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フィリピン先生の無茶振り【Dr. 中島の 新・徒然草】(607)

六百七の段 フィリピン先生の無茶振りなんだか寒くなったと思ったら、もう立冬ですよ。そろそろ年賀状の準備をする時期ですが、今年はどうしようかと迷っています。郵便料金も大幅に上がったことだし。そろそろ止め時かも。さて、オンライン英会話では、しばしば初対面のフィリピン人講師に当たります。こちらは自己紹介をしたら、さっさと本日のテーマに移りたいと思っているのですが「職業:医師」というところに食いつかれがち。「なんでドクターになろうと思ったの?」「これまでで一番長い手術は?」「日本でもドクターはお金持ちなの?」あれこれと質問攻めにされてしまいます。時には、これ幸いとばかり健康相談をされることも。「ちょっと医学的なことでアドバイスしてほしいんだけど」確か今日の講師は22歳とか言っていたはず。一体どんな病気があるというのでしょう!でも念のために聞いてみましょう。「何か病気があるんですか?」「私はいたって健康よ」呆れた。じゃあ診断もクソもないじゃないですか。「今の私の健康を保つ方法を教えて欲しいの。ドクターなら知っているでしょ?」そりゃアアタ、無茶振りってもんすよ。本気で言ってるんですか?でも、こちらもダテに何十年もこの仕事をやってきたわけではありません。適当に聞いて適当に答えるテクニックこそが外来診療の真骨頂。だから、健康な人に対してもちゃんとアドバイスは準備してあります。ただね、英語で説明しようとすると難しいんですよ、これが。Since you inherit your parents’ genes, you might develop similar diseases.(先生はご両親の体質を引き継いでいるはずですから、同じような病気になる可能性がありますよ)ここで genes というのは「遺伝子」の複数形。衣服の jeans と同じ発音だそうです。If your mother has diabetes mellitus, you might develop the same condition, so you’d better keep an eye on your blood sugar from a young age.(もしお母さんが糖尿病なら先生も糖尿病になる可能性がありますから、若い時から血糖値には注意しておいたほうがいいですよ)われながら説得力のある回答。もちろん血圧や血糖値に注意しろ、などというのは素人でも使える万能アドバイスです。だから医師ならではの説得力を付け加えたいところ。確か脳卒中や心筋梗塞などの発症は、その半分くらいしかリスクファクターで説明できなかったんじゃなかったかな。ここでいうリスクファクターとは、喫煙とか飲酒とかですね。もう少し範囲を広げて、高血圧や脂質異常症まで入れてもいいかもしれないけど。いくら清く正しい生活を送ったとしても、いわゆる生活習慣病になってしまう人がたくさんいるのは、読者の皆さんがご承知のとおり。だから、リスクファクター以外の多くは体質なのだと私は思っています。たしか百何歳まで生きた女性がこう言ったのだとか。「長生きの秘訣はタバコじゃ。私に禁煙を勧めてきた医者は、どいつもこいつも先に死によった」喫煙しながら百歳以上生きたのであれば、よほど優れた遺伝子を親から引き継いだに違いありません。だから祖父母や親の病気をよく見ておいて、自分がかからないように、あるいはかかったとしても先手を打って治療すべきだと思います。問題は……こういった話をどうやって英語でフィリピン人講師に説明したらいいのか、ですね。果てしなき英語修業は続きます。最後に1句 立冬や 健康相談 聞き流す

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MCIからアルツハイマー病に移行する修正可能なリスク因子とは

 軽度認知障害(MCI)は、アルツハイマー病の前段階に当たる前認知症期である。MCIからアルツハイマー病へ移行するリスク因子を検討した研究は、これまで数多くあるが、その結果は一貫していない。韓国・高麗大学のKyoungwon Baik氏らは、韓国のMCI患者におけるMCIからアルツハイマー病への移行率およびそれに寄与するリスク因子を調査するため、本研究を実施した。Scientific Reports誌2025年10月10日号の報告。 韓国において12年間の全国規模のレトロスペクティブコホート研究を実施した。2009〜15年の間に40歳以上のMCI患者を登録し、2020年までフォローアップ調査を行った。MCI診断時の年齢に基づき、アルツハイマー病への移行率およびそのリスク因子を分析した。解析には、Cox比例ハザード回帰分析を用いた。 主な内容は以下のとおり。・MCI患者におけるアルツハイマー病への移行率は70〜90歳にかけて増加し、100歳近くでプラトーに達した。・アルツハイマー病への移行リスク上昇と関連していた因子は、低体重(ハザード比[HR]:1.279、95%信頼区間[CI]:1.223〜1.338)であった。・心血管代謝疾患の中で、糖尿病(HR:1.373、95%CI:1.342〜1.406)、冠動脈疾患(HR:1.047、95%CI:1.015〜1.079)、出血性脳卒中(HR:1.342、95%CI:1.296〜1.390)はアルツハイマー病への移行リスクを増加させたが、高血圧、虚血性脳卒中、脂質異常症との関連は認められなかった。・うつ病(HR:1.736、95%CI:1.700〜1.773)および身体活動不足(HR:1.193、95%CI:1.161〜1.227)はリスク上昇と関連していた。・軽度(HR:0.860、95%CI:0.830〜0.891)から中等度(HR:0.880、95%CI:0.837〜0.926)のアルコール摂取、高所得(HR:0.947、95%CI:0.925〜0.970)、都市部居住(HR:0.889、95%CI:0.872〜0.907)は、アルツハイマー病への移行リスクの低下と関連が認められた。 著者らは「いくつかの修正可能なリスク因子は、MCIからアルツハイマー病への移行リスクの増加と密接に関連していることが明らかとなった。本研究の結果は、MCI患者におけるアルツハイマー病への移行リスクを軽減するための予防戦略の策定に役立つ可能性がある」としている。

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脳内の老廃物を排出する機能の障害が認知症に関連

 脳内の老廃物の排出機能の不具合が、認知症の一因となっている可能性のあることが、新たな研究で示された。脳の保護と洗浄の役割を果たしている透明な液体である脳脊髄液(CSF)の流れの障害が、将来的な認知症リスクを予測する指標となることが示されたという。英ケンブリッジ大学のYutong Chen氏らによるこの研究結果は、「Alzheimer’s & Dementia」に10月23日掲載された。Chen氏らは、「このような老廃物の排出機能の問題は、脳内の血管に損傷を与える心血管のリスク因子と関連している可能性がある」と指摘している。 Chen氏らが今回の研究で着目したのは、「グリンパティックシステム」と呼ばれる仕組みだ。グリンパティックシステムは、脳内の小血管を取り囲む微細な経路を通してCSFを循環させ、脳内から毒素や老廃物を排出して洗浄するシステムである。排出される老廃物の中には、アルツハイマー病の特徴的な要素と考えられているアミロイドβやタウタンパク質なども含まれている。 研究では、UKバイオバンク参加者4万4,384人の成人のMRI画像を分析した。その結果、グリンパティックシステムの機能低下に関連する以下の3つのマーカー(指標)に、その後10年間の認知症リスクの予測能があることが明らかになった。1)DTI-ALPSの低下:DTI-ALPSはMRIの一種である拡散テンソル画像(DTI)から計算される指標で、グリンパティックシステムの微細な経路に沿った水分子の動きを表す。2)脈絡叢の拡大:脈絡叢はCSFを産生する脳領域であり、その拡大はCSF産生および老廃物除去量の減少と関連している。3)血中酸素濃度依存(BOLD)信号とCSFの同期低下:BOLD信号とCSFの同期が強いほど、CSFの流れが良好であることを意味する。 さらにChen氏らは、高血圧や糖尿病、喫煙、飲酒といった心血管リスク因子がグリンパティックシステムの機能を低下させ、その結果として認知症リスクを高めることも突き止めた。心血管リスク因子は脳内の血管に損傷を与え、その血管の周囲のグリンパティックシステムにも影響が及ぶとChen氏らは説明している。 Chen氏は、「極めて大規模な集団を対象にした今回の研究から、グリンパティックシステムの障害が認知症の発症に関与しているという有力なエビデンスが得られた。これは、このシステムの障害をどう改善できるのかという新たな疑問につながるため、素晴らしいことである」とニュースリリースの中で述べている。 一方、論文の上席著者であるケンブリッジ大学脳卒中研究グループ長のHugh Markus氏は、「認知症リスクのうち、少なくとも4分の1は高血圧や喫煙などの一般的なリスク因子によって説明できる。もし、これらがグリンパティックシステムの機能を低下させるのであれば、介入が可能だ。高血圧を治療したり禁煙を促したりすることは、グリンパティックシステムの働きを改善する達成可能な方法になるだろう」と指摘している。 研究グループは、グリンパティックシステムの働きには睡眠が重要であるため、良質な睡眠が老廃物の排出を促進する可能性があるとの見方を示している。また、薬剤によってこのシステムの効率を高められる可能性も考えられるとしている。研究グループはさらに、心血管リスク因子への対策が、グリンパティックシステムの機能に保護的に働く可能性にも言及している。これまでに報告されている臨床試験では、血圧を厳格にコントロールすることで認知機能低下や認知症のリスクが20%低下することが示されている。

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医師の約3割が肥満度1以上の肥満に該当/医師1,000人アンケート

 わが国にはBMIが25以上の「肥満」と定義される人は、約2,800万人と推計され、BMIが35以上の高度肥満者の増加も報告されている。従来、肥満症の治療では、食事療法、運動療法、認知行動療法、外科的療法が行われてきたが、近年、治療薬も登場したことで「肥満」・「肥満症」にスポットライトが当たっている。一方で、診療する側の医師も、診療や論文作成やカンファレンスなどで座位の時間が多く、運動不足となり、体型も気になるところである。CareNet.comでは、2025年10月15~21日にかけて、会員医師1,000人(うち糖尿病・代謝・内分泌科の医師100人を含む)に「医師の肥満度とその実態」について聞いた。肥満で困ることは服選びや購入場所が制限されること 質問1で「BMIはいくつか(肥満度は『肥満症診療ガイドライン2022』に準拠)」(単回答)」を聞いたところ、18.5以上25未満(普通体重)が61%、25以上30未満(肥満度1度)が25%、18.5未満(低体重)が6%の順で多く、肥満でない医師が約7割を占めた。 質問2で肥満度1以上の医師に「実施している肥満解消法や予防法」(複数回答)を聞いたところ、「食事や飲み物への配慮」が68%、「定期的な運動、意識的な運動」が64%、「何もしていない」が12%の順で多かった。診療科による比較では、糖尿病・代謝・内分泌科以外の医師で「市販薬の使用」が7%と肥満の予防法に差があった。 質問3で肥満度1以上の医師に「肥満の原因は何か」(複数回答)を聞いたところ、「食事や飲料の摂取カロリーが多すぎる」が75%、「運動不足」が66%、「ストレスなどの影響」が26%の順で多かった。なお、診療科による比較では、糖尿病・代謝・内分泌科の医師で「運動不足」を挙げる医師が一番多かった。 質問4で肥満度1以上の医師に「肥満、肥満体型で困ること」(複数回答)を聞いたところ、「衣服のデザインやサイズ、購入場所が限られる」が30%、「仕事や日常生活の動作に支障」が28%、同順位で「周囲の人からの視線」、「運動が困難」、「とくに困ることはない」が24%の順で多かった。また、診療科による比較では、糖尿病・代謝・内分泌科の医師で「運動が困難」、「周囲の人からの視線」の順で多かった。 質問5で「今後、肥満解消や肥満予防法で試してみたいもの」(複数回答)を聞いたところ、「運動療法」が57%、「食事療法」が48%、「とくにない」が23%の順で多かった。また、診療科による比較では、「食事療法」、「運動療法」、「薬物療法」で回答が分かれていた。 質問6で「肥満/肥満症」にまつわるエピソードについて聞いたところ以下のような回答があった。【ダイエット成功のエピソード】 ・カロリーのある飲料水、とくに果糖ブドウ糖の含まれているものは制限するようにしている(50代/呼吸器内科) ・運動を生活の中に取り入れて、実践することで自然に体型維持が今もできている(40代/消化器内科)【ダイエット失敗のエピソード】 ・過去に15kg程度の減量に成功したが、5~6年をかけて20kgリバウンドして太った(50代/麻酔科) ・適度な運動はかえって食事やビールを美味しくし、より太る(60代/耳鼻咽喉科)【肥満/肥満症での課題など】 ・ダイエットのアドバイスが奏功しても、患者さんが必ずリバウンドする。リバウンドをどうするかが、肥満症治療の最大のポイント(60代/病理診断科) ・「フルーツは体に良いので控える必要がない」と思っている患者さんが多い(60代/糖尿病・代謝・内分泌内科)【患者さんへの指導例】 ・ステロイド服薬中の患者さんには、炭水化物の摂取と体重の増加の関係についてよく説明している(60代/内科) ・少し痩せてからウォーキングなどの軽い運動から開始させる。突然激しい運動はさせない(60代/精神科)■参考医師の肥満度とその実態について

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抗胸腺細胞グロブリンは発症直後の1型糖尿病患者のβ細胞機能低下を抑制する(解説:住谷哲氏)

 膵島関連自己抗体が陽性の1型糖尿病は正常耐糖能であるステージ1、耐糖能異常はあるが糖尿病を発症していないステージ2、そして糖尿病を発症してインスリン投与が必要となるステージ3に進行する1)。抗CD3抗体であるteplizumabはステージ2からステージ3への進行を抑制することから、8歳以上のステージ2の1型糖尿病患者への投与が2022年FDAで承認された。現在わが国でも承認のための臨床試験が進行中である。さらにステージ3に相当する発症直後の1型糖尿病患者のβ細胞機能の低下もteplizumabの投与により抑制されることが報告された2)。 抗胸腺細胞グロブリンantithymocyte globulin(ATG)は、わが国でも、抗ヒト胸腺細胞ウマ免疫グロブリン製剤が商品名アトガム、抗ヒト胸腺細胞ウサギ免疫グロブリン製剤が商品名サイモグロブリンとして薬価収載されて使用可能である。アトガムの適応は中等症以上の再生不良貧血のみであるが、サイモグロブリンはそれに加えて種々の臓器移植後のGVHDに対して適応を有している。ATGは通常の投与量では免疫抑制作用 immunosuppressionを発揮するが、低用量では免疫調節作用immunomodulationを発揮し、発症直後の1型糖尿病患者のβ細胞機能低下を抑制する可能性が示唆されている3)。 そこでATGの適切な投与量を決定するために第II相用量設定試験である本試験が実施された。本試験ではadaptive designが用いられたが、adaptive designは中間解析の結果に基づき、各群への被験者の割り付け割合の変更、特定の群の中止、目標症例数の見直しなど、進行中の臨床試験のデザインに変更を加える多段階試験の総称である4)。試験の結果、これまでの臨床試験に主として用いられてきた2.5mg/kgと比較して、低用量である0.5mg/kgは同様に有効であり有害事象の発生がより少ないことが明らかにされた。 今回の第II相の結果に基づいて第III相試験が遠からず実施されることになると思われる。ATGは異種抗体であり、頻回投与による効果の減弱や有害事象としての種々のアレルギー反応は避けられない。コストとベネフィット、およびリスクとベネフィットとのバランスの追求が今後の課題となるだろう。

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足底の潰瘍【日常診療アップグレード】第43回

足底の潰瘍問題73歳男性。3日前、右足底に10日前にはなかった潰瘍ができているのに気が付き受診した。外傷歴はない。3週間前、新しい靴を購入して使用し始めた。既往歴は2型糖尿病糖尿病性神経障害、高血圧である。内服薬はメトホルミン、デュラグルチド、ガバペンチン、アトルバスタチン、リシノプリルである。発熱や悪寒はない。バイタルサインは正常で、身体診察では右足底の前中央部に直径約1cmの浅い潰瘍を認める。熱感や発赤、浸出液、腫脹、圧痛はない。両足底の痛覚は低下している。足の単純X線撮影をオーダーした。

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肥満とがん死亡率、関連する血液腫瘍は

 肥満は血液腫瘍を含む各種がんによる死亡率の上昇と関連しているが、アジア人集団、とくに日本人成人におけるこの関連のエビデンスは限られている。今回、北海道大学の若狭 はな氏らが、わが国の多施設共同コホート研究(JACC Study)で肥満と血液腫瘍による死亡の関連を検討した結果、日本人成人において肥満が多発性骨髄腫および白血病(とくに骨髄性白血病)による死亡率の上昇と有意に関連していることが示された。PLoS One誌2025年10月30日号に掲載。 本研究では、わが国の多施設共同コホート研究であるJACC Studyの参加者9万7,073人を対象に、平均17年間追跡調査した。自己申告の身長および体重からBMI(kg/m2)を算出し、低体重(18.5未満)、正常体重(18.5~24.9)、過体重(25.0~29.9)、肥満(30.0以上)の4群に分けた。血液腫瘍による死亡データは死亡診断書から取得した。人口統計学的要因、生活習慣、社会経済的要因を調整したCox比例ハザードモデルを用いて、原因疾患別のハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中に479例が血液腫瘍により死亡し、うちリンパ腫が200例、多発性骨髄腫が107例、白血病が166例(骨髄性白血病106例を含む)であった。・死亡リスクが正常体重群より肥満群で有意に高かったのは、血液腫瘍全体(HR:1.78、95%CI:1.02~3.11)、多発性骨髄腫(HR:2.75、95%CI:1.09~6.94)、白血病(HR:2.47、95%CI:1.07~5.69)、とくに骨髄性白血病(HR:3.89、95%CI:1.66~9.11)であった。・BMIとリンパ腫による死亡率との間には有意な関連は認められなかった。 今回の結果は、この集団において肥満が特定の血液腫瘍における修正可能なリスク因子であることを強調している。

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妊娠に関連した心血管疾患が米国で増加

 米国では妊婦の心血管疾患(CVD)リスク因子およびCVDの有病率が上昇してきており、妊娠中や出産後にCVDの合併症を起こす女性も増加している実態が報告された。米マサチューセッツ総合病院のEmily Lau氏らの研究の結果であり、詳細は「Circulation」10月14日号に掲載された。 研究者らは背景説明の中で、妊産婦死亡の3分の1以上をCVDが占めており、CVDは妊娠を契機に発症する主要な疾患であるとしている。そしてLau氏は、「われわれの研究結果は、リアルワールドにおいて妊娠関連のCVDが増加しているという憂慮すべき傾向を示しており、妊娠前から産後にかけての期間が、妊婦に対してCVD一次予防を実施する重要な機会であることを強調している」と述べている。 この研究では、2001〜2019年にわたるプライマリケアの電子カルテデータを用いて、妊婦の妊娠時点でのCVDリスク因子とCVDの有病率、および産後1年目までの妊娠関連CVD合併症(妊娠高血圧症候群、主要心血管イベント、死亡の複合アウトカム)の発生率の推移を解析した。解析対象女性は3万8,996人(妊娠時の年齢32±5歳)で、5万6,833件の妊娠が記録されていた。 妊婦のCVDリスク因子のうち、肥満有病率は2001年の2%から2019年に16%へと増加し、高血圧は3%から12%、脂質異常症は3%から10%、糖尿病は1%から3%へと、全て有意に増加していた。また、CVDの有病率は前記期間全体では4%であり(年齢で調整すると8%)、やはり経年的に有意に増加していた。 同様に、妊娠関連CVD合併症の発生率も期間全体で8,290件(15%)であり(年齢調整後17%)、経年的に有意に増加していた。妊娠関連CVD合併症は産後よりも妊娠中に多く発生しており(8,290件中7,000件)、妊娠高血圧症候群が多数を占めていた(6,539件)。妊娠関連CVD合併症は、妊娠時点でCVDリスク因子やCVDを有している女性で多く発生していた。具体的に発生率を比較すると、高血圧の有無では23%対5%、脂質異常症の有無では13%対10%、糖尿病の有無では6%対3%、CVDの有無では10%対3%であった。 ボランティアとして米国心臓協会(AHA)会長を務めるStacey Rosen氏はこの研究報告に関連して、「CVD合併症のリスク因子の大半は、生活習慣の改善や薬の服用によって対処可能だ。しかし、多くの女性が、自分がそれらの疾患を抱えていることを知らずにいる」と指摘している。また、「妊娠前から出産後までは、心臓の健康に良い行動を起こす貴重な機会であり、その行動が将来にわたってCVDの予防と長期的な健康維持に役立つ」と付け加えている。なお、同氏は本研究に関与していない。

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週末まとめて歩くvs.日々歩く、メタボ予防効果が高いのは?

 わが国では健康増進のために1日8,000歩以上歩くことが推奨されているが、1日平均歩数が同じ場合、週末にまとめて歩く人と日々歩く人で効果は同等なのだろうか。今回、愛媛大学の山本 直史氏らは、中高年の日本人において連続した7日間の歩数を調査し、メタボリックシンドロームとの関連を検討した結果、8,000歩以上の日数の割合より、7日間の総歩数がメタボリックシンドロームとの関連が強い一方、1日平均歩数が8,000~10,000歩の人では、8,000歩以上達成した日数の割合が高いほどメタボリックシンドロームのリスクが低いことが示唆された。Obesity Research & Clinical Practice誌オンライン版2025年11月2日号に掲載。 本研究は、愛媛県東温市で進行中の前向きコホート研究である東温スタディの一環として実施された横断的解析(1,723例)と5年間の前向き解析(977例)である。まず、ベースライン時に連続7日間の歩数を歩数計で測定し、1日平均歩数について6,000歩未満、6,000~7,999歩、8,000~10,000歩、10,000歩超に分類した。さらに各カテゴリーを8,000歩/日以上だった日数の割合によって高頻度群と低頻度群に分けた。潜在的交絡因子を調整したロジスティック回帰分析により、メタボリックシンドロームの有病率および5年発症率との関連を評価した。 主な結果は以下のとおり。・横断的および5年間の縦断的解析のいずれも、1日平均歩数が多い(すなわち7日間の総歩数が多い)カテゴリーほどメタボリックシンドローム発症のオッズが低いという一貫した関連が認められた(傾向のp<0.05)。・8,000歩以上の日の頻度が高いこともメタボリックシンドロームリスクが低いことと関連していたが、1日平均歩数で調整後に減弱した。・横断的・縦断的解析のいずれも、8,000~10,000歩/日のカテゴリーにおいて、高頻度群は低頻度群より一貫してメタボリックシンドローム発症のオッズが低かった。 著者らは「これらの結果は、総歩数の重要性を示すとともに、8,000~10,000歩/日という特定の範囲において活動頻度がさらなる役割を果たす可能性を示唆する」と考察している。

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1型糖尿病妊婦、クローズドループ療法は有効/JAMA

 1型糖尿病の妊婦において、クローズドループ型インスリン注入システムの利用(クローズドループ療法)は標準治療と比較して、妊娠中の目標血糖値(63~140mg/dL)達成時間の割合(TIR)を有意に改善させたことが、カナダ・カルガリー大学のLois E. Donovan氏らCIRCUIT Collaborative Groupが行った非盲検無作為化試験「CIRCUIT試験」の結果で示された。高血糖に関連した妊娠合併症は、1型糖尿病妊婦では発生が半数に上る。クローズドループ療法による血糖コントロールの改善は妊娠中以外では確認されているが、妊娠中の試験は限られていた。著者は、「今回の結果は、1型糖尿病妊婦へのクローズドループ療法の実施を支持するものである」とまとめている。JAMA誌オンライン版2025年10月24日号掲載の報告。妊娠16~34週における妊娠特異的TIRを評価 CIRCUIT試験は、妊娠中のクローズドループ療法の有効性の評価を目的とし、2021年6月~2024年7月に、カナダとオーストラリアにある妊娠糖尿病専門クリニック14施設で1型糖尿病妊婦を登録して行われた(追跡調査は2025年3月に完了)。 被験者は、クローズドループ療法群または標準治療群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。 クローズドループ療法群には、Control-IQインスリンポンプ(Tandem製)が提供され、妊娠中の使用の推奨事項(1日24時間の最低目標血糖値[112.5~120mg/dL:睡眠時]の使用、運動時のより高値のオプション値の使用など)が提示された。妊娠20週後は、それより1~2週間前の平均的な自動基礎インスリン投与量よりも約20%高い基礎インスリン投与量をプログラムすることが推奨された。 標準治療群には、持続血糖モニタリングに関する教育と機器が提供され、無作為化前のインスリン投与法(従来インスリンポンプ[Medtronic製MiniMed、Tandem製Basal-IQ]やインスリン頻回注射療法)が継続された。 両群の被験者は全員、妊娠糖尿病ケアチームからインスリン投与量に関するサポートを、試験地の標準治療に従って受けた。 主要アウトカムは、妊娠16~34週に持続血糖モニタリングで計測された妊娠特異的TIR(目標血糖値は63~140mg/dL)とした。クローズドループ療法群65.4%、標準治療群50.3%で有意差 94例が登録され、無作為化前に妊娠喪失を経験した3例を除く91例が無作為化された。主要解析には、クローズドループ療法に割り付けられた2例(妊娠20週未満で流産)と標準治療群に割り付けられた1例(無作為化後に試験離脱・データ提出拒否)を除く88例(平均年齢31.7[SD 5.2]歳、妊娠初期のHbA1c値7.4%[SD 1.0])が包含された。 妊娠16~34週における妊娠特異的TIR(平均値)は、クローズドループ療法群65.4%、標準治療群50.3%であった(補正後平均群間差:12.5%ポイント、95%信頼区間:9.5~15.6、p<0.001)。 妊娠中の重症低血糖エピソードはクローズドループ療法群1例で報告された。糖尿病性ケトアシドーシスはクローズドループ療法群で2例、標準治療群で1例が報告された。

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筋力が強ければ肥満による健康への悪影響を抑制できる可能性

 肥満による健康への悪影響を、筋力を鍛えることで抑制できる可能性を示唆するデータが報告された。米ペニントン・バイオメディカル研究センターのYun Shen氏らの研究の結果であり、詳細は「The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism」に10月15日掲載された。 この研究からは、肥満関連の健康障害の発生リスクだけでなく早期死亡リスクも、握力が高いほど低いことが示された。Shen氏は、「握力は測定が容易であり、リスクのある介入すべき対象者を早期に低コストで見いだすことができる。そしてわれわれの研究の結果は、握力に基づき評価した筋力の低下が、肥満関連健康障害の鋭敏な指標であることを示している」と語っている。 Shen氏らの研究は、英国の一般住民対象大規模疫学研究であるUKバイオバンクのデータを用いて行われた。UKバイオバンク参加者のうち、BMI30以上(アジア人は28以上)であり、かつウエスト周囲長や体脂肪率などのBMI以外の肥満関連指標に異常がありながら、肥満関連健康障害は生じていない人を「前臨床的肥満」と定義。これに該当する9万3,275人を握力の三分位数に基づき3群に分類したうえで、平均13.4年間追跡して、肥満関連健康障害の発症や死亡のリスクを比較した。解析に際しては、交絡因子(年齢、性別、人種、血清脂質、血圧、HbA1c、eGFR、CRP、喫煙・飲酒・食事・運動・睡眠習慣、教育歴、雇用状況、高血圧・高血糖・脂質異常症治療薬、糖尿病家族歴など)の影響を統計学的に調整した。 握力の最も弱い第1三分位群を基準とする解析の結果、握力が高い群は肥満関連健康障害や死亡リスクが有意に低いことが示された。例えば、追跡期間中の最初の肥満関連健康障害の発症リスクは、握力の最も高い第3三分位群は調整ハザード比(aHR)0.80(95%信頼区間0.79~0.82)、握力が中程度の第2三分位群もaHR0.88(同0.87~0.90)であり、それぞれ20%、12%のリスク低下が認められた。また、追跡期間中に二つ目の肥満関連健康障害が発症するリスク、その後に死亡するリスクなどについても、握力が高いほど有意に低かった。 さらに、握力の1標準偏差(SD)の差とそれらのリスクとの関連を検討した結果、やはり握力が高いことによるリスク低下が認められた。例えば、肥満関連健康障害の発症を経ずに死亡するリスクは、1SD高いごとに9%有意に低下していた(aHR0.91〔0.85~0.97〕)。 これらを性別や喫煙状況、人種で層別化した解析の結果、握力が高いことによるリスク低下は、女性、非喫煙者、黒人でより顕著に認められた。 研究者らは、「過剰な脂肪蓄積に伴う慢性炎症の影響が、筋肉量が多いことによって抑制される可能性がある。われわれの研究結果は、前臨床的肥満において筋肉量と筋力を向上することの重要性を強調するものと言える」と述べている。ただし本研究は関連性のみを示すものであり、因果関係の存在を示すものでないことから、「この知見の検証のため、さらなる研究が必要」と付け加えている。

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11月14日 アンチエイジングの日【今日は何の日?】

【11月14日 アンチエイジングの日】 〔由来〕 「いい(11)とし(14)」(良い歳)と読む語呂合わせから、アンチエイジングネットワークが2007年に制定。生活習慣病を予防する予防医学の定着と、年齢を経ても「見た目の若さ」を保ち続ける方法の認知拡大が目的。関連コンテンツ 継続のコツ ~筋トレ編~【Dr. 中島の 新・徒然草】 未来の自分への最高の投資は「食事」にあり!科学が解き明かす“健康的な加齢”の秘訣【NYから木曜日】 治療ワクチンで超高齢社会を乗り越える!~医療の2050年問題解決に向けて 眠気の正体とは?昼間の眠気は異常?/日本抗加齢医学会 世界初の軟骨伝導集音器、補聴器との違いや利便性とは

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高齢者機能評価は負担ばかりで利益がない!? 【高齢者がん治療 虎の巻】第4回

<今回のPoint>GAは、入退院支援加算+総合機能評価加算の枠組みで診療報酬に組み込める多職種連携を広げることでほかの加算と組み合わせが可能診療報酬は、GAを評価・活用し“行動につなげる”ことではじめて得られる―診療報酬という視点から考えるGAの価値―高齢者機能評価(Geriatric Assessment:GA)に関する講演をすると、毎回のように次の質問をいただきます。「どれくらい時間がかかるのか?」「誰が、いつ行うべきか?」「評価結果をどう活かすのか?」そして―「診療報酬になるのか?」GAを実施していない施設では、「たとえ評価表への記載だけなら数分で終了します」と言われても、結果の評価・記録・共有・多職種連携のすべてが現場にとって“負担増”に見えるのが現実です。そのため、「もし診療報酬で評価されるなら…」と考えるのは自然なことかもしれません。今回は、GAがどのように診療報酬上の加算として位置付けられるか、実例を交えて私見をご紹介します。GA評価の基本は「入退院支援加算+総合機能評価加算」令和6年度診療報酬改定1)では、GAとの親和性が高い以下の加算が整理されています。●入退院支援加算・入院時支援加算・入退院支援加算1(700点)「退院困難な要因(悪性腫瘍含む)を有する入院中の患者であって、在宅での療養を希望するもの」に対して入退院支援を行った場合。・入院時支援加算1(240点)/ 入院時支援加算2(200点)入院前に患者の栄養状態・併用薬などを確認し、療養支援計画書を作成した場合。これらは、すでに多くの急性期病院で標準的に運用されている加算です。さらにこれらの加算に追加してGAを行うことで、以下の算定が可能です。・総合機能評価加算(50点)65歳以上、もしくは40~64歳の悪性腫瘍の患者に対し「身体機能や退院後に必要となりうる介護サービス等について総合的に評価を行った上で、当該評価の結果を入院中の診療や適切な退院支援に活用する」場合この加算の要件としては、GAで得られた情報を患者および家族に説明し、診療録に記載する必要がありますが、日常的にGAを導入している施設では、すでにこれらを満たす体制が整っていることが多いはずです。「たった50点」で終わらせない多職種連携ここで、「50点だけ?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、実際にはGAを起点に多職種の支援に展開することで、ほかの加算の可能性も大きく広がります。たとえば、日本老年医学会のCGA72)では、評価で「否」と答えた項目に対して、次のアクションが提示されており、評価から介入への流れが可視化されています(表1)。GAという“点”を多職種につなげて“線”にすることで、より価値が出る、ということですね。(表1)画像を拡大する症例で考える:実際にどこまで加算できるか?第1、2回提示の症例をもとに、加算の可能性を検討してみます。<症例>(第1回、第2回と同じ患者)88歳、女性。進行肺がんと診断され、本人は『できることがあるなら治療したい』と希望。既往に高血圧、糖尿病、軽度の認知機能低下があり、PSは1〜2。診察には娘が同席し、『年齢的にも無理はさせたくない。でも本人が治療を望んでいるなら…』と戸惑いを見せる。遺伝子変異検査ではドライバー変異なし、PD-L1発現25%。告知後、看護師が待合でG8(Geriatric8)を実施したところ、スコアは10.5点(失点項目:年齢、併用薬数、外出の制限など)。改訂長谷川式簡易知能評価(HDS-R)は20点で認知症の可能性あり。多職種カンファレンスでは、免疫チェックポイント阻害薬の単剤投与を提案。薬剤師には併用薬の整理を、MSWには家庭環境の支援を依頼し、チームで治療準備を整えることとした。(表2)画像を拡大する表2を踏まえ、本症例で実際に見込める加算「入退院支援加算」+「入院時支援加算」+「総合機能評価加算」GAの結果をもとに入院診療計画書・療養計画書を作成する→計950~990点 上記を基本とし、GAM(GA guided management)として多職種連携することで、本症例は下記について追加で算定できる可能性があります。 多職種カンファレンスを実施し意思決定支援等を行う→「がん患者指導管理料 (イ) 500点」 薬剤師に併用薬の整理を依頼→「薬剤総合評価調整加算 100点」(退院時1回)および「薬剤調整加算 150点」 外出の制限がありリハビリテーション依頼→「がん患者リハビリテーション料(1単位)205点」 G8の点数が低く、栄養状態に脆弱性あり→「栄養食事指導料1 260点」合計:2,165~2,205点いかがでしょうか。単体の50点加算にとどまらず、GA結果を起点にGAMを展開すれば、複数の加算を組み合わせることが可能です。総合機能評価加算は入退院支援加算への追加であり、その内容が入院もしくは退院支援に使用されることが必要です。よって、少なくとも関係学会でのガイドラインに則して評価ツールが利用され、その結果に応じた対応をすることで入院中もしくは退院後の生活支援につながることが期待されています。重要なのは、「GAを実施して記録した」だけでは加算にはならないということです。なお、診療報酬の算定については施設によって要件が異なることをご理解いただくとともに、各評価の算定要件は必ずご確認のうえ運用ください 。1)厚生労働省:令和6年度診療報酬改定について 2)日本老年医学会:高齢者診療におけるお役立ちツール 講師紹介

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2型糖尿病の低血糖入院が減少傾向、その背景を紐解く

 近年、2型糖尿病患者の低血糖入院が漸減傾向であることが明らかになった―。2017年に日本糖尿病学会の糖尿病治療に関連した重症低血糖の調査委員会が調査報告1)を行ってから8年、この間に低血糖による入院が減少したのには、いったいどんな対策や社会変化が功を奏したのだろうか。今回、この研究結果を報告し、日本糖尿病学会第9回医療スタッフ優秀演題賞を受賞した社会人大学院生の影山 美穂氏(東京薬科大学薬学部 医療薬物薬学科)と指導教官の堀井 剛史氏(武蔵野大学薬学部臨床薬学センター)から研究に至った経緯や考察などを聞いた。重症低血糖の現状、患者指導の影響は? 本研究のきっかけについて、影山氏は「薬剤師として糖尿病患者への低血糖予防指導はごく当たり前のこと。だがその一方で、低血糖発症リスクの現状や日頃の患者指導の効果が不明瞭であったため、薬剤師をはじめ医療者が頑張っている患者指導の可視化を目指した」と説明した。 実際、この20年における2型糖尿病治療薬や血糖コントロール目標値の変化は著しい。たとえば、治療薬に関しては、2009年よりDPP-4阻害薬が、2014年よりSGLT2阻害薬が発売され、2021年以降はGLP-1受容体作動薬の経口薬発売や肥満症治療薬としての適応拡大などが糖尿病治療薬市場の地殻変動を起こしている。それ故、低血糖リスクが高いとされるスルホニル尿素(SU)などの処方率は減少傾向にある。血糖目標値においては、2013年の糖尿病合併症予防のための血糖コントロール目標値に関する「熊本宣言」(HbA1c 7%未満)や2017年の高齢者糖尿病ガイドライン発刊(高齢者糖尿病の目標値が患者の特徴や健康状態を考慮した目標値「7.0~8.5%未満」)、「重症低血糖への提言」が周知されてきたことで、非専門医にも血糖値を下げ過ぎるリスクへの理解が進んできている。これについて堀井氏は「高齢者糖尿病ガイドライン2)において、HbA1cの具体的数値のみならず下限値も示されたことで糖尿病専門医ではなくても、患者へリスクをわかりやすく伝えることができるようになったのではないか。さらに、2024年の診療報酬改定では糖尿病治療薬の適正使用推進の観点から“調剤後薬剤管理指導加算”が新設されたことで、薬剤師の立場からもインスリンやSU薬服用中のフォローアップが手厚くなり、重症低血糖の減少につながっている可能性がある」と推測した。 ここで補足するが、「重症低血糖」とは、“回復に他者の援助を必要とする低血糖”と定義され、70歳以上、慢性腎臓病(CKD)ステージ3~5、SU薬内服中などの特徴を有する患者で発症しやすいとされる。その発症は主要心血管イベントや認知症の発症リスク増加にも関連することから、以前より日本糖尿病学会は警鐘を鳴らし、前述の調査委員会報告でも重症低血糖で救急搬送されるのは2型糖尿病が60%を占め、1型糖尿病患者よりも多く、処方薬剤別では、インスリン使用が約60%、SU薬使用が約30%であった3)。重症低血糖の患者推移、影響度が高い因子とは そこで、治療薬や血糖目標値の変遷、薬剤師指導の教育変化による“低血糖入院患者数推移や患者像”を捉えるために、同氏らはメディカル・データ・ビジョンの2009年1月1日~2022年12月31日までの診療データベースを活用し、2型糖尿病かつ初発低血糖患者を対象とした入院加療が必要な低血糖の発症リスクや使用薬剤について調査。主要評価項目は入院を必要とする低血糖発症に関連する要因の探索で、副次評価項目は夜間・早朝低血糖入院に関する要因、救急搬送による低血糖入院に関連する要因であった。 その結果、入院加療を必要とする低血糖発症率は、2型糖尿病患者全体では0.4→0.2%、75歳以上では0.85→0.3%、75歳未満では約0.2%微減、で推移していることが明らかになった。とはいえ、とくに高齢者では長期にDo処方が継続され、SU剤を使用している患者も一定数みられる。HBA1cが悪化すると他剤併用よりSU薬の増量が検討されるケースもあるため、「薬剤師も患者の低血糖リスクを意識して対応することで、重症低血糖の回避につながるのではないか」と影山氏はコメントした。 そして、低血糖入院の約6割が75歳以上であったことや低BMI患者(18.5kg/m2未満)での発症率の高さも示唆された。これについて、同氏は「低BMI患者にはインスリン分泌能低下者が多い、糖尿病歴が長い、グルカゴンの働きが悪くなっていることなどが推測される」と述べ、「高齢により低血糖の対応を自身ができない」「糖尿病歴が長くなることで痩せが生じ、インスリン分泌能が低下する。加えてフレイルにより低血糖を来しやすい」ことなどを挙げ、低BMI・低体重の関連性を考察した。 なお、本研究にはDPCデータを活用していることから、患者を夜間入院や救急入院などで層別化をすることができたものの、研究限界として「継続性が長くない、施設が代わると患者を追えなくなる」などを示し、「入院前データがない患者は除外」などの注意を払ったと堀井氏は説明した。 最後に両氏は「将来的に低血糖入院の因果関係を統計学的に示していきたい。そして、在宅ケアを受けている患者、低血糖を訴えられないような患者まで研究対象を掘り下げて解析していきたい」と今後の展望を語った。

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野菜くずを捨ててはいけない――捨てる部分は思っている以上に役立つ可能性

 これまで食卓に上ることなく捨てられてきた、野菜の皮や芯などの「野菜くず」が、近い将来、食糧生産の助けになったり、人々の健康のサポートに使われたりする可能性のあることが、新たな研究で示された。米化学会(ACS)が発行する3種類の学術誌に掲載された4報の研究論文で科学者らは、テンサイのパルプからココナッツの繊維に至るまで、幅広い食品廃棄物を農業および栄養源の貴重な素材として利用する方法を提案している。 「Journal of Agricultural and Food Chemistry」に9月15日に掲載された研究によると、テンサイ(サトウダイコン)のパルプ(砂糖を抽出した後に残る副産物)が、化学合成農薬の代替品として使える天然素材である可能性が示された。研究者らは、パルプに豊富に含まれているペクチンという繊維を、小麦の一般的な病気である「うどんこ病」に対する抵抗力を高める働きを持つ炭水化物に変えることに成功した。この方法を用いることで、合成農薬の散布量を減らすことができるという。 「ACS Omega」に9月13日に掲載された別の研究では、ヤスデによってココナッツ繊維の分解を促すことで作り出す資材が、植物の苗を育成させる際に必要な苗床の資材として広く使われているピートモスの代替になり得ることが報告された。ピートモスは脆弱な生態系から採取される希少性の高い資材で、採取に伴う環境負荷が懸念されている。新たに開発された資材は、ピーマンの苗の育成において、ピートモスと同等の性能を持つことが示された。研究者らは、この資材の利用によって、地下水の保全に重要な役割を果たすピートの使用量を減らすことができ、種苗生産の持続可能性向上に寄与できるのではないかと述べている。 1番目の報告と同じ「Journal of Agricultural and Food Chemistry」に、9月1日に掲載された別の論文では、使わずに捨てられることの多いダイコンの葉は、人々が普段食べている根よりも栄養価が高い可能性が報告されている。食物繊維および抗酸化作用を持つ生理活性物質などを豊富に含むダイコンの葉が、試験管内の研究や動物実験において、腸内細菌叢の健康をサポートすることが確認された。これらの結果から、将来的にはダイコンの葉を、腸の健康を促進する食品やサプリメントの開発に活用できる可能性があるという。 さらに、「ACS Engineering Au」に9月10日に掲載された4番目の論文では、やはり廃棄されることの多い、ビートの葉に含まれる栄養素の保存に焦点を当てている。この研究では、抗酸化作用を有するビートの葉の抽出物を、特殊な乾燥処理でマイクロ粒子として、微小なカプセルのように加工し、化粧品や食品、医薬品に利用する技術の開発が進められている。このような加工によって、抽出物の安定性を高め、かつ有効性も高められるという。

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朝食とメタボ各要素の関連~メタ解析

 朝食を食べない人では、食べる人と比べてメタボリックシンドローム(MetS)、腹部肥満、高血圧症、高脂血症、高血糖のリスクが有意に高いことが、中国・Ningxia Medical UniversityのBowen Yang氏らによって報告された。Nutrients誌2025年10月3日号掲載の報告。 これまで多くの研究で特定の食品や食習慣とMetSとの関連が検討されてきたが、朝食など食事頻度に関するエビデンスは一貫していなかった。そこで研究グループは、一般集団を対象に、朝食を食べない人と食べる人との間でMetSおよびその構成要素(腹部肥満、高血圧症、高脂血症、高血糖など)の発生・有病リスクを比較するシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。 PubMed、Embase、Cochrane Library、Web of Scienceをデータベースの開始から2025年4月7日まで検索し、朝食抜きとMetSまたは個々の構成因子のリスクを検討した観察研究(横断研究およびコホート研究)を抽出した。オッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)はランダム効果モデルで算出した。 主な結果は以下のとおり。・基準を満たす9件の研究(11万8,385人)が解析対象となった。・プール解析により、朝食抜きはMetSおよびその構成要素のリスク上昇と有意に関連していることが示された。ORと95%CIは以下のとおり。 -MetS:1.10(95%CI:1.04~1.17) -腹部肥満:1.17(95%CI:1.01~1.34) -高血圧症:1.21(95%CI:1.10~1.32) -高脂血症:1.13(95%CI:1.04~1.23) -高血糖:1.26(95%CI:1.16~1.37) 研究グループは「朝食を抜くことはMetSおよびその構成要素のリスク増加と関連していた。バランスの取れた朝食を定期的に摂取することは、とくに高リスク集団では心血管代謝疾患の予防と管理のための費用対効果の高い介入の1つとなる可能性がある」とまとめた。

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隠れ肥満は心筋梗塞や脳卒中リスクを高める

 たとえ健康的な体重であっても、腹部や肝臓の奥深くに脂肪が蓄積すると、脳卒中や心筋梗塞のリスクが静かに高まる可能性があるようだ。内臓脂肪(visceral adipose tissue;VAT)と、VATほどではないが肝脂肪(hepatic fat;HF)は、頸動脈のアテローム性硬化リスクを高める可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。マクマスター大学(カナダ)保健科学部のSonia Anand氏らによるこの研究結果は、「Communications Medicine」に10月17日掲載された。 BMIが正常範囲内の人でも、このような隠れ肥満である可能性はある。Anand氏は、「見た目だけで必ずしもVATまたはHFの有無を判断できるわけではない」とマクマスター大学のニュースリリースの中で述べている。同氏は、「VATやHFは代謝的に活発で危険だ。太り気味でないことが明らかな人でも、この種の脂肪は炎症や動脈損傷と関連している。だからこそ、肥満と心血管リスクの評価方法を見直すことが非常に重要なのだ」と付け加えている。 今回の研究でAnand氏らは、Canadian Alliance for Healthy Hearts and Minds(CAHHM)研究への参加者6,760人(平均年齢57.1歳、女性54.9%)を対象に、VATとHFが、従来の心血管リスク因子の影響を考慮した上でも頸動脈のアテローム性硬化と関連しているかを検討した。参加者は、MRIでVAT量、HF含有量(HFF)、および頸動脈壁の体積(CWV)を測定された。その結果、VAT量が1標準偏差(SD)増加するごとに、CWVは6.16mm3増加することが示されたが、HFFとの関連は認められなかった。 次に、UKバイオバンク参加者2万6,547人(平均年齢54.7歳、女性51.9%)のデータを用いて、この結果の再現性を検討した。UKバイオバンク参加者では、VAT量および肝脂肪量(プロトン密度脂肪分画〔PDFF〕)と超音波で測定した頸動脈内膜中膜厚(CIMT)の関連が評価された。 その結果、VAT量が1SD増加するごとにCIMTは0.016±0.0009mm増加、PDFFが1SD増加するごとにCIMTが0.012±0.0010mm増加することが示された。しかし、心血管リスク因子で調整すると、これらの関連はやや弱まった。 CAHHMとUKバイオバンクを統合した解析では、VATとHFFは、性別を問わず頸動脈の前臨床段階のアテローム性硬化と正の関連があることが示された。ただし、HFFの影響は、VATと比べるとやや弱かった。 論文の筆頭著者であるマクマスター大学健康研究方法論・エビデンス・影響評価学分野のRussell de Souza氏はニュースリリースの中で、「この研究は、コレステロールや血圧といった従来の心血管リスク因子を考慮しても、VATとHFが依然として動脈損傷の一因となっていることを示している」と述べている。 研究グループは、「本研究結果は、医師がBMIにのみ頼るのではなく、患者の脂肪分布を画像診断に基づいて評価することを検討する必要があることを示している」との見方を示している。また中年成人は、見た目が極端に太っていなくても、隠れた脂肪が健康を害している可能性があることも考慮すべきだと付言している。 なお、米クリーブランド・クリニックは、VATは、活動的な生活、健康的な食事、十分な睡眠、ストレスの軽減、飲酒の制限によって取り除くことができるとしている。

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都市と地方で違う?高齢者の健康に影響する「歩きやすさ」

 「歩きやすい街」は高齢者に優しいのか?今回、日本全国の高齢者を対象にした調査で、都市と地方でその効果に違いがあることが分かった。地域の歩きやすさ(ウォーカビリティ)は都市部では歩行の増加に寄与する一方、地方部ではウォーカビリティが必ずしも健康にプラスの影響を与えないことがあるという。研究は千葉大学予防医学センター社会予防医学研究部門の河口謙二郎氏らによるもので、詳細は9月21日付けで「Health & Place」に掲載された。 高齢化社会では、日常生活空間の環境が高齢者の健康や生活の質に大きな影響を与えることが注目されている。特にウォーカビリティは、歩道や交差点、施設へのアクセスなど複数の要素を含み、身体的活動や心理・社会的健康に関係するとされる。しかし、ウォーカビリティが都市・地方に与える影響の違いや、身体・心理・社会面から総合的に評価した研究は限られる。そうした背景を踏まえ、著者らは、日本の65歳以上の高齢者を対象に、ウォーカビリティと健康・生活関連アウトカムの長期的関連を都市・地方別に分析し、その包括的影響を明らかにすることを目的とした。 解析には、地域在住の65歳以上を対象とした日本老年学的評価研究(JAGES)データベースより、2013年(プレベースライン)、2016年(ベースライン)、2019年(フォローアップ)の3時点で全国18の自治体において実施されたデータを用いた。2013・2016年調査データから不備や異常値を除外し、残った参加者を2019年追跡調査データと連結した「質問票ベースサンプル(2万7,354名)」と、2016~2019年の介護保険データベース(LTCI)と連結した「介護保険ベースサンプル(4万111名)」の2種類の解析サンプルを作成した。ウォーカビリティは、人口密度、最寄りの小売店および公園までの距離、道路密度(1km2あたりの道路の総距離〔m〕)から算出した複合指標を用いて評価した。7つの領域にわたる42のアウトカムについて、都市・地方別に層別した多層回帰モデルで解析し、それぞれの有意性判定に対してボンフェローニ補正(有意水準α=0.0012)を適用した。 都市部では、ボンフェローニ補正後、ウォーカビリティの高い地域ほど歩行時間が増加していることと有意に関連していた(回帰係数β=0.04、95%信頼区間〔CI〕 0.02~0.07、P<0.001)。ボンフェローニ補正後は有意ではないが、ウォーカビリティの高い地域は死亡リスクの低下(リスク比RR=0.87)、抑うつ症状の減少(β=-0.02)、趣味グループ(β=0.03)・スポーツグループ(β=0.03)・外出頻度(β=0.04)の増加とも関連していた。 一方地方では、ボンフェローニ補正後、ウォーカビリティの高い地域は要介護認定(要介護度2以上)の増加(RR=1.20、95%CI 1.06~1.31、P<0.001)、趣味グループ(β=0.04、95%CI 0.02~0.06、P<0.05)、スポーツグループ(β=0.04、95%CI 0.03~0.07、P<0.05)、外出頻度(β=0.07、95%CI 0.04~0.10、P<0.01)の増加、座りがちな生活リスクの増加(RR=1.29、95%CI 1.13~1.47、P<0.001)、互恵性の低下(β=-0.04、95%CI -0.07~-0.02、P<0.001)と有意に関連していた。ボンフェローニ補正後は有意でないが、ウォーカビリティの高い地域は残存天然歯が少ない割合の低下(RR=0.80)、自己評価健康の改善(RR=1.01)、自己申告高血圧の低リスク(RR=0.98)、自己申告の糖尿病(RR=1.05)・脂質異常症(RR=1.08)の減少とも関連していた。また、ウォーカビリティの高い地域と歩行時間増加との関連は認められなかった(β=0.01)。 本研究について著者らは、「ウォーカビリティの高い都市部では、死亡リスクの低下など一貫した利益が認められた。一方、地方では利益と課題が併存しており、趣味などの社会参加は多いものの、要介護認定や孤独感、座りがちな生活のリスクも高かった。これらの結果は、都市部では歩行を中心とした都市設計、地方では交通手段の整備や社会的つながりの促進、活動機会の拡充など、場所に応じた複合的な戦略の重要性を示している」と述べている。

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