サイト内検索|page:111

検索結果 合計:4993件 表示位置:2201 - 2220

2201.

ICI有害事象、正しく理解し・正しく恐れ・正しく対処しよう【そこからですか!?のがん免疫講座】第5回

はじめに今までは、主に免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の効果に焦点を当てて解説してきましたが、今回は少し趣を変えて有害事象、とくにICI特有の免疫関連有害事象に焦点を当て、それがどのようなメカニズムで起きるのかを話題にしたいと思います。抗がん剤の有害事象のいろいろ抗がん剤の有害事象といえば、やはり悪心・嘔吐、脱毛、血球減少などをイメージするかと思います。これらはいずれも、細胞傷害性抗がん剤といって、シスプラチンなどの従来の抗がん剤でよく出現した有害事象です。がん細胞だけでなく、さまざまな正常細胞を傷害してしまい、傷害を受けやすい細胞がダメージを受けて有害事象につながります。とくに血球減少はそれに伴う感染症で命にも関わるので、皆さん非常に気を使っているかと思います。その後、ゲフィチニブなどの分子標的薬が登場して、標的に応じた特有の有害事象が出現するようになりました。たとえば、ゲフィチニブは上皮成長因子受容体(EGFR)を阻害しますので、上皮が傷害される結果起きる有害事象の報告が多くなります。皮膚であれば皮疹、腸管上皮であれば下痢、といったような感じです。血管新生阻害薬であれば血管内皮細胞増殖因子(VEGF)という分子を阻害するため、特有の高血圧など血管に関わる有害事象が起きやすくなります。では、あらためてICIについて考えてみましょう。ICIは免疫、とくにT細胞を活性化させる薬剤ですので当然といえば当然ですが、免疫に関連した特有の有害事象を起こします。前回までに免疫が自己を攻撃すると「自己免疫性疾患」になる、という話をしましたが、まさに「自己免疫性疾患」のような有害事象が出現し、それらをまとめて免疫関連有害事象と呼んでいます。ICIにより活性化したT細胞はさまざまな臓器を攻撃し、臓器によって非常に多彩な有害事象が報告されています1)。たとえば、甲状腺を攻撃すれば甲状腺機能異常、肺を攻撃すれば肺臓炎、消化管を攻撃すれば腸炎、膵臓のインスリン産生細胞を攻撃すれば糖尿病、といった具合です1)。従来の抗がん剤治療ではあまり見ない有害事象が多く、まれながら命に関わるものも報告されています。適切に対処するためには、まれでも「起きうる」と認識することが重要です。有害事象が発生するメカニズム「ICIが免疫を活性化するから有害事象が発生する」だけでは、本稿は終了になってしまいますので、もう少し詳しく説明したいと思います。自己抗原に反応して攻撃するT細胞は発生の過程で選択を受けるので、われわれの身体の中にはあまり残っていないはずです。しかし、一部は除去されずに残っているものがあるとされ、そういったT細胞が自己を攻撃すると「自己免疫性疾患」になってしまいます。こうしたT細胞が自己を攻撃しないようにするシステムがわれわれの身体には元々備わっており、そのシステムが正常に働いていれば問題は起きません。そして、そのシステムの1つが、免疫チェックポイント分子なのです。PD-1やCTLA-4も決してがん細胞を攻撃するT細胞“だけ”を抑制している分子ではなく、むしろ、本来こうした「自己を攻撃しないために備わっている分子」なのです。したがって、ICIの使用によってがん細胞を攻撃するT細胞だけでなく、自己を攻撃するT細胞も活性化されることで、自己免疫性疾患のような有害事象が出てしまうのです(図1)。画像を拡大する免疫関連有害事象を「正しく」恐れる前回、「抗原には階層性がある」という話をしました。「強い免疫応答を起こせる抗原はがんのネオ抗原で、自己抗原は強い免疫応答を起こさない」はずでしたね(図2)。画像を拡大する実は、弱い抗原によって活性化されたT細胞であれば、ステロイドなどのT細胞を抑制する薬剤によって比較的抑えられやすく、逆に強い抗原によって活性化されたT細胞は、ステロイドでは抑えにくい、という実験結果があります(図3)2)。画像を拡大する実はこのことはICIにとって非常に都合がよいことです。「(強い免疫応答を起こさない抗原である)自己抗原を認識するT細胞の活性化はステロイドによって抑制されやすい」、すなわち、「(自己を攻撃するT細胞の活性化によって起きる)免疫関連有害事象はステロイドなどの適切な治療によって抑えることができる」からです(図3)。逆に、「(強い免疫応答を起こす)ネオ抗原を認識するT細胞の活性化にステロイドはあまり影響を与えない」、つまりは「ステロイドは効果にあまり影響しない」といえます(図3)。大規模な臨床で証明された確定的なものではなく、あくまで可能性での話になりますが、以上のことから、ステロイドはICIの効果にあまり影響を与えることなく、免疫関連有害事象を抑えられるかもしれません(図3)2)。実際、有害事象にはステロイド使用などの適切な対処で対応できる場合が多く、有害事象でステロイドを使用したうえでICI投与を中止しても、薬剤の効果が続いたケースも報告されています。効果と関係があるってホント?個々の患者でICIによる免疫の活性化度合いは異なります。ここでまた抗原の階層性の話になりますが、強い免疫応答を起こすネオ抗原を認識するT細胞だけを運よくICIが活性化できれば、効果だけが出て、免疫関連有害事象は起きません(図4:A)。一方、弱い免疫応答を起こす自己抗原を認識するT細胞まで活性化させる反応がICIで起きた場合を想定してください。もちろん、自己を攻撃する免疫関連有害事象は起きますが、それほど強い免疫の活性化であれば、強い反応を起こすネオ抗原を認識するT細胞も活性化しているはずなので、効果も出るはずです(図4:B)。こういった患者さんが一定割合で存在するため、効果と有害事象はある程度の相関性があるはずです3)。画像を拡大するもちろん、ICIで免疫応答がまったく起きない人には有害事象も効果も出ません(図4:C)。では、有害事象だけが出て効果がない人では何が起きているのか?と疑問も湧くかと思いますが、1つの理由を抗原の観点で論じるならば、どんなに免疫を活性化させても、元のがん細胞にネオ抗原のような標的になるがん抗原が少ない場合にはやはり無効なのだろう、と思われます(図4:D)。それだけがん抗原は重要な要素なのです。免疫関連有害事象を正しく理解し・正しく恐れ・正しく対処すれば、ICIは効果がある患者さんにとっては大きなメリットのある薬剤です。当初の連載予定回数をオーバーしてしまいましたが、次回は追加で細胞療法の話をしたいと思います。1)Michot JM, et al. Eur J Cancer. 2016;54:139-148.2)Tokunaga A, et al. J Exp Med. 2019;216:2701-2713.3)Haratani K, et al. JAMA Oncol. 2018;4:374-378.

2202.

COVID-19、NY重症患者の死亡リスク増加因子が明らかに/Lancet

 検査で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が確認され、米国・ニューヨーク市内2ヵ所の病院に入院した重症患者257例について前向きコホート試験を行った結果、高年齢、慢性肺疾患、慢性心臓病などが入院死亡リスク増加の独立リスク因子であることが確認された。米国・コロンビア大学アービング医療センターのMatthew J. Cummings氏らが行った試験の結果で、年齢の因子では10歳増加ごとに死亡リスクは1.31倍に、慢性肺疾患は死亡リスクを2.94倍に増加することが示されたという。また、侵襲的機械換気の実施率は重症患者の79%に上っていた。2020年4月28日現在、ニューヨーク市におけるCOVID-19入院患者は4万人を超えている。現況下でのCOVID-19患者の疫学、臨床経過、および重症転帰のデータの必要性から本検討は行われた。Lancet誌オンライン版2020年5月19日号掲載の報告。臨床的リスク因子やバイオマーカーと、院内死亡率の関連を検証 研究グループは2020年3月2日~4月1日に、検査でCOVID-19が確認され、2ヵ所のニューヨーク・プレスビテリアン病院(マンハッタン区北部、コロンビア大学アービング医療センターの関連病院)に入院し、急性低酸素呼吸不全が認められた18歳以上の重症患者を対象に前向き観察試験を行った。被験者について、臨床情報やバイオマーカー、治療データを集め、死亡リスクとの関連を分析した。 主要アウトカムは、入院死亡率だった。副次アウトカムは、侵襲的機械換気の実施率と期間、昇圧薬の使用や腎代替療法の頻度、入院後の院内臨床的増悪までの期間などだった。 Cox比例ハザード回帰モデルを用いて、臨床的リスク因子やバイオマーカーと、院内死亡率との関連を検証した。追跡期間は全被験者28日以上で、4月28日で追跡を打ち切った。慢性心臓病で死亡リスク1.76倍、高IL-6・高D-dimer値もリスク因子 試験対象期間中に、COVID-19が確認され2ヵ所の病院に入院した成人は1,150例で、うち重症患者は257例(22%)だった。被験者の年齢中央値は62歳(IQR:51~72)で、うち男性は67%(171例)だった。重症患者のうち82%(212例)に1つ以上の慢性疾患があり、最も多くみられたのは高血圧症(63%、162例)、次いで糖尿病(36%、92例)だった。また、46%(119例)が肥満だった。 4月28日時点で、死亡は39%(101例)、入院継続は37%(94例)だった。侵襲的機械換気を実施したのは79%(203例)で、その期間中央値は18日(IQR:9~28)、昇圧薬を使用したのは66%(170例)、腎代替療法の実施は31%(79例)だった。入院後の院内臨床的増悪までの期間中央値は、3日(IQR:1~6)だった。 多変量Coxモデル解析の結果、入院死亡に関連した独立リスク因子は、高年齢(10歳増加ごとの補正後ハザード比[HR]:1.31、95%信頼区間[CI]:1.09~1.57)、慢性心臓病(補正後HR:1.76、95%CI:1.08~2.86)、慢性肺疾患(同:2.94、1.48~5.84)、高IL-6値(十分位増加ごとの補正後HR:1.11、95%CI:1.02~1.20)、高D-dimer値(同:1.10、1.01~1.19)だった。

2203.

イソ吉草酸血症〔IVA:isovaleric aciduria〕

1 疾患概要■ 概念・定義イソ吉草酸血症(isovaleric aciduria:IVA)は、ミトコンドリアマトリックスに存在するロイシンの中間代謝過程におけるイソバレリルCoA脱水素酵素(IVDH)の障害によって生じる有機酸代謝異常症であり、常染色体劣性の遺伝性疾患である。■ 疫学わが国における罹患頻度は約65万出生に1人と推定されている。非常にまれだと思われていたが、新生児マススクリーニング(タンデムマススクリーニング)が開始されてから無症状の患児や母体が見つかっている。欧米では新生児スクリーニングで診断された患者の約2/3でc.932C>T(p.A282V)変異を認めており、この変異とのホモ接合体もしくは複合へテロ接合体を持つ場合、無症候性が多い。■ 病因遺伝性疾患であり原因遺伝子はIVD(isovaleryl-CoA dehydrogenase)であり、15q14-15にコードされている。この変異によってIVDH活性が低下することに起因する。IVDHはイソバレリルCoAから3-メチルクロトニルCoAが生成する反応を触媒している。この代謝経路は、飢餓やストレスによりエネルギー需要が高まるとロイシン異化によりクエン酸回路へアセチルCoAを供給してエネルギー産生を行うが、本症ではIVDH活性が低下しているためイソ吉草酸などの急激な蓄積とエネルギー産生低下を来し、尿素サイクル機能不全による高アンモニア血症や骨髄抑制を伴う代謝性アシドーシスを引き起こす。■ 症状1)特有の臭い急性期に「足が蒸れた」とか「汗臭い」と表現される強烈な体臭がある。2)呼吸障害急性期に見られ多呼吸や努力性呼吸、無呼吸を呈する。3)中枢神経症状意識障害、無呼吸、筋緊張低下、けいれんなどで発症する。急性期以降、もしくは慢性進行性に発達遅滞を認めることがある。4)消化器症状、食癖哺乳不良や嘔吐を急性期に呈することは多い。また、しばしば高タンパク食品を嫌う傾向がある。5)骨髄抑制汎血球減少、好中球減少、血小板減少がしばしばみられる。6)その他急性膵炎や不整脈の報告がある。■ 分類臨床病型は主に3つ(発症前型、急性発症型、慢性進行型)に分かれる。1)発症前型新生児マススクリーニングや、家族内に発症者がいる場合の家族検索などで発見される無症状例を指す。発作の重症度はさまざまである。2)急性発症型出生後、通常2週間以内に嘔吐や哺乳不良、意識障害、けいれん、低体温などで発症し、代謝性アシドーシス、ケトーシス、高アンモニア血症、低血糖、高乳酸血症などの検査異常を呈する。有症状例の約3/4を占めたとする報告がある。また、生後1年以内に感染やタンパクの過剰摂取などを契機に発症する症例もある。3)慢性進行型発達遅滞や体重増加不良を契機に診断される症例を指す。経過中に急性発症型の症状を呈することもある。■ 予後新生児・乳児の高アンモニア血症、代謝性アシドーシスをうまく予防・治療できればその後の神経学的予後は良好である。本症発症の女性の出産例も知られている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 一般検査急性発症時にはアニオンギャップの開大する代謝性アシドーシス、高アンモニア血症、高血糖、低血糖、低カルシウム血症を認める。高アンモニア血症の程度で他の有機酸血症や尿素サイクル異常症と区別をすることはできない。汎血球減少、好中球減少、血小板減少もしばしば見られる。高アンモニア血症は、細胞内のアセチル-CoAの減少によりN-アセチルグルタミン酸合成酵素活性が阻害され、尿素サイクルを障害するためと考えられている。■ 血中アシルカルニチン分析(タンデムマス法)イソバレリルカルニチン(C5)の上昇が特徴的である。■ 尿中有機酸分析イソバレリルグリシン、3-ヒドロキシイソ吉草酸の著明な排泄増加が見られる。■ 酵素活性末梢血リンパ球や皮膚線維芽細胞などを用いた酵素活性測定による診断が可能であるが、国内で実際に施行できる施設はほぼない。■ 遺伝子解析原因遺伝子のIVDの解析を行う。日本人患者8例のIVD解析では15アレルに点変異、1アレルにスプライス変異が同定されているが、同一変異はない。欧米におけるp.A282Vのような高頻度変異は報告されていない。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 急性期の治療診断を行いつつ、下記の治療を進め代謝クライシスを脱する。1)状態の安定化(1)気管挿管を含めた呼吸管理、(2)血液浄化療法を見据えた静脈ルート確保、(3)血圧の維持(昇圧剤の使用)、(4)生食などボリュームの確保2)タンパク摂取の中止最初の24時間はすべてのタンパク摂取を中止する。24~48時間以内にタンパク摂取を開始。3)異化亢進の抑制十分なカロリーを投与する(80kcal/kg/日)。糖利用を進めるためにインスリンを使用することもある。脂肪製剤の投与も行う(2.0g/kg/日まで可)。4)L-カルニチンの投与有機酸の排泄を図る。100mg/kgをボーラスで投与後、維持量として100~200mg/kg/日で投与。5)グリシンの投与イソ吉草酸とグリシン抱合させ、排泄を促す。150~250mg/kg/日分3。6)高アンモニア血症の治療迷わずカルグルミン酸(商品名:カーバグル)の投与を開始する(100mg/kgを初回投与し、その後100~250mg/kg/日で維持。経口、分2-4)。フェニル酪酸Naや安息香酸Naを100~250mg/kg/日で使用しても良い。7)代謝性アシドーシスの補正炭酸水素ナトリウム(同:メイロン)で行い、改善しない場合は血液浄化療法も行う。8)血液浄化療法上記治療を数時間行っても代謝性アシドーシスや高アンモニア血症が改善しない場合は躊躇なく行う。■ 未発症期・慢性期の治療ロイシンを制限することでイソバレリルCoAの蓄積を防ぐことを目的とするが、食事制限の効果は不定である。1)自然タンパクの制限:1.0~2.0g/kg/日程度にする。2)L-カルニチン内服:100~200mg/kg/日分3で投与。3)グリシンの投与:150~250mg/kg/日分3で投与。4)シック・デイの対応:感染症などの際に早めに医療機関を受診させ、ブドウ糖などの投与を行い異化の亢進を抑制させる。本疾患は急性期に適切な診断・治療がなされれば、比較的予後は良好であり思春期以降に代謝クライシスを起こすことは非常にまれである。急性期を乗り切った後(または未発症期)に、本疾患児をフォローしていく際は、一般に精神運動発達の評価と成長の評価が中心となる。■ 成人期の課題1)食事療法一般に小児期よりはタンパク制限の必要性は低いと思われるが、十分なエビデンスがない。2)飲酒・運動体調悪化の誘因となり得るため、アルコール摂取や過度な運動は避けた方が良い。3)妊娠・出産ほとんどエビデンスがない。今後の症例の積み重ねが必要である。4)医療費の問題カルニチンの内服は続けていく必要がある。2015年から指定難病の対象疾患となり、公的助成を受けられるようになった。4 今後の展望本症はタンデムマススクリーニングの対象疾患に入っている。一例一例を確実に積み重ねることにより、今後わが国での臨床型や重症度と遺伝子型などの関連が明らかになってくると思われる。5 主たる診療科代謝科、新生児科、小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本先天代謝異常学会ホームページ(新生児マススクリーニング診療ガイドラインは有用)公開履歴初回2020年05月26日

2206.

禁煙をし続けるために本当に必要なこと(2)【新型タバコの基礎知識】第19回

第19回 禁煙をし続けるために本当に必要なこと(2)Key Points加熱式タバコも含めたすべてのタバコを止め続けることが禁煙ニコチン依存症から脱出するために必要なスキルは「知る」ということタバコ会社はわれわれが生まれる前から嘘をつき続けてきていることをしっかり認識するべき(タバコ会社に幻想を抱いてはいけない)禁煙することの重要性は、新型コロナ問題があろうがなかろうが大きくは変化しません。しかし、現在が禁煙するための一つの機会であることは間違いないでしょう。禁煙することにより、新型コロナウイルスに感染しても重症化や死亡を防げる可能性が高まると考えられます。そのため、欧米でも日本でも禁煙にチャレンジしている人が多くいるようです。そこで、改めて禁煙の定義を明確にしておきたいと思います。「加熱式タバコも含めたすべてのタバコを止め続けることが禁煙」です。少しでも多くの人が禁煙に成功することを願って、今回は禁煙し続けるために必要なことをお伝えしたいと思います。患者さんにぜひ伝えておきたい、「タバコから逃げる方法」とは?ニコチン依存だけでなく、アルコール依存や違法薬物依存等さまざまな依存症から脱出するために必要なスキルは、共通して「知る」「知ってもらう」ということです。自分から知ろうとしてもらうことが、回り道のようで、止め続けるための近道と言えるでしょう。タバコの場合には、「タバコの害」や「タバコを吸わないメリット(禁煙で人を喜ばせることができ、そして自分が幸せになること)」、「喫煙者はタバコ会社に搾取されていること(世界がタバコ会社によって歪められている現実)」、「タバコから逃げる方法(人に勧められたときの断り方など)」について知ってもらわなければなりません。たとえば、「タバコから逃げる方法」としては、吸いたくなる環境に行かないようにすることや、吸いたくなった場合の気の紛らわし方など具体的な手段をリストアップしておくと良いでしょう。より多くの知識を得てもらうことで、喫煙再開の危機から逃れることができるようになります。タバコを止め続けるためには、具体的に逃げるための手段等を知り、忘れないように繰り返し思い出し、知識として定着させる必要があります。医師など医療者も、患者に禁煙指導するためには、これらの知識を習得しておかなければならないでしょう。意外に知られていない、タバコ会社の2つの嘘タバコのことなんて十分に知っているよ、という声が聞こえてきそうですが、きっと意外と知らないことに驚くだろうと思います。私がいつも経験している展開です。タバコ会社はわれわれが生まれる前から嘘をつき続けてきました。社会はわれわれが生まれる前から大きく歪められているので、異常な状況が当たり前に感じられて、異常に気付かないようになってしまっています。日本ではタバコが原因で毎日300人以上が死亡していますが*1、メディアは新型コロナウイルス感染による死亡者数を伝えるとしても、タバコで死亡した人数は報道しません。これも、今に始まったことではなく、われわれが生まれる前からずっとそうなのです。当たり前を疑わなければ、現在の異常な状況は見えてきません。*1:健康日本21等でも引用された下記の論文では、日本の1年間の死亡者数83万4,000 件のうち、喫煙は12万9,000件、高血圧は10万4,000件の原因だったと示されています。年間約13万人は1日当たりにすると300人以上となります。Ikeda N,et al.PLoS Med.2012Jan;91:e1001160.加熱式タバコを販売しているのはすべてタバコ会社です。1950年代にタバコの有害性が実証されて以降、タバコ会社はずっと人々に嘘をつき続けてだまし続けてきたということが、タバコ会社の内部資料や内部告発などの多くの証拠により、明らかにされています。タバコ会社がまっとうな形で情報提供する会社に変わるなどと、幻想を抱いてはいけません(その期待はいつも、何度も裏切られてきた歴史を知るべきです)。その代表的な嘘について紹介します。タバコを吸う人の多くは、程度の差はあれニコチン依存症の状態になっています。しかし、タバコ産業はその事実を知りながら、「依存はない」とずっと嘘をついてきたことがタバコ会社の内部文書から明らかになっているのです(映画「インサイダー」ではタバコ会社による意図的な悪事が詳細に描写されています)。タバコ産業は添加物を加えてより依存症になりやすいタバコを開発するなどしていたにもかかわらず、「タバコに依存性はない」と繰り返し、主張してきたのです。タバコ会社は人々が誤解した状況(この場合にはタバコには依存はないと信じる人もいて、タバコに手を出しやすくなること)を少しでも長く維持することを意図して嘘をつき続けてきた歴史があります。現在は、タバコ会社もタバコの依存性を認めています。もう一つの嘘を紹介します。実はいまだに、JTは受動喫煙に害があることを認めていません。JTは「受動喫煙に害があるかどうかは科学的に証明されていない」など、世界的に研究者や専門家が導いた結論とは明らかに違うことを訴えています。都合のいい情報に群がる人がいると分かって、意図的に情報を操作してタバコを吸う人を囲い込んでいるのです。JTは受動喫煙について次のようにコメントしています1)。“受動喫煙については、周囲の方々、特にタバコを吸われない方々にとっては迷惑なものとなることがあります。また、気密性が高く換気が不十分な場所では、環境中たばこ煙は、眼、鼻および喉への刺激や不快感などを生じさせることがあります。このため、私たちは、周囲の方々への気配り、思いやりを示していただけるよう、タバコを吸われる方々にお願いしています。”“受動喫煙(環境中たばこ煙)は非喫煙者の疾病の原因であるという主張については、説得力のある形では示されていません。受動喫煙への曝露と非喫煙者の疾病発生率の上昇との統計的関連性は立証されていないものと私たちは考えています。”こういったコメントに対して、国立がん研究センターは反論をホームページ上に掲載しました2)。“受動喫煙は「迷惑」や「気配り、思いやり」の問題ではなく、「健康被害」「他者危害」の問題である。受動喫煙には健康被害・他者危害があるという科学的事実に基づいて、公共の場および職場での喫煙を法律で規制するなど、たばこ規制枠組み条約で推奨されている受動喫煙防止策を実施することが必要である。”このような指摘を受けてもなお、今もかわらずJTは受動喫煙の害を認めていません。もし認めると、その情報を知った喫煙者が他人に配慮してタバコを吸いづらくなって、タバコをやめてしまう人が増えると考えているからこそ、意図的に受動喫煙の害を認めていないのでしょう。空気を読む国民性の日本だからこその判断かもしれません。世界の他のタバコ会社(たとえばフィリップモリス社など)は、受動喫煙の害を認めています。日本ではタバコ会社がなりふり構わず、タバコを吸い続けてもらうように誘導しているのです。政府や一般市民をだますために、タバコ会社は嘘をつくことをこれまでずっと繰り返してきました。「タバコの新製品は、今までのタバコ製品と違ってクリーンで害が少ない」というのはタバコ会社がやってきた基本戦略と言えるでしょう。そして、あとになって振り返ってみると、そのタバコの新製品にはやはり従来のタバコと変わらない害があった、となっているのが現状です。第20回は、「すべての診療科に関わる! タバコ問題を自分事にするために知っておきたいこと(1)」です。1)JTホームページ,喫煙と健康に関するJTの考え方:環境中たばこ煙2)国立がん研究センター,情報提供:受動喫煙と肺がんに関するJTコメントへの見解, 2016年9月28日

2208.

COVID-19、ヒドロキシクロロキンで院内死亡低下せず/JAMA

 ニューヨークの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者において、抗マラリア薬ヒドロキシクロロキン、抗菌薬アジスロマイシンまたはこれらの両薬を治療に用いた患者は、いずれも使用していない患者と比較して、院内死亡率に有意差はなかった。米国・ニューヨーク州立大学のEli S. Rosenberg氏らが、COVID-19入院患者の後ろ向き多施設共同コホート研究の結果を報告した。ヒドロキシクロロキンの単独またはアジスロマイシンとの併用は、COVID-19に対する治療法の候補と考えられているが、有効性や安全性に関するデータは限定的であった。JAMA誌オンライン版2020年5月11日号掲載の報告。無作為抽出したCOVID-19入院患者約1,400例を後ろ向きに解析 研究グループは、ニューヨーク都市圏の25施設に2020年3月15日~28日の間で24時間以上入院したCOVID-19患者7,914例(同期間でのニューヨーク都市圏におけるCOVID-19全入院患者の88.2%を占める)から、施設単位で無作為に抽出した1,438例について、治療薬、既往症、入院時臨床所見、転帰および有害事象に関するデータを解析した。最終追跡調査は2020年4月24日。 解析対象症例を入院期間中の治療に基づいて、ヒドロキシクロロキンとアジスロマイシンの両方を使用(併用群)、ヒドロキシクロロキンのみ、アジスロマイシンのみ、どちらも非投与の4群に分類し、院内死亡率(主要評価項目)、心停止および不整脈/QT延長の心電図異常所見など(副次評価項目)を評価した。ヒドロキシクロロキン服用群、非服用群と院内死亡率に有意差なし 解析対象の1,438例(男性858例[59.7%]、年齢中央値63歳)において、ヒドロキシクロロキン単独群(271例)、アジスロマイシン単独群(211例)および併用群(735例)は、非投与群よりも、糖尿病、呼吸数>22回/分、胸部画像の異常所見、酸素飽和度90%未満、AST>40U/Lの患者が多い傾向にあった。 院内死亡率は、全体で20.3%(95%信頼区間[CI]:18.2~22.4)であり、治療別では併用群25.7%(22.3~28.9)、ヒドロキシクロロキン単独群19.9%(15.2~24.7)、アジスロマイシン単独群10.0%(5.9~14.0)、非投与群12.7%(8.3~17.1)であった。 調整Cox比例ハザードモデルでは、非投与群と比較し、併用群(HR:1.35、95%CI:0.76~2.40)、ヒドロキシクロロキン単独群(1.08、0.63~1.85)およびアジスロマイシン単独群(0.56、0.26~1.21)で、院内死亡率に有意差は確認されなかった。 ロジスティック回帰モデルでは、非投与群と比較し、併用群(補正後オッズ比:2.13、95%CI:1.12~4.05)で心停止のリスクが有意に高かったが、ヒドロキシクロロキン単独群(1.91、0.96~3.81)とアジスロマイシン単独群(0.64、0.27~1.56)では有意差は確認されなかった。また、調整ロジスティック回帰モデルでは、心電図異常所見に相対的なリスクの差は認められなかった。

2209.

第15回 治療編(1)薬物療法・その2【エキスパートが教える痛み診療のコツ】

第15回 治療編(1)薬物療法・その2前回は、主として末梢性疼痛に用いられる薬物療法について解説しましたが、今回は、末梢性神経障害性疼痛への除痛適応を持つ、新薬ミロガバリンとプレガバリン、そして比較的副作用の少ない鎮痛薬ノイロトロピンについて説明しましょう。表に神経障害性疼痛の原因になりうる疾患を示しております。この中でも、末梢性神経障害性疼痛の代表症例として、糖尿病性末梢神経障害性疼痛、帯状疱疹後神経痛、椎間板ヘルニアによる慢性疼痛が挙げられます。画像を拡大する(1)ミロガバリン<作用機序>神経前シナプスの電位依存性カルシウムイオン(Ca2+)チャネルから流入したCa2+により神経が興奮して、サブスタンスP、グルタミン酸、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)など、いわゆる神経伝達物質が放出されます。このCa2+チャネルにはいくつかのサブユニットで構成されておりますが、ミロガバリンはそのうちのでもα2δサブユニットに結合することによりCa2+チャネルの活動が抑制されることでCa2+の流入が低下します。その効果により、神経伝達物質の放出が抑制されて痛みが緩和されると考えられています。<投与上の注意>1日2回投与が基準です。2.5mg、5mg、10mg、15mg錠がありますが、基本的には5mgX2で開始しますが、患者さんが少しきついと感じられた時には2.5mgX2で開始し、副作用あるいは疼痛緩和効果が見られなければ、1~2週間ごとに10mgX2、15mgX2と漸増し、最終的には1日30mgまで投与します。副作用としては、傾眠、浮動性めまい、体重増加などがあります。高齢者では転倒・骨折の恐れがあるので、細心の注意が必要です。また、自動車運転などの機械操作は回避する必要があります。(2)プレガバリン<作用機序>前述のミロガバリンと同様の作用機序、鎮痛効果を発揮します。<投与上の注意>ミロガバリンと同様ですが、中枢性神経障害に対する適応も有しています。元はカプセル剤でしたが、和製でOD錠になりましたので、疼痛時にはそのまま服用できるのが魅力です。25、75、150mgOD錠があり、1日4回まで、最高600mgまで処方できます。副作用もミロガバリンと同様で、眠気には注意が必要です。眠前に服用するとよく眠れるようです。(3)ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液含有製剤(商品名:ノイロトロピン)<作用機序>ノイロトロピンは、ワクシニアウイルスを摂取した家兎の炎症性皮膚組織から抽出した300種類以上非蛋白性生体活性物質を含んでおり、単一での効果成分は不明です。作用機序としては、下行性疼痛抑制系の活性化が考えられております。その他、抗炎症作用、興奮性神経ペプチドの放出の抑制、交感神経作用抑制、血流改善、神経保護作用などが推測されています。<投与上の注意>副作用には発疹、掻痒、悪心、眠気などが認められていますが、その発現頻度や重症度は極端に低いため、高齢者や長期療養者に対しても使いやすいことが特徴です。1日4錠(1錠4単位)を朝夕2回に分けて経口投与します。注射薬では1日1回1管を静脈内、筋肉内または皮下に注射します。以上、痛み治療の第1段階における薬物を取り上げ、その作用機序、投与における注意点などを述べさせていただきました。痛みの患者さんに接しておられる読者の皆様に少しでもお役に立てれば幸いです。1)花岡一雄. ペインクリニック. 2013; 34: 1227-12372)花岡一雄. ペインクリニック. 2011; 143: 441-4443)花岡一雄ほか監修. 痛みマネジメントupdate 日本医師会雑誌. 2014;143:S168

2210.

降圧薬の処方内容はCOVID-19予後に影響するか?(解説:冨山博史氏)-1231

はじめに COVID-19発生から半年近くが過ぎようとしている。しかし、まだまだ収束そして終息にも時間を要する。COVID-19では肺炎に加え、脳心血管疾患、血栓症など生命に影響する重大な合併症を発生する。そうした合併症は、高齢者や脳心血管疾患・悪性疾患など基礎疾患を有する症例で多い。ゆえに、そうした症例における合併症発生予防に細心の注意を払う必要がある。中国では高血圧症例でCOVID-19症例の予後が不良であることが報告された1)。SARS-CoV-2ウイルスの細胞内侵入にはangiotensin converting enzyme 2(ACE2)が重要な役割を果たす。このため、renin-angiotensin系に影響する降圧薬ACE inhibitor(ACEi)やangiotensin II receptor blocker(ARB)がACE2発現に影響し、ウイルス侵入を増悪させることが懸念されていた。しかし、懸念はあくまで仮説であり、3月13日発表の欧州高血圧学会Position Statement of the ESC Council on Hypertension on ACE-Inhibitors and Angiotensin Receptor Blockersでは、同危険性の十分な根拠がないため両降圧薬のむやみな中止・変更は控えるように推奨された。今回の知見 2019年12月から2020年3月の期間で、欧州、北米、アジアで計169の病院にCOVID-19で入院した8,910例を対象とした多施設共同登録研究が実施された2)。#COVID-19の診断:咽頭ぬぐい液のPCR検査で感染を診断#解析方法:入院後転帰の院内死亡例と生存例で降圧薬処方内容を含む臨床背景を比較#結果とコメント:生存例(8,395例、平均年齢49歳)、院内死亡例(515例、平均年齢56歳)であり、院内死亡例は高齢で男性が有意に多かった。また、これまでの報告と同様、院内死亡例で冠動脈疾患、心不全、不整脈(心疾患の院内死亡のODDS比は約2倍)、糖尿病、脂質異常症、慢性閉塞性肺疾患(院内死亡のODDS比は約3倍)、現在喫煙の合併比率が有意に高かった(脳卒中に関しては評価されていない)。本検討では、高血圧合併頻度は生存例(2,216/8,395例:26.4%)と院内死亡例(130/515例:25.2%)で有意な差を示さなかった。これは上述の中国の報告1)と異なる結果である。そしてACEiおよびARBの処方率は、生存例{ACEi(754/8,395例:9%)、ARB(518/8,395例:6.2%)}、院内死亡例{ACEi(16/515例:3.1%)、ARB(38/515例:7.4%)}であり、ARB処方頻度は両群に差はなく、ACEiはむしろ生存例での処方頻度が高かった。 本試験は、短期間の登録研究であり、すでにCOVID-19の症例である。ゆえに、COVID-19がすでに診断されている症例では、感染に関連する病態増悪を懸念してACEi・ARBの他の降圧薬への変更は必要ないことが支持される。同様の結果はイタリアからも報告されている3)。今回の研究では、ACEiおよびARBのCOVID-19の易感染性については検証されていない。しかし、同イタリアの研究では両降圧薬が易感染性にも影響しない可能性を報告している3)。 中国と欧米では蔓延するSARS-CoV-2ウイルスの亜型が異なる。この差異が高血圧合併の感染性への影響に関連した可能性は否定できない。ゆえに、今後、武漢株での感染例においても高血圧合併の有無および降圧薬の予後への影響について検証する必要がある。追記:ACE2について SARS-CoV-2ウイルスは細胞表面の受容体ACE2を介して細胞内に取り込まれる。ACE2は、膜内存在性蛋白で気管支、肺、心臓、腎臓、消化器等の多くの組織に発現している。ACE2はACE(angiotensin Iからangiotensin IIへ変換する酵素)と構造が類似しているが、別の作用を有し、angiotensin IIからangiotensin-(1-7)への変換を行う。このangiotensin 1-7は降圧や心血管保護作用を有すると考えられている。

2211.

第20回 シンプルに考えよう! 高K血症のマネジメント【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)Hi-Phy-Vi(History,Physical,Vital signs)をcheck!2)心電図を速やかにcheck!3)カルシウム製剤、GI療法で速やかに介入を!【症例】75歳男性。来院当日の起床時から嘔気を自覚した。自宅で様子をみていたが症状は改善せず、食事を摂ることもできないため、救急外来を独歩受診した。●受診時のバイタルサイン意識清明血圧98/75mmHg脈拍52回/分(整)呼吸22回/分SpO296%(RA)体温36.3℃瞳孔2.5/2.5mm +/+既往歴高血圧、慢性腎臓病高K血症の定義と重症度Kの値が5.5mEq/L以上の場合に高K血症と定義されます。重症度分類は表1の通りです。6.5mEq/L以上を中等症、7.5mEq/Lを重症とするものもありますが、迅速に対応する必要があるため、まずは表1のようにおさえておきましょう。駆血や溶血の影響で高くなることもありますが、再検しなければ真実はわかりませんので、K値が6mEq/Lを超えたらまずいと考え対応するとよいでしょう1,2,3)。表1 高K血症の重症度分類画像を拡大する高K血症の症状:いつ疑うのか?1)症状高K血症と聞いて、具体的な症状を思い浮かべることができるでしょうか? 筋力低下や麻痺、動悸などは典型的な症状といわれますが、救急搬送症例など比較的重症な症例では出会うものの、walk-in症例やクリニックなどでは、倦怠感や脱力、食思不振、感覚異常など、何ともいえない、不定愁訴的な症状を訴え、「え? この症状で?」という機会も多いものです4)。2)バイタルサイン高K血症に絶対的なバイタルサインの変化はありませんが、重篤なサインとして徐脈が挙げられます。徐脈である場合には鑑別に高K血症を挙げる癖をもっておくとよいでしょう。また、血圧が低めの場合にも脈拍に注目し、血圧が低いにもかかわらず脈まで遅い場合には積極的に疑うと良いでしょう。“ショック+徐脈”として表2は頭に入れ、そのようなバイタルサインであれば、特に(1)~(3)を意識して、まずは心電図を確認することが超重要です5)。表2 SHOCK+徐脈画像を拡大する3)基礎疾患腎機能が正常であれば、通常は余分なKは尿中に排泄されるため高K血症となることはまずありません。腎機能が悪い、もしくは悪い可能性のある患者さんをいかに見出すかがポイントとなり、そのような患者さんでは、常に高K血症の可能性を意識して対応することがポイントとなります。初診の患者さんに対して、既往症や治療中の病気を確認しても、なかなか「慢性腎臓病で治療中です」とは返答はありません。「腎臓が悪いと言われたことはありませんか?」と確認するとよいでしょう。4)内服薬ACE、ARB、抗アルドステロン薬(スピロノラクトン)など高K血症の原因となり得る薬剤を確認しましょう。前述の通り、原則として腎機能が正常であれば、Kを多く含むものを摂取しても高K血症にはなりませんが、腎機能障害さらには薬剤などの影響で、本来の機能に変化が認められる場合にはK値は上昇し得ます。表3の薬剤を内服していないか確認しましょう6,7)。表3 高K血症の原因となりうる薬剤画像を拡大する高K血症のアプローチ5)具体的には、上記のことを意識しながら以下のSTEPで対応します。STEP1バイタルサインをcheck!STEP2心電図をcheck!STEP3代謝性アシドーシスの有無をcheck!STEP4腎機能障害の有無をcheck!(急性or慢性、腎前性or腎性or腎後性)STEP5内服薬をcheckSTEP6偽性高K血症の可能性を忘れずに!詳細は割愛しますが、重要なことはまず疑うこと、そして重症度を見積もるためにも心電図は必ず早期に確認することです。再検結果がすぐに判明する状態であれば溶血の可能性も考慮し対応すればよいですが、再検が困難ないし時間がかかる場合には、患者背景と心電図結果から治療を介入しマネジメントするしかありません。治療高K血症に対する治療はいくつかありますが、どこでも施行可能で、まずやるべき治療は(1)カルシウム製剤(グルコン酸カルシウム)の投与、(2)グルコース・インスリン療法(GI療法)です。この2つは自身で必ずできるようになっておかなければなりません。(1)グルコン酸カルシウムKの数値は下げませんが、高K血症によって引き起こされかねない不整脈など心臓への影響に対して用います。緩徐に静注し、その後の心電図の変化をフォローします。(2)GI療法Kの大半は細胞内に存在します。ブドウ糖とセットでKは細胞内へ移行するため、GI療法を施行し、Kを一時的に細胞内へ押し込み時間を稼ぐのです。クリニックや救急外来においてある50%ブドウ糖は主に20mLのシリンジタイプだと思いますので、私は以下の通りに使用することが多いです。低血糖は避ける必要があるため、血糖値のフォローも忘れないようにしましょう。投与方法:50%ブドウ糖40mL+速効型インスリン8U(リスクが高い場合には4U)※リスクが高い場合:腎機能障害なし、糖尿病の既往なし、治療前の血糖値≦150mg/dL高K血症は早期に治療介入する必要がありますが、そのためには早期に疑う必要があります。また、数値とともに心電図変化が非常に大切です。症状やバイタルサイン、さらには基礎疾患や内服薬から疑い、速やかに初療を行えるようになりましょう。グルコン酸カルシウム、GI療法施行後は、患者背景(腎機能や内服薬)や利尿の有無によって、対応は異なります。以前から腎機能障害を指摘されている場合で尿が出ない、または代謝性アシドーシスを認める場合には、透析が必要になるでしょう。腎後性腎障害の影響であれば、尿道バルーンなどで閉塞を解除すれば、その後速やかに改善することが多いでしょう。初療を行いつつ、原因検索を行い対応する訳ですが、考えながら動かなければ対応が遅れてしまうのが高K血症です。どこでも出会う可能性があり、対応を整理しておきましょう。1)Clinical Practice Guidelines for management of acute hyperkalemia in adults. UK Renal association:2014.2)Long B, et al. J Emerg Med. 2018;55:192-205. 3)Pepin J, et al. Emerg Med Pract. 2012;14:1-17.4)Montford JR, et al. J Am Soc Nephrol. 2017; 28:3155-3165.5)坂本壮. 救急外来ただいま診断中. 中外医学社:2015.6)Ben Salem C,et al. Drug Saf. 2014;37:677-692.7)坂本壮、安藤裕貴. あなたも名医! 意識障害. 日本医事新報社. 2019.p.85-101.

2212.

第8回 話して生じる飛沫は空中を8分間漂い、新たなCOVID-19感染の火種となりうる

はしか(麻疹)、インフルエンザウィルス、結核菌等の呼吸器ウイルスは咳やくしゃみで放たれた飛沫を介して感染を広げます。飛沫のもとである口腔液に大量に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が存在することが発症患者1)のみならず無症状の患者2)でも確認されており、おそらくSARS-CoV-2も飛沫に収まって浮遊できるでしょう。普通に話しても飛沫が生じることは、咳やくしゃみによる飛沫ほどは広く知られておらず、話したときに生じてしばらく浮遊しうる直径30μm未満の飛沫の意義はこれまで蚊帳の外に置かれていました。しかし米国NIH支部の国立糖尿病・消化器病・腎臓病研究所(NIDDK)の研究者らの試験結果によると、その認識は改める必要があるようです。先週水曜日にPNAS誌に掲載されたその報告によると、話したときに生じる飛沫は空中に8分間は浮遊し、新たなSARS-CoV-2感染の火種になるおそれがあるといいます3,4)。研究者は被験者に“stay healthy(健康でいよう)”というフレーズを25秒間繰り返し言ってもらい、そのときに発生する飛沫の浮遊(30cm落下)時間半減期を測定しました。その時間が8分間であり、話して生じた飛沫の直径はおよそ4 μm、口を出る前の乾燥前の粒子の直径は12μm以上と推定されました。この結果によると、1分間大声で話せば、ウイルスを含有する少なくとも1,000粒の飛沫が8分を超えて空中に留まり、その量はそれらを吸い込んだ誰かにCOVID-19を誘発しうるレベルだといいます。今回の研究を実施した研究チームは、話しているときの飛沫を撮影した結果を先月4月中旬にNEJM誌に報告しており5)、その試験では、布マスクをして話せば前方への飛沫の発散を抑えられることが示されています。アメリカ疾病管理センター(CDC)も推奨するマスク着用が、SARS-CoV-2の広がりを遅らせうる大事な役割を担うことを、前回のその報告と今回のPNAS報告は示していると、NIDDK広報担当者は米国の新聞USA TODAY紙に話しています6)。マスクの効果に関するこれまでの試験を集めて検討したPNAS誌投稿査読前報告7,8)の著者の見解はさらに揺るぎなく、公共の場でのマスク着用は、皆が守ればSARS-CoV-2の広まりを確実に防ぐ(Public mask wearing is most effective at stopping spread of the virus when compliance is high)と結論しています。参考1)Chan JF,et al. J Clin Microbiol. 2020 Apr 23;58.2)Wolfel R,et al. Nature. 2020 Apr 1. [Epub ahead of print]3)Droplets from Speech Can Float in Air for Eight Minutes: Study / TheScientist4)Stadnytskyi V,et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2020 May 13. [Epub ahead of print]5)Anfinrud P,et al. N Engl J Med. 2020 Apr 15. [Epub ahead of print]6)Simply talking in confined spaces may be enough to spread the coronavirus, researchers say / USAToday7)If 80% of Americans Wore Masks, COVID-19 Infections Would Plummet, New Study Says / VanityFair8)Face Masks Against COVID-19: An Evidence Review. Preprints. Version 2 : Received: 12 May 2020

2213.

苦情殺到!桃太郎(後編)【なんでバッシングするの?どうすれば?(正義中毒)】Part3

バッシングにどうすればいいの?日本的なバッシングの起源は、歴史的・地理的条件によるものであることが分かりました。もちろん、これらの条件(環境)は、不安や受け身の気質(遺伝子)と相互作用しています。つまり、日本的なバッシングは、これまでの社会に適していたから「ある」のでしょう。ただし、ここで誤解がないようにしたいのは、だからと言って、現在の社会でそのままでいいと言うわけではまったくないです。たとえば、日本人の太りやすさが実は世界でトップレベルであるのは、これまでに粗食でも生き残るように進化した体質です(「倹約遺伝子」[β3アドレナリン受容体の変異])。だからと言って、飽食の現代に食べすぎて肥満や糖尿病になることを私たちは決して良しとはしないです。むしろ逆に私たちは食生活に注意しています。これと同じです。現在の社会は、SNSによって、噂は無制限に知らされ、同時に気軽に発信できて、さらに無責任になれます。そんな社会構造では、バッシングにどう注意すれば良いでしょうか? それは、まずこの根っこにある日本人の不安と受け身の気質に気付くことでしょう。ここから、具体的に気付くポイントを3つ挙げます。以下のこのCMの最後のナレーションをヒントに、一緒に考えてみましょう。「悪意ある言葉が、人の心を傷付けている」「声を荒らげる前に少しだけ考えてみませんか」(1)「悪意」になることに気付くバッシングをしてしまう人たちについての調査研究によると、その属性は、若い男性、家庭あり、高収入に偏っていることが分かっています。彼らは、むしろ「良識がある普通の人」「ルールに忠実な善良な国民」と自覚する人たちです。つまり、彼らによるバッシングは、社会のために良かれと思う、彼らなりの「善意」や「正義」がきっかけになっています。しかし、正義は行きすぎれば、「正義中毒」という快感になるとすでに前編で説明しました。1つ目は、私たちの共通認識として、その「善意」や「正義」が、快感を欲する「悪意」にすり替わってしまう危うさがあることに気付くことです。(2)「傷付けている」ことに気付くバッシングをしてしまう人たちの属性から、彼らは、むしろ知的に高く、社会的に成功している人たちです。つまり、彼らによるバッシングは、社会のために自分が懲らしめて分からせなければならないという、彼らなりの使命感や問題意識がきっかけになっています。そして、それを正当化する彼らのお決まりの言い分は、言論の自由です。しかし、いくら社会のためであっても、個人の権利を侵害する場合は、言論の自由は成り立ちません。具体的な違法性については、すでに前編で説明しました。また、匿名であることによって、暴走しています。逆に言えば、実名であれば、暴走しにくくなるでしょう。前編で触れた発信者情報開示請求という法的手段は、時間と労力がかかりますが、最終的には実名が突き止められます。2つ目は、私たちの共通認識として、その「私的な懲らしめ」(私刑)が「傷付けている」ことになる、つまり違法行為であり、逆に法によって「懲らしめ」られることに気付くことです。つまり、ルールに反すると言っているその人自身が、ルールに反したことをしているという矛盾です。この矛盾に気付いてもらうために、SNSのプロバイダは、バッシングのコメントを発信するユーザーにどういう点で違法行為であるかの具体的な警告文や警告レベルを示すことが望ましいでしょう。そもそも本当に正義を語るつもりであれば、たとえ実名が明るみになっても、誇ることはあっても恥じることはないはずです。(3)ネガティブな心のあり方に気付くバッシングをしてしまう人たちの属性から、彼らはむしろ仕事や家庭生活で忙しい人たちです。にもかかわらず、バッシングのために時間と労力を費やしています。そこまでしてやるわけは、ネガティブな物差し(認知)でしか相手を計ることができない彼らの心のあり方が根っこにあることが考えられます。そして、そのネガティブな物差し(認知)は、相手だけでなく、自分自身にも気付かずに向けているでしょう。こうして、彼ら自身が仕事や家庭での不安感や不足感を自分で煽り、萎縮した生き方をしてしまっています。3つ目は、私たちの共通認識として、ネガティブな心のあり方に気付き、相手の気持ちだけでなく、自分自身の生き方を見つめ直すことです。それは、こそこそと他人のあら探しや社会への不平不満を言い続けるのではないです。自分は本当に何をしたいのか、自分の人生をどう豊かにしていきたいのかに目を向けることです。そうすれば、他人の生き方にも寛容になるでしょう。 苦情殺到に桃太郎は?このCMは、昔話の桃太郎という架空のストーリーをバッシングすることに、おかしさがあります。このあとに生まれてくる桃太郎が退治するのは、バッシングという「鬼」になるのでしょうか? 実際に、このCMに賛同するコメントが多く寄せられた一方で、反論するコメントもまた多く寄せられました。その心理は、「バッシングへのバッシングだ」という正義感です。この記事もそう反論されるのでしょうか? そうなると、もはや「バッシング合戦」です。大事なことは、そのようなネガティブなコミュニケーションのパターンの手には乗らないことです。たとえネガティブなコメントであっても、評価や感想レベルであれば、1つの意見として受け止める心の余裕を持つことです。そのためにも、周りからどう思われるかではなく、自分がどうしたいかをブレずに持つことでしょう。そして、ポジティブに働きかけていくことです。そう考えると、苦情殺到に桃太郎なら、最後のナレーションのメッセージを次のように言い換えるのではないでしょか?「正義ある言葉は、中毒的で、違法行為になるおそれがある」「実名であっても言えるか少し考えてみませんか」「そして、もっと建設的なコミュニケーションをしてみませんか」 << 前のページへ■参考スライド【嗜癖性障害】2020年■関連記事万引き家族(前編)【親が万引きするなら子どももするの?(犯罪心理)】Part 1神様からひと言【なぜクレームするの?どう応じれば良いの?(断るスキル)】

2214.

第41回 コロナ禍を吹っ飛ばせ!腕試し心電図クイズvol.2【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第41回:コロナ禍を吹っ飛ばせ!腕試し心電図クイズvol.2今回はゴールデン・ウイークに公開した心電図クイズの第2弾です。“息抜きに”と言いつつ、まぁまぁ骨のある問題を出しましたが、今までのレクチャーで扱った知識を総動員して今回も頑張ってみましょう。「面白い」と「ためになる」の両立を目指して、今回もDr.ヒロの心電図ワールドのはじまりです!症例提示83歳、男性。高血圧症、気管支喘息などで通院中。治療にはアムロジピン、テオフィリン(徐放錠)、プランルカスト、レルベア®を使用している。血圧134/90mmHg、脈拍97/分・不整。定期診察時の12誘導心電図を示す(図1)。*:クイズの性格上、自動診断結果の一部を非表示にしている(以下同)。(図1)入院時の心電図画像を拡大する【問題1】調律に関する以下の診断のうち、正しいものを2つ選べ。1)洞頻脈2)異所性心房頻拍3)心房期外収縮4)心室期外収縮(間入性)5)心室期外収縮(完全代償性)解答はこちら1)、5)解説はこちらR-R間隔が整な部分に時折おかしなQRS波が混じるようです。幅が正常(narrow)な部分はほぼ太枠3マスで、“イチニエフの法則”を満たすP波が定期的にも観察され、基本調律は「洞頻脈」で良いと思います。次に“線香とカタチと法被(はっぴ)が大事よね”を思い出してください。洞周期に「先行」するタイミングで出現し、洞収縮とは異なる「カタチ」で「幅」もワイド、P波もないですから、「心室期外収縮」(PVC)の診断は容易です。「完全代償性」か「間入性」は用語的にはやや難しく感じるかもしれませんね。でも大丈夫。後者は文字通り、洞周期の“間”にPVC“入り”込んでいるもので、PVC前後のP-P間隔は洞周期そのものです。一方の「(完全)代償性」のほうはと言えば、レクチャーでも扱った“ニバイニバーイの法則”を満たすものです。PVC前後のP-P(R-R)間隔が洞周期の2倍となることが特徴で、今回もこれに該当します。参考レクチャー:第21回、第26回【問題2】QRS電気軸に関して、最も適切なものを1つ選べ。また定性的評価も加えよ。1)-60°2)-15°3)0°4)+75°5)+120°解答はこちら2)定性的評価:軽度の左軸偏位解説はこちらQRS電気軸を数値で求める場合、まずは肢誘導を上からザーッと見直しましょう。6つのうち上下“トントン”のQRS波があればいいのですが、この心電図にはないようです。そんな時は“トントン法Neo”を使いましょう。肢誘導界の円座標を思い浮かべ、aVL → I → -aVR → II → aVF → III …の順にQRS波の向きを確認します。すると、IIとaVFの間で向きの逆転が起こりますから、この間に“トントン・ポイント”(TP)があるのです。IIの上向き具合とaVFの下向き具合は同程度と考えて、両者の中間(+75°)がTPということになります。求める電気軸は、TPに直交し、かつIが上向きですから、「-15°」が“トントン法Neo”による推定値となります。ちなみに、心電計による自動診断は「-14°」となっていました。「-30°~0°」の範囲は「左軸偏位」の中でも“軽度”の範疇で、正常範囲に準じた扱いがなされることもあります。定性的には、I:上向き、II:上向き、aVF:下向きであるケースが大半です。参考レクチャー:第8回、第9回、第11回【問題3】ほかの心電図所見として正しいものはどれか。1)反時計回転2)QT延長3)(左室)高電位4)PR(Q)延長5)ST上昇解答はこちら4)解説はこちら1)は胸部誘導の移行帯に関するものですが、本例ではV4とV5誘導の間で「R<S」から「R>S」に変わっており、反時計回転ではありません。2)のQT間隔も正常です(補正値[QTc]]437ms)。3)は、QRS波高は代表的なSokolow-Lyon index(SV1+RV5)や“(ブイ)シゴロ密集法”などにもかかりません。上級者ですとIとaVLのQRS波高が気になるかもしれませんが、惜しくも該当しません。PR(Q)間隔は、5mmちょっとで「230ms」と正常上限をオーバーしています(したがって4)が○)。ただし、この程度では「1度房室ブロック」の診断には及びません。5)の「ST上昇」はなく、むしろV4~V6で「ST低下」を認めます(I、aVLにも軽度あり)。参考レクチャー:第1回症例提示253歳、男性。近医で糖尿病の診断を受けているが、本人拒否もあり無投薬で経過観察されている。深夜1:30に救急要請。意識清明、血圧138/87mmHg、脈拍49/分・不整、酸素飽和度(SpO2)99%(室内気)。全身冷汗著明。本人曰く、「昨日ね、夕方6時くらいに焼き肉に行ったんです。たらふく食べて飲みました。10時過ぎに帰って、風呂に入って寝たんです。0時くらいに起きたら気持ち悪くて、ひどい下痢もしてて。何度も吐いて、胃が焼け付くくらい“熱い”んです。ちょっと生に近い状態の肉を食べたんで、あたったんですか?」とのこと。来院時の心電図を示す(図2)。(図2)来院時の心電図画像を拡大する【問題4】調律に関して正しいものを選べ。また、心拍数はいくらか。1)洞徐脈2)洞不整脈3)心房粗動4)心房細動5)心房静止解答はこちら4)心拍数:51/分(新・検脈法)解説はこちら心電図を見たら、まずは“レーサー・チェック”でしたね。ちなみに、後述しますが、ST変化に気をとられる余り、調律診断が疎かになるようなことはあってはならないと思います。R-R間隔は不整で、洞性P波も確認できません。そんな時に見るべきは、ボク一押しのV1誘導でした。本例はやや見つけにくいですが、“f(細動)波”が確認できます。振幅が1mmに満たず、いわゆる「fine AF」だと思いますが、2nd bestである下壁誘導ではグニャグニャ部分もあり、「心房細動」(AF)で良いでしょう。心拍数に関しては、「検脈法」です。シンプルに全体10秒間のQRS波の個数を数えて9×6=54/分としてもいいですが、肢誘導の右端、そして胸部誘導は両端のQRS波が“ちぎれて”いますから、これらを0.5個とカウントして、(4.5+3+0.5×2)×6=51/分として求める“新・検脈法”は、このように徐脈気味の時に真価を発揮します。心電計の値も見事に「51/分」となっていました。参考レクチャー:第4回、第29回【問題5】この段階でなすべきこととして、正しいものを2つ選べ。1)消化器科医をコールし、上部消化管内視鏡を依頼する。2)右側胸部誘導を記録する。3)点滴ルートを確保して硫酸アトロピンを投与する。4)体外式除細動器を準備する。5)硝酸イソソルビドを静注しつつ、循環器科医をコールして心エコーを依頼する。解答はこちら2)、4)解説はこちら下痢や嘔吐を主訴に来院しても、この心電図を見てしまったら、「急性胃腸炎」では済ませることはできません。胃カメラうんぬんは笑い話レベルとしても、症状的には消化器疾患と紛らわしい例であることは事実です。心電図では、II、III、aVF、さらにV4~V6に「ST上昇」を認め、逆にaVL、V1、V2などでは「ST低下」(対側性ST変化)が見られます。こういう場合、第一に「ST上昇型急性心筋梗塞」(STEMI)を疑うべきパターンになります。迷走神経に関連し、急性下壁梗塞で嘔吐が前面に出ることがあるというケースを過去のレクチャーでも扱っており、これも類似のケースです。「下痢」の合併は稀かとは思いますが、実際にこのような訴えもあることを知っておくと、診療の幅が広がります。下壁梗塞を疑う場合、何も考えずに右側胸部誘導をとることはガイドラインでも推奨されていますが、なかなか行われておらず現場では歯がゆく感じるところがあります(本ケースでも記録されていませんでした)。心筋梗塞の場合、徐脈ならアトロピン、ST上昇だから即ニトロという盲目的な対応は時に危険で、禁忌というケースもあることはご存じでしょうか?(参考:ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン[2013年改訂版])前者はNG、後者もいきなり静注は推奨できません。まずは救急カート、電気的除細動器を準備、とにかくすぐに循環器科医をコールして指示を仰ぐようにしましょう(一番先にすべきことは心エコーでないことは明らかかでしょう)。参考レクチャー:第27回、第31回【問題6】本症例の臨床診断として正しいものを1つ選べ。1)胆石仙痛発作2)急性胃腸炎3)急性心筋梗塞4)尿管結石5)肋間神経痛解答はこちら 3)解説はこちら前問の解説通り心電図的にはきれいなSTEMIで、傷害部位は左室の下壁と側壁です。心電図から責任血管が右冠動脈か左冠動脈回旋枝かを推測する方法もあることはある(確実ではないですが)ので、おいおい扱いましょう。緊急冠動脈造影では、右冠動脈遠位部の完全閉塞が確認され、そのままインターベンション(ステント留置)が行われました。症例提示387歳、女性。糖尿病、高血圧症、慢性腎臓病、陳旧性心筋梗塞で通院中。血圧162/69mmHg、脈拍86/分。定期診察時の12誘導心電図を示す(図3)。(図3)定期診察時の心電図画像を拡大する【問題7】異常Q波はいくつの誘導で認められるか。以下のうち、最も適切なものを選べ。1)0個(なし)2)2個3)3個4)5個5)7個解答はこちら5)解説はこちら古い(陳旧性)心筋梗塞の存在を示唆する「異常Q波」の拾い上げは2段階でしたね。まずはV1~V3誘導が陰性波から始まっていたら問答無用で“異常”です。V1はしっかりとした「QS型」で、V2、V3に認められる小さな“q波”―これらもすべて“アウト”(異常)です。V1~V3、そしてaVRを除く計8個の誘導では、幅と深さを意識した“1mmの法則(ルール)”が重要でした。II、III、aVFは幅的に“ヤバイだろ”と主張したげです(ここまでで6個)。残るV4は微妙ですが、幅も深さもほぼ1mmであること、そして何よりV3とほぼ同じQRS波形で片方(V3)がおかしければ、もう片方も自然に思えるセンスがDr.ヒロが求めるものの一つになります。ですから、今回は「7個」、これが正解です。参考レクチャー:第30回、第33回、第34回【問題8】壊死心筋(梗塞巣)として推定される部位は以下のうちどれか。すべて選べ。1)心室中隔2)左室前壁3)左室側壁4)左室後壁5)左室下壁解答はこちら1)、2)、5)解説はこちらこれは前問ができればオマケ的なものです。異常Q波を拾って、さらに解剖学(空間)的な隣接性、平たく言えば“お隣さんルール”。2つ以上の誘導セットでQ波があったら、その領域の心筋梗塞を疑うというシンプルなロジックです。CT画像を用いた心臓の水平断で宇宙人たちがカメラを構えていた図を覚えているでしょうか? V1が「心室中隔」、V2~V4は「前壁」、そしてII、III、aVFは「下壁」と対峙するのでしたね。このようなパターンでは、右冠動脈と左冠動脈前下行枝(LAD)とがそれぞれ別に詰まったというよりは、心尖部を越えて下壁中隔から下壁まで灌流するような大きなLAD(wrap-around / wrapped LAD)の梗塞であることが多いと思います。参考レクチャー:第17回症例提示481歳、女性。高血圧症、高尿酸血症、骨粗鬆症などで他院へ通院中。高齢で足腰が弱って通院困難を理由に転医希望、受診となった。心機能については無症状。血圧142/74mmHg、脈拍80/分・不整。初診時の12誘導心電図を示す(図4)。(図4)初診時の心電図画像を拡大する【問題9】心電図所見に関して正しいものをすべて選べ。1)上室外収縮2)心室期外収縮3)非伝導性心房期外収縮4)心房細動5)心室頻拍6)右軸偏位7)左軸偏位8)高度軸偏位(北西軸)9)完全右脚ブロック10)完全左脚ブロック解答はこちら1)、7)、10)解説はこちら最後はDr.ヒロ流“ドキ心”の真骨頂である所見拾いです。ゲーム感覚で漏れなく指摘して、気持ちよく終わりましょう。心電図自体は前半のものに比べればさほど難しくはないと思います。肢誘導3拍目、胸部誘導2、6拍目が「期外収縮」で、QRS幅はワイドですが、P波が先行し、洞収縮波形も含めてすべて同一のカタチですから、これは1)PACですね。“1画面”つまり全10秒間に3つ以上の期外収縮があったら、頭に「頻発性」とつけて結構なレベルです。なお、3)に関しては、予想される洞性P波のタイミングより早く、波形も異なるP波も認めるものの、直後にQRS波を伴わないパターンのPACですが、これは該当しません。4)と5)は基本調律に関するもので、いずれも該当しません。このように期外収縮がたくさん出るとAFチックに見えるので注意してくださいね。期外収縮以外のビートには、“イチニエフの法則”を満たすP波がQRS波手前の“定位置”におり、これは洞調律の証です。QRS電気軸は、定性的にI:上向き、aVF(II):下向きですから、「左軸偏位」(“トントン法”では「-60°」と求まる)ですね。その他、QRS波の「幅」に異常があることもわかりますね。ワイドでV1の「rS型」、I、aVL、V6でq波なくスラーを伴う「R型」ですので、「完全左脚ブロック」と診断してください。参考レクチャー:第1回、第19回【古都のこと~清水寺、音羽の滝】前回に引き続き清水寺の話をしたいと思います。ところで、清水寺の宗旨を知っていますか? いわゆる「~宗」というものです。正解は「北法相宗(きたほっそうしゅう)」*1。唐伝来の奈良仏教が、いかに京都にやって来たのかを知ることは、お寺の名称の起源を知ることでもあり、今回はそれをお話します。ある日、大和国(奈良県)の子島寺で修行した賢心(けんしん)は「木津川の北流に清泉を求めて行け」という霊夢に従い北を目指します。そして音羽の山中*2で輝くような清泉を発見し、そこで行叡居士(ぎょうえいこじ)から霊木を授かり、千手観音像を彫り、ここを観音霊地として草庵を結びます*3。それから2年後、音羽山に鹿狩りに来た坂上田村麻呂*4が修行中の賢心と出会い、観音霊地での殺生の罪を知り、観世音菩薩の功徳の話に深く感銘を受けます。これにより田村麻呂は仏門に帰依することとなります。その後、日本初の征夷大将軍に任命され、蝦夷平定から帰京した田村麻呂は798年(延暦17年)、自邸を寄進し、延鎮(えんちん)と改名した賢心とともに本堂を築き、音羽の滝の清らかな水にちなんで「清水寺」と名付けました。桓武天皇は清水寺を自らの御願寺と定め伽藍構築を支援し、大同5年(810年)には嵯峨天皇より「北観音寺」の宸筆(しんぴつ)が贈られ、鎮護国家の寺院の定めを受けたのです。以上が『続群書類従』による清水寺の始まりです。舞台に気を取られ、ふと見過ごしてしまいそうな「音羽の滝」に寺のルーツがあると知り、より一層キヨミズさんに興味が湧いてきますね。*1:南都六宗の一つで、唯識宗(ゆいしきしゅう)、応理円実宗(おうりえんじつしゅう)、慈恩宗(じおんしゅう)などとも呼ばれる。南都は奈良のこと。大本山は興福寺で、中世・近世において清水寺はその末寺であった。昭和40年(1965年)、北法相宗の本山として独立した。*2:山城国愛宕郡八坂郷の東山。当時は「乙輪」と呼ばれていた。*3:清水寺の開創とされる奈良時代末期の宝亀9年(778年)のこと。ボクが「舞台」と間違っていた奥の院付近が庵の場所とされ、真下に「音羽の滝(瀧)」がある。*4:奈良時代末期~平安時代の武人。身重の妻の病を癒やすため、鹿の生き血を求めたとされる。

2215.

心血管疾患を持つCOVID-19患者、院内死亡リスク高い/NEJM

※本論文は6月4日に撤回されました。 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、心血管疾患を有する集団で過度に大きな影響を及ぼす可能性が示唆され、この臨床状況におけるACE阻害薬やARBによる潜在的な有害作用の懸念が高まっている。米国・ブリガム&ウィメンズ病院のMandeep R. Mehra氏らは、国際的なレジストリに登録された入院患者8,910例(日本の1施設24例を含む)のデータを解析し、基礎疾患として心血管疾患を有するCOVID-19患者は院内死亡のリスクが高いことを示した。また、院内死亡へのACE阻害薬およびARBの有害な影響は確認できなかったとしている。NEJM誌オンライン版2020年5月1日号掲載の報告。11ヵ国169病院のデータを用いた観察研究 研究グループは、Surgical Outcomes Collaborative(Surgisphere)に登録されたアジア、欧州、北米の11ヵ国169病院のデータを用いた観察研究を行った(ブリガム&ウィメンズ病院の助成による)。 対象は、2019年12月20日~2020年3月15日の期間に、COVID-19で入院し、2020年3月28日の時点で院内で死亡または生存退院した患者であった。 解析時に退院状況が確認できたCOVID-19患者8,910例(北米1,536例、欧州5,755例、アジア1,619例)のうち、515例(5.8%)が院内で死亡し、8,395例は生存退院した。ベースライン時に有意差がみられた背景因子 院内死亡例は生存例に比べ、高齢(平均年齢55.8±15.1歳vs.48.7±16.6歳、群間差:-7.1、95%信頼区間[CI]:-8.4~-5.7)で、白人(68.2% vs.63.2%、-5.0、-9.1~-0.8)および男性(女性34.8% vs.40.4%、5.6、1.3~10.0)が多く、糖尿病(18.8% vs.14.0%、-4.8、-8.3~-1.3)、脂質異常症(35.0% vs.30.2%、-4.8、-9.0~-0.5)、冠動脈疾患(20.0% vs.10.8%、-9.2、-12.8~-5.7)、心不全(5.6% vs.1.9%、-3.7、-5.8~-1.8)、心臓不整脈(6.8% vs.3.2%、-3.6、-5.8~-1.4)の有病率が高く、COPD(6.2% vs.2.3%、-3.9、-6.1~-1.8)や現喫煙者(8.9% vs.5.3%、-3.6、-6.2~-1.1)の割合が高かった。 入院時の薬物療法は、院内死亡例に比べ生存例でACE阻害薬(3.1% vs.9.0%、5.9、4.3~7.5)とスタチン(7.0% vs.9.8%、2.8、0.5~5.1)の使用が多かった。独立のリスク因子は高齢、冠動脈疾患、心不全、喫煙など 院内死亡リスクの増加と独立の関連が認められた因子は以下のとおり。 年齢65歳超(院内死亡率:65歳超10.0% vs.65歳以下4.9%、オッズ比[OR]:1.93、95%CI:1.60~2.41)、冠動脈疾患(10.2% vs.冠動脈疾患のない患者5.2%、2.70、2.08~3.51)、心不全(15.3% vs.心不全のない患者5.6%、2.48、1.62~3.79)、心臓不整脈(11.5% vs.心臓不整脈のない患者5.6%、1.95、1.33~2.86)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)(14.2% vs.COPDのない患者5.6%、2.96、2.00~4.40)、現喫煙者(9.4% vs.元喫煙/非喫煙者5.6%、1.79、1.29~2.47)。 院内死亡の増加には、ACE阻害薬(院内死亡率:2.1% vs.ACE阻害薬非投与例6.1%、OR:0.33、95%CI:0.20~0.54)およびARB(6.8% vs.ARB非投与例5.7%、1.23、0.87~1.74)の使用との関連はみられなかった。スタチンの使用(4.2% vs.スタチン非投与例6.0%、0.35、0.24~0.52)は、ACE阻害薬と同様に、院内死亡のリスクが低かった。 また、女性は男性に比べ、院内死亡リスクが低かった(5.0% vs.6.3%、OR:0.79、95%CI:0.65~0.95)。 著者は、「これらの知見は、COVID-19で入院した患者では、基礎疾患としての心血管疾患は院内死亡リスクの増加と独立の関連を示したとする既報の観察研究の結果を裏付けるものである」としている。

2216.

糖尿病治療ガイド2020-2021が完成/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会(理事長:門脇 孝)は、『糖尿病治療ガイド2020-2021』を発行した。本書は、糖尿病診療の基本的な考え方から最新情報までをわかりやすくまとめたガイドで専門医はもとより、非専門の医師、他の医療スタッフなどにも広く活用されている。糖尿病治療ガイド2020-2021は食事療法を大幅に改訂 今回の糖尿病治療ガイド2020-2021の改訂では、11章に「病態やライフステージに基づいた治療の実例」を新設し、全面的に内容をアップデートした。 糖尿病治療ガイド2020-2021で改訂された主な項目は次のとおり。・4章「食事療法」の記載内容を、『糖尿病診療ガイドライン2019』に合わせ大幅に改訂。・初版以来、基本変更がされていなかった「糖尿病治療の目標」と「インスリン非依存状態の治療」の図を大幅に改訂。・6章「薬物療法」と付録「血糖降下薬一覧表」を2020年4月現在の薬剤情報にアップデート。・具体的な治療薬の選択基準を示すべく、11章「病態やライフステージに基づいた治療の実例」を新設。 本書の序文では、「日々進歩している糖尿病治療の理解に役立ち、毎日の診療に一層活用されることを願ってやまない」と診療での活用に期待を寄せている。■糖尿病治療ガイド2020-2021主な目次項目 1.糖尿病 疾患の考え方 2.診断 3.治療 4.食事療法 5.運動療法 6.薬物療法 7.糖尿病合併症とその対策 8.低血糖およびシックデイ 9.ライフステージごとの糖尿病 10.専門医に依頼すべきポイント 11.病態やライフステージに基づいた治療の実例 付録/索引

2217.

COVID-19、ICU入室患者の臨床的特徴/JAMA

 集中治療を要する新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染患者の臨床的特徴の情報は限られている。イタリア・Fondazione IRCCS Ca' Granda Ospedale Maggiore PoliclinicoのGiacomo Grasselli氏らCOVID-19 Lombardy ICU Networkの研究グループは、同国ロンバルディア州の集中治療室(ICU)に入室した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の調査を行った。その結果、ICU入室患者の多くは高齢男性で、機械的換気を要する患者が9割近くに及び、呼気終末陽圧(PEEP)値が高く、ICU内死亡率は26%に達したことがわかった。研究の詳細は、JAMA誌2020年4月28日号で報告された。ICUベッドの利用や集中治療の提供の状況は国によって異なるが、ICU治療を要する重篤なCOVID-19患者のベースラインの特徴やアウトカムに関する情報は、地域の集団発生に対処するための取り組みの計画に従事する保健当局や政府関係者にとってきわめて重要である。確定例の9%が入室、年齢中央値63歳、82%が男性 本研究は、2020年2月20日~3月18日の期間に、ロンバルディア州の72のICUに入室したCOVID-19確定例を後ろ向きに評価した症例集積研究である(イタリアFondazione IRCCS Ca’ Granda Ospedale Maggiore Policlinicoの助成による)。最終フォローアップ日は2020年3月25日であった。 この期間に、鼻咽頭拭い液を検体とし、リアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(RT-PCR)で確定されたSARS-CoV-2感染患者は1万7,713例で、1,593例(9%)がICUに入室した。データが得られなかった2例を除く1,591例が解析に含まれ、人口統計学データと臨床データが収集された。 1,591例の年齢中央値は63歳(四分位範囲[IQR]:56~70、範囲:14~91)で、1,304例(82%)が男性であった。また、363例(23%)が71歳以上、203例(13%)は51歳未満だった。高血圧が多くCOPDは少ない、88%で機械的換気 データが得られた1,043例中、709例(68%)で1つ以上の併存疾患が認められた。最も多かったのは高血圧で、509例(49%)にみられ、次いで心血管疾患が223例(21%)、脂質異常症が188例(18%)、2型糖尿病が180例(17%)の順であり、慢性閉塞性肺疾患(COPD)は42例(4%)と少なかった。80歳以上は全例が、60歳以上は76%が、何らかの併存疾患を有していた。 呼吸補助のデータが得られた1,300例中、1,287例(99%)がICUで呼吸補助を必要とし、このうち1,150例(88%)は気管内挿管と機械的換気を、137例(11%)は非侵襲的換気を要した。また、データが得られた1,017例のPEEP中央値は14cmH2O(IQR:12~16)で、999例中887例(89%)で吸入気酸素濃度(FIO2)が50%以上であった。781例の動脈血酸素分圧(PaO2)/FIO2比中央値は160(IQR:114~220)だった。 年齢中央値(63歳)で2群に分けると、PEEP中央値は63歳以下(503例)が14cmH2O(IQR:12~15)、64歳以上(514例)も14cmH2O(12~16)であり、両群間に差は認められなかった(群間差:0、95%信頼区間[CI]:0~0)。また、FIO2中央値は63歳以下が60%(IQR:50~80)、64歳以上は70%(50~80)(群間差:-10%、95%CI:-14~-6)で、PaO2/FIO2比中央値は63歳以下が163.5(IQR:120~230)、64歳以上は156(110~205)であった(7、-8~22)。入室時27%で腹臥位換気、1%でECMO、高血圧患者は高齢 入室時に、875例中240例(27%)が腹臥位換気による治療を受け、498例中5例(1%、51~60歳が2例、61~70歳が3例)が体外式膜型人工肺(ECMO)による治療を要した。 高血圧患者(509例)は、非高血圧患者(526例)に比べ高齢であった(年齢中央値[IQR]:66歳[60~72]vs.62歳[54~68]、群間差:4、95%CI:2~6、p<0.001)。また、高血圧患者は、PaO2/FIO2比が低かった(中央値[IQR]:146[105~214]vs.173[120~222]、中央値の群間差:-27、95%CI:-42~-12、p=0.005)。64歳以上のICU内死亡率は36%、全体の入室期間中央値は9日 2020年3月25日の時点で、データが得られた1,581例のうち920例(58%)がICU入室中で、256例(16%)がICUから退室しており、405例(26%)はICU内で死亡した。また、ICU内死亡率は高齢患者で高かった(21~40歳:4/56例[7%]、41~50歳:16/142例[11%]、51~60歳:63/423例[15%]、61~70歳:174/596例[29%]、71~80歳:136/340例[40%]、81~90歳:11/21例[52%]、91~100歳:1/1例[100%])。高齢患者(64歳以上、786例)は、若年患者(63歳以下、795例)に比べICU内死亡率が高かった(36% vs.15%、群間差:21%、95%CI:17~26、p<0.001)。ICU退室患者の割合は、若年患者のほうが高かった(11% vs.21%、-9%、-13~-6、p<0.001)。 2020年3月25日の時点で、ICU入室期間中央値は9日(IQR:6~13)であった(1,591例)。内訳は、ICU入室中の患者(920例)が10日(8~14)、退室患者(256例)が8日(5~12)、ICU内死亡例(405例)は7日(5~11)だった。また、高血圧の有病率は、ICU内死亡患者が退室患者よりも高かった(63% vs.40%、群間差:23%、95%CI:15~32、p<0.001)。 著者は、「患者の多くは、呼吸補助を要する急性低酸素性呼吸不全のためICUへ入室となった。機械的換気の割合(88%)は、最近の中国や米国からの報告(30~71%)よりも高かった」としている。

2218.

ダパグリフロジン、FDAがHFrEFに承認/AstraZeneca

 米国食品医薬品局(FDA)は2020年5月5日、SGLT2阻害薬のダパグリフロジン(商品名:フォシーガ)について、2型糖尿病合併の有無にかかわらず、左室駆出率が低下(NYHA心機能分類:II~IV)した心不全(HFrEF)の成人患者の心血管死および心不全入院のリスク低下に対する適応を承認した。英国・AstraZeneca社が発表した。HFrEFに対してFDAが承認した初のSGLT2阻害薬となる。 本承認は、第III相DAPA-HF試験の良好な結果に基づいている。本試験では、ダパグリフロジンを標準治療への追加治療として用い、HFrEF患者において、主要複合評価項目である心血管死または心不全悪化の発現率をプラセボと比較し26%低下させた(絶対リスク減少率[ARR]=5%[100患者・年当たりのイベント率換算で、それぞれ11.6例vs.15.6例]、p<0.0001)。試験期間中、ダパグリフロジン投与群では、21患者当たり1件の心血管死または心不全による入院/緊急受診を回避した。 なお、わが国における適応症は「2型糖尿病」および「1型糖尿病」であり、心血管死および心不全による入院リスク低下に対する適応は取得していない。

2219.

統合失調症に対するドパミンD2/D3受容体パーシャルアゴニストの忍容性の比較

 アリピプラゾール、ブレクスピプラゾール、cariprazineは、ほかの第2世代抗精神病薬と異なり、ドパミンD2/D3受容体に対するパーシャルアゴニスト作用を有している。オーストラリア・モナッシュ大学のNicholas Keks氏らは、3剤のドパミンD2/D3受容体パーシャルアゴニストについて比較を行った。CNS Drugs誌オンライン版2020年4月3日号の報告。 主な結果は以下のとおり。・アリピプラゾールとは対照的に、ブレクスピプラゾールは、ドパミンD2活性が低く、セロトニン5-HT1Aおよび5-HT2A受容体親和性が高い。一方、cariprazineは、ドパミンD3受容体親和性が最も高く、半減期も最も長い。・ドパミン受容体パーシャルアゴニスト(DRPA)の主な副作用は、軽度~中等度のアカシジアであり、多くは治療開始数週間のうちにごく一部の患者で認められる。・DRPA間の違いについて、決定的な結論に至るには直接比較研究が必要ではあるが、入手可能なエビデンスによる比較では、アカシジアはブレクスピプラゾールが最も発生率が低く、cariprazineが最も高いと考えられる。・体重増加リスクは、アリピプラゾールとcariprazineは低く、ブレクスピプラゾールは中程度である。・DRPAは、過鎮静、不眠症、悪心のリスクが低かった。・DRPAは、高プロラクチン血症リスクが低く、おそらく性機能障害リスクも低いと考えられる。・一部の患者では、プロラクチン濃度の低下が認められ、とくにDRPA治療開始前にプロラクチンレベルが上昇している患者で認められた。・DRPAは、有害事象による治療中止率は低く、忍容性は良好であった。・アリピプラゾールは、おそらくDRPA活性による病的賭博やほかの衝動制御行動と関連している可能性がある(ブレクスピプラゾールおよびcariprazineでの報告は認められなかった)。・DRPAによる糖尿病および遅発性ジスキネジアリスクは明らかではなかったが、低リスクであると考えられる。 著者らは「DRPAの忍容性は良好であることから、とくに統合失調症の治療初期における第1選択治療として検討すべきである」としている。

2220.

「家だと飲み過ぎてしまう」という患者さん【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第32回

■外来NGワード「外で飲むのをやめなさい」(すでにやめている)「お酒の量を減らしなさい」(あいまいな節酒指導)「お酒をやめなさい!」(無理な禁酒指導)■解説 徒然草には、「百薬の長とはいへど、万(よろづ)の病は酒よりこそ起れ」(酒は百薬の長というが、さまざまな病気は酒から起こる)という一節があります。まったくお酒を飲まない人に比べて、“節度ある適度な飲酒”(1日平均純アルコール:20g程度)をする人のほうが死亡率が低いとの報告もありますが、飲み過ぎはさまざまな病気を引き起こすことが昔から知られています。では、なぜ人は飲み過ぎてしまうのでしょうか。原因の一つに「ストレス」が挙げられます。お酒を飲むことでストレスが緩和されるため、ストレスがあるとお酒を飲みたくなる。つまり、ストレスが多いと、アルコール多飲の悪循環に陥りやすくなるのです。そのメカニズムとして、不快感をつかさどる神経ペプチドの関与などが次第に明らかとなってきています。抗ストレス作用のある神経ペプチドY(NPY)の働きに対し、ストレスによる不快感を増大させるコルチコトロピン放出因子(CRF)の働きが上回ることで、アルコール摂取が促進されると考えられています。新型コロナ感染拡大防止の観点から、「3密」を避けるために、居酒屋やバーなどで飲む機会が減り、一人暮らしの人は孤立しやすい状況です。テレビで朝から晩まで新型コロナ情報を見ていると、ストレスが溜まり、その結果として飲酒量が増えている人がいるかもしれません。外に比べて家で飲むお酒の量が増える人の特徴として、ストレス解消の手段として飲酒をしている、安いお酒を買い込む癖がある、昼夜問わず酒を飲んでいるなどが挙げられます。この機会に飲酒習慣を見直して、楽しく節酒できるといいですね。 ■患者さんとの会話でロールプレイ医師最近、お酒は飲んでいますか?患者はい。外で飲めないので、家で飲んでいます。医師飲む量は、外で飲んでいたときと比べてどうですか?患者うーん、どちらかというと増えたかもしれません。医師えっ、家で飲むのに、どうしてですか?患者家だと、かなり酔っぱらうまで飲んでしまって…。医師なるほど。外で酔っぱらうと、家まで帰るのが大変ですからね。患者あとは最近、発泡酒が安かったので箱買いしてしまったんです。医師安いと、ついつい飲み過ぎてしまいますよね。患者そうなんです。血糖値も上がってきているし、何とかしないと。医師それなら、いい方法がありますよ!患者ほう、どんな方法ですか?(興味津々)医師家でも、外で飲んでいる雰囲気にするんです。健康的なおつまみを手作りしたり、水をおしゃれな容器に入れてチェイサーを準備したり。患者なるほど。医師あと、お酒は少し贅沢をして高価な物がいいですね。患者確かに、それだと勢いよくは飲めないですね。医師そして大事なのは、飲み終わる時間を決めること。もちろん、外食だと行かない日もあるので、休肝日もお願いしますね。患者ハハハ。家でも、いろいろ工夫すれば楽しくなりますね。やってみます。(うれしそうな顔)■医師へのお勧めの言葉「お酒を飲む量は、外で飲んでいたときと比べてどうですか?」「家でも外で飲むときのように、いろいろ工夫してみてはいかがですか?」1)Pleil KE, et al. Nat Neurosci. 2015 Apr;18:545-52. [Epub 2015 Mar 9].2)Clay JM, et al. Lancet Public Health. 2020 Apr 8. [Epub ahead of print]

検索結果 合計:4993件 表示位置:2201 - 2220