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高齢の糖尿病を有する人の薬物治療の限界はどこか/日本糖尿病学会

 第69回日本糖尿病学会年次学術集会(会長:下村 伊一郎氏[大阪大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学 教授])が、5月21~23日の日程で、大阪国際会議場、リーガロイヤルホテル大阪をメイン会場に開催された。 今回の学術集会は「IMAGINE いのち輝く 糖尿病の医療・医学を共に目指して」をテーマに、41のシンポジウム、143の口演、ポスターセッション、会長特別企画による講演、特別企画「糖尿病とともに生活する人々の声をきく」などが開催された。 高齢の糖尿病を有する人では、糖尿病本態だけでなく、心血管障害や認知障害、運動器障害などさまざまな疾患を併存しているケースが多く、治療薬の選択やアドヒアランスのフォローなど考慮することが多岐にわたる。実臨床ではどのように診療を進めるべきであろうか。そこで本稿では、シンポジウム34「超高齢時代のダイアベティス治療はいかにあるべきか」(日本糖尿病学会・日本糖尿病協会合同シンポジウム)より清野 祐介氏(藤田医科大学医学部内分泌・代謝・糖尿病内科学/関西電力医学研究所糖尿病研究センター)の「超高齢2型糖尿病の至適な薬物治療の限界」の講演概要をお届けする。治療薬の工夫が重要な高齢の糖尿病を有する人 高齢の糖尿病を有する人では、糖尿病は高血糖、低血糖、フレイル、サルコペニア、認知機能低下の危険因子となる。また、加齢による肝機能、腎機能の低下がみられることから治療薬の選択では、バランス調整が必要になる。『糖尿病治療ガイド2024』(編集:日本糖尿病学会)では、高齢の糖尿病を有する人の治療の留意点を示しており、「低血糖を避けながら、高血糖をおだやかに是正することが必要」としている。また、糖尿病合併症や他の疾患との併存が多く、服薬数が多くなるのも特徴である。 このような多剤併用はアドヒアランスの低下を来し、高血糖や重症低血糖など致死的なリスクが高くなる。そのために服薬回数の減少や服薬タイミングの統一、一包化、配合薬の選択などが行われているが、緊急時の対応への準備も必要となる。日本糖尿病学会と日本老年医学会が共同制作した『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』(編集:日本老年医学会)では、「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」が示されており、3つのカテゴリー別と重症低血糖が危惧される薬剤(インスリンやスルホニル尿素薬[SU薬]など)の使用の有無で、HbA1cの目標値と下限値が示されている。現段階で、超高齢の糖尿病を有する人にこのHbA1cの目標値があてはまるかどうかは不明である。よく理解しておきたい糖尿病治療薬の高齢の患者への影響 糖尿病の治療において、体重を減らすことは、インスリン感受性や糖代謝を改善するのに効果的とされているが、高齢の糖尿病を有する人では、筋肉量や骨量の低下があり、配慮する必要があるとされる。また、高齢の糖尿病を有する人に糖尿病治療薬を使用する際の懸念点としては、たとえばα-グルコシダーゼ阻害薬では服用回数が多い、SGLT2阻害薬では体重減少、チアゾリジン薬では心不全の増悪や女性では骨折リスクの増加、ビグアナイド薬では腎機能低下時に乳酸アシドーシスのリスクの出現、GLP-1受容体作動薬では体重減少、SU薬やグリニド薬では単独で低血糖のリスクが高くなるなどが挙げられる。そのほか、高齢の糖尿病を有する人に頻用されているDPP-4阻害薬では、演者の経験としては便秘など消化器症状の頻度も高く、重症例では腸閉塞を来す例もみられたという。とくに高齢の糖尿病を有する人は、在宅で診療をされている患者が多く、主治医が適切なタイミングでこうしたリスクを防ぐことができるか課題であると指摘する。高齢の糖尿病を有する人にはSU薬とDPP-4阻害薬の使用が多い 糖尿病治療薬の使用などについて、清野氏らが行った多施設共同研究の一端に触れた。この研究では、65歳以上の糖尿病、慢性腎疾患、そのいずれかまたは両方の疾患の患者を対象としたもので、参加施設は糖尿病、腎臓病の専門医を中心とした多職種連携が行われている施設。参加者は1,355例で、65~74歳は767例、75~84歳が523例、85歳以上が65例。これらの参加者のBMI、骨格筋量(SMI)、HbA1c、eGFRなどの数値を計測した。 その結果、85歳を区切りとしてみると、85歳以上では握力、筋力が65~84歳群との比較で顕著に低下していた。使用されている治療薬について85歳以上では体重減少に働くようなSGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬の使用頻度が低くなっていた。また、乳酸アシドーシスのリスクからビグアナイド薬、心不全のリスクからチアゾリジン薬の使用頻度も低い一方で、SU薬とDPP-4阻害薬は高頻度で使用されていた。また、予想に反してグリニド薬、α-グルコシダーゼ阻害薬の使用が多く、その理由として「参加者の自己管理能力が高かったことが推定される」と述べた。 本研究では、糖尿病診療支援が整った医療施設で食事療法も薬物療法もしっかりでき、通院や歩行にも問題がない参加者を対象としていることから、このような結果につながったと推察している。しかし、実臨床の現場では、通院ができずに糖尿病非専門医による在宅医療を受けているケースが多く、治療薬剤の選択、血糖マネジメントの目標をどこにおくのかなど糖尿病学会の推奨があまり知られていないこと、あるいは超高齢の糖尿病を有する人の治療に関するガイドラインがないことが現状の問題点となっていると述べた。さらに90歳以上の2型糖尿病を有する人を対象とした大規模臨床試験は皆無であり、複雑な背景をもつ症例への的確なアプローチをいかに構築するかが課題であると指摘した。高齢の糖尿病を有する人の治療最適化には多職種・在宅医療連携が重要 高齢の糖尿病を有する人の症例を1つ挙げ、介護施設などでの診療の難しさを説明した。症例は施設入所している91歳女性(要介護3)で認知症があり、車いすを使用、BMIは15.7でやせ型。インフルエンザで突然の意識障害があり、救急搬送された。来院時の血糖値は35mg/dLで急性低血糖にてブドウ糖静脈投与で意識回復をした。普段は、DPP-4阻害薬と少量のSU薬を服用している。腎機能は保たれているがHbA1cは5.4%であり、高齢者にとっては過度な管理で、低血糖のリスクが予想される症例だったという。日常から糖尿病をきちんと診療できる環境ではないことが予想され、治療目標、とくに下限目標の情報が診療する人、介護する人にきちんと行き届いていないのではないかと警鐘を鳴らす。また、在宅医療など超高齢糖尿病を有する人の診療現場では糖尿病専門医が予想していないような治療上の悩みも多々見受けられる。そこで、日本糖尿病協会(JADEC)では、「JADEC在宅医療・介護支援Q&A集」を作成するとともに、在宅・介護の診療現場からの質問を募っている。清野氏は、今後、こうした診療現場の情報を集積し、在宅・介護の診療現場用のJADECカードシステムによる糖尿病支援ツールセットを作成していく必要があると提言を行った。 高齢の糖尿病を有する人の治療では、『高齢者糖尿病診療ガイドライン』があるものの、90歳以上の超高齢者を対象としたエビデンスは乏しい。実臨床では認知機能、ADL、介護力が治療を規定するが、高齢者では厳格な血糖管理より低血糖回避と何よりも患者の生活維持が重要だと考える。 おわりに清野氏は、「今後の高齢の糖尿病を有する人の診療では、患者の体重や握力測定など定期的な確認も大切であり、治療の最適化には多職種・在宅医療連携が重要になる」と語り、講演を終えた。

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基礎インスリン治療中の2型DM、CagriSemaがHbA1cと体重を改善/Lancet

 2型糖尿病の基礎インスリン療法は、血糖コントロールが不十分になることが多く、これが体重増加や低血糖リスクの増大と関連するとされる。CagriSemaは、cagrilintide(長時間作用型アミリン受容体作動薬)とセマグルチド(GLP-1受容体作動薬)の固定用量配合薬で、相互補完的な異なる機序を介して血糖コントロールに有益な効果をもたらす可能性が示唆され、両薬とも低血糖のリスクを増大させずに体重減少効果を示し、セマグルチドは心腎への有益な効果も確認されている。米国・テキサス大学サウスウェスタン医療センターのJulio Rosenstock氏らは「REIMAGINE 3試験」において、基礎インスリン療法で血糖コントロールが不十分な2型糖尿病患者において、プラセボと比較してcagrilintide/セマグルチド配合薬の追加が、臨床的に意義のある糖化ヘモグロビン(HbA1c)値の低下とともに、顕著な体重減少をもたらし、低血糖リスクは増加しないことを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2026年6月7日号で報告された。2種の用量を評価する無作為化第III相試験 REIMAGINE 3試験は、日本を含む6ヵ国46施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験(Novo Nordiskの助成を受けた)。2024年3~11月に、年齢18歳以上、スクリーニングの180日以上前に2型糖尿病と診断され、メトホルミンの有無を問わず、安定した1日1回の基礎インスリン療法を受けており、HbA1c値が7.0~10.5%、BMI値25以上の参加者を登録した。 被験者(274例、平均年齢59.0[SD 10.2]歳、女性115例[42%]、アジア人125例[46%])を、cagrilintide/セマグルチド(各2.4mg)配合薬(90例、各2.4mg配合薬群)、cagrilintide/セマグルチド(各1.0mg)配合薬(93例、各1.0mg配合薬群)、各用量の適合プラセボ(91例)の皮下投与を週1回受ける3つの群に無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、ベースラインから40週までのHbA1c値の変化量とした。2つの用量とも平均HbA1c値<7.0%を達成 ベースラインの全体の2型糖尿病の平均罹患期間は14.9(SD 7.6)年、平均体重は88.2(SD 17.9)kg、平均BMI値は31.6(SD 5.9)、平均HbA1c値は8.8(SD 1.0)%であった。234例(85%)がメトホルミンの投与を受けていた。 40週時のHbA1c値の平均変化量は、プラセボ群が-0.66%(SE 0.11)であったのに対し、cagrilintide/セマグルチドの各2.4mg配合薬群は-2.33%(SE 0.08)、各1.0mg配合薬群は-2.10%(SE 0.08)であり、プラセボ群との推定群間差は各2.4mg配合薬群が-1.68%ポイント(95%信頼区間[CI]:-1.95~-1.41、p<0.0001)、各1.0mg配合薬群は-1.44%ポイント(95%CI:-1.71~-1.17、p<0.0001)と、いずれも低下幅が有意に大きかった。40週時の平均HbA1c値は、各2.4mg配合薬群が6.45%、各1.0mg配合薬群が6.68%といずれも7.0%未満を達成した(プラセボ群は8.13%)。 また、プラセボ群に比べ2つの用量のcagrilintide/セマグルチド群はいずれも、40週時の平均HbA1c値<7.0%の達成率(各2.4mg配合薬群59.2%[95%CI:51.8~66.6]、p<0.0001、各1.0mg配合薬群53.7%[95%CI:46.0~61.4]、p<0.0001)、同平均HbA1c値<6.5%の達成率(54.2%[95%CI:47.4~61.0]、p<0.0001、42.2%[95%CI:35.1~49.3]、p<0.0001)、40週時の空腹時血糖値の変化量(-1.6mmol/L[95%CI:-2.2~-1.0]、p<0.0001、-1.2mmol/L[95%CI:-1.9~-0.5]、p=0.0013)、同基礎インスリンの1日用量の変化量(-20U[95%CI:-24~-16]、p<0.0001、-20U[95%CI:-24~-16]、p<0.0001)が有意に良好であった。体重が10~12%減少、重度低血糖の報告はない ベースラインから40週までの体重の変化量は、プラセボ群が+1.1%(SE 0.4)であったのに対し、各2.4mg配合薬群は-12.0%(SE 0.7)、各1.0mg配合薬群は-10.4%(SE 0.7)であり、プラセボ群との推定群間差は各2.4mg配合薬群が-13.1%(95%CI:-14.7~-11.5、p<0.0001)、各1.0mg配合薬群は-11.6%(95%CI:-13.2~-9.9、p<0.0001)と、いずれも大きな差を認めた。 安全性プロファイルは、GLP-1受容体作動薬の薬剤クラスおよびcagrilintideのこれまでの安全性データと一致していた。有害事象は、各2.4mg配合薬群の80%(72/90例)、各1.0mg配合薬群の71%(66/93例)、プラセボ群の71%(65/91例)で報告された。そのほとんどが軽度または中等度の胃腸障害であった。 また、重度の低血糖の報告はなかった。各1.0mg配合薬群で、治療とは関連のない死亡を1例(悪性腫瘍)認めた。 著者は、これらの知見は、「1日1回の基礎インスリン療法への追加療法としてcagrilintide/セマグルチド配合薬を使用すると、血糖コントロールを有意に改善できることを裏付けるもの」「基礎インスリンに加えてさらなる治療強化を行う場合に、体重増加や低血糖のリスク、治療の複雑化による制限を受けやすい患者集団において、とくに臨床的に意義深いものである」としている。

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米国では外科医の約10%が臨床現場から離脱

 米国の医療は外科医不足に直面していることを示した研究が報告された。この研究によると、2013年から2023年にかけて追跡した結果、外科医の約10%が臨床現場から離脱していたことが分かったという。米オハイオ州立大学ウェクスナー医療センターの外科腫瘍医であるTimothy Pawlik氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of the American College of Surgeons」に5月20日掲載された。 Pawlik氏は、「外科医は、重症度が高く、慎重な対応が求められる医療の大部分を担っている。こうした医療は、高齢化が進む国においては特に重要である。今回の結果は、外科医の臨床現場からの離脱が現実の問題であることを示している。また、特定の専門分野に重点を置き、離脱リスクが高いサブスペシャリティ(基本領域の専門医取得後に取得する専門分野)や外科分野から離脱する可能性が高い中堅層への対応に注力するなど、よりきめ細かな違いに配慮した個別化された対策が必要であることを示唆している」と述べている。 本研究では、2013年から2023年にかけて19の専門分野の外科医22万4,629人を追跡し、外科医の臨床現場からの離脱(3年間連続で評価・管理サービスの請求件数が50件未満だった場合、その最初の年を離脱年とする)の全国的な傾向を調査した。また、各外科サブスペシャリティにおいて臨床現場からの離脱に関連する因子についても検討した。 その結果、米国における年間の外科医数は、約15万4,000人から15万7,000人の間で推移していた。1万5,753人が中央値8.0年の間に臨床現場から離脱しており、累積離脱率は9.7%と推定された。年間離脱率は、2013~2018年では1.5~1.7%であったが、2019年に2.5%(2,977人)でピークに達し、その後、2020年に1.3%(1,462人)に低下した。 臨床現場からの離脱と有意に関連していた因子は、経験年数、勤務環境(地域〔中西部、西部、南部など〕、都市・地方)、および専門分野であり、性別とは関連が認められなかった。経験年数では、5~9年の外科医と比較して、10~14年の外科医は離脱リスクが有意に高く(ハザード比2.58、95%信頼区間2.48~2.68)、一方で15~19年および5年未満の外科医ではリスクが低かった。また、サブスペシャリティ間でも離脱率に大きな差が認められ、特に口腔顎顔面外科(同2.64、2.43~2.86)、産婦人科(同2.23、2.16~2.30)での離脱リスクは高かった。一方、整形外科、耳鼻咽喉科、足・足関節外科、泌尿器科などでは離脱リスクは低かった。地域差については、北東部を基準とした場合、南部と西部では離脱リスクがやや低く、中西部では有意差は認められなかった。都市部と地方部との間では離脱リスクに有意な差は認められなかった。 Pawlik氏は、「離脱リスクが高い層を特定することで、重点的な定着支援策を講じ、こうした格差を是正できる」と述べている。

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ほこりの中にウイルス流行の手がかり

 ほこりには、オフィスや学校などの建物の中で流行しているウイルスに関する手がかりが含まれていることが、米オハイオ州立大学環境保健科学准教授のKaren Dannemiller氏らによる研究で明らかになった。Dannemiller氏は、「こうした研究は、懸念されるさまざまな問題について幅広い種類の建物をモニタリングする上で有用だ」とニュースリリースの中で述べている。詳細は、「Building and Environment」に5月15日掲載された。 排水などの廃棄物は、地域社会におけるウイルス拡散を追跡するために以前から利用されてきた。今回の研究によると、どこにでもあるほこりから採取した試料が、将来的には特定の場所において同様の役割を果たす可能性があるという。Dannemiller氏は、「本研究は、さまざまな感染症を建物レベルで監視する上で、技術をどう活用できるのかを理解するための第一歩となるものだ。最終的には、より適切な予防措置を講じることや、より的確な資源の配分を行うことにつながる」と述べている。 Dannemiller氏らは今回、学校、大学の学生寮、オフィスなど27カ所からほこりの試料を採取した。次に、全ゲノムを対象としたハイブリッドキャプチャー法による次世代シーケンス解析を行い、その結果を約200種類の病原体の遺伝子配列データベースと照合した。これにより、ウイルスが分解された後も環境中に残存する可能性のあるRNA分子などを特定した。 その結果、ほこりの試料から新型コロナウイルス、アデノウイルス、インフルエンザウイルス、ノロウイルス、サイトメガロウイルス、エプスタイン・バール・ウイルス(EBウイルス)など54種類のウイルス由来の遺伝子断片(以下、ウイルス断片)が検出された。 本研究では、検出されたウイルス断片の感染性については調べていないものの、研究グループは、ほこりの中に残ったウイルス断片が実際に感染力を持っている可能性は低いとしている。しかし、そうしたウイルス断片の有無を調べることで、特定の傾向が明らかになることがある。例えば、小児の感染症との関連が知られている3種類のウイルスは、主に成人が利用する環境と比べて、子どもが利用する環境で有意に多く検出された。また、この研究では、収集された全試料の85%から一般的な風邪の原因となるライノウイルスが検出された。 Dannemiller氏は、「地域社会における感染症を追跡するさまざまな方法を理解することは極めて重要だ。大規模なレベルで感染症のクラスターを追跡する下水モニタリングと同様に、より小規模な集団に対して同様の効果をもたらす中間的なツールをわれわれは開発した」と説明している。 Dannemiller氏はまた、今回の研究は「画期的な取り組み」だったとしている。それは、これまでにも科学者らがほこりの中のウイルスを遺伝子レベルで追跡したことはあったものの、「その範囲はかなり限定的であり、ウイルスを追跡するサーベイランスのツールとして提案されたことはなかった」からだ。 現時点では、ウイルス検査に用いる標準的なほこりの採取技術はまだ確立されていない。研究グループは次の段階の研究で、今回使用した技術がより広範囲の環境に適用できるかどうかを検証する予定だという。  なお、本研究は米空軍研究所(AFRL)、米国立衛生研究所(NIH)、米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)の支援を受けて実施された。

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3分程度のゲームがうつ病の特徴をとらえる手がかりに?

 わずか3分程度のリンゴ狩りゲームが、うつ病の特徴をとらえる手がかりになる可能性があるとする研究が報告された。健康な人よりも早くにゲームの主要な活動であるリンゴの収穫をやめる人は、「アンヘドニア(無快感症)」を抱えている可能性が高かった。アンヘドニアとはうつ病患者の約70%に見られる症状の一つで、通常なら楽しいと感じることを楽しめなくなる症状である。米ニューヨーク大学(NYU)グロスマン医学部神経科学教授でトランスレーショナル神経科学研究所所長のPaul Glimcher氏らによるこの研究結果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」に5月18日掲載された。 このゲームでは、プレイヤーは木から落ちてくるリンゴを収穫する。収穫を続けると、木から得られるリンゴの数は減っていく。そのため、プレイヤーは別の木に移動するかどうかを判断しなければならない。研究では、うつ病患者50人と健常者70人を対象に、プレイヤーがどの時点でその木からの収穫を切り上げ、別の木へ移るのかを調べた。研究グループは、人は出来事を「期待」と比較しながら評価するという前提に立ち、その判断の基準となる「参照点」がうつ病患者では高くなっている可能性があるという仮説に基づき、このゲームによる課題を設計した。 その結果、健常者は木から収穫できるリンゴの数が平均5個になるまで同じ木にとどまって収穫を続けていた。一方、うつ病患者は、うつ症状の重症度にもよるものの、その木から得られるリンゴの数が8~9個になった時点で別の木に移動する傾向が見られた。研究グループは、「これは、うつ病患者では健常者に比べて、収穫を切り上げる際の参照点が約50%高くなっている可能性を示している」と説明している。 Glimcher氏は、「このゲームによって、うつ病患者の脳内で何が起きているのかについて手がかりを得ることができる。将来的には、血圧測定により心疾患を見つけるのと同じくらいの信頼性でうつ病を特定できるようになることを期待している」と述べている。一方、論文の筆頭著者であるNYUのAadith Vittala氏は、「うつ病患者は、状況の変化に応じて期待値を適切に調整することが難しいようだ。それは、脳内でどのような仕組みの異常が起きているのかを示す手がかりになる」と説明している。 研究グループは、本研究結果は、患者ごとに異なるタイプのうつ病を見分けるのにも役立つ可能性があると見ている。共著者の1人であるNYUグロスマン医学部精神医学教授のDan Iosifescu氏は、「うつ病は現在、複数の異なる病態を含む包括的な概念として考えられるようになってきている」と指摘する。その上で、「参照点の測定によって、アンヘドニアに関連する特定のうつ病サブタイプを特定し、その脳内メカニズムを明らかにしながら、患者ごとに適した治療法を選択できる可能性がある。また、患者にスマートフォンゲームを毎週数分プレイしてもらうことで、対面診療を繰り返さなくても遠隔で状態を把握し、迅速に治療を調整できるようになるかもしれない」と話している。

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豆類や大豆製品の摂取で高血圧リスクが低下か

 豆類(エンドウ豆、レンズ豆、ヒヨコ豆など)および大豆製品(大豆、豆腐、味噌など)の摂取が、高血圧発症リスクの低下に役立つ可能性を示唆するデータが報告された。それらの摂取量が多い人には、高血圧が少ないという。植物性食品に関する英国の医療専門家団体(Plant-Based Health Professionals UK)のMichael Metoudi氏らの研究によるもので、詳細は「BMJ Nutrition, Prevention & Health」に5月7日掲載された。 これまでに行われたいくつかの研究で、豆類や大豆製品の摂取量が多いほど高血圧のリスクが低いことが示唆されてはいるが、結果の一貫性が十分でない。これを背景としてMetoudi氏らは、豆類や大豆製品の摂取と高血圧リスクとの関連性を明らかにするため、システマティックレビューとメタ解析を実施した。 PubMedおよびEmbaseに2025年6月14日までに収載された文献を対象とする検索の結果、12件の前向きコホート研究を報告した10報の論文が抽出された。12件のうち5件は米国からの報告であり、そのほかに中国から2件、英国、フランス、日本、韓国、イランから各1件報告されていた。研究参加者数は1,152~8万8,475人の範囲だった。 豆類の摂取量と高血圧リスクの関連を検討した10件の研究のうち、3件は摂取量が多い人の方が少ない人よりも高血圧リスクが低いと報告しており、7件は有意差がないと報告していた。メタ解析の結果、豆類の摂取量が多い人は少ない人よりも高血圧リスクが16%低いという関連が示された(相対リスク〔RR〕0.84〔95%信頼区間0.77~0.93〕)。 大豆製品の摂取量と高血圧リスクを検討した7件の研究のうち、4件は摂取量が多い人の方が少ない人よりも高血圧リスクが低いと報告しており、3件は有意差がないと報告していた。メタ解析の結果、大豆製品の摂取量が多い人は少ない人よりも高血圧リスクが19%低いという関連が示された(RR0.81〔同0.70~0.93〕)。 用量反応解析から、豆類に関しては1日の摂取量が約170gまでは、摂取量が多いほど高血圧リスクが低いという直線的な関係が見られた。大豆製品に関しては非線形の関係が見られ、1日の摂取量が60~80gほどでリスク低下がほぼ頭打ちになることが判明した。 この結果について著者らは、「豆類や大豆に豊富に含まれる、カリウム、マグネシウム、食物繊維などの栄養素が、高血圧リスクを抑制するように働くのではないか」と述べている。なお、英国や欧州における豆類の摂取量は1日に8~15gほどであり、心血管系の健康のために推奨されている65~100gを大きく下回っているとのことだ。 「BMJ Nutrition, Prevention & Health」誌の運営に関与している英国のシンクタンク(NNEdPro Global Institute for Food, Nutrition and Health)のSumantra Ray氏は、「この報告は、植物性食品の心血管保護効果を支持するものだ。本論文の著者らは、世界的な高血圧の負担軽減に向けて、豆類や大豆製品の摂取を増やす食事戦略を支持するエビデンスを強化したと言える」とコメントしている。

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超音波パッチでハイリスク妊娠の異常を早期発見へ

 お腹の中で胎児と臍帯が絶えず動いていても、それらを連続的かつ自動的にモニタリングできるウェアラブル超音波パッチ(UPatch)に関する研究成果が報告された。このパッチには柔軟性があり、腹部に貼り付けて使用するもので、取得された超音波データはケーブルを介してコンピューターへ送信される。妊婦62人を対象とした今回の試験では、このパッチが従来の超音波診断装置とほぼ同等の性能を示すことが確認された。研究グループは、このパッチによりハイリスク妊娠において異常を早期発見できる可能性があると見ている。米スタンフォード大学医学部麻酔学・周術期医療・疼痛医学分野のGeonho Park氏らによるこの研究結果は、「Nature Biotechnology」に5月26日掲載された。 通常の超音波検査では、専門的な訓練を受けた検査技師がプローブを操作して対象を追跡し続けなければならず、また、決められた時間内に胎児の様子をその時点のスナップショットとしてしか評価できないという欠点があった。これに対して研究グループが開発したUPatchには、超音波画像から血管などの対象構造を自動認識する技術が用いられており、胎児または母親が体位を変えても臍帯が自動追跡される。パッチは、臍帯を構成する主要な3本の血管(2本の動脈と1本の静脈)を画像化でき、胎児の主要動脈の血流も測定できる。さらに、頭囲、腹囲、脚長を追跡して胎児の体重の推定にも利用できる。 今回の研究では、2カ所の医療施設の妊婦62人を対象に、UPatchによる妊娠モニタリングの有効性を検討した。対象には、正常妊娠の妊婦だけでなく、SGA(在胎週数に比して小さい)児やLGA(在胎週数に比べ大きい)児を有する妊婦や、妊娠糖尿病や妊娠高血圧腎症、妊娠高血圧症の妊婦も含まれていた。 その結果、UPatchの測定値は、携帯型の臨床用超音波装置による測定値と良好に一致することが確認された。さらに、52人分の連続モニタリングデータを解析した結果、データはそれぞれの周産期の状態の特徴をよく反映していることも示された。 研究グループによると、1例では、UPatchが妊娠の継続と児の救命に貢献したという。Park氏はニュースリリースで、「彼女は妊娠28週で、分娩にはまだかなり早い時期だった。最初の検査では、胎児の心拍数は正常だった。しかし、血流のシグナルにはかなりの異常が認められた」と述べている。超音波データでは、臍帯内の血流に大きな変動が認められた。健康な妊娠では、この時期の血流は通常安定していることから、これは問題が生じている可能性を示す兆候と考えられた。同氏は、「装置に不具合がある可能性を疑い、全てを確認したが、装置自体に問題はなかった。そこで、その場にいた医師らにデータを見せたところ、胎児が危険な状態にある可能性が高いとの見解で一致した」と話す。 その後の追加検査により、胎盤に異常が生じていたことが確認され、その4日後に帝王切開を実施した。出生した児は、新生児集中治療室(NICU)での治療を受けた後、良好な経過をたどった。Park氏は、「ウェアラブル超音波技術は、これまで不可能だった形で継続的な胎児モニタリングを可能にし、妊娠転帰を改善する可能性を秘めている」と述べている。 研究チームは現在、UPatchの有効性についてさらなる検証を進めている。スタンフォード大学医学部のハイリスク妊娠専門産科医であり、今後の検証研究に参加予定のJane Chueh氏は、「胎盤の機能不全が疑われる症例では、胎児の健康状態を評価する上で臍帯動脈血流は重要な指標の一つである。現在、ハイリスク妊娠の患者では、医師が必要な情報を必要なタイミングで得ることが難しい場合があるが、このデバイスによって、その情報をはるかに容易に取得できるようになるのではないか」とコメントしている。

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糖尿病の心血管疾患1次予防のアスピリン【日常診療アップグレード】第59回

糖尿病の心血管疾患1次予防のアスピリン問題66歳女性。6ヵ月前に2型糖尿病と診断され、メトホルミンとセマグルチドを使用中である。自覚症状はない。他に高血圧と脂質異常症がある。父親は55歳で心筋梗塞を発症している。その他の服用薬はアトルバスタチンとリシノプリルである。バイタルサインは、血圧122/74mmHg、脈拍数78回/分である。BMIは28である。その他の所見に異常はない。LDLコレステロール67mg/dL、HbA1c 6.5%。アスピリンを処方するか迷ったが、このまま経過を観察することとした。

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英語論文を理解する方法(後半)【タイパ時代のAI英語革命】第15回

前回に続き、英語の論文をChatGPTを使って深く読む方法をお伝えします。3)Results(結果)を読み解くResultsは、研究から得られたデータや事実を記述するパートです。このセクションには筆者の意見や解釈は基本的に含まれず、客観的な結果のみが示されています。そのため、文章構造は比較的シンプルであり、日本語の医学論文を読める方であれば英語論文でも読みやすい部分といえるでしょう。ただし、論文を読み慣れていない方にとっては、数字や英語の専門用語が多く、読みづらいと感じることもあります。そのような場合は、以下のプロンプトを活用することで、情報を正確に整理・把握しやすくなります。注意点として、ChatGPTを利用する際、まれに表現された数値と実際の本文の数値にわずかなズレが生じることがあります。これは、生成AIが数値処理にやや弱いという性質によるものであり、結果の検証には必ず元の論文の本文と照らし合わせて確認することを推奨します。プロンプト例あなたは英語医学論文の査読アシスタントです。私は医療者ですが、この論文の専門外です。PDFファイルから抽出したmanuscriptのResults部分のみを対象にしてください。#手順1.Resultsの本文を段落ごとに分け、[P1], [P2], …と番号を付与。2.解析タスクを順に実施。引用は原文の短いフレーズ(最大30語以内)+段落番号を併記。#解析タスクA.研究対象の記述(症例数、群分け、脱落数など)B.アウトカム(primary outcomeの結果、secondary outcomesの結果、なければ「記載なし」)C.数値の整理(effect size、信頼区間、p値など、表形式でまとめてもよい)D.図表の内容(本文で言及されている場合のみ要約)E.有害事象・安全性関連の結果F.結果のばらつき・サブ解析#出力フォーマット1.日本語翻訳:Results全文の日本語訳2.要約:数行で簡潔に3.詳細解析:解析タスクの見出しごとに整理(段落番号付き)4.用語、数値ミニ辞書:本文で初出する英略語・英語の専門用語、主要統計量・数値の意味を簡潔に日本語で補足#制約-本文にない事実は書かない-本文以外の外部知識は使わない-不明点は「記載なし」と明記-解釈や考察は一切加えない-簡潔な日本語、箇条書き中心-数字や結果は正確に整理して記載-Markdown形式で出力4)Discussion(考察)を読み解くDiscussionは、論文の「核」あるいは「華」ともいえる重要なセクションです。ここでは筆者がResultsのデータや既存研究、医学的背景知識などを総合して、自らの意見や解釈を述べます。この部分を読み解くことで、その論文が医学・臨床においてどのような意義を持つのか、また今後の研究にどのような方向性を示唆しているのかを理解しやすくなります。以下に、Discussionセクションを読み解くためのプロンプトをご紹介します。プロンプト例あなたは英語医学論文の査読アシスタントです。私は医療者ですが、この論文の専門外です。PDFファイルから抽出したmanuscriptのDiscussion部分のみを対象にしてください。#手順1.Discussion本文を段落ごとに分け、[P1], [P2], …と番号を付与。2.解析タスクを順に実施。引用は原文の短いフレーズ(最大30語以内)+段落番号を併記。#解析タスクA.主な結果の要約(著者が本文でどうまとめているか)B.他研究との比較(既存文献との一致・不一致)C.結果の臨床的・学術的意義(本文の記載に限定)D.本研究の強み(なければ「記載なし」)E.限界(Limitationsを明記)F.今後の課題、将来の研究への示唆#出力フォーマット1.日本語翻訳:Discussion全文の日本語訳2.要約:数行で簡潔に3.詳細解析:解析タスクの見出しごとに整理(段落番号付き)4.用語ミニ辞書:本文で初出する英略語・英語の専門用語のみを簡潔に日本語で解説#制約-本文にない事実は書かない-本文以外の外部知識は使わない-不明点は「記載なし」と明記-簡潔な日本語、箇条書き中心-Markdown形式で出力Conclusion(結論)の扱いについて多くの医学論文にはConclusion(結論)セクションが含まれていますが、ここには新たな情報や複雑な議論はほとんど登場しません。基本的には、論文全体で筆者が伝えたいポイントを数文で簡潔にまとめたものです。したがってこの部分については、「このConclusionを日本語に翻訳してください」といったようなシンプルな日本語訳プロンプトだけで十分です。以上で、「英語医学論文を読み解くためのAI活用術」は終了です。これらのプロンプト例を上手に使いこなすことで、専門外の分野でも、医学論文を深くかつ正確に理解することが可能になります。ぜひ、論文抄読会や臨床研究、日常診療の情報収集に役立ててください。英語の医学論文を読めるようになったら、次回からは「英語医学論文を執筆するためのAI活用術」を紹介します。

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ASCO2026 レポート 老年腫瘍(後編)

レポーター紹介ここ数年、ASCO Annual Meetingでは、高齢者機能評価(Geriatric Assessment:GA)や、GAで明らかになった脆弱性に対するサポートの有用性を検証する研究が発表され、老年腫瘍学の領域を大いに盛り上げてきた。前編に続き、筆者が興味深いと感じた研究を抜粋して紹介する。AIはGAを日常診療に近付けるか - 「GAができない問題」をAIは解決できるのか前編で述べたように、高齢がん患者の治療判断においてGAは重要な情報を与える。しかし、GAの重要性が示されることと、それを日常診療で広く行えることは別問題である。外来診療では、病期、治療歴、遺伝子変異、治療選択肢、有害事象など、確認すべきことが多い。その中で、すべての高齢がん患者に十分なGAを行うことは容易ではない。会話型AIを用いてGAを行うプラットフォームGRACE(#1658)今回報告されたGRACE(Geriatric Oncology Risk and Capability Evaluation)についての研究は、この課題に対して、会話型AIを用いてGAを行うものである1)。GRACEは、自然言語で患者とやり取りしながらGAを実施するAIプラットフォームであり、手動GAとの一致度が検討された。対象は65歳以上の成人70例で、米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の患者向けオンラインポータルや関連する高齢者施設を通じて登録された。さらに、15人の医療者から質的な意見も収集された。AIによる評価結果と医療者が実施した従来のGAとの一致度を示す指標(感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率、Cohen’s κ、Gwet’s AC1)が評価された。GRACEは全体として感度0.73、特異度0.94、Cohen’s κ 0.63、Gwet’s AC1 0.82と、医療者が実施したGAとおおむね良好な一致度を示した。とくにポリファーマシーの評価ではκが約0.97、Gwet’s AC1が約0.98と非常に高い一致度を示した。一方、生活機能、社会支援、心理面といった領域では相対的に一致度が低かった。本研究は70例を対象とした小規模なものであり、GRACEによって治療毒性、入院、QOL、治療方針の適正化などが改善するかは示されていない。したがって、現時点でAIがGAを代替できると結論付けることはできない。むしろ、AIが得意な領域と苦手な領域を示した研究と捉えるべきだろう。薬剤数や併存症のように構造化しやすい情報はAIでも拾いやすいが、社会支援、心理面、生活機能のように患者ごとの状況や背景によって評価が変わる領域では、医療者による確認が不可欠である。それでも、本研究は興味深い。診察前にAIが患者の問題点を拾い上げ、医療者が確認すべき項目を整理することができれば、GAを日常診療に持ち込むハードルは下がる可能性がある。AIが老年腫瘍学を代替するのではなく、GAを日常診療に近付ける補助線になるのかもしれない。術後せん妄を予防できるか - 「薬を足せば防げるのか」という問いへの明確な答え(#LBA12002)最後に、ASCOらしく正統派のランダム化比較試験を紹介したい。今回、日本から高齢がん患者における術後せん妄予防を目的としたラメルテオンの多施設共同プラセボ対照二重盲検比較試験が報告された2)。術後せん妄は、高齢がん患者において臨床的に重要な合併症であり、入院期間の延長、身体機能低下、施設退院などにつながりうる。ラメルテオンはメラトニン受容体作動薬であり、睡眠覚醒リズムへの作用を介したせん妄予防効果が期待された。主な適格規準は、65歳以上、全身麻酔下でがん手術を受ける患者、術後5日以上の入院が予定されていることなどであった。患者はラメルテオン群とプラセボ群に1:1で割り付けられ、ラメルテオン群では手術4~8日前から術後4日目までラメルテオン8mgを就寝前に内服した。プラセボ群でも同様のスケジュールでプラセボが投与された。なお、全例に多職種によるせん妄予防介入が行われていた。主要評価項目は75歳以上の集団における術後5日以内のせん妄発症割合であり、主要な副次評価項目として65歳以上全体での、術後せん妄発症割合などが設定された。766例がランダム化され、ラメルテオン群383例、プラセボ群383例に割り付けられた。75歳以上のITT集団はラメルテオン群316例、プラセボ群314例であり、平均年齢はいずれも78.5歳であった。結果、75歳以上の集団における術後せん妄発症割合は、ラメルテオン群22.5%、プラセボ群22.9%であり、統計学的有意差は認められなかった(p=0.9618)。65歳以上の集団でも、術後せん妄発症割合はラメルテオン群22.5%、プラセボ群21.3%であり、ラメルテオンによる予防効果は示されなかった。安全性では、めまいがラメルテオン群16.4%、プラセボ群9.0%と、ラメルテオン群で多かった。少なくとも本試験の結果からは、がん手術を受ける高齢患者に対して、術後せん妄予防を目的にラメルテオンをルーチンに投与することは支持されない。一方で、高齢がん患者で問題になりやすい術後せん妄を、二重盲検プラセボ対照第III相試験として検証した点には大きな意義がある。また、negativeな結果であったことは、せん妄予防が薬剤を1つ追加するだけで解決するほど単純ではないことも示している。せん妄の発症には、睡眠、疼痛、感染、脱水、薬剤、認知機能、感覚障害、環境変化など多くの因子が関与する。今後は、単剤投与だけでなく、多職種による包括的な予防策の中で、どの介入が本当に有効なのかを検証していく必要があるだろう。老年腫瘍学は、高齢がん患者の脆弱性を評価するだけでなく、そこで明らかになった問題に対して、どのような介入が本当に患者の転帰を改善するのかを検証していく段階に来ているのだと思う。おわりにASCO2026の老年腫瘍に関連する演題を振り返ると、「高齢がん患者にGAを行うべきか」という議論は、少しずつ次の段階へ進んでいるように感じた。「GAは重要である、暦年齢だけで判断してはいけない」という総論を繰り返すだけなら難しくない。難しいのは、その評価を忙しい診療の中で実際に行い、患者にとって意味のある治療選択や支援につなげることである。個人的には、近年「GAを実施すること」自体がやや一人歩きし、日常診療で医療者が本当に困っていることが、置き去りにされているのではないかと感じることもあった。しかし、今回紹介した演題からは、高齢がん患者をどう分類するか、GAをどう日常診療に持ち込むか、術後せん妄をどう予防するのかという、医療者が実際に悩んでいる問いを研究として扱い、少しずつ前に進めようとする姿勢が感じられた。GAを実施しただけで患者の転帰が良くなるわけではないし、frailと分類しただけで治療方針が自動的に決まるわけでもない。術後せん妄も、薬剤を1つ追加すれば解決するほど単純ではない。それでも、こうした問いに正面から向き合う研究が積み重なっていることは、老年腫瘍学に関わる者として率直に嬉しく、非常に有意義な学会であったと感じた。1)Naeim A, et al. GRACE: A conversational AI platform for geriatric oncology risk and capability evaluation.2)Sadahiro R, et al. Ramelteon for prevention of postoperative delirium in elderly cancer patients: A randomized, double-blind, placebo-controlled multicenter trial, JORTC-PON02/J-SUPPORT2103/NCCH2103

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第325回 カタコトのアルツハイマー病女性がサイロシビンで会話を取り戻す

支えなしで移動できず、発する言葉といえばカタコトになってしまった重度のアルツハイマー病の高齢女性が、サイロシビン投与で自発的に会話をし始め、1人でキビキビと歩けるようになりました1,2)。アルツハイマー病が進行すると自発性、意思疎通、自制、運動能力、社交性が失われ、多大な心労や介護負担を強いるようになります。進行アルツハイマー病の目下の治療といえばせいぜい支持療法で、身体機能を目に見えて回復させることはおよそ不可能とみなされています。いわゆる幻覚キノコ(magic mushroom)の生理活性成分のサイロシビン(psilocybin)は、セロトニン5-HT2A受容体活性化を介して脳の広範な活動の起伏を大きく変えます。サイロシビンは安静時の神経活動を調整し、神経回路の分断を減らし、神経の機能的連結性を大掛かりに変えることがヒトの神経活動を可視化した試験で示されています。また、サイロシビンのようなセロトニン作動性サイケデリック成分は、樹状突起伸長やシナプス再編成などの可塑性を促すようです3)。サイロシビンの臨床研究の中心はもっぱら精神疾患で、最近になって軽度認知障害や初期アルツハイマー病患者のうつ病や不安に目が向けられるようになっています。一方、進行した認知症を対象とする臨床研究は非常に限られています。そのような中、ブラジルのホリスティック医療機関Ankh Cross AssociationのMarcus Lago氏らは、83歳の進行したアルツハイマー病の女性に、彼女の息子の同意を得てサイロシビンを投与することを試みました。投与されたのはシロシビンを含むミナミシビレタケ(Psilocybe cubensis)の一種のEnigma株です。最初に5g、1ヵ月の間をおいて次に3gが経口投与されました。最初の投与後に女性はどうやら熱を帯びて汗を多くかき、眠気を強くし、長く深い眠りにつきました。目覚ましい効果は投与からおよそ19時間後に表れます。女性は何年も会話といえばカタコト(monosyllabic)で自発的にヒトと接することがめっきり減っていましたが、思い出や想いのほどなどを4時間ほど自発的に話し始めたのです。また、いつも尿失禁していたのがサイロシビン服用後には膀胱の制御が改善して尿を自制できるようになりました。それに、服を1人で着るようになり、自発的に会話に加わり、移動するのに支えが必要だったのが介助なしでよりキビキビと移動できるようになりました。最初の投与から1ヵ月後にも尿の自制は保たれており、体の不自由さの改善も維持されていました。3gの追加投与後には言語表現がより豊かになり、表情模倣が改善し、ユーモアを発し、一層機敏に移動できるようになりました。アルツハイマー病の原因はまだはっきりとしていませんが、脳の神経回路の1つが別の回路を抑制して脳の機能を損なわせることを一端とするようです。サイロシビンなどのサイケデリック成分はそのような抑制が起きないようにする働きがあるのかもしれません2)。女性に投与されたサイロシビンの用量がだいぶ多かったこと、記されている経過といえば最初の投与から1ヵ月後までのみでより長期の観察を明記していないこと、体調の改善の持続のほどが不明であることなどを懸念する専門家がいる一方で、サイロシビンの可能性に期待の目も向けられています。目を見張るような症例報告であり、ほんの1例から多くの結論を引き出すことには用心しないといけませんが、どうやら臨床試験でのさらなる検討の価値があるとハーバード大学の研究者は今回の結果を評しています2)。進行したアルツハイマー病患者の体の不自由さはおよそ回復不能とみなされています。しかし進行アルツハイマー病でも体の自由が効くようにする底力(residual functional capacity)はどうやら残っており、脳の広範囲な伝達をサイロシビンで調整することで引き出せるのかもしれません1)。参考1)Lago M, et al. Front Neurosci. 2026;20:1813281.2)Woman with Alzheimer's starts conversing again after taking psilocybin / NewScientist3)Vann Jones SA, et al. Front Synaptic Neurosci. 2020;12:34.

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食直前投与が困難な血糖スパイクの患者、薬物動態から最適なα-GIを選択【うまくいく!処方提案プラクティス】第73回

 今回は、施設在住の高齢糖尿病患者の血糖スパイクに介入した事例を紹介します。担当医からα-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)追加の方針が示されたものの、施設では食直前投与が困難という制約があり、薬物動態の観点から最適な薬剤を提案しました。施設や在宅の現場では、薬効だけでなく、その患者の生活環境で本当に飲み続けられるかを考えることが処方提案の出発点になります。患者情報90歳、男性(施設入居中)基礎疾患2型糖尿病(2021年~)、高血圧症、便秘症、心房中隔瘤、前立腺肥大症(2023年~)既往歴尿路感染症による入院ADLほぼ自立認知機能問題なし服薬管理施設職員が管理(キーパーソンは妹)介入時の検査値HbA1c 7.1%薬学的管理開始時の処方内容1.リナグリプチン錠5mg 1錠 分1 朝食後2.テルミサルタン・アムロジピン配合錠AP 1錠 分1 朝食後3.シロスタゾールOD錠50mg 2錠 分2 朝・夕食後4.ルビプロストンカプセル24μg 2カプセル 分2 朝・夕食後5.イメグリミン錠500mg 2錠 分2 朝・夕食後6.デュタステリドカプセル0.5mg 1カプセル 分1 朝食後7.ミラベグロン錠25mg 2錠 分1 朝食後本症例のポイント本患者は尿路感染症で入院し、その際に糖尿病の管理方針が変更となりました。それまで服用していたSGLT2阻害薬が休薬となり、DPP-4阻害薬(リナグリプチン)単剤に切り替えられた状態で施設に入居しました。退院時の血糖コントロールは空腹時90~130mg/dL、食後180mg/dL前後とおおむね良好でしたが、施設入居後のモニタリングで食後血糖が313mg/dLに達する血糖スパイクが確認されました。心房中隔瘤を有し、心血管リスクも考慮が必要な患者であることから、食後高血糖の是正は重要な課題となりました。施設では食直前投与が困難担当医よりα-GI追加の意向が示され、候補としてボグリボースが挙がりました。しかし、ここで問題となったのが施設の服薬管理の制約です。施設では食事直前に薬を渡すことが難しく、食直前投与の薬剤の追加には現実的な壁がありました。ボグリボースやアカルボースは、食物とともに腸内に存在して初めて二糖類の消化・吸収を阻害するため、食直前投与が必須とされています1)。食後に投与した場合は消化・吸収が先行してしまい、治療効果が著しく減弱します。つまり、もし食後投与になってしまうと、処方は出たが効かないという状況になりかねません。この問題を解決するために、私はα-GIの中でも薬物動態が異なるミグリトールに着目しました。ミグリトールは他のα-GIとは異なり、小腸上皮に直接吸収されてα-グルコシダーゼを阻害する機序をもちます2)。この特性により、食後投与でもAUCは食前投与と同等であることが報告されており3)、施設の制約下でも十分な効果が期待できると判断しました。他の合併症との相性さらにもう1つのポイントとして、患者の合併症との相性がありました。患者はルビプロストンを服用している便秘症の患者です。ミグリトールは他のα-GIと比較して便秘よりも下痢を来しやすい特性があります2)。便秘傾向のある患者においては、この副作用プロファイルがむしろ適していると考えられました。医師への提案と経過担当医に対して、以下の内容をメディカルケアステーション(ICT)にて情報提供しました。【現状報告】施設の服薬管理上、食直前投与が困難な環境である。ボグリボースやアカルボースは食直前投与が必須であり、食後投与では効果が減弱する。【懸念事項】食直前投与が守られない場合、α-GI本来の食後血糖抑制効果が得られず、血糖スパイクの改善につながらない可能性がある。【提案内容】食後投与でも効果が保持されるミグリトール錠50mg 2錠 分2 朝夕食後への変更(超高齢、腎機能低下を考慮して2錠朝夕食後に減じる設計としました)。消化器副作用プロファイルが便秘症の患者に適している。担当医より提案が採用され、ミグリトール錠50mg 2錠 分2 朝夕食後に変更となりました。施設スタッフには食後投与のタイミングと、腹部膨満感や排便状況の悪化(下痢)の観察ポイントについて情報共有を行いました。ミグリトール開始1ヵ月後より食後血糖は200mg/dL前後へと改善傾向を示しました。2ヵ月の管理期間を通じて低血糖・消化器症状の著明な増悪は認められず、HbA1cは6.8と改善傾向で推移しました。施設での服薬管理上の問題も生じず、アドヒアランスは良好に維持されました。考察:この事例から学んだこと処方提案においては、何を提案するかと同じくらいその患者の環境で本当に実行できるかどうかが重要となります。薬効・薬物動態・患者背景・生活環境を掛け合わせて考える視点が、施設や在宅の現場ではとくに求められます。今回の症例は、薬剤師ならではの視点が患者のアドヒアランスと治療効果の両立につながった一例です。 1) 日本糖尿病学会編. 糖尿病治療ガイド2024. 文光堂;2024. 2) ミグリトール錠50mg「BMD」インタビューフォーム 3) Ito H, et al. J Diabetes Investig. 2014;5:165-170.

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美容目的でのチルゼパチド使用に伴う正常血糖ケトアシドーシス

 糖尿病や肥満のない若年女性が、美容目的でチルゼパチドを使用した後、正常血糖ケトアシドーシスを来したという症例報告がなされた。監物 諒相氏、沖田 朋憲氏(大阪けいさつ病院)らが、JCEM Case Reports誌2026年4月8日号で報告した。監物氏、沖田氏らは、チルゼパチド使用後の食欲低下や重度の消化器症状に伴う急性のカロリー不足が、ケトアシドーシス発症に関与した可能性を指摘し、美容目的の適応外使用に注意を促している。2回目投与後に悪心・嘔吐・下痢が発現 症例は20代の日本人女性。糖尿病、飲酒歴、糖質制限食の実施はなかった。身長156cm、体重58.9kg、BMI 24.2kg/m2であった。美容目的の体重減少を目的に、美容クリニックを通じてチルゼパチドを使用し、継続的な医学的管理を受けないまま、チルゼパチド2.5mgを週1回、計2回自己投与した。 初回投与後から食欲低下と摂食量低下を認め、2回目投与後に強い悪心、嘔吐、下痢が発現した。症状は4日間持続し、近医でブドウ糖含有輸液を受けた後、大阪けいさつ病院へ搬送された。来院時の体重は53.8kg、BMI 22.1kg/m2であり、約10日間で約5kg減少していた。身体所見では蒼白、疲労感に加え、発熱(38.4℃)を認めた。pH正常でもアニオンギャップ開大 入院時検査では、pH 7.41、HCO3- 17.7mmol/L、アニオンギャップ25.9mmol/L、β-ヒドロキシ酪酸5.5mmol/L、アセト酢酸1.4mmol/L、血糖196mg/dL、HbA1c 5.5%であった。pHは正常範囲内であったが、HCO3-低下、アニオンギャップ開大、ケトン体著明高値といった所見から、高アニオンギャップ性代謝性アシドーシスと判断され、嘔吐に伴う代謝性アルカローシスの合併も示唆された。 血糖値は196mg/dLと軽度高値を示したが、正常血糖ケトアシドーシスの血糖基準である250mg/dL以下であった。インフルエンザウイルスおよび新型コロナウイルス抗原検査は陰性で、画像検査や血液・尿・便の細菌学的検査でも明確な感染は同定されなかった。以上から、チルゼパチド使用と時間的に関連した正常血糖ケトアシドーシスと判断された。輸液とインスリンで速やかに改善 治療として、生理食塩水による補液の後、ブドウ糖含有輸液、電解質補正、持続静注インスリンが行われた。インスリン投与は24時間継続され、入院翌日には代謝性アシドーシスが改善し、血清ケトン体も速やかに基準範囲内まで低下した。一方、悪心・嘔吐はしばらく持続した。輸液は5日間継続され、入院4日目に通常食を再開、入院6日目に薬剤なしで退院した。 退院2週間後の外来では、消化器症状の再燃はなく、食欲も回復していた。75g経口ブドウ糖負荷試験では、空腹時血糖88mg/dL、120分値101mg/dLであり、耐糖能は正常であった。このため、搬送時の軽度高血糖は、身体ストレスや搬送前のブドウ糖含有輸液の影響と考えられた。急性のカロリー不足が誘因か 著者らは、本症例の病態について、チルゼパチドによる食欲低下と重度の消化器症状により急性の異化状態が生じたことが関与している可能性を指摘した。加えて、発熱や生理的ストレス、脱水、急激な体重減少、さらにGIP受容体作動を介した脂質代謝への影響が、ケトーシスを増幅した可能性もあると考察している。 本症例報告について、筆頭著者および共同著者である監物氏、沖田氏にコメントを求めたところ、以下の回答が得られた。【監物氏・沖田氏のコメント】 本症例は1例の症例報告であり、チルゼパチド使用との因果関係を直接証明するものではありません。一方で、チルゼパチド使用中に強い消化器症状や摂食低下が持続する場合には、正常血糖ケトアシドーシスを念頭にケトン体やアニオンギャップも確認する必要があることを示唆しています。 チルゼパチドは適正使用下では重要な治療薬ですが、美容・痩身目的での安易な使用は重篤な健康被害につながる可能性があります。本報告が、チルゼパチドの適正使用の推進と、重篤な有害事象の早期発見・早期対応に役立つことを期待しています。

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がん関連VTEのDOACによる出血リスク、新たな予測モデルが有用か

 直接経口抗凝固薬(DOAC)治療を受けるがん関連静脈血栓塞栓症(VTE)患者を対象に開発された出血リスク予測モデル「ONCO-DOAC BLEEDスコア」は、既存の出血リスクスコアと比較して大出血リスクを良好に層別化できることが示された。本結果は京都府立医科大学循環器内科の長井 智之氏や中西 直彦氏ら(COMMAND VTE Registry-2)が報告し、JACC:CardioOncology誌2026年6月号に掲載された。  本研究グループは、国内31施設において2015年1月~2020年8月の期間に、急性の症候性の肺塞栓症および深部静脈血栓症と診断された患者5,197例を登録した多施設共同の観察研究「COMMAND VTE Registry-2」のデータを使用。VTE診断時に活動性がんを有していた1,507例のうち、経口抗凝固療法未実施例、ワルファリン投与例、血栓溶解療法施行例を除外した1,166例を開発コホートとして作成、解析した。主要評価項目は、大出血(国際血栓止血学会[ISTH]基準)の発生とした。 多変量Cox比例ハザード解析より、大出血と独立して関連する予測因子(各1点)として、(1)大出血の既往、(2)慢性腎臓病(CKD)、(3)NSAIDsの使用、(4)遠隔転移のあるがん、(5)末期がん、(6)上部消化管がん、(7)膵臓がん、(8)子宮がんの8項目を特定し、「ONCO-DOAC BLEEDスコア」を構築。合計点に基づき、低リスク(0点)、中リスク(1点)、高リスク(2点以上)の3群に分類した。さらに、国内臨床試験のONCO DVT試験(601例)およびONCO PE試験(178例)の計779例を検証コホートとした。  主な結果は以下のとおり。・開発コホート(1,166例、追跡期間中央値163日)において127例(10.9%)が大出血を経験し、構築されたスコアの1年累積大出血発現率は低リスク群5.7%、中リスク群8.9%、高リスク群21.2%と、有意なリスク層別化が示された(p<0.001[Gray's test])。 ・開発コホートでのONCO-DOAC BLEEDスコアの識別能(C-index)は、Harrell's C-indexで0.68(95%信頼区間[CI]:0.62~0.73)、Uno's C-indexで0.67(95%CI:0.62~0.72)を示し、既存スコア(VTE-BLEED:0.55、RIETE:0.58、CAT-BLEED:0.58、Perform:0.54)と比較して有意に高い識別能を発揮した(p値はそれぞれ<0.001、0.004、0.002、<0.001)。 ・検証コホート(779例、うち53例が大出血を経験)においても、1年累積大出血発現率は低リスク群6.6%、中リスク群8.6%、高リスク群18.2%と段階的な上昇を示した(p=0.003[Gray's test])。 ・検証コホートにおける識別能はHarrell's C-indexで0.62(95%CI:0.54~0.70)、Uno's C-indexで0.63(95%CI:0.54~0.71)で、既存スコア(VTE-BLEED:0.60、RIETE:0.60、CAT-BLEED:0.55、Perform:0.53)と同等以上の予測能を維持し、キャリブレーションにより予測リスクと実際の観察イベント発生率との良好な一致が確認された。  研究者らは「ONCO-DOAC BLEEDスコアは、DOAC治療中のがん関連VTE患者での大出血リスク予測において、臨床的に意義のある層別化を可能にし、日常診療における個別化された治療意思決定をサポートしうる」とし、「本スコアを用いて高リスク患者を特定することは、より綿密な臨床フォローアップや併用薬(とくにNSAIDs)の見直し、病状モニタリングにつながり、安全な長期抗凝固療法の継続と最適ながん治療・VTE管理の両立に貢献することが期待される。ただし、本研究コホートは日本人のみで構成されているため、今後は欧米などほかの民族集団における外部検証を進める必要がある」と結論付けている。

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グルコサミンがアルツハイマー病の進行を加速させる可能性

 アルツハイマー病(AD)では広範な代謝異常が観察されるものの、どの代謝経路が病態進行を直接駆動しているのか、その分子メカニズムは十分に解明されていない。米国・フロリダ大学のTara R. Hawkinson氏らの研究グループは、ヒト死後脳およびADマウスを用いた解析から、脳内における過剰糖鎖付加(ハイパーグリコシル化)が病態進行の直接的な駆動因子(ドライバー)であることを突き止めた。さらに、電子カルテデータベースの解析から、関節の健康のためのサプリメントとして広く普及するグルコサミンの使用が、ADの進行加速や死亡リスク上昇に関連している可能性が示唆された。Nature Metabolism誌オンライン版2026年6月9日号に掲載。 本研究では、ヒトAD死後脳サンプルの解析およびADマウスモデルを用いた糖鎖代謝の追跡実験を行った。また、糖鎖生合成経路の阻害による影響を評価した。臨床データの検証としては、電子カルテデータベースから抽出したAD関連認知症患者2万4,481例(うちグルコサミン使用者1,896例)および軽度認知障害(MCI)患者4万1,884例(同2,750例)を対象に、追跡期間中央値1,835日における生存率やAD関連認知症への移行率を後ろ向きに解析した。 主な結果は以下のとおり。・ヒトAD患者の脳内(とくに灰白質)では、病期(Braakステージ)の進行に伴ってN-結合型糖鎖が有意に蓄積していた。・ADマウスにおいて、糖鎖生合成の阻害は社会的記憶を有意に改善させた一方で、グルコサミンの投与は脳内の糖鎖蓄積を加速させ、記憶障害を著しく悪化させた。なお、健康な野生型マウスではこの悪化は認められなかった。・電子カルテ解析の結果、グルコサミンを1年以上使用したAD関連認知症患者では、非使用者と比較して全死因死亡リスクが25%有意に上昇した(p=0.0023)。・MCI患者において、グルコサミン使用者ではAD関連認知症への移行率(疾患進行リスク)が25%有意に上昇した(p<0.001)。 著者らは、脳内の過剰糖鎖付加がADの病態を進行させる能動的なリスク因子であると指摘している。糖鎖生合成経路が新たな治療ターゲットとなる可能性を示唆する一方で、認知症リスクを抱える患者がグルコサミン使用によって病態を悪化させる潜在的リスクが懸念され、今後は厳密な臨床試験による検証が必要であると結論付けている。

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進行・再発子宮体がん、ペムブロリズマブ+化学療法の長期OS結果(NRG-GY018)/ASCO2026

 進行または再発の子宮体がんに対し、ペムブロリズマブと化学療法の併用療法はミスマッチ修復機能欠損(dMMR)およびミスマッチ修復機能正常(pMMR)のいずれのコホートにおいても、標準的な化学療法単独と比較して長期的な全生存期間(OS)の改善効果を維持した。 第III相無作為化比較試験NRG-GY018の長期追跡によるOSおよび後治療に関する解析結果を米国臨床腫瘍学会年次総会(2026 ASCO Annual Meeting)において、Ramez N. Eskander氏(米国・カリフォルニア大学サンディエゴ校)が発表した。 ペムブロリズマブと化学療法の併用は、MMRステータスに関わらず無増悪生存期間(PFS)を統計学的に有意に改善することが同試験で示されている1)。今回の発表ではdMMRおよびpMMRコホートにおけるOSアップデートと後治療による影響に関する検証結果が報告された。・試験デザイン:第III相無作為化比較試験・対象:StageIII/IVまたは測定可能病変の有無を問わないStageIVB、あるいは再発病変を有する子宮体がん(術後補助化学療法歴がある場合は試験開始12ヵ月以上前に完了していること)・試験群:ペムブロリズマブ(200mg)+パクリタキセル(175mg/m2)+カルボプラチン(AUC 5)を3週ごと6サイクル投与後、維持療法としてペムブロリズマブ(400mg)を6週ごと最大14サイクル投与(ペムブロリズマブ群)・対照群:プラセボ+パクリタキセル(175mg/m2)+カルボプラチン(AUC 5)を3週ごと6サイクル投与後、維持療法としてプラセボを6週ごと最大14サイクル投与(プラセボ群)・評価項目:[主要評価項目]治験医師判定によるPFS[副次評価項目]dMMRおよびpMMRコホートにおけるOS、試験治療後のICI治療状況など 主な結果は以下のとおり。[dMMRコホート]・割り付けは222例、追跡期間中央値は49ヵ月であった。・OS中央値は両群ともに未到達であったが、プラセボ群と比較してペムブロリズマブ群は有意な改善を示した(ハザード比[HR]:0.56、95%信頼区間[CI]:0.34~0.92、p=0.0124)。48ヵ月OS割合はペムブロリズマブ群78.6%に対し、プラセボ群は60.4%であった。・進行後にICIによる治療を受けた割合はプラセボ群の93.2%に対し、ペムブロリズマブ群では34.1%であった。[pMMRコホート]・割り付けは588例、追跡期間中央値は44ヵ月であった。・OS中央値はプラセボ群の35.1ヵ月に対し、ペムブロリズマブ群は44.4ヵ月で、ペムブロリズマブ群で良好な傾向が維持されていた(HR:0.86、95%CI:0.69~1.08、p=0.1072)。・進⾏後にICI治療による後治療を受けた割合は、プラセボ群81.1%に対しペムブロリズマブ群では42.9%であった。 今回の長期追跡データにより、進行・再発子宮体がんにおけるペムブロリズマブ+化学療法のOSベネフィットが裏付けられた。プラセボ群において高頻度でICIによる後治療が行われたにもかかわらず、ペムブロリズマブの上乗せが持続的な⽣存改善をもたらすことが⽰されたとEskander氏は結んだ。

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統合失調症における薬物治療反応と発達障害の遺伝的リスクとの関連

 統合失調症は、遺伝性の高い神経精神疾患である。そのゲノム構造は、注意欠如多動症(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)などの神経発達障害のゲノム構造と重複することが報告されている。しかし、ADHDおよびASDのゲノムリスクが統合失調症症状に及ぼす影響は依然として不明であった。東北大学の宮原 一総氏らは、統合失調症における抗精神病薬の治療反応性に神経発達障害の遺伝的リスクが影響するかを検討するため、死後脳を用いてゲノムワイド関連解析(GWAS)を行った。Frontiers in Psychiatry誌2026年4月27日号の報告。 統合失調症患者24例と対照群48例の死後脳からGWASデータを取得し、公開されているGWASデータを用いて多遺伝子リスクスコア(PRS)を算出した(ADHD:ADHD-PRS、ASD:ASD-PRS)。生前の臨床情報が入手可能な統合失調症患者19例を対象に、PRS、統合失調症症状の重症度、抗精神病薬治療反応性スコア(ARS)との相関分析を実施した。さらに、ADHD-PRSに基づいて患者を2つのサブグループ(ADHD-PRS高値群と低値群)に分類し、前頭前皮質における探索的遺伝子発現解析およびその後のパスウェイ解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・陽性症状のARSは、ADHD-PRSと負の相関、ASD-PRSと正の相関を示したが、これらの関連性は多重検定補正後には統計学的に有意ではなかった。・全般的精神病理のARSおよび陰性症状のARSと、ADHD-PRSまたはASD-PRSとの間には相関は認められなかった。・遺伝子発現解析により、CHRNB2を含む神経精神疾患関連遺伝子など1,773個の差次的発現遺伝子が同定された。・これらの差次的発現遺伝子は、神経系およびミトコンドリア機能に関連する経路に多く認められた。 著者らは「本研究の結果は、神経発達障害のゲノムリスクが統合失調症患者の抗精神病薬に対する治療反応性に影響を及ぼしている可能性があり、この表現型における潜在的なマーカー分子が関与していることを示唆している。本研究のサンプルサイズが限られているため、探索的知見を検証するには、大規模コホートでのさらなる研究が必要とされる」としている。

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再発・難治性多発性骨髄腫、トアルクエタマブ+ダラツムマブ±ポマリドミドでPFS延長/NEJM

 トアルクエタマブは、骨髄腫細胞表面に発現するGタンパク質共役型受容体クラスCグループ5メンバーD(GPRC5D)と、T細胞上に発現するCD3受容体を標的とする二重特異性抗体。本薬は、正常B細胞への作用は限定的であり、管理可能な感染症プロファイルを示すため併用療法への組み込みが可能とされる。イタリア・トリノ大学のRoberto Mina氏らMonumenTAL-3 Investigatorsは「MonumenTAL-3試験」において、既治療の再発・難治性多発性骨髄腫患者では、トアルクエタマブ+ダラツムマブ+ポマリドミド(Tal-DP)およびトアルクエタマブ+ダラツムマブ(Tal-D)はダラツムマブ+ポマリドミド+デキサメタゾン(DPd)による標準治療と比較して、2年の時点での無増悪生存率が有意に優れ、全生存率も良好であることを示した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2026年6月13日号に掲載された。18の国と地域の無作為化第III相試験 MonumenTAL-3試験は、日本を含む18の国と地域の182施設で実施した非盲検無作為化第III相試験(Johnson & Johnsonの助成を受けた)。2022年11月~2025年3月に、年齢18歳以上、再発・難治性多発性骨髄腫を呈し、レナリドミドおよびプロテアソーム阻害薬を含む1ライン以上の治療歴のある参加者を登録した。 被験者864例(年齢中央値64歳[範囲:30~88]、男性496例[57.4%])を、Tal-DP(287例)、Tal-D(287例)、DPd(290例)の投与を受ける群に無作為に割り付けた。 主要評価項目は、無増悪生存期間(無作為化の日から病勢進行または全死因死亡の発生までの期間)とし、独立審査委員会が評価した。全奏効、残存病変陰性完全奏効も良好 全体(864例)の診断からの経過期間中央値は3.8年(範囲:0.3~22.0)、前治療ライン数中央値は2(範囲:1~8)であった。833例(Tal-DP群276例、Tal-D群274例、DPd群283例)が少なくとも1回の試験薬の投与を受けた。今回の中間解析時の追跡期間中央値は24.6ヵ月(範囲:0.03~35.4)だった。 24ヵ月時の無増悪生存率の推定値は、Tal-DP群が81.3%、Tal-D群が77.6%、DPd群は51.2%であった。病勢進行または全死因死亡のハザード比(HR)は、DPd群に対するTal-DP群で0.28(95%信頼区間[CI]:0.20~0.40、p<0.001)、DPd群に対するTal-D群で0.33(0.24~0.46、p<0.001)であり、いずれも有意差を認めた。 また、全奏効(部分奏効以上)(Tal-DP群88.2%およびTal-D群88.5%vs.DPd群77.6%、両比較ともp<0.001)、完全奏効以上(71.1%および69.0%vs.34.5%、両比較ともp<0.001)、測定可能な残存病変が陰性の完全奏効(52.3%および46.3%vs.15.9%、両比較ともp<0.001)の割合は、いずれも有意差がみられた。 一方、24ヵ月全生存率の推定値は、Tal-DP群が89.2%、Tal-D群が87.9%、DPd群は79.1%であり、全死因死亡のHRは、DPd群に対するTal-DP群で0.47(95%CI:0.30~0.73、p=0.0006)、DPd群に対するTal-D群で0.51(0.33~0.78、p=0.0015)とトアルクエタマブを含むレジメンで良好であったが、いずれも事前に規定された中間解析の有意水準(p=0.0001)を満たさなかった。Grade3、4の好中球減少が高頻度に 最も頻度の高いGrade3または4の有害事象は好中球減少(Tal-DP群76.4%、Tal-D群29.2%、DPd群86.2%)であった。重篤な有害事象は、Tal-DP群で63.0%、Tal-D群で52.6%、DPd群で53.7%に、致死的な有害事象はそれぞれ1.8%(5例)、4.0%(11例)、4.6%(13例)に発生した。 サイトカイン放出症候群はTal-DP群で67.8%(Grade1が55.8%、Grade2が11.2%)、Tal-D群で58.4%(同48.9%、8.8%)に発生した。イベントのほとんどが一過性(発症期間中央値2日[範囲:1~57])で、1例(Tal-D群)を除き消退した。本症により4例(Tal-DP群1例、Tal-D群3例)でトアルクエタマブの投与中止に至り、2例(いずれもTal-D群)で全試験薬が投与中止となった。 免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群はTal-DP群で2.9%、Tal-D群で1.8%に発生した。Tal-DP群の3例がGrade3で、イベントはすべて消退した。 感染症は、Tal-DP群で87.3%、Tal-D群で84.3%、DPd群で83.0%に発生した。Grade3または4の感染症の発生率はそれぞれ37.7%、29.2%、42.4%であり、最も頻度が高かったのは肺炎(13.8%、9.5%、19.1%)であった。致死的感染症は0.7%(2例)、1.5%(4例)、1.8%(5例)に認めた。早期ラインの新たな選択肢 著者は、「Tal-DPおよびTal-Dはいずれも、再発または難治性多発性骨髄腫の早期ラインの治療における新たな選択肢となる」としている。 また、「本試験はTal-DPとTal-Dの比較を目的としたものではなかったが、トアルクエタマブ+ダラツムマブ療法にポマリドミドを追加することで、無増悪生存期間、奏効持続期間、全生存期間の改善を認めた一方で、血液毒性や重症感染症のリスクが増加した。Tal-DPとTal-Dのいずれを選択するかは、個々の患者の特性や治療目標を考慮して決定すべきである」と指摘している。

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monarchE試験、日本人サブグループの長期解析結果/日本乳学会

 HR+/HER2-でリンパ節転移陽性の高リスク早期乳がんに対する術後内分泌療法(ET)へのアベマシクリブ追加の有用性を検討したmonarchE試験では、浸潤疾患生存期間(iDFS)、無遠隔再発生存期間(DRFS)および全生存期間(OS)の統計学的に有意かつ臨床的に意義のある改善が示され、アベマシクリブ併用の内分泌療法は再発抑制のための重要な標準治療の1つとして推奨されている。今回、同試験に登録された日本人患者における長期(追跡期間中央値76ヵ月)の有効性および安全性を評価したサブグループ解析の結果を、中山 貴寛氏(大阪国際がんセンター)が第34回日本乳学会学術総会で発表した。・対象:リンパ節転移陽性で再発高リスクのHR+/HER2-早期乳がん患者[コホート1]リンパ節転移4個以上またはリンパ節転移1~3個でグレード3もしくは腫瘍径5cm以上[コホート2]リンパ節転移1~3個でKi-67値20%以上かつグレード1~2で腫瘍径5cm未満・試験群(アベマシクリブ+ET群):術後療法として、標準内分泌療法+アベマシクリブ150mg1日2回・対照群(ET単独群):標準内分泌療法単独・評価項目:[主要評価項目]iDFS[重要な副次評価項目]DRFS、OS、安全性など・データカットオフ:2025年7月15日 主な結果は以下のとおり。・日本人サブグループは377例が登録され、コホート1には344例、コホート2には33例が含まれた。アベマシクリブ+ET群に181例、ET単独群に196例が1対1の割合で無作為に割り付けられた。・ベースラインの患者特性は両群間でバランスがとれており、全体集団のプロファイルと類似していた。日本人サブグループの年齢中央値は、アベマシクリブ+ET群51.0歳vs.ET単独群49.0歳であった。閉経前が49.7%vs.50.0%、化学療法歴なしがともに7.7%、リンパ節転移数4個以上が61.9%vs.64.3%、Ki-67値20%以上が51.4%vs.55.6%であった。 ・追跡期間中央値60ヵ月時点におけるiDFSは、日本人サブグループのITT集団全体でアベマシクリブ+ET群83.8%vs.ET単独群75.8%(ハザード比[HR]:0.786、95%信頼区間[CI]:0.520~1.187)で、全体集団と同様にアベマシクリブ併用によるiDFSイベントリスク低減の持続的なベネフィットが確認された(全体集団:83.1%vs.76.5%、HR:0.786)。コホート1におけるiDFSについても、83.8%vs.74.7%(HR:0.786、95%CI:0.512~1.205)となり、全体集団同様アベマシクリブ+ET群で良好であった。・DRFSについても、日本人サブグループのITT集団全体でアベマシクリブ+ET群88.2%vs.ET単独群80.6%(HR:0.762、95%CI:0.482~1.204)、コホート1で88.0%vs.80.0%(HR:0.760、95%CI:0.476~1.215)と全体集団同様アベマシクリブ+ET群で良好であった。・追跡期間中央値76ヵ月時点におけるOSイベントはアベマシクリブ+ET群14例(7.7%)vs.ET単独群19例(9.7%)で発生し、イベント数は非常に少ないものの、HRは0.772(95%CI:0.387~1.541)であった。・アベマシクリブ+ET群における試験治療下における有害事象(TEAE)は、全Gradeが99.4%、Grade3以上が59.7%で認められたが、死亡例および肺炎は認められていない。また、43.6%で減量が行われていた。・2年間の試験治療完遂率は、アベマシクリブ+ET群88.4%(アベマシクリブのみの中止も含む)vs.ET単独群86.7%とアベマシクリブ追加による影響はみられず、アベマシクリブ+ET群でアベマシクリブも含み2年間の投与を完遂したのは72.9%であった。・安全性プロファイルは全体集団とおおむね一致していたが、アベマシクリブ+ET群において認められた全GradeのTEAEとしては、下痢(日本人サブグループ89.5%、全体集団83.5%)、好中球減少症(77.3%、46.0%)、貧血(35.9%、24.5%)、アラニンアミノトランスフェラーゼ増加(22.7%、12.6%)などが日本人サブグループで若干多い傾向がみられた。 中山氏は本結果について、日本人集団におけるアベマシクリブ+ET療法の有効性は全体集団と一貫しており、再発高リスク早期乳がん患者に対する臨床的ベネフィットが改めて示されたと述べた。安全性に関しては、日本人サブグループにおいて骨髄抑制や肝酵素増加について頻度が若干高かった点を指摘し、日常診療における適切なモニタリングや用量調整の重要性を強調した。

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