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平熱は人によってさまざま

 人間の「平熱」は37.0℃だと長らく考えられてきた。しかし、新たな研究で、体温には個人差があり、誰にでも当てはまるような平均体温というものは実際には存在しないことが明らかになった。人間の体温は、年齢、性別、身長や体重によって異なり、また1日の中でも時間帯によって変動することも示されたという。米スタンフォード大学医学部教授のJulie Parsonnet氏らによるこの研究の詳細は、「JAMA Internal Medicine」に9月5日掲載された。 同大学の研究グループが実施した過去の研究によると、米国人の平均体温は19世紀以来10年ごとに37.0℃から0.05℉ずつ(摂氏に換算すると0.0278℃)低下しているという。これは、健康状態や生活環境の改善により体内での炎症が抑制されるようになったことに起因すると考えられている。 現在の「人間の平熱は37.0℃」という概念は、1860年代に発表されたドイツの研究に由来する。しかしその当時でも、研究者らは、男性や高齢者の体温が女性や若年成人よりも低いことや、午後の方が体温が高いことを指摘していた。 今回の研究では、2008年4月28日から2017年6月4日の間にスタンフォードヘルスケア内の内科と家庭医療科を受診した成人外来患者の61万8,306件の診察データの分析が行われた。いずれの診察でも口腔温の測定が行われていた。研究グループは、LIMIT(Laboratory Information Mining for Individualized Thresholds)フィルタリングアルゴリズムを用いて、極端に高いまたは低い体温と関わる診断や投薬を特定して除外し、体温に関連しないデータのみを解析に用いた。また、各患者の主な診断、投薬内容、年齢、性別、身長、体重、診察の時間帯、診察が行われた月の情報を入手し、年齢、性別、身長、体重、診察の時間帯により体温がどの程度変わるのかを調べた。 LIMITフィルタリングアルゴリズムにより、35.92%の診察データが除外された。除外された診断として最も多かったのは高体温に関連する感染症(76.81%)であり、また、低体温に関連する診断として2型糖尿病が15.71%を占めていた。これにより、12万6,705人の患者(平均年齢52.7歳、女性57.35%)に関する39万6,195件の診察データが解析対象とされた。 その結果、平均体温は、アルゴリズムにかける前のデータでは36.71℃であったのが、不適切と見なされたデータの除外後には36.64℃に低下していた。体温は、男女ともに、年齢が高いほど、また身長が高いほど低くなり、体重が多いほど高くなり、また、男性は女性より平均体温が低い傾向が認められた。診察の時間帯による影響も確認され、体温は午後4時ごろに最も高くなっていた。さらに、このような体温の個人差の最大25.52%は、年齢、性別、身長、体重、診察の時間帯によるものであることも示された。このことは、本研究で検討されていない他の要因、例えば、衣服、身体活動、月経周期、測定誤差、天候、熱い飲み物や冷たい飲み物の摂取などが影響している可能性のあることを意味している。 Parsonnet氏は、このような体温に影響を与える患者ごとの要因を考慮することで、体温がより正確で有用なバイタルサインになる可能性があると話す。同氏は、今後の研究で、発熱の個人的な定義や、常に高めあるいは低めの体温が寿命に影響するかどうかを調べることも視野に入れているとし、「体温のデータは世界中に山とあるため、体温について更なる知見を得るチャンスはいくらでもある」と話している。

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COVID-19罹患後に高血圧リスク上昇の懸念

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患後の人は、高血圧の新規発症リスクが高いことを示唆するデータが報告された。そのリスクの程度は、インフルエンザ感染後に認められる高血圧発症リスクよりも高いという。米アルバート・アインシュタイン医科大学モンテフィオーレ医療センターのTim Duong氏らの研究によるもので、詳細は「Hypertension」に8月21日掲載された。 高血圧患者はCOVID-19罹患時の重症化リスクが高い傾向のあることが知られているが、その反対にCOVID-19罹患が高血圧発症リスクを押し上げるのか否かは、従来明らかでなかった。論文の上席著者であるDuong氏によると、「COVID-19罹患後に高血圧リスクが上昇することを示したのは、恐らく本研究が初めて」という。 この研究は、ニューヨーク市内の複数の医療機関の患者データを用いた後方視的観察研究として実施された。2020年3月~2022年8月のCOVID-19患者4万5,398人と、2018年1月~2022年8月のインフルエンザ患者1万3,864人を解析対象とした。いずれも罹患前に高血圧の既往歴のある患者は除外された。 罹患後平均6カ月の追跡で、COVID-19急性期に入院を要した患者の20.6%、入院を要さなかった患者の10.9%が高血圧を発症していた。それらの割合は、インフルエンザ急性期に入院を要した人の2.23倍(95%信頼区間1.48~3.54)、インフルエンザ急性期に入院を要さなかった人の1.52倍(同1.22~1.90)であり、いずれも有意に高リスクだった。高齢者、男性、基礎疾患〔COPD(慢性閉塞性肺疾患)、冠状動脈疾患、慢性腎臓病〕を有する場合、およびステロイド治療中などでは、COVID-19罹患後の高血圧発症リスクがより高いことも明らかになった。 では、なぜCOVID-19罹患によって血圧が上昇するのだろうか。Duong氏は、「正確なその理由は、まだ誰にも分からない」と述べている。推測されるメカニズムとしては、新型コロナウイルスが血圧の調節不全や心臓の機能不全を引き起こす可能性に加えて、COVID-19罹患による心理的苦痛、身体活動量の減少、腎障害、呼吸機能低下、全身性の炎症などを介した経路も考えられるとのことだ。また同氏は、「原因が何であれ、COVID-19の患者数自体が膨大であることから、罹患後の高血圧リスクの上昇は憂慮すべき事態である」としている。 Duong氏の考え方には、英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のAmitava Banerjee氏も、「この問題は間違いなく新たな懸念材料だ」と同意を示し、「COVID-19パンデミックの影響による高血圧の増加は、いずれ心臓発作や脳卒中などの心血管疾患の増加につながることだろう。高血圧のスクリーニングを強化する必要があるのではないか」と提案している。 また、米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)のDavey Smith氏は本研究の結果を、「将来的なCOVID-19関連死増加の前兆」と捉えている。同氏によると、高血圧はすでに世界中の全死亡の約13%に関与しており、「COVID-19罹患後に高血圧の新規発症が増えるのであれば、高血圧に関連する死亡がより増加することは避けられない」と解説。同氏は公衆衛生対策の拡充を訴えるとともに、「医師はCOVID-19罹患後の患者の血圧や血糖のモニタリングを強化し、高血圧や糖尿病が見つかった場合は積極的に治療する必要がある」と付け加えている。

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第180回 宮城の病院でレジオネラ症集団感染、病院利用がない地域住民への感染はなぜ起こった?

入院患者、外来患者だけでなく病院利用が全くなかった地域住民にも感染広がるこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。日本のプロ野球は、オリックス・バファローズがパ・リーグ三連覇を決めました。阪神、オリックスがこのままの勢いで行けば、今年の日本シリーズは大阪と兵庫の球場だけで行われる関西シリーズになります。関東在住者としては少々寂しいです。一方、米国のMLBでは、藤浪 晋太郎投手が所属するボルチモア・オリオールズと、前田 健太投手が所属するミネソタ・ツインズが、それぞれアメリカン・リーグの東地区、中地区の優勝を決めました。シーズン後半になって持ち直してきた両投手のポストシーズンでの活躍に期待したいと思います。さて、今回は東北の地方都市にある民間病院で起こった、レジオネラ症の集団感染について書きます。7月に発覚したこの事件、その後の調査で、入院や外来など病院を利用した人の感染だけではなく、病院利用がまったくなかった地域住民にも感染が広がっていました。温泉入浴施設での集団感染事例が多いレジオネラ症ですが、どうして病院で起こったのでしょうか。また、どうして病院利用者以外にも広がってしまったのでしょうか…。一般病床80床、透析病床60床を有する地域の急性期病院宮城県は9月11日、県内の病院で、今年6~7月にかけて病院の利用者6人がレジオネラ症に感染し、80代と40代の男女2人が死亡した問題で、病院の利用歴のない近隣住民ら11人も感染していた、と発表しました。県は「病院の集団感染と関連があるとみられる」として、詳しい因果関係を調べているとのことです。宮城県の発表によると、ことの経緯は以下のようなものでした。6月下旬~7 月中旬、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)に基づくレジオネラ症患者の届け出があった6人について、届け出を受理した大崎保健所が調査を行いました。その結果、同一医療機関を利用していたことが判明、健康被害拡大防止と重症化防止のため、7月19日に施設名の公表を行いました。集団感染を起こしたのは、宮城県大崎市の医療法人永仁会・永仁会病院です。一般病床80床、透析病床60床を有する地域の急性期病院で、Webサイトによれば、消化器、腎臓、糖尿病、乳腺疾患などを専門としています。その後、同病院の施設調査が行われ、空調設備(空調冷却塔2基の拭取検体)からレジオネラ属菌が検出。1基は安全とされる目安の97万倍、もう1基は68万倍の菌が検出されたとのことです。菌を含んだ水がエアロゾル状となり冷却塔外に舞い散る空調の冷却は冷却塔内のファンを回して行うため、菌を含んだ水がエアロゾル状となって冷却塔外に舞い散り、新型コロナ対策の換気で開放されていた病室の窓などから入り感染につながったとみられています。コロナ予防のための換気対策が逆にレジオネラ症の感染拡大につながったわけです。皮肉なものです。また、遺伝子検査により、6人の患者のうち4人の患者由来菌株と病院の空調冷却塔由来菌株との遺伝子パターンが一致したため、8月4日にはその事実も公表されました。県はこの事実に基づいて、近隣医療機関に対する注意喚起を行い、併せて同病院に対して、厚労省の「レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針」1)に基づき指導を行いました。半径3km以内に住む住民も感染3回目となる9月11日の宮城県の発表では、さらなる感染拡大が明らかになりました。7月に公表された患者6人に加え、7月下旬にレジオネラ症患者の届け出があった1人についても同病院を利用していたことが判明、遺伝子検査でこの患者由来菌株と病院の空調冷却塔由来菌株の遺伝子パターンの一致が確認されました。ちなみに、計8人の患者の年齢は40〜90代、入院5人、通院3人でした。死亡したのは40代と80代の2人で、残り6人は入院加療により軽快したとのことです。この時の発表では意外な事実も明らかにされました。病院の利用歴がない近隣住民らの感染です。大崎保健所の管内では、同病院を利用していた患者8人とは別に、利用歴がない13人のレジオネラ症患者の届け出が出ていました。これは、大崎管内の例年のレジオネラ症発生状況と比較しても多い数字であったことに加え、13人のうち11人については、自宅や勤務先が同病院に近接(半径3km以内)している事実が判明、うち4人については患者由来菌株と同病院の空調冷却塔由来菌株の遺伝子パターンが一致していました。宮城県は、「当該医療機関の冷却塔が感染源であることは科学的に完全には証明できておりませんが、同種事案の再発防止や県民の健康を守る観点から、県内において冷却塔を有する施設管理者に対し注意喚起を行う」と発表しました。なお、永仁会病院は県の指導の下、7月23日に清掃業者が空調冷却塔2基の清掃と薬品による化学的洗浄を実施、8月以降はこの冷却塔との関連性が疑われるレジオネラ症患者の発生はないとのことです。温泉入浴施設での集団感染が多いレジオネラ症レジオネラ症は感染症法上の4類感染症に分類されており、全数報告対象です。よくニュースになるのは、温泉入浴施設などでの感染です。最近の大きな集団感染事例は、2017年3月に発生した広島県内の温泉入浴施設で起きたもので、入浴客の中から58人の患者が発生し、1人が死亡しています。なお、2002年7月に宮崎県内の温泉入浴施設で起きた集団感染では295人が感染し、7人が死亡しています。厚生労働省のWebサイトによれば、レジオネラ症は、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)を代表とするレジオネラ属菌による細菌感染症で、その病型は劇症型の肺炎と、肺炎は起こさない一過性のポンティアック熱があるとのことです。もともと土壌や水環境に普通に存在する菌ですが、エアロゾルを発生させる人工環境(ビル屋上に立つ空調冷却塔、ジャグジー、加湿器等)や循環水を利用した風呂などが菌の増殖を促し、感染機会を増やしているとされています。レジオネラ属菌で汚染されたエアロゾルを吸入すること等で感染し、潜伏期間は2~10日間、ヒトからヒトへ感染することはない、とされています。もっとも、菌に曝露しても誰もが発症するわけではなく、細胞性免疫能の低下した高齢者やがん患者、透析患者などで肺炎を発症しやすいとされています。今回の永仁会病院のケースも、病院屋上の空調冷却塔でレジオネラ属菌が増殖し、それを含んだエアロゾルが拡散、免疫の落ちた患者らが吸引し、感染したと考えられます。同病院は透析病床も多く抱えているので、そのあたりも感染拡大の一因かもしれません。病院の空調設備だけでなく給水設備も汚染源に調べてみると、院内感染によるレジオネラ症は決して珍しいことではなく、世界的にも問題になっているようです。原因は今回問題となった病院の空調設備だけでなく、給水設備も汚染源になり得るようです。たとえば、神奈川県衛生研究所の研究者らが、2015年に神奈川県内の3病院(200床以上)を対象に給水設備(病衣内の蛇口水及びシャワー水と、蛇口及びシャワーヘッドのスワブ)のレジオネラ属菌による汚染を遺伝子の検出と培養により調査した文献によれば、3病院でのレジオネラDNAの検出は水試料では6.7~93.8%、スワブ試料では0~7.1%、培養によるレジオネラ属菌の検出は水試料では26.7〜66.7%、スワブ試料では0~14.3%だったそうです。著者らはこの結果を踏まえ、「医療機関においては高リスクグループに配慮し、感染防止対策と給水設備の管理の徹底が必要である」と結んでいます2)。「藻が生えているのが目視で分かっても放置することがあった」と病院それにしても、病院利用者以外への感染はどう考えたらいいのでしょうか。宮城県はその後、調査結果を公表しておらず想像するしかありませんが、空調冷却塔からレジオネラ属菌で汚染されたエアロゾルが風などに乗って相当広範囲に飛んだのが原因だと考えられます。空調冷却塔は通常、気温が上がり始めた5~9月頃まで使用されます。同病院の場合、冷却塔の洗浄を十分にしないで今シーズンを迎えたのかもしれません。7月20日付の朝日新聞の報道等によれば、病院は「これまで、毎年1回換水し、冷房を使い終わる10月と、使い始める5月ごろに病院職員がデッキブラシなどで清掃していた」と説明し、「今年も5月に清掃した」とのことです。しかし、「冷却塔の動作確認を毎月する際、塔内に藻が生えているのが目視で分かっても放置することがあった」そうです。安全とされる目安の100万倍近い菌が棲み着いたエアロゾルが、風に乗って病院から半径3キロ内に飛び散っていたわけです。まさにモダンホラーです。これでは病院の近くにはおちおち住めませんね。駅弁で大騒動のセレウス菌も過去には医療機関で集団感染先週、青森県の駅弁メーカーの弁当で起きたセレウス菌による食中毒もそうですが、集団感染や院内感染は忘れた頃に突然起きます。医療機関以外での集団感染が一般的な感染症も、時として病院などで起こるので注意が必要です。ちなみに、セレウス菌については、病院のリネン類(外部に洗濯を依頼していた清拭タオルなど)を介した集団感染が時折起きています。大きく報道されたところでは、2006年の自治医科大学附属病院、2013年の国立がん研究センター中央病院の事例が有名です。いずれも死亡例が出ています。病院管理者の皆さん、病院が思わぬ菌の感染源とならないためにも、MRSA対策だけでなく、レジオネラ属菌やセレウス菌にも気を付けて下さい。参考1)レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針/厚労省2)大屋日登美ほか.医療機関の給水設備におけるレジオネラ属菌の汚染実態.感染症誌.2018;92:678~685.

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コントロール不良高血圧、アルドステロン合成阻害薬lorundrostatが有望/JAMA

 コントロール不良の高血圧患者の治療において、経口アルドステロン合成酵素阻害薬lorundrostatはプラセボと比較して、優れた降圧効果をもたらす可能性があることが、米国・クリーブランド・クリニック財団のLuke J. Laffin氏らが実施した「Target-HTN試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2023年9月10日号で報告された。米国の無作為化プラセボ対照用量設定試験 Target-HTN試験は、米国の43施設で実施された無作為化プラセボ対照用量設定試験であり、2021年7月~2022年6月に参加者の無作為化を行った(Mineralys Therapeuticsの助成を受けた)。 年齢18歳以上、自動診察室血圧(AOBP)測定による収縮期血圧が130mmHg以上で、2剤以上の降圧薬を最大耐用量で少なくとも4週間使用している患者を対象とした。血漿レニン値が抑制され(血漿レニン活性[PRA]≦1.0ng/mL/時)、かつ血清アルドステロン値が上昇(≧1.0ng/dL)している患者をコホート1として、PRA>1.0ng/mL/時の患者をコホート2として登録した。 コホート1は、プラセボまたは5つの用量のlorundrostat(12.5mg、50mg、100mgを1日1回、12.5mg、25mgを1日2回)、コホート2は、プラセボまたはlorundrostat(100mg、1日1回)を経口投与する群に、それぞれ無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、収縮期AOBPのベースラインから8週目までの変化量とした。 コホート1に163例、コホート2に37例を割り付けた。全体の平均年齢は65.7(SD 10.2)歳、女性が60%であり、48%がBMI値30超、40%が2型糖尿病、42%が3剤以上の降圧薬の投与を受けていた。ベースラインの平均血圧は、コホート1が収縮期血圧142.2(SD 12.5)mmHg、拡張期血圧81.5(9.7)mmHgで、コホート2はそれぞれ139.1(8.7)mmHg、79.1(9.7)mmHgだった。50mg群と100mg(1日1回)で有意な降圧効果 コホート1における治療開始から8週の時点での収縮期血圧の変化量は、lorundrostatの1日1回投与では100mg群が-14.1mmHg、同50mg群が-13.2mmHg、同12.5mg群が-6.9mmHgで、プラセボ群は-4.1mmHgであり、同1日2回投与では25mg群が-10.1mmHg、12.5mg群は-13.8mmHgであった。 収縮期血圧のプラセボ群とlorundrostat群の最小二乗平均群間差は、50mg群(1日1回投与)が-9.6mmHg(90%信頼区間[CI]:-15.8~-3.4、p=0.01)、100mg(1日1回投与)が-7.8mmHg(-14.1~-1.5、p=0.04)と有意な差を認めた。 コホート2では、lorundrostat100mg(1日1回投与)で収縮期血圧が11.4(SD 2.5)mmHg低下し、コホート1の同一用量の群と同程度の降圧作用がみられた。 lorundrostat群の6例(3.6%)で血清カリウム値が6.0mmol/L以上に上昇したが、減量または投与中止によって正常化した。コルチゾール分泌不全は発生しなかった。 著者は、「lorundrostatによるアルドステロン合成酵素の阻害は、基礎治療となる降圧療法を問わず、コントロール不良な高血圧患者に降圧効果をもたらす可能性が示された。これらの結果は、コントロール不良の高血圧患者の治療法としての本薬のさらなる検討を支持するものである」としている。

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脂肪が効率よく燃焼される運動強度は個人差が大きい

 減量や疾患予防などの目的で脂肪を効率的に燃焼させる運動をしようとするなら、個別化されたアプローチに基づいて運動強度を設定する必要があるかもしれない。運動強度と脂肪燃焼との関係は個人差が大きいために、心拍数などから推計した“脂肪燃焼ゾーン”は、あまりあてにならない可能性があるという。米マウントサイナイ・アイカーン医科大学のHannah Kittrell氏らの研究によるもので、詳細は「Nutrition, Metabolism and Cardiovascular Diseases」に7月14日掲載された。 脂肪組織以外への脂肪蓄積(異所性脂肪)は2型糖尿病の発症に関係している。代謝を正常に戻すためには異所性脂肪を減らす必要があり、それには運動が有効であって、特に脂肪の酸化速度が最大化する(maximal rate of lipid oxidation;MLO)強度での運動が最適と考えられる。Kittrell氏も、「減量を試みる人の多くがMLOに興味を持つようだ」と述べ、「大半の市販のエクササイズマシンには、年齢と性別、心拍数からMLOを推計してそれを“脂肪燃焼ゾーン”として表示するオプション設定がある」と解説する。ただし同氏によると、そのような“脂肪燃焼ゾーン”は精度検証が行われておらず、「多くの人が、その人のMLOとは異なる強度でエクササイズを行っている可能性がある」とのことだ。 Kittrell氏らの研究は、26人(女性11人)を対象として、運動強度を徐々に高めていきながら酸素摂取量と二酸化炭素排出量を測定するという運動負荷試験によって、正確なMLOを計測。その結果と、心拍数などから推計されるMLOとの比較を行った。解析の結果、両者はあまり一致しておらず、心拍数については平均23拍/分の乖離が認められた。 Kittrell氏は、「近年、MLOに該当する運動強度を『FATmax』と呼び、それを心拍数などから推計することがあるが、われわれの研究は、そのような推計に基づく心拍数は、MLOを引き出すための運動処方の目安としては不適切であることを示している。MLOは個人差が大きいため、正確な評価には個々に運動負荷試験を行い、脂肪の酸化速度を測定することが望ましい」と話している。 また、論文の上席著者であり同大学教授および米チャールズ・ブロンフマン個別化医療研究所所長であるGirish Nadkarni氏は、「本研究を契機に、今よりも多くの人々およびトレーナーが運動負荷試験を用いて、脂肪燃焼に最適な個別化された運動処方が行われるようになることを期待している。また、この研究は、データ駆動型アプローチ(データ収集とその分析に基づく意思決定)が、正確な運動処方に果たす役割を強調するものでもある」と述べている。 なお、研究グループでは現在、このような手法で個別化した運動処方が減量や異所性脂肪減少という点でより優れた効果を発揮し得るか、および、肥満や2型糖尿病、心臓病などに関連する検査指標に対して、従来の手法による運動介入よりも有意な改善をもたらすかを調べる研究を予定している。

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閉塞性睡眠時無呼吸のCPAP治療で長引く咳や胸焼けも改善か

 持続陽圧呼吸療法(CPAP)は閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)だけでなく、それに合併することの多い胸焼けや慢性的な咳にも効果がある可能性が、新たな研究で示された。この研究結果は、「ERJ Open Research」に8月31日掲載された。 研究論文の上席著者でアイスランド国立大学病院のThorarinn Gislason氏によると、OSAの患者では、OSAのない人と比べて胃食道逆流現象(GER)を発症するリスクが3倍高いという。しかしGislason氏は、GERがあるからといってOSAの検査を受けるべきだと考えているわけではない。「OSAは、日中の眠気や喘鳴などの呼吸器症状など、さまざまな症状や合併症を伴うことがある。これらの症状があるのなら、OSAの検査を受けることを考慮しても良いかもしれない」と同氏は言う。 OSAは、喉の奥の筋肉の過度な弛緩により気道が狭窄や閉塞を起こすことで生じる。これにより、睡眠中に十分な空気が取り込めなくなり、気道を広げるために目を覚ますが、この覚醒時間は非常に短く、目が覚めたことを忘れてしまっている場合が多い。また、OSAは、いびきや息の詰まり、息切れの原因ともなり、これらの症状が1時間に5~30回、あるいは30回以上のペースで一晩中繰り返される。 このようにコンスタントに眠りが妨げられると、健康にも深刻な影響が及ぶ。OSAは、日中の眠気や心血管の問題、2型糖尿病、肝臓の問題などのリスクを高める可能性が指摘されている。Gislason氏によると、最も効果的なOSAの治療法はCPAPで、「OSAのない人と同じ状態をもたらすため最も有効性が高い」という。 一方、米国肺協会(ALA)のスポークスパーソンを務める米イェール大学医学部臨床准教授のDavid Hill氏は、GERがOSAに関連する理由について、「OSAで気道の閉塞が生じると、閉塞を解消しようと強く呼吸することになる。それによって酸が食道を逆流し、場合によっては肺にまで流れ込むため、GERが悪化する可能性がある。OSAを解消することで呼吸が楽になり、GERの改善が促される」と説明する。 Gislason氏らは今回、アイスランドで中等症~重症のOSAと診断され、CPAPによる治療を開始する822人を対象に研究を行った。研究参加者はCPAP治療の開始前に1泊の睡眠検査を受け、夜間のGERや呼吸器の症状を含む睡眠に関する質問票に回答した。治療開始から2年後にフォローアップ評価が実施され、CPAPに記録されたデータが収集・評価された。フォローアップ評価を完了した対象者738人のうち732人(CPAPを日常的に使用:366人、部分的に使用/非使用:366人)はフォローアップ時にもGERに関する調査に回答していた。 その結果、日常的にCPAPを使用していたOSAの患者では、CPAPの使用頻度が低いか、使用していなかった患者と比べて夜間のGERのリスクが42%(オッズ比0.58、95%信頼区間0.40〜0.86)、喘鳴のリスクが44%(同0.56、0.35〜0.88)低下することが示された。また、GERが起こりにくくなったことで朝の咳のリスクが4倍以上低下し、慢性気管支炎のリスクもほぼ4倍低下していた。 CPAPは睡眠中に上気道を開いた状態に保つため、胃と食道の間の弁が閉じたままになり、胃から酸が漏れ出しにくくなるのではないかと研究グループは考察している。 睡眠専門医でSleepApnea.orgのシニア・メディカル・アドバイザーのJoseph Krainin氏は、「この研究結果は、われわれ睡眠の専門医の多くが経験から知っていることを裏付けるものだ。CPAPによるOSAの治療は胃食道逆流症(GERD)の症状の劇的な改善をもたらし得る」と話す。同氏はまた「この研究は夜間のGERについて調べたものだが、私の経験から、日中のGERも著明に改善する可能性がある」としている。 Hill氏は、OSAの治療では胃酸逆流を軽減するCPAPの効果にも注目すべきだとの考えを示す。同氏は、「GERや胸焼け、長引く咳といった症状を抱えているのであれば、CPAPによってOSAに関連する問題をコントロールしながら、そうした症状にも対処できる可能性がある」と付け加えている。

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阪神タイガースのアレを祝福し、マウスと野球を哲学する【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第64回

第64回 阪神タイガースのアレを祝福し、マウスと野球を哲学する2023年9月14日に阪神タイガースが18年ぶり6度目の“アレ”を決めました。そうです、プロ野球セ・リーグ優勝です。阪神ファンの皆さま、おめでとうございます。この18年間に何度も優勝が現実味を帯びたことがありました。『阪神V』という雑誌が出たり、「あかん、阪神優勝してまう!」といったTV特番が放送されたりするほど2位以下を引き離すのですが、その度に歴史的な連敗を喫して優勝を逃してきたのです。そのため「優勝」という言葉を口にすることが憚られる雰囲気がファンや選手の間に浸透したのです。2022年秋に岡田 彰布が阪神監督に就任した際に、優勝のことをアレと呼び続けると宣言しました。公式には、アレではなく、「A.R.E.」でAim・Respect・Empowerの頭文字からくる阪神の2023年シーズンの公式スローガンです。18年間もの間を待ちに待った優勝が決まった瞬間の甲子園球場の盛り上がりは熱狂的でした。阪神タイガース優勝や、WBCでの「侍ジャパン」優勝からも伝わってくるように、日本人は野球が大好きです。甲子園の高校野球の中継には皆が釘付けなります。日本の国技は相撲ではなく野球であるという意見もあるほどです。この野球人気の背景について、「論文・見聞・いい気分」的に解析してみます。医学領域の研究活動は、基礎研究と臨床研究に大別されます。基礎研究は、病気の原因や治療効果を調べるための学問です。主に細胞やマウスなどを用いて実験室で行われます。臨床研究は、実際の患者さんに協力いただいて、病気の予防・診断・治療の改善などのために行う研究です。基礎医学の進歩は臨床医学の発展の土台となります。ヒトを使ってできる実験は限られるため、基礎医学研究者の多くは、ヒトそのものではなく、マウスなどのモデル生物を使って研究を行います。マウス以外の実験動物としては、ラット、モルモット、ハムスター、フェレット、ウサギ、イヌ、ミニブタ、サルなどが挙げられますが、圧倒的にマウスが用いられます。保健所などからの払い下げの動物や、捕獲された犬や猫が実験に使用されることは絶対にありません。なぜ「マウス」が実験に使われるのか考えてみましょう。飼育コストがかからないマウスはヒトと同じ哺乳類で、全ゲノム塩基配列の解読によりヒトの遺伝子の99%はマウスにも保存されていることが明らかにされています。マウスは体重40gほどと哺乳類のなかでも最小クラスの動物で、狭い空間と少ない食料で多くを飼育することができます。研究に要する人的・経済的な負担がほかの動物より有利です。近交系が確立し遺伝子改変しやすい実験で用いられているマウスは近親交配で作られた「近交系」で行われることが通常です。近交系は遺伝子が99.9%同じ個体で、ほぼ同一の個体(クローン)とみなされます。10匹のマウスで実験するとして、10匹の遺伝子がバラバラであれば、個々の遺伝的要因の差異が結果に影響を与える可能性があります。10匹が同じ遺伝子の近交系マウスで実験すれば、どの部分に変化や問題が起こったのか、検証が容易となります。個体差による実験のブレを最小限にできるのです。長年にわたる遺伝学実験の応用により、がん、糖尿病、神経疾患、動脈硬化などを特徴とする多くの近交系マウスが作成されています。また、マウスは遺伝子改変しやすいことも特徴です。遺伝子破壊(ノックアウト)マウスや遺伝子導入(ノックイン)マウスなど、さまざまなタイプの遺伝子改変マウスを作製することが可能です。繁殖力が高く世代交代期間が短いハツカネズミの改良から生まれた実験用マウスは、一度に6~8匹の子供を産み、1ヵ月ほどで成体になり、寿命は1~2年です。子沢山で、成長が早く寿命が短いことが最大の特徴です。12ヵ月齢(1歳)のマウスはヒトでは30歳くらい、24ヵ月齢(2歳)は60歳くらいに相当します。DNAの損傷、免疫能の低下、骨格筋の萎縮、動脈硬化などの加齢性変化が、マウスではヒトの約30倍の速さで起こるのです。ヒトで実験することには倫理面は問題もありますが、時間が掛かり過ぎます。ヒトがヒトを用いて実験することは、究極的には人生で1回しか実験できない理屈になります。ヒトより世代交代が早く代謝サイクルが短いマウスで実験すれば、短い期間で複数世代を観察できます。これがマウスを実験に利用する最大の理由です。プロ野球選手のスポーツ競技者としての職業人生を考えてみましょう。日本野球機構(NPB)の公表では、2022年シーズンで戦力外・現役引退した145名の選手(外国人選手除く)の平均在籍年数は7.7年、平均引退年齢は27.8歳です。在籍期間は短期化し引退年齢は低下する傾向にあり、キャリアは短命化しているそうです。アスリートの世界では、世代交代が一般的な社会よりも早いことになります。これが、日本人が野球を楽しむ一つの側面ではないかと私は考えます。ある企業の代表取締役社長が交代しても、その手腕が決算に表出されるには短くても数年を要するでしょう。阪神タイガースの岡田 彰布監督は、就任から1年を待たずに優勝という結果をもたらしました。新人を採用し人材育成に注力する方針の企業もあれば、完成された優秀な人材をリクルートして即戦力とする方針の企業もあるでしょう。その方針の違いを結果として総括するには、一般企業であれば長い時間を要します。プロ野球であれば、その着手から結果までを短い時間軸で観察することができます。この過程に評論家のように論じながら参画できることに、日本人の野球の楽しみがあるのです。野球を社会的な実証実験の舞台として捉え楽しむのです。今回の原稿から執筆者ある私が、阪神タイガースのファンであると誤解しないでください。私は子供の頃からブレることのない読売巨人軍のファンです。巨人軍は、完成したビッグプレーヤーを金に物言わせて集めてチーム作りをしているようです。この方針では優勝できないという事実から、「世の中は金だけでは成功しない!」というメッセージを知らしめる壮大な実証実験と教育活動を具現化している読売巨人軍を敬愛し、心から応援しています。がんばれジャイアンツ!

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「爪白癬は外用薬で治す」は誤解?

 昨年6月にイムノクロマト法を用いた白癬菌抗原キット「デルマクイック爪白癬」が発売されたことを契機に、以前に比べ、内科医でも爪白癬の診断に対応できるようになったのをご存じだろうか。今回、常深 祐一郎氏(埼玉医科大学医学部皮膚科 教授)が『本邦初の白癬菌抗原検査キットによる爪水虫診断と正しい治療法~爪水虫診療は新たなステージへ~』と題し、今年4月に発表された爪白癬の治療実態調査の結果、新たな抗原キットなどについて説明した(佐藤製薬・マルホ共催メディアセミナー)。爪白癬は外用薬で治せる、という誤解 日本人の10人に1人は爪白癬に罹患しており、その多くが高齢者である。高齢者では足の爪白癬が転倒リスク1)やロコモティブシンドローム、フレイルの原因になるほか、糖尿病などの合併症を有する患者においては白癬病変から細菌感染症を発症し、蜂窩織炎や時には壊死性筋膜炎を発症するなど命を脅かす存在になる場合もあるため、完全治癒=臨床的治癒(爪甲混濁部の消失)+真菌学的治癒(直接鏡検における皮膚糸状菌が陰性)を目指す必要がある。 爪白癬の治療は診断さえついてしまえば、外用薬を処方して継続を促せば…と思われることが多いのだが、その安易な判断が「治療の長期化につながり、結局治癒に至らない」と常深氏は指摘した。外用薬は白癬菌が爪の表面に存在する表在性白色爪真菌症(SWO)には効果が高いが、その他の病型では経口抗真菌薬が優れているという。また、「遠位側縁爪甲下爪真菌症(DLSO)の軽症であれば外用薬でも治せると考えられているが、治癒まで時間を要し、その間に次に述べるように脱落が多くなってしまうことから、軽症の間に経口薬で治癒させることが望ましい。もちろんDLSOの中等症以上では経口薬が必要であるし、近位爪甲下爪真菌症(PSO)、全異栄養性爪真菌症(TDO)では経口薬による治療が推奨される」と、病態ごとの剤型の使い分けが重要であることに触れた。皮膚科専門医でも、経口薬を避ける傾向に そうはいっても、とくに高齢者への経口薬処方は、ポリファーマシーの観点や肝機能への影響から敬遠される傾向にある。これに対し、同氏は治療継続率のデータを引用2)し、「経口薬のほうが外用薬より治療継続率が高く、脱落しにくいことが明らかになっている。外用薬の場合は投与開始から1ヵ月時点ですでに4割強が脱落してしまう。一方で、経口薬は投与開始3ヵ月時点でも6割の人が継続している。爪白癬治療に年齢は関係ない」と説明した。 上述のように、治癒率や患者の治療継続率からも爪白癬への経口薬処方が有効であることは明確だが、診断に自信がないと、外用薬で様子を見てしまうということが多そうだ。また、皮膚科専門医は顕微鏡を用いたKOH直接鏡検法で診断することができるが、他科の医師においては視診で判断していることが多いのが実情である。この点について、「皮膚科医であっても視診のみで診断を行うと30%程度は誤った判断をするため3)、やはり検査は必要。爪甲鉤弯症などが爪白癬と誤診されることもある4)」と述べたうえで、「経口薬は外用薬と比較して検査で確定診断がつかないと処方しづらく、“本当に薬を処方していいのか”という不安が処方医に生じる」と医療者側の問題点を挙げた。<爪白癬と誤診されやすい疾患>・掌蹠膿疱症の爪病変・緑色爪(green nail)・黄色爪症候群(yellow nail syndrome)・爪甲鉤弯症・厚硬爪甲 昨年に上市された検査法『イムノクロマト法』は迅速および簡便で感度が高く、皮膚科専門医が行うKOH直接鏡検法や真菌培養法に比べ、技術や検査時間も不問であることから視診による誤診も防ぐことが可能である。同氏は「鏡検できる医師がいない場合、顕微鏡がない施設や往診先での検査に適しており、また、鏡検での見落としを防ぐために検査を併用するのも有用」と述べ、皮膚科専門医ならびに一般内科医に向けて、「精度の高い検査を患者に提供して確定診断が得られた後に適切な薬剤を処方する、という正しい診断フローに沿った治療にもつながる」とコメントした。 最後に同氏はクリニカル・イナーシャ(clinical inertia)5)という言葉に触れ、「これは直訳すると“臨床的な惰性or慣性”。患者が治療目標に達していないにも関わらず治療が適切に強化されていない状態を意味する」と定義を説明し、「患者側がクリニカル・イナーシャに陥る要因は、治療効果の正しい知識不足や経口薬による副作用への懸念、飲み合わせへの懸念などが漠然とある。一方、医師側の要因には完治が必要であるとの認識不足、治癒への熱意や責任感不足などがあり、両者のクリニカル・イナーシャが相乗的に負の方向に働き、外用薬が漫然と使用されてしまう。しかし、爪白癬の治療意義、新たな検査法や経口薬の有用性を理解していけば解決できる」と締めくくった。

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1型糖尿病リスクの高い小児、コロナ感染で発症しやすいか/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行の時期に、小児で糖尿病の増加が観察されている。ドイツ・ドレスデン工科大学のMarija Lugar氏らは、「GPPAD試験」において、1型糖尿病の遺伝的リスクが高い小児では、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)抗体が検出されなかった場合と比較して、検出された集団は膵島自己抗体の発生率が高く、とくに生後18ヵ月未満でリスクが増大していることを明らかにした。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2023年9月8日号に掲載された。生後4~7ヵ月の幼児を追跡した欧州のコホート研究 GPPADは、欧州の5ヵ国(ドイツ、ポーランド、スウェーデン、ベルギー、英国)の施設が参加した進行中の縦断的コホート研究である(米国・Leona M. and Harry B. Helmsley Charitable Trustなどの助成を受けた)。 この研究では、2018年2月~2021年3月に、1型糖尿病発症の遺伝的リスクが10%以上の生後4~7ヵ月児1,050人(女児517人)を登録したPrimary Oral Insulin Trial(POINT)のデータを用いた。 SARS-CoV-2の感染は、2018年4月~2022年6月に、被験児が2歳になるまでに2~6ヵ月の間隔で行われた追跡調査の受診時にSARS-CoV-2抗体の発現を特定することで確認した。 主要アウトカムは、2つの連続した検体または単一の検体における2つ以上の膵島自己抗体の発現と、1型糖尿病の発症であった。 生後6ヵ月からの抗体測定について、血液検体を保管するバイオバンクの同意が得られた885人(女児441人)を解析の対象とした。膵島自己抗体陽性者の33.3%が1型糖尿病発症 年齢中央値18ヵ月(範囲:6~25)の時点で、170人にSARS-CoV-2抗体の発現を認めた。膵島自己抗体は60人(6.8%)で発現し、このうち6人はSARS-CoV-2抗体陽性と同時に、6人はSARS-CoV-2抗体陽性後の診察時に、膵島自己抗体陽性であった。これら60人の小児は最終受診時まで膵島自己抗体が陽性で、このうち20人(33.3%)が1型糖尿病を発症した。 SARS-CoV-2抗体陽性時の膵島自己抗体発現の、性・年齢・国で補正したハザード比(HR)は3.5(95%信頼区間[CI]:1.6~7.7、p=0.002)であった。また、膵島自己抗体発現の累積リスクは、SARS-CoV-2抗体陰性の場合は2.9%(95%CI:1.8~4.8)であったのに対し、陽性の場合の6ヵ月以内の累積リスクは7.3%(4.2~12.7)だった(p=0.01)。 膵島自己抗体の発生率は、SARS-CoV-2抗体陰性の場合は100人年当たり3.5(95%CI:2.2~5.1)であったのに対し、陽性の場合は同7.8(5.3~19.0)と有意に高かった(p=0.02)。 さらに、SARS-CoV-2抗体陽性の幼児における膵島自己抗体が陽性となるリスクは、生後18~24ヵ月と比較して、生後18ヵ月未満で有意に高かった(HR:5.30、95%CI:1.50~18.30、p=0.009)。 著者は、「膵島自己抗体の発現が、COVID-19の世界的流行の初期における1型糖尿病発症率の急激な上昇の原因とは考えにくいが、将来の1型糖尿病の発症率に関連すると考えられる」とし、「生後12ヵ月ごろに膵島自己抗体の発現がピークに達したが、これは糖尿病原性障害の原因への初期曝露が相対的に多いか、またはこの年齢での膵島自己免疫に対する脆弱性の増加のいずれかを反映すると推測され、本研究はこれらの仮説の評価に道を開くものである」と指摘している。

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脳出血後のスタチン使用は脳梗塞リスクを低下させる

 脳出血(intracerebral hemorrhage;ICH)後にコレステロール低下薬であるスタチン系薬剤(以下、スタチン)を服用すると、その後の虚血性脳卒中(脳梗塞)リスクが低下する可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。南デンマーク大学のDavid Gaist氏らによるこの研究の詳細は、「Neurology」に8月30日掲載された。 脳卒中は、脳内の出血により引き起こされるもの(くも膜下出血、ICH)と、脳への血流の遮断により引き起こされる脳梗塞に大別され、発生件数は脳梗塞の方が圧倒的に多い。Gaist氏は、今回の研究背景について、「過去の研究では、ICHの既往歴を有するスタチン使用者での脳卒中発症リスクについて、一致した結論が得られていない」と指摘。「われわれは、ICH後のスタチンの使用が、その後のICHや脳梗塞の発症リスクと関連するのかどうかを検討した」と説明している。 Gaist氏らは、デンマークの脳卒中レジストリを用いて、2003年1月から2021年12月の間に初発のICHにより入院し、その後30日を超えて生存した50歳以上の患者1万5,151人を特定。これらの患者を、脳卒中の再発、死亡、または追跡終了(2022年8月)に到達のいずれかが起きるまで平均3.3年にわたって追跡した上で、3つのコホート内症例対照研究を実施し、スタチンの使用と脳卒中(あらゆる脳卒中、脳梗塞、ICH)リスクとの関連を検討した。患者のスタチンの使用状況は、処方データを用いて調べた。 まず、あらゆる脳卒中を再発した1,959人(平均年齢72.6歳、女性45.3%)と年齢や性別などを一致させた、脳卒中を再発していない対照7,400人の比較を行った。脳卒中群では757人(38.6%)、対照群では3,044人(41.1%)がスタチンを使用していた。高血圧や糖尿病、飲酒などの関連因子で調整して解析した結果、スタチンの使用により、あらゆる脳卒中の再発リスクが12%低下することが示された(オッズ比0.88、95%信頼区間0.78〜0.99)。 次に、脳梗塞を発症した1,073人(平均年齢72.4歳、女性42.0%)と脳卒中を再発していない対照4,035人の比較を行った。脳梗塞群では427人(39.8%)、対照群では1,687人(41.8%)がスタチンを使用していた。関連因子で調整して解析した結果、スタチンの使用により、脳梗塞の発症リスクが21%低下することが示された(オッズ比0.79、95%信頼区間0.67〜0.92)。 最後に、ICHを再発した984人(平均年齢72.4歳、女性42.0%)と脳卒中を再発していない対照3,755人の比較を行った。ICH群では385人(39.1%)、対照群では1,532人(40.8%)がスタチンを使用していた。関連因子で調整して解析した結果、スタチンの使用と、ICH再発との間に有意な関連は認められなかった(オッズ比1.05、95%信頼区間0.88〜1.24)。 Gaist氏は、「この研究結果は、ICHの発症後にスタチンを使用している人にとっては朗報だ」と述べる。同氏は、「スタチンを使用することで、脳卒中リスクが低下することは確認されたが、その効果は、主に脳梗塞の発症に対してであったことには留意する必要がある。ただ、ICHの再発リスクについても、増加が認められたわけではない。この結果を、さらなる研究で検証する必要がある」と話している。 研究グループは、本研究の対象者がデンマーク人のみであったことに言及し、得られた知見はその他の国の人には該当しない可能性のあることも指摘している。

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第164回 新型コロナの医療体制、10月から大幅見直し/厚労省

<先週の動き>1.新型コロナの医療体制、10月から大幅見直し/厚労省2.過労死ライン超える医師、労災未認定。兵庫4病院も違法残業で是正勧告/厚労省3.インフルエンザが異例の早期流行、ワクチン接種を推奨/厚労省4.電子カルテ情報共有サービス、健診結果や患者サマリーを統合して2024年度稼働へ/厚労省5.糖尿病の名称変更、新呼称「ダイアベティス」提案/日本糖尿病学会・日本糖尿病協会6.国立がん研究センター元医長、医療機器をめぐる賄賂疑惑で逮捕/千葉1.新型コロナの医療体制、10月から大幅見直し/厚労省厚生労働省は、新型コロナウイルスに関する複数の新たな方針を発表した。10月から専用病床の「病床確保料」が2割減少し、2024年3月までの適用が予定されている。また、新型コロナ治療薬の患者の自己負担割合について、9,000円を上限とすることが決定された。これまで全額公費であった治療薬について、一部自己負担が求められるようになる。入院医療費の補助は、最大2万円から最大1万円に減少する。医療機関の支援に関しても見直しが行われ、新型コロナの患者の受け入れのための「病床確保料」の支給が感染状況が一定の基準を超えるまで行われない方針となった。専門家は、医療機関の労力の大きさと、適切な支援策の必要性を指摘している。参考1)コロナ病床確保料、10月から2割減に 重点医療機関の補助区分を廃止、厚労省(CB news)2)新型コロナの患者支援 10月から見直し 治療薬の一部自己負担に(NHK)3)10月以降のコロナ感染症対応、「重点的・集中的な入院医療体制」確保目指し診療報酬特例や病床確保料などを縮減して継続(Gem Med)2.過労死ライン超える医師、労災未認定。兵庫4病院も違法残業で是正勧告/厚労省東京都内の大学病院に勤務していた50代の男性医師が、過労によるくも膜下出血で寝たきりの状態となり、労働基準監督署に労災申請を行ったが、宿日直許可を理由に宿直業務を労働時間から除外する扱いとされ、労災認定されなかったことが明らかとなった。男性は緩和医療科の唯一の臨床医として働いており、発症前の時間外労働は「過労死ライン」とされる月80時間を大きく超えていた。代理人弁護士の川人 博氏は、「宿直中に仕事をしていたことが事実であり、一切の労働時間を否定する事案は初めて。関係法令にも反している」と厳しく批判した。労基署は、宿直業務のうち、仮眠6時間を除く9時間15分を労働時間として認めたが、厚生労働省東京労働局の審査官は、宿直時間のすべてを労働時間から除外した。男性の妻は、「宿日直業務のすべてが『労働時間ではない』と否定されることは理解に苦しむ」と述べている。一方、兵庫県立の4病院が、労使協定に基づく上限を超える違法な時間外労働を医師にさせていたとして、労基署から是正勧告を受けたことも報じられた。勧告対象となった期間中に、月190時間の残業をしていた医師もいた。2024年度からは医師に時間外労働の規制が適用されるが、このような過労死の問題が続く中、改革の方向性やその取り組みが十分であるのかという疑問が浮上してきており、来年の4月以降も、過労死防止についてさらに議論が求められる。参考1)医療機関の宿日直許可申請に関する FAQ(全日本病院協会)2)医師の宿直を労働時間から除外、労災認められず 「ここまでやるか」(毎日新聞)3)病院で宿直中に死亡対応しても「労働時間ゼロ」 労災申請で国が判断(朝日新聞)4)医者の宿直、労働時間「ゼロ」扱いで労災認定されず 月100h超の残業でくも膜下出血発症…妻「理解に苦しむ」(弁護士ドットコムニュース)5)医師らに最大月190時間の違法残業させる 兵庫県立4病院 労基署が是正勧告(神戸新聞)3.インフルエンザが異例の早期流行、ワクチン接種を推奨/厚労省インフルエンザの感染拡大が全国で異例の早さで進行中であることが明らかとなった。厚生労働省のデータによれば、全国約5,000の医療機関からの報告で、1医療機関当たりの感染者数が前週の4.48人から7.03人へと急増した。とくに沖縄県では20.85人と最も多く、千葉、愛媛、佐賀と続く。首都圏でも東京都が11.37人と増加し、7都道府県で「注意報」の基準値10人を超えた。この背景には、14歳未満の若い世代での感染が目立ち、学級閉鎖や休校が増えている事情がある。一方、新型コロナウイルスの感染は前週比0.87倍と減少傾向にあるが、ピークを越えたかどうかは注視が必要との見解が出されている。厚労省は、インフルエンザについて「流行のピークが早まる可能性がある」とし、ワクチン接種の早期予約を呼びかけている。参考1)インフルエンザ、異例の早さで流行拡大…感染者数が前週比1・57倍(読売新聞)2)インフルエンザ、東京都内でも「流行注意報」 9月の発令は異例(朝日新聞)3)新型コロナとインフルエンザ 最新の感染状況(NHK)4.電子カルテ情報共有、健診結果や患者サマリーを統合して2024年度稼働へ/厚労省厚生労働省は、健康・医療・介護情報利活用検討会医療等情報利活用ワーキンググループを9月11日に開催し、電子カルテ情報の共有と活用に関して、新たな方針を明らかにした。2024年から稼働を開始する電子カルテ情報共有サービスでは、患者に「傷病名、検査、処方」の情報と「医師からの療養上の指導・計画」の情報をセット提供する予定となっており、患者自身がその情報を常時確認できるようにする見込み。また、厚労省側は電子カルテ情報共有サービスに新たに「健康診断結果報告書」を組み込み、特定の健診や高齢者健診、人間ドックの結果などの閲覧が可能になるよう提案を行なっており、今後のワーキンググループでの議論を通じて詳細が詰められる予定。今回新たに提案された「患者サマリー」には、外来受診の記録も含まれ、患者が自分の病態を理解しやすくなるよう整理される予定。このほか、救急医療現場で必要となる「医療情報」を全国で確認できる仕組みも検討されており、患者の緊急時の診療情報のアクセスに関するガイダンスやガイドラインの作成も提案されており、カルテ情報の共有化に向け、詳細を検討していく見込み。参考1)第18回健康・医療・介護情報利活用検討会医療等情報利活用ワーキンググループ(厚労省)2)電子カルテ情報共有サービスに健診結果の実装目指す サービス稼働時に 「患者サマリー」も、厚労省(CB news)3)患者に「傷病名、検査、処方」等情報と「医師からの療養上の指導・計画」情報をセット提供する新サービス―医療等情報利活用ワーキング(Gem Med)5.糖尿病の名称変更、新呼称「ダイアベティス」提案/日本糖尿病学会・日本糖尿病協会日本糖尿病学会と日本糖尿病協会は、糖尿病の新しい呼称として「ダイアベティス」とする提案を発表した。この提案は、糖尿病に関する誤解や偏見を解消するためのアドボカシー活動として去年より取り組みとして行ってきた一環。国内には現在約1,000万人の糖尿病患者が存在し、現行の病名には不正確な表現や不潔なイメージを持たれる問題があると指摘されてきた。この新しい呼称は、英語の病名に基づいており、学術的にも国際的にも受け入れられると期待されている。日本糖尿病協会が行ったアンケートによると、回答者の約9割が現行の病名に抵抗感や不快感を持っており、約8割が病名の変更を望んでいた。この新しい呼称「ダイアベティス」は、まず啓発活動などで使用され、将来的には正式な病名としての変更も検討されている。参考1)日本糖尿病学会・日本糖尿病協会合同 アドボカシー活動(日本糖尿病協会)2)糖尿病の負のイメージ、払拭へ 新呼称案は「ダイアベティス」(朝日新聞)3)糖尿病の新たな呼称「ダイアベティス」とする案発表(NHK)6.国立がん研究センター元医長、医療機器をめぐる賄賂疑惑で逮捕/千葉国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)の肝胆膵内科の元医長(47歳)が、医療機器の選定・使用に関連して賄賂を受け取ったとして警視庁に逮捕された。逮捕された医師は、同院で医長になって以降、手術で使用する「ステント」について、医療機器メーカー「ゼオンメディカル」社の製品を優先的に使用した見返りとして、2021年におよそ170万円の賄賂を受け取った疑い。また、ゼオン社の元社長、柳田 昇容疑者(67歳)も贈賄の疑いで逮捕された。国立がん研究センターは、この事件を受け、公式サイトを通じて謝罪。「誠に遺憾」とし、「厳正に対処する」との声明を発表した。警視庁は、メーカーが製品の安全性などを確認する市販後調査に協力する契約をこの医師と結び、ほかの医師の使用分も加算していた可能性があるとして、さらに詳しい実態を調べている。事件の背後に、医療機器メーカーと医師との不透明な取引が浮かび上っており、業界の信頼性が再び問われることとなる。参考1)当センターの元職員の逮捕について(国立がん研究センター)2)医療機器「1本使えば対価1万円」…選定や使用巡り170万円贈収賄容疑 がん研元医長と販売会社前社長逮捕(東京新聞)3)国立がん研究センター東病院元医長 収賄容疑で逮捕 警視庁(NHK)4)贈賄容疑のゼオンメディカル、ほかのがんセンター医師の機器使用分も元医長に「謝礼」(読売新聞)5)業者と癒着、後絶たず 高齢化で相次ぐ参入 競争激化が背景に(日経新聞)

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Do not harm. 誰に処方すべきかよく考えてから。血友病におけるリバランス薬として初のローンチを控えるconcizumab(解説:長尾梓氏)

 血友病の治療の基本は長らく「不足した凝固因子を補充する」という原則にのっとって行われてきた。補充する薬剤は献血から遺伝子組み換え製剤に、半減期延長型から長半減期延長型へ都度進化はしてきたが、補充療法という原則は変わらなかった。5年前に初めて原則から外れる薬剤であるエミシズマブが発売されたが、それでもエミシズマブは第VIII因子を代替する薬剤であり、コンセプトは斬新なものの、専門医としては簡単に受け入れることができた。 今回データが発表されたconcizumabは、その原則とはまったく異なるコンセプトの薬剤である。俗に「リバランス薬」といわれるこの薬は、TFPIという体内で凝固を抑制する因子を抑制する抗体製剤である。凝固抑制因子を抑制することで、体内で出血傾向に傾いていたバランスを「リバランス」するというのが基本的な考え方である。リバランス薬は他にもantithrombinやProtein Cなどの凝固抑制因子を対象としてさまざまな製薬会社が開発に取り組んでいる。その中でもconcizumabは最も早期に発売が予定されている薬剤である。ちなみに、カナダではすでに発売されているが、血友病Bインヒビターのみが適応である。なぜ、血友病Bインヒビターだけが適応なのか?(日本とは承認条件が異なる可能性があるため、注意が必要です) 前述したエミシズマブはこれまで唯一の皮下注射剤であり、これまで頻回の静脈注射による治療で多くの苦労してきた血友病患者にとっては、ほぼ悲願であった。しかし、エミシズマブは血友病Aにしか使えない。血友病Bに使える皮下注射剤はこれまでなかった。加えて、エミシズマブはインヒビターの有無に関わらず使用できた。このため、これまで出血で非常に苦労してきた血友病Aインヒビター患者は完全に救われた。しかし、血友病Bインヒビター患者にはそのような夢の薬はなかった。 しかし、血友病Bでインヒビターのない患者には、超半減期延長型製剤といってもいい薬剤がすでに存在していた。最長3週間に1回の定期補充療法で出血抑制を抑制することが可能な状況で、出血回数も非常に良好にコントロールされることが臨床試験からも臨床上の経験からもわかっていた。つまり、血友病Bインヒビターの患者が取り残されていたのだ。 concizumabは血友病A/B、インヒビターの有無を問わず使用できる薬剤である。皮下注射薬であり、毎日の注射が必要なものの、発売元のNovo Nordiskは糖尿病のインスリン製剤での実績があり、非常に簡便なインジェクターを保有している。concizumabにもそれが使えるというわけである。 ただし、本論文に記載のあるとおりで、「進行中の臨床試験でconcizumabの投与を受けていた3例(本試験の1例を含む)に非致死的血栓塞栓イベントが発生したため、投与を中断し、用法を変更して再開した」経緯を持つ薬剤である。用法を変更して再開してからの事故は報告されていないものの、本来血栓を起こすリスクの低い血友病患者に、血栓を起こすことのないように。Do not harm.の原則を忘れずに、本当に必要な患者が誰なのか正確に特定し、適切に処方することが必要である。この記事がその検討に一助となれば幸いである。 血友病の治療はこれまで多くの進化を遂げてきたが、新たな薬剤が登場するたびに、治療法の選択やその使用方法についての認識を更新する必要がある。concizumabは、その新たな選択肢の1つとして、今後の治療の現場で大きな期待を持たれている。しかしながら、あらゆる治療には利点とリスクが存在する。患者の安全を最優先に、十分な情報と知識を持ったうえでの適切な判断が求められる。 医療従事者や関係者は、新たな治療法の導入や適用に関して、患者のニーズやリスクを総合的に評価し、最良の治療を提供するための研修や教育を受けることが重要である。また、患者自身やその家族にも、新しい治療法の利点やリスク、治療の手順や注意点などを十分に理解してもらうための教育や情報提供が必要である。

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脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2023〕

新たなエビデンスを加え、66項目の大改訂!最新のエビデンスを反映させるなどの目的で、例年、全面改訂の約2年後に追補版を発売してきた『脳卒中治療ガイドライン』ですが、近年の本領域の進歩は長足であり、今回は全140項目中66項目を改訂しました。エビデンスレベルの高い新しいエビデンスを加えたほか、新しいエビデンスはないものの推奨度が現実と乖離しているものなども見直したため、今回は「追補」ではなく「改訂」として発売しました。主な改訂点●抗血栓薬や血栓溶解薬などの記載変更について抗血栓薬については、その1種であるDOAC(直接作用型経口抗凝固薬)の高齢者適応のほか、DOACの中和剤に関する記載も増やしました。また、血栓溶解薬は使用開始時期によって効果が左右されますが、起床時発見もしくは発症時刻不明の虚血性脳血管障害患者に対するエビデンスなどを加えました。さらに、くも膜下出血の治療後に生じる可能性がある遅発性脳血管攣縮については、新たに登場した治療選択肢にも触れるなどの変更を行いました。●危険因子としての糖尿病・心疾患・慢性腎臓病(CKD)の管理について主に糖尿病治療で使われるGLP-1やSGLT-2などの薬剤には、近年、新たなエビデンスが得られていることから、推奨度を含めて記載を見直しました。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2023〕定価8,800円(税込)判型A4判頁数332頁発行2023年8月編集日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会

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筋肉が脂肪化していると非肥満でもCOVID-19が重症化しやすい

 体組成と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)重症化リスクとの関連が報告された。COVID-19が重症化した患者はBMIや内臓脂肪面積が高値であることのほかに、非肥満で重症化した患者は筋肉内の脂肪が多いことなどが明らかになったという。三重大学医学部附属病院総合診療部の山本貴之氏、山本憲彦氏らの研究によるもので、詳細は「PLOS ONE」に7月28日掲載された。 肥満がCOVID-19重症化のリスク因子であることは、パンデミックの初期から指摘されている。ただし、肥満か否かを判定するための指標であるBMIには体組成が反映されないため、例えば内臓脂肪の蓄積のみが顕著であまり太っているように見えない、いわゆる“隠れ肥満”では、肥満と判定されないことがある。反対に筋肉質であるために高体重の場合に肥満と判定されてしまうようなことが起きる。 また最近では、COVID-19重症化リスクはBMIよりむしろ内臓脂肪量と強く相関することなどが報告されている。ただしこれまでのところ、体組成とCOVID-19重症化リスクとの詳細な関連は明確になっていない。加えて、BMIや体組成と疾患リスクとの関連は人種/民族により異なることから、日本発の知見が必要とされる。これらを背景として山本氏らは、日本人COVID-19患者におけるBMIや体組成と、COVID-19重症化リスクとの関連を検討した。 研究対象は、2020年8月~2021年9月に同院に入院したCOVID-19患者のうち、体組成を評価可能な画像検査データが記録されていた連続76症例。年齢は中央値59歳(範囲22~85)、男性71.1%、BMIは中央値26.8(同17~58.6)で、2型糖尿病が36.8%であり、59.2%に脂肪肝が認められた。体組成関連の指標は、内臓脂肪面積(VFA)が中央値128.7cm2(13.6~419.5)であり、また、筋肉の質の指標とされている筋肉内脂肪組織含有量(IMAC)は-0.33(-0.73~-0.02)だった。なお、IMACは値が高いほど、筋肉が脂肪化していることを意味する。 入院中に48人が気管挿管と人工呼吸管理を要する状態に重症化していた。重症化群と非重症化群を比較すると、前者は炎症マーカー(CRP、白血球数)が有意に高く、体重(中央値76.0対67.0kg)、BMI(27.7対24.0)、VFA(159.0対111.7cm2)も有意に高値だった。年齢、性別、糖尿病患者の割合、クレアチニン、リンパ球数、血小板数、凝固マーカー(Dダイマー)、およびVFA以外の体組成関連指標(IMACや大腰筋質量指数など)には有意差がなかった。 重症化した48人のうち13人が入院中に死亡した。この群を生存退院した35人と比較すると、腎機能の低下(クレアチニンが中央値1.41対0.73mg/dL)と、血小板数の減少(139対214×103/μL)が見られた。その一方で、年齢や性別、および体重・体組成関連指標も含めて、評価したその他の項目に有意差はなかった。 次に、全体を肥満度で3群(BMI25未満、25~30未満、30以上)に層別化し、重症化群と非重症化群の体組成を比較。するとBMI25以上の場合には体組成関連指標に有意差がなかったが、BMI25未満の場合は重症化群のIMACが非重症化群より有意に高値を示していた(P=0.0499)。また、BMI25以上では重症化群と非重症化群で年齢に有意差がなかったが、BMI25未満では重症化群の方が高齢だった(P=0.015)。なお、死亡リスクについては、肥満度にかかわらず、IMACとの有意な関連は認められなかった。 著者らは、本研究が単一施設で行われたものであり、サンプル数が比較的少ないなどの限界点があるとした上で、「非肥満の日本人ではIMACで評価される筋肉の質が低下しているほど、COVID-19罹患時に重症化しやすい可能性がある。ただし、肥満患者ではこの関連が見られず、またIMACは死亡リスクの予測因子ではないようだ」と結論付けている。なお、この関連の背景については既報研究を基に、「筋肉の質の低下によって呼吸器感染症からの防御に重要な咳嗽反応(せき)が十分でなくなること、筋肉由来の生理活性物質(サイトカイン)であり炎症反応などに関わるマイオカインの分泌が低下することなどの関与が考えられる」と考察している。

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9月22日 ライソゾーム病の日【今日は何の日?】

【9月22日 ライソゾーム病の日】〔由来〕ライソゾーム病の研究・啓発活動を行う「Sakura Network Japan」が、本症の代表的な疾患であるファブリー病の原因遺伝子が、X染色体q22(キュウ・ニー・ニー)という語呂と疾患啓発のシンボルマーク『シルバーウイング』の活動開始が2012年9月22日であることから制定。関連コンテンツライソゾーム酸性リパーゼ欠損症【希少疾病ライブラリ】ファブリー病【希少疾病ライブラリ】ムコ多糖症I型【希少疾病ライブラリ】ニーマンピック病C1型へのHPβCDの可能性/Lancet

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慢性便秘症ガイドライン改訂、非専門医向けに診療フローチャート

 慢性便秘症は、2010年代にルビプロストン(商品名:アミティーザ)、リナクロチド(同:リンゼス)、エロビキシバット(同:グーフィス)、ポリエチレングリコール(PEG)製剤(同:モビコール)、ラクツロース(同:ラグノス)といった新たな治療薬が開発されている。このように、治療の進歩とエビデンスの蓄積が進む慢性便秘症について、約6年ぶりにガイドラインが改訂され、『便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症』が2023年7月に発刊された。そこで、便通異常症診療ガイドラインの作成委員長を務める伊原 栄吉氏(九州大学大学院医学研究院 病態制御内科学)に改訂のポイントを聞いた。新たな慢性便秘症のガイドライン作成が求められていた 慢性便秘症は、QOLが低下するだけでなく、長期生命予後に影響するコモンディジーズである1)。慢性便秘症には、結腸運動機能(便の運搬機能)障害(排便回数減少型)と直腸肛門機能(便の排泄機能)障害(排便困難型)の2つの病態が存在するため、病態に基づいた治療が必要となる。また、2010年代には新たな慢性便秘症治療薬が複数開発されており、これらのエビデンスをまとめ、非専門医向けに診療フローチャートを作成する必要があった。さらに、オピオイド誘発性便秘症の治療法も明らかにする必要もあった。これらの背景から、新たな慢性便秘症のガイドラインの作成が求められており、今回『便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症』が作成された。また、便秘は下痢と表裏一体であることから、慢性下痢症のガイドラインも新しく作成することになり、『便通異常症診療ガイドライン』という形で、「慢性便秘症」と「慢性下痢症」に分けて作成された。便通異常症診療ガイドライン2023にフローチャート 慢性便秘症には、上述のとおり「排便回数減少型」と「排便困難型」の2つの病態が存在する。伊原氏は「前版の慢性便秘症診療ガイドライン20172)では、排便困難型に重点が置かれていたため、バランスを取った便秘の定義を作成する必要があった」と述べた。そこで、今回の便通異常症診療ガイドライン改訂では、これら2つの病態が考慮され、便秘は「本来排泄すべき糞便が大腸内に滞ることによる兎糞状便・硬便、排便回数の減少や、糞便を快適に排泄できないことによる過度な怒責、残便感、直腸肛門の閉塞感、排便困難感を認める状態(下線部が排便回数減少型に該当)」と新たに定義された。また、慢性便秘症は「慢性的に続く便秘のために日常生活に支障をきたしたり、身体にも種々の支障をきたしうる病態」と定義された。なお、便秘は状態名であり、(慢性)便秘症は疾患名である。つまり、「便秘のために日常生活に支障をきたしているものが便秘症(疾患)である」と伊原氏は述べた。 今回の便通異常症診療ガイドラインの診断基準は、前版の『慢性便秘症診療ガイドライン2017』に準じており、内容には変更がない。しかし、ここでも「排便回数減少型」と「排便困難型」の2つの病態が考慮され、従来の6項目が排便中核症状(排便回数減少型に相当)と排便周辺症状(排便困難型に相当)に分けて記載された。 慢性便秘症の診療について、今回の便通異常症診療ガイドライン2023ではフローチャートが作成されている。そこにも記載されているが、腫瘍性疾患や炎症性疾患が隠れている可能性もあるため、警告症状や徴候の有無を調べることの重要性を伊原氏は強調した。「警告症状にあてはまるものがあれば、大腸内視鏡検査などを実施してほしい。そこで、機能性便秘症であることがわかってから、慢性便秘症の治療に進んでいただきたい」と述べた。警告症状・徴候の詳細については、便通異常症診療ガイドライン2023の「CQ4-1:慢性便秘症における警告症状・徴候は何か?(p.55)」を参考にされたい。フローチャートで診療の流れが明確に、刺激性下剤はオンデマンド治療 伊原氏によると、機能性便秘症の多くが排便回数減少型であるという。そこで、排便回数減少型の治療について解説いただいた。 便秘症の治療薬について、今回の便通異常症診療ガイドライン2023で強い推奨(エビデンスレベルA)となったのは、「浸透圧性下剤(塩類下剤、糖類下剤、高分子化合物[PEG])」「上皮機能変容薬(ルビプロストン、リナクロチド)」「胆汁酸トランスポーター阻害薬(エロビキシバット)」であった。そこで、これらの薬剤を中心に機能性便秘症治療のフローチャートが作成された。ここでの基本的な治療の流れは「生活習慣の改善→浸透圧性下剤→上皮機能変容薬または胆汁酸トランスポーター阻害薬」である。エビデンスが十分でないと判断された「プロバイオティクス」「膨張性下剤」「消化管運動機能改善薬」「漢方薬」は代替・補助治療薬として記載され、「刺激性下剤」「外用薬(坐剤、浣腸)、摘便」はオンデマンド治療であることが明記された。また、このフローチャートは、2023年5月にAmerican Gastroenterological Association(AGA)およびAmerican College of Gastroenterology(ACG)によって発表された『AGA/ACG Clinical Practice Guideline3)』と細かな違いはあるものの、おおむね同様の内容となっている。 新規作用機序の治療薬の使い分けについても、関心が高いのではないだろうか。そこで、今回の便通異常症診療ガイドライン2023では「FRQ 5-1:ルビプロストン、リナクロチド、エロビキシバットを用いるべき臨床的特徴は何か?(p103、104)」が設定された。回答は「ルビプロストン、リナクロチド、エロビキシバットを用いるべき臨床的特徴は明らかになっておらず、今後のさらなる検討が必要と考えられる」となっており、ガイドライン上では便秘症治療薬の使い分けについて明確には示されなかった。しかし、「少しずつわかってきたこともある」と伊原氏は述べた。「ルビプロストンは若い女性で嘔気が起こりやすいため、若い女性にはエロビキシバットやPEG製剤を選択する」「痛みを伴う便秘症にはリナクロチドを選択する」「PPIを用いている患者は酸化マグネシウムの効果が落ちること、ルビプロストンには粘膜バリアを修復する機能があることから、NSAIDsやPPIを服用している患者にはルビプロストンを選択する」「糖尿病患者など、腸の運動が落ちている可能性がある患者には、腸の運動を亢進させるエロビキシバットを選択する」といった便秘症治療薬の使い分けも考えられるとのことである。ただし、「実際に使用して、効果を判定しながら治療を行ってほしい」とも述べた。 今回、オピオイド誘発性便秘症に対する治療のフローチャートも作成された。ガイドラインには「オピオイド誘発性便秘症が疑われる患者には、浸透圧性下剤、刺激性下剤、ナルデメジン、ルビプロストンが有効である」と記載されているが、伊原氏は「ナルデメジンについては、オピオイドの副作用としての便秘に対する効果はあるが、それ以外の機能性便秘症には効果がないので、どちらが主体の便秘症であるか考えて選択する必要がある」と付け加えた。詳細については、便通異常症診療ガイドライン2023の「CQ5-4:オピオイド誘発性便秘症に対する治療法は何か?(p.101)」と「フローチャート5」を参考にされたい。便通異常症診療ガイドライン2023に慢性便秘症の病態評価 慢性便秘症の病態評価において、放射線不透過マーカー法やMRI/CTの有用性が報告されており、今回の便通異常症診療ガイドライン2023にも取り上げられている(CQ4-3、4-4)。しかし、日常診療での実施は難しいのが現状である。そこで、注目されるのが直腸エコー検査(CQ4-2)であると伊原氏は述べた。「直腸エコーで直腸内に便の貯留がみられない場合は直腸感覚閾値の異常、柔らかい便がみられた場合は便排出障害、三日月状の固い便がみられた場合は坐剤や摘便により改善する可能性が考えられる」と解説した。また、「浣腸を行う前に直腸エコーを行うことで、浣腸の必要性がわかるのではないか」とも述べた。 また、病態評価について「病態評価が難しい現状にあるため、症状分類で構わないので『排便回数減少型』『排便困難型』の分類を行い、排便困難型で症状が重い場合は直腸視診や直腸エコーを実施してほしい。そこで明らかな便排出障害が認められる場合は、専門医への紹介を検討していただきたい」とまとめた。便通異常症診療ガイドライン2023改訂ポイントのまとめ 伊原氏は、今回の便通異常症診療ガイドライン2023改訂のポイントを以下のようにまとめた。(1)便秘と慢性便秘症の定義を改訂した(状態名を便秘、病態[疾患名]を[慢性]便秘症とした)(2)「病態(疾患名)」は、「症」を語尾につけることで、病気ではない「状態名」と区別した(3)定義、分類、診断、治療とすべてにわたり、便が直腸へ運搬できない結腸運動機能障害型(排便回数減少型)、直腸に貯留した便が排泄できない直腸肛門機能障害型(排便困難型)の2つの病態を念頭にいれて作成した(4)慢性便秘症の病態評価において直腸エコー(便秘エコー)の有用性を初めて記載した(5)オピオイド誘発性便秘症の治療法を初めて記載した(6)診療のフローチャートを初めて作成した

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緑内障ほか眼科疾患と認知症リスク~メタ解析

 一般的な眼科疾患と認知症との関係を調査するため、中国・Shenzhen Qianhai Shekou Free Trade Zone HospitalのJiayi Feng氏らは、コホート研究のシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。その結果、緑内障などの眼科疾患は、すべての原因による認知症やアルツハイマー病のリスク増加と関連している可能性が示唆された。Journal of the American Medical Directors Association誌オンライン版2023年7月29日号の報告。緑内障や白内障はすべての原因による認知症のリスク増加と関連 対象は、眼科疾患を有する患者。2022年8月25日までに公表された文献をPubMed、EMBASE、Web of Scienceなどのオンラインデータベースより、システマティックに検索した。緑内障、加齢黄斑変性症(AMD)、糖尿病性網膜症(DR)、白内障とすべての原因による認知症、アルツハイマー病、血管性認知症との関連を評価したコホート研究をメタ解析に含めた。ランダム効果モデルを用いてプールし、相対リスク(RR)および95%信頼区間(CI)を算出した。不均一性の評価には、I2統計を用いた。サブグループ分析および感度分析を実施した。 緑内障などの眼科疾患と認知症との関係を調査した主な結果は以下のとおり。・研究25件、参加者1,141万709例をメタ解析に含めた。・AMD、緑内障、DR、白内障は、すべての原因による認知症およびアルツハイマー病のリスク増加との関連が認められた。それぞれの統合された推定値は、以下のとおりであった。●すべての原因による認知症 【AMD】RR:1.29、95%CI:1.13~1.48 【緑内障】RR:1.16、95%CI:1.03~1.32 【DR】RR:1.40、95%CI:1.21~1.63 【白内障】RR:1.23、95%CI:1.09~1.40●アルツハイマー病 【AMD】RR:1.27、95%CI:1.06~1.52 【緑内障】RR:1.18、95%CI:1.02~1.38 【DR】RR:1.21、95%CI:1.04~1.41 【白内障】RR:1.22、95%CI:1.07~1.38・血管性認知症発症と眼科疾患との関連は、認められなかった。・サブグループ分析では、DRとすべての原因による認知症リスクとのメタ解析の結果と一致しなかった。・メタ回帰分析では、AMDとすべての原因による認知症、AMDとアルツハイマー病、緑内障とすべての原因による認知症、緑内障とアルツハイマー病との関連に、不均一な潜在的な原因として地理的要因が影響していることが示唆された。

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男性での加齢に伴うテストステロン減少に影響し得る要因とは

 男性のテストステロンの分泌量は、70歳まではかなり安定しているが、その後は減少し始めることが新たな研究で示された。このことから「高齢者でのテストステロンの減少は正常な老化のプロセスの一つなのか、それとも、高齢男性が直面するさまざまな健康問題を反映したものなのか」という疑問が浮上する。この研究結果を報告した西オーストラリア大学医学部教授でオーストラリア内分泌学会元会長のBu Yeap氏らは、これらの疑問に対する答えは、いずれも「イエス」ではないかとの見方を示し、肥満や高血圧、糖尿病のほか、婚姻状況までもが、加齢に伴うテストステロン減少の要因になり得るとしている。この研究結果は、「Annals of Internal Medicine」に8月29日掲載された。 テストステロンの減少は、脆弱性や倦怠感を増大させるほか、性機能の衰えや筋肉量の減少、糖尿病や認知症のリスクを上昇させる可能性がある。加齢に対してできることはないが、生活習慣の是正が男らしさの維持に役立つ可能性はある。 Yeap氏らのグループは今回、オーストラリア、ヨーロッパ、北米で2019年7月までに実施された11件の研究のデータを解析した。解析に組み入れた対象者は合計2万5,149人の男性で、いずれの研究でも、質量分析法と呼ばれる方法で対象者の総テストステロン値が複数回にわたって測定されていた。 その結果、70歳超の男性では、テストステロンの平均値が70歳以下(18〜70歳)の男性よりも低いことが明らかになった。ただし、解析からは、テストステロンの分泌を促す黄体形成ホルモン(LH)の濃度が70歳以降に上昇することも示された。Yeap氏はまた、「老化を直接の原因としたテストステロン値の低下度は、比較的軽度と考えられた」とも説明している。 一方で、さまざまな要因が70歳以降のテストステロン値の低下を促していることも明らかになった。具体的には、心疾患や喫煙歴、がん、糖尿病、高血圧、過体重または肥満(高BMI)、運動不足、既婚が要因として示された。「特に過体重または肥満は、高年齢と比較してテストステロン値低下との関連がより強かった」とYeap氏は付け加えている。結婚しているか長期にわたるパートナーがいることが、高齢男性でのテストステロン値の低下に関連している点について、Yeap氏は、「結婚して家族のいる男性はストレスが多く、そのことがテストステロン値の低下をもたらしている可能性がある。ただし、われわれの研究は、この結果の詳細を明らかにできるようデザインされたものではなかった」と話している。 その上でYeap氏は、さまざまな社会人口学的要因や生活習慣要因、医学的要因が男性のテストステロン値に影響を与えているということが、今回の研究から得られた主な知見であると説明。「医師はこれらの要因を考慮した上で男性のテストステロン値の検査結果を解釈すべきだ。検査結果が予測値よりも低い場合、それは必ずしも年齢が原因であるわけではなく、これらの要因が影響している可能性も考えられる」と付け加えている。 米国心臓協会(AHA)の元会長であるRobert Eckel氏は、今回の報告を受けて、テストステロンの分泌動態は、解明が進むにつれ「どんどん複雑になっていくようだ」と話す。また、テストステロン値の低下をもたらすさまざまな要因を正確に把握するのは難しいとしながらも、2つの重要な潜在的要因として、テストステロンを全身に運ぶ働きを担っているLHと性ホルモン結合グロブリン(SHBG)と呼ばれるタンパク質を挙げている。LHとSHBGのいずれかが、健康上の問題がある場合や加齢に伴い減少すると、テストステロン値あるいは利用可能なテストステロンの量が減少する可能性があるのだとEckel氏は言う。 テストステロンの減少は、究極的にはQOLの低下につながるが、それに対して高齢男性は何をすべきなのだろうか。Eckel氏やYeap氏は、テストステロン補充療法の適切さや有用性について医師に相談するべきだと主張している。Yeap氏は「テストステロンを用いた治療は、明確な医学的理由がある場合にのみ、必ず医学的管理下で実施する必要がある」と強調している。

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SGLT2阻害薬の使用が痛風リスク低下と関連

 SGLT2阻害薬(SGLT2i)の使用が痛風リスクの低下と関連していることを示すデータが報告された。米マサチューセッツ総合病院(MGH)のNatalie McCormick氏らの研究によるもので、詳細は「Annals of Internal Medicine」に7月25日掲載された。DPP-4阻害薬(DPP-4i)を使用した場合と比較した結果であり、痛風以外に心筋梗塞についてもリスクに有意差が見られたという。 SGLT2iは血糖低下作用とともに尿酸値を低下させる作用のあることが知られている。この作用が痛風患者の発作リスク抑制につながる可能性があるが、そのような視点での研究はまだ十分でない。McCormick氏らはこの点について、2014年1月~2022年6月の医療データを用いて検討した。 解析対象期間にSGLT2iまたはDPP-4iで治療が開始されていた痛風を有する2型糖尿病患者を、傾向スコアマッチングによって背景因子を一致させたデータセットを作成。主要アウトカムを、救急部門や一般外来の受診または入院、および薬剤処方によって確認された痛風発作の再発とし、副次的に心筋梗塞と脳卒中の発症も評価した。また、陽性対照として性器感染症、陰性対照として変形性関節症の発症を評価した。 痛風の再発は、SGLT2iで治療開始されていた群が1,000人年当たり52.4件、DPP-4iで治療開始されていた群では同79.7件であり、率比(RR)0.66(95%信頼区間0.57~0.75)で、率差(RD)は1,000人年当たり-27.4(同-36.0~-18.7)であって、SGLT2i群の方が有意に少なかった。また、痛風発作による救急部門の初回受診または入院のRRおよびRDは、1,000人年当たりそれぞれ0.52(0.32~0.84)、-3.4(-5.8~-0.9)だった。 副次的評価項目である心筋梗塞は、ハザード比(HR)が0.69(0.54~0.88)、RDは1,000人年当たり-7.6(-12.4~-2.8)であり、SGLT2i群の方が低リスクだった。ただし脳卒中についてはHR0.81(0.62~1.05)で有意差がなかった。性器感染症についてはSGLT2i群のリスクの方が高く〔HR2.15(1.39~3.30)〕、変形性関節症のリスクは同等だった〔HR1.07(0.95~1.20)〕。 以上を基に著者らは、「痛風患者においてSGLT2iは発作の再発や、発作に伴う救急部門の初回受診または入院を減らし、心血管系に有益な効果をもたらす可能性もある」と結論付けている。また、「2型糖尿病患者に対してSGLT2iが、糖代謝や心血管合併症リスクを抑制する多面的なメリットが示されていることを考慮すると、このクラスの薬剤は尿酸降下療法としても魅力的な治療手段となる可能性がある」と付け加えている。

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女性での長寿の鍵は60歳以降の体重の維持?

 女性では、60歳以降に体重を一定に保つことで、90歳、95歳、あるいは100歳という長寿を望める可能性の高まることが、米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)Herbert Wertheim School of Public Health and Human Longevity ScienceのAladdin Shadyab氏らによる研究で明らかにされた。体重が安定している年配女性は、体重が5%以上減少した女性よりも1.2倍から2倍の確率で90〜100歳という長寿を得ていることが示されたという。この研究の詳細は、「Journals of Gerontology Series A: Biological Sciences and Medical Sciences」に8月29日掲載された。 この研究では、Women’s Health Initiativeのデータを用いて、女性での60歳以降の体重変動と、90・95・100歳までの生存との関連が検討された。対象者は、1932年2月19日以前に生まれ、試験登録時(ベースライン)とその3年後、および10年後に測定した体重データがそろう61〜81歳の5万4,783人で、2022年2月19日まで追跡された。対象者は体重の増減に基づき、体重減少群(ベースラインから5%以上の減少)、体重増加群(ベースラインから5%以上の増加)、体重維持群(ベースラインからの体重の増減が5%未満)の3群に分類された。体重減少については、それが意図的なものであるかどうかが、ベースラインから3年後の調査時に確認されていた。この3年後の調査から1年以内に死亡した346人を除外した5万4,437人が最終的な解析対象とされた。 解析の結果、ベースラインから3年後では、体重減少群では体重維持群に比べて、90歳まで生きる可能性が33%(オッズ比0.67、95%信頼区間0.64〜0.71)、95歳まで生きる可能性が35%(同0.65、0.60〜0.71)、100歳まで生きる可能性が38%(同0.62、0.49〜0.78)、有意に低いことが明らかになった。同様に、ベースラインから10年後では、体重減少群では体重維持群に比べて、90歳まで生きる可能性が40%(同0.60、0.52〜0.69)、95歳まで生きる可能性が49%(0.51、0.41〜0.63)、有意に低かった。これらのオッズ比に基づくと、体重維持群が90〜100歳まで生きる可能性は体重減少群の1.2〜2倍であると計算された。 体重減少と長寿との関連は、体重減少が意図的でなかった場合に、より顕著であった。例えば、ベースラインから3年後では、体重減少群のうち、減量が意図的であった人では90歳まで生きる可能性が体重維持群よりも17%低かったのに対し、減量が意図的でなかった人では51%も低いことが示された。 一方、体重の増加に関しては、3年後の時点では、90歳、95歳、100歳までの生存に関して、体重増加群と体重維持群との間に有意な差は認められなかった。また、10年後の時点でも、90歳、95歳までの生存に関して、両群間で有意な差は認められなかった。 Shadyab氏は、「米国では、加齢に伴いBMIが25〜35の過体重や肥満に該当するようになる女性が非常に多い。しかし、この研究結果は、年配の女性が長寿を望むのであれば、体重の維持を目標とするべきことを裏付けるものだ」と話す。同氏はさらに、「年配の女性での意図しない体重減少は、健康に問題が生じていることを知らせるサインであり、寿命短縮の予測因子と見なせる可能性がある」と同大学のニュースリリースで語っている。 研究グループは、「この結果から判断すると、年配の女性に対して一般的に推奨されている減量は、長寿には役立たない可能性がある。ただし、健康や生活の質を改善するために適度な減量が推奨されている場合には、その医学的助言に耳を傾けるべきだ」と述べている。 なお、本研究は、米国立衛生研究所(NIH)、米国立心肺血液研究所(NHLBI)、米国保健社会福祉省から一部資金提供を受けて実施された。

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