サイト内検索|page:70

検索結果 合計:4961件 表示位置:1381 - 1400

1381.

高TG血症合併2型糖尿病患者を対象としたRCT研究(ペマフィブラート投与群 vs.対照群)の結果からTGレベルが十分に低下しても心血管イベントの抑制効果に差はみられなかった!―(解説:島田俊夫氏)

 脂質異常症が動脈硬化に悪影響を与えていることは以前から想定されているが、裏付けるエビデンスが乏しい。一方で高LDLコレステロール血症が動脈硬化を促進することは周知の事実となっている。また、コレステロールは細胞膜形成に不可欠な成分であり、ステロイドホルモンや胆汁酸の原料でもある。生命維持に必要不可欠な物質であることを忘れてはならないが、過剰なコレステロール血症の存在は動脈硬化、冠動脈疾患のリスクを増加させることは遍く認識されている。 これまでの多数のスタチンを使った大規模研究でLDLコレステロール値を下げることで、動脈硬化、冠動脈疾患のリスクが下げられることは証明済みである。 しかしながら、糖尿病、メタボ症候群などで高TG血症を随伴することも周知の事実であり、これらの随伴脂質異常症(TG-リッチリポ蛋白、小型高密度リポ蛋白などの増加)の是正が冠動脈疾患や脳血管障害リスク低下に寄与するか否かは定かではない。 今回、タイミングよくNEJM誌2022年11月24日号に掲載された米国・ブリガム&ウィメンズ病院のAruna D. Pradhan氏らが発表した「PROMINENT」試験1):「2型糖尿病患者を対象としたRCT研究で高レムナント血症、高TG血症(200~499mg/dL)、低HDLコレステロール血症(40mg/dL以下)があり、高LDLコレステロール血症がスタチン投与等により比較的良好(100mg/dL以下)にコントロールされている対象を2群にランダム割り付けを行い、コントロール群とペマフィブラート(pemafibrate[PF])投与群に群分けし、心血管イベントがPF群で有意に低下するかを主要評価項目とした多施設共同二重盲検ランダム比較試験」の結果が掲載された。「PROMINENT」試験では治療効果を数年間(中央値3.4年)追跡し、primary outcomeを評価した。 つまり、高TG血症絡みの病態をPFで治療することで心血管発作が抑制できるか否かをprimary outcomeとして評価した研究であり、多くの方が関心を示すと考え、紹介する。 これまでの状況証拠としては高TG血症絡みの病態は糖尿病、メタボ症候群などでよくみられる脂質異常症であり、動脈硬化や血栓症をベースに血管疾患の発生に深く関与していると想定されているが、釈然としない。 本試験でのPFの心血管イベント抑制効果はハザード比[HR]:1.03(p=0.67)でPF投与群とプラセボ群(対照群)間に差はなかった。率直に言えば、目的としたイベント抑制効果はなかった。若干の懸念としては、これまでの論争がこれで完全に氷解したと考えるには臨床家としては多少の違和感を禁じ得ない。また、腎臓有害事象の発生率(HR:1.12[p=0.004])、静脈血栓症の発生率(HR:2.05[p<0.001])はPF群で有意に多かった。一方で、非アルコール性脂肪肝の発生率についてはPF群で有意に低かった(HR:0.78[p=0.02])。しかしながら、これらは副次的な情報と捉えるべきである。 PF群に認められたLDLコレステロール値上昇がTGやレムナント低下などのメリットを相殺した可能性も否定はできないが、つじつま合わせの印象は免れない。 いずれにしても“主テーマであった心血管イベントの抑制効果の差は、PFの上乗せにより得られなかった”というのが本論文の結論である。(2022年12月20日 記事を修正いたしました)

1383.

第139回 情報過多でも希少疾病の患者が孤立する理由

私のような仕事をしている者のもとにはさまざまな企業・組織からプレスリリースや記者会見などの案内が届く。一昔前はこうしたリリースなどはメディア各社が所属する記者クラブに一括して届き、それを基に各社の記者が会見などに出席することが一般的な流れだった。このため以前の本連載で私のようなフリーは、この点でかなり不利であると書いた。それでも世の連絡手段が電話中心からインターネットを介したメール中心になったことでかなり改善はしている。そのためほぼ毎日のように、どこからかはメールでリリースが届く。そうした中、医療関係のニュースリリースで最近一番増えているのは、製薬企業が主催する疾患啓発のプレス向けセミナーである。もちろん主催する製薬企業側は啓発対象疾患の治療薬を有し、セミナーの中心は対象疾患のキーオピニオンリーダー(KOL)とされる医師の講演である。ただし、一昔前と比べ、実際のセミナー内容には変化が認められる。まず、2018年に厚生労働省が策定した「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」の影響で、セミナー内で直接的に主催製薬企業の製品名が出てくることはかなり少なくなった。中にはKOLの医師が治療の実際について解説する際も、主催企業の製品も含め一般名すら言及されることなく、「A薬」「B薬」などと伏字にされていることもある。また、かつてはこうしたセミナーが取り扱う疾患は高血圧症や糖尿病などいわゆるコモンディジーズが多かったが、現在は製薬企業の新薬開発トレンドを反映し、がん、神経疾患、希少疾患などのケースが多い。とくに国内での患者数が数百人という希少疾患のプレスセミナーは激増と言ってもいい。しかも、この手のケースでは専門医に加え、実際の患者さんがセミナーに登壇することもある。正直、私のように医療をテーマとして取材する記者も数多くの希少疾患すべてに関して詳細な知識があるわけでもなく、こうした機会にはなるべく出席しようと思って、足しげく通っている。先日も製薬企業が主催したある希少疾患のセミナーに出席した。その希少疾患とは「短腸症候群」である。短腸症候群とは先天的あるいは後天的な事情で小腸が通常より短くなっている状態のこと。具体的な原因には小腸軸捻転症や壊死性腸炎、クローン病などで小腸を切除したなどが挙げられる。私もこの主催企業の開発品一覧でこの疾患名を見たことはあったが、具体的にどのようなものであるかはほとんど知識がなかった。KOL医師の説明によると「実は明確な学術的定義はない」という点がまず驚きだった。ただ、海外などでは小腸の75%以上を切除していることなどを要件とし、日本国内では障害者手帳交付基準の小腸障害として、小腸の長さが成人で1.5m未満、小児で75cm未満という基準もあるという。小腸が短いため、食事による生命維持や成長に不可欠な栄養吸収が不十分になり、頻回な下痢、脱水、体重減少などに悩まされる。経腸栄養剤や中心静脈栄養で不足分の栄養を補うことが治療の中心となる。外科的な腸管延長手術や一部の内科的な治療があるものの、現時点では限界がある。再生医療も検討され始めたばかりだ。そして静脈管理が長期化すると腸管不全関連肝障害やカテーテル関連血流感染症などで命を落とすこともある。セミナーでは患者会「一般社団法人 短腸症候群の会」の代表理事である高橋 正志氏が発言した。高橋氏は中学1年生以降に絞扼性イレウスを繰り返して4回目の入院で小腸壊死が発覚し、小腸切除手術を受け、短腸症候群となった。現在は経腸栄養療法や下痢、低マグネシウム血症の対症療法を受け続けている。就労を目指したものの、非正規で週1~2回のアルバイトをして生活を続けているという。2010年からブログを通じて短腸症候群の情報発信や情報収集を始め、2014年に現在の患者会を立ち上げた。患者会立ち上げのきっかけについて高橋氏は次のように語った。「とにかく情報がなかったというのが一番の理由。自身が住んでいたのは半ば医療過疎のような地域で医師も短腸症候群という名前しか知らなかった状態。これからどうなっていくのか、どんな治療をすれば良くなっていくのか全然わからず、とにかく情報が欲しかった。今から30年前のことでインターネットもそれほど発達しておらず、調べる方法もなかった。そうした中で自分なりに調べてきたが、その後体調が悪化し、学業もあきらめざるを得ず、社会参加のきっかけとも考えてブログを開始した」高橋氏が語ったことは希少疾患では現在でよくありがちなことだろう。もっとも近年はインターネットの発展とともに希少疾患の情報も入手しやすくはなっている。実は今回のセミナーに当たって、予習的に私はGoogle検索をかけていた。そこで1ページ目に出てきた検索結果は、上から順に製薬会社A社(今回のセミナーの主催会社)の一般生活者・患者向け疾患啓発ホームページ、MSD(旧メルク)マニュアル、A社の短腸症候群治療薬ホームページ、栄養療法食品会社B社ホームページ、国立研究開発法人 国立成育医療研究センター・小児慢性特定疾病情報センターホームページ、A社の医療従事者向けホームページである。希少疾患の情報が得やすくなったとは言われているが、この検索結果に「これしかないの?」とやや驚いた。私が過去に検索を試みた希少疾患の中でも極めつけに情報が少ない印象だったからだ。より細かいことを言えば、検索結果1ページ目でほぼ中立的と言えるのはMSDマニュアルと小児慢性特定疾病情報センターのみである。もっとも私はA社やB社のページが偏っているというつもりもない。たとえば、筆頭に出たA社の患者向けホームページは図や平易な表現を使用し、検索結果一覧に出てきたホームページの中では最も患者が読みやすいと言っても過言ではない。だが、ここでの問題は逆にA社やB社のように短腸症候群の患者向けの製品を有する企業がない希少疾患の場合、患者が自分の疾患について知る手段はさらに限定されるということ。そして中立的と言える2つのホームページは専門用語が数多く登場し、お世辞にも患者にわかりやすいとは言えない。結局、治療手段が少なければ少ないほど、情報面からも患者は追い込まれてしまうことになる。高橋氏は患者会を結成した結果、「ほかの患者もかなり孤立しているというか、周りに同じ患者がいないということでかなり悩み、苦労していることがわかった」とも話した。私はセミナーの質疑応答の際に高橋氏に短腸症候群になった当初(90年代前半)はどのようにして情報収集していたのかを尋ねてみた。すると次のような答えが返ってきた。「担当の先生があまり詳しくなかったので、できたこととしては図書館で資料検索して、(自分が在住する)県内の図書館同士の連携貸し出しで、少しでも専門書と思われるものを取り寄せて読んでみるということをしていた。中には『この本なら大丈夫かな』と思って取り寄せたら、先生の単なるエッセーだったということもあった」一方、現在はどうか?「今はインターネットで先生方が利用するような情報を入手できるようになったので、語学の問題が何とかなれば海外の論文まで見ることができるようになったので、その辺はかつてとはまるっきり違う。ただし、インターネットの情報は玉石混交が甚だしいので、その辺を見極める目をきちんと養っておかないと簡単に迷ってしまうのではないかと思う」この変化をどう捉えるかどうかは人によって異なるかもしれない。私個人は少なくとも日常生活ですらさまざまな困難を抱える患者が語学などの努力をしなければ、自分の疾患やその治療の最新情報を得られないというのは必ずしも喜ばしいとばかりは言えないのではないかと考えてしまう。今回のセミナーでは高橋氏を含む3人の短腸症候群の患者さんが登場したが、一様にメディアが短腸症候群の問題を報じることへの期待が高いこともひしひしと感じた。これは今回の短腸症候群のように治療選択肢が限られ、そうした治療を欠かさず続けてもなお、一般人にとってごく当たり前の日常と思われがちな就学・就労、結婚などが思うに任せないことが多い疾患ではなおのことだ。彼らがこうした日常生活を送るためには社会の受容が大きな意味を持つため、情報拡散力のあるメディアへの期待が高いことはよくわかる。しかし、メディア界に身を置くものにとっては、インターネット中心に移行しつつある現在特有の限界も感じている。紙メディア中心の時代と違って今はページビュー(PV)という形で読者の反応がリアルタイムでわかり、それゆえにメディアはPVが取れる、今風で言うバズるテーマに偏りがちな傾向は年々強くなっている。ネットメディアではまさにこのPVが編集者や執筆者の評価に直結してしまう。その結果、かつて以上に希少疾患のように患者数、周囲で身近に感じる関係者が少ないテーマは置き去りにされがちな危険性がある。実際、医療をテーマに一般向けにも執筆する自分が編集者と企画相談をする際、企画採用のカギを握るのは患者数であることも少なくないからだ。その意味で一般にあまり馴染みのない疾患を少しでも取り上げる機会は、実を言うとそうした疾患に著名人が罹患した時やその結果として亡くなった時である。実例を挙げれば、先日亡くなったプロレスラー・アントニオ猪木氏の死因は、国内患者数が2,000人に満たない希少疾患の全身性アミロイドーシスだったが、その際は各メディアがこの疾患のことを取り上げた。もっともそうしたメディアの“手法”には「死の商人」的な批判も存在する。あれやこれやと考えれば考えるほどメディア側も打つ手が限られてくる。かと言って、公的情報の充実を求める声を上げるだけではかなり無責任になる。理想を言えば、ある意味採算を度外視できる公的サイトと、われわれ一般向けの伝え手とがコラボレーションできれば最も望ましい姿なのだが、公的機関と民間が手を携えるというのは思っているより高い壁がある。その意味では希少疾患の患者がメディアに期待したいのと同じくらい、この領域の一般向け報道ではメディア側も誰かの助けが欲しいと思う瞬間は少なくない。希少疾患の報道という重い宿題をどう解決していくべきなのか?実はここ最近、ひたすら悩み続けている。

1384.

映画「二つの真実、三つの嘘」(前編)【なんで病気になりたがるの? 実はよくある訳は?(同情中毒)】Part 1

今回のキーワードミュンヒハウゼン症候群作為症(虚偽性障害)詐病疾病利得対人希求演技性パーソナリティ障害シックロールイエス・バット・ゲーム皆さんは、とくに休みやお金がもらえる訳ではないのに、病気になりたいと思ったことはありますか? 「そんな訳ない」と思いますよね。しかし、世の中には、症状をねつ造してまで、病気になりたがる人がいます。いわゆるミュンヒハウゼン症候群です。今回は、これをテーマに、サスペンス映画「二つの真実、三つの嘘」を取り上げます。病気になりたがる原因を解き明かし、嘘つきの心理を掘り下げます。そして、嘘をつくほどでなければ、病気になりたがるのは実はよくある訳を解説します。さらに、病気になりたがる人の見分け方やその対策を探ります。なお、ミュンヒハウゼン症候群への理解を深めると、この映画のキャラ設定や展開をよりリアルに見ることができ、B級ホラーらしからぬこの映画の魅力を見いだすことができます。サスペンスではありますが、この前編はネタバレなしです。ホラーOKなら、とくに医療関係者をはじめとする援助職の方々にぜひ見て欲しい映画です。1つ目の真実は?主人公はメラニーとエスター。2人は子どもを亡くした女性向けの自助グループで出会います。メラニーは、以前からこの自助グループに通っており、初めて参加するエスターに、夫と小さい息子が以前に交通事故で亡くなっていたことを打ち明けます。ところが、後日、エスターがデパートに行くと、たまたまメラニーが一人で歩いているのを見かけます。そして、突然、慌てふためいて息子の名前を叫び出し、店員に子どもが誘拐されたと言い出すのです。エスターは、駐車場に行って探そうとするメラニーを隠れて追いかけます。すると、メラニーが自分の車から息子を降ろして店に連れていくのを目撃してしまうのです。その後、夫も普通に一緒に暮らしていることを目撃します。ここで、タイトルである「二つの真実、三つの嘘」の1つ目の真実が分かります。それは、メラニーがミュンヒハウゼン症候群であるということです。彼女は、夫と息子が交通事故で亡くなったり息子が誘拐されたと嘘をつき、その悲嘆や動揺などの辛い精神症状を真に迫って演じています。このように、症状をねつ造すること、周りにアピールすること、金銭目的ではないことなどがポイントになります。なお、ミュンヒハウゼン症候群は、従来の病名であり、この現在の正式な病名は、作為症または虚偽性障害(DSM-5)です。この診断基準は、表1をご覧ください。ちなみに、息子や夫が嘘の内容の対象になっている点で、表1の右欄の代理ミュンヒハウゼン症候群であると思われるかもしれません。しかし、厳密には、息子や夫に症状をねつ造している訳でなく、メラニーが自分自身に症状をねつ造している点で、左欄のただのミュンヒハウゼン症候群です。また、金銭を得たり仕事などの義務を免れたりするのが主な目的である場合は、詐病です。これは、ミュンヒハウゼン症候群とは区別します。なお、詐病については、関連記事1で詳しく説明しています。なんで症状をねつ造するの?メラニーはなんのためにこんなことをするのでしょうか? それは、同情されることが快感(社会的報酬)になっているからです。詐病に物理的な疾病利得(報酬)があるとすれば、ミュンヒハウゼン症候群には心理的な「疾病利得」があると言い換えられます。もちろん、私たちも同情されたいと思うことはあります。ただし、それは本当に同情されるほど辛い状態になった時だけです。自分から嘘をついてわざわざ同情される状態を作り出すのは、度が過ぎています。さらに、嘘を繰り返してまで同情されることが止められなくなっているのも、度が過ぎています。もはや、これは「同情中毒」と言えます。「中毒」とは、アルコール、ドラッグ、ギャンブルと同じように、止めたくても止められない嗜癖(アディクション)の古い言い回しですが、生々しくてインパクトがあるので、この記事ではあえてそう名付けました。なんでそんなに同情されたいの?メラニーは、そもそもなぜそこまでして同情されたいのでしょうか? それは、同情されることでしか人と関われなくなっているから、つまり同情を乱用した対人希求です。私たちは人と関わる時、「すごい」「さすが」とちやほやされたいという承認欲求があります。たとえば、映画のラストで、テレビ出演して周りから注目されることをメラニーが想像するシーンが分かりやすいです。しかし、現実のメラニーは、夫の稼ぎによってお金があるとは言え、専業主婦で家庭に閉じ込められて子育てに追われ、夫婦関係もうまく行っていません。そうなると、承認されることが子育てぐらいしかなく、しかもそれすら承認してくれる人がいないので、代わりに「かわいそう」「大丈夫よ」とよしよしされたいという「同情欲求」を満たそうとするのです。つまり、承認欲求がポジティブな対人希求だとすれば、同情欲求はネガティブな対人希求であり、対照的です。もちろん、この承認欲求も度が過ぎると、「承認中毒」という状態になります。これについては、関連記事2で詳しく説明しています。ちなみに、ミュンヒハウゼンとは、「ほら吹き男爵」のモデルとなった中世に実在した貴族の名前です。周りから注目されようと嘘をつく点では同じです。しかし、このミュンヒハウゼン伯爵は周りを楽しませて承認欲求を満たそうと嘘をつきましたが、ミュンヒハウゼン症候群は周りから気の毒がられて同情欲求を満たそうと嘘をついている点で違います。つまり、ミュンヒハウゼン伯爵は、症状をねつ造したというエピソードがとくにないので、実はミュンヒハウゼン症候群は当てはまりません。あえて言えば、注目されたいという特徴から、障害レベルではない演技性パーソナリティが当てはまります。なんで嘘をつくの?それでは、メラニーはなぜ次々と嘘がつけるのでしょうか? 私たちは、嘘をつく時に、無意識に落ち着かなくなります。その理由として、もちろん理屈で考えれば、嘘がばれた時に信用されなくなり自分が困るからです。そして、そもそも私たち人間は、嘘をつくなどの反社会的な行動をすると罪悪感を抱くように心が進化したからです。これは、社会脳と呼ばれています。逆に言えば、嘘つきの原因は、この社会脳が生まれながらうまく働かないという遺伝素因の問題か、社会脳が親によって十分に育まれてこなかったという生育環境の問題か、またはその両方が考えられます。これについては、関連記事3で詳しく説明しています。ただし、嘘をついても落ち着かなくならない例外があります。それは、相手を傷つけないための嘘、いわゆる「ホワイト・ライ」です。これも、相手とうまくやっていくための社会脳として進化しました。次のページへ >>

1385.

映画「二つの真実、三つの嘘」(前編)【なんで病気になりたがるの? 実はよくある訳は?(同情中毒)】Part 2

病気になりたがることが実はよくある訳は?確かに、嘘をついてまで病気になりたがるのは、かなり度が過ぎています。しかし、嘘をつくほどでなければ、病気になりたがることは、心療内科・精神科や心理カウンセリングの現場で、実はよくあることです。その理由を大きく3つ挙げてみましょう。(1)もっとかまって欲しいから病気になりたがる1つ目の理由は、もっとかまって欲しいからです。そのために、嘘をつかなくても、困っていることや症状を大げさに訴えたり見せつけます。たとえば、毎回の診察で「死にたい」と訴え続けることです。また、急に倒れ込んだり、リストカットの傷痕を隠さずに出していることです。症状を伝えることは、かまってもらうためではなく、良くするためであるはずなのにです。なお、これらは、意識的に嘘をついている訳ではないので、ミュンヒハウゼン症候群ではなく、演技性パーソナリティ障害と診断されます。(2)病気のせいにしたいから病気になりたがる2つ目の理由は、病気のせいにしたいからです。仕事や人間関係でうまく行っていない時、それが自分の能力や性格によるものであれば、自分のせいになります。しかし、「うつ病」「自律神経失調症」などと診断されれば、その問題を病気のせいにすることができます。また、自分の能力の問題であっても、「ADHD(注意欠如・多動症)」「HSP(敏感な人)」などと指摘されれば、やはり病気のせいにできます。さらに、自分の性格の問題であっても、「毒親」「アダルトチルドレン」などと指摘されれば、家庭環境のせいにすることができます。病気になったのは本人の責任ではないかもしれませんが、病気を良くしていくのは本人の責任であるはずなのにです。もはや、自分で自分に嘘をついている状態です。なお、これらは、無意識に責任逃れや責任転嫁をしている点で、自己奉仕バイアスと呼ばれます。婚活でうまく行かない人が、良い相手がいないと嘆く心理に通じます。また、ひきこもりの人が親に謝罪をしつこく求める心理にも通じます。(3)病人として生きたいから病気になりたがる3つ目の理由は、病人として生きたいからです。病人でいる状況が長くなると、病気に立ち向かって頑張って生きている自分というアイデンティティが確立してしまいます。逆に言えば、病人ではなくなると、病気以外で頑張ること(役割)やその居場所を新しく探さなければならず、見つからなければ自分は何者でもなくなってしまうという恐怖が出てきます。よって、彼らにとって、たとえば精神障害者保健福祉手帳の取得はステータスになります。3級が2級になれば、資格試験で頑張った成果であるかのように納得した表情をします。やがて、「病気自慢」「不幸自慢」をするようになります。そもそも、病気や不幸を語ることは、健康や幸福になるための手段であって、目的そのものではないはずなのにです。なお、これは、無意識に治りたいと思っておらず、病人の役割(アイデンティティ)をまっとうしようとする点で、シックロールと呼ばれています。病気になりたがる人を見分けるには?病気になりたがることが実はよくある理由は、もっとかまって欲しい、病気のせいにしたい、そして病人として生きたいからであることが分かりました。それでは、これらの心理を踏まえて、彼らをどうやって見分ければいいでしょうか? 彼らの特徴を大きく3つ挙げてみましょう。(1)症状を語りたがる病気になりたがる人の特徴の1つ目は、症状を語りたがることです。たとえば、症状を次々と列挙して、その症状がどんなふうでどうなってきたかを、辛そうな表情を交えながらもよくしゃべります。また、医療機関での予診票では、症状のチェック欄には、ほぼすべての症状をチェックします。自己記入式の病状のスクリーニング検査では、病状が重く見られるようにチェックします。そして、こちらが、症状を語りたがっている意図を察知して、あえて話を切り上げようとすると、「話を聞いてくれない」「辛さを分かってくれない」と怒り出します。そもそも、本当に病気の人は、症状を伝えるにしても、一番辛い症状を何とか1つか2つあげるだけで、そんなに語れません。そして、治してもらえるなら、話が早くに終わっても気にしません。(2)病名や原因をはっきりさせたがる病気になりたがる人の特徴の2つ目は、病名や原因をはっきりさせたがることです。たとえば、病名や原因をしつこく聞いてきます。自分がネットで調べて見つけた病名が、厳密には違うと聞かされると、がっかりしたり食い下がってきます。わざわざ自分が持ち歩くだけのために、診断書の発行を希望する人もいます。そもそも、精神科医が病名や原因を伝えるのは、薬の処方をはじめとして今後のためになる場合に限られています。逆に言えば、今後のためにならない場合は積極的には伝えません。その理由は、そうすること自体が、決め付け(ラベリング)になってしまい、その病気や原因に本人がとらわれて、逆になかなか良くならないことがあるからです。(3)治療には乗ってこない病気になりたがる人の特徴の3つ目は、治療には乗ってこないことです。たとえば、病気を良くするためのさまざまな提案に対して、すべて「はい、いいんですけど…でもやっぱり私には無理です」と曖昧に返してきます。これは、心理学で「イエス・バット・ゲーム」と呼ばれています。一方で、「いいえ、そうじゃなくて(ノー・バット)」とはっきり返してくる場合は、「ということは何か考えがあるのですね」とその人なりの思いを掘り起こすことができます。また、「この病気さえなければ」と言い続ける人に、「じゃあ、もしもこの病気が良くなったら、どうしていますか?」と聞くと、「そんなこと考えられないです。だって、病気があることには変わりないじゃないですか」「そんなこと考えて、結局良くならなかったら、ますます辛いじゃないですか」と言い返してきます。さらに、ポジティブな面に目を向ける問いかけに対しては、「私のポジティブなところを聞かれても困ります」「前向きに考えてなんて言って欲しくない」「私はそんなんじゃない」「私の病気を軽く見ないでください」「それがうざいんですよ」と言う人もいます。確かに、とても弱っている時は前向きには考えられません。しかし、それがずっと続く場合は、もはやその人の考え方、生き方の問題になってきますので、治療として限界があることを理解する必要があります。<< 前のページへ | 次のページへ >>

1386.

映画「二つの真実、三つの嘘」(前編)【なんで病気になりたがるの? 実はよくある訳は?(同情中毒)】Part 3

病気になりたがる人にどう接する?病気になりたがる人の特徴は、症状を語りたがる、病名や原因をはっきりさせたがる、治療には乗ってこないことであることが分かりました。それでは、これらの見分け方を踏まえて、彼らにどう接すればいいでしょうか? その対策を大きく3つ挙げてみましょう。(1)ある程度は受容するメラニーは、症状をねつ造していたとは言え、長らく自助グループに通い、お互いに慰め合うことで、日常生活は安定していました。病気になりたがる人への対策の1つ目は、ある程度は受容することです。たとえば、「辛い気持ちを分かって欲しい」と自傷行為を繰り返す人に対しては、「そんなことするくらい辛かったんですね」とその気持ちを受け止めます。その理由は、まずは信頼関係を築く必要があるからです。そもそも信頼関係がなければ、治療が進まないからです。また、病気になりたがっているかは、最初に会った段階でははっきりと分からないことがあるからです。ただし、受容は、あくまで一定レベルで一定期間に留める必要があります。無制限に無期限に気持ちを受け止めると、病気になりたがる気持ちをただ煽る(強化する)だけになってしまうからです。つまり、皮肉にも、困った人の話を聞き続けると、ますます困った人にさせてしまうということです。(2)その気持ちそのものを考えさせる病気になりたがる人への対策の2つ目は、その気持ちそのものを考えさえることです。たとえば、「病気が良くなることを考えること自体が治療なんです。それでも考えたくないですか?」と問いかけ、「変な話、病気であることが生きがいになっている人もいます。私はあなたにそうなって欲しくないと思っています」と遠回しに伝えます。また、症状をねつ造している可能性があるとしても、まずはその矛盾している点を具体的に細かく指摘することに留めます。これらのやり方は、認知行動療法に通じます。注意点は、「あなたは病気になりたがってますね」「嘘をついていますね」とストレートには伝えないことです。心理学では、これを直面化と呼んでいます。そうしてしまうと、そういう人は激しく否認し、信頼関係を損ねます。なお、これは、子どもが嘘をついた時の対応にも通じます。(3)病気以外での人との関わりを促すもしもメラニーが想像した通りにテレビ出演して周りから注目されるようになると、承認によって対人希求が満たされます。すると、もはや同情によって対人希求を満たす必要はなくなるため、症状をねつ造することをしなくなるでしょう。病気になりたがる人への対策の3つ目は、病気以外での人との関わりを促すことです。たとえば、「病気が辛いことについてではなく、病気を良くすることについてなら話を聞きます」と伝え、話の方向付けをすることです。そして、「もしも病気が良くなったら」という先ほどの質問をもう一度して、「あなたの得意なことは?」「好きなことは?」「それを生かす場所は?」という質問につなげていくのです。それでも病気になりたがる人には?しかし、それでも病気になりたがる人もいます。聞き入れられずに堂々巡りになる場合は、もはや治療の限界です。そんな時は「診察の時間には制限があります」「これ以上は治療としてお役に立てることは難しいです」と伝える必要があります。なぜなら、現実問題として、医療現場で病気になりたがる人の話を聞き続けることは、その気持ちを強化する以前に、時間と労力の浪費となり、税金によって成り立っている医療資源の無駄遣いをしていることになるからです。もちろん、病院以外で、「病気自慢」を私小説としてブログで発信したり、自分語りとしてSNSのコミュニティ(自助グループ)で披露することをお勧めすることはできます。それは、自己表現であり、文学です。つまり、対人希求は、病院でネガティブに発揮するのではなく、病院以外でポジティブに発揮することを促すのです。また、自費による心理カウンセリングをお勧めすることもできます。なぜなら、お金を払って話を聞いてもらうのは、本人の自由だからです。ただし、今度は病気になりたがる人がカウンセリングビジネスに利用されないように、助言をする必要はあります。なぜなら、旧ソ連に「国は給料を払うふりをして国民は働くふりをする」というジョークがあるように、「クライエントは病気のふりをして、セラピストは治すふりをする」という関係性ができてしまうからです。それは、もはや治療ではなく、「治療」という衣をかぶった宗教でしょう。なお、カウンセリングビジネスは、関連記事4で詳しく説明しています。なお、次の後編からネタバレになります。この映画をネタバレなしで見たい方は、先に見てから後編に進んでいただき、残りの1つの真実と3つの嘘の答え合わせをしましょう。1)病気志願者―「死ぬほど」病気になりたがる人たち:マーク・D・フェルドマン、原書房、19982)うその心理学:こころの科学、日本評論社、20113)特集「うそと脳」:臨床精神医学、アークメディア、2009年11月号4)「隠す」心理を科学する:太幡直也/佐藤拓/菊池史倫、北大路書房、20215)平気でうそをつく人たち:M・スコット・ペック、1996<< 前のページへ■関連記事万引き家族(前編)【年金の財源を食いつぶす!?「障害年金ビジネス」とは?どうすればいいの?】Part 1ザ・サークル【「いいね!」を欲しがりすぎると?(承認中毒)】Part 1万引き家族(前編)【親が万引きするなら子どももするの?(犯罪心理)】Part 3M-1グランプリ(続編・その2)【ツッコミから学ぶこれからのセラピーとは?】Part 2

1387.

SGLT2阻害薬は非糖尿病CKDにおいてもなぜ腎イベントを軽減するか?(解説:栗山哲氏)

本論文は何が新しいか SGLT2阻害薬に関するこれまでのシステマティックレビューやメタ解析は、2型糖尿病(diabetes mellitus:DM)患者を中心に検討されてきた。本論文では、非DM患者の登録割合が多い最近の大規模研究EMPA-KIDNEY、DELIVER、DAPA-CKD加えて、2022年9月の時点における13の大規模研究、総計9万409例(DM 7万4,804例[82.7%]、非DM 1万5,605例[17.3%]、平均eGFR:37~85mL/min/1.73m2)を解析した。本研究は、DMの有無によりSGLT2阻害薬の心・腎保護作用に差異があるか否かを膨大な症例数で解析した点が新しい。本論文の主要結果 腎アウトカムは、CKD進展(eGFR 50%以上の持続的低下、持続的なeGFR低値、末期腎不全)、急性腎障害(acute kidney injury:AKI)で評価、心血管リスクは心血管死または心不全による入院の複合項目で評価した。 結果は、SGLT2阻害薬は、CKD進展リスクを37%低下(相対リスク[RR]:0.63、95%信頼区間[CI]:0.58~0.69)。その低下の程度は、DM患者(RR:0.62)と非DM患者(RR:0.69)で同等。腎疾患別では、糖尿病性腎臓病(diabetic kidney disease:DKD)(RR:0.60、95%CI:0.53~0.69)と慢性腎炎(chronic glomerulonephritis:CGN)(RR:0.60、95%CI:0.46~0.78)でのリスク低下は40%だが、腎硬化症(nephrosclerosis:NS)のリスク低下は30%であった(RR:0.70、95%CI:0.50~1.00、群間のheterogeneity p=0.67)。また、AKIのリスクは23%低下(RR:0.77、95%CI:0.70~0.84)、心血管死または心不全による入院のリスクは23%低下(RR:0.77、95%CI:0.74~0.81)で、これらもDMの有無にかかわらず同等であった。さらに、SGLT2阻害薬は心血管死リスクも低下させたが(RR:0.86、95%CI:0.81~0.92)、非心血管死リスクは低下させなかった(RR:0.94、95%CI:0.88~1.02)。上記のリスク軽減にベースラインのeGFRは関連していなかった。糖尿病治療薬・SGLT2阻害薬はなぜ非DMでも効くのか? DAPA-CKDやEMPA-KIDNEYにおいてCKD患者では、2型DMの有無を問わず心・腎イベントを減少させることが示唆されていた。本研究ではSGLT2阻害薬の関連する13研究の多数の症例についてメタ解析を実施し、腎アウトカムはDMの有無にかかわらず同等であることを確認した。作用機序の面から考えると、SGLT2阻害薬はDM治療薬であることから、非DM性CGNでのリスク低下は糖代謝改善では説明がつかない。では、糖代謝とは独立したいかなる機序が想定されるのであろうか。 2型DMでは、近位尿細管のSGLT2発現が増加している。そのため、輸入細動脈が拡張し糸球体過剰ろ過がみられる。CGNやNSにおいても腎機能が中等度低下すると、輸出細動脈の収縮により過剰ろ過がみられる(注:NSは病態初期は糸球体虚血があり内圧は通常上昇していない)。SGLT2阻害薬は、近位尿細管でNa再吸収を抑制して遠位尿細管のmacula densa(MD:緻密斑)に流入するNaを増大させ、尿細管-緻密斑フィードバック(tubuloglomerular feedback:TGF-MD)を適正化し、糸球体内圧を低下させる。この糸球体内圧低下は、eGFRのinitial dip(初期に起こる10~20%の一過性の低下)として観察される。Initial dipはDM、非DMにかかわらず観察されることから、非DM性CKD患者においても腎保護作用の主要機序はTGF-MD機能改善による糸球体血行動態改善が考えられる(Kraus BJ, et al. Kidney Int. 2021;99:750-762.)。 一方、CKDの病態進展には、尿細管間質病変も重要である。この点、SGLT2阻害薬には、尿細管間質の線維化抑制や抗炎症効果が示唆されている(Nespoux J, et al. Curr Opin Nephrol Hypertens. 2020;29:190-198.)。臨床的にはエンパグリフロジンの尿中L-FABP(尿細管間質障害のマーカー)低下作用やエリスロポエチン増加に伴うHb値増加などを示唆する成績もある。SGLT2阻害薬には、上記以外にも、降圧効果、食塩感受性改善、インスリン感受性改善、尿酸値低下、交感神経機能改善、などあり、これらも重要な心・腎保護機序と考えられる。また、同剤は、近位尿細管に作用するユニークな利尿薬との仮説もある。SGLT2阻害による浸透圧利尿(グルコース尿・Na尿)は、利尿作用による水・Na負荷軽減のみならず腎うっ血を改善することで尿細管間質障害を改善させていると考えられる(Kuriyama S. Kidney Blood Press Res. 2019;44:449-456.)。本論文から何を学び、どう実地診療に生かす? SGLT2阻害薬は、単にDMのみならず動脈硬化性心血管病、心不全、CKDやDKD、NAFLDなどへ適応症が拡大していく可能性がある。最近、心不全治療ではファンタスティックフォー(fantastic four:ARNI、SGLT2阻害薬、β遮断薬、MRB)なる4剤の組み合わせがトレンドで脚光を浴びている。DKD治療においてもKDIGO 2022では4種類の腎保護薬(RAS阻害薬、SGLT2阻害薬、非ステロイド骨格MRB[フィネレノン]、GLP-1アナログ)が推奨されており(Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) Diabetes Work Group. Kidney Int. 2022;102:S1-S127.)、これに呼応し新たに腎臓病ファンタスティックフォー(the DKD fantastic four)なる治療戦略が提唱されつつある(Mima A. Adv Ther. 2022;39:3488-3500.)。また、本論文が掲載されたLancet誌上には、SGLT2阻害薬がCKD治療の早期からの「foundational drug:基礎薬」になり得るのではとのコメントもある(Mark PB, et al. Lancet. 2022;400:1745-1747.)。今後、DKDあるいは非DM性CKDに対しては、従来からのRAS抑制薬にSGLT2阻害薬の併用、さらに治療抵抗例にはMRBやGLP-1アナログを追加・併用する治療法が普及する可能性がある。 さて、本題の「SGLT2阻害薬は非糖尿病CKDにおいてもなぜ腎イベントを軽減するか?」の答えは、多因子にわたる複合的効果となろう。現在、本邦ではダパグリフロジンがCKDに適応症が取れている。腎臓病診療の現場では、ダパグリフロジンをDKD治療目的だけではなく、非DM性CGNの腎保護目的に対しても使われはじめている。例えばIgA腎炎に対する扁摘パルス療法は一定の寛解率は期待されるが、必ずしも腎予後が改善しない例もある。これらの患者のunmet needsに対してSGLT2阻害薬を含め腎臓病ファンタスティックフォーによる治療介入(とくに早期からが良い?)が新たな腎保護戦略として注目されている。

1388.

英語で「検査を行います」は?【1分★医療英語】第58回

第58回 英語で「検査を行います」は?So, what is the next step?(それで、次はどうしたらよいでしょうか?)We would like to run some tests to confirm the diagnosis.(診断を確定するために、いくつかの検査を行いたいと思います)《例文1》I need to run a test to rule out a heart attack.(心臓発作を除外するために検査が必要です)《例文2》I’m going to run a blood test to check your diabetes.(糖尿病を調べるために血液検査をします)《解説》“run”という動詞は「走る」以外にも、「(会社などを)経営する」、「(機械などを)動かす」といったさまざまな意味があります。“Run a test”で「検査を行う」という意味になり、検査について英語で説明する時によく使うフレーズです。また、“run”に関連したフレーズとしては、“I have a runny nose.”(鼻水が出ています)や、“I’m running late.”(少し遅れます)といった表現も、日常会話によく出てきます。講師紹介

1389.

12月13日 ビタミンの日【今日は何の日?】

【12月13日 ビタミンの日】〔由来〕1910年の今日、鈴木梅太郎博士(農芸化学者)が、米糠から抽出した成分を「オリザニン」と命名し、東京化学会で発表した。このオリザニンは後に、ビタミンB1(チアミン)と同じ物質であることが判明し、「ビタミン」と呼ばれるようになったことを記念し「ビタミンの日」制定委員会が2000年に制定。関連コンテンツビタミンEってなあに?【患者説明用スライド】ビタミンCってなあに?【患者説明用スライド】葉酸ってなあに?【患者説明用スライド】ビタミンD補給、中高年において骨折予防効果なし/NEJM青年期の抑うつ症状とビタミンDレベルとの関係

1390.

脂質管理目標値設定(2)【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q45

脂質管理目標値設定(2)Q45脂質異常症の管理目標値を設定するうえで、リスクの層別化をすることは従来どおりである。冠動脈疾患、脳梗塞、糖尿病、慢性腎臓病、末梢動脈疾患など血管系の既往がない患者は、スコアリングをしてリスクの層別化を図る。「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」2022年版から新しく採用された、そのスコアの名前は?

1391.

メトホルミンに追加する血糖降下薬としてはGLP-1受容体作動薬が他剤を一歩リードしている(解説:住谷哲氏)

 多くの心血管アウトカム試験CVOTの結果を踏まえて、臓器保護薬としてのSGLT2阻害薬およびGLP-1受容体作動薬の位置付けはほぼ確立したといってよいだろう。しかし罹病期間の短い、合併症のない低リスク2型糖尿病患者はCVOTの対象患者には含まれていない。したがって、CVOTの結果がこれらの低リスク患者にそのまま適用できるかどうかは不明である。 基礎治療薬としてのメトホルミンの有効性はUKPDS 34で明らかにされたが、メトホルミン単剤で血糖コントロールが維持できないときに追加すべき血糖降下薬としては何が適切かは実は明らかになっていない。そこでメトホルミンに追加する血糖降下薬としての持効型インスリンのグラルギン、SU薬のグリメピリド、GLP-1受容体作動薬のリラグルチドそしてDPP-4阻害薬のシタグリプチンの有効性を比較した比較有効性試験comparative-effectiveness studyが本試験GRADE(Glycemia Reduction Approaches in Type 2 Diabetes: A Comparative Effectiveness Study)である。製薬企業が自社製品でない薬剤の有効性を証明する試験を実施することはないので、本試験は米国国家予算で実施され、薬剤を含めたすべての介入は無償で提供された。したがって、本試験における有効性effectivenessは医療費を考慮しない状況下でのeffectivenessであることに注意が必要である。結果は、glycemic durabilityにおいてはリラグルチドとグラルギンが、体重減少においてはリラグルチドとシタグリプチンが他剤に比較してより有効性が高かった。 先日発表されたADA/EASDのコンセンサスステートメントでは、2型糖尿病管理の4本柱は血糖管理glycemic management、体重管理weight management、心血管リスク管理cardiovascular risk management、心腎保護薬の選択cardiorenal protection-choice of glucose-lowering medicationとされている1)。ハイリスク患者におけるGLP-1受容体作動薬の有効性はCVOTにおいてすでに報告されているが、本試験の別の報告においても心血管アウトカムに関してリラグルチドの有効性が示唆されている2)。したがって、血糖管理、体重管理、心腎保護薬の選択からメトホルミンに追加する薬剤としては、GLP-1受容体作動薬が他剤を一歩リードしているといってよいだろう。 本試験が企画された2012年ごろには、まだSGLT2阻害薬が市場に登場していなかった。また、ピオグリタゾンについては安全性に対する懸念が少なからずあったことと予算の関係から、選択肢として試験に組み込まれなかった。メトホルミンに追加した場合の両薬剤のglycemic durabilityについてもぜひ知りたいところである。

1392.

スタチン、抗凝固薬服用の心房細動患者の出血リスクを低減

 経口抗凝固薬を服用している非弁膜症性心房細動患者において、スタチン服用で大出血、全死亡、虚血性イベントのリスクが有意に低下したことが、多施設後ろ向きレジストリ研究で示唆された。兵庫医科大学の内田 和孝氏らがAmerican Journal of Cardiovascular Drugs誌オンライン版2022年11月16日号で報告した。 本研究は、心臓機械弁もしくは肺/深部静脈血栓症の既往歴のある患者を除外した経口抗凝固薬を服用している非弁膜症性心房細動患者を対象とした。2013年2月26日に7,826例を登録し、2017年2月25日まで追跡した。主要評価項目は大出血、副次評価項目は全死亡、虚血性イベント、出血性脳卒中、虚血性脳卒中で、スタチン投与群と非投与群で比較した。 主な結果は以下のとおり。・スタチン投与群(2,599例、33%)は非投与群に比べ、発作性心房細動(37% vs.33%、p=0.0003)、高血圧(84% vs.76%、p<0.0001)、糖尿病(41% vs.27%、p<0.0001)、脂質異常症(91% vs.30%、p<0.0001)を有している患者が多かった。・大出血の累積発生率は、スタチン投与群6.9%、非投与群8.1%であった(p=0.06)。・スタチン投与群の非投与群に対する各評価項目の調整ハザード比(95%信頼区間)は、大出血が0.77(0.63~0.94)、全死亡が0.58(0.47~0.71)、虚血性イベントが0.77(0.59~0.999)、出血性脳卒中が0.85(0.48~1.50)、虚血性脳卒中が0.79(0.60~1.05)だった。

1393.

若年肥満症に対するGLP-1受容体作動薬セマグルチドの効果(解説:小川大輔氏)

 わが国では肥満症の治療としてGLP-1受容体作動薬の使用はまだ認められていないが、欧米では一般によく用いられている。これまでにリラグルチドやセマグルチドなどのGLP-1受容体作動薬の有用性が多数報告されているが、主に成人を対象とした試験であった。今回、若年者(12~18歳)の肥満症を対象とした試験の結果が報告された1)。 この試験は201例の12歳から18歳未満の肥満症を対象に、セマグルチド2.4mgまたはプラセボを投与する群に2対1の割合で無作為に割り付け、週1回皮下投与を行い68週間後のBMIの変化率を評価した。また全例が食事や運動など生活様式への介入を受けた。その結果、試験開始から68週目までのBMIの平均変化量は、プラセボ群(67例)では+0.6%であったのに対し、セマグルチド群(134例)では-16.1%と有意差を認めた(p<0.001)。また5%以上の体重減少の達成割合も、プラセボ群は18%であったが、セマグルチド群は73%と有意に達成割合が高かった(p<0.001)。 肥満症は成人だけでなく小児や青少年でも増加している。高血糖や脂質異常症などの代謝疾患や肝機能障害、さらに睡眠時無呼吸症候群などを併発することが多いため早期からの対策が必要である。生活様式への介入をまず行うが、一般的に効果は弱い。欧州では薬物療法としてリラグルチドが、米国ではリラグルチドに加えて、orlistat、トピラマートが12歳以上の肥満症の治療薬として承認されている。 今回の試験で、肥満のある若年者に対し、週1回セマグルチド2.4mgの皮下投与がBMIや体重を有意に減少し、さらに糖化ヘモグロビン、脂質、肝機能などの代謝パラメーターも改善することが明らかになった。一方、有害事象として消化器症状(悪心、嘔吐、下痢など)はセマグルチド群のほうが多く認められたが、試験の完遂率は90%と高く、おおむね許容できる範囲と推測される。成人だけでなく若年者の肥満症の薬物治療として、セマグルチドの有用性が示されたことは意義深いと思われる。

1394.

世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「マンジャロ皮下注アテオス」【下平博士のDIノート】第111回

世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「マンジャロ皮下注アテオス」今回は、持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「チルゼパチド注射液(商品名:マンジャロ皮下注2.5mg/5mg/7.5mg/10mg/12.5mg/15mgアテオス、製造販売元:日本イーライリリー)」を紹介します。本剤は、GIPとGLP-1の2つの受容体に単一分子として作用する世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬であり、選択的かつ長時間にわたる血糖値の改善が期待されています。<効能・効果>本剤は、2型糖尿病の適応で、2022年9月26日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人には、チルゼパチドとして週1回2.5mgを4週間皮下投与した後、維持用量である週1回5mgに増量します。患者の状態に応じて適宜増減し、週1回5mgで効果不十分な場合は、4週間以上の間隔を空けて2.5mgずつ増量することができます。最大用量は週1回15mgです。<安全性>日本人および外国人2型糖尿病患者を対象とした国際共同第III相試験、日本人2型糖尿病患者を対象とした国内第III相試験の本剤5mg投与群において、副作用は544例中232例(42.6%)で報告されています。主なものは、悪心60例(11.0%)、下痢48例(8.8%)、食欲減退46例(8.5%)、便秘44例(8.1%)などでした。なお、重大な副作用として、低血糖(頻度不明)、急性膵炎(0.1%未満)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、GIP/GLP-1受容体作動薬と呼ばれる2型糖尿病の治療薬です。血糖値が高くなるとインスリンの分泌を促進し、またインスリンを効きやすくすることで血糖値を下げます。2.週1回、同じ曜日に投与してください。オートインジェクター型注入器は1回使い切りです。3.めまいやふらつき、動悸、冷や汗などの低血糖症状を起こすことがあるので、高所作業、自動車の運転など危険を伴う作業を行う際は注意してください。これらの症状が認められた場合は、ただちに糖質を含む食品を摂取してください。4.悪心、嘔吐、下痢、便秘、腹痛、消化不良、食欲減退が強い場合はご相談ください。5.嘔吐を伴う激しい腹痛が現れた場合は使用を中止し、速やかに受診してください。6.冷蔵庫内などで光が当たらないように保管してください。凍結は避けて、もし凍結した場合は使用しないでください。室温で保管する場合は、外箱から出さずに保管し、21日以内に使用してください。30℃を超える場所では保管しないでください。<Shimo's eyes>本剤は、39個のアミノ酸を含む合成ペプチドであり、単一分子でグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)受容体およびグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体の双方に作用する世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬です。GIPとGLP-1はいずれも食事が小腸を通過することで分泌されるホルモンで、血糖が高い場合には膵臓におけるインスリン分泌を促進するとともに、食欲減退や満腹感亢進による体重増加の抑制作用が期待されています。なお、米国では2022年5月に「成人2型糖尿病治療における血糖コントロール改善のための食事および運動療法の補助療法」として承認を取得しているので、わが国よりも早期のステージでの使用が想定されます。注入器のアテオスは、既存のトルリシティにも使用されているオートインジェクターで、1回使い切りのキットです。注射針付きのシリンジがあらかじめ装填されており、空打ちをすることなく、ボタンを押すだけで自動的に投与することができます。医療機関において、適切な在宅自己注射教育を受けた患者さんやご家族は本剤の自己注射が可能です。国内の実薬対照二重盲検比較試験(SURPASS J-mono試験)では、主要評価項目であるHbA1cのベースラインから投与52週時までの平均変化量について、デュラグルチド0.75mg(商品名:トルリシティ)に対する本剤5mg、10mg、15mgの優越性が認められました。また、非盲検長期安全性試験(SURPASS J-combo試験)では、本剤5mg、10mg、15mgを経口血糖降下薬単剤と併用し、安全性および有効性が確認されました。主な副作用として、悪心、嘔吐、下痢、便秘、腹痛、消化不良、食欲減退などの消化器症状が報告されており、投与開始時の用量の漸増は、胃腸障害リスクの回避・軽減を目的としています。用量依存的な体重減少も認められているため、過度の体重減少にも注意する必要があります。投与開始時のBody Mass Index(BMI)が23kg/m2未満の患者での有効性および安全性は検討されていません。なお、本剤とDPP-4阻害薬はいずれもGLP-1受容体およびGIP受容体を介した血糖降下作用を有しています。両剤を併用した際の臨床試験成績はないため、併用処方の場合には疑義照会が必要です。

1395.

国内初の経口TYK2阻害剤デュークラバシチニブが乾癬治療にもたらす可能性

 2022年11月10日、ブリストル マイヤーズ スクイブ主催により、「乾癬治療の課題と新たな治療選択肢~国内初のTYK2阻害剤登場の意義~」についてプレスセミナーが開催された。同セミナーで帝京大学医学部皮膚科学講座の多田 弥生氏は、乾癬を取り巻く社会課題として患者の生活の質(Quality of Life:QOL)に及ぼす影響について講演を行った。また、名古屋市立大学大学院医学研究科の森田 明理氏は、国内初の経口TYK2阻害剤として同年9月に承認されたデュークラバシチニブ(商品名:ソーティクツ錠)の開発経緯、作用機序や臨床試験の紹介に加え、同剤への期待を述べた。乾癬に伴うQOL低下には早期治療が重要 乾癬は慢性の炎症性皮膚疾患であるだけでなく、関節炎、肥満、糖尿病など、患者の健康に影響する複数の併存疾患を伴う。「中でも患者が最も辛く思うのはQOL障害である」と多田氏は言う。 乾癬患者は皮膚症状による身体的影響だけでなく、自己肯定感の低下や再発の不安などの精神的影響や人間関係や社会的活動に消極的になるなどの社会生活への影響も受ける1)。すなわち、「感染するのではないか」「鱗屑により不潔なのではないか」という誤解や、皮疹や爪の変形、鱗屑を隠そうとして日常生活に制限を抱えるようになる。乾癬は、このようなスティグマ(特定の属性を持つ人に対するネガティブなレッテルを貼ること)を受けやすい疾患であり、罹病期間が長くなるとその可能性が高まると言う。「早期治療により、スティグマの原因をできる限り減らすことが重要」だ。 乾癬患者の多くは治療に対して、できるだけ早く、よりきれいにすることを望んでいる2)。しかし、乾癬治療の基本である外用薬は、塗布時間が長くなるとストレスを感じる患者が増加するという研究結果もある3)。多田氏は終わりに、「患者と相談し、症状やライフスタイルに合った治療法の選択が重要」と結んだ。国内初の経口TYK2阻害剤、デュークラバシチニブの作用機序 乾癬ではTNF-α、IL-17、IL-23といったサイトカインが関与し、ケラチノサイトの過剰な増殖が生じる。デュークラバシチニブは、これらのサイトカインのシグナル伝達を制御するJAKファミリーの1つであるTYK2の機能制御部位に結合し、分子内相互作用により触媒部位の構造を変化させ、ATPの結合を妨げることでTYK2の活性化を阻害する。デュークラバシチニブは選択性が高く、同じくJAKファミリーに属するJAK-1、JAK-2およびJAK-3には影響しない。良好な安全性プロファイルと有効性維持の可能性について言及 中等症~重症の局面型皮疹を有する乾癬患者を対象として、デュークラバシチニブ(1日1回投与)とプラセボおよび経口PDE4阻害薬アプレミラスト(1日2回投与)を比較した国際共同第III相試験 POETYK PSO-1試験(日本人含む)4)および海外第III相試験 POETYK PSO-2試験5)の結果は以下のとおり。・POETYK PSO-1試験の主要評価項目である投与16週のPASI 75※1およびsPGA 0/1※2達成率について、デュークラバシチニブ群(332例)では58.4%および53.6%が達成し、プラセボ群(166例)の12.7%および7.2%に対する優越性が認められた。また、副次評価項目としたアプレミラスト群(168例)との比較においても有意な有効性の改善が示された。・デュークラバシチニブ群のPASI達成率の改善は、投与52週目まで認められ、本剤の有効性は長期に持続する可能性が示された。・POETYK PSO-2試験において、投与24週目にPASI 75およびsPGA 0/1を達成した患者をデュークラバシチニブ群(118例)またはプラセボ群(119例)に再ランダム化したところ、52週目時点においてプラセボ群の31.3%がPASI 75改善率を維持し、23.5%がsPGA 0/1を維持していることが示された。・両試験の統合解析において、16週までの重篤な有害事象の発現割合は、デュークラバシチニブ群で842例中15例、1.8%であり、プラセボ群の419例中12例、2.9%やアプレミラスト群422例中5例、1.2%と比較して重篤な有害事象や死亡の増加は見られなかった6)。乾癬治療を改善する選択肢として期待 デュークラバシチニブは、「既存治療で効果不十分な尋常性乾癬、膿疱性乾癬および乾癬性紅皮症」を効能又は効果として、11月16日に上市された。森田氏は「本剤は1日1回投与の経口薬で、注射剤よりも患者の負担が低い。他の治療法と併用することで、実臨床での乾癬治療が改善されることも期待される」と述べて講演を締めくくった。※1:皮疹の重症度がベースラインから75%改善した状態※2:医師による静的総合評価<参考>1)De Korte J, et al. J Investig Dermatol Symp Proc. 2004;9:140-147.2)根本治ほか. 日皮会誌. 2003;113:2059-2069.3)大久保ゆかりほか. 日皮会誌. 2007;117:2495-2505.4)社内資料:国際共同第III相臨床試験(IM011046試験)[POETYK PSO-1](承認時評価資料)5)社内資料:海外第III相臨床試験(IM011047試験)[POETYK PSO-2](承認時評価資料)6)第36回 日本乾癬学会学術大会 一般演題【治療2】99

1396.

脂質管理目標値設定(1)【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q44

脂質管理目標値設定(1)Q44脂質異常症の管理目標値を設定するうえで、リスクの層別化をすることは従来どおりであるが、「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」2022年版以降、『二次予防』として厳密に管理すべき基礎疾患として示されたのは?

1397.

SGLT2阻害薬【心不全診療Up to Date】第3回

第3回 SGLT2阻害薬Key PointsSGLT2阻害薬 栄光の軌跡1)リンゴとSGLT2阻害薬の甘い関係?2)SGLT2阻害薬のエビデンス、作用機序は?3)最も注意すべき副作用は?はじめにSGLTとは、sodium glucose co-transporter(ナトリウム・グルコース共役輸送体)の略であり、ナトリウムイオン(Na+)の細胞内外の濃度差を利用してNa+と糖(グルコース)を同時に細胞内に取り込む役割を担っているトランスポーターである1)。このSGLTにはSGLT1-6のアイソフォームがあり2)、その1つであるSGLT2の活性を阻害するのがSGLT2阻害薬である。SGLT2は、ほぼすべてが腎臓の近位尿細管起始部の管腔側に選択的に発現しており、Na+とグルコースを1:1の割合で共輸送することで、尿糖再吸収のおよそ90%を担っている(残りの10%はSGLT1を介して再吸収)1)。このように、SGLT2阻害薬は、近位尿細管でのグルコース再吸収を阻害し、尿糖の排泄を増やすことから、血糖を下げ、糖毒性を軽減し、糖尿病の病態を改善させる薬剤として当初開発された。しかし現在、この薬は心不全治療薬として脚光を浴びている。本稿ではその栄光の軌跡、エビデンス、作用機序について考えていきたい。1. リンゴとSGLT2阻害薬の甘い関係SGLT2阻害薬はどのようにしてこの世に生まれたのか。そこには日本人研究者が重要な役割を担っていた。SGLT2阻害薬のリード化合物であるフロリジン(ポリフェノールの一種)は、1835年にピーターセン氏(フランス)によって『リンゴの樹皮』から抽出された。その約50年後にフォンメリング氏(ドイツ)によってフロリジンの尿糖排泄促進作用が報告された(Von Mering, J. "Über künstlichen diabetes." Centralbl Med Wiss 22 (1886):531.)。そこから約100年の時を経て、糖尿病モデル動物でのフロリジンの抗糖尿病効果(インスリン作用を介さない血糖降下作用、インスリン抵抗性改善、インスリン分泌能回復)が証明された。また時を同じくして1987年に小腸からSGLT1が発見され、フロリジンがその阻害薬であることが報告された3)。その7年後(1994年)に腎臓からSGLT1と類似した構造を持つSGLT2が同定され4)、創薬に向けた研究が進んでいった。そして1999年ついに田辺製薬(当時)より世界初の経口フロリジン誘導体(T-1095)の糖尿病モデル動物に対する糖尿病治療効果が報告された5)。ただ、フロリジンは小腸にも存在するSGLT1をも阻害するため、下痢等の消化器症状を引き起こす恐れがある6)。こうして誕生したのが現在の“選択的”SGLT2阻害薬であり、『糖を尿に出して糖尿病を治す(turning symptoms into therapy)』という逆転の発想から生まれた実にユニークな薬剤なのである7)。2. SGLT2阻害薬のエビデンスと作用機序1)SGLT2阻害薬のエビデンス 現在・過去・未来上記のとおり、SGLT2阻害薬は当初糖尿病治療薬として開発されたため、有効性を検証するためにまず行われた大規模臨床試験は2型糖尿病患者を対象としたものであった(図1)。最初に実施された心血管アウトカム試験が2015年に発表されたエンパグリフロジンを用いたEMPA-REG OUTCOME[対象:心血管疾患既往の2型糖尿病患者7,020名(二次予防)]であり、その結果は誰も予想しえなかった衝撃的なものであった。まず、主要エンドポイントである3P-MACE(心血管死、非致死的心筋梗塞、または非致死的脳卒中の心血管複合エンドポイント)の相対リスクを、エンパグリフロジンがプラセボとの比較で14%有意に減少させ、これは3P-MACEを主要エンドポイントとする2型糖尿病を対象にした試験の中で、初めての快挙であった。その中でもとくに心血管死のリスクを38%減少させ、また心不全入院のリスクも35%減少させることも分かり、さらなるインパクトを与えた。その後同様に、CANVAS試験(2017年)ではカナグリフロジンが、DECLARE-TIMI 58試験(2019年)ではダパグリフロジンが、心血管イベントハイリスクの2型糖尿病患者(一次予防含む)の心血管イベントを減少させるという結果が報告された。つまり、『どうやらSGLT2阻害薬には心保護作用がありそうだ。ただこれらの試験の対象患者の多くは心不全を合併していない糖尿病患者であり、心不全患者を対象とした試験でしっかり検証すべきだ』という流れになったわけである(図1、図2)。画像を拡大する画像を拡大するこのような背景から、まずHFrEF(LVEF≦40%)に対するSGLT2阻害薬の心血管イベント抑制効果を検証するために、ダパグリフロジンを用いたDAPA-HF試験とエンパグリフロジンを用いたEMPEROR-Reduced試験が実施された(図1)。結果は、両試験ともに、標準治療へのSGLT2阻害薬の追加が、糖尿病の有無にかかわらず、心血管死または心不全入院のリスクを26%有意に低下させることが示され8)、さらなる衝撃が走った。そうなると、次に気になるのが、もちろんLVEF>40%の慢性心不全ではどうか、ということであろう。その疑問について検証した試験が、エンパグリフロジンを用いたEMPEROR-Preserved試験とダパグリフロジンを用いたDELIVER試験である(図1)。まず初めに結果が発表されたのが、EMPEROR-Preserved試験で、エンパグリフロジンを心不全に対する推奨療法を受けている患者(LVEF>40%)に追加した結果、心血管死または心不全入院の初回発現がプラセボ群と比較して21%有意に低下していた9)。この効果はLVEF≧50%の症例でも同様であった。この結果をもって、最新の米国心不全診療ガイドラインではHFpEFへのSGLT2阻害薬の投与がClass 2aの推奨となった10)。そして、最近DELIVER試験の結果も発表され、ダパグリフロジンは、LVEF>40%の慢性心不全患者の心血管死または心不全悪化(心不全入院+緊急受診)のリスクを18%有意に抑制させた11)。よって、2つのRCTでHFpEFに対するポジティブな結果が出たため、今後のガイドラインでは、EFに関わらず慢性心不全へのSGLT2阻害薬の投与がClass 1へ格上げされる可能性が高い12)。ただし、これらの試験は、NT-proBNPが上昇しているHFpEF(洞調律では300pg/mL、心房細動では600pg/mL以上)が対象であり、運動負荷検査をして初めてHFpEFと診断されるNT-proBNPがまだ上昇していない症例は含まれておらず、すべてのHFpEFでこの薬剤が有効かどうかは不明である。そして、今後も虚血領域、腎不全領域などで数多くのエビデンスが出てくる予定であり、この薬剤の効果がどこまで広がるのか、引き続き目が離せない(図3)。画像を拡大する2)SGLT2阻害薬はなぜ心不全に有効なのか?SGLT2阻害薬がなぜ心不全に有効なのか。そして今回の本題ではないが、SGLT2阻害薬には腎保護作用もあり、そのような心腎保護作用のメカニズムは何なのか。図4で示したとおり、さまざまなメカニズムが提唱されているが、どれがメインなのかは分かっておらず、それが真実なのかもしれない。つまり、これらのさまざまな心腎保護へ働くメカニズムが複合的に絡み合っての結果であると考えられる。個人的にはこの薬剤の心不全への効果は、腎臓への良い効果が主な理由と考えており、熱く語りたいところではあるが、字数足りずまたの機会とさせていただく。ただ、これは今も議論のつきないテーマであり、今後より詳細なメカニズムの解明が進んでいくものと期待される。画像を拡大する3. 最も注意すべき副作用、それは…注意すべき副作用は、正常血糖ケトアシドーシス(Euglycemic DKA)、尿路感染症、脱水である。とくにケトアシドーシスはかなり稀な副作用(DAPA-HF試験における発現率は、糖尿病患者で0.3%、非糖尿病患者では0%)ではあるが、見逃されると予後に関わることもあり、どのような患者でとくに注意すべきか把握しておかれると良い。まず、日常診療で最も起こりうる状況は、非心臓手術の前にSGLT2阻害薬が継続投与されていた時であろう(そのメカニズムは図5を参照)。術後のケトアシドーシスや尿路感染症のリスクを最小限に抑えるために、手術の少なくとも3日前からのSGLT2阻害薬の中止が推奨されていることはぜひ覚えておいていただきたい13)。また、著明なインスリン分泌低下を認める症例(インスリン長期治療を受けているなど)にも注意が必要であり、体重減少の有無や過度な糖質制限をしていないかなどしっかり確認しておこう。血糖値正常に騙されず、ケトアシドーシスを疑った場合は、速やかに血液ガス分析にてpH低下やアニオンギャップ増加がないかを確認するとともに、血清ケトン濃度を測定し,鑑別を行う必要がある。なお、日本糖尿病学会からその他の副作用も含め『SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」14)が公表されており、ぜひ一読をお勧めしたい。このような副作用もしっかり理解した上で、心不全患者さんを診られた際は、これほどのエビデンスがあるSGLT2阻害薬が投与されているか、されていなければなぜ投与されていないか、を必ず確認いただきたい。画像を拡大する1)Ferrannini E, et al. Nat Rev Endocrinol. 2012;8:495-502.2)Wright EM, et al. Physiol Rev. 2011;91:733-94.3)Hediger MA, et al. Nature. 1987;330:379-81.4)Kanai Y, et al. J Clin Invest. 1994;93:397-404.5)Oku A, et al. Diabetes. 1999;48:1794-800.6)Gerich JE. Diabet Med. 2010;27:136-42.7)Diamant M, Morsink LM. Lancet. 2013;38:917-8.8)Zannad F, et al. Lancet. 2020;396:819-829.9)Anker SD, et al. N Engl J Med. 2021;385:1451-1461.10)Heidenreich PA, et al. Circulation. 2022 May 3;145:e895-e1032.11)Solomon SD, et al. N Engl J Med. 2022;387:1089-1098.12)Vaduganathan M, et al. Lancet. 2022;400:757-767.13)FDA Drug Safety Communication. FDA revises labels of SGLT2 inhibitors for diabetes to include warnings about too much acid in the blood and serious urinary tract infections.14)日本糖尿病学会. 糖尿病治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関する Recommendation

1398.

認知症で修正可能な危険因子は?~ランセット認知症予防モデルを検証

 認知症リスクに対し修正可能なリスク因子は、40%の影響を与えるといわれており、認知症の予防または進行遅延につながると考えられる。Lancet委員会による認知症予防のリスク因子ライフコースモデルは、一般集団においてまだ検証されていない。ニュージーランド・オタゴ大学のCharlotte Mentzel氏らは、高齢者の大規模データセットを用いて、本モデルの評価を行った。その結果、ニュージーランドの高齢者集団においてBMI、高血圧、聴覚障害、うつ病が、認知症の修正可能なリスク因子として確認されたことから、認知症予防のためのこれらのリスク因子に対する介入の信頼性が向上したことを報告した。Archives of Gerontology and Geriatrics誌オンライン版2022年11月2日号の報告。ランセットの認知症予防モデルを6万6,638人で検証 標準化されたデータセットを提供するため、ニュージーランドで高齢者に義務付けられているinterRAI assessment(236項目を網羅する包括的なエビデンスベースツール)を2013~18年に受けた6万6,638人を対象に、ランセットの認知症予防モデルの検証を行った。女性のインタビュー回答者は59%(平均年齢:82歳、年齢範囲:65~107歳)であった。認知症診断を主要アウトカムとし、ロジスティック回帰分析を用いて、横断的データセット分析を行った。 ランセットの認知症予防モデルの検証を行った主な結果は以下のとおり。・ランセットの認知症予防モデルは、部分的にサポートされた。・高血圧、聴覚障害、過去または現在のうつ病は、認知症リスクを高めることが示唆された。・認知症リスク増加との関連は、年齢では85歳まで、性別では女性、BMIでは高BMIによる初期の影響が認められた。・修正可能な因子である運動、糖尿病、視覚障害、喫煙についてはLancet認知症リスクモデルとの関連が認められなかった。・分析したデータセットの制限が、本調査結果に影響を及ぼした可能性が考えられるが、認知症リスクを増加させる修正可能なリスク因子が確認された。

1399.

「肥満」との違いは?肥満症診療ガイドライン改訂

 11月24日に日本肥満学会(理事長:横手 幸太郎氏[千葉大学医学部附属病院長])は、『肥満症診療ガイドライン2022』についてプレスセミナーを開催した。 セミナーでは、肥満症の現況や治療に関する解説と今回刊行されたガイドラインの概要が説明された。また、本ガイドラインは12月2・3日に那覇市で開催される第43回日本肥満学会(会長:益崎 裕章氏[琉球大学大学院 医学研究科 内分泌代謝・血液・膠原病内科学講座 教授])で発刊される。肥満症とはBMI25以上で何らかの健康障害がある人 はじめに理事長の横手 幸太郎氏が「わが国における肥満症の現況と肥満症診療ガイドライン2022の位置づけ」をテーマに講演を行った。 肥満とは、「脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態」をいい、わが国ではBMI25以上が肥満とされている。その数は、年を経て全世界で増えており、とくにアメリカやアフリカで増加している。 肥満になると糖尿病、高血圧、脂質異常症などの健康障害のほか、膝・腰・足首などへの運動器障害、睡眠時無呼吸症候群などが生じるリスクが高くなる。 そこで、BMIが25以上あり、一定の健康障害(糖尿病、高血圧、脂質異常症、痛風など11項目)がある人を「肥満症」として、医学的に治療が必要な対象者としている(BMI35以上は高度肥満症)。 肥満症の治療は、食事療法、運動療法、行動療法、薬物療法、外科療法と5つの考え方があり、他職種連携によるチーム医療がなされる必要がある。実際、一番身近な保健指導の介入により6ヵ月後のHbA1cは-0.2%減少、中性脂肪は-81.5%減少など改善効果が報告されている1)。 肥満に関して最近のトピックスとしては、若い女性にはBMI18.5未満の「やせ過ぎ」の女性がむしろ増えていることやそのやせ過ぎが将来的に骨粗鬆症や不妊のリスクとなること、高齢者の肥満ではフレイルなどとの関連も考慮し、無理な減量よりも筋肉量維持や増強に心がけることなども指摘されている。 横手氏は終わりに本ガイドラインの目的について「体重を減らすことにメリットがある。『やせるべき人』を選び出す、そして、適切に治療と予防を行うことである」と述べ講演を終えた。小児や高齢者の肥満にも言及 続いて、同学会のガイドライン作成委員会委員長の小川 渉氏(神戸大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌内科 教授)が「肥満症診療ガイドライン2022の改訂のポイント」をテーマに、今回の改訂内容や今後の展望などを解説した。 本ガイドラインは、2006年、2016年と発刊され、今回の2022年版では、主に「肥満症治療の目標と学会が目指すもの」「高度肥満症」「小児の肥満」「高齢者の肥満」「肥満症の治療薬」「コラム」について改訂が行われた。 「肥満症治療の目標と学会が目指すもの」と「高度肥満症」では、肥満症治療指針について「肥満症」と「高度肥満症」とで目標、治療などの治療方針が異なることが記載された。とくに肥満の外科治療の減量・代謝改善手術では保険適用の内容などが改訂された。薬物治療についてはGLP-1受容体作動薬の治験に関して言及され、セマグルチドの68週後の体重変化率についてプラセボ-2.1%に対し、セマグルチド-13.2%と有意な体重減少があったこと、また、本試験が学会の定める肥満症の診断基準に基づいて作成されたプロトコ-ルで実施された試験であることなどが記載されている2)。 「高齢者の肥満」では、日本老年医学会のガイドラインの内容 と統一性を考慮して改訂され、 高齢者肥満症の減量目標をフレイル予防と健康障害発症予防の両者も考慮し「BMI22~25」の範囲とすることが記載され、過剰な減量には留意が必要とされている。 「小児の肥満」では、将来の成長を考慮しBMIではなく、肥満度で判定し、身体面だけでなく、肥満に伴う「いじめ」など生活面への配慮も記載されている。 「肥満症の治療薬」では、「肥満の治療」ではなく、「肥満症の治療」という基本概念のもと、記載の整備と概念を明確化したほか、改訂では製薬企業の開発担当者とも意見交換を行い、評価基準と適応基準は必ず同一ではないことが記載されている。 その他、今回の改訂では「肥満へのスティグマ」についても触れられ、肥満の原因が個人への帰責事由という偏見からくる社会的スティグマと肥満を自分自身の責任とする個人的スティグマへの配慮が述べられている。 最後に小川氏は「肥満症の課題は、認知度がまだ低く、社会的な浸透もメタボリックシンドローム(72.5%)や肥満(81.8%)と比較しても、肥満症(58.3%)は低い。このガイドラインが、診療に役立つだけでなく社会の啓発に寄与することを期待する」と抱負を述べ、レクチャーを終えた。

1400.

isCGMは低血糖予防に有効/京都医療センターほか

 低血糖予防教育に間歇スキャン式持続血糖測定器(intermittently scanned continuous glucose monitoring:isCGM)を用いることで低血糖時間や重症低血糖リスクが低減されることが、村田 敬氏(京都医療センター臨床栄養科)、坂根 直樹氏(同センター臨床研究センター 予防医学研究室長)らの19施設の糖尿病専門医と臨床研究専門家の共同研究により明らかとなった。詳細はDiabetes Research and Clinical Practice誌に11月13日掲載された。isCGMは低血糖予防に役立つツールか 低血糖は、1型糖尿病を持つ人の生活の質を悪化させ、労働生産性を損なうだけでなく、最悪の場合、重大な事故や突然死の原因となることはよく知られていた。しかし、血糖自己測定(SMBG)だけでは、低血糖を予防するには十分ではなかった。村田氏は「isCGMではグルコース値を表示するだけでなく、画面で表すトレンド矢印により血糖変動速度を表示することができる。このトレンド矢印をみて早めに対処することで低血糖時間や重症低血糖リスクが低減したのではないか」と示唆している。 村田氏らのISCHIA研究はインスリンの頻回注射を行っている成人1型糖尿病患者104例を対象に、従来の指先で測る血糖測定器で血糖マネジメントする期間(84日間)とisCGMで血糖マネジメントする期間(84日間)にランダムに割り付けるクロスオーバー試験で行われた。isCGMを使用する患者は、1日10回以上、センサーの表示を確認し、下向きの矢印が出ていて急速に血糖値が低下している状況では、実際に低血糖の症状が出現する前に補食するなどの予防対処をするよう、教育された。isCGMは低血糖リスクを有意に減少 試験を終了した93例のデータが解析され、主要評価項目である低血糖時間(70mg/dL未満)が従来の指先で測る血糖測定器と比べて1日あたり3.1時間(12.9%)から2.4時間(10.1%)に有意に減少することが立証された。また、低血糖指数(LBGI)が5以上の重症低血糖リスクの割合が23.7%から8.6%に減少することがわかった。 本研究について、坂根氏は「isCGMをどの程度活用できたかには個人差があり、センサーのスキャン回数に及ぼす要因やisCGMの費用対効果について検討する必要がある」と述べている。

検索結果 合計:4961件 表示位置:1381 - 1400