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INDEX患者団体から大学への寄付IDDMの原因と研究背景佐賀大学での研究成果と日本IDDMネットワークの思い患者が身銭を切る現実、医療者は、政府はどう感じるか患者団体から大学への寄付世の中とはまだまだ知らないことにあふれている。最近、そう思わされることがあった。それはネットで流れてきた「糖尿病予防ワクチン開発へ1,000万円助成 佐賀大学が2029年完成目指し研究」というニュースだ。関係者には申し訳ないが、最初はネットニュースなどでありがちなin vitroのデータを基に「〇〇が××に効く」的に大げさに報じられたレベルのニュースかと思ったが、よく記事を読み、その内容を調べてみると、なかなかに面白い。糖尿病専門医ならばもはや周知のことなのかもしれないが、私自身は初耳だった。ニュースの概略は、1型糖尿病(IDDM)の発症に関与する可能性があるウイルスの感染を予防するワクチン研究に取り組んでいる佐賀大学の研究に対し、IDDMの患者団体である認定NPO法人・日本IDDMネットワークが1,000万円の研究助成金を提供したというものだ。患者団体が研究機関や研究者を支援するために、寄付を行うことは日本でも珍しいとまでは言えないが、私が知る範囲では、寄付金額は高くとも百万円単位。ちなみに寄付文化が日本より盛んな欧米などでは、患者団体が億単位の研究助成金を提供することもある。その意味では今回のケースは珍しい部類に入るだろう。IDDMの原因と研究背景さてIDDMとウイルス感染との関連だが、その端緒は半世紀以上前の1969年、英国からの研究報告1)である。余談ながら、同年は私が生まれた年である。この研究は、0~19歳のIDDMの新規発症が夏から秋・冬にかけて増加し、10月頃に緩やかなピークを迎えた後、翌夏にかけて減少していくパターンを示し、四半期単位でみると、統計学的に有意な変動があったというもの。研究者側は発症に季節性がある疾患は感染症に起因することが多いとの仮説に基づき、IDDM新規発症数の季節変動・年次推移と当時の英国公衆衛生研究所(現・英国健康安全保障庁)のウイルスの流行データを調べ、コクサッキーB群ウイルス(B1〜B5型)のB4型ウイルスの流行と若年のIDDMの年間新規発症数との間に有意な正の相関が認められたと報告した。もっともこの時点で論文に記述された結論は「私たちは、今回の結果が感染症と若年性糖尿病との関連性を示すさらなる証拠を提供するものであると結論付けるが、これらの知見の病因論的な(因果関係における)重要性については、いまだ不確実なままである」というものだった。そして同じ研究者が1973年に発表した研究2)はさらに一歩進んでおり、IDDM新規発症患者と非糖尿病かつ直近でウイルス感染症に罹患歴がない対照群との比較で、IDDM患者ではコクサッキーB4型ウイルスに対する中和抗体値が有意に高いと報告した。この件がより確信度が高くなったのは、さらに6年後の1979年に米国からもたらされた報告である。これは糖尿病性ケトアシドーシスで亡くなった10歳男児の膵臓ホモジネートを培養細胞に接種したところ、細胞へのウイルス感染が確認され、解析結果からそのウイルスがコクサッキーB4型ウイルスだと判明したとの症例報告である。コクサッキーB4型ウイルスが膵臓に感染している事実が判明したということだ。これが1症例の報告にもかかわらず、NEJM誌に掲載された3)という事実からも、その衝撃度は当時としても相当なものだったことが窺い知れる。その後、小児を対象にした複数の前向きコホート研究からコクサッキーB群ウイルスによる感染が、IDDMの発症に関与する自己抗体の陽性化に先行して起こることも確認された。後に、とくに発症への関与度が強いのは「コクサッキーB1型ウイルス」であることも判明している。佐賀大学での研究成果と日本IDDMネットワークの思いこうしたさまざまな研究から、現在推定されているコクサッキーB群ウイルスによるIDDM発症の機序は、ヒトに感染したコクサッキーB群ウイルスが膵β細胞に感染・増殖すると、β細胞で炎症が起き、β細胞のタンパク質が免疫細胞に提示され、自己反応性T細胞が活性化することで自己免疫反応が慢性化して発症に至るというものである。もっとも、現状でもコクサッキーB群ウイルスは、IDDMの原因と証明されたわけではなく、有力な環境因子ということでコンセンサスを得ている。そこで、今回の本丸である「日本IDDMネットワークが研究助成金を提供した研究」だが、佐賀大学医学部肝臓・糖尿病・内分泌内科特任教授(九州大学名誉教授)の永淵 正法氏らが取り組んでいるものである。永淵氏らは、ヒトのコクサッキーB群ウイルスが感染できる特殊な遺伝子改変マウスの作製に成功した。また、前述のようにコクサッキーB群ウイルスは、あくまで有力な環境因子という位置付けだが、永淵氏らはコクサッキーB群ウイルス感染でIDDMを発症しやすいのは、ウイルス感染時に感染拡大を食い止めるインターフェロンにかかわるインターフェロン受容体関連シグナル伝達分子のチロシンキナーゼ2遺伝子(TYK2)に変異がある場合であることを突き止めている。今後はコクサッキーB群ウイルス内でさらに糖尿病発症に関与度が高いウイルスの特定やワクチンデザインと動物実験での効果検証を経て臨床試験開始を目指しているという。そしてさらに驚いたのが、日本IDDMネットワークがこの研究に助成したのは、これが9回目で、提供した研究助成金は累計1億770万円。それほどまでに患者の期待は高いということだ。患者が身銭を切る現実、医療者は、政府はどう感じるか今回、この件で私がふと思い出したのが、記者になりたての1990年代後半、ある新聞で読んだ海外の糖尿病患者団体トップのインタビューである。記事でこのトップが語っていた「私たちが本当に望んでいるのは、良好なコントロールが得られることではなく治癒」という言葉に私は相当な衝撃を受けた。当時の私は、周囲の人間より医学知識が増えていたがゆえに、どこか得意になっていたところがある。たとえば、医学的な知識に乏しい人々が「〇〇の水を飲んだら、がんが消えたらしい」という話などをしていると、「がんが水ごときで治るはずはないだろう」と得意げに反論していた。当時、同じようなケースを糖尿病患者で目の当たりにしていれば、「糖尿病は一生治らないよ」と上から目線で話していたに違いない。前述の糖尿病患者団体トップの記事はそんな自分の慢心に冷や水を浴びせたものだった。たとえ医学的に不可能と言われようと、患者とは常に治癒を願うもの。以来、それを前提にどう報じるかが自分のミッションだと考えてきた。しかしだ、冒頭の書き出しを読めばわかる通り、私は再びそのことを忘れかけていたようである。そのうえであえて不遜な物言いをすれば、これは医療者にも少なからず共通することとは言えないだろうか?一方、今回の件を通じてもう1つ考えさせられたのは、一日千秋の思いで、より良い治療を待つ患者が身銭を切って研究者を支える現実である。本来これは公がやるべきことではないだろうか? 幸い(?)にも首相の高市 早苗氏は「責任ある積極財政」「先端技術を花開かせる成長投資を大胆かつ戦略的に進める」「攻めの予防医療」などを政権公約に掲げている。この言葉通りなら、ぜひとも全国津々浦々で行われている今回のような地道な研究にも目を向け、支援をしてもらいたいものである。参考1)Gamble DR, et al. Br Med J. 1969;3:631-633.2)Gamble DR, et al. Br Med J. 1973;4:260-262.3)Yoon JW, et al. N Engl J Med. 1979;300:1173-1179.