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妊娠高血圧腎症pre-eclampsiaとメトホルミン(解説:住谷哲氏)

 筆者は内科医で産科は専門外なのではじめに用語を整理したい。2018年に発表された日本産科婦人科学会の「妊娠高血圧症候群の定義分類」によると、「妊娠時に高血圧を認めた場合、妊娠高血圧症候群とする。妊娠高血圧症候群は妊娠高血圧腎症、妊娠高血圧、加重型妊娠高血圧腎症、高血圧合併妊娠に分類される」とあり、病型分類から子癇eclampsiaを除外し、高血圧に母体の臓器障害や子宮胎盤機能不全を認める場合は蛋白尿がなくても妊娠高血圧腎症とする、とされている。妊娠高血圧腎症が以前の妊娠中毒症であり、本論文のpre-eclampsiaと同一概念である。HELLP(Hemolysis, Elevated Liver enzymes, and Low Platelet count)症候群のような腎症を伴わない病態を妊娠高血圧腎症の訳語に含めるのは何となく違和感があるが、本稿でもpre-eclampsiaの訳語として妊娠高血圧腎症を使用する。 妊娠高血圧腎症の病態は現在も明らかではないが、何らかの胎盤機能異常が存在するとされている。胎盤機能異常があるので、最も確実な治療法は分娩または中絶による妊娠終了であるが現実的には妊娠継続を選択する場合がほとんどである。妊娠高血圧腎症の高リスク妊婦に対する低用量アスピリン投与が発症予防に有効であるとのエビデンスがあるが、発症した妊娠高血圧腎症に対する治療薬は現在存在しない。そこでこれまで、drug-repurposingの観点から、プラバスタチン、プロトンポンプ阻害薬、それとメトホルミンなどの投与が試みられてきた。本論文はメトホルミンの有効性を検証するためのproof-of-concept trialである。 対象は糖尿病のない、妊娠26週0日から31週6日の間に妊娠高血圧腎症と診断された妊婦(preterm pre-eclampsia)180人であり、プラセボおよびメトホルミン(徐放性メトホルミン3g/日 分3)が分娩まで入院下において投与された。主要評価項目はランダム化から分娩までの期間中央値とした。結果は、メトホルミン投与群で期間中央値が7.6日延長したが統計学的有意差はなかった(P=0.057)。しかし試験前に設定されたper-protocol analysisでは、分娩までメトホルミンの服薬を継続した患者においてはプラセボ群に比較して有意に延長していた。有害事象としてはメトホルミン投与群で下痢が有意に高頻度であった。 proof-of-concept試験であるから、妊娠高血圧腎症に対するメトホルミンの有効性が証明されるには大規模な臨床試験が必要である。しかし、妊娠高血圧腎症の妊婦に対してメトホルミン3.0gが投与される臨床試験が実施されたことは、妊婦に対するメトホルミンの安全性がもはや常識になりつつあることを示しているように思われる。

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英語で「体調が悪い」は?【1分★医療英語】第4回

第4回 英語で「体調が悪い」は?How are you feeling today?(今日の体調はいかがですか?)I’m feeling under the weather today.(今日は体調が悪いです)《例文1》He seems a bit under the weather today.(彼は今日、少し体調が悪そうだ)《例文2》I’ve been feeling under the weather for a couple of weeks.(ここ数週間、体調が優れないです)《解説》“under the weather”は「体調が優れない」という意味のイディオムです。睡眠不足、二日酔い、おなかを壊している、などちょっとした体調不良のときに使用する表現で、重い病気に対して使うことは少なく、大きな問題にならないほどの具合の悪さを表します。患者から聞くこともありますが、医師同士や友人との会話でもしばしば登場する表現です。由来は諸説ありますが、一説では、「天気の悪い日には船乗りが船酔いするため、悪天候を避けるためにデッキの下に行って休んだことから来ている」といわれています。ほかの表現としては、“sick/ill”などがあります。日本人には聞き慣れない表現としては“I’m in bad shape”という表現も使います。shapeは「形」以外にも「健康状態や調子」を意味し、“in bad shape”は「体調不良」という意味になります。講師紹介

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第88回 オミクロン株のスパイクタンパク質の抗体認識領域はどれも変異している

先週金曜日26日、南アフリカから24日に世界保健機関(WHO)に初めて報告された心配な新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)変異株B.1.1.529がオミクロン(Omicron)株と命名されました1)。南アフリカでのこれまでの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行の波は3回あり、直近の第3波は主にデルタ株が担いました。オミクロン株が認められた検体の最初の採取日は26日時点で知られている限り今月上旬の9日で、同国ではその検出と時を同じくしてここ数週間SARS-CoV-2感染が急増しています。オミクロン株はやけに多くの変異を有し、これまでの変異株に比べて再感染しやすいようです1)。渡航制限にもかかわらず世界にすでに広がっており、29日のReutersのニュースによると南アフリカに加えてオーストリア、ベルギー、ボツワナ、英国、デンマーク、ドイツ、香港、イスラエル、イタリア、オランダで検出されています2)。オミクロン株が憂慮されるのはなぜかというと、COVID-19研究で名を馳せた英国の大学インペリアル・カレッジ・ロンドンの専門家によればスパイクタンパク質のこれまでに知られている抗原部分のどうやらすべてに変異を有しているからです3)。ワクチンに応じて作られる抗体はSARS-CoV-2スパイクタンパク質の随所の抗原領域に取り付き、ウイルスの細胞侵入を阻止して感染や発病を防ぎます。ウイルスが抗体一揃いを回避する変異1つを獲得したとしてもたいていは他の抗体一揃いの働きで依然として感染を防ぐことができます。抗体は変異に対応しうる余力をそのように常に残しています。しかしオミクロン株のスパイクタンパク質の抗原領域はどこもかしこもすべて変異しているらしく、抗体のかなりがオミクロン株スパイクタンパク質の認識には苦労しそうです。ゆえに、現在普及しているワクチンはオミクロン株に手こずるかもしれません。ただし、まったく歯が立たないのかそれとも苦戦するとはいえ勝てる相手なのかはまだわかりません。オミクロン株のスパイクタンパク質のフリン切断領域の変異も心配です。それらの変異は感染をより広まりやすくすることと関連し、デルタ株もその領域に非常に手強い変異を有しています。また、細胞のACE2受容体にスパイクタンパク質を結合しやすくする変異もオミクロン株は有します。その変異はアルファ株の広まりやすさに貢献したことで知られます。スパイクタンパク質以外の核タンパク質等にもオミクロン株は心配な変異を有します。それらの変異はウイルス粒子内のゲノムの組み立てや収納を捗らせて免疫反応に打ち勝てるようにするようです。WHOも把握している通り南アフリカでオミクロン株はデルタ株を急速に凌駕して感染者数を増やしていることが伺え、おそらく横溢(fit)で伝播可能であり、現在のワクチンや先立つ感染経験で確立した免疫の少なくとも幾らかは回避できるようです。オミクロン株感染の特徴免疫を回避して生じたオミクロン株感染がより重病を招くかどうかは不明ですが、幸いにも南アフリカの感染者はいまのところ軽症で済んでいます。新参のSARS-CoV-2感染を早くに察した南アフリカの医師の一人Angelique Coetzee氏が治療したオミクロン株感染者はいたって軽症であり、外科的処置が必要になったことはなく、自宅で治療できています4)。デルタ株感染とは違ってオミクロン株感染者は匂いや味の消失を被っておらず、酸素レベルの大幅な低下も認められていません。最も目立つ症状は1日か2日の極度の疲労感で、頭痛やその他の痛みを伴います。Coetzee氏が治療したオミクロン株感染症患者のおよそ半数はワクチンを接種していませんでした。南アフリカではわずかに4人に1人ほどしかワクチン接種が済んでいません5)。流通の不手際に加えてワクチン接種忌避や無関心が同国でのワクチンの普及を妨げています。流行第4波の火種となりうるオミクロン株感染増加を背景にして南アフリカの大統領Cyril Ramaphosa氏は一定条件でのCOVID-19ワクチン接種義務化を検討しています5)。オミクロン株とワクチン開発オミクロン株に対応するようにワクチンの手直しが必要かどうかを決める更なるデータが早ければ来月初めには揃い、必要とあらば修正済みの新たなワクチンを100日もあれば出荷しうるとの見解をPfizer(ファイザー)/BioNTech(ビオンテック)が先週金曜日に発表しました6)。Moderna(モデルナ)も対応を始めており、オミクロン株に特化したワクチンmRNA-1273.529の開発を急いで進める予定です7)。また、先立って試験が進む変異株向けのワクチンmRNA-1273.211やmRNA-1273.213、それに世界で使用されている認可済みのmRNA-1273の高用量投与がオミクロンに有効かどうかの検討も進めます。AstraZeneca(アストラゼネカ)も同様にオミクロン株のワクチンや抗体治療への影響を調べています8)。参考1)Classification of Omicron (B.1.1.529): SARS-CoV-2 Variant of Concern / WHO2)Omicron variant detected in more countries as scientists race to find answers / Reuters3)Q&A: Imperial experts discuss new variant B.1.1.529 / Imperial College London4)South African doctor says patients with Omicron variant have "very mild" symptoms / Reuters5)South Africa mulling compulsory COVID-19 jabs for some places, activities / Reuters6)Pfizer/BioNTech, Moderna expect data on shot's protection against new COVID-19 variant soon / Reuters7)Moderna Announces Strategy to Address Omicron (B.1.1.529) SARS-CoV-2 Variant / BUSINESS WIRE8)AstraZeneca examining impact of new COVID variant on vaccine, antibody cocktail/ Reuters

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ワクチン接種の目的は“次世代の健康”/EFPIA Japan

 EFPIA(欧州製薬団体連合会)Japanは、2021年11月22日に感染症領域のエキスパートである岡部 信彦氏(川崎市健康安全研究所 所長)を講師に迎え、ワクチンに関するオンラインプレスセミナーを開催した。セミナーでは、ワクチンが人類に果たしてきた役割について、その軌跡をたどるとともに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の盾を担うmRNAワクチンにも触れて講演が行われた。ワクチンギャップは解消しつつある日本 岡部氏を講師に「生涯を通じての感染症予防(Life Course Immunization)-COVID-19の経験を含めて-」をテーマにレクチャーが行われた。 はじめに予防接種の歴史について振り返り、天然痘の予防としてわが国では江戸時代末期から種痘が行われたこと、その際に種痘後にお土産を渡すなど予防接種へのインセンティブをもたらす取り組みがこの時代から行われていたことを現代のCOVID-19ワクチン接種の現状と重ねて説明した。 次に戦後のわが国の予防接種制度と社会状況の変化との関連について振り返り、その時代時代と予防接種は強い関係にあると説明した。現在、日本で接種できるワクチンは定時/臨時接種で21種類、任意接種で10種類、計31種類の接種ができ、世界から遅れていたワクチンギャップも解消に向かいつつあるという(2021年9月現在)。また、近年では「院内感染対策としてのワクチンガイドライン」(日本環境感染学会)や「医療関係者のためのワクチンガイドライン」(同学会)も整備され、医療者の感染予防と他者への感染源とならないための予防などの指針も整備されていると解説を行った。子供がかかる感染症に大人がかかるとリスクが上がる 次にCOVID-19を例にとり、現在までのクラスターの発生状況を振り返った上で、「ワクチン接種のターゲットとして、まず医療機関が守られることであり、医療が動くことが重要」と述べ、ワクチンのポリシーとしては「死亡者を出さないことが大事だ」と語った。 次に大人がかかる子供の感染症について解説を行った。 大人がかかるとリスクが高い感染症として、「水ぼうそう」「はしか」「おたふくかぜ」「ポリオ」「手足口病」「伝染性紅斑」「百日咳」などを代表感染症に挙げ、沖縄県で起こった麻疹のクラスター、近年の風疹のクラスターについて解説。いずれもワクチン接種をしていない、接種不明や1回のみ接種などで抗体ができていない大人が感染し、拡大させていたことを報告した。大人でもワクチンを接種しておけばクラスターを予防できた可能性を述べるとともに、社会的事象としておたふくかぜと難聴の関係、大規模災害と破傷風の流行なども示し、ワクチンの重要性を強調した。これからのワクチン接種で大切な“ISRR” 予防接種の目的は、「感染症罹患予防」「個人の健康保持」「次世代の健康を守る」「社会を守る」「感染症の制圧・根絶」「がんの予防」などさまざまな目的があることを示し、とくに「次世代の健康を守る」「社会を守る」ことが重要だと同氏は語る。また、COVID-19ワクチンとして現在広く接種されているmRNAワクチンについても触れ、開発は過去の研究から積み重ねられて製作されたこと、新しいものを含めワクチンの接種では、感染症患者、健康被害者、健康な人のどこに視点をおいて守るかにより接種機会は変わってくることを説明し、ワクチンの接種では、「いつも接種のメリットとデメリットを衡量することが重要」と同氏は指摘した。また、最近ワクチン接種で注目されているトピックスとして、予防接種ストレス関連反応(Immunization stress related response:ISRR)について触れ、「接種時に医療者はISRRも考慮し、丁寧な説明、接種手技、科学的・医学的対応をする必要がある」と警鐘を鳴らした。 最後に同氏は成人のワクチンの課題として、「効果・安全性に関する説明法やその内容、費用の負担、接種への動機付けなどがある」と指摘し、「ワクチンの安全性を高めるためにも医療者も被接種者も『焦らない・慌てない・数を競わない』ようにしてほしい」と結びレクチャーを終えた。

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ロルラチニブがALK陽性肺がんの1次治療に追加承認/ファイザー

 ファイザーは、2021年11月25日、第3世代ALK-TKIロルラチニブ(製品名:ローブレナ)が「ALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺」(以下、ALK陽性肺がん)の治療薬として、医薬品製造販売承認事項一部変更承認申請の承認を取得したと発表。ロルラチニブは米国でも同様の適応症で2021年3月に承認を取得 今回のロルラチニブの承認は、未治療のALK陽性肺がんを対象とした第III相試験CROWN試験の結果に基づくもの。 この承認取得により、ロルラチニブは、ALK陽性肺がんの2次治療以降だけでなく、1次治療薬としても使用することが可能となる。 米国においてもロルラチニブは同様の適応症で2021年3月に承認を取得している。ロルラチニブは、2018年9月に世界に先駆けて日本で「ALKチロシンキナーゼ阻害剤に抵抗性又は不耐容のALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺」の適応症で承認を取得し、同年11月に発売した。  また、非小細胞肺がん治療におけるロルラチニブのコンパニオン診断薬として「ベンタナ OptiView ALK(D5F3)」が、2021年11月15日に一部変更を承認取得している。

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ニボルマブ、消化器がんで2つの適応が追加承認を取得/小野・BMS

 小野薬品工業とブリストル・マイヤーズ スクイブは、2021年11月25日、ニボルマブについて、化学療法との併用療法による「治癒切除不能な進行・再発の胃」、および「食道の術後補助療法」に対する二つの効能又は効果並びに用法及び用量の追加に係る国内製造販売承認事項一部変更承認を取得した。治癒切除不能な進行・再発の胃がんへの適応 今回の承認は、CheckMate -649試験とATTRACTION-4試験のデータに基づいたもの。 CheckMate-649試験は、日本を含む世界規模で、未治療のHER2陽性以外の治癒切除不能な進行・再発の胃がん、胃食道接合部がんまたは食道腺がんを対象に、ニボルマブと化学療法の併用療法またはイピリムマブとの併用を、化学療法単独と比較評価した多施設国際共同無作為化非盲検第III相臨床試験。 同試験で、ニボルマブと化学療法の併用療法群は、化学療法単独群と比較して、主要評価項目である全患者およびCPS5以上の患者の全生存期間(OS)と、CPS5以上の患者の無増悪生存期間(PFS)で有意な延長を示した。 ATTRACTION-4試験は日本、韓国、台湾で未治療のHER2陰性の治癒切除不能な進行・再発の胃がんまたは胃食道接合部がんを対象に、ニボルマブと化学療法の併用療法をプラセボと化学療法の併用療法と比較評価した多施設共同無作為化第II/III相臨床試験。 同試験で、ニボルマブと化学療法の併用療法群は、プラセボと化学療法の併用療法群と比較して、主要評価項目の1つであるPFSの統計学的に有意な延長を示した。もう1つの主要評価項目であるOSでは統計学的に有意な延長を示さなかった。食道がん術後補助療法への適応 今回の承認は、食道がんまたは食道胃接合部がん切除後患者の術後補助療法として、ニボルマブ単剤療法をプラセボと比較評価した多施設国際共同無作為化二重盲検第III相試験であるCheckMate-577試験の結果に基づいたもの。 同試験において、ニボルマブ単剤療法群は、プラセボ群と比較して、主要評価項目である無病生存期間(DFS)で統計学的に有意な延長を示している。

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エンパグリフロジンの慢性心不全への承認取得/日本ベーリンガーインゲルハイム・日本イーライリリー

 日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社と日本イーライリリー株式会社は、11月25日付でSGLT2阻害薬エンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス)錠10mgについて、日本ベーリンガーインゲルハイムが、慢性心不全に対する効能・効果および用法・用量に係る医薬品製造販売承認事項一部変更承認を、厚生労働省より取得したことを発表した。SGLT2阻害薬の慢性心不全への適応拡大では2剤目となる。 今回の製造販売承認(一部変更)は、エンパグリフロジンが心血管死または心不全による入院の複合リスクをプラセボと比較して有意に25%低下させることを示した “EMPEROR-Reduced試験”の結果に基づく。 本試験の主要評価項目に関する結果では、2型糖尿病合併の有無にかかわらず、サブグループ間で同様の結果を示した。また、試験の重要な副次評価項目の解析から、エンパグリフロジンは心不全による入院の初回および再発のリスクをプラセボと比較して30%低下させると共に、腎機能の低下を有意に遅らせることが明らかになった。安全性プロファイルは、これまでに確立されたエンパグリフロジンの安全性プロファイルと同様だった。 「慢性心不全」の追加承認に伴う添付文書の主な追加内容は次のとおり。【効能または効果】<ジャディアンス錠 10mg>慢性心不全ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。【効能または効果に関連する注意】<慢性心不全>左室駆出率の保たれた慢性心不全における本剤の有効性および安全性は確立していないため、左室駆出率の低下した慢性心不全患者に投与すること。「臨床成績」の項の内容を熟知し、臨床試験に組み入れられた患者の背景(前治療、左室駆出率など)を十分に理解した上で、適応患者を選択すること。【用法および用量】<慢性心不全>通常、成人にはエンパグリフロジンとして10mgを1日1回朝食前または朝食後に経口投与する。【用法および用量に関連する注意】2型糖尿病と慢性心不全を合併する患者では、血糖コントロールが不十分な場合には血糖コントロールの改善を目的として本剤25mgに増量することができる。ただし、慢性心不全に対して本剤10mg1日1回を超える用量の有効性は確認されていないため、本剤10mgを上回る有効性を期待して本剤25mgを投与しないこと。

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左後方心膜切開術、心臓手術後のAFを抑制/Lancet

 心臓手術時に左後方心膜切開術を加えると、これを行わない場合に比べ術後の心房細動の発生率がほぼ半減し、術後合併症リスクの増加はみられないことが、米国・Weill Cornell MedicineのMario Gaudino氏らが実施した「PALACS試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2021年11月12日号で報告された。米国の単施設の無作為化対照比較試験 研究グループは、左後方心膜切開術は心臓手術後の心房細動の発生を抑制するとの仮説を立て、これを検証する目的で適応的単盲検無作為化対照比較試験を実施した(研究助成は受けていない)。 本試験は、Weill Cornell Medicine(米国ニューヨーク市)の心臓胸部外科医によってニューヨーク・プレスビテリアン病院で実施され、2017年9月~2021年8月の期間に患者のスクリーニングが行われた。 左後方心膜切開術は、心膜を横隔神経の後方で左下肺静脈から横隔膜まで4~5cm垂直に切開するもので、心臓手術後の心膜腔内の心嚢液や血栓を左胸膜腔へ排出する簡便な手術手技である。 対象は、年齢18歳以上、心房細動や他の不整脈の既往歴がなく、冠動脈、大動脈弁、上行大動脈、またはこれらのうち複数の血管の初回待機的手術を受けた患者であった。 被験者は、心臓手術中に左後方心膜切開術を受ける群または介入を受けない群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。患者と評価者には、治療割り付け情報が知らされなかった。フォローアップは、退院後30日まで行われた。 主要アウトカムは、intention-to-treat(ITT)集団における術後の入院期間中における心房細動の発生とされた。安全性の評価はas-treated集団で行われた。術後心嚢液貯留も少ない:12% vs.21% 420例が登録され、左後方心膜切開術群に212例、非介入群に208例が割り付けられた。全体の年齢中央値は61.0歳(IQR:53.0~70.0)で、女性が102例(24%)含まれた。ベースラインのCHA2DS2-VAScスコア中央値は2.0(IQR:1.0~3.0)で、155例(37%)が3以上だった。 臨床的、外科的な背景因子は、2群間でバランスが取れていた。フォローアップを完了できなかった患者はおらず、データの網羅性は100%だった。左後方心膜切開術群の3例が、実際には介入を受けなかった。 ITT集団における術後心房細動の発生率は、左後方心膜切開術群が17%(37/212例)と、非介入群の32%(66/208例)に比べて有意に低かった(Mantel-Haenszel検定のp=0.0007)。層別変数で補正したオッズ比(OR)は0.44(95%信頼区間[CI:0.27~0.70、p=0.0005)であり、相対リスクは0.55(95%CI:0.39~0.78)だった。 退院後30日以内の死亡率は、左後方心膜切開術群が1%(2/209例)、非介入群は<1%(1/211例)であった。また、術後の心嚢液貯留の発生率は、左後方心膜切開術群で低かった(12%[26/209例]vs.21%[45/211例]、相対リスク:0.58、95%CI:0.37~0.91)。 術後の重度有害事象(術後脳卒中、術後心筋梗塞)は、左後方心膜切開術群が6例(3%)、非介入群は4例(2%)で発現した。左後方心膜切開術関連の合併症は認められなかった。 著者は、「今回の結果はこれまでに得られたエビデンスと一致しており、左後方心膜切開術による大きな治療効果が認められ、介入のリスク/ベネフィット比がきわめて良好であることから、ほとんどの心臓手術でこの手技の追加を考慮すべきと考えられる」とまとめ、「介入の潜在的な臨床的利益を定量化するには、心臓手術の全領域を含む大規模で実践的な多施設共同確認試験を行う必要がある」としている。

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脳梗塞の血栓除去術、発症6h以降でも機能障害を改善/Lancet

 発症後6~24時間で、可逆的な脳虚血の証拠が確認された急性期脳梗塞患者の治療において、血管内血栓除去術はこれを施行しない場合と比較して、90日後の修正Rankin尺度(mRS)で評価した機能障害が良好であり、日常生活動作の自立(mRS:0~2点)の達成割合も高いことが、米国・Cooper University Health CareのTudor G. Jovin氏らが実施した「AURORA試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2021年11月11日号で報告された。6つの無作為化対照比較試験のメタ解析 研究グループは、発症から6時間以上が経過した脳梗塞患者における、血管内治療のリスクとベネフィットを評価する目的で、無作為化対照比較試験の系統的レビューを行い、個々の患者データに基づくメタ解析を実施した(Stryker Neurovascularの助成を受けた)。 医学データベース(MEDLINE、PubMed、Embase、ClinicalTrials.gov)を用いて、2000年1月1日~2021年3月1日の期間に発表された文献が検索された。最後に健常な様子が目撃されてから6時間以上経過した前方循環系の大血管閉塞による脳梗塞患者において、第2世代血栓回収デバイス(ステント型血栓回収機器、大口径吸引カテーテル)+標準的薬物療法(介入群)と標準的薬物療法単独(対照群)を比較した無作為化対照比較試験を適格とした。 主要アウトカムは、90日の時点における修正Rankin尺度(mRS、0[障害なし]~6[死亡]点)で評価した機能障害の程度とされ、順序ロジスティック回帰分析で評価された。主な安全性アウトカムは、症候性脳出血と90日以内の死亡であった。 スクリーニングの対象となった17の試験のうち6つの試験(DAWN、DEFUSE 3、ESCAPE、REVASCAT、POSITIVE、RESILIENT)が、この研究の基準を満たした。1例でmRSを1点以上低下させる必要治療数は3 6試験の参加者505例(介入群266例、対照群239例、平均年齢68.6歳[SD 13.7]、女性259例[51.3%])が解析に含まれた。ベースラインのNIHSSスコア(0~42点、点数が高いほど脳卒中の重症度が高い)中央値は16点、発症から無作為化までの時間中央値は625分(IQR:472~808)、ASPECTS(0~10点、点数が高いほどCT画像上の早期虚血性変化を呈する中大脳動脈領域が少ない)中央値は8点(IQR:7~9)であった。 主要アウトカムの解析では、補正前の共通オッズ比(OR)は2.42(95%信頼区間[CI]:1.76~3.33、p<0.0001)、補正後の共通ORは2.54(1.83~3.54、p<0.0001)であり、血栓除去療法の利益が確認された。1例の患者でmRSを1点以上低下させて機能障害を改善するのに要する治療必要数は、3であった。 また、介入群は対照群に比べ、90日時点の日常生活動作の自立(mRS:0~2点)の割合が高かった(45.9%[122/266例]vs.19.3%[46/238例]、率比:2.37、95%CI:1.69~3.33、p<0.0001)。一方、90日死亡率(16.5%[44/266例]vs.19.3%[46/238例])および症候性脳出血の発生率(5.3%[14/266例]vs.3.3%[8/239例])は、両群間に有意差はみられなかった。 主要アウトカムに関して、すべてのサブグループ(年齢、性、ベースラインの脳梗塞の重症度、血管の閉塞部位、ベースラインのASPECTS、発症時の状況[目撃者あり、起床時、目撃者なし])で血栓除去療法の治療効果が認められ、発症後12~24時間に無作為化された患者(共通OR:5.86、95%CI:3.14~10.94、p<0.0001)は、6~12時間に無作為化された患者(1.76、1.18~2.62、p=0.0060)に比べ治療効果が高かった(p interaction=0.0087)。 著者は、「この研究結果は、保健施策の検討や臨床現場にいくつかの示唆を与え、現行のガイドラインの変更につながる可能性がある」とし、「これらの知見は、前方循環系の大血管近位部閉塞による脳梗塞患者では、高齢であることやベースラインのCT検査で梗塞サイズが中等度であること、中等度または重度の臨床的障害、発症状況、発症後6~24時間という時間枠を理由に、血管内血栓除去術を控えるべきではないことを示唆する」と指摘している。

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エアロゾル感染への対応、ワクチン後の対応などを改訂/医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド 第4版

 日本環境感染学会は「医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド 第4版」を2021年11月22日に公開した。第3版からの主な改訂項目は、エアロゾル(微小飛沫)による感染への対応、新型コロナウイルスのワクチン接種後の対応、積極的な検査の導入を含めた対応、である。 本ガイドの第1版は2020年2月12日に公開され、その後の状況の変化に応じて改訂し、2020年5月8日に第3版を公開していた。その後、変異株の拡大やワクチン接種、検査の積極的な導入などにより、医療機関での対応も変化してきていることから、現状を踏まえた改訂が実施された。

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双極性障害診断の遅延に関連する要因

 双極性障害の診断は、遅延することが少なくない。カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のKamyar Keramatian氏らは、双極性障害の診断遅延に関連する臨床的および人口統計学的要因を調査した。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2021年10月1日号の報告。 診断遅延は、初回気分エピソード(うつ状態、躁状態、軽躁状態)時の年齢と双極性障害と診断された年齢との差として定義した。データは、カナダの多施設自然主義的研究より抽出した。双極I型障害192例、双極II型障害127例を対象にHOPE-BD(Health Outcomes and Patient Evaluations in Bipolar Disorder)研究を実施した。これまで双極性障害の診断遅延と関連していると考えられていた社会人口統計学的特徴および臨床的特徴を分析に含めた。 主な結果は以下のとおり。・診断遅延の中央値は、双極I型障害で5.0年、双極II型障害で11.0年であった。・診断遅延の長さと関連していた因子は、早期発症、自殺企図歴、不安症の合併などの臨床的要因であった。一方、診断遅延の短さと関連していた因子は、精神症状の存在や精神科入院歴であった。・分位点回帰分析では、双極I型障害および双極II型障害の診断遅延の増加を予測する因子は、専門家相談時の年齢の高さと発症年齢の低さであった。・初回エピソードでのうつ状態は、双極II型障害ではなく双極I型障害の診断遅延の予測因子であった。 著者らは「本調査により、双極性障害の診断遅延の現状および遅延に影響を及ぼす因子が特定された。双極性障害の早期診断と介入戦略実施の必要性があらためて浮き彫りとなった」としている。

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第79回 新たなコロナウイルス変異株「オミクロン型」に警戒を/WHO

<先週の動き>1.新たなコロナウイルス変異株「オミクロン型」に警戒を/WHO2.子宮頸がんワクチン積極的勧奨、来年4月から/厚労省3.医療費適正化に向け、リフィル処方箋の導入求める声も/経済諮問会議4.コロナ赤字を抱える病院、診療報酬改定をめぐる攻防の行方は?5.サイバー攻撃を受けた電子カルテ、約2億円をかけ復旧目指す/徳島県1.新たなコロナウイルス変異株「オミクロン型」に警戒を/WHO世界保健機関(WHO)は26日、南アフリカで新たに見つかった新型コロナウイルスの変異型を最も警戒レベルが高い「懸念される変異型(VOC)」に分類し、「オミクロン型」と名付けた。アフリカ以外に、香港やイギリス、オランダ、ベルギーなどでも感染が確認されており、多くの国が南アフリカとその周辺地域からの直行便の運航を禁止するなど、各国で対応を急いでいる。わが国でも国際便を運航する空港で水際対策強化を進めている。(参考)WHO、新変異型「オミクロン」と命名 警戒最大に(日経新聞)新変異ウイルス「オミクロン株」 懸念される変異株に指定 WHO(NHK)オミクロン株、英独伊で検出 ジョンソン首相、行動規制の復活発表(毎日新聞)成田や羽田で「オミクロン株」対策始まる、誓約書記入も…帰国の男性「細かいが仕方ない」(読売新聞)2.子宮頸がんワクチン積極的勧奨、来年4月から/厚労省厚生労働省は26日に、子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス感染を防ぐHPVワクチンについて、従来行ってきた定期接種ではなく、積極的に個別勧奨することを自治体に向けて通知した。これまでの積極的勧奨の差し控えを求めていた2013年の勧告は廃止した。接種の再開時期は2022年4月としているが、体制が整った自治体では前倒しも可能としている。(参考)子宮頸がんワクチン積極勧奨 来春再開、空白世代も救済 公費での接種調整(日経新聞)子宮頸がんワクチン 来年4月 接種の積極的呼びかけ再開 厚労省(NHK)ヒトパピローマウイルス感染症に係る定期接種の今後の対応について(厚労省)3.医療費適正化に向け、リフィル処方箋の導入求める声も/経済諮問会議政府は25日に開催した経済諮問会議(議長:岸田首相)で、来年度の予算編成に向けて、社会保障改革や今後の財政運営について議論を行った。この中で、諮問会議民間委員は「診療報酬本体のメリハリのある見直しを行い、国民負担を軽減すべき」とし、通院回数を減らすことによる感染症拡大中の患者負担軽減や医療費の抑制、さらに残薬の削減に向け、かかりつけ薬剤師による適切な服薬指導の下、リフィル処方を導入すべきとの意見を出した。また、一人当たり医療費・介護費の地域差半減・縮減の推進のために、地域医療構想のPDCAサイクルの強化や医療費適正化計画の在り方の見直しを求めた。(参考)諮問会議で鈴木財務相 22年度改定は「“医療提供体制改革なくして診療報酬改定なし”の姿勢で臨む」(ミクスonline)令和3年11月25日 経済財政諮問会議(首相官邸)4.コロナ赤字を抱える病院、診療報酬改定をめぐる攻防の行方は?厚労省は24日の中央社会保険医療協議会の総会において、医療機関の経営状況を調べた医療経済実態調査の結果を公表した。2020年度は新型コロナウイルス感染拡大の影響により受診控えが生じたため、一般病院の損益は6.9%の赤字となり、前年度の赤字(3.1%)を上回ることが明らかとなった。政府が行った新型コロナウイルス対策で、一般病院に対して1施設当たり平均約2.4億円、コロナ専用病棟を持つ重点医療機関には約10億円を支払った補助金を含めると0.4%の黒字となったものの、2021年6月に至っても感染拡大の影響が残り、赤字基調のままだった。医療界は診療報酬のプラス改定を求めているが、財務省はコロナ対策を契機に医療費適正化のため診療報酬の引き上げに対しては否定的であり、年末まで各団体との調整が続くと見られる。(参考)診療報酬めぐり「日医」「財務省」攻防激化(産経新聞)来年度の改定“診療報酬 引き下げを” 健保連など厚労省に要請(NHK)病院の利益率、マイナス6.9% コロナ補助金で黒字化 20年度(毎日新聞)5.サイバー攻撃を受けた電子カルテ、約2億円をかけ復旧目指す/徳島県 徳島県つるぎ町(人口7,877人)にある町立半田病院の電子カルテが、10月31日にサイバー攻撃を受け、カルテ情報が暗号化されアクセスできなくなって約1ヵ月、病院側はランサムウェア攻撃の犯行声明を出した国際的なハッカー集団に身代金を支払うことなく、約2億円をかけて新システムによる電子カルテの復旧を行うことになった。これまでのサイバー犯罪は企業をターゲットにした犯行が多かったが、電子カルテについても今後増えていく可能性が高く、対策強化が必要となる。(参考)消えた電子カルテ、お産もできない…田舎の病院を襲ったサイバー攻撃(朝日新聞)身代金払わず2億円で新システム 徳島サイバー被害病院(日経新聞)サイバー被害の徳島・半田病院、通常診療を一部再開 小児科と産科部門を先行(徳島新聞)

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抗血小板薬抵抗性などの問題(解説:後藤信哉氏)

 心筋梗塞、脳梗塞などの疾病予防のため降圧、糖尿病管理などが行われる。降圧薬の効果は血圧で簡便・正確に計測できる。血糖もしかりである。アスピリン、クロピドグレルなどの抗血小板薬の効果を簡便・正確に計測する方法は確立されていない。このため、新薬が開発されるごとに古い薬の「抵抗性」などが強調された。クロピドグレルの特許切れ前には「アスピリン抵抗性」などが喧伝された。簡便・正確な薬効指標がないため、反論は困難であった。一世を風靡したクロピドグレルも特許切れした。同一の薬効標的に対してプラスグレル、チカグレロルが開発された。しかし、臨床家が実感できるクロピドグレルの欠点を探すのは困難であった。多くの医師は自らが処方する多く薬剤の代謝経路など理解していない。しかし、クロピドグレルについてはCYP2C19という肝酵素により活生体が産生されることが強調された。CYP2C19の遺伝子型も解明され、代謝の速いヒト、遅いヒトがいるとされた。代謝の遅いヒトではクロピドグレルの効果が発現しないように喧伝された。日本人を含むアジア人では代謝の遅いpoor metabolizerが多いのでクロピドグレルが効きにくいとされた。クロピドグレルの臨床開発に寄与して、日本人はむしろ効き過ぎて出血が増える懸念があるとして50mgの減量を承認したプロセスを熟知する筆者には世の中の風の変化が驚きであった。 クロピドグレルが効きにくいとされるCYP2C19のpoor metabolizerを6,412例集めて、イベントリスクの高いminor stroke/TIAを対象としたランダム化比較試験は科学的価値が高い。クロピドグレル群における7.6%の有効性1次エンドポイントの発現に対してチカグレロル群では6.0%とわずかに低かった。中等度以上の出血イベントに差がなく、全出血ではチカグレロル群が多かったので、この試験ではクロピドグレルよりもチカグレロルがより強い抗血小板効果を発現したのであろう。 本試験の結果はCYP2C19 loss-of-function alleleにてクロピドグレルが効かないことを示したわけではない。急性冠症候群におけるPLATO試験にてクロピドグレルに対する優越性を示した180mg loading 90mg/日は一般に体重の軽いアジア人には多過ぎることを示唆しているのかもしれない。いずれにしても、薬効を反映する簡便・正確なマーカーがない抗血小板薬では、ノイズを作られると否定するのが大変である。チカグレロル、プラスグレルの特許が切れれば真実がわかるかもしれない。

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リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その3【「実践的」臨床研究入門】第14回

コクラン・ライブラリー~該当フル・レビュー論文を読み込んでみる2今回は前回に引き続き、われわれのリサーチ・クエスチョン(RQ)のブラッシュアップに参考となりそうな、コクラン・ライブラリーの検索で挙がった2編目のフル・レビュー論文(下記)を読み込んでみましょう。Protein restriction for diabetic renal disease(糖尿病性腎疾患に対する蛋白摂取制限)1)このシステマティック・レビュー(systematic review:SR)に組み入れられたランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)は9編でした。末期腎不全(透析導入)というハードエンドポイント(連載第3回参照)についての解析に組み込まれたRCTは、前回読み込んだ非糖尿病の慢性腎臓病(Choronic kidney disease: CKD)患者を対象としたコクランSR2)では6編(解析対象患者数1,814名)でしたが、今回取り上げたフル・レビュー論文1)では1編(解析対象患者数72名)でした。したがって、複数の研究結果を統合するメタ解析は行われていませんが、下記のように1つのRCTで示された相対リスク(Rlative risk:RR)の点推定値と95%信頼区間(95% confidence interval:95%CI)は記述されています。0.6g/kg/標準体重/日の低たんぱく食群は対照群(通常食)と比較して末期腎不全(透析導入)または死亡に到るRRは0.23(95%CI:0.07~0.72)であった(筆者による意訳)。前回読み込んだ非糖尿病CKD患者における低たんぱく食の臨床効果を検証したフル・レビュー論文2)では、末期腎不全(透析導入)というハードエンドポイントについては6編のRCT(解析対象患者数1,814名)をメタ解析し、低たんぱく食群(0.5~0.6g/kg/標準体重/日)の対照群(通常食)に対する末期腎不全(透析導入)に到るRRは1.05(95%CI:0.73~1.53)であった(筆者による意訳)。と述べています2)。ここで着目したいのは、上述の2つの解析結果の95%CIの範囲の違いです。95%CIの範囲が狭いということは、その点推定値の精度の高さを示しており、解析対象患者数の増加によるメタ解析の「ご利益」のひとつです。さて、糖尿病性腎疾患に対する低たんぱく食の腎機能低下速度というサロゲートエンドポイント(連載第3回参照)についてはどうでしょうか。1型糖尿病患者のみを対象とした7編のRCT(解析対象患者数222名)を組み入れたメタ解析の結果1)が下記のように報告されています。対照群(通常食)と比較した低たんぱく食群での推定糸球体濾過量(eGFR)低下速度の変化は0.1 ml/分/月(95%CI:0.1~0.3)であり、統計学的有意ではなかった(筆者による意訳)。eGFR 低下速度0.1ml/分/月の改善は統計学的にだけでなく臨床的にも有意でない僅かな変化だと考えます。前回取り上げた非糖尿病CKD患者を対象としたフル・レビュー論文2)での結果も併せて、腎機能低下速度に対する低たんぱく食の効果は不確かであると言えるでしょう。下記はこれまでにブラシュアップしてきた、われわれのCQとRQ(PECO)です。CQ:食事療法を遵守すると非ネフローゼ症候群の慢性腎臓病患者の腎予後は改善するのだろうか↓P:非ネフローゼ症候群の慢性腎臓病(CKD)患者E:食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の遵守C:食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の非遵守O:腎予後まだ、O(アウトカム)が「腎予後」と漠然としています。これまで見てきたコクランSRや個別のRCTでは、末期腎不全(透析導入)やeGFR低下速度の変化、というように明確に定義されていました。われわれのRQのOもこれらの先行研究に準じて、下記のように改訂することとします。P:非ネフローゼ症候群の慢性腎臓病(CKD)患者↓E:食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の遵守C:食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の非遵守O:1)末期腎不全(透析導入)、 2)eGFR低下速度の変化 Oは1)プライマリと2)セカンダリに分けて設定されることが多くあります。一般的にプライマリなOはその研究で最もみたいOが置かれ、臨床的に重要なハードエンドポイントであればより望ましいかもしれません。セカンダリなOはプライマリの次に関心のあるOで、サロゲートエンドポイントが設定されることが多いかと思います。1)Robertson L et al. Protein restriction for diabetic renal disease. The Cochrane database of systematic reviews. 2007 Oct 17:CD0021812)Hahn D et al. Low protein diets for non-diabetic adults with chronic kidney disease. Cochrane Database Syst Rev 2020 Oct 29:CD001892.

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J-CLEAR特別座談会(4)「COVID-19:治療薬の現状と展望~エビデンスからの検証」

J-CLEAR特別座談会(4)「COVID-19:治療薬の現状と展望~エビデンスからの検証」出演東京都健康長寿医療センター顧問 桑島 巖 氏東京医科大学呼吸器内科客員教授、健康医学会附属東都クリニック 山口 佳寿博 氏東海大学医学部内科学系循環器内科学教授、J-CLEAR理事 後藤 信哉 氏琉球大学大学院医学研究科臨床薬理学、横浜市立大学ヘルスデータサイエンス専攻 植田 真一郎 氏「CLEAR!ジャーナル四天王」執筆メンバーら4氏が、「COVID-19:治療薬の現状と展望~エビデンスからの検証」をテーマに、各々の専門領域の知見を基に議論を交わしたウェブ座談会の模様を前・後編でお届けします。なお、この番組は2021年10月21日に収録したもので、当時の情報に基づく内容であることをご留意ください。

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ニボルマブ単剤が悪性中皮腫の2次治療で良好な成績(CONFIRM)/Lancet Oncol

 プラチナベース化学療法後に進行した胸膜・腹膜悪性中皮腫患者の生存改善を示した第III相試験はなかった。そのような中、ニボルマブの第III相試験が有望な結果を示した。 この試験は、ニボルマブの有効性と安全性を評価するために、多施設共同無作為化プラセボ対照二重盲検で行われたCONFIRM試験。英国の24施設で実施された。・対象:プラチナベース化学療法の1次治療で進行した胸膜または腹膜中皮腫成人患者(18歳以上、PS 0または1)・試験群:ニボルマブ240mg/日 2週間ごと疾患進行または最大12ヵ月まで投与・対照群:プラセボ 2週間ごと疾患進行または最大12ヵ月まで投与・主要評価項目:治験担当医評価の無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS) 主な結果は以下のとおり。・2017年5月10日〜2020年3月30日に、332例の患者が登録され、221例がニボルマブ群に、111例がプラセボ群に無作為に割り付けられた。・追跡期間中央値は11.6ヵ月である。・PFS中央値は、ニボルマブ群3.0ヵ月に対し、プラセボ群は1.8ヵ月であった(ハザード比[HR]:0.67、95%CI:0.53〜0.85、p=0.0012)。・OS中央値は、ニボルマブ群10.2ヵ月に対し、プラセボ群では6.9ヵ月であった(HR:0.69、95 %CI:0.52〜0,91、p=0.0090)。・重篤な有害事象は、ニボルマブ群の41%、プラセボ群の44%で発現したが、両群とも治療関連死亡はなかった。

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新型コロナとインフルワクチンの同時接種は安全か/Lancet

 新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンを同時に接種できれば、医療現場の負担減少につながる。米国ではワクチン接種率を高めるために同時接種も可としているが、日本では現時点で互いに片方のワクチンを受けて2週間後に接種可となっている。今回、英国のComfluCOV Trialグループによる多施設共同無作為化第IV相試験で、新型コロナウイルスへのアストラゼネカ製ワクチン(ChAdOx1)もしくはファイザー製ワクチン(BNT162b2)とインフルエンザワクチンの同時接種により安全性の懸念は引き起こされなかったことが示された。また、両ワクチンに対する抗体反応も維持されていた。英国・University Hospitals Bristol and Weston NHS Foundation TrustのRajeka Lazarus氏らが、Lancet誌オンライン版2021年11月11日号で報告した。 本試験では、2021年4月1日~6月26日に英国における12施設で、新型コロナワクチン(ChAdOx1またはBNT162b2)の初回接種を受けた成人679人を登録し、以下の6グループに分けて検討した。・ChAdOx1+培養細胞4価インフルエンザワクチン:129人・BNT162b2+培養細胞4価インフルエンザワクチン:139人・ChAdOx1+MF59Cアジュバント添加3価インフルエンザワクチン:146人・BNT162b2+MF59Cアジュバント添加3価インフルエンザワクチン:79人・ChAdOx1+遺伝子組換え4価インフルエンザワクチン:128人・BNT162b2+遺伝子組換え4価インフルエンザワクチン:58人 その後、新型コロナワクチンの2回目接種と一緒にインフルエンザワクチンもしくはプラセボを接種し、その3週間後にインフルエンザワクチン接種者にはプラセボを、プラセボ接種者にはインフルエンザワクチンを接種し、6週間観察した。前者には340人、後者には339人が無作為に割り付けられた。主要評価項目は、インフルエンザワクチンもしくはプラセボの接種後7日間に参加者から報告された1つ以上の特定全身反応であり、差が25%未満であれば非劣性とした。また、局所および非特定全身反応、液性応答も評価した。 主な結果は以下のとおり。・6グループのうち、ChAdOx1+細胞培養4価インフルエンザワクチン(インフルエンザワクチン群とプラセボ群のリスク差:-1.29%、95%信頼区間:-14.7~12.1)、BNT162b2+培養細胞4価インフルエンザワクチン(6.17%、-6.27~18.6)、BNT162b2+MF59Cアジュバント添加3価インフルエンザワクチン(-12.9%、-34.2~8.37)、ChAdOx1+遺伝子組換え4価インフルエンザワクチン(2.53%、-13.3~18.3)の4グループでは非劣性を示した。一方、ChAdOx1+MF59Cアジュバント添加3価インフルエンザワクチン(10.3%、-5.44~26.0)、BNT162b2+遺伝子組換え4価インフルエンザワクチン(6.75%、-11.8~25.3)では、95%CIの上限が非劣性マージンを超えた。・ワクチン接種による全身反応のほとんどが軽度もしくは中等度だった。・局所および非特定全身反応の割合は、無作為に割り付けられた2群間で同様だった。・重篤な有害事象は重度の頭痛による入院の1件で、試験的介入に関連していると考えられた。・免疫応答への影響はなかった。 研究者らは「来シーズンに、新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンを一緒に接種することで、ワクチン接種のための医療現場の負担が軽減され、ワクチンが必要な人々へのタイムリーなワクチン投与とCOVID-19とインフルエンザの予防を可能になる」と考察している。専門家はこう見る:CLEAR!ジャーナル四天王COVID-19ワクチンと季節性インフルエンザワクチン同時接種における安全性と免疫原性(解説:小金丸 博 氏)-1476 コメンテーター:小金丸 博( こがねまる ひろし ) 氏東京都健康長寿医療センター 感染症内科医長

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がん治療における遺伝子パネル検査、データ利活用の最前線/日本治療学会

 実臨床で得られた診療データをその後の研究に活かしていくという、「データ利活用」の動きが世界中で活発になっている。第59回日本治療学会学術集会(10月21~23日)では会長企画シンポジウムとして「大規模データベースを活用したがん治療の新展開――医療データの臨床開発への利活用」と題した発表が行われた。 冒頭に中島 直樹氏(九州大学病院 メディカル・インフォメーションセンター)が「データ駆動型の医療エビデンス構築の現在と未来」と題した講演を行い、日本の医療データの問題点として「収集後の名寄せが困難(マイナンバーの医療分野利用の遅れなど)」「医療情報の標準化の遅れ」「改正個人情報保護法によるハードル」を挙げた。そして、これらの問題の解決策として2018年に制定された次世代医療基盤法によるデータ収集と連携のプラットフォームに触れ、状況が変わりつつあることを紹介した。 続いて、谷口 浩也(愛知県がんセンター病院 薬物療法部)が、「産学連携ゲノム解析研究SCRUM/CIRCULATE-Japan Registryの医薬品医療機器承認への活用」と題した発表で、 国立がんセンターを中心とした産学連携全国がんゲノムスクリーニングプロジェクト「SCRUM-Japan」内の「SCRUM-Japan Registry」プロジェクトにおける、臨床研究データを蓄積し、外部の医薬品メーカーに提供、主に希少疾病の新薬開発における比較対照として活用して承認申請に結びつける取り組みを紹介した。「データの質を保つために参加施設を本体研究より絞り、患者背景の均一化などを工夫してきた。悉皆性の確保、参加施設のモチベーションの維持、コスト負担などが今後の課題だ」とした。 さらに、河野 隆志氏(国立がん研究センター がんゲノム情報管理センター=C-CAT)が「保険診療で行われるがん遺伝子パネル検査のデータの診療・研究・開発への利活用」と題した演題でC-CATのデータ利活用の現状を紹介。C-CATには2019年6月~2021年8月までに2万1,030例の遺伝子パネル検査の結果が集積。がん種は男性では肺がんよりも膵臓がんが多く、女性では乳がんと卵巣/卵管がんがほぼ同数などとなっている。「遺伝子パネル検査を受けるのは標準治療終了後の患者さんに限られるため、一般的ながん種別の罹患率とは異なり、悪性度の高いがんが多くなる傾向がある」(河野氏)という。これまで、「診療検索ポータル」という検索サイトを立ち上げ、患者背景ごとに適合する進行中の治験を検索できるようにしてきた。 さらに今年の10月から「利活用検索ポータル」として、研究・開発目的としてC-CATデータを提供するサイトをオープン。1万8,000例ほどから、がん種や遺伝子変異の種類、薬剤名、奏効率や有害事象などの条件で検索し、詳細なデータを閲覧できる。 利用者はC-CATによる審査・登録後、がんゲノム医療中核拠点病院、大学等の研究機関であれば無償、製薬メーカーは有償で利用できるようになる。「特定の遺伝子変異の患者データ等の把握が容易になり、治験などが活発になることを期待している。登録は審査が必要となり時間がかかるため、最低限の情報を確認できる『登録件数検索』機能を用意しており、興味がある方はぜひ一度見ていただきたい」(河野氏)とした。

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SLEに待望の治療薬アニフロルマブが発売/アストラゼネカ

 アストラゼネカ株式会社は、全身性エリテマトーデス(SLE)の治療薬アニフロルマブ(商品名:サフネロー)点滴静注300mgを11月25日より販売開始した。アニフロルマブは、完全ヒト型モノクローナル抗体であり、I型インターフェロンα受容体のサブユニット1(IFNAR1)を標的とする治療薬。用量調整が不要で、4週間ごとに1回30分以上かけて投与する点滴静注製剤。アニフロルマブ投与者で観察期間52週間の全例調査を実施 SLEは、免疫系が体内の正常な組織を攻撃する自己免疫疾患。慢性的であり、さまざまな臨床症状を伴う複雑な疾患であるため、多くの臓器に影響を及ぼし、疼痛、発疹、倦怠感、関節の腫れ、発熱など幅広い症状の原因となる。SLE患者の50%以上は、本疾患自体あるいは既存の治療薬が原因の恒久的な臓器障害を引き起こし、症状が増悪や死亡リスクの上昇につながる。世界中に少なくとも500万人がある種のループス疾患に罹患していると推定されている。 今回発売されたアニフロルマブは、発売後600例にわたって観察期間52週間の全例調査を実施し、既存治療で効果不十分なSLE患者を対象に、アニフロルマブの製造販売後の使用実態下における長期の安全性および有効性に関する情報収集および評価を実施する予定。なお、アニフロルマブの投与を中止した場合(再来院しなくなった場合を含む)はその日付および理由を確認し、最終投与後8週間を目安に、可能な限り観察を行う。アニフロルマブの概要製品名:サフネロー点滴静注300mg一般名:アニフロルマブ(遺伝子組換え)剤形:注射剤(バイアル)効能または効果:既存治療で効果不十分な全身性エリテマトーデス用法および用量:通常、成人にはアニフロルマブ(遺伝子組換え)として、300mgを4週間ごとに30分以上かけて点滴静注製造販売承認:2021年9月27日発売日:2021年11月25日製造販売元:アストラゼネカ株式会社

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