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Long COVIDに早期メトホルミン投与が有効

 Long COVID(いわゆる新型コロナ後遺症)は、倦怠感や味覚症状など多岐にわたる症状があり、世界中で多くの人が苦しんでいるものの、現時点で確立された治療法はない。米国・ミネソタ大学、Carolyn T Bramante氏らは、COVID-19感染直後の外来患者に、メトホルミン、イベルメクチン、フルボキサミンの単独投与と併用投与を行い、COVID-19の重症化予防とLong COVIDのリスク低減効果を評価した研究を行った。メトホルミンはLong COVID発症を約41%減少させた 米国の6施設で行われたこの第III相無作為化四重盲検プラセボ対照COVID-OUT試験において、3剤に重症化予防効果がなかったことはすでに報告されている1)が、本試験のLong COVIDのリスク低減効果の分析がThe Lancet Infectious Diseases誌オンライン版2023年6月8日号に掲載された。・対象:COVID-19発症から7日未満、SARS-CoV-2感染確認から3日以内、30~85歳、過体重または肥満の成人参加者は、・メトホルミン+イベルメクチン・メトホルミン+フルボキサミン・メトホルミン・イベルメクチン・フルボキサミン・プラセボの6群にランダムに割り当てられた。・評価項目[主要評価項目]14日目までの重症化率(低酸素血症、救急外来受診、入院、死亡の複合)[副次評価項目]医療従事者によるLong COVID診断 メトホルミン、イベルメクチン、フルボキサミンのLong COVIDのリスク低減効果を評価した研究の主な結果は以下のとおり。・2020年12月30日~2022年1月28日に1,431例が登録され、ランダム化された。1,126例が長期フォローアップに同意し、180日目のLong COVIDの評価を受けた。・1,074/1,126例(95%)が9ヵ月以上のフォローアップを完了した。56.1%が女性でうち7%が妊娠していた。年齢中央値は45歳、BMI中央値は29.8であった。93/1,126例(8.3%)が、300日目までにLong COVIDの診断を受けたと報告した。・300日目までのLong COVIDの累積発生率は、メトホルミン群では6.3%(95%信頼区間[CI]:4.2~8.2)、プラセボ群では10.4%(95%CI:7.8~12.9)だった(ハザード比[HR]:0.59、95%CI:0.39~0.89、p=0.012)。・メトホルミンの有効性は、事前に規定されたサブグループ間でも一貫していた。メトホルミン投与が症状発現から3日以内に開始された場合のHRは0.37(95%CI:0.15~0.95)だった。イベルメクチン(HR:0.99、95%CI:0.59~1.64)、フルボキサミン(HR:1.36、95%CI:0.78~2.34)は、Long COVIDの累積発生率に影響がなかった。 著者らは「メトホルミンによる外来治療は、プラセボと比較して、Long COVID発症を約41%減少させ、絶対減少率は4.1%であった。メトホルミンはCOVID-19の外来治療として臨床的利益があり、世界的に入手可能で低コスト、かつ安全である」としている。

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シフト勤務による健康への影響は男性に強く生じる可能性

 就労時間帯が変化するシフト勤務によって生じる体への負担は、女性よりも男性で大きい可能性が報告された。米ペンシルベニア大学ペレルマン医学部のGarret FitzGerald氏らの研究によるもので、詳細は「Science Translational Medicine」に5月17日掲載された。 FitzGerald氏らの研究は、実験用マウスと人間を対象とした二つのパートから成る。まずマウスを用いた研究では、昼夜のサイクルを変化させて飼育すると、オスでは血圧、腸内細菌叢、遺伝子の発現など、さまざまな評価指標に大きな混乱が認められた。対照的にメスのマウスは、そのような変化が少なかった。 続いて、英国の大規模ヘルスケアデータベース「UKバイオバンク」に登録されている9万人以上のデータを解析したところ、シフト勤務の男性の3分の1がメタボリックシンドローム(MetS)に該当していたのに対して、シフト勤務でない男性ではその割合が4分の1強だった。女性の場合、職業の違いを考慮しない解析ではシフト勤務者のMetS有病率が高かったが、職業の影響を調整すると、そのリスク差は抑制された。 FitzGerald氏は、「これらの結果は、シフト勤務が健康に与える影響は男性より女性の方が小さい可能性を示唆するものだ。ただし、その理由はまだ明らかでない」と話している。一つの可能性として、女性ホルモン(エストロゲン)による保護作用が関係していることが考えられる。実際にマウスの実験では、卵巣を切除したメスは昼夜のサイクルを変化させた際に、評価指標への影響が大きく現れる傾向があった。ただし、それでも依然としてオスマウスに比べれば乱れが少なかったことから、女性ホルモンの有無だけが理由ではないと考えられた。 過去の研究では、シフト勤務と高血圧、糖尿病、心臓病、その他の疾患のリスク増大の関連が示されている。昼夜が逆転することによる体への直接的な負担だけでなく、シフト勤務では運動のための時間を確保しにくくなったり、健康的な食事を続けることが難しくなったりすることが関係しているものと推測されている。人間の概日リズム(1日24時間周期の生理活動)は日中に活動して食事を取り、暗くなると眠るようにプログラムされている。シフト勤務はその概日リズムを狂わせるように働く。そして、これまでに行われた研究の一部は、女性のシフト勤務者は男性のシフト勤務者よりも、このようなリズムの乱れへの耐性が強いことを示唆しており、例えばMetSや糖尿病の罹患率の差として報告されている。 今回の報告に関して、本研究に関与していない米ノースウェスタン大学フェインバーグ医学部のSabra Abbott氏は、「示された結果を『女性はシフト勤務を行っても害にならない』とは解釈してほしくない」と話す。また、「この研究の着眼点は興味深いものだが、データは慎重に解釈する必要があるし、メカニズムの解明も求められる」と付け加えている。 FitzGerald氏も、「シフト勤務と疾患リスクとの関係という問題は、性差以外に勤務形態、教育歴、収入など、数々の考慮すべき因子があって、解釈が難しい」と述べている。その上で、「人々がシフト勤務の健康に対する潜在的なリスクを理解し、睡眠衛生の重要性を認識すべき。なるべく日中は日光を浴びて、夜は人工の光を避けた方が良い」とアドバイスしている。

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妊娠糖尿病への早期治療介入は時期尚早か(解説:住谷哲氏)

 妊娠糖尿病が母児の産科的合併症のリスク増大と関連することが明らかにされている。妊娠糖尿病のスクリーニングはIADPSGが推奨する、初回受診時に通常の糖尿病診断基準を用いて妊娠中の明らかな糖尿病overt diabetes in pregnancyを除外し、それ以外の妊婦に対しては妊娠24~28週に75gOGTTを実施して妊娠糖尿病gestational diabetes mellitusを拾い上げる方法が一般的である。しかし現実的には、糖尿病発症ハイリスク妊婦に対しては24週以前に75gOGTTが実施され、妊娠糖尿病と診断されて治療介入されるケースも少なくない。 IADPSGの推奨の根拠となっているのはHAPO研究であるが、この研究の対象となったのは妊娠24週以降の妊婦のみである点に注意が必要である。したがって、HAPO研究に基づくIADPSGの妊娠糖尿病診断基準を妊娠24週以前の妊婦に適用できるか否かは不明である。さらに24週以前の妊婦にも適用可能であると仮定した場合に、妊娠糖尿病と診断された患者にその時点から早期治療介入すれば母児の予後が改善するかどうかは明らかではない。 本試験は糖尿病発症ハイリスク妊婦のなかで、妊娠20週以前(平均15.6週)に75gOGTTによるスクリーニング検査で妊娠糖尿病と診断された患者を対象として早期治療介入の有効性を検討した。対象患者を妊娠20週以前の診断時から妊娠糖尿病として治療介入する早期治療介入群と、24~28週に実施する通常のスクリーニングまで治療介入しないコントロール群に分けた。コントロール群は、24~28週のスクリーニングで妊娠糖尿病と診断されればその時点から治療介入された。 結果は3つの主要評価項目のうち、新生児有害アウトカムneonatal adverse outcomeは早期治療介入群で有意に減少したが、妊娠関連高血圧pregnancy-related hypertensionおよび新生児除脂肪体重neonatal lean body massは両群に有意差を認めなかった。さらにコントロール群の33%は24~28週で再度実施した75gOGTTで妊娠糖尿病の診断基準を満たしていなかった。早期治療介入群は再度の75gOGTTを実施していないので正確ではないが、早期治療介入群のほぼ30%の患者は妊娠糖尿病ではなかったにもかかわらず治療介入された可能性も否定できない。 本試験の対象は糖尿病発症ハイリスク妊婦であり、そうではない妊婦に本試験の結果が適用できるかは不明である。さらに早期治療介入による新生児有害アウトカムの減少も効果としてはそれほど大きいものではなく、妊娠24~28週でのスクリーニングが適当とするIADPSGの推奨を変更する必要はなさそうに思われる。

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筋肉の霜降り化は死亡リスクを上昇させる?

 内臓脂肪が健康に良くないのは周知の事実だが、それよりもたちが悪い脂肪があるようだ。それは、筋肉内に蓄積する脂肪(筋内脂肪)だ。本来なら脂肪が蓄積されないはずの筋内に脂肪が蓄積している状態〔myosteatosis(骨格筋異所性脂肪化)〕の人では、死亡リスクが上昇し、その上昇の程度は内臓脂肪型肥満や脂肪肝の人でのリスク上昇よりも大きいとの研究結果が報告された。米ウィスコンシン大学医学部・公衆衛生学部の消化器画像診断主任であるPerry Pickhardt氏らによる研究で、「Radiology」に5月16日掲載された。 本研究には関与していない、米ルイジアナ州立大学ペニントン生物医学研究センターのSteven Heymsfield氏によると、筋内脂肪は、肥満や糖尿病の分野で関心が高まりつつあるテーマだという。筋肉細胞の中にエネルギーの生成に必要な少量の脂肪が存在するのは通常のことだ。しかし、細胞の外側や筋線維、筋束の周囲に余分な脂肪が、「ステーキの霜降り肉のように」蓄積した状態になると、健康上の懸念が生じると同氏は説明する。 Pickhardt氏らの研究は、2004年4月から2016年12月の間に、大腸がん検診のために腹部の低線量CTスキャンを受けた健康な患者8,982人(平均年齢57±8歳、女性5,008人)を対象にしたもの。まず、腹部CT画像から体組成指標を抽出するAI(人工知能)ツールを作成。これを使って対象者の筋肉の総面積と密度、皮下脂肪および内臓脂肪の面積、および肝臓の体積密度を数値化し、脂肪肝、肥満、骨格筋異所性脂肪化、および/または骨格筋量の減少(ミオペニア)が認められる場合を「異常な体組成」とみなした。対象者を中央値8.8年追跡し、死亡または主要心血管イベントの発生について調べた。 追跡期間中に、対象者の20%(1,836人)に1件以上の有害事象(主要心血管イベントまたは死亡)が生じ、6%(507人)が死亡した。異常な体組成は、1件以上の有害事象を経験した人の80%(1,467人)、死亡した人の86%(434人)に認められた。異常所見とした上記の4つのパラメーターはいずれも有害事象と有意な関連を示し、ハザード比は骨格筋異所性脂肪化で4.33と最も高く、脂肪肝での1.86、ミオペニアでの1.75、肥満での1.27がそれに続いた。死亡した507人のうち、278人(55%)で骨格筋異所性脂肪化が確認された。これらの人々での10年間の死亡の絶対リスクは15.5%であった。これに対して、他の異常所見での死亡の絶対リスクは、肥満で7.6%、脂肪肝で8.5%、ミオペニアで9.7%であった。こうした関連はBMIとは無関係であった。 Pickhardt氏は、「実際のところ、BMIを基に筋骨格異所性脂肪化を予測したり、その兆候を捉えたりするのは難しい。太っていなくても、筋肉の指標が良くない人はいる。つまり、今回の研究結果の中で重要なのは、BMIでは痩せているとされる人でも、体組成の指標が悪い人はいる点を示したことだ」と述べている。また同氏は、CTが骨格筋異所性脂肪化なども含めたさまざまな健康状態を調べる上で有用なツールになり得るとの見方を示している。 一方、本研究論文の付随論評の共著者である米ニューヨーク大学(NYU)医学部のAngela Tong氏は、「この研究は、筋内脂肪と死亡リスクとの因果関係を示したものではない」と述べる。同氏は、筋内への脂肪蓄積の増加は、別の健康問題が生じていることの兆候である可能性があるとし、「心臓に何か問題が生じていないか、あるいは糖尿病の可能性はないかを慎重に見ていくべきだ」と話している。 では、骨格筋の中にどのようにして脂肪が蓄積するのだろうか。前述のHeymsfield氏によると、その機序はまだ明確になっていない。同氏は、「遺伝や加齢が関連している可能性がある。また、例えば脚にギプスをはめていたせいで筋肉が萎縮した場合などに、筋肉細胞が脂肪細胞に置き換わることも知られている」と話す。 機序と同様に、蓄積された不要な筋内の脂肪を取り除く方法も分かっていない。Heymsfield氏は、「科学は進歩しているものの、減量と運動の2つが、筋内の脂肪を除去するための真に良い方法ではないかと思う。どんなにがんばっても減らない脂肪があるかもしれないが、その場合は、おそらく遺伝か、死につつある筋肉細胞が原因なのだろう」と話している。

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急性冠症候群における早期SGLT2阻害薬使用の効果

 SGLT2阻害薬は糖尿病治療だけでなく、現在では心不全(HF)や腎不全の治療にその活躍のフィールドを拡大している。HFの臨床転帰を改善することは、すでにさまざまなエビデンスが報告されているが、早期の急性冠症候群(ACS)ではエビデンスは限定的であった。この疑問に対し、国立循環器病研究センターの金岡 幸嗣朗氏らの研究グループは、入院中の急性冠症候群患者に対し、SGLT2阻害薬の早期使用と非SGLT2阻害薬またはDPP-4阻害薬の使用の関連を検討した結果を報告した。European Heart Journal-Cardiovascular Pharmacotherapy誌オンライン版2023年5月12日掲載。ACSへのSGLT2阻害薬の早期介入はイベント抑制につながる可能性 本研究は、レセプト情報・特定健診情報データベースを用いて後方視的コホート研究で行われた。対象は2014年4月~2021年3月までに20歳以上のACSで入院した患者。 主要アウトカムは、全死因死亡またはHF/ACS再入院の複合とした。1:1の傾向スコアマッチングを用いて、HF治療に応じて、非SGLT2阻害薬またはDPP-4阻害薬と比較した早期SGLT2阻害薬使用(入院後14日以下)の転帰との関連を明らかにした。 対象となった38万8,185例のうち、重度のHFを有する患者は11万5,612例、有さない患者は27万2,573例であった。 主な結果は以下のとおり。・SGLT2阻害薬非使用者と比較し、SGLT2阻害薬使用者は、主要アウトカムとのハザード比(HR)が、重症HF群で低かった(HR:0.83、95%信頼区間[CI]:0.76~0.91、p<0.001)・非症状HF群では有意差はなかった(HR:0.92、95%CI:0.82~1.03、p=0.16)・SGLT2阻害薬の使用は、DPP-4阻害薬と比較し、重症HFおよび糖尿病患者における転帰のリスクが低いことが示された(HR:0.83、95%CI:0.69~1.00、p=0.049) 以上の結果から金岡氏らの研究グループは、「早期ACS患者におけるSGLT2阻害薬の使用は、重症HF患者において主要転帰のリスクを低下させたが、重症HFではない患者ではその効果は不明だった。そのほか、HFあり群のうち、糖尿病患者におけるSGLT2阻害薬の開始は、わが国でよく用いられているDPP-4阻害薬の開始と比較しても、主要エンドポイントの減少と関連していた」と早期使用がイベント抑制につながる可能性を示唆した。

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閉塞性睡眠時無呼吸は脳の状態を悪化させる可能性

 閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)による睡眠の質の低下は、高齢者の脳の状態を悪化させる可能性のあることが、OSA患者を対象に脳の画像検査を実施した研究で示唆された。米メイヨー・クリニック睡眠医学センターのDiego Carvalho氏らが実施したこの研究の詳細は、「Neurology」に5月10日掲載された。 睡眠時無呼吸は、空気の通り道である上気道が狭くなって生じるOSAと、呼吸中枢の異常により生じる中枢性睡眠時無呼吸(CSA)に大別される。Carvalho氏によると、睡眠時無呼吸は、高血圧や糖尿病、心筋梗塞、脳卒中、認知障害、認知症のリスク上昇に関連していることが指摘されている。また、血圧や心拍数の上昇、酸素レベルの低下、中途覚醒などをもたらし、さまざまな面で脳に有害な影響が及ぶことも分かっているという。 重要なことは、睡眠時無呼吸が、「深い眠り」に入り、それを維持することを妨げる原因となり得る点だ。米クリーブランド・クリニックの情報によると、深い眠りは入眠の約1時間後に始まり、体の細胞の修復や再生、免疫システムの強化、骨や筋肉を作るのに不可欠である。したがって、深い眠りの時間を十分に取っているかどうかは、睡眠の質の程度を示す指標の一つとして考えられている。 Carvalho氏らは今回、睡眠時無呼吸による深い眠りへの影響が、長期的な脳卒中や認知症、アルツハイマー病のリスクに関係しているのかどうかを明らかにするための研究に着手した。対象は、研究開始時に認知症やアルツハイマー病がなく、思考処理に問題がない軽症~重症のOSA患者140人(平均年齢72.7±9.6歳)。いずれの患者もMRIによる1回以上の脳スキャンと、睡眠実験室で一晩かけて睡眠の観察〔終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)〕を受けた。 脳スキャンを行うことで、主に神経線維で構成されている白質と呼ばれる脳領域の健康状態を知ることができる。白質に損傷があると、脳の他の領域とのコミュニケーションがうまく取れなくなる可能性がある。こうした損傷は、小さな病変として現れ、加齢に伴い蓄積していく。また、一晩かけてPSGを行うことで、研究参加者の睡眠パターンを追跡することができる。 Carvalho氏らは、参加者の脳スキャンから得られたデータとPSGにより明らかになった睡眠パターンを分析した。その結果、深い眠りについている時間が最も短い患者、つまり全般的な睡眠の質が最も低い患者では、脳の白質の損傷が最も多く認められることが分かった。具体的には、深い睡眠の時間が占める割合が10ポイント低下するごとに、2.3年分の老化に相当する白質の損傷が蓄積することが示された。 Carvalho氏は、「重度のOSA、あるいは深い眠りが不十分であることに起因した睡眠の質の低下は、認知障害や認知症、脳卒中のリスクを高めると考えられている白質の損傷に関与している可能性がある」と言う。ただし、今回の研究で深い眠りの時間が短いほど白質の損傷が多く認められるという関連性が確認されたのは重症のOSA患者のみであり、より軽症の患者ではこの関連性は認められなかったことから、研究グループは結果の慎重な解釈を求めている。また実際に、睡眠の質の低下が原因で認知機能の低下や脳卒中などが起こることが証明されたわけではなく、あくまでもそれらのリスク上昇に関係する白質の損傷に睡眠の質の低下が関連していることが示されたに過ぎない点についても、強調している。 本研究報告を受け、英キングス・カレッジ・ロンドンのIvana Rosenzweig氏は、「睡眠時無呼吸は体のほとんどの臓器と脳に影響を与える深刻な公衆衛生上の問題である。深い眠りが記憶にどのような影響を与えるのかについては今のところ明確には示されていないが、数多くの研究で、通常の加齢に伴い深い眠りの時間が減り、記憶力に関わる問題が増えるという強い関連性が示されている」と説明。その上で、Carvalho氏らの研究について、「われわれの認知症への取り組みにおいて、睡眠の質の重要性についての認識を高めることにつながるという点で、こうした研究は重要だ」と述べている。

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英語で「今日はどうされましたか」は?【1分★医療英語】第85回

第85回 英語で「今日はどうされましたか」は?How can I help you today?(今日はどうされましたか?)I have a chest pain.(胸が痛いです)《類似表現》What brings you here today?What can I do for you today?(今日はどうされましたか?)《解説》問診では、日本語では「今日はどうされましたか?」というオープンクエスチョンで始める場合が多いと思いますが、意外と英語で言うのは難しいかもしれません。親しい間柄の人に「どうしたの?」と聞く場合は、“What happened?”、“What is the problem?”、“What’s the matter with you?”といったフレーズがよく知られていますが、これらは「何があったの?」といったニュアンスの砕けた表現であり、医師と患者さんの会話で使うのは避けるべきです。また“Why are you here today?”(なぜあなたはここにいるのですか?)という表現も、間接的に「来るべきではなかった」という意味になってしまうためNGです。その代わりに、“How can I help you today?”、“How may I help you today?”といった表現や、類似表現として挙げたような、“What brings you here today?”、“What can I do for you today?”という表現を使うことによって、スムーズに問診をスタートさせることができるでしょう。講師紹介

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歯の痛み、どのくらいの頻度で“虫歯リスク”なのか

 日本歯内療法学会が、直近3ヵ月で歯の痛みを感じたことがある20~60代の800名を対象に『歯の痛みの放置』に関するアンケート調査を実施。その結果、痛みの強さや頻度に関わらず断続的に痛みを感じている人には一定の「虫歯リスク」があることが推察された。 主な結果は以下のとおり。・痛みの頻度ごとの内訳は、いつも痛む人(痛みが1~3日に1回程度)25.9%、ときどき痛む人(痛みが毎週~2、3週ごとに1回程度)32.1%、まれに痛む人(1~3ヵ月に1回程度)42.0%だった。・まれに痛む人の半数以上は違和感程度で、痛みを感じる箇所は特定のところだった。・痛みを感じた後に歯科受診したのは、全体の4割程度だった。・歯科検診で「虫歯」と診断された割合は、いつも痛む人33.0%、ときどき痛む人31.0%、まれに痛む人43.1%だった。・歯科検診していない人のうち、痛みを半年以上放置した割合は、まれに痛む人で56.8%にのぼった。一方、いつも痛む人でも半年以上も痛みを放置した割合は43.4%と長期間放置する人が多くみられた。 歯に痛みが生じるケースとして虫歯以外には、1)知覚過敏、2)歯肉炎・歯周病、3)ストレス、4)親知らず、5)かみ合わせやかむ力の異常、6)歯のヒビや割れなどがある。虫歯の場合には冷たい物・甘い物だけではなく、熱いものを食べたり、飲んだりした際に数秒の痛みを感じた場合は歯髄近くまで進んでいる場合が多いそうなので、熱い物がしみた場合には虫歯の可能性を考慮して歯科受診を検討したほうがよいかもしれない。―――【調査概要】調査主体:一般社団法人 日本歯内療法学会調査対象:直近 3ヵ月で歯の痛みを感じたことがある20~60代の800名(20代、30代、40代、50代、60代を男女に分け、それぞれ80名を調査。「医薬品、健康食品、薬品、化学、石油化学」「市場調査」「医療、福祉」「出版、印刷」「メディア・マスコミ・広告業」にお勤めの方は除く)調査方法:WEBアンケート調査時期:2023年5月19日~23日―――

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紹介状の書き方、相手が快・不快と思う分かれ道【紹介状の傾向と対策】第6回

<あるある傾向>前医の診断の根拠がわからない<対策>診断根拠を明確に記載する。ただし、ポイントを押さえて簡潔に多忙な臨床業務の中で紹介状(診療情報提供書)の作成は負担の大きな業務の1つです。しかし、紹介状の不備は、依頼先(紹介先)の医師やスタッフに迷惑をかけるだけではなく、患者さんの不利益やトラブルにつながりかねません。このため、できる限り依頼先が困らない紹介状の作成を心がけたいものです。【紹介状全般に共通する留意点】(1)相手の読みやすさが基本(2)冒頭に紹介する目的を明示する(3)プロブレムと既往歴は漏れなく記載(4)入院経過は過不足なく、かつ簡潔に記載(5)診断根拠・診断経緯は適宜詳述(6)処方薬は継続の要否、中止の可否を明記(7)検査データ、画像データもきちんと引き継ぐ今回は上記の留意点(5)「診断根拠・診断経緯は適宜詳述」について解説します。読者の先生方と同様に、筆者も日々さまざまな疾患の患者紹介を受けます。いろんな医師の紹介状を読むなかで、本当にきちんとした紹介状だなと感服させられることがあります。感服させられるポイントの1つに、診断の経緯や根拠を的確に押さえて記載されていることが挙げられます。そして、そのような紹介状は、文面は長すぎず簡潔にまとめられています。つまり情報の取捨選択が適切で情報粒度が絶妙なのです。多くの臨床医は、紹介されてくる患者さんに付けられた病名を見たとき、「その診断はどうしてついたのだろうか」「その診断は本当にあっているのだろうか」という、確認のためではあるものの一種の疑念に似た思考が反射的に走るのではないかと思います。たとえば、リウマチ性多発筋痛症と診断され、ステロイド導入後にフォローのために紹介されてきた患者がいたとします。しかし、紹介状の傷病名を見て、まず頭に浮かぶのは、そのリウマチ性多発筋痛症の診断は本当に正しいのだろうか、その医師の診断を信じて良いのだろうかと一瞬考えてしまうのです。その時に知りたいのは、紹介医がどのような根拠からその診断を導いたかです。類似した症状や所見を示す疾患の可能性はどのように除外されたかが記載されていれば、疑う余地はありません。このように読んでいて気持ち良いと感じる紹介状は、読み手が抱くであろう疑問に答えるかのように、必要な情報を的確な順番に並べているのです。そのような紹介状は臨床医が最初に抱いた疑念に対し、納得感を与え、そして次の瞬間には紹介医への信頼ともいえる心地よい「快」の感情が生まれるのです。一方、リウマチ性多発筋痛症の診断名とステロイドの継続依頼だけが記載され、診断根拠が適当過ぎたらどうでしょうか。筆者なら、不明熱に対し適当にステロイドを入れてお茶を濁した可能性を勘ぐってしまいます。つまり不信感の「不快」の感情が生じてしまうのです。このように、紹介状はその文面1つで相手の医師の感情を「快」にも「不快」にも変えるのです。ただでさえ忙しい臨床の現場です。紹介先の医師には「快」を与えられる紹介状を書けるよう修練を積んでいきたいものです。

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コロナ5類移行後の院内感染対策の現状は?/医師1,000人アンケート

 5月8日に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染症法上の位置付けが「5類感染症」に移行となったが、医療機関ではその前後の過渡期に、これまで継続してきたさまざまな院内感染対策の緩和について議論されていた。5類に移行して約1ヵ月経過し、新規コロナ感染者は全国的に増加傾向にあり、院内感染対策をどこまで緩和するか、今なお難しい判断が迫られている。 病床の有無やコロナ診療状況など条件の異なる医療機関において、院内感染対策の現状や、抱えている課題を把握するため、病院を20床以上、診療所を20床未満と定義し、病院522人、診療所502人の会員医師1,024人を対象に『病院・診療所別 新型コロナ5類移行後の院内感染対策アンケート』を5月30日に実施した。5類移行後、病院93%、診療所72%がコロナ診療している 「Q1. 勤務先の医療機関における、5類移行前後での新型コロナの診療状況」という設問では、「5類移行の前後で、いずれもコロナ診療を受け付けている」「5類移行前は受け付けていなかったが、移行後は受け付けている」「5類移行前は受け付けていたが、移行後は受け付けていない」「5類移行の前後で、いずれも受け付けていない」の4つの選択肢から最も当てはまるものを聞いた。 病院では、84%がいずれの時期もコロナ診療を受け付けており、9%が5類移行後に新たに受け付けるようになった。診療所では、56%がいずれの時期もコロナ診療を受け付けており、16%が移行後に新たに受け付けるようになった。なお本調査では、コロナ診療の割合の低い眼科、皮膚科、泌尿器科といった診療科も含まれている。コロナ5類移行後、PPE着用は感染症疑い患者の診察時のみが多数 「Q2. 個人防護具(PPE)の着用について」という設問では、「勤務中は常にPPEを着用している」「感染症疑いの患者の診察時のみPPEを着用している」「PPEを着用していない」の3つの選択肢から最も当てはまるものを聞いた。 コロナ診療している病院では、常にPPE着用している割合は12%で、79%が感染症疑いの患者の診察時のみ着用していた。コロナ診療している診療所でも、常にPPE着用している割合は12%で、64%が感染症疑いの患者の診察時のみ着用していた。コロナ診療をしていない医療機関でも、病院の49%、診療所の33%が感染症疑いの患者の診察時のみPPE着用し、診療所の5%が常に着用していると回答した。 「Q3. 診療中の手指消毒のタイミングについて」という設問では、「診療室や病室に入るとき」「1人の診察ごと」「処置や検査を行ったとき」のそれぞれの場合に対して、病院では約60%の医師がいずれの場合も手指消毒を行っているとした。診療所では、45%が「診療室や病室に入るとき」、約55%が「1人の診察ごと」「処置や検査を行ったとき」に手指消毒を行っていると回答した。コロナに罹患した職員の療養期間、病院と診療所で傾向の差 「Q4. 勤務先の医療機関での、コロナに罹患した医療従事者の療養期間は何日か」という設問では、医療機関の規模とコロナ診療の有無で、結果に若干の傾向の差が出た。最も慎重な結果だったのはコロナ診療している病院であり、4日以下が8%、5日が56%、7日が24%、8日以上が10%であった。コロナ診療していない病院では、4日以下が8%、5日が64%、7日が21%、8日以上が5%であった。 診療所はコロナ診療の有無にかかわらずほぼ同等で、コロナ診療している場合は、4日以下が13%、5日が63%、7日が17%、8日以上が2%。コロナ診療していない場合は、4日以下が17%、5日が62%、7日が16%、8日以上が3%であった。病院と比べて診療所のほうが、4日以下の割合が約2倍多くなっている一方で、7日、8日以上の割合は病院のほうが多かった。 「Q5. 入院予定患者に対する事前のコロナスクリーニング検査の実施状況について」という設問では、病院では、PCR検査を実施しているのが31%、抗原検査を実施しているのが27%、検査は行わず、事前に診察でコロナの診断を行っているのが9%、事前スクリーニング検査は実施していないとしたのが29%となり、結果が拮抗していた。コロナ院内感染が広がった際の責任の所在に課題感 「Q6. 院内の感染対策を緩和していくうえで、判断に迷っていること、難しいと感じること」という設問では、以下のような意見が挙げられ、新型コロナに対する人々の危機感の薄れとは裏腹に、医療機関がさまざまな課題を抱えていることが浮き彫りになった。患者がコロナ感染対策せずに来院する・ウイルス感染は依然として続いているのに、あたかも、なくなったかのごとく振る舞う患者が結構みられるようになった。(診療所・内科・60代)・マスクをしない患者さんがよく来るようになった。(診療所・皮膚科・40代)コロナ院内感染・クラスター・感染が広がった際の責任の所在。(病院・呼吸器外科・30代)検査・入院時に陰性でも、後に感染が判明することがある。(病院・糖尿病・代謝・内分泌内科・30代)・明らかにコロナ感染症だと思われる方の中には、検査を希望されない方が一定の割合で存在する。(診療所・内科・60代)・以前は患者負担なく検査できたのでやりやすかったが、今はそうではないので困る。(診療所・消化器内科・40代)動線・ゾーニング・現状は時間分離で診療を行っているが、一般患者さんとの分離が十分できている保証はない。(診療所・内科・70代以上)面会・新型コロナ感染者が1人でも院内に発生した場合に、面会制限をしたほうがいいのか、判断に困っています。(病院・内科・50代)PPE・どこまでPPEを緩めるか。(診療所・内科・50代)職員への対応・職員の同居人に発熱者が出ても新型コロナかどうか不明の場合の出勤調整の判断に迷う。(診療所・内科・60代)・咳嗽が残った従事者の勤務。(診療所・内科・60代)コロナ感染対策の基準がわかりづらい・適正な指針が見当たらない。(病院・消化器内科・50代)・高齢者が多いため緩和しにくい。(診療所・内科・50代)・最近また新型コロナウイルス感染患者が増えてきた。(病院・外科・40代)・コロナ以外にもインフルエンザや麻疹、結核などのルールアウトもしておらず、アウトブレイクに対して一抹の不安はある。(病院・麻酔科・50代)・地域・全国のコロナ患者の状況、ベッドがどれくらい埋まっているかの情報・統計が得られなくなり、院内の感染対策を緩めていい時期が不明瞭。(診療所・内科・50代)アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。5類移行後の院内感染対策はどうしている?/医師1,000人アンケート なお、ケアネットライブでは『アフターコロナの院内感染対策・新ルール』を6月21日(水)20時からライブ配信する。聖路加国際病院 感染管理担当の坂本 史衣氏が、最新の知見を踏まえ、今後のコロナ院内感染対策で徹底すべきこと、緩和してもよいことなど、実践例を交えながら解説する。本講義はCareNet.com会員であれば無料で視聴できる。

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日本人の炭水化物摂取量と死亡リスクは男女で逆の関係に~J-MICC研究

 これまで、炭水化物や脂質の摂取量と死亡リスクの関連を検討した研究において、一貫した結果が得られていない。そこで、田村 高志氏(名古屋大学大学院医学系研究科予防医学分野 講師)らの研究グループは、日本多施設共同コホート研究(J-MICC Study)に参加した8万1,333人を対象として、炭水化物、脂質の摂取量と死亡との長期的な関連について検討した。その結果、日本人は男性では炭水化物の摂取量が少ないと死亡リスクが高くなり、女性では炭水化物の摂取量が多いと死亡リスクが高くなる傾向がみられた。本研究結果は、The Journal of Nutrition誌オンライン版2023年6月2日号に掲載された。日本人の炭水化物摂取、男性は摂取量が少ないと死亡リスクが有意に高い 35~69歳の男性3万4,893人、女性4万6,440人(それぞれBMI値[平均値]23.7、22.2)をベースライン時(2004~14年)から2017年末または2018年末まで追跡した。食事頻度質問票を用いて炭水化物、脂質、総エネルギー摂取量を推定した。総エネルギー摂取量に占める炭水化物、脂質の割合(炭水化物エネルギー比率、脂質エネルギー比率)別に死亡リスクを評価した。リスク評価において、多変量解析により調整ハザード比(aHR)と95%信頼区間(CI)を推定した。 日本人の炭水化物、脂質の摂取量と死亡との長期的な関連について検討した主な結果は以下のとおり。・追跡期間(平均8.9年)中に、2,783人の死亡が確認された(男性1,838人、女性945人)。・男性では、炭水化物エネルギー比率が40%未満の群は、50%以上55%未満の群と比較して全死亡リスクが有意に高く(aHR:1.59、95%CI:1.19~2.12)、炭水化物エネルギー比率が低いと全死亡リスクが高くなる傾向がみられた(p for trend=0.002)。・追跡期間5年以上の女性では、炭水化物エネルギー比率が65%以上の群は、50%以上55%未満の群と比較して全死亡リスクが高い傾向にあり(HR:1.71、95%CI:0.93~3.13)、炭水化物エネルギー比率が高いと全死亡リスクが高くなる傾向がみられた(p for trend=0.005)。・男性では、脂質エネルギー比率が35%以上の群は、20%以上25%未満の群と比較してがん死亡リスクが高かった(HR:1.79、95%CI:1.11~2.90)。・女性では、脂質エネルギー比率と全死亡リスク、がん死亡リスクに逆相関の傾向がみられた(それぞれp for trend=0.054、0.058)。 著者らは、本研究結果について「男性では炭水化物の摂取量が少ない場合、女性では炭水化物の摂取量が多い場合、死亡リスクが高くなる傾向がみられた。炭水化物の摂取量が比較的多い日本人成人では、脂質の摂取量が多い女性の死亡リスクが低下する可能性がある」とまとめた。

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併存症のある患者での注意点~高齢者糖尿病診療ガイドライン2023/糖尿病学会

 5月11日~13日に城山ホテル鹿児島をメイン会場に第66回 日本糖尿病学会年次学術集会(会長:西尾 善彦氏[鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 糖尿病・内分泌内科学 教授])が「糖尿病学維新-つなぐ医療 拓く未来-」をテーマに開催された。 高齢者の糖尿病患者では、糖尿病とは別に併存症があるケースが多い。では、糖尿病以外の疾病もある高齢者の糖尿病患者の診療はどうあるべきであろう。 本稿では、「シンポジウム10 より良い高齢糖尿病ケアを目指して」より「高齢者糖尿病の合併症と併存症」(杉本 研氏 [川崎医科大学総合老年医学])の口演をお届けする。 2023年5月に『高齢者糖尿病診療ガイドライン 2023』(以下「ガイドライン」と略す)が上梓され、今回の口演は、このガイドラインの内容を踏まえて構成されている。 今回のガイドラインの改訂では、合併症と併存症につき、「併存症」が独立して章立てされた。また、併存症の予防・管理が、健康寿命の延伸には重要となることが改めて確認され、引き続き、高齢の糖尿病患者の診療では、平均余命の減少と低血糖の高リスクをどのように防止するかが重要とされている。 とくに杉本氏は「高齢者の併存疾患で注意したいのが、動脈硬化性疾患であり、高齢者のADLとQOLを大きく損ない健康寿命などに影響を与える」と診療での注意点を強調した。 続いて先のガイドライン中で「高齢者の併存疾患」を取り上げ、重要なポイントを説明した。 なお、ガイドラインでは、「CQ」と「Q」に分けて、「CQ」は「推奨度(推奨グレード)を問う疑問として回答が可能な臨床的疑問」を、「Q」は「CQ以外の臨床的疑問(推奨グレードは付さない)」について記述している。■高齢者の糖尿病治療が認知機能などの低下抑制になるかは不明 CQ V-3「高齢者糖尿病における(厳格な)血糖コントロールは認知機能低下・認知症発症の抑制に有効か?」というCQでは「血糖コントロールが認知機能低下、認知症発症予防に有効であるかについては、結論が出ていない」(推奨グレードU:推奨するだけの明確根拠がない)、「糖尿病治療薬による治療が認知機能低下、認知症発症予防に有効であるかについては、結論が出ていない」(推奨グレードU)として研究の余地を残している。 Q V-4「高齢者糖尿病の高血糖はフレイル、サルコペニアの危険因子か?」というQでは「高齢者糖尿病または高血糖は、フレイル、サルコペニアの危険因子である」とされ、これについて杉本氏は「8つのメタ解析から糖尿病はフレイルの危険因子となり(オッズ比1.48)1)、サルコぺニアはBMI25以下で増加する」と説明した。 同様にQ V-5「高齢者糖尿病のHbA1c低値または低血糖はフレイル、サルコペニアの危険因子か?」というQでは「高齢者糖尿病のHbA1c低値または低血糖はフレイル、サルコぺニアに危険因子である」としている。 Q V-6「高齢者糖尿病における血糖コントロールは筋量や筋力の維持に有効か?」というQでは「高齢者糖尿病の血糖コントロールが筋量や筋力の維持に有効かは明らかではない」としている。ただ、HbA1cとサルコぺニアの関係では、いくつかの論文で弱い相関を示唆するものもあり、今後研究が待たれる。また、薬物治療の影響については、フレイルとSGLT2阻害薬との関係は「現状では『明らかでない』としか言えない」と杉本氏は説明した。 Q V-8「高齢者糖尿病の高血糖または低血糖は転倒の危険因子か?」というQでは「高齢者糖尿病の高血糖または低血糖は転倒の危険因子であり、インスリン使用者ではとくに注意を要する」と転倒への注意を記載している。 Q V-9「高齢者糖尿病における血糖コントロールは転倒の予防に有用か?」というQでは「高齢者糖尿病における血糖コントロール状態は転倒に影響するが、厳格な血糖コントロールの影響は明らかではない」、「高齢者糖尿病における血糖コントロールの改善が転倒の予防に有用であるかは不明である」と研究の余地を残している。■高齢者糖尿病の心不全の予防・改善に糖尿病治療薬は有効か 悪性腫瘍や心不全、multimorbidity(多疾患罹患)についても触れ、とくに心不全、multimorbidityでは次の3つのQについて説明を行った。 Q V-16「高齢者糖尿病において糖尿病治療薬は心不全の予防・改善に有効か?」というQでは、「高齢者糖尿病においてSGLT2阻害薬は心不全の予防・改善に有効な可能性がある」とする一方で「高齢者糖尿病においてDPP-4阻害薬が心不全リスクに及ぼす影響は明らかではない」と記載している。 そして、このQに関して杉本氏は、SGLT2阻害薬による心不全への影響は70歳以上でより良かったとする報告2)がある一方で、有意なBNPの低下がなかったとする報告もある3)ことを述べ、自験例としながらもSGLT2阻害薬で左室心筋重量係数(LVMI)の低下がみられたことを報告した。 Q V-18「高齢者糖尿病はmultimorbidityとなりやすいか?」というQでは、「高齢者糖尿病はmultimorbidityとなりやすい」と記載している。 また、Q V-19「高齢者糖尿病のmultimorbidityではどのような点に注意すべきか?」というQでは「高齢者糖尿病のmultimorbidityにどのような対応を行うべきかのエビデンスは不足しているが、低血糖に注意し、多職種で患者・家族の意思決定の支援をしながら目標を設定していくことが望ましい」と記載している。 今回のガイドラインを受け杉本氏は75歳以上では4つ以上の疾患の合併割合が多くなること、とくに認知症、腎機能不全、骨折が多くなることを指摘するとともに、「重症低血糖では、糖尿病治療薬もインスリンやSU薬など3剤以上の併用も多くなり、ポリファーマシーへの配慮も必要」と述べ、口演を終えた。■参考文献1)Hanlon P, et al. Lancet Healthy Longev. 2020 Dec;1:e106-e116.2)Martinez FA, et al. Circulation. 2020;141:100-111.3)Tamaki S, et al. Circ Heart Fail. 2021;14:e007048.

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薬、運動、食事―減量に最も効果的なのはどれ?

 流行のダイエット法や薬剤は、持続的な減量を保証するものではないとする研究結果が発表された。それらによらずに、健康的な食生活を送り習慣的な運動をしている人が、より良好に体重を維持しているという。米オハイオ州立大学のColleen Spees氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of the American Heart Association」に4月7日掲載された。 現在、米国では数多くの人々がGLP-1受容体作動薬の処方を求めたり、断続的断食などの新しい食事療法を始めたりしている。しかし、それらの方法は、良好な体重管理を維持する近道ではない可能性が、解析対象2万人以上の研究の結果として示された。Spees氏は、「ほとんどの人は成人後の数十年をかけてゆっくりと体重が増えていくにもかかわらず、体重を減らそうとするときはしばしば大胆で危険な手段に頼ろうとする。ソーシャルメディア上のインフルエンサーや人気タレントの影響力が大きく、エビデンスに基づいていない減量法を始める人が増加している」としている。 同氏によると、例えば米食品医薬品局(FDA)はGLP-1受容体作動薬(オゼンピック)の減量目的での使用を、肥満に伴う合併症のある場合にのみ承認しているにもかかわらず、糖尿病や肥満関連合併症のない人も使用しているのが実情だとのことだ。同氏は、「GLP-1受容体作動薬の使用を中止すると、使用中に減少した体重が元に戻り、食欲も元に戻る」との解説を付け加えている。 今回のSpees氏らの研究では、2007~2016年の米国国民健康栄養調査に参加した19歳以上の成人2万305人のデータが用いられた。過去12カ月間に、意図的に5%以上の減量を達成していた群2,840人と、その他の群1万7,465人とに二分して、生活習慣や行っている体重管理法などを比較した。その結果、5%以上の減量を達成していた群は、食事の質(P=0.014)、身体活動(P<0.001)、および血清脂質(P<0.001)の指標が、対照群より有意に優れていた。また、対照群は、食事を抜いたり(P=0.002)、減量目的で薬剤を使用している(P<0.001)人の割合が有意に高かった。 Spees氏は、「健康目的で減量を試みようとしている人に対して強調したいことは、たとえ小さな行動の変化であっても、臨床的に意味のある改善をもたらす可能性があるということだ。多くの場合、著しい減量を目指すのではなく、わずか5%ほど減らすことを目標に掲げた方が現実的ではないか」と述べている。 この研究結果は「減量に近道はない」ということを示しているが、本研究に関与していない複数の専門家が、そのような考え方に同意を示している。その1人でワシントンDCにある体重・ウェルネスセンターの所長であるScott Kahan氏は、「多くの人々が、健康的とは言えない流行の減量法に取り組んでいる。それらの中には効果が実証されておらず、危険な方法も存在するという現状を改める必要がある」と語っている。 また、ニューヨークで活動している管理栄養士のRobin Foroutan氏は、「万能の減量法などない」と述べた上で、「今回の報告により、体重管理に成功している人は総じて食事の質が良く、習慣的な運動を行っていることが示された。ただし、果物や野菜の摂取量に関しては、どちらの群にも改善の余地がある」と指摘している。なお同氏は、「このような研究からは実際のところ、どの食品が最も健康に良いのかという情報はあまり得られない。しかしその一方で、健康と長寿に対する運動の重要性は明らかに示されている」と話している。[2023年4月7日/American Heart Association] Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.利用規定はこちら

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加糖飲料の多飲は2型DM患者の死亡・心血管病リスクを増加させるとの警鐘に耳を傾けよう!―(解説:島田俊夫氏)

 一般集団においての加糖飲料の過剰摂取が、がん、心血管病リスクおよび死亡を高めるとの報告も数多くみられる1)。米国・ハーバード大学公衆衛生大学院のLe Ma氏らが、2つの大規模前向きコホート試験、Nurses’ Health Study (女性看護師が対象:年齢30~55歳)とHealth Professionals Follow-up Study(男性医療従事者が対象:年齢40~75歳)の参加者中、ベースラインおよび追跡期間中に2型DMと診断された男女1万5,486例を対象に、飲料別摂取と死亡およびCVD(Coronary Vascular Disease:心血管病)アウトカムの関連を調査し、飲料摂取量については食品摂取頻度質問票を使って評価し、2~4年ごとに更新された情報を加味して解析を行った。 この研究は1次アウトカムを全死因死亡、2次アウトカムをCVD発症および死亡に設定していた。この研究成果の要約 加糖飲料の多飲が死亡リスクを増加させ、平均追跡期間18.5年で、CVDの発症は3,477例(22.3%)、死亡は7,638例(49.3%)と報告された。多変量調整後、各種飲料摂取量の5分類中、最高量群の最低量群に対する死亡のプール解析ハザード比(HR)は、加糖飲料に関しては、HRは1.20(95%CI:1.04~1.37)と増加した。他方、コーヒー、低脂肪乳に関しては摂取量とリスクは逆相関(死亡ハザード比の低下)が認められた。 2型DM確定後にコーヒーの摂取量増加者では非増加者に対して、全死因死亡の低下が観察された。同様の関連性が紅茶と低脂肪乳についてもみられた。 さらに、加糖飲料から人工甘味料入り飲料への変更で、全死因死亡とCVD死の有意な低下が認められた。加糖飲料、フルーツジュース、全脂肪乳からコーヒー、紅茶、真水への変更に関しても全死因死亡の低下が一貫して認められた。コメント 2型DM患者での加糖飲料の多飲は全死因死亡、CVD発症および死亡を増加させるため、甘さの誘惑に負けることなく、加糖飲料の摂取には細心の注意を払うことが命を守る最善の策であり、加糖飲料は極力避け、健康人においてさえもこの考えに従うことを勧めたい。 加糖飲料は2型DM患者においては高血糖を生じやすく、糖質の高い果物ジュースも同様の危険を有すると考えるべきです。人工甘味料に関しては安全性に関して今のところ砂糖に比べ約数百から数千倍の甘みがあるため、少量の使用で済むことを考慮すれば懸念は小さいと考えられるが、安全性が担保されているわけではない2)。さらに、カロリーゼロだということで大量に使用する場合の安全性には疑問点もあり、安易に飛びつくことは避けるべきと考える。 加糖飲料はCVDリスク、全死因死亡、がんリスクを高める事実を真摯に受け止め、加糖飲料の摂取を極力控えることが、2型DM患者はもちろん、健康人にとってもリスク軽減につながると考える。

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末梢性めまいで“最も頻度の高い”良性発作性頭位めまい症、BPPV診療ガイドライン改訂

 『良性発作性頭位めまい症(BPPV)診療ガイドライン』の初版が2009年に発刊されて以来、15年ぶりとなる改訂が行われた。今回、BPPV診療ガイドラインの作成委員長を務めた今井 貴夫氏(ベルランド総合病院)に専門医が押さえておくべきClinical Question(CQ)やBPPV診療ガイドラインでは触れられていない一般内科医が良性発作性頭位めまい症(benign paroxysmal positional vertigo)を疑う際に役立つ方法などについて話を聞いた。BPPVは末梢性めまいのなかで最も頻度が高い疾患 BPPVは末梢性めまいのなかで最も頻度が高い疾患である。治療法は確立しており予後は良好であるが、日常動作によって強いめまいが発現したり、症状が週単位で持続したりする点で患者を不安に追い込むことがある。また、BPPVはCa代謝の異常により耳石器の耳石膜から耳石がはがれやすくなって症状が出現することから、加齢(50代~)、骨粗鬆症のようなCa代謝異常が生じる疾患への罹患、高血圧、高脂血症、喫煙、肥満、脳卒中、片頭痛などの既往により好発するため、さまざまな診療科の医師による理解が必要になる。 よって、BPPV診療ガイドラインは耳鼻咽喉科や神経内科などめまいを扱う医療者向けにMinds診療ガイドライン作成マニュアルに準拠し作成されているが、BPPVの疫学(p.20)や鑑別診断(p.25~27)はぜひ多くの医師に一読いただきたい。 以下、BPPV診療ガイドラインの治療に関する全10項目のCQを示す。―――CQ1:後半規管型BPPVに耳石置換法は有効か?CQ2:後半規管型BPPVに対する耳石置換術中に乳突部バイブレーションを併用すると効果が高いか?CQ3:後半規管型BPPVに対する耳石置換法後に頭部の運動制限を行うと効果が高いか?CQ4:外側半規管型BPPV(半規管結石症)に耳石置換法は有効か?CQ5:外側半規管型BPPV(クプラ結石症)に耳石置換法は有効か?CQ6:BPPVは自然治癒するので経過観察のみでもよいか?CQ7:BPPV発症のリスクファクターは?CQ8:BPPVの再発率と再発防止法は?CQ9:BPPVに半規管遮断術は有効か?CQ10:BPPVに薬物治療は有効か?――― 今回、今井氏は「めまい診療を行う医師にはCQ5とCQ8に目を通して欲しい」と述べており、その理由として「両者に共通するのは、諸外国では積極的に行われているにもかかわらず日本ではまだ実績が少ない治療法という点」と話した。「たとえば、CQ8のBPPVの再発防止については、ビタミンDとカルシウム摂取が有効であると報告されているが、国内でのエビデンスがないため推奨度は低く設定された。次回のBPPV診療ガイドライン改訂までにエビデンスが得られ、推奨度が高くなることを期待する」とも話した。BPPVと鑑別すべきめまいを伴う疾患 めまいを伴う疾患はBPPVのほか、脳卒中やメニエール病をはじめ、前庭神経炎、めまいを伴う突発性難聴、起立性調節障害、起立性低血圧が挙げられる。とくに起立性低血圧はBPPVの34%で合併しており鑑別が困難であるので注意したい。なお、めまいの訴えが初回で単発性の場合、高血圧・心疾患・糖尿病が既往にある患者では脳卒中も鑑別診断に挙げるべきである。BPPVを疑う鍵は「めまいが5分以内で治まる」か否か BPPVの確定診断のためには特異的な“眼振”を確認することが必要であるので、フレンツェル眼鏡や赤外線CCDカメラといった特殊機材を有している施設でしか診断できないが、同氏は「BPPV診療ガイドラインには掲載されていないが、非専門医でもBPPVを疑うことは可能」とコメントしている。「眼振が確認できない施設では、われわれが開発した採点システム1)を用いて患者の症状をスコア化し、合計2点以上であればBPPVを疑って専門医に紹介して欲しい」と説明した。 本採点システムを開発するにあたり、同氏らは大阪大学医学部附属病院の耳鼻咽喉科およびその関連病院のめまい患者571例を対象に共通の問診を行い、χ2検定を実施。BPPV患者とそれ以外の患者で答えに有意差のあった問診項目を10個抽出した。同氏はこれについて「10個の項目に0~10点を付け、患者の答えから求めた合計点によりBPPVか否かを判断した際、感度、特異度の和が最も高くなるように点数を決定し、0点の項目を除外すると最終的に4項目に絞ることができた。なかでも“めまいが5分以内で治まる”は点数が2点と高く、BPPV診断で最も重要な問診項目であることも示された」と説明した。なお、本採点システムによる BPPVの診断の感度は81%、特異度は69%だった。 以下より、そのツールを基にケアネットで作成した患者向けスライドをダウンロードできるので、非専門医の方にはぜひ利用して欲しい。『良性発作性頭位めまい症の判別ツール』(患者向け説明スライド) なお、CareNeTVでは『ガイドラインから学ぶ良性発作性頭位めまい症(BPPV)診療のポイント』を配信中。話術でも定評のある新井 基洋氏(横浜市立みなと赤十字病院めまい平衡神経科 部長)が改訂BPPV診療ガイドラインを基に豊富な写真・イラストや動画を用いて解説している。

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LDL-Cが高い人ほど心筋梗塞の予後良好!? 

 低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)高値であると、冠動脈疾患(CVD)の発症や死亡のリスクが高いことが知られている。しかし、急性冠症候群患者のLDL-C低値が死亡リスクを上昇させることを示唆する観察研究の結果が複数報告されており1-4)、「LDL-Cパラドックス」と呼ばれている。そこで、スウェーデン・ウプサラ大学のJessica Schubert氏らの研究グループは、初発の心筋梗塞で入院した患者のうち、スタチン未使用であった6万3,168例を対象としたデータベース研究を実施した。その結果、LDL-C高値の患者は死亡リスクが低く、非心血管疾患による入院リスクも低かった。本研究結果は、Journal of Internal Medicine誌オンライン版2023年5月31日号に掲載された。LDL-C値が低い群ほど心筋梗塞入院後の死亡率が高かった 研究グループは、心筋梗塞疑いで専門施設に入院した患者を登録したスウェーデンのデータベース(SWEDEHEART)を用いて、2006年1月~2016年12月に初発の心筋梗塞で入院した18歳以上の患者のうち、スタチン未使用であった6万3,168例を対象とした観察研究を実施した。対象患者は、ベースライン時のLDL-C値(mmol/L)で四分位に分類された(Q1:2.4以下、Q2:2.4超~3.0、Q3:3.0超~3.6、Q4:3.6超)。主要評価項目は全死亡率、非致死的心筋梗塞の再発率であった。LDL-Cとは無関係とされる非心血管疾患(肺炎、大腿骨近位部骨折、慢性閉塞性肺疾患[COPD]、新規がん診断)による入院についても検討した。LDL-C値と転帰の関連はCox比例ハザードモデルを用いて評価した。 心筋梗塞で入院した患者のLDL-C値についての観察研究の主な結果は以下のとおり。・心筋梗塞で入院した対象患者のベースライン時の年齢中央値は66歳、LDL-C中央値は3.0mmol/L(約116.1mg/dL)であり、LDL-C値が低いほど患者の年齢と併存疾患が増加した。・追跡期間(中央値:4.5年)中に1万236例が死亡し、4,973例に非致死的心筋梗塞の再発が認められた。・全死亡率(/1000人年)は、ベースライン時のLDL-C値が低い群ほど高く(Q1:56、Q2:35、Q3:26、Q4:20)、ベースライン時のLDL-C値が最も高い(Q4)群は最も低い(Q1)群と比較して、全死亡リスクが低かった(ハザード比[HR]:0.75、95%信頼区間[CI]:0.71~0.80)。・一方、ベースライン時のLDL-C値が最も高い(Q4)群は最も低い(Q1)群と比較して、非致死的心筋梗塞の再発リスクが高かった(HR:1.16、95%CI:1.07~1.26)。・ベースライン時のLDL-C値が最も高い(Q4)群は最も低い(Q1)群と比較して、肺炎、大腿骨近位部骨折、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、新規がん診断による入院のリスクがいずれも低かった(それぞれ、HR[95%CI]:0.54[0.46~0.62]、0.69[0.55~0.87]、0.40[0.31~0.50]、0.81[0.71~0.93])。・退院時にスタチンを使用していなかった患者の50%が追跡終了前に死亡した。全死亡患者の47%は、死亡前6ヵ月間にスタチンが処方されていなかった。・ベースライン時のLDL-C値が中央値以下の集団において、退院後6~10週後のLDL-C値の変化量で四分位に分類した結果、最もLDL-C値が低下した群において、全死亡率と致死的心筋梗塞の再発率が低かった。 本研究結果について、著者らは「LDL-C低値にもかかわらず心筋梗塞を発症した患者には、動脈硬化性CVDを促進するほかの要因が存在することが示唆される。これは、心筋梗塞発症時のLDL-C値にかかわらず、脂質低下療法を継続することの重要性を強調するものである。とくに心筋梗塞発症時にLDL-C低値で未治療である場合には、過少治療のリスクが高まる可能性があるため、非常に重要である」と考察している。

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英語で「利益が不利益を上回る」は?【1分★医療英語】第84回

第84回 英語で「利益が不利益を上回る」は?I feel my new medication is causing lots of problems. Can we stop it?(私の新しく始めた薬は問題が大きいように感じます。服用を中止してもよいですか?)I understand that this medication has side effects, but I still believe the benefits outweigh the harm.(この薬に副作用があることは理解しています。それでも、利益が不利益を上回っていると信じています)《例文1》We should continue this therapy as long as the benefits outweigh the harm.(利益が不利益を上回っている限りは、この治療を続けるべきです)《例文2》Unfortunately, the potential benefits do not seem to outweigh the obvious risks for that alternative medicine.(残念ながら、その代替療法の潜在的な利益は、明らかである不利益を上回らないと思います)《解説》“the benefits outweigh the harm”(利益が不利益を上回る)というこの表現は、さまざまな場面で頻用できて便利です。とくに医療現場では、利益と不利益を天秤にかけて議論する場面が多くあります。“the benefits outweigh the risks”も同様の文脈で頻用します。元になっている動詞は、“重さを測る”という意味の“weigh”(wayと同じ発音)であり、“outweight”ではないことに注意が必要です。同様に、“weigh the benefits and harms”もしくは、“weigh the risk-benefit balance”などのようにも言い換えられます。講師紹介

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