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事例28 胃潰瘍などでの狭帯域光強調加算(NBI)の査定【斬らレセプト シーズン4】

解説事例では、「D308 胃・十二指腸ファイバースコピー」時に行った「D308 注4 狭帯域光強調加算」にD事由(告示・通知の算定要件に合致していないと認められるもの)が適用されて査定になりました。狭帯域光強調加算にかかる診療報酬点数表の算定要件を振り返ってみました。特段の留意事項は記載されていませんでした。支払基金の「審査の一般的な取り扱い」も参照してみました。その事例405に「狭帯域光観察(NBI)は狭帯化された2つの波長の光を照射し(中略)、拡大内視鏡を用いて、病変部の悪性腫瘍の鑑別を目的に行う検査である。本加算は、上記を目的に検査を実施した場合にのみ算定できる」と、悪性腫瘍の鑑別に使われるものと定義されていました。傷病名欄をみると、悪性腫瘍またはその疑いを表す病名が表示されていません。そのために、算定要件に合致しないと判断されて査定となったものと推測ができます。カルテを確認すると、「胃ポリープ」が記載されているだけでした。医師には、悪性腫瘍を鑑別する検査を行った場合は疑いもしくは確定された病名を付与していただけるようにお願いしました。レセプトチェックシステムには、悪性腫瘍またはその疑いの病名がない場合には、アラートを発するように登録して査定対策としています。なお、この加算は、内視鏡検査のうち「D306 食道ファイバースコピー」、「D308 胃・十二指腸ファイバースコピー」および「D313 大腸内視鏡検査 1ファイバースコピーによるもの」ならびに「K803 膀胱悪性腫瘍手術 6 経尿道的手術」のみに設定されていることを申し添えます。

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英語で「カテーテル検査」は?患者さんへの説明法も!【患者と医療者で!使い分け★英単語】第27回

医学用語紹介:冠動脈造影検査 coronary angiography「冠動脈造影検査」を表す医学用語はcoronary angiographyで、緊急を要する場面で使うことも多いでしょう。この検査を患者さんに説明するときは、何と言えばいいでしょうか?講師紹介

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7月28日 世界(日本)肝炎デー【今日は何の日?】

【7月28日 世界(日本)肝炎デー】〔由来〕世界的レベルでのウイルス性肝炎のまん延防止と患者・感染者に対する差別・偏見の解消や感染予防の推進を図ることを目的に2010年に世界保健機関(WHO)が定め、肝炎に関する啓発活動などの実施を提唱。わが国でもこれに倣い、「日本肝炎デー」を制定し、肝炎の病態や知識、予防、治療に係る正しい理解が進むよう普及・啓発を行うとともに、肝炎ウイルス検査の受診を促進している。関連コンテンツ脂肪性肝疾患の新たな分類とMASLDの概念・診断基準【脂肪肝のミカタ】C型肝炎のフォローアップ【日常診療アップグレード】慢性C型肝炎、ソホスブビル/ダクラタスビルvs.ソホスブビル/ベルパタスビル/Lancet肝線維化を有するMASH、週1回セマグルチドが有効/NEJM慢性B型肝炎への低分子干渉RNA薬xalnesiran、抗原消失率は?/NEJM

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肥大型心筋症治療のパラダイムシフト【心不全診療Up to Date 2】第3回

肥大型心筋症治療のパラダイムシフトKey Point肥大型心筋症(HCM)の病態理解は、サルコメア蛋白遺伝子異常による「心筋の過収縮とエネルギー非効率性」を根源とする疾患へと深化している診断には心エコーやMRI、遺伝子検査が有用で、AI解析も注目されているサルコメアを直接制御する初の病態修飾薬、心筋ミオシン阻害薬を深掘りはじめに肥大型心筋症(hypertrophic cardiomyopathy:HCM)は、高血圧症や弁膜症などほかの心疾患では説明できない“左室ないし右室心筋の肥厚を呈する最も頻度の高い遺伝性心疾患”である(図1)。(図1)肥大型心筋症の定義画像を拡大する左室流出路閉塞(LVOTO)の有無、心不全症状、致死性不整脈リスクなど、その臨床像は極めて多様性に富む。これまでの治療は対症療法が中心であったが、近年、疾患の根源的病態であるサルコメアの機能異常に直接作用する心筋ミオシン阻害薬(Cardiac Myosin Inhibitor:CMI)が登場し、治療は大きな転換期を迎えている。「2025年改訂版 心不全診療ガイドライン」においてもHCMは独立した項目として扱われ、とくに治療アルゴリズムが大きく更新された。本稿では、この最新ガイドラインの知見を基に、HCMの病態、診断、そしてCMIを中心とした最新治療について概説する。最新治療を理解するための病態生理HCMの病態理解は、単なる「心筋の肥厚」から「サルコメアの機能異常」へと深化している。HCMの多くは、心筋収縮の基本単位であるサルコメアを構成する蛋白(βミオシン重鎖、ミオシン結合蛋白Cなど)の遺伝子変異に起因する1)。これらの変異は、心筋ミオシンのATPase活性を亢進させ、アクチンとミオシンが過剰に架橋(クロスブリッジ)を形成する「心筋の過収縮」状態を引き起こす。この過収縮はATPの過剰消費を招き、心筋のエネルギー効率を著しく低下させる。結果として、心筋は相対的なエネルギー欠乏と弛緩障害に陥り、心筋虚血、線維化、そして代償的な心筋肥厚が進行する。この一連の病態カスケードが、LVOTO、拡張障害、不整脈といった多彩な臨床像の根源となっている。CMIをはじめとする最新治療は、この上流にある「サルコメアの過収縮」を是正することに主眼を置いている。最新の診断方法HCMの診断は、画像検査、バイオマーカー、遺伝学的検査を組み合わせた包括的アプローチで行われる。画像診断:心エコー図検査が基本であり、15mm以上の最大左室壁厚(家族歴があれば13mm以上)が診断の契機となる。LVOTO(安静時・バルサルバ法や運動など生理的誘発時圧較差)、僧帽弁収縮期前方運動(systolic anterior movement:SAM)、拡張機能、左房容積などの評価が必須である。心臓MRI(CMR)は、心エコーで評価困難な心尖部等の形態評価に加え、ガドリニウム遅延造影(LGE)による心筋線維化の検出・定量評価に優れる。LGEの存在とその広がりは突然死リスクの重要な修飾因子であり、リスク層別化に不可欠である2)。バイオマーカー:最新のガイドラインでは、BNP/NT-proBNPが全死亡予測や治療モニタリングに有用(推奨クラスIIa)、高感度トロポニンも予後の推測に有用(推奨クラスIIa)とされている。また、肥大型心筋症の鑑別として、血清・尿中のM蛋白(ALアミロイドーシス診断のため)やα-ガラクトシダーゼ活性(α-GAL、ファブリー病診断のため)の測定も推奨されている(推奨クラスI)。遺伝学的検査:2022年に保険収載され、その重要性は増している。原因遺伝子の同定による確定診断、血縁者に対するカスケードスクリーニング(発症前診断)、そして予後予測への応用が期待される。サルコメア遺伝子変異陽性例は陰性例に比して予後不良であることが報告されており、精密医療の実現に向けた重要な情報となる。AI技術の応用:人工知能(AI)は、HCM診断の各側面でその応用が進んでいる。たとえば心電図解析では、AIが人間の目では捉えきれない微細な波形パターンからHCMを極めて高い精度で検出し、専門医が「正常」と判断した心電図からでもHCMを見つけ出す可能性が指摘されている3,4)。また、AIが心エコー図画像から心筋線維化(LGE)の存在を予測したり、CMR画像からLGEを専門家と同等の精度で自動的に定量化したりすることで、リスク評価を支援することが報告されている5-7)。遺伝子検査の分野では、病的意義が不明な遺伝子バリアント(VUS)の病原性を予測するAIモデルにより、HCMの診断率が向上し、家族スクリーニングや治療判断の補助としての有用性が示されつつある8)。治療治療戦略は、LVOTOの有無と左室駆出率(LVEF)に基づき選択される。(図2)(図2)肥大型心筋症の治療フローチャート画像を拡大する1. 閉塞性肥大型心筋症(HOCM)に対する治療LVOTO(安静時または負荷で30mmHg以上)を認める症候性HOCMが薬物治療の主対象となる。薬物療法:LVOTO(安静時または負荷で30mmHg以上)を認める症候性HOCMが薬物治療の主対象となる。第一選択薬として非血管拡張性のβ遮断薬、忍容性がなければ非ジヒドロピリジン系のカルシウム拮抗薬が推奨される(いずれもClass I)。効果不十分な場合、従来Naチャネル遮断薬であるシベンゾリン(保険適用外使用)などが使用されてきた。これに対し、ガイドラインでは新たにマバカムテンがClass Iで推奨された。心筋ミオシン阻害薬心筋ミオシン阻害薬(Cardiac Myosin Inhibitor:CMI)は、心筋収縮の中心的役割を担うサルコメアを標的とした新規治療薬として注目されている。代表的な薬剤には、初の経口選択的CMIであるマバカムテン(商品名:カムザイオス)および次世代CMIとして米国で承認審査中のaficamtenがある9)。CMIは心筋ミオシン重鎖のATPase活性を抑制し、アクチン-ミオシン間の架橋形成を減少させることで濃度依存的に心筋収縮力を低下させる。これにより、心筋過収縮状態のエネルギー効率を改善し、拡張機能の正常化が期待される10,11)。この薬理作用を基盤として、CMIはHCMや、左室駆出率(LVEF)が正常~亢進した心不全(HF with supranormal EF:HFsnEF)など、心筋の過収縮や拡張障害が病態の中核をなす疾患に対する治療薬として注目され、複数のRCTで検証されてきた(表1)。(表1)心筋ミオシン阻害薬を用いた代表的なRCTs画像を拡大するHCMを対象としたRCTでは、CMIが左室流出路圧較差の有意な改善、NT-proBNPの低下、運動耐容能(peak VO2)や症状(NYHAクラス)の改善など、多面的な臨床効果を示している。また近年では、CMI治療中の病態変化を非侵襲的かつ連続的に評価する手法として、AI技術を応用した心電図解析(AI-ECG)の有用性が報告されている。とくに、標準的な12誘導心電図に対して機械学習を用いてHCMの検出や重症度を定量化するAI-ECGスコアは、新たなバイオマーカーとして注目されており、CMI治療のモニタリングツールとしての活用が期待されている12)。さらに、HCMと同様に心筋の過収縮等が関与するHFsnEFにおいても、CMIの応用可能性が検討されている。HFsnEF患者に対して行われたEMBARK-HFpEF試験においては、マバカムテンがNT-proBNP値や心筋トロポニン値の減少と関連し、治療中にLVEFが持続的に低下することは確認されず、安全性に関する一定の知見が得られたと報告されている(表1)。また、NYHAクラスや拡張機能の改善も報告され、次世代CMIであるMYK-224を用いた現在進行中の第II相AURORA-HFpEF試験(NCT06122779)などの結果が待たれている。なお、マバカムテンの使用にあたっては本連載(第2回)でも触れた通り、 日本循環器学会(JCS)からはマバカムテンの適正使用に関するステートメントも発表されており、その導入には厳格な管理体制が求められる。<マバカムテンの適正使用>本剤は心収縮力を低下させるため、適正使用が極めて重要である。対象はNYHA II/III度の症候性HOCM患者で、投与前にLVEFが55%以上であることの確認が必要である。過度のLVEF低下が重大な副作用であり、心エコーでの頻回なモニタリング下で慎重な用量調節が必須とされる。CYP2C19およびCYP3A4で代謝されるため、併用薬にも注意を要する。本剤の管理には、心不全診療ガイドラインのほか、専門医や施設要件を定めた適正使用ステートメントの遵守が求められる。2. 非閉塞性肥大型心筋症(nHCM)に対する治療LVOTOを認めないnHCMの治療はLVEFによって層別化される。LVEF≧50%の場合: β遮断薬やベラパミルなどによる対症療法が中心となる。LVEF<50%(拡張相HCM)の場合: HFrEFの標準治療(ACE阻害薬/ARB/ARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬)が推奨される。3. 非薬物治療薬物治療抵抗性の症候性HOCMに対しては、外科的中隔心筋切除術(Myectomy)や経カテーテル的中隔アブレーション(ASA)といった中隔縮小術がClass Iで推奨されている。このようにCMIの登場は、HCM治療を対症療法から病態そのものを標的とする新たな時代へと導いた。最新の知見とガイドラインに基づいた適正使用により、個々の患者の予後を最大限に改善していくことが、今後のHCM診療における重要なテーマである。 1) Arbelo E, et al. Eur Heart J. 2023;44:3503-3626. 2) Green JJ, et al. JACC Cardiovasc Imaging. 2021;5:370-377. 3) Ko WY, et al. J Am Coll Cardiol. 2020;75:722-733. 4) Desai MY, et al. JACC Clin Electrophysiol. 2025;11:1324-1333. 5) Akita K, et al. Echo Res Pract. 2024;11:23. 6) Fahmy AS, et al. Radiology. 2020;294:52-60. 7) Navidi Z, et al. PLOS Digit Health. 2023;2:e0000159. 8) Ramaker ME, et al. Circ Genom Precis Med. 2024;17:e004464. 9) Chuang C, et al. J Med Chem. 2021;64:14142-14152. 10) Braunwald E, et al. Eur Heart j. 2023;44:4622-4633 11) Hartman JJ, et al. Nat Cardiovasc Res. 2024;3:1003-1016. 12) Siontis KC, et al. JACC Adv. 2023;2:100582.

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アトピー性皮膚炎患者、「治療で症状が良くなると思う」と回答したのは3割のみ/リリー

 日本イーライリリーは7月8日、「アトピー性皮膚炎に関する最新事情~中等症以上の患者さんの治療実態を調査結果から読み解く~」と題したメディアセミナーを開催。同社が実施した中等症以上のアトピー性皮膚炎患者1,015例を対象としたインターネット調査結果を中心に、大塚 篤司氏(近畿大学医学部皮膚科学教室)、俳優の岸谷 五朗氏が講演とトークセッションを行った。治療に対する満足度と新しい治療法への認知度の低さが浮き彫りに 2018年にアトピー性皮膚炎に対する治療薬としては10年ぶりに生物学的製剤が発売されて以降、続々と新薬が登場し治療選択肢が増えている。大塚氏は、「これまでステロイド外用薬だけでは治療がうまくいかなかった患者さんに対して、これらの薬剤をうまく活用することでかゆみのない状態・肌がきれいな状態にもっていくことができるようになっている」と話す。 しかし、今回実施されたアンケート調査では、現在のアトピー性皮膚炎の治療薬に対して「満足している・やや満足している」と回答した患者は37%にとどまり、治療をしていくことでアトピー性皮膚炎の症状が良くなると思うかを聞いた質問では「そう思う・ややそう思う」と答えた患者の割合は31%であった。 さらに、インターネットや本などで最後にアトピー性皮膚炎の治療薬を調べた時期を聞いた質問では、「直近5年よりも前/調べたことはない」との回答が58%を占めた。直近5年間に発売されたアトピー性皮膚炎の新しい全身療法(飲み薬や注射薬など)についてよく知っていると思うかとの質問には、「そう思う・ややそう思う」と回答した患者の割合は12%と低かった。「ベッドに手を縛り付けて寝たことも」岸谷五朗氏が語る生活への影響 幼少期にアトピー性皮膚炎を発症し、現在も治療を続けているという岸谷氏は、「物心ついたときから痒みに悩まされており、寝ている間にかいてしまって起きたときに血だらけだったこともある。高校生のころはかいてしまわないようにベッドの上の部分に手を縛り付けて寝ていた」と話し、化粧をしたり汗をかくことも多い舞台俳優という仕事をするうえでずっと悩まされてきたという。今回の調査でも、「アトピー性皮膚炎により仕事や学業に支障を来したことがある(あてはまる・ややあてはまる)」と回答した割合は57%に上り、睡眠について聞いた質問では「月に10日以上、痒みで睡眠途中に起きてしまう」という回答が29%を占めた。 また、「アトピー性皮膚炎により恋愛に消極的になったことがある(あてはまる・ややあてはまる)」と回答した割合は46%で、「アトピー性皮膚炎の症状が気になって、家族や恋人とのスキンシップをためらったことがある(あてはまる・ややあてはまる)」との回答も45%を占めた。岸谷氏は「幼稚園のフォークダンスのときに、自分の手がガサガサで相手の女の子が驚くことがとても苦痛だった」というエピソードを語り、大塚氏も「症状の出ている手が気になると話す患者さんは多く、それにより対人関係に影響が出ていることもあると思う」と話した。 今回の調査で治療に対する満足度が低かったことについて、岸谷氏自身は現在満足しているとしたうえで、外用薬の種類がたくさんあり、持ち歩かなくてはいけないことはストレスになっていると吐露。大塚氏は、「新しい薬剤を上手く使うことで、外用薬がほとんど必要なくなった患者さんもいる」と話し、認知度が低いことでそれらの治療にたどり着かないケースがあり、その点を改善していくことが今後の課題とした。【調査概要】調査主体:日本イーライリリー株式会社実査:株式会社インテージヘルスケア調査手法:インターネット調査調査地域:日本全国実施期間:スクリーニング調査 2025年3月5日~3月13日本調査 2025年3月28日~4月4日解析対象:18~79歳の中等症以上のアトピー性皮膚炎患者(POEMスコア8点以上、直近1年間にアトピー性皮膚炎の治療を目的とした医師からの処方歴あり)有効回答数:1,015例監修:近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授 大塚 篤司氏

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再発・難治性多発性骨髄腫のBVd療法、DVd療法よりOS延長(DREAMM-7)/Lancet Oncol

 1ライン以上の治療歴のある再発・難治性多発性骨髄腫患者において、ベランタマブ マホドチン+ボルテゾミブ+デキサメタゾン(BVd)併用療法はダラツムマブ+ボルテゾミブ+デキサメタゾン(DVd)併用療法と比較して、全生存期間(OS)でも有意かつ臨床的に意味のあるベネフィットが得られたことが、第III相DREAMM-7試験の第2回中間解析で示された。ブラジル・Clinica Sao GermanoのVania Hungria氏らがLancet Oncology誌オンライン版2025年7月15日号で報告した。 DREAMM-7試験は、北米・南米・欧州・アジア太平洋地域の20ヵ国142施設で進行中の国際非盲検無作為化第III相試験である。1ライン以上の治療歴のある18歳以上かつECOG PS 0~2の多発性骨髄腫患者を対象に、BVd併用療法の有効性と安全性をDVd併用療法と直接比較している。主要評価項目は無増悪生存期間(PFS)で、重要な副次評価項目はOS、完全奏効以上の奏効を示した患者における微小残存病変(MRD)陰性率、奏効期間、後続治療におけるPFS(PFS2)、安全性など。本試験の初回解析(第1回中間解析、追跡期間中央値:28.2ヵ月)では、BVdがDVdと比べ、有意かつ臨床的に意味のあるPFSのベネフィットを示した。今回、追跡期間を延長した第2回中間解析におけるOSの結果を報告した。 主な結果は以下のとおり。・2020年5月7日~2021年6月28日に494例をBVd群(243例)とDVd群(251例)に無作為に割り付けた。年齢中央値は64.5歳(四分位範囲:57.0~71.0)であった。・更新されたデータカットオフ(2024年10月7日)および追跡期間中央値(39.4ヵ月、四分位範囲:14.6~42.9)において、BVd群はDVd群に比べて早期の持続的かつ有意なOSのベネフィットがみられた。・OS中央値は、BVd群はNR(95%信頼区間[CI]:NR~NR)、DVd群はNR(95%CI:41.0~NR)であった(ハザード比[HR]:0.58、95%CI:0.43~0.79、p=0.0002)。・完全奏効以上の奏効を示した患者におけるMRD陰性率は、BVd群が25%(95% CI:19.8~31.0)とDVd群の10%(同:6.9~14.8)の2倍以上高く、奏効期間中央値もBVd群は40.8ヵ月(同:30.5~NR)とDVd群の17.8ヵ月(同:13.8~23.6)の2倍以上長かった。・PFS2中央値は、BVd群がNR(95%CI:45.6~NR)に対し、DVdでは33.4ヵ月(95%CI:26.7~44.9)であった(HR:0.59、95%CI:0.45~0.77)。・最も多かったGrade3/4の有害事象は血小板減少症で、BVd群で56%、DVd群で35%に発現した。重篤な有害事象はBVdで53%、DVdで38%に発現した。 著者らは「BVd併用療法により、OS、PFS、MRD陰性率、奏効期間において、有意かつ臨床的に意味のあるベネフィットが示された。BVd併用療法は再発・難治性多発性骨髄腫の新たな標準治療となる可能性がある」と期待している。

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手術時、視力低下で困っている外科医の割合は?/医師1,000人アンケート

 医師の日常業務は診察や画像読影、手術など目を酷使する内容ばかりである。また、眼科領域の手術として、2000年代から屈折矯正手術(レーシック、眼内コンタクトレンズ[Implantable Contact Lens:ICL])が日本でも認められるようになり、現時点での医師、とくに眼科医の施術率が気になるところである。そこで今回、医師の眼の健康問題に関するアンケートを実施し、日常診療で困っていることや心がけていること、医師のレーシックやICLをはじめとする眼科手術の施術率などについて、会員医師1,024人(30代以上)にアンケート調査を行った。眼科医は屈折矯正手術を受けていない!? Q1「視力矯正のために使用/実施しているものはありますか」における全体の回答は、眼鏡(76.5%)、コンタクトレンズ(25.0%)、レーシック(1.8%)、ICL(0.9%)、なし(13.1%)という結果となった。これを年代別でみると、30代のコンタクトレンズの使用率が最も高く(50.0%)、レーシックは40代(4.6%)、ICLは30代(1.7%)でやや高い傾向を示した。診療科別で見ると、眼鏡とコンタクトレンズの使用率は眼科医が最も高い一方で、レーシックやICLの施術率は眼科医では0%であることも明らかになった。日々悩まされている眼疾患「近視、老眼、乱視」 続いてQ2「現在、困っている眼疾患や症状」では、近視(49.8%)、老眼(44.9%)、乱視(20.8%)、眼精疲労(17.3%)、遠視(9.3%)と続いた。年代別の結果は、30~40代では近視、50代以降は老眼が最大の悩みになっていた。少数意見ではあるが、白内障や緑内障、飛蚊症など加齢が主原因とされる眼疾患も、70代以上の医師の悩みのタネとなっていた。日常診療で不便を感じるのは… Q3「日々の業務において視力等で支障を感じる場面」については、カルテ入力/文書作成など文字を見るとき(41.4%)が最も多く、次いで論文閲覧(29.7%)、検査・処置(24.2%)と続いた。年代別では、60代の約半数でカルテ入力/文書作成に支障を来し、意外にも、50代に並んで30代でも診察や画像読影で不便を感じている声があった。診療科別で見ると、外科系診療医の約30%が手術の際に支障を来し、なかには、「針先確認(40代、小児科)」「カテーテル操作(40代、放射線科)」という具体的な声が挙げられた。 さらに、日々の診察で感じる目の健康に関する課題については、以下のような声が挙がった。「3-0の糸の端が見えない」(60代、泌尿器科)「画像診断を担当していると眼の衰えが早い」(40代、放射線科)「透視システムを使用する診療科なので、少しでも被爆が少なくなるように手技の効率化が図れないか考えている」(40代、脳神経外科) このほかにもアンケート結果ページでは、「施術を受けた/検討している眼科手術」「自身や家族の眼科手術経験から伝えたいこと」「実際に困ったこと」などの回答結果を公開している。アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。視力低下で医師が悩むこと、日常診療への影響

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アリピプラゾールLAIの長期結果〜10年間ミラーイメージ研究

 統合失調症などの精神疾患では、再発が頻繁に発生する。長時間作用型注射剤抗精神病薬(LAI)は、入院予防や服薬アドヒアランス、患者アウトカムの改善に有効であるにもかかわらず、依然として十分に活用されているとはいえない。さらに、新規製剤や縦断的研究によるエビデンスは、一般的に長期投与されているにもかかわらず、限られたままである。このようなデータ不足を解消するため、英国・West London NHS TrustのJoshua Barnett氏らは、長時間作用型製剤として入手可能な唯一の第3世代抗精神病薬アリピプラゾールLAIの月1回投与の長期的な有効性および受容性を評価するため10年間のミラーイメージ研究を実施した。Schizophrenia誌2025年6月23日号の報告。 実用的かつ独立した10年間のミラーイメージ研究は、英国ロンドンの大規模都市部メンタルヘルスサービスにおいて実施した。アリピプラゾールLAI投与を開始した成人患者を対象に、5年間の入院率および治療継続率を評価した。治療開始前後5年間の入院頻度と期間、治療中止率およびその理由は電子記録によって記録された。治療完了群と治療中止群、統合失調症患者と非統合失調症患者でのアウトカムの違いを比較する解析を別途実施した。 主な内容は以下のとおり。・本研究には、合計135例(統合失調症患者:63%、非統合失調症患者:37%)が含まれた。・5年後の治療中止率は47%(1年目:23.7%、2年目:13.6%、3年目:7.9%、4年目:7.3%、5年目:5.3%)であった。・5年間のアリピプラゾールLAI治療を完了した患者は53%であり、治療開始前の5年間と比較し、平均入院回数が88.5%減少(1.57回から0.18回へ減少、p<0.001)、平均入院日数が90%減少した(103日から10日へ減少、p<0.0001)。・入院回数中央値は1回から0回、入院日数中央値は68日から0日に減少した(各々、p<0.001)。・対照的に、治療中止群(47%)はアウトカム不良であり、5年間の入院回数の減少率は29.9%であった。・治療中止の主な理由は、コンプライアンス不良、効果不十分であり、忍容性によるものはほとんどなかった。・他のLAIからアリピプラゾールLAIへの切り替え以外で、治療継続を予測する主な臨床的および人口統計学的因子は認められなかった。・アウトカムは、診断にかかわらず一貫していた。・潜在的な交絡因子として、厳格な適格基準による多くの患者の除外、研究期間中の医療政策の変更などが挙げられる。 著者らは「本研究は、アリピプラゾールLAIによる5年間の治療における入院および治療継続を評価した初めての研究である。アリピプラゾールLAIの使用は、入院回数の大幅な減少と関連しており、治療完了群の85%は再入院の必要がなかったのに対し、治療中止群では30%にとどまった。これらの実臨床における知見は、アリピプラゾールLAIの長期的な価値を裏付けており、臨床意思決定におけるLAI導入の障壁を解消するうえで役立つ可能性がある」としている。

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乳児ドナー心の手術台上での再灌流・移植に成功/NEJM

 米国・デューク大学のJohn A. Kucera氏らは、小児の心停止ドナー(DCD)の心臓を体外(on table、手術台上)で再灌流しレシピエントへの移植に成功した症例について報告した。DCDと再灌流をドナーの体内で行うnormothermic regional perfusion(NRP)法を組み合わせる方法は、ドナー数を最大30%増加させる可能性があるが、倫理的観点(脳循環温存に関する仮説など)からこの技術の導入は米国および他国でも限られており、DCD心臓の体外蘇生を容易にする方法が求められていた。NEJM誌2025年7月17日号掲載の報告。ドナーは生後1ヵ月、レシピエントは生後3ヵ月の乳児 ドナーは、生後1ヵ月(体重4.2kg、身長53cm)で、自宅にて心停止状態で発見され、救急隊到着までの25分間、心肺蘇生(CPR)を受けていなかった。到着後、アドレナリン投与により自発循環が一時的に回復したが、救急外来到着後に再度心停止を起こし、再度アドレナリンにより蘇生された。これ以前には健康に問題はなかったとされている。経胸壁心エコーでは両心室機能は正常、小さな卵円孔開存以外に解剖学的には正常であった。 レシピエントは、生後3ヵ月(体重3.9kg、身長48cm)の乳児で、ウイルス性心筋炎による拡張型心筋症と診断されていた。生後1ヵ月時に心原性ショックを呈し、静脈-動脈体外式膜型人工肺(VA-ECMO)、バルーン心房中隔裂切開術、動脈管開存のデバイス閉鎖術を受けていた。移植前には、壊死性腸炎、脳室上衣下胚芽層出血、低酸素性虚血性脳症の既往があり、搬送前には潜在性発作がみられた。 ドナーとレシピエントはABO血液型が適合し、共にサイトメガロウイルスIgG陽性およびEBウイルスIgG陽性であった。心摘出後の手術台上での再灌流で心移植に成功 手術室では、ドナーの生命維持治療の中止前に、ヘパリン投与を行うとともに、後方手術台で蘇生回路(小児用人工肺、遠心ポンプ、心臓から排出された血液を回収して再循環させるリザーバー)を準備した。 生命維持治療を中止し、心臓死宣言後に5分間の観察期間をおいたうえで、心臓を摘出し、蘇生回路に接続して動脈カニューレから37℃の血液を10mL/kg注入した。心臓はすぐに洞調律で拍動を開始し、冠動脈の灌流も良好で、心機能は正常と評価された。観察期間終了から心臓摘出まで3分38秒、摘出から再灌流まで1分32秒、蘇生時間は合計5分39秒であった。移植に適格と判断し、del Nido心筋保護液を注入して再度心停止を誘導し、冷却保存した。移植までの冷却保存時間は約2時間19分、冷虚血時間は合計2時間43分であった。 その後、移植手術は合併症なく終了した。レシピエントは、術後1日目の心エコーでは弁機能および両心室機能ともに異常は認められなかった。術後6日目に昇圧薬から離脱、術後7日目に抜管し、術後28日目には集中治療室(ICU)から退室、術後2ヵ月後には経口摂取が安定した状態で退院した。 有害事象は、術後2日目の経腸栄養開始後の腹部膨満(投与中止)、6日目の発熱(血液培養陰性、抗菌薬投与開始)、7日目および30日目の目標経管栄養速度での嘔吐、32日目および40日目の嘔吐であった。 本報告時点(術後3ヵ月)において、最新の心エコー検査でも正常な心機能が維持されており、移植片機能不全や急性細胞性または抗体介在性拒絶反応のいずれも認められていない。

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HRR欠損去勢抵抗性前立腺がん、タラゾパリブ+エンザルタミドがOS改善(TALAPRO-2)/Lancet

 相同組換え修復(HRR)遺伝子の欠損を有する転移のある去勢抵抗性前立腺がん患者(mCRPC)において、タラゾパリブ+エンザルタミドの併用療法はエンザルタミド単独療法と比較して、全生存期間(OS)を有意に改善し、HRR欠損mCRPCに対する標準治療としてこの併用療法が支持されることを、フランス・University of Paris-SaclayのKarim Fizazi氏らが、第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験「TALAPRO-2試験」のHRR欠損コホートの最終解析結果で報告した。mCRPCは依然として治癒困難であり、とくにHRRに直接的または間接的に関与するDNA損傷修復遺伝子異常を有する患者では進行が速い。TALAPRO-2試験の主要解析では、HRR欠損を有する患者においてタラゾパリブ+エンザルタミド併用療法がエンザルタミド単独療法と比較して画像上の無増悪生存期間(rPFS)を有意に改善したことが示されたが、同解析時点ではOSのデータが未成熟であった。Lancet誌オンライン版2025年7月16日号掲載の報告。HRR欠損コホートでタラゾパリブ+エンザルタミドvs.エンザルタミド+プラセボ TALAPRO-2試験のHRR欠損コホートには、26ヵ国142施設から患者が登録された。本試験の対象は、18歳以上(日本は20歳以上)の無症候性または軽度症候性のmCRPCで、アンドロゲン除去療法を継続中かつCRPCに対する延命目的の全身療法歴のない患者であった。HRR遺伝子変異を前向きに評価した後、HRR遺伝子変異の状態(欠損vs.非欠損または不明)ならびに去勢感受性に対する治療歴(ありvs.なし)で層別化し、タラゾパリブ0.5mg+エンザルタミド160mgまたはエンザルタミド+プラセボを1日1回経口投与する群に無作為に1対1で割り付けた(エンザルタミドのみ非盲検下で投与)。 主要評価項目は、盲検下独立中央判定によるrPFSであり、重要な副次評価項目はOSであった。いずれもITT集団で評価した。 OSの解析はrPFSが統計学的に有意な改善を示した場合にのみ階層的逐次手順に従って実施され、HRR欠損コホートにおけるOS最終解析時点の有意水準はO’Brien-Fleming型消費関数に基づきp≦0.024(層別化log-rank検定、両側)とされた。OS中央値、タラゾパリブ群45.1ヵ月、対照群31.1ヵ月 2018年12月18日~2022年1月20日に、HRR欠損mCRPC患者399例が無作為化された(タラゾパリブ+エンザルタミド群200例[タラゾパリブ群]、エンザルタミド+プラセボ群、199例[対照群])。 追跡期間中央値44.2ヵ月(四分位範囲:36.0~50.8)において、タラゾパリブ群は対照群と比較しOSを有意に改善した(ハザード比[HR]:0.62、95%信頼区間[CI]:0.48~0.81、p=0.0005)。OS中央値は、タラゾパリブ群45.1ヵ月(95%CI:35.4~未到達)、対照群は31.1ヵ月(27.3~35.4)であった。 サブグループ解析の結果、BRCA1/2変異を有する患者集団(155例[39%])では、OS中央値はタラゾパリブ群未到達、対照群28.5ヵ月(HR:0.50、95%CI:0.32~0.78、p=0.0017)、4年OS率はそれぞれ53%、23%であり、BRCA1/2変異のない患者集団(244例[61%])では、OS中央値はそれぞれ42.4ヵ月、32.6ヵ月(HR:0.73、95%CI:0.52~1.02、p=0.066)であった。 rPFSもタラゾパリブ群が対照群より優れていた(rPFS中央値:30.7ヵ月vs.12.3ヵ月、HR:0.47、95%CI:0.36~0.61、p<0.0001)。 新たな安全性上の懸念は確認されなかった。タラゾパリブ群で多くみられたGrade3以上の有害事象は、貧血(86例[43%]vs.9例[5%])、好中球減少症(39例[20%]vs.2例[1%])であった。

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糖尿病の新たな食事療法「DASH4D」で血圧も低下

 高血圧予防のための食事スタイルとして歴史のある「DASH」を糖尿病患者向けにアレンジした、「DASH4D(Dietary Approaches to Stop Hypertension for Diabetes)」の有効性が報告された。米ジョンズ・ホプキンス大学のLawrence Appel氏らの研究によるもので、詳細は「JAMA Internal Medicine」に6月9日掲載された。 Appel氏は、「血圧は、コントロールすべき最も重要な検査値の一つだ。数値が高いほど脳卒中や心臓病のリスクが高まる」と解説。そして、「この研究の参加者の多くは既に複数の降圧薬を服用していたが、それにもかかわらず食事スタイルを変更することで、さらに血圧が低下した」と述べている。 従来のDASHは、果物、野菜、低脂肪乳製品を豊富に摂取し、飽和脂肪酸とコレステロールの摂取量を減らすことで、血圧をコントロールする。一方、新たに開発されたDASH4Dは、DASHの基本を維持しながら炭水化物を減らし、不飽和脂肪酸の摂取を増やすような変化を加え、これにより血圧とともに血糖値の管理にも役立つという。論文の筆頭著者である同大学のScott Pilla氏によると、「DASH食は長年用いられてきており、高血圧の標準的な治療の一部となっている。しかし、DASHを糖尿病患者向けにアレンジするというアプローチは、これまであまり研究されていなかった」とのことだ。 この研究は、収縮期血圧(SBP)が120~159mmHg、拡張期血圧(DBP)が100mmHg未満の成人2型糖尿病患者を無作為に4群(低ナトリウム〔Na〕のDASH4D、高NaのDASH4D、典型的な米国人の低Na食、典型的な米国人の高Na食)に分類して、血圧の変化を比較した。参加者102人のうち85人(83.3%)が5週間の介入期間を脱落せず終了。その平均年齢は66±8.8歳、女性66%で、介入前のSBP/DBPは135±9/75±9mmHgであり、66%の参加者に2剤以上の降圧薬が処方されていた。 介入後、低NaのDASH4D群は典型的な米国人の高Na食群と比較して、SBPが4.6mmHg(95%信頼区間7.2~2.0)、DBPは2.3mmHg(同3.7~0.9)低下していた。過去の研究データを参照すると、糖尿病患者のSBPが5mmHg低下した場合、脳卒中リスクは14%、心不全リスクは8%減少することが予想されるという。なお、降圧薬を用いた治療を行った場合には通常、SBPが10mmHg程度低下するとのことだ。 Pilla氏は、「本研究に続く次のステップは、われわれが得た知見を糖尿病患者に伝え、食事スタイルを通して健康的な変化が起きるようにサポートしていくことだ。多様な文化や食習慣を背景とする多くの人たちが、このDASH4Dを手間やコストをかけずに、日常生活へ取り入れられるようにしていく必要がある」と述べている。

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食物繊維の豊富な食事は動脈硬化リスクを抑制する

 野菜、穀物、豆類、その他の高繊維食品を多く摂取することが、腸だけでなく心臓の健康にも役立つことが、新たな研究で明らかになった。食物繊維の少ない食事を摂取している人では、プラークの蓄積によって動脈が狭くなる可能性の高いことが示されたという。ルンド大学(スウェーデン)心臓病学教授のIsabel Goncalves氏らによるこの研究結果は、「Cardiovascular Research」に6月16日掲載された。 Goncalves氏は、「人々の冠動脈CT血管造影法(冠動脈CTA)の画像と食事パターンを照合したところ、食事パターンは冠動脈プラークの存在だけでなく、高リスクとされるプラークの特徴にも関連していることが明らかになった」と同大学のニュースリリースで述べている。 米国心臓協会(AHA)によると、コレステロールと脂肪はプラークの形成に寄与し、プラークが原因で血流が減少したり途絶えたりするアテローム性動脈硬化症(以下、動脈硬化)につながる。今回の研究では、スウェーデンの心臓と呼吸器に関する大規模研究であるSwedish CArdioPulmonary BioImage Study(SCAPIS)に参加した50〜64歳の2万4,079人のデータを用いて、食事パターンと動脈硬化との関連が検討された。参加者は、2013年から2018年の間にこの研究に登録されており、登録時点で心臓の健康問題を抱えている者はいなかった。参加者の摂取食品に関する調査結果に基づき、抗炎症作用があるとされる食事パターンに基づいた食事指標である食事指数(DI)を算出し、DIが最も高い群(健康的な食事パターン)から最も低い群(不健康な食事パターン)の3群に分類した。また、冠動脈CTAにより冠動脈プラークの評価を行い、動脈硬化の有無や冠動脈カルシウムスコア、狭窄率など冠動脈疾患に関連する6つの指標が評価された。 解析の結果、動脈プラークが認められた割合は、DIが最も低い群で44.3%であったのに対し、DIが最も高い群では36.3%であることが明らかになった。また、50%以上の狭窄が認められた割合は、DIが最も低い群で6.0%、最も高い群で3.7%、石灰化を伴わず(非石灰化)かつ50%以上の狭窄を伴う高リスクプラークが認められたのは、それぞれ1.5%と0.9%であった。 こうした結果を受けてGoncalves氏は、「われわれの研究結果は、食物繊維の少ない不健康な食事パターンが体と代謝に変化をもたらし、それがプラークの形成につながる可能性があることを示唆している」と述べている。 研究グループは、食物繊維は健康的な食生活に大きな役割を果たすものの、心臓の健康を高めるためには、食事の他の要素も考慮する必要があると話す。論文の筆頭著者であるヨーテボリ大学(スウェーデン)のIngrid Larsson氏は、「健康を決定付けるのは、単一の食品ではなく全体的な食事パターンだ。野菜、果物、全粒穀物、食物繊維が豊富な食品、ナッツ類、低脂肪乳製品、オリーブ油などを多く摂取し、赤肉、加工肉、ポテトチップスなどのスナック菓子、甘い飲み物を控えた食生活は、高リスクプラークの少なさと関連している」とニュースリリースの中で述べている。

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家族が立ち会えること【非専門医のための緩和ケアTips】第104回

家族が立ち会えることお看取りの際、「家族が間に合うかどうか」という点が議論になる場面はしばしばあります。多くの医療者は「間に合わせてあげたい」と感じると思うのですが、実際は難しいことも多いですよね。今回の質問救急対応中、もう亡くなりそうな状態で搬送されてきた高齢患者さん。心停止時はDNRと決まっていたのですが、家族は到着まで1時間以上かかるとのこと。昇圧薬を使用して介入しましたが、結局、家族の到着を待たず心停止に至りました。私としては何とか会わせてあげたかったのですが、ほかのスタッフからは「昇圧薬を使用するのは過剰だったのでは?」という声もありました。答えの出ない問題だとは思いますが、緩和ケアの専門医としてはどのように考えますか?私も救急の業務をすることがあるので、質問者の方の状況はよくわかります。また、こういった急な死別でなくても、「最期は家族に立ち会わせてあげたい」と考えるスタッフは、緩和ケア領域にも多くいます。この議論を考えるうえで興味深い研究があるので紹介します。オランダの研究で、「家族からみた望ましい死」はどういった要因と関係があったかという調査です。この中に「家族の立ち会い」にも触れられています1)。結論からいえば、「家族の立ち会い」の要素は、家族が「望ましい死と感じたかどうか」に関連しませんでした。では何が関連したかといえば、「家族がお別れを言えた」という要素です。もちろん、これはオランダの調査なので、日本人で同じ調査をしたら結果は異なるかもしれません。ここからは私見になりますが、この結果をみた時に私が考えたのは「最期に立ち会えるかはさまざまな要素に左右されるが、たとえ心停止に間に合わなくても、別れを告げる場を提供することはできる」ということです。ここからはさらに私個人の意見になります。「立ち会わせてあげたい」と思うのは当然の感情ですが、家族が遠方にいたり予想しない経過やタイミングで患者さんが亡くなったりすることは、医療者が頑張って何とかなる問題ではありません。私も実家から離れて暮らしているので、「親の死に目に会えない」ことを心の片隅で覚悟しています。これは私と親の生活、もっといえば人生レベルの選択の結果として発生している状況です。「死に目に会えるか」という、医療以外の要素も大きく関わる問題とその結果を、医療者がすべて背負い込む必要はありません。丁寧にすべき配慮をしていれば、たとえ最期に間に合わなかったとしても自分たちの対応を責める必要もありません。こう言うと、少しドライに感じられるかもしれません。ただ、「死に目に会わせてあげたい」という気持ちが強すぎると、それが果たせなかった時に「残念なお看取りだった」という印象を家族に与えてしまうことがあります。間に合わなくとも、「最期にお別れを言うために、何の支援ができるか」を考えるほうが、つらい状況に直面した家族に対する本質的な支援だと思います。今回のTips今回のTips望ましい死とは何かといった観点から、家族が立ち会えることについて考えてみるのも良いかもしれません。1)Witkamp FE, et al. J Pain Symptom Manage. 2015;49:203-213.

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第272回 希少疾患の専門医が抱える本当の課題~患者レジストリ維持の難しさ

昨今、「希少疾患」という単語を耳にする機会は増えた。そもそも希少疾患の定義は、国によってもまちまちと言われるが、概して言えば患者数が人口1万人当たり1~5人未満の疾患を指すと言われる。また、日本国内の制度で言うと、こうした希少疾患の治療薬は、通称オーファン・ドラッグと言われ、患者数が少ないために製薬企業が開発に二の足を踏むことを考慮し、オーファン・ドラッグとして指定を受けると公的研究開発援助を受けられる制度が存在する。同制度での指定基準は国内患者数が5万人未満である。この希少疾患に関する情報に触れる機会が増えたのは、製薬企業の新薬研究開発の方向性が徐々にこの領域に向いているからである。背景には、これまで多くの製薬企業の研究開発に注力してきたメガマーケットの生活習慣病領域でそのターゲット枯渇がある。そして希少疾患への注目が集まり始まるとともに新たに指摘されるようになったのが、「診断ラグ」。希少疾患は、患者数・専門医がともに少なく、多くは病態解明が途上にあるため、患者が自覚症状を認めてもなかなか確定診断に至らない現象である。そして取材する私たちも希少疾患の情報に触れる機会が増えながらも、ごく一般論的なことしか知らないのが現状だ。正直、わかるようなわからないようなモヤモヤ感をこの数年ずっと抱え続けてきた。そこで思い切って希少疾患の診療の最前線にいる専門医にその実態を聞いてみることにした。話を聞いたのは聖マリアンナ医科大学脳神経内科学 主任教授の山野 嘉久氏。山野氏が専門とするのは国の指定難病にもなっている「HTLV-1関連脊髄症(HAM)」。HTLV-1はヒトT細胞白血病ウイルス1型のことで、九州地方にキャリアが集中している。HAMはHTLV-1キャリアの約0.3%が発症すると言われ、全国に約3,000人の患者がいると報告されている。HAMはHTLV-1感染をベースに脊髄で炎症が起こる疾患で、初期症状は▽足がもつれる▽走ると転びやすい▽両足につっぱり感がある▽両足にしびれ感がある▽尿意があってもなかなか尿が出にくい▽残尿感がある▽夜間頻尿、など。急速に進行すると、最終的には自力歩行が困難になる。現在、HAMに特異的な治療薬はなく、主たる治療は脊髄の炎症をステロイドにより抑えるぐらいだ。以下、山野氏とのやり取りを一問一答でお伝えしたい。INDEX―まずHAMの診断では、どれほど困難が伴うのか教えてください―確定診断までの期間がこの20年ほどで半分に短縮されています―それでも初発から確定診断まで2~3年を要するのですね―山野先生の前任地・鹿児島はHAMが発見された地域で、患者さんが多いと言われています―関東に赴任してHAM診療の地域差を感じますか?―ガイドラインができたのはいつですか?―HAMの早期段階の症状から考えれば、事実上のゲートキーパーは整形外科、泌尿器科あるいは一般内科の開業医になると思われます―では、診断ラグや治療の均てん化を考えた場合、現状の医療体制をどう運用すれば最も望ましいとお考えでしょう?―そのうえで非専門の医療機関・医師が希少疾患を見つけ出すとしたら何が必要でしょう―もっとも日本国内では開業医の電子カルテ導入率も最大60%程度と言われ、必ずしもデジタル化は進んでいません― 一方、希少疾患全体で見ると、新薬開発は活発化していますが、従来の大型市場だった生活習慣病領域で新薬開発ターゲットが枯渇したことも影響していると思われますか―その意味で国の希少疾患の研究に対する支援についてどのようにお考えでしょう?―まずHAMの診断では、どれほど困難が伴うのか教えてくださいHAMでは疾患と症状が1対1で対応しておらず、複数の症状が重なり、かつ症状や進行に個人差があります。このような状況だと、医療に不案内な患者さんはそもそもどの診療科を受診するべきかがわからないという問題が生じます。高齢の患者さんでありがちな事例を挙げると、まず歩行障害や下肢のしびれを発症すると、老化のせいにし、医療機関は受診せず、鍼灸院に通い始めます。それでも症状が改善しなければ整形外科を受診します。また、排尿障害が主たる患者さんは最終的に泌尿器科に辿り着きます。しかし、半ば当然のごとく受診段階で患者さんも医師もHAMという疾患は想定していません。結果としてなかなか症状が改善せず、医療機関を何軒か渡り歩き、最終的に運よく診断がつくのが実際です。私たちはHAMの患者さんの症状や検査結果などの臨床情報や、血液や髄液などの生体試料を収集し、今後の医学研究や創薬へ活用する患者レジストリ「HAMねっと」を運営していますが、そのデータで見ると1990年代は初発から確定診断まで平均7~8年を要していました。それが2010年代には2~3年に短縮されています。―確定診断までの期間がこの20年ほどで半分に短縮されています2008年にHAMが国の指定難病となったこと、前述の「HAMねっと」の充実、専門医による全国の診療ネットワーク構築など、さまざまな周辺環境が整備され、それとともに啓発活動が進展してきたことなど複合的な要素があると考えています。―それでも初発から確定診断まで2~3年を要するのですねまさに今日受診された患者さんでもそれを経験したばかりです。他県の大学病院で診断がつき、治療方針決定のため紹介を受けた患者さんですが、2018年に排尿障害、2020年から歩行障害が認められ、車いすで来院されました。この患者さんは2年程前に脊髄小脳変性症との診断を受けていました。HAMは脊髄が主に障害されますが、実は亜型として小脳でも炎症を起こす方がいます。こうした症例は数多く診療している専門医でなければ気付けないものです。こういうピットホールがあるのだと改めて実感したばかりです。―山野先生の前任地・鹿児島はHAMが発見された地域で、患者さんが多いと言われていますおっしゃる通りで、加えて神経内科医が多い地域でもあるため、大学病院ではHAMの患者さんを診療した経験のある医師が少なくありません。そうした医師が県内各地の病院に赴任しているので、HAMの初期症状と同じ症状の患者さんが来院すると、HAMを半ば無意識に疑う癖がほかの地域よりも付いています。そのため確定診断までの期間が短いと思います。―関東に赴任してHAM診療の地域差を感じますか?2006年に赴任しましたが、当初はかなり感じました。具体例を挙げると、診断ラグよりも治療ラグです。HAMの患者さんの約2割は急速に進行しますが、一般的な教科書的記述では徐々に進行する病気とされています。その結果、HAMと診断された患者さんが、どんどん歩けなくなってきていると訴えても、主治医がゆっくり進行する病気だから気にしないよう指示し、リハビリ療法が行われていた患者さんを診察したことがあります。この患者さんは髄液検査で脊髄炎症レベルが非常に高く、進行が早いケースで早急にステロイド治療を施行すべきでした。また、逆に炎症がほとんどなく、極めて進行が緩やかなタイプにもかかわらず大量のステロイドが投与され、ステロイドせん妄などの副作用に苦しんでいる事例もありました。当時は診療ガイドラインもない状態だったのですが、このように診断ラグを乗り越えながら、鹿児島などで行われていた標準治療の恩恵を受けていない患者さんを目の当たりにすることが多かったのをよく覚えています。HAMの患者数は神経内科専門医よりはるかに少ない、つまりHAMを一度も診療したことがない神経内科専門医もいます。そのような中で確定診断に至る難易度が高いうえに、適切な情報が不足している結果として主治医によって治療に差があるのは、患者さん、医師の双方にとって不幸なことです。だからこそ絶対にガイドラインを作らなければならないと思いました。―ガイドラインができたのはいつですか?2019年1)とかなり最近です。2016年から3年間かけて作成しました。実はガイドライン作成自体は、エビデンスが少ないことに加え、ガイドラインという響きが法的拘束力を想起させるなどの誤解から反対意見もありました。実際のガイドラインではエビデンスに基づき、わかっていることわかっていないことを正確に記述し、現時点で専門家が最低限推奨した治療を記述し、医師の裁量権を拘束するものでもないということまで明記しました。―HAMの早期段階の症状から考えれば、事実上のゲートキーパーは整形外科、泌尿器科あるいは一般内科の開業医になると思われます一般内科医の場合、日常診療では新型コロナウイルス感染症を含む各種呼吸器感染症全般、腹痛など多様な疾患を診療している中に神経疾患と思しき患者さんも来院している状況です。その中でHAMの患者さんが来院したとしても、限られた診療時間でHAMを思い浮かべることはかなり困難です。最終的には自分の範囲で手に負えるか、負えないかという線引きで判断し、手に負えないと判断した患者さんを大学病院などに紹介するのが限界だと思います。―では、診断ラグや治療の均てん化を考えた場合、現状の医療体制をどう運用すれば最も望ましいとお考えでしょう?希少疾患の場合、数少ない患者さんが全国に点在し、疾患によっては専門医が全国に数人しかいないこともあります。極論すれば、現状では専門医がいる地域の患者さんだけが専門的医療の恩恵を受けやすい状況とも言えます。その意味でまず優先すべきは、各都道府県に希少疾患を診療する拠点を整備することです。そのことを体現しているのが、2018年から整備が始まった難病診療連携拠点病院の仕組みです。一方で希少疾患に関しては、従来から専門医が軸になったネットワークが存在します。手前味噌ですが、先ほどお話しした「HAMねっと」もその1つです。HAMの場合、確定診断に必要な検査のうちいくつかは保険適用外のため、全国各地にある「HAMねっと」参加医療機関では研究費を利用し、これらの検査を無料で実施できる体制があります。現状の参加医療機関は県によっては1件あるかないかの状況ですが、それでも40都道府県をカバーできるところまで広げることができました。ただ、前述した難病診療連携拠点病院と「HAMねっと」参加医療機関は必ずしも一致していません。その意味では希少疾患専門医、国の研究班、難病診療連携拠点病院がより緊密に連携する体制構築を目指していくことがさらに重要なステップです。このように受け皿を整備すれば、ゲートキーパーである開業医の先生方も診断がつきにくい患者をどこに紹介すればよいかが可視化されます。それなしに「ぜひ患者さんを見つけてください」と疾患啓蒙だけをしても、疑わしい患者の発見後、どうしたらいいかわからず、現場に変な混乱を招くリスクもあると思います。―そのうえで非専門の医療機関・医師が希少疾患を見つけ出すとしたら何が必要でしょうやはり昨今の技術革新である人工知能(AI)を利用した診断支援ツールの実用化が進めば、非常に有益なことは間違いないと思います。そもそもAIには人間のような思い込みがありませんから、たとえば脊髄障害があることがわかれば、自動検索で病名候補がまんべんなく上がってくるというシンプルな仕組みだけで見逃しが減ると思います。そのようになれば、迅速に専門医に紹介される希少疾患患者さんも増えていくでしょう。―もっとも日本国内では開業医の電子カルテ導入率も最大60%程度と言われ、必ずしもデジタル化は進んでいません国がどこまで医療DXを推進しようとしているかは、率直に言って私にはわかりません。ただ、医療DXが進展しやすい土俵・環境を作る責任は国にあると思います。その意味では先進国の中で日本がやや奥手となっている医療機関同士での患者情報共有の国際標準規格「FHIR」の導入推進が非常に重要です。それなしでAIによる診断支援ツールの普及は難しいとすら言えます。また、こうした診断支援ツールの開発では、開発者がきちんとメリットを得られるルール作りも必要でしょう。― 一方、希少疾患全体で見ると、新薬開発は活発化していますが、従来の大型市場だった生活習慣病領域で新薬開発ターゲットが枯渇したことも影響していると思われますか 率直に言って、希少疾患領域に関わっていると今でも太陽の当たる場所ではないと思うことはあります(笑)。その意味で新薬開発が進んでこなかった背景には技術的な問題とともに企業側の収益性に対する考えはあったと思います。もっとも昨今では技術革新により新規化合物デザインも進化し、希少疾患でも遺伝子へのアプローチも含め新たな創薬ターゲットが解明されつつあります。その意味ではむしろ新薬開発も今後は希少疾患の時代となり、30年後くらいは多くの製薬企業が希少疾患治療薬で収益を上げる時代が到来しているのではないかと予想しています。HAMについて言えば、いまだ特異的治療薬はありませんが、もし新薬が登場すれば診断ラグもさらに短縮されると思います。やはり治療薬があると医師側の意識が変わります。端的に言えば「より良い治療があるのだから、より早く診断をつけよう」というインセンティブが働くからです。そして、先程来同じことを言ってしまうようですが、やはりこの点でも、新薬開発が進む方向への誘導や希少疾患の新薬開発の重要性に対する国民の理解促進のために、国のサポートは重要だと思うのです。―その意味で国の希少疾患の研究に対する支援についてどのようにお考えでしょう?そもそも希少疾患は数多くあるため、公的研究費の獲得は競争的になりがちです。一般論では投じられる資金が多いほど、病態解明や新規治療開発は進展しやすいとは思いますが、ただ湯水のように資金を投じればよいかと言えばそうではありません。あくまで私見ですが、日本での希少疾患研究支援は、有力な治療法候補が登場した際の実用化に向けた支援枠組みは整いつつあると思っています。反面、基盤的な部分、HAMの例で言えば、患者レジストリ構築のような部分への支援は弱いと考えています。私たちは臨床データを電子的に管理すると同時に患者検体もバンキングしています。これらがあって初めてゲノム解析などによって病態解明や治療法開発の研究が可能になるからです。つまり患者レジストリは研究者にとって一丁目一番地なのです。しかし、その構築と維持は非常にお金がかかります。一例を挙げれば、「HAMねっと」で検体保管に要している液体窒素代は年間約500万円です。しかも、患者レジストリの構築と維持の作業からは直接成果が得られるわけではないのです。このために製薬企業などの民間企業が資金を拠出することは考えにくいです。結局、私も当初は外来終了後にポチポチとExcelの表を作成し、検体を遠心分離機にかけるという作業をやっていました。こうした患者レジストリを国によるコストや労力の支援で構築できるようになれば、多くの希少疾患でレジストリが生み出され、日本が世界に誇る財産にもなり得ます。もっとも先程来、「国」に頼り過ぎているきらいもあるので、国だけでなく企業、患者さんとも共同でこうした基盤を育てていく活動が必要なのではないかと考えています。恥ずかしながら、診断ラグのみならず治療ラグが存在すること、患者レジストリ構築の苦労やその重要性などについては私にとっては目からウロコだった。山野氏への取材を通じ、私個人はこの希少疾患問題をかなり狭くきれいごとの一般論で捉えていたと反省しきりである。 1) 日本神経学会:HTLV-1関連脊髄症(HAM)診療ガイドライン2019

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マッチング直前!採用者が本当に求める○○ない人【研修医ケンスケのM6カレンダー】第4回

マッチング直前!採用者が本当に求める○○ない人さて、お待たせしました「研修医ケンスケのM6カレンダー」。この連載は、普段は初期臨床研修医として走り回っている私、杉田研介が月に1回配信しています。私が医学部6年生当時の1年間をどう過ごしていたのか、月ごとに振り返りながら、皆さんと医師国家試験までの1年をともに駆け抜ける、をテーマにお送りして参ります。この原稿を書いているただいまは2025年7月中旬で、久しぶりの雨の数日間を経て、ようやく晴れの日が戻ってきました。余談ですがやはり雨が続くと救急外来のWalk-Inは減りますね。皆さまいかがお過ごしでしょうか。連載がスタートして4本目。何となく私の言葉やリズム感に慣れてきた読者の方がいらっしゃると嬉しいです。改めて、この連載では当時を懐かしみながら、あの時の自分へ何を話しかけるのか、皆さんの6年生としての1年間が少しでも良い思い出になる、そんなお力添えができるように頑張って参りますので、ぜひ引き続き応援のほどよろしくお願い申し上げます。(雨上がりのじめっとした夏の日には、やっぱりジェラートでしょ!)7月にやること:採用者視点に必ず立つさて、7月は先月の予告通りマッチング、とくに面接試験について徹底攻略したいと思います。卒業資格を得て医師国家試験に合格すれば医師免許を取得できる。しかし、研修医として働くには社会人・労働者として臨床研修指定病院に雇ってもらわなければならない。当然の話ですが、この前提がマッチング攻略の基本中の基本で、大切な考え方です。毎月準備すべきことをお伝えしていますが、面接を控える方への7月のメッセージはたった1つです。「自分が選ぶ」という視点だけでなく、「選ばれる側である」という視点を忘れないこの視点で面接準備を進めてほしいです。初期臨床研修マッチングの仕組みまず、皆さんが挑むマッチング制度についておさらいから。学生は全国の臨床研修指定病院を第1〜第n希望まで登録する。病院側も「採用したい学生の順番」を提出し、Gale-Shapleyという安定マッチングのアルゴリズムを用いて、コンピューターが相互希望順位に基づいて組み合わせを決定します。これにより「お互いに最も納得できる組み合せ」が成立する仕組みです。ここからが本題です。仕組みから考えると、(とくに人気病院の)マッチングで勝つには、「応募者がどんな人か」以上に「応募者が病院にフィットするか」 が重視されることが推察されます。そこから逆算して、採用する側の視点を盛り込むことが対策には欠かせません。人を雇うリスク(みなさんは土用の丑の日に鰻に並びますか?)マッチングの仕組みをおさらいしましたが、少し脱線します。世間一般的な話として終身雇用が厳しい、と言われているのは周知の事実と思います。実際に人を雇ったことがないので綺麗な一次情報ではないのですが、株式投資をしていると学ぶことがあります。株式を保有するということはその企業のオーナーの1 人になるということです。そして簡潔に話すと、その保有した株の価格は企業の利益に応じて上下することがほとんどです。利益=売上-経費とすると、高い売上に、低い経費、という状況が最も利益が上がる時です。経費が低ければ利益は増える方に傾きますし、固定費を下げれば増える利益は安定化しやすいのは算数ですね。せっかく保有した株価が増えてほしいと思うなら、算数として固定費は下げてほしいはず。では株式会社とは誰のものでしょうか。社長?理事長?いいえ、株主のものです。話が深くなるので簡単に説明しますが、経費の中には人件費が含まれます。皆さんが研修医として働いた場合に給料を貰いますが、その給料こそが病院にとっての人件費の一部です。周りくどくなりましたが、病院にとって皆さんを採用することはリスクとも言えます。ここが学生と研修医で大きく異なるところで、マッチングにおいて重要なことです。つい昨日まで現場を知らない学生だった研修医は当然教育コストもかかり、そのための指導医の時間も必要です。なのに「せっかく採用したのに、すぐ辞めた」「まったくチームに馴染まなかった」──そんな事態は避けたい。だからこそ、病院は「辞めない人」「組織にフィットする人」を選びたいのです。「この人なら、うちでやっていけそうだ」と思ってもらうことが、面接突破には欠かせません。自分の将来像と病院の研修方針をリンクさせるこの視点を持っていると、自ずと病院の理念や研修方針を見直して面接準備をすることにつながるはずです。受験する病院ごとに必ず確認・見直しましょう。しかし、今更ではありますが病院ごとにすべてを迎合する必要はありません。医師キャリア・人生において大切な初期臨床研修の2年間なのですから、面接突破のためだけに自らの価値観や理念を我慢することはありません。きっとこれまで多くの病院を見比べたり、実習に臨む中で「手にした医師免許をどのように活用するのか/社会に役立てるか」「どんな医師になりたいのか」を考える機会があったはずです。そのプロセスとして「初期研修で何を学びたいのか」を言語化することが重要です。どの病院を受験する時も、自分の今現在として主張しましょう。その上で、それぞれの病院の方針が、自分の初期研修での目標や医師として目指すキャリアにどう当てはまりそうと期待しているのか、逆に自らは病院に対してどのような貢献ができるのかを述べるとかなり筋が通ります。表現の仕方は工夫が必要ですが、何を感じ考えているのか、は皆さんのオリジナリティで正解不正解はありません。どんな目標でも構いませんし、まだ決まっていない悩んでいる状況なら、それを主張すれば良いのです。見た目が9割!?(先日の外科学会にて。スーツはネイビー、と決めています)ここまで何を考え、主張すべきか、について述べましたが、最後にもう1つ。とくに男性の皆さん、見た目に気を配りましょう。面接時間はせいぜい15分程度。入室した瞬間の第一印象は非常に重要です。内容がどれほど充実していても、第一印象でマイナスとなれば聞いてもらえる耳を失いかねません。フェア会場や見学時、実際の面接会場でもそうでしたが、男子学生の方の身嗜みで気になってしまうことが多々ありました。面接なので当然ネクタイを締めたスーツスタイルですが、こんな方が少なくなかったのが今でも衝撃的です。そもそもネクタイをしていない/ネクタイがきちんと締まっていない着ているシャツがヨレヨレ/パンツからはみ出ているパンツが黒デニム革靴ではなくスニーカー靴下がスポーツ用/左右で色が反対髪の毛がボサボサ/唇がガサガサ猫背で声がハッキリと聞こえない同じ就職活動でも、他学部の方ほど厳しくはないのがマッチング/医学部界隈であるのはそうですが、上記は流石にあんまりです。皆さん、面接へ行くときには必ず鏡をチェック、内容+見た目の両輪を意識しましょう。今月のまとめいかがだったでしょうか。緊張することと思いますが、しっかり準備していれば大丈夫です。面接では無理に迎合する必要はないとお伝えしましたが、むしろ働き始めてからこそ、自分らしさと職場との相性が問われる重要な時期です。迎合して面接を突破したとしても結局馴染めなかった、なんて悲し過ぎます。合格したい、しなければという焦る気持ちはよくよくわかりますが、主張した方針が病院と合致しないことや、その年の受験生のキャラクターのバランスなどで、どうしても合格に至らないことだってあります。当日はまず朝きちんと起きて、遅刻なく会場に到着し、入室時にはノックを忘れず、「失礼します!」と言い忘れず、指示される前に着席しなければヨシ、としましょう。あとは天命に任せて。みなさんのご健闘をお祈り申し上げます!!

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スタチンはくも膜下出血リスクを下げる?~日本のレセプトデータ

 スタチン使用によるくも膜下出血予防効果は、実験動物モデルやいくつかの臨床試験で検討されているが結論は得られていない。今回、東京理科大学の萩原 理斗氏らが日本のレセプトデータベースを用いて症例対照研究を実施したところ、スタチン使用がくも膜下出血リスクの減少と有意に関連していたことがわかった。Stroke誌オンライン版2025年7月8日号に掲載。 本研究では、2005年1月~2021年8月に新たにくも膜下出血(ICD分類第10改訂コードI60)と診断されて入院した患者を症例とし、症例1例につき4例の対照を無作為に選択し、incidence density samplingを用いて年齢、性別、追跡期間でマッチングした。スタチン曝露(使用頻度、期間)はくも膜下出血発症前に評価した。患者特性で調整された条件付きロジスティック回帰を使用して、スタチン使用とくも膜下出血リスクの関連を評価し、さらに、この関連が高血圧・糖尿病・脳血管疾患・未破裂頭蓋内動脈瘤の既往、降圧薬の使用によって差があるかどうか調査した。 主な結果は以下のとおり。・症例3,498例と対照1万3,992例が同定され、症例群の12.2%と対照群の12.7%でスタチンを使用していた。・患者特性による調整後、スタチン使用はくも膜下出血リスクの有意な低下と関連していた(調整オッズ比:0.81、95%信頼区間:0.69~0.95)。・この関連は高血圧と脳血管疾患の既往歴により有意な影響があった(相互作用のp値:どちらも0.042)。 著者らは「これらの結果は、スタチンがくも膜下出血予防に役割を果たす可能性を示唆しており、とくに高血圧または脳血管疾患既往歴のある患者においてその効果が顕著であった」と結論している。

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抗精神病薬の早期処方選択が5年後の体重増加に及ぼす影響

 英国・マンチェスター大学のAdrian Heald氏らは、精神疾患1年目における抗精神病薬による治療が、その後5年間の体重増加に及ぼす影響を分析した。Neurology and Therapy誌2025年8月号の報告。 対象は、精神症、統合失調症、統合失調感情障害、妄想性障害、情動精神症と初めて診断された患者1万7,570例。5年間の体重変化を調査し、診断1年目に処方された抗精神病薬との関連を30年にわたり評価した。 主な結果は以下のとおり。・初回抗精神病薬処方時の年齢は、大半が20〜59歳(65%)であった。・ベースライン時の平均BMIは、男女共に同様であった。・BMIの大幅な増加が認められた。とくに肥満患者(BMI:30kg/m2以上)では、体重カテゴリーの変化が最も大きく、女性では30〜43%、男性では26〜39%に増加した。一方、対象患者の42%では、体重の有意な増加は認められなかった。・ペルフェナジン、フルフェナジン、amisulprideを処方された患者は正常BMIを維持する可能性が最も高く、アリピプラゾール、クエチアピン、オランザピン、リスペリドンを処方された患者は、最初の1年間で正常BMIから体重増加、過体重(BMI:25.0〜29.9 kg/m2)、肥満(BMI:30.0kg/m2以上)に移行する可能性が最も高かった。・定型抗精神病薬であるthioridazine、クロルプロマジン、flupenthixol、trifluoperazine、ハロペリドールは、BMIカテゴリーの変化の可能性が中程度であると評価された。・多変量回帰分析では、体重増加と関連する因子は、若年、女性、1年目に処方された抗精神病薬数、アリピプラゾール併用(75%併用処方または第2/第3選択薬としての使用を含む)オランザピン併用、thioridazine併用(各々、p<0.001)、リスペリドン併用、クエチアピン併用(各々、p<0.05)であった。・体重増加7%以上の多変量ロジスティック回帰分析では、特定の薬剤は類似しており、薬剤のオッズ比はクエチアピンの1.09(95%信頼区間[CI]:1.00〜1.21)からthioridazineの1.45(95%CI:1.20〜1.74)の範囲であった。 著者らは「診断1年目に複数の抗精神病薬を処方された患者および若年女性では、体重増加リスクが高かった。一部の定型抗精神病薬は、非定型抗精神病薬と同程度の体重増加との関連が認められた。なお、40%以上で体重増加は認められなかった」と結論付けた。

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臨床研究への患者・市民参画のいまとこれから/日本リンパ腫学会

 2025年7月3日~5日に第65回日本リンパ腫学会学術集会・総会/第28回日本血液病理研究会が愛知県にて開催された。 7月4日、山口 素子氏(三重大学大学院医学系研究科 先進血液腫瘍学)、丸山 大氏(がん研究会有明病院 血液腫瘍科)を座長に行われたシンポジウム2では、勝井 恵子氏(国立研究開発法人日本医療研究開発機構[AMED])、木村 綾氏(国立がん研究センター中央病院 JCOG運営事務局)、棟方 理氏(国立研究開発法人 国立がん研究センター中央病院 血液腫瘍科)、天野 慎介氏(一般社団法人グループ・ネクサス・ジャパン、一般社団法人全国がん患者団体連合会)が講演を行い、近年国内でも進みつつある研究の立案段階から研究計画に患者が参画する試み(Patient and Public Involvement:PPI)について、AMED、臨床研究グループ、研究者、および患者・市民の各々の立場から発表がなされた。 臨床試験は、科学的根拠に基づいて新たな治療法や新規治療薬を開発し、臨床導入することを目的として実施される。これまでの臨床試験は、研究者が立案、計画、実行のすべてに関わり、その結果の公表は、学会発表や論文に限られていた。そのため、被験者である患者や市民は、臨床試験に参加し、その試験結果を受け入れるのみであった。近年、研究計画に患者が参画するPPIの取り組みが始まっている。研究開発におけるPPI、「やらなくてはいけない」から「やって当然」へ 2015年4月、医療分野の研究開発およびその環境整備、助成などの業務を担う組織として国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が設立された。AMEDでは、患者さん一人ひとりに寄り添いながら、医療分野研究を早期に実用化し、患者およびその家族に届けるため、PPIをはじめとする社会共創(Social Co-Creation)の推進を目指している。 現在、PPIは2023年に閣議決定された第4期がん対策推進基本計画において柱の1つとなっており、2025年に閣議決定された第3期健康・医療戦略においても、研究開発における社会共創の取り組み推進においてPPIの充実および普及が明記されるようになった。実際、AMEDの公募の際、PPIの取り組みについて聴取されている事業の割合は、5年間で55%(2019年)から89%(2024年)へ増加しており、2024年度以降、研究開発提案書に記載欄が常設されるようになっている。 しかし、まだまだ課題が残っている。記載欄にPPIでない取り組みを記載するなど研究者の理解不足や医療職でない研究者による取り扱いの難しさなどが挙げられる。また「PPIは研究費を取るための手段ではなく、より良い研究開発およびその加速化を実現するための手段であることを忘れてはならない」と勝井氏は強く訴えている。今後、医療分野における研究開発において、PPIは「やらなくてはいけないこと」から「やって当然のこと」となることが期待される。研究参加者に結果を伝える「Lay summary」 次に、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)における患者、市民参画の取り組みについて木村氏より発表がなされた。JCOGは、1978年にリンパ腫および食道がんの2つのグループから始まった日本最大の多施設臨床研究グループであり、16の疾患領域別研究グループを有している。2025年4月現在、107試験(登録中:50試験、追跡中:37試験、準備中:20試験)の支援を担っている。 近年、研究の立案段階からPPIが進められており、2018年には患者参画小委員会を発足し、セミナーやグループごとの意見交換会を定期的に実施し、患者、市民の意見を取り入れた患者ニーズに合致した研究を行うことを目指している。また、患者参画ポリシーを策定し、研究終了後に研究者が結果の情報や知識を社会に共有するため、学会発表、広報、プレスリリースの推進を行っている。 その取り組みの1つとして、研究の主たる解析結果の発表時に研究参加者向けの結果説明を行うため「Lay summary」の作成を始めている。これまでに、14試験の「Lay summary」が公開されている。「Lay summary」の主な目的は研究参加者への試験結果の説明であり、研究事務局を通じて各参加施設の担当者より直接説明を行うとともに、JCOGのWebサイトでも公開している。PPIを根付かせる課題は「成功事例の共有」と「負担軽減体制の構築」 研究者の視点より発表された棟方氏は「PPIは、研究者にとってこれまで気づかなかった患者ニーズの側面から新たな視点を与えてくれる可能性が期待される」と述べている。臨床試験の最終目標は、現在の治療法よりも優れた治療法を開発し、日常診療に導入することである。これまでの臨床研究は、研究者の視点のみで行われていたため、実際に治療を受ける患者のニーズと必ずしも一致しないことがあった。このような場合、試験への患者登録が順調に進まない、あるいは試験結果が実際の臨床現場で選択されにくいなどの問題が生じる可能性もある。そのため、研究の計画段階から患者、市民の意見を反映させることは、研究促進を図るうえで重要である。棟方氏が所属するJCOGのリンパ腫グループは、JCOGの中でも早期にPPI活動を開始したグループの1つであり、これまで6回の家族会との意見交換を行っている。しかし、悪性リンパ腫は多数の病理組織型が存在するため、より深い意見交換を行うためには、意見交換会の開催頻度を増やし、参加者に対象疾患患者を含める必要があるなどの課題もある。また、すべての参加者が十分な知識を有しているわけではないため、わかりやすい事前資料の作成やさまざまな配慮が求められる。 また「Lay summary」を配布して感じた課題についても言及された。「疾患の特徴、試験デザイン、その結果から配布のしやすさに違いがあると感じている。たとえば、大部分の患者が非再発で外来通院中の場合や非ランダム化試験、結果が良かった場合には説明しやすい一方、逆の場合には患者に配布しづらい。また、その結果の説明が研究者の役割となってしまった場合、時間的および心理的負担の増大につながることも懸念される。そして、試験デザインや結果によっては、試験参加の同意を得る際の説明と同等かそれ以上の説明力、配慮を要するのではないかと感じている」と述べている。 最後に「今後、PPIを当たり前の文化にしていくためには、成功事例の積極的な共有が重要であり、これを根付かせていくことが求められる」としたうえで、「研究者と患者双方の負担を軽減し、PPI活動を継続的に行える体制を構築していくことが必要である」とまとめている。今後の研究者に求められるスキルは「わかりやすく伝える」 患者の立場からの期待について、全国がん患者団体連合会の天野氏が最後に登壇された。がん関連学会では、かねてより学術集会などで患者参画プログラムを設けており、日本学会では「サバイバー・科学者プログラム」、日本治療学会では「がん患者・支援者プログラム」、日本臨床腫瘍学会では「ペイシェント・アドボケイト・プログラム」などが設けられている。ほかにも、日本乳学会学術総会や日本肺学会学術集会においても、患者・市民参画プログラムが設けられている。このように、とくにがん関連学会では、患者参画が推進されていることから、血液悪性腫瘍関連学会においても、PPIは今後ますます重要になると考えられる。 天野氏は「PPIは、研究者と患者の対話の過程であり、相互理解の過程でもある。そのため、患者や市民が研究について理解を深めることも必要である」とし、「そのためには、研究者にも医学や研究に関する情報や言葉をよりわかりやすく伝える努力をお願いしたい」と語られた。

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