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中等~重症アトピー性皮膚炎へのabrocitinib、第III相試験結果/Lancet

 中等症~重症アトピー性皮膚炎の青年および成人患者の治療において、経口選択的JAK1阻害薬abrocitinibの1日1回投与は、プラセボに比べ有効性が優れ、忍容性も良好であることが、米国・オレゴン健康科学大学のEric L. Simpson氏らが行った「JADE MONO-1試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌2020年7月25日号に掲載された。中等症~重症アトピー性皮膚炎の全身療法では、高い有効性と良好なベネフィット・リスクプロファイルを有する経口薬が求められているという。abrocitinibは、第IIb相試験で、中等症~重症アトピー性皮膚炎の成人患者における有効性と良好な忍容性が報告されている。JADE MONO-1試験ではabrocitinibの2用量をプラセボと比較 JADE MONO-1試験は、オーストラリア、カナダ、欧州、米国の69施設が参加した二重盲検無作為化第III相試験であり、2017年12月~2019年3月の期間に患者登録が行われた(Pfizerの助成による)。 JADE MONO-1試験の対象は、年齢12歳以上、体重40kg以上の中等症~重症のアトピー性皮膚炎の患者であった。アトピー性皮膚炎は、医師による皮膚症状重症度の全般評価[IGA]スコア≧3点、湿疹面積・重症度指数[EASI]≧16点、アトピー性皮膚炎に罹患した体表面積(BSA)≧10%、最高そう痒数値評価尺度(PP-NRS)スコア≧4点と定義された。 被験者は、abrocitinib 100mg、同200mgまたはプラセボを1日1回投与する群に2対2対1の割合で無作為に割り付けられ、12週の治療を受けた。患者、担当医、研究資金提供者には、治療割り付け情報は知らされなかった。 複合主要エンドポイントは、12週の時点におけるIGAスコアが1点(0点:病変消失、1点:ほぼ消失)以下かつベースラインから2点以上低下した患者の割合(IGA≦1達成割合)と、EASIスコアがベースラインから75%以上改善した患者の割合(EASI-75達成割合)とした。有効性は最大の解析対象集団(FAS、試験薬の投与を1回以上受けた患者)で、安全性は無作為化の対象となったすべての患者で評価された。JADE MONO-1試験でabrocitinibが有意に優れた結果 JADE MONO-1試験には387例が登録され、100mg群に156例(平均年齢32.6、18歳未満22%、男性58%)、200mg群に154例(33.0歳、21%、53%)、プラセボ群には77例(31.5歳、22%、64%)が割り付けられた。全体の59%が中等症、41%が重症であった。全例が試験薬の投与を少なくとも1回受けた。 12週時のIGA≦1達成割合は、100mg群が24%(37/156例)と、プラセボ群の8%(6/76例)に比べて有意に高く(p=0.0037)、200mg群は44%(67/153例)であり、プラセボ群との間に有意差が認められた(p<0.0001)。 また、12週時のEASI-75達成割合も、100mg群(40%[62/156例]vs.プラセボ群12%[9/76例]、p<0.0001)および200mg群(63%[96/153例]vs.12%[9/76例]、p<0.0001)のいずれもが、プラセボ群に比べ有意に良好であった。 JADE MONO-1試験の主な副次エンドポイント(2、4、12週時のPP-NRS、12週時のアトピー性皮膚炎のそう痒・症状評価[PSAAD]総スコアのベースラインからの変化)についても、100mg群および200mg群のいずれもが、プラセボ群と比較して有意に優れた。 有害事象は、100mg群が69%(108/156例)、200mg群が78%(120/154例)、プラセボ群は57%(44/77例)で報告された。頻度の高い治療関連有害事象として、悪心(100mg群9%、200mg群20%、プラセボ群3%)、鼻咽頭炎(15%、12%、10%)、頭痛(8%、10%、3%)などが認められた。治療関連の単純ヘルペスウイルス感染症は、100mg群1例、200mg群3例で、帯状疱疹はそれぞれ1例および2例で、口腔ヘルペスは3例および1例で発現した。また、重篤な有害事象の発生率は、それぞれ3%(5/156例)、3%(5/154例)、4%(3/77例)であった。治療関連死の報告はなかった。 著者は、「abrocitinibは、外用薬による局所療法でコントロールされない、12歳以上の中等症~重症アトピー性皮膚炎患者の治療において、有望な新規の経口全身療法薬となる可能性がある」としている。

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薬局薬剤師でもコロナ慰労金をもらえるケースはある!【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第52回

新型コロナウイルスとの闘いは、残念ながら共存というよりも第2波襲来と言わざるを得ない状況になっています。そのような中、医療機関を中心に今回のコロナ対応をねぎらうための慰労金である「新型コロナウイルス感染症対応従事者慰労金交付事業」が始まりました。第2次補正予算案に盛り込まれていたため、6月の時点ですでに対象や金額などが発表されていましたが、疑義が多かったようで、Q&Aの第4版が7月に出されています。この慰労金は、都道府県から役割を設定された医療機関などに勤務して患者と接する医療者や職員の場合、実際に新型コロナウイルス感染症患者に診療などを行った医療機関などである場合に20万円、それ以外の場合に10万円を給付し、その他病院・診療所・訪問看護ステーション・助産所に勤務して患者と接する医療者や職員に5万円を給付するものです。しかし、ご存じの方が多いと思いますが、薬局薬剤師は対象外です。薬局は医療機関ではないのか? 薬剤師は医療者ではないのか? とSNSがざわつきましたが、Q&Aによると、薬局は患者に直接処置や治療を行う医療機関の医療従事者などとは性質が異なると考えられることから、慰労金の対象ではないとのことです。敷地内薬局も対象外ですが、病院薬剤師や宿泊療養などの軽症者を訪問で支援する薬剤師は対象です。しかし、介護の領域においては、薬局薬剤師も対象となることがあるようです。新型コロナウイルス感染症対応従事者慰労金(介護分)は、新型コロナウイルス感染者が発生した、または濃厚接触者に対応した介護サービス事業所や施設に勤務して利用者と接する職員で、感染者・濃厚接触者の発生日以降に勤務やサービス提供を行った場合は20万円、上記以外の場合は5万円が給付されます。Q&Aには下記のような記述があります。新型コロナウイルス感染症緊急包括支援事業(介護分)に関するQ&A(第2版)対象となる職員について。要件に該当した職員、派遣労働者、業務受託者において対象となります。対象職種には限定はありません。みなし指定の居宅療養管理指導事業所における「10日以上勤務した者」とは、薬局などに10日間勤務すればよいのでしょうか。居宅療養管理指導事業所の職員として、「利用者と接する」必要があることから、居宅療養管理指導を提供するために利用者宅を訪問した日数が、暦日で10日以上ある必要があります。薬局で介護施設などの居宅管理をしている薬剤師がいる場合、こちらの慰労金の対象になる可能性がありますので、あきらめずに一度実施要綱を確認してほしいと思います。また、以下のような薬局の感染防止対策に使用した費用の支援である「医療機関・薬局等における感染拡大防止等支援事業」もあります。フェイスシールドや消毒薬、空気清浄機の設置など、いろいろ出費がかさんだ薬局も多いと思いますが、薬局の場合は上限額70万円まで補助を受けることができます。医療機関・薬局等における感染拡大防止等支援事業どのような施設が補助の対象となるのでしょうか。新型コロナ感染症の院内などでの感染拡大を防ぐための取組を行う病院(医科、歯科)、有床診療所(医科、歯科)、無床診療所(医科、歯科)、薬局、訪問看護ステーション、助産所が対象となります。どのような経費が対象となるのでしょうか。感染拡大防止対策に要する費用に限られず、院内等での感染拡大を防ぎながら地域で求められる医療を提供するための診療体制確保等に要する費用について、幅広く対象となります。(例:清掃委託、洗濯委託、検査委託、寝具リース、感染性廃棄物処理、個人防護具の購入など)薬局経営が厳しくなっているだけでなく、従業員の心労が積み重なっているなか、少しでも負担を減らせるように活用してほしいと思います。

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渡米までのカウントダウン開始!最後まで気が抜けない事務手続き【臨床留学通信 from NY】第10回

第10回:渡米までのカウントダウン開始!最後まで気が抜けない事務手続き今回は、マッチ後から渡米までの手続きの流れについてご紹介します。一般的にマッチが決まるのは3月中旬であり、渡米までの猶予は3ヵ月しかありません。その間にビザの取得と、病院で働くために必要な書類を揃えなければならず、かなりタイトなスケジュールでした。国の情勢でも変わるビザのルールとメリット/デメリット私の場合、まずは同じ病院で働くことになる同僚達と連絡を取り合い、必要書類を確認しました。本当に事務手続きが苦手で、渡米前から現在に至るまで同僚にはいつも助けられています。ビザは大きくJ-1ビザとH-1Bビザがあります。H-1B ビザには「2年ルール」がなく、5年が経過した後はグリーンカードの申請ができます(編集部注:2020年6月22日付米国大統領令により、グリーンカードおよび就労ビザの新規発給は2020年末まで停止中)。その代わりTax returnはなく、フェローシップのマッチングにおいて受け入れてくれるプログラムが限定されるというデメリットもあります。またH-1B ビザ取得にはUSMEL Step3をパスしていることが必須条件です。一方、J-1ビザのデメリットは、7年を超えて米国に滞在することが難しく、2年での帰国、もしくは3年のwaiver(医療過疎地、軍人退役病院への勤務)を余儀なくされることです。その時点で相当な業績があればOビザ(卓越能力者ビザ)に切り替えますが、2年ルールからは逃れられません。私の場合はレジデンシーマッチ後、次の大きなフェローシップへのマッチングが主な目的となるため、J-1ビザを選択しました。それが正しかったかどうかは今でもわかりませんが、当時、どうしても永住したいという意思がなかったことに加え、Cardiologyは競争率が高く、IMG(international medical graduate)であることや、卒後年数が経過していることからも不利となることが予想され、より確実なJ-1ビザを選択しました。J-1ビザ取得に必要な書類は、厚生労働省とやりとりをしてStatement of Needと呼ばれる政府証明書をECFMG(Education Commission of Foreign Medical Graduates)に送ります。証明書の申請に必要となる主な書類は、(1)病院の契約書原本とその和訳(2)履歴書(3)保証書(J-1ビザは帰国が前提であるため、帰国後の勤務を保証してくれる書類)(4)誓約書などです。契約書類については、PDFで送られてくるものだと思って数日待っていたのですが、一向に送られて来ません。実はすべてNew Innovationというサイト(就労前に全ての書類を病院側に提出する際に使用するサイト)上に転がっていたのです。私はしばらくそのことに気付かず、貴重な時間をロスしてしまいましたので、思い込みにはくれぐれもご注意ください。さらに、書類の英訳を同僚数人で分割して行い、厚労省に郵送したのですが、日本の3~4月はちょうど年度の変わり目で担当者が代わる時期であったため、より一層時間がかかりました。ひと通りの書類を申請し、病院側のIMGの窓口担当者と連絡を取り合い、ECFMG certificate(USMEL Step2までの合格証明書)や医学部の卒業証明書をアップロードしてもらい、最終的にDS2019という書類を入手します。DS2019を入手したら、記載された番号などにより大使館の予約が出来ます。大使館ウェブサイトに必要事項を入力するわけですが、家族の分も必要で数時間かかってしまいますが、手続きを先に進めるためにはやむを得ません。また、混んでいる時期だとすぐに予約ができないこともあるため要注意です。大使館で面接を受けると、1週間ほどビザが手元に届き、晴れて渡航準備は完了です。ただし、こうした手続きは時期によって大きく変わるものなので、申請する方は必ず最新情報を入手するようにしてください。「たかが…」と思うことなかれ!事務手続きの山は最後までハード事務手続きと並行して、米国の病院で働くためのオリエンテーションをweb上で履修します。膨大な数のネット講習を受ける必要があり、ナメてかかるとIDカードがもらえなかったりするので、確実に履修しなければならず、本当に面倒でした。一連の事務作業が終わり、残りの期間は、渡米後に機会が増えるであろう米国の学会(AHAなど)への参加を見越して、病院のカテーテルデータをまとめたり、慶應関連病院のPCI registryからの論文作成1)やAHAへのSubmit2,3)をしたりしたほか、久しぶりの総合内科研修を控え、MKSAPという米国内科専門医の取得のための問題集を地道に解いて少しでもスムーズに入れるように準備をしました。参考1)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30819656/2)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30212493/3)https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/circ.138.suppl_1.10930Column画像を拡大するニューヨークの新型コロナ患者はかなり減少し、現在はたまに診察する程度です。ただ3~5月のパンデミック中は途方もない多くの方々が罹患し、亡くなりました。そうした患者さんの最期にPalliative care teamの介入が有用ではないかという論文が先日オンラインとなりましたので、皆さんに共有させていただきます。不幸にも未曾有のウィルスに罹患し、治療が奏功しなかった患者さんが最期をいかに迎えるのか、いろいろと考えさせられました。参考サイト:https://twitter.com/MSBI_IM/status/1286667020751245313

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第20回 風邪コロナウイルスがSARS-CoV-2免疫を授けうる? / キャンプ場で小児にCOVID-19が大流行

風邪コロナウイルス反応T細胞がSARS-CoV-2も認識する?新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染していないのにSARS-CoV-2に反応するCD4+ T細胞が少なくとも5人に1人、多ければ2人に1人に備わっていると示唆されています。SARS-CoV-2が流行する前に25人から採取した血液検体を調べた新たなScience誌報告でもこれまでの幾つかの研究と同様にSARS-CoV-2反応T細胞が見つかり、SARS-CoV-2の142の領域(抗原決定基)がT細胞への反応と関連しました1,2)。そして、これまでにない新たな発見として、SARS-CoV-2に反応するT細胞が風邪を引き起こす馴染みのコロナウイルス(風邪コロナウイルス)4種のSARS-CoV-2に似た抗原決定基にも同様に反応しうることが示されました。この結果は、SARS-CoV-2流行前から馴染みのコロナウイルスに曝露したことでSARS-CoV-2にも反応しうるT細胞が備わったという考えを支持しています3)。また、感染前から備わるSARS-CoV-2への免疫反応はT細胞だけではなさそうです。先月23日にmedRxivに発表された報告によると、英国で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が本格的に流行する前の2018~2020年初めに非感染者262人から採取した血液検体のうち15検体(6%)にはSARS-CoV-2に反応する抗体が認められました4)。さらに特筆すべきことに小児でのその割合はとくに高く、1~16歳の小児48人のうち少なくとも21人(44%)はSARS-CoV-2スパイクタンパク質に反応するIgG抗体を有していました。小児は一般的に他のコロナウイルスとの接触がより多く、それが小児にIgG抗体が多い理由かもしれません。そのようなSARS-CoV-2反応抗体は小児におけるCOVID-19感染者の多くがかなり軽症で済むことの理由の一つかもしれないと著者の1人Rupert Beale氏はツイートしています5)。ただし、SARS-CoV-2への幾ばくかの免疫で感染を絶対に防げるという保証はありませんし、悪くすると正反対の効果、免疫反応を乱して手に負えない炎症やウイルスの蹂躙を招く恐れがあります。たまたま備わったSARS-CoV-2反応T細胞はとくに高齢者にとっては有害になる恐れがあるとシンガポールの免疫学者Nina Le Bert氏は言っています3)。Le Bert氏もCOVID-19へのT細胞反応を調べている研究者の一人です。キャンプ場で小児にCOVID-19が大流行小児はSARS-CoV-2感染しても多くが軽症で済み、それに感染し難いことが示唆されている一方で、米国ジョージア州のキャンプ場で6月に発生した小児のCOVID-19大流行はどの年齢の小児も感染と無縁ではないことを改めて示しました6)。そのキャンプ場では、キャンプする小児(6~19歳、中央値12歳)の受け入れの準備のためにまずは世話係(年齢14~59歳、中央値17歳)が6月17日にキャンプ場に集まり、キャンプはその週末21日から始まりました。キャンプ場のCOVID-19食い止め対策は完全ではなく、世話係は綿製マスク着用が義務でしたがキャンプする小児のマスク着用は必須とせず、ドアや窓を開けて建物内の換気を促すこともしませんでした。6月23日に10代の世話係の1人が前の晩に寒気を覚えてキャンプ場を去り、検査の結果24日にSARS-CoV-2感染が確認されました。キャンプ場は24日から滞在者を帰宅させはじめ、27日に閉鎖しました。キャンプには世話係251人とキャンプ参加小児346人合わせて597人が集い、検査結果が判明した344人(内訳は未報告)のうち260人(76%)が陽性でした。マスクが必須ではない環境で大勢が集まって同じ部屋で寝て、勢いよく歌ったり声援したりを繰り返したことが恐らく感染を広まらせたようであり、集いの場では相手との距離を保ってマスクを絶えず装着する必要があると著者は言っています。参考1)Selective and cross-reactive SARS-CoV-2 T cell epitopes in unexposed humans. Science 04 Aug 20202)Exposure to common cold coronaviruses can teach the immune system to recognize SARS-CoV-2 / Eurekalert 3)Does the Common Cold Protect You from COVID-19? / TheScientist4)Pre-existing and de novo humoral immunity to SARS-CoV-2 in humans. bioRxiv. July 23, 20205)Rupert Beale氏ツイッター 6)SARS-CoV-2 Transmission and Infection Among Attendees of an Overnight Camp - Georgia, June 2020. MMWR. Early Release / July 31, 2020

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米国学校閉鎖でCOVID-19罹患率・死亡率が約6割減/JAMA

 米国で2020年3月9日~5月7日にわたった州レベルの学校閉鎖が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の罹患率と死亡率を一時的に減少したことが明らかにされた。閉鎖が早かった州では、累積罹患率が低い時点で学校閉鎖を行った場合ほど、相対的減少率が大きかったという。米国・シンシナティ小児病院のKatherine A. Auger氏らが、全米50州について行った観察試験の結果で、JAMA誌オンライン版2020年7月29日号で発表した。なお、結果について著者は、「減少には、同時期の他の非薬物的介入が関連している可能性は捨てきれない」と述べている。学校閉鎖・時期で減少に差があるかを検討 研究グループは2020年3月9日~5月7日の期間に米国住民ベースの観察試験を行い、遅延期を組み込んだ分割時系列分析を実施し、学校閉鎖およびその時期がCOVID-19罹患率・死亡率の減少と関連しているかどうかを検証した。検証の対象としたのは初等・中等学校(幼稚園~12学年)。 州レベルの非医薬品による公衆衛生上の対策と属性を、負の二項回帰モデルに組み入れ、学校閉鎖とアウトカムの関連を分離。各州について、学校閉鎖時の10万人ごとのCOVID-19累積罹患率に応じ、4等分に分類したうえで、統計モデルを用いて、閉鎖した学校と閉鎖しなかった学校のCOVID-19罹患率・死亡率の絶対差、また州が学校を閉鎖した時のCOVID-19累積罹患率が最も低い四分位範囲群と最も高い四分位範囲群の、罹患率と死亡率の絶対差を算出し評価した。学校閉鎖時の州累積罹患率が低いほど、罹患率・死亡率は低値 学校閉鎖時の州のCOVID-19累積罹患率は、0~14.75/10万人だった。 学校閉鎖により、COVID-19罹患率は有意に低下し、補正後の週当たりの相対変化率は-62%(95%信頼区間[CI]:-71~-49)だった。死亡率も有意に低下し、補正後同変化率は-58%(-68~-46)だった。 これら罹患率・死亡率の低下は、学校閉鎖時の州のCOVID-19累積罹患率が低いほど顕著だった。同累積罹患率が最も低かった州では、COVID-19罹患率の週当たりの相対変化率は-72%(95%CI:-79~-62)だった一方、最も高かった州の同変化率は-49%(-62~-33)だった。 この解析から作成したモデルにおいて、州のCOVID-19累積罹患率が最低四分位範囲で学校閉鎖を行った場合、最高四分位範囲で行った場合に比べ、COVID-19の罹患者は26日間で128.7/10万人、死亡は16日間で1.5/10万人少なくなると推定された。

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COVID-19へのヒドロキシクロロキン、AZM併用でも臨床状態改善せず/NEJM

 軽症~中等症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の入院患者の治療において、標準治療にヒドロキシクロロキン(HCQ)単剤またはHCQ+アジスロマイシン(AZM)を併用しても、標準治療単独と比較して15日後の臨床状態を改善しないことが、ブラジル・HCor Research InstituteのAlexandre B. Cavalcanti氏らが行った「Coalition COVID-19 Brazil I試験」で示された。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2020年7月23日号に掲載された。HCQは、in vitroで抗ウイルス作用が確認され、小規模な非無作為化試験において、AZMとの併用で重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2型(SARS-CoV-2)のウイルス量を減少させると報告されている。これらの知見に基づき、HCQはCOVID-19患者の治療に用いられているが、安全性や有効性のエビデンスは十分ではないという。3群を比較する無作為化対照比較試験 本研究は、ブラジルの55の病院が参加した非盲検無作為化対照比較試験であり、2020年3月29日~5月17日の期間に患者登録が行われ、2020年6月2日にフォローアップを終了した(Coalition COVID-19 BrazilとEMS Pharmaの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、酸素補充療法を受けていないか、最大4L/分の酸素補充を受けており、発症から14日以内の入院中のCOVID-19疑い例または確定例であった。 被験者は、標準治療を受ける群(対照群)、標準治療+HCQ(400mg、1日2回)を受ける群(HCQ群)、標準治療+HCQ(400mg、1日2回)+AZM(500mg、1日1回)を受ける群(HCQ+AZM群)に、1対1対1の割合で無作為に割り付けられ、7日間の治療が行われた。 主要アウトカムは、修正intention-to-treat(mITT)集団(COVID-19確定例)における、7段階の順序尺度(1[入院しておらず、活動に制限がない]~7[死亡])で評価した15日後の臨床状態とした。すべての副次アウトカムにも差はない 667例が無作為割り付けの対象となり、504例がmITT解析に含まれた。221例がHCQ群、217例がHCQ+AZM群、229例が対照群に割り付けられた。全体の平均年齢は50歳、58%が男性で、42%が酸素補充療法を受けていた。 COVID-19確定例における、15日後の7段階順序尺度スコア中央値は3群とも1(IQR:1~2)であった。高スコア(臨床状態不良)の比例オッズ(OR)は、対照群と比較して、HCQ群(OR:1.21、95%信頼区間[CI]:0.69~2.11、p=1.00)およびHCQ+AZM群(0.99、0.57~1.73、p=1.00)のいずれにおいても有意な差は認められなかった。また、HCQ群とHCQ+AZM群の間にも、差はみられなかった(0.82、0.47~1.43、p=1.00)。 副次アウトカム(7日後の6段階[非入院~死亡]順序尺度、15日以内の呼吸補助なしの日数、15日以内の高流量鼻カニューレ/非侵襲的換気の使用日数、15日以内の機械的換気の使用日数、入院日数、院内死亡、15日以内の血栓塞栓症の発生割合、15日以内の急性腎障害の発生割合)のすべてで、有意差は確認されなかった。 補正後QT間隔の延長は、対照群に比べHCQ群およびHCQ+AZM群で頻度が高く、フォローアップ期間中に連続心電図検査を受けた患者は対照群で少なかった。また、肝酵素値(ALT、AST)の上昇は、対照群に比しHCQ+AZM群で高頻度であった。 著者は、「この研究の効果の点推定は、主要アウトカムに関して群間に大きな差はないことを示唆するが、試験薬の実質的な有益性および有害性のいずれかを確実に排除することはできない」としている。

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コロナウイルスワクチンへの期待(解説:後藤信哉氏)-1270

 新興感染症と人類との戦いにおいてワクチンは強力な武器であった。コロナウイルスは感冒のウイルスであるが、現時点までに感冒への有効なワクチンが開発されていない。COVID-19へのワクチン開発には期待が大きい。 コロナウイルスの細胞への感染にはウイルスのスパイク様蛋白が寄与する。タンパク質に対する抗体をワクチンとするのであれば、北里柴三郎の破傷風抗毒素血清療法以来実績がある。本研究はチンパンジーのSARS-CoV-2ウイルスのスパイク蛋白を発現したチンパンジーのアデノウイルスベクターを用いたワクチン(ChAdOx1 nCoV-19 vaccine)と髄膜炎菌のワクチンを比較したphase 1/2試験である。ウイルスの表面抗原を標的としたワクチン開発は一般的に最初に思い付く方法だと思う。液性、細胞性免疫により細胞侵入前にウイルスの細胞侵入を防げるとは想定されるが、細胞内に入ってしまったウイルスに対する効果には疑問が残る。 本研究は1,077例のボランティアを対象としたランダム化比較試験である。COVID-19の予防効果、重症化予防効果などのハードエンドポイントを用いた試験ではない。ワクチンに安全性の観点から忍容性があるか? ワクチンがCOVID-19に対する液性、細胞性免疫を惹起するか否か? が検証された。 痛みがあるのでアセトアミノフェンが必要な症例は多い。実際、本研究では予防的にアセトアミノフェンを使用された症例が多い。それでもSARS-CoV-2ウイルスのスパイク蛋白を用いたワクチンにて痛みなどの副反応は多かった。スパイク蛋白に対するT細胞の反応性は接種14日後、IgGは28日後までには産生された。 本研究は早期の臨床試験である。忍容性はありそう、かつ細胞性、液性免疫は誘発されそうである。しかし、実際にCOVID-19の感染予防、重症化予防に役立つか否かは不明とせざるを得ない。古典的ともいえるスパイク蛋白を抗原としてワクチンができれば開発は早いと想定される。革新的な方法を用いることなく感染を制圧できればよいが…。

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侮れない中国の科学力(解説:後藤信哉氏)-1271

 筆者は免疫学者でもウイルス学者でもない。ランダム化比較試験による有効性、安全性検証をリードするclinical trialistであるとともに一人の臨床医である。免疫の仕組みに詳しいわけではない。それでもウイルス表面に存在する細胞への侵入を担う蛋白を標的とした抗体ができれば感染予防ができるのではないかとの仮説は持てる。本研究は新型コロナウイルスの表面に発現しているスパイク蛋白をアデノウイルスの一種であるAd5に発現させたワクチンを用いた臨床試験の結果である。エビデンスレベルの高い二重盲検のランダム化比較試験である。対照群をプラセボとしている。タンパク質を注射すれば副反応として疼痛などが起こるのは一種当然である。プラセボとの比較は安全性比較にはハードルが高いと思う。 本研究は武漢で施行された。登録症例数は603例である。新型コロナウイルスにより壊滅的な社会的ダメージを被りながら、ワクチン開発の第II相試験の結果は今の時点で公表できるレベルにまで進めた中国の科学力は甘く見れない。本研究は単一施設の研究であるので結果の一般化にはハードルが高い。プラセボとの比較においても忍容性には大きな問題がなかった。新型コロナウイルスのスパイク蛋白に対する中和抗体は産生される。しかし、スパイク蛋白の中和抗体が新型コロナウイルス感染、重症化を予防できるか否かはわからない。 ワクチン開発への期待は高い。各種薬剤でも演繹的に有益性が期待され、phase 1、phase 2を通過した後に、phase 3にて問題が発見される例はきわめて多い。新型コロナウイルスのワクチン開発への道は遠い。古典的発想のワクチンにて解決できればよいとは考えるものの、革新的技術の開発が必要かもしれない。

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COVID-19患者の約7割は転帰良好/国立国際医療研究センター

 8月7日、国立国際医療研究センターはメディア向けに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)をテーマとし、「COVID-19レジストリ研究の中間報告」のセミナーを開催した。 セミナーでは、2020年1月から現在まで収集された約4,800例のCOVID-19患者のデータから患者の入院時症状の傾向、予後、重症化傾向などの中間解析結果が説明された。COVID-19患者5,977例を精査 はじめに同センター理事長の國土 典宏氏が、東京・新宿区におけるセンターの意義、患者数の推移・傾向、患者対応などを説明した。 今回の研究では、センターで診療した5,977例(うち陽性1,335例、22.3%)の症例で検討がなされたこと、患者数も一度減少したものの、最近では増加傾向にあり、東京都の感染者数の拡大とパラレルであることが説明された。 センターでは、COVID-19対応総合病院機能として、検疫、重症者対応、診断法・治療法の開発、行政との連携だけでなく、疫学としてゲノム解析や患者レジストリにも力を入れていくと展望を述べた。全国748施設から4,797例を解析 続いて同センターのAMR臨床リファレンスセンターの松永 展明氏と同感染症センターの大津 洋氏が「COVID-19 レジストリ研究に関する中間報告について」をテーマに、レジストリ体制、システムの概要ならびに中間解析の結果について説明を行った。 レジストリ研究の概要について、目的は「COVID-19患者の臨床像および疫学動向を明らかにする」と定め、対象は「COVID-19と診断され医療機関において入院管理されている症例」と規定し、2020年1月(レジストリオープンは3月)からデータ収集されている(詳細は下記のホームページ参照)。 レジストリシステムは、世界保健機関とISARICが作成した症例報告書テンプレートを使用し、日本独自調査の項目も追加。センター内にサーバを設置し、データの集積が行われており、将来的には他国のデータとの統合分析も予定できる設計という。レジストリの登録施設は、全国で748施設、登録症例数は4,797例(8月3日現在)に上る。男性・高齢者・喫煙者や併存疾患のある例は重症化 続いて感染症センターの早川 佳代子氏が解析結果を説明した。中間解析の対象は、約230施設、約2,700例であり、レジストリ開設から7月7日までに登録された「入院治療を行った患者かつ入院時SARS-CoV-2陽性の患者」について行われた。 重症度の内訳として、入院後最悪の状態では「酸素不要」(61.8%)、「酸素要」(29.7%)、「挿管など」(8.5%)だった。入院中に酸素不要であった軽症者は約60%、挿管や体外式膜型人工肺(ECMO)を要した例は8.5%だったほか、入院時に重症であった例では、5人に1人以上が挿管やECMOを要したが、非重症であった例では2%未満だった。 患者背景では、2週間以内に陽性例や疑い例と濃厚接触があった例が58.3%。男性で喫煙者では重症化しやすかったほか、酸素や挿管などを要した患者は年齢が高めであった。また、60代以降では重症化しやすい(=酸素投与・挿管などが必要)傾向がみられた。 併存疾患では、軽症糖尿病(14.2%)、高脂血症(8.2%)、脳血管障害(5.5%)などがみられ、海外(一例としてイギリス:軽症糖尿病[22%]、重症糖尿病[8.2%]、 肥満[9%])の入院患者報告に比べると、併存疾患の割合は低めだった。 入院時の症状では、(37.5度以上)発熱、咳、倦怠感、呼吸困難感が多く、軽症例では頭痛、味覚障害、嗅覚障害を訴える例が多かった(発症から入院までの中央値:7日間)。とくに味覚障害と嗅覚障害の頻度は、海外からの報告でもばらつきが大きいものの、今後症状として増える可能性があると指摘した。 薬剤の使用歴について(併用例もそれぞれカウント)、酸素不要、酸素要、挿管などのいずれでも「ファビピラビル」が一番多く、次にシクレソニドだった。挿管などが必要な患者ではステロイドの使用も多かった。なお、有効性などの中間解析は未解析としている。 退院時の転帰について、全体で自宅退院(66.9%)が最も多く、ついで転院(16.6%)、医療機関以外への施設への入所(7.4%)で、入院死亡は7.5%だった。とくに挿管などの処置の例での死亡は33.8%と高い数値だった。なお、わが国では、海外の入院患者報告に比べると、死亡の割合は低めだという(イギリス:26%、米国NY:21~24%、中国:28%)。 以上から中間解析では、男性・高齢者・喫煙者や併存疾患のある例(心血管系・糖尿病・COPDなど慢性肺疾患)では重症化しやすく、入院中に酸素不要であった軽症者では約8割が自宅退院となり、予後良好であること。そして、欧米と比較し、低めの併存疾患の割合(糖尿病:16.7%、肥満:5.5%)や死亡率(7.5%)であったことが示唆されると説明した。 最後に臨床研究センターの大曲 貴夫氏が、「疫学研究としてさらなる知見の創出」、「医薬品医療機器開発への活用」、「臨床情報と検体情報の融合によるさらなる研究発展」を柱に研究を行っていくと展望を語り、セミナーを終えた。■参考サイトCOVID-19に関するレジストリ研究 COVIREGI-JP

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Dr.長門の5分間ワクチン学

第1回 ワクチンの基礎第2回 接種の実際第3回 被接種者の背景に応じた対応第4回 接種時期・接種間隔第5回 予防接種の法律・制度第6回 Hibと肺炎球菌第7回 麻疹・風疹・おたふく第8回 水痘・BCG・4種混合第9回 肝炎・日本脳炎第10回 インフルエンザ・ロタウイルス第11回 子宮頸がんワクチン・渡航ワクチン第12回 トラブルシューティング CareNeTV総合内科専門医試験番組でお馴染みの長門直先生が、自身の専門の1つである感染症について初講義。医療者が感じているワクチンにまつわる疑問を各テーマ5分で解決していきます。テーマは「ワクチンの基礎」をはじめとした総論5回と「麻疹・風疹・おたふく」など各論7回。全12回で完結のワクチン学を、CareNeTV初お目見えのホワイトボードアニメーションでテンポよくご覧いただけます。第1回 ワクチンの基礎医療者でも意外と知らなかったり、間違って覚えていることが多いのがワクチン接種。第1回は「ワクチンの基礎」として、まず最初に押さえておきたい、「ワクチンの種類」と「ワクチンを取り扱う上で覚えておきたいこと」をまとめました。ワクチンの種類の違いは?アジュバントの意味は?ワクチンの保存方法で気を付けたいことは?「ワクチン学」の講義時間はたったの5分。CareNeTV初お目見えのホワイトボードアニメーションでテンポよく解説していきます。第2回 接種の実際今回の「ワクチン学」のテーマは「ワクチン接種の実際」。医療者からよく質問に出る「ワクチンの接種方法」と「ワクチン接種後の対応」について確認していきます。ワクチン接種方法では、皮下注射と筋肉注射の具体的な方法を確認していきます。接種部位は?使用する針の太さは?長さは?角度は?そして、ワクチン接種後の対応については、意外と知られていないことや、間違って覚えてしまっていることを解決していきます。第3回 被接種者の背景に応じた対応被接種者が抱える背景によって、ワクチン接種の可否や気を付けておきたいことを確認していきます。今回「ワクチン学」で取り上げる被接種者の背景は8つ。(1)早産児・低出生体重児(2)妊婦・成人女性(3)鶏卵アレルギーがある人(4)発熱者(5)痙攣の既往歴のある人(6)慢性疾患のある小児(7)HIV感染症の人(8)輸血・γ-グロブリン投与中の人。それぞれに応じた対応をポイントに絞り、解説していきます!第4回 接種時期・接種間隔接種時期・接種間隔は予防接種ごとに決められています。今回は、原則と被接種者からよく聞かれる質問、そしてその対応を確認します。小児の場合、不活化ワクチンの第1期接種では、なぜ複数回接種する必要があるのか?成人や高齢者の場合は?生ワクチンで押さえておきたいポイント。被接種者からよく聞かれる質問は「感染症潜伏期間の予防接種は可能かどうか」など、3つをピックアップしました。第5回 予防接種の法律・制度法律・制度の観点から定期接種、任意接種を確認します。近年の法改正の流れ、それぞれの費用負担の違い、現在の対象疾病の種類。副反応に関する制度では、報告先と救済申請先を確認。また、医療者の中でも賛否が分かれるワクチンの同時接種についても言及します。第6回 Hibと肺炎球菌今回から各論に入ります。まずはHibワクチンと肺炎球菌ワクチン。よくある質問とそれぞれの特徴を見ていきます。よくある質問は「Hibワクチンや肺炎球菌ワクチンは中耳炎の予防になるの?」「肺炎球菌ワクチンは2つあるけどどう違うの?」。それぞれの特徴では、Hibワクチンは接種スケジュールのパターン、肺炎球菌ワクチンは2種類の成分、接種対象者と接種方法を確認していきます。第7回 麻疹・風疹・おたふく今回は生ワクチンシリーズ。麻疹、風疹、MR、ムンプスを確認します。内容は、それぞれの接種時期をはじめ、2回接種する理由、非接種者が感染者と接触した場合の対応について。そして2018年に大流行した風疹についてはより具体的に「ワクチン接種者からの感染はあるのか?」「ワクチン接種した母親の母乳を飲んだ乳児への影響」「妊娠中の女性への風疹ワクチン対応」など、よくある疑問を解決していきます!第8回 水痘・BCG・4種混合今回は水痘・BCG・4種混合ワクチン。それぞれの接種回数、接種時期をはじめ、注意すべき点について触れていきます。水痘ワクチンでは2回接種する理由を確認します。そして、医療現場で課題となりやすいBCGワクチンの懸濁の仕方については、均一に溶かすポイントを紹介。さらに、4種混合ワクチンの追加接種を忘れた場合の対応、ポリオワクチンの現状について学んでいきます。第9回 肝炎・日本脳炎今回は、肝炎、日本脳炎。肝炎は渡航ワクチンとして使われる任意接種のA型肝炎ワクチンと定期接種のB型肝炎ワクチン、そして医療保険適用となる母子感染予防のB型肝炎ワクチンについて見ていきます。それぞれの接種スケジュールとB型肝炎ワクチンの現場で迷うことを解決します。日本脳炎は、接種スケジュールの確認に加え、日本小児科学会が言及している標準的接種時期以前の発症リスクについて紹介します。 第10回 インフルエンザ・ロタウイルス今回は冬から春にかけて流行するインフルエンザ、ロタウイルス。それぞれのワクチンを接種するタイミングとおさえておきたいポイントを確認します。インフルエンザワクチンは定期接種対象者、卵アレルギーの被接種者の方への対応、予防効果について。ロタウイルスワクチンは1価と5価、それぞれの有効性、接種スケジュールの違い、接種する時期、期間を学んでいきます。第11回 子宮頸がんワクチン・渡航ワクチン今回は、女性のHPV関連疾患を予防する2種類の子宮頸がんワクチンと海外渡航者に気を付けてほしい渡航ワクチンについて触れていきます。子宮頸がんワクチンは2種類の違いとそれぞれの接種スケジュール、日本における接種率激減に対するWHOの見解を確認します。渡航ワクチンは数ある中から黄熱ワクチン、狂犬病ワクチン、髄膜炎菌ワクチンの有効性と接種推奨地域を見ていきます。第12回 トラブルシューティングワクチンは通常、定期接種ですが、不慮の事態で至急打たなければならない場合があります。最終回はそのようなワクチンの“トラブルシューティング”を取り上げます。具体的には、感染者と接触した際の緊急ワクチン接種、外傷時の破傷風トキソイド接種、針刺し時の対応です。さらに、ワクチンの接種間隔に関する規定の改正など、2019年から2020年の大きなトピックを3つ取り上げてワクチン学をまとめていきます。

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第18回 身近に迫る新型コロナ、COCOAより基本的な感染予防が勝る

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者拡大に歯止めがかからない。クルーズ船での感染例も含む国内感染者数は既に4万人を突破。3万人突破からこの数字に至るまでわずか9日間しか要していないという。数ヵ月前のニューヨークやイタリア国内を彷彿とさせる状況である。実際、先週は自分の周囲にもCOVID-19がヒタヒタと足音を忍ばせて近づいてきていると感じたことを2度も経験した。そもそも私の場合、最初に身近の感染例を見聞きしたのは4月下旬。まだ国内のPCR検査陽性者が1万2,000人強、人口当たりでは陽性者が1万人当たり1人の時だ。この時は自宅マンションを出て近所で買い物をし、そのまま約1km離れた賃貸アパート一室の事務所へ戻ろうと再びマンション前を通り、異変に気付いた。マンション前の道路にパトカーと救急車が横付けされていたのだ。買い物をしたスーパーまで50mも離れていないのにサイレンを聞いた覚えはない。目を凝らすと自宅マンションのエントランスにあるインターホン前で完全防護服の人間が複数うごめいている。救急車の消防署要員と警察官だろう。職業柄、警察官が複数たむろしていると、ついつい近づいて「コロシ(殺し)ですか?」と業界用語で尋ねてしまう癖があり、警戒につく警察官に「もしかして非番(の同業者)の方ですか?」とぎょっとされたりするのだが、今回はあまりの緊迫感に近づける雰囲気ではない。明日、管理人に尋ねれば良いと思い、そのまま事務所に戻った。翌日、管理人に尋ねたところ、「発熱を訴えた住民がいきなり110番した」とのこと。いやはや神経質な人が過剰反応したのだろうと思ったのだが、結局数日後にこの住民がPCR検査陽性者だと判明した。マンション内の掲示板には、建物内の大規模な消毒はせず、共用部分で多くの人が手を触れる場所を管理人が入念に掃除をする、との管理組合からの決定が張り出されたことで決着がついた。そこからしばらくは周囲でそれらしい話を聞くことなく日々が過ぎていった。ついに知り合いから出たPCR検査陽性者そして先週水曜日の夕刻、旧知の編集者と対面した時、そっと耳打ちされた。「A君が新型コロナのPCR検査で陽性だったらしいです」A君もやはり旧知の編集者。本人がメディア業界に入った当時から現在に至るまで15年以上の付き合いがあり、何度か一緒に仕事をしたこともある。もちろん、時々飲食を共にすることもあり、最後に会ったのも昨年12月の飲食の場でだ。この原稿執筆時点で本人は既に回復し、仕事にも復帰している。本人に連絡を取ると、発熱の症状があり3日間休暇を取得。解熱したため職場に出勤したところ、翌日再度発熱して再び休暇を取り、その後陽性が判明したとのこと。職場に出勤したのは1日のみでとくにクラスターも発生していない。感染経路も不明だという。A君は次のように語った。「実は発熱後から今までまったく咳が出てないんですよね。そんなこともあり正直、油断してました」COVID-19の場合、これまでのデータからはほぼ全例に発熱があり、これに次いで7割以上の患者で観察されるのが乾性咳嗽。ところがA君本人はこの症状がまったくなかったことに加え、3日目の解熱というインフルエンザや風邪との臨床鑑別に用いられる現象があったのだから、実に厄介な感染症といえる。実はすれ違っていたCOVID-19そして2日後の先週金曜日、行きつけのスポーツジムで一汗かいてシャワーを浴びて帰宅しようと出口に向かったところ、従業員に名指しで呼び止められた。私が利用しているジムは時々利用者にちょっとしたプレゼントを配ったりするので、今回もその手のものかと思ってニコニコ顔で振り返ったら、思わぬ“プレゼント”をいただく羽目になった。「実は月曜日に保健所から連絡があり、当店の利用者から新型コロナの陽性者が発生しました。で、その方の直近の利用時間に村上さんが店内にいたことが判明しまして…」一瞬反射的に驚いたものの、もはや感染者がどこにいてもおかしくないと考えていたこともあり、厚生労働省がダウンロードを推奨する新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)を既に自分のスマホでも稼働させていたが反応してなかったな、とぼんやりと思ったくらいだ。従業員の話を聞いてみると、判明した陽性者は、入会のための初来店で、ほぼ入口付近のテーブル席におり、店内の防犯カメラの解析結果でこの時の私はテーブル席から離れたストレッチ・エリア、トレッドミル・エリアにいたとのこと。厚生労働省の一般向けQ&Aで示している濃厚接触者の基本定義は『1m以内、15分以上の接触の可能性がある場合』であり、この定義を満たしたとしてもマスクの有無、会話など発声を伴う行動や対面での接触の有無など、“3密”の状況などを考慮して最終的な濃厚接触者が決定されている。従業員によると、保健所が店内で濃厚接触者として認定した人はいないという。しかも来店日は2週間前のことで、既にウイルスの潜伏期間は過ぎている。従業員からは「この間体調に変化はありませんでしたか?」と尋ねられたが、もちろん変化はない。「一応、同時刻にいた方には念のためお知らせしています」とにこやかに言われて話は終了した。ちなみに前述のCOCOAは陽性と診断された人に対し、保健所が処理番号を発行し、本人が自らの意思で処理番号をアプリに入力しないと、陽性者の登録にはならない。厚生労働省の発表によると、8月5日時点でのCOCOAのダウンロード件数は約1,157万件、陽性登録者は135件であり、まだまだ利用者にとって有効に機能する状態にはなっていないのが現状である。結局、今回私の傍らをCOVID-19が通り過ぎて行ったことで改めて認識したのが、現時点ではソーシャルディスタンスの確保、屋内での距離確保が難しい場合のマスク着用、手洗いの励行という、もはや聞き飽きたといわれるようなことを自分自身が腐らず実行し、そして外に向けては繰り返し伝えていかねばならないということだ。

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米国Moderna社の新型コロナワクチン、サルでの有効性確認/NEJM

 開発中の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン「mRNA-1273」は、非ヒト霊長類において、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の中和活性と上気道・下気道の速やかな保護を誘導し、肺組織の病理学的変化は認められなかった。米国・ワクチン研究センターのKizzmekia S. Corbett氏らが、アカゲザルにおけるmRNA-1273の評価結果を報告した。mRNA-1273は、SARS-CoV-2の膜融合前安定化スパイクタンパク質をコードするmRNAワクチンで、第I相試験を含むいくつかの臨床試験において安全性および免疫原性が確認されているが、上気道・下気道でのSARS-CoV-2増殖に対するmRNA-1273の有効性を、ヒトと自然免疫やB細胞・T細胞レパートリーが類似している非ヒト霊長類で評価することが重要とされていた。NEJM誌オンライン版2020年7月28日号掲載の報告。mRNA-1273の2用量を4週間間隔で2回筋肉内投与し有効性を評価 研究グループは、米国国立衛生研究所(NIH)の規定を順守し、ワクチン研究センターの動物実験委員会(Animal Care and Use Committee of the Vaccine Research Center)ならびにBioqualの承認を得て本試験を実施した。 インド原産アカゲザル(雄と雌各12匹)を3群に割り付け(性別、年齢、体重で層別化)、0週目および4週目にmRNA-1273の10μg、100μgまたはリン酸緩衝生理食塩水1mL(対照)を右後脚に筋肉内投与した。その後、8週目に、すべてのサルにSARS-CoV-2(合計7.6×105PFU)を気管内および鼻腔内投与した。 抗体およびT細胞応答をSARS-CoV-2投与前に評価するとともに、PCR法を用いて気管支肺胞洗浄(BAL)液および鼻腔スワブ検体中のウイルス複製とウイルスゲノムを評価し、肺組織検体にて病理組織学的検査とウイルス定量化を実施した。高い免疫応答の誘導と感染抑制効果を確認 mRNA-1273を2回投与後4週時の生ウイルス中和抗体価幾何平均値(reciprocal 50% inhibitory dilution:log10)は、10μg投与群で501、100μg投与群で3,481であり、ヒトの回復期血清のそれぞれ12倍および84倍高値であった。ワクチン投与によって、1型ヘルパーT細胞(Th1)に依存したCD4 T細胞応答が誘導されたが、Th2またはCD8 T細胞応答は低いかまたは検出できなかった。 10μg投与群および100μg投与群のいずれも8匹中7匹で、SARS-CoV-2投与2日目にはBAL液中のウイルス複製が検出されず、100μg投与群の8匹は、SARS-CoV-2投与2日目には鼻腔スワブ検体でもウイルス複製が検出されなかった。また、いずれのワクチン投与群も、肺検体における炎症、検出可能なウイルスゲノムや抗原は限られていた。

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HIV曝露前予防、F/TAF vs. F/TDF/Lancet

 HIV曝露前予防(PrEP)を目的としたエムトリシタビン/テノホビル・アラフェナミド(F/TAF)1日1回投与は、エムトリシタビン/テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩(F/TDF)1日1回投与に対して有効性は非劣性であり、忍容性はいずれも良好であった。また、F/TAFは、骨および腎に対する安全性のバイオマーカーに関して、F/TDFに対する優越性が認められた。米国・Fenway HealthのKenneth H. Mayer氏らが、多施設共同無作為化二重盲検実薬対照第III相非劣性試験「DISCOVER試験」の結果を報告した。先行研究でテノホビル・アラフェナミド(TAF)はテノホビル ジソプロキシルフマル酸塩(TDF)と比較して、HIV治療に用いた場合に高い抗ウイルス効果と腎および骨の安全性を改善することが示されていた。Lancet誌2020年7月25日号掲載の報告。曝露前予防投薬を行い、HIV発症率を比較 DISCOVER試験は、欧州と北米にある地域、公的、病院に関連した94のクリニックで実施された。対象は、高リスクの性的行動が記録(過去12週間について自己申告)されている、HIV感染リスクが高い成人男性同性愛者または男性から女性への性転換者(直近[登録後24週間以内]の記録あり)で、現在または既往PrEPでエムトリシタビンおよびテノホビル ジソプロキシルフマル酸塩を受けていた参加者は除外した。 被験者を、エムトリシタビン200mg/テノホビル・アラフェナミド25mg 1日1回投与(F/TAF)群、またはエムトリシタビン200mg/テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩300mg 1日1回投与(F/TDF)群に1対1の割合で無作為に割り付け追跡した。全被験者とも2錠が投与された。 試験のスポンサー、研究者、被験者および試験スタッフ(試験薬の投与、アウトカムの評価、データ収集を実施)は、割り付けについて知らされなかった。 主要評価項目はHIV感染(HIV発症率)とし、全例が48週間の追跡調査を完遂した時、かつ半数が96週間の追跡調査を完遂した時に評価された。解析対象は、割り付けられた治験薬を1回以上投与され、試験開始後に1回以上HIV検査を受けた、すべての無作為割り付け患者とした。 F/TAFのF/TDFに対する非劣性マージンは、HIV発症率比(IRR)の95.003%信頼区間(CI)上限値が1.62とした。また、安全性に関し、骨と腎の安全性を示す6つのバイオマーカーを副次評価項目として事前に定義した。F/TAFのF/TDFに対する非劣性を確認 2016年9月13日~2017年6月30日に、適格性を評価した5,857例のうち5,387例(92%)が無作為化された(F/TAF群2,694例、F/TDF群2,693例)。 主要有効性解析において、IRRは事前規定の非劣性マージンを満たし、F/TAFのF/TDFに対する非劣性が確認された(IRR:0.47、95%CI:0.19~1.15)。 追跡期間8,756人年においてHIV感染は計22例認められ、そのうちF/TAF群は7例(0.16/100人年、95%CI:0.06~0.33)、F/TDF群は15例(0.34/100人年、95%CI:0.19~0.56)であった。 両群とも忍容性は良好で、治験薬の中止に至った有害事象の報告は少数例であった(F/TAF群2,694例中36例[1%]vs.F/TDF群2,693例中49例[2%])。F/TAF群では、事前に定義した骨密度および腎機能検査の6つのバイオマーカーのすべてで、F/TDFに比べ有意に良好であることが示された。

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PCR拡充へ緊急提言、医師判断で迅速に実施可能な体制に/日本医師会

 日本医師会は8月5日付で、医師が必要と認めた場合に確実にPCR検査や抗原検査を実施できるよう、国に対しその実現について強く求める7項目の提言を公表した。背景として、複数の都道府県において過去最高の1日当たり新規感染者数を更新する中、夏季休暇などで移動の増加が予想され、全国的にさらなる感染拡大が懸念されること、行政検査の委託契約プロセスの煩雑さから、現行の枠組みを維持しながら検査能力を向上させるには限界があることを指摘している。希望者全員への検査を求めるものではなく、あくまで医師の判断を前提 同日行われた定例記者会見で、釜萢 敏常任理事はまず、不安を感じて検査を受けたいという人全員に実施できることを求めるものではなく、あくまで医師が必要と判断した場合に検査が適切に実施されるよう求めるものであることを強調。そのうえで、検査体制の整備状況は地域によって大きな差が出ており、厚生労働省からは行政検査の委託契約の簡素化を進める事務連絡等が発出されているが、この契約にかかる手続きの煩雑さが全国的な検査拡充の足かせになっていると指摘した。 提言では、新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)1)を活用し、陽性陰性を問わず全数報告を要件とする新たな仕組み2)により、検査にまつわる患者一部負担を公費で措置することを提案。PCR等検査時に患者一部負担は発生せず、その相当分の支払いを医療機関等が請求するには、都道府県等との委託契約が必要となる現行の仕組みを改善すべきとしている。提言7項目の改善を強く求めていく姿勢 中川 俊男会長は、感染は全国的に急速な広がりを見せており、必要な検査を可能なかぎり迅速に実施することが感染拡大防止につながるとし、医師が必要と判断したら、症状の有無にかかわらず検査が実施されるべきと強調した。医師の判断でスムーズに検査が実施されている地域と、制限のある地域に全国で大きな温度差があり、現行制度の枠組みを維持しながら全国的に検査能力を向上させるのは、「限界に達している」とした。 提言の7項目を改善することで、飛躍的に検査能力を上げることができるのではないかと話し、国に対してこの改善を強く求めていく姿勢を明らかにした。「新型コロナウイルス感染症の今後の感染拡大を見据えたPCR等検査体制の更なる拡大・充実のための緊急提言」1.保険適用によるPCR等検査の取り扱いの明確化 保険適用によるPCR等検査については、行政検査の委託契約締結が無くとも実施可能であることをあらためて明確化すること。 また、当該検査の実施料、判断料に係る患者一部負担金を公費で措置すること。2.検体輸送体制の整備 PCR等検査実施医療機関の拡大に対応可能な検体輸送体制を人的・物的両面から整備すること。その際、検体梱包・輸送等に係る費用の補助を行うこと。3.PCR等検査に係る検査機器の配備 新型コロナウイルス感染症対策の緊急性に鑑み、全国各地にPCR検査機器を大幅に増設すること。4.臨床検査技師の適切な配置 PCR等検査の実施にあたり、検査機関に検査に対応できる臨床検査技師を適切に配置すること。5.公的検査機関等の増設 検査対応能力の向上のため、民間検査機関に加え、各地域に公的検査機関等を増設すること。6.PCR等検査受検者への対応体制の整備 検査が終了し、検査結果が出るまでの受検者の待機場所を整備すること。さらに、陽性(軽症者、無症状者)の療養場所としての施設を整備すること。7.医療計画への新興・再興感染症対策の追加 都道府県が策定する医療計画の5疾病5事業に新興・再興感染症対策を速やかに追加すること。

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新型コロナ感染症、ARDSの新たな機序の発見?(解説:山口佳寿博氏)-1265

 本論文は、新型コロナ(SARS-CoV-2)に罹患し肺炎、ARDSを基礎とした重篤な呼吸不全のために死亡した7症例の肺組織を用いて病理・形態像(光顕、走査電顕、微小CT画像、免疫組織化学)ならびに血管増生に関与する323個の遺伝子の発現動態を解析したものである。比較として、A型インフルエンザ(AH1N1)で死亡した症例の肺(7例)と正常肺(10例、肺移植に使用されなかった肺)を用いて上記と同様の解析が施行された。SARS-CoV-2、AH1N1肺の基本病理像はDAD(diffuse alveolar damage)であったが、肺重量はAH1N1で重くSARS-CoV-2肺の1.4倍であった。すなわち、AH1N1肺では血液成分の漏出に起因する肺水腫がより著明であることが示唆された。免疫組織化学による肺胞上皮細胞、肺毛細血管細胞におけるACE2(angiotensin-converting enzyme 2:SARS-CoV-2の受容体でウイルスのS1-RBD[S1領域のreceptor binding domain]と結合)の発現は、正常肺に比べSARS-CoV-2、AH1N1肺で有意に増加していたが、AH1N1肺で最も著明であった。AH1N1の受容体はヒト型シアル酸でウイルスの血球凝集素(HA:hemagglutinin)と結合しACE2とは無関係である。にもかかわらず、AH1N1肺でACE2の発現が増加していたことは興味深い知見である。ARDSは非特異的にACE2の発現を抑制すると報告されてきたが(Patel AB, et al. JAMA. 2020 Mar 24. [Epub ahead of print])、本研究はそれと逆の結果を示しており、どちらが正しいのか、さらなる検討が必要である。CD8陽性T細胞はAH1N1肺で、CD4陽性T細胞はSARS-CoV-2肺で有意に増加していた。しかしながら、これらT細胞の違いがSARS-CoV-2とAH1N1のいかなる病態の差異に結び付いているかに関しては議論されていない。 本研究で最も価値ある解析は、血管内皮細胞傷害と微小血管病変に対する電子顕微鏡的、分子生物学的アプロ-チである。SARS-CoV-2肺では、血管内皮細胞内にウイルスが包埋され、一次性血管内皮細胞炎(endothelialitis)の所見を呈した。それと関連し、広範囲な肺循環(筋性肺動脈、前毛細管性肺細動脈、肺毛細血管、後毛細管性肺細静脈)で血栓形成を認めた。さらに、これらの血管病変には著明な血管増生(angiogenesis)が随伴していた。SARS-CoV-2肺の血管増生はAH1N1肺に比べ2.7倍強く、入院期間が長いほど血管増生の程度は強くなった。一方、AH1N1肺における血管増生は入院期間と無関係にほぼ一定に維持されていた。血管増生に関与する323個の遺伝子解析では、69個の遺伝子がSARS-CoV-2肺のみで変化(upregulation or downregulation)、26個の遺伝子がAH1N1肺のみで変化、45個の遺伝子が両肺で変化していた。すなわち、SARS-CoV-2肺で35%、AH1N1肺で22%の血管増生関連遺伝子が変化しており、SARS-CoV-2感染肺においてより強い血管増生が発生していることを支持する知見であった。 以上の結果は、SARS-CoV-2による重篤な肺病変(ARDS)の主体は、一次性のウイルス誘発性endothelialitisとそれに伴うangiogenesisであり、従来報告されていなかった新たなARDS発生機序を示唆するものである。重篤なendothelialitisはARDSの1つの特徴である肺循環の低酸素性肺血管攣縮麻痺(paralysis of hypoxic pulmonary vasoconstriction)をより強く発現させ、右-左血流シャントを増加、重篤な低酸素血症を惹起するものと予想される(Som A, et al. N Engl J Med. 2020 Jul 17. [Epub ahead of print])。すなわち、SARS-CoV-2由来の低酸素血症は他の原因によるARDSよりも重篤でECMOなどを用いた高度の呼吸管理が必要になることを示している。 本論文の結果は、十分に説得力のある内容であるが反対論文も散見される。SARS-CoV-2感染で死亡した14例の全臓器剖検例の検討で、Bradleyらは(Bradley BT, et al. Lancet. 2020 Jul 16. [Epub ahead of print])、14例中5例で肺微小血管に血栓を認めたものの肺を含む全臓器でendothelialitisを同定できた症例は1例もなかったと報告している。本論文は、SARS-CoV-2にあって最も重要な肺病変(ARDS)に関して新たな分子生物学的概念を提示したが、基本となるendothelialitisの存在については議論があるところであり、さらなる検討が望まれる。

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COVID-19パンデミック時の不安やうつ症状の有症率とその予測因子

 COVID-19による世界的なパンデミックの効果的なマネジメントのため、厳格な移動制限の実施とソーシャルディスタンスを保つことが求められている。キプロス大学のIoulia Solomou氏らは、一般集団におけるCOVID-19パンデミックの心理社会学的影響を調査し、メンタルヘルスの変化を予測するリスク因子と保護因子の特定を試みた。また、ウイルス蔓延を阻止するための予防策の準拠についても調査を行った。International Journal of Environmental Research and Public Health誌2020年7月8日号の報告。 社会人口統計学的データ、予防策の準拠、QOL、全般性不安障害尺度(GAD-7)およびこころとからだの質問票(PHQ-9)を用いたメンタルヘルスの状態を、匿名のオンライン調査で収集した。 主な結果は以下のとおり。・調査を完了した参加者は、キプロス島在住の成人1,642人(女性の割合:71.6%)。・重大な経済上の懸念が報告されたのは48%、QOLの有意な低下が認められたのは66.7%であった。・不安に関連する症状は、軽度が約41%、中等度~重度が23.1%報告された。・うつ病に関連する症状は、軽度が48%、中等度~重度が9.2%報告された。・不安やうつ病のリスク因子は、女性、若年(18~29歳)、学生、失業、精神疾患の既往歴、QOLへの悪影響の大きさであった(p<0.05)。・予防策の準拠レベルは、最も若い年齢層および男性で低かった。・予防策の準拠レベルが高いほど、うつ病スコアの低下が認められたが(p<0.001)、個人的な衛生状態の維持に関する不安は増加した。 著者らは「本研究により、COVID-19アウトブレイクがメンタルヘルスやQOLに及ぼす影響が明らかとなった。政策立案者は、効果的なメンタルヘルスプログラムおよび公衆衛生戦略としての予防策を実施するためのガイドラインを検討する必要がある」としている。

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インフルとCOVID-19同時流行の対策提唱/日本感染症学会

 2020年8月3日、日本感染症学会は『今冬のインフルエンザとCOVID-19に備えて』の提言を学会ホームページ内に公開した。 新型コロナウイルスの流行を推測した研究によると、この冬、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の大流行が予測されており、とくにインフルエンザの流行期と重なることで、重大な事態になることが危惧されている。また、インフルエンザとの混合感染は、COVID-19入院患者の4.3~49.5%に認められている1、2、3)。 そのため、本提言は、石田 直氏(インフルエンザ委員会委員長/倉敷中央病院)をワーキンググループ委員長に迎え、インフルエンザおよびCOVID-19の専門家、医師会の角田 徹氏(東京都医師会副会長/角田外科消化器科医院 院長)や釜萢 敏氏(日本医師会常任理事/小泉小児科医院 院長)が参加して作成された。開業医の視点を取り入れながら議論が進められており、検査の進め方については、両感染症の鑑別を第一とする原則を重視しながらも、流行行状況や感染者との接触、あるいは特徴的な臨床症状を考え、強く疑う感染症の検査を優先する考え方も提唱されている。 掲載内容は以下のとおり。――――――――――――――――――――――――――――I はじめにII インフルエンザとCOVID-19― インフルエンザとCOVID-19の相違(表1)― COVID-19流行レベルの定義の目安(表2)III 検査について  ―各流行レベルにおけるSARS-CoV-2検査の適応指針の目安(表3)  ―個人防護具の使用(表4)  ―鼻かみ液の使用について  ―唾液の使用について  ―鼻前庭検体の取り扱いについて   COVID-19およびインフルエンザを想定した外来診療検査のフローチャート(図)IV 治療について  ―薬剤感受性サーベイランスについて  ―バロキサビルと変異ウイルスについて  ―抗インフルエンザ薬についてV ワクチンについて小児(特に乳幼児〜小学校低学年) 2020-2021VI 基本的な考えVII 診断・検査-総論VIII 検査診断の実際  ― COVID-19流行レベルの定義の目安(表5)  ― 各流行レベルにおける SARS-CoV-2 迅速診断キット(供給状況により核酸増幅検査)の適応指針の目安(表6)  ― 施設別の検体採取部位・検体採取場所・PPE の目安(1)[感染リスクだけではなく、流行状況や診療効率を含めた総合的判定](表7-1)  ― 施設別の検体採取部位・検体採取場所・PPE の目安(2)[感染リスクだけではなく、流行状況や診療効率を含めた総合的判定](表7-2)IX 治療の実際―――――――――――――――――――――――――――― なお、本提言は7月時点での情報をもとに作成しており、検査法に関する新しい技術やエビデンスの発表を受けて適宜改訂される予定。

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新規HIV感染者ゼロを目指して(解説:岡慎一氏)-1267

 ワクチンのない現在、HIV感染を確実に防ぐ方法は2つある。1つは、感染者が治療を受けウイルス量を検出限界以下にすること(Undetectable equals Untransmittable:U=U)と、もう1つは感染リスクのある人が性行為の前に予防薬を飲むこと(Pre-Exposure Prophylaxis:PrEP)である。U=UとPrEPが実行されれば新規感染者はゼロになる、はずである。この論文は、PrEPに関する大規模RCTの結果である。もちろん世界のどんな地域でもHIV感染者より感染リスクのある人(非感染者)のほうが、圧倒的に人数が多い。したがって、PrEPへの注目度は、非常に高い。 この研究では、約5,400人もの参加者をわずか10ヵ月で集めている。当然試験結果も注目を集めるが、2019年2月22日にデータ解析を行い、3月6日に米国のエイズ学会(CROI2019)で報告している。企業の超迅速対応であり、CROI2019で最も注目を集めた演題でもあった。この後2019年の10月3日に、使用されたエムトリシタビン(FTC)/テノホビル アラフェナミド(TAF)(F/TAF)は、米国FDAからPrEPの保険適用が承認された。こちらもFDAの迅速対応である。対照薬は、すでに世界中でPrEPの有効性が確認され多くの国で承認を受けているF/テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩(TDF)(TVD、商品名:ツルバダ)である。もちろん、試験ではF/TAFのTVDに対する非劣性が証明されている。さらに良いことには、F/TAFのほうが有意に骨塩減少や腎障害に対する副作用が少なかったことである。PrEPは、非感染者に投与する、いわゆる飲むワクチンである。したがって、有効性のみならず安全性が非常に重要である。 ちなみに、日本はいまだに毎年1,000以上の新規感染者が出ているにもかかわらず、U=U達成までに数ヵ月以上かかってしまうこと(医療費控除を受けるための手続きに時間がかかる)や、TVDによるPrEPすら認められていない数少ない国である。数年前よりHIV感染の診断と同時に治療ができるように厚生労働省に要望を出しているがなしのつぶてであり、3年前よりPrEPの要望を出しているがこちらも遅々として進んでいない。新規感染者ゼロを目指す国の中では、日本は相当な後進国である。遅滞対応、残念。

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COVID-19特別インタビュー 東京都の検査・トリアージ体制、最新状況と今後の見通しは?

抗原検査や唾液検体が使えるようになり検査の選択肢が広がる中、一般診療の現場ではどのような考え方で目の前の患者さんをトリアージしていくべきか。そして各医療機関は地域の検査体制にどのようにつながっていけばよいのだろうか。東京都では6月下旬からの感染者の再増加を受け、直近では最大約5,000件/日のPCR検査を実施している。検査体制の整備と検査実施の最新状況、そして今後の見通しについて、東京都医師会副会長の角田 徹氏に聞いた。PCRセンターの稼働状況など、現在の東京都の検査実施体制はどうなっていますか?東京都では5月以降、都内に47ある地区医師会を中心に、各地域でのPCR検査の実施を担う地域PCR検査センター(PCRセンター)の設置を進めてきました。現在では23区と多摩地区で、約40ヵ所が稼働しています。保険適用の行政検査を担うのが、このPCRセンターと、従来からの帰国者・接触者外来(都内に84ヵ所)です。その他に、保険診療外で行政が負担する「行政検体」と呼ばれる濃厚接触者の検査を担う東京都健康安全研究センターなどの地方衛生研究所があります。3~4月には、帰国者・接触者外来だけでは医師が「PCR検査が必要」と判断した症例に対応しきれず、検査ができないために診断ができない症例が急増したという状況がありました。こういった状況を改善するために、地域の状況を踏まえながらPCRセンターの設置を進めました。現在の約40ヵ所というのは適正な数ではないかと考えています。かかりつけ医の検査依頼先としては、どちらに依頼するかに差異はありませんが、現在も帰国者・接触者外来では対応しにくい場合もあると聞いていますので、各地域のPCRセンターを活用いただきたいと思います。発熱外来の設置も推進していますか?都医師会として、発熱外来の設置を積極的に推進するということはしていません。というのも、地域によって医療機関の状況に違いがあるからです。たとえば私のクリニックは三鷹市にありますが、三鷹市では医療機関に状況を聞いたところ、約半数の医療機関が発熱者の診療が可能との回答がありました。そこで、発熱者の診療はその半数の医療機関で行うという役割分担を行いました。ただ、地域によってはその役割分担が難しいという場合もあり、その場合は、都内でもいくつか発熱外来を設置している地域があります。「発熱外来の設置」という形式を重視するのではなく、各地域で発熱者の診療を適切に行う体制を整えることが重要と考えます。抗原検査や唾液検体の活用状況について教えてくださいまず抗原検査は、2つに分けて考える必要があります。簡易検査は30分ほどで結果が出て、非常に簡便ですが、精度は劣るようです。東京都で発生したあるクラスターで比較したところ、PCR検査結果との一致率は高くなかった。一方の定量検査は、精度は良好だが専用の機器が必要になる。この機器があるのは全国で現在800ヵ所程度と聞いているので、都内では80~100ヵ所程度ではないでしょうか。抗原定量検査は、救急の現場での活用を推進していくべきではないかと考えています。4~5月には、救急に運ばれてくる患者さんが新型コロナウイルス感染者かどうかわからないということが、現場の大きな負担になりました。各医療機関内で検査を完結することができれば、感染の有無によって対応できます。東京都医師会では東京都に対して、約250ある都内の2次救急病院へ抗原定量検査あるいはPCR検査の機器を導入してもらえるよう、要望をしています。唾液検体の活用がPCR検査と抗原定量検査で認められたことは、非常に大きな変化です。先ほど、PCRセンターの設置数は現状で適正と話しましたが、感染リスクの少ない唾液検体の採取であれば、より多くの医療機関で対応できる可能性がある。そこで当会では、人口1万人当たり1ヵ所(都内で約1,400ヵ所)を目途にPCR検査可能な医療機関を整備していきたいと考えています。行政との契約方法もより簡便に行えるようになってきており、地区医師会などを通じた集合契約が結べるようになったことで、たとえば練馬区などでは、約60人以上のかかりつけ医の先生方が手を上げていただいたと聞いています。7月17日の事務連絡では契約をさらに簡素化する通知が出ており、より多くの医療機関で担っていくことができるのではないかと期待しています。唾液検体の搬送については、従来の民間検査会社が行っている血液や尿検体の搬送と併せて行うことができ、大きな障壁にはならないだろうと考えています。今後、かかりつけ医に求められるのはどのような役割でしょうか?基本的な考え方は4~5月と変わりありません。発熱や感染の不安のある患者さんには、まず電話で相談してもらうよう伝え、電話で可能な範囲で対応をする。この時点で、不安のみが先行していた患者さんについては、除外することができます。先日発表された東京都での約2,000例の抗体検査結果では、感染者は0.1%程度。局地的にクラスターが発生する可能性は常にあるものの、基本的に発熱患者の多くが新型コロナ感染症以外であり、通常の発熱診療・トリアージを行っていただきたい。そして標準予防策をきちんと実施していれば、通常の診療だけでは濃厚接触者にはあたらず、感染リスクは非常に低い。ただし、これからインフルエンザのシーズンが始まると、検査時のリスクが高まります。そこで現在、日本感染症学会を中心にかかりつけ医のための診療のフローチャートをまとめていて、近日中に公表される予定です(注:8月3日に日本感染症学会ホームページ上で公表された)。また現在、宿泊療養施設を増やす努力がされていますが、それでも自宅療養者が激増することはありえます。保健所の業務量は過大となっており、自宅療養者に対しては、やはりぜひかかりつけ医の協力が必要です。陽性者が出た時点で、医師は発生届を提出する義務があります。そこで終わりではなく、継続的な支援をぜひお願いしたい。たとえば、濃厚接触歴をヒアリングすることもできるだろうし、自宅療養中に1日2回、電話で状況を聞くこともできる。それらにより、保健所の負担を軽減できるのではないかと思っています。いま以上に爆発的に感染者が増加する可能性に備えた、東京都医師会としての医療体制整備の考え方・対策案についてお聞かせください継続して要請を行っているのが、1,000~2,000床を備えた、新型コロナ専門病院の設置です。現在の各病院に病床数の確保を求めていくやり方では、通常の医療への影響が大きく、各病院への負担も大きい。新型コロナ専門病院に機能を集約させて、その他の病院では通常通りの診療を行っていくことが、医療全体を維持していくために必要ではないかと考えています。そのうえで、2次救急病院へのPCRないし抗原検査を実施するための機器および必要に応じた人的補完、唾液検査可能な医療機関の拡大、かかりつけ医による自宅療養者へのサポートを推進できるよう、東京都医師会として、各所に要請・支援を行っていきたいと考えています。(インタビュー:2020年7月27日、聞き手・構成:ケアネット 遊佐 なつみ)参考東京都医師会 新型コロナウイルス感染症情報

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