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動物咬傷(犬、猫)【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第7回

今回は動物咬傷の処置を紹介します。一概に動物といっても種類は無数にあり、Review報告の頻度が高いのは想像どおり犬や猫ですが、それ以外にも蛇やげっ歯類、馬、クモ、サメ、アリゲーター/クロコダイルなどが報告に挙がっています1)。私は医師3年目のときに、アメリカの救急医向けの著書「Tintinalli's Emergency Medicine」でアナコンダにかまれたときの対処法を学びましたが、「人生で遭遇する機会はないだろうなぁ」と思いながら読んでいました2)。実際に私が経験する機会の多い咬傷の第1位は犬で、次いで猫、そして人です。蛇咬傷については第5回をご参照ください。今回は犬咬傷で、創が比較的小さく(3cm未満)、四肢をかまれた場合の処置に限定します。犬と猫は基本的には治療は変わりませんが、しいて言えば猫のほうが歯が細くて鋭く、創が小さく深い傾向にあります。創が大きい、もしくは美容的に縫合が必要な場合(顔面など)はアプローチが別になります。<症例>72歳男性主訴飼い犬にかまれた高血圧、糖尿病で定期通院中。受診2時間前に飼い犬のマルチーズに手をかまれた。自宅にあった消毒液で消毒し、包帯を巻いた状態で定期受診。診察が終わったときに自分から「今日手をかまれて血が出て大変だったんだよ」と言い、犬咬傷が判明。既往歴糖尿病、高血圧アレルギー歴なしバイタル特記事項なし右前腕2ヵ所に1cm程度の創あり。発赤なし。内科外来をしていると上記のようなことを偶然聴取することがあります。さて、これは「そうなんだ。大変だったね~」とこのまま帰してよいのでしょうか?報告によると、犬咬傷は咬傷全体の80%を占め、若い男性に多く、餌を取り上げるなど犬に不快感を与えたときにかまれることが多いそうです3)。私が小さいころ、田舎の犬が食事をしていたときに、いつもは喜ぶ頭なでなでをしたら吠えられて驚いた記憶があります。この患者さんはとくに理由もなくほぼ毎日かまれているそうですが、ここまで深くかまれたのは初めてだったとのことです。ちなみに、犬咬傷の次に多いのが猫咬傷で全体の10%程度、若い女性に多いようです1)。咬傷で危険なのは、かみ傷が神経や血管を損傷することですが、感染も同等に危険です。口腔内には多種多様な菌がいて、感染のリスクが高いです。動物にかまれた後1~2日してから病院を受診した患者では、入院や外科的処置が必要になるリスクが3.5~7倍高くなるという報告があります4)。早期に適切な処置をして感染を防ぐことが重要ですので、治療をステップに分けて説明します。(1)鎮痛、創の深さ・異物の有無の確認創に対して処置を行うのでしっかりと鎮痛しましょう。動物咬傷は感染リスクが高いため可能な限り縫合は避けます。縫合しない場合は、私は鎮痛薬としてキシロカインの注射剤ではなく、ゼリー剤を用います。塗布してガーゼで覆い、5分ほど待ってから創の深さと異物の有無を確認しましょう。私はこういった小さな創に対しては眼科用ピンセットを用いて深さや異物の有無を確認しています。創部内の観察が困難な場合もありますが、動物咬傷で異物となるのは歯ですので、疑わしい場合はレントゲンを撮影しましょう。本症例は眼科攝子を入れたところ創は浅く、可視範囲に異物はないと判断しました。(2)洗浄、消毒この患者が自宅で行った処置は創に消毒液を塗ったことだけでした。非医療者はこういった処置で終わることが非常に多い印象があります。しかし、咬傷は創の入口が狭くて深いことが多く、唾液などの汚染物質が創部内に残ります。ですので、表面だけを洗ったり消毒したりするだけでは十分な処置とはいえません。汚染された創を洗浄するためには、8psi(Pound per Square Inch)の圧が理想とされていて、図1のように20mLのシリンジの先に20ゲージの静脈留置針の外套を付けるとちょうどよい値になります5)。図1 20mLのシリンジに20G静脈留置針を装着画像を拡大する私は創が小さい場合、眼科用ピンセットがあればピンセットで入り口を広げ、シリンジを用いて圧をかけながら外から洗浄します。創の入り口を広げるのが難しい場合は、そのまま外から圧をかけて洗浄します。この際に「針を創に入れて洗浄すればよいのでは?」と思われるかもしれませんが、かけた圧力の逃げ場がないため、皮下に大きな死腔を作ってしまうことがありますので控えてください(図2)。洗浄の量は傷1cm当たり100~200mLが推奨されています6)。図2 入り口が狭い創に圧をかけると皮下に死腔ができる画像を拡大する創の消毒に関して有効性が示唆された報告はなく、ポピドンヨードや次亜塩素酸ナトリウムは組織障害性が強いこともあり、すべて症例に積極的な推奨はされていません7)。しかし、創の汚染が強いときに消毒することを否定する根拠もありませんので、状況に合わせて消毒を行うことをお勧めします。私は、「創の汚染が強いとき」「初回のみ」消毒しています。水道水や生理食塩水の代わりに、消毒液を用いて洗浄することは効果的ではないので控えましょう。次に必要になるのは創の処置です。口腔内には嫌気性菌を含めた細菌が多数いるため、動物咬傷では口腔内の汚染物質が創に入り込みます。入り口を塞ぐと、(1)空気に触れない、(2)創内のドレナージができない、という事態が生じて感染リスクが上がるとされているので、可能であれば縫合しません。もし美容的に問題がある場合はリスク・ベネフィットを説明して縫合します。今回のような小さく深い創の場合は、ナイロン糸を用いたドレナージが有効です。私は1-0から3-0の太さのナイロン糸1本を図3のように先端が輪っかになるように結び、輪っか側の先端を創に挿入してテープで固定します。図3 ドレナージ用のナイロンの作り方とドレナージの方法画像を拡大する創には抗菌薬入りの軟膏を塗ったガーゼを被せ、1日1回水道水で洗浄してから軟膏ガーゼを交換するように指導しています。若手医師からドレナージ抜去のタイミングに関して聞かれることがありますが、私は受傷2~3日して感染兆候がなければ除去しています。ガーゼを頻回(1日2回以上)交換しなければならないほど浸出液が多い場合は留置を継続しますが、長くても1週間としています。本症例は、嫌気性菌のカバーを目的に、アモキシシリン・クラブラン酸配合剤250mg+アモキシシリン単剤250mgを3錠ずつ5日分処方して帰宅としました。また、破傷風の予防接種を受けたことがなかったため、破傷風トキソイドも投与しました。患者には3日後に来院してもらい創を観察したところ、ナイロン糸は残っており、浸出液は少量で感染兆候がなかったため、糸ドレナージを除去しました。抗菌薬は飲み切り終了し、毎日のガーゼ交換は継続してもらったところ、1週間後の診察で創はきれいになっていたため、咬傷に対する通院は終了としました。軟膏ガーゼは浸出液が付かなくなるまで継続してもらい、何かあれば再診を指示しましたが、次の定期受診までとくに問題はありませんでした。患者さんは相変わらず毎日犬にかまれているものの、「犬と接する際はなるべく手袋、長袖を着るようにした」と工夫していました。そもそも犬にかまれないようにする何かよい方法はないのかなと思いましたが、私は犬を飼ったことがないため何もアドバイスできませんでした…。軽症の動物咬傷は患者自身が処置して感染症を引き起こすことがあり、より大きな処置が必要になることがあります。適切な診断・加療が必要ですので参考にしてください。動物咬傷の豆知識感染してしまったとき今回の症例で、もし残念ながら感染してしまった場合はどうしましょうか? この場合、ドレナージが十分にできていない可能性があります。そのため、糸ドレナージは抜去して、創内を十分にドレナージできる程度に切開する必要があります。自信がなければ専門科に相談しましょう。十分なドレナージと抗菌薬でほとんどの動物咬傷の感染は改善します。感染が関節にかかっている場合感染が関節にかかっている場合は、化膿性関節炎の可能性や手の咬傷でカナベルの4徴(屈筋腱に沿った圧痛、患指の腫脹、患指の軽度屈曲位、受動的に患指を伸展すると激痛を訴える)を認める場合は化膿性屈筋腱炎の可能性があり、専門的な処置が必要なためコンサルトしましょう8)。1)Savu AN, et al. Plast Reconstr Surg Glob Open. 2021;9:e3778.2)Tintinalli JE, et al. Tintinalli’s Emergency Medicine: A Comprehensive Study Guide 8th edition. McGraw-Hill Education;2016.3)Basco AN, et al. Public Health Rep. 2020;135:238-244.4)Speirs J, et al. J Paediatr Child Health. 2015;51:1172-1174.5)Shetty R, et al. Indian J Plast Surg. 2012;45:590-591.6)Moscati RM, et al. Acad Emerg Med. 2007;14:404-409.7)Chisholm CD, et al. Ann Emerg Med. 1992;21:1364-1367.8)Kennedy CD, et al. Clin Orthop Relat Res. 2016;474:280-284.

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第181回 大学病院への“甘さ”感じる文科省「今後の医学教育の在り方に関する検討会」中間取りまとめ、“暴走”する大学病院への歯止めは?

大学病院、と言えば『白い巨塔』こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。9月29日、NHKBSプレミアムで映画『白い巨塔』を放映していました。山崎 豊子が1965年に発表した小説『白い巨塔』を原作に、山本 薩夫監督が1966年に映画化した日本の医療映画の金字塔とも言うべき名作です。国立浪速大学付属病院第一外科助教授、財前 五郎を演じたのは今はなき亡き田宮 二郎。録画して久しぶりに観直したのですが、圧倒的な存在感を放つ田宮 二郎の財前のほか、東教授(東野 英治郎)、鵜飼医学部長(小沢 栄太郎)、船尾教授(滝沢 修)、財前の義父(石山 健二郎)ら希代の名優たちの演技を改めて堪能できました(石山 健二郎演じる大阪の開業医が笑えます)。『白い巨塔』と言えば、唐沢 寿明主演のフジテレビのドラマ『白い巨塔』(それでも20年前、2003年の作品です)も有名ですが、俳優の存在感では映画版が一枚も二枚も上手ですね。小説発表から60 年近くの時が経ち、手術の術式や病院のありようなど大きく様変わりしている部分があるとはいえ、根底に流れる医療問題は現代とあまり変わっていません。大学病院の持つ閉鎖性・独善性、大学教授の持つ権力、医局制、医師と患者関係、がん告知の問題……など、半世紀以上も前に『白い巨塔』が提示した医療問題のほとんどが今でもそのまま残っていることに驚かされました。ということで今回は大学病院の改革について書いてみたいと思います。来年から始まる医師の働き方改革が、医学部の教育・研究や、大学病院のあり方にも大きな影響を及ぼすであろうことなどを背景に、今年5月から検討を進めてきた文部科学省の「今後の医学教育の在り方に関する検討会」(座長=永井 良三・自治医科大学長)が9月11日、第5回の会合を開き、大学病院改革に向けた議論の「中間取りまとめ案」を大筋で了承、9月29日に文科省は「中間取りまとめ」として正式に公表しました1)。診療、教育、研究機能を維持するための「改革プラン」策定求める「中間取りまとめ」では、医師の働き方改革が始動しても診療、教育、研究の各機能を維持していくために、個々の大学病院の実情に応じた「改革プラン」を策定する必要性が明記されました。総務省が進める公立病院改革のように、近い将来、国が大学病院に対しても改革プランの策定を義務付けることになるのです。1973年、第2次田中 角栄内閣の元で閣議決定された「一県一医大構想」から半世紀、加速度的に進む人口減少や来年度から本格実施となる医師の働き方改革などを背景に、近い将来に「一県一医大」という枠組みすらなくなってしまうかもしれません。今後、改革プラン策定のガイドラインが作られますが、その具体的な内容は年明け頃から議論が再開される予定、とのことです。「国は支援の方策を検討し、大学病院の魅力をさらに高める取り組みを後押しすることが必要」「中間取りまとめ案」は、大学病院が、働き方改革を進めながら、医師派遣を含めた診療機能を確保しつつ、教育・研究機能の維持に取り組むことが課題だとして、1)診療規模の拡大と経常利益率の低減、2)教育・研究時間の減少、3)医師の時間外・休日労働の上限規制の適用、の3点を指摘、「国は、大学病院が医学教育・研究を牽引し、高度で専門的な医療を提供し続けるために、支援の方策を検討することが必要。また、国は若手医師が大学病院で働きたいと思えるような、大学病院の魅力をさらに高める取り組みを後押しすることが必要」としました。「地域の実情に応じて改革を進め、その機能を発揮できる持続可能な大学病院経営に取り組む必要」改革の全体の方向性としては、医師の働き方改革の推進と大学病院の機能を両立させるため、「自治体や地域の医療機関とも連携し、大学病院の運営、人員、教育・研究・診療、財務など、その実情に応じた改革」、「国は、大学病院に大学本部とも一体となった改革プランの策定を促すとともに、プランの内容に応じた支援を行うこと」、「高度で専門的な医療の提供や医師派遣等による地域の医療提供体制への貢献など、大学病院の機能を適切に評価し支援すること」などを挙げています。その上で、「具体的な取り組みの方向性」として、1)運営に関する項目(地域の医療機関との役割分担・機能分化、など)、2)人員に関する項目(大学病院の医師の勤務環境の改善、など)、3)教育・研究・診療に関する項目(研究マインドの醸成の取り組みや創薬・医療機器開発など起業家教育を推進、など)を具体的に提示し、持続可能な大学病院経営のため、「大学病院は、地域の実情に応じて上記のような改革を進め、その機能を発揮できる持続可能な大学病院経営に取り組む必要」があるとしています。病院収益増や、大学教官のポスト増産を第一目的 に“暴走”する大学病院も以上は、「中間取りまとめ案」の「概要」の内容を紹介したものですが、9月29日に公表された「中間取りまとめ」の本編(19ページもある)を読んだところ、総花的で大学病院に対して少々「甘い」印象を持ちました。本編前段には、「未曽有の困難に直面する中であっても、大学病院は、その機能を将来にわたって維持していかなければならない。国は、大学病院を取り巻く状況が危機的であり、一刻の猶予も許されないこと、また、仮に大学病院がその機能を維持できない事態が生じれば社会的損失は計り知れず、我が国の医療そのものの崩壊を招来しかねないことを十分に認識する必要がある」と、大仰な言葉が並んでいます。しかし、実際、未曾有のコロナ禍にあって、当初、コロナ患者をまったく受け入れようとしなかった大学病院があったことを考えると、ちょっと言い過ぎでは、と感じてしまいます。加えて、「中間取りまとめ」では、国立、公立、私立など設立母体の違いや、大学病院本院と分院の違いについてはほとんど言及されていない点も気になりました。私立医大の中には、積極的な分院展開を行っているところがあります。多数の付属病院をつくり、トータルの病床数や教授ポストを増やす戦略です。同じことは公立の大学病院についても言えます。たとえば名古屋市立大学は、名古屋市立の病院を同大学の付属にすることで、現在、本院の名古屋市立大学病院と合わせて計5病院、2,173床という国公立大学病院では最大規模の病院群を形成するまでになっています。規模拡大による病院収益増や、大学教官のポスト増を第一目的に、傍から見て“暴走”とも取れる拡大戦略を図る大学病院が、地域の民間病院の経営に深刻な影響を及ぼしつつあるとも聞いたことがあります。研究・教育は二の次に、自分の大学や関連病院のことだけしか考えない大学病院は、果たして「その機能を維持できない事態が生じれば社会的損失は計り知れず、我が国の医療そのものの崩壊を招来しかねない」存在なのでしょうか。「自治体や地域の医療機関等の関係者による合意の下で、地域の医療機能の集約化等に取り組むことが重要」かつてある病院経営者が、「地域医療構想調整会議に大学病院は出てこないんだよね」と不満を漏らしているのを聞いたことがあります。医療圏において患者供給の最上流に位置するにもかかわらず、地域医療構想には無関心、かつほぼ“無縁”だった大学病院ですが、これからはさすがに地域医療を意識した経営が求められることになるでしょう。「中間取りまとめ」では、そうした唯我独尊でやってきた大学病院への反省からか、これからの大学病院と地域医療との関わりについて、次のように地域の医療機関や行政との積極的な対話の必要性を指摘しています。「2025年問題以降は、ほとんどの地域で高度急性期病床及び急性期病床の需要は減少する見込みであり、大学病院が担う役割等に鑑みれば、(中略)今後、大学病院が担う診療規模の拡大は現実的ではない」、「今後の医療需要が減少していく地域においては、大学病院をはじめ自治体や地域の医療機関等の関係者による合意の下で、地域の医療機能の集約化等に取り組むことが重要であるが、その際、大学病院において教育・研究に従事する人材を確保し、教育・研究機能を維持・発展させるために、都道府県の意見も聴きながら大学病院がその中核的な役割を果たすことを通じて、地域の医療提供体制の再構築を進めることも検討すべきである」。確かに、これまで大学病院と地域の医療機関との対話の機会は少なかったようです。医師や患者の“供給元”でもあることから、地域の医療機関が大学病院に対して強くモノを言えない、という事情もあるようです。そう考えると、「今後の医学教育の在り方に関する検討会」で、大学病院の在り方や、改革プラン策定の検討を行う際には、地域医療構想の担当官庁である厚生労働省も入るべきだと思うのですが、皆さんどう考えますか?大学の教授は財前教授のころと比べると相当割に合わない仕事になったところで、映画『白い巨塔』が描くのは、「一県一医大構想」が推し進められる以前、旧帝国大学医学部が権勢を誇り、医学部教授の権力も凄まじく大きかった時代の医学部の姿です。医学部教授の数が大幅に増え、製薬企業等から大学への研究費や奨学寄付金の給付が厳格化され、さらにはパワハラ、アカハラがすぐに事件化される現在、教育、研究だけではなく大学病院の経営にまで目を配らなければならない大学病院の教授は、財前教授のころと比べると相当割に合わない仕事になったと言えるでしょう。それでも、「教授を目指す!」という若手医師がいなくならないのはなぜでしょう。「教授」という肩書が魅力的なのか、はたまた昔より小さくなったとはいえ「権力」に惹かれるのか。そのあたり、人間の欲望自体は『白い巨塔』公開時からほとんど変わっていないようです。参考1)今後の医学教育の在り方に関する検討会 中間取りまとめについて/文部科学省

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世界共通語「ダイアベティス」へ「糖尿病」の呼称変更を目指す/日本糖尿病学会・日本糖尿病協会

 9月22日、日本糖尿病学会(理事長:植木 浩二郎氏[国立国際医療研究センター研究所])と日本糖尿病協会(理事長:清野 裕氏[関西電力病院])は都内でメディアセミナーを合同で開催した。セミナーでは、以前から活動が続けられている糖尿病のアドボカシー活動の現状や今後の展望、新たな呼称候補の発表などが語られた。糖尿病の呼称変更がスティグマ払拭の一歩に 門脇 孝氏(IDF-WPR※議長[虎の門病院])は、「糖尿病医療におけるアドボカシーの重要性」をテーマに講演した。糖尿病の病態解明や治療が進んでいる一方で、過去の負のイメージが社会に定着し、患者の不利益になっていることを指摘。糖尿病患者の生命予後も改善されている現在、病気への誤解や偏見を当てはめる「スティグマ」は医学的、社会的にも解消されるべきと説明した。こうした課題に対応するために2019年にアドボカシー委員会を立ち上げ、活動の1つとして1907年から使用されている「糖尿病」の病名・呼称の変更があると説明した。「糖尿」という言葉が病態を正確に表すものではなく、国際的にも通用しなくなっていることから呼称を「ダイアベティス」に変更することを提案した。また、門脇氏は私見としながら周知のために「ダイアベティス(糖尿病)」と一定期間使用していく必要があるとも語った。 清野氏は「糖尿病協会のアドボカシー活動」をテーマに説明を行った。同協会のアンケートによれば「糖尿病は生活の乱れによる病気」や「糖尿病は遺伝する」など誤ったイメージが今も持たれていること、糖尿病患者は社会的な不利益(たとえば生命保険契約や住宅ローンなど)があること、糖尿病というスティグマを多くの患者が感じていることが報告された。そこで、同協会では「糖尿病にまつわる“ことば”を見直すプロジェクト」を実施し、「血糖コントロール」を「血糖マネジメント(管理)」や「療養指導」を「治療支援、治療アドバイス」などに変更する改革を行っていると説明した。また、「糖尿」という言葉は侮蔑的であり、わが国の辞典・辞書には糖尿病に関し「尿」という言葉が必ず入っていることを指摘。海外では「尿」ではなく「血糖」が使用されており、清野氏は「国際的にみてもきちんと病態を表す正しい命名にするべき」と語った。 植木氏は「日本糖尿病学会のアドボカシー活動」をテーマに説明を行った。同学会では、「糖尿病への誤解・偏見の除去」、「有効で負担の少ない治療の普及」、「根治・寛解療法の開発」、「患者の経済的負担の軽減」を主な活動として行い、とくに「誤解・偏見の除去」では、糖尿病患者の生命予後の改善に伴い生命保険会社への契約制限の撤廃に向け働きかけを行っていると説明した。また、新しい治療法(例:スリープ状胃切除手術、SAP療法など)の導入で、これらの保険収載や症例の蓄積を行う一方で、医療費が過大な負担とならないように厚生労働省へ1型糖尿病の指定難病認定への働きかけなどを行っていると説明した。 矢部 大介氏(IDF-WPR※理事[岐阜大学大学院])が「アドボカシー活動に関するアジアの動向」をテーマに、アジアの糖尿病患者の動向やわが国の団体・患者との連携活動について報告した。アジアでは、約2億9,600万人の糖尿病患者が推定され、糖尿病患者は結婚や就職で不利とされ、とくに1型糖尿病の患者が幼稚園や学校に入れない例もあるという。IDF-WPRの主な活動は、医療にアプローチできない患者の支援や糖尿病予防への取り組みを行っているほか、患者が差別されないための社会発信やICTを活用したアドボカシー活動を実施しているという。矢部氏は「呼称変更だけでなく、アジアにおける糖尿病の正確な知識の普及・啓発にも関心を高めてほしい」とメディアに要望を語った。時間をかけ社会と対話し、呼称変更を啓発していく 津村 和大氏(学会・協会合同アドボカシー委員会委員/糖尿病の呼称案検討WGリーダー[川崎市立川崎病院])は「糖尿病の新たな呼称の提案」をテーマに、呼称変更の意義やその背景を説明した。学会・協会合同アドボカシー委員会の取り組みとして、社会への啓発や医療者への教育、政府などへの情報提供・働きかけ、「糖尿病の新たな呼称検討」が行われている。糖尿病の呼称案検討ワーキンググループ(WG)が新呼称提案をした背景には、糖尿病の社会的な誤解を払拭するうえで重要であり、「社会全体に正確な理解が進まないとスティグマ払拭につながらない」と説明する。また、WGでは「学術的」「国際的」「略称」「診療科名」「新規性」の5つの観点から呼称案を選定し、「ダイアベティス」を候補にしたと語った。津村氏は「これらはいずれも強要するものではなく、メディアも参画者として活動に賛同してほしい」と要望を述べた。 山田 祐一郎氏(学会協会合同アドボカシー委員会長[関西電力病院])は、「普及啓発に向けた協会の今後の取り組み」について説明した。同協会では、さまざまな糖尿病に関する啓発活動を行っているが、とくに医療者への啓発活動では、糖尿病のスティグマのアンケート報告や先述の言葉の見直しで啓発動画の配信・普及などを実施している。最近では、製薬企業を中心とする企業委員会とスティグマ払拭に向けたアドボカシー活動で定期的な意見交換を行っていると説明した。 山内 敏正氏(学会協会合同アドボカシー委員会委員)[東京大学大学院])は、「普及啓発に向けた学会の今後の取り組み」について説明した。「糖尿病を巡る『言葉』の問題」について、医療者が診療で言葉を意識し、慎重に選んでいる欧米の事例を挙げ説明した。今後の取り組み・進め方として、糖尿病のスティグマの存在を社会に対し説明する場を設け、正しい知識の普及・啓発を行うために糖尿病患者などの当事者、医療者、企業関係者などの議論の場を設け、オープンなディスカッションを行うという。また、山内氏は「呼称変更実施の検討も含め、今後1年をかけて広く話し合いたい」と展望を語った。※IDF-WPR:International Diabetes Federation Western Pacific Region

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英語で「気を付ける」は?【1分★医療英語】第100回

第100回 英語で「気を付ける」は?You may experience some mild side effects after getting vaccinated.(ワクチン接種後に軽い副反応があるかもしれません)You may experience some mild side effects after getting vaccinated.(ワクチン接種後に軽い副反応があるかもしれません)What symptoms should I watch out for?(どんな症状に気を付けるべきですか?)《例文1》Please watch out for your sodium intake.(塩分摂取量に気を付けてください)《例文2》Watch out for the slippery floor!(床が滑りやすいので気を付けて!)《解説》「気を付ける」「注意する」という一般的な表現は“watch out (for)”を使います。文字通り、「よく見て、観察する」というニュアンスです。“for”の後には人、モノ、事柄などが入り、さまざまな場面で使えます。“watch out!”(危ない! 注意して!)と、とっさに注意を促すときにも使います。また、ネガティブな内容だけでなく、“look for”と同じように、ポジティブな内容にも使えます。“She has been watching out for opportunities.”(彼女はチャンスを待ち望んでいます)といった表現です。医療現場で、患者さんに注意を促すことは多いと思いますので、そんな状況で使ってみてください。“Watch out for the situations!”講師紹介

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第64回 これから「糖尿病」をどう表記するのか?

英語病名は定着しにくいジンクスUnsplashより使用もう皆さんご存じの話だと思いますが、「糖尿病」の新しい呼称として「ダイアベティス」が提案されたというニュースが話題です。日本糖尿病協会と日本糖尿病学会で進められてきたプロジェクトで、いくつかヒアリング等を経て呼称としてはこれに着地するということのようです。何人かの医師インフルエンサーから「糖代謝異常症」「高血糖症」のほうがよかったのでは…と声が上がっています。確かに、「ダイアベティス」が定着しやすいかと問われると、難しいかもしれません。痴呆→認知症、精神分裂病→統合失調症のように成功した事例も多いため、漢字混じりの日本語表記のほうが定着しやすいかもしれません。実際、フレイル、サルコペニア、ロコモティブシンドロームなど、とにかくカタカナの名称啓発は難航しております。とはいえ、メタボリックシンドロームのように成功した事例もあるので、ダイアベティスが馴染む可能性もゼロではありません。スティグマは病名のせい?この名称変更、糖尿病に対する偏見と差別をなくすことが目的なのですが、本当に病名が悪いのでしょうか。この疾患そのものの啓発がうまくいっていないことが背景にあって、決して病名のみが悪いわけではありません。病名を変更することも確かに1つの策ですが、疾患に関する正確な情報を社会に発信する施策のほうが重要なのではないかと考えます。病名に含まれる狭義をできるだけ排して、一般的な病名にすることで、逆に啓発が阻害されるという現象はよくみられます。たとえば、肺気腫というのは、「肺」「気」「腫」という言葉がそれぞれ何となく意味を発していて、身体に害のあるものを吸ってはいけないんだなという啓発がしやすいのですが、「慢性閉塞性肺疾患」だと、ふわっとしすぎて何の病気かわかりません。アンケートについてアンケートで5件法を適用する場合、たとえそれが定量化できない項目であっても、項目間の定量値をできるだけ「等間隔にする」というのが原則だと理解しています。リッカート尺度では、両極に位置する「1点」「5点」の選択肢の間に「2~4点」の選択肢を配置します。このとき、2~4点が極端に5点に偏った選択肢にならないよう注意しなければ、恣意的なアンケートとなってしまいます。今回の「ダイアベティス問題」で使われたアンケートは、以下のようなものです1)。Q1 「糖尿病」という病名をどう思いますか?(1)何とも思わない(2)少し気になる(3)抵抗がある(4)とても抵抗がある(5)不愉快であるたとえばこのアンケート調査のすべてが(1)~(5)に均等に分散した場合、(2)~(5)が「深い・抵抗感がある」と定義された場合、8割の人がこれに該当することになります。中立の立場でアンケート調査を行うなら、(3)に「何とも思わない」を配置したほうがよかったかもしれません。まとめ―――いずれにしても、もし病名が変更になってもしばらくは「ダイアベティス(糖尿病)」のように併記しなければ伝わらないでしょう。TwitterがXに変わって久しいですが、いまだに「X(旧Twitter)」という並列表記が当たり前になっています。コピーライターの糸井 重里氏は「俺はもう、ひとまず決めたね。『旧』とか付けずに『ツイッター』って呼ぶわ。『X』になったのはわかってるけど、『ツイッター』で通じるうちは『ツイッター』でいく」とおっしゃっており、私も共感しました。両者、非常に似ている問題だと思います。参考文献・参考サイト1)日本糖尿病学会・日本糖尿病協会合同 アドボカシー活動:「糖尿病」病名に関するアンケート

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第180回 宮城の病院でレジオネラ症集団感染、病院利用がない地域住民への感染はなぜ起こった?

入院患者、外来患者だけでなく病院利用が全くなかった地域住民にも感染広がるこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。日本のプロ野球は、オリックス・バファローズがパ・リーグ三連覇を決めました。阪神、オリックスがこのままの勢いで行けば、今年の日本シリーズは大阪と兵庫の球場だけで行われる関西シリーズになります。関東在住者としては少々寂しいです。一方、米国のMLBでは、藤浪 晋太郎投手が所属するボルチモア・オリオールズと、前田 健太投手が所属するミネソタ・ツインズが、それぞれアメリカン・リーグの東地区、中地区の優勝を決めました。シーズン後半になって持ち直してきた両投手のポストシーズンでの活躍に期待したいと思います。さて、今回は東北の地方都市にある民間病院で起こった、レジオネラ症の集団感染について書きます。7月に発覚したこの事件、その後の調査で、入院や外来など病院を利用した人の感染だけではなく、病院利用がまったくなかった地域住民にも感染が広がっていました。温泉入浴施設での集団感染事例が多いレジオネラ症ですが、どうして病院で起こったのでしょうか。また、どうして病院利用者以外にも広がってしまったのでしょうか…。一般病床80床、透析病床60床を有する地域の急性期病院宮城県は9月11日、県内の病院で、今年6~7月にかけて病院の利用者6人がレジオネラ症に感染し、80代と40代の男女2人が死亡した問題で、病院の利用歴のない近隣住民ら11人も感染していた、と発表しました。県は「病院の集団感染と関連があるとみられる」として、詳しい因果関係を調べているとのことです。宮城県の発表によると、ことの経緯は以下のようなものでした。6月下旬~7 月中旬、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)に基づくレジオネラ症患者の届け出があった6人について、届け出を受理した大崎保健所が調査を行いました。その結果、同一医療機関を利用していたことが判明、健康被害拡大防止と重症化防止のため、7月19日に施設名の公表を行いました。集団感染を起こしたのは、宮城県大崎市の医療法人永仁会・永仁会病院です。一般病床80床、透析病床60床を有する地域の急性期病院で、Webサイトによれば、消化器、腎臓、糖尿病、乳腺疾患などを専門としています。その後、同病院の施設調査が行われ、空調設備(空調冷却塔2基の拭取検体)からレジオネラ属菌が検出。1基は安全とされる目安の97万倍、もう1基は68万倍の菌が検出されたとのことです。菌を含んだ水がエアロゾル状となり冷却塔外に舞い散る空調の冷却は冷却塔内のファンを回して行うため、菌を含んだ水がエアロゾル状となって冷却塔外に舞い散り、新型コロナ対策の換気で開放されていた病室の窓などから入り感染につながったとみられています。コロナ予防のための換気対策が逆にレジオネラ症の感染拡大につながったわけです。皮肉なものです。また、遺伝子検査により、6人の患者のうち4人の患者由来菌株と病院の空調冷却塔由来菌株との遺伝子パターンが一致したため、8月4日にはその事実も公表されました。県はこの事実に基づいて、近隣医療機関に対する注意喚起を行い、併せて同病院に対して、厚労省の「レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針」1)に基づき指導を行いました。半径3km以内に住む住民も感染3回目となる9月11日の宮城県の発表では、さらなる感染拡大が明らかになりました。7月に公表された患者6人に加え、7月下旬にレジオネラ症患者の届け出があった1人についても同病院を利用していたことが判明、遺伝子検査でこの患者由来菌株と病院の空調冷却塔由来菌株の遺伝子パターンの一致が確認されました。ちなみに、計8人の患者の年齢は40〜90代、入院5人、通院3人でした。死亡したのは40代と80代の2人で、残り6人は入院加療により軽快したとのことです。この時の発表では意外な事実も明らかにされました。病院の利用歴がない近隣住民らの感染です。大崎保健所の管内では、同病院を利用していた患者8人とは別に、利用歴がない13人のレジオネラ症患者の届け出が出ていました。これは、大崎管内の例年のレジオネラ症発生状況と比較しても多い数字であったことに加え、13人のうち11人については、自宅や勤務先が同病院に近接(半径3km以内)している事実が判明、うち4人については患者由来菌株と同病院の空調冷却塔由来菌株の遺伝子パターンが一致していました。宮城県は、「当該医療機関の冷却塔が感染源であることは科学的に完全には証明できておりませんが、同種事案の再発防止や県民の健康を守る観点から、県内において冷却塔を有する施設管理者に対し注意喚起を行う」と発表しました。なお、永仁会病院は県の指導の下、7月23日に清掃業者が空調冷却塔2基の清掃と薬品による化学的洗浄を実施、8月以降はこの冷却塔との関連性が疑われるレジオネラ症患者の発生はないとのことです。温泉入浴施設での集団感染が多いレジオネラ症レジオネラ症は感染症法上の4類感染症に分類されており、全数報告対象です。よくニュースになるのは、温泉入浴施設などでの感染です。最近の大きな集団感染事例は、2017年3月に発生した広島県内の温泉入浴施設で起きたもので、入浴客の中から58人の患者が発生し、1人が死亡しています。なお、2002年7月に宮崎県内の温泉入浴施設で起きた集団感染では295人が感染し、7人が死亡しています。厚生労働省のWebサイトによれば、レジオネラ症は、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)を代表とするレジオネラ属菌による細菌感染症で、その病型は劇症型の肺炎と、肺炎は起こさない一過性のポンティアック熱があるとのことです。もともと土壌や水環境に普通に存在する菌ですが、エアロゾルを発生させる人工環境(ビル屋上に立つ空調冷却塔、ジャグジー、加湿器等)や循環水を利用した風呂などが菌の増殖を促し、感染機会を増やしているとされています。レジオネラ属菌で汚染されたエアロゾルを吸入すること等で感染し、潜伏期間は2~10日間、ヒトからヒトへ感染することはない、とされています。もっとも、菌に曝露しても誰もが発症するわけではなく、細胞性免疫能の低下した高齢者やがん患者、透析患者などで肺炎を発症しやすいとされています。今回の永仁会病院のケースも、病院屋上の空調冷却塔でレジオネラ属菌が増殖し、それを含んだエアロゾルが拡散、免疫の落ちた患者らが吸引し、感染したと考えられます。同病院は透析病床も多く抱えているので、そのあたりも感染拡大の一因かもしれません。病院の空調設備だけでなく給水設備も汚染源に調べてみると、院内感染によるレジオネラ症は決して珍しいことではなく、世界的にも問題になっているようです。原因は今回問題となった病院の空調設備だけでなく、給水設備も汚染源になり得るようです。たとえば、神奈川県衛生研究所の研究者らが、2015年に神奈川県内の3病院(200床以上)を対象に給水設備(病衣内の蛇口水及びシャワー水と、蛇口及びシャワーヘッドのスワブ)のレジオネラ属菌による汚染を遺伝子の検出と培養により調査した文献によれば、3病院でのレジオネラDNAの検出は水試料では6.7~93.8%、スワブ試料では0~7.1%、培養によるレジオネラ属菌の検出は水試料では26.7〜66.7%、スワブ試料では0~14.3%だったそうです。著者らはこの結果を踏まえ、「医療機関においては高リスクグループに配慮し、感染防止対策と給水設備の管理の徹底が必要である」と結んでいます2)。「藻が生えているのが目視で分かっても放置することがあった」と病院それにしても、病院利用者以外への感染はどう考えたらいいのでしょうか。宮城県はその後、調査結果を公表しておらず想像するしかありませんが、空調冷却塔からレジオネラ属菌で汚染されたエアロゾルが風などに乗って相当広範囲に飛んだのが原因だと考えられます。空調冷却塔は通常、気温が上がり始めた5~9月頃まで使用されます。同病院の場合、冷却塔の洗浄を十分にしないで今シーズンを迎えたのかもしれません。7月20日付の朝日新聞の報道等によれば、病院は「これまで、毎年1回換水し、冷房を使い終わる10月と、使い始める5月ごろに病院職員がデッキブラシなどで清掃していた」と説明し、「今年も5月に清掃した」とのことです。しかし、「冷却塔の動作確認を毎月する際、塔内に藻が生えているのが目視で分かっても放置することがあった」そうです。安全とされる目安の100万倍近い菌が棲み着いたエアロゾルが、風に乗って病院から半径3キロ内に飛び散っていたわけです。まさにモダンホラーです。これでは病院の近くにはおちおち住めませんね。駅弁で大騒動のセレウス菌も過去には医療機関で集団感染先週、青森県の駅弁メーカーの弁当で起きたセレウス菌による食中毒もそうですが、集団感染や院内感染は忘れた頃に突然起きます。医療機関以外での集団感染が一般的な感染症も、時として病院などで起こるので注意が必要です。ちなみに、セレウス菌については、病院のリネン類(外部に洗濯を依頼していた清拭タオルなど)を介した集団感染が時折起きています。大きく報道されたところでは、2006年の自治医科大学附属病院、2013年の国立がん研究センター中央病院の事例が有名です。いずれも死亡例が出ています。病院管理者の皆さん、病院が思わぬ菌の感染源とならないためにも、MRSA対策だけでなく、レジオネラ属菌やセレウス菌にも気を付けて下さい。参考1)レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針/厚労省2)大屋日登美ほか.医療機関の給水設備におけるレジオネラ属菌の汚染実態.感染症誌.2018;92:678~685.

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コントロール不良高血圧、アルドステロン合成阻害薬lorundrostatが有望/JAMA

 コントロール不良の高血圧患者の治療において、経口アルドステロン合成酵素阻害薬lorundrostatはプラセボと比較して、優れた降圧効果をもたらす可能性があることが、米国・クリーブランド・クリニック財団のLuke J. Laffin氏らが実施した「Target-HTN試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2023年9月10日号で報告された。米国の無作為化プラセボ対照用量設定試験 Target-HTN試験は、米国の43施設で実施された無作為化プラセボ対照用量設定試験であり、2021年7月~2022年6月に参加者の無作為化を行った(Mineralys Therapeuticsの助成を受けた)。 年齢18歳以上、自動診察室血圧(AOBP)測定による収縮期血圧が130mmHg以上で、2剤以上の降圧薬を最大耐用量で少なくとも4週間使用している患者を対象とした。血漿レニン値が抑制され(血漿レニン活性[PRA]≦1.0ng/mL/時)、かつ血清アルドステロン値が上昇(≧1.0ng/dL)している患者をコホート1として、PRA>1.0ng/mL/時の患者をコホート2として登録した。 コホート1は、プラセボまたは5つの用量のlorundrostat(12.5mg、50mg、100mgを1日1回、12.5mg、25mgを1日2回)、コホート2は、プラセボまたはlorundrostat(100mg、1日1回)を経口投与する群に、それぞれ無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、収縮期AOBPのベースラインから8週目までの変化量とした。 コホート1に163例、コホート2に37例を割り付けた。全体の平均年齢は65.7(SD 10.2)歳、女性が60%であり、48%がBMI値30超、40%が2型糖尿病、42%が3剤以上の降圧薬の投与を受けていた。ベースラインの平均血圧は、コホート1が収縮期血圧142.2(SD 12.5)mmHg、拡張期血圧81.5(9.7)mmHgで、コホート2はそれぞれ139.1(8.7)mmHg、79.1(9.7)mmHgだった。50mg群と100mg(1日1回)で有意な降圧効果 コホート1における治療開始から8週の時点での収縮期血圧の変化量は、lorundrostatの1日1回投与では100mg群が-14.1mmHg、同50mg群が-13.2mmHg、同12.5mg群が-6.9mmHgで、プラセボ群は-4.1mmHgであり、同1日2回投与では25mg群が-10.1mmHg、12.5mg群は-13.8mmHgであった。 収縮期血圧のプラセボ群とlorundrostat群の最小二乗平均群間差は、50mg群(1日1回投与)が-9.6mmHg(90%信頼区間[CI]:-15.8~-3.4、p=0.01)、100mg(1日1回投与)が-7.8mmHg(-14.1~-1.5、p=0.04)と有意な差を認めた。 コホート2では、lorundrostat100mg(1日1回投与)で収縮期血圧が11.4(SD 2.5)mmHg低下し、コホート1の同一用量の群と同程度の降圧作用がみられた。 lorundrostat群の6例(3.6%)で血清カリウム値が6.0mmol/L以上に上昇したが、減量または投与中止によって正常化した。コルチゾール分泌不全は発生しなかった。 著者は、「lorundrostatによるアルドステロン合成酵素の阻害は、基礎治療となる降圧療法を問わず、コントロール不良な高血圧患者に降圧効果をもたらす可能性が示された。これらの結果は、コントロール不良の高血圧患者の治療法としての本薬のさらなる検討を支持するものである」としている。

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阪神タイガースのアレを祝福し、マウスと野球を哲学する【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第64回

第64回 阪神タイガースのアレを祝福し、マウスと野球を哲学する2023年9月14日に阪神タイガースが18年ぶり6度目の“アレ”を決めました。そうです、プロ野球セ・リーグ優勝です。阪神ファンの皆さま、おめでとうございます。この18年間に何度も優勝が現実味を帯びたことがありました。『阪神V』という雑誌が出たり、「あかん、阪神優勝してまう!」といったTV特番が放送されたりするほど2位以下を引き離すのですが、その度に歴史的な連敗を喫して優勝を逃してきたのです。そのため「優勝」という言葉を口にすることが憚られる雰囲気がファンや選手の間に浸透したのです。2022年秋に岡田 彰布が阪神監督に就任した際に、優勝のことをアレと呼び続けると宣言しました。公式には、アレではなく、「A.R.E.」でAim・Respect・Empowerの頭文字からくる阪神の2023年シーズンの公式スローガンです。18年間もの間を待ちに待った優勝が決まった瞬間の甲子園球場の盛り上がりは熱狂的でした。阪神タイガース優勝や、WBCでの「侍ジャパン」優勝からも伝わってくるように、日本人は野球が大好きです。甲子園の高校野球の中継には皆が釘付けなります。日本の国技は相撲ではなく野球であるという意見もあるほどです。この野球人気の背景について、「論文・見聞・いい気分」的に解析してみます。医学領域の研究活動は、基礎研究と臨床研究に大別されます。基礎研究は、病気の原因や治療効果を調べるための学問です。主に細胞やマウスなどを用いて実験室で行われます。臨床研究は、実際の患者さんに協力いただいて、病気の予防・診断・治療の改善などのために行う研究です。基礎医学の進歩は臨床医学の発展の土台となります。ヒトを使ってできる実験は限られるため、基礎医学研究者の多くは、ヒトそのものではなく、マウスなどのモデル生物を使って研究を行います。マウス以外の実験動物としては、ラット、モルモット、ハムスター、フェレット、ウサギ、イヌ、ミニブタ、サルなどが挙げられますが、圧倒的にマウスが用いられます。保健所などからの払い下げの動物や、捕獲された犬や猫が実験に使用されることは絶対にありません。なぜ「マウス」が実験に使われるのか考えてみましょう。飼育コストがかからないマウスはヒトと同じ哺乳類で、全ゲノム塩基配列の解読によりヒトの遺伝子の99%はマウスにも保存されていることが明らかにされています。マウスは体重40gほどと哺乳類のなかでも最小クラスの動物で、狭い空間と少ない食料で多くを飼育することができます。研究に要する人的・経済的な負担がほかの動物より有利です。近交系が確立し遺伝子改変しやすい実験で用いられているマウスは近親交配で作られた「近交系」で行われることが通常です。近交系は遺伝子が99.9%同じ個体で、ほぼ同一の個体(クローン)とみなされます。10匹のマウスで実験するとして、10匹の遺伝子がバラバラであれば、個々の遺伝的要因の差異が結果に影響を与える可能性があります。10匹が同じ遺伝子の近交系マウスで実験すれば、どの部分に変化や問題が起こったのか、検証が容易となります。個体差による実験のブレを最小限にできるのです。長年にわたる遺伝学実験の応用により、がん、糖尿病、神経疾患、動脈硬化などを特徴とする多くの近交系マウスが作成されています。また、マウスは遺伝子改変しやすいことも特徴です。遺伝子破壊(ノックアウト)マウスや遺伝子導入(ノックイン)マウスなど、さまざまなタイプの遺伝子改変マウスを作製することが可能です。繁殖力が高く世代交代期間が短いハツカネズミの改良から生まれた実験用マウスは、一度に6~8匹の子供を産み、1ヵ月ほどで成体になり、寿命は1~2年です。子沢山で、成長が早く寿命が短いことが最大の特徴です。12ヵ月齢(1歳)のマウスはヒトでは30歳くらい、24ヵ月齢(2歳)は60歳くらいに相当します。DNAの損傷、免疫能の低下、骨格筋の萎縮、動脈硬化などの加齢性変化が、マウスではヒトの約30倍の速さで起こるのです。ヒトで実験することには倫理面は問題もありますが、時間が掛かり過ぎます。ヒトがヒトを用いて実験することは、究極的には人生で1回しか実験できない理屈になります。ヒトより世代交代が早く代謝サイクルが短いマウスで実験すれば、短い期間で複数世代を観察できます。これがマウスを実験に利用する最大の理由です。プロ野球選手のスポーツ競技者としての職業人生を考えてみましょう。日本野球機構(NPB)の公表では、2022年シーズンで戦力外・現役引退した145名の選手(外国人選手除く)の平均在籍年数は7.7年、平均引退年齢は27.8歳です。在籍期間は短期化し引退年齢は低下する傾向にあり、キャリアは短命化しているそうです。アスリートの世界では、世代交代が一般的な社会よりも早いことになります。これが、日本人が野球を楽しむ一つの側面ではないかと私は考えます。ある企業の代表取締役社長が交代しても、その手腕が決算に表出されるには短くても数年を要するでしょう。阪神タイガースの岡田 彰布監督は、就任から1年を待たずに優勝という結果をもたらしました。新人を採用し人材育成に注力する方針の企業もあれば、完成された優秀な人材をリクルートして即戦力とする方針の企業もあるでしょう。その方針の違いを結果として総括するには、一般企業であれば長い時間を要します。プロ野球であれば、その着手から結果までを短い時間軸で観察することができます。この過程に評論家のように論じながら参画できることに、日本人の野球の楽しみがあるのです。野球を社会的な実証実験の舞台として捉え楽しむのです。今回の原稿から執筆者ある私が、阪神タイガースのファンであると誤解しないでください。私は子供の頃からブレることのない読売巨人軍のファンです。巨人軍は、完成したビッグプレーヤーを金に物言わせて集めてチーム作りをしているようです。この方針では優勝できないという事実から、「世の中は金だけでは成功しない!」というメッセージを知らしめる壮大な実証実験と教育活動を具現化している読売巨人軍を敬愛し、心から応援しています。がんばれジャイアンツ!

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「デルマクイック爪白癬」は技術や検査時間も不問で誤診も防ぐ

 昨年6月にイムノクロマト法を用いた白癬菌抗原キット「デルマクイック爪白癬」が発売されたことを契機に、以前に比べ、内科医でも爪白癬の診断に対応できるようになったのをご存じだろうか。今回、常深 祐一郎氏(埼玉医科大学医学部皮膚科 教授)が『本邦初の白癬菌抗原検査キットによる爪水虫診断と正しい治療法~爪水虫診療は新たなステージへ~』と題し、今年4月に発表された爪白癬の治療実態調査の結果、新たな抗原キットなどについて説明した(佐藤製薬・マルホ共催メディアセミナー)。爪白癬は外用薬で治せる、という誤解 日本人の10人に1人は爪白癬に罹患しており、その多くが高齢者である。高齢者では足の爪白癬が転倒リスク1)やロコモティブシンドローム、フレイルの原因になるほか、糖尿病などの合併症を有する患者においては白癬病変から細菌感染症を発症し、蜂窩織炎や時には壊死性筋膜炎を発症するなど命を脅かす存在になる場合もあるため、完全治癒=臨床的治癒(爪甲混濁部の消失)+真菌学的治癒(直接鏡検における皮膚糸状菌が陰性)を目指す必要がある。 爪白癬の治療は診断さえついてしまえば、外用薬を処方して継続を促せば…と思われることが多いのだが、その安易な判断が「治療の長期化につながり、結局治癒に至らない」と常深氏は指摘した。外用薬は白癬菌が爪の表面に存在する表在性白色爪真菌症(SWO)には効果が高いが、その他の病型では経口抗真菌薬が優れているという。また、「遠位側縁爪甲下爪真菌症(DLSO)の軽症であれば外用薬でも治せると考えられているが、治癒まで時間を要し、その間に次に述べるように脱落が多くなってしまうことから、軽症の間に経口薬で治癒させることが望ましい。もちろんDLSOの中等症以上では経口薬が必要であるし、近位爪甲下爪真菌症(PSO)、全異栄養性爪真菌症(TDO)では経口薬による治療が推奨される」と、病態ごとの剤型の使い分けが重要であることに触れた。「デルマクイック爪白癬」で視診による誤診予防も そうはいっても、とくに高齢者への経口薬処方は、ポリファーマシーの観点や肝機能への影響から敬遠される傾向にある。これに対し、同氏は治療継続率のデータを引用2)し、「経口薬のほうが外用薬より治療継続率が高く、脱落しにくいことが明らかになっている。外用薬の場合は投与開始から1ヵ月時点ですでに4割強が脱落してしまう。一方で、経口薬は投与開始3ヵ月時点でも6割の人が継続している。爪白癬治療に年齢は関係ない」と説明した。 上述のように、治癒率や患者の治療継続率からも爪白癬への経口薬処方が有効であることは明確だが、診断に自信がないと、外用薬で様子を見てしまうということが多そうだ。また、皮膚科専門医は顕微鏡を用いたKOH直接鏡検法で診断することができるが、他科の医師においては視診で判断していることが多いのが実情である。この点について、「皮膚科医であっても視診のみで診断を行うと30%程度は誤った判断をするため3)、やはり検査は必要。爪甲鉤弯症などが爪白癬と誤診されることもある4)」と述べたうえで、「経口薬は外用薬と比較して検査で確定診断がつかないと処方しづらく、“本当に薬を処方していいのか”という不安が処方医に生じる」と医療者側の問題点を挙げた。<爪白癬と誤診されやすい疾患>・掌蹠膿疱症の爪病変・緑色爪(green nail)・黄色爪症候群(yellow nail syndrome)・爪甲鉤弯症・厚硬爪甲 昨年に上市された白癬菌抗原キット「デルマクイック爪白癬」の検査法『イムノクロマト法』は迅速および簡便で感度が高く、皮膚科専門医が行うKOH直接鏡検法や真菌培養法に比べ、技術や検査時間も不問であることから視診による誤診も防ぐことが可能である。同氏は「鏡検できる医師がいない場合、顕微鏡がない施設や往診先での検査に適しており、また、鏡検での見落としを防ぐために検査を併用するのも有用」と述べ、皮膚科専門医ならびに一般内科医に向けて、「精度の高い検査を患者に提供して確定診断が得られた後に適切な薬剤を処方する、という正しい診断フローに沿った治療にもつながる」とコメントした。 最後に同氏はクリニカル・イナーシャ(clinical inertia)5)という言葉に触れ、「これは直訳すると“臨床的な惰性or慣性”。患者が治療目標に達していないにも関わらず治療が適切に強化されていない状態を意味する」と定義を説明し、「患者側がクリニカル・イナーシャに陥る要因は、治療効果の正しい知識不足や経口薬による副作用への懸念、飲み合わせへの懸念などが漠然とある。一方、医師側の要因には完治が必要であるとの認識不足、治癒への熱意や責任感不足などがあり、両者のクリニカル・イナーシャが相乗的に負の方向に働き、外用薬が漫然と使用されてしまう。しかし、爪白癬の治療意義、新たな検査法や経口薬の有用性を理解していけば解決できる」と締めくくった。

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1型糖尿病リスクの高い小児、コロナ感染で発症しやすいか/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行の時期に、小児で糖尿病の増加が観察されている。ドイツ・ドレスデン工科大学のMarija Lugar氏らは、「GPPAD試験」において、1型糖尿病の遺伝的リスクが高い小児では、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)抗体が検出されなかった場合と比較して、検出された集団は膵島自己抗体の発生率が高く、とくに生後18ヵ月未満でリスクが増大していることを明らかにした。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2023年9月8日号に掲載された。生後4~7ヵ月の幼児を追跡した欧州のコホート研究 GPPADは、欧州の5ヵ国(ドイツ、ポーランド、スウェーデン、ベルギー、英国)の施設が参加した進行中の縦断的コホート研究である(米国・Leona M. and Harry B. Helmsley Charitable Trustなどの助成を受けた)。 この研究では、2018年2月~2021年3月に、1型糖尿病発症の遺伝的リスクが10%以上の生後4~7ヵ月児1,050人(女児517人)を登録したPrimary Oral Insulin Trial(POINT)のデータを用いた。 SARS-CoV-2の感染は、2018年4月~2022年6月に、被験児が2歳になるまでに2~6ヵ月の間隔で行われた追跡調査の受診時にSARS-CoV-2抗体の発現を特定することで確認した。 主要アウトカムは、2つの連続した検体または単一の検体における2つ以上の膵島自己抗体の発現と、1型糖尿病の発症であった。 生後6ヵ月からの抗体測定について、血液検体を保管するバイオバンクの同意が得られた885人(女児441人)を解析の対象とした。膵島自己抗体陽性者の33.3%が1型糖尿病発症 年齢中央値18ヵ月(範囲:6~25)の時点で、170人にSARS-CoV-2抗体の発現を認めた。膵島自己抗体は60人(6.8%)で発現し、このうち6人はSARS-CoV-2抗体陽性と同時に、6人はSARS-CoV-2抗体陽性後の診察時に、膵島自己抗体陽性であった。これら60人の小児は最終受診時まで膵島自己抗体が陽性で、このうち20人(33.3%)が1型糖尿病を発症した。 SARS-CoV-2抗体陽性時の膵島自己抗体発現の、性・年齢・国で補正したハザード比(HR)は3.5(95%信頼区間[CI]:1.6~7.7、p=0.002)であった。また、膵島自己抗体発現の累積リスクは、SARS-CoV-2抗体陰性の場合は2.9%(95%CI:1.8~4.8)であったのに対し、陽性の場合の6ヵ月以内の累積リスクは7.3%(4.2~12.7)だった(p=0.01)。 膵島自己抗体の発生率は、SARS-CoV-2抗体陰性の場合は100人年当たり3.5(95%CI:2.2~5.1)であったのに対し、陽性の場合は同7.8(5.3~19.0)と有意に高かった(p=0.02)。 さらに、SARS-CoV-2抗体陽性の幼児における膵島自己抗体が陽性となるリスクは、生後18~24ヵ月と比較して、生後18ヵ月未満で有意に高かった(HR:5.30、95%CI:1.50~18.30、p=0.009)。 著者は、「膵島自己抗体の発現が、COVID-19の世界的流行の初期における1型糖尿病発症率の急激な上昇の原因とは考えにくいが、将来の1型糖尿病の発症率に関連すると考えられる」とし、「生後12ヵ月ごろに膵島自己抗体の発現がピークに達したが、これは糖尿病原性障害の原因への初期曝露が相対的に多いか、またはこの年齢での膵島自己免疫に対する脆弱性の増加のいずれかを反映すると推測され、本研究はこれらの仮説の評価に道を開くものである」と指摘している。

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第164回 新型コロナの医療体制、10月から大幅見直し/厚労省

<先週の動き>1.新型コロナの医療体制、10月から大幅見直し/厚労省2.過労死ライン超える医師、労災未認定。兵庫4病院も違法残業で是正勧告/厚労省3.インフルエンザが異例の早期流行、ワクチン接種を推奨/厚労省4.電子カルテ情報共有サービス、健診結果や患者サマリーを統合して2024年度稼働へ/厚労省5.糖尿病の名称変更、新呼称「ダイアベティス」提案/日本糖尿病学会・日本糖尿病協会6.国立がん研究センター元医長、医療機器をめぐる賄賂疑惑で逮捕/千葉1.新型コロナの医療体制、10月から大幅見直し/厚労省厚生労働省は、新型コロナウイルスに関する複数の新たな方針を発表した。10月から専用病床の「病床確保料」が2割減少し、2024年3月までの適用が予定されている。また、新型コロナ治療薬の患者の自己負担割合について、9,000円を上限とすることが決定された。これまで全額公費であった治療薬について、一部自己負担が求められるようになる。入院医療費の補助は、最大2万円から最大1万円に減少する。医療機関の支援に関しても見直しが行われ、新型コロナの患者の受け入れのための「病床確保料」の支給が感染状況が一定の基準を超えるまで行われない方針となった。専門家は、医療機関の労力の大きさと、適切な支援策の必要性を指摘している。参考1)コロナ病床確保料、10月から2割減に 重点医療機関の補助区分を廃止、厚労省(CB news)2)新型コロナの患者支援 10月から見直し 治療薬の一部自己負担に(NHK)3)10月以降のコロナ感染症対応、「重点的・集中的な入院医療体制」確保目指し診療報酬特例や病床確保料などを縮減して継続(Gem Med)2.過労死ライン超える医師、労災未認定。兵庫4病院も違法残業で是正勧告/厚労省東京都内の大学病院に勤務していた50代の男性医師が、過労によるくも膜下出血で寝たきりの状態となり、労働基準監督署に労災申請を行ったが、宿日直許可を理由に宿直業務を労働時間から除外する扱いとされ、労災認定されなかったことが明らかとなった。男性は緩和医療科の唯一の臨床医として働いており、発症前の時間外労働は「過労死ライン」とされる月80時間を大きく超えていた。代理人弁護士の川人 博氏は、「宿直中に仕事をしていたことが事実であり、一切の労働時間を否定する事案は初めて。関係法令にも反している」と厳しく批判した。労基署は、宿直業務のうち、仮眠6時間を除く9時間15分を労働時間として認めたが、厚生労働省東京労働局の審査官は、宿直時間のすべてを労働時間から除外した。男性の妻は、「宿日直業務のすべてが『労働時間ではない』と否定されることは理解に苦しむ」と述べている。一方、兵庫県立の4病院が、労使協定に基づく上限を超える違法な時間外労働を医師にさせていたとして、労基署から是正勧告を受けたことも報じられた。勧告対象となった期間中に、月190時間の残業をしていた医師もいた。2024年度からは医師に時間外労働の規制が適用されるが、このような過労死の問題が続く中、改革の方向性やその取り組みが十分であるのかという疑問が浮上してきており、来年の4月以降も、過労死防止についてさらに議論が求められる。参考1)医療機関の宿日直許可申請に関する FAQ(全日本病院協会)2)医師の宿直を労働時間から除外、労災認められず 「ここまでやるか」(毎日新聞)3)病院で宿直中に死亡対応しても「労働時間ゼロ」 労災申請で国が判断(朝日新聞)4)医者の宿直、労働時間「ゼロ」扱いで労災認定されず 月100h超の残業でくも膜下出血発症…妻「理解に苦しむ」(弁護士ドットコムニュース)5)医師らに最大月190時間の違法残業させる 兵庫県立4病院 労基署が是正勧告(神戸新聞)3.インフルエンザが異例の早期流行、ワクチン接種を推奨/厚労省インフルエンザの感染拡大が全国で異例の早さで進行中であることが明らかとなった。厚生労働省のデータによれば、全国約5,000の医療機関からの報告で、1医療機関当たりの感染者数が前週の4.48人から7.03人へと急増した。とくに沖縄県では20.85人と最も多く、千葉、愛媛、佐賀と続く。首都圏でも東京都が11.37人と増加し、7都道府県で「注意報」の基準値10人を超えた。この背景には、14歳未満の若い世代での感染が目立ち、学級閉鎖や休校が増えている事情がある。一方、新型コロナウイルスの感染は前週比0.87倍と減少傾向にあるが、ピークを越えたかどうかは注視が必要との見解が出されている。厚労省は、インフルエンザについて「流行のピークが早まる可能性がある」とし、ワクチン接種の早期予約を呼びかけている。参考1)インフルエンザ、異例の早さで流行拡大…感染者数が前週比1・57倍(読売新聞)2)インフルエンザ、東京都内でも「流行注意報」 9月の発令は異例(朝日新聞)3)新型コロナとインフルエンザ 最新の感染状況(NHK)4.電子カルテ情報共有、健診結果や患者サマリーを統合して2024年度稼働へ/厚労省厚生労働省は、健康・医療・介護情報利活用検討会医療等情報利活用ワーキンググループを9月11日に開催し、電子カルテ情報の共有と活用に関して、新たな方針を明らかにした。2024年から稼働を開始する電子カルテ情報共有サービスでは、患者に「傷病名、検査、処方」の情報と「医師からの療養上の指導・計画」の情報をセット提供する予定となっており、患者自身がその情報を常時確認できるようにする見込み。また、厚労省側は電子カルテ情報共有サービスに新たに「健康診断結果報告書」を組み込み、特定の健診や高齢者健診、人間ドックの結果などの閲覧が可能になるよう提案を行なっており、今後のワーキンググループでの議論を通じて詳細が詰められる予定。今回新たに提案された「患者サマリー」には、外来受診の記録も含まれ、患者が自分の病態を理解しやすくなるよう整理される予定。このほか、救急医療現場で必要となる「医療情報」を全国で確認できる仕組みも検討されており、患者の緊急時の診療情報のアクセスに関するガイダンスやガイドラインの作成も提案されており、カルテ情報の共有化に向け、詳細を検討していく見込み。参考1)第18回健康・医療・介護情報利活用検討会医療等情報利活用ワーキンググループ(厚労省)2)電子カルテ情報共有サービスに健診結果の実装目指す サービス稼働時に 「患者サマリー」も、厚労省(CB news)3)患者に「傷病名、検査、処方」等情報と「医師からの療養上の指導・計画」情報をセット提供する新サービス―医療等情報利活用ワーキング(Gem Med)5.糖尿病の名称変更、新呼称「ダイアベティス」提案/日本糖尿病学会・日本糖尿病協会日本糖尿病学会と日本糖尿病協会は、糖尿病の新しい呼称として「ダイアベティス」とする提案を発表した。この提案は、糖尿病に関する誤解や偏見を解消するためのアドボカシー活動として去年より取り組みとして行ってきた一環。国内には現在約1,000万人の糖尿病患者が存在し、現行の病名には不正確な表現や不潔なイメージを持たれる問題があると指摘されてきた。この新しい呼称は、英語の病名に基づいており、学術的にも国際的にも受け入れられると期待されている。日本糖尿病協会が行ったアンケートによると、回答者の約9割が現行の病名に抵抗感や不快感を持っており、約8割が病名の変更を望んでいた。この新しい呼称「ダイアベティス」は、まず啓発活動などで使用され、将来的には正式な病名としての変更も検討されている。参考1)日本糖尿病学会・日本糖尿病協会合同 アドボカシー活動(日本糖尿病協会)2)糖尿病の負のイメージ、払拭へ 新呼称案は「ダイアベティス」(朝日新聞)3)糖尿病の新たな呼称「ダイアベティス」とする案発表(NHK)6.国立がん研究センター元医長、医療機器をめぐる賄賂疑惑で逮捕/千葉国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)の肝胆膵内科の元医長(47歳)が、医療機器の選定・使用に関連して賄賂を受け取ったとして警視庁に逮捕された。逮捕された医師は、同院で医長になって以降、手術で使用する「ステント」について、医療機器メーカー「ゼオンメディカル」社の製品を優先的に使用した見返りとして、2021年におよそ170万円の賄賂を受け取った疑い。また、ゼオン社の元社長、柳田 昇容疑者(67歳)も贈賄の疑いで逮捕された。国立がん研究センターは、この事件を受け、公式サイトを通じて謝罪。「誠に遺憾」とし、「厳正に対処する」との声明を発表した。警視庁は、メーカーが製品の安全性などを確認する市販後調査に協力する契約をこの医師と結び、ほかの医師の使用分も加算していた可能性があるとして、さらに詳しい実態を調べている。事件の背後に、医療機器メーカーと医師との不透明な取引が浮かび上っており、業界の信頼性が再び問われることとなる。参考1)当センターの元職員の逮捕について(国立がん研究センター)2)医療機器「1本使えば対価1万円」…選定や使用巡り170万円贈収賄容疑 がん研元医長と販売会社前社長逮捕(東京新聞)3)国立がん研究センター東病院元医長 収賄容疑で逮捕 警視庁(NHK)4)贈賄容疑のゼオンメディカル、ほかのがんセンター医師の機器使用分も元医長に「謝礼」(読売新聞)5)業者と癒着、後絶たず 高齢化で相次ぐ参入 競争激化が背景に(日経新聞)

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Do not harm. 誰に処方すべきかよく考えてから。血友病におけるリバランス薬として初のローンチを控えるconcizumab(解説:長尾梓氏)

 血友病の治療の基本は長らく「不足した凝固因子を補充する」という原則にのっとって行われてきた。補充する薬剤は献血から遺伝子組み換え製剤に、半減期延長型から長半減期延長型へ都度進化はしてきたが、補充療法という原則は変わらなかった。5年前に初めて原則から外れる薬剤であるエミシズマブが発売されたが、それでもエミシズマブは第VIII因子を代替する薬剤であり、コンセプトは斬新なものの、専門医としては簡単に受け入れることができた。 今回データが発表されたconcizumabは、その原則とはまったく異なるコンセプトの薬剤である。俗に「リバランス薬」といわれるこの薬は、TFPIという体内で凝固を抑制する因子を抑制する抗体製剤である。凝固抑制因子を抑制することで、体内で出血傾向に傾いていたバランスを「リバランス」するというのが基本的な考え方である。リバランス薬は他にもantithrombinやProtein Cなどの凝固抑制因子を対象としてさまざまな製薬会社が開発に取り組んでいる。その中でもconcizumabは最も早期に発売が予定されている薬剤である。ちなみに、カナダではすでに発売されているが、血友病Bインヒビターのみが適応である。なぜ、血友病Bインヒビターだけが適応なのか?(日本とは承認条件が異なる可能性があるため、注意が必要です) 前述したエミシズマブはこれまで唯一の皮下注射剤であり、これまで頻回の静脈注射による治療で多くの苦労してきた血友病患者にとっては、ほぼ悲願であった。しかし、エミシズマブは血友病Aにしか使えない。血友病Bに使える皮下注射剤はこれまでなかった。加えて、エミシズマブはインヒビターの有無に関わらず使用できた。このため、これまで出血で非常に苦労してきた血友病Aインヒビター患者は完全に救われた。しかし、血友病Bインヒビター患者にはそのような夢の薬はなかった。 しかし、血友病Bでインヒビターのない患者には、超半減期延長型製剤といってもいい薬剤がすでに存在していた。最長3週間に1回の定期補充療法で出血抑制を抑制することが可能な状況で、出血回数も非常に良好にコントロールされることが臨床試験からも臨床上の経験からもわかっていた。つまり、血友病Bインヒビターの患者が取り残されていたのだ。 concizumabは血友病A/B、インヒビターの有無を問わず使用できる薬剤である。皮下注射薬であり、毎日の注射が必要なものの、発売元のNovo Nordiskは糖尿病のインスリン製剤での実績があり、非常に簡便なインジェクターを保有している。concizumabにもそれが使えるというわけである。 ただし、本論文に記載のあるとおりで、「進行中の臨床試験でconcizumabの投与を受けていた3例(本試験の1例を含む)に非致死的血栓塞栓イベントが発生したため、投与を中断し、用法を変更して再開した」経緯を持つ薬剤である。用法を変更して再開してからの事故は報告されていないものの、本来血栓を起こすリスクの低い血友病患者に、血栓を起こすことのないように。Do not harm.の原則を忘れずに、本当に必要な患者が誰なのか正確に特定し、適切に処方することが必要である。この記事がその検討に一助となれば幸いである。 血友病の治療はこれまで多くの進化を遂げてきたが、新たな薬剤が登場するたびに、治療法の選択やその使用方法についての認識を更新する必要がある。concizumabは、その新たな選択肢の1つとして、今後の治療の現場で大きな期待を持たれている。しかしながら、あらゆる治療には利点とリスクが存在する。患者の安全を最優先に、十分な情報と知識を持ったうえでの適切な判断が求められる。 医療従事者や関係者は、新たな治療法の導入や適用に関して、患者のニーズやリスクを総合的に評価し、最良の治療を提供するための研修や教育を受けることが重要である。また、患者自身やその家族にも、新しい治療法の利点やリスク、治療の手順や注意点などを十分に理解してもらうための教育や情報提供が必要である。

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脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2023〕

新たなエビデンスを加え、66項目の大改訂!最新のエビデンスを反映させるなどの目的で、例年、全面改訂の約2年後に追補版を発売してきた『脳卒中治療ガイドライン』ですが、近年の本領域の進歩は長足であり、今回は全140項目中66項目を改訂しました。エビデンスレベルの高い新しいエビデンスを加えたほか、新しいエビデンスはないものの推奨度が現実と乖離しているものなども見直したため、今回は「追補」ではなく「改訂」として発売しました。主な改訂点●抗血栓薬や血栓溶解薬などの記載変更について抗血栓薬については、その1種であるDOAC(直接作用型経口抗凝固薬)の高齢者適応のほか、DOACの中和剤に関する記載も増やしました。また、血栓溶解薬は使用開始時期によって効果が左右されますが、起床時発見もしくは発症時刻不明の虚血性脳血管障害患者に対するエビデンスなどを加えました。さらに、くも膜下出血の治療後に生じる可能性がある遅発性脳血管攣縮については、新たに登場した治療選択肢にも触れるなどの変更を行いました。●危険因子としての糖尿病・心疾患・慢性腎臓病(CKD)の管理について主に糖尿病治療で使われるGLP-1やSGLT-2などの薬剤には、近年、新たなエビデンスが得られていることから、推奨度を含めて記載を見直しました。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2023〕定価8,800円(税込)判型A4判頁数332頁発行2023年8月編集日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会

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9月22日 ライソゾーム病の日【今日は何の日?】

【9月22日 ライソゾーム病の日】〔由来〕ライソゾーム病の研究・啓発活動を行う「Sakura Network Japan」が、本症の代表的な疾患であるファブリー病の原因遺伝子が、X染色体q22(キュウ・ニー・ニー)という語呂と疾患啓発のシンボルマーク『シルバーウイング』の活動開始が2012年9月22日であることから制定。関連コンテンツライソゾーム酸性リパーゼ欠損症【希少疾病ライブラリ】ファブリー病【希少疾病ライブラリ】ムコ多糖症I型【希少疾病ライブラリ】ニーマンピック病C1型へのHPβCDの可能性/Lancet

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慢性便秘症ガイドライン改訂、非専門医向けに診療フローチャート

 慢性便秘症は、2010年代にルビプロストン(商品名:アミティーザ)、リナクロチド(同:リンゼス)、エロビキシバット(同:グーフィス)、ポリエチレングリコール(PEG)製剤(同:モビコール)、ラクツロース(同:ラグノス)といった新たな治療薬が開発されている。このように、治療の進歩とエビデンスの蓄積が進む慢性便秘症について、約6年ぶりにガイドラインが改訂され、『便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症』が2023年7月に発刊された。そこで、便通異常症診療ガイドラインの作成委員長を務める伊原 栄吉氏(九州大学大学院医学研究院 病態制御内科学)に改訂のポイントを聞いた。新たな慢性便秘症のガイドライン作成が求められていた 慢性便秘症は、QOLが低下するだけでなく、長期生命予後に影響するコモンディジーズである1)。慢性便秘症には、結腸運動機能(便の運搬機能)障害(排便回数減少型)と直腸肛門機能(便の排泄機能)障害(排便困難型)の2つの病態が存在するため、病態に基づいた治療が必要となる。また、2010年代には新たな慢性便秘症治療薬が複数開発されており、これらのエビデンスをまとめ、非専門医向けに診療フローチャートを作成する必要があった。さらに、オピオイド誘発性便秘症の治療法も明らかにする必要もあった。これらの背景から、新たな慢性便秘症のガイドラインの作成が求められており、今回『便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症』が作成された。また、便秘は下痢と表裏一体であることから、慢性下痢症のガイドラインも新しく作成することになり、『便通異常症診療ガイドライン』という形で、「慢性便秘症」と「慢性下痢症」に分けて作成された。便通異常症診療ガイドライン2023にフローチャート 慢性便秘症には、上述のとおり「排便回数減少型」と「排便困難型」の2つの病態が存在する。伊原氏は「前版の慢性便秘症診療ガイドライン20172)では、排便困難型に重点が置かれていたため、バランスを取った便秘の定義を作成する必要があった」と述べた。そこで、今回の便通異常症診療ガイドライン改訂では、これら2つの病態が考慮され、便秘は「本来排泄すべき糞便が大腸内に滞ることによる兎糞状便・硬便、排便回数の減少や、糞便を快適に排泄できないことによる過度な怒責、残便感、直腸肛門の閉塞感、排便困難感を認める状態(下線部が排便回数減少型に該当)」と新たに定義された。また、慢性便秘症は「慢性的に続く便秘のために日常生活に支障をきたしたり、身体にも種々の支障をきたしうる病態」と定義された。なお、便秘は状態名であり、(慢性)便秘症は疾患名である。つまり、「便秘のために日常生活に支障をきたしているものが便秘症(疾患)である」と伊原氏は述べた。 今回の便通異常症診療ガイドラインの診断基準は、前版の『慢性便秘症診療ガイドライン2017』に準じており、内容には変更がない。しかし、ここでも「排便回数減少型」と「排便困難型」の2つの病態が考慮され、従来の6項目が排便中核症状(排便回数減少型に相当)と排便周辺症状(排便困難型に相当)に分けて記載された。 慢性便秘症の診療について、今回の便通異常症診療ガイドライン2023ではフローチャートが作成されている。そこにも記載されているが、腫瘍性疾患や炎症性疾患が隠れている可能性もあるため、警告症状や徴候の有無を調べることの重要性を伊原氏は強調した。「警告症状にあてはまるものがあれば、大腸内視鏡検査などを実施してほしい。そこで、機能性便秘症であることがわかってから、慢性便秘症の治療に進んでいただきたい」と述べた。警告症状・徴候の詳細については、便通異常症診療ガイドライン2023の「CQ4-1:慢性便秘症における警告症状・徴候は何か?(p.55)」を参考にされたい。フローチャートで診療の流れが明確に、刺激性下剤はオンデマンド治療 伊原氏によると、機能性便秘症の多くが排便回数減少型であるという。そこで、排便回数減少型の治療について解説いただいた。 便秘症の治療薬について、今回の便通異常症診療ガイドライン2023で強い推奨(エビデンスレベルA)となったのは、「浸透圧性下剤(塩類下剤、糖類下剤、高分子化合物[PEG])」「上皮機能変容薬(ルビプロストン、リナクロチド)」「胆汁酸トランスポーター阻害薬(エロビキシバット)」であった。そこで、これらの薬剤を中心に機能性便秘症治療のフローチャートが作成された。ここでの基本的な治療の流れは「生活習慣の改善→浸透圧性下剤→上皮機能変容薬または胆汁酸トランスポーター阻害薬」である。エビデンスが十分でないと判断された「プロバイオティクス」「膨張性下剤」「消化管運動機能改善薬」「漢方薬」は代替・補助治療薬として記載され、「刺激性下剤」「外用薬(坐剤、浣腸)、摘便」はオンデマンド治療であることが明記された。また、このフローチャートは、2023年5月にAmerican Gastroenterological Association(AGA)およびAmerican College of Gastroenterology(ACG)によって発表された『AGA/ACG Clinical Practice Guideline3)』と細かな違いはあるものの、おおむね同様の内容となっている。 新規作用機序の治療薬の使い分けについても、関心が高いのではないだろうか。そこで、今回の便通異常症診療ガイドライン2023では「FRQ 5-1:ルビプロストン、リナクロチド、エロビキシバットを用いるべき臨床的特徴は何か?(p103、104)」が設定された。回答は「ルビプロストン、リナクロチド、エロビキシバットを用いるべき臨床的特徴は明らかになっておらず、今後のさらなる検討が必要と考えられる」となっており、ガイドライン上では便秘症治療薬の使い分けについて明確には示されなかった。しかし、「少しずつわかってきたこともある」と伊原氏は述べた。「ルビプロストンは若い女性で嘔気が起こりやすいため、若い女性にはエロビキシバットやPEG製剤を選択する」「痛みを伴う便秘症にはリナクロチドを選択する」「PPIを用いている患者は酸化マグネシウムの効果が落ちること、ルビプロストンには粘膜バリアを修復する機能があることから、NSAIDsやPPIを服用している患者にはルビプロストンを選択する」「糖尿病患者など、腸の運動が落ちている可能性がある患者には、腸の運動を亢進させるエロビキシバットを選択する」といった便秘症治療薬の使い分けも考えられるとのことである。ただし、「実際に使用して、効果を判定しながら治療を行ってほしい」とも述べた。 今回、オピオイド誘発性便秘症に対する治療のフローチャートも作成された。ガイドラインには「オピオイド誘発性便秘症が疑われる患者には、浸透圧性下剤、刺激性下剤、ナルデメジン、ルビプロストンが有効である」と記載されているが、伊原氏は「ナルデメジンについては、オピオイドの副作用としての便秘に対する効果はあるが、それ以外の機能性便秘症には効果がないので、どちらが主体の便秘症であるか考えて選択する必要がある」と付け加えた。詳細については、便通異常症診療ガイドライン2023の「CQ5-4:オピオイド誘発性便秘症に対する治療法は何か?(p.101)」と「フローチャート5」を参考にされたい。便通異常症診療ガイドライン2023に慢性便秘症の病態評価 慢性便秘症の病態評価において、放射線不透過マーカー法やMRI/CTの有用性が報告されており、今回の便通異常症診療ガイドライン2023にも取り上げられている(CQ4-3、4-4)。しかし、日常診療での実施は難しいのが現状である。そこで、注目されるのが直腸エコー検査(CQ4-2)であると伊原氏は述べた。「直腸エコーで直腸内に便の貯留がみられない場合は直腸感覚閾値の異常、柔らかい便がみられた場合は便排出障害、三日月状の固い便がみられた場合は坐剤や摘便により改善する可能性が考えられる」と解説した。また、「浣腸を行う前に直腸エコーを行うことで、浣腸の必要性がわかるのではないか」とも述べた。 また、病態評価について「病態評価が難しい現状にあるため、症状分類で構わないので『排便回数減少型』『排便困難型』の分類を行い、排便困難型で症状が重い場合は直腸視診や直腸エコーを実施してほしい。そこで明らかな便排出障害が認められる場合は、専門医への紹介を検討していただきたい」とまとめた。便通異常症診療ガイドライン2023改訂ポイントのまとめ 伊原氏は、今回の便通異常症診療ガイドライン2023改訂のポイントを以下のようにまとめた。(1)便秘と慢性便秘症の定義を改訂した(状態名を便秘、病態[疾患名]を[慢性]便秘症とした)(2)「病態(疾患名)」は、「症」を語尾につけることで、病気ではない「状態名」と区別した(3)定義、分類、診断、治療とすべてにわたり、便が直腸へ運搬できない結腸運動機能障害型(排便回数減少型)、直腸に貯留した便が排泄できない直腸肛門機能障害型(排便困難型)の2つの病態を念頭にいれて作成した(4)慢性便秘症の病態評価において直腸エコー(便秘エコー)の有用性を初めて記載した(5)オピオイド誘発性便秘症の治療法を初めて記載した(6)診療のフローチャートを初めて作成した

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緑内障ほか眼科疾患と認知症リスク~メタ解析

 一般的な眼科疾患と認知症との関係を調査するため、中国・Shenzhen Qianhai Shekou Free Trade Zone HospitalのJiayi Feng氏らは、コホート研究のシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。その結果、緑内障などの眼科疾患は、すべての原因による認知症やアルツハイマー病のリスク増加と関連している可能性が示唆された。Journal of the American Medical Directors Association誌オンライン版2023年7月29日号の報告。緑内障や白内障はすべての原因による認知症のリスク増加と関連 対象は、眼科疾患を有する患者。2022年8月25日までに公表された文献をPubMed、EMBASE、Web of Scienceなどのオンラインデータベースより、システマティックに検索した。緑内障、加齢黄斑変性症(AMD)、糖尿病性網膜症(DR)、白内障とすべての原因による認知症、アルツハイマー病、血管性認知症との関連を評価したコホート研究をメタ解析に含めた。ランダム効果モデルを用いてプールし、相対リスク(RR)および95%信頼区間(CI)を算出した。不均一性の評価には、I2統計を用いた。サブグループ分析および感度分析を実施した。 緑内障などの眼科疾患と認知症との関係を調査した主な結果は以下のとおり。・研究25件、参加者1,141万709例をメタ解析に含めた。・AMD、緑内障、DR、白内障は、すべての原因による認知症およびアルツハイマー病のリスク増加との関連が認められた。それぞれの統合された推定値は、以下のとおりであった。●すべての原因による認知症 【AMD】RR:1.29、95%CI:1.13~1.48 【緑内障】RR:1.16、95%CI:1.03~1.32 【DR】RR:1.40、95%CI:1.21~1.63 【白内障】RR:1.23、95%CI:1.09~1.40●アルツハイマー病 【AMD】RR:1.27、95%CI:1.06~1.52 【緑内障】RR:1.18、95%CI:1.02~1.38 【DR】RR:1.21、95%CI:1.04~1.41 【白内障】RR:1.22、95%CI:1.07~1.38・血管性認知症発症と眼科疾患との関連は、認められなかった。・サブグループ分析では、DRとすべての原因による認知症リスクとのメタ解析の結果と一致しなかった。・メタ回帰分析では、AMDとすべての原因による認知症、AMDとアルツハイマー病、緑内障とすべての原因による認知症、緑内障とアルツハイマー病との関連に、不均一な潜在的な原因として地理的要因が影響していることが示唆された。

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機械翻訳で英語の壁を乗り越えよう【学会発表で伝わる!英語スライド&プレゼン術】第23回

機械翻訳で英語の壁を乗り越えよう1)「DeepL翻訳」の特性を理解しておく2)パソコンにダウンロードして効率よく使う3)「別の訳語」機能をうまく活用する国際学会の発表で、まずネックになるのが英語です。抄録を作成する時点で英語の壁に突き当たり、諦めてしまう方もいらっしゃるかもしれません。そんなときに大きな助けになるのが機械翻訳サービスです。機械翻訳と聞くとGoogle翻訳を思い浮かべる方も多いと思いますが、ここ数年で自然な翻訳ができるとして「DeepL(ディープエル)」の翻訳サービスが広く使われるようになっており、国際学会の発表の場面でも役立ちます。DeepLは、2017年にドイツの会社が開始した機械翻訳サービスです。DeepL翻訳はウェブ上でも利用できますが、DeepLアプリやブラウザの拡張機能としてダウンロードしておくとより便利に使えます。ダウンロード後、翻訳したい文章を選択し、WindowsであればCtrlキーを押しながらCを2連打、MacであればCommandキーを押しながらCを2連打することで簡単に翻訳できます〈図1、図2〉。〈図1〉画像を拡大する〈図2〉画像を拡大する関連する論文の検索をする際、英語の文章を読むのが苦手な方は日本語に訳すことで効率よく情報収集できます。また、英語の文章を書くのが苦手な方は、まずは日本語で文章を書き、DeepL翻訳にかけて英語に直す方法を取るとよいでしょう。このときに必要な注意は、「機械翻訳の結果をうのみにしない」ことです。自分の意図と違う文章になっていたり、文章を丸ごと省略したりしてしまう場合があるので、翻訳後の文章のチェックは入念に行いましょう。とくに、日本語の文章は主語が省略される傾向があるので、翻訳したときに関係のない主語が付いてしまう場合があります。翻訳前の日本語の文章には意識して主語を入れておくのがポイントです。また、翻訳された英文がいまひとつというときは、「別の訳語」機能を活用しましょう。英訳された文章の単語をクリックすると、ほかの訳語候補が表示され、変更したい単語を選択すると文章が書き換えられます〈図3〉。好みの表現を選ぶことができ、便利です。〈図3〉画像を拡大する機械翻訳の使用には賛否両論ありますが、個人的にはこのような便利なツールを使用することで国際学会の発表のハードルが下がり、英語がネックでこれまで挑戦できなかった人が挑戦できるようになるのは喜ばしいことだと思います。機械翻訳の特性を理解したうえで、上手に活用しましょう。講師紹介

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経口GLP-1受容体作動薬の画期的な開発への期待(解説:安孫子亜津子氏)

 現在使用されているGLP-1受容体作動薬はペプチド製剤で、注射薬が主体であり、2型糖尿病の治療として使用されている。とくに、週に1回の注射製剤はその簡便性と有効性から使用患者が増加している。2021年には世界初の経口GLP-1受容体作動薬であるセマグルチドが登場し、さらにその使用者層が広がった。ただし、経口セマグルチドは空腹状態の胃から吸収される必要があるため、その内服方法に制約があり、適切な内服ができない場合には効果が減弱する。 このたび、新規経口非ペプチドGLP-1受容体作動薬であるorforglipronが開発され、第II相臨床試験の結果がLancet誌に発表された。本試験の対象は、18歳以上、BMIが23以上の2型糖尿病患者で、4ヵ国45施設で実施された。プラセボ群、デュラグルチド1.5mg群と、orforglipronは3mg、12mg、24mg、36mg、45mg(1日1回投与)各群に無作為に割り付けられ、36mgと45mgは、それぞれ2つの異なる用量漸増レジメンが試された。 主要有効性アウトカムである、orforglipron各用量群vs.プラセボ群の26週時におけるベースラインからのHbA1cの平均変化は、orforglipron群で-1.2%(3mg群)~-2.1%(45mg群)、プラセボ群-0.4%、デュラグルチド群-1.1%であった。orforglipronの全用量群で、HbA1c低下に関してプラセボ群に対する優越性が認められ、さらにorforglipronの12mg以上の用量群ではデュラグルチド群に対する優越性が認められた。26週時の体重の平均変化は、orforglipronで-3.7kg(3mg群)~-10.1kg(45mg群)、プラセボ群-2.2kg、デュラグルチド群-3.9kgであった。有害事象の発現率は、orforglipron群61.8%~88.9%、プラセボ群61.8%、デュラグルチド群56.0%で、多くは軽度から中等度の胃腸障害であった。 この試験の結果から、新規経口非ペプチドGLP-1受容体作動薬のorforglipronは12mg以上でデュラグルチドに対して優越性が認められ、そのHbA1c低下効果と体重減少効果が示された。GLP-1製剤全般に一般的に起こりうる胃腸障害には本薬剤も注意を要するが、低血糖を起こしにくく、内服方法に制約がないことが大きな魅力であり、さらに糖尿病を持つ多くの人たちの良好な血糖管理が可能となることが期待される。今後、本薬剤の第III相試験の結果が待たれる。

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睡眠の質を高めるため、多くの医師がしていることは?/1,000人アンケート

 2024年4月から医師の働き方改革の新制度がスタートするが、長時間労働に端を発する医師の過労問題は改善されていないのが現状である。そのような中、睡眠は健康管理の重要カテゴリーとして医学界を筆頭にさまざまな業界で注目されているが、長時間労働者の象徴とも言える医師は果たして睡眠時間を確保できているのだろうか―。そこで、ケアネットでは多忙を極める医師の睡眠時間の実態を調査するために「睡眠状況、睡眠への意識について」のアンケートを実施。回答結果を診療科別、年代別、病床数別に抽出した。平均睡眠時間/睡眠の質に満足、全体の48% 今回は平均睡眠時間(当直時を除く)や睡眠に対する満足度、気になっていることについてそれぞれ質問した。平均睡眠時間や睡眠の質に満足していると回答した割合が半数以上であった診療科は全9科(血液内科、皮膚科、泌尿器科、精神科/心療内科、神経内科、腎臓内科、総合診療科、耳鼻咽喉科、内科)であった。一方、満足している回答者が少なかったのは、眼科(25%)、産婦人科(30%)、放射線科(31%)と続き、臨床研修医(37%)も満足できていない実態が明らかになった。また、年代別の満足度を見ると70代以上(59%)、40代(50%)、60代(49%)と続いた。1日の平均睡眠時間、6時間が最多 経済協力開発機構(OECD)が33ヵ国を対象に行った「1日の睡眠時間(睡眠に充てる時間)」に関する調査によると、日本人の睡眠時間は7時間22分と33ヵ国平均(8時間28分)と比較しても1時間以上短い。さらに「スタンフォード式 最高の睡眠」の著者である株式会社プレインスリープ創業者/最高研究顧問の西野 精治氏らが調査した日本人の平均睡眠時間は6時間43分と報告されている。これらを参考に、ここでは「睡眠時間5時間以下を睡眠時間が短い」と定義すると、本アンケート全体では4人に1人が睡眠不足であり、血液内科、総合診療科、麻酔科、小児科などが該当した。ただし、血液内科においては睡眠時間が短くても現状に満足していると回答している人が多く、睡眠時間が長い=満足、につながるわけではないことも言えるのではないだろうか。ちなみに、こちらも年代で見てみると、睡眠への満足度が高かった70代の3割超は5時間睡眠であった。医師が睡眠時に気になっていること 続いて「医師自身が睡眠時において気にしていること」を尋ねたところ、回答者の2/3が睡眠中の悩みを抱えており、最も多かったのは中途覚醒で、50代以上の回答が多かった。そのほか、いびき、入眠障害も年齢層問わず悩みの種として挙げられた。睡眠の質向上のため、マットレスや枕にこだわる 今回のアンケートでは医師が睡眠のためにこだわっている物事、活用している物も聞いてみた。その結果、枕と回答した人が最も多く(397人)、オススメ商品として「テンピュール」「じぶんまくら」を多数が挙げていた。次にマットレス/布団(317人)と回答した人が多く、「エアウィーヴ」「コアラマットレス」「シモンズ」などが選ばれていた。また、睡眠のために、「ヤクルト1000」などの乳酸菌飲料やサプリメントの摂取、就寝時間や食事時間など時間管理を挙げる人も多かった。 なお、厚生労働省は今年3月、睡眠について気になっているけれど対処法がわからずに悩んでいる人、肥満、高血圧、糖尿病などの疾患がある人を含む幅広い人を対象に作成された『良い目覚めは良い眠りから知っているようで知らない睡眠のこと』というパンフレットとともにその解説書を公開しており、患者への生活指導のみならず医師にも役立つツールなので、ぜひ参考にされたい。 このほか、医師の睡眠実態の詳細ほか、以下のアンケ―ト結果では医師が個人の見解でオススメする寝具、意識して取り入れている物の一覧も公開している。『医師の平均睡眠時間、睡眠への満足度は?』<アンケート概要>目的:睡眠が健康管理の重要なカテゴリーとして注目されていることから、多忙な医師の睡眠状況、睡眠に対する意識を調査した。対象:ケアネット会員医師 1,000人調査日:2023年8月24日方法:インターネット

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高齢COVID-19患者の退院後の死亡および再入院のリスク(解説:小金丸博氏)

 今回、65歳以上の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の退院後の長期にわたる転帰を調査した米国の後ろ向きコホート研究の結果が、BMJ誌2023年8月9日号に報告された。高齢者におけるCOVID-19の急性期症状や短期的な転帰についてはよく研究されているが、長期的な転帰については十分判明していなかった。本研究ではインフルエンザの退院患者を対照群として選択し比較した。その結果、COVID-19患者の退院後の全死因死亡リスクは30日時点で10.9%、90日時点で15.5%、180日時点で19.1%であり、インフルエンザ患者と比較して高率だった。再入院のリスクは30日時点で16.0%、90日時点で24.1%でありインフルエンザ患者より高率だったが、180日時点では30.6%で同等だった。再入院は心肺機能の問題で入院することが多く、再入院時の初期診断としては敗血症(セプシス)、心不全、肺炎の順に多く認めた。 本研究では、COVID-19関連の入院後に退院した65歳以上の高齢者では、退院後180日以内の死亡リスクが過去のインフルエンザ対照群と比較して高いことが示された。インフルエンザの重症度は流行株による違いが大きいことが知られており、比較対象とするシーズンによって結果が異なることが予想されるものの、入院を要したCOVID-19が高齢患者に与えるダメージが大きいことは現場で感じる感覚と合致する。両群の死亡リスクの増加の違いは主に退院後30日以内の違いによって引き起こされているようであり、COVID-19のほうがより急性感染症として重篤であることや血栓塞栓症などの合併症を多く引き起こすことが理由として考えられる。 COVID-19関連の退院後の死亡リスクはパンデミックの過程で大幅に減少していた。抗ウイルス薬、ステロイドの投与といった有効な治療法の確立、重症化予防が期待できるワクチン接種など、治療や予防の進歩が寄与した可能性が高いと思われる。そのほか、コロナウイルスの変異に伴う毒性の変化も死亡リスク減少の理由として考えられる。 高齢者は高血圧や糖尿病など基礎疾患を有することが多く、COVID-19に罹患した場合、入院が必要となることも多い。入院中の急性期の治療はもちろん大切だが、高齢者では退院後の死亡率、再入院率が高いことを認識し、退院後も継続的に経過観察することが重要と考える。

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