サイト内検索|page:112

検索結果 合計:4274件 表示位置:2221 - 2240

2221.

第58回 世界との比較で見えてきた日本のコロナ対策の課題と対応

新型コロナウイルス感染症を巡っては、検査やワクチン接種が遅々として進まず、治療においても病床数が不足している日本。NPO法人医療ガバナンス研究所理事長の上 昌広氏が4月24日、「これまでのコロナ対策を問う」と題した講演会において問題点の指摘と提言を行った。以下、講演の概要を紹介する。季節性の“風邪コロナ”の動向にも注視を緊急事態宣言後の新規感染者数の増加に対し、「リバウンド」という言い方がされるが、世界で感染者数が増加しているということは、日本固有以外の理由がある。それは変異株の拡大と季節性の変動の影響だ。前者については改めて説明の必要はないが、後者については新型コロナ流行を予測する上で重要だ。コロナは元々、風邪のウイルスで、新型コロナが流行する以前から4種のウイルスが世界で流行を繰り返してきた。このような“風邪コロナ”は夏と冬の年2回流行することから、新型コロナも夏に流行する可能性がある。しかし日本の場合、現在の状況では今夏はおろか、今冬であっても国民の大半がワクチン接種を完遂するのは無理だろう。G7の中では、英国と米国において感染者数が激減している。英国については、昨夏の日本の第2波までは、感染者数の急増により「世界の負け組」と呼ばれたが、年末年始頃から減少に転じた。また、米国は死亡者数の急増から第2次世界大戦末の様相とまで言われた。両国はなぜ感染者数の減少に成功したのか、そしてその他の欧州諸国がなぜうまくいっていないのかを分析すべきだ。ワクチン接種数5割超で集団免疫を獲得日本に関しては、やり方次第で緊急事態宣言は必要なかったと考える。各国の人口10万人当たりのワクチン接種率(4月13日現在、1回目接種)のデータによると、英米両国の接種率は約6割。対する日本は1.3%。英米の感染者数の減少傾向を見ると、集団免疫を獲得していることがうかがえる。このことが示すのは、接種率が5割を超えれば感染者数を抑えられるということだ。ただし、速やかな接種でなければいけない。ちなみに、接種率1位はチリで約65%。しかし、同国の感染者数は急増した。ワクチンの主な購入先は中国のメーカーだ。中国製は不活化ワクチンで、有効性は5〜7割。これに対し、米国のファイザー製やモデルナ製はmRNAワクチンで、有効性は約9割だ。後者は世界初のワクチンで、接種後何が起きるかわからないからと、当初は中国製ワクチンが求められていたが、チリの状況が明らかになってから潮目が変わった。菅 義偉首相が4月、5,000万回分のワクチンの追加供給をファイザーと合意した頃、中国は1億回分を輸入した。習 近平・国家主席は自国のワクチンを危ないと思ったのか。一方、ファイザー製は短期的な有効性や安全性が明らかになりつつある。「特例承認」制度を早期に生かせなかった日本日本の接種率が低い理由に、接種開始の遅れがある。主要先進国では昨年12月に始まったが、日本は今年2月からだ。田村 憲久・厚生労働大臣は、安全性チェックのため治験が必要だと言ったが、ファイザー製ワクチンの治験にヨーロッパで参加した国はドイツのみで、多くが自国での治験にこだわらなかった。形だけのブリッジ試験を実行した日本とは危機意識が違うと言えよう。日本は緊急事態と言っても平時の対応だ。医薬品医療機器等法に基づく特例承認という制度があって、治験せずとも承認できるのに、政治判断をしなかった。問題を指摘された菅首相の答弁は、「法改正が必要」との苦しい説明だった。ワクチンを確保したら、あとは打つだけ。欧米では医学生や看護学生、軍人でも接種できる。日本も規制を緩和して打ち手を増やさなければいけない。日本は経済的に大きなダメージを受けている。2020年のGDPは、前年比で-5.1ポイント、アジア圏域では中ぐらいだが、東アジアの中では最下位だ。一方、ヨーロッパで感染対策を緩めたスウェーデンでは、ロックダウン措置をしなかった結果、死亡者数が増えた。2020年のGDPは前年比‐4.2ポイント。高齢者層の経済活動自粛などが要因として考えられる。国際標準とは真逆の日本の対応策日本のコロナ施策における最大の問題点は、PCR検査を抑制したことだ。G20における10万人当たりのPCR検査数(2020年12月9日前後の数字)を見ると、トップは米国で約6万5,000件。翻って、日本は14位で5,000件以下だ。世界のコロナ対策が大きく動いたのは、昨年8月。リードした米国では、新学期が始まるタイミングだった。学校では対面でないと教育効率が下がったり、教員の雇用に影響したりする。週2回の検査により陽性者が早期に発見できるという研究結果を根拠に、実行することにした。日本も東京五輪・パラリンピックの選手や関係者は週2回検査(その後、毎日に変更)するというが、子ども達に週2回検査しようとはしない。ダブルスタンダードになっている。OECD加盟国と中国の10万人当たりのCOVID-19関係論文数(2020年12月28日現在)を見ると、トップはスイスで、日本は34位。「イソジンでうがいをすれば感染を防げる」「PCR検査を増やせば医療が崩壊する」「マスク会食をしましょう」などという言説が行政トップから発せられるのが日本なのだ。実際は逆で、検査をして陰性の人はマスクを外して外食しましょう、これが国際標準であるということは明白だ。大学病院での受け入れ増に必要な感染症改正欧米と比べて患者数が少ない日本で医療が逼迫するのは、コロナ感染者の受け入れ病床数が少ないからだが、とくに問題なのは、大学病院が少数の感染者しか受け入れられない点だ。それはコロナが感染症法に規定されている法定感染症で、受け入れ病院として大学病院は認定されていないからだ。言うまでもなく、コロナは「総力戦」。科学的かつ合理的でなければならない。

2222.

無症候性新型コロナ感染、ワクチン完了で発生率86%減/JAMA

 イスラエル・テルアビブの3次医療センター(1ヵ所)に勤務する医療従事者について、新型コロナワクチン「BNT162b2」(Pfizer-BioNTech製)の接種完了者は非接種者と比べて、2回目接種後7日超の症候性および無症候性のSARS-CoV-2感染の発生率が有意に減少したことを、同国Tel Aviv Sourasky Medical CenterのYoel Angel氏らが報告した。なお、結果は観察デザインに基づく調査のため限定的だとしている。症候性SARS-CoV-2感染へのBNT162b2ワクチンの有効性については、無作為化試験で推定値が示されているが、無症候性SARS-CoV-2感染への効果については不明であった。JAMA誌オンライン版2021年5月6日号掲載の報告。接種完了を、2回目接種後7日超と定義 研究グループは、2020年12月20日~2021年2月25日に、テルアビブの3次医療センターに勤務する医療従事者について行われた鼻咽頭スワブによるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査の結果から、症候性および無症候性SARS-CoV-2感染者に関するデータを集めて分析した。ロジスティック回帰法にて、ワクチン接種完了群と非接種群の感染を、発生率比(IRR)を求めて比較した。被験者の居住地やPCR検査回数によって補正を行った。 ワクチン接種歴は、職場の健康データベースから入手し、接種完了は2回目接種後7日超が経過していることと定義した。 主要アウトカムは、ワクチン接種完了群vs.非接種群の症候性および無症候性SARS-CoV-2に関する補正後IRRであった。副次評価項目は、ワクチン1回接種群(1回目接種後7~28日)に関するIRR、ワクチン接種完了21日超群に関するIRRなどだった。無症候性SARS-CoV-2、ワクチン接種完了群で86%減 被験者の医療従事者は6,710例で、平均年齢は44.3(SD 12.5)歳、女性は4,465例(66.5%)だった。追跡期間の中央値は63日で、BNT162b2ワクチンの1回以上接種者は5,953例(88.7%)、2回接種者は5,517例(82.2%)、非接種者は757例(11.3%)だった。ワクチン接種者はより高年齢(平均年齢:接種者44.8歳、非接種者40.7歳)で、男性の割合が高かった(それぞれ、31.4%、17.7%)。 症候性SARS-CoV-2感染は、ワクチン接種完了群8例、非接種群38例で発生した。感染の発生率はそれぞれ、4.7件/10万人日、149.8件/10万人日で、補正後IRRは0.03(95%信頼区間[CI]:0.01~0.06)だった。また、無症候性SARS-CoV-2感染は、ワクチン接種完了群19例、非接種群17例で、それぞれ発生率は11.3件/10万人日、67.0件/10万人日、補正後IRRは0.14(95%CI:0.07~0.31)だった。 傾向スコア感度分析を行っても、結果に質的変化はなかった。

2223.

ワクチン接種にまつわるさまざまな疑問【コロナ時代の認知症診療】第3回

副作用と副反応、改めて知るそのちがい医療関係者として私は4月の中旬に、2回目のコロナワクチン予防接種を終えた。注射の痛みはこれまでの注射経験の中で最も痛くないものであった。けれども2回とも翌日、注射の刺入点付近を中心に腫れぼったさを自覚した。また2回目は発熱こそなかったものの、翌日はけだるさが続き頭の回転も冴えなかった。「若い人なら3分の2の人に37.5度以上の発熱があるが、高齢になるほどさほどでもない」と言われる典型例だったのだろう。ところでこのような症状は普通なら副作用と言われるはずなのに、どうしてワクチン接種では副反応と呼ばれるのかを注射の後で知った。ワクチンによる健康被害の多くは、免疫反応そのものによって起きるから、こう呼ばれるのだそうだ。インフルワクチンも未経験の高齢者が意外に多い世界の先進国におけるワクチン接種率が日本はとても低いという声がある。一般国民はもとより5月1日時点の新聞記事によると医療関係者における2回目の接種終了率はまだ2割ほどに過ぎないとの報告もある。こうした中で、私の外来でも接種に関する質問がかなり出てきた。ポイントは、まず接種せねばならないものかという質問。次にどんな人はやってはいけないかという質問である。さらにイギリス型など新型コロナウイルスの変異株にもこのワクチンは効くのかという質問もある。とくに最初の問いは多いので、「インフルエンザ予防注射は打っていますか?」と尋ねると、したことはないと答える人が結構多い。そこで高齢者におけるインフルエンザ予防接種の摂取率を調べてみた。その結果、4~7割とする厚労省による報告1)を知り、その少なさに驚いた。ワクチンによる「集団免疫」への希望の声がある。もちろん多くの人は自分がかかりたくないから接種するのである。一方で人口の3分の2が免疫を獲得すれば、パンデミックを食い止め地域社会や国全体を守れるという「集団免疫」の考えがある。その信憑性を疑う声もあるが、これを実現するにはインフルエンザの予防接種でいうところの、これまでの最高くらいの接種率が必要である。けれどもこれは容易ではないだろう。私の知る範囲では、恐らく接種しないだろうと思われる人が少なくない。科学的判断というよりもむしろ本人の信念による気がする。次に接種の絶対禁忌は、各医師会がガイドラインを市民向けに示している:(1)1回目の新型コロナワクチン接種でアナフィラキシーなど重度のアレルギー反応がでた方(2)本ワクチンの成分であるポリエチレングリコール(PEG)にアレルギーのある方である。なおよくありそうな、接種当日37.5℃以上の発熱がある方については、「今は接種できないが、タイミングをずらせば接種可能」とされている。投げかけられるさまざまな疑問にどう答える?次に変異株に対する効果も含めてどれくらい有効だろうか? まず「そもそも変異とは何か?」。これは今の時代、いまさら聞けない質問かもしれない。「ウイルスの遺伝子コピーの写し間違えで、元とは違ったタンパク質からなる生物ができること」と答えても難しいだろう。そこでウイルスのもとになる遺伝子における「伝達ゲーム」のようなものだと言っている。つまりどんどん間違いが広がっていって最初の話とは全く別の話が出来上がるようなものという説明である。さてどこまで効くかだが、これまでの生ワクチンなどと違って、今度のRNAワクチンには、効果が期待されるようだ。インフルエンザのように毎年変異し、全く生物学的に異なるものであれば確かに効果は期待しにくいだろう。そうではなくコロナの場合、新型コロナウイルスの中での変異なので、期待できるのではないかと考えられている。筆者自身は変異株が今では大多数のイギリスにおける疫学的結果が最も大切かと思う。ヨーロッパでワクチン接種率が最も高いイギリスでは、4月30日の段階で、1度でもワクチンを接種した人の割合は約50%だ。1日あたりの感染者は、1月には約6万8,000人だったものが、3ヵ月後には2,000人程度まで急激に減少した2)。まさに集団免疫による効果が出つつあるのだろう。なお、予防接種の持続効果については、少なくとも半年間はあると言われる。つまり半年間くらいは、抗体が血液中に存在するとされるが、それ以上にもつか否かについてまだエビデンスはないようだ。このような多くの質問が臨床の場ではしばしば投げかけられる。筆者自身はNew England Journal of MedicineのFrequently Asked Questionsにあるコロナワクチンに関する特集3)が信頼できると感じている。参考文献・参考情報1)厚生労働省「2020/21シーズンのインフルエンザワクチンの供給について」2)ワクチン接種50%のイギリス 感染が激減3)NEJM — Covid-19 Vaccine Frequently Asked Questions (FAQ)

2224.

擦り傷の治療(洗浄、異物除去、被覆材の選択)【漫画でわかる創傷治療のコツ】第2回

第2回 擦り傷の治療(洗浄、異物除去、被覆材の選択)《解説》創傷には、急性創傷(外傷など)と慢性創傷(褥瘡など)がありますが、今回は急性創傷の中から、擦過傷(さっかしょう)をテーマに取り上げました。主な外傷は、ほかに切創(せっそう)、裂挫創(れつざそう)、刺創(しそう)、咬傷(こうしょう)などがあります。擦過傷とは、いわゆる擦り傷のことで、道路や塀などに擦り付けられ、皮膚が擦りむけた状態の創傷です。損傷自体は浅く、真皮層などに留まることが多いです(皮下組織まで達している場合は、擦過創になります)。通常、軽度の場合は自然治癒しますが、傷に土や砂などが入り込んだまま上皮化すると、外傷性刺青といって皮膚に異物の色が残ってしまうことがあるため、初期治療で異物を取り除くことが非常に大事です。それでは、実際の処置の流れを説明していきます。(1)洗浄擦過傷に限らず、外傷の処置はまず汚染を取り除くこと、つまり洗浄が第一です。創部の直接消毒は創傷治癒を邪魔してしまうので、現在ではほとんどの場合推奨されません。洗浄水は、基本的に水道水でよい1)ですが、深部組織の場合は生理食塩水のほうがよいです。汚染が強い場合には、せっけんも使用可。十分な水で洗浄し、創部に付着している細菌を減らすことが大事です。洗浄はスタッフにも手伝ってもらいましょう。剃毛は、はさみなどで処置の妨げになる部分を取り除く程度の最低限で構いません。疼痛が強い場合は、創部の麻酔を考慮します。《局所麻酔の方法》表面麻酔  患部に麻酔クリームを塗ってラップをのせ、10~30分置く。例)リドカイン・プロピトカイン配合クリーム(商品名:エムラクリーム)、リドカイン塩酸塩ゼリー(同:キシロカインゼリー)など局所浸潤麻酔患部付近の皮内に穿刺して丘疹を作り、そこから広げて麻酔薬を浸潤させる。27~30Gのできるだけ細い針を使用。注入後、3~5分待つ。例)1%エピネフリン含有リドカインなど(2)異物除去次に、異物を徹底的に取り除きます。病院ではガーゼ、滅菌した歯ブラシなどを使用します。取れないものは異物セッシなどを使用することもあります。ここで少しでも異物が残ってしまうと、外傷性刺青の要因となります。周辺組織が壊死している場合は、壊死組織を除去しますが、判断が難しい場合は形成外科にそのまま引き渡していいと思います(原則翌日の対応をお願いします!)。(3)創傷被覆洗浄・異物除去が終わったら、創傷が治る環境にしましょう!一概にどの方法がよいとは言えない部分もありますが、基本として、湿潤環境を整えて創傷治癒を促すことが大切です。湿潤環境とは:創面を乾燥させず、浸出液が適度に保たれた状態。浸出液には創傷治癒に必要な因子が含まれるため、それを保持することで上皮化が早くなります。昔の創傷処置は、感染を恐れて創部を乾燥させていました。以下に、漫画で紹介した被覆材のメリット・デメリットを示します。湿潤環境の形成を目的とした製品もあります。アルギン酸塩+フィルム◎浸出液・血液などの吸収力が高く、止血促進効果がある。△剥がす時に張り付いて取れにくい(貼付時に創面が乾いていたら生理食塩水で湿らせる)。白色ワセリン+ガーゼ◎どこの病院でも取り扱っており、安価。△乾燥し過ぎる傾向にあり、剥がす時に痛みが出ることも。ハイドロコロイド(材)など◎防水性が高く、湿潤環境を保持でき、痛みも少ないため小児に使いやすい。△感染徴候がある場合や浸出液が多い創には向かない。高価で交換時期の判断が難しい。(◎:メリット/△:デメリット)いずれにせよ、専門外で対応する場合は、後日専門医に創部をチェックしてもらう前提で選びましょう。できるだけ近日中(翌日か数日以内)に、形成外科を受診してもらうようにしてください!自宅処置については、交換時にしっかり流水で洗浄してもらうことを指導します。なお、交換時期については自己判断が難しい場合もあり、形成外科では基本的に通院してもらっています。傷が治ってきたら、傷跡をできるだけきれいに治すために、上皮化後の遮光、保湿など、上皮化後に行う後療法の指導も行います。参考1)Fernandez R, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2012 Feb 15.2)波利井清紀ほか監修. 形成外科治療手技全書I 形成外科の基本手技1. 克誠堂出版;2016.3)日本形成外科学会, 日本創傷外科学会, 日本頭蓋顎顔面外科学会編. 形成外科診療ガイドライン2 急性創傷/瘢痕ケロイド. 金原出版;2015.

2225.

第58回 コロナ禍、日医会長政治資金パーティ出席で再び開かれる?“家庭医構想”というパンドラの匣(前編)

2日連続の社説で“大胆”な提言を行った日経新聞こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。今週の個人的なビッグニュースは大谷 翔平投手の13号ホームラン、ではなく、MLBのタンパベイ・レイズをクビになった筒香 嘉智選手を、ロサンゼルス・ドジャースが5月15日(現地時間)に獲得したことです(同じくロサンゼルス・エンジェルスをクビになったアルバート・プホルズ選手も獲得)。レイズは5月11日、筒香選手がメジャー出場の前提となるロースター40人枠から外し、戦力外としていました。2年契約最終年の今季は26試合出場し、打率.167、0本塁打、5打点と打撃が振るわなかったことが原因とされています。最近はほぼ代打要員で、ベンチの隅っこにおとなしく座っている姿が印象に残っています。米紙などは「(レイズが筒香と契約したのは)前例のないほどの大失敗」「今後、日本の球団に所属する日本人野手のポスティング移籍に悪影響を及ぼす」と酷評。日本のネット上でも、「投手の球速がパ・リーグより遅いセ・リーグにいて、かつ狭い横浜球場でしかホームランを量産できなかった筒香が活躍できるわけがなかった」などと、厳しい意見が飛んでいました。3Aで鍛え直すか、日本に戻って来るか、その動向が注目されていましたが、なんとドジャースがトレードで獲得するとは…。故障者が復帰するまでのつなぎとの話もありますが、他球団でクビになった2選手を、昨年世界一のドジャースがどう使っていくのか注目されます。さて、北海道、岡山、広島の3道県にも、16日から今月31日までの期間、緊急事態宣言が発出されました。「まん延防止等重点措置」については群馬、石川、熊本の3県が追加されました。北海道、岡山、広島については、政府の諮問案になかったものを、専門家でつくる分科会でより強い措置が必要だという意見が相次ぎ変更された、とのことです。ワクチン接種も各地でドタバタが続き、医療提供体制の逼迫も深刻さを増しています。今回は、少し古い話になりますが、そんな日本の医療提供体制に対し、5月の連休中、社説を2日も連続して使って“大胆”な提言を行った日本経済新聞の報道と、その中で取り上げられた「家庭医」について書いてみたいと思います。「非常時には医療機関の『経営の自由』を制限せよ」日本経済新聞は、5月4日、5日と連続で、「医療提供体制を問い直す」という社説を掲載しました。通常、社説は1日2テーマないし1テーマで、連続して同じテーマが掲載されることはありません。ゴールデンウィークで話題がなかったという事情もあるとは思いますが、極めて異例なことです。同紙は5月1日、2日の朝刊でも、「コロナ医療の病巣 機能不全の実相」という連載記事を掲載、コロナを診療拒否する医療機関の現状や、非常時における民間病院の「経営の自由」の問題点を指摘しています。社説はその総まとめ、という位置づけのように感じました。社説の内容は、ある筋の人が読めば相当カチンと来るだろう“刺激的”なものでした。5月4日の社説「医療体制を問い直す(上) 非常時の病床確保に強力な措置を」では、「新型コロナウイルスの感染拡大は、日本の医療提供体制のもろさを浮き彫りにした」として、「今後の人口減少社会で医療の質を維持するためにも、日本の医療体制に早急にメスを入れる必要がある」と提言、「小規模に分散した医療資源でコロナ病床を増やすには、医療機関の役割分担を徹底するしかない」と、日経がこれまで主張してきた論を改めて強く主張しています。その上で、大規模病院、中規模以下病院、療養型病院や高齢者施設の役割を明示、「非常時には医療機関の『経営の自由』を制限し、強制力を持って医療機関に病床を確保させることができる仕組みを早急に整えるべき」として、経営を医療機関の自由に任せている現状は「非常事態に対応できない致命的な欠陥」と断じています。「患者はまず家庭医にかかるのを原則」とせよ続く5月5日の社説「医療体制を問い直す(下) 初期診療をこなす家庭医を増やせ」では、その矛先は診療所の開業医(つまり日本医師会)にも向けられました。「世界に冠たる」と言われて来た国民皆保険が「幻想にすぎなかった現実をあぶり出したのがコロナ禍である」、「人口あたりの病床数は格段に多いにもかかわらず、治療体制のゆき詰まりが露見した」と厳しく批判。その上で、「医療の主役である患者第一を貫きつつ、効果が高くコストが低い医療体制に向けた再構築のカギを握るのは、欧州などで一般化している家庭医制度の普及である」と主張、どの病院・診療所にもかかれる「フリーアクセス」制度が大病院志向を生む要因にもなっているとして、「患者はまず家庭医にかかるのを原則」とせよ、と論じています。さらに「患者はGPと呼ばれる資格を持つ家庭医に登録し、病院ではなく登録GPにかかるのを基本とする」 という英国のNHS(National Hearth Service)の家庭医制度を紹介。「日本は一般に、開業医に比べ勤務医の労働環境が過酷」として、「働き方改革を推し進めるためにも大学医学部は家庭医養成を急いでほしい」としています。日本医師会ではタブーだった「家庭医」私自身は日経のこの社説、全体として正論だと思いました。実際、コロナ対応に積極的でない民間病院の存在や、コロナ診療における診療開業医の存在感のなさは、これまで医療提供体制に疎かった一般の人ですら認識、批判するまでになっています。それにしても、「医療機関の経営の自由制限」「フリーアクセスの問題点指摘」「家庭医制度の普及」と、日本医師会がカチン(一昔前なら激怒)と来そうなキーワードをわざわざ用いて、日本の医療提供体制に大胆に“物申し”た姿勢はあっぱれと言えるでしょう。私がとくに驚いたのは「家庭医」という言葉を使っていたことです。「家庭医」は、日本医師会にとって40年近くもタブーとされてきた言葉です。総合医、総合診療医、あるいはかかりつけ医という差し障りのない言葉ではなく、「家庭医」という言葉を敢えて使っていたとしたら、それは相当挑戦的、かつ挑発的なことです。患者登録制と人頭払いを嫌った日本医師会「家庭医」は、日本医師会の中では使ってはいけないタブーの言葉となった原因は、今から36年も前に繰り広げられた「家庭医論争」にあります。1985年から87年にかけて、地域の診療所開業医の新しい機能・役割として家庭医の制度化が議論され、「家庭医論争」が巻き起こりました。厚生省(当時)は「家庭医懇談会小委員会」を設け、地域における家庭医の必要性、家庭医療学確立の重要性などが議論されました。しかし、日本医師会は「家庭医の制度化は開業医療に対する国家統制だ」という論陣を張り猛反対、最終的に制度化は見送られ、家庭医構想そのものも葬り去られました。この時も、NHSの家庭医(GP)制度が一つのモデルとして紹介されました。しかし、GPは患者登録制で報酬体系も人頭払い主体であったため、「フリーアクセス」「自由開業」「出来高払い」を金科玉条のごとく堅持することで存在意義を保ってきた日本医師会の逆鱗に触れたわけです。以降、「家庭医」という言葉を、日本医師会の幹部が建設的な意味合いで使うことはなくなりました。2018年から新しい専門医制度において総合診療専門医が位置づけられましたが、その議論の過程でも「家庭医」という言葉はほとんど使われていません。「出席した人は全取っ替えしないとダメです」と長嶋氏が、しかし、新型コロナ感染症の感染拡大によって、「フリーアクセス」や「自由開業」、そして日経新聞の言う「自由な経営」が、非常時における効率的な医療提供体制の構築に大きな足かせになっていることが明白になってきました。さらに、日本医師会が推し進めてきた「かかりつけ医」(第29回 オンライン診療恒久化の流れに「かかりつけ医」しか打ち出せない日医の限界を参照)も、このコロナ禍でたいした機能を発揮していないことは誰の眼にも明らかです。病院の機能再編に加え、「家庭医」や「かかりつけ医」の再定義や制度化は、正真正銘待ったなしの状況になってきたと言えるでしょう。そんな中、ここに来て、家庭医、かかりつけ医の制度化を改めて進めようという動きが出てきました。財政制度等審議会・財政制度分科会や経済財政諮問会議などでの提言・議論がそれです。折しも、政治資金パーティ出席で日本医師会の中川 俊男会長は国民の信頼を大きく損ない、「出席した人は全取っ替えしないとダメです。今後この人の言うことを聞きますか?」(5月16日に放映されたフジテレビ系の情報番組「ワイドナショー」でのタレントの長嶋 一茂氏の発言)という声すら出ています。パーティがあった翌日(4月21日)、中川氏は日本医師会の定例記者会見で「3度目の緊急事態宣言は不可避の状況」との見解を示し、早急に厳しい制限を伴った緊急事態宣言の発令を政府に要望していました。医療体制逼迫を訴えるのとは裏腹に、自分だけ政治家パーティに出席(つまり医師会の利益のための活動を最優先)していたという事実は、日本医師会にとって(自分たちが考える以上の)相当大きなダメージとなるでしょう。ひょっとしたら、封印されていた“家庭医構想”というパンドラの匣(日本医師会にとっての)が再び開くことになるかもしれません(この項続く)。

2226.

AIが探索したCOVID-19の治療薬/日本イーライリリー

 日本イーライリリーは、SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)による肺炎に対する治療薬として、適応追加承認を取得した経口ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤バリシチニブ(商品名:オルミエント)に関するプレスセミナーを開催した。バリシチニブは関節リウマチ、アトピー性皮膚炎の治療薬として承認されている薬剤。 今回のセミナーでは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への適応拡大で行われた臨床試験の経過、使用上の詳細について説明が行われた。COVID-19のサイトカインストームを抑えるバリシチニブ はじめに齋藤 翔氏(国立国際医療研究センター 国際感染症センター 総合感染症科)が、「新型コロナウイルス感染症の病態、治療の現状と課題 JAK阻害剤の臨床的位置づけ」をテーマに、バリシチニブの臨床的な位置付けや使用上の注意点などを説明した。 COVID-19の病態はすでに広く知られているようにウイルス応答期と宿主炎症反応期に分けられる。そして、治療では、軽症から中等症では抗ウイルス薬のレムデシビルが使用され、病態の進行によっては抗炎症治療薬のデキサメタゾンが併用されているが、今回追加適応されたバリシチニブは中等症以上で顕著にみられるサイトカインストームへの治療として期待されている。 バシリニブの適応追加では、米国国立衛生研究所(NIH)傘下の国立アレルギー感染症研究所(NIAID)主導によるACTT試験が行われた。特にACTT-2試験は、他施設共同・アダプティブ・無作為化・二重盲検・プラセボ対照・並行群間比較検証試験で実施され、COVID-19と診断された成人入院患者を対象にバリシチニブとレムデシビル群(n=515)とプラセボとレムデシビル群(n=518)を比較し、有効性および安全性を評価した。その結果、有効性として回復までの期間はバリシチニブ群で7日に対し、プラセボ群で8日だった(ハザード比[95%CI]:1.15[1.00-1.31] p=0.047)。また、無作為化後14日時点の死亡率では、バリシチニブ群で8例に対し、プラセボ群で15例だった(ハザード比[95%CI]:0.55[0.23-1.29])。 安全性では、グレード3(高度)または4(生命を脅かす可能性のある事象)の有害事象はバリシチニブ群で41%、プラセボ群で47%であり、重篤な有害事象ではバリシチニブ群で15%、プラセボ群で20%だった。また、死亡に至った有害事象はバリシチニブ群で4%、プラセボ群で6%だった。 次に使用上の注意点として禁忌事項に触れ、「結核患者」、「妊婦または妊娠の可能性のある女性」、「敗血症患者」、「透析患者」などへは事前の問診、検査をしっかり実施して治療に臨んでもらいたいと説明した。AIが探索したバリシチニブの可能性 次に「オルミエント錠、SARS-CoV-2による肺炎への適応追加承認と適正使用について」をテーマに吉川 彰一氏(日本イーライリリー株式会社 バイスプレジデント・執行役員/研究開発・メディカルアフェアーズ統括本部)が適応承認までの道程と適正使用について説明した。 もともと本剤は関節リウマチ、アトピー性皮膚炎の治療薬として使用されていたが、COVID-19の流行とともに治療薬の探索が急がれていた。その中で「Benevolent AI社が、バリシチニブがCOVID-19の治療薬になる可能性があるとLancetに発表1)、この報告後、in vitroでの薬理作用が確認され、2020年5月にACTT試験が開始された」と語った。 作用機序は、COVID-19による急性呼吸窮迫症候群について、JAK-STATサイトカインシグナル伝達を阻害することで、増加したサイトカイン濃度を低下させ、抗炎症作用を示すという。 追加された効能は、SARS-CoV-2による肺炎(ただし酸素吸入を要する患者に限る)。用法および用量は、成人にはレムデシビルとの併用においてバリシチニブ4mgを1日1回経口投与し、総投与期間は14日間。本剤は、酸素吸入、人工呼吸管理または体外式膜型人工肺(ECMO)導入を要する患者を対象に入院下で投与を行うものとされている。また、経口投与が困難な場合、懸濁させた上で経口、胃瘻、経鼻または経口胃管での投与も考慮できるとしている。 最後に吉川氏は同社の使命である「『世界中の人々のより豊かな人生のため、革新的医薬品に思いやりを込めて』を実現し、患者の豊かな人生へ貢献していきたい」と語り講演を終えた。●参考文献1)Richardson P, et al. Lancet. 2020;395:e30-e31.

2227.

新型コロナウイルスワクチンと血栓症には関係があるのか? (2):ChAdOx1-S(AstraZeneca)の場合(解説:後藤信哉氏)-1391

 筆者はワクチン接種による新型コロナウイルス感染拡大速度低減、医療崩壊予防効果に期待している。人類を集団として見た場合には現在のワクチンには効果を期待できる。ワクチンも含めて、現在の医療の科学は個体差を考慮できる水準まで進歩していない。集団に対してワクチンを接種した結果何がどれだけ起こったかを記述するのみである。未来を予知する能力はない。ワクチン接種の結果を過去形で、しかし、速やかに公表することが大切である。 本論文ではデンマークとノルウェーにてChAdOx1-Sワクチン接種を受けた28万1,264例を対象とした。北欧諸国は医療データベースの確立された国である。2021年2月9日~3月11日に接種を受けた18~65歳の症例の動脈・静脈血栓イベントの発現率を、デンマークの2016~18年、ノルウェーの2018~19年のワクチン接種を受けていない18~65歳と比較した。ワクチン接種後28日以内のイベントに着目した。心筋梗塞などの動脈血栓イベントについてはChAdOx1-S接種後でも増加を認めなかった。静脈血栓イベントはコントロールの人口10万人当たり30人に比較して、ChAdOx1-S接種後は59人と多かった。標準化罹患率比は1.97(95%CI:1.50~2.54)であった。ワクチン接種の全体に比較すれば静脈血栓イベントを発症した絶対数は多くはない。しかし、18~65歳の健常人では少数の副作用でも許せないというヒトもいるだろう。新型コロナウイルス感染の血栓症の特徴を示しているのか、一般にはほとんど発症しない脳静脈洞血栓が7例に発症している。 本研究では血栓イベントのみでなく凝固異常、出血イベントにも注目している。血小板減少が起こる症例は17例とコントロールの6人よりも多い。原因が解明されない場合が多い。気道出血もワクチン後は35例、コントロールは16例とワクチン後に多かった。新型コロナウイルス感染による血栓形成、凝固異常の原因には不明の部分がある。本研究はChAdOx1-Sワクチン接種後、静脈血栓、脳静脈洞血栓が少数ながら北欧の2つの国の歴史的対照群よりは多いことを示唆した。ワクチン接種により地域の感染拡大速度低減、医療崩壊リスクを低減できると期待できる。圧倒的少数例ではあるが、静脈血栓、静脈洞血栓などが増えることを示唆した本論文を読んで、各国の規制当局、個人はどう考えるだろうか? 個人にとっての正解は常に不明である。科学は客観的数値を与えてくれるが、常に限界が伴う。結果を公表し、公表された結果からみんなが考え、今の時点での最適解を個人なり、国なりに考えざるを得ない。 読者の皆さん、この結果を読んで自分はChAdOx1-Sを受けたいと思うかどうか? 自分が厚生労働省の専門官として政府として、このワクチンを日本国にて承認して使用するかどうか? 自分がワクチンを選択できる自治体の長であったら、自らの自治体にて本ワクチンを接種するか否か? 各々どのような論理にて周囲を説得するか? この機会に自分なりの考えをまとめてみるとよい。

2228.

第60回 昔なじみの抗うつ薬が抗がん免疫を助ける/持参のCOVID-19抗原検査で楽々帰国

昔なじみの抗うつ薬と抗PD-1薬の併用でいっそうの抗腫瘍効果抗うつ薬として昔なじみのモノアミン酸化酵素阻害薬(MAO阻害薬)が免疫細胞によるがん駆除を助ける働きを担い、PD-1阻害薬と併用すればそれら単独投与以上の腫瘍抑制効果を発揮することがマウス実験で示されました1,2)。ペムブロリズマブやニボルマブ等のPD-1阻害薬は腫瘍細胞が免疫攻撃から逃れるために利用するT細胞表面分子を阻止します。PD-1阻害薬はうまくいけば何年も腫瘍を食い止めますが誰にでも効くというわけではなく、その効果を補う薬の標的探しが続けられています。カリフォルニア大学ロサンゼルス校のがん免疫学者Lili Yang氏のチームもその一つで、抗腫瘍免疫との関わりがこれまで知られていなかったモノアミン酸化酵素(MAO)の一つ・MAO-A遺伝子が腫瘍のT細胞で意外にも発現していることを突き止め、どうやらPD-1阻害薬の併用薬の標的として有望なことを見出しました。MAO-Aはドパミンやセロトニンなどの気分向上神経伝達物質を分解します。MAO-A活性が低い男性と攻撃的な振る舞いの関連が示されていることからMAO-A遺伝子は戦士の遺伝子として知られます3)。Yang氏等の新たな研究によるとMAO-AはT細胞の戦士化にもどうやら寄与しているらしく、マウスのMAO-A遺伝子を封じたところT細胞の抗腫瘍免疫が強力となり、腫瘍増殖が抑制されました。MAO-A阻害薬フェネルジン(phenelzine)も同様の効果があり、マウスの腫瘍を増殖し難くしました。また、MAO阻害薬とPD-1阻害薬の併用はいっそうの抗腫瘍効果をもたらしました。T細胞はセロトニンを作って抗腫瘍免疫を底上げし、MAO-Aはそのセロトニンを分解することで腫瘍のT細胞回避を助けてしまうようです。その回避路を断つMOA阻害薬とPD-1阻害薬の併用が試験で検討されることをYang氏は望んでいます。安上がりでどこでも手に入るMAO阻害薬はあわよくばがん患者の抑うつもついでに取り去ってくれるかもしれません。そのような併用試験をするなら前立腺がんは候補の一つになりそうです。というのもMAO-A は前立腺がんで過剰発現し、がん細胞や腫瘍開始細胞(がん幹細胞)の増殖を促して前立腺がんの発生を促すことが示唆されているからです4)。ただしMAO-A は必ずがんに味方するというわけではなさそうで、肝細胞がん、胆管がん、褐色細胞腫、神経芽腫、腎細胞がん、肺腺がんなどでは逆にがんと敵対する腫瘍抑制因子として働くと示唆されています5)。MAO阻害薬の試験ではMAO-Aに備わるせっかくの腫瘍抑制効果を意図せず妨げることがないように注意する必要があるでしょう。ユナイテッド航空がアボット社のCOVID-19抗原検査で楽々帰国できるようにするユナイテッド航空がAbbott(アボット)社と手を組み、海外旅行者の米国帰還の際に必要な新型コロナウイルス感染(COVID-19)陰性証明をよりすんなり取得できる仕組みを提供します6)。ユナイテッド航空の乗客はアボット社の抗原検査BinaxNOW Home Testを携えて出国し、海外滞在中にわざわざ検査センターに赴かずともそれを使って検査することで米国に帰還可能かどうかを判断できるようになります。遠隔医療が使える環境で旅行者がBinaxNOW Home Testのような抗原検査を自ら実施し、海外から米国への飛行機に搭乗するのに必要な陰性証明にその検査結果を使うことを同国は最近許可しています。BinaxNOW Home Testは手帳ほどの大きさで軽量であり、バッグに場所を取らず収めることができます。どっちつかずの検査結果となってしまった場合に備えて1つきりではなく幾つか持っていった方が良いようです。参考1)Wang X, et al. Sci Immunol. 2021 May 14; 6:eabh2383.[Epub ahead of print]2)An old antidepressant helps the immune system fight tumors in mice / Science3)Mentis AA, et al.Transl Psychiatry. 2021 Feb 18;11:130.4)Liao CP, et al. Oncogene.2018 Sep;37:5175-5190.5)Huang Y, et al. Front Oncol. 2021 Mar 8;11:645821.6)United and Abbott Partner to Make Return to U.S. Worry Free for International Travelers with Home-Testing Kits / PRNewswire

2229.

COVID-19予防効果のある薬剤は?RCT11件のメタ解析/BMJ

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染およびCOVID-19に対する薬剤の予防効果について、カナダ・マックマスター大学のJessica J Bartoszko氏ら研究グループが、WHOのCOVID-19関連データベースを基に、新たなエビデンスを継続的に組み込むリビングシステマティックレビュー(LSR)とネットワークメタ解析により検討したところ、ヒドロキシクロロキンについては、入院および死亡率にほとんど影響がない上、有害事象のリスクを増大する可能性が示された。イベルメクチン単独およびイベルメクチン・イオタカラギナン併用は、バイアスリスクが大きい上、不正確性も極めて高く、確かな根拠が得られなかった。本研究は、BMJ誌2021年4月26日号に掲載された。 本研究には、2021年3月25日までのWHOのCOVID-19データベースと、2021年2月20日までの中国のデータベース6件が用いられた。このうち解析対象としたのは、9件のランダム化試験。6件がヒドロキシクロロキン(6,059例)、2試験がイベルメクチン単独(540例)、1試験がイベルメクチン・イオタカラギナン併用(234例)を検討したもので、いずれもCOVID-19予防効果について標準治療またはプラセボと比較する試験デザインだった。 主な結果は以下のとおり。・ヒドロキシクロロキンは、COVID-19による入院(リスク差:1,000例当たり-1例、95%信用区間[CI]:-3~4、高度の確実性)や死亡(1,000例当たり-1例、95%CI:-2~3、高度の確実性)にほとんど効果がないか、あってもごくわずかだった。・ヒドロキシクロロキンは、検査で確定したSARS-CoV-2感染リスクの低下に対する効果がなく(1,000例当たり+2例、95%CI:-18~28、中等度の確実性)、有害事象による投与中止が増える可能性があり(1,000例当たり+19例、95%CI:-1~70、中等度の確実性)、SARS-CoV-2感染(疑い、可能性、検査確定)に対しても効果がないか、あってもごくわずかだった(1,000例当たり-15例、95%CI:-64~41、低度の確実性)。・イベルメクチン・イオタカラギナン併用による検査確定COVID-19への影響(1,000例当たり-52例、95%CI:-58~-37)、イベルメクチン単独による検査確定感染(1,000例当たり-50例、95%CI:-59~-16)、疑い、可能性、検査確定(1,000例当たり-159例、95%CI:-165~-144)への影響は、バイアスリスクが大きく不正確性も極めて高いため、根拠の確実性が非常に低かった。

2230.

第54回 予防効果94%のモデルナワクチン、大規模接種会場で活用

<先週の動き>1.予防効果94%のモデルナワクチン、大規模接種会場で活用2.高齢者ワクチンの7月終了見込みは全国で85.6%、首都圏に遅れ3.検査キットを病院・介護施設に800万回分無償配布/厚労省4.介護保険料が20年で倍加、全国平均が月額6,000円台に5.ドラッグラグ再燃に懸念、薬価引き下げ制度の見直しを/中医協6.オリンピックの開催中止を求める声明/全国医師ユニオン1.予防効果94%のモデルナワクチン、大規模接種会場で活用河野 太郎規制改革担当相は、13日の参議院内閣委員会において、厚労省で現在審査中の米・モデルナ並びに英・アストラゼネカの新型コロナウイルスワクチンについて、5月下旬には承認される見通しを明らかにした。さらに、東京都と大阪府に開設された大規模接種会場では、モデルナのワクチンを使用すると説明。モデルナワクチンも2回接種が必要で、接種間隔は4週間。予防効果はファイザー製95%に対して、ほぼ同等の94%とされる。なお、イギリスのオックスフォード大学の研究者らによって、ファイザー製ワクチンとアストラゼネカ製のワクチンを併用すると有害な副反応が増えることが発表されており、今後、接種に際しては注意が必要だ。(参考)モデルナ製ワクチンの有効性、ファイザーと遜色なく 大規模接種で使用(日本経済新聞)ワクチン併用で副反応増加、重症化はせず 英国治験の暫定結果(産経新聞)2.高齢者ワクチンの7月終了見込みは全国で85.6%、首都圏に遅れ総務省と厚労省は、12日に各市区町村における高齢者ワクチン接種の終了見込みを発表した。政府が目標とする7月末までに終了する見込みだと回答した自治体は85.6%で、全国の高齢者人口に占める割合は84.5%。この中で、岩手・新潟・富山・石川・福井・岐阜・京都・兵庫・奈良・和歌山・鳥取・島根・山口・徳島・愛媛・長崎・大分の17府県では、7月末までにすべての市町村で接種が終了する見込み。一方、東京都67.7%、埼玉県73%、千葉県66.7%、神奈川県84.8%と首都圏で遅れが目立ち、最も低かったのは秋田県で56%に留まった。これに対して、菅総理は「1日も早く接種できるように取り組みたい」として、7月末までの接種完了に向けた自治体への支援を強化することを明らかにした。ワクチン接種をめぐっては、当初は供給量が問題とされたが、現時点では人員不足が課題となっており、厚労省は医療人材向けの求人情報サイト「医療のお仕事 Key-Net」で人材募集を支援するなど取り組みを強化している。(参考)高齢者コロナワクチン接種、7月末終了見込みは85.6% 総務省・厚労省が取りまとめ公表(CBnewsマネジメント)資料 高齢者に対する新型コロナワクチン接種について(厚労省)医師・看護師・医療人材の求人情報サイト「医療のお仕事 Key-Net」(同)3.検査キットを病院・介護施設に800万回分無償配布/厚労省政府は、14日に開催された新型コロナウイルス感染症対策本部において、感染が急速に拡大している地域で、医療提供体制のひっ迫も見られることなどから、N501Y変異株スクリーニング検査の実施や、変異株などの全国的な監視体制を継続することを明らかにした。また、厚労省は同日に「新型コロナウイルス感染症の検査体制整備に関する計画」を発表した。PCR・抗原検査を1日最大77.2万件程度まで充実させるため、コロナウイルス抗原キットを病院や介護老人保健施設、特別養護老人ホームなどに800万回分を配布し、検査体制の拡充を図る。(参考)PCR・抗原検査、緊急時は1日77万件の分析可能に(読売新聞)厚労省、抗原検査キット配布を「可能な限り早く進める」 介護施設など対象(JOINT)資料 新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針 5月14日変更(新型コロナウイルス感染症対策本部)4.介護保険料が20年で倍加、全国平均が月額6,000円台に厚労省は14日、介護保険料が今年度より改定され、全国平均が月額6,000円を超えたことを公表した。高齢化とともに介護保険料は年々上昇しており、介護保険制度が発足した2000年度の平均支払額2,911円と比べると2倍以上になっている。現在、65歳以上で介護や支援が必要と認定された人は667万人で、65歳以上の保険者に対する割合は18.7%だが、今後2025年には20.5%、2040年には22.8%と介護費用の増大が推測される。政府は、全世代型社会保障改革について討議を進めており、介護については、保険者の努力支援制度の強化と介護インセンティブ交付金の強化を行うなど、持続可能性の高い介護提供体制の構築を目指している。(参考)介護保険料2.5%上昇 65歳以上で初の6000円超え(日経新聞)資料 第8期計画期間における介護保険の第1号保険料について(厚労省)5.ドラッグラグ再燃に懸念、薬価引き下げ制度の見直しを/中医協厚労省は、12日に中央社会保険医療協議会薬価専門部会と総会を開催し、2022年度の薬価制度改革に向け製薬団体から意見を聴取した。日本製薬団体連合会からは、新薬の特許期間に市場実勢価格に応じた薬価引き下げが行われており、研究開発投資の削減と競争力低下、日本市場の魅力低下によりドラッグラグが再燃する懸念を挙げ、特許期間中の新薬について薬価を維持する新薬創出等加算の見直しや、薬価引き下げに用いられる市場拡大再算定ルールの見直しを求めた。総会では、年間販売額が350億円を超え、承認時に予測していた基準年間販売額2倍超の要件を満たしたテセントリク、ビンダケルなど医薬品10品目に対し市場拡大再算定を行い、8月1日からの薬価引き下げを了承した。(参考)特許期間中の薬価維持を‐製薬協など新薬加算見直し要望(薬事日報)中医協総会 テセントリク、ビンダケルなど5成分 市場拡大再算定適用で薬価引下げへ(ミクスonline)6.オリンピックの開催中止を求める声明/全国医師ユニオン13日、勤務医らで作る労働組合が東京オリンピック・パラリンピックの中止を訴え、国に要請書を提出した。新型コロナウイルス感染拡大が十分にコントロールされていない中開催することで、新たな変異株の脅威に晒されるなどの懸念を表明した。全国医師ユニオン代表の植山 直人医師は会見で「選手にはつらい話だが、大会中止は誰かが言い出さなければならない。医療従事者は声を上げることが求められていると思うので、あえて要請を行った」と語った。(参考)「東京五輪・パラ中止を」勤務医の組合が国に要請書(NHK)医師ユニオンが五輪中止を要請「新たな変異株生む恐れ」(朝日新聞)要請書 危険な変異株ウイルスを拡散し新たな変異株を生みだす危険性が高い東京オリンピックの開催中止を強く求める(全国医師ユニオン)

2231.

新型コロナウイルスワクチンと血栓症には関係があるのか?:Ad26.COV2.S(Janssen)の場合(解説:後藤信哉氏)-1390

 新型コロナウイルス禍の克服の鍵の1つがワクチンである。人類は科学技術の英知を結集して驚くべき速さにて新型コロナウイルスに対するワクチンを複数開発した。予後の悪い疾病に対する治療と異なり、健常人に接種するワクチンには高い安全性が要求される。有効かつ安全なワクチンの開発には一般に長い年月がかかる。複雑精妙な人体の調節系は完全に理解されていない。薬剤であれ、ワクチンであれ、投与後の反応を個別予測する演繹的方法は確立されていない。拡大する新型コロナウイルス感染、感染すれば致死率は2%に至るとされる。人類全体として見ればワクチンによる免疫の獲得は感染の拡大速度を減少させ、医療崩壊を防ぐ効果を期待できる。現在も感染の第4波が拡大し、地域によっては医療崩壊にひんしている日本では感染拡大速度を減少させるワクチンを急速に拡大させたい。集団としての視点から日本国内のワクチン接種に反対するヒトは少ないと思う。しかし、予防介入、治療介入には副作用がある。安全性の高いワクチンであっても、ワクチン接種直後に心筋梗塞、脳梗塞などを偶然発症する場合もある。副作用なのか、偶発症なのか、個別のイベントにおける判断は難しい。 今回JAMA誌に掲載されたのはAd26.COV2.Sワクチン接種後、6~15日にて60歳以下の症例に発症した12例の脳静脈洞血栓症の報告である。脳静脈洞血栓とは聞き慣れない名前である。もともと中年女性に多いとされるが、ワクチン接種の6~15日に起こればワクチン接種と関係がありそうである。ワクチン接種と無関係の偶発症と、ワクチンによる副作用の弁別は困難である。本論文に報告された症例は12例と多くはないが、ワクチン接種との関係性が示唆される。まず、一般社会における静脈洞血栓が少ない。さらに、この12例のうち11例に免疫的血栓症であるヘパリン惹起血小板減少・血栓症の抗体が陽性と報告されている。ヘパリン惹起血小板減少・血栓症も治療困難な疾患である。実際、60歳以下の症例であっても3例が死亡、3例にICU入院が必要となった。 本論文では個別の症例の情報を多く記載している。ワクチンがよいとか悪いとかの結論でもない。ワクチン接種と関連しそうな特殊な血栓症があるので、本質を追求しようと結論している。 繰り返すが人体は複雑精妙な調節系である。筆者はワクチン接種により新型コロナウイルス感染拡大速度の低減に期待している。しかし、人体への介入に対する結果の予測は困難である。個別にはワクチン接種により不可逆的疾病が惹起される個人がいるかもしれない。ワクチン接種による人類全体の長期的反応も未知である。一見不都合に見える結果も公表し、少数ではなく、多数の意見にてベストを見いだそうとする米国の姿勢は筆者には好ましく思える。皆さんはどう思うだろうか?

2232.

ファイザー社ワクチン、無症候性感染も予防か/Lancet

 2020年12月から英国において、ファイザー(BNT162b2mRNA)およびアストラゼネカ(ChAdOx1nCOV-19)の新型コロナウイルスワクチン接種が急速に進められている。今回、SIREN Study Groupに所属するオックスフォード大学のVictoria Jane Hall氏らは、両ワクチンの適用範囲に関する因子を特定することを目的に、無症状で定期的な検査を受けている医療従事者を対象者としてBNT162b2mRNAのワクチン効果を記録した。その結果、BNT162b2mRNAワクチンが症状の有無にかかわらず生産年齢人口の感染を予防できることを明らかにした。また、今回の対象者は変異株B1.1.7流行時にワクチン接種されており、この変異株に対しても有効性を示していた。Lancet誌2021年4月23日号掲載の報告。 SIREN Studyは、英国の公立病院で働くスタッフ(18歳以上)を対象とした前向きコホート研究。参加者は陽性群(抗体陽性または感染歴あり[過去の抗体検査またはPCR検査で陽性])と陰性群(過去の抗体検査またはPCR検査で陰性)のいずれかに割り当てられた。ベースライン時点の危険因子は登録時に収集、臨床経過は2週間ごとに収集された。ワクチン接種の有無は全国予防接種管理システムとアンケートを紐付けて収集した。参加者は隔週で PCR検査と毎月の抗体検査を受け、SIREN以外のすべての検査(症状を有する人の検査を含む)も受けた。フォローアップ期間は2020年12月7日~2021年2月5日だった。 主要評価項目は、ワクチン接種を受けた参加者のワクチン接種範囲の分析結果とPCR検査によるワクチンの有効性の確認だった。 主な結果は以下のとおり。・2万3,324例がこの分析の選択基準を満たし、英国の104サイトに登録された。・参加者の年齢中央値は46.1歳(IQR:36.0~54.1)で、1万9,692例(84%)が女性だった。・分析開始時に8,203例(35%)が陽性群に、1万5,121例(65%)が陰性群に割り当てられた。・総追跡期間は丸2ヵ月で110万6,905人日(ワクチン接種:39万6,318、ワクチン未接種:71万587)だった。・2021年2月5日時点のワクチン接種率は89%、そのうちの94%がBNT162b2ワクチンを接種していた。・ワクチン接種率の低さは、既感染、性別、年齢、民族性、職業、 Index of Multiple Deprivation(IMD:イギリスの各地域の相対的豊かさをデータに基づき数値化した指数)のスコアに関連していた。・フォローアップ中、ワクチン未接種の参加者で977例の新規感染があった(感染発生密度:14例/1万人日あたり)。・ワクチン接種済みの参加者は、最初の投与から21日以上経過の後に新規感染が71例(発生率:8例/1万人日あたり)発生、2回目の投与から7日後に9例が感染(感染発生密度:4例/1万人日あたり)した。・ワクチン未接種の参加者では、543例(56%)が典型的な新型コロナ症状を示し、140例(14%)は無症状もしくはPCR検査14日前の時点で無症状だった。一方で、ワクチン接種済みの参加者では29例(36%)は典型的なCOVID-19症状を示し、15例(19%)が無症状だった。・本研究対象集団において、BNT162b2ワクチンの初回投与から21日後では70%(95%信頼区間[CI]:55~85)、2回の投与では7日後に85%(95%CI:74~96)のワクチン有効性を示した。

2233.

第57回 ワクチンの優先接種を強要する人、廃棄対策員に廻ればいいのに

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19、以下、新型コロナ)のワクチン接種が徐々に本格化している。医療従事者を除く一般国民で最も優先順位が高い接種対象者である高齢者(約3,600万人)への接種がゴールデンウイーク明けから始まった。一個人としても実家で暮らす80代の両親が5月10日に1回目の接種を終え、ほっとしているところだ。そんな最中、嫌なニュースが飛び込んできた。「何とかならないのか」愛知県西尾市の副市長、スギ薬局創業者夫妻の新型コロナワクチン予約枠の優先確保を指示(東京新聞)ドラッグストア業界で売上高国内トップ10に入るスギ薬局創業者で、そのホールディングスカンパニーであるスギHDの会長夫妻の秘書が、夫妻が優先的にワクチン接種できるよう地元の愛知県西尾市に再三要請。最終的に副市長と健康福祉部長が通常の予約申し込み電話とはまったく別に、健康福祉部健康課に電話をすることで予約が成立する便宜を図っていたことが発覚したというものだ。前述の第一報でスギHD広報室は「市に問い合わせは何度かしたが、便宜を図ってもらうよう依頼したことは一切ない」とコメントしていたが、その後の西尾市による記者会見の内容、またスギHDが公表したお詫びコメントを合わせて考えれば、第一報でのスギHD広報室のコメントは虚偽となる。記者目線で見ると、お詫びコメントも非常に往生際の悪いものとなっている。明らかに便宜供与を要求しているにも関わらず、最後まで「問い合わせ」という言葉で誤魔化しているからだ。ちなみにやや口酸っぱく言うと、医療関係の上場企業の中でもこうした往生際の悪さは製薬企業以外ではよく見かける。要は上場企業としての情報開示や危機管理の経験が浅いため、外向き発信(対外的謝罪)であるはずなのに内向き発信(会社防衛・社内への忖度)の姿勢が露骨に滲んでしまうのである。さて今回の一件、正直本当に厄介なことをしてくれたものだと思っている。今後のワクチン接種を推進していく際のイレギュラー時の対応に少なからぬ影響を及ぼしてしまうと個人的には危惧している。そもそも今回のワクチン接種がこれほど注目を集め、さらに現場からさまざまな混乱が伝えられるのには訳がある。医療従事者の皆さんには釈迦に説法だが、第一に必要性が非常に高いにもかかわらず現時点では供給量が限定的なことが挙げられる。が、それ以上にこのワクチンの保管管理が非常に面倒なことが混乱に拍車をかけている。当初の保管管理温度は-70℃前後とされた。もはやホッキョクグマですら生存可能かどうかわからないのではないかと思える温度であり、現在では-20℃前後に緩和されたとはいえ、それでも通常の医療機関で保管管理が容易なものではない。また、1バイアル当たりの接種可能回数は半端な6回(注射器によっては5回)。解凍後の冷蔵保存期間は5日間で再冷凍は不可。接種の準備のため生理食塩水で希釈後は室温では6時間しかもたない。つまるところ、この特性ゆえに何らかの予定変更や接種予定者の体調不良で直前のキャンセルなどが発生すれば、せっかく用意したワクチンが無駄になる可能性が少なからずあるのだ。しかも、現在の優先接種対象である高齢者の場合、若年者と比べれば突発的な体調不良が発生する蓋然性は高い。とにもかくにも、ワクチンの無駄を発生させることなく接種するのは相当大変なことである。すでに予定していた接種のキャンセルなどで余ったワクチンを廃棄した事例も報じられている。そして、こうした場合の対応についてワクチン接種担当を務める河野 太郎・内閣府特命担当大臣は4月13日の記者会見で次のように発言している。「それから、昨日、高齢者の接種の中で、余ったワクチンが若干ではありますが廃棄されることがあったようでございます。余ったワクチンが廃棄されないようにということはお願いしてまいりまして、できれば接種券を持っている高齢者がいれば打っていただき、接種券がなくても年齢的に対象になる方がいれば打っていただき、高齢者がいらっしゃらなければそれ以外の方という、できればそういう順番で対応していただきたいと思っております。他市・他県の方でも一向に構いません。まったく制約はございませんので、ワクチンが破棄されないように現場対応でしっかりと打っていただきたいとお願いをしたいと思います。また、接種券がなくて打った場合には、しっかりと記録をしておいていただきたいと思います。」これに関しては記者会見での質疑応答でも次のようなやり取りがある。質問ワクチンの廃棄に関してなんですが。接種券を持っている人がいればその辺りということなんですが、それはどういうことを想定しているのか。要は近くにいる人に役所が電話して呼び寄せろということなのか、たまたまその辺を接種券を持って歩いている奇特な人を探してくださいということなのか、もう少しわかりやすくイメージできることを教えてください。回答もう現場対応で結構です。質問ワクチンの廃棄に関して、他市・他県の方にも誰にでも現場判断で打って構わないということだったんですが、これは高齢者で接種券を持っている方であれば他市・他県の方でもという意味なのか。それとも、極端に言えば、医療従事者でもないし高齢者でもないという若い方がいて、それでも本当に余っていたらワクチンの廃棄を回避するという観点から希望者は誰にでも打って、現場判断で構わないということですか。回答それで結構です。優先順位から言えば、医療従事者ですとか高齢者、高齢者の中でも接種券を持っている方がいればその方を優先していただきたいと思っておりますが、若い方でもそこで予診をやっていただいて、打って問題ないということであれば打っていただいて、どなたに打ったかしっかり記録すると。ですから、身分証をしっかり確認していただくということは必要になるのかもしれませんけれども、廃棄せずにきちんと対応していただきたいと思います。地方自治体の関係者からすれば「丸投げ」と言えるかもしれないが、いずれにせよ読めば分かる通り、非常時は「無駄にするくらいならば、身分確認の上で誰に接種しても良い」ということなのだ。ただ、規則に従って業務を遂行することが何事でも基本のお役所の担当者はこうした時の柔軟な対応が苦手だ。それに加え今回のスギHD会長夫妻の接種順位割り込み事例のようなケースが明るみに出ると、局面が異なることにもかかわらず、不測の事態でワクチンが余っても公平性の担保について過剰に気を使うプレッシャーがこれまで以上に働く可能性が否定できない。結果、(1)ワクチンが急遽余った→(2)接種券を持つ接種待機高齢者を探せ→(3)基礎疾患を有する人を探せ、という経過をたどり、せっかく河野大臣が「余ったら誰に打っても良い」と公言してくれているのに、タイムオーバーあるいは過剰な懸念でワクチンが廃棄となる可能性がある。ここで原点に戻って考えたい。そもそも今回のワクチン接種は、多くの人に免疫を獲得してもらうことで少しでも早く社会機能を回復するために血税が投入され、全員が無料で接種できる。ただ、現時点では供給量に限りがあることや、マンパワーに基づく接種回数の限界もあるため、便宜上優先接種順位が設定されているに過ぎないと言っても過言ではない。総合的に考えれば、優先順位の順守よりも廃棄を防ぐことのほうがプライオリティーが高いのは明らかである。現在のヒトと新型コロナウイルスの戦いは、まさに囲碁の戦いのようなもの。囲碁では自分が持つ白・黒いずれかの碁石で、相手の碁並べ(連絡網)を分断しながら、自分側の碁並べをつないで相手が入れない自分の陣地を数多く作ることが勝利へとつながる。これをより具体的に例えるならば、ワクチン接種者という白い碁石でつながった陣地が増えれば、ウイルスの伝播と言う黒い碁石の繋がりは切断され、白い碁石の勝利が近づく。白い碁石がつながった陣地が増えることは、集団免疫の獲得に例えられるだろう。とにかく誰であれ接種者を増やすことは、接種者本人だけでなく、非接種者も守られることを意味し、それだけ集団免疫に向かって一歩前進することになる。だからこそ、廃棄が発生する非常時なら、接種を行う自治体担当者や医療従事者の家族やそれらの人とたまたま連絡が付きやすい知人を呼び寄せるなど誰でもいいから接種すべきだ。そのほうが明らかに公益に適っている。とにかく接種を担当する医療従事者や自治体関係者にはそのことを肝に銘じてほしいと思う。もっとも、こうした非常時の対応はどんなに理論武装してもあれこれ言う人はいる。だからこそ、非常時ではない正規の機会が均等に保証されるべき接種予約段階で、冒頭のような残念なケースが発生したことの影響は少なくないと感じてしまうのだ。いずれにせよ非常時にたまたま接種できる人に接種することを医療従事者も自治体関係者も臆する必要はないし、たまたま繰り上がりで接種を受けた人もコソコソする必要はない。その意味でも社会全体として幸運にして接種順位が繰り上がった人が堂々と「たまたま打てたよ」と言え、周囲も「良かったね」と言ってあげられる社会であってほしいと思う。

2234.

AZ製ワクチン、血栓症の絶対リスクは?/BMJ

 Oxford-AstraZeneca製の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン「ChAdOx1-S」の接種を受けた人では、脳静脈血栓症を含む静脈血栓塞栓症の発生がわずかに増加することが確認された。他の安全性については、血小板減少症/凝固異常と出血イベントの発生がわずかに高かったが、ワクチン接種を受けた人のサーベイランスが強化された影響のためか、大部分は安心してよい結果であったという。デンマーク・南デンマーク大学のAnton Pottegard氏らが、同国とノルウェーで実施したコホート研究の結果を報告した。自発的な有害事象の報告や臨床のケースシリーズにおいて、ChAdOx1-S接種後数日から数週間以内に血小板減少症、出血、動脈/静脈血栓症が発生したことが確認されているが、これらの発生について一般集団での自然発生に基づく予想より過剰かどうかは不明であった。BMJ誌2021年5月5日号掲載の報告。デンマークとノルウェーで初回ワクチン接種者約28万人について、一般集団と比較 研究グループは、2021年2月9日~3月11日にChAdOx1-Sの初回接種を受けた18~65歳の全員(ワクチン接種コホート)と、デンマーク(2016~18年)およびノルウェー(2018~19年)の一般集団を比較コホートとして検討した。 デンマークおよびノルウェーにおける全国患者登録(すべての病院をカバー)からデータを抽出。主要評価項目は、ワクチン接種後28日までに観察された動脈イベント、静脈血栓塞栓症、血小板減少症/凝固異常および出血イベントの発生で、両国の一般集団における年齢別および性別特異的自然発生率に基づく期待数と比較した。 ワクチン接種コホートには、デンマークからの14万8,792例(年齢中央値:45歳、女性80%)と、ノルウェーからの13万2,472例(44歳、78%)の計28万1,264例が含まれた。静脈血栓塞栓症の過剰発生は、ワクチン接種10万人当たり11人 ワクチン接種コホート28万1,264例において、動脈イベントの標準化罹患率比は0.97(95%信頼区間[CI]:0.77~1.20)であった。 静脈血栓塞栓症は、ワクチン接種コホートで59件観察されたのに対し、一般集団の発生率に基づく期待数は30件であり、標準化罹患率比は1.97(95%CI:1.50~2.54)、ワクチン接種10万回当たりの過剰イベント数は11件(95%CI:5.6~17.0)であった。 脳静脈血栓症の発生も期待数より高く、標準化罹患率比は20.25(95%CI:8.14~41.73)で、ワクチン接種10万回当たりの過剰イベント数は2.5件であった。血小板減少症/凝固異常の標準化罹患率比は1.52(0.97~2.25)、出血イベントは1.23(0.97~1.55)であった。死亡は、ワクチン接種コホートで15例確認されたが、予測数は44例であった。 結果を踏まえて著者は、「ChAdOx1-S初回接種後28日間において、静脈血栓塞栓症発生増大のエビデンスは示されたが、絶対リスクは小さかった。示された絶対リスクについては、ワクチンの有効性が実証されていることや、特定の国の一般化には限定的な研究結果であることを考慮して解釈すべきであろう」とまとめている。

2235.

ファイザー製ワクチン、2回接種で種々の変異株に有効か?/横浜市立大

 横浜市立大学の山中 竹春氏(学術院医学群 臨床統計学)らの研究チームは、ファイザー製新型コロナウイルスワクチンが、従来株のほか流行中のさまざまな変異株に対しても中和抗体の産生を誘導し、液性免疫の観点から効果が期待できることを明らかにした。この研究成果について、同研究者らは5月12日の記者会見で報告した。なお、本研究成果はプレプリント段階であり、今後、学術雑誌に投稿される見込み。 本研究は、日本人のワクチン接種者111例(未感染:105例、既感染6例)を対象に、ファイザー製ワクチンの有効性を中和抗体(液性免疫)の保有率という観点から調査。独自の迅速抗体測定システム『hiVNT 新型コロナ変異株パネル』1)を活用して、従来株(D614G)および変異株7種(英国株:B.1.1.7、南アフリカ株:B.1.351、ブラジル株:P.1、インド株:B.1.617、カルフォルニア株:B.1.429、ニューヨーク株:B.1.526、由来不明株:R.1)の計8株に対する中和抗体を測定した。この株の選定理由はCDC(米国疾病予防管理センター)が注意すべき変異株として公表していることに基づく。 今回利用した『hiVNT』システムは、複数の変異株をとりそろえて(パネル化)、それらに対する中和抗体を一括して評価するもの。元来の方法では中和抗体測定に長時間(通常72時間~1週間)を要するが、このシステムが開発されたことで、3時間で測定可能になった。 主な結果は以下のとおり。・評価対象の未感染105例の平均年齢は42歳だった(範囲:24~67歳)。・未感染者でワクチンを2回接種した人のうち、99%の人が従来株に対して中和抗体を保 有していた。また、流行中のN501Y変異を有する3つのウイルス株(英国、南アフリカ、ブラジルで初めて確認された株)に対しても、90〜94%の人が中和抗体を有していた(従来株[1回目接種後の陽性割合:57%、2回目接種後の陽性割合:99%]、英国株[同:18%、同:94%]、南アフリカ株[同:21%、同:90%]、ブラジル株[同:16%、同:94%]、カルフォルニア株[同:39%、同:97%]、ニューヨーク株[同:55%、同:98%]、由来不明株[同:34%、同:97%])。 ・現在懸念されているインド由来の株に対しても、中和抗体の陽性率が低下するような傾向は見られなかった(同:37%、同:97%)。・未感染者において、計8株すべてが中和抗体陽性であった人は、全体の89%(93/105)だった。・中和抗体の上がり方については個人差が見られた。とくに1回接種のみでは、変異株に 対して中和抗体が産生されない人が一定数存在した。・既感染者は1回目の接種後すぐに十分な量の中和抗体が産生される可能性があるが、追加データによる検証が必要である。 今後も変異株のさらなる出現が予想される。そのため、新たな変異株が登場した際に、それらに対する中和抗体の保有状況を集団レベルですみやかに調べ、既存ワクチンの有効性を評価できる手法が求められる。研究者らは「本研究で使用した中和抗体の迅速測定システム『hiVNT』を社会実装に繋げられるよう、さらなるデータの蓄積を進める予定」とコメントした。

2236.

第57回 コロナ患者受け入れ巡り医療機関の怒りは頂点、どこでやり方を間違った?

今年2月の感染症法改正で、厚生労働大臣や知事が医療機関などに求める新型コロナウイルス感染症患者受け入れについて、「要請」から「勧告」に権限が強化された。正当な理由なく勧告に応じなかった場合には、医療機関名などを公表することもできる。感染者の増加で病床が逼迫する大阪府では4月、この改正法に基づき、府下の急性期医療機関に対し受け入れ病床の増床を求める通知を発出した。これを受けて大阪府保険医協会は4月23日、医療現場の実情を踏まえた運用を府に求めるため、府内全病院に対しコロナ病床の実態などを尋ねるアンケートを実施し、97病院から回答を得た(4月30日現在)。このうち42病院が病床確保要請を受けている病院だった。「できない」理由は人員不足と構造上の問題この42病院のうち、府のさらなる受け入れ要請に対し「できる」「一部できる」と回答したのは、24病院(約6割)で、「できない」は16病院(約4割)だった。受け入れ不可の理由としては、「医師・看護師などの人員不足」(16病院)、「個室や動線確保など病棟の構造上の問題」(14病院)が挙げられたほか、受け入れ病床数や通常医療の維持で「限界」との回答もあり、現場の人員不足はきわめて深刻だ。「勧告」「病院名公表」の前に病院の事情を聞くべき大阪府の通知にある「正当な理由」がない場合は「勧告」の対象になるということについての受け止めは、病床確保要請があった42病院のうちおよそ半数の20病院が「事前に病院の事情を聴くべき」と回答。「理由を明確にすべき」「納得いかない」を加えると24病院が府の要請について丁寧な対応を求めており、「“正当な理由”は誰が判断するのか」「病院にばかり負担を強いて現場は不満だらけ」といった意見が寄せられた。「勧告」に応じない場合の「病院名公表」などについては、前述の回答と同様、丁寧な対応を求める回答が半数以上を占めており、「人員の不足、病院の構造上の問題など、協力したいができない理由はさまざまで、それを一緒くたにすべきではない」「コロナ以外で、できるだけ対応するしか、貢献するしかない状況。各病院、それぞれの状況があり、それを否定することは許されない」といった意見が寄せられている。コロナ患者の転院調整が機能していない大阪府の入院調整のために、自院で発生したコロナ患者の受け入れが許可されない病院は8病院あり、条件付きは20病院。「転院調整が機能していない」との回答が多く、受け入れ病床の使用が制限された上に転院調整は受けてもらえないという進退窮まった現状にあることが伺える。また、「不急」の手術などに対して延期要請が出ているが、回答した97病院のうち18病院(うち病床確保要請を受けているのは15病院)は延期実施が「ある」と回答。主な事例としては「整形外科関係が多い」「良性の疾患、がん以外の症例は基本的に延期」「眼科や外科の急を要しない手術」などが挙げられた。コロナ患者の受け入れに加え、医師と看護師はワクチン接種にも対応しなければならず、医療現場の混乱は容易に予測できる。ワクチン接種を巡っては問い合わせが殺到し、すでに日常診療に影響が出ている病院もある。本稿で紹介したのは大阪府の事例だが、当然ながら同じ状況はいまや全国に起きており、喫緊の課題である。各自治体は、医療現場の現状をつぶさに把握した上で、速やかに明確なロードマップを示すことが求められている。これ以上の混乱に対処する時間や余力など、もはや医療者には残っていない。

2237.

トシリズマブ、重症COVID-19肺炎患者の生存率改善/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による重症肺炎で入院した患者の治療において、IL-6受容体モノクローナル抗体のトシリズマブ(商品名:アテムクラ)を投与することで臨床状態が改善し、28日以内の退院率が向上する、という結果が報告された。無作為化非盲検対照プラットフォーム試験「RECOVERY」によるもので、Lancet誌2021年5月1日号に掲載された。ただし、別の研究においては、トシリズマブは臨床状態改善や死亡率低下に寄与しないとの結果も報告されており、今後の詳細な分析とさらなる試験結果が待たれる。 2020年4月23日~2021年1月24日の間に、RECOVERY試験に登録された2万1,550例のCOVID-19患者のうち、低酸素状態(空気中の酸素飽和度が92%未満、または要酸素療法)かつ全身性炎症(C反応性タンパク質[CRP]が75mg/L以上)が認められた成人患者4,116例を対象とし、トシリズマブ群と標準治療群に1対1で無作為に割り付けた。 ベースライン時点で、4,116例中562例(14%)が侵襲的人工呼吸器を装着し、1,686例(41%)が非侵襲的呼吸サポート(高流量経鼻酸素、CPAP、非侵襲的換気を含む)を受けており、1,868例(45%)が単純酸素吸入だけを受けていた。 CRPの中央値は143(IQR:107~204)mg/Lで、3,385例(82%)の患者が全身性コルチコステロイドを投与されていた。主要評価項目は28日後の全死亡率、 副次評価項目は退院日数、およびベースライン時点で侵襲的人工呼吸器未装着だった患者の人工呼吸器装着または死亡だった。 主な結果は以下のとおり。・参加者の平均年齢は63.6(SD:13.6)歳であった。・無作為化後28日以内に死亡したのはトシリズマブ群2,022例中621例(31%)、標準治療群2,094例中729例(35%)だった。(発生率比:0.85、95%CI:0.76~0.94、p=0.0028)。・トシリズマブ群は、標準治療群に比べて28日以内の退院率が高かった(57%対50%、発生率比:1.22、95%CI:1.12~1.33、p<0.0001)。・ベースライン時点で侵襲的人工呼吸器未装着の患者において、トシリズマブ群では人工呼吸器装着または死亡という複合エンドポイントに到達する可能性が低かった(35%対42%、リスク比:0.84、95%CI:0.77~0.92、p<0.0001)。・全身性コルチコステロイド投与患者を含む、事前に規定されたすべてのサブグループで一貫した結果が得られた。

2238.

J&J新型コロナワクチンによる脳静脈洞血栓症例、初期症状に頭痛/JAMA

 米国で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン「Ad26.COV2.S COVID-19」(Janssen/Johnson & Johnson製)を接種後、血小板減少症を伴う脳静脈洞血栓症(CVST)という深刻なイベントを呈した当初の12例について、その臨床経過や検査結果、臨床アウトカムが報告された。米国疾病予防管理センター(CDC)のIsaac See氏らが、ワクチン有害事象報告制度(Vaccine Adverse Event Reporting System:VAERS)の報告書などを基にケースシリーズを行い明らかにしたもので、12例は年齢18~60歳未満で、全員が白人女性、接種から発症までの期間は6~15日で、11例の初期症状が頭痛だった。調査時点で、3例が死亡している。Ad26.COV2.Sワクチンは、2021年2月、米国食品医薬品局(FDA)から緊急使用許可を得て、4月12日までに約700万回が接種された。そのうち6例で、血小板減少症を伴うCVSTが確認されたことを受け、4月13日に接種が一時的に中止されている。JAMA誌オンライン版2021年4月30日号掲載の報告。VAERS報告書や診療録、医師への聞き取りを基に調査 血小板減少症を伴うCVSTの発生は、欧州において、チンパンジーのアデノウイルスベクターを用いたChAdOx1 nCoV-19ワクチン(Oxford/AstraZeneca製)接種後の、まれで重篤な症状として報告されており、そのメカニズムは自己免疫性ヘパリン起因性血小板減少症と類するものが提唱されている。 研究グループは、Ad26.COV2.Sワクチンを接種後、血小板減少症を伴うCVSTを呈し、2021年3月2日~4月21日にVAERSに報告のあった12例について、その臨床経過や画像・臨床検査結果、アウトカムについて、VAERS報告書や診療録を入手し、また医師への聞き取りを行い調査した。12例中7例に1つ以上のCVSTリスク因子あり 12例は米国内11州から報告され、年齢は18~60歳未満で、全員が白人女性だった。うち7例に、肥満(6例)、甲状腺機能低下症(1例)、経口避妊薬服用(1例)といった1つ以上のCVSTリスク因子があった。全例で、ヘパリン投与歴はなかった。 Ad26.COV2.Sワクチン接種から症状が現れるまでの期間は6~15日で、11例の初発症状が頭痛であった。残る1例は当初は腰痛を、その後に頭痛症状を認めた。 12例中7例に脳内出血が、また8例に非CVST血栓症が認められた。 CVSTの診断後、6例が初回ヘパリン治療を受けた。血小板最小値は9×103/μL~127×1033/μLだった。また、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)スクリーニングを受けた11例全例で、ヘパリン血小板第4因子HIT抗体が陽性だった。 12例全例が入院し、うち10例は集中治療室(ICU)で治療を受け、4月21日時点で3例が死亡、3例がICUで治療継続中、2例が非ICUで入院治療を継続、4例が退院した。 研究グループは、「このケースシリーズは、米国におけるAd26.COV2.Sワクチンの接種再開時の臨床ガイダンスに役立つと同時に、Ad26.COV2.Sワクチンと血小板減少症を伴うCVSTとの潜在的な関連性の調査に役立つだろう」と述べている。

2239.

第57回 東京の民間病院の「医療は限界 五輪やめて!」の張り紙が訴える現場の本音

ワシントン・ポストと東京・立川の病院の言い分こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。5月9日に決勝が行われた日本選手権競輪ですが、応援していた郡司 浩平選手(神奈川)は残念ながら準優勝でした。優勝は松浦 悠士選手(広島)。予想はなんとか当たり、車券は取れたのですが、郡司選手の微差での2着…、惜しかったです。さて、東京、大阪など4都府県に出されていた緊急事態宣言が結局5月末まで延長となりました。12日からは愛知、福岡にも対象が広がりました。こちらもある意味予想通りです。それにしても、政府の甘過ぎる希望的観測に振り回されることに国民が慣れっこになってきているのが、少々怖いです。緊急事態宣言の延長によって、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長の来日が延期になりました。各紙報道によれば、緊急事態宣言下での来日が批判を呼び、大会開催に向けてのさらなる逆風になることを避けるためでもあるようです。米国の有力紙、ワシントン・ポストの電子版も5日付で日本政府に対し東京オリンピックを中止するよう促すコラムを掲載しました。同紙のコラムはバッハ会長を「開催国を食い物にする悪癖のある」「ぼったくり男爵(Baron Von Ripper-off)」と呼んでいるのが印象的でした。それにしても、オリンピック・パラリンピック、本当に開催するのでしょうか? 政治家やオリンピック当事者以外は「無理でしょ」と考えている中、興味深いニュースがありました。東京都立川市の社会医療法人社団健生会・立川相互病院の2、3階の窓に、4月末から「医療は限界 五輪やめて!」「もうカンベン オリンピックむり!」という東京オリンピック・パラリンピックの開催に抗議する張り紙が掲示され、SNS上で話題になったというニュースです。「最寄りの病院の叫び」としてツイッターに投稿され、6日現在で6万件以上リツイート、20万件以上の「いいね」がついたとのことです。「心苦しく思う。しかし、反対せざるを得ない」同病院は立川駅近くにある287床の急性期病院です。多摩モノレールの路線に面していることから、乗客に見えるよう2、3階に張り出されたとみられます。SNS上で話題になったことで、多くの報道機関が動き、朝日新聞や毎日新聞などの全国紙やテレビなど多くのメディアで同病院の張り紙が紹介されました。5月9日には日刊スポーツも社会面一面で取り上げています。各報道機関の取材依頼に対し、同病院の高橋 雅哉院長が6日、「報道機関関係者各位」宛の文書で病院の置かれた窮状や開催への疑問を回答し、その内容が新聞等で報道されました。朝日新聞等が報じた回答文書の内容によれば、同病院は2020年4月から新型コロナウイルスの患者に対応し、今年4月までに242人の患者を受け入れていました。5つある一般病棟(各47床)のうち一つを改修して26床の専用病棟にし、さらにICU・HCUのうち3床を新型コロナ重症者用に使っていたとのことです。しかし、大阪府などの感染拡大の状況を見て、5月7日からHCUの全16床を重症~中等症のベッドに転用することを決定。本来HCUで治療すべき患者を一般病棟で管理することになるため、「危険回避のための看護スタッフの負担は限界を超える」と説明、新型コロナ以外の患者に対応できるベッドは199床と大幅に減ったとのことです。また、新型コロナの治療のために一般診療が圧迫される状況は昨年から続いており、救急車の応需率も20年1~3月期の80%から、21年1~3月期は55%と激減した、とのことです。看護師等の採用も厳しく、「各病棟ともギリギリの人員配置になっている。疲労のために退職者が出れば、将棋倒し的に医療崩壊につながりかねない」としています。東京オリンピックの開催でさらなる感染拡大が懸念される中「更に突然の看護師や医師の派遣要請、患者受け入れ病院の指定などを報道で知り、病院としてメッセージを表明する必要を感じた」とし、「選手の方たちの努力の積み重ねや関係者の開催に向けたご尽力を考えると、非常に心苦しく思う。しかし、現実的に、感染拡大の可能性のあるオリンピックの開催には反対せざるを得ない」と訴えています。民医連加入病院だから本音を言えた?「オリンピック反対」を1病院がここまで強烈にアピールすることは珍しいことです。日本医師会や東京都医師会もここまではっきりとオリンピック反対の意思表示をしていません。なぜ立川相互病院か…。それは同病院が全日本民主医療機関連合会(民医連)に加入する病院であることを考えれば、うなずける部分もあります。民医連は医療機関で構成する共産党系の社会運動団体です。共産党はオリンピック招致活動の段階から、一貫してオリンピック開催に反対してきました。コロナ禍となって医療が逼迫する中、その反対姿勢はより強固になっています。他の野党が「開催は難しい」だの「延期」だの言ってきた中で、「中止」を強く主張してきたのは共産党だけです(共産党の志位 和夫委員長は1月の衆院代表質問で菅 義偉首相に「五輪は中止し、日本と世界のあらゆる力をコロナ収束に集中すべきだ」と訴えています)。看護師「動員」を巡ってはツイッターデモが同じ共産党系の労働組合の連合体、日本医療労働組合連合会(医労連)もオリンピック反対運動を展開しています。4月下旬、東京五輪組織委員会が日本看護協会に500人の看護師の「動員」を要請したことをきっかけに、愛知県医労連が28日午後2時から、「#看護師の五輪派遣は困ります」のタグ付きでツイッターデモを開始。数時間で10万ツイートを超え、29日夜には20万ツイートを突破した、とのことです。看護師の動員要請のほか、オリンピックを開催した場合、「大会指定病院」を都内外で30ヵ所確保する予定であることなども報道されています。そろそろオリンピックの準備を具体的に進めていかなければならない局面で、昨年を大幅に超える感染拡大が進み、医療体制が逼迫しているのですから、もう進むべき道は見えていると思うのですが、どうでしょう。一昔前なら、共産党系の考えは正論というよりも“左”がかっていたものですが、もはや真っ当な意見として、一般市民も共感するまでになっているのは、政府(と自民党)のコロナに関する政策への不信感の表れとも言えるでしょう。ちなみに、5月10日、読売新聞オンラインは7〜9日に同紙が実施した全国世論調査の結果を報じています。それによれば東京オリンピック・パラリンピックを「中止する」と答えた人は59%に上っていました。同じ10日に開かれた衆参両院の予算委員会で、野党側は「オリンピックは開催できるか」を繰り返し問いましたが、菅首相は「国民の生命と健康を守り、安心・安全な大会が実現できるように全力を尽くすことが私の責務だ」という決まり文句を、うつむいて文書を読みながら何度も繰り返すだけでした。ただ、少し調べてみたところ、東京オリンピック・パラリンピックの「開催都市契約」というものがあり、その契約の中で「中止する権利を有する」と明記されているのはIOCのみとのことです。都やJOC、国に中止する権限がないとしたら、いったい誰がコロナ禍の中、この“暴走列車”を止めることができるのでしょう。出場国、出場選手も限られ、「世界一」を決める意味合いも薄れた大会の陰で、コロナの“犠牲者”や救急医療体制不備による熱中症などの救急患者の対応遅れが続発するとしたら…。これはもはや、モダン・ホラーの世界です。

2240.

新型コロナワクチン初回投与で入院リスク大幅減、スコットランドの全国調査/Lancet

 現在、世界中でCOVID-19ワクチンの接種プログラムが進められており、ワクチンが及ぼす臨床効果の研究は急務である。今回、英スコットランド・エディンバラ大学のEleftheria Vasileiou氏らが、BNT162b2 mRNAワクチン(商品名:コミナティ、Pfizer/BioNTech)およびChAdOx1 nCoV-19(別名:AZD1222)ワクチン(Oxford/AstraZeneca)の大規模接種とCOVID-19入院との関連を調査した。その結果、COVID-19ワクチンの大規模な初回接種は、スコットランドにおけるCOVID-19入院リスクの大幅な減少と関連していた。Lancet誌2021年5月1日号に掲載。 研究者らは、COVID-19-EAVEIIデータベースの早期パンデミック評価と強化サーベイランスを使用して、前向きコホート研究を実施した。データベースには、940の一般診療所で登録された540万人(スコットランド人口の約99%)のワクチン接種、プライマリケア、リアルタイムRT-PCR検査、および入院患者記録などが紐付けられている。COVID-19入院は、COVID-19を主な原因とする入院、または調査期間中にSARS-CoV-2陽性が判明してから28日以内の入院として評価された。なお、調査期間前に陽性と診断された患者は分析から除外された。 主な結果は以下のとおり。・2020年12月8日~2021年2月22日の調査期間中に、18歳以上の成人133万1,993例(30%)がワクチンの初回接種を受けた。平均年齢は65.0歳(SD:16.2)だった。・3万3,834例が、期間中にワクチンの2回目接種を受けた。・ワクチン接種率は併存疾患の数と共に増加し、併存疾患なしの接種率21.2%に対し、5つ以上の場合は80.0%に増加した。・ワクチン接種後28~34日でのCOVID-19入院に対する効果推定値は、BNT162b2 mRNAワクチンの初回接種を受けた患者では91%(95%CI:85~94)、AZD1222ワクチンの場合は88%(95%CI:75~94)であり、分析を80歳以上に限定した場合でも同様の結果(BNT162b2 mRNAワクチン88%[95%CI:76~94]、AZD1222ワクチン81%[95%CI:72~89])だった。・両ワクチンのプール分析での年齢層別の効果推定値は18~64歳で92%(95%CI:82~97)、65~79歳で93%(95%CI:73~98)、80歳以上では83%(95%CI:72~89)だった。 研究者らは、「今回の結果から、BNT162b2 mRNAまたはAZD1222ワクチンの初回接種が、COVID-19による入院リスクの大幅な減少に関連していることがわかった。これは、われわれの知る限り、ワクチンがCOVID-19入院に及ぼす影響を評価する最初の全国的な人口レベルの研究だ」と結論している。

検索結果 合計:4274件 表示位置:2221 - 2240