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オミクロン株感染で脳が変化、認知機能に影響か

 新型コロナウイルスのオミクロン株による感染後急性期の脳への影響はわかっていない。今回、中国・Second Xiangya Hospital of Central South UniversityのYanyao Du氏らが、オミクロン株感染後の男性患者における臨床症状、灰白質と皮質下核の変化を調べたところ、急性期に左楔前部と右後頭外側部の灰白質厚と、頭蓋内総容積に対する右海馬容積の割合が大幅に減少していたことがわかった。また、灰白質厚と皮質下核容積損傷が不安や認知機能と有意に関連することが示された。JAMA Network Open誌2023年11月30日号に掲載。コロナの脳への影響で右海馬容積の割合が有意に減少していた 著者らは、2022年8月28日~9月18日に健康診断でMRI検査を受けた男性207人のうち、98人の完全な画像データと精神神経学的データを収集し、オミクロン株感染前後の灰白質と皮質下核の変化を調べた。オミクロン株感染者については、感染急性期に精神神経学的データ、臨床症状、MRIデータを収集し、3ヵ月後に臨床症状を再度調査した。灰白質指標と皮質下核の容積を解析し、灰白質厚の変化と精神神経学的データとの関連を相関分析で評価した。 新型コロナウイルスのオミクロン株による感染後急性期の脳への影響を調べた主な結果は以下のとおり。・ベースラインの完全データを収集できた98人のうち、オミクロン株に感染した61人(平均年齢:43.1歳)の急性期のデータを登録し、17人(平均年齢:43.5歳)は3ヵ月後の臨床症状も調査した。・新型コロナウイルスのオミクロン株感染前と比較して、感染後急性期の調査では、Beck Anxiety Inventoryスコアが有意に増加し、depression distressスコアが有意に減少していた。・感染後急性期の主な症状は発熱、頭痛、疲労、筋肉痛、咳、呼吸困難で、3ヵ月後の調査参加者においては発熱、筋肉痛、咳が有意に改善していた。・感染後急性期に、左楔前部および右後頭外側部の灰白質厚、頭蓋内総容積に対する右海馬容積の割合が有意に減少していた。・発熱患者では、非発熱患者より右下頭頂部の溝の深さが減少していた。・感染後の期間において、左楔前部の厚さがBeck Anxiety Inventoryスコアと負の相関を示し、頭蓋内総容積に対する右海馬容積の割合がWord Fluency Testスコアと正の相関を示した。 著者らは、これらの結果について「オミクロン株感染の感情的および認知的メカニズムに関する新たな洞察を提供し、神経系の変化との関連を実証し、神経学的後遺症の早期発見と介入のための画像基盤を検証するもの」としている。

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医師が選ぶ「2023年の漢字」TOP10を発表!【CareNet.com会員アンケート】

12月12日は漢字の日。毎年年末に1年の世相を表す漢字1字が募集され、最も応募数の多かった漢字が「今年の漢字」として発表されます(主催:日本漢字能力検定協会)。本家の発表に先立ち、CareNet.com医師会員の皆さんに選ばれた「2023年の漢字」TOP10を発表します。2023年を表す漢字として、どのような漢字をイメージしましたか?第1位「戦」(155票)第1位は、昨年に引き続き「戦」が選ばれました。2022年に始まったロシアのウクライナへの軍事侵攻に加え、2023年10月7日にはイスラム組織ハマスによるイスラエル急襲が発生し、戦争状態となっています。戦争に関するニュースを目にすることも多く、戦争に関するコメントが多く寄せられました。一方、野球のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本代表「侍ジャパン」が優勝したことなど、ポジティブな「戦」に関するコメントもみられました。「戦」を選んだ理由(コメント抜粋)ウクライナ‐ロシア間の戦争、パレスチナでのイスラエルの無差別攻撃、中国の海洋進出、北朝鮮の弾道ミサイルなど戦争につながる事態が多かった。(60代 外科/群馬)コロナとの戦い、ガザ地区やウクライナの戦争などがあるから。(50代 耳鼻咽喉科/北海道)争いが絶えない。(70代以上 内科/宮城)良い戦いから悪い戦いまで、いろいろな戦いがあった。(70代以上 内科/大阪)WBC優勝。(20代 整形外科/長野)第2位「税」(62票)第2位には、「税」がランクイン。物価上昇や増税、減税に関する報道が多く、票を集めました。税負担の大きさを感じているというコメントもみられました。岸田 文雄総理大臣がインターネット上などで「増税メガネ」と揶揄され、話題となったことも理由に挙げられました。2023年10月にインボイス制度が始まったことも記憶に新しいのではないでしょうか。 「税」を選んだ理由(コメント抜粋)税金が増える話ばかりで嫌になった1年だった。(30代 神経内科/福岡)今年は税負担の大きさを強く感じたため。(50代 小児科/群馬)増税、減税など税に関わる報道が多く、値上げなどにも関連しているため。(30代 小児科/宮城)「増税メガネ」の言葉が話題になった。(30代 内科/北海道)政府の税金対策、インボイスなど。(40代 内科/東京)■第3位「争」(46票)第3位は「争」。第1位の「戦」と同様に戦争に関するコメントが多く寄せられました。ロサンゼルス・エンジェルスの大谷 翔平選手についての話題など、スポーツの「争い」に言及するコメント、個人的な「争い」に関するコメントもみられました。 「争」を選んだ理由(コメント抜粋)ウクライナに続いてパレスチナでも戦争が始まり、争いが絶えなくなり今後が不安な世の中になってきた。(50代 その他/茨城)世界的な紛争。スポーツ界でも良い意味での争い(大谷選手のホームラン王、MVPなど)がみられたように思う。(40代 小児科/鹿児島)世界のあちこちで紛争があり、さまざまなスポーツで勝利を目指して争われ、メジャーリーグでは大谷選手の争奪戦が始まりそう。(50代 放射線科/福岡)争いが絶えない1年であった。(60代 小児科/福島)第4位「高」(43票)第4位は「高」。今年は、物価や気温など「高い」ものが多く、話題となった1年でした。生活に直結するものが多かったため、票を集めたのではないでしょうか。皆さんは「高」といえばどのようなものを思い浮かべますか? 「高」を選んだ理由(コメント抜粋)物価が高い、株価が高い、気温が高い。(50代 内科/滋賀)商品の値段が次々値上げ。価格を見て「高っ」と何度つぶやいたか。(50代 眼科/福岡)物価高、賃金上昇、金高騰など、なにかと高くなる出来事が多い1年でした。(40代 整形外科/徳島)高齢化、高税率など。(40代 小児科/静岡)医療費高騰のため。(30代 血液内科/東京)第5位「暑」(42票)第5位は「暑」。気象庁は、2023年の夏(6~8月)の全国の平均気温が、1898年の統計開始以来最高となったことを発表しています。この記録的な暑さは、印象的だったのではないでしょうか。また、アンケートを実施した11月上旬も季節外れの暑さとなり、夏日を記録した地域があったことに言及するコメントも複数寄せられました。 「暑」を選んだ理由(コメント抜粋)記録的な夏の暑さだったから。(60代 内科/三重)夏自体も暑かったが、東京では11月に夏日が3日もあってなかなか暑さがおさまらないから。(40代 消化器内科/東京)歴史的な猛暑の夏と暖冬。(40代 内科/奈良)第6~10位惜しくも第5位と1票差で第6位となった漢字は「虎」。阪神タイガースが1985年以来38年ぶりとなる日本一を達成したことで票が集まりました。第6~10位は以下のとおりでした。第6位:「虎」(41票)「言うまでもなく、阪神タイガースの38年ぶりの日本一!」など第7位:「乱」(40票)「混乱、戦乱、乱暴、騒乱、落ち着きの無い年だった。」など第8位:「明」(21票)「コロナが明けて、生活スタイルがもとに戻ったから。」など第9位:「変」(18票)「いろいろな価値観、常識、観念の変化が見え出した。」など第10位:「貧」(16票)「物価上昇が著しく、国民生活は苦しくなるばかり。」など アンケート概要アンケート名『2023年を総まとめ!今年の漢字と他の医師にも薦めたい今年の購入品をお聞かせください』実施日   2023年11月8日~15日調査方法  インターネット対象    CareNet.com医師会員有効回答数 1,029件

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片頭痛の隠れた経済的影響~英国政府のコスト分析

 片頭痛は、15~49歳の人々において世界的に最も高い疾患負担をもたらす疾患であり、行動不能に陥る可能性のある精神疾患である。欧州における片頭痛有病率は、北米、南米、中央アフリカに次いで4番目に高く、アジアやアフリカよりも高いといわれている。片頭痛による直接的な医療費は比較的少額であるものの、生産性の低下による間接的な経済的影響は大きい。オランダ・フローニンゲン大学のRui Martins氏らは、片頭痛の経済的負担について、政府のコストの観点から検討を行った。Journal of Health Economics and Outcomes Research誌2023年10月3日号の報告。 片頭痛の経済的負担は、政府コストの観点を適用した分析財政モデリングのフレームワークを用いて、英国一般人口と比較し、推定した。就労に対する片頭痛の影響に関する公表された測定値は、一般人口の経済活動率/非活動率を用いた。本モデルでは、ライフコースにわたる雇用からの収入、負担した直接税および間接税、財政的支援の生涯にわたる変化を推定した。片頭痛の影響を受ける人とそうでない人における差異は、純財政上の影響としての公的会計に、財政コストは、20年にわたる英国の年間コホート全体の1人当たりの割引平均として報告されている。 主な結果は以下のとおり。・片頭痛の影響を受けている人は、欠勤、失業、障害者、早期退職となる可能性が高かった。・44歳の片頭痛患者は、非片頭痛患者と比較し、英国政府に対し1万9,823ポンドの過剰な財政コストをもたらしており、片頭痛を抱えながらの生活は、年間1,379ポンド相当の影響を及ぼしていることが推定された。・片頭痛は、公共経済に対し年間122憶ポンドの影響を及ぼしており、これは片頭痛1件当たり約130.63ポンドであると推定された。・本モデルでは、医療および社会福祉労働者の年間生産性損失を20億5,000万ポンド、年間生産性損失の合計は58憶1,000万ポンドを超えると推定した。 著者らは「本財政分析により、税収の損失と支出の両方の観点から、英国政府のコストにおける片頭痛に関連する就労上の影響が明らかとなった。本結果は、疾患重症度を特徴づけ、医療技術の費用対効果を評価検討するうえで、意思決定者にとって役立つであろう」としている。

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第192回 ヒト細胞の小さなロボットが神経損傷を修復

ヒト細胞の小さなロボットが神経損傷を修復小さなロボットのように動く有毛の細胞塊が神経損傷を治癒しました1)。ロボットのように動く細胞入りの構造物であるバイオボット(biobot)などの生きた機械を作る取り組みが近年盛んになっています。バイオボット作りの古くからの手段の1つは細胞とそれを支えるゲルや3Dプリンター印刷物などの不活性の物質を組み合わせることです。細菌、神経・筋肉・神経筋接合部などの哺乳類細胞、加工した細胞といった種々の細胞を慎重に手間ひまかけて細工する手順を経て生理機能を担う構造物が完成します。そういう手の込んだ手段のほかに、細胞がひとりでに集まるに任せて作られる多細胞構造のバイオボットの取り組みがあり、米国・タフツ大学のMichael Levin氏のチームは4年ほど前の2020年1月にそのような多細胞構造を実験動物としてよく知られるアフリカツメガエルの胚細胞から作ったことを報告しています2)。アフリカツメガエルの学名はXenopus laevis(ゼノパス レービス)で、同チームが作ったバイオボットはゼノボット(Xenobot)と呼ばれます。ゼノボットは船やカヌーのオールのような役割を担う繊毛で覆われており、そのおかげで這ったり泳いだりさえします。また多才で、通路を進んだり、物を集めたり、情報を記録したり、傷を自己治療したり、何回かの自己複製すらやってのけます3)。未経験の仕事を教えてできるようにすることも可能です4)。ゼノポットがヒトにもそのまま利用できればよいのですが、いかんせん両生類の細胞でできているのでヒトの免疫は受け入れずに拒絶してしまうでしょう。またゼノポットは削って目当ての形へ整える工程を要します。そこでLevin氏らのチームはヒトの細胞での取り組みを始めます。目をつけたのは繊毛を有する気道細胞です。その繊毛がゼノボットの繊毛と同様に機動力を担うことを研究チームは期待しました3)。まず気道細胞はヒトの気道に似せたゲルの環境で2週間を過ごして球状の小さな塊になります。続いてより粘性が低い環境に1週間置かれ5)、繊毛が外側を向いた球状の塊が完成します。人類(anthropos)起源で生物ロボット(biorobotics)として活用しうることからアンスロボット(anthrobot)とされたそれら球状の細胞塊は10~100個ほどの細胞で構成され、大きさも形もまちまちで、繊毛の配置も異なります。動きも異なり、まっすぐ進む、回転する、あるいはその両方の動きをするものもあれば、移動せず小刻みに動くものもありました。アンスロボットはそれら同士がひとりでに凝集して大型のスーパーボットを形成することができます。そのスーパーボットをあえて傷つけた神経細胞のシートに与えたところ、スーパーボットの下で神経が再び繋がって元どおりになりました。そのような治癒効果を得るにはアンスロボットにひと工夫必要だろうと考えられていましたが、驚いたことに手を加えていないアンスロボットがそれをやってのけました。研究チームはその意外な治癒効果がどういう仕組みによるのかを調べ始めています4)。アンスロボットの研究の資金の一部をLevin氏が設立者に名を連ねる企業Astonishing Labsが提供しています。同社はアンスロボット技術による神経疾患や脊髄損傷の治療を目指しています3)。また、同社の経営担当者の1人は熱傷治療への応用も想定しています。できそうなことはほかにも多くあり、人それぞれの組織から作ったアンスロボットでたとえば動脈の通りをよくしたり薬を届けたりすることが可能になるかもしれません5)。参考1)Gumuskaya G, et al. Adv Sci (Weinh). 2023 Nov 30. [Epub ahead of print] 2)Kriegman S, et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2020;117:1853-1859. 3)Tiny ‘anthrobots’ built from human cells could help heal the body / Science 4)Scientists build tiny biological robots from human cells / Eurekalert5)Tiny robots made from human cells heal damaged tissue / Nature

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コーヒーがアルツハイマー型認知症リスクに及ぼす影響~メタ解析

 アルツハイマー型認知症は、世界中で数百万人が罹患している神経変性疾患である。その予防や発症を遅らせる可能性のある生活要因の特定は、研究者にとって非常に興味深いことである。現在の研究結果に一貫性はないものの、広く研究されている因子の1つにコーヒーの摂取量がある。韓国・仁済大学校のIrin Sultana Nila氏らは、コーヒー摂取量がアルツハイマー型認知症リスクに及ぼす影響について、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。その結果、1日のコーヒー摂取が1~4杯でアルツハイマー型認知症リスクの低減がみられたが、4杯超ではリスクが増加する可能性が示唆された。Journal of Lifestyle Medicine誌2023年8月31日号の報告。コーヒー摂取でアルツハイマー型認知症の発症リスクが増加するのは1日4杯超 "coffee"、"caffeine"、"Alzheimer's disease"など、さまざまなキーワードを組み合わせて、各データベース(Pubmed、Embase、Web of Science)より関連する研究を検索した。相対リスク(RR)および95%信頼区間(CI)を算出し、エフェクトサイズを推定した。分析には、ランダム効果モデル(不均一性がI2>50%の場合)または固定効果モデル(不均一性がI2<50%の場合)による一般化逆分散分析に制限付き最尤法を用いた。なお、分析に使用したソフトではp値の結果はp=0.00と表示された。 コーヒー摂取量がアルツハイマー型認知症リスクに及ぼす影響について調べた主な結果は以下のとおり。・11件の研究をメタ解析に含めた。・日常的に1日当たり1~2杯および2~4杯のコーヒーを摂取する人は、アルツハイマー型認知症の発症リスクが有意に低かった。 【1~2杯】RR:0.68、95%CI:0.54~0.83、I2=50.99% 【2~4杯】RR:0.79、95%CI:0.56~1.02、I2=71.79%・1日当たり4杯超コーヒーを摂取する人では、アルツハイマー型認知症の発症リスクの増加が認められた。 【4杯以上】RR:1.04、95%CI:0.91~1.17、I2=0.00%

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卒業試験に失敗、そしてこれから起きること(解説:岡村毅氏)

 アルツハイマー型認知症の病態の「本丸」、すなわちアミロイドをターゲットにした薬剤が世に出始め、新たな時代が始まりつつある。すでにエーザイと 米国・Biogen によるアデュカヌマブそしてレカネマブ、米国・Eli Lilly and Companyのdonanemabにおいて科学的効果が確認され、市場に出てくる。 レカネマブのスタディ名はClarity AD(明快AD)、そしてdonanemabのスタディ名はTRAILBLAZER(開拓者)であった。アルツハイマー型認知症を明らかにしたい、新世界を開拓したいという研究者の夢が詰まったスタディ名である。 一方で、今回のロシュ・ダイアグノスティックスのgantenerumabは残念ながら有意な結果を得られなかった。市場に出る前の卒業試験に落ちたわけである。奇しくもこのスタディ名はGRADUATEであった…。 とはいえ、2010年代は失敗の連続だったわけで、今後すべて成功するというわけではない。挑戦に失敗は付きものである。 さて、これから臨床現場では何が起きるのだろうか? アルツハイマー型認知症は、根本治療薬はない、あるのは症状の出方を和らげる薬だけだ、という時代が長く続いた。しかしこれからは、アミロイドに作用する薬がある時代だ。ドネペジル(アリセプト)の時のような、内科の先生がとにかく処方しまくったようなバブルが起きるのだろうか。とはいえ、月に1回点滴しないといけない、重大な副作用もあるので脳神経内科のある総合病院でなければ無理だ、といった情報も正しく報道されている。夢の薬ができた、という熱狂はないように思える。 私の周りでも、「多くの高齢者が外来に殺到する。大変だ」という意見もあれば、「いや人々は意外に冷静だ。そんなことはなかろう」という意見もある。 また、この薬の恩恵を受けられない人が受診し、診断はされるが処方の対象ではないという事態も起きるだろう。たとえば、すでに重度認知症の人や、アルツハイマー型認知症ではない他の認知症の人が、家族の誤解と共に受診してしまうような事態だ。何かに困って受診するわけであり、「あなたは薬の対象ではないので、もう来なくてもいいです」というわけにもいかないだろうから、認知症疾患医療センターのPSWやMSWが忙しくなってしまうかもしれない。

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ベンゾジアゼピン使用と認知症リスク~メタ解析包括レビュー

 高齢化社会に伴い、認知症の患者数は増加しており、認知症が主な死因の1つとなっている。しかし、ベンゾジアゼピン使用と認知症リスクとの関係については、一貫した結果が得られておらず、エビデンスの最新レビューが必要とされる。台湾・中国文化大学のChieh-Chen Wu氏らは、メタ解析の包括的レビューを実施し、ベンゾジアゼピン使用と認知症リスクとの関連についての入手可能なエビデンスを要約した後、その信頼性を評価した。Journal of Personalized Medicine誌2023年10月12日号の報告。 ベンゾジアゼピン使用と認知症リスクとの関係を調査した観察研究のメタ解析をシステマティックに評価した。各メタ解析について、全体的なエフェクトサイズ、不均一性、バイアスリスク、論文の公表年を収集し、事前に指定した基準に基づきエビデンスの格付けを行った。各研究の方法論的な品質の評価には、システマティックレビューを評価するための測定ツールAMSTARを用いた。 主な結果は以下のとおり。・30研究を含む5件のメタ解析を分析に含めた。・ベンゾジアゼピン使用と認知症リスクとの関連についてのエフェクトサイズは、1.38~1.78であった。しかし、この関連性を裏付けるエビデンスは弱く、含まれた研究の方法論的質は低かった。 著者らは「ベンゾジアゼピン使用と認知症リスクとの関連性を示唆するエビデンスは限られており、因果関係を明らかにするためには、さらなる研究が必要である」としたうえで「医師は、適応症に準じたベンゾジアゼピン使用を行わなければならない」とまとめている。

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片頭痛の前駆症状/予兆期、ubrogepantは有効か?/Lancet

 片頭痛の前駆症状/予兆(prodrome)期におけるubrogepant 100mgの服用は、プラセボと比較して中等度/重度の片頭痛発作を減少させ、忍容性は良好であった。米国・メイヨー・クリニックのDavid W. Dodick氏らが、米国内の研究センターおよび頭痛クリニック75施設で行われた多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照クロスオーバー第III相試験「PRODROME試験」の結果を報告した。カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)受容体アゴニストのubrogepantは、片頭痛の急性期治療薬として承認されているが、片頭痛発作の最も早い段階である前駆症状/予兆が出現した際に服用した場合の有効性については不明であった。Lancet誌オンライン版2023年11月15日号掲載の報告。前駆症状/予兆出現時に服用、24時間以内の中等度/重度頭痛の発現なしを評価 研究グループは、前兆の有無にかかわらず片頭痛歴が1年以上あり、スクリーニング前の3ヵ月間に中等度~重度の頭痛を伴う片頭痛発作が月に2~8回あった18~75歳の患者を試験の対象とした。適格被験者は、前駆症状/予兆の初回出現時にプラセボを、2回目の出現時にubrogepant 100mgを投与する群(プラセボ群)と、初回にubrogepant 100mgを、2回目にプラセボを投与する群(ubrogepant群)に、自動双方向ウェブシステムによる4ブロック置換法を用いて1対1の割合で無作為に割り付けられた。被験者は、初回および2回目の服用後4日以内に受診し評価を受けた。 試験期間中、介入提供者およびアウトカム評価者は、全員が割り付けに関して盲検化された。試験終了後のデータ解析担当者は盲検化されなかった。また、各被験者は二重盲検治療期間中、それぞれの前駆症状/予兆出現時に試験薬を2錠服用するよう指示された。 主要エンドポイントは、試験薬服用後24時間以内に中等度または重度の頭痛が発現しないこととした。有効性の解析は、無作為化され試験薬を服用後24時間以内に、少なくとも1回の頭痛評価を受けた全患者を修正ITT[mITT]集団と定義し、対象集団とした。安全性の評価は、試験薬を少なくとも1回服用した全患者が対象であった。中等度/重度頭痛の発現なし、ubrogepant群46%、プラセボ群29% 2020年8月21日~2022年4月19日に、計518例が無作為化された。安全性評価集団は480例、mITT集団は477例であった。480例中421例(88%)が女性、男性は59例(12%)であった。 服用後24時間以内に中等度または重度の頭痛が発現しなかった患者の割合は、ubrogepant群46%(190/418例)、プラセボ群29%(121/423例)であった(オッズ比:2.09、95%信頼区間:1.63~2.69、p<0.0001)。 試験薬服用後48時間以内の有害事象は、ubrogepant群で456例中77例(17%)、プラセボ群で462例中55例(12%)に認められた。

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早期アルツハイマー病へのgantenerumab、2件の第III相試験結果/NEJM

 早期アルツハイマー病患者において、完全ヒトモノクローナルIgG1抗体のgantenerumabは116週時点のアミロイド負荷をプラセボより減少させたものの、臨床症状の悪化を抑制しなかった。米国・ワシントン大学のRandall J. Bateman氏らGantenerumab Study Groupが、30ヵ国288施設で実施された無作為化二重盲検プラセボ対照並行群間比較第III相試験「GRADUATE I試験」および「GRADUATE II試験」(それぞれ15ヵ国156施設、18ヵ国152施設)の結果を報告した。アミロイドβ(Aβ)を標的とするモノクローナル抗体は、早期アルツハイマー病患者の認知機能や身体機能の低下を遅らせる可能性がある。gantenerumabは、Aβの凝集体に対して高い親和性を有しており、皮下投与のアルツハイマー病治療薬として開発が進められていた。NEJM誌2023年11月16日号掲載の報告。116週後の臨床認知症評価尺度6項目合計スコア(CDR-SB)を評価 研究グループは、陽電子放射断層撮影(PET)または脳脊髄液(CSF)検査でアミロイド斑が認められ、臨床認知症評価尺度(CDR)の全般的スコア(CDR-GS、範囲:0~3、スコアが高いほど認知障害が高度)が0.5または1、ミニメンタルステート検査(MMSE)スコアが22以上(範囲:0~30、スコアが低いほど認知障害が高度)などのアルツハイマー病による軽度認知障害または軽度アルツハイマー型認知症を有する50~90歳の患者を登録し、gantenerumab群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 投与量は120mg(4週ごと、3回)より開始し、255mg(4週ごと、3回)、510mg(4週ごと、3回)と漸増した後、510mgを2週ごとに皮下投与した。 主要アウトカムは、116週時点のCDR6項目合計スコア(CDR-SB、範囲:0~18、スコアが高いほど認知障害が高度)のベースラインからの変化量であった。CDR-SBのベースラインからの変化量に有意差なし GRADUATE I試験に985例、II試験に980例が登録された。ベースラインのCDR-SBスコアは、それぞれ3.7、3.6であった。 116週時点のCDR-SBスコアのベースラインからの変化量は、GRADUATE I試験ではgantenerumab群3.35、プラセボ群3.65であり(群間差:-0.31、95%信頼区間[CI]:-0.66~0.05、p=0.10)、II試験ではそれぞれ2.82、3.01であった(-0.19、-0.55~0.17、p=0.30)。 116週時点の脳アミロイドPET画像におけるアミロイドのgantenerumab群とプラセボ群の差は、GRADUATE I試験では-66.44センチロイド、II試験では-56.46センチロイドであり、gantenerumab群でのアミロイド陰性状態の患者の割合はGRADUATE I試験で28.0%、II試験で26.8%であった。また2試験のいずれにおいても、gantenerumab群がプラセボ群と比較してCSF中のリン酸化タウ181濃度が低く、Aβ42濃度が高かったが、PETでのタウ凝集蓄積は両群で同程度であった。 浮腫を伴うアミロイド関連画像異常(ARIA-E)は、gantenerumab群で24.9%に認められ、症候性ARIA-Eの発現率は5.0%であった。プラセボ群はそれぞれ2.7%、0.2%だった。

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アミロイド陽性アルツハイマー病患者の皮質萎縮に対する炭水化物制限の影響

 インスリンレベルを低下させる炭水化物制限は、アルツハイマー病(AD)発症を遅らせる可能性がある。炭水化物の摂取を制限するとインスリン抵抗性が低下し、グルコースの取り込みや神経学的健康が改善すると考えられる。ADの特徴は、広範な皮質の萎縮だが、アミロイドーシスが確認されたAD患者において、正味炭水化物摂取量の低下が皮質萎縮の軽減と関連しているかは、明らかとなっていない。米国・Pacific Neuroscience Institute and FoundationのJennifer E. Bramen氏らは、炭水化物制限を行っているアミロイド陽性アルツハイマー病患者を対象に、中程度~高度の炭水化物摂取の場合と比較し、皮質厚が厚いとの仮説を検証した。Journal of Alzheimer's Disease誌2023年10月号の報告。 アミロイド陽性アルツハイマー病患者31例を、正味炭水化物のカットオフ値130g/日に基づき2群に分類した。皮質厚は、FreeSurferを用いて、MRIのT1強調画像より推定した。皮質表面分析は、クラスタワイズ回帰分析を用いて、多重比較のために補正した。群間差異の評価には、両側独立サンプルt検定を用いた。交絡因子を考慮した連続変数として正味炭水化物を用い、線形回帰分析も行った。 主な結果は以下のとおり。・正味炭水化物摂取量が低い群は、体性運動ネットワークおよび視覚ネットワークの皮質厚が有意に厚かった。・線形回帰では、正味炭水化物摂取レベルの低下は、前頭頭頂葉、帯状鞠膜、視覚ネットワークの皮質厚の厚さとの有意な関連が認められた。 著者らは「炭水化物制限は、AD患者の皮質萎縮を軽減する可能性がある。正味炭水化物摂取を130g/日未満に抑えることは、検証済みのMIND食を順守することにつながり、インスリンレベル低下による恩恵も受けることになるであろう」としている。

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日本における慢性疼痛・片頭痛患者の医療アクセスへの障壁

 慢性疼痛および片頭痛は、患者のQOLや生産性の低下などの経済的な負担が大きいにもかかわらず、十分に治療されていないケースが少なくない。治療を受けない理由を明らかにすることは、介護を求める行動を改善するための介入を可能にするためにも重要である。しかし、日本において、疾患特有の治療を受けない理由に関する報告は限られている。順天堂大学の唐澤 佑輔氏らは、慢性疼痛および片頭痛を有する未治療の患者における医療アクセスへの障壁を明らかにするため、調査を行った。その結果から、痛みに伴うリスクとその原因、安価な治療選択肢の利用の可能性、適切な治療施設へのアクセスについて患者教育を行うことで、治療率が向上する可能性が示唆された。Frontiers in Pain Research(Lausanne, Switzerland)誌2023年10月3日号の報告。 慢性疼痛および片頭痛患者を対象に、非介入的な横断的インターネット調査を行った。主要評価項目は、慢性疼痛および片頭痛の未治療の理由とした。副次的評価項目は、患者背景、患者報告ベースのアウトカム、ジェネリック医薬品またはオーソライズド・ジェネリック(AG)の認知度、医療アクセスに関する因子を含めた。 主な結果は以下のとおり。・2021年、慢性疼痛患者1,089例(未治療:605例、55.6%)および片頭痛患者932例(未治療:695例、74.6%)を対象に調査を行った。・治療を受けない理由は、慢性疼痛では「痛みを我慢できる」、片頭痛では「市販薬で疼痛管理が可能」であった。・未治療の慢性疼痛と有意な関連が認められた因子は、若年であること、最寄りの医療機関までの移動時間が短い、痛みが少ない、ADLスコアが高い、後発医薬品やオーソライズド・ジェネリック(AG)に対する認識の低さであった。・未治療の片頭痛と有意な関連が認められた因子は、女性であること、最寄りの医療機関までの移動時間が短い、人口5万人未満の自治体に居住、中等度~重度の痛みを経験、ADLスコアが高い、AGに対する認識の低さであった。・AGの認識率は、治療を受けた患者のほうが、未治療の患者よりも2倍高かった。

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脳が萎縮していても、必ずしも認知症ではない?【外来で役立つ!認知症Topics】第11回

当クリニックでは、「『脳が萎縮している、認知症が疑われる』と言われました。本当に私は認知症なんですか?」と泣かんばかりの表情で初診する人が年間に数人はいらっしゃる。前頭葉萎縮と海馬萎縮脳の萎縮は2つに大別できる。まずは大脳半球を左右に分け前後に走る深い溝、すなわち大脳縦裂の前方が開いているので前頭葉萎縮があると言われた人である。「前頭側頭型認知症の疑いと言われました」と告げる人もいる。このタイプはこの画像所見だけで、下角の拡大などの所見がなければ、問題なしが普通である。しかしこのタイプの人には飲酒する人が多い。ざっくり言うと、相当の「吞兵衛」が少なくない。この飲酒と前頭葉萎縮の関係を報告した論文は、欧米でも国内でも出ている。もう1つが有名な海馬萎縮である。「海馬が痩せている、イコール、アルツハイマー病」という簡単な筋書きが世間一般はもとより、認知症を診る医師にもかなり浸透している。実際、海馬を含む側頭葉内側と知的機能との相関を、MRIの容量測定により検討することで、健康高齢者とごく軽度のアルツハイマー病患者の区別が、容量値により可能だとした報告もある。「海馬萎縮=アルツハイマー病」ではないこともあるだが、海馬萎縮が必ずしもアルツハイマー病であるとは言えない。意外なことに、海馬を含む側頭葉内側と認知機能の関連は最近まであまり知られていなかった。軽度認知障害(MCI)で有名なピーターセンらは、側頭葉内側の容積と記憶、言語、一般的な知的機能との相関を、アルツハイマー病患者と健康高齢者コントロールにおいて評価している。全体では、記銘や想起のテスト成績と海馬の容積は比例した。しかし健康高齢者とアルツハイマー病患者に分けてみたところ、こうした相関はアルツハイマー病患者群においてのみ観察されたという1)。一方で記憶に関わる海馬の役割は、PETなど脳画像技術の進歩、また記憶に関する新たな知見により見直されつつある。側頭葉内側の機能は記憶に限らないこと、また記憶のプロセス(記銘、把持、想起)には海馬以外に、側頭葉内側、間脳領域のみならず新皮質から小脳までもが含まれると分かっている。さらに健康高齢者において加齢によって影響を受ける脳構造を調べた研究もある。海馬を含む辺縁系の容積はいかなる認知機能(言語性ワーキングメモリー、言語性の明示的記憶、言語性プライミング)とも無関係という驚きの結果であった。このように海馬萎縮の背景は単純でない。アルツハイマー病とは別の病理学的な影響も受ける。世界最大のアルツハイマー病研究組織であるAlzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative(ADNI)のデータに、海馬萎縮に関与する遺伝子を調べた報告がある2)。ゲノムワイド関連研究(GWAS)から3つの遺伝子多型、すなわちTOMM40-APOC1領域にあるrs4420638、rs56131196、rs157582が関与すると報告されている。アルツハイマー病患者の海馬萎縮速度は3倍以上なおアルツハイマー病患者や健康高齢者において海馬はどの程度の速度で萎縮するのだろうか? アルツハイマー病における年間あたりの海馬萎縮率をメタ解析した報告がある。それによればアルツハイマー病患者での萎縮率は4.66%(95%信頼区間[CI]:3.92~5.40)、また健康コントロールでは1.41%(95%CI:0.52~2.30)であった3)。つまりアルツハイマー病患者では海馬の年間萎縮率は健康高齢者の3倍以上も大きい。以上をまとめると、知的健康でも海馬の萎縮を示す人がいる。1回の海馬萎縮のMRI画像によってアルツハイマー病の診断はできるわけではない。しかしアルツハイマー病になると海馬は規則的に萎縮していくということになる。海馬萎縮はVSRADで評価さてこれに絡めてわが国では、「海馬萎縮といえばMRI画像のVSRAD(Voxel-Based Specific Regional Analysis System for Alzheimer's Disease)」と定着している。確かにこのZスコアを使うことで、多くの場合、海馬萎縮が客観的に評価されてすっきりする。ところがMRI画像の視覚評価で海馬萎縮がはっきりしているのに、Zスコアが低い、つまり数字上はアルツハイマー病を示唆するとは言い難い症例がある。またその逆もある。つまり視覚評価とZスコアが乖離する症例が時にはある。こうしたケースでは、「VSRADの測定が誤っているのではないか?」とも尋ねられる。そうしたご意見には、次のようにお答えしている。「VSRADは絶対値の測定ではない。全脳に対する海馬領域の体積、正確に言えば、全脳の灰白質体積で正規化した海馬領域の灰白質体積を意味します。だから乖離がありえます」。もちろんすべてがそうだと言わないが、アルツハイマー病は海馬領域の選択的萎縮を示すため、視覚評価よりもVSRADのほうがアルツハイマー病の特徴を良く捉える。ちなみに私信(松田 博史先生)では、視覚評価による海馬萎縮からアミロイド沈着の可能性の診断率は60%ぐらいだが、VSRADによると70%を超えるとされる。参考1)Petersen RC, et al. Memory and MRI-based hippocampal volumes in aging and AD. Neurology. 2000;54:581-587.2)Wang WY, et al. Impacts of CD33 Genetic Variations on the Atrophy Rates of Hippocampus and Parahippocampal Gyrus in Normal Aging and Mild Cognitive Impairment. Mol Neurobiol. 2017;54:1111-1118.3)Barnes J, et al. A meta-analysis of hippocampal atrophy rates in Alzheimer's disease. Neurobiol Aging. 2009;30:1711-1723.

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地域のソーシャルキャピタルと認知症発症との関連~日本老年学的評価研究データ分析

 近年、社会や地域における、人々の信頼関係・結びつきを意味するソーシャルキャピタルという概念が注目されている。個人レベルでのソーシャルキャピタルは、認知機能低下を予防するといわれている。また、コミュニティレベルでのソーシャルキャピタルが、認知症発症に及ぼす影響についても、いくつかの研究が行われている。国立長寿医療研究センターの藤原 聡子氏らは、日本人高齢者を対象とした縦断的研究データに基づき、コミュニティレベルのソーシャルキャピタルと認知症発症との関連を調査した。その結果から、市民参加や社会的一体感の高い地域で生活すると、高齢女性の認知症発症率が低下することが示唆された。Social Science & Medicine誌2023年12月号の報告。 日本老年学的評価研究の9年間(2010~19年)にわたる縦断的データを用いて、分析を行った。対象は、7つの自治体、308のコミュニティに在住する65歳以上の身体的および認知的に独立した3万5,921人(男性:1万6,848人、女性:1万9,073人)。認知症発症は、公的介護保険の利用により評価した。ソーシャルキャピタルは、市民参加、社会的結束、社会的相互関係の3つの側面より評価した。性別で層別化し、2レベルのマルチレベル生存分析を行い、ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・フォローアップ期間中に認知症を発症した高齢者は、6,245人(17.4%)であった。・認知症の累積発症率は、男性で16.2%、女性で18.4%であった。・共変量で調整した後、個人レベルの市民参加は、男女ともに認知症発症率の低下と関連が認められた。 【男性】HR:0.84、95%CI:0.77~0.92 【女性】HR:0.78、95%CI:0.73~0.84・コミュニティレベルの市民参加(HR:0.96、95%CI:0.93~0.99)および社会的結束(HR:0.93、95%CI:0.88~0.98)は、女性の認知症発症率の低下と関連していた。また、個人、コミュニティレベルを超えて、女性の社会的相互関係は認知症発症率の低下と関連が認められた(HR:0.95、95%CI:0.90~0.99)。 著者らは「地域社会における市民参加や社会的一体感を促進することで、認知症発症までの期間を遅らせたり、予防したりする可能性がある」としている。

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遠隔虚血コンディショニングは脳卒中急性期患者の転帰を改善するか?(解説:内山真一郎氏)

 急性期脳卒中における遠隔虚血コンディショニング (RIC)の有効性は確立されていない。RESIST試験は、脳卒中発症後4時間以内で入院前の脳梗塞または脳出血1,500例における無作為化比較試験であった。介入方法は、治療群では上肢を200mmHgまで、対照群では20mmHgで5分の加圧と5分の除圧を5回反復した。治療は、救急車の中で開始し、病院で少なくとも1回反復し、その後7日間1日2回反復した。一次評価項目は、90日後の改定ランキン尺度スコアのシフトであった。 結果は、RICによる90日後の転帰改善効果は認められなかった。多くの虚血性脳卒中患者は血栓溶解療法や血管内治療を行っても転帰は改善しないので、RICは機能回復や脳保護に有効な補助的治療として期待されている。先行して行われたRICAMIS試験は、発症後48時間以内の1,893例において両側のRICを10~14日間行い、対照群より有意に転帰良好例が多かったことを報告している。 両試験はRICの方法、治療開始時間枠、治療継続期間、症例数、評価法が異なっており、今後どのようなRICの試験デザインが妥当であるかを再考する必要があるように思われる。また、脳保護療法の効果は90日後ではなく、もっと長い6ヵ月や1年後で判定すべきであるとの意見も増えている。

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早期アルツハイマー病患者のQOLに対するレカネマブの有用性~第III相試験

 レカネマブは、アミロイドβプロトフィブリルに高い親和性を示すヒト化IgG1モノクローナル抗体である。第III相試験において、レカネマブは早期アルツハイマー病のアミロイドマーカーを減少させ、18ヵ月時点での認知および機能の臨床的エンドポイントの低下を軽減することが示唆されている。カナダ・Toronto Memory ProgramのSharon Cohen氏らは、Clarity AD試験での健康関連QOL(HRQoL)の結果について、評価を行った。その結果、レカネマブは、HRQoLの相対的な維持および介護者の負担軽減と関連しており、さまざまなQOL尺度においてベネフィットが確認された。The Journal of Prevention of Alzheimer's Disease誌2023年号の報告。 Clarity AD試験は、18ヵ月にわたる多施設共同二重盲検の第III相試験である。参加者は、軽度認知障害(MCI)またはアルツハイマー病による早期認知症と診断され、PETまたは脳脊髄液検査において脳アミロイド蓄積が認められた50~90歳。参加者には、プラセボまたはレカネマブ10mg/kg IVの隔週投与を行った。HRQoLは、European Quality of Life-5 Dimensions(EQ-5D-5L:患者)およびQuality of Life in AD(QOL-AD:患者および介護者)を用いて、ベースライン時および6ヵ月ごとに測定した。介護者に対してZarit Burden Interview(ZBI)を実施した。 主な結果は以下のとおり。・登録患者数は1,795例(レカネマブ群:898例、プラセボ群:897例)。・18ヵ月時点での対象患者におけるHRQoLは、ベースラインからの調整平均変化の低下がEQ-5D-5Lで49%、QOL-ADで56%減少した。・介護者におけるQOL-ADの低下は、23%減少した。・18ヵ月時点のベースラインからの平均変化調整後のZBIでは、介護者の負担増が38%減少した。・HRQoLの検査項目およびディメンションについても、レカネマブのベネフィットが示唆された。 著者らは「レカネマブは、これまで報告されている認知、機能、疾患進行、バイオマーカーに関連する尺度に対するベネフィットと合わせて、治療患者、その介護者および社会に対して、さらなるベネフィットをもたらす可能性がある」としている。

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十人十色の症状・経過を示す多発性硬化症、改訂GLで疾患修飾薬の使い方を示す/バイオジェン

 多発性硬化症(MS)・視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)の診療環境は、近年大きく変化している。「多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017」の公開後、MSにおいては国際的な診断基準が改訂され(McDonald 2017診断基準)、フマル酸ジメチル(商品名:テクフィデラ)、シポニモド(同:メーゼント)、オファツムマブ(同:ケシンプタ)が発売された。それを受けて約6年ぶりの改訂となる「多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン2023」が2023年9月に発刊された。 そこで、バイオジェンは2023年10月26日に「ガイドライン改訂からみるこれからの多発性硬化症診療」と題し、メディアセミナーを実施した。ガイドライン作成委員会の委員長を務める新野 正明氏(北海道医療センター臨床研究部 部長)が、MS患者が抱える悩みを含めたMS診療の現状と課題、ガイドライン改訂のポイントについて解説した。多様な症状・経過を示し、人生に大きく影響する MSは20~30代での発症が多く、仕事や結婚、出産など人生に大きな影響を及ぼす。同じ症状を呈するMS患者は2人としていないと言われるほど多様な症状を示し、その中には、ウートフ現象(温浴効果)、易疲労感、記憶力や集中力、判断力の低下などの見た目にはわからない症状もある。そのような背景から、MS患者は「学業や仕事に影響しないのだろうか?」「何に気を付ければ良いのだろうか?」「結婚・出産・子育てに影響しないのだろうか?」「いつまで薬を続ければ良いのだろうか?」「まわりにはなかなか理解してもらえない」といった悩みを抱えていると新野氏は指摘した。 このように多様な症状・経過を示し、患者の悩みの多いMSの診療課題として、新野氏は以下を挙げた。1)患者数が少なく、脳神経内科医でも経験することがそれほど多くない。そのため、専門とする医療機関が少なく、都市部に限られることが多い。2)長期にわたる診療・観察が必要であるが、担当医が異動により毎年交替することがあり、そのたびに方針が変更になることがある。3)2000年以降、疾患修飾薬(DMD)が8種類発売されたが、どのような使い分けが良いのか示されていない。4)どのような点に注意してフォローアップすれば良いか、情報が十分に共有されていない。DMDについてアルゴリズムを作成、使用方法を示す これらの課題に対応すべく、ガイドラインが改訂された。今回のガイドラインは3つの章からなり、中核箇所はMindsに準拠して作成された。第1章では、MSの診断では他の疾患との鑑別が重要となることから、NMOSDやMOG抗体関連疾患(MOGAD)などとの鑑別の手助けになるように、中枢神経系炎症性脱髄疾患診断のアルゴリズムが作成された。また、第1章の後半には各治療薬の概説や使用方法が具体的に掲載されたほか、診療において重要な「医療経済学的側面及び社会資源の活用」の項が追加された。 第2章では、MSやNMOSDを専門とする医師でも対応が分かれると考えられる重要臨床課題が5つ選定され、CQとして取り上げられた(MS:3つ、NMOSD:1つ、MOGAD:1つ)。今回設定されたMSに関するCQは以下のとおり。詳細はガイドラインを参照されたい。CQ1:再発寛解型MS(RRMS)の診断早期にナタリズマブないしオファツムマブで治療を開始するのは推奨されるか?(p114)CQ2:高齢MS患者において、DMDを中止することは推奨されるか?(p116)CQ3:二次性進行型MS(SPMS)患者に、オファツムマブとシポニモドのいずれが推奨されるか?(p118) 第3章では、診療上重要であり、エキスパートの間では一定のコンセンサスが得られると考えられる事項などがQ&Aとして取り上げられている。また、第2章と第3章の内容からRRMSの治療アルゴリズムも作成された。具体的には、「再発頻度・MRI活動性・EDSSが高くない、脳萎縮が強くない場合」には、アボネックス、ベタフェロン、コパキソン、フマル酸ジメチルのいずれかで治療を開始し、治療効果が不十分である場合は、ナタリズマブ、オファツムマブへの切り替えを速やかに検討することが記載されている。一方、「再発頻度やMRI活動性が高い、さらにはEDSSが高い、脳萎縮が強い場合」には、ナタリズマブ、オファツムマブによる治療開始を検討し、「再発頻度・MRI活動性・EDSSが高くない、脳萎縮が強くない場合」でも患者の意向等によってはナタリズマブやオファツムマブから開始することも検討することが記載されている。DMDの切り替え、効果不十分の判断は? それでは、DMDの切り替えの判断はどうすべきであろうか。これについても「Q2-6-1:どのような場合に、DMDの切り替えを検討すべきか?」という問いが設定されている。回答の内容としては「DMDの治療効果が不十分な場合や副作用により治療を継続できない場合、治療継続による副作用が懸念される場合には、切り替えを検討する」ことが記載され、治療効果不十分の判定については「DMDを開始した後も再発や障害度の進行が認められる場合や、MRIで新規病変や拡大病変が認められる場合」に治療効果不十分と判定することが記載されたと新野氏は解説した。 MRIの撮像頻度や障害度の進行の評価方法について、新野氏に質問したところ、「MRIについては、未治療の場合やDMD開始の判断をする場合には半年に1回、進行性多巣性白質脳症のリスクがある場合は3~4ヵ月に1回、安定している患者では1年に1回など、患者の状態によって判断する。身体障害については、EDSSの評価を年に1回程度もしくは再発時に実施するほか、歩行が重要な指標になるため、Timed 25-Foot Walk(25フィート歩行に要する時間)の評価、同じ距離を歩くのにかかる時間が延びていないか質問することも有用である。また、認知機能も非常に重要であるため、情報処理能力などを年に1回は評価する必要がある」との回答が得られた。 講演の最後に、新野氏は「患者さんはさまざまな悩みを抱えているため、医療者側の考えやエビデンスを押し付けるのではなく、患者さんの希望も聞きながら患者さんと一緒に治療方針を考えていく必要がある」とまとめた。

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軽度認知障害および早期認知症患者向けアプリの有用性を評価した

 順天堂大学の浜口 玲央氏らは、ライフクエストが開発した軽度認知障害(MCI)および早期認知症患者向けのスマートフォンアプリケーション「LQ-M/D App」の実現可能性、有用性、潜在的な効果を評価するため、本研究を実施した。Frontiers in Digital Health誌2023年9月12日号の報告。軽度認知障害および早期認知症患者向けアプリ使用患者20例で評価 「LQ-M/D App」は、認知機能、身体運動トレーニング、生活習慣の習得機能およびユーザーエンゲージメントを強化するために、アップデート後に追加された継続性向上機能を有するMCIおよび早期認知症患者向けのスマートフォンアプリケーションである。継続性向上機能としては、トレーニング内容の最適化、疾患教育機能、ファミリーアプリによる家族でのモニタリングの機能が含まれる。 単一施設によるアプリの使用状況、認知機能トレーニングおよび運動トレーニングの実施/中断、アンケート回答、認知機能評価に関するデータをレトロスペクティブに分析した。アプリ使用患者20例のうち、10例はアップデート前のバージョン、残りの10例はアップデート後のバージョンを使用した。 軽度認知障害および早期認知症患者向けアプリの有用性を評価した主な結果と結論は以下のとおり。・軽度認知障害および早期認知症患者向けアプリ「LQ-M/D App」は、効果的に使用されており、継続性向上機能がいくつかの点でアプリ使用にプラスの影響を及ぼすことが示唆された。・アプリの使用状況と認知機能との間に潜在的な関連が示唆されたが、データポイントのばらつきについては、慎重な解釈が求められる。・本研究の限界として、サンプルサイズの小ささ、単一施設試験である点、レトロスペクティブ研究である点が挙げられる。・今後、MCIおよび早期認知症のマネジメントに対する「LQ-M/D App」の有用性についてさらなる評価を行うためにも、より大規模なサンプルを用いた複数施設によるランダム化比較研究を行う必要がある。

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ピカソ「泣く女」【なんでこれがすごいの?だから子供は絵を描くんだ!(アートセラピー)】Part 1

今回のキーワード器用さ(協調運動)発達性協調運動症イメージ力(概念化)アート・サヴァン(サヴァン症候群)自分語り(社会性)自閉症のこだわり(反復性)創造性自己治癒皆さんは、子供の描く絵を見て、おもしろいと思ったことはありませんか? 大人の常識にとらわれない視点や発想にびっくりさせられることがありますよね。子供はどうやって絵を描くようになるのでしょうか? そもそも私たちヒトはなぜ絵を描くようになったのでしょうか? そして、私たちは絵を見てなぜ心を動かされることがあるのでしょうか?今回は、ピカソの傑作の1つである「泣く女」を取り上げます。シネマセラピーのスピンオフバージョン、「アートセラピー」としてお送りします。この絵を通して、描く能力、描く起源、そしてアートの本質に、発達心理学、進化心理学、比較認知科学、神経美学の視点から迫ります。それらを踏まえて、医療の現場で行われるアートセラピーの効果を一緒に考えてみましょう。子供はどうやって絵を描くようになるの?ピカソの「泣く女」は、まさに子供が描くようなおもしろい絵です。彼は、もともと絵がとてもうまかったわけですが、途中からこのような絵をあえて描くようになりました。それでは、ピカソが注目したように、子供はどうやって絵を描くようになるのでしょうか? ピカソと子供の絵の共通点から、描くために必要な能力(機能)を主に3つ挙げてみましょう。(1)器用さ―協調運動ピカソの「泣く女」の絵は、輪郭がくっきりと描かれています。その太さはまばらで途切れているところもあり、滑らかではないです。よく言えば大胆不敵、悪く言えば不器用です。発達心理学的には、子供は1歳以降にペンで殴りがきができるようになり、2歳半以降に横線、縦線、円の模倣ができるようになります1)。1つ目の能力は、ペンなどで描く線の位置をコントロールする器用さ、つまり協調運動です。子供は自由に線を描くという運動遊びを通して、器用になっていきます。やがて、それが字を書く器用さにつながっていきます。逆に、いつまでも線がうまく描けず、手先が不器用なままの場合は、発達性協調運動症と呼ばれます。比較認知科学の視点では、チンパンジーをはじめ大型類人猿も絵筆で殴りがきができます1)。とくにチンパンジーは、模倣はできませんが、お手本の線に印づけをしたり、塗りつぶすことはできます。このことから、チンパンジーは1、2歳の子供と同じくらいの器用さがあることがわかります。ちなみに、ピカソは、あるチンパンジーの殴りがきの絵をオークションで買い取ってアトリエに飾っていたという逸話があり、インスピレーションのもとにしていたようです。(2)イメージ力-概念化ピカソの「泣く女」の絵は、泣いてくしゃくしゃになった表情と涙にぬれてくしゃくしゃになったハンカチがあえて連続的に描かれています。女性の顔の上半分は正面顔で下半分は横顔で、複数の視点からみたイメージを重ね合わせています(キュビズム)。よく言えば立体的で斬新、悪く言えば視点やイメージが定まっていないです。発達心理学的には、幼児の絵は、顔は真正面を向いているのに横から見た椅子に座っていたり、物が展開図のよう描かれていることがよくあります。人を描こうとすると、胴体がなく、頭からいきなり手足が生えているような絵(頭足人)になります。4歳まで、顔など上下の向きがあるものを逆さまや横向き(回転画)にして描いてしまうこともあります1)。2つ目の能力は、あるものをざっくりとした形で思い描くイメージ力、つまり概念化です。子供は、見たものではなく、知っているものを描くわけですが、絵本などからの模倣学習によって、より特徴や構図を細かく捉えることができるようになっていきます。こうして、子供の絵が、より多くの人が理解できる「普通」の絵になっていくのです。比較認知科学の視点では、ヒトの子供は2歳半以降に目がないチンパンジーの顔の絵に目を描き入れることができるようになります。しかし、チンパンジーはまったくできず、顔の絵の輪郭線をなぞるだけでした1)。このことから、チンパンジーは「ない」ものを認識できない、つまり目や口などの形のざっくりとしたイメージ(概念)がもともと頭の中になく、見たものを丸ごと捉えていることが示唆されます。だからこそ、目の前に他のチンパンジーが何頭いるかの瞬間記憶(映像記憶)において、チンパンジーはヒトよりも長けていることもわかります。逆に言えば、ヒトはチンパンジーよりも瞬間記憶が劣っているわけですが、これは、イメージ力(概念化)を進化させた代償と言えるでしょう。実際に、秀でた瞬間記憶によって写実的な絵を描く「アート・サヴァン」(サヴァン症候群)と呼ばれる人がまれにいます。しかし、彼らのほとんどは、もともと自閉症で、抽象的な話(概念化)ができません。彼らは、概念化の能力と引き換えに、瞬間記憶の能力を手に入れたと捉えることができます。ちなみに、ゾウは鼻で絵筆を持って、花の絵を描くことができます。ただし、これは、ゾウ使いが巧みに耳を引っ張るなどして、そう描くようにトレーニング(連合学習)をしただけであることがわかっています2)。ゾウは、自発的に描いているわけではなく、その絵の形を認識できているわけでもありません。つまり、形のある絵を描くことができるのは、やはりヒトだけであると言えます。(3)自分語り―社会性ピカソの「泣く女」のモデルは、ピカソの愛人の1人です。ピカソは、結婚をして子供がいながら、次々と愛人をつくっていました。この愛人ともう1人の愛人が、ピカソのアトリエで鉢合わせた時の逸話は有名です。ピカソは「どちらがこの場を出ていくかはっきりさせて」とこの2人に迫られるのですが、なんと「君たちが争って決めたらいい」と答えたのです。そして間もなく、彼の目の前で女性同士の取っ組み合いのけんかが始まったのでした。当時ピカソは、戦争を象徴する「ゲルニカ」の制作の真っ最中でした。「ゲルニカ」は、祖国スペインでの戦争だけでなく、自分のアトリエで自分をめぐっての女性同士の戦いも同時に象徴していたとも言えるかもしれません。彼は数年後、また別の愛人にこの時のエピソードを「最高の思い出の1つだったな」と面白がって語っていたのでした。この絵の背景を知れば知るほど、「泣く女」の真実が浮き彫りになってきます。そして、ピカソがいかに自分語りに長けていたのかがわかります。発達心理学的には、4歳以降でエピソード記憶が発達し、たとえば遊園地で家族が手をつないで笑っているワンシーンなど、エピソードの絵を描くようになります。そして、親などに「見て見て」と言うようになります。もちろん、親は「いいねえ」「よく描いたねえ」と褒めます。それは、写真のような正確な事実ではなく、その子が感じたその子にとっての真実です。その絵は親にとって、ピカソの絵と比べることができない宝物になります。3つ目の能力は、自分が見たものを周りに伝えようとする自分語り、つまり社会性です。子供は、ただ描くだけでなく、自分が見たものを絵にして周りと共有しようとするようになります。こうして、ピカソと同じように、絵にストーリー性やメッセージ性という価値が生まれるのです。比較認知科学の視点では、先ほどの目がない顔の絵に目を描き入れる実験において、そもそもチンパンジーは、たとえイメージ力があり目がないことを認識できていたとしても、そもそも「目がないこと(いつもと違うこと)を伝えたい」「足りない目を補って褒められたい」という発想自体がない可能性も考えられます。つまり、絵は、言葉と同じように社会性があることがわかります。逆に言えば、絵は誰かに見てもらうために描くのです。誰かに見てもらうことを想定せずに描く場合は、独り言と同じであり、自閉症のこだわり(反復性)など特殊な精神状態に限られます。次のページへ >>

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ピカソ「泣く女」【なんでこれがすごいの?だから子供は絵を描くんだ!(アートセラピー)】Part 2

ヒトはなんで絵を描くの?絵を描くために必要な能力は、器用さ(協調運動)、イメージ力(概念化)、自分語り(社会性)であることがわかりました。言い換えれば、子供が絵を描くのは、器用になりたいから、イメージしたいから、誰かに伝えたいからです。それでは、そもそもヒトはなぜ絵を描くようになったのでしょうか?ここから、絵を含むアートの起源を3つの段階に分けて迫ってみましょう。(1)きれいに石器をつくる―協調運動約300万年前に、人類は部族の集団をつくって助け合うようになりました。約250万年前には、獲物の肉を切る時に石器を使うようになりました。また、持ちやすさや丈夫さの観点から、石器(握斧)の形は、左右対称の涙型に洗練されていきました。これが、アートの起源です。1つ目の段階は、きれいに石器をつくることです。まず石器を使うためには、切る位置を見定めて指先の力を加減しながら正確に刃を打ち込む必要があります3)。そして、さらに石器をきれいにつくるためにも、同じような能力が必要になります。これは、器用さ(協調運動)の起源です。その形の美しさは、同時にその持ち主(主に男性)の生存能力として異性へのアピールになったでしょう。これは、生殖の適応度を高めます。ちなみに、ニワシドリという鳥のオスは、メスを向かい入れるために、「庭師」のように、花、木の実、貝殻、石などで巣の周りに、立派な「庭」をつくることで知られています4)。この「美的センス」は、人類の石器と同じように、メスに対してオスが適応度の高いことを示すシグナリングであると考えられています。シグナリングの詳細については、関連記事1をご覧ください。(2)ものにイメージを重ね合わせる―概念化約20万年前に、人類は言葉を話すようになり、言葉によって世界を細かく分けることができるようになりました。約9万年前に、貝の首飾りを信頼のシンボルとして見立て、一緒に埋葬するようになりました4)。約8万年前に、人類は石片に格子模様を刻むようになり、オーカ(着色剤)で顔をはじめとするボディペインティングをして、異性へのセックスアピールをするようになりました。これらは、見た目においてのシンボルの起源です。このようにシンボルを用いるようになってから、助け合うための相手の視点に立つ心理(心の理論)は、人間だけでなく、動物をはじめあらゆる自然に向けられ、それらとも協力関係を築こうとしたでしょう。これがアニミズムであり、トーテミズムです。ものに心が宿るという発想から、石片や動物の骨・角・象牙などが、形の似ている動物に見立てられて彫り込まれたでしょう。つまり、最初の彫刻アートは、最初から動物をイメージして作ったのではなく、最初はそう見えたからそれを補うように彫り込んでいったのです。2つ目の段階は、ものにイメージを重ね合わせることです。先ほど紹介したように、目がない顔の絵に目を描き入れる幼児のように、すでに「ある」ものを手がかりに「ない」ものを補ってイメージを膨らませていくことです。これは、イメージ力(概念化)の起源です。やがて、誰かが作ったものを別の誰かが真似して、より洗練されたものになったでしょう。3万数千年前には、動物の頭と人間の体を組み合わせた半人半獣の象牙アート「ライオンマン」が作られました。まさに、模倣から創造です。なお、概念化は、イメージ力(視覚的な認知能力)だけでなく、言語能力(聴覚的な認知能力)もあります。この起源については、関連記事2をご覧ください。(3)集団で共有する―社会性約5万年前に、洞窟の中で壁画が描かれるようになりました。実際の壁画には、岩肌の凸凹や亀裂を利用してウシやシカなどの輪郭がきれいに描かれています。埋まった小石は目として描かれています。このような壁画も、最初から凸凹や亀裂があえて利用されたのではなく、最初はその凸凹や亀裂があるおかげで、やっとウシやシカの形がイメージされるようになったと考えられます。その壁画を目の前にして、部族のメンバーが集まり、狩猟の場所を占ったり、狩猟の仕方などの生活の知恵や部族の掟を次の世代に伝えていったのでしょう。そして、それらの言い伝えは、より洗練された壁画としてまた描き直されていったのでしょう。3つ目の段階は、部族集団で共有することです。言葉に加えて、壁画があることによって、より具体的にイメージすることができて、やり方や仕組みの理解がしやすくなります。私たち現代人も、言葉だけでなく、イラストや図があった方がより頭に入りやすいです。これは、部族集団の適応度を高めます。そして、これが文化という社会性の起源です。実際に、壁画が描かれるようになった約5万年前から、先ほどの「ライオンマン」のようなアートをはじめ、道具、建築、音楽、文学、宗教、政治などの文化が爆発的に発展していきました。これは、「文化のビッグバン」と呼ばれています。なお、文化は、形として残る遺跡(視覚的な文化)と、言葉によって伝わる言い伝え(聴覚的な文化)に分けることもできます。言い伝えの起源の詳細については、言い伝えを噂話と置き換えて、関連記事3をご覧ください。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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ピカソ「泣く女」【なんでこれがすごいの?だから子供は絵を描くんだ!(アートセラピー)】Part 3

なんでピカソの絵はすごいの?絵を含むアートの起源は、きれいに石器をつくる、ものにイメージを重ね合わせる、集団で共有することであることがわかりました。つまり、発達(個体発生)と進化(系統発生)の両方の視点からも、絵を描くために必要な能力(機能)は、協調運動、概念化、社会性であると言えます。それでは、最初の質問に戻ります。なぜピカソの絵はすごいのでしょうか? 神経美学の視点から、2つの要素を挙げてみましょう。(1)美しい要素がある「泣く女」の絵は、正面顔と横顔、顔のしわとハンカチのしわなどが連続的に組み合わされているなど、実は配置のバランスが驚異的にうまいと指摘されています5)。また、赤と緑、青とオレンジ、黄色と紫などお互いの色を強烈に引き立てる補色を効果的に使っており、色使いもうまいと指摘されています5)。1つ目は、美しい要素があることです。美しさは、見た目、聴き心地、道徳的行い、数理方程式などさまざまあります。これらの美の体験に共通して反応を見せる唯一の部位は、脳の眼窩前頭皮質であることがわかっています6)。絵画の美と道徳の美が、同じ脳の部位の反応であることからも、やはり絵画にはそもそも社会性があることがわかります。(2)めちゃくちゃな要素がある「泣く女」の絵は、「何これ!?」と思わせるような、普通にはありえない描線や構図です。さらに、描かれたモデルの気持ちについ思いを馳せて「ピカソは常軌を逸している!」などと私たちを思わせます2つ目は、めちゃくちゃな要素があることです。めちゃくちゃさは、間違いや無秩序などです。このように、合理的で理性的な思考に揺さぶりをかけられた時、脳の背外側前頭前皮質が反応することがわかっています6)。先ほどにご紹介した実験で、目のない顔に違和感を待つことも、まさにこの部位の反応です。つまり、ピカソの絵がすごいわけは、美しさとめちゃくちゃさの絶妙なバランスによって私たちの心を動かすからです。これは、特定の決まりごと(コンテキスト)を守りつつ、あえてそれにフィットする新しい何かを生み出しています。まさに、創造性です。当時に誕生した美術館は、このピカソの感性に目を付け、価値づけしたのでした。ちなみに、即興演奏をしている時のジャズミュージシャンの脳活動は、先ほどの背外側前頭前皮質が抑制されていることが確認されています。つまり、創造性を発揮するためには、あえてその脳の部位が抑制される必要があるわけです。そして、その創造性を理解するためには、その脳の部位が逆に刺激される必要があるというわけです。アートセラピーの効果とは?ピカソの絵のすごさの答えから、アートとは、必ずしも美しくなければならないわけではなく、私たちの心を動かす何かがあるということです。それは、一言で言えば、おもしろさであり、そのおもしろさを見出す、見る側の感性でもあるでしょう。この点で、アートセラピーとは、ただ何かを描いたりつくったりする自己満足でなく、そのできた何かに周りの人がおもしろみを見いだし相互作用する社会性が必要であることがわかります。ピカソの絵であろうと、子供の絵であろうと、そして患者さんの絵であろうと、その作品に何らかのメッセージ性を感じ取り意味づけして共有することが、つくった人の自己治癒となり、さらには見た人の自己成長となると言えるのではないでしょうか?1)「ヒトはなぜ絵を描くのか」P17、P28、P34、P59、P67:齋藤亜矢、岩波書店、20142)「チンパンジーの絵から 芸術の起源を考える」:斎藤亜矢、日本心理学会、20183)「病の起源2 読字障害/糖尿病/アレルギー」P26、NHK出版、20094)「脳は美をどう感じるか」P105、P124:川畑英明、ちくま新書、20125)「ピカソは本当に偉いのか?」P55、P162:西岡文彦、新潮新書、20126)「神経美学」P25、P130、P143:石津智大、共立出版、2019<< 前のページへ■関連記事ドラマ「ドラゴン桜」(後編)【そんなんで結婚相手も決めちゃうの? 教育政策としてどうする?(学歴への選り好み)】Part 1NHKドラマ「フェイクニュース あるいはどこか遠くの戦争の話」(後編)【言葉は噂をするために生まれたの!?(統語機能)】NHKドラマ「フェイクニュース あるいはどこか遠くの戦争の話」(中編)【そもそもなんで私たちは噂好きなの?じゃあこれから情報にどうする?(メディアリテラシー)】Part 1

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