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男性のビール腹は心不全リスクの可能性

 男性によく見られ、“ビール腹”と呼ばれることもある腹部肥満が、心不全のリスクと関連しているとする研究結果が、北米放射線学会年次総会(RSNA 2025、11月30日~12月4日、シカゴ)で報告された。ハンブルク・エッペンドルフ大学医療センター(ドイツ)のJennifer Erley氏らが発表した。 この研究から、腹部肥満は心筋の肥厚と心室の縮小に関連していることが示された。研究者らによると、これらの変化は心不全リスクにつながるものと考えられるという。Erley氏は、「腹部肥満、つまりウエスト・ヒップ比(W/H比)が高い状態は、単にBMIが高い場合よりも、心臓リモデリングとの関連が強いようだ。心筋が厚くなるのに心臓の全体的な大きさは増えず、心臓の容積が小さくなる」と解説。そして、「心臓の心室が狭くなるため、心臓が送り出す血液の量は減少する。また、血液を送り出した後に心臓が弛緩し拡張する能力も低下する。それらの変化により、最終的には心不全につながる可能性がある」とのことだ。 Erley氏らの研究では、心臓病の既往歴のない46~78歳の成人2,244人(女性43%)の心血管MRI画像が解析され、BMIおよびW/H比との関連が検討された。研究参加者のうち、BMIに基づいて、男性の69%、女性の56%が過体重または肥満に分類された。また、世界保健機関(WHO)の基準に基づき、男性の91%、女性の64%が腹部肥満に分類された。なお、WHOの基準では、W/H比が男性は0.90以上、女性は0.85以上を腹部肥満と判定する。 解析の結果、腹部の脂肪量が多いことは、心筋の肥厚と心室の縮小に関係していることが示された。このような変化は女性に比較して男性でより顕著であり、特に心臓から肺へ血液を送り出す右心室で顕著だった。腹部肥満との関連性が性別により異なるという点についてErley氏は、「男性は女性よりも若い年齢から“ビール腹”になることが多いという一般的な傾向、あるいは、女性は女性ホルモンのエストロゲンによって心臓の健康がある程度守られていることが関係しているのかもしれない」と話している。 Erley氏は、「われわれの研究結果は、腹部肥満による心臓への構造的影響に関して、女性よりも男性の方がより脆弱である可能性のあることを示唆している。これは、これまでの研究ではあまり報告されていなかった知見だ」と、本研究の意義を強調。また、中年期の人々へのアドバイスとして、「体重全体を減らすことに焦点を当てるのではなく、定期的な運動、バランスの取れた食事、そして必要な時には時機を逸せず治療を受けることなどにより、腹部への脂肪蓄積を防ぐことに重点を置くべきだ」と付け加えている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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月1回の注射で重症喘息患者の経口ステロイド薬が不要に?

 重症喘息があり、発作予防のために毎日、経口コルチコステロイド薬(以下、経口ステロイド薬)を使用している人は少なくない。しかし、経口ステロイド薬には重い副作用を伴うことがある。 こうした中、英キングス・カレッジ・ロンドン(KCL)呼吸器免疫学臨床教授のDavid Jackson氏らが、治療へのテゼペルマブの追加が重症喘息患者の症状と経口ステロイド薬の必要性にもたらす効果を調べる第3b相臨床試験を実施。その結果、この抗体薬により対象患者の90%で毎日の経口ステロイド薬の使用量を減らすことができ、約半数で経口ステロイド薬の使用を完全に中止することができたことが示された。テゼペルマブは、免疫系の一部を標的とするよう設計された抗体薬で、肺の炎症を軽減する働きがある。製薬企業のAstraZeneca社とAmgen社の資金提供を受けて実施されたこの臨床試験の結果は、英国胸部疾患学会(BTS)冬季学術集会(BTS Winter Meeting 2025、11月26~28日、英ロンドン)で発表されるとともに、「Lancet Respiratory Medicine」に11月26日掲載された。 喘息患者を支援する非営利団体Asthma + Lung UKのリサーチ・ディレクターで、この臨床試験には関与していないSamantha Walker氏は、「これは将来の喘息治療に向けた極めて有望な進展であり、重症喘息患者の人生を大きく変える可能性がある」と話している。 重症の喘息は消耗性で、命に関わることもある。患者は多くの場合、症状を抑えるために毎日経口ステロイド薬を使用するが、この薬は骨粗鬆症や糖尿病、感染症の発症リスクを高める可能性があることが知られている。  今回の臨床試験には、11カ国の68の臨床施設で登録された298人(女性69.1%)の重症喘息患者が参加した。患者は4週間に1回、210mgのテゼペルマブの注射を最長で52週間にわたって受けた。また、喘息の症状や服薬に関する質問票に回答した。主要評価項目は、喘息コントロールを悪化させることなく経口ステロイド薬の処方用量を1日5mg以下に削減できた参加者の割合、および経口ステロイド薬を中止した参加者の割合とし、試験開始から28週目と52週目(試験終了時)に評価した。ベースラインにおける経口ステロイド薬の平均維持用量は1日10.8mgであった。 その結果、喘息コントロールを悪化させることなく経口ステロイド薬の処方用量を5mg/日以下に削減できた参加者の割合は、28週目で88.9%(265人)、52週目で89.9%(268人)であった。また、経口ステロイド薬の使用を中止できた参加者の割合は、28週目で32.2%(96人)、52週目で50.3%(150人)であった。さらに、52週間にわたる試験期間中、患者の約3分の2(66.9%)では喘息発作が発生しなかったことも確認された。 論文の筆頭著者であるJackson氏は、今回の臨床試験の結果について、「重症度が最も高いタイプの喘息の患者にとって重要な前進だ」とKCLのニュースリリースの中で述べている。同氏は、「テゼペルマブはアレルギー関連症状を抑えることや、慢性副鼻腔炎の改善をもたらすことも明らかにされている。したがって、この臨床試験の結果は、特に上気道症状と下気道症状の両方がある重症喘息患者にとって有望な結果である」と付け加えている。  なお、テゼペルマブは、喘息治療に導入された最初の抗体薬ではない。研究グループによると、昨年実施されたKCLの別の試験では、すでに承認されている別の抗体薬のベンラリズマブでも同様の有効性が報告されているという。

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化学療法中のワクチン接種【かかりつけ医のためのがん患者フォローアップ】第6回

化学療法中のがん患者は、化学療法の影響や原疾患により免疫力が低下しているため、感染症に罹患しやすく重症化しやすい傾向があります。国内のガイドラインやASCOガイドラインおいても、がん患者の治療やケアにおいて適切なワクチン接種がもたらす良い影響が述べられています。今回は固形がん化学療法中の患者を想定した、5つの主なワクチンの特徴や効果、推奨される接種時期についてお話しします。1)インフルエンザワクチン背景がん患者がインフルエンザに罹患した場合、死亡のリスクが高いことが複数の研究から報告されています。とくに肺がんや血液腫瘍患者はより重症化するリスクが高いことが知られています。インフルエンザワクチンは、A型(H3N2・H1N1)とB型の3株を含む混合ワクチンであり、世界的流行株とWHO推奨株に基づき毎年選定されるため、毎年の接種が推奨されます。健康な人における有効性は70~90%程度とされていますが、流行株との一致度により変動します。予防効果と安全性複数の研究から、血清学的な反応は健康な人と比較して劣る可能性はあるものの、予防医学的な意義は明らかであることがメタアナリシスにより示されています。近年、高用量インフルエンザワクチン(商品名:エフルエルダ筋注)が承認され、米国では65歳以上のがん患者に高用量ワクチン接種が推奨されています。化学療法中のインフルエンザワクチン投与に関してとくに重篤な有害事象が増加するという報告はありません。注意点リツキシマブやオファツムマブ、オビヌツズマブなどの治療後は、少なくとも半年間はワクチン効果が期待できない可能性があります。また、免疫抑制薬を服用中の患者でも効果が低い場合があります。接種時期インフルエンザワクチンは10~12月までの接種が推奨されています。化学療法の開始前(少なくとも2週間前)に接種するのが理想ですが、治療中に流行期を迎える場合は接種時期を調整する必要があります。化学療法中は骨髄抑制の最も低下した時期(nadir)を避けて接種することが望ましいです。2)肺炎球菌ワクチン背景日本の成人市中肺炎では、肺炎球菌が最も頻度の高い起炎菌です。65歳以上や糖尿病・心不全などの基礎疾患を有する場合には、重症感染症を起こしうるため、肺炎球菌ワクチン接種が推奨されています。国内データでは、侵襲性肺炎球菌感染症の死亡率は約19%と高く、患者の約7割は65歳以上です。また、固形がん患者や脾摘患者が肺炎球菌感染症に罹患した場合、非がん患者と比較して死亡のリスクが高いことが報告されています。予防効果と安全性肺炎球菌ワクチンによる抗体価の上昇は、化学療法中であっても健康な人と同等であると報告されています。化学療法中の肺炎球菌ワクチン投与に関してとくに重篤な有害事象が増加するという報告はありません。ワクチンの特徴ポリサッカライドワクチン(ニューモバックス[PPSV23]:定期接種)と結合型ワクチン(キャップバックス[PCV21]、プレベナー20[PCV20]、バクニュバンス[PCV15])の2種類があります。免疫力をつける力(免疫原性)はPCV21/20/15のほうがPPSV23より高いです。日本ワクチン学会・日本感染症学会・日本呼吸器学会では、がん患者へのPCV20の1回接種もしくはPCV15とPPSV23の連続接種を推奨しています。画像を拡大する接種時期肺炎球菌感染症は1年を通して発生するため、季節を問わず接種が可能です。化学療法開始前(少なくとも2週間前)に接種、もしくは化学療法中は骨髄抑制の最も低下した時期(nadir)を避けて接種することが望ましいです。3)帯状疱疹ワクチン背景水痘帯状疱疹ウイルス(ヘルペスウイルス3型)初感染は水痘として発症し、感染後に後根神経節に不活性状態で長期間潜伏します。その後、加齢・疲労・病気などで免疫が弱まるとウイルスが再活性化し、帯状疱疹として発症します。症状は片側に帯状に広がる発疹と刺すような痛みが典型的で、約10%の症例で帯状疱疹後神経痛が発生し、QOLを低下させる原因になります。免疫不全のない患者と比較して、固形がん患者は約5倍、血液がん患者は約10倍帯状疱疹の頻度が高いことが報告されています。画像を拡大する安全性化学療法中の帯状疱疹ワクチン投与に関してとくに重篤な有害事象が増加するという報告はありません。生ワクチンは、免疫低下患者(がん薬物療法中やステロイド使用中)には接種不可です。接種時期化学療法の開始前(少なくとも2週間前)に接種します。化学療法中は骨髄抑制の最も低下した時期(nadir)を避けて接種することが望ましいです。4)新型コロナ(COVID-19)ワクチン背景がん患者はCOVID-19に罹患すると重症化しやすいため、ワクチン接種の利益は大きいです。そのため、基本的には接種を検討すべきとされています。ただし、がんの種類や治療内容、免疫状態により、効果や副反応が異なる可能性があります。治療のタイミングにより接種時期を調整したほうがよい場合もあります。副反応が治療の有害事象と区別しにくい場合があるため注意が必要となります。総じて、患者ごとの状況に応じて主治医と相談して判断することが重要と考えられます。予防効果と安全性ワクチンを接種したがん患者約3万例を対象とした観察研究が報告されており、がん患者であってもCOVID-19ワクチンを2回接種することで感染リスクが低下することが示されています。一方でワクチンの感染リスク低下効果は58%(非がん患者:90%以上)であり、がん患者ではワクチンの効果が減弱する可能性が示唆されています。とくにワクチン接種前6ヵ月以内に化学療法を受けた場合はワクチンの効果が低いことが報告されています。定期的な追加接種が推奨され、感染時は早期の受診と抗ウイルス薬治療が重要となります。接種時期基本的に最新の推奨スケジュールに従った接種が推奨され、明確な最適時期はまだ不明ですが化学療法の開始前に接種して、化学療法中は骨髄抑制の最も低下した時期を避けて接種することが望ましいです。抗CD20抗体(リツキシマブやオビヌツズマブなど)治療後半年以内はワクチンの効果が乏しいことが示されています。注意事項ワクチン接種により、接種側の腋窩・鎖骨上窩・頸部リンパ節の腫大が報告されており、PETでも集積を認めることがあり、転移との鑑別が必要になる場合があります。画像検査の際にはワクチン接種歴と部位の情報を得ておくことが望ましいです。5)RSウイルスワクチン背景高齢者、慢性の基礎疾患(喘息、COPD、心疾患、がんなど)、免疫機能が低下している人は、RSウイルス感染症の重症化リスクが高く、肺炎、入院、死亡などの重篤な転帰につながる可能性があります。また、RSウイルス感染症は、喘息、COPD、心疾患などの基礎疾患の増悪の原因となることもあり、日本では約6万3,000例の入院と約4,500例の院内死亡が推定されています。米国での大規模データ研究では、がん患者がRSウイルス感染症に罹患した場合、非がん患者と比較して死亡のリスクが2倍以上高いことが報告されています。画像を拡大する接種時期化学療法の開始前(少なくとも2週間前)に接種します。化学療法中は骨髄抑制の最も低下した時期(nadir)を避けて接種することが望ましいです。1)Kamboj M, et al. JCO Oncol Pract. 2024;20:889-892. 2)日本癌学会、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会. 新型コロナウイルス感染症とがん診療について(医療従事者向け)Q&A:2021.3)国立がん研究センター:がん情報サービス4)日本乳癌学会. 乳癌診療ガイドライン2022年版. 金原出版:2022.5)アレックスビー筋注用添付文書6)アブリスボ筋注用添付文書

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口が青く染まって昏睡状態、何の中毒? 【中毒診療の初期対応】第3回

<今回の症例>年齢・性別62歳・男性患者情報自宅近くの公園のベンチで横になっているのを通りがかりの近所の女性が発見するも、呼びかけても反応がない状態であったため、救急センターに搬送された。初診時は鼾様呼吸、呼吸数12/分、SpO2 96%(室内気)、血圧124/78mmHg、心拍数62bpm、意識レベルJCS 100、瞳孔 左右2.5mm同大、対光反射+、体温36.4℃であった。身体所見では、口唇、歯牙、口腔内は青く染まっていた。気管挿管により気道を確保し、経鼻胃管を挿入したところ、青色の液体が吸引された。なお、病院にかけつけた妻が患者の所持品を確認すると財布の中身がなくなっていた。検査値・画像所見末梢血では、WBC 6.30×103/mm3、Hb 14.2g/dL、Ht 44.0%、Plt 109×103/mm3。生化学検査では、TP 7.2g/dL、AST(GOT)21IU/L、ALT(GPT)20IU/L、LDH 276IU/L、CPK 84IU/L、AMY 211IU/L、Glu 102mg/dL、BUN 12mg/dL、Cr 0.7mg/dL、Na 142mEq/L、K 4.1mEq/L、Cl 106mEq/Lであった。動脈血ガス(室内気)では、pH 7.364、PaCO2 44.6Torr、PaO2 82.5Torr、HCO3- 23.7mmol/L、BE -0.4mmol/L、乳酸値 1.4mmol/Lであった。尿中薬物簡易スクリーニングキットでBZO(ベンゾジアゼピン類)が陽性であったが、患者の「お薬手帳」ではベンゾジアゼピン受容体作動薬の処方歴は確認できなかった。念のためフルマゼニル0.2mgを静注したところ20秒後には開瞼し、従命が認められた。しかし、患者は20分後には再び昏睡状態となった。入院後の経過ベンゾジアゼピン受容体作動薬中毒と診断した。活性炭50gを微温湯300mLに懸濁して経鼻胃管より注入し、輸液療法のみで経過観察入院とした。翌日には覚醒したため気管チューブを抜管した。患者は薬物の摂取を否定したが、「公園のベンチに座って休んでいたところ、見知らぬ若い女性に声をかけられ、ラムネの瓶をもらって一緒に飲んだ。それ以降の記憶がない」と話した。患者の同意を得て、警察に通報した。<問題1><解答はこちら>2.フルニトラゼパム1)上條 吉人編. 臨床中毒学 第2版. 医学書院. 2023.

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多疾患併存に迷わない:高齢者診療の「5つの型」実践フレーム【こんなときどうする?高齢者診療】第17回

CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロンアーカイブズ」から、高齢者診療に役立つトピックをお届けします。今回はマルモ(多疾患併存)患者の治療に向き合うための型を学びます。高齢者の多疾患併存(マルモ)は、“ガイドラインの足し算”では解けません。(1)意向 (2)エビデンス適用 (3)予後×時間 (4)実行可能性 (5)最適化の5項目で落としどころを構造化しましょう。今回は、初めに皆さんも出合ったことがあるかもしれない典型的なマルモの症例を5つ挙げてみます。(1)90歳男性 心房細動があるものの、抗凝固薬を飲みたくない(2)85歳女性 高脂血症に対して長年スタチンを服用している(3)80歳女性 大腸がん検査の大腸内視鏡を勧められている既往症糖尿病、心不全、慢性腎機能不全(4)88歳女性 15種類の薬を服用中既往症認知症・心不全・骨粗鬆症・糖尿病・慢性腰痛(5)92歳男性 再発する心不全急性増悪発作に対して、埋め込み式除細動器を勧められている既往症認知症・慢性変形性関節症、抑うつ、不安症挙げたケースはいずれも、高齢者診療で頻繁に遭遇する場面です。65歳以上の2人に1人は、3つ以上の慢性疾患を有する状態・マルモ(多疾患併存)です。そして、同じ疾患であっても、AさんとBさんでは、併存疾患の状況や本人の価値観、自立度や家族との関係・住んでいる土地や利用できるサービスなどの条件がまったく異なります。1人の患者が持つ疾患の複雑性に加えて、身体認知機能・心理社会的な複雑性も考慮したうえで、患者それぞれに適した医療やケアの落としどころを見つけることが高齢者を診るときに欠かせません。ですが、複数の疾患ガイドラインをあてはめて治療してもよいアウトカムにつながらないのは皆さんもすでにご経験なさっていると思います。また高齢者やマルモ患者は臨床研究の対象から除外されていることが多く、ガイドラインの適応範囲に入っていないことがほとんどです。つまり65歳以上の約半数が3疾患以上のマルモ。併存疾患だけでなく家族・住環境・利用資源が異なる。ガイドライン合算=最適とは限らない(除外基準・一般化の限界)。ではどうしたらいいのか?頭を抱えて動けなくなって当たり前です。だからこそ落としどころを「5つの型」で探ることが思考停止に陥らないために重要なのです。マルモに向きあう5つの型そこで今回は、米国老年医学会が出している1)、高齢者のマルモに向き合う型をご紹介します。状況に応じて、以下の5つの項目を確認することで落としどころを見つけやすくなります。1:意向(What Matters)- 患者の意向・希望・気がかりなこと患者が何を望んでいるか。あるいは何はしたくないか。たとえば自立した生活や症状がコントロールされること、身体認知機能の維持を望む方は多くいます。逆にしたくないことやこうなったら死んだほうがまし、ということを聞くことで理由が明らかになる場合もあります。2:エビデンス適用の可能性 - エビデンスが目の前の患者に使えるか?参照しようとしているガイドラインや研究において、その推奨は誰を対象に、どのアウトカムに、どの時間軸で価値があるか。除外基準や外的妥当性を確認し、目の前の患者に適用できるか?患者の優先事項と統合することができるか、を検討しましょう。3:予後×時間 - 患者の予後は?患者の希望する治療/ケアと、その治療の効果が発現するまでにかかる時間を考慮にいれることは不可欠です。4:実行可能性 - ケアは実行可能か?負担は大きすぎないか?継続できるか?治療やケアの負担が大きすぎないか、本人や介護者が継続できるケアの範囲に治療方針は収まっているかを確認することが必要です。5:最適化 - 最適化のために何ができるか?患者のおかれた状況において、ベネフィットを増やしリスクを小さくするために何をしたらいいかを考えることです。最初に挙げた5つの症例に、これらの型から必要な項目を使うとどうなるか、みてみましょう。(1)90歳男性 抗凝固薬NO!心房細動があるものの、抗凝固薬を飲みたくない→1:意向を深掘りし、抗凝固薬を飲みたくないという意向の背後にどんな希望や気がかりがあるのかを探るのが近道です。それにより本人は頻回採血や通院の負担を懸念していることが明らかになり、選択肢として、生活背景に合う抗凝固法(採血不要のDOAC等)を検討し、転倒・出血リスク評価、目標の再設定が挙がってきます。このケースでは一時的にアスピリン投与としましたが、定期的に再検討し、本人の価値観×安全性の最適点を探る視点が必要です。(2)85歳女性 高脂血症に対して長年スタチンを服用してきた…これからも続ける?→2:エビデンス適用可能性と、3:予後×時間 の2項目が判断のポイントです。高脂血症に対するスタチンは、二次予防や高リスク群の一次予防では有益ですが、高齢者(75~80歳以降)の一次予防はエビデンスが限定的です2)。さらに、スタチンのベネフィットの発現は2~5年後とされています。予後や本人の優先事項と照合し、減量/中止を含めて再評価するのが妥当です3)。とすると、この方が長年スタチンを服用してきたとしても、現在のエビデンスに照らし合わせると効果が見込めない薬として中止にするほうが妥当でしょう。(3)80歳女性 既往は糖尿病・心不全・慢性腎機能不全。大腸がん検査のために大腸内視鏡を勧められている→3:予後×時間を見積もり、治療介入の効果発現の時間と併せて考えるのが適当です。大腸がん検診が利益になるのはおよそ10年後。この方の既往症から予測すると、検査のメリットが発生する前に予後が障害される可能性が高く、大腸内視鏡は不適当と考えられます。娘さんを含めて、予後予測をもとに話合いを設定するとよいでしょう。(4)88歳女性 15種類の薬を服用中。マルモ(認知症・心不全・骨粗鬆症・糖尿病・慢性腰痛)。→4:ケアの実行性について確認する認知機能が低下してきている状態で15種類を飲み続けるのは現実的ではありません。それぞれの疾患に対してガイドライン通りに処方すると15種類になりますが、本人や介護者の負担が大きすぎて服薬自体ができないならば、残す薬を絞る、あるいは服用しないといった選択肢も視野にいれた調整を行うのが妥当でしょう。(5)92歳男性 再発する心不全急性増悪発作があり、埋め込み式除細動器を勧められる。認知症・慢性変形性関節症、抑うつ、不安症の既往。→5:最適化を考えるこの患者の場合、認知症や不安症に加えて変形性関節症があり、家を出て入院し、手術でデバイスを埋め込むという一連の流れに、身体的・心理的負担が大きいことが予想できます。入院から退院までの間にパニックに陥り転倒するといったリスクも考えられます。ガイドラインではデバイス埋込みが推奨されますが、”この患者”にとってデバイスを埋め込むことが、本当にQOLの向上につながるのか、患者にメリットがあるのか、あるとすれば何か、延命することが本当にベネフィットか?といったゴールの再確認をする必要があると考えます。このように、一つの項目をあてはめるだけでも、すべきことがクリアになると思います。ケースによっては5つすべてを検討する場合もあるかもしれません。日ごろ5つのMを使うときに、これらの項目を少しずつ加えて確認することをおすすめします。明日のカンファで(1)意向 (2)エビデンス適用 (3)予後×時間 (4)実行 (5)最適化を確認してみましょう。迷いが整理され、次の一手が見えてきます。 ※今回のトピックは、2022年10月度、2024年11月度の講義・ディスカッションをまとめたものです。CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロンアーカイブズ」でより詳しい解説やディスカッションをご覧ください。参考 1) Cynthia Boyd,et al. J Am Geriatr Soc. 2019 Apr;67(4):665-673. 2) Han BH, et al. JAMA Intern Med. 2017;177(7):955-965. 3) Yourman LC, et al. JAMA Intern Med. 2021;181(2):179-185.

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冠動脈リスク評価を巡る1つの問い(解説:野間重孝氏)

 本論文は、無症候一般住民における初発冠動脈イベント予測に、冠動脈CT血管造影(CCTA)がどの程度寄与するのかを検証した大規模前向き研究である。本稿では、この論文を日本の循環器診療の文脈に引き寄せ、われわれがどのように理解し、どのように評価すべきかを整理してみたい。 本研究は、心血管疾患既往のない一般住民を対象に、従来のリスク評価(PCE:Pooled Cohort Equation)および冠動脈石灰化スコア(CACS)に、CCTAによる解剖学的情報を追加することで、初発の冠動脈イベント(非致死性心筋梗塞または冠動脈死)の予測能が改善するか否かを検討したものである。 ここで大多数の一般読者のために、本研究で用いられているPCEおよびCACSについて簡単に触れておく必要があるだろう。これらはいずれも、わが国の循環器診療では日常的に用いられている指標ではないからだ。PCEとは、年齢、性別、血圧、脂質、喫煙歴、糖尿病の有無といった臨床情報を数式に代入し、「今後10年間に動脈硬化性心血管イベントを起こす確率」を算出する、いわば危険因子の総合点である。またCACSは、非造影CTにより冠動脈石灰化を定量化した指標であり、「これまでに蓄積された動脈硬化の痕跡」を示すものと理解されている。なお当然のことながら、CACSは石灰化を伴わない冠動脈病変については情報を提供しない指標である。すなわち、比較的早期あるいは不安定なプラークについては、その性格上評価できないという本質的な制約を有している。臨床現場から見れば、これらはいずれも「冠動脈を直接見ないまま、見えないものを合理的に推測する」ための工夫の産物であり、CCTAが比較的容易に施行可能な環境では、やや迂遠に映る議論であることも否定できない。 本論文の結果として、CCTA情報の追加は統計学的に有意な予測能の改善をもたらし、とくにPCEで低リスクと分類された集団において再分類効果が大きかった。重要なのは、その再分類が主として「実際にイベントを起こした人を高リスク側に引き上げる」方向に働き、非イベント者を過剰に高リスク化しなかった点である。 注意すべき点として、本研究はCCTAが制度的に容易に実施できない医療環境を前提としている点である。米国・欧州型医療では、画像検査は高コストであり、保険制度や訴訟リスクの観点から、その適応は数式や段階評価によって厳密に管理される。PCEやCACSは、そのような制約下で「誰に次の検査や治療を許可するか」を決めるための道具として発展してきた。したがって本論文の問いは、「CCTAを最初から撮るべきか」ではなく、「限られた条件下で、どの層にCCTAを追加することが最も合理的か」という、医療制度に強く依存した問いなのである。 本研究の意義は、新しい病態概念を提示した点にはない。非石灰化プラークや軽度狭窄、多枝に広がる病変が将来イベントの基盤となることは、日本の臨床現場では経験的に知られてきたことである。本研究の価値は、それらを一般住民レベル・前向き・初発イベントという厳密な条件下で、数万人規模のデータとして示した点にある。これは、日本で日常的に行われてきたCCTA活用が、国際的にも合理的であったことを裏付ける科学的根拠と位置付けることができる。 ここで、なぜ低リスク群においてCCTAの効果が大きかったのかを考えてみる必要があるだろう。少々言い過ぎを覚悟で述べれば、PCE低リスク群とは、必ずしも「安全な集団」ではなく、「従来の評価法では見えにくい集団」と言うべきである。年齢依存性の強いPCEでは若年者が過小評価されやすく、またCACSは石灰化前の病変を捉えることができない。CCTAは、この隙間に存在する非石灰化プラークや病変の広がりを可視化し、イベントの母地となる病態を直接捉えた。その結果、低リスクと見なされていた集団においてこそ、追加情報としての価値が最大化したと理解される。 本研究は、日本の循環器診療をただちに変更するものではない。しかし、無症候・低リスクに見える症例に対してCCTAを実施する判断が、決して過剰ではなかったことを裏付けた点、また「CACSが0であること」は安心材料にはなっても免罪符にはならないことを、初発イベントのデータとして明確に示した点は重要である。さらに、健診や人間ドックなど境界領域における検査適応を説明するうえで、本研究は有力な理論的支柱を提供した。 本研究は、日本の循環器診療にとって革命的な新知見をもたらしたというよりも、われわれが経験的・直感的に行ってきた診療の妥当性を、国際的水準で検証し直した論文であったと言ってよい。言い換えれば、「CCTAは最後に行うぜいたくな検査ではなく、低リスクに見える人の落とし穴を埋める検査である」ことを示した点に、本研究の本質がある。日本の臨床家にとって、本論文は「自分たちのやってきたことは間違っていなかった」と静かに確認させてくれる位置付けの研究と評価すべきであろう。

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ショック状態に対する治療をしない場合は責任を負う?【医療訴訟の争点】第17回

症例近年、高齢患者の急変時対応では、基礎疾患・予後を踏まえた治療方針の選択が重要となる。本稿では、ショック状態に陥った患者に対し救命処置を行わなかった医師の判断の適否が争われた、東京地裁令和7年2月27日判決を紹介する。<登場人物>患者76歳・男性(既往歴:間質性肺炎、双極性障害、糖尿病)原告患者の配偶者および子被告医療法人(内科・精神科を標榜する病院)事案の概要は以下の通りである。事案の概要を見る平成28年7月咳が続く・胸痛があると訴えて被告病院を受診。被告病院の紹介により国立病院を受診し、間質性肺炎と診断平成30年5月内服薬の処方中止後も咳が再燃しなくなったため、通院終了平成31年1月25日ここ数日食事が取れない、具合が悪いなどと訴えて、被告病院再受診。精査目的で入院。入院時のバイタル値は、体温36.8℃、脈拍93回/分、血圧149/90mmHg、SpO2 98%、呼吸は平静。腹部CT検査上は異常所見を認めなかった。細菌性の感染症疾患を疑い、抗菌薬の点滴投与と補液を開始。1月26日午前9時28分頃胸部CT検査。前日からこの日までの間に、両肺下葉に新たな浸潤影が出現。午前10時頃右肺の雑音や著明な痰がらみが見られ、白黄色痰が大量に吸引。午後3時頃肺雑音が両肺に生じ、再び白黄色痰が大量に吸引。37.6℃の発熱、呼吸がやや努力様、SpO2 76~80%に低下。酸素投与(2L/分)開始。午後4時40分頃酸素投与量が増量(7L/分)。両肺の雑音や発熱は続くも、痰がらみが消失して呼吸も平静、SpO2 96%。午後8時頃ジクロフェナクナトリウム(商品名:ボルタレン、解熱剤)の投与などもされ、体温は36.8℃に低下、肺の雑音も消失。1月28日午前2時熱(38℃)午前5時白黄色痰が大量に吸引担当医は、抗菌薬投与にかかわらず呼吸状態の悪化が続いていることから、細菌性の感染症ではなく、間質性肺炎の急性増悪であると判断し(ただし、細菌性の感染症を鑑別するための血液検査や細菌培養検査は行っていない)、抗菌薬の点滴投与を中止して、ステロイドミニパルス療法(ソル・メルコート500mg/日に生理食塩水100mL/日を付加したものを点滴投与)を開始。以後、発熱が断続的に見られたものの、肺の雑音は認められなくなり、呼吸は平静のままで経過。1月30日午前11時20分酸素投与量が7L/分から6L/分に減量。午後1時頃呼吸が促拍するようになる。午後3時SpO2 98%であるも、発熱(37.4℃)や少量の白色痰が見られる。血圧148/87午後5時30分SpO2 90%に低下、発熱(38.5℃)と肺雑音が見られ、黄色痰が大量に吸引される。血圧114/81。解熱のためジクロフェナクナトリウム投与。午後8時頃両肺の雑音や多量の黄色痰が見られ、SpO2 94%に低下し、努力様呼吸になって呼吸状態が急激に悪化。収縮期血圧が74/64に低下し、心拍数は120~130回/分に上昇。膝から下にチアノーゼが出現し、四肢が脱力した状態。担当医は、容体急変は間質性肺炎の急性増悪による(血圧低下についてはジクロフェナクナトリウムの影響もある)もので、ステロイドミニパルス療法が奏功しない限り救命困難と判断。ステロイドミニパルス療法と酸素投与(6L/分)のほかに治療は行わず、容体急変の原因を探るためのCT検査や血液検査などの検査も行わなかった。午後10時頃SpO2が上昇(午後9時時点で99%、午後10時時点で96%)、収縮期血圧も90台まで上昇(午後9時時点で90/23mmHg、午後10時時点で92/78)も、四肢の脱力、努力様呼吸や黄色痰が大量に吸引される状態が継続。1月31日午前0時下顎様呼吸、瞳孔拡大、血圧およびSpO2が測定不能。午前2時15分死亡2月2日午後3時他院において病理解剖。要旨は以下のとおり。(1)死因に関与した臓器を挙げるならば、肺または心臓と考えられる。(2)肺については、胸膜直下~隔壁の高度な線維化、線維化巣内の蜂巣構造、線維芽細胞巣(fibroblastic foci)を認め、隣接する領域の肺胞構造は保たれており、UIP(通常型間質性肺炎)パターンと考えられた。肺は、UIPパターンの間質性肺炎であるが、病理解剖時に採取した血液を用いた間質性肺炎マーカー検査の結果(KL-6値274U/mL〔基準値:500U/mL未満〕、SP-A値18.9ng/mL〔基準値:43.8ng/mL未満〕、SP-D値82.8ng/mL〔基準値:110ng/mL未満〕)からも活動性の低いものではなかったかと疑われ、これのみで死に至るものか疑問が残る。(3)心臓は、不安定プラークを疑う冠動脈病変を伴っており、心筋にも全周性の虚血性変化が見られたが、この変性像は区域性には見えず、アーチファクトの可能性もある。あえて推測すれば、剖検時に冠動脈に明らかな血栓形成はないが、肺うっ血水腫の存在と併せて、新鮮な心筋梗塞による心原性ショックは否定できない。(4)臓器別に病理組織学的検索を行った範囲では、直接死因を確定することは困難であり、臨床情報と併せて判断する必要がある。実際の裁判結果本件において、1月30日午後8時頃の急変・ショック状態(収縮期血圧は74mmHg、心拍数120〜130回/分、尿量減少、四肢チアノーゼ、努力様呼吸など)につき、担当医は、間質性肺炎急性増悪が原因であり救命は困難、輸液は肺水腫の悪化を招くとして、酸素投与以外の処置を行わず、ステロイドミニパルス療法のみにより経過を見る方針とした。これに対し、原告(患者の相続人ら)は、輸液負荷、昇圧薬、気管挿管、原因鑑別のための血液検査・画像検査などの救命処置をすべきであったと主張した。裁判所は、以下の点を指摘し、「1月30日午後8時の時点での本件患者の状態は、輸液剤や血管収縮薬の投与といった救命処置を行い、ショックの原因を把握した上で、それに対する治療を行うべきものであった」とした。ショックでは、血圧低下、心拍の異常(頻脈など)、呼吸の異常(頻呼吸)、皮膚の異常(末梢血管の収縮など)といった症状が見られ、一般的に、収縮期血圧90mmHg以下がショックの基準となる。午後8時時点において、本件患者は、血圧74/64と著しい低下、心拍数の120~130回/分への上昇、努力様呼吸、膝から下のチアノーゼの出現は、いずれもショックの症状というべきであり、とくに収縮期血圧については、ショックの基準値を大きく下回るので、本件患者はショックに陥って容体が急変したといえる。ショックは、迅速な原因の同定と治療介入がされなければ臓器不全を来し、死に至る症候群であるため、一般に、まずは、生命の危機的状況を避けるための救命処置を行う必要がある。本件患者に見られた1月30日の収縮期血圧の低下は、持続的に生じている上、膝から下にチアノーゼが生じ、末梢の循環不全を来すものであった。末梢の循環不全を来したショックについて、救命処置を行わずに血圧低下が持続すると、不可逆的な転帰を招く可能性があった。本件において被告病院は、「呼吸状態の悪化や血圧低下といった当時の本件患者の状態は、間質性肺炎の急性増悪や数時間前に投与したジクロフェナクナトリウムの影響によるものであって、救命不可能な状態に陥っており、輸液剤の投与などは肺水腫を招くなどかえって死期を早めるため、それらの投与を行うべきではなかった」と主張していた。これに対し、裁判所は、以下の点を指摘し、「被告病院の担当医には、1月30日午後8時頃、本件患者に対し、輸液剤や血管収縮薬の投与といった救命処置を行い、ショックの原因を把握した上で、それに対する処置・治療を行うべき注意義務があった」として、これらの処置を行わなかった注意義務違反(過失)があると判断した。血圧低下については、その数時間前に投与されたジクロフェナクナトリウムの影響はあったと認められるものの、呼吸状態の悪化など当時の本件患者の症状に照らし、ジクロフェナクナトリウムの影響だけで血圧低下の説明が付けられるかは疑問が残ること。血圧低下がジクロフェナクナトリウムによるものであったとしても、ショックに対する初期対応が不要となるものでもないこと。間質性肺炎の主症状の一つは乾性咳嗽(痰を伴わない乾いた咳)であり、典型的な間質性肺炎の急性増悪は痰を伴わない一方、黄色痰は感染症の可能性を示す所見であること。本件患者は、呼吸がやや努力様になった1月26日には白黄色痰が大量に吸引されており、1月30日午後5時30分や呼吸状態が急激に悪化した同日午後8時にも大量の黄色痰が見られているため、間質性肺炎の急性増悪とは必ずしも整合せず、細菌性肺炎などの感染症に罹患していたことを疑わせる所見があったこと。担当医は、本件患者に対して細菌培養検査などの感染症を除外鑑別するための検査を行っておらず、感染症の除外鑑別も積極的に行われていなかったため、当時の客観的な状態としては、感染症の罹患もなお疑うべきものであったこと。次に、裁判所は、本件患者の死後に行われた病理解剖の結果も踏まえてショックおよびショックに続く死亡の原因を検討し、以下のように、間質性肺炎急性増悪の可能性が相対的に高いものの、死亡原因は特定できないとした。「本件患者のショック(容体急変)ないしそれに続く死亡の原因は、間質性肺炎の急性増悪であった(少なくとも一定の寄与があった)可能性が相対的に高いものの、これと断ずることはできず、細菌性肺炎などの感染症による敗血症性ショックや心筋梗塞などによる心原性ショックが原因であった可能性も否定できず、その特定は困難であるといわざるを得ない」その上で、裁判所は考えられるそれぞれの原因につき、以下の点を指摘した上で「1月30日午後8時の段階で本件患者に対して救命処置が行われていたとしても、本件患者の上記死亡を回避できたとの高度の蓋然性があるということはできない」として、注意義務違反(過失)と本件患者の死亡との因果関係を否定し、被告の損害賠償責任を否定した。心筋梗塞などによる心原性ショックが原因である場合には、救命処置によって本件患者に生じた死亡を回避できた蓋然性があるが、そもそも、心原性ショックであった可能性も否定できない程度のものにとどまる。このため、この点をことさら強調するのは相当ではない。ショックなどの原因が敗血症性ショックであった場合でも、救命処置によって一定の効果があり、いったんは生命の危機的状況を脱し得た可能性はある。しかし、本件患者に生じた死亡を現実に回避するためには、感染症に対する治療として、血液培養検査などを行って同定した起炎菌に合う抗菌薬を投与する必要があり、これら一連の対応を執るのには相応の時間を要する。このため、本件患者にショックが生じてから死亡する約6時間のうちに、これら一連の対応を執って何らかの治療・救命効果が発揮されたということはできない。原因としての可能性が相対的に高い間質性肺炎の急性増悪については、「いったんは酸素化が安定しても、最終的には努力性呼吸から低酸素血症となり、死に至る」経過をたどることとなる。しかし、本件患者は、この努力様呼吸や下顎様呼吸が認められたのであるから、救命処置によってこれらの努力様呼吸などに至るのを回避できた現実的な可能性はなかった。注意ポイント解説本件は、ショック状態の患者に対する救命処置の要否が争点となった事案である。裁判所は、医師に輸液・昇圧薬などの救命処置を行う義務を認めつつ、その不履行と死亡との因果関係は否定し、結論として医療機関の損害賠償責任を否定した。すなわち、注意義務違反が成立しても、結果(死亡)との法的因果関係が認められない場合に責任が否定される典型例といえる。この点、注意義務違反がある場合に、義務違反と生じた結果との間の法的な因果関係があれば、損害賠償責任が肯定されることとなる。この法的因果関係については、「経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明すること」がなされた場合に認められる。本件は、考えられるショックおよびその後の死亡の原因のそれぞれについて、救命処置をとったことで死亡を回避できた「高度の蓋然性」が認められなかったために、法的因果関係がないものとされた。もっとも、「高度の蓋然性」が認められない場合であっても、「死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性」が認められる場合には、その可能性を侵害した損害が認められることとなる。そして、この「相当程度の可能性」については、比較的緩やかに肯定される傾向が否めない。このため、注意義務違反(過失)があるとされる場合において、「相当程度の可能性」すらも否定されて損害賠償責任が否定されるケースは少ない傾向にある。本件では、死亡の原因を特定しえないため、救命処置により「死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性」を証明のしようもないことから、相当程度の可能性も否定され、損害賠償責任が否定されたものである。なお、本件では、担当医が看取りを視野に入れた方針転換をしつつも、これを家族に説明していなかったという事情があり、裁判所は「遺族が強い不満を抱くことは理解できる」としている。このため、本件は医師が「治療方針転換をする際の説明の在り方」と「急変時の最小限の救命処置の必要性」を再確認させるものでもある。医療者の視点本判決において、裁判所は「ショック状態に対する輸液や昇圧薬の投与、原因精査を行うべき注意義務があった」とし、これを行わなかった医師の過失(注意義務違反)を認定しました。臨床現場の感覚としては、間質性肺炎の急性増悪が強く疑われる局面において、肺水腫を助長しうる輸液負荷や、全身状態が悪い中での負担の大きい検査を躊躇するのは、医学的には理解できる判断です。しかし、裁判所は当時の客観的なバイタルサイン(著しい血圧低下など)に基づき、まずは原因特定と標準的な救命処置を行うべきであったと判断しました。とくに本件で教訓とすべきは、担当医が「救命困難」と判断し、実質的に「看取り」の方針へ転換していたにもかかわらず、その説明と同意が家族となされていなかった点です。実臨床において、医学的に予後不良が明白であり、侵襲的な処置が患者の利益にならないと医師が確信する場合であっても、家族への十分な説明と合意(アドバンス・ケア・プランニングなど)のプロセスを経ずに標準治療を省略することは、法的責任を問われるリスクがあることを再認識する必要があります。Take home message高齢者・基礎疾患を抱える患者の急変時対応では、救命可能性が低い場合でも、診療録や家族への説明を含めた臨床判断のプロセスが重要である。とくに、救命処置をしない場合、家族への説明と同意の取付けは不可欠である。キーワード間質性肺炎、ショック、救命処置、看取り、法的因果関係、高度の蓋然性、相当程度の可能性

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フィネレノン、慢性心不全の適応追加/バイエル

 バイエル薬品は、非ステロイド性ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬フィネレノン(商品名:ケレンディア)への慢性心不全の適応追加を2025年12月22日に取得したことを発表した。 本適応追加は、日本人を含むLVEF40%以上の心不全患者約6,000例を対象とした国際共同第III相臨床試験FINEARTS-HF1)に基づき承認された。同試験でフィネレノンは、主要評価項目である心血管死およびすべて(初回および再発)の心不全イベント(心不全による入院または緊急受診)の相対リスクを統計学的有意に16%減少させた(rate ratio:0.84[95%信頼区間:0.74~0.95、p=0.0072])。また、フィネレノンの忍容性は良好で、既知の安全性プロファイルと一貫していた。<適応追加後の「効能又は効果」「用法及び用量」>●効能又は効果・2型糖尿病を合併する慢性腎臓病 ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。・慢性心不全 ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。●用法・用量<2型糖尿病を合併する慢性腎臓病>通常、成人にはフィネレノンとして以下の用量を1日1回経口投与する。eGFRが60mL/min/1.73m2以上:20mgeGFRが60mL/min/1.73m2未満:10mgから投与を開始し、血清カリウム値、eGFRに応じて、投与開始から4週間後を目安に20mgへ増量する。<慢性心不全>通常、成人にはフィネレノンとして以下の用量を1日1回経口投与する。eGFRが60mL/min/1.73m2以上:20mgから投与を開始し、血清カリウム値、eGFRに応じて、投与開始から4週間後を目安に40mgへ増量する。eGFRが25mL/min/1.73m2以上60mL/min/1.73m2未満:10mgから投与を開始し、血清カリウム値、eGFRに応じて、投与開始から4週間後を目安に20mgへ増量する。

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難治性下肢潰瘍治療の課題を解決するヒト羊膜製品/マイメディクス

 糖尿病患者数は全世界8億2,200万例に上り、日本国内でも約1,000万例に達している。東京医科大学形成外科学分野 松村 一氏は、「難治性足潰瘍治療の現状とアンメット・ニーズ」と題し講演した。約10%が切断に至る糖尿病性足潰瘍(DFU) 糖尿病合併症の1つであるDFUは血流障害と神経障害を背景に発症する。近年、患者数は増加し続けている。長期にわたるDFUは感染や組織障害を起こし足の切断に至る。生命予後も悪く、切断に至った場合の5年死亡率は全がんよりもさらに高い。従来はデブリードマン、オフローディング(免荷)、血行再建、感染制御などの治療が行われるが、約10%が切断に至り、治癒しても再発が多い。天然の組織増殖を促すヒト羊膜製品 そのような中、マイメディクスのヒト羊膜エピフィックスが保険償還されている。エピフィックスは難治性創傷(DFUおよび静脈うっ滞性潰瘍)の治療促進を目的としたヒト羊膜絨毛膜の同種移植片である。傷の大きさに合わせて製品を切り取り、清浄化した創面に貼付するという簡便な手技で使用できる。 ヒト羊膜は、胎児を包む膜であり、移植に用いても免疫学的に拒絶反応が起こりにくい免疫特権組織として知られている。エピフィックスには300種類以上の調整タンパク質が含まれる。慢性創傷ではタンパク質を壊すマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)が、MMPを阻害する組織プロテアーゼ阻害因子(TIMP)より優位となり治癒を妨げる。エピフィックスにはMMPを上回るTIMP(28対1以上)が含まれており、天然組成の組織増殖に適した環境を提供する。さらに、エピフィックスには幹細胞を創部へ誘導し、組織の再生と治癒を促進する働きもあるとされる。高い治癒効果、再発抑制、切断リスクの軽減を実現 従来の創傷治療デバイスが「傷を小さくする」ことを主眼としていたのに対し、エピフィックスは傷を完全に治すことができるという点が異なる。完全な創閉鎖は、感染リスクや再発リスクの軽減に直結し、下肢切断のリスクを減らす。海外データによれば、エピフィックスは難治性創傷の再発を低減し、9〜12ヵ月後も94%が完全治癒を維持している。また、小切断を10%、大切断を50%削減するという結果も発表されている。 エピフィックスの使用は、難治症例に限定されており、使用期間も定められている。また、使用する医師や施設の要件も設定されている。すでに日本国内で5,000シート以上が販売されているが、この有効性の高い治療をさらに普及させ、救肢できる患者を増やす努力が必要だ。そのためには形成外科以外の診療科医師への知識共有、そして患者側の認知度向上に向けた活動が必要、と松村氏は提言する。

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SGLT2阻害薬の投与により自己免疫性リウマチ性疾患の発症が抑制される?(解説:住谷哲氏)

 糖尿病合併症に慢性炎症が深く関与していることはよく知られている。そこで、慢性炎症を抑制する作用のある血糖降下薬があれば、それを選択するのが合併症予防のためには有用と考えられる。SGLT2阻害薬が糖尿病合併症である腎症や心不全の予後を改善することは現在ではほぼ確立しているが、その想定されているメカニズムの1つにSGLT2阻害薬の抗炎症作用がある1)。慢性炎症の持続が自己免疫性リウマチ性疾患の発症につながるのかは不明であるが、著者らはSGLT2阻害薬の抗炎症作用に着目して、SGLT2阻害薬の投与が自己免疫性リウマチ性疾患の発症抑制と関連するか否かをSU薬を対照として検討した。 韓国の医療データベースを用いた後方視的コホート研究であり、ICD-10のコーディングで自己免疫性リウマチ性疾患に含まれたのは、関節リウマチ(rheumatoid arthritis)、乾癬性関節炎(psoriatic arthritis)、脊椎関節炎(spondyloarthritis)、SLE、シェーグレン症候群(Sjogren’s syndrome)、全身性硬化症(systemic sclerosis)、リウマチ性多発筋痛症(polymyalgia rheumatica)、混合性結合組織病(mixed connective tissue disease)、皮膚筋炎/多発筋炎(dermatomyositis/polymyositis)、結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa)である。結果は、SGLT2阻害薬の投与はSU薬の投与と比較して自己免疫性リウマチ性疾患発症の減少と関連しており、そのハザード比は0.89(95%信頼区間:0.81~0.98)であった。有意な減少ではあるが、絶対数でみると100,000人・年当たりの発症がSU薬58.41人からSGLT2阻害薬51.90人と6.50人の減少である。 自己免疫性リウマチ性疾患の発症率そのものが低いので、結果は有意な減少であるが臨床的に意味のある数字とは思われない。したがって、血糖降下薬を選択する際に自己免疫性リウマチ性疾患の発症を抑制する目的で、SU薬ではなくSGLT2阻害薬を選択する正当性はないだろう。むしろ著者らがDiscussionで述べているように、自己免疫性リウマチ性疾患を合併する2型糖尿病患者におけるSGLT2阻害薬の免疫調節作用の有用性を検討する方向の研究が進むことを期待したい。

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ロジスティック回帰分析 その1【「実践的」臨床研究入門】第60回

ロジスティック回帰モデルの基本的な考え方今回からは、ロジスティック回帰を用いた多変量解析について解説します。以前説明した線形回帰(重回帰)ではアウトカム指標は連続変数でしたが、ロジスティック回帰ではアウトカム指標が2値のカテゴリ変数の場合に適用されます(連載第50回参照)。それでは、下記に示したわれわれのResearch Ques-tion(RQ)を題材にして、ロジスティック回帰の実際について考えてみます(連載第49回参照)。P(対象):慢性腎臓病(CKD)患者E(要因):厳格低たんぱく食の遵守ありC(対照):厳格低たんぱく食の遵守なしO(アウトカム):1)末期腎不全(透析導入)、2)糸球体濾過量(GFR)低下速度交絡因子:年齢、性別、糖尿病の有無、血圧、eGFR、蛋白尿定量、血清アルブミン値、ヘモグロビン値これまで厳格低たんぱく食の遵守というEと、末期腎不全、GFR低下速度というOとの関連について、それぞれ生存時間分析、線形回帰(重回帰)分析を用いた多変量解析で交絡因子を調整して検討しました。今回は、Eである厳格低たんぱく食の遵守の有無(2値のカテゴリ変数)をアウトカム指標におき、ロジスティック回帰を用いて交絡因子として挙げた種々の患者背景要因を調整したうえで、Eという診療パターンが「起こりやすい」患者特性について検討します。ロジスティック回帰モデルの考え方として、まずオッズについて説明します。オッズとは「ある事象が起こる確率と起こらない確率の比」で表される指標です。今回の題材では、Aという事象、「厳格低たんぱく食の遵守あり」が起こる確率をp(A)とすると、Aという事象が起こらない、すなわち「厳格低たんぱく食の遵守なし」である確率は1-p(A)で表されます。したがって、事象Aのオッズはという数式で表されます。p(A)の取りうる範囲は確率ですので0から1までの値であり、1を超えたり負の値になったりすることはありません。ここでp(A)を目的変数として、複数の説明変数からこれを推測することを考えます。たとえば説明変数として連続変数xをおき、xの値が変動するとp(A)になる確率が大きくなったり小さくなったりする関係があるとします。たとえば、年齢という連続変数が大きくなる、高齢になるほど、p(A)、すなわち「厳格低たんぱく食の遵守あり」の確率が低くなる、というような関係です。ある目的変数を複数の説明変数によって推測する、ということを線形回帰(重回帰)分析ですでに説明しました(連載第50回参照)。上記の重回帰式yの取りうる範囲は-∞から∞です。しかし今回この左辺に置きたいのはAという事象が起こる確率p(A)であり、その取りうる範囲は0から1までの値であり、左辺と右辺の取りうる範囲が揃いません。そこで、先ほど説明したオッズの出番です。事象Aのオッズはであり、p(A)の取りうる範囲は0から1でしたので、数式から事象Aであるオッズの取りうる値は0から∞になります。しかし、重回帰式yの取りうる範囲は-∞から∞ですので、まだ左辺と右辺の取りうる範囲は一致しません。そこでさらに、オッズの自然対数をとるロジット変換を行い、事象Aのロジットを求めると下記の数式になります。ロジット変換を行うと、その取りうる範囲は-∞から∞となります。このロジットを目的変数として左辺に置き、右辺に重回帰式を当てはめることにより、下記の数式で示すように、ようやく左辺と右辺で取りうる範囲が揃います。この数式がロジスティック回帰モデルの基本形です。左辺は事象Aが起こる確率p(A)のロジット(対数オッズ)を示します。右辺は切片aと複数の説明変数xiのそれぞれの回帰係数biの項の総和と残差eで表されます。この数式を用いて、重回帰分析と同様に複数の独立変数と2値のカテゴリ変数である目的変数との関連を検討することが、ロジスティック回帰分析を用いた多変量解析の基本的な考え方です。

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異物除去(12):指輪【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q156

異物除去(12):指輪Q15684歳女性。高血圧症や糖尿病、慢性腎臓病で診療所にかかりつけであった。腰椎圧迫骨折後にADL低下があり、訪問診療開始となっている。定期の訪問診療時に、指輪がキツくなってきて抜けないから抜いてほしいと依頼があった。指に明らかな虚血所見や外傷はない。訪問診療バッグには一般的な診察道具が入っている。使えそうなものを探したが、糸状のものはなかった。ほかに手持ちのものや一般家庭にあるもので何か使えるものはないだろうか。

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第298回 日中の自然光で2型糖尿病患者の血糖値が改善

糖尿病患者の糖濃度をより落ち着かせる自然光の効果が、少人数の無作為化試験で示されました1)。24時間を一区切りとする周期(概日周期)に合わせた活動のおかげで、われわれ人間を含む光感受性生物は環境の変化に備えることができます。ヒトに生まれつき備わる周期性と代謝や病気の関連がこれまでの研究で明らかになっています。たとえば周期性を担う時計遺伝子の筋肉での発現の乱れやミトコンドリア代謝の周期性の欠如が、インスリン抵抗性の高齢男性や2型糖尿病(T2D)の培養筋肉組織に認められます。また、夜間交代勤務をする人、あるいは交代勤務を模した環境での試験の結果によると、明るい昼間と暗い夜間が交互に訪れる明暗周期にそぐわない振る舞いは代謝の不調と強く関連します。生物の概日周期は明暗周期ともっぱら同調します。とはいえ、近代的な生活習慣は一定の人工照明の下で8~9割の時間を室内で過ごすことを特徴としており、昼間に浴びる光量は不足気味な一方で日没後の夜間の光量は過剰です。昼間と夜間に浴びる光の量を変えることが代謝に影響します。一例として、T2D患者が朝に明るい人工の光を浴びると、仄かな光に比べて食後血糖やトリグリセライド値がより上昇しました。それに、昼間の室内での仕事時間に明るい人工照明を浴びることは、仄かな光を浴びることに比べて糖代謝や体温調節におおむね好ましい効果をもたらすことがインスリン抵抗性の高齢者が参加した試験で示されています。しかし、オランダのマーストリヒト大学の研究者らの調べによると、T2D患者が自然光を日中に室内で浴びることがもたらす糖の変動や24時間の代謝への効果を、設定環境の下で典型的な人工照明と比較した試験はこれまでありませんでした。そこで同大学のJan-Frieder Harmsen氏らはT2D患者13例を募ってクロスオーバー無作為化試験を実施し、昼間の室内の明かりが自然光の場合と人工照明の場合の代謝、概日周期の生理指標、糖濃度の違いを調べてみました。試験では大窓から自然光が入る部屋と窓のない人工照明のみの部屋を用意し、被験者にそのどちらでも4.5日間の日中(朝8時から夕方5時まで)を1ヵ月の間をおいて過ごしてもらいました。それらの間に被験者には糖濃度を絶えず常時測定する装置を身に着けてもらいました。ただし、3例の常時糖濃度(CGM)情報は技術的な問題により残念ながら不完全でした。それら3例を差し引いた残りの10例のCGMの記録を調べたところ、昼間に自然光を浴びていた4.5日間のCGMはおよそ半分(51%)のあいだ正常範囲(4.4~7.2mmol/L)にありました。一方、人工照明のときには半分に満たない43%のあいだCGMが正常範囲でした。また、自然光の期間は脂肪酸化(燃焼)が亢進していました1,2)。T2D患者が自然光をより長く浴びるとどうやら糖制御が改善するようです1)。自然光の取り柄の確立にはさらなる試験が必要ですが、自然光はT2D患者の代謝を上向かせるようであり、代謝疾患の治療を担いうると著者は言っています1)。自然光をより浴びることは、なんなら窓辺に座るだけで実現するわけで、誰でもタダで実行できるそんな手軽な方法で多くのT2D患者が助かるかもしれません3)。 参考 1) Harmsen JF, et al. Cell Metab. 2025 Dec 18. [Epub ahead of print] 2) An office with natural light could help keep blood sugar under control / Australian Science Media 3) Centre Sitting by a window may improve blood sugar levels for type 2 diabetes / NewScientist

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猛暑は高齢糖尿病患者にとって致命的となり得る

 極端に暑い日は、心臓病や糖尿病を持つ高齢者の死亡リスクが高くなることを示唆するデータが報告された。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)デイビッド・ゲフィン医学部のEvan Shannon氏らが、同州の退役軍人の医療記録などを解析した研究の結果であり、詳細は「JAMA Network Open」に11月25日掲載された。 この研究の結果、猛暑による死亡リスクへの影響は、居住環境により大きく異なることも明らかになった。例えば、低所得地域に暮らす高齢の退役軍人は、猛暑日に死亡するリスクが涼しい日に比べて44%高くなることが示された。一方、高所得地域に居住する退役軍人の場合、涼しい日との死亡リスクの差は12%の上昇にとどまっていた。論文の筆頭著者であるShannon氏は、「本研究では退役軍人のみのデータを解析に用いたが、得られた結果は退役軍人以外にも当てはまるのではないか」と話している。 著者らによると、研究に参加した退役軍人の多くは糖尿病や心臓病などを患っていたという。そして、心臓病に使われる薬の中には、気温が上昇すると副作用のリスクが高くなる可能性を持つものもあると解説している。Shannon氏も、「高血圧や糖尿病といった、心臓病のリスク因子である一般的な病気を抱えている人は、猛暑の際に死亡するリスクが上昇し得る」と指摘している。 発表された研究では、カリフォルニア州在住の退役軍人の電子医療記録が利用された。2015年10月~2021年9月に死亡した人のうち、生前に心血管代謝疾患(心臓病や糖尿病など)が診断されていた人は1万3,556人(年齢中央値78歳、男性97.9%)だった。これらの人たちの死亡日の気候データを解析した結果、猛暑日には涼しい日に比べて死亡件数が10~14%多いことが明らかになった。 このような猛暑日に認められた死亡リスクの上昇は、居住地域や住宅の有無によって大きく異なっていた。具体的には、住宅を持たない退役軍人では猛暑日の死亡リスクが25%上昇していたが、住宅のある退役軍人では12%の上昇にとどまっていた。また、前述のように、低所得地域の退役軍人は猛暑日の死亡リスクが44%高く、高所得地域の退役軍人は12%のリスク上昇であった。 論文の結論は、「地球温暖化の進行により猛暑日は今後、より増加していくと予測される。退役軍人省や関連機関は、猛暑による健康リスクおよび死亡リスクを抑制するための施策を立てる必要があるだろう」とまとめられている。なお、著者らは現在、ホームレスの退役軍人が猛暑から身の安全を保つのに役立つツールキットの開発を進めているという。

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副作用対策、用量調節で悩ましいこと 【高齢者がん治療 虎の巻】第5回

<今回のPoint>「プロの勘」ではなく、高齢者機能評価(Geriatric Assessment:GA)で根拠を可視化しチームで共有することが信頼される医療の土台に治療方針決定にGAを活用すれば、単なる点数評価で終わらず、個別化した薬剤調整が可能にGAは多職種との連携に使ってこそ意味がある<症例>(第1回、第2回、第4回と同じ患者)88歳、女性。進行肺がんと診断され、本人は『できることがあるなら治療したい』と希望。既往に高血圧、糖尿病、軽度の認知機能低下があり、PSは1〜2。診察には娘が同席し、『年齢的にも無理はさせたくない。でも本人が治療を望んでいるなら…』と戸惑いを見せる。遺伝子変異検査ではドライバー変異なし、PD-L1発現25%。G8:10.5点(失点項目:年齢、併用薬数、外出の制限など)/HDS-R 20点(認知症の可能性あり)多職種カンファレンスで免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の単剤投与を提案。薬剤師には併用薬の整理を、MSWには家庭環境の支援を依頼し、チームで治療準備を整えた。副作用なく3サイクル投与できたが病勢は進行。ベストサポーティブケア(BSC)への移行を提案したが、本人は次治療を希望。TTF-1陰性でありカルボプラチン(CBDCA)+ナブパクリタキセル(nab-PTX)療法が検討された1)が、標準量か減量すべきかが議論された 。その道のプロにGAは不要!?GA普及の初期、しばしば耳にしたのが、 「患者が診察室に入ってくる足音で脆弱性の有無がわかる」「結局、全例抗がん剤減量するからGAは不要」 といった声です。つまり“プロの勘があるのでGAは必要ない”という意見です。おそらく、臨床経験豊富な先生は頭の中で独自のGAを実施されているものと思います。ですが、そのプロの勘を見える化し、チームで共有することができているでしょうか。GAの本質は、「コンセンサスのあるツールで構造化された評価を行い、結果を共有して意思決定の質を高め、必要な介入へとつなげる」点にあります。多職種とつなげて点から線へ流れを作り、評価するだけのGAではなく、使いこなしてこそ価値が出るものと考えます。それこそが「プロの勘」をチーム医療の武器に変える力と言えるでしょう。GAのSDMへの貢献:再治療をどうするか冒頭の症例は、ICIによる副作用を認めなかったことで、本人・家族とも「次もいけるかも」という安心感がありました。ここで、改めて高齢者機能評価を実施してみましょう。生活機能基本的日常生活動作(BADL)…自立手段的日常生活動作(IADL)…買い物、食事の支度、交通手段に関して介助が必要G89点(失点項目:年齢、併用薬数、外出の制限、体重減少など)CARGスコア2)(失点項目:移動の制限、転倒歴など)*CARGの詳細は本文後半のコラム参照<図1より算出したCARGスコア>多剤併用標準量13点、高リスク多剤併用減量11点、高リスク単剤標準量11点、高リスク単剤減量9点、中リスク(図1)CARGスコア[参考]画像を拡大するG8は初回治療前と比較し、若干の体重減少のため点数が下がっていました。また、転倒歴が判明し、栄養指導や自宅環境の整備を再度実施することにしました。カンファレンスではこの結果をもとに「単剤減量+支持療法強化」が提案されると判断しました。本人と家族には、「細胞傷害性抗がん薬の投与は高リスクであること」「前回のように必ずうまくいくとは限らないこと」を丁寧に説明した結果、十分な支持療法を実施しながらnab-PTX単剤を減量して開始する方針になりました。GAによる「見える根拠」を示した説明で、本人・家族の納得度を高め、信頼関係の構築にもつながった症例です。(図2)高齢者機能評価は誰のため?GAにより治療選択とその対策を見える化する画像を拡大する適切な投与量調節とはGAで脆弱性を認める→減量すべき、は一見自然な流れですが「どのくらい減らすか」には明確な指針がありません。米国・ロチェスター大学教授Supriya G. Mohile氏のラボでは、GAで脆弱性がある場合、細胞傷害性抗がん薬は一律80%の減量を行っていました。非常に明快な指針ですが、日本では減量にもエビデンスが必要と考える文化が根強く、考え方をそのまま導入するのは困難だと思います。そこで、以下の視点から減量を検討することを提案いたします。一律の減量ではなく、エビデンスに基づいた減量レジメンの選択臨床試験で用いられた減量基準に従った投与量調整GAを活用し、医師自身が理論的に納得したうえで減量を提案たとえ結果的に減量という同じ結論に至っても、そのプロセスが納得に裏付けられたものであるかどうかがSDMの質を左右すると考えます。このように、高齢者に抗がん剤治療を行う場合は最終的に減量を推奨することも多いと思いますが、GAを用いて理論的に担当医自身も納得したうえで患者や家族に提案すること、点数だけで治療を決めず、介入や十分な支持療法を検討することも重要だと思います。Chemo-Toxicity Calculator、CARG scoreとは何か?2,3)CARGスコアは、米国のArti Hurria氏らが高齢がん患者における化学療法の毒性リスクを予測するために開発したツールで、Cancer and Aging Research Group(CARG)によって報告されました。65歳以上の多がん種患者を対象に、化学療法前に包括的高齢者機能評価(CGA)を実施し、治療中に生じたCTCAE Grade3以上の有害事象との関連からリスク因子を抽出しています。評価項目には、年齢・性別・身長/体重・がん種・レジメンの強度・Hb・Cr値に加え、難聴、転倒歴、100m歩行の制限、人付き合いの制限など、身体的・社会的な要素が含まれています。G8だけでは算出できない項目が多く、CARGスコアの計算はより包括的な高齢者評価を行う良い契機になります。リスクスコアは低(0~5点)、中(6~9点)、高リスク(10点以上)に分類され、視覚的に有害事象リスクを把握しやすいのが利点です。ただし、細胞傷害性抗がん薬を対象としたツールであり、ICIや分子標的薬には適用できず、日本では前向き研究による妥当性検証がされていない点には注意が必要です。1)Kogure Y, et al. Lancet Healthy Longev. 2021;2:e791-e800.2)Hurria A, et al. J Clin Oncol. 2011;29:3457-3465. 3)Cancer and Aging Research Group:Chemo-Toxicity Calculator講師紹介

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スタチン使用は本当にうつ病リスクを低下させるのか?

 これまで、スタチンのうつ病に対する潜在的な影響については調査が行われているものの、そのエビデンスは依然として一貫していない。台北医学大学のPei-Yun Tsai氏らは、スタチン使用とうつ病の関連性を明らかにするため、最新のシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。General Hospital Psychiatry誌2025年11〜12月号の報告。 2025年9月11日までに公表された研究をPubMed、the Cochrane Library、EMBASEより、言語制限なしでシステマティックに検索した。また、対象論文のリファレンスリストの検討を行った。プールされたオッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)の算出には、ランダム効果モデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・選択基準を満たした15研究(10ヵ国、540万3,692例)をメタ解析に含めた。・スタチン使用は、スタチン非使用と比較し、うつ病リスクが有意に低かった(統合OR:0.84、95%CI:0.74〜0.96、p=0.009)。しかし、研究間の異質性が大きかった(I2=85%)。・感度分析では、結果のロバスト性が確認された。・サブグループ解析では、コホート研究(OR:0.86、95%CI:0.76〜0.98、p=0.02)、検証済みの質問票/尺度を用いた研究(OR:0.71、95%CI:0.54〜0.94、p=0.02)、併存疾患を有する患者(OR:0.74、95%CI:0.55〜0.98、p=0.04)、抗炎症薬または抗うつ薬を併用している患者(OR:0.82、95%CI:0.71〜0.95、p=0.009)において有意な関連が認められた。・北米集団(OR:0.63、95%CI:0.51〜0.78、p<0.001)および西洋型の食生活(OR:0.61、95%CI:0.45〜0.81、p<0.001)、アジア型の食生活(OR:0.75、95%CI:0.64〜0.89、p=0.001)を順守する人において、スタチンのうつ病予防効果が認められた。 著者らは「とくに特定の集団および特定の臨床的または生活習慣条件において、スタチン使用はうつ病リスクの低下と関連していると考えられる。この因果関係を明らかにし、影響を及ぼす関連因子を特定するには、さらなる研究が求められる」とまとめている。

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『肝細胞癌診療ガイドライン』改訂――エビデンス重視の作成方針、コーヒー・飲酒やMASLD予防のスタチン投与に関する推奨も

 2025年10月、『肝細胞癌診療ガイドライン 2025年版』(日本肝臓学会編、金原出版)が刊行された。2005年の初版以降、ほぼ4年ごとに改訂され、今回で第6版となる。肝内胆管がんに独自ガイドラインが発刊されたことを受け、『肝癌診療ガイドライン』から名称が変更された。改訂委員会委員長を務めた東京大学の長谷川 潔氏に改訂のポイントを聞いた。Good Practice StatementとFRQで「わかっていること・いないこと」を明示 今版の構成上の変更点としては、「診療上の重要度の高い医療行為について、新たにシステマティックレビューを行わなくとも、明確な理論的根拠や大きな正味の益があると診療ガイドライン作成グループが判断した医療行為を提示するもの」については、Good Practice Statement(GPS)として扱うことにした。これにより既存のCQ(Clinical Question)の一部をGPSに移行した。 また、「今後の研究が推奨される臨床疑問」はFuture Research Question(FRQ)として扱うことにした。FRQは「まだデータが不十分であり、CQとしての議論はできないが、今後CQとして議論すべき内容」を想定している。これらによって、50を超える臨床疑問を取り上げることが可能になり、それらに対し、「何がエビデンスとして確立しており、何がまだわかっていないのか」を見分けやすくなった。診療アルゴリズム、3位以下の選択肢や並列記載で科学的公平性を保つ ガイドラインの中で最も注目されるのは「治療アルゴリズム」だろう。治療選択肢が拡大したことを受け、前版までは推奨治療に優先順位を付けて2位までを記載していたが、今版からはエビデンスがあれば3位以下も「オプション治療」として掲載する方針とした。たとえば、腫瘍が1~3個・腫瘍径3cm以内の場合であれば、推奨治療は「切除/アブレーション」だが、オプション治療として「TACE/放射線/移植」も選択肢として掲載している。これにより、専門施設以外でも自施設で可能な治療範囲を判断したり、患者への説明に活用したりしやすくなっている。 また、治療やレジメンの優先順位もエビデンスを基に厳格に判断した。たとえば、切除不能例の1次治療のレジメンでは、実臨床ではアテゾリズマブ+ベバシズマブ療法が副作用管理などの面で使用頻度が高い傾向にあるが、ガイドライン上ではほかの2つのレジメン(トレメリムマブ+デュルバルマブ、ニボルマブ+イピリムマブ)と差を付けず、3つの治療法を並列に記載している。実臨床での使いやすさや感覚的な優劣があったとしても、それらを直接比較した試験結果がない以上、推奨度には差を付けるべきではないと判断した。 結果として、多くの場面で治療選択肢が増え、実臨床におけるガイドラインとしては使い勝手が落ちた面があるかもしれないが、あくまで客観的なデータを重視し、科学的な公平性を保つ方針を貫いた。判断の根拠となるデータ・論文はすべて記載しているので、判断に迷った場合は原典にあたって都度検討いただければと考えている。予防ではコーヒー・飲酒の生活習慣に関するCQを設定 近年ではB/C型肝炎ウイルス由来の肝細胞がんは減少している一方、非ウイルス性肝細胞がんは原因特定が困難で、予防法も確立されていない。多くの研究が行われている分野ではあるので、「肝発癌予防に有効な生活習慣は何か?」というCQを設定し、エビデンスが出てきた「コーヒー摂取」と「飲酒」について検討した。結果として「コーヒー摂取は、肝発癌リスクを減少させる可能性がある」(弱い推奨、エビデンスの強さC)、「肝発癌予防に禁酒(非飲酒)を推奨する」(弱い推奨、エビデンスの強さC)との記載となった。いずれもエビデンスレベルが低く、そのまま実臨床に落とし込むことは難しい状況であり、今後のエビデンスの蓄積が待たれる。MASLD患者の予防にスタチン・メトホルミンを検討 世界的に増加している代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD) では、とくに肝線維化進行例で肝がんリスクが高い。今版では新設CQとしてこの集団における肝発がん抑制について検討した。介入としては世界で標準的に使用されており論文数の多い薬剤としてスタチンとメトホルミンを選択した。ガイドラインの記載は「肝発癌予防を目的として、スタチンまたはメトホルミンの投与を弱く推奨する(エビデンスの強さC)」となった。ただ、予防目的で、高脂血症を合併していない患者へのスタチン投与、糖尿病を合併していない患者へのメトホルミン投与を行った研究はないため、これらは対象から外している。MASLD患者に対してはGLP-1受容体作動薬などが広く投与されるようになり、肝脂肪化および肝線維化の改善効果が報告されている。今後症例の蓄積とともにこれら薬剤の肝発がん抑制効果の検討も進むことが期待される。放射線治療・肝移植の適応拡大 その他の治療法に関しては、診断/治療の枠組みは大きく変わらないものの、2022年4月から保険収載となった粒子線(陽子線・重粒子線)治療の記載が増え、アルゴリズム内での位置付けが大きくなった。また、肝移植については、保険適用がChild-Pugh分類Bにも拡大されたことを受け、適応の選択肢が増加している。経済的だけでなく学術的COIも厳格に適用 改訂内容と直接は関係ないものの、今回の改訂作業において大きく変更したのがCOI(利益相反)の扱いだ。日本肝臓学会のCOI基準に従い、経済的COIだけでなく学術的COIについても厳密に適用した。具体的には、推奨の強さを決定する投票において、経済的なCOIがある者はもちろん、該当する臨床試験の論文に名前が掲載されている委員もその項目の投票を棄権するルールを徹底した。Minds診療ガイドライン作成の手法に厳格に沿った形であり、ほかのガイドラインに先駆けた客観性重視の取り組みといえる。投票結果もすべて掲載しており、委員会内で意見が分かれたところと一致したところも確認できる。今後の課題は「患者向けガイドライン」と「医療経済」 今後の課題としては、作成作業が追いついていない「患者・市民向けガイドライン」の整備が挙げられる。また、今版では医療経済の問題を「薬物療法の費用対効果の総説」としてまとめたが、治療選択における明確な指針の合意形成までには至らなかった。今後、限られた医療資源を最適に配分するために、医療経済の視点におけるガイドラインの継続的なアップデートも欠かせないと考えている。

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妊娠前/妊娠初期のGLP-1作動薬中止、妊娠転帰と体重変化は?/JAMA

 主に肥満の女性で構成されたコホートにおいて、GLP-1受容体作動薬の妊娠前または妊娠初期の使用とその後の中止は、妊娠中の体重増加の増大、早産、妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群のリスク上昇と関連していた。米国・マサチューセッツ総合病院のJacqueline Maya氏らが、後ろ向きコホート研究の結果を報告した。GLP-1受容体作動薬は、妊娠中に禁忌であり、妊娠初期に投与を中止すると妊娠中の体重増加や妊娠転帰に影響を及ぼす可能性が示唆されていた。JAMA誌オンライン版2025年11月24日号掲載の報告。妊娠前3年間・妊娠後90日間、GLP-1受容体作動薬の処方妊婦vs.非処方妊婦を比較 研究グループは2016年6月1日~2025年3月31日に、マサチューセッツ州ボストン地域をカバーする15施設からなる学術医療研究機関Mass General Brighamにおいて、分娩に至った単胎妊娠14万9,790例を対象に後ろ向きコホート研究を行った。 妊娠前3年間および妊娠後90日間に、電子健康記録で少なくとも1回GLP-1受容体作動薬の処方が確認された妊婦を曝露群、確認されなかった妊婦を非曝露群として、曝露群1例につき非曝露群3例を傾向スコアでマッチングした。 主要アウトカムは妊娠中の体重増加。副次評価項目は、妊娠中の過剰体重増加、在胎期間に対する出生体重の過大・過小、妊娠週数と性別に基づく出生体重のパーセンタイル、出生身長、早産、帝王切開、妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群であった。 解析では、妊娠中の体重増加が観察された正期産の妊娠体重増加コホート、出生体重および新生児の性別が記録されている正期産の出生体重コホート、在胎28週以上で分娩様式が記録されている産科コホートの3つのコホートを定義した。曝露群で、妊娠中の体重増加、早産、妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群のリスクが上昇 14万9,790例のうち、655例が妊娠前3年間および妊娠後90日間にGLP-1受容体作動薬に曝露していた。除外基準に該当した症例を除外し傾向スコアマッチング後に、妊娠体重増加コホートは曝露群448例、非曝露群1,344例、出生体重コホートはそれぞれ442例、1,326例、産科コホートはそれぞれ566例、1,698例となった。 妊娠体重増加コホートにおいて、曝露群は母体平均年齢が34.0歳(SD 4.7)、妊娠前BMI平均値が36.1(SD 6.5)、肥満が84%、糖尿病既往が23%で、いずれも非曝露群より高かった。また、曝露群は非曝露群と比べヒスパニック系(それぞれ30%、15%)、非ヒスパニック系黒人(11%、7%)の割合が高く、公的保険加入者の割合(10%、11%)は低かった。 妊娠体重増加コホートにおいて、妊娠期間中の体重増加量(平均値±SD)は、曝露群で13.7±9.2kgであり、非曝露群の10.5±8.0kgより有意に大きかった(群間差:3.3kg、95%信頼区間[CI]:2.3~4.2、p<0.001)。曝露群では、妊娠中の過剰体重増加のリスクも高かった(65%vs.49%、リスク比[RR]:1.32、95%CI:1.19~1.47)。 出生体重コホートでは、巨大児および低出生体重児のリスクは曝露群と非曝露群で同程度であったが、平均出生体重パーセンタイルは曝露群で高かった(58.4%vs.54.8%、差3.6%、95%CI:0.2~6.9)。 産科コホートでは、曝露群で早産(17%vs.13%、RR:1.34、95%CI:1.06~1.69)、妊娠糖尿病(20%vs.15%、RR:1.30、95%CI:1.01~1.68)、妊娠高血圧症候群(46%vs.36%、RR:1.29、95%CI:1.12~1.49)のリスクが高かった。出生身長、在胎期間に対する出生体重の過大・過小のリスク、帝王切開のリスクに差はなかった。

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経口orforglipron、2型糖尿病の肥満にも有効/Lancet

 2型糖尿病の過体重/肥満成人において、生活習慣改善の補助的介入としての経口低分子GLP-1受容体作動薬orforglipronの1日1回投与は、プラセボと比較して体重減少効果は統計学的に優れ、安全性プロファイルは他のGLP-1受容体作動薬と同等であったことが示された。米国・University of Texas McGovern Medical SchoolのDeborah B. Horn氏らATTAIN-2 Trial Investigatorsが、第III相の多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照試験「ATTAIN-2試験」の結果を報告した。肥満は2型糖尿病およびその合併症と深く関わる。非糖尿病の肥満成人を対象としたATTAIN-1試験では、orforglipron 36mgの1日1回投与による治療で72週後の体重が最大12.4%減少し、心代謝リスク因子が改善したことが示されていた。Lancet誌オンライン版2025年11月20日号掲載の報告。BMI値27以上、HbA1c値7~10%を対象にorforglipronの3用量vs.プラセボ ATTAIN-2試験は、10ヵ国(アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、中国、チェコ、ドイツ、ギリシャ、インド、韓国、米国)136施設で行われ、3週間のスクリーニング期間と、72週間の治療期間(うち用量漸増期間最長20週間)および2週間の治療後安全性追跡期間で構成された。 BMI値27以上、HbA1c値7~10%(53~86mmol/mol)の患者を対象とし、orforglipronを1日1回6mg、12mg、36mgまたはプラセボを投与する群に1対1対1対2の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、ベースラインから72週までの体重の平均変化率であった。主要推定値は、治療レジメン推定値(中間事象にかかわらず無作為化された全被験者のデータを使用)とし、補助解析として有効性推定値も算出した。 安全性は、試験薬を少なくとも1回投与を受けたすべての患者を対象に評価が行われた。体重およびHbA1c値など心代謝指標、orforglipron群で統計学的有意に改善 2023年6月5日~2024年2月15日に、2,859例がスクリーニングを受け、1,613例が生活習慣改善指導(健康食と運動)とともにorforglipronを1日1回6mg(329例)、12mg(332例)、36mg(322例)投与またはプラセボ(630例)投与を受けるよう無作為化された。 試験を完遂したのは1,444例(89.5%)であった。治療中止の理由として最も多くみられたのは、個人的事情(試験とは関係ない理由、スケジュールが合わない、転居のため)および有害事象であった。 無作為化された1,613例のベースラインの特性は、orforglipron群とプラセボ群で類似しており、平均年齢56.8歳(SD 10.7)、女性757例(46.9%)、体重101.4kg(SD 22.5)、BMI値35.6(SD 6.6)、HbA1c値8.05%(SD 0.75、64.4mmol/mol[SD 8.2])であった。 治療レジメン推定値でみたベースラインから72週までの体重の平均変化量は、プラセボ群-2.5%(95%信頼区間[CI]:-3.0~-1.9)であったのに対して、orforglipron 6mg群は-5.1%(95%CI:-6.0~-4.2、対プラセボ推定治療差[ETD]:-2.7[95%CI:-3.7~-1.6]、p<0.0001)、12mg群は-7.0%(-7.8~-6.2、ETD:-4.5[-5.5~-3.6]、p<0.0001)、36mg群は-9.6%(-10.5~-8.7、ETD:-7.1[-8.2~-6.1]、p<0.0001)であった。 事前に規定した体重およびHbA1c値など心代謝指標は、orforglipron群で統計学的に有意に改善した。有害事象(軽症~中等症の消化器イベント)、主に用量漸増期間中に発現 有害事象を理由とした治療中止の割合はorforglipron群がプラセボ群よりも高かった(orforglipron 6mg群6.1%、12mg群9.6%、36mg群9.9%、プラセボ群4.1%)。orforglipron群で最も多くみられた有害事象は軽症~中等症の消化器関連イベント(下痢、悪心、嘔吐、または便秘)で、主に用量漸増期間中に発現した。 死亡は試験期間中に10例(orforglipron群6例[12mg群4例、36mg群2例]、プラセボ群4例)が報告された。試験治療担当医師により、プラセボ群の1例とorforglipron 12mg群の1例以外の死亡は、試験治療との関連性はないと判断された。orforglipron群の症例では関連性を示す報告はされておらず、死亡前の1年間に試験薬による治療を受けていなかった。

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歯の根管治療は心臓の健康にも有益

 歯の根管治療を受けたい人はいないだろうが、もし受けなければならない場合は、心臓には良い影響があるかもしれない。英国の研究で、根管治療の成功は心臓病に関連する炎症を軽減し、さらにコレステロール値や血糖値を改善する可能性のあることが明らかにされた。英キングス・カレッジ・ロンドン歯内治療学分野のSadia Niazi氏らによるこの研究結果は、「Journal of Translational Medicine」に11月18日掲載された。 Niazi氏は、「歯の根管治療は口腔の健康を改善するだけでなく、糖尿病や心臓病などの深刻な疾患リスクの軽減にも役立つ可能性がある。このことは、口腔の健康が全身の健康に深く関わっていることを強く思い出させる」と話している。 根管治療は虫歯が歯の神経にまで達した場合に行われる神経の治療で、感染または損傷した歯髄(歯の内部にある神経と血管を含む軟組織)を除去し、歯の内部を清掃・洗浄した後に詰め物をして密封する。近年、多くの研究で、口腔の健康が心血管の健康に密接に関連していることが示されている。Niazi氏らも背景説明の中で、口腔内の感染症は、全身、特に心臓に炎症を引き起こす可能性があると指摘している。 今回の研究では、根管治療を受けた根尖性歯周炎患者65人を対象に2年間追跡して、根管治療の成功が血清の代謝プロファイルにどのような影響を与えるかを調べた。その上で、それらの変化とメタボリックシンドローム(MetS)の指標、炎症バイオマーカー、血液・根管内の微生物叢との関連を評価した。対象者から、治療前(ベースライン)、治療後3カ月、6カ月、1年、2年の5時点で血清サンプルを採取し、核磁気共鳴(NMR)分光法を用いて解析した。 その結果、根管治療後には、24種類(54.5%)の代謝物に有意な変化が認められた。具体的には、3カ月後に分岐鎖アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン)が有意に減少し、2年後にはグルコースとピルビン酸(解糖系で生成される代謝物)が有意に減少した。また、コレステロール、コリン、脂肪酸が短期間で減少し、トリプトファンは徐々に増加した。これらの結果は、糖代謝・脂質代謝の改善と炎症負荷の軽減を示唆しており、心臓の健康にとって好ましい兆候といえる。さらに、代謝プロファイルの変化は、MetSの臨床指標、炎症マーカー、治療前の血液・根管内の微生物叢と強く関連することも示された。 Niazi氏は、「根管の感染症が長期間続くと、細菌が血流に入り込んで炎症を引き起こし、血糖値や脂質値を上昇させる可能性がある。その結果、心臓病や糖尿病などのリスクが高まる。歯科医は、このような根管感染症の広範な影響を認識し、早期診断と治療を推進することが不可欠だ」とニュースリリースの中で述べている。同氏はまた、口腔の健康と全身の健康の間には密接な関係があることから、歯科医と他領域の医療専門家が連携して治療する必要があるとの考えも示している。

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