サイト内検索|page:452

検索結果 合計:35172件 表示位置:9021 - 9040

9021.

双極性障害患者の概日活動リズムと日常的な光曝露との関係~APPLEコホート横断分析

 概日活動リズムの乱れは、双極性障害の主な特徴の1つである。藤田医科大学の江崎 悠一氏らは、日常生活における光曝露が双極性障害患者の概日活動リズムの乱れと関連しているかを調査した。その結果、双極性障害の概日活動リズムに対し、日中の光曝露は良い影響をもたらし、夜間の光曝露は悪影響を及ぼすことが確認された。Journal of Affective Disorders誌2023年2月15日号の報告。 日常生活における光曝露と双極性障害の病状との関連を調査したコホート研究「APPLEコホートスタディ」に参加した双極性障害外来患者194例を対象に、横断研究を行った。対象患者の身体活動および日中の照度は、連続7日間にわたりアクチグラフを用いて測定した。夜間の寝室照度の測定には、ポータブル照度計を用いた。概日活動リズムのパラメータは、コサイナー法およびノンパラメトリックな概日リズム解析を用いて算出した。 主な結果は以下のとおり。・日中の照度中央値は224.5ルクス(四分位範囲:154.5~307.5)、夜間の照度中央値は2.3ルクス(同:0.3~9.4)であった。・潜在的交絡因子で調整した多変量線形回帰分析では、日中の照度が高いほど、以下との有意な関連が認められた。 ●amplitude(振幅)が大きく、最も活動的な連続10時間  ●acrophase(頂点位相)の進行 ●日内安定性が高い ●日内変動性が低い・夜間の照度が高いほど、以下との有意な関連が認められた。 ●相対的なamplitude(振幅)が小さい ●最も活動的でない連続5時間の発生の遅延 ●日内変動性が高い・本研究の限界として、横断研究であることから、本結果は光曝露が概日活動リズムを変化させることを必ずしも意味するものではないことが挙げられる。

9022.

マクロファージは裏切り者!?肺がんの増殖を促進か/大阪大

 大阪大学大学院医学系研究科の石井 優氏らの研究グループは、肺胞マクロファージが、細胞の増殖および分化の調節、神経細胞の生存など、さまざまな生物活性を有するサイトカイン「アクチビンA」を介して、肺がんの増殖を促進させる悪循環を形成していることを初めて明らかにした。肺胞マクロファージは、正常の肺では最も数の多い免疫細胞の1つで、肺機能の維持に重要な役割を果たしていると考えられている。一方、肺がん細胞と肺胞マクロファージとの詳細な関係については、これまでほとんど解明されていなかった。本研究結果はNature Communications誌2023年1月17日号に掲載された。 肺胞マクロファージは、肺がんの環境において何らかの影響を肺がん細胞に与えている可能性が考えられていた。しかし、肺のみに存在するため、肺がんの環境を詳細に研究できる実験系を構築することが難しいという課題があった。そこで、外科的な手法を使ってマウス生体内に肺がんを構築する「肺がんモデルマウス」を用いて研究を行った。また、肺胞マクロファージのRNA配列を読み取り、遺伝子発現を網羅的に定量する「RNAシークエンス」を行った。 主な結果は以下のとおり。・肺がん患者の組織を調べた結果、肺がん組織では肺胞マクロファージが正常組織と比べて有意に多かった(p=0.0096)。・肺胞マクロファージ上清を添加して肺がん細胞(Lewis lung carcinoma)を培養すると、未添加と比べて細胞数が有意に増加し(p<0.0001)、がん細胞の倍加時間が短縮した。・肺がんモデルマウスの生体内から肺胞マクロファージを枯渇させると、肺胞マクロファージが保たれた場合よりも、肺がんの増殖が緩やかであった。・RNAシークエンスの結果、肺胞マクロファージではインヒビンβAをコードする遺伝子Inhbaの発現が亢進し、インヒビンβAのホモダイマーであるアクチビンAの産生が増加した。アクチビンAを添加して肺がん細胞(Lewis lung carcinoma)を培養すると、未添加と比べて細胞数が有意に増加した(p<0.0001)。・肺がん患者の組織でも、肺胞マクロファージにおいてアクチビンAが多く発現していた。 本研究結果の意義について、「肺胞マクロファージの産生するアクチビンAの阻害が、肺がんの治療候補となることが期待される。また、本研究で解明されたメカニズムは、早期がんの段階から確認されており、肺胞マクロファージとアクチビンAに着目することで、肺がんを早期に診断することにも貢献できると考えられる。さらに、アクチビンAの阻害は、早期がんから進行がんへの進展を抑制することにも有用であると考えられ、肺がんを早期の段階で手術により根治する機会を増やすことにも貢献できると期待される」と、研究グループはまとめている。

9023.

オミクロン株対応2価ワクチン、4回目接種の有用性は?/NEJM

 1価・2価のオミクロン株(B.1.1.529)BA.1系統対応BNT162b2(ファイザー製)ワクチンは、BNT162b2ワクチン(30μg)と同様の安全性プロファイルを有し、祖先株とオミクロン株BA.1系統に対して顕著な中和反応を示した。また、程度は低いものの、オミクロン株亜系統のBA.4、BA.5、BA.2.75も中和した。米国・アイオワ大学のPatricia Winokur氏らが、BNT162b2ワクチン30μgを3回接種した55歳超1,846例を対象にした無作為化比較試験で明らかにし、NEJM誌2023年1月19日号で発表した。BA.1対応1価・2価ワクチンとBNT162b2を30μgまたは60μgで比較 研究グループは、進行中の第III相試験で、BNT162b2ワクチン30μgを3回接種した55歳超を無作為化し、BNT162b2(30μgまたは60μg)、B.1.1.529変異株(オミクロン株)BA.1系統対応BNT162b2(BA.1対応1価ワクチン、30μgまたは60μg)、BA.1対応2価ワクチンを30μg(BNT162b2 15μg+BA.1対応1価ワクチン15μg)または60μg(BNT162b2 30μg+BA.1対応1価ワクチン30μg)をブースター投与した。 本試験の主要目的は、BA.1対応ワクチンの、BNT162b2(30μg)に対する優越性(対BA.1の50%中和抗体価[NT50]について)と非劣性(血清反応について)の評価。副次目的は、祖先株に対する中和活性について、BA.1対応2価ワクチンのBNT162b2(30μg)に対する非劣性の評価だった。 探索的データ解析を行い、オミクロン株の亜系統BA.4、BA.5、BA.2.75に対する免疫応答も評価した。BA.1対応2価ワクチン、祖先株に対しBNT162b2(30μg)と比べ非劣性 1,846例が無作為化を受けた(年齢中央値67歳、男性49.5%、白人86.6%)。 ワクチン接種後1ヵ月時点で、BA.1対応2価ワクチン(30μg/60μg)とBA.1対応1価ワクチン(60μg)は、BA.1に対し、BNT162b2(30μg)より優れた中和活性を示した。NT50幾何平均比(GMR)は、それぞれ1.56(95%信頼区間[CI]:1.17~2.08)、1.97(1.45~2.68)、3.15(2.38~4.16)だった。 また、BA.1対応2価ワクチン(両用量とも)とBA.1対応1価ワクチン(60μg)は、対BA.1血清反応についても、BNT162b2(30μg)に対し非劣性を示した。群間差(%)は10.9~29.1ポイントに及んだ。 BA.1対応2価ワクチン(両用量とも)は、祖先株に対する中和活性について、BNT162b2(30μg)に対し非劣性だった。NT50GMRは30μgが0.99(95%CI:0.82~1.20)、60μgが1.30(1.07~1.58)だった。 BA.4-BA.5、BA.2.75に対する中和抗体価は、BA.1対応2価ワクチン30μgが、BNT162b2(30μg)より数値が高かった。 安全性プロファイルについては、BA.1対応1価ワクチン、2価ワクチンのいずれの用量も、BNT162b2(30μg)と同様だった。有害事象の発生頻度は、BA.1対応1価ワクチン30μg群(8.5%)とBA.1対応2価ワクチン60μg群(10.4%)が、その他の群(3.6~6.6%)より高率だった。

9024.

妊婦の罹患・死亡リスク、オミクロン株優勢中に増大/Lancet

 新型コロナウイルスのオミクロン株が懸念される変異株となった半年間について調べたところ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の診断を受けた妊婦は、MMMI(maternal morbidity and mortality index、妊婦の罹患率・死亡率指数)リスクが増大していたことが明らかにされた。とくに、ワクチン未接種の重症COVID-19妊婦で、同リスク増大はより顕著だった。また、COVID-19の重症合併症に対するワクチンの有効性は、完全接種(2回またはAd26.COV2.Sワクチン1回)で48%と高かった。英国・オックスフォード大学のJose Villar氏らが、4,618人の妊婦を対象に行った大規模前向き観察試験「INTERCOVID-2022試験」の結果で、Lancet誌オンライン版2023年1月17日号で発表された。18ヵ国41病院を通じて試験 INTERCOVID-2022試験は、18ヵ国41病院を通じて行われ、リアルタイムPCR検査でCOVID-19が確定した妊婦1人について、COVID-19と診断されていない2人の妊婦(マッチングなし)を、同時かつ連続的に対照として被験者に加えた。母親と新生児について、退院まで追跡した。 主要アウトカムは、MMMIとSNMI(severe neonatal morbidity index、重度新生児罹患率指数)、SPMMI(severe perinatal morbidity and mortality index、重度周産期罹患率・死亡率指数)だった。 ワクチン有効性は、母体リスクプロファイルで補正し推算した。COVID-19妊婦、MMMIリスクは1.16倍、ワクチン非接種では1.36倍 世界保健機関(WHO)がオミクロン株に対する懸念を表明した2021年11月27日から、2022年6月30日までに4,618人の妊婦を被験者として登録した。うち、1,545人(33%)がCOVID-19と診断され(中央値:妊娠36.7週)、3,073人(67%)はCOVID-19と診断されなかった。 COVID-19群は対照群に比べ、MMMIリスク(相対リスク[RR]:1.16(95%信頼区間[CI]:1.03~1.31)、SPMMIリスク(1.21、1.00~1.46)の増大が認められた。SNMIについては、COVID-19群の対照群に対する増大が認められたが(1.23、0.88~1.71)、95%CI下限値は1を下回っていた。 COVID-19群でワクチン非接種の妊婦は、MMMIリスクのさらなる増大が認められた(RR:1.36、95%CI:1.12~1.65)。 重症COVID-19の妊婦は、重度母体合併症リスク(RR:2.51、95%CI:1.84~3.43)、周産期合併症リスク(1.84、1.02~3.34)、他科への紹介・集中治療室(ICU)入室・死亡のいずれかの発生リスク(11.83、6.67~20.97)の総合的なリスク増大がみられた。ワクチン非接種で重症COVID-19の妊婦は、MMMIリスク(RR:2.88、95%CI:2.02~4.12)と、他科への紹介・ICU入室・死亡のいずれかの発生リスク(20.82、10.44~41.54)の増大がみられた。 被験者のうちCOVID-19ワクチンを1回以上接種していた女性は2,886例(63%)で、完全接種またはブースター接種(3回またはAd26.COV2.Sワクチン2回)は2,476例(54%)だった。 他科への紹介・ICU入室・死亡のいずれかの発生に関するワクチン有効性(全ワクチン統合)は、ワクチン完全接種妊婦が48%(95%CI:22~65)、ブースター接種妊婦が76%(47~89)だった。COVID-19診断妊婦の同有効性は、それぞれ74%(48~87)、91%(65~98)だった。

9025.

新型コロナの罹患後症状(後遺症)ってどういう症状?

Q.新型コロナの罹患後症状(後遺症)ってどういう症状?頭痛、睡眠障害、認知障害、記憶力・集中力低下、脱毛、味覚・嗅覚障害、目・耳の異常胸痛、動悸、疲労・倦怠感腹痛、悪心、下痢、食欲低下咳、咽頭痛、喀痰、息切れ関節痛、筋肉痛、筋力低下勃起異常、生理不順、月経前症候群の悪化厚生労働省新型コロナウイルス感染症の罹患後症状(いわゆる後遺症)に関するQ&AYadav S, et al. J Clin Oncol. 2023 Jan 9. [Epub ahead of print]Copyright © 2023 CareNet,Inc. All rights reserved.Imoto W, et al. Sci Rep. 2022;12:22413.Q.新型コロナの罹患後症状(後遺症)って何ですか?新型コロナウイルス感染症にかかった後、ほとんどの患者さんは時間経過とともに症状が改善します。しかし、急性期の症状がずっと持続したり、回復した後に新たに/または再び出現したりする症状があることがわかっています。これら全般の症状を新型コロナウイルス感染症の罹患後症状(後遺症)と言います。Q.罹患後症状(後遺症)はいつまで続くのですか?罹患後症状(後遺症)については、世界的に調査研究が進められている最中ですが、時間の経過とともに改善することが多いとされています。ただし、急性期の重症度に関係なく、新型コロナウイルスへの感染から約1年を経過しても、罹患後症状(後遺症)が約半数の方に残るという報告もあります。厚生労働省新型コロナウイルス感染症の罹患後症状(いわゆる後遺症)に関するQ&AYadav S, et al. J Clin Oncol. 2023 Jan 9. [Epub ahead of print]Copyright © 2023 CareNet,Inc. All rights reserved.Imoto W, et al. Sci Rep. 2022;12:22413.

9026.

マインドフルネスも運動も認知機能に影響を与えないというネガティブデータをどう読み解くか(解説:岡村毅氏)

 自覚的な物忘れがある地域在住高齢者で、Short Blessed Testというスクリーニング検査で認知症相当ではない人、つまり軽度認知障害なども含まれる地域の人々を、[1]マインドフルネス、[2]運動、[3]マインドフルネスと運動、[4]健康学習(対照群)の4群に分けて介入したが、[1]~[4]まですべてエピソード記憶や遂行機能に差が出ないという結果であった。脳画像においても差が出ていない。惨憺たる結果である。 この領域で研究をしている者としては二重に残念な結果であった。まずはFINGER研究(フィンランドからやってきた食事・運動・認知・生活習慣の複合介入で認知機能を改善するというもの)がいつも再現されるわけではなさそうだということ。FINGER研究はなぜかわが国ではファンが多く、多くの似たような研究が行われていると聞くので、悲しい気持ちでこの結果を読む人がいるであろうことを考えると、なかなかつらい。 次に豊饒な新領域に思われたマインドフルネスも、常に成果を出すわけではないということ。 さすがに対照群まで含めて、まったく差がないというのでは、本当に差がないのだろう。なお、運動した人々の身体機能は向上しており、さぼっていたわけではなさそうである。 あくまで感想であるが、第1に、この研究の対象は地域の善男善女であり、マインドフルネスとして行われたのはマインドフルネス・ストレス低減法であった。研究者たちは、ストレスが低下すれば、睡眠が改善し、コルチゾール等のストレスホルモンも低下するし、またマインドフルネス自体もワーキングメモリー向上に寄与する、という仮説を立てていたようだが…ちょっと無理がないか。たぶん対象者に起きたことは、ストレスが低下し、またストレス対処の方法を知り、人生が豊かになった(人が多少いた)ということではないか。むしろ私がこの研究結果をみて思ったのは「マインドフルネスのような高次の介入の効果を知るには、量的に測れるものや尺度ではなく、もっと質的な次元で測定しなければわからないな」であった。おそらく主観的なストレスや、怒りなどを測定すれば、あるいはたとえば「時間を有効利用できるようになったか」をインデプスインタビューの形で聞けば、効果はみられるはずだ(とはいえ、そんなことはわかっており、研究者たちはそこを知りたいわけではないので余計なお世話なのだが)。 第2に、今回は結果が出ていないが、マインドフルネスは確固たる地位を築いたなということである。マインドフルネスのルーツには禅があり、つまりは日本仏教の只管打坐も始祖として入っている(もちろん日本仏教だけではなくさまざまな国の仏教が関与している)。日本では医学者は顧みることはなかったのだが、欧米でエビデンスが付与され、医療に取り入れられた。そしていま日本に逆輸入されている。本当は日本で研究が行われるべきであった、と考えるのは私だけだろうか。そこでわれわれは只管打坐に匹敵する仏教プラクティスということで専修念仏に注目し、脱宗教化したプログラムを作成し、現在介入研究を行っているところである。良い結果が出るとよいのだが。

9027.

何としても次のポジションの面接を獲得する!【臨床留学通信 from NY】第43回

第43回:何としても次のポジションの面接を獲得する! 前回の記事では、幸運にもハーバード・メディカルスクール マサチューセッツ総合病院のカテーテルフェローのポジションを獲得できたことをお伝えしました。カテーテルフェローの選考プロセスは、ERAS(electronic residency application system)というウェブサイトに申請書類をアップロードし、プログラム側が書類を確認し、面接に呼ぶところまでは、米国における他科のフェローシップと同じです。ただし、カテーテルフェローの選考ではNRMP(national ranking matching program)というマッチングシステムを用いないため、候補者側には不利な仕組みになっているということは説明したとおりです。候補者側にとって、自施設で研修したい場合には、ノンマッチングシステムは就職内定のように事前に簡単に決まる点は楽かもしれません。デューク大学やクリーブランドクリニックなどの有名プログラムはERASに参加せず、あらかじめ内部生などで決まっているようです。しかしながら、私のように外の病院も視野に入れている場合は、候補者にもプログラムを選ぶ時間があり、システムに登録した候補者のランクが優先されてマッチングできるほうがありがたいです。スピード勝負のノンマッチングシステムは、ERASの申請書類がプログラム側に公開された段階で、すぐにプログラムディレクターの目に止まらないと勝負に出遅れてしまうことが危惧されます。枠も内部生で埋まってしまっていると、1つか2つしか空きがないことが多く、プログラムが気に入った候補者を呼んで、最初に面接した中で気に入った人がいればオファーをし、候補者が快諾すればそこでプログラムの枠は閉ざされてしまうのです。これまでの成果を生かし、全米各地のプログラムにアプローチ私の経歴は、まず日本でカテーテル治療医として働き、各種の専門医資格も日本で取得しているのに、米国で再びレジデントとフェローをやり直しているため、米国人には奇妙に見えるかもしれないので、履歴書だけでは判断しかねると考えました。言い換えれば、ほかのフェローに比べて臨床と研究の経験があるため、米国で培った人脈をもとに、いろいろな手段を使って自分を売り込む必要がありました。実際に行ったこととして、2年前の一般循環器フェローの応募の際に関わった先生に再度コンタクトして、ノースウェスタン大学の面接を受けることができ、ワシントン大学にも呼んでもらえることになりました。また、現在私が所属しているモンテフィオーレ医療センターの日本人の先生を経由し、スタンフォード大学の面接も取り付けることができました。TCT(Transcatheter Cardiovascular Therapeutics)というカテーテル治療学会で、コロンビア大学の日本人心臓外科医の先生を通じてプログラムディレクターと直接お会いし面接のお話もいただき、イェール大学の先生ともつながることができたり、ほかにも主に日本人の知人を通じてミシガン大学、メイヨークリニック、はたまた論文等でいつもお世話になり、TCTでご挨拶したSripal Bangalore先生を通じてニューヨーク大学、別の論文を通じて知り合った先生方やモンテフィオーレ出身のフェローがいることから、ハーバード系列のベス・イスラエル・ディーコネス医療センターの面接にも呼んでもらえることとなっていました。そのような状況に至ったものの、面接はあくまでZoomベースで、予想外にいくつかのプログラムがフライングして、12月7日のERASオープンを無視して11月中旬より面接を開始するという事態になりました。たしかに応募書類を独自に集めてしまえば、ERASより先に面接をし、優秀な候補者を獲得してしまえばいいという発想はそのとおりです。たとえばジョンズ・ホプキンス大学は面白いことに、プログラムディレクターがTwitterを通じてERASより前に書類を募集しており、その噂を聞きつけて大急ぎで書類を揃えてメールで申請しました。しかし結局のところ私の場合は、ERASがオープンする前にマサチューセッツ総合病院の面接を行い、その後ポジションが確定したため、上記の多くのプログラムに申請することなく、面接も受けずに終わってしまいました。実際の面接等については、また次回ご説明します。Column12月に開催された日本循環器学会関東甲信越地方会では、私が教えている学生が優秀賞、研修医の先生が最優秀賞を受賞しました。最優秀賞の先生は、3月の日本循環器学会学術集会で発表予定です。米国臨床留学を目指す2人を後押ししたいと思います。

9029.

難聴と認知症【外来で役立つ!認知症Topics】第1回

「高音性難聴」で片付けられない高齢者の難聴高齢になるほど難聴の人が増え、コミュニケーション上の支障になるのは、診療科を問わずに見られる現象かと思われる。当事者の中には自分が難聴だと医者に悟られるのは格好悪いと見えて、ちょっと過剰なうなずきや合いの手を入れる人もいる。だからわれわれ医療者が、この人はわかっているだろうと誤解することもある。難聴といえば、カクテルパーティー効果と呼ばれる心理学現象もある。これはカクテルパーティーのように騒々しい場所でも自分に関することが話されていると、なぜかそれが聞こえてしまうという音の聴き取り上の注意選択に関わる神経心理的な現象である。こうした要因もあるだけに、高齢者の難聴とは、単に高音性難聴だと片付けられるものではない。実際、高齢者難聴を専門とする耳鼻科医の友人は、「ご都合性難聴」という言葉を教えてくれた。これを難聴者の付き添いの方に伝えると、まさに「言い得て妙」という反応をされる。難聴にはどのデバイスが有効か?筆者の場合、診察室における難聴者とのコミュニケーションは長年にわたる課題であった。補聴器の使用を勧めるのはもちろん、集音器の提案、そして最近では今風の小型拡声器を使った話し掛けも行ってきた。いずれも「帯に短し、たすきに長し」である。まず補聴器、集音器に共通するのは、これらを着けているのを見られるのはカッコ悪いという思いのようだ。補聴器は高性能な超小型コンピューターであるだけに、数十万円と高価であり、充電しても長時間持たない。また小型・軽量で紛失しやすいのだが、コロナ禍ではマスクのひもが引っ掛かり、それがさらに助長される。集音器は数万円とぐっと廉価ながら、補聴器とは異なり、苦手な音域対応に特化した機器ではない。どんな音でも拾うので、使用者は「音が大きく響いて頭が割れそうだ」と苦情を述べる。拡声器は、雑駁な機器ではあるが、最近では懐中電灯サイズもあり、値段も1万円以下のものもあって、とりあえず医療者は使いやすい。ところで難聴の患者に付き添う家族介護者が、ほぼ共通して訴えることがある。「聞こえないから耳元で、大声で話すのに、本人はなんで怒っているんだと逆ギレする」というものである。実際、リクルートメント現象と呼ばれる現象で、高齢者では小さい音は聞こえにくく、大きい音はうるさく感じることが知られている。さらに脳科学的には、大声は感情の座である扁桃体を刺激して、怒りの感情を誘発することが報告されている1)。難聴が認知症の最大の危険因子さて、わが国の認知症対策の基本は、「認知症施策推進大綱」に示される予防と共生である。予防の実効性については疑問もあるが、長年にわたって運動の習慣が予防の一押しとされてきた。反対に、認知症の促進因子について、2017年Lancet誌が、危険因子全体で認知症発症の37%を説明できるとした2) 。その中でも、中年期からの難聴が最大のリスクファクターであると報告している。これが認知症の発症に関わる難聴がデビューする報告になった。ところで、なぜ難聴は危険因子なのか?という素朴な疑問を生じる。耳鼻科の専門誌などによれば、いくつかの可能性が示されている。筆者はその中でも次の2つが重要ではないかと考えている。まず難聴によって音刺激が欠乏して1次聴覚野と海馬の形態変化をもたらす。それにより認知予備能が減って認知症の準備状態を作るという「廃用説」である。次に難聴者においては、本来記憶などの認知機能に費やすべき知的エネルギーを、聴覚理解に回す必要がある。したがって、認知機能への注力が手薄になるので認知症の素地を作るという。筆者流に言えば、「エネルギー保存の法則」的な説明である。また臨床の場では、難聴は認知症の危険因子である以上に、認知症の悪化促進因子でないかと思うことがよくある。調べてみた限りでは、難聴はMCIを悪化させるという報告はあったが3)、悪化を促進するとした報告は見つけられなかった。こうした治療法として誰しもが考えるのは、補聴器をしっかり使うことだろう。実際、これを使った介入研究で有効性も報告されている。しかし筆者は、上記のような理由から、とくに認知症の人ではそう容易ではないと思う。当院の患者さん家族によれば、そこそこ成功していると思うのは、小型拡声器の使用である。最低限のメッセージは伝えられると聞く。また2階にいる家族を呼ぶのにも重宝していると笑わせる娘さん介護者もある。終わりに、マスク時代で実践が難しくなったが、東大病院耳鼻咽喉科の加我 君孝名誉教授に教わった診察室での会話法がある。まず相手に「私の口元を見ながら私の話を聞きなさい」と述べる。そして自分はできるだけ明瞭に発音する。これにより読唇術の心得などない人でも、何割か聞き取り能力がアップすることを経験してきた。参考1)Simon D, et al. Soc Cogn Affect Neurosci. 2017;12:409–416.2)Livingston G, et al. Lancet. 2017;390:2673-2734.3)Bucholc M, et al. Alzheimers Dement (N Y). 2022;8:e12248.

9030.

第145回 三重大臨床麻酔部汚職事件、元教授に懲役2年6ヵ月、執行猶予4年の有罪判決、賄賂は「オノアクト使用の見返りだった」

岸田首相G7広島サミットを意識?今春にもコロナは5類にこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この連載もまもなく3年を迎え150回近くとなりますが、その半分以上は新型コロウイルス感染症に対する国の対応について書いてきたのではないかと思います。そのコロナ対応も、いよいよ大きな転換期を迎えます。岸田 文雄首相が1月20日、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の分類を、今春から5類に変更する方針を示し、23日から専門家らによる感染症部会で本格的な議論が開始されたためです。昨年11月、感染症法等を改正し、都道府県は地域医療支援病院や特定機能病院などとあらかじめ協定を結び、病床確保や発熱外来といった医療の提供を義務付けることになったばかりですが、5類にすればそうした義務付けから外れることになります。これまでコロナを診てこなかった医療機関も、通常の風邪と同じように診療、入院させるようになると期待されていますが、本当にそうなるでしょうか。コロナ禍の中での多くの医療機関の消極的な対応を見てきた経験から言うと、はなはだ疑問です。あわせて気になったのは、1月19日に日本医師会の松本 吉郎会長が岸田総理と面会し、政府が新型コロナの感染症法上の見直しを行った場合でも、公費負担などを継続するよう要望したことです。報道等によれば松本会長は「患者さんに負担が掛からないように、それから医療機関の感染対応にもできる限り支援を継続していただきたいということをお話しした」と語ったそうです。5類に移行すれば医療費などの公費負担の法的根拠がなくなるのは当然です。なのに「公費負担は続けろ」とは、意味がわかりません。普通の風邪ならば、医療機関を受診したい人や重症化リスクが高い高齢者などは受診し、そうでない人は自力で治す(もともとほとんどの風邪は医療機関を受診しなくても治ります)というのが筋です。公費負担を続けるということは、受診不要と思われる軽症患者まで掘り起こすことになりそうです。医療機関の経営にはプラスでしょうが、結局、無駄な医療費の増加を招くだけではないでしょうか。松本会長の要請に岸田首相は「しっかりと検討したい」と応じたそうです。5月開催予定のG7広島サミットで海外首脳を迎える前に、5類にして屋内のマスク着用も不要にしておきたい、という少々自分勝手な考えもあるのではないでしょうか。未だ、マスク着用がルール化されている先進国は日本くらいだからです(エリザベス女王の国葬の時、日本の天皇陛下のマスク着用が話題となりました)。複数の関係者たちの公判のうち大トリとも言える元教授に判決さて今回は、この連載でも何度(今回で7回目)も取り上げてきた三重大病院臨床麻酔部の汚職事件を取り上げます(「第133回 三重大病院臨床麻酔部事件、元教授に懲役4年の求刑、大学は新教授で再スタート」ほか)。薬剤の積極的な使用や医療機器の納入に便宜を図る見返りに現金を受け取ったなどとして、第三者供賄と詐欺の罪に問われた、三重大学医学部附属病院の臨床麻酔部元教授(56歳)の判決公判が1月19日に津地方裁判所であり、柴田 誠裁判長は懲役2年6ヵ月・執行猶予4年と、元教授が代表理事を務める一般社団法人に追徴金200万円(求刑懲役4年、追徴金200万円)とする有罪判決を言い渡しました。ちょうど新型コロナウイルス感染症が猛威をふるい始めた2020年9月に発覚したこの事件、複数の関係者たちの公判のうち大トリとも言える元教授の判決が出たことで、被告全員の公判が一通り終了したことになります。一連の事件では7人の有罪が既に確定この事件で被告人である元教授は、小野薬品工業が製造・販売する薬剤「ランジオロール塩酸塩(商品名:オノアクト)」を積極的に使う見返りに大学の口座に寄付金200万円を振り込ませたほか、日本光電からも200万円を提供させたとして、第三者供賄罪に問われていました。また、小野薬品のオノアクトを投与したように装い診療報酬を詐取(約80万円)したとする詐欺罪でも起訴されていました。元教授の公判は、他の被告の公判がすべて終わった2022年4月から始まりました。ちなみに、一連の事件では、診療報酬詐取事件で共犯とされた同部の元准教授、医療機器納入を巡る汚職事件で共犯とされた元講師、そして小野薬品の社員2人、日本光電の元社員3人の計7人の有罪が既に確定しています。公電磁的記録不正作出、公電磁的記録供用と詐欺の罪に問われた元准教授には懲役2年6ヵ月・執行猶予4年、第三者供賄罪に問われた元講師には懲役1年・執行猶予3年の判決が下されています。一方、贈賄罪に問われた小野薬品の社員2人には懲役8ヵ月・執行猶予3年、同じく贈賄罪に問われた日本光電の元社員1人には懲役1年・執行猶予3年、元社員2人には懲役10ヵ月・執行猶予3年の判決が下されています。最大の争点はオノアクト採用への元教授の関わり2022年4月から始まり、計14回、6ヵ月にも及ぶ審理を経て、10月に結審した今回の公判、最大の争点はオノアクト採用への元教授の関わりでした。小野薬品を巡る第三者供賄罪について元教授は、「オノアクトの効能に着目して積極的に使用していく方針を採用した」などと主張していました。また、詐欺罪についても無罪を主張し、寄付金の対価性(いわゆる見返り)が認定されるかどうかが争点となっていました。一方で元教授は、日本光電に200万円を振り込ませたとする第三者供賄罪は認めていました。報道等によれば、元教授は公判で「職務権限を利用して対価をもらったことは恥ずかしい」と語るとともに、お金の使い道を「麻酔科医を集めるため。ほとんどを飲食代に充てた」と説明したとのことです。元教授が臨床麻酔部教授に就任して以降オノアクトの処方量急増各紙報道等によれば、同日の判決で津地裁はオノアクトの積極使用と寄付の関連を認め、対価性があったとしています。具体的には、元教授が臨床麻酔部教授に就任して以降オノアクトの処方量が急増したこと、小野薬品の当時のMRの証言から元教授が「寄付金が必要だ頼むよ」「最初に世話になったところは忘れないよ」などと供述したこと、MRが作成した週報に「講演会活動を通じ三重大で『OA(オノアクト)をもっと出すための相談』が行えた。そのもっとを今後具体化していく段階に今後していこう」と記載していたことなどを指摘、「200万円の寄附とオノアクトの処方が密接に関連付けられていた」として寄付金の対価性があったと判断しました。「職務の公正さや社会の信頼を害した程度は大きい」以上を踏まえ、柴田裁判長は判決理由で「寄附金を獲得するためになりふり構わず処方量の増大に突き進んだことは異常というほかなく、職務の公正さや社会の信頼を害した程度は大きいと言わざるを得ない」と指摘。さらに、「使用されずに廃棄される医薬品が大量に生じる歪みを発生させ、診療報酬の搾取につながった」と非難したとのことです。ただ、量刑については「職務の公正さや社会の信頼を害した程度は大きいと言わざるをえないが、前科のない被告人をただちに刑務所に収容するのは重きに過ぎる」などとして懲役2年6ヵ月・執行猶予4年の有罪判決としたとのことです。判決に対し、元教授の弁護士は「判決は不当で、控訴するかどうかは被告人と相談したい」と述べたとのことです。一方、三重大学病院の池田 智明病院長は「有罪判決が下されたことを真摯に受け止めます。今後も信頼回復に向け、全力を尽くします」とのコメントを出しています。新たなスタートを切った三重大麻酔科さて、元教授の逮捕によって、三重大病院の麻酔科は混乱に陥り、地域医療にも多大な影響を及ぼしました。さらに製薬会社が大学などに提供している奨学寄付金の是非についても議論が沸き起こり、奨学寄付金を廃止する動きも広まっているようです。その意味で、元教授は法律では罪に問われない部分でも、さまざまな“罪”を犯していたと言えるでしょう。三重大の麻酔科については、2022年4月には新教授が就任、手術での麻酔を行う「臨床麻酔部」を廃止し、痛みを取り除く治療などを行う「麻酔科」に統合するという組織改編も行われました。また、麻酔の専門医を育成する研修プログラムも2023年度からスタートするとのことです。元教授が控訴すれば、裁判は続くことになりますが、少なくとも三重大病院麻酔科の再スタートは喜ばしいことです。幾多の“黒歴史”から決別し、地域の麻酔科医療を牽引する存在になることを願います。

9031.

オミクロン株の感染爆発のファクターを解明/日本大学ほか

 わが国の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第8波の主な感染原因であるオミクロン株。この変異株について、今井 健一氏(日本大学歯学部感染症免疫学講座 教授)らの研究グループは、オミクロン株感染者の唾液中には、宿主細胞の内外に付随していない裸のウイルス(セルフリーウイルス)が、従来株やデルタ株よりも高比率に含まれていることを世界で初めて発見し、JAMA Network Open誌2023年1月9日号に報告した。 細胞に付随しているウイルスと比較すると、セルフリーウイルスはとても小さく軽いため、唾液に覆われた状態でも室内に長時間漂うことができる。オミクロン株では、このセルフリーウイルスの唾液への排出量がデルタ株の2.7倍、従来株の17.8倍と大幅に増加したことが、エアロゾル感染によるCOVID-19の爆発的拡大につながったものと考えられるという。セルフリーウイルスがオミクロン株では従来株の17.8倍 新型コロナウイルスは、口腔内の上皮や唾液腺の細胞に感染し増殖するため、唾液中には多くのウイルスが含まれている。そのため、会話、せき・くしゃみのたびに放出される飛沫や微細なエアロゾルによって伝播され感染が広がる。オミクロン株は、従来株やデルタ株などと異なり、飛沫感染に加えてエアロゾル・空気感染によって伝播するため、現在の爆発的な感染拡大につながったと考えられているが、その仕組みは良くわかっていなかった。今回の研究はこの仕組みを明らかにすることを目的とした。 研究グループでは、新型コロナウイルスは、従来株→デルタ株→オミクロン株とウイルスが変異するのに伴い、唾液中に排出されるウイルスの量自体が多くなっていると推測。また、エアロゾル感染が成立するためには、ウイルスが飛沫に含まれて拡散する状態よりも遠くに飛散し、かつ飛沫よりも長時間室内に漂うエアロゾルに含まれて拡散する状態が必要とも考慮した。 そこで、従来株、デルタ株、およびオミクロン株の感染者から採取した唾液を、全唾液と遠心分離で細胞成分を除いた上澄み液とに分け、それぞれに含まれるウイルス量を定量した。 主な結果は以下のとおり。・従来株では、全唾液1mL中に約123万個(中央値、以下同じ)のウイルスが存在していることがわかった。そのうち、セルフリーウイルスは1mL中に約18万個で、全唾液中のウイルスに占めるセルフリーウイルスの割合は約5.9%だった。・デルタ株では、全唾液1mL中に約1,860万個と従来株に比べて15倍ものウイルスが存在していた。そのうち、セルフリーウイルスは1mL中に約117万個で、全唾液中に占める割合は約4.8%で従来株と類似した値だった。・オミクロン株では、全唾液1mL中にデルタ株の半分強、約952万個のウイルスが存在していた。一方で、セルフリーウイルスは1mL中に約321万個が存在し、デルタ株の2.7倍、従来株の17.8倍と大幅に増加していた。全唾液中に占める割合は約21.3%で、従来株やデルタ株と比較して約4倍もセルフリーウイルスの割合が増加していた。 以上から、唾液中のセルフリーウイルスの量が多ければ、新たな宿主に到達した際に新型コロナウイルスの受容体であるACE2への結合がしやすく、感染効率も自然と高まる。さらに、セルフリーウイルスは細胞付随ウイルスよりも3倍近い速さで新たな未感染の細胞に感染するため、セルフリーウイルスが唾液中に多く含まれることは感染爆発の主要な原因となり得ると考えられた。 同研究グループは、「今回の研究から大規模クラスターが多発している現状を説明し得るものと考えられ、また、感染予防策として換気の必要性と密閉空間でのマスク着用励行の根拠ともなる」と考察している。さらに本研究は、「『エアロゾル・空気感染におけるセルフリーウイルスの重要性を初めて提唱した』という点で重要であり、今後、インフルエンザや麻疹、水痘などの他のウイルス感染症への適応や未知のウイルス感染症が発生した際、そして、ウイルス変異が生じるたびにそのウイルスの性状を知り、感染対策を立てる基本概念として適用される」と展望を述べている。

9032.

日本におけるレビー小体型認知症患者・介護者の治療ニーズ

 レビー小体型認知症(DLB)に対する治療戦略を考えるうえで、患者の治療ニーズを把握することは不可欠である。近畿大学の橋本 衛氏らは、DLB患者とその介護者における治療ニーズおよびこれらの治療ニーズを主治医がどの程度理解しているかを調査するため、横断的観察研究を実施した。その結果、DLB患者およびその介護者の治療ニーズのばらつきは大きく、主治医は専門知識を有しているにもかかわらず、DLBのさまざまな臨床症状のために、患者やその介護者にとって最優先の治療ニーズを理解することが困難であることが明らかとなった。著者らは、主治医には自律神経症状や睡眠関連障害により注意を払った治療が求められるとしている。Alzheimer's Research & Therapy誌2022年12月15日号の報告。 DLB患者、その介護者および主治医を対象にアンケート調査を実施した。DLBで頻度が高く臨床的に重要な52の症状を、7つの症状ドメイン(認知機能障害、パーキンソニズム、睡眠関連障害、摂食行動関連問題、睡眠障害および摂食障害以外の精神症状、自律神経症状、感覚障害)に分類した。患者および介護者の治療ニーズは、「最も苦慮している症状」と定義し、各回答を集計した。患者および介護者の治療ニーズに対する主治医の理解度を評価するため、各回答に対する「患者と主治医」および「介護者と主治医」の一致率を症状ドメインごとに算出した。 主な結果は以下のとおり。・調査対象は、患者および介護者263組、主治医38人。・患者の平均年齢は79.3歳、ミニメンタルステート検査(MMSE)の平均総スコアは20.9であった。・最も苦慮している症状として、患者は35症状、介護者は38症状を選択した。・患者の治療ニーズとして最も選択されていた症状は記憶障害であり、次いで便秘、運動緩慢が選択された。・介護者においても、最も苦慮している症状として選択された症状は記憶障害であり、次いで幻覚が選択された。・患者または介護者が最も苦慮する症状ドメインにおける主治医との一致率は、「患者と主治医」で46.9%、「介護者と主治医」で50.8%であり、約半分程度しか一致していなかった。・ロジスティック回帰分析では、自律神経症状や睡眠関連障害が最も苦慮する症状ドメインとして選択された場合、「患者と主治医」と「介護者と主治医」の治療ニーズの一致率はより低かった。

9033.

KRAS G12C陽性肺がんの大規模な臨床ゲノムプロファイル:LC-SCRUM-Asia研究より/Lung Cancer

 ターゲット治療薬の開発で、肺がん領域でも注目されているKRAS G12C変異。2022年末、アジア人KRAS G12C陽性非小細胞肺がん(NSCLC)のリアルワールド解析が発表された。 KRAS G12Cは、白色人種のNSCLCでは約14%に発現するとの報告があるが、アジア人ではどの程度なのか。また、同集団に対する免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の有効性が報告されているが、アジア人患者でも効果は示されるのか。さらに、G12C以外の臨床ゲノム特性はどのようなものか。国立がん研究センター東病院・名古屋大学の田宮 裕太郎氏らは、肺がんの大規模前向きゲノムスクリーニングプロジェクト(LC-SCRUM-Asia)のデータベースに基づき、KRAS G12C NSCLCの臨床ゲノム特性とICIの治療成績を評価した。 主な結果は以下のとおり。・2015年3月〜2021年3月にLC-SCRUM-Asiaに登録されたNSCLC1万23例のうち、KRAS変異は14%(1,258例)に認められた。・KRAS変異の内訳は、G12Cが4.0%(376例)、G12Dが3.1%(289例)、G12Vは2.7%(251例)であった。・KRAS G12C陽性は、非G12C変異患者に比べ、男性および喫煙者の割合が高く(男性、喫煙者とも:p<0.001)、腫瘍変異負荷(TMB)が高い症例、PD-L1≧50%の症例が多かった(TMB:p<0.001、PD-L1:p=0.08)。・KRAS G12C陽性患者の全生存期間中央値は24.6ヵ月で、他の変異サブタイプとの差はなかった(G12V:18.2ヵ月、p=0.23、G12D:20.6ヵ月、p=0.65、その他のKRAS変異:18.3ヵ月、p=0.20)。・ICI治療による無増悪生存期間中央値は、KRAS G12Cでは3.4ヵ月で、G12V陽性の4.2ヵ月(p=0.90)と同様だったが、G12Dの2.0ヵ月(p=0.02)と、その他のKRAS変異の2.5ヵ月(p=0.02)に比べ、有意に長かった。 アジア人のNSCLCにおけるKRAS G12Cの頻度は、白人に比べて低かった。また、KRAS G12C NSCLCでは、高TMBやPD-L1高値など、免疫原性が亢進しており、ICIの感受性が高い可能性が示されている。■関連記事2022年の肺がん薬物療法の進歩を振り返る!【Oncology主要トピックス2022 肺がん編】【肺がんインタビュー】 第90回ソトラシブ、KRAS G12C変異陽性NSCLCのPFSを有意に延長(CodeBreaK-200)/ESMO2022KRAS G12C変異陽性NSCLCへのadagrasib、臨床的有効性示す/NEJMDr.光冨の肺がんキーワード解説「KRAS」【肺がんインタビュー】 第71回

9034.

持続性AF、PVI+左房後壁乖離術で不整脈の再発率は改善せず/JAMA

 持続性心房細動(AF)患者に対する初回カテーテルアブレーションでは、肺静脈隔離術(PVI)に左房後壁隔離術(PWI)を追加しても、PVI単独と比較して12ヵ月の時点での心房性不整脈の再発回避の割合は改善されず、複数回の手技後の再発回避にも差はないことが、オーストラリア・アルフレッド病院のPeter M. Kistler氏らが実施した「CAPLA試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌2023年1月10日号に掲載された。PWI追加の意義を評価する3ヵ国の無作為化臨床試験 CAPLA試験は、3ヵ国(オーストラリア、カナダ、英国)の11施設が参加した医師主導の無作為化臨床試験であり、2018年7月~2021年3月の期間に患者の登録が行われた(メルボルン大学Baker Department of Cardiometabolic Healthの助成を受けた)。 年齢18歳以上、症候性の持続性AFで、初回カテーテルアブレーションを受ける患者が、PVI+PWIを行う群またはPVI単独群に無作為に割り付けられた。PVIでは、左右の肺静脈の周囲を広範に焼灼し、PVI+PWIでは、これに天蓋部(roof ablation line)と底部(floor ablation line)の焼灼が追加された。 主要アウトカムは、1回のアブレーション施行から12ヵ月の時点において、抗不整脈薬非使用下で30秒以上の心房性不整脈が記録されないこととされた。心房細動負担にも差はない 338例(年齢中央値65.6歳[四分位範囲[IQR]:13.1]、男性76.9%)が登録され、330例(97.6%)が試験を完遂した。PVI+PWI群に170例、PVI単独群に168例が割り付けられた。 12ヵ月の時点で、抗不整脈薬非使用下での心房性不整脈再発の回避が達成されたのは、PVI+PWI群が89例(52.4%)、PVI単独群は90例(53.6%)であり、両群間に有意な差は認められなかった(群間差:-1.2%、ハザード比[HR]:0.99、95%信頼区間[CI]:0.73~1.36、p=0.98)。 複数回のアブレーション後の、抗不整脈薬使用の有無を問わない心房性不整脈再発の回避(PVI+PWI群58.2% vs.PVI単独群60.1%、HR:1.10、95%CI:0.79~1.55、p=0.57)、複数回のアブレーション後の、抗不整脈薬使用の有無を問わない症候性AFの回避(68.2% vs.72.0%、HR:1.20、95%CI:0.80~1.78、p=0.36)、心房細動負担(AF burden、1年の追跡期間中における心房細動累積時間の割合)(0%[IQR:0~2.3]vs.0%[0~2.8]、p=0.47)にも、両群間に有意な差はなかった。 一方、平均手技時間(142分[SD 69]vs.121分[57]、p<0.001)とアブレーション時間(34分[SD 21]vs.28分[12]、p<0.001)は、PVI単独群で短かった。 合併症は、PVI+PWI群が6件、PVI単独群は4件発現した。手技関連死はなく、脳血管イベントや食道瘻の報告もなかった。 著者は、「PVIにPWIを追加することで、治療時間と焼灼時間が延長されるが、合併症の発生率は増加しないことが示された。この研究では、初回心房細動カテーテルアブレーションにPWIを経験的に導入する方法は支持されなかったが、PVI+PWIで利益が得られる可能性のあるサブグループを特定するために、さらなる研究が求められる」としている。

9035.

対側乳がんリスク、生殖細胞変異で違いは?/JCO

 乳がん女性における対側乳がんリスクは年間0.5%と推定され、生殖細胞変異の有無、人種/民族、診断時年齢、閉経状態が大きく影響する。今回、米国・Mayo ClinicのSiddhartha Yadav氏らが、ATM、BRCA1、BRCA2、CHEK2、PALB2の生殖細胞系列病的変異を有する女性における対側乳がんリスクを推定したところ、BRCA1、BRCA2、CHEK2、PALB2の変異を有する女性でリスクがかなり高いことがわかった。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2023年1月9日号に掲載。 本研究は、浸潤性乳がんに対して同側手術を実施したCARRIERS試験において、前向きに追跡調査した1万5,104例を対象とした。各遺伝子の病的変異のある女性の対側乳がんリスクについて、死亡の競合リスクを考慮し患者および腫瘍の特性を調整した多変量比例ハザード回帰分析により病的変異のない女性と比較した。 主な結果は以下のとおり。・乳がん生殖細胞系列BRCA1、BRCA2、CHEK2変異を有する女性は対側乳がんリスクが有意に高かった(ハザード比[HR]:1.9以上)が、ER陰性乳がんではPALB2変異のある女性のみリスクが高かった(HR:2.9)。・ATM変異を有する女性では、対側乳がんリスクが有意に高くはなかった。・閉経前女性における10年累積対側乳がん発症率は、BRCA1変異を有する女性で33.4%、BRCA2変異を有する女性で27.2%、CHEK2変異を有する女性で13.2%だった。ER陰性乳がんに限るとPALB2変異を有する女性で35.5%と推定された。・閉経後女性における10年累積対側乳がん発症率は、BRCA1変異を有する女性で11.5%、BRCA2変異を有する女性で9.4%、CHEK2変異を有する女性で4.3%であった。

9036.

インパクトの高い投稿原稿を選別するのは至難の業(解説:折笠秀樹氏)

 医学雑誌編集者の目利きを調べた論文です。雑誌社にとって、掲載された論文が多く引用されるのは1つの目標です。被引用回数が増えれば、雑誌のインパクトファクターが上がるためです。そこで、編集者の資質の1つとして、将来多く引用されるような重要論文を選別する目利きが大切になります。 BMJ誌の編集者10名が調査対象になり、505件の投稿原稿に目を通し、被引用回数を予測し、平均以下(10回未満)、平均(10~17回)、上等(18回以上)にて評価を下しました。実際の被引用回数については、WOS(Web of Science)を使って調べたのです。結論として、BMJ編集者は被引用回数をうまく予測していなかったことがわかりました。半分以上の編集者が正しく予測できた投稿原稿というのは、わずか32%にすぎなかったのです。予想外れのほうがむしろ多かったのです。せめてもの慰めとして、BMJで採択した論文のほうが却下した論文(その他の雑誌が採択)より、被引用回数が高かったことです(BMJ―被引用回数中央値12回、その他の雑誌―7回)。 もっと引用される論文を出版したいのなら、新たな編集長は今の編集者たちを解雇し、別の編集者を雇用すべきなのでしょう。しかし、そのような編集者は実際にはいないというのが現実のようです。なかなか目が利く編集者は見当たらないということなのでしょう。雑誌によっては、なるだけ当該雑誌の論文を引用してほしいと、編集者から依頼が来ることもあります。そうすれば、その雑誌のインパクトファクターが上がるからです。それが実態だとすると、高インパクトファクターの雑誌が重要論文を多く載せているとは限らなくなります。こういったことも予測が外れた原因の1つかもしれませんが、研究費採択の場面でもそうであるように、なかなか将来性を予測するのは至難の業であることに違いありません。

9037.

073)切開しない排膿で後悔したこと【Dr.デルぽんの診察室観察日記】

第73回 切開しない排膿で後悔したことゆるい皮膚科勤務医デルぽんです☆皮膚科でよくある排膿処置、炎症性粉瘤など。。。局所麻酔をし、皮膚を切開してから行うことがほとんどですが、なかには麻酔や処置を拒否される患者さんもおられます。そうでなくても、すでに自壊しており、開口部から膿が出ている、というパターンも。今回の患者さんはその両方で、麻酔と切開は絶対にイヤ、とのことでしたが、かるく押せば自壊部から膿が出ている状態だったので、かんたんに圧排して、排膿することにしました。処置台に寝ていただき、無理のない範囲で軽く押すだけのつもりでしたが・・・。狭い出口から飛びだす内容物。水鉄砲をご想像いただければわかるかと思います。本当に、よく飛んだ・・・!麻酔や切開の際に、膿を浴びてしまうことはたまにありますが、メガネや前髪にまでばっちり飛び散り、その後の私のテンションが、だだ下がりだったことは言うまでもありません(遠い目)。今後、排膿処置するときは、「しっかり切開して出口を確保してからにしよう」と心に誓ったのでした。他愛もない失敗談、失礼いたしました!それでは、また〜!

9038.

厚労省の「解熱鎮痛薬等110番」は供給不足の解決にはならない!【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第104回

 昨年末、厚生労働省に「医療用解熱鎮痛薬等110番」という相談窓口が設置されました。解熱鎮痛薬などを入手できない医療機関や薬局のために設置された供給相談窓口ですが、開始1ヵ月ですでに混乱が生じているようです。厚生労働省が12月14日に開設した医療用薬の「供給相談窓口」(医療用解熱鎮痛薬等110番)に対し、約3週間で薬局や医療機関から500件もの相談が寄せられていることがわかった。(中略)一方、厚労省への相談件数が伸びるほど、卸側の負担は増大していくかたちとなり「お上からの重圧感が強いので対応せざるを得ないが、その後の対応や価格に関するトラブルも出てきている」(広域卸関係者)という。(2023年1月5日 RISFAX)この相談窓口の対象は、発熱外来や新型コロナウイルス感染症の患者を受け入れている医療機関やこれらの医療機関の処方せんを受け付けている薬局で、かつ下記をすべて満たす必要があります。解熱鎮痛薬、鎮咳薬、トラネキサム酸の在庫が少ない平時に取引のある卸売業者に連絡しても入手が困難である業務に支障を来たすとともに患者に迷惑を掛けてしまう恐れがある全国的に医薬品の供給が不足しているのは言わずもがなの状態で、何も困っていません!と言える薬局は少ないのではないでしょうか。本来であればありがたい話のはずなのですが、この窓口は厚生労働省の中に設置されているため、相談を受け付けても医薬品を製造して出荷することも、納入を早めることもできません。厚生労働省が医薬品調達に窮している薬局などの訴えを聞き、卸売業者へ納入調整を依頼するというものです。調整依頼と言っていますが、厚生労働省から連絡があった卸売業者は、その相談元の薬局などに医薬品を納入せざるを得ない状態になるのではないかと思います。卸売業者も在庫が限られていて精一杯の調整をしている中、厚生労働省がそこにプレッシャーをかけて優先順位を繰り上げるというのは、本質的にはなんの解決にもなっていないのでは…と思うのは私だけではないはずです。医薬品の供給量が減っている一方で、解熱鎮痛薬や咳止め薬などの需要が高まっていることが原因なのに、なぜこのような窓口の設置が解決につながると思ったのかは不思議です。現場としては、どこか別のところにしわ寄せがいく納入調整ではなく、本質的な供給不足の解決や不適切処方に対する対応がとられることを期待したいと思います。

9039.

英語で「順調にいっていますよ」は?【1分★医療英語】第64回

第64回 英語で「順調にいっていますよ」は?You are moving in the right direction.(順調にいっていますよ)That’s good to know.(それは良かったです)《例文1》Your father is doing well. He is moving in the right direction.(お父さんは元気ですよ。順調にいっています)《例文2》His course was complicated by aspiration pneumonia, but overall, he is moving in the right direction.(経過中に誤嚥性肺炎が起こりましたが、全体としては、彼は快方に向かっています)《解説》“move in the right direction”は直訳すると「正しい方向に動く」ですが、医療現場で病状を表す時に使うと「順調にいっている」「快方に向かっている」という意味を表します。患者さんや家族に対するポジティブな声掛けにもなるため、臨床現場でよく使われる言い回しです。なお、“direction”の発音は米国英語では「ディレクション」、英国英語では「ダイレクション」となります。また、“right”にも“direction”にも「R」が含まれるため、「L」の発音と混同しないように注意が必要です。講師紹介

9040.

第147回 ヒトが親となる年齢は27歳~父は母より8歳ほど高齢

子に新たに生じた変異への親の年齢の影響を頼りに過去25万年前まで遡って推定したところ、ヒトが親となる年齢、すなわち子を持つ年齢の平均は約27歳(26.9歳)でした1,2)。男女別で見たところ、男性が子持ちになる年齢、すなわち父になる平均年齢は約31歳(30.7歳)で、女性が母になる平均年齢およそ23歳(23.2歳)に比べて8歳ほど遅いことが示されました。ヒトが何歳で子供を持って来たかを実際の記録なしで知ろうとすることは厄介ですが、ここ数年の遺伝配列解析技術の進歩や遺伝情報の大量の蓄積のおかげでそのヒントとなるDNAの印を見つけ出すことが可能になっています。とはいえこれまでの研究で遡れたのはせいぜい4万年前まででした。米国のインディアナ大学の進化遺伝学者Richard Wang氏らはヒトの各家系のDNA変異の発端を頼りにさらに遡って子持ちとなる年齢の推移を推定することを試みました。子のDNA配列には親の体細胞にはない25~75の新生突然変異(de novo変異)があります。それらのde novo変異はどちらかの親の生殖細胞か受精後の初期胚発生のときに生じたものです。ネコ、クマ、サルなどの哺乳類とヒトの変異の相違や相似を調べる研究の最中に年齢に応じた変異のパターンがあることにWang氏らは気付き、母親や父親の年齢に応じた子のde novo変異特徴の発見に至ります2)。その発見に基づいてWang氏らはde novo変異の発生時期を割り出して子持ちになる年齢を過去25万年前まで遡って推定し、男女の区別なしでの子持ちになる年齢の平均は26.9歳、父になる年齢は30.7歳、母になる年齢の平均は23.2歳との結果を得ました。推移に変動はありますし、最近5千年にその差は縮まっていて母になる平均年齢はより遅く26.4歳となっているものの、男性は女性に比べて一貫してより高齢になって子持ちになっていました。父になる年齢が女性より高齢であるのは、生物学的に男性は齢をより重ねてからでも子を授かれるゆえ子を持つのが遅れがちになることによると一般的には説明しうるとWang氏は言っています3)。ただしそれだけではないかもしれず、社会的な要因、たとえば父になる前に地位を築いておくことを強いる家父長社会の圧力などが父になる年齢を押し上げることに寄与しているかもしれません3,4)Wang氏らの研究での変異要因の補正は不十分であり、環境などからの種々の要因の変異が親の年齢に不均一に影響して結果を歪めているかもしれないと指摘する専門家もおり5)、親になる年齢の解析が今回で片が付いたというわけではなさそうです。Wang氏らは世界の2,500人のゲノムを使ってヒトが親になる年齢の推移を予測しましたが3)、今後の研究でさらに多くの人の情報を使って推定精度を高めていく必要があります。参考1)Wang RJ, et al. Sci Adv. 2023;9:eabm7047. 2)Study reveals average age at conception for men versus women over past 250,000 years / Eurekalert3)Dads older than mums since dawn of humanity, study suggests / Nature4)DNA evidence that dads have always tended to be older than mums / Nature5)Timing and causes of the evolution of the germline mutation spectrum in humans. bioRxiv

検索結果 合計:35172件 表示位置:9021 - 9040