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GLP-1薬は体重減少効果以外の仕組みのがん予防効果を有するらしい先週11~14日のスペインでの欧州肥満学会で取り上げられたイスラエルの研究者の発表によると、GLP-1受容体作動薬(GLP-1薬)は体重減少がもたらす以上のがん予防効果を有するようです1,2)。GLP-1薬と肥満手術はどちらも糖尿病や肥満の治療として確立としています。肥満手術は糖尿病や肥満と関連するいわゆる肥満関連がん(ORC)を生じ難くすることが長期の試験やメタ解析で裏付けられており、発生率の32~45%の低下をもたらします。一方、肥満治療薬(肥満薬)のがん予防効果のほどはよくわかっていませんが、2型糖尿病、肥満、それらの合併症を制しうるGLP-1薬も肥満手術と同様にORCを生じ難くするかもしれません。実際、米国の2型糖尿病患者およそ165万例の最長15年間の経過を解析したレトロスペクティブ試験でGLP-1薬とORCの発生率低下の関連が示されています。GLP-1薬投与群は調べた13種のORCうち10種(食道、大腸、子宮内膜、胆嚢、腎臓、肝臓、卵巣、膵臓のがん、髄膜腫、多発性骨髄腫)の発生率がインスリン投与群に比べて低くて済んでいました3)。同試験の著者はいくつかの課題の1つとして、GLP-1薬とがんの発生率の関連を肥満手術と比べる必要があると述べていました。イスラエルの人口の半数超が加入している保健組合Clalitの研究者らはまさにその課題に取り組み、GLP-1薬と肥満手術のORCを減らす効果を同組合の患者の電子カルテを使って比較しました。比較されたのは24歳以上で、肥満かつ糖尿病の患者の第一世代GLP-1薬開始後と肥満手術後のORCの発生率です。2010~18年にGLP-1薬を開始した群と肥満手術を受けた群の患者はどちらも同数の3,178例で、性別、年齢、BMIが一致するように1対1の割合で選定されました。2023年12月までの追跡期間中央値7.5年のあいだに298例にORCが生じました。最も多かったのは閉経後乳がんで77例に生じました。その次に多かったのは大腸がんで49例、3番目に多かった子宮がんは45例に生じました。肥満手術群のほうが体重はより減ったものの、ORCの発生率は肥満手術群とGLP-1薬投与群で似たりよったりで、それぞれ1,000人年当たり5.76と5.64でした。肥満手術群のBMI低下は31%で、GLP-1薬のBMI低下14%を2倍以上上回りました。そのような体重減少の効果を差し引くと、GLP-1薬の体重減少以外の作用によるORC発生率低下は肥満手術に比べて41%高いと推定されました。GLP-1薬がORCを防ぐ効果は炎症の抑制などのいくつかの仕組みによるのかもしれません。より用を成し、より体重を減らす新世代のGLP-1薬のORC予防効果はさらに高いと期待できそうですが、無作為化試験やより大人数の観察試験でORCの予防効果をさらに検証し、その効果の仕組みの理解に取り組む必要があります。また、新世代のGLP-1薬がORC以外のがんを増やさないことの確認が必要と研究リーダーの1人Dror Dicker氏は言っています2)。幸い、10試験の7万例超を調べた最近のメタ解析では、2型糖尿病患者のGLP-1薬使用のがん全般の発生率はプラセボに比べて高くないことが示されています4,5)。 参考 1) Wolff Sagy Y, et al. eClinicalMedicine. 2025 May 11. [Epub ahead of print] 2) GLP-1 receptor agonists show anti-cancer benefits beyond weight loss / Eurekalert 3) Wang L, et al. JAMA Netw Open. 2024;7:e2421305. 4) Lee MMY, et al. Diabetes Care. 2025;48:846-859. 5) expert reaction to conference poster about GLP-1 obesity drugs (compared with bariatric surgery) and obesity-related cancer / Science Media Centre