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第161回 糞から集めた細菌が中身の経口薬を米国が承認

適格なヒトの糞から集めた細菌を成分とするクロストリジオイデス・ディフィシル(C. difficile)感染症(CDI)の再発予防経口薬・Vowst(SER-109)が米国FDAに承認されました1,2)。米国でCDIは最も一般的な医療関連感染症の1つで、毎年1万5,000人~3万人がそのために亡くなっています。人の腸には数百万種もの微生物がいます。抗菌薬の服用などによってその共存の均衡が崩れてはびこったC. difficileが分泌する毒素が下痢、腹痛、発熱、果ては臓器不全や死をもたらします。CDIはひとたび回復しても再発することがあり、再発が増えるごとに再発しやすさも上昇するという悪循環があり、残念ながら再発CDIの治療は限られています。先週4月26日に承認されたVowstのような糞中微生物の補給は腸微生物の均衡回復を助けてCDIの再発を予防すると考えられています。米国のバイオテクノロジー企業であるSeres Therapeutics社が開発したVowstはヒトの糞から集めた生きた細菌を含むカプセル剤です。1日1回4カプセルを3日間連続して服用することでCDI再発を予防します。その効果は先立つ1年間にCDIを3回以上経験し、標準的な抗菌薬治療でひとまず症状が収まっている患者を募った第III相試験3)で裏付けられています。試験には182例が参加し、Vowst投与群89例の8週間のCDI再発率は12%でした。すなわち9割近い88%が8週時点を再発なしで迎えることができました。一方、プラセボ群では半数近い40%が8週後までに再発し、無再発患者の割合は60%でした。よってVowst投与群の無再発率は差し引きでプラセボ群を28%上回りました。Vowst投与群の再発率はその後も低いままで、6ヵ月経っても約8割(79%)の被験者が無再発を保っていました。プラセボ群では半数を超える53%が6ヵ月後までに再発しています。Vowstの原料である糞やその糞の提供者に伝染性病原体一揃いが含まれていないことは検査されますが、感染源の混入の恐れはあります。また、食物アレルギー源を含んでいるかもしれません。とはいえ幸いなことに試験でVowstと関連する重篤な有害事象は認められていません。世界に名立たる食品メーカーNestlé(ネスレ)の栄養科学事業Nestlé Health ScienceがSeres社と協力してVowstを米国で販売します。排泄物から作るとはいえ開発費や製造などの諸々の手間を考慮すると安上がりとは言えないらしく、3日間の同剤治療の値段は1万7,500ドル(240万円ほど)です4)。ヒトの糞から集めた微生物が成分の薬の承認はVowstが初めてではありません。スイスのFerring社のCDI再発予防薬Rebyotaが昨年の暮れに米国承認に至っています5,6)。ただしRebyotaは浣腸薬であり、経口薬のVowstの方が使いやすいかもしれません。また、第III相試験での単回のRebyota浣腸の8週間無再発率は71%でプラセボとの差し引きの効果増分は13%であり7)、間接比較なのであまり頼りになりませんが上述したVowstの第III相試験での効果増分28%の方が見栄えします。参考1)FDA Approves First Orally Administered Fecal Microbiota Product for the Prevention of Recurrence of Clostridioides difficile Infection / PRNewswire2)Seres Therapeutics and Nestl? Health Science Announce FDA Approval of VOWSTTM (fecal microbiota spores, live-brpk) for Prevention of Recurrence of C. difficile Infection in Adults Following Antibacterial Treatment for Recurrent CDI / BUSINESS WIRE3)Feuerstadt P, et al. N Engl J Med. 2022;386:220-229.4)Seres and Nestl? take on Ferring in C diff / Evaluate5)FDA Approves First Fecal Microbiota Product / PR Newswire6)Ferring Receives U.S. FDA Approval for REBYOTA®(fecal microbiota, live-jslm) - A Novel First-in-Class Microbiota-Based Live Biotherapeutic / BusinessWire7)Khanna S, et al. Drugs. 2022;82:1527-1538.

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手持ち不足の薬剤の処方依頼前に継続の必要性を再検討【うまくいく!処方提案プラクティス】第53回

 今回は、手持ちの薬がなくなって服薬ができていなかった症例を紹介します。患者さんの希望で処方依頼をするシチュエーションは多々ありますが、状態によっては継続ではなく中止を提案することもあります。治療効果を意識して体調の変化を確認しましょう。患者情報80歳、男性(施設入居)基礎疾患気管支喘息、慢性気管支炎、前立腺肥大症、高血圧症、緑内障、便秘症、アレルギー性鼻炎介護度要介護2服薬管理施設職員が管理処方内容1.アジルサルタン錠40mg 1錠 分1 朝食後2.タムスロシン錠0.2mg 1錠 分1 朝食後3.ミラベグロン錠25mg 1錠 分1 朝食後4.アンブロキソール徐放錠45mg 1錠 分1 朝食後5.ベポタスチン錠10mg 2錠 分2 朝夕食後6.モンテルカスト錠10mg 1錠 分1 就寝前7.酸化マグネシウム錠330mg 3錠 分3 毎食後8.センノシド錠12mg 2錠 分1 就寝前9.ヒアルロン酸点眼液0.1% 1日3回 両眼10.タフルプロスト点眼液0.015% 1日1回 両眼本症例のポイントこの患者さんは、施設入居から4日目に当薬局に訪問介入の依頼がありました。入居前は薬剤を自己管理していたようですが、過去の飲み忘れも含めて約1ヵ月半分の持参薬があり、用法ごとの残数もそろっていない状況でした(朝:42、昼:66、夕:58、就寝前:70日分)。気管支喘息の診断を受けていたとのことで、ブデソニド・ホルモテロールの空容器を持参していましたが、夜間は不安だからプロカテロール吸入薬も吸入したいので処方してもらいたいという患者さんからの依頼がありました。よくよく話を聞いてみると入居3週間前からブデソニド・ホルモテロールもプロカテロールも残薬がなくなっていて、手元にないと不安なので処方してほしいとのことでした。情報分析これまでの情報から私なりに分析してみました。まず、大量かつ不均等の持参薬から患者さんの服薬アドヒアランスは不良であることが想像できます。薬に対する依存度が強く、患者さんから医師にさまざまな薬を要望している様子もあったため、使用していた薬剤の種類と処方理由を明確にしておく必要があると考えました。なお、患者さんが要望している吸入薬はどちらも約1ヵ月間使用していませんでしたが、喘息発作などは起きていません。前医の診療情報書に目を通したところ、小児喘息や成人時期の喘息発作の経験はなかったものの、患者によると喘息の素因があるとのことで、感冒の際に希望があり処方しているという文面を確認することができました。患者さんはその後、長期間にわたって吸入薬を使用していました。基礎疾患にある気管支喘息の診断情報に疑問をもち、訪問診療医に相談することにしました。処方提案と経過患者さんとの初回面談から3日目に訪問診療医の初診があったため同行することにしました。診察前に、医師に初回面談時のやりとりを共有しました。入居前は服薬アドヒアランスが安定していなかったと考えられ、患者さんの希望から吸入薬が追加されている可能性があるものの、約1ヵ月間使用していなくても発作症状はないことなどを伝えました。医師からは、診察時に呼吸音や病状を確認し、診断の見直しをするという返答がありました。その結果、気管支喘息を積極的に疑う所見ではないので、このまま吸入薬をやめて様子をみようという判断になりました。その2週間後の診療でもその間の喘息発作は認められませんでした。患者さんからは、吸入の負担が減って精神的に楽になったと聞き、その後も状態が悪化することなく施設で穏やかに生活されています。

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東京五輪で一番けがの多かった競技は何か

 私たちに感動をもたらした「2020年東京オリンピック夏季大会」(2021年7月開催)。東京オリンピックの開催期間中、アスリート達にはどのようなけがや病気が多かったのであろう。国士館大学体育学部スポーツ医科学科の田中 秀治氏らの研究グループは、東京オリンピック夏季大会で発生したけがや病気を分析し、発表した。British Journal of Sports Medicine誌オンライン版2023年4月13日号に掲載。 本研究は、2021年7月21日~8月8日のオリンピック競技期間中の傷病の発生を分析。1万1,420人のアスリートと31万2,883人の大会関係者を後ろ向き研究で調査した。 主な結果は以下のとおり。・アスリートの傷病の合計は567人(416人がけが、51人非熱関連疾患、100人が熱関連疾患)だった。・大会関係者の傷病の合計は541人(255人がけが、161人非熱関連疾患、125人が熱関連疾患)だった。・アスリート1,000人当たりの傷病者発生数は50人、病院搬送数は5.8人だった。・マラソンと競歩は、全体として傷病発生率が最も高かった(17.9%、n=66)。・(参加者1人当たり)負傷の発生率が最も高かった競技は、ボクシング(13.8%、n=40)、スポーツクライミング(12.5%、n=5)、スケートボード(11.3%、n=9)の順で、軽傷の発生率が最も高かった(ゴルフは除く)。・参加者の感染症については、過去の夏季オリンピックよりも少なかった。・アスリートの熱中症100人のうち、50人はマラソンと競歩で発生した。・熱中症で病院に搬送されたのは6人のみで、入院を必要とした人はいなかった。

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喘息の悪化、寒い時期だけでなく夏の高温でも増加か

 喘息症状の発現や増悪には冷気の吸入、大気汚染物質やアレルゲンの吸入などが関連していることが知られている。気温の高さが喘息による入院の増加に関連するという報告も存在し、日本では姫路市の住民を対象とした研究において、夏季に気温が高くなると夜間の喘息増悪による来院が増加したことが報告されている1)。しかし、研究間で結果は一貫していない。また、年齢や性別、時間(日時)、地理的な要因による違いや交絡因子の影響は明らかになっていない。そこで、英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのGaryfallos Konstantinoudis氏らは、イングランド全土における2002~19年の夏季の喘息による入院を調査した。その結果、交絡因子を調整しても夏季の気温上昇が喘息による入院リスクを上昇させ、その影響は16~64歳の男性で大きく、時間の経過と共に小さくなる傾向にあることが示された。Thorax誌オンライン版2023年4月17日号の報告。 英国・国民保健サービス(National Health Service:NHS)Digitalが提供するHospital Episode Statistics(HES)の2002~19年のデータから、夏季の喘息による入院のデータを抽出した。また、1km×1km解像度の日平均気温をUK Met Officeから取得し、喘息による入院との関連を検討した。交絡因子として、気象条件(相対湿度、降水量、風速)と祝祭日(平日と入院率が異なり、屋外にいる人が多く、気温への曝露が大きくなる可能性があるため)を選択した。年齢(5~15歳、16~64歳、65歳以上)、性、期間(2002~07年、2008~13年、2014~19年)、地域(イングランドの9地域)別のサブグループ解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・2002~19年において、5歳以上のイングランド住民における夏季の喘息による入院は、22万5,480件報告された。・交絡因子を調整後、夏季の喘息入院リスクは日平均気温1℃上昇当たり1.11%(95%信用区間[CrI]:0.88~1.34)上昇した。・夏季の気温上昇が喘息による入院に及ぼす影響は、16~64歳の男性において最も大きかった(調整リスク変化率:2.10%[95%CrI:1.59~2.61])。・時間の経過とともに、夏季の気温上昇が喘息による入院に及ぼす影響は小さくなる傾向にあり(r=-0.22[95%CrI:-0.26~-0.17])、2002~07年における日平均気温1℃上昇当たりの調整リスク変化率は2.96%(95%CrI:2.56~3.37)であった。 性、年齢別のサブグループ解析の結果は以下のとおり。【男性】(日平均気温1℃上昇当たりの調整リスク変化率[95%CrI])・全体:1.66%(1.30~2.03)・5~15歳:1.44%(0.83~2.05)・16~64歳:2.10%(1.59~2.61)・65歳以上:0.16%(-0.85~1.17)【女性】(日平均気温1℃上昇当たりの調整リスク変化率[95%CrI])・全体:0.73%(0.43~1.02)・5~15歳:1.44%(-0.12~1.39)・16~64歳:0.98%(0.62~1.34)・65歳以上:-0.24%(-0.92~0.45)

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女性の認知症、出産回数・初産年齢との関連は弱い

 出産回数の多さや初産の年齢の高さが女性の認知症リスクと関連しているとされ、妊娠に伴う生理学的な変化への曝露と説明されてきた。しかし、社会経済学的およびライフスタイルの要因が関連しているとも考えられ、男性でも同様のパターンがみられる可能性がある。デンマーク・Statens Serum InstitutのSaima Basit氏らは、女性の出産回数の多さや初産の年齢の高さと認知症リスクとの関連性について、男女両方に当てはまるかを検討した。その結果、子供の数や親になる年齢と認知症リスクとの関連性が男女間で同様であることから、社会経済学的およびライフスタイルの要因が認知症リスクと関連している可能性が示唆された。BMC Neurology誌2023年3月1日号の報告。 対象は、1994~2017年にデンマークで40歳以上であった女性(222万2,638人)および男性(214万1,002人)。Cox回帰を用いて、子供の数および初産の年齢と認知症リスクとの関連を男女別に評価した。 主な結果は以下のとおり。・フォローアップ期間中の認知症発症は女性8万1,413人、男性5万3,568人、診断時の年齢中央値は女性83.3歳、男性80.3歳であった。・子供が2人以上の家庭は、子供1人の家庭と比較し、男女ともに全体的な認知症リスクがわずかに低かった(ハザード比[HR]範囲:0.82~0.91、p difference men vs.women=0.07)。・子供がいない場合の全体的な認知症リスクとの関連性は、男性と女性で統計学的な差が認められたが、その違いはわずかであった(男性のHR:1.04[95%CI:1.01~1.06]、女性のHR:0.99[95%CI:0.97~1.01]、p=0.002)。・親になる年齢と全体的な認知症リスクとの関連性も男女間で類似していたが、40歳以上の高齢での初産の場合は例外的であった(男性のHR:1.00[95%CI:0.96~1.05]、女性のHR:0.92[95%CI:0.86~0.98]、p=0.01)。・認知症のサブタイプと発症時期によるサブグループ解析では、いくつかの例外を除き、パターンおよび効果の大きさ(effect magnitude)は、男女間で同様であった。・通常の妊娠による生理学的な変化よりも、ライフスタイルや社会経済学的な要因が認知症リスクと関連している可能性が高いことが示唆された。

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非小細胞肺がん免疫併用療法の多施設共同臨床試験に係る現状と重要な注意事項について/国立がん研究センター

 日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)は、全国59施設で実施していた、未治療の進行・再発非小細胞肺がんに対する、化学療法+ペムブロリズマブ療法と化学療法+ニボルマブ+イピリムマブ療法の有効性比較第III相試験(JCOG2007試験、特定臨床研究)において、化学療法+ニボルマブ+イピリムマブ療法患者で、予期範囲を超える約7.4%(148例中11例)の治療関連死亡が認められたため、試験継続困難と判断して2023年3月30日に同試験を中止した、と発表した。 同試験は2021年4月~2022年4月に261例の患者を登録したが、化学療法+ニボルマブ+イピリムマブ療法において、9例(6.9%)に治療関連死亡(肺臓炎3例、サイトカイン放出症候群2例、敗血症1例、心筋炎2例、血球貪食症候群1例)が起きたため登録を一時停止。その後、治療関連死亡患者に多く見られる特徴を見いだし、登録規準を変更したうえで2022年10月3日に登録を再開したが、化学療法+ニボルマブ+イピリムマブ療法患者に新たな治療関連死亡が起きた。安全性を高めた変更後の登録の規準をもってしても防げなかった治療関連死亡と考え、2023年3月30日にこの試験の中止を決定した、としている。 現在、同試験以外でニボルマブ+イピリムマブ併用療法を受けている未治療進行・再発非小細胞肺がんの患者に対しては、治療の効果や副作用を勘案した慎重な判断が必要なため、自己判断で治療を中断せず、必ず主治医と相談するよう勧告している。 詳細は国立がん研究センタープレスリリースを参照

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RAS野生型左側大腸がんの1次治療、パニツムマブ併用でOS改善/JAMA

 RAS遺伝子野生型の転移を有する切除不能大腸がんの1次治療において、標準的な化学療法に抗EGFR抗体薬パニツムマブを併用すると、抗VEGF抗体薬ベバシズマブを併用した場合と比較して、原発巣が左側大腸の患者と、全患者(原発巣が左側または右側大腸)の双方で、全生存期間(OS)が有意に延長したことが、横浜市立大学附属市民総合医療センターの渡邉 純氏らが実施した「PARADIGM試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌2023年4月18日号に掲載された。日本の197施設の第III相臨床試験 PARADIGM試験は、日本の197施設が参加した非盲検無作為化第III相臨床試験であり、2015年5月~2017年6月の期間に患者の登録が行われ、2022年1月にフォローアップが終了した(Takeda Pharmaceutical の助成を受けた)。 年齢20~79歳で、化学療法による治療歴がなく、全身状態が良好(ECOG PSスコア0/1)なKRAS/NRAS遺伝子野生型の転移を有する切除不能大腸がん患者が、標準化学療法(フルオロウラシル/l-ロイコボリン+オキサリプラチン[mFOLFOX6])に加え、パニツムマブまたはベバシズマブの投与を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。すべての薬剤の投与は14日ごとに行われた。 主要評価項目はOSであり、はじめに原発巣が左側大腸の患者で解析が行われ、有意差が認められた場合に、全患者の解析が実施された。PFSには差がない as-treated集団として、802例(年齢中央値66歳、女性35.2%)が登録された。パニツムマブ群に400例(原発巣:左側 312例[78%]、右側 84例[21%]、両側の複数病変 4例[1%])、ベバシズマブ群に402例(292例[73%]、103例[26%]、7例[2%])が割り付けられた。フォローアップ期間中央値は61ヵ月だった。 OS中央値は、原発巣が左側の患者では、パニツムマブ群が37.9ヵ月、ベバシズマブ群は34.3ヵ月(ハザード比[HR]:0.82、95.798%信頼区間[CI]:0.68~0.99、p=0.03)、全患者ではそれぞれ36.2ヵ月および31.3ヵ月(0.84、0.72~0.98、p=0.03)であり、いずれもパニツムマブ群で有意に延長した。 無増悪生存期間(PFS)中央値は、原発巣が左側の患者では、パニツムマブ群が13.1ヵ月、ベバシズマブ群は11.9ヵ月(HR:1.00、95%CI:0.83~1.20)、全患者ではそれぞれ12.2ヵ月および11.4ヵ月(1.05、0.90~1.24)であった。 奏効(完全奏効+部分奏効)率は、原発巣が左側の患者では、パニツムマブ群が80.2%、ベバシズマブ群は68.6%(群間差:11.2%、95%CI:4.4~17.9)、全患者ではそれぞれ74.9%および67.3%(7.7%、1.5~13.8)であり、奏効期間中央値は、原発巣が左側の患者では、それぞれ13.1ヵ月および11.2ヵ月(HR:0.86、95%CI:0.70~1.10)、全患者では11.9ヵ月および10.7ヵ月(0.89、0.74~1.06)であった。 また、治癒切除(R0)の割合は、原発巣が左側の患者では、パニツムマブ群が18.3%、ベバシズマブ群は11.6%(群間差:6.6%、95%CI:1.0~12.3)、全患者ではそれぞれ16.5%および10.9%(5.6%、1.0~10.3)だった。原発巣が右側の患者では全生存期間に差がない Grade3以上の有害事象は、パニツムマブ群が71.8%、ベバシズマブ群は64.9%、試験薬関連の重篤な有害事象はそれぞれ17.8%および10.8%、試験薬の投与中止をもたらした有害事象は23.8%および18.4%で発現した。 パニツムマブ群で頻度が高い有害事象として、にきび様皮膚炎(74.8% vs.3.2%)、爪周囲炎(52.0% vs.4.9%)、乾燥肌(46.0% vs.9.6%)、低マグネシウム血症(30.0% vs.1.7%)が、ベバシズマブ群で頻度の高い有害事象として、高血圧(1.7% vs.18.9%)、鼻出血(3.2% vs.19.9%)が認められ、末梢神経障害(70.8% vs.73.7%)と口内炎(61.6% vs.40.5%)は両群とも高頻度にみられた。 著者は、「サブグループ解析では、原発巣が右側の患者では両群間に全生存期間の有意な差は認められず、パニツムマブ群の全患者における全生存期間の有益性は主に原発巣が左側の患者で得られたと示唆された」と指摘し、「本試験では、左側腫瘍でも生存曲線は28ヵ月までは両群間に明確な差はなかったことから、左側と右側の腫瘍の差を説明する可能性があるBRAF、ERBB2(HER2)、マイクロサテライト不安定性などのバイオマーカーについて、さらに検討を進める必要がある」としている。

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T-DXd、T-DM1不応または抵抗性乳がんに有効/Lancet

 トラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)に対して不応または抵抗性を示すHER2陽性転移のある乳がん患者の治療において、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)は医師が選択した治療と比較して、無増悪生存期間(PFS)が有意に延長し、安全性プロファイルはすでに確立されたものと一致し、新たな安全性シグナルは観察されなかったことが、フランス・パリ・サクレー大学のFabrice Andre氏らが実施した「DESTINY-Breast02試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年4月19日号で報告された。227施設の無作為化第III相試験 DESTINY-Breast02試験は、北米、欧州、アジア(日本を含む)、オーストラリア、ブラジル、イスラエル、トルコの227施設が参加した非盲検無作為化第III相試験であり、2018年9月~2020年12月の期間に患者のスクリーニングと無作為割り付けが行われた(Daiichi SankyoとAstraZenecaの助成を受けた)。 年齢18歳以上、病理学的に切除不能なHER2陽性転移のある乳がんが確認され、T-DM1による治療歴があり、画像所見で病勢の進行が認められ、全身状態が良好な患者(ECOG PSスコア0/1)が、T-DXd(5.4mg/kg、3週ごとに静脈内投与)、または医師の選択による治療を受ける群に、2対1の割合で無作為に割り付けられた。 医師の選択による治療は、カペシタビン+トラスツズマブまたはカペシタビン+ラパチニブとされ、いずれも21日スケジュールで投与された。 主要評価項目はPFSであり、最大の解析対象集団(FAS)において盲検下に独立の中央判定で評価が行われた。OSも良好、14%で完全奏効 608例が登録され、T-DXd群に406例、医師選択治療群に202例が割り付けられた。それぞれ2例および7例が実際には治療を受けなかったが、608例すべてがFASに含まれた。 年齢中央値は、T-DXd群が54.2歳(四分位範囲[IQR]:45.5~63.4)、医師選択治療群は54.7歳(48.0~63.0)であり、男性がそれぞれ3例および2例、白人が63%ずつ、アジア人が30%および28%含まれた。フォローアップ期間中央値は、21.5ヵ月および18.6ヵ月だった。 盲検下独立中央判定によるPFS中央値は、T-DXd群が17.8ヵ月(95%信頼区間[CI]:14.3~20.8)と、医師選択治療群の6.9ヵ月(5.5~8.4)に比べ、有意に延長した(ハザード比[HR]:0.36、95%信頼区間[CI]:0.28~0.45、p<0.0001)。 全生存期間(OS)中央値は、T-DXd群が39.2ヵ月(95%CI:32.7~評価不能[NE])であり、医師選択治療群の26.5ヵ月(21.0~NE)に比し、有意に延長した(HR:0.66、95%CI:0.50~0.86、p=0.0021[統計学的有意性の境界値:p=0.0040])。また、奏効率は、それぞれ70%(283/406例)および29%(59/202例)であり、内訳は完全奏効が14%(57例)および5%(10例)、部分奏効は56%(226例)および24%(49例)だった。抗体-薬物複合体による逐次治療の可能性 頻度の高い治療関連有害事象として、悪心(T-DXd群73%[293/404例]、医師選択治療群37%[73/195例])、嘔吐(38%[152例]、13%[25例])、脱毛(37%[150例]、4%[8例])、疲労(36%[147例]、27%[52例])、下痢(27%[109例]、54%[105例])、手掌・足底発赤知覚不全症候群(2%[7例]、51%[100例])が認められた。 Grade3以上の治療関連有害事象は、T-DXd群が53%、医師選択治療群は44%で発現し、薬剤関連の間質性肺疾患がそれぞれ10%(42例、Grade5[死亡]の2例を含む)および<1%(1例)でみられた。 著者は、「われわれの知る限りこの研究は、抗体-薬物複合体が、別の抗体-薬物複合体による治療で病勢が進行した患者において有意な有益性を示した初めての無作為化試験であり、HER2陽性転移のある乳がんや他の患者集団における抗体-薬物複合体の逐次治療に関して、明るい展望をもたらすものである」としている。

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第145回 5類移行でコロナ対策本部廃止、公費負担による無料検査などは中止へ/政府

<先週の動き>1.5類移行でコロナ対策本部廃止、公費負担による無料検査などは中止へ/政府2.コロナ後遺症の診療報酬、5月8日から特定疾患療養管理料を加算へ/厚労省3.緊急避妊薬の市販化、パブコメで97%が賛成/厚労省4.進まぬ電子処方箋、普及に向け、導入拡大を加速化/厚労省5.少子化対策の財源の議論開始、社会保険料や税で/財務省6.認知症患者の遺族が寄付金3億円をめぐって金沢医科大学を提訴/石川1.5類移行でコロナ対策本部廃止、公費負担による無料検査などは中止へ/政府政府は、新型コロナウイルス感染の感染症法での位置付けが5月8日に季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に移行するのに伴い、新型コロナウイルス感染症対策本部を同日に廃止することを閣議決定した。5類移行後の公費負担での対応が大きく変わり、新型コロナウイルスのPCR検査や抗原検査を病院や診療所で行う場合も、検査キットを使用する場合も自己負担となる。また、各自治体による検査キット配布事業も終了となる。ただし、医療機関や介護施設などで陽性患者が発生した場合、医療スタッフなどへの検査を都道府県が実施する場合のみ行政検査として無料で実施される。そのほか、外来診療も従来は公費負担で行われていたものが、インフルエンザとほぼ同じ程度の自己負担が必要となり、入院時の医療費も同様に保険診療となるが、9月末までは、高額療養費制度の自己負担限度額から2万円を減額する措置が講じられる。5月8日以降は、医療機関では「コロナ患者である」ことだけを理由とした診療拒否は「応招義務違反」となり、自院での対応が困難な場合には他の「対応可能な医療機関に対応を依頼する」あるいは「患者に対して対応可能な医療機関を伝える」ことを行うことが必要となる。(参考)政府 「5類」移行に伴い新型コロナ対策本部の廃止を決定(NHK)コロナ5類 感染した時は? 医療費負担 外出 療養支援 相談 証明書(同)コロナ「5類」正式決定 5月8日からどうなる?(同)「新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけの変更に伴う新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて」等の一部訂正について(厚労省)5月8日以降、「コロナ感染のみ」を理由とした診療拒否は不可、自院対応困難な際は「対応可能医療機関を患者に伝える」等の配慮を-厚労省(Gem Med) 2.コロナ後遺症の診療報酬、5月8日から特定疾患療養管理料を加算へ/厚労省厚生労働省は新型コロナウイルスに感染後のいわゆる「後遺症」について患者を診た医療機関の診療報酬を加算することを各都道府県に対して通知した。新型コロナ感染症の位置付けが「5類」に移行する5月8日から開始となる。加算対象は、新型コロナ感染と診断された3ヵ月目以降も後遺症が2ヵ月以上続く患者に対して、診療の手引きを参考にした診療に対して3ヵ月に1度、特定疾患療養管理料147点を加算する。支払いを受けるには、都道府県が公表している罹患後症状に悩む方の診療を行っている医療機関のリストに掲載されている必要がある。期限は令和6年3月31日。(参考)味覚・記憶障害など1年以上続くこともある「コロナ後遺症」、診療報酬を加算(読売新聞)コロナ後遺症の診療、3か月ごと147点 報酬特例で評価へ、来年3月まで(CB news)「新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけの変更に伴う新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて」にかかる疑義解釈資料の送付について[その2](厚労省)「コロナ後遺症の専門医療機関」を各都道府県で本年(2023年)4月28日までに選定し、公表せよ-厚労省(Gem Med)3.緊急避妊薬の市販化、パブコメで97%が賛成/厚労省厚生労働省は「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」で緊急避妊薬を市販薬とするスイッチOTC化について検討を重ねてきた。去年12月から今年の1月にかけて厚生労働省が実施したパブリックコメントの結果、市販化に賛成の意見が約4万6,000件、反対の意見が約300件と、全体の約97%が賛成する内容だった。厚労省は5年前にも同様の検討を行ったが、このときは転売の可能性や不十分な性教育などを理由に「時期尚早」として見送られた経緯がある。しかし、2019年にはオンライン処方も可能になるなど環境の変化もあり、今後、同省は専門家を交えた検討会議の議論をもとに、結論を出す見込み。(参考)緊急避妊薬OTC化の議論、5月以降に 厚労省、パブコメ整理で大きくずれ込む(日刊薬業)緊急避妊薬の市販化 パブコメに4万6300件の意見 97%が賛成(毎日新聞)第22回 医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議(厚労省)4.進まぬ電子処方箋、普及に向け、導入拡大を加速化/厚労省厚生労働省は、4月28日に第2回電子処方箋推進協議会を開催した。この中で電子処方箋の導入状況は、4月23日時点で全国3,352施設で運用開始されていた。内訳は病院9、医科診療所250、歯科診療11、薬局3,082。同日公開された公的病院への導入計画に係る調査結果では、回答した施設のうち、令和5年度中に電子処方箋の導入予定の病院が214施設だった。寄せられた意見の中には、オンライン資格確認などシステム利用が伸び悩んでおり、導入後に電子処方箋の利用が伸びるのか疑問といった声が上げられている。電子処方箋導入施設の面的拡大を重点的に行うため、導入意欲が特に高く、稼働中または近日中に稼働予定の病院「気仙沼市立本吉病院」、「静岡市立静岡病院」、「公立松任石川中央病院」、「公立西知多総合病院」、「徳島市民病院」、「長崎みなとメディカルセンター」を中心に周辺施設の導入拡大を加速化する方針を固めた。(参考)第2回 電子処方箋推進協議会 資料(厚労省)電子処方箋「面的拡大」、導入意欲高い病院など中心に 厚労省(CB news)【電子処方箋】“面的拡大”、6病院を列挙/リフィル機能など先行検証/「気仙沼市立本吉病院」「静岡市立静岡病院」、「公立松任石川中央病院」、「公立西知多総合病院」、「徳島市民病院」、「長崎みなとメディカルセンター」(ドラビズ on-line)5.少子化対策の財源の議論開始、社会保険料や税で/財務省財務省は4月28日に財政制度等審議会を開催、少子化対策の議論に着手した。わが国でも、最終学歴が大卒以上の女性の出生こども数は近年増加しており、女性が出産・育児でキャリアを中断することに伴う機会費用が相当な額にのぼっていることが示唆されている。このため女性の出産支援がさらに必要であり、現時点では少子化対策予算として令和5年度の予算では国費6.3兆円が計上されているが、諸外国と比較すると、現金給付の割合が低いとの指摘もあり、財源について「企業を含む社会・経済の参加者全員が広く負担する新たな枠組みの検討が必要」と指摘がなされた。出席した委員からは社会保険料や税の組み合わせを財源とする意見が出た。この前日、内閣府は第2回のこども未来戦略会議を開催しており、財源について、社会保険料引き上げの案が浮上しているが、経済界や労働団体からは消費税を含む幅広い税財源の検討を求める声が出されていた。(参考)少子化財源、消費税含め議論を 労使、現役負担増に懸念-こども会議(時事通信)少子化財源、財制審で議論開始 「社会保険料や税で」(日経新聞)財政制度等審議会 財政制度分科会 財政各論(2)(財務省)財政制度等審議会 財政制度分科会 財政各論(3)(同)第2回 こども未来戦略会議(内閣府)6.認知症患者の遺族が寄付金3億円をめぐって金沢医科大学を提訴/石川認知症の疑いがある高齢患者の寄付をめぐって、3億円の寄付を患者にさせたのは無効だとして、患者の遺族が大学病院と当時の主治医を相手取って2億4,000万円余りの損害賠償請求を求める裁判を金沢地裁に起こした。訴えられたのは金沢医大病院。遺族によれば、患者は一昨年の1月に同院に入院し、認知機能の低下が指摘され検査結果で大脳の萎縮などが確認された。同年5月に大学創立50周年の募金に対して3億円を寄付し、同年10月に90歳で亡くなった。遺族がこの寄付を知ったのは死亡後。遺族らは「家族に確認することなく、認知機能の低下に乗じて非常識な金額を寄付させた」と主張し、金沢医科大学と当時の病院長で主治医だった男性に対し2億4,000万円余りの賠償を求めており、大学側は「寄付は正当な手続きをして受け入れている。今後、訴状内容を確認してから対応したい」としている。(参考)父親の3億円寄付「異常で不当」 遺族が金沢医大を提訴(産経新聞)認知症疑い患者の3億円寄付、原告代理人「寄付が原因で借金残る」「極めて異常な額」(読売新聞)認知症なのに「3億円を寄付させた」 遺族が金沢医大病院側を提訴(朝日新聞)認知機能低下の患者に巨額の寄付持ち掛け 遺族らが金沢医科大学を提訴(日テレ)

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春休みはフロリダの巨大なWalt Disney Worldへ!【臨床留学通信 from NY】第47回

第47回:春休みはフロリダの巨大なWalt Disney Worldへ!先日は休暇でした。こちらアメリカのレジデント/フェローは年に約4週間の休暇が取れます。日本ですと多くは夏休みが1週間あるくらいなので、4週間もあるのはありがたいです。問題は休みがあっても金銭的にはレジデント/フェローの給料では生活が基本赤字なため、なかなか豪勢な休みの取り方ができないのがつらいところです。さてこの休暇は子供たちの春休みに合わせて、2週間のうちの1週間はフロリダのWalt Disney Worldに行ってきました。Walt Disney Worldは面積でいうと山手線内よりも広く、マンハッタンの2倍の面積があるとされています。その中に4つのテーマパークのMagic Kingdom、Hollywood Studio、EPCOT、Animal Kingdomがあります。Magic Kingdomは日本の東京ディズニーランドのようなもので、ビックサンダーマウンテンがあったりします。スプラッシュマウンテンは人種差別の問題もあり、ちょうど私たちが訪れる前に閉鎖してしまいました。Hollywood Studioの中にはスターウォーズのアトラクションがあり、個人的には一番楽しかったです。EPCOTにはアナ雪、Animal Kingdomにはアバターがあったりしましたが、アバターは子供の身長制限もあり、乗れませんでした。とにもかくにも4つのパークを巡るのが朝から晩まで。といっても4月上旬のフロリダの気温は33度まで上がります。過酷な日々でした。毎日2万歩近く歩いていたため疲労困憊。いずれのパークでも、夜の9時から始まる花火などのショーは疲れ果てて、まったく見ることができませんでした。パークのチケット代は1人135ドル、ファストパスのようなライトニングレーンと呼ばれるものを購入するのに35ドルで計170ドル。日本円で1人22,000円もします。4つのパークを4人で回ったら頭がくらくらする額で、夢の国は現実に戻ると高過ぎる、というところです。節約のため、ホテル、飛行機はクレジットカードのポイントを駆使して2,700ドル相当を浮かしてやりくりしました。次回はディズニー直営のホテルに泊まって、開園前から人気のライドにちょっと乗って、昼はプールで休み、夜はまたパークに戻るというような、もっとゆとりのある過ごし方をしたいものです。

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AIを使い、初診診断書でがん患者の生存を予測

 自然言語処理(NLP)は、人工知能(AI)の一分野であり、コンピュータによって人間の言語を理解、生成、操作することを可能にする技術全般を指す。NLPを使って初診の診断書を解析し、がん患者の予後を予測することが可能であることを示唆する研究が、JAMA Network Open誌2023年2月27日号に掲載された。 ブリティッシュ コロンビア大学(カナダ)のJohn-Jose Nunez氏らによる本研究では、2011年4月1日~2016年12月31日に、ブリティッシュ・コロンビア州にある6つのがんセンターのいずれかでがん治療を開始した患者のデータを使用した。死亡率データは2022年4月6日まで更新され、更新から2022年9月30日までのデータを分析した。診断から180日以内に作成された腫瘍内科医または放射線医の診断書を持つすべての患者を対象とし、診断書は診断日に最も近い文書を選択した。複数のがんで受診した患者は除外した。 初診時の診断書は、従来の言語モデルとニューラル言語モデルを用いて分析された。主要評価項目は、機械学習モデルの性能をはかる指標の1つであるAUC(曲線下面積、1に近いほど性能が高いとされる)を含む、予測モデルの性能であった。副次評価項目として、モデルがどのような単語を使用したかを調査した。 主な結果は以下のとおり。・患者5万9,800例中4万7,625例が解析対象となった。うち2万5,428例(53.4%)が女性、2万2,197例(46.6%)が男性で、平均(SD)年齢は64.9(13.7)歳であった。・初回の診察から計算して、4万1,447例(87.0%)が6ヵ月、3万1,143例(65.4%)が36ヵ月、2万7,880例(58.5%)が60ヵ月後時点で生存していた。・最良のモデルは、ホールドアウト検証において、6ヵ月生存の予測で0.856(AUC:0.928)、36ヵ月生存で0.842(AUC:0.918)、60ヵ月生存で0.837(AUC:0.918)という精度を達成した。・6ヵ月生存と60ヵ月生存の予測において、重要となる単語は異なることが判明した。 著者らは「このモデルがこれまでのがん生存予測モデルと同等かそれ以上の性能を持ち、複数のがん種において予測が可能だった。複雑なデータ処理やデータマイニングを行うことなく一般的で容易に入手できる診断書を用いて、生存率を予測できる可能性があることを示唆している。さらに複数施設のデータを用いることで一般的ながん患者集団が対象となり、より一般化できるモデルの性能を調査することができた」としている。

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サル痘の意外な臨床的特徴と発現率は?~メタ解析

 サル痘(mpox)は、これまでは主にアフリカ中央部から西部を常在国として発生してきたが、2022年5月以降は欧米を中心に世界各地で8万6,000例以上が報告されている(2023年3月24日時点)。潜伏期間は通常6~13日(最大5~21日)で、発熱、頭痛、リンパ節腫脹などの症状に続いて発疹が出現するが、常在国以外での感染例では、これまでのサル痘の症状とは異なる所見が報告されている。 そこで、韓国・慶煕大学校のHyunju Yon氏らの研究グループは、サル痘に伴う臨床的特徴を調べ、その病態生理や特徴を把握することを目的として、システマティックレビューとメタ解析を行った。これはサル痘のすべての臨床的特徴を検討した最初の国際的かつ包括的な研究であるという。Reviews in medical virology誌オンライン版2023年4月13日号掲載の報告。 本研究では、2022年9月16日までに公表された研究を、PubMed/MEDLINE、Embase、CINAHL、Google Schola、Cochrane Database of Systematic Reviewsで検索した。ランダム効果モデルを用いてプールされた有病率と95%信頼区間(CI)を算出した。異質性の評価にはI2統計、出版バイアスの評価にはEgger's test、不確実性のレベルの判定には95%予測区間、バイアスリスクの評価にはNewcastle-Ottawa ScaleとJoanna Briggs Instituteが用いられた。 主な結果は以下のとおり。・5大陸19ヵ国の26研究より、18項目の特有の臨床的特徴を有する5,472例のサル痘患者が解析の対象となった。・サル痘の臨床的特徴のプールされた発現率は下記のとおりであった。 -発疹 85.7%(95%CI:68.3~94.3、k=21) -悪寒 77.8%(95%CI:70.5~83.7、k=3) -発熱 62.3%(95%CI:51.3~71.6、k=25) -リンパ節腫脹 58.6%(95%CI:47.2~69.2、k=21) -無気力または疲労 46.8%(95%CI:30.7~63.5、k=14) -そう痒 40.6%(95%CI:28.5~54.0、k=5) -筋肉痛 36.0%(95%CI:24.3~49.7、k=16) -頭痛 34.6%(95%CI:23.4~47.8、k=17) -皮膚潰瘍 31.1%(95%CI:18.6~47.1、k=7) -腹部症状 24.2%(95%CI:17.9~31.9、k=11) -咽頭炎 23.0%(95%CI:12.7~37.9、k=14) -呼吸器症状 19.5%(95%CI:6.8~44.1、k=6) -悪心または嘔吐 13.0%(95%CI:4.6~31.9、k=3) -陰嚢または陰茎浮腫 10.7%(95%CI:6.3~17.7、k=4) -結膜炎 7.1%(95%CI:2.4~18.9、k=6) -死亡 0.9%(95%CI:0.4~2.0、k=26) これらの結果より、研究グループは「この研究は、現在発生しているサル痘の包括的な理解を提供するものであり、病理学的メカニズムや疫学に関する研究のための重要なデータとなりうる」とまとめた。

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糖尿病のある人を知らずに傷つける糖尿病スティグマ/糖尿病学の進歩

 2月17日・18日に東京・東京国際フォーラムで「第57回 糖尿病学の進歩」(世話人:馬場園 哲也氏[東京女子医科大学 内科学講座 糖尿病・代謝内科学分野 教授・基幹分野長])が開催された。 近年、「糖尿病」という病名について患者や医療者から疑問の声が出され、糖尿病というネガティブなイメージからさまざまな不利益を受けていることも表面化している。そこで本稿では、「糖尿病診療に必要な知識」より「糖尿病スティグマとアドボカシー活動」(田中 永昭氏[国家公務員共済組合 枚方公済病院 内分泌代謝内科])の内容をお届けする。医療者は糖尿病のある人を知らずに傷つけているかもしれない 糖尿病という「スティグマ=烙印」は、マイナスイメージであり、今では「『恥』や『不信用』の烙印となっている」と田中氏は指摘する。また、糖尿病というだけで就職できない、保険への加入ができないなど糖尿病のある人には社会的な不利益が起こっているだけでなく、本人の自尊感情の低下や治療機会の喪失なども散見されるという。 これらの偏見や差別は、社会の糖尿病の知識と理解の不足から起こるものであり、実際、糖尿病のある人の多くは決して「食べ過ぎ」などの不健康な生活習慣が起因するものではなく、最近の調査では40歳からの平均余命も糖尿病のない人と変わらないと報告されている。 そして、「医療者から糖尿病のある人へのスティグマもみられることも重要な課題である」と田中氏は指摘する。たとえば、いわゆる「療養指導」がうまくいかないときに「やっぱり糖尿病だから」と相手をみてしまったり、口走ってしまったりすることがみられるという。糖尿病のある人と話し合うときに、医療者が理想の患者像を勝手に創造し、糖尿病のある人を低くみていることが問題とされる。そして、こうした行動や発言がされることで、糖尿病のある人に自己スティグマを負わせ、自分は誰かに相談したり、誰かの助けを求めたりするに値しない人間だと思わせてしまい、ひいては糖尿病治療の中断や医療機関への通院を止めるなど、さらに糖尿病治療へ悪い影響をもたらすと田中氏は懸念を示す。 実際、田中氏らが信頼性と妥当性を担保したスティグマ質問票「KISS(Kanden Institute Stigma Scale)」を開発・調査したところ、糖尿病のある人は糖尿病のない人と比べてKISSの総スコアが有意に高値であったことから、糖尿病のある人は糖尿病というスティグマに苦しんでいる状況がうかがえたという。糖尿病スティグマ解消のためにできること こうした、病気へのスティグマへの解決方法の1つに“Shared decision-making”がある。これは、医療者と糖尿病のある人がエビデンスに基づく治療や糖尿病のある人の人生観を共有することで、一緒に治療方針や目標を決定するというものである。「糖尿病のある人との面談の際、医療者は尊厳を持ち、相手の話をよく聞き、行動の禁止や拒否、指示、命令などは避けるように心がける必要がある」と田中氏は提案する。 アドボカシー(提言)活動については、日本糖尿病協会が行っており、糖尿病の特性などについて社会に認知してもらうために数々の提言を行っている。とりわけ近年では、「糖尿病」という病名に対して、糖尿病のある人にとって心理的な負担が大きいことから、見直しの議論が始められている。同会ではそのほかにも、糖尿病という病気の誤った認識の是正や正しい理解の内容を発信している。また、すぐにできることとして医療用語の改訂なども提案している。たとえば、「アドヒアランス」を「実施率」へ、「血糖コントロール」を「血糖マネジメント」などへの言い換えである。「血糖マネジメント」については、「『糖尿病のある人と医師が共通の目標を立てて、その達成のための計画を話し合うこと』という、本来医療者が実施したいことを適切に表現する言葉を使うべきだ」と田中氏は提言する。 最後に田中氏は、「糖尿病スティグマを認識することで、医療者も糖尿病のある人を模範的な患者像に押し込めるような関わり方は止めて、スティグマ解消に立ち上がってもらいたい」と期待を寄せた。

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仕事依存症になりやすい人の特徴

 リトアニア・ビータウタス・マグヌス大学のModesta Morkeviciute氏らは、完璧主義・タイプA性格・仕事依存症の関係性を、仕事に対する外因性のモチベーション、親の仕事依存度および要求が厳しい組織の影響を介し調査した。その結果、仕事依存症は個人の性格的な要因を発端とし、家族や組織の状況などが個人の性格的な要因の表出を高め、仕事依存症の発現を促進する可能性が示唆された。International Journal of Environmental Research and Public Health誌2023年3月4日号の報告。 対象は、リトアニアのさまざまな組織の従業員621人。オンラインの自記式アンケートを用いて、横断的研究を実施した。仮説検証前に、状況変数に基づき対象者のサブグループを特定するため、潜在プロファイル分析(LPA)を実施した。仮説検証には、構造方程式モデリングを用いた。 主な結果は以下のとおり。・LPAでは、親の仕事依存に関する2つのプロファイル(親の仕事依存度が低い/高い)および要求が厳しい組織に関する3つのプロファイル(要求の厳しさがわずか/中程度/強い)が確認された。・要求の厳しさが強い組織の従業員では、完璧主義・タイプA性格・仕事依存症との直接的な関連性は、ポジティブかつ、より強力であった。・完璧主義・タイプA性格・仕事依存症の間接的な(外因性のモチベーションを介した)関係性は、親の仕事依存度が高い場合、ポジティブかつ、より強力であった。

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新型コロナ5類移行、今後の対応5点を発表/厚労省

 厚生労働省は4月27日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について、5月8日より、感染症法上の位置づけを「新型インフルエンザ等感染症」から「5類感染症」に移行することを正式に決定したことを発表した。本決定は、国内におけるオミクロン株XBB.1.5系統やXBB.1.9系統の増加の動きはあるものの、重症度の上昇を示す知見は確認されていないことや、現時点での病床使用率や重症病床使用率は全国的に低い水準にあることが確認されたことに基づいている。5類移行により、これまでの法律に基づき行政が要請・関与する仕組みから、個人の選択を尊重し、国民の自主的な取り組みを基本とする対応に転換する。 今後の対応については、これまでに段階的に発表されたものも含め、以下の5点にまとめられた。(1)発生動向の把握 患者の発生動向の把握については、医療機関から法律に基づく届け出等の全数報告がなくなることに伴い、これまでのような感染者数や死亡者数等の毎日の公表はなくなる。位置づけ変更後は、感染症法に基づく定点医療機関による新規感染者数の報告が基本となり、前週月曜日から日曜日までの患者数を毎週金曜日に公表する。初回の公表は5月19日の予定。それまでの期間も途切れることなく発生動向を把握するため、G-MISを用いた新規入院者数や病床の状況等の把握・監視を継続する。これに加えて、血清疫学調査(抗体保有率調査)や下水サーベイランス研究等を含め、重層的な確認を行っていく。位置づけの変更により検疫法の適用は終了し、空港ではゲノムサーベイランスを継続していく。(2)医療提供体制 医療提供体制については、医療機関における感染対策の見直し、設備整備や個人防護具の確保への支援などによりこれまで対応してきた医療機関に引き続き対応を求めるとともに、新たな医療機関に参画を促す取り組みを重点的に進める。入院措置を原則とした行政の関与を前提とした限られた医療機関による特別な対応から、幅広い医療機関による自律的な対応に移行していく。 都道府県より提出された9月末までの移行計画の集計によると、直近のオミクロン株の流行時における最大入院者数約5万3千人を踏まえ、約8,400施設の医療機関において最大で約5万8千人の入院患者の受け入れ体制を確認している。うち、確保病床を有する医療機関での重症/中等症IIの患者の受け入れは約2万3千人(最大約3万1千床)、軽症/中等症Iの患者では、受け入れ経験がある医療機関で約3万人、受け入れ経験がない医療機関で約4千人となっている。 入院調整については、行政による入院調整の対象を重症患者や医療機関間での調整が困難となった患者などとし、原則として医療機関間で調整を行うこととする。調整は医療機関間で共有するITシステムや、妊産婦や小児などのための既存の連携の仕組みを活用する。(3)新型コロナウイルス感染症の患者等への対応 感染症法に基づく入院措置・勧告、外出自粛要請といった私権制限がなくなる。これに伴い医療費や検査費用の1~3割が自己負担となる。位置づけ変更による急激な負担増を避ける観点から、入院医療費や新型コロナ治療薬の費用は期限を区切り軽減する(現時点では9月末まで)。入院医療費は原則2万円、新型コロナ治療薬は全額補助。受診相談機能や宿泊療養施設の一部は期限を区切り継続される。外出を控えるかどうかは、ウイルスの排出期間や外出を控えることが推奨される期間(発症後5日間)を参考に個人で判断する。(4)基本的な感染対策 マスクの着用をはじめとする基本的な感染対策については、個人や事業者の判断に委ねることを基本とする。入場時の検温やパーティションの設置なども政府として一律に求めることはせず、対策を行った場合の効果など情報提供を進めていく。感染対策の実施に当たっては、感染対策上の必要性に加え、経済的・社会的合理性や、持続可能性の観点も考慮して、改めて感染対策の検討をお願いする。(5)新型コロナワクチン 新型コロナワクチンについて、特例臨時接種として、引き続き自己負担なく接種を実施する。追加接種の対象となるすべての人を対象に9月を目途に接種を開始する予定だが、高齢者など重症化リスクの高い人には5月8日から接種を実施する。 なお、今後、オミクロン株とは大きく病原性が異なる変異株が出現するなど、科学的な前提が異なる状況になれば、ただちに対応を見直すとしている。 新型コロナの罹患後症状(いわゆる後遺症)については、オミクロン株については従来の株に比べ罹患後症状患者の割合は下がっているという研究結果も示されている一方、流行の規模は大きくなってきている。罹患後症状を診療している医療機関を4月28日までに各都道府県のウェブサイトに掲載するよう依頼し、厚労省で5月初頭に取りまとめて公表される予定。さらに5月8日から、これらの医療機関において罹患後症状の診療報酬上特例的な評価を設けるとしている。

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中等症~重症円形脱毛症、ritlecitinibで改善/Lancet

 経口ヤヌスキナーゼ(JAK)3/TECファミリーキナーゼ阻害薬ritlecitinibは、12歳以上の円形脱毛症患者に有効で忍容性も良好であることを、米国・イェール大学のBrett King氏らが、日本を含む18ヵ国118施設で行われた第IIb/III相無作為化二重盲検プラセボ対照用量設定試験「ALLEGRO-2b/3試験」の結果、報告した。円形脱毛症は、頭皮、顔または体毛の非瘢痕性脱毛を特徴とするT細胞を介した自己免疫疾患である。これまで円形脱毛症に対する治療法はほとんどなかったが、JAK1/JAK2阻害薬バリシチニブが、2022年6月に米国および欧州で成人の円形脱毛症の治療薬として初めて承認された。しかし、バリシチニブの臨床試験には18歳未満の若年者が含まれていなかったため、円形脱毛症治療のアンメットニーズが残されたままであった。Lancet誌オンライン版2023年4月13日号掲載の報告。12歳以上の中等症~重症円形脱毛症718例を7群に無作為化 研究グループは、脱毛症重症度評価ツール(Severity of Alopecia Tool[SALT]範囲:0[脱毛なし]~100[全頭脱毛])で測定した頭部脱毛が50%以上の、中等症~重症円形脱毛症と診断された12歳以上の患者を、ritlecitinib 200mg1日1回4週間負荷投与後50mg1日1回投与群(200mg+50mg群)、200mgを4週間負荷投与後30mg投与群(200mg+30mg群)、50mg群、30mg群、10mg群、プラセボ24週間投与後延長期にritlecitinib 200mgを4週間負荷投与後50mg投与(プラセボ→200mg+50mg群)、またはプラセボ24週間投与後延長期にritlecitinib 50mg投与群(プラセボ→50mg群)に、2対2対2対2対1対1対1の割合にベースラインの疾患重症度と年齢で層別化して無作為化に割り付けた。 主要エンドポイントは、24週時におけるSALTスコア20以下(頭部脱毛が20%以下)に基づく奏効率である。 2018年12月3日~2021年6月24日の期間に、1,097例がスクリーニングされ、適格基準を満たした718例が200mg+50mg群(132例)、200mg+30mg群(130例)、50mg群(130例)、30mg群(132例)、10mg群(63例)、プラセボ→50mg群(66例)、プラセボ→200mg+50mg群(65例)に割り付けられた。奏効(頭部脱毛が20%以下)を得られた患者は200mg+50mg群で31% 718例の患者背景は、女性446例(62%)、男性272例(38%)、白人488例(68%)、アジア人186例(26%)、黒人またはアフリカ系アメリカ人27例(4%)であった。718例中104例が治療を中止した(脱落34例、有害事象19例、医師の判断12例、無効12例、追跡調査不能13例、長期投与試験へ移行5例、妊娠4例、プロトコル逸脱2例、COVID-19による追跡調査拒否1例、COVID-19による最終診察遅延1例、服薬順守違反1例)。 24週時の奏効率は、200mg+50mg群31%(38/124例)、200mg+30mg群22%(27/121例)、50mg群23%(29/124例)、30mg群14%(17/119例)、プラセボ群2%(2/130例)であり、奏効率のプラセボ群との差は200mg+50mg群で29.1%(95%信頼区間[CI]:21.2~37.9、p<0.0001)、200mg+30mg群で20.8%(13.7~29.2、p<0.0001)、50mg群で21.9%(14.7~30.2、p<0.0001)、30mg群で12.8%(6.7~20.4、p<0.0002)であった。 延長期間を含めた48週間における有害事象の発現率は、200mg+50mg群82%(108/131例)、200mg+30mg群81%(105/129例)、50mg群85%(110/130例)、30mg群80%(106/132例)、10mg群76%(47/62例)、プラセボ→200mg+50mg群83%(54/65例)、プラセボ→50mg群86%(57/66例)で、各群において同程度であった。死亡例は報告されなかった。

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早期乳がん、アントラサイクリン+タキサン併用が最も有効~メタ解析/Lancet

 乳がんの再発と死亡の減少にはアントラサイクリン系+タキサン系併用療法が最も有効であり、とくにアントラサイクリン系+タキサン系の累積投与量が多いレジメンで最大の効果を得られることが、英国・オックスフォード大学のJeremy Braybrooke氏らEarly Breast Cancer Trialists' Collaborative Group(EBCTCG)が行ったメタ解析で明らかにされた。早期乳がんに対するアントラサイクリン系+タキサン系併用療法は、化学療法を行わない場合と比較して生存を著明に改善するが、アントラサイクリン系薬剤の短期および長期の副作用に対する懸念から、アントラサイクリン系薬剤を含まないタキサン系レジメンの使用が増加しており、有効性が損なわれる可能性があった。 著者は、「示された結果は、臨床診療やガイドラインにおける最近のトレンドである非アントラサイクリン系化学療法、とくにドセタキセル+シクロホスファミドの4サイクルなどの短期レジメンに対して挑戦的である」と述べ、「本検討は、関連するほぼすべての臨床試験のデータをまとめており、個々の治療の決定、臨床ガイドライン、および将来の臨床試験のデザインに役立つ確かなエビデンスを提供するものである」とまとめている。Lancet誌2023年4月15日号掲載の報告。アントラサイクリン系およびタキサン系レジメンを評価した無作為化試験86件が対象 研究グループは、MEDLINE、Embase、Cochrane Library、学会抄録を含むデータベースを用いて、アントラサイクリン系およびタキサン系レジメンを評価したあらゆる言語の無作為化試験86件を特定(最終検索は2022年9月)。タキサン系レジメンとアントラサイクリン系レジメンを比較した無作為化試験の患者個人レベルのメタ解析を行い、本研究グループによる前回のメタ解析を更新するとともに、6つの関連比較に関して解析した。術後または術前補助療法の臨床試験は、2012年1月1日以前に開始されたものであれば対象とした。 主要アウトカムは、浸潤性乳がんの再発(遠隔、局所、対側乳房の新規原発)、乳がん死、再発を伴わない死亡、全死亡とし、log-rank解析により初回イベント率比(RR)と信頼区間(CI)を算出した。アントラサイクリン系+タキサン系同時併用が最も再発率が低い アントラサイクリン系を含むタキサン系レジメンとアントラサイクリン系を含まないタキサン系レジメンを比較した28件の臨床試験を特定し、23件を適格とした。そのうち15件について、計1万8,103例の女性の個人データが提供された。この15件すべてにおいて、アントラサイクリン系を含むタキサン系レジメンは、アントラサイクリン系を含まないタキサン系レジメンより、再発率が平均14%低かった(RR:0.86、95%CI:0.79~0.93、p=0.0004)。非乳がん死は増加しなかったが、治療を受けた女性700例当たり1例に急性骨髄性白血病の発症が認められた。 再発率が最も低かったのは、ドセタキセル+シクロホスファミドにアントラサイクリン系の同時併用と、同量のドセタキセル+シクロホスファミドを比較した場合であった(10年再発リスク:12.3% vs.21.0%、リスク差:8.7%[95%CI:4.5~12.9]、RR:0.58[95%CI:0.47~0.73]、p<0.0001)。このグループにおける10年乳がん死亡率は4.2%減少した(95%CI:0.4~8.1、p=0.0034)。 アントラサイクリン系+タキサン系の順次投与は、ドセタキセル+シクロホスファミドと比較して、再発リスクの有意な低下は認められなかった(RR:0.94、95%CI:0.83~1.06、p=0.30)。 アントラサイクリン系レジメンとタキサン系レジメンを比較した臨床試験については、44件の適格試験を特定し、このうち35件について計5万2,976例の女性の個人データが提供された。 アントラサイクリン系レジメンへのタキサン系薬剤の上乗せは、タキサン系薬剤を含まないアントラサイクリン系レジメン(アントラサイクリン系薬剤の累積投与量が同じ)と比較した場合は再発を有意に抑制したが(RR:0.87、95%CI:0.82~0.93、p<0.0001、1万1,167例)、対照群の非タキサン系薬剤の累積投与量をタキサン系薬剤の2倍量にした場合と比較すると再発率の有意な低下は認められなかった(RR:0.96、95%CI:0.90~1.03、p=0.27、1万4,620例)。 アントラサイクリン系レジメンとタキサン系レジメンの直接比較では、累積投与量が多く、投与強度が高いレジメンがより効果的であることが示された。アントラサイクリン系+タキサン系併用療法の再発抑制効果は、エストロゲン受容体陽性集団とエストロゲン受容体陰性集団で同様であり、年齢、リンパ節転移状態、腫瘍のサイズまたはグレードによって差は認められなかった。

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080)皮膚科医がこれ虫かな? と思うとき【Dr.デルぽんの診察室観察日記】

第80回 皮膚科医がこれ虫かな? と思うときゆるい皮膚科勤務医デルぽんです☆春を通り越して夏めいた日差しの日もある今日この頃、ケアネット会員の皆様いかがお過ごしでしょうか?春先からにわかに花粉症で活気づいた皮膚科外来は、ムシムシする梅雨の時期を経て、暑い夏、レジャーの夏に突入します。ヒトが元気になるこの季節、虫たちも活発に活動をはじめ、そして出会った両者のおりなす(?)昆虫皮膚炎が増えてくる季節でもあります。日頃、診察をしていて、これ、虫が原因かな? と思う皮疹の特徴としてあげられるのは、露出部(四肢、顔など)、被覆部(服の中の体の柔らかいところ)などに分布が限定しているそれぞれの皮疹が同じような形でぱらぱらと点在する治療をしていても皮疹の新生が続く(環境に原因)など。ハチ刺されなど、きっかけの明らかな場合を除いては、虫が原因であると断定するのは難しく、問診や診察をしながら探偵のように推察していくことになります。こちらのおじいさんも、露出部である前腕を中心に、同じような形の皮疹が点在し、同居の家族も四肢に同じような症状が生じているとのこと。ペットはいないとのことですが、畳の部屋はあり、室内で柑橘類をいくつも育てているとのこと。また、庭や家のそばには木々があふれているとのことで、原因となりそうなものがいくつか存在するようでした。それら1つずつに対処していき、原因を一緒に探っていくことをご本人にお話ししました。それにしても、柑橘類といえば収穫して食べることにすぐ考えがいってしまいますが、「食べずに愛でる」という楽しみ方もあるのですね。そして室内でいくつも育てているとのこと…?いったいどんな情景なのか?? そもそも室内でも育つのか? 疑問は深まるばかりです。外来は、日々、学びの連続ですね。それでは、また次回に。

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第157回 アステラス社員のスパイ疑い、考えられる3つの理由(前編)

あの事件が発覚してから1ヵ月が経過しようとしている。「あの事件」とは、アステラス製薬の50代の日本人男性社員が、北京で中国国家安全部に反スパイ法違反容疑で拘束された事件である。4月2日に訪中した外務大臣の林 芳正氏は、中国・国務委員兼外相の秦 剛氏との会談で拘束へ抗議の意を表明し、早期解放を要求。この2日後には在中国日本国大使館が領事面会を行い、この時点で拘束された社員の健康状態に問題がないことを確認したものの、それ以降はぱったりと情報が途絶えている。拘束された社員はアステラス製薬の前身である旧山之内製薬出身者で、中国事業の経験が約20年におよぶベテランのようだ。中国国内で活動する日本企業の団体である中国日本商会の役員を務めた経歴もあり、中国高官ともかなり交流があったと言われている。中国の反スパイ法は2014年に制定されたもので正式名称は「中華人民共和国反間諜法」である。制定当初の同法ではスパイ行為として、以下が規定されている。(1)中国の安全に危害を及ぼす活動(2)スパイ組織への参加あるいはスパイ組織やその代理人の任務引受け(3)国家秘密・国家情報を窃取、偵察、買収もしくは不法に提供する活動(4)公務員に対して中国を裏切るよう扇動、誘惑、買収する活動(5)敵に対する攻撃目標の指示(6)その他のスパイこの社員の拘束後にはこれらに加え、新たにこれらも追加された。▽国家の安全と利益に関わる文書・データ、資料や物品の窃盗行為▽国家機関や重要な情報インフラへのサイバー攻撃一見、具体的に見えるかもしれないが、規定された「中国の安全」とは何かが非常に曖昧である。もちろんこれを条文に詳しく書いてしまえば、国家機密そのものの例示になりかねないとの指摘もあるが、どちらかというと従来から法治というよりは人治の色彩が強い中国の場合、この曖昧さが「後出しじゃんけん」とも言われかねないイメージを強めてしまう。同法制定以降、これに関連して拘束された日本人は判明しているだけで17人。あえて「判明しているだけ」と記述したのは、拘束後約1年もその事実が明らかにされなかったケースがあるためだ。このうち裁判に至らず釈放された事例は5人のみ。少なくとも現状で今回拘束された社員が今後どうなるのかはまったく予測ができない。正直、第一報を聞いた時はかなり驚いた。世間一般では「反スパイ法」「製薬企業の社員」というキーワードから、「何らかの産業スパイを働いたのではないか?」「拘束して逆に日本の製薬業界やアステラス製薬が抱える技術情報を盗み取ろうとしているのでは?」と考える人は少なくないようだが、私見ながらその可能性は低いと考えているからだ。まず、日本と中国の製薬企業の研究開発力を比べれば、まだ日本のほうがいくらか上だ。ただし、中国は全世界の大学や研究所に日本より数多くの留学生を派遣し、それらの人材を基礎として中国の製薬企業は急速に力をつけている。そして両国の技術差は、日本の製薬企業関係者にとってリスクを冒してまで得なければならないほどのものでもなければ、中国側が外交関係悪化を覚悟してまで得ようとしなければならないものはない微妙な位置関係である。現時点でこの社員のどのような行為が反スパイ法に抵触したかの情報はまったくない。この点については彼が無事解放、あるいは最終的に刑が確定した段階でも中国側が明らかにすることはないだろう。それは、これまでそうしたケースがないからである。また、解放あるいは刑期満了による帰国後に当該社員やアステラス製薬が明らかにする可能性も低い。過去の事例でも解放者、刑期満了者がメディアなどの取材に応じたケースはほぼ皆無である。これには中国当局による口止めも予想されるが、同時に本人や勤務先に長期的な不利益が及ぶことを恐れて口をつぐんでしまっている側面もあると考えられる。こうした前提は承知の上で、中国の現状などを踏まえ、この社員が拘束された理由と私が予想しているものは3つある。―その1:中国共産党幹部などの汚職の巻き添えを食らった第一は中国の国家主席である習 近平氏の統治下で活発化している「汚職・腐敗撲滅運動」により摘発された中国共産党幹部などの巻き添えを食らった可能性である。中国の場合、共産党が国家を指導する、つまり国家の上に共産党があるという政治構造になっている。ちなみに習氏は中国の公式な国家元首である国家主席への就任直前に共産党のトップである総書記に就任しており、このことはまさに党→国家という順位を端的に示している。その共産党内にある党員の腐敗行為を監督する中央規律検査委員会は昨年10月、習氏による指導部発足以来の成果として10年間に約464万人の党員を汚職で摘発したことを明らかにした。事実上の一党独裁(表面には共産党以外の政党が存在するが、実際には共産党がすべての権力を握る「ヘゲモニー政党制」)ゆえに日本では「中国国内には共産党員なぞ、掃いて捨てるほどいる」と思っている人もいるかもしれない。しかし、中国の総人口約14億1,200万人のうち、共産党員は国民の約14人に1人未満の約9,671万人しかいない。つまり習氏の政権期間内に汚職摘発を受けたのは党員の約5%にものぼる。日本人向けの例えをすると、10年間で神奈川県の人口(約922万人)の半分が摘発されたとも表現できる。習氏の下で行われている汚職摘発はかなり容赦のないものだ。たとえば、2014年には中国人民解放軍の最高位階級の上将まで上り詰め、中国共産党中央政治局委員、党中央軍事委員会副主席も務めた徐 才厚氏が汚職で摘発され、党籍はく奪処分を受けたが、それだけに留まらない。念のため、わかりにくい中国共産党の権力構造を簡単に解説したい。中国の最高権力機関は、5年に1度開催される構成員約3,000人の一院制議会「全国人民代表大会(通称・全人代あるいは党大会)」。ただ、開催頻度からもわかるように、あくまで名目上の最高権力機関である。このため全人代閉会期間中に共産党を指導し、政策を決定する組織が全人代で選出された200人超の中央委員と170人弱の中央候補委員で構成される「中国共産党中央委員会」である。さらにこの党中央委員会も開催は年1回であるため、中央委員会全体会議で選出された20数人で構成される「中国共産党中央政治局」が日常的な政務を担い、さらにその中でも慣例上7人で構成される「中国共産党中央政治局常務委員会」が日常的な共産党の指導方針や国家の政策を決定している。海外ではこの7人を「チャイナ・セブン」と呼ぶこともある。当然、習氏もその一員である。中国では鄧 小平氏がトップだった時代から党内での無意味な権力闘争を避けることを目的に中央政治局常務委員経験者には暗黙の不逮捕特権があるとされてきた。しかし、習氏はこの慣例を破り、2012年11月まで常務委員会委員だった周 永康氏の党籍を汚職の罪ではく奪。最終的に周氏は裁判にかけられ無期懲役の判決が確定した。憲法の規定である国家主席の2期10年までという任期を改正してまで3期目を務める習氏にとって、この徹底した汚職摘発は最高権力者としての自分を周囲に納得させる手段であると同時に、時には政敵を粛正するために使える手段として欠かすことができないものである。さて今回拘束された社員は、複数の中国高官(共産党員)とかなり親交が深い人物と言われている。こうした立場にいると、親密度の高い相手が汚職で摘発された場合、その余罪追及に向けて周辺人物に身柄拘束が及ぶことは中国では珍しくない。実際、前述の周氏のケースも、まず本人の動静が途絶え、側近や周囲の親密度が高い人物の摘発が明るみに出たことで、周氏の摘発の可能性が噂され、それが後に現実になった。今回のケースがこれに該当していると仮定した場合、拘束された社員はたまたま外国人でかつ企業の駐在員だったことで消息が途絶えたことに周囲が気づきやすかったため、騒ぎになったとも考えられるもっとも1番目に挙げながら、このようなことを言うのも何だが、これは広く捉えた可能性の1つであって、むしろ私が考えているほかの2つのほうがより拘束理由に近いのではないかと考えている。次回は残り2つの可能性について言及したい。

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