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認知機能低下と入院の関連、外科と内科で違いは/BMJ

 手術による2泊以上の入院は、平均的な認知機能の経過(the cognitive trajectory)にわずかながら影響を及ぼしたが、非外科的入院ほどではなかった。重大な認知機能低下のオッズは、外科手術後で約2倍であり、非外科的入院の約6倍よりも低かったという。米国・ウィスコンシン大学のBryan M. Krause氏らが、加齢に伴う認知機能の経過と大手術との関連を定量化する目的で行った前向き縦断的コホート研究の結果を報告した。手術は長期的な認知障害と関連する可能性があるが、これらの関連性を検討した先行研究では、認知機能低下が加齢に伴い加速するという認知機能の経過を考慮しておらず、方法論的な問題のため一貫した結果が得られていなかった。著者は、「本研究の情報は、インフォームドコンセントの際に、手術による健康上の有益性の可能性と比較検討されるべきである」とまとめている。BMJ誌2019年8月7日号掲載の報告。Whitehall IIコホート研究の参加者を対象に19年間追跡 研究グループは、Whitehall II研究において1997~2016年の間に認知機能の評価を5回行った成人7,532例を対象に、Hospital Episode Statistics(HES)データベースを用いて、手術と加齢に伴う認知機能の経過との関連を解析した。 注目した曝露は入院で、追跡期間中の2泊以上の入院を“大きな入院”と定義し、主要評価項目は論理的思考、記憶、音素流暢性(phonemic fluency)、意味流暢性(semantic fluency)を含む認知機能検査一式から得られた全般的認知機能スコア(global cognitive score)とした。 ベイズ線形混合効果モデルを用いて入院後の加齢に伴う認知機能の経過における変化を算出するとともに、手術によって引き起こされた重大な認知機能低下(最初の3回の認知機能評価データに基づく予測経過から標準偏差1.96を超えると定義)のオッズも同様に算出した。重大な認知機能低下のオッズは、外科的入院で約2倍、内科的入院で約6倍 加齢に伴う認知機能の経過を考慮した後でも、大手術(“大きな入院”を要した手術)はわずかな認知機能低下と関連があり、平均して5ヵ月未満の加齢に相当した(95%信用区間[CrI]:0.01~0.73)。一方、内科疾患および脳卒中による入院は、それぞれ1.4年(95%CrI:1.0~1.8)と13年(95%CrI:9.6~16)の加齢と関連していた。 重大な認知機能低下は、非入院患者の2.5%、外科入院患者の5.5%、内科入院患者の12.7%で確認された。“大きな入院”をしていない患者と比較すると、外科的または内科的イベントを伴う"大きな入院"をした患者は、認知機能の予測経過からかなり低下する傾向にあった(外科的入院オッズ比:2.3[95%CrI:1.4~3.9]、内科的入院オッズ比:6.2[95%CrI:3.4~11.0])。 なお、著者は研究の限界として、因果関係は不明で、麻酔投与のデータは限られており、長期的な認知機能の変化における麻酔の影響は評価していないことなどを挙げている。

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妊娠性肝内胆汁うっ滞症、ウルソデオキシコール酸常用は再考を/Lancet

 妊娠性肝内胆汁うっ滞症の妊婦をウルソデオキシコール酸で治療しても、周産期の有害転帰は低下しないことから、ウルソデオキシコール酸の常用は再考されるべきである。英国・キングス・カレッジ・ロンドンのLucy C. Chappell氏らが、イングランドとウェールズの33施設で妊娠性肝内胆汁うっ滞症の妊婦を対象に実施した多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験(PITCHES)の結果を報告した。妊婦の皮膚掻痒と血清胆汁酸濃度の上昇で特徴づけられる妊娠性肝内胆汁うっ滞症は、死産、早産、新生児治療室への入室の増加と関連がある。ウルソデオキシコール酸はこの治療に広く使用されているが、先行研究では症例数が限られており統計学的な有意差もなく、エビデンスは不十分であった。Lancet誌オンライン版2019年8月1日号掲載の報告。ウルソデオキシコール酸群vs.プラセボ群を検討 研究グループは、18歳以上、妊娠週数20週~40週6日の単胎または双胎の妊婦で、致死的胎児異常がない妊娠性肝内胆汁うっ滞症患者を、ウルソデオキシコール酸群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、ウルソデオキシコール酸500mg錠を1日2錠投与した。投与量は、1日最低1錠、最大4錠の範囲で担当医師の裁量により増減可とし、登録時から出産まで治療を継続した。 主要評価項目は、周産期死亡(無作為化後の子宮内胎児死亡または生後7日以内の新生児死亡)、早産(妊娠週数37週未満)、4時間以上の新生児治療室入室(出産から退院まで)の複合エンドポイント(新生児は複数該当時も1例としてカウント)とし、intention-to-treat解析を行った。ウルソデオキシコール酸群とプラセボ群で周産期の有害転帰に有意差なし 2015年12月23日~2018年8月7日に605例が登録され、ウルソデオキシコール酸群305例、プラセボ群300例に無作為に割り付けられた。主要評価項目の解析対象は、ウルソデオキシコール酸群が妊婦304例および新生児322例(妊婦1例と新生児2例についてはデータ使用の同意が撤回された)、プラセボ群がそれぞれ300例および318例であった。 複合エンドポイントのイベントは、ウルソデオキシコール酸群で新生児322例中74例(23%)、プラセボ群で新生児318例中85例(27%)に発生した(補正リスク比0.85、95%信頼区間[CI]:0.62~1.15)。重篤な有害事象は、ウルソデオキシコール酸群で2例、プラセボ群で6例報告され、治療に関連する重篤な有害事象は確認されなかった。 著者は、プラセボ群におけるイベント発生率が予想よりも低かったこと、症例数が少なく検出力が不足していたことなどを研究の限界として挙げている。

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病院ランキングと患者アウトカムは関連する?/JAMA Surgery

 出版不況と言われる中、相変わらず病院ランキング本だけは堅調と言われている。米国の病院ランキング本をめぐる興味深いエビデンスが報告された。米国・カリフォルニア大学アーバイン医療センターのSahil Gambhir氏らが、US News & World Report(USNWR)掲載の年間ランキングが最高位の病院について、ランキング外の病院と比較した結果、高度な腹腔鏡下消化器外科手術に関する病院ランキングデータと、良好な患者アウトカムは関連していないことが示された。手術件数は3倍の差があったが、その量的格差と患者アウトカム改善の関連は認められなかったという。JAMA Surgery誌オンライン版2019年7月31日号掲載の報告。 研究グループは、消化器外科手術に関してUSNWRで最高位ランクの病院が、ランク外の病院と比較して、一般的な高度腹腔鏡下消化器手術について患者のアウトカムを改善したかを調べた。 検討には、米国の大学病院およびその関連病院について、入院患者の情報(入院治療情報、臨床情報、費用情報)が含まれるVizient社のデータベースを使用した。2017年1月1日~12月31日に行われた高度腹腔鏡下消化器手術に関する、USNWR最高位ランク病院とランク外病院のデータを入手し解析した。対象とした手術は、減量手術、大腸および食道裂孔ヘルニアの手術であった。 評価項目は、院内死亡率、死亡率指標(予想に対して観察された死亡率の比)、重篤な合併症、入院期間、コストなどであった。 主な結果は以下のとおり。・合計5万1,869件の高度腹腔鏡下消化器手術が、351の大学医療センターおよび関連病院で施行された。1万6,296件(31.4%)が最高位ランク41病院で施行されたものであり、3万5,573件(68.6%)がランク外310病院での施行であった。・年間症例件数は、最高位ランク病院397件に対し、ランク外病院は114件であった。・最高位ランク病院とランク外病院の間に、院内死亡率(0.04% vs.0.07%、p=0.33)、重篤な合併症(1.06% vs.1.02%、p=0.75)について有意差は認められなかった。・ランク外病院と比較して最高位ランク病院で施行される高度腹腔鏡下消化器手術は、平均コストがより高値であり(7,128ドル vs.7,742ドル、p<0.01)、平均入院期間がより長期であった(2.38日 vs.2.73日、p<0.01)。

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うつ病に対するブレクスピプラゾール補助療法~メタ解析

 藤田医科大学の岸 太郎氏らは、うつ薬治療に奏効しなかったうつ病患者に対するブレクスピプラゾール補助療法(0.5~3mg/日)の二重盲検ランダム化比較試験を含むシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。The International Journal of Neuropsychopharmacology誌オンライン版2019年7月27日号の報告。 アウトカムは、奏効率(主要)、寛解率(副次)、Montgomery Asbergうつ病評価尺度(MADRS、副次)、シーハン障害尺度(SDS、副次)、臨床全般印象/重症度(CGI-I/CGI-S)、中止率、有害事象とした。6週目のデータにおけるサブグループメタ解析において、2mg/日超または2mg/日以下の投与量でアウトカムの比較を行った(2mg/日が推奨投与量)。 主な結果は以下のとおり。・9試験、3,391例が抽出された。・任意の用量におけるブレクスピプラゾール補助療法は、プラセボと比較し、奏効率(リスク比[RR]:0.93、95%信頼区間[CI]:0.89~0.97、NNT:17)、寛解率(RR:0.95、95%CI:0.93~0.98、NNT:25)、MADRSスコア(標準化平均差[SMD]:-0.20、95%CI:-0.29~-0.11)、SDSスコア(SMD:-0.12、95%CI:-0.21~-0.04)、CGI-I/CGI-Sが優れていた。一方で中止率は高く、アカシジア、不眠、情動不安、傾眠、体重増加が認められた。・投与量が2mg/日超(0.96)では、2mg/日以下(0.89)と比較して奏効率が有意に高かった。さらにプラセボと比較すると、アカシジア(RR:4.58)、傾眠(RR:7.56)の発生率が高く、体重増加ともわずかな関連が認められた(RR:3.14、p=0.06)。 著者らは「うつ薬治療に奏効しなかったうつ病患者に対するブレクスピプラゾール補助療法は有効である。6週目において、投与量2mg/日以下は2mg/日超よりも、優れたリスクとベネフィットのバランスが示された」としている。■「ブレクスピプラゾール」関連記事ブレクスピプラゾールのリバウンド現象抑制作用

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HIV感染症の治療も、過ぎたるは猶及ばざるが如し(解説:岡慎一氏)-1098

 HIV感染症治療で、4剤併用療法と3剤併用療法のどちらが効果があるかを比較したRCTに関するsystematic review and meta-analysisである。 1987年初めて開発された抗HIV薬がAZTであった。当然単剤治療であり、その治療効果は半年しか持たなかった。1990年代に入り、AZT+ddIやAZT+3TCなどの核酸系逆転写酵素阻害薬2剤による併用療法が可能になった。しかし、やはりその効果は長く続かなかった。薬剤耐性ウイルスが原因であった。ところが、1996年後半からプロテアーゼ阻害薬もしくは非核酸系逆転写酵素阻害薬が追加され3剤併用療法になった途端、HIV感染者の予後は劇的に改善した。耐性ウイルスが出にくくなったからである。しかし、当時の3剤併用療法も現在のものに比べれば治療効果は劣り、治療失敗例も少なからずあった。このため、4剤併用療法にしてさらなる改善を目指したのであろう。解析された論文の多くは2010年以前のものである。多くのプロトコールが考えられたのは2000年以前であろう。今では考えられないような、いやむしろ禁忌といえるような組み合わせの併用療法が散見される。当然結果は3剤併用療法を上回ることはなかった。もし、もっと続けていれば、重篤な副作用が多発したであろう。過ぎたるは猶及ばざるが如し、である。 現在の治療薬の進歩は著しく、1日1回1錠で治療は完結する。もちろん、3つの薬剤の成分が合剤となっているのである。毎日服用してくれさえすれば、ほぼ治療失敗のことを考える必要もなくなっている。むしろ、この強力な薬剤を背景に2剤でも治療が可能ではないかという研究が、盛んに行われるようになっている。再び2剤併用療法の時代へ先祖返りするかもしれない。 なぜ、この時代に、このようなsystematic review and meta-analysisを行ったのか? それが問題だ。

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食道アカラシアに対する内視鏡的筋層切開術(POEM)はバルーン拡張術より優れている(解説:上村直実氏)-1100

 下部食道の良性狭窄により食物の通過障害、嘔吐、胸痛、誤嚥性肺炎などを生じる疾患である食道アカラシアの原因は下部食道のアウエルバッハ神経叢の変性消失と考えられている。治療法として薬物療法、内視鏡的バルーン拡張術、ボツリヌス菌毒素局注療法、外科的治療として腹腔鏡下Heller手術などが行われていたが、2008年に経口内視鏡を用いて食道の筋層切開を行い、食道アカラシアの狭窄を改善する内視鏡的筋層切開術(POEM)が現日本消化器内視鏡学会理事長である井上晴洋氏により開発された。その後、2012年から先進医療として施行された後、2016年に保険収載され、手術例数はわが国で2,000例以上、世界中では3,000例に達している。 わが国の臨床現場では、食道アカラシアに対する治療法として侵襲性が低いと考えられている内視鏡的バルーン拡張術が頻用されているが、今回、バルーン拡張術とPOEMのアカラシアに対する有用性と安全性を比較検討した無作為比較試験(RCT)が海外の6施設において施行された結果がJAMAに掲載された。主要アウトカムとされた狭窄症状スコアの改善が治療終了2年後のみでなく3ヵ月後および1年後においてもPOEM群のほうがバルーン拡張群に比べて有意なスコア改善を示した。それだけでなく、安全性に関してもバルーン拡張群でみられた重篤な有害事象である食道穿孔はPOEM群で認められなかった。臨床現場で問題となる術後の逆流性食道炎がPOEM群のほうに多くみられていることから、POEM後の胃食道逆流症に対する対策が課題であると思われた。 最後に、このPOEMがわが国で初めて開発された素晴らしい内視鏡的治療技術であるにもかかわらず、その臨床的有用性を科学的に証明する最初の臨床研究(多施設共同の介入試験)を本邦で行うことができずに海外から報告されたことは問題である。新たな診療技術の開発に加えて、その技術の臨床的有用性や安全性を検証する臨床研究を実践する体制を構築することが本邦の課題である。

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名医を紹介してくれる人【Dr. 中島の 新・徒然草】(285)

二百八十五の段 名医を紹介してくれる人紹介されてきたのは、職員の親戚の叔父さん、70代。主訴は歩行障害です。パーキンソン病とか脊柱管狭窄症とか、いろいろな疑い病名が付きました。でも、どの医療機関でも最後には「ウチじゃなさそう」と言われたそうです。もともと元気だった叔父さんも「一体、俺は何処に行ったらエエねん」と、すっかり落ち込んでしまいました。そこで、職員の間で、「中島先生に相談したら、誰か名医を紹介してくれるかも?」となったそうです。ここ間違えないように。中島先生自身が名医というわけではありません。あくまでも「名医を紹介してくれる人」という位置付けです。職員の皆さん、よく見ていますね。というわけで、とりあえず叔父さんに外来を受診してもらいました。ちょうど医学生が見学に来ていたので、良い経験になればいいのですけど。叔父さんにちょっと歩いてもらうと、確かに右足に軽い障害があります。なんでも、3年ほど前から右足ではつま先立ちができなくなったのだとか。それと、坂道を下るのは恐怖だけど、上るのは調子いいそうです。一般に、脊柱管狭窄症の人は前屈姿勢だと調子が良くなります。人間、坂を上るときは必然的に前屈姿勢になるので、この叔父さんが脊柱管狭窄症だとすると、話が合うわけです。症状からは脊柱管狭窄症ですが、持参されたMRIでは大した狭窄は見当たらず。むしろ椎間板ヘルニアが見られます。うーん、これは難しい!症状からは脊柱管狭窄症、画像からは椎間板ヘルニア。そして複数の整形外科からは「ウチじゃない」と言われてしまっています。中島「よし、人力で腰を引っ張ってみましょう」患者「なんか、整形でベルトみたいなモンを巻いて牽引したことはあるけど」中島「それ、効果ありましたか!」患者「全然あれへん」中島「角度の問題かも。真っ直ぐじゃなくて、少し前屈気味に引いたらどうでしょうか」患者「ほな、いっぺんやってみて下さい」中島「とはいっても、どないしたらエエんかな?」患者「いつもやっている通りでいいですよ」中島「これやるの、初めてなんすよ」患者「なんやて?」中島「とにかくそこの診察台に仰向けになってください」患者「こうでっか?」中島「それでちょっと上体をあげてもらって、僕が引っ張りますから」両脇に手を入れて引っ張ってみると、診察台の上をズルズルと移動するだけです。医学生の手を借りることにしました。中島「君、ちょっと足首を掴んで下に向かって引っ張ってくれるか?」医学生「こうですか」中島「そや。それでお互い反対に引っ張ってみよう」今度は上下から引っ張ったので、ズルズルとはいきませんでした。でも、冷静に考えてみると、ずいぶん間抜けな姿です。大の男が大真面目に患者さんを上と下から引っ張っているわけですから。汗だくになって脇を引っ張りながら、思わず笑いそうになりました。「でも、ここで笑っては駄目だ! 何もかもぶち壊しになる」そう思って堪えました。患者さんのほうは、なされるがままです。中島「じゃあ、もう一度歩いてみましょう」患者「はい」中島「どうですか。生まれ変わりましたか?」軽くギャグをかましたつもりでしたが。患者「生まれ変わった!」中島「なーに言ってんですか。今のは冗談ですよ」患者「ホンマやがな」確かに、さっきより歩くスピードが上がっています。恐るべし、人力牽引!患者「そない言うても、30秒で元に戻ったけどな」中島「たった30秒でも、良くなったということは凄いことですよ!」患者「確かに腰が伸びて、しばらく調子良かったわ」診断は別として、腰の牽引によって、神経根の圧迫が一時的に緩和されたのかも。ということは、少し前屈気味に腰を引っ張ったらいい、ということになります。とはいえ、どうしたら効果的に引っ張れるのか?患者「ほな、家にあるバランスボールで引っ張ったらどないでっしゃろ」中島「おっ、それいいですね。自宅でできますから」患者「うつ伏せでボールに乗ったら、自然に腰も伸びるし」中島「そうそう!」患者「どのくらいやったらエエんでっか?」中島「1分くらいでいいんじゃないですか」この辺は適当です。中島「何回でも、バランスボールで腰を伸ばしたらいいんですよ」患者「ほな、やってみます」中島「じゃあ、1ヵ月後に効果を確認しましょう。手術はあくまでも最終手段ですから、バランスボールで治ったら儲けモンですよ」患者「やっぱり手術は怖いしな。バランスボールで頑張ってみますわ」後で考えたら、感覚障害も診ておくべきでしたね。もし神経根症だったら、レベルのほうも確認できたはずでしたから。まあ、それは再診の時の楽しみにとっておきましょう。それにしても、見学に来た医学生もびっくりしたことでしょう。まさか、汗だくで足を引っ張ることになるとは想像もしていなかったと思います。私の診察を見て、足首以外にも何か大切なものを掴んでくれた、と信じたいところ。よくわからなくても、とにかく患者さんのために頑張ることが大切ですね。ということで最後に1句引っ張って 生まれ変わった 腰椎が!

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日本と米国における認知症ケア選択~横断的観察研究

 日本では、認知症者ができるだけ長く社会に関わっていけるようにするため、国策として「dementia-friendly initiative」を導入した。しかし、家族の介護負担を軽減するために特別養護老人ホームへの入所を選択する人もいる。政策を決定するうえで、介護する場所に対する中年の好みを理解し、それに影響を及ぼす要因を特定することは、「dementia-friendly initiative」の促進に役立つ。東京都医学総合研究所の中西 三春氏らは、認知症を発症した際の、日本と米国の中年におけるケアの好みについて調査を行った。Geriatrics & Gerontology International誌オンライン版2019年7月7日号の報告。 40~70歳の日本人104人、日系米国人93人、非アジア系米国人104人の合計301人を対象に、インターネットアンケート調査を行い、横断的観察研究を実施した。対象者は、ケアや管理が必要な認知症を発症したという仮定の状況に基づき、アンケートに回答した。 主な結果は以下のとおり。・対象者のケアの好みは、特別養護老人ホームでのケア(29.9%)、専門家によるケア(19.6%)、家族によるケア(17.6%)、病院でのケア(11.3%)の順であった。・日本人は、日系および非アジア系米国人と比較し、専門家による在宅ケアを好む傾向が有意に低かった(調整オッズ比:0.28、95%信頼区間:0.10~0.75)。・ケアの好みにおける民族間の違いは観察されなかった。 著者らは「日本人中年の専門家による在宅ケアへのニーズの低さは、日本特有の長期および認知症介護システムに影響されている可能性がある。政策を決定する際には、認知症者の家族にとってより利用しやすい専門家による在宅ケアサービスを検討すべきである」としている。

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重症妊娠高血圧、経口薬ではニフェジピンがより効果大か/Lancet

 医療資源が乏しい環境下の重症高血圧症の妊婦について、基準値への降圧を図る経口薬治療の効果を検証した結果、ニフェジピン、メチルドパ、ラベタロールのいずれもが現実的な初回選択肢であることが示された。3薬間の比較では、ニフェジピンの降圧達成率がより高かったという。米国・ワシントン大学のThomas Easterling氏らが、これまで検討されていなかった3種の経口降圧薬の有効性と安全性を直接比較する多施設共同非盲検無作為化比較試験を行い、Lancet誌オンライン版2019年8月1日号で発表した。高血圧症は妊婦における最も頻度の高い内科的疾患であり、重症例では広く母体のリスク低下のための治療が推奨される。急性期治療としては一般に静脈投与や胎児モニタリングが有効だが、医療従事者が多忙であったり医療資源が限られている環境下では、それらの治療は困難であることから研究グループは本検討を行った。妊娠28週以上の重症高血圧症にニフェジピン・ラベタロール・メチルドパ投与 試験はインド・ナーグプールの公立病院2ヵ所で、妊娠28週以上、収縮期血圧値が160mmHg以上または拡張期血圧値が110mmHg以上の重症高血圧症で、薬による血圧コントロールを必要とし、経口薬服用が可能な18歳以上の女性を対象に行われた。 被験者を無作為に3群に分け、ニフェジピン10mg、ラベタロール200mg(いずれも高血圧が持続する場合は投与量を3倍まで毎時増加)、メチルドパ1,000mg(1回投与、増量なし)をそれぞれ行った。試験群における増量プロトコールが異なるため、被験者、試験研究者および治療担当者のマスキングはできなかった。 主要アウトカムは、有害アウトカムを伴わない6時間以内の血圧コントロール(収縮期血圧120~150mmHg/拡張期血圧70~100mmHg)だった。重症の妊娠高血圧の血圧コントロール率、ニフェジピン群が84%で最も高率 2015年4月1日~2017年8月21日に2,307例の女性をスクリーニングした。うち1,413例(61%)を、不適格、試験参加を拒否、子癇前症、活性分娩、あるいはそれらを複合的に有するなどの理由で除外した。また、ニフェジピン群11例(4%)、ラベタロール群10例(3%)、メチルドパ群11例(4%)が治療不適(血圧測定が1回のみであったため)、または治療が中断となった(分娩または転院などのため)。 重症の妊娠高血圧症894例(39%)が無作為化を受け、ITT解析の対象に包含された。ニフェジピン群は298例(33%)、ラベタロール群は295例(33%)、メチルドパ群は301例(33%)だった。 主要アウトカムの発生は、メチルドパ群が230例(76%)に対しニフェジピン群が249例(84%)と、有意に高率だった(p=0.03)。一方で、ニフェジピン群vs.ラベタロール群(228例[77%]、p=0.05)、ラベタロール群vs.メチルドパ群(p=0.80)では、いずれも有意差はなかった。 重症有害事象の発生は7例(出生児の1%)だった。ラベタロール群の妊婦1例(<1%)が分娩時発作を、6例(1%)は死産であった(ニフェジピン群1例[<1%]、ラベタロール群2例[1%]、メチルドバ群3例[1%])。1件以上の有害事象を有した出生例はなかった。

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認知症リスクに50歳での心血管健康度が関連/BMJ

 中年期に推奨される心血管健康スコア「ライフ シンプル7」の順守が、晩年における認知症リスク低下と関連していることが明らかにされた。「ライフ シンプル7」では、生活習慣や血糖値、血圧など7つの項目をスコア化し心血管リスクの指標としている。フランス・パリ大学のSeverine Sabia氏らが、約8,000例を約25年間追跡した、前向きコホート試験により明らかにし、BMJ誌2019年8月7日号で発表した。心血管健康スコアの値で3つに分類 研究グループは、ロンドンの公務員を対象に行われたWhitehall II試験(1985~88年に登録)の参加者で、50歳時点における心血管健康スコアのデータがあった7,899例を対象に前向き試験を行った。 心血管健康スコアは、4つの行動指標(喫煙、食事、身体活動、BMI)と3つの生物学的指標(空腹時血糖、血中コレステロール、血圧)を3ポイント尺度(0、1、2)でコード化し、7つの指標(スコア範囲:0~14)の合計から心血管健康が低い(0~6)、中程度(7~11)、最適(12~14)に分類した。 主要評価項目は、2017年までの認知症の発症、入院、精神医療サービスの利用、死亡であった。心血管健康スコア1ポイント増加で認知症リスク1割低減 追跡期間中央値24.7年の間に、347例の認知症が記録された。 心血管健康が低い群における認知症罹患率3.2/1,000人年(95%信頼区間[CI]:2.5~4.0)に対して、中程度群の同罹患率の絶対率差は-1.5/1,000人年(同:-2.3~-0.7)で、最適群の絶対率差は-1.9/1,000人年(同:-2.8~-1.1)だった。 心血管健康スコアの高値は、認知症リスク低下と関連が認められた(心血管健康スコア1ポイント増加当たりのハザード比[HR]:0.89[95%CI:0.85~0.95])。同様の関連は、行動および生物学的サブスケールにおいても認められた(それぞれHR:0.87[95%CI:0.81~0.93]、0.91[0.83~1.00])。 追跡期間中に心血管疾患を発症しなかった人についても、50歳時点での同スコアと認知症リスクとの関連について、同様の傾向が認められた(心血管健康スコア1ポイント増加当たりの認知症HR:0.89[0.84~0.95])。

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T790M陽性肺がんのオシメルチニブ治療、日本の実臨床データ/日本臨床腫瘍学会

 EGFR T790M変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC)に対するオシメルチニブの市販後調査の一環として行われた全例調査の最終結果を、神奈川県立がんセンター加藤晃史氏らが第17回日本臨床腫瘍学会学術集会で発表。3,000例を超えるわが国のT790M変異NSCLCに対するオシメルチニブ治療の実臨床データが示された。 対象は2次治療以降にオシメルチニブの治療を受けた切除不能・再発EGFR T790M変異NSCLC患者。予定のサンプルサイズは3,000例、追跡期間は12ヵ月であった。また、医薬品リスク管理計画による安全性検討事項として、間質性肺疾患(ILD)関連イベント、QT間隔延長、肝障害、血液毒性などが評価された。 主な結果は以下のとおり。・2016年3月28日~2018年8月31日に3,629例が登録された。・全Gradeの副作用現率は58.1%(安全性解析対象3,578例中2,079例)、頻度の高い項目は下痢(10.9%)、爪囲炎(10.3%)、皮疹(8.5%)などであった。・安全性検討事項では、ILDの発症は全Gradeで6.8%(Grade3以上2.9%)、QT延長は全Gradeで1.3%(Grade3以上0.1%)、肝疾患は全Gradeで5.9%(Grade3以上1.0%)、血液毒性は全Gradeで11.4%(Grade3以上2.9%)などであった。・奏効率69.9%、病勢コントロール率は86.7%であった(CR:119例、PR:2,373例、SD:598例)。・無増悪生存期間(PFS)中央値は12.3ヵ月、12ヵ月PFS率は53.2%であった。・年齢(75歳未満、75歳以上)、PS(1~2、3~4)、EGFR遺伝子変異(Exon19 del、L858R)、脳転移(無、無症候性、症候)、胸水の有無によらず有効性が確認された。 ILD発症後のオシメルチニブの投与実態※・ILDの発症は245例、そのうちオシメルチニブの再投与を受けた39例中37例が回復(初回ILDの転帰)。・上記39例中ILDの再発は7例、そのうちオシメルチニブの再々投与を受けた3例中3例とも回復(2回目のILD)。 加藤氏らは、この全例調査の結果は、EGFR T790M変異陽性NSCLC患者に対するオシメルチニブの確立した評価を支持するものであったと結論付けた。※間質性肺疾患の異常が認められた場合は投与を中止するよう、添付文書で定められている。

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治療で血漿中HIVさえ抑えればコンドームだって不要(解説:岡慎一氏)-1097

 U=U(undetectable equals untransmittable)を科学的に証明した論文である。 ずっと昔は、HIV感染者は、性行為をしてはいけない雰囲気があった(実際には、黙ってしていた)。治療が良くなり感染リスクが下がっても、万が一のため、コンドームはしよう、というsafer sexキャンペーンが長らく行われていた(いや、今も多くの国と地域でそう思われている)。HIV感染者からすると、いつまで経っても、性行為に関する制限から逃れられることができず、抑うつ気分が長年にわたり続いてきた。近医に行っても、告知しないといけないという思いはあるが、告知すると診療拒否に遭ったりしていた。やむなく、無告知での治療を受けざるを得なかったが罪悪感にさいなまれていた。この差別感は、非常に大きく、しかも生涯続くのである。このため、うつ状態からメンタルヘルスの異常を来し、自殺するようなケースも増えつつある。近年、死亡原因の最も重要な因子は、エイズからメンタルヘルス関連に移りつつある。 HIVに感染しても死ぬことはなくなったが、なんとなくまだ心の内面では気持ちの悪さが残っている。これは、今度は自分が病気をうつしてしまうかもしれないという不安から、無意識に自分自身に制限をかけているからである。これらのすべての制限を取り払ってくれるのがこの論文の結果である。治療で血漿中のHIVさえ抑えればコンドームですら不要である。仕事も性行為も、日常生活に制限をかける必要がないのである。 世界では、この論文を契機に予防対策が大きく変わっていくであろう。コンドームキャンペーン(制限)ではなく、検査の拡大による早期診断、早期治療こそが予防の王道である。インパクトのある論文である。

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万引き家族(後編)【親が万引きするなら子どももするの?(犯罪心理)】Part 1

今回のキーワード行動遺伝学差別ラベリング理論不平等ストレングスモデルペアレントトレーニング社会的絆理論「不都合な真実」「万引き」は遺伝するの? ―遺伝率「万引き」(反社会的行動)の起源が進化心理学的にわかりました。それでは、「万引き」は遺伝するのでしょうか? その答えを、行動遺伝学的に考えてみましょう。双生児研究において、反社会的行動の一致率は二卵生双生児が50%程度であるのに対して、一卵生双生児は80%へと高率になることが分かっています。ここから、遺伝、家庭環境、家庭外環境の影響の強さの相対的な比率が算出されます。なお、厳密には男女差、年齢差、研究機関の差がありますが、わかりやすくするために、青年期の平均男女のおおむねの数値として示します。(1)遺伝-約60%1つ目として、遺伝の影響(遺伝率)は約60%と算出されます。音楽やスポーツの遺伝率は、80%を超えています。つまり、反社会的行動は、音楽やスポーツほどではないにしても「ネガティブな才能」と言えそうです。遺伝の要素は、先ほどご紹介した抽象的思考の困難さのほかに、共感性欠如、衝動性などが指摘されています。よって、たとえば、万引きを共にしている治と信代の間に、もしも子どもが生まれたとしたら、その子どもが万引きをする可能性は、音楽やスポーツほどではないにしても、一定の可能性があると言えます。(2)家庭環境-約20%2つ目として、家庭環境(共有環境)の影響は約20%と算出されます。なお、養子研究において、犯罪率(反社会的行動)が最大になるのは、実親が犯罪歴(反社会的行動)を持たない子どもよりも持つ子どもが、そして犯罪歴(反社会的行動)を持たない養親よりも持つ養親に育てられた時であることが分かっています。これは、遺伝と環境の相互作用と呼ばれます(G/E相関)。家庭環境の要素は、主に、先ほどご紹介した反社会的行動モデルです。よって、たとえば、先ほどの治と信代の間に生まれた子どもが、一般家庭(反社会的モデルではない家庭)に養子として出されたら、その子どもが万引きをする可能性は低くなると言えます。ちなみに、「祥太」という名は、治の本名である「勝太」から名付けられており、治なりの思いがありました。そんな治と信代という家庭環境の影響があっても、祥太が万引きをしなくなったのは、祥太にはもともと遺伝の影響が少なかったからであると説明できます。なお、実は、家庭環境の影響が一定数あるのは、反社会的行動のほかに、アルコール、タバコ、ドラッグなどの依存症(嗜癖)と語学力です。つまり、幼少期から家庭内で良くも悪くもお手本(モデル)として見てしまうことは、本人の好き嫌い、善し悪しの価値観に影響を与えているようです(家族文化)。逆に言えば、「見ていなければ、ならない、やらない」とも言えるでしょう。(3)家庭外環境-約20%3つ目として、家庭外環境(非共有環境)の影響は約20%と算出されます。家庭外環境の要素は、遺伝と家庭環境を除いた残りの要素になります。これは、友人関係をはじめとして、学校、職場、近所との人間関係、そして結婚相手と築く家族関係などの社会的な環境です。ここで、家庭内環境と家庭外環境を合わせた環境を「水やり」に例えてみましょう。すると、遺伝は「種」です。つまり、「種」に「水やり」をして初めて、ある特定の心理の「芽」が出たり、実際の行動という「花」を咲かせます。たとえば、祥太は、学校に行かせてもらえず、近所付き合いもないという点で、家庭外環境の影響がほとんど0というきわめて特殊な状況でした。祥太にとって初めての家庭外環境の影響が、万引きした駄菓子屋のおじいさんの「妹にはさせるなよ」という一言なのでした。ただ、祥太には、それで十分だったのです。その瞬間に、罪悪感(社会性)の「芽」が出たのです。そして、万引き(反社会性)の「芽」はしぼんでいったのでした。なぜ「万引き」の遺伝は「なかったこと」にしたいの?「万引き」(反社会的行動)が一定の確率で遺伝することがわかりました。ただ、この事実を知らされて不快に思っている人もいるでしょう。この事実を伝えている私自身も、居心地の悪い思いです。できることなら、「なかったこと」にしたいです。それでは、あえて考えてみましょう。なぜ「なかったこと」にしたいのでしょうか? その心理を主に3つ掘り下げてみましょう。(1)差別になると思うから-私たちはもともと「善」である-信頼感先ほど、治と信代の間に生まれた子どもが万引きをするのは、一定の可能性があると説明しました。つまり、その子どもは、万引きを実際にする前から、万引きをする可能性があると指摘することになります。これは、「犯罪者の子ども」という烙印です。1つ目の心理は、犯罪と遺伝の関係を受け入れると差別になると思うからです。確かに、犯罪という「悪の遺伝子」があるとしたら、社会全体で排除しようとする流れになる危うさがあります。それは、かつての「優生思想」につながります。逆に言えば、差別になってはいけないという思いには、私たちはもともと「善」であるという信頼感が根底にあります。信頼感は、原始の時代に進化した社会脳の基盤であることをすでにご説明しました。これは、「生まれながらの犯罪者はいない」という信念です。犯罪が遺伝するとなると、その信念が揺らいでしまうからです。また、犯罪をすると決めつける、レッテル貼りをすることで、犯罪を誘発するという実際的な問題もあります(ラベリング理論)。(2)不平等になると思うから-私たちはもともと「同じ」である-公平感信代を取り調べる女性刑事は、じゅりを誘拐した理由について「あなたが産めなくてつらいのは分かるけどね」「(子持ちが)うらやましかった?」と尋ね、挑発しながらも理解しようとしています。2つ目の心理は、犯罪と遺伝の関係を受け入れると不平等になると思うからです。確かに、反社会的行動が生まれながらにある程度決まっているとしたら、あまりにも残酷です。それは、性格、知能、精神障害などについても言えるでしょう。逆に言えば、不平等になってはいけないという思いには、私たちは、たとえ見た目は違っても、見えない心についてはもともと「同じ」であるという公平感が根底にあります。公平感も、原始の時代に進化した社会脳です。これは、「心は空白の石版である」という信念です。犯罪が遺伝するとなると、その信念が揺らいでしまうからです。(3)懲らしめられなくなると思うから-私たちはもともと「意思」がある-責任感治を取り調べる刑事は、祥太に万引きを教えた理由について「ほかに教えられることが何にもないんです」という治の開き直ったような返答を聞き、怒りを抑えきれません。3つ目の心理は、犯罪と遺伝の関係を受け入れると懲らしめられなくなると思うからです。確かに、犯罪が遺伝子によって突き動かされたとしたら、本人の責任をどこまで問えるのかという懲罰の正当性が曖昧になります。逆に言えば、懲らしめられなくなってはいけない、懲らしめたいという思いには、私たちはもともと「意思」がある、つまり「行動には責任が伴う」という責任感が根底にあります。責任能力は、懲罰において必須事項です。これは、「懲らしめられると思うと罪を犯さない」「懲らしめれば心を入れ替える」という信念です。これは先ほどにご説明した通り、懲罰によって犯罪が抑止され更生されるという考え方です。犯罪が遺伝するとなると、その信念が揺らいでしまうからです。次のページへ >>

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万引き家族(後編)【親が万引きするなら子どももするの?(犯罪心理)】Part 2

万引きをしないためにはどうすれば良いの?「万引き」(反社会的行動)の遺伝を「なかったこと」にしたいのは、差別になる、不平等になる、懲らしめられなくなるという私たちの思いがあることがわかりました。そして、その思いの根底にあるのは、私たちはもともと「善」であり、「同じ」であり、「意思」があるという心理でした。ただし、これらの心理は、原始の時代の村で進化してきたものです。その村は、血縁関係でつながり、共通点が多く、お互いのことをよく知っていて、助け合って、信頼できる平等社会です。一方、現代の国家ではどうでしょうか? 多様化して共通点が少なく、お互いのことをよく知らず、直接助け合っておらず、信頼できるかわからない格差社会です。私たちの心はほとんど原始の時代のままなのに、現代の社会構造(環境)があまりにも変わってしまっています。「万引き」(反社会的行動)の「芽」がより出やすくなっているように思えます。だからこそ、私は、犯罪と遺伝の関係という「不都合な真実」を伝える必要があると思います。そして、その「真実」を踏まえてこその対策があると思います。それでは、万引きをしないためにはどうすれば良いでしょうか? 遺伝、家庭環境、家庭外環境にわけてそれぞれ考えてみましょう。(1)遺伝-本人の特性を強みとして生かす-ストレングスモデル家族団らんのシーンで、亜紀の気に入っている客が無口だったと聞いた信代は「あー男は無口なくらいがちょうどいいよ。おしゃべりはダメ」と言って、遠くから治を箸で指し、からかいます。すると、治は、「何?おれのこと呼んだ?」とツッコミを入れて、祥太とじゅりに手品を披露します。ここで分かるのは、治の良さは、おしゃべりでノリが良いこと、観察力があり器用であることです。これは、万引きの手際の良さから言うまでもありません。その後、信代が罪をすべてかぶったため、治は、罰を逃れました。しかし、定職に就くこともなく、一人暮らしをしているようです。治は、これで良いのでしょうか?1つ目の対策は、もともとの本人の特性を強みとして生かすことです(ストレングスモデル)。治は、抽象的思考が苦手なため、相手の指示の意図や段取りがわからないです。よって、建築作業員や事務員などは向いていないと言えます。また、飽きっぽさから、信代がやっていたようなクリーニング工場での単純機械作業も向いていないでしょう。向いているのは、単純な接客など、対人的でその場のやり取りに限定した仕事でしょう。もちろん、知的障害が判明すれば、障害者枠就労も現実的でしょう。もちろん、治に反省を促すことはできます。しかし、すでに説明した通り、抽象的思考が苦手なため、その反省は表面的で一時的でしょう。そもそも治には前科があるということが後に判明します。このように、ポイントは、犯罪歴があり再犯リスクのある個人に対して、懲らしめとして社会から疎外して、ひたすら反省を促すのではありません(ソーシャルエクスクルージョン)。一定の制限は設けつつも、むしろ社会復帰をするリハビリテーションを促すことです(ソーシャルインクルージョン)。行動遺伝学的に言えば、反社会性の「芽」が出てしまっていても、対極の社会性の「芽」には「水やり」をし続けることです。それは、社会への信頼と誇りを育むことです。これをしないと、結局、反社会性の「芽」が出たままで、行動化という「花」をまた勝手に咲かせるかもしれません。つまり、反社会性の「芽」が出てしまっている人にこそ、社会から疎外して放置するのではなく、またその「花」を咲かせないような予防介入をすることが重要になります(個別的予防介入)。そもそも、「万引き」(反社会的行動)をする人たちだけが、その「種」を持っているわけではありません。私たち一人一人の心の中にも、量の差はあれ、その「種」を持っており、あるきっかけで「芽」が出てくるかもしれません。そう考えると、犯罪と遺伝の関係を受け入れても、差別になるという発想は出てこないでしょう。つまり、私たちは、もともと「善」でも「悪」でもないと冷静に理解する必要があります。(2)家庭環境-親が子育てを勉強する-ペアレントトレーニング信代がじゅりに洋服を買ってあげようとした時、じゅりから「叩かない?」「あとで、叩かない?」と繰り返し確認されます。その瞬間、信代は、じゅりの母親が毎回服を買った後に叩いていたことを確信し、「大丈夫、叩いたりしないよ」と優しく言います。じゅりの母親もまた夫からDVを受けており、じゅりの家庭では暴力がコミュニケーションの1つの形になっています。じゅりの母親は、体罰をしつけの一環としており、虐待の自覚がないようです。2つ目の対策は、親が子育てを勉強することです。かつて大家族で、見守ってくれる周りの目がたくさんありました。そして、教えてくれる先輩の親がいました。しかし、現在は、核家族化が進んでおり、見守る目はあまりなく、ママ友はいたとしても、家に一緒にいて教えてくれたり、助けてくれる先輩ママはなかなかいません。すると、子育てが独りよがりになってしまいます。それが、じゅりの家庭の暴力、治と信代の家庭の万引きです。このような反社会的モデルにならないという子育てのやり方をまず親が勉強する社会的な仕組み作りが必要です。たとえば、自閉症やADHDをはじめとする発達障害で、療育に並んで早期に行われる親への心理教育(ペアレント・トレーニング)と同じです。行動遺伝学的に言えば、反社会性の「種」を多く持っている可能性がある子どもにこそ、社会性の「種」への「水やり」を丁寧にする必要があることをまずその親が自覚することが重要になります(選択的予防介入)。そもそも、「万引き」(反社会性)に限らず、私たちは、それぞれ違う「種」を持っています。生まれながらにして、私たちは、心も体も「不平等」です。ただし、生まれてから、教育や福祉によって、将来的になるべく不平等にならないような社会の仕組み作りをすることはできます。そう考えると、犯罪と遺伝の関係を受け入れても、不平等になるという発想は出てこないでしょう。つまり、私たちは、もともと「同じ」ではないと冷静に理解する必要があります。(3)家庭外環境-社会とのつながりを持つ-社会的絆理論刑事は、祥太から「学校って、家で勉強できない子が行くんじゃないの?」と聞かれて、「家だけじゃできない勉強もあるんだ」「(友達との)出会いとか」と答えています。その後、祥太は「国語のテストで8位になった」と喜ぶシーンもあります。祥太の人生が、大きく開けてきています。3つ目は、社会とのつながりを持つことです(社会的絆理論)。祥太にとって、その初めての「出会い」は、駄菓子屋のおじいさんでした。さらに、学校に行くというかかわり(インボルブメント)や勉強や部活動をがんばるという目標(コミットメント)です。さらに、マクロな視点で考えてみましょう。初枝は訪問に来た民生委員を追い払っていました。このように、治、信代、初枝は、こそこそと暮らし、孤立していました。そこには、行き詰まり感も描かれています。つながりの希薄さは、ちょうど非正規雇用、非婚、ひきこもりなどの昨今の社会問題にもつながります。そうではなくて、役所をはじめ、周りに相談し、福祉サービスを受けることです。たとえば、初枝は、治と信代と世帯分離をすれば、持ち家があっても生活保護の受給が可能になります。治は、就労支援や障害者枠雇用が可能になります。信代は、ハローワークを介して再就職が可能になります。このような社会とのつながりや援助によって格差が減ることで、彼らの社会への復讐心は減っていくでしょう。行動遺伝学的に言えば、反社会性の「種」があっても、「芽」が出ていても、「花」が咲かないように、その「水やり」をしない取り組みを社会全体ですることが重要になります(全体的予防介入)。そもそも、「万引き」(反社会性)に限らず、「種」から「芽」が出て、「花」が咲くかどうかは、それまでの「水やり」の加減次第です。そういう意味では、私たちたちの行動は、遺伝だけでなく、やはり環境によっても決まっていると言えます。ある行動に対しての「意思」は、私たちが思っている以上に、周りによって揺れているのかもしれないと思えてきます。つまり、「万引き」(反社会的行動)は、他人事ではないということです。原始の時代は、その極限状況から、「万引き」をした人の排除という手段しか残されていなかったわけです。排除すれば、死んでしまう可能性が高いため、再犯リスクはほぼ0です。しかし、現代は違います。「万引き」をした人は生き続けると同時に、彼らの教育や福祉にコストをかける社会の余裕があります。懲らしめることが全てではないです。そう考えると、犯罪と遺伝の関係を受け入れても、懲らしめられなくなるという単純な発想は出てこないでしょう。つまり、私たちの「意思」は、思っているよりも流されやすいと冷静に理解する必要があります。「本当の社会」とは?刑事が祥太に「本当の家族だったらそういうことしないでしょ」と言うシーンがありました。祥太をはっとさせると同時に、私たちをもはっとさせるインパクトのあるセリフです。同じように考えれば、「本当の社会」だったら、どうでしょうか? その「不都合な真実」と向き合うでしょう。なぜなら、その社会は、本当に「万引き」(反社会的行動)が減ってほしいと願うからです。そして、より良い社会になってほしいと願うからです。これは、すでに行われている犯罪加害者の教育政策や福祉政策を支持するものです。犯罪に対して厳しい目で見たり、排除したくなる気持ちは、私たちの心の中に、もちろんあります。ただし、同時に私たちが、その「不都合な真実」に向き合った時、そして、排除することが次の犯罪を誘発するという逆説に気付いた時、その逆説を踏まえた対策を理解することができるでしょう。その時、「不都合な真実」は「都合がつけられる事実」であったと納得できるのではないでしょうか?■関連記事ムーンライト【マイノリティ差別の解消には?】積木崩し真相アイアムサム【知能】告白【いじめ(同調)】Part 1■参考スライド【パーソナリティ障害】2019年1)万引き家族:是枝裕和、宝島社文庫、20192)犯罪心理学 犯罪の原因をどこに求めるのか:大淵憲一、培風館、20063)遺伝マインド:安藤寿康、有斐閣Insight、20114)言ってはいけない:橘玲、新潮新書、2016<< 前のページへ

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ホテルの「クラブフロア」を使ってみよう!【医師のためのお金の話】第23回

ホテルの「クラブフロア」を使ってみよう!今日は資産形成から少し離れ、「ホテルライフ」についてお話をしたいと思います。私は2008年ごろからホテルの「クラブフロア」に好んで宿泊するようになりました。クラブフロアとは、一般の客室よりワンランク上のサービスが用意されている特別フロアのことです。私がクラブフロアの存在を知ったのは、書店で見掛けた書籍だったと思います。一般の宿泊客は入ることが許されない特別階と紹介されていました。ちょっと怖いイメージですよね。私でもクラブフロアに宿泊できるのかな?と、やや気後れしながら予約したのですが、一度宿泊するとあまりの居心地の良さに、すっかりクラブフロアのファンになってしまいました。クラブフロアのメリットとはクラブフロアを併設しているホテルのほとんどは、五つ星の高級ホテルです。五つ星ホテルは全体が豪華なのですが、中でもクラブフロアは特別階に存在し、一般の方はもちろん、通常の宿泊客も出入りすることができません。クラブフロアに宿泊すると下記のような特典を受けられます(ホテルによって違いがあります)。ジムやプールが無料クラブフロアでチェックイン・チェックアウトできる駐車場が無料クラブラウンジを利用できるクラブフロアに宿泊するメリットとして、多くのホテルが併設しているジムやプールを無料で利用できることが挙げられます(一般の宿泊客は有料のことが多いです)。私はクラブフロアに宿泊するときには基本は水着持参です。チェックインやチェックアウトをクラブフロアの専用レセプションでできるのも大きなメリットです。大きな荷物を持ちながら行列することなく、ウェルカムドリンクを飲みながらゆったりチェックインするのは、とても心地の良い経験です。そして、都心立地の五つ星ホテルでは駐車場料金がばかにならないことが多いですが、クラブフロア宿泊客は無料もしくは割引料金が適用されます。このように数々の特典があるのですが、クラブフロアに宿泊する最大の目的はクラブラウンジだと言っても過言ではありません。クラブラウンジの多くは、各種おつまみや軽食、そして夕方以降はアルコールを無料で楽しめるのです。クラブラウンジはホテルの高層階に位置することが多く、素晴らしい眺望をさかなにお酒を飲むのは最高のぜいたくです。ティータイムにチェックインしておいしいケーキを頂き、その後はプールで少し泳ぎ、乾いた喉をカクテルタイムにビールで潤します。夜が更けてナイトキャップの時間になるとカクテルを楽しんで一日を終える、といったクラブラウンジを中心としたぜいたくな時間を味わえます。印象に残るクラブフロア「お気に入りのクラブフロア」として、首都圏で初めに思い浮かぶのは、ホテルニューオータニの「エグゼクティブハウス 禅」です。こちらは1日6回のフードプレゼンテーション(フードの入れ替え)があり、ティータイムの時間からシャンパンが頂けます。ここはピエール・エルメ・パリのクロワッサンが有名ですが、他のフードもとてもおいしいのです。関西圏では、ザ・リッツ・カールトン大阪のクラブフロアが一押しです。最近では大阪のキタエリアにはリッツに比肩するホテルが続々と誕生していますが、ホスピタリティではリッツに一日の長があります。ただ、宿泊客の層が独特なので、私レベルでは少々肩身の狭い思いをしたこともあります。最後に福岡ですが、やはりグランドハイアット福岡です。キャナルシティ博多内にあって中洲にも近く、博多のすべてを満喫できます。首都圏や関西圏と比べて宿泊料金が手頃なのもうれしい点です。福岡の学会時などにお勧めのホテル&クラブフロアだと思います。クラブフロアのウマい利用法このような特典があるからには、宿泊料金はさぞ高額なのだろうと思われるかもしれませんが、実際にはそれほどではありません。エリアや時期にもよりますが、1室3万円台から宿泊できるホテルもあります。私は2008年から10年ほどの間に、日本全国のいろいろなホテルのクラブフロアに泊まりました。その経験から、クラブフロアの質が高いのは関西圏と福岡、一方で首都圏と東海エリアはサービスの質がイマイチでした。もちろん、各ホテルの差が大きいので首都圏のホテルがすべてだめと言っているわけではありませんが、傾向としては西高東低、という印象です。さて、クラブフロアにはどのような目的で宿泊するのが良いのでしょうか? 私は、観光ではなくホテルステイそのものを楽しむことをお薦めします。クラブラウンジをベースにして、プールなどで遊んでいると、あっという間に時間が過ぎます。リラックスできるので創作活動にももってこいです。それでは、宿泊する時期はどうでしょうか? 私のお薦めは、ゴールデンウイーク、お盆、年末年始などです。もちろん、宿泊料金はそれなりに高くはなりますが、極端に上がるわけではありません。とくに期間の長いゴールデンウイーク中にはよく「穴場の日」があります。クラブフロアを併設している五つ星ホテルは大都市圏に存在することが多いため、長期休暇中は下手なリゾート地に行くよりも空いている印象です。ゴールデン&シルバーウイークやお盆のように、どこに行っても混んでいる時期は、郊外ではなく都心のクラブフロアでゆっくり過ごすのがいいかもしれません。クラブフロア利用時の注意点一方、クラブフロアを利用するうえでの注意点もお話しします。ホテルは旅館業法で厳密に定員が決められています。子連れの場合、子供が12歳以下であれば1つの部屋に2名まで添い寝が可能であるケースが多いです。4人家族であっても子供が小さいうちは、クラブフロアに安く宿泊することが可能です。しかし、クラブラウンジは大人の空間であり、小さな子供が騒ぐことはご法度です。このため、実質的には小さな子供連れでクラブフロアを100%堪能することは難しいでしょう。また逆に子供が大きくなってくると、定員の関係で宿泊費がかさみ、宿泊しづらくなります。クラブフロアを楽しむには、独身もしくは子供がいない時期に利用するのが理想ではないでしょうか。海外旅行時にもクラブフロアの宿泊を検討したことがありますが、実際に利用したのは数回です。理由は、海外旅行では観光メインになるため、クラブフロアでゆっくりくつろいでいる時間がないからです。ビーチリゾートであっても、昼間はプールサイドやビーチで過ごすことが多く、夜は地元のおいしいレストランへ繰り出すので、クラブラウンジを利用する暇がありません。このような理由から、ホテルライフを楽しんで心身ともにリラックスしたいときにこそ、クラブフロアに宿泊することをお勧めします。

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ASCO2019レポート 消化器がん(肝胆膵)

レポーター紹介ASCO会場のメインの通りに掲げられたテーマ2019年度のASCOが、2019年5月31日~6月4日の5日間、今年もシカゴのマコーミックプレイスにて開催された。毎年同じ開催場所である。今年のテーマは「Caring for Every Patient, Learning from Every Patient」で、患者のためのケア、患者から学ぶことを重要視した学会であった。そして、今年の肝胆膵領域の発表はOral presentationも多く、Plenary sessionで採択された演題もあり、非常に興味深い発表が多かった年で、いわゆる豊作の年となった。膵がんPOLO試験今回のASCOで、肝胆膵領域の最も注目すべき演題は、膵がんに対するPARP阻害薬であるオラパリブのPOLO試験であろう。生殖細胞系(Germline)BRCA1またはBRCA2の変異を有する転移性膵がん患者に対して、1次治療としてプラチナ製剤を含む化学療法を16週以上行い、抗腫瘍効果でCR、PRまたはSDが得られ、増悪を認めていない患者を、オラパリブ300mgを1日2回内服する群と、プラセボを内服する群に3:2にランダムに割り付けて、がんの増悪または忍容できない有害事象を認めるまで治療を継続した。主要評価項目は、RECIST v1.1での中央判定による無増悪生存期間であった。オラパリブ群に92例、プラセボ群に62例がランダム割り付けされた。主要評価項目である無増悪生存期間(中央値)はオラパリブ群7.4ヵ月、プラセボ群3.8ヵ月で、ハザード比は0.53(95%信頼区間[CI]:0.35~0.82)であり、有意に良好な結果(p=0.0038)が示された。生存期間はまだ十分に経過観察しえた結果ではないが、中央値でオラパリブ群18.9ヵ月、プラセボ群18.1ヵ月であり、ハザード比も0.91(95%CI:0.56~1.46)と有意な差は認めなかった(p=0.68)。有意差を認めなかった理由として、プラセボ群の後治療でPARP阻害薬を投与された患者が14.5%存在するなどの後治療の影響や十分な経過観察ができていないことが指摘されていた。有害事象は、疲労、悪心、下痢、腹痛、貧血、食欲低下などで、Grade 3以上の有害事象は貧血と疲労であり、忍容性は良好と判断された。また、プラチナ製剤に特有の末梢神経障害はあまり認めないことが、プラチナ製剤投与後の維持療法として使用するうえで好ましい点のように思われた。今後、BRCA1または2の遺伝子変異を有する膵がん患者には、まずプラチナ製剤を含むレジメン、たとえば、FOLFIRINOXやゲムシタビン+シスプラチンなどによる治療を開始し、4ヵ月以降でSD以上の抗腫瘍効果が得られていたら、維持療法としてオラパリブを投与することが標準治療になるものと思われる。本試験の結果は、日本では明日からの診療につながる話ではないが、その体制整備をしておく必要がある。まず、germline BRCA1/2を調べることから始まる。初回治療開始前にgermline BRCA1/2の変異の有無を調べてから結果が戻ってくるまでの時間を考慮すると、診断の早い段階で同意を取ったうえで、採血の検査をオーダーする必要がある。また、生殖細胞系変異を見つけることは、すなわち遺伝カウンセリングの体制整備が重要になる。日本は本試験に参加しておらず、われわれ肝胆膵領域の臨床腫瘍医にPARP阻害薬の経験が乏しいことが問題点であり、十分にPARP阻害薬のマネジメントに精通しておく必要がある。また、germline BRCA1/2の変異は膵がん患者の4~7%と言われており、プラチナ製剤とオラパリブが有効な対象はまだまだ限られた対象であることも理解しておくことが必要である。Plenary sessionの会場の光景:全部でモニターが12台、演者がかなり遠くに見える。このASCOのPlenary sessionは何千人入るかわからないほどの巨大な会場で行われた。今回も、巨大なモニターが会場内に12台設置され、椅子も所狭しと並んで、聴衆が間を開けることなくぎっしり座っていた。そこに、Prof Kindlerのゆっくりと丁寧な言葉で発表が進んだ。そんな巨大な会場で発表が行われている最中に、メールの配信で、New England Journal of MedicineからPOLO試験の論文掲載の案内が届き、まさに学会と論文の同時発表であり、ここまでタイムリーな対応に驚きを隠せない状況であった。発表が終わってからは拍手喝采が鳴りやまず、まさに圧巻で、一見の価値のある光景であった。APACT試験膵がんにおけるもうひとつの注目演題は、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法の補助化学療法であるAPACT試験である。膵がん切除後の補助療法としては、日本ではS-1による補助療法が主流であるが、海外ではゲムシタビンが汎用され、近年、ゲムシタビン+カペシタビンやmodified FOLFIRINOXなども使用されている。進行膵がんにおいて、ゲムシタビン+ナブパクリタキセルの高い有効性が示されていることから、膵がん切除後の補助療法としても期待され、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法とゲムシタビン単独療法を比較した第III相試験が計画された。R0または1の切除後の膵がん患者をゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法とゲムシタビン単独療法に1:1にランダムに割り付けて行われた。主要評価項目は無病生存期間、副次評価項目は全生存期間、安全性であった。全世界から866例が登録され、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法に432例、ゲムシタビン単独療法に434例がランダムに割り付けされた。主要評価項目である中央判定による無病生存期間(中央値)は、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル療法群が19.4ヵ月、ゲムシタビン単独群が18.8ヵ月であり、ハザード比0.88(95%CI:0.729~1.063)、p=0.1824と有意差が示されなかった。しかし、担当医判断の無病生存期間(中央値)で、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル療法群が19.4ヵ月、ゲムシタビン単独群が16.6ヵ月であり、ハザード比0.82(95%CI:0.694~0.965)、p=0.0168と有意差が示された。また、副次評価項目である全生存期間(中央値)もゲムシタビン+ナブパクリタキセル療法群が40.5ヵ月、ゲムシタビン単独群が36.2ヵ月であり、ハザード比0.82(95%CI:0.680~0.996)、p=0.045と有意差が示された。ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法の安全性はこれまでの報告と違いはなかった。本試験はプラセボコントロールの試験ではないため、中央判定の無病生存期間が主要評価項目に用いられたが、膵がん切除後の再発判定は非常に難しく、担当医は全身状態や腫瘍マーカーなどから総合的に判断できるため、中央判定よりも担当医のほうが早期に再発を指摘しえたのかもしれない。プラセボコントロールで、担当医判断の無病生存期間が主要評価項目であったら、Positiveな結果であっただけに非常に惜しい試験である。肝細胞がん肝細胞がんにおいて注目された演題は、肝切除とラジオ波焼灼術(RFA)を比較したSURF試験、ソラフェニブに不応/不耐の肝細胞がんに対する2次治療としてペムブロリズマブとプラセボを比較したKEYNOTE-240試験である。ともに有意な結果は示されなかったが、日常診療に大きなインパクトを与える試験であった。また、進行がんに対する有望な薬物療法として、ニボルマブ+イピリムマブの併用療法の結果が報告された。SURF試験3cm、3個以下の小肝細胞がんに対して、肝切除とRFAのどちらが良いかは長年のClinical questionであった。これまでも4試験ほど、ランダム化比較試験の結果が報告されているが、切除が良好という結果や両者変わりないという結果など、一定の見解は得られていない。今回、日本から301例という症例数も多く、質も良好な試験の結果が報告された。初回の肝細胞がんで腫瘍径3cm以下、腫瘍数3個以下で、Child-Pugh 7点以下の20~79歳までの患者600例を目標に肝切除とRFAにランダムに割り付けた比較試験が行われた。主要評価項目は無再発生存期間、全生存期間であり、RFAに比べて肝切除の優越性を検証する試験デザインであった。2009年4月より登録を開始したが、2016年2月の段階で300例しか登録ができておらず、データモニタリング委員会から中止勧告が出され、登録は中止となった。最終的には、切除群150例、RFA群151例が適格で、解析対象となった。両群の患者背景に有意差は認めなかった。無再発生存期間(中央値)は、肝切除群2.98年、RFA群2.76年、ハザード比0.96(95%CI:0.72~1.28)で、p=0.793であり、肝切除の優位性は示されなかった。また、両群ともに死亡例は認めなかったが、入院期間や治療時間はRFA群が有意に良好であった。3cm以下の小肝細胞がんに対して、肝切除とRFAの無再発生存期間はほぼ同等であったと結論された。この発表のDiscussantは、これまでにランダム化比較試験が5試験行われたが、3cm以下、単発の腫瘍に関しては、ほぼRFAの非劣性が示されたと考えてよいだろうと。3cm以上や多発する場合には肝切除が選択肢になるであろうと。そして、患者登録も困難になることから、今後、同様のランダム化比較試験を行うべきではないだろうとまとめていた。長年、論争になっていた肝切除とRFAの比較にひとつの区切りがつけられたように思われた。KEYNOTE-240ソラフェニブ不応/不耐の肝細胞がん患者に対するペムブロリズマブとプラセボを比較した第III相試験の結果が報告された。肝細胞がんに対して初めての免疫チェックポイント阻害薬の第III相試験の結果であり、非常に注目された。対象は、ソラフェニブに不応/不耐の肝細胞がん患者で、Child-Pugh Aで測定可能病変を諭旨、門脈本幹腫瘍栓のない患者で、ペムブロリズマブ200mg/回を3週ごとの投与とプラセボに2:1に割り付けて投与する第III相試験である。主要評価項目は全生存期間と無増悪生存期間の2つであり、全生存期間はp値が0.0174未満で有意に、無増悪生存期間はp値が0.0020で有意になる設定であり、通常のp値が0.05未満よりは厳しい設定であった。ペムブロリズマブ群に278例、プラセボ群に135例が登録された。主要評価項目の全生存期間(中央値)は、ペムブロリズマブ群で10.6ヵ月、プラセボ群で10.6ヵ月、ハザード比は0.781(95%CI:0.611~0.998)で、p値は0.0238と当初設定した0.0174を下回らず、有意な結果は得られなかった。また、無増悪生存期間(中央値)は、ペムブロリズマブ群で3.0ヵ月、プラセボ群で2.8ヵ月、ハザード比は0.718(95%CI:0.570~0.904)で、p値は0.0022と当初設定した0.0020を下回らず、こちらも有意な結果は得られなかった。奏効割合はペムブロリズマブ群で18.3%、プラセボ群で4.4%であり、第II相試験(KEYNOTE-224)と同様に有意差が認められ(p=0.0007)、奏効期間(中央値)も13.8ヵ月とともに良好であった。有害事象はこれまでの報告と同様であった。本療法の後治療として、プラセボ群で47.4%と非常に高率で、抗PD-1/PD-L1抗体による治療が10.4%も含まれていた。本試験は、統計学的に有意差がついていそうな試験結果であったが、主要評価項目は達成しておらずNegativeな結果となった。この発表のDiscussantは、試験としてはNegativeであったが、マルチキナーゼ阻害薬に忍容性がないような患者に、2次治療の日常診療で抗PD-1抗体を継続することは問題ないであろうとコメントしており、有効性は評価していた。今後、中国を中心に行っているペムブロリズマブとプラセボの比較試験(KEYNOTE-394)の結果も参考にして、今後の本薬剤の承認までの方向性を検討することが必要であろうと結論づけた。また、今後の開発の方向性として、VEGF阻害薬との併用療法であるベバシズマブ+アテゾリズマブ、レンバチニブ+ペムブロリズマブの併用療法も期待されており、定位放射線やRadioembolization、肝動脈化学塞栓療法との併用療法の可能性なども示唆していた。会場入り口の階段にはWelcomeの文字がこの結果を受けて、1次治療としてのニボルマブとソラフェニブを比較した第III相試験の結果が期待されたが、2019年6月24日に本第III相試験も主要評価項目を達成しなかったことがプレスリリースされ、残念ながら免疫チェックポイント阻害薬単剤の結果は肝細胞がんにおいては厳しいものとなった。CheckMate-040ソラフェニブに不応/不耐の肝細胞がん患者を対象として、ニボルマブとイピリムマブの推奨投与量を決定する第I/II相試験が発表された。A群はニボルマブ1mg/kg+イピリムマブ3mg/kgを3週ごとに4回投与後、ニボルマブ240mg/bodyの固定用量にて2週ごとの投与を継続し、B群はニボルマブ3mg/kg+イピリムマブ1mg/kgを3週ごとに4回投与後、ニボルマブ240mg/bodyの固定用量にて2週ごとの投与を継続、C群はニボルマブ3mg/kgにて2週ごと、イピリムマブ1mg/kgにて6週ごとに投与を継続した。どの群もがんの増悪または忍容できない有害事象が出現するまで、投与を継続した。奏効割合はA群32%、B群31%、C群31%であり差は認めなかったが、生存期間(中央値)は、A群22.8ヵ月、B群12.5ヵ月、C群12.7ヵ月と、A群で良好であった。主な有害事象は、掻痒、皮疹、下痢、AST上昇などであり、免疫関連有害事象は、皮疹、肝障害、副腎不全、下痢、肺炎などであった。A群の有害事象はやや高率に認めていたが、忍容性は十分と判断され、A群(ニボルマブ1mg/kg+イピリムマブ3mg/kg)が推奨投与量と考えられた。ソラフェニブに不応/不耐の患者に対する良好な治療レジメンの登場により、今後、本レジメンの開発の動向が気になるところである。胆道がん胆道がんにおいて最も注目された演題は、ゲムシタビン+シスプラチン(GC)療法の2次治療として、mFOLFOXと症状コントロールのみを比較したABC-06試験である。この結果は、長らく胆道がんにおける2次治療は確立していなかったのだが、mFOLFOXが2次治療の標準治療として確立することになった。ABC-06対象は、GC療法後に増悪を認めた進行胆道がん患者で、増悪を認めてから6週以内でPSが0または1で、臓器機能が保たれている患者を、A群:積極的な症状コントロールを行う群とB群:積極的な症状コントロールに加えて、mFOLFOXを行う群にランダム割り付けされた。主要評価項目は全生存期間であり、層別化因子は、1次治療のGC療法のプラチナ感受性があったかどうか、アルブミンが35g/L以上か未満か、局所進行か転移性か、であった。主要評価項目である全生存期間において、B群:mFOLFOX群は有意に良好な生存期間を示した(生存期間中央値、6ヵ月と12ヵ月生存割合:A群 5.3ヵ月、35.5%、11.4%、B群 6.2ヵ月、50.6%、25.9%、ハザード比0.69、95%CI:0.50~0.97、p=0.031)。1次治療のGC療法のプラチナ感受性別に検討したサブグループ解析では、プラチナ製剤に感受性がある群のみならず、プラチナ抵抗性のグループでも有意な差が認められ、プラチナ感受性にかかわらず、mFOLFOXは有用であることも示された。mFOLFOXの奏効割合は5%、病勢制御割合は33%、無増悪生存期間(中央値)は4.0ヵ月であった。また、主なGrade 3以上の有害事象は疲労、好中球減少、感染症などであり、忍容性は良好と判断された。GC療法後の2次治療として初めて延命効果を示した治療法であり、今後、標準治療として位置付けられることになるであろうと結論づけられた。Discussantも治療効果が高いわけではないが、新しい標準治療になるであろうと結論づけている。ただし、胆道がんではさまざまな治験や臨床試験が進行中である。1次治療として、化学療法+/-免疫チェックポイント阻害薬の併用療法や、GCにナブパクリタキセルの併用療法、mFOLFIRINOX療法などの3剤併用療法の開発が進行中であり、また、IDH1やFGFR、homologous Recombination Deficiencyなど遺伝子異常に基づいた分子標的治療薬の開発などが進行中であり、これらの動向にも注目する必要がある。まとめASCO2019では、膵がんに対してのゲムシタビン+ナブパクリタキセル療法が補助療法としてはNegativeな結果であったが、PARP阻害薬が登場した。肝細胞がんでは、ペムブロリズマブの残念な結果が報告されたが、ニボルマブ+イピリムマブにおいて有望な結果が報告され、期待されている。また、切除とRFAは同等の治療成績であることが明らかになり、よりRFAが選択されるようになるかもしれない。そして、胆道がんではmFOLFOXが2次治療における標準治療として位置付けられており、日本もmFOLFOXを承認してもらうような準備が必要である。そのほかにも有望な治療法の開発が進行中であり、肝胆膵領域の化学療法の開発も活気づいており、海外に遅れをとらないように開発を進めていく必要がある。

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第1回 噂の狭間研至とは何者か?【噂の狭研ラヂオ】

動画解説業界きってのオピニオンリーダーである狭間研至先生。第1回は、薬局に生まれ医師となり、そして再び薬局経営に戻ってきた経緯を語ります。中学時代に薬学部から医学部へ舵をきった理由、手術室から再び薬局に戻ってきた目的とは?噂の狭研の原点が今、明らかに。

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夜間頻尿が転倒や骨折に及ぼす影響

 夜間頻尿はさまざまな併存疾患と関連しているが、転倒や骨折への影響はわかっていない。今回、フィンランド・Paijat-Hame Central HospitalのJori S. Pesonen氏らが系統的レビューおよびメタ解析を行った結果、夜間頻尿により転倒リスクが約1.2倍、骨折リスクが約1.3倍に増加することが示唆された。The Journal of Urology誌オンライン版2019年7月26日号に掲載。 本研究では、PubMed、Scopus、CINAHL、主要な泌尿器関連学会の抄録を2018年12月31日まで検索し、転倒および骨折の調整相対リスクについてランダム効果メタ解析を実施した。転倒および骨折の予後因子と原因となる因子としての夜間頻尿のエビデンスの質をGRADEアプローチにより評価した。 主な結果は以下のとおり。・5,230件の潜在的な報告のうち、観察縦断研究9件が夜間頻尿と転倒または骨折との関連に関するデータであった(転倒4件、骨折4件、両方1件)。・統合推定値によると、夜間頻尿と転倒の関連のリスク比は1.20(95%CI:1.05~1.37、I2=51.7%、高齢者における年次リスク差7.5%)、夜間頻尿と骨折の関連のリスク比は1.32(95%CI:0.99~1.76、I2=57.5%、年次リスク差1.2%)であった。・サブグループ解析では、年齢、性別、経過観察時間、夜間頻尿の定義、バイアスリスクにより、影響に対する有意な変化は認められなかった。・夜間頻尿のエビデンスの質の評価は、予後因子としては転倒は中程度、骨折は低く、転倒/骨折の原因としてはどちらも非常に低かった。

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