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高齢2型糖尿病、SGLT2阻害薬で死亡・透析リスク低く/統数研・横浜市大ほか

 高齢の糖尿病患者への薬物治療では、DPP-4阻害薬だけでなく、近年ではSGLT2阻害薬も使用されている。その一方で、SGLT2阻害薬の75歳以上の成人におけるエビデンス、とくにDPP-4阻害薬との比較データは限られている。このテーマについて野間 久史氏(統計数理研究所/総合研究大学院大学 教授)、後藤 温氏(横浜市立大学医学部 教授)らの研究グループは、レセプトデータなどを基に標的試験エミュレーションを実施した。その結果、SGLT2阻害薬は、DPP-4阻害薬と比較し、全死因死亡および腎臓関連リスクの低下と関連していることが示唆された。Age and Ageing誌2026年8月3日号に掲載。高齢糖尿病患者へのSGLT2阻害薬とDPP-4阻害薬の使用で違いはあるか 研究グループは、わが国のレセプトデータと健康診断データを連結し、標的試験エミュレーションを実施。SGLT2阻害薬またはDPP-4阻害薬の投与を新たに開始した75歳以上の2型糖尿病患者を対象に、死亡、心血管および腎臓の転帰について、1ヵ月の導入期間を設けたうえで、逆確率重み付け法を用いてITT(治療意図)解析による効果を推定した。 主な結果は以下のとおり。・本研究では8,486例(SGLT2阻害薬群2,204例、DPP-4阻害薬群6,282例)が解析された。・1ヵ月の導入後、SGLT2阻害薬群では全死因死亡リスクの低下(ハザード比[HR]:0.677、95%信頼区間[CI]:0.500~0.916)および末期腎不全または透析導入リスクの低下(HR:0.374、95%CI:0.157~0.890)に関連していた。・ITT解析において、心不全による入院(HR:1.103、95%CI:0.854~1.426)や心筋梗塞(HR:1.015、95%CI:0.768~1.341)については、明確な差は認められなかった。・脳卒中の発生頻度はSGLT2阻害薬群で高かった(HR:1.420、95%CI:1.165~1.828)が、この結果の解釈には慎重な検討が必要である。 以上の結果から研究グループは、「75歳以上の2型糖尿病患者においては、SGLT2阻害薬は、DPP-4阻害薬と比較し、全死因死亡および腎臓関連リスクの低下と関連していることが示唆された。観察された脳卒中リスクの上昇については、残存交絡因子、競合する死亡要因、および脆弱な高齢者における異質性がこの傾向に寄与している可能性があるため、慎重な解釈が必要」と結論付けている。

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2型糖尿病糖尿病予備群、更年期症状の負担が大きい可能性

 2型糖尿病または糖尿病予備群の女性では、更年期の症状がより強く現れる可能性を示唆するデータが報告された。乙支大学校(韓国)のYou Lee Yang氏らの研究によるもので、詳細は「Menopause」に8月4日付で掲載された。2型糖尿病または糖尿病予備群の女性は、非糖尿病群に比べて、更年期に経験する自覚症状の数が多く、重症度のスコアも高いという。 この研究は、韓国の40~64歳の女性296人(平均年齢55.02±5.55歳)を対象に行われた。空腹時血糖値とHbA1cに基づき、220人が2型糖尿病または糖尿病予備群と判定され、これを「糖尿病群」とし、残りの76人を「非糖尿病群」とした。更年期症状は、身体的・心理的症状を5段階のリッカート尺度(全くないは0点、非常に強いは4点)で答えてもらう質問票により把握した。 その結果、更年期症状の数は、非糖尿病群が15.88±11.70であるのに対して、糖尿病群は20.30±12.20であり、有意に多かった(P=0.003)。また、症状の重症度も、非糖尿病群の26.11±23.09に対して、糖尿病群は36.53±29.27と有意にスコアが高かった(P=0.005)。 閉経前・閉経移行期・閉経後という三つのステージに分けて比較した場合も、全てのステージで糖尿病群の方が更年期症状の数が多かった。ただし、有意差が認められたのは閉経後のみだった(P=0.006)。症状の重症度も同様に、全てのステージで糖尿病群のスコアが高かったが、有意差が認められたのは閉経後のみだった(P=0.008)。 米国に拠点を置く更年期学会(The Menopause Society〔旧:北米更年期学会〕)のメディカルディレクターであるStephanie Faubion氏は、「この研究は、糖尿病を患う女性は更年期症状の負担がより強いことを示唆している」と述べている。同氏は、糖尿病や高血圧、脂質異常症などの心血管代謝関連のリスク因子が、血管運動症状の頻度が高いことと関連するという先行研究にも言及している。また、血管運動症状の負担が大きい女性は、心血管代謝リスクのプロファイルがあまり良好でない傾向があるという。なお、Faubion氏は今回の研究には関与していない。 今回の研究結果は、中年女性の糖尿病治療に、更年期症状の評価・管理を組み込むことの重要性を示している。さらにFaubion氏は、「この研究は糖尿病のある女性における更年期症状への対処の重要性を強調するだけでなく、閉経移行期は全ての女性において、心血管疾患のリスク因子を評価・治療する重要な機会であることをも認識させるものだ」と付け加えている。

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第331回 医療DX推進をいまだに牽制する日本医師会、電子カルテ情報共有サービス「200床以上の病院で2028年度までに普及率100%の達成」は絵に描いた餅か?

地域のインフラが度重なる自然災害でボロボロにこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。先週はある取材で富山市から岐阜県の高山市、そして美濃市、愛知県名古屋市と中部地方を横断する取材旅行をしてきました。折しも、石川、富山にレベル5大雨特別警報が発表された時で、JR高山線には運休、遅れが発生、取材先にたどり着くのに難儀しました。熊本地震、千葉豪雨など最近の災害で実感するのは鉄道、幹線道路、水道など日本のインフラの脆弱さです。高市政権は「責任ある積極財政」によって成長分野の企業の供給力拡大を国主導で後押しするとしていますが、それ以前の問題として、国民が日々生活する地域のさまざまなインフラが度重なる災害でボロボロになっていく現状にはどう対応しようとしているのでしょうか。JR高山線の高山駅で、いつ到着するともわからない「特急ひだ」(結局2時間遅れでした)を待ちながら、そんなことを考えました。ちなみに高山駅は外国人の観光客であふれかえっていました。さて、今回は全国の医療機関への実装が予定されている「電子カルテ情報共有サービス」について書いてみたいと思います。電子カルテ情報共有サービスは日本の医療を支える重要インフラの1つに位置付けられています。しかし、国は医療を成長分野と位置付けていないからでしょうか、その推進に今ひとつ積極性が感じられません。日本医師会も同様、全国の診療所を慮ってか、きわめて消極的です。このままでは、医療はDX・AIの後進分野になっていくに違いありません。「電子カルテ情報共有サービス」2026年度冬をめどに全国で運用を開始厚生労働省は8月27日、社会保障審議会医療部会に医療DXの進捗状況を報告しました。全国の医療機関や薬局などで患者の電子カルテの情報を共有する仕組みである「電子カルテ情報共有サービス」は、現在、全国10地域でモデル事業を行っており、年内の検証を経て、2026年度の冬をめどに全国で運用を開始するとしました。電子カルテ情報共有サービスへの対応は、地域医療支援病院は努力義務にする方針も示されました。厚労省はこの日、第1期の医療情報化推進方針の案も公表しました。電子カルテに関しては、200床以上の病院(療養病床などが中心の病院以外)で「2028年度までに普及率100%」の達成を目指すとしました。支払基金が今後取り組む医療DX業務に対する国によるガバナンスを発揮する観点から、改正医療法で厚労大臣は医療情報化推進方針を作成することになっており、その第1期の推進方針案が示されたわけです。なお、支払基金は今年10月からDX審査支払機構に改組されます。つまり、これまでの支払基金がDX審査支払機構に生まれ変わり、わが国の医療DXを推し進めることになるわけです。その大きな目標が全国医療情報プラットフォームの構築であり、電子カルテ情報共有サービスはその中核をなすものです。それにもかかわらず、電子カルテ情報共有サービスへの対応は、当初は地域医療支援病院が努力義務になるだけで、強制力が弱いのが気になります。200床以上の病院で2028年度までに普及率100%の達成を目指す、としていますが、地域医療支援病院ですら「努力義務」であることから、「絵に描いた餅」感が漂ってきます。日本医師会、上野厚労相の「医療機関に電子カルテ導入を義務付けるものではない」発言を評価そういえば、8月初旬にはこんな報道もありました。日本医師会の長島 公之常任理事は8月5日の記者会見で、上野 賢一郎厚生労働大臣が7月21日の記者会見で、「(2030年までに電子カルテを100%導入する)目標は政府に課されたものであり、医療機関に導入を義務付けるものではない」との見解を示したことを評価、「医療関係者の安心につながる」と話したというのです。電子カルテ情報の共有をはじめとする医療DXは、患者、医療機関、医療者に恩恵をもたらすと思うのですが、むしろDXに取り組まないほうが「安心」とは、いったいどういうことなのでしょう。上野厚労相が7月21日の記者会見で示したのは、1)2030年までの電子カルテ導入の義務化は国に対して課されたもの(医療機関に対してではない)、2)国が開発中の標準型電子カルテ・導入版は電子カルテ情報共有サービスの利用を円滑化するものであり、医療機関に導入を義務付けるものではない、3)標準型電子カルテの仕様に対応するため、各医療機関に導入されている電子カルテの改修や更新を求めるものではない──の3点です。長島常任理事は、こうした国の姿勢は日本医師会の目指す方向性と同じであるとしつつ、日本医師会が目指す医療DXの目的は、1)国民・患者の皆様への安全・安心でより質が高い医療の提供、2)医療現場の負担軽減──であることを強調、日本医師会としても今後もDX推進に引き続き協力していく姿勢を示しました。しかし一方で、医療DXの推進により、「医療機関が医療提供できなくなる」「国民が医療を受けられない」等の事態が生じてはならないと強調しました。つまり、電子カルテ情報共有サービスや医療DXに取り組まない、あるいは取り組めない医療機関や医師にはDXを強制するな、というわけです。長島常任理事は、2025年8月に日本医師会が公表したアンケートで、全国の紙カルテ利用中の診療所(n=5,466件)の54.2%が「電子カルテの導入は不可能」と回答している現状を改めて紹介、「地域医療を守るため、すべての医師が、現状のままでも医療が継続できることが大前提」「電子カルテの義務化には反対」という日本医師会の従来の主張を繰り返しました。日医の医療DXに対する姿勢は「DX反対」と言っているかのよう医療分野に限ったことではありませんが、IT化やDXは、最低限のレベルの人々や集団に合わせようとしては、いつまでたっても普及・定着していかないのは世の常です。ある程度のレベルに目標を設定し、まったく導入していない人々や集団の“底上げ”を図らないと、DXの実効性はいつまでたっても上がりません。たとえば、現在、米国のMLB観戦チケットは、スマートフォンで提示するモバイルチケット(電子チケット)が基本です。多くの球場で不正利用防止を理由に、紙で印刷したPDFチケットを受け付けていません。90歳、100歳であってもスマホがないとMLBのゲームを観戦できないわけです(家族の提示でもOK)。しかし、今そのことに異を唱える人はいません。「紙チケットNG」になった時点で、MLBを観戦したい中高年はスマホの電子チケットに対応せざるを得なくなり、使いこなすようになっていったからです。電子カルテや医療DXについても、導入費用の問題はさておいて、日本医師会はもう少し対応レベルを上に設定すべきではないでしょうか?そうでなければ、全国医療情報プラットフォームという医療インフラは、いつまでたっても役立つものとならないでしょう。長島氏が示した日医の医療DXに対する姿勢はまるで「DX反対」と言っているかのようです。DXによって、医療機関の診療や経営の実態が丸裸になってしまうことを、今でも恐れているのかもしれません。

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視覚障害につながるまれな眼疾患とGLP-1受容体作動薬の関連性

 GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)の使用が、視覚障害につながるまれな眼疾患の発症リスク上昇と関連する可能性があるとする研究結果が報告された。米ラトガース大学のChintan Dave氏らの研究によるもので、詳細は「Annals of Internal Medicine」に7月14日付で掲載された。ただし、この病気を発症する絶対リスクは非常に低いという。 この研究では、虚血性視神経症(ION)という眼の病気に焦点が当てられた。IONは、網膜で受け取った情報を脳へ送る「視神経」に虚血(血流の不足)が生じる病気で、視野が欠けたり視力が低下したりすることがある。近年、GLP-1RAとIONとの関連について関心が高まっているが、これまで十分なデータは得られていなかった。Dave氏らは、米国の大規模医療保険請求データベースを用い、実際の臨床試験に近い条件を再現する解析手法(標的試験エミュレーション)で検討した。 18~65歳までの2型糖尿病患者のうち、GLP-1RAまたはSGLT2阻害薬(SGLT2i)、DPP4阻害薬(DPP-4i)の処方が開始された患者を解析対象とした。結果に影響を及ぼし得る80項目以上の交絡因子を統計学的に調整して、処方開始から18カ月間のIONの発症リスクを比較した。 SGLT2iとの比較では、1万人当たりのION発症率がGLP-1RA群では8.5、SGLT2i群では5.5だった(リスク差〔RD〕3.0〔95%信頼区間0.4~5.7〕)。DPP-4iとの比較では、GLP-1RA群7.8、DPP-4i群4.2だった(RD3.6〔同1.1~6.1〕)。つまり、GLP-1RAの処方が、わずかなION発症リスク上昇に関連している可能性が見られた。とはいえ、1万人当たりわずか数人のリスク差であった。 この報告は医療界の関心を集めているが、研究者らは、「患者個々の実際のリスクは非常に低い」と強調。また、「リスクは薬剤の直接的な影響というよりも、解析対象者(全員が2型糖尿病患者)の特徴を反映している可能性もある」とし、因果関係の究明にさらなる研究が必要としている。 論文の筆頭著者であるDave氏は、「IONはまれな病気ではあるが突然の視力喪失を引き起こすことがあるため臨床的に重要だ。リスクの上昇はわずかだが、この潜在的な関連性について、医師は患者とともに認識しておくべき」と述べている。 IONの症状は通常、完全な失明ではなく、片方の眼の視野がぼやけたり欠けたりするといった症状が多い。発症後数カ月たつとわずかに改善する患者もいるが、多くの場合、視力や視野の障害は永続的なものになる。本研究では、男性、50歳以上、心血管疾患や眼疾患がある人で、GLP-1RA使用者と比較薬使用者とのIONリスク差が大きい傾向がみられた。Dave氏はGLP-1RAの使用に関して、「IONのリスクが高い患者の症状の早期発見と迅速な眼科的評価が、特に重要ではないか」と語っている。

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子宮内膜症で2型糖尿病のリスクが46%上昇

 子宮内膜症の女性は2型糖尿病発症リスクが46%高いことを示すデータが報告された。米ジョージ・メイソン大学のMaggie Fuzak Nunziato氏らの研究によるもので、詳細は「Diabetologia」に8月6日付で掲載された。論文の筆頭著者である同氏は、「これまでの研究の多くは、子宮内膜症を独立した疾患として捉えており、2型糖尿病との関連性はほとんど報告されていなかった。われわれの研究結果は、子宮内膜症が生殖機能以外の健康面にも影響を及ぼす可能性があるという認識を深めるものだ」と述べている。 Nunziato氏らは、1996~2021年の米国ユタ州での医療情報が記録されているデータベース(Utah Population Database;UPDB)を用いて、子宮内膜症と2型糖尿病リスクとの関連を検討した。UPDBに登録されていた293万9,364人の女性を平均10.8年間追跡したところ、9万9,978人が子宮内膜症と診断されていた。 出生年、出生州、人種/民族、年齢、BMIなどの影響を調整すると、子宮内膜症でない女性に比べて子宮内膜症のある女性は、2型糖尿病のリスクが46%高かった(調整ハザード比〔aHR〕1.46〔95%信頼区間1.43~1.50〕)。このリスクは子宮内膜症の発生部位によって異なり、「その他の部位(膀胱や肺など)」の場合に最も強い関連性が見られた(aHR2.67〔同2.51~2.84〕)。 閉経状況(50歳未満/50歳以上)で分けて解析すると、閉経前の女性で子宮内膜症と2型糖尿病リスクとの関連がより顕著だった(50歳未満はaHR1.55〔1.50~1.60〕)。また、BMI(30未満/30以上)で分けて解析すると、BMIが30以上の場合、2型糖尿病リスクとの関連が弱まる傾向が見られた(BMI30未満はaHR2.39〔2.34~2.44〕、BMI30以上はaHR1.74〔1.70~1.79〕)。 また、妊娠・出産に関する記録のあった経産婦を対象として、妊娠糖尿病の既往の有無で分けた解析も行われた。この解析では、妊娠糖尿病の既往の有無にかかわらず、子宮内膜症がある場合は2型糖尿病リスクが約2倍であることが示された(妊娠糖尿病の既往なしではaHR1.99〔1.95~2.02〕、妊娠糖尿病の既往ありではaHR2.05〔1.58~2.66〕)。 子宮内膜症は子宮内膜に似た組織が子宮外に増殖する病気である。これまで、子宮内膜症と2型糖尿病との関連については、一貫した結果が得られていなかった。今回の研究で明らかになった関連のメカニズムについて、研究者らは、子宮内膜症に伴う慢性炎症が何らかの役割を果たしている可能性があるが、さらなる研究が必要だとしている。また、本研究は両者の関連性を示してはいるものの、子宮内膜症が2型糖尿病を引き起こすことを証明するものではないと強調している。 また研究者らは、この関連性が今後の研究で確認されれば、糖尿病のスクリーニングや予防介入によって、より多くのメリットを得られる可能性のある女性を特定する上で、子宮内膜症の有無の確認が役立つと考えている。

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フィネレノンは非糖尿病CKDのeGFR低下を抑制する(解説:栗山哲氏)

本論文は何が新しい? 非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(non-steroidal mineralocorticoid receptor antagonist:nsMRA)であるフィネレノン(商品名:ケレンディア)の非糖尿病慢性腎臓病(CKD)の腎機能低下抑制効果について、最近、二重盲検無作為化比較試験(RCT)のFIND-CKD研究の2報が報告された。1報は非糖尿病CKD患者全体を対象とした解析(Heerspink HJL, et al. N Engl J Med. 2026;395:533-545.)であり、もう1報は、そのうち糸球体疾患を有する患者に限定した探索的サブ解析(CLEAR!ジャーナル四天王「フィネレノンは糸球体疾患由来のCKDに対しても腎保護的である可能性がある」)である。これらの解析から、フィネレノンには、非糖尿病CKD患者全体でeGFRスロープの低下を遅延化させる腎保護効果があることが示された。CKD腎保護薬としてのフィネレノンの位置付け 糖尿病を合併するCKDに対する腎保護療法としては、RAS阻害薬、SGLT2阻害薬、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(nsMRA)、およびGLP-1受容体作動薬(GLP-1 RA)の4剤が推奨されている。このうち、RAS阻害薬とSGLT2阻害薬は第1選択薬として推奨されている。一方、nsMRAおよびGLP-1 RAは、これらの薬剤に上乗せして使用する薬剤として推奨されている(KDIGOガイドライン:Levin A, et al. Kidney Int. 2024;105:684-701.)。これらの推奨の根拠となったエビデンスは、糖尿病CKD患者を対象としたFIGARO-DKD試験およびFIDELIO-DKD試験、ならびに両試験の統合解析であるFIDELITYの成績である。一方、非糖尿病CKDではフィネレノンに関するRCTは実施されていなかった。今回のFIND-CKD研究で得られた非糖尿病CKDにおける肯定的な結果と、これまでに蓄積されてきた糖尿病CKDにおけるエビデンスを合わせて考えると、フィネレノンの腎保護作用は糖尿病の有無にかかわらずCKD全般で期待される可能性が示唆された。本研究の主要結果 FIND-CKD研究は、世界24ヵ国で実施された国際共同第III相二重盲検RCTである。糖尿病を合併しないCKD患者1,584例を対象とし、フィネレノン群793例とプラセボ群791例を比較した。対象患者の腎機能はCKD G3bが中心で、UACRは大部分がA3に相当する中等度~高度アルブミン尿を呈していた。また、57.0%は糸球体疾患を原疾患とするCKDであり、99.8%が最大耐用量のRAS阻害薬による治療を受けていた。 主要評価項目は、ベースラインから32ヵ月時点までのeGFRの平均年間変化率である総eGFRスロープ。その結果、eGFRの平均年間変化率は、フィネレノン群で-3.3mL/分/1.73m2/年(95%信頼区間[CI]:-3.6~-3.1)、プラセボ群で-4.0mL/分/1.73m2/年(95%CI:-4.3~-3.8)であり、群間差は0.7mL/分/1.73m2/年(95%CI:0.3~1.1、p<0.001)であった。 副次評価項目には、腎・心血管複合イベント、腎複合イベント、心血管複合イベントなど。腎・心血管複合イベントの発生リスクは、フィネレノン群でプラセボ群と比較して有意に低かった(ハザード比[HR]:0.77、95%CI:0.60~0.99、p=0.04)。腎複合イベントのHRは0.78(95%CI:0.60~1.01)、心血管複合イベントのHRは0.60(95%CI:0.27~1.33)であった。 高カリウム血症の発現率は、フィネレノン群で17.0%(135例)、プラセボ群で13.3%(105例)であった。今後のCKD治療にどう影響する? CKDにおける腎保護の基本は、蛋白尿を減少させ、適切に降圧することである。加えて、糖尿病では血糖管理が重要であり、慢性糸球体腎炎・IgA腎症、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎などでは、ステロイド、扁桃摘出術、免疫抑制薬などが病態に応じて選択される。フィネレノンによるCKDの腎保護作用は、「MRの過剰活性化→炎症・線維化」という共通の経路を抑制することによる。FIND-CKDは、非糖尿病CKDにおいても同剤が腎保護作用を有するという仮説を検証したRCTである。本研究の意義と展望については、Dr. Robert TotoのEditorial(Toto R. N Engl J Med. 2026;395:600-601.)のコメントは参考になる。Totoは、「フィネレノンは、CKDや高血圧の病態の根底にあるMRの過剰活性化を抑制する可能性がある。FIND-CKD研究の成果は、フィネレノンを『糖尿病CKDの腎保護薬』から、非糖尿病CKDにおいても『MRの過剰活性化による残余リスクを抑制する薬剤』へと位置付ける可能性がある」と展望している。言い換えると、FIND-CKDはフィネレノンを、「糖尿病CKDの薬」から「CKD全般の腎保護薬」へと適応を拡大する根拠を提供した初めての研究ともいえる。もっとも、eGFR低下の遅延抑制に加えて、腎ハードエンドポイント(腎不全や透析開始など)への効果、CKD疾患別の効果、SGLT2阻害薬との併用効果など、今後検討すべき課題は残されている。 現在、国内外のガイドラインにおいて、非糖尿病CKDに対するフィネレノンの使用についての言及はない。しかし、本研究により、今後のガイドライン改訂において、同剤がCKD全般で新たな腎保護の治療選択肢として位置付けられる可能性が高い。実臨床で非糖尿病CKD患者において、フィネレノン投与を考慮すべき患者として、(1)UACRが中等度から高度、(2)eGFRが25mL/分/1.73m2以上、(3)ARBやSGLT2阻害薬による先行治療を行ってもなお残余リスクがある患者、が想定される。また、フィネレノン投与時には、高カリウム血症のリスクを念頭に入れ、血清カリウム濃度を適切にモニターすべきである。

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第334回 メトホルミン使用と認知症リスク低下が無作為化試験の長期追跡で関連

無作為化試験の被験者の22~24年間の追跡で、メトホルミン使用と認知症リスク低下が関連しました1,2)。1950年代の終わりごろに2型糖尿病(T2D)治療に使われるようになったメトホルミンはいまだにその第1選択薬の座にあり、2022年の調べでは世界のおよそ1億5千万例が日々メトホルミンを服用しています3)。メトホルミンの認知機能への影響は一貫していません。英国のプライマリケア診療記録を調べた2012年の報告では、メトホルミンの長期使用とアルツハイマー病リスク上昇の関連が示されています4)。オーストラリアでの試験ではメトホルミン使用と認知障害が関連しました5)。逆に、英国のT2D患者21万例ほどを調べた試験では、メトホルミン使用と認知症リスク低下が関連しました6)。また、12の観察試験のメタ解析では、メトホルミン長期使用とアルツハイマー病を含む神経変性疾患リスク低下の関連が認められています7)。小規模で短期間ではあるものの、2つの無作為化試験でメトホルミン使用と認知機能指標の改善も示されています8,9)。米国・ニューヨーク市のコロンビア大学のJose Luchsinger氏らは、より確かな裏付けを得るべく、1990年代後半に3千例超(3,234例)を募ったDiabetes Prevention Program(DPP)試験とその後継試験の合計20年を超える追跡結果を使って、メトホルミンが果たして認知症リスクを下げるかどうかの検討を試みました。DPP試験には血糖値が高めでT2Dを生じる恐れが大きい25歳以上の成人が参加し、メトホルミン、プラセボ、低カロリー/低脂肪食や定期的な運動を実行する強力な生活習慣介入(intensive lifestyle intervention:ILS)のいずれかの群に割り振られました。2002年にNEJM誌に掲載された解析でメトホルミンやILSのT2D予防効果が裏付けられ、試験の本来の目的を達成しました10)。DPP試験の被験者の9割近い2,779例は同試験に続くDPP Outcomes Study(DPPOS)に参加し、全員がILSを受けました。また、DPP試験でメトホルミンに割り振られた被験者は、DPPOS試験でメトホルミン使用を2021年まで続けることができました。その翌年以降の2022~24年に認知機能が十分に検討できた被験者1,483例(年齢中央値:74歳)を解析したところ、メトホルミン使用患者の認知症の発生率がプラセボやILSに割り振られた患者に比べて6割ほど低いことが示されました。メトホルミン、プラセボ、ILS群の認知症の発生率はそれぞれ1.9%、3.5%、4.2%でした。認知機能異常の割合が低かったことを試験の難点として著者が言及しているとおり、解析対象の1,483例のうち認知症になったのはわずか48例(3.2%)のみでした。そういう欠点があるとはいえ数十年もの患者追跡は希少で貴重であり、今回の結果はメトホルミンの予防効果を一層裏付けたとKarolinska Instituteの認知症研究者Miia Kivipelto氏は述べています2)。今やLuchsinger氏は最も一般的な認知症のアルツハイマー病をメトホルミンで防げるかどうかを18ヵ月間の無作為化試験で調べています。試験はMetformin in Alzheimer's Dementia Prevention(MAP)と呼ばれ、糖尿病ではない健忘型軽度認知障害(aMCI)患者326例が組み入れられています11)。Luchsinger氏は本年中の結果報告を目指しています2)。Kivipelto氏は生活習慣介入単独やそれに加えてメトホルミンも服用することで認知症を減らせるかどうかを調べる無作為化試験を率いています。MET-FINGER12)と呼ばれるその試験の結果は再来年2028年に判明する見込みです2)。参考1)Wander PL, et al. medRxiv. 2026 Aug 7. [Epub ahead of print]2)Diabetes drug metformin may halve the risk of dementia / NewScientist3)Triggle CR, et al. Metabolism. 2022;133:155223.4)Imfeld P, et al. J Am Geriatr Soc. 2012;60:916-921.5)Moore EM, et al. Diabetes Care. 2013;36:2981-2987.6)Zheng B, et al. Alzheimers Dement. 2023;19:5681-5689.7)Zhang Y, et al. Diabet Med. 2022;39:e14821.8)Luchsinger JA, et al. J Alzheimers Dis. 2016;51:501-514.9)Koenig AM, et al. Alzheimer Dis Assoc Disord. 2017;31:107-113.10)Knowler WC, et al. N Engl J Med. 2002;346:393-403.11)Metformin in Alzheimer's Dementia Prevention (MAP) / ClinicalTrials.gov12)MET-FINGER study / Imperial

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制吐目的のオランザピン、糖尿病患者にも厳格管理下で投与可能へ/日本癌治療学会

 2026年8月25日、日本癌治療学会制吐薬適正使用ガイドライン改訂ワーキンググループ(以下、WG)は、「制吐目的としてのオランザピン投与時の血糖管理」について、ガイドライン速報版として公開した。同日に厚生労働省から添付文書の改訂指示が発出され、経口薬のオランザピンについては、警告が新設されると同時に禁忌の項が改訂された。 同ワーキンググループの安部 正和氏(浜松医科大学医学部産婦人科)は、本公表に至る経緯や臨床現場への期待について、以下のように本稿へコメントを寄せている。  「私と国立がん研究センター中央病院薬剤部の橋本 浩伸先生、矢内 貴子先生が中心となってシスプラチンレジメンを対象に行ったJ-FORCE試験、乳がんのAC療法を対象に日本で行われたJTOP-B試験、米国で行われたALLIANCE試験の3試験によって、オランザピンを含む4剤併用療法は、日本・米国・欧州のガイドラインにて、高度催吐性化学療法に対する標準制吐療法になりました。これまで日本でのみ糖尿病患者への投与が禁忌であったことから、国内の糖尿病患者さんだけがオランザピンを含む制吐療法を受けることができませんでした。  この臨床課題について、私と橋本先生は2年前に、日本がんサポーティブケア学会のCINV部会のミッションとしてオランザピンの糖尿病患者への投与禁忌解除を掲げ、活動を開始しました。CINV部会および制吐薬適正使用ガイドラインの関係者からの協力もいただき、オランザピンの治験データ、国内で行われたオランザピン5mgを含む制吐療法を検証した第III相試験の血糖値データ、オランザピンを使用した国内外のランダム化比較試験の文献、海外のオランザピンの添付文書、教科書的記載などを調査し、厚生労働省医薬局医薬安全対策課と医薬品医療機器総合機構(PMDA)の方と安全な使用条件について検討を重ね、ようやく今回の添付文書に至りました。  抗がん剤に伴う悪心・嘔吐は患者さんがつらいだけではなく、コントロールが悪いと生命予後が短くなることが示されています。日本の糖尿病患者さんの制吐療法においてオランザピンが使用できることになったことは非常に喜ばしいことである一方で、安全に使用できることが非常に重要です。がん治療に関わる医療者の皆さまにおかれましては、WGが発出したガイドライン速報版の内容を十分確認の上、安全かつ適正な使用をお願いいたします」添付文書の改訂点【警告】<抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)>糖尿病又はその既往のある患者へ本剤を投与する場合には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合以外は投与しないこと。また、本剤投与前及び投与期間中は、毎日頻回に血糖値のモニタリングの管理を行い、本剤投与後も血糖値が安定するまではモニタリングを継続するなど患者の状態を継続的に観察するとともに、投与期間を通じて、緊急時に十分に対応できる体制を整えた上で投与すること。【禁忌】糖尿病の患者、糖尿病の既往歴のある患者↓<統合失調症、双極性障害における躁症状及びうつ症状の改善>糖尿病の患者、糖尿病の既往歴のある患者厳格な血糖管理と入院管理の徹底 今回示された臨床管理の主なポイントは以下のとおり。・入院治療の適応:糖尿病またはその既往のある患者に制吐目的でオランザピンを投与する場合、血糖コントロールが安定していることを確認のうえ、入院管理で化学療法を行う。外来治療が可能な化学療法(AC療法や中等度催吐性化学療法など)であっても、高度催吐性リスクであるシスプラチンを含む化学療法と同様に入院管理で実施する。・事前コンサルト:化学療法前の検査で糖尿病が判明した場合や血糖コントロール不良例では、あらかじめ内分泌内科・糖尿病内科へコンサルトを行い、十分なコントロールを得た上で治療を開始する。・血糖管理:日常臨床で行われているスライディングスケール(毎食前±眠前の1日3〜4回の血糖測定)を用いた厳格な血糖管理を行う。・入院(投与)期間と退院基準:標準制吐療法のオランザピン投与日数(1〜4日目の4日間)を遵守し、追加投与が必要な場合も入院管理を継続して必要最低限にとどめる。オランザピンおよび併用するデキサメタゾンの投与期間・投与量に留意し、食前血糖値200mg/dL未満など血糖値が安定した状態を確認して退院を計画する。・退院後の外来管理・緊急対応:自己血糖測定(SMBG)患者での食前血糖値200mg/dL以上の継続・300mg/dL以上の高血糖時、SMBGが保険診療上できない患者での口渇・多尿・倦怠感などの発現時には、夜間・休日を問わず受診している医療機関に連絡・受診するよう指導を徹底する。カルテへの明確な記載や院内マニュアルを整備し、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の安全管理体制と同様に、多科・多職種による安全管理体制の構築を推奨する。禁忌解除の要望が実現 多元受容体拮抗薬(MARTA)で非定型抗精神病薬のオランザピンは、発売開始後の公知申請によって、2017年に抗悪性腫瘍剤(シスプラチンなど)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)に対する効果的な制吐薬として承認されている。また、2023年10月に改訂された『制吐薬適正使用ガイドライン第3版』では急性期・遅発期ともに有効な新たな制吐薬として使用可能になった点などが反映されたことで、現在では臨床で広く浸透している。その一方で、重大な副作用として著しい血糖値の上昇や糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡等が報告されていたことから、「糖尿病またはその既往のある患者には投与禁忌」とされ、糖尿病歴のある患者が化学療法を行う際に、制吐対策が限定される状況であった。しかし、これまで報告されている本薬の有効性を検証した臨床試験において、「重篤な高血糖関連事象は報告されていない」「本薬を含む4剤併用の制吐療法は、国内外のガイドラインにおいて高度催吐性リスクの化学療法に対する標準制吐療法になっているが、本邦のみ本薬が糖尿病患者に対して禁忌」であることを踏まえ、WGにより禁忌解除の要望書を2026年4月9日付けで厚生労働省に提出。医薬品医療機器総合機構(PMDA)の評価でも支持を受け、今回、「抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)」の効能に対しては、禁忌を解除し、慎重投与可能と判断されるに至った。 今回の速報版は、ガイドライン上の既存の推奨内容を変更するものではないが、糖尿病またはその既往のある患者であっても、適切な厳格管理体制を整えることでオランザピンを制吐目的で安全に投与・活用できるようにするための具体的な管理手順および留意点を取りまとめたものである。薬物動態と臨床試験データ さらに速報版では、制吐目的での短期投与に関する薬理学的データや臨床試験成績も提示されている。オランザピンの半減期は約33時間であり、定常状態に達するには約1週間(約163時間)を要するため、標準的な4〜6日間の連続投与時点では血中濃度が上がり切っていない状態にある。また、日本国内で実施された各種ランダム化比較試験(J-FORCE試験、JTOP-B試験、肺がんカルボプラチン試験など)のデータにおいて、制吐薬としてオランザピンを短期間併用した群と対照群との間で、Grade3〜4の重篤な高血糖発現率に大きな差は認められていない。 制吐目的での短期投与における高血糖関連有害事象のエビデンスがまだ十分に集積されていない現状を踏まえ、本速報版では臨床現場でより安全にオランザピンを使用するための慎重なリスク管理体制が提示された形だ。

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LDL-C<55mg/dLでもMACE再発、リスク因子は?/ESC2026

動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の2次予防では、超高リスク患者においてLDL-C<1.4mmol/L(55mg/dL)の達成が推奨されている。一方で、LDL-Cを良好に管理しても動脈硬化の進展や心血管イベントの再発は起こりうる。今回、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後にLDL-C<1.4mmol/Lを達成した冠動脈疾患(CAD)患者におけるASCVD再発の臨床的特徴を検討した結果、主要心血管イベント(MACE)は6.2%に発生し、動脈硬化性疾患(polyvascular disease:PVD)がMACEと強く関連する一方、PCI後2ヵ月時点の治療中LDL-C<1.0mmol/L(40mg/dL)の達成はMACEリスク低下と関連していたことが明らかになった。本研究結果は、国立循環器病研究センター 循環器内科の片岡 有氏が8月28~31日にドイツ・ミュンヘンで開催されたEuropean Society of Cardiology 2026(ESC2026、欧州心臓病学会)の2次予防のセッションで発表、Journal of Clinical Lipidology誌2026年8月号にも掲載された。本研究は、2017年1月1日~2022年8月31日にPCIを受けたCAD患者を対象とした多施設共同後ろ向き観察研究である。PCI後2ヵ月時点のLDL-Cデータがない患者、3年時点の臨床フォローアップがない患者、PCI後2ヵ月以内にMACEを発症した患者、非動脈硬化性のCAD患者などを除外。PCI後2ヵ月時点でLDL-C<1.4mmol/Lを達成した患者を解析対象とし、MACE発生例と非発生例の臨床背景、脂質低下療法、リスク因子管理を比較した。主要評価項目は、心臓死、非致死的心筋梗塞、非責任病変に対する臨床的適応による冠動脈血行再建からなるMACEとした。主な結果は以下のとおり。・解析対象は780例で、平均年齢70.1歳、男性81.7%であった。高血圧は73.7%、脂質異常症は65.2%、2型糖尿病は37.1%、慢性腎疾患は50.3%に認められ、心筋梗塞既往は11.9%、多枝病変は31.0%であった。・観察期間中央値1,632日(四分位範囲[IQR]:1,011~2,502)で、MACEは48例(6.2%)に発生した。内訳は、心臓死1.1%、非致死的心筋梗塞1.4%、非責任病変に対する臨床的適応による冠動脈血行再建4.7%であった。・LDL-C<1.4mmol/L達成後に発生したMACEの81.2%(39/48例)は、PCI後2年以内に発生した。また、心臓死9例はすべてPCI後6ヵ月以内に発生した。・MACE発生例では、非発生例と比較してPVDの割合が高かった(72.9%vs.17.3%、p<0.001)。下肢閉塞性動脈疾患(LEAD)もMACE発生例で多く(54.2%vs.4.0%、p<0.001)、CAD+脳血管疾患(CVD)+LEADの併存も高頻度であった(12.5%vs.1.6%、p<0.001)。一方、従来の冠危険因子および多枝病変などの臨床的特徴に有意差はみられなかった。・PCI後2ヵ月時点で、全体の94.8%がスタチン、73.3%が高強度スタチンで治療されていた。エゼチミブの使用はMACE発生例で非発生例より少なかった(45.8%vs.63.2%、p=0.023)。PCSK9阻害薬の使用割合は、MACE発生例4.1%、非発生例5.1%であった(p=0.770)。・PCI後2ヵ月時点で治療中LDL-C<1.0mmol/Lを達成していた割合は、MACE発生例で非発生例より低かった(16.7%vs.33.2%、p=0.018)。治療中LDL-CはMACE発生例で数値的に高かった(44.1±10.5 vs.41.6±9.3mg/dL、p=0.074)。・多変量Cox解析では、PVDがMACE発生と独立して関連していた(ハザード比[HR]:10.74、95%信頼区間[CI]:5.65~20.39、p<0.001)。一方、PCI後2ヵ月時点の治療中LDL-C<1.0mmol/Lの達成はMACEリスク低下と独立して関連していた(HR:0.37、95%CI:0.17~0.80、p=0.010)。・脂質低下療法の強度を追加調整したモデルでも、PVD(HR:11.02、95%CI:5.80~20.93、p<0.001)およびLDL-C<1.0mmol/L(HR:0.39、95%CI:0.18~0.85、p=0.019)の関連は一貫していた。・PVDの表現型別では、CAD単独を基準とした場合、CVD併存はMACEリスク上昇と有意に関連しなかった(HR:1.63、95%CI:0.46~5.75、p=0.447)。一方、LEAD併存はMACEリスク上昇と強く関連し(HR:21.03、95%CI:10.74~41.17、p<0.001)、CVD+LEAD併存でも同様であった(HR:23.75、95%CI:8.51~66.26、p<0.001)。・PVDを有する162例では、32.1%がLDL-C<1.0mmol/Lを達成していた。PVD患者において、PCI後2ヵ月時点の治療中LDL-C<1.0mmol/Lの達成はMACE発生頻度の低下と関連し(Log-rank p=0.032)、多変量解析でもMACEリスク低下と独立して関連していた(HR:0.36、95%CI:0.14~0.87、p=0.024)。本研究結果について著者らは、LDL-C<1.4mmol/Lを達成したCAD患者においても心血管リスクは残存しており、とくにPVDはMACE発生と独立して関連していたとまとめた。また、PCI後2ヵ月時点の治療中LDL-C<1.0mmol/LがMACEリスク低下と関連していたことから、CAD患者におけるASCVD再発予防では、さらに低いLDL-C目標を考慮しうると結論付けた。

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チルゼパチド、2型糖尿病治療の負担軽減に寄与か――実臨床研究で示唆

 2型糖尿病では、複数の糖尿病治療薬の併用や複雑なインスリン療法が必要となり、患者の治療負担が増すことがある。こうした中、2型糖尿病患者を対象としたリアルワールド研究で、チルゼパチドは従来のGLP-1受容体作動薬と比べ、血糖コントロールや体重を改善しながら、糖尿病治療の負担軽減につながる可能性が示された。研究は、浅ノ川総合病院内科/金沢大学大学院未来型健康増進医学分野の澤村俊孝氏らによるもので、詳細は6月30日付の「Endocrine Practice」に掲載された。 複数の薬を服用する「ポリファーマシー(多剤併用)」や複雑なインスリン療法は、2型糖尿病患者の治療負担を増大させるだけでなく、低血糖や転倒、入院などのリスクとも関連する。このため、十分な血糖コントロールを維持しつつ、治療を簡略化することが重要な課題となっている。チルゼパチドはGIPとGLP-1という2つの消化管ホルモンの受容体に作用する2型糖尿病治療薬で、優れた血糖降下作用や体重減少作用を示すことが報告されているが、これまでの研究はHbA1cや体重への効果に焦点を当てたものが中心で、治療薬やインスリンの減量といった「治療簡略化」を評価した報告は限られていた。こうした背景から著者らは、2型糖尿病患者を対象に、チルゼパチドとGLP-1受容体作動薬の治療簡略化効果をリアルワールドデータで比較検討した。 著者らは、日本の2施設で2023年4月~2025年3月にチルゼパチドまたはGLP-1受容体作動薬を開始した2型糖尿病患者318人(チルゼパチド群153人、GLP-1受容体作動薬群165人)を対象に、後ろ向きのリアルワールド研究を実施した。患者を最大12カ月追跡し、糖尿病治療薬が1剤以上減少した場合、インスリン注射回数が減少した場合、または1日当たりの総インスリン投与量が50%以上減少した場合のいずれかを満たし、その状態が維持されていることを「治療簡略化」と定義して評価した。解析では患者背景の違いを考慮し、傾向スコアを用いた統計学的手法で調整した。 解析の結果、チルゼパチド群では55%が治療簡略化を達成したのに対し、GLP-1受容体作動薬群では25%で、チルゼパチド群の方が有意に高かった(オッズ比〔OR〕 3.69、95%信頼区間〔CI〕 2.21~6.16、P<0.001)。絶対リスク差は30%だった。 治療簡略化は主に糖尿病治療薬数の減少によるもので、その割合はチルゼパチド群で47%、GLP-1受容体作動薬群では10%だった(OR 7.96、95%CI 4.06~15.6、P<0.001)。インスリン注射回数や総インスリン投与量もチルゼパチド群で減少する傾向がみられたが、全体では有意差はなかった。 また、HbA1cと体重はいずれの群でも改善したが、その改善幅はチルゼパチド群でより大きかった。12カ月後のHbA1cはチルゼパチド群で1.34%、GLP-1受容体作動薬群で0.78%低下し、体重はそれぞれ4.75kg、2.86kg減少した。 本研究ではチルゼパチド使用患者の56%がGLP-1受容体作動薬からチルゼパチドへ切り替えられた患者であったが、GLP-1受容体作動薬からの切り替え患者を除外したサブグループ解析では、薬剤数に加えインスリン注射回数や総インスリン投与量をアウトカムとした解析でも、有意な減少が認められた。 著者らは、「チルゼパチドは、実臨床において血糖コントロールや体重減少効果を維持しながら、2型糖尿病治療の簡略化に寄与する可能性が示された」と結論付けている。また、治療レジメンの簡略化は服薬アドヒアランスや患者負担の軽減につながる可能性があり、チルゼパチドは日常診療における治療負担を軽減する新たな選択肢となり得るとしている。 一方で著者らは、本研究が後ろ向き観察研究であることや、患者のQOLや治療満足度を評価していないことなどを限界として挙げ、前向き研究による検証が必要としている。

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体重の増減を繰り返すと太ももの筋肉が減る?

 中高年を対象とした研究で、48カ月間の追跡期間中に体重の増減を繰り返した人では、最終的な体重の変化が小さくても、大腿部(太もも)の筋肉体積の減少率が増減を繰り返さなかった人の4倍近くに上ったことが示された。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)放射線科教授のThomas Link氏らによるこの研究結果は、7月21日付で「Radiology」に掲載された。Link氏は、「体重の増減を繰り返した人では、脂肪とともに多くの筋肉が失われ、その筋肉を取り戻すことはなかった。これは、減量中に筋肉体積を維持する方法を明らかにすることが、全身の健康にとって重要であることを示している」とニュースリリースで述べている。 研究グループによると、近年の研究では、GLP-1受容体作動薬による減量治療を中止すると、減少した体重のおよそ3分の2が再び増加する傾向が報告されている。また、GLP-1受容体作動薬による減量治療では、体脂肪だけでなく筋肉量も減少する傾向があることが懸念されているという。Link氏は、「脂肪が減ることは、減量が関節炎や筋肉、骨などに及ぼす影響を考える上での一側面に過ぎない。有効な減量法を利用する人が増える中、それらの要素がどのように関係し合っているのかを考える必要がある」と指摘している。 こうした点を検討するために、研究グループは、変形性膝関節症(OA)に関する長期研究への参加者1,433人(平均年齢60.9歳、女性750人)を対象に、MRI画像と健康データを解析した。対象者は、ベースラインから48カ月後までの間の体重の累積変化が5%未満の者とし、その間の体重変化パターンに基づき、体重の増減を繰り返した群と増減を繰り返さなかった群(1,356人)に分類された。MRIでは、右大腿の筋肉体積、筋肉間脂肪組織(IMAT)の割合、膝周囲の皮下脂肪(KaSAT)の厚さを測定した。 その結果、体重の増減を繰り返した群では増減を繰り返さなかった群と比べて、大腿の筋肉体積の減少率が有意に大きかった(−3.71%対−1.03%)。一方、IMATの割合の変化とKaSATの厚さの変化については、両群間で有意差は認められなかった。 研究グループは、「これらの結果は、食事療法やGLP-1受容体作動薬により急速に体重が減っている人では、脂肪に加え筋肉まで失われる可能性に注意する必要があることを示唆している」との見解を示している。Link氏は、「体重計の数字だけでは分からない減量が身体に及ぼす影響について、より深く理解する必要がある」と述べている。

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Lp(a)測定での4つの重要プロセス、Lp(a)研究の第一人者がアドバイス~Lp(a)の今をインタビュー(後編)

前編では、Lp(a)の第一人者であるDr. Florian Kronenberg氏(オーストリア・インスブルック医科大学遺伝疫学研究所 教授/所長)が治療薬のない状況であっても「Lp(a)測定が重視される」のか、Lp(a)が心血管疾患(CVD)イベントの生涯リスクに及ぼす影響を中心に解説した。後編では、Lp(a)測定が失速した30年前の出来事の振り返り、1次予防への測定意義や日本の医療への期待などについて語った。※前編はこちら(8月18日公開:5人に1人はLp(a)高値、CVD死を見落とさないために)INDEX30年前の出来事と、現代における科学的証明の歴史CVDの1次予防にもLp(a)測定が有用専門家が伝えたい4つの重要プロセス測らない理由なんてあるのか?スクリーニングで世界に先駆ける、日本へ期待すること―30年前の出来事と、現代における科学的証明の歴史なぜ、Lp(a)測定が失速してしまったのか。それは1990年代にアメリカで行われた大規模な研究において、「Lp(a)と心血管アウトカムには関連性がない」という結果が報告されたことが要因でした。しかし後になって、当時の測定法には技術的な問題があり、それがこのような否定的な結果につながったのではないかと考えられるようになりました。この研究結果により、Lp(a)研究は一度完全に死にかけました。私がこの分野に関わり始めた頃も、周囲から「その分野はやめなさい、もう死んだ分野だから」と言われたものです。しかし、私は遺伝子データから「Lp(a)高値の人は遺伝的に心血管リスクが高いはずだ」という確信を持っていたため、研究を続けました。その後、大きな転機が訪れました。デンマークの研究グループが10万人規模の膨大なビッグデータを持って(われわれの研究に)参入してきたのです。彼らのデータを解析した結果、Lp(a)が高い人は将来明らかに心血管イベントを起こしていることが判明しました1)。さらに、彼らが私たちの遺伝子解析手法をその10万人に適用したところ、遺伝子変異とLp(a)高値、そして心血管疾患の間に強固な因果関係があることが完全に証明されたのです。その後、『2022年EAS Lp(a)コンセンサスステートメント』の作成にあたって、イギリスの「UKバイオバンク」が持つ50万人規模のデータを解析したところ、その結果も同様の方向性を示していました。現在では欧米だけではなく、日本を含めた世界中の研究グループが同様の関連性を確認しており、世界基準の事実となっています。―CVDの1次予防にもLp(a)測定が有用2025年にブリュッセルで開催され、『Brussels International Declaration on Lp(a) Testing and Management』2)の策定につながった「Lp(a) Global Summit」において、Lp(a)測定を心血管疾患(CVD)の1次予防として行う費用対効果に関する世界初の解析結果が発表され3)、Lp(a)を広くスクリーニングすることで、多くの心筋梗塞や虚血性脳梗塞を回避し、結果として医療費の大幅な削減につながることが証明されたのです。たとえば、20~30代の若者が自身のLp(a)が高値だと知ったとしたら、「血圧をしっかり下げよう」「禁煙しよう」「糖尿病を予防しよう」という強力なモチベーションにもなります。当然ながら、心筋梗塞や脳梗塞を経験した2次予防の患者さんがLp(a)を知ることもきわめて重要です。現実として、心筋梗塞後の患者の一部で、1年後にコレステロール低下薬の服用を止めてしまっているというデータがあります。しかし、自分が「Lp(a)高値という高リスクを抱えている」と知っていれば、将来の再発を防ぐために“従来のリスク因子に対する治療を継続する”強い動機となり、結果としてアドヒアランスの向上にもつながります。つまり、Lp(a)測定はCVDリスクの1次予防と2次予防の双方に重要と言えるのです。Lp(a) Global Summitでの一枚後方左から2番目がKronenberg氏、前方左から3番目には斯波 真理子氏が写る画像を拡大する繰り返しになりますが(前編参照)、心血管イベントの絶対的な生涯リスクは、Lp(a)が高かったとしてもほかの従来の一般的なリスク因子(高LDL-C、高血圧、糖尿病、過体重、不健康な生活習慣など)を減らすことで低減させることができるため、Lp(a)自体は生活習慣で下げることができなくても、「ほかの従来の一般的なリスク因子を徹底的に管理しようという意識を高める」というアプローチを取ることができます。「Lp(a)は現在の薬で下げられないのに、なぜ測るのか?」という疑問を持つ人が医療者の中にも存在しますが、「Lp(a)が高くて下げられないからこそ、ほかの従来の危険因子を徹底的に管理しようという意識を高めるために、今すぐ測定すべきだ」というのが私の答えです。Lp(a)値を把握せず、従来のリスク因子に対する治療も十分に行わないというのは、まったく意味がありません。―専門家が伝えたい4つの重要プロセスそこで、多くの国際的なガイドラインとも一致する、私が皆さんにお伝えしたい重要なアドバイス4点を紹介しましょう。1.全員、人生で少なくとも一度はLp(a)を測定すべきである2.リスク評価の際は、Lp(a)の値だけでなく、全体のバランス、患者の全体像、そのほかのリスク因子も含めて総合的に判断する3.Lp(a)が高値である場合は、ほかのコントロール可能なリスク因子(高LDL-C、高血圧、糖尿病、喫煙など)を徹底的に治療・管理する4.Lp(a)高値がみつかった場合は、その「家族(親、子、兄弟姉妹)」も機会があれば早めに検査を行う測定タイミングは、初めて脂質プロファイル(健康診断などの血液検査)を取るときが理想的で、早ければ早いほどいいでしょう。Lp(a)は遺伝的要因が非常に強いため、家族歴こそが最大のヒントになります。もしご家族や親戚に若くして心筋梗塞や脳卒中を起こされた方がいる場合は、Lp(a)高値が関連している可能性が疑われます。ぜひ、そのような患者さんにLp(a)測定を強くお勧めします。次にLp(a)の基準値(カットオフ値)の考え方について解説しましょう。Lp(a)のリスクは、ある数値を境に白黒はっきり分かれるようなカットオフ値(閾値)ではなく、数値が高くなるにつれてリスクが上昇していく“連続的なもの”として捉える必要があります4)。たとえば、122nmol/Lだから安全で、127nmol/Lだから危険、という単純な生物学的区切りはありません。測定法や標準化の違いによって105や125という数字のブレは生じますが、本質的なリスクに大差はありません。絶対的な一律の区切りが必要なのではなく、患者個人の全体的なリスク(糖尿病などの有無や既往歴)に応じて、個別に数値を評価し対応する必要があるものです。LDL-Cの基準値も、まったくリスクのない人であれば欧州では「116mg/dL未満」が目安ですが、心筋梗塞の既往があれば「55mg/dL未満」、さらに、同時に末梢動脈疾患(PAD)などを合併していれば「40mg/dL未満」と患者背景やリスク因子の重なりによって目標値が変わるように、Lp(a)も同様に、ほかのリスク因子と合わせて総合的に判断すべきです。―測らない理由なんてあるのか?実際に心イベントを繰り返した患者さんが、「ガイドラインで推奨されていたのに、なぜ何年も前にLp(a)を検査してくれなかったのか」と医師に不満を訴えるような事例は世界で起きています。同様のことを繰り返さないためにも医師への啓発を進め、Lp(a)測定を通常の診療プロセスに組み込む必要があります。さらにポジティブなニュースとして、現在、Lp(a)自体を劇的(80~90%)に低下させる新薬の臨床試験が進んでいます。最終的な試験結果を待つ必要がありますが、これが承認されれば、2次予防の患者さんに対してさらなるイベント再発を防ぐ強力な選択肢を提供できるようになります。―スクリーニングで世界に先駆ける、日本へ期待すること日本のスクリーニングは間違いなく他国の一歩先を行っています。日本には成人健康診査のみならず、小児期という非常に早い時期から検診が行われているケースもあると聞きました。これは国として大変重要な取り組みであり、今後Lp(a)のスクリーニングを導入していく上でも、素晴らしい土台です。これは私にとっても大きな学びとなり、欧州に戻ったらぜひ共有したいと思っています。しかし、「スクリーニングが行われていること」は一側面に過ぎず、「スクリーニング結果を踏まえ、どのように対応(治療・管理)するか」という点においては、まだギャップ(課題)があると感じています。これは日本に限った問題ではなく、世界中で直面している課題でもあります。政策立案者にとっては、常に自国のデータが重要となるため、一般住民を対象とした大規模コホートを構築し、「Lp(a)高値の有病率」「 Lp(a)が日本でもリスク因子である」ことを示す予後データを構築することが望まれます。後者についてはLEAP研究5)をはじめ、質の高い研究によるデータが多ければ多いほど、医療コミュニティでLp(a)が受け入れられる可能性は高くなります。日本には企業健診など、素晴らしいスクリーニングシステムがありますよね。肉体労働者から事務職まで(幅広い職域を)含む代表的な集団を雇用している大企業に研究協力してもらえれば、多数の対象者を迅速かつ低コストで集めることができます。このときに必要なのはLp(a)測定にかかる追加費用のみです。もちろん将来的には、医師がLp(a)測定を行うようになることが重要です。現在、日本動脈硬化学会が主導するLp(a)に関するコンセンサスステートメントが間もなく発刊される予定だと聞いています。これは欧米のガイドラインの「成人は生涯に少なくとも一度は必ずLp(a)を測定すべき」と完全に整合性の取れた内容になるでしょう。また、順天堂大学の三井田 孝氏らが日本国内での測定法の標準化を先導されていますが、国際的にもIFCC(国際臨床化学臨床検査医学連合)が中心となって、Lp(a)測定の標準化を進める取り組みが動いています。これらが整えば、次は実装段階に入っていきます。今後、日本からLEAP研究5)やLp(a)JAPAN study6)のサブ解析結果や心血管リスクに関する大規模な試験などが発信されれば、政策提言や医療者を説得する上でも非常に強力な材料になるでしょう。スクリーニングのさらなる普及を含め、日本における今後の発展に大いに期待しています。 参考 1) Kamstrup PR, et al. Circulation. 2008;117:176-184. 2) Kronenberg F, et al. Atherosclerosis. 2025;406:119218. 3) Morton JI, et al. Atherosclerosis. 2025:409:120447. 4) Kronenberg F, et al. Eur Heart J. 2022;43:3925-3946. 5) Yamada T, et al. J Atheroscler Thromb. 2026;33:1049-1059. 6) Kataoka Y, et al. Eur Heart J. 2026 May 24. [Epub ahead of print]

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第74回 「若返り注射」は本物か?一流医学誌が警鐘を鳴らす、アンチエイジングの現在地

「老化は治療できる」「10歳若返る」。そんな言葉を目にする機会が、この数年で急激に増えました。実際、老化研究は科学的に大きく進歩しています。しかし、それが「今すぐ買える若返り治療」の存在を意味するわけではありません。2026年8月にNature Medicine誌が発表した論説は、老化研究者自身に向けて「根拠のない主張に警戒せよ」と呼びかける、異例のメッセージを出しているので、ご紹介します1)。老化研究の考え方と、NAD+に突きつけられた疑問現代の老化研究には、心臓病、認知症、がんなど年齢とともに増える病気の背景に「老化の共通メカニズム」があるという前提があります。慢性的な炎症、細胞の老化、細胞内の「ごみ処理」機能の低下などがその代表で、ここに介入すれば多くの病気をまとめて予防できるのではないか、というのが期待の根拠です。ただし論説では、「介入の候補は数多くあるが、ヒトで臨床的な有益性を示したデータは依然として乏しい」と明言されています1)。その象徴が、サプリメントとして広く販売されているNAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)です。動物実験では健康寿命を延ばす効果が報告され、「加齢で減るから補う」という理屈で宣伝されてきました。しかしヒトを対象とした臨床試験では、病気の進行を変えるような効果はまだ示されていません。さらに2026年の研究では、血中NAD+濃度は加齢によって低下せず安定していたと報告され、「減るから補う」という前提そのものに疑問符がついた形です2)。「若返りペプチド」をめぐる米国の混乱論説がもう一つ大きく取り上げているのが、「ペプチド注射」をめぐる議論です。ペプチドとは、アミノ酸がつながった小さなタンパク質の断片で、「若返り」「回復促進」などの名目でSNSのインフルエンサーが宣伝しています3)。たとえばTB-500という製品は、体内にあるサイモシンβ4という物質に関連し、炎症を抑える作用があると考えられています。重要なのは、こうしたペプチドは米国食品医薬品局(FDA)に承認されていないという点です。「研究用」という名目で流通するグレーマーケットの製品で、製造元も品質管理も不明確です。2026年7月、FDAの諮問委員会は、7種類のペプチドを薬局での調剤として認めるべきかを審議しました。FDAの科学者は「安全性と有効性の十分な証拠があるとは言えない」と慎重論を唱えましたが、委員会は拘束力のない投票で7種類のうち6種類を認めるよう勧告しました4)。論説が問題視しているのは、委員会の「中立性」です。報道によれば、委員のうち6人はペプチドを販売しており、1人は調剤薬局の薬剤師でした4,5)。利害関係者が自らの商品を審議した構図で、その客観性は広く疑問視されています。「専門家が推奨した」という情報の裏に誰の利益があるのかを見る視点は、日本にいる皆様にとっても重要になるでしょう。本当に必要なのは「老化を測るものさし」では、なぜアンチエイジング治療の証明はこれほど難しいのでしょうか。病気に対する薬なら1~2年の臨床試験で効果を確かめられますが、「健康寿命や寿命が延びたか」を確かめるには数十年かかり、現実的に不可能だからです。そこで必要になるのが、老化の進み具合を客観的に測る「代理指標」です。注目されているのが「老化時計(エイジングクロック)」で、血液中のタンパク質や代謝物、画像検査などから臓器や細胞の「生物学的年齢」を推定します。握力や運動能力といった身体機能テストも、同じ目的で使えると考えられています。ただし注意点があります。老化時計が示す「老化の速さ」が将来の病気のリスクと関連することはわかっていますが、「治療で老化時計が若返れば本当に病気が減るのか」を検証した研究はまだ初期段階です。また、検査によって、その再現性もまちまちです。論説は「どの時計が信頼できるのかを見極めることが、この分野の緊急の研究課題だ」と位置づけています1)。その一歩として紹介されているのが、総額1億100万ドル、7年間にわたる「XPrize Healthspan」という国際コンペです1)。筋力、認知機能、免疫機能を厳密に測る枠組みをまず作り、そのうえで50~80歳の人のこれらの機能を「最低10年分」回復させる治療法を探す挑戦です。裏を返せば、「ものさし」自体がまだ完成していないのが現在地だといえます。私たちが今、知っておくべきこと論説は最後に、「不老長寿の薬を求める話は古代からあり、今のウェルネス文化にもその幻想の気配がある」と指摘しています1)。SNSで流れる「若返り」情報の多くは、動物実験の結果や理屈の段階の話を、人間で証明済みであるかのように語っているのが実情です。現時点で確かめられているのは、老化を測る信頼できる指標も、老化そのものを治す承認された治療も、まだ存在しないということです。一方で、運動、睡眠、禁煙、適切な食事といった地味な習慣が病気を減らし寿命を延ばすことは、何十年分ものデータで裏付けられています。派手な注射やサプリに飛びつく前に、「誰が、どんなデータで、どこまで証明したのか」を一度立ち止まって問うこと。それが、アンチエイジングの現在地において、もっとも大切なことかもしれません。1)Anti-aging interventions need less hype and more clinical evidence. Nat Med. 2026;32:2693.2)Tretowicz MM, et al. Human whole-blood NAD+ levels do not vary with age or lifestyle interventions. Nat Metab. 2026;8:1282-1290.3)Cox L, et al. Influencers are promoting dangerous peptides on social media - and regulators are struggling to keep up. The Conversation. 2026 May 27.4)Jewett C, et al. F.D.A. panel's vote on peptides raises concerns about a prescribing boom. The New York Times. 2026 Jul 27.5)Lawrence L, et al. Longevity, wellness physicians named to panel advising FDA on peptides. STAT+. 2026 Jun 29.

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食事速度は将来の体型に影響するか/藤田医科大

 「早食いは肥満や糖尿病のリスク」ということはよく知られている。食事の速度は体重の推移とどのように関連するのであろうか。このテーマについて藤田医科大学医学部臨床栄養学 主任教授の飯塚 勝美氏は、約56万例の健康診断データを解析し、食事速度と長期的な体重推移との関連を検討した。その結果、食事速度が長期的な体重推移の区分に関連する行動特性である可能性が示唆された。Nutrients誌オンライン版2026年7月24日号に掲載。長期間でみると早食いは肥満、遅食いは低体重と関連 飯塚氏は、後ろ向きコホート研究として、56万4,198例の日本人参加者の健康診断データを使用し、20代のBMI履歴に基づき、BMI<18.5を1回以上認めた「低体重歴あり」、BMI≧25.0を1回以上認めた「肥満歴あり」、20代の全健診で正常体重だった「正常体重のみ」の各グループに分類した。全観察期間中に測定されたBMIのうち、それぞれの体重状態(低体重または肥満)を示した測定値の割合(0~25%、25~50%、50~75%、75~100%)に応じてさらに細分化した。体重推移グループ間の経時的な差異を特徴付けるため、反復測定されたBMIデータについて線形混合効果モデルを用い解析した。自己申告による食事速度とこれらのグループとの関連は、性別で層別化した多変量ロジスティック回帰モデルを用いて検討した。 主な結果は以下のとおり。・BMIは男女ともに体重推移グループ間で明確な差が認められた。・自己申告による食事速度は、体重推移グループと用量反応的かつ双方向の関連を示した。・女性では、肥満の割合が高くなるにつれて「早食い」のオッズが段階的に上昇し、肥満の割合が75~100%のグループでは調整オッズ比(OR)が1.47(95%信頼区間[CI]:1.40~1.53)に達した。男性では、同グループにおけるORは2.40(95%CI:2.35~2.45)だった。・その一方で、低体重の割合が高くなるにつれて「遅食い」のオッズが上昇し、低体重の割合が75~100%のグループでは、ORは女性で1.89(95%CI:1.82~1.96)、男性で2.45(95%CI:2.35~2.56)に達した。・追加解析では、自己申告による食事速度も追跡期間を通じて一貫性を示した。具体的には、肥満の割合が75~100%の群では、ベースライン時に食事速度が「早い」と回答した参加者で、追跡時も「早い」と回答した割合の平均は女性72.33%、男性79.90%であった。 飯塚氏はこの結果から「自己申告による食事速度は、男女ともに長期的な体重推移の区分と一貫した双方向の関連を示し、追跡期間を通じて比較的安定していた。これらの知見は、自己申告による食事速度が、長期的な体重推移の区分に関連する行動特性である可能性を示唆している」と結論付けている。

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ドンペリドン、葛根湯などに重大な副作用追加/厚労省

 2026年8月25日、厚生労働省は添付文書の改訂指示を発出し、ドンペリドンおよびメトクロプラミド、葛根湯、一部の免疫チェックポイント阻害薬などにおいて「重大な副作用」が追記された。ドンペリドン、メトクロプラミドに「重篤な不整脈」 ドンペリドン(商品名:ナウゼリン錠ほか)、メトクロプラミド(同:プリンペラン錠ほか)および塩酸メトクロプラミド(同:プリンペラン注射液)に対し、国内外の疫学調査において致死性不整脈および心突然死のリスク増加が示唆されたことから、「重大な副作用」に「重篤な不整脈」が追加された。また、「重要な基本的注意」には「心室頻拍、心室細動等の重篤な不整脈があらわれることがあるため、必要最小限の使用にとどめ、長期にわたり漫然と投与しないこと、関連する症状が認められた場合には速やかに受診するよう患者を指導すること、心電図検査等を行うこと」が追加された。葛根湯に「多形紅斑」 医療用の葛根湯において、「重大な副作用」の項に「多形紅斑」が追加された。多形紅斑症例を評価した結果、本剤との因果関係が否定できない症例が集積したことから、使用上の注意を改訂することが適切と判断された。国内では6例が集積し、このうち4例は医薬品と事象との因果関係が否定できない症例で、死亡例はなかった。 なお、一般用医薬品の葛根湯含有製剤では、「相談すること」の項に追加され、葛根湯エキスにジリュウエキスまたはビタミン類を配合した製剤や一般用漢方製剤についても同様の改訂がなされた。抗PD-L1/抗CTLA-4抗体薬に「ぶどう膜炎」 「重大な副作用」の項に「ぶどう膜炎」が追加された。また、「重要な基本的注意」にぶどう膜炎があらわれることがある旨を追記し、眼の異常の有無を定期的に確認すること、眼の異常が認められた場合には速やかに医療機関を受診するよう患者を指導することとした。<対象医薬品>・アベルマブ(同:バベンチオ)・アテゾリズマブ(同:テセントリク)・デュルバルマブ(同:イミフィンジ)・トレメリムマブ(同:イジュド)抗PD-1/抗PD-L1/抗CTLA-4抗体薬*に「血球貪食性リンパ組織球症」 国内症例を評価した結果、抗PD-1/抗PD-L1/抗CTLA-4抗体薬との因果関係が否定できない症例が集積したことから、「重大な副作用」に「血球貪食性リンパ組織球症」が追加された。*:ニボルマブ、ぺムブロリズマブ、アテゾリズマブ、セミプリマブを除く<対象医薬品>・チスレリズマブ(同:テビムブラ)・レチファンリマブ(同:ジニイズ)・アベルマブ(同:バベンチオ)・デュルバルマブ(同:イミフィンジ)・イピリムマブ(同:ヤーボイ)・トレメリムマブ(同:イジュド) さらに、イピリムマブとニボルマブ(オプジーボ)では、上記以外の重大な副作用として、「重度の食道炎」が追加されている。免疫反応に起因すると考えられる重度の食道炎があらわれるためで、異常が認められた場合には副腎皮質ホルモン剤の投与などの適切な処置を行う旨が追記された。 このほか、複数の医薬品で「使用上の注意」が改訂されている。◯アパルタミド「重大な副作用」に無顆粒球症、好中球減少症、白血球減少症を追加し、投与中は定期的に血液検査を実施するなど十分に観察することとした。◯オランザピン(経口剤)抗悪性腫瘍剤投与に伴う悪心・嘔吐に対して使用する場合には、糖尿病またはその既往がある患者への投与について禁忌が解除され、「警告」が新設された。血糖値の頻回なモニタリングや、必要最小限の投与量・投与期間とすることなどを記載した。◯アセトアミノフェンおよびアセトアミノフェン含有製剤重篤な腎障害、肝障害、敗血症、栄養障害などによるピログルタミン酸蓄積の素因がある患者について、アニオンギャップ開大性代謝性アシドーシスが発現するおそれを「特定の背景を有する患者に関する注意」に追記。対象にはアセトアミノフェン単剤のほか、複数の配合剤が含まれる。◯タラポルフィンナトリウム「重大な副作用」に食道狭窄、食道穿孔を追加。化学放射線療法または放射線療法後の局所遺残再発食道がんに対する治療におけるレーザー光照射後の注意事項が改訂された。 このほか抗HIV薬において、併用禁忌に関する記載が改訂された。

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第330回 夏の「霞が関」人事で気になったこと(後編) 医療界でも有名だったあの財務官僚、高市首相に嫌われ東京税関長に転出

財務事務次官には社会保障政策に精通した宇波弘貴氏こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。先週半ばから週末にかけて、山仲間4人と北海道に登山に行ってきました。登ったのは道東の斜里岳と雌阿寒岳(噴火警戒レベル2[火口周辺規制]のため7合目まで)ですが、昨年からのヒグマ被害報道の影響か、どちらも山中では数パーティーにしか会わず、とても静かな山行を楽しめました。驚いたのは、かつては大人気で夏は満員が常識だった雌阿寒岳登山口のオンネトー湖畔にある国設野営場がガラ空きだったことです。テントを張っていたのは、われわれのほかは1パーティーのみ。おかげで、他人を気にせず、盛大に焚き火をしながら夜遅くまでお酒を楽しむことができました。“ヒグマさまさま”と言えますが、ほかの山岳関係の観光地も例年より人出が少ない印象で心配になりました。ちなみに、我々はクマスプレーを地元のアウトドア店でレンタルして山に入ったのですが、幸いヒグマに遭遇することはありませんでした。さて、前回に引き続き、恒例の夏の「霞が関」人事について書いてみたいと思います。今回は財務省の気になった人事についてです。財務省は8月7日付で幹部人事を発令しました。トップの事務次官には、医療関係者もよく知る宇波 弘貴主計局長(1989年大蔵省)が起用されました。宇波氏は主計局を中心にキャリアを重ねるとともに、厚労省への出向経験もあります。直近の主計局長時代を含め、診療報酬改定を7回経験しており、8月8日付の日本経済新聞は宇波氏を紹介する記事で「『どの厚労省の官僚よりも数は多い』との自負がある」と書いています。2012年に関連法案が成立した「社会保障と税の一体改革」では企画段階から携わり、与野党合意に尽力したとされ、社会保障政策に精通した人物として知られています。宇波氏は本連載でも幾度か登場しています。2021年10月掲載の「第80回『首相≒財務省』vs.『厚労省≒日本医師会』の対立構造下で進む岸田政権の医療政策」では、「医療関係者を驚かせた官僚人事がありました。財務省で長らく厚労予算をみてきた宇波 弘貴氏(前・財務省主計局次長)が首相秘書官になったのです。今回の首相秘書官人事では財務省から2人を起用した一方、厚労省からはとっていません。宇波氏は、医療費を含む社会保障関係費の増大に主計局主計官(厚生労働第一担当)の頃から警鐘を鳴らし、病床の再編による効率化の必要性を強く訴えてきた人物です。地域医療構想についても『うまくいかない場合は、より強い方策を取るべき』と語ったこともありました」と書きました。つまり、財務省の財政制度等審議会が毎年春、秋にまとめる「建議」などにおいて、日本医師会が嫌がるようなさまざまな改革案の提案を主導してきたのが宇波氏というわけです。もっとも、岸田政権時代とは違い高市政権は、消費税減税を決めるなど、財務省が最重要視してきた財政規律の維持に抗う政策を強力に推し進めようとしています。そのため、宇波氏の財務次官就任に驚く声もあったようです。前出の日本経済新聞の記事は「政権内に財務省を遠ざけようとの気配もある。市場をつなぎとめる重責を背負う」と宇波氏にエールを送っています。官僚たちを震撼させた主計局次長から東京税関長への転出人事事務次官がすんなり決まった一方で、すべての官庁の官僚たちを震撼させる人事もありました。日本経済新聞が書いた「政権内に財務省を遠ざけようとの気配」の影響をもろに被ったとされるのが、医療関係者がよく知るもう一人の財務官僚、一松 旬(ひとつまつ・じゅん)氏(1995年大蔵省)の人事です。一松氏は8月7日付の人事で主計局次長から東京税関長に転出することになりました。8月6日付の朝日新聞は、「エース級の財務官僚が異例転出へ 官邸幹部『協力的でなかったから』」と題する記事を配信、主計局次長が東京税関長に転出する人事について、「エース級の財務官僚がこのポストに就くのは異例。消費減税などで意見が対立した高市政権の強い意向があったとされ、官邸幹部は人事について『(一松氏は)政権にあまり協力的でなかったから』と語った」と書いています。同記事によれば、「(一松氏は)昨年10月から主計局次長として、政権肝いりの給付付き税額控除の実務を取り仕切ってきた。今後、制度設計が具体化するにあたり、留任が有力視されていた。(中略)一松氏は強い財政再建論者で、政治家に直言することで知られている。官邸幹部は『(一松氏は)初めての挫折を味わっているんじゃないか』と『左遷』含みの人事であることを認めた」とのことです。「財務省の主要幹部が官邸からその動きに目をつけられる中でも、一松氏は減税反対の持論を曲げなかった」一松氏の人事について8月13日付のデイリー新潮も、「財務省のエース“左遷”の裏で…財務官僚の動きを封じ込めた官邸の『徹底した情報管理』」と題する記事を発信、その背景をより詳しく報じています。同記事は、「一松氏は『近い将来の有力な事務次官候補』とされてきたが、高市早苗首相が設置した社会保障国民会議で消費税減税に反対する同氏の立ち回りが首相官邸に問題視され、実質的な左遷人事となった」と書くとともに、その具体的な“立ち回り”については次のように報じています。「政権内で問題となったのは、社会保障国民会議における議論の進め方だった。同会議は与野党議員が出席する実務者会議と有識者会議に分かれるが、実務者会議に呼ばれた経済団体や農業団体などは次々と減税に反対する考えを表明した。首相サイドからは『なぜ減税に賛成する人を呼ばないのか』と事務局に何度も問い合わせがあったという。この事務局を取り仕切っていたのが、主計局次長で社会保障担当の一松氏だった。(中略)(一松氏は)少子高齢化で社会保障費が増大する状況には強い危機感を持ち、社会保障の財源となる消費税の減税には徹底して反対していた。高市政権の誕生に伴い、新川浩嗣事務次官や宇波弘貴主計局長ら財務省の主要幹部が官邸からその動きに目をつけられる中でも、一松氏は減税反対の持論を曲げなかったという。このため、国民会議でも減税に反対する団体ばかりが呼ばれるなど、高市首相や首相周辺からは『政権に敵対する官僚』と反感を買ったようだ」。高市首相のお膝元・奈良県で地域別診療報酬の導入を検討一松氏は東大法学部を卒業して大蔵省に1995年入省、今回事務次官に就任した宇波氏と同様、主計局畑を進み、厚労省への出向経験を持つなど、社会保障政策に精通した官僚として知られています。岸田政権下では、2023年7月、宇波氏の後任として首相秘書官にも就いています。本連載でも、2024年4月掲載の「第209回 これぞ財務省の執念? 財政審・財政制度分科会で財務省が地域別単価導入を再び提言、医師過剰地域での開業制限も」で書いた、診療報酬の地域別単価導入のスキームを考えた官僚として登場しています。同記事では、「地域別の単価導入については、もはや財務省の“執念”と言ってもよさそうです。財務省が最初に地域別の診療報酬を公の場で提言したのは今から6年前、2018年4月の財政制度等審議会・財政制度分科会でした。この時財務省は医療政策における都道府県の権限が強化されつつある流れを受け、『地域別診療報酬を柔軟に活用するための枠組みを国として整備すべきだ。活用を検討する都道府県も現れている』としました。この時『活用を検討している』とされたのは奈良県で、そのスキームを考えたのが当時、財務省から出向し奈良県副知事を務めていた一松 旬氏、現在の首相秘書官です」と書きました。奈良県は高市首相の出身県であり、奈良県における後援会組織「高市早苗議員を内閣総理大臣にする奈良の会」の会長を務めているのは、奈良県医師会会長の安東 範明氏です。一松氏は副知事時代、日本医師会が反対する地域別診療報酬を奈良県で導入しようとし、奈良県医師会(安東氏)とも軋轢があったと想像できます。そうした経緯から、高市首相と一松氏との関係も当時からあまり良好ではなかったのかもしれません。一松氏もよもや高市氏が総理大臣になるとは思ってもいなかったでしょう。一松氏が就いた東京税関長は「上がりポスト」で、これから事務次官をうかがう幹部が就く役職ではないとされています。政府や自民党、はてまた日本医師会に敢然と立ち向かう官僚の“退場”に一抹の寂しさを感じる夏の終わりです。

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認知症のない期間、高血圧・糖尿病・喫煙の3因子で13年短縮

 高血圧、糖尿病、喫煙といった血管リスク因子は認知症や早期死亡に関連することが知られているが、これらが重複した際、認知症を発症せずに過ごせる期間(認知症のない生存期間)がどれほど短縮するのかは明らかでなかった。中国・清華大学のJiaqi Hu氏らの研究グループは、米国の大規模な動脈硬化リスクコミュニティ研究の解析から、中年期における血管リスク因子の蓄積が認知症のない生存期間を最大12.6年短縮させることを明らかにした。Neurology Open Access誌2026年9月号に掲載。 本研究では、米国4地域で実施された「Atherosclerosis Risk in Communities(ARIC)研究」の参加者のうち、55歳時点で認知症がない1万2,409例(平均年齢56.2歳、女性56.0%)を対象に前向きコホート研究を行った。ベースライン時(1990~92年)における3つの主要な血管リスク因子(糖尿病、高血圧、現喫煙)の保有数(0~3個)を評価し、2022年まで継続的に追跡調査した。追跡期間中央値26.3年における認知症発症および認知症のない死亡について、競合リスクを考慮した制限付き平均生存期間(RMST)解析を用いて、55歳から95歳までの期間における「認知症のない生存期間」を推定した。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中に3,008例が認知症を発症し、5,238例が認知症を発症せずに死亡した。・血管リスク因子が0個の群と比較して、3個の群では認知症の発症リスクが2.69倍(ハザード比[HR]:2.69、95%信頼区間[CI]:1.94~3.73)、認知症のない死亡リスクが5.61倍(HR:5.61、95%CI:4.67~6.74)と有意に上昇した。・55歳から95歳までの認知症のない生存期間は、血管リスク因子が0個の群で平均30.1年(95%CI:29.9~30.4)であったのに対し、1個で26.3年、2個で21.0年、3個の群では17.5年(95%CI:16.3~18.7)とリスク因子の増加に伴い段階的に短縮した(最大12.6年の短縮)。・認知症のない生存期間には性別や人種による差も観察され、リスク因子3個の群では女性(18.1年)が男性(16.6年)より長く、白人(19.6年)に比べて黒人(16.0年)で短かった。 著者らは、中年期の血管リスク管理によって認知症のない生存期間を最大12.6年延ばせる可能性があると指摘している。血管リスクが認知症発症と早期死亡の双方に及ぼす影響を「年数」という指標で提示することは、心血管と脳の健康を共に維持する予防戦略において、患者の動機付けに役立つアプローチになると結論付けている。

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英論文を作成する【タイパ時代のAI英語革命】第19回

論文作成とAIの可能性英語で医学論文を執筆することは、長年、日本人医療従事者にとっての大きな壁でした。上司に何度もチェックを依頼したり、英語の校正サービスを利用したりと、多くの時間や費用をかけてきた方も少なくないでしょう。しかし、近年の生成AIの進化により、英語力に自信がなくても英語論文を執筆できる時代が到来しました。このセクションでは、AIを活用して英語論文を作成するための基本から応用までを、具体的に解説します。書くことにおけるAI活用範囲AIは、文章作成支援において最もその力を発揮します。AIは「書く」作業において、ほかの言語スキル(読む・聞く・話す)以上に人間の負担を代替してくれる超強力なツールです。私自身も、日常業務におけるメールや連絡文のほとんどをAIに支援してもらっています。当面の間、私たちの生活からAIがなくなることは考えにくく、それに伴って医療英語の学習の優先順位は以下のように変化していると考えられます。話す・聞く>>>>読む>>>>書く極論ですが、ただでさえ忙しい医療者としては、「書く」ことはすべてAIに任せて、「話す」「聞く」に自分のスキルアップのリソースを集中するほうが効率的でしょう。論文執筆において、AIは以下のことを可能にします。研究アイデアの言語化支援現在の臨床経験や知識から、研究テーマや仮説を英語で具体的に表現する手助け。文献検索の補助(第7回「ChatGPTでPubMedの英語論文検索!」を参照)リサーチの方向性を整理したり、キーワードを構造化したりすることで、効率的な文献収集を支援。研究設計の支援(本章では割愛)Methods、対象集団、統計解析の計画などの言語化。英語の文章作成支援日本語で作成した草稿を英語に翻訳し、英語文の語調や文法を整える。引用スタイル各ジャーナルが指定する形式(APA、AMA、Vancouverスタイルなど)の自動変換を行う。以上のように、研究のアイデア生成から論文を完成させるまでの、あらゆる場面でAIは力になってくれます。ただし、以下の点には留意が必要です。AI使用に関する倫理的配慮と開示義務AIを論文作成に使用する際には、倫理的な観点から注意が必要です。2023年以降、AIの使用についてガイドラインを設けるジャーナルが急増しました。ジャーナルによってはAIの使用自体を禁止しているところもありますが、多くのジャーナルでは使用を認めつつ、「どのような場面で使用したか」を明記することが求めています。論文投稿前には、必ず各ジャーナルの投稿規定を確認しましょう。では、なぜAI使用の明記が求められるようになったのでしょうか。その背景には以下のような理由があります。・不正防止AIは過去の大量の情報に基づいて文章を生成します。そのため、生成された内容をそのまま用いると、意図せず他者の論文内容と似てしまう、または引用元を誤認するなどのリスクがあります。・責任の所在過去にはChatGPTを共著者として記載した論文が、大きな議論を呼んだこともあります。医学研究では、患者データや治療に関する情報が正確であることが絶対条件です。AIには倫理的責任を持つことができないため、最終的な内容については、人間の著者が責任を負う必要があります。・AIハルシネーション本コラムの第1の回でも詳しく取り上げましたが、AIには常にハルシネーションの問題が付きまといます。ありもしないことを事実のように述べたり、存在しない文献を引用したりといったことが今でも起こっています。以上の理由からAIの使用についてガイドラインが設けられるようになったわけですが、AIの力を借りて論文を執筆する場合は、通常、Manuscriptの最後のセクション(AcknowledgementsやDisclosureなど)に使用内容を明記するのが一般的です。以下は、私が実際の論文で使用した文例です。Generative AI was used solely to assist with grammar correction in the manuscript. No content generation or technical analysis was performed using AI.(生成AIは、本原稿の文法修正支援のみに使用しております。内容の生成や技術的な分析にはAIを使用しておりません)AIを用いて生成した論文内容を人間の修正なく使用することを禁止するジャーナルが多いため、AIのサポートを得つつも、あくまでも全体の構成や内容に関しては人間が作成していることを示す必要があります。このように、AIを適切に活用しつつも倫理性と透明性を確保することが、今後の論文作成においてきわめて重要です。アイデアの言語化に「RTFフレームワーク」を使うこのコラムは「医療英語」がメインテーマではあるのですが、研究論文の執筆において最も困難な工程の1つが「最初の一歩」(研究のテーマ決め)ですので、日本語・英語どちらで執筆するかにかかわらず、一旦こちらにも触れたいと思います。医療現場で多忙な日々を送る医療従事者にとって、頭の中にある漠然としたクリニカル・クエスチョンや仮説を言語化する作業は簡単ではありません。仮説や研究の方向性は頭の中にあっても、それをいきなり論文形式にすることに難しさを感じる方も少なくないでしょう。このようなとき、ChatGPTは研究者の頭の中にある漠然としたアイデアを、論理的かつ構造的に整理してくれます。とくに優れているのは、相手の意図を読み取り、自然な表現に置き換える力です。たとえば、以下のようなプロンプトをChatGPTに入力することで、具体的な研究課題を構成する手助けになります。研究テーマは一例ですので、自分のテーマに応じて適宜変更してください。プロンプト例あなたは医療従事者で、研究テーマを検討しています。「診療の中で、糖尿病患者のHbA1cが有酸素運動によって改善するケースをよく見ています」これを研究したいと考えています。この背景を基に、以下を挙げてください:-学術的に意義がありそうな研究課題(問い)-それを実際に検証できる研究テーマ(観察研究・介入研究など複数のアプローチ)-学術論文に使えそうな英語での研究タイトル案出力は整理されたリスト形式でお願いします。プロンプトを作る際には、ユーザーが誰で(医療従事者)、何を求めていて(研究テーマの整理)、どのように出力してほしいか(リスト形式で)を明確に伝えることで、より精度の高いアウトプットが得られます。このプロンプト手法は英語圏でよく利用されていて「RTFフレームワーク」と呼ばれています。R:Role(役割、あなたは誰か)例1あなたは英語論文を専門とする編集者です。例2あなたは米国で働く内科医です。T:Task(仕事、どんなことをお願いするのか)例1以下の日本語の文章を英語論文のAbstract風に翻訳してください。例2以下の研究テーマの方法を考えてください。F:Format(出力形式、どのように出力してほしいか)例1箇条書きで提示してください。例2300語以内で書いてください。この3つをプロンプト内に含めるだけでアウトプットの精度がぐっと高まるので、論文アイデア生成にかかわらず、AIに依頼するときは常に意識しましょう。次回は、実際にAIを使って文章をどのように英語にし、文章構成と推敲させるのかを詳しく解説します。

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日本人2型糖尿病へのGLP-1薬、MACE・死亡リスクへの影響は?

 日本の大規模レセプトデータベースを用いたリアルワールド研究において、2型糖尿病患者に対するGLP-1受容体作動薬(GLP-1薬)の使用は、心血管イベントにおいてほかの血糖降下薬との有意差は認められなかったが、全死因死亡率はGLP-1薬群で有意に低く、これらの知見は残余交絡を反映している可能性があることを、千葉大学の越坂 理也氏らが示した。研究成果はDiabetes, Obesity and Metabolism誌オンライン版2026年8月11日号で発表された。日本の大規模レセプトデータベースを用いたリアルワールド研究 本研究は、約190万人規模の日本の大規模レセプトデータベースを用いたリアルワールド研究である。2型糖尿病患者のうち、2014~21年にGLP-1薬を新規処方された患者をGLP-1薬群、ほかの血糖降下薬を新規開始した患者を対照群とした。評価項目は心血管・脳血管イベント、全死因死亡などとした。解析には説明変数を用いたロジスティック回帰分析を実施し、群間で最近傍法による傾向スコアマッチングを行った。新規薬剤開始からイベント発生までの期間をCox比例ハザードモデルで解析した。全死因死亡率はGLP-1薬群が有意に低い 適格患者46万9,461例のうち、GLP-1薬群2,401例、対照群5万3,946例が抽出された。傾向スコアマッチング後、各群2,147例が解析対象となり、追跡期間の中央値は12ヵ月であった。複合心血管イベント(3-point MACE)の発生率はGLP-1薬群7.08%(152例)、対照群8.20%(176例)であり、有意差は認められなかった(ハザード比[HR]:0.920、95%信頼区間[CI]:0.740~1.143、p=0.450)。一方、全死因死亡率はGLP-1薬群5.36%(115例)、対照群7.36%(158例)であり、GLP-1薬群で有意に低かった(HR:0.776、95%CI:0.610~0.987、p=0.039)。 これらの結果より、研究グループは「GLP-1薬は3-point MACEとの関連性は認められなかったが、全死因死亡率の低下を示した。これらの結果は、残余交絡の影響を反映している可能性がある」とまとめた。

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