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COVID-19の肺がん患者、死亡率高く:国際的コホート研究/Lancet Oncol

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行期における、肺がん等胸部がん患者の転帰について、初となる国際的コホート研究の結果が公表された。COVID-19に罹患した胸部がん患者は死亡率が高く、集中治療室(ICU)に入室できた患者が少なかったことが明らかになったという。イタリア・Fondazione IRCCS Istituto Nazionale dei TumoriのMarina Chiara Garassino氏らが、胸部がん患者における重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染の影響を調査する目的で行ったコホート研究「Thoracic Cancers International COVID-19 Collaboration(TERAVOLT)レジストリ」から、200例の予備解析結果を報告した。これまでの報告で、COVID-19が確認されたがん患者は死亡率が高いことが示唆されている。胸部がん患者は、がん治療に加え、高齢、喫煙習慣および心臓や肺の併存疾患を考慮すると、COVID-19への感受性が高いと考えられていた。結果を踏まえて著者は、「ICUでの治療が死亡率を低下させることができるかはわからないが、がん治療の選択肢を改善し集中治療を行うことについて、がん特異的死亡および患者の選好に基づく集学的状況において議論する必要がある」と述べている。Lancet Oncology誌オンライン版2020年6月12日号掲載の報告。 TERAVOLTレジストリは、横断的および縦断的な多施設共同観察研究で、COVID-19と診断されたあらゆる胸部がん(非小細胞肺がん[NSCLC]、小細胞肺がん、中皮腫、胸腺上皮性腫瘍、およびその他の肺神経内分泌腫瘍)の患者(年齢、性別、組織型、ステージは問わず)が登録された。試験適格条件は、RT-PCR検査で確認された患者、COVID-19の臨床症状を有しかつCOVID-19が確認された人と接触した可能性のある患者、または、臨床症状があり肺画像がCOVID-19肺炎と一致する患者と定義された。 2020年1月1日以降の連続症例について臨床データを医療記録から収集し、人口統計学的または臨床所見と転帰との関連性について、単変量および多変量ロジスティック回帰分析(性別、年齢、喫煙状況、高血圧症、慢性閉塞性肺疾患)を用いて、オッズ比(OR)およびその95%信頼区間(CI)を算出して評価した。なお、データ収集は今後WHOによるパンデミック終息宣言まで継続される予定となっている。 主な結果は以下のとおり。・解析対象は、2020年3月26日~4月12日に、8ヵ国から登録された最初の200例であった。・200例の年齢中央値は68.0歳(範囲:61.8~75.0)、ECOG PS 0~1が72%(142/196例)、現在または過去に喫煙81%(159/196例)、NSCLC 76%(151/200例)であった。・COVID-19診断時に、がん治療中であった患者は74%(147/199例)で、1次治療中は57%(112/197例)であった。・200例中、入院は152例(76%)、死亡(院内または在宅)は66例(33%)であった。・ICU入室の基準を満たした134例中、入室できたのは13例(10%)で、残りの121例は入院したがICUに入室できなかった。 ・単変量解析の結果、65歳以上(OR:1.88、95%CI:1.00~3.62)、喫煙歴(OR:4.24、95%CI:1.70~12.95)、化学療法単独(OR:2.54、95%CI:1.09~6.11)、併存疾患の存在(OR:2.65、95%CI:1.09~7.46)が死亡リスクの増加と関連していた。・しかし、多変量解析で死亡リスクの増加との関連が認められたのは、喫煙歴(OR:3.18、95%CI:1.11~9.06)のみであった。

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初診料が前年比5割減、健診・検診は9割減も/日医・医業経営実態調査

 2020年3~5月、月を追うごとに病院の医業収入が大きく落ち込み、健診・検診の実施件数は半減から9割減となった実態が明らかになった。6月24日の日本医師会定例記者会見において、松本 吉郎常任理事が全国の医師会病院および健診・検査センターの医業経営実態調査結果を発表した。 調査は73の医師会病院、164の健診・検査センターが対象。回答率はそれぞれ71.2%(52病院)、51.2%(84施設)だった。回答病院のうち、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者「あり」は25.0%(13病院)、COVID-19患者のための病床「あり」は50.0%(26病院)。COVID-19入院患者「あり」の病院における月平均入院患者数は7.6人だった(最大は4月に76人の入院患者[東京都])。 2020年3~5月の状況について、病院に対しては稼働病床数や総点数、初診料や再診料の算定回数のほか損益計算書、センターに対しては健診・検査の実施状況と損益計算書の調査が実施された。5月は前年比で初診47.2%、再診31.8%減。電話等再診の算定は増 全体で、初診料と再診料の算定回数の対前年比はともに3月、4月、5月と月を追ってマイナス幅が増加していた。初診料は3月が22.3%減、4月が38.2%減、5月が47.2%減。再診料または外来診療料は3月が14.4%減、4月が26.2%減、5月が31.8%減となっていた。 COVID-19入院患者「あり」の病院のすべてで、5月の初診料算定回数の対前年比がマイナスであった。また、地域医療支援病院(32病院)は、紹介が大幅に減少したとみられ、同じくすべての病院で対前年比がマイナスとなっていた。 一方、2019年にはほとんど算定のなかった電話等再診は4月以降急増し、4~5月には再診料または外来診療料の2%前後が電話等再診になっている。COVID-19対応病院でより顕著、医業利益が大幅に悪化 医業収入・利益については、調査締め切りの時点で5月分が未確定の病院があったため、3~4月分の回答があった病院と、3~5月分の回答があった病院に分けて、集計・分析が行われている。3~4月の集計では、医業収入は対前年比で、3月が1.5%減、4月が11.8%減となり、前年の黒字から一転。医業利益率は保険外の健診・人間ドック等収入の減少も影響して9.0%減、11.8%減となった。4月の許可病床1床当たりの営業利益は前年比で16万2,000円悪化している。3~5月の集計では、5月の医業収入が対前年比で13.8%減と落ち込みが最も大きい。 また、COVID-19入院患者「あり」の病院(3~4月)では、4月の医業収入対前年比が大幅なマイナス(3月が0.3%減、4月が14.7%減)、医業利益率が大幅な赤字となっていた(3月が13.9%減、4月が23.2%減)。4月の許可病床1床当たりの営業利益は前年比で31万1,000円悪化している。 松本氏は、「総じて前年から一転して大幅な悪化傾向が続いており、事業運営に悪影響を及ぼしている」として、国にその支援を求めていくとした。5月には75歳健診や乳がん検診の受診が前年比9割以上減少  医師会健診・検査センターへの調査結果は、本稿では健診・検診の実施状況について紹介する。3月時点ですでに前年に比べて2割以上減少した健診・検診は、特定健診(36.3%減)、75歳以上健診(29.8%減)、ウイルス肝炎検診(27.3%減)、肺がん検診(20.5%減)であった。5月にはすべての健診・検診の実施件数が前年と比べて半減や8割減、更には9割減となっている。5月の対前年比で減少が最も大きかったのは75歳以上健診(93.9%減)で、乳がん検診(90.1%減)、肺がん検診(85.8%減)などが続いた。 同調査の詳細は、日本医師会ホームページに掲載されている。

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新型コロナで低カリウム血症、その原因は?

 中国・温州医科大学のDong Chen氏らは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者における治療転帰との関連性を見いだすため、低カリウム血症の有病率、原因、および臨床的影響を調査する目的で研究を行った。その結果、COVID-19患者において低カリウム血症の有病率が高いこと、さらにその原因として、新型コロナウイルス(SARS-Cov-2)がアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)に結合することにより、ACE2(レニン-アンジオテンシン系を抑制)が分解され、レニン-アンジオテンシン系が活性化して持続的に腎からカリウムが排泄されることが示唆された。JAMA Network open誌2020年6月1日号掲載の報告。COVID-19重症および重篤患者40例のうち34例が低カリウム血症 本研究は、2020年1月11日~2月15日までの期間に中国・Wenzhou Central Hospital とWenzhou No.6 People's Hospitalで実施。対象者は入院中Chinese Health Bureauの基準に従いCOVID-19の診断を受けた患者とした。患者を重症低カリウム血症(血漿カリウム濃度:<3mmol/L)、低カリウム血症(同:3~3.5mmol/L)、カリウム正常値(同:>3.5mmol/L)に分類し、臨床的特徴、治療、および臨床転帰について3群間で比較した。主要評価項目は低カリウム血症群の有病率とカリウム補充による治療への反応で、血漿と尿中カリウムの濃度を分析した。また、患者は抗ウイルス療法などを受け、研究者らはそれらの疫学的および臨床的特徴を収集した。 新型コロナウイルス感染症と低カリウム血症の関連を調査した主な結果は以下のとおり。・175例(女性:87例[50%]、平均年齢±SD:45±14歳)の内訳は、重症低カリウム血症:31例(18%)、低カリウム血症:64例(37%)、およびカリウム正常値:80例(46%)だった。・重症低カリウム血症群の患者は、低カリウム血症群の患者と比べ有意に高体温だった(平均体温±SD:37.6±0.9℃ vs. 37.2±0.7℃、差:0.4℃、95%信頼区間[CI]:0.2~0.6、p=0.02)。また、カリウム正常値群の患者体温は、平均体温±SD:37.1±0.8℃(差:0.5℃、95%CI:0.3~0.7、p= 0.005)だった。・重症低カリウム血症群の患者はクレアチンキナーゼ(CK)も高く、平均±SD:200±257U/L(中央値:113 U/L、四分位範囲[IQR]:61~242U/L)、 低カリウム血症群は同:97±85U/L、カリウム正常値群は同:82±57U/Lだった。・クレアチニンキナーゼMB分画タンパク量(CK-MB)は、重症低カリウム血症群で平均±SD:32±39U/L(中央値:14 U/L、IQR:11~36U/L)、低カリウム血症群で同:18±15U/L、カリウム正常値群で同:15±8U/Lだった。・乳酸脱水素酵素(LDH)は、重症低カリウム血症群で平均±SD:256±88U/L、低カリウム血症群では同:212±59U/L、およびカリウム正常値群は同:199±61U/Lだった。・C反応性タンパク(CRP)は、重症低カリウム血症群で平均±SD:29±23mg/L、低カリウム血症群では平均±SD:18±20mg/L(中央値:12mg/L、IQR:4~25mg/L)およびカリウム正常値群では平均±SD:15±18mg/L(中央値:6U/L、IQR:3~17U/L)だった。・COVID-19重症および重篤患者40例のうち34例(85%)は低カリウム血症だった。重症低カリウム血症の患者には、入院中に1日当たり40mEqのカリウムが投与され、平均総投与量±SDは塩化カリウムで453±53mEqだった。・回復において、カリウム補充への反応は良好だった。

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ASCO2020レポート 消化器がん(上部消化管)

レポーター紹介今年のASCOは史上初めてオンラインのみでの開催となった。もちろん大規模な移動や集会は、新型コロナウイルスの感染伝播のリスクとなるためであるが、この傾向は今後も続くと思われる。すでに9月にマドリードで開催予定であったESMO2020も、virtualで行われることが決定している。移動時間や、時差を気にせず自室のPCでプレゼンテーションを見ることができる一方、ポスター会場での海外の研究者との直接のやりとりや、世界中のオンコロジストが集まる、あの会場の雰囲気を味わえなくなるのは寂しいものである。さて、上部消化管がん領域から、5演題ほど紹介したいと思う。HER2陽性胃がんに対するDESTINY-Gastric01試験は、HER2陽性胃がんに新たな標準治療を提供し、ほぼ同日に臨床系で最も権威があるといわれているNew England Journal of Medicineに掲載される1)など、最も注目すべき発表となった。Trastuzumab deruxtecan (T-DXd; DS-8201) in patients with HER2-positive advanced gastric or gastroesophageal junction (GEJ) adenocarcinoma: A randomized, phase II, multicenter, open-label study (DESTINY-Gastric01).HER2陽性胃がん、接合部腺がんに対するT-DXdのランダム化第II相試験Shitara K et al.T-DXdは、トポイソメラーゼI阻害薬(deruxtecan)を抗HER2抗体に結合(conjugate)させたADC(antibody-drug conjugate)製剤であり、HER2を発現した細胞に結合し、内部に取り込まれたderuxtecanが細胞障害を来し、効果を発揮する。Phase I試験では、トラスツズマブに不応となった患者に対して、43.2%の奏効割合を示し、有効性が期待されていた薬剤である。日本の第一三共株式会社が開発した薬剤という意味でも注目される。DESTINY-Gastric01試験では、フッ化ピリミジンと、プラチナ製剤と、トラスツズマブを含む2レジメン以上の治療歴のあるHER2陽性(IHC3+、IHC2+/ISH+)胃がんを対象に、187名が日本と韓国より登録された。125名がT-DXd群、62名が医師選択治療群(PC群)に割り付けられた。全例トラスツズマブの投与歴があり、タキサン系薬剤の投与歴は、T-DXd群とPC群で、84%と89%、ラムシルマブ投与歴は75%と66%、免疫チェックポイント阻害薬の投与歴は、それぞれ35%と27%であった。主要評価項目は奏効割合で、T-DXd群で42.9%、PC群で12.5%と有意にT-DXd群で良好であった。無増悪生存期間中央値も、5.6ヵ月と3.5ヵ月(HR=0.47)、生存期間中央値も12.5ヵ月と8.4ヵ月(HR=0.59、p=0.0097)と有意にT-DXd群が良好であった。一方T-DXd群では、主に血液毒性が多く認められ、Grade3以上の好中球減少を51%認めたが、発熱性好中球減少は6名(4.8%)であり、治療関連死は両群に1名ずつ認められ、肺炎であった。注目すべき有害事象として、肺臓炎をT-DXd群にて9.6%に認めたが、多くはGrade2以下であった。T-DXdはすでに2020年4月に乳がんに対して適応承認を取得しているが、治療歴のあるHER2陽性胃がん患者に対しても、適応承認申請中であり、近いうちに実臨床にて使用可能になると思われる。HER2陽性の肺がんや、大腸がんに対しても有効性が示されており、アストラゼネカと第一三共が提携を結び、日本以外の地域においても、他がんや、HER2陽性胃がんへの1次治療への開発などが期待されている。FOLFIRI plus ramucirumab versus paclitaxel plus ramucirumab as second-line therapy for patients with advanced or metastatic gastroesophageal adenocarcinoma with or without prior docetaxel: Results from the phase II RAMIRIS Study of the AIO.胃がん2次治療における、FOLFIRI+ラムシルマブと、パクリタキセル+ラムシルマブのランダム化比較第II相試験Lorenzen S et al.RAINBOW試験の結果、胃がんの2次治療は、パクリタキセルとラムシルマブの併用療法が標準治療である。1次治療不応後だけでなく、術後補助化学療法中や終了後6ヵ月以内の再発の場合もフッ化ピリミジン不応と考えて、2次治療であるパクリタキセルとラムシルマブが投与される。しかし近年、術後のドセタキセル+S-1療法や、欧米では、術前後のFLOT療法など、周術期の化学療法でタキサン系薬剤が用いられる傾向にあり、術後早期再発にてタキサン系薬剤以外の薬剤とラムシルマブの併用療法の評価を行う必要が生じてきた。もともと欧州で胃がんの2次治療のひとつであるFOLFIRIにラムシルマブを併用した治療と、標準治療であるパクリタキセル+ラムシルマブを比較するRAMIRIS試験が計画された。フッ化ピリミジンとプラチナを含む化学療法から6ヵ月以内に進行が認められた胃がん患者を対象とし、ドセタキセルの使用については許容され、調整因子とされた。PTX+RAM群に38名、FOLFIRI+RAM群に72名が割り付けられ、約65%の患者がタキサン使用歴ありだった。奏効割合は、FOLFIRI+RAM群は22%、PTX+RAM群は11%、タキサン使用歴あり患者に絞ると、25%と8%と、FOLFIRI+RAM群で良好な傾向であった。生存期間中央値は、それぞれの群で、6.8ヵ月と7.6ヵ月、無増悪生存期間中央値は3.9ヵ月と3.6ヵ月、タキサン使用歴ありだと、7.5ヵ月と6.6ヵ月、4.6ヵ月と2.1ヵ月であった。現在第III相試験が進行中であり、とくにタキサン使用歴のある患者についてはFOLFIRI+RAMが標準治療になる可能性がある。日本ではCPT-11+RAMの結果も報告されており、FOLFIRIである必要があるのかなどいくつかの疑問もあり、今後の結果が注目される。Perioperative trastuzumab and pertuzumab in combination with FLOT versus FLOT alone for HER2-positive resectable esophagogastric adenocarcinoma: Final results of the PETRARCA multicenter randomized phase II trial of the AIO.切除可能HER2陽性胃がんに対して、周術期FLOT単独とFLOTとトラスツズマブとペルツズマブの併用療法を比較するランダム化第II相比較試験~PETRARCA試験最終解析Hofheinz RD et al.欧米では、切除可能胃がんの標準治療は術前術後のFLOT療法であるが、HER2陽性胃がんに対する周術期の分子標的治療薬の上乗せ効果については明らかではない。また、トラスツズマブとペルツズマブの併用については、乳がんでは上乗せ効果が示され、標準治療となっているが、胃がんの初回治療での化学療法とトラスツズマブに、ペルツズマブの上乗せ効果をみたJACOB試験では、ペルツズマブの上乗せは良好な傾向を示したものの、有意差を示さず、ネガティブな結果であった。PETRARCA試験ではFLOT単独群とFLOT+トラスツズマブ+ペルツズマブ(FLOT+TP)群にランダムに割り付けられ、主要評価項目は病理学的完全奏効(pCR)割合とされた。FLOT群に41名、FLOT+TP群に40名が割り付けられ、pCR割合は12%、35%とFLOT+TP群で有意に良好であった(p=0.02)。無病生存期間中央値はFLOT群で26ヵ月、FLOT+TP群で未達であった(HR=0.576、p=0.14)。生存期間中央値は両群で未達、HRは0.558、p=0.24と、観察期間は不十分ながら、FLOT+TP群で良好な傾向であった。術前術後化学療法での有害事象はFLOT+TP群でGrade3以上の下痢(5% vs.41%)、疲労(15% vs.23%)が多かったが、術後合併症は両群で差はなく、R0切除割合はFLOT群で90%、FLOT+TP群で93%、術後60日以内死亡も両群で1名ずつであった。本試験は、少ない症例数ながら、周術期でのHER2陽性胃がんに対する分子標的治療薬が有用な可能性を示した。ペルツズマブを併用することで、トラスツズマブの耐性機序のひとつであるHER3からのシグナルを抑え、短期的な有効性が上昇することを示した。JACOB試験で有意な差が出なかったのは、後治療などで効果が薄まったためと考えられるが、短期的な腫瘍縮小効果が差を生み出せる周術期でどうなのか、今後の検討が期待されるSintilimab in patients with advanced esophageal squamous cell carcinoma refractory to previous chemotherapy: A randomized, open-label phase II trial (ORIENT-2).治療歴のある食道扁平上皮がんに対するsintilimabのランダム化第II相試験ORIENT-2試験Xu J et al.近年食道扁平上皮がんに対して免疫チェックポイント阻害薬の有効性が報告されており、ATTRACTION-3試験では、2次治療において、バイオマーカーにかかわらずタキサン系薬剤と比較してニボルマブが有意に生存期間を延長し、日本・韓国・台湾において、ニボルマブが食道扁平上皮がん既治療例に対して適応承認を得ている。KEYNOTE-181試験では、ペムブロリズマブが、CPS(combined positive score)10以上の食道がんにおいて、化学療法群と比較して生存期間延長を示し、米国では、CPS10以上の食道扁平上皮がんに対して適応承認が得られている。また、中国で行われた第III相試験であるESCORT試験では、抗PD-1抗体であるcamrelizumabが既治療例の食道扁平上皮がんに対して、化学療法群と比較して生存期間の延長を示している。ORIENT-2試験は、既治療例食道扁平上皮がんに対する、抗PD-1抗体であるsintilimab群と、医師選択化学療法群を比較した、ランダム化第II相試験であり、180名が登録され、それぞれの群に95名割り付けられた。医師選択化学療法では72名がイリノテカンで、15名がパクリタキセルを投与された。中国では、初回化学療法において、タキサン系とプラチナ系薬剤が併用されることが多く、そのため2次治療としてイリノテカンが用いられることが多い。主要評価項目である生存期間は、中央値がsintilimab群で7.2ヵ月、化学療法群で6.2ヵ月(HR=0.70、p=0.03)と有意にsintilimab群にて延長を認めた。奏効割合も12.6%と6.3%と、sintilimab群で良好な結果であったが、無増悪生存期間中央値では、sintilimab群で1.6ヵ月、化学療法群で2.9ヵ月という結果であった。曲線はクロスしており、後半でsintilimab群が持ち直し、HRでは1.0と両群で差を認めなかった。PD-L1の発現や、そのほかのサブグループの有効性の発表はなかったが、NLR(neutrophil-to-lymphocyte ratio)3未満の集団は、3以上の集団に比べて、sintilimabの有効性が上昇することが示された。安全性に新たな知見はなかった。sintilimabも過去の報告と同様の効果を食道扁平上皮がんに対して示したが、このラインではすでに複数のチェックポイント阻害薬が承認されており、差別化をどのように行うかが今後の課題と思われる。すでに初回化学療法での併用効果や、化学放射線療法との併用、周術期での効果など、食道扁平上皮がんにおける免疫チェックポイント阻害薬は、新たな局面を迎えている。Final analysis of single-arm confirmatory study of definitive chemoradiotherapy including salvage treatment in patients with clinical stage II/III esophageal carcinoma: JCOG0909.病期II/III食道がんに対する、根治的化学放射線療法と救済治療を含む単アームの検証的試験~JCOG0909最終解析Ito Y et al.切除可能食道がんに対する治療は、術前治療に引き続く食道切除術であり、日本では術前化学療法、欧米では術前化学放射線療法が主に行われている。食道扁平上皮がんは放射線感受性が高く、化学放射線療法のみでがんが消失、完全反応(CR)となるケースも少なくない。CRとなる患者は、比較的大きな侵襲となる食道切除術を行わずに根治が得られる可能性を考え、欧米でも、化学放射線療法を行い、CRが得られた患者に対して、切除を行う群と、慎重観察を行い、がんの再発が認められたら切除に行く群のランダム化比較試験が行われたりしている。ただ、化学放射線療法後にどのような基準で手術に行くのか、タイミングはいつがよいのか、その時のリスクがどの程度なのか、まだよくわかっていない。JCOG0909は、まず放射線線量50.4Gyにて、根治的化学放射線療法を行い、CRあるいは、腫瘍の縮小が良好な場合は治療継続と経過観察、明らかな遺残あるいは再発を来した場合は救済手術あるいは救済内視鏡を行うことをプロトコール治療に組み込んだ単アームの試験である。線量を60Gyとしていた時代に行われたJCOG9906では、救済手術での治療関連死が10%以上認められ、放射線後に行う救済手術のむつかしさが浮き彫りになった。JCOG0909ではその経験を踏まえ、線量を抑える代わりに、5-FUの投与量を増やし、また頻回に評価することで、腫瘍が増大する前に救済手術を試みるような設定がなされた。94名の食道扁平上皮がん患者が登録され、病期IIA/IIB/IIIの内訳は、22/38/34と比較的II期が多かった。完全奏効割合は58.5%と既報と比較して同等かやや低い傾向であったが、これは早めに救済手術に持ち込む戦略であることや、5-FUの増量により食道炎が増加し、CRの判定が遅れたことなどが影響していると思われる。5年の経過フォロー後の結果として、5年生存割合は64.5%、5年無増悪生存割合は48.3%と、既報の化学放射線療法のJCOG9906試験の36.8%と25.6%と比して大幅に改善された。術前化学療法と手術療法の組み合わせと比較しても、JCOG9907試験のB群の55%、44%と、引けを取らない結果であった。27名の患者で救済手術が行われ、R0切除となった21名では、3年生存48.3%と長期生存が得られている。食道気管肺の瘻孔形成による周術期死亡が認められたが、救済手術はおおむね安全に実施されていた。5年食道温存生存割合は54.9%と高い値を示し、根治的化学放射線療法により、食道温存をしたまま長期生存が期待できることを示した。また、仮に遺残や再発した場合でも切除可能な段階であれば、救済手術を行うことで、約半数の患者が長期生存を達成できることが示された。現在免疫チェックポイント阻害薬と根治的化学放射線療法の併用療法の検討が開始されており、より高いCR割合が得られるようになれば、まず化学放射線療法を行い、CRになれば、食道温存したまま経過観察、遺残すれば、救済手術を行う、という治療戦略が一般的になる可能性も秘めている。前向き試験の中で、救済手術の安全性と有効性をしっかりと示した例は世界的にもなく、食道がんの臨床に影響を与える結果と思われた。一方で、比較対象となる術前治療と手術のエビデンスであるJCOG9907などと比較して、II期が占める割合が多いため、治療成績については考慮する必要がある、食道がんの専門病院で、経験のある腫瘍内科医と、外科医が治療した結果のため、どこまで一般化できるのか、などの指摘もあるが、今後につながる内容であった。文献1.Shitara K, et al. N Engl J Med. 2020 May 29. [Epub ahead of print]

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ASCO2020レポート 消化器がん(下部消化管)

レポーター紹介2020 ASCO Annual Meetingは、世界的な新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、2020年5月29日から短縮された日程でWeb開催により実施された。実地臨床が大きく変わる瞬間を現地で経験できないのは少し残念であったが、本年も重要な研究結果が多く報告された。本稿では、その中から大腸がん関連の演題をいくつか紹介したい。進行再発大腸がん患者全体に対する画期的な新薬はここ数年登場していないものの、バイオマーカーに基づくprecision medicineの実現は確実に進歩してきている。今年のASCOでも、BRAF、HER2、MSIに関する発表に加えて新たにKRAS異常に対する新薬のpreliminaryな結果発表があった。一方で、周術期化学療法は、本邦からのJCOG0603を含め注目演題が複数発表された。#4005: JCOG0603A randomized phase II/III trial comparing hepatectomy followed by mFOLFOX6 with hepatectomy alone for liver metastasis from colorectal cancer: JCOG0603 study.肝転移切除例に対する周術期化学療法切除可能大腸がん肝転移例に対する治療は、根治的外科切除である。欧米では、EORTC40983試験などの結果から、周術期にオキサリプラチン併用療法を6ヵ月間実施することが標準治療と認識されている。ただ、EORTC40983試験は主解析では無再発生存期間(DFS)の有意な延長を認めなかったこと、全生存期間(OS)延長は認めなかったことなどから、賛否が分かれる試験であった。今回、本邦から大腸がん肝転移切除例に対し経過観察と術後FOLFOX療法6ヵ月間とを比較する第II/III相試験(JCOG0603)の結果が発表された。2007年3月から2019年1月までに300例の患者が登録された。同時性肝転移56%、肝転移個数1~3個約90%、最大径5cm未満約86%で両群に差はなかった。2019年12月に実施された3回目の中間解析において、効果安全性評価委員会から早期中止が勧告され、今回公表された。主要評価項目のDFS中央値は経過観察群1.5年、FOLFOX群5.1年で有意にFOLFOX群が良好であった(HR:0.63、96.7%CI:0.45~0.89、p=0.002)。一方、3年全生存割合は91.8% vs.87.2%と有意差を認めないものの、FOLFOX群で生存曲線が下回る傾向であった(HR:1.25、95%CI:0.78~2.00)。FOLFOX群では、Grade3以上の感覚性末梢神経障害を14%、好中球減少を50%に認めた。DFSとOSが乖離した要因として発表者らは、(1)化学療法による肝障害により再発の見落とし、(2)試験初期(1st phase II)での化学療法のコンプライアンス不良、(3)再発後の治療のインバランス、(4)化学療法群における再発後のOSが不良、が考えられると考察した。大腸がん肝転移例ではDFSとOSと相関せず、FOLFOXによる術後補助化学療法は再発後のOSを短くする可能性があることから、FOLFOX療法に利益はない(not beneficial)と結論付けた。ディスカッサントのコロラド大学Dr. Lieuは、本試験について主要評価項目のDFSはpositiveであるから、現在の標準治療である周術期オキサリプラチン併用療法6ヵ月間は変える必要はないと結論付けていた。EORTC40983試験を含めて考えても、術後補助化学療法の実施によるDFS延長効果は揺るぎないものであるが、OS延長効果には結び付いていない。おそらく2nd operationによりcureできているのだと考えられる。DFS延長(=2回目の手術をしなくてもよい)と化学療法によるQOL低下などのデメリットを考慮したshared decision makingにより実地臨床では治療選択されるだろう。一方で、補助療法によりメリットを得られる集団の同定や、non-resectable recurrenceを減らすためのさらなる強化レジメンの開発も必要だろう。#4006: RAPIDOShort-course radiotherapy followed by chemotherapy before TME in locally advanced rectal cancer: The randomized RAPIDO trial.局所進行直腸がんに対するTNT(Total neoadjuvant therapy)局所進行直腸がんに対する標準治療は、欧米では術前化学放射線療法(NeoCRT)+根治的外科切除(+術後補助化学療法)である。本邦では、根治的外科切除+側方郭清+術後補助化学療法を標準としている施設が多いものの、近年、欧米に準じてNeoCRTを実施する施設も増えてきた。NeoCRTを実施した場合の術後補助療法のコンプライアンスが不良であることから、術前化学療法も併せて実施するTotal neoadjuvant therapy(TNT)が期待されているが、従来の標準治療との比較試験での長期成績は明らかではなかった。今回、TNTの有用性を検証する第III相試験の1つであるRAPIDO試験の結果が、欧州から報告された。RAPIDO試験はT4 or N2などの高リスク局所進行直腸がん患者に対して、標準CRT群(カペシタビン併用 RT 50~50.4Gy/25~28回+手術+術後CAPOX 8サイクルもしくはFOLFOX 12サイクル)と、TNT群(short course RT 25Gy/5回+CAPOX 6サイクルもしくはFOLFOX 9サイクル+手術)とが比較された。920例が登録され、年齢中央値62歳、T4約30%、N2約65%で両群に差はなかった。pCR率はCRT群14.3%、TNT群28.4%で、有意にTNT群で良好であった。主要評価項目のDisease-related Treatment Failureは3年時点でCRT群30.4%、TNT群23.7%で、TNT群で良好であった(HR:0.75、95%CI:0.60~0.96、p=0.019)。3年時点での遠隔転移再発率は26.8% vs.20.0%(HR:0.69、p=0.005)、局所再発率 は6.0% vs.8.7%(HR:1.45、p=0.09)であった。長期生存の結果は不明であるものの、主要評価項目を達成し、TNTは新たな標準治療といえるだろう。遠隔転移再発の抑制には周術期の化学療法の重要性は容易に想像できるが、とくにTNTとして術前に実施することで術後の実施よりも有効性が高いことは大変興味深い。今回ASCOではPRODIGE 23試験の結果も発表され、こちらもTNTの有用性を示唆する結果であった。同様の試験が欧米で複数実施中であり、これらの試験の結果も楽しみであるが、どんどんTNTが主流になっていく印象を受けた。また、short course RTについては、本試験ではやや局所制御率に差が求められ、その局所制御には不安が残るが、Polish試験では従来のCRTと同程度の局所制御割合が報告されている。COVID-19感染拡大の影響もあり、long courseのRTよりshort courseが急速に広がっていく可能性もある。#LBA4: KEYNOTE-177Pembrolizumab versus chemotherapy for microsatellite instability-high/mismatch repair deficient metastatic colorectal cancer: The phase 3 KEYNOTE-177 study.切除不能のMSI-H大腸がんに対する初回治療としてのペムブロリズマブ療法マイクロサテライト不安定性陽性(MSI-H)などのミスマッチ修復機能欠損のある切除不能大腸がん(dMMR/広義のMSI-H)は本邦では約3%に認められ、KEYNOTE-164試験やCheckmate-158試験の結果から、ペムブロリズマブおよびニボルマブなどの免疫チェックポイント阻害薬の有効性が確立されている。いずれも第II相試験だけの結果で薬事承認・保険償還されていることから、標準治療との有効性の比較データはなかった。今回、切除不能MSI-H大腸がんに対する初回治療として従来の化学療法(FOLFOX/FOLFIRI+分子標的治療薬)とペムブロリズマブ療法とを比較する第III相試験(KEYNOTE-177試験)の結果がプレナリーセッションで発表された。MSI-H大腸がん307例が登録され、右側結腸約70%、BRAF V600E変異型約25%、RAS変異型約25%(未評価約30%)であった。本邦からを含めアジア人も約15%登録されている。主要評価項目の無増悪生存期間中央値は化学療法群8.2ヵ月、ペムブロリズマブ群16.5ヵ月であった(HR:0.60、95%CI:0.45~0.80、p=0.0002)。客観的奏効割合は、化学療法群33.1%、ペムブロリズマブ群43.8%(p=0.0275)であったが、最良効果がPDである割合は化学療法群12.3%、ペムブロリズマブ群29.4%とむしろペムブロリズマブ群で高い傾向であった。Grade3以上の有害事象発生割合は化学療法66%、ペムブロリズマブ22%(免疫関連9%を含める)であった。化学療法群における免疫チェックポイント阻害薬へのクロスオーバー率は59%であり、その有効性は報告されなかった。以上、ペムブロリズマブの初回治療としての有効性が証明されたことから、初回治療にも適応拡大が行われるだろう。現在、ニボルマブ+イピリムマブ療法の第III相試験も登録中であり、MSI-H大腸がんは免疫チェックポイント阻害薬を中心とした治療にシフトしていくだろう。BRAF V600E変異型かつMSI-Hの場合にどちらの治療薬を最初に使うのがよいのか、免疫チェックポイント阻害薬の至適投与期間やリチャレンジなど新しい疑問が出てきている。最後に今年のASCO大腸がん領域の演題からいくつかを紹介したが、上記演題のほかにも切除不能大腸がんに対するHER2阻害薬DS-8201aの有効性やBRAF阻害薬のBEACON試験の続報など、さまざまな興味深い演題の発表があった。ASCO2020のテーマは“Unite and Conquer: Accelerating Progress Together”、力を合わせてがんを克服する、というものであったが、Virtual meetingでも世界中から最新のエビデンスが発信され、意見交換ができた。新型コロナウイルス感染の中でも、がんの克服に向けて絶え間なく努力を続けていく必要がある。

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COVID-19、ABO血液型により重症化に違い/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者が重症化し呼吸不全を来すリスクについて、ゲノムワイド関連分析(GWAS)を行い調べたところ、3p21.31遺伝子座と9q34.2遺伝子座の変異との関連性が明らかになった。9q34.2遺伝子座は血液型の遺伝子座と一致しており、血液型A型の人は、他の血液型の人に比べ重症化リスクが1.45倍高く、一方で血液型O型の人は重症化リスクが0.65倍低いことが示されたという。COVID-19を引き起こすSARS-CoV-2に感染した患者にばらつきがみられることから、ドイツ・Christian-Albrechts大学のDavid Ellinghaus氏らの研究グループ「The Severe Covid-19 GWAS Group」が、イタリアとスペインの患者を対象にGWASを行い明らかにした。NEJM誌オンライン版2020年6月17日号掲載の報告。イタリア・スペインの7ヵ所の病院の患者を対象に試験 研究グループは、欧州におけるSARS-CoV-2流行の中心地、イタリアとスペインの7ヵ所の病院を通じて、COVID-19患者で重症化(呼吸不全)が認められた1,980例について、GWAS試験を行った。 品質管理や外れ値の除外後、イタリアでは患者835例とその対照1,255例、スペインではそれぞれ775例と950例について、最終的な解析を行った。 合計858万2,968個の一塩基多型を解析し、2つのケースコントロールパネルについてメタ解析を行った。重症化リスク、A型は45%増、O型は35%減 COVID-19による呼吸不全との関連性(ゲノムワイドの有意水準でp<5×10-8)を示す、2遺伝子座の2つの一塩基多型、3p21.31遺伝子座のrs11385942と9q34.2遺伝子座のrs657152を検出した(それぞれのオッズ比[OR]:1.77[95%信頼区間[CI]:1.48~2.11、p=1.15×10-10]、1.32[95%CI:1.20~1.47、p=4.95×10-8])。 3p21.31遺伝子座に関連する遺伝子は、SLC6A20、LZTFL1、CCR9、FYCO1、CXCR6、XCR1だった。 一方9q34.2遺伝子座は、血液型ABOの遺伝子座と一致した。血液型に特異的な解析の結果、A型の人の重症化リスクが他の血液型の人に比べ高率だった(OR:1.45、95%CI:1.20~1.75、p=1.48×10-4)。一方で血液型O型の人は、他の血液型の人に比べ重症化リスクが低率だった(0.65、0.53~0.79、p=1.06×10-5)。

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未治療HIV結核患者、検査に基づく治療が有益/NEJM

 抗レトロウイルス療法(ART)歴のない重度免疫不全状態のHIV感染成人患者における結核治療について、検査結果に基づく治療は系統的・経験的治療と比べて24・48週後のアウトカムはいずれも同等で、Grade3/4の有害事象発生率は低いことが示された。フランス・ナント大学のFrancois-Xavier Blanc氏らSTATIS ANRS 12290 Trial Teamが、コートジボワールやウガンダなどの患者1,000例超を対象に無作為化比較試験を行い報告した。結核およびHIVの疾病負荷が高い地域において、HIV感染成人患者の多くがART開始時にはすでに重度の免疫不全状態にあり、これらの患者のART開始後の死亡率は高く、結核および侵襲性の細菌感染症が死因の多くを占めているという。NEJM誌2020年6月18日号掲載の報告。全死因死亡または侵襲性細菌感染症の複合エンドポイント発生率を比較 研究グループは、ART歴のないCD4陽性T細胞数100個/mm3未満のHIV成人患者を対象に、検査に基づく結核治療と、検査をせずに治療を始める系統的・経験的治療を比較する48週間の試験を行った。 コートジボワール(2施設)、ウガンダ(2施設)、カンボジア(1施設)、ベトナム(1施設)で集めた被験者を無作為に1対1の割合で2群に分け、一方にはスクリーニング(Xpert MTB/RIF検査、尿中リポアラビノマンナン検査、胸部X線撮影)を実施し、その結果に基づき結核治療を開始すべきかどうかを決めた(検査治療群、525例)。もう一方の群にはリファンピシン、イソニアジド、エタンブトール、ピラジナミドを2ヵ月間連日投与し、その後リファンピシンとイソニアジドを4ヵ月間連日投与する系統的・経験的治療を行った(系統的治療群、522例)。 主要評価エンドポイントは、全死因死亡または侵襲性細菌感染症の複合で、無作為化後24週以内(主要解析)または48週の時点で評価を行った。Grade3/4の薬剤関連有害事象リスク、系統的治療群は検査治療群の2.57倍 24週の時点で、全死因死亡または侵襲性細菌感染症の発生率(初回発生イベント)は、系統的治療群が19.4/100患者年、検査治療群が20.3/100患者年と、両群で同等だった(補正後ハザード比[HR]:0.95、95%信頼区間[CI]:0.63~1.44)。 48週時点での同発生率も、それぞれ12.8/100患者年、13.3/100患者年と同等だった(補正後HR:0.97、95%CI:0.67~1.40)。 24週の時点で、結核の確率は系統的治療群が3.0%と、検査治療群の17.9%に比べ低率だった(補正後HR:0.15、95%CI:0.09~0.26)。一方で、Grade3/4の薬剤関連有害事象の確率は、系統的治療群が17.4%と、検査治療群の7.2%に比べ高率だった(2.57、1.75~3.78)。 重篤な有害イベントの発生は、系統的治療群でより頻度が高かった。

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第12回 夏本番!冷やし中華ならぬ「抗体検査始めました」の怪

抗体保有率、東京都0.10%こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。6月19日、やっとプロ野球が開幕しました。新型コロナウイルス陽性が判明した巨人の坂本・大城両選手も開幕試合になんとか間に合ったようです。私も何試合かテレビ中継を観ましたが、やはり無観客試合はどうもしっくりきません。打撃音やキャッチングの音、選手の声が聞こえるのはいいのですが、応援なしだとなんだか草野球を観ているようで、プロらしさがあまり伝わってきません。ある中継では、「応援音声再現中」と、バックに過去に録音した応援の音を流していましたが、あれもどうなんでしょう。今年も早く神宮球場の「生ビール半額ナイター」に行きたいものです。さて、今回気になったのは、新型コロナウイルスの抗体検査に関するいくつかのニュースです。6月16日、厚生労働省は3都府県で6月1日から実施していた新型コロナウイルスの抗体保有調査の結果を公表しました。この調査は日本での抗体保有状況の把握のため、2020年6月1~7日にかけて東京都・大阪府・宮城県の一般住民それぞれ約3,000名を無作為化抽出して行われたものでした。対象者は本調査への参加に同意した一般住民(東京都1,971人、大阪府2,970人、宮城県3,009人、計7,950人)。この調査では、陽性判定をより正確に行うため、2種の検査試薬(アボット社・ロシュ社)の両方において陽性が確認されたものを「陽性」としたとのことです。その結果、抗体保有率は、東京都:0.10%(2人)、大阪府:0.17%(5人)、宮城県:0.03%(1人)でした。抗体を持っていた人の割合を、人口に対する報告感染者数の割合(5月31日時点)と比べてみると、東京で2.6倍、大阪で8.5倍、宮城で7.5倍でした。各地で無症状や医療機関を受診しないまま回復した感染者が一定数いた可能性が示唆されます。ただ、米ニューヨーク州が5月上旬に公表した住民1万5,000人を対象にした抗体検査の結果(12.3%)と比べると、日本の低さが際立ちます。これまでの感染状況を考えると当たり前と言えば当たり前の結果ですが、日本ではまだまだパンデミックの余地は残されている、と言えるでしょう。抗体検査は医療機関にとっては割のいい“臨時収入”この報道に先立つ6月12日のNHKニュースでは、「導入相次ぐ『抗体検査』 期待の一方 誤解や課題も」というタイトルで、企業やプロ野球チームなどで抗体検査の導入が進んでいる実態を伝えています。報道では、過去にウイルスに感染したかどうかを調べるため、企業や個人などで抗体検査を受ける動きが広がっている状況を伝えた上で、抗体検査が陰性証明として使えるわけではないこと、抗体陽性が感染防止につながるわけではことなど、抗体検査に関する誤解についてわかりやすく解説していました。麻疹や風疹のように、新型コロナ感染症も1回感染して抗体価が上がればもうかからない、と誤解している人は意外に多いようです。このニュースで興味深かったのは、地域の診療所などの医療機関が自費での抗体検査を始めていることでした。ニュースで紹介されていた東京の銀座のクリニックでは、5月中旬から抗体検査を始め、1ヵ月で検査を受けた人は200人にのぼったとのことです。検査費用は1万1,000円ということですから、抗体検査だけで200万円の売上になります(原価はわかりませんが、仮に中国製だとすると安価でしょう)。外来患者が減った医療機関にとっては、割のいい“臨時収入”といったところでしょうか。少し気になって、ネットで調べてみると、「新型コロナウイルスの抗体検査始めました」とホームページで告知している診療所や病院があるわ、あるわ。中にはサイトに「抗体検査が陽性であればワクチン接種したのと同じ状態ですから、再感染はしにくくなるといわれています」と書いている医療機関もありました。当然ながらどこも保険外で、検査費用は8,000円〜1万円が相場のようです。抗体あっても感染防止できるかは不明夏の到来とともに、冷やし中華のように医療機関のメニューに加わった新型コロナウイルスの抗体検査。本当に医療機関側は受診者の役に立つ、と考えて実施しているのでしょうか。そもそも、新型コロナウイルスの場合、血液中で感染防御に働く「中和抗体」がどのくらいの期間維持されるのか、抗体量がどの程度なら再感染が防げるかなど、多くのことがまだわかっていません。風疹や麻疹のように抗体ができたから大丈夫、とはいかないですし、インフルエンザのようにA型にかかったから今年はもうA型は大丈夫、ともならないのです。さらに、抗体は発症してから1週間程度で作られるため、人に感染させる可能性が高いとされる発症前後は抗体検査に引っかかりません。つまり、「個人が感染の有無を調べるための検査」というよりも、先述の厚労省の調査のように「地域での感染状況を公衆衛生学的に調べるための検査」なのです。新型コロナが存在しない2019年の検体からも陽性がもう1点、気になるのが市中の医療機関で行われている検査の精度です。現時点において、国内で承認された新型コロナウイルス感染症に対する抗体検査向けの検査試薬は存在しません。厚労省の調査で使用されたアボット社・ロシュ社のキットを含めてどれもが「研究用試薬」という位置付けです。両社のキットが厚労省の調査で採用されたのは、米食品医薬品局 (FDA)が性能を確認して緊急使用許可(EUA)を出した抗体検査のうち、日本国内で入手可能なものだったからです。少なくともこの2つのキットにはFDAのお墨付きがあるわけです。しかし、国内では、米国のEUA承認といった一定の評価がなされていない、性能がよく分からない検査試薬が数多く出回っているようです。ちなみにキットの開発企業は米国・ドイツ・中国・台湾とさまざまで、数としては中国が比較的多いようです。冷やし中華のように、「うちも始めました」とPRしている医療機関の多くは、イムノクロマト法で測定できる(専用装置を必要としない)簡易抗体検査キットを採用していると見られます。しかし、これらの簡易キットの検査性能については、感度にバラツキがある、偽陽性が多い(新型コロナウイルスが存在しなかった2019年の検体からも陽性が出たとのことです)など多くの疑問点がすでに指摘されています。政府の専門家会議も、5月に出した提言で「国内で法律上の承認を得たものではなく、期待されるような精度が発揮できない検査が行われている場合があり、注意を要する」としています。厚労省サイト「新型コロナウイルス感染症に関する検査について」では、AMED研究班が日本赤十字社の協力を得てとりまとめた「抗体検査キットの性能評価」が公表されていますので、興味のある方はそちらを参照してください。おそらく、厚労省も全国で未承認の新型コロナウイルスの簡易抗体検査キットが自由診療で使われていることを把握しているでしょう。コロナ禍による外来収入減を補うためのものとしてしばらく“お目こぼし”が続くか、あるいは「意味のない検査は止めるように」といった通知が発出され規制対象となるか、今のところ先行きは不透明です。もっとも、私なら抗体検査は受けず、そのお金で冷やし中華を10杯食べるほうを選択しますが。

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新型コロナが流行しやすい気候条件とは?

 世界的な危機をもたらしている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について、気候変動や季節性と感染拡大との潜在的な関連を調査することは、予防・監視戦略に役立つ可能性がある。米国・メリーランド・スクール・オブ・メディスン大学のMohammad M Sajadi氏らは、特定の緯度、温度、湿度が観測された地域でのCOVID-19の集団発生分布は、季節性の呼吸器系ウイルスの挙動と一致していたことを明らかにした。研究者らは、気象モデリングを使用すれば、COVID-19の拡大リスクが高い地域の推定ができ、監視や封鎖のもと公衆衛生へ注力することが可能になるとしている。JAMA Network Open誌2020年6月11日号掲載の報告。 この研究ではCOVID-19の感染状況に関わらず、世界50都市の気候データを調査。感染拡大のあった都市を10例以上の死亡者が報告された地域と定義し、COVID-19が拡大した都市には、武漢(中国)、東京(日本)、大邱(韓国)、ゴム(イラン)、ミラノ(イタリア)、パリ(フランス)、シアトル(米国)、マドリード(スペイン)の8都市が該当した。これらの都市と感染拡大や影響がなかった42都市を比較した。データ集積は2020年1月~3月10日に行われた。気候データ(緯度、2ヵ月の平均気温、平均比湿、および平均相対湿度)は気象再解析データERA5から取得した。 主な結果は以下のとおり。・2020年3月10日時点、感染が拡大していた8つの都市は、いずれも北緯30~50°の狭い帯状範囲に位置していた。・それらの都市では一貫して類似の天候パターンを有し、平均気温は5〜11°C、低比湿(3〜6g/kg)で、低絶対湿度(4〜7g/m3)である点が一致していた。・ただし、近接した感染地域を予測するには、実社会での証明が不足していた。たとえば、中国・武漢(北緯30.8°)では発症者数8万757例で3,136人が死亡した。一方、ロシア・モスクワ(北緯56.0°)は発症者数10例で死亡者は0例、ベトナム・ハノイ(北緯21.2°)は発症者数31例、死亡者は0例だった。

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処方箋枚数が減って長期処方が増加中 でも分割調剤は進まず【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第49回

新型コロナウイルス感染症の影響で、医療機関の受診患者数が減っていると一般メディアでも報じられていますが、皆さんの薬局では来局動向や処方箋枚数に変化はありましたか? 私の実感では3月後半から患者さんの来局が減っていて、当時はうちの薬局だけかと心配になりましたが、どうやらそうでもないようです。日本保険薬局協会(NPhA)が会員薬局に行ったアンケートでは、患者さんの行動の変化が浮き彫りになっています。日本保険薬局協会は6月11日の定例会見で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に伴う緊急調査結果を公表した。それによると、月間処方箋枚数は「10~20%未満の減少」が全体の約3割を占め、調剤報酬は「10%未満の減少」が約3割を占めた。「枚数が減って長期処方が増えている」と分析している。調査は5月に実施し4581薬局から回答を得た。(2020年6月12日付 RISFAX)長期処方が増えているということは、これから先も処方箋枚数は減る傾向にあるのかもしれません。状態が安定している患者さんが長期処方になるのはよいのですが、受診・来局控えによって必要な治療が中断したり、治療の開始が遅れたりするケースが見受けられます。実際、「指をぶつけて骨を折ったかもしれないけど、整形外科の待合室に人がたくさんいて、長い時間待たされるから受診していない」と指をパンパンに腫らして市販薬の湿布を購入しようとしていた方がいました。医療機関は不特定多数の人が集まる場所ですので、避けたい気持ちはわからなくはありませんが、まずは整形外科に電話して、受診が必要かどうか、必要なら空いている時間帯を聞いてみるようお話ししました。痛みがある外傷ですら受診を躊躇するくらいですから、ちょっとした不調なら治療が必要であったとしても、自己判断で様子をみて発見が遅れる懸念があります。薬局薬剤師としては、受診控えで患者さんが変調を来していないかをいつもより注意深くヒアリングすべきだと思います。複数の医療機関を受診している患者さんには受診状況を確認するなど、治療が必要な人にはきちんと受診してもらうように声掛けしてみるのもよいでしょう。OTC薬を購入しに来た方にも必要に応じて受診勧奨し、その際に近隣の医療機関のオンライン診療の実施有無を調べて情報提供してもいいかもしれません。また、冒頭の日本保険薬局協会のアンケートでは、「処方箋が長期化傾向にあるにもかかわらず、分割調剤は進んでいない」という結果もありました。長期処方が増えるのであれば、分割調剤によって薬剤師が患者さんの経過確認をする意義も増えます。患者さんのサポートができることを積極的に医師に伝え、分割調剤を提案してはいかがでしょうか。

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第13回 抗がん剤の仕事場となる核内集落~COVID-19薬を撃ち込むべき集落も発見か

サラダドレッシングの油滴のように、周囲とは一線を画す核内のタンパク質凝集体―いわば分子の集落(condensate)が、抗がん剤シスプラチンの仕事場の役割を担い、その集落を崩壊させると同剤の効果もまた失われると分かりました1-3)。シスプラチンの仕事場を担う分子集落は、がん誘発遺伝子に主に関与するタンパク質MED1によって形成されます。シスプラチンはMED1が形成する核内集落に蓄積して、がん細胞を殺傷するためDNAへの白金原子付加に作用しますが、その作用はBRD4阻害薬JQ.1でMED1集落をばらすと失われました。MED1の核内集落は場合によっては逆に抗がん剤を効き難くもします。乳がん治療薬タモキシフェンはシスプラチンと同様にMED1集落に集まってエストロゲン受容体α(ERα)を締め出しますが、MED1過剰発現のせいでMED1集落が大きくなりすぎるとタモキシフェンが薄まってERαを締め出せなくなってしまいます。そのように抗がん剤にとって分子集落はときに諸刃の剣になるようですが、作用がどうなるかは別にして分子集落への蓄積は抗がん剤に共通する特徴のようです。米国・Whitehead Instituteで働く今回の研究のリーダーRichard Young氏等が調べた抗がん剤はどれも細胞内集落に集まりました4)。研究者は次の課題として薬が分子集落に集まる仕組みの解明に取り組んでいます。その法則が分かれば低分子化合物を目当ての場所に集中させることができます。Young氏の指揮の下で今回の成果を手にしたIsaac Klein氏をはじめとする研究チームは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にも2か月ほど前から取り組んでおり、まだ発表前ですが、その原因ウイルスSARS-CoV-2の複製装置であるタンパク質3つが、治療薬を吸収して濃縮しうる細胞内集落を形成することを発見しています4)。この発見により、ウイルス複製の場であるその集落に集まってRNA複製を阻害する低分子化合物探しを始めることが可能になりました。2018年にYoung氏は今回の研究の著者の1人でもあるドイツ・Max Planck Instituteの細胞生物学者Anthony(Tony) Hyman氏と一緒に、ボストンにDewpoint Therapeuticsを設立しました。Dewpoint社は病因の細胞内集落を崩壊させるあるいはそのような集落に蓄積する薬の開発に取り組んでいます。Dewpoint社の最高科学責任者(CSO)Mark Murcko氏は、これからは細胞内集落を無視した創薬はありえないとNatureに話しています。一方、細胞内集落の過信を危ぶむ研究者もいます。細胞内集落は体外でのみ観察される現象かもしれず、そこに投下する薬探しに熱中することはちょっと心もとない(bit of a house of cards)とカリフォルニア大学バークレー校の生化学者Robert Tjian氏は言っています。参考1)Klein IA,et al.Science.2020;368:1386-1392.2)How cancer drugs find their targets could lead to a new toolset for drug development / Eurekalert3)Viny AD,et al.Science.2020;368:1314-1315.4)How cells’ ‘lava lamp’ effect could make cancer drugs more powerful / Nature

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武漢に派遣の医療者、PPE適切使用で新型コロナ感染せず/BMJ

 中国・中山大学附属第一病院のMin Liu氏らは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行期の武漢市の病院に、広州市の病院から派遣された医療従事者を対象に感染状況の調査を行った。その結果、派遣中にCOVID-19関連症状を発症した者はなく、広州市へ帰還後の検査でも全員が、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)陰性であった。これは、適切な個人用防護具(PPE)の使用によるものと考えられるという。研究の成果は、BMJ誌2020年6月10日号に掲載された。武漢市では、SARS-CoV-2感染爆発の早期には、医療従事者の感染頻度がきわめて高く、その主な原因は、不適切な個人用防護具の使用とされている。2つの病院から派遣された医療従事者の横断研究 研究グループは、COVID-19患者の治療に最前線で携わる医療従事者において、適切な個人用防護具の使用による保護効果を検証する目的で、横断研究を行った(中国中山大学附属第一病院の助成による)。 対象は、2020年1月24日~4月7日の期間中に、6~8週間にわたり、広州市の2つの病院(中山大学附属第一病院、南方医科大学南方医院)から武漢市に派遣された医療従事者420人(医師116人、看護師304人)であった。これらの研究参加者は、COVID-19で入院した患者に医療を提供するために、適切な個人用防護具を支給され、検査や処置がエアロゾルを発生させる手技(aerosol generating procedures:AGP)に携わった。 さらに、抗体検査の精度を検証するために、COVID-19への曝露歴のない医療従事者77人と、COVID-19から回復した患者80例が登録された。データの収集には、オンライン質問票が用いられた。 主要アウトカムは、COVID-19関連症状(発熱、咳、呼吸困難)およびSARS-CoV-2感染のエビデンス(鼻咽頭拭い液中のウイルス特異的核酸が陽性、または血清検体中のIgM/IgG抗体が陽性)とした。個人用防護具の調達と配布を優先、十分な訓練が必要 420人の医療従事者の平均年齢は35.8歳で、女性が68.1%(286/420人)であった。67.6%が、集中治療、呼吸器、感染症以外の専門科に所属していた。これらの参加者には、標準化された個人用防護具(防護服、マスク、グローブ、ゴーグル、フェイスシールド、ガウンなど)が支給された。 全員が武漢市の最前線の4つの病院で、重症または重篤なCOVID-19患者の治療に当たった。救急医療を必要とする患者が80%以上で、10~15%は機械的換気を要した。参加者は、週に平均5.4日、4~6時間の交代勤務で働き、集中治療室(ICU)の勤務時間は週に平均16.2時間だった。 420人の参加者全員がCOVID-19患者と直接接触し、少なくとも1回、AGP(気管挿管、非侵襲的な機械的換気、胃内挿管、痰の吸引、エアロゾル吸入、気管切開術、切開された気管の治療、咽頭拭い液の採取、口腔ケアなど)を行った。 6~8週の派遣期間中に、COVID-19関連症状を報告した参加者は1人もいなかった。また、武漢市から自宅へ戻ってからの逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査では、すべての参加者でSARS-CoV-2特異的核酸が陰性で、血清検査ではIgG抗体およびIgM抗体が陰性(95%信頼区間:0.0~0.7%)であった。 COVID-19への曝露歴のない医療従事者77人では、SARS-CoV-2への血清反応は認められず、COVID-19から回復した患者80人の血清検査では、SARS-CoV-2のIgM抗体またはIgG抗体のいずれかの力価が高かった。 著者は、「SARS-CoV-2への曝露のリスクが高いにもかかわらず、参加者は適切に保護されており、SARS-CoV-2感染はなく、防御免疫の発現も認めなかった」とまとめ、「保健システムにおいては、個人用防護具の調達と配布を優先し、その使用について十分な訓練を行う必要がある」としている。

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第12回 新型コロナ接触確認アプリ(COCOA)利用開始、DLは240万件超

<先週の動き>1.新型コロナ接触確認アプリ(COCOA)利用開始、DLは240万件超2.唾液で新型コロナウイルスの抗原検査が可能に3.初の“デジタル薬”? 禁煙治療アプリが承認4.厚労省が医療人材の求人情報サイト「医療のお仕事 Key-Net」を開設5.医師の時間外労働「年960時間+別枠420時間」を提言(日本医師会)1.新型コロナ接触確認アプリ(COCOA)利用開始、DLは240万件超厚生労働省は、新型コロナウイルスに感染した人と濃厚接触した疑いがある場合に通知を受けられるスマートフォン向けのアプリを、19日午後、インターネット上に公開した。このアプリを事前にダウンロードし、Bluetoothをオンにしておくことにより、15分以上1メートル以内の距離にいる場合、接触した相手として記録する。アプリは21日17:00時点で約241万回ダウンロードされており、14日経過するとデータの記録を消去するなど、個人のプライバシー保護に配慮したものとなっている。(参考)新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA) COVID-19 Contact-Confirming Application(厚労省)2.唾液で新型コロナウイルスの抗原検査が可能に加藤 勝信厚生労働大臣は、19日の会見で、唾液を使った新型コロナウイルス抗原検査についての検査試薬が承認されたことを明らかにした。痛みもなく、採取時に医療従事者の感染リスクも少なく、約30分で判定が可能となっている。感度はPCR検査と同程度とされており、PCRを補完するものとして期待されている。ただし、専用の機器が必要であり、現在対応できる検査機器は約800台と限りがある。今後、全国の医療機関での導入が進むかは予算措置などにもよると考えられる。(参考)全自動検査機器における新型コロナウイルス抗原検査試薬製造販売承認の取得について(みらかグループ)3.初の“デジタル薬”? 禁煙治療アプリが承認19日に開催された第2回 薬事・食品衛生審議会(医療機器・体外診断薬部会)において、ニコチン依存症治療アプリが医療機器として承認されることが了承された。このアプリは、禁煙外来に受診している紙巻きタバコを吸っている人が対象で、禁煙治療薬と併用する。禁煙指導患者に対して、禁煙の継続率を高めるために医師が処方するもので、医療機器として申請されており、日本国内で初めて承認された。今後、高血圧や糖尿病といった生活習慣病に対する治療アプリ利用が国内で増えるきっかけとなる可能性が高い。(参考)医師が処方する「治療用アプリ」として国内初の薬事承認へ(CureApp)第2回 薬事・食品衛生審議会(医療機器・体外診断薬部会)議題(厚労省)4.厚労省が医療人材の求人情報サイト「医療のお仕事 Key-Net」を開設新型コロナウイルス感染拡大に伴う医療人材不足に対して、厚労省は19日に、医療人材募集情報と求職者のマッチングを行うウェブサイト「医療のお仕事 Key-Net」を開設した。すでにサイトは一般に公開されており、全国の医療機関・保健所などの人材募集情報が掲載されている。医療機関などへの問い合わせや応募、面接までオンラインで完結するが、本サイトを通じて採用する者に対しては、厚労省の提示する研修(無料・数時間程度)を受講することが条件となっている。対象職種は、医師、保健師、助産師、看護師、准看護師、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、薬剤師、救急救命士および事務職。(参考)医師・看護師・医療人材の求人情報サイト「医療のお仕事 Key-Net」の開設について(厚労省)5.医師の時間外労働「年960時間+別枠420時間」を提言(日本医師会)日本医師会は、17日の記者会見において「医師の特殊性を踏まえた働き方検討委員会」(委員長:岡崎 淳一元厚生労働審議官)が作成した答申を公表した。これによると、2024年度から開始予定の「罰則付き」時間外の上限時間の適用を猶予する内容である。実施に当たっては、大学附属病院の診療科によっては960時間が適用される場合があり、960時間では地域医療の支援は不可能となることなどから、地域医療支援機能を維持するために、960時間が上限の場合には、副業・兼業のために別枠として1週あたり8時間、年間420時間まで認める制度を導入する必要があるとされる。実施に当たって、対応が間に合わない部分については医療機関の判断に任せることを提言した。(参考)「医師の特殊性を踏まえた働き方検討委員会 答申」(日本医師会)

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ウォーキングデッド【この世界観だからこそわかる!「コロナ不安」への処方せん】

今回のキーワード回避強迫同調セロトニンマインドフルネスアクセプタンス&コミットメント・セラピー新型コロナウイルスのパンデミックによって、「パニック買い」や「感染者叩き」が起こるなど、世の中は不安が増しています。それにしても、不安とは何でしょうか? なぜ不安になるのでしょうか? そもそもなぜ不安は「ある」のでしょうか? そして、不安にどうすれば良いでしょうか?これらの答えを探るために、今回は、海外ドラマ「ウォーキングデッド」を取り上げます。このドラマを通して、不安を精神医学的に、そして進化心理学的に掘り下げます。そして、「コロナ不安」への心のあり方を一緒に探っていきましょう。不安とは?舞台は、ゾンビに噛まれればゾンビになってしまうという、ゾンビだらけの荒廃した世界。そんな極限状況の中で生き残っている主人公のリックは、妻子と仲間の数人とともに、安住の地を求めて旅を続けます。彼らは常に不安と隣り合わせです。不安とは何でしょうか? 不安とは、究極的には生存を脅かすことへの感情、つまり生存本能そのものと言えます。ここから、仲間の1人でリックの元同僚のシェーンの行動を通して、不安の心理を3つ挙げてみましょう。なお、登場人物たちの言い回しに合わせて、今後はゾンビを「ウォーカー」と表記します。(1)危険を避ける-回避シェーンは、はぐれた仲間を助けに行くかの決断に迫られた時、毎回、動かないことを主張し、リックと対立します(シーズン1第3話)。1つ目は、危険を避けることです。不安の対象を回避すれば、その不安を感じなくてすむからです。精神医学的に言えば、不安症の回避行動に当てはまります。実際には、コロナ危機の中、感染を避けようと外出や人との接触をしないようにすることが当てはまります。(2)危険にとらわれる-強迫シェーンは、農場にとどまっている時、農場主(ハーシェル)が納屋にウォーカーと化した家族たちをかくまっていることについに耐えられなくなり、リックたちの制止を振り切って、次々と撃ち倒します(シーズン2第7話)。2つ目は、危険にとらわれることです。危険は基本的には避ければいいだけのはずです。しかし、身近に迫っている場合は、それにとらわれてしまい、何とか解消しようとします。精神医学的に言えば、強迫症の強迫行為に当てはまります。実際に、コロナ危機の中、感染が迫っていることにとらわれてずっと手洗いをしたり(不潔恐怖)、PCR検査をしようと病院をはしご(ドクターショッピング)したり(不完全恐怖)、食料や生活用品が足りなくなることにとらわれて買いだめをすることが当てはまります(不足恐怖)。(3)誰かのせいにする-同調シェーンは、グループがピンチになるたびに、誰かのせいにしています。リックのリーダーシップによってグループが危険にさらされていると感じて、最終的にリックを殺そうとします(シーズン2第12話)。3つ目は、誰かのせいにすることです。彼は、自分と自分が大切だと思っている人(ローリとカール)だけが生き残ることを最優先にしています。そのために良かれと思って行動しており、彼なりの信念があり、生存本能が強いとも言えます。しかし、言い換えれば、そこに良心や理性はありません。意見が合わなければ、自分が身を引いて、グループを離れればいいだけの話なのに、彼は自分こそがリックに代わってリーダーになるべきだと思い上がった正義感があります。精神医学的に言えば、解離症の同調(排他性)に近いです。実際に、コロナ危機の中、「感染者叩き」やヘイトスピーチのような犯人探しが当てはまります(スケープゴート)。 なぜ不安になるの?シェーンは、回避、強迫、同調の心理から、とても不安が強まっていることが分かります。そして、不安から、利己的、独断的、干渉的になっています。一方のリックは、そこまで不安を感じておらず、対照的に利他的、民主的、自由主義的です。この2人は、もともと親友だったのにもかかわらず、真っ向から対立していきます。それでは、なぜシェーンは不安になり、リックは不安にならなかったのでしょうか?ここから、不安の心理の要因を2つに分けてみましょう。(1)遺伝1つ目は、遺伝です。不安の感じやすさの器質は、脳内のセロトニンの量と関係していることが指摘されています。セロトニンは、その「リサイクルポンプ」(セロトニントランスポーター)が働くことによって、常に使い回されています。このセロトニントランスポーターの密度が低い、つまり働きが悪い遺伝子タイプ(SSタイプ)と密度が高い遺伝子、つまり働きが良い遺伝子タイプ(LLタイプ)の違いによって、そもそも生まれつきで不安の感じやすさに違いがあることが分かっています。(2)環境2つ目は、環境です。とくに、生育環境で、親子関係(愛着形成)がもともとうまく行っていない場合は、不安になりやすいことが指摘されています。また、危機的状況(ストレス)に曝され続けることによって、不安を感じやすくなることも分かっています。ちなみに、ドラマのシーズンが進む途中、リックは一時期シェーンっぽくなっていました。 なぜ不安は「ある」の?不安は、遺伝と環境によって、感じやすくなることが分かりました。それでは、そもそもなぜ不安は「ある」のでしょうか? ここから、不安の起源を3つの段階に分けて、進化心理学的に掘り下げてみましょう。(1)身を守る-回避約5億年前に魚類が誕生してから、海の中を動き回るようになりました。その時、自分より大きな魚などの天敵に食べられないようにするために、扁桃体が進化しました。そして、天敵が近くにいると分かったら、扁桃体のセンサーが反応し警戒して、逃げるようになりました。これが不安の起源です。1つ目は、天敵から身を守ることです(回避)。ちなみに、体内の二酸化炭素の濃度が上がると、それを感知する窒息センサーも進化しました。これがパニック発作(不安発作)の起源です。(2)縄張りを守る-強迫その後に、魚類は、自分の縄張りを持つようになりました。そこは食料があり、安全で安心の場所です。逆に、そこから出てしまうと危険ですので警戒するよう進化しました。これが広場恐怖の起源です。また、縄張りができてから、ライバルに侵入されて縄張りや資源を横取りされないように、縄張りを行ったり来たりする反復行動をするように進化しました。これが強迫の起源です。2つ目は、天敵から縄張りを守ることです(強迫)。なお、広場恐怖は縄張りから出て行くことへの不安ですが、強迫は縄張りに入って来られることへの不安と言えます。(資源の横取り)(3)仲間を守る-同調約2億年前に哺乳類が誕生してから、ネズミのように動き回ることができるようになりました。この時、高いところから落ちてしまわないように恐怖を感じるように進化しました。これが高所恐怖の起源です。また、爬虫類などに食べられないように恐怖を感じるように進化しました。これが動物恐怖の起源です。約700万年前、ついに人類が誕生して、300~400万年前にアフリカの森からサバンナに出ました。そして、猛獣から身を守り、限られた食料を分け合って、家族同士が血縁関係で助け合うことで村をつくりました。この時、周りとうまくやっていこうとする社会脳が進化しました。そして、周りに受け入れられないことへの不安を感じるようにも進化しました。これが社交不安の起源です。同時に、村(集団)にとって危険になりうる人を一緒になって排除する心理も進化しました。これが、同調(排他性)の起源です。3つ目は、同じ気持ちで仲間を守ることです(同調)。なお、回避や強迫は個人的な不安ですが、同調は集団的な不安と言えます。不安にどうすればいいの?不安は、身を守る、縄張りを守る、集団を守るという種の生存のために必要だから、そもそも「ある」と言えます。この点を踏まえて、不安にどうすれば良いでしょうか? 不安を感じにくいリックの行動から、不安への対策を3つ挙げてみましょう。(1)不安を俯瞰するリックは、たまたま通りかかった教会で、イエスキリスト像に向かって「俺は信心深くないけど」「俺の行動が正しいと何かサインをくれよ」と語りかけています(シーズン2第1話)。彼は、イエスの視点を通して、自分自身を冷静に見つめているとも言えます。一方のシェーンは、不安に圧倒されて、いつも落ち着かない表情をしています。1つ目は、不安を俯瞰することです。不安に圧倒されると、不安になること自体に不安になります(予期不安)。そうではなくて、不安になっている自分自身の心を客観視して、不安に対して自分ができる行動を冷静に考えることです。これは、マインドフルネスというセラピーに通じます。(2)不安を共有するリックは、妻に心の内を明かし、農場主(ハーシェル)と前向きな話し合いをしようとしています(シーズン2全般)。一方、シェーンは不平不満ばかり言い、孤立しています。2つ目は、不安を共有することです。そして、ネガティブな過去の断罪ではなく、ポジティブな未来の提案をして、仲間としてお互いに勇気付け合うことです。これは、自助グループなどの集団セラピーに通じます。(3)不安を超越するリックは、「俺の信念は、1番は家族、仲間、そして仕事(役割)だ」と語るシーンがあります(シーズン2第1話)。シーズンが進むと、彼は、より多くの人の幸せや次世代の幸せに思いを馳せるようになります(シーズン9第5話)。一方のシェーンは、最後まで自分のことしか考えていませんでした。3つ目は、不安を超越することです。不安は不安として抱えつつ、何に不安を感じているかを通して、自分はどうなりたいかに気付くことです。すると、不安ではないことに目を向けることになり、結果的に不安にとらわれなくなります。これは、アクセプタンス&コミットメント・セラピーに通じます。 「コロナ不安」への心のあり方は?「ウォーキングデッド」の世界観は、まさに原始の時代に通じるものがあります。それは、不確かなことが多く、不安に圧倒される世界です。そして、それは現在のコロナ危機にも通じます。人間はそもそも不安を感じるようにできています。よくよく考えてみれば、コロナ以前の私たちは何も不安を感じずに幸せだったでしょうか? やはり何かしらの不安があったでしょう。逆に言えば、コロナ危機というはっきりとした不安がある今だからこそ、不安を俯瞰し共有し超越することを通して、自分はどう生きていきたいかという本心に気付くチャンスなのではないでしょうか? ■参考スライド【不安症、強迫症】2020年■関連記事アビエイター【強迫性障害】美女と野獣【実はモラハラしていた!? なぜされるの?どうすれば?(従う心理)】苦情殺到!桃太郎(後編)【なんでバッシングするの?どうすれば?(正義中毒)】「ZOOM」「RE-ZOOM」【どうキレキレに冴え渡る?(マインドフルネス)】

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ダイヤモンド・プリンセス104例からの知見(自衛隊中央病院)/Lancet Infect Dis

 クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」から搬送された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と診断された104例について臨床的特徴を分析した単一施設・後ろ向き研究の結果が発表された。自衛隊中央病院のチームによるもので、これまで同病院のサイトで公開されたまとめを論文化したものが、2020年6月12日にLancet Infectious Diseases誌オンライン版に掲載された。 2020年2月11日~25日に自衛隊中央病院に入院したCOVID-19感染者を対象とし、臨床記録、検査データ、放射線検査の所見を分析した。追跡期間は、退院もしくは2月26日のどちらか早い日まで。期間中にダイヤモンド・プリンセス号の乗客・乗員3,711人が船内の検疫における咽頭スワブのPCR検査を受け、SARS-CoV-2陽性となった患者のうち、合意のとれた104例が対象となった。 ダイヤモンド・プリンセス号から搬送されたCOVID-19感染者の重症度は、以下のように定義した。・臨床徴候および症状なし:無症候性・重い肺炎(呼吸困難、頻呼吸、SpO2<93%、および酸素療法の必要性)あり:重症・上記以外:軽症 追跡終了時に、無症候性を含むさまざまな重症度の患者における入院時の臨床的特徴を比較し、無症候性と臨床症状のある患者の疾患の進行に関連する要因について、単変量解析を用いて特定した。 ダイヤモンド・プリンセス号から搬送されたCOVID-19感染者の臨床的特徴を分析した主な結果は以下のとおり。・参加者の年齢は25~93歳、年齢中央値は68歳(IQR:47〜75)だった。・男性が54例(52%)、東アジアからの参加者が55例(53%)と最も多かった。・観察期間は3~15日(中央値10日、IQR:7〜10)だった。・52例(50%)に何らかの併存症があった。・重症度は以下の通り(いずれも入院時/全観察期間)だった。  無症候性:43例(41%)/33例(32%)  軽症:41例(39%)/43例(41%)  重症:20例(19%)/28例(27%) 入院時に無症候性だった43例のうち、観察期間終了時まで無症状だった33例と症状の発現した10例を比較したところ、最後まで無症状だった33例中17例は入院時の胸部CTの所見に異常が見られ(原著論文で検査画像を提示)、うち3例は酸素療法を必要とするまで悪化した。症状発現の有無に性別、年齢、併存症による有意差は見られなかった。 観察期間終了時における軽症例(43例)と重症例(28例)との比較では、重症例のほうが高齢(60歳 vs.73歳、p=0.028)で、入院時の胸部CT異常の割合(65% vs.86%、p=0.062)とリンパ球減少の割合(23% vs.57%、p=0.0055)も重症例のほうが高かった。 まとめとして自衛隊中央病院チームは、ダイヤモンド・プリンセス号から搬送されたCOVID-19感染者の分析結果からは、LDH高値が有症状の予測因子となり、高齢、胸部CT画像のすりガラス影、リンパ球減少が疾患進行の潜在的リスク因子だと示唆している。

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COVID-19流行期の小児炎症性多臓器症候群、その臨床的特徴は?/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生率が高い地域では、通常とは異なる発熱や炎症の症候群を呈する子供の症例が報告されている。そこで、英国・Imperial College Healthcare NHS TrustのElizabeth Whittaker氏らは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)による感染症流行期の小児炎症性多臓器症候群(PIMS-TS)の判定基準を満たした入院患児の調査を行い、発熱や炎症から心筋障害、ショック、冠動脈瘤の発現まで、さまざまな徴候や症状とともに、重症度にも違いがみられることを明らかにした。JAMA誌オンライン版2020年6月8日号掲載の報告。58例の臨床的特徴を抽出し、他の炎症性疾患と比較 研究グループは、PIMS-TSの判定基準を満たした入院患児の臨床所見や検査値の特徴を調査し、これらの特徴を他の小児炎症性疾患と比較する目的で、症例集積研究を行った(英国国立健康研究所[NIHR]などの助成による)。 2020年3月23日~5月16日の期間に、イングランドの8つの病院に入院したPIMS-TS患児58例を対象とした。最終フォローアップ日は2020年5月22日。 診療記録を精査することで、臨床所見や検査値の特徴を抽出し、2002~19年に欧米の病院に入院した川崎病(1,132例)、川崎病ショック症候群(45例)、毒素性ショック症候群(37例)の臨床的特徴と比較した。感染率78%、年齢が高く、炎症マーカーが高値 58例の年齢中央値は9歳(IQR:5.7~14)で、女児が33例(57%)であった。SARS-CoV-2のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査では15例(26%)が陽性で、SARS-CoV-2のIgG検査では46例中40例(87%)が陽性であった。全体として、58例中45例(78%)で現在または過去のSARS-CoV-2感染のエビデンスが得られた。 全患児に、発熱と非特異的症状(嘔吐26/58例[45%]、腹痛31/58例[53%]、下痢30/58例[52%])が認められた。発疹は58例中30例(52%)に、結膜充血は58例中26例(45%)にみられた。 検査値の評価では、著明な炎症が認められた。たとえば、C反応性蛋白(CRP)中央値(58例全例で測定)は229mg/L(IQR:156~338)で、フェリチン(58例中53例で評価)中央値は610μg/L(359~1,280)であった。 58例の患児のうち、29例がショック(心筋機能障害の生化学的エビデンスを伴う)を来し、強心薬および蘇生輸液を要した(29例中23例[79%]が機械的換気を受けた)。13例は米国心臓協会(AHA)の川崎病の定義を満たし、23例はショックや川崎病の特徴を伴わない発熱および炎症所見を有していた。8例(14%)には、冠動脈拡張と冠動脈瘤が発現した。 PIMS-TSを川崎病および川崎病ショック症候群と比較したところ、臨床所見や検査値の特徴に違いが認められた。たとえば、PIMS-TSは、これら2つの炎症性疾患に比べ年齢中央値が高く(PIMS-TS:9歳[IQR:5.7~14]vs.川崎病:2.7歳[1.4~4.7]vs.川崎病ショック症候群:3.8歳[0.2~18])、CRP中央値(229mg/L[IQR:156~338]vs.67mg/L[40~150]vs.193mg/L[83~237])などの炎症マーカーが高値を示した。 著者は、「これらの知見は、重篤なPIMS-TSで入院した患児の臨床的特徴を示しており、この明らかに新しい症候群の実態を理解するのに役立つだろう」としている。

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新型コロナ、国内初のワクチン治験開始へ―阪大など

 待ち望まれる国産の新型コロナワクチン実現に王手か―。大阪府は6月17日の記者会見で、大阪大学などと共に産官学連携で開発に取り組んできた、新型コロナウイルスの予防ワクチンの治験を6月30日に開始することを明らかにした。新型コロナウイルスを巡っては、世界規模で予防ワクチンの開発が進行中であり、1日も早い実現が待たれる状況だが、ヒトへの投与が実施されるのは国内初となるという。会見で吉村 洋文知事は、「新型コロナ対策に治療薬とワクチンが非常に重要で、その第1歩を大阪で踏み出す。国産ワクチンによって、日本のコロナとの戦いを反転攻勢させていきたい」と語り、期待感を示した。 大阪府は4月に大阪市や大阪大学、大阪府立病院機構などと連携協定を結び、新型コロナウイルス感染症のワクチンや治療薬の早期実現に向けた研究開発に取り組んできた。すでに動物実験での安全性は確認されており、今月末からの治験へとステップを進める。 まずは大阪市立大学医学部付属病院の医療従事者(20~30例)を対象に実施。2020年10月には、数百例程度に規模を拡大した治験を実施する。府は、安全性が確認できれば、年内にも10~20万単位でのワクチン製造に漕ぎ着けたい考えだ。製造は、プラスミドDNAの製造技術および設備を有するタカラバイオ株式会社を中心に、AGC Biologics社、Cytiva社、シオノギファーマ株式会社が担う。順調に進めば、21年春~秋に国の認可を得て、実用化を目指す。

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職場における新型コロナ感染予防ガイドを改訂/日本産業衛生学会

 日本渡航医学会と日本産業衛生学会は2020年5月より両学会のサイト上で、産業医を中心とした産業保健従事者向けに「職域のための新型コロナウイルス感染症対策ガイド」を公開している。6月3日には感染状況などの変化を踏まえ、改訂した第2版を公開した。 このガイドでは、産業保健職の役割や感染症流行時におけるリスクコミュニケーションなどの基本事項を押さえたうえで、国内の新型コロナウイルス感染症の流行状況を5つのフェーズに分け、各フェーズにおける主要な対応をまとめている。 続けて、職域における感染予防対策の基本として、個人の感染予防(手指衛生および咳エチケット)、従業員の感染管理(従業員の健康状態のモニタリング方法、相談および受診の目安)を詳細に紹介。従業員の中に「疑い者」が出た場合、職場復帰の目安として1) 発症後に少なくても 8 日が経過している、2) 薬剤を服用していない状態で、解熱後および症状消失後に少なくても3日が経過している、という両方の条件を満たすこと、と定義した。また、「医療機関には原則として『陰性証明書や治癒証明書』の発行を求めてはならない」という注意も示されている。 事業所内の消毒方法や消毒時の注意点、職域においてソーシャルディスタンシングを保つためのツールやヒント、従業員に濃厚接触者や感染者が発生した場合の対応方法や保健所との連携法、出張者や駐在員への対応法など、51ページにおよぶ内容は実践的で多岐に渡るテーマが網羅されている。在宅勤務の広がりに伴う従業員のメンタルヘルス対策についても言及している。 企業に向けてアドバイスを行う産業医・産業保健職はもちろんのこと、実際の対策にあたる企業の総務・労務担当者にとっても役立つ内容が多い。

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日本動脈硬化学会総会・学術集会のWeb開催について【ご案内】

 一般社団法人日本動脈硬化学会は、2020年7月17日(金)、18日(土)に名古屋での開催を予定していた『第52回日本動脈硬化学会総会・学術集会』をWeb開催へ変更した。また、開催日も変更し、7月17日(金)~31日(金)の期間に実施される。参加登録者は会期中に全セッションを随時視聴できる。また、同じくWeb配信が予定されている市民公開講座については、誰でも無料で視聴可能である。 本学術集会では、医師向けの最新知見の発信のみならず、大学院生向けの最新研究TECH-Seminar、メディカルスタッフを対象とした症例検討などの企画が予定されている。 開催概要は以下のとおり。【日時】2020年7月17日(金)~31日(金)【参加条件】・登録方法:開催期間中、オンライン参加登録が可能・参加費:ホームページ参照※市民公開講座は無料【テーマ】「人は血管とともに老いる」からの脱却~動脈硬化予防から健康長寿へ~【会長講演】「動脈硬化病変形成におけるタンパク分解酵素の役割について」葛谷 雅文氏(名古屋大学大学院医学系研究科 地域在宅医療学・老年科学講座)【特別講演1】「自己脂肪組織由来間葉系前駆細胞(ADRC)移植による血管再生療法」室原 豊明氏(名古屋大学大学院医学系研究科 循環器内科学)【特別講演2】「HDL粒子不均一性の基礎と臨床」横山 信治氏(中部大学 応用生物学部)【合同シンポジウム1】「心血管疾患のリスク病態としてのNAFLD/NASH」中島 淳氏(横浜市立大学大学院医学研究科 肝胆膵消化器病学教室) ほか【合同シンポジウム2】「日本血管生物医学会合同シンポジウム」清水 優樹氏(名古屋大学大学院医学系研究科 循環器内科学) ほか【市民公開講座】「長寿の達人を目指す~血管を若返らす~」楽木 宏実氏(大阪大学大学院医学系研究科 老年・総合内科学) ほか「新型コロナウイルスに立ち向かう ~動脈硬化学会からのメッセージ~」米満 吉和氏(九州大学大学院薬学研究院) ほか【お問い合わせ・運営事務局】株式会社コングレ中部支社内〒460-0004 名古屋市中区新栄町2-13 栄第一生命ビルディングTEL:052-950-3369 FAX:052-950-3370E-mail:jas52@congre.co.jp詳細はこちら

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