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食事の頻度とうつ病との関係

 これまでの研究において、1日の食事回数および夜間の絶食期間がうつ病と関連していることが示唆されているが、一定の限界や矛盾も示されていた。中国・ハルビン医科大学のYan Chen氏らは、1日の食事回数や夜間の絶食期間とうつ病との関連を検証するため、本研究を実施した。Journal of Affective Disorders誌2025年12月15日号の報告。 対象は、2005〜18年の米国国民健康栄養調査(NHANES)より抽出した2万9,035人。うつ病の定義は、こころとからだの質問票(PHQ-9)総スコア10以上とした。1日の食事回数で定量化し、夜間の絶食期間は1日の最後の食事と最初の食事を調査することで評価した。重み付けロジスティック回帰モデル、制限付き3次スプライン(RCS)、媒介分析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・1日の食事回数が3.6〜4.0回の場合と比較し、3回以下の場合(オッズ比[OR]:1.28、95%信頼区間[CI]:1.11〜1.49)および4.6回以上の場合(OR:1.17、95%CI:1.01〜1.34)において、うつ病リスクの上昇が認められた。・夜間の絶食期間が12.1〜13.3時間の場合と比較し、10.8時間以下の場合(OR:1.32、95%CI:1.14〜1.52)および14.9時間以上の場合(OR:1.37、95%CI:1.19〜1.59)において、うつ病リスクの上昇が認められた。・関連性を示すU字型の平滑化曲線により、これらの知見はさらに裏付けられた。・この関連性において、血中尿素窒素とグロブリンが媒介的な役割を果たしていることが示唆された。・1日のエネルギー摂取量が少ない人は、1日の食事回数および夜間の絶食期間がうつ病に及ぼす影響がより有意であった(pinteraction<0.05)。 著者らは「1日の食事回数が3回以下および4.6回以上、夜間の絶食期間が10.8時間以下および14.9時間以上は、うつ病の独立したリスク因子であることが示唆された」と結論付けている。

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中等症以上の潰瘍性大腸炎へ新たな経口治療薬が登場/ファイザー

 ファイザーは、2025年9月12日に中等症~重症の潰瘍性大腸炎に対するスフィンゴシン1-リン酸受容体(S1P1,4,5)調節薬エトラシモド(商品名:ベルスピティ)を発売した。 潰瘍性大腸炎は、大腸におけるびまん性および連続性の粘膜炎症性病変を特徴とし、寛解と再燃を繰り返す慢性炎症性腸疾患で、主な症状として粘血便、下痢、腹部不快感、腹痛などがあり、倦怠感や貧血なども現れる。 潰瘍性大腸炎の治療薬は近年増えているが、2次無効で再燃を繰り返す患者がいる。 エトラシモドは、S1P1,4,5に対して選択的に活性を示すよう設計されたS1P受容体調節薬であり、潰瘍性大腸炎(既存治療で効果不十分な場合に限る)に対して1日1回経口投与する。本剤は、潰瘍性大腸炎に対する効能・効果で、2023年10月の米国での承認以降、欧州連合、英国、カナダ、オーストラリアなど38ヵ国と地域で承認されている。 中等症~重症の活動期にある潰瘍性大腸炎患者を対象としたELEVATE UC 12試験で12週間投与を完了した日本人患者を対象に、ELEVATE UC 12試験と同じ投与群に割り付け、エトラシモド2mgまたはプラセボを1日1回、40週間投与し、有効性および安全性を評価した国内第III相ELEVATE UC 40 Japan試験では、主要評価項目である40週間(ELEVATE UC 12試験での投与期間を含めると52週間)治療後の臨床的寛解率で、プラセボに対して高い寛解率を示し、安全性プロファイルも良好だった。【エトラシモド製品概要】一般名:エトラシモド販売名:ベルスピティ効能または効果:中等症から重症の潰瘍性大腸炎の治療(既存治療で効果不十分な場合に限る)用法および用量:通常、成人にはエトラシモドとして2mgを1日1回経口投与する。用法および用量に関連する注意:感染症のリスクが増大する恐れがあるため、本剤と免疫抑制剤(タクロリムス、アザチオプリンなど)、生物学的製剤、ヤヌスキナーゼ阻害薬などとの併用を避けること。本剤とこれらの薬剤を併用した臨床試験は実施していない。本剤の投与開始後12週時点で治療反応が得られない場合は、他の治療への切り替えを考慮すること。薬価:4792.8円/錠製造販売承認取得日:2025年6月24日薬価収載日:2025年8月14日発売日:2025年9月12日製造販売元:ファイザー

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LVEF軽度低下の心筋梗塞、β遮断薬の有用性は?/Lancet

 左室駆出率(LVEF)が低下した(<40%)心筋梗塞患者では、β遮断薬の有効性を強く支持するエビデンスがあるが、LVEFが低下していない(≧40%)心筋梗塞患者へのβ遮断薬療法に関しては、最近の4つの無作為化試験の結果は一致せず(有益性を認めたのは1試験のみ)、LVEFが軽度低下した(40~49%)サブグループにおける治療効果についてはどの試験も検出力不足であった。スペイン・Centro Nacional de Investigaciones Cardiovasculares Carlos III(CNIC)のXavier Rossello氏らは、LVEF軽度低下の心筋梗塞入院患者におけるβ遮断薬の有効性の評価を目的に行った個別の患者データを用いたメタ解析を実施。心不全の既往歴や臨床徴候がないLVEF軽度低下を伴う急性心筋梗塞患者において、β遮断薬療法は全死因死亡、新規心筋梗塞、心不全の複合エンドポイントの発生を減少させたことを示した。研究の成果は、Lancet誌2025年9月13日号で発表された。LVEFが40~49%の患者、4試験・1,885例を解析 研究チームは、心不全の既往歴や臨床徴候がなく、LVEFが軽度低下した(40~49%)心筋梗塞患者を対象に含め、発症後14日以内に無作為化を行い、経口β遮断薬療法の長期効果(追跡期間中央値1年超)を検討した無作為化対照比較試験の論文(2000年1月1日以降に発表)を調査した(本研究はCNICなどの助成を受けた)。 LVEF≧40%の心筋梗塞患者を対象とした4つの試験(REBOOT、BETAMI、DANBLOCK、CAPITAL-RCT[日本の67施設の試験、801例])に参加したLVEFが40~49%の患者1,885例(全体1万4,418例の13%)を解析に含めた。 主要エンドポイントは、全死因死亡、新規心筋梗塞、心不全の複合とした。 β遮断薬群が991例(年齢中央値63歳[四分位範囲[IQR]:55~71]、男性791例[80%]、LVEF中央値45.0%、PCI 95%)、非β遮断薬群が894例(同62歳[55~71]、735例[82%]、45.0%、96%)であった。追跡期間中央値は3.5年(IQR:2.3~4.5)。主要複合エンドポイントが有意に優れる 主要複合エンドポイントの発生率は、非β遮断薬群が14%(129/894例、43.0/1,000人年)であったのに対し、β遮断薬群は11%(106/991例、32.6/1,000人年)と有意に低かった(ハザード比[HR]:0.75[95%信頼区間[CI]:0.58~0.97]、p=0.031)。4つの試験間(交互作用のp=0.95)、および患者を登録した5ヵ国間(スペイン、イタリア、デンマーク、ノルウェー、日本)(p=0.98)で、治療効果の異質性は認めなかった。 5つの主な副次エンドポイントはいずれも、両群間に有意差はみられなかった。(1)全死因死亡(β遮断薬群6%[58例]vs.非β遮断薬群8%[69例]、HR:0.78[95%CI:0.55~1.11])、(2)新規心筋梗塞(4%[39例]vs.5%[46例]、0.77[0.50~1.18])、(3)心不全(3%[30例]vs.4%[39例]、0.71[0.44~1.14])、(4)心臓死(2%[14例]vs.3%[23例]、0.55[0.28~1.06])、(5)予期せぬ冠動脈血行再建術(4%[35例]vs.4%[38例]、0.83[0.52~1.31])。2つの安全性エンドポイントに差はない 2つの安全性のエンドポイントにも両群間で差はなかった。(1)脳卒中による入院(β遮断薬群1%[13例]vs.非β遮断薬群1%[7例]、HR:1.70[95%CI:0.68~4.25])。(2)症候性進行性(第2度または3度)房室ブロック(1%[12例]vs.1%[11例]、1.00[0.44~2.27])。 著者は、「これらの結果は、LVEFが低下した心筋梗塞患者におけるβ遮断薬療法の既知の有益性を、軽度に低下した患者サブグループにまで拡張するものである」「今後の研究は、LVEFが保持された(LVEF≧50%)患者に焦点を当てるべきである」としている。

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低リスク急性心筋梗塞、PCI後1ヵ月でアスピリンは中止可能か/NEJM

 低リスクの急性心筋梗塞で、血行再建術を受けた後、合併症の発現なく1ヵ月間の抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)を完了した患者では、1年後(無作為化から11ヵ月後)の心血管・脳血管イベントの発生に関して、P2Y12阻害薬単剤療法はDAPTに対し非劣性であり、出血イベントの発生率は低減したことが示された。イタリア・University of Padua Medical SchoolのGiuseppe Tarantini氏らTARGET-FIRST Investigatorsが、多施設共同非盲検無作為化対照比較試験「TARGET-FIRST試験」の結果を報告した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年8月31日号で発表された。欧州40施設で1,942例を登録 TARGET-FIRST試験は、最新の薬剤溶出性ステント(DES)を用いた経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受け、虚血イベントや出血イベントのリスクが低い急性心筋梗塞患者の抗血小板療法において、DAPTを1ヵ月間行った時点でのアスピリン早期中止の、DAPT継続に対する非劣性を検証する目的で、2021年3月~2024年3月に、欧州の40施設で参加者を登録して行われた(フランス・MicroPortの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、急性心筋梗塞発症から7日以内に生体分解性ポリマーを用いたrapamycin(和名:シロリムス)溶出性ステント(MicroPort製)による血行再建術が成功し、その後1ヵ月間、虚血イベントや大出血イベントの発現なしにDAPT(P2Y12阻害薬[プラスグレル、チカグレロル、クロピドグレルから選択]+アスピリン)を完了した患者であった。 被験者を、アスピリンの投与を中止してP2Y12阻害薬単剤に移行する群、またはDAPTを継続する群に、1対1の割合で無作為に割り付け、11ヵ月間投与した。 1,942例を登録し、P2Y12阻害薬単剤群に961例、DAPT継続群に981例が無作為化された。PCI施行から無作為化までの期間中央値は37日であった。全体の平均(±SD)年齢は61.0(±10.6)歳、78.4%が男性で、14.5%が糖尿病、38.7%が高血圧、27.8%が高コレステロール血症を有していた。 無作為化の時点で、P2Y12阻害薬は74.0%でチカグレロル、20.9%でプラスグレル、5.1%でクロピドグレルが処方されていた。また、97.0%がスタチン、79.1%がβ遮断薬、76.7%がACE阻害薬またはARBの投与を受けていた。主要複合アウトカムは非劣性 主要アウトカムは、無作為化から11ヵ月の時点での全死因死亡、心筋梗塞、ステント血栓症、脳卒中、大出血(BARC出血基準タイプ3または5)の複合とした。非劣性マージンは1.25%ポイントと定義した。 11ヵ月後の主要アウトカムのイベントは、P2Y12阻害薬単剤群で20例(2.1%)、DAPT継続群で21例(2.2%)に発現し(群間差:-0.09%ポイント、95%信頼区間[CI]:-1.39~1.20、非劣性のp=0.02)、P2Y12阻害薬単剤群のDAPT継続群に対する非劣性が示された。 主要アウトカムの個別の構成要素のイベント発生状況は次のとおりだった。(1)全死因死亡(P2Y12阻害薬単剤群0.4%vs.DAPT継続群0.2%、ハザード比[HR]:2.04[95%CI:0.37~11.14])、(2)心筋梗塞(0.7%vs.1.1%、0.72[0.27~1.88])、(3)ステント血栓症(definiteまたはprobable)(0.1%vs.0%)、(4)脳卒中(0.3%vs.0.2%、1.53[0.26~9.18])、(5)大出血(0.7%vs.0.7%、1.02[0.36~2.91])。BARCタイプ2、3、5の出血イベントが有意に改善 主な副次アウトカムであるBARC出血基準タイプ2、3、5の出血イベントは、DAPT継続群で54例(5.6%)に発生したのに対し、P2Y12阻害薬単剤群では25例(2.6%)と有意に少なく(HR:0.46、95%CI:0.29~0.75、優越性のp=0.002)、P2Y12阻害薬単剤群の優越性を確認した。 重篤な有害事象の頻度は両群で同程度であり、P2Y12阻害薬単剤群で108例(11.2%)に144件、DAPT継続群で122例(12.4%)に157件が報告された。 著者は、「今回得られた知見は、虚血イベントや出血イベントのリスクが低い患者を慎重に選択した集団における、早期の解剖学的に完成度の高い血行再建術という特定の条件下で解釈すべきであり、広範で異質性の高い患者集団に直接的に一般化できるものではない」としている。

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小型NSCLC、STAS陽性は術式にかかわらず予後不良(JCOG0802/WJOG4607L)/WCLC2025

 臨床病期IA期で最大腫瘍径2cm以下の肺野末梢小型非小細胞肺がん(NSCLC)において、Spread Through Air Spaces(STAS)陽性は予後不良因子であることが示された。肺野末梢小型NSCLC患者を対象に、区域切除と肺葉切除を比較した無作為化非劣性検証試験「JCOG0802/WJOG4607L試験」の付随研究の結果を、谷田部 恭氏(国立がん研究センター中央病院 病理診断科 科長)が世界肺がん学会(WCLC2025)で報告した。 JCOG0802/WJOG4607L試験は、臨床病期IA期の肺野末梢小型NSCLC患者(最大腫瘍径2cm以下かつC/T比0.5未満)を対象に、区域切除の肺葉切除に対する全生存期間(OS)の非劣性を検証することを目的として実施された試験である。本試験において、区域切除の肺葉切除に対するOSの非劣性が検証されただけでなく、区域切除の優越性も示されたことが報告されている1)。 STASは、肺胞腔内に腫瘍細胞の分離性増殖を認める浸潤形態の1つであり、とくに縮小手術において、STAS陽性例は局所再発が多く予後が不良であることが報告されている。しかし、縮小手術例と肺葉切除例の両者を含む集団でSTASの影響を検討した研究は乏しい。そこで、JCOG0802/WJOG4607L試験の登録患者を対象として、本研究が実施された。 本研究の主な結果は以下のとおり。・646例の病理検体が評価され、評価可能であった640例(区域切除群318例、肺葉切除群322例)のうち35%(227/640例)がSTAS陽性であった。・STASの有無別に無再発生存期間(RFS)をみると、STAS陽性例はRFSが不良であった(p<0.0001、log-rank検定)。5年RFS率はSTAS陽性83.7%、STAS陰性92.5%で、10年RFS率はそれぞれ67.1%、84.6%であった。多変量解析においてもSTAS陽性はRFS不良の独立した予測因子であった(ハザード比[HR]:1.880、95%信頼区間[CI]:1.347~2.625、p=0.0002)。・STAS陽性例はOSも不良であった(p<0.0001、log-rank検定)。5年OS率はSTAS陽性92.0%、STAS陰性94.7%で、10年OS率はそれぞれ73.1%、86.7%であった。多変量解析においてもSTAS陽性はOS不良の独立した予測因子であった(HR:1.692、95%CI:1.181~2.424、p=0.004)。・術式別にRFSとOSをみると、RFSはSTAS陽性例が術式にかかわらず不良であり、OSは肺葉切除群でSTAS陽性例が不良であった。術式別の再発率は以下のとおり(STAS陽性vs.STAS陰性を示す)。 -10年RFS率(区域切除):69.4%vs.85.1%(HR:1.962、95%CI:1.212~3.175) -10年RFS率(肺葉切除):64.8%vs.84.0%(HR:1.976、95%CI:1.204~3.242) -10年OS率(区域切除):80.0%vs.88.4%(HR:1.560、95%CI:0.911~2.671) -10年OS率(肺葉切除):66.9%vs.84.9%(HR:1.858、95%CI:1.109~3.114)・局所再発はSTAS陽性例が術式にかかわらず多く、遠隔再発は区域切除群でSTAS陽性例に多くみられた。術式別の再発率は以下のとおり(STAS陽性vs.STAS陰性を示す)。 -局所再発(区域切除):17.6%vs.6.2%(p=0.004) -局所再発(肺葉切除):16.7%vs.6.2%(p=0.001) -遠隔再発(区域切除):9.3%vs.2.4%(p=0.006) -遠隔再発(肺葉切除):9.2%vs.4.9%(p>0.05)・非粘液性肺腺がんの組織学的Grade3の集団はSTAS陽性例が多く、Grade3の集団はGrade1/2の集団と比較して、RFSおよびOSが不良であった。 本結果について、谷田部氏は「STAS陽性はRFS不良、OS不良の独立した予測因子であった。また、STAS陽性例は区域切除と肺葉切除のいずれでも局所再発が多かった。これらの結果は、STASの有無にかかわらず、区域切除が肺葉切除に対して非劣性であることを示している」とまとめ、「縮小手術でSTAS陽性であったとしても、肺葉切除への変更は必要ないかもしれない。むしろ、STAS陽性のStageIAのNSCLCという予後不良な集団に対して、術後補助療法を検討することを支持する結果である」と考察した。

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透析患者におけるアルドステロン拮抗薬の位置付けを再考する―ALCHEMIST試験の結果から(解説:石上友章氏)

 アルドステロンは副腎皮質球状帯より分泌される鉱質コルチコイドであり、その主要な作用部位は腎臓遠位尿細管に属するアルドステロン感受性遠位ネフロン(aldosterone-sensitive distal nephron:ASDN)である。アルドステロンは核内因子である鉱質コルチコイド受容体(mineralocorticoid receptor:MR)と結合し、アルドステロン誘導性タンパク(aldosterone-inducible protein:AIP)の遺伝子発現を活性化することにより、ナトリウム再吸収およびカリウム排泄を促進する。この作用特異性は、11β-hydroxysteroid dehydrogenase type 2(11βHSD2)によって担保される。血中に高濃度に存在し、かつMR親和性においてアルドステロンを凌駕するコルチゾールが、11βHSD2により不活性型のコルチゾンへ変換されることで、MR結合がアルドステロンに選択的に保証されているのである。この点において、アルドステロンは生理的に特異的なシグナル伝達を遂行するホルモンと位置付けられる。 一方で、腎臓以外の臓器においてアルドステロンは線維化、炎症、血管硬化を誘導しうることが知られ、心血管・腎保護的な観点からMR拮抗薬の臨床応用が注目されてきた。小規模試験や観察研究では、心血管イベント抑制効果を示唆する報告も散見されたが、バイアスや症例数の制約から解釈には限界があった。こうした背景の下に実施された大規模二重盲検無作為化試験が、今回Lancet誌に報告されたALCHEMIST試験である。 ALCHEMISTは血液透析中の腎不全患者で、かつ心血管リスクを有する症例を対象に、スピロノラクトン25mg/日とプラセボを比較した多施設共同試験である。主要複合エンドポイント(心血管死、非致死性心筋梗塞、急性冠症候群、脳卒中、心不全入院)の発症率は両群で同等であり(ハザード比:1.00、95%信頼区間:0.73~1.36)、有意差は認められなかった。さらに、既報の無作為化比較試験を統合したメタ解析においても、MR拮抗薬は全死亡あるいは心血管死亡を減少させないことが明らかとなった。安全性の面でも高カリウム血症の発症率に有意差はなく、臨床的便益を裏付ける根拠は得られなかった。 本試験の結果は、透析患者においてアルドステロン拮抗薬の腎外臓器保護効果が臨床的アウトカムの改善に結び付かないことを明確に示している。腎不全透析患者に特徴的な病態、すなわちRAAS活性やアルドステロン作用の修飾が背景にある可能性は否定できないが、いずれにしても現時点で「腎外保護」を目的としたMR拮抗薬の透析患者への投与は支持されない。 以上より、アルドステロンの生理的特異性を再確認するとともに、その腎外作用を臨床応用へと展開するには、病態特異的なメカニズム解明と適格集団の同定が不可欠であることを示唆する結果と解釈される。

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緊急避妊薬の市販化が了承、処方箋なしで購入可能に【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第158回

これまで医師の処方箋が必要だった緊急避妊薬を、処方箋なしで薬局やドラッグストアで購入可能とする方針を厚生労働省が了承しました。長らく議論が重ねられてきた緊急避妊薬の市販化にようやく決着がつきそうです。厚生労働省の専門部会は8月29日、緊急避妊薬(アフターピル)の市販薬としての販売を了承した。医師の処方箋なしで夜間や休日も入手しやすくなり、避妊の失敗や性暴力などによる意図しない妊娠から女性の心身を守りやすくなる。悪用や乱用を懸念する慎重意見があり、検討開始から8年を要した。(2025年8月30日付 日本経済新聞社)8年もかかったのですね。2023年11月から調査研究として16歳以上の女性を対象に、一部の薬局で試験販売が始まっていました。その結果、安全性が確立したことを受け、年齢制限を設けずに一般販売可能となります。ようやくという感じです。今回、緊急避妊薬「ノルレボ錠(一般名:レボノルゲストレル)」1品目についてスイッチOTC化が了承され、「要指導医薬品」として薬局での販売が可能になります。要指導医薬品で販売可能と言っても、いくつか注意点がありますので確認していきましょう。まず、2つの承認条件がついています。1.承認後、少なくとも3年間の安全性などに関する製造販売後調査を実施すること。2.適正使用を確保するため、必要な条件を満たした薬局または店舗販売業の店舗において、緊急避妊薬の取り扱いに係る研修を修了した薬剤師によってのみ販売または授与されるよう、特別な措置を講じること。1については、販売する製薬会社に課されている調査です。薬剤師には、服用した患者さんに副作用などが疑われる場合は、速やかにメーカーや厚生労働省に報告する責務が生じます。3年間の調査結果により、また新たに安全対策が講じられる可能性があるので、そこにも注意が必要です。2については、9月19日からオンライン研修が実施されるとのことです。薬剤師がその研修を修了して厚生労働省に申告することで、研修が修了した薬局名や開局時間、研修を修了した薬剤師の情報などを同省のホームページに掲載する予定としています。また、販売する薬局などの設備や体制について、以下の要件が求められています。1.研修修了薬剤師が販売する。2.プライバシーに十分な配慮ができる体制を整備している。3.近隣の産婦人科医などとの連携体制を構築している。悪用の懸念があることを受け、用法・用量は「性交後72時間以内に本剤1錠を薬剤師から受け取り、その場で服用する」となりました。そのため、配慮ができる設備が必要になります。一般的にスイッチOTC化された要指導医薬品はオンライン服薬指導での販売ができますが、ノルレボ錠はその対象にはなりませんので注意が必要です。今回は2023年の調査研究時に設けられた16歳以上という年齢制限もなくなり、全女性が購入できます。親の同意に関わらず予期せぬ妊娠を希望しない若者を支援するため、親の同意も不要となりました。間口が広げられ、よかったなと思います。薬剤師の面前服用を含む販売方法のあり方については厚生労働省において検討し、一定期間を経た後に見直しを行う予定とされています。

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異物除去(5):鼻腔異物(1)【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q149

異物除去(5):鼻腔異物(1)Q149外勤先の診療所での外来中。4歳男児が右鼻腔にビーズを入れてしまい、取れなくなったと外来を受診した。連れて来た母親によると「入れてしまったビーズは間違いなく1つである」とのこと。鼻腔内に肉眼的に異物が見えており、異物除去を試みようと考えた。安全に除去するべく「mother’s kiss」を指導しようとしたが、母親はmouth to mouthに躊躇いがあるようだ。次の手はどうしようか。

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透析患者が被災したら?【実例に基づく、明日はわが身の災害医療】第6回

透析患者が被災したら?豪雨の後の水害で多くの家屋が浸水し、停電、断水のため医療機関も機能不全になっています。避難所のスタッフから、維持透析を週3回行っていて明日が透析日という避難者がいて、対応について相談を受けました。どうすればよいでしょうか?血液透析には、1人当たり1回の透析で100L以上の大量の水が必要であり、装置を動かすには当然電気が必要です。大災害で施設や設備が損傷したり、断水や停電が起きたりすると血液透析ができなくなり、透析患者の生命は危険にさらされます。事実、東日本大震災では、一時は数百施設が透析不能となり、1,300名以上の患者さんが一時的に被災県外に移動しました。熊本地震でも約30施設で透析ができなくなったことが報告されています。普段からの備え透析施設は、支援透析施設が使えるように、患者カードや手帳、透析記録のコピーなど災害時に必要な情報を患者に提供します。他施設で透析をするうえで必要な情報ドライウェイト氏名・年齢アレルギーがあればその内容感染症の有無(慢性肝炎など)処方されている薬の種類とその飲み方人工血管の場合血流の向き普段透析を受けている施設の連絡先普段から患者さんに対して、災害時は透析時間が短くなったり、次の透析までの間隔が長くなったりする場合があることを説明し、自分で自分の身を守ることの大切さを強調しましょう。避難所に避難した場合は、透析患者であることを自治体の職員やボランティア、巡回の医師・看護師に申し出るよう指導をしておくことが必要です。また、透析スタッフもしっかり訓練しておくことも重要です。災害時には、基本的には各自治体が透析災害対策本部のネットワークを利用して、行政・透析関連企業および該当都道府県下のすべての透析施設間の連絡ができるようになっています。日本透析医会の災害時情報ネットワークのウェブサイトも参考にしてください1)。アメリカでは、ハリケーンに備え、前もって透析をしておくことで透析患者の予後を改善することに成功しています。台風など、あらかじめ災害が起こることが予期できる場合には、前倒しをして透析をしておくことも考慮してもいいかもしれません2,3)。避難所での対応【食事】避難所では、非常食や配給食が提供されることが多く、透析患者にとっては平常時よりも尿素窒素やカリウムの数値が高くなる危険性があります。避難所では、水分は日常の3分の2程度に減らすように指導されている患者さんが多いですが、過度な脱水は血栓症の原因にもなります。水分制限は食事摂取の低下の原因にもなります。一方で、食事量が不足してカロリーが減ると、体内のタンパク質が壊れて尿素窒素やカリウムが上昇するため、栄養は十分に摂る必要があります。災害時に透析患者が食事面で留意すべき点食塩、タンパク質、カリウム、リンを平時より大幅に制限する1日の水分量は「尿量+300~400mL以下」に抑えるエネルギー(カロリー)をしっかり確保するカロリー確保には、白米、麺類、パンなど炭水化物が有効です。ただし、麺類やパンには意外に多くの塩分が含まれているため注意が必要です4)。そこで、「カロリーメイト」のようなバランス栄養食品が勧められます。カロリーメイトは、十分なカロリーが摂れ、カルシウム、ビタミン、食物繊維などを多く含む一方、塩分やタンパク質、リン、カリウムの摂取量を比較的抑えやすいというメリットがあります。参考カロリーメイト(ブロックタイプ:1箱4本入り)の場合、カロリー400kcal、カルシウム200mg、食物繊維2g、タンパク質8~9g、カリウム90~100mg、リン80~100mg、食塩相当量約0.7~0.9gです(大塚製薬「カロリーメイト」サイトより)。【応急処置】避難所の医療資源と環境でできることは限られていますが、透析患者の生命を奪うのは主にうっ血性心不全と高カリウムです。危険な高カリウム血症に対しては、内服薬としては陽イオン交換樹脂製剤のポリスチレンスルホン酸ナトリウム(商品名:ケイキサレート)が使われることがあります。陽イオン交換樹脂製剤は大腸でナトリウムとカリウムを交換しますが、カルシウムも吸着するため、カリウムに対する選択性は乏しいといわれています。ケイキサレート30gを20%ソルビトール50mLに溶解して内服してもらいます。非ポリマー無機陽イオン交換化合物の経口剤であるジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム(商品名:ロケルマ)は、胃で吸収され、カリウムに対する選択性が比較的高いのですが、災害時の使用については即効性の面を考慮し、薬剤師や製造元への確認が必要です。避難所では難しいかもしれませんが、血糖値を測定しながらインスリン+グルコース療法を行い、透析までの緊急回避を行う場合もあります。ヒューマリンR注10単位+50%ブドウ糖550mLを静脈注射し、その後は10%ブドウ糖液を50mL/hで投与する方法が提唱されています5,6)。災害時要配慮者である透析患者の被災時の対応について概説しました。災害医療は、あくまで日常の救急医療の延長であり、普段から「もしも」のことを意識しておくことが必要なことは言うまでもありません。 1) 日本透析医会 災害時情報ネットワーク 2) Lurie N, et al. Early dialysis and adverse outcomes after Hurricane Sandy. Am J Kidney Dis. 2015;66: 507-512. 3) Foster M, et al. Personal disaster preparedness of dialysis patients in North Carolina. Clin J Am Soc Nephrol. 2011;6:2478-2484. 4) Inoue T, Nakao A, Kuboyama K, Hashimoto A, Masutani M, Ueda T, Kotani J. Gastrointestinal symptoms and food/nutrition concerns after the great East Japan earthquake in March 2011: survey of evacuees in a temporary shelter. Prehosp Disaster Med. 2014;29:303-306. 5) Fadel E, et al. Scoping Review of Kidney Patients and Providers Perspectives on Disaster Management. Kidney Int Rep. 2025;10:1346-1359. 6) Lempert KD, et al. Renal failure patients in disasters. Disaster Med Public Health Prep. 2019;13:782-790.

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第284回 抗ヒスタミン薬アゼラスチン点鼻液が新型コロナウイルス感染を予防

抗ヒスタミン薬アゼラスチン点鼻液が新型コロナウイルス感染を予防抗ヒスタミン薬(ヒスタミンH1受容体拮抗薬)のアゼラスチン点鼻液が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染を減らしました1,2)。ドイツの病院で募った健康な18~65歳の成人が参加したプラセボ対照第II相試験の結果です。アゼラスチンの効果はもっと幅広いかもしれず、なんなら風邪として知られるライノウイルス感染を減らしうることも示唆されました。アゼラスチンはアレルギー性鼻炎を治療する点鼻薬として海外では広く店頭販売されていますが、2022年に報告された前臨床研究で抗SARS-CoV-2活性が示唆されています3)。その研究では販売されている承認薬一揃いからSARS-CoV-2に効く薬を探すことが試みられ、アゼラスチンに白羽の矢が立ちました。細胞で検討したところ、市販の点鼻液の400分の1ほどの濃度のアゼラスチンの抗SARS-CoV-2活性が示されました。また、市販の点鼻液を5倍に薄めた0.02%のアゼラスチンが鼻組織のSARS-CoV-2の複製を72時間以内にほぼ完全に阻止しました。その前臨床検討結果を頼りにドイツで実施された無作為化試験CARVINで、まずはアゼラスチンのSARS-CoV-2感染治療効果が示されます。同国のUrsapharm Arzneimittel社が主催の同試験では、2021年3~4月にかけて募ったSARS-CoV-2感染患者90例が、鼻組織検討で有効だった0.02%のアゼラスチン、市販品と同一の0.1%のアゼラスチン、プラセボのいずれかを1日3回点鼻しました。その結果、11日間の投与期間のアゼラスチン0.1%群のウイルスがプラセボ群に比べて有意により減少しました4)。また、アゼラスチン0.1%群の症状は最も改善しました。その結果を受けてインドでより多くの被験者を募って実施された無作為化試験CARVIN-IIでも同様に有望な結果が得られています。CARVIN-II試験もUrsapharm Arzneimittel社からの資金で実施され、抗原検査でSARS-CoV-2感染が判明した294例が参加しました。CARVIN試験と同様にアゼラスチン0.1%が1日3回点鼻された患者のウイルスがプラセボ群に比べてより減少しました5)。また発熱、虚弱、低酸素症がプラセボに比べてより改善しました。それら2つの試験結果や作用機序を踏まえるに、アゼラスチンの感染予防効果を調べることは理にかなっているようです。そこでドイツのザールラント大学(Saarland University)のRobert Bals氏らは、アゼラスチン点鼻のSARS-CoV-2やその他の呼吸器病原体の感染予防効果を無作為化試験で調べてみることにしました。同試験もUrsapharm Arzneimittel社からの資金で実施されました。健康な成人がザールラント大学で募集され、最終的に450例が1日3回のアゼラスチンかプラセボの点鼻に割り振られました。約2ヵ月(56日)間の感染率はアゼラスチン群のほうがプラセボ群より有意に低く、それぞれ2.2%と6.7%でした(オッズ比:0.31)。意外にも、SARS-CoV-2以外で最も多かった感染のライノウイルス感染率もアゼラスチン群がプラセボ群より同様に低く、それぞれ1.8%と6.3%でした。ただし、その差が有意かどうかは検討されていません。より大規模な多施設での無作為化試験でのさらなる検討が必要ですが、アゼラスチン点鼻は思い立ったらすぐに実行可能な手軽な手段として既存の予防対策を補完する役割を担えるかもしれません。脆弱な人、感染率が高い時期、旅行する人にはとくに有益かもしれません。 参考 1) Lehr T, et al. JAMA Intern Med. 2025 Sep 2. [Epub ahead of print] 2) Clinical study shows that nasal spray containing azelastine reduces risk of coronavirus infection by two-thirds / Eurekalert 3) Konrat R, et al. Front Pharmacol. 2022;13:861295. 4) Klussmann JP, et al. Sci Rep. 2023;13:6839. 5) Meiser P, et al. Viruses. 2024;16:1914.

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抗アレルギー点鼻薬がコロナ感染リスクを低減

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の曝露前予防には、ワクチン接種以外の医薬品の選択肢は限られている。今回、抗アレルギー薬であるヒスタミン受容体拮抗薬アゼラスチン※の点鼻スプレーは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染の発生率の有意な減少と関連し、SARS-CoV-2以外の呼吸器病原体の総感染リスク低減とも関連していたことを、ドイツ・ザールランド大学のThorsten Lehr氏らが明らかにした。JAMA Internal Medicine誌オンライン版2025年9月2日号掲載の報告。※抗アレルギー点鼻薬としてのアゼラスチンは海外では一般用医薬品として発売されているが、わが国では未発売。 ワクチン接種と集団免疫の確立により、COVID-19の重症度は大幅に軽減された。しかし、引き続き公衆衛生上の大きな負担であり、とくに高リスク集団に対する効果的な曝露前予防の方法が求められている。そこで研究グループは、SARS-CoV-2およびその他の呼吸器病原体に対する曝露前予防としてのアゼラスチン0.1%点鼻スプレーの有効性を評価するため、第II相二重盲検プラセボ対照試験を実施した。 対象は、急性感染症の兆候がなく、SARS-CoV-2迅速抗原検査が陰性の18~65歳の健康なボランティア450人で、2023年3月~2024年7月に登録された。アゼラスチン点鼻スプレー群またはプラセボスプレー群に1:1の割合で無作為に割り付けられ、1日3回、56日間、鼻孔ごとに投与した。感染の高リスク状況においては1日5回への増量投与を任意に選択できた。 参加者は週2回、研究スタッフによるSARS-CoV-2迅速抗原検査を受け、陽性の場合はPCR検査で確認された。症状があるにもかかわらず迅速抗原検査が陰性の場合には、SARS-CoV-2を含む呼吸器病原体に対してマルチプレックスPCR検査を実施した。主要評価項目は、試験開始から56日までにPCR検査で確認されたSARS-CoV-2感染の発生率であり、両群の比較には2群間の比率の差を検定するz検定を用いた。 主な結果は以下のとおり。・450人のうち227人がアゼラスチン群、223人がプラセボ群に無作為に割り付けられた。平均年齢は33.5歳、女性66.4%、白人92.7%、アフリカ系0.9%、アジア系4.9%、その他の民族が1.6%であった。・主要評価項目であるSARS-CoV-2感染の発生率は、アゼラスチン群はプラセボ群と比較して有意に低かった。 -アゼラスチン群2.2%(5/227例)vs.プラセボ群6.7%(15/223例) -リスク差:-4.5%ポイント、95%信頼区間(CI):-8.3~-0.7、p=0.02 -オッズ比:0.31、95%CI:0.11~0.87・アゼラスチン群では、症候性SARS-CoV-2感染の発生が少なく(1.8%vs.6.3%)、感染者におけるSARS-CoV-2感染までの期間が長く(31.2日vs.19.5日)、迅速抗原検査の陽性期間が短く(3.4日vs.5.1日)、SARS-CoV-2以外の呼吸器病原体を含む総感染者数が少なかった(21人vs.49人)。・PCR検査で確認されたライノウイルス感染症の発生率は、アゼラスチン群のほうがプラセボ群よりも低かった(1.8%vs.6.3%)。・有害事象の発現率は両群で同程度であったが、薬剤との関連が疑われる有害事象(主に苦味、鼻出血、倦怠感)はアゼラスチン群で多く報告された。 研究グループは、「本試験はサンプルサイズが小さく、主に健康なワクチン接種済みの集団を対象としていたため、これらの知見を他の状況に一般化できるかどうかは限定的」としたうえで、「これらの結果は、アゼラスチン点鼻スプレーがSARS-CoV-2による呼吸器感染症の発生率を低下させる可能性を示唆している。アゼラスチン点鼻スプレーは、確立された安全性プロファイル、入手しやすさ、使いやすさから、とくに大規模な集会や旅行といった感染リスクの高い状況における曝露前予防としての可能性がある」とまとめた。

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小細胞肺がん1次治療の維持療法、タルラタマブ上乗せで1年OS率82%(DeLLphi-303)/WCLC2025

 PS0/1の進展型小細胞肺がん(ED-SCLC)の標準治療は、プラチナ製剤+エトポシド+PD-L1阻害薬であり、維持療法ではPD-L1阻害薬単剤の投与を継続する。PD-L1阻害薬+lurbinectedinによる維持療法の有用性を検討した「IMforte試験」では、維持療法開始時からの全生存期間(OS)中央値が併用群13.2ヵ月、PD-L1阻害薬単剤群10.6ヵ月と報告されており1)、アンメットニーズが存在する。そこで、PD-L1阻害薬単剤による維持療法にタルラタマブを上乗せする治療法が検討されている。世界肺がん学会(WCLC2025)において、ED-SCLCの1次治療の維持療法における、PD-L1阻害薬+タルラタマブの安全性・有効性を検討する国際共同第Ib試験「DeLLphi-303試験」の結果を米国・Providence Swedish Cancer InstituteのKelly G. Paulson氏が報告した。本試験において、治療関連有害事象(TRAE)による死亡は報告されず、維持療法開始後のOS中央値25.3ヵ月、1年OS率82%と良好な治療成績が示された。本結果はLancet Oncology誌オンライン版2025年9月8日号に同時掲載された2)。試験デザイン:国際共同第Ib相試験対象:1次治療としてプラチナ製剤+エトポシド+PD-L1阻害薬※を4~6サイクル実施後に病勢進行がみられず、維持療法への移行が可能であったED-SCLC患者88例試験群1:タルラタマブ(10mg、2週ごと)+アテゾリズマブ(1,680mg、4週ごと) 48例試験群2:タルラタマブ(同上)+デュルバルマブ(1,500mg、4週ごと) 40例評価項目:[主要評価項目]用量制限毒性、治療中に発現した有害事象(TEAE)、TRAE[副次評価項目]全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)、奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、病勢コントロール率(DCR)など※:PD-L1阻害薬が使用できない場合は未使用も許容 主な結果は以下のとおり。・対象患者の年齢中央値は64歳、男性の割合は63%、PS1の割合は59%であった。ベースライン時に脳転移、肝転移を有していた割合はそれぞれ25%、36%であった。1次治療開始から維持療法開始までの期間中央値は3.6ヵ月(範囲:2.9~5.8)であった。・追跡期間中央値18.4ヵ月時点において、各薬剤の治療期間中央値は、タルラタマブ35週、アテゾリズマブ28週、デュルバルマブ31週であった。・タルラタマブに関連するGrade3~4のTRAEの発現割合は27%であった。死亡に至ったTRAEは報告されなかった。・TEAEとしてのCRSの発現割合は56%であった。そのうちの多くは、投与開始3ヵ月未満に発現した。ICANSの発現割合は6%であった。全例が投与開始3ヵ月未満に発現した。・解析対象集団全体における維持療法開始時からのOS中央値は25.3ヵ月であり、1年OS率は82%であった。・同様に、PFS中央値は5.6ヵ月であり、1年PFS率は34%であった。・維持療法開始時を基準としたORRは24%、DOR中央値は16.6ヵ月であった。DCRは60%、病勢コントロール期間中央値は14.6ヵ月であった。 本試験結果について、Paulson氏は「ED-SCLCの1次治療の維持療法において、PD-L1阻害薬へのタルラタマブ上乗せは、管理可能な安全性プロファイル、持続的な病勢コントロール、前例のないOSの改善を示した」とまとめた。

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再発・難治性多発性骨髄腫への新たな二重特異性抗体トアルクエタマブのベネフィット、隔週投与も可能/J&J

 再発・難治性の多発性骨髄腫に対する新たな治療薬として二重特異性抗体トアルクエタマブ(遺伝子組換え)(商品名:タービー皮下注)が8月14日に発売されたことを受け、9月5日にJohnson & Johnson(日本における医療用医薬品事業の法人名:ヤンセンファーマ)による記者説明会が開催され、岩手医科大学の伊藤 薫樹氏が本剤の効果や有害事象の特徴、ベネフィットを紹介した。既発売の二重特異性抗体とは異なる標的、隔週投与も可能 トアルクエタマブは、多発性骨髄腫細胞表面に高発現するGPRC5D(Gタンパク質共役型受容体ファミリーCグループ5メンバーD)およびT細胞表面に発現するCD3を標的とする二重特異性抗体である。すでに発売されている二重特異性抗体にはエルラナタマブとテクリスタマブがあるが、どちらもBCMA(B細胞成熟抗原)とCD3を標的としている。効能・効果は、再発または難治性の多発性骨髄腫で、免疫調節薬・プロテアソーム阻害薬・高CD38モノクローナル抗体製剤を含む3つ以上の標準的な治療が無効、または治療後に再発した患者が適応となる。継続投与期における投与方法は、0.4mg/kg週1回投与と0.8mg/kg隔週1回投与の2つの方法がある。 本剤の国際共同第I/II相MMY1001試験の第II相パートは、T細胞ダイレクト療法(CAR-T細胞療法、二重特異性抗体など)による前治療歴のない患者を対象とし、2つの投与方法に分けて評価された。主要評価項目の全奏効率(ORR)はコホートA(0.4mg/kg週1回)が74.6%、日本人コホート(0.4mg/kg週1回)が77.8%、コホートC(0.8mg/kg隔週1回)が72.5%であった。欧州におけるLocoMMotion試験(3つの標準的な治療後に再発した患者に対して、残っている他の薬剤で治療)での奏効率が約30%であったのに対し、どのコホートも2倍以上の奏効率であり、伊藤氏は「非常に効果が高いという印象」という。さらに、完全奏効もコホートAで33.6%、日本人コホートで47.2%と高く、寛解期間が長い「深い」奏効が得られることが明らかになった。特徴的な有害事象は、味覚障害、皮膚障害、爪の障害 本試験で、最も多かった有害事象はサイトカイン放出症候群で、全Gradeでは75~78%に発現したがGrade3以上は少なく、伊藤氏は「しっかり管理をすれば多くの患者が問題なく治療継続できる」という。本剤の特徴的な有害事象は、味覚障害、皮膚障害、爪の障害の3つで、治療を長期間継続するために、投与前にこれらの有害事象が発現することを伝え、対処法を指導しながら投与するなどのマネージメントが必要だと述べた。 感染症は、全Gradeで64.0%、Grade3以上で18.6%と、BCMAを標的とするエルラナタマブとテクリスタマブに比べて低い。伊藤氏はこの理由として、BCMAは正常のB細胞にも発現するため、BCMAを標的とする薬剤は正常のB細胞も駆逐し液性免疫不全が発生することが比較的多いが、トアルクエタマブが標的とするGPRC5DはB細胞での発現が非常に少ないことから、感染症をコントロールしやすいと考えられる、と説明した。このような副作用プロファイルの違いから、感染症を起こしやすい患者にはトアルクエタマブ、味覚障害に敏感で、食事を摂れないことでQOLの大幅な低下が想定される患者にはBCMAを標的とする薬剤を先に使用する、といった使い分けが考えられるという。トアルクエタマブのベネフィットと今後の開発への期待 トアルクエタマブのベネフィットとして伊藤氏は、3つの標準的な治療に抵抗性となった患者に有効なこと、CAR-T細胞療法と異なりタイムラグがなくさまざまな地域で使用できること、CAR-T細胞療法の適応とならない高齢者や臓器障害がある患者にも使用できることを挙げ、さらに、0.4mg/kg毎週投与以外に通院回数を減らせる0.8mg/kg隔週投与が可能なこと、BCMA標的治療(CAR-T療法、二重特異性抗体、抗体薬物複合体)実施後に再発した場合にも使用可能なことを挙げた。最後に、現在は単剤で承認されているが、抗原の異なる薬剤との併用や従来の免疫調節薬やダラツムマブとの併用など、他剤との併用療法の開発が進んでおり、より高い有効性を期待できる治療法が開発されることに期待を示し、講演を終えた。

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アルツハイマー病予防に対するリチウム補充の可能性/Nature

 アルツハイマー病(AD)における最初の分子変化は、これまで十分に解明されていなかった。米国・ハーバード大学のLiviu Aron氏らは、内因性リチウムが脳内で動的に調節され、加齢に伴う認知機能の維持に寄与する可能性を報告した。Nature誌オンライン版2025年8月6日号の報告。 主な内容は以下のとおり。・軽度認知障害(MCI)患者において、分析した金属のうち脳内で有意に減少していたのはリチウムのみであった。・ADでは、アミロイドの隔離によってリチウムのバイオアベイラビリティがさらに低下していることがわかった。・野生型およびADマウスモデルの食事からリチウムを枯渇させることによる、脳内の内因性リチウムの役割を調査した。皮質の内因性リチウムを約50%減少させると、アミロイドβの沈着およびリン酸化タウの蓄積が著しく増加し、炎症誘発性のミクログリアの活性化、シナプス、軸索、ミエリンの喪失、さらに認知機能低下の加速が引き起こされることが明らかとなった。・これらの効果は、少なくとも部分的に、キナーゼGSK3βの活性化を介していた。・単核RNA-seq解析では、リチウム欠乏は、複数の脳細胞種においてトランスクリプトーム変化を引き起こしており、これらはADにおけるトランスクリプトーム変化と重複することが示唆された。・アミロイド結合能を低下させたリチウム塩であるオロト酸リチウムによる補充療法は、ADマウスモデルおよび老化野生型マウスにおいて、病理学的変化および健忘症を予防することが示された。 著者らは「これらの知見は、脳における内因性リチウムの生理学的影響を明らかにし、リチウム恒常性の破綻がAD発症の初期段階である可能性を示唆している。リチウム塩によるリチウム補充は、ADの予防および治療への潜在的なアプローチとなりうる可能性がある」としている。

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ベルイシグアトは広範なHFrEF患者に有効~2つの第III相試験の統合解析/Lancet

 可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬ベルイシグアトは、2021年、VICTORIA試験の結果に基づき、最近の心不全悪化を経験した左室駆出率(LVEF)の低下を伴う心不全(HFrEF)患者の治療薬として欧州医薬品庁(EMA)および米国食品医薬品局(FDA)の承認を得た。フランス・Universite de LorraineのFaiez Zannad氏らVICTORIA and VICTOR Study Groupsは、本薬のHFrEF患者全般における有効性と安全性の評価を目的に、VICTORIA試験と、最近の心不全の悪化を経験していないHFrEF患者を対象としたVICTOR試験の患者レベルのデータを用いた統合解析を行い、ベルイシグアトは、現行のガイドラインに基づく治療を受けている患者を含む幅広い臨床的重症度のHFrEF患者において、心不全による入院および心血管死のリスクを低減したことを明らかにした。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2025年8月30日号に掲載された。最近の心不全悪化ありとなしを合わせて解析 VICTORIA試験(試験期間:2016年9月~2019年9月、42ヵ国、616施設、5,050例)とVICTOR試験(同:2021年11月~2025年2月、36ヵ国、482施設、6,105例)は、いずれも第III相二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験(Merck Sharp & DohmeとBayerの助成を受けた)。 VICTORIA試験の対象は年齢18歳以上、最近の心不全の悪化(過去6ヵ月以内の心不全による入院、または過去3ヵ月以内の外来での利尿薬静脈内投与と定義)を経験したHFrEFで、NT-proBNP濃度の上昇がみられる患者であった。VICTOR試験の適格基準もほぼ同様であったが、最近の心不全の悪化を経験していないHFrEF患者を対象とした。 ベルイシグアトは、2.5mg(1日1回、経口投与)から開始し、28日目の目標用量を10mgとして漸増した。両試験の参加者はともに、必要に応じてガイドラインに基づく心不全の基礎治療を受けた。9割弱がNT-proBNP≦6,000pg/mL、平均LVEFは29.8% 全体(1万1,155例[ベルイシグアト群5,579例、プラセボ群5,576例])の年齢中央値は68.0歳(四分位範囲[IQR]:60.0~75.0)、2,648例(23.7%)が女性であった。ベースラインのNT-proBNP濃度中央値は1,864pg/mL(IQR:1,036~3,537)で、測定が可能であった1万790例中9,566例(88.7%)が6,000pg/mL以下だった。 また、1万1,155例中7,797例(69.9%)がNYHA心機能分類II、3,352例(30.1%)が同IIIまたはIVであり、平均LVEFは29.8(SD 7.7)%、平均推算糸球体濾過量(eGFR)は66.6(SD 25.9)mL/分/1.73m2であった。複合エンドポイントと個別の構成要素が有意に優れる 主要複合エンドポイント(心血管死または心不全による入院)の発生率は、プラセボ群が27.9%(1,556/5,576例)であったのに対し、ベルイシグアト群は25.9%(1,446/5,579例)と有意に低かった(ハザード比[HR]:0.91[95%信頼区間[CI]:0.85~0.98]、p=0.0088)。 複合エンドポイントの個別の構成要素である心血管死(ベルイシグアト群12.7%vs.プラセボ群14.1%、HR:0.89[95%CI:0.80~0.98]、p=0.020)、および心不全による初回入院(18.6%vs.19.9%、0.92[0.84~1.00]、p=0.043)は、いずれもベルイシグアト群で有意に優れた。 また、副次エンドポイントである心不全による全入院(初回、再入院)(HR:0.91[95%CI:0.85~0.97]、p=0.0050)、全死因死亡(15.9%vs.17.5%、0.90[0.82~0.99]、p=0.025)は、いずれもベルイシグアト群で有意に良好だった。 ベースラインのNT-proBNP濃度が6,000pg/mLを超える患者と比較して、6,000pg/mL以下の患者はベルイシグアトの治療効果が高く、プラセボ群に比べ心血管死および心不全による入院のリスクが顕著に低かった。新たな安全性シグナルの発現はない 重篤な有害事象は、ベルイシグアト群で27.7%(1,543/5,568例)、プラセボ群で29.2%(1,627/5,564例)に発現した。有害事象による試験薬の投与中止は、それぞれ7.8%および6.9%に発生した。貧血がベルイシグアト群の8.5%(471例)、プラセボ群の6.7%(375例)に、症候性低血圧がそれぞれ11.8%(657例)および9.8%(548例)に発生した。また、統合解析では、個別の試験で報告されたもの以外の新たな安全性シグナルは認めなかった。 著者は、「ベルイシグアトは、とくにHFrEF患者の多数を占めるNT-proBNP濃度が6,000pg/mL以下の患者で、有益性がより顕著であった」とし、「VICTOR試験では、ベルイシグアトは心血管死または心不全による入院の主要複合エンドポイントのリスクを低下させなかったが、安定した状態の歩行可能なHFrEF患者では、これらのリスクの減少と関連していた」「この統合解析の知見は、ベルイシグアトが、あらゆる病態のHFrEFにおいて特定の患者集団に臨床的な有益性をもたらす可能性を示唆する」としている。

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閉塞性肥大型心筋症、aficamtenが有効/NEJM

 β遮断薬は、有効性に関するエビデンスが限定的であるにもかかわらず、症候性閉塞性肥大型心筋症(HCM)の初期治療に用いられてきた。心筋ミオシン阻害薬であるaficamtenは、標準治療への追加投与で左室流出路圧較差を軽減し、運動耐容能を改善してHCMの症状を軽減することが示されている。スペイン・Centro de Investigacion Biomedica en Red Enfermedades Cardiovaculares(CIBERCV)のPablo Garcia-Pavia氏らMAPLE-HCM Investigatorsは、HCMの治療におけるこれら2つの薬剤の単剤投与の臨床的有益性を直接比較する目的で、国際的な第III相二重盲検ダブルダミー無作為化試験「MAPLE-HCM試験」を実施。メトプロロール単剤に比べaficamten単剤は、最高酸素摂取量の改善に関して優越性を示し、症状の軽減や左室流出路圧較差、NT-proBNP値、左房容積係数の改善と関連したことを示した。研究の成果は、NEJM誌2025年9月11日号で報告された。世界71施設で参加者を登録 MAPLE-HCM試験は2023年6月~2024年8月に、北米、欧州、ブラジル、イスラエル、中国の71施設で参加者のスクリーニングを募り行われた(Cytokineticsの助成を受けた)。 対象は、年齢18~85歳、左室壁厚が15mm以上(疾患の原因となる遺伝子変異またはHCMの家族歴がある場合は13mm以上)のHCMと診断され、スクリーニングにおいて左室駆出率(LVEF)が60%以上、かつ安静時の左室流出路圧較差が30mmHg以上、またはバルサルバ法で誘発時の左室流出路圧較差が50mmHg以上の患者であった。 被験者を、aficamten(5mg/日で開始し、2週ごとに5mgずつ増量して6週目に20mg/日とする)+プラセボを投与する群、またはメトプロロール(50mg/日で開始し、2週ごとに50mgずつ増量して6週目に200mgとする)+プラセボを投与する群に1対1の割合で無作為に割り付け、24週間投与した。 主要エンドポイントは、ベースラインから24週目までの最高酸素摂取量の変化とした。主要エンドポイントが有意に良好 175例を登録し、aficamten群に88例、メトプロロール群に87例を割り付けた。全体の平均年齢は58歳で、58.3%が男性であった。ベースラインの安静時の平均左室流出路圧較差は47mmHg、バルサルバ法で誘発時の平均左室流出路圧較差は74mmHgであり、平均LVEFは68%で、NYHA心機能分類IIの心不全が70.3%を占めた。NT-proBNP値中央値は468pg/mL(四分位範囲:198~968)だった。 主要エンドポイントは、メトプロロール群が-1.2mL/kg/分(95%信頼区間[CI]:-1.7~-0.8)であったのに対し、aficamten群は1.1mL/kg/分(0.5~1.7)と有意に良好であった(最小二乗平均群間差:2.3mL/kg/分、95%CI:1.5~3.1、p<0.001)。6つの副次エンドポイント、5つが有意に優れる 次の5つの副次エンドポイントは、aficamten群で有意に優れた。(1)24週時のNYHA心機能分類が1分類以上改善の達成率(51%vs.26%、最小二乗平均群間差:25%[95%CI:11~39]、p<0.001)、(2)ベースラインから24週目までのカンザスシティ心筋症質問票-臨床サマリースコア(KCCQ-CSS)の変化量(15.8点vs.8.7点、6.9点[2.6~11.3]、p=0.002)、(3)24週目までのバルサルバ法で誘発時の左室流出路圧較差の変化量(-40.7mmHg vs.-3.8mmHg、-34.9mmHg[-43.4~-26.4]、p<0.001)、(4)NT-proBNPのベースライン値に対する24週時の値の相対的な変化(0.3 vs.1.4、0.19[0.15~0.24]、p<0.001)、(5)24週目までの左房容積係数の変化量(-3.8mL/m2 vs.2.8mL/m2、-7.0mL/m2[-9.1~-4.9]、p<0.001)。 一方、24週目までの左室心筋重量係数の変化量(-6.9g/m2 vs.-3.8g/m2、-4.9g/m2[-11.7~2.0]、p=0.16)は両群間に有意な差を認めなかった。有害事象の発現状況は同程度 投与開始後に、aficamten群の65例(74%)、メトプロロール群の66例(76%)で1件以上の有害事象が発現した。重篤な有害事象はそれぞれ7例(8%)および6例(7%)に、早期の投与中止に至った有害事象は1例(1%、短期間のウイルス性疾患を発症後に突然死)および3例(3%)に、減量に至った有害事象は1例(1%、めまい)および4例(5%、立ちくらみ2例、徐脈1例、疲労感1例)に認めた。 著者は、「本試験で認めたメトプロロールに対するaficamtenの臨床的有益性は、心筋ミオシンの阻害による左室流出路閉塞の軽減に起因する可能性が高い」「本試験はaficamten単剤療法だけでなく、閉塞性HCM患者におけるメトプロロール単剤の投与量、治療効果、副作用に関する独自の知見をも提供する」としている。

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先進医療技術の普及により1型糖尿病患者の血糖管理が大きく改善

 先進的テクノロジーを用いた医療機器の普及によって、1型糖尿病患者の血糖管理状態が顕著に改善しているとする研究結果が、「JAMA Network Open」に8月11日掲載された。米ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院のMichael Fang氏らの研究によるもので、血糖コントロールが良好(HbA1c7%未満)の18歳未満の患者の割合は、2009年は7%であったものが2023年には19%となり、成人患者では同期間に21%から28%に増加したという。 研究者らによると、これらの改善は、持続血糖モニターやインスリンポンプの技術革新によるところが大きいという。Fang氏は、「かつて、1型糖尿病患者の血糖コントロールは困難なことが多かった。こうした顕著な改善は喜ばしい変化だ」と述べている。ただし一方で、1型糖尿病患者の多くが、いまだに十分な血糖コントロールができていないことを、研究者らは指摘している。 米国糖尿病学会(ADA)によると、米国の1型糖尿病患者数は約200万人であり、そのうち30万4,000人は小児や10代の若者で占めている。1型糖尿病は膵臓のインスリン産生細胞が破壊されてしまう自己免疫疾患で、発症後は生存のためにインスリン療法が必須となる。従来のインスリン療法は、指先穿刺による血糖測定とインスリン注射を頻回に行う必要があり、また低血糖対策のための甘い物を常に身に着けておくことが欠かせない。一方、近年になり、持続血糖モニター、および、その測定結果を利用するアルゴリズムに基づき必要なインスリンを自動的に注入するポンプが普及し、安定した血糖値を維持できるようになってきた。 今回報告された研究には、約16万人の成人患者および約2万7,000人の18歳未満の小児・若年患者の医療記録が用いられた。分析の結果、2009~2023年の間に、前述のように血糖管理が良好な患者の割合が顕著に増加していた。その背景として、持続血糖モニターを使用している患者の割合は、小児・若年患者では4%から82%へと20倍以上に増加し、成人患者では5%から57%へと10倍以上に増加していた。また、インスリンポンプを使用している患者の割合は同順に、16%から50%、11%から29%に増加していた。2023年には双方のデバイスを利用している患者が、小児・若年者の47%、成人の22%を占めていた。 ただし、論文の上席著者で同大学院のJung-Im Shin氏は、「このような改善は喜ぶべきことだが、1型糖尿病患者の大半はいまだ最適な血糖コントロールを達成できておらず、改善の余地が残されていることを忘れてはならない」と話している。また、医療格差も認められ、先進的医療機器を利用し良好な血糖コントロールを維持しているのは、白人や民間保険に加入している患者に多いという。例えば18歳未満の患者の中で、良好な血糖コントロールを維持している割合は、白人では21%であるのに対し、ヒスパニック系では17%、黒人では12%にとどまっていた。 なお、研究グループでは今後さらに詳しい調査を続け、心臓病や腎臓病などの糖尿病に多い合併症の罹患率の変化も明らかにすることを計画している。

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慢性冠動脈疾患の抗血小板薬はアスピリン、クロピドグレル?(解説:後藤信哉氏)

 急性心筋梗塞ではアスピリンは死亡率低減効果を示した。慢性期の使用でも心血管死亡・心筋梗塞・脳梗塞発症予防効果が示され標準治療となっていた。クロピドグレルは冠動脈疾患、脳血管疾患、末梢血管疾患ではアスピリンに勝る優越性と安全性をCAPRIE試験で示した。冠動脈疾患のみに限局しても、アスピリンよりも有効で安全かもしれないとの仮説はあった。 特許切れして特定メーカーの宣伝がなくなっても、クロピドグレルの使用は拡大した。臨床研究も多数施行されていた。本研究では、慢性冠動脈疾患にてアスピリンとクロピドグレルを比較した7つの試験のメタ解析をした。MACCEは0.86(95%信頼区間:0.77~0.96、p=0.0082)とクロピドグレル群で低く、死亡と重篤な出血では差がなかった。有効性が優れ、安全性に差がなく、価格も安いとなればクロピドグレルの使用が広がることに誰も困らない。 新薬の開発がチャレンジングなのは理解できる。しかし、特許期間を超えて、著しい宣伝がなくなって真の意味での新薬の価値が明確になる時期が遅すぎる。アスピリン、クロピドグレルなど優れた薬の開発者を後になって懸賞する仕組みなども必要かもしれない。

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第260回 2040年に医療・介護業界が直面する「労働供給制約社会」

人口減少がもたらす現実21世紀に入り、わが国の人口は減少期に入り、生産年齢人口(15~64歳)の割合が高い「人口ボーナス期」から、少子高齢化の進展により、生産年齢人口の割合が減少し、子供(年少人口)や高齢者(老年人口)の割合が増え、経済に重荷(オーナス)となる「人口オーナス期」に突入しています。総人口は2020年の約1億2,800万人から2040年には1億1,000万人前後へと減少(約16%減)が見込まれています。その一方で、85歳以上人口は増加を続けるため、医療・介護分野での労働需要が減少せず、医療と介護の複合的なニーズが急速に高まります。図1 わが国の人口推移画像を拡大する未来予測2040 労働供給制約社会がやってくるリクルートワークス研究所の『未来予測2040』によれば、2030年には約340万人、2040年には約1,100万人の労働力不足が生じるとのことです。これは人口減少に伴う“構造的な労働供給不足”であり、一時的な景気変動によるものではなく、永続する課題として顕在化がさらに進みます。図2 労働需給シミュレーション画像を拡大する厚生労働省は、2024年3月から「新たな地域医療構想等に関する検討会」を開催し、これから迎える2040年のわが国の医療・介護について検討してきました。2040年には、生産年齢人口はほぼすべての地域で減少し、高齢人口は大都市部で増加、過疎地域では減少、地方都市部では高齢人口が増加と減少する地域があることを指摘しています。現在、多くの病院や診療所が、コロナ感染の拡大で変化した患者さんの受療動向の変化によって「患者不足」に直面していますが、これから問題になるのは「スタッフ不足」が深刻になると予想されています。 地方から人口流入がある東京や大阪といった大都市圏では、まだ目立って減少していませんが、すでに地方では人口の流出とともに、出生数の減少により人口減少に拍車がかかっています。このため、地域によっては小中学校や看護学校の閉鎖などが報道されていますが、少子化が止まらない現状が続くため、現状のまま放置すると2040年には高齢者の医療・介護現場が維持できなくなる可能性があります。しかし、今からの取り組み次第では、地域において持続可能となる可能性があります。図3 65歳以上人口が最大となる年画像を拡大する未来予測2040 医療・介護分野への影響厚労省の『未来予測2040』からは、主な業種別ギャップでは、「輸送・運搬業」が約99.8万人不足(24.2%不足)、「建設業」が約65.7万人不足(22.0%)、「製造業」が約112.4万人不足(約13.3%)と軒並み人手が不足しますが、「医療・保健専門職」も約81.6万人不足(約17.5%)、「介護サービス」が約58万人不足(約25.3%)と、同様に人手不足が予想されています。この人手不足に拍車をかけるのが所得問題です、以前から明らかになっていることですが、医療・介護関連職種の所得は、医師や看護師、薬剤師などを除くと平均所得が低いため、都市部では人材獲得競争に負けないため、人件費の高騰が医療・介護施設の経営悪化につながる可能性が高く、この問題を対処するためには、財源となる国からの拠出や医療・介護保険の保険料引き上げが必要となります。21世紀に入り東日本大震災や能登半島地震など、大災害に被災した地域で人口流出のために医療・介護関連職種が足りなくなった自治体では、すでに介護サービスのニーズに応えられなくなっており、それは将来のわが国の縮図となっています。今後、東京や大阪といった大都市でも、75歳以上の後期高齢者は増加し続け、15~64歳の現役世代が減少していくため、従来のように若い力に期待するよりも、定年退職後に働く再雇用などを積極的に行わないと地方だけではなく、医療・介護事業は継続不可能となる可能性が高くなります。このように課題が大きい一方で、医療・介護の現場は社会的に不可欠であり、持続可能性を高めるためのさまざまな方策が議論されています。新たな地域医療構想を通じて目指すべき医療とは厚労省が解決の方向性として打ち出しているものでは、シニア人材の活用や外国人材と多様な働き手の参入、テクノロジーの導入などが考えられています。とくに定年後の再雇用やセカンドキャリアとして医療・介護に関心を持っている人が入りやすい仕組みを拡充することで、経験豊富な人材が地域を支えられる可能性があります。さらに、外国人材についても2040年には労働力が不足するとの予測がありますが、技能実習研修制度の改善や導入教育システムを整えることで新たな担い手を確保する余地は残されています。また、医療・介護分野でのイノベーションで、AIやロボットの活用は、服薬管理や記録業務、移動支援などの領域で現場負担を軽減できます。今年7月25日に厚労省の「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」検討会が出した取りまとめをみると、「人材確保と職場環境改善・生産性向上、経営支援の方向性」の中に「若い世代が希望ややりがいを持てる業界となるためには、介護のイメージを変えることや、介護現場が変革する要素を示していくことが重要であり、テクノロジーの活用が進んだ職場であることや社会課題(SDGs、災害対応など)に対応する介護という観点をアピールすること、介護実習先での体験などが重要な要素となる。そうしたイメージの変革にあたっては、求職者となる若い世代の目でさまざまな施策を考えることが重要である」という表記もあり、これらを参考して、各地域で対応していく必要が重要と思われます。地域包括ケアの進化高齢化のピークは地域ごとに大きく異なります。都市部では急増、過疎地では減少と二極化するため、地域の実情に応じた医療・介護資源の集約と連携が不可欠です。医師にとって重要なのは「この人材制約下でどう診療体制を維持するか」です。多職種協働をさらに深化させ、看護師・介護職・リハビリ職と役割分担を柔軟に行うことも必要ですし、医師単独で地域のセーフティーネットを守るのではなく、地域社会と連携してその中で、必要な医療や介護を提供して生き残りを探るべき時代になっていると思います。若手が希望を持てる職場環境を作ることも大切で、これは診療科の充実や病院の魅力にも直結します。地域包括ケアの中で、医師や看護師が地域医療や介護のハブとして介護サービスや在宅医療機関との連携を主導することも大切になっていくと思われます。むしろ多様な課題に専門職の一員として協力体制を整えることが、地域社会への貢献につながる可能性が高いのです。危機をチャンスに冒頭に書いたように「労働供給制約社会」は避けられない未来ですが、それは同時に「医療・介護の働き方を根本から見直すチャンス」でもあります。テクノロジー導入、シニアや外国人の活躍、多職種連携といった改革が進めば、患者・家族にとっても、そして、医療従事者にとってもより持続可能で魅力的な医療・介護体制を築くことができます。2040年の未来を悲観するのではなく、新しい地域医療の姿を描く契機として捉えることが求められています。 参考 1) 2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」 検討会の取りまとめ(厚生労働省) 2) 「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」現状と課題・論点について(同) 3) リクルートワークス研究所「未来予測2040 労働供給制約社会がやってくる」(リクルートワークス研究所)

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第89回 感度と特異度とは?【統計のそこが知りたい!】

第89回 感度と特異度とは?医療診断の分野において、検査の有効性を評価するために用いられる2つの重要な統計的尺度は、「感度」と「特異度」です。これらの指標は、さまざまなテストを用いて病状を正確に診断するために不可欠です。今回は、臨床試験の結果を解釈する際に必要な感度と特異度について解説します。■感度と特異度とは何か?「感度(真陽性率とも呼ばれる)」は、実際に陽性であるものがテストによって正しく陽性と識別される割合を測定します。簡単に言うと、この指標は「すべての病気を持っている人々の中で、何人がテストで正しく陽性と識別されたか」という問いに答えます。「特異度(真陰性率とも呼ばれる)」は、実際に陰性であるものがテストによって正しく陰性と識別される割合を測定します。この指標は「病気を持っていないすべての人々の中で、何人がテストで正しく陰性と識別されたか」という問いに答えます。■感度と特異度の重要性感度と特異度のバランスは、臨床検査など医療テストの有用性を決定する上で重要です。高い感度は、条件を持つ患者のほとんどが識別されることを保証し、診断を見逃すリスクを減らします。高い特異度は、条件を持たない人々が誤って診断されることなく、不要な治療を避けることができます。■臨床設定での応用例特定のがんを検出するために開発された新しいテストを考えてみましょう。テストの感度が高く特異度が低い場合、テストはがんを持つ患者のほとんどを識別できますが、健康な個人を誤ってがんであるとラベル付けする可能性があります。逆に、特異度が高く感度が低いテストは、がんのいくつかのケースを見逃す可能性がありますが、がんでない人々を正確に判断します。■感度と特異度の計算■課題と考慮事項理想的には感度も特異度も高い値が望ましいのですが、実際にはしばしばトレードオフが行われます。感度を高めると特異度が低下することがあり、その逆も同様です。したがって、テストを選択する際には、テストされる病気や見逃された診断、誤診の結果としての影響を考慮に入れます。感度と特異度は、診断テストを評価するための基礎的な概念です。これらの指標を理解することで、臨床試験や日常診断に使用されるテストの信頼性を解釈することができます。感度と特異度を適切に評価することにより、臨床現場においてどのテストを使用し、その結果を患者ケアにおいてどのように解釈するかについて、よりよい情報に基づいた決定を行うことが大切です。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ「わかる統計教室」特別編 カットオフ値とROC解析「統計のそこが知りたい!」第66回 カットオフ値とは?第67回 クラメール連関係数で算出したカットオフ値第68回 ROC解析で算出したカットオフ値

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