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認知症になりやすい遺伝的背景のある糖尿病患者も生活習慣次第でリスクが著明に低下

 2型糖尿病患者が心臓や血管に良い生活習慣を続けた場合、認知機能の低下を防ぐことができる可能性が報告された。特に、認知症リスクが高い遺伝的な背景を持つ人では、この効果がより大きいという。米テュレーン大学のYilin Yoshida氏らの研究によるもので、詳細は米国心臓協会(AHA)年次学術集会(AHA Scientific Sessions 2025、11月7~10日、ニューオーリンズ)で発表された。 AHA発行のリリースの中でYoshida氏は、「2型糖尿病患者は認知機能低下のリスクが高く、これには複数の因子が関連している。例えば、肥満、高血圧、インスリン抵抗性などが認知機能低下に関連していると考えられる。そして、それらの因子をコントロールすることは、心臓や血管の健康状態を維持・改善することにもつながる」と述べている。 この研究では、英国の一般住民を対象とした大規模疫学研究「UKバイオバンク」の参加者のうち、認知症でない4万人以上の成人2型糖尿病患者を対象に、認知症の遺伝的リスクと、心臓や血管の健康状態を調査した。後者の「心臓や血管の健康状態」の調査では、AHAが提唱している「Life’s Essential 8(健康に欠かせない8項目)」の遵守状況を調べた。具体的には、Life’s Essential 8に含まれている4項目の生活習慣と4項目の検査値をそれぞれスコア化した上で、不良、中程度、良好という3群に分類した。なお、Life’s Essential 8の8項目は以下のとおり。1. 健康に良い食習慣2. 積極的な身体活動3. タバコを吸わない4. 健康的な睡眠5. 適正体重の維持6. コレステロールのコントロール7. 血糖値のコントロール8. 血圧のコントロール この研究参加者の健康状態を13年間にわたって追跡したところ、840人が軽度認知障害となり、1,013人が認知症を発症していた。心臓や血管の健康状態が中程度または良好な人は不良の人に比べて、軽度認知障害または認知症を発症するリスクが15%低かった。また、心臓や血管の健康状態は、認知機能にとって重要な脳の灰白質という部分の体積と強い関連があった。 これらの関連は、対象者の遺伝的な認知症リスクを考慮に入れた解析により、いっそう明確に示された。つまり、認知症リスクが高い遺伝的な背景を持つ人では、そのリスクが低い、または中程度の人に比べて、心臓や血管の健康状態が良好であることで、軽度認知障害または認知症を発症するリスクが顕著に抑制されていた。より具体的には、心臓や血管の健康状態が不良の同世代の人に比べた場合に、軽度認知障害のリスクは27%低く、認知症のリスクは23%低かった。 研究グループの一員である同大学のXiu Wu氏は、「運命は遺伝子で規定されるものではない。心臓と血管の健康を最適な状態に維持することで、遺伝的に認知症リスクが高い2型糖尿病患者であっても、脳の健康を守ることができる」と話している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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1型糖尿病患者の妊娠中の血糖管理にクローズドループ療法は有効である(解説:小川大輔氏)

 1型糖尿病の治療法として、インスリン頻回注射やインスリンポンプが使用されているが、近年は持続血糖モニタリングのデータを利用してインスリンの注入量を自動的に調節するクローズドループ型のインスリン注入システム(クローズドループ療法)が用いられるようになっている。クローズドループ療法は、成人や小児の1型糖尿病の血糖管理に有効であることが報告されているが、妊娠中の1型糖尿病に対しては報告が少なく一定の見解が得られていない。今回1型糖尿病患者の妊娠中の血糖管理におけるクローズドループ療法の効果を検討したCIRCUIT試験の結果が発表された1)。 妊娠中の血糖のコントロール目標は、空腹時血糖値95mg/dL未満、かつ食後2時間値120mg/dL未満と、通常より厳格な管理が求められている2)。そして妊娠中の糖尿病の治療は食事療法と運動療法が基本となり、それでも血糖コントロールが不十分な場合はインスリン療法を行う。妊娠糖尿病(妊娠中に初めて発見された糖代謝異常)は食事療法と運動療法のみで血糖値を管理できることが多いが、薬物療法が必要となった場合は通常の糖尿病治療と異なり、経口血糖降下薬を用いることはなく直ちにインスリン療法を行う。1型糖尿病合併妊娠の場合、ペンによるインスリン注射やインスリンポンプを継続し、妊娠週数と共にインスリン需要量が増加するため、血糖値をモニタリングしながらインスリン投与量の調節を行うことになる。 このCIRCUIT試験は、1型糖尿病で妊娠中の血糖管理におけるクローズドループ療法の有効性を検討した試験である。クローズドループ療法は標準治療と比較して、妊娠16週から34週までの妊娠中の目標血糖値(63~140mg/dL)達成時間の割合(TIR)を有意に改善させたことが報告された。通常のクローズドループ療法ではTIRが70~180mg/dLに設定されているが、この試験は対象が妊娠中ということで通常より厳格な目標が設定されている。それでもクローズドループ療法ではTIRが65.4%と良好な血糖コントロールが得られていたことは注目に値する。主な有害事象としては、重症低血糖がクローズドループ療法で1例、糖尿病性ケトアシドーシスがクローズドループ療法で2例、標準治療で1例報告されたが、対象の症例数が少なく(クローズドループ療法44例、標準治療44例)今後の検討が必要である。 今回の研究により、1型糖尿病患者の妊娠中の血糖管理におけるクローズドループ療法の有効性が示された。今後、1型糖尿病合併妊娠の血糖管理にクローズドループ療法を用いる頻度が増え、妊娠に伴う合併症の発生が低減することを期待したい。ただ本試験では、日本では未承認のタンデム社製Control-IQインスリンポンプが使用されている点には注意が必要である。

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医師が選ぶ「2025年の漢字」TOP10を発表!【CareNet.com会員アンケート】

2025年も残りあと1ヵ月。医療現場にも社会にもさまざまな出来事がありましたが、皆さまにとって今年はどのような1年でしたでしょうか。CareNet.comでは、医師会員1,031人を対象に「今年の漢字」アンケートを実施し、医療現場や社会における出来事、そして日々の暮らしの中で感じた思いを漢字1字に込めて表現していただきました。多く挙げられた漢字TOP10を発表します。第1位「高」(108票)2025年の今年の漢字の第1位には「高」が選ばれました。物価、株価、金、不動産、米、気温など、何かと高いことが話題になった1年でした。コメントでは、物価高で財布のひもが固くなるなど、生活への影響が浮き彫りになりました。また、今年を象徴するもう1つの「高」は何といっても日本史上初の女性として内閣総理大臣に就任した高市 早苗氏です。高市氏について言及する1文字としては「高」のほかにも、「早」「苗」「新」「初」「女」「花」「華」「変」「代」「明」「快」「進」「驚」など多岐にわたりました。「高」を選んだ理由(コメント抜粋)日経平均が最高値を更新したから(産婦人科 50代/北海道)物価高、コスト高など(循環器内科 50代/静岡)すべてが高くなる。低くなったのは購買意欲のみ…(精神科 50代/東京)物価高騰でお金がたまらない(腎臓内科 60代/東京)食料品も米も何もかもが値上がりして高くなっているから(消化器外科 50代/北海道)高齢化の進行加速、高インフレ率、高市首相の誕生(内科 40代/徳島)高市首相になり日経平均株価も最高値をつけたから(形成外科 60代/茨城)物価高、株高、不動産高、新総理高市だから(精神科 50代/東京)物価高と高市早苗総理誕生(内科 60代/奈良)高市政権への期待、米高騰(精神科 40代/東京)高市早苗さんの総理大臣就任(内科 60代/愛知)第2位「熊」(91票)第2位は、これまでランクインしたことのない「熊」でした。各地で熊による深刻な人的被害や目撃情報が相次ぎ、連日のように報道が続いた2025年。本年度の熊による死者数は過去最多を更新し、人身被害者数も過去最多ペースで増加しています。山間部だけでなく住宅地や都市近郊にも出没し、人と野生動物との共存のあり方が改めて問われる1年となりました。フリーコメントでは北海道や東北地方などの医師を中心に不安の声が多く寄せられました。 「熊」を選んだ理由(コメント抜粋)とにかく当地は熊被害に悩まされているので(麻酔科 50代/北海道)今年の後半は熊との戦いがずっとニュースになっていた(外科 60代/北海道)現在は一番の不安の種(精神科 50代/青森)九州・四国を除き、全国規模での対策を余儀なくされているため(整形外科 40代/秋田)全国各地で熊の出没が話題となり、人と自然の距離、共生のあり方を考えさせられた(消化器内科 60代/大阪)■第3位「変」(57票)第3位は「変」。2025年は世界的にも国内的にも社会の変化が著しい1年となりました。コメントでは政治に関する意見が多く寄せられ、女性総理大臣の誕生や政権交代など政治の変化に注目する声が目立ちました。そのほか、気候変動や私生活の変化に触れるコメントも見られました。皆さまにとっての変化はどのようなものがあったでしょうか? 「変」を選んだ理由(コメント抜粋)首相が代わり、政策内容も大きく変わったため(糖尿病・代謝・内分泌内科 30代/静岡)自公政権から自維政権への連立変更、高市政権への変化(循環器内科 30代/神奈川)世界情勢の潮目の変化、女性総理の誕生などあり、医療の面では廃業する医療機関がいよいよ増加してきた印象を受けた(精神科 30代/福岡)アメリカでトランプ政権に代わってから、世界の経済、生活、価値観などが変わってきた(外科 70代以上/大阪)気候変動、物価上昇などの変化(眼科 50代/大分)第4位「米」(41票)第4位は「米」でした。昨年から米の供給がひっ迫し、「令和の米騒動」と呼ばれる状況が発生しました。備蓄米の放出などの対策が講じられたものの、価格の高止まりが続き、家計への負担は依然として大きくなっています。また、米国の「米」の意味でも票が多く集まりました。トランプ政権による関税強化が世界経済に波紋を広げ、貿易・安全保障・産業分野で米国の動向に注目が集まった1年となりました。 「米」を選んだ理由(コメント抜粋)米価が異常に高止まりで失望したので(泌尿器科 50代/東京都)今年は、米不足や米の価格が上昇するなど庶民の生活に大きな影響を与えた(消化器外科 50代/新潟)今年の米価格の高騰はつらかった。ごはん食いなのでお米が高いのはつらい。農家さんが正当に評価されて潤うのならばよいのだが中抜きされているようなので納得がいかない(外科 50代/東京)米の高騰、アメリカの関税合戦(消化器内科 30代/熊本)アメリカにも米価にも振り回された1年だったと思う(呼吸器内科 60代/熊本)第5位「女」(38票)第5位は「女」でした。ほぼすべてのコメントが総理大臣の高市氏に言及しており、わが国初の女性総理大臣の誕生はやはり大きなインパクトを残したようです。コメントでは、高市氏に期待する声が多く寄せられました。なお、これまでに女性が政府のトップを務めたことがある国は、国連加盟国193ヵ国のうち60ヵ国で3割を超えています。 「女」を選んだ理由(コメント抜粋)高市早苗首相が初めての女性首相になったから(麻酔科 40代/長崎)女性総理大臣が就任したので(神経内科 50代/神奈川)高市早苗総理大臣誕生に象徴されるように女性が活躍する時代・社会の真の到来と感じ、「女」を選択(脳神経外科 60代/岡山)高市総理になって何かが変わっていく予感を感じる(リハビリ科 30代/東京)女性初の総理大臣誕生、女性アスリートの活躍(皮膚科 50代/福岡)第6~10位第6位:「新」(25票)第7位:「暑」(24票)第8位:「金」(22票)第9位:「乱」(21票)第10位:「万」(18票) アンケート概要アンケート名2025年の「今年の漢字」をお聞かせください。実施日   2025年11月5日調査方法  インターネット対象    CareNet.com医師会員有効回答数 1,031件

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エボロクマブは、高リスクでない患者にも有効か/NEJM

 PCSK9阻害薬によるLDLコレステロール(LDL-C)低下療法の研究は、心筋梗塞や脳卒中などの重大なアテローム性心血管イベントの既往歴のある、きわめてリスクの高い患者を中心に進められてきた。米国・ブリガム&ウィメンズ病院のErin A. Bohula氏らVESALIUS-CV Investigatorsは、国際的な臨床試験「VESALIUS-CV試験」において、心筋梗塞、脳卒中の既往歴のないアテローム性動脈硬化症または糖尿病患者でも、エボロクマブはプラセボとの比較において、初発の心血管イベントリスクを有意に低下させたことを報告した。本研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2025年11月8日号に掲載された。33ヵ国の無作為化プラセボ対照比較試験 VESALIUS-CV試験は、33ヵ国774施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験(Amgenの助成を受けた)。2019年6月~2021年11月に参加者の無作為化を行った。本試験は、エボロクマブ療法の長期的な有効性と安全性をより詳細に評価するために、中央値で少なくとも4.5年間の追跡調査を行うようデザインされた。 対象は、年齢が男性50~79歳、女性55~79歳で、冠動脈疾患、アテローム性脳血管疾患、末梢動脈疾患、高リスク糖尿病のうち1つ以上を有し、心筋梗塞または脳卒中の既往歴がなく、LDL-C値≧90mg/dL、非HDL-C値≧120mg/dL、アポリポタンパク質B値≧80mg/dLで、安定した至適な脂質低下療法を2週間以上受けている患者であった。 適格患者を、エボロクマブ(140mg、2週ごと)またはプラセボを皮下投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、(1)3点主要心血管イベント(MACE):冠動脈性心疾患による死亡、心筋梗塞、虚血性脳卒中の複合エンドポイント、(2)4点MACE:3点MACEまたは虚血動脈の血行再建の複合エンドポイントの2つとした。48週時のLDL-C中央値は45mg/dL 1万2,257例(年齢中央値66歳[四分位範囲[IQR]:60~71]、女性43%、白人93%)を登録し、6,129例をエボロクマブ群、6,128例をプラセボ群に割り付けた。ベースラインの全体のLDL-C中央値は122mg/dL(IQR:104~149)で、患者の92%が脂質低下療法を受け、72%が高強度脂質低下療法を、68%が高強度スタチン療法を、20%がエゼチミブの投与を受けていた。追跡期間中央値は4.6年(IQR:4.0~5.2)だった。 2,014例が中央検査室による脂質検査を受けた。プラセボ群との比較におけるエボロクマブ群のベースラインから48週までのLDL-C値の最小二乗平均変化率は-55%(95%信頼区間[CI]:-59~-52)、最小二乗平均絶対群間差は-63mg/dL(95%CI:-67~-59)であった。48週時のLDL-C中央値は、エボロクマブ群が45mg/dL(IQR:26~73)、プラセボ群は109mg/dL(86~144)だった。 また、エボロクマブ群では、48週時の非HDL-C値(最小二乗平均変化率:-47%)、アポリポタンパク質B値(-44%)などの他のアテローム性脂質においてもプラセボ群に比べ大きな減少がもたらされた。3点MACE、4点MACEとも有意に改善 3点MACEのイベントは、プラセボ群で443例(5年Kaplan-Meier推定値:8.0%)に発生したのに対し、エボロクマブ群では336例(6.2%)と有意に少なかった(ハザード比[HR]:0.75、95%CI:0.65~0.86、p<0.001)。 また、4点MACEのイベントは、プラセボ群の907例(5年Kaplan-Meier推定値:16.2%)に比べ、エボロクマブ群は747例(13.4%)であり有意に良好だった(HR:0.81、95%CI:0.73~0.89、p<0.001)。心血管死、全死因死亡も良好な傾向 副次エンドポイントのうち、次の6項目のイベント発生率(5年Kaplan-Meier推定値)が、プラセボ群に比しエボロクマブ群で有意に優れた(すべてのp<0.001)。・心筋梗塞・虚血性脳卒中・虚血動脈の血行再建の複合(プラセボ群と比較したエボロクマブ群のリスク低下率21%)・冠動脈心疾患死・心筋梗塞・虚血動脈の血行再建の複合(同21%)・心血管死・心筋梗塞・虚血性脳卒中の複合(同27%)・冠動脈心疾患死・心筋梗塞の複合(同27%)・心筋梗塞(同36%)・虚血動脈の血行再建(同21%) 試験薬の投与中止の原因となった有害事象および重篤な有害事象の発生率は、両群間に差を認めなかった。 著者は、「事前に規定された階層的検定計画のため正式な仮説検定は不可能で、結論は導けないものの、心血管死(HR:0.79、95%CI:0.64~0.98)および全死因死亡(0.80、0.70~0.91)の発生率も、エボロクマブ群で低い傾向がみられた」「本試験の知見は、これまでの試験の対象よりもリスクが低い集団における、初回の重大な心血管イベントの予防を目的とするPCSK9阻害薬の使用を支持する」「従来の短期間の試験では、PCSK9阻害薬の長期的な臨床的有益性が過小評価されていた可能性が高く、PCSK9阻害薬によるLDL-Cの長期的な低下は、スタチンと同様に致死的なイベントの予防に寄与し得ると考えられる」としている。

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SGLT2阻害薬、eGFRやアルブミン尿を問わずCKD進行を抑制/JAMA

 SGLT2阻害薬は、ベースラインの推定糸球体濾過量(eGFR)やアルブミン尿の程度によらず、ステージ4の慢性腎臓病(CKD)患者や微量アルブミン尿患者を含むCKD進行のリスクを低下させたことが、オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学のBrendon L. Neuen氏らSGLT2 Inhibitor Meta-Analysis Cardio-Renal Trialists' Consortium(SMART-C)が行ったメタ解析の結果で報告された。著者は、「2型糖尿病、CKD、または心不全患者において、腎機能のすべての段階で腎アウトカム改善のためにSGLT2阻害薬を日常的に使用することを支持する結果である」とまとめている。JAMA誌オンライン版2025年11月7日号掲載の報告。無作為化二重盲検プラセボ対照試験10件についてメタ解析 SMART-Cは、各治療群に少なくとも500例の患者が含まれ、少なくとも6ヵ月の追跡調査が行われて完了している無作為化二重盲検プラセボ対照試験を対象とし、各試験の代表者で構成される学術運営委員会が主導している。 研究グループは、SMART-Cのうち、CKD進行に対する適応を有するSGLT2阻害薬(カナグリフロジン、ダパグリフロジン、エンパグリフロジン)を評価した試験に限定し、メタ解析を行った。解析対象は10試験(EMPA-REG OUTCOME、CANVAS Program、DECLARE-TIMI 58、EMPEROR-Reduced、EMPEROR-Preserved、DAPA-HF、DELIVER、CREDENCE、DAPA-CKD、EMPA-KIDNEY)。 主要アウトカムはCKD進行とし、腎不全、eGFRが50%以上低下、または腎不全による死亡と定義した。その他のアウトカムには、eGFRの年間低下率および腎不全などが含まれた。個々の試験における治療効果を、逆分散加重メタ解析を用いて統合した。腎不全単独を含む研究対象となったすべての腎アウトカムのリスクを軽減 解析対象は計7万361例(平均[SD]年齢64.8[8.7]歳、女性2万4,595例[35.0%])で、このうちCKD進行が2,314例(3.3%)、腎不全が988例(1.4%)に認められた。 SGLT2阻害薬は、CKD進行リスクを低下させた(1,000患者年当たりのイベント件数:SGLT2阻害薬群25.4 vs.プラセボ群40.3、ハザード比[HR]:0.62、95%信頼区間[CI]:0.57~0.68)。 この効果は、ベースラインのeGFRに関係なく認められた(eGFR≧60mL/分/1.73m2のHR:0.61[95%CI:0.52~0.71]、eGFR45~<60mL/分/1.73m2のHR:0.57[0.47~0.70]、eGFR30~<45mL/分/1.73m2のHR:0.64[0.54~0.75]、eGFR<30mL/分/1.73m2のHR:0.71[0.60~0.83]、傾向のp=0.16)。 また、ベースラインのアルブミン尿の程度にかかわらず効果が認められた(UACR≦30mg/gのHR:0.58、>30~300mg/gのHR:0.74、>300mg/gのHR:0.57、傾向のp=0.49)。 SGLT2阻害薬は、保護効果の程度にはばらつきがあるものの、糖尿病の有無別に解析した場合も含め、すべてのeGFRおよびUACRサブグループにおいて、eGFR年間低下率を改善し、また、腎不全単独のリスクも減少させた(HR:0.66、95%CI:0.58~0.75)。

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糖尿病治療、継続の鍵は「こころのケア」と「生活支援」

 病気の治療を続けたいと思っていても、気持ちの落ち込みや生活の負担が重なると、通院や服薬をやめてしまうことがある。今回、全国の糖尿病患者を対象にした調査で、心理的苦痛や先延ばし傾向がある人ほど治療を中断しやすいことが明らかになった。その背景として、経済的困難や介護・家事の負担、糖尿病治療への燃え尽き症候群(糖尿病バーンアウト)がみられたという。研究は鳥取大学医学部環境予防医学分野の桑原祐樹氏らによるもので、詳細は9月30日付けで「BMJ Open Diabetes and endocrinology」に掲載された。 世界的に糖尿病の有病率は増加しており、合併症による健康への影響が大きな課題となっている。適切な血糖管理により、多くの合併症は予防または遅らせることが可能である。しかし、治療を継続し、医療機関を受診し続けることは容易ではなく、治療中断やアドヒアランスの低下は血糖管理の不良、合併症の進行、死亡リスク、医療コストの増大につながる。過去の研究では、治療継続に関わる心理・社会的要因(抑うつや薬剤費など)が限定的に検討されてきたが、患者の体験と治療中断の関係については十分に解明されていない。本研究は、心理・社会的要因と患者体験が糖尿病治療の中断にどのように関連するかを明らかにすることを目的とした。 この横断研究では、220万人のパネル会員を持つ楽天リサーチ(現:楽天インサイト)株式会社を通じて、構造化オンラインアンケートを実施した。登録されている糖尿病患者1万8,000人のうち、40〜79歳の1万人を便宜的に抽出した。参加者には「現在、糖尿病の治療を受けていますか?(医療機関での定期的な血液検査や生活指導を含む)」と尋ね、「はい」と答えた者を治療継続群、「いいえ」と回答し、かつ「過去に定期的に治療を受けていたが、現在は医療機関を受診していない」を選択した者を治療中断群に分類した。群分けに続いて、参加者の心理的要因(気分障害・不安障害、自己肯定感、先延ばし傾向)および社会的要因(孤独感、逆境的な幼少期経験:ACE)を測定した。群間の割合の差はカイ二乗検定で評価し、糖尿病治療の中断と心理・社会的要因との関連は、潜在的交絡因子を調整したロジスティック回帰分析で検討した。 適格性を検証後、最終的な解析対象は4,715人(男性86.8%、女性13.2%)となった。69人の参加者が糖尿病治療の中断を報告し、51人が3カ月以上治療を中断していた。 次に、ロジスティック回帰分析により、心理・社会的要因と糖尿病治療中断との関連を検討した。性別、年齢、学歴、世帯収入、糖尿病の型で調整後、心理的苦痛(調整オッズ比〔AOR〕 1.87、95%信頼区間〔CI〕 1.06~3.30、P=0.032)および先延ばし傾向が強いこと(AOR 2.64、95%CI 1.25~5.56、P=0.011)は、治療中断と有意に関連していた。 さらに、治療継続群と治療中断群との患者体験を比較した。全体として、参加者のうち9.7%が経済的困難を訴えていた。また、12.1%が糖尿病バーンアウトを報告していた。経済的困難(9.5%対21.7%、P=0.002)、育児または介護の困難(1.5%対10.0%、P<0.001)、および糖尿病バーンアウト(11.9%対26.7%、P=0.001)を報告した人の割合は、治療継続群に比べて治療中断群で有意に高かった。 著者らは、「潜在的な交絡因子を調整した後も、心理的苦痛および強い先延ばし傾向は治療中断と有意に関連していた。いくつかの心理社会的要因の経験は、治療継続群と比較して治療中断群で有意に多く認められた。医療従事者および医療システムは、糖尿病患者の転帰不良を最小限に抑えるために、これらの要因への対応を優先すべきだ」と述べた。 なお、本研究の限界として、選択バイアスが避けられなかった点、自己申告式の質問票であったため情報バイアスが存在していた可能性がある点などを挙げている。

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第38回 食卓を支配する「超加工食品」の正体とは? 世界的権威が警告する健康リスクと、今日からできる見分け方

スーパーマーケットやコンビニに並ぶ、色鮮やかで手軽な食品たち。袋を開ければすぐに食べられ、味も見た目にもおいしく、しかも安価だったりします。私たちの生活に欠かせない存在となったこれらの食品ですが、その多くが「超加工食品」と呼ばれるカテゴリーに属することをご存じでしょうか。近年、この超加工食品が私たちの健康に深刻な悪影響を及ぼしているという科学的証拠が次々と明らかになっています。そして今回、医学誌The Lancet誌が、超加工食品に関する大規模な特集シリーズを組み、その健康リスクについて警鐘を鳴らしました1)。本記事では、この最新の論文に基づき、超加工食品とはいったい何なのか、具体的にどのようなリスクがあるのか、そして私たちはどう向き合えばよいのかを考えていきたいと思います。キッチンにはない「謎の成分」が目印? 超加工食品の定義と見分け方まず、私たちが普段口にしている食品は、加工の度合いによって4つのグループに分けられます。これを「Nova分類」と呼びます。 1.未加工・最小限の加工食品 野菜、果物、肉、卵、牛乳など、素材そのものや、乾燥・粉砕・加熱などの単純な加工しかしていないもの 2.加工食材 料理に使う油、バター、砂糖、塩など 3.加工食品 缶詰の野菜、チーズ、焼きたてのパンなど、素材に塩や油を加えて保存性を高めたりおいしくしたりしたもの 4.超加工食品 ここが今回の主役です超加工食品とは、単に加工された食品というわけではありません。最大の特徴は、「家庭のキッチンには通常置いていないような工業的な成分」が含まれていることです。具体的には、カゼイン、乳糖、乳清などの抽出物や、加水分解タンパク質、異性化糖(高果糖コーンシロップ)、硬化油などが挙げられます。さらに、風味を良くしたり、見た目を整えたりするための「化粧品のような添加物」、たとえば香料、着色料、乳化剤、甘味料、増粘剤などがふんだんに使われています。身近な例で言えば、炭酸飲料、スナック菓子、大量生産された袋入りのパン、チキンナゲットなどの再構成肉製品、インスタントスープ、そして「ヘルシー」をうたうダイエットシェイクや一部の植物性代替肉なども、実は多くがこのカテゴリーに含まれます。「ヘルシー」な「超加工食品」がこの世の中にはたくさん存在するのです。しかし、実際には見分け方はシンプルです。パッケージの表側に騙されてはいけません。見分けるには、パッケージの裏側にある原材料名を見る必要があります。もしそこに、あなたの家のキッチンにない、見慣れない名前(たとえば「○○抽出物」「○○色素」「乳化剤」「スクラロース」など)が並んでいたら、それは超加工食品である可能性が高いと言えます。なぜ「超加工」されると体に悪いのか? 栄養バランスだけではない複合的なリスクそれでも、「カロリーや栄養バランスに気をつければ、加工食品でも問題ないのでは?」と思うかもしれません。しかし、今回の論文は、問題がそれほど単純ではないことを指摘しています。第一に、栄養の質が劇的に低下します。超加工食品の割合が増える食事は、糖分、脂肪、塩分が高くなりやすく、逆に健康維持に不可欠な食物繊維、タンパク質、ビタミン、ミネラルが不足する傾向があります。第二に、「食べ過ぎ」を引き起こす構造になっています。超加工食品は、企業が利益を最大化するために、消費者が「もっと食べたい」と感じるように設計されています。柔らかくて噛む必要があまりない、心地よい食感、絶妙に調整された味と香りなど、私たちの満腹中枢を麻痺させるのです。実際、米国国立衛生研究所(NIH)が行った実験では、栄養価をそろえた食事であっても、超加工食品中心の食事をしたグループは、そうでない食事をしたグループに比べて、1日当たり約500kcalも多く摂取し、体重が増加したというデータがあります。第三に、食品添加物や汚染物質のリスクです。パッケージから溶け出す化学物質や、加工過程で生成される有害物質、そして乳化剤や人工甘味料などが腸内環境(マイクロバイオーム)を乱し、体に炎症を引き起こす可能性が指摘されています。つまり、超加工食品は、単に栄養が偏っているだけでなく、物理的な構造や化学的な組成そのものが、私たちの体のシステムを狂わせる可能性があるのです。がん、心臓病、うつ病まで… データが示す深刻な健康リスクでは、実際に超加工食品を食べ続けると、どのような病気のリスクが上がるのでしょうか。論文では、世界中の100以上の長期的な追跡調査の結果を統合し、解析しています。その結果、超加工食品の摂取量が多いグループは、少ないグループに比べて、以下のような病気のリスクが統計的に有意に高くなることが明らかになりました。 肥満・過体重:リスクが21%増加 2型糖尿病:リスクが25%増加 心血管疾患(心臓病や脳卒中など)による死亡:リスクが18%増加 うつ病:リスクが23%増加 クローン病:リスクが90%増加 全死亡リスク(あらゆる原因による死亡):リスクが18%増加 とくに注目すべきは、これらのリスク上昇の度合いが、健康に良いとされる「地中海食」がもたらす病気予防効果と、ほぼ同程度のインパクト(ただし逆方向、つまり悪影響として)を持っているという点です。つまり、超加工食品を食べることは、健康的な食事のメリットを相殺し、さらにマイナスに突き落とすほどの力を持っていると言えます。ただし、すべての超加工食品が同じように悪いわけではないでしょう。たとえば、全粒粉を使った大量生産のパンやヨーグルトなどは、清涼飲料水や加工肉に比べればリスクが低い可能性があります。しかし、全体として見れば、加工されていない食品(普通のヨーグルトや手作りの肉料理)の方が、超加工されたバージョン(甘味や香料入りのヨーグルトやソーセージ)よりも健康的であるという大原則は変わりません。私たちはどうすればいいのか?この論文の結論として、超加工食品の蔓延は、世界的な慢性疾患の増加の「主要な推進要因」であると断定されています。イギリスやアメリカでは、すでにカロリー摂取量の半分以上が超加工食品で占められています。日本や韓国などのアジア諸国はまだそこまで高くはありませんが、その消費量は年々増加傾向にあります。私たち消費者ができることは、まず「知ること」です。買い物の際、時々パッケージの裏を見て、なじみのない添加物が入っていないか確認することが第一歩です。そして、無理のない範囲で「素材」に近い食品を選び、自宅で調理する頻度を増やすことが、最善の防衛策といえます。もちろん、忙しい現代社会において、超加工食品を完全にゼロにすることは現実的ではないでしょう。しかし、「便利さ」の裏側に、私たちの健康を蝕むリスクが潜んでいることを理解し、日々の選択を少しずつ変えていくことが、自分や家族の未来を守ることにつながるのではないでしょうか。 参考文献・参考サイト 1) Monteiro CA, et al. Ultra-processed foods and human health: the main thesis and the evidence. The Lancet. 2025 Nov 18. [Epub ahead of print]

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糖尿病、非肥満者は発症前に体重減少の傾向

 東アジア人は白人よりも低い体重で糖尿病を発症することが知られており、その背景には異なる発症メカニズムが存在する可能性がある。日本人の健康診断データを用いた後ろ向き観察縦断コホート研究により、非肥満者では糖尿病発症前に体重減少が先行する一方、肥満者では糖尿病発症前に体重増加がみられることが明らかになった。富山大学・四方 雅隆氏らによるこの研究成果は、Endocrine Journal誌オンライン版2025年9月25日号に発表された。 この研究は、日本人9,260例の健康診断データを用いた後ろ向き観察縦断コホート研究として実施された。対象者の61.4%が男性で、観察期間中に259例が糖尿病を発症した。観察期間開始から3年以内に糖尿病を発症した者は除外した。参加者を肥満群(BMI 25 kg/m2以上)と非肥満群(BMI 25kg/m2未満)の2つのサブタイプに分類し、糖尿病発症に至るまでの体重変化のパターンを評価した。 主な結果は以下のとおり。・肥満群では糖尿病発症前にBMIが増加し、その後減少するパターンが観察された。一方、非肥満群では糖尿病発症前にBMIが減少し、その後安定するという対照的なパターンが示された。・非肥満群では糖尿病発症前に年間BMI変化が-0.15kg/m2以下(体重減少)を示す参加者が、+0.15kg/m2以上(体重増加)を示す参加者よりも有意に多かった(p=0.003)。これらの結果は、非肥満群では体重減少が糖尿病発症に先行することを示している。 研究者らは、「非肥満でありながら血糖値が上昇している人(ただし、糖尿病の診断基準は満たさない)は、糖尿病発症の高リスク群として考慮すべきだ。従来、体重増加が糖尿病リスクとして注目されてきたが、この研究結果は、非肥満者においては体重減少が糖尿病発症の前兆となる可能性を示唆している。これらのハイリスク層を早期に特定し、体重減少に焦点を当てない生活指導を提供することが糖尿病発症予防において重要だ。この知見は、とくに東アジア人における糖尿病の予防戦略に新たな視点をもたらすものである」としている。

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歯周病は脳にダメージを与え脳卒中のリスクを高める

 歯周病が脳の血管にダメージを与えたり、脳卒中のリスクを高めたりする可能性のあることが、2件の研究で明らかになった。歯周病と虫歯の両方がある場合には、脳卒中のリスクが86%上昇することや、習慣的なケアによってそのリスクを大きく抑制できる可能性があることも報告された。いずれも、米サウスカロライナ大学のSouvik Sen氏らの研究の結果であり、詳細は「Neurology Open Access」に10月22日掲載された。 一つ目の研究は、歯周病のある人とない人の脳画像を比較するというもの。解析対象は、一般住民のアテローム性動脈硬化リスク因子に関する大規模疫学研究「ARIC研究」のサブスタディーとして実施された、口腔状態の詳細な検査も行う「Dental ARIC」の参加者のうち、脳画像データのある1,143人(平均年齢77歳、男性45%)。このうち800人が歯周病ありと判定された。結果に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、人種、喫煙、高血圧、糖尿病など)を調整後、歯周病のある人は脳の白質高信号域(認知機能低下リスクの高さと関連のある部分)の体積が有意に大きく(P=0.012)、その体積と歯周病の重症度との有意な関連も認められた(ρ=0.076、P=0.011)。 二つ目の研究もDental ARICのデータが用いられた。解析対象5,986人(平均年齢63±5.6歳、男性48%)のうち、1,640人は口腔の健康状態が良好、3,151人は歯周病があり、1,195人は歯周病と虫歯が併存していた。そして、それら両者が併存していると、虚血性脳卒中のリスクが86%有意に高く(ハザード比〔HR〕1.86〔95%信頼区間1.32~2.61〕)、主要心血管イベントのリスクも36%有意に高いことが分かった(HR1.36〔同1.10~1.69〕)。また虚血性脳卒中の病型別の検討では、血栓性脳梗塞(HR2.27〔1.22~4.24〕)、および心原性脳塞栓(HR2.58〔1.27~5.26〕)のいずれも、有意なリスク上昇が認められた。 一方、希望につながるデータも示された。歯磨きやデンタルヘルスで日常的な口腔ケアを行い、定期的に歯科へ通院している人は、歯周病が約3割少なく(オッズ比〔OR〕0.71〔0.58~0.86〕)、歯周病と虫歯の併存が約8割少ないという(OR0.19〔0.15~0.25〕)、有意な関連が観察された。 報告された2件の研究結果は、口腔衛生状態が良くないことが脳卒中を引き起こすという直接的な因果関係を証明するものではない。しかし、口腔内の炎症が心臓と脳の健康に悪影響を及ぼす可能性があるとする、近年増加しているエビデンスを裏付けるものと言える。これらのデータを基に研究者らは、「歯と歯茎の健康を維持することが、脳卒中リスクを軽減する簡単な方法の一つになる可能性がある」と述べている。 なお、世界保健機関(WHO)は、世界中で35億人が歯周病や虫歯を有していると報告している。また米国心臓協会(AHA)によると、米国では毎年79万5,000人以上が脳卒中を発症しているという。

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心不全に伴う体液貯留管理(4):症例2(79歳男性)Dr.わへいのポケットエコーのいろは】第10回

心不全に伴う体液貯留管理(4):症例2(79歳男性)今回は、後縦靭帯骨化症の影響により寝たきりで、足のむくみのある79歳男性を例に、ポケットエコーの有用性を考えていきましょう。足のむくみがある79歳男性【今回の症例】79歳男性主訴足がすれて、むくんでいる現病歴意識疎通は明瞭だが、ベッド上の生活で、ほぼ全介助の状態1日30本喫煙。常に息苦しい感じがある禁煙ができないため、家族はCOPDとしての治療介入に消極的内服薬(服薬管理者:配偶者)プレガバリン75mg 1×、リマプロスト アルファデクス15μg 3×、メコバラミン1.5mg 3×、レボチロキシン62.5μg 1×、酪酸菌製剤錠3T 3×、ロキソプロフェン180mg 3×、ガバペンチン600mg 3×、L-カルボシステイン1,500mg 3×、レバミピド300mg 3×、アンブロキソール45mg 3×、ジメチコン120mg 3×、ラメルテオン8mg 1×、トラゾドン25mg 1×、クロナゼパム0.5mg 1×、スボレキサント15mg 1×併存症後縦靭帯骨化症、甲状腺機能低下症、糖尿病、C型慢性肝炎治療後バイタル体温36.0℃、血圧140/80mmHg、脈拍65回/分 整、SpO2 97%(room air)今回は79歳男性で、意思疎通は明瞭に取れますが、後縦靭帯骨化症の影響でベッド上の寝たきりの生活です。タバコが大好きで1日30本吸っていて「なんか息苦しい感じがある」と本人は言っています。家族は「タバコをやめられないんだったら治療する意味がない」と言い、家族のほうが治療に消極的でした。薬剤を見るとわかるのですが、とくに心不全の指摘はなく、肺気腫の要素があるのかもしれないといったところです。治療経過まず心エコーを見てみましょう。治療介入前の心エコー像1回当てただけでわかりますが、胸水がかなり溜まっていて、下大静脈(IVC)は27mm、呼吸性変動は消失していました。僧帽弁と三尖弁は同時に開いていたため、VMTスコアは2aでした。胸水が溜まっていて、VMTスコアから慢性心不全の非代償寄りで、右心不全の要素が強めと判断しました。そのため、治療はフロセミド20mgから開始しました。治療経過を見ていくと、治療介入から1ヵ月後にはむくみがかなり減っていました。IVCは23mmでしたが呼吸性変動が出てきていました。僧帽弁と三尖弁が開くのはほぼ同時です(図1)。少し改善が観察されているということで、フロセミド20mgはそのまま継続しました。図1 治療開始1ヵ月後のNT-proBNP・症状・VMTスコア画像を拡大する続いて、治療開始2ヵ月後のエコー像を見てみましょう。治療介入後の心エコー像最終的に、NT-proBNP値に著変はなかったですが、心エコー所見は改善しました。三尖弁と僧帽弁の開放はほぼ同時ながらも三尖弁がやや先行するようになり、胸水も初回と比べて著明に減少。VMTスコアは1点、IVCは16mmで呼吸性変動も認められました。フロセミド20mgの介入で2ヵ月後には、このような状況になりました(図2)。図2 治療開始2ヵ月後のNT-proBNP・症状・VMTスコア画像を拡大する治療介入2ヵ月後には「先生、すごく調子がいい」「よく寝られる」「タバコがうまいわ」と言っていて、タバコに対する介入はできなかったのですが、心不全を発見してQOLの向上に寄与することができたケースでした。まとめ4回にわたって、心不全に伴う体液貯留管理へのポケットエコーの応用を紹介しました。そのなかで、心不全の治療介入の判断にVMTスコアが非常に有用であることが、理解いただけたのではないでしょうか。VMTスコアは繰り返して用いることで、診断だけではなく治療効果の判定にも使えます。そして、エコーは我々だけではなく、患者やその家族も絵として見ることができます。たとえば「胸水がこんなに減っている」「心臓の動きが良くなっている」という画像を共有することで、家族も「先生のおかげで、本人も楽になっているようだ」と治療効果を視覚的に実感し、より協力的になっていただけるという利点もあります。

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日本の糖尿病診療の実態、地域・専門医/非専門医で差はあるか?/日本医師会レジストリ

 日本医師会が主導する大規模患者レジストリJ-DOME(Japan Medical Association Database of Clinical Medicine)のデータを用い、日本の糖尿病診療の現状を分析した研究結果が発表された。国際医療福祉大学の野田 光彦氏らによる本研究はJMA Journal誌2025年10月15日号に掲載された。 研究者らは、2022年度にJ-DOMEへ患者を登録した全国116の医療機関を対象に、2型糖尿病患者2,938例のデータを解析した。施設を地域別に7グループ(北海道・東北、北関東、南関東、中部、近畿、中国・四国、九州・沖縄)に分け、地域間の比較を行った。また、糖尿病専門医の在籍施設と非在籍施設の違いについても検討した。 主な結果は以下のとおり。・全国116の医療機関で2型糖尿病と診断された2,938例が解析対象となった。年齢中央値71(範囲:8~99)歳、男性1,567例(53%)、1機関当たりの平均患者数は25.3(範囲:1~150)例であった。・患者の全国平均のHbA1c値は6.96%、血圧は129.7/73.0mmHgで、脂質値(LDLコレステロール、HDLコレステロール、トリグリセライド)を含めたいずれの値も、地域間で有意差は認められなかった。・専門医在籍施設(45施設)と、非在籍施設(71施設)を比較したところ、HbA1cの平均値は、専門医施設(7.13%)が非専門医施設(6.86%)より有意に高値だった。これは、専門医施設で糖尿病網膜症(専門医施設22.8%vs.非専門医施設7.7%)や糖尿病性腎症(21.8%vs.16.1%)などの合併症を有する患者が多いためと推察された。なお、血圧や脂質管理の指標は、専門医と非専門医施設間で有意差は認められなかった。・一方、合併症の早期発見に直結する定期検査の受診率では、専門医施設と非専門医施設で差がみられた。眼科の定期検査受診率は、専門医施設で78.5%と高かったのに対し、非専門医施設では53.9%に留まった。尿中アルブミン定量検査受診率も専門医施設(62.5%)が非専門医施設(33.5%)に比べ、2倍近かった。 研究者らは、「本研究結果は、分析したどの地域でも全国平均からの大きな逸脱はみられず、日本全国で糖尿病ケアの水準が比較的均一であることが示された。これは診療ガイドラインの普及や医療の標準化によるものと考えられる。一方、糖尿病合併症の進行を抑制するために不可欠な定期検査の受診率では、専門医と非専門医施設で依然として大きな差が存在することも示された。大多数の患者を診療している非専門医施設における定期的な眼科受診や尿中アルブミン定量検査の実施を標準化し、底上げを図ることが、糖尿病医療の質全体を向上させるために重要だ。専門医と非専門医間の連携強化の推進とともに、非専門医に対する合併症検査の重要性の啓発と、実施体制の整備が急務となる」としている。

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双極症予防にメトホルミンが有効な可能性

 2型糖尿病治療薬であるメトホルミンは、メンタルヘルスに良い影響を与えることが示唆されている。中国・福建医科大学のZhitao Li氏らは、メトホルミン使用と双極症リスクとの間の潜在的な因果関係を評価するため、メンデルランダム化(MR)解析を実施した。Medicine誌2025年10月24日号の報告。 メトホルミンに対する遺伝的感受性と双極症リスクとの間の因果関係を明らかにするため、公開されているゲノムワイド関連解析(GWAS)の統計データを用いて、2標本双方向MR解析を実施した。メトホルミン使用に関連するゲノムワイドの有意な一塩基多型(SNP)を操作変数とした。メトホルミン使用と双極症との間の因果関係を決定するため、操作変数重み付けなどの手法を用いてMR解析を行った。水平的多面発現の影響を検出および補正するために、加重中央値、加重モード、単純モード、MR-Egger回帰、MR-pleiotropy残差平方和および外れ値などの補完的な手法を適用した。操作変数の異質性の評価にはCochran Q統計量、感度分析にはleave-one-out法を用いた。 主な内容は以下のとおり。・操作変数重み付け分析では、メトホルミン使用と双極症リスクとの間に有意な因果関係が認められた。【GWAS ID:ebi-a-GCST003724】オッズ比(OR):0.032、95%信頼区間(CI):0.002~0.593、p=0.021【GWAS ID:ieu-a-800】OR:1.452E-04、95%CI:1.442E-07~1.463E-01、p=0.012【GWAS ID:ieu-a-808】OR:0.33、95%CI:0.270~0.404、p=0.000・感度分析では、個々の結果に異質性は認められず(p>0.05)、有意な出版バイアスも認められなかった。 著者らは「この結果は、メトホルミンが双極症の予防因子となる可能性を示唆しており、精神疾患の予防と治療における代謝介入の応用に新たな理論的根拠を提供するものである」としている。

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胎児期~2歳の砂糖制限と成人期の心血管リスクの低減効果:「自然実験」研究を批判的に吟味する!(解説:島田俊夫氏)

【背景・目的】 妊娠から2歳まで(生後1,000日間)の栄養状態は、生涯の心臓代謝システムを形成するきわめて重要な時期(胎児期の疾患起源説/DOHaD)です1-3)。中国・香港科技大学のJiazhen Zheng氏らの研究(BMJ誌2025年10月22日号に掲載)は、第二次世界大戦後の英国における砂糖配給制度(2歳未満の乳児に添加糖なし)を「自然実験」として利用し、この幼少期の砂糖制限が成人期の心血管疾患(CVD)リスクを低減することが可能か検証しています。・CVDリスク低減(量反応関係):砂糖制限への曝露期間が長いほどCVDリスクは段階的に減少し、最長曝露群(胎内+1~2年)ではCVD全体で20%、脳卒中で31%のリスク低減が確認され、CVD発症年齢は約2.53年遅延した。・メカニズム:リスク低減は糖尿病や高血圧(約31.1%)以外に、胎児期・乳幼児期の心臓代謝システムのプログラミングによる影響が重要であることを示唆した。・心機能指標:心臓MRIにより、左室駆出率(LVEF)がわずかだが“統計的に有意に高い(0.84%増)”ことが集団として検出された。―――――――――――――――――――【コメント】 本研究は、幼少期の砂糖制限が成人期の心臓の健康に長期的な利益をもたらす公衆衛生学的に重要な知見を示しました。 LVEFの0.84%という差は、測定誤差範囲内に近く、個々の患者の治療方針に影響する臨床的意義は乏しいと考えます。しかし、この結果は初期のプログラミングが集団レベルで弱いながら継続して影響を与えたことは意義深いと考えます。 研究の限界:胎児期・乳幼児期以降(青年期~老年期)の砂糖摂取情報がほぼブラックボックス状態であり、胎児期、乳幼児期以後のライフスタイルによる影響については、さらなる検討が必要。―――――――――――――――――――プライマリケアへの提言 本研究の教訓は「人生の最初の1,000日間に着目した、費用対効果の高い予防介入」の重要性です。明確なCVDイベント低減に基づき、以下の点を助言します。1. 妊娠期の助言:妊婦に対し、胎児の心臓代謝システムへの影響を考慮し、妊娠初期からの糖質制限を助言する。2. 乳幼児期(0~2歳)の徹底:添加糖の制限(ゼロ)が、将来のCVDリスクを減らす予防策の1つになることを保護者に伝え、理解を促す。3. 全世代への継続指導:青年期以降のデータが欠落しているからこそ、初期の予防努力を維持するため、生涯にわたる砂糖摂取量の適正化指導の継続の必要性を伝えることで生活習慣病の抑制につながる可能性に期待が持てる。 青年期、老年期の糖質制限情報の欠落を埋める努力が、結果の信頼性を強固にするために必要不可欠です。

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第294回 経口GLP-1抗肥満薬が注射に取って代わりうる効果あり

経口GLP-1抗肥満薬が注射に取って代わりうる効果ありLillyの経口GLP-1受容体作動薬(GLP-1薬)であるorforglipronが肥満の2型糖尿病(T2D)患者の体重を10%ほど減らし1,2)、本年中に承認申請が始まります3)。肥満に使うことが承認されているGLP-1薬2つ(リラグルチドとセマグルチド)とGLP-1受容体とGIP受容体の両方の作動薬(チルゼパチド)はどちらも注射薬で、ペプチドを成分とします。経口のセマグルチドはT2Dに使うことが承認されていますが、肥満への使用はまだ承認に至っていません。orforglipronはペプチドが成分のそれらの薬と違って低分子化合物ですが、働きは似ており、生来のホルモンであるGLP-1のように振る舞います。ATTAIN-1と銘打つ先立つ第III相試験で、orforglipronはT2Dではない肥満成人の体重を72週時点で平均して11%ほど減らしました4)。別の試験でのセマグルチド注射群の同様の期間での約15%の体重低下5)には及ばないものの、orforglipronはより手軽な経口薬であり、注射薬のように痛い思いをせずに済むという強みがあります。今回Lancet誌に結果が掲載された第III相ATTAIN-2試験は、肥満に加えてT2Dでもある患者にもorforglipronが有益なことを示すべく実施されました。試験は世界10ヵ国(アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、中国、チェコ共和国、ドイツ、ギリシャ、インド、韓国、米国)の136施設から、BMIが27kg/m2以上でHbA1cが7~10%(53~86mmol/mol)の患者を募って実施されました。3千例弱(2,859例)から選定した1,613例が1日1回服用のorforglipron低(6mg)、中(12mg)、高(36mg)用量かプラセボに1:1:1:2の割合で割り振られました。72週時点でorforglipron高用量群の体重はベースラインに比べて平均10%ほど減っていました。中用量群と低用量群はそれぞれ7%と5%ほど減っており、どの用量もプラセボ群の約3%低下を有意に上回りました。orforglipronは血糖値も有意に下げました。高用量群のHbA1cはもとに比べて差し引きで2%近く低下し、およそ4例に3例ほどが目標水準の7%未満を達成しました。orforglipron中・高用量群のおよそ10例に1例はもっぱらGLP-1薬につきものの悪心、嘔吐、下痢などの胃腸有害事象で服薬を中止せざるを得ませんでした。とはいえ著者のDeborah Horn氏によると、ほとんどの被験者は副作用を乗り越えられるようです2)。orforglipronの副作用特徴はGLP-1薬と一致していました。ATTAIN-1試験に次いでATTAIN-2試験が今回完了したことを受けて、orforglipronの承認申請に必要な臨床情報がそろったとLillyは言っています3)。Lillyは本年中に同剤を承認申請し、来年には米国での承認を得ることを目指しています。orforglipronは体重減少と血糖改善に加えてウエスト周囲径を細くし、血圧、コレステロール、トリグリセライド値を下げもします。ゆえに心血管代謝に手広く有益なようです1)。それに、注射器や冷蔵が不要なので、製造して、保管して、患者に届けるのが注射GLP-1薬に比べて安く済みそうです2)。とくに低~中所得国で高価で入手困難となっている注射GLP-1薬に比べてorforglipronはより多くの患者に届けることができそうです。orforglipronの体重低下効果は注射GLP-1薬に若干見劣りするかもしれませんが、総合的には注射GLP-1薬に似た成績を達成しうるようであり、待望の経口薬として多くの患者の手に渡って肥満治療を様変わりさせるかもしれません(potentially shifting treatment paradigm)1)。 参考 1) Horn PDB, et al. LANCET. 2025 Nov 20. [Epub ahead of print] 2) Daily pill could offer alternative to weight-loss injections / NewScientist 3) Lilly's oral GLP-1, orforglipron, is successful in third Phase 3 trial, triggering global regulatory submissions this year for the treatment of obesity / PRNewswire 4) Wharton S, et al. N Engl J Med. 2025;393:1796-1806. O 5) Wilding JPH, et al. N Engl J Med. 2021;384:989-1002.

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1型糖尿病の高リスク乳児、経口インスリンの1次予防効果は?/Lancet

 膵島関連自己抗体発現リスクが高い乳児において、ヒト亜鉛インスリン結晶から製造された経口インスリンの高用量投与はプラセボと比較し、膵島関連自己抗体の発現を予防しなかった。ドイツ・Helmholtz MunichのAnette-Gabriele Ziegler氏らが、Global Platform for the Prevention of Autoimmune Diabetes(GPPAD)の7施設(ドイツ3施設、ポーランド・スウェーデン・ベルギー・英国各1施設)で実施した研究者主導の無作為化二重盲検プラセボ対照試験「Primary Oral Insulin Trial:POInT試験」の結果を報告した。1型糖尿病はインスリンを含む膵島抗原に対する自己免疫反応により発症するが、膵島関連自己抗体や疾患症状発現前の自己免疫反応予防を目的とした経口自己抗原免疫療法の有効性を評価する臨床試験は行われていなかった。Lancet誌オンライン版2025年11月11日号掲載の報告。主要アウトカムは、膵島関連自己抗体発現(2種類以上)または糖尿病発症 研究グループは、GPPAD遺伝子スクリーニングプログラムにより6歳までに2種類以上の膵島関連自己抗体発現リスクが10%超の、離乳食を開始している生後4~7ヵ月の乳児を特定し、経口インスリン群またはプラセボ群に、1対1の割合で、施設で層別化して無作為に割り付けた。すべての参加者とその家族、研究者、検査室スタッフは、研究期間中割り付けを盲検化された。 参加者には経口インスリンまたはプラセボが1日1回、7.5mgを2ヵ月間、その後22.5mgを2ヵ月間、その後67.5mgを3歳時まで投与し、ベースライン、投与開始後2ヵ月時、4ヵ月時、8ヵ月時、生後18ヵ月時、その後2024年6月28日の最終外来受診日まで6ヵ月ごとに検査を実施した。 主要アウトカムは、2種類以上の膵島関連自己抗体(IAA、GADA、IA-2A、ZnT8A)の発現(2つの中央検査施設において2回連続で陽性および少なくとも1検体で2種類目の自己抗体が確認された場合に陽性と定義)または糖尿病発症とした。副次アウトカムは、糖代謝異常または糖尿病発症であった。 適格基準を満たし割り付けられた全参加者のうち、ベースラインで主要アウトカムの要件を満たさなかった参加者を主要解析の対象とした。試験薬を少なくとも1回投与された参加者を安全性解析に含めた。経口インスリン群とプラセボ群で主要アウトカムの有意差なし 2017年7月24日~2021年2月2日に乳児24万1,977例がスクリーニング検査を受け、2,750例(1.14%)で膵島関連自己抗体発現リスクの上昇がみられ、このうち適格基準を満たした1,050例(38.2%)が2018年2月7日~2021年3月24日に無作為化された(経口インスリン群528例、プラセボ群522例)。年齢中央値6.0ヵ月(範囲:4.0~7.0)、男児531例(51%)、女児519例(49%)であった。 経口インスリン群で2例(1型糖尿病の家族歴に関する情報の誤り1例、ベースラインで2種類以上の膵島関連自己抗体を保有していた1例)が除外され、主要解析対象集団は経口インスリン群526例、プラセボ群522例であった。 主要アウトカムのイベントは経口インスリン群で52例(10%)、プラセボ群で46例(9%)に発現した。ハザード比(HR)は1.12(95%信頼区間[CI]:0.76~1.67)で両群間に有意差は認められなかった(p=0.57)。 事前に規定されたサブ解析の結果、主要アウトカムおよび副次アウトカムに関して治療とINS rs1004446遺伝子型の相互作用が認められた。非感受性INS遺伝子型を保有する経口インスリン群の参加者はプラセボ群と比較して、主要アウトカムのイベントが増加し(HR:2.10、95%CI:1.08~4.09)、感受性INS遺伝子型を保有する経口インスリン群の参加者はプラセボ群と比較して、糖尿病または糖代謝異常の発症が低下した(HR:0.38、95%CI:0.17~0.86)。 安全性については、血糖値50mg/dL未満は、インスリン群で7,210検体中2件(0.03%)、プラセボ群で7,070検体中6件(0.08%)に観察された。有害事象は、インスリン群で96.0%(507/528例)に5,076件、プラセボ群で95.8%(500/522例)に5,176件発現した。インスリン群で死亡が1例認められたが、独立評価により試験薬との関連はなしと判定された。

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新規作用機序の高コレステロール血症治療薬ベムペド酸を発売/大塚

 大塚製薬の新規作用機序の高コレステロール血症治療薬ベムペド酸(商品名:ネクセトール)が2025年11月21日に発売された。効能・効果は「高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症」で、スタチン効果不十分またはスタチンによる治療が適さない高コレステロール血症患者への新たな治療選択肢とされる。 本剤は、肝臓中のコレステロール合成経路においてスタチンの作用点よりも上流にあるATPクエン酸リアーゼに作用し、血中のLDLコレステロールの低下をもたらす。すでに米国や欧州をはじめ、世界の複数国・地域で高コレステロール血症治療薬として販売されており、国内においては、大塚製薬が2020年4月に本剤の独占的開発販売権を米国・エスペリオンから取得、2025年9月に製造販売承認を取得していた。<製品概要>販売名:ネクセトール錠180mg一般名:ベムペド酸製造販売承認日:2025年9月19日薬価基準収載日:2025年11月12日効能又は効果:高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症用法及び用量:通常、成人にはベムペド酸として180mgを1日1回経口投与する。 薬価:371.50円製造販売元:大塚製薬株式会社

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NTRK陽性固形がんへのレポトレクチニブ承認/BMS

 ブリストル マイヤーズ スクイブは2025年11月20日、レポトレクチニブ(商品名:オータイロ)について「NTRK融合遺伝子陽性の進行・再発の固形癌」に対する効能・効果の追加に係る製造販売承認事項一部変更承認を取得したことを発表した。 本承認は、成人患者を対象とした国際共同第I/II相試験(TRIDENT-1試験)および小児・若年成人患者を対象とした海外第I/II相試験(CARE試験)の参加者のうち、NTRK融合遺伝子陽性固形がん患者から得られた結果に基づくものである。両試験のNTRK融合遺伝子陽性固形がん患者の結果は欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)で報告されており、主な結果は以下のとおりであった。【TRIDENT-1試験(TRK阻害薬未治療60例、既治療87例)】 ・確定奏効率:未治療58%、既治療52% ・PFS中央値:未治療未到達、既治療7.4ヵ月 ・1年PFS率:未治療61%、既治療29% ・OS中央値:未治療55.6ヵ月、既治療16.9ヵ月 ・1年OS率:未治療80%、既治療59%【CARE試験(TRK阻害薬未治療5例、既治療15例)】 ・確定奏効率:未治療60%、既治療27% なお、レポトレクチニブの「NTRK融合遺伝子陽性の進行・再発の固形癌」の適応判定に必要なNTRK1/2/3融合遺伝子を検出するコンパニオン診断には、FoundationOne CDx がんゲノムプロファイルを使用する。

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糖尿病治療薬がアルツハイマー病初期の進行を抑制する可能性

 糖尿病治療薬がアルツハイマー病の初期段階の進行を抑制する可能性のあることが報告された。米ウェイクフォレスト大学アルツハイマー病研究センターのSuzanne Craft氏らの研究によるもので、詳細は「Alzheimer’s & Dementia」に10月7日掲載された。この研究では、既に広く使われているSGLT2阻害薬(SGLT2-i)のエンパグリフロジンと、開発が続けられているインスリン点鼻スプレー(経鼻インスリン)という2種類の薬剤が、記憶力や脳への血流、および脳機能の検査値などの点で、有望な結果を示したという。 論文の上席著者であるCraft氏は、「糖尿病や心臓病の治療薬としての役割が確立されているエンパグリフロジンが、脳の重要な領域の血流を回復させ、かつ、脳のダメージを意味する検査指標の値を低下させることを初めて見いだした。われわれのこの研究の成果は、代謝に対する治療によって、アルツハイマー病の進行速度を変えることができることを示唆している」と解説。また経鼻インスリンについては、「新開発の機器を用いてインスリンを鼻から投与することで、インスリンが脳に直接的に送り届けられ、認知機能、神経血管の健康状態、そして免疫機能が向上することも確認された」と述べ、「これらの知見を合わせて考えると、代謝への働きかけという視点が、アルツハイマー病治療における、有力な新しい展開につながり得るのではないか」と期待を表している。 この研究で示された結果が、今後の研究でも確認されたとしたら、アルツハイマー病の進行抑制に効果的な治療法がないという現状の打開につながる可能性がある。最近、アルツハイマー病の原因と目されている、脳内に蓄積するタンパク質(アミロイドβ)を除去する薬が登場したものの、研究者らによると、その効果は限定的だという。また、副作用のためにその薬を服用できない人も少なくなく、さらに、アミロイドβの蓄積以外のアルツハイマー病進行のメカニズムとされている、代謝異常や血流低下の問題は残されたままだとしている。 報告された研究では、軽度認知障害または初期のアルツハイマー病の高齢者47人(平均年齢70歳)を無作為に、インスリン点鼻スプレー、エンパグリフロジン、それらの併用、およびプラセボのいずれかの群に割り付けた。なお、エンパグリフロジンはSGLT2-iの一種で、腎臓での血糖の吸収を阻害して尿の中に排泄することで血糖値を下げる薬。 研究参加者の97%が、4週間の試験期間を通じて、割り付けられた通りに薬を使用した。解析の結果、インスリン点鼻スプレーを使用した群では、記憶や思考の検査指標の改善が見られ、画像検査からは、脳の白質という部分の構造を保ったり、認知機能にとって重要な領域への血流低下を防いだりする効果が示唆された。またエンパグリフロジンを服用した群でも、アルツハイマー病に関連するアミロイドβとは別のタンパク質(タウ)が減少し、病気の進行を反映する神経・血管関連の指標も低下して、さらに脳の主要な領域の血流が変化し、善玉コレステロールが上昇した。 全体として、両薬剤によって生じる変化は炎症の軽減と免疫反応の活性化につながることを示唆しており、どちらも脳の健康をサポートする可能性が考えられた。Craft氏は、「これらの有望な結果に基づき、より大規模で長期にわたる臨床試験を実施していきたい」と述べている。

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高齢者への高用量インフルワクチンの入院予防効果:FLUNITY-HD試験(解説:小金丸 博氏)

 高齢者に対する高用量不活化インフルエンザワクチン(HD-IIV)の重症化予防効果を検証した国際共同プール解析「FLUNITY-HD試験」の結果が、Lancet誌オンライン版2025年10月17日号に報告された。標準用量インフルエンザワクチン(SD-IIV)では免疫応答が不十分なことが知られており、HD-IIVの高齢者における追加的な防御効果を明らかにすることを目的とした。 本試験は、デンマークのDANFLU-2試験(登録者:約33万人)とスペインのGALFLU試験(同:約13万人)という、同一デザインの実践的ランダム化比較試験を統合解析したものである。対象は65歳以上で、少なくとも1つの慢性疾患を有する者が約49%と重要なリスクグループが適切に含まれており、高齢者集団への一般化が可能であると思われる。いずれの試験も日常診療環境で実施され、主要評価項目は「インフルエンザまたは肺炎による入院」とされた。 その結果、HD-IIV接種群ではSD-IIV接種群と比較し、主要評価項目であるインフルエンザまたは肺炎による入院を8.8%低減させた。一方で、DANFLU-2試験単独では主要評価項目に有意差を認めなかった。HD-IIVの効果は季節や流行株の影響を受けやすい可能性があることや、インフルエンザ以外の病原体(肺炎球菌、マイコプラズマ、アデノウイルスなど)の流行が試験結果に影響した可能性が指摘されている。そのほか、副次評価項目である検査確定インフルエンザによる入院を約32%、心肺疾患による入院を約6%低減させており、インフルエンザによる入院の抑制効果は明確であった。また、HD-IIV接種群ではSD-IIV接種群と比較して、全原因による入院が2.2%減少した。これは、515人の高齢者にSD-IIVの代わりにHD-IIVを接種することで全原因による入院を1件予防できることを意味する。重篤な有害事象の発生は両群で同程度だった。 本試験は、高齢者において高用量インフルエンザワクチンが実際の重症転帰を減少させうることを大規模ランダム化試験で示した点で意義が大きい。インフルエンザワクチンの目的が「感染予防」から「重症化・入院予防」へとシフトする中で、より高い免疫原性を求める戦略として高用量ワクチンの価値が再確認された。とくに慢性心疾患や呼吸器疾患、糖尿病などの基礎疾患を有する高齢者において、インフルエンザ感染が直接的に入院や心血管イベントを誘発することを考慮すれば、臨床的意義は大きい。 米国や欧州では高齢者に対する高用量インフルエンザワクチンがすでに導入され、各国ガイドラインでも推奨されている。本邦では2024年12月に製造販売承認を取得し、60歳以上を対象に2026年秋から使用可能となる見込みである。このワクチンが定期接種に組み込まれるか、市場に安定供給されるかによって推奨される接種対象は左右されると思われるが、要介護施設入所者(フレイル高リスク群)、虚血性心疾患や慢性閉塞性肺疾患などの重症化リスクのある基礎疾患を持つ者、85歳以上の超高齢者や免疫不全者など抗体応答が弱いと想定される者では、積極的に高用量ワクチンを選択すべき集団として妥当であると考える。費用面では標準用量より高価だが、入院抑制による医療費削減効果も期待される(注:2025年11月19日の厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会「予防接種基本方針部会」は、高用量ワクチンを2026年10月から75歳以上の定期接種に追加する方針を了承した)。 FLUNITY-HD試験は、高用量インフルエンザワクチンが標準用量と比較して、65歳以上の高齢者の重症転帰を有意に減少させることを示した大規模ランダム化試験である。日本でも高齢者および基礎疾患を有する群への適用を念頭に、今後の季節性インフルエンザ予防戦略における選択肢として検討すべき重要なエビデンスといえる。

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75歳以上のNSCLC、術前ICI+化学療法は安全に実施可能?(CReGYT-04 Neo-Venus副次解析)/日本肺癌学会

 StageII~IIIの切除可能非小細胞肺がん(NSCLC)に対し、ニボルマブ+化学療法による術前補助療法が2023年3月より使用可能となった。そこで、実臨床におけるニボルマブ+プラチナ併用化学療法による術前補助療法の安全性・有効性を検討する多施設共同後ろ向き観察研究「CReGYT-04 Neo-Venus」が実施された。本研究では、第III相試験「CheckMate-816試験」と一貫した安全性が示され、実行可能であることが報告された1)。 ただし、実臨床における肺がん手術例の約半数は75歳以上の高齢者である。また、高齢者を対象に、免疫チェックポイント阻害薬+化学療法による術前補助療法の安全性・有効性を検討した報告はない。そこでCReGYT-04 Neo-Venusの副次解析として、75歳以上の高齢者における安全性・有効性に関する解析が実施された。本解析結果を松原 太一氏(九州大学病院 呼吸器外科)が、第66回日本肺癌学会学術集会で発表した。 対象は、ニボルマブ+プラチナ併用化学療法による術前補助療法を1サイクル以上受けた切除可能StageII~III NSCLC患者131例。このうち、登録時に術前補助療法を実施中であった1例を除外した130例を解析対象とした。解析対象患者を年齢で2群(75歳以上:28例/75歳未満:102例)に分類し、患者背景や治療成績を比較した。 主な結果は以下のとおり。・患者背景について、75歳以上の高齢群は非高齢群と比較して、男性が少ない(67.9%vs.87.3%)、他がんの既往ありが多い(32.1%vs.11.8%)という特徴があった。糖尿病や冠動脈疾患などの合併症については、2群間で差はみられなかった。臨床的StageやPD-L1発現状況についても2群間で差はみられなかった。・化学療法の種類について、高齢群はカルボプラチンベースのレジメンが多かった(96.4%vs.75.5%)。・術前補助療法の完遂割合は高齢群92.9%、非高齢群84.3%であった。・術前補助療法の奏効割合は高齢群68%、非高齢群66%であり、病勢コントロール割合はそれぞれ100%、96%であった。・術前補助療法におけるGrade3以上の治療関連有害事象は高齢群35.7%、非高齢群27.5%に発現した。全Gradeの免疫関連有害事象は高齢群7.1%、非高齢群25.5%に発現し、高齢群のほうが少なかった(p=0.0393)。・手術実施割合は高齢群92.9%(予定症例3.6%を含む)、非高齢群91.5%(同2.9%を含む)であった。非実施割合はそれぞれ7.1%(病勢進行1例、AE 1例)、8.8%(病勢進行4例、患者拒否2例、AE 1例、その他2例)であった。・手術実施例におけるR0切除割合は高齢群96.0%、非高齢群98.9%であった。・病理学的完全奏効(pCR)割合は高齢群20.8%、非高齢群39.3%であり、病理学的奏効(MPR)割合はそれぞれ54.2%、60.7%であった。 本結果について、松原氏は「pCR、MPR割合は非高齢群と比較するとやや低いものの、臨床試験の結果と比較しても全体的に良好な結果であった」と考察し「高齢者に対するニボルマブ+化学療法による術前補助療法は忍容性があり、病理学的奏効も期待できる治療であると考えられる。今後は長期フォローアップでの有効性の検討や、他の術前・術後補助療法の忍容性・有効性の検討も必要である」とまとめた。

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