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来てもらう力 ――“受援力”の不足が命取りになることもある【実例に基づく、明日はわが身の災害医療】第5回

「支援を断ってしまった」現場のリアルとある災害発生から数日が経過し、ある中規模病院では断水と停電が続く中、自家発電で最低限の機能を維持していました。しかしスタッフは疲弊し、外来は停止、入院患者への対応も限界を迎えていました。物資の枯渇や搬送困難な重症患者の滞留など、課題は山積みでした。そんな状況下で、DMAT、日本赤十字、NGOなど複数の医療支援チームが到着し、「支援に入ります」と申し出ました。しかし現場責任者は、困惑しながら以下のように返答しました。「申し訳ありません。今は受け入れ調整の余裕がなく、対応できません…」支援が不要だったのではなく、支援チームを“受け止める”仕組みが整っていなかったため、自己紹介や物資配置、指揮命令系統の確認など受け入れ調整作業自体が大きな負担となり、断念せざるを得なかったのです。この事例は、「支援が来ても、それを受け入れる余力がなければ活用できない」という受援側の構造的課題を示しています。受援力とは何か──BCPへの組み込みと演習の重要性災害が起きたとき、医師や看護師の多くは「支援する側」としての役割を想定しがちです。しかし、この災害大国・日本では、病院勤務医も、開業医も、福祉施設の関係者も、「支援される側」になることが十分にありえます。支援チームを受け入れることは、単に「来た人に任せる」ことではありません。誰が案内し、どこに待機させ、どの業務を任せるのか。その想定ができていなければ、せっかくの支援も混乱の原因になりかねません。“受援力”とは、外部支援を的確に受け入れ、医療体制に組み込み、機能させる能力を指します。被災地ではサージキャパシティを超えた状況が常態化するため(表1, 2)、平時からBCP(事業継続計画)に「受援計画」を明確に盛り込み、定期的な訓練や教育を通じて体験的に習熟しておくことが必要です1)。(参考文献1より引用)信頼できる支援者を見極める視点もうひとつ見落とされがちなポイントとして、支援者の信頼性評価があります。支援チームの中にはDMATのようにトレーニングされた組織だけでなく、被災地での活動経験が浅い組織や、連携体制が不十分なチームも玉石混交で集まっています。支援チームが似たようなユニフォームや車両を用いて活動している場合、見た目だけでは識別が難しいです。だからこそ、災害救助法の改正により進められている「被災者援護協力団体の登録制度2)」や、EMT(Emergency Medical Team)国際ガイドライン3)に準じた認証制度のような、公的な裏付けを知ったうえで確認することも重要です。また、支援チーム同士が集約され、被災地の医療・福祉・行政との調整を図る保健医療福祉調整本部のような体制があれば、窓口として連携することで混乱を最小化できます4~6)。支援を受ける覚悟と責任「支援を受ける側の責任」という表現に抵抗を感じる方もいるかもしれません。しかし、支援チームは無尽蔵ではなく、来ることが「当然」ではありません。とくに南海トラフや首都直下地震のような広域同時多発災害が想定される場合、支援リソースは限られ、先着順で枯渇する可能性があります。そのため、受援は準備と覚悟を要する「戦略的行動」です。支援を断るリスクは、医療の停滞だけでなく、スタッフの疲弊、患者への不利益、地域全体の対応力低下など、多方面に及びます。「来てもらう力」は、命をつなぐ力災害対応では、「助けてほしい」と言える勇気と、「助けを使いこなす」力が求められます。支援を受けるという行為は、無力さではなく、連携と合理性の象徴です。自分たちだけで乗り切ることが正義ではありません。限られた人員と資源のなかで、いかに外部の力を活かすか。これからの災害医療において、“受援力”こそが生死を分ける力となるのです。複数の支援団体が被災地で活動する 写真提供:筆者 1) 国立保健医療科学院・厚生労働省. 医療機関のための災害時受援計画作成の手引き. 2020年7月. 2) 内閣府 防災情報のページ. 被災者援護協力団体の登録制度 3) World Health Organization. Classification and minimum standards for emergency medical teams. Geneva: WHO; 2021. 4) 厚生労働省. 大規模災害時の保健医療福祉活動に係る体制の強化について. 2025年3月31日. 5) 厚生労働省. 災害時保健医療福祉活動支援システム(D24H). 6) 厚生労働省. 大規模災害時における「災害時保健医療福祉活動支援システム(D24H)」の活用について. 2025年3月25日.

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空気清浄機と血圧の関係/JACC

 粒子状物質(PM)による大気汚染は、心血管疾患のリスク因子であり、血圧上昇にも関与している可能性が指摘されている。そこで、家庭用のHEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルター付き空気清浄機が血圧を低下させるか検討することを目的として、米国の幹線道路の近隣に居住する成人を対象に、プラグマティック臨床試験が実施された。本研究結果は、Doug Brugge氏(米国・コネチカット大学)らにより、JACC誌2025年8月26日号で報告された。 本研究は、幹線道路の近隣(200m以内)に居住する成人を対象としたプラグマティック無作為化クロスオーバー試験である。降圧薬未使用の成人154人(108世帯)を組み入れ、HEPAフィルター付き空気清浄機を1ヵ月間使用する群、フィルターを除去した偽の空気清浄機を1ヵ月間使用する群に無作為に割り付けた。1ヵ月間のウォッシュアウト期間を設け、もう一方の介入を1ヵ月間行った。各介入期間の開始時と終了時に血圧測定を行い、HEPAフィルターとフィルター非装着(シャム)の血圧への影響を比較した。 主な結果は以下のとおり。・対象の平均年齢は41.1歳で、ベースライン時の平均収縮期血圧(SBP)/拡張期血圧(DBP)は118.8/76.5mmHgであった。・室内のPM2.5濃度(24時間平均値)は、HEPAフィルター使用時2.5μg/m3、シャム使用時5.2μg/m3、屋外3.9μg/m3であり、HEPAフィルター使用時が有意に低かった(p<0.001)。・全体集団において、SBP変化量(平均値)はHEPAフィルター使用後-1.1mmHg、シャム使用後-0.6mmHgであり、両者の差はみられなかった。・介入開始時のSBPが120mmHg以上の集団において、SBP変化量(平均値)はHEPAフィルター使用後-2.8mmHg、シャム使用後+0.2mmHgであり、HEPAフィルター使用後に有意な低下がみられた(p=0.03)。HEPAフィルター使用後とシャム使用後の差は3.0mmHgであり、両者に有意差がみられた(p=0.04)。・介入開始時のSBPが120mmHg未満の集団では、HEPAフィルターによるSBPへの有意なベネフィットは認められなかった。 ・DBPについては、いずれの集団においても有意な変化はみられなかった。 本研究結果について、著者らは「家庭用HEPAフィルター付き空気清浄機は、世界的にPM2.5濃度が比較的低い国の幹線道路の近隣の環境においても、とくにSBPが120mmHg以上の人に血圧低下効果をもたらす可能性が示唆された。安全性の懸念が認められなかったことを踏まえると、幹線道路から200m以内または交通量の多い道路から100m以内に居住する、血圧高値などの心血管疾患リスクを有する人に対して、空気清浄機の使用を推奨することは合理的であると考える」と述べた。

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日本における手術部位感染の分離菌の薬剤感受性~全国サーベイランス

 手術部位感染(SSI)から分離された原因菌に対する各種抗菌薬の感受性について、日本化学療法学会・日本感染症学会・日本臨床微生物学会(2023年には日本環境感染学会も参画)による抗菌薬感受性サーベイランス委員会が、2021~23年に実施した第4回全国サーベイランス調査の結果を報告した。第1回(2010年)、第2回(2014~15年)、第3回(2018~19年)のデータと比較し、主に腸内細菌目細菌において抗菌薬感受性が低下した一方、MRSA発生率は減少したことが示された。Journal of Infection and Chemotherapy誌2025年9月号に掲載。 本調査の対象手術は、一般外科、消化器外科、心臓血管外科、呼吸器外科、乳腺内分泌外科の手術で、収集菌種は、バクテロイデス属、黄色ブドウ球菌(MRSA、MSSA)、Enterococcus faecalis、大腸菌、肺炎桿菌、Enterobacter cloacae、緑膿菌の7菌種である。 主な結果は以下のとおり。・腸内細菌目細菌のESBL(extended-spectrum β-lactamase)産生株の検出率は、2010年は4.4%、2014~15年は13.5%、2018~19年は6.6%であったが、2021~23年は11.2%に上昇した。2018~19年はタゾバクタム・ピペラシリンに対する感受性が高かったが、2021~23年は71.8%に低下した。タゾバクタム・セフトロザンの幾何平均MICは、2018~19年は0.397、2021~23年は0.778と上昇傾向を示した。・MRSA発生率は、2010年は72%であったが、2014~15年および2018~19年は53%、2021~23年は39%と低下した。・大腸菌および肺炎桿菌において、スルバクタム・アンピシリンおよびセファゾリンに対する感受性が低下した。・バクテロイデス属は、モキシフロキサシン(57%)、セフメタゾール(54%)、クリンダマイシン(44%)に対する感受性が低かった。

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成人遅発型ポンペ病に2種類併用の治療薬を発売/アミカス

 アミカス・セラピューティクスは、成人遅発型ポンぺ病を対象とする新規併用療法の治療薬であるシパグルコシダーゼ アルファ(商品名:ポムビリティ)とミグルスタット(同:オプフォルダ)を8月27日に発売した。 ポンぺ病(糖原病II型)は、ライソゾーム内のグリコーゲンの分解に関与する酵素である酸性α-グルコシダーゼ(GAA)をエンコードする遺伝子の突然変異によって起こる希少疾病。この酵素の機能障害により、ライソゾーム内にグリコーゲンが蓄積し、細胞機能の障害が進行し、筋力、運動および肺機能が低下する。患者は、全世界で5,000~1万人と推定され、わが国では約130人とされている。 今回発売されるシパグルコシダーゼ アルファは、点滴静注剤であり、遺伝子組換えヒト酸性α-グルコシダーゼ製剤となる。マンノース-6-リン酸受容体への結合親和性が高い糖鎖を付加することで、細胞への酵素の取り込みの促進が期待される。また、ミグルスタットは経口剤であり、中性環境の血中で不活化されやすいシパグルコシダーゼ アルファを安定化させ、活性を維持させた状態で血中に長くとどまることを可能にする。これにより、シパグルコシダーゼ アルファ単剤と比較し、細胞への取り込み量を増加させることが期待される。 両剤の併用により、細胞内への酵素取り込み効率と標的組織への到達性の向上が見込まれ、とくに筋組織においてポンぺ病の主要な貯蔵物質であるグリコーゲンを減少させる作用が期待されている。【シパグルコシダーゼ アルファ製品概要】一般名:シパグルコシダーゼ アルファ(遺伝子組換え)販売名:ポムビリティ点滴静注用105mg効能または効果:遅発型ポンペ病に対するミグルスタットとの併用療法用法および用量:ミグルスタットとの併用において、通常、体重40kg以上の成人にはシパグルコシダーゼ アルファとして、1回体重1kg当たり20mgを隔週点滴静脈内投与する。薬価:20万4,251円薬価収載日:2025年8月14日発売日:2025年8月27日製造販売元:アミカス・セラピューティクス【ミグルスタット製品概要】一般名:ミグルスタット販売名:オプフォルダカプセル65mg効能または効果:遅発型ポンペ病に対するシパグルコシダーゼ アルファ(遺伝子組換え)との併用療法用法および用量:シパグルコシダーゼ アルファとの併用において、通常、成人にはミグルスタットとして体重40kg以上50kg未満の場合は1回195mg、体重50kg以上の場合は1回260mgを隔週経口投与する。なお、食事の前後2時間は投与を避けること。薬価:6,038.2円薬価収載日:2025年8月14日発売日:2025年8月27日製造販売元:アミカス・セラピューティクス

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BPSDに対する非薬理学的介護者介入の比較〜ネットワークメタ解析

 認知症の行動・心理症状(BPSD)の軽減に非薬理学的な介護者介入は有用であるが、最も効果的な非薬理学的介入は、依然として明らかとなっていない。中国・杭州師範大学のXiangfei Meng氏らは、BPSDに対するさまざまな介護者介入とそれらの症状に対する介護者の反応を比較するため、システマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。International Journal of Nursing Studies誌2025年10月号の報告。 2023年10月18日までに公表された研究を、PubMed、Embase、Cochrane Library、Cumulative Index to Nursing and Allied Health Literature(CINAHL)、PsycINFOよりシステマティックに検索した。バイアスリスクの評価にはRoB2、エビデンスの信頼性の評価にはCINeMA(Confidence in Network Meta-Analysis)を用いた。頻度主義的枠組みを用いたランダム効果ネットワークメタ解析を実施した。主要評価項目は、BPSD症状およびBPSDに関連する介護者の反応とした。 主な結果は以下のとおり。・8,336組のペアと12種類の介護者介入が含まれるランダム化比較試験71件を対象とした。・BPSDについては、多要素介入により介入後(SMD:−0.30、95%信頼区間[CI]:−0.47〜−0.12、p=0.001)およびフォローアップ調査時(SMD:−0.61、95%CI:−1.05〜−0.18、p=0.006)において症状の改善が認められた。・BPSDに関連する介護者の反応については、介入後の改善において、次の介入が有用であった。【多要素介入】SMD:−0.37、95%CI:−0.58〜−0.16、p=0.001【スキル構築】SMD:−0.26、95%CI:−0.42〜−0.10、p=0.001【認知行動療法】SMD:−0.22、95%CI:−0.41〜−0.03、p=0.023【教育】SMD:−0.20、95%CI:−0.35〜−0.04、p=0.017・SUCRA解析の結果、多要素介入は、BPSDの症状軽減(SUCRA:83.4%)、これらの症状に対する介護者の反応改善(SUCRA:90.9%)において、最も高い評価を得た介入であることが明らかとなった。・メタ回帰分析およびサブグループ解析の結果、共変数である「自立度」、「平均年齢」、「期間」が多要素介入のエフェクトサイズに影響を及ぼすことが示唆された。 著者らは「多要素介入は、BPSDの症状およびこれらの症状に対する介護者の反応軽減において最も優れた介入であり、持続的な効果を示すことが明らかとなった」としている。

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鎮静下の低酸素血症予防、側臥位vs.仰臥位/BMJ

 低酸素血症は、鎮静中の患者の重篤かつ生命を脅かす可能性のある合併症で、救急診療部や内視鏡検査、入院・外来処置中などさまざまな場面で発生し、緩和医療でも問題となるため、より負担の少ない呼吸法とともに、予防戦略の最適化が不可欠とされる。中国・浙江大学のHui Ye氏らの研究チームは、鎮静中の低酸素血症を回避するための体位として、側臥位と仰臥位の効果を比較する目的で、同国の14施設で多施設共同無作為化対照比較試験を行い、鎮静下の成人患者の体位を側臥位とすることで、安全性を損なわずに低酸素血症の発生率と重症度が有意に軽減し、気道確保介入の必要性も低下したことを明らかにした。BMJ誌2025年8月19日号掲載の報告。低酸素血症が約10%減少 本試験では、2024年7~11月に、鎮静下にある成人(年齢18歳以上)患者2,143例を登録。1,073例を側臥位(介入群)、1,070例を従来の仰臥位(対照群)に無作為に割り付けた。全体の平均年齢は53.1(SD 14.9)歳、女性が1,150例(53.7%)であった。 主要アウトカムである体位変換から10分以内の低酸素血症(酸素飽和度[SpO2]≦90%)の発生率は、対照群が15.0%(161/1,070例)であったのに対し、介入群は5.4%(58/1,073例)と有意に低かった(補正後リスク比:0.36[95%信頼区間[CI]:0.27~0.49]、p<0.001)。1件の低酸素血症を予防するための側臥位への体位変換の必要数(NNT)は11(95%CI:9~16)だった。副次アウトカムも良好 4つの副次評価項目は、いずれも介入群で有意に良好であった。(1)気道確保介入(酸素流量の増量、下顎挙上法、マスク換気など)を要する患者の割合:介入群6.3%(68/1,073例)vs.対照群13.8%(148/1,070例)、補正後リスク比:0.46(95%CI:0.34~0.61)、p<0.001。1件の気道確保介入を回避するための側臥位への体位変換のNNTは15(95%CI:11~22)だった。(2)重症低酸素血症(SpO2≦85%)の発生率:同0.7%(8/1,073例)vs.4.8%(51/1,070例)、0.16(0.07~0.33)、p<0.001。(3)標準的な退院基準を満たすまでの麻酔後ケアユニット(PACU)の平均在室時間:同38.2分vs.40.5分、補正後絶対平均差:-2.22分(-3.63~-0.80)、p=0.002。(4)最低SpO2(10分間の連続測定の最低値)の平均値:同96.9%vs.95.7%、1.20%(0.87~1.54)、p<0.001。頻脈が有意に減少 安全性の評価項目のうち、頻脈(心拍数>100回/分)が介入群で有意に少なかった(6.7%vs.10.4%、率比:0.65[95%CI:0.48~0.87]、p=0.004)。 一方、徐脈(心拍数<50回/分)(介入群4.8%vs.対照群4.9%、0.98[0.67~1.45]、p=0.93)、低血圧(収縮期血圧<80mmHg)(1.0%vs.0.8%、1.26[0.52~3.04]、p=0.61)、新規不整脈(0.8%vs.0.7%、1.12[0.43~2.91]、p=0.81)、咳嗽(9.5%vs.10.1%、0.94[0.71~1.23]、p=0.64)、悪心/嘔吐(1.7%vs.2.1%、0.78[0.42~1.44]、p=0.42)の頻度は、両群間で差を認めなかった。 著者は、「簡便で費用も安価であることから、側臥位は遠隔地や医療資源が限られた臨床の現場に利点をもたらす可能性がある」と述べるとともに、「これらの知見の一般化可能性を高めるには、高齢者やBMIの高い患者を対象に再現性を確かめるための研究を要する」としている。

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血液透析患者へのスピロノラクトン、心血管イベントを抑制するか/Lancet

 慢性血液透析を受けている腎不全患者は、一般集団と比較して心血管疾患による死亡リスクが10~20倍高いが、血液透析患者は通常、心血管アウトカムを評価する臨床試験から除外されるという。フランス・Association ALTIRのPatrick Rossignol氏らALCHEMIST study groupは、心血管イベントのリスクの高い血液透析患者において、ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬スピロノラクトンの有効性を評価する目的で、研究者主導の多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照イベント主導型試験「ALCHEMIST試験」を実施。スピロノラクトンは主要心血管イベント(MACE)の発生を抑制しなかったことを示した。研究の詳細は、Lancet誌2025年8月16日号に掲載された。欧州3ヵ国の早期中止試験 本試験は、2013年6月~2020年11月に3ヵ国(フランス、ベルギー、モナコ)の64施設で参加者を登録し行われた(フランス保健省の助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、腎不全で慢性血液透析(週3回以上)を受けており、少なくとも1つの心血管合併症またはリスク因子を有する患者644例であった。スピロノラクトン群(25mg/日まで漸増、経口投与)に320例、プラセボ群に324例を無作為に割り付け、主要エンドポイントであるMACE(心血管死、非致死的心筋梗塞、急性冠症候群、脳卒中、心不全による入院)の発生率を評価した。 試験は2022年11月(最後の参加者の追跡期間が2年の時点)に資金不足のため早期中止となった。MACE発生率は改善せず 全体の年齢中央値は70.8歳(四分位範囲[IQR]:63.5~78.1)、男性が444例(69%)で、血液透析期間中央値は1.7年(IQR:0.7~4.5)だった。追跡期間中央値は32.6ヵ月(17.3~48.4)であった。 MACEの発生率は、スピロノラクトン群で24%(78/320例、10.66/100人年[95%信頼区間[CI]:8.54~13.31])、プラセボ群で24%(79/324例、10.70/100人年[8.59~13.35])と、両群間に有意な差を認めなかった(ハザード比[HR]:1.00[95%CI:0.73~1.36]、p=0.98)。 MACEの各項目では、心不全による入院(2%[7/320例]vs.5%[17/324例]、HR:0.41[95%CI:0.17~1.00])の発生率がスピロノラクトン群で低かったが、他の項目については両群間に差はなかった。忍容性は良好 副次エンドポイントについては、心停止からの蘇生を含む非致死的心血管イベント(12%[37/320例]vs.17%[56/324例]、HR:0.66[95%CI:0.43~0.99])の発生率はスピロノラクトン群で良好であった。一方、全死因死亡、心血管系以外の原因による死亡、高カリウム血症(血清カリウム値>6mmol/L)、低カリウム血症(同<4mmol/L)の発生率には両群間に差がなかった。 スピロノラクトン群の忍容性は良好であった。とくに注目すべき有害事象としての高カリウム血症の発生率の群間差は1.8%ポイント(イベント発生率はスピロノラクトン群11.7%vs.プラセボ群9.9%)、とくに注目すべき重篤な有害事象としての高カリウム血症の発生率の群間差は2.7%ポイント(28.3%vs.25.6%)と小さかった。5試験のメタ解析でもほぼ同様の結果 既報の4試験と本試験を対象にメタ解析を行った。その結果、プラセボと比較してミネラルコルチコイド受容体拮抗薬は、全死因死亡(オッズ比[OR]:0.71[95%CI:0.41~1.24]、p=0.23、I2=43%)、心血管死(0.72[0.33~1.58]、p=0.41、I2=57%)、非致死的心血管イベント(1.00[0.77~1.30]、p=0.99、I2=0%)の改善をもたらさなかった。 また、プラセボに比しミネラルコルチコイド受容体拮抗薬は、高カリウム血症イベント(OR:1.04[95%CI:0.90~1.20]、p=0.58、I2=0%)の発生率を上昇させなかった。 著者は、「本試験および本試験を含むメタ解析の結果は、スピロノラクトンが心血管リスクの高い血液透析を受けている腎不全患者に臨床的有益性をもたらさないことを示している」「これらの患者におけるミネラルコルチコイド受容体拮抗薬の適応外使用が、心血管死や全死因死亡を有意に低下させたとする実臨床データがあるが、本試験の知見はこれを支持しない」としている。

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科学分野において組織的な不正行為が急速に増加

 科学における不正行為が広がり、学術研究の健全性に深刻な脅威をもたらしていると、米ノースウェスタン大学工学・応用数学教授のLuis A.N. Amaral氏らのグループが警鐘を鳴らしている。Amaral氏らの報告によると、秘密裏に不正を働く人のネットワークが広がり、かつてないほど速いペースで科学分野において虚偽の成果が生み出されているという。詳細は、「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」に8月4日掲載された。 科学における不正行為に関するニュースは通常、論文の撤回、データの改ざんまたは盗用など、成功のために近道をしようとする個人による単発の事例について報じたものが多いとAmaral氏らは言う。しかし、同氏らが今回行った調査によって、世間の目に触れないところで虚偽の科学を量産している闇のネットワークの存在が明らかになった。 Amaral氏らは撤回された論文を分析し、質や倫理基準を満たさないとして主要なオンライン科学データベースから除外された学術誌に掲載された研究を調べた。その結果、質の低い原稿を量産し、新しい論文をすぐに発表したい学者に販売する「ペーパーミル(論文工場)」の組織的なネットワークの存在が明らかになった。これらのレディメイドの論文には、捏造されたデータや、加工または盗用された画像、盗作された内容が含まれている。また、意味不明な内容や物理的にあり得ない内容が含まれていることもある。 Amaral氏は、「論文工場に捕らわれる科学者は増え続けている。彼らは論文だけでなく、引用数まで買うことができる。こうした行為によって、ほとんど自分では研究していないにもかかわらず、あたかも評価の高い科学者であるかのように自分を見せかけることができるのだ」と言う。また、論文の筆頭著者であるノースウェスタン大学のReese Richardson氏は、「論文工場は、正当な評価を得た科学者であるかのように見せるための手段となり得るものなら、基本的には何でも売る。彼らはしばしば著者枠を数百ドルから数千ドルで販売している。筆頭著者のポジションにはより高価、第四著者など後ろのポジションにはより安価な金額が設定されていることもある。また、自分が書いた論文を、形だけの査読プロセスを通じて受理させるためにお金を払う人もいる」と話している。 さらに本研究では、不正行為を働くネットワークには論文を発表するための複数の戦略があることも明らかになった。具体的には、1)複数の研究グループが共謀して複数の学術誌に論文を発表し、その活動が発覚した場合にのみ論文を撤回する、2)ブローカーが虚偽の論文の大量出版を調整する仲介役として機能する、3)虚偽の報告であることが見抜かれたり阻止されたりする可能性が低い、特定の限られた研究分野に照準を絞る、といったものである。 Amaral氏は、「ブローカーは、舞台裏にいるあらゆる人々をつないでいる。論文の執筆者、著者として名前を載せるためにお金を払う人、そして、それらを掲載してくれる学術誌を見つける必要がある。さらに、論文を受理してくれる編集者も必要だ」と話す。研究グループによると、これらのグループは、評価の高い学術誌を回避する方法として廃刊になった学術誌を「乗っ取る」こともある。廃刊となった学術誌の名前やウェブサイトを引き継ぎ、その身元を密かに偽装して、あたかも正規の発行元から出ているように見せかけて不正論文を量産していくのだという。 さらに、人工知能(AI)の登場によって科学における不正行為がさらに広がる恐れがあるという。Richardson氏は、「既存の不正にも対処できていないのであれば、生成AIが科学文献に与える影響に対処できるはずがない。将来、どんな内容のものが論文として公表されるのか、何が科学的事実と見なされて将来のAIモデルの学習に使われるのか、われわれは全く分からない。そして、そのAIモデルがさらに論文を書くことになるのだ」と懸念を示している。 Amaral氏らは、編集プロセスの精査を強化し、捏造された研究の検出能を高め、不正を働くネットワークの調査を進め、科学におけるインセンティブのシステムを再構築することで、アカデミアがこの脅威に対抗する必要があると述べている。

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第277回 コロナの今、感染・入院・死亡者数まとめ

INDEX定点報告数推移入院・重症化例死亡者数新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)が感染症法の5類に移行したのが2023年5月8日。それから丸2年以上が経過した。現在、全国的に感染者が増加していると報道されているが、先日の本連載でも報告したように地域の基幹病院では、流行期に苦境を迫られているのが現実だ。もっとも世の中全体が新型コロナについて「喉元過ぎた熱さ」化した今、5類移行以後の新型コロナがどのような経過をたどってきたかについての認識は、医療者の中でも差があるだろう。私自身は医療者ではないが、隠さず言ってしまえば、まさに喉元過ぎた熱さ化しつつあるのが実際である。ということで、自省も込めてこの段階で、5類移行から現在に至るまでの新型コロナの状況について経過をたどってみることにした。今回は感染者数、入院者数、死亡者数についてまとめてみた。定点報告数推移まず、5類移行後の一番大きな変化としては感染者報告が定点報告1)となった点である。その最初となった2023年第19週(5月8~14日)は全国で2.63人。この後は第35週(8月28日~9月3日)の20.50人まで、途中で第31週(7月31日~8月6日)と第32週(8月7~13日)に前週比で若干減少したことを除けば、ひたすら感染者は増加し続けた。ただ、ここからは急速に減少し、わずか4週後の第39週(9月25日~10月1日)には8.83人まで減少。第44週(10月30日~11月5日)には第19週の水準を下回る2.44人となった。16週間かけてピークまで増加した感染者数が9週間で減少したことになる。最終的には第46週(11月13~16日)の1.95人で底を打った。もっともここからは再び増加に転じ、この年の最終週の第52週(12月25~31日)には5.79人と6週間で約3倍まで増加した。2024年第1週(1月1~7日)は6.96人で始まり、第5週(1月29日~2月4日)に16.15人。以後は第18週(4月29日~5月5日)の2.27人まで一貫して減少したが、第19週(5月6~12日)からは2.63人と反転し、第30週(7月22~28日)の14.58人まで増加を続けた。そしてこれ以降は再び減少し始め、第45週(11月4~10日)の1.47人がボトムとなり、最終週の第52週(12月23~29日)は7.01人。7週間で5倍弱に増加した。2025年は第1週(2024年12月30日~2025年1月5日)が5.32人と2024年最終週からは減少したものの、翌第2週(1月6~12日)は7.08人と跳ね上がり、これが冬のピーク。この後は緩やかに減少していき、第21週(5月19~25日)、第22週(5月26日~6月1日)ともに0.84人まで低下。そこから再び一貫した上昇に転じ、最新の第33週(8月11~17日)が6.30人である。このデータを概観すると、1月中が冬のピークで、その後は感染者が減少。5月中下旬から感染者が増加し、7~8月にピークを迎え、そこから11月中旬にかけてボトムとなり、再び増加に転じるという流れが見えてくる。現時点において、この夏まで4つの波が到来している形で、年々ピークの感染者数は低下している。もっとも、これは以前書いたようにウイルスの感染力が低下しているわけではなく、次第に多くの人がコロナ禍を忘れ、喉の痛みや鼻水が大量に出るなどの呼吸器感染症の症状が出ても受診・検査をしていないケースが増えているからだろう。また、注意が必要なのが定点報告医療機関数の変化である。2025年第14週(3月31日~4月6日)までは約5,000医療機関だったが、これが再編されて第15週以後は約3,000医療機関に変更されていることだ。その意味ではもはや定点報告数は大まかに流行を捉えるという位置付けにすぎないといえるだろう。そうした中でこの流行の波形を見ると実は特徴的な地域がある。沖縄県だ。同県の場合、ほかの都道府県に見られる冬期の波がほとんどない。これは同県が日本では唯一の亜熱帯に属する県であることが理由だろう。すなわち冬に暖房を使って屋内に籠ることがほとんどないということだ。つまるところ「暑さや寒さでエアコンを使い換気が悪くなる時期に各地で感染者が増加する」という従来からの定説を如実に裏付けているともいえる。実際、夏前の流行の立ち上がり時期を見ると、九州・沖縄地方は全国傾向と同じ毎年第19週前後だが、北海道や東北地方は第25週前後である。逆に冬期は北海道、東北地方は第42週前後に感染者が増加し始めるが、九州地方では第49週前後である。入院・重症化例最も医療機関にとって負荷がかかるのは新型コロナによる入院患者の増加であることはいうまでもない。厚生労働省では医療機関等情報支援システム(G-MIS)2)のデータから週報とともに重症化事例も公表している。当然ながら、定点報告の感染者数のピーク前後で入院事例が増えると考えられるため、各ピーク期に絞ってその状況を取り上げる。まず、2023年については、夏のピークだった第35週の直前である第34週(8月21~27日)の全国の新規入院患者数1万3,972人がピークである。この時の7日間平均でのICU入院中患者数が228人、ECMOまたは人工呼吸器管理中が140人である。ICU入院中の患者数は第33~36週までは200人超である。2024年の冬季の感染者数ピークは第5週だが、入院患者のピークはその前の第3週(1月15~21日)の3,494人である。夏に比べて一気に入院患者数が減少したようにもみえるが、これは2023年9月25日より、入院患者数をG-MISデータ(約3万8,000医療機関)から全国約500ヵ所の基幹定点医療機関からの届出数に変更したためである。その代わり、この時点から入院患者の年齢別などの詳細が報告されるようになっている。この2024年第3週の入院患者の年齢別内訳を見ると、60歳以上の高齢者(同データは65歳以上の区分なし)が83.1%を占めている。これ自体は驚くことではない。ただ、10歳刻みの年齢区分で見ると、60歳以降の3区分と50~59歳の区分に次いで多いのが1歳未満である。また、この時の入院時のICU入室者は117人、人工呼吸器利用者は57人である。さらに同年夏の入院患者数ピークは、感染者数ピークの第30週の翌週である第31週(7月29日~8月4日)の4,590人。この時も60歳以上の高齢者が84.4%を占め、第3週前後の時と同様に60歳以降の3区分と50~59歳の区分に次いで1歳未満の入院患者が多い。この週のICU入室者は187人、人工呼吸器の利用者は80人。2025年冬の入院患者数ピークは、感染者数ピークと同様の第2週で2,906人。60歳以上の高齢者割合は86.0%。年齢階層別の入院患者数で1歳未満が高齢者層に次ぐのは、この時も同じだ。この週のICU入室者は120人、人工呼吸器の利用者は54人だった。死亡者数人口動態統計3)の年次確定数で見ると、2023年の新型コロナによる死亡者数は3万8,086人。前年の2022年が4万7,638人である。ちなみに2023年のインフルエンザの死亡者数が1,383人である。2024年(概数)は3万5,865人、2025年については現在公表されている3月までの概数が1万1,207人である。ちなみに前年の1~3月は1万2,103人であり、やや減少している。ここでまたインフルエンザの死亡者数を挙げると、2024年が2,855人、2025年1~3月が5,216人である。今年に入りインフルエンザの死亡者は増加しているものの、新型コロナの死者は2023年でその27.5倍、2024年で12.6倍にも上る。この感染症の恐ろしさを改めて実感させられる。次回は流行株の変遷とワクチン、治療薬を巡る状況を取り上げようと思う。 参考 1) 厚生労働省:新型コロナウイルス感染症に関する報道発表資料(発生状況等) 2) 厚生労働省:医療機関等情報支援システム(G-MIS):Gathering Medical Information System 3) 厚生労働省:人口動態調査

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東海大学医学部 乳腺・腫瘍科学【大学医局紹介~がん診療編】

新倉 直樹 氏(教授)寺尾 まやこ 氏(講師)清原 光 氏(助教)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴当科は乳腺の悪性疾患から良性疾患まで対応し、東海大学医学部付属病院(伊勢原・神奈川)では乳腺専門医5名を中心に乳がんの診療をし、2023年の当科の年間手術症例数は355件(全身麻酔での乳がん手術322例)でした。がん薬物療法専門医3名が所属しており、その他の悪性腫瘍の患者さんも積極的に受け入れ、薬物療法も行っています。遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)に対しては遺伝子診療科と連携し、BRCA検査、その他の家族性腫瘍に対する検査にも対応しています。乳房再建においては形成外科と連携し腹直筋、広背筋皮弁再建やインプラント再建も行っております。独自の取り組みとしては、乳腺・腫瘍科の中に外科専門医と内科専門医が混在しているチームとなり、外科医が薬物治療を行うのと同時に、内科出身であっても、診断・手術を行っています。医師の育成方針当科では外科系以外に、2008年より内科系の乳腺専門医を目指す医師を育成しており、今後も外科・内科問わずさまざまなバックグラウンドを持つ乳腺専門医を目指す医師を募集しています。乳腺・腫瘍科として診断から外科的手術、薬物療法まで行える医師の育成を行っております。さらには研究については、基礎研究、データベース研究、新規薬剤の開発治験、留学制度など本人のやりたいことをサポートできる環境を整えてあります。同医局でのがん診療/研究のやりがい、魅力東海大学乳腺・腫瘍科学は、外科系・内科系を問わず乳がん診療全般に関わることができること、「がん薬物療法専門医」が複数名おりオンコロジストとして乳がん以外の悪性疾患の臨床や研究に携わることができるのが大きな魅力です。複雑な症例の相談や、原発不明がんの治療など自施設に限らず地域の医療機関の患者さんたちに適切な治療を提供することは、医師としてやりがいを感じられます。次世代オンコロジストの育成にも力を入れ、幅広く腫瘍学を学ぶことができる環境が整っており、基礎研究に関心のある方にも、多様なテーマに取り組める機会があります。復職・キャリア再開を考えている医師へのメッセージ当教室では、3年目専攻医でなくても、結婚・出産・家庭の事情などで一度離職された先生方や、過去に他の医療機関に在籍していた方の復職も可能です。東海大学医学部には「復職支援室」を設けており、復職支援、長期離職予防、キャリア支援などを積極的に行っています。復職にあたって不安をお持ちの方には、診療科を問わず個別相談や研修の提案なども可能です。まずは相談だけでも、ぜひお気軽にご連絡ください。これまでの経歴宮崎大学を卒業後、神奈川県内の市中病院で初期臨床研修を行いました。現在の医局に入局し、医師7年目になります。初期研修中に乳腺診療の魅力を知り、この分野を選びました。同医局を選んだ理由乳腺外科を選んだ理由は、1)診断から手術、周術期治療、再発転移の治療まで一貫して携わることができること、2)患者さんの多くが女性であり女性医師の需要が高いこと、3)ワークライフバランスも大切にできることの3点です。東海大学では、乳腺専門医取得に向けて外科系だけでなく内科系ローテーションを選択することができました。とくに薬物療法に興味があった私は、この点を魅力に感じ、東海大学に入局を決めました。現在学んでいること医師3~5年目は当院の内科系と乳腺外科で専攻医として勤務し、うち1年間は国立がん研究センター東病院で腫瘍内科を中心に研修させていただきました。その後内科専門医を取得し、現在は外来や手術を中心に乳腺診療全般を学んでいます。また、研究にも取り組み、学会発表や論文執筆を進めています。さらに、がん薬物療法の理解を深めるため、遺伝子パネル検査のエキスパートパネルにも参加し、他がん種についても学んでいます。東海大学医学部 乳腺・腫瘍科学住所〒259-1193 神奈川県伊勢原市下糟屋143問い合わせ先mamma@tokai.ac.jp医局ホームページ東海大学医学部 乳腺・腫瘍科学専門医取得実績のある学会日本外科学会日本内科学会日本乳学会日本臨床腫瘍学会日本治療学会日本遺伝性腫瘍学会研修プログラムの特徴(1)東海大学では、大学院に進学する場合、臨床助手・ハイブリッドコースを選択し、学位を取得することができます。また、臨床助手の7割の給与が支給されます。(2)男女を問わず、結婚・出産後の待遇について相談に応じます。産休・育休制度を活用し、最大産後1年間の休職が可能です。短時間勤務制度(20~28時間勤務/週、子供が9歳になるまで、最大3年間)を利用することもできます。この制度を利用し、復帰後も他医師と同様に臨床・研究・教育を継続することができる体制を整えております。本院(伊勢原)、八王子病院ともに院内保育所を併設しており、利用時間は7:00~22:00です。詳細はこちら

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「苦しいのは仕方がない」という患者さん【非専門医のための緩和ケアTips】第106回

「苦しいのは仕方がない」という患者さん私たち医療者は、臨床を通じ、さまざまな患者さんと関わります。今回は私がかつて経験し、対応に悩んだ状況を振り返ってみようと思います。今回の質問訪問診療で関わる多発性骨髄腫の患者さん。骨病変による痛みが強いのですが鎮痛薬の使用を拒否します。理由を尋ねると「苦しいのは自分に与えられた試練だから、薬でごまかすことはしたくない」と言います。そうした考えも認めつつ、やはり痛みは緩和したく、苦しく感じます。「苦痛を緩和する」ことの大切さを重視して緩和ケアを実践しているわれわれにとって、考えさせられる状況です。私がかつて担当した、このケースに似た患者さんの場合、診療拒否などはなく、感謝の言葉も口にするのですが、身体症状を和らげる提案に対しては「それは遠慮します」と反応をします。理由を尋ねると、「神に与えられたものだから」と宗教観に基づく返答がありました。私たちはこのような患者さんに対し、どのように対応すれば良いのでしょうか。私自身、今でも明確な答えは持ち合わせていませんが、基本的なスタンスをまとめてみたいと思います。まずは、「私たちも、基本的には患者さんの意向を尊重したい」との考えを明確に伝えます。医療者の推奨に同意しない患者さんに対応する際、大切なのは「対立構造にしない」ことです。推奨に従わない患者に対し、ネガティブな感情を抱く医療者もいるでしょう。患者は医療者のそうした感情を敏感に感じ取り、「自分の気持ちをわかってもらえない」と考えます。そのため、まずは「推奨に応じても応じなくても、あなたは大切な患者であり、あなたの意思を尊重する」と伝えるのです。一方で苦痛が強いというのは、見守る家族にはもちろん、医療者にもつらいことです。そのことも率直に伝え、「なんとか苦痛が和らぐ方法がないか、諦めずに考えていく」とお伝えします。具体的な言葉として、「苦痛との向き合い方は人それぞれだと思います。だから無理に鎮痛薬を飲まなくても大丈夫ですよ。ただ、すごくつらそうに見える時には、やはり薬の調整について、お声掛けさせてもらえませんか? 苦しそうな様子を見ているのは私自身もつらいので…」といったお声掛けをしました。ただ、私が経験した患者さんは、それでも「先生にそうして心配をかけるのも申し訳ないので、私のことでつらく感じないでください」と言い、最期まで鎮痛薬は使用しませんでした。今でも、「あの時どう対応すべきだったか」「この患者さんが本質的に大切にしていたことは何か」など、十分に理解できていないところがあります。緩和ケアの実践では、さまざまな価値観や想いに触れることがあります。自分なりに振り返り、時にはほかのスタッフとディスカッションして、できることに取り組みながら、関わることを諦めない態度を持ち続けることが大切なのだと思います。今回のTips今回のTips患者の意向を尊重しながら、関わることを諦めない態度が重要。

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日本人の日常会話頻度と認知症リスク

 中高年を対象とした大規模集団コホートで、日常会話の頻度と認知症リスクとの関連を検討した結果、会話頻度が低いと認知症リスクが高く、会話が月1回未満の場合は認知症リスクが2倍を超えることが示唆された。国立がん研究センターの清水 容子氏らがArchives of Gerontology and Geriatrics誌オンライン版2025年8月5日号に報告。 本研究は、多目的コホート研究であるJPHC研究において2000~03年に日常会話頻度を報告した50~79歳の参加者について、認知症の発症を2006~16年の介護保険認定記録を用いて追跡した。生活習慣や既往歴などの因子を調整したCox比例ハザードモデルを用いて、ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を推定した。また、居住形態(独居もしくは同居)と性別によるサブグループ解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・3万5,488人中3,334人が認知症と診断された。・会話が「ほぼ毎日」の場合と比較した完全調整HRは、「多くの人と毎日」で0.80(95%CI:0.69~0.93)、「数人と毎日」で0.88(同:0.80~0.97)、「週1~4回」で1.18(同:1.06~1.31)、「月1~3回」で1.17(同:0.97~1.42)、「月1回未満」で2.06(同:1.49~2.85)であった(傾向のp<0.001)。この関連は居住形態で変わらなかった。・独居男性では、会話頻度が高い(「ほぼ毎日」以上)場合のHRが1.71(同:1.26~2.32)、会話頻度が低い(「週1~4回」以下)場合が2.60(同:1.71~3.95)とどちらもリスクが増加したが、独居女性ではリスク増加はみられなかった。

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高齢入院患者におけるベンゾジアゼピン中止パターンとそれを阻害する因子

 退院後のベンゾジアゼピン(BZD)長期使用は、高齢患者におけるBZD依存や重篤な薬物有害事象リスクを高める可能性がある。しかし、高齢者におけるBZD中止パターンとそれに関連する因子についての研究は限られている。米国・ハーバード大学のChun-Ting Yang氏らは、高齢者における入院後のBZD中止のパターンと関連因子を特定するため、後ろ向きコホート研究を実施した。Journal of the American Geriatrics Society誌オンライン版2025年7月27日号の報告。 本コホート研究は、2004年1月〜2025年2月までのOptum CDMデータを用いて実施した。対象は、入院後30日以内に新たにBZD使用を開始した65歳以上の患者。不安症、精神疾患、アルコール乱用、てんかん発作、ホスピスケアを受けている患者は除外した。BZD中止は、BZD使用終了から15日を超える期間と定義した。主要解析では、カプランマイヤー法を用いて中止率を推定し、患者特性とBZD中止との関連はCox比例ハザードモデルを用いて解析した。死亡の競合リスクを補正するため、打ち切り確率の逆重み付け(IPW)を適用した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者数は3万3,449例(平均年齢:73.1±5.8歳、男性の割合:51.7%)。・IPW加重BZD中止率は、30日時点で53.3%(95%信頼区間[CI]:52.7〜53.8)、60日時点で86.7%(86.3〜87.1)、90日時点で92.6%(92.3〜93.0)であった。・30日時点でのBZD中止率は、2004年の31.7%(95%CI:29.5〜33.9)から2024年の71.1%(68.7〜73.5)へと増加が認められた。・研究期間中のBZD中止率は、年間4%の増加を示した。・BZD中止を阻害するリスク因子は、次のとおりであった。【不眠症】ハザード比(HR):0.66、95%CI:0.63〜0.69【中等〜重度のフレイル】HR:0.82、95%CI:0.75〜0.85【入院後/初回BZD使用前の抗うつ薬新規使用】HR:0.80、95%CI:0.76〜0.85【入院後/初回BZD使用前の非定型抗精神病薬新規使用】HR:0.90、95%CI:0.82〜0.99 著者らは「精神疾患の病歴のない高齢者における入院後のBZD中止率は、時間経過とともに上昇していた。しかし、とくに不眠症や中等〜重度のフレイルを有する高齢者においては、BZD中止に依然として課題が残存しており、今後の効果的な減量戦略策定のターゲットとなるであろう」とまとめている。

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LP.8.1対応組換えタンパクコロナワクチン、一変承認を取得/武田

 武田薬品工業は8月27日のプレスリリースで、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のオミクロン株LP.8.1を抗原株とした組換えタンパクワクチンの「ヌバキソビッド筋注1mL」について、厚生労働省より一部変更承認を取得したと発表した。ヌバキソビッド筋注は、同社がノババックスから日本での製造技術のライセンス供与を受けたもので、LP.8.1対応ワクチンは9月中旬以降に供給が開始される予定。 2025年5月28日に開催された「厚生科学審議会 予防接種・ワクチン分科会 研究開発及び生産・流通部会 季節性インフルエンザワクチン及び新型コロナワクチンの製造株について検討する小委員会」において、2025/26シーズンの定期接種で使用する新型コロナワクチンの抗原組成は、WHOの推奨と同様に、「1価のJN.1、KP.2もしくはLP.8.1に対する抗原又は令和7年5月現在流行しているJN.1系統変異株に対して、広汎かつ頑健な中和抗体応答又は有効性が示された抗原を含む」とされている1)。 今回の承認は、抗原株の変更に係るデータに加え、LP.8.1を抗原株としたヌバキソビッド筋注が、直近の新型コロナ変異株(LP.8.1、LP.8.1.1、JN.1、KP.3.1.1、XEC、XEC.4、NP.1、LF.7およびLF.7.2.1)に対しても中和抗体を産生することが認められた非臨床データに基づく。 本剤は、6歳以上を対象とした初回免疫(1、2回目接種)および12歳以上に対する追加免疫(3回目接種以降)の適応を取得している。用法・用量は、12歳以上には1回0.5mLを筋肉内に接種する。また、6歳以上12歳未満には、初回免疫として、1回0.5mLを2回、通常、3週間の間隔をおいて、筋肉内に接種する。

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心アミロイドーシスの生存率向上に新たな治療選択肢/アルナイラム

 トランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CM)治療薬として、2025年6月25日に国内で適応追加承認を取得した核酸医薬のブトリシラン(商品名:アムヴトラ)。この治療薬が果たす役割について、7月に開催されたアルナイラムのメディアセミナーで北岡 裕章氏(高知大学医学部 老年病・循環器内科学 教授)が解説した。高齢者心不全では心アミロイドーシスの想起を 心アミロイドーシスは心不全の原因疾患の1つで、2025年3月に発刊された『2025年改訂版 心不全診療ガイドライン』においてもその項目が設けられ、心不全として鑑別診断が重要な疾患として位置付けられた(推奨表57参照)。しかし現状は、「循環器医でもアミロイドーシスの概念をあまり持っていない医師も少なくない」と北岡氏は問題提起する。その理由について、「たった10年前には患者が300例ほどしかいないとされ、原因として疑うのは非常に難しい時代だった」とコメント。しかし、時代は変わり、核医学検査による診断法が確立したことで、120万人いると推定される心不全患者の10%程度をATTR-CMが占めることも明らかになってきている。とくにATTR-CMwt*は加齢に起因することから、高齢者で診断されることが“まれではない”状況になっているが、2019年に治療薬として四量体安定化薬が処方できるようになったことで、「指数関数的に治療を受けられる患者数が増加している」と説明した。*wild type(野生型)の略治療薬の使い分けにも期待 心アミロイドーシスの原因となるトランスサイレチン(TTR)は、肝臓から産生され、四量体の状態であれば甲状腺ホルモンやビタミンAを運搬する役割を果たすが、単量体に解離することでアミロイド線維を形成し、臓器に沈着する。さらに近年では、肝臓から直接ミスフォールディングされたTTRが産生されることも示唆されている。その結果、アミロイド沈着が心不全症状の発現前より始まり、時間経過とともにBNPやトロポニンなどのバイオマーカーの上昇、心機能やQOL低下などに影響を与え、生命予後を脅かすようになる。これについて同氏は「以前と比較して早期診断により生存率は高くなっているが、年齢から想定される生存率と比較すると、ATTR-CM患者の生存率はいまだに低い状況にある」と述べ、潜在患者の発掘と治療法普及の加速化が課題であることについて言及した。 しかし、今回のブトリシランの適応追加はATTR-CMに対する治療選択を広げ、心アミロイドーシス診療の追い風となるだろう。既存治療薬はTTR四量体の安定化を図るものであったが、ブトリシランはさらに上流部分に作用し、効果を発揮する。その作用機序は、ブトリシランが肝臓特異的に取り込まれRNA誘導サイレンシング複合体(RNA-induced silencing complex:RISC)と結合することで肝臓内においてTTR mRNAを分解し、TTR産生を抑制(ノックダウン)させる。本薬剤が適応追加承認に至ったHELIOS-B試験の対象者のうち約40%は、既存薬(タファミジスまたはタファミジスメグルミン)が投与されていた患者であったが、投与有無によらず主要評価項目**を達成している。この結果を踏まえ、「本薬剤により全死亡リスクが低下し、一般集団の生存率に近づいた」と同氏は説明。新たな治療薬が加わったことで、実臨床では治療薬の使い分けがトピックになっており、本薬剤がATTR-CM治療の第1選択薬となりうるとして期待されているとも話した。**全体集団/ブトリシラン単剤投与部分集団における二重盲検期間の全死因死亡および再発性心血管関連イベントの複合エンドポイントRNA干渉(RNAi)とその治療薬 RNAiは植物のペチュニアと線虫から発見された遺伝子サイレンシングで、DNA配列を変化させることなく遺伝子発現・タンパク質を抑制することができる。この原理を応用した低分子干渉RNA(small interfering RNA:siRNA)製剤は、生体内に備わる自然なプロセス(RISCを介して繰り返しmRNAを切断)において効果を発揮する。これまで、細胞内に送達されたsiRNAが体内で作用する際の課題として、(1)体内で分解されやすい、(2)細胞膜の通過が困難、(3)オフターゲット作用の懸念があったが、同社は独自のドラッグデリバリーシステム(DDS)を開発し、解決に導いたという。現在国内では同社の開発により4つのsiRNA製剤(パチシラン[商品名:オンパロット]、ギボシラン[同:ギブラーリ]、ブロリシラン[同:アムヴトラ]、インクリシラン[同:レクビオ])が発売されている。

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2型糖尿病治療薬、国際的持続評価システムの最新結果/BMJ

 中国・四川大学のKailei Nong氏らは、2型糖尿病治療薬の無作為化比較試験についてリビングシステマティックレビュー(living systematic review:LSR)とネットワークメタ解析(NMA)を用いて評価するシステムを開発。SGLT-2阻害薬、GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)、フィネレノンおよびチルゼパチドは、死亡、心血管疾患、慢性腎臓病および体重減少に関してリスク依存的に異なる有益性をもたらすが、薬剤特有の有害事象があることを明らかにした。著者は、「本評価システムは、最新のエビデンスを随時統合できるよう設計されている。エビデンスを持続的に更新する国際的なシステムとして、政策立案者、臨床医および患者の情報に基づく意思決定を支援し、研究の無駄を減らす可能性がある」と述べている。BMJ誌2025年8月14日号掲載の報告。869試験、49万3,168例のデータを解析 研究グループは、MedlineおよびEmbaseを用い、2型糖尿病治療薬を相互に、またはプラセボあるいは標準治療と比較した24週以上の無作為化並行群間比較試験について、毎月検索を実施し(本報告では2024年7月31日までの検索を対象)、頻度(frequentist)ランダム効果モデルとGRADEアプローチを用いたLSRおよびNMAを行った。 LSRとNMAは、少なくとも年2回更新。本報告のLSRとNMAには、869試験(2022年10月以降に53試験を追加)の計49万3,168例の患者が含まれ、13の薬剤クラス(63種類の薬剤)と26の重要なアウトカムに関するデータが報告された。薬剤ごとに有益性が異なり、薬剤特有の有害事象も確認 有益性は、SGLT-2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、およびフィネレノン(慢性腎臓病を有する患者に限る)について、心血管および腎臓へのベネフィットが確認された(エビデンスの確実性:中~高)。 体重減少に最も有効な薬剤は、チルゼパチド(平均差[MD]:-8.63kg[95%信頼区間[CI]:-9.34~-7.93]、エビデンスの確実性:中)、およびorforglipron(-7.87kg[-10.24~-5.50]、エビデンスの確実性:低)の順で、次いで他の8種類のGLP-1受容体作動薬(エビデンスの確実性:高~中)であった。 薬剤の絶対的有益性は、心血管および腎アウトカムに対するベースラインのリスクによって大きく異なっていた。リスク層別化された薬剤の絶対効果は、インタラクティブツールにまとめている。 薬剤特有の有害事象については、SGLT-2阻害薬は性器感染症(オッズ比[OR]:3.29[95%CI:2.88~3.77]、エビデンスの確実性:高)、糖尿病性ケトアシドーシス(2.08[1.45~2.99]、エビデンスの確実性:高)、切断(1.27[1.01~1.61]、エビデンスの確実性:中)を、チルゼパチドとGLP-1受容体作動薬は重度胃腸障害(チルゼパチドで最もリスクが増加、OR:4.21[95%CI:1.87~9.49]、エビデンスの確実性:中)、フィネレノンは重度高カリウム血症(OR:5.92[95%CI:3.02~11.62]、エビデンスの確実性:高)を、チアゾリジン系薬剤は主要な骨粗鬆症性骨折および心不全による入院、スルホニル尿素薬とインスリンおよびDPP-4阻害薬は重度低血糖のリスクをそれぞれ増加させる可能性が示された。 神経障害や視覚障害などその他の糖尿病関連合併症に対する効果については、エビデンスの確実性が低または非常に低の結果しか得られなかった。また、関心が高い認知症に関しても、GLP-1受容体作動薬が認知症を軽減するかどうかは不確実であった(OR:0.92[95%CI:0.83~1.02]、エビデンスの確実性:低)。

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線維化を伴うMASH、efruxiferminが線維化を改善/Lancet

 中等度~重度の線維化を伴う代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)患者において、efruxifermin 50mg週1回投与はプラセボと比較し、96週時に線維化が改善した患者の割合が有意に高かった。米国・Houston Methodist HospitalのMazen Noureddin氏らが、米国の41施設で実施した第IIb相無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験「HARMONY試験」の96週時の評価結果を報告した。efruxiferminは、MASH治療薬として開発中の線維芽細胞増殖因子21(FGF21)アナログである。結果を踏まえて著者は、「第III相試験で、efruxiferminの有効性および安全性を評価することが望まれる」とまとめている。Lancet誌2025年8月16日号掲載の報告。MASH悪化を伴わない線維化ステージ1段階以上の改善、96週時の結果を報告 研究グループは、生検でMASH(「非アルコール性脂肪性肝疾患活動性スコア」が4以上、かつ脂肪化、風船様変性および小葉炎症のスコアが1以上と定義)が確認され、線維化ステージF2またはF3の成人(18~75歳)患者を、efruxifermin 28mg群、同50mg群またはプラセボ群に1対1対1の割合で無作為に割り付け、週1回皮下投与した。 患者、治験担当医師、病理医、施設スタッフおよび治験依頼者は、投与群の割り付けについて盲検化された。 主要エンドポイントは、24週時のMASH悪化を伴わない線維化ステージの1段階以上の改善で、この結果はすでに報告されている。本報告では、96週時の治療終了時評価として、主要エンドポイントの最終評価と、線維化悪化を伴わないMASHの消失等について解析した。 2021年3月22日~2022年2月7日に、128例が無作為化された。このうち126例がefruxiferminまたはプラセボを少なくとも1回投与され、修正ITT解析に組み入れられた。128例中79例(62%)が女性、49例(38%)が男性であった。96週時の改善、プラセボ群24%、efruxifermin 28mg群46%、同50mg群75% 修正ITT解析対象集団において、96週時のMASH悪化を伴わない線維化ステージが1段階以上改善した患者の割合は、プラセボ群19%(8/43例)に対し、efruxifermin 28mg群が30%(12/40例)(プラセボ群との差:12%ポイント[95%信頼区間[CI]:-6~31]、p=0.19)、同50mg群が49%(21/43例)(同31%ポイント[12~49]、p=0.0030)であった。 96週時に生検を受けた88例においては、線維化ステージが1段階以上改善した患者が、プラセボ群で34例中8例(24%)であったのに対し、efruxifermin 28mg群では26例中12例(46%)(プラセボ群との差:22%ポイント[95%CI:-1~45]、p=0.070)、同50mg群では28例中21例(75%)(同52%ポイント[31~73]、p<0.0001)に認められた。 有害事象は、efruxifermin 28mg群で40例中38例(95%)、同50mg群で43例中43例(100%)、プラセボ群で43例中42例(98%)に報告された。efruxifermin群ではプラセボ群より軽度~中等度の胃腸障害が多くみられた。いずれの群でも、薬剤誘発性肝障害や死亡の報告はなかった。

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人工甘味料はがん免疫療法の治療効果を妨げる?

 マウスを用いた新たな研究で、一般的な人工甘味料であるスクラロースの使用は、がん患者の特定の免疫療法による治療を妨げる可能性のあることが示唆された。この研究ではまた、マウスに天然アミノ酸であるアルギニンのレベルを高めるサプリメントを与えると、スクラロースの悪影響を打ち消せる可能性があることも示された。米ピッツバーグ大学免疫学分野のAbby Overacre氏らによるこの研究結果は、「Cancer Discovery」に7月30日掲載された。 Overacre氏は、「『ダイエットソーダを飲むのをやめなさい』と言うのは簡単だが、がん治療を受けている患者はすでに多くの困難に直面しているため、食生活を大幅に変えるよう求めるのは現実的ではないだろう」と話す。同氏はさらに、「われわれは、患者の現状に寄り添う必要がある。だからこそ、アルギニンの補給が免疫療法におけるスクラロースの悪影響を打ち消すシンプルなアプローチとなり得るのは非常に喜ばしいことだ」と述べている。 研究グループによると、がん治療における免疫チェックポイント阻害薬の効果は患者の腸内細菌の組成と関連付けられている。しかし、食事がどのように腸内細菌や免疫反応に影響を及ぼすのかについては明確になっていないという。今回の研究では、一般的な人工甘味料であるスクラロースの摂取が腸内細菌叢やT細胞の機能、免疫療法に対する反応に与える影響を、マウスおよび進行がん患者を対象に検討した。 まず、抗PD-1抗体による治療を受けた進行性メラノーマ患者91人と、進行性非小細胞肺がん(NSCLC)患者41人、および術前に抗PD-1抗体とTLR9アゴニスト(vidutolimod)による治療を受けた高リスク切除可能メラノーマ患者25人を対象に、スクラロースの摂取が抗PD-1抗体による治療効果に与える影響を検討した。自記式食事歴法質問票(DHQ III)を用いて評価したスクラロース摂取量に基づき、対象者を高摂取群と低摂取群に分類し、客観的奏効率(ORR)と無増悪生存期間(PFS)を評価した。 解析の結果、高摂取群ではメラノーマ患者でORRの低下傾向が認められ、NSCLC患者ではORRが有意に低下していた。PFSについては、メラノーマ患者(低摂取群:中央値13.0カ月、高摂取群:同8.0カ月、P=0.037)とNSCLC患者(低摂取群:同18.0カ月、高摂取群:同7.0カ月、P=0.034)の双方で有意な短縮が認められた。一方、高リスク切除可能メラノーマ患者では、病理学的奏効率(MPR)の低下、およびPFSの有意な短縮(低摂取群:中央値25.0カ月、高摂取群:同19.0カ月、P=0.012)が確認された。 次に、マウスを用いた実験で、腺がんやメラノーマなどのがんを意図的に発症させたマウスの食事にスクラロースを加え、その影響を観察した。その結果、マウスの腸内細菌叢の組成に変化が生じ、免疫機能の向上に重要なアミノ酸であるアルギニンが腸内細菌により代謝されて減少し、その結果、抗PD-1抗体による治療が阻害されて腫瘍の増大と生存率の低下につながることが示された。一方、スクラロースを摂取したマウスに、アルギニンや、より効率的に血中アルギニン濃度を上げると考えられているシトルリンを投与したところ、免疫療法の効果が回復した。 Overacre氏は、「スクラロースが引き起こした腸内細菌叢の組成の変化によってアルギニンレベルが低下すると、T細胞は正常に機能しなくなる。その結果、スクラロースを摂取したマウスでは免疫療法の効果が低下した」と説明する。 もちろんマウスでの実験と同じ結果が人間でも得られるとは限らない。それでも、論文の共著者であるピッツバーグ大学医学部のDiwakar Davar氏は、「これらの結果は、高レベルのスクラロースを摂取する患者に的を絞った栄養補給など、プレバイオティクスによる介入の設計を検討すべきことを示唆している」との見方を示している。同氏によると、シトルリンの補給が、がん免疫療法におけるスクラロースの有害な影響を逆転させ得るかを検討する試験を計画中であるという。

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「Pontaポイント コード」交換レート変更および交換受付停止期間のお知らせ

このたび、ケアネットポイントの交換先である「Pontaポイント コード」につきまして、2025年10月1日(水)12:00より、交換レートを以下のとおり変更いたします。【変更前】9月17日(水)13:59まで100pt=100ポイント分【交換受付停止期間】9月17日(水)14:00~10月1日(水)11:59※Pontaポイント コードの交換受付を一時停止いたします。【変更後】10月1日(水)12:00より100pt=95ポイント分※2025年9月17日(水)13:59までにお申し込みいただいた分は、現行のレート(100pt=100ポイント分)で交換いたします。※2025年9月17日(水)14:00~10月1日(水)11:59 は、Pontaポイント コードの交換受付を一時停止いたします。状況により、交換受付停止期間は前後する場合がございます。 ご利用中の皆さまにはご不便をおかけしますが、何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。ケアネットポイントの交換はこちらよりお手続きください。https://point.carenet.com/exchange※ログインが必要です

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米国の小児におけるインフルエンザ関連急性壊死性脳症(IA-ANE)(解説:寺田教彦氏)

 本報告は、米国2023~24年および2024~25年シーズンにおける小児インフルエンザ関連急性壊死性脳症(IA-ANE)の症例シリーズである。 IA-ANEは、インフルエンザ脳症(IAE)の重症型で、米国2024~25年シーズンのサーベイランスにおいて小児症例の増加が指摘されていた(MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2025 Feb 27)。同レポートでは、小児インフルエンザ関連死亡例の9%がIAEによる死亡と報告され、早期の抗ウイルス薬使用と、必要に応じた集中治療管理、インフルエンザワクチン接種が推奨されていた。 本研究では、2024~25年シーズンで大規模小児医療センターの医師からIA-ANEが増加していると指摘があり、主症状、ワクチン接種歴、検査結果および遺伝学的解析結果、治療介入、臨床アウトカム(修正Rankinスケールスコア)、入院期間、機能的アウトカムを主要アウトカムとして調査結果が報告された。詳細は「インフルエンザ脳症、米国の若年健康児で増加/JAMA」に記載のとおりである。 本研究のdiscussionでは、サーベイランス結果と同様に、速やかな診断と集中治療管理、ならびにインフルエンザワクチン接種の有用性が強調されている。前者については、死亡例の多くが入院後1週間以内(中央値3日)に発生し、主因が脳浮腫に伴う脳ヘルニアであった点から指摘されている。後者については、米国における2023~24年および2024~25年シーズンの小児インフルエンザワクチン接種率がそれぞれ55.4%、47.8%であったのに対し、本研究に登録されたIA-ANE患者で接種歴を有したのは16%にとどまっていた点から指摘されている。 また、本研究では、アジア系の子供で急性壊死性脳症(ANE)が多かった。日本を中心としたアジアではANEが多い可能性が指摘されており、日本では2015~16年シーズン以降、IAEは新型コロナウイルス感染症の世界的な流行期間を除き毎年約100~200例が報告されており、2023~24年シーズンは189例が報告されていた(「インフルエンザ流行に対する日本小児科学会からの注意喚起」日本小児科学会)。本研究でもアジア人が登録された割合は高かったが、ANEに関連する可能性があるRANBP2やその他の遺伝的変異はアジア系の子供で多いわけではなく、非遺伝的要因が関与している可能性がある。 ANEは健康な小児でも発症することがあり、頻度は低いが壊滅的な神経学的合併症を来し、死亡することもある疾患である。日本での急性脳症の予後の報告でも、平成22年度の報告書では、急性脳症全体/急性壊死性脳症(ANE)で治癒56%/13%、後遺症(軽・中)22%/2%、後遺症(重)14%/33%、死亡6%/28%、その他・不明1%/3%だった。 本報告は米国におけるANEの臨床像と深刻さを明確に示すとともに、日本においても適切なワクチン接種の実施、IA-ANEの早期診断と集中管理、治療プロトコルの標準化が急務であることを再確認させられた。

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