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「Frailだから無理」と諦めない高齢者の放射線治療~がん腫・病期×全身状態でみつける、最適アプローチ【高齢者がん治療 虎の巻】第12回

講師紹介<今回のPoint>有害事象の発生や重症度は、照射部位、照射法、照射野の大きさに依存する高齢者では、放射線治療による有害事象の発生頻度、重症度が高くなる可能性がある線量集中性の高い強度変調放射線治療(IMRT)や定位照射などの高精度放射線治療は、高齢者に対しても有用である放射線治療施行の絶対条件は、照射体位を15分以上保持できることである(照射法により異なる)放射線治療の目的および照射法放射線治療の目的は、根治から緩和まで多岐にわたります。一般的に緩和照射で必要となる線量は根治照射よりも低く、有害事象も軽微なことが多いです(図1)。(図1)放射線治療の目的画像を拡大する従来は、三次元のCT情報に基づき多方向から照射する「三次元原体照射(3DCRT、図2a)」が主に行われていました。しかし、一方向からのビームに強弱をつけられないため、病巣周囲の正常臓器に対する線量低減には限界がありました。一方、強度を変調した線束を用いて多方向から集光的に照射する「強度変調放射線治療(IMRT、図2b)」では、病巣への線量を担保しつつ正常臓器への線量を低減可能です。また「定位照射(図2c)」は、小さな領域に対し細いビームを用いてピンポイントに集中的な照射を行うため、高い局所制御率と低い有害事象頻度が得られます。IMRTや定位照射は「高精度放射線治療」に分類され臨床的な有用性が認められていますが、3DCRT(照射時間:約10~20分)と比較して厳密な位置精度が求められるため、照射時間が長くなる点に注意が必要です(IMRT:約20~30分、定位照射:約30分~1時間)。(図2)照射法画像を拡大する放射線治療を施行する上での絶対条件放射線治療室は漏洩防止のため、迷路構造(図3a)や厚い金属扉(図3b)で遮蔽されており、照射時には寝台が1.0~1.5mの高さまで上昇します(図3c)。そのため、モニターなどで患者の異変や危険を察知してからスタッフが駆け付けるまでに数十秒を要し、万が一の転落時には重症化リスクが高まります。したがって、放射線治療を安全に施行するための絶対条件は「寝台上で一定時間の安静を保持できること」です(基本的には安定性の高い仰臥位で照射しますが、有害事象対策や疼痛・呼吸苦などに配慮してほかの体位を選択することもあります)。(図3)放射線治療室の構造画像を拡大する高齢がん患者における放射線治療の適応標準治療は主に健常成人を対象に確立されています。これまでさまざまながん腫における(化学)放射線治療の有効性を検証した臨床試験のサブグループ解析では、「若年者と比べ高齢者で生存効果が劣る」とする報告1,2)と「同等である」とする報告3,4)があり、一貫した見解は得られていません。そのため、高齢患者に対して標準治療を選択すべきか否かは、個々の症例に応じた検討が必要です。放射線治療の有害事象は、照射部位・照射野の広さ・総線量に依存しますが、糖尿病や動脈硬化、感染症などの併存疾患が存在すると、発生頻度の上昇や重症化を招くおそれがあります5,6)。加えて高齢がん患者では、健常成人と比べ、有害事象の(1)発生頻度が高まる、(2)重症化しやすいという特徴があります。したがって、標準治療に伴うリスクを患者ごとに想定した上で、忍容性を判断しなければなりません。たとえば、直腸がんに対する術前化学放射線療法を検証した臨床試験において、70歳以上の高齢者では若年者と比較して、治療の中断率(4.2% vs.1.4%、p=0.03)およびGrade3~4の非血液毒性発生率(21.1% vs.13.6%、p=0.03)が有意に高く、手術施行率も有意に低い結果でした(95.8% vs.99.0%、p=0.008)7)。また、本邦の多施設試験においても、患者背景から治療強度の減弱を選択した症例の89%で併用化学療法の変更(減量・中止)がなされており、放射線治療の変更(照射野縮小や線量低減など)は少数であったものの、予定された放射線治療自体の完遂率は98%と良好でした8)。一般に放射線治療単独と比べ、化学放射線療法では有害事象が発生しやすくなるため、化学療法を併用することのベネフィットとリスクのバランスを見極めることが重要です。高齢がん患者に対する放射線治療の実際線量集中性に優れた定位照射や粒子線治療について、高齢がん患者に対する有効性を後方視的に検討した報告では、良好な成績が示されています。原発性肺・肝がんを有する高齢者への定位照射では、9割程度の局所制御率を得ながら、Grade3以上の有害事象は0~4.7%程度と報告されており、高い有効性と安全性が示されています9-11)。また転移性脳腫瘍患者を対象に「全脳照射+定位照射」と「定位照射単独」を比較した臨床試験では、全生存に有意差はないものの定位照射単独群のほうが照射3ヵ月後の認知機能低下が有意に少なく、年齢層別解析でも一貫した結果が得られました12)。同様に、高齢の肝細胞がん・食道がん・原発性肺がんに対する粒子線治療でも、低い有害事象頻度と高い局所制御率が報告されています13-15)。さらに後方視的解析ではありますが、高齢膀胱がんに対する根治的放射線治療において3DCRTとIMRTを比較した結果、照射法による全生存や局所再発に有意差はないもののIMRT群で急性期有害事象が有意に減少しました(22% vs.2%、p=0.02)16)。高齢がん患者において3DCRTとIMRTを直接比較したランダム化比較試験は限られているものの、「有害事象が発生しやすく重症化しやすい」という高齢者の特性を踏まえると、正常組織への影響を低減できる高精度放射線治療の有用性は若年者と同様に高いと考えられます。高齢がん患者の治療選択においては、照射時間中の安静保持を含めた忍容性や、選択する治療法の損益など、多角的な視点からアプローチを検討することが望まれます。最後に脆弱性を有する高齢がん患者において、重篤な有害事象の発生により、治療効果が打ち消される治療法の選択は回避しなければなりません。しかし、放射線治療の目的は緩和から根治までと幅が広く、患者への負担および有害事象の発生頻度や重症度は照射部位や照射法、総線量などに依存します。そのため、Frailな高齢がん患者に対して、根治的放射線治療の適応がない場合にも緩和照射を行うことは日常臨床において多く経験します。また、定位照射などを用いた根治照射を安全に施行できることもあります。「Frailだから放射線治療は無理」と考えてしまうと、本来受けるべき放射線治療による恩恵を逃してしまう可能性があります。日常臨床で治療選択に悩まれたら、ぜひ放射線治療医にご相談ください。1)Kish JA, et al. J Geritr Oncol. 2021;12:937-944.2)Stinchcombe TE, et al. Cancer. 2019;125:382-390. 3)Pignon T, et al. Eur J Cancer. 1996;32A:2075-2081.4)Schild SE, et al. J Clin Oncol. 2003;21:3201-3206.5)Darby SC, et al. N Eng J Med. 2013;368:987-998.6)Johnson S, et al. Rep Pract Oncol Radiother. 2026;31:175-185.7)François E, et al. Radiother Oncol. 2014;110:144-149. 8)Murofushi KN, et al. Clin Oncol. 2025;45:103894.9)Cassidy RJ, et al. Clin Lung Cancer. 2017;18:551-558.10)Tamura Y, et al. Cancers (Basel). 2026;18:1809. 11)Watanabe K, et al. Radiat Oncol. 2021;16:39. 12)Brown PD, et al. JAMA. 2016;316:401-409.13)Hata M, et al. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2007;69:805-812.14)Ono T, et al. Thorac Cancer. 2020;11:2170-2177.15)Ohnishi K, et al. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2020;106:82-89.16)Lutkenhaus LJ, et al. Radiat Oncol. 2016;11:45.

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時間制限食は肥満や糖尿病患者の食行動に影響するか

 近年、時間制限食(TRE)は減量や心代謝系疾患リスクの改善に寄与するとして注目を集めているが、糖尿病や肥満患者の食欲などにどのような影響を与えるだろうか。このテーマについて、米国・ジョンズ・ホプキンス大学医学部のDaisy Duan氏らの研究グループは、TREと通常の食事パターン(UEP)を比較する試験の事後解析を行い、いずれも緩やかな減量に伴って食行動が改善することが示唆された。Obesity誌オンライン版2026年7月27日号に掲載の報告。TREは食行動に影響を与えるか 研究グループは、肥満かつ糖尿病予備群または食事療法で管理されている2型糖尿病の成人を対象に、10時間のTREと16時間のUEPを比較するTRIM(Time-Restricted Intake of Meals)試験を行った。事後解析でTREが食行動、食欲関連ホルモン、および炎症マーカーに及ぼす影響を検討した。参加者は「3因子食行動質問票(TFEQ:食事制限、脱抑制、空腹感)」に回答し、介入前後に空腹時血液サンプル(レプチン、アディポネクチン、CRP、コルチゾール、sRAGE)を測定した。グレリンは75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)中に測定された。群内および群間差の検討には、ウィルコクソン符号付順位検定およびマン・ホイットニーのU検定を用いた。 主な結果は以下のとおり。・39例(TRE群19例、UEP群20例)を解析対象とした。・平均年齢は60±7歳、BMIは35.2±6.0だった。・減量幅はTRE群で2.7%、UEP群で2.5%と両群で同程度だった。・両群とも食事制限の傾向が高まり、脱抑制と空腹感は低下した。・食行動、食欲関連ホルモン、炎症マーカーにおいて、統計学的に有意な群間差は認められなかった。 研究グループは、これらの結果から「10時間TREと16時間UEPは、いずれも緩やかかつ同程度の減量に伴い、食行動の改善を促進した。臨床的に意義のある差が存在するかどうかの確認には、より大規模な前向き研究が必要である」と結論付けている。

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8月21日 治療アプリの日【今日は何の日?】

【8月21日 治療アプリの日】〔由来〕CureAppが製造・販売する「CureApp SC ニコチン依存症治療アプリ」が厚生労働省から薬事承認を取得した2020年8月21日を記念して制定。治療アプリは、従来の医薬品やハードウェア医療機器では治療効果が不十分だった病気を治すためのもので、アプリを第3の治療法として多くに人に知ってもらい、活用してもらうことが目的。関連コンテンツ治療用アプリの処方の仕方早漏のスマホアプリ治療で射精までの時間が2倍も延長【バイオの火曜日】高血圧治療補助アプリ、オンライン算定点数の新設や要件緩和へ/CureApp高血圧アプリの有効性決定因子が明らかに/Hypertension高齢者機能評価+コミュニケーション支援が高齢がん治療の安全性を改善/日本臨床腫瘍学会

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BMIだけでは心血管リスクを見誤る?腹囲・WHRの意義/JACC

 BMIは全身の肥満度を評価する指標として広く用いられているが、体組成や脂肪分布を反映しにくく、心血管疾患(CVD)リスクの異質性を見落とす可能性がある。腹囲やウエスト・ヒップ比(WHR)は中心性肥満の代替指標であり、BMI区分と一致しない場合も少なくない。そこで、米国・Johns Hopkins Ciccarone Center for Prevention of Cardiovascular DiseaseのZeina A Dardari氏らは、BMIの標準体重・過体重・肥満区分を腹囲およびWHRで再分類し、9つのCVD関連アウトカムに対する予後的意義を検討した。その結果、腹囲およびWHRは従来のBMI区分におけるリスクの過小・過大評価を同定し、CVDリスクの再分類に有用であることが示された。本研究結果は、Journal of the American College of Cardiology誌2026年8月11日号に掲載された。 本研究は、Cross-Cohort Collaboration(CCC)に参加する15コホートのデータを用いて行われた。対象は、腹囲またはWHRの調和済みデータを有し、9つのアウトカム(致死的・非致死的心筋梗塞、致死的・非致死的脳卒中、心不全、心房細動、全冠動脈疾患、全CVD、冠動脈疾患死亡、CVD死亡、全死亡)の少なくとも1つについて追跡可能であった25万9,388人とした。BMI区分別に、臨床的に高値と定義される腹囲またはWHRの有無で対象者を分類し、多変量Cox比例ハザードモデルにより各アウトカムのハザード比(HR)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・腹囲データを有する対象者は25万9,351人、WHRデータを有する対象者は21万8,984人であった。追跡期間中央値は20.0年(95%信頼区間[CI]:12.7~23.5)であった。・BMIで標準体重に分類された対象者のうち、高腹囲は5%、高WHRは18%に認められた。過体重に分類された対象者では、高腹囲が39%、高WHRが40%であった。・BMIで肥満に分類された対象者のうち、低腹囲は9%、低WHRは45%に認められた。・BMIで標準体重または過体重に分類された対象者では、臨床的に定義された腹囲またはWHRが高値の場合、多くのアウトカムでリスクが15~50%高かった。・BMIで肥満に分類された対象者のうち低腹囲を有する集団では、標準体重かつ低腹囲の集団と比較して、全死亡を除き有意なリスク差は認められなかった。全死亡については、低腹囲を有する肥満集団でリスクが有意に低かった。・男性とは対照的に、肥満だがWHRが低い女性は、正常体重でWHRが低い女性と比較して、すべてのアウトカムでリスクが有意に高かった。ただし、HRは肥満かつ高WHRの集団より小さかった。・BMIで肥満に分類された対象者における高腹囲または高WHRに関連する集団寄与リスクは13~49%の範囲であった。・集団寄与リスクの推定値が最も高かったのは、高腹囲に関連する心不全および心房細動であった。 本研究結果について著者らは、「腹囲およびWHRは従来のBMI区分における誤分類を同定し、標準体重、過体重、肥満の各区分を横断してCVDリスクを再分類することで、診断的および予後的価値を付加する」とまとめた。

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夜型の人では夜遅い食事パターンが肥満関連指標と関連

 夜型の人では、体脂肪が多く、脂質や糖代謝に関連する指標も不良であることが、新たな研究で示された。ニュージーランドの女性287人を対象としたこの研究では、朝型、夜型、中間型のいずれのクロノタイプでも1日の総エネルギー摂取量に大きな差は認められなかった一方、夜型の人では朝の時間帯の摂取量が少なく、夜遅い時間帯の摂取量が多かった。このような食事パターンは、体脂肪率や腹部脂肪の増加、脂質代謝や糖代謝の悪化と関連していることが示されたという。グリフィス大学(オーストラリア)栄養学教授のRozanne Kruger氏らによるこの研究結果は、7月7日付で「Frontiers in Nutrition」に掲載された。 この研究では、18~45歳の女性287人を対象に、クロノタイプ(朝型、中間型、夜型)と食事摂取(カロリー、栄養)、食事のタイミング、体組成指標、代謝バイオマーカーとの関連を検討した。5日間の食事記録から、エネルギー、主要栄養素、微量栄養素の食事からの摂取量、および1日のどの時刻に食事を摂ったかを解析した。 参加者のクロノタイプは、54%が中間型、34%が夜型、12%が朝型だった。夜型群は、朝型や中間型と比べて、BMI、体脂肪率、アンドロイド/ガイノイド(A/G)比(アンドロイド〔腹部〕領域の脂肪とガイノイド〔臀部・太もも〕領域の脂肪の比率)が高かった。 1日の総エネルギー摂取量は、3群間では統計学的な有意差は認められなかったが、朝型と中間型群を合わせた群と夜型群を比較すると、夜型群の方が総エネルギー摂取量が有意に多かった。朝型・中間型群は夜型群に比べて、午前10時以前のエネルギー、タンパク質、炭水化物、脂質の摂取量が多かった一方、夜型群では午後8時以降のエネルギー、タンパク質、炭水化物、脂質の摂取量が多かった。 こうした傾向は、体脂肪率またはA/G比で層別化した解析でも認められた。高体脂肪率群では夜型群で午前10時以前のエネルギー、タンパク質、炭水化物の摂取量が朝型・中間型群より少なく、午後8時以降のエネルギー、炭水化物、脂質の摂取量が多かった。高A/G比群では、夜型群で午前10時以前のエネルギー、タンパク質、炭水化物の摂取量が少なく、午後8時以降のエネルギー、タンパク質、炭水化物、脂質の摂取量が多かった。中でもタンパク質のエネルギー比率(総エネルギー摂取量に占める割合)は、総エネルギー摂取量で補正後も有意に高かった。さらに、夜型群では朝型・中間型群と比べて、脂質代謝指標や糖代謝指標も不良だった。 Kruger氏は、「1日の総エネルギー摂取量は、クロノタイプにかかわらず大きな差はなかった一方で、食事のタイミングには明確な違いが見られた」と述べている。研究グループによると、本来であれば睡眠を取るべき夜間に食事をすると、体への負担が大きくなるという。夜間に高エネルギー食品を摂取すると、体はそのエネルギーを消費するよりも脂肪として蓄積されやすくなり、肥満になりやすくなったり、健康状態が悪化したりする可能性があるという。Kruger氏は、「この結果は、『いつ食べるか』が『何を食べるか』と同じくらい重要であることを示している。特に生活リズムが夜型の人では、夜遅い時間の食事を減らすことが、健康状態の改善のための重要な戦略になる可能性がある」と述べている。

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GLORY-2:肥満症に対するmazdutideの減量効果と真の治療ゴール(解説:永井聡氏)

 mazdutideはEli Lilly社によって創製されたオキシントモジュリン由来のペプチドアナログであり、グルカゴン(GCG)/GLP-1受容体デュアルアゴニストである。GLP-1受容体介在性の食欲抑制効果に加え、GCG受容体を介した脂肪分解および肝臓でのエネルギー消費亢進による減量効果が期待されており、現在、中国の製薬企業が同国内での治験を進めている。 GLORY-2試験は、BMI30以上の肥満を有する中国人患者を対象とした第III相試験である。60週間にわたるmazdutide 9mgの週1回皮下投与により、プラセボ群と比較して−15.15%の体重減少を達成した。直接比較試験ではないものの、チルゼパチドに迫る強力な減量効果を示している。安全性に関しては、GLP-1関連薬に共通する嘔気・嘔吐などの消化器症状が高頻度に認められたが、本薬特異的な重篤な有害事象は報告されていない。 現時点において、mazdutideは中国以外での開発予定はない。しかし、同クラスのGCG/GLP-1受容体デュアルアゴニストとしては、survodutideが日本や欧米を含めてグローバルで開発中である。すでに強力な減量効果を持つチルゼパチドが上市されている中、「経口薬でもなく、減量率も同等レベルの新規注射薬」には、それほどのインパクトがないと感じられるかもしれない。 ここで改めて強調したいのは、「肥満」と「肥満症」の違いである。単なる美容目的や「減量のみ」を目的としたGLP-1関連薬の不適切使用は社会的な問題となっており、メディアでも多く取り上げられている。過度な減量の裏には、消化器症状などの副作用や、るい痩(筋肉量減少)のリスクが潜んでいる。しかし、われわれの日常的な「適正な肥満症治療」の現場においても、無意識のうちに「体重が何キロ減ったか」という成果ばかりを強調してしまってはいないだろうか。日進月歩で新薬の開発が進むGLP-1関連薬の領域は、ともすれば「減量率の競争」に陥りつつあるのが現実である。 体重減少のみを目的とするならば、極端に言えば「たまたま血圧が高い肥満者に、単なる減量目的で薬剤を投与している」ことと大差なくなってしまう。肥満症治療において真に求められるのは、高血圧、脂質異常症、MASLD/MASHといった肥満関連合併症の改善であり、さらにその先にある長期的な心血管イベントの抑制、生命予後の改善、そしてQOLの向上であるはずだ1)。 この点において、mazdutideは単なるGLP-1受容体作動薬とは異なり、GCG受容体を介して肝臓でのエネルギー消費亢進と脂肪の分解・酸化を直接的に促すという強みを持つ。本試験でも肝内脂肪の著明な低下が示されており、MASLD/MASHを合併する肥満症への効果が強く期待される。興味深いことに、最近、GLP-1受容体作動薬であるセマグルチドがアルコール使用障害に対しても臨床的有用性を示すことが報告され、注目を集めている2)。mazdutideのようなデュアルアゴニストは、その特長を生かし、「アルコール使用障害」と「肝内脂肪の改善・線維化抑制」に対する同時治療を可能にするポテンシャルを秘めているかもしれない。 これからの肥満症治療は、単一の減量指標にとらわれず、患者個々の病態に沿った薬剤の「使い分け」が求められる時代となるだろう。そのためにも、日常診療においては単なる「減量率の競争」から脱却し、患者さんの声にしっかりと耳を傾けながら、その人にとっての「真の治療ゴール」は何かを共に考え、対話を重ねて治療を進めていただきたい。もちろん、現時点ではmazdutideが長期的な生命予後やQOLを改善するという直接的なエビデンスは確立されておらず、今後のさらなるデータ蓄積が待たれる。

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CKM症候群の突然死リスク、フィネレノンで19%低下(FINE-HEART)

 非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)フィネレノンの有効性と安全性を検証した3件の大規模第III相試験の統合解析「FINE-HEART」の事前規定解析の結果、フィネレノンは心血管・腎・代謝(CKM)症候群における突然死リスクの低下と関連していたことが、イタリア・IRCCS Azienda Ospedaliero-Universitaria di BolognaのAlberto Foa氏らによって示された。これまでの研究で、フィネレノンはCKM症候群の心血管系および腎転帰を改善することが報告されているが、突然死に対する影響は明らかではなかった。Journal of the American College of Cardiology誌2026年8月4日号掲載の報告。 FINE-HEART試験に含まれる3件の試験は、FIDELIO-DKD試験(対象:2型糖尿病を伴う慢性腎臓病[CKD]患者)、FIGARO-DKD試験(対象:2型糖尿病を伴うCKD患者)、FINEARTS-HF試験(対象:左室駆出率が軽度低下した心不全[HFmrEF]/左室駆出率が保持された心不全[HFpEF]患者)であり、いずれもフィネレノンまたはプラセボの投与を受ける群に1:1に無作為に割り付けられた。本解析では、多変量Cox回帰モデルを用いて突然死の臨床的予測因子を特定し、フィネレノンの突然死に対する治療効果を評価した。 主な結果は以下のとおり。・中央値2.9年の追跡期間中に、1万8,991例の参加者のうち2,178例が死亡した。心血管死が41%を占め、その中で最も多かったのが突然死(47%)であった。・死亡者に占める突然死の割合は、CKMステージ2/3の患者では13.9%、ステージ4の患者では20.5%であった。ステージ4ではステージ2/3と比較して突然死リスクが約2.7倍高かった(ハザード比[HR]:2.7、95%信頼区間[CI]:1.99~3.67、p<0.001)。・突然死リスクの上昇と独立して関連した因子として、高齢、心不全・心房細動・心筋梗塞の既往、尿アルブミン-クレアチニン比高値、低収縮期血圧、eGFR低下およびHbA1c高値が挙げられた。・突然死はフィネレノン群188例(2.0%)とプラセボ群230例(2.5%)に発生し、フィネレノン群でリスクが19%有意に低下した(HR:0.81、95%CI:0.67~0.98、p=0.034)。 -フィネレノン群:100患者年当たり0.69件 -プラセボ群:100患者年当たり0.85件 -絶対発生率減少:100患者年当たり0.16件 -治療必要数:216・このリスク低減効果は、突然死以外の死亡を競合リスクとして考慮した解析でも一貫して認められた。また、各サブグループ間でも効果は一貫していた。 研究グループは、「これらの知見はCKM症候群患者に対する非ステロイド型MRAの使用を支持するものであり、心血管系および腎臓の保護にとどまらず不整脈による死亡リスクの軽減をもたらす可能性を示している」とまとめた。

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待機的心臓手術後のAKI発生、周術期ダパグリフロジン投与で抑制/JAMA

 待機的心臓手術を受ける患者において、SGLT2阻害薬ダパグリフロジン(10mg)の周術期における4回投与(手術日前日~術後2日目まで1日1回経口投与)はプラセボと比較して、術後7日間の急性腎障害(AKI)の発生を減少させたことが示された。オランダ・アムステルダム大学医療センターのMaartina J. P. Oosterom-Eijmael氏らMERCURI-2 Study Groupが、同国で行った多施設共同二重盲検プラセボ対照無作為化試験の結果を報告した。待機的心臓手術を受ける患者の2~50%でAKI発生が認められるが、これを予防する薬物療法は確立されていない。SGLT2阻害薬は先行研究において、腎保護効果がある可能性やAKI発生の減少が示されていた。JAMA誌オンライン2026年7月30日号掲載の報告。オランダの7施設で無作為化試験、ダパグリフロジン群vs.プラセボ群 研究グループは、待機的心臓手術を受ける患者において、手術前日から開始するダパグリフロジンの投与が、プラセボとの比較において術後7日間のAKI発生を減少させるとの仮説について検証した。 試験はオランダの7施設(大学医療センター2施設、非大学病院5施設)で実施され、対象は待機的心臓手術を受ける18歳以上の成人患者とした。除外基準は1型糖尿病、2型糖尿病でBMI値25未満かつ1日複数回のインスリン注射を施行、ベースラインeGFRが20mL/分/1.73m2未満、糖尿病性ケトアシドーシスの既往、登録時評価の収縮期血圧100mmHg未満、SGLT2阻害薬服用中、SGLT2阻害薬に対する既知/疑いのアレルギーであった。また、妊娠(可能性を含む)・授乳中、妊娠を希望する女性なども除外された。 被験者を、1日1回経口投与のダパグリフロジン(10mg)群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、手術前日(院内で午後3時~午後8時)に投与を開始し、術後2日目まで合計4回投与した(2回目は手術当日の朝、3回目は術後1日目、4回目は術後2日目)。 主要評価項目は、術後7日間におけるAKI発生の群間差とした。AKIは、Kidney Disease:Improving Global Outcomes(KDIGO診断基準)に基づき、術後48時間以内に血清クレアチニン値0.3mg/dL(26.5μmol/L)以上上昇、術後7日以内に血清クレアチニン値が基礎値より1.5倍以上増加、または術後6~12時間の尿量が0.5mL/kg/時未満と定義した。術後7日間のAKI発生率、28%vs.52%で有意差 被験者登録は2023年6月8日~2025年1月27日に行われ、最終追跡調査日は2025年5月16日であった。 784例が登録・無作為化され(各群392例)、778例(99%)が追跡評価を完了した(6例は手術を受けなかった)。ベースラインの両群の患者特性は類似しており、年齢中央値68歳(四分位範囲[IQR]:61~74)、76%が男性、97%が白人であり、BMI中央値27(IQR:25~30)、eGFR中央値80mL/分/1.73m2(IQR:67~89)であった。 7日間のAKI発生は、ダパグリフロジン群111/392例(28%)、プラセボ群205/392例(52%)であった(相対リスク:0.54、95%信頼区間:0.45~0.65、p<0.001)。 最も多くみられた術後の有害事象は、心房細動および再手術であった。心房細動の発現率はダパグリフロジン群45%(176/392例)、プラセボ群45%(176/392例)であり、再手術率はそれぞれ11%(43/392例)、10%(39/392例)であった。

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テレビ視聴の多さは脳萎縮と関連

 「テレビばかり見ていると脳がだめになる」という母親の小言は、あながち的外れではないようだ。新たな研究で、テレビを頻繁に視聴することは、複数の脳領域の体積の減少や白質高信号体積の増加と関連することが示された。一方、座位で仕事をすることは、白質高信号体積の減少や複数の脳領域の体積が大きいことと関連していた。白質高信号とは、脳小血管病などによる白質の変化を反映するMRI所見で、白質病変とも呼ばれている。米南カリフォルニア大学(USC)人類進化生物学プログラムのNatan Feter氏らによるこの研究結果は、7月10日付で「Alzheimer’s & Dementia: The Journal of the Alzheimer’s Association」に掲載された。 Feter氏は、「われわれはこれまで、人々に座りっぱなしの時間を減らすよう勧めてきた。しかし今回の結果から、専門家はその推奨を、座位時間だけでなく座っている間の活動内容にも広げる必要があると考えるかもしれない。座位中の活動の種類によって、脳の健康への影響が異なる可能性があるからだ」と述べている。 この研究では、心血管と脳の健康を長期間追跡している「Atherosclerosis Risk in Communities(ARIC)」研究に参加した1,712人(平均年齢53歳、女性57%)のデータを解析し、座位行動と脳構造との関連を検討した。座位行動として、余暇にテレビを見る頻度と座位で仕事を行う頻度を質問票により評価した。また、脳構造の指標として、前頭葉や後頭葉などの皮質領域、視床・尾状核・被殻・淡蒼球から成る皮質下領域に加え、アルツハイマー病(AD)で早期から変化が現れやすい領域(ADシグネチャー領域)、および白質高信号の体積をMRIで測定した。 年齢や性別、身体活動、BMI、糖尿病、喫煙、飲酒などの共変量を調整して解析した結果、テレビを「頻繁に見る」と回答した人は、「ほとんど/全く見ない」と回答した人と比べて、前頭葉、後頭葉、およびADシグネチャー領域の体積が小さいこと、ならびに白質高信号体積が大きいことと関連していた。一方、「いつも座位で仕事を行う」と回答した人では「座位で仕事をほとんど/全くしない」と答えた人と比べて、白質高信号体積が小さいこと、ならびに頭頂葉、後頭葉、および前頭葉の体積は有意に大きいことと関連していた。男女別に解析したところ、座位での仕事が多いことと前頭葉の皮質体積が大きいこととの関連は男性でのみ認められるなど、座位行動と脳構造の指標との関連には男女差が見られた。 研究グループは、「医師は、患者にもっと体を動かすことを勧めるだけでなく、テレビの視聴時間を減らすことについても助言すべきかもしれない。それ以上に望ましいのは、座位で過ごすのであれば、テレビ視聴の代わりに脳を刺激する活動を取り入れることだろう」と述べている。

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AST・ALTが高くなる季節は?

 MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)の評価では、ASTやALTなどの肝機能値が広く用いられている。今回、日本人の2型糖尿病患者約6,000人を対象とした研究で、AST・ALTは晩秋から初冬にかけて高く、夏に低い季節変動を示すことが分かった。さらに、この変動はMASLDスクリーニングの判定に影響する可能性も示された。ALTがスクリーニングの判定境界に近かった患者では、約9人に1人で測定季節によって判定が異なったという。研究は、慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室の土岐了大氏、国際医療福祉大学三田病院糖尿病・代謝・内分泌内科の坂本昌也氏らによるもので、詳細は6月19日付の「Liver International」に掲載された。 AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)やALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)は、肝細胞障害の指標として用いられてきた。近年ではMASLDの評価で最初に行われる検査として広く活用されており、特に2型糖尿病患者ではその重要性が高まっている。一方、体重や血圧、HbA1cなどでは季節による変動が報告されている。これまでにも集団全体ではAST・ALTが冬に高く夏に低い傾向が報告されていたが、個人レベルでの季節変動や、その臨床的意義は明らかになっていなかった。そこで著者らは、日本人の2型糖尿病患者を対象に、AST・ALTの季節変動がMASLDの評価や血糖コントロールに及ぼす影響を検討した。 本研究では、全国の糖尿病診療施設で構成される日本糖尿病臨床データマネジメント研究会(JDDM)のレジストリに登録された2型糖尿病患者6,039人を対象とした。重度の肝障害患者を除外した上で、2014~2020年に測定された月ごとのASTおよびALT値を解析し、季節変動を評価した。AST・ALTの季節変動のパターンを評価するとともに、MASLDスクリーニングで用いられる30 IU/Lの閾値を基に、冬季と夏季で判定がどの程度変化するかを検討した。さらに、患者ごとのAST・ALTの季節変動幅を算出し、追跡終了時のHbA1cやHbA1c 7%未満の達成状況との関連を解析した。 解析の結果、AST、ALTはいずれも有意な季節変動を示し、晩秋から初冬にかけて最も高く、夏に最も低かった(P<0.001)。季節によって異常値となる割合も変動し、ASTの異常値の割合は夏の15.0%から秋には17.7%へ、ALTでは20.6%から23.2%へ上昇した。 MASLDスクリーニングで用いられるALT 30 IU/Lの閾値付近(年間平均20~40 IU/L)の患者では、約9人に1人で冬季と夏季の判定が異なった。 また、患者ごとのASTの季節変動幅が大きいほど、追跡終了時のHbA1cは高く、HbA1c 7%未満の目標を達成できない可能性も高かった。季節変動幅を4群に分けて比較すると、変動幅が最も大きい群では最も小さい群よりHbA1cが高く、変動幅の増加に伴ってHbA1cも高くなる傾向が認められた。一方、ALTでも同様の傾向がみられたが、関連はASTほど強くなかった。 著者らは、AST・ALTには再現性のある季節変動があり、特にMASLDスクリーニングの判定境界に近い患者では、測定時期によって判定が変わる可能性があると指摘している。また、季節変動幅が大きい患者ほど血糖コントロールが不良となる傾向がみられたことから、AST・ALTの解釈では季節を考慮することが重要であり、季節変動幅は肝・代謝系の不安定さを示す新たな指標となる可能性があるとしている。 なお、本研究は日本人の2型糖尿病患者を対象とした観察研究であり、食事や運動など生活習慣の影響を十分に評価できていないため、結果を他の集団に一般化することや因果関係の解釈には注意が必要としている。

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OSASの根本的要因の「肥満」への治療に期待/リリー・田辺ファーマ

 日本イーライリリーと田辺ファーマは、2026年5月に持続性GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチド(商品名:ゼップバウンド)が「中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(以下"OSAS")」における効能・効果追加の承認を取得したことに寄せて、「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の実態と新たな治療選択肢」をテーマに都内でメディアセミナーを開催した。セミナーでは、OSASの病態やリスク、チルゼパチドの概要、診療でのアンメットニーズなどが説明された。 両社では今回の追加承認により、OSASの根本的な要因である肥満へアプローチできる治療として期待を寄せるとともに、適正使用の推進に取り組むとしている。わが国のOSAS患者数は約943万人 「閉塞性睡眠時無呼吸症候群の実態と課題 新たな治療選択肢の登場」をテーマに葛西 隆敏氏(順天堂大学大学院医学研究科循環器内科学 先任准教授)が、OSASの診療、チルゼパチドの臨床試験結果などを説明した。 OSASは、睡眠中に気道が閉塞することにより、無呼吸や低呼吸が発生する疾患であり、主な症状として「いびき」「無呼吸」「日中の眠気」「起床時の頭痛」などがある。わが国のOSAS患者数は約943万人と推定され、東アジア人では顔面形態の影響からOSASになりやすいといわれている。 発症の機序としては、上気道周囲の軟部組織の脂肪沈着などを介し、舌容積増大に伴う上気道の虚脱と上気道の閉塞が起こるとされる。そして、OSAS患者の80%以上は高度または中等度の上気道虚脱を有しており、そのほとんどは肥満と関連している。 OSASの定義としては、睡眠1時間当たり5回以上の無呼吸または低呼吸イベント(AHI≧5回/時間)がみられる疾患であり、OSASの重症度は無呼吸低呼吸指数(AHI)を用いて、軽症(5≦AHI<15回/時間)、中等症(15≦AHI<30回/時間)、重症(AHI≧30回/時間)で判定される。 OSASでは、高血圧、2型糖尿病、心房細動、心不全、冠動脈疾患、脳卒中、死亡などの心血管系および代謝系の併存疾患のリスク増加にも関与しており、とくに心・脳の血管疾患1)や高血圧と深く関与すると指摘されている。 また、重症OSAS患者では、致死的・非致死的CVDリスクが高くなることが報告されている2)。OSASの最大の危険因子は「肥満」である。肥満が気道閉塞や肺容積減少によりOSASを引き起こす一方で、OSASが睡眠の断片化やホルモン分泌を乱すことで肥満を引き起こすという悪循環が見られる。そのため体重が10%増加すると、中等症以上のOSASを発症するリスクが6倍に増大するとされる一方で、10%の減量によりAHIが26%改善したという報告もある3)。肥満治療がOSASの治療の鍵となるが、生活習慣への介入だけでは、体重減少と維持が不十分な場合があり、他の治療法を検討する必要もある4,5)。チルゼパチドの使用は最適使用推進ガイドラインに沿って 睡眠時無呼吸症候群の診療アルゴリズムによれば、現在中等症以上のOSASの標準治療は持続陽圧呼吸療法(CPAP)となる。また、肥満を併発しているOSASでは、CPAP療法以外の治療法もあわせて検討される。 OSASの治療法には、「OA(マウスピース)療法」「CPAP療法」「手術」「減量」があるが、各々の治療法で利点と課題がある。たとえばCPAP療法では、上気道の開存性の維持やAHIの低下(OSAS症状の改善)という利点がある一方で、アドヒアランス不良などの影響でOSASに対する治療効果が維持できない、CPAP療法に対する忍容性が悪い患者の存在などの課題もある。その他、CPAP療法での治療患者は年々増加している(2022年時点で73万人)、その一方で、未診断・未治療の患者も多数存在する(約943万人)と葛西氏は指摘する。 こうした診療環境の中でGIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドがOSAS治療にも適応となった。チルゼパチドは、中枢神経系における食欲調節と脂肪細胞における脂質などの代謝亢進を通じて体重減少に寄与する。この体重減少作用が、「OSASの病態の根本原因の1つにアプローチする治療となる可能性がある」と葛西氏は期待を寄せる。 チルゼパチドによる治療対象は、中等症以上のOSASでBMIが27以上の患者であり、その使用では「最適使用推進ガイドライン」に沿ってさまざまな要件が必要とされる。処方に際しては2つの要件があり、施設要件として循環器内科、呼吸器内科などの標榜診療科、学会認定教育研修施設、専門医の常勤などがある。また、医師要件としては、OSASの診療に5年以上の臨床経験を有していることや日本循環器学会や日本呼吸器学会などの学会の専門医であることが要件とされている。とくに前者の要件のハードルが高く、教育研修施設など大きな医療機関での使用に限定されている。チルゼパチドは無呼吸低呼吸指数の改善と変化率、体重などを有意に低下 次に中等症から重症のOSASを有する日本人を含む国際共同第III相臨床試験(SURMOUNT-OSA試験)について説明した。この試験は、AHIが15以上のOSASを有するBMI30以上(わが国の実施医療機関ではBMI27以上)の患者を対象とし、多施設共同、無作為化、並行群間、プラセボ対照、二重盲検比較試験で行われた。 それぞれ最大耐用量(MTD)のチルゼパチド(10または15mg)を週1回投与したときのプラセボ投与に対する優越性を検討し、投与52週時点のベースラインからのAHIの低下を指標とすることを目的に、次の2つの試験を実施した。 ・GPI1試験は、気道陽圧(positive airway pressure:PAP)療法を使用できないまたは望まない患者234例(うち日本人7例)。 ・GPI2試験は、スクリーニング前に少なくとも3ヵ月連続してPAP療法を実施中であり、試験期間中にPAP療法を継続する予定の患者235例(うち日本人13例)。 方法として二重盲検下でGPI1およびGPI2試験それぞれについて1:1でチルゼパチド(10または15mg)、プラセボ群に対象を無作為に割り付けた。また、チルゼパチドの開始用量を2.5mgとして週1回4週間投与後、MTD(10または15mg)に到達するまで4週間隔で2.5mgずつ増量し52週間投与した。 主要評価項目は、AHIのベースラインから投与52週時点の変化量(件/時)を評価した。その結果、投与52週時点のAHIのベースラインからの変化量について、GPI1試験ではチルゼパチド群(114例)で-25.3、プラセボ群(120例)で-5.3、GPI2試験ではチルゼパチド群(119例)で-29.3、プラセボ群(114例)で-5.5であり、プラセボ群に対し有意に減少した。また、主な副次評価項目である投与52週時点のAHIのベースラインからの変化率について、GPI1試験ではチルゼパチド群で-50.7、プラセボ群で-3.0であり、GPI2試験ではチルゼパチド群で-58.7、プラセボ群で-2.5と、プラセボ群に対し有意に低下した。同じく投与52週時点の体重のベースラインからの変化率について、GPI1試験ではチルゼパチド群で-17.7、プラセボ群で-1.6となり、GPI2試験ではチルゼパチド群で-19.6、プラセボ群で-2.3と、プラセボ群に対し有意に低下した。 安全性については、他のSURMOUNT試験と同等の安全性が示唆され、死亡などの重篤な有害事象はなかった。主な有害事象は下痢、悪心、嘔吐の順で多く、消化器症状が多く報告されていた。 最後に葛西氏は「OSASは、心不全や脳卒中などの重篤な合併症リスクが高く、生命にかかわる治療すべき疾患であり、肥満がOSASの最大の危険因子となる。肥満を合併したOSASでは減量が重要な治療法の1つであり、チルゼパチドは、OSAS治療で重要な治療選択肢として期待できる」と展望を述べ、講演を終えた。

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心血管疾患既往の2型糖尿病、チルゼパチドでMACEリスク32%低減/BMJ

 チルゼパチドは、グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)受容体とグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体の両方を活性化するインクレチン関連薬であり、血糖値の低下と体重減少をもたらすが、心血管系への効果については議論が続いている。米国・ブリガム&ウィメンズ病院のNils Kruger氏らは、2型糖尿病とアテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)を有する患者では、標準治療にシタグリプチンを併用した場合と比較して、チルゼパチドの併用は主要心血管イベント(MACE)の発生を有意に抑制し、入院を要する感染症や感染症関連死のリスクも低いことを示した。研究の成果は、BMJ誌2026年8月5日号で報告された。無作為化試験を基準としたコホート研究 研究グループは、糖尿病の標準治療へのチルゼパチド追加が実臨床にもたらすMACE抑制効果を評価する目的で、無作為化試験の基準とされるデザインとデータ、解析法を用いた人口ベースのコホート研究を行った(米国国立衛生研究所[NIH]などの助成を受けた)。 解析には、米国の2つの全国的な保険請求データベースに、2022年5月~2025年5月に登録されたデータを用いた。対象は、年齢40歳以上、2型糖尿病とASCVDを有し、BMI値≧25で、心筋梗塞、虚血性脳卒中、冠動脈・頸動脈・末梢動脈疾患、または血行再建術の既往がある患者であった。 チルゼパチドの投与を開始した群(3万5,353例)と、プラセボの代替として心血管アウトカムが中立的な比較薬であるシタグリプチンの投与を開始した群(1万7,618例)について解析した。 主要評価項目は、MACE(心筋梗塞、脳卒中、全死因死亡の複合)およびその個別の構成要素とした。安全性の評価項目は、入院を要する感染症および感染症関連死などであった。心筋梗塞のリスク低下が全体を牽引 傾向スコアによるoverlap weightingで、均衡のとれた各群7,442例ずつを選出した。両群とも、平均年齢は69.8歳、女性が3,783例(50.8%)であった。また各群で、スタチンの投与を受けている患者が85.2%、SGLT-2阻害薬が21.1%、インスリンが18.1%であった。 1年の時点におけるMACEの重み付け1年リスクは、シタグリプチン群が4.4%(95%信頼区間[CI]:3.8~4.9)であったのに対し、チルゼパチド群は2.9%(95%CI:2.5~3.4)と低い値を示した。1年後のリスク差は-1.4%(95%CI:-2.1~-0.7)、治療必要数(NNT)は70であり、MACEのハザード比(HR)は0.68(95%CI:0.58~0.80)であった。2つの累積発生率曲線は3ヵ月以内に分岐し、観察期間を通じて乖離した状態で推移した。 MACEの個別の構成要素については、チルゼパチド群で心筋梗塞のリスクが低く(HR:0.67、95%CI:0.52~0.87、NNT=130)、虚血性脳卒中(HR:0.91、95%CI:0.64~1.28、NNT=2,500)では意義のある差を認めなかった。全死因死亡は、チルゼパチド群でリスクが低かった(HR:0.55、95%CI:0.42~0.72、NNT=122)。心保護効果を確認 入院を要する感染症(HR:0.64、95%CI:0.55~0.75、NNT=48)および感染症関連死(HR:0.40、95%CI:0.26~0.61、NNT=200)は、いずれもチルゼパチド群でリスクが低かった。 また、チルゼパチド群は、感染症全般(HR:0.83、95%CI:0.78~0.87、NNT=19)、尿路感染症(HR:0.83、95%CI:0.76~0.91、NNT=55)のリスクがわずかに低かったが、消化器系の有害事象(HR:1.00、95%CI:0.79~1.27、推定不能)には差がなかった。 著者は、これらの結果を踏まえ、「チルゼパチドは、実臨床において心保護効果と関連していることが示された」としている。また、「意義のある体重減少が生じる前に心血管イベントの発生率曲線が早期に分岐し始めたことは、体重減少以外のメディエーターが関与している可能性を示唆し、代謝上の有益性とは独立に作用する全身性および血管性の炎症の改善を反映している可能性がある」「感染症関連イベントの減少は、観察された有益性には、より広範な非アテローム動脈硬化性の生物学的メカニズムが寄与している可能性を示唆する」「これらの実臨床の試験に基づくエビデンスは、共有意思決定に有益な情報を提供すると考えられる」と指摘している。

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OSAに対する舌下神経電気刺激療法、二次的な健康効果も確認

 舌下神経電気刺激療法(HGNS)は、気道陽圧呼吸(PAP)療法を継続できない閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)患者に対する治療選択肢である。このほど新たな研究で、HGNSを受けた人ではPAP療法を継続できなかった人と比べて、初診から2年以降に糖尿病や高血圧と診断されるリスクが低かったことが示された。米シカゴ大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科のNeil Kondamuri氏らによるこの研究の詳細は、7月16日付で「JAMA Otolaryngology-Head & Neck Surgery」に掲載された。Kondamuri氏らは、「HGNSがPAP療法に代わる治療法となり得ることを支持する結果だ」との見解を示している。 Kondamuri氏は、「ぐっすり眠れないことのつらさは、誰もが知っている。OSAは、その深刻さが十分に認識されていない『沈黙の危険』だ。われわれは、毎日のようにPAP装置が苦手で使っていないと話す患者を診ている。この治療法を継続できない患者がこれほど多いのであれば、同程度、またはそれ以上の二次的な健康効果が期待できる別の治療法が必要だ」とニュースリリースで述べている。 OSAでは、気道が閉塞して酸素濃度が低下するたびに目が覚めるため、睡眠の質が低下する。Kondamuri氏らによると、未治療のOSAは心臓や血管に負担をかけるため、さまざまな心血管系の健康問題に関連していることが報告されているという。 PAP療法は、マスクを介して一定の圧力(陽圧)をかけた空気を気道に送り込み、睡眠中に気道が閉塞しないよう開いた状態を維持する治療法である。一方、HGNSでは、舌の動きをコントロールする舌下神経の周囲に電極を巻き付けて電気刺激を与える。この電極は、胸部の皮下に植え込まれた小型デバイスにつながっており、患者が息を吸うたびに舌下神経へ弱い電気刺激を送る。刺激を受けると舌が前方へ引き出され、後方へ落ち込んで気道を塞ぐのを防ぐ。 Kondamuri氏らは今回の研究で、HGNSのためのデバイスを植え込む手術を受けた3,786人のOSA患者(年齢中央値53.0歳、男性67.7%)と、適応基準を満たしていたがHGNSを受けなかった3,396人の患者(対照群、年齢中央値56.0歳、男性71.3%)を対象に、糖尿病や高血圧と診断されるまでの期間について比較した。いずれの患者も、OSAの診断を受けたがPAP療法を継続できていなかった。HGNSの効果は初診から2年以降に現れると仮定して、初診から2年以内と2年以降に分けて解析した。 その結果、ベースライン時に心血管疾患(CVD)がなかったHGNS群では、初診から2年以内に糖尿病と診断されるリスクについては対照群との間に有意差がなかったが、2年以降ではリスクが81%低かった(ハザード比〔HR〕0.19、95%信頼区間〔CI〕0.09~0.38)。また、高血圧と診断されるリスクは、初診から2年以内では対照群より高かったものの(HR 1.70、95%CI 1.26~2.28)、2年以降では51%低かった(HR 0.49、95%CI 0.33~0.73)。 Kondamuri氏は、「これまでの研究から、PAP療法を毎晩5~6時間程度、継続して使用できていない患者では、HGNSで示されたような二次的な健康リスクを予防する効果が得られない可能性が示されている」と指摘している。その上で同氏は、「PAP装置を使用しても十分に休息できたと感じられない場合や他の治療選択肢について知りたい場合には、睡眠医療に精通した耳鼻咽喉科医に相談し、自分の気道の解剖学的特徴や希望に合わせた治療法について検討してほしい」と助言している。 ただし、今回の研究は追跡期間が短いため、HGNSが危険な不整脈や心筋梗塞、心不全などの長期的なリスク低下につながると断定するには十分ではないと、研究グループは指摘している。

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5人に1人はLp(a)高値、CVD死を見落とさないために~Lp(a)の今をインタビュー(前編)

『2022 EAS Lp(a) Consensus Statement』を皮切りに、2025年3月にはLp(a) Global Summitにて『Lp(a)検査と管理に関するブリュッセル国際宣言』が採択された。さらに同年8月の『2025 ESC/EAS Focused Update』、翌2026年3月の『ACC/AHA脂質異常症ガイドライン』改訂へと続き、国際的にLp(a)測定の推奨強化へ向けた大きな潮流が生まれている。では、日本における現在のLp(a)測定のあり方は、諸外国と比較してどのような状況にあるのだろうか。日本版コンセンサスステートメントの発出を目前に控え、国内でLp(a)測定を普及・啓発していくうえで留意すべきポイントとは――。今回、Lp(a)研究の第一人者であるFlorian Kronenberg氏(オーストリア・インスブルック医科大学 遺伝疫学研究所 教授/所長)が来日。ケアネットの単独インタビューに応じ、Lp(a)測定の臨床的意義や最新の知見について語った。※本編は2回にわたってお届けします。後編「Lp(a)測定での4つの重要プロセス、Lp(a)研究の第一人者がアドバイス」は8月27日公開予定です。INDEXLp(a)がこれほどまで注目される理由Lp(a)が心血管リスクを高めるメカニズムLp(a)高値の驚くべき頻度、Lp(a)の特性と啓発すべき対象者とはCVD死の多くは“予防可能”、Lp(a)測定を促す取り組み―Lp(a)がこれほどまで注目される理由欧州全体において、心血管疾患(CVD)が死因第1位であるという深刻な問題は広く認識されています。同時に、これらの死亡の多くは予防可能であることが分かっています。ところがCVD有病率の3分の1はコレステロールが原因である一方で、Lp(a)測定の理解、家族性高コレステロール血症(FH)への治療介入不足が原因で十分にコントロールできていないこと、一般市民における認知不足などが課題となっています。われわれは2025年3月24~25日にベルギー・ブリュッセルで開催された「Lp(a) Global Summit」において『Lp(a)検査と管理に関するブリュッセル国際宣言』を行いました1)。その宣言および複数のガイドライン推奨も踏まえて、欧州委員会(EU)は「EU Safe Hearts Plan(欧州心血管疾患対策計画)」において、加盟国に対してスクリーニング項目に何を含めるべきかなど、非常に明確な指針を打ち出し、そこにはLp(a)高値やFHのスクリーニングが盛り込まれました。それと同時に、上述の課題解決のためにもEUは国民自身が「リスクを知る」ことを非常に重要視しています。リスクを認識すれば、健康へのモチベーションやヘルスリテラシーが向上し、最終的には治療アドヒアランスの向上につながると捉えています。上記計画の中では何度もLp(a)やFHについて言及されており、加盟国がプログラムを実装できるよう委員会がサポートしています。具体的な認知向上への取り組みについては後述します(CVD死の多くは“予防可能”、Lp(a)測定を促す取り組み)。―Lp(a)が危険な理由、そのメカニズムと心血管リスクの過小評価Lp(a)濃度と心血管リスクには明確な相関関係があることが知られており、Lp(a)濃度が高くなればなるほど、心筋梗塞や脳卒中リスクが比例して高くなります。とくに125nmol/L(50mg/dL)を超えると、リスクが格段に跳ね上がります。その理由は、Lp(a)粒子1個あたりの動脈硬化惹起性が、通常のLDL粒子と比較して格段に高いためです。構造を見るとLDL粒子に似ていますが、Lp(a)には「アポリポ蛋白(a)」という特別なタンパク質が結びついており、さらに、多くの「酸化リン脂質(OxPL)」を搬送しているため、非常に動脈硬化を起こしやすい性質を持っているのです2,3)。(図1)注意すべきLDL様粒子の構造4)画像を拡大するただし、これまでの研究結果5)から、Lp(a)が高値であっても従来の一般的なリスク因子(高血圧、糖尿病、過体重、不健康な生活習慣など)に早期介入することで、CVDの絶対的生涯リスクが大きく低減することが示されています。たとえば、従来のリスク因子を多く持っている人でも、Lp(a)が低ければ、生涯の心血管イベントの絶対リスクは25%程度に留まります。一方で、同じように従来の一般的なリスク因子を多く持ち、Lp(a)が150mg/dLの高値である場合、生涯の絶対リスクは68%にまで跳ね上がってしまいます。もし、医師がその患者のLp(a)の数値を知らなければ、心血管リスクを劇的に「過小評価」してしまうことになります。しかし、従来の危険因子を持たずLp(a)濃度のみが高い人の場合、心血管イベントの生涯リスクは、欧州一般人口における心血管疾患死亡の平均リスクよりも低いんです。人々が過度に不安になるのを避けるためにも、また健康的なライフスタイルを継続し、可能な限り危険因子を増やさないよう心掛けてもらうためにも、この点は伝えるべきです。これに対し、従来の危険因子を有し、かつLp(a)が高い人に対しては、危険因子プロファイルの改善に徹底的に取り組むよう助言すべきです。(図2)Lp(a)濃度が高くても、心血管疾患リスク増加と必ずしも関連しない画像を拡大する(表1)UK Biobankデータ[図2参照]に基づく、Lp(a)と従来リスク因子の有無による介入方法画像を拡大する―Lp(a)高値の驚くべき頻度、特性や啓発すべき対象者とはLp(a)を啓発するにあたり、医療者(医師)側にも認識不足というギャップがあるため、医師と一般公衆の双方への啓発が必要です。現在、Lp(a)はさまざまなコンセンサスステートメントやガイドラインに織り込まれるようになり、「成人は生涯に少なくとも一度は必ずLp(a)を測定すべきだ」という方針が示されています。というのは、Lp(a)高値の頻度は“5人に1人”と言われており、決して“珍しい状態”ではないからです。たとえば、FHの発症頻度は地域によって異なりますが250~350人に1人と言われています。それに比べ、Lp(a)高値の人は周りを見渡せば必ず身近に該当者がいるレベルです。つまり、患者自身がLp(a)高値だと知ることは、適切な対処ができるという意味で「特権」とも言えるのです。次に、『生涯に1度の測定』が推奨される理由は、遺伝的にほぼ90%決定付けられ、生活習慣(食事や運動)によって数値を下げることはできないからであり、一般的には、信頼性が高く十分に標準化された測定法が用いられていることを前提とすれば、多くの場合、生涯に一度の測定で十分です。Lp(a)値には±20%程度の変動がみられますが、これは測定技術上の変動、検体採取方法(前分析条件)、および一部の生理学的変化に関連するものであるため、この変動を過大評価すべきではありません。ただし、以下の患者では、Lp(a)の再測定が推奨されます。◯腎機能障害の患者Lp(a)値が上昇。とくにネフローゼ症候群では、Lp(a)値が3~4倍に上昇することがある◯肝機能障害のある患者Lp(a)は肝臓で産生されるため、肝機能障害の場合にはLp(a)値が低下するこのほかにも、再測定の意義が問われることが多い対象者について、私見を交えながらお伝えしますと、以下のようになります。(表2)現時点での患者背景ごとの再測定の是非画像を拡大する―CVD死の多くは“予防可能”、Lp(a)測定を促す取り組みこれまでに説明してきたとおり、CVDとの戦いにおいて最も重要な柱となるのは、Lp(a)などのリスク因子のスクリーニングです。Lp(a)やコレステロール、血圧などの値は、心筋梗塞や脳卒中を発症するよりもかなり前の段階から、高値を示しているため、これらのリスク因子を早期に検出し、対処することがきわめて重要なのです。そのLp(a)測定に関する認知向上には多くの方法があります。Lp(a)に関する国内のコンセンサスステートメントを作成すること(日本でも数週間以内に利用可能になる予定)Lp(a)を、より幅広い医師を対象とした脂質異常症あるいは心血管疾患診療に関するガイドラインに組み込むこと(これは、脂質代謝および脂質管理・治療というより広い文脈の中にLp(a)を位置付けることを含む)さまざまな診療科・専門領域の学会・学術集会でLp(a)に関する講演の実施、また、Lp(a)測定を提供することLp(a)を説明するための、医師向けおよび患者向けの優れた情報資材を作成することLp(a)およびASCVDリスクに関する典型的な症例[Lp(a)の重要性を強く印象付けるもの]を紹介しながら、メディアでの注目を集めること患者団体と連携し、Lp(a)の重要性が伝わるような症例を紹介・発信することLp(a)アンバサダーグループを構築すること繰り返し、繰り返し、繰り返し…あらゆる機会を捉えて発信し続けることアンバサダーグループは、Lp(a)とともに生きる経験を持ち、Lp(a)について十分な教育を受けた人々です。私たちはFH EuropeおよびLp(a) International Task Forceにおいて、この取り組みを行っています。そして、世界中の人々に啓発を促すため、私自身は年間70回ほど、Lp(a)について講演を行っています。後編に続く―――。 参考 Kronenberg F, et al. Eur Heart J. 2022;43:3925-3946. Kronenberg F,et al. Atherosclerosis. 2023;374:107-120. 1) FH Europe Foundation:Say YES to better cardiovascular health across the world 2) Kronenberg F, et al. J Int Med. 2013;273:6-30. 3) Koschinsky ML, et al. Atherosclerosis. 2022;349:92-100. 4) Koschinsky ML, et al. Pharmacol Res. 2023;194:106843. 5) Kronenberg F, et al. Curr Atheroscler Rep. 2024;26:75-82.

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第332回 チルゼパチドは食べるのを減らすのみならずカロリーを燃やす褐色脂肪を活性化する

LillyのGLP-1受容体とGIP受容体の両方の作動薬であるチルゼパチドが、食べるのを減らしてカロリー摂取を抑制するのみならず、熱を生んでカロリーを消費する褐色脂肪組織(BAT)を活性化することが、小規模ながらプラセボ対照の無作為化試験で示されました1,2)。チルゼパチドで体重が減るのは食欲を減らし、食べる量を少なくすることにおよそ起因するとみられていました。しかし、チルゼパチドは少食にするばかりが能ではないかもしれません。中枢や末梢のGLP-1受容体活性化がもたらす体重減少が、摂食抑制のみならずエネルギー消費向上のおかげでもあることがいくつかの動物実験で示唆されています。チルゼパチドで活性化するGLP-1受容体はもっぱら膵臓と中枢神経系(CNS)で発現します。一方、チルゼパチドで同じく活性化するもう1つのGIP受容体は脂肪組織で発現しており、脂肪組織機能に直接寄与しているようです。GIP受容体活性化は栄養処理や代謝制御を改善して脂肪組織機能を向上させるようです。GLP-1受容体のみの作動薬に比べてチルゼパチドが体重、糖、トリグリセリドを下げる効果が一層高いことにそれらのGIP受容体活性化の恩恵が貢献しているかもしれません。さらに、チルゼパチドは寒さでBATが熱を発生するときのように、BATのケト酸や分枝鎖アミノ酸の分解を増やすことがマウスでの検討で示されています3)。そこで、スロベニアのリュブリャナ大学病院のRok Herman氏らは、チルゼパチドがBATの量や活性を高めるかどうかや、白色脂肪組織を褐色細胞化するかどうかを臨床試験で調べてみることにしました4)。かつてBATは幼少期を過ぎると消失すると考えられてきましたが、最近の試験で成人にも存在することが判明しています。肥満だとBATは働かなくなり、寒さで活性化します。TABFAT(Tirzepatide Brown and Beige Adipose Tissue Activation)と銘打つHerman氏らによるプラセボ対照無作為化試験には、肥満の閉経前(35.5~45.0歳)の女性34例が参加しました。34例は24週間のチルゼパチドかプラセボを投与する群に1対1の比で割り振られました。BATの寒さに応じた活性や量をPET/CTやMRIの画像を使って測定したところ、ベースラインでは41.2%だったBAT検出患者の割合がチルゼパチド群で64.7%に上昇しました。プラセボ群のBAT検出患者の割合は変化しませんでした。また、チルゼパチド群のBATの活性や量の上昇がプラセボ群を有意に上回りました。さらには、どうやら皮下脂肪が褐色細胞化し、より代謝が盛んなベージュ脂肪へと変換しているらしいことも見てとれました。以上の試験結果は本年6月のEndocrine Societyの年次総会で発表され、3千ドルの授与を含む駆け出しの研究者への賞(C. Wayne Bardin, MD, International Travel Award)を受賞しています。その受賞を称える同月のニュースでHerman氏は試験のデータ解析が終わりつつあり、主だった結果を本年中に論文にして発表すると述べています5)。参考1)ORF50-04 - Tirzepatide Stimulates Brown Adipose Tissue Activity Independent of Weight Loss in Women with Obesity: TABFAT Trial / ENDO 20262)Tirzepatide may change how the body uses energy / Endocrine Society3)Samms RJ, et al. Mol Metab. 2022;64:101550.4)Herman R, et al. Trials. 2025;26:300.5)Game Changer: 2026 Bardin Award Winner Rok Herman, MD / Endocrine Society

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メタボ解消、正常BMIまでの減量は必要ない?

 メタボリックシンドローム(MetS)の解消に向けた減量は、体重、BMI、腹囲など何がよく、どの程度必要だろうか。このテーマに関し、中国の湖北省疾病予防管理センター慢性・非感染性疾患予防管理研究所のJunfeng Qi氏らの研究グループは、約7,000例を対象にデータを解析。その結果、MetSの解消にBMIを完全に正常化させる必要はないことが示唆された。この結果は、Obesity誌2026年7月31日オンライン版に公開された。MetS解消に必要な減量幅:過体重で2~8%、肥満で3~9% 研究グループは、ベースラインBMIに基づいて尺度化された新たな指標「BMI正常化達成率(BMI-NAR)」を導入し、MetS解消に向けた個別化の減量目標を検討することを目的に、China HEARTプロジェクトのデータを解析した。過体重/肥満かつMetSを有する成人7,340人を対象とした縦断的コホート研究を実施し、BMI-NARは、BMIの正常値(24.0kg/m2未満)到達に向けた進捗率(%)として定義した。また、ロジスティック回帰分析および制限付き3次スプラインを用い、BMI-NARとMetS解消との用量反応関係を評価した。 主な結果は以下のとおり。・BMI-NARが50%上昇するごとに、MetS解消との有意な関連が認められた。・全体ではオッズ比[OR]1.10、95%信頼区間[CI]:1.07~1.12、過体重ではOR:1.08、95%CI:1.06~1.11、肥満ではOR:2.36、95%CI:2.00~2.80だった。・探索的に特定された最小有効閾値(BMI-NARは全体で37%、過体重で53%、肥満で22%)を超えると、解消の確率は急激に上昇した。・全体集団ではBMI-NAR約165%までMetS解消の有益性が認められたが、それを超える高値域は症例数が少なかった。・過体重および肥満の集団において、明確な効果の上限は確認されなかった。・これらの探索的閾値を個別化減量目標に換算すると、一般的な過体重(ベースラインBMI25~27.99)では最低2~8%、肥満では3~9%の減量が必要となる。 研究グループはこの結果から「MetSの解消には、BMIを完全に正常化させる必要はない。BMI-NARは、この高リスク集団における個別化された最小有効減量目標を検討するための、仮説提唱のための定量的フレームワークを提供するものである。ただし、臨床応用には外部検証が必要」と結論付けている。

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GLP-1受容体作動薬、自己免疫疾患患者の死亡・血栓リスク低下と関連

 肥満を伴う関節リウマチ、乾癬性関節炎、炎症性腸疾患などの自己免疫疾患の患者の中で、GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)が処方されている人は、死亡リスクや血栓症のリスクが低いという研究結果が報告された。米フロリダ大学のAmy Sheer氏らが、フロリダ州などの3州にある14の医療機関の電子カルテ情報を用いて検討したもので、詳細は6月6日付で「Journal of the American Heart Association(JAHA)」に掲載された。 GLP-1RAは、2型糖尿病の血糖管理のほかに減量目的でも用いられている。肥満では、全身性の慢性炎症や血管内皮機能の低下により血栓が形成されやすいことが知られていて、また自己免疫疾患も炎症反応を強めるために、肥満を伴う自己免疫疾患患者では、心血管イベントや血栓イベントのリスクが高いと考えられている。Sheer氏らは、2014~2024年の電子カルテデータから、自己免疫疾患と肥満のある18歳以上の成人患者を抽出。背景因子を傾向スコアでマッチングさせ、GLP-1RAが処方されていた患者と処方されていない患者、各群1万3,204人のデータセットを作成し、全死亡や心血管・血栓イベントのリスクを比較した。解析対象者全体の平均年齢は54.7±14.5歳、女性73.4%で、BMIは37だった。 解析の結果、GLP-1RAの処方は、全死亡リスクが44%低いことと関連していた(ハザード比〔HR〕0.56〔95%信頼区間0.47~0.66〕)。また、脳卒中・一過性脳虚血発作(HR0.87〔同0.76~0.99〕)、肺塞栓症(HR0.69〔0.56~0.86〕)、静脈血栓塞栓症(HR0.83〔0.72~0.95〕)、救急外来受診(HR0.79〔0.75~0.83〕)のリスクも有意に低かった。一方、心筋梗塞リスクについては有意な低下は認められなかった。 この結果について、米マサチューセッツ総合病院のFatima Cody Stanford氏は、「肥満と自己免疫疾患を併発している患者において、全死因リスクが44%減少したという結果は注目すべき発見だ」と述べている。米国心臓協会(AHA)ライフスタイル・心血管代謝評議会の一員でもある同氏は、「肥満の専門医・研究者として普段から複雑な炎症性疾患を抱える患者を診察している立場からすると、今回の研究結果はわれわれが抱いていた臨床疑問と期待に答えるものだ。つまり、GLP-1RAのメリットは血糖コントロールや体重減少にとどまらず、最もリスクの高い自己免疫疾患患者の一部において、疾患の経過そのものを変える可能性があるということだ」と話している。 研究者らは、この結果について、「GLP-1RAは免疫系を調節し、血液凝固能を抑制することが知られている。今回の研究結果はそのような作用によって説明できるのではないか」と述べている。またSheer氏は、「既存の自己免疫疾患治療薬とGLP-1RAの併用効果に期待される。過体重や肥満を伴う自己免疫疾患患者にとって本研究は、処方薬が心血管疾患のリスク軽減にもつながっている可能性を示す、希望の兆しとも言えるのではないか」としている。

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多内分泌代謝性卵巣症候群は心筋梗塞や脳卒中のリスクと関連

 若年女性に見られる卵巣関連の内分泌・代謝疾患である多内分泌代謝性卵巣症候群(polyendocrine metabolic ovarian syndrome;PMOS)は、心筋梗塞や脳卒中のリスク上昇と関連している可能性がある。新たな大規模研究で、PMOSの女性では、アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)イベントの発生リスクが、PMOSではない女性と比べて4倍以上高いことが明らかになった。米ペンシルベニア大学病院産婦人科のAnuja Dokras氏らによるこの研究結果は、7月20日付で「The Lancet Obstetrics, Gynaecology, & Women's Health」に掲載された。 Dokras氏は、「この研究結果は、臨床医がPMOS患者の心血管の状態を綿密に追跡・評価することの重要性を示している。また、PMOS患者自身が心血管の健康維持を心がけるとともに、喫煙、運動不足、肥満、高LDLコレステロール(LDL-C)値、糖尿病、高血圧といったリスク因子を管理することも重要である」と述べている。 PMOSでは多くの場合、卵巣内に発育途中の小卵胞が複数見られる。また、アンドロゲンの過剰産生により排卵障害や月経異常、不妊症のほか、代謝異常や心血管疾患のリスクが高まる。研究グループによると、PMOSは妊娠可能年齢の女性の約10~13%に認められるが、そのうちの最大70%は自分がPMOSに罹患していることに気付いていないという。 今回の研究では、Optum社の匿名化医療保険請求データベース(Clinformatics Data Mart Database)を用いて、ASCVDの既往がない18~50歳の女性を対象に、PMOSとASCVDイベントとの関連を検討した。対象者のうち、41万3,450人(平均年齢31.1歳)がPMOSと診断されていた。定期健康診断のICDコードを有し、年齢およびPMOS診断月をPMOS群の女性と一致させた女性206万7,250人を対照群とした。ASCVDは、冠動脈疾患、脳血管疾患、末梢動脈疾患と定義した。 その結果、ASCVDイベント全体の発生のハザード比(HR)はPMOS群で対照群よりも高く、年齢などの交絡因子で調整後もHRは4.40だった。疾患別に解析すると、心筋梗塞や脳卒中のリスクは約2.5倍、脳卒中発症の前兆となる一過性脳虚血発作(TIA)のリスクは約3.4倍、末梢動脈疾患のリスクは約4倍であることも示された。媒介分析では、高血圧、脂質異常症、2型糖尿病、肥満などの心血管疾患リスク因子だけでは、PMOSとASCVDとの関連の約3分の1しか説明できないことが示唆された。 PMOSは、もともとは多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と呼ばれていたが、2026年5月、国際的なコンセンサスプロセスを経て、PCOSはPMOSへ名称変更された。Dokras氏は、「『多嚢胞性』という言葉は、この疾患の実態を正確に表していなかった。今回の研究で示したように、PMOSの影響は婦人科領域にとどまらない。新しい名称は、内分泌系の複数のホルモンが関与する疾患であることを示している。この名称変更により、臨床医がより包括的な医療を提供できるようになることを期待している」と述べている。

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第308回 手足口病、全国25都道県で警報レベル 東北でも感染拡大/JIHS

<先週の動き> 1.手足口病、全国25都道県で警報レベル 東北でも感染拡大/JIHS 2.千葉の豪雨で25市町に災害救助法、マイナ保険証なくても受診可能に/厚労省 3.地域ごとに「推奨薬」選定へ 地域フォーミュラリ普及を本格化/厚労省 4.チルゼパチドの薬価25%減 低価格化による不適正使用を懸念/リリー 5.MMR混合ワクチンを個別接種へ 接種率低下と感染拡大に懸念/米国 6.沢井製薬が46品目販売中止、低薬価・設備老朽化で安定供給が課題に/沢井 1.手足口病、全国25都道県で警報レベル 東北でも感染拡大/JIHS国立健康危機管理研究機構(JIHS)の感染症動向調査によると乳幼児を中心に流行する手足口病が、東北各県で高い水準となっている。青森県では8月3~9日の患者報告数が257人で、6週間ぶりに減少したものの、1定点医療機関当たり7.56人と警報基準の5人を上回った。県内6保健所管内のうち5管内が警報レベルで、青森市・東津軽では10.33人、八戸市・三戸では9.14人だった。その一方で、岩手県では同期間の患者数が415人と前週から69人増加。1定点当たり15.37人で10週連続の増加となり、警報基準の3倍を超えた。一関27.0人、中部26.5人、県央25.0人など、10管内中7管内が警報レベルとなっている。宮城県も1定点当たり10.45人と今季最多を更新し、4週連続で警報基準を超えた。同じく福島県でも9.71人と2週連続で今季最多となり、警報レベルが4週続いている。全国では7月27日~8月2日の定点当たり報告数は6.03人。2週連続で減少したものの、25都道県で警報基準を超えており、依然として広範な流行が続いている。手足口病はエンテロウイルスなどによる感染症で、多くは軽症だが、まれに脳炎などの中枢神経合併症を来す。飛沫や接触のほか便を介して感染し、症状消失後も数週間にわたり便中へウイルスが排泄されることがある。医療現場では乳幼児の発熱、口腔内病変、手足の発疹に加え、意識障害、けいれんなど重症化を示唆する症状に注意が必要である。家庭や保育施設では石けんと流水による手洗い、タオルの共用回避、おむつ交換時の排泄物処理の徹底が求められる。 参考 1) 手足口病の減少続くも、感染性胃腸炎やコロナは増転【感染症動向調査第31週:7月27日~8月2日】(Medical Tribune) 2) 青森「手足口病」感染者数減少も依然5保健所管内で警報レベル(NHK) 3) 岩手県内「手足口病」患者数さらに増加 警報基準の3倍余に(同) 4) 福島県内 「手足口病」今季最多に お盆休みの感染対策徹底を(同) 2.千葉の豪雨で25市町に災害救助法、マイナ保険証なくても受診可能に/厚労省8月13日に千葉県を中心に発生した記録的豪雨で、県内の医療機関にも浸水や停電などの被害が広がっている。厚生労働省によると、14日午前10時時点で大規模病院を含む22医療機関から被害報告があり、千葉市、柏市、八千代市などを中心に影響が確認された。内閣府は多数の住民が生命・身体に危害を受ける、またはその恐れがあるとして、千葉県の21市4町、計25市町に災害救助法を適用した。厚労省は14日、被災者の保険診療や診療報酬に関する特例措置を通知した。避難時にマイナンバーカードや資格確認書を紛失、または自宅に残した場合でも、氏名、生年月日、連絡先に加え、被用者保険では事業所名、国保・後期高齢者医療では住所などを申し立てれば保険診療を受けられる。医療機関は可能な限り保険者を確認した上でレセプト請求するが、特定できない場合も住所や事業所名、連絡先などを記載して請求できる。被災者受け入れに伴う診療報酬上の特例も適用される。許可病床数を超えて患者を受け入れても減額措置を適用せず、DPC病院も従来通り診断群分類点数表による算定が可能となる。患者急増や災害支援への職員派遣によって看護配置や夜勤時間などの施設基準が一時的に満たせなくなった場合も、一定範囲では変更届を不要とする。また、被災医療機関からの転院患者については、平均在院日数や重症度、医療・看護必要度などの算定から除外できる場合があり、ICU・HCUにやむを得ず本来の対象外患者を収容した場合も特例が設けられた。そのほか、避難所で継続的な診療が必要な通院困難患者には、条件を満たせば在宅患者訪問診療料の算定も認められる。その一方で、保団連は医療機関や介護施設、在宅人工呼吸器・酸素療法、人工透析患者への電力・水供給の早期確保、医薬品・医療材料の供給、被災者の医療費窓口負担免除などを政府に要望した。豪雨災害では直接的な外傷だけでなく、停電・断水による透析や在宅医療の継続困難、慢性疾患治療の中断も重要な課題となる。 参考 1) 令和8年8月13日からの大雨に伴う災害に係る災害救助法の適用について(内閣府) 2) 令和8年8月13日からの大雨に伴う災害の被災者に係るマイナ保険証又は資格確認書の提示等について(厚労省) 3) 千葉豪雨 県内の22の医療機関から被害報告 厚労省(テレビ朝日) 4) 千葉の大雨、死者8人に…被災者の“医療費免除”と“最大850万円の支給”を医師団体が国に緊急要望(弁護士JPニュース) 5) 2026年8月13日からの千葉県を中心とする大雨被害、保険診療受診や診療報酬算定に関する特例を適用-厚労省(Gem Med) 3.地域ごとに「推奨薬」選定へ 地域フォーミュラリ普及を本格化/厚労省厚生労働省は、地域ごとに使用を推奨する医薬品を定める「地域フォーミュラリ」の普及を本格化させる。今秋をめどに、医療関係者らを対象とした全国説明会を開き、制度への正確な理解を広げる方針。地域フォーミュラリは、高血圧、脂質異常症、胃潰瘍などの治療薬について、有効性、安全性、費用、供給状況などを踏まえ、地域で推奨する医薬品をリスト化する仕組み。院内フォーミュラリと異なり、病院だけでなく診療所や薬局も含む地域全体で運用する。医師の処方権を制限するものではなく、標準的な薬物療法の共有、後発医薬品の適正使用、医薬品の安定供給を目的とする。日本フォーミュラリ学会によると、2026年2月時点で18都道府県30地域に導入が済んでおり、31地域が準備中。大阪府八尾市ではスタチンなど10薬効群、茨城県つくば地域では14薬効群について策定している。学会も31薬効群の「モデルフォーミュラリ」を公開しており、各地域はこれを参考に独自の事情を加味して策定できる。2026年度診療報酬改定では、医科・調剤の施設基準に、地域の医療機関、薬局、関係団体と医薬品の品目情報を共有し、安定供給に向けた事前の取り決めを行うことが望ましいとの考え方が盛り込まれた。現時点では努力目標だが、国が地域フォーミュラリを政策的に後押しする姿勢が鮮明になった。厚労省は全都道府県に医師会や薬剤師会などが参画する検討会の設置を求める。普及の背景には医療費適正化に加え、後発薬の供給不安や災害対応がある。健保連は2019年、高血圧、脂質異常症、糖尿病で後発薬への切り替えが進めば、全国で年間3,100億円の薬剤費削減につながると試算している。また、地域で使用薬をある程度集約すれば、薬局の在庫負担軽減や供給途絶時の代替、災害時の備蓄・配送にも役立つ。今後は、地域の実情を反映しながら、医師の処方判断とどう両立させるかが普及の鍵となる。 参考 1) 地域フォーミュラリ、厚労省が「全国説明会」今秋、医療関係者ら向けも(MEDIFAX) 2) 高血圧・脂質異常症・胃潰瘍…地域ごとに異なる「使用が推奨される医薬品」、リスト作りを国が推進(読売新聞) 3) 報酬改定も策定を後押し、広がる地域フォーミュラリ(日経メディカル) 4.チルゼパチドの薬価25%減 低価格化による不適正使用を懸念/リリー日本イーライリリーは、2型糖尿病治療薬チルゼパチド(商品名:マンジャロ皮下注)の薬価が8月1日付で25%引き下げられたことを受け、「画期的な医薬品に対する不当に不利益な対応」とする声明を発表した。今回の引き下げは、販売額が想定を上回った医薬品の価格を調整する「持続可能性特例価格調整」の適用によるもの。厚生労働省によると、同薬の保険診療での年間販売額は1,000~1,500億円規模に達している。薬価は2.5mg製剤で1本1,443円、15mg製剤で8,658円となった。リリーは、日本の価格は従来からG7で最も低い水準にあり、今回の引き下げにより同規模の経済圏でも最低水準になるとしている。同社は低価格化により、適応外となる痩身目的での不適正使用、海外からの医療ツーリズム、利益目的の買い占めや海外転売が拡大し、本来治療を必要とする2型糖尿病患者への安定供給に影響する可能性があると警告。政府に海外転売を厳格に規制する措置を求めている。チルゼパチドは週1回投与のGIP/GLP-1受容体作動薬で、食欲を抑制する作用も有する。わが国では2023年に2型糖尿病治療薬として発売されたほか、2025年には肥満症治療薬として別製品が発売されている。その一方で、糖尿病治療用製剤を美容・ダイエット目的で自由診療に使用する例が広がっており、適応外使用に伴う健康被害や、医薬品副作用被害救済制度の対象外となる可能性も指摘される。リリーは、今回の薬価引き下げについて、研究開発や国内投資の予見可能性を損ない、将来的なドラッグラグ・ドラッグロスにつながる恐れもあると主張している。高額な革新的医薬品による医療費増大への対応と、適正使用、安定供給、創薬イノベーションをどう両立させるか、薬価政策のあり方が改めて問われている。 参考 1) マンジャロの大幅な薬価引き下げに対する声明を発表~国際競争下における日本への長期的投資の持続のために、そして患者さんがイノベーションを享受するためには、予見可能で透明性の高い政策環境が不可欠~(日本イーライリリー) 2) 糖尿病薬マンジャロ「インドより安い」 不適正使用の助長に懸念(日経新聞) 3) 英アストラゼネカCSO 革新医薬への支出「先進国で公平負担を」(同) 4) リリー、マンジャロ薬価引き下げは「不当に不利益な対応」(AnswersNews) 5.MMR混合ワクチンを個別接種へ 接種率低下と感染拡大に懸念/米国米国のトランプ大統領は8月10日、小児のワクチン接種方針を見直す大統領令に署名した。麻しん、おたふく風邪、風しんを予防するMMR混合ワクチンについて、それぞれを別の機会に接種することを推奨するとともに、すべての小児に一律で推奨するワクチンを従来の17種類から11種類に縮小する方針を示した。A型・B型肝炎、ロタウイルス、髄膜炎菌、インフルエンザ、新型コロナワクチンなどは、医師と保護者による個別判断に移行するとしている。トランプ氏はワクチン接種数の増加と自閉症との関連を示唆しているが、米国小児科学会は「数百万人を対象とした多くの研究で関連がないことが示されている」と反論し、今回の見直しを「危険で誤解を招く」と批判している。WHOも、ワクチンと自閉症との因果関係を示す証拠はなく、MMRを単独接種に分ける医学的利点を裏付ける根拠もないとしている。さらに、麻しん・風しん・おたふく風邪の単独ワクチンは現在米国内では入手ができず、分割接種には製造体制の整備が必要となる。接種回数や受診回数の増加により、接種完遂率が低下するとの懸念も強い。米国では今年、8月6日時点で麻疹患者が2,465人に達しており、専門家はワクチン忌避の拡大がさらなる流行につながる可能性を警告している。なお、接種義務の決定権は各州にあり、大統領令のみでただちに接種スケジュールや保険適用が変更されるわけではない。 参考 1) 米、混合ワクチンを個別接種に 推奨対象も削減(共同通信) 2) 「ワクチンと自閉症が関連」が持論のトランプ氏、混合ワクチンを別々に接種する方針打ち出す…感染リスク拡大の恐れ(読売新聞) 3) 米医師ら、トランプ氏の大統領令に懸念 家庭でのワクチン離れにつながるか(CNN) 6.沢井製薬が46品目販売中止、低薬価・設備老朽化で安定供給が課題に/沢井沢井製薬は、後発医薬品22成分46品目について、在庫がなくなり次第、順次販売を中止すると医療関係者に通知した。大半は安定供給体制の構築と生産効率改善を目的とした製品構成の見直しによるもので、一部は協業する日医工グループ製品などへ統合する。対象にはアテノロール、アマルエット配合錠、アルファカルシドール、エバスチン、クアゼパム、テルミサルタンOD錠、ドネペジル、ニフェジピン、フルボキサミン、ブロナンセリン、メマンチンなど、日常診療で処方される薬剤も多数含まれる。沢井製薬は各品目について代替品・代替候補品を提示している。たとえばアマルエット配合錠はアムロジピンとアトルバスタチンの単剤、セチリジンOD錠は通常錠、ドネペジル錠は同社OD錠への切り替えが候補とされている。在庫消尽時期は品目ごとに異なり、多くは2027年4月だが、プロブコールは2026年10月、ザルトプロフェンやプロピベリン20mgは同年11月、ニフェジピンカプセルは2028年3月とされる。その一方で、アテノロールやアルファカルシドール、クアゼパムなどはすでに供給停止中となっている。経過措置期間の満了は2028年3月の予定。背景には後発薬業界の構造的な供給問題がある。日本製薬団体連合会の調査では、医療上の必要性が高い2,882品目のうち255品目、約9%で将来の供給継続が困難と回答された。主因は薬価低下や製造設備の老朽化であり、なかには全身麻酔薬や注射用抗菌薬など重要薬も含まれている。臨床現場では今後、単なる銘柄変更だけでなく、剤形や規格、配合剤から単剤への変更が必要となるケースもあり、処方時には院内採用品や地域薬局の在庫状況を含めた確認が求められる。 参考 1) 販売中止品目のお知らせ(沢井製薬) 2) 沢井製薬、後発薬46品目を販売中止へ 供給安定へ製品構成見直し(日経新聞) 3) 沢井製薬が46品目、高田製薬が31品目を販売中止に(日経メディカル) 4) 重要度高い薬「供給継続できず」1割 低薬価や老朽化で、日薬連調査(日経新聞) 5) 医療用医薬品供給状況報告(厚労省)

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