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外陰部高度扁平上皮内病変でイミキモド外用は手術との比較で非劣性/Lancet

 外陰部の高度扁平上皮内病変(vHSIL)の治療において、外用免疫調節薬イミキモドによる局所療法は、有効性に関して外科手術に対し非劣性で、安全性も良好であり、本症の1次治療となる可能性があることが、オーストリア・グラーツ医科大学のGerda Trutnovsky氏らの検討で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2022年4月25日号で報告された。オーストリア6施設の無作為化非劣性第III相試験 本研究は、外陰部上皮内新生物(VIN)の治療における、イミキモドの手術に対する非劣性の検証を目的とする無作為化第III相試験であり、2013年6月~2020年1月の期間に、オーストリアの6つの病院で参加者の登録が行われた(オーストリア科学基金とオーストリア婦人科腫瘍グループの助成を受けた)。 対象は、年齢18~90歳の女性で、組織学的にvHSILと確定され、肉眼的に単巣性または多巣性病変を有する患者であった。主な除外基準は、(1)臨床的に浸潤性病変が疑われる、(2)外陰がんまたは外陰部の重度の炎症性皮膚症の既往がある、(3)過去3ヵ月以内にvHSILに対する積極的な治療を受けている場合であり、免疫不全状態、妊娠中、授乳中の女性も除外された。 被験者は、イミキモド(5%クリーム)の投与または手術(切除術またはアブレーション)を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。イミキモドは、緩やかな増量計画に基づき、4~6ヵ月間にわたり最大で週3回、患者自身により塗布された。ベースライン、6ヵ月、12ヵ月の時点で、外陰部鏡検査、外陰部生検、ヒトパピローマウイルス(HPV)検査、患者報告アウトカムの評価が行われた。 主要エンドポイントは、局所イミキモド治療または1回の外科的介入から6ヵ月の時点での臨床的完全奏効(CCR)であった。CCRは、外陰部病変の臨床的証拠がないこと(原発病変の完全消失)と定義された。解析はper protocol集団で行われ、非劣性マージンは20%とされた。intention-to-treat解析でも非劣性の強い傾向が 110例が登録され、このうち109例がintention-to-treat集団(単巣性vHSIL例78%、多巣性vHSIL例22%)で、イミキモド群56例(平均[±SD]年齢53.0[15.7]歳、閉経後61%)、手術群53例(50.2[14.4]歳、43%)であった。per protocol解析には98例(46例、52例)が含まれた。 6ヵ月時のper protocol解析によるCCRは、イミキモド群が80%(37/46例)、手術群は79%(41/52例)で達成され、イミキモド群の手術群に対する非劣性が示された(非劣性解析のp=0.0056)。閉経状態や喫煙習慣の有無と臨床効果には関連がなかった。 CCRのintention-to-treat解析では、イミキモド群の非劣性の強い傾向が認められた(CCR割合:イミキモド群72%[39/54例]vs.手術群79%[42/53例]、非劣性解析のp=0.065)。 また、浸潤性病変は、手術群(2回目の手術を受けた患者を含む)で5例に認められたのに対し、イミキモド群ではみられなかった。 6ヵ月時の全体のHPVクリアランス率は44%で、両群間に差はなかった。手術群では最初の1ヵ月間に外陰部痛が、イミキモド群では2ヵ月間に外陰部の掻痒の頻度が高かった。また、イミキモド群は、びらんや紅斑のほか、疲労、頭痛、筋肉/関節の痛みの頻度が手術群よりも高かったが、多くが軽度~中等度だった。鎮痛薬の使用は手術群で多かった。治療満足度は両群間に差はなかった。 著者は、「この試験は免疫組織化学的解析と長期追跡調査が継続されており、今後、イミキモドによる局所治療が最も有益な患者を特定するのに役立つと考えられる」としている。

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新たな患者報告アウトカム評価法がコロナ罹患後症状の評価に有用/BMJ

 最新の心理測定法を用いて開発された包括的な患者報告アウトカムの評価法である「long COVID症状負担質問票(symptom burden questionnaire for long COVID:SBQ-LC)」は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を経験した生存者において、long COVIDによる重要な症状の測定に有用で、介入効果の評価が可能であり、臨床管理における最良の診療法に結び付く有益な情報をもたらす可能性があることが、英国・バーミンガム大学のSarah E. Hughes氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2022年4月27日号に掲載された。英国の新たなlong COVID評価法の開発と妥当性の検証 研究グループは、long COVIDによる症状負担の患者アウトカム評価法(SBQ-LC[第1版])を新たに開発し、その妥当性を検証する目的で、多段階的な混合研究法を用いた前向き研究を行った(英国国立健康研究所[NIHR]などの助成を受けた)。 2021年4月14日~8月1日の期間に、英国において実地試験のための遠隔データが収集され、ソーシャルメディアのチャンネルで特定されたlong COVID患者の支援グループで、実地試験への参加者の募集が行われた。 自己申告によるlong COVIDの成人(年齢18歳以上)患者13人(20~60歳、女性10人[77%])と臨床医10人により、SBQ-LCの項目内容の妥当性が評価された。次いで、274人(平均年齢45.0歳[範囲:21~70]、女性88%)のlong COVID患者により、質問票の草案が実地に検証された。 SBQ-LCの概念的枠組と初期の項目群は、既報の系統的レビューを参考に作成された。認知デブリーフィング(cognitive debriefing)のための患者へのインタビューとオンラインでの臨床医の調査の記録から主題分析が行われ、内容的妥当性(content validity)が確認された。 また、患者と住民参加型の支援グループによる合意形成のための議論(Therapies for Long COVID in non-hospitalised individuals: From symptoms, patient reported outcomes and immunology to targeted therapies[TLC研究])で、表面的妥当性(face validity)が確定された。 実地試験データのRasch分析により、項目と尺度が改良され、SBQ-LCの測定特性(measurement properties)に関する初期の証拠が提示された。国際的な臨床試験に有用な可能性 SBQ-LC(第1版)は、患者報告アウトカムを測定するモジュール式の評価法であり、有望視されている心理測定特性を有する17の独立の尺度で構成される。回答者は、過去7日間の症状負担を二者択一形式または4点評定尺度を用いて評価する。 各尺度は、異なる症状の領域を対象としており、線形スコア(0~100点)への変換が可能な素点の合計となる。点数が高いほど、症状負担が大きいことを表す。 評定尺度の改良と項目の削減を行ったところ、すべての尺度でRaschモデルの一次元性(unidimensionality)と項目適合度(item fit)の要件が満たされた。また、評定尺度のカテゴリーは、許容範囲内のカテゴリー適合度統計量で順序付けされた。 17の尺度は、person reliability(r≧0.70:許容範囲、r≧0.80:良好、r≧0.90:きわめて良好)の範囲が0.34~0.87、person separation(1.5~2.0:許容範囲、2.0~3.0:良好、≧3.0:きわめて良好)は0.71~2.56、item separationは1.34~13.86、internal consistency reliability(クロンバックα係数≧0.7:許容範囲)は0.56~0.91だった。 著者は、「2021年12月現在、英国で約130万人、世界で1億人以上のlong COVIDまたはpost-COVID-19症候群の患者が存在し、本症はかなりの症状負担を伴い、労働能力や生活の質に悪影響を及ぼす多系統疾患であることが知られている。この新たな質問票は、long COVIDの国際的な臨床試験を行う際に有用と考えられる」としている。

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コロナ治療薬の早見表2種(年代別およびリスク因子有無別)

年齢別で使用できるコロナ治療薬ー新型コロナ重症化リスク因子がある人ー・重症化リスク因子とは、65歳以上の高齢者、悪性腫瘍、慢性閉塞性肺疾患、慢性腎臓病、2型糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満、喫煙、固形臓器移植後の免疫不全、妊娠後期などのこと軽症~中等症薬剤対象者内服点滴ラゲブリオパキロビッドパックロナプリーブゼビュディ(モルヌピラビル)(ニルマトレルビル・リトナビル)(カシリビマブ/イムデビマブ)(ソトロビマブ)発症から5日以内に5日間服用発症から5日以内に服用(1回に2種3錠を5日間服用)薬剤の大きさは約2cm薬の飲み合わせに注意が必要のため「お薬手帳」を持参して服用中のすべての薬を医療者に伝えましょう(とくに高血圧や不整脈治療薬、睡眠薬など)オミクロン株には無効アナフィラキシーや重篤な過敏症を起こす恐れがあるので投与~24時間は観察が必要発症から5~7日を目安に投与オミクロン株のBA.2系統には有効性減弱12歳以上かつ40㎏以上小児妊婦・授乳婦子どもを望む男女発症から7日以内に投与子供を望む男女が服用する場合、服用中と服用後4日間の避妊を推奨※※※65歳未満65歳以上※妊婦:治療上の有益性が危険性を上回る時に服用可、授乳婦:授乳の継続又は中止を検討出典:各添付文書、新型コロナウイルス感染症診療の手引き第7.2版、COVID-19 に対する薬物治療の考え方第13.1版Copyright © 2022 CareNet,Inc. All rights reserved.年齢別で使用できるコロナ治療薬ー新型コロナ重症化リスク因子がない人ー・薬剤が使用できる方は、重症度分類が中等症II以上(酸素投与が必要)の場合に限ります軽症※~重症薬剤対象者中等~重症点滴内服/点滴点滴内服ベクルリーステロイド薬アクテムラオルミエント(レムデシビル)(デキサメタゾン)(トシリズマブ)(バリシチニブ)投与目安は軽症者が3日間中等症以上が5日間(最大10日間)重症感染症の適応で使用発症から7日以内に使用。ステロイド薬と併用、人工呼吸器管理・ECMO導入を要する方に入院下で投与入院から3日以内に投与。総投与期間は14日間、レムデシビルと併用肝/腎機能障害、アナフィラキシーなどに注意投与目安は10日間血糖値が高い方、消化性潰瘍リスクがある方は注意が必要結核、B型肝炎の既往、糞線虫症リスクを確認。また、心疾患や消化管穿孔リスクがある方は注意が必要抗凝固薬の投与等による血栓塞栓予防を行う結核・非結核性抗酸菌症やB型肝炎リスクを確認※軽症は適応外使用小児妊婦・授乳婦子どもを望む男女3.5㎏以上※プレドニゾロン40㎎/日に変更※65歳未満65歳以上※妊婦:治療上の有益性が危険性を上回る時に服用可、授乳婦:授乳の継続又は中止を検討出典:各添付文書、新型コロナウイルス感染症診療の手引き第7.2版、COVID-19 に対する薬物治療の考え方第13.1版Copyright © 2022 CareNet,Inc. All rights reserved.

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時間限定カロリー制限食は単純カロリー制限食の体重減少効果を越える効果を持つか否かはなはだ疑問である!―(解説:島田俊夫氏)

 現代社会は食生活に関して利便性を重視し、食事の内容(質・量)に関しては無関心になっているのでは? このため外食産業が繁栄し、私たちは食事の質よりも利便性をますます重視する傾向が強くなっている。本質に立ち返り、私たちが生きていくためにはエネルギーが必要でそのソースを食物に依存していることを忘れてはいけない。 NEJM誌2022年4月21日号掲載の中国の南方医科大学のDeying Liu氏等の論文は139人中118人(84.9%)が受診ノルマを達成した肥満者をランダムに2群に分け、単純カロリー制限食群と(食事時間限定+カロリー制限)食群の2群に分類し、12ヵ月の経過から腹囲、BMI、体脂肪、除脂肪体重、血圧、代謝危険因子等についてベースラインデータと12ヵ月後の各データとの群内差および群間差を比較した結果を報告した。研究の狙いは単純食事カロリー制限食群と(食事時間限定+カロリー制限)食群との間で介入方法に基づく差があるか否かを標的とした研究である。結果は概ね同等で両群間に有意差を認めなかった。もちろん食事制限による減量効果は両群でほぼ同等に認められた。また、副作用についても両群間に差は認められなかった。 この研究の狙いがいまひとつ私にはピンとこない。時間限定カロリー制限食に関してカロリー制限による効果以外の意義を見いだせず、結果については両群で大差のないとの結果であった。これまでの短期間の小規模研究では、時間限定カロリー制限食は体重減少効果が単純カロリー制限食より大きいとの報告が多いようだが、議論の多いところでもあり1)2)、真相は藪の中である。この研究の仮説の狙いがいまひとつ私には理解しがたく、時間限定カロリー制限食の間欠的空腹期間の関与への期待は過大かもしれない。治療の主効果は両群のベースラインからの体重減少の差の群間比較であり、副次効果はウエスト周囲径、BMI、体脂肪および代謝リスク因子(血漿グルコース濃度、インスリン感受性、血清脂質、および血圧)等の測定値の変化差の群内比較としたが主効果に差がなく、群内比較は両群で同等に有意差を認めた。 著者も述べているが中国人の食習慣を配慮した研究プロトコルのために異なる習慣の国々には一般化できない可能性もある。肥満の多い欧米とは事情がわが国とは多少異なるが糖質制限食が肥満治療に用いられており、この問題も含めて食事カロリー制限の影響を3大栄養素摂取の質・量を含め検討する必要に迫られているのではないかと考える3)。この論文の結論は(食事時間限定+カロリー制限)食群の単純カロリー制限を越えてのメリットを肯定する情報を見つけ出すことはできなかった。

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昭和の休日【Dr. 中島の 新・徒然草】(425)

四百二十五の段 昭和の休日ついにゴールデンウィークも終わってしまいました。読者の皆さんはゆっくり休めましたか?私はよく寝ることができました。とくに、5月2日(月)と6日(金)の2日間しか出勤せずにすんだ週。もはや週休2日ではなく、週休5日!不謹慎ながら、いつもこんな風だったらいいのになあ、と思ったわけです。ふと思い出すと、昭和から平成初期は週休1.5日でした。日曜日は休みですが、土曜日の午前中は出勤です。今の私には到底できません。さて、今年(2022年)の休みを数えてみると、123日ありました。土日、国民の祝日、年末年始を合わせてです。一方、1970年のカレンダーで数えてみると、休みは91日。土曜日を0.5日でカウントした場合です。現在の休みは3割増しになっているわけですね。1970年といえば私は小学生。欧米の先進国では週休2日が当たり前、というのがメディアの論調でした。さらに進んだ国では週休3日だ、とも言われていたくらいです。このままいくと日本も週休2日、やがて週休3日になるんだろうな。そう漠然と思っていたのですが、50年以上経った今でも週休3日は実現していません。少なくとも私の周囲では、ですが。日本でも週休3日というのが徐々に広がりつつあるそうです。ごく少数のメーカーに導入されることがニュースになっていました。我々、医療業界でも週休3日が導入されないでしょうかね。きっと楽しい日々になるんだろうな、と私は夢想しています。最後に1句週三日 休んで暮らす 立夏かな

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α1-アンチトリプシン欠乏症〔AATD:α1-antitrypsin deficiency〕

※なお、タイトル「α1-アンチトリプシン欠乏症」の「α1」は「α1」が正しい表記となる。(web上では、一部の異体字などは正確に示すことができないためご理解ください)1 疾患概要■ 定義α1-アンチトリプシン欠乏症(AATD)は、血液中のα1-アンチトリプシン(AAT)の欠乏により肺疾患や肝疾患を生じる常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)性疾患である1)。肺では若年性に肺気腫を生じ、慢性閉塞性肺疾患(COPD)を発症する。気管支拡張症を合併する例もある。肝臓では、新生児期に黄疸や肝機能障害を認める場合があり、成人期には肝硬変・肝不全に移行し、肝細胞がんを発症することがある。欧米では、COPDの1~2%はAATDによるとされる。頻度は少ないが、皮下脂肪織炎や肉芽腫性血管炎を合併することがある。AATDは難病法に基づいて疾病番号231番の指定難病となり、重症度に応じて医療費助成対象疾患となった。■ 疫学ほぼ世界中で報告されているが、ヨーロッパや北米では比較的多い疾患で、約1,600~5,000人出生あたり1人とされている1)。わが国では極めてまれであり、呼吸不全に関する調査研究班と日本呼吸器学会による全国疫学調査では14名(重症9人、軽症5人)の発端者が集積され、有病率は24家系(95%信頼区間:22-27)と推計された2)。■ 病因AATDは、第14染色体長腕(14q32.1)にあるSERPINA1遺伝子の異常により生じる単一遺伝子疾患である。AATは394個のアミノ酸からなる分子量約52kDaの糖タンパク質で、血清蛋白分画のα1-グロブリン分画の約9割を占める(図1)。セリンプロテアーゼインヒビタ-として機能し、生体内で最も重要な標的は好中球エラスターゼである。主に肝臓で産生されて流血中に放出されるが、他に好中球、単球、マクロファージ、肺や腸管の上皮細胞からも産生される。図1 α1-アンチトリプシン欠乏症(Siiyamaホモ接合例)患者の血清蛋白電気泳動画像を拡大する健常者(A)と比べ、AATD(B)ではα1-グロブリン分画が欠損している(矢印)。SERPINA1遺伝子は共優性co-dominantに発現して遺伝様式に寄与する。150種類以上の変異型(バリアント)が報告されており、(a)質的・量的に正常なAATを産生する正常型バリアント、(b)流血中にAATがまったく検出されないnull型バリアント、(c)減少するdeficient型バリアント、あるいは (d)機能が変化してしまうdysfunctional型バリアントなどに分類される。正常型バリアント以外の病的バリアントを両方の対立遺伝子として受け継いでいる個体はAATDを発症するが、片方が正常型バリアントである場合には血清AAT濃度の低下は軽度で、通常は肺疾患や肝疾患の発症リスクとはならず保因者と呼ばれる。AATは、遺伝子変異によるアミノ酸置換により蛋白全体の荷電状態が変化し、等電点電気泳動における泳動位置、すなわち、AATの“表現型”が変化する。泳動位置の違いから、陽極pH4に近い位置からアルファベットの若い“B”、陰極pH5に近いものを“Z”と命名される。中央部は90%以上の遺伝子頻度を占める“M”となる。新規に同定されたSERPINA1バリアントの表現型には、表現型アルファベットに下付の小文字で同定された地名が付される。AATDの原因となるバリアントの多くはdeficient型バリアントであり、欧米ではZ型(Glu342Lys)とS型(Glu264Val)が最も多いのに対し、わが国ではSiiyama型(Ser53Phe)が85%と高頻度に検出される。わが国では遺伝学的に明らかにされたZ型の報告はない。deficient型バリアントでは変異AAT分子の折りたたみ構造が変化し、肝細胞の小胞体内で重合体polymerを形成して蓄積し流血中へ分泌できなくなるため、血清中濃度が低下する。さらに、好中球エラスターゼ阻害活性自体も低下している。 dysfunctional型バリアントは血液中のAAT蛋白量は正常であるが好中球エラスターゼ阻害活性が低下したタイプで、F型(Arg223Cys)が知られている。■ 病態生理1)好中球エラスターゼ阻害活性の低下~喪失によりもたらされる影響血清AAT濃度は通常20~50μMであり、気道被覆液中に拡散し好中球エラスターゼに代表されるセリンプロテアーゼによる組織破壊に対し防御的に働いている。しかし、11μM以下(<50mg/dL)になるとプロテアーゼによる組織破壊を十分防げず肺気腫が進行する(プロテアーゼ・アンチプロテアーゼ不均衡)。Z型では、血清AAT濃度は約2~10μMと著明に低下している。喫煙は、AAT正常者でもCOPD発症の最大の危険因子であるが、AATDでは喫煙感受性が非常に高く、より若年で肺気腫が進行しCOPDを発症する。一方、MZなど正常型とdeficient型のヘテロ接合型は、その中間の血清AAT濃度(>11μM)を呈するため、COPDを発症するリスクはないとされてきたが、最近の研究ではCOPD発症リスクがあるとする成果も報告されている。2)小胞体内や細胞外での変異AAT重合体の蓄積変異AATは小胞体内で重合体を形成して貯留し、小胞体ストレスとなり細胞を障害する。これが肝障害の主たる要因である。変異AAT重合体は、流血中、肺の気道被覆液中、肺組織などの組織間液中などの細胞外でも検出される。細胞外の変異AAT重合体は炎症を誘起する作用があり、好中球や単球に対する走化性因子や活性化因子として作用し、肺での炎症のみならず、脂肪織炎や血管炎の発症に関与すると考えられている。■ 臨床症状労作時息切れ、咳や痰などの呼吸器症状はもっともよくみられる初発症状であるが、本症に特異的な症状はない。肺疾患の有病率は主に患者の喫煙歴に依存し、喫煙歴のあるAATD患者では70%以上がスパイロメトリーでCOPDの基準を満たすが、非喫煙者では約20~30%程度である。AATDの肺気腫は汎細葉性肺気腫であり、細葉中心性肺気腫の病理像を示すAAT正常者とは異なる。胸部単純X線所見では、AAT正常者のCOPDと異なり下肺野優位に肺気腫を示唆する透過性亢進を認める(図2)。胸部CTでは汎細葉性肺気腫を示唆する広範な低吸収領域を認め、気管支拡張を伴う例もある(図3)。図2 α1-アンチトリプシン欠乏症(Siiyamaホモ接合例)の胸部X線所見画像を拡大する肺野全体の透過性亢進、血管影の減少を認めるが、両側下肺野に著しい。図3 α1-アンチトリプシン欠乏症(Siiyamaホモ接合例)の胸部高分解能CT画像画像を拡大する(A)AAT正常のCOPD症例。細葉中心性肺気腫を示唆する低吸収領域を認める。(B)Siiyamaホモ接合例。汎細葉性肺気腫を示唆する広範な低吸収領域を認める。(C)Siiyamaホモ接合例。汎細葉性肺気腫を示唆する広範な低吸収領域とともに気管支拡張像を認める。■ 経過と予後非喫煙AATD患者ではCOPDの発症は少なく、喫煙AATD患者より生存期間も長い。例えば、非喫煙AATDでCOPDを発症した症例の死亡年齢の中央値は65歳であるのに対し、喫煙AATDでCOPDを発症した症例は40歳と報告されている。さらに、PI*ZZ(Z型バリアントのホモ接合)のAATDの非喫者で無症状の場合は、ほぼ正常の寿命が期待できる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ どのような状況でAATDを疑い、血清AAT濃度を測定するか?AATDを疑って血清AAT濃度(ネフェロメトリー法)を測定する事が何よりも重要である 3,4)。従来から、一般的COPDとはやや異なる臨床像(若年者、非喫煙者、喫煙歴があったとしても軽度、COPDの家族歴など)を示すCOPD患者などでは血清AAT濃度を測定するべき3)とされてきた(表 ATR/ERSステートメント)。しかし、有病率の高いヨーロッパや北米でさえ、今だにAATDのunderdiagnosis状況が持続しており、2016年の成人AATD患者の管理・治療ガイドライン4)やGOLD 2022レポートでは、「すべてのCOPD患者には、年齢、人種を問わず、AATDの診断テストを行うべきである」と述べている(表)。表 どのようなときにAATDを疑い、診断のための検査を考慮するべきか?画像を拡大する■ 診断基準AATDは、血清AAT濃度<90mg/dL(ネフェロメトリー法)と定義され、AAT欠乏の程度は、軽症(血清AAT濃度50~90mg/dL)あるいは重症(<50mg/dL)の2つに分類される5)。AATは急性相反応蛋白質であるため感染症などの炎症性疾患では増加すること、一方、肝硬変、ネフローゼ症候群、タンパク漏出性胃腸症などの他の原因でも減少しうるので、診断に際してはこれらの病態を除外する必要がある。指定難病では、重症度2以上が医療費助成の対象となる。重症度の評価方法については難病情報センターを参照されたい。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 予防を含めた全般的考え方肺疾患の予防には、喫煙しない、受動喫煙も含めて有害粒子の吸入曝露を避けること、が大切である。AATD患者では、定期的にスパイロメトリーあるいは胸部CTを行い、肺疾患の発症あるいは進行をモニタリングする。COPDを発症している場合には、COPDの治療と管理のガイドラインに準じて治療を行う。呼吸不全に至った症例では肺移植の適応となる。肝疾患発症の危険因子についてはよくわかっていないが、肥満は肝疾患のリスクを高め、男性は女性よりリスクが高い。AATD患者では肝炎ウイルス(HAV、HBV)のワクチン接種、アルコールを摂取しすぎない、健康的な食事を心がけることが推奨されている。AATD患者では、年1回程度の採血による肝機能のモニタリング、腹部超音波検査による肝がんのスクリーニングを適宜行う。■ AAT補充療法(augmentation therapy)病因・病態に則した治療としてAAT補充療法がある。ヒトのプール血漿から精製されたAAT製剤を週1回点滴静注(60mg/kg)する治療であり、CT画像における気腫病変の進行を遅らせる効果、死亡率を低下させる効果が報告されている。わが国では4名の重症AAT患者が参加した治験が実施され6)。欧米人で示されている安全性と薬物動態、すなわち、AAT(60mg/kg)を週1回点滴静注することにより、肺胞破壊に対し防御的な血清AAT濃度>11μM(>50mg/dL)を維持できることが示された。その結果、ヒトα1-プロテイナーゼインヒビター(商品名:リンスパッド)点滴静注用1,000mg(凍結乾燥製剤)(海外商品名:Prolastin-C)として2021年7月に上市された。ヒトα1-プロテイナーゼインヒビターは、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や気流閉塞を伴う肺気腫などの肺疾患を呈し、かつ、重症AATDと診断された患者[血清AAT濃度<50mg/dL(ネフェロメトリー法で測定)]に投与する。ヒトα1-プロテイナーゼインヒビター1,000mgを添付溶解液20mLで溶解し、ヒトAATとして60mg/kgを週1回、患者の様子を観察しながら約0.08mL/kg/分を超えない速度で点滴静注する。最後に、ルート内のAATすべてが患者に投与されるよう生理食塩液25mLに換えて同じ速度で点滴して終了する。体重60kgの成人では、全体で約20分以上を要する。AAT補充療法を開始するタイミングについて明確な基準はない。週1回の点滴静注を非常に長期にわたって継続する必要があるが、数十年以上にわたって投与し続けると想定した場合、長期投与における有害事象のリスクに関する情報は乏しい。成人AATDの治療と管理のガイドラインでは、FEV1<65%predの症例では、患者の意向を確認した上でAAT補充療法を検討するとされている3,4)。肝障害に対する特異的治療はなく、栄養指導、門脈圧亢進症の管理などの支持療法が主体である。門脈圧亢進症がある場合には、出血のリスクがあるためNSAIDsの投与は避ける。重症の肝不全では肝移植が適応となる。4 今後の展望患者細胞からiPS細胞を樹立し、肝細胞に分化させた後にゲノム編集で病的バリアントを正常バリアントに換えて患者に移植する研究、siRNAによる肝細胞でのSERPINA1発現のサイレンシング、異常AATのポリマー形成を阻害する薬剤などの試みがある。近年、AATDの正確な実態把握と治療効果の追跡を継続的に行い、長期的な管理戦略を構築することを目的に、欧州では多国間にわたる臨床研究協力の取り組みが始まっている。わが国においては、呼吸器財団、日本呼吸器学会、厚生労働省難治性疾患政策研究事業、難病プラットホームの4者の支援を受け、本症を含めた希少肺疾患を対象としたレジストリ(登録制度)が開設されている。希少肺疾患登録制度5 主たる診療科主たる診療科は呼吸器内科となる。肝疾患については消化器内科、脂肪織炎や肉芽腫性血管炎では皮膚科および関連する診療科と連携する必要がある。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター α1-アンチトリプシン欠乏症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)Alpha-1 Foundation 米国の患者団体ホームぺージ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)希少肺疾患登録制度(医療従事者向けのレジストリ情報サイト)1)Greene CM, et al. Nat Rev Dis Primers. 2016;2:16051. 2)Seyama K, et al. Respir Investig. 2016;54:201-206. 3)American Thoracic Society;European Respiratory Society. Am J Respir Crit Care Med. 2003;168:818-900. 4)Sandhaus RA, et al. Chronic Obstr Pulm Dis. 2016;3:668-682.5)佐藤晋ほか、難治性呼吸器疾患・肺高血圧に関する調査研究班.α1-アンチトリプシン欠乏症診療の手引き2021 第2版. 2021.6)Seyama K, et al. Respir Investig. 2019;57:89-96. 公開履歴初回2022年5月12日

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第108回 日本ではいつまで続く?各国のマスク着用解除、メリット・デメリットを検証

ゴールデンウィーク中は、マスクを外して散歩やジョギングなどをしている人が目に付いた。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のもとで、海外ではマスク着用義務が解除された国々が増え、日本でも屋外などでマスクを外せる条件や時期について議論が出始めた。一方で、マスクの着用により口呼吸が癖になった人がマスクを外しても口呼吸することで体に弊害を及ぼす可能性も指摘されている。また、各国で報告されている原因不明の子供の肝炎には、マスク着用が新型コロナ以外の感染症にかかりにくくし、免疫力が低下したことが背景にあるのではとの見方もあり、マスク着用の功罪についての議論や研究の必要性が指摘されている。外出時に着用必須の中国、身を守るために着ける韓国世界のマスク事情を見てみると、上海に続き北京もロックダウンになった中国は、ゼロコロナ政策により、マスク着用義務はないが、着用しないと外出できず、スーパーなどにも入れてくれないという。韓国は屋内も屋外もマスク着用義務があり、違反者には罰金が科せられていた。3月16日には1日の新規感染者数が62万人と過去最多になったが、その後、感染者数の減少に伴い規制緩和を進め、5月2日からは屋外のマスク着用義務が原則解除された。感染者の隔離義務もなくなるが、未感染者の中には「自分の身を守るため、マスクは着用する」という声が多いという。欧米に目を転じると、英国では1月27日、交通機関や屋内でのマスク着用義務が解除され、2月24日には新型コロナ対策の法的規制がすべて撤廃された。感染者の隔離義務もなくなった。そもそも屋外ではマスク着用は義務化されたことがないため、1月上旬、オミクロン株の感染拡大が一番ひどい時は、新規感染者数が1日当たり20万人超いたが、それでも屋外でマスクを着用している人の割合は2割ぐらいだった。コミュニケーション上、デメリット感じる米英現在、介護施設や病院の中では、マスクの着用を義務付けているところもある。ただ、英国ではマスクにデメリットを感じる人も多い。顔をマスクで隠しながらコミュニケーションをとることに抵抗を感じる人は少なくない。とくに子供たちの場合、対人関係を一番学ばなければならない時期にマスクをすることが、コミュニケーション能力の成長を妨げてしまうのではないかと考える教育関係者や親が多い。そのため、これまで学校では11歳未満の子供に対して、マスクを着用する義務はなかった。顔を隠すデメリット以外にも、マスクを着けていると息苦しいとか、コストがかかるとか、廃棄されるマスクの環境への負荷など、マスク着用のデメリットに関して議論がされてきた。それらを踏まえ、英国ではマスクをするしないを個々人で決めているという。米国では感染者数の減少に伴い規制緩和が進み、一部の地域を除いてほとんどの公共交通機関でマスク着用義務が解除された。全米ではマスクを着けている人はほとんどいないが、2年ほど前のコロナパンデミック下で1日800人ほどが死亡したニューヨークでは、1~2割の人がマスクを着用しているという。ただ、米国は移民の国なので、コミュニケーションは笑顔が基本。マスクを着けていると表情が見えないため、そもそもマスク着用は根付かない土壌がある。また、自由の国であるため、義務を押し付けられることを嫌う国民性がある。マスク着用義務は自由の尊重という米国建国の理念に反すると反発する国民も多い。予防策としてのメリットと口呼吸を癖にするデメリットマスクを着けるメリットを改めて考えると、新型コロナをうつさない、もらわないという感染対策が挙げられる。公共交通機関の中で感染しないためには、マスクを着けていたほうが安全だ。一方で、デメリットもある。マスクをすることで口呼吸する人が増えた。鼻呼吸のほうが、フィルター機能があったり温度を調整してくれたりするので、吸った空気が気管に与える影響は軽減される。口呼吸が癖になると、今後マスクを外した時に、口呼吸がもとで体調を崩す人が増える可能性が考えられる。原因不明の子供の肝炎はマスク着用が原因?原因不明の子供の肝炎が十数ヵ国で報告されているが、COVID-19患者の治療に当たっているクリニック院長は「今まではさまざまな感染症にかかることで免疫が保たれたりしていたが、マスクをすることで新型コロナ以外の感染症にかかりにくくなり、その分免疫力が低下して原因不明の疾病にかかりやすくなっている事態に陥っている可能性もある」と指摘する。マクロな視点でマスク着用のメリット・デメリットを考察する時期に来ているのではないだろうか。

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医療従事者、PPE着用時の皮膚病リスクと低減戦略

 シンガポール・国立皮膚疾患センターのWen Yang Benjamin Ho氏らは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックにおける最前線の医療従事者を対象に、個人用防護具(PPE)着用と職業性皮膚病(OD)との関連を明らかにする疫学調査を行い、リスク因子と低減戦略を検討した。 対象者416例のうち73.8%がPPE関連OD(PROD)を有したと回答。そのエビデンスベースに基づく推奨事項として、着用から1時間ごとに休憩を予定する、さまざまなPPEを試してみることなどの知見が得られたと報告した。JAAD International誌オンライン版2022年4月8日号掲載の報告。 研究グループは、PRODは医療従事者にとって重大な職業上の負荷であり、その疫学を理解することは低減戦略を策定するうえで不可欠として、医療従事者におけるPRODの有病率を明らかにし、その症状を特徴付け、リスク因子を特定し、医療従事者の行動変容を断面調査法にて評価した。 調査は、オンライン質問法を用いて、2020年7月~9月に行われた。累積で少なくとも2週間、COVID-19患者と直接的に接触した医療従事者に参加を促した。 主な結果は以下の通り。・有効回答者416例において、PROD有病率は73.8%(307/416例)であった。・最も一般的な原因は、フェイスマスク(93.8%、288例)であった。・フェイスマスク、保護眼鏡、ヘアネット、ガウン、手袋と関連する最も頻度の高いPRODは、ざ瘡(71.5%、206/288例)、圧迫創傷(70.7%、99/140例)、頭皮のかゆみ(53.3%、16/30例)、かゆみ/発疹(78.8%、26/33例)および乾皮症(75.0%、27/36)であった。・1時間超のPPE着用で、PRODのオッズ比は4.8倍増加した。・医療従事者の大半は、PROD軽減のために行動を変更していた。・以上のエビデンスに基づき、医療従事者に強く推奨するべきこととして、(1)PPE着用時は1時間ごとに休憩をとる、(2)さまざまなPPEモデルを試着する、(3)配置前に既存の皮膚病のスクリーニングを行う、(4)PRODに見舞われた場合の低減戦略/支援手段について教育を受けておくことが示された。

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日本人高齢者における野菜・果物の摂取と認知症リスク~久山町研究

 これまで、欧米で行われていたプロスペクティブ研究では、野菜や果物の摂取が認知症リスクを低下させることが示唆されている。しかし、アジア人を対象とした疫学的なエビデンスは限られていた。九州大学の木村 安美氏らは、日本人コミュニティにおける野菜や果物およびそれらの栄養素の摂取と認知症発症リスクと認知症サブタイプとの関連について調査を行った。その結果、野菜とその構成栄養素の摂取量が多いほど、日本人高齢者の認知症リスクが低下することを報告した。BMC Geriatrics誌2022年3月28日号の報告。野菜では認知症リスク低下を認めるも果物は有意な関連なし ベースライン時に認知症でない60歳以上の日本人1,071人(男性:452人、女性:619人)を対象に、24年間プロスペクティブにフォローアップを行った。野菜、果物、栄養素の摂取量は、ベースライン時に70項目の半構造化された食物摂取頻度調査票で評価し、性別ごとに四分位で分類した。評価項目は、認知症とそのサブタイプ(アルツハイマー病、血管性認知症)の発症とした。認知症発症のリスク推定値の算出には、Cox比例ハザードモデルを用いた。 野菜や果物、およびそれらの栄養素の摂取と認知症発症リスクと認知症サブタイプとの関連について調査を行った主な結果は以下のとおり。・長期フォローアップ期間中の認知症発症は464例であり、その内訳はアルツハイマー病286例、血管性認知症144例であった。・交絡因子で調整した後、野菜の摂取量が多い人では認知症(p trend<0.05)およびアルツハイマー病(p trend<0.05)のリスク低下が認められたが、血管性認知症のリスク低下は認められなかった。・野菜の摂取量が最高四分位の人では、最低四分位の人と比較し、認知症リスクが27%、アルツハイマー病リスクが31%低かった。・認知症リスクは、ビタミンA、リボフラビン、ビタミンC、マグネシウム、カルシウム、カリウムの摂取量が増加するほど有意な減少が認められた(各々:p trend<0.05)。・食物繊維の総摂取量が多い人は、認知症リスクが低い傾向にあった(p trend=0.07)。・果物の摂取量と認知症および認知症サブタイプのリスクとの有意な関連は認められなかった。

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オミクロン株BA.2などについて更新、COVID-19診療の手引き7.2版/厚労省

 5月9日、厚生労働省は「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 第7.2版」を公開し、全国の自治体や関係機関に通知を行った。 今版の主な改訂点は以下の通り。診療の手引き7.2版の主な改訂点【1 病原体・疫学】・オミクロン株のBA.2系統について更新・懸念される変異株の表を更新・COVID-19死亡者数の図を更新・国内発生状況でオミクロン株のBA.2系統への置き換わりについて更新・海外発生状況で世界の流行株(主にオミクロン株)と今後の公衆衛生措置などを更新【2 臨床像】・罹患後症状について定義付け、症状一覧の図を更新 (「後遺症」という用語を削除)【3 症例定義・診断・届出】・改訂点なし【4 重症度分類とマネジメント・重症度別マネジメントのまとめの図の治療薬の脚注を更新【5 薬物療法】・ソトロビマブ(ゼビュディ点滴静注液500mg)について2022年4月18日の添付文書改訂による、本剤のオミクロン株(B.1.1.529/BA.2系統)への有効性(効果減弱の可能性)について更新・ニルマトレルビル/リトナビルに関する記載について併用薬留意の文言を追加・S-217622に関する記載について開発対象と参考情報を更新【6 院内感染対策】・妊婦および新生児への対応について、帝王切開の分娩方法や感染妊婦の出生児接触の対応について更新

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高リスク早期乳がんへの術後アベマシクリブ、HR0.68でiDFS改善(monarchE Cohort 1)/ESMO BREAST 2022

 日本および欧州(EMA)での承認の対象である、腋窩リンパ節転移個数や腫瘍径といった臨床現場で判定しやすい特徴により定義された再発リスクの高いホルモン受容体陽性HER2陰性(HR+/HER2−)早期乳がん患者に対して、術後薬物療法としてのCDK4/6阻害薬アベマシクリブと内分泌療法併用のベネフィットが示された。ドイツ・Evang. Kliniken Essen-MitteのMattea Reinisch氏が、欧州臨床腫瘍学会乳がん(ESMO Breast Cancer 2022、2022年5月3~5日)でmonarchE試験Cohort 1の有効性データを報告した。[monarchE試験 Cohort 1]・対象:HR+/HER2−の初発乳がん、遠隔転移なし・腋窩リンパ節転移陽性の症例(閉経状況問わず)、術前/術後の化学療法は許容・Cohort 1(全体の91%):腋窩リンパ節転移(pALN)が4個以上またはpALN1~3個かつGrade3の病変または腫瘍径≧5cm・試験群:アベマシクリブ150mg×2/日+標準的術後内分泌療法。アベマシクリブは最長2年間投与(アベマシクリブ+ET群:2,555例)・対照群:標準的術後内分泌療法(タモキシフェン、アロマターゼ阻害薬、LH-RHアゴニストなど。薬剤は主治医選択)(ET群:2,565例)・評価項目:[主要評価項目]無浸潤疾患生存期間(iDFS)[副次評価項目]遠隔無転移生存期間(DRFS)、全生存期間(OS)、安全性、患者報告アウトカムなど Cohort 1における主な結果は以下のとおり。・ベースライン時の臨床病理学的特徴は両群でバランスがとれていた(pALN≧4個:アベマシクリブ+ET群65.6% vs.ET群65.1%、Grade3:41.6% vs.40.9%、腫瘍径≧5cm:23.5% vs.23.6%)。・データカットオフは2021年4月1日、追跡期間中央値は28ヵ月。・2年間に到達せず治療が中止されたのはアベマシクリブ+ET群17.8% vs. ET群17.0%だった。・iDFSはアベマシクリブ+ET群で有意に改善し(ハザード比[HR]:0.680、95%信頼区間[CI]:0.572~0.808、Nominal p<0.0001)、2年iDFS率はアベマシクリブ+ET群92.6% vs.ET群89.6%、3年iDFS率は88.6% vs. 82.9%(3年後の絶対ベネフィット:5.7%)だった。・DRFSも有意な改善が認められ(HR:0.669、95%CI:0.554~0.809、Nominal p<0.0001)、2年DRFS率は94.1% vs.91.2%、3年DRFS率は90.2% vs. 85.7%(3年後の絶対ベネフィット:4.5%)だった。・主な再発部位は骨・肝臓・肺といった遠隔転移で、その発生率はアベマシクリブ+ET群で低かった(71.9% vs.75.6%)。・安全性解析結果は、アベマシクリブの既知の安全性プロファイルと一致した。 Reinisch氏は、ルーチンの乳がん診断の一環として特定可能な定義による再発高リスクのHR+/HER2−早期乳がん患者において、術後薬物療法としてのアベマシクリブと内分泌療法の併用が、遠隔転移のリスク低減を含む、浸潤性疾患リスクの臨床的に意義ある低減を示したとまとめている。

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米国のうつ病/物質使用障害成人の喫煙率が有意に低下/JAMA

 大うつ病エピソード(MDE)、物質使用障害(SUD)、あるいはその両方を抱えた米国成人の自己申告による喫煙率は、2006年から2019年にかけて有意に低下している。米国・国立衛生研究所(NIH)のBeth Han氏らが、探索的順次横断研究の結果を報告した。米国における予防可能な疾病・障害・死亡原因である喫煙は、減少傾向にある。しかし、精神疾患患者では喫煙率が高く、2014年までのデータを用いた研究において一般集団でみられた喫煙率低下は、精神疾患患者では観察されなかったことが示されていた。著者は、「精神疾患患者の喫煙率をさらに低下させるため、継続的な取り組みが必要である」とまとめている。JAMA誌2022年4月26日号掲載の報告。全国調査に参加した約56万人のデータを解析 研究グループは、米国において2006~19年の薬物使用と健康に関する全国調査に参加した18歳以上の55万8,960例のデータを用い、DSM-IV-TR(精神疾患の診断・統計マニュアル第4版テキスト改訂版)に基づく過去1年間のMDEおよびSUDを有する人の喫煙率について解析した。 主要評価項目は、社会人口統計学的特性で補正した自己申告による過去1ヵ月間の喫煙である。 55万8,960例のうち、41.4%が18~25歳、29.8%が26~49歳で、女性は53.4%であった。2006年から2019年にかけて、喫煙率はMDEで年間3.2%、SUDで年間1.7%低下 自己申告による過去1ヵ月間の喫煙率は、2006年から2019年にかけてMDEを有する成人では37.3%から24.2%へ(平均年間変化率:-3.2、95%信頼区間[CI]:-3.5~-2.8、p<0.001)、SUDの成人では46.5%から35.8%へ(-1.7、-2.8~-0.6、p=0.002)、MDEとSUDの両方を有する成人では50.7%から37.0%へ(-2.1、-3.1~-1.2、p<0.001)、いずれも有意に低下した。この有意な喫煙率低下は、アメリカ先住民/アラスカ先住民のMDE(p=0.98)またはSUD(p=0.46)では観察されなかったことを除き、年齢、性別、人種/民族のいずれのサブグループでもMDEおよびSUDともに認められた(すべてp<0.05)。 MDEを有する成人と有していない成人との間の喫煙率の差は、全体では11.5%から6.6%に有意に低下し、平均年間変化率は-3.4(95%CI:-4.1~-2.7、p<0.001)であった。平均年間変化率の有意な低下は、男性(-5.1、95%CI:-7.2~-2.9、p<0.001)、女性(-2.7、-3.9~-1.5、p<0.001)、18~25歳(-5.2、-7.6~-2.8、p<0.001)、50歳以上(-4.7、-8.0~-1.2、p=0.01)、ヒスパニック系(-4.4、-8.0~-0.5、p=0.03)、白人(-3.6、-4.5~-2.7、p<0.001)でも同様に確認された。 アメリカ先住民/アラスカ先住民における喫煙率は、2006~12年の間ではMDEの有無で有意差はなかったが、2013~19年の間ではMDEを有する成人で有意に高かった(群間差:11.3%、95%CI:0.9~21.7、p=0.04)。SUDの有無で比較した喫煙率の差は、女性で低下し、平均年間変化率は-1.8(95%CI:-2.8~-0.9、p=0.001)であった。

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修復不能な腱板断裂、肩峰下バルーンスペーサーは無効/Lancet

 修復不能な肩腱板断裂に対し、関節鏡視下デブリドマンと比較しInSpaceバルーン(米国Stryker製)の有効性は認められなかったことが、英国・ウォーリック大学のAndrew Metcalfe氏らが英国の24施設で実施したアダプティブ群逐次デザインの無作為化二重盲検比較試験「START:REACTS試験」の結果、示された。InSpaceデバイスは、2010年にCEマークを取得し、2021年7月に米国食品医薬品局(FDA)で承認されるまで、米国以外では約2万9,000件の手術で用いられていた。しかし、InSpaceデバイスの有効性については、初期の小規模なケースシリーズで有望な結果が報告されていたものの、いくつかの研究では好ましくない結果や炎症・疼痛がみられる症例について報告され、無作為化試験のデータが必要とされていた。著者は今回の結果を受けて、「われわれは修復不能な腱板断裂の治療としてInSpaceバルーンを推奨しない」と結論づけている。Lancet誌オンライン版2022年4月21日号掲載の報告。12ヵ月後の肩スコアをデブリドマンのみとInSpaceバルーン留置併用で比較 研究グループは、保存療法の効果がなく手術の適応となる症状を有する修復不能な腱板断裂の成人患者を、上腕二頭筋腱切除を伴う肩峰下腔の関節鏡視下デブリドマンのみ(デブリドマン単独群)、またはInSpaceバルーン留置を併用したデブリドマン(デバイス群)の2群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。無作為化は、術中、肩の断裂と周辺構造の評価後に適格性を決定し(医師が腱板断裂を修復できると判断した場合は試験から除外)、断裂サイズを測定した後、中央ウェブシステムにアクセスすることで実施された。 患者および評価者は割り付けに関して盲検化された。盲検化は、両群とも手術の切開部を同じとし、手術記録の盲検性を保持し、治療群にかかわらず一貫したリハビリテーションプログラムを提供することで達成された。 主要評価項目は、12ヵ月時の肩スコア(Oxford Shoulder Score[OSS]、範囲:0~48[48が最良])である。 なお、本試験は2回の中間解析が計画されていたが、最初の中間解析で事前に規定された無益性の基準を満たしたため、2020年7月30日に募集と無作為化が中止された。デブリドマンのみがInSpaceバルーン留置併用より有効 2018年6月1日~2020年7月30日の期間に、385例の適格性が評価され、適格と判断され試験参加に同意を得られた患者のうち117例が治療群に割り付けられた(デブリドマン単独群61例、デバイス群56例)。43%が女性、57%が男性であり、患者背景は両群で類似していた。 12ヵ月時の主要評価項目のデータは117例中114例(97%)から得られた。 12ヵ月時の平均(±SD)OSSは、デブリドマン単独群(59例)が34.3±11.1、デバイス群(55例)が30.3±10.9であった。適応的デザインで補正した平均群間差は、-4.2(95%信頼区間[CI]:-8.2~-0.26、p=0.037)であり、デブリドマン単独群が優れていた。 有害事象に関しては、両群間で差はなかった。

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ファイザー製COVID-19ワクチンのオミクロン株に対する4回目接種の有効性(解説:小金丸博氏)

 ファイザー製COVID-19ワクチン(BNT162b2、商品名:コミナティ筋注)の4回目接種の有効性を検討したイスラエルの研究がNEJM誌オンライン版2022年4月5日号に報告された。本研究は新型コロナウイルスのオミクロン変異株が流行していた2022年1月~3月にかけて行われた試験であり、オミクロン変異株に対する予防効果を評価したものとなっている。イスラエルでは60歳以上の方、ハイリスク患者、医療従事者に対して4回目接種が認可されており、3回目の接種から4ヵ月以上の間隔を空けて接種する。本試験では60歳以上の方を対象として、ワクチンの感染予防効果、重症化予防効果が評価された。 補正前のSARS-CoV-2感染率は、4回接種群が10万人日当たり177だったのに対して、3回接種群では361であり、疑似ポアソン回帰分析の結果、感染率は3回接種群のほうが2.0倍高かった。4回目の追加接種を行うことで一定の感染予防効果を示したが、ワクチン接種後4週間をピークに効果の減弱を認め、ワクチンの感染予防効果は経時的に低下することが示された。 補正前の重症COVID-19発生率は、4回接種群が10万人日当たり1.5だったのに対して、3回接種群では3.9であり、疑似ポアソン回帰分析の結果、重症COVID-19発生率は3回接種群のほうが3.5倍高かった。重症化予防効果に関しては、少なくとも4回目接種後6週間は減弱を認めなかった。ワクチンのブースター接種による重症化予防効果がいつまで維持されるのか、今後の研究結果を待ちたい。 本研究は世界に先駆けてCOVID-19ワクチンの4回目接種を行っているイスラエルの大規模な解析結果であり、4回目接種の議論が行われている本邦でも大変参考になるデータである。現時点では、高齢者(とくに重症化リスク因子となる基礎疾患を有する者)は重症化予防を目的にブースター接種を行うのが妥当と考えるが、4回目接種の対象者(年齢、基礎疾患など)や3回目接種との間隔については各国で意見が分かれており、議論の余地があると考える。 COVID-19ワクチンに関する今後の課題として、新たな変異株に対する有効性の評価や、ブースター接種スケジュールの確立などが挙げられる。本研究はファイザー製ワクチンの試験結果であるが、異なるCOVID-19ワクチンとの組み合わせでの有効性は興味ある点である。予防効果を維持するためにはワクチンのブースター接種は必須と考えられるため、ワクチン接種スケジュールの確立のために、さらなる知見の集積が必要である。

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毎朝7時半からZoomでレクチャーが聴ける!米国のフェロー教育【臨床留学通信 from NY】第33回

第33回:毎朝7時半からZoomでレクチャーが聴ける!米国のフェロー教育前回に引き続き、今回も循環器フェローの教育プログラムに関するお話です。平日はほぼ毎日、朝7時30分から8時30分まで、教育に関するレクチャーを聴くことができます。たとえば抄読会では、NEJM誌やJACC誌、Circulation誌などの主要な論文を、フェロー2人が担当し、隔週月曜にパワーポイントを用いて発表していきます。私のプログラムでは、フェローの数が3学年で30人以上と多いため(通常のプログラムだと15~20人程度)、担当するのは年に1~2回のみで、ほかの人の発表を聴くことが多く、そこまで負担になりません。また、ケースカンファレンスも隔週でフェロー2人が、当直ないしコンサルテーション等で困った症例をみんなでシェアしてディスカッションしてきます。そこにはProgram Directorと呼ばれるフェロー担当の指導医がいて、抄読会、ケースカンファレンスに対してフィードバックをしていきます。毎週火曜にはGrand Roundと呼ばれる外部講師を招いての症例検討会があり、活発な議論が行われますし、大概どこの病院も週に1回はそのような形式で指導医を含めて知識のアップデートを行っているともいえます。とくにわれわれの施設はMonteHeartと呼ばれており、その様子を録画した動画をYouTubeに投稿しています。たとえばこちらの動画は、JACC誌編集長のValentin Fuster氏を招いての講演で必見です。循環器系に興味がある人には知識がいろいろ整理されますし、英語の勉強をしたい人にもおすすめです。毎週火曜昼の12時から1時間や金曜の朝はエコーカンファレンスです。答えを知らないエコー所見について、フェローが一人ひとり所見を述べていく形で、珍しい症例を含めていろいろ取り上げられます。木曜昼にはピザを片手にECGカンファレンスがあり、実際の心電図等を基に、これまた一人ひとり所見を述べてディスカッションしていくため教育的といえるでしょう。そして金曜昼には画像診断の講義が、これまた外部講師を招いて行われています。心臓CT/MRIなど私の弱い分野でもあり、これも勉強になっています。カテーテルに関しては血管造影の所見などをインターベンションのフェローが月曜昼に時間を取って、ジェネラルフェローに解説していくというレクチャーもあります。しかし、これは日本と違い、多くの心臓病学のレクチャーではジェネラルフェローのレベルではカテーテルにそこまで関わらず、循環器専門医のBoard試験対策といったレベルのようです。それ以外に前回も述べたように不整脈、重症心不全/心臓移植、エコー、心臓CT/MRI、先天性心疾患、Cardio-Oncology、Cardio-Obstetricsと呼ばれる分野の専門家の話も聞ける内容になっています。Zoom時代になったのも相まって、オンサイトでの参加が義務ではないため、フェローとしては、聞き流ししやすいので楽ではありますが、集中して聴くのには適しているともいえません。これらのことが可能なのは膨大な指導医の数によって米国の医療が賄われており、彼らの時間を教育に割けるということにもよります。日本で応用するのは難しいですが、きちんと終わりの時間を5時に設定し、朝7時半からレクチャーの時間を確保するなどの工夫も必要です。大学病院であれば、循環器など専攻ごとにZoom講演を適宜行い、外病院であれば、いくつかの病院と連携し、さらに今後は学会側が研修医、後期研修医向けに、年間を通じて講演を設定することなども重要かと思いますし、そうすることで若手の勧誘にもつながるのではないでしょうか。ColumnPubMed掲載論文が200本となりました。年50本のペースで論文を作成しております。ご指導いただいた先生方に感謝を申し上げると共に、留学を目指す後陣に指導を還元できればと思います。また米国でのアカデミックキャリアを積めるように邁進していきます。

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初執刀に向けた準備を完璧にするルーチン【誰も教えてくれない手術記録 】第14回

第14回 初執刀に向けた準備を完璧にするルーチンこんにちは! 手術を描く外科医おぺなかです。新年度になって1ヵ月ほどがたちました。人事異動や新人加入で落ち着かない日々が続いていたと思いますが、5月に入りようやく慣れてきたころでしょうか? 頑張り過ぎて体調を崩してしまうことのないように気を付けましょう。僕が思う外科医の魅力の1つに、「現役でいる間はいつまでも新しい術式を経験できること」があります。虫垂切除やヘルニア手術などから始まり、徐々に消化器がんを中心とした高難度手術へとステップアップしていくわけですが、そのたびにそれぞれの術式の“初執刀”を迎えます。外科医は、そのいくつもの初執刀を一つひとつ乗り越えて一人前になっていくのですよね。今回は、これから初執刀を経験するであろう先生方に向けて、僕がこれまで行ってきた「初執刀前」のルーチンを紹介します。初執刀は誰しも緊張するものなので、万全の準備をして、自信を持って手術に臨めるようにしましょう。おぺなか流・初執刀前のルーチン(1)術前サマリーの作成手術前に患者さんの情報をできるだけ集め、術前サマリーとしてまとめましょう。術前サマリーの作成とカンファレンスでの症例提示は、多くの施設で執刀医が担当していると思います。術前サマリーには、病歴や検査結果だけでなく、体型や血管走行異常なども記載し、術前の臨床所見に基づいた切除標本の予想展開図まで作成できるといいですね。(2)手術記録の下書き通常は手術後に書く手術記録ですが、僕は手術前に手術記録を下書きしています。あたかも手術を実際に行った後のように、患者背景(病状/解剖構造)に沿って手術内容を文章とイラストにまとめてみると、うまく描けないところは理解が不十分だと気付き、手術前に押さえるべきポイントが浮き彫りになります。ちなみに、術後に書く正式な手術記録は、この下書きを修正して作成すれば非常に時短になるのでおすすめです!(3)手術書・解剖学書の熟読僕は初執刀の術前に必ず手術書・解剖学書を一通り読むようにしています。ポイントとしては、ただ何となく読むだけでなく、読みながらコツやピットフォールをメモなどに書き出しておくと手術直前にも振り返りやすいです。また、複雑な解剖構造や手技などを自分なりにイラスト化してみるのも良いと思います。頭の中の情報が可視化され、手術記録を書く際にも応用できますよ!画像を拡大する参考:解剖学書をまとめた一例(4)手術ビデオ・セミナー動画の聴講初執刀前の準備では、本や資料だけでなく映像資料も必ず確認しましょう。自施設の過去の手術ビデオがあれば、絶対に見ておくべきです。また、医師会員向けサイトには各分野のエキスパート医師が執刀した手術ビデオや教育・啓発を目的としたセミナー動画が数多くあります。自施設の手術とエキスパートの手術を見比べて違いを確認しておくのも非常に勉強になります。(5)道具を使った手術シミュレーション余裕があれば、シミュレーターや腹腔鏡トレーニングボックスを用いて、実際に手を動かしてみると手術のイメージがより強固となります。下の写真は、僕が実際に行った膵頭十二指腸切除術の膵管空腸吻合に向けたシミュレーションです。100円均一などで材料をそろえて自作のシミュレーターを作成し、運針の手順や針のまとめ方などを術前に整理することができました。工夫すれば高価なものを使わなくても十分なシミュレーションが可能です。参考:手術シミュレーションの一例(6)上級医との術前打ち合わせ自分なりに準備ができたら、前立ちの上級医と術前に入念な打ち合わせをしておきましょう。自分の手術に対する理解度や意欲を事前に共有しておくと、実際の手術でスムーズにサポートしてもらえると思います。あなたの手術へのやる気や熱意を上級医に思いきりぶつけてください!これだけの準備を完遂するにはそれなりの労力と時間がかかりますが、しっかり準備をして臨んだ手術が成功するというのは、外科医として確かな成長を実感できる瞬間ではないでしょうか。また、患者さんは初執刀かどうかにかかわらず、私たち外科医の技術を信じて手術の成功を祈ることしかできません。その患者さんの覚悟に対する礼儀として、安全に確実に遂行するための努力を惜しまないようにしたいものですね。ぜひ、僕のルーチンを参考に、初執刀の準備に取り組んでみてください!

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高カルシウムだったら疑いたいMAH【知って得する!?医療略語】第11回

第11回 高カルシウムだったら疑いたいMAH高カルシウム(Ca)血症に遭遇した時に注意することを教えてください高Ca血症を見かけたら、悪性疾患も鑑別に想定します。悪性疾患に伴う高Ca血症と言っても、鑑別すべき病態は複数あるので注意が必要です。≪医療略語アプリ「ポケットブレイン」より≫【略語】MAH【日本語】悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症・悪性腫瘍随伴高カルシウム血症【英字】malignancy-associated hypercalcemia【分野】腫瘍関連【診療科】全診療科【関連】局所骨溶解性高Ca血症(LOH:local osteolytic hypercalcemia)腫瘍随伴体液性高Ca血症(HHM:humoral hypercalcemia of malignancy)PTH非依存性活動性ビタミンD産生腫瘍(悪性リンパ腫)異所性PTH産生腫瘍実際のアプリの検索画面はこちら※「ポケットブレイン」は医療略語を読み解くためのもので、略語の使用を促すものではありません。最近、ハッとしたことがありました。高Ca血症の鑑別を考えたとき、悪性腫瘍に伴う高Ca血症(MAH:malignancy-associated hypercalcemia)について、筆者自身が悪性疾患を念頭に置いてどれくらい血清Ca値に注意を払えていただろうか、という振り返る機会があったからです。高Ca血症の鑑別は多岐に及びますが、悪性腫瘍に関連する高Ca血症の病態だけでも、以下のように複数挙げられます。悪性腫瘍に関連した高カルシウム血症腫瘍随伴体液性高Ca血症(HHM:humoral hypercalcemia of malignancy)(腫瘍細胞からのPTHrP過剰産生に基づく全身性液性機序)局所骨溶解性高Ca血症(LOH:local osteolytic hypercalcemia)(多発性骨髄腫・悪性疾患骨転移)悪性リンパ腫による活性型ビタミンD過剰産生異所性PTH産生腫瘍ただ、臨床現場では、血清Ca値の結果報告は、未補正値のみが表示されることが多く、意識してアルブミン値で補正しないと、軽度の高Ca血症は見落としてしまう可能性があります。また、血清Ca値が正常範囲内でも、過去のデータと見比べると上昇傾向になっている場合もあります。このため、過去のデータとの比較が重要となってきます。また、薬剤が血清Ca値を修飾する場合があります。高齢女性では骨粗鬆症の治療薬を使用している場合も多く、たとえばビスホスホネート製剤はその血中Ca濃度の低下作用から、血清Ca値の上昇をマスクしてしまう可能性も否定できません。血清Ca値を悪性疾患の早期発見やスクリーンニングという観点で利用することは難しいです。しかし、血清Caに異常を認めたときは悪性疾患をしっかり想定する必要があり、未診断の悪性疾患が潜んでいる可能性をきちんと想起したいものです。しばらく経ってから悪性疾患が見つかるという事態は極力避けたい状況であり、日常臨床で当たり前に検査している血清Caの解釈には、より一層の注意を払いたいと感じます。1)井上 大輔. 日内会誌. 2020;109:740-745.2)福原 傑. 日腎会誌. 2017;59:598-605.

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第108回 「かかりつけ医」の制度化めぐり、日本医師会と財務省の攻防本格化

日医がかかりつけ医についての“新しい”考え方公表こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。連休後半は、大学の山のクラブの先輩が居住する長野県・原村に行って来ました。毎年、冬の八ヶ岳登山の時に、ベースキャンプとして宿泊させてもらう私の“別荘”です。先輩は1ヵ月ほど前から喉の痛みと違和感が続き、諏訪の病院で上部消化管の内視鏡検査を受けることになり、私が一緒に住んでいる犬と留守番をすることになったのです。検査の結果、食道に潰瘍状の病変が見つかりました。病理組織検査の結果待ちとなったのですが、少々嫌な予感がします。茨城に住む別の先輩も一昨年、III期の食道がんが見つかり、化学療法と組み合わせた大層な外科手術を受けています。身近な山仲間に食道がんが頻発しているのは、年齢と言ってしまえばそれまでですが、長年の飲酒や喫煙というリスクファクターの他に、ひょっとしたら長年の登山もがんのリスクになるということなのでしょうか……。ちょっとやれやれな週末でした。さて今回は、日本医師会が公表した、日医のかかりつけ医についての“新しい”考え方、『国民の信頼に応えるかかりつけ医として』について書いてみたいと思います。日医の中川 俊男会長は4月27日の定例記者会見で、診療所開業医を取り巻く社会の変化を踏まえ、かかりつけ医のあり方について改めて『国民の信頼に応えるかかりつけ医として』1)を取りまとめたと話し、その内容について解説しました。『国民の信頼に応えるかかりつけ医として』は「かかりつけ医」を、「患者さんが医師を表現する言葉」とした上で、「『かかりつけ医』は患者さんの自由な意思によって選択されます。どの医師が『かかりつけ医』かは、患者さんによってさまざまです。患者さんにもっともふさわしい医師が誰かを、数値化して測定することはできません。(中略)患者さんに信頼された医師が、『かかりつけ医』になるのです。患者さんと『かかりつけ医』の信頼関係にもとづいて、全国でさまざまな形のかかりつけ医機能が発揮されています。わたしたち医師は、かかりつけ医機能をさらに深化させるとともに、より温かみのあるものにしていきます」としています。「新しい医療技術の研鑽を積み、最善の治療を選択」そして、「かかりつけ医」の「努め」として、患者からいつでも何でも相談してもらえるよう、しっかりコミュニケーションを取って診察することや、その結果を分かりやすく伝えて治療目標を患者と共有すること、必要なときに適切なタイミングで適切な専門の医師や医療機関につなぐこと、だと定義。「かかりつけ医を中心に地域の医師がチーム一丸となって患者さんを支え」「日々、新しい医療技術の研鑽を積み、患者さんおよびご家族とともに最善の治療を選択」する、としています。また、地域社会での「かかりつけ医機能」については、健康相談や予防接種、健診などの社会的な活動や、警察医といった行政活動。災害時の地域の医療支援活動。地域の医師と連携して24時間365日、相談・受診に応じる体制を取るとともに、在宅当番医や休日・夜間の急患センター業務を担うこと、を挙げています。中川会長は、本文書を4月22日に岸田 文雄内閣総理大臣と面談した際に手渡し説明、都道府県医師会、郡市区医師会、会員には手紙2)を添えて送付したとのことです。財務省が“先制攻撃”、制度化提言新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって浮き彫りになった診療所開業医の役割や機能。中でも「かかりつけ医」の機能や制度化を巡っては、本連載でもこの1年間に「第59回 コロナ禍、日医会長政治資金パーティ出席で再び開かれる? “家庭医構想”というパンドラの匣」「第68回 「骨太」で気になった2つのこと かかりつけ医制度化拒む日医は開業医の質に自信がない?」「第97回 2022年診療報酬改定の内容決まる かかりつけ医、報酬は従来路線踏襲も制度化に向けた議論本格化へ」と、何度か取り上げてきました。2022年の診療報酬改定の議論の過程では、財務省や経済財政諮問会議が「かかりつけ医」の制度化を迫りましたが、具体的な議論にまでは進まず、改定後に持ち越されました。そして改定直後の4月13日、財務省は“先制攻撃”として、財政制度等審議会の分科会3)で「かかりつけ医」を認定する制度をつくることを提言しました。これは、政府が6月ごろにまとめる「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太方針2022)への反映を目指してのものと言えます。コロナ禍の反省踏まえ認定制度と登録制を段階踏んで検討せよ財政制度等審議会の分科会は、「かかりつけ医機能の強化の取組が実体面で実効性を上げていたとは言えない状況下で、新型コロナの感染拡大を迎えた」「発熱等の症状が生じた患者は、まずはかかりつけ医等の地域での身近な医療機関に電話相談し、相談する医療機関に迷う場合には『受診・相談センター』に電話相談して、発熱外来の案内を受けて受診する仕組みが目指された。しかし、かかりつけ医等がいないこと、『受診・相談センター』に連絡がつながりにくいこと、加えて発熱外来を実施する医療機関名の公表を促すことにしていたにもかかわらず、実際には地域の医師会の合意等を得られない等で公表が進まなかったこと等から、発熱患者等が円滑に診療を受けられない状況が生じた」と、コロナ禍で浮き彫りになった外来医療体制の問題点を指摘しています。その上で、今後について「制度的対応が不可欠であり、具体的には、1)地域の医師、医療機関等と協力している、2)休日や夜間も患者に対応できる体制を構築している、3)在宅医療を推進しているといった、かかりつけ医機能の要件を法制上明確化したうえで、これらの機能を備えた医療機関をかかりつけ医として認定するなどの制度を設けること、こうしたかかりつけ医に対して利用希望の者による事前登録・医療情報登録を促す仕組みを導入していくことを、段階を踏んで検討していくべきである」と、制度化と登録制の創設を提言しています。英国のGP(General Practitioner)制度を多分に意識した仕組みと言えます。2013年の合同提言の定義との違いは?今回の日医の「かかりつけ医」に対する“新しい”考え方の公表は、こうした制度化の動きを牽制したものと言えます。中川会長はこの日の記者会見で、財務省が創設を提言している「かかりつけ医」の制度化について、「医療費抑制のために国民の受診の門戸を狭めるようなことであれば認められない」と述べたとのことです。日医が関与した「かかりつけ医」の定義としては、2013年8月に日本医師会と四病院団体協議会が合同提言した『医療提供体制のあり方』が使われてきました。その中では「かかりつけ医」を「なんでも相談できるうえ、最新の医療情報を熟知して、必要なときには専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」と定義しています。機能面としては今回の考え方と概ね同じと言えますが、中川会長は、「合同提言は、病床機能をどうするかが大きなテーマだったが、今回はかかりつけ医に焦点を当てたもの」として、1)かかりつけ医は患者が医師を表現する言葉である、2)患者ごとにかかりつけ医が異なり、患者にふさわしい医師が誰かを、数値化して測定することはできない、3)患者が信頼できる医師が、かかりつけ医であることを明示、の3点が合同提言との違いであると説明したとのことです。注目される「骨太の方針2022」「患者側の表現」「測定することはできない」「患者が決める」とは、制度化への反対を前提とした論理構成と言えるでしょう。とは言うものの、「みんなでこれからも頑張ります」という精神論的色彩が強く、コロナ禍で明らかとなった診療所開業医の機能不全を解消する具体的な仕組みは提案されていません。財務省の提言に対抗するものとしては弱過ぎる印象です。そもそも「かかりつけ医」を持つ患者は5割ほどに過ぎないと言われています。今はあれこれ用意されている「かかりつけ医」関連の診療報酬も、「患者が決める(選ぶ)」医師だけにしか支払われない仕組みになったら医師側は逆に困ると思うのですが、どうでしょう。本連載でも何度も書いてきたように、今や財務省の意向は岸田首相の考えだとも言えます。岸田首相は4月13日の経済財政諮問会議で、「コロナ禍での経験や受診行動の変容を踏まえ、かかりつけ機能が発揮される制度整備や新たに導入したリフィル処方の使用促進など、医療・介護サービス改革の継続・強化に取り組む」と述べています。翌15日の衆院厚生労働委員会では、「かかりつけ医」のあり方について「機能を明確化しつつ、患者と医療者、双方にとってその機能が有効に発揮されるための具体的な方策を検討する」との考えを示しています。経済財政諮問会議が6月にまとめる予定の「骨太の方針2022」に記載される「かかりつけ医」の内容によっては、制度化の議論が一気に進む可能性があります。そうなれば、コロナ禍を経験しても何も変えようとしなかった日本医師会は、本当に正念場を迎えることになるでしょう。参考1)国民の信頼に応えるかかりつけ医として/日本医師会2)日本医師会「国民の信頼に応えるかかりつけ医として」について3)財政制度等審議会 財政制度分科会 議事要旨等/財務省

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コロナ罹患後症状マネジメント第1版発表、暫定版を改訂/厚労省

 厚生労働省は、2021年12月に公開した「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント(暫定版)」を改訂、新たに「新型コロナウイルス感染症(COVID19)診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント(第1版)」を4月28日に発表し、全国の自治体や関係機関などに周知を行った。 今回の改訂では、神経症状と精神症状はそれぞれ別の章とし、皮膚症状の章を新設したほか、各章が共有の小項目の見出しとなった。また、内容としてかかりつけ医などがどの範囲まで対応し経過観察するのか、どのタイミングで専門医・拠点病院の受診を勧めるのかなどについて、各症状(呼吸器、循環器、嗅覚・味覚、神経、精神、痛み、皮膚ごと、また、小児への対応、さまざまな症状に対するリハビリテーション)について記載を行った。 なお、本別冊(第1版)は、2022年4月現在の情報を基に作成しており、今後の知見に応じて、内容に修正が必要となる場合がある。厚生労働省、国立感染症研究所などのホームページから常に最新の情報を得る必要があるとしている。■目次と主な改訂点1)罹患後症状・代表的な罹患後症状の図を追加・今後の課題の内容を大きく改訂2)罹患後症状を訴える患者へのアプローチ・CDCの見解などを追加3)呼吸器症状へのアプローチ※以下の各診療領域のアプローチでは共通項目として「1.はじめに」、「2.科学的知見」、「3.症状へのアプローチ」、「4.フォローアップすべき所見・症状」、「5.プライマリケアのおけるマネジメント」、「6.専門医・拠点病院への紹介の目安・タイミング」、「7.専門医・拠点病院でのマネジメント」に内容が整理され、表記されている。4)循環器症状へのアプローチ5)嗅覚・味覚症状へのアプローチ6)神経症状へのアプローチ・COVID-19罹患後に遷延する症状の表を追加・診療フローチャートの図を追加・難治性症例の追加7)精神症状へのアプローチ8)“痛み”へのアプローチ・SARS-CoV-2感染による疼痛発症機序と考えられるメカニズムを追加・筋痛、関節痛などの症状の変化の図を追加9)皮膚症状へのアプローチ(新設)・診療のフローチャートを掲載・COVID-19関連皮膚症状の臨床的特徴、病理組織学的所見、全身症状の重症度、治療法の選択についてのまとめ一覧を掲載10)小児へのアプローチ・診療のフローチャートを追加11)罹患後症状に対するリハビリテーション・診療のフローチャートを追加12)罹患後症状と産業医学的アプローチ・具体的な事例4つを追加

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中年期の生活環境とその後のうつ病との関連

 大阪大学の小川 憲人氏らは、一般集団における生活環境と精神科医によるうつ病診断との縦断的関連について、調査を行った。その結果、子供と一緒に暮らすことで、男性ではうつ病リスクの低下が認められ、うつ病予防における子供の影響が示唆された。Translational Psychiatry誌2022年4月11日号の報告。 1990年、多目的コホート研究(JPHC Study)において、40~59歳の日本人男性および女性1,254人が登録され、生活環境についてのアンケート調査に回答した。その後、2014~15年にメンタルヘルス検診を実施した。うつ病の診断は、十分な経験を積んだ精神科認定医による診察を通じて評価した。 主な結果は以下のとおり。・フォローアップ期間中に、精神科医によるうつ病の診断は105例(64~84歳、男性:36例、女性69例)であった。・男性では、子供と一緒に暮らすことでうつ病リスクの低下が認められたが(多変量OR:0.42、95%CI:0.19~0.96)、女性では認められなかった(同:0.59、95%CI:0.32~1.09)。・これらの関連は、配偶者や親との同居で調整した場合でも、同様であった。

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