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経済的発展に関連する肥満では食事摂取量が大きな役割を担う

 肥満の原因は、さまざまな要因が指摘されている。中でも摂取エネルギーの過剰と運動不足では、どちらが肥満を起こす原因として重視しなければいけないのか、まだ結論は出ていない。この課題について米国デューク大学進化人類学科のAmanda McGrosky氏らの研究グループは、一定の生活様式と経済水準を有する約4,000例の成人について、エネルギー消費量と肥満の2つの指標を分析した。その結果、経済的発展に関連する肥満では、エネルギー消費量の減少よりも食事摂取量がはるかに大きな役割を果たしていたことがわかった。この結果は、Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America誌2025年7月22日号に掲載された。経済的発展は、体格、BMI、体脂肪率の増加と関連 研究グループは、6大陸34集団から4,213例の成人を対象に、狩猟採集民、遊牧民、農耕民、工業化社会など、さまざまな生活様式と経済水準を有する集団で、エネルギー消費量と肥満の2つの指標(体脂肪率とBMI)を分析した。 主な結果は以下のとおり。・経済的発展は、体格、BMI、体脂肪率の増加と正の関連を示したが、同時に総エネルギー消費量、基礎代謝量、活動エネルギー消費量も増加していた。・体格調整後の総エネルギー消費量と基礎代謝エネルギー消費量は、経済的発展の進展に伴い約6~11%減少していたが、集団間で大きく変動し、生活様式と密接に対応はしていなかった。・体格調整後の総エネルギー消費量は、肥満の指標と負の相関を示したが、その関連性は弱く、経済的発展に伴う体脂肪率とBMI上昇の約10分の1を占めていた。・推定エネルギー摂取量は、経済的発展をした集団で高く、データ利用が可能な集団(n=25)では、食事中の超加工食品の割合が体脂肪率と関連し、経済的発展に関連する肥満において、エネルギー消費量の減少よりも食事摂取量がはるかに大きな役割を果たしていることが示唆された。

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腰痛の重症度に意外な因子が関連~日本人データ

 主要な生活習慣関連因子と腰痛の重症度・慢性度との関連について、藤田医科大学の川端 走野氏らが日本の成人の全国代表サンプルで調査したところ、脂質異常症が腰痛重症度に関連し、喫煙が腰痛の重症度および慢性度の両方に関連していることが示された。PLoS One誌2025年7月30日号に掲載。 本研究では、無作為に抽出した20~90歳の日本人5,000人を対象に全国横断調査を実施。2,188人から有効回答を得た。現在の腰痛の有無、腰痛の重症度(痛みなし/軽度または中等度/重度)、慢性腰痛の有無により層別解析を行った。主な生活習慣関連因子は、BMI、飲酒、喫煙、運動習慣、併存疾患(脂質異常症、糖尿病、高血圧)、体型に関する自己イメージなどで、多変量ロジスティック回帰分析により各因子との関連の有無を評価した。 主な結果は以下のとおり。・現在腰痛ありは、BMI(オッズ比[OR]:1.04、95%信頼区間[CI]:1.00~1.07)、飲酒(OR:1.37、95%CI:1.04~1.80)、喫煙(OR:1.63、95%CI:1.21~2.20)、脂質異常症(OR:1.51、95%CI:1.06~2.13)と関連していた。・腰痛の重症度は、喫煙(OR:1.77、95%CI:1.19~2.64)、運動不足(OR:1.55、95%CI:1.10~2.15)、脂質異常症(OR:1.64、95%CI:1.06~2.55)と関連していた。・慢性腰痛ありは、喫煙(OR:1.70、95%CI:1.23~2.34)のみ有意に関連していた。

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ジャガイモ、調理法によって糖尿病リスクに違い/BMJ

 ジャガイモの摂取と2型糖尿病のリスクとの関連について、フライドポテトの摂取量の多さは2型糖尿病のリスク増加と関連していたが、ベイクドポテト・ボイルドポテト・マッシュポテトを組み合わせた場合は関連していなかった。また、ジャガイモを全粒穀物に置き換えるとリスクが低下する一方、白米に置き換えるとリスクが増加したという。米国・Harvard T.H. Chan School of Public HealthのSeyed Mohammad Mousavi氏らが、同国の看護師および医療従事者を対象とした大規模前向きコホート研究等のデータを用いて行った解析の結果を報告した。BMJ誌2025年8月6日号掲載の報告。米国NHS、NHS II、HPFSのデータを解析 研究グループは、米国で行われている3つの前向きコホート研究、Nurses' Health Study(NHS)の1984~2020年、Nurses' Health Study II(NHS II)の1991~2021年、Health Professionals Follow-Up Study(HPFS)の1986~2018年のデータを用い、ベースラインで糖尿病、心血管疾患またはがんの既往がない男女合計20万5,107例を対象として、ジャガイモの摂取と2型糖尿病発症との関連について解析した。 ジャガイモの摂取は2~4年ごとの食物摂取頻度調査票(FFQ)、2型糖尿病の発症は2年ごとの質問票から得た自己報告による疾患の診断、リスク因子、薬剤の使用および生活習慣については情報を収集する質問票を用いて評価した。 ジャガイモの摂取と2型糖尿病発症との関連は、ジャガイモの総摂取量ならびに摂取形態(ベイクドポテト・ボイルドポテト・マッシュポテトの組み合わせ、フライドポテト、ポテト/コーンチップ)別に、多変量Cox比例ハザードモデルを用いて解析した。フライドポテトを全粒穀物に置き換えるとリスクは低下 追跡期間517万5,501人年において、2型糖尿病の新規診断が2万2,299例確認された。最新のBMI値およびその他の糖尿病関連リスク因子で調整後、ジャガイモ総摂取量ならびにフライドポテト摂取量の多さは2型糖尿病のリスク増加と関連することが示された。総摂取量が3サービング/週増加するごとに2型糖尿病発症リスクは5%(ハザード比[HR]:1.05、95%信頼区間[CI]:1.02~1.08)、フライドポテトが3サービング/週増加するごとに20%(1.20、1.12~1.28)それぞれ増加した。一方、ベイクドポテト・ボイルドポテト・マッシュポテトの組み合わせ(統合HR:1.01、95%CI:0.98~1.05)およびポテト/コーンチップ(1.02、0.98~1.06)の摂取量3サービング/週増加は、2型糖尿病との有意な関連は認められなかった。 置換解析の結果、ジャガイモ3サービング/週を全粒穀物に置き換えると、2型糖尿病発症率がジャガイモ全体で8%(95%CI:5~11)、ベイクドポテト・ボイルドポテト・マッシュポテトの組み合わせでは4%(1~8)、フライドポテトでは19%(14~25)低下すると推定された。一方、白米に置き換えると、ジャガイモ全体、またはベイクドポテト・ボイルドポテト・マッシュポテトの組み合わせで2型糖尿病の発症リスク増加がみられた。 なお、本研究の3コホートと、PubMed/Medline、ISI Web of ScienceおよびEmbaseを用いて特定したジャガイモの摂取量と2型糖尿病との関連に関するコホート研究の合計13コホート(合計58万7,081例、2型糖尿病診断4万3,471例)を対象としたメタ解析の結果、3サービング/週増加ごとの2型糖尿病発症リスクの統合HRは、ジャガイモ全体で1.03(95%CI:1.02~1.05)、フライドポテトで1.16(1.09~1.23)であり、置換メタ解析では、ジャガイモ全体、非フライドポテト、フライドポテトの3サービング/週を全粒穀物に置き換えると、2型糖尿病のリスクがそれぞれ7%(95%CI:5~9)、5%(3~7)、17%(12~22)低下すると推定された。

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糖尿病女性の診察では毎回、妊娠希望の意思確認を

 糖尿病既往のある女性の妊娠に関する、米国内分泌学会と欧州内分泌学会の共同ガイドラインが、「The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism」に7月13日掲載された。糖尿病女性患者には、診察の都度、子どもをもうけたいかどうかを尋ねるべきだとしているほか、妊娠前のGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)の使用中止などを推奨している。 ガイドラインの筆頭著者である米ミシガン大学アナーバー校のJennifer Wyckoff氏はガイドライン策定の目的を、「生殖年齢の女性の糖尿病有病率が上昇している一方で、適切な妊娠前ケアを受けている糖尿病女性はごくわずかであるため」とした上で、「本ガイドラインは、計画的な妊娠の方法に加え、糖尿病治療テクノロジーの進歩、出産の時期、治療薬、食事・栄養についても言及したものだ」と特色を強調している。 ガイドラインの推奨には、以下のような内容が含まれている。・出産可能年齢の糖尿病女性全員に妊娠の意思があるかどうかを尋ねる。・糖尿病妊婦では妊娠継続に伴うリスクが早産に伴うリスクを上回ることがあるため、39週より前に出産を計画する。・妊娠前にGLP-1RAの使用を中止する。・すでにインスリンを使用している妊婦では、メトホルミンの使用を避ける。・1型糖尿病の妊婦には、連続血糖測定(CGM)機能を備えたハイブリッド・クローズドループのインスリンポンプを使用する。アルゴリズムを利用していないCGM対応インスリンポンプや、CGMに基づく頻回のインスリン注射は推奨しない。・2型糖尿病の妊婦には、CGMまたは血糖自己測定(SMBG)のいずれかの使用を推奨する。・糖尿病の女性が妊娠を希望する場合、妊娠の準備が整うまでは避妊を継続する。 著者の1人であるパドヴァ大学(イタリア)のAnnunziata Lapolla氏は、「われわれはランダム化比較試験から得られたエビテンスに基づいて、これらの推奨事項を策定した。現在、世界中で肥満に関連する2型糖尿病が増加し、2型糖尿病を持つ妊婦が増加しているが、本ガイドラインの推奨事項は、そのような女性に対する適切な栄養と治療アプローチに関する課題にも対処している」と述べている。 なお、本ガイドラインの策定には、前記2団体のほかに、米国糖尿病学会、米国産科婦人科学会、母体胎児医学会、国際糖尿病・妊娠研究グループ、欧州糖尿病学会、糖尿病ケア・教育専門家協会、米国薬剤師会などが関与した。

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生存時間分析 その3【「実践的」臨床研究入門】第57回

Cox比例ハザード回帰モデルによる交絡因子の調整前回まで、Cox比例ハザード回帰モデルの基本的な考え方を説明しました。今回は、Cox比例ハザード回帰モデルによる交絡因子(連載第45回参照)の調整について、前回に引き続き筆者らが出版した実際の臨床研究論文1)のリサーチ・クエスチョン(RQ)を例にして解説します。Cox比例ハザード回帰モデルは、イベント発生までの時間(生存時間)に対する多変量解析手法です(連載第50回参照)。このモデルにより、特定の要因がハザード(ある瞬間におけるイベント発生のリスク、すなわち瞬間的なイベント発生率)に与える影響を評価できます(連載第55回参照)。Cox比例ハザード回帰モデルの基本的な形は以下のような積(かけ算)の式で表されます(連載第56回参照)。h(t|X)=h0(t)×exp(β1X1+β2X2・・・+βnXn)h(t|X):特定の説明変数のセットXを持つ個体の時点tにおけるハザードh0(t):基準ハザード関数X1、X2、…、Xn:交絡因子を含む説明変数β1、β2、…、βn:各説明変数に対応する回帰係数上記のように、Cox比例ハザード回帰モデルを用いた交絡因子の調整は、回帰モデルの式に交絡因子を説明変数として含めることで行われます。たとえば、事例論文1)の要因である透析導入前腎専門医診療(Pre-Nephrology Visit:PNV)の有無という変数X1が透析導入後早期(1年以内)の死亡のハザード(アウトカム)に与える影響を評価する際に、糖尿病(DM)の有無(X2)が交絡因子であるとします。この場合、回帰モデルの式は以下のようになります。h(t|X1、X2)=h0(t)×exp(β1X1)×exp(β2X2)=h0(t)×exp(β1X1+β2X2)X1:PNVの有無(あり=1、なし=0)X2:DMの有無(あり=1、なし=0)この回帰モデルでは、回帰係数β1は、DMの有無(X2)の効果であるexp(β2X2)を調整したうえでの、PNVの有無(X1)がハザードに与える影響を推定します(連載第55回、第56回参照)。DMという交絡因子の影響を取り除いたPNVの調整ハザード比(adjusted hazard ratio:aHR)は exp(β1)となります。事例論文1)では、交絡因子として、年齢、性別、血液検査データ(ヘモグロビンや血清アルブミンなど)やDMを含む14の並存疾患などの要因を交絡因子として調整したと記載されています。したがって、この研究で実際に使用されたCox比例ハザード回帰モデルの簡略化された概念的な式は、以下のようになります。h(t|PNV、Age、Sex、…、DM)=h0(t)×exp(βPNV・PNV+βAge・Age+βSex・Sex+・・・+βDM・DM)βPNVの指数変換 exp(βPNV)がPNVのaHRとなり、事例論文1)で点推定値は0.57と報告されています 。95%信頼区間(95%confidence interval:95%CI)は0.50〜0.66と1をまたいでおらず、p<0.0001と統計学的にも有意差を認めました。これは、すべての交絡因子を統計的に調整した後でも、PNVを受けた患者群はPNVを受けなかった患者群と比較して、透析導入後早期(1年以内)死亡のリスクが43%低いことを意味します(1-0.57=0.43)。腎臓内科医の存在意義? の1つを示す解析結果を出せた、と安堵しました。1)Hasegawa T et al. Clin J Am Soc Nephrol. 2009;4:595-602.

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卵は本当にLDL-C値を上げるのか

 朝食の定番である卵は、コレステロール値を上昇させ、心臓病のリスクを高めると一般的に考えられている。しかし、卵に関する新たな研究で、1日に2個の卵と飽和脂肪酸の少ない食事を組み合わせて摂取した人では、悪玉コレステロールとも呼ばれるLDLコレステロール(LDL-C)値が低下し、心血管疾患の発症リスクが低下する可能性のあることが示された。その一方で、飽和脂肪酸はLDL-C値を上げる傾向があることも判明した。南オーストラリア大学のJonathan Buckley氏らによるこの研究結果は、「The American Journal of Clinical Nutrition」7月号で報告された。 Buckley氏は、「われわれは、固ゆで卵のような厳格なエビデンスをもって、謙虚な卵の名誉を守ったと言えるだろう。朝食の中で心臓の健康に悪影響を与える可能性が高いのは、卵ではなくベーコンやソーセージなのだ」と話している。 卵は、コレステロールを多く含む一方で飽和脂肪酸の含有量は少ないという点でユニークな食品だとBuckley氏は話す。同氏は、「それにもかかわらず、そのコレステロール値の高さから、健康的な食生活における卵の位置付けについて疑問を抱く人が多い」と指摘する。米クリーブランド・クリニックによると、LDL-C値が100mg/dLを超えると心臓病のリスクがあり、160mg/dL以上になると「高リスク」とされる。LDL-Cが高くなると、動脈内にプラークが形成されやすくなり、心筋梗塞や脳卒中の原因となる。 今回の研究でBuckley氏らは、LDL-C値が3.5mmol/L(135.35mg/dL)未満の成人61人(平均年齢39±12歳)を対象にランダム化クロスオーバー試験を実施し、食事由来のコレステロールおよび飽和脂肪酸がLDL-C値に与える影響を検討した。対象者は、5週間ずつ以下の3種類の食事法を実践した。すなわち、コレステロールは多め(600mg/日、卵2個/日を含む)、飽和脂肪酸は少なめ(エネルギー比率6%)に摂取する群(卵摂取群)、卵は摂取せずコレステロールは少なめ(300mg/日)、飽和脂肪酸は多め(エネルギー比率12%)に摂取する群(卵なし群)、コレステロールも(600mg/日、卵1個/週を含む)飽和脂肪酸(エネルギー比率12%)も多めに摂取する群(対照群)である。48人が3種類の食事法の全てを完了した。各食事法の完了後に血液サンプルを採取し、それぞれの食事法がLDL-Cに与える影響を調べた。 その結果、卵摂取群では対照群と比較してLDL-C値が有意に低いことが示された(103.6±3.1mg/dL対109.3±3.1mg/dL、P=0.002)。これに対し、卵なし群(107.7±3.1mg/dL)と対照群との差は統計学的に有意ではなかった(P=0.52)。一方、全ての食事法において、飽和脂肪酸の摂取量はLDL-C値と有意に正の相関を示したのに対し、食事性コレステロールの摂取量とLDL-C値との間に有意な関連は認められなかった。 研究グループは、「これまで、西洋式の食事に典型的な高コレステロール・高飽和脂肪酸の食事の影響を、高コレステロール・低飽和脂肪酸の食事や低コレステロール・高飽和脂肪酸の食事の影響と直接比較した研究は存在しなかった」と指摘する。Buckley氏は、「この研究では、コレステロールと飽和脂肪酸の影響を分けて調べ、飽和脂肪酸の少ない食事の一部として卵を摂取した場合には、LDL-C値を上昇させないことを示した。LDL-C値上昇の真の原因は飽和脂肪酸なのだ」と述べている。

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高齢てんかん患者では睡眠不足が全死亡リスクを押し上げる

 睡眠不足が健康に悪影響を及ぼすとするエビデンスの蓄積とともに近年、睡眠衛生は公衆衛生上の主要な課題の一つとなっている。しかし、睡眠不足がてんかん患者に与える長期的な影響は明らかでない。米ウォールデン大学のSrikanta Banerjee氏らは、米国国民健康面接調査(NHIS)と死亡統計データをリンクさせ、高齢てんかん患者の睡眠不足が全死亡リスクに及ぼす影響を検討。結果の詳細が「Healthcare」に4月23日掲載された。 2008~2018年のNHISに参加し、2019年末までの死亡記録を追跡し得た65歳以上の高齢者、1万7,319人を解析対象とした。このうち245人が、医療専門家からてんかんと言われた経験があり、てんかんを有する人(PWE)と定義された。 PWE群と非PWE群を比較すると、性別の分布(全体の39.2%が男性)や高血圧・糖尿病の割合は有意差がなかった。ただし年齢はPWE群の方が若年で(73.3±0.48対74.6±0.08歳)、現喫煙者・元喫煙者、肥満、慢性腎臓病(CKD)、心血管疾患(CVD)が多く、貧困世帯の割合が高いなどの有意差が見られた。睡眠時間については6時間未満、6~8時間、8時間以上に分類した場合、その分布に有意差はなかった。なお、以降の解析では睡眠時間7時間未満を睡眠不足と定義している。 平均4.8年の追跡期間中の死亡率は全体で37.3%、PWE群では46.5%、非PWE群は37.2%だった。非PWEかつ睡眠不足なし群を基準とする交絡因子未調整モデルの解析では、PWEかつ睡眠不足あり群の全死亡リスクが有意に高かった(ハザード比〔HR〕1.92〔95%信頼区間1.09~3.36〕)。 交絡因子(年齢、性別、人種/民族、飲酒・喫煙状況、教育歴、貧困、肥満、高血圧、糖尿病、CKD、CVDなど)を調整した解析でも、PWEかつ睡眠不足あり群はやはり全死亡リスクが有意に高かった(HR1.94〔同1.19~3.15〕)。それに対して、PWEで睡眠不足なし群は有意なリスク上昇が認められなかった(HR1.00〔同0.78~1.30〕)。 Banerjee氏らは、「てんかんと睡眠不足が並存する場合、予後が有意に悪化する可能性のあることが明らかになった。てんかん患者の生活の質(QOL)向上と生命予後改善のため、睡眠対策が重要と言える。臨床医は脳波検査に睡眠検査を加えたスクリーニングを積極的に行うべきではないか」と述べている。

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なぜ今、「AI×医療英語」なのか?【タイパ時代のAI英語革命】第1回

医療英語の必要性が高まる理由近年、医療現場で英語力の必要性がますます高まっています。なぜ、急速に医療英語が医療従事者にとって、より不可欠になっているのでしょうか。1)多様化する患者への対応が必須に日本では在留外国人が370万人、訪日外国人が3,700万人を超え、医療機関が外国人患者に対応する機会が急増しています。とくに救急外来では限られた時間内に英語での的確な対応が求められ、医療スタッフ全員が基本的な医療英会話を身に付けておくことが重要です。2)国内勤務でも、医師のキャリア構築に必須海外での研修や国際学会への参加が増えるなかで、より医療英語が求められるようになっています。学会のオンライン化や英語での発表の機会も増え、英語力がアカデミックキャリアに直結する時代となりました。また、論文の影響力を示すIF(Impact Factor)という数字を比較しても、日本国内のトップジャーナルが10程度であるのに対し、権威ある英語の医学誌、たとえばThe Lancetでは現在98となっており、10倍以上の差があり、国際的な発信力を持つためにも英語力が不可欠です。留学や海外病院勤務といったキャリアを考えていなくとも、医師としてのキャリアを築くに当たって、英語力が必須の時代なのです。3)新しい医療情報のキャッチアップ現代医学の知見の多くは、英語で書かれた論文やガイドラインを通じて提供されています。たとえば、新しい治療法や薬剤の情報は、まず英語圏の医学誌やメディアに掲載され、そこから日本の学会やメディアで日本語化され、ゆくゆくは臨床適応へと広がっていくのですが、どうしてもタイムラグが生まれます。世界の医療の最新の情報をいち早く把握するには、翻訳機能が発展している今でも英語で直接受信する力が必要です。4)医療安全、公衆衛生の確保に必須医療英語は医療安全と公衆衛生とも深く関わります。わかりやすいものだと、英語で記された薬剤情報を医療スタッフの誰かが誤って解釈すれば、投薬ミスや医療事故につながります。公衆衛生の面で考えれば、世界の行き来が簡単になったことが災いとなり、COVID-19が発生した時は瞬く間に世界に広がりました。症状、感染者数、治療法、ワクチンに関する情報はすべて英語発信が最初で、正しいものから誤ったものまで、大量の英語による情報が世界中に拡散されたことは記憶に新しいのではないでしょうか。その際に英語による情報を早く的確に吟味したうえで対応する力が国や医療者全体に求められます。こうした点からも、医療を行ううえで英語との関わりはますます強まっています。AIが切り開く、新しい学習環境医療において英語が大切であることをお伝えしましたが、医療英語は専門用語が多く、一般の英語とは異なる語彙力が求められます。これまでは、参考書を読み込む、英会話スクールに通う、海外の論文を地道に読む、という方法が主流でした。しかし、これらの方法には大きな課題が存在します。それは時間的制約です。多忙な医療現場で働きながらまとまった学習時間を確保するのは難しい、という声を多く耳にします。加えて、学習内容が自分の必要な専門領域に直結していないような場合には、モチベーションの維持も困難です。また、独学ではフィードバックが得られにくく、自分の理解や発音が正しいかどうかを確認する手段も限られていました。そこでAIの登場です。AIは、医療英語と英語学習をつないでくれる最大・最強のツールです。生成AIといわれているものの中でもChatGPTのような大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)は、人間のように自然な文章や会話を生成する能力を持っています。これにより、従来では不可能だった学習支援やコミュニケーション支援が現実のものとなりました。生成AIの最大の強みは、学習者一人ひとりのニーズに合わせて柔軟に対応し、かつ迅速にフィードバックができる点です。また、今後の回で詳しく述べていきますが、生成AIは単なる語学習得の域を超え、医療英語をマスターせずとも、実践的かつ効率的に英語を使いこなす手段としても非常に有効です。生成AIは医療英語の強力な研鑽ツールとなるとともに、たとえ英語が不得手であっても、その力を借りながら積極的に世界とつながるツールともなります。生成AIを使いこなすことで、今後の医師生活において大きな強みとなるでしょう。生成AIを単なる道具としてではなく、共に歩むパートナーとして活用する具体的な方法を、今後の連載で皆さんに紹介したいと思います。生成AIの注意点1 AI Hallucination今後生成AIのさまざまなツールや使い方を述べるに当たって、注意しなければならないことがあります。1つ目はAI Hallucination(ハルシネーション)と呼ばれるものです。いわゆるAIによる“幻覚”ですね。生成AIは今までのデータからパターンを推測することで回答を導き出すので、すべてが事実に基づいているとは限りません。医療の観点で一番起こりやすいものとしては、「論文引用」が挙げられます。たとえば論文を書いていて、引用文献を見つけたいときに生成AIに該当する論文名とリンクを貼ってもらいます。しかし、回答にある論文のタイトルを調べても出てこなかった、リンクに飛んでも論文自体が存在しなかった、なんてことはよく聞く話です。AIとパートナーになりながら最大限に効率を上げることは大事ですが、あくまでもリーダーは「あなた」です。とくに世間に発表したり論文化したりする際に、生成AIが出した答えを丸のみにするのは非常に危険ですので、必ず事実に基づいたものなのか、別のリソースも使いながら、自分の目で最終確認をしてください。生成AIの注意点2 Stochastic Generation2つ目の注意点とはStochastic Generation(ストキャスティックジェネレーション)と呼ばれるものです。まだ日本語で訳されることがあまりないので、いったん「確率的生成」とでもしておきましょう。これは生成AIの強みでもあるのですが、弱点にもなりえます。確率的生成は、AIが文章を生成する際に、次に出現する単語や語句を確率分布に基づいてランダムに選択する手法です。この仕組みは、AIに自然で人間らしい言語生成を可能にする一方で、毎回異なる出力がなされるという不確実性をもたらします。具体的なリスクは、「ニュアンスが変わってしまう」ということです。患者説明用の文書を生成する際を想定すると、「副作用がまれに起こります」と書かれることもあれば、「副作用はほとんどありません」と書かれることもある、というイメージです。ほかの例としては、患者への説明時に「異常な組織の増殖が確認され、さらなる検査が必要です」というのと「あなたには腫瘍があり、がんの可能性があります」というのでは、どちらも一見同じようなことを伝えてはいますが、相手への伝わり方は大きく異なります。このような認識の齟齬が起こりえると知ったうえで、最終的にはAIの使用者が確認し、責任を持つ必要があります。AIを使用する際にはぜひこれらの注意点を十分に理解し、リスク回避策を取ってください。次回は、早速生成AIに関して深く触れていきます!

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オランザピンの制吐薬としての普及率は?ガイドライン発刊後の状況を聞く

 『制吐薬適正使用ガイドライン 2023年10月改訂第3版』が発刊され、約2年が経過しようとしている。改訂による大きな変更点の一つは、“高度催吐性リスク抗がん薬に対するオランザピン5mgの使用を強く推奨する“ことであったが、今現在での医師や医療者への改訂点の普及率はどの程度だろうか。前回の取材に応じた青儀 健二郎氏(四国がんセンター乳腺外科 臨床研究推進部長)が、日本癌治療学会のWebアンケート調査「初回調査結果報告書」とケアネットがCareNet.com医師会員を対象に行ったアンケート「ガイドライン発刊から6ヵ月が経過した現在の制吐薬の使用状況について」を踏まえ、実臨床での実態や適正使用の普及に対する課題を語った。 なお、日本癌治療学会は『制吐薬適正使用ガイドライン』普及率に関するWebアンケート調査(第2回)』を現在実施しており、医師・看護師・薬剤師の方々からのアンケート回答を募集している(回答期間は2025年8月22日まで)。発刊6ヵ月後にはオランザピン処方の意義浸透か ガイドライン発刊直前に行われた日本癌治療学会による初回調査は、制吐療法の情報均てん化などの検討を考慮するため、論文等で公表されているエビデンスと実診療の乖離(Evidence-Practice Gap:EPG)の程度、職種、診療科、所属施設ごとの結果を解析した。その調査とケアネットが独自で行った調査を比較し、青儀氏は「乳がん治療での制吐薬処方に関し、われわれの初回調査ではFECでの4剤の処方率は16.8%だった。ガイドライン発刊から半年後の(CareNet.com)調査では、90%以上(該当レジメンを使用する全員に処方している:44%、患者背景を考慮して処方している:50%)であることが明らかとなり、オランザピンを推奨する意義が結果となってみられた印象」と話した。全体的にオランザピン処方の際に患者背景を考慮して処方していると回答した割合が多かった理由について、同氏は「糖尿病や耐糖能異常に加え、ふらつきのリスクを有する、睡眠薬を服用中の患者に処方しづいからではないか」とコメントした。患者の吐き気への不安と医師の処方不安、優先順位を間違えてはいけない オランザピンが向精神薬の位置付けで使用される薬剤であることが処方を慎重にさせる要因と考えられるが、実際に処方医が感じる不安は「糖尿病に禁忌」「耐糖能異常」に対してであることが今回の調査から明らかになった。これについて同氏は、「すでに制吐薬としてステロイドを処方している患者はステロイドによる耐糖能異常リスクを有している。また、オランザピンが推奨される以前より化学療法中の耐糖能異常に対するフォロー不足は問題視されていたので、このフォロー体制をしっかり構築したうえで、オランザピン投与を行ってほしい」とコメント。「オランザピンの制吐薬としての有用性の理解が進めばこの問題はクリアできるのではないか」と有害事象の発生を観察、コントロールしながら使用する価値について説明した。ただし、禁忌とされる糖尿病患者への対応については、従来の3剤併用療法を行うことがガイドラインに示されている(CQ1「高度催吐性リスク抗がん薬の悪心・嘔吐予防として、3剤併用療法[5-HT3受容体拮抗薬+NK1受容体拮抗薬+デキサメタゾン]へのオランザピンの追加・併用は推奨されるか?」参照)。 また、実臨床で多く経験する傾眠への具体的な対応策として、「推奨は5mgではあるが、今後、各施設での使用経験や研究などを基に日本人に適切な投与量を決定していきたい。たとえば、当院ではオランザピン5mgを処方する際、調節できるように2.5mg×2錠で処方している。薬剤師と相談し、副作用を回避しつつ制吐に対する効果が得られるのであれば、2.5mgで処方している」と述べた。適切な制吐薬治療の普及に必要なツール 学会側の調査項目の1つである患者報告アウトカム(Patient-Reported Outcome:PRO)の利用状況や頻度については、「PROについてはまだまだ開発途上。臨床研究などでPROを活用して有害事象を拾い上げることについては広がりつつある。さまざまなPROが出てきていることからも、今後の臨床研究に欠かせないツールになっていくことは間違いないだろう。患者の情報が一つひとつアップデートされて入ってくることが重要なポイント」と述べた。その一方で、PROには紙媒体のものとネット環境が必要なものがあるが、後者はセキュリティー問題やコスト面の影響がある。「紙媒体での評価にも十分な有用性が示されている。当院ではICI投与患者の免疫関連副作用(immune-related Adverse Events:irAE)に関する評価ツールを導入しているが、ネット導入のハードルが高いことから紙媒体で実施している」と述べ、「現状、PROが限られた施設や学会でしか利用されていないため、抗がん剤全般での利用を広めていくことが次の課題」と説明し、まずは紙媒体で評価を進めていくことを推奨した。 最後に同氏は「制吐療法については、単に処方薬を増やすことが良いとは考えていない。次回の改訂までに綿密な使い分けができるようなエビデンスが出てくるのではないか」と締めくくった。<日本癌治療学会アンケート概要>調査内容:発刊直前と発刊1年後に同じ項目のアンケートを実施することで、ガイドラインによる診療動向の変化を調査実施期間:2023年10月2~18日調査方法:インターネット対象:日本癌治療学会ほか、各学会(日本臨床腫瘍学会、日本サイコオンコロジー学会、日本がんサポーティブケア学会、日本放射線腫瘍学会、日本医療薬学会、日本がん看護学会)所属の1,276人《CareNet.comアンケート概要》調査内容:ガイドライン発刊から6ヵ月経過時点の制吐薬の使用状況について実施期間:2024年5月23~29日調査方法:インターネット対象:20床以上の施設に所属するケアネット会員医師206人(乳腺外科:50人、血液内科:50人、呼吸器科:52人、消化器科:36人、外科:18人)

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第279回 経口GLP-1薬orforglipronで体重が12%ほど減少~投資家落胆

経口GLP-1薬orforglipronで体重が12%ほど減少~投資家落胆1日1回服用の経口GLP-1受容体作動薬(GLP-1薬)orforglipron高用量が、72週間の第III相ATTAIN-1試験で太り過ぎか肥満の患者の体重を平均12.4%減らしました1)。orforglipronはLillyが開発しています。ATTAIN-1試験には高血圧症、脂質異常症、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)、心血管疾患などの体重関連の持病を有している太り過ぎか肥満の成人3,127例が参加しました。先立つ第III相ACHIEVE-1試験は2型糖尿病患者を対象としましたが2)、今回のATTAIN-1試験に糖尿病患者は含まれません。ATTAIN-1試験のorforglipron投与群の被験者はまず全員が1mgを服用し、低(6mg)、中(12mg)、高(36mg)の3つ維持用量へと段階的に服用量を増やしました。orforglipron低、中、高用量の72週時点のベースライン時と比べた体重低下率はそれぞれ7.8%、9.3%、12.4%で、プラセボ群の0.9%低下を有意に上回り、試験の主要評価項目を達成しました。しかし競争が激しいGLP-1薬界隈では目標を達成しただけで十分とは限らず、今回の試験結果に投資家はかなり落胆したようで3)、Lillyの米国ニューヨーク証券取引所での株価は木曜日の取引で1割超下落しました。先立つ第II相試験でのorforglipron 36mg投与群の36週時点の体重は13.5%低下しました4)。第II相試験は今回の第III相試験と同様に糖尿病ではない太り過ぎか肥満の成人を募っています。現在の肥満薬市場を切り開いたNovo NordiskのGLP-1薬セマグルチドの経口剤は、64週間の第III相OASIS 4試験の解析で、多ければ16.6%の体重低下を示しています5,6)。そのような背景があって投資家の多くはATTAIN-1試験でorforglipron高用量群の体重は14~15%ほど減るだろうと期待していましたが、実際はその予想にほんの2%ばかり届きませんでした3)。糖尿病患者を募った先立つ第III相ACHIEVE-1試験に比べて安全性も若干不調なようで、10例に1例ほどの10.3%が有害事象のためにorforglipron高用量服薬を止めています。GLP-1薬につきものの胃腸症状はやはり多く、高用量投与群の4例に1例ほどの24%に嘔吐が生じました。そんなこんなでLillyの株価はだいぶ下落しましたが、過剰反応だと見る向きもあります。効果に関して議論はあるでしょうが、体重減少が2%ほど不足したばかりにorforglipronの需要に大した影響が出るかどうかは不明であり、今回の発表を受けてのLillyの株価下落は買い時だろうとアナリストの1人は言っています3)。ともあれLillyは今年中に世界の国々でのorforglipronの承認申請を始めます。Novo Nordiskのセマグルチド25mg経口薬による体重管理の開発はorforglipronに比べてだいぶ先行しており、今年2月に米国FDAにすでに承認申請されています5)。この5月初めまでにFDAはその承認申請を受理しており、審査結果は今年中に判明する見込みです7)。ちなみにATTAIN-1試験結果の発表を受けて、Novo Nordiskの株価は木曜日に7%ほど上昇しています。 参考 1) Lilly's oral GLP-1, orforglipron, delivers weight loss of up to an average of 27.3 lbs in first of two pivotal Phase 3 trials in adults with obesity / PR Newswire 2) Rosenstock J, et al. N Engl J Med. 2025 Jun 21. [Epub ahead of print] 3) Lilly's obesity pill lags Novo's Wegovy injection in key trial / Reuters 4) Wharton S, et al. N Engl J Med. 2023;389:877-888. 5) Novo Nordisk:Financial report for the period 1 January 2025 to 31 March 2025 6) Novo Nordisk:Investor presentation First three months of 2025 7) FDA accepts filing application for oral semaglutide 25 mg, which if approved, would be the first oral GLP-1 treatment for obesity / PR Newswire

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肥満・過体重の減量に、cagrilintide/セマグルチド配合薬が高い効果/NEJM

 肥満または過体重の成人において、プラセボと比較してcagrilintide/セマグルチド配合薬(以下、CagriSema)は、有意で臨床的に意義のある体重減少をもたらし、消化器系有害事象の頻度が高いものの多くは一過性で軽度~中等度であることが、米国・アラバマ大学バーミングハム校のW. Timothy Garvey氏らREDEFINE 1 Study Groupが実施した「REDEFINE 1試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年6月22日号で報告された。22ヵ国の第IIIa相無作為化対照比較試験 REDEFINE 1試験は、非糖尿病の肥満または過体重の成人における固定用量のcagrilintide(長時間作用型アミリン類似体)とセマグルチド(GLP-1受容体作動薬)の配合薬による減量効果の評価を目的とする第IIIa相二重盲検無作為化プラセボ/実薬対照比較試験であり、2022年11月~2023年6月に22ヵ国で参加者を登録した(Novo Nordiskの助成を受けた)。 糖尿病がなく、BMI値30以上、またはBMI値27以上で少なくとも1つの肥満関連合併症を有し、減量を目的とする食事制限に1回以上失敗したと自己報告した成人を対象とした。 被験者を、CagriSema(各0.25mgで開始、4週ごとに増量して16週までに各2.4mgとし、これを維持量として52週間投与)、セマグルチド単剤(2.4mg)、cagrilintide単剤(2.4mg)、プラセボの皮下投与(週1回)を受ける群に、21対3対3対7の割合で無作為に割り付け68週間投与した。全例にライフスタイルへの介入を行った。 主要エンドポイントは、プラセボ群との比較におけるCagriSema群のベースラインから68週までの体重の相対的変化量と、5%以上の体重減少の2つであった。また、検証的副次エンドポイントとして、20%以上、25%以上、30%以上の体重減少について評価した。2つの単剤群との比較でも有意な減量効果 3,417例を登録し、2,108例をCagriSema群、302例をセマグルチド群、302例をcagrilintide群、705例をプラセボ群に割り付けた。全体の平均年齢は47.0歳、女性が67.6%で、白人が72.0%であった。ベースラインの平均体重は106.9kg、平均BMI値は37.9、平均ウエスト周囲長は114.7cmであり、最も頻度の高い肥満関連合併症は脂質異常症と高血圧症で、32.1%が糖尿病前症だった。 ベースラインから68週までの体重の推定平均変化率は、プラセボ群が-3.0%であったのに対し、CagriSema群は-20.4%と有意な減量効果を示した(推定群間差:-17.3%ポイント、95%信頼区間[CI]:-18.1~-16.6、p<0.001)。セマグルチド群の体重の推定平均変化率は-14.9%(-5.5%ポイント[-6.7~-4.3]、p<0.001)、cagrilintide群は-11.5%(-8.9%ポイント[-10.1~-7.7]、p<0.001)であり、いずれもCagriSema群のほうが有意に優れた。 また、5%以上の体重減少の達成割合は、プラセボ群の31.5%に比べCagriSema群は91.9%であり有意に高率であった(推定群間差:60.4%ポイント[95%CI:56.4~64.5]、p<0.001)。 20%以上の体重減少(53.6%vs.1.9%、p<0.001)、25%以上の体重減少(34.7%vs.1.0%、p<0.001)、30%以上の体重減少(19.3%vs.0.4%、p<0.001)の達成割合についても、CagriSema群はプラセボ群と比較し有意に優れた。 さらに、ベースラインから68週までの推定平均変化量は、ウエスト周囲長がCagriSema群-17.5cm、プラセボ群-4.0cm(p<0.001)、収縮期血圧はそれぞれ-9.9mmHgおよび-3.2mmHg(p<0.001)、SF-36の身体機能スコアは7.1点および3.6点(p<0.001)と、いずれもCagriSema群で有意に良好だった。これまでで最も高水準の減量効果 悪心、嘔吐、下痢、便秘、腹痛などの消化器系の有害事象の頻度が、プラセボ群(39.9%)に比べCagriSema群(79.6%)で高かったが、その多くが一過性で重症度は軽度~中等度であった。注射部位反応(12.2%vs.3.0%)と胆嚢関連障害(4.1%vs.1.0%)もCagriSema群で多かった。 重篤な有害事象(9.8%vs.6.1%)、恒久的な投与中止に至った有害事象(5.9%vs.3.5%)、恒久的な投与中止に至った消化器系有害事象(3.6%vs.0.6%)も、CagriSema群で多く発現した。同群で2例(自殺、原発不明がん)が死亡した。 著者は、「CagriSema群で観察された体重減少は、既存の減量介入でこれまでに達成されたものの中で最も高い水準にある」「プラセボ群に比べ同群では糖化ヘモグロビン値も改善しており、これはベースライン時に糖尿病前症であった集団における血糖値が正常化した患者の割合(87.7%vs.32.2%)に反映している」「同群では、体重減少が最大値に到達する前に血圧の改善が起き、68週まで持続しており、降圧の程度は降圧薬の臨床試験に匹敵するものだった」としている。

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成人期の継続的な身体活動は死亡リスクを低下させる

 成人期を通じて継続的に身体活動を行っている人は、成人期を通じて非活動的だった人に比べて、あらゆる原因による死亡(全死因死亡)リスクが29〜39%低いことが、新たな研究で明らかになった。このようなリスク低下は、成人期の途中で身体活動習慣を身に付けた人でも認められたという。クイーンズランド大学(オーストラリア)のGregore I Mielke氏らによるこの研究結果は、「British Journal of Sports Medicine」に7月10日掲載された。研究グループは、「成人期に身体活動を始めることは、開始時期がいつであれ、健康にベネフィットをもたらす可能性がある」と述べている。 この研究でMielke氏らは、臨床的疾患を持たない一般成人を対象に、身体活動について少なくとも2時点で評価し、全死因死亡・心血管疾患による死亡・がんによる死亡との関連を検討した、2024年4月9日までに英語で発表された前向きコホート研究を85件選出し、メタアナリシスを実施した。対象者の規模は研究ごとに異なり、最小357人から最大657万人であった。全死因死亡を評価していた研究は77件、心血管疾患による死亡を評価していた研究は34件、がんによる死亡を評価していた研究は15件であった。 解析の結果、全体的には身体活動量が多いほど全死因死亡、心血管疾患による死亡、およびがんによる死亡のいずれのリスクも低い傾向が認められた。特に、一貫して非活動的な群と比較して、身体活動が一貫して多い群では全死因死亡リスクが29〜39%、途中から増加した群では22〜26%低く、心血管疾患による死亡リスクは30~40%低かった。一方で、身体活動の減少と死亡リスクの関連は明確ではなかった。また、がんによる死亡と身体活動との関連は弱く、結果の頑健性も低かった。 さらに、身体活動に関するガイドラインの推奨を満たすことで全死因死亡リスクと心血管疾患による死亡リスクが低下するものの、推奨量を満たしていなくても継続的に身体活動を行っている場合や身体活動量が増加している場合でも、健康へのベネフィットは認められた。このことから研究グループは、「これは、ガイドラインの推奨よりも少ない身体活動量でも、健康には大きな利点をもたらす可能性があることを示すエビデンスや、身体活動を全くしないよりは多少でもする方が良いとする主張と一致する結果だ」と述べている。さらに、「推奨される1週間当たりの運動量を超えて運動しても、追加のリスク低下はわずかだった」と付け加えている。 米疾病対策センター(CDC)は、毎週150分以上の中強度の身体活動、または75分以上の高強度の身体活動を推奨している。CDCによれば、中強度の運動の例は、早歩き、低速度の自転車こぎ、ダブルスのテニス、アクティブヨガ、社交ダンスやラインダンス、一般的な庭仕事、水中エアロビクスなど、高強度の運動の例は、ジョギング、水泳、シングルスのテニス、エアロビクスダンス、高速での自転車こぎ、縄跳び、シャベルで土を掘るなどの作業を伴う庭仕事などであるという。

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GLP-1RAで痩せるには生活習慣改善が大切

 オゼンピックやゼップバウンドなどのGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)の減量効果が高いため、注射さえしていればあとは何もしなくても体重を減らせると思っている人がいるかもしれない。しかし専門家によると、それは誤りだ。適切に体重を減らしてそれを維持するには、注射に加えて生活習慣の改善も必要だという。米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のJoAnn Manson氏らによる、GLP-1RA治療中の生活習慣改善に関するアドバイス集が「JAMA Internal Medicine」に、患者対象情報として7月14日掲載された。 Manson氏は、「GLP-1RAによる減量治療を開始後に、多くの患者が脂肪量だけでなく筋肉量も減少してしまう。また、胃腸症状が現れて治療を中止せざるを得なくなることも多い」と述べ、GLP-1RA使用時の生活習慣改善の重要性を指摘している。例えば、GLP-1RAのみで体重を減らした場合、減った体重の25~40%は除脂肪体重(多くは筋肉)が占めるとのことだ。 筋肉を減らさないための対策として、専門家らは「毎食、魚、豆、豆腐などの食品から20~30gのタンパク質摂取を」と推奨する。「一般的な運動量の人なら、体重1kg当り1.0~1.5gのタンパク質を毎日摂取し、食欲がないときには1食につき少なくとも20gのタンパク質を含むシェイクを飲むと良い」としている。 またGLP-1RAは食欲抑制作用があるため、適切な栄養素摂取が妨げられる可能性があるという。発表されたアドバイス集では、「適量の食事と軽食(果物、ナッツ類、無糖ヨーグルトなど)を取ることで、エネルギーを維持する」ことを推奨している。さらに、「炭水化物については、血糖値の急激な変動を引き起こす精製穀物や加糖飲料ではなく、サツマイモやオートミールなどの消化の遅いものを選択する。満腹感を長続きさせるには、オリーブオイルやアボカドなどの健康的な脂質食品を食事に加えると良い」とのことだ。 GLP-1RAによる減量中には、バランスの取れた栄養価の高い食事が重要になる。不適切なカロリー制限は、不健康な体重減少、必須栄養素やビタミンの不足による栄養失調のリスクにつながるため避けなければならない。一方、GLP-1RAの副作用として多く見られる胃腸症状に対しては、以下の推奨事項が示されている。・吐き気を和らげるには、脂質の多い揚げ物や加工食品を避け、お腹に優しい少量の全粒粉トーストやシリアル、果物、ジンジャーティーを食べたり飲んだりする。・胸焼けを抑えるには、少量ずつ食べ、食後2~3時間は横にならないようにする。揚げ物よりも焼き物を選び、黒コショウ、唐辛子、ニンニクなどの刺激の強いスパイスは避ける。・便秘には、オートミール、リンゴ、野菜、ナッツなど、食物繊維が豊富な食品の摂取量を増やす。水分を十分に取り、市販の下剤や便軟化剤の使用も検討。 また、GLP-1RAが脱水傾向を招くこともあるため、こまめに水分を取る必要があり、キュウリやスイカといった水分を多く含む果物や野菜の摂取が効果的だとしている。 このほかに、筋肉量を維持するため、週に2〜3回の30分の筋力トレーニングも大切。運動は体重のリバウンドを抑えるためにも重要で、早歩き、サイクリング、軽い庭仕事など、中強度の運動を週に150分程度、筋力トレーニングに加えて行う必要がある。 著者らは、「GLP-1RAの登場は肥満治療の大きな進歩ではあるが、減量効果の長期的な維持には、個別化された食事・運動療法を並行して行わなければならない。そのような包括的なアプローチによって、副作用を軽減し、筋肉量を維持して、栄養失調を回避しつつ、持続的な減量が達成される」と述べている。

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週1回投与のinsulin efsitoraはインスリン頻回注射療法中の2型糖尿病患者においても有効である(解説:住谷哲氏)

 BantingとBestによってインスリンが発見されたのは1921年である。翌1922年にイーライリリー社がブタ膵臓の抽出物からインスリンの製剤化に成功し、その翌年には大量生産にも成功して「アイレチン(Iletin)」として販売を開始した。販売当初は力価も安定せず不純物も多かったが、その後の種々の改良により現在のレギュラーインスリンが市場に登場した。その後の100年間はレギュラーインスリン改良の歴史であるが、1つの方向はブタインスリンからヒトインスリンへの変換であり、いまひとつはその作用時間の延長であった。 レギュラーインスリンの作用時間は約6時間と短く、インスリン分泌の枯渇している1型糖尿病患者では1日数回の注射が必要になる。その後の改良により中間型インスリン、持効型インスリンと作用時間が延長し、現在は週1回投与可能なインスリンアナログであるアウィクリ(一般名:インスリン イコデク)が使用可能である。ノボ ノルディスク社のアウィクリに対して、イーライリリー社が開発しているのが本試験で用いられたinsulin efsitora alfa(以下efsitora)である。 QWINT試験はefsitoraの臨床開発プログラムであり、QWINT-1~5の5試験が実施され結果はすべて論文化されている1-4)。ちなみにQWINTはQW(quaque week, once-weekly)insulin therapyの略である。本試験QWINT-4はインスリン頻回注射療法を受けている2型糖尿病患者を対象としている。基礎インスリンをグラルギンU-100とefsitoraとに無作為化し、食事インスリン(prandial insulin)は両群ともリスプロを用いた。主要評価項目は26週後のHbA1c変化量であり、efsitoraのグラルギンU-100に対する非劣性を検証した。結果はefsitoraのグラルギンU-100に対する非劣性が証明された。 筆者も週1回投与のインスリンアナログであるアウィクリを使用しているが、現時点ではインスリンを毎日投与することが不可能な患者に限定されている。やはりシックデイへの対応が困難である点がその理由の1つである。しかし日常臨床では毎日の注射は不可能であり、週1回投与のGLP-1受容体作動薬投与でもコントロールが不良でインスリン投与が必要な患者、フレイルがありGLP-1受容体作動薬ではなくインスリン投与が適切な患者が一定数存在している。これらの患者に対する週1回投与のインスリンアナログの有用性を評価する試験が実施されることが望まれる。

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見落とされがちな高血圧の原因とは?

 ホルモン異常が原因で高血圧が生じる一般的な疾患について、多くの患者が医師に見逃されている可能性があるとして、専門家らが警鐘を鳴らしている。米国内分泌学会(ENDO)の専門家のグループがこのほど発表した臨床ガイドラインによると、循環器専門医の診察を受ける高血圧患者の最大30%、プライマリケア医の診察を受ける高血圧患者の最大14%が、「原発性アルドステロン症」と呼ばれる疾患を抱えている可能性があるにもかかわらず、その多くがこの疾患を見つけるための血液検査を受ける機会を一度も提供されていないという。このガイドラインは、「The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism(JCEM)」に7月14日掲載された。 原発性アルドステロン症は、副腎からアルドステロンというホルモンが過剰に分泌される疾患だ。アルドステロンは、血中のナトリウムとカリウムのバランスを調整する働きを担っている。アルドステロンの値が高過ぎると体内のカリウムが失われてナトリウムが保持されやすくなり、それによって血圧が上昇する。 ガイドラインによると、原発性アルドステロン症の検査の機会が全く提供されない高血圧患者が多くを占める一方、高血圧の診断から何年も経ってから初めて検査を受けたときには、すでにこの疾患による重い合併症を発症している患者もいるという。 本ガイドラインの筆頭著者で、米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院の内分泌科医であるGail Adler氏は、「原発性アルドステロン症患者は、本態性高血圧の患者と比べて心血管疾患のリスクが高くなる。低価格の血液検査を用いれば、より多くの原発性アルドステロン症の患者を見つけ出し、適切な治療につなげることができる」とニュースリリースの中で述べている。 ガイドラインの情報によると、過去の研究では、原発性アルドステロン症患者は脳卒中を発症するリスクが約2.6倍(オッズ比2.58)、心不全に至るリスクが約2倍(同2.05)、不整脈を発症するリスクが約3.5倍(同3.52)、冠動脈疾患を発症するリスクが約1.8倍(同1.77)上昇することが示されている。 今回新たに発表されたガイドラインでは、高血圧と診断された全ての患者がアルドステロン値をチェックするための検査を受けること、また、原発性アルドステロン症と診断された場合には、この疾患に特化した治療を受けることが推奨されている。 米ジョンズ・ホプキンス・メディスンによると、原発性アルドステロン症の治療にはスピロノラクトンやエプレレノンなどの処方薬が使用できる。これらの薬はいずれも血圧を下げ、カリウムの値を上げる効果がある。また、ガイドラインの著者らによると、アルドステロンを過剰に産生している副腎が片側のみの場合、その副腎を摘出する手術を医師が勧めることもある。このほか、ジョンズ・ホプキンス・メディスンによれば、患者には、バランスの取れた減塩食を心がけ、減量に努めるよう指導も行われるという。

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GLP-1RA処方が糖尿病患者の新生血管型加齢黄斑変性と関連

 糖尿病患者に対するGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)の処方と、新生血管型加齢黄斑変性(nAMD)の発症リスクとの関連を示すデータが報告された。交絡因子調整後にもリスクが2倍以上高いという。トロント大学のReut Shor氏らの研究によるもので、詳細は「JAMA Ophthalmology」に6月5日掲載された。 この研究は、カナダのオンタリオ州の公的医療制度で収集されたデータを用いた後ろ向きコホート研究として実施された。組み込み基準は、糖尿病と診断後12カ月以上の追跡が可能な66歳以上の患者であり、除外基準はデータ欠落、およびGLP-1RAが処方された患者においてその期間が6カ月に満たない患者。 これらの条件を満たす111万9,517人から、傾向スコアマッチングにより背景因子を一致させた13万9,002人(平均年齢66.2±7.5歳、女性46.6%)を抽出し、GLP-1RA処方群4万6,334人、非処方群9万2,668人から成る、患者数1対2のデータセットが作成された。 追跡期間3年におけるnAMD発症率は、GLP-1RA非処方群が0.1%であるのに対して処方群は0.2%であった。Cox比例回帰分析では、交絡因子調整の有無にかかわらず、GLP-1RA処方群のnAMD発症リスクが2倍以上有意に高いことが示された(粗モデルではハザード比〔HR〕2.11〔95%信頼区間1.58~2.82〕、調整モデルではHR2.21〔同1.65~2.96〕)。 著者らは、「得られた結果は、nAMD、糖尿病網膜症、非動脈炎性前部虚血性視神経症の増悪に、GLP-1RAが関与する可能性のある組織低酸素状態という機序を示唆する既報文献と一致している。ただし、本研究で明らかになった関連性に真の因果関係があるのか否かを判断し、その上でGLP-1RAを用いることのメリットとリスクのトレードオフの関係を理解するため、さらなる研究が求められる」と総括している。 一方、本研究には関与していない米ノースウェル・ヘルスのTalia Kaden氏は、「網膜にGLP-1受容体が存在していることは既に知られている。よってGLP-1RAの網膜に対する薬理的な作用を理解しようとし、その作用がどのような結果をもたらすのかを知ろうとするのは当然である。ただし、これまでに明らかにされたGLP-1RAが持つさまざまなメリットを考慮すると、本研究に登録された特定のコホートで見られたわずかなリスクの増加は、多くの人々にとってGLP-1RAの使用を避けるという判断の根拠にならないのではないか」と述べている。 なお、1人の著者が複数の医薬品・医療機器関連企業との利益相反(COI)に関する情報を開示している。

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経口GLP-1受容体作動薬の進化:orforglipronがもたらす可能性と課題(解説:永井聡氏)

 GLP-1受容体作動薬は、2型糖尿病の注射製剤として、すでに15年以上の歴史がある。減量効果だけでなく、心血管疾患や腎予後改善のエビデンスが示されるようになり、さらに経口セマグルチド(商品名:リベルサス)の登場により使用者が増加している。しかし、本剤が臨床効果を発揮するためには、空腹かつ少量の水で服用することが必須であり、服薬条件により投与が困難な場合もあった。 今回、経口薬であり非ペプチドGLP-1製剤であるorforglipronの2型糖尿病を対象とした第III相ACHIEVE-1試験が発表された。orforglipronは、もともと中外製薬が開発した中分子化合物で、GLP-1受容体に結合すると、細胞内でG蛋白依存性シグナルを特異的に活性化する“バイアスリガンド”という、新しい機序の薬剤である。経口セマグルチドのようなペプチド医薬品と異なり、胃内で分解されにくく、吸収を助ける添加剤を必要としない。そのため、空腹時の服用や飲水制限といった条件を課さず、日常生活における服薬の自由度が格段に向上することが特徴である。 試験の結果では、血糖降下作用や減量効果は、週1回セマグルチド注射製剤と同等かやや上回るほどであった。注射製剤の受け入れや空腹での服用条件により、経口セマグルチドの投与が困難だった人にも使用が可能になるという「投与条件の容易さ」は大きなインパクトである。 orforglipronが臨床現場に与える影響は少なくない。投与方法に制限がないことにより、「GLP-1受容体作動薬は特別な治療」という印象が減り、切り替えや他剤と同時服用も可能になり、DPP-4阻害薬やSGLT2阻害薬と同様に、早期導入が一般的になる可能性がある。投与方法が容易であることは、治療自体のQOLの向上を意味し、セルフケア行動を促進しアウトカムをより一層改善する「好循環」を後押しする。現在でも、GLP-1受容体作動薬により減量が進んでから運動を始める人がいる。その人は「体が軽くなった」から運動する気持ちになったと言うが、本当は減量できた成功体験によって「気持ちが軽くなった」から運動できると思い始めたのである。 処方が増加しても、錠剤は一般的に注射剤より生産工程が容易で大量生産可能であり、輸送コストも低く、世界的な需要拡大にも対応が可能と考えられる(近年問題となった某GLP-1受容体作動薬関連の処方制限を思い出してほしい)。 懸念点はないだろうか。有害事象は、他のGLP-1受容体作動薬と同様、嘔気や下痢といった消化器症状が中心であるが、第III相ACHIEVE-1試験では4~8%の症例で投与中止に至っている。さらに、本剤は分子量が小さく、血液脳関門を通過し、中枢性の嘔気症状が増える可能性が指摘されているため、消化器症状のため内服できなかった人が服用できるようになるわけではないと思われる。また、新しい機序の薬剤は、中長期的な有害事象も既存のGLP-1受容体作動薬と同様なのか、良くも悪くも現時点では何とも言えない。さらに、「多くの患者に使える薬」になるということは、裏を返せば「不適切に使われるリスク」も増すということである。フレイルを伴う高齢者への投与や安価な薬剤で十分な患者でも漫然と投与される可能性がある。保険財政への影響も懸念がある。 これからの糖尿病治療において重要なのは、薬剤選択肢の拡大そのものではなく、それをいかに適切に、患者個々の病態や背景を踏まえて用いるかである。適切な患者選択と丁寧なモニタリングを通じて、本剤の真価を最大限に引き出し、「糖尿病のない人と変わらぬQOLの実現」を後押しできるかが医療者に期待されることである。

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第22回 未来の自分への最高の投資は「食事」にあり!科学が解き明かす“健康的な加齢”の秘訣

「人生100年時代」と言われる今、多くの人が願うのは、ただ長く生きることだけではないでしょう。できる限り自分の足で歩き、頭はクリアで、心穏やかに、人生の後半を豊かに楽しみたい――。そんな「健康的な加齢(Healthy Aging)」は、多くの人が望む理想の姿かもしれません。では、その理想を実現するために、私たちに何ができるのでしょうか。運動、睡眠、社会との関わりなど、さまざまな要素が挙げられますが、Nature Medicine誌に発表された最新の研究1)が、その鍵を握る最も重要な要素の一つが「日々の食事」であることを、強力なデータとともに示しました。今回は、米国の10万人以上を30年間にわたって追跡したこの大規模研究から、未来の自分を健やかに保つための「食の投資術」を紐解いていきましょう。「健康的な加齢」とは?まず、この研究が目指した「健康的な加齢」とは、具体的にどのような状態を指すのでしょうか。研究チームはそれを明確に定義しました。それは、「70歳に到達した時点で、がんや心疾患、糖尿病といった11の主要な慢性疾患がなく、さらに認知機能、身体機能、精神的健康のいずれにも大きな衰えがない状態」です。この条件を、調査対象となった10万5,015人のうち、一体どれくらいの人が達成できたと思いますか? 答えは、わずか9.3%でした。これは、多くの人が何らかの慢性疾患を抱え、心身の機能の衰えを感じながら歳を重ねる現実を示唆しているかもしれません。しかし裏を返せば、約1割に「健康に歳を重ねた」人がいることも事実です。そして、彼らの生活習慣、とくに「食事」に、他の人との違いがあったのです。この研究では、長期間にわたる食生活と「健康的な加齢」の達成率との関連が分析されました。その結果、調査された8つの健康的な食事パターンのすべてにおいて、食事の質が高いグループほど、健康的に加齢する確率が著しく高いことが明らかになったのです。最も効果的だった食事法を示す「AHEI」とそのシンプルな中身数ある食事の指数の中で、最も「健康的な加齢」と強い関連を示したのが「AHEI(代替健康食指数)」でした。これは、もともと慢性疾患のリスクを予測するために開発された食事評価法です。その効果は大きく、AHEIのスコアが最も高い(最も健康的な食事をしていた)グループは、最も低いグループと比較して、「健康的な加齢」を達成する確率が1.86倍も高かったのです。さらに、「健康的な加齢」の基準を「75歳」まで引き上げて分析すると、その差はさらに広がり、達成確率は2.24倍にまで達しました。では、その「AHEI」が高い食事とは、一体どのような食事なのでしょうか。特別なサプリメントや高価な食材が必要なわけではありません。その中身はシンプルで、私たちが日々の生活で実践できることばかりです。積極的に摂りたい食品果物野菜全粒穀物(玄米、全粒粉パンなど)ナッツ類と豆類多価不飽和脂肪酸(魚や植物油に含まれる健康的な脂質)摂取を控えるべき食品砂糖入り飲料やフルーツジュース赤身肉や加工肉(ソーセージ、ベーコンなど)トランス脂肪酸(マーガリンやショートニングなど)ナトリウム(塩分)これらのポイントは、地中海食やDASH食といった他の健康的な食事法とも多くの共通点を持っています。つまり、健康的な加齢への道は、根拠の乏しい書籍や特定の流行りの食事法に飛びつくことではなく、「野菜や果物、全粒穀物を増やし、健康に良い油を選び、肉や加工品、砂糖、塩分を控える」という、食生活の基本に忠実であることが最も重要だということなのでしょう。今すぐできる!未来を変える食生活の3つのヒントこの研究成果を、私たちの生活にどう落とし込めばよいのでしょうか。もちろん完璧を目指す必要はありません。「生きることは食べること」というぐらい、食はその人の幸福度にも結びつくものですから、自分を縛りつける必要もないでしょう。今日からできる、具体的な3つのヒントをご紹介します。1. 「禁止」より「丁寧な整理整頓」「あれもダメ、これもダメ」と考えると、食事は窮屈なものになってしまいます。まずは「これを食べたら心から満足できるかな?」という感覚に、丁寧に耳を澄ますところから始めるとうまくいくかもしれません。そのような食べ方は「インテュイティブ・イーティング(直感的な食事法)」と呼ばれています。果物、野菜、全粒穀物、ナッツ、豆類などがマッチするようなら、そういったものを少しずつ取り入れてみてはどうでしょうか。小腹が減った時のカップヌードルを、フルーツに変えてみる。ランチの白米を、たまに玄米に変えてみる。おやつのスナック菓子を、一袋のナッツに変えてみる。こういった小さな「整理」が、無理なく食生活全体をポジティブな方向に修正する第一歩になるかもしれません。2. 「超加工食品」の存在を少しだけ意識する今回の研究では、「超加工食品」のリスクについても厳しい結果が示されました。スナック菓子、カップ麺、菓子パン、甘い清涼飲料水などがこれに当たります。超加工食品の摂取量が最も多いグループは、最も少ないグループに比べて「健康的な加齢」を達成する確率が32%も低かったのです。それが好きな人にとって、完全に断つことは難しいかもしれませんが、少し距離を置く意識を持つだけで、未来の健康は大きく変わる可能性があります。3. 「現在の食事」が未来の自分をつくるこの研究が特に重要なのは、参加者の中年期(平均年齢53歳)からの食生活を追い、その30年後の結果を見ている点です。これは、「もう歳だから手遅れ」でもなければ、「まだ若いから大丈夫」でもないことを意味します。40代、50代の食生活が、70代、80代の健康状態を大きく左右するようです。未来の自分が、旅行や趣味を楽しみ、友人や家族、孫と笑い合っている姿を想像してみてください。その姿を実現するための最も確実な投資は、高価なサプリメントや真新しく見える「健康法」などではなく、今あなたが口にする一食一食なのかもしれません。この研究は、日々の食事が未来の健康をかたち作るという、基本的かつ力強いメッセージを私たちに届けてくれています。「完璧な食事」を目指す必要などまったくありません。一食、一品から。未来の自分への投資は、今日の食卓から始められます。参考文献・参考サイト1)Tessier AJ, et al. Optimal dietary patterns for healthy aging. Nat Med. 2025;31:1644-1652.

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