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<先週の動き> 1.高齢者薬物療法ガイドライン10年ぶり改訂、慎重投与薬と開始推奨薬を更新/老年医学会 2.転院搬送GLを改訂、病院救急車・民間搬送活用で救急逼迫緩和へ/厚労省 3.医療差し控えも選択肢、尊厳守る終末期ケアを/日本老年医学会 4.マイナ保険証スマホ対応拡大9月から本格化、導入費用も支援/厚労省 5.医療政策左右する参院選がスタート、診療報酬改定がカギに/日医ほか 6.高齢者世帯が3割超、単身900万世帯に、支援体制構築が急務/厚労省 1.高齢者薬物療法ガイドライン10年ぶり改訂、慎重投与薬と開始推奨薬を更新/老年医学会日本老年医学会は10年ぶりに『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025』を改訂し、「特に慎重な投与を要する薬物」と「開始を考慮するべき薬物」のリストを更新した。主に75歳以上の高齢者や要介護者を対象に、薬物有害事象のリスク軽減を目的とする。新たな知見や800を超える論文を基に改訂され、多職種連携や高齢者総合機能評価(CGA)の活用も重視されている。「特に慎重な投与を要する薬物」には、糖尿病治療で使用が広がるGLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬が追加され、吐き気・下痢・体重減少といった副作用がサルコペニアやフレイルを悪化させるリスクが指摘された。また、ベンゾジアゼピン系睡眠薬や抗不安薬、抗精神病薬、NSAIDs、利尿薬、抗糖尿病薬など28系統が慎重投与リストに含まれる。その一方で、H2受容体拮抗薬はリストから削除された。「開始を考慮するべき薬物」には、COPD治療薬のLAMA、LABA、副作用が少ないβ3受容体作動薬やPDE5阻害薬が追加された。ACE阻害薬やARB、DMARDsは削除された。さらに、「日本版抗コリン薬リスクスケール」が初めて導入され、抗コリン作用を持つ薬剤158種のリスクを3段階で評価。ポリファーマシー対策や服薬支援に役立つ指標となる。ガイドラインでは、患者のADL、認知機能、生活状況を多職種で共有し、処方の見直しや必要最小限の薬物療法への移行を推奨。漫然と処方し続けることによる健康リスクを防ぐことが求められている。医療現場では、薬剤の必要性を常に再評価し、患者個別の状況に応じた柔軟な対応が重要だ。 参考 1) 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025(日本老年医学会) 2) 「日本版抗コリン薬リスクスケール(JARS)WEB版評価ツール」 公開のお知らせ(同) 3) 高齢者に「慎重な投与を要する薬」リスト公表 老年医学会が改定(毎日新聞) 4) 10年ぶりに改訂された「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」、どう変わった?日経メディカル) 2.転院搬送GLを改訂、病院救急車・民間搬送活用で救急逼迫緩和へ/厚労省救急搬送件数が3年連続で過去最多の記録を更新する中、消防庁と厚生労働省は『転院搬送ガイドライン』を改訂し、救急車の適正利用を推進する新たな方針を示した。今回の改訂では、緊急性の低い転院搬送において、医療機関が病院救急車や救急救命士を活用し、医療主導で搬送体制を整備することを明記し、2024年度の診療報酬改定で新設された「救急患者連携搬送料」の活用も促している。一方、消防庁の調査では、民間の患者等搬送事業者による転院搬送が2024年度に35万7,265件となり、前年比11.7%増と大きく伸びた。事業所数も増加し、救急現場の逼迫緩和に一定の効果を示している。消防庁は、患者等搬送事業者の一覧を各消防本部のホームページに掲載するよう周知し、市民への認知度向上にも努めている。限られた救急資源を本当に必要な事案に投入するためには、医療機関・民間搬送事業者・消防の役割分担が不可欠であり、地域ごとの合意形成と搬送体制整備が喫緊の課題となっている。 参考 1) 転院搬送における救急車の適正利用の推進について(厚労省) 2) 転院搬送GL、病院救急車の活用追加 消防庁・厚労省が改訂(MEDIFAX) 3) 患者等搬送事業者の転院搬送、12%増の36万件 24年度 消防庁(CB news) 3.医療差し控えも選択肢、尊厳守る終末期ケアを/日本老年医学会日本老年医学会は6月27日、人生の最終段階における医療・ケアに関する「立場表明2025」を発表した。2001年、2012年に続く改訂で、75歳以上が2,000万人を超える超高齢社会を背景に、「すべての人が最期まで『最善の医療・ケア』を受ける権利を持つ」と明言した。病気や障害を問わず緩和ケアの推進を掲げ、医療やケアの選択は「本人の満足」を基準とすべきと訴えている。年齢による差別(エイジズム)に反対し、がん以外の心疾患、腎不全、認知症などでも緩和ケアの重要性が増していると指摘。とくに認知症では苦痛の訴えが困難なことから啓発の必要性を強調した。人生の最終段階は、病状や老衰が不可逆的で回復困難な状態にあり、医療・ケアチームが本人の意向を尊重した上で、人生の「最終章」と捉えられる場合と定義。本人の尊厳や苦痛への配慮から、医療行為の差し控えや終了も選択肢とし、その判断は安楽死や自殺ほう助とは異なるとした。胃ろうや人工呼吸器の使用については慎重な検討を求める一方で、急変時の治療は「生命の擁護」に必要と位置付けている。 参考 1) 高齢者の人生の最終段階における医療・ケアに関する立場表明2025(日本老年医学会) 2) 病気問わず緩和ケア推進を 人生の最終段階、学会見解(共同通信) 4.マイナ保険証スマホ対応拡大9月から本格化、導入費用も支援/厚労省厚生労働省は、マイナンバーカードと健康保険証を一体化した「マイナ保険証」をスマートフォンで利用できる仕組みの全国展開を進めている。7月から関東15の医療機関で実証実験が始まり、9月以降、環境が整った施設から順次導入される。専用のカードリーダー購入費用は8月から補助され、病院3台、薬局や診療所1台が目安となる。iPhone・Android双方が対応し、スマホ単体での本人確認と資格確認が可能となる。従来の保険証では他人利用や有効期限切れの問題があったが、スマホ化で厳密な本人確認と医療データ活用が期待される。一方、マイナンバーカード本体と電子証明書は2025年から大量の更新期限を迎え、更新忘れによる保険証利用不可や医療機関でのトラブルが懸念されている。政府は次期カードへの切り替えや周知も進め、マイナ保険証の利用率向上と医療DXの推進を目指す。利便性の向上とともに、制度理解と更新手続きの周知が急務となっている。 参考 1) スマホでマイナ保険証利用 医療機関の導入費用補助へ 厚労相(NHK) 2) スマホ搭載のマイナ保険証、受け付け機器導入費を補助 厚労省(日経新聞) 3) スマホを使った「マイナ保険証」の実証実験スタート スマホ1台で保険診療が受けられる(ITmedia) 4) マイナンバーカード2025年問題 迫る2つの期限切れ、何が起きる?(日経新聞) 5.医療政策左右する参院選がスタート、診療報酬改定がカギに/日医ほか2025年7月3日に公示された第27回参議院議員選挙は、医療・介護・福祉の未来を左右する重要な選挙として、医療関係団体が強い関心を寄せている。日本医師会の松本 吉郎会長は「わが国の医療・介護・福祉の未来を問う選挙」と位置付け、診療報酬改定や財源確保の必要性を訴えている。とくに2025年度補正予算や2026年度診療報酬改定に向け、物価高や賃金上昇に対応した医療機関経営の安定化が急務とされている。日本病院会の相澤 孝夫会長も、日病の提言に賛同する候補を積極的に支援する方針を示し、病院経営支援や入院基本料引き上げ、かかりつけ医機能強化を訴えた。また、釜萢 敏氏(日本医師会副会長)が組織内候補として比例区から出馬し、「医療施設の突然の崩壊防止」「医療従事者の処遇改善」に全力を尽くす決意を表明した。一方、政府は「骨太の方針2025」で社会保障費の伸びを一定程度容認しつつも、医療費抑制策を打ち出している。その一環としてOTC類似薬の保険適用除外が検討され、患者負担増加への懸念が高まっている。これに対し医療界からは、必要な治療薬の負担増が患者の健康や生活を脅かすと反対の声が上がっている。今回の選挙には医師資格保持者20人が立候補し、医療・介護・福祉に関する政策が争点となっている。とくに日本医師会の政治団体である日本医師連盟が擁立した釜萢氏は、新型コロナ対応や医療現場の声を政治に届ける実績を持ち、今後は「持続可能な医療提供体制」「限りある財源の公平な配分」に注力するとしている。日医は40万票超の得票を目指し、医療界の結束を呼び掛けている。OTC薬の保険適用除外による国民負担増問題や、診療報酬改定の行方など、参院選後も医療界と政治の関係は緊密な対応が求められる。医師としての視点からも、医療政策と財源確保への理解と関心が重要となる。 参考 1) 釜萢常任理事を次期参議院選挙比例区(全国区)の推薦候補者として擁立することを決定(日医) 2) 日医・松本会長 参院選は「我が国の医療・介護・福祉の未来を問う選挙」 医療財源の確保に決意(ミクスオンライン) 3) 石破政権「医療費改悪」でOTC類似薬が保険適用除外へ 解熱剤は40倍、湿布薬は36倍に自己負担額増加 “安く作れるクスリの保険適用”をなぜやめるのか(マネーポストWEB) 6.高齢者世帯が3割超、単身900万世帯に、支援体制構築が急務/厚労省厚生労働省が発表した2024年「国民生活基礎調査」によると、全国の世帯総数は約5,482万5,000世帯で、65歳以上の高齢者がいる世帯は約2,760万世帯と半数を超え、単身の高齢者世帯は初めて900万世帯を突破し、過去最多となった。とくに75歳以上の高齢者や女性の割合が高く、孤立や生活支援の必要性が指摘されている。一方、18歳未満の子供がいる世帯は約907万世帯と過去最少で、全体の16.6%に止まった。生活が「苦しい」と感じている世帯は全体の6割に上り、子供がいる世帯では64.3%ととくに高く、物価高の影響も背景にある。子育て世帯の母親の就業率は80.9%と過去最高となり、正規雇用34.1%、非正規36.7%と、生活維持のため女性就労が不可欠な状況が鮮明になっている。また、副業・兼業の普及は進まず、実施者は全体の3%に止まっており、労働時間管理の煩雑さが障壁となっている。政府は2026年の労働基準法改正を目指し、労働時間の通算管理の見直しを検討。高齢化、子育て世帯の減少、生活苦、人手不足など、多層的な社会課題が浮き彫りとなっている。 参考 1) 2024(令和6年) 国民生活基礎調査の概況(厚労省) 2) 高齢者世帯 数・割合とも過去最高-厚労省(CB news) 3) 子育て世帯「母親が仕事」8割超す 厚労省調査で過去最高(日経新聞) 4) 65歳以上の「単身高齢者」 初めて900万世帯超える 厚労省(NHK)