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anemia(貧血)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第8回

言葉の由来貧血は英語で“anemia”といい、「アニィーミア」のように発音します。これはギリシャ語の“anaimia”に由来しています。単語の成り立ちは、「否定」を表す接頭辞である“an”と、「血液の状態または血液中に“あるもの”が多量に存在すること」を意味する接尾辞の“-emia”がくっついてできたもので、「血液がない状態」を表します。医学用語の多くは接頭辞と接尾辞を含んでおり、これらを知っておくと英語の医学用語を覚えたり理解したりすることがぐっとラクになります。たとえば、否定を表す接頭辞の“a-”や“an-”を使った医学に関連する用語としては以下のようなものがあります。aplastic無形成性の(例:aplastic anemia 再生不良性貧血)anoxic無酸素症の(例:anoxic brain injury 低酸素脳症)asymptomatic無症候性の(例:asymptomatic bacteriuria 無症候性細菌尿)atypical非定型の(例:atypical pneumonia 非定型肺炎)また、接尾辞の“-emia”を使った用語の例として、以下のようなものがあります。hyperlipidemia脂質異常症bacteremia菌血症hyperuricemia高尿酸血症hyperbilirubinemia高ビリルビン血症このように、1つの単語の接頭辞や接尾辞を意識して勉強することで、芋づる式に多くの単語を覚えることができ、新しい英単語を見たときにも意味が理解しやすくなります。さらに多くの接頭辞や接尾辞を勉強したいという方は、ウエストフロリダ大学のウェブサイトに医学用語に関連した接頭辞や接尾辞が詳しくまとまっており、参考になるでしょう。併せて覚えよう! 周辺単語多血症polycythemia白血球減少leukopenia血小板減少thrombocytopenia白血球増多症leukocytosis血小板増多症thrombocytosisこの病気、英語で説明できますか?Anemia is a condition where the body lacks enough healthy red blood cells or hemoglobin to carry adequate oxygen to the body's tissues. Red blood cells contain hemoglobin, an iron-rich protein that binds to oxygen and transports it from the lungs to all other organs and tissues in the body.講師紹介

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HPVワクチン、積極的勧奨の再開後の年代別接種率は?/阪大

 ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの積極的勧奨が再開しているが、接種率は伸び悩んでいる。この状況が維持された場合、ワクチンの積極的勧奨再開世代における定期接種終了年度までの累積接種率は、WHOが子宮頸がん排除のために掲げる目標値(90%)の半分にも満たないことが推定された。八木 麻未氏(大阪大学大学院医学系研究科産科学婦人科学教室 特任助教)らの研究グループは、2022年度までのHPVワクチンの生まれ年度ごとの累積接種率を集計した。その結果、個別案内を受けた世代(2004~09年度生まれ)では平均16.16%、積極的勧奨が再開された世代(2010年度生まれ)では2.83%と、積極的勧奨再開後も接種率が回復していない実態が明らかとなった。本研究結果は、JAMA Network Open誌2024年7月16日号に掲載された。 HPVワクチンは2010年度に公費助成が開始され、2013年度に定期接種化されたが、副反応の報道や厚生労働省の積極的勧奨差し控えにより接種率が激減していた。2020年度から対象者へ個別案内が行われ、2022年度からは積極的勧奨が再開(キャッチアップ接種も開始)されたが、接種率の回復が課題となっている。そこで、研究グループは施策を反映した正確な接種状況や生まれ年度ごとの累積接種率を調べた。また、2022年度と同様の接種状況が続いたと仮定した場合の2028年度時点の累積接種率を推定した。 主な結果は以下のとおり。・生まれ年代別にみた、2022年度末時点のHPVワクチン定期接種終了時までの累積接種率は以下のとおり。接種世代(1994~99年度):71.96%停止世代(2000~03年度):4.62%個別案内世代(2004~09年度):16.16%積極的勧奨再開世代(2010年度):2.83%・生まれ年代別にみた、2028年度末時点のHPVワクチン定期接種終了時までの累積接種率の推定値は以下のとおり。接種世代(1994~99年度):71.96%停止世代(2000~03年度):4.62%個別案内世代(2004~09年度):28.83%積極的勧奨再開世代(2010~12年度):43.16% 本研究結果について、著者らは「日本においては、ほかの小児ワクチンの接種率やパンデミック下の新型コロナウイルス感染症ワクチンの接種率が世界的にみて高いことから、HPVワクチンの接種率だけが特異な状況にあることは明白である。今後、子宮頸がんによる悲劇を少しでも減らすため、HPVワクチンの接種率を上昇させる取り組みに加えて、子宮頸がん検診の受診勧奨の強化も必要となる。本研究結果は、今後の日本における子宮頸がん対策を検討する際の重要な資料となるだろう」と考察している。

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高温短時間殺菌は鳥インフルエンザウイルスの除去に有効

 米国で鳥インフルエンザが乳牛の間で広がり続けている中、米食品医薬品局(FDA)と米国農務省(USDA)が実施した新たな研究で、摂氏100度以下の温度で行う殺菌法(パスチャライゼーション)の1つである高温短時間殺菌(HTST法)は、生乳中の鳥インフルエンザウイルスを効果的に死滅させることが明らかになった。FDAは、6月28日に発表したこの研究に関するニュースリリースの中で、「この結果は、食料品店で売られているパスチャライズド牛乳がH5N1型の高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)ウイルスに汚染されていない安全なものであることを示した最新の研究結果だ」と述べている。 FDA食品安全応用栄養センターディレクター代理のDon Prater氏はCBSニュースに対し、「逸話的なエビデンスはたくさんあったが、われわれはH5N1型のHPAIウイルスと牛乳に関する直接的なエビデンスを手に入れたかった」と話す。そして、「得られた結果は、小売店から収集した297点の乳製品のサンプルを調べ、その全てがH5N1型のHPAIウイルス陰性であったことを示した、FDAの最初の調査結果を補完するものだ。これらの研究結果は、商業的な牛乳のサプライシステムの安全性を強く裏付けるものだ」と語っている。 この最新の研究は、FDAとUSDAの研究者が、米国で牛乳の殺菌条件(温度と殺菌時間)が、H5N1型のHPAIウイルスの不活化に有効であるかどうかを検証したもの。そのために研究グループは、商業用の牛乳に使われる生乳のサンプルを、乳牛のH5N1型HPAIウイルス感染が報告されている4つの州の農場から計275点入手した。 これらのサンプルのRT-PCR検査から、158点(57.5%)はA型インフルエンザウイルス陽性と判定され、このうちの39点(24.8%)では感染性のあるウイルスが検出された。次に、これらのサンプルを人工的にH5N1型のHPAIウイルスで汚染した上で、米国で最も多く採用されているHTST法(72℃で15秒間加熱)で殺菌した。その結果、牛乳が72℃で保持される前の最高温度(72.5℃)まで加熱される過程でウイルスが死滅することが確認され、この殺菌方法は大きな安全マージンを提供することが示された。 米政府高官の報告によると、現時点では、鳥インフルエンザウイルスは感染牛から他の動物へ、そしてウイルスで汚染された生乳の飛沫を通して3人の酪農作業員へと広がっているという。CBSニュースによると、USDAのH5N1型HPAIウイルス対策の上級顧問代理であるEric Deeble氏は、「生乳を搾乳されていた牛の中に、これまでにH5N1型のHPAIウイルス感染が確認された牛はいない」と語ったという。 Prater氏らは次の研究で、生乳から作られたチーズでの鳥インフルエンザウイルス感染の有無を調べる予定であるとしている。 なお、FDAによると、この研究結果は、査読を経て「Journal of Food Protection」に掲載される予定であるという。

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第220回 コロナ第11波に反しワクチンが打てない!?その最大原因は…

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)ワクチンの特例臨時接種が今年3月末で終了し、2024年4月以降は65歳以上の高齢者と基礎疾患を有する60~64歳が秋冬1回の定期接種、そのほかの人は任意接種となる1)のは周知のことだ。現在は秋冬の定期接種に向けての準備期間となるが、実はこの時期、新型コロナワクチン“難民”が出現している。コロナワクチン難民?私がこのことを知ったのは6月に入ってすぐだ。友人から何の脈絡もなく「ちょっと教えてほしいんだけど、コロナの予防接種って任意になってからできるとこが少ないの? 仙台の人なんだけど、病院や行政や医師会に聞いてもみつからなくて埼玉で接種したって…」とのメッセージが送られてきた。今だから明かすと、この時は多忙だったことに加え、極めて特殊事例か最悪はガセネタだと思って既読スルーしてしまった。もっとも特例臨時接種終了後、接種可能な医療機関が減少するであろうことは容易に想像がついた。ご存じのように新型コロナのmRNAワクチンは保管管理に手間がかかる。現在、国内で承認されているのは、ファイザーのコミナティ、モデルナのスパイクバックス、第一三共のダイチロナの3種類。このうちコミナティとスパイクバックスは、出荷時は超低温で冷凍され、2~8℃の冷蔵庫で解凍後の保存可能期間はコミナティが10週間、スパイクバックスが30日間。いずれも再冷凍は不可だ。ダイチロナは冷蔵保存が可能で保管可能期間は7ヵ月とコミナティやスパイクバックスよりは扱いやすい。そして、1バイアル当たりはコミナティが6回接種分、スパイクバックスが10~20回接種分、ダイチロナは2回接種分で、1度針を刺したバイアルはコミナティ、スパイクバックスでは12時間以内、ダイチロナは24時間以内に使い切らねばならない。要はそれだけの接種希望者を一度に集めなければ、残りは廃棄になり、医療機関側はその分の損失を被るだけになる。この点を解決すべく、コミナティに関しては5月中旬に1人用バイアルが登場したばかりだ。とはいえ、まさか東北地方の首都と言ってもいい仙台で、新型コロナワクチンを接種できない事態はあるはずがないと思っていた。実際、友人からのメッセージにも「あれだけたくさんあったはずのワクチンがないって」との記述があったが、私も同じ考えだったのだ。しかし、数日後、たまたまこの友人と直接会う機会があり、そこで話を聞いて一定の信憑性があると感じた。大元の情報提供者は私の地元である仙台に在住。たまたま、以前の本連載で触れた父親が使い始めた車椅子の操作を確認するため帰省する予定だったので、実際に話を聞いてみることにした。任意接種できる場所、どこにもみつからない!情報提供者のAさんは40代の大学教員。20年ほど前から風邪をひくと咳が1~2ヵ月続く体質で、仙台に住み始めてから呼吸器科を受診し、咳喘息の診断を受けている。このため年1回ぐらいの頻度でステロイド吸入薬を頓用していたが、コロナ禍中にユニバーサルマスクが社会全体に浸透したおかげで、2020年以降は咳喘息の症状をほとんど経験しなかったという。新型コロナワクチンに関しては、いわゆる自己申告の基礎疾患保有者として優先接種対象となり、昨年9月に6回目の接種を終了していた。しかし、今年2月にAさんの子供の学校で新型コロナが大流行し、自身も家庭内感染をしてから事態は一変。新型コロナの主な症状が治まった後も咳の症状はひかない。しかも、「大きめの声を出すと、咳が止まらなくなる。ひどいときは喋れないぐらい」(Aさん)まで症状が悪化したそうだ。受診した医療機関で新型コロナ感染や咳喘息の既往を伝えたところ、診察した医師から「半年くらい症状が続くと思われます」と即答された。いわゆる後遺症である。私が話を聞いたのは6月下旬だったが、取材中にも一度ひどく咳込んで水を口にし、ステロイド薬も1日1回は吸入しなければならなくなっていた。二度と感染したくないと思ったAさんは3月中旬から新型コロナワクチンの任意接種ができそうな医療機関を探し始めた。しかし、当時はいくら検索しても、見つかるのは同月末の特例臨時接種終了の告知ばかり。厚生労働省にも直接連絡を取ってみたが、「任意接種できる医療機関の情報はとりまとめていないので、各医療機関に個別に問い合わせてください」との返答で、かかりつけの呼吸器内科も、今後、任意接種を自院で行うかは未定とのことだった。一旦は諦めたA氏だったが、コミナティの1人用バイアルが5月中旬にも承認の見通しと報じられていたため、5月のゴールデン・ウイーク中から再び接種可能な施設を探すために医療機関へ問い合わせを始めた。仙台市内の大学附属病院、公立・公的病院から順に電話で問い合わせ、いずれも「接種は行っていない」との回答を受けたという。その後は呼吸器内科がありそうな病院・クリニック、特例臨時接種時に接種を行っていた病院・クリニックなどにも電話をかけ続けたAさん曰く、「『盛ってませんか?』と言われることもあるが、100軒以上は電話した」という。しかし、仙台市内でこの時期、任意接種可能な医療機関はついに見つからなかった。Aさんはこのほかにも宮城県庁、仙台市役所、宮城県と仙台市の医師会にも問い合わせたが、いずれも「現時点で任意接種できる医療機関はわからず、そうした情報をとりまとめてもいない。とりあえずご意見は承るが、現時点で任意接種対応医療機関情報をとりまとめる予定はない」という趣旨の回答しか得られなかった。新型コロナワクチン求め、問い合わせ窓口巡りまた、ファイザー、モデルナ両社の一般向け相談窓口にも問い合わせをしたが、接種可能な医療機関情報の公表について、ファイザーは「まだそういう予定はない」、モデルナは「検討中」との回答。そして嬉しいことにモデルナ社への問い合わせ時に秋田県由利本荘市が同市内で任意接種可能な医療機関名の一覧をホームページ(HP)で公表していたことを知った。Aさんは仙台から車で由利本荘市に行くことも念頭に、HPに掲載されていた各医療機関に問い合わせたが、いずれの医療機関もこの時点では接種を始めていないことがわかった。そこでAさんは由利本荘市健康福祉部健康づくり課に連絡を取り、市外在住者であることを伝えたうえでリストの更新を要請した。その甲斐があってか、現在は同HPでは各医療機関の任意接種開始時期が記載されている。この時点でほぼ万事休すかに思われた。AさんはX(旧Twitter)でワクチン接種医療機関をまとめているアカウントをウォッチし、東京都内で何軒か任意接種が可能な医療機関は見つけてはいたが、いずれも東京駅からはさらに電車で1時間は要する場所。「これでは接種に行くのはほぼ1日がかりになる」と思っていた矢先、X上で偶然、新幹線で大宮まで約1時間、そこから在来線に乗り換えて10分ほどで行ける埼玉県さいたま市浦和区で接種可能なクリニックを発見した。同クリニックのHPで接種可能なことを確認して予約を入れ、仙台から新幹線で現地に向かい無事接種することができた。ワクチンの接種料金は1万6,000円。これに仙台から浦和までの新幹線と在来線の往復料金が2万1,000円強。合計4万円弱の費用がかかった。なんとも高価な接種となったが、多くの人にとってはそこまでの対応はほぼ不可能だ。こんなにも苦労したAさんだが、現在はモデルナだけが接種可能な医療機関を公表している2)など状況はやや改善している。そこでmRNAワクチンを供給する3社に私自身が今回の事例を説明し、各社の対応について問い合わせてみた。任意接種可能な医療機関について、各社の対応まず、モデルナ社によると、接種可能医療機関の公表は5月下旬にスタート。その経緯について、同社のコミュニケーションズ&メディア担当者は「どの施設でワクチン接種できるのか情報がなく困っている患者さんやご家族は多く、コールセンターへの問い合わせも多くあったため」と回答した。現時点では掲載に同意した医療機関のみ公開しており、「当社サイトを経由して、ワクチンを接種できたとの声もいただいている」という。ファイザーの広報部門は「当社への問い合わせの詳細な内容は回答できないが、ワクチン接種医療機関がみつけられず、困っている人が一部にいることなどは認識している。現時点では、一般人に医療用医薬品の宣伝を禁じる広告規制なども鑑み、接種可能医療機関の検索システムなどはHPに設けてはいない。ただ、接種希望者への適切な情報伝達は社としても重視をしており、その実現のために現在さまざまな可能性を検討中」とのこと。第一三共のコーポレートコミュニケーション部広報グループは「一般の方から当社相談窓口に接種医療機関などに関する問い合わせをいただいている事実はあるが、現時点で接種可能な医療機関リストなどを公開する予定はない」という。ちなみに広告規制との兼ね合いについて、すでに接種医療機関を公表しているモデルナに重ねて問い合わせしたところ、「社内の必要な承認プロセスと厚生労働省への確認も経たうえで公開している」とのことだった。今回、接種に至るまで驚くほど苦労したAさんに改めてこの事態をどう考えるかを尋ねたところ、次のような答えが返ってきた。「何よりもまず、行政や医師会がきちんと動いてほしい。私がネット上を見る限り、今現在も接種希望者は一定数いる。私は強い接種希望があったから、埼玉県まで接種に行ったが、多くの人が同じことはできない。任意接種と言いつつ、地域によっては事実上接種不可能という現状は問題だと思う」少なくとも今回のような事例は、行政、医師会、製薬企業のそれぞれが単独で解決できるコトではないのは確かである。参考1)厚生労働省:新型コロナワクチンについて2))モデルナワクチン接種医療機関一覧

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尿検体の迅速検査【とことん極める!腎盂腎炎】第5回

尿検査でどこまで迫れる?【後編】Teaching point(1)尿定性検査の白血球陽性反応の細菌尿に対する感度は70〜80%程度であり、白血球反応陰性で尿路感染症を除外しない(2)硝酸塩を亜硝酸塩に変換できない(もしくは時間がかかる)微生物による尿路感染症もあり、亜硝酸塩陰性で尿路感染症を除外しない(3)尿pH>8の際にはウレアーゼ産生菌の関与を考える《今回の症例》70代女性が昨日からの悪寒戦慄を伴う発熱を主訴に救急外来を受診した。いままでも腎盂腎炎を繰り返している既往がある。また糖尿病のコントロールは不良である。腎盂腎炎を疑い尿定性検査を提出したが、白血球反応は陰性、亜硝酸塩も陰性であった。今回は腎盂腎炎ではないのだろうか…?はじめに尿検査はさまざまな要因による影響を受けるため解釈が難しく、尿検査のみで尿路感染症を診断することはできない。しかし尿検査の限界を知り、原理を深く理解すれば重要な情報を与えてくれる。そこで、あえて尿検査でどこまで診断に迫れるかにこだわってみる。前回、「尿検体の採取方法と検体の取り扱い」「細菌尿と膿尿の定義や原因」について紹介した。今回は引き続き、迅速に細菌尿を検知するための検査として有用な尿定性検査(試験紙)や尿沈渣、グラム染色などの詳細を述べる。1.白血球エステラーゼ(試験紙白血球反応)尿定性検査での白血球の検出は、好中球に存在するエステラーゼが特異基質(3-N-トルエンスルホニル-L-アラニロキシ-インドール)を分解し、生じたインドキシルがMMB(2-メトキシ-4-Nホルモリノ-ベンゼンジアゾニウム塩)とジアゾカップリング反応し、紫色を呈することを利用している。そのため顆粒球しか検出できず、リンパ球には反応しない。多少崩壊した好中球や腟分泌物で偽陽性となりうる。糖>3g/dL、タンパク>500mg/dL、高比重、酸性化物質の混入(ケトン尿)などで偽陰性となる1)。尿試験紙を保存している容器の蓋が開いた状態で2週間以上放置すると試薬が変色し、約半数で亜硝酸は偽陽性となる2)のため注意が必要である。日本で市販されている白血球反応は、(±):10〜25個/μL、(1+):25〜75個/μL、(2+):75〜250個/μL、(3+):500個/μLに相当する(尿沈渣鏡検での陽性と判定するWBC≧5/HPFは20個/μL相当)。2.亜硝酸塩尿定性検査の亜硝酸塩は、細菌の存在を間接的に評価する方法である。細菌が硝酸塩を還元し、亜硝酸塩とすることを利用して検出している。細菌の細胞質内に亜硝酸をつくる硝酸還元酵素もあるが、主にNap(periplasmic dissimilatory nitrate reductase)と呼ばれる酵素を有する細菌がperiplasmic space(細胞膜と細胞外膜の間)に亜硝酸塩を作った場合に検出できると考えられている3)。食品などから摂取した硝酸塩が尿中に存在すること、前述のような菌種が膀胱内に存在すること、尿路への貯留時間が4時間以上あることが必要である4)。腸内細菌細菌やStaphylococcus属は硝酸塩を亜硝酸塩に還元でき、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)も還元できるが還元するのに時間がかかり、レンサ球菌や腸球菌は還元できない5)。硝酸塩を亜硝酸塩に変換できない微生物、pH<6.0、ウロビロノーゲン陽性、ビタミンC(アスコルビン酸)が存在する場合に偽陰性となる1)。血清ビリルビン値が高いときは、機序不明だが偽陽性が報告されている6)。3.尿pH意外に思われるかもしれないが、実は尿路感染症の診断において、尿定性検査での尿pHも有用である。尿pH<4.5もしくは>8.0の場合は生理的範囲では説明できない。尿路感染症の場合に酸性尿となることもあるが、臨床的意義が高いのはアルカリ尿のほうである。尿pH>8であれば、ウレアーゼ産生菌の関与を考える。細菌のもつウレアーゼが尿素を加水分解し、アンモニアが生成され尿pHが上昇する(図)7)。画像を拡大する代表的菌種はProteus mirabilis、Klebsiella pneumoniae、Morganella morganiiなど8)である。また、Corynebacterium属もウレアーゼを産生する。Escherichia coliはウレアーゼを産生することはなく、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、Enterococcus属も産生率は低い。尿路感染症での尿pHと培養結果を検討した研究では、pHが高いほどProteus mirabilisの頻度が高かったという報告もあり、実臨床でも起因菌の推定に有用である9)。また、尿pHが高いことは、リン酸マグネシウムアンモニウム結石(ストルバイトとも呼ばれる)ができやすいことにも関連する10)。グラム染色や尿沈渣でこれらを確認することで間接的に尿pHを予測することもできる。閉塞性尿路感染症+意識障害ではウレアーゼ産生菌による高アンモニア血症を鑑別する必要がある。4. 迅速検査の組み合わせから尿路感染症を診断するここまで各種検査の詳細について述べてきたが、いずれも単独で尿路感染症を診断できるものではない。しかしながら各種検査を正確に解釈し、組み合わせることで診断に迫ることができる。各種検査とその組み合わせによる診断特性についてまとめると表1~311-16)となる。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する白血球反応は膿尿検出の感度・特異度は比較的高いが、陽性であれば尿路感染症であるというわけではなく、また白血球反応が陰性で尿路感染症状がある患者では、尿沈渣や尿培養を検討する必要がある。亜硝酸塩は感度が低く、陰性でも尿路感染症を否定できないが、陽性なら尿路感染症を強く疑う根拠とはなる。逆に白血球エステラーゼと亜硝酸塩がともに陰性であれば尿路感染症の可能性を下げる。尿沈渣は簡便性に劣るが信頼性が高く、白血球数や細菌数によって尿路感染症の可能性を段階的に評価できる。尿グラム染色は迅速に施行することができ、得られる情報量も多く、診断特性が高い検査の1つである。とくに尿沈渣の検査を夜間・休日に施行できない施設では大きな武器となる。おわりに逆説的ではあるが、あくまで検査所見のみをもって尿路感染症を診断することができないことは繰り返し述べておく。検査を適切に解釈し、病歴・身体診察と組み合わせることでより正確な診断に迫れることは忘れないでほしい。本項が検査の解釈の一助となれば幸いである。《今回の症例の診断》昨日より頻尿を認めており、左CVA叩打痛も陽性であった。尿グラム染色ではレンサ状のグラム陽性球菌を認めた。尿定性での白血球反応陽性の感度が70%程度であること、腸球菌やレンサ球菌では亜硝酸塩は陰性になることを鑑みて、臨床所見とあわせて腎盂腎炎の疑いで入院加療とした。翌日、尿培養からB群溶連菌を認め、これに伴う腎盂腎炎と診断した。1)Simerville JA, et al. Am Fam Physician. 2005;71:1153-1162.2)Gallagher EJ et al. Am J Emerg Med. 1990;8:121-123.3)Morozkina EV, Zvyagilskaya RA. Biochemistry. 2007;72:1151-1160.4)Wilson ML, Gaido L. Clin Infect Dis. 2004;38:1150-1158.5)Sleigh JD. Br Med J. 1965;1:765-767.6)Watts S, et al. Am J Emerg Med. 2007;25:10-14.7)Burne RA, Chen YY. Microbes Infect. 2000;2:533-542.8)新井 豊ほか. 泌尿器科紀要 1989;35:277-281.9)Lai HC, et al. J Microbiol Immunol Infect. 2021;54:290-298.10)Daudon M, Frochot V. Clin Chem Lab Med. 2015;53:s1479-1487.11)Ramakrishnan K, Scheid DC. Am Fam Physician. 2005;71:933-942.12)Zaman Z, et al. J Clin Pathol. 1998;51:471-472.13)Williams GJ, et al. Lancet Infect Dis. 2010;10:240-250.14)Whiting P, et al. BMC Pediatr. 2005;5:4.15)Meister L, et al. Acad Emerg Med. 2013;20:631-645.16)Ducharme J, et al. CJEM. 2007;9:87-92.

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ニルセビマブ、乳児のRSV感染症入院リスクを83%減少/NEJM

 実臨床において、長時間作用型の抗RSVヒトモノクローナル抗体であるニルセビマブは、RSウイルス(respiratory syncytial virus:RSV)関連細気管支炎による入院リスクの低下に有効であることが示された。フランス・Paris Cite UniversityのZein Assad氏らが、生後12ヵ月未満の乳児を対象とした多施設共同前向きマッチング症例対照研究「Effectiveness of Nirsevimab against RSV-Associated Bronchiolitis Requiring Hospitalization in Children:ENVIE研究」の結果を報告した。RSVは細気管支炎の主な原因であり、世界中で毎年300万例が入院している。ニルセビマブ承認後の、実臨床におけるRSV関連細気管支炎に対する有効性については不明であった。NEJM誌2024年7月11日号掲載の報告。前向きマッチング症例対照研究でニルセビマブの有効性を検証 フランスでは2023~24年のRSウイルス感染症シーズンに向けて、2023年2月6日以降に同国で生まれたすべての小児にニルセビマブ単回投与を無料で行うことが推奨され、このニルセビマブプログラムは2023年9月15日にフランス都市圏で開始された。 研究グループは、2023年10月15日~12月10日に、PCR法でRSVが検出されたRSV関連細気管支炎のために入院した乳児を症例群、RSV感染とは関係のない症状で同じ病院を受診した乳児を対照群として、年齢、病院受診日、試験施設を2対1の割合でマッチさせ、交絡因子を調整した多変量条件付きロジスティック回帰モデルを用いて、ニルセビマブのRSV関連細気管支炎による入院に対する有効性を算出した。いくつかの感度解析も実施した。 解析対象は1,035例で、症例群690例(年齢中央値:3.1ヵ月[四分位範囲[IQR]:1.8~5.3)、対照群345例(3.4ヵ月[1.6~5.6])であった。このうち、症例群60例(8.7%)、対照群97例(28.1%)にニルセビマブ投与歴があった。入院リスクを83.0%減少、重症化リスクを67.2~69.6%減少 RSV関連細気管支炎による入院に対するニルセビマブの調整推定有効率は83.0%(95%信頼区間[CI]:73.4~89.2)であった。すべての感度解析で、主要解析と同様の結果が得られた。 小児集中治療室(NICU)入室を要するRSV関連細気管支炎に対するニルセビマブの有効率は69.6%(95%CI:42.9~83.8)(症例群14.0%[27/193例]vs.対照群32.2%[47/146例])、人工呼吸器を必要とするRSV関連細気管支炎に対する有効率は67.2%(95%CI:38.6~82.5)(症例群14.3%[27/189例]vs.対照群30.5%[46/151例])であった。 著者は本研究の限界として、観察症例対照試験であるため因果関係についての結論を導き出すことはできないこと、対照群ではRSVのPCR検査が実施されていないこと、さらに対照群は小児救急外来を受診した患者であったが症例群は入院患者であったこと、ニルセビマブの有効性が国内プログラム開始後の非常に早い段階で評価されたことなどを挙げている。

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肺の空洞性病変の鑑別診断(1)[総論編]【1分間で学べる感染症】第7回

画像を拡大するTake home message肺の空洞性病変の鑑別診断は「CAVITY」で覚えよう。肺の空洞性病変を見たら、皆さんは何の鑑別を考えますか?鑑別診断は多岐にわたりますが、大まかな分類を覚えるのに 「CAVITY」という語呂合わせが有用です。CCancer がん(扁平上皮がん、肺転移)AAutoimmuneVVascular 血管性(肺塞栓症、敗血症性肺塞栓症)IInfection 感染(結核、非結核性抗酸菌症、細菌真菌、寄生虫)※詳しくは次回説明します。TTrauma 外傷(肺気瘤)YYouth/congenital 若年性/先天性(非結核性抗酸菌症、細菌真菌、寄生虫)重要な点は、「感染性だけではなく、非感染性の幅広い鑑別診断がある」ことを理解することです。診断には、気管支鏡検査や肺生検を要することも多いですが、その他の病歴や身体所見などを総合的に考慮し、診断のための検査を進める必要があります。1)Harding MC, et al. Fed Pract. 2021;38:465-467.2)Cho Y, et al. Am Osteopath Coll Radiol. 2019;8:18-24.

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オミクロン対応2価コロナワクチン、半年後の予防効果は?/感染症学会・化学療法学会

 第98回日本感染症学会学術講演会 第72回日本化学療法学会総会 合同学会が、6月27~29日に神戸国際会議場および神戸国際展示場にて開催された。本学会では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する最新知見も多数報告された。長崎大学熱帯医学研究所の前田 遥氏らの研究チームは、2021年7月から国内での新型コロナワクチンの有効性を長期的に評価することを目的としてVERSUS研究1)を開始しており、これまで断続的にその成果を報告している。今回は、2023年4月1日~11月30日の期間(XBB系統/EG.5.1流行期)における、オミクロン株BA.1およびBA.4-5対応2価ワクチンの有効性についての結果を発表した。本結果によると、2価ワクチンの入院予防効果について、接種から半年後でも高い有効性が持続することなどが明らかとなった。 本研究では、コロナワクチンの発症予防の有効性および入院予防の有効性を評価している。発症予防については、全国9都県15施設でCOVID-19を疑う症状で医療機関を受診した16歳以上を対象とした。入院予防については、全国10都府県12施設で呼吸器感染症を疑う症状が2つ以上ある、または新たに出現した肺炎像を認め、医療機関に入院した60歳以上を対象に調査を行った。検査陰性デザイン(test-negative design:TND)を用いた症例対照研究で、ワクチン未接種と比較した2価ワクチン接種の有効性(回数によらない)を推定している。ワクチン接種歴不明、ワクチンの種類不明の場合(起源株対応の従来型のワクチンか2価ワクチンか不明の場合)は解析から除外した。 主な結果は以下のとおり。【発症予防の有効性】・全体で7,494例が解析対象となった。年齢中央値44歳(四分位範囲[IQR]:28~63)、男性45.2%、基礎疾患のある人27.5%。・コロナワクチンの接種歴は、ワクチン接種なし13.1%、起源株対応の従来型ワクチンのみ接種41.6%、オミクロン株BA.1/BA.4-5対応2価ワクチン接種45.2%であった。・16~64歳での2価ワクチンの発症予防の有効性は、ワクチン接種なしと比較して、接種から7~90日では22.9%(95%信頼区間[CI]:-4.8~43.2)、91~180日では32.3%(7.7~50.4)、181日以上では2.9%(-21.5~22.5)となり、接種から半年間の有効性の低下が顕著であった。・65歳以上での2価ワクチンの発症予防の有効性は、ワクチン接種なしと比較して、接種から7~90日では40.8%(95%CI:6.1~62.7)、91~180日では52.2%(21.7~70.8)、181日以上では40.8%(3.8~63.5)であった。【入院予防の有効性】・60歳以上の1,170例が解析対象となった。年齢中央値83歳(IQR:75~89)、男性57.1%、高齢者施設入居者29.7%、基礎疾患のある人76.5%。・コロナワクチンの接種歴は、ワクチン接種なし16.3%、起源株対応の従来型ワクチンのみ接種22.9%、オミクロン株対応2価ワクチン接種60.8%であった。・2価ワクチンの入院予防の有効性は、ワクチン接種なしと比較して、接種から7~90日では59.6%(95%CI:31.2~76.2)、91~180日では69.4%(45.6~82.8)、181日以上では55.3%(19.1~75.3)であった。入院時呼吸不全あり、CURB-65で判断した重症度で入院時の重症度が中等症以上、入院時肺炎ありといったより重症の場合でも、ワクチンの有効性は全入院予防の有効性と比較して同等かそれ以上であった。 本研究により、オミクロン対応2価コロナワクチンの有効性について、発症予防はとくに若年者において低い値であったが、サンプルサイズは限られるものの、入院予防は接種から半年後も高い有効性が保たれていることが認められた。前田氏は、「ただし、より長期的に評価すると、接種から時間が経つにつれ効果は下がってくる可能性があるため、追加接種の必要性を考えるためにも継続して評価が必要である」と見解を示し、「新型コロナワクチン政策や流行株は各国で異なるため、国内におけるワクチンの有効性を評価することは、国内のワクチン政策を考慮する際にとくに重要であり、現在使用されているXBB.1.5対応ワクチンなどについても、今後も継続して評価をしていく」と語った。

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スパイロなしでも胸部X線画像で呼吸機能が予測可能!?

 スパイロメトリーなどを用いた呼吸機能検査は、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器疾患の管理に不可欠な検査である。しかし、高齢者や小児などでは正確な評価が困難な場合がある。また、新型コロナウイルス感染症流行時には、感染リスクを考慮して実施が控えられるなど、実施が制限される場合もある。そこで、植田 大樹氏(大阪公立大学大学院医学研究科人工知能学 准教授)らの研究グループは、14万枚超の胸部X線画像をAIモデルの訓練・検証に使用して、胸部X線画像から呼吸機能を推定するAIモデルを開発した。その結果、本AIモデルによる呼吸機能の推定値は、実際の呼吸機能検査の測定値と非常に高い一致率を示した。本研究結果は、Lancet Digital Health誌オンライン版2024年7月8日号で報告された。 本研究では、2003~21年の期間に収集した胸部X線画像14万1,734枚を用いて、3施設でAIモデルの訓練・内部検証を実施し、2施設で外部検証を実施した。外部検証では、努力性肺活量(FVC)と1秒量(FEV1)について、AIモデルの推定値とスパイロメトリーによる呼吸機能検査の実測値を比較した。 主な結果は以下のとおり。・外部検証の2施設におけるFVCについて、AIモデルによる推定値と実測値には強い相関があり(それぞれr=0.91、0.90)、誤差は小さかった(いずれの施設も平均絶対誤差[MAE]=0.31L)。・同様に、FEV1についても推定値と実測値には強い相関があり(いずれの施設もr=0.91)、誤差は小さかった(それぞれMAE=0.28L、0.25L)。・予測値に対するFVC(%FVC)80%未満、予測値に対するFEV1(%FEV1)80%未満、1秒率(FEV1/FVC)70%未満についても、AIモデルは高い予測能を示した。それぞれに関する2施設のROC曲線のAUCは以下のとおり。 %FVC 80%未満:それぞれ0.88、0.85 %FEV1 80%未満:いずれの施設も0.87 FEV1/FVC 70%未満:それぞれ0.83、0.87 著者らは、本研究結果について「本研究で開発したAIモデルは、胸部X線画像から呼吸機能を高精度に推定できる可能性を世界で初めて示した。本AIモデルは、呼吸機能検査の実施が困難な患者に対し、呼吸機能評価の選択肢を増やすことが期待される。今後は、異なる集団や環境下での性能を確認するとともに、実際の診療で使用した際の効果や影響を慎重に見極めていく必要がある」とまとめた。

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新型コロナの抗原検査は発症から2日目以降に実施すべき

 今や、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)やインフルエンザなどの迅速抗原検査はすっかり普及した感があるが、検査は、症状が現れてからすぐに行うべきなのだろうか。この疑問の答えとなる研究成果を、米コロラド大学ボルダー校(UCB)コンピューターサイエンス学部のCasey Middleton氏とDaniel Larremore氏が「Science Advances」に6月14日報告した。それは、検査を実施すべき時期はウイルスの種類により異なるというものだ。つまり、インフルエンザやRSウイルスの場合には発症後すぐに検査を実施すべきだが、新型コロナウイルスの場合には、発症後すぐではウイルスが検出されにくく、2日以上経過してから検査を実施するのが最適であることが明らかになったという。 Middleton氏らは、呼吸器感染症の迅速抗原検査がコミュニティー内での感染拡大に与える影響を検討するために、患者の行動(検査を受けるかどうかや隔離期間など)やオミクロン株も含めたウイルスの特性、その他の因子を統合した確率モデルを開発した。このモデルを用いて検討した結果、新型コロナウイルスの場合、発症後すぐに迅速抗原検査でテストした際の偽陰性率は最大で92%に達するが、発症から2日後の検査だと70%にまで低下すると予測された。発症から3日後だとさらに低下し、感染者の3分の1を検出できる可能性が示唆された。 この結果について研究グループは、「すでにほとんどの人が新型コロナウイルスへの曝露歴を有しているため、免疫系はウイルスに曝露するとすぐに反応できる準備ができている。そのため、最初に現れる症状は、ウイルスではなく免疫反応によるものだと考えられる。また、新型コロナウイルスの変異株は、ある程度の免疫力を持つ人に感染した場合には、オリジナル株よりも増殖スピードが遅い」と説明している。 一方、RSウイルスとインフルエンザウイルスに関しては、ウイルスの増殖スピードが非常に速いため、症状の出現後すぐに検査を実施するのがベストであることが示唆された。 Larremore氏は、最近では新型コロナウイルス、A型およびB型インフルエンザウイルス、およびRSウイルスへの感染の有無を1つの検査で同時に調べることができる「オールインワンテスト」が売り出されるようになり、また、薬局や診察室でも複数のウイルスを一度に調べるコンボテストが行われていることを踏まえ、「これは悩ましい問題だ。発症後すぐの検査だと、インフルエンザウイルスとRSウイルスについてはある程度のことが明らかになるが、新型コロナウイルスについては時期尚早だろう。だが、発症から数日後では、新型コロナウイルスの検査には最適のタイミングだが、インフルエンザウイルスとRSウイルスの検査には遅過ぎる」と話す。 また、Larremore氏は、「新型コロナウイルスの抗原検査の場合、疑陰性率が高過ぎると思うかもしれないが、抗原検査はウイルス量が多く、周囲の人にうつす可能性のある人を検出する目的で作られたものだ」と指摘。その上で、「感染者の3分の1しか検出できなくても、最も感染力の強い3分の1を診断できれば、感染を大幅に減らすことができる」と説明している。 一方、Middleton氏は、最近、米疾病対策センター(CDC)が検査と予防のガイドラインを、「仕事や社会に復帰しても安全かどうかを判断する前に、もう一度、検査をするべき」という内容に改訂したことについて、「より理にかなった内容になった」との見方を示す。同氏は、「以前の方針の『発症後5日間の隔離』は、ほとんどのケースで必要以上に長かったと思う」と話している。

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知ってますか? HeLa細胞、感動の1冊を通じて研究倫理を考える【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第74回

「誠に申し訳ございませんでした」一列に並んだ皆が頭を下げます。フラッシュが一斉にたかれ、シャッター音が鳴り続けます。5秒ほどたったでしょうか。一斉に頭をゆっくりと上げます。謝罪会見の冒頭です。社会の注目が集まります。謝罪側は、企業のこともあれば、行政組織のこともあれば、大学である場合もあります。大学では、しばしば研究不正が指摘され、そのたびに謝罪会見が行われます。研究活動の不正行為文部科学省のガイドラインで定義は、捏造(Fabrication)・改ざん(Falsification)・盗用(Plagiarism)の3つを特定不正行為としています1)。これらの研究内容の不正だけでなく、研究費の不正使用が問題となる場合もあります。倫理指針を逸脱した研究活動が問題となる場合もあります。倫理が重要視されるのは、「臨床研究においては、被験者の福利に対する配慮が科学的及び社会的利益よりも優先されなければならない」という臨床研究の根本的規範があるからです。医の倫理の起源は、紀元前4世紀から伝わる「ヒポクラテスの誓い」であるそうですが、これは医師が医療行為を行う際の倫理であって、研究の倫理について議論されだしたのは、ずいぶんと時間を経た後のようです。研究者の倫理が論じられる契機としては、ジェンナーによる種痘や、パスツールによる狂犬病ワクチンなどの、開発の過程での人体実験的な側面が有名で、ご存じの方も多いと思います。研究倫理に関する原則は、過去の不適切な人体実験に対応するために作られてきたともいえます。HeLa細胞の医学研究への貢献HeLa(ヒーラ)細胞という名前の細胞をご存じでしょうか。世界中の研究者に用いられ、さまざまな医学研究に寄与し続けてきた細胞です。HeLa細胞はヒト子宮頸がん由来です。不死化しており無制限に細胞分裂を繰り返す能力を持っています。細胞ががん化するのは、遺伝子に突然変異が積み重なり、細胞が不死化することが原因です。正常の細胞は自己が生まれた組織の中で、必要な役割を担って何回か分裂したあと自然に死んでいきます。この不死化したHeLa細胞は、世界中の研究者の元に届けられました。ポリオワクチンの開発に大きく寄与しました。大量培養されたHeLa細胞に、ポリオウイルスを感染させてワクチンの安全性や効果を確認したのです。がんの研究はもちろんのこと、ウイルス感染や、原爆の被爆者への影響などの研究にも貢献しました。体外受精、クローン作成、遺伝子マッピングなどの生命科学の進歩を導きました。HeLa細胞を用いた学術論文は6万本以上といわれます。その過程で生物学的な研究材料を販売するビッグビジネスを創出し、数百万ドル規模の利益をもたらしました。HeLa細胞が問いかける研究倫理ヘンリエッタ・ラックスさんを称える像(バージニア州ロアノーク)HeLa細胞の名前の由来は、その細胞を採取されたヘンリエッタ・ラックス(Henrietta Lacks)さんの名前の頭文字に由来します。貧しいアフリカ系アメリカ人女性が、子宮頸がんで米国・メリーランド州のジョンズ・ホプキンス病院の人種隔離病棟に入院し、1951年に亡くなりました。問題は、その細胞の採取が本人や家族の同意を得ることなく無断で行われたことです。その家族は採取された細胞がもたらした利益とは無縁でした。彼女の夫や子供は、研究者たちが同意なしに調査しようとしたことを契機に、ヘンリエッタ・ラックスさんの身体に由来する細胞が生き続けていることを知ります。研究倫理という問題について、HeLa細胞とその科学への貢献、その家族の経験を通じて見事に描いた作品があります。レベッカ・スクルート著の『The Immortal Life of Henrietta Lacks』です。邦訳は『不死細胞ヒーラ ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生』(中里 京子訳、講談社)です。文庫本として『ヒーラ細胞の数奇な運命 医学の革命と忘れ去られた黒人女性』(中里 京子訳、河出文庫)もあります。難しい学術書ではなく、感動的な人間関係を見事に描いた文学作品というべきでしょう。ストーリーの背景に、インフォームドコンセント・人種差別・科学の進歩・研究倫理という問題を織り込んでいます。タイトルに「不死:immortal」とありますが、細胞が不死化するだけでなく、永遠の家族愛が不死化していることを感じます。幼少期に母を亡くした子供たちが、知らない場所で、命を紡ぎ続けた母であるHeLa細胞と出会うシーンは涙を誘います。今年の夏も暑い毎日が続くようです。「暑い」を超えて「熱い」という気温です。寝苦しい夜となります。そんな時には、エアコンを一晩中駆動させて、読書に耽ってみてはいかがでしょうか。中高生のご子息のいる皆さまには、夏休みの宿題になっている読書感想文の素材の1冊としてもお薦めします。読書が苦手という皆さまには、映画化されていることもお伝えしましょう。書籍と同タイトルの作品を日本語字幕でPrime Videoでも視聴できます。これもお薦めです。参考文献・参考サイト1)文部科学省:研究活動の不正行為等の定義

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急性肝障害の発現率、194種類の薬剤で比較

 実臨床における重度の薬剤誘発性急性肝障害の発現率に関するデータは少ない。そこで、米国・ペンシルベニア大学のJessie Torgersen氏らの研究チームは、肝毒性が疑われる194種類の薬剤について、重度の急性肝障害の発現率を調査した。その結果、1万人年当たり10件以上の重度の急性肝障害が認められた薬剤は7種類であった。また、重度の急性肝障害の発現率が高い薬剤には、抗菌薬が多かった。本研究結果は、JAMA Internal Medicine誌オンライン版2024年6月24日号で報告された。 研究チームは、米国退役軍人のデータを用いて後ろ向きコホート研究を実施した。本研究には、2000年10月1日~2021年9月30日の期間のデータを用いた。対象は、肝臓疾患や胆道疾患の既往歴がない患者789万9,888例とした。外来で処方される薬剤のうち、過去に薬剤誘発性肝障害が報告されている194種類について、1万人年当たりの重度の急性肝障害の発現率を調査した。主要評価項目は、薬物治療開始後に発現した入院を要する重度の急性肝障害の発現率とした。 主な結果は以下のとおり。・重度の急性肝障害が1万人年当たり10件以上発現した薬剤は7種類であった。薬剤の種類および1万人年当たりの発現率(95%信頼区間[CI])は以下のとおり。 スタブジン(販売中止):86.4件(27.7~269.7) エルロチニブ:19.7件(7.4~53.0) レナリドミド:13.7件(6.4~28.9) クロルプロマジン:12.0件(4.5~32.3) メトロニダゾール:11.8件(7.4~18.7) プロクロルペラジン:11.6件(7.4~18.2) イソニアジド:10.5件(5.8~19.2)・重度の急性肝障害が1万人年当たり5.0~9.9件以上発現した薬剤は10種類であった。薬剤の種類および1万人年当たりの発現率(95%CI)は以下のとおり。 モキシフロキサシン:9.3件(5.6~15.4) アザチオプリン:7.7件(3.7~16.4) レボフロキサシン:7.2件(4.6~11.1) クラリスロマイシン:6.7件(3.3~13.5) ケトコナゾール:6.1件(2.0~19.0) フルコナゾール:6.0件(3.4~10.4) カプトプリル:5.8件(2.7~12.2) アモキシシリン・クラブラン酸:5.4件(3.7~7.9) スルファメトキサゾール:5.1件(3.5~7.3) シプロフロキサシン:5.1件(3.5~7.4)・以上の17種類のうち11種類は、既存のケースレポートに基づく急性肝障害の発現リスク分類において、最上位に含まれていない薬剤であった。・17種類のうち11種類を抗菌薬・抗レトロウイルス薬が占めた。

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試験紙による簡便な検査でインフルエンザウイルスの種類を判別

 試験紙を用いた簡便で安価な検査によりインフルエンザウイルス感染の有無を調べることができ、さらにその原因となったインフルエンザウイルスの種類まで特定できる可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。この検査により、A型とB型のインフルエンザウイルスを区別できるほか、A型インフルエンザウイルス亜型のH1N1やH3N2など、より毒性の強い株をも判別できるという。米プリンストン大学のCameron Myhrvold氏らによるこの研究の詳細は、「The Journal of Molecular Diagnostics」7月号に掲載された。 この検査法は、SHINE(Streamlined Highlighting of Infections to Navigate Epidemics)と呼ばれる、CRISPR-Cas技術を用いたウイルス検出法をベースにしたもの。SHINEは、CRISPR-Cas酵素を利用してサンプル中の特定のウイルスのRNA配列を識別する技術である。研究グループはまず、新型コロナウイルスを検出するために、その後、デルタ株とオミクロン株を区別するためにSHINEを利用した。 次いで研究グループは2022年から、時期を問わず環境中に循環している他のウイルス、特にインフルエンザウイルスの検出にこの技術を適用し始めた。その目的は、ウイルス検査を病院や高価な設備を持つ臨床検査室ではなく、臨床現場で行えるようにすることだった。こうして開発された新たな検査法は、異なるインフルエンザ株(A型とB型)、およびその亜型(H1N1とH3N2)を区別することができる。研究グループが、臨床サンプルを用いてこの検査法の性能を確かめたところ、RT-PCR検査による検査結果と100%の一致度を示したという。 論文の共著者の1人である米マサチューセッツ工科大学(MIT)ブロード研究所のJon Arizti-Sanz氏は、「患者に感染しているインフルエンザウイルスの株や亜型を区別できることは、治療だけでなく、公衆衛生政策にも影響を及ぼす」と述べている。 一方、論文の筆頭著者である米ハーバード大学医学大学院のYibin B. Zhang氏は、「高価な蛍光測定装置の代わりに試験紙読み取り装置を使うことは、臨床医療だけでなく、疫学的サーベイランスの目的においても大きな進歩だ」と述べている。 一般的な診断アプローチであるPCR検査は処理に時間を要する上に、訓練を受けた人員、特殊な機器、試薬を−80°Cで保存するための冷凍庫を必要とする。これに対し、SHINEは室温で実施可能であり、所要時間も約90分と短い。現在、この診断方法で必要となるのは、反応を促進するための安価な加熱ブロックのみだ。研究グループは、処理工程を簡素化して15分で結果を出せるようにすることを目指しているという。Myhrvold氏は、「最終的には、この検査が新型コロナウイルス感染症の検査に使われている迅速抗原検査と同じくらい簡便なものにしたいと思っている」と話している。 研究グループは目下、この検査を、ヒトに感染する恐れのある鳥インフルエンザウイルス株や豚インフルエンザウイルス株を追跡できるように改良しているところだと話している。

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尿検体の採り方と取り扱い【とことん極める!腎盂腎炎】第4回

尿検査でどこまで迫れる?【前編】Teaching point腎盂腎炎を疑う場合の尿検体は、排尿しながら途中の尿を採取する(排尿は途中で止めない)《今回の症例》70代女性が昨日からの悪寒戦慄を伴う発熱を主訴に救急外来を受診した。いままでも腎盂腎炎を繰り返している既往がある。また糖尿病のコントロールは不良である。腎盂腎炎を疑い尿定性検査を提出したが、白血球反応は陰性、亜硝酸塩も陰性であった。今回は腎盂腎炎ではないのだろうか…?はじめに尿検査はさまざまな要因による影響を受けるため解釈が難しく、尿検査のみで尿路感染症を診断することはできない。しかし尿検査の限界を知り、原理を深く理解すれば重要な情報を与えてくれる。そこで、あえて尿検査でどこまで診断に迫れるかにこだわってみる。今回は、「尿検体の採取方法と検体の取り扱い」「細菌尿と膿尿の定義や原因」について取り上げ、次回、迅速に細菌尿を検知するための検査の詳細を紹介する。1.尿検体の採取方法と検体の取り扱い読者の皆さんは自身がオーダーした尿検体がどのように採取されているか述べることができるだろうか。尿検査を電子カルテの画面でオーダー、その結果を確認するだけになっていないだろうか。尿検査の奥深さは尿検体の採取方法から始まる。基本的には排尿時の最初の数mLは採取せず、排尿しながら途中の尿(=中間尿)を採取する。排尿は途中で止めない。従来は排尿前に陰部を洗浄、清拭することが推奨されていた。しかし成人女性では清拭を省いた中間尿でも、同等のコンタミネーション率という報告(表1)1)などもあり、検体の質を改善しないため、現在は推奨されていない。画像を拡大する女性は陰部を広げて、男性は包皮を後方にずらし外尿道口に触れないようにして中間尿を採取する。中間尿が取れないときは、カテーテル(導尿)で採取する1)。例外として、クラミジア(Chlamydia trachomatis)や淋菌(Neisseria gonorrhoeae)などによる尿道炎を疑った場合は初尿を採取する。また、慢性細菌性前立腺炎を疑った際には、2杯分尿法(前立腺マッサージ前後の尿検体を採取)、もしくは、4杯分尿法([1]初尿10mLを捨てた後の尿、[2]中間尿、[3]前立腺液(中間尿採取後に前立腺マッサージを行い採取)、[4]マッサージ後10mL捨てた後の尿の4検体を採取)も報告されている2)。膀胱留置カテーテルが入っている場合は、蓄尿バッグにたまっている尿ではなく、検体採取用ポートから注射器で採取する。カテーテルのバイオフィルムに定着している菌と、真の感染の菌を区別するため、原則としてカテーテルをいったん抜去もしくは交換して採尿する。とくに2週間以上留置されており、まだカテーテルが必要な患者では交換後の採尿が推奨されている3)。長期(>30日)留置カテーテルのサンプリングポートから採取した尿とカテーテル再挿入後の尿を比べた研究では、前者では平均2菌種が検出され、多剤耐性菌は63%、後者では平均1菌種が検出され、多剤耐性菌は18%であった4)。また、カテーテルの先端培養は環境に生息する菌が検出されるだけなので提出しない。尿培養を行う検体は2時間以内に微生物検査室に搬送する。できない場合は4℃で24時間まで保存可能である。嫌気性菌は通常原因とならないので、嫌気培養を行う必要はない。2.細菌尿と膿尿尿路感染症は症候に細菌尿を組み合わせて臨床診断を行う。そのため尿培養は尿路感染症の診断において極めて重要な検査であるが尿路感染症と診断するための細菌尿の定義は論文によりさまざまである。尿中の細菌が105CFU/mL以上であることが細菌尿の一般的な定義だが、尿路感染症であっても105CFU/mL を下回ることも少なくない。尿路症状を呈する女性の下部尿路感染の診断において105CFU/mL以上では感度は51%のみであり、102CFU/mL以上とすると感度95%、特異度85%となる5)。米国感染症学会の尿路感染症の抗菌薬治療についてのガイドラインでは、女性の場合、膀胱炎で102CFU/mL以上、腎盂腎炎で104CFU/mL以上を採用している6)。コンタミネーションが少ない無症候性の男性の場合、1回の培養であっても103CFU/mL以上で感染を疑い、105CFU/mL以上で細菌尿と定義している7)。さらに無症候の場合に導尿で提出された検体ではコンタミネーションの機会がより少ないため、男性も女性も102CFU/mLと定義される7)。カテーテル関連尿路感染症の診断基準では、1種類以上の細菌が103CFU/mL以上の検出と定義されている3)。尿路感染症では、基本的に膿尿を伴う。膿尿とはWBC 10/μL(mm3)以上が一般的なコンセンサスとされる。尿中白血球数は、好中球減少患者や尿路の完全閉塞のある患者では低くなり、乏尿/血尿がある場合は高くなる。しかし、尿路感染症ではなくとも膿尿や細菌尿を認めることが、尿路感染症の診断を難しくする原因の1つである。細菌尿と膿尿の有無のそれぞれの組み合わせによる原因をまとめると表28, 9)のようになる。また、培養を用いた定義では細菌が発育するまで尿路感染症の診断ができない。そこで、迅速に細菌尿を検知するための検査として、尿定性検査(試験紙)や尿沈渣、グラム染色などが有用であり、次回詳細を述べる。画像を拡大する1)Carroll KC. Manual of Clinical Microbiology. ASM press. 2019:p.302-3302)Schaeffer AJ、Nicolle LE. N Engl J Med. 2016;374:562-571.3)Hooton TM, et al. Clin Infect Dis. 2010;50:625-663.4)Shah PS, et al. Am J Health Syst Pharm. 2005;62:74-77.5)Stamm WE, et al. N Engl J Med. 1982;307:463-468.6)Warren JW, et al. Clin Infect Dis. 1999;29:745-758.7)Nicolle LE, et al. Clin Infect Dis. 2005;40:643-654.8)Simerville JA, et al. Am Fam Physician. 2005;71:1153-1162.9)LaRocco MT, et al. Clin Microbiol Rev. 2016;29:105-147.

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新型コロナ、感染から完全回復までにかかる期間は?

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染後の回復期間の評価と、90日以内の回復に関連する要因を特定するため、米国・コロンビア大学Irving Medical CenterのElizabeth C. Oelsner氏らは、米国国立衛生研究所(NIH)に登録された14のコホートを用いて前向きコホート研究を実施した。その結果、感染から回復までにかかった期間の中央値は20日で、90日以内に回復しなかった人が推定22.5%いたことなどが判明した。JAMA Network Open誌2024年6月17日号に掲載。 この前向きコホート研究では、1971年よりNIHが参加者を登録し追跡してきた進行中の14のコホートにおいて、2020年4月1日~2023年2月28日にSARS-CoV-2感染を自己申告した18歳以上の4,708例(平均年齢61.3歳[SD 13.8]、女性62.7%)に対してアンケートを実施した。アンケートでは回復するまでの日数を聞き、90日以内に回復した群と、90日超あるいは未回復である場合は、90日時点で未回復の群に分類した。回復までの期間と関連する潜在的要因は各コホートから事前に選択された。90日以内に回復しない確率および平均回復時間は、Kaplan-Meier曲線を用いて推定され、90日以内の回復と多変量調整後の関連性をCox比例ハザード回帰分析にて評価した。 主な結果は以下のとおり。・全4,708例中3,656例(77.6%)が完全に回復し、回復までの期間の中央値は20日(四分位範囲[IQR]:8~75)だった。・回復までの期間の中央値は、第1波(野生株)では28日だが、次第に短縮し、第6波(オミクロン株)におけるワクチン未接種者では18日、ワクチン接種者では15日であった。・参加者の22.5%(95%信頼区間[CI]:21.2~23.7)が90日以内に回復しなかった。オミクロン株以前は23.3%(22.0~24.6)、オミクロン株以降は16.8%(13.3~20.2)であった。・制限平均回復時間は35.4日(95%CI:34.4~36.4)だった。・重篤な入院での平均回復時間は57.6日(95%CI:51.9~63.3)であり、外来受診の場合は32.9日(31.9~33.9)だった。・90日以内に回復する確率は、感染前にワクチン接種済のほうが未接種よりも高かった(ハザード比[HR]:1.30、95%CI:1.11~1.51)。・90日以内に回復する確率は、第6波(オミクロン株)のほうが第1波(野生株)よりも高かった(HR:1.25、95%CI:1.06~1.49)。・90日以内に回復する確率は、女性のほうが男性よりも低かった(HR:0.85、95%CI:0.79~0.92)。・90日以内に回復する確率は、パンデミック前に臨床心血管疾患(CVD)を有する人のほうが、CVDがない人よりも低かった(HR:0.84、95%CI:0.71~0.99)。・肥満、低体重、COPDは、有意ではないものの回復率が低かった。年齢、教育水準、パンデミック前の喫煙、糖尿病、高血圧、慢性腎臓病、喘息、抑うつ症状との関連は認められなかった。 本結果により、SARS-CoV-2に感染した成人の5人に1人が、感染から3ヵ月以内に完全に回復しなかったことが判明した。とくに、女性とCVDを有する人では、90日以内に回復する確率は低かった。著者らは本結果について、ワクチン接種による急性感染の重症度を軽減するための介入が、持続症状のリスクを軽減するのに役立つ可能性があるとまとめている。

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英語で「コロナ陽性です」は?【1分★医療英語】第138回

第138回 英語で「コロナ陽性です」は?《例文1》I tested positive for COVID.(コロナの検査が陽性でした)《例文2》If you test positive for COVID, you must be quarantined for 5 days.(コロナの検査が陽性の場合、5日間の隔離が必要です)《解説》新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行以降、日本では「新型コロナ」という呼び方が定着しましたが、英語圏では「COVID(コヴィット)」と呼ぶことがほとんどです。「コロナの検査」は“COVID test”、「検査を行うための綿棒」は“COVID swab”と呼ばれます。また、“test”という動詞には「自動詞」と「他動詞」があり、自動詞では、「検査の結果~を示す」という意味になります。“(誰=主語)test positive/negative for(○○=検査内容)”という構文で、「“誰”が“○○”の検査を受けて陽性/陰性だった」という表現となり、医療者同士はもちろん、患者さんとの会話でも頻出します。なお、コロナに関連する単語でよく使われるものに“quarantine”(隔離)という単語があります。「クアランティーン」と発音し、“self-quarantine”(自主隔離)という用語もしばしば使われます。講師紹介

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第201回 医師多数県で医学部定員を削減、医師多数区域の開業要件も検討へ/厚労省

<先週の動き>1.医師多数県で医学部定員を削減、医師多数区域の開業要件も検討へ/厚労省2.コロナ後遺症、半年後も8.5%に深刻な影響/厚労省3.かかりつけ医機能、新たな報告制度で地域医療連携を強化へ/厚労省4.特定機能病院の要件、医師派遣機能も考慮して見直しへ/厚労省5.協会けんぽ、2023年度の黒字は4,662億円、高齢化で財政不安も/協会けんぽ6.旧優生保護法の違憲判決で国に賠償命令/最高裁1.医師多数県で医学部定員を削減、医師多数区域の開業要件も検討へ/厚労省厚生労働省は7月3日、第5回「医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」を開き、2025年度の医学部定員について、医師が多い地域から医師が少ない地域に「臨時定員地域枠」を移行する方針を示した。医師多数県では2024年度の191枠が154枠に減少し、16都府県で計30枠減少する見込み。この調整により、医師少数県での地域医療の充実が期待されている。さらに、厚労省は「医師多数区域での開業要件」の検討も示唆し、医師偏在対策を総合的に進める方針で、無床診療所の開業制限や医師多数区域での保険医定員制などが議論の対象となるとみられている。地域枠の活用については、日本私立医科大学協会の小笠原 邦昭氏が、異なる診療科間での地域枠の交換を提案したほか、広域連携型プログラムの導入も評価されたが、調整のための時間が必要だという意見も出された。総合診療専門医の育成については、リカレント教育の重要性が指摘され、経済的インセンティブの必要性も強調された。さらに、サブスペシャリティ専門医の取得を容易にするための制度設計が求められている。新専門医制度について、日本専門医機構はシーリング制度の効果を検証中であり、制度改革の必要性を認識している。とくに、地域や診療科による偏在の是正に向けた取り組みが進められている。今後、厚労省は、各論点に関する議論を深め、年末までに「医師偏在対策の総合的なパッケージ」を策定する予定。これにより、地域間の医師の偏在が是正され、地域医療が向上することを期待しているが、偏在の是正が進むよう引き続き検討を重ねていくとみられる。参考1)第5回医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会(厚労省)2)医学部臨時定員、医師多数県で25年度は30枠減へ 厚労省検討会(CB news)3)医学部地域枠を削減へ 厚労省、医師過剰の16都府県で(日経新聞)2.コロナ後遺症、半年後も8.5%に深刻な影響/厚労省厚生労働省の研究班は、7月1日に新型コロナウイルス(COVID-19)感染後の後遺症患者のうち、8.5%が感染から約半年後も日常生活に深刻な影響を受けていることを発表した。この調査は、2022年7~8月にオミクロン株流行期に感染した20~60代の8,392人を対象に行われた。アンケート結果では、感染者の11.8%にあたる992人が後遺症として長引く症状を報告。その中でも84人が「日常生活に重大な支障を感じている」と回答した。主な症状としては、味覚障害、筋力低下、嗅覚障害、脱毛、集中力低下、そして「ブレインフォグ」と呼ばれる頭に霧がかかったような感覚などが含まれる。とくに女性や基礎疾患のある人、感染時の症状が重かった人で後遺症の割合が高かった一方、ワクチン接種を受けた人ではその割合が低かった。この結果は、COVID-19の後遺症が長期間にわたり日常生活に大きな影響を及ぼす可能性を示しており、全国での他の医療機関でも同様の後遺症報告があり、医療体制や患者支援の改善が急務とされる。また、研究班が、一般住民を対象に感染者と非感染者を比較し、後遺症の頻度や関連要因を調査した結果、感染者の罹患後症状の頻度が非感染者に比べて約2倍高いことが確認された。今後、後遺症のリスク要因や長期的な影響についての詳細な研究が求められるために、厚労省では引き続き、COVID-19の後遺症に対する対応策を進める予定。参考1)コロナ後遺症8.5%「半年後も」日常生活に深刻な影響 厚労省研究班(日経新聞)2)コロナ後遺症患者、半年後も日常生活に深刻な影響8.5% 厚労省(毎日新聞)3)オミクロン株(BA.5系統)流行期のCOVID-19感染後の罹患後症状の頻度とリスク要因の検討(NCGM)3.かかりつけ医機能、新たな報告制度で地域医療連携を強化へ/厚労省2024年7月5日、厚生労働省が病院や診療所による「かかりつけ医機能」の発揮を促進するために「かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に関する分科会」を開催し、これまでの議論をまとめた整理案を提示した。かかりつけ医機能については、2025年4月に施行される新たな報告制度を中心に据え、地域ごとに病院や診療所の役割を協議し、地域の医療機能の底上げを図ることを目的としている。整理案によれば、病院や診療所は「日常的な診療を総合的・継続的に行う機能」(1号機能)と、時間外診療や在宅医療、介護連携などの「2号機能」について、毎年1~3月に都道府県へ報告する。都道府県はこれらの報告を公表し、地域の「協議の場」で共有する。この「協議の場」には、都道府県や医療関係者だけでなく、市町村、介護関係者、住民・患者も参加し、地域の医療課題について協議するものとしている。厚労省は、1号機能として「専門を中心に総合的・継続的に実施」や「幅広い領域のプライマリケアを実施」などのモデルをガイドラインで示す予定。また、地域の医療連携を強化するため、複数医師による診療所の配置や、複数診療所によるグループ診療の推進も提案している。厚労省は、来年4月の報告制度発足に向け、自治体向けにガイドライン(GL)を作成する方針で、今月中に取りまとめを目指すとしている。参考1)第7回 かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に関する分科会[資料](厚労省)2)かかりつけ医機能報告制度の詳細が概ね固まる、17診療領域・40疾患等への対応状況報告を全医療機関に求める-かかりつけ医機能分科会(Gem Med)3)かかりつけ医機能、対応可能な一次診療について「診療領域」で報告へ(日経ヘルスケア)4)「かかりつけ医機能」データ活用して役割協議 厚労省が「議論の整理案」示す(CB news)4.特定機能病院の要件、医師派遣機能も考慮して見直しへ/厚労省厚生労働省は、7月3日に特定機能病院の承認要件の見直しを議論する検討会を5年ぶりに開催した。特定機能病院とは、高度な医療の提供、高度医療技術の開発、および研修を行う能力を備えた病院とされ、現在、全国には特定機能病院が88施設あるが、うち79施設は大学病院。今回の検討会は、社会保障審議会の医療分科会が3月に提出した意見書を受け、特定機能病院の要件を現代の医療ニーズに合致させるための見直しを目指す。この日の会合では、以下の論点が示された。(1)高度な医療の提供の方向性、(2)医療技術の開発・評価の方向性、(3)医療に関する研修の在り方、(4)医師派遣機能の承認要件への組み込みなど。とくに大学病院からの医師派遣機能を承認要件に加えるべきだとの意見が出されたほか、論文発表の質の確保、特定機能病院の機能や役割を明確化する必要性も議論された。特定機能病院の承認要件は、病床数や診療科数、紹介率、逆紹介率、論文発表数など多岐にわたっており、これらの要件を満たすことで、高度な医療提供能力が証明される仕組みとなっている。一方、現行の承認要件は時代に合わない部分もあり、特定機能病院と一般病院との違いが曖昧になってきているという指摘もされている。検討会では、特定機能病院の機能をさらに細かく分類し、承認要件を見直す方向で議論が進められる見込み。たとえば、「特定領域型」の特定機能病院の承認要件を明確化し、地域医療への貢献や医師派遣機能も承認要件に加えることが検討されているほか、承認要件には医療の質や研究の質も考慮されるべきだとの意見も出されている。今後、厚労省は各論点に関する議論を深め、年内に取りまとめを行う予定で、これをもとに特定機能病院の承認要件が見直される。参考1)第20回特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会(厚労省)2)特定機能病院の要件見直し、年内をめどに取りまとめ 厚労省検討会 医師派遣機能の要件化求める声も(CB news)3)特定機能病院に求められる機能を改めて整理、類型の精緻化・承認要件見直しなどの必要性を検討-特定機能病院・地域医療支援病院あり方検討会(Gem Med)5.協会けんぽ、2023年度の黒字は4,662億円、高齢化で財政不安も/協会けんぽ中小企業の従業員やその家族が加入する全国健康保険協会管掌健康保険(協会けんぽ)は、2023(令和5)年度の決算見込み(医療分)について公表した。それによると、2023年度の決算では、4,662億円の黒字を見込んでいる。黒字は14年連続で、賃上げによる保険料収入の増加が主な要因とみられる。協会けんぽの収入は前年度比2.7%増の11兆6,104億円で、賃金の伸びに伴い保険料収入が増えたことが背景にあり、とくに月額賃金が平均30.4万円と過去最高を記録したことが収入増に寄与した。一方、支出は11兆1,442億円で、前年度比2.5%増となった。支出の増加要因として、新型コロナウイルス禍後の社会活動再開に伴うインフルエンザなどの呼吸器系疾患の患者増加や75歳以上の後期高齢者医療制度への拠出金の増加が挙げられている。また、医療給付費は6兆4,542億円に達し、前年度に続いて過去最高を更新した。しかし、全国健康保険協会は、今回の決算の発表と同時に、今後の財政状況について楽観視できないとしている。その理由として、今後、加入者の高齢化や医療の高度化に伴い、団塊の世代が後期高齢者になる時期に支援金の急増が見込まれているためであり、財政の健全化と持続可能な運営が求められていく。参考1)2023(令和5)年度協会けんぽの決算見込みについて(協会けんぽ)2)「協会けんぽ」賃上げによる保険料増などで4,600億円余の黒字(NHK)3)協会けんぽ黒字、23年度4,662億円 賃上げで保険料増(日経新聞)6.旧優生保護法の違憲判決で国に賠償命令/最高裁旧優生保護法に基づく強制不妊手術を受けた被害者が国に損害賠償を求めた裁判で、最高裁判所大法廷は7月3日に「旧優生保護法が憲法違反である」と判断し、国に賠償を命じる判決を下した。旧優生保護法は、1948~1996年まで施行され、障害者を対象に強制的な不妊手術を認めていた。これにより約2万5,000人が手術を受けたとされる。最高裁は、旧優生保護法が「不良な子孫の淘汰」を目的にしており、障害者を差別的に扱い、生殖能力を奪うことは憲法13条および14条に違反するとした。また、不妊手術が当時の社会状況を考慮しても正当化できないとし、本人の同意があった場合も含めて手術の強制性を指摘した。さらに、国会議員の立法行為自体が違法であるとも断じた。国は20年以上前の不法行為について賠償請求権が消滅する「除斥期間」を理由に訴えを退けるよう主張したが、最高裁はこの主張を認めず、被害者の権利行使が困難であったことや旧法廃止後も補償を行わなかった国の姿勢を問題視し、除斥期間の適用を否定した。今回の判決で、国には被害者1人当たり1,100~1,650万円(その配偶者には220万円)の賠償責任が確定した。この判決は、全国の被害者救済に道を開くものであり、旧優生保護法の被害者の全面救済が期待される。政府は判決を重く受け止め、早期の対応を行う必要に迫られている。参考1)旧優生保護法は「違憲」 国に賠償命じる 最高裁、除斥期間適用せず(朝日新聞)2)旧優生保護法は憲法違反 国に賠償命じる判決 最高裁(NHK)3)旧優生保護法「違憲」、強制不妊で国に賠償命令…最高裁が「除斥期間」不適用で統一判断(読売新聞)

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第75回 確率分布とは?【統計のそこが知りたい!】

第75回 確率分布とは?確率分布とは、「ある確率変数が取りうる値とその値が起こる確率を表す数学的なモデル」のことです。医学論文でも、さまざまな現象やデータを解析するために確率分布が利用されています。今回はこの「確率分布」について解説します。■確率(probability)とは確率とは、「ある事象が起こる度合の大きさを表す数値」のことです。そして、0~1までの実数値をとる値です。また、%を用いて表現する場合は0~100%となります。■確率変数(random variable)とは確率変数とは、「試行の結果に対応してある、確率をもって定まる量」のことです。2つのサイコロを振って、出た目の和に値する量です。■確率分布(probability distribution)とは確率分布とは、「確率変数の各々の値に対し、その起こりやすさを記述するもの」です。■医学論文での事例以下に代表的な確率分布とその医学論文での事例を紹介します。(1)正規分布正規分布とは、「平均値と標準偏差によって特徴付けられる分布」であり、多くの自然現象やデータが正規分布に従うことが知られています。たとえば、身長や体重などの身体測定値が正規分布に従うことが多く、医療分野でも利用されています。ある病気の治療効果を測定するために、患者の病状に関するスコアを正規分布と仮定し、治療前後でのスコアの変化を比較する研究が行われることがあります。(2)二項分布二項分布とは、「2つの結果(成功と失敗)がある繰り返し試行を行った場合に、成功がk回起こる確率を表す確率分布」のことです。この試行をn回行った場合、各試行は互いに独立であり、成功確率がpであるとします。二項分布も、医療や経済学などの分野で、ある試行における成功確率が既知であり、その成功回数の分布を求めるためによく使われます。たとえば、ある病院で、ある種のがんを患っている患者に対して新しい治療法を試みた研究が行われました。治療法の効果を評価するため、治療群と対照群に分けて、それぞれのグループで治療が成功した人数を比較しました。治療群には100例、対照群には100例が含まれていました。治療群で成功した人数は70例で、対照群で成功した人数は50例でした。この場合、治療法の有効性を検証するために二項検定を行うことができます。二項分布を用いることで、治療群と対照群での治療成功率の差を比較することができます。(3)ポアソン分布ポアソン分布とは、「ある時間内に起こる事象の数が従う分布」であり、まれな事象が起こる確率を表すことで有名な分布です。たとえば医療分野では、ある地域での1日当たりの新型コロナウイルス感染症患者数がポアソン分布に従うと仮定し、感染者数の予測を行うことができます。他にも、ベルヌーイ分布やガンマ分布などが医療分野でもよく使われています。次回は「二項分布」を解説します。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ統計のそこが知りたい!第31回 検定の落とし穴とは?第56回 正規分布とは?第70回 カイ二乗分布とは「わかる統計教室」第3回 理解しておきたい検定 セクション1第4回 ギモンを解決!一問一答質問7 ノンパラメトリックの検定とは?(その1)

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アイカルディ症候群〔AS:Aicardi syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義アイカルディ症候群は、1965年にJean Aicardiによって報告された神経疾患である。脳梁欠損、脈絡網膜裂孔、点頭てんかん (infantile spasm) を典型的な3主徴とし、主に女児に認められる。なお、Aicardi-Goutie(eはアクサン・グラーヴ)res症候群とは別の疾患である。■ 疫学まれな疾患であり、正確な頻度は不明である。民族差はないと言われており、欧米では9~17万人に1例程度との報告がある。■ 病因現時点で不明である。患者の大部分が女児であることから、X染色体顕性遺伝(男児では致死性)または常染色体上の限性発現遺伝子の異常により女児にのみ発症するとも考えられている。■ 症状脳梁欠損、脈絡網膜裂孔、点頭てんかんを典型的な3主徴とするが、必ずしも3つがそろっているとは限らない。また、この3主徴以外にもさまざまな大脳形成異常、視神経の異常、その他のタイプのけいれん、さまざまな重症度の知的障害、側弯などの骨格異常が認められる。1)神経症状てんかんは、大部分の症例(>95%)に認められる。大部分の症例は1歳未満に発症する。点頭てんかんは早期にみられ、経過中にさまざまなタイプの薬剤治療抵抗性てんかんを発症する。脳波所見として、非対称性のサプレッション・バーストや両半球間の解離を伴う非同期の多巣性てんかん様異常がよくみられる。頭部MRIでは脳梁の異形成があり、大部分は完全脳梁欠損であるが、部分欠損の場合もある。主に前頭葉と傍シルビウス裂領域の多小脳回や厚脳回は典型的である。脳室周囲と皮質内の異所性灰白質もよくみられる。大脳の左右非対称、脈絡叢乳頭腫、脳室拡大、第3脳室や脈絡叢の脳内嚢胞がしばしばみられる。2)眼症状本症候群の特徴である脈絡膜裂孔は、網膜色素上皮とその下にある脈絡膜の白色または黄白色での円形で、境界部にさまざまな濃さの色素沈着を伴う、境界明瞭な色素脱失領域であり、視神経周囲の球後極に集簇することがある。 3)頭蓋顔面症状特徴的な顔貌として、短い鼻尖、鼻先が上向きで鼻梁の角度が小さい前顎骨、大きな耳、まばらな眉毛が含まれる。斜頭、顔面非対称性、時に口唇口蓋裂も報告されている。4)骨格症状半椎体、ブロック椎体、癒合椎体、肋骨の欠損などの肋椎体の異常はよくみられる。患者の1/3が著しい側弯症になる可能性がある。5)消化器症状便秘、胃食道逆流、下痢、摂食障害が認められる。管理上、てんかんの次に大きな問題となる症状である。6)悪性腫瘍腫瘍の発生率が増加することが示唆されている。良性腫瘍として脈絡叢乳頭腫や脂肪腫など、悪性腫瘍として血管肉腫、肝芽腫、髄芽腫、胚性がん、奇形腫など、さまざまなまれなタイプの腫瘍が報告されている。7)成長身長は7歳、体重は9歳まで一般集団と同じ程度であるが、それ以降になると一般集団より低くなるとの報告がある。8)内分泌思春期早発症、思春期遅延症の報告がある。■ 分類とくになし。■ 予後生命予後は不良である。個人差が大きくけいれんの重症度にもよる。平均余命は8.3歳との報告がある一方、寿命の中央値は18.5歳との報告がある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断は臨床所見のみで行う。症状がそろっていれば男児でも診断される。1999年に報告されたAicardiによる診断基準案は以下の通りである。古典的3徴候の存在が本症候群の診断となる。古典的3徴候の2つに加え、少なくとも2つの他の主要な特徴または補助的な特徴の存在は、本症候群の診断を強く示唆する。■古典的3徴候での診断【古典的3徴候】点頭てんかん (infantile spasms)特徴的な脈絡膜裂孔脳梁欠損(部分的な場合もある)【主な特徴】皮質奇形(多くは小脳回)脳室周囲および皮質下の異形成症第3脳室および/または脈絡叢周囲の嚢胞視神経・視神経乳頭のコロボーマまたは低形成【支持特徴】椎骨および肋骨の異常小眼球症もしくは他の眼症状“Split-brain” 型脳波肉眼的大脳半球非対称性■研究班による診断基準わが国の研究班においても以下のような診断基準が提唱されている。【A.症状】●主要徴候1.スパズム発作[a]2.網脈絡膜ラクナ(lacunae)[b]3.視神経乳頭(と視神経)のcoloboma、しばしば一側性4.脳梁欠損(完全/部分)5.皮質形成異常(大部分は多小脳回)[b]6.脳室周囲(と皮質下)異所性灰白質[b]7.頭蓋内嚢胞(たぶん上衣性)半球間または第3脳室周囲8.脈絡叢乳頭腫●支持徴候9.椎骨と肋骨の異常10.小眼球または他の眼異常11.左右非同期性’split brain’脳波(解離性サプレッション・バースト波形)12.全体的に形態が非対称な大脳半球a.他の発作型(通常は焦点性)でも代替可能b.全例に存在(またはおそらく存在)【B.検査所見】1.画像検査所見:脳梁欠損をはじめとする中枢神経系の異常(脳回・脳室の構造異常、異所性灰白質、多小脳回、小脳低形成、全前脳胞症、孔脳症、クモ膜嚢胞、脳萎縮など)がみられる。2.生理学的所見:脳波では左右の非対称または非同期性の所見がみられる。ヒプスアリスミア、非対称性のサプレッション・バーストまたは類似波形がみられる。3.眼所見:網脈絡膜ラクナが特徴的な所見。そのほか、視神経乳頭の部分的欠損による拡大、小眼球などがみられる。4.骨格の検査:肋骨の欠損や分岐肋骨、半椎、蝶形椎、脊柱側弯などがみられる。【C.鑑別診断】以下の疾患を鑑別する:線状皮膚欠損を伴う小眼球症。先天性ウイルス感染。<診断のカテゴリー>A-1、2、4を必須とし、さらにA-5、6、7、8のいずれかの所見を認めた場合に診断できる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)根本治療法はなく、対症療法のみである。スパズム発作と薬剤治療抵抗性けいれんの管理が必須である。診断時からの理学療法、作業療法、言語療法の開始が望ましい。側弯に伴う合併症予防のための適切な筋骨格系のサポートと治療が必要である。また、成長、栄養状態、発達の経過、呼吸機能と誤嚥のリスク、側弯の程度などについての定期的な評価が必要である。4 今後の展望原因遺伝子は未同定であるが、今後同定された場合には、発症のメカニズムが解明され、治療法が確立することが望まれる。5 主たる診療科小児神経科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病センター アイカルディ症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)小児慢性特定疾病情報センター アイカルディ(Aicardi)症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)Gene Reviews Aicardi syndrome(医療従事者向けのまとまった情報)OMIM Aicardi syndrome(医療従事者向けのまとまった情報)1)Adam MP, et al(eds). GeneReviews. 1993.2)Kroner B, et al. J Child Neurol. 2008;23:531-535.3)Aicardi, et al. International Pediatrics. 1999;14:5-8.4)加藤光弘. てんかん症候群 診断と治療の手引き(日本てんかん学会編集). メディカルデビュー;2023.p.21-25.5)「稀少てんかんに関する調査研究」班 アイカルディ症候群 診療ガイドライン(第2版)公開履歴初回2024年7月4日

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第103回 現在、学会現地でマスクをすべきか?

SNSでちょっと話題学会シーズンです。平日に開催されると、私のような急性期病院の勤務医はなかなか行けないので、なかなか大変です。最近の学会は、やっと現地開催が主流となっています。オンデマンドでの視聴も可能ですが、単位を効率よく取得したい人にとっては現地参加が魅力的ですね。ところが、現地ではマスクの着用について意見が割れているようです。この話題、いまだに議論されているんですね…。微妙な流行期とくに今の時期、答えが簡単ではありません。咳をしている人はもちろん、マスクを着用すべきですが(感染症の症状がある場合は参加自体を控えるべきですが)、健康を守るために普段からマスクをする必要性については、賛否両論あるでしょう。確かに新型コロナがじわじわ増えていて、現在、全国の定点医療期間当たりの感染者数は4.61人です(図)1)。沖縄県に至っては、25.68人という、ちょっとびっくりする数字で流行が続いています。画像を拡大する図. 定点医療機関あたりの新型コロナウイルス感染症患者数ここからは私見ですが、いろいろな人のいろいろな気持ちがあるので、着用したい人はそうすればいいし、着用不要な人は別にしなくていいと思います。いずれにしても、外野がとやかく言う問題でもない。だから、学会後の懇親会や飲み会だって普通に行くし、パンデミックのときの自粛を延々と続けたいと思っているわけでもない。ある程度、「5類感染症」になってから、医師の皆さん現状をうまく咀嚼していると思います。まとめると、個々の判断でいいのではないか、というのが私の結論です。学会参加者全員が安全と健康を最優先にする意識を持ち、互いに配慮しつつ学術交流を深めることが望ましいと考えます。参考文献・参考サイト1)厚生労働省. 新型コロナウイルス感染症の定点当たり報告数の推移(2024年6月28日更新)

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