

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第233回 コロナワクチンとがん免疫治療患者の生存改善が関連/ESMO2024

コロナワクチンとがん免疫治療患者の生存改善が関連/ESMO2024がん患者は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を生じ易いことが知られます。幸い、がん患者の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン接種の安全性はおおむね良好です。いまや可能な限り必要とされるがん患者のSARS-CoV-2ワクチン接種が、その本来のCOVID-19予防効果に加えて、なんとがん治療の効果向上という思わぬ恩恵ももたらしうることが、今月13~17日にスペインのバルセロナで開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2024)での報告で示唆されました1)。報告したのは米国屈指のがん研究所であるテキサス大学MDアンダーソンがんセンターのAdam J. Grippin氏です。Grippin氏らは今回の報告に先立ち、mRNAワクチンがその標的抗原はどうあれ、腫瘍のPD-L1発現を増やして抗PD-L1薬などの免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の効果を高めうることを、げっ歯類での検討で見出していました。そこでGrippin氏らはCOVID-19予防mRNAワクチンがPD-L1発現を促すことでICIが腫瘍により付け入りやすくなるのではないかと考え、StageIII/IVの進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者2,406例や転移黒色腫患者757例などの記録を使ってその仮説を検証しました。予想どおり、SARS-CoV-2 mRNAワクチン接種から100日以内のNSCLC患者の腫瘍では、PD-L1がより発現していました。また、5千例強(5,524例)の病理報告の検討でもSARS-CoV-2 mRNAワクチン接種とPD-L1を擁する腫瘍細胞の割合の55%上昇が関連しました。SARS-CoV-2 mRNAワクチンとICI治療効果の関連も予想どおりの結果となりました。ICIが投与されたNSCLC患者群のうち、その開始100日以内にSARS-CoV-2 mRNAワクチンを接種していた患者は、そうでない患者に比べて全生存期間(OS)がより長く(それぞれ1,120日と558日)、より多くが3年間を生きて迎えることができました(3年OS率はそれぞれ57.2%と30.7%)。一方、ICI非治療の患者の生存へのSARS-COV-2 mRNAワクチン接種の影響はありませんでした。黒色腫患者でも同様の結果が得られており、ICI治療開始100日以内のSARS-COV-2 mRNAワクチン接種はOS、無転移生存期間、無増悪生存期間の改善と関連しました。SARS-COV-2 mRNAワクチンはPD-L1発現亢進と黒色腫やNSCLC患者のICI治療後の生存改善と関連したとGrippin氏らは結論しています。Grippin氏らの研究はmRNAワクチンに的を絞ったものですが、昨年9月に中国のチームが報告した解析結果では、mRNA以外のSARS-CoV-2ワクチン接種とICI治療を受けたNSCLC患者の生存改善の関連が認められています2)。不活化ワクチン2種(BBIBP-CorVとCoronaVac)を主とするSARS-CoV-2ワクチンを接種してICI治療を受けたNSCLC患者は非接種群に比べてより長生きしました。中国からの別の2つの報告でもmRNA以外のSARS-CoV-2ワクチンのICIの効果を高める作用が示唆されています。それらの1つでは抗PD-1抗体camrelizumab治療患者2,048人が検討され、BBIBP-CorV接種と全奏効率(ORR)や病勢コントロール率(DCR)が高いことが関連しました3)。ただし年齢、性別、がんの病期や種類、合併症、全身状態指標(ECOG)を一致させたBBIBP-CorV接種群530例と非接種群530例のORRやDCRの比較では有意差はありませんでした。同じ研究者らによる翌年の別の報告では、抗PD-1薬で治療された上咽頭がん患者1,537例が調べられ、CoronaVac接種とORRやDCRの向上が関連しました4)。参考1)Association of SARS-COV-2 mRNA vaccines with tumor PD-L1 expression and clinical responses to immune checkpoint blockade / ESMO Congress 20242)Qian Y, et al. Infect Agent Cancer. 2023;18:50.3)Mei Q, et al. J Immunother Cancer. 2022;10:e004157.4)Hua YJ, et al. Ann Oncol. 2023;34:121-123.

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HPV感染は男性の生殖機能を損なう可能性

 HPV(ヒトパピローマウイルス)は、ほぼ全例(95%)の子宮頸がんの原因であることから、これまで女性の健康問題と考えられてきた。しかし、男性にもHPVを恐れる理由と予防接種を受けるべき理由のあることが新たな研究で明らかになった。男性が高リスク型のHPVに感染すると、生殖機能が障害される可能性のあることが示されたのだ。国立コルドバ大学(アルゼンチン)化学学部教授のVirginia Rivero氏らによるこの研究結果は、「Frontiers in Cellular and Infection Microbiology」に8月23日掲載された。 HPVは高リスク型と低リスク型に分類され、前者は、子宮頸がんや陰茎がん、肛門がんなどのリスクを上昇させ得る。米疾病対策センター(CDC)は、性的に活発になってウイルスに曝露するリスクが高まる前にHPVワクチンを接種する方が効果が高いことから、9〜14歳の小児へのワクチン接種を推奨している。しかし、男子でのワクチン接種率は女子よりも低く、2022年の米国での接種率は、女子で約65%であったのに対し男子では約61%にとどまっていたという。 この研究では、205人の男性(年齢中央値35歳)を対象に、生殖器系での高リスク型または低リスク型HPV感染と精液の質、酸化ストレス、炎症との関連が検討された。Rivero氏らが対象者の精液サンプルを調べたところ、19.0%(39/205人)でHPV感染が確認された。陽性サンプルからHPVの遺伝子型を割り出すことができたのは27人で、うち20人(74.0%)は少なくとも1種類の高リスク型HPVに、7人(26.0%)は低リスク型HPVに感染していることが確認された。対象者のうち、HPVも含め尿路病原菌が確認されず、膿精液症のなかった43人を対照とした。 解析の結果、高リスク型HPV感染者でも低リスク型HPV感染者でも、WHOのガイドラインに基づいて評価した精液の質に有意な低下は認められなかった。しかし、高リスク型HPV感染者では低リスク型HPV感染者や対照と比べて、精子のアポトーシスや壊死が有意に多く、活性酸素種(ROS)陽性精子の割合も高いことが確認された。また、高リスク型HPV感染者と低リスク型HPV感染者の精液に顕著な炎症は認められず、さらに前者では予想外にも、対照と比べて精液中の白血球と炎症性サイトカイン(IL-6およびIL-1β)レベルが低いことも観察された。 Rivero氏は、「高リスク型HPVに感染した男性は、酸化ストレスと尿生殖器の局所的な免疫反応の低下により、死滅する精子が増加することが示された。この結果は、これらの男性では生殖機能が障害を受けている可能性があることを示唆している」と話している。 Rivero氏は、「われわれの研究は、高リスク型HPVが精子のDNAの質にどのように影響し、それが生殖機能と子孫の健康とどのように関わってくるのかについて、重要な問題を提起している」との考えを示す。その上で、「これらの影響の根底にある生物学的メカニズムの解明が必要だ。また、性感染症(STI)は極めて一般的であることから、われわれは、HPV感染と他のSTIの併発がこれらの結果に影響を及ぼすかどうかを調査することを計画している」と話している。

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体重増加による血管への悪影響、年齢で異なる

 歳とともに体重が増えることによる血管への悪影響は60歳未満で顕著であり、60歳を超えると有意なリスク因子でなくなる可能性を示唆するデータが報告された。名古屋大学大学院医学系研究科産婦人科の田野翔氏、小谷友美氏らの研究結果であり、詳細は「Preventive Medicine Reports」7月号に掲載された。 BMIで評価される体重の増加が、動脈硬化性疾患のリスク因子であることは広く知られている。しかし、体重増加の影響力は人によって異なり、体重管理により大きなメリットを得られる集団の特徴は明らかでない。田野氏らは、動脈硬化の指標である心臓足首血管指数(CAVI)とBMIの変化との関連を検討することで、体重増加の影響が大きい集団の特定を試みた。 この研究は、愛知県で複数の医療施設を運営しているセントラルクリニックグループでの企業健診受診者データを用いて行われた。2015年から2019年(新型コロナウイルス感染症パンデミックにより人々のBMIなどに変化が生じる前)に年間BMI変化量を評価でき、かつ2019年にCAVIが測定されていた459人(男性71.9%)を解析対象とした。 459人中53人(11.5%)が、2019年時点のCAVIが9以上であり、動脈硬化の進展が疑われた。CAVI9以上/未満で比較すると、9以上の群は高齢で男性が多く、高血圧、脂質異常症、糖尿病などの動脈硬化リスク因子の保有率が高いという有意差が認められた。一方、BMIは2015年と2019年のいずれの時点でも有意差がなかった。ランダムフォレストモデルという統計学的手法により、CAVIが9以上であることに寄与する因子として、年齢が最も重要であり(重要度を表す値が17.09)、次いで脂質異常(総コレステロールが同7.86、HDL-コレステロールは7.04)で、その次が体重(現在〔2019年時点〕のBMIが6.09、年間BMI変化量が5.98)であることが分かった。 次に、交絡因子(年齢、性別、現在のBMI、年間BMI変化量、血圧、糖・脂質代謝指標など)の影響を調整し、2019年時点のCAVIと関連のある因子を重回帰分析で検討すると、独立した正の関連因子として、年齢と中性脂肪とともに、年間BMI変化量(β=0.09)が抽出された。反対に、独立した負の関連因子として、性別が女性であることと、現在のBMI(β=-0.34)が抽出された。 続いて年齢60歳未満/以上で層別化した上で、CAVI9以上に関連する因子を検討した。その結果、60歳未満の群では、年齢(調整オッズ比〔aOR〕1.32〔95%信頼区間1.15~1.52〕)以外では、年間BMI変化量(aOR11.98〔同1.13~126.27〕)のみが有意な関連因子として抽出された。性別や血清脂質および現在のBMIとの関連は有意でなかった。一方、60歳以上の群における有意な関連因子は年齢(aOR1.44〔同1.17~1.76〕)のみであり、現在のBMIや年間BMI変化量を含むその他の因子は独立した関連が示されなかった。なお、60歳以上における年齢の影響を性別に比較した場合、有意水準に至らないものの、女性の方がより大きな影響を及ぼしていた。 著者らは本研究で明らかになった主なポイントとして、第一にCAVIに最も影響を及ぼす因子は年齢であること、第二に年間BMI変化量はCAVIと正の関連があった一方で現在のBMIは負の関連があること、第三に60歳未満では年間BMI変化量がCAVI9以上の関連因子であるが60歳以上ではそうでないことを挙げている。中でも60歳未満で年間BMI変化量がCAVI高値の独立した関連因子であるという点は、肥満と動脈硬化進展に関する新たな知見だとしている。現在のBMIとCAVIとの関連が負であることについては、肥満が健康リスク因子であるにもかかわらず、生命予後に対して保護的に働くという、いわゆる「肥満パラドックス」を表しているのではないかと考察されている。 なお、本研究は観察研究のため、介入によって体重管理を行った場合にCAVI上昇が抑制されるかは不明なことなどが、解釈上の注意点として付記されている。

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腎盂腎炎に対する内服抗菌薬を極める~スイッチのタイミングなど~【とことん極める!腎盂腎炎】第7回

腎盂腎炎に対する内服抗菌薬を極める~スイッチのタイミングなど~Teaching point(1)抗菌薬投与前に必ず血液/ 尿塗抹・培養検査を提出する(2)単純性腎盂腎炎ではセフトリアキソンなどの単回注射薬を使用し、適切なタイミングで内服抗菌薬に変更する(3)複雑性腎盂腎炎では基本的には入院にて広域抗菌薬を使用する。外来で加療する場合は慎重に、下記のプロセスで加療を行う(4)副作用や薬物相互作用に注意し、適切な内服抗菌薬を使用しよう《今回の症例》78歳、男性。ADLは自立。既往に前立腺肥大症があり尿道カテーテルを留置されている。来院3日前から悪寒戦慄を伴う発熱と右腰背部痛があり当院を受診した。尿中白血球(5/1視野)と尿中細菌105/mLで白血球貪食像があり、訪問看護師からの「尿道カテーテルをしばしば担ぎあげてしまっていた」という情報と併せ、カテーテル関連の腎盂腎炎と診断した。来院時、発熱に伴うふらつき・食思不振がみられたため入院加療とした。尿中のグラム染色とカテーテル留置の背景からSPACE(S:Serratia属、Pseudomonas aeruginosa[緑膿菌]、Acinetobacter属、Citrobacter属、Enterobacter属)などの耐性菌を考慮し、ピペラシリン/タゾバクタム1回4.5gを6時間ごとの経静脈投与を開始し、経過は良好であった。その後、尿培養と血液培養から緑膿菌が検出された。廃用予防のため早期退院の方針を立て、内服抗菌薬への切り替えを検討していた。また入院3日目に嚥下機能を確認したところ嚥下機能が低下していることが判明した。はじめに本項では腎盂腎炎の内服抗菌薬への変更のタイミングや嚥下機能や菌種による選択薬のポイントや副作用などについて述べる。まずひと口に腎盂腎炎といっても、単純性腎盂腎炎と複雑性腎盂腎炎では選択するべき抗菌薬や対応は異なる。 1.単純性腎盂腎炎単純性腎盂腎炎において、(1)ショックバイタルでない、(2)敗血症でない、(3)嘔気や嘔吐がない、(4)脱水症の徴候が認められない、(5)免疫機能を低下させる疾患(悪性腫瘍、糖尿病、免疫抑制薬使用、HIV感染症など)が存在しない、(6)意識障害や錯乱などがみられない、のすべてを満たせば外来での治癒が可能である1)。単純性腎盂腎炎の原因菌はグラム陰性桿菌が約80%を占め、そのうち大腸菌(Escherichia coli)が90%である。そのほかKlebsiella属やProteus属が一般的であることからエンピリックにセフトリアキソンによる静脈投与を行う。その後、治療開始後に静注抗菌薬から経口抗菌薬へのスイッチを考慮する場合、従来からよく知られた指標としてCOMS criteriaがある(表1)。画像を拡大する2.複雑性腎盂腎炎冒頭の症例も当てはまるが、複雑性腎盂腎炎は、尿路の解剖学的・機能学的問題(尿路狭窄・閉鎖、嚢胞、排尿障害、カテーテル)や全身の基礎疾患をもつ尿路感染症である。一番の問題としては再発・再燃を繰り返し、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、Enterobacter属、Serratia属、Citrobacter属、腸球菌(Enterococcus属)などの耐性菌が分離される頻度が増えることである。そのため単純性のように単純にセフトリアキソン単剤→内服スイッチともいかないのが厄介な点である。この罠にはまらないためには、必ず尿塗抹・培養検査を提出しグラム染色を確認することが大切である。基本的には全例入院で加療することが推奨されているが、全身状態良好でかつグラム陰性桿菌が起因菌とわかった際には周囲に見守れる人の確認(高齢者の場合)や連日通院することを約束しセフトリアキソンを投与し、培養結果と全身状態が改善したことを確認して内服抗菌薬を処方する2)。この場合も合計14日間の投与期間が推奨されている1)。なお、複雑性腎盂腎炎を外来加療することはリスクが高く、入院加療が理想である。【内服抗菌薬の使い分け】いずれにせよ培養の結果がKeyとなるが、一般的な内服抗菌薬は以下が推奨されている。処方例3,4)(1)ST合剤(商品名:バクタ)1回2錠を12時間ごとに内服(2)セファレキシン(同:ケフレックス)1回500mgを6〜8時間ごとに内服(3)シプロフロキサシン(同:シプロキサン)1回300mgを12時間ごとに内服(4)レボフロキサシン(同:クラビット)1回500mgを24時間ごとに内服腎機能に合わせた投与量や注意事項など表2に示す。なお、腎機能はeGFRではなくクレアチニンクリアランスを使用し評価する必要がある。画像を拡大する治療期間は一般に5〜14日間であり、選択する抗菌薬による。キノロン系は5〜7日間、ST合剤は7〜10日間、βラクタム系抗菌薬は10〜14日間の投与が勧められている2)。各施設や地域の感受性パターンに基づいて抗菌薬を選択することも大切である。筆者の所属施設では、単純性の腎盂腎炎の内服への切り替えは大腸菌のキノロン系への耐性が20%を超えていることから、セファレキシンやST合剤を選択することが多い。【各薬剤の特徴】<ST合剤>バイオアベイラビリティも良好で腎盂腎炎の起因菌を広くカバーする使いやすい薬剤である。ただし最近では耐性化も進んできており培養結果を確認することは重要である。また消化器症状、皮疹、高カリウム血症、腎機能障害、汎血球減少など比較的副作用が多いため注意して使用する5)。とくに65歳以上の高齢患者では高カリウム血症と腎不全をより来しやすいと報告されており経過中に血液検査で評価する必要がある6)。簡易懸濁も可能なため、嚥下機能低下時や胃ろう造設されている患者でも投与可能である。妊婦への投与は禁忌である。<セファレキシン>第1世代セフェム系抗菌薬であるセファレキシンは、一部の大腸菌などの腸内細菌に耐性の場合があるため、起因菌や感受性の結果を確認することが重要である。また一般的には長時間作用型の静注薬であるセフトリアキソンを初めの1回使用したうえで、セファレキシンを用いることが推奨されている。なお第2世代セフェム系内服抗菌薬であるセファクロル(商品名:ケフラール)はアレルギーの頻度が多いため推奨されていない。第3世代セフェム系抗菌薬(同:メイアクトMS、フロモックス)は、わが国ではさまざまな場面で使用されてきたが、バイオアベイラビリティの関係で処方しないほうがよい。ペニシリン系では、βラクタマーゼ阻害薬配合であれば使用可能とされている。日本のβラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン(同:オーグメンチン)はペニシリン含有量が少なく、アモキシシリン(同:サワシリン)と併用し、サワシリン250mg+オーグメンチン375mgを8時間ごとに投与することが推奨されている。<ニューキノロン系>シプロフロキサシン、レボフロキサシンなどのニューキノロン系については、施設における大腸菌のニューキノロン耐性が10%以下の際は経験的治療として投与が可能とされている。また大腸菌以外に緑膿菌にも効果があることが最大の利点であるため、耐性獲得の点からはなるべく最低限の使用を心がけ、温存することが推奨される。副作用としてQT延長、消化器症状、アキレス腱断裂、血糖異常がある。相互作用として、NSAIDsやテオフィリン(とシプロフロキサシン)との併用で痙攣発作を誘発する7)。妊婦への投与は禁忌である。レボフロキサシンはOD錠があるため、嚥下機能が低下している高齢者にも使いやすい。細粒もあるが、経管栄養では溶けにくいため細粒ではなく錠剤を粉砕する方が望ましい。<ESBL産生菌>extended spectrum β-lactamases(ESBL)産生菌に対する経口抗菌薬としてST合剤やホスホマイシンが知られている。ST合剤は感受性があれば使用可能であり、カルバペネム系抗菌薬に治療効果が劣らず、入院期間の短縮、合併症の減少、医療コストの削減が期待できるとの報告がある8)。ホスホマイシンは、海外では有効性が示されているものの、国内で承認されている経口薬はfosfomycin calciumだが、海外で用いられているのはfosfomycin trometamolであるため注意を要する。fosfomycin trometamolのバイオアベイラビリティは42.3%だがfosfomycin calciumのバイオアベイラビリティは12%にすぎない。近年耐性菌が増加するなかで他剤と作用機序の異なる本剤が見直されてきてはいるが、国内で有効性が示されているのは単純性の膀胱炎のみである7,9)。腎盂腎炎に対する有効性は現在研究中であり、現時点では他剤が使用できない軽症膀胱炎、腎盂腎炎に使用を限定するべきである。《今回の症例のその後》尿培養から検出された緑膿菌はレボフロキサシンへの感性が良好であった。心電図にてQT延長がないことを確認し、入院5日目に全身状態良好で発熱など改善傾向であったことから、レボフロキサシンOD錠1回250mgを24時間ごと(腎機能低下あり、用量調節を要した)の内服へ切り替え同日退院し再発なく経過している。1)山本 新吾 ほか:JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015 ─ 尿路感染症・男性性器感染症─. 日化療会誌. 2016;64:1-30.2)Johnson JR, Russo TA. N Engl J Med. 2018;378:48-59.3)Hernee J, et al. Am Fam Physician. 2020;102:173-180.4)Gupta K, Trautner B. Ann Intern Med. 2012;156:ITC3-1-ITC3-15, quiz:ITC3-16.5)Takenaka D, Nishizawa T. BMJ Case Rep. 2020;13:e238255.6)Crellin E, et al. BMJ. 2018;360:k341.7)青木 眞 著. レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版. 医学書院. 2020.8)Shi HJ, et al. Infect Drug Resist. 2021;14:3589-3597.9)Matsumoto T, et al. J infect Chemother. 2011;17:80-86.

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新たな抗PACAPモノクローナル抗体、片頭痛予防に有効か/NEJM

 片頭痛の新たな治療手段として、下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)を標的とするアプローチの開発が進められている。デンマーク・コペンハーゲン大学のMessoud Ashina氏らは「HOPE試験」において、プラセボと比較してLu AG09222(PACAPリガンドに対するヒト化モノクローナル抗体)の単回投与は、4週間後の片頭痛の頻度を有意に減少させたことから、PACAPシグナル伝達の阻害は片頭痛の新たな予防的治療戦略となる可能性があることを示した。研究の成果は、NEJM誌2024年9月5日号に掲載された欧州と北米の無作為化プラセボ対照第IIa相試験 本研究は、片頭痛の予防におけるLu AG09222の有効性と安全性の評価を目的に、欧州と北米の25施設で概念実証試験として実施した二重盲検無作為化プラセボ対照第IIa相試験(投与期間4週間、追跡期間8週間)である(H. Lundbeckの助成を受けた)。 年齢18~65歳、前兆のない片頭痛、前兆のある片頭痛または慢性片頭痛と診断され、発症時期が50歳以下で、過去10年間に2~4つの予防的治療を受けたが効果が得られなかった患者を対象とした。 被験者を、ベースラインでLu AG09222 750mg、同100mg、プラセボを単回静注投与する群に、2対1対2の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、1~4週目における1ヵ月当たりの片頭痛日数のベースラインからの平均変化量であり、Lu AG09222 750 mg群とプラセボ群で比較した。750mg群で6.2日減少、プラセボ群より2.0日少ない 237例(平均年齢42.5歳[範囲19~65]、女性208例[88%]、白人237例[100%])を登録した。Lu AG09222 750mg群に97例、同100mg群に46例、プラセボ群に94例を割り付けた。 ベースラインの1ヵ月当たりの平均日数は、頭痛が17.4日、片頭痛が16.7日であり、1ヵ月当たりの頭痛または片頭痛の治療薬を使用した平均日数は13.1日であった。 片頭痛日数のベースラインから1~4週目の平均変化量は、プラセボ群が-4.2日であったのに対し、Lu AG09222 750mg群は-6.2日と有意に減少した(群間差:-2.0日、95%信頼区間[CI]:-3.8~-0.3、p=0.02)。 1ヵ月当たりの片頭痛の平均日数がベースラインから50%以上減少した患者の割合は、Lu AG09222 750mg群が32%、プラセボ群は27%であった。また、1ヵ月当たりの頭痛日数のベースラインから1~4週目の平均変化量は、Lu AG09222 750mg群が-5.8日、プラセボ群は-4.1日だった(群間差:-1.7日、95%CI:-3.5~0.0)。有害事象はプラセボ群に比べて多い 12週間における有害事象の件数(78件vs.45件)と1件以上発現した患者の割合(42% vs.32%)は、プラセボ群に比べLu AG09222 750mg群で多かった。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)(7% vs.3%)、鼻咽頭炎(7% vs.4%)、疲労(5% vs.1%)の頻度が高かった。 重篤な有害事象は、Lu AG09222 750mg群で1件発現したが、担当医により試験薬との関連はないと判定された。有害事象のために参加を取りやめたり、Lu AG09222の静注投与を中断することはなかった。 著者は、「これらの知見は、Lu AG09222によるPACAPシグナル伝達の阻害が、片頭痛の予防のための新しい、潜在的に有効なメカニズムであることを示しており、概念実証を確証するものである」としている。

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JN.1系統対応の次世代mRNA(レプリコン)コロナワクチン、一変承認取得/Meiji Seika

 Meiji Seikaファルマは9月13日のプレスリリースにて、同社の新型コロナウイルス感染症に対するオミクロン株JN.1系統に対応した次世代mRNA(レプリコン)「コスタイベ筋注用」について、製造販売承認事項一部変更承認を取得したことを発表した。 同社は、2024年5月29日に開催された「第2回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会研究開発及び生産・流通部会季節性インフルエンザワクチン及び新型コロナワクチンの製造株について検討する小委員会」にて、2024/25シーズン向けの新型コロナワクチンの抗原構成がJN.1系統に取りまとめられたことを受け、同年5月31日に本剤のJN.1系統に対応したワクチンの日本における一部変更承認申請を行った。 本剤は、新規のmRNA技術を使用した次世代mRNAワクチンであり、既承認mRNAワクチンよりも少ない有効成分量で高い中和抗体価を示し、その抗体価が長く維持されることを特徴としている。 また、忍容性も高く、安全性については既承認mRNAワクチンと同様であり、有害事象の多くが軽度または中等度であることが国内外の臨床試験で示されている。 本剤は、年1回の定期接種に適したプロファイルを有すると考えられ、とくにリスクの高い高齢者に、新型コロナウイルス感染症の予防における新たな選択肢を提供すると期待されている。 同社は、本剤を2024/25シーズンに1バイアル(16回接種分)のJN.1系統対応ワクチンとして、近日中に供給を開始する予定。

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わが国初のダニ媒介性脳炎予防ワクチン「タイコバック水性懸濁筋注」【最新!DI情報】第23回

わが国初のダニ媒介性脳炎予防ワクチン「タイコバック水性懸濁筋注」今回は、組織培養不活化ダニ媒介性脳炎ワクチン(商品名:タイコバック水性懸濁筋注0.5mL/小児用水性懸濁筋注0.25mL、製造販売元:ファイザー)を紹介します。本剤はわが国初のダニ媒介性脳炎の予防ワクチンであり、致死的な経過および後遺症の予防が期待されています。<効能・効果>本剤は、ダニ媒介性脳炎の予防の適応で、2024年3月26日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>初回免疫の場合、16歳以上には1回0.5mL、1歳以上16歳未満には1回0.25mLを3回、筋肉内に接種します。2回目接種は1回目接種の1~3ヵ月後、3回目接種は2回目接種の5~12ヵ月後に接種します。免疫の賦与を急ぐ場合には、2回目接種を1回目接種の2週間後に行うことができます。追加免疫の場合、16歳以上には1回0.5mL、1歳以上16歳未満には1回0.25mLを筋肉内に接種します。<安全性(0.5mL製剤の場合)>重大な副反応として、ショック、アナフィラキシー、多発性硬化症、急性散在性脳脊髄炎、ギラン・バレー症候群、脊髄炎、横断性脊髄炎、脳炎(いずれも頻度不明)があります。その他の頻度の高い副反応として、注射部位疼痛(35.0%)、下痢(10%以上)があります。10%未満の副反応には、注射部位出血、注射部位腫脹などの局所症状、上気道感染、浮動性・回転性めまい、悪心、嘔吐、腹痛、皮膚そう痒症、発疹などがあります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、ダニ媒介性脳炎を予防するためのワクチンです。2.ワクチン接種したすべての人で、ダニ媒介性脳炎ウイルスへの感染が完全に予防されるわけではありません。マダニに咬まれるリスクが高い環境下では、虫よけ剤の使用や皮膚の露出を少なくするなど、基本的な感染リスク低減対策をとってください。3.接種は、3回の接種を行う「初回免疫」と必要に応じて接種を行う「追加免疫」があります。初回免疫1回目の接種のみでは、発症の予防を期待することはできません。4.ショック、アナフィラキシーが現れることがあるので、医師の監視下で接種を行います。接種後、少なくとも15分間は座って安静にしてください。<ここがポイント!>ダニ媒介性脳炎(tick-borne encephalitis:TBE)は、TBEウイルスを保有するマダニに咬まれることで感染・発症します。TBEは重度の急性臨床経過をたどり、日本に多い極東亜型ウイルスの感染では、7~14日の潜伏期間後に頭痛、発熱、悪心、嘔吐が現れ、進行すると精神錯乱や昏睡、痙攣などの脳炎症状が生じることがあります。致死率は20%以上で、生存者であっても30~40%に後遺症が残るとされています。TBEに対する抗ウイルス治療はなく、対症療法が中心となります。本剤はTBEを予防するためのワクチンで、TBEリスク地域でレクリエーションや農業・林業などの野外活動でマダニに咬まれるリスクがある人に接種が推奨されます。ただし、接種したすべての人で感染が予防されるわけではないので、マダニに咬まれるリスクが高い場合には、虫よけ剤の塗布や防護服の着用または皮膚露出を避けるなど、感染リスク低減のための基本的な対策が重要です。本剤は、TBEウイルスをSPF発育鶏卵から採取したニワトリ胚初代培養細胞で増殖させ、得られたウイルスをホルムアルデヒドで不活化した後、精製し、安定剤およびアジュバント(水酸化アルミニウム懸濁液)を加えたものです。TBEウイルスに感染歴のない日本人健康成人および健康小児を対象とした国内第III相試験(B9371039試験:初回免疫)において、本剤を3回接種した4週間後にTBEウイルス中和抗体陽性率は成人および小児とも90%以上に達しました。また、追加免疫における海外第IV相試験(223試験)や免疫持続性における海外第IV相試験(690701試験、691101[B9371010]試験)で本剤の有効性が確認されています。なお、ダニ媒介性脳炎ワクチンは、医療上の必要性が高いワクチンとして厚生労働省からの要請を受けて開発されました。

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雨天で悪化する頭痛には…【漢方カンファレンス】第9回

雨天で悪化する頭痛には…以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう)【今回の症例】40代女性主訴頭痛、嘔吐既往片頭痛、慢性副鼻腔炎病歴12月の雨の日、締めつけられるような頭痛が出現した。頭痛は、左側頭部に徐々に出現し拍動性で嘔気を伴った。起立時や水を飲むとすぐに嘔吐してしまう。頭痛はもともとある片頭痛と同じ性状。2日後、頭痛と嘔吐がひどくなり動けなくなったため救急外来を受診した。現症身長158cm、体重54kg(BMI 22kg/m2)。体温36.1℃、意識清明、血圧158/77mmHg、脈拍62回/分 整、呼吸数16回/分。髄膜刺激症候はなし。神経学的所見を含めて身体所見に特記すべき異常はない。頭部CTで明らかな異常なし。経過受診時「???」エキス2包 分1を内服。(解答は本ページ下部をチェック!)30分後頭痛と嘔気が少し軽減した。45分後歩行しても嘔気がせずトイレにいけるようになった。1時間後頭痛がほぼ消失して帰宅した。問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む【問診】寒がりですか? 暑がりですか?体の冷えを自覚しますか?のぼせはありませんか?暑がりです。冷えはありません。少しのぼせます。入浴で長くお湯に浸かるのは好きですか?冷房は好きですか?入浴は短いです。冷房は好きです。飲み物は温かい物と冷たい物のどちらを好みますか?のどは渇きませんか?1日どれくらい飲み物を摂っていますか?最近のどが渇いて、冷たい飲み物をよく飲みます。1日1.5L程度です。<頭痛の誘因を確認>頭痛はどのようなときに起こりやすいですか?雨降りと頭痛は関係がありますか?頭痛と月経周期に関連はありますか?雨降り前に多い気がします。月経とは関係がありません。雨降り前や台風接近時など体調が悪くなりませんか?体が重だるかったり、頭痛がするので雨の日は嫌いです。<ほかの随伴症状を確認>疲れやすいですか?横になりたいほどの倦怠感はありますか?倦怠感はありません。普段は食欲はありますか?食欲はあります。尿は1日に何回でますか?夜間尿はありますか?便秘・下痢はありませんか?最近、尿回数が少なくて1日4~5回でした。夜間尿はありません。便は毎日出ます。下痢もありません。月経は順調ですか?月経痛はひどいですか?月経は定期的で月経痛は軽いです。足はむくみやすいですか?めまいや立ちくらみはありませんか?足が夕方になるとむくみます。めまいはしません。乗り物酔いしやすいですか?水を飲むとお腹でチャプンと音がしませんか?乗り物酔いしやすいです。水を飲むとみぞおちでチャプチャプ音がすることがあります。【診察】顔色はやや紅潮、脈診ではやや浮、強弱中間であった。舌は、暗赤色で腫れぼったく(腫大[しゅだい])、舌辺縁部に歯痕(しこん)を認め、湿潤した白舌苔が付着しており、舌下静脈の怒張を認めた。腹診では腹力は中等度、心窩部をスナップをきかせて指で叩くとチャプチャプとした音(振水音)を認めた。触診では四肢に明らかな冷えはなく、皮膚はしっとりと汗ばんでいた。カンファレンス今回は、救急外来を受診した頭痛の症例ですね。現代医学的には、一次性頭痛を片頭痛、筋緊張性頭痛、群発頭痛と鑑別しますね。漢方医学的にも頭痛の要因はさまざまだよ。風邪のひき始めに相当する太陽病では、悪寒・発熱に加えて、頭痛が特徴だね。そのため葛根湯(かっこんとう)は肩こりを伴う筋緊張性頭痛に用いることもあるよ。今回も、陰陽、六病位から考えて気血水のどのパラメーターに異常があるか考えていこう。問診では、暑がり、入浴は短い、冷たい飲み物を好む、倦怠感はないなどから、「陽証」です。さらに脈がやや浮で強弱中間、腹力も中等度であることから「虚実間」ですね。陽証・虚実間でよさそうですね。六病位ではどうでしょう? 陽証は、太陽病・少陽病・陽明病に分類できました。太陽病の特徴である悪寒や発熱はありません。陽明病の特徴である腹満、便秘もみられないので少陽病(第6回「今回のポイント」の項参照)です。よいですね。それでは気血水の異常はどうでしょう?今回は気血水のうち、「水」の異常ではないですか!? 「水」と関連がありそうな所見として、下肢浮腫があります。また、心窩部がチャポチャポする所見や、問診で頭痛が雨降り前に悪化するというところが気になります。現代医学ではあまり注目しないですが…。本症例では「雨降り前に増悪する傾向のある頭痛」が特徴ですね。頭痛のガイドラインでも、片頭痛の誘因として天候の変化や温度差があげられています1)。漢方では雨や低気圧で悪化する症状は水毒(本ページ下部の「今回のポイント」の項参照)です。頭痛やめまいの患者さんに天気との関係を質問すると雨天と関係があるという人がよくいますよ。いままで天気との関係は気にしていませんでした。漢方では症状出現の誘因や様式を考慮することが大切です。一般的に寒くなると悪化する、気温が低くなる明け方に出現するといえば、寒(冷え)の存在を考えます。また、夜間安静時に決まった場所が痛くなる場合は瘀血と考えられます。気の異常は次回勉強しますが、朝がとくに調子が悪い、発作性に症状が出現するなどの特徴があります。面白いですね。これから注意して問診しようと思います。症例に戻りますが、乗り物酔いしやすいことも水毒ですか?乗り物酔いも水毒です。また、水分を飲むわりに尿量や尿回数が少ないことを尿不利(にょうふり)といいます。本症例でも飲水量はおよそ1.5L/日であるのに、尿回数4~5回/日と少なめです。おおよそ1日の尿回数が4~5回以下であれば尿不利を考えるとよいでしょう。排尿に関して、尿量が減少している場合も、多尿であってもどちらも水毒の所見になります。本症例をまとめましょう。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?暑がり、入浴は短い、倦怠感なし冷たい飲み物を好む脈:やや浮→陽証(少陽病)(2)虚実はどうか脈:強弱中間、腹力:中等度→虚実間(3)気血水の異常を考える舌暗赤色、舌下静脈の怒張→瘀血舌の腫大・歯痕、振水音乗り物酔いしやすい下肢浮腫→水毒(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む雨降り前に悪化する頭痛、口渇、自然発汗の傾向、尿不利解答・解説【解答】以上から本症例は、五苓散(ごれいさん)を用いて治療しました。【解説】水毒に対する治療薬を利水剤(りすいざい)といいます。五苓散は最も代表的な利水剤です。五苓散は、桂皮(けいひ)・茯苓(ぶくりょう)・沢瀉(たくしゃ)・猪苓(ちょれい)・朮(じゅつ)の5つの生薬で構成され、このうち桂皮以外は水分代謝を調整する作用がある生薬です。五苓散の3徴として「口渇・自汗(自然発汗の傾向)・尿不利」が挙げられます。夏の暑い時期に水分はたくさん摂るものの、むくんでばててしまったような状態に用います。最近では五苓散はウイルス性胃腸炎にも頻用されます。その場合も発熱によりしっとり汗をかき、嘔吐・下痢のため脱水傾向で尿量が減少する、五苓散の3徴が揃いやすい病態です。五苓散は六病位・虚実による分類では、少陽病・虚実間になります。また注目すべきことに、漢方薬の利水剤は、体内に水が貯留した溢水時には利尿作用をもつが、脱水時にはむしろ抗利尿作用をもつとされ、現代医学のフロセミドなどの利尿剤とは異なる特徴をもちます。なお、本症例は急性の症状なので五苓散を2包飲ませているのもポイントです。片頭痛の発作や回転性めまいの急性期などは五苓散を2~3包と一度に多めに飲ませることが治療効果を高めるうえでのポイントとなります。二日酔いも頭痛がしてのどが渇き、むくんで尿量が少なくなる傾向があることから五苓散の適応です。飲み会の前に予防的に飲むか、翌日、二日酔いになったときに多めに飲むとよいでしょう。漢方医の飲み会では誰かが五苓散を持参していることが多いです。今回のポイント「水毒」の解説漢方では生体内を循環する液体のうち赤い色を「血」、無色を「水」と分けて考えます。水の異常は水毒または、水滞とよび、水の代謝異常と考えて、主に水の過剰・停滞・異常分泌に分類します。具体的には浮腫、胸水、腹水、水様性鼻汁、下痢などです。また、現代医学的には水とつながりにくい症状ですが、頭痛、めまい、立ちくらみ、耳鳴り、嘔気は水毒と関連することが多いです。さらにそれらの症状が雨天(とくに雨降り前)や低気圧の接近により悪化する場合は、水毒による症状だと考えられます。また水毒を示唆する他覚所見を紹介します。舌を観察すると、舌が大きく腫れぼったくなり、舌の幅が口角内に収まりにくいような状態を腫大といいます。また、舌辺縁部に歯による圧迫痕がある場合を歯痕といいます(写真左)。腹部診察では、心窩部(漢方では心下[しんか]という)をスナップをきかせて叩くと、チャポチャポ音がすることを振水音といいます(写真右)。また診察時に振水音がなくても、「水を飲むとチャポチャポ音がしませんか?」と問診で振水音を確認することもあります。参考文献1)日本神経学会・日本頭痛学会・日本神経治療学会 監修. 頭痛の診療ガイドライン2021. 医学書院. 2021:p.104-106.

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第232回 食塩水点鼻で風邪の小児が2日早く回復

食塩水点鼻で風邪の小児が2日早く回復食塩水の点鼻が風邪の小児の回復を早めました。英国・エジンバラ大学のSteve Cunningham氏が欧州呼吸器学会(European Respiratory Society:ERS)年次総会で発表したELVIS-Kids試験結果によると、親が塩を溶かして作る濃い目の食塩水の点鼻でくしゃみや鼻詰まりなどの風邪症状が、そうしなかった小児に比べて2日早く治まりました1,2)。Cunningham氏によると、子供は1年に多ければ10~12回も風邪を引きます。風邪症状を引き起こしうるウイルスは200種を超えます3)。ゆえにそれら全般を網羅してかつ有効な治療を開発するのは困難であり、アセトアミノフェンやイブプロフェンの服用などの治療のほとんどは風邪の期間の短縮ではなく症状を緩和するのみです。Cunningham氏いわく、風邪の回復を早めうる治療はありません。しかし例外的に有望な効果を示しているものがあります。その1つが食塩水の点鼻です。食塩水の鼻への注入や噴霧が症状を減らし、回復を早めることや他の人へ移してしまうのを減らしうることが成人患者を募った先立つ試験で示唆されています4,5)。また、ELVIS-Kids試験を率いたSandeep Ramalingam氏によると、南アジアの人は風邪治療としてしばしば食塩水で鼻をすすいだりうがいをしたりしています。同氏はその治療が本当に効くのかどうかを確かめたいと思っていました。Ramalingam氏の願いがかなって実現したELVIS-Kids試験は6歳までの小児407例を募り、濃い目の食塩水を点鼻する治療といつもの手当てが比較されました。食塩水を点鼻する群の親には海塩を手渡し、それを溶かして2.6%の食塩水を作り、子への1日4回以上の点鼻を症状が解消するまで続けるように指示しました。食塩水の点鼻をしない群の親は子に店頭販売の薬を与えたり、体を休めたりすることを促すなどのいつもの手当てをしました。被験者の小児407例のうち風邪を引いたのは301例で、食塩水を点鼻する群に割り振られたその約半数の150例の風邪症状は、食塩水の点鼻なしの151例に比べて2日早く解消しました。食塩水点鼻群の風邪症状の期間は6日間、食塩水の点鼻なしの群は8日間でした。また、食塩水点鼻群の小児は薬の使用が少なくて済みました。食塩水の点鼻は他の人に風邪を移し難くする作用もあるようで、食塩水点鼻小児の同居人は風邪症状の発生をより免れていました。食塩水点鼻小児の同居人のうち風邪症状を発生したのは半数に満たない41%でしたが、食塩水点鼻なしの小児の同居人はおよそ5人に3人(58%)が風邪を引きました。食塩水点鼻治療の親の反応は良く、そのおかげで子が早く回復したと82%の親が判断しました。また、同じく8割強の81%の親は次も食塩水を点鼻すると言っています。塩は言わずもがなナトリウムと塩素でできています。その塩素が点鼻食塩水の効果を担うのかもしれません。鼻や気管の内側を覆う細胞は塩素を使って抗ウイルス作用を担う次亜塩素酸を作ります。食塩水などで塩素を増やすことはそれら細胞の次亜塩素酸生成を促し、その結果ウイルス複製が収まり、ウイルス感染期間が短縮し、症状の解消を早めうるとCunningham氏は説明しています。ただし、科学ニュースNewScientistによると、米国・バンダービルト大学のWilliam Schaffner氏はその説明を疑っています。ただの水やより低濃度の食塩水を投与する群が試験にあったとしたら、点鼻食塩水がウイルスを討って回復を早めたのか単に鼻粘膜を潤すことで症状を緩和したのかがわかったかもしれないと同氏は述べています6)。参考1)Saline nasal drops reduce the duration of the common cold in young children by two days / European Respiratory Society2)A randomised controlled trial of hypertonic saline nose drops as a treatment in children with the common cold (ELVIS-Kids trial)/ European Respiratory Society (ERS) Congress 20243)About Common Cold / CDC4)Little P, et al. Lancet Respir Med. 2024;12:619-632. 5)Ramalingam S, et al. Sci Rep. 2019;9:1015.6)Evidence mounts that saline nasal drops and sprays help treat colds / NewScientist

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小児の風邪への食塩水点鼻、有症状期間を2日短縮か/ERS2024

 食塩水は風邪症候群の症状の軽減に用いられることがあるが、小児における有効性は明らかになっていない。そこで、上気道感染症を有する小児に対する高張食塩水の点鼻の有用性を検討する無作為化比較試験「ELVIS-Kids試験」が実施された。その結果、高張食塩水を点鼻することで有症状期間の中央値が2日短縮することが示された。2024年9月7~11日にオーストリア・ウィーンで開催された欧州呼吸器学会(ERS International Congress 2024)において、英国・エディンバラ大学のSteve Cunningham氏が報告した。 本研究は、0~6歳の小児407例を対象とした。高張食塩水を点鼻する群(食塩水群)と通常どおりの治療を行う群(通常治療群)に1対1に無作為に割り付け、上気道感染症の発症がみられた301例に対して割り付け治療を実施した。食塩水群は、各鼻孔に3滴ずつ1日4回以上の高張食塩水(2.6%)の点鼻を症状の改善まで行った。評価項目は、日誌評価に基づく上気道感染症の症状、喘鳴などとした。 主な結果は以下のとおり。・有症状期間中央値は、通常治療群が8日(四分位範囲:5~11)であったのに対し食塩水群は6日(同:5~9)であり、食塩水群が有意に短縮した(p=0.004)。症状が認められてから24時間以内に点鼻を開始したサブグループでは、食塩水群で有症状期間が有意に短縮したが(p=0.002)、24時間超経過してから点鼻を開始したサブグループでは、有症状期間の短縮はみられなかった。・ライノウイルスのみが検出されたサブグループにおいて喘鳴がみられた割合は、通常治療群が18%であったのに対し食塩水群は4%であり、食塩水群が有意に低かった(p=0.014)。・対象の小児の家族に上気道感染症の発症がみられた割合は、通常治療群が61%であったのに対し食塩水群は46%であり、食塩水群が有意に低かった(p=0.008)。・市販薬の使用は、通常治療群が36%であったのに対し食塩水群は25%であり、食塩水群が有意に少なかった(p=0.04)。

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国内初承認のダニ媒介性脳炎ワクチンを発売/ファイザー

 ファイザーは9月13日付のプレスリリースにて、成人および小児におけるダニ媒介性脳炎の発症を予防する国内初の承認ワクチン「タイコバック(R)水性懸濁筋注0.5mL」および「タイコバック(R)小児用水性懸濁筋注0.25mL」(一般名:組織培養不活化ダニ媒介性脳炎ワクチン)を、同日より発売したことを発表した。 本剤は、1970年代にIMMUNO社が開発した不活化ダニ媒介性脳炎ウイルスワクチンで、最初に市販された組織培養由来ダニ媒介性脳炎ワクチン。その後の改良を経て、ダニ媒介性脳炎の流行国を中心に使用されている。ファイザーは、2015年にバクスターから本剤の製造販売承認を承継した。 ダニ媒介性脳炎は、ダニ媒介性脳炎ウイルス(tick-borne encephalitis virus:TBEV)を保有するマダニに刺咬されることで感染する疾患だ。急性ダニ媒介性脳炎の経過や長期的転帰は、感染したTBEVの亜型により異なる。日本では、北海道で極東亜型ウイルスが分布していると報告されており、感染すると徐々に頭痛、発熱、悪心、嘔吐などの髄膜炎症状が現れ、脳脊髄炎などを発症すると、精神錯乱、昏睡、痙攣、麻痺などの中枢神経症状を呈する。極東亜型の致死率は20%以上で、生存者の30~40%に神経学的後遺症がみられるなど、最も重篤な経過をたどると報告されている1)。しかし、有効な治療法がなく、本ワクチンによる予防が重要な役割を担うと見込まれている。 海外では、英国、ノルウェー、フランス、ドイツ、ロシアを含むヨーロッパ、東アジアなどで毎年1万~1万5,000件の発生が報告されているものの、日本では2018年に発生した国内5例目以降の報告はなかった。しかし、2024年6月に札幌市で6例目、7月に函館市で7例目の発生が報告された2)。これまでに国内で報告された7例はすべて北海道で発生しているが、原因不明の中枢神経系疾患患者の血液を後方視的に調査した報告では、東京都、岡山県、大分県でTBEV抗体陽性例が示されている3,4)。また、栃木県、島根県、長崎県などにおいても抗TBEV抗体を保有する動物が確認されていることから、これらのウイルスが国内に広く分布していることが示唆されている4,5)。ダニ媒介性脳炎は、疾患認知や検査体制が十分に整っていないなどの理由から、急性脳炎などを発症しても診断に至っていない可能性が示唆されており、本邦におけるダニ媒介性脳炎の実態は十分に把握されていない。 本剤は1970年代から欧州を中心に広く使用されており、本邦では「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」にて医療上の必要性が高い医薬品と評価され、2019年9月19日にファイザーが厚生労働省から本剤の開発要請を受けた。この開発要請を受け同社が実施した国内第III相試験の結果などに基づき、2024年3月26日に承認された。本剤の接種により、TBEVに感染する可能性のある地域居住者や、ダニ媒介性脳炎の流行地域への渡航者の感染を予防することが期待される。<用法及び用量>タイコバック(R)水性懸濁筋注0.5mL・接種対象者:16歳以上の者・初回免疫の場合、1回0.5mLを3回、筋肉内に接種する。2回目接種は、1回目接種の1~3ヵ月後、3回目接種は、2回目接種の5~12ヵ月後に接種する。免疫の賦与を急ぐ場合には、2回目接種を1回目接種の2週間後に行うことができる。・追加免疫の場合、1回0.5mLを筋肉内に接種する。[用法及び用量に関連する注意]・追加免疫について、必要に応じて3回目接種の3年後に追加免疫を行い、以降は16~60歳では5年ごと、60歳以上では3年ごとの追加免疫を行うこと。・0.25mL接種対象者には使用しないこと。タイコバック(R)小児用水性懸濁筋注0.25mL・接種対象者:1歳以上16歳未満の者・初回免疫の場合、1回0.25mLを3回、筋肉内に接種する。2回目接種は、1回目接種の1~3ヵ月後、3回目接種は、2回目接種の5~12ヵ月後に接種する。免疫の賦与を急ぐ場合には、2回目接種を1回目接種の2週間後に行うことができる。・追加免疫の場合、1回0.25mLを筋肉内に接種する。[用法及び用量に関連する注意]・追加免疫について、必要に応じて3回目接種の3年後に追加免疫を行い、以降は5年ごとの追加免疫を行うこと。・0.5mL接種対象者には使用しないこと。水性懸濁筋注0.5mL、小児用水性懸濁筋注0.25mL共通事項・2回目接種意向に接種が中断された場合は、できるだけ速やかに接種し、以降の接種を継続すること。・医師が必要と認めた場合には、他のワクチンと同時に接種することができる。・初回免疫完了前にダニ媒介性脳炎ウイルスに感染するリスクがある場合(ダニ媒介性脳炎流行時期における流行地域への渡航等)は、その前に本剤を2回接種すること。

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第210回 在宅医療の看取り件数が急増、訪問看護も利用拡大、コロナ禍で在宅ケアが進展/慈恵医大

<先週の動き>1.在宅医療の看取り件数が急増、訪問看護も利用拡大、コロナ禍で在宅ケアが進展/慈恵医大2.2025年度専攻医募集数のシーリングは継続、シーリング逃れに対策を/厚労省3.大学病院の医師、残業時間の上限緩和申請は4割に、研究時間不足が課題/全国医学部長病院長会議4.医療訴訟の発生率、東京・大阪が高く、茨城、福島、岐阜などは低め/東邦大5.働き方改革の影響で9大学病院が医師派遣の取り止めや中止を検討/全国医学部長病院長会議6.「疲労回復」謳う美容医療、治療効果にエビデンスなし、クリニックを提訴/消費者機構日本1.在宅医療の看取り件数が急増、訪問看護も利用拡大、コロナ禍で在宅ケアが進展/慈恵医大新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、在宅医療における看取りが急増したことが、東京慈恵会医科大学の青木 拓也准教授らの研究で明らかになった。調査は、2020年4月の緊急事態宣言を境に、終末期医療の利用や自宅での看取りが急増したことを示している。病院での受診控えや面会制限が影響し、在宅でのケアが選ばれるケースが増えたと考えられる。研究チームは、厚生労働省のNDBデータベースを用いて2019~2022年にかけて在宅医療サービスの利用動向を分析。訪問診療に大きな変化はみられなかったが、往診や終末期医療は増加傾向にあった。また、訪問看護の利用件数も増加しており、とくに医療保険適用型の訪問看護費が過去10年間で5.4倍に増加していることが、共同通信の分析で明らかになった。利用者数が4倍近く増加したことに加え、1人当たりの費用も1.4倍に増えたことが、費用増加の主因とされる。医療保険適用型の増加幅は介護保険適用型を大幅に上回っており、入院患者の早期在宅復帰を促す政策や、医療保険には利用限度額がないことが背景にある。訪問看護を巡っては、精神科や難病患者を対象にした診療報酬の過剰請求が指摘されており、利益を目的にした一部事業者による制度の乱用が費用増加の一因とも考えられている。財務省はこの問題を医療財政の圧迫要因として問題視しており、今後の対策が注目される。参考1)自宅でのみとり急増 緊急事態宣言境に、終末期医療も 受診控え、面会制限影響か・慈恵医大など(時事通信)2)医療保険の訪問看護費5倍 10年間、1人当たりも増加(共同通信)2.2025年度専攻医募集数のシーリングは継続、シーリング逃れに対策を/厚労省厚生労働省は、9月9日に医師専門研修部会を開き、日本専門医機構が提案した2025年度の専攻医募集に関するシーリング案を審議し、特別地域連携プログラムにおける新要件を却下する方針を決定した。この結果、2024年度と同様のシーリングを継続することになった。新要件は、医師充足率が0.7以下(小児科は0.8以下)の都道府県で医師を1年以上派遣する案だったが、地域内での医師偏在を助長する恐れがあるとの意見が相次ぎ、採用を見送った。今後、1ヵ月以内に厚生労働大臣の意見として正式に日本専門医機構に伝達する予定。一方で、「シーリング逃れ」と呼ばれる問題が引き続き指摘されている。これは、シーリング対象外のプログラムが、実際にはシーリング対象地域で長期間の研修を行う形態を指し、その実態把握と報告が求められている。また、特別地域連携プログラムに関しては、地域偏在是正の実効性を検証し、今後の改良が提案される予定。厚労省は、医師偏在是正に向けた総合的対策を2024年末までに策定する予定であり、9月5日に開いた社会保障審議会・医療部会では、医師偏在是正に向けた対策を議論し、偏在是正のために若手医師だけに負担をかけるのではなく、即戦力となる40歳以上の医師に対する施策の強化が求められている。参考1)令和7年度専攻医募集におけるシーリング案に対する厚生労働大臣からの意見案(厚労省)2)医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージの骨子案について(同)3)2025年度プログラム募集専攻医シーリング数(案)(日本専門医機構)4)2025年度の新専門医目指す専攻医募集、「玉突き案」は却下、「シーリング逃れ」の実態を解明-医師専門研修部会(Gem Med)5)医師偏在対策の総合パッケージ策定に向け医療部会で議論スタート「若手医師による偏在対策はもう限界」、少数区域に中堅医師の派遣求める声も(日経メディカル)3.大学病院の医師、残業時間の上限緩和申請は4割に、研究時間不足が課題/全国医学部長病院長会議9月11日に全国医学部長病院長会議は、医師の働き方改革施行後の令和6年4月の状況について、大学病院の医師の働き方改革に関するアンケート調査結果を発表した。これによると、大学病院に勤務する医師のうち、時間外労働の上限緩和を申請した医師が4割に達したことが明らかになった。これは2024年4月に導入された医師の働き方改革に伴い、年間960時間の時間外労働上限が1,860時間に引き上げられる特例措置を活用した結果で、2022年の調査時の34%から増加している。調査は全国82の大学病院を対象に行われ、約4万2,000人の医師のうち41%が特例措置を申請していることが判明した。また、医師の約56%が週平均5時間以下の研究時間しか確保できていないことが指摘され、とくに20歳代の医師では96%がこの状況にある。若手医師が診療業務に追われ、十分な研究時間が確保できていない実態が浮き彫りとなり、医療の将来に重大な影響を及ぼす可能性があると懸念されている。一方、労働時間の短縮は徐々に進んでおり、週50時間未満で勤務する医師の割合は49.6%となり、2022年の調査よりも8.1ポイント増加している。複数主治医制の導入や業務の時間内完了を進める取り組みが功を奏しているが、週60時間以上働く医師が依然として3割を超えており、とくに外科や小児科での改善が求められている。また、大学病院の給与に関しては、20歳代医師の87%、30歳代では51%が年収500万円未満であることが明らかとなり、国立病院や一般医療機関と比べて低い水準にあることが問題視されている。働き方改革を進めるためには、ICTの活用やタスクシフトの推進が求められており、診療報酬による支援が必要とされている。参考1)大学病院の医師の働き方改革に関するアンケート調査結果2)医師の残業時間、4割が上限緩和申請 大学病院団体調べ(日経新聞)3)若手医師の研究時間が少なく「医療の将来に重大な影響」 医師の働き方改革で調査(産経新聞)4)週50時間未満勤務の大学病院医師49.6% 4月時点 22年7月から8.1ポイント増(CB news)4.医療訴訟の発生率、東京、大阪が高く、茨城、福島、岐阜などは低め/東邦大学東邦大学薬学部の平賀 秀明講師らの研究グループは、最高裁判所の協力を得て2005~2021年にかけて全国の地方裁判所に提訴された医事関係訴訟の都道府県別発生率を調査した結果、発生率に地域差があることを明らかにした。今後、地域ごとの医療安全対策や医療事故後の患者応対、訴訟実務における指針として活用されることが期待される。調査によると、人口100万人当たりの医事関係訴訟発生率が全国平均(6.30件/年)と比べて有意に高い地域は東京都(12.97件/年)および大阪府(10.99件/年)。逆に、発生率が有意に低い地域は茨城県(1.77件/年)、福島県(1.93件/年)、岐阜県(2.50件/年)など12地域に及ぶ。また、医療機関1,000施設当たりや医師・歯科医師1,000人当たりの発生率においても、東京と大阪が高く、茨城、福島、岐阜などでは低い傾向がみられた。この地域差の要因については、医療機関側の過誤が少ないことや、弁護士不足による訴訟へのアクセスの違いが影響している可能性が指摘され、追加解析が進められている。今後、地域ごとの実情に応じた医療訴訟対策が求められる。この研究は、2024年7月31日に『医療の質・安全学会誌』に公開された。参考1)最高裁判所の協力を得て医事関係訴訟の都道府県別発生率を調査~発生率における地域差の存在が明らかに~(東邦大学)2)東邦大学 医事関係訴訟の都道府県別発生率に地域差 東京、大阪が高く、茨城、福島、岐阜等12地域は低い(ミクスオンライン)5.働き方改革の影響で9大学病院が医師派遣の取り止めや中止を検討/全国医学部長病院長会議2024年4月に始まった医師の働き方改革により、全国9つの大学病院が他の医療機関への医師派遣を取りやめ、または中止を検討していることが明らかになった。この調査は、全国医学部長病院長会議が82の大学病院を対象に実施したアンケート結果から判明したもので、働き方改革に伴う時間外労働の制限が影響を及ぼしている。調査結果によると、82の大学病院のうち、9つの病院が派遣中止や検討をしており、24の病院では勤務体制の見直しが進められている。具体的には、勤務間インターバルの導入などにより、医師の負担軽減を図る取り組みが行われている。一方、53の病院では現時点でとくに派遣に関する変更はないとされている。働き方改革により、医師の労働時間は減少傾向にあるが、とくに若手医師は診療業務、教授クラスの医師は研究業務に影響が出ている。若手医師の78%が診療時間の増加を感じており、教授の66%が研究時間の減少を挙げている。これにより、研究の遅れや診療体制の見直しが必要となっている。全国医学部長病院長会議の相良 博典会長は、「大学病院は地域医療にとって重要な存在であり、派遣中止が広がれば医療崩壊のリスクが高まる」と懸念を表明。今後、国に対して待遇の改善や医師確保に向けた対策を求めていく考えを示している。医師派遣の中止や制限が進むことで、地域医療に大きな影響を与える可能性があり、早急な対応が求められている。参考1)大学病院の医師の働き方改革に関するアンケート調査結果(全国医学部長病院長会議)2)全国9大学病院 ほかの医療機関への医師派遣 取りやめ 中止検討(NHK)3)医師派遣の取りやめ・中止検討、大学病院1割超で 4月時点 AJMC調査(CB news)6.「疲労回復」謳う美容医療、治療効果にエビデンスなし、クリニックを提訴/消費者機構日本特定適格消費者団体「消費者機構日本」は9月10日、東京都渋谷区のクリニック「サカイクリニック62」を相手取り、同クリニックが提供する自由診療に関するインターネット広告の表示が景品表示法における「優良誤認表示」に該当するとして、広告の停止を求める訴訟を東京地裁に起こした。クリニックは「疲労回復」や「アンチエイジング」などの効能を謳ったが、これらの効果には医学的なエビデンスがなく、厚生労働省も安全性に関する注意喚起を行っていた。提訴の対象となったのは、点滴や温熱療法など8種類の治療法に関する広告で、これらに関する効果を裏付ける客観的な医学的証拠がないことが問題視された。とくに「エクソソーム点滴療法」などの治療法は、その安全性が確認されていないとされており、消費者団体は「このままの状態が続くことが患者の利益を損なう」と指摘している。この訴訟は、医療機関による広告が景品表示法違反に問われた初のケースとなる。自由診療は保険診療とは異なり、高額で提供されることが多く、効能のエビデンスが不十分なまま提供される治療が広がっている現状がある。今回の訴訟は、こうした問題を是正し、消費者の利益を保護する狙いがある。また、訴訟に至るまでの経緯として、消費者機構日本が、4月にクリニックへ広告の削除を要請したものの、クリニック側のウェブサイトの改修対応などが遅れたこと、そして、当初「来年に改訂予定」として広告の表示を続けていたが、最終的には削除作業を進めていることを公表した。今回のケースは、自由診療分野における医療広告の規制が緩く、消費者保護が不十分であることを示しているとされ、今後も消費者機構日本は、同様の訴訟を展開し、他の医療機関に対しても適切な表示を促す姿勢を示している。参考1)再生医療・免疫療法と称する自由診療行為を行う医療社団法人サカイクリニック62(渋谷区)に対し、インターネット上の広告表示が優良誤認表示に該当するとして差止請求訴訟を提起しました(消費者機構日本)2)医療広告で「疲労回復」効能なし 消費者団体が東京・渋谷のクリニック提訴(産経新聞)3)「アンチエイジング」「睡眠の質改善」…自社サイトで優良誤認表示にあたる表現があるとしてクリニック側を提訴 原告「自由診療分野はやりたい放題」(TBS)4)「自由診療は野放しになっている」 “ネット広告”が「優良誤認表示」に該当するとして、消費者団体が医療クリニックに差し止め請求(弁護士JPニュース)

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