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アカラブルチニブ、マントル細胞リンパ腫に承認取得/AZ

 アストラゼネカは、アカラブルチニブマレイン酸塩水和物(商品名:カルケンス錠100mg)について、「マントル細胞リンパ腫」を効能又は効果として、2025年8月25日付で厚生労働省より承認を取得したことを発表した。本承認は国際共同第III相ECHO試験の結果などに基づくもので、米国、EU、ほか数ヵ国でマントル細胞リンパ腫(MCL)に承認されている。 第III相ECHO試験は、65歳以上の未治療MCL患者を対象とし、アカラブルチニブとベンダムスチンおよびリツキシマブとの併用療法群と標準治療である免疫化学療法群を比較した試験で、アカラブルチニブ併用療法群が病勢進行または死亡のリスクを27%低減したことが示唆された(ハザード比:0.73、95%信頼区間[CI]:0.57~0.94、p=0.016)。また、無増悪生存期間(PFS)の中央値は、免疫化学療法単独群の49.6ヵ月に対し、アカラブルチニブ併用療法群で66.4ヵ月であった。 再発/難治性のMCLに対しては、海外第II相非盲検単群試験であるACE-LY-004試験、および国内第I相試験(D8220C00001試験)の結果に基づいている。ACE-LY-004試験では、標準的な免疫化学療法後に再発または難治性を示したMCL患者において、アカラブルチニブ単剤療法による全奏効率(ORR)が81.5%(95%CI:73.5~87.9)、完全奏効率が47.6%(同:38.5~56.7)であった。また、D8220C00001試験では、日本人の進行期B細胞性腫瘍の成人患者に対して、アカラブルチニブ単剤療法によりMCLコホートでORRが61.5%(同:31.6~86.1)であった。<本承認により追加された「効能又は効果」と「用法及び用量」>●効能又は効果:マントル細胞リンパ腫●用法及び用量:〈マントル細胞リンパ腫〉・未治療の場合ベンダムスチン塩酸塩及びリツキシマブ(遺伝子組換え)との併用において、通常、成人にはアカラブルチニブとして1回100mgを1日2回経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する。・再発又は難治性の場合通常、成人にはアカラブルチニブとして1回100mgを1日2回経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する。

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T-DXd、化学療法未治療のHER2低発現/超低発現の乳がんに承認取得/第一三共

 第一三共は2025年8月25日、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd、商品名:エンハーツ)について、日本において「ホルモン受容体陽性かつHER2低発現又は超低発現の手術不能又は再発乳」の効能又は効果に係る製造販売承認事項一部変更承認を取得したことを発表した。 本適応は、2024年6月開催の米国臨床腫瘍学会(ASCO2024)で発表された、化学療法未治療のホルモン受容体陽性かつ、HER2低発現またはHER2超低発現の転移再発乳がん患者を対象としたグローバル第III相臨床試験(DESTINY-Breast06)の結果に基づくもので、化学療法未治療のHER2低発現またはHER2超低発現の乳がんを対象に承認された日本で初めての抗HER2療法となる。

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幼児期の重度う蝕、母親の長時間インターネット使用と関連か

 育児に関する情報をインターネットから得ることは、現代では一般的な行動となっている。しかし、画面に向かう時間が長くなりすぎることで、子どもの健康に思わぬ影響が及ぶ可能性がある。最近の研究により、母親の長時間インターネット使用と、3歳児における重度う蝕(Severe early childhood caries :S-ECC)の発症との間に有意な関連が示された。母親が仕事以外で1日に5時間以上インターネットを使用していた場合、そうでない場合と比較して、子どもがS-ECCになるリスクが4倍以上高まる可能性が示唆されたという。研究は島根大学医学部看護学科地域老年看護学講座の榊原文氏らによるもので、詳細は「BMC Pediatrics」に7月2日掲載された。 本研究では、幼少期の口腔ケアが主に親の責任であることに着目し、母親の長時間インターネット使用が育児時間を圧迫し、子どもの口腔ケアの軽視を招く可能性があるという仮説を立てた。口腔ケアは育児の中で優先度が低くなりがちであるため、母親の長時間インターネット使用によって浸食されやすい育児行動である可能性が高く、これがS-ECCリスクの増加につながると考えられた。従来の研究では、親のメディア使用とECCとの関連については、横断研究が1件報告されているのみであり、十分に検討されていない。以上の背景を踏まえ、本研究では、子どもの1歳半時点における母親の長時間インターネット使用と、3歳時点におけるS-ECCとの関連を検証することを目的に、後ろ向きのコホート研究を実施した。 本研究では、2016年4月から2017年9月の間に島根県松江市へ妊娠の届出を行った母親とその子どもを対象とし、1歳6か月児健診および3歳児健診時のデータを用いて、1,938件の記録を解析対象とした。子どもの3歳時点のS-ECCは、虫歯、喪失歯、または処置歯の合計が4本以上と定義した。1日5時間以上のインターネット使用は、「問題のあるインターネット使用」と関連するとの報告がある。そのため本研究では、1歳6か月児健診時における母親のインターネット使用時間に関するアンケートで、「1日5時間以上」と回答した場合を「長時間インターネットを使用している」と定義した(仕事でのインターネット使用時間は含めないものとした)。 子どもの1歳半時点における母親のインターネット使用時間が1日5時間を超えていた割合は2.0%だった。母親がインターネットに最も多くの時間を費やした目的としては「情報収集」が最多であり、全体の59.5%を占めた。一方で、1日5時間以上インターネットを使用していた母親に限ると、「情報収集」に最も時間を費やしていた割合は26.3%にとどまった。また、子どもの3歳時点における虫歯の有病率は13.5%であり、S-ECCと判定された子どもの割合は2.6%だった。 子どもの3歳時のS-ECCと1歳半時点の母親のインターネット利用時間との関連について、前者を従属変数、後者を独立変数として単変量のロジスティック回帰分析を行った。その結果、1歳半時点の母親の1日5時間以上のインターネット使用は、3歳時点のS-ECCと有意に関連していた(オッズ比〔OR〕 4.64、95%信頼区間〔CI〕 1.58~13.60、P=0.005)。この傾向は、1歳半時点の親による仕上げ磨きと親の喫煙を共変量として追加した多変量解析でも維持された(調整OR 4.27、95%CI 1.42~12.86、P=0.010)。 著者らは、本研究には単一都市のデータによるサンプルバイアスや、自己申告に基づく情報バイアスの可能性があること、母親のみを対象としていることなどの限界点を挙げた上で、「母親の長時間インターネット使用がS-ECCに関連する新たな要因である可能性を示した点で、本研究には意義がある。今後の研究では、こうした限界を克服した研究デザインを採用し、対象に父親を含め、親の長時間インターネット使用と子どもの発育・発達との関連について、さらなるエビデンスの蓄積が求められる」と述べている。

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PPIがOTC薬として発売!OTC類似薬の保険適用除外の布石か【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第157回

2026年度の法改正や報酬改定まであと半年。OTC医薬品界隈では大きな動きがあり、医療用医薬品として長年使用されてきたプロトンポンプ阻害薬(PPI)が、要指導医薬品としてドラッグストアなどで発売されました。OTC類似薬の保険適用除外にも関連してくるかもしれません。久々のプロトンポンプ阻害薬(PPI)という大型品のスイッチ化に、OTCメーカー各社が期待を懸けて拡大へ注力している。6月から他社に先行して発売中のエーザイ「パリエットS」(有効成分=ラベプラゾール)に加え、1日にはアリナミン製薬の「タケプロンs」(ランソプラゾール)、5日には佐藤製薬の「オメプラールS」(オメプラゾール)が発売。16年越しの業界要望が認められ、ようやくスイッチ化されたPPI3成分が揃い踏みとなった格好だ。(2025年8月19日付 RISFAX)PPIはOTC医薬品としてはかなりの大型商品であり、かつ複数製品の発売でもあることから広告などで話題になっています。皆さんの薬局でも患者さんからの問い合わせなどはありましたでしょうか?これらのPPIについては、2009年にスイッチ候補成分に入ったものの各方面からの反対などがあり、何度かOTC化が見送られてきました。しかし、胃がんなどの重大な消化管疾患を見過ごす恐れがないようにするため、「短期使用の徹底」を条件にラベプラゾール、ランソプラゾール、オメプラゾールの3成分が要指導医薬品としてスイッチ化され、要指導医薬品として承認されました。今まではOTC医薬品のうち、胃痛や胸やけなどの症状では、H2ブロッカーであるガスターが最も売れていたと思います。一般の人が胃痛や胸やけなどの症状緩和を目的として服用する場合、ガスターとPPIでどう使い分けをするのでしょうか。胃痛や胸やけなどの症状緩和という市場をガスターとPPIで取り合うのだとすると、実際に市場の拡大はそれほど見込めないのではないかと思ってしまいますが、各社は広告などにも力を入れているようですので、楽しみに様子をみたいと思います。OTC類似薬を段階的に保険給付から除外一方で、医療用医薬品のOTC類似薬については、保険適用除外の議論が引き続き交わされています。日本医師会は、2025年8月の定例会見で「OTC類似薬の保険適用除外は反対」と再度表明しました。医療用医薬品に比べて価格が10倍以上高いことが多いこと、それにより経済的な問題で国民の治療アクセスが絶たれ、自己判断や自己責任で服用しなければならず、臨床的なリスクが伴うなどと主張しています。2025年6月に基本方針が三党で合意され閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2025」(骨太方針2025)に「OTC類似薬の保険外しの政策は、OTC類似薬(市販薬と成分や用量が同等の処方薬)を段階的に保険給付から除外する」という方針が盛り込まれています。2025年度末までに検討を進め、2026年度から実現可能なものは実行される予定ですので、これから半年ほどで議論が活発化されるはずです。それほど時間はありません。今後のOTC医薬品、医療用医薬品のOTC類似薬の取り扱いの議論に注目していきたいと思います。

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高齢者の高血圧【日常診療アップグレード】第37回

高齢者の高血圧問題76歳女性。高血圧のため定期的に受診している。症状は何もない。既往歴に高血圧、脂質異常症、変形性関節炎がある。内服薬はリシノプリル、シンバスタチンである。自立した生活を送っている。血圧は136/82mmHg、脈拍は74/分である。収縮期血圧を130mmHg未満とするため、患者に相談することなく降圧薬を追加した。

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カテーテル関連感染疑い、初期対応は?【腕試し!内科専門医バーチャル模試】

カテーテル関連感染疑い、初期対応は?45歳の女性。子宮頸がんの抗がん剤治療のため中心静脈カテーテル留置中。39.0℃の発熱を示し、採血結果で炎症反応の上昇が確認された。そのほかのバイタルサインは安定している。

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第281回 森林浴で高血圧が改善

森林浴で高血圧が改善森林浴(forest bathing)が本態性高血圧症患者の血圧を有意に下げることが、中国での無作為化試験で示されました1,2)。さかのぼること40年以上前の1980年代、日本発祥の森林浴は緊張を解いて不安を軽減させる心理的な効果を有することが知られます。日本のチームの2008年の報告によると、森林浴はアドレナリンやノルアドレナリンなどのストレスホルモンの尿中濃度を下げます3)。また、副交感神経の活性を高めうる一方で、交感神経の活性を抑制しうることも多く報告されており4)、それらの報告も森林浴のリラックス効果を裏付けています。そのような心理的効果のみならず、森林浴は免疫を向上させ、血圧を抑制するなどの体調を整える働きも有することが知られています。それゆえ自然の中で過ごすことを慢性疾患の治療に取り入れる動きが増えています。たとえば高齢化する人口での高血圧症の治療に森林浴は有益かもしれません。最近Lancet Planet Healthに発表されたメタ解析によると、毎週いくらかの時間を公園などの自然の中で過ごすようにすることを患者に勧める自然処方(nature prescription)は血圧の有意な低下をもたらしました5)。自然処方群の収縮期血圧(SBP)と拡張期血圧(DBP)は対照群に比べてそれぞれ4.82mmHgと3.82mmHg多く下がりました。そのメタ解析にも含まれる中国での無作為化試験では、本態性高血圧症の高齢者の血圧を下げる森林浴の効果が確認されています6)。被験者24例のうち、半数の12例は浙江省の常緑広葉樹林、あとの半数の12例は浙江省の省都(杭州市)の市街地で7日間を過ごしました。両群とも毎日午前と午後に散歩し、広葉樹林で過ごした被験者の血圧が市街地で過ごした被験者に比べて有意に低下しました。中国の森林研究所のAibo Li氏と東京農業大学の上原 巌氏らの新たな試験結果によると、同様の効果がより短期の3日間の森林浴でも得られるようです。Li氏らの試験には本態性高血圧症の高齢者36例が参加しました。2021年5月21~23日の3日間を24例は森林浴をして過ごし、対照群となる12例は市街地で過ごしました。森林浴をする被験者は杭州市から車で3時間半ほどのところの国立公園に出向き、毎日3時間ゆっくりハイキングし、中国の伝統的な運動である気功をやはり毎日1時間しました。加えて、21日の午後にはリラックスと交流のためにお茶を振る舞う会が1時間催され、22日の午後には瞑想を1時間しました。対照群の12例は宿泊する市街地の近くを森林浴群と同様に散歩して気功をし、22日の午後には瞑想をしました。試験開始時点で差がなかったSBPとDBPのどちらも試験終了後には森林浴群のほうが市街地群よりも低くなっていました。森林浴群と市街地群の試験終了後のSBPはそれぞれ134.08mmHgと146.50mmHg、DBPはそれぞれ78.25mmHgと84.58mmHgでした。森林浴群は炎症の指標のC反応性タンパク質(CRP)がより低下しており、値が高いほど好調なことを意味する心拍変動(heart rate variability)がより高くなっていました。また、不安やストレスがより軽減し、活力の向上も認められました。森林浴は薬に頼らない効果的な降圧治療となりうると著者は結論しています。今回の試験で森林浴群と対照群がどれだけ歩いたかは不明です。もし森林浴群のほうがより歩いていたならそれが転帰改善の理由かもしれず2)、今後の試験では歩数の検討も必要なようです。森林浴の効果がどれだけ長続きするか、健康維持にどう貢献するかを調べる課題も残っています1)。また、より多様な多くの被験者を募っての試験を実施することで森林浴の効果の汎用性も判明するでしょう。 参考 1) Li A, et al. Front Public Health. 2025;13:1631613. 2) Forest bathing may boost physical health, not just mental well-being / NewScientist 3) Li Q, et al. J Biol Regul Homeost Agents. 2008;22:45-55. 4) Li Q. Environ Health Prev Med. 2022;27:43. 5) Nguyen PY, et al. Lancet Planet Health. 2023;7:e313-e328. 6) Mao GX, et al. J Cardiol. 2012;60:495-502.

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ラーメン摂取頻度と死亡リスクの関係~山形コホート

 週3回以上のラーメンの頻繁な摂取は、とくに男性、70歳未満、麺類のスープを50%以上摂取する習慣やアルコール摂取習慣のある人といった特定のサブグループで死亡リスク増加と関連する可能性が示唆された。山形大学の鈴木 美穂氏らは、山形コホート研究の食品摂取頻度質問票のデータを用いて、日本人一般集団におけるラーメン摂取頻度と死亡率との関連を検討した。The Journal of Nutrition, Health and Aging誌オンライン版2025年8月1日号への報告より。 本研究は、山形コホート研究の食品摂取頻度質問票調査に参加した40歳以上の6,725人(男性2,349人)を対象とした。ラーメンの平均摂取頻度を、月1回未満、月1~3回、週1~2回、週3回以上の4群に分類。麺類のスープ摂取量は、「ラーメン、うどん、そばのスープはどれくらい飲みますか?」という設問に対する回答を、「50%以上」と「50%未満」の2群に分類した。ラーメン摂取頻度と死亡との関連を明らかにするため、Cox比例ハザード解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・参加者のラーメン摂取頻度は、月1回未満:18.9%、月1~3回:46.7%、週1~2回:27.0%、週3回以上:7.4%であった。・ラーメン摂取頻度が多い参加者は、より高いBMIを有し、若年、男性が多く、喫煙・飲酒習慣や、糖尿病・高血圧を有する割合が高かった。・追跡期間中央値4.5年において145人が死亡(男性85人)し、うち100人ががん、29人が心血管疾患による死亡であった。・各背景因子で調整後の多変量Cox比例ハザード解析では、「週3回以上」群は「週1~2回」群と比較して、有意ではないものの死亡リスクが増加する傾向を示した(ハザード比[HR]:1.52、95%信頼区間[CI]:0.84~2.75、p=0.163)。・サブグループ解析の結果、「週3回以上」群では、「週1~2回」群と比較して、 男性(HR:1.74、95%CI:0.83~3.65、p=0.140) 70歳未満(HR:2.20、95%CI:1.03~4.73、p=0.043) 麺類のスープを50%以上摂取(HR:1.76、95%CI:0.81~3.85、p=0.153) 飲酒習慣のある人(HR:2.71、95%CI:1.33~5.56、p=0.006)において、死亡リスクの増加傾向がみられた。

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転移乳がんへのT-DXd後治療、アウトカムを比較

 転移乳がん(MBC)に対し、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)投与後の治療選択について十分なデータはない。米国・ダナ・ファーバーがん研究所のPaolo Tarantino氏らによる、電子カルテ由来のデータベースを用いた後ろ向き解析の結果、T-DXd投与後の追加治療(後治療)によるアウトカムは、MBCのサブタイプおよび投与された治療レジメンによって有意に異なることが明らかになった。また、T-DXd直後にサシツズマブ ゴビテカン(SG)を使用した場合、すべてのサブタイプで実臨床での無増悪生存期間(rwPFS)が比較的短く、T-DXdとの一定程度の交差耐性の可能性が示唆された。Journal of the National Cancer Institute誌オンライン版8月14日号掲載の報告。 本研究では、米国における全国規模の電子カルテ由来の匿名化データベースを用いて、2019年12月~2023年9月にT-DXd治療を開始し、T-DXd投与後に追加治療を受けた転移乳がん(MBC)患者のデータをレビューした。T-DXd投与前に一度でもHER2陽性であればHER2陽性、T-DXd投与前に一度もHER2陽性でなければHER2陰性として分類した。T-DXd後の治療におけるrwPFSおよび全生存期間(OS)を、カプランマイヤー法およびログランク検定を用いて比較した。 主な結果は以下のとおり。・T-DXd投与後に追加治療を受けた患者793例を特定した。・T-DXd投与後の追加治療のアウトカムはサブタイプにより有意に異なっていた(p<0.001)。各サブタイプのrwPFS中央値は以下のとおり:【HER2陽性MBC】4.6ヵ月【ホルモン受容体(HR)陽性/HER2陰性MBC】3.4ヵ月【トリプルネガティブMBC】2.8ヵ月・また、T-DXd投与後の追加治療のアウトカムは治療レジメンによっても有意に異なっていた(p<0.001)。各サブタイプおよび各レジメンごとのrwPFS中央値は以下のとおり。【HER2陽性MBC】内分泌治療レジメン:6.7ヵ月、SG:2.3ヵ月【HR陽性/HER2陰性MBC】エリブリン:5.9ヵ月、SG:2.5ヵ月【トリプルネガティブMBC患者】ほとんどの治療レジメンでrwPFSが3ヵ月以下と予後不良。SG:3ヵ月、エリブリン:2ヵ月、多剤併用化学療法:2.5ヵ月

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統合失調症における認知機能、日本の医師と患者はどう考えているか

 国立精神・神経医療研究センターの住吉 太幹氏らは、日本における統合失調症に伴う認知機能(CIAS)の認識、対応、患者負担について評価を行った。Schizophrenia Research. Cognition誌2025年6月27日号の報告。 2023年4〜12月、日本の精神科医149人および統合失調症患者852人を対象に、オンラインで非介入横断研究を実施した。 主な内容は以下のとおり。・精神科医は、急性期には陽性症状のコントロールを優先し、維持期・安定期には社会機能の改善を最優先していた。・CIASのマネジメントは、患者が社会復帰する際に最も重要であると考えられていた。・外来患者よりも入院患者において、CIAS発症率が高いと報告された。・精神科医の72%はCIASの評価を行っていたが、統合失調症認知機能簡易評価尺度(BACS)を使用した割合は15%にとどまった。・精神科医の58%から、CIAS介入を受け入れた患者の割合は、担当患者の40%以下であると報告された。・統合失調症患者の68%は、現在または過去にCIASを経験していると報告した。・CIASに関連する最も多い負担は、「以前できていたことができなくなった、または時間がかかるようになった」(65%)と「集中力を維持できない」(64%)であった。・現在CIASを経験していない患者496人では、「以前できていたことができなくなった、または時間がかかるようになった」が52%、「集中力を維持できない」が50%と報告された。 著者らは「CIASは、日本の精神科医に広く認識されているものの、適切な評価ツールの使用および介入が行われていなかった。多くの患者がCIASに関連する負担を報告したが、その多くはCIASを認識していなかった。これらの結果は、CIASに対する認識を高揚させることで、臨床現場でのマネジメントが容易となり、統合失調症患者の社会復帰の向上につながる可能性を示唆している」としている。

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ADHDの薬物療法、自殺・犯罪リスクも減少/BMJ

 注意欠如・多動症(ADHD)の薬物療法は、コア症状だけでなく自殺行動、物質乱用、交通事故、犯罪行為の発生を有意に低減することが、スウェーデン・カロリンスカ研究所のLe Zhang氏らの調査で示された。ADHDの治療において、薬物療法はコア症状の軽減に有効であることが無作為化対照比較試験で示されているが、自殺行動や物質乱用などの、より広範で重要な臨床アウトカムに関するエビデンスは十分でないという。研究の成果は、BMJ誌2025年8月13日号に掲載された。5つのアウトカムをtarget trial emulation研究で評価 研究グループは、経験者との協議の下で、ADHDの影響を受ける人々の現実的なニーズに合わせて選出した5つのアウトカムに関して、薬物療法の有効性を評価する目的で、target trial emulation研究を行った(Swedish Research Council for Health, Working Life and Welfareなどの助成を受けた)。 スウェーデン居住者で、2007年1月1日~2018年12月31日に、年齢6~64歳でADHDの初回診断を受けた患者を対象とし、2年間追跡した。診断から3ヵ月以内に薬物療法を開始し、追跡期間中も処方薬の使用を継続した群(開始群)と、薬物療法を開始しなかった群(非開始群)を比較した。 研究期間中に同国でADHDの治療薬として承認を受けていたのは、アンフェタミン、デキサンフェタミン、リスデキサンフェタミン、メチルフェニデート(以上、中枢神経刺激薬)、アトモキセチン、グアンファシン(以上、中枢神経非刺激薬)の6剤であった。 主要アウトカムとして、ADHDの診断から2年間における5つのアウトカム(自殺行動、物質乱用、不慮のけが、交通事故、犯罪行為)の初発および再発イベントの発生を評価した。同国で刑事責任能力および運転能力が問われる最低年齢は15歳であることから、交通事故と犯罪行為の評価は15~64歳のサブコホートで行った。イベント既往歴を有する患者で、より良好な結果 ADHD患者14万8,581例(年齢中央値17.4歳[四分位範囲:11.6~29.1]、女性41.3%)を解析の対象とした。このうち8万4,282例(56.7%)が薬物療法を開始し、開始時に最も多く処方されたのはメチルフェニデート(7万4,515例[88.4%])で、次いでアトモキセチン(6,676例[7.9%])、リスデキサンフェタミン(2,749例[3.3%])の順だった。 ADHDの薬物療法により、5つのアウトカムのうち次の4つで初発率の有意な改善を認めた。自殺行動(1,000人年当たりの重み付け発生率:開始群14.5 vs.非開始群16.9、補正後発生率比:0.83[95%信頼区間[CI]:0.78~0.88])、物質乱用(58.7 vs.69.1、0.85[0.83~0.87])、交通事故(24.0 vs.27.5、0.88[0.82~0.94])、犯罪行為(65.1 vs.76.1、0.87[0.83~0.90])。一方、不慮のけが(88.5 vs.90.1、0.98[0.96~1.01])には、両群間に有意差はみられなかった。 過去に5つのアウトカムのイベント既往歴のない患者では、薬物療法により自殺行動(発生率比:0.87[95%CI:0.79~0.95])、交通事故(0.91[0.83~0.99])の発生率が有意に改善した。これに対し、イベントの既往歴を有する患者では、薬物療法により5項目すべてが、より顕著かつ有意に改善し、発生率比の範囲は自殺行動の0.79(95%CI:0.72~0.86)から不慮のけがの0.97(0.93~1.00)にわたっていた。再発への効果が顕著、刺激薬でより良好な結果 再発率は、以下のとおり、5つのアウトカムのすべてで薬物療法により有意に改善した。自殺行動(1,000人年当たりの重み付け発生率:開始群22.7 vs.非開始群24.3、補正後発生率比:0.85[95%CI:0.77~0.93])、物質乱用(166.1 vs.201.5、0.75[0.72~0.78])、不慮のけが(119.4 vs.122.8、0.96[0.92~0.99])、交通事故(31.6 vs.37.2、0.84[0.76~0.91])、犯罪行為(111.3 vs.143.4、0.75[0.71~0.79])。 また、中枢神経非刺激薬と比較して中枢神経刺激薬は、初発率および再発率とも5つのアウトカムのすべてで有意に良好であった。初発率の発生率比の範囲は、物質乱用の0.74(95%CI:0.72~0.76)から不慮のけがの0.95(0.93~0.98)まで、再発率の発生率比の範囲は、犯罪行為の0.71(0.69~0.73)から不慮のけがの0.97(0.95~0.99)までだった。 著者は、「この全国的な登録データを用いたtarget trial emulation研究は、実臨床の患者を反映したエビデンスをもたらすものである」「これらの知見は、ADHD患者全体において、広範な臨床アウトカムに対するADHD治療薬の有益な効果を示している」「本研究は、現在の無作為化比較試験では捉えきれていない、有益性に関する重要な情報を提供する」としている。

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低グレード前立腺がん、想定よりリスクが高い場合も

 生検でグレードグループ1(GG1)に分類された前立腺がん患者は、転移リスクが低いため、治療はせずに経過観察のみでよいとされることが多い。しかし新たな研究で、GG1前立腺がん患者のおよそ6人に1人は中〜高リスクのがんであることが示された。米ワイル・コーネル・メディスン泌尿器科・人口健康科学科のBashir Al Hussein氏らによるこの研究結果は、「JAMA Oncology」に7月31日掲載された。 前立腺生検の結果は、非がん性から高リスクで治療が必要ながんまでさまざまである。現在、生検でGG1と判定された場合、治療は行わずに定期的に腫瘍の評価を行って進行の兆候がないか確認する「積極的監視」の方法が取られることが多い。Al Hussein氏らによると、積極的な監視では、前立腺で生成されるがん関連タンパク質である前立腺特異抗原(PSA)値をモニターするための血液検査、生検、MRI検査などが行われる可能性があるという。しかし同氏らは、前立腺生検は前立腺全体の組織を採取するわけではないため、1回の生検では悪性のがん細胞を見逃す可能性もあると強調する。  今回の研究でAl Hussein氏らは、米国のSEER(Surveillance, Epidemiology, and End Results)データを用いた人口ベースのコホート研究を実施し、リスクカテゴリー別にGG1前立腺がん特異的死亡率や手術時の病理所見を評価した。対象は、2010年から2020年にかけて、局所限局性前立腺がんと診断された29万9,746人(年齢中央値64歳)で、そのうちの11万7,162人が生検でGG1と判定されていた。 対象者のうち、9%(1万440人)がfavorableな中間リスクGG1、3%(3,145人)がunfavorableな中間リスクGG1、4%(4,539人)が高リスクGG1に分類された。これは、GG1に分類された患者の約6人に1人が実際には中〜高リスクのがんに該当し、放射線治療や前立腺の摘出が推奨されるケースだったことを意味している。また、高リスクGG1で前立腺全摘除術を受けた1,455人の患者のうち、867人(60%)に悪性病理所見が認められた。 前立腺がん特異的死亡率は、unfavorableな中間リスクGG1群で2.4%、高リスクGG1群で4.7%であり、GG2以上のfavorableな中間リスク群およびunfavorableな中間リスク群の死亡率(それぞれ、2.1%と4.0%)と同程度であることが示された。前立腺がん特異的死亡リスクは、低リスクのGG1群に比べて、favorableな中間リスクGG1群で1.60倍、unfavorableな中間リスクGG1群で2.10倍、高リスクGG1群で3.58倍であった。 この新たな知見は、一部の臨床医がGG1前立腺がんを「がん」に分類するのを完全にやめるべきだと議論している時期に明らかになったという。論文の共著者である米ケース・ウェスタン・リザーブ大学泌尿器科准教授のJonathan Shoag氏は、「低悪性度と低リスクは同じと誤解されることが多いが、われわれは今回、両者が異なることを明確に示した。GG1の名称を変更しようとする試みは見当違いだ。なぜなら、生検でGG1前立腺がんと診断された患者の中には、治療を受けなければ、生涯にわたってがんによる痛みや苦しみが生じるリスクが高い患者も多いからだ」と述べている。 Shoag氏によると、GG1前立腺がんは全て低リスクだとする考え方は、主に、摘出された前立腺組織サンプルの検査を根拠にしているという。しかし個々の患者にとって、摘出した組織からの情報に基づく判断と、たった1回の生検結果に基づく判断は同じではない。同氏は、「臨床医として、われわれは個々の患者と生検結果が示す状況に基づいて判断を下さなければならない」と述べている。  Al Hussein氏もこれに同意を示し、「GG1前立腺がんであっても患者が臨床的に不良な特徴を示す場合、予後について患者に知らせるためのより良い方法を見つける必要がある。医師には、患者を教育し、診断内容を理解して最善の治療法を決定するために必要な情報を患者に提供するとともに、実際にリスクが低い人に対する積極的監視を提唱し続ける責任がある」と話している。

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カリフォルニア州では気候変動で救急外来受診数が増加

 気候変動による日々の気温上昇を受けて米カリフォルニア州の救急外来(ED)では、かつてないほどの混雑が予想されることが、新たな研究で示唆された。この研究では、同州では気候変動により主に寒冷関連の死者数が減少するという明るい側面も確認されたものの、暑熱関連の気候変動は怪我や慢性的な健康問題の悪化を招くため、EDを受診する患者が増え、医療システムへの負担が増加することが予想されたという。米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)公衆衛生学分野のCarlos Gould氏らによるこの研究結果は、「Science Advances」に7月30日掲載された。 Gould氏は、「暑さは死に至るほどではないにしても健康に害を及ぼす可能性がある。気温の上昇は、一貫してED受診の増加と関連しているため、死亡率のみを考慮した研究や政策では大きな負担を見落とすことになる」と話している。 Gould氏らは米スタンフォード大学の研究者らと協力し、2006年から2017年までのカリフォルニア州の死亡数、ED受診数、入院数、毎日の気温に関するデータを調べ、気候変動による健康への影響を2050年まで予測した。その結果、カリフォルニア州では、気候変動により、2050年までに主に寒冷関連の死者数が合計5万3,500人減る(0.43%の減少)と推定された。この減少は、年間推定300億ドル(1ドル147円換算で4兆4,100億円)の節約につながる可能性があるという。その一方で、同州では気候変動によるED受診が合計で150万件増加(0.46%の増加)し、医療費が年間5200万ドル(約76億4400万円)増加すると推定された。 ED受診の原因のうち、暑熱と関連する症状として最も多いのは熱中症だが、怪我、精神疾患、中毒など、暑さに関連した他の出来事や症状による受診も少なくない。論文の共著者であるUCSD公衆衛生学分野のAlexandra Heaney氏は、「われわれは、熱波による健康への影響として死亡についてのみ注目しがちだが、この研究は、中毒、内分泌疾患、怪我、消化器系の問題など、暑熱の影響を受けやすいと一般には考えられていない多くのことが、実際には影響を受けていることを示している」と指摘する。その上で同氏は、「現在、そして将来における熱波について考える際には、あらゆる健康被害に焦点を当てる必要がある」と付け加えている。 研究グループは、気候変動の影響は特定の人口層に特に大きな影響をもたらすと話す。Gould氏は、「年齢は気温による健康リスクを左右する上で重要な役割を果たす。高齢者は特に寒さに弱く、逆に、若者や子どもは暑さの影響を受けやすい」と指摘する。 論文の上席著者でスタンフォード大学環境社会科学分野教授のMarshall Burke氏は、「気候変動によりカリフォルニア州で予想される医療負担を軽減するには、さまざまな関係者の協力が必要だ」と話す。同氏は、「誰が、どのように、そしてどのような気温で影響を受けるのかを把握することは、健康を守るための適切な対応を計画する上で非常に重要だ。これは気候変動の有無に関わらず当てはまることだが、地球温暖化によりその重要性はいっそう高まり、誰が何にさらされるかも変わってくる」と述べ、病院、保険会社、公衆衛生機関が協力して、今後数年間の気温上昇に備え、最もリスクの高い集団に向けたメッセージを準備する必要があると話している。

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男性部下の育休に対する上司の怒り、背景に職場の不公平感とストレス

 男性が育児休業(育休)を取りにくい職場の空気はどこから生まれるのか。今回、男性の育休に対する上司の怒りは、業務負担や部下に対する責任感といった職場ストレスが原因となり、不公平感を介して生じている可能性があるとする研究結果が報告された。研究は筑波大学人間系の尾野裕美氏によるもので、詳細は「BMC Psychology」に7月1日掲載された。 日本では男性の育児休業制度は国際的にみても手厚く整備されており、法的には長期間の取得が可能で、一定の所得補償も用意されている。しかし現実には、男性の育休取得率やその取得期間は依然として低く、制度が十分に活用されているとは言いがたい。従来の研究では、育休取得によるワークライフバランスの向上や仕事満足度の向上といった肯定的側面に主に焦点が当てられてきた。一方で、制度活用が職場内で生じさせる不公平感や、上司が感じる感情的な負担といった側面には、これまで十分な検討がなされてこなかった。そこで本研究では、男性部下の長期育休取得に対する上司の否定的感情が、職場におけるストレッサー(不明確な役割や能力を超えた業務など)を通じてどのように形成されるのかを明らかにすることを目的とした。不公平感が怒りの媒介要因となるという仮説モデルに基づき、その相互関係を検証するためのオンライン調査を実施した。 2024年3月にインターネット調査会社を通じて、30~60歳の民間企業の管理職400名(男女各200名)からデータを収集した。質問項目は、男性育休への怒り、男性の育休に関する不公平感喚起状況(育児関与の希薄さ、手厚い恩恵の享受、自身の仕事量の増加)、職場のストレッサー(質的負荷、量的負荷、部下に対する責任)、属性情報(性別、年齢、職業など)で構成された。 性別と子の有無を要因とする二元配置分散分析を行った結果、「育児関与の希薄さ」「手厚い恩恵の享受」において性別の主効果が有意で、女性の得点が高かった。一方、怒りと不公平感喚起状況との交互作用は認められなかった。職場ストレッサーでは「部下への責任感」にのみ有意な交互作用が認められた。単純主効果検定により、子どものいない男女間では男性が有意に高く、また女性では子ありの方が有意に高かった。一方、「質的負荷」「量的負荷」には交互作用・主効果ともに認められなかった。怒りは、男性育休に関する「育児関与の希薄さ」「手厚い恩恵の享受」「自身の業務負担の増加」の3つの不公平感要因および職場ストレッサーと正の相関を示し、不公平感要因は職場の様々なストレッサーとも関連した。 次に共分散構造分析により、職場のストレスが不公平感を介して上司の怒りに至る理論モデルを検証した。質的・量的負担や部下への責任感が、「育児関与の希薄さ」「手厚い恩恵の享受」「自身の仕事量の増加」といった男性育休に関する不公平感を高め、これらのうち「育児関与の希薄さ」「自身の仕事量の増加」が怒りと有意に関連した。また、量的負担は怒りに直接影響し、責任感は怒りを抑制する効果を示した。モデルの適合度指標はいずれも良好で、仮説モデルの妥当性が確認された。 本研究について著者は、「職場のストレスにより、男性社員の育休取得に対して上司が不公平だと感じ、それが怒りにつながることがある。ワークライフバランス施策には、意図しない負の影響が生じる場合もあり、本研究は、男性の育休に対する職場の反応がどのように職場環境に左右されるかを示すことで、職場の公平性に関する理解を深める手がかりとなる」と述べている。

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小児心停止における人工呼吸の重要性、パンデミックで浮き彫りに

 「子どもを助けたい」。その一心で行うはずの心肺蘇生だが、コロナ流行期では人工呼吸を避ける傾向が広がった。日本の最新研究が、この“ひと呼吸”の差が小児の救命に大きな影響を与えていたことを明らかにした。コロナ流行期では、胸骨圧迫のみの心肺蘇生が増加し、その結果、死亡リスクが高まり、年間で約10人の救えるはずだった命が失われていた可能性が示唆されたという。研究は岡山大学学術研究院医歯薬学域地域救急・災害医療学講座の小原隆史氏、同学域救命救急・災害医学の内藤宏道氏らによるもので、詳細は「Resuscitation」に7月4日掲載された。 子どもの院外心停止はまれではあるが、社会的に大きな影響を及ぼす。小児では窒息や溺水などの呼吸障害が心停止の主な原因であることから、人工呼吸を含む心肺蘇生(Cardiopulmonary resuscitation:CPR)の実施が強く推奨されてきた。一方、成人では心疾患が主な原因であることに加え、感染対策や心理的・技術的ハードルの高さから、蘇生の実施率を高める目的で「胸骨圧迫のみ」のCPR(Compression-only CPR:CO-CPR)が広く普及している。また、成人においては、新型コロナウイルス感染症の流行下では、たとえ講習やトレーニングを受けた市民であっても、感染リスクを理由に人工呼吸の実施を控えるよう促される状況が続いていた。しかしながら、こうした行動変化が小児の救命にどのような影響を及ぼしたかについては、これまで十分に検証されてこなかった。このような背景をふまえ著者らは、全国データを用いて、コロナ流行前後における小児の院外心停止に対する蘇生法の変化と、それが死亡や後遺症に与えた影響を検証した。 解析のデータベースには、総務省消防庁が管理し、日本全国で発生した院外心停止の事例を記録・収集する「All-Japan Utstein Registry(全国ウツタイン様式院外心停止登録)」が用いられた。解析には、2017~2021年にかけて発生した17歳以下の小児の院外心停止7,162人が含まれた。主要評価項目は30日以内の死亡率とした。 2017~2021年の間に、目撃者によってCPRが実施されたのは3,352人(46.8%)だった。そのうち人工呼吸を含むCPRが実施された割合は、コロナ流行前(2017~2019年)には33.0%だったが、コロナ流行期(2020~2021年)には21.1%と、11.9%の減少が認められた。 次に、CO-CPRと臨床転帰(30日以内の死亡など)との関連を評価するため、交絡因子を調整したうえで、ロバスト分散付きPoisson回帰モデルによる多変量解析を実施した。解析の結果、CO-CPRは30日以内の死亡(調整後リスク比〔aRR〕1.16、95%信頼区間〔CI〕1.08~1.24)や不良な神経学的転帰(aRR1.10、95%CI 1.05~1.16)と有意に関連していた。この傾向は、呼吸原性心停止(呼吸の停止が原因で心臓が停止する状態)で顕著だった(aRR1.26、95%CI 1.14~1.39)。 また、コロナ流行期にCO-CPRが増加したことによる影響を、過去のリスク比をもとに概算したところ、人工呼吸の実施率の低下によって、2020年~2021年の2年間で計21.3人(年間換算で10.7人)の小児が救命されなかった可能性があると推定された。 本発表後に行われた追加解析では、この人工呼吸の実施率の低下は緊急事態宣言解除後の2022年(16.1%)から2023年(15.0%)にかけても維持されていた。これは、コロナ流行期に人工呼吸を伴うCPRからCO-CPRへの移行が加速し、流行後もその傾向が続いていることを示唆している。 本研究について著者らは、「本研究は、小児の心停止患者に対して、人工呼吸が極めて重要であることをあらためて裏付けるものであり、今後の小児向け蘇生教育のあり方、感染対策を講じた安全な人工呼吸法の手技の確立、人工呼吸補助具(例:ポケットマスクなど)の開発や普及啓発など、社会全体で取り組むべき課題が多々あることを示している」と述べている。 さらに、人工呼吸の実施については、「国際蘇生連絡委員会(ILCOR)や欧州蘇生協議会(ERC)などでは、小児に対する最適なCPRとして胸骨圧迫と人工呼吸の両方を行うことが強調されている。しかしパンデミック以降、人工呼吸に対する心理的・技術的なハードルが一層高まり、ガイドラインを周知するだけでは実施が進みにくい状況にある。そのため、安心して子どもを救える社会を実現するには、CPRトレーニングプログラムを活用するなど、平時からの準備と理解の促進に取り組むことが重要である」と付け加えた。

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第257回 新型コロナ感染9週連続増加 変異株「ニンバス」拡大、百日咳も同時流行/厚労省

<先週の動き> 1.新型コロナ感染9週連続増加 変異株「ニンバス」拡大、百日咳も同時流行/厚労省 2.消化器外科医、2040年に約5,000人不足 がん手術継続に黄信号/厚労省 3.医療ネグレクト対応、緊急時の同意なし医療に法的責任問わず/こども家庭庁 4.往診5年で4割増 高齢者中心に需要拡大も過剰提供を懸念/厚労省 5.末期がん患者に未承認治療3千件超 都内クリニックに措置命令/厚労省 6.がん治療後の肝炎再活性化で患者死亡、情報共有不足が背景に/神戸市 1.新型コロナ感染9週連続増加 変異株「ニンバス」拡大、百日咳も同時流行/厚労省新型コロナウイルスの感染者が全国的に増加している。厚生労働省によると、8月11~17日に約3,000の定点医療機関から報告された感染者数は2万2,288人で、1医療機関当たり6.3人となり、9週連続で前週を上回り、入院患者も1,904人と増加した。例年、夏と冬に流行のピークがあり、今年もお盆や夏休みの人の移動を背景に感染拡大が続いている。流行の中心はオミクロン株の派生型「NB.1.8.1」で、俗称「ニンバス」と呼ばれる株。国立健康危機管理研究機構によれば20日時点で国内検出の28%を占め、同系統を含めると全体の8割以上になる。感染力は従来株よりやや強いが、重症化リスクは大きく変わらないとされている。症状は、発熱や咳に加え「カミソリを飲み込んだような強い喉の痛み」が特徴で、筋肉痛や関節痛を伴う例も報告されている。ワクチンは重症化予防に有効と考えられており、WHOも監視下の変異株に指定している。都道府県別では、宮崎が最多の14.7人、鹿児島12.6人、埼玉11.5人と続き、東京や大阪など大都市圏では比較的低水準に止まっている。厚労省は「手洗いや咳エチケット、エアコン使用時の換気など基本的な感染対策を徹底してほしい」と呼びかけている。新学期開始で人の動きが再び活発化する9月中旬ごろまで増加が続く可能性が指摘される。一方、百日咳も同時流行しており、8月10日までの週に3,211人が報告され、年初からの累計は6万4千人超となった。子供を中心に長引く咳を呈し、乳児では重症化するリスクが高い。国内外で増加傾向にあり、厚労省は原因を分析中。コロナと百日咳が並行して拡大する中、専門家は体調不良時には早めに医療機関を受診し、感染拡大防止に努めるよう求めている。 参考 1) 変異ウイルス「NB.1.8.1」“感染力やや強い”(NHK) 2) 新型コロナ感染者、全国平均で9週続けて増加 例年夏に流行 厚労省(朝日新聞) 3) “カミソリをのみ込んだような強烈な喉の痛み” 新型コロナ「ニンバス」感染拡大 百日せきも流行続く(読売テレビ) 2.消化器外科医、2040年に約5,000人不足 がん手術継続に黄信号/厚労省厚生労働省の「がん診療提供体制のあり方に関する検討会」は、2040年にがん手術を担う消化器外科医が約5,000人不足するとの推計をまとめた。需要側では初回手術を受ける患者数が2025年の約46万5千人から40年には約44万人へ微減する一方、供給側の減少が急速に進む。外科医の約7割を占める消化器外科では、日本消化器外科学会の所属医師(65歳以下)が25年の約1万5,200人から40年に約9,200人へ39%減少し、需給ギャップは5,200人規模に拡大すると見込まれている。背景には若手医師の敬遠がある。消化器外科は10時間を超える食道がん手術や夜間・休日の救急対応など負担が大きい一方、給与水準は他科と大差がない。修練期間も長く、労働と報酬のバランスが「割に合わない」とされ、2002年から20年間で医師数は2割減少した。他方、麻酔科や内科は増加しており、診療科間での偏在が深刻化している。こうした現状に、学会や大学病院は人材確保策を模索する。北里大学は複数医師で患者を担当し、緊急時の呼び出しを減らし、富山大学は長時間手術の交代制を導入、広島大学は若手の年俸を1.3倍に引き上げた。学会は拠点病院への人材集約により休暇確保や経験蓄積を両立させたい考えを示している。報告書はまた、放射線治療では、装置の維持が難しくなる可能性や、薬物療法では地域格差が生じやすい点にも言及。今後は都道府県単位で医療機関の集約化やアクセス確保を検討し、効率的な医療提供体制を整える必要があるとしている。高齢化が進み85歳以上のがん患者は、25年比で45%増えると見込まれる中、医師不足は治療継続に直接影響し得る。厚労省は、就労環境や待遇改善に報酬面での配慮を進め、がん医療の持続可能性確保に向けた施策を急いでいる。 参考 1) 2040年を見据えたがん医療提供体制の均てん化・集約化に関するとりまとめ(厚労省) 2) がん手術担う消化器外科医、2040年に5000人不足 厚労省まとめ(毎日新聞) 3) 消化器外科医の不足深刻…厳しい勤務で若手敬遠、「胃や腸のがん患者の命に関わる」学会に危機感(読売新聞) 4) 消化器外科医「5,000人不足」 がん診療「病院集約を」厚労省検討会、40年推計(日経新聞) 3.医療ネグレクト対応、緊急時の同意なし医療に法的責任問わず/こども家庭庁こども家庭庁は8月、保護者の思想や信条を理由に子供に必要な医療を拒否される「医療ネグレクト」について、緊急時に医療機関が保護者の同意なく治療を実施した場合でも、刑法や民法上の責任は基本的に問われないと定め、7日付の事務連絡で明示するとともに、法務省とも協議済みとしている。救命手術などで同意が得られなくても「社会的に正当と認められる医療行為」であれば刑事責任は生じず、急迫の危害を避ける行為であれば悪意や重大な過失がない限り、民事責任も免れると解説している。背景には医療現場からの実態報告がある。こども家庭庁が救命救急センターを有する88医療機関を対象に行った調査では、2022年4月~24年9月までに24機関から計40件の医療ネグレクト事例が報告された(回答施設の3割弱に相当)。多くの事例では保護者への説明を尽くし同意を得る努力が行われたが、同意取得が不可能または時間的猶予がない場合、医療機関の判断で治療が行われていた。調査では対応の工夫として「児童相談所と事例を共有」が75%、「日頃から顔の見える関係作り」が59%と挙げられた。一方で、児相との「切迫度認識の差」や「帰宅可否を巡る判断の齟齬」など課題も指摘された。児相のノウハウ不足を補うため、具体的事例や対応方法を管内で共有することの重要性も強調されている。こども家庭庁は、平時からの地域ネットワーク構築や事例共有を通じ、迅速かつ適切な対応体制の整備を自治体に要請。現場の医師にとっても、緊急時に同意がなくとも治療に踏み切れる法的整理は大きな後押しとなるが、児相との連携強化や判断基準の共有が今後の課題となる。 参考 1) 令和6年度子ども・子育て支援等推進調査研究事業の報告書の内容及びそれを踏まえた取組(こども家庭庁) 2) 緊急時の保護者同意ない医療「法的責任負わず」こども家庭庁(MEDIFAX) 3) 救命救急センターの3割弱で医療ネグレクトの報告 思想などに起因する事例、22年4月-24年9月に40件(CB news) 4) 令和6年度 保護者の思想信条等に起因する医療ネグレクトに関する調査研究報告書(三菱UFJ) 4.往診5年で4割増 高齢者中心に需要拡大も過剰提供を懸念/厚労省厚生労働省の統計によると、医師が自宅を訪ねる往診が過去5年で1.4倍に増加した。2024年は月27万5,001回と前年比11.2%増で、とくに75歳以上の高齢者が利用の8割を占め、前年比19.6%増の23万件超となった。在宅高齢者の急変時対応や有料老人ホームなどでの需要が増え、夜間・休日対応を外部委託する医療機関の広がりが背景とみられる。一方、コロナ禍では15歳未満の往診が急増。外来受診制限や往診報酬の特例引き上げにより、2023年には月1万7,000件を超えた。深夜の乳幼児往診では1回5万円弱の報酬が得られるケースもあり、自治体の小児医療無償化と相まって都市部で利用が拡大した。しかし、2024年度の報酬改定で特例は縮小され、15歳未満の往診は63.8%減少した。往診の拡大は救急搬送の抑制につながる利点がある一方、診療報酬目的で必要性の低い往診を増やす事業者がいるとの指摘もある。厚労省もこの問題を把握しており、必要に応じて中央社会保険医療協議会(中医協)で、在宅医療報酬の見直しを議論する考えを示している。訪問診療は計画的に実施される在宅医療の柱で、2024年は月208万回、患者数110万人。これに対し往診を受けた患者は約20万人に止まる。往診の増加が高齢社会に不可欠な在宅医療の充実につながるのか、それとも過剰提供の温床となるのか、制度の在り方が問われている。 参考 1) 令和6年社会医療診療行為別統計の概況(厚労省) 2) 医師の往診5年で4割増 高齢者の利用拡大、過剰提供の懸念も(日経新聞) 5.末期がん患者に未承認治療3千件超 都内クリニックに措置命令/厚労省厚生労働省と環境省は8月22日、東京都渋谷区の「北青山D.CLINIC」(阿保 義久院長)に対し、カルタヘナ法に基づく措置命令を出した。自由診療に対する同法の命令は初めて。同院は2009年以降、末期がん患者らに「CDC6shRNA治療」と称する遺伝子治療を提供してきたが、必要な承認を得ていなかった。治療には遺伝子を組み込んだレンチウイルスが用いられ、製剤は院長が中国から個人輸入していた。これまでに3千件以上行われたが、有効性や安全性は科学的に確認されていない。患者への同意文書では「がん細胞に特異的に発生するCDC6というたんぱくを消去する遺伝子を投与する」と説明されていた。両省は製剤の不活化・廃棄と再発防止策の報告を命じた。現時点で健康被害や外部漏洩は確認されていないという。クリニックは6月以降治療を中止しており、今後は法に基づき申請するとしている。厚労省によると、自由診療での遺伝子治療は、科学的根拠が不十分なまま患者が全額自費で受けるケースが国内で広がっている。昨年の法改正で「再生医療等安全性確保法」の対象にも加わったが、今回の事例は十数年にわたり違法状態が続いていたことを示している。厚労省は今後、医療機関に法令順守の徹底を求めている。 参考 1) 「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」に基づく措置命令について(厚労省) 2) 未承認「がん遺伝子治療」に措置命令 カルタヘナ法、自由診療で初(毎日新聞) 3) がん自由診療に措置命令 都内クリニック手続き怠り(東京新聞) 4) がんに対する自由診療の遺伝子治療めぐり、厚労省などが措置命令(朝日新聞) 6.がん治療後の肝炎再活性化で患者死亡、情報共有不足が背景に/神戸市8月21日、神戸市立西神戸医療センターは、70代男性患者が医療事故で死亡したと発表した。男性は2023年10月に悪性リンパ腫と診断され、B型肝炎ウイルスを保有していることを自ら申告していた。化学療法にはB型肝炎ウイルスを再活性化させる作用を持つ薬が含まれるため、予防目的で核酸アナログ製剤が併用処方されていた。しかし、2024年に悪性リンパ腫が完全寛解した後、担当医が患者のB型肝炎感染を失念し、薬の処方を中止。継続されていたウイルス量の検査でも増加傾向を見落とし、2025年1月に男性は急性肝炎を発症し、入院から18日後に死亡した。男性の担当医は免疫血液内科の医師で、B型肝炎治療を専門とする消化器内科ではなかった。事故後、病院は消化器内科以外の医師が核酸アナログ製剤を処方できない仕組みを導入するなど再発防止策を取っている。北垣 一院長は会見で「重大な結果を招いたことは大変残念で、深く反省している」と謝罪、遺族にも経緯を説明し、理解を得たとしている。B型肝炎の再活性化をめぐっては、化学療法や免疫抑制療法の患者における発症リスクが広く知られており、定期的な検査と予防的投薬の継続が学会ガイドラインでも推奨されている。今回の事故は、がん治療後も必要な薬の中止と検査結果の見落としが重なり、致死的転帰を招いた典型例となった。同様の事故は他施設でも発生しており、今年5月には名古屋大学医学部附属病院で、リウマチ治療を受けていた70代女性が検査不備によりB型肝炎再活性化で死亡していたことが公表されている。専門家は、複数診療科にまたがる患者管理における情報共有とチェック体制の徹底が再発防止に不可欠だと指摘している。 参考 1) B型肝炎ウイルス感染を失念、投薬を誤って中止し患者死亡…西神戸医療センターが遺族に謝罪(読売新聞) 2) 薬剤処方を誤って中止、患者死亡 神戸の市立病院が謝罪(共同通信) 3) 「担当医が患者の申告を失念」 70代男性が急性肝炎で死亡 神戸(朝日新聞)

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事例30 特異的IgE定量・半定量の査定【斬らレセプト シーズン4】

解説事例では、アレルギー性接触性皮膚炎に対する「D015 13 特異的IgE定量・半定量検査」がA事由(医学的に適応と認められないもの)にて査定となりました。この検査は、1回の採血において特異抗原の種類ごとに13種類まで所定点数を算定できます。さらに多くの種類の特異抗原が保険診療対象に認められており、病名との不適切な組み合わせがA事由による査定対象となることを経験しています。事例の査定原因を調べる途中で、支払基金の公開情報を思い出しました。支払基金・国保統一事例454にて、「同検査は、(1)アレルギー性接触皮膚炎(疑い含む)、アレルギー疑いには認められない」と通知されています。通知の理由には「(1)病は、アレルゲンの皮膚接触により発生する(IV[遅延]型アレルギー)であり、IgEの関与はなく、診断的には皮内反応検査(パッチテスト)が実施される。単にIgEの関与を確認することなく特異的IgE検査をすることは不適切」とありました。検査会社の臨床意義などには、「IgEが大きく関与するI型アレルギーに分類される疾患の治療に用いる」とあります。事例では、非特異的IgEの検査もなく、特異的IgE定量・半定量検査が診療報酬上限の13種類も実施されています。また、医学的に適応とならないと通知されている病名に対して算定されていることも査定の原因であると推測ができます。レセプトチェックシステムでは、同検査に対する病名の記載がないことが指摘されていました。レセプト担当者に指摘への対応を聞いたところ、「病名末尾の(体幹・四肢)を見て、広範囲のアレルギー反応だから追加病名は必要がない」と判断されたとのことでした。事例の場合は、当該病名が適用外と明確に公表されていることから、検査に対する適切な病名が必要であることを医事担当に研修を行い査定対策としています。

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英語で「人差し指」ってどう言う?【患者と医療者で!使い分け★英単語】第30回

医学用語紹介:手の指 digits手の指のことを医学用語では親指から順番に“1st digit”(第1指)~“5th digit”(第5指)といいますが、患者さんにこれらの呼び名が通じなかった場合、何と言い換えればいいでしょうか?講師紹介

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BPSDには抑肝散???【漢方カンファレンス2】第4回

BPSDには抑肝散???以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう) 【今回の症例】 90代男性 主訴 奇声、介護への抵抗 既往 高血圧、アルツハイマー型認知症 病歴 5年前に認知症が悪化して施設入所。数ヵ月前から昼夜を問わず「あ゛ーっ」といった奇声や噛みつくなどの行動が目立ち始めた。介護への抵抗やほかの入居者からのクレームもあり、連日、抗精神病薬の頓服で対応していた。漢方薬で何とかならないかと受診。 薬剤歴 ドネペジル錠5mg 1回1錠、クエチアピン錠25mg 1錠頓用(1日4〜5回使用) 現症 身長165cm、体重52kg。体温36.7℃、血圧150/60mmHg、脈拍83回/分 整 経過 初診時 「???」エキス3包 分3で治療を開始。(解答は本ページ下部をチェック!) 2週後 夜間に奇声を発することが少なくなった。 1ヵ月後 介護への抵抗がなくなった。 2ヵ月後 精神的に落ち着き、笑顔もみられるようになった。 3ヵ月後 抗精神病薬の頓服が0〜1回/日で落ち着いている。 問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む【問診】<陰陽の問診> 寒がりですか? 暑がりですか? 体の冷えを自覚しますか? 顔はのぼせませんか? 横になりたいほどの倦怠感はありませんか? 暑がりです。 冷えは自覚しません。 顔がのぼせます。 体はきつくありません。 入浴で長くお湯に浸かるのは好きですか? 冷房は苦手ですか? 入浴は長くできません。 冷房は好きです。 のどは渇きますか? 飲み物は温かい物と冷たい物のどちらを好みますか? のどが渇きます。 冷たい飲み物が好きです。 <飲水・食事> 1日どれくらい飲み物を摂っていますか? 食欲はありますか? 1日1.5L程度です。 食欲はあります。 <汗・排尿・排便> 汗はよくかくほうですか? 尿は1日何回出ますか? 夜、布団に入ってからは尿に何回行きますか? 便秘や下痢はありませんか? 汗かきで顔に汗が多いです。 尿は5〜6回/日です。 夜は1〜2回トイレに行きます。 便は毎日出ます。 <ほかの随伴症状> よく眠れますか? 悪夢はありませんか? 毎晩、眠れません。 悪夢はありません。 昼食後に眠くなりませんか? 動悸はありませんか? 足をつったり抜け毛が多かったりしませんか? 昼食後の眠気はありません。 動悸はありません。 足のつりや抜け毛はありません。 ほかに困っている症状はありますか? いつもイライラしています。 自然と怒りがこみあげて大きな声が出ます。 【診察】顔色は紅潮して怒った表情。脈診では浮沈間・やや強の脈。また、舌は暗赤色、乾燥した白黄苔が中等量。腹診では腹力は中等度、心下痞鞕(しんかひこう)、小腹不仁(しょうふくふじん)を認めた。四肢の触診では冷感はなし。※(いつも赤ら顔で怒った表情で大声を出している。布団はかぶっていないことが多い、食欲はあり、オムツ交換時、便臭が強い、夜間も眠らず大声を出していることが多い)カンファレンス 今回はアルツハイマー型認知症で施設入所している高齢者の症例ですね。自分は訪問診療にも行っているので、このようなケースによく遭遇します。認知症の周辺症状といえば、抑肝散(よくかんさん)ですね! 病名から漢方薬に飛びついてはいけませんよ。まずBPSD(behavioral and psychological symptom of dementia)による症状は、易怒性、興奮、妄想などの「陽性症状」と抑うつ、無気力などの「陰性症状」に分けられます。抑肝散は陽性症状に用いるのが原則です1)。 認知症の症例では、コミュニケーション困難で自覚症状の問診ができないことが多いです。今回の提示した問診はできたと仮定して記載しています。実際は自覚症状の問診はできず、「診察」の項の※のような情報を参考にすることも多いです。また普段の様子をよく知る看護師や介護スタッフからの情報収集が役立つことも多いですね。 高齢者では病歴がとれずに困りますからね。 問診以外でも、脈は動脈硬化で硬くなって不明瞭、舌は開口指示に従えない、お腹はオムツで診察するのに手間がかかる、などとなかなか所見が取りづらいことも多いですね。そのぶん、望診を重視して、診察時の見た目の印象が処方決定に役立つことも多いです2)。 そのため高齢者の漢方診療では、五感をフルに使う必要があるね。患者の表情、触診で冷えを確認、オムツの中の便や尿の臭いなどで虚実を判定するよ。便や尿の臭いが強い場合は実証、臭いが少ない場合は虚証を示唆する所見だね。だけど日常的にオムツ交換をやっている看護師や介護スタッフに質問すると、臭いに耐性ができているためか実際は臭いが強くても、便臭は強くないですっていうこともあるから注意だよ。可能であれば自分で確認したほうがよいけどね。 なるほど〜。高齢者の漢方治療のコツですね。 では、いつものように漢方診療のポイント(1)陰陽の判断からしてみましょう。 本症例は、暑がり、長く入浴できない、冷水を好むなどから陽証です。 そうだね。たとえ問診ができなくても、赤ら顔、布団をかぶっていないことが多い、四肢に冷えなし、便臭が強いなどの情報からも陽証だね。そのほかには乾燥した白黄苔、口渇なども熱を示唆する所見だね。 陰証の高齢患者さんは、布団にくるまっている、厚着、活気が乏しい、いつも寒がっているといった特徴がありますね。 高齢者だから、寝たきりだからといって、陰証・虚証と決めつけてはいけないよ。長生きできている高齢者だからこそ、生命力が強く体力があると考えることもできるのだ。 なんとなくイメージがわきますね。 六病位はどうですか? 陽明病ほど熱が強くないので少陽病です。ほかに腹満や便秘があることも陽明病の特徴でしたが、それらもないですね。 よくわかっているね。少陽病は慢性疾患において「川の流れがよどむ淵のように停滞する時期」といわれるんだ。陽証において、太陽病は悪寒・発熱、陽明病では身体にこもった強い熱と腹満・便秘といった特徴的な症状があるため、「慢性疾患で明らかな冷えがなければ少陽病」とも表現され、慢性疾患に対して漢方治療を行うことの多い現代では重要だよ(少陽病については本ページ下部の「今回のポイント」の項参照)。 なるほど。冷えがなくて、陰証が否定されれば、少陽病と考えることが多いのですね。納得です。 それでは、漢方診療のポイント(2)の虚実の判断に移ろう。 脈はやや強、腹力も中等度とあるので虚実間〜実証です。 漢方診療のポイント(3)気血水の異常はどうでしょうか? 食欲不振や全身倦怠感などの気虚はありません。 赤ら顔や顔に汗は気逆と捉えることができますか? 気逆でよいね。そのほかにも気逆には、動悸、驚きやすい、焦燥感、悪夢などがあるけどそれらはないようだ。血水に関しては、舌の暗赤色と舌下静脈の怒張は瘀血で、水の異常はあまり目立たないね。 あとはイライラ、不眠といった精神症状が目立ちます。 怒りっぽいことも含めて、精神症状として漢方診療のポイント(4)のキーワードで考えよう。本症例をまとめるよ。 【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?暑がり、長湯はできない、顔面紅潮、冷水を好む→陽証(少陽病)(問診ができない場合)顔面紅潮、布団をかけていない、便臭強い、四肢に冷えなし→陽証(少陽病)(2)虚実はどうか脈:やや強、腹:中等度→虚実間〜実証(3)気血水の異常を考える赤ら顔、顔に汗が多い→気逆舌暗赤色→瘀血(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込むイライラ、不眠、怒りっぽい、心下痞鞕(+)、胸脇苦満(−)解答・解説【解答】本症例は、陽証・実証・気逆に対して用いる黄連解毒湯(おうれんげどくとう)で治療をしました。【解説】黄連解毒湯は少陽病・実証に用いる漢方薬で、のぼせの傾向があって顔面紅潮し、精神不安、不眠、イライラなどの精神症状を訴える場合に用います。黄連(おうれん)、黄芩(おうごん)、黄柏(おうばく)、山梔子(さんしし)とすべて清熱作用をもつ生薬で構成されます。腹診では、心下痞鞕や下腹部に横断性の圧痛があるのが典型です。精神症状以外にも、のぼせを伴う鼻出血、急性胃炎、皮膚疾患などに活用されます。またお酒を飲むとすぐに顔が赤くなる人が黄連解毒湯を飲むと二日酔い予防になるといわれます。統合失調症患者の睡眠障害に対する報告3)や湿疹、皮膚炎に対する症例4)などが報告され、熱を伴うさまざまな疾患に用いられています。今回のポイント「少陽病」の解説太陽病では表(ひょう:体表面)に闘病反応がありました。少陽病は生体の内部に影響がおよび、表と裏(り:消化管)の間である半表半裏(はんぴょうはんり)が病位になります。実際は、半表半裏はのど〜上腹部あたりを指していると考えられます。そのため口が苦い、のどが乾く、ムカムカする嘔気、食欲不振などの症状が出現します。太陽病では着目しなかった舌や腹部の所見も重要になります。具体的には舌では舌苔が厚くなり(写真左)、腹診では両側季肋部に指を差し込むと抵抗感や患者の苦痛が出てきて、胸脇苦満(きょうきょうくまん)とよびます(写真右)。少陽病ではその場で闘病反応を鎮める治療を行い、「清解(せいかい)」といいます。少陽病の適応として発症から数日が経過したこじれた風邪が典型です。また、少陽病は慢性疾患において「川の流れがよどむ淵のように停滞する時期」といわれます。陽証において、太陽病は悪寒・発熱、陽明病では身体にこもった強い熱と腹満・便秘といった特徴的な症状がありますから、「慢性疾患で明らかな冷えがなければ少陽病」とも表現され、慢性疾患に対して漢方治療を行うことの多い現代では重要です。柴胡と黄芩が含まれる柴胡剤が少陽病期によく用いられ小柴胡湯(しょうさいことう)がその代表です。柴胡剤はこじれた風邪以外にも、ストレスと関連するイライラや不眠などの症状に用います。少陽病では柴胡剤以外にもさまざまな種類の漢方薬が準備されています。なお、黄連解毒湯は「赤い怒り」といわれ、赤ら顔、顔面紅潮が使用目標です。一方、抑肝散は「青い怒り」で、顔色があまりよくないのが典型です。したがって、のぼせや熱が目立つ症例では抑肝散よりも黄連解毒湯を考えてください。また、黄連解毒湯は止血作用があるので、鼻出血で顔ののぼせがあるような場合には黄連解毒湯を内服しながら、鼻を圧迫するとよいでしょう。上下部消化管内視鏡で止血困難な消化管出血の症例に黄連解毒湯を活用したという報告もあるのです5)。今回の鑑別処方BPSDの陽性症状に対して、黄連解毒湯と同じように、顔面紅潮、興奮などの精神症状があり、便秘を伴う場合には三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう)が適応になります。同じ気逆の症状でも、動悸や悪夢を伴う不眠があり、イライラしているような場合は柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれうとう)を用います。この場合は腹診で胸脇苦満や腹部大動脈の拍動が触知されるのが特徴です。黄連解毒湯や三黄瀉心湯の場合は、胸脇苦満はなく心下痞鞕が目標になり、腹診所見で鑑別する場合もあります。柴胡加竜骨牡蛎湯はメーカーによって瀉下作用のある大黄(だいおう)の有無に違いがあるので便秘によって使い分ける必要があり、大黄を含むほうがより実証の漢方薬です。このように興奮や不穏に対する症状には瀉下作用のある大黄が含まれることが多いです。これは大黄には瀉下作用だけでなく鎮静作用があり、単に便秘の改善を目標にしているのではないことを意識する必要があります。古典では統合失調症のような状態に大黄を一味(将軍湯とよぶ)で煎じて鎮静させたというような記載もあります。また抑肝散よりも怒りが目立たず、活気の低下や食欲不振がある場合は釣藤散(ちょうとうさん)を考えます。釣藤散は脳血管性認知症に対する二重盲検ランダム化比較試験(DB-RCT)6)があり、夜間せん妄や不眠などに加え、会話の自発や表情の乏しさといった意欲の低下の改善を認めています。このRCTを参考に当科では「療養型病床群において釣藤散投与を契機に経管栄養状態から経口摂取が可能となった高齢者の3例」を報告しました2)。当科では、釣藤散はBPSDの抑うつ、無気力などの陰性症状や低活動性せん妄に対して用いることが多いです。 1) 桒谷圭二. 誰もが使ったことのある漢方薬 〜でもDo処方だけじゃもったいない〜 3. 抑肝散。Gノート増刊. 2017;4:1066-1076. 2) 田原英一ほか. 日東医誌. 2002;53:63-69. 3) 山田和男ほか. 日東医誌. 1997;47:827-831. 4) 堀口裕治. 日東医誌. 1999;50:471-478. 5) 坂田雅浩ほか. 日東医誌. 2017;68:47-55. 6) Terasawa K, et al. Phytomedicine. 1997;4:15-22.

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