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論文に特化したAIを活用する【医療者のためのAI活用術】第9回

(1)論文に特化したAll-in-oneのAIツール「SciSpace」ChatGPTを論文の執筆にすでに活用している方も多いかもしれませんが、論文の執筆や読解に特化したAIツールも存在します。SciSpaceは論文の検索や個々の論文の精読、さらには執筆までサポートしてくれる、All-in-oneのAIツールです。しかも、基本的なツールは無料で利用することができます。ウェブサイトにアクセスし、「Literature Review」のタブをクリックして調べたい内容を入力すると、論文を検索したうえで内容を1段落でまとめてくれ、引用元の文献を表示してくれます(図1)。前回の記事で紹介したPerplexity AIやElicitも同様の検索機能がありますが、それぞれの質の高さは検索内容によってさまざまです。それぞれの検索ツールを試してみて自分に合うものを選んだり、同じ内容を複数のツールで検索したりしてみるのが良いと思います。(図1)論文検索の方法と検索結果画像を拡大するまた、「Copilot - read with AI」というタブをクリックし、論文のPDFを添付するとAIが内容を読み込んで、知りたい内容について論文をもとに回答してくれます(図2)。たとえば「Limitation of this paper」をクリックすると、該当する部分をピックアップして表示してくれます。さらに、言語を日本語に設定すると和訳して内容を表示してくれるという優れもの。抄読会の担当になった時など、読み込みたい時に役立つツールです。(図2)PDFをアップロードすると知りたい内容の要約が可能画像を拡大する(2)論文の執筆に活用するSciSpaceには論文を執筆する時に役立つツールもあります。「Paraphrasing tool」というものを使用すると、元の文章の意味を保ちながら、ほかの単語や文章に書き換えてくれる「パラフレーズ」の作業を自動で行ってくれます(図3)。また、書き換えた後の文章の長さや文章の変化量などのパラメーターも調節できるのが嬉しい点です。論文の中で使用した表現をAbstractにもう一度使用したい場合など、重複表現を避けたい時に有効です。(図3)英文の書き換えにも活用可能画像を拡大するそのほかにも、論文のURLを入力すると論文の参考文献の形式に編集してくれる「Citation generator」や、AIが書いた文章かどうか判断してくれる「AI detector」などの機能がありますが、使い勝手はいま一つで、ほかのツールを使うのが良いと思います。なお、ChatGPTをはじめとしたAIツールの使用を禁止または制限している雑誌もあるため、使用する際には雑誌の投稿規定を確認するようにしてください。

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第71回 セフトリアキソンとランソプラゾール併用で死亡リスク上昇?

にわかに話題となった併用Unsplashより使用X(旧Twitter)で「セフトリアキソンとランソプラゾールを併用すると死亡リスクが上昇する」という話が注目を集めました。なぜバズったかというと、この組み合わせが結構臨床で多いからです。セフトリアキソンは、呼吸器系などで頻繁に使用されるβラクタム系抗菌薬です。もともと内服していたり、消化器系の症状があったり、ステロイドが併用されていたりすると、プロトンポンプ阻害薬(PPI)が併用されることが多くなります。代表的なPPIが、ランソプラゾールです。バズり元の論文は、カナダのオンタリオ州からの後ろ向き研究です1)。すでにセフトリアキソンとランソプラゾールの併用により、心電図上の補正QT間隔が延長することが示されているため、これが実臨床的にどう影響するかという検証になります。傾向スコア重み付け(IPTW法)を用いて解析したところ、ランソプラゾール群とその他のPPI群の調整後リスク差は、心室性不整脈または心停止で1.7%(95%信頼区間[CI]:1.1~2.3)、院内死亡で7.4%(95%CI:6.1~8.8)でした。NNH(number needed to harm)に換算すると、それぞれ58.8、13.5という結果でした(表)。表. セフトリアキソンとPPIの併用リスク(文献1より引用)結局どうする?セフトリアキソンとランソプラゾールがhERGカリウムチャネルを阻害してQT延長を起こす、というメカニズムとされています2)。これが心筋細胞の活動電位時間を規定する因子であることが知られています。今回の報告は、質の高いランダム化比較試験ではなく、後ろ向きコホート研究である点は解釈に注意が必要です。ランソプラゾールは各病院のフォーミュラリの推奨度が高い薬剤でもあるので、今後の動向には注意したいところです。参考文献・参考サイト1)Bai AD, et al. Ceftriaxone and the Risk of Ventricular Arrhythmia, Cardiac Arrest, and Death Among Patients Receiving Lansoprazole. JAMA Netw Open. 2023;6(10):e2339893.2)Lorberbaum T, et al. Coupling data mining and laboratory experiments to discover drug interactions causing QT prolongation. J Am Coll Cardiol. 2016;68(16):1756-1764.

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早期アルツハイマー病患者のQOLに対するレカネマブの有用性~第III相試験

 レカネマブは、アミロイドβプロトフィブリルに高い親和性を示すヒト化IgG1モノクローナル抗体である。第III相試験において、レカネマブは早期アルツハイマー病のアミロイドマーカーを減少させ、18ヵ月時点での認知および機能の臨床的エンドポイントの低下を軽減することが示唆されている。カナダ・Toronto Memory ProgramのSharon Cohen氏らは、Clarity AD試験での健康関連QOL(HRQoL)の結果について、評価を行った。その結果、レカネマブは、HRQoLの相対的な維持および介護者の負担軽減と関連しており、さまざまなQOL尺度においてベネフィットが確認された。The Journal of Prevention of Alzheimer's Disease誌2023年号の報告。 Clarity AD試験は、18ヵ月にわたる多施設共同二重盲検の第III相試験である。参加者は、軽度認知障害(MCI)またはアルツハイマー病による早期認知症と診断され、PETまたは脳脊髄液検査において脳アミロイド蓄積が認められた50~90歳。参加者には、プラセボまたはレカネマブ10mg/kg IVの隔週投与を行った。HRQoLは、European Quality of Life-5 Dimensions(EQ-5D-5L:患者)およびQuality of Life in AD(QOL-AD:患者および介護者)を用いて、ベースライン時および6ヵ月ごとに測定した。介護者に対してZarit Burden Interview(ZBI)を実施した。 主な結果は以下のとおり。・登録患者数は1,795例(レカネマブ群:898例、プラセボ群:897例)。・18ヵ月時点での対象患者におけるHRQoLは、ベースラインからの調整平均変化の低下がEQ-5D-5Lで49%、QOL-ADで56%減少した。・介護者におけるQOL-ADの低下は、23%減少した。・18ヵ月時点のベースラインからの平均変化調整後のZBIでは、介護者の負担増が38%減少した。・HRQoLの検査項目およびディメンションについても、レカネマブのベネフィットが示唆された。 著者らは「レカネマブは、これまで報告されている認知、機能、疾患進行、バイオマーカーに関連する尺度に対するベネフィットと合わせて、治療患者、その介護者および社会に対して、さらなるベネフィットをもたらす可能性がある」としている。

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赤ワインやコーヒーがコロナ重症化リスクを増大

 いくつかの食習慣と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染感受性や入院・重症化リスクとの間には因果関係があり、とくに赤ワイン摂取は入院と重症化のいずれのリスクも有意に増大させることが、中国・Yantai Yuhuangding HospitalのXiaoping Li氏らのメンデルランダム化研究により明らかになった。British Journal of Nutrition誌オンライン版2023年11月6日号掲載の報告。 食習慣とCOVID-19リスクとの関連は数多くの観察研究によって報告されている。しかし、交絡変数や研究の限界のためその関連はまだ不明確であり、より厳密なデザインの研究が求められていた。そこで研究グループはメンデルランダム化研究を実施し、食習慣とCOVID-19の感受性、入院・重症度の関連を推定した。解析は逆分散加重法を主要な方法として用い、オッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を算出した。コロナ重症化リスクが赤ワインとコーヒー摂取で増大 肉や魚、穀物、野菜、乳製品、アルコール、嗜好品などの26種類の食習慣に関するゲノムワイド関連研究(GWAS)のデータは英国バイオバンクより抽出し(約50万例)、COVID-19の感受性、入院・重症度に関するデータはCOVID-19 Host Genetics Initiative(Round7)より抽出した(約260万例)。 食習慣と新型コロナの感染感受性や入院・重症化リスクとの関連を推定した主な結果は以下のとおり。・新型コロナの感受性の低下と関連していたのは、無塩ピーナッツ(OR:0.53、95%CI:0.35~0.82、p=0.004)、牛肉(OR:0.59、95%CI:0.41~0.84、p=0.004)、豚肉(OR:0.63、95%CI:0.42~0.93、p=0.022)、加工肉(OR:0.76、95%CI:0.63~0.92、p=0.005)、牛乳(OR:0.82、95%CI:0.68~0.98、p=0.032)の摂取であった。一方で、コーヒー(OR:1.23、95%CI:1.04~1.45、p=0.017)、紅茶(OR:1.17、95%CI:1.05~1.31、p=0.006)の摂取で感受性が増加していた。・新型コロナによる入院は、牛肉(OR:0.51、95%CI:0.26~0.98、p=0.042)の摂取でリスクが低減したが、赤ワイン(OR:2.35、95%CI:1.29~4.27、p=0.005)、ドライフルーツ(OR:2.08、95%CI:1.37~3.15、p=0.001)、紅茶(OR:1.54、95%CI:1.16~2.04、p=0.003)の摂取でリスクが増大した。・新型コロナの重症化リスクを有意に低減した食習慣はなかったが、赤ワイン(OR:2.84、95%CI:1.21~6.68、p=0.017)、コーヒー(OR:2.16、95%CI:1.25~3.76、p=0.006)、ドライフルーツ(OR:1.98、95%CI:1.16~3.37、p=0.012)摂取でリスクの増大が示された。・感度分析においても、同様の結果が得られた。

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EGFR陽性NSCLC、オシメルチニブ+化学療法で脳転移巣の病勢進行リスクを42%低下(FLAURA2)/AZ

 アストラゼネカは2023年11月1日付のプレスリリースにて、第III相FLAURA2試験の探索的解析において、オシメルチニブ(商品名:タグリッソ)と化学療法の併用療法はオシメルチニブ単剤療法と比較して、ベースライン時に脳転移を有していたEGFR遺伝子変異陽性の転移のある進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者(本臨床試験に参加した患者の40%)における中枢神経系(CNS)の無増悪生存期間(PFS)を42%改善したと発表した。本結果は、10月21日にスペイン・マドリードで開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2023)で報告された。<FLAURA2試験 探索的解析>・対象:EGFR遺伝子変異陽性(ex19del/L858R)のStageIIIB~IVの未治療NSCLC患者222例・試験群(化学療法併用群):オシメルチニブ80mg/日+化学療法(ペメトレキセド500mg/m2+シスプラチン75mg/m2またはカルボプラチンAUC 5[3週ごと4サイクル])→オシメルチニブ80mg/日+ペメトレキセド500mg/m2(3週ごと)118例・対照群(オシメルチニブ単剤療法群):オシメルチニブ80mg/日 104例・評価項目:[主要評価項目]PFS[副次評価項目]全生存期間(OS)、奏効率など 主な結果は以下のとおり。・盲検下独立中央判定(BICR)の評価では、化学療法併用群は、オシメルチニブ単剤療法群と比較して、2年時点におけるCNSの病勢進行または死亡リスクが42%減少した(ハザード比[HR]:0.58、95%信頼区間[CI]:0.33~1.01)。・2年時点におけるCNSでの病勢進行または死亡が認められなかった患者の割合は、化学療法併用群では74%だったのに対し、オシメルチニブ単剤療法群では54%だった。・CNSでの完全奏効(CR)が認められた患者の割合は、化学療法併用群で59%、オシメルチニブ単剤療法群で43%だった。・化学療法併用群におけるオシメルチニブの安全性プロファイルは、おおむねコントロール可能だった。有害事象は化学療法併用群で発現率が高かったものの、既知のプロファイルと一貫していた。・オシメルチニブの投与中止に至った割合は、化学療法併用群では11%、オシメルチニブ単剤療法群では6%だった。 本試験の治験責任医師でGustave Roussy Institute of Oncologyの胸部腫瘍医David Planchard氏は、「オシメルチニブは血液脳関門を通過することができ、脳転移のない患者よりも予後不良となることが多い中枢神経系への転移を伴う肺がん患者の転帰を改善することが証明されている。FLAURA2試験では、オシメルチニブに化学療法を併用することで、中枢神経系への転移を伴う患者の半数以上でCRおよび脳内の腫瘍消失が認められた」と述べた。 また、AstraZeneca(英国)のオンコロジー研究開発エグゼクティブバイスプレジデントであるSusan Galbraith氏は、「今回の結果から、ベースライン時に脳転移を有していた患者にFLAURA2レジメンを用いたところ意義のある結果が認められ、脳にがんが転移した患者に希望をもたらした」とコメントした。

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乳がん放射線療法の有効性、1980年代以前vs.以降/Lancet

 放射線治療は1980年代以降、よりターゲットを絞れるようになり、安全性と有効性が改善されている。英国・オックスフォード大学のCarolyn Taylor氏らEarly Breast Cancer Trialists' Collaborative Group(EBCTCG)は、1980年代以前と以後に行われた乳がん患者に対する局所リンパ節放射線療法の無作為化試験における有効性を評価し、1980年代以降に行われた試験では、乳がんの死亡率および全死因死亡率が有意に低下していたが、1980年代以前の試験では有意な低下はみられなかったことを示した。Lancet誌オンライン版2023年11月3日号掲載の報告。2008年末までに開始した無作為化比較試験の被験者データをメタ解析 研究グループは、早期乳がん女性患者に対する局所リンパ節放射線療法と非局所リンパ節放射線療法を比較した、2009年1月1日以前に開始したすべての無作為化比較試験からデータを収集し、被験者個別データを用いたメタ解析を行った。 試験は、MEDLINE、Embase、Cochrane Libraryおよび学術会議アブストラクトを含むデータベースを用いた、EBCTCGの定期的で体系的な検索により特定された(右側乳房がんの場合のみリンパ節放射線療法を行った試験が1件含まれた)。 各試験の治療の相違点は、具体的な局所リンパ節放射線療法(内側乳房鎖、鎖骨上窩、または腋窩まで、もしくはこれらの組み合わせ)だけだった。 主要評価項目は、あらゆる部位の再発、乳がん死、非乳がん死、全死因死亡だった。 データは試験担当医によって提供され、解析に適したフォーマットに標準化。そのデータの概要は検証担当医に戻された。log-rank解析で初回イベント発生率比(RR)と信頼区間(CI)を求めた。新しい試験では、乳がん死亡率は0.87倍、総死亡率は0.90倍に 17試験が特定され、データが入手できた16試験(被験者総数1万4,324例)を解析対象とした(被験者165例の1試験はデータが入手できず除外)。 1989~2008年に開始された、より新しい8試験(被験者総数1万2,167例)では、局所リンパ節放射線療法は再発を有意に減少した(RR:0.88、95%CI:0.81~0.95、p=0.0008)。主に遠隔再発が減少しており、局所リンパ節再発はほとんど報告されていなかった。 放射線療法は乳がん死を有意に減少し(RR:0.87、95%CI:0.80~0.94、p=0.0010)、非乳がん死への効果はみられなかった(0.97、0.84~1.11、p=0.63)が、結果として全死因死亡を有意に減少した(0.90、0.84~0.96、p=0.0022)。 試算例では、15年乳がん死の推定絶対減少率は、腋窩リンパ節転移のない女性では1.6%、同リンパ節転移1~3個では2.7%、同4個以上では4.5%だった。 一方、1961~78年に開始したより古い8試験(被験者総数2,157例)では、局所リンパ節放射線療法の乳がん死への影響はほとんどみられず(RR:1.04、95%CI:0.91~1.20、p=0.55)、非乳がん死は有意に増加していた(1.42、1.18~1.71、p=0.00023)。同リスクは主に20年後以降に現れ、全死因死亡も有意に増加していた(1.17、1.04~1.31、p=0.0067)。

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進行胸膜中皮腫、化学療法+ペムブロリズマブでOS延長/Lancet

 進行性胸膜中皮腫患者の治療において、標準治療的化学療法のプラチナ+ペメトレキセドへのペムブロリズマブの上乗せは、忍容性は良好で、全生存(OS)を有意に改善した。カナダ・Cross Cancer InstituteのQuincy Chu氏らが、カナダ、イタリア、フランスの51病院で、440例を対象に行われた第III相の国際非盲検無作為化試験の結果を報告した。結果を踏まえて著者は「本レジメンは、未治療の進行性胸膜中皮腫に対する新たな治療選択肢である」と述べている。Lancet誌オンライン版2023年11月3日号掲載の報告。未治療患者を無作為化、主要評価項目はOS 研究グループは、カナダ、イタリア、フランスの51病院で、未治療の進行性胸膜中皮腫で、ECOG-PSスコアが0~1の18歳以上の患者を登録し、化学療法+ペムブロリズマブ治療がOSを改善するかについて検証した。 被験者は化学療法(シスプラチン[75mg/m2]またはカルボプラチン[AUC 5~6mg/mL/分]+ペメトレキセド500mg/m2、3週ごと最長6サイクル)の静脈内投与に加えて、ペムブロリズマブ静脈内投与(200mgを3週ごと、最長2年)の併用または非併用投与する群に1対1の割合で無作為化された。 主要評価項目はOSで、無作為化された全患者を対象に評価した。安全性は、試験薬を1回以上投与された患者を対象に評価した。3年OS率、化学療法単独群17%、ペムブロリズマブ併用群25% 2017年1月31日~2020年9月4日に440例が登録され、化学療法単独群(218例)または化学療法+ペムブロリズマブ群(222例)に無作為化された。被験者のうち333例(76%)が男性、347例(79%)が白人で、年齢中央値は71歳(四分位範囲[IQR]:66~75)だった。 最終解析(データベースロック2022年12月15日、追跡期間中央値16.2ヵ月[IQR:8.3~27.8])時点で、OS中央値は化学療法単独群16.1ヵ月(95%信頼区間[CI]:13.1~18.2)、化学療法+ペムブロリズマブ群17.3ヵ月(14.4~21.3)であり、ペムブロリズマブ併用群で有意に延長した(死亡に関するハザード比[HR]:0.79、95%CI:0.64~0.98、両側p=0.0324)。 3年OS率は、化学療法単独群17%(95%CI:13~24)、化学療法+ペムブロリズマブ群25%(20~33)だった。 試験治療に関連したGrade3/4の有害事象の発現は、化学療法単独群32/211例(15%)、化学療法+ペムブロリズマブ群60/222例(27%)だった。入院を要した重篤な有害事象の発現は、化学療法単独群12/211例(6%)、化学療法+ペムブロリズマブ群40/222例(18%)。1つ以上の治療薬に関連したGrade5の有害事象の発現は、化学療法単独群1例、化学療法+ペムブロリズマブ群2例だった。

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妊婦禁忌のコロナ治療薬は慎重に処方・調剤を、5団体が合同声明文を発表

 妊婦にとって禁忌とされる新型コロナウイルス感染症の治療薬が処方・調剤され、その後に患者が妊娠していることが判明した事例が多数報告されていることから、11月14日付で、日本感染症学会、日本化学療法学会、日本産科婦人科学会、日本医師会、日本薬剤師会の5団体は、診療に携わる医療関係者および治療を受ける女性患者のそれぞれに向けて合同声明文を発表した。 現在承認されている経口コロナ治療薬は、モルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)、エンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)、ニルマトレビル・リトナビル(商品名:パキロビッドパック)である。そのうち、モルヌピラビルとエンシトレルビルは、動物実験で催奇形性や胚・胎児致死などが認められているため、妊婦または妊娠している可能性のある女性への投与が禁忌となっている。 合同声明文によると、医師の問診や処方前のチェックリストにてこれらのコロナ治療薬が処方に問題ないと判断され、薬局薬剤師の聞き取りでも確認したにもかかわらず、コロナ治療薬の処方・調剤後に、患者が妊娠していることが判明した事例が多数報告されている。実際に服用した患者は大変に大きな不安を抱えて妊娠と向き合うことになっているという。 声明文では、コロナ治療薬を処方する医師並びに調剤する薬剤師に対して、患者が妊娠可能年齢の女性である場合、本人への問診の結果、妊娠の可能性がないと申告されても完全には排除できるものではないということに留意することを訴えた。そのうえで、患者に丁寧な説明を行うとともに、妊婦にとって禁忌とされている薬剤を妊娠可能な世代の女性の患者に処方・調剤するかどうかについて、くれぐれも慎重に判断するよう呼びかけた。 また、この合同声明文を受けて厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策本部が同日に発表した事務連絡では、以下の周知も呼びかけている。・製造販売業者が周知している薬服用時の事前のチェックリスト及び処方された女性患者と家族向けの資材を活用すること。・資材が活用され、かつ患者から服薬の同意が得られている事例においても、処方時点では患者が妊娠の可能性に気付いておらず、服薬後に妊娠が判明する事例が複数報告されていることから、妊娠している可能性(前回月経後に性交渉を行った場合は妊娠している可能性があること等)について、入念に説明、確認を行うこと。

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ESMO2023 レポート 肺がん

レポーター紹介2023年のESMOはスペインのマドリードで開催されました。昨年・一昨年以上に参加人数が多かったようで、ポストコロナ時代の学会として大変盛況でした。さて、肺がん領域においてはPractice Changeにつながる可能性の高い重要な演題が多く発表されました。とくに、ここ2年間で劇的に進歩した肺がん周術期治療やEGFR・RETなどのdriver mutation陽性の進行例に対する新たな知見が複数報告されております。今回はその中から、7つの演題を取り上げ概括したいと思います。CheckMate77T試験切除可能なIIA~IIIB(N2)期の非小細胞肺がんを対象として、術前の化学療法を標準治療として、術前のニボルマブ+化学療法および術後のニボルマブ療法の優越性を検証した無作為化比較第III相試験である。CheckMate816試験を基に現在保険承認されている術前のニボルマブ+化学療法に術後1年間のニボルマブ療法を加えた、いわゆるサンドイッチレジメンである。主要評価項目は中央判定での無イベント生存期間(EFS)で、副次評価項目は中央判定での病理学的完全奏効(pCR)、中央判定での病理学的奏効(MPR)、全生存期間(OS)、安全性プロファイルが設定されていた。患者背景として、病期やPD-L1発現などはCheckMate816試験と同様であった。主要評価項目の結果としては、CheckMate816試験やほかのサンドイッチレジメンと同様にEFSを有意に延長し(ハザード比:0.58、95%信頼区間[CI]:0.42~0.81)、副次評価項目であるpCRやMPRも化学療法と比較して有意に良好であった(pCR:25.3% vs.4.7%、MPR:35.4% vs.12.1%)。EFSのサブ解析を見ても、おおむねどの集団においてもニボルマブ併用群で良好な結果であった。また、ほかのサンドイッチレジメンと同様にpCRやMPR別でのEFSの解析も行われ、こちらも今までと同様にpCRやMPRの有無でEFSに大きな差が認められた。安全性のデータも報告されたが、目新しい有害事象(AE)の報告はなく、過去の周術期ICIのレジメンと同様であった。本レジメンも将来的に保険承認されると予想されるが、ほかのペムブロリズマブやデュルバルマブなどのサンドイッチレジメンとの差別化が図れるようなデータは今回の報告からは見られなかった。ALINA試験本年のASCOで、EGFR遺伝子変異陽性肺がん完全切除例に対するオシメルチニブによる術後補助療法が、プラセボと比較してOSを有意に延長したことが大きな話題となったが、ESMOではALK遺伝子転座陽性非小細胞肺がんに対するアレクチニブの術後補助療法の有効性が報告された。UICC-7版でのIB~IIIA期のALK陽性非小細胞肺がんが対象で、標準治療であるプラチナ併用化学療法による補助療法に対するアレクチニブを2年間内服する術後補助療法の有効性を検証する無作為化比較第III 相試験である。主要評価項目は無病生存期間(DFS)で、副次評価項目はCNSのDFS、OS、安全性であった。主要評価項目はII~IIIA期で評価された後、ITT集団を対象として階層的に評価されるデザインであった。257例が登録されており、アジア人が約半数でIIIA期が約半数登録された試験であった。主要評価項目であるII~IIIA期DFSは、標準治療と比較してアレクチニブ群のハザード比は0.24(95% CI:0.13~0.45)であり、ITT集団を対象とした解析でもハザード比は0.24(95% CI:0.13~0.43)と、ともに主要評価項目を達成した。サブ解析でもほぼすべての集団でアレクチニブ群のDFSが良好であった。副次評価項目の1つであるCNSのDFSも、アレクチニブ群は標準治療と比較してハザード比は0.22(95%CI:0.08~0.58)と良好であった。再発後の治療はアレクチニブ群の約半数、標準治療群では約75%でALK-TKIが投与されており、今回の発表のデータカットオフ時点ではOSのイベントはわずか6例しか認められなかった。安全性は、Grade3以上は30%で治療関連の死亡は認められなかった。主なAEは、CPK上昇(約40%)、便秘(約40%)、AST上昇・ALT上昇(約40%前後)と、過去のALEX試験やJ-ALEX試験と同様のプロファイルであった。今回、DFSの良好な結果が報告されたが、オシメルチニブと同様にOSの延長にも寄与するかが今後期待される。ただ、ALK陽性肺がんの予後を考えると、数年後まで結果は出てこない可能性が高い。今回の結果からは、今後バイオマーカーの結果によって周術期治療戦略も進行期と同様に細分化されると考えられる。MARIPOSA試験EGFR遺伝子変異陽性の進行・再発非小細胞肺がんに対する1次治療として確立しているオシメルチニブを標準治療とした、無作為化比較第III相試験である。試験治療群はEGFRとMETの二重特異性抗体であるamivantamabと第3世代EGFR-TKIであるlazertinibの2剤併用療法もしくはlazertinib単剤の3群の比較試験で、主要評価項目はamivantamab・lazertinib併用療法のオシメルチニブに対する中央判定によるPFSであった。 1,074例が登録され、amivantamab・lazertinib併用療法、オシメルチニブ療法、lazertinib療法に、それぞれ2:2:1に割り付けられた。EGFR変異の種別はExon19欠失が60%でL858R点変異が40%、約40%が脳転移を有していた。主要評価項目のPFSはamivantamab・lazertinib併用群で中央値23.7ヵ月、オシメルチニブ群で中央値16.6ヵ月、ハザード比0.70(95%CI:0.58~0.85)と、amivantamab・lazertinib併用群のオシメルチニブに対するPFS延長効果が証明され、主要評価項目を達成した。サブ解析では、おおむねどの集団においてもamivantamab・lazertinib併用群で良好な結果であったが、65歳以上の集団ではハザード比1.06であった。奏効率(ORR)は併用群およびオシメルチニブ群ともに約85%で、OSは今回の中間解析時点では2年時点で5%約の差(75% vs.69%)で併用群が良好であった。有効性について有望な結果が得られたamivantamab・lazertinib併用群であったが、AEが強く発現する点に注意する必要がある。Grade3以上のAEは75%で、皮膚障害・粘膜障害についてもGrade3以上がamivantamab・lazertinib併用群で強く発現していた。さらに特筆すべきは静脈血栓症(VTE)で、オシメルチニブ群の9%と比較して併用群では37%と高く、発症時期は中央値で84日と比較的早期に発症することが特徴である。現在実施されているamivantamab・lazertinib併用の治験では、治療開始後4ヵ月間は予防的抗凝固療法が推奨されているとのことであった。今回、オシメルチニブに対するPFS延長を示したamivantamab・lazertinib併用療法であるが、AEが強く発現する点から、個人的には今後オシメルチニブに完全に置き換わるよりは、使い分けが重要となってくると予想する。MARIPOSA-2試験先述したMARIPOSA試験と同じセッションで発表された本試験は、オシメルチニブに対して病勢増悪を来したEGFR遺伝子変異陽性例を対象として、カルボプラチン+ペメトレキセドによる化学療法を標準治療として、amivantamab+lazertinib+化学療法の4剤併用療法もしくはamivantamab+化学療法の3剤併用療法の3群に割り付ける無作為化比較第III相試験で、657例が登録された。主要評価項目は中央判定による4剤併用療法と化学療法を比較するPFSと、3剤併用療法と化学療法を比較したPFSである。登録前のオシメルチニブは、70%が1次治療、30%が2次治療で投与されていた。主要評価項目のPFSの結果は、4剤併用療法群の中央値が8.3ヵ月、3剤併用療法群の中央値が6.3ヵ月、化学療法群の中央値が4.2ヵ月で、それぞれハザード比が0.44(95%CI:0.35~0.56)、0.48(95%CI:0.36~0.64)と、4剤併用療法、3剤併用療法ともに化学療法に対する有意なPFS延長効果を証明した。サブ解析においても、すべての集団でPFSは良好な結果であった。ORRは両群63%程度(化学療法は36%)で頭蓋内のPFSも両群とも良好であった(4剤併用:12.8ヵ月、3剤併用:12.5ヵ月、化学療法:8.3ヵ月)。AEは先述したMARIPOSA試験同様に注意すべき点である。とくにlazertinibを加えた4剤併用療法では、Grade3以上のAEは92%、治療関連死亡は5%に認めた。3剤併用療法はGrade3以上のAEが72%であった。なかでも好中球減少や血小板減少などの血球減少は多く見られ、吐き気や倦怠感、食欲不振といった自覚症状として出てくるAEも4剤併用療法や3剤併用療法で多く認められた。血球減少が多く見られたことから、4剤併用療法のレジメンが見直され、lazertinibはカルボプラチン終了後に開始となるレジメンにmodifyされた。この修正後のレジメンの有効性・安全性データは今後評価予定となっている。今回、オシメルチニブ後の治療として有望な結果が得られたが、効果と安全性のバランスを考えると3剤併用療法がより使いやすい印象はある。先述したMARIPOSA試験と併せて、EGFR遺伝子変異陽性の最適な治療シークエンスが今後検討されることであろう。LIBRETTO-431試験本試験は肺腺がんの1~2%に認められるRET融合遺伝子陽性の非扁平上皮非小細胞肺がんを対象として、RET阻害薬であるセルペルカチニブを試験治療として、カルボプラチン+ペメトレキセド(+ペムブロリズマブ:investigator choice)療法を標準治療とした無作為化比較第III相試験である。標準治療群に割り付けられても病勢増悪後にセルペルカチニブにクロスオーバーが可能な試験である。主要評価項目は中央判定によるPFSであった。PFSはITT集団とITT-pembrolizumab(ITT-P)集団という2つの対象で評価された。261例が2:1に割り付けられた。約20%に脳転移を認め、40%強がPD-L1発現を認めた。主要評価項目であるPFSはITT-P集団でハザード比0.465(95%CI:0.309~0.699)、ITT集団で0.482(95%CI:0.331~0.700)と、規定された2つの集団でセルペルカチニブのPFSの有意な延長効果が証明された。サブ解析ではPD-L1陰性例よりも陽性例で良好な結果であった。セルペルカチニブのORRは83.7%(標準治療群:65.1%)、頭蓋内のORRも82.4%(標準治療群:58.3%)と、ともに良好な結果であった。CNS転移の累積発生率で見ても、12ヵ月時点で標準治療群が約20%であるのに対して、セルペルカチニブ群は5.5%とCNS転移をしっかりと抑えていることが示された。AEについては、セルペルカチニブの承認の元になった第I/II相試験であるLIBRETTO-001試験と同様のプロファイルであった。Grade3以上のAEは約70%に認められ、頻度の高いAEはAST上昇(Grade3以上13%)、ALT上昇(Grade3以上22%)、高血圧(Grade3以20%)、下痢(Grade3以上:1%)であった。約80%の症例でセルペルカチニブの用量変更が必要であったことも特筆すべきことである。今回の第III試験の報告で、RET融合遺伝子陽性例の1次治療としてセルペルカチニブは確立したものとなったと考える。本試験の結果は発表と同時にNew England Journal of Medicine誌にpublishされたことも報告された。TROPION-Lung01試験既治療の進行・再発非小細胞肺がんを対象として、ドセタキセル療法を標準治療としたdatopotamab deruxtecan(Dato-DXd)の優越性を検証する無作為化比較第III相試験である。Dato-DXdはTROP2を標的とした抗体薬物複合体である。EGFRやALKなどのdriver mutationを有する症例について、標的治療およびプラチナ併用化学療法(+ICI)の治療を終えた症例であれば組み込むことは可能であった。主要評価項目は中央判定によるPFSとOSであった。604例が1:1に割り付けられ、非扁平上皮がんが約80%、EGFR遺伝子変異陽性例は約15%登録されていた。主要評価項目のPFSはDato-DXd群で中央値が4.4ヵ月、ドセタキセル群で中央値が3.7ヵ月、ハザード比は0.75(95%CI:0.62~0.91)とDato-DXdの有意なPFS延長効果が示された。ORRはDato-DXd群は26.4%、ドセタキセル群では12.8%と、こちらもDato-DXd群で良好であった。PFSのサブ解析で特筆すべきは組織型での差であった。非扁平上皮がんではDato-DXd群のハザード比が0.63であったのに対して、扁平上皮がんでは1.38と組織型でDato-DXd療法の有効性が異なることが示唆された。今回の中間解析時点でのOSはDato-DXd vs.ドセタキセルで0.90(95%CI:0.72~1.13)であり、今後のフォローアップデータが待たれるところである。治療期間の中央値はDato-DXdが4.2ヵ月、ドセタキセルは2.8ヵ月であった。Dato-DXdのAEについて、Grade3以上のAEは25%、減量を要した症例の割合は20%と、どちらもドセタキセルと比較して低い傾向にあった。頻度の多いAEは口内炎(47%)、吐き気(34%)、脱毛(32%)であった。またDato-DXdに特徴的なAEとしてドライアイや流涙などの眼関連のAEが19%に発生した。また、ILDは8%で、7例(2%)にILDによる治療関連死亡が発生したことも注意すべきAEとして取り上げたい。これらの結果から、既治療の非扁平上皮がんに対してDato-DXdが重要な治療選択肢になりうると結論付けられた。ACHILLES/TORG1834試験最後に、本邦からの重要な第III相試験の報告を紹介する。TORGを中心に全国の臨床試験グループが参加して行われたインターグループスタディであるACHILLES試験の結果が、新潟県立がんセンター新潟病院の三浦 理氏より報告された。本試験は、EGFR遺伝子変異の中でExon19欠失もしくはL858R点変異を除く、いわゆるuncommon変異を有する未治療例を対象として、標準治療をプラチナ+ペメトレキセド、試験治療をアファチニブとして、PFSを主要評価項目に設定した無作為化比較試験である。109例が登録され、標準治療群とアファチニブ群に1:2に割り付けられた。変異の種類としてはG719Xが約40%と最も多く、L861Qが約18%であった。複数のuncommon変異を同時に有するcompound変異は約30%であった。ベースの脳転移は約30%に認めた。主要評価項目のPFSはアファチニブ群の中央値が10.6ヵ月、標準治療群では5.7ヵ月で、ハザード比は0.422(95%CI:0.256~0.694)であり、アファチニブの有意なPFS延長効果が示された。ORRはアファチニブで61.4%、標準治療で47.1%とアファチニブで良好であった。安全性は過去のLUX-Lung試験と同様のプロファイルであった。uncommon変異に対する初めての第III相試験であり、OSの結果が待たれるところであるが、同対象への標準治療としてアファチニブの地位はほかのEGFR-TKIよりリードしたものと考える。終わりに今回のESMOでは、取り上げた演題以外にもMini Oralやポスター発表で非常に興味深い発表が多かったです。今回のレポートが、多くの先生の臨床にお役に立てれば幸いです。

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ESMO2023 レポート 消化器がん

レポーター紹介本年、スペインのマドリードで欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2023)が、現地時間10月20日~24日にハイブリッド開催で行われた。日本の先生からの演題も多数報告されていたが、今回は消化器がんの注目演題について、いくつか取り上げていきたい。胃がん周術期の免疫チェックポイント阻害薬#LBA74Pembrolizumab plus chemotherapy vs chemotherapy as neoadjuvant and adjuvant therapy in locally-advanced gastric and gastroesophageal junction cancer:The Phase III KEYNOTE-585 study本試験は、T3以上の深達度もしくはリンパ節転移陽性と診断を受けた胃がんもしくは食道胃接合部がんに対する周術期治療として、術前・術後に化学療法+プラセボを3コースずつ行った後にプラセボを3週ごと11コース行う標準治療群と、術前・術後に化学療法+ペムブロリズマブ併用を3コースずつ行った後にペムブロリズマブを3週ごと11コース行う試験治療群を比較するランダム化二重盲検第III相試験である。国立がん研究センター東病院の設楽 紘平先生により結果が報告された。化学療法は、カペシタビン+シスプラチンまたは5-FU+シスプラチンを用いたメインコホートとFLOT療法を用いるFLOTコホートがあり、主要評価項目は全体の病理学的完全奏効(pCR)と無イベント生存期間(EFS)、メインコホートの全生存期間(OS)、FLOTコホートの安全性であった。全体で1,254例が登録され、メインコホートのペムブロリズマブ群402例とプラセボ群402例、FLOTコホートのペムブロリズマブ群100例とプラセボ群103例が登録された。メインコホートではアジアから約50%が登録され、PD-L1のCPS1以上は約75%、MSI-Hが約10%、StageIIIが約75%およびカペシタビン+シスプラチンが約75%であった。メインコホートのpCR率は、ペムブロリズマブ群の12.9%に対しプラセボ群では2.0%と、有意にペムブロリズマブ群で良好であった(p<0.0001)。pCR率のサブグループ解析では、PD-L1のCPS1未満でペムブロリズマブ群のpCR改善率が悪い傾向があり(4.2%の上乗せ)、MSI-H群ではペムブロリズマブ群のpCR率が有意に高かった(37.1%の上乗せ)。EFS中央値はペムブロリズマブ群で44.4ヵ月、プラセボ群で25.3ヵ月であり、事前に設定された統計設定を達成できなかった(HR:0.81、p=0.0198)。OS中央値はペムブロリズマブ群で60.7ヵ月、プラセボ群で58.0ヵ月であった(HR:0.90)。メインコホート+FLOTコホートにおける解析では、EFS中央値がペムブロリズマブ群で45.8ヵ月、プラセボ群で25.7ヵ月(HR:0.81)、OS中央値はペムブロリズマブ群で60.7ヵ月、プラセボ群で58.0ヵ月であった(HR:0.93)。重篤な毒性は全体では両群に有意差はなく、Grade3~4の免疫関連有害事象とインフュージョン・リアクションはペムブロリズマブ群で多い傾向があった。#LBA73Pathological complete response (pCR) to durvalumab plus 5-fluorouracil, leucovorin, oxaliplatin and docetaxel (FLOT) in resectable gastric and gastroesophageal junction cancer (GC/GEJC): interim results of the global, phase III MATTERHORN study本試験は、StageII、IIIおよびIVAの診断を受けた胃がんもしくは食道胃接合部がんに対する周術期治療として、FLOT+プラセボ療法4コース後に手術を行い、術後FLOT+プラセボ4コース施行後プラセボを4週ごと10サイクル追加する標準治療群に対し、術前および術後のFLOT療法に対するデュルバルマブを上乗せし、終了後デュルバルマブを4週ごと行う試験治療群の優越性を検証したランダム化二重盲検第III相試験である。主要評価項目はEFS、副次評価項目は中央判定のpCR率、OSであり、今回は副次評価項目であるpCR率が報告された。日本を含む20ヵ国から948例が登録され、474例がFLOT+デュルバルマブ群に、474例がFLOT+プラセボ群に登録された。デュルバルマブ群では91%で手術が行われ、87%が切除を完遂し86%が術後化学療法を施行、プラセボ群では91%で手術が行われ、85%が切除を完遂し86%が術後化学療法を施行された。患者背景は両群で偏りがなく、胃がんが約70%で食道胃接合部がんは約30%、T1~2/T3/T4が約10%/約65%/約25%、臨床的リンパ節転移陽性が約70%、病理はdiffuse typeが約20%、PD-L1発現(腫瘍における発現)は≦1%が約90%であった。副次評価項目である中央判定pCR率はデュルバルマブ群で19%、プラセボ群で7%と12%の上乗せとなり、統計学的有意差を認めた(オッズ比[OR]:3.08、95%信頼区間[CI]:2.03~4.67、p<0.00001)。pCRとnear pCRを合わせた改善率はデュルバルマブ群で27%、プラセボ群で14%と、13%の上乗せがあり、統計学的に有意な改善を認めた(OR:2.19、95%CI:1.58~3.04、p<0.00001)。サブグループ解析では全体にデュルバルマブ群で良好であったが、PD-L1発現1%未満の群ではpCR率の差が少ない傾向にあった。手術の完遂率・R0切除率・術式・リンパ節郭清の割合は両群で差がなかった。安全性に関しては両群とも新規の有害事象(AE)は認められなかった。周術期のFLOT療法にアテゾリズマブの上乗せを検証するDANTE試験がASCO2022で、中国で行われた周術期capeOX/SOXにtoripalimabの上乗せを検証する試験がASCO2023で報告され、tumor regression grade rate(TRG rate)という病理学的効果を見る指標が改善する可能性が示唆されている。今回、2つの周術期の大規模第III相試験が報告され、術前治療における免疫チェックポイント阻害薬の併用はpCR率を改善することが報告された。しかし、KEYNOTE-585試験では、ほかの主要評価項目であるEFSは統計学的に改善せず、OSもほぼ同等であった。今まで大規模第III相試験で、免疫チェックポイント阻害薬の追加でEFSやOSを改善した報告はなく、胃がん周術期の免疫チェックポイント阻害薬が予後を改善するかはまだ明らかではない。MATTERHORN試験の今後の解析や他研究を含め、PD-L1やMSIを含む、さらなるバイオマーカー研究が待たれる。HER2陽性進行胃がん1次治療へのペムブロリズマブ#1511OPembrolizumab plus trastuzumab and chemotherapy for HER2+ metastatic gastric or gastroesophageal junction (mG/GEJ) adenocarcinoma: Survival results from the phase III, randomized, double-blind, placebo-controlled KEYNOTE-811 studyKEYNOTE-811試験はHER2陽性の切除不能進行胃がんを対象に、標準治療である化学療法+トラスツズマブに対するペムブロリズマブの上乗せを検証する、プラセボ対照ランダム化二重盲検第III相試験である。2021年9月に副次評価項目の1つである奏効率(ORR)に関する報告がNature誌に掲載され、標準治療群の51.9%に対してペムブロリズマブの併用で74.4%と、22.5%の上乗せと統計学的有意差を認めていた。今回、主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)とOSについて第3回中間解析(追跡期間中央値:38.5ヵ月)の報告がなされた。698例が、ペムブロリズマブ群350例、ブラセボ群348例に割り付けられた。第2回中間解析における全体集団においてペムブロリズマブ群はプラセボ群に対してPFS(10.0ヵ月vs.8.1ヵ月)に有意な改善を認めた(HR:0.73、p=0.0002)。PD-L1が≦1の症例においては、さらなる改善傾向を認めた(10.9ヵ月vs.7.3ヵ月、HR:0.71)。第3回中間解析の結果が示され、全体集団におけるOSは20.0ヵ月vs.16.8ヵ月(HR:0.84)であったが、統計学的なp値は示されなかった。PD-L1≦1の症例においては、PFSと同様にOSも改善傾向を認めた(20.0ヵ月vs.15.7ヵ月、HR:0.81)。まだイベントが少なく、OSは追加解析中である。ORRは73% vs.60%でありペムブロリズマブ群で13%の上乗せを認めた。今回の検討で、OSは全体集団で統計学的有意な改善を示さなかった。しかし、ORRの改善や、PFSは全体集団で有意な改善を認め、OSもPD-L1≦1症例では良好な結果が報告された。しかし、Lancet誌で論文化された結果を見ると、第2回中間解析でOSの延長は統計学的有意差を示せなかった。またディスカッションで述べられていたが、PD-L1がCPS1未満では、逆にペムブロリズマブ群でOSが不良であったことが示されている。以上よりEUではPD-L1 CPS1以上においてのみペムブロリズマブ併用が承認され、米国FDAも同様の基準に承認が変更されている。本邦ではまだ保険適用外であるが、治療効果が高いレジメンであり、承認されればHER2陽性胃がんの1次治療が大きく変化する。今後、本邦での承認の可否や承認された場合の適応条件を含め注目される。MSI-H胃がん1次治療のイピリブマブ+ニボルマブ#1513MOA Phase II study of Nivolumab plus low dose Ipilimumab as 1st line therapy in patients with advanced gastric or esophago-gastric junction MSI-H tumor:First results of the NO LIMIT study (WJOG13320G/CA209-7W7)本研究は本邦で行われた、MSI-High切除不能進行再発胃がんに対する1次治療としてのイピリムマブ+ニボルマブ(Ipi/Nivo)の有効性と安全性を探索した単群第II相試験である。主要評価項目はORR、副次評価項目は病勢コントロール率(DCR)、PFS、OS、奏効期間(DOR)、安全性であり、今回、主要評価項目であるORRの結果が愛知県がんセンター薬物療法部の室 圭先生より報告された。スクリーニング試験であるWJOG13320GPS試験が並行して行われており、2020年11月~2022年8月の期間に国内75施設から進行胃がん935例がスクリーニングされた。そのうちMSI-Highと診断された症例のうち29例が本試験に登録された。3例が完全奏効、15例が部分奏効を達成し、ORRは62.1%(95%CI:42.3~79.3)で事前の統計学的設定に達し、主要評価項目を達成した。DCRは79.3%、追跡期間中央値9.0ヵ月時点のPFS中央値は13.8ヵ月(95%CI:13.7~未達)、DORとOSは未到達、12ヵ月PFS率は73%、OS率は80%であった。Grade3のAEが11例、Grade4が1例発現したが、治療関連死は認めず、既存の研究と異なるAEは認めなかった。21例で治療が中止され、治療中止の最も多い理由はAE(13例)であった。進行胃がんの中でおよそ5%といわれるMSI-Highを対象にしており、スクリーニング研究を含め、本邦の多くの先生が協力して完遂されたことにまずは拍手を送りたい試験である。既報のCheckMate 649試験でもMSI-High群では免疫チェックポイント阻害薬の併用効果がきわめて高いことが知られており、MSI-Highは胃がん1次治療前の治療選択に重要なバイオマーカーであると考えられる。また、Ipi/Nivoは食道がんにおけるCheckMate 648試験でも長期生存につながる症例が他治療より多い可能性が示唆されており、胃がんにおいてもそのような対象があるかもしれない。もちろんIpi/Nivoは胃がんにおいて本邦では保険適用外であるが、本研究の長期フォローアップの結果やバイオマーカーの解析結果が期待される。RAS/BRAF野生型+左側原発大腸がんのm-FOLFOXIRI+セツキシマブ#555MOModified (m)-FOLFOXIRI plus cetuximab treatment and predictive clinical factors for RAS/BRAF wild-type and left-sided metastatic colorectal cancer (mCRC):The DEEPER trial (JACCRO CC-13)本試験は本邦で行われた大規模なランダム化第II相試験である。主要評価項目であるDpR(最大腫瘍縮小率)はASCO2021で有意な改善が報告されている。今回、聖マリアンナ医科大学腫瘍内科講座の砂川 優先生よりRAS/BRAF野生型かつ左側のサブグループ解析結果が報告された。RAS/BRAF野生型、左側の大腸がんにおいてDpRとPFSはいずれもm-FOLFOXIRI+セツキシマブ群においてm-FOLFOXIRI+ベバシズマブ群より良好であった(DpR中央値: 59.2% vs.47.5%、p=0.0017、PFS:14.5ヵ月vs.11.9ヵ月、HR:0.71、p=0.032)。またPFSにおけるサブグループ解析では男性、R0/1切除ができなかった症例、および肝限局以外の症例においてセツキシマブ群で良好な傾向があった。とくに肝限局転移例ではPFSは両群で有意差を認めなかった(14.5ヵ月vs.15.5ヵ月、HR:0.86、p=0.62)ものの、それ以外ではセツキシマブ群でPFSの改善を認めた(15.1ヵ月vs.11.4ヵ月、HR:0.63、p=0.015)。今回のサブグループ解析は、本邦の実臨床における実際と合致した対象で、期待できる効果が示された。深い奏効が期待できるため、個人的には詳細なゲノム検査が困難な、若いRAS/BRAF野生型大腸がん症例に期待したい治療である。次回のガイドラインの記載が注目される。KRAS G12C変異大腸がんへのソトラシブ+パニツムマブ#LBA10 Sotorasib plus panitumumab versus standard-of-care for chemorefractory KRAS G12C-mutated metastatic colorectal cancer (mCRC):CodeBreak 300 phase III study肺がんなどを中心に、新たに注目されているバイオマーカーであるKRAS G12Cに対する治療開発が進んでいる。大腸がんでは約3%の症例でKRAS G12C変異を認めるといわれており、ソトラシブ+パニツムマブは先行する第I相試験でORRが30%と期待できる結果を示していた。今回、1レジメン以上の治療を受けたKRAS G12C変異陽性切除不能進行再発大腸がんに対して、ソトラシブ+パニツムマブと標準治療(トリフルリジン・チピラシルもしくはレゴラフェニブ)を比較する第III相試験の結果が報告された。主要評価項目はPFS、主な副次評価項目はORRとOSで、160例がソトラシブ960mg/日+パニツムマブ(53例)と、ソトラシブ240mg/日+パニツムマブ(53例)、そして標準治療(54例)に1対1対1で割り付けられた。約90%が2レジメン以上、オキサリプラチン、フッ化ピリミジン、イリノテカン、血管新生阻害薬による治療を受けていた。主要評価項目であるPFSはソトラシブ960mg群、ソトラシブ240mg群、標準治療群でそれぞれ5.6ヵ月(HR:0.49、p=0.006)vs.3.9ヵ月(HR:0.58、p=0.03)vs.2.2ヵ月であり、ソトラシブ群で有意に改善を認めた。ORRはそれぞれ26% vs.6% vs.0%であり、ベースラインよりも腫瘍が縮小した症例の割合は81% vs.57% vs.20%であった。OSはイベント発生数がまだ約40%と未達で、8.1ヵ月vs.7.7ヵ月vs.7.8ヵ月であった。主なGrade3以上の毒性はソトラシブ群でざ瘡様皮疹(960mg群11% vs.240mg群4%)、皮疹(6% vs.2%)、下痢(4% vs.6%)、低マグネシウム血症(6% vs.8%)であり、標準治療群では好中球減少(24%)、貧血(6%)、嘔気(2%)であった。研究者らは、KRAS G12C変異を有する大腸がんに対してソトラシブ960mg/日+パニツムマブが新しい標準治療になる可能性があると結論付け、本結果はNEJM誌にも掲載された。PFSやORRは期待できる結果を示しているが、肺がんではソトラシブ単剤で28.1~37.1%のORRが報告されており、大腸がんではパニツムマブ併用ながら、やや劣る奏効である。またOSはそれほど差がなく、標準治療群でソトラシブをクロスオーバーして使用しているのかなど、後治療の影響があるのかも含めた長期フォローの結果が待たれる。いずれにせよ、希少な対象の薬剤であり、本邦でも早期にKRAS G12C変異陽性大腸がん患者に届けられるようになることが期待される。転移膵がん1次療法、ゲムシタビン+nab-パクリタキセル#1616ONab-paclitaxel plus gemcitabine versus modified FOLFIRINOX or S-IROX in metastatic or recurrent pancreatic cancer (JCOG1611, GENERATE):A multicentred, randomized, open-label, three-arm, phase II/III trial切除不能進行膵がんにおける1次化学療法の標準治療は(modified)FOLFIRINOX療法とゲムシタビン+nab-パクリタキセル(GnP)療法であるが、直接比較した大規模第III相試験はいまだなかった。今回、本邦でmFOLFIRINOX療法とGnP療法およびS-IROX療法(S-1、イリノテカン、オキサリプラチン)を比較する第II/III相試験であるGENERATE試験(JCOG1611)が行われ、国立がん研究センター中央病院の大場 彬博先生より結果が報告された。主要評価項目はOS、副次評価項目はPFS、ORRおよび安全性であった。PS0~1の症例を対象に、2019年4月~2023年3月に国内45施設から527例が登録され、GnP群(176例)、mFOLFIRINOX群(175例)、S-IROX群(176例)に1対1対1で割り付けられた。主要評価項目のOSはGnP群17.1ヵ月、mFOLFIRINOX群14.0ヵ月(HR:1.31、95%CI:0.97~1.77)、S-IROX群13.6ヵ月(HR:1.35、95%CI:1.00~1.82)であった。中間解析にて最終解析における優越性達成予測確率はmFOLFIRINOX群0.73%、S-IROX群0.48%とGnP群を上回る可能性がほとんどないため、本試験は中止となった。PFSはGnP群6.7ヵ月、mFOLFIRINOX群5.8ヵ月(HR:1.15、95%CI:0.91~1.45)、S-IROX群6.7ヵ月(HR:1.07、95%CI:0.84~1.35)、ORRはGnP群35.4%、mFOLFIRINOX群32.4%、S-IROX群42.4%であった。Grade3以上のAEで多かったものは好中球減少症で、GnP群60%、mFOLFIRINOX群52%、S-IROX群39%で認められた。食欲不振(5% vs.23% vs.28%)、下痢(1% vs.9% vs.23%)は、GnP群よりもmFOLFIRINOX群、S-IROX群で多く認められた。本研究は膵がんの実臨床に対する非常に重要な試験であり、今回の結果を鑑みると本邦における切除不能膵がんに対する1次治療の標準治療はGnP療法であると考えられる。本邦の現状では1次治療でGnP療法を行い、2次治療でナノリポソーマルイリノテカン+5-FU+レボホリナートを行うことが推奨されているが、2023年のASCOでナノリポソームイリノテカンを使ったNALIRIFOX療法のGnP療法に対する優越性が報告されている。本邦ではNALIRIFOX療法は保険適用外であるが、今後本邦での承認を含めた状況が注目される。

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第187回 診療報酬改定シリーズ本格化(前編)「コロナで儲かったから診療報酬本体はマイナス改定」と財務省、「剰余金を取り崩せという姿勢は理不尽、医療提供体制の弱体化を招く」と日医・松本会長

次期診療報酬改定巡り財務省が強烈な先制パンチこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は、今年最後のテント山行ということで、山梨・埼玉・長野県境にピークがある甲武信岳(百名山です)に、山仲間と重い荷物を背負って行ってきました。山梨県側の西沢渓谷から入り、甲武信小屋前でテント泊。翌日、甲武信岳を登頂後、三宝山、十文字峠を経て長野県側の毛木平に抜けるルートです。前の週とは打って変わって日本上空に強い寒気が入り込み、小屋前のテントサイト(標高2,360メートル)の気温は氷点下、朝はあまりの寒さに日が昇る前に目が覚めてしまいました。年齢や体力を考えると、冬山並みの装備が必要な秋のテント山行からはそろそろ引退したほうがいいかもれません…。さて、野球シーズンも終わり、来年の診療報酬、介護報酬の同時改定に向けての議論、“診療報酬改定シリーズ”が本格化してきました。今回は、財務省対日本医師会という恒例のマッチアップからスタートした、診療報酬改定を巡る動きについて書いてみたいと思います。「診療所は多額の利益剰余金が存在、取り崩して賃上げに充てるべき」と財務省財務省の財政制度等審議会・財政制度分科会は2023年11月1日、社会保障予算について議論しました。財務省は、2020~2022年度における診療所の経常利益率が急増しているとの調査結果を公表。多額の利益剰余金が存在していることを踏まえ、剰余金を取り崩して賃上げに充てるべきだと指摘、診療所の初・再診料を中心に報酬単価を引き下げることなどにより、診療報酬本体をマイナス改定とすることが適当だ、と主張しました。日本医師会などの医療関係者の団体は、物価高や賃上げなどを理由に診療報酬の大幅な引き上げを求めていますが、議論の初っ端から財務省が強烈な先制パンチを放った形となりました。「1,900万円の剰余金で、3%の賃上げに伴う人件費増を14年間賄える」財務省がこの日公表したのは、20〜22年度の全国38都道府県の約2万2,000の医療法人の経営状況について、財務局が調査した結果です。それによれば、病床を持たず診療所のみを運営する1万8,207の医療法人の経常利益率平均は20年度3.0%、21年度7.4%、22年度8.8%と改善が目立っていました。一方、中小企業の経常利益率は22年度では全産業3.4%、サービス産業3.1%で、医療法人の利益率はこの水準より高い結果となりました。企業の内部留保にあたる利益剰余金の平均は20年度の1億500万円から1億2,400万円へ増えました。20~22年度の増額幅は1,900万円で、18%の伸びです。さらに、財務省は現場従事者の賃金を3%上げるには年140万円が必要と試算、2年間で増えた1,900万円の剰余金を使えば3%の賃上げに伴う人件費増を14年間にわたって賄える、としました。以上を踏まえ、財務省は「2024年度改定においては、診療所の極めて良好な経営状況等を踏まえ、診療所の報酬単価を引き下げること等により、現場従事者の処遇改善等の課題に対応しつつ診療報酬本体をマイナス改定とすることが適当」と提言しています。また、病院については、看護職員の賃上げにつなげる「看護職員処遇改善評価料」の成果の検証や、7対1といった看護師配置に過度に依存した診療報酬体系から、患者の重症度や救急受け入れ、手術といった実績を反映した体系に転換していくべき、としました。「診療報酬の大幅なアップなしでは賃上げは成し遂げられない」と日医会長当然、日本医師会はこうした財務省の考えにすぐさま反対を表明しました。11月2日、日本医師会の松本 吉郎会長は記者会見で、財務省の診療所の利益剰余金が積み上がっているとの指摘に対し、「この3年間はコロナ禍の変動が顕著であり、特に、コロナ特例による上振れ分が含まれている。そもそもコロナ禍で一番落ち込みが厳しかった2020年をベースに比較すること自体がミスリードであり、儲かっているという印象を与える恣意的なものである」と反論しました。そして、利益剰余金は大規模修繕等に充てるほか、法人が解散する際、最終的には国庫等に帰属するなど、医師、役員に帰属するものではないと説明、「『医療機関の賃上げは公定価格の中では対応しない』『利益剰余金を取り崩して実施しろ』という姿勢はあまりにも理不尽であり、地方の医療提供体制の弱体化を招くことを財務省はしっかりと認識すべきだ」と語りました。以上を踏まえ、松本会長は、「秋の新たな経済対策の中で、入院中の食事療養等の補助金や光熱費等の物価高騰に対する継続支援を要請しているが、あくまでも当面の対応であり、今後は報酬改定で対応すべきである。診療報酬の大幅なアップなしでは賃上げは成し遂げられない」と主張しました。診療報酬本体プラスマイナスゼロ近辺で決着か?今年の診療報酬改定は、例年と比べても勘案すべき要素が多過ぎて、なかなか先が見通せません。物価高、国からの賃上げ要請、来年から始まる医師の働き方改革などに加え、コロナ対応で必要以上に潤った医療機関の中にポストコロナになって経営が失速しているところが少なくない点も見逃せません。そんな状況下、「診療所は儲かっている。過去の利益の蓄積を元手に職員の賃上げも可能。診療報酬本体を上げる必要はない」という財務省の強烈な先制パンチが、どこまで改定率に響くのか、気になるところです。診療報酬の改定率や、実際の個々の診療報酬の中身についての議論はこれから本格化しますが、物価高、賃上げを考慮して表向きは少々プラス、肝心の本体はプラスマイナスゼロ近辺、というのが現実的な落とし所になりそうです。ちなみに日経ヘルスケア11月号の特集記事「徹底予測!2024年度診療報酬改定・介護報酬改定はこうなる」も、財務省の「巨額のコロナ補助金で積み上がった資産状況を含め、医療機関・介護施設の財務状況を見ながら、引き上げの必要性を慎重に議論すべき」という財務省の考えを紹介しつつ、「2021年以降は薬価改定が毎年実施されているため、次回の薬価改定の引き下げは小幅になると見込まれる。これらの背景から、物価や賃金高騰に対応しつつも、診療報酬本体の改定率はプラスマイナスゼロ近くでのせめぎ合いになりそうだ」と予想しています。例年使っていた「薬価を大幅に下げて財源を捻出する手法」が今回はフルに使えない点もマイナス要素です。もっとも、日医会長として初の改定に臨む松本会長と、その松本会長を会長選で推した横倉 正義・元日医会長(麻生 太郎副総裁と昵懇と言われています)、初当選以来医師会の応援を受け続けてきた武見 敬三・厚生労働大臣がどういった動きをするかで、数字は微妙に変わりそうですが……。地域別の診療報酬の導入の検討についても言及ところで、11月1日の財務省の財政制度等審議会・財政制度分科会の資料には、もう1点、気になる内容が盛り込まれていました。かねてから主張してきた地域別の診療報酬の導入の検討についても言及しているのです。次期改定に関する資料の中に、再度するりと潜り込ませるあたり、財務省の地域別診療報酬導入への強いこだわりが感じられます。(この稿続く)

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胃がん/食道胃接合部がん、デュルバルマブ上乗せでpCR改善(MATTERHORN)/AZ

 アストラゼネカは2023年11月1日付のプレスリリースにて、切除可能な局所進行(StageII、III、IVA)胃がん/食道胃接合部がん患者を対象とした、術前補助化学療法への抗PD-L1抗体デュルバルマブ(商品名:イミフィンジ)上乗せを検証したMATTERHORN試験の中間解析結果において、病理学的完全奏効(pCR)の改善が示されたと発表した。本結果は、10月20日にスペイン・マドリードで開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2023)で報告された。・対象:切除可能なStageII~IVAの胃がん/食道胃接合部がん・試験群: デュルバルマブ1,500mg+化学療法(FLOT:フルオロウラシル、ロイコボリン、オキサリプラチン、ドセタキセル)、4週ごと2サイクル→手術→デュルバルマブ1,500mg、4週ごと最大12サイクル(FLOTによる化学療法2サイクルを含む)・対照群: 化学療法(FLOT)+プラセボ、4週ごと2サイクル→手術→プラセボ、4週ごと最大12サイクル(FLOTによる化学療法2サイクルを含む)・評価項目:[主要評価項目]無イベント生存期間(EFS)[副次評価項目]全生存期間(OS)など 主な結果は以下のとおり。・米国、カナダ、欧州、南米、アジアの20ヵ国、176施設において、948例の患者が無作為にデュルバルマブ併用療法群と化学療法群に割り付けられた。・盲検下独立中央判定(BICR)の評価では、化学療法群のpCRが7%だったのに対し、デュルバルマブ併用療法群のpCRは19%だった(pCRの差12%、オッズ比[OR]:3.08、p<0.00001)。完全奏効または、ほぼ完全奏効(near pCR)(modified Ryan基準による、切除時にがん細胞が単一またはまれにしか認められない場合)は、デュルバルマブ併用療法群で27%、化学療法群で14%だった。・本試験におけるデュルバルマブの忍容性は全般的に良好であり、化学療法にデュルバルマブを追加した場合の安全性および忍容性は、既知のプロファイルと一貫していた。・Grade3以上の有害事象は両群でほぼ同じであり、化学療法群での発現割合が68%、デュルバルマブ併用療法群の発現割合は69%だった。・本試験は、主要評価項目であるEFSおよび重要な副次評価項目のOSを評価するため、二重盲検下で継続する。 本試験の治験責任医師で米国・スローン・ケタリング記念がんセンターのYelena Janjigian氏は、「切除可能な胃がん/食道胃接合部がん患者は、手術を行った場合も多くが再発する。今回のMATTERHORN試験の中間解析結果で示されたpCRは、FLOT療法にデュルバルマブを追加することが、周術期に必要とされている新たな治療法となりうるという希望につながる」とコメントした。 AstraZeneca(英国)のオンコロジー研究開発エグゼクティブバイスプレジデントであるSusan Galbraith氏は、「MATTERHORN試験の結果は、胃がん/食道胃接合部がん患者に対する早期治療としての免疫治療薬と化学療法の併用療法の可能性を裏付けるもの」と述べている。

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小児・青年のうつ病に有用な運動介入とは~メタ解析

 中国・浙江師範大学のJiayu Li氏らは、小児および青年の抑うつ症状に対するさまざまな運動介入効果について評価を行った。その結果、運動介入は、小児および青年の抑うつ症状を有意に改善することが明らかとなった。とくに、有酸素運動が効果的であり、週3回、40~50分の運動介入を12週間行うとさらに有効であることが示唆された。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2023年10月11日号の報告。 2023年5月までに公表されたランダム化比較試験(RCT)を4つのデータベースで検索した。バイアスリスクの評価には、Cochrane collaboration toolを用いた。ペアワイズメタ解析、ネットワークメタ解析には、Stata 16.0ソフトウェアを用いた。 主な結果は以下のとおり。・RCT35件、5,393例を分析に含めた。・抑うつ症状に対し最も有意な効果が認められた運動介入は、有酸素運動(66.2%)であり、次いで集団トレーニング(62.5%)、レジスタンスエクササイズ(59.0%)、有酸素運動とレジスタンスエクササイズの併用(57.9%)であった。・15歳未満では、抑うつ症状の有意な改善が認められた(標準化平均差[SMD]:-0.41、95%信頼区間[CI]:-0.63~-0.19、p<0.01)。・健康者(SMD:-0.25、95%CI:-0.41~-0.08、p<0.01)、肥満者(SMD:-0.15、95%CI:-0.31~-0.00、p<0.01)、うつ病患者(SMD:-0.75、95%CI:-1.32~-0.19、p<0.01)のいずれにおいても、抑うつ症状の有意な改善が認められた。・30分の運動介入において有意な効果が認められ(SMD:-0.14、95%CI:-0.81~-0.01、p<0.01)、40~50分の運動介入が最も効果的であった(SMD:-0.17、95%CI:-0.33~-0.02、p<0.01)。・運動介入の頻度は、週3回で有意な効果が認められた(SMD:-0.42、95%CI:-0.66~-0.18、p<0.01)。

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コーヒーの砂糖とミルク、肥満に関連するのは?

 コーヒー摂取と体重増減、疾患リスクとの関連を調査した研究は多いが、新たにカフェイン摂取量に加え、砂糖・ミルクの添加が体重増減と関連するかを調べた研究結果がThe American Journal of Clinical Nutrition誌オンライン版2023年10月1日号に掲載された。 研究者らは、米国の3つの大規模前向きコホートNurses' Health Study(1986~2010年)、Nurses' Health Study II(1991~2015年)、Health Professional Follow-up Study(1991~2014年)を用いた。砂糖、クリーム、非乳製品コーヒークリームの添加を考慮したうえで、コーヒー消費量、カフェイン摂取量と体重変化との関連を調べた。また、コーヒー以外の飲料や食品に砂糖を加えることと体重変化との関連、それがカフェインやコーヒー摂取量と関連しているかについても検討した。 主な結果は以下のとおり。・無糖カフェイン入りコーヒーの摂取が1日1杯増加するごとに、4年間の体重は-0.12kg(95%信頼区間[CI]:-0.18~-0.05)、無糖カフェインレスコーヒーでは-0.12kg(95%CI:-0.16~-0.08)となった。・クリームや非乳製品コーヒークリームを加える習慣は、体重変化と有意な関連はなかった。・ティースプーン1杯の砂糖を加えることは、0.09kg(95%CI:0.07~0.12)の体重増加と関連していた。・層別解析では、年齢が若いほど、またベースラインのBMIが高いほど、観察された関連性の大きさがより強くなることが示唆された。・コーヒーおよびカフェイン摂取量は、いずれもほかの飲料または食品の砂糖添加と体重変化との関係に影響しなかった。 研究者らは「無糖のカフェイン入り、カフェインレスコーヒーの摂取量の増加は、体重減少と相関していたが、砂糖を加えることで体重管理に対するコーヒーの有益性を打ち消し、さらなる体重増加を招いた」とした。

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毎年9%死亡者が増加する人獣共通感染症の行方/ギンコ・バイオワークス

 古くはスペイン風邪、近年では新型コロナウイルス感染症のように、歴史的にみると世界的に流行する人獣共通感染症の人への感染頻度が、今後も増加することが予想されている。そして、これらは現代の感染症のほとんどの原因となっている。人獣共通感染症の人への感染の歴史的傾向を明らかにすることは、将来予想される感染症の頻度や重症度に関する洞察に資するが、過去の疫学データは断片的であり分析が困難である。そこで、米国・カルフォルニア州のバイオベンチャー企業ギンコ・バイオワークス社のAmanda Meadows氏らの研究グループは、広範な疫学データベースを活用し、人獣共通感染症による動物から人に感染する重大な事象(波及事象)の特定のサブセットについて、アウトブレイクの年間発生頻度と重症度の傾向を分析した。その結果、波及事象の発生数は毎年約5%、死亡数は毎年約9%増加する可能性を報告した。BMJ Global Health誌2023年11月8日号に掲載。現状のままでは毎年約9%で人獣共通感染症の死亡者数が増加 研究では、エボラウイルス、マールブルグウイルス、SARSコロナウイルス、ニパウイルス、マチュポウイルスによる75件の波及事象を検討(SARS-CoV-2パンデミックは除外)。 主な結果は以下のとおり。・波及事象の発生数は、毎年4.98%(95%信頼区間[CI]:3.22~6.76)増加している。・死亡数は、毎年8.7%(95%CI:4.06~13.62)増加している。 この結果を踏まえ、Meadows氏らは「この増加傾向は、世界的な努力によって発生を予防し、食い止める能力を向上させることで変えることができる。その努力は、世界の健康に対する感染症の大きな、増大しつつあるリスクに対処するために必要である」と述べている。

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ネモリズマブ、結節性痒疹のそう痒・皮膚病変を改善/NEJM

 ネモリズマブ単剤療法はプラセボとの比較において、結節性痒疹のそう痒と皮膚病変を有意に改善したことが、海外第III相二重盲検無作為化比較試験「OLYMPIA 2試験」で示された。結節性痒疹は、慢性の神経免疫疾患であり、重度のそう痒を伴い疾病負荷が大きいとされる。ネモリズマブは、インターロイキン(IL)-31受容体αを標的としたモノクローナル抗体で、結節性痒疹の発症に重要な経路を阻害する。第II相試験では、IL-31を介したシグナル伝達を阻害し、そう痒と皮膚病変の改善、Th2細胞(IL-13)とTh17細胞(IL-17)を介した免疫応答を抑制することが示されていた。本結果は、米国・ジョンズ・ホプキンス大学のShawn G. Kwatra氏らによって、NEJM誌2023年10月26日号で報告された。 OLYMPIA 2試験は、9ヵ国68施設において実施され、18歳以上の中等度~重度の結節性痒疹患者が対象となった。登録は2020年9月~2021年11月に行われた。対象患者は、ネモリズマブ群(初回用量60mg、その後は30mgまたは60mg[ベースライン時の体重[90kg未満または90kg以上]に基づく]を4週ごとに16週間皮下注射)、プラセボ群へ無作為に2対1の割合で割り付けられた。 有効性の主要評価項目は、16週目のPeak Pruritus Numerical Rating Scale(PP-NRS、スコア範囲:0~10点、スコアが高いほど重度)に基づくそう痒の改善(PP-NRSスコアが4点以上低下)と、16週目のInvestigator's Global Assessment(IGA、スコア範囲:0~4点)に基づく奏効(IGAスコア0点[消失]または1点[ほとんど消失]かつベースラインから2点以上低下)であった。 主要な副次評価項目は以下の5つ。(1)4週目のPP-NRSスコアがベースラインから4点以上低下(2)4週目の週間平均PP-NRSスコアが2点未満(3)16週目の週間平均PP-NRSスコアが2点未満(4)4週目のsleep disturbance numerical rating scale(SD-NRS、スコア範囲:0~10点、スコアが高いほど重度)スコアがベースラインから4点以上低下(5)16週目のSD-NRSスコアがベースラインから4点以上低下 主な結果は以下のとおり。・合計274例が無作為化された(ネモリズマブ群183例、プラセボ群91例)。・16週目において、2つの主要評価項目に関して治療効果が示された。・16週目においてそう痒の改善を達成した患者の割合は、ネモリズマブ群56.3%、プラセボ群20.9%であり、ネモリズマブ群が有意に改善した(調整群間差:37.4パーセントポイント[95%信頼区間[CI]:26.3~48.5]、p<0.001)。・16週目においてIGAに基づく奏効を達成した患者の割合も、ネモリズマブ群37.7%、プラセボ群11.0%であり、ネモリズマブ群が有意に改善した(調整群間差:28.5パーセントポイント[95%CI:18.8~38.2]、p<0.001)。・5つの主要な副次評価項目について、いずれもネモリズマブ群が有意に改善した(いずれもp<0.001)。(1)4週目のPP-NRSスコアがベースラインから4点以上低下:41.0% vs.7.7%(2)4週目の週間平均PP-NRSスコアが2点未満:19.7% vs.2.2%(3)16週目の週間平均PP-NRSスコアが2点未満:35.0% vs.7.7%(4)4週目のSD-NRSスコアがベースラインから4点以上低下:37.2% vs.9.9%(5)16週目のSD-NRSスコアがベースラインから4点以上低下:51.9% vs.20.9%・主な有害事象(ネモリズマブ群で5%以上に発現)は、頭痛(ネモリズマブ群6.6%、プラセボ群4.4%)、アトピー性皮膚炎(それぞれ5.5%、0%)であった。

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HER2陽性転移のある乳がんの1次治療、pyrotinib併用でPFS改善/BMJ

 未治療のHER2陽性転移のある乳がんの治療において、pyrotinib(不可逆汎HERチロシンキナーゼ阻害薬)+トラスツズマブ+ドセタキセルは、プラセボ+トラスツズマブ+ドセタキセルと比較して、無増悪生存期間(PFS)を有意に改善し、毒性は管理可能であることが、中国医学科学院北京協和医学院研究所のFei Ma氏らが実施した「PHILA試験」で示された。研究の成果は、BMJ誌2023年10月31日号で報告された。中国の無作為化プラセボ対照第III相試験 PHILA試験は、中国の40施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2019年5月~2022年1月に患者のスクリーニングを行った(中国・Jiangsu Hengrui Pharmaceuticalsなどの助成を受けた)。 年齢18~75歳、HER2陽性の再発または転移のある乳がんで、全身療法を受けていない女性患者を、トラスツズマブ+ドセタキセル(21日を1サイクルとして1日目に静脈内投与)に加え、pyrotinibまたはプラセボを1日1回経口投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要評価項目は、担当医判定によるPFS(無作為化から、画像上での最初の病勢進行または全死因死亡のうち先に発生したイベントまでの期間)とした。 590例を登録し、pyrotinib群に297例(年齢中央値52歳[四分位範囲[IQR]:46~58])、プラセボ群に293例(52歳[46~57])を割り付けた。今回の中間解析のデータカットオフ日(2022年5月25日)の時点で、追跡期間中央値は15.5ヵ月だった。二重のHER2阻害の有効性を示唆 担当医判定によるPFS中央値は、プラセボ群が10.4ヵ月(95%信頼区間[CI]:9.3~12.3)であったのに対し、pyrotinib群は24.3ヵ月(19.1~33.0)と有意に延長した(ハザード比[HR]:0.41、95%CI:0.32~0.53、片側p<0.001)。 12ヵ月の時点での推定無増悪生存率は、pyrotinib群が74.3%(95%CI:68.1~79.5)、プラセボ群が44.0%(37.5~50.3)、24ヵ月時はそれぞれ50.3%(41.9~58.1)、16.6%(10.7~23.7)であった。 また、独立審査委員会判定によるPFS中央値は、プラセボ群の10.4ヵ月(95%CI:10.2~12.2)に比べ、pyrotinib群は33.0ヵ月(19.4~未到達)と有意に優れた(HR:0.35、95%CI:0.27~0.46、片側p<0.001)。 客観的奏効は、プラセボ群では207例(71%、95%CI:65~76)で得られたのに対し、pyrotinib群では246例(83%、78~87)で達成され、有意差を認めた(群間差:12.2%、95%CI:5.4~18.9、層別片側p<0.001)。完全奏効は、pyrotinib群19例(6%)、プラセボ群8例(3%)であった。 Grade3以上の治療関連有害事象は、pyrotinib群で267例(90%)、プラセボ群で224例(76%)に発現し、好中球数の減少(pyrotinib群63%、プラセボ群65%)、白血球数の減少(53%、51%)、下痢(46%、3%)の頻度が高かった。治療関連死は、pyrotinib群では発生しなかったが、プラセボ群で1例(<1%、糖尿病性高浸透圧性昏睡)に認めた。 著者は、「これらの知見は、モノクローナル抗体と低分子チロシンキナーゼ阻害薬による二重のHER2阻害が、HER2陽性転移のある乳がんの1次治療の選択肢となる可能性を支持するものである」としている。

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脂質低下療法の効果にストロングスタチン間の違いはあるのか?(解説:平山篤志氏)

 動脈硬化性疾患の2次予防にLDL-コレステロール(LCL-C)低下の重要性が明らかにされているが、ガイドラインにより、LDL-Cの管理目標値を達成するアプローチ(Treat to Target)と目標値を設定せず病態に応じたスタチンを投与するアプローチ(Fire and Forget)がある。韓国で行われたLODESTAR試験は、この2種のアプローチでOutcomeが異なるかを検討した試験で、すでに報告されたように管理目標値を達成できれば両者に優劣はなかった。本試験ではさらに、エントリーされた患者はTreat to Target群とFire and Forget群に分けられると同時に、2種のストロングスタチン、すなわちロスバスタチン群とアトルバスタチン群に割り付けられ、今回はスタチンの相違についての検討が報告された。 結果は、ロスバスタチン群でアトルバスタチン群に比し、0.1mmol(3.85mg/dL)の有意なLDL-Cの低下は認められたが、心血管イベントには両者で差がない結果であった。また、数多くの2次エンドポイントが設けられていたが、ロスバスタチン群で新規糖尿病と白内障の発症がアトルバスタチン群に比して有意に多いと報告されていた。スタチン使用と新規糖尿病の発症については2012年にFDAが警告を発して以来、投与に関しては注意が必要とされている。スタチンがグルコーストランスポーターのGULT4のダウンレギュレーションを来すことが一因とされており、これまでスタチンの強度、脂溶性・水溶性などの解析が行われてきたが、相違については結論が出されていない。今回の検討でも、全参加者の解析では新規糖尿病の発症や糖尿病治療薬の使用開始では確かにロスバスタチン群で有意に高いが、糖尿病の既往のない患者群では新規発症には有意差が示されなかった。したがって、この結果だけをもってロスバスタチンのほうが糖尿病を来すリスクが高いとはいえない。 これまでに報告されているように、スタチンによる糖尿病発症や悪化のリスクはあっても、心血管イベント抑制効果が上回ることから、スタチン使用に躊躇すべきではない。この論文のメッセージとしては、いずれのスタチンを用いても有効性と安全性には差がないというものである。論文のメッセージとしてのインパクトは大きくないが、韓国でこれほどの大規模試験が行われ結果を報告しているのに、なぜか日本ではRegistry研究は盛んだがRCT研究が少なくなっているように思われる。今後、わが国でRCTを行いやすくできる環境整備が必要なのであろう。

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