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第261回 セマグルチド使用と脱毛リスク上昇が関連

セマグルチド使用と脱毛リスク上昇が関連患者1,600万例から無作為に抽出した3千例強を調べたところ、糖尿病や肥満の治療に使われるGLP-1受容体活作動薬(GLP-1薬)セマグルチドと脱毛が生じやすことが、女性に限って関連しました1)。GLP-1薬は世界で最も処方されている薬の類いの1つであり、米国ではおよそ8人に1人がその使用経験を有します。GLP-1薬の有害事象で調べられているのはもっぱら胃腸障害ですが、使う患者がそれだけ多いと脱毛などのまれな有害事象にも注目が集まります。米国FDAに集まる有害事象を解析した昨年9月の報告では、セマグルチド使用患者の脱毛はほかの糖尿病薬に比べてより多く認められました2)。その糸口をカナダのバンクーバーのUniversity of British ColumbiaのMahyar Etminan氏らは深掘りすべく、米国のすべての外来処方と診断記録の93%を集めるデータベースIQVIA PharMetrics Plus for Academicsを使って、セマグルチドと別の肥満薬Contrave(naltrexone HCl / bupropion HCl)使用患者の脱毛の発生率を比較しました。Etminan氏らはIQVIA PharMetrics Plus for Academicsに記録された1,600万例からセマグルチドを使い始めた患者とContraveを使い始めた患者を無作為に抽出しました。糖尿病患者や血糖降下薬を先立って使ったことがある患者は除外されました。最終的な解析対象のセマグルチド使用患者は1,926例、Contrave使用患者は1,348例となり、脱毛の発生率は1,000人年当たりそれぞれ26.5と11.8でした。男女別で比較解析したところ、女性に限ってセマグルチドと脱毛が生じやすいことが関連しました。具体的には、セマグルチド使用の女性患者は、Contrave使用の女性患者に比べて脱毛の発生率が2倍ほど高いという結果となりました(ハザード比:2.08、95%信頼区間:1.17~3.72)。全被験者と男性患者のハザード比はそれぞれ1.52と0.86で、95%信頼区間はどちらも1を跨いでいました(それぞれ0.86~2.69と0.05~14.49)。セマグルチドの臨床試験結果に改めて目を向けると、Etminan氏らの解析結果と一致する傾向が見てとれます。肥満薬としての臨床試験での脱毛の発生率は、セマグルチド投与群3.3%、プラセボ群1.4%で、セマグルチド群のほうがプラセボ群より2倍半ほど高いという結果となっています3)。また、セマグルチドで体重がより減った患者ほど脱毛をより多く被りました。セマグルチド投与で体重が2割以上減った患者は、体重減少が2割未満の患者に比べて脱毛の発生率が2倍ほど高いことが示されています(5.3%vs.2.5%)。体重を減らすためだけにセマグルチドを使おうとしている人、とくに女性にとって脱毛の有害事象はそれを思いとどまらせる要因となりうるかもしれません1)。今後の課題はいくつもありますが、一例としてセマグルチド投与患者の脱毛がどれほど重症でどれだけ続くのかを調べる必要がある、とEtminan氏は言っています4)。 参考 1) Sodhi M, et al. Risk of Hair Loss with Semaglutide for Weight Loss. medRxiv. 2025 Mar 6. 2) Nakhla M, et al. Cardiovasc Drugs Ther. 2024 Sep 12. [Epub ahead of print] 3) Wegovy Product Monograph 4) Hair Loss: Another Wegovy Side Effect? / MedpageToday

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健康行動変容支援システムは体重のリバウンド対策に有効か

 ダイエットでは体重のリバウンドが常に課題となる。では、減量した体重の維持には、認知行動療法(CBT)などを活用した健康行動変容支援システム(HBCSS)は有効だろうか。この課題に対し、フィンランドのオウル大学生体医学・内科学研究ユニットのEero Turkkila氏らの研究グループは、ウェブベースのHBCSSの長期的有効性評価を目的に、2年にわたり検証を行った。その結果、12ヵ月間のHBCSS介入では、5年後の体重減少について非HBCSSよりも良好に維持することはできなかった。この結果は、International Journal of Obesity誌2025年3月15日オンライン版で公開された。5年間の追跡では体重変化に群間差がなかった 研究グループは、合計532例の過体重または肥満(BMI27~35)の参加者を、CBTに基づくグループカウンセリング、自助ガイダンス(SHG)、通常ケアの介入強度の異なる3つのグループに分けた。これらの群はさらにHBCSS群と非HBCSS群に分けられ、HBCSSは52週間のプログラムとし、5年間追跡した。 主な結果は以下のとおり。・HBCSS群と非HBCSS群のベースラインからの平均体重変化率と95%信頼区間[CI]は、5年後にそれぞれ1.5%(-0.02~2.9、p=0.056)、1.9%(0.3~3.3、p=0.005)だった。・6群のうちHBCSSを用いなかったSHG群では、5年後の体重増加率が3.1%(95%CI:0.6~5.6、p=0.010)とベースラインから統計的に有意に増加したが、他の群では体重の有意な増加はみられなかった。・5年経過時点で体重変化では群間に有意差はなかった。・HBCSS群では、5年間で降圧薬の服用開始数が少なくなった(p=0.046)。 研究グループでは、これらの結果から「12ヵ月間のHBCSS介入群では、5年後の体重減少を非HBCSS群よりも良好に維持することはできなかった一方で、5年間を通じ有意な体重差はHBCSS群に有利であった。降圧薬の必要性が減少したことは、HBCSS群による早期からの有意な体重減少が、健康増進へレガシー効果を持ったことを示唆する」と結論付けている。

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組み換え帯状疱疹ワクチン シングリックス、定期接種として使用可能に/GSK

 グラクソ・スミスクラインは、2025年4月1日、予防接種法施行規則および予防接種実施規則の一部改正で帯状疱疹が予防接種法のB類疾病に位置づけられたことにより、同社の帯状疱疹のワクチン「シングリックス筋注用(以下、シングリックス)」が定期接種として使用可能となったと発表した。 シングリックスは、帯状疱疹の予防を目的とした世界で初めての遺伝子組換え型のサブユニットワクチンで、現在50ヵ国以上で販売されている。日本では、2018年3月23日に50歳以上を対象に、2023年6月26日に帯状疱疹発症リスクの高い18歳以上を対象に承認を取得している。また、シングリックスは、50歳以上で10年以上の帯状疱疹の予防効果の持続が示されている。 日本人成人の90%以上は、帯状疱疹の原因となるウイルスがすでに体内に潜んでいる可能性があり、50歳を過ぎると帯状疱疹の発症が増え始め、80歳までに約3人に1人が帯状疱疹を発症するといわれている。 また、高血圧・糖尿病・リウマチ・腎不全といった基礎疾患罹患者は、帯状疱疹の発症リスクが高くなるという報告がある。たとえば、高血圧患者は、非高血圧患者と比較して発症リスクが約1.9倍、糖尿病患者は、非糖尿病患者と比較して約2.4倍というデータが報告されている。帯状疱疹ワクチンの定期接種対象者定期接種の対象者:・65歳の者・60歳以上65歳未満の者であって、ヒト免疫不全ウイルスにより免疫の機能に日常生活がほとんど不可能な程度の障害を有する者対象者の経過措置:・令和7年4月1日から令和12年3月31日までの間に65歳、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳又は100歳となる日の属する年度の初日から当該年度の末日までの間にある者・令和7年4月1日から令和8年3月31日までの間、令和7年3月31日において100歳以上の者帯状疱疹ワクチン「シングリックス」 製品概要製品名:シングリックス筋注用一般名:乾燥組換え帯状疱疹ワクチン効能又は効果:帯状疱疹の予防国内製造販売承認取得日:・50歳以上:2018年3月23日・帯状疱疹に罹患するリスクが高いと考えられる18歳以上:2023年6月26日販売国数:50ヵ国以上(2025年3月時点)用法及び用量:・50歳以上:0.5mLを2回、通常、2ヵ月の間隔をおいて、筋肉内に接種する。・帯状疱疹に罹患するリスクが高いと考えられる18歳以上:0.5mLを2回、通常、1~2ヵ月の間隔をおいて、筋肉内に接種する。有効性:・50歳以上の成人:97.2%・50~59歳:96.6%・60~69歳:97.4%・70歳以上:97.9%予防効果の持続性:10年以上安全性:・重大な副反応:ショック、アナフィラキシー・主な副反応:疼痛、発赤、腫脹、胃腸症状(悪心、嘔吐、下痢、腹痛)、頭痛、筋肉痛、疲労、悪寒、発熱

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TIA後の脳卒中リスクは長期間持続する(解説:内山真一郎氏)

 本研究は、38件の研究に登録された17万1,068例のTIAまたは軽症脳梗塞(大多数はTIA)のメタ解析である。脳卒中の再発リスクは最初の1年で5.9%、5年で12.5%、10年で19.8%であり、2年後からは毎年1.8%再発していた。われわれの行ったTIA registry.org研究でも、発症後2年後から5年後まで累積再発曲線は減衰することなく直線的に推移し、ブレーキがかかっていなかった(Amarenco P, et al. N Engl J Med. 2018;378:2182-2190.、本論文の引用文献14)。 このメタ解析やわれわれの研究結果は、現行のガイドラインによる長期の再発予防対策が不十分であることを示唆している。抗血栓療法のアドヒアランスを維持するとともに、脳卒中の危険因子の管理が十分であったかも見直す必要がある。さらに、高血圧、糖尿病、脂質異常、喫煙、心房細動のような伝統的危険因子以外の残余リスクがないかにも目を光らす必要がある(Uchiyama S, et al. Eur Stroke J. 2024 Nov 21. [Epub ahead of print])。

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線形回帰(重回帰)分析 その4【「実践的」臨床研究入門】第53回

重回帰分析の実際前回は重回帰分析の考え方を説明しました。今回は実際に仮想データ・セットを用いて、EZR(Eazy R)を使用した重回帰分析の操作手順と結果の解釈について解説します。仮想データ・セットの取り込み仮想データ・セットをダウンロードする※ダウンロードできない場合は、右クリックして「名前をつけてリンク先を保存」を選択してください。まずは以下の手順で仮想データ・セットをEZRに取り込みましょう。「ファイル」→「データのインポート」→「Excelのデータをインポート」重回帰分析の実行次に「統計解析」→「連続変数の解析」→「線形回帰(単回帰、重回帰)」の順にメニューバーを選択すると、ポップアップウィンドウが開きます(下図)。モデル名:「重回帰分析_GFR変化量」などと入力します。目的変数(1つ選択):「diff_eGFR5」を選択します。※「diff_eGFR5」は、われわれのResearch Question(RQ)のセカンダリアウトカム(O)に設定されている、ベースラインから5年後の糸球体濾過量(GFR)変化量(低下速度)(連載第49回参照)。説明変数(1つ以上選択):以下の複数の変数を選択します(連載第46回、第48回、第49回、第52回参照)。※複数の変数を選択するには、キーボードの「Ctrl」キーを押しながらクリックします。検証したい要因(E):treat(厳格低たんぱく食の遵守の有無)交絡因子:age (年齢)、sex(性別)、dm(糖尿病の有無)、sbp(血圧)、eGFR(ベースラインeGFR)、Loge_UP(蛋白尿定量_対数変換)、albumin(血清アルブミン値)、hemoglobin(ヘモグロビン値)重回帰分析結果の確認「OK」をクリックすると、EZRの出力ウィンドウに下に示したコードが表示されます。lm(diff_eGFR5~age+albumin+dm+eGFR+hemoglobin+Loge_UP+sbp+sex+treat, da-ta=Dataset)このコードの意味は下記のとおりです(連載第52回参照)。lm:線形回帰モデル(Linear Model)関数を用いて重回帰分析を実行。diff_eGFR5~age+albumin+dm+eGFR+hemoglobin+Loge_UP+sbp+sex+treat:左辺の目的変数(diff_eGFR5)を右辺の説明変数(複数の交絡因子+E)で予測する重回帰モデルの「式」を指定。data=Dataset:解析に使用するデータ・セット名(Dataset)。重回帰分析の主要な結果である、回帰係数とその統計量は下図のように表示されます。画像を拡大するここでは、検証したい要因(E)であるtreat(厳格低たんぱく食の遵守の有無)の解析結果に注目します。回帰係数推定値:2.03(以下、数値はすべて有効数字3桁で丸めています)。95%信頼区間(95% confidence interval:95%CI):1.61~2.45P値:2.99e-20=2.99×10-20(連載第51回参照)※p値は通常、小数点以下3桁までの記載が推奨されます。非常に小さな値の場合、「p<0.001」と上限を示す形で表記するのが一般的です(連載第51回参照)。重回帰分析結果の解釈この結果の解釈は以下の通りです。厳格低たんぱく食遵守群(treat=1)は非遵守群(treat=0)と比較して、「diff_eGFR5」が統計学的有意(p<0.001)に2.03mL/分/1.73m2高い。したがって、厳格な低たんぱく食の遵守は、種々の交絡因子を調整したうえでもGFR低下速度を抑制する可能性を示唆する。という解釈になります。

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起立性高血圧に厳格降圧治療は有効か?/BMJ

 血圧高値または高血圧症を有する成人コホートにおいて、起立性高血圧は一般的にみられ、厳格降圧治療が起立性高血圧の発生をわずかだが低減することが示された。米国・ハーバード大学医学大学院のStephen P. Juraschek氏らが、個別患者データを用いたメタ解析の結果で報告した。著者は、「今回示された所見は、座位で認められる高血圧症に一般的に用いられるアプローチが、立位で認められる高血圧症も予防可能であることを示すものである」とまとめている。BMJ誌2025年3月25日号掲載の報告。個別患者データのメタ解析で評価 研究グループは、起立性高血圧への厳格降圧治療の有効性を、システマティックレビューと個別患者データのメタ解析で評価した。2023年11月13日時点でMEDLINE、Embase、Cochrane CENTRALのデータベースを検索した。 包含試験基準は、対象集団が18歳以上の高血圧症または血圧高値を有する成人500例以上であり、介入期間が6ヵ月以上の厳格な降圧薬治療(降圧目標がより低値または強化治療)の無作為化試験で、対照群は非厳格降圧治療(降圧目標がより高値またはプラセボ)、アウトカムが起立時の血圧測定値であったものとした。 主要アウトカムの起立性高血圧は、座位から起立時の測定値の変化が収縮期血圧≧20mmHg上昇、拡張期血圧≧10mmHg上昇の場合と定義した。2人の試験担当者が個別に論文を要約し、システマティックレビューによって特定された9試験からの個別患者データを1つのデータセットとして集約して評価した。起立性高血圧のリスクは厳格降圧治療でわずかに低下 3万1,124例の31万5,497件の起立時血圧値の評価において、8.7%が起立性低血圧(起立後の血圧が収縮期血圧≧20mmHg低下、拡張期血圧≧10mmHg低下)、16.7%が起立性高血圧であり、3.2%に起立後の収縮期血圧≧20mmHg上昇かつ起立時血圧≧140mmHgがベースラインで認められた。 厳格降圧治療の効果は、試験間で同等であり、起立性高血圧に関するオッズ比(OR)は0.85~1.08の範囲にわたっていた(I2=38.0%)。追跡期間中に起立性高血圧を呈したのは、厳格降圧治療群17%に対して、非厳格降圧治療群は19%であった。非厳格降圧治療と比較して、起立性高血圧のリスクは厳格降圧治療で低下した(OR:0.93、95%信頼区間:0.90~0.96)。 効果は、非黒人成人群が黒人成人群と比較してより大きく(OR:0.86 vs.0.97、相互作用のp=0.003)、非糖尿病群が糖尿病群と比較してより大きかったが(0.88 vs.0.96、相互作用のp=0.05)、75歳以上群や性別、ベースラインの座位血圧値≧130/≧80mmHg、肥満、慢性腎臓病ステージ3、脳卒中、心血管疾患、起立時血圧≧140mmHg、無作為化前の起立性高血圧による差は認められなかった(相互作用のp≧0.05)。

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フィネレノン、2型DMを有するHFmrEF/HFpEFにも有効(FINEARTS-HFサブ解析)/日本循環器学会

 糖尿病が心血管疾患や腎臓疾患の発症・進展に関与する一方で、心不全が糖尿病リスクを相乗的に高めることも知られている。今回、佐藤 直樹氏(かわぐち心臓呼吸器病院 副院長/循環器内科)が3月28~30日に開催された第89回日本循環器学会学術集会のLate Breaking Clinical Trials1においてフィネレノン(商品名:ケレンディア)による、左室駆出率(LVEF)が軽度低下した心不全(HFmrEF)または保たれた心不全(HFpEF)患者の入院および外来における有効性と安全性について報告。その有効性・安全性は、糖尿病の有無にかかわらず認められることが明らかとなった。 FINEARTS-HF試験は、日本を含む37ヵ国654施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照イベント主導型試験で、40歳以上、症状を伴う心不全、LVEF40%以上の患者6,001例が登録された。今回のサブ解析において、ナトリウム利尿ペプチドの上昇、構造的心疾患の証拠、血清カリウム5.0mmol/L以下、およびeGFR25mL/分/1.73m2以上の基準が含まれた。主要評価項目は心血管死と全心不全イベントの複合で、副次評価項目は全心不全イベント、複合腎機能評価項目、全死亡であった。 主な結果は以下のとおり。・参加者の平均年齢は72±10歳、女性は46%、NYHA心機能分類IIは69%、平均LVEFは53±8%(範囲:34~84)、平均eGFRは62mL/分/1.73m2であった。・参加者の糖尿病の既往について、2型糖尿病と報告されていたのが41%、HbA1c値で判断された糖尿病または前糖尿病状態が約80%を占めていた。・糖尿病患者のLVEFについて、約36%は50%未満、約45%は50~60%未満、19%は60%以上であった。・主要評価項目の心血管死および全心不全イベントの複合について、フィネレノン群は16%低下させた。・糖尿病患者は、前糖尿病または正常血糖値の患者と比較して、心血管死および総心不全イベントリスクが有意に高いことが示されたが、フィネレノン群はプラセボ群と比較し、HFmrEF/HFpEF患者における糖尿病の新規発生を25%低下させた。・フィネレノン群はベースラインのHbA1c値にかかわらず、心血管および全心不全イベントのリスクを一貫して減少させた。・参加者のうち、フィネレノン群の併用薬は、β遮断薬(85%)、ACE阻害薬/ARB(71%)、ARNI(約9%)、ループ利尿薬(87%)、SGLT2阻害薬(約14%)などがあり、フィネレノン群ではSGLT2阻害薬の併用にかかわらず、主要評価項目のリスクを低下させた(SGLT2阻害薬併用群のハザード比[HR]:0.83[95%信頼区間[CI]:0.80~1.16]、SGLT2阻害薬非併用群のHR:0.85[95%CI:0.74~0.98]、p=0.76)。・BMI別の解析において、BMI高値においてより効果が強く認められるものの、有意な交互作用は認められず、フィネレノン群は各BMI層(25以上、30以上、35以上、40以上)で全心不全イベントの発症を低下させた。・安全性については、フィネレノン群において血清クレアチニン値およびカリウム値の有意な上昇例が多く、収縮期血圧低下例も多かったが、糖尿病の有無による相違は認めなかった。フィネレノンにより、BMIが高い患者はBMIが低い患者と比較し、血清カリウム値および収縮期血圧の低下の程度が軽微な傾向を示したが、安全性についてBMIの相違は認められなかった。 最後に佐藤氏は、「フィネレノンによる糖尿病の新規発症リスクを減少させるメカニズムは完全には解明されていないが、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬の種類による選択性および親和性、それに伴う炎症や線維化の抑制、神経体液性因子の修飾などが関与している可能性が示唆される」とコメントした。 なお、本学会で発表された『心不全診療ガイドライン2025年改訂版』において、症候性HFmrEF/HFpEFにおける心血管死または心不全増悪イベント抑制を目的とした薬物治療に対してフィネレノンの推奨(クラスIIa)が世界で初めて追加されている。(ケアネット 土井 舞子)そのほかのJCS2025記事はこちら

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日本人へのbempedoic acid、LDL-C20%超の低下を認める(CLEAR-J)/日本循環器学会

 スタチンで効果不十分あるいはスタチン不耐の高コレステロール血症の日本人患者に対する12週後のbempedoic acidの安全性と有効性が明らかになった―。3月28~30日に開催された第89回日本循環器学会学術集会のLate Breaking Clinical Studies2において山下 静也氏(りんくう総合医療センター 理事長)が発表し、Circulation Journal誌2025年3月28日号に同時掲載された。 本研究は、bempedoic acid 180mgを12週投与した場合のプラセボに対する優位性を確認したプラセボ対照無作為化二重盲検並行群間第III相試験(NCT05683340)。高コレステロール血症患者のうち、18~85歳、スタチンで効果不十分あるいはスタチン不耐、アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)リスクを有し2017年のLDLコレステロール(LDL-C)基準を達成していない、日本人患者を対象(ホモ接合体家族性高コレステロール血症[FH]、妊娠または授乳中、3ヵ月以内にASCVDを発症した患者は除外)とし、国内28施設の96例をbempedoic acid群あるいは対照群に1:1に割り付けた。主要評価項目はベースラインから12週のLDL-Cの変化率。副次評価項目は有効性(非HDLコレステロール[non-HDL]、総コレステロール[TC]、apoB、高感度C反応性蛋白[hsCRP]の12週の変化率、およびLDL-C目標達成率)と安全性であった。 主な結果は以下のとおり。・両群の患者特性は、平均年齢64歳、約50%が男性、平均BMIは約24kg/m2、約20%はヘテロ接合体FH、約30%がASCVDであった。また、スタチンで効果不十分な患者は75%、スタチン不耐は25%であった。・12週時のLDL-C変化率はbempedoic acid群で-25.25%、対照群で-3.46%となり、その群間差(95%信頼区間[CI])は-21.78%(-26.71~16.85)で統計学的に有意差が認められ(p<0.001)、その変化は投与2週目から有意な低下が認められ、12週まで持続した。・スタチン効果不十分例(-20.17%[95%CI:-25.82~-14.53])とスタチン不耐例(-25.77%[-36.61~-14.92])のいずれにおいてもその効果が認められた。・副次評価項目の1つであるhsCRPの群間差(95%CI)は-26.6%(-47.8~-5.4)で統計学的に有意差が認められた。これは既知の報告と一貫性のある結果となった。・安全性について、治療中に発現した有害事象(TEAE)はbempedoic acid群で3例、対照群で2例が報告されたが、両群で死亡または重篤なTEAEはみられなかった。bempedoic acid(ベムペド酸)とは bempedoic acidは肝臓中のクエン酸分解酵素であるATPクエン酸リアーゼに作用することでコレステロール合成経路を阻害してLDL-Cを低下させる。この薬剤を活性化体へ変化させるACSVL1は、主に肝臓に発現し、筋肉への発現がないことから、スタチンのように筋症状が出現しない点が特徴である。日本国内では、2024年11月26日に大塚製薬が「高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症」の適応で製造販売承認申請を行っており、国内での承認・発売が待たれるところである。(ケアネット 土井 舞子)そのほかのJCS2025記事はこちら

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2型DMへの自動インスリン投与システム、HbA1c値を改善/NEJM

 自動インスリン投与(AID)システムの有用性は、1型糖尿病では十分に確立されているが、2型糖尿病における有効性と安全性は確立されていない。米国・メイヨークリニックのYogish C. Kudva氏ら2IQP Study Groupは「2IQP試験」において、インスリン治療を受けている成人2型糖尿病患者では、従来法のインスリン投与と持続血糖測定器(CGM)の併用と比較して、AIDとCGMの併用は、糖化ヘモグロビン(HbA1c)値の有意な低下をもたらし、CGMで測定した低血糖の頻度は両群とも低いことを示した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年3月19日号で報告された。北米の無作為化対照比較試験 2IQP試験は、2型糖尿病患者におけるAIDの有用性の評価を目的とする無作為化対照比較試験であり、2023年6月~2024年6月に米国とカナダの21施設で患者を登録した(Tandem Diabetes Careの助成を受けた)。 年齢18歳以上、2型糖尿病の罹患期間が6ヵ月以上で、1日に複数回のインスリン注射を受け、このうち少なくとも1回は超速効型インスリン製剤であるか、試験登録の3ヵ月以上前からインスリンポンプを使用している患者を対象とした。これらの患者を、AIDを使用する群(AID群)または試験前のインスリン投与法を継続する群(対照群)に、2対1の割合で無作為に割り付けた。両群ともCGMを使用した。 主要アウトカムは13週の時点でのHbA1c値とした。目標血糖値達成時間も有意に改善 319例を登録し、AID群に215例(平均[±SD]年齢59[±12]歳、女性49%、罹患期間中央値18年[四分位範囲:11~26]、平均HbA1c値8.2[±1.4]%)、対照群に104例(57[±12]歳、47%、18年[11~24]、8.1[±1.2]%)を割り付けた。 HbA1c値は、対照群ではベースラインの8.1(±1.2)%から13週目には7.7(±1.1)%へと0.3%ポイント減少したのに対し、AID群では8.2(±1.4)%から7.3(±0.9)%へと0.9%ポイント減少し有意な改善を示した(平均補正後群間差:-0.6%ポイント[95%信頼区間[CI]:-0.8~-0.4]、p<0.001)。 患者が目標血糖値(70~180mg/dL)の範囲内にあった時間割合の平均値は、対照群ではベースラインの51(±21)%から13週目には52(±21)%に増加したのに比べ、AID群では48(±24)%から64(±16)%に増加し有意に良好であった(平均群間差:14%ポイント[95%CI:11~17]、p<0.001)。1例で重篤な低血糖、13例でデバイス関連高血糖 平均血糖値、血糖値>180mg/dLの時間の割合、同>250mg/dLの時間の割合、週当たりの遷延化高血糖イベント数は、いずれもAID群で優れた(すべてp<0.001)。また、CGMで測定した週当たりの低血糖イベント数は、両群とも低値であり群間に有意差を認めなかった。AID群では、1例で重篤な低血糖が発現し、13例(20件)でデバイス関連の高血糖がみられた。 著者は、「多くの2型糖尿病患者は、GLP-1受容体作動薬や他の非インスリン血糖降下薬による治療を受けており、今回の試験結果は、これらの薬剤を含む糖尿病管理レジメンにAIDを追加した場合にはHbA1c値をさらに低下させる可能性があることを示している」とし、「インスリン治療を受けている2型糖尿病の多様な患者集団において、従来法のインスリン投与とCGMの併用と比較して、AIDとCGMの併用は低血糖を増加させることなく安全にHbA1c値と高血糖を減少させた」とまとめている。

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BMIを改善すると心房細動リスクが低減か

 肥満や過体重が、脳心血管疾患のリスクとなることは知られている。では、体重が減るとこのリスクも減らすことができるのであろうか。この課題に上海交通大学医学院および上海第9人民病院内分泌代謝研究部門のJiang Li氏らの研究グループは、中年期における長期的な体重変化と代謝状態の推移が心房細動(AF)のリスクに与える影響を研究した。その結果、AFの1次予防には、体重管理と代謝の健康維持が勧められることが示唆された。この結果は、Heart Rhythm誌2025年3月13日オンライン版に掲載された。過体重と肥満はAFを増加させる 研究グループは、BMI変化とBMI-代謝健康状態の推移がAFに及ぼす影響を評価することを目的に、英国のUK Biobankを使用し、前向きコホート研究を実施した。メタボリックヘルスの定義は、血圧、C反応性タンパク質、トリアシルグリセロール、LDLコレステロール、HDLコレステロール、糖化ヘモグロビンを含む6つのメタボリックヘルシー(MH)基準のうち4つ以上を有することとした。 主な結果は以下のとおり。・ベースライン時のBMI解析のために最初に組み入れた49万969人の参加者のうち、中央値14.0年の追跡期間で3万3,297件のAF症例が観察された。・過体重(ハザード比[HR]:1.12、95%信頼区間[CI]:1.09~1.15)および肥満(HR:1.74、95%CI:1.68~1.79)は、AFリスクを有意に増加させた。・BMIが年間2%以上低下するとAFリスクは低下し(HR:0.75、95%CI:0.57~0.99)、とくに肥満から過体重への移行ではその傾向が顕著(HR:0.74、95%CI:0.54~1.02)であったが、統計学的な有意差は認められなかった。・MH-標準体重と比較すると、MH-肥満および代謝性不健康(MU)-肥満のHRはそれぞれ1.74(95%CI:1.67~1.81)および1.76(95%CI:1.69~1.83)だった。・MH-過体重/肥満からMU-過体重/肥満への移行は、AFリスクを増加させた(HR:1.35、95%CI:0.97~1.88)。 研究グループは、これらの結果から「BMIの年間2%以上の低下は、とくに肥満から過体重に変化する人でAFリスクの低下と関連していた。MH-過体重/肥満からMU-過体重/肥満への移行は、AFリスクを増加させた。AFの1次予防には、体重管理と代謝の健康維持が推奨されるべき」と結論付けている。

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SGLT2阻害薬およびGLP-1受容体作動薬は女性と高齢者に対しても有効か?(解説:住谷哲氏)

 SGLT2阻害薬およびGLP-1受容体作動薬が、心不全や慢性腎臓病を合併した2型糖尿病患者の予後を改善することは多数のRCTおよびそのメタ解析の結果から明らかにされている1)。しかし、その有効性が性別および年齢によって異なるのかはこれまで明らかではなかった。そこで本論文では既報のRCTの結果を基に、MACEとHbA1cとを主要評価項目として、年齢×治療、性別×治療の交互作用interactionsの有無をネットワークメタ解析により推定した。 592試験がHbA1cの解析対象となり、そのうちでGLP-1受容体作動薬の9試験、SGLT2阻害薬の8試験がMACEの解析対象となった。性別でみると男性の比率が最も高かったのはSGLT2阻害薬エンパグリフロジンのEMPA-REG OUTCOME試験で71.5%であり、最も低かったのはGLP-1受容体作動薬デュラグルチドのREWIND試験で53.7%であった。また年齢でみると、SGLT1/2阻害薬sotagliflozin(国内未発売)のSOLOIST-WHF試験で68.7歳が最高齢であり、SGLT2阻害薬カナグリフロジンのCREDENCE試験が56.4歳で最も若かった。 結果は、SGLT2阻害薬およびGLP-1受容体作動薬の両薬剤ともに、HbA1cの低下およびMACEの減少に性別は有意な影響を及ぼさなかった。つまり性別を問わず両薬剤は有効であった。しかし年齢に関しては、SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬とは異なる交互作用が認められた。HbA1cの低下については、SGLT2阻害薬では高齢者は若年者に比較して有意に小さく、逆にGLP-1受容体作動薬では高齢者は若年者に比較して有意に大きかった。MACEの減少については、SGLT2阻害薬では高齢者は若年者に比較して有意に大きく、逆にGLP-1受容体作動薬では高齢者は若年者に比較して有意に小さかった。これから考えると両薬剤のMACE減少効果とHbA1c低下作用とは関連がないことがわかる。 以上の結果から、MACE減少を期待するならば高齢者にはSGLT2阻害薬を、若年者にはGLP-1受容体作動薬の投与を積極的に考慮すべきだろうか? 注意すべきは、解析対象となった試験はすべて心血管イベントリスクのきわめて高い患者を対象としたCVOTであり、80歳以上の高齢者はほとんど対象に含まれていない点だろう。高齢者ではフレイルの有無が薬剤選択に影響することが少なくない。両薬剤ともに体重減少を伴うことが多い点は十分に考慮する必要がある。

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Lp(a)測定の国際標準化、新薬登場までに解決か/日本動脈硬化学会

 60年前に初めて発見され、LDLコレステロール(LDL-C)と独立して動脈硬化を促進させる血清リポプロテイン(a)(以下「Lp(a)」)。その存在自体は医師にも知られているが、「一生に一度測定すればよい」との勧告や治療薬が存在しないことも相まって、測定する意義や基準値に関する理解が今ひとつ進んでいないのが実情である。しかし、数年後にLp(a)を低下させる新薬が登場すると期待されている今、これらの解決が急務とされている。そこで、日本動脈硬化学会が「Lp(a)と測定値の標準化について」と題し、プレスセミナーを開催。三井田 孝氏(順天堂大学医療科学部 臨床検査科)がLp(a)測定を推進していく中で問題となる測定値の標準化にフォーカスして解説した。 Lp(a)とは、そもそも何か Lp(a)とは、低比重リポ蛋白(LDL)を形成しているapoB-100にapo(a)が結合して形成されるリポ蛋白粒子である。apo(a)にはクリングルと呼ばれる領域があり、なかでもクリングルIV(KIV、KIV1~10のサブタイプあり)のうちKIV2の繰り返し数がLp(a)濃度を決定付ける。「この繰り返しは遺伝子によって決まるが、それが少ないほどLp(a)濃度が高くなる」と、三井田氏は遺伝子レベルで個人差があることを説明した。さらに、Lp(a)は酸化リン脂質と結合するとLDLと独立した動脈硬化リスク因子となり、心筋梗塞や虚血性脳卒中、大動脈弁狭窄症の発症との関連性も明らかになってきている1)。Lp(a)測定の意義 このLp(a)に対し、医師の本音として“数値の解釈が難しい”、“検査キットによって数値のばらつきがあるから測定したくない…”といった声も挙がっているようだが、強力なLDL低下療法を行っているにもかかわらず思うようにコントロールできない残余リスクのある患者では、Lp(a)の影響が高い可能性がある。そのためLp(a)を測定し、高値であれば冠動脈疾患高リスク患者と捉え、LDL-Cをはじめとする介入可能な危険因子管理をより厳格に行う2,3)ことが求められる。「既存薬で避けられなかった残余リスクを低下させられる可能性があるため、2次予防の観点からもLp(a)の測定は重要」と述べた。また、近い将来に核酸医薬や経口薬といったラインナップの薬剤が上市されることを見越して、「今のうちから高リスク患者だけでも測定しておく意義はある」ともコメントした。測定基準、国際標準化の必要性 このように新薬の上市が期待される中で、Lp(a)の検査をオーダーする医師が少ない以前に解決すべき問題がある。それはLp(a)測定値は30年以上前から測定キットによってばらつきがある点だ。これについて同氏は「Lp(a)測定値は世界的に見ても施設や試薬によって大きく異なり、国際的な標準化が急務。過去に標準化の試みがあったものの、標準物質の入手困難などで頓挫してしまった」と説明した。「各国のガイドラインでハイリスク群のカットオフ値が決められているが、検査に用いる測定キットにより実際の値に2倍もの乖離が生じている。実は30年前に一度、国際臨床化学連合(IFCC)がワーキンググループを設立して一次標準物質としてSRM-2B*を選定したが、残念ながら標準化は達成できなかった。それ以来、各社バラバラの測定値を報告してしまっている。しかし、IFCCは新たなワーキンググループを設立し、2023年には質量分析装置を用いたLp(a)の基準測定法を発表して、ようやく測定基準の標準化に向けて一歩を踏み出した」とコメントした。*SRM:Standard Reference Material<現時点での各ガイドラインにおけるLp(a)の取り扱い>●米国・AHA/ACCガイドライン(2019年) <30mg/dL 有意なアテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)リスクなし ≧50mg/dL ASCVDのリスク増強因子●欧州・ESC/ ESAガイドライン(2020年) ≧50mg/dL ASCVDのハイリスク群●日本・JASガイドライン(2022年) その他の考慮すべき危険因子・バイオマーカー今、日本で進められていること そして残るは測定値の国際標準化だが、三井田氏らが世界をリードして国内からカットオフ値を発信していく取り組みを行っている。それを推し進める理由として「Lp(a)の分子量はapo(a)のアイソフォームにより異なるため、正確に知ることができず、mg/dLで表示することは計量学的な誤りがある。標準化に際し、各キットの値をすべて変更しなければ臨床現場で大きな混乱を招く恐れがあり、標準化値(SI単位)へ移行すれば過去のデータも有効活用することができる」と説明した。 このようにLp(a)は混乱の渦中にあるため、現行の国内ガイドライン2,3)には測定の推奨や基準がまだ明確にされてはいない。同氏は「2027年の改訂時には標準化されたLp(a)値が記載されることが期待される」と述べ、「臨床系の学会への啓発が不足していたこれまでの反省を胸に、各学会や一般市民、世界を巻き込んで標準化を進めていかなければならない」と意気込みをみせた。

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家庭内空気汚染の疾病負担、1990~2021年の状況は?/Lancet

 世界的には家屋内で固形燃料(石炭・木炭、木材、作物残渣、糞)を用いて調理をする家庭は減少しており、家庭内空気汚染(household air pollution:HAP)に起因する疾病負担は大幅に減少しているものの、HAPは依然として主要な健康リスクであり、とくにサハラ以南のアフリカと南アジアでは深刻であることが、米国・ワシントン大学のKatrin Burkart氏ら世界疾病負担研究(Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study:GBD)2021 HAP Collaboratorsの解析で示された。著者は、「本研究で得られたHAPへの曝露と疾病負担に関する推定値は、医療政策立案者らが保健介入を計画・実施するための信頼性の高い情報源となる。多くの地域や国でHAPが依然として深刻な影響を及ぼしている現状を踏まえると、資源の乏しい地域で、よりクリーンな家庭用エネルギーへ移行させる取り組みを加速させることが急務である。このような取り組みは、健康リスクの軽減と持続可能な発展を促進し、最終的には何百万もの人々の生活の質と健康状態の改善に寄与することが期待される」とまとめている。Lancet誌オンライン版2025年3月18日号掲載の報告。1990~2021年の204の国と地域のデータを解析 研究グループは、1990~2021年の204の国と地域におけるHAPへの曝露と傾向、ならびに白内障、慢性閉塞性肺疾患、虚血性心疾患、下気道感染症、気管がん、気管支がん、肺がん、脳卒中、2型糖尿病および生殖に関する有害なアウトカムの媒介要因に関する疾病負担を推定した。 まず、調理に固形燃料を使用する人が曝露する微小粒子状物質(PM2.5)の燃料種別平均濃度(μg/m3)を、燃料種、地域、暦年、年齢および性別ごとに推定した。次に、疫学研究のシステマティック・レビューと、新たに開発されたメタ回帰ツールを用いて、疾患特異的ノンパラメトリック曝露反応曲線を作成し、PM2.5濃度の相対リスクを推定した。 また、曝露推定値と相対リスクを統合し、性別、年齢、場所、暦年ごとの原因別の人口寄与割合と疾病負担を推定した。HAP起因の疾病負担は減少、ただしサハラ以南アフリカと南アジアでは高リスク 2021年には、世界人口の33.8%(95%不確実性区間[UI]:33.2~34.3)にあたる26億7,000万人(95%UI:26億3,000万~27億1,000万)が、あらゆる発生源からのHAPに曝露しており、平均濃度は84.2μg/m3であった。これは、1990年にHAPに曝露した世界人口の割合(56.7%、95%UI:56.4~57.1)と比較すると顕著に減少しているが、絶対値でみると、1990年のHAP曝露者30億2,000万人から3億5,000万人(10%)の減少にとどまった。 2021年には、HAPに起因する世界の障害調整生存年(DALY)は1億1,100万(95%UI:7,510万~1億6,400万)であり、全DALYの3.9%(95%UI:2.6~5.7)を占めた。 2021年のHAPに起因する世界のDALY率は、年齢標準化DALYで人口10万人当たり1,500.3(95%UI:1,028.4~2,195.6)で、1990年の4,147.7(3,101.4~5,104.6)から63.8%減少した。 HAP起因の疾病負担は、サハラ以南のアフリカと南アジアで依然として最も高く、それぞれ人口10万人当たりの年齢標準化DALYは4,044.1(95%UI:3,103.4~5,219.7)と3,213.5(2,165.4~4,409.4)であった。HAP起因DALY率は、男性(1,530.5、95%UI:1,023.4~2,263.6)のほうが女性(1,318.5、866.1~1,977.2)よりも高かった。 HAP起因の疾病負担の約3分の1(518.1、95%UI:410.1~641.7)は、妊娠期間の短縮と低出生体重が媒介要因であった。 HAP起因の疾病負担の変化の傾向と要因分析の結果、世界のほとんどの地域で曝露の減少がみられたが、とくにサハラ以南のアフリカでは曝露の減少が人口増加によって相殺されていたことが示された。

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新型コロナ入院患者、退院後も2年以上にわたり死亡リスクは高い

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による入院歴がある人は、回復して自宅に戻れたとしても、決して安心できる状態とは言えないことが新たな研究で示唆された。COVID-19で入院した患者は、初回の感染から最長で2年半の間、全死亡リスクの高いことが明らかになったという。パリ・ビシャ病院(フランス)のSarah Tubiana氏らによるこの研究の詳細は、「Infectious Diseases」に2月27日掲載された。 Tubiana氏は、「これまで人々の関心の多くは新型コロナウイルスの短期的な危険性に向けられてきたが、われわれの研究では、COVID-19による入院歴のある人では、数カ月後、さらには数年後まで、重度の合併症リスクが高い状態が続くことが示された。この公衆衛生に対する長期的な影響は重大だ」と指摘する。 Tubiana氏らは今回の研究で、2020年1月1日から8月30日までの間にCOVID-19に罹患して入院したフランスの成人6万3,990人(平均年齢65歳、男性53.1%、COVID-19入院群)を追跡し、年齢、性別、居住地を一致させた、同時期にCOVID-19で入院していない対照群31万9,891人の健康状態と比較した。追跡期間中央値は、COVID-19入院群で894日、対照群で896日だった。 最長で30カ月間にわたる追跡期間中の10万人年当たりの累積全死亡率は、COVID-19入院群で5,218件であったのに対し、対照群では4,013件であった(発生率比1.30、95%信頼区間1.27〜1.33)。6カ月単位で分けて分析すると、COVID-19入院群の全死亡リスクは最初の6カ月間で最も高く(調整ハザード比2.93)、6〜12カ月後では低下し(同1.08)、その後は30カ月後まで大きく変化することはなかった(同1.07)。 また、COVID-19入院群はあらゆる原因により再入院するリスクも高く、10万人年当たりの累積入院率は対照群の1万2,095件に対してCOVID-19入院群では1万6,334件であった(発生率比1.35、95%信頼区間1.33〜1.37)。6カ月単位で見ると、COVID-19入院群の再入院リスクは、最初の6カ月間で最も高く(全入院の調整部分分布ハザード比2.47)、6〜12カ月後の期間で低下し(同1.21)、その後、30カ月後まで低下し続けた(同1.05)。 疾患別にCOVID-19入院群の再入院リスクを見ると、特に呼吸器疾患による再入院リスクが約2倍高かった(発生率比1.99)。また、糖尿病、慢性腎臓病、神経疾患、心血管疾患、精神疾患による再入院リスクも高かった。このような過剰リスクは、入院から6カ月(0〜6カ月)および6〜12カ月後では低下したが、24〜30カ月後では、神経疾患、呼吸器疾患、慢性腎不全、糖尿病による再入院リスクが統計学的に有意に上昇していた。 論文の上席研究者で、パリ・シテ大学(フランス)の感染症専門家であるCharles Burdet氏は、「入院から30カ月が経過しても、COVID-19患者では死亡あるいは重度の健康上の合併症リスクが高い状態が続いていた。これは、この疾患が人々の生活に長期にわたって広範な影響を及ぼすことを示している」と「Infectious Diseases」を発行するTaylor & Francis社のニュースリリースの中で述べている。同氏は、「この研究結果は、こうした長期的な健康リスクの背後にあるメカニズムと、リスクを軽減する方法を解明するための、さらなる研究の必要性を明確に示している」と付け加えている。 研究グループによると、COVID-19は全身の臓器やシステムにダメージを与えることが知られており、特に命に関わる重症の感染症となった場合、その可能性が高いという。「ただ、今回の研究は新型コロナウイルスの新しい変異株が出現する前の感染者を対象としているため、こうしたリスクはその後に新型コロナウイルスに感染した、より最近の入院患者には完全には当てはまらないかもしれない」と研究グループは付け加えている。

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第4回 急拡大する「やせ薬」、新たなリスクにも警戒を

肥満に対し驚くほどの効果を示したGLP-1製剤。私の住むアメリカでも爆発的にその使用が広がっていますが、一方でまれな副作用や長期使用に伴う副作用が十分明らかになっていないという現状もあります。そんな中、以前から話題になっていた「目の副作用」の可能性を示す研究報告1)が出たので、ご紹介します。GLP-1製剤の新たな副作用リスクを示唆する研究今回ご紹介する研究では、デンマークとノルウェーの国民健康登録データを用いて、2型糖尿病治療として使用されたGLP-1受容体作動薬セマグルチドと、SGLT-2阻害薬との比較をするためのコホート研究が行われました。研究では、デンマークでセマグルチド治療を開始した患者4万4,517例、ノルウェーで1万6,860例が対象となり、合計32件の非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)の発生が確認されています。NAIONは、視神経の血流の障害により、視野欠損や視力低下を引き起こす病気です。片眼に突然起こることが多く、下半分が見えなくなる水平半盲が特徴です。デンマークでは、セマグルチド使用患者でのNAION発生率が1万人年当たり2.19件であったのに対し、SGLT-2阻害薬使用患者では1.18件、ノルウェーではそれぞれ2.90件と0.92件と報告されています。交絡因子調整後の解析で、両国を合わせたハザード比が2.81(95%信頼区間:1.67~4.75)、絶対リスク差は1万人年当たり+1.41件となり、事後のプロトコル遵守解析ではより高いリスク(ハザード比6.35)が示されました。これらの結果から、セマグルチド使用によりNAIONリスクが上昇する可能性が示唆されました。一方、発生件数自体は低く、因果関係があったとしてもまれな副作用であることが考えられます。もちろん、単一のコホート研究の結果のみであり、未知の交絡因子など、研究の限界に注意する必要がありますが、興味深い結果です。急速な普及と不適切使用への懸念近年、米国ではGLP-1製剤を基盤とした安価なコンパウンド医薬品が急速に普及しており、糖尿病治療のみならず、体重管理や美容分野への応用が注目されています。一方、日本では、自由診療や美容業界において、適正な使用法が守られないままGLP-1関連医薬品が導入されるケースが散見されています。適切な診察や検査を経ずに、肥満のない人への体重減少や美容効果を期待して投与される不適切な使い方は、健康を支えないばかりか健康リスクばかりを高めている懸念があります。今回の研究が示唆したような、まれな副作用リスクは、今後も追加で報告されてくる可能性があります。そんな中、十分な指導が行われずに使用された場合にはこうした副作用への発見が遅れ、重大な障害へと発展する可能性があるため、とくに注意が必要です。今回の研究結果は、治療効果の裏に潜むまれなリスクを明らかにするとともに、医薬品の適正使用の重要性を再度認識させるものだと思います。急速な普及に飛びつく前に、その副作用やリスクについても十分に理解、検討をする必要があります。とくに日本国内での自由診療や美容目的での不適正使用に対しては、厳密なルール作りが求められると同時に、消費者への注意喚起も急務といえるでしょう。参考文献・参考サイト1)Simonsen E, et al. Diabetes Obes Metab. 2025 Mar 17. [Epub ahead of print]

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糖尿病者では間歇スキャン式血糖測定の値が高値となる

 糖尿病ではない人が間歇スキャン式持続血糖測定(isCGM)を行った場合、測定値が高値を示す傾向のあることが報告された。英バース大学のJavier Gonzalez氏らの研究によるもので、詳細は「The American Journal of Clinical Nutrition」に2月26日掲載された。 isCGMは指先穿刺を必要とせずに血糖値をリアルタイムで確認できるため、「糖尿病患者の人生を変え得る機器」といったアピールとともに普及してきている。しかし、新たな研究によると、健康な人の場合、血糖自己測定のゴールドスタンダードである指先穿刺による測定(SMBG)に比べてisCGMは、高値を示すことが多いようだ。論文の上席著者であるGonzalez氏は、「isCGMは糖尿病患者にとって素晴らしいツールだ。糖尿病患者の場合、たとえ測定結果が完璧に正確ではないとしても、全く測定しないよりは良い。しかし、健康な人が用いると、不必要な食事制限や不適切な食事選択につながる可能性がある。血糖値を正確に評価したいのであれば、依然として従来の方法が最適だ」と話している。 isCGMは、腕に貼ったパッチを介して血糖値を連続的に測定し、その測定結果をスマートフォンなどのデバイスに送信するシステム。このisCGMは、もともとは糖尿病患者の血糖管理をサポートする目的で開発された。ところが現在このデバイスは、糖尿病でない人の健康管理にも用いられ始めている。例えば、さまざまな食品を摂取後に、血糖値がどのように変化するかを知るために使われたりしている。 この研究では、15人の健康なボランティアに、果物を丸ごとそのまま食べてもらったり、スムージーにして飲んだりしてもらい、その後の血糖変動をisCGMで測定し、SMBGでの測定値と比較した。その結果、スムージーの血糖上昇指数(GI)はSMBGでは53(低GI)と判定されたのに対して、isCGMでは69(中GI)と示され、SMBGより30%過大評価された。また、果物を丸ごと食べた場合、SMBGではやはり低GIであることが示されたが、isCGMでは中GIまたは高GIと判定された。この結果から研究者らは、果物を丸ごと食べると血糖値が急上昇するかもしれないと誤解した健康な人が、果物を避けるようになる可能性があるとしている。 また、isCGMは血糖値が140mg/dL以上になっている時間の長さを約3.8倍、過大に評価することも明らかになった。食品を摂取する前の血糖値などの影響を調整してもなお、約2倍に過大評価していた。 Gonzalez氏は「isCGMは、血液中のブドウ糖である血糖の濃度を直接測定するのではなく細胞を取り囲む液体中に含まれているブドウ糖の濃度を測定するため、不正確になる可能性がある。血流の変化、血糖の体内での分布速度の影響などによりタイムラグが発生することもあって、実際の血糖値と不一致が生じ得る」と解説している。 なお、この研究は、英国を拠点にスムージーの製造・販売を展開しているInnocent Drinks社の資金提供により実施された。

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わが国への直接応用は難しいが…(解説:野間重孝氏)

 まず論文評を始めるにあたって、近年における冠動脈疾患(CAD)の危険因子に対する考え方の変化に言及する必要があるだろう。従来危険因子(risk factor)とは、高血圧・糖尿病・喫煙・脂質異常・肥満など生活習慣の改善や薬物療法によって修正可能な因子を指し、年齢・性別・家族歴などコントロールが困難な因子はリスク要因(risk marker)と呼んで区別してきた。しかし、近年になり非修正可能な因子も重要なリスク要因として考慮すべきではないかという動きが強まっている。その原因の第一には、多因子リスク評価の重要性が見直されてきたことにある。つまり、一つひとつの危険因子の影響は独立ではなく、複合的なリスク評価が重要だと考えられるようになったことが挙げられる。たとえば、年齢+男性+早発性CADの家族歴という要因が重なると、単独の要因よりもリスクが著しく上昇することが明らかになってきた。これに、予防医療の発展という要因も付け加えなければならないだろう。今回取り上げられたCACスコアのような画像診断が普及したことで、非修正可能な要素がある人こそ、より積極的な検査が必要だという認識が広まったのである。実際、ASCVDリスクスコアやSCORE2といった新しい評価法では非修正可能因子も加味されている。 今回の研究は「予測されるリスクがある患者に対して徹底的な予防治療を行えば、より良い結果が得られる」という一見当たり前のことを示したものとも捉えられるだろう。確かに表面的には当たり前の結論のように見えるが、次のような意義があると考えられる。第一は「誰に徹底治療を行うべきか」という判断基準を提示したことである。この研究では、CACスコアを用いることにより、徹底的な治療が本当に必要な患者をより正確に見極めることができた点に意義があるといえる。さらに、CACスコアが0であればリスクが低いと判断して、過剰な治療を避けられる点も重要だろう。第二には「中等度リスクと判断された患者に対しても、徹底的な治療を行うことが重要である」ことを示した点である。ややもすればリスクが見逃されやすい層に対して、より積極的な治療が必要であるというエビデンスを示したともいえる。第三には治療の個別化が挙げられるだろう。近年の医療では「全員に同じ治療」ではなく「個々のリスクに応じた治療」が求められており、CACスコアの活用によって「誰に積極治療を行うべきか」を見定めたことの重要な例として挙げられるだろう。 さて、わが国に目を転じてみて、今回の研究成果はどのように実臨床に適用されるだろうか。繰り返しになるが、本研究は徹底的な予防治療の有用性を示した点で重要な意義があるといえる。しかし、国民皆保険制度の下でわが国の「標準的治療」は相当程度高いレベルにあるといえる。さらにCADの発生率そのものの違いも挙げなければならないだろう。したがって、本研究の成果をそのまま適用することには限界があるといえる。しかし「誰に徹底的な治療を行うべきか」という判断基準の精度を上げることが重要な課題であることに変わりはない。現在わが国ではCACスコアの測定は保険収載されていない。今後CACスコアの費用対効果やリスク層別化の精度を検証し、わが国においても「無駄な治療の回避」と「適切な治療の実施」を両立させることが期待される。 最後になるが、CACスコアの限界についても一言触れておかなければならないだろう。日本人は欧米人に比べて血管が細く、CADの発生には純粋な動脈硬化の進行だけではなく、冠動脈の緊張度の変化、冠動脈攣縮(スパスム)や細動脈硬化の要素が相当程度関与するが、こうした要素の検知にはCACスコアは無力である、ということである。CACスコアをわが国で応用するためには、わが国独自のデータが必要であると考えられる。

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