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体験ルポ・新型コロナワクチン接種(2)新たなワクチンに臨むために必要なこと

 国内では、連日のように過去最多の感染者数が確認されている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。行動を変え、消毒を徹底するなどの地道な自助努力が、現時点ではわれわれにできる唯一の感染防止策であり、ワクチン接種の開始が待ち望まれるところである。 感染者数世界最多の米国では、世界に先駆け2020年12月14日からワクチン接種が実施されている。本稿は、米国・ワシントンDCの病院に勤務する日本人医師の安川 康介氏がケアネットに寄せたワクチン接種の体験ルポ第2弾である。安川氏は、2020年12月16日に1回目のワクチン接種を経験し、今回は、2回目となる1月5日の接種の際に経験した体調変化や周りの接種者の反応、日本が新たなワクチンに臨むために必要なことについてレポートしている。2回目接種時に体調変化を経験、ナースでは接種忌避傾向も 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者数増加を受け、日本では1月7日に2度目の緊急事態宣言が発出された。Pfizer社は2020年12月18日、日本におけるmRNAワクチンの製造販売承認を申請し、今年2月には承認される見通しである。日本における収束に向け、ワクチンへの期待が高まる。 米国では、FDAが2020年12月11日、Pfizer社とBioNTech社が開発したmRNAワクチン(BNT162b2)の緊急使用を認めた。これを受けて、わたしが勤務するワシントンDCのMedStar Washington Hospital Centerにおいても、12月16日から医療従事者を対象にワクチン接種が始まり、同日に受けることができた。ご存じの通り、本ワクチンは2回接種が必要であり、年明けの1月5日に2回目を接種した。 前回接種時は、主に接種部位の痛みがあったのみで、それも2~3日後にはほぼ消失した。2回目の接種では、前回と同様に接種部位の痛みが生じたのに加え、前回と違ったのは、翌日にやや強い倦怠感を経験したことである。体温が37.2度程度と少し高くなり、体がだるく、いわゆる風邪を引いた時のような倦怠感が夜まで続いた。接種を受けた同僚の中には、初回はほとんど全身性の反応が出なかったが、2回目の接種では、当夜に眠れないくらいの発熱・悪寒・頭痛を経験した人もいた。2回目の接種時に全身性の症状が出やすいことは臨床試験でも報告されており、16~55歳では、2回目接種後の発熱は16%、倦怠感は59%、頭痛は52%と報告されている。逆に、初回接種後に発熱・悪寒・倦怠感が強かったものの、2回目ではそれほど全身性の反応が出なかった人もいた。わたしが勤務する病院では、医師やナースプラクティショナーの多くがワクチン接種を受けた一方、看護師やナースアシスタントではワクチン接種を躊躇する人も多く、わたしはコロナ病棟の看護師を対象にmRNAワクチンに関する教育も担当した。 Pfizer/BioNTech社ワクチンでは、2回目接種後7日以降の発症予防効果は95%、モデルナ社のワクチンでは2回目接種後14日以降の発症予防効果は94.1%といずれも高い。ただし、無症状の感染や2次感染をどれだけ予防できるかは今のところ不明で、感染予防対策は引き続き必須である。一部施設では、ワクチンの無症状感染についての予防効果を調べるため、接種後毎週PCRを行うという臨床試験も開始されているようである。モデルナ社のワクチンの臨床試験では、2回目接種前にPCR検査をしており、PCR陽性は1万4,134人中14人、プラセボ群では1万4,073人中38人と、無症状の感染の予防効果も期待されている1)。大規模接種の円滑実施のカギはプロトコル作成と周到なシミュレーション 米国では2020年12月18日、モデルナ社のmRNAワクチンの緊急使用も認められ、急ピッチで、Pfizer/BioNTech社およびモデルナ社のワクチン接種が進んでいる。実際に接種が始まった12月16日から、すでに500万人以上(1月7日執筆時、対象は主に医療従事者・高齢者施設の入居者)がワクチン接種を受けた。しかしこの数は、米政府が2020年末までの目標に掲げていた2,000万人には遠く及ばず、進行の遅れに対する批判の声が上がっている。実際に各州に供給されているワクチン量に比べ、接種された数は大幅に下回っており、大規模なワクチン接種をいかに効率的に行うか、各州で調整が進められている段階である。CDC(米国疾病予防管理センター)はワクチンの接種について、phase1aでは高齢施設入居者と医療従事者、phase1bでは消防士や警察官、グローサリーストアの従業員などのエッセンシャルワーカー、75歳以上の高齢者、などと優先順位を設定したものの2)、実際はphase1a全員の接種が終わる前にでも次のフェーズでの接種を開始する州が増えている状況である3)。 翻って日本においても、大規模なワクチン接種をいかに効率的に実施できるか今から綿密に計画しておくことが重要である。Pfizer/BioNTech社ワクチンは保管温度が−70℃、モデルナ社ワクチンは−20℃であり、コールドチェーンの確立はもちろんのこと、効率的に接種を行っていくためには、接種者の登録および説明は、接種会場ではなく事前に済ませられるような形で行うことも必要かもしれない。わたし自身、ワクチン接種の登録はオンラインシステムで済ませ、ワクチンに関する説明はFDAが作成した説明書4)および医療機関が個別に作成した資料を渡され、読むように指示されただけである。また、Pfizer/BioNTech社ワクチンは、これまで接種した約190万人中21人に強いアレルギー反応が確認されており5)、CDCではワクチン接種後15~30分観察することを推奨している。接種会場では、アナフィラキシーをどのようにモニターし、治療するかをプロトコル化しておく必要もあるだろう。 日本に限らず世界的にもCOVID-19の感染者数増加に伴い、医療施設に負荷がかかっている。したがって、具体的に誰がどのように接種を進めていくのか、人材調整も喫緊の課題だ。たとえば米国では、州によってはCVSやWalgreensなどの薬局と提携を結び、薬剤師が高齢者施設での接種を担っている6)。また、Pfizer/BioNTech社ワクチンの場合、解凍した後、冷蔵保存(2~8℃)が5日間と短い(モデルナ社は30日)。そのため、ワクチンを無駄にしないためにはいつ、どこに配給し、ワクチンが余った場合には誰に回すのか、あるいは他施設に輸送するのか、といったことを周到にシミュレーションしておくべきである。 日本では、ワクチンを忌避する人も少なからずいる。世界に先駆けて新型コロナワクチンを接種した国々からは、メディアを通じてネガティブな情報も届いていることだろう。HPVワクチンの二の舞にならないように、メディアや国民に向けて、ワクチンの正しい科学的知識、予期される局所反応・全身性反応に関する教育等を行うことが、この新たなワクチンを経験するに当たっては何よりも重要であると考える。先行して大規模接種が開始された米国の情報などを参考に、接種開始早期から円滑に進行できることを願っている。【安川 康介氏プロフィール】2007年慶應義塾大学医学部卒業。日本赤十字社医療センターにて初期研修を修了後渡米。ミネソタ州ミネソタ大学医学部内科レジデンシー、テキサス州ベイラー医科大学感染症フェローシップ修了。米国内科専門医・感染症専門医。現在は、ワシントンDCのMedStar Washington Hospital Centerにて、ホスピタリストとして勤務。参考文献・参考サイトはこちら1)https://www.fda.gov/media/144453/download2)https://www.cdc.gov/vaccines/hcp/acip-recs/vacc-specific/covid-19/evidence-table-phase-1b-1c.html3)https://www.cnn.com/2021/01/06/health/covid-19-messy-roll-out-state-expand-priorities/index.html4)https://www.fda.gov/media/144414/download5)https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/70/wr/mm7002e1.htm?s_cid=mm7002e1_w6)https://www.gov.ca.gov/2020/12/28/governor-newsom-announces-partnership-with-cvs-and-walgreens-to-provide-pfizer-vaccines-to-residents-and-staff-in-long-term-care-facilities/

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COVID-19入院患者への中和抗体、レムデシビルへの上乗せ効果示せず/NEJM

 レムデシビルの投与を受けている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の入院患者において、中和モノクローナル抗体LY-CoV555(bamlanivimab)の単回投与はプラセボと比較して、5日目までの有効性に差はないことが、デンマーク・コペンハーゲン大学病院のJens D. Lundgren氏らが実施した「ACTIV-3/TICO LY-CoV555試験」で明らかとなった。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2020年12月22日号に掲載された。抗ウイルス薬レムデシビルは、COVID-19入院患者の回復までの期間を短縮することが示されているが、有効な追加治療が早急に求められている。また、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対する受動免疫を活用して、感染に対する液性免疫応答を増強することは、COVID-19患者の臨床評価における優先事項とされる。LY-CoV555は、COVID-19外来患者においてウイルス負荷および入院・救急診療部受診の頻度を低減することが知られている。3ヵ国31施設が参加したプラセボ対照無作為化試験 本研究は、COVID-19入院患者の治療における中和モノクローナル抗体と抗ウイルス薬の役割を解明する目的で、米国国立衛生研究所(NIH)によって設立されたACTIV-3/TICO(Therapeutics for Inpatients with COVID-19)プラットフォームに基づく最初の臨床試験であり、31施設(米国23施設、デンマーク7施設、シンガポール1施設)が参加し、2020年8月5日~10月13日の期間に患者登録が行われた(米国Operation Warp Speedなどの助成による)。 対象は、SARS-CoV-2に感染した成人入院患者で、COVID-19による症状発現から12日以内であり、末梢臓器不全(昇圧療法、新規腎代替療法、侵襲的機械換気、体外式膜型人工肺、機械的循環補助)がないこととされた。 被験者は、LY-CoV555(7,000mg)またはプラセボを1時間で静脈内注入する群(単回投与)に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。加えて、全例が基礎治療として、レムデシビルと、適応がある場合は酸素補給やグルココルチコイドを含む質の高い支持療法を受けた。 主要アウトカムは90日の期間中における持続的回復(自宅退院し、少なくとも14日間自宅にいることと定義)とし、time-to-event解析で評価された。また、5日目の肺機能に関する7段階の順序尺度(カテゴリー1「症状が最小限またはまったくない状態で、通常の活動を自立的に行うことができる」~カテゴリー7「死亡」)に基づき、無益性(futility)の中間解析が実施された。5日目のカテゴリー1+2達成率:50% vs.54% 2020年10月26日、データ・安全性監視委員会は、314例(LY-CoV555群163例[年齢中央値63歳、女性40%]、プラセボ群151例[59歳、47%])が無作為化され投与を受けた時点で、無益性のため患者登録を中止するよう推奨した。 無作為化前または無作為化の日に、298例(95%)がレムデシビルの投与を開始しており、49%がグルココルチコイドの投与を受けていた。症状発現からの期間中央値は7日(IQR:5~9)だった。 5日目の時点で、肺アウトカムの上位2カテゴリー(カテゴリー1と2)を達成したのは、LY-CoV555群が161例中81例(50%)、プラセボ群は150例中81例(54%)であった。また、5日目までに退院した患者は、それぞれ90例(55%)および85例(56%)であった。7段階のカテゴリーに関して、LY-CoV555群がプラセボ群よりも良好なカテゴリーに属するオッズ比(OR)は0.85(95%信頼区間[CI]:0.56~1.29)であり、両群間に有意な差は認められなかった(p=0.45)。 10月26日の時点における持続的回復(少なくとも28日間追跡されるか、この間に死亡した患者が対象)は、LY-CoV555群が87例中71例(82%)、プラセボ群は81例中64例(79%)で達成された(率比[RR]:1.06、95%CI:0.77~1.47)。また、全患者における退院は、LY-CoV555群が163例中143例(88%)、プラセボ群は151例中136例(90%)で達成された(RR:0.97、95%CI:0.78~1.20)。 安全性の主要アウトカム(死亡、重篤な有害事象、Grade3/4の有害事象の複合)は、5日目の時点でLY-CoV555群が163例中31例(19%)、プラセボ群は151例中21例(14%)で発生した(OR:1.56、95%CI:0.78~3.10、p=0.20)。また、28日目の時点で、安全性主要アウトカムまたは臓器不全、重篤な重複感染症を発症した患者は、それぞれ163例中49例(30%)および151例中37例(25%)(HR:1.25、95%CI:0.81~1.93)であり、10月26日の時点における死亡は9例(6%)および5例(3%)であった(HR:2.00、95%CI:0.67~5.99)。死亡例14例のうち12例はCOVID-19の悪化、2例は心肺停止によるものだった。 著者は、「TICOプラットフォームは、今後も、新規モノクローナル抗体製剤を含め、COVID-19の追加治療の評価を進める予定である」としている。

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第37回 軽症者の宿泊・自宅療養を義務化など、感染症法を改正へ

<先週の動き>1.軽症者の宿泊・自宅療養を義務化など、感染症法を改正へ2.救急車利用、20年間で1.8倍増と過去最高記録を更新3.医療事故調査制度、発足5年で見直しを求める声4.国土交通省、サービス付き高齢者住宅の監視を強化へ5.人件費、医薬品・医療材料費の高騰で民間病院の経営状態が悪化1.軽症者の宿泊・自宅療養を義務化など、感染症法を改正へ新型コロナウイルス対策を定めた新型インフルエンザ等対策特別措置法について、1月18日に招集される通常国会において改正される見込みとなった。今回の改正には、ほかの法案と切り離し、特例で先行処理を行うとして与野党間でも合意をしている。緊急事態宣言下で、都道府県知事の休業命令に対して、事業者が従わない場合に50万円以下の「過料」を科すことも検討されており、感染拡大防止のため、早期の成立を目指すことになる。さらに政府・与党は、感染症の対策強化のため、軽症・無症状者の宿泊・自宅療養を感染症法により義務化する検討に入った。自治体が新型コロナウイルス感染者に対して入院を命じても応じなかった場合、罰則を科す内容も含め、感染防御の実効性を持たせるとみられる。(参考)休業命令違反に過料50万円 コロナ特措法改正で―政府(時事通信)コロナ軽症者、宿泊・自宅療養を義務化 感染症法改正検討 政府・与党(毎日新聞)2.救急車利用、20年間で1.8倍増と過去最高記録を更新2019年の救急車による救急出動件数は663万9,767件(対前年比3万4,554件[0.5%]増)、搬送人員は597万8,008人(対前年比1万7,713人[0.3%]増)で救急出動件数、搬送人員ともに過去最多となったことが総務省の発表で明らかとなった。1999年の出動件数370.1万件と比較すると、この20年間で約1.8倍に増えている。また、救急車が現場に到着するまでの時間は2019年で8.7分と、1999年の6.0分から2.7分伸びた。病院までの搬送時間も同年の26.7分から39.5分と約1.5倍となっている。このうち急病の搬送人員数は392万2274人と、10年連続で過去最高。搬送された患者の60%以上が65才以上であり、高齢化によると考えられる。ただ、対前年比の増加率は過去10年で最低であり、「軽症での救急搬送割合」は前年から0.8ポイント減少するなど、適正利用の啓発が効を奏していると考えられる。(参考)「令和2年版 救急・救助の現況」の公表(総務省)3.医療事故調査制度、発足5年で見直しを求める声患者の「予期しない死亡」を対象とする医療事故調査制度が発足から5年を経過し、医療機関側に原因の調査などが義務付けられているが、被害者団体が2020年12月に、制度改善のための検討会を設置するよう求める要請書を厚生労働省に提出した。制度の対象となる医療事故の相談がこの5年間で135件があったが、3割に当たる55件は実際には報告されなかった。患者団体は「第三者機関の調査権限を強化すべき」と新たに検討会を開き、制度の見直しを求めている。現在の医療事故調査制度の主な問題点として医療過誤原告の会が指摘しているのは、以下の項目などで、今後も政府への働きかけを強めていくだろう。1)死亡事故が起きた際、「予期せぬ死亡事故」だったのかを医療機関側が判断するため「予期した死亡」とみなしてセンターへ報告しない場合、それを第三者が検証できない2)被害者遺族が「医療事故ではないか」と思っても、第三者として判断してくれるところがない3)医療事故調査・支援センターの調査報告書は公表されていないので再発防止に役立っていない4)死亡事故のみで重度障害事故が対象外になっている。(参考)「医療事故調査制度」見直しへ遺族ら要望「調査が不十分」(NHK)4.国土交通省、サービス付き高齢者住宅の監視を強化へ国土交通省は、サービス付き高齢者向け住宅に関する懇談会において議論を重ねてきたが、介護報酬改定に合わせて、2021年度から高齢者住宅のサービス内容などについて監視機構を強化することに決めた。現在、全国で26万人の高齢者が居住しているが、経営不振または入居者減少、人手不足を理由に、廃業する事業者が発生し、高齢者が住まいを失うことが問題になっている。今後は、すべての施設に入居・退去者の数や退去理由などの公開を義務化するとともに、人手不足については、職員の常駐を求める規制を緩和するなどの検討を進める。また、一部で問題とされている、自社提供の介護サービスを使わせるため家賃を安く抑えている施設については、補助金の支給対象から外すなどを検討している。(参考)サービス付き高齢者向け住宅に関する懇談会 第5回配布資料(国土交通省)5.人件費、医薬品・医療材料費の高騰で民間病院の経営状態が悪化2018~2019年度にかけて、民間病院の医療法人の経営状態が悪化していることが、福祉医療機構(WAM)により公表された「2019年度(令和元年度)決算 医療法人の経営分析参考指標」で明らかとなった。事業収益対事業利益率は2.0%と、前年度に比べ、0.2ポイントの低下となった。また、医療従事者などの1人当たり人件費は5,349千円と、前年度より4万6千円上昇し、人件費率が58.2%と前年度と比べて0.1ポイント上昇していた。さらに、医療材料費率が12.0%と前年度比0.1ポイント上昇しており、これらの費用の増加が事業収益対事業利益率の低下の一因と考えられる。現在、コロナウイルスの感染拡大で、民間病院に対してもコロナウイルス感染者の受け入れの要請が求められているが、院内感染対策やクラスター対策などのコストがあるため、踏み切れない病院も多いと考えられる。(参考)2019年度(令和元年度)決算 医療法人の経営分析参考指標の概要について(独立行政法人 福祉医療機構)2019年度の医療法人経営、人件費・医薬品・医療材料費等のコスト増で「収益率は悪化」―WAM(Gem Med)

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第39回 人間の弱みを熟知した新型コロナウイルス、これを抑制させるには?

2020年はまさに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に明けて暮れた1年だったと言える。私個人は2019年12月末に中国の武漢で謎の肺炎が流行しているという一報を耳にした時は、「フェイクもどきのオカルト的なニュース?」「中国ローカルな感染症でも出たのか?」くらいにしか考えていなかった。1月16日に日本で初の感染者が報告された時点でも「急性重症呼吸器症候群(SARS)のようなものかな?」ぐらいの認識だった。その後、2月下旬くらいまでは国内でポツリポツリと感染者が報告されると、1例1例の分かる範囲の情報をポチポチとExcelファイルに打ち込んでいた。今振り返ると、とてつもなく呑気なことをしていたと思う。その後、この作業は中止した。とてもそんなことはやっていられないほどに感染者が増えていったからだ。そして今や東京都で1日に確認される感染者は1,000人超どころか、2,000人超にまで達し、ついに政府が首都圏の一都三県に対して新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)に基づく2度目の緊急事態宣言を発出するまで追い込まれている。ちょうど昨年末の大晦日の午前11時前に私はTwitter上でこんなツイートをしていた。「大晦日にあんまり不吉なこと言わないほうがいいんだが、今日と明日の元日に発表される感染者数が気になる。新型コロナの平均潜伏期間は5日強なので、これに検査による結果判明までの1~2日を加えると、ちょうどクリスマスの時にどんちゃん騒ぎした中で起きた感染が報告される時期になるから」とはいえ、この時は東京都でPCR検査陽性者数が900人台後半になるか、最悪でも1,000人をやや超える程度だろうと予測していた。しかし、大晦日の午後2時過ぎ、東京都での陽性者が1,300人超の見込みというYahoo!ニュース速報ポップアップがスマホに表示された際は、紋切り型の表現だが「凍り付いた」。その時はたまたま路上にいたのだが、なぜかポップアップからニュース本文に飛ばず、ディスプレイを凝視したまま立ち尽くしてしまっていた。もっとも前述のツイートで、クリスマスのどんちゃん騒ぎで感染したであろう人を非難したつもりは毛頭ない。従来ならばそうした行為は騒音や泥酔など他人への明らかな迷惑行為がなければ、非難されるものではなかったからだ。むしろそうできる仲間と環境を持つ人はうらやましがられたはずである。新型コロナウイルスはそうした状況を一変させてしまった。そして恨んでもしようがないが、新型コロナウイルスの特徴を改めて考えれば考えるほど、なんと嫌なウイルスだろうと思う。感染経路は接触感染と飛沫感染で、そのうちの前者が主。発症前から感染力を有し、一定割合の無症候感染者がいる。発症後は風邪やインフルエンザに比べ、だらだらと症状が続く期間が長く、そこでも他人に感染させる。とにかく音も気配もなく感染を広げていくのである。ワクチンがなく、治療薬も決定打と言えるほど奏効するものはなく、現在打てる対策は予防。3密回避、マスク着用、手洗い励行の3つである。この予防策の中で最も重要度が高いものは3密回避だろう。極端な話、屋内に1人で完全に引きこもって一切外出しないのならば、理論的にはマスク、手洗いという予防策の必要度はかなり低下するからである。そこで改めて3密の定義を確認すると、換気の悪い「密閉」空間、多数が集まる「密集」場所、間近で会話や発声をする「密接」場面の3つの「密」のことである。密閉ぐらいなら若干の注意で避けられるだろうが、日常生活のさまざまなシーンを考えれば密集はやや避けがたく、密接に至っては家族という存在も含めれば完全回避は不可能である。実際、現在報告されている感染者の中で、経路が判明しているケースの最多が家庭内感染というのも頷ける。ちなみに家庭内感染そのものは家族の誰かが他人との会食や接触で感染して家庭内に持ち込むことから始まる。それゆえ多くの専門家が「他人との会食はなるべく控えて」と訴えるのはこの上なく理にかなっている。しかし、食事の時間という日常生活での大きな楽しみを、可能ならば他人と共有したいと思うのもまた人の性である。よく「人は一人では生きられない」という使い古された言葉があるが、結局のところ「3密回避」とは、極端な言い方をすれば「人として当たり前に生きるな」と言われるに等しい。一時期、これまた耳にタコができるほど聞かされたキーワードに「不要不急」があるが、今回のことを通じて「不要不急」と呼ばれたものの多くが私たちの生活の潤滑油だったことに気づいた人も少なくないはずだ。今回2度目となる緊急事態宣言そのものは、かなりの「劇薬」でもあるため、発出中の期間は限定される。ところが今や日常生活でベースの予防対策である「3密回避」は、今のところ期間限定ではなく、終わりはまったく見えていない。結局、新型コロナウイルスはすべての人に「エンドレスな孤独との戦い」を強いている。そしてこれだけパンデミックが長期間に及ぶと、その過程でほぼすべての人がリスクを過小評価しようとする正常性バイアスに襲われたと思われる。時にはその結果として、ウイルスに対するガードを下げてしまう場合もあっただろう。ところがそうした隙を新型コロナウイルスは巧みに突いてくる。まるで、騙されたことに気付いた人が取る回避策すべてにわなを仕掛けてあざ笑う詐欺師のような陰湿さだ。その結果が現在の感染者増につながっていることは明らかだろう。そして医療従事者の中にはテレビで流れている情景とは異なり、思ったほど往来が減っていない年末年始の光景に、「自分たちが発するメッセージが伝わらない」といら立ちを覚える人たちも多いに違いない。だが、繰り返しになるがこのウイルスに対する重要な予防策である「3密回避」は人が人らしく生きようとすることを阻む行動様式である。単純に「伝わらない」のではなく、一旦は伝わっても意識的にも無意識的にも可能ならば無視したいメッセージなのであり、それが自然なのである。現在逼迫している医療現場で奮闘する皆さんからはお叱りを受けるかもしれないが、だからこそ私は「3密回避」を怠ったがゆえに感染したかもしれない感染者は「明日の自分」かもしれないと思ってしまうのだ。同時にこのウイルスは医学的作用と同時に負の社会的作用も生む。典型は少なからぬ医療従事者も経験したであろう差別・偏見である。これは不十分な知識のまま過剰な感染防御に走った人たちがもたらしたものである。また、感染者に占める若年者比率の高さから、無症候・軽症が多い若年感染者が流行を加速させている可能性があるという医学的には比較的妥当な分析が一部の若年者と高齢者との間に亀裂を招いたとの指摘もある。このような現象は挙げればきりがなく、しかも生み出された社会的分断が社会的後遺症にまでつながってしまう可能性もある。このような経緯を踏まえたうえでCOVID-19の報道にかかわる私たちや同じように社会や患者に向かって注意喚起する医療従事者がやるべきこと、やれることは何なのか? 実はこれまた極めて平凡な答えにならざるを得ない。それは3密回避、マスク着用、手洗いの意義をことあるごとに発信し続けることに尽きるのである。発信量が増えてもにわかに効果が出るものではないのは多くの人が認識しているだろうが、逆に発信量が減れば個々人の感染対策のガードを下げる正常性バイアスがいとも簡単に拡散しやすくなる懸念は十分にあるからだ。同時にもう一つ発信する側に必要なのはアンガーマネージメント的な感情コントロールだろう。さもなくば、地味な発信を地味に継続するという意欲を維持することは困難であり、なおかつ感情的な発信が時に前述した社会分断の原因にもなりかねないからである。2度目の緊急事態宣言を前に個人的雑感に寄り過ぎているかもしれないが、この1年を振り返って思いを強くしているのは、強大な敵に対して「竹槍戦法」で挑むしか方法がないならば、根気よく竹を削って竹槍を作り、何度も挑むしつこさが必要だということ。諦めたら負けなのである。

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がん治療用ウイルスG47Δ(DS-1647)の国内申請/第一三共

 第一三共は、同社が東京大学医科学研究所 藤堂具紀教授と共同で開発しているがん治療用ウイルスG47Δ(一般名:teserpaturev、開発コード:DS-1647)について、2020年12月28日、悪性神経膠腫に係る再生医療等製品製造販売承認申請を国内で行った。 同申請は、藤堂教授が実施した膠芽腫患者を対象とした国内第II相臨床試験(医師主導治験)の結果に基づくもの。国内第II相臨床試験は、主要評価項目である1年生存率の達成基準を満たした。 G47Δは、がん細胞でのみ増殖可能となるよう設計された人為的三重変異を有する増殖型遺伝子組換え単純ヘルペスウイルス1型(第三世代がん治療用単純ヘルペスウイルス1型)で、悪性神経膠腫を対象として2016年2月に先駆け審査指定を受けるとともに、2017年7月に希少疾病用再生医療等製品の指定を受けている。

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新型コロナ抗体陽性者、6ヵ月は再感染リスクが低下/NEJM

 抗スパイク抗体または抗ヌクレオカプシドIgG抗体の存在は、以後6ヵ月間の重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)再感染のリスクを大幅に低下することが示された。英国・オックスフォード大学病院のSheila F. Lumley氏らが、英国の医療従事者を対象にSARS-CoV-2抗体の有無と感染発生率を調査した前向き縦断コホート研究の結果を報告した。これまで小規模な研究では、中和抗体が感染予防と関連する可能性が示唆されていたが、SARS-CoV-2抗体とその後の再感染リスクとの関連については不明であった。NEJM誌オンライン版2020年12月23日号掲載の報告。英国の医療従事者約1万2,500例対象に、抗体の有無とその後の感染率を調査 研究グループは、英国のオックスフォード大学病院における無症候性/症候性スタッフ検査に参加し血清反応が陽性/陰性の医療従事者を対象に、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により確定されたSARS-CoV-2感染の発生率を調査した。 被験者のベースラインでの抗体有無を、抗スパイク抗体(スパイク蛋白に対する抗体)(主要解析)および抗ヌクレオカプシドIgG抗体(ヌクレオカプシド蛋白に対する抗体)解析により確定し、最長31週間追跡した。また、PCR検査陽性と新規症候性感染の相対発生率を、年齢・性別・発生率の経時変化で補正を行い、抗体の有無別に推定した。 合計1万2,541例の医療従事者が抗スパイクIgG抗体の測定を受けた。抗体陰性者は1万1,364例、抗体陽性者は1,265例(追跡調査中に抗体陽転が生じた88例を含む)であった。抗体陽性者の抗体陰性者に対する補正後発生率比0.11 血清抗スパイク抗体陰性でPCR検査陽性となったのは223例(リスク期間1万日当たり1.09)で、スクリーニング中に無症状が100例、有症状が123例であった。一方、血清抗スパイク抗体陽性でPCR検査陽性となったのは2例(リスク期間1万日当たり0.13)で、2例とも検査時は無症状であった(補正後発生率比:0.11、95%信頼区間[CI]:0.03~0.44、p=0.002)。 抗スパイク抗体陽性者において、症候性の感染は確認されなかった。 発生率比は、ベースラインの抗体有無を、抗ヌクレオカプシドIgG抗体検査単独で判定した場合、または抗スパイクIgG抗体検査を併用した場合で変わらなかった。 なお、著者は、「主に65歳以下の健康な医療従事者が対象であり、調査期間が短期で、一部の医療従事者は退職により追跡できなかった」ことなどを研究の限界として挙げたうえで、「小児、高齢者、免疫低下を含む併存疾患を有する患者など他の集団における感染後の免疫を評価するには、さらに研究が必要である」とまとめている。

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第39回 収束に光明?獣医学の視点から新型コロナ治療薬を展望

新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めが掛からず、感染力が高いとされる「変異種」(厳密に言えば、種ではないがこう称されている)も確認され、収束の先行きが見えない。ただ、ワクチンに関しては、日本は米ファイザー、米モデルナ、英アストラゼネカの3社から計2億9,000万回分(接種は1人につき2回)の供給を受ける。早ければ2月下旬にも医療従事者から接種を始める。また、治療薬については、別の疾患に対して開発された既存薬の中から有効な薬を探る手法で見いだす動きが進み、国内ではレムデシビルやデキサメタゾンが認められている。このような状況下、医療分野などのコンテンツ制作を行っているステラ・メディックス社長で獣医師の星 良孝氏がこのほど、新社会システム総合研究所のセミナーで、動物のコロナウイルスに対応してきた獣医学の視点を交えて、「新型コロナウイルス治療薬の展望」をテーマに講演した。まず、米国医師会雑誌に掲載された情報などを基に、新型コロナの致死率は約2%だが、年齢別致死率で見ると85歳以上が約30%と高い一方、18歳以下は0.04%と低いことを示し、若年感染者の動きが感染拡大を招いている可能性を指摘。感染した場合、重症化の予防が重要な点を強調した。続いて星氏は、獣医領域では一般的なコロナウイルスの性格について、ウイルス自身を保護し、自ら増殖する酵素を持つため“しぶとい”と評す。RNAウイルスでは最大のゲノムサイズであり、複数のサブゲノミックRNAが転写されること、エンベロープに王冠状スパイクを有するのが特徴で、一般的にウイルスは形状によって弱点が変わる点を理由として述べた。スパイクタンパクに関しては、新型コロナでは「D614G」変異が起きたことにも言及した。武漢株はスパイクタンパクの614番目のアミノ酸がアスパラギン酸(D)だったのに対し、昨年2月下旬以降、欧州株の同じ部位のアミノ酸がグルシン(G)に変異。スパイクタンパクが開裂してウイルスが侵入した結果、感染力が高まったという。現在では欧州株が世界を席巻している(なお、9月以降、英国で別の箇所での変異を増やしたものが変異種と呼ばれるようになっている)。動物でもコロナ感染の現れ方は多様新型コロナはさまざまな動物に感染しうるが、異種間感染については「まだ謎がある」と星氏は述べる。動物でも病気の現れ方は多様で、遺伝子変異でも病気の現れ方が変わるという。例えば、ネコ腸コロナウイルス(FECV)が遺伝子変異により病理性が強まると、ネコ伝染性腹膜炎(FIPV)になり、致死率は100%になる。ブタの腸コロナウイルス(TGE、PED)は、遺伝子変異により症状が変わると呼吸器コロナウイルスになり、子ブタの致死率が高くなる。1型ネココロナウイルスが1型イヌコロナウイルスと融合すると、2型ネココロナウイルスになり、種を超えて感染する可能性もある。コロナは変幻自在のようだ。新型コロナはなぜ手強いか。星氏は(1)致死率が比較的低い(2)ゲノム構造によりウイルス増殖能力が高い(3)幅広い動物に感染する(4)感染経路が多様(5)変異して病原性が変化する――を挙げた。そのため、治療薬についても“攻め手”を見極めた上で手段を構築すべきと強調する。新薬の開発期間は10〜18年、合成化合物から承認に至る確率は10万分の5と言われる中、従来のプロセスから見れば、半年や1年程度で新薬ができるわけがない。そのため、既存薬の転用から治療手段を増やし、有効性を探りつつ薬剤開発が進められている。星氏は、薬剤のターゲットとして(1)ウイルス感染により遺伝子が作り出すタンパク質の機能を阻害する(2)ウイルスの付着と侵入を止める(3)ウイルスの持つmRNAのコピーを止める(4)mRNAに基づいて作られるタンパク質の成熟を阻害する(5)ウイルスの放出を阻害する――を例示した。ウイルスと宿主それぞれに働き掛ける幸い、コロナウイルスの標的になるタンパク質と、遺伝情報の由来については全容が解明されている。ゲノムRNA約3万の配列は確定されており、SARSと82%の類似性、必須酵素は90%であることが明らかになっている。特徴となる機能を阻害すれば感染や増殖が止まり、それは治療手段になる。「鍵を握るのは、過去の研究の蓄積」と星氏。SARSの薬剤に関連する研究は、2002年から19年11月30日までに1,813件、コロナの薬剤に関連する研究は、SARS出現前年の2001年までに351件ある。また、星氏は新型コロナの臨床試験に関して、以下のような2つのアプローチと6つの柱を示した。1.ウイルスに働き掛ける(1)ウイルスに対して結合する抗体医薬(2)ウイルスの細胞への侵入、融合を阻止する薬剤(3)ウイルスの増殖を抑制する薬剤(4)ウイルスに対する免疫を強化する薬剤2.宿主側に働き掛ける(1)体内の過剰な免疫反応を調整する薬剤(2)合併症を軽減する薬剤星氏は、製薬企業24社やAMED(日本医療研究開発機構)採択課題の企業主導型・アカデミア主導型の薬剤開発動向、コンピュータを用いた「バーチャルスクリーニング」を紹介。「2021年以降、新型コロナへの対応の選択肢は増える見込み」との展望で締めくくった。新型コロナの収束につながる光が、少しずつ見えてきた。

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COVID-19治療でシクレソニドの推奨見直し/厚生労働省

 2020年12月25日、厚生労働省は「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第4.1版」を公開した。 同手引きは診療の手引き検討委員会が中心となって作成され、第1版は3月17日に、第2版は5月18日に、第3版は9月4日に、第4版は12月4日に公表され、今回重要事項について大きく3点で加筆が行われた(なお、この手引きは2020年12月23日現在の情報を基に作成。今後の知見に応じ、内容に修正が必要となる場合がある)。■主な改訂点【病原体・疫学】・国内発生状況の内容を追記(12月23日までの情報に更新)【臨床像】・「重症化のリスク因子」の中で、重症化のリスク因子に「悪性腫瘍」「2型糖尿病」「脂質異常症」「喫煙」「固形臓器移植後の免疫不全」を追記【薬物療法】・「薬物療法」中の「その他の薬剤例」でシクレソニドにつき、「無症状・軽症の患者には推奨されない」を追記

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新型コロナの医療従事者への感染:院内感染と非院内感染が混在(解説:山口佳寿博氏)-1336

 新型コロナが中国・武漢で発生してから約1年が経過し、手探りで始まった本感染症における臨床所見の把握、診断法、治療法(抗ウイルス薬剤、抗炎症薬/サイトカイン・ストーム抑制薬、ECMOなどの呼吸管理法)、予防法(有効ワクチン)の確立に関し多くの知見が集積されつつある。感染症発生初期には、感染症の本体(感染性、播種性、重症化因子)が十分に把握できず、医療従事者の防御法(PPE:Personal Protective Equipment)も不完全で医療施設内での医療従事者を巻き込んだ感染クラスターの発生など、種々の社会的問題が発生した。これらの諸問題は時間経過と共に沈静化しつつあるが、現在施行されている医療従事者の一般的PPEが本当に正しいかどうかに関する検証はなされていない。もし、医療従事者のPPEが正しいならば、医療従事者の新型コロナ感染率は一般住民のそれと同等であるはずである。この問題に対する確実な答えを見つけておくことは、今後のコロナ感染症の診断/治療に当たるわれわれ医療従事者にとって重要な問題である。医療従事者はコロナ感染症患者に的確に対処すると同時に、1人の一般人として自らを取り巻く家族にも責任を持たなくてはならない。本論評では医療従事者における新型コロナ感染症の感染率、入院率について、現在までに報告された知見を基に考察する。 医療従事者における新型コロナ感染率は、中国・武漢における感染初期(2020年1月1日~2月3日)の院内感染データを基に初めて報告された(Wang D, et al. JAMA. 2020;323:1061-1069. )。感染症発症後間もない時期の疫学データで、PCR確定入院肺炎患者138例のうち57例(41%)が院内感染による肺炎であった。他疾患で入院中の患者における院内感染関連の肺炎発症は17例(12%)、医療従事者のそれは40例(29%)であった。これらの値は非常に高く、感染発症初期段階における院内感染予防策の稚拙さを物語っている。 感染が世界に広がり、PPEの重要性が医療現場に浸透しだした2020年2月12日から4月9日までのデータを基に、米国CDCは、39万5,030例のPCR確定患者のうち医療従事者の感染者数は9,286例(感染率:2.35%)であると報告した(Washington Post, USA Today, 2020年4月9日)。この医療従事者の感染率は新型コロナ発生の最も初期に中国・武漢の医療施設から報告された値の約10分の1であり、医療従事者におけるPPEの厳密度が時間経過に伴い上昇していることを示している。米国CDCの報告で重要な点は、医療従事者の感染者のうち45%は感染経路が不明で、院内感染など感染患者との接触歴を認めなかったことである。すなわち、医療従事者の多くは、医療現場で感染したわけではなく、通勤、買い物、あるいは、家族内など一般人と同じ経路で感染したことを物語っている。 同年4月22日から4月30日に集積されたデータを基に、ベルギーの単一施設におけるIgG抗体に基づく医療従事者の感染率が報告された(Steensels D, et al. JAMA. 2020;324:195-197.)。この報告によると、3,056例の医療従事者のうち197例(6.4%)でN蛋白に対するIgG抗体が陽性であった。ベルギーにおける一般人口のN蛋白IgG抗体陽性率は報告されていないが、欧州各国の一般人口におけるIgG抗体陽性率が人口の5~10%であることを考慮すると、ベルギーにおける医療従事者のIgG抗体陽性率は一般人口のそれとほぼ同等と考えてよい。この解析から得られた興味深い知見は、医療従事者のIgG抗体陽性がコロナ患者との院内接触歴ではなく、感染した家族との接触歴が関連した事実である。この結果も、医療従事者への感染は、一般人と同様に医療現場ではなく家族内感染が重要な役割を果たしていること示している。 同年3月1日から6月6日までに集積されたデータを基に、英国・スコットランド全域における医療従事者(15万8,445人)とその家族(22万9,905人)のコロナ感染による入院率が検討された(Shah ASV, et al. BMJ. 2020;371:m3582.)。医療現場を含めた何らかの仕事に従事する“Working age(18~65歳)”の入院総数は2,097例、そのうち医療従事者は243例(11.6%)、医療従事者の家族は117例(5.6%)であった。以上を医療従事者の仕事内容(患者対面職[patient facing]、患者非対面職[non-patient facing])で層別化すると、患者非対面職の医療従事者とその家族の入院リスクは非医療従事者(一般人)のそれと同等であった。一方、患者対面職医療従事者の入院リスクは患者非対面職医療従事者の3.3倍、患者対面職医療従事者の家族における入院リスクは患者非対面職医療従事者家族の1.8倍であった。救急隊員、集中治療室勤務、呼吸器内科医師/看護師など患者対面職の中で“最前線医療従事者(front door staffs)”と位置付けられる人たちの入院リスクは非最前線医療従事者の2.1倍であった。 以上の報告をまとめると、(1)医療従事者におけるコロナ感染は、医療施設内におけるコロナ患者との接触(院内感染)に起因するもの(~55%)と医療施設内患者接触とは無関係なもの(~45%)が混在する。(2)患者非対面職医療従事者(その家族を含む)のコロナ感染症による入院リスクは非医療従事者(一般人)のそれと同等である。(3)医療施設内での患者接触は、患者対面職医療従事者の入院リスクを有意に上昇させる。(4)同時に、感染した医療従事者からの感染を介してその家族の入院リスクを上昇させる。(5)患者対面職にあって最前線医療従事者の入院リスクは、一般的な患者対面職医療従事者に比べ有意に高い。以上より、一般的PPEは医療施設内での感染予防に貢献しているが、患者対面職の医療従事者、とくに、最前線医療従事者にあっては一般的PPEでは不十分で、さらに厳密なPPEが必要であることが示唆される。

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第39回 三浦瑠麗氏の痛烈発言から見えてくる、日本の医療体制分断の実像

9つの医療団体が開いた異例の合同記者会見こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。年始年末は実家のある愛知に帰り、一人暮らしの父親のために雑煮を作るなどしていました。世間の風潮は「帰省は自粛」でしたが、89歳の父親がモチを喉に詰まらせるリスクや、私がコロナを感染させるリスクなどのさまざまな要因を勘案した結果、万全の対策を取ったうえで帰省することにしました。帰りしなに約50年ぶりに父親からお年玉をもらったので、帰省してよかったとは思います。あとは10日間ほど何事もなければ…。さて、本年も当コラムをよろしくお願いします。政府は首都圏1都3県に今週中にも緊急事態宣言を出す方向で調整に入りました。それだけ新型コロナウイルス感染症の患者数が増え、医療体制が逼迫してきたということですが、年末にこれにまつわる興味深いニュースがありました。12月21日に日本医師会をはじめとする9つの医療団体のトップが異例の合同記者会見を開いた、翌22日のことです。21日の合同記者会見では、日本医師会の中川 俊男会長が「全国の医療提供体制がひっ迫の一途をたどり、日本が世界に誇る医療制度が風前のともし火になっている。過酷な医療の現場にも思いをはせ、今できる対策は全部実行してほしい」と述べ、「医療の緊急事態」を宣言し、一層の感染防止対策に協力を呼び掛けました。また、日本病院会の相澤 孝夫氏会長も「折れそうな心を支えながら、必死に医療を提供してきたわれわれの努力は、これ以上、感染者が増えては、まったく報われない。国が先頭に立って、国民の移動や行動を制限することを、政策として掲げてほしい」と述べました。合同記者会見には、東京都医師会の尾崎 治夫会長、日本歯科医師会の堀 憲郎会長、日本薬剤師会の山本 信夫会長、日本看護協会の福井 トシ子会長、全日本病院協会の猪口 雄二会長、日本精神科病院協会の長瀬 輝龍副会長、日本医療法人協会の伊藤 伸一会長代行も出席していました。「重要なことが隠された会見」翌22日、テレビのワイドショーなどで活躍する国際政治学者(らしいです)の三浦 瑠麗氏がフジテレビの朝の番組「とくダネ!」で、この合同記者会見に噛みつきました。メインキャスターの小倉 智昭氏にコメントを求められた三浦氏は、「重要なことが隠された会見だったと思います」と切り出し、「コロナ患者を診ている公立病院を中心とした一部の志ある病院と、主に会見に出て話されたコロナ患者について受け入れを拒否されている私立病院の大半の方々との間で、全然違う環境にあるにもかかわらず、“我々医療従事者は”と仰る」と、中川会長らの発言を皮肉ったのです。さらに三浦氏は、旭川医科大学の学長が、同じ旭川市でクラスターが発生し、機能停止に陥った吉田病院からの患者受け入れを「経営難に陥るから」という理由で拒否し、吉田病院が「なくなればいい」と暴言を吐いたという週刊文春の記事を紹介。「もっと致死率が高くて感染力の高いウイルス持つ感染症患者が来ても、これまで“聖職者です”と言ってきた医療従事者は拒否するんですか? そういったことを曖昧にしたまま、すべてを国民の責任にしてますよね」と語り、「なぜ医療体制がこんなに簡単に崩壊してしまうのか、という分析は1つもない。ごく少数の病院が医療崩壊すれば医療崩壊と言うが、その他の病院が医療崩壊しているわけではない。ごく少数の病院だけにコロナ患者を集中させたことで、そこが悲鳴を上げている」と現在のコロナ患者受け入れ体制を批判しました。三浦氏の発言はネット上でも話題に三浦氏の認識には一部誤解もあるようですが、ある部分は的を射ており、医療関係者の中には「痛いところを突かれた」と思った方もいるのではないでしょうか。医療団体の代表が集まって国民にお願いをしているが、最初の緊急事態宣言の頃から、医療提供体制の拡充のために何をやってきたかについて詳しい説明がない、というのは確かに三浦氏の言う通りです。大手マスコミは医療者の代表の意見として、中川会長の発言を取り上げますが、その中身を批判することはまずありません。しかしながら、日本医師会自体は主に診療所開業医を中心とする団体です。コロナ患者の急性期医療に携わっている会員医療機関は、三浦氏も指摘したようにごく一部だと思われます。もちろん、地区医師会有志によるPCR検査の実施など、コロナ医療に貢献している医師会員は少なくないと見られますが、それとコロナ診療最前線の医療崩壊とは、少々次元の違う話です。なお、この三浦氏の発言はネット上でも話題となりました。22日付のライブドアニュースは、「『とくダネ!』三浦 瑠麗氏、医師会の会見に「全てを国民の責任にしている」痛烈批判で賛否の声」と報じ、SNS上での「よくぞ言ってくれた。感謝!! 日本医師会の欺瞞を暴いてくれた。この勇気に感服。前線で身体を張って頑張っている医療従事者には感謝しか無いが、その人たちの代表は日本医師会では断じて無い」といった声を紹介しています。医療提供体制の“分断”が顕在化新型コロナ感染症の感染拡大で徐々に明らかになってきたのは、日本の医療提供体制における“分断”ではないでしょうか。日本には国民皆保険制度があり、かつ誰もがどこの医療機関にもかかれるフリーアクセスが確保されているので、平時であれば国民は医療機関探しに困ることはほとんどありません。しかし、今回のような有事になると、平時には見えなかった医療機関間の能力差、キャパシティ、経営方針の違いなどが一気に顕在化し、アクセスが難しくなります。さらには、本当に必要とされている医療を提供しない(できない)医療機関が現れると、局所的に医療崩壊の危険性が高まります。12月29日付の日本経済新聞は「コロナ危機対応 浮かんだ課題」と題する特集記事を掲載、医療体制の問題点を指摘しています。同記事はコロナ患者受け入れについて「厚労省の9月末時点の調査では、全国の病院のうち受け入れ実績があったのは2割だけだった。容体が急変しやすい急性期の治療を担う病院の受入状況は数の少ない公立・公的病院の受け入れ率が過半を超えるのに対し、数の多い民間病院では1割強にとどまった。民間は経営への影響を恐れ、後ろ向きになりがちだ」と書いています。また、こうした公民の差だけでなく、大学病院間でも受け入れ態勢に差があるようです。たとえば、東京都文京区には国立大学病院が2つありますが、コロナ患者に対応する病床数には大きな開きがあると聞いています。もちろん、コロナ対応だけが大学病院の使命ではありません。しかし、国難とも言える緊急事態への対応として、もっと機能的で強制的な病床活用の仕方があってもいいでしょう。そのあたりは、これからの地域医療構想の議論とも関連してくることですが、「将来」ではなく「今」どうするかを早急に考えないと、本当の医療崩壊が始まってしまいます。日本病院会会長だけの記者会見でもよかったのでは「三浦氏はテレビのコメンテーターに過ぎず、その発言を気にすることはない」という声もあるようです。しかし、今回は意外と核心を突いた発言だと言えます。こうした意見が厳然とあることを医療関係者(とくにトップ)は頭に入れておく必要があるでしょう。今後、さらに医療体制が深刻化したとき、彼女は同様の発言を繰り返すに違いありません。ちなみに三浦氏は自民党政権とも近く、政府の成長戦略会議の有識者委員も務めています。最後に、今回の合同記者会見ですが、医療に詳しい人であればあるほど、茶番にしか見えなかったのではないでしょうか。日頃、診療報酬のパイを奪い合っている者同士が神妙な面持ちで座り、ただただ国民にお願いをし、正論を述べていただけなのですから…。私としては、あの会見は日本病院会の相澤会長が単独でやるべきではなかったかと思います。重症例を含め、新型コロナウイルス感染症の患者を最も多く受け入れているのは日本病院会の会員施設だからです。医療者の団体にはいろいろなしがらみがあるでしょうが、国民に心から訴えるには、やはり茶番では無理だと感じた年末年始でした。※本記事の内容は筆者の見解であり、ケアネットの見解を述べるものではございません。

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COVID-19入院時、ビタミンD欠乏で死亡オッズ比3.9

 ビタミンD欠乏症と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の関連は、これまでもさまざまな報告があるが、依然として情報は不足している。今回、ベルギー・AZ Delta Medical LaboratoriesのDieter De Smet氏らが、入院時の血清ビタミンDレベルとCOVID-19の病期および肺炎の転帰との関連を調査した。その結果、COVID-19で入院した患者の59%がビタミンD欠乏症であり、COVID-19による死亡オッズ比は3.9であることが示された。American Journal of Clinical Pathology誌2020年11月25日号での報告。入院時のビタミンD欠乏症とCOVID-19起因肺炎による死亡率との関連 研究者らは、2020年3月1日~4月7日にAZ Delta General Hospitalに入院したSARS-CoV-2感染(PCR陽性)者186例を対象に、入院時の胸部コンピューター断層撮影(CT)と25(OH)D測定を組み合わせた後ろ向き観察試験を実施した。また、ビタミンD欠乏症(25(OH)D<20ng/mL)が交絡する併存疾患に関係なく生存率と相関するかどうかを調べるために、多変量回帰分析が実施された。 なお、CT結果による病期は、すりガラス状陰影(初期、病期1)、すりガラス状陰影内部に網状影を伴うcrazy-paving pattern(進行期、病期2)、浸潤影を呈するconsolidation(ピーク期、病期3)とした。COVID-19による肺炎の影響を受けた肺組織の割合は、CT重症度スコア(0~25)として表された。 入院時の血清ビタミンDレベルとCOVID-19の病期および肺炎の転帰との関連を調査した主な結果は以下のとおり。・PCRで確認されたSARS-CoV-2感染者186例が入院し、そのうち男性が109例(58.6%)、女性が77例(41.4%)、年齢中央値はそれぞれ68歳(四分位範囲[IQR]:53~79歳)および71歳(IQR:65〜74歳)だった。・入院時に測定された結果によると、186例中85例(46%)は病期3(ピーク期)、病期2(進行期)は30%、病期1(初期)は25%で、男女比に差は見られなかった。・186例中109例(59%)は、入院時にビタミンD欠乏症(25(OH)D<20ng/mL)であり、男性では67%、女性では47%だった。・男性患者では、CTによる病期が進むにつれて徐々に25(OH)Dの中央値が低くなり、ビタミンD欠乏率は、病期1の55%から病期2では67%、病期3では74%に増加した(p=0.0010)。一方、女性患者ではそのような病期依存の25(OH)D値変動は見られなかった。・入院時の25(OH)D値と死亡率の関連を調べた結果、COVID-19患者186例のうち、27例(15%)が死亡し、そのうち67%が男性だった。・死亡した患者は生存者と比べて、年齢(中央値:81歳vs.67歳、p<0.0001)、慢性肺疾患有病率(33% vs.12%、p=0.01)、冠動脈疾患有病率(82% vs.55%、p=0.02)、CT重症度スコア(15 vs.11、p=0.046)が高く、25(OH)D値(中央値:15.2 vs.18.9ng/mL、p=0.02)は低かった。・二変量ロジスティック回帰分析によると、死亡率は年齢の上昇(オッズ比[OR]:1.09、95%信頼区間[CI]:1.03~1.14)、CT重症度スコアの上昇(OR:1.12、95%CI:1.01~1.25)、慢性肺疾患の存在(OR:3.61、95%CI:1.18~11.09)、およびビタミンD欠乏症の存在(OR:3.87、95%CI:1.30~11.55)とは独立して関連しており、性別、糖尿病および冠動脈疾患の有病率、CTによる病期とは関連していなかった。 著者らは、「本研究は、慢性肺疾患、冠動脈疾患、糖尿病など、ビタミンDの影響を受ける併存疾患とは無関係に、入院時のビタミンD欠乏症とCOVID-19起因肺炎による死亡率との関連を示した。これは、とくにビタミンD欠乏症の患者を対象とする無作為化比較試験の必要性を強調し、SARS-CoV-2パンデミックの安全かつ安価で実施可能な軽減策として、世間一般にビタミンD欠乏の回避を呼びかけるものだ」と結論している。※本文中に誤りがあったため、一部訂正いたしました(2021年1月18日10時)。

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循環器科医のためのCOVID-19解説サイト/ライフサイエンス出版

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は世界の日常を一変させ、12月現在、わが国でも感染者数・重症者数ともに増加し、深刻な状況となっている。 そのような状況のなか、ライフサイエンス出版は、特設サイト「循環器科医のためのCOVID-19超解説」を開設した。 COVID-19と循環器疾患との関連は非常に注目されるトピックである。本サイトでは、わが国を代表する循環器領域の専門家が、「川崎病」「血栓症」「心不全」「高血圧」をテーマに解説している。また、COVID-19は、ウイルス感染に起因する炎症反応が重要なキーワードとなっているため、免疫領域の専門家による解説も予定している。 今後の順次公開されるコンテンツに期待をいただきたい。公開されている解説記事第1回「COVID-19における小児の川崎病類似症例」深澤 隆治氏(日本医科大学)第2回「COVID-19の病態としての免疫異常と血栓症」西垣 和彦氏(岐阜市民病院)第3回「コロナ禍における心不全患者の予防と治療・管理、終末期の緩和ケア」安斉 俊久氏(北海道大学)公開予定の解説記事第4回「自然免疫応答とサイトカインストーム」米山 光俊氏(千葉大学)第5回「高血圧」松澤 泰志氏(横浜市立大学)第6回「交差免疫」吉村 昭彦氏(慶應義塾大学)

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第41回 去年の大発見~循環する独り立ちミトコンドリア、第四の唾液腺

去年は世界が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に見舞われ、それに関連する薬、ワクチン、診断、研究技術の開発が飛躍的に進歩しました。その一方で他の研究ももちろん進展し、たとえばよく見知ったはずの人体の新たな大発見1)がありました。その一つは、すでに知られている3つの唾液腺に加えて第4の唾液腺一対が新たに見つかったことです2)。耳管隆起(torus tubarius)近くにあることからtubarial glandと名付けられたその新たな唾液腺は手術で顕わになり難いので長く見つからないままだったようです。オランダのがん研究所Netherlands Cancer Instituteの放射線腫瘍医Wouter Vogel氏等は前立腺特異的膜抗原(PSMA)に結合する放射性トレーサー頼りのCTやPET撮影によってその在り処を突き止めました。PSMA PET/CTはそもそも前立腺がんの検出のためのものですが、Vogel氏によると唾液腺検出感度がすこぶる良好で、そのおかげでこれまで見えなかったものを見つけることができました1)。もう一つは健康な人の血液を独り立ちして巡るミトコンドリアの発見です3)。どこかが傷んで細胞から漏れたミトコンドリア由来と思われるその一部(DNA)が体を巡っていることは知られていました。しかし生来の機能を果たしうるミトコンドリアまるごとが健康な人の血液に細胞に入っていない状態で存在することは分かっていませんでした1)。フランスの著名な研究所INSERMのチームが見つけたそれらのむき出しのミトコンドリアが細胞の外で何をしているかはこれから調べる必要がありますが、細胞間の連絡に一役買っているのではないかと研究者は推測しています4)。人体は調べ尽くされたようでまだまだ未開の発見を待つ未知を隠しているに違いありません。今年はどんな発見があるのでしょうか。参考1)The Biggest Science News of 2020 / TheScientist 2)Valstar MH,et al. Radiother Oncol. 2020 Sep 23. [Epub ahead of print]3)Al Amir Dache Z, et al. FASEB J. 2020 Mar;34:3616-3630.4)A new blood component revealed / Eurekalert

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免疫も老化、その予防が新型コロナ対策に重要

 国内初の新型コロナウイルスのワクチン開発に期待が寄せられるアンジェス社。その創業者でありメディカルアドバイザーを務める森下 竜一氏(大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学 寄附講座教授)が、12月15日に開催された第3回日本抗加齢医学会WEBメディアセミナー「感染症と免疫」において、『免疫老化とミトコンドリア』について講演した。風邪と混同してはいけない理由 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策やワクチン開発を進めていく上で世界中が難局に直面している。その最大の問題点について森下氏は、「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のモデルが作れないこと」だという。その理由として、「マウスはSARS-CoV-2に感染しない。ハムスターやネコは感染するものの肺炎症状が出ないため、治療薬に最適なモデルを作り出すことが難しい。つまり、従来の開発方法に当てはめられず、未知な領域が多い」と同氏は言及した。 そんな中、同氏率いるアンジェス社は同社が培ってきたプラスミドDNA製法の技術を活かし、新型コロナのDNAワクチンを開発中である。これは、ウイルスのスパイク部分(感染の足掛かりとなるタンパク質)の遺伝子情報を取り込んだプラスミドDNAをワクチンとして接種することで、スパイク部分のみを体内で発現させて抗体を産生させる仕組みである。12月23日現在、国内で500例を対象としたワクチンの用法・用量に関する安全性や免疫原性評価のための第2/3相臨床試験が行われている。ワクチン完成までは一人ひとりが自然免疫の強化を 国内でのワクチン(海外製含む)接種の開始時期は、2021年2月とも言われているが、実際のところ未だ見通しが立っていない。その間、個人でできる感染対策(手洗い・消毒、マスク着用、うがいなど)だけで感染を凌ぐにはもはや限界にきている。そこで同氏は人間のもともとの免疫力に着目し、「人間の体内で最初に働く自然免疫の強化」を強調した。しかし、自然免疫の機能は18~20歳でピークを迎え低下の一途をたどる。また、免疫機能の中で最も重要なT細胞の分化場所である胸腺は体内で一番老化が早いため、「加齢は自然免疫の低下だけではなく、胸腺の退縮がT細胞の老化につながり、獲得免疫の衰えの原因にもなる」と指摘した。加えて、「睡眠不足、ストレス、肥満、そして腸内細菌叢の構成異常なども免疫力の低下として問題だが、とくに“免疫の老化”が問題」とし、高齢者の重症化の要因の1つに免疫力の老化を挙げた。免疫老化を防ぐにはミトコンドリアをCoQ10で助けよ この免疫老化を食い止めるための方法として、同氏はミトコンドリアの老化を助けることが鍵だと話した。ミトコンドリアは細胞の中のエネルギー生産工場で、中和抗体を作るB細胞などあらゆる細胞の活性化に影響する、いわば“免疫を正常に働かせる司令塔”の役割を司る。そのため主要な自然免疫経路はすべてミトコンドリアに依存している。しかし、ミトコンドリアも加齢とともに減少傾向を示すことから、この働きを助けるコエンザイムQ10(CoQ10)の補充が重要1)だという。また、自然免疫のなかでも口腔内に多く存在し、口腔内に侵入したSARS-CoV-2を速やかに攻撃、粘膜への付着や体内への侵入阻止するIgAもこのCoQ10の摂取により増加傾向が示唆された2)ことを踏まえ、医療用医薬品のユビデカレノン製剤(商品名:ノイキノンほか)をはじめ、サプリメントや機能性食品として販売されているCoQ10(とくに還元型)の摂取が有効であることを説明した。 最後に同氏は「ワクチン導入には時間を要するので、現時点ではまず基本的な感染対策、生活習慣の改善から免疫力UPに注力してほしい。そのなかで免疫を上げる工夫として還元型CoQ10の多い食品(イワシ:約6.4mg、豚肉:約3.3mg[各100g中の含有量])を食べたり、プラスαとしてサプリメントなどを活用したりして、体内のCoQ10量を増やすことを心がけてほしい」とし、医療者に対しては「CoQ10量や唾液内のIgAは検査で測定可能であるため、患者の体質確認には有用」と締めくくった。

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COVID-19ワクチン、2021年に世界人口の何割に接種可能か/BMJ

 主要メーカーの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンの世界的な需給について、メーカーが最大生産量を可能としても、世界の人口のほぼ4分の1は少なくとも2022年までワクチン接種を受けることはできないとの研究結果を、米国・ジョンズ・ホプキンズ公衆衛生大学院のAnthony D. So氏らが報告した。COVID-19ワクチンについては、高所得国が市販前に購入契約を結んでいる一方、そのほかの国・地域については入手が不確実であるといわれ、世界保健機関(WHO)が主導するCOVAXファシリティを介して、グローバルアクセスを調整する取り組みが進められている。しかし、高所得国の購入契約に遅れをとっているうえ、資金は不十分で、米国やロシアの協力は得られていない。今回の検討では、高所得国がどのようにCOVID-19ワクチンの将来の供給を確保したかについて概要を示すとともに、残されたそのほかの国・地域は不確実であること、2021年末までに低中所得国が調達できるワクチンはメーカー生産量の40%であり、仮に高所得国が購入予定量を増やした場合、その割合はさらに少なくなるが、高所得国が調達したワクチンが供出されれば増える可能性があることなどが明らかにされた。研究グループは、「政府およびメーカーは、購入契約に関する透明性と説明責任を高めることで、COVID-19ワクチンの公平な配分への確約も果たすことができるだろう」と提言している。BMJ誌2020年12月15日号掲載の報告。主要メーカーから各国へのCOVID-19ワクチンの市販前購入契約を分析 研究グループは、主要メーカーから各国へのCOVID-19ワクチンの市販前購入契約を分析するため、WHOのCOVID-19ワクチン候補のレポート(draft landscape of covid-19 candidate vaccines)、米国証券取引委員会へ提出された企業情報開示、企業および財団のプレスリリース、政府のプレスリリース、メディア報告を調べ、2020年11月15日までに公表されていたCOVID-19ワクチンの市販前購入契約(コース当たりの価格、ワクチンプラットフォーム、研究開発のステージ、調達代理店および購入先の国)を分析した。当面の供給量の半分強は高所得国(世界の人口の14%) 2020年11月15日時点で、13のワクチンメーカーから合計74.8億回(37.6億コース)分を購入する市販前契約が結ばれていた。これらの半分強(51%)は、高所得国(世界の人口の14%)に送達されるものであった。 米国は、世界のCOVID-19の症例数の約5分の1(1,102万例)を占めるが、予約量は8億回分であった。一方で、日本、オーストラリア、カナダは、合計10億回分以上を予約していたが、その症例数は世界の症例数の1%に満たない(45万例)。 もし、これらのワクチン候補が最大生産量を達成できた場合、2021年末までに59.6億コース分のワクチン製造が予測された。これらのワクチンコースの最大40%(あるいは23.4億コース)が低中所得国に供給される可能性があるが、もし高所得国が購入拡大オプションを行使すると、低中所得国の供給量は少なくなることが示唆された。また、高所得国が調達したワクチンを供出する場合は、低中所得国の供給量は増すことが示唆された。 ワクチン価格は、コース当たり6ドル(4.50ポンド、4.90ユーロ)から74ドルまでと10倍以上の幅があった。 米国とロシアを除く多彩な国が参加するCOVAXファシリティは、5億回(2.5億コース)分を少なくとも確保しているが、世界的なCOVID-19ワクチンへのアクセスをサポートする取り組みにおいて、2021年末に目標としている20億回分の投与に必要な資金の確保は半分にとどまっているのが現状であった。

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すでに一度補助を受けた医療機関も対象、国による追加支援策/日医

 第3次補正予算案が12月15日に閣議決定され、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を踏まえ、医療機関に対する更なる支援策が講じられている。この中には、第2次補正予算による補助を受けた医療機関が、改めて対象となる支援策も含まれる。12月23日の日本医師会定例記者会見において、松本 吉郎常任理事が支援策の全体像を整理し、有効活用を呼び掛けた。診療・検査医療機関の感染拡大防止等の支援に100万円 都道府県の指定に基づき発熱患者等を対象とした外来体制をとる医療機関(診療・検査医療機関[仮称])については、100万円を上限とした追加支援が決定した:[診療・検査医療機関の感染拡大防止等の支援]対象医療機関:院内等で感染拡大を防ぐための取組を行う、都道府県の指定を受けた診療・検査医療機関(仮称)※ 「診療・検査医療機関の感染拡大防止等の支援」または「医療機関・薬局等の感染拡大防止等の支援」のどちらかの補助を受けることができる(両方の補助を重複して受けることはできない)。※ 二次補正予算による「医療機関・薬局等における感染拡大防止等の支援」の補助を受けた医療機関も補助対象。※ 令和2年9月15日の予備費による「インフルエンザ流行期における新型コロナウイルス感染症疑い患者を受け入れる救急・周産期・小児医療機関体制確保事業」の感染拡大防止等の補助を受けた医療機関は対象外。補助基準額:100万円を上限として実費を補助対象経費:令和2年12月15日から令和3年3月31日までにかかる感染拡大防止対策や診療体制確保等に要する費用(従前から勤務している者および通常の医療の提供を行う者に係る人件費は除く)※ 感染拡大防止対策に要する費用に限られず、院内等での感染拡大を防ぎながら地域で求められる医療を提供するための診療体制確保等に要する費用について、幅広く対象となる。例:消毒・清掃・リネン交換等の委託、感染性廃棄物処理、個人防護具の購入、寝具リース、CTリース等医療機関・薬局等の感染拡大防止等の支援に25万円 診療・検査医療機関(仮称)以外の医療機関に対しては、病床数等に応じて以下の追加支援が行われる:[医療機関・薬局等の感染拡大防止等の支援]対象医療機関:院内等での感染拡大を防ぐための取組を行う、保険医療機関、保険薬局、指定訪問看護事業者、助産所※ 「診療・検査医療機関の感染拡大防止等の支援」または「医療機関・薬局等の感染拡大防止等の支援」のどちらかの補助を受けることができる(両方の補助を重複して受けることはできない)。※ 二次補正予算による「医療機関・薬局等における感染拡大防止等の支援」の補助を受けた医療機関も補助対象となる。※ 令和2年9月15日の予備費による「インフルエンザ流行期における新型コロナウイルス感染症疑い患者を受け入れる救急・周産期・小児医療機関体制確保事業」の感染拡大防止等の補助を受けた医療機関については、三次補正予算の「医療機関・薬局等の感染拡大防止等の支援」の方が補助上限額が高い場合は、差額分を補助。補助基準額:以下の額を上限として実費を補助・ 病院・有床診療所(医科・歯科) 25万円+5万円×許可病床数・ 無床診療所(医科・歯科) 25万円・ 薬局、訪問看護事業者、助産所 20万円対象経費:令和2年12月15日から令和3年3月31日までにかかる感染拡大防止対策や診療体制確保等に要する費用(従前から勤務している者および通常の医療の提供を行う者に係る人件費は除く)※ 感染拡大防止対策に要する費用に限られず、院内等での感染拡大を防ぎながら地域で求められる医療を提供するための診療体制確保等に要する費用について、幅広く対象となる。例:消毒・清掃・リネン交換等の委託、感染性廃棄物処理、個人防護具の購入、寝具リース、CTリース等※ 看護師等が消毒・清掃・リネン交換等を行っている場合は、看護師等の負担軽減の観点から、本補助金を活用して、民間事業者に消毒・清掃・リネン交換等を委託することが可能。 小児診療や回復患者受け入れ医療機関への支援策を含め、補助内容の全体がまとめられた資料はこちら。申請に当たっての質問・相談等に対応するコールセンターについても案内されている。これまで金額の過少申請があった場合も、都道府県に相談を 12月22日には、厚生労働省から事務連絡が発出され、支援事業の対象となる費用や申請方法等についてQ&Aがまとめられた。医療機関が対象となる経費を誤認して金額を過少に申告した場合の再申請についても、「事業実施主体である都道府県に相談して、都道府県が認める場合、再申請することは差し支えない」と記載されている。

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コロナ禍で増えた失業・自殺・労災請求、今後の見通しは?/日医

 日本医師会・松本 吉郎常任理事が、コロナ禍における今日の社会経済情報として、失業、自殺、労災認定などのデータを示しながら、日本医師会の見解を述べた。自殺者増は5ヵ月連続、失業率の上昇で今後さらに増える可能性も まず、完全失業率(季節調整値)のデータを示し、本年10月は男3.4%、女2.7%(男女計3.1%)と、コロナ流行以前の1月(男2.4%、女2.2%、平均2.2%)と比較して高い状況にあることを説明。完全失業者のうち、「勤め先や事業の都合による離職」は45万人と、前年同月に比べ22万人増加している。割合としては男性より低い女性も、完全失業者数は「15~24歳」を除くすべての年齢階級で前年同月に比べ増加していることを示した。 月別自殺者数の推移においては、5ヵ月連続で前年を上回っており、新型コロナ流行の長期化で生活苦や家庭などの悩みが深刻化していると分析。6月の緊急事態宣言の解除後にとくに増加していることを指摘し、その要因としては、コロナ禍で浮き彫りになった女性の非正規雇用者の失業やDVの相談件数の増加などが影響している可能性があるとした。 松本氏は、今後の見通しとして、失業率が1%増えると自殺者総数が1,000~2,000人増えるとの報告もあることに触れ、「コロナ感染そのものによる死亡者数よりも、数では大きくなることが想定される。また、失業率増加の後を追って自殺者数が増加することが多いため、雇用を守ることが命を守ることにつながることの啓発、失業者対策などの十分な広報、その不安に対するメンタルヘルスの実施と長期的継続が必要」との考えを示した。医療従事者はメンタルヘルスのハイリスク、新型コロナ感染も労災請求可能 新型コロナウイルスに関する労災請求件数は、医療従事者などで1,705件(医療業では1,332件)に上っている。なお、請求に対しては、業務外で感染したことが明らかである場合を除き、原則として労災保険給付の対象とされる。厚生労働省は、集団感染が起きた事業所などは、積極的に労災申請するように求めている。 医療・介護従事者などは、従来から精神障害での労災が多いなど、メンタルヘルスの影響を受けやすいハイリスクとされており、日本医師会は、コロナ禍で過重な身体的・精神的ストレスが加わっていることに懸念を表明した。松本氏は、今後も日本医師会として、社会経済状況を鑑み、産業医の支援など、社会貢献していく姿勢を示した。

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COVID-19ワクチンに関する提言(第1版)を公開/日本感染症学会

 欧米では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンの接種が2020年12月初旬に開始され、わが国でも接種開始が期待されている。日本感染症学会では、学会会員および国民に対し、現在海外で接種が開始されているCOVID-19ワクチンの有効性と安全性に関する科学的な情報を提供し、それぞれが接種の必要性を判断する際の参考にしてもらうべく、COVID-19ワクチンに関する提言(第1版)を作成し、12月28日、学会サイトに公開した。今後、COVID-19ワクチンの国内外における状況の変化に伴い、内容を随時更新する予定という。 日本感染症学会によるCOVID-19ワクチンに関する提言には、世界におけるワクチン開発状況、各ワクチンの特徴、mRNAワクチンやウイルスベクターワクチンの作用機序、ワクチンの有効性の評価方法、3つのワクチン(ファイザー社のBNT162b2、モデルナ社のmRNA-1273、アストラゼネカ社のChAdOx1)の臨床試験における有効率、1回目および2回目接種後の有害事象、日本での優先接種対象者、接種時における注意や求められる準備などが記載されている。

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新型コロナに対するRNA遺伝子ワクチンは人類の救世主になりうるか?【臨床編】(解説:山口佳寿博氏)-1335

 本論評(臨床編)では3種類の遺伝子ワクチン(RNA、DNA)の特徴について考察する。(1) RNAワクチンにあってPfizer/BioNTech社のBNT162b2に関しては初期試験が終了し(Walsh EE, et al. N Engl J Med. 2020;383:2439-2450.)、第III相試験の中間解析の結果が正式論文として発表された(Polack FP, et al. N Engl J Med. 2020 Dec 10. [Epub ahead of print])。それを受け、12月2日に英国、12月11日に米国においてBNT162b2の緊急使用が承認され、医療従事者、高齢者、施設入居者などを対象としてワクチン接種が開始されている。カナダ、バーレーン、サウジアラビアでは完全使用が認可された。12月18日、Pfizer社は本邦へのワクチン導入を目指し厚労省に製造承認を申請した。 BNT162b2は、S蛋白全長の遺伝子情報(塩基配列)を自己増殖性のAlphavirus遺伝子(1本鎖RNA)に組み込み、脂質ナノ粒子(LNP:lipid nanoparticle)に封入し生体細胞に導入するもので、RNAワクチンの中で最も抗体産生効率が良いと考えられている(必要な1回ワクチン量は30μgと最も少ない)。本ワクチンの問題点の1つは、-70℃±10℃という非常な低温で保存しないとワクチンの安定性を維持できないことである。BNT162b2の第III相試験は16歳以上の若年者から高齢者までを対象として、米国、アルゼンチン、ブラジル、南アフリカ共和国、ドイツ、トルコの6ヵ国で施行され(4万3,548例、対照群:2万1,728例、ワクチン群:2万1,720例)、中間報告では、2回目のワクチン接種(1回目接種後21日目)後7日目以降の中間値で3.5ヵ月間におけるコロナ感染予防有効性を報告している。ワクチンの有効性は95%であり、人種/民族、性、年齢、併存症による影響を認めなかった(高齢者でも若年者と同等の有効性)。重症化した症例が10例存在したが、対照群で9例、ワクチン接種群で1例であり、ワクチンは重症化阻止効果を有することが示唆された。副作用/有害事象の内容・頻度は他のワクチン接種時にも認められる一般的なものであり、とくに問題となるものは存在しなかった。1回目のワクチン接種から2回目のワクチン接種までの間の感染予防有効性は52%であり、1回のワクチン接種のみでも有意な感染予防効果が得られることが判明した。本第III相試験では15歳以下の若年者/小児、妊婦、免疫不全を有する患者は治験から除外されており、これらの対象におけるワクチンの効果、あるいは、有害事象については今後の検討課題である。 ワクチンの有効性が最長でも2回目のワクチン接種後3.5ヵ月で判定されており、ワクチンを年間何回接種する必要があるかを決定するためには、もっと長期間にわたる液性/細胞性免疫の持続性に規定される有効性の観察が必要である。ワクチン接種後時間が経過すれば、ワクチン接種によって惹起された液性/細胞性免疫の賦活化は減弱し、それに伴い感染予防効果も低下するはずである。それ故、現時点で報告された感染予防有効性は、あくまでもBNT162b2ワクチンの最大効果を示す値と考えなければならない。 もう一点注意すべき事項は、ワクチン有効性の判定基準である。新規感染はコロナを疑わせる臨床症状の発現(有症状)に加え、呼吸器検体におけるPCR陽性をもって定義された。すなわち、無症候性症例は有効性の判定から除外されている。PCR陽性者のうち無症候性感染者(不顕性感染者)は約30%と報告されており(Lee S, et al. JAMA Intern Med. 2020 Aug 6. [Epub ahead of print])、社会におけるウイルス播種を考えるとき、無症候性感染に対するワクチンの予防効果に関する検討が必要である。 Pfizer/BioNTech社は、S1-RBDに関する遺伝子情報を組み込んだRNAワクチン(BNT162b1)も同時に開発していた。しかしながら、S蛋白全長の遺伝子情報を組み込んだBNT162b2のほうがウイルスの自然構造により近いこと、今後S蛋白領域で間断なく発生する自然遺伝子変異(2.5塩基/1ヵ月、Meredith LW, et al. Lancet Infect Dis. 2020;20:1263-1272.)によるワクチン能力の低下を考慮すると、BNT162b2のほうがより優れていると結論された(Walsh EE, et al. N Engl J Med. 2020;383:2439-2450.)。(2) Moderna社のmRNA-1273は自己非増殖性のLNP封入RNAワクチンであり、S蛋白全長に対する遺伝子情報が導入されている(1回のワクチン量は100μgでBNT162b2投与量の3.3倍、2回目のワクチンは29日目に接種)。本ワクチンは-4℃(通常の冷凍庫)保存で1ヵ月間は安定だと報告されている。本ワクチンに対する高齢者を含む初期試験が終了し(Jackson LA, et al. N Engl J Med. 2020;383:1920-1931. , Anderson EJ, et al. N Engl J Med. 2020;383:2427-2438.)、第III相試験(COVE試験)の中間解析の結果が、12月17日、米国FDAの審査書類の一環として発表された(FDA Briefing Document)。これらの書類を審査した結果、12月18日、米国FDAはmRNA-1273の緊急使用を承認した。本論評では米国FDAが発表したデータを基に考えていく。 治験対象者は18歳以上の3万418例で、25.3%は65歳以上の高齢者であった。妊婦は対象から除外された。感染予防有効性は、2回目ワクチン接種後14日目以降中間値で9週(2.3ヵ月)までの間で判定された。非高齢者(18歳以上~65歳未満)の感染予防有効性は95.6%、高齢者(65歳以上)のそれは86.4%であった(全年齢の平均:94.1%)。これらの値はPfizer/BioNTech社のBNT162b2と同等であり、性差、年齢、人種、併存症の有無に関係なく、ほぼ一定であった。また、重症化した症例は30例存在したが、すべてが対照群で発生し、ワクチン接種群では重症化症例を認めなかった。1回目のワクチン接種から14日以内(2回目のワクチン接種前)の感染予防有効性(ワクチン1回接種の効果)は50.8%であり、やはりBNT162b2と同等であった。副作用/有害事象に関しても、ワクチン接種時に認められる一般的なものが中心で特異的なものは認められなかった。ただ、ワクチン接種群にベル麻痺が1例発生し、米国FDAはワクチン接種と無関係だとは結論できないとしている。mRNA-1273の問題点は、BNT162b2で指摘した内容がそのまま当てはまる(治験対象から外れた17歳以下の症例、妊婦に対する有効性、ワクチン接種による液性/細胞性免疫の賦活化の持続時間とそれに規定される感染予防効果の持続時間、無症候性感染に対する予防効果など)。(3) AstraZeneca社のChAdOx1は、S蛋白の全長に対する遺伝子情報を、チンパンジーアデノウイルス(Ad)をベクターとして宿主に導入した自己非増殖性DNAワクチンである。本ワクチンに関する初期試験は高齢者を対象としたものを含め終了し(Folegatti PM, et al. Lancet. 2020;396:467-478. , Ramasamy MN, et al. Lancet. 2021;396:1979-1993.)、第III相試験の中間解析結果も正式の論文として発表された(Voysey M, et al. Lancet. 2020 Dec 8. [Epub ahead of print])。本ワクチンに関する第III相試験は英国、ブラジル、南アフリカ共和国において施行されたものを総合的に評価したもので、対象は18歳以上の1万1,636例(対照群:ワクチン群=1:1)であった。 本第III相試験はStudy designに種々の問題点が存在し、その結果の解釈には注意を要する。問題点として、(1)試験施行国での2回目のワクチン接種時期が、決められた1回目ワクチン接種後4週ではなく、それからかけ離れている症例が多数存在する。(2)1回目のワクチン量が国によって異なり、標準量(SD、5×1010 viral particles)の半量(LD、2.2×1010 viral particles)を接種した対象とSD量を接種した対象が混在している。(3)対照群に投与された偽ワクチンが、生食の場合とMeningococcal group A, C, W, Y conjugate vaccine(MenACWY)の場合が混在しており、偽ワクチンの差が感染予防有効性の最終結果をどのように修飾しているのかが判断できない。以上のような問題点を有する第III相試験ではあるが、ワクチンによる感染予防有効性を見てみると(2回目ワクチン接種後14日以上経過した時点での判断)、1回目LD量のワクチン接種、2回目SD量のワクチンを接種した群(LD/SD群)での感染予防有効性は最も高く90%であった。一方、SD/SD群の有効性は62%で、LD/SD群に比べ明らかに低い値を示した。 以上の結果は、ChAdOx1の場合、SD量を2回接種したとき(SD/SD群)には、“基礎編”で考察したように、1回目のSD量ワクチン接種後ベクターとして用いたチンパンジーAdに対する抗体が高度に形成され、その結果として2回目のSD量ワクチン接種時にAdの一部が破壊され遺伝子情報の宿主への導入量が減少、S蛋白関連の液性/細胞性免疫の賦活化が低めに維持された可能性を示唆する。一方、LD/SD群では、初回ワクチン量が低いためAdに対する抗体産生量も低く、2回目のSD量ワクチンに対する負の効果が弱められたのではないかと推察される。しかしながら、LD/SD群には65歳以上の高齢者が1例も含まれておらず、LD/SD投与の優越性が高齢者においても維持されているかどうかは不明である。 副作用/有害事象に関しては、ChAdOx1の治験中に横断性脊髄炎の発症が第I~III相試験を通して3例報告されている。うち1例は偽ワクチン接種後に発生していたことなどから、ChAdOx1接種とは無関係だと結論された。しかしながら、RNAワクチンでは横断性脊髄炎は報告されておらず、ChAdOx1接種後のみに2例の横断性脊髄炎が発生した事実は看過できない問題だと考えられる。ChAdOx1に限らず、RNAワクチンの報告も数ヵ月以内の短い経過観察におけるものであること、さらには、第III相試験でも数万人程度の接種人数であり、ワクチン接種が世界的規模で始まり億単位の人に接種された場合に、頻度の低い有害事象が出現する可能性があることを踏まえ、今後の確実な経過観察の継続が必要である。 AstraZeneca社のChAdOx1に関しては、以下の諸点について再考が必要と思われる。“基礎編”で考察したように、Adをベクターとするワクチンでは2回目のワクチン接種によって誘導されるブースター効果が弱く、単回ワクチン接種で2回接種の場合と遜色ない臨床的効果が得られる可能性がある。ワクチン接種に起因する副作用/有害事象の発現を考慮すると、単回接種の可能性を追求すべきかもしれない。第III相試験の結果からは、ChAdOx1に関する至適用量(LD量かSD量か)が決定されたとは言い難い。対照群に用いる偽ワクチンの固定化、2回目のワクチン接種時期を1回目ワクチン接種4週後に確実に固定したうえで、十分な人数の高齢者を治験対象に含め、LD/LD群(ワクチン半量2回接種)、LD/SD群、SD/SD群に関する新たな第III相試験を計画してもらいたい。これらの治験データが提出されない限り、ChAdOx1を臨床的に有効なワクチンとして受け入れることは難しい。ただ、本ワクチンは2~8℃(家庭用の冷蔵庫)の保存で少なくとも6ヵ月間は安定しており、利便性の面でBNT162b2、mRNA-1273より優れている。さらに、ChAdOx1のコストはBNT162b2、mRNA-1273に比べ安価だと報告されており(コーヒー1杯分の値段とのこと)、その意味でもChAdOx1の開発を成功させてもらいたいと念願するものである。 12月11日、AstraZeneca社は、ChAdOx1(チンパンジーAd)とロシア製Sputnik V(ヒトAd26でpriming、Ad5でboost)を組み合わせた臨床治験をロシアにおいて開始すると発表した。2種類のDNAワクチンを組み合わせることによって、新型コロナに対する感染予防効果を高めることができるかどうかの検証を目的とした治験である。

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第40回 新型コロナウイルスへの抗体やメモリーB細胞が感染後少なくとも8ヵ月間持続

無症状か軽症の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染(COVID-19)から8ヵ月を過ぎた患者のほとんどからSARS-CoV-2のスパイクタンパク質(S)やヌクレオカプシド(N)への抗体を検出することができました1,2)。検討されたのは韓国の58人で、それらのうち7人は無症状、残り51人は軽症でした。感染から8ヵ月時点で抗N Igは53人(91%)、抗N IgGは15人(26%)、抗S IgGは50人(86%)、抗S1 IgGは40人(69%)から検出できました。中和抗体も半数を超える31人(53%)から検出できました。さらに心強いことに、遭遇したウイルスを覚えておいて次の襲来時に素早く抗体を生み出すメモリーB(Bmem)細胞の少なくとも8ヵ月間の存続もオーストラリアのMenno van Zelm氏等のチームによる別の研究で確認されています3,4)。van Zelm氏等はCOVID-19患者25人の発症後4日~8ヵ月(242日)の血液中の抗体やBmem細胞を調べました。Bmem細胞はフローサイトメトリーを利用した手法で検出されました。まず抗体はどうだったかというと、スパイクタンパク質受容体結合領域(RBD)やヌクレオカプシドタンパク質に対するIgGは減りはしたものの韓国での研究と同様に全員から検出できました。一方、抗体がすぐに減り始めたのとは対照的にそれらSARS-CoV-2タンパク質に対するBmem細胞は100~150日後まで増え続け、8ヵ月後まで安定して存続していました。抗原減少につれて減っていく抗体に比べて長い間安定なSARS-CoV-2特異的Bmem細胞は長期免疫のより確実な指標の役目を果たすようであり、van Zelm氏等が開発したフローサイトメトリーによるSARS-CoV-2特異的Bmem細胞検出法はCOVID-19感染やワクチン接種後の長期免疫記憶の判定に役立つでしょう。重症のCOVID-19患者ほど臓器や免疫系を攻撃しうる自己抗体活性が高いSARS-CoV-2感染への免疫反応はジキル博士とハイド氏のような表裏があるようで、次に備える抗体やメモリーB細胞などの有益な免疫反応を引き出す一方で異常な免疫反応を誘発することも知られつつあります5)。米国・エール大学のCOVID-19研究で名を馳せるAkiko Iwasaki(岩崎明子)氏等がCOVID-19患者194人を調べたところ重症の患者ほど臓器や免疫系を攻撃、いわば誤爆しうる自己抗体活性が高いことが示されました5,6)。感染解消に必要な免疫細胞を攻撃してしまう自己抗体もあれば中枢神経系(CNS)・心臓・肝臓・胃腸・血管・結合組織を攻撃する自己抗体も検出されました。1型インターフェロンに対する自己抗体(抗IFN-I自己抗体)はCOVID-19入院患者の5.2%に認められ、重症の患者により集中していました。抗IFN-I自己抗体を有する患者はウイルス除去に支障を来しており、どうやら抗IFN-I自己抗体があるとウイルス複製がうまく食い止められなくなるようです。また、免疫細胞・B細胞やT細胞表面のタンパク質への自己抗体はそれらの細胞の枯渇と関連することも示され、抗IFN-I自己抗体と同様にSARS-CoV-2への免疫反応を害している恐れがあります。免疫系以外への自己抗体も数多く、たとえば脳の視床下部に豊富なオレキシン受容体・HCRTR2への自己抗体がCOVID-19患者8人に認められ、HCRTR2への自己抗体が多いことは意識低下(グラスゴー昏睡尺度点数低下)と関連しました。SARS-CoV-2感染を脱した後に長く続く後遺症(Post-Covid syndrome)が18~49歳ではおよそ10人に1人、70歳を超えるとその倍の5人に1人に生じると考えられています6)。Long Covidとしても知られるそれらのCOVID-19後遺症は長く体内に居座る自己抗体によって引き起こされている恐れがあると今回の研究を岩崎氏と共に率いたAaron Ring氏は言っています。それに、自己抗体が多岐にわたることはCOVID-19に伴う雑多な病態に寄与しているようです7)。英国や南アフリカで広まるSARS-CoV-2変異株の状況(25日時点)英国で広まるSARS-CoV-2変異株B.1.1.7〔別名variant of concern(VOC)202012/01、かつての名称はvariant under investigation(VUI)202012/01〕は心配なことに他のSARS-CoV-2に比べて15歳未満の小児に感染しやすいかもしれず、流行食い止め(maintain R below 1)のために学校閉鎖が必要かもしれないとインペリアル・カレッジ・ロンドンの研究者によるひとまずの解析で示唆されました8)。更なる調査の上で英国政府諮問委員会NERVTAGは判断を下します。18日のNERVTAG議事録によるとB.1.1.7感染者915人のうち4人は再感染者とみられています9)。南アフリカでも変異株が広まっていますが、21日の世界保健機関(WHO)発表によると英国での変異株とは別物のようです10)。南アフリカでの変異株はB1.351(501Y.V2)と呼ばれ、おそらく8月の終わりから出回り始めました11)。英国の変異株は9月に出現したと示唆されています12)。23日にModerna(モデルナ)社は英国で広まる変異株へのワクチンの検討を数週間のうちに始めると発表しています13)。参考1)COVID-19: Sustained Antibody Response / PHYSICIAN'S FIRST WATCH2)Choe PG, et al. Emerg Infect Dis. 2020 Dec 22;27. 3)COVID immunity lasts up to 8 months, new data reveals / Eurekalert4)Bartley GE, et al. Sci Immunol. 2020 Dec 22; 5: eabf8891.5)Diverse Functional Autoantibodies in Patients with COVID-19. medRxiv. December 19, 20206)'Autoantibodies' may be driving severe Covid cases, study shows / TheGuardian 7)Self-sabotaging antibodies are linked to severe COVID / Nature8)21 December 2020. NERVTAG/SPI-M Extraordinary meetingon SARS-CoV-2 variant of concern 202012/01 (variant B.1.1.7) / NERVTAG9)18December2020. NERVTAG meetingon SARS-CoV-2 variant under investigation VUI-202012/01 / NERVTAG10)SARS-CoV-2 Variant - United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland / WHO11)Confirmed cases of COVID-19 variant from South Africa identified in UK / GOV.UK12)COVID-19 (SARS-CoV-2): information about the new virus variant / GOV.UK13)Statement on Variants of the SARS-CoV-2 Virus / moderna

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