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第29回 新型コロナウイルスはタンパク質生成3工程をどれも妨げてインターフェロンを抑え込む

ヒト細胞がウイルスの侵入を察知するとタンパク質生成の3工程―切り貼り(スプライシング)で成熟したmRNAの核外移行、リボソームでの成熟mRNA翻訳によるタンパク質製造、シグナル認識粒子(SRP)の働きによる細胞膜へのタンパク質誘導が稼働し、感染抑制と加勢要請の伝令役を担うタンパク質・インターフェロンが細胞外へと放たれます1)。とにかくインターフェロンが嫌いらしい新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)はそれら3工程のどれも妨害する手立てを備えていることが先週8日にCell誌に掲載されたカリフォルニア工科大学(Caltech)Mitchell Guttman教授率いるチームの研究で明らかになりました1,2)。SARS-CoV-2が作るタンパク質はおよそ30種あり、Guttman教授のチームはそれらとヒト培養細胞の分子との相互作用を調べました。その結果、ウイルスタンパク質NSP16は3工程の最初の段階・mRNAスプライシングを妨害し、別のウイルスタンパク質NSP1はリボソームを目詰まりさせて第2工程のmRNA翻訳を妨害すると分かりました。それらの妨害をかいくぐってヒトタンパク質が作られたとしてもさらに2つのウイルスタンパク質NSP8とNSP9が行く手を阻みます。NSP8とNSP9はSRPの一部・7SL RNAに結合して細胞膜へのヒトタンパク質輸送を妨げます。そして、それら3工程の妨害はどれもウイルス感染へのインターフェロン反応を抑制すると分かりました。重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者のインターフェロン応答は鈍いことが知られています1)。それに、1型インターフェロン伝達の不具合はCOVID-19の重症化に寄与するらしく、その感染予防にわれわれの体はどうやら他のウイルス感染予防に比べて1型インターフェロンをより頼りとしているようです3)。今回の研究でインターフェロン妨害の担い手が判明したことを受け、インターフェロン反応を底上げする治療薬が開発できそうです。たとえばリボソームRNAを標的とする低分子薬は多く存在し、ウイルスタンパク質NSP1とリボソームの18S rRNAの相互作用を阻害してCOVID-19防御を手助けする薬の開発が期待できます。また、SARS-CoV-2はなんと小賢しいことにNSP1による翻訳阻害がヒトmRNAにだけ及んで自前のウイルスmRNAには及ばないようにする通行手形のような仕組みを備えることも今回の研究で判明していますが、その仕組みを担うウイルスmRNA領域・SL1に結合してウイルスタンパク質生成を遮断する低分子薬の開発も可能でしょう。参考1)How SARS-CoV-2 Disables the Human Cellular Alarm System / Caltech (California Institute of Technology) 2)Abhik K, et al. Cell. 2020 October 08. [Epub ahead of print] 3)Hidden immune weakness found in 14% of gravely ill COVID-19 patients / Science

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内科医も知っておきたい小児感染症の特殊性/日本感染症学会

 2020年8月に現地とオンラインのハイブリッド方式で開催された日本感染症学会学術講演会において、名古屋大学医学部附属病院の手塚 宜行氏(中央感染制御部)が「内科医も知っておきたい小児感染症の特殊性」とのテーマで発表を行った。 手塚氏によると、小児感染症が成人と異なる事項は、以下の4点に集約される。1)年齢(月齢)によってかかる病気が変わる2)ウイルス感染症が多い 3)検体採取が困難なケースが多い4)病勢の進行が速い さらに小児感染症を診るときのチェックリストとして使う「R(A)IMS」という概念を紹介。これは以下の4つの視点から診療するという考え方だ。・R(Risk):基礎疾患の有無・I(Infected organ):感染臓器・M(Microbiology):原因微生物・S(Severity):重症度年齢月齢による違いは非常に大きい 小児感染症のリスク判断基準において、基礎疾患の有無が重要となるのは成人と同様だが、小児特有なのが月齢年齢差による違いだ。例として1998~2007年の米国コホート研究による細菌性髄膜炎の起炎菌についての研究では、新生児ではGBS(B群溶血性連鎖球菌)が多いが、1~3カ月児では腸内細菌細菌が増え、3カ月~3歳児では肺炎球菌の割合が高くなり、3歳~10歳児以上では大半が肺炎球菌になるなど、年齢に応じて起炎菌の発生頻度が劇的に変化することを紹介した。また、「1年に2回以上肺炎にかかる」「気管支拡張症を発症する」など10のワーニングサインにあてはまるときは、原発性免疫不全症が隠れている可能性があるため、注意して診察する必要がある。本人からの病歴聴取が困難なケースも 感染臓器については、病歴聴取と身体診察から推定する流れは成人と変わらないものの、本人から病歴聴取できないことが多い点、家族や保育園からの感染が多くSick contactの把握が非常に重要となる点が成人と異なり、母子手帳から予防接種歴や育児環境情報を把握することが肝要とした。身体診察においても本人が症状を訴えられないことが多いため、保護者の協力を得ることが大切となり、小児に特徴的な部位である大泉門・小泉門などから重要な所見が得られることも多いという。 さらに、小児で見つけにくい感染臓器としては、尿路感染症、固形臓器の膿瘍(急性巣状性細菌性腎炎など)、関節炎・骨髄炎(とくに乳児)、髄膜炎・脳膿瘍(とくに新生児・乳児)、副鼻腔炎、潜在性菌血症などがあり、こうした疾患は兆候から見つけることは難しく、「見つけに行く」姿勢で診察することが重要とした。中でも潜在性菌血症は成人ではほぼ見られないが、結合型ワクチン導入前は、生後3~36カ月の小児における局所的異常のない原因不明の39度以上の発熱がある症例の約3~5%に認められており、無治療の場合は髄膜炎に至る可能性もある。ワクチン導入後の症例数は減っているものの、可能性は頭に入れておくべきという。ウイルス由来が大半だが、注意すべき細菌も 小児疾患はウイルス由来が多いが、日本がほかの先進国に比べてワクチン導入が遅れるという、いわゆる「ワクチンギャップ」は解消されつつあり、多くの小児感染症がワクチンによって感染・重症化予防できることが実証されつつある。小児感染症で注意すべき細菌は多くはないが、肺炎球菌とインフルエンザ菌は成人と比べて想定頻度が極めて高く、百日咳菌は新生児・乳児において重症化し、致死的な場合もあるので注意が必要だという。一方、クロストリディオイデス・ディフィシル菌は、小児の場合には保菌しても発症しないことが多く、多くの場合検査も不要だ。重症化はバイタルサインよりも「見た目」重視で 重症度に関しては、小児のバイタルサインは月齢年齢での変化が大きく、正常値の幅も大きいため、外観や皮膚の色、呼吸といった「見た目」を重視すべきという。 手塚氏は「感染症診療の原則である『感染臓器・原因微生物・抗菌薬をセットで考える』ことは小児でも成人でも同じ。あとはここで紹介した小児特有の事項さえ抑えておけば、内科の先生でも問題なく診察できるはず」とまとめた。

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第26回 新型コロナ入院、対象を高齢、基礎疾患のある患者らに限定

<先週の動き>1.新型コロナ入院、対象を高齢、基礎疾患のある患者らに限定2.財政制度等審議会、高齢者の患者負担など見直しを急ぐ3.新公立病院改革ガイドライン発表延期、ただし進捗の点検・評価は必要4.安倍政権の未来投資会議を廃止、新たに成長戦略会議が発足5.健康食品会社が嘘の体験談で薬機法違反、広告会社・広告主ともに摘発1.新型コロナ入院、対象を高齢、基礎疾患のある患者らに限定菅内閣は10月9日に、新型コロナウイルス感染者のうち、入院対象者を原則65歳以上の高齢者や基礎疾患のある人らに絞る法令改正について閣議決定を行った。今回の改正では、感染症法が定める「指定感染症」の位置付けに変更はなかった。これまでは新型コロナの感染者全員が入院対象だったが、インフルエンザ流行を前に医療機関の負担を減らし、重症者治療に重点を置くための施策。24日に施行となる。(参考)新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令の一部を改正する政令(案)等について(概要)(厚生労働省健康局結核感染症課)2.財政制度等審議会、高齢者の患者負担など見直しを急ぐ8日に開催された財務省の財政制度等審議会・財政制度分科会において、今後の医療や子育てに関して議論を行った。この中でわが国の社会保障の現状について、OECD加盟国と比較して、受益(給付)と負担のバランスが不均衡の「中福祉、低負担」の状況が指摘された。2022年度以降、団塊世代が75歳を超えると、社会保障関係費が急増することが予想できる。これを念頭に、社会保障制度の持続可能性を確保するための改革が急務とされ、現在の年齢が上がるほど患者負担割合が低く、保険給付範囲が広がる構造を含め、患者負担のあり方を見直していく必要があるとした。今後、11月のまとめる建議に向けてさらに議論を行うが、患者負担の増加については国民の関心も高く、医療機関や医師会などとの調整が必要になる見込み。(参考)財政制度等審議会財政制度分科会(令和2年10月8日開催)資料:社会保障について(1)(総論、医療、子ども・子育て、雇用)(財務省)3.新公立病院改革ガイドライン発表延期、ただし進捗の点検・評価は必要総務省は、5日に通知「新公立病院改革ガイドラインの取扱いについて」を各都道府県や指定都市などに向けて発出した。本年の7月までに示すとされていた新ガイドラインは発表を延期するが、今年度は「公立病院改革ガイドライン」の最終年度であることから、新改革プランの進捗状況について点検・評価を求める内容となっている。また、不採算地区の公立病院への財政措置については、地域医療構想の推進に向け、過疎地など経営条件の厳しい地域において、二次救急や災害時などの拠点となる中核的な公立病院の機能を維持する目的で、新たに特別交付税措置を講ずるなどの見直しを行うこととなった。今後の新型コロナ拡大に伴う景気・財政悪化を考えると、リスト外の病院に対してもより一層の健全な病院経営を求められることとなり、地方自治体や医療従事者への影響は避けられない。(参考)新公立病院改革ガイドラインの取扱いについて(通知)(総務省自治財政局準公営企業室長)4.安倍政権の未来投資会議を廃止、新たに成長戦略会議が発足安倍政権が2016年に内閣府に設置し、医療・介護を含むさまざまな分野について検討を重ねてきた未来投資会議が廃止され、菅政権では新たに成長戦略会議として立ち上げることを、9日の閣議後に西村 康稔経済再生担当相が明らかにした。未来投資会議が担っていた機能は縮小される。議長に加藤官房長官、副議長に西村経済再生相と梶山経済産業相がそれぞれ就任し、今後は、経済財政諮問会議が国の経済財政政策をリードし、それに沿った形で成長戦略会議が具体化を検討することとなる。(参考)未来投資会議を廃止 「成長戦略会議」に衣替え―政府(時事ドットコム)5.健康食品会社が嘘の体験談で薬機法違反、広告会社・広告主ともに摘発大阪府警は、嘘の体験談を用いて健康食品の効果をうたった広告・販売を行ったとして、広告会社と広告主の健康食品販売会社「ステラ漢方」を7月に摘発した。今年の3月上旬まで開設されていた商品サイトには「医者が絶句するほどの脂肪肝だった私が1ヵ月で正常値まで下げた『最強健康法』とは?」といった目を引く内容のほか、肝機能の数値改善など効能効果の表記がされていた。商品は健康食品会社ホームページのリンクから購入できる仕組み。なお、同社は2014年にも根拠のない宣伝をしたとして、消費者庁から景品表示法の規定に基づく措置命令を受けている。今後、悪質な広告についてはさらに規制強化が進むだろう。(参考)記事広告が薬機法違反…大阪府警、広告代理店ら6人を逮捕(通販通信)脂肪肝が1ヵ月で……。嘘の体験談で宣伝、広告主を摘発(日本経済新聞)

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薬機法の定めるオンライン服薬指導と「0410対応」は似て非なるもの【赤羽根弁護士の「薬剤師的に気になった法律問題」】第21回

本年9月1日から、改正薬機法の一部が施行されました。今回施行されたものの中で、薬剤師業務に影響が大きいと考えられるのは、患者の継続的な薬学管理が義務付けられたことと、オンライン服薬指導が解禁になったことかと思います。このうちオンライン服薬指導については、新型コロナウイルスのために示された「0410対応1)」によって、すでに電話などによる服薬指導が行われているため、施行となっても大きなインパクトはなかったかもしれません。しかし、この「0410対応」は、あくまで「時限的・特例的」な取り扱いであり、原則として3ヵ月ごとに見直されることとなっており、恒久的なものではありません。麻薬・向精神薬は初診時の処方不可、要件を満たさない場合の処方上限など再周知2020年8月6日に開催された厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」では、当面の間「0410対応」を継続する方針となったようですが、不適切な事例も指摘されました。このような事例を踏まえ、「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いに関する留意事項等について(薬局での対応)」(事務連絡 令和2年9月4日 厚生労働省医薬・生活衛生局総務課)が発出されています。1.初診からの電話や情報通信機器を用いた診療に伴う処方箋により調剤を行う薬局における留意事項初診から電話や情報通信機器を用いた診療を実施する医療機関に関して、4月10日付け事務連絡1.(1)に記載している以下の要件を遵守しない処方が見られたことから、薬局においても、これまでの来局の記録等から判断して疑義がある場合には、処方した医師に以下の要件を遵守しているかどうか確認すること。(1)麻薬及び向精神薬を処方してはならないこと(2)診療録等により当該患者の基礎疾患の情報が把握できない場合は、処方日数は7日間を上限とすること(3)診療録等により当該患者の基礎疾患の情報が把握できない場合は、診療報酬における薬剤管理指導料の「1」の対象となる薬剤(いわゆる「ハイリスク薬」)の処方をしてはならないこと※「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いに関する留意事項等について(薬局での対応)」より一部抜粋これを受けて、日本薬剤師会からも「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いに関する留意事項等について(薬局での対応)2)」(日薬業発 第274号 令和2年9月7日)が発出されています。「0410対応」では、医療機関に対し初診から電話などを用いた診断や処方が認められていますが、この場合、麻薬・向精神薬は処方してはならないことや、状況によって日数の制限が設けられています。薬局では、これらの要件を必ずしも把握できるものではありませんが、疑義がある場合には医師への確認など、適切な運用に資する対応が求められています。日薬も「混同せずに運用する」よう求めている「0410対応」もオンライン服薬指導も、必要性だけでなく安全性も考慮してルールが定められています。単に電話やオンラインでの服薬指導が可能となったということではなく、正しいルールを確認しておく必要があります。今回紹介したこれらの通知も踏まえて、いま一度「0410対応」についての運用を確認するとよいでしょう。また、厚労省の事務連絡においても、薬機法改正による9月1日施行のオンライン服薬指導について言及があるとともに、日本薬剤師会の通知では、時限的・特例的な「0410対応」と薬機法に基づくオンライン服薬指導は異なることを指摘したうえで、混同せずに運用することも求めています。「0410対応」が進んでいるため、オンライン服薬指導も簡易にできるような印象を持ちますが、薬機法上のオンライン服薬指導にはさまざまな要件が設けられており、適法に運用するためにはより注意が必要です。これらの違いも意識し、内容を確認すべきでしょう。参考資料1)「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の 時限的・特例的な取扱いについて」(事務連絡 令和2年4月10日厚生労働省医政局医事課 厚生労働省医薬・生活衛生局総務課)2)「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の 時限的・特例的な取扱いに関する留意事項等について(薬局での対応)」(日薬業発 第274号 令和2年9月7日)

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COVID-19は素早く見つけて包囲し対処/日本感染症学会

 第94回日本感染症学会総会・学術講演会(会長:館田 一博氏[東邦大学医学部 教授])が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行下、8月19日~21日の期日でインターネット配信との併用で東京にて開催された。 今回のテーマは、「感染症学の新時代を切り拓く-“探求する心”を誇りとして-」。学術集会では、特別講演に大隅 良典氏(東京工業大学)、満屋 裕明氏(国立国際医療研究センター)などの講演のほか、招請講演として学会の国際化がさらに前進することを期待し欧米の著名な感染症、ワクチンの専門家が講演者に迎えられた。基調・教育講演でも学際的な交流の活性化を目的にさまざまな臨床領域の講師が登壇した。 本稿では、尾身 茂氏(独立行政法人地域医療機能推進機構 理事長)の基調講演の概要をお届けする。 尾身氏は、現在政府の「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」のメンバーとして、わが国のCOVID-19対策の政策立案の一翼を担っており、講演では「withコロナの時代に私達がどう考え、どう行動すればよいか」をテーマに、第一波後の社会、生活の変遷と今後の展望について語った。感染拡大の要因は「3密、大声の会話、不十分な対策」 はじめに、「3月末~4月の爆発的感染拡大および医療崩壊を辛くも回避できたのは、緊急事態宣言前後の市民の協力、医療関係者および保健所関係者の多大な努力の成果」と述べ、これまでの総括を語った。 緊急事態宣言解除後の感染拡大の主な原因は、「東京の接待を伴う飲食店の利用者などから家庭、病院、職場などで広がったと考えられ、その共通する要因として『3密』、『大声の会話』、『不十分な感染対策』が指摘され、これらは3月の流行時にわかっていたことであり、あらためて確認された」と説明した。感染対策は「後の先(ごのせん)」で抑える 次にこれまでの経過でわかったことを振り返り、「クラスターが発生しても早急に対応できた場合は早く収束できること」、「マスクの着用など対策をすれば街歩きなどでの感染リスクは極めて低いと考えられること(ただしゼロではない)」、「高齢者やとくに基礎疾患のある人は感染すると重症化しやすいこと」、「治療の手順が確立されつつあること」の4点を挙げた。 そして、尾身氏は「COVID-19に対する不安にどう対処するか」という課題に対し、私案としつつ「COVID-19の感染リスクをゼロにすることが難しい以上、先述の感染リスクを避ける行動をした上で、もしクラスターがみつかっても、それを怖がるのではなく、『クラスターが制御できること=安心』と考える意識改革が必要」と提言した。また、感染者への「差別」についても触れ、「社会的に排除すれば、かえって感染症の実態を見え難くさせ、対策を後手に回らせてしまう可能性がある」と警鐘を鳴らした。そこで、COVID-19の拡大に先手を打つには、感染者を排除するのではなく、「感染が起こった事例を教訓として、その教訓を広く社会で共有し、次の感染に備えるということが求められる」と述べた。また、尾身氏は、剣道用語の「後の先」という言葉を使い、感染対策としては「相手をコントロールして、動かせて、抑えることが重要」と強調した。すなわち、常時緊張を強いられる100%の予防やリスクゼロの社会を目指すのではなく、「起こった事例から学び、次の発生やクラスターを抑えるような気構えや仕組みを社会で共有することで、安心感を醸成することができる」と説明した。国は医療機関、保健機関へ支援の充実を 緊急事態宣言発出前後、宣言解除から現在まで医療機関および保健所の負荷が、感染対策上の重要課題と尾身氏は指摘するとともに、今後も全国的に収束と新たなクラスター発生を繰り返すと予想を示した。 また、最後に私案として国へのお願いとして、(1)迅速な医療機関、保健所への効率的かつ効果的な人的、財政的支援(2)接待をともなう業種・地域に対して、都道府県などと協力し、検査体制を含めサポートする仕組みの早急な確立の2点を示し、講演を終えた。

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COVID-19パンデミックによる米国うつ病有病率

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックと感染症防止のための政策は、抑うつ症状に対する未知の影響を伴い、全米に拡大した。米国・ボストン大学のCatherine K. Ettman氏らは、米国成人におけるCOVID-19パンデミックによるの抑うつ症状の有症率とリスク因子を推定するため、検討を行った。JAMA Network Open誌2020年9月1日号の報告。 本研究は、18歳以上の米国成人を対象とした2つの人口ベースの調査を用いた、米国国民生活調査として実施した。COVID-19と生活ストレスによるメンタルヘルスやウェルビーイングへの影響に関する研究より、COVID-19パンデミック期間の推定値を算出した。調査期間は、2020年3月31日~4月13日とした。COVID-19パンデミック前の推定値は、2017~18年に実施した国民健康栄養調査のデータより抽出した。データの分析は、2020年4月15日~20日に実施した。COVID-19パンデミックおよびそれを軽減するための政策に関連するアウトカムへの影響を調査した。主要アウトカムは、抑うつ症状(こころとからだの質問票[PHQ-9]カットオフ値10以上)とした。抑うつ症状の重症度分類は、なし(スコア:0~4)、軽度(スコア:5~9)、中等度(スコア:10~14)、中等度から重度(スコア:15~19)、重度(スコア:20以上)とした。 主な結果は以下のとおり。・COVID-19パンデミック中に調査を完了した参加者は1,470人(完了率:64.3%)であった。データが不十分な参加者のデータは削除し、最終的に1,441人のデータを分析した(18~39歳:619人[43.0%]、男性:723人[50.2%]、非ヒスパニック系白人:933人[64.7%])。・パンデミック前のデータとして、5,065人分のデータが使用された(18~39歳:1,704人[37.8%]、女性:2,588人[51.4%]、非ヒスパニック系白人:1,790人[62.9%])。・抑うつ症状の有病率は、いずれの重症度においてもCOVID-19パンデミック中のほうがパンデミック前よりも高かった。 ●軽度:24.6%(95%CI:21.8~27.7) vs.16.2%(95%CI:15.1~17.4) ●中等度:14.8%(95%CI:12.6~17.4) vs.5.7%(95%CI:4.8~6.9) ●中等度から重度:7.9%(95%CI:6.3~9.8) vs.2.1%(95%CI:1.6~2.8) ●重度:5.1%(95%CI:3.8~6.9) vs.0.7%(95%CI:0.5~0.9)・COVID-19パンデミック中に、抑うつ症状リスクの高さと関連していた因子は以下のとおりであった。 ●収入の少なさ(オッズ比:2.37、95%CI:1.26~4.43) ●収入と支出の差額が5,000ドル未満(オッズ比:1.52、95%CI:1.02~2.26) ●ストレス要因の多さ(オッズ比:3.05、95%CI:1.95~4.77) 著者らは「米国におけるCOVID-19パンデミック中の抑うつ症状有病率は、パンデミック前と比較し、3倍以上高いことが示唆された。社会的資源や経済的資源が少なく、失業などのストレス要因が、抑うつ症状の発症に影響を及ぼしている。COVID-19パンデミック後においては、今後精神疾患の発症が増加する可能性があり、とくに高リスク集団では、注意が必要である」としている。

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COVID-19、ECMO導入患者の院内死亡率は?/Lancet

 体外式膜型人工肺(ECMO)を導入された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者では、装着から90日後の推定死亡率、および入院中の患者を除く最終的に死亡または退院となった患者の死亡率はいずれも40%未満であり、これは世界の多施設のデータであることから、COVID-19患者で一般化が可能な推定値と考えられることが、米国・ミシガン大学のRyan P. Barbaro氏らExtracorporeal Life Support Organization(ELSO)の検討で明らかとなった。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2020年9月25日号に掲載された。いくつかの大規模な医療組織では、COVID-19関連の急性低酸素性呼吸不全患者に対してECMOによる補助が推奨されている。一方、COVID-19患者でのECMO使用に関する初期の報告では、きわめて高い死亡率が示されているが、COVID-19患者におけるECMO使用に関する大規模な国際的コホート研究は行われていなかった。36ヵ国213施設のECMO導入患者を解析 研究グループは、ELSOレジストリのデータを用いて、2020年1月16日~5月1日の期間に36ヵ国213施設でECMOが導入された年齢16歳以上のCOVID-19確定例の疫学、入院経過、アウトカムの特徴を解析した(特定の研究助成は受けていない)。 COVID-19の診断は、臨床検査で重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の存在が確認された場合と定義された。フォローアップのデータは、2020年8月3日まで更新された。 主要アウトカムは、ECMO開始から90日の時点でのtime-to-event解析による院内死亡とした。多変量Coxモデルを用いて、患者因子と病院因子が院内死亡率と関連するかを評価した。ECMO導入から90日の院内死亡率は37.4% ECMOを導入されたCOVID-19患者1,035例のデータが解析に含まれた。年齢中央値は49歳(IQR:41~57)、BMI中央値は31(IQR:27~37)で、74%が男性であった。 724例(70%)がECMO導入前に1つ以上の併存疾患を有し、819例(79%)が急性呼吸促迫症候群(ARDS)、301例(29%)が急性腎障害、50例(5%)が急性心不全、22例(2%)が心筋炎を有していた。 1,035例のうち、67例(6%)が入院を継続しており、311例(30%)が退院して自宅または急性期リハビリテーション施設へ、101例(10%)が長期急性期治療(long-term acute care)施設または詳細不明の場所へ、176例(17%)が他院へ移り、380例(37%)が院内で死亡した。 ECMO導入から90日の院内死亡の推定累積発生率は37.4%(95%信頼区間[CI]:34.4~40.4)であった。また、入院中の67例を除く、最終的に院内死亡または退院した968例の死亡率は39%(380例)だった。 一時的な循環補助(静脈-動脈ECMO)の使用は、院内死亡率の上昇と独立の関連が認められた(ハザード比[HR]:1.89、95%CI:1.20~2.97)。また、呼吸補助(静脈-静脈ECMO)を受け、ARDSと診断された患者の90日院内死亡率は38.0%であった。 著者は、「世界の200ヵ所以上の施設でECMOを導入されたCOVID-19患者の検討により、ECMO導入患者における一般化可能な推定死亡率がもたらされた。これらの知見は、難治性のCOVID-19関連呼吸不全患者では、経験豊かな施設においてはECMOの使用を考慮すべきとの、これまでの推奨を支持するものである」としている。

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Dr.水谷の妊娠・授乳中の処方コンサルト

第1回 【妊娠中】解熱鎮痛薬・抗菌薬・抗インフルエンザ薬第2回 【妊娠中】抗てんかん薬・抗うつ薬・麻酔薬第3回 【妊娠中】β刺激薬・チアマゾール・レボチロキシン第4回 【妊娠中】経口血糖降下薬・ワルファリン・制酸薬第5回 【妊娠中】抗リウマチ薬・抗アレルギー薬・タクロリムス外用薬第6回 【妊娠中】漢方薬・CT,MRI検査・悪性疾患の治療方針第7回 【授乳中】解熱鎮痛薬・抗菌薬・抗ウイルス薬第8回 【授乳中】抗てんかん薬・向精神薬・全身麻酔第9回 【授乳中】胃腸薬・降圧薬・抗アレルギー薬第10回 【授乳中】ステロイド・乳腺炎への対処・造影検査後の授乳再開 臨床では妊娠中・授乳中であっても薬が必要な場面は多いもの。ですが、薬剤の添付文書を見ると妊婦や授乳婦への処方は禁忌や注意ばかり。必要な治療を行うために、何なら使ってもいいのでしょうか?臨床医アンケートで集めた実際の症例をベースとした30のQ&Aで、妊娠中・授乳中の処方の疑問を解決します。産科医・総合診療医の水谷先生が、実臨床で使える、薬剤選択の基準の考え方、そして実際の処方案を提示します。第1回 【妊娠中】解熱鎮痛薬・抗菌薬・抗インフルエンザ薬臨床医アンケートで集めた妊婦・授乳婦への処方の疑問を症例ベースで解説・解決していきます。初回は、妊娠中の解熱鎮痛薬、抗菌薬、抗インフルエンザ薬の選択についてです。明日から使える内容をぜひチェックしてください。第2回 【妊娠中】抗てんかん薬・抗うつ薬・麻酔薬妊娠を機に服薬を自己中断してしまう患者は少なくありません。そして症状の悪化とともに受診することはよくあります。今回は抗てんかん薬、抗うつ薬の自己中断症例から妊娠中の薬剤選択について解説します。緊急手術時に必須の麻酔薬の処方についても必見です。第3回 【妊娠中】β刺激薬・チアマゾール・レボチロキシン喘息は妊娠によって症状の軽快・不変・増悪いずれの経過もとりえます。悪化した場合にβ刺激薬やステロイド吸入など一般的な処方が可能のか?甲状腺関連の疾患では妊娠の希望に応じて、バセドウ病患者はチアマゾールを継続していいのか?橋本病ではレボチロキシンを変更すべきなのか?といった実臨床で遭遇する疑問を解決します。第4回 【妊娠中】経口血糖降下薬・ワルファリン・制酸薬今回のクエスチョンは弁置換術既往の妊婦の抗凝固薬選択。ワルファリンからヘパリンへの変更は適切なのでしょうか?降圧薬の選択では妊娠週数に応じて使用可能な薬剤が変わる点を必ず押さえましょう!そのほか、妊娠中の内視鏡検査の可否とその判断、2型糖尿病の薬剤選択についても取り上げます。2型糖尿病管理は、薬剤選択とともに血糖管理目標についてもチェックしてください。第5回 【妊娠中】抗リウマチ薬・抗アレルギー薬・タクロリムス外用薬膠原病があっても妊娠を継続するにはどのような薬剤選択が必要なのでしょうか?メトトレキサートや抗リウマチ薬の処方変更について解説します。花粉症症状に対する抗アレルギー薬処方、アトピー性皮膚炎へのタクロリムス外用薬の継続可否など、臨床で頻用される薬剤についての解説もお見逃しなく。第6回 【妊娠中】漢方薬・CT,MRI検査・悪性疾患の治療方針妊娠中に漢方薬を希望する患者は多いですが、どういうときに漢方薬を使用すべきなのでしょうか?上気道炎事例を入り口に、妊婦のよくある症状に対する漢方薬の処方について解説します。CTやMRIの適応判断に必要な放射線量や妊娠週数に応じたリスクを押さえ、がん治療については永久不妊リスクのある治療をチェックしておきましょう。第7回 【授乳中】解熱鎮痛薬・抗菌薬・抗ウイルス薬今回から授乳中の処方に関する質問を取り上げます。授乳中処方のポイントはRID(相対的乳児投与量)とM/P比(母乳/母体濃度比)。この2つの概念を理解して乳児への影響を適切に検討できるようになりましょう。今回取り上げるのは、解熱鎮痛薬、抗菌薬、抗インフルエンザ薬といった日常診療に必要不可欠な薬剤。インフルエンザについては、推奨される薬剤はもちろん、家庭内での感染予防に対する考え方なども必見です。第8回 【授乳中】抗てんかん薬・向精神薬・全身麻酔ほとんどの母親は服薬中も授乳継続を希望します。多くの薬剤は添付文書上で授乳中止が推奨されていますが、実は授乳を中断しなくてはならないケースはあまり多くありません。育児疲労が増悪因子になりやすい、てんかんや精神疾患について取り上げ、こうした場合の対応を解説します。治療と母乳育児を継続するための、薬剤以外のサポートについても押さえておきましょう。第9回 【授乳中】胃腸薬・降圧薬・抗アレルギー薬授乳中の処方で気を付けるべきは、薬剤の児への移行だけではありません。見落としがちなのが、乳汁分泌の促進・抑制をする薬剤があるということ。症例ベースのQ&Aで、胃腸薬、降圧薬、抗アレルギー薬など日ごろよく処方する薬の注意点を解説していきます。OTC薬で気を付けるべき薬剤やピロリ菌除菌の可否なども押さえておきましょう。第10回 【授乳中】ステロイド・乳腺炎への対処・造影検査後の授乳再開ステロイド全身投与で議論になるのは児の副腎抑制と授乳間隔。どちらも闇雲に恐れる必要はありません。乳腺炎については、投与可能な薬剤だけでなく再発を予防するための知識を押さえておきましょう。造影剤使用後の授乳再開については日米での見解の違いを臨床に活かすための知識を伝授します。

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ESMO2020レポート 消化器がん(上部下部消化管)

レポーター紹介本年度の欧州臨床腫瘍学会(ESMO Virtual Congress 2020)は、昨今の新型コロナウイルス感染症の社会情勢を鑑み、完全バーチャル化して2020年9月19日~21日まで開催された。消化管がん領域における注目演題についてレポートする。CheckMate-649試験本邦の実臨床が大きく変わるであろう臨床試験結果の演題として、未治療のHER2陰性進行胃・食道胃接合部がん・食道腺がんにおける化学療法+ニボルマブ併用療法の化学療法に対する優越性が検証されたCheckMate-649試験を報告する。HER2陰性進行胃・食道胃接合部がん・食道腺がんでは、フッ化ピリミジン系薬剤とプラチナ系薬剤の併用療法を行うことが標準治療として位置付けられている。また、本邦では後方ラインの治療としてすでにニボルマブが実地臨床でも使用されている。そこで、HER2陰性進行胃・食道胃接合部がん・食道腺がんを対象に化学療法群(カペシタビン+オキサリプラチン併用療法または、FOLFOX療法)に対して、化学療法+ニボルマブ併用療法群、またはイピリムマブ+ニボルマブ併用療法群のそれぞれの優越性を検証したCheckMate-649試験が行われた。今回のESMOでの報告では、化学療法+ニボルマブ併用療法群および、化学療法群を比較した結果が公表された。主要評価項目は化学療法+ニボルマブ併用療法群の化学療法群に対する、CPS5以上のPD-L1陽性例でのOSとPFSだった。副次評価項目は、CPS1以上のPD-L1陽性例でのOS、ランダム化された症例でのOSなどであった。ランダム化1,581例のうちCPS5以上のPD-L1陽性例は955例(60%)であった。両群の患者背景に差はなかった。アジア人は化学療法+ニボルマブ併用療法群が25%、化学療法群が24%、MSSは化学療法+ニボルマブ併用療法群が89%、化学療法群が88%であった。後治療移行割合は、全体で39%、化学療法+ニボルマブ併用療法群で38%、化学療法群で41%であった。後治療として免疫療法を受けたのは、化学療法+ニボルマブ併用療法群が2%、化学療法群が8%であった。主要評価項目であるCPS5以上のPD-L1陽性例におけるOS中央値は、化学療法+ニボルマブ併用療法群で14.4ヵ月(95%CI:13.1~16.2)、化学療法群で11.1ヵ月(95%CI:10.0~12.1)、HR 0.71(98.4%CI:0.59~0.86)、p<0.0001と化学療法+ニボルマブ併用療法群が有意に良好であった。CPS1以上のPD-L1陽性例においても同様に、化学療法+ニボルマブ併用療法群で化学療法群よりもOSが良好であった。さらに、全ランダム化症例におけるOS中央値も、化学療法+ニボルマブ併用療法群が化学療法群よりも有意に良好であった(OS中央値:13.8ヵ月vs.11.6ヵ月、HR:0.80、p=0.0002)。CPS5以上のPD-L1陽性例の奏効割合は、化学療法+ニボルマブ併用療法群で60%、化学療法群で45%と、化学療法群+ニボルマブ併用療法群で有意に高かった(p<0.0001)。完全奏効は化学療法+ニボルマブ併用療法群で12%、化学療法群で7%に認められた。化学療法+ニボルマブ併用療法群で安全性に関する新たな情報はなかった。以上の結果から、演者らは、HER2陰性進行胃・食道胃接合部がん・食道腺がんにおける化学療法+ニボルマブ併用療法は標準治療の1つと考えられると結論付けた。ATTRACTION-4試験現在、本邦では胃がん領域において免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブが実地臨床で用いられている。本試験は、HER2陰性の切除不能進行再発胃がん/食道胃接合部がんにおける1次化学療法として、化学療法+ニボルマブ併用療法と化学療法をHead-to-Headで比較した第III相試験として日本・韓国・台湾で実施された。主要評価項目は、PFSとOSに設定され、副次評価項目は奏効割合、安全性などであった。統計学的に、最終解析においてPFS、OSでそれぞれ両側α=0.01、0.04として設定された。化学療法(SOXまたはCapOX)+ニボルマブ併用療法、化学療法にそれぞれ1:1に割り付けられた。2017年3月から2018年5月までに724例が登録され、化学療法+ニボルマブ併用療法群に362例、化学療法群に362例が割り付けられた。患者背景に両群で差は認めなかった。後治療移行割合は、化学療法+ニボルマブ併用療法群で64%、化学療法群で68%であった。後治療としてニボルマブあるいはペムブロリズマブを受けたのは、化学療法+ニボルマブ併用療法群が10%、1%、化学療法群が25%、2%であった。主要評価項目であるPFS中央値は、化学療法+ニボルマブ併用療法群で10.45ヵ月(95%CI:8.44~14.75)、化学療法群で8.34ヵ月(95%CI:6.97~9.40)、HR 0.68(98.51%CI:0.51~0.90)、p=0.0007と有意に化学療法+ニボルマブ併用療法群で良好な成績であった。OSについては、OS中央値が化学療法+ニボルマブ併用療法群で17.45ヵ月(95%CI:15.67~20.83)、化学療法群で17.15ヵ月(95%CI:15.18~19.65)、HR 0.90(95%CI:0.75~1.08)、p=0.257と統計学的有意差は示せない結果となった。カプランマイヤー曲線をみると、全体としてわずかに化学療法+ニボルマブ併用療法群が上回っていた。奏効割合は、化学療法+ニボルマブ併用療法群で57.5%、化学療法群で47.8%と化学療法+ニボルマブ併用療法群で有意に高かった(p=0.0088)。完全奏効は、化学療法+ニボルマブ併用療法群で19.3%、化学療法群で13.3%であった。安全性に関しては、化学療法+ニボルマブ併用療法群で新たな情報はなかった。CheckMate-649試験の結果を受けて、日本の実地臨床でも近い将来、初回化学療法から免疫チェックポイント阻害薬を併用する治療が標準治療となっていくものと考えられる。しかしながら、これまで進行胃がんの1次治療における化学療法+免疫チェックポイント阻害薬併用療法の有用性を検証した臨床試験として、KEYNOTE-062試験、CheckMate-649試験、ATTRACTION-04試験の3つの大規模試験が示されているが、全体集団のOSにおいて、化学療法+免疫チェックポイント阻害薬の有効性を示したのはCheckMate-649試験のみとなっている。なぜこのような結果となったのか。異なる臨床試験間の比較をすることは御法度だが、ATTRACTION-04試験はアジアで行われた試験であること(標準治療群のOSが17ヵ月というのは驚異的な成績である)、後治療の移行割合(免疫チェックポイント阻害薬を含む)の違い、併用backboneレジメンの違い、CPSの評価方法の違い、あるいは胃がん特有のheterogeneityなのか、検討すべき点は多々あると思われる。昨今は胃がんにおいても次々と新規薬剤が承認される時代に突入したが、予後不良の胃がん患者において実際に「薬の使い切り」を行える症例は少ないのが現状である。より効果の高い治療をより効果の高い患者へ最適に届けることが今後の課題といえよう。KEYNOTE-590試験進行食道がんの初回化学療法は、フルオロピリミジン+プラチナ系薬剤併用(FP)療法が標準治療として用いられている。ペムブロリズマブ単独療法は、KEYNOTE-181試験において、CPS10以上のPD-L1陽性の既治療食道扁平上皮がん症例で化学療法との比較が行われ、奏効割合22% vs.7%、OS中央値10.3ヵ月 vs.6.7ヵ月と報告されている。本試験は、腺がんを含む進行食道がんの初回化学療法における化学療法+ペムブロリズマブ併用療法の化学療法に対する優越性を検証した、無作為化二重盲検第III相試験である。治療は、化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群は5-FU+CDDP+ペムブロリズマブを3週ごと、化学療法+プラセボ群は5-FU+CDDP+プラセボを3週ごとに投与された。主要評価項目は、OS(扁平上皮がん患者、扁平上皮がんかつCPS10以上のPD-L1陽性、CPS10以上のPD-L1陽性、全登録患者)とPFS(扁平上皮がん患者、CPS10以上のPD-L1陽性、全登録患者)であった。副次評価項目は、奏効割合、安全性などであった。2017年7月から2019年6月までに749例が登録され、化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群に373例、化学療法+プラセボ群に376例が無作為に割り付けられた。患者背景に両群で差はなかった。アジア人は化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群が53%、化学療法+プラセボ群が52%、扁平上皮がんは化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群が74%、化学療法+プラセボ群が73%、CPS10以上のPD-L1陽性例は化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群が50%、化学療法+プラセボ群が52%であった。 扁平上皮がん患者におけるOS中央値は、化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群が12.8ヵ月(95%CI:10.2~14.3)、化学療法+プラセボ群が9.8ヵ月(95%CI:8.6~11.1)、HR 0.72(95%CI:0.60~0.88)、p<0.0001と化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群で有意に良好だった。CPS10以上のPD-L1陽性患者におけるOS中央値は、化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群が13.5ヵ月(95%CI:11.1~15.6)、化学療法+プラセボ群が9.4ヵ月(95%CI:8.0~10.7)、HR 0.62(95%CI:0.49~0.78)、p<0.0001と化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群で有意に良好だった。全登録患者におけるOS中央値は、化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群が12.4ヵ月(95%CI:10.5~14.0)、プラセボ群が9.8ヵ月(95%CI:8.8~10.8)で、HR 0.73(95%CI:0.62~0.86)、p<0.0001と化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群で有意に良好だった。PFS中央値も、扁平上皮がん患者、CPS10以上のPD-L1陽性患者、全登録患者において、それぞれで化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群が化学療法+プラセボ群と比較して有意に良好であった。奏効割合は、全登録患者において、化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群が45.0%、化学療法+プラセボ群が29.3%と化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群で有意に高かった(p<0.0001)。安全性に関しては新たな問題は認められなかった。以上の結果から、演者らは食道胃接合部腺がんを含む進行食道がんに対する初回化学療法として、化学療法とペムブロリズマブ併用療法を第1選択に考慮すべきと結論付けている。今回の試験の結果をもって、本邦でも進行食道がんの初回化学療法として免疫チェックポイント阻害薬を併用する治療が標準治療となるだろう。本邦で最も頻度の高い組織型である食道扁平上皮がんに対する初回化学療法として、FP療法、FP+ニボルマブ併用療法、イピリムマブ+ニボルマブ併用療法を比較するCheckMate648試験の結果も今後報告されてくる。また、最近では、FOLFOX療法が食道がんに対して実施が認められており、オキサリプラチンと免疫チェックポイント阻害薬の併用療法なども開発が進んでいくものと思われる。現在はまさに食道がん化学療法の転換期に当たるといわれ、今後の展開に期待したい。

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新型コロナ、米国成人の抗体陽性率は約9%/Lancet

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの第1波の期間中に、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)への抗体を獲得していた米国成人集団は10%に満たず、抗体保有者で診断を受けていたのも10%未満であった。米国・スタンフォード大学のShuchi Anand氏らが、米国の透析患者を対象としてSARS-CoV-2抗体陽性率を検証した横断研究の結果を報告した。米国の透析患者の多くが毎月定期的に検査を受けており、実用的で偏りなく繰り返しSARS-CoV-2血清陽性率を評価することが容易であった。検討では、4つの層別(年齢、性別、地域、人種/民族)の推定値も算出し、それらの結果を踏まえて著者は、「SARS-CoV-2の伝播を抑える公衆衛生の取り組みは、とくに人種/民族的マイノリティーと人口密度の高いコミュニティーを対象とする必要がある」と述べている。Lancet誌オンライン版2020年9月25日号掲載の報告。透析患者約2万8,000例の毎月の定期検査から血清陽性率を推定 研究グループは、米国の透析施設約1,300施設の検体が集まる中央検査機関の協力を得て、2020年7月に透析を受けた成人患者から無作為に抽出された残存血漿2万8,503検体について、スパイクタンパク質の受容体結合ドメインに対する全抗体を化学発光法により検出した(感度100%、特異度99.8%)。 匿名化された電子カルテから年齢、性別、人種/民族に関するデータおよび居住地と施設の郵便番号を抽出し、患者レベルのデータを人口10万人当たりの累積症例数・1日症例数・死亡数、鼻腔スワブ検査陽性率と関連付けた。さらに、米国の全透析集団(全米透析集団)および成人集団(全米成人集団)に基づいて推定有病率を標準化し、事前に設定した4つの層別(年齢、性別、地域、人種/民族)の推定値を示した。民族/人種的マイノリティーや人口密度の高い地域の住民で陽性率が上昇 抽出母集団の「年齢・性別・人種/民族の分布」は、全米透析集団と類似していた一方で、全米成人集団と比較すると、「高齢者」「男性」「黒人およびヒスパニック系が多い地域に住む人」の割合が高かった。 SARS-CoV-2血清陽性率は、抽出母集団で8.0%(95%信頼区間[CI]:7.7~8.4)であり、全米透析集団に標準化した場合は8.3%(8.0~8.6)、全米成人集団に標準化した場合は9.3%(8.8~9.9)であった。全米透析集団に標準化した場合、血清陽性率は西部の3.5%(95%CI:3.1~3.9)から北東部の27.2%(25.9~28.5)の範囲にわたっていた。 人口10万人当たりの血清陽性率と症例数を比較すると、血清陽性者でCOVID-19と診断されていたのは9.2%(95%CI:8.7~9.8)であった。SARS-CoV-2感染の他の評価項目と比較すると、人口10万人当たりの死亡数と最も相関していたのは血清陽性率であった(Spearmanのp=0.77)。 血清陽性のオッズ比(OR)は、非ヒスパニック系白人が多い地域の居住者と比較し、非ヒスパニック系黒人(OR:3.9、95%CI:3.4~4.6)ならびにヒスパニック系が多い地域の居住者(2.3、1.9~2.6)で上昇し、人口密度が最低五分位の地域の居住者と比較して最高五分位の地域の居住者で上昇した(10.3、8.7~12.2)。 2020年3月初旬の移動制限で出勤を5%以上減少した郡は、5%未満の郡と比較し、2020年7月の血清陽性ORが低下した(OR:0.4、95%CI:0.3~0.5)。

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第27回 見切り発車のオンライン診療には課題が山積み!恒久化の前にやるべきこと

菅 義偉首相は、オンライン診療の恒久化を目指している。現在、新型コロナ対応の特例措置により、初診も含め全面解禁している(2020年4月~)が、そこから見えてきた課題を解決してから、恒久化を進める必要があるのではないだろうか。ここ半年の厚生労働省の動きを改めて見てみる。厚労省は4月10日付の事務連絡において、電話・オンライン診療の初診を時限的に解禁した。ただし、以下の要件を付けている。濫用や横流しのリスクに対応するため、麻薬及び向精神薬の処方は不可。カルテや紹介状などで患者の基礎疾患を把握できない場合は、処方日数は7日間を上限とし、ハイリスク薬(抗がん剤や免疫抑制剤など安全管理のために専門による薬学的管理が必要な医薬品)の処方は不可。必要に応じて対面診療への移行を促す。その上で、初診で電話やオンラインによる診療を行った場合、都道府県に毎年届け、報告を受けた厚労省は3ヵ月ごとに改善のための検証を行うことになった。4~6月の実績がまとまり、8月6日に開かれた厚労省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」(座長=山本 隆一・医療情報システム開発センター理事長)。厚労省側から示された資料によれば、初診・再診を含め時限的・特例的な電話やオンラインでの診療に対応していたのは、医療機関の約13%(4~6月の平均)で、初診に対応していたのは約5%にとどまった。初診を電話やオンラインで対応することに懐疑的な医療機関が多かったものと思われるが、それでも3ヵ月で1万7,000人超の患者がオンライン上で受診していた。問題は、初診の半数以上が電話対応だったことだ。しかも、主な症状や疾患は「発熱」が最多で、次いで「上気道炎」「気管支炎」」が続いた。これらは新型コロナウイルス感染も疑いうる症状だが、多くのケースで自宅待機が指示されており、検査を受けるために対面診療を勧める「受診勧奨」は少なかった。いったい電話だけでどうやって判断したのだろうか。もう一つの問題点は、「不可」とされている麻薬や向精神薬も処方されていたことだ。また、ハイリスク薬を処方したケースは電話で43件、オンライン診療で29件あり、8日分以上処方したケースは541件に上った。特例措置で、麻薬などを処方してはいけないという要件が十分に周知されていなかったこともあり、厚労省は特例措置に対応した研修コンテンツの作成を検討することにした。患者側の利用方法にも問題があり、遠方の医師に電話・オンライン診療を受けるケースが見られたこともわかった。医師が対面診療の必要性を感じた時、患者の居住地域の医療事情がわからないと適切な医療機関を紹介できない可能性がある。そこで、今後はおおむね2次医療圏内に住んでいる患者を対象にするのが望ましいということになった。厚労省は8月26日付で、「電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いに関する留意事項」の事務連絡を発出した。これは先の検討会で報告された問題点を踏まえたもので、要件の徹底を求め、守っていない医療機関について、厚労省が都道府県に情報提供し、都道府県は実態調査を行った上、必要な指導を行うことなどを示した。課題に対する対応策を打ち出すのはいいのだが、どうも後手後手感が否めない。コロナが予断を許さない状況で対策が急がれるのは確かだが、ここまでの国の対応を見るにつけ、医療現場の懸念や疑問を丁寧に拾い上げて検証しておけば、もう少し先回りでルールづくりができたのではないかと思われる。オンライン診療は、コロナ共存時代の今となっては進めていくしかないのかもしれないが、音声だけで患者の表情や動きがわからない電話での初診には、懸念しか思い浮かばない。

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Moderna社のコロナワクチン、高齢者に安全・有効か/NEJM

 米国・国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)とModerna(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)が共同で開発中の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)mRNAワクチン「mRNA-1273」について、56歳以上の高齢者を対象にした第I相臨床試験の結果が明らかにされた。米国・エモリー大学のEvan J. Anderson氏らによる検討で、主な有害事象は軽度~中等度であり、2回接種後全例で中和抗体が検出。抗体結合・中和抗体力価は100μg用量群が25μg用量群よりも高値であることが示された。mRNA-1273については、すでに18~55歳を対象にした第I相臨床試験で安全性と被験者全例で中和抗体が検出されたことが報告されている。今回の結果を踏まえて著者は、「第III相臨床試験では100μg用量を用いることが支持された」と述べている。NEJM誌オンライン版2020年9月29日号掲載の報告。25μgまたは100μgを28日間隔で2回投与 研究グループは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の疾患発症と死亡の増加が高齢者で多く認められることから、高齢者でウイルス感染を予防するワクチン候補の検討が重要であるとして本試験を行った。 試験は第I相の用量漸増非盲検試験。検討したmRNA-1273は、健康な成人の安定化融合前SARS-CoV-2スパイクタンパク質(S-2P)をエンコードする。 試験は高齢者40例を包含するよう拡大され、また被験者は年齢群(56~70歳または71歳以上)で層別化された。全被験者は28日間隔で、25μgまたは100μgの2つの用量のワクチンを順次接種されるよう割り付けられた。抗S-2P GMT、100μg群は25μg群よりも高値 試験期間中の有害事象は、主に軽度~中等度で、疲労感、寒気、頭痛、筋肉痛、注射部位の痛みなどの頻度が高かった。こうした有害事象は用量依存に認められ、2回目の接種後に発生率が高かった。 結合抗体反応は、初回接種後に急激に増大した。25μg群では、57日までの抗S-2P幾何平均抗体価(GMT)が、56~70歳群で32万3,945、71歳以上で112万8,391だった。また、100μg群のGMTはそれぞれ、118万3,066と363万8,522だった。 2回目を接種後、複数の方法によって全被験者で血清中和抗体が検出された。 結合抗体反応や中和抗体反応は、すでに公表された18~55歳を対象に行った試験結果と類似しており、また、回復患者の血清を用いた血清療法を受けた対照群の同中央値を上回っていた。なおワクチンは、1型ヘルパーT細胞が関与する強力なCD4サイトカイン反応を誘発したことが認められた。

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第27回 トランプ大統領に抗体カクテル投与 その意味と懸念

トランプ入院、世界の医療現場にも影響こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。週末は、高尾山にハイキングに行って来ました。599mの低山ですが、NHKの人気番組「ブラタモリ」でも紹介された東京有数の観光地です。たまたま先週の「ブラタモリ」は「日本の山スペシャル」で、2016年放送の高尾山の回のダイジェストを放送していたのですが、こうした番組を観ても実際に登っても、その魅力がよくわからない不思議な山です。いつもとても混んでいますが、先週も激混みで、登山道は夏の富士山並みに長い行列ができていました。印象的だったのは高齢者(60~70代)の登山者が目立っていたことです。コロナ禍で、北アルプスや南アルプス、あるいは八ヶ岳や奥秩父といった山は高齢者登山者が激減しています。勢い、日帰りで登れる高尾山などの低山の人気が高まっているようです。しかし、標高599mと言っても山は山。谷沿いの6号路などは足を踏み外すと危ない場所もあります。高齢者は山での事故率が高く、今後、高尾山での遭難や事故が増えそうで心配です。さて、今回は日本の医療現場から少し離れ、世界の医療現場にも影響を及ぼしかねない、米国のドナルド・トランプ大統領が新型コロナウイルス感染で受けたとされる治療法について、少し考えてみたいと思います。「コンパッショネート・ユース」で未承認の抗体医薬投与トランプ米大統領は2日未明(現地時間)にツイッターで、自分自身とメラニア夫人が新型ウイルス陽性となったことを発表。同日に、首都ワシントン郊外のウォルター・リード陸軍医療センターに入院しました。CNNなどの米メディアをはじめ、日本でも各紙がトランプ大統領の容態やホワイトハウスで発生したクラスターの状況を逐一伝え、5日の退院後も報道合戦は続いています。それらの報道を読んで気になったのは、トランプ大統領が投与されている治療薬です。10月3日付のCNNは、トランプ大統領が2日、米国のバイオテクノロジー企業リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Regeneron Pharmaceuticals)社が開発した未承認の抗体医薬8gの投与を受けたとホワイトハウスが公表した、と報じました。リジェネロン社も同治療薬を提供したことを確認。大統領の主治医から未承認薬の人道的使用を認める、いわゆる「コンパッショネート・ユース」の要請があったと明らかにした、とのことです。トランプ大統領の治療薬としては、その後、レムデシビル、デキサメタゾンの投与も明らかになっていますが、未承認の抗体医薬をまず使った、というところがなかなかに興味深い点です。また、大統領といえども「勝手に使わせろ」と薬の提供を求めたのではなく、米国のコンパッショネート・ユースの制度に則った点も面白いです。もっとも、米国において未承認薬のコンパッショネート・ユースが例外的に認められるのは、ほかの代替療法では効果が得られなかった場合とされており、トランプ大統領への投与を「ゴリ押しだ」との批判も上がっているようです。「血漿療法」よりも有望と判断かさて、トランプ大統領に使われたリジェネロンの抗体医薬は「REGN-COV2」という名称で開発中の薬です。2種のモノクローナル抗体を組み合わせた薬のため「Antibody Cocktail(抗体カクテル)」とも呼ばれています。ワクチンはヒトの体に抗体をつくらせて感染予防や重症化予防の効果をもたらすものですが、抗体医薬とは、抗体そのものを投与して疾患を治療するものです。同様の考え方に基づいて、新型コロナウイルス感染症から回復した患者から提供された血液から、血漿を調製して患者に投与する「回復期患者血漿療法」も、重篤な患者に対する緊急措置として米国などで行われてはいますが、現時点で明確な有効性は実証されていません。ちなみに米国では、2020年8月、新型コロナウイルス感染症の重症患者を対象に、血漿療法の緊急使用許可(Emergency Use Authorization:EUA)が降りています。メイヨー・クリニックが主導した臨床試験(非盲検)が「有効性がある可能性がある」と米食品医薬品局(FDA)が判断した結果です。しかし、これをトランプ大統領が「FDAのお墨付きを得た」「死亡率を35%低下させる」などと絶賛、その後データ解釈の誤りなども発覚し、物議を醸したこともありました。そのトランプ大統領が自ら絶賛した血漿療法ではなく、未承認の抗体医薬を選んだのはご愛嬌とも言えます。主治医チームの「血漿療法より有望」との判断が働いたためでしょう。 2つのモノクローナル抗体をカクテルに「REGN-COV2」は、回復者由来の抗体や、遺伝子操作でヒトと同様の免疫系を持つようにしたマウスにウイルスを免役して得られた抗体から、実験で新型コロナウイルスの中和に最も効果があった2つの抗体を選出し、組み合わせた薬剤だと報道されています。なお、2つの抗体をカクテルにした理由としては、ウイルス変異への対応に効果的だからのようです。同薬についてリジェネロン社は6月に臨床試験を開始。9月29日には、非入院患者275人を対象に行った臨床試験の結果を発表し、「同治療薬の安全性が確認され、ウイルスレベルの低減や症状の改善に効果があったとみられる」としています。感染前に投与する予防薬としても期待「REGN-COV2」以外にも、新型コロナウイルスの中和抗体の抗体医薬の開発は全世界で進められています。感染初期に投与して発症や重症化を防ぐ治療薬としてのみならず、ワクチンのように感染前に投与する予防薬としても期待されているようです。実際、「REGN-COV2」に先駆けて研究が進む米国イーライリリー社の抗体医薬「LY-CoV555」は、NIHの主導でナーシングホームの入所者と医療従事者を対象にした二重盲検の第III相臨床試験が進んでいます 。同試験では、主要評価項目として、新型コロナウイルスに感染した割合が設定されており、高リスクの高齢者を対象に感染を減らせるかどうかを評価するとしています。なお、「LY-CoV555」は、米国で最初にCOVID-19から回復した回復期患者の血中から抗体遺伝子をクローニングし、わずか3カ月で作成にこぎ着けた中和抗体で、こちらはカクテルではありません。高価な抗体医薬は予防的に使えるか?トランプ大統領の容態については、「快方に向かっている」との報道があった一方で、「高齢で肥満なので依然楽観できない」との見立てもありましたが、10月5日に強行退院してしまいました。医療チームにはウォルター・リード陸軍医療センターだけではなく、ジョンズ・ホプキンス大学のなど複数の医療機関の医師も入っており(医師団の記者会見ではジョンズ・ホプキンス大学の医師も話していました)、世界最高レベルの治療が行われたことは確かです。ここで気になるのは、入院初期に投与された「REGN-COV2」の役割です。仮に、抗体医薬投与が 非常に効果的だった、ということになれば、感染初期や予防的に投与する薬として大きな脚光を浴びるでしょう。しかし、抗体医薬は非常に高価なため、予防的に多くの人に投与する場合には、財政的な問題が浮上してきます。また、保険適用にならず、富裕層だけが自費で使用するという形になれば、医療格差が指摘されるかもしれません。もっとも、抗体医薬の効果の持続期間によって何度も打ち続けることになりそうで、それはそれで大変そうです。70歳以上入院時重症例の死亡率は20.8%大統領選を気にしてか、トランプ大統領の入院はわずか3泊4日でした。今後、果たして、残り少ない大統領選の最前線に立ち、合併症なくあの独特の弁舌を復活させることができるでしょうか。ちなみに、日本の国立国際医療研究センター・国際感染症センターの研究グループは9月30日、新型コロナウイルス感染症で入院した患者の死亡率を、2020年6月5日までの第1波の入院症例と、治療法が固まってきた2020年6月6日以降の第2波の入院症例に分けて公表しました。それによると、トランプ大統領が当てはまる、6月6日以降の「70歳以上入院時重症例(入院時酸素投与、SpO2 94%以下に該当と仮定)」の死亡率は20.8%です。これはそこそこ高い数字です。高齢者登山と同様、タフなトランプ大統領といえども、楽観は禁物でしょう。

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急増するオンライン学会、参加経験と満足度は?/医師1,000人に聞きました

 新型コロナウイルス感染症の影響により、今年には入って急増したのがオンライン(Web)上で行われる学会だ。感染流行初期の2、3月は開催中止に追い込まれる学会が多かったが、4月以降からオンラインへのシフトが本格化し、秋以降もオンライン上のみ開催、もしくは現地開催とのハイブリッド形式を採用する学会が大半となっている。 ケアネットでは、会員医師に協力いただき、オンライン学会への参加経験の有無や、参加した感想をアンケート形式で聞いた。2020年8月13日~19日に1,000名を対象にオンライン学会への参加経験の有無を聞き、「参加経験あり」の回答者に参加学会や満足度、感想を聞いた。半数以上が「参加経験有」と回答 「オンライン学会への参加経験あり」と回答したのは1,000名中556名。アンケートを実施した8月中旬時点で回答者の半数以上がオンライン学会へ参加した経験があった。参加経験者に絞った設問では、参加者が多かったのは日本内科学会、日本循環器学会、日本外科学会の順となった。オンライン化で気軽に参加できることも影響したのか、参加学会は海外学会も含めて多岐にわたり、計50以上の名前が挙がった。満足度は「10点満点中6.7点」 続いて参加したオンライン学会に対する満足度を「10点満点」で聞いた質問では、回答者の平均は6.7点となった。8点とした回答者が135名(24.2%)と最も多く、概ね満足した参加者が多かったようだ。参加者が5名以上いた学会のうち、日本内分泌学会(8.6点)、日本医学放射線学会(8.3点)、日本整形外科学会(7.9点)の順に満足度が高かった。一方、「0点」とした回答者は13名(2.3%)で、その全員が同じ学会の参加者だった。該当学会は当日の通信環境が悪く、サイトに接続できなかった参加者が多数いたことが低評価の要因となったようだ。よい点「移動時間がない」、悪い点「ライブ感がない」 参加者にオンライン学会のよかった点、悪かった点を聞いた設問(複数回答可)では、よい点は「移動時間がかからなかった」(356名・64.0%)が最も多く、「移動宿泊費がかからなかった・学会費が安くなった」(266名・47.8%)、「都合のよい時間に何回でも視聴できた」(260名・46.7%)が続いた。一方、悪かった点では「ライブ感がなく、参加した感覚に乏しかった」(159名・28.5%)、「現地の観光や飲食の楽しみがなくなった」(146名・26.2%)、「ほかの参加者とのコミュニケーションの機会が失われた」(138名・24.8%)、「通信環境・配信環境に難があった」(101名・18.1%)といった回答が続いた。しかし、「よかった点はない」との回答者が15名(2.6%)だったのに対し、「悪かった点はない」との回答者は72名(12.9%)と、オンライン学会に対して好意的な参加者が多いことが伺われる。「コロナにかかわらず、来年もオンライン希望」が6割以上 参加者の高い満足度の裏付けとして、「COVID-19の蔓延状況にかかわらず、来年以降も完全オンライン開催を希望しますか?」との設問に対し、「希望する」「どちらかといえば希望する」の回答者はあわせて64%となり、自由回答欄には「オンライン化の流れは変えられない」「来年以降もハイブリッド開催が主流になりそう」といった声が多く寄せられた。学会側は通信環境などの基本的な部分を整備しつつ、オンラインでのライブ感の醸成や参加者同士のコミュニケーション手段の用意など、ウィズコロナ時代の学会像を試行錯誤しながらつくる時代に入ったようだ。アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。急増するオンライン学会、参加者の満足度は?

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10月からロタワクチン定期接種化、知っておくべきことは?

 10月1日より、ロタウイルス胃腸炎のワクチンが定期接種となった。これに先立ってMSDが主催したプレスセミナーにおいて、日本大学の森岡 一朗氏(小児科学系小児科学分野)が疾患の特性やワクチン接種時の注意点について解説した。 ロタウイルス胃腸炎は冬の終わりから春にかけて流行する急性疾患で、下痢、嘔吐、発熱などの症状を引き起こす。ロタウイルスワクチンが導入される前は、国内で毎年約80万人が罹患し、7~8万人が入院し1)、数名が死亡していた。感染するのは5歳までの乳幼児が中心だが、5歳までの入院を要する下痢症に占める割合は42~58%と推計される2)。最近では5歳以上の幼児の感染が増加しており、10~20代の感染報告もある。糞口感染し、感染力が非常に強いことが特徴で、先進国においても乳幼児下痢症の主要原因であり、院内感染や保育所等での集団感染の報告例も多い。感染した場合、抗ウイルス薬などの治療法はなく、経口補液や点滴などの対症療法が中心となる。 ほとんどの乳幼児が2歳までに1度は感染するが、1回の感染では完全な予防免疫は得られないため、ワクチンが有効な感染・重症化予防策となる。ロタウイルスワクチンは2011年から導入されているが、これまで任意接種だったため、計2~3万円の費用がかかっていた。今回の定期接種化の対象は2020年8月1日以降に生まれた子で、指定期間内に接種すれば全額が補助される。ロタウイルスワクチンには1価と5価の2種類があり、1価は2回、5価は3回接種となるが、効果に差はない。 ロタウイルスワクチンの副反応として腸重積症の増加が懸念されてきたが、厚生科学審議会がロタウイルスワクチン導入前後の国内における5歳未満の腸重積症入院例を調査し、ワクチン導入後の腸重積症の増加のリスクよりもロタウイルス胃腸炎の予防のベネフィットが上回るとして、今回の定期接種化に踏み切った。定期接種化によって接種率のさらなる向上が見込まれる。

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第28回 新型コロナウイルスのまたぞろ悪知恵、はたまたご利益?~鎮痛作用を発見

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の手の内はまだまだ出尽くしていないようで、またもや思ってもみない奥の手・鎮痛作用を米国アリゾナ大学のRajesh Khanna氏率いるチームが発見し、その仕組みを明らかにしました1,2)。すでに広く知られているようにSARS-CoV-2は手持ちのスパイクタンパク質とヒト細胞膜のACE2受容体の連結を介して感染を確立します。biorxivに最近掲載された2つの査読前報告3,4)でスパイクタンパク質は別の受容体・ニューロピリン1(NRP1)の細胞外領域b1b2にも結合し、その結合も細胞感染を助けていると示唆されました。NRP1のb1b2領域は生来のリガンド・VEGF-Aの結合領域でもあります。VEGF-AがNRP1に結合して生じる信号伝達は神経を過度に興奮させて、痛みを誘発します。アリゾナ大学チームの今回の研究の結果、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質はそのVEGF-A信号伝達を遮断し、VEGF-Aによる痛みをすっかり解消することがラット実験で確認されました。がん治療を目的に開発されたb1b2領域遮断化合物EG002295)もスパイクタンパク質と同様の鎮痛作用があることも示され、さらに研究を進めれば、乱用が問題となっているオピオイドに代わるNRP1標的鎮痛薬を生み出せそうです。アリゾナ大学のチームは天然成分を起源とするNRP1標的鎮痛薬の設計にすでに取り組んでいます1)。米国疾病管理センター(CDC)の先月9月10日時点の情報では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の40%は無症状で、発症前の元気な人が感染の半分(50%)を広めていると推定されています6)。SARS-CoV-2に感染しても具合いが悪くならず平気なことに今回判明したスパイクタンパク質の鎮痛作用がもしかすると寄与しているかもしれません1)。参考1)Pain relief caused by SARS-CoV-2 infection may help explain COVID-19 spread / Eurekalert2)Moutal A, et al. Pain. 2020 Oct 1. [Epub ahead of print]3)Neuropilin-1 facilitates SARS-CoV-2 cell entry and provides a possible pathway into the central nervous system. bioRxiv.(最新版;July 15, 2020)4)Neuropilin-1 is a host factor for SARS-CoV-2 infection. bioRxiv. June 05, 20205)Jarvis A, et al. J Med Chem. 2010 Mar 11;53:2215-26.6)COVID-19 Pandemic Planning Scenarios / CDC

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コロナ流行した2020年上半期の超過死亡、例年より少なく/厚労省研究班調べ

 2020年1~6月における日本の超過死亡は、過去3年に比べて少ないことが、厚生労働省研究班の推計で明らかになった。今年の上半期は、世界的に新型コロナウイルスの発生および感染拡大があり、超過死亡にかかわる重要なファクターと見られたが、推計値ではコロナ流行前を大きく下回った。2020年1~6月の日本の超過死亡は2つのアルゴリズムで例年を大きく下回る 本調査では、2020年1~6月、例年の死亡数を基に推定される死亡数(予測死亡数の点推定)およびその95%片側予測区間(上限)と、実際の死亡数(観測死亡数)との差のレンジを週別、都道府県別に推計。データ分析には、米国疾病予防管理センター(CDC)のFarringtonアルゴリズムおよび欧州死亡率モニターのEuroMOMOアルゴリズムの2つを使用している。 日本全国の超過死亡の積算は、Farringtonアルゴリズムで191~4,577人、EuroMOMOアルゴリズムでは319~7,467人だった。これを過去3年の同時期と比べると、Farringtonアルゴリズムで最大1万4,779~2万6,890人、EuroMOMOアルゴリズムでは最大1万7,316~2万862人となっており、いずれの分析方法でも2020年の超過死亡は例年を大きく下回っていた。 2020年1~6月に日本で最も多くの超過死亡が確認されたのは4月だった(Farringtonアルゴリズム:174~2,598人、EuroMOMOアルゴリズム:298~4,216人)。両アルゴリズムにおいて、期間中に予測死亡数の上限を超える観測死亡数を認める週が検出されたのは10都府県(栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、富山、愛知、大阪、奈良、徳島)、いずれか一方で検出されたのは4県(茨城、静岡、香川、福岡)だった。 研究班は、今回観察された超過死亡は新型コロナウイルスを直接の原因とする死亡の総和ではなく、外出自粛等に伴う病院不受診や生活習慣の変化に伴う持病の悪化による死亡や、例年より減少している可能性があるとされる交通事故死など、新型コロナウイルスの感染拡大による間接的な影響も含まれていることに注意すべきとしている。その上で、「報告の遅れや、介入、社会人口学的・経済的状況が異なるため、必ずしも直接比較はできないが、日本のすべての死因を含む超過死亡は、おおよそ同時期の欧米における超過死亡よりも相対的に小さい(絶対数や対人口比)可能性がある」としている。

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第25回 公立病院事業934億円の赤字、前年度からさらに増加/総務省

<先週の動き>1.公立病院事業934億円の赤字、前年度からさらに増加/総務省2.医師の労働時間短縮、派遣医師の引き上げ防止など対策案が進む3.新型コロナワクチン接種、全国民に努力義務で無料実施へ4.2021年度予算編成、新型コロナ対策を含めた効率的な予算配分へ5.上手な医療のかかり方アワード、今年も開催/厚労省1.公立病院事業934億円の赤字、前年度からさらに増加/総務省総務省は、9月30日に発表した2019年度の地方公営企業決算の概要の中で、公立病院事業の赤字が934億円に上ることを明らかにした。地方公営企業など全体の総収支は7,472億円の黒字で、前年(2018年)度に比べ5,107億円(40.6%)減少しているものの、引き続き黒字であった。病院事業は、地方公営企業など全体の決算規模では5兆8,450億円と3割以上の規模を占めているが、赤字額は前年度840億円から934億円と増加が見られ、さらに累積欠損金の金額では1兆9,907億円と、過去5年にわたって増加していることが明らかとなり、経営の健全化が求められている。(参考)令和元年度地方公営企業決算の概要(総務省)2.医師の労働時間短縮、派遣医師の引き上げ防止など対策案が進む厚生労働省は、9月30日に開催された「医師の働き方改革の推進に関する検討会」において、医師の労働時間短縮などに関する大臣指針を策定した。2035年度末を目途に(B)水準(年間1,860時間)を解消するために、「すべての(B)水準対象医師が到達することを目指すべき時間外労働(休日労働を含む)の上限時間数の目標値」を3年ごとに設定して、医師の時間外労働短縮に取り組むことが提案され、了承された。また医師の副業・兼業問題では、大学病院・地域医療支援病院について、地域医療提供体制の確保の観点から、大学医局からの要請で医師を派遣するなど、派遣元が(A)水準を適用した場合、時間外・休日労働時間を(B)水準まで可能とすることで、派遣医師の引き上げを防止する方向性が了承された。今後、関連する法改正を行い、告示される見込み。(参考)副業・兼業を行う医師に関する地域医療総合確保暫定特例水準の適用について(厚労省)医師の労働時間短縮等に関する大臣指針について(同)第9回医師の働き方改革の推進に関する検討会 資料(同)3.新型コロナワクチン接種、全国民に努力義務で無料実施へ厚労省は2日に開催された「厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会」において、新型コロナウイルスワクチンについて、接種を原則として努力義務とし、全国民を対象に無料で実施する方針を決めた。すでに9月8日の閣議決定にて、ワクチン購入の費用は国費で賄うことが承認されており、米ファイザーや英アストラゼネカとの間でワクチン供給について合意している。今月下旬に招集予定の臨時国会において、関連法案を提出し法案成立後、承認後の接種実施体制構築に取り組む。(参考)第17回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 資料(厚労省)4.2021年度予算編成、新型コロナ対策を含めた効率的な予算配分へ財務大臣の諮問機関「財政制度等審議会・財政制度分科会」が1日に開催され、2021年度政府予算の編成を開始した。9月30日に締め切られた国の来年度予算案の概算要求では、新型コロナ対策のため、各省庁からは予算額が不明のまま項目のみの事項要求が相次いだことを考慮し、より効率的な予算配分に取り組む方針を明らかにした。また麻生 太郎財務相は、現役世代が減少して高齢者が増えても、社会保障制度を借金なしに維持できるように見直す必要性を指摘した。(参考)財政制度分科会(令和2年10月1日開催)資料一覧(財務省)5.上手な医療のかかり方アワード、今年も開催/厚労省厚労省は、2019年度から医師・医療従事者の負担軽減や突然の病気や怪我への対応などを目的に、「上手な医療のかかり方プロジェクト」を推進・啓発している。今年も「いのちをまもり、医療をまもる」有用な取り組みを表彰し、全国で共有するために『第2回 上手な医療のかかり方アワード』を開催することとなった。去年はブラザー工業のような企業や健康保険組合のほか、飯塚病院や横須賀市立うわまち病院などが行った地域住民に対する取り組みが表彰されている。第2回アワードの応募は今年の11月30日(金)まで。(参考)第2回「上手な医療のかかり方アワード」開催(厚労省)上手な医療のかかり方.jp

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胃バイパス術による2型糖尿病改善効果はほとんどすべてが体重減少で説明できる(解説:住谷哲氏)-1291

 肥満外科手術bariatric surgeryが肥満合併2型糖尿病患者の糖代謝異常を大幅に改善することが明らかとなっている。肥満外科手術の術式には、本試験で用いられた胃バイパス術(Roux-en-Y gastric bypass surgery)、スリーブ状胃切除術(sleeve gastrectomy)が代表的であるが、わが国で保険適用となっているのは後者のみであり、主としてこちらの術式が用いられている。これまでの報告で、腸管の連続性intestinal continuityを解除する胃バイパス術が他の術式に比べて糖代謝異常改善効果が高いことが示唆されていたが、統計解析上交絡因子が十分に調整されていないとの批判があり疑問が持たれていた。本試験はその点を明らかにするため、胃バイパス術群と食事療法群との2群において、体重減少の程度(約18%)をマッチさせたうえで、前後における種々の糖代謝パラメータを詳細に比較検討した非ランダム化前向きコホート試験である。 試験に組み込まれたのは体重120kg、BMI 42kg/m2の著明な肥満合併2型糖尿病患者である。そもそもこのような患者において食事療法のみで20%近い体重減少が可能であるのか筆者には疑問であった。論文の方法には、「食事療法についての週1回の教育セッションを実施し、すべての食事はliquid shakes and prepackaged entreesで試験期間中提供された」と記載されていた。これでは摂取カロリーが不明であるが、Supplementを見ると、提供されたのは毎食OPTIFAST HP Shake Mix(160kcal)およびprepackaged entrees (200kcal)であり、1日1,080kcalであった。食事療法群が目標体重を達成したのは平均23週後であった。 主要評価項目は肝インスリン感受性の変化とされた。体重減少の前後で、オクトレオチド併用高インスリン正常血糖クランプ法を用いた詳細な肝、骨格筋でのインスリン感受性評価ならびに膵β細胞機能が評価された。結果は、体重減少量をマッチさせた両群において、評価したすべての項目に有意差を認めなかった。胃バイパス術における、体重減少とは独立した糖代謝改善メカニズムとして、これまで血漿分枝鎖アミノ酸濃度の減少、血中胆汁酸の上昇、腸内細菌叢の変化が提唱されている。本試験においてもこれらの3項目はすべて既報と同様の変化を示したが、両群での糖代謝改善の程度に差は認めなかった。以上から著者らは、胃バイパス術による糖代謝改善効果はほとんどすべて体重減少によるものであると結論している。 筆者の外来でもbariatric surgeryを受けた患者さんが増えてきている。ほとんどは著明な体重減少と2型糖尿病の改善を認めており、その威力を実感している。しかしこれまでにも指摘されていることであるが、手術を受けるまでには厳格な食事療法および心理的サポートが必須であり、手術にたどり着けない患者さんも少なくない。本試験で示された、BMI 42kg/m2の患者さんでも、摂取カロリーを制限することで体重が20%近く減量可能であった結果を肝に銘じておきたい。

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新型コロナ、唾液PCR検査の感度9割を実証/北海道大

 北海道大学大学院医学研究院の豊嶋 崇徳教授ら研究グループは、9月29日の記者会見で、新型コロナウイルスのPCR検査について、約2,000例の症例で唾液と鼻咽頭スワブの診断精度を比較した結果、いずれも感度は約90%、特異度は両者とも99.9%だったと発表した。PCR検査を巡っては、唾液による検査が簡便かつ医療従事者の感染リスク防止の観点で有用と考えらえるが、感度は未知数であり、鼻咽頭スワブでも70%程度と見られていた。今回の結果は、従来の見立てを大きく上回り、PCR検査の信頼性を裏付ける形となった。研究をまとめた論文は、Clinical Infectious Diseases誌2020年9月25日号に掲載された。 本研究では、国際便での空港検疫および保健所での濃厚接触者で、無症状の1,924例について、唾液および鼻咽頭スワブを採取し、PCR検査を実施した。その結果、陽性例が唾液で48例、鼻咽頭スワブで46例確認され、感度は唾液で92%(95%信頼区間[CI]:83~97%)、鼻咽頭スワブで86%(95%CI:77~93%)、特異度は両者共に99.9%超であった。また、陽性例のウイルス量は両者で同等に検出されたという。 研究グループは、従来不明瞭であったPCR検査の精度が、唾液と鼻咽頭スワブいずれも高い信頼性に基づくものであることが本結果により実証されたと同時に、鼻咽頭スワブの採取よりも安全かつ簡便で、採取者の感染リスクや被採取者の不快感も少ない自己唾液採取が、スクリーニング検査の標準法として推奨できると結論付けている。

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