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対象論文【NEJM】Heterologous ChAdOx1 nCoV-19 and mRNA-1273 Vaccinationハイブリッド・ワクチンの原型-Gam-COVID-Vac(Sputnik V) priming(1回目接種)とbooster(2回目接種)に異なるワクチンを使用する方法は“異種ワクチン混在接種(heterologous prime-boost vaccine)”と呼称されるが、本論評では理解を容易にするため“ハイブリッド・ワクチン接種”と命名する。この特殊な接種に使用されるワクチンの原型は、adenovirus(Ad)-vectored vaccineとして開発されたロシアのGam-COVID-Vac(Sputnik V)である(山口. CareNet 論評-1366)。Gam-COVID-Vacでは、priming時にヒトAd5型を、booster時にはヒトAd26型をベクターとして用いS蛋白に関する遺伝子情報を生体に導入する特殊な方法が採用された。ChAdOx1(AstraZeneca)など同種のAdを用いたワクチンでは1回目のワクチン接種後にベクターであるAdに対する中和抗体が生体内で形成され、2回目ワクチン接種後にはAdに対する中和抗体価がさらに上昇する(Ramasamy MN, et al. Lancet. 2021;396:1979-1993.、Stephenson KE, et al. JAMA. 2021;325:1535-1544.)。そのため、同種Adワクチンでは2回目のワクチン接種時にS蛋白に対する遺伝子情報の生体導入効率が低下、液性/細胞性免疫に対するbooster効果の発現が抑制される。一方、1回目と2回目のワクチン接種時に異なるAdをベクターとして用いるハイブリッドAdワクチンでは2回目のワクチン接種時のS蛋白遺伝子情報の生体への導入効率は同種Adワクチンの場合ほど抑制されず、ハイブリッドAdワクチンの予防効果は同種Adワクチンよりも高いものと考えられる。実際、従来株に対する発症予防効果は、ハイブリッドAdワクチンであるGam-COVID-Vacで91.1%(Logunov DY, et al. Lancet. 2021;397:671-681.)、同種AdワクチンであるChAdOx1で51.1%(ワクチンの接種間隔:6週以内)、あるいは、81.3%(ワクチン接種間隔:12週以上)であり(Voysey M, et al. Lancet. 2021;397:881-891.)、同種Adワクチン接種に比べハイブリッドAdワクチン接種のほうがウイルスに対する予防効果が高いことが示されている。Ad-vectored ChAdOx1とRNAワクチンによるハイブリッド・ワクチン 以上のような結果を踏まえ、ChAdOx1の使用量が多い欧州諸国(ドイツ、フランス、スウェーデン、ノルウェー、デンマークなど)ではprimingのための1回目接種時にChAdOx1を用い2回目接種時にはより高いbooster効果を得るためにRNAワクチンを用いる方法が模索されている(European Centre for Disease Prevention and Control. 2021年5月18日)。本論評では、Normark氏らの論文ならびにBorobia氏らの論文を基に、ChAdOx1にmRNA-1273(Moderna)、あるいは、ChAdOx1にBNT162b2(Pfizer)を追加するハイブリッド・ワクチン接種時の液性免疫、細胞性免疫の動態について検証する。 Normark氏らは、スウェーデンで分離されたコロナ原株とbeta株(南アフリカ株、B.1.351)における中和抗体価を、ChAdOx1を2回接種する同種ワクチン接種の場合と1回目ChAdOx1(priming)、2回目mRNA-1273(booster)を接種するハイブリッド・ワクチン接種の場合について検討した。ChAdOx1の同種ワクチン接種における原株に対する中和抗体価は2回目接種後に2倍増強、しかしながら、beta株に対する中和抗体価には有意な上昇を認めなかった。一方、ハイブリッド・ワクチン接種では、原株に対する中和抗体価が20倍増強、beta株に対する中和抗体価も原株に対するほどではないものの有意に上昇した。以上の結果は、ChAdOx1の同種ワクチン接種に比べChAdOx1にmRNA-1273を追加するハイブリッド・ワクチン接種のほうが液性免疫の面からはより優れた方法であることを示唆する。delta株(インド株、B.1.617.2)に対する検討はなされていないが、beta株とdelta株の液性免疫回避作用には著明な差が存在しないので(Wall EC, et al. Lancet. 2021;397:2331-2333.)、Normark氏らの結果はdelta株にも当てはまるものと考えてよいだろう。残念なことに、Normark氏らは、ハイブリッド・ワクチン接種におけるT細胞由来の細胞性免疫の動態については解析していない。 Borobia氏らは、primingのための1回目にChAdOx1、boosterのための2回目にBNT162b2を接種するハイブリッド・ワクチンを使用し、液性免疫(RBDに対する特異的IgG抗体、S蛋白に対する特異的IgG抗体、中和抗体)、IFN-γを指標とした細胞性免疫の推移を観察した(CombiVacS Study)。対照群としてChAdOx1を1回接種した症例を設定しているためChAdOx1同種ワクチン接種とChAdOx1とBNT162b2によるハイブリッド・ワクチン接種の差を検出できない、中和抗体もいかなるウイルス株に対するものなのかが判然としない、などの問題点を有する論文であるが、ハイブリッド・ワクチン接種群ではRBD特異的IgG抗体、中和抗体、細胞性免疫の上昇が確認された。文献的にChAdOx1同種ワクチン接種の場合、1回目接種後にT細胞性反応は上昇するが2回目接種後にはさらなる上昇を認めないことが報告されている(Folegatti PM, et al. Lancet. 2020;396:467-478.)。それ故、Normark氏らの論文とBorobia氏らの論文を併せ考えると、ChAdOx1とRNAワクチンを組み合わせたハイブリッド・ワクチン接種は、ChAdOx1のみを使用した同種ワクチン接種よりも液性免疫、細胞性免疫の両面で優れているものと考えられる。 現時点では、Ad-vectored ChAdOx1とRNAワクチンを組み合わせたハイブリッド・ワクチン接種とRNAワクチンの同種2回接種による予防効果を直接比較・検討した臨床試験は存在しない。それ故、変異株を含めたコロナ感染症に対する臨床的予防効果が両者において差が存在するかどうかに関しては今後の検討課題である。ハイブリッド・ワクチンの医療経済的効果 ワクチンの2回接種に必要な費用は、RNAワクチンに比べChAdOx1では5~10倍安い。PfizerのRNAワクチンは37~39ドル、ModernaのRNAワクチンは30~74ドル、AstraZenecaのChAdOx1は6~8ドルである(So AD, et al. BMJ. 2020;371:m4750.)。すなわち、ChAdOx1を基礎としたハイブリッド・ワクチン接種は、RNAワクチン2回接種に比べワクチン確保に必要な費用を下げるという医療経済的効果を有する。コロナ感染症がいつまで続くかが見通せない現在、また、変異株抑制のために3回目のワクチン接種が必要になる可能性が指摘されている現在(Wu K, et al. medRxiv. 2021 May 6.)、ワクチン確保のために費やされる世界各国の出費はさらに膨大なものになることが予想される。それ故、医学的側面に加え医療経済的側面からも今後のワクチン行政を考えていく必要があるものと論評者らは考えている。