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将来は1時間程度で結果が出る血液検査が可能に?

 いつの日か、手のひらサイズの血液検査デバイスで、わずか1時間程度で結果を得られるようになる可能性を示唆する研究結果が報告された。この携帯型デバイスは手のひらに収まる大きさで、音波を使って少量の全血サンプルからバイオマーカーを分離・測定するもので、検査の全プロセスに必要な時間は70分足らずだという。米コロラド大学ボルダー校化学・生物工学分野のWyatt Shields氏らによるこの研究の詳細は、「Science Advances」10月16日号に掲載された。Shields氏は、「われわれは使いやすく、さまざまな環境で導入でき、短時間で診断に関する有用な情報を提供する技術を開発した」と話している。 このような少量の血液を用いた血液検査に関する報告は、今回が初めてではない。血液検査会社のTheranos社は「1滴の血液で数百種類のバイオマーカーを測定できる」との触れ込みで事業を展開していたが、2015年に虚偽であることが発覚。同社は2018年に解散し、創業者のElizabeth Holmes氏は禁固11年超の有罪判決を受け、現在も服役中である。 Shields氏らによると、今回報告された新たなデバイスは、システマティックな実験と査読を受けた研究をベースとしたものであり、Theranos社が主張した検査とは仕組みが異なるという。研究論文の筆頭著者でコロラド大学ボルダー校化学・生物工学分野のCooper Thome氏は、「彼らが主張したことを今すぐに実現するのは不可能だが、多くの研究者が似たようなことが可能になるのを望んでいる。今回の研究は、その目標に向けた1歩となるかもしれない。ただし、誰でもアクセスできる科学的根拠に裏付けられている」と話している。 現在使われている血液検査は、針や注射器で1本またはそれ以上のバイアルに血液を採取する必要があり、検査機関から結果が出るまで数時間から数日かかる。新型コロナウイルスへの感染や妊娠の有無を調べる迅速検査では、血中あるいは尿中のバイオマーカーの有無に基づき、迅速に「イエス」か「ノー」の情報が提供される。しかし、これらの検査ではバイオマーカーの量を測定することはできない。 今回報告された新たな検査技術は、血液サンプルの中のさまざまなバイオマーカーを捉えるように設計することができる「機能的負の音響コントラスト粒子(functional negative acoustic contrast particles;fNACPs)」を用いたもの。fNACPsは、特定のバイオマーカーを全血から直接捕まえるための「目印」を持っている。採取された血液サンプルをデバイス内でfNACPsと混ぜ合わせると、音波の作用によってターゲットとなるバイオマーカーを捕縛したfNACPsが採取チャンバーにとどまり、他の血液成分は洗い流される。fNACPsが捕縛した各バイオマーカーは蛍光タグで標識され、ポータブル蛍光計とフローサイトメーターでその量が測定されるという仕組みだ。Thome氏は、「われわれの検査は、基本的には極めて少量の液体から音波を使って迅速にバイオマーカーを分離している。これは血中のバイオマーカーを測定する全く新しい方法だ」と大学のニュースリリースで述べている。 このデバイスが実用化されるまでにはさらなる研究が必要であるが、ベッドサイドや移動診療所で指先穿刺によって採取された血液から重要な医療情報がただちに提供される日が来ることをShields氏らは思い描いている。Shields氏は、「急速に広がるウイルス感染症が出現した場合や、急性呼吸器疾患や炎症性疾患の場合、実際に何が起こっているのかを素早く正確に測定できるようにしておくことは重要だ」と言う。研究グループはまた、「この検査は、ブースター接種の必要性や、特定のアレルギーやがんに関連するタンパク質保有の有無を判定するのにも役立つ可能性がある」と述べている。

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変形性関節症/関節リウマチ患者の約4割が抑うつ、不安、線維筋痛症のいずれかを合併

 変形性関節症(OA)、関節リウマチ(RA)の患者はいずれも約10人に4人が不安、抑うつ、線維筋痛症のうち少なくとも1つを合併しているとする研究結果が「ACR Open Rheumatology」に7月16日掲載された。これらの併存疾患は自記式の多次元健康評価質問票(MDHAQ)で適切にスクリーニングできる可能性があることも示された。 OA患者とRA患者の合併症は類似しており、いずれも抑うつ、不安や線維筋痛症の合併率が高いことが知られている。しかし、実臨床ではこれらの併存疾患のスクリーニングは十分に行われていない。米ラッシュ大学医療センターのJuan Schmukler氏らは、2011年から2022年にかけて同センターを受診したOA患者361人(平均年齢66.6歳、女性80%)およびRA患者488人(同56.9歳、86%)を対象に、MDHAQの回答から不安、抑うつ、線維筋痛症の有病率などを検討するため、後ろ向きの横断研究を実施した。 なお、MDHAQには全般的な状態を評価するRAPID3、線維筋痛症の評価ツールであるFAST4、抑うつ状態の評価ツールであるMDS2、不安の評価ツールであるMAS2が含まれている。また、これら3つの併存疾患の有無とMDHAQに含まれる疼痛など別の指標の結果との関連も検討した。解析にはMantel-Haenszel法を用いた。 その結果、OA患者の40.4%(361人中146人)、RA患者の36.3%(488人中177人)が不安、抑うつ、線維筋痛症のうち少なくとも1つが陽性と判定された。OA患者の8.6%(361人中31人)、RA患者の7.0%(488人中34人)は3疾患全て陽性だった。また、不安、抑うつ、線維筋痛症のそれぞれが陽性だった場合に、身体機能、疼痛、全体の評価、RAPID3それぞれが悪化するオッズ比(OR)を算出したところ、不安が陽性だったRA患者における身体機能悪化のORが2.58と最も低く、線維筋痛症が陽性だったRA患者における疼痛悪化のORが35.75と最も高く、その他の場合はこれらの数字の中間となった。 著者らは「MDHAQを使用すれば、不安、抑うつ、線維筋痛症のスクリーニングを臨床現場で行えることが分かった。これによってOAやRA患者の状態や予後、治療への反応について、よりよい情報が得られるだろう」と述べている。著者の一人は製薬企業との利益供与を明らかにしており、別の著者はMDHAQおよびRAPID3の著作権と商標を有している。

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糞便中ヘリコバクター・ピロリ抗原検査を用いた検診は胃がん予防に有効か(解説:上村直実氏)

 わが国を含む多くの国において、大腸がん死亡を予防する目的で免疫学的便潜血検査(FIT法)を用いた大腸がん検診プログラムが実施されている。今回、台湾において2014年から2018年にかけて、FIT検診に加えて糞便中ヘリコバクター・ピロリ抗原検査(HPSA)を同時に施行しピロリ感染の有無を検査してピロリ除菌治療を勧める検診法により、大腸がんのみならず胃がんの発症率や死亡率に影響を与えるか否かを検討した興味深い臨床研究の結果が2024年9月のJAMA誌に掲載された。 本研究は台湾住民24万人を対象とした、最近はやりの大規模データベースを利用した臨床研究で、検診の受診前にFIT+HPSA群とFIT単独群に割り付ける無作為化比較試験(RCT)であった。最初に住民を無作為に12万人ずつ2群に分類し、それぞれの群において試験参加者を募集した結果、最終的な試験参加者はFIT+HPSA群26.2%とFIT単独群26.5%と低率であった。HPSAでピロリ陽性とされて除菌治療を受けた者はFIT+HPSA群全体の7.2%であった。胃がんの発症率および死亡率は、住民全体を対象とした解析では両群間で有意な差がなく、住民検診の大腸がん検診プログラムにHPSA検査を追加しても胃がんの発症率や死亡率の低減に寄与する可能性は低いことが示唆された。 従来の報告からピロリ除菌による胃がんの抑制効果が明確に示されているので、今回のFIT検診にピロリ検診を組み込んだ胃がん予防の試みは素晴らしいアイデアであり、日本でも実施することが期待される。しかし本研究の結果から、胃がんの死亡率を低下させるためには対象住民の検診受診率および精密検査受検率の大幅な向上が肝要であることが再認識されたものと言えよう。 著者らは、大規模なデータベースを用いて行った本研究の弱点として、無作為化割り付け後の参加率の低さとピロリ除菌治療受診率の低さおよび追跡期間の短さを挙げている。胃がんの診断についても一般的には内視鏡検査が必須とされているが、大規模データベース研究では個々の症例におけるがん診断は直接的な画像診断や病理組織学的診断ではなく、がん登録や死亡者データベースから病名を取得するのが一般的である。個々の正確な胃がん診断やStageなどの信頼性に疑問が残るため、今後、大規模データベースを利用した臨床研究においては診断過程の方法を詳細に記述して、より精度の高い診断方法を期待したい。

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「あざとさ」は悪か、医学生のOSCE試験から【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第78回

医学生のOSCE試験「血圧を測定します。肩のあたりまでシャツをまくっていただけますか」学生が模擬患者に声をかけます。「腕を枕の上に置いて肘を伸ばした状態で力を抜いていてください」学生は上腕動脈を触知した後に、マンシェットを巻きます。そして、聴診器を肘窩にあてがいます。「きつくなりますよ」マンシェットを加圧した後にゆっくり減圧していきます。コロトコフ音の聴こえ始めが収縮期、聴こえなくなるのが拡張期の血圧です。「聴診法で収縮期血圧は118mmHg、拡張期血圧は74mmHgです」自信に満ちた口調で評価者(試験官)に報告します。優秀な「できる」学生です。OSCE試験の一場面です。バイタルサインのステーションで、血圧計を用いて聴診法での血圧測定という課題に対応をしています。OSCEは、Objective Structured Clinical Examinationの略語で「オスキー」と発音され、直訳すれば「客観的臨床能力試験」です。OSCEについては、本コラムの第49回「知っていますか? 医師法改正、OSCE、共用試験、公的化…」でも紹介しています。医師となるための知識だけでなく、技能、態度などが十分であるかを評価する試験です。評価者の見ている前で、実際に模擬患者を診察します。学生は、いくつかのステーションを巡りながら試験の課題をこなしていきます。バイタルサインは、生命を維持している最小限の兆候で、体温・呼吸・脈拍・血圧のことを言います。これらは、全身状態の把握の最も基本となるものです。聴診法で血圧を正しく測定できることは、医師として必須の能力です。あまりに緊張して震える学生「血圧を測定します」次の学生が模擬患者に声を掛けます。緊張のあまり声が震えています。なんとか血圧計のマンシェットを巻いて加圧した後に減圧していきます。しばらくしても評価者への血圧値の報告はありません。再度マンシェットを加圧します。さらに、何度もマンシェットの加圧と減圧を繰り返します。学生の顔は真っ赤になり、額には玉のような汗が見られます。過度の緊張も加わり、聴診器でコロトコフ音が聴き取れないのです。焦って繰り返すほど聴こえないのでしょう。無残にも、この学生のバイタルサインステーションは終了となりました。血圧測定をできなかったのですから、このステーションの課題として不合格は免れません。おそらくは日を改めての再試験に挑むことになります。そこでの合格を願うばかりです。一概に「できる」学生、「できない」学生とは言えない自分もOSCE試験の評価者を務めることがあります。ここに記載したのは、評価者としての実体験です。試験ですから、私情をはさまずルールに従って粛々と役割を果たすことは当然です。しかし、試験終了後に個人的な想いを巡らせることがあります。OSCE試験に挑んだ2人の学生、前者は「できる」学生で、後者は「できない」学生でしょうか。前者は、友人と血圧測定の練習を繰り返し、試験当日に臨んだのでしょう。よどみなく一連の動作を行い、患者への声掛けや、測定値の報告も完璧です。優秀です。ただ、疑うわけでもないのですが、本当にコロトコフ音を確認したうえで、実際の測定値を述べたのかどうかの証拠もありません。儀式的にマンシェットの加圧・減圧を行い、その模擬患者として妥当と思われる血圧の値を述べている可能性も否定はできません。後者は、実直なまでに血圧を正しく測定しようとチャレンジし、コロトコフ音を上手く聴くことができなかったのです。コロトコフ音の大きさには個人差があるので、聴診法での血圧測定が難しい患者も存在します。血圧測定をできなかった事実を愚直に表現するこの学生を、自分には憎めない存在と感じます。試験の場面だからといって取り繕うことなく駆け引きをしない者を、評価したい気持ちです。医師にとって、正直で実直であることは患者さんとの信頼関係を築く上で欠かせない要素だからです。「あざとさ」も大切なスキル決して、優秀な前者の学生が実際にコロトコフ音を確認することなく、聴こえたかのように振る舞った「あざとい」人間だと言いたいわけではありません。しかし、技能や態度などを評価するという試験の性質上、そのような表面的な振る舞いが上手な者に有利に働く側面があることも事実です。何よりも、「あざとさ」も実際の医療の現場においては大切なスキルと考えられます。たとえば、複雑な病状を説明するときや、患者さんやその家族が心理的に不安定な場合、配慮をもって説明の仕方を調整することが必要です。このような場面では、ただ単に事実を述べるだけではなく、相手がどのように受け取るかを考慮し、コミュニケーションの仕方を柔軟に変えることが重要です。これは、医師の側が機転を利かせ、患者のニーズや感情に合わせた柔軟な対応が求められる瞬間です。また、「あざとさ」という言葉は時にマイナスの印象を持つこともありますが、相手に配慮した対応や、状況に応じて柔軟に対応する姿勢と捉えることができます。患者さんに安心感を与えるためにユーモアを交えたり、少しリラックスさせる会話を挟むなど、場を和ませるための機転は、医療現場では非常に有効です。こうした努力が明らかに見えている医師へ「あざとい人」というのは、むしろ褒め言葉かもしれません。「あざとくて何が悪いのかニャ」夜更けに原稿を書いていると、我が家の愛猫レオが、こう言いながら膝の上に乗ってきます。「ニャー…」という鳴き声ですが、自分には、レオがしゃべっているかのように聞こえるのです。「あざとさ」が、ネガティブなニュアンスを含んだ言葉とされるのはなぜでしょうか。「あざとい女」というように、自分を最大限に可愛く見せる方法を熟知している、計算された自己演出的な可愛さという意味で使われることが多いからでしょうか。言い換えれば、「男ウケを狙った私カワイイでしょ?」と言う雰囲気を指す表現が「あざとさ」かもしれません。当人がそれを狙ったかどうかは関係なく、もっぱら見る側の主観によって、結果として「あざとい」と判断される生き物がいます。それは猫です。レオは、おなかを天井に向けてバンザイして寝ていることがあります。舌をしまい忘れてアッカンベーしていることもあります。こういったポーズをとる猫は、カワイイ自分を意識していることは間違いありません。「猫好きを悩殺しよう!」という計略を巡らせる猫は、「あざとさ」のブラックホールです。とことん吸い込まれ脱出不能です。

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陰茎をファスナーに挟んだ【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第20回

ジャンパーなどを着ていて、下に着ていた服や下着がファスナーに挟まれたことがある人は少なくないと思います。では、皮膚がファスナーに挟まれることはあるのでしょうか?実は、ファスナーの開閉時に陰茎が挟まれることがあり、思春期の陰茎外傷の中でファスナーによる外傷は珍しくありません。2~12歳の男児において、4,000人に1人の割合でこの外傷が生じています。年齢を重ねると頻度が下がりますが、これは年齢を重ねると包皮が亀頭を覆う頻度が下がるためです。勢いよくファスナーを上げ下げすることがなくなることも影響していると思います。なので私は、ファスナー外傷は救急外来の男児しか診たことがありません。なお、ファスナーの呼称はさまざまで、日本では「チャック」、アメリカでは「ジッパー」、一般的な名称としては「ファスナー」とされています。これらはすべて同じ物を指す言葉ですが、今回は「ファスナー」とします。<症例>5歳、男児主訴陰茎がファスナーに挟まった。経過ズボンをはき、ファスナーを上げたところ、下着と一緒に包皮を挟んで取れなくなった。男性であれば挟まれた際の激痛を想像できるでしょう。処置にあたってはとてつもない痛みと恐怖が予想されます。不用意にファスナーを動かせば痛みが生じますので、まず挟んでいる部位に局所麻酔を実施します。陰茎ブロックも適応なのですが、手技に慣れが必要であることと、ファスナーが挟んでいる範囲が狭いことから、私は局所麻酔にしています。では、どのようにしてファスナーから解放できるのでしょうか。まず、ファスナーの構造を理解することが重要です(図)。図 ファスナーとスライダーの構造スライダーの中はダイヤモンド部分で上下が繋がっていて、内部はY字形のトンネルになっています。ここを通ると務歯の隙間が押し広げられ、務歯同士がかみ合ったり離れたりします。陰茎がスライダーと歯の間に挟まれた場合、構造上、このダイヤモンド部分をニッパーなどで切断すれば上下に分離します。切断が困難な場合は、石けんなどを使用して滑りをよくしたり、マイナスドライバーを歯の間に差し込んでねじって広げたりする方法を試みます。本症例は、局所麻酔後、ニッパーを用いてスライダーを切断し、除去しました。挟まれた部位は浅い挫創程度であったので、洗浄して軟膏を塗布したガーゼで覆って帰宅としました。なかなか診る機会がないファスナー外傷ですが、いざというときのために参考にしてください。

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突き放したように聞こえているかも?【もったいない患者対応】第17回

突き放したように聞こえているかも?患者さんから希望された検査や治療に関して、医療者が、「うちの病院ではそれはやっていないのでできません」とだけ答えてしまうケースを時に目にします。もちろん、病院ごとに地域における役割分担がありますから、すべての病院が同じ水準で検査や治療を行えるわけではありません。しかし、患者さんは、自分が治療を受けると決めた病院とは、ある意味で“運命共同体”のような気持ちをもっています。「うちではできないのでしない」という答えだけでは、患者さんに「この病院よりもっと良い治療が受けられる病院を選べばよかった」と後悔の念を抱かせてしまうことになります。また、ここで「じゃあ、それができる病院に行きますので紹介状を書いてください」とすんなり医師に言える患者さんも多くはないでしょう。したがって、医師の答え方には十分な注意が必要です。伝えるべきは判断の理由「希望された検査や治療はできないが、そもそも必要なものではなく医学的なアウトカムにも悪影響はない」というケースであれば、その旨をきちんと説明する必要があります。「当院ではその検査(治療)は行っていませんが、現時点の〇〇さんの病状であれば、それは必要ありません。もし病状が変化して、その検査(治療)が必要になることがあれば、適切な病院に紹介することは可能です」というように、理由やその後の対応まで含めて説明するのがよいでしょう。逆に、「希望された検査や治療を行ったほうが医学的に適切である」と考えられるケースでは、その理由を述べるとともに、紹介を検討すべきでしょう。なんとなく病院に不信感をもたれたまま治療を続けていると、治療がうまくいっている間はいいですが、何か問題が起きたとき一気に人間関係が崩れ、患者さんの不満が表出することになります。若手の先生であれば、患者さんからの希望に対する返事はいったん保留にしておき、指導医と十分に相談したうえで改めて説明の機会を設けるのがおすすめです。

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第238回 広がる救急車利用の選定療養費化、茨城県では筑波大病院1万3,200円、土浦協同病院1万1,000円、その他病院7,700円と料金に違い

救急車利用の選定療養費化のスキーム、じわりじわりと広がる気配こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。野球シーズンはストーブリーグに突入、今年も日本からMLBに誰が行くのかで盛り上がっています。そんな中、千葉ロッテマリーンズは11月9日、佐々木 朗希投手(23)の今オフのポスティングによるメジャー挑戦を容認することを発表しました。あと2年待てばMLBの「25歳ルール」による契約金制限が解けるので、佐々木投手自身も、譲渡金の入る球団も金銭的にWin-Winとなったでしょうが、ロッテとしては、佐々木投手の“わがまま”に折れた形での容認となりました。2022年の完全試合の印象は強烈ですが、大事に育てられ過ぎたのか、故障も多く5年間で登板はわずか64試合で、29勝15敗、防御率2.10という「中の下」の成績です。中4日、中5日で162試合を戦うMLBで果たして通用するのでしょうか。日本で怪我がちだった選手の多くは、MLBでも早々と故障してしまう傾向にあります。同じくMLB挑戦予定の、“旬”を過ぎた読売ジャイアンツの菅野 智之投手(ストレートで150キロ出ない)とともに、今後の“活躍”を見守りたいと思います。さて今回は、全国で広がりを見せ始めた軽症患者の救急車利用の“有料化”について書いてみたいと思います。“有料化”とは言っても、厳密には保険外併用療養費制度の一つ、選定療養費の仕組みを活用したものですが、三重県松阪市に続いて、茨城県が全県での導入を決め、12月からスタートさせます。救急車利用の選定療養費化のスキームは今後じわりじわりと広がっていきそうな気配です。軽度の切り傷・擦過傷、風邪などを「緊急性が低い症状」としてガイドラインで例示茨城県は10月18日、「緊急性のない救急搬送患者から選定療養費を徴収する際のガイドライン」(救急搬送における選定療養費の取扱いに係る統一的なガイドライン)1)を策定、公表しました。県内22病院で12月2日から救急車による救急搬送の際、緊急性が認められなかった場合に、患者から選定療養費を徴収する予定です。対象となる患者については、軽度の切り傷・擦過傷、風邪などを「緊急性が低い症状」として例示しました。なお、県単位で救急搬送に選定療養費の仕組みを導入するのは全国で初めてです。茨城県によれば2023年度の救急搬送は14万3,046件で増加傾向が続いているとのことです。うち6万8,549件、47.9%を軽症等が占めており、この状況が続けば救急医療の体制が維持できなくなるとして、4月以降検討を重ね、厚生労働省や県医師会、各病院などと協議を経て、選定療養費化に至ったとのことです。「軽症」と診断された場合も救急車を呼んだ時点での緊急性が認められるケースは徴収の対象外同ガイドラインは、患者が救急車で搬送された場合、選定療養費の対象となる「緊急性が認められない」ケースかどうかを医療機関が判断する目安として作られました。具体的には、救急車要請時の緊急性が認められない可能性がある主な事例として、以下が提示されています。ア. 明らかに緊急性が認められない症状:1)軽度の切り傷のみ、2)軽度の擦過傷のみイ. 緊急性が低い症状(※ただし、別の疾患の兆候である可能性あり):1)微熱(37.4℃以下)のみ、2)虫刺創部の発赤、痛みのみで、全身のショック症状は無い、3)風邪の症状のみ、4)打撲のみ、5)慢性的又は数日前からの歯痛、6)慢性的又は数日前からの腰痛、7)便秘のみ、8)何日も前から症状が続いていて特に悪化したわけではない、9)不定愁訴のみ、10)眠れないのみイについては「緊急性が低いことから、基本的に緊急性が認められないものとするが、診断の結果、別の疾患の兆候である可能性を否定できず、評価が難しいケースや判断に迷うケースである場合は、緊急性が認められるものとして差し支えない」として、現場で選定療養費の徴収対象外と判断して構わないとしています。なお、熱中症、小児の熱性けいれん、てんかん発作などの症状は、病院到着時には改善して結果として「軽症」と診断された場合でも、救急車を呼んだ時点での緊急性が認められるケースに該当するため、徴収の対象とはならないとしています。徴収額は初診患者の選定療養費に準じる茨城県は7月に全県での導入を公表、12月から多くの救急患者を受け入れている県内22病院で一斉に運用を開始することにしました。紹介状なしの初診患者から選定療養費の徴収を義務付けられている県内22病院のうち、友愛記念病院と古河赤十字病院(いずれも古河市)は12月時点の参加を見送り、既に選定療養費を徴収していた病院が20病院、徴収していない病院が2病院となりました。徴収額は紹介状なしの初診患者の選定療養費と同額となるため、病院ごとに異なります。筑波大学附属病院が1万3,200円、総合病院土浦協同病院と筑波メディカルセンター病院が1万1,000円、白十字総合病院が1,100円で、ほかの病院は7,700円(いずれも税込)。なお、白十字総合病院と筑波学園病院は地域医療支援病院等ではなく、紹介状なしの初診の選定療養費徴収が義務付けられていませんが、今回、軽症救急患者に限って選定療養費を設定したとのことです。「救急車の有料化ではありません」と県は強調茨城県は今回の救急車利用の選定療養費化について、一般向けにQ&A集も用意しています。それによれば、「Q.救急車を有料化するということですか?」という質問に対しては、「救急車の有料化ではありません。既存の選定療養費制度の運用を見直し、救急車で搬送された方のうち、救急車要請時の緊急性が認められない場合には、対象病院において選定療養費をお支払いいただくものです」と、「有料化ではない」旨を強調しています。有料化と選定療養費化は制度が違うと言われても、県民にとっては“負担増”になるのは同じです。これまで無料だった筑波大学附属病院への搬送が1万3,200円というのは、かなりの出費と言えるでしょう。軽症者のタクシー代わりの救急車利用の抑止力としては、それなりに機能しそうです。三重県松阪市は3ヵ月間のモニタリング結果を公表ところで、救急車利用の選定療養費化の先駆けだった三重県松阪市は10月25日、三重県松阪地区で2次救急医療を担う3病院(松阪市民病院、松阪中央総合病院、済生会松阪総合病院)における、救急車利用時に入院に至らなかった軽症患者などから選定療養費を徴収する取り組みのモニタリング結果を報告しました2)。三重県松阪地区では3病院において、6月から救急車利用時に入院に至らなかった軽症患者などから選定療養費7,700円を徴収する取り組みを始めていました。報告されたモニタリング期間は、運用開始の2024年6月1日~8月31日の3ヵ月間で、救急車で3病院に搬送(病院収容)された人を対象に、搬送された時間帯や年齢、特別の料金の徴収有無に加え、主たる搬送要因・傷病名などを調査しました。選定療養費の徴収対象となったのは278人、7.4%3病院の救急搬送における費用徴収の状況について、救急車で3病院に搬送された3,749人のうち、帰宅となり、さらに費用徴収の対象となったのは278人、7.4%でした。徴収対象者の傷病内訳としては、最多は疼痛24人(8.6%)、次いで打撲傷21人(7.6%)、熱中症・脱水症21人(7.6%)、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)16人(5.8%)、めまい15人(5.4%)、胃腸炎・食道炎等15人(5.4%)でした。徴収対象外となった1,778人の内訳は、「緊急の患者等、医師の判断による」が最多で1,014人(57.0%)。そのほか、再診が408人(22.9%)、交通事故等が178人(10.0%)、生活保護受給者が88人(4.9%)、紹介状ありが57人(3.2%)でした。費用を徴収した278人のうち高齢者が114人(41.0%)でした。「持続可能な松阪地区の救急医療体制の整備に一定の寄与が確認」と松阪市傷病程度別の救急搬送人員数は、軽症者率が52.9%と前年同期の59.4%から6.5%減少した一方で、中等症者率が42.8%と前年同期の37.0%から5.8%増加しました。一方、「松阪地区救急相談ダイヤル24の相談件数」は7,969件で、前年同期と比較して2,390件(42.8%)増加しました。以上の結果を踏まえ、松阪市は「医療機関の適正受診に繋がる状況が確認でき、今回の取り組みは、『一次二次救急医療の機能分担』、ひいては、『救急車の出動件数の減少』等、持続可能な松阪地区の救急医療体制の整備に一定の寄与が確認できたのではないか」と評価しています。松阪市、茨城県に続く自治体が今後続出することは必至モニタリング期間のため、ゴリゴリと選定療養費を徴収してはいない状況にあって、徴収対象が7.4%というのは結構高い数字と言えるのではないでしょうか。紹介状なしの200床以上の病院(特定機能病院、地域医療支援病院、紹介受診重点医療機関)の初診・再診時などに、病院が独自に設定した選定療養費を徴収する仕組みを軽症救急患者に適用するというスキーム、誰が考えたのか、なかなか名案だと思います。ただ、松阪市のように管轄の3病院だけでやるのではなく、茨城県のように全県で対応したほうが、国民に“正しい”救急車利用の仕方を周知できるでしょう。さらに言えば、茨城県のケースでも、病院によって選定療養費にバラツキがあるのは今後の制度定着に向けては具合が悪そうです。今後、軽症救急の選定療養費は紹介状なしの額とは別に「県内均一」にする、2次救急、3次救急で額を変える、といった工夫が必要でしょう。いずれにせよ、松阪市、茨城県に続く自治体が続出することは必至と考えられます。参考1)救急搬送における選定療養費の取扱いに係る統一的なガイドライン/茨城県2)三基幹病院における選定療養費について/松阪市

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尿路上皮がん1次治療の更新は30年ぶり、ペムブロリズマブ+EV併用療法とは/MSD

 2024年9月24日、根治切除不能な尿路上皮がんに対する1次治療として、抗PD-1抗体ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)とネクチン-4を標的とする抗体薬物複合体(ADC)エンホルツマブ ベドチン(商品名:パドセブ、以下EV)の併用療法および、ペムブロリズマブ単独療法(プラチナ製剤を含む化学療法が選択できない場合のみ)が、本邦で適応追加に関する承認を取得した。尿路上皮がんの標準1次治療の更新としては30年ぶりとなる。10月31日、MSD主催のメディアセミナーが開催され、菊地 栄次氏(聖マリアンナ医科大学腎泌尿器外科学)が「転移性尿路上皮治療“ペムブロリズマブ+エンホルツマブ ベドチンへの期待”」と題した講演を行った。ペムブロリズマブ+EV併用は化学療法と比較しPFS・OSを約2倍に延長 併用療法の承認根拠となったKEYNOTE-A39/EV-302試験は、未治療・根治切除不能な局所進行または転移を有する尿路上皮がん患者(886例、日本人40例)を対象に、ペムブロリズマブ(最大35サイクル)+EV(投与サイクル数上限なし)併用療法と化学療法(シスプラチンまたはカルボプラチン+ゲムシタビン、最大6サイクル)の有効性と安全性を評価した非盲検無作為化第III相試験。主要評価項目は無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)、副次評価項目は奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、安全性などであった。 患者背景は年齢中央値が69.0歳、ECOG PSは0~1が96%以上を占めたがPS 2も2.5~3.4%含まれ、肝転移ありの患者は22.3~22.6%含まれた。追跡期間中央値17.2ヵ月におけるPFS中央値は化学療法群6.3ヵ月に対しペムブロリズマブ+EV群12.5ヵ月と有意に改善した(ハザード比[HR]:0.45、95%信頼区間[CI]:0.38~0.54、p<0.00001)。またOS中央値に関しても、化学療法群16.1ヵ月に対して、ペムブロリズマブ+EV群31.5ヵ月と、有意に良好であった(HR:0.47、95%CI:0.38~0.58、p<0.00001)。菊地氏は、ペムブロリズマブ+EV群の完全奏効(CR)が29.1%(化学療法群:12.5%)、進行(PD)は8.7%(同:13.6%)であったことに触れ、「10人に3人で完全奏効が達成され、進行は10%未満というデータは非常に魅力的」と話した。アンメットニーズであるシスプラチン不適格症例でも高い有効性 本試験では、シスプラチンの適格性が層別因子の1つとされ、以下の不適格基準に基づき判断された(1つ以上を満たす場合、シスプラチン不適格とみなす):腎機能(30≦GFR<60mL/分※GFR≧50mL/分でそのほかのシスプラチン不適格基準に該当しない患者は、治験担当医師の臨床的判断に基づき、シスプラチン適格とみなしてもよい)全身状態(ECOG PSまたはWHO PSが2)NCI CTCAE(NCI CTCAE Grade2以上の聴力低下、末梢神経障害)心不全クラス分類(NYHAクラスIIIの心不全) 上記の不適格基準に合致したシスプラチン不適格症例は両群で約46%ずつ含まれた。不適格症例におけるPFS中央値は化学療法群6.1ヵ月に対しペムブロリズマブ+EV群10.6ヵ月(HR:0.43、95%CI:0.33~0.55)、OS中央値はそれぞれ12.7ヵ月、未到達となり(HR:0.43、95%CI:0.31~0.59)、ペムブロリズマブ+EV併用療法の有効性が確認されている。とくに注意すべき有害事象とその発現時期 ペムブロリズマブ+EV群の曝露期間中央値は9.43ヵ月であり、薬剤別にみるとペムブロリズマブが8.51ヵ月、EVが7.01ヵ月であった。いずれかの薬剤の投与中止および休薬に至った副作用としては末梢性感覚ニューロパチーが最も多く(それぞれ10.7%、17.7%)、菊地氏はこのコントロールが重要と指摘した。 ペムブロリズマブ投与による有害事象としては、甲状腺機能低下症が10.7%と最も多く認められた。同氏は甲状腺機能低下症についてはホルモン補充により管理可能とした一方、肺臓炎が9.5%で発生していることに注意が必要と話した。 EV投与による有害事象としては、発疹などの皮膚反応が最も多く(69.1%)、末梢性ニューロパチー(66.6%)、悪心・嘔吐および下痢などの消化器症状(64.8%)が多く認められている。また肺臓炎は10.2%で発生しており、同氏は「定期的な肺臓炎のモニターが必要となる」とした。肺臓炎の発現時期中央値は3.94(0.3~14.5)ヵ月、高血糖(0.72ヵ月)や皮膚反応(0.49ヵ月)は比較的早く発現し、末梢性ニューロパチーの発現時期中央値は3.29(0.1~17.7)ヵ月であった。 欧州臨床腫瘍学会(ESMO)やNational Comprehensive Cancer Network(NCCN)のガイドラインではペムブロリズマブ+EV併用療法がすでに1次治療の第一選択として位置付けられている。日本のガイドラインでの位置付けについて菊地氏は、ペムブロリズマブ+EV併用療法が使えない患者を定義していかなければならないとした。その際に参考になるのがKEYNOTE-A39/EV-302試験の除外基準で、重度の糖尿病、Grade2以上の末梢神経障害、抗PD-1/PD-L1抗体薬治療歴を有する患者であった。また、全身状態だけでなく社会・経済的状況も影響する可能性があるとし、まずは日本の実臨床での使用データを積み上げていく必要があると話した。

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MCIの認知機能改善に、最適な運動とその量は?~ネットワークメタ解析

 軽度認知障害(MCI)は、認知症の前駆段階であり、通常の老化による認知機能低下よりも進行することが特徴である。高齢MCI患者における機能低下の抑制、認知機能向上に対する有望なアプローチとして、運動介入への期待が高まっている。しかし、最適な運動様式とその量(用量反応関係)に関する研究は、十分に行われていなかった。中国・大連理工大学のYingying Yu氏らは、用量反応関係を最適化し、十分な強度を確保し、ポジティブな神経学的適応を誘発することによりMCI患者にとって最適な運動様式を特定するため、ランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。Frontiers in Psychiatry誌2024年9月12日号の報告。 対象は、MCI患者に対する運動介入の有効性を評価した研究。2024年4月15日までに公表された研究を、PubMed、Embase、Scopus、Web of Science、Cochrane Central Register of Controlled Trialsなどの電子データベースより、システマティックに検索した。主要アウトカムは、全体的な認知機能および実行機能とした。ペアワイズおよびネットワークメタ解析の両方で、ランダム効果モデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・包括基準、除外基準を適用し、42件(2,832例)の論文をネットワークメタ解析に含めた。・有酸素運動にさまざまな要素を組み合わせた身体活動であるマルチコンポーネント運動は、受動態的対照群と比較し、標準平均差(SMD)が1.09(95%信頼区間[CI]:0.68〜1.51)であり、全体的な認知機能低下を軽減するうえで、良好な有効性が示唆された。・同様に、マルチコンポーネント運動は、実行機能にも有意な影響を示した(SMD:2.50、95%CI:0.88〜4.12)。・30分のセッションを1週間当たり3〜4回実施し、介入期間を12〜24週間、強度を最大心拍数60〜85%で行った場合、全体的な認知機能改善に高い効果が得られることが示唆された。・30〜61分のセッションを25週間以上行った場合、実行機能に対し、優れた効果が認められた。 著者らは「MCI患者の全体的な認知機能および実行機能改善に対し、マルチコンポーネント運動が最も効果的な介入であることが確認された。とくに中程度〜強度の運動を、3回/週以上行うこと最も効果的であると考えられ、より短時間なセッションを頻繁に行うことで、認知アウトカムを最適化する可能性が示唆された」と結論付けている。

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乾癬への生物学的製剤、真菌感染症のリスクは?

 生物学的製剤の投与を受けている乾癬患者における真菌感染症リスクはどれくらいあるのか。南 圭人氏(東京医科大学皮膚科)らの研究グループは、臨床現場において十分に理解されていないその現状を調べることを目的として、単施設後ろ向きコホート研究を実施した。その結果、インターロイキン(IL)-17阻害薬で治療を受けた乾癬患者は、他の生物学的製剤による治療を受けた患者よりも真菌感染症、とくにカンジダ症を引き起こす可能性が高いことが示された。さらに、生物学的製剤による治療を開始した年齢、糖尿病も真菌感染症の独立したリスク因子であることが示された。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2024年9月30日号掲載の報告。 研究グループは、生物学的製剤の投与を受けている乾癬患者における真菌感染症の罹患率とリスクを評価することを目的として、乾癬患者592例を後ろ向きに調査した。 主な結果は以下のとおり。・73/592例(12.3%)において真菌感染症が確認された。・IL-17阻害薬を使用した患者は、他の生物学的製剤を使用した患者よりも真菌感染症の発生率が高率であった。・真菌感染症のリスク因子は、生物学的製剤の種類(p=0.004)、生物学的製剤による治療開始時の年齢(オッズ比:1.04、95%信頼区間:1.02~1.06)、および糖尿病(同:2.40、1.20~4.79)であった。 著者らは、本研究には生物学的製剤による治療を受けなかった患者が対象に含まれていなかったこと、使用されていた生物学的製剤の種類が多くの患者で変更されていたことなどの限界を指摘している。

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本邦初、がん患者の「気持ちのつらさ」のガイドライン/日本肺学会

 2024年10月、日本がんサポーティブケア学会と日本サイコオンコロジー学会は『がん患者における気持ちのつらさガイドライン』(金原出版)を発刊した。本ガイドラインは、がん医療におけるこころのケアガイドラインシリーズの第4弾となる。第65回日本肺学会学術集会において、本ガイドラインの作成委員長の藤澤 大介氏(慶應義塾大学医学部)が本ガイドライン作成の背景、本ガイドラインで設定された重要臨床課題と臨床疑問(CQ:クリニカルクエスチョン)を紹介した。気持ちのつらさはがん治療や生命予後に悪影響 がん患者における気持ちのつらさは、QOLの低下や痛みの増強を招くだけでなく、がん治療のアドヒアランスの低下を招き、入院期間の延長や生命予後の悪化にもつながる。しかし、その多くは予防や治療が可能であると藤澤氏は強調する。そこで、本ガイドラインでは臨床における気持ちのつらさへの対応方法をアルゴリズムとして示した。 まず、気持ちのつらさへの対応の大原則として「初めから精神心理の専門家が関わるのではなく、すべての医療従事者が温かく常識的な対応をすることが重要である」と藤澤氏は述べた。具体的には、(1)支持的なコミュニケーション、(2)気持ちのつらさの可能性への気付き、(3)ニーズの特定と対応、(4)気持ちのつらさに類似した医学的状況の除外、が必要である。これらの対応をしたうえで、気持ちのつらさが持続する場合や、症状の重い気持ちのつらさが存在する場合には、より精神・心理ケアに特化した介入を検討するという流れである。詳細はガイドラインを参照されたい(p.96~100)。閾値以上の気持ちのつらさの緩和に関する9つのCQを設定 本ガイドラインでは、気持ちのつらさを緩和するための介入について、6つの重要臨床課題と9つのCQを設定した。なお、介入の効果の指標としてはうつ、不安、両者を統合したdistressを用いた。また、気持ちのつらさは正常範囲のものではなく、臨床的介入が必要とされる一定の重症度以上(閾値以上)のものを対象としている。 藤澤氏は、本発表では9つのCQのうち「薬物療法(CQ1、2)」「協働的ケア(CQ4)」「早期からの緩和ケア(CQ5)」「ピアサポート(CQ7)」について紹介した。 9つのCQのなかで、唯一強い推奨となったのは、協働的ケアであった(CQ4、推奨の強さ1[強い]、エビデンスの確実性[強さ]:A[強い])。協働的ケアとは、プライマリ・ケア提供者と精神心理の専門家が協力体制を作って、系統的なケアを提供するというモデルである。海外では、プライマリ・ケア提供者はトレーニングを受けた看護師が担うことが多い。協働的ケアは、本ガイドラインでは強い推奨となったものの「本邦での現状を考えると、実施していない施設が多いのではないか」と藤澤氏は指摘した。そこで、解決策として「がん診療拠点病院には、認定専門看護師が在籍しており、がんカウンセリング料などが算定できる。また、緩和ケアチームが機能していることが多いと考えられるため、がん診療拠点病院にハブとして機能していただき、精神心理の専門家、精神科などと連携しながら系統的な介入の実施を検討していくのが良いのではないか」と述べた。 続いて、藤澤氏は薬物療法について説明した。薬物療法で用いられるのは抗不安薬(CQ1)、抗うつ薬(CQ2)であるが、これらは本ガイドラインでは弱い推奨となった。この根拠として、対象をがん患者に限定すると、薬物療法のエビデンスはあまり確立していないことが挙げられた。ただし、抗不安薬や抗うつ薬は、がん患者に限定しなければ、不安やうつに対して十分なエビデンスを有しているため、有害事象について慎重に考慮したうえで使用することを提案するという形であると、藤澤氏は説明した。 早期からの緩和ケア(CQ5)については、「気持ちのつらさの改善を目的とした場合、単独では推奨しない」という推奨となった。この根拠としては、閾値以上の気持ちのつらさを有する患者を対象とした研究がなかったこと、閾値を設定しない研究では良好な結果もあったものの有意差がない研究が多かったことが挙げられた。ただし、藤澤氏は「早期からの緩和ケアは、進行がんの患者における症状緩和やQOLの向上に有益であることがわかっており、すべてのがん患者に対して実施を考慮すべきという基本スタンスは変わっていない」と付け加えた。 ピアサポート(CQ7)についても、早期からの緩和ケアと同様に「気持ちのつらさの改善を目的とした場合、単独では推奨しない」という推奨となった。こちらも、その根拠としてはエビデンス不足が挙げられた。ただし、うつ・不安以外のアウトカムの改善(例:自己効力感の向上)を認める研究はあり、「実施を否定するものではなく、より専門的な精神心理的介入と併用しながら実施することは十分に考えられる」と藤澤氏は述べた。 本発表の結語として、藤澤氏は「気持ちのつらさに対する介入には、すべての医療者が行うべき対応と、より専門的な介入がある。すべての医療者が重要なプレイヤーであり、専門的な介入に関するエビデンスを踏まえながら協働的に実施する形を作っていきたい」と述べた。

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市中肺炎の入院患者、経口抗菌薬単独での有効性

 市中肺炎の入院患者のほとんどで、静注抗菌薬から経口抗菌薬への早期切り替えが安全であることが無作為化比較試験で示されているが、最初から経口抗菌薬のみ投与した場合のデータは限られている。今回、入院中の市中肺炎患者を対象にβラクタム系薬の投与期間を検討したPneumonia Short Treatment(PST)試験の事後解析として、投与開始後3日間の抗菌薬投与経路を静脈内投与と経口投与に分けて有効性を比較したところ、有意差が認められなかったことをPST研究グループのAurelien Dinh氏らが報告した。Clinical Microbiology and Infection誌2024年8月号に掲載。 PST試験は、ICU以外の病棟に市中肺炎で入院した患者を対象に、投与開始から3日間はアモキシシリン・クラブラン酸または第3世代セファロスポリン(セフトリアキソン、セフォタキシム)を静脈内投与または経口投与し、その後プラセボ群とアモキシシリン・クラブラン酸群に無作為化して5日間経口投与した無作為化プラセボ対照試験である。本試験では、主要評価項目である抗菌薬の投与開始から15日目の治療失敗(「体温37.9℃超」「呼吸器症状の消失・改善なし」「原因を問わず抗菌薬を追加投与」の1つ以上)について、3日間投与が8日間投与に非劣性を示したことがすでに報告されている。 今回の事後解析では、投与経路別の有効性を調べるため、最初の3日間が静脈内投与、すべて経口投与の症例の治療失敗率を比較し、さらにサブグループ(アモキシシリン・クラブラン酸と第3世代セファロスポリン、アモキシシリン・クラブラン酸の静注と経口、多葉性肺炎、65歳以上、CURB-65スコア3~4)でも比較した。 主な結果は以下のとおり。・PST試験から200例が組み入れられ、最初の3日間静脈内投与の症例は93例(46.5%)、すべて経口投与の症例は107例(53.5%)であった。・15日目の治療失敗率は静脈内投与(26.9%)と経口投与(26.2%)で有意差はなかった(調整オッズ比:0.973、95%信頼区間:0.519~1.823、p=0.932)。・15日目の治療失敗率はサブグループ間で有意差はなかった。 著者らは「本研究は探索的事後解析で、少ない症例数とロジスティック回帰に基づいているため結論には限界がある」と述べ、またニューキノロン系薬が本試験から除外されていることから「入院を必要とする市中肺炎に対する投与経路による新たな無作為化比較試験が必要」としている。

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新PCIデバイスbioadaptor、アウトカム改善の可能性/Lancet

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けた患者における、持続的なnon-plateauing(非平坦化)による有害事象の発生は依然として重要な課題とされている。スウェーデン・ルンド大学のDavid Erlinge氏らは「INFINITY-SWEDEHEART試験」において、急性冠症候群を含む冠動脈疾患患者では、non-plateauingのデバイス関連イベントを軽減するように設計された新たなPCIデバイス(DynamX bioadaptor、Elixir Medical製)は、最新の薬剤溶出ステント(DES)に対し有効性に関して非劣性であり、non-plateauingデバイス関連イベントを軽減し、アウトカムを改善する可能性を示した。研究の成果は、Lancet誌2024年11月2日号に掲載された。スウェーデンの無作為化非劣性試験 INFINITY-SWEDEHEART試験は、スウェーデンの20の病院で実施したレジストリベースの単盲検無作為化対照比較非劣性試験であり、2020年9月~2023年7月に患者の無作為化を行った(Elixir Medicalの助成を受けた)。 Swedish Coronary Angiography and Angioplasty Registryのデータから、18~85歳、慢性または急性冠症候群の虚血性心疾患患者で、PCIの適応があり、1つの病変につき1つのデバイスの留置に適した最大3つのde novo病変を有する患者2,399例を選出した。 これらの患者を、DynamX bioadaptorを留置する群(bioadaptor群、1,201例、1,419病変)、またはDES(Onyxゾタロリムス溶出性ステント)を留置する群(DES群、1,198例、1,431病変)に無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、12ヵ月時点での標的病変不全(心血管死、標的血管関連の心筋梗塞、虚血による標的病変の再血行再建術の複合)とし、ITT解析を行った。両群の絶対リスク差の両側95%信頼区間(CI)の上限値が4.2%未満の場合に、非劣性と判定することとした。ランドマーク解析の結果は有意に良好 全体の年齢中央値は69.5歳(四分位範囲[IQR]:61.2~75.6)、575例(24.0%)が女性であった。急性冠症候群が1,838例(76.6%)含まれた。デバイス留置の成功率は、bioadaptor群が99.5%(1,411/1,417病変)、DES群は99.8%(1,429/1,431病変)であり、手技成功率はそれぞれ99.6%(1,193/1,199例)および99.9%(1,193/1,195例)だった。 12ヵ月時の標的病変不全の発生率は、bioadaptor群が2.4%(28/1,189例)、DES群は2.8%(33/1,192例)であり、両群のリスク差は-0.41%(95%CI:-1.94~1.11)と、DES群に対するbioadaptor群の非劣性の基準が満たされた(非劣性のp<0.0001)。 一方、事前に規定された6ヵ月の時点から12ヵ月時までのランドマーク解析では、Kaplan-Meier法による標的病変不全推定値は、DES群の1.7%(16/1,176例)に対し、bioadaptor群は0.3%(3/1,170例)と有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.19、95%CI:0.06~0.65、p=0.0079)。 また、同様の解析による標的血管不全(心血管死、標的血管関連の心筋梗塞、虚血による標的血管の再血行再建術の複合)(bioadaptor群0.8%[8/1,167例]vs.DES群2.5%[23/1,174例]、HR:0.35[95%CI:0.16~0.79]、p=0.011)、および急性冠症候群患者における標的病変不全(0.3%[2/906例]vs.1.8%[12/895例]、0.17[0.04~0.74]、p=0.018)も、bioadaptor群で有意に優れた。デバイス血栓症の発生率は低い 安全性のアウトカムであるdefiniteまたはprobableのデバイス血栓症の発生率は低く、両群間に差はなかった(bioadaptor群0.7%[8/1,201例]vs.DES群0.5%[6/1,198例]、イベント発生率の群間差:0.16%[95%CI:-0.50~0.83])。 著者は、「これまでに得られたエビデンスに基づくと、この新デバイスはステント関連イベントの発生を軽減可能であるとともに、de novo病変患者の治療選択肢として有望視されるものであり、今後、長期の追跡を行って確認する必要がある」としている。

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急性白血病の発症時点でさまざまな眼科所見が観察される

 急性白血病の発症時点において、多彩な眼科所見が認められるとする、マンスーラ大学(エジプト)のDina N. Laimon氏らの論文が「Annals of Hematology」に7月10日掲載された。特に、網膜出血やロート斑が高頻度に認められるという。 白血病では、白血病細胞による眼組織の直接浸潤、血球減少や白血球増多などの血液学的異常、あるいは化学療法や免疫抑制療法により、眼球およびその付属器に多彩な所見が現れるが、そういった所見の出現率に関するデータは少ない。Laimon氏らは2022年1月~2023年2月に、急性骨髄性白血病(AML)または急性リンパ性白血病(ALL)と新規診断された患者の眼科所見の出現率を詳細に検討した。 解析対象患者数は222人で平均年齢が43.45±17.35歳、男性61.7%であり、AMLが144人(64.9%)、ALLが78人(35.1%)だった。研究登録以前から眼疾患のある患者は除外されている。 全体で96人(43.2%)に眼科所見が認められ、そのうち4人(1.8%)は視力を喪失していた。出現率の高い所見は網膜出血(19.8%)とロート斑(17.1%)であり、そのほかに、眼瞼腫脹(4.1%)、眼瞼の斑状出血(3.2%)、眼瞼下垂(1.8%)、兎眼(0.5%)、結膜下出血(5.9%)、結膜浮腫(0.9%)、網膜静脈のうっ血・蛇行(4.1%)、網膜前出血(3.2%)、硝子体出血(3.2%)、黄斑症(2.3%)、網膜浸潤(1.8%)、滲出性網膜剥離(1.8%)、軟性白斑(0.9%)、網膜静脈閉塞(0.5%)、乳頭浮腫(2.8%)、視神経乳頭浸潤(1.8%)、視神経乳頭蒼白(1.8%)、眼窩病変(3.2%)、眼球運動障害(1.4%)などが認められた。 AMLとALLを比較した場合、何らかの所見を有する割合はAMLの方が高く(50.0対30.8%〔P=0.028〕)、所見別に見ても、網膜出血(25.7対9.0%〔P=0.003〕)、ロート斑(20.8対10.3%〔P=0.046〕)の出現率に有意差があった。 眼科所見と血液学的パラメータとの関連を検討すると、網膜出血はヘモグロビン低値(P=0.021)や中枢神経浸潤発生率の低下(P=0.021)と関連しており、また予後リスクが中リスクまたは高リスクの患者が多かった(P=0.002)。眼瞼の斑状出血は中枢神経浸潤(P=0.045)と関連しており、網膜浸潤(P=0.006)や滲出性網膜剥離(P=0.001)は芽球割合が高いことと関連していた。その一方、眼瞼下垂は芽球割合の低さと関連していた(P=0.04)。 Laimon氏らは、「血液がん患者の眼病変の検出や管理において、眼科医と血液腫瘍医の協力が極めて重要である。また、これらの患者の予後、特に生命予後との関連を明らかにするため、より大規模なコホートでの研究が求められる」と述べている。

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米国成人の10人に6人は炎症誘発性の食生活

 米国成人の多くが、炎症を引き起こす食生活を送っていて、そのことが、がんや心臓病、その他の深刻な健康リスクを押し上げている可能性のあることが報告された。米オハイオ州立大学のRachel Meadows氏らの研究によるもので、詳細は「Public Health Nutrition」に9月27日掲載された。論文の筆頭著者である同氏によると、「米国の成人の57%が炎症を起こしやすい食生活を送っており、その割合は男性、若年者、黒人、教育歴が短い人、収入の低い人でより高かった」という。 Meadows氏らの研究には、2005~2018年の米国国民健康栄養調査(NHANES)に参加した20歳以上の成人3万4,547人(平均年齢47.8歳、女性51.3%)のデータが用いられた。NHANESでは、過去24時間以内に摂取したものを思い出すという方法により食習慣が把握されており、その結果に基づき、エネルギー調整食事性炎症指数(energy-adjusted dietary inflammatory index;E-DII)を算出した。 E-DIIは、n-3系脂肪酸、フラボノイド、アルコール飲料、ニンニクなど、45種類の食品や栄養素の摂取量を元に算出される。結果は-9~+8の範囲にスコア化され、0未満は炎症を抑制する食事、0超は炎症を誘発する食事であることを意味する。Meadows氏は、「食事療法に際して一般的に、果物や野菜、乳製品などの食品群の摂取量、または摂取エネルギー量、脂質・タンパク質・炭水化物摂取量に基づく指導介入が行われる。しかし、炎症という視点で評価することも重要だ」と述べている。 解析対象者のE-DIIは平均0.44(95%信頼区間0.39~0.49)と0を上回り、米国成人は全体的に炎症を誘発しやすい食生活を送っていることが示された。また、全体の57%は炎症誘発性の食生活、34%は抗炎症性の食生活であり、9%はニュートラルな食生活であることが分かった。 この結果についてMeadows氏は、食事の全体的なバランスの重要性を強調し、「果物や野菜をたくさん食べていたとしても、アルコールや赤肉を取り過ぎていれば、全体的な食生活は炎症誘発性に傾いている可能性がある。健康増進の手段として、抗炎症作用のある食品に着目してほしい」と語っている。同氏によると、「ニンニク、ショウガ、ウコン、緑茶、紅茶などが抗炎症作用を有している」という。ほかにも、全粒穀物、緑黄色野菜、サーモンなどの脂肪分の多い魚、豆類、ベリー類などが抗炎症作用のある食品とされており、これらはいずれも、健康的な食事スタイルとして知られる地中海食で、積極的に摂取される食品でもある。 抗炎症性の食生活に変えることの利点としてMeadows氏は、「糖尿病、心血管疾患、さらにはうつ病やその他の精神疾患を含む、多くの慢性疾患に良い影響を与える可能性がある」と解説。また、「慢性炎症を引き起こす要因は数多くあり、それらは全て相互に影響し合っている。睡眠に問題があることも重要な要素の一つだ。それらに対抗する手段として日々の食事を活用できる」としている。

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セマグルチドで肥満のある変形性膝関節症患者の体重減少と変形性関節炎の痛みが改善するが、副作用に関する懸念が残る(解説:名郷 直樹氏)

 BMIが30を超える肥満の変形性膝関節症患者を対象にGLP1受容体アゴニスト、セマグルチドとプラセボを比較し、68週後の体重と痛みの変化を1次アウトカムにしたランダム化比較試験である1)。 体重変化について、セマグルチド群で体重減少が10.5%多く、95%信頼区間(CI)が12.3~8.6%、痛みの改善について100点満点の痛みのスコアで14.1点、95%CIで20~8.3と改善の幅が大きいことが報告されている。 61のサイトから407例が登録されているが、1施設当たりの患者数が7例以下と少なく、施設の違いが大きな交絡因子になる可能性がある。またランダム化が偶然の影響を受けやすいかもしれない。ただ、この研究では6例を単位としたブロックランダム化を採用しており、偶然の影響に対する対応がなされてはいる。しかし、実際患者背景を見ると、女性の割合や人種構成に差があり、BMIが40以上の割合がセマグルチド群で多く、喘息患者がプラセボ群で2倍というように、かなりの違いが認められる。数百人規模の試験であるために、患者背景が十分にそろっておらず、偶然の影響による交絡因子の排除に問題がある可能性が高い。 また、論文の抄録や本文において、重大な副作用に差はないと書かれているが、セマグルチド群でがんや胆道系疾患が多い傾向にある。がんについては、消化管のがんのリスク増加は認められないというメタ分析がある2)。ただ、他のがんやがん全体に関しての研究は乏しい。今後の大規模な観察研究やメタ分析の結果によっては、がんのリスク増加が報告されるかもしれない。また胆道系疾患に関しては、リスクを増すとのメタ分析も報告されており3)、注意が必要だろう。 数百人規模の研究では、数千人、数万人単位での重要な副作用を検出することはできない。さらに一般的に言えば、有効性を評価するためのランダム化比較試験は基本的にまれな副作用を検討できないということである。第III相の治験論文において、「効果と安全性が確認された」と結論に書かれる論文が多いが、有効性が統計学的に確認されたとしても、安全性の確認は不十分であるというのが妥当な結論だろう。このことからすれば、400例という単位で体重変化や痛みに対する効果が認められたとしても、安全性にはまだ懸念があるというのが現状だと思われる。 また、この論文を実際の個別の患者に適用するに当たっては、BMI40以上が40%を占める集団に対して行われた研究であることは十分考慮すべき事項だろう。日本の肥満に対する感覚はある面異常で、BMI25でも肥満というような極端な認識があり、薬剤による無用な減量によってかえって健康を害するというリスクもあるかもしれない。軽度の肥満者に対しては、効果が小さくなる可能性は高く、その分副作用とのバランスに、より配慮すべきであることも重要な視点だろう。

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11月12日 皮膚の日【今日は何の日?】

【11月12日 皮膚の日】〔由来〕日本臨床皮膚科医会が、11月12日(いい・ひふ)の語呂合わせから1989年に制定。日本皮膚科学会と協力し、皮膚についての正しい知識の普及や皮膚科専門医療に対する理解を深めるための啓発活動を実施している。毎年この日の前後の時期に一般の方々を対象に、講演会や皮膚検診、相談会行事を全国的に展開している。関連コンテンツ事例008 蕁麻疹にダイアコート軟膏の処方で査定【斬らレセプト シーズン4】軟膏じゃなかった【Dr.デルぽんの診察室観察日記】かゆみが続く慢性掻痒【患者説明用スライド】妊娠中の魚油摂取、出生児のアトピー性皮膚炎リスクは低減する?アトピー性皮膚炎へのデュピルマブ、5年有効性・安全性は?蕁麻疹の診断後1年、がん罹患リスク49%増

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レカネマブかドナネマブか?【外来で役立つ!認知症Topics】第23回

アルツハイマー病治療における新たな選択肢わが国でアルツハイマー病(AD)の疾患修飾薬として認可されたレカネマブとドナネマブのどっちがいい? 今日、これがAD治療の最前線の話題かもしれない。両者は、ADの原因物質とされてきたアミロイドを標的とする抗アミロイドβモノクローナル抗体である(図1)。図1 抗アミロイドβモノクローナル抗体が作用する仕組み画像を拡大する開発中のAD治療薬:ターゲットの新潮流ところが今日では、ADの新薬開発における主流は、このアミロイド、あるいはもう一つの老舗物質のタウから、ほかのターゲットへと移ってきている。たとえば炎症や免疫、またシナプスの可塑性と神経保護などへの薬である。とはいえ、「アルツハイマー病治療薬開発のPipeline:2024」1)が指摘するように、この種の薬剤が米国食品医薬品局に承認されるまでに、うまくいっても、基礎研究を入れると13年、臨床研究で8年弱かかる。だから当面はアミロイドとタウを標的とする薬剤の効果的な使い方が臨床現場の最大課題になるだろう。歴史的にみると、本疾患の名付け親のアロイス・アルツハイマー博士は、看取ったアウグステという女性の若年性AD患者の死後、脳を剖検した。その結果、この疾患の主要な病理所見は、アミロイドを主成分とする老人斑とタウが主成分の神経原線維変化(NFT)だとした。以来、治療薬開発においてアミロイドとタウが主流にあった。なおAD脳では、老人斑が出現した後に神経原線維変化が現れる。だから理論的には、病初期にアミロイドを消滅させればNFTも生じないはずである。ところが従来の研究的治療では、アミロイドを消してもADは進行した。どうもアミロイドはこの病気の火付け役であって、ほかにも悪役達がいると考えられるようになった。だから炎症や免疫、シナプスの可塑性や神経保護等に注目する創薬へシフトしたと言うこともできる。レカネマブとドナネマブの比較ポイントさて本題のレカネマブかドナネマブかを論じるうえでのポイントは、まずは効果、そして最大の副作用ARIA(脳血管周囲の浮腫と出血)の発生率だろう。またいずれも医療機関で点滴投与するだけに、投与頻度は大きな問題である。さらに作用機序の異同に注目する人も多い。効果の指標は、図2のように症状の軽減率と病気進行を遅らせる期間に要約されるだろう。レカネマブでは軽減率27%、期間7.5ヵ月2)、またドナネマブでは28.9%、5.4ヵ月3)とされる。ほぼ互角といってよい。副作用ARIAは、レカネマブで脳の浮腫や滲出液貯留(ARIA-E)が12.6%、微小出血(ARIA-H)が17.3%認められた。ドナネマブではARIA-Eが24.0%、ARIA-Hは31.4%であった。これについてはレカネマブが優れているかもしれない。投与方法はいずれも点滴であり、前者は2週間に1度、後者は4週間に1度である。これについて多くの人はドナネマブを好むだろう。図2 効果の指標:症状の軽減率と病気進行を遅らせる期間画像を拡大するアミロイドβターゲットの違いレカネマブとドナネマブのターゲットの違いは図3のとおりだ。アミロイド、とくにアミロイドβは、初めは小さなかたまり(凝集体)だが、だんだんと大きな老人斑へと成長する。かたまりの大きさに応じて、モノマーとかオリゴマーなど「プロトフィブリル」と総称される初期の段階を経て、最終的に老人斑として沈着する。レカネマブはプロトフィブリルと、より大きなアミロイド斑とに結合するとされる。一方ドナネマブは、脳に沈着後にある程度の時間が経ち「ピログルタミル化」という修飾がなされたアミロイド斑に選択的に結合する。図3 レカネマブとドナネマブのターゲット画像を拡大するさて、アミロイドが神経細胞に対して持つ毒性は、老人斑にあるのではない。その比較的初期の段階に最も毒性が強いとされる。それならレカネマブのほうがより効果は強いのではないかと思える。ところが実際には、効果はまあ互角である。これに関しては、臨床の場では、まだ知られていない作用や効果の関与があるのかもしれない。今後のAD治療の展望終わりに、AD治療薬の開発もその普及も容易ではない。たとえば、ドネペジルに先んじて1993年にAD治療薬の嚆矢となったコリンエステラーゼ阻害薬tacrineは肝毒性のためすぐに発売後すぐに市場から消えた。また世界初の疾患修飾薬aducanumabは、2024年1月31日、製造も治験も中止になってしまった。これからのAD治療において、疾患修飾薬への一辺倒にはならないだろうと思う。実際、両方の薬剤の治験では、ドネペジルなど既存の対症療法薬も併用されたケースが多かった。既存薬は残存神経細胞にいわば「喝!」を入れ、疾患修飾薬は病気の進行に「歯止め」をかけるものだろう。だから基本方針は、対症療法と病気進行阻止の両者を併用することだろう。心配される併用による副作用だが、両薬剤の治験において、そのような副作用は聞いていない。今後は、臨床の場では、併用による相乗効果をもたらすような投与法のさじ加減が注目されるだろう。参考1)Cummings J, et al. Alzheimer's disease drug development pipeline: 2024. Alzheimer's disease drug development pipeline: 2024. Alzheimers Dement (N Y) . 2024;10:e12465.2)van Dyck CH, et al. Lecanemab in Early Alzheimer's Disease. N Engl J Med. 2023;388:9-21.3)Sims JR, et al. Donanemab in Early Symptomatic Alzheimer Disease: The TRAILBLAZER-ALZ 2 Randomized Clinical Trial. JAMA. 2023;330:512-527.

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英語で「念のために」は?【1分★医療英語】第156回

第156回 英語で「念のために」は?《例文1》Let's give it another week, just to be on the safe side.(念のため、もう1週間様子を見ましょう)《例文2》I need to take an X-ray, just to be on the safe side and make sure there's no fracture.(念のため、骨折がないか確認するのにレントゲンを撮りたいと思います)《解説》“just to be on the safe side”は直訳すると「安全な側にいるようにするために」となり、「起こりうる問題を避けるために何かをする」というニュアンスを表現する言葉です。医療現場で、見逃すと致死的になる疾患などを除外するため検査を行いたいときなどによく使う表現です。「念のために」を表すほかの表現としては、“just in case”や“just to be sure”などといったフレーズがあります。安全策のために、本来行うべきことよりも過剰に検査や治療を行うことを表す表現としては、“to make sure we are not missing anything”(何か見落としがないか確認するために)や、“I’d rather be safe than sorry.”(後悔するくらいなら安全策を取るべきです)などがあります。講師紹介

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