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経口GLP-1抗肥満薬が注射に取って代わりうる効果ありLillyの経口GLP-1受容体作動薬(GLP-1薬)であるorforglipronが肥満の2型糖尿病(T2D)患者の体重を10%ほど減らし1,2)、本年中に承認申請が始まります3)。肥満に使うことが承認されているGLP-1薬2つ(リラグルチドとセマグルチド)とGLP-1受容体とGIP受容体の両方の作動薬(チルゼパチド)はどちらも注射薬で、ペプチドを成分とします。経口のセマグルチドはT2Dに使うことが承認されていますが、肥満への使用はまだ承認に至っていません。orforglipronはペプチドが成分のそれらの薬と違って低分子化合物ですが、働きは似ており、生来のホルモンであるGLP-1のように振る舞います。ATTAIN-1と銘打つ先立つ第III相試験で、orforglipronはT2Dではない肥満成人の体重を72週時点で平均して11%ほど減らしました4)。別の試験でのセマグルチド注射群の同様の期間での約15%の体重低下5)には及ばないものの、orforglipronはより手軽な経口薬であり、注射薬のように痛い思いをせずに済むという強みがあります。今回Lancet誌に結果が掲載された第III相ATTAIN-2試験は、肥満に加えてT2Dでもある患者にもorforglipronが有益なことを示すべく実施されました。試験は世界10ヵ国(アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、中国、チェコ共和国、ドイツ、ギリシャ、インド、韓国、米国)の136施設から、BMIが27kg/m2以上でHbA1cが7~10%(53~86mmol/mol)の患者を募って実施されました。3千例弱(2,859例)から選定した1,613例が1日1回服用のorforglipron低(6mg)、中(12mg)、高(36mg)用量かプラセボに1:1:1:2の割合で割り振られました。72週時点でorforglipron高用量群の体重はベースラインに比べて平均10%ほど減っていました。中用量群と低用量群はそれぞれ7%と5%ほど減っており、どの用量もプラセボ群の約3%低下を有意に上回りました。orforglipronは血糖値も有意に下げました。高用量群のHbA1cはもとに比べて差し引きで2%近く低下し、およそ4例に3例ほどが目標水準の7%未満を達成しました。orforglipron中・高用量群のおよそ10例に1例はもっぱらGLP-1薬につきものの悪心、嘔吐、下痢などの胃腸有害事象で服薬を中止せざるを得ませんでした。とはいえ著者のDeborah Horn氏によると、ほとんどの被験者は副作用を乗り越えられるようです2)。orforglipronの副作用特徴はGLP-1薬と一致していました。ATTAIN-1試験に次いでATTAIN-2試験が今回完了したことを受けて、orforglipronの承認申請に必要な臨床情報がそろったとLillyは言っています3)。Lillyは本年中に同剤を承認申請し、来年には米国での承認を得ることを目指しています。orforglipronは体重減少と血糖改善に加えてウエスト周囲径を細くし、血圧、コレステロール、トリグリセライド値を下げもします。ゆえに心血管代謝に手広く有益なようです1)。それに、注射器や冷蔵が不要なので、製造して、保管して、患者に届けるのが注射GLP-1薬に比べて安く済みそうです2)。とくに低~中所得国で高価で入手困難となっている注射GLP-1薬に比べてorforglipronはより多くの患者に届けることができそうです。orforglipronの体重低下効果は注射GLP-1薬に若干見劣りするかもしれませんが、総合的には注射GLP-1薬に似た成績を達成しうるようであり、待望の経口薬として多くの患者の手に渡って肥満治療を様変わりさせるかもしれません(potentially shifting treatment paradigm)1)。 参考 1) Horn PDB, et al. LANCET. 2025 Nov 20. [Epub ahead of print] 2) Daily pill could offer alternative to weight-loss injections / NewScientist 3) Lilly's oral GLP-1, orforglipron, is successful in third Phase 3 trial, triggering global regulatory submissions this year for the treatment of obesity / PRNewswire 4) Wharton S, et al. N Engl J Med. 2025;393:1796-1806. O 5) Wilding JPH, et al. N Engl J Med. 2021;384:989-1002.