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室温が1℃下がると血圧はどのくらい上がるか~しずおか研究

 気温が低いと血圧が上昇することは知られているが、室温の影響についてはまだ十分な研究がなされていない。今回、静岡社会健康医学大学院大学の田原 康玄氏らがしずおか研究(静岡多目的コホート研究事業)において、家庭での室温と朝・夕・睡眠時の血圧を調べ、その関連を報告した。Journal of Hypertension誌オンライン版2025年9月19日号に掲載。 本研究は地域住民を対象とした縦断研究で、成人779人(平均年齢70.7歳)が対象。家庭血圧はカフ式オシロメトリック法の血圧計を用いて1週間測定し、睡眠時血圧はタイマー付き血圧モニターを用いて0時、2時、4時に自動的に記録した。室温は血圧モニターの温度計で測定した。 主な結果は以下のとおり。・室温が1℃下がると、朝の収縮期および拡張期血圧は0.863mmHgおよび0.342mmHg上昇し(p<0.001)、夕方の収縮期および拡張期血圧は0.721mmHgおよび0.320mmHg上昇した(p<0.001)。一方、睡眠時の収縮期血圧(0.076mmHg、p=0.181)と拡張期血圧(0.078mmHg、p=0.039)に対する影響は小さかった。・低い室温と朝の収縮期血圧および拡張期血圧の関連は、外気温で調整しても有意であった(0.809mmHgおよび0.304mmHg、p<0.001)。・室温による血圧変化に関連した因子は年齢のみであった。・朝の平均血圧が正常である433人のうち93人が最も寒い日に高血圧となった。これらの参加者は朝の平均血圧が正常範囲内の高い値で、降圧薬を使用している可能性が高かった。 これらの結果から、室温は朝・夕の血圧に影響するが、睡眠時血圧には影響しないことが示唆された。

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小児喘息の発作治療、ブデソニド・ホルモテロールvs.SABA/Lancet

 軽症喘息の小児において、ブデソニド・ホルモテロール配合薬による発作治療はサルブタモールと比較して、喘息発作の予防効果が有意に優れ、安全性プロファイルはほぼ同様であることが、ニュージーランド・Victoria University WellingtonのLee Hatter氏らCARE study teamによる第III相試験「CARE試験」の結果で示された。成人喘息の発作治療では、短時間作用型β2作動薬(SABA)に比べ吸入コルチコステロイド・ホルモテロール配合薬は喘息発作を有意に低減することが知られている。研究の成果は、Lancet誌2025年10月4日号で報告された。5~15歳の無作為化対照比較試験 CARE試験は、研究者主導型の52週間の実践的な非盲検無作為化対照比較優越性試験(Health Research Council of New Zealandなどの助成を受けた)。2021年1月28日~2023年6月23日にニュージーランドの15の臨床試験施設で参加者の適格性を評価した。 年齢5~15歳、喘息と診断され、吸入SABA単剤による発作治療を受けている患児360例(平均年齢10歳[SD 2.9]、女児178例)を対象とした。 被験者を、吸入ブデソニド(50μg)・ホルモテロール(3μg)配合薬の2回吸入を頓用する群(179例)、またはサルブタモール(100μg)の2回吸入を頓用する群(181例)に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、患児1例当たりの喘息発作の年間発症率であった。重症喘息発作には差がない 患児1例当たりの喘息発作の年間発症率(主要アウトカム)は、サルブタモール群が0.41であったのに対し、ブデソニド・ホルモテロール群は0.23と有意に良好であった(喘息発作の相対的比率[RR]:0.55、95%信頼区間[CI]:0.35~0.86、p=0.012)。5~11歳(0.72[0.46~1.12])より12~15歳(0.06[0.01~0.43])、女児(0.94[0.52~1.68])より男児(0.30[0.15~0.58])で、ブデソニド・ホルモテロール群の治療効果が高かった。 また、少なくとも1回の喘息発作を発症した患児の割合は、サルブタモール群の32%(58例)に比べ、ブデソニド・ホルモテロール群は17%(30例)であり、有意に低かった(オッズ比[OR]:0.43、95%CI:0.24~0.75、p=0.0060)。 一方、患児1例当たりの重症喘息発作の年間発症率は両群間に有意な差がみられなかった(ブデソニド・ホルモテロール群0.11、サルブタモール群0.18、RR:0.60、95%CI:0.32~1.14、p=0.11)。有害事象の発現頻度は同程度 少なくとも1件の有害事象が発現した患者の数は、ブデソニド・ホルモテロール群で162例(91%)、サルブタモール群で167例(92%)と両群間に差を認めなかった(OR:0.79、95%CI:0.35~1.79)。また、少なくとも1件の重篤な有害事象が発現した患者の数は、それぞれ5例(3%)および8例(4%)だった(0.62[0.17~2.24])。 成長速度(身長の平均群間差:-0.35cm、95%CI:-0.93~0.24、p=0.24)、喘息で授業が受けられなかった日数(RR:0.68、95%CI:0.44~1.04、p=0.075)、子供の喘息のケアで親が仕事をできなかった日数(RR:0.87、95%CI:0.49~1.56、p=0.64)は、いずれも両群間に差はなかった。 著者は、「これらの知見を先行研究のエビデンスと合わせると、現在SABA単剤による発作治療を受けている5~15歳の喘息患者は、吸入ブデソニド・ホルモテロール配合薬単剤に切り換えることで、より良好な喘息発作予防効果が得られると示唆される」とまとめている。 また、「年長児での高い治療効果は、年少児は吸入器の使用に支援を要したり、保護者が喘息の悪化を認識するのが遅れて治療開始が遅くなることで効果が低下する可能性があるが、年長児は独立して吸入器を使用できたためこの遅れがないという事実で説明が可能と考えられる」「男児での高い治療効果はこれまで報告がなく、喘息のアウトカムは思春期前の女児に比べ男児で不良であることから重要な観察結果となる可能性がある」としている。

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プライマリケアで利用可能な、新たな肝臓のリスク予測モデル/BMJ

 スウェーデン・カロリンスカ研究所のRickard Strandberg氏らの研究チームは、プライマリケアで容易に入手できるバイオマーカーを用いて、肝臓の不良なアウトカムのリスク予測モデル「CORE(cirrhosis outcome risk estimator)」を開発。観察研究により、COREは一般集団の肝関連アウトカムの予測において、現時点で第1選択として推奨される検査法であるFIB-4を上回る性能を発揮し、肝疾患リスク患者を層別化する新たな手段となりうることを示した。研究の成果は、BMJ誌2025年9月29日号に掲載された。COREで主要有害肝アウトカムの10年リスクを評価 研究チームは、プライマリケア環境で主要有害肝アウトカム(major adverse liver outcome:MALO)の発生を予測する新たなリスクモデルとしてCOREを開発し、その妥当性の検証目的で住民ベースのコホート研究を実施した(特定の助成は受けていない)。 モデル開発には、既知の肝疾患歴がなく、プライマリケアまたは産業保健健診で血液検査を受けたスウェーデンのAMORISコホート(48万651例)のデータを用いた。また、外的妥当性の検証は、フィンランドのFINRISKとHealth2000(2万4,191例)、および英国のUK Biobank(44万9,806例)のデータを用いて行い、FIB-4スコアと比較した。 COREは、年齢、性別、AST値、ALT値、γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)値で構成された。 代償性・非代償性肝硬変、肝細胞がん、肝移植、肝関連死の複合アウトカムをMALOとし、その10年リスクを評価した。識別能、較正能、臨床的有用性が優れる 追跡期間中央値28年の時点で、7,168件のMALOイベントが観察された。10年時のMALO発生リスクは0.27%であった。 訓練データにおける10年後の受信者動作特性曲線下面積(ROC-AUC)は、FIB-4が79%(95%信頼区間[CI]:78~80)であったのに対し、COREは88%(95%CI:87~89)を達成し、識別能が優れることが示された。検証コホートにおける10年後のCOREのROC-AUC(FINRISK:81%[95%CI:77~87]、UK Biobank:79%[78~80])は訓練データよりも低かったが、FIB-4のROC-AUCは73%(データを入手できたUK Biobankの値)と訓練データのCOREよりも低かった。 COREの較正能は3つのコホートのすべてで良好であり、リスクの予測値と観察値に良好な一致を認めた。また、決定曲線分析では、あらゆるリスク閾値においてCOREはFIB-4よりも高い純利益(net benefit)をもたらすことが示され、優れた臨床的有用性が確認された。 著者は、「一般集団にはMALOのリスクの高い人々(とくに2型糖尿病や肥満者)が多く、肝硬変や肝細胞がんなどの重大な合併症が発生する前に患者を発見するには、安価でプライマリケアで容易に可能な非侵襲的検査が求められる」「COREは、将来のMALO予測に関してFIB-4を上回る性能を示し、プライマリケアにおいてMALOリスクを有する臨床的に重要な患者を特定するための有望な第1選択の検査法となる可能性がある」としている。

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米国で「悪夢の細菌」による感染症が急増

 米国で、抗菌薬の効かない細菌による感染症が驚くべきペースで増加していることが、米疾病対策センター(CDC)の最新データで明らかになった。CDCによると、最後の砦とされるカルバペネム系薬剤を含むほぼ全ての抗菌薬に耐性を示すことから、「悪夢の細菌」の異名を持つNDM(ニューデリー・メタロβラクタマーゼ)遺伝子を持つNDM産生カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(NDM-CRE)が2019年から2023年の間に劇的に増加したという。CDCの疫学者であるMaroya Walters氏らによるこの研究の詳細は、「Annals of Internal Medicine」に9月23日掲載された。 NDM-CREを原因とする感染症は、肺炎、血流感染、尿路感染、創傷感染などを引き起こし、治療が困難で、死に至ることもある。治療で医師が利用できるのは、静脈内投与を要する高価な2種類の薬剤だけである。本研究には関与していない米エモリー大学の感染症研究者であるDavid Weiss氏は、「米国におけるNDM-CREの増加は深刻な危険であり、非常に憂慮すべき事態だ」とAP通信に対して語っている。 CDCの報告書によると、米国でのカルバペネム耐性菌を原因とする感染症の発生率は、2019年の10万人当たり2件弱から2023年には10万人当たり3件以上へと69%増加している。中でもNDM-CRE関連症例は、2019年の10万人当たり約0.25人から2023年には1.35人へと460%以上の急増を示した。2023年には、29州で4,341件のカルバペネム耐性菌による感染症が確認され、そのうち1,831件はNDM-CREが原因だったという。ただし、報告書では患者の死亡数は明らかにされていない。 CDCの疫学者でこの報告書の共著者であるMaroya Walters氏は、「耐性菌が広がるにつれ、尿路感染症などの一般的な病気の治療がはるかに困難になる可能性がある」と警告している。薬剤耐性は、細菌が抗菌薬に抵抗する能力を獲得することであり、必要がないときに抗菌薬を使用する、処方された用量を最後まで服用しないなどの誤用によって引き起こされることが多い。また専門家らは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックも、薬剤耐性菌の増加に影響を及ぼした可能性が高いと見ている。米セントルイス・ワシントン大学の感染症専門家であるJason Burnham氏は、「パンデミック中に抗菌薬の使用が急増したことは分かっており、これが薬剤耐性菌の増加に寄与した可能性が高い」とAP通信に対して語っている。 ただし、研究グループによると、今回の分析は、実際の感染者数を過小評価している可能性が高いという。多くの病院は必要な検査を行う能力がなく、カリフォルニア州、フロリダ州、ニューヨーク州、テキサス州といった人口の多い州のいくつかはデータセットに含まれていないからだ。このことから研究グループは、全国の感染者数は実際にはもっと多い可能性があると述べている。

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地中海式ダイエットは歯周病も予防する?

 地中海式ダイエットは、心臓病や神経変性疾患、がんなどさまざまな健康問題の予防に役立つことが示唆されているが、歯周病の重症度とも関連することが、新たな研究で明らかにされた。地中海式ダイエットの遵守度が低い人や赤肉の摂取頻度が高い人では、歯周病が重症化しやすい傾向があることが示されたという。英キングス・カレッジ・ロンドン(KCL)のGiuseppe Mainas氏らによるこの研究結果は、「Journal of Periodontology」に9月15日掲載された。 地中海式ダイエットは、果物、野菜、全粒穀物、ナッツ類、豆類、オリーブ油などの健康的な脂肪の摂取を重視し、魚、鶏肉、脂身の少ない肉、乳製品を適度に摂取する一方で、赤肉、菓子類、甘い飲み物、バターなどを控える食事法である。Mainas氏は、「われわれの研究結果は、バランスの取れた地中海式ダイエットが歯周病や全身性炎症を軽減し得ることを示唆している」とKCLのニュースリリースの中で述べている。 本研究では、KCLの口腔・歯科・頭蓋顔面バイオバンク研究に参加した195人の患者のデータを分析し、食事と歯周病、歯茎および全身の炎症との関連を検討した。対象者は、完全な歯科検診を受け、血液サンプルを提供し、食物摂取頻度調査票(FFQ)に回答した。研究グループは、FFQへの回答内容から地中海式ダイエットの遵守度を評価した。また、血液サンプルから、炎症マーカーであるC反応性蛋白(CRP)、歯周病に関与する酵素であるMMP-8(マトリックスメタロプロテアーゼ-8)、炎症や免疫応答に関与するさまざまなサイトカイン(インターロイキン〔IL〕-1α、IL-1β、IL-6、IL-10、IL-17)の血清レベルを測定した。 195人のうち112人は地中海式ダイエットの遵守度が高い群に分類された。多変量解析の結果、地中海式ダイエットの遵守度が高い群では低い群に比べて、重度の歯周病(ステージⅢ、Ⅳ)のオッズが有意に低いことが明らかになった(オッズ比0.35、95%信頼区間0.12〜0.89)。食品群別に検討すると、赤肉の摂取頻度の高さは重度の歯周病と独立して関連していた(同2.75、1.03〜7.41)。さらに、歯周病の重症度は炎症マーカー(CRP、IL-6)と関連しており、IL-6との関連は交絡因子を調整後も有意だった。一方で、野菜や果物などの植物由来の食品を多く摂取すると、炎症マーカーが低くなる傾向が認められた。 Mainas氏は、「歯周病の重症度、食事、そして炎症の間には関連性がある可能性があるため、患者の歯周病に対する治療方針を決める際には、これらの側面を総合的に考慮する必要がある」と話している。 研究グループは、タンパク質を多く含む食事は有害な細菌の増殖を促す口腔環境を作り出す可能性があると指摘する。論文の上席著者でKCL歯周病学教授のLuigi Nibali氏は、「バランスの取れた食事が歯周組織の健康状態を維持する上で役割を果たしていることを示唆するエビデンスが増えつつある。われわれの研究は、栄養価が高く植物性食品を多く含む食事が歯肉の健康改善に寄与する可能性があることを示している。しかしながら、人々が歯肉の健康を管理するための個別化されたアプローチを開発するには、さらなる研究が必要だ」と述べている。

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2型糖尿病患者は敗血症リスクが2倍

 2型糖尿病患者は、生命を脅かすこともある敗血症のリスクが2倍に上るとする研究結果が、欧州糖尿病学会年次総会(EASD2025、9月15~19日、オーストリア・ウィーン)で発表された。西オーストラリア大学のWendy Davis氏らの研究によるもので、特に60歳未満の患者はよりリスクが高いという。 研究者らが研究背景として示したデータによると、敗血症に罹患した患者の10%以上は死に至るという。また、2型糖尿病患者は、敗血症による死亡または重篤な状態へ進行するリスクが、糖尿病でない人に比べて2~6倍高いことがこれまでにも報告されている。ただし、最新のデータは限られていた。 今回の研究では、オーストラリアの一般住民、約15万7,000人のコミュニティーで実施された縦断的観察研究(フリーマントル糖尿病研究フェーズII)の参加者の敗血症罹患率が調査された。2008~2011年の研究参加登録の時点で2型糖尿病を有していた成人患者1,430人を特定した上で、年齢、性別、居住地域をマッチングさせた2型糖尿病でない5,720人の対照群を設定。登録時点における平均年齢は66歳で、男性52%であり、2型糖尿病群では敗血症による入院歴が2.0%に見られ、対照群でのその割合は0.8%だった。 平均10年間の追跡期間中に、2型糖尿病群の169人(11.8%)と対照群の288人(5.0%)が敗血症に罹患していた。年齢、性別、敗血症による過去の入院歴、2型糖尿病以外の慢性疾患などの潜在的な交絡因子を調整した後、2型糖尿病群は敗血症を発症するリスクが対照群の2倍に上ることが明らかになった。特に、年齢が41~50歳の集団では、2型糖尿病を有している場合に敗血症リスクが14.5倍高くなることが分かった。 また、2型糖尿病患者では、喫煙習慣がある場合に敗血症リスクが83%上昇することも示された。Davis氏は、「われわれの研究により、喫煙、高血糖、糖尿病の合併症など、修正可能な敗血症のリスク因子がいくつか特定された。これは、敗血症リスクを抑えるために、患者自身でも実行可能な対策が存在していることを強調するものと言える」と話し、「2型糖尿病患者が敗血症を防ぐ最善の方法は、禁煙、高血糖の是正、そして糖尿病に伴う細小血管および大血管の合併症を予防することだ」と付け加えている。 2型糖尿病が敗血症のリスクを押し上げるメカニズムとしては、研究者らによると、高血糖が免疫機能を低下させることの影響が考えられるという。実際、2型糖尿病患者は、尿路感染症や皮膚感染症、肺炎などの感染症にかかりやすく、それらの感染症から敗血症へと進展することがある。また、糖尿病により生じていることのある血管や神経のダメージが、敗血症のリスクをより高める可能性もあるとのことだ。ただし研究者らは、今回の研究手法では2型糖尿病と敗血症の間の直接的な因果関係の証明にはならないことを、留意点として挙げている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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血栓症予防に、避難所ではどんな体操を勧めたらよいか?【実例に基づく、明日はわが身の災害医療】第8回

避難所ではどんな体操を勧めたらよいか?避難所生活も数日が経過し、衛生環境やプライバシーが不完全な慣れない暮らしの中で、とくに高齢の避難者の方々に、疲労の色が濃くなってきました。血栓症の予防や筋力の維持のため、避難者を支えるボランティアや行政の職員から、「何か体操をしてもらおうと思いますが、どうしましょう?」と相談を受けました。このような時、どんなアドバイスをしたらよいでしょうか?東日本大震災の避難所での教訓この問いに対して、私には苦い経験があります。東日本大震災の際、支援に訪れた南三陸町の大きな避難所で、実際に自治体の方からこの相談を受けました。その時、私は「ぜひやりましょう。ラジオ体操などが手軽でよいのではないでしょうか」と安易にお答えした記憶があります。しかしその後、災害医療の専門家から、「朝は低血糖や血圧上昇のリスクがあり、寒い屋外での体操は危険です」とご指摘を受け、自身の配慮が至っていなかったことを大いに反省しました。最終的には、理学療法士のボランティアの方が、午後の時間帯に、被災者の状態に合わせて考案した体操を実施してくださいました。この経験は、避難所での運動を考えるうえで重要な教訓となりました。避難生活の身体機能低下避難生活が続くと、心身にはさまざまな影響が現れます。仮設住宅で生活する高齢者は、自宅での生活継続群に比べ、身体機能が有意に低下することがわかっており、運動機会の確保が重要と示されています1)。また、ストレッチや体操など短時間で軽い運動や、徒手的で低侵襲のマッサージであっても、避難者の「気分」が改善され、即時的に心理状態を改善する効果があることが示されています2)。このように、避難所での運動を促すことは、身体機能の維持だけでなく、精神的にも良い影響があると考えられます。体操はいつ行うのが理想的か?―朝の運動に潜むリスクでは、体操はいつ行うのがよいのでしょうか。とくに朝の運動には注意が必要です。朝は覚醒に伴い交感神経が活性化し、「モーニングサージ」と呼ばれる朝の血圧上昇が起こりやすい時間帯です。実際に、心筋梗塞の発症は午前に発症のピークがあることが知られています。とくに高血圧や動脈硬化のある人は影響を受けやすいので、起床後いきなり激しい運動をすることは避けるように提唱されています3)。また、室温が20℃から10℃に下がるだけで、朝の収縮期血圧が5~9mmHg上昇するというデータがあり、寒さはモーニングサージを増幅します。寒い朝に体操を行う場合は、屋内で上着を着て、ゆっくり開始するのが安全です4)。私が南三陸でご指摘を受けたのは、こうしたことを深く考えていないと思われたからでしょう。「ラジオ体操」は避難所に適しているのか?誰もが知るラジオ体操ですが、避難所で行うにはいくつかの点を考慮する必要があります。ラジオ体操の歴史は古く、1928年に最初のラジオ放送があったといわれています。現在の形になったのは1951年の戦後になってからですが、その当時、音楽に合わせて同じ動きをする民衆にGHQが警戒し、一時的にラジオ体操を禁止したこともあるようです。フレイルがある高齢者に、毎日3セットのラジオ体操をしてもらうことで、俊敏な動きとバランス、持久力が有意に改善したと報告されています5)。しかし、ラジオ体操が考案された当時の平均寿命は60代でした。そもそもラジオ体操は60歳以上の人が毎日行う前提では作られておらず、確かに、ジャンプも含まれるラジオ体操は、高齢者にとってはかなりハードなものと言えます。こうした背景からか、全国の自治体で、理学療法士会など専門家により、高齢者や災害時のために非常に多くのストレッチや体操が考案されており、動画が公開されていますが、ラジオ体操を積極的に推奨されている例はあまり見かけません。たとえば、能登半島地震で活用された、稲葉先生お勧めの「かえるの合唱」に合わせた体操の動画6)や、東京都が推奨している体操7)(図)なども参考になります。画像を拡大する図. 避難生活で行う体操(参考文献7より)以下は、避難所での運動のミニプロトコル案です。避難所でのミニプロトコル案1.1日2回(午前/夕方)、3~5分の体操。椅子座位版も併用2.参加は任意、ハイリスク(急性疾患/胸痛/強い息切れ/著しい高血圧)は見学3.下肢ポンプ運動(踵上げ・足首回し)を前後に追加:VTE対策4.換気と距離確保、床の段差/滑りに注意いずれにしても、避難所や仮設住宅で生活している被災者は、避難生活中の心身機能の維持と回復のための運動が望ましく、無理のない範囲で体操を行うことが勧められます。 1) Ishii T, et al. Physical performance deterioration of temporary housing residents after the Great East Japan Earthquake. Prev Med Rep. 2015; 2:916-919. 2) 熊本 圭吾. 避難所の高齢被災者における軽い運動の心理的効果. 長保医大紀要. 2016;1:15-18. 3) Kario K. Morning surge in blood pressure and cardiovascular risk: evidence and perspectives. Hypertension. 2010;56:765-773. 4) Umishio W, et al. Cross-Sectional Analysis of the Relationship Between Home Blood Pressure and Indoor Temperature in Winter: A Nationwide Smart Wellness Housing Survey in Japan. Hypertension 2019 ;74:756-766. 5) Osuka Y, et al. Effects of Radio-Taiso on Health-related Quality of Life in Older Adults With Frailty: a Randomized Controlled Trial. J Epidemiol. 2024;34:467-476. 6) 体操プロジェクト. かんたんリズム体操(かえるの合唱編)【動画】 7) 東京都総務局総合防災部防災管理課. 東京防災. 2023;232-233.

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第288回 父親の運動の努力が精子RNAを介して子に引き継がれる

父親の運動の努力が精子RNAを介して子に引き継がれる父親が運動に励んで備えた後天的な持久走性能の向上が、精子を介したエピジェネティック(後成的)情報の引き渡しで子に引き継がれることがマウスを使った検討で示されました1-3)。運動で備わった有益な性質がどうやら子に受け継がれることが示されつつあり、親が体を動かすことは子の不活発や慢性疾患を防ぐ効果的な手立てとなりうるとみられています。これまでは母親の運動の次世代への効果を調べたものがほとんどでしたが、父親の運動にも目が向けられるようになっています。たとえば最近の研究で、遺伝配列以外の後成的情報が精子を介して父親から子に受け渡されうることが示唆されています。DNAメチル化やヒストン修飾などの典型的な後成的情報に加えて、精子起源の小分子RNA(small RNA、略してsRNA)も親から子への性質継承にだいぶ貢献しているようです。精子のsRNAは父親がどう過ごしているによって変化し、受精に加わって胚の遺伝子発現や発達を調節し、子の生理機能や振る舞いを変化させることが知られています。南京大学と南京医学大学のチームの新たな研究の結果、雄マウスが運動で備えた持久走性能が精子のsRNAの一種のマイクロRNA(miRNA)を介して子に伝わる仕組みが明らかになりました。持久運動は骨格筋の代謝や構造を好調にします。その順応効果は主にミトコンドリアの新生と筋繊維の糖分解から酸化的リン酸化への移行がもたらします。運動で増え、核とミトコンドリアゲノムからのミトコンドリアタンパク質の発現を調和する転写共役因子のPGC-1αがそれらの反応の多くを担います。PGC-1αの役割は多く、ミトコンドリアの品質管理や脂肪酸利用の代謝を促すことなどにも携わります。骨格筋でPGC-1αを多く発現するマウスは、持久運動をせずとも持久運動がもたらすような順応を呈することが先立つ研究で示されています。新たな研究によると、運動に励んだ雄マウスの子は生まれつき運動向きになっており、不活発な雄の子に比べて骨格筋が糖をより取り込み、代謝指標が良好で、より長く走りました。父マウスの骨格筋でのPGC-1α過剰発現が子の持久力を高めることも示されました。さらに研究を進めたところ、父親の運動の恩恵が精子のRNAを介して子に伝わることが判明しました。運動する雄マウスの精子のsRNAを受精卵に注入したところ、運動した雄の子と同様の振る舞い、代謝、分子特徴が再現されました。雄マウスの運動と骨格筋PGC-1α過剰発現はどちらも精子のmiRNAの顔ぶれを変え、PGC-1αを封じる転写調節因子NCoR1を抑制することでミトコンドリア新生と酸化的代謝を促すことが突き止められました。まとめると、父親のPGC-1α過剰発現が精子のmiRNAを変えて胚のNCoR1が抑制されることで、父親が運動で備えた順応が子に伝わる仕組みが明らかになりました。ただし、父親の運動での持久力の改善は雄の子に限られ、雌の子には認められませんでした。父親の運動の恩恵は均一ではなく性によって異なる仕組みで受け継がれるのかもしれません。肥満や慢性疾患を生じ易くする不活発で体を動かさない生活習慣がまかりとおるこのご時世で、子を授かる前の父親があえて運動することの重要性を今回の結果は示しており、父親の運動は子の糖恒常性を、骨格筋での糖取り込みを促すことで改善しうるようです2)。「言うは易く行うは難し」かもしれませんが、子をやがて授かる男性が運動に励むことは次世代の健康を改善する費用対効果的な手段らしく、肥満と慢性疾患の世代間連鎖を断ち切るのに役立つようです。 参考 1) Yin X, et al. Cell Metab. 2025 Oct 6. [Epub ahead of print] 2) Sperm microRNAs: Key regulators of the paternal transmission of exercise capacity / Eurekalert 3) Well-exercised male mice appear to pass fitness to their male offspring / Science

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日本人高齢者の笑いの頻度とうつ病発症との関係

 笑いは、精神的および身体的な健康の有益性と関連するといわれている。しかし、日常生活における笑いがうつ病の予防に有効かどうかに関する縦断的なエビデンスは、依然として限られている。東北大学の玉田 雄大氏らは、日常生活における笑いの頻度が高齢者のうつ病発症リスクと関連しているかどうかを検証するため、6年間の縦断研究を実施した。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2025年9月4日号の報告。 6年間にわたる3-waveコホートである日本老年学的評価研究(JAGES)に参加した65歳以上の日本人3万2,666例のデータを分析した。笑いの頻度は、2019年に自記式質問票を用いて評価した。回答カテゴリーは、「ほぼ毎日」「1~5日/週」「1~3日/月」「まったくない、またはほとんどない」とした。2016~22年のうつ病発症の定義には老年うつ病尺度を用いた。2016年に測定された潜在的交絡因子でコントロールしたうえで、修正ポアソン回帰モデルを用いて調整リスク比(aRR)と95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・フォローアップ期間中に4,805例(14.7%)がうつ病を発症した。・うつ病のaRRは、笑いの頻度が「ほぼ毎日」の人と比較し、「1~5日/週」の人で1.25(95%CI:1.09~1.44)、「1~3日/月」の人で1.26(95%CI:1.05~1.52)、「まったく笑わない」の人で1.49(95%CI:1.18~1.89)であった。・これらの関係に、有意な用量反応傾向が認められた(p for trend<0.001)。 著者らは「日常生活における笑いの頻度が低いことは、高齢者のうつ病発症リスクの上昇と関連が認められた。本知見は、頻繁に笑うことが老後のうつ病予防に役立つ可能性があることを示唆している」と結論付けている。

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嚥下障害を起こしやすい薬剤と誤嚥性肺炎リスク

 飲食物を飲み込む機能障害である嚥下障害は、さまざまな疾患や薬物の副作用により引き起こされる可能性があり、誤嚥性肺炎のリスク因子となっている。しかし、嚥下障害を引き起こす特定の薬剤やその発現率については、これまで十分に解明されていなかった。慶應義塾大学の林 直子氏らは、添付文書の情報に基づき、嚥下障害に関連する薬剤およびその発現率、これらの薬剤を服用している患者における誤嚥性肺炎のリスク因子を特定するため、日本のレセプトデータベースの横断的分析を行った。Drugs-Real World Outcomes誌オンライン版2025年9月19日号の報告。 本研究では、嚥下障害誘発薬剤の候補(candidate dysphagia-inducing drug:CDID)を、副作用として嚥下障害が記載されている日本の添付文書より特定した。CDIDを服用している患者の年齢、性別、服用薬、併存疾患について、ジャムネットのJammNet保険データベースを用いて分析した。 主な結果は以下のとおり。・54成分がCDIDとして特定された。・CDIDを服用している2万4,276例のうち、嚥下障害は146例(0.6%)、誤嚥性肺炎は76例(0.3%)で認められた。・誤嚥性肺炎と診断された患者のうち、23例(30%)は嚥下障害を併発していた。・対象となった54成分のうち28成分(52%)を服用している患者で、嚥下障害または誤嚥性肺炎が発現した。・さらに13成分は、嚥下障害または誤嚥性肺炎のいずれかの副作用発現率が1%以上であった。・各診断における発現率が最も高かった上位5つのCDIDは、クロバザム、バクロフェン、ゾニサミド、チアプリド塩酸塩、トピラマートであった。・複数のCDID服用は単剤のCDID服用と比較し、嚥下障害および誤嚥性肺炎の発現率が有意に高かった(p<0.05)。・ロジスティック回帰分析では、誤嚥性肺炎の発現は、男性、後期高齢者、嚥下障害の診断、便秘と有意に関連していることが示された。 著者らは「本研究結果は、CDIDを処方する際には、とくに高齢の男性患者の場合、誤嚥性肺炎のリスクに細心の注意を払う必要があることを示唆している」と結論付けている。

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国内WATCHMANの左心耳閉鎖術の現状(J-LAAO)/日本心臓病学会

 2019年9月より経皮的左心耳閉鎖デバイスWATCHMANが保険適用となり、それと同時に本邦の患者を対象としたJ-LAAOレジストリがスタートした。それから6年が経ち、これまでに7,690例が登録されてきた。その間にデバイスも進化を遂げ、今では3代目となるWATCHMAN FLX Proが主流となり、初期と比べより安全に左心耳閉鎖が実施できるようになってきている。第73回日本心臓病学会学術集会(9月19~21日開催)のシンポジウム「循環器内科が考える塞栓症予防-左心耳閉鎖、PFO閉鎖、抗凝固療法-」では、草野 研吾氏(国立循環器病研究センター 心臓血管内科部長)が「我が国の左心耳閉鎖術の現状-J-LAAOレジストリからの報告-」と題し、2025年3月までに登録された日本人におけるWATCHMAN最新モデルを含めた安全性・有効性を報告した。 J-LAAOレジストリは、全7学会(日本循環器学会、日本心エコー図学会、日本心血管インターベンション治療学会、日本心臓血管外科学会、日本心臓病学会、日本脳卒中学会、日本不整脈心電学会)共同の非弁膜症性心房細動(NVAF)患者を対象とした経皮的左心耳閉鎖システムによる塞栓予防の有効性・安全性を調査した多施設レジストリ研究である。今回、脳梗塞スコア(CHADS2またはCHA2DS2-VASc)に基づく脳卒中および全身性塞栓症のリスクが高い患者、抗凝固療法が推奨される患者で、とくに出血リスクスコア(HAS-BLED)が3点以上の出血リスクが高い患者を選択基準とし、本レジストリ登録者のうち7,036例の急性期の手技情報、有害事象、術後の抗凝固療法などが解析された。留置後の薬物療法としては、海外試験のレジメンにならい、留置~45日はワルファリン+アスピリン、45日~6ヵ月は抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)、その後はアスピリン単剤療法を推奨している。 主な結果は以下のとおり。 ※いずれの結果も各デバイスでフォローアップ期間が異なる点には注意・平均年齢は78.0歳(FLX Pro群:79.0歳)であった。・各スコアの中央値は、CHADS2が3点、CHA2DS2-VAScが5点、HAS-BLEDが3点であった。・アブレーション治療歴は約1/3にみられ、心房細動の種類としては発作性が2,780例(39.5%)、持続性が4,252例(60.4%)であった。・モヤモヤエコー(smoke like echo)は1,971例(28.0%)にみられた。・最終留置デバイスモデルは約11.3%で40mm、全体の2/3で31mmを超えるデバイスが選択されていた。・手術情報について、手術成功例は97.9%、手術時間は平均52.0分(G2.5:60.0分、FLX:51.0分、FLX Pro:47.0分)で、透視時間も短縮傾向、造影剤投与量も減少傾向であった。・心嚢液リスクはデバイスの形状変化に伴い減少し、G2.5は23例(3.1%)、FLXは40例(0.9%)、FLX Proは9例(0.6%)で認められた。・術45日後の左心耳有効閉鎖率(complete sealもしくは残留血流の最大幅が5mm以下の症例)はG2.5で99.7%、FLXで98.3%、FLX Proで98.3%に認められた。・術45日後の残留血液はG2.5で27%、FLXで13%、FLX Proで9.4%に認められた。・有害事象について、術直後のデバイスごとの心タンポナーデと心嚢液貯留の発生率(G2.5、FLX、FLX Proの順)は、心タンポナーデで0.7%vs.0.2vs.0.1%、心嚢液貯留で1.7%vs.1.0%vs.1.1%であった。・このほかの有害事象は、以下のような結果であった。◯デバイス血栓3.2%(G2.5:36例[4.8%]、FLX:170例[3.7%]、FLX Pro:19例[1.3%])◯うっ血性心不全4.5%(73例[9.7%]、226例[4.9%]、21例[1.4%])◯脳卒中2.5%(36例[4.8%]、131例[2.8%]、11例[0.7%])・死亡者数は全体で415例(5.8%)、G2.5では92例(12.2%)、FLXでは298例(6.5%)、FLX Proでは25例(1.7%)であった。・デバイス移動は全11例(0.16%)、機器の外科的摘出は全9例(0.13%)、経皮的デバイス抜去は全3例(0.04%)であった。 本結果について草野氏は「患者背景をみると、日本人は米国人と比べて発作性心房細動症例の割合が少なく、左心耳入口部が比較的大きい。その点が選択デバイスの大きさに反映されていた。残留血液量も減少傾向にあり、心タンポナーデの発生率の少なさからも安全に手技が行われていたことがうかがえる」とコメントした。外科的摘出の原因として、デバイス血栓・脱落、左房血栓などがみられた点については、「1年以上経過後に発生していることに留意が必要」とし、加えて「FLXでは手術当日にデバイス血栓を生じている症例が複数例あった。一方で、留置後2年後にも生じているケースも散見される。デバイス血栓を発症した患者はシリアスな病態には至っていないものの、これらの結果を踏まえて継続的なフォローアップを行ってほしい」と強調した。なお、いずれの結果を見るうえで、FLX Proは発売からフォローアップまでの期間が短いことには注意が必要である。国内ガイドラインでの推奨は… 日本での左心耳閉鎖術に関する推奨は、『2021年JCS/JHRSガイドラインフォーカスアップデート版不整脈非薬物治療』1)において、「NVAFに対する血栓塞栓症の予防が必要とされ、かつ長期的な抗凝固療法の代替が検討される症例に左心耳閉鎖術を考慮してもよい(推奨クラスIIB、エビデンスレベルB)」となっていた。しかし、2024年にフォーカスアップデート版として公開された『2024年JCS/JHRSガイドラインフォーカスアップデート版不整脈治療』では、症例数の乏しさから左心耳閉鎖術に関する項目に変更は示されず“長期的な抗凝固療法が必要ではあるが、出血リスクが高く抗凝固療法が適切ではない患者においては、左心耳閉鎖デバイスを用いた経皮的左心耳閉鎖術や胸腔鏡下左心耳閉鎖術を症例に応じて考慮してもよい”(p.59)にとどまっている。これについて草野氏は「J-LAAOを経年的に見ても、植込み対象での出血2次予防の割合が減少し、塞栓予防目的の植込みが増加している。今後は海外ガイドラインに準じて、脳梗塞高リスク例への広がりが期待される」と述べた。 最後に国内の状況について、同氏は「米国と日本では左心耳閉鎖術の実施件数に10倍もの差があり、欧米に比べると国内での実施件数は少ない。またレジストリでは、少数ながら脱落が外科手術に至った例があり、安全を心がけた植込み術も重要である」と締めくくった。

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シンバスタチン、二次性進行型多発性硬化症への効果は?/Lancet

 先行の疫学研究により、多発性硬化症(MS)の重症度と血管合併症の関連が指摘され、第IIb相のMS-STAT試験では、HMG-CoA還元酵素阻害薬シンバスタチンはプラセボに比べ、二次性進行型多発性硬化症(SPMS)患者の脳萎縮率を年間43%低減するととともに、総合障害度評価尺度(EDSS)の有意な改善が報告されている。英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのJeremy Chataway氏らMS-STAT2 Investigatorsは、第III相の「MS-STAT2試験」において、SPMS患者の障害進行の抑制に関して、シンバスタチンは有意な効果をもたらさないことを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2025年10月1日号で発表された。英国の無作為化プラセボ対照比較試験 MS-STAT2試験は、英国の31施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2018年5月~2021年9月に参加者の適格性を評価した(英国国立医療・社会福祉研究所[NIHR]医療技術評価プログラムなどの助成を受けた)。 McDonald診断基準でMSと確定され、EDSSのスコアが4.0~6.5であり、過去2年間に身体障害の継続的な進行がみられるためSPMSと診断された患者964例(平均年齢[±SD]54±7歳、女性704例[73%])を登録した。 被験者を、シンバスタチン80mgを経口投与する群(482例)、またはプラセボ群(482例)に無作為に割り付け、3~4.5年間投与した。 主要アウトカムは、6ヵ月後にEDSSで確定された身体障害の進行(ベースラインのEDSSスコアが6.0未満の場合は1点以上の増加、6.0以上の場合は0.5点の増加)とし、ITT解析を行った。副次アウトカムにも差はない 主要アウトカムのイベントは、シンバスタチン群で173例(36%)、プラセボ群で192例(40%)に発生し、両群間に有意な差を認めなかった(補正後ハザード比:1.13、95%信頼区間[CI]:0.91~1.39、p=0.26)。主要アウトカムの感度分析およびper-protocol解析でも、両群間に有意差はみられなかった。 5つの臨床的副次アウトカム(multicomponent disability progression、multiple sclerosis functional composite[MSFC]、Sloan low contrast visual acuity[SLCVA]、修正Rankinスケール[mRS]、brief international cognitive assessment for multiple sclerosis[BICAMS])については、シンバスタチン群の有益性を示すエビデンスは得られなかった。一方、multicomponent disability progressionの3つの構成要素のうち、上肢機能の指標である9-hole peg test(9HPT)はシンバスタチン群で優れた(補正後オッズ比:1.68、95%CI:1.05~2.69、p=0.031)。 4つの患者報告による副次アウトカム(multiple sclerosis impact scale-29 version 2[MSIS-29v2]、multiple sclerosis walking scale 12[MSWS-12v2]、modified fatigue impact scale 21[MFIS-21]、Chalder Fatigue Questionnaire[CFQ])は、いずれも両群間に差はなかった。 また、再発率はシンバスタチン群で有意に高かった(0.05 vs.0.07/人年、補正後発生率比:1.43、95%CI:1.01~2.01、p=0.044)が、数値そのものは低かった。SPMSの進行抑制に実質的な効果はない 追跡期間中に79例が疾患修飾薬による治療を開始した(シンバスタチン群43例[9%]、プラセボ群36例[7%])。このうち73例がシポニモドを使用した。 安全性に関する緊急の問題や、予期せぬ重篤な有害反応を疑わせる事例の報告はなかった。シンバスタチン群の1例で、重篤な有害反応が発現した(治療開始から56日後に横紋筋融解症で入院、続発症の発現なく回復)。心血管系の重篤な有害事象は、シンバスタチン群で5例(1%)、プラセボ群で12例(2%)に発生した。 著者は、「シンバスタチンは、SPMSの進行抑制において実質的な治療効果はないことが明らかとなった」「MSの疾患修飾薬としてのシンバスタチンの位置付けは確立していないが、スタチンは引き続きMS患者の血管合併症の1次および2次予防において重要な役割を担うと考えられる」としている。

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初回マンモグラフィ非受診女性、乳がん死リスク増加/BMJ

 スウェーデン・カロリンスカ研究所のZiyan Ma氏らの研究チームは観察研究において、初回マンモグラフィの受診勧奨に応じず受診しなかった女性は、受診勧奨に応じ受診した女性と比較して、乳がん発見時の腫瘍の悪性度が高く長期的な乳がん死のリスクが顕著に増加しているが、乳がん発生率は同程度であることを示した。研究の成果は、BMJ誌2025年9月24日号で報告された。初回の受診勧奨を受けた約43万例の女性を解析 研究チームは、初回マンモグラフィの受診勧奨に応じなかった女性における、その後の受診状況および乳がんのアウトカムを評価する目的で、住民ベースのコホート研究を実施した(スウェーデン研究会議などの助成を受けた)。 1991~2020年に、同国ストックホルム県でSwedish Mammography Screening Programmeの受診勧奨を受け取り、初回の受診勧奨時の年齢が50歳(2005年7月以前)または40歳(2005年7月以降)の女性43万2,775例を解析の対象とした。初回の受診勧奨前にがんの診断を受けた女性は除外した。 2023年までの追跡期間(最長25年)における、受診、乳がん発生、腫瘍特性、乳がん死について調査した。非受診者は受診率が継続的に低く、StageIII、IVの割合が高い 494万375人年の追跡期間中に、1万6,059例で新たに乳がんが発生した。初回マンモグラフィの受診勧奨を受けた女性のうち、29万4,015例(68.9%)が実際に検診を受け、13万8,760例(32.1%)は受診しなかった。 初回検診の非受診者は、その後の検診でも受診率が継続的に低く、症状の発現によって発見されて進行乳がんと診断される確率が高かった。具体的には、初回検診の非受診者は受診者に比べ、StageIII(4.1%vs.2.9%、オッズ比[OR]:1.53[95%信頼区間[CI]:1.24~1.88])およびStageIV(3.9%vs.1.2%、3.61[2.79~4.68])の乳がんの割合が高かった。非受診者の乳がん死の増加は、発見の遅れを反映する可能性 681万8,686人年の総追跡期間中に、1,603例が乳がんにより死亡した。初回検診の非受診者は乳がん死のリスクも高く、25年間の累積乳がん死亡率は、初回検診の受診者が7.0/1,000例であったのに対し、非受診者は9.9/1,000例だった(補正後ハザード比:1.40、95%CI:1.26~1.55)。 これに対し、25年間の累積乳がん発生率は両群で同程度(受診者7.8%vs.非受診者7.6%)であった。このことから、初回検診の非受診者における乳がん死亡率の増加は、発生率の上昇ではなく、発見の遅れを反映している可能性が高いという。 著者は、「これらのデータは、初回検診の非受診者が、乳がんによる死亡の長期リスクを有する大規模な集団であることを示している。この高リスク集団は、検診受診率の向上と、それによる死亡リスクの低減を目的とする、対象を絞った介入の機会を提供するものである」「初回検診非受診は、回避可能な乳がん死の早期かつ対応可能な予測因子として優先的に取り組むべき課題である」「本研究の知見は、他のがんの検診プログラムへの示唆をも含むものである」としている。

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口腔内の細菌が膵臓がんの一因に?

 膵臓がんのリスクは口の中に生息する微生物と関係している可能性があるようだ。歯周病に直接関係する微生物も含め、27種類の細菌や真菌が膵臓がんリスクと有意に関連し、これらの微生物に基づいて構築された微生物リスクスコア(MRS)が1標準偏差(SD)上昇するごとに、膵臓がんリスクが3倍以上高まることが、新たな研究で示された。米ニューヨーク大学(NYU)グロスマン医学部のRichard Hayes氏らによるこの研究結果は、「JAMA Oncology」に9月18日掲載された。Hayes氏は、「歯磨きとフロスの使用は、歯周病を予防するだけでなく、がんの予防にも役立つ可能性のあることが、これまで以上に明らかになってきた」と述べている。 膵臓がんは、早期発見のための効果的なスクリーニング方法がほとんどなく、がんが見つかったときには進行していることが多いため、「サイレントキラー」と呼ばれている。研究グループによると、膵臓がんは致死率が高く、5年生存率はわずか13%であるという。 過去の研究では、細菌が唾液を介して膵臓に移動し、口腔衛生状態が悪い人のがんリスクを高める可能性のあることが示されている。しかし、具体的にどの微生物が膵臓がんリスクに特に影響を与えているのかは明らかになっていない。 この研究でHayes氏らは、American Cancer Society Cancer Prevention Study-II Nutrition Cohort(米国がん協会がん予防研究II栄養コホート)とProstate, Lung, Colorectal, and Ovarian Cancer Screening Trial(前立腺がん・肺がん・大腸がん・卵巣がんスクリーニング試験)の2つの疫学コホートのデータを用いて、口腔内の細菌および真菌のマイクロバイオーム(微生物叢)と、その後の膵臓がん発症との関連を検討した。口腔サンプルを提供した参加者の中から追跡期間中に膵臓がんを発症した445人を特定。これらと、コホート、年齢(5歳刻み)、性別、人種・民族、口腔サンプル採取時期を一致させたがん未発症の人455人を対照群とした。追跡期間の中央値は8.8年で、対象者(890人)の平均年齢は67.2歳、男性が53.3%を占めていた。 解析の結果、口腔内歯周病菌のうち、Porphyromonas gingivalis、Eubacterium nodatum、Parvimonas micraが膵臓がんリスクの増加と関連していることが明らかになった。また、細菌叢全体を対象とした網羅的解析では、8種類の細菌種が膵臓がんのリスク低下、13種類(このうち1種は前述の歯周病菌に該当)がリスク増加と関連していることが示された。真菌では、Candida属とMalassezia属の計4種が膵臓がんリスクと関連していた。さらに、膵臓がんリスクと有意な関連を示した27種類の細菌・真菌を組み合わせてMRSを構築し、膵臓がんの発症リスクとの関連を検討したところ、MRSの1SD上昇ごとの膵臓がん発症のオッズ比は3.44(95%信頼区間2.63〜4.51)と推定された。 こうした結果を受けて論文の上席著者で、NYUグロスマン医学部のJiyoung Ahn氏は、「口腔内の細菌や真菌の集団をプロファイリングすることで、腫瘍専門医は膵臓がんの検査を最も必要とする患者を特定できる可能性がある」とNYUのニュースリリースの中で述べている。 ただしAhn氏らは、この研究は観察研究であるため、口腔の健康と膵臓がんとの直接的な因果関係を導き出すことはできないと指摘している。研究グループは次に、口腔内のウイルスががんの一因となるのかどうか、また口腔内のマイクロバイオームが患者の生存率にどのような影響を与えるのかを調査する予定だとしている。

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デジタルピアサポートアプリがニコチンガムの禁煙効果を後押し

 ニコチンガムは禁煙に一定の効果を示すものの、その禁煙成功率は十分とは言えない。今回、企業の健康保険組合加入者を対象とした非ランダム化比較試験で、ニコチンガムにデジタルピアサポートアプリを組み合わせることで、禁煙成功率が有意に向上することが示された。研究は、北里大学大学院医療系研究科の吉原翔太氏らによるもので、詳細は「JMIR mHealth and uHealth」に8月19日掲載された。 日本では禁煙治療が保険適用だが、禁煙成功率は高いとは言い難い。平成29年度の厚生労働省の調査によると、ニコチン依存症管理料を算定した患者における5回の禁煙治療完了率は全体で34.6%にとどまっていると報告されている。一方で、グループでの交流を促進し、ユーザー同士で禁煙へのモチベーションを高めるデジタルピアサポートアプリは禁煙に有益である可能性がある。しかしながら、デジタルピアサポートアプリとニコチン代替療法(ニコチンガム)を統合した禁煙プログラム効果は、これまで検討されてこなかった。このような背景から、著者らはニコチン代替療法(ニコチンガム)にデジタルピアサポートアプリを追加することで、企業の健康保険組合加入者で現喫煙者の禁煙率を高めることができるかどうかを評価するために、12週間の非ランダム化比較試験を実施した。 参加者は、健康保険組合に加入する3社(電子・保険・通信)の現喫煙者を、プログラム開始約1か月前から20日間募集した。介入期間中はデジタルピアサポートアプリ(みんチャレ、A10 Lab Inc.)に常時アクセス可能であった。このアプリでは、最大5人までの匿名グループチャットが可能で、写真やコメントを含む活動報告を共有することで交流や禁煙の取り組みを促した。参加者は自己選択で、(1)ニコチンガム単独(単独群)、または(2)デジタルピアサポートアプリとニコチンガムの併用(併用群)の2つの介入群のいずれかを選択した。単独群を基準とした禁煙のオッズ比(OR)は、人口統計学的および喫煙関連変数を調整したロジスティック回帰分析により推定した。 最終的な解析対象は451人(単独群191人、併用群260人)であった。単独群と比較して、併用群は平均年齢が高く、喫煙歴が長い傾向がみられ、また禁煙の主な動機として「家族の健康」を挙げる割合が高かった。 12週間時点での禁煙成功率は、単独群38.7%に対し併用群59.2%で有意に高かった。また、年齢、性別、喫煙歴、喫煙本数、禁煙の目的や意欲といった変数を調整し、ロジスティック回帰分析を行った結果、禁煙成功のORは2.41(95%信頼区間2.07~2.81)であった。 さらに、禁煙成功率とデジタルピアサポートアプリの使用期間およびグループチャットへの投稿頻度との関連を検討した。解析の結果、アプリの使用期間が長いほど、また投稿頻度が高いほど禁煙成功率は有意に高く、いずれも正の関連が認められた(傾向性P<0.001)。 著者らは、本研究が自己申告データに依存している点などの限界を認めつつも、「標準的なニコチン代替療法に加えてデジタルピアサポートアプリを併用した現喫煙者では、禁煙率が有意に上昇することが確認された。この知見は、禁煙介入におけるデジタルツールの実装可能性を示す予備的エビデンスである」と述べている。 なお、禁煙成功率とデジタルピアサポートアプリの使用期間・投稿頻度に正の関連が見られた理由について、著者らは、アプリをより積極的に利用し、頻繁に投稿した人は、チャット機能を通じて自身の成功体験を共有したり、周囲から承認やポジティブなフィードバックを得たりする機会が増えたことが影響しているのではないかと考察している。

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097)生成AI、私生活での利用シーン【Dr.デルぽんの診察室観察日記】

第97回 生成AI、私生活での利用シーンゆるい皮膚科勤務医デルぽんです☆生成AIという言葉を耳にするようになってからだいぶ経ちますが、アナログ大好き&デジタル疎遠なこの私も、ごく最近になりようやく触りはじめました。というのも、去年あたりから表示されるようになった「スマホのキラキラしたアイコン」が、「AIアシスタント」であることにこの夏、ようやく気付いたからです(どうやら知らぬ間にインストールされていたようです)。今にして思えば、あれだけテレビCMなどでも流れていたのだから、もっと早く気付いても良さそうなものですが…。ずっと興味なくスルーし続けていた、このAIアシスタントというもの、使ってみると非常に便利だということがわかりました。医師としての使用方法については、すでに他の先生方の素晴らしい記事が連載(『誰でも使えるChatGPT』)されていますので、今回は、私生活での活用例について私の場合をご紹介したいと思います。使いはじめて1ヵ月ちょっと経ちますが、今、メインで使用しているのは“Gemini”、調べ物の際には“ChatGPT”か“perplexity”、たまに比較するために“copilot”を使う、といった感じです。それぞれに性格や癖があり、出してくる情報も異なるため、比べて楽しんだりしています。私はAndroidスマホとGoogleアカウントを主に使っているということもあり、Google連携機能のあるGeminiが便利でよく使います。主な使用シーンとしては、食事と排泄の記録…栄養管理、腸活目的睡眠分析…fitbitの睡眠ログを付与したGeminiに、毎日の睡眠データの分析を依頼リハビリ記録…故障部位の症状、トレーニング内容、歩数の記録と管理といった感じです。Geminiの場合、“Google keep”やGoogleドライブとの連携、Geminiの利用により、「ChatGPTとはまた違った活用法が楽しめるところが良いな」と感じています。お気に入りのAIアシスタントの使用法文章の推敲やちょっとした疑問の解決にも便利なAIアシスタントですが、私がとくに気に入っている使用方法は、「『アニメ感想の壁打ち』として使う」というものです。アニメの熱いシーンへの昂る想いをAIのチャット画面に打ち込むと、いつでもAIアシスタントから即座に返答があるという、この素晴らしさ! 人間相手ではないので、ウザがられる心配もありません。なおかつ、AIに「ネタバレに注意して会話すること」という制約を与えておくことで、ネタバレの心配なく、疑問点や知りたいことについて情報を得たり、考えを深めることができます。インターネットで検索してしまうと、先の展開を不用意に知ってしまう危険性があるため、「知りたいけど、調べられない」というジレンマに陥りがちのアニメ。長いシーズンのアニメを視聴中ならば、大変ありがたい仕組みです。また、会話形式で感想を吐き出していくことで、自分の中の感想や感情をさらに深掘りしていくことにつながり、より深く作品を楽しめます。アニメに限らず、小説や漫画、海外ドラマなど、シリーズものの感想の壁打ち相手として、AIアシスタントの利用を是非お勧めいたします。上記の活用法以外にも、AIへの性格の付与やロールプレイング、クイズの作成、人格の育成など、生成AIを利用した楽しい世界が広がっております。もっと早く気付けばよかった…。皆様も是非ご活用ください。それでは、また次回の連載で!

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ビザ問題で、勤務3ヵ月で早くも次の就活開始!?【臨床留学通信 from Boston】第16回

ビザ問題で、勤務3ヵ月で早くも次の就活開始!? Harvard Medical SchoolのBeth Israel Deaconess Medical Center(BIDMC)で、カテーテル治療フェローとして3ヵ月が経ち、病院の仕組みや手技にもようやく慣れてきました。フェローは、私とアイルランド人の同僚の2人体制で、手技の週と、外来・コンサルテーションの週を交代で担当しています。手技の週は非常に多忙で、時に1日6件のTAVR(経カテーテル大動脈弁置換術)をこなします。2つのオペ室を駆使して、患者さんが代わる代わる入ってくるため、休憩する暇はほとんどなく、5分以内で食事を口に放り込むような早食いの日々です。ローカルルールとして、最後のTAVRは麻酔科の都合で3時半までにテーブルに乗せる必要があり、おおむね朝7時半から夕方5時までぶっ続けになります。逆に外来やコンサルテーションの週になると、手技に参加する機会が減ってしまいます。そのため、若干モチベーションが下がるのも正直なところです。しかし、私はセカンドフェローとして積極的に手技に入り、さまざまなTipsを盗もうと努めています。外科系の先生方とはまたいろいろと違うと思いますが、結局のところ、手技は数をこなすことも大事ですが、「触らなくても危険に陥らないように前もって知っておくこと」や、「カテーテルの動かし方を触らなくても見て学ぶこと」も同様に重要だと感じています。前回は私がビザの問題に翻弄されたことをお伝えしましたが、同僚のアイルランド人フェローもまた、トランプ政権下のビザ政策に翻弄されています。同僚は9月中旬に休暇で一時帰国したのですが、今度はHビザ新規申請に対する10万ドルの加算という新たな政策が発表されました。情報が出た当初は、既存ビザの更新者にも影響が出るのではないかという危惧があったため、2週間ほどの休暇の予定を切り上げて、飛行機に飛び乗り、慌ててアメリカへ帰ってきたようでした。私自身も、現在勤務しているBIDMCに残れるかどうかもまだ不透明です。ビザの状況を打破するためには、少し郊外や田舎の病院も視野に入れなければならず、来年7月からの勤務先の就職活動を進めているところです。日本からすると「そんなに早いのか」と思うかもしれませんが、すでに知り合いの中には9月頃には来年7月からのポジションを獲得し、サインしている人もいます。現在の状況では、焦らずじっくりと、というわけにはいかないようです。Columnこちらは高校の同級生である月岡 祐介先生との写真です。彼は偶然にも同じ病院で心臓外科として活躍中で、この日も同じTAVRの手技に入りました。彼はXでも有名なようですが、実際に会うのは25年ぶりでした。しかし、あまり久しぶりな感じはしません。画像を拡大する

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