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第156回 コロナ感染後の脳のもやもやがADHD薬グアンファシンで改善

日本で承認済みの注意欠如・多動症(ADHD)治療薬「グアンファシン(商品名:インチュニブ)」が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後症状(long COVID)の1つとして知られる脳のもやもや(brain fog)に有効かもしれないことが12例への投与試験で示唆されました1)。脳のもやもやは頭の働きの低下が続くことの俗称であり、脳の前頭前皮質(PFC)が担う実行・記憶・注意力、やる気を損なわせ、仕事や日常生活を妨げます。COVID-19患者の脳ではNMDA受容体(NMDAR)を阻害するキヌレン酸が多いことが知られています。脳のもやもやに似た症状を呈する外傷性脳損傷(TBI)の治療薬として検討されているN-アセチルシステイン(NAC)はキヌレン酸生成酵素を阻害してNMDAR伝達を回復させるらしく、グアンファシンはその伝達を後押ししてPFCの神経連結を強化する働きが期待できます。幸いにもグアンファシンとNACはどちらも忍容性が良好であり、long COVIDへの可能性を見出したエール大学の精神神経科医Arman Fesharaki-Zadeh氏らはそれら2剤を脳のもやもやを訴える患者に投与することを試みました。その結果、コロナ感染から3~14ヵ月経つものの認知障害が治まらず、複数作業の同時遂行(multi-tasking)・専念・集中などの遂行機能が低下していた12例のうち8例の脳のもやもやが投与の甲斐あって軽減しました。ただし、両剤の忍容性は良好とはいえ無害というわけではなく、2例はグアンファシンで生じうることが知られる低血圧症やめまいで服用を止める必要がありました。また、追跡が不可能になった患者が2例いました。残りの8例は作業記憶、集中、遂行機能の改善を示し、何例かは日常をいつもどおり過ごせるほどに回復しました。long COVIDのせいで看護師の仕事時間を大幅に短縮せざるを得ずにいた女性被験者1例の経過は示唆に富んでいます。彼女の作業記憶、遂行機能、頭の回転の速さ(cognitive processing speed)はグアンファシン治療でだいぶ良くなっていつもの仕事をこなせるようになりました。しかし急な低血圧症事象(めまい)の発生を受けてその治療を止めたところ認知機能や集中が悪化しました。そこでグアンファシンを再開したところ脳のもやもやが首尾よく再び治まり、めまいの再発なく同剤の服用を無事続けることができました。多くの患者を募ってグアンファシンとNACを検討するプラセボ対照試験の資金が今回の12例の治療報告を契機にして集まることをFesharaki-Zadeh氏らは望んでいます2)。long COVIDの治療手段の検討は他にもあり3)、たとえばファイザーの飲み薬ニルマトレルビル・リトナビル(商品名:パキロビッドパック)の運動、認知、自律神経症状への効果を調べている試験があります4)。また、脳のもやもやや疲労に対する気分安定薬リチウムの試験5)、動悸や慢性疲労を引き起こす体位性起立性頻拍症候群(POTS)に対する重症筋無力症治療薬エフガルチギモド アルファ(日本での商品名:ウィフガート)の試験6)が進行中です。参考1)Fesharaki-Zadeh A, et al. Neuroimmunology Reports. 2023;3: 1001542)Yale Researchers Discover Possible 'Brain Fog' Treatment for Long COVID / Yale Medicine3)Long COVID Clinical Trials May Offer Shortcut to New Treatments / MedScape4)PASC試験(Clinical Trials.gov)5)Effect of Lithium Therapy on Long COVID Symptoms(Clinical Trials.gov)6)POTS試験(Clinical Trials.gov)

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うつ、不安、苦痛に対する身体活動介入の有効性~アンブレラレビュー

 オーストラリア・南オーストラリア大学のBen Singh氏らは、成人のうつ病、不安、精神的苦痛に関する症状に対する身体活動の影響を明らかにするためアンブレラレビューを行った。その結果、身体活動は、幅広い成人に対しうつ病、不安、精神的苦痛の改善に有益であることが確認された。British Journal of Sports Medicine誌オンライン版2023年2月16日号の報告。 2022年1月1日までに公表された適格研究を、12件の電子データベースより検索した。成人を対象に、身体活動によるうつ病、不安、精神的苦痛を評価したランダム化比較試験のメタ解析によるシステムを適格基準とした。研究の選択は、2人の独立したレビュアーによる重複チェックにより実施した。 主な結果は以下のとおり。・91件のレビュー(1,039試験、12万8,119例)を検討に含めた。・対象には、健康成人、精神疾患を有する成人、さまざまな慢性疾患を有する成人が含まれていた。・77件の研究は、システマティックレビューの方法論的な質を評価するための測定ツール(AMSTAR)のスコアが非常に低かった。・身体活動は、通常ケアと比較し、うつ病、不安、精神的苦痛に対する中程度の効果が認められた。 ●うつ病 エフェクトサイズ中央値:-0.43、四分位範囲[IQR]:-0.66~-0.27 ●不安 エフェクトサイズ中央値:-0.42、IQR:-0.66~-0.26 ●精神的苦痛 エフェクトサイズ:-0.60、95%CI:-0.78~-0.42・うつ病、HIV、腎臓病の成人、妊娠中または産後の女性、健康成人において、最大の効果が認められた。・高強度の身体活動は、症状の大幅な改善と関連が認められた。・身体活動介入の有効性は、介入期間が長くなるほど減少していた。・身体活動は、うつ病、不安、精神的苦痛のマネジメントにおいて主要なアプローチであることが示唆された。

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水素吸入で院外心停止患者の救命・予後改善か/慶大ほか

 心停止の際に医療従事者が近くにいないなど、即座に適切な処置が行われなかった場合、1ヵ月の生存率は8%とされる。また、生存できた場合でも、救急蘇生により臓器に血液と酸素が急に供給されることで、非常に強いダメージが加わり(心停止後症候群と呼ぶ)、半数は高度な障害を抱えてしまう。このような心停止後症候群を和らげる治療として、体温管理療法があるが、その効果はいまだ定まっていない。そこで、東京歯科大学の鈴木 昌氏(慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート特任教授)らの研究グループは、病院外で心停止となった後に循環は回復したものの意識が回復しない患者を対象に、体温管理療法と水素吸入療法を併用し、効果を検討した。その結果、死亡率の低下と後遺症の発現率の低下が認められた。本研究結果は、eClinicalMedicine誌2023年3月17日号に掲載された。 HYBRID II試験は、日本国内の15施設で2017年2月~2021年9月に実施された多施設共同二重盲検プラセボ対照比較試験である。心臓病のために病院外で心停止となり、心肺蘇生により循環が回復したものの意識が回復しない20~80歳の患者73例が対象となった。対象患者を体温管理療法と同時に、2%水素添加酸素を吸入する群(水素群:39例)、水素添加のない酸素を吸入する群(対照群:34例)に分け、18時間吸入させた。主要評価項目は、90日後に主要評価項目は脳機能カテゴリー(CPC)1~2(脳神経学的予後良好)を達成した患者の割合、副次評価項目は90日後のmodified Rankin Scale(mRS)スコア(0[まったく症候がない]~6点[死亡]で評価)、90日後の生存率などであった。 主な結果は以下のとおり。・主要評価項目の90日後にCPC 1~2を達成した患者の割合は、対照群が39%であったのに対し、水素群では56%であった(リスク比[RR]:0.72、95%信頼区間[CI]:0.46~1.13、p=0.15)。・副次評価項目の90日後のmRSスコアの中央値は、対照群が5点(四分位範囲[IQR]:1~6)であったのに対し、水素群は1点(IQR:0~5)であり、有意に低かった(p=0.01)。・mRSスコア0点の達成率は、対照群が21%であったのに対し、水素群は46%であり、有意に高率であった(RR:2.18、95%CI:1.04~4.56、p=0.03)。・90日後の生存率は、対照群が61%であったのに対し、水素群が85%であり、有意に生存率が上昇した(RR:0.39、95%CI:0.17~0.91、p=0.02)。・90日後までの有害事象の発現率は、対照群88%、水素群95%であった。重篤な有害事象の発現率は、対照群21%、水素群18%であった。有害事象は、いずれも水素吸入に起因するものではないと判断された。 研究グループは、「新型コロナウイルス感染症による救急医療のひっ迫の結果、本研究は早期終了となったため、目標症例数の90例には到達しなかった。そのため、水素吸入療法の有効性を検証するには至らなかった。しかし、水素吸入療法により90日後の生存率や症状や障害がない患者の割合が有意に上昇したことから、水素吸入療法は、心停止後症候群に陥った患者の意識を回復させ、神経学的後遺症を残さないようにする画期的な治療法になることが期待できる」とまとめた。

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切除可能非小細胞肺がんに対する 術前・後ペムブロリズマブ、無イベント生存期間を改善(KEYNOTE-671)/MSD

 Merck社は2023年3月1日、Stage II、IIIA、IIIB(T3-4N2)の切除可能な非小細胞肺がん(NSCLC)患者に対する周術期療法としてのペムブロリズマブを評価する第III相KEYNOTE-671試験において、2つの主要評価項目のうち無イベント生存期間(EFS)を達成したことを発表した。周術期療法レジメンには術前補助療法(ネオアジュバント療法)とそれに続く術後補助療法(アジュバント療法)が含まれる。 KEYNOTE-671試験は、上記NSCLC患者を対象とした、無作為化二重盲検第III相試験。786例の登録患者を以下のいずれかの群に、1:1に無作為に割り付けた。・試験群:術前補助療法としてペムブロリズマブ(200mgを3週ごと最大4サイクル)+化学療法(シスプラチン+ゲムシタビンまたはペメトレキセド)、その後術後補助療法としてペムブロリズマブ(200mgを3週ごと最大13サイクル)・対照群:術前補助療法としてプラセボ(3週ごと最大4サイクル)+化学療法(シスプラチン+ゲムシタビンまたはペメトレキセド)、その後術後補助療法としてプラセボ(3週ごと最大13サイクル) 主要評価項目はEFS、全生存期間(OS)、副次評価項目は病理学的完全奏効(pCR)、主要な病理学的奏効(mPR)などであった。 試験の結果、プラセボ群と比較して、ペムブロリズマブ群で統計学的に有意かつ臨床的に意味のあるEFSの改善が認められた。副次評価項目であるpCRおよびmPRについても統計学的に有意な改善が認められている。この結果は今後の医学学会で発表する予定。 この試験データに基づき、Stage II、IIIA、IIIB(T3-4N2)の切除可能NSCLCのプラチナ化学療法との併用による術前補助療法と、その後の単独療法による術後補助療法として、ペムブロリズマブの生物製剤承認一部変更申請(sBLA)が米国食品医薬品局(FDA)に受理された。審査完了予定日は2023年10月16日。

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経鼻投与の百日咳ワクチン、単回でも感染抑制の可能性/Lancet

 経鼻投与型の弱毒生百日咳ワクチンであるBPZE1は、鼻腔の粘膜免疫を誘導して機能的な血清反応を引き起こし、百日咳菌(Bordetella pertussis)感染を回避し、最終的に感染者数の減少や流行の周期性の減弱につながる可能性があることが、米国・ILiAD BiotechnologiesのCheryl Keech氏らの検討で示された。研究の成果は、Lancet誌2023年3月11日号で報告された。米国の無作為化第II相試験 研究グループは、BPZE1の免疫原性と安全性を破傷風・ジフテリア・沈降精製百日咳ワクチン(Tdap)と比較する目的で、米国の3施設で二重盲検無作為化第IIb相試験を行った(ILiAD Biotechnologiesの助成を受けた)。 年齢18~50歳の健康な成人が、次の4つの群に2対2対1対1の割合で無作為に割り付けられた。1日目にBPZE1を接種し、85日目に弱毒BPZE1を接種する群(BPZE1-BPZE1群)、同様にBPZE1接種後にプラセボを接種する群(BPZE1-プラセボ群)、Tdap接種後に弱毒BPZE1を接種する群(Tdap-BPZE1群)、Tdap接種後にプラセボを接種する群(Tdap-プラセボ群)。 1日目には、凍結乾燥したBPZE1に滅菌水を加えて鼻腔内に投与し、Tdapは筋肉内に投与された。マスキングを維持するために、BPZE1群では生理食塩水が筋肉内投与され、Tdap群では凍結乾燥プラセボが鼻腔内投与された。 免疫原性の主要エンドポイントは、29日目または113日目における少なくとも1つのB. pertussis菌抗原に対する鼻腔の分泌型IgAのセロコンバージョン(抗体陽転)が得られた参加者の割合であった。忍容性も良好 2019年6月17日~10月3日の期間に280例が登録された。BPZE1-BPZE1群に92例(平均年齢35.6歳、男性39%)、BPZE1-プラセボ群に92例(35.2歳、50%)、Tdap-BPZE1群に46例(34.6歳、43%)、Tdap-プラセボ群に50例(34.2歳、46%)が割り付けられた。 29日目または113日目における少なくとも1つのB. pertussis菌特異的な鼻腔の分泌型IgAのセロコンバージョンは、BPZE1-BPZE1群が84例中79例(94%、95%信頼区間[CI]:87~98)、BPZE1-プラセボ群が94例中89例(95%、95%CI:88~98)、Tdap-BPZE1群が42例中38例(90%、95%CI:77~97)、Tdap-プラセボ群は45例中42例(93%、95%CI:82~99)で得られ、幾何平均比および幾何平均倍率ではBPZE1群がTdap群よりも高率であった。 BPZE1群では、B. pertussis菌特異的な粘膜の分泌型IgA応答が広範かつ一貫して認められたのに対し、Tdap群ではこのような一貫性は誘導されなかった。 2つのワクチンは共に忍容性が良好で、反応原性は軽度であり、ワクチン関連の重篤な有害事象は認められなかった。1日目の接種後7日以内に非自発的に報告されたGrade1以上の鼻腔および呼吸器の有害事象では、鼻詰まり(BPZE1群39%、Tdap群35%)、鼻水(36%、34%)、くしゃみ(33%、29%)の頻度が高かったが、85日目の接種以降は前回のワクチンの種類を問わず、鼻腔および呼吸器の反応原性イベントは頻度、重症度共に悪化することはなかった。 接種後7日以内のGrade1以上の全身性有害事象では、頭痛(BPZE1群37%、Tdap群36%)、倦怠感(34%、22%)の頻度が高かったが、85日目の接種以降は前回のワクチンの種類を問わず、全身性有害事象の頻度、重症度共に悪化しなかった。 著者は、「本研究は、BPZE1の単回鼻腔投与により、百日咳菌に対する分泌型IgA応答が誘導されることを示したヒトで初めての概念実証試験であり、安全な次世代の百日咳ワクチンとしてのBPZE1のさらなる開発を支持するものである」としている。

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ニボルマブのNSCLCネオアジュバント、国内承認/小野薬品・BMS

 小野薬品工業とブリストル・マイヤーズ スクイブは、2023年3月27日、ニボルマブについて、化学療法との併用療法で非小細胞肺における術前補助療法に対する効能又は効果の追加に係る製造販売承認事項一部変更承認の取得を発表した。 今回の承認は、切除可能な非小細胞肺がん(NSCLC)患者の術前補助療法として、ニボルマブと化学療法の併用療法を化学療法単独と比較評価した多施設国際共同無作為化非盲検第III相試験であるCheckMate 816試験の結果に基づいている。 同試験では、ニボルマブと化学療法の併用療法の3回投与は、化学療法単独と比較して、本試験の主要評価項目である盲検下独立中央評価委員会(BICR)の評価による無イベント生存期間(EFS)および盲検下独立病理委員会(BIPR)の評価による病理学的完全奏効(pCR)で統計学的に有意かつ臨床的に意義のある改善を示した。本試験におけるニボルマブと化学療法の併用療法の安全性プロファイルは、NSCLC患者を対象とした試験でこれまでに報告されているものと一貫していた。

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第140回 医学部不正入試、1億6千万円の支払いで和解へ/順天堂大学

<先週の動き>1.医学部不正入試、1億6千万円の支払いで和解へ/順天堂大学2.がん誤診で膵臓全摘出後に患者死亡、患者遺族が提訴/大分3.病院のサイバーセキュリティ対策、ガイドライン最新版6.0に/厚労省4.パブリックコメント殺到、経口中絶薬の審議見送りに/厚労省5.レセプト請求は2024年9月までに原則オンライン化へ/厚労省6.少子化対策で、出産費用も保険適用を検討/政府1.医学部不正入試、1億6千万円の支払いで和解へ/順天堂大学順天堂大学医学部において、女性と浪人生に対する不当な選抜基準を設けていたことに関して、平成29年度・平成30年度の入学試験で不利益な扱いを受けた受験生への入学検定料などの返還を求めていた消費者機構日本と順天堂大学の間で、和解が3月20日に成立した。和解では、大学側が消費者機構日本に1億6,000万円あまりを支払う内容。この和解案に基づき、消費者機構日本から医学部受験で不合格となった女子学生や浪人生、1,184人に対して入学検定料など相当額の損害賠償金が5月中旬に分配がされる。今回は、消費者裁判手続特例法に基づいた裁判で、回収金額は過去最高額となった。(参考)順天堂大学 入学検定料等に係る返還訴訟の和解について(消費者機構日本)順天堂大医学部、不正入試で和解 1184人分の受験料返還(東京新聞)医学部不正入試の順天堂大、1億6675万円支払いで和解…1183人と消費者機構に(読売新聞)2.がん誤診で膵臓全摘出後に患者死亡、患者遺族が提訴/大分昨年、大分県立病院で、膵臓がんの疑いと診断され、膵臓全摘出術を受けた患者が死亡した男性の遺族が県に対して、病院側の対応が問題だとして3,300万円の損害賠償を求めていた裁判が、大分地方裁判所で始まった。3月24日に第1回口頭弁論が開かれ、病院側は争う姿勢をみせている。訴状によれば、昨年5月に画像検査から膵尾部がんを疑われた59歳の男性が、大分県立病院で翌月に膵臓全摘出術を受けたが、術後の病理組織検査でがんではなかったと判明。患者はその後、術後合併症を併発し、回復しないまま退院したが、同年11月に自宅で死亡した。原告側は緊急性のない手術につき術前検査をもとに治療方針を決めず、患者に治療方法を選ぶ機会を十分に与えなかったとして、注意義務違反だと主張している。(参考)すい臓全摘出したが「がんではなかった」 大分県立病院を遺族が提訴(朝日新聞)がん誤診で膵臓全摘、死亡 遺族が賠償提訴、病院側争う姿勢 大分(毎日新聞)がん疑いで膵臓を全摘出、病変なし判明で退院した男性が自宅で死亡…遺族が賠償提訴(読売新聞)県立病院で「がん」ではないすい臓を摘出 死亡した男性の親族 3300万円の損害賠償 大分(大分放送)3.病院のサイバーセキュリティ対策、ガイドライン最新版6.0に/厚労省相次ぐ病院に対するサイバー犯罪に対応するため、厚生労働省は3月23日に「健康・医療・介護情報利活用検討会」の「医療等情報利活用ワーキンググループ」を開催した。この中で、昨年春にバージョンアップされた「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」をさらに6.0にアップデートするため、今後パブリックコメントを募集し、その意見も踏まえ5月中旬に最終版を正式に公表するとした。また、2023年6月以降の都道府県による立ち入り検査では、サイバーセキュリティ対策実施の有無をチェックほか、「医療機関やシステムベンダーに対して、「サイバーセキュリティ対策に関するチェックリスト」を事前に提示するなど最初に行うべき事項は明確化することを承認した。(参考)病院への相次ぐサイバー攻撃でVPNへの関心高まる バックアップへの対策も進む、厚労省調査で判明(CB news)医療情報ガイドライン6.0版、5月中旬に公表 厚労省がWGに改定スケジュール提示(同)医療機関等のサイバーセキュリティ対策、「まず何から手を付ければよいか」を確認できるチェックリストを提示-医療等情報利活用ワーキング(Gem Med)第16回健康・医療・介護情報利活用検討会医療等情報利活用ワーキンググループ(厚労省)「病院における医療情報システムのサイバーセキュリティ対策に係る調査」の結果について(同)4.パブリックコメント殺到、経口中絶薬の審議見送り/厚労省国内初の経口中絶薬について、厚生労働省が専門部会の開催前に実施したパブリックコメントに、通常の100倍に相当する約1万2,000件の意見が集まったため、3月24日に予定されていた審議は延期された。同省は、多くの意見を分析する時間が必要となったため延期とした。対象となったのはイギリスの製薬会社ラインファーマが薬事申請している「メフィーゴパック」。海外では経口中絶薬は70ヵ国以上で承認されているが、国内では未承認。妊娠9週までが対象。今後、意見を踏まえた議論を経て、承認に向けた最終的な議論がなされる見込み。(参考)経口中絶薬の審議見送り 意見1万件超、分析に時間 厚労省(時事通信)「飲む中絶薬」審議を見送り 厚労省「パブコメの分析、間に合わず」(朝日新聞)「飲む中絶薬」にパブコメ殺到の背景 通常の100倍超…審議は延期(同)飲む中絶薬の承認審議延期 意見公募の対応で、厚労省(日経新聞)ミフェプレックス(MIFEPREX)(わが国で未承認の経口妊娠中絶薬)に関する注意喚起について(厚労省)5.レセプト請求は2024年9月までに原則オンライン化へ/厚労省厚生労働省は社会保障審議会医療保険部会を3月23日に開催し、オンライン請求の割合を100%に近付けていくためのロードマップ案を提示した。同省としては、規制改革実施計画に盛り込まれた社会保険診療報酬支払基金での審査・支払業務の円滑化のため、オンライン請求を行っていない医療機関の実態調査の結果をもとに、オンライン請求100%を目指して取り組む。具体的には、現在オンライン請求を行なっている医療機関が70%と増加する一方で、光ディスクと紙レセプトが減少している。令和5年4月から原則としてオンライン資格確認が導入されるのに合わせて、オンライン請求が可能な回線が全国の医療機関に整備されるタイミングでもあり、オンライン資格確認の特例加算の要件緩和により、今年4月から12月末までにオンライン請求を開始する場合には、加算を算定することが可能となっていることを広報していくことを明らかにした。現行、光ディスクなどを使って請求している医療機関や薬局に対して、経過措置期間を設けて、2024年9月末までに原則としてオンライン請求をするように求めていく。(参考)光ディスクでのレセプト請求、原則オンライン化へ 24年9月末までに、厚労省(CB news)オンライン請求の割合を100%に近づけていくためのロードマップ[案](厚労省)第164回社会保障審議会医療保険部会(同)6.少子化対策で、出産費用も保険適用を検討/政府新型コロナウイルス感染拡大の影響で、2022年の出生数(速報値)が79万9,728人と過去最少を記録するなど今後の社会保障の持続可能性が危ぶまれている中、岸田内閣は、少子化対策で新たにまとめる子ども政策に、分娩費用について健康保険の適用方針も検討していることが明らかとなった。3月10日に菅義偉前首相が、少子化対策の一環で出産費用を保険適用として、自己負担分は国の予算で負担するなどで、実質無償化を民放番組で訴えたのがきっかけ。政府はこの4月1日以降の出産について出産育児一時金を50万円に引き上げるなど拡充を行なっているが、今後、具体化に向け議論を開始するとみられる。(参考)出産費に健康保険 将来適用方針で調整(FNN)出産費用、将来の保険適用検討 個人負担を軽減(日経新聞)出産費用を巡る「岸田路線」と「菅路線」(毎日新聞)

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転移性去勢抵抗性前立腺がんでPARP阻害薬rucaparibは有効(解説:宮嶋哲氏)

 rucaparibはポリ(ADPリボース)ポリメラーゼ(PARP)阻害薬であり、第II相試験ではBRCA遺伝子変異を伴う転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)患者で高い活性を示した。本研究は、BRCA1、BRCA2、またはATM変異を伴うmCRPC患者において、第2世代アンドロゲン受容体経路阻害薬(ARPI)治療後に病勢進行を認めた患者に対して、rucaparib、もしくはドセタキセルまたは第2世代ARPIを2:1で割り付けたランダム化第III相試験(TRITON3試験)である。主要評価項目は画像評価によるPFSである。 スクリーニングを受けた4,855例のうち、270例がrucaparib投与群、135例が対照群に割り付けられた。各群でのBRCA変異症例は201例、101例に認められた。62ヵ月時点でのPFSは、BRCA変異サブグループ解析でrucaparib投与群11.2ヵ月、対照群6.4ヵ月であり(ハザード比[HR]:0.50)、ITTグループ解析では各々10.2ヵ月、6.4ヵ月であり(HR:0.61)いずれの解析でもrucaparibはPFSを延長した。一方、ATM変異患者での探索的サブグループ解析では、両群間に有意差を認めなかった。副作用に関しては、rucaparibは疲労感、嘔気、貧血を呈しやすいが、症状が重篤な場合は投与中断、または投与減量で対処するのが妥当と考えられた。 現在、BRCA変異を伴うmCRPC患者において使用可能なPARP阻害薬はオラパリブのみであるが、加えてrucaparibが有効な治療選択肢になりうる可能性が示唆された。ただし、OSに関する報告は未着であり、本試験の今後の推移に注目したい。また、本試験は単剤療法による解析であり、今後は他薬剤との併用効果に期待したい。

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リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その5【「実践的」臨床研究入門】第30回

検索式を改訂する今回は前回からの続きで、検索式の能力を検証しながら改訂していきます。前回解説したとおり、P(対象)の構成要素ブロックにRenal Insufficiency[mh:noexp] OR(太字部分)を加え、E(曝露)のブロックとANDでかけ合わせ、再度「Key論文」のブロックとNOTでつなぐと、表1の結果になります(本稿執筆2023年3月時点)。表1画像を拡大するPのブロックには、MeSH termsを加えた結果、ヒットした論文数が大幅に増えています(Search #1)。前回検索時から約1ヵ月経っているので、Eのブロックで検索された論文数もわずかに増加し(Search #2)、改訂検索式でのヒット論文数も数10編増えています(Search #3)。この改訂検索式と「Key論文」のブロックをかけ合わせた結果、ヒットする論文数は7編から6編と1つ減っています。当初ヒットしなかったコクラン・システマティックレビュー(SR:systematic review)論文1)が、改訂検索式ではヒットするようになったのです(お時間ある方は確認してみてください)。それでは同じ要領で、ヒットしなかった「Key論文」すべてが捕捉できるように、検索式をさらに改訂してみましょう。残りのヒットしなかった「Key論文」のMeSH termsなどの情報をチェックします(連載第29回参照)。たとえば、現時点の検索式に含まれるMeSH termsやテキストワードは、ヒットしなかった「Key論文」の1つである非コクランSR2)のMeSH termsやタイトルおよびアブストラクトに含まれていません。非コクランSR2)の書誌情報(リンク)から、この論文に付与されているMeSH terms"Diabetic Nephropathies"をPの構成要素ブロックに追加します。Diabetic Nephropathies[mh]同様に、ヒットしなかった非コクランSR3)の書誌情報(リンク)を見ると、この論文にはMeSH termsが付与されていません。そこで、論文タイトルに含まれている"diabetic nephropathy"をテキストワードとしてPのブロックに追加してみます。"diabetic nephropathy"[tiab]※[mh]や[tiab]という「タグ」については、連載第24回で解説していますので、ご参照ください。すると、さらに改訂した検索式とその結果は表2のようになります。表2画像を拡大する「Key論文」4-6)は再改訂検索式でヒットするようになり、残りはとうとう非コクランSR1編7)になりました。この論文7)のMeSH termsを見てみると(リンク)、再改訂検索式のEのブロックに含まれている"Diet, Protein-restricted"は付与されています。しかし、再改訂検索式Pのブロックに含まれるMeSH termsはいずれも付与されていません。したがって、この論文7)のMeSH termsの中から、新たに"Kidney Disease"を検索式Pのブロックに加えることにします。MeSH terms"Kidney Disease"の階層構造はリンクのとおりですが、その下位概念は含まれないように、[mh: noexp]の「タグ」を付けます(連載第24回参照)。Kidney Disease[mh: noexp]再々改訂検索式の検索結果は表3となり、すべての「Key論文」がヒットするようになりました。表3画像を拡大する1)Robertson L, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2007:2007:CD002181.2)Pan Y, et al. Am J Clin Nutr. 2008;88:660-666.3)Nezu U, et al. BMJ Open. 2013;3:e002934.4)Koya D, et al. Diabetologia. 2009;52:2037-2045.5)Li XF, et al. Lipids Health Dis. 2019;18:82.6)Zhu HG, et al. Lipids Health Dis. 2018;17:141.7)Yue H, et al. Clin Nutr. 2020;39:2675-2685.

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生活習慣の改善(11)運動療法1【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q59

生活習慣の改善(11)運動療法1Q59運動療法の指導の際に本邦では「運動療法指針」を掲げている。「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」2022年版において、患者の生活スタイルに合わせるべく「運動の頻度・時間」に追加された目標は?(従来:毎日合計30分以上を目標に実施する。とある)

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事例020 電子画像管理加算での査定【斬らレセプト シーズン3】

解説事例では、胃・十二指腸造影撮影に伴って算定した「電子画像管理加算(以下「同加算)」がD事由(告示・通知の算定要件に合致していないと認められるもの)にて査定となりました。同加算は、「画像診断 第1節 エックス線診断料 通則4」に定められた加算です。撮影した画像を電子化して管理および保存した場合に算定できます。フィルム料は算定できません。事例では、フィルム料の請求もされておらず、レセプト表記自体に誤りはみられません。ところが、アナログ撮影の点数で算定されています。念のために、電算コードもみてみると、「胃・十二指腸造影」と「スポット撮影」にアナログのコードが入力されていました。「胃・十二指腸造影」がアナログで入力されているために同加算を認めないと支払機関のコンピュータ審査で判定されたようです。同じ表示でも電子レセプトコードが異なれば当然に違う項目として扱われます。同加算は、通則の項目であるため単独で表示する設定としているため併算定時のチェックが行われず、目視では発見できなかったようです。点数もデジタル撮影の方が高くなりますが、見落としていたようです。査定と請求漏れのダブルパンチでした。事例の医療機関では、すべての画像をデジタル保管しているために「アナログ撮影」のコードを使用できないように独自マスターを変更し、レセプトチェックシステムに同加算とデジタル撮影の判定を追加して査定対策としました。

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臨床心理士と精神科医の夫婦が子育てで大事なこと全部まとめてみました

シネマセラピーでおなじみ荒田先生のマンガでよくわかる!0~18歳の子育て大全CareNet.comの連載「シネマセラピー」でおなじみの精神科医、荒田 智史先生。シネマセラピーでは、子育てをテーマとして解説いただくこともありましたが、この度「科学的根拠に基づく子育て」を掲げた著書が発売されました。「厳しくすべきか見守るべきか」「親がリードすべきか」「子どものペースに合わせるべきか」など、成長に伴って変化していく子育ての悩みについて、発達心理学、行動遺伝学、進化心理学という3つの視点で解決する本書。非認知能力、自己肯定感、自己効力感、子供のHSP、教育虐待、性教育、中学受験、反抗、思春期危機、レジリエンス、いじめ、不登校など…乳児期~思春期の子育てで気になる課題と対処をマンガでわかりやすく解説しています。本書は、子育てに悩む親だけでなく、医療関係者(精神科医や小児科医など)の方々にもお役立ていただける内容となっているため、ぜひ読んでいただきたい一冊です。また、病院の待合室に置いていただければ、子育てでお困りの患者さんにもお役立ていただけます。著者・荒田よりご挨拶臨床心理士で妻の杉野珠理との共著です。私たちがいっしょになって、みなさんのお悩みやご心配に全力でお答えしています。エビデンスだけでなく、臨床的なケース、そして夫婦としてのリアルな子育ての現実(ときに葛藤!?)も盛り込みました。この本が、患者さんへの子育てのアドバイス、そしてみなさん自身の子育ての参考になればうれしい限りです。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    臨床心理士と精神科医の夫婦が子育てで大事なこと全部まとめてみました定価1,980円(税込)判型四六判頁数352頁発行2023年3月著者杉野 珠理、荒田 智史

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HER2・リキッド検査追加「大腸がん診療における遺伝子関連検査等のガイダンス」改訂/日本臨床腫瘍学会

 2023年3月、「大腸がん診療における遺伝子関連検査等のガイダンス:第5版」が刊行され、第20回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2023)上で改訂のポイントが発表された。 最初に坂東 英明氏(国立がん研究センター東病院 消化管内科)が全体的な説明を行った。大腸がんにおける遺伝子検査はHER2検査の保険適用など目まぐるしく変化 大腸がんにおける遺伝子検査は2010年にKRAS変異検査が登場したことを契機に、2018年にはRASKET-B(RAS/BRAF変異検査)、2020年には血液を用いたRAS変異検査が保険適用となり、2022年にはHER2検査(免疫染色、FISH)、MMR検査(免疫染色)、そして2023年にはBRAF V600E検査(免疫染色)が保険適用となるなど、目まぐるしく新たな検査が登場している。 大腸がんの診療指針としては、大腸研究会より発刊されている「大腸治療ガイドライン」が2022年に改訂され広く用いられているが、こちらは日本と海外との診療の質や考え方に違いを吟味した上で日本独自の臨床データを重視して治療指針を策定することを目的としている。一方、本ガイダンスは「現在保険適用されている検査をどのように実施し治療に反映するのが適切か」「新規検査技術の現状と今後の展望について情報を提供する」ことを目的に作成されており、ガイドライン作成の手順や形式にとらわれ過ぎることなく、今後の展望や提言なども織り込んでいるという。 「体外診断用医薬品(IVD)とコンパニオン診断薬(CDx)を中心として、多くの検査を分類して整理した概念図はとくに自信作である。新たな診断薬が薬事承認・保険適用される過程をご理解いただくことで、ガイダンスで推奨することの重要性もおわかりいただけると考えている」(坂東氏)。 続いて、今回の大きな改訂ポイントとして「HER2検査」「包括的ゲノムプロファイリング検査・リキッドバイオプシー」が解説された。新たに保険承認されたHER2陽性大腸がんに対する抗HER2療法 「大腸がんにおけるHER2検査」については、澤田 憲太郎氏(釧路労災病院 腫瘍内科)が発表した。 今回追加されたのは、新たに保険承認されたHER2陽性大腸がんに対する抗HER2療法とその検査に関する内容。この承認は、HER2陽性の切除不能な進行・再発大腸がんに対し、抗HER2抗体ペルツズマブとトラスツズマブの併用療法の有効性・安全性を評価した医師主導治験・TRIUMPH試験の結果に基づくもので、併用療法は奏効率26.6%、病勢制御率 66.7%という結果を示し、血液を用いたリキッドバイオプシー検査でも高い有効性が示された。 ガイダンスにおける関連事項の記載は以下のとおり。・切除不能進行再発大腸がん患者に対し、抗HER2療法の適応判定を目的として抗HER2療法前にHER2検査を実施する→強く推奨する・切除不能進行再発大腸がんにおけるHER2検査において、IHCを先行実施し、2+と判定された症例に対してはISH検査を施行する。→強く推奨する HER2検査実施のタイミングは、「抗HER2療法の施行前の適切なタイミング」とされ、「大腸治療ガイドライン2022年版」においては一次治療前のRAS/BRAF遺伝子検査およびMSI検査が推奨されていることから、「複数回の薄切が主要検体の損失につながることを考慮すると、HER2検査もこれらの検査と合わせて一次治療開始前に行うことも妥当と考える」と記載された。現在2種類あるHER2の検査方法については、まずはコストの低いIHC法を試み、IHC 2+と判定された場合にFISHで検証する手順が推奨されている。新たに保険承認されたリキッドバイオプシーによるゲノム検査 2つめの改訂ポイントとして「包括的ゲノムプロファイリング検査・リキッドバイオプシー」について山口 享子氏(九州大学病院 血液・腫瘍・心血管内科)が、今回新たに保険承認されたリキッドバイオプシーによるゲノム検査を中心に、ポイントを解説した。 ガイダンスにおける関連事項の記載は以下のとおり。・切除不能進行再発大腸がん患者に対し、治療薬適応判定の補助として組織検体を用いた包括的ゲノムプロファイリング検査を実施する。→強く推奨する・切除不能進行再発大腸がん患者に対し、治療薬適応判定の補助として、血漿検体を用いた包括的ゲノムプロファイリング検査を実施する。→強く推奨する・治癒切除が行われた大腸がん患者に対し、再発リスクに応じた治療選択を目的として、微小残存腫瘍(MRD)検出用のパネル検査を実施する。→強く推奨する 「解析対象遺伝子、各遺伝子異常に対する薬事承認の有無、生殖細胞系列変異の解析可能性など、パネル検査ごとで異なる点が留意する必要がある。リキッド検査の優位点は侵襲が少ないこと、現時点でのゲノムプロファイルが得られること、結果判明までの時間が短いことが挙げられる。一方、欠点としては腫瘍量が十分でない場合は検出できない可能性がある、CHIP(クローン性造血)による偽陽性の頻度が高まる、がん種や病態による偽陰性の可能性があることだ」(山口氏)。 また、MRD(微小残存病変)検出用のパネル検査については、その有用性をみる臨床試験が現在多数進行中であること紹介したうえで、「現時点では保険承認されたMRD検出用パネル検査はないものの、臨床応用の可能性を発信するため、ガイダンスでは強い推奨とした」と述べた。「大腸がん診療における遺伝子関連検査等のガイダンス 第5版」編集:日本臨床腫瘍学会定価:2,420円発行日:2023年3月20日B5判・116頁・図数:11枚金原出版

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統合失調症患者の体重増加や代謝機能に対する11種類の抗精神病薬の比較

 抗精神病薬の投与量と代謝機能関連副作用との関係を明らかにするため、スイス・ジュネーブ大学のMichel Sabe氏らは、統合失調症患者を対象に抗精神病薬を用いたランダム化比較試験(RCT)の用量反応メタ解析を実施した。その結果、抗精神病薬ごとに固有の特徴が確認され、アリピプラゾール長時間作用型注射剤を除くすべての抗精神病薬において、体重増加との有意な用量反応関係が認められた。著者らは、利用可能な研究数が限られるなどの制限があったものの、本研究結果は、抗精神病薬の用量調整により、体重や代謝機能に対する悪影響を軽減するために有益な情報であるとしている。The Journal of Clinical Psychiatry誌2023年2月8日号掲載の報告。 2021年2月までに英語で公表された研究をMEDLINE、Embase、PubMed、PsyARTICLES、PsycINFO、Cochrane Database of Systematic Reviewsおよび各トライアルレジストリより検索した。第1世代または第2世代抗精神病薬を用いたフィックスドーズのRCTを特定した。RCTの質は、Cochrane's Risk of Bias toolを用いて評価した。主要アウトカムは体重の平均変化とし、副次的アウトカムは代謝パラメータの平均変化とした。抽出したデータを用いて、用量反応メタ解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・52件のRCT(2万2,588例)が抽出された。・アリピプラゾール長時間作用型注射剤を除くすべての抗精神病薬において、体重増加との有意な用量反応関係が認められた。・体重増加と抗精神病薬の用量との関連は、準放物線上の曲線関係(ルラシドン、RCT:9件、95%推定有効用量[ED95:59.93mg/d]:0.53kg/6週間)から用量の増加とともに増加を続ける曲線関係(オランザピン、RCT:1件、[ED95:15.05mg/d]:4.29kg/8週間)までが認められた。・すべての曲線は、準放物線、定常、上昇のいずれかに分類可能であった。・有効用量の中央値が比較的低い場合において体重増加が認められることが多く、さらに増量した場合では、一部の薬剤において体重増加が顕著となる可能性が示唆された。

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HER2+再発/転移乳がんへのT-DXd、予後予測に有望なバイオマーカー/日本臨床腫瘍学会

 トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)はHER2陽性再発/転移乳がんの2次治療以降に承認されているが、信頼できる予後予測バイオマーカーは十分に確立されていない。今回、T-DXdへの反応と予後を予測する血中炎症マーカーを探索すべく後ろ向きに調査した結果、全身免疫-炎症指数(SII)が全生存期間(OS)と有意に関連し、またリンパ球数(ALC)高値と血小板-リンパ球比(PLR)低値が臨床的有用性と関連する可能性が示された。国立がん研究センター中央病院の大西 舞氏が、第20回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2023)で発表した。 本研究では、2020年3月~2022年8月に国立がん研究センター中央病院でT-DXdを投与されたHER2陽性再発/転移乳がん患者21例のカルテデータを後ろ向きにレビューした。T-DXd投与前の血液検査データを用いて、好中球-リンパ球比(NLR)、ALC、PLR、リンパ球-単球比(LMR)、単球-リンパ球比(MLR)、SIIを算出した。なお、NLR≧3、ALC≧1,500、PLR≧210、MLR≧0.34、SII≧836を高値とした。 主な結果は以下のとおり。・T-DXd投与開始時の年齢中央値は55歳(37~80歳)、追跡期間中央値は350日(69~1,126日)であった。・エストロゲン受容体(ER)陽性が11例(52%)、ER陰性が10例(48%)とほぼ半数ずつで、内臓転移が20例(95%)、脳転移が8例(38%)に認められた。・48%の患者が再発/転移乳がんへの5次治療以降に投与されていた。・臨床的有用性が得られた患者は16例(75%)で、ALC高値(p=0.068)、PLR低値(p=0.0583)と関連する傾向がみられた。・ALC高値のすべての患者(7例)で臨床的有用性が得られた。・治療成功期間(TTF)については、ERの有無、脳転移の有無、治療ライン、各炎症マーカーにおける各サブグループ解析で有意差はみられなかった。・OSは5次治療以降に投与された患者で悪い傾向がみられ、SII高値の患者では有意に悪かった。 大西氏は、本研究の限界として、後ろ向き研究であり、症例数が少なく多変量解析ではないこと、HER2陽性再発/転移乳がんにおけるカットオフ値が検証されていないことを挙げ、「大規模集団での研究が必要」とした。

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前立腺がん15年後の転帰、監視vs.手術vs.放射線/NEJM

 英国・オックスフォード大学のFreddie C. Hamdy氏らは、Prostate Testing for Cancer and Treatment(ProtecT)試験の追跡調査期間中央値15年時点における、PSA監視療法vs.根治的前立腺全摘除術vs.内分泌療法併用根治的放射線療法の有効性を比較し、いずれの治療法でも前立腺がん特異的死亡率は低いことを明らかにした。著者は、「新たに限局性前立腺がんと診断された患者に対しては、治療の有益性と有害性のバランスを慎重に検討して治療法を選択する必要がある」とまとめている。NEJM誌オンライン版2023年3月11日号掲載の報告。限局性前立腺がん患者約1,600例で、15年間の予後を解析 ProtecT試験では、1999~2009年に英国の9施設において、PSA検査を受けた50~69歳の男性8万2,429例が登録された。余命が10年以上で治療の対象となる限局性前立腺がんと診断されたのは2,664例で、このうち1,643例が有効性を評価する試験に登録され、PSA監視療法群(545例)、根治的前立腺全摘除術群(553例)、ネオアジュバントアンドロゲン除去療法併用放射線療法群(545例)に無作為に割り付けられた。 研究グループは、追跡期間中央値15年(範囲:11~21)時点で、同割り付け治療集団について評価を行った。主要評価項目は、前立腺がん死。副次評価項目は全死因死亡、転移(画像診断またはPSA≧100ng/mL)、臨床的病勢進行(転移、cT3/T4、長期アンドロゲン除去療法の開始、尿管閉塞、直腸瘻、腫瘍増殖による尿道カテーテルの複合)、および長期アンドロゲン除去療法とした。前立腺がん死、治療法で有意差なし 追跡調査を完遂したのは、1,643例中1,610例(98.0%)であった。診断時のリスク層別化解析(D'Amico、CAPRA、Cambridge Prognostic Group)では、3分の1以上が中間リスクまたは高リスクであった。 前立腺がん死は45例(2.7%)であった。内訳は、PSA監視療法群17例(3.1%)、前立腺全摘除術群12例(2.2%)、放射線療法群16例(2.9%)であり、各群で有意差は認められなかった(p=0.53)。 全死因死亡は356例(21.7%)で、3群ともほぼ同数(それぞれ124例、117例、115例)であった。転移は、PSA監視療法群で51例(9.4%)、前立腺全摘除術群26例(4.7%)、放射線療法群27例(5.0%)に認められた。長期アンドロゲン除去療法は、それぞれ69例(12.7%)、40例(7.2%)、42例(7.7%)で開始され、臨床的病勢進行が報告されたのはそれぞれ141例(25.9%)、58例(10.5%)、60例(11.0%)であった。PSA監視療法群では、133例(24.4%)が追跡調査終了時に根治的治療ならびにアンドロゲン除去療法を受けることなく生存していた。 事前に規定されたサブグループ解析の結果、3群の前立腺がん死の相対リスクは、診断時の年齢で異なることが示された。65歳未満では、PSA監視療法群または前立腺全摘除術群は、放射線療法群より前立腺がん死のリスクが低く、65歳以上では前立腺全摘除術群または放射線療法群が、PSA監視療法群より前立腺がん死のリスクが低かった。一方、ベースラインのPSA値、臨床病期、グリソングレード、腫瘍長、またはリスク層別化スコアは、3群の前立腺がん死亡相対リスクに影響しなかった。

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3回接種後の効果、ファイザー製/モデルナ製各160万人で比較/BMJ

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のデルタ変異株~オミクロン変異株の流行期において、BNT162b2(ファイザー製)ワクチンまたはmRNA-1273(モデルナ製)ワクチンによるブースター接種はいずれも、接種後20週以内のSARS-CoV-2感染および新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による入院に関して適度な有益性があることが、英国・オックスフォード大学のWilliam J. Hulme氏らのマッチドコホート研究で明らかとなった。BMJ誌2023年3月15日号掲載の報告。両ワクチン各々約161万9千例で比較 研究グループは、OpenSAFELY-TPPデータベースを用いてコホート研究を行った。本データベースは英国の一般診療所の40%をカバーし、国民保健サービス(NHS)番号を介して救急外来受診記録、入院記録、SARS-CoV-2検査記録および死亡登録と関連付けられている。 解析対象は、BNT162b2またはChAdOx1(アストラゼネカ製)ワクチンを2回接種(プライマリ接種コース)しており、2021年10月29日~2022年2月25日にブースター接種プログラムの一環としてBNT162b2またはmRNA-1273の3回目接種を受けた、ブースター接種前28日以内にSARS-CoV-2感染歴のない18歳以上の成人(介護施設入所者および医療従事者は除外)であった。BNT162b2接種者とmRNA-1273接種者を、3回目接種日、プライマリ接種コースのワクチンの種類、2回目接種日、性別、年齢などに関して1対1でマッチングした。 主要アウトカムは、ブースター接種後20週間におけるSARS-CoV-2検査陽性、COVID-19関連入院、COVID-19関連死、非COVID-19関連死であった。 BNT162b2群、mRNA-1273群で各々161万8,959例がマッチングされ、合計6,454万6,391人週追跡された。相対的有効性はmRNA-1273が良好? 20週間のSARS-CoV-2検査陽性リスク(1,000人当たり)は、BNT162b2群164.2(95%信頼区間[CI]:163.3~165.1)、mRNA-1273群159.9(95%CI:159.0~160.8)、BNT162b2と比較したmRNA-1273のハザード比(HR)は0.95(95%CI:0.95~0.96)であった。 同様に、COVID-19関連入院リスク(1,000人当たり)は、BNT162b2群0.75(95%CI:0.71~0.79)、mRNA-1273群0.65(95%CI:0.61~0.69)、HRは0.89(95%CI:0.82~0.95)であった。 COVID-19関連死はまれで、20週間のリスク(1,000人当たり)はBNT162b2群0.028(95%CI:0.021~0.037)、mRNA-1273群0.024(0.018~0.033)、HRは0.83(95%CI:0.58~1.19)であった。 3回目接種後のCOVID-19関連入院/死亡はまれであったが、SARS-CoV-2検査陽性も含めてmRNA-1273よりBNT162b2のほうがリスクは高いと推定され、これらの結果は、プライマリ接種コースのワクチンの種類、年齢、SARS-CoV-2感染歴、英国予防接種に関する共同委員会(JVCI)の定義による臨床的脆弱性のサブグループ間で一貫していた。

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第152回 Yahoo!の見出しで勘違い続出?「HIV感染報告、過去20年で最少に」

最近、ニュースを紙の新聞やテレビではなく、インターネットで見る人は格段に増えていると思う。それも新聞社などのニュースページではなく、ポータルサイトを通じて見るケースのほうが圧倒的に多いのではないだろうか? この傾向は若年層になればなるほど顕著と言われる。ポータルサイトで見る場合、地方紙や外電も含め多様な報道機関から発信されたニュースが1ヵ所にまとまっているため非常に便利である。中でも日本の場合はYahoo!ニュースが圧倒的に強く、月間ページビューが200億ページビュー超のガリバーだ。かくいう私自身も1日に数回アクセスする。Yahoo!ニュースでは、ニュースが「国内」「国際」「科学」など9領域に分類される。この各領域の中で常時8本の注目すべきニュース、通称Yahoo!トピックス(ヤフトピ)が掲載され、さらにYahoo!ニュースのトップページには、これらすべての領域をまたがって注目すべきニュース8本が「総合」という項目で表示されている。このトップページの「総合」に掲載される8本は「ヤフトピトップ」と言われ、1日約6,000本のニュースが配信される中での王者となる。一部にはヤフトピやヤフトピトップが特殊なアルゴリズムで選ばれていると思っている人もいるようだが、実は新聞社勤務などを経たYahoo!ニュース編集者がこれらを選んでいる。自分も過去に一般向けに執筆した記事が何本かヤフトピトップに取り上げられたことがあるが、そうした際は記事を見た知り合いから「読んだよ」と何本も連絡が入る。そのぐらい影響力のあるこのヤフトピトップの最上段に、つい最近、次のようなニュースが取り上げられた。エイズ発症者数、HIV感染報告数が過去20年で最少に 新型コロナ影響で検査機会減少(日テレNEWS)ちなみにYahoo!ニュースは見出しが15.5文字(半角も含む)以内という規定があるため、ヤフトピでは「HIV感染報告、過去20年で最少に」となっている。ヤフトピの見出しだけを見れば、きわめてポジティブなニュースにも思えるが、実際のニュースは、検査機会の減少があるために本当の意味での感染者数が減ったかどうかは不明という、ごくごく慎重な内容となっている。おおむね減少トレンドにあるかもしれないが、今回の過去最少が潜在的な感染者も含め本当に過去最少なのかについては、正直、私個人は現時点でやや疑っている。まず、記事中にもあるHIV検査の件数だが、コロナ禍に入る前の2019年から過去10年間は年間約12~15万件だったのに対し、2020年には6万8,998件とほぼ半減。2021年には5万8,172件に落ち込み、2022年は多少持ち直したとはいえ7万3,104件である。これほどの検査件数の落ち込みがある以上、やはり拾い上げられていない感染者のことを想定しなければならない。そして献血検体でのHIV抗体陽性頻度は2022年の速報値で10万件当たり0.661。過去約10年の国内の献血件数がほぼ横ばいの中で、確かにこの数字は最低値である。ただし、ここ5、6年の献血でのHIV抗体陽性頻度はおおむね0.7~0.8の間で推移していることを考えれば、まだ誤差範囲と言える。少なくとも2022年が減少したと断言しきれる状況ではないだろう。一方、もう一つ気になるのは、感染経路の中心が性交渉という点で同じ梅毒が近年急増している点だ。2019~20年には一時的に減少傾向を見せたものの、2010年以降、増加傾向はほぼ一貫して続いている。直近の2022年の年間報告数は1万2,966例で、1999年施行の感染症法での全数報告以降最多であるばかりか、旧・性病予防法での全数報告時代も含めて最多であるのが現状だ(旧・性病予防法時代の最多は1967年の約1万1,000例)。とりわけ感染者報告が急増している東京都では、この3月に臨時検査場を設置。しかもこの臨時検査場の予約枠がすぐに埋まり、検査日程を新設する事態になっている。現在判明している感染者は20~50代、とりわけ20代の男女で突出して多いのが特徴だ。報告される感染者は性風俗産業の従事者や利用者が一定の割合を占めているものの、現在の感染拡大はそのほかのクラスターにも感染が広がっていることがすでに指摘されている。ご承知のように梅毒の場合、おおむね感染から3週間、3ヵ月、3年の周期で症状発現があるため、感染者はそれなりに検査を受ける機会がある。これに対して、HIV感染症は感染から発症までは平均10年と言われる無症候期がある。近年、アメリカでは感染から1年以内に後天性免疫不全症候群(AIDS)を発症する人の割合が3割超との報告もあるが、それでもなお梅毒と比べれば、感染者は自身の感染に気付きにくい状況である。詳細な感染経路で見れば、HIV感染症の場合、感染経路が判明しているケースでは同性間性接触の割合が7割以上を占めるものの、異性間性接触も1割以上。何より年齢別の感染報告数は20代前半から30代前半にボリュームゾーンがあるため、この辺は現在の梅毒流行の動態と重なる。加えて言えば、HIV感染症が社会問題になり始めた1980年代からHIV感染症と梅毒の併発事例はかなり報告されている。こうした中でコロナ禍の影響が濃厚と思われるHIV検査件数の減少が今後復活するかどうかはかなり微妙と言わざるを得ない。これに限らず、世の中すべての事象に共通して言えることは、何らかのきっかけで一旦減少トレンドに入ったものを元に戻すのは非常に困難であるということだ。しかも、見た目の感染者報告数が減少トレンドにある中では、恐怖訴求による検査勧奨もほぼ無効である。東京都の梅毒臨時検査場の設置のような機会に同じ会場でHIV検査を受けるよう呼びかける手もあるが、先日マスク問題でも触れたように「梅毒とHIVは同一感染経路で、どちらか一方のリスクがある人はもう一方のリスクも…」というやや回りくどい呼びかけは、一般には届きにくい。そもそも前述したようなYahoo!ニュースの見出し文字数制限の影響で、見出しだけを見てわかったつもりになる人(むしろ大多数はそうかもしれないが)にとっては「HIV感染症は減った」というイメージしか残らない。そんなこんなで今回のニュースは、本来懸念しなければならない、あるいは記事が訴えたいことから考えると、逆効果になりかねないというリスクを含んでいる。

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「本人は苦しいのでしょうか?」と家族に聞かれたら…?【非専門医のための緩和ケアTips】第48回

第48回 「本人は苦しいのでしょうか?」と家族に聞かれたら…?緩和ケアに関する質問にお答えしながら、私も学んでいるこのコラム。今回も考えさせられるご質問をいただきました。今日の質問数日以内に亡くなりそうな、すでに意識のない患者さんを担当していたときのことです。ご家族から「本人は苦しいのでしょうか?」と尋ねられました。「それは、ご本人にしかわかりません」と言うのも違う気がして、思わず「おそらく苦しくないと思います」と伝えてしまいましたが、どう答えればよかったのでしょうか?看取りが近い時期のケアではよくある光景ですね。家族からの同じような質問を受けたとき、私も同様に「苦しくないと思います」とお伝えしています。このやりとりの背景について、ちょっと考えてみましょう。そもそも、なぜご家族はこういった質問をするのでしょうか?「患者さん本人に苦しんでほしくない」といった、心配が大半でしょう。実際に、私がご家族に「そう聞かれるのは、『苦しんでほしくない』というお気持ちからですか?」と尋ねると、「そうなんです。これまで頑張ってきたので最後くらいは苦しまないでほしくて…」と言う方がたくさんいました。そうした経験から、私自身は以下のポイントを伝えるようにしています。本人は言葉で伝えることが難しい状況だが、苦しさはあまり感じていないように見える。話ができなくても顔をしかめるなどの様子から容態を判断しているが、そうした様子もなさそうだ。「少しでも苦しまないよう」と思う気持ちは、われわれ医療者も同じ。心配な様子があればすぐに教えてほしい。苦しまないように少しでもできることがないか、一緒に考えましょう。こうしたことをお伝えして、ご家族の心配がこちらに伝わったことを確認します。こうした対話を通じ、「家族にもケアを提供すること」、そして「家族も負担がない範囲でケアに参加してもらうこと」は緩和ケアの実践で重要なことだと感じます。皆さんの工夫などもぜひ教えてください。今回のTips今回のTips質問の背景にある家族の気掛かりを探り、家族にもケアを提供しよう!

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ドキュメンタリー「WHOLE」(後編)【自分の足を切り落とすことが健全!?(健康の定義)】

今回のキーワード身体完全性違和(身体完全同一性障害)性別違和(性同一性障害)満たされた状態治療ガイドライン社会的包摂(ソーシャルインクルージョン)診断ガイドラインの表記変更前編では、身体完全性違和(身体完全同一性障害)の特徴や原因などを掘り下げました。それを踏まえて、どうしたら良いでしょうか? 健康な足を切り落としてあげるのが良いのでしょうか? さらには、健康であるとはどういうことなのでしょうか? 今回は、引き続き、ドキュメンタリー「WHOLE」を取り上げ、健康の定義を再確認し、健康の概念を捉え直します。そして、身体完全性違和の治療ガイドラインを、世界に先駆けて(!)、この記事で発表します。治療としての四肢切断を私たちは受け入れられる?身体完全性違和は、その原因を踏まえると、その特徴は先天的、限定的、そして固定的であることがわかります。これは、ちょうど性別違和(性同一性障害)と似ています。性別違和は、もはや多くの国で受け入れられており、日本でも性別適合手術は可能です。なぜなら、それがその人にとっての幸せであると理解できるからです。WHOでも健康の定義は「身体的、精神的、そして社会的に満たされた状態(a state of well-being)」とされています。それでは、身体完全性違和はどうでしょうか? 私たちは四肢切断することをすんなり受け入れられるでしょうか? 性別違和と同じという理屈で考えれば、確かに本人が望むのであれば止めることはできないことになります。しかし、「健康な足をわざわざなくして身体障害者になるなんて考えられない」と感情的になってしまい、なかなか受け止められないのではないでしょうか? 身体完全性違和を知ってしまったことによって、私たちの健康の概念が揺さぶられます。健康とは?身体完全性違和と診断された人が、心理学者から「もしその足の違和感が消える薬があったら、飲みますか?」と質問されたところ、「若い時だったらそうしたかもしれないけど、今は飲まないと思う」「身体完全性違和は、私が誰でどんな人間かという核心になっているから」と答えています。そして、彼らは、四肢切断をやり遂げてはじめて「まっとうになった(I’ve become whole)」と言っています。まさにこのドキュメンタリーのタイトルの「WHOLE」(健全)です。実際に、彼らの中で四肢切断をして後悔をした人は1人もいないと報告されています2)。つまり、身体完全性違和は、性別違和と同じアイデンティティの問題が根っこにあるわけです。性別違和の人が性別の違和感が消える薬を飲まないと言っているのと同じです。もっと言えば、身体完全性違和の人は、違和感のある足をなくしたいだけです。それが結果的に身体障害になってしまっているのです。最初から身体障害になりたいとは思っていないです。もっと言えば、彼らにとって足がないことが「健康」であるため、足があることは「不健康」であり、違和感がある足を持っている状態は逆に「身体障害」であると言えます。極端な話、もしも身体完全性違和の人が世の中の多数派ならば、足を切断しない人が「身体障害」になってしまうという理屈も成り立ちます。 そして、「健康である」とは、多数決で決まっており、相対的な概念であることに気付かされ、「障害」の概念の根底が覆されます。どうすればいいの?健康の概念を捉え直すと、身体完全性違和の治療はやはり四肢切断をすることであるように思えてきます。しかし、現時点で身体完全性違和の治療は、世界的にも確立されていません。ただ、この診断名がICD-11に新設された流れから、今後は治療ガイドラインが求められます。そこで、この記事では、治療ガイドラインを世界に先駆けて(!)、作ってみましょう。まず、身体完全性違和の評価についてです。原因の視点に立てば神経疾患、鑑別の視点に立てば精神疾患、治療の視点に立てば外科疾患です。よって、神経内科医、精神科医、外科医の連携(リエゾン)が必要になります。検査としては、脳画像検査や皮膚コンダクタンス反応(SCR)が必要です。次に、実際の治療の計画についてです。これは、性別違和に準じます。ちなみに、性別違和の治療の流れは、実生活体験、薬物(ホルモン療法)、外科手術の3つのステップを踏みます。(1)実生活体験1つ目のステップは、実生活体験です。ドキュメンタリーに登場した人のように、片足を膝で折り曲げて固定し、松葉杖を使う生活を少なくとも半年送るのです。(2)薬物による疑似体験2つ目のステップは、薬物による疑似体験です。これは、脊髄硬膜外麻酔によって、下肢の運動麻痺と感覚麻痺を人工的につくり、擬似的な四肢切断の状態にします。この状態で違和感がなくなるかを厳正に判定するのです。(3)外科手術3つ目のステップは、外科手術です。このように、最初から手術をするのではなく、ステップを踏む必要があります。なぜなら、当然ながら、手術をするまでは元の状態に戻れますが、手術をした後は元に戻れないからです。「WHOLE」な社会とは?治療ガイドラインの確立によって、ICD-11の診断ガイドラインは表記の変更が必要になってきます。たとえば、「その身体障害によって、重大な社会機能の障害を認める、または健康の危機にさらす」という項目は、適切な外科手術がなされ、社会的なサポートを得ることが可能になれば不要です。また、「特定の身体障害を求める」という抽象的な表記は、健常者の視点です。身体完全性違和の人たちの視点にも立つならば、「機能的に問題のない体の一部分の切除を求める」と中立的で具体的な表記にすることが適切です。そして、その代わりに、性別違和の「生物学的性と性自認(ジェンダー)の不一致」という項目と同じように、「生物学的な身体と身体認識の不一致」という項目を新しく設けることが適切です。身体完全性違和という状態は、個人として「WHOLE」(健全)になるだけでなく、社会としても「WHOLE」(健全)になることを私たちに問いかけています。これは、社会的包摂(ソーシャルインクルージョン)の考え方につながります。それは、この多様化した現代で、何が健全か、つまり何が望ましいか、そして何が幸せかはますます人によって違うという現実をよく理解して受け入れていくことではないでしょうか?1)精神医学(3)「ICD-11のチェックポイント」P285「身体苦痛または体験症群」:山田和男、医学書院、20192)私はすでに死んでいる ゆがんだを生み出す脳P100、P104、P142:アニル・アナンサスワーミー、紀伊國屋書店、2018「足を切り落としたい…」自ら障害者になることを望む人々の実態:美馬達哉、現代ビジネス、2018

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