サイト内検索|page:4

検索結果 合計:35095件 表示位置:61 - 80

61.

小児期の肥満は成人後に診療数が多くなる

 小児期のBMIは、成人になってからの疾患リスクに影響を与えるのだろうか。このテーマについて、デンマーク・コペンハーゲン大学病院臨床研究予防センターのJulie Aarestrup氏らの研究グループは、小児約11万人を対象に調査し、その結果、小児期に肥満だった人では、成人してからの診断件数が多かったことが判明した。この結果は、Obesity誌オンライン版2025年11月18日号で公開された。小児期の肥満では女性のほうが成人後に診断件数が多くなる 研究グループは、15~60歳までの性別特異的な疾患診断パターンが、小児期のBMIによって異なるかどうかを調査するために、コペンハーゲン学校健康記録登録簿中の1962~96年生まれで体重・身長が測定された児童11万2,952例(女子5万5,603例)を対象に、7歳時のBMIを低体重(4.3%)、正常体重(83.1%)、過体重(9.2%)、肥満(3.5%)に分類した。病院ベースの診断は、全国登録データから取得し、BMI群ごとに頻度の高い疾患上位50種について、性別別の累積発生率を算出した。 主な結果は以下のとおり。・小児期肥満の人は、60歳までの病院での診断件数の推定値が高く、女性で18.2件(95%信頼区間[CI]:16.9~19.5)、男性で15.1件(95%CI:13.8~16.4)だった。・正常体重の人の診断件数の推定値は、女性で14.7件(95%CI:14.5~14.9)、男性で11.7件(95%CI:11.5~11.8)だった。・小児期肥満の女性と男性において、60歳までの診断で最も多かったのは、成人期の過体重(36.4%)と肥満(11.8%)だった。・小児期のBMI区分によるその他の疾患の差はわずかだった。 これらの結果から研究グループでは、「小児期に肥満だった成人は、病院ベースの診断数が最も多かった。成人期の過体重および肥満を除き、小児期のBMIグループ間における生涯にわたる疾患パターンはおおむね類似していた」と結論付けている。

62.

ベンゾジアゼピンの使用は認知症リスクにどの程度影響するのか?

 ベンゾジアゼピン系薬剤(BZD)は、不眠症や不安症の治療に幅広く使用されている。しかし、BZDの長期使用は、認知機能低下を加速させる可能性がある。認知症の前駆症状がBZD使用のきっかけとなり、逆因果バイアスが生じている可能性もあるため、エビデンスに一貫性が認められていない。カナダ・Universite de SherbrookeのDiego Legrand氏らは、BZDの使用量、投与期間、消失半減期が認知症発症と独立して関連しているかどうかを検証し、前駆期による交絡因子について検討を行った。Journal of the Neurological Sciences誌2025年12月15日号の報告。 Canadian Community Health Surveyから抽出したtorsade cohortを対象に、医療行政データベースにリンクした症例対照研究を実施した。BZDの使用量、投与期間、消失半減期は、多変量条件付きロジスティック回帰を用いて解析した。モデル1では、認知症リスク因子を調整した。モデル2では、BZDの潜在的な適応症(不眠症、不安症、うつ病)についても調整した。前駆症状の影響を検証するため、インデックス日を診断の1~10年前に変更した。症例群は50歳以上の認知症患者とし、対照群は性別、年齢、フォローアップ調査、教育歴でマッチングさせた。 主な結果は以下のとおり。・症例群1,082例および対照群4,262例において、モデル1では、BZDの使用が認知症と関連していることが示唆された(オッズ比[OR]:1.65、95%信頼区間:1.42~1.93)。・認知症リスクは、半減期が長い薬剤(OR:2.81)のほうが、半減期が中程度の薬剤(1.57)よりも高かった。・モデル2では、180日超の慢性的なBZDの使用は、診断前4年以内において、認知症リスクとの関連が認められた。 著者らは「BZDの使用は、認知症リスクの上昇と関連しており、半減期が長い薬剤で最も強い関連が認められた。BZDの慢性的な使用との関連が4年間の前駆症状に限定されていることは、適応による交絡、あるいは逆因果関係を示唆している。これらの知見は、高齢者におけるBZDの使用は、慎重かつ期限を限定して行うべきであることを強調している」と結論付けている。

63.

妊娠中の体重増加と母体および新生児の臨床アウトカムの関連/BMJ

 オーストラリア・モナシュ大学のRebecca F. Goldstein氏らは、世界のさまざまな地域および所得水準の妊産婦を対象とした観察研究のシステマティックレビューおよびメタ解析を行い、米国医学研究所(IOM)の推奨値を超える妊娠中の体重増加(GWG)は、アウトカムが不良となるリスクの増加と関連していることを示した。著者は、「今回の結果は、WHOが推進している世界各地の周産期アウトカムの改善に向けたGWG基準の最適化プロセスに役立つだろう」としている。BMJ誌2025年11月19日号掲載の報告。コホート研究40件、妊婦約161万人についてレビュー&解析 研究グループは、Embase、EBM Reviews、Medline、Medline In-Process、その他のデータベースを用い、2009年~2024年5月1日に発表された論文を検索した。適格基準は、18歳超の単胎妊娠の女性300例超を対象とし、妊娠前BMIカテゴリー別の総GWG、ならびに研究で定義されたBMIおよびGWG別のアウトカムが報告されている観察研究とした。言語は問わなかった。 主要アウトカムは、出生体重、帝王切開率、妊娠高血圧症候群、早産、在胎不当過小/過大児、低出生体重、巨大児、新生児集中治療室(NICU)入室、呼吸窮迫症候群、高ビリルビン血症、および妊娠糖尿病とした。 検索の結果、2万1,729件の研究が同定され、適格と判定された計40件のコホート研究(妊産婦計160万8,711例)がレビューに包含された。体重増加がIOM推奨値を下回ると、早産、低出生体重児などが増加 コホート全体で、低体重が6%(6万5,114例)、正常体重が53%(60万7,258例)、過体重が19%(21万5,183例)、肥満が22%(25万2,970例)であった(データ入手は114万252例、WHO分類およびアジア人のBMI分類の両方を含む研究で定義されたBMI分類に基づく)。妊娠終了時、GWGがIOM推奨値を下回っていたのは23%、上回ったのは45%であった。 WHOのBMI基準を用いたところ、IOM推奨値を下回るGWGは、出生体重の低下(平均差:-184.54、95%信頼区間[CI]:-278.03~-91.06)、帝王切開分娩(オッズ比[OR]:0.90、95%CI:0.84~0.97)、在胎不当過大児(0.67、0.61~0.74)、巨大児(0.68、0.58~0.80)の低いリスク、早産(1.63、1.33~1.90)、在胎不当過小児(1.49、1.37~1.61)、低出生体重児(1.78、1.48~2.13)、呼吸窮迫症候群(1.29、1.01~1.63)の高いリスクと関連していた。上回ると、帝王切開、妊娠高血圧症候群、在胎不当過大児などが増加 一方、IOM推奨値を上回るGWGは、出生体重の増加(平均差:118.33、95%CI:53.80~182.85)、帝王切開分娩(OR:1.37、95%CI:1.30~1.44)、妊娠高血圧症候群(1.37、1.28~1.48)、在胎不当過大児(1.77、1.62~1.94)、巨大児(1.78、1.60~1.99)、およびNICU入室(1.26、1.09~1.45)の高いリスク、早産(0.71、0.64~0.79)および在胎不当過小児(0.69、0.64~0.75)の低いリスクと関連していた。 アジア人のBMI基準では、GWGが推奨値を下回ると、妊娠高血圧症候群(OR:3.58、95%CI:1.37~9.39)および早産(1.69、1.25~2.30)の高いリスク、在胎不当過大児(0.80、0.72~0.89)の低いリスクと関連し、GWGが推奨値を上回ると帝王切開(1.37、1.29~1.46)および在胎不当過大児(1.76、1.42~2.18)の高いリスク、在胎不当過小児(0.62、0.53~0.74)および低出生体重(0.44、0.31~0.6)の低いリスクと関連した。

64.

DES留置後1年以上の心房細動、NOAC単剤vs.NOAC+クロピドグレル併用/NEJM

 1年以上前に薬剤溶出ステント(DES)の留置を受けた心房細動患者において、非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)単剤療法はNOAC+クロピドグレルの併用療法と比較し、全臨床的有害事象(NACE)に関して非劣性であることが認められた。韓国・Yonsei University College of MedicineのSeung-Jun Lee氏らが、同国32施設で実施した研究者主導の無作為化非盲検非劣性試験「Appropriate Duration of Antiplatelet and Thrombotic Strategy after 12 Months in Patients with Atrial Fibrillation Treated with Drug-Eluting Stents trial:ADAPT AF-DES試験」の結果を報告した。ガイドラインの推奨にもかかわらず、DES留置後の心房細動患者におけるNOAC単剤療法の使用に関するエビデンスは依然として限られていた。NEJM誌オンライン版2025年11月8日号掲載の報告。第2または第3世代DES留置後1年以上の高リスク心房細動患者が対象 研究グループは、心房細動と診断され、登録の1年以上前に第2世代または第3世代のDESを留置するPCIを受け、CHA2DS2-VAScスコアが2以上の19~85歳の患者を、NOAC単剤療法群またはNOAC+クロピドグレル併用療法群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 NOACは担当医師の選択としたが、試験ではアピキサバンまたはリバーロキサバンのみを使用した。 主要エンドポイントは、無作為化後12ヵ月時点における全死因死亡、心筋梗塞、ステント血栓症、脳卒中、全身性塞栓症または大出血もしくは臨床的に重要な非大出血の複合であるNACEで、非劣性マージンは主要エンドポイント発現率の群間差の片側97.6%信頼区間(CI)の上限が3.0%とし、ITT解析を行った。なお、非劣性が認められた場合、主要エンドポイントにおけるNOAC単剤療法の優越性を第1種過誤率4.8%(両側)として検定することが事前に規定された。12ヵ月時のNACE発現率、単剤群9.6%vs.併用群17.2% 2020年4月~2024年5月に計1,283例がスクリーニングされ、このうち960例が無作為化された(単剤療法群482例、併用療法群478例)。平均年齢は71.1歳、女性が21.4%であった。 主要エンドポイントのイベントは単剤療法群で46例(Kaplan-Meier推定値9.6%)、併用療法群で82例(17.2%)に発現し、絶対群間差は-7.6%(95.2%CI:-11.9~-3.3、非劣性のp<0.001)、ハザード比(HR)は0.54(95.2%CI:-0.37~0.77、優越性のp<0.001)であった。 大出血もしくは臨床的に重要な非大出血は、単剤療法群で25例(5.2%)、併用療法群で63例(13.2%)に発現した(HR:0.38、95%CI:0.24~0.60)。大出血の発現率はそれぞれ2.3%および6.1%(HR:0.37、95%CI:0.18~0.74)、臨床的に重要な非大出血の発現率は2.9%および7.1%(0.40、0.21~0.74)であった。

65.

ER+/HER2-早期乳がん術後ホルモン療法、giredestrant vs.標準治療(lidERA)/SABCS2025

 ER+/HER2-早期乳がんの術後内分泌療法として、経口選択的エストロゲン受容体分解薬(SERD)giredestrantと現在の標準治療である内分泌療法を比較した第III相lidERA試験の中間解析の結果、giredestrantは無浸潤疾患生存期間(iDFS)の統計学的に有意かつ臨床的に意義のある改善をもたらし、再発または死亡に至る可能性を30%低下させたことを、米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校のAditya L. Bardia氏が、サンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2025、12月9~12日)で報告した。・試験デザイン:非盲検国際多施設共同無作為化試験・対象:12ヵ月以内に乳がん手術を受け、必要に応じて術前/術後化学療法を完了したStageI~III、ER+/HER2-の早期乳がん患者 4,170例・試験群:giredestrant 30mg 1日1回経口投与 2,084例・対照群:標準内分泌療法(タモキシフェン、アナストロゾール、レトロゾール、エキセメスタンから1つ選択) 2,086例※5年間または許容できない毒性が発現するまで継続。閉経前・閉経前後の女性および男性はLH-RHアゴニストを併用。・評価項目:[主要評価項目]iDFS[副次評価項目]無遠隔再発期間(DRFI)、全生存期間(OS)、安全性など・データカットオフ:2025年8月8日 主な結果は以下のとおり。・ベースライン特性は両群でバランスがとれており、年齢中央値は両群ともに54.0歳で女性が99.5%であった。閉経後がgiredestrant 59.0%および標準内分泌療法群59.6%、StageIが12.3%および13.6%、StageIIが49.0%および45.7%、StageIIIが38.7%および40.6%、化学療法歴を有したのは81.0%および78.4%であった。・追跡期間中央値は32.3ヵ月であった。・主要評価項目であるIDFSイベントはgiredestrant群140例(6.7%)、標準内分泌療法群196例(9.4%)に発生し、ハザード比(HR)は0.70(95%信頼区間[CI]:0.57~0.87、p=0.0014)であった。3年IDFS率はgiredestrant群92.4%、標準内分泌療法群89.6%であった。・IDFSを内分泌療法別にみると、giredestrant vs.アロマターゼ阻害薬のHRは0.73(95%CI:0.58~0.92)、giredestrant vs.タモキシフェンのHRは0.53(0.35~0.80)であった。・IDFSにおけるgiredestrantのベネフィットは、事前に規定していたすべてのサブグループで同様であった。・DRFIイベントはgiredestrant群102例(4.9%)、標準内分泌療法群145例(7.0%)に発生した(HR:0.69、95%CI:0.54~0.89)。3年DRFI率はgiredestrant群94.4%、標準内分泌療法群92.1%であった。・OSは未成熟であったものの、giredestrant群において改善傾向がみられた(HR:0.79、95%CI:0.56~1.12、p=0.1863)。・Grade3/4の有害事象(AE)はgiredestrant群407例(19.8%)および標準内分泌療法群372例(17.9%)、重篤なアウトカムに至ったAEは6例(0.3%)および16例(0.8%)に発現した。・giredestrant群で多かった全GradeのAEは関節痛(48.0%)、ホットフラッシュ(27.4%)、頭痛(15.3%)などであった。Grade3/4のAEは高血圧(2.6%)、関節痛(1.5%)などであった。 Bardia氏は「lidERA試験の結果は、giredestrantがER+/HER2-早期乳がん患者における新たな標準治療となる可能性を支持するものである」とまとめた。

66.

アトピー性皮膚炎患者に最適な入浴の頻度は?

 アトピー性皮膚炎患者にとって入浴は判断の難しい問題であり、毎日の入浴が症状の悪化を引き起こすのではないかと心配する人もいる。こうした中、新たなランダム化比較試験で、入浴の頻度が毎日でも週に1~2回でも、入浴がアトピー性皮膚炎の症状に与える影響に違いはないことが明らかになった。 この試験を実施した英ノッティンガム大学臨床試験ユニットのLucy Bradshaw氏は、「アトピー性皮膚炎の人でも自分に合った入浴頻度を選べることを意味するこの結果は、アトピー性皮膚炎の症状に苦しむ人にとって素晴らしい知らせだ」と述べている。この臨床試験の詳細は、「British Journal of Dermatology」に11月10日掲載された。 アトピー性皮膚炎は、皮膚の水分保持力の低下や外的刺激や病原体から体を守る力(バリア機能)の低下により、皮膚の乾燥、かゆみ、凹凸などが生じる疾患である。今回の試験では、438人のアトピー性皮膚炎患者(16歳未満108人)を対象に、入浴の頻度が症状に与える影響が検討された。入浴は、シャワーだけを浴びる場合とバスタブに身体を浸す場合の双方を含めた。対象者は、4週間にわたり、週に1〜2回入浴する群(220人)と毎日(週に6回以上)入浴する群(218人)にランダムに割り付けられた。主要評価項目は、週に1回、POEM(patient oriented eczema measure)を使って患者が報告したアトピー性皮膚炎の症状であった。 その結果、ベースライン、および1、2、3、4週目の平均POEMスコアは、毎日入浴した群でそれぞれ14.5点、11.7点、12.2点、11.7点、11.6点、週1〜2回入浴した群ではそれぞれ14.9点、12.1点、11.3点、10.5点、10.6点であった。両群間の4週間の平均POEMスコアの調整差は−0.4(95%信頼区間−1.3~0.4、P=0.30)であり、有意な差は認められなかった。 共著者の1人であり、自身もアトピー性皮膚炎に罹患しているノッティンガム大学Centre of Evidence Based Dermatology(CEBD)のAmanda Roberts氏は、「この研究結果には非常に安心した」と話す。同氏は、「日常生活の中にはアトピー性皮膚炎の症状に影響する可能性があるものがたくさんある。そのため、入浴やシャワーの頻度はそこに含まれないと知っておくのは、心配事が一つ減って喜ばしいことだ」と話している。 研究グループは次の研究で、アトピー性皮膚炎の再発の治療において、ステロイド薬をどのくらいの期間使用すべきかを調べる予定だという。Bradshaw氏は、「アトピー性皮膚炎患者と緊密に協力しながらこの研究を共同設計できたことは素晴らしい経験だった。われわれは、これまでの研究では十分に注目されてこなかった、アトピー性皮膚炎患者の生活にまつわる疑問に答えを見つけ始めたところだ」と述べている。

67.

脂肪由来の幹細胞が脊椎圧迫骨折の治癒を促進

 日本の研究グループが、骨粗しょう症患者によく見られる背骨の圧迫骨折(脊椎圧迫骨折)の新たな治療法に関する成果を報告した。脂肪由来の幹細胞(ADSC)を用いた再生医療により骨折を修復できる可能性のあることが明らかになったという。幹細胞は、骨を含むさまざまな種類の組織に成長することができる。大阪公立大学大学院医学研究科整形外科学の高橋真治氏らによるこの研究の詳細は、「Bone & Joint Research」に10月28日掲載された。高橋氏は、「このシンプルで効果的な方法は、治りにくい骨折にも対応可能で、治癒を早める可能性があり、患者の健康寿命を延ばす新たな治療法となることが期待される」と話している。 骨粗しょう症は、骨量が減って骨がもろくなり、骨折しやすくなる病態である。骨粗しょう症患者に最も多く見られる骨折は、脊椎圧迫骨折である。脊椎圧迫骨折は長期にわたる障害につながり、生活の質(QOL)を著しく制限する可能性がある。米食品医薬品局(FDA)によると、推定2,000万人の米国人が骨粗しょう症に悩まされており、その多くは更年期に伴うホルモン変化の影響を受けた高齢女性であるという。 高橋氏らは、ADSCを骨に分化させ、3次元的に培養して「ADSC骨分化スフェロイド」と呼ばれる細胞集合体を作製した。次に、このスフェロイドを人工骨に利用されるβ-リン酸三カルシウム(β-TCP)と組み合わせた上で骨折したラットの背骨に移植し(骨分化スフェロイド群)、ADSC未分化スフェロイドとβ-TCPを移植した群(未分化スフェロイド群)、またはβ-TCPを単独で移植した群(対照群)との間で骨再生の効果を比較した。 その結果、骨分化スフェロイド群と未分化スフェロイド群では対照群と比べて、骨量および骨癒合スコアが有意に改善し、特に骨分化スフェロイド群での改善は顕著であった。また、骨分化スフェロイド群では対照群と比べて、力学的強度も有意に改善していた。組織学的解析では、骨分化スフェロイド群では他の2群に比べて骨再生が顕著であった。さらに、遺伝子発現解析の結果、骨分化スフェロイド群では、アルカリホスファターゼ(ALP)やオステオカルシン(OCN)などの骨形成マーカーや、BMP-7、IGF-1などの再生関連因子の発現が多く、アポトーシスが抑制されていることも確認された。 論文の筆頭著者である大阪公立大学大学院医学研究科整形外科学の澤田雄大氏は、「本研究から、ADSCを用いた骨分化スフェロイドが、脊椎骨折の新たな治療法の開発において有望であることが明らかになった。この治療法では、脂肪由来の細胞を用いているため、人体への負担が少なく、患者の安全性も確保される」とニュースリリースの中で述べている。 この新しい治療法は、現時点ではラットでのみ検証されており、人間を対象にした場合には結果が異なる可能性がある。それでも研究グループは、「この治療アプローチは、骨疾患に対する侵襲性が最小限の治療法につながる可能性がある」と期待を示している。

68.

AIモデルが臓器ドナーの死亡タイミングを予測

 肝臓を提供する人(ドナー)の生命維持装置が外されてから死亡するまでの時間が30~45分を超えると、提供された肝臓が移植を受ける患者(レシピエント)の体内で良好に機能する可能性が低くなるため、移植は却下されることになる。しかし新たな研究で、人工知能(AI)モデルが、臓器が移植可能な状態を保てる時間内にドナーが死亡する可能性を医師よりも正確に予測し、ドナーが時間内に死亡せず、移植に至らなかったケースの割合(無駄な臓器取得率)を60%減らすことができたことが示された。米スタンフォード大学医学部腹部臓器移植外科臨床教授の佐々木一成氏らによるこの研究の詳細は、「The Lancet Digital Health」に11月13日掲載された。 佐々木氏は、「このモデルは、手術の準備を始める前に臓器を使用できるかどうかを判断することで、移植プロセスをより効率的なものにする可能性がある。これにより、臓器移植を必要とするより多くの候補者が移植を受けられるようになるかもしれない」とニュースリリースの中で述べている。 佐々木氏らの説明によると、末期肝疾患患者に最善の治療法は肝移植であるという。多くの場合、ドナー肝臓は心停止を起こしたが生命維持装置によって生存が維持されている人から提供される。これは「心停止後臓器提供(donation after circulatory death;DCD)」と呼ばれている。 しかし、こうしたドナーから適合条件を満たした肝臓が見つかっても、生命維持装置を外した後の生存期間が長かった場合、約半数のケースで移植は中止されることになる。佐々木氏らによると、生命維持装置の停止後、死亡確認までの間、臓器への血液供給は変動する。特に、死に至るまでの時間が30分を超える場合、そのような変動により肝臓が損傷するリスクが高まるという。ドナーになる可能性のある人の約半数は、生命維持装置の停止から30分以内に死亡するため、移植に適したドナーとなるが、残りのケースでは、外科医がバイタルサインや血液検査、神経学的情報に基づき臓器提供が可能かどうかを判断する。 佐々木氏らは、2022年12月1日から2023年6月30日にかけて1,616人のドナーの情報を収集し、外科医が利用できるものと同じ情報を用いてドナーの死亡時刻をより正確に予測するようにAIモデルを訓練した。このAIモデルでは、性別、年齢、体重などの基本情報に加え、バイタルサイン、血液検査の結果、心疾患の既往歴、神経学的評価などを解析に使用した。また、呼吸補助の程度を反映する人工呼吸器設定も予測因子として組み込んだ。 訓練後、このAIモデルの予測精度を過去の398人のドナーのデータで検証し、さらに新たにドナーとなる可能性のある207人でも検証した。その結果、AIモデルはドナーが一定時間内に死亡するかどうかを、外科医の判断や既存のリスク評価ツールよりも正確に予測した。無駄な臓器取得率は、外科医で平均19.5%であったのがAI予測モデルでは7.8%と約60%減少した。一方、ドナーが予想よりも早く死亡したため移植準備が間に合わなかった機会損失率は、外科医で15.5%、AIで16.7%とほぼ同等であった。 佐々木氏は、「われわれは現在、こうした機会損失率を低下させる取り組みを進めている。移植を必要とする患者がそれを受けられるようにすることが、最優先されるべきだからだ」と言う。また同氏は、「われわれはさまざまな機械学習アルゴリズムを競わせることでモデルの改善を続けている。最近、死亡時刻の予測精度を維持しつつ、機会損失率を約10%に抑えられる新しいアルゴリズムを見出した」と付け加えている。研究グループは、このモデルを心臓や肺の移植に応用する方法についても検討を進めている。

69.

SGLT2阻害薬の腎保護作用:eGFR低下例・低アルブミン尿例でも新たな可能性/JAMA(解説:栗山哲氏)

本論文は何が新しいか? SGLT2阻害薬は、2型糖尿病、糖尿病関連腎臓病(DKD)、慢性腎臓病(CKD)、心不全患者などにおいて心・腎アウトカムを改善する明確なエビデンスがある。しかし、腎保護作用に関し、従来、ステージ4 CKD(G4)や尿アルブミン排泄量の少ない患者での有効性は不明瞭であり、推奨度は低かった。この点に注目し、SGLT2阻害薬が腎アウトカムに与える「クラス効果(class effect)」を高精度に評価することを目的とし、オーストラリアのBrendon L. Neuen氏らは、SGLT2阻害薬の大規模臨床研究(ランダム化二重盲検プラセボ対照試験:RCT)を、SGLT2 Inhibitor Meta-Analysis Cardio-Renal Trialists' Consortium(SMART-C:国際共同研究)として統合的にメタ解析した(JAMA誌オンライン版2025年11月7日号、ケアネット11月28日掲載)。本解析の結果、SGLT2阻害薬の腎保護作用は、ステージ4のeGFR低下群や低UACR群でも認められ、糖尿病の有無にかかわらず一貫した効果が確認された。この新たな知見は、腎機能の中等度以上低下群や低尿アルブミン群への適応拡大を示唆する。SMART-C研究の主な成績 解析対象は、SGLT2阻害薬のRCT10件、計7万361例(平均年齢64.8±8.7歳)。主要アウトカムはCKD進行(腎不全、eGFRの50%以上低下、腎死)とし、年間eGFR低下率、腎不全単独なども評価。治療効果は、逆分散加重メタ解析を用いて統合した。その主な結果は、CKD進行リスクを低下させた(ハザード比[HR]:0.62、95%信頼区間[CI]:0.57~0.68)。この効果は、ベースラインの推定糸球体濾過量(eGFR)に関係なく一貫して認められた(eGFR≧60mL/分/1.73m2の場合HR:0.61、45~<60の場合HR:0.57、30~<45の場合HR:0.64、<30の場合HR:0.71、傾向p値=0.16)。また、尿中アルブミン排泄(尿アルブミン・クレアチニン比[UACR])別でも効果は一貫しており(UACR<30mg/gでHR:0.58、30~300でHR:0.74、>300でHR:0.57、傾向p値=0.49)、低UACR群でも有効性が確認された。さらに、糖尿病の有無にかかわらず、すべてのeGFRおよびUACRサブグループにおいて、eGFR年間低下率を改善し、また、腎不全単独のリスクも減少させた(HR:0.66、95%CI:0.58~0.75)。なお、RAS阻害薬の使用率は、各サブグループ間で81~93%であった。また、論文記載のイベント率(SGLT2群25.4 vs.プラセボ群40.3/1,000人年)を基に筆者が算出した治療必要数(NNT)は、中央値3年で約22、高リスク群では16程度と推定された。SMART-C研究のインパクト 従来、SGLT2阻害薬は2型糖尿病やDKDを中心に使用されてきた。本研究の大きな意義は、糖尿病の有無、eGFR、UACRにかかわらず腎保護作用が一貫して認められた点である。現在、日本腎臓学会の「SGLT2阻害薬適正使用の推奨案」では、DKDで第1選択薬としてSGLT2阻害薬が明記されている。開始基準として、DKDではeGFR≧20mL/分/1.73m2での開始を推奨するものの、G5(eGFR<15)での新規開始は不可としている。さらに、DKDでは蛋白尿の有無にかかわらずSGLT2阻害薬は推奨されるが、非糖尿病CKDで蛋白尿陰性の場合は、G2(eGFR≧60)以下では慎重投与となっている(日本腎臓学会誌. 2023;65:1-10.)。一方、SMART-CではG4 CKD(eGFR15~29)でも、低UACR群でも腎保護効果が確認された。この結果は、本邦のガイドラインでは積極的に推奨されないCKD進行例や尿蛋白陰性例でも、SGLT2阻害薬の適応が拡大する可能性を示唆しており、将来的にガイドライン改訂に影響を与えると考えられる。いずれにしても、SMART-Cの成果は、SGLT2阻害薬を「血糖降下薬」から、「心・腎保護の基盤治療薬(foundation therapy)」と位置付ける根拠を提供した。とくに、糖尿病・心不全・CKDなどが複数併存する高リスク患者にとっても有益性が高いことが示され、実臨床/ガイドラインでの採用を裏付けるデータとなった。医療経済の面から、CKD進行イベント率から算出したNNTは約22、高リスク群では16程度と推定され、絶対的ベネフィットは大きい。また、発売10年が経過し、ジェネリック医薬品の登場によりコスト面でのハードルも低下する見込みである。 SMART-C研究には課題もある。この解析研究では、対象の約85%でRAS阻害薬が併用されている。つまり、ここで観察された腎保護効果はRAS阻害薬存在下で得られたものであり、SGLT2阻害薬の単独効果は未検証である。このことから、現時点においてSGLT2阻害薬による腎保護の介入は、RAS阻害薬の併用を前提とすることが望ましい。今後の検討事項としては、初期治療でのSGLT2阻害薬単独の腎保護効果を検証する必要がある。なお、SGLT2阻害薬の腎保護機序は、DKDでは主に糸球体過剰濾過の改善とされるが、それ以外にも諸説が提唱されている(Vallon V. Am J Hypertens. 2024;37:841-852)。かかりつけ医と腎臓専門医の役割 本邦の実臨床においてSMART-Cの結果をどのように導入するか。病態早期(G1~G2、eGFR≧60)やステージG3b(eGFR30~44)の中等症までのDKD/CKD患者でのSGLT2阻害薬導入は、かかりつけ医で可能と考えられる。初期投与後、2~4週でeGFRが一過性に10~20%低下する「initial dip」が観察されるが、これは糸球体過剰濾過腎では病態生理学的に許容範囲と考えられており、中長期的には緩徐なeGFRスロープ低下に移行する。一方、ステージG4(eGFR15~29)のDKD/CKDや複雑な腎病態を呈する症例でのSGLT2阻害薬開始は、腎臓専門医との病診連携が好ましい。この際、かかりつけ医は定期的モニタリングを担うことが望ましい。SGLT2阻害薬導入時の具体的な安全管理として、脱水・低血圧・利尿状況の確認、糖尿病合併例でのシックデイ時の休薬指導・ケトアシドーシス予防、急性腎障害のリスク管理、尿路感染症などへの対応が重要である。高齢者に多い高血圧性腎硬化症では、UACRは低値でeGFRは中等度に低下した虚血腎が病態のベースにある。こうした症例でもSMART-Cのベネフィットが再現できるか、また長期安全性や副作用リスクをどこまで担保できるかは、今後のリアルワールドデータの構築と検証が課題である。

71.

外来診療のドタバタ【Dr. 中島の 新・徒然草】(610)

六百十の段 外来診療のドタバタようやく年賀状の印刷を発注することができました。12月9日までだと印刷代が25%引きになるということで発奮した結果です。あとは一言メッセージを書いて投函するだけ。その一方で、今年も喪中はがきを多く受け取りました。よくある文面が「母 ○○が○○歳にて永眠いたしました」というもの。昭和の頃はこの○○歳が70代なら普通だと思っていましたが、今は「ちょっと若いかも」と思ってしまいます。2025年の現在、日本人の平均寿命は男性が81歳、女性が87歳ですが、前回の万博が行われた1970年は男性が69歳、女性が75歳だったので、そう感じるのも無理はないのかもしれません。さて、今回は高次脳機能障害の「あるある」について語りたいと思います。先日の脳外科外来にやって来た40代の男性。頭部外傷による高次脳機能障害があります。そのせいか、働いていると無茶苦茶疲れるのだとか。記憶障害があるため、何でも忘れてしまいがち。だから、職場では彼に何かを頼むときは「紙に書いて渡す」というルールになっているそうです。が、奥さんにそのルールは通じません。「帰りに牛乳とマヨネーズを買ってきて」と簡単に頼んでしまいます。もちろん、彼はすっかり忘れて手ぶらで帰り、夫婦喧嘩になってしまうとのこと。 患者 「買い物リストをラインで送ってくれたときには、忘れずに済むんですけどね」 と彼は私にこぼしました。なるほど、それなら完璧!でも、予想外の落とし穴がありました。 患者 「ラインの後に電話で『卵もお願い!』とか付け加えられたら、卵だけ忘れてしまうんですよ」 ということなのだとか。 中島 「なるほど、そういうときは追加の卵もラインで送ってほしいですよね。できたらリストもアップデートして『牛乳、マヨネーズ、卵』という形で」 患者 「そうそう! でも、いくらそれを言っても嫁は理解しようとしないんです」 奥さん、口頭指示は間違いのもとですよ。似たような話がもう1つあります。こちらはアラフィフの女性患者さん。職場での労災事故で、高次脳機能障害を来してしまったもの。普段しゃべっている分には目立ちませんが、大切なことがいろいろと抜けてしまいます。先日も娘さんと一悶着あったのだとか。久しぶりに実家に帰ってきた娘さん、自分の服が見当たりません。翌日の友人の結婚式に着て行こうと思っていたものです。母親である患者さんにクリーニングを頼んでいたものの、頼まれたほうは、それをクリーニングに出したか否か、そして回収したか否かも覚えていません。ダメ元でクリーニング店に行ってみたら、すでにつぶれてしまって、跡形もありませんでした。結局は、母親が若い頃に着ていた服で間に合わせたのだそうです。 中島 「そんな大事な服を母親に頼むのが間違っていますよ。何かと記憶が抜けてしまうんだから」 と私が言うと、「そうなのよ、先生!」と患者さんに激しく同意されました。 患者 「でもね、あの子も私に頼んだら、クリーニング代を節約できると思ったんじゃないかな」 とも。なるほど、言われてみればそのとおり!これは気が付きませんでした。というわけで外来診療のドタバタ。高次脳機能障害に対しては、ご家族をはじめとした周囲の人たちの理解が大切だ、というお話でした。最後に1句 喪中来て 思い出したり 忘れたり

72.

12月11日 胃腸の日【今日は何の日?】

【12月11日 胃腸の日】 〔由来〕 「いに(12)いい(11)」(胃にいい)の語呂合わせから日本大衆薬工業協会(現:日本OTC医薬品協会)が2002年に制定。師走に1年間を振り返り、大切な胃腸に負担をかけてきたことを思い、胃腸へのいたわりの気持ちを持ってもらうのが目的。胃腸薬の正しい使い方や、胃腸の健康管理の大切さなどをアピールしている。関連コンテンツ 小児の消化管アレルギー(食物蛋白誘発胃腸症)【すぐに使える小児診療のヒント】 副作用編:下痢(抗がん剤治療中の下痢対応)【かかりつけ医のためのがん患者フォローアップ】 2日目のカレーは食中毒のリスク【患者説明用スライド】 コーヒー摂取量と便秘・下痢、IBDとの関連は? 心筋梗塞後の便秘、心不全入院リスクが上昇~日本人データ

73.

第40回 2050年には世界の3人に2人が都市住民に~「住む場所」が健康と寿命を左右する? 最新研究が示す都市の未来

便利だが、空気が悪くストレスがたまる都会。不便だが、自然豊かで空気がきれいな田舎。どちらが健康に良いかという議論は、古くから繰り返されてきました。しかし、世界中で急速な「都市化」が進む今、この問いはより複雑で、かつ切実なものになっています。2025年11月、Nature Medicine誌に掲載された論文1)は、都市での生活が私たちの健康に及ぼす影響について、社会的な不平等や気候変動といった視点を交えながら、多角的な分析を行っています。今回は、この論文を基に、都市という環境が私たちの体にどういった「見えない影響」を与えているのか、そしてこれからの都市生活において私たちが意識すべきことは何なのかを解説していきたいと思います。加速する都市化と、広がる「健康の格差」まず、私たちが直面している数字を見てみましょう。現在、人類の過半数がすでに都市部で暮らしており、その割合は2050年までに世界人口の3分の2に達すると予測されています。とくに、これからの都市化の主役は、高所得国ではなく、低・中所得国の都市です。都市は、創造性やイノベーションの中心地であり、経済的なチャンスや高度な医療サービスへのアクセスを提供する場所です。しかし一方で、都市は深刻な対立や暴力の場にもなりえます。さらに、急速で無秩序な都市の拡大は、非感染性疾患(糖尿病や心臓の病気など)、感染症、けがのリスクを高め、社会的な不平等を拡大させる要因にもなっています。この論文でとくに強調されているのが、都市内における「格差」の問題です。世界中で推定11億2,000万人もの人が、スラム街などの劣悪な環境で暮らしており、同じ都市に住んでいても、住むエリアによって健康状態や寿命に大きな開きがあることがわかっています。これは私の住むニューヨークエリアでも痛いほど感じることです。健康を決めるのは「病院」ではなく「街の構造」私たちは健康について考えるとき、「遺伝子」や「個人の生活習慣(何を食べるか、運動するか)」に目を向けがちです。しかし、この論文では、健康は「物理的環境」や「社会的環境」の複雑な相互作用によっても形作られると指摘されています。これを理解するために、少し深掘りしてみましょう。物理的環境大気汚染、騒音、猛暑、緑地の有無、住宅の質、交通機関の利便性などです。たとえば、歩道や自転車レーンが整備されている地域に住む人は、自然と身体活動量が増えますが、高速道路の近くに住む人は、排気ガスによる喘息や心臓病のリスクが高まります。社会的環境地域の安全性、暴力の有無、社会的孤立、人種差別、そして「ご近所付き合い」(社会的結束)などです。これらは心理的なストレスを通じて、私たちのホルモンバランスや免疫系に影響を与え、病気を引き起こす要因となります。重要なのは、これらの要因がバラバラに存在するのではなく、連鎖しているという点です。たとえば、所得の低い地域(社会的要因)には、工場や交通量の多い道路(物理的要因)が集中しやすく、結果としてそこに住む人々の健康が損なわれるという悪循環が生じています。つまり、健康を守るためには、単に病院を増やすといった介入だけでなく、都市計画そのものを見直す必要があるのです。「気候変動対策」は最強の「予防医療」この論文が提示するもう1つの重要な視点は、都市において気候変動対策が、一石二鳥になるという事実です。気候変動は、熱波による熱中症や洪水のリスクを高め、都市の住民の健康を脅かします。しかし、この対策として行われる政策の多くは、実は私たちの健康を改善することがわかってきました。たとえば、都市内の移動を自動車から徒歩や自転車、公共交通機関にシフトさせる「アクティブ・トランスポート」の推進は、温室効果ガスの排出を減らすだけでなく、大気汚染を改善し、人々の運動不足を解消します。また、街中に木々を植え、緑地を増やす「グリーンインフラ」の整備は、ヒートアイランド現象を緩和して気温を下げるだけでなく、住民のメンタルヘルスを改善し、ストレスを減らす効果も実証されています。論文ではさらに、住宅の断熱性能を高めることも、エネルギー効率を上げてCO2を削減すると同時に、寒さや暑さによる健康被害を防ぐ有効な手段であると述べられています。つまり、地球に優しい街づくりは、そのまま「体に優しい街づくり」になるのです。私たちが知っておくべきこと、できることでは、こうした研究結果を受けて、私たちはどうすればよいのでしょうか。まず、「住環境は健康リスクである」という認識を持つことです。自分が住んでいる場所の空気はきれいか、歩きやすいか、緑はあるか、安全か。引っ越しや住宅選びの際には、部屋の広さや家賃だけでなく、「健康に資する環境か」という視点を持つことが重要なのだと思います。次に、政策への関心です。自転車専用レーンの設置や公園の整備、大気汚染規制といった都市政策は、単なるインフラ整備ではなく、公衆衛生上の介入そのものです。政治的な意思がなければ、こうした健康的で公平な都市は実現できないでしょう。ただし、まだ解明されていないことも数多く残されています。たとえば、どのような政策に最も効果があるのか、特定の地域で成功したモデルは他の都市でも通用するのかといった点です。今後の研究では、都市間のデータを比較し、政策の効果が検証され続ける必要があるでしょう。都市化は避けられない未来です。しかし、その都市が私たちの寿命を縮める場所になるのか、それとも健康で豊かな生活を支える場所になるのかは、これからの都市計画と、それを監視・支持する私たちの意識にかかっているともいえます。人類が今後も健康に生き残り、繁栄するためには、環境に配慮した都市化以外に選択肢はないのかもしれません。 参考文献 1) Diez Roux AV, Bilal U. Advancing equitable and sustainable urban health. Nat Med. 2025;31:3634-3647.

74.

認知症リスク低減効果が高い糖尿病治療薬は?~メタ解析

 糖尿病治療薬の中には、血糖値を下げるだけでなく認知機能の低下を抑える可能性が示唆されている薬剤がある一方、認知症の発症・進展は抑制しないという報告もある。今回、国立病院機構京都医療センターの加藤 さやか氏らは、システマティックレビュー・ネットワークメタアナリシスにより、9種類の糖尿病治療薬について2型糖尿病患者の認知症リスクの低減効果があるのかどうか、あるのであればどの薬剤がより効果が高いのかを解析した。その結果、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、チアゾリジン薬、DPP-4阻害薬が認知症リスクの低減効果を示し、その効果はこの順に高い可能性が示唆された。Diabetes, Obesity and Metabolism誌オンライン版2025年10月22日号に掲載(2026年1月号に掲載予定)。 本研究では、PubMed、Cochrane Library、医中誌Webを開始時から2023年12月31日まで検索し、糖尿病治療薬の認知症への効果を評価した英語または日本語で報告された試験を選定した。 主な結果は以下のとおり。・67試験(408万8,683例)が対象となり、単剤療法と対照群(糖尿病治療薬の使用なし、プラセボ)の比較が3試験、単剤療法と追加療法の比較が1試験、リアルワールドデータベース研究が63試験であった。・解析の結果、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、チアゾリジン薬、DPP-4阻害薬が、対照群(プラセボ、糖尿病治療薬の使用なし、他の糖尿病治療薬)と比較して認知症リスクが低減し、その効果はこの順で高い可能性が示唆された。・インスリンは認知症リスクの上昇と関連していた。・メトホルミン、SU薬、グリニド薬、α-グルコシダーゼ阻害薬は、認知症リスクとの有意な関連は認められなかった。

75.

日本の精神科外来における頭痛患者の特徴とそのマネジメントの現状

 頭痛は、精神科診療において最も頻繁に訴えられる身体的愁訴の1つであり、しばしば根底にある精神疾患に起因するものと考えられている。1次性頭痛、とくに片頭痛と緊張型頭痛は、精神疾患と併存することが少なくない。しかし、精神科外来診療におけるこれらのエビデンスは依然として限られていた。兵庫県・加古川中央市民病院の大谷 恭平氏らは、日本の総合病院の精神科外来患者における頭痛の特徴とそのマネジメントの現状を明らかにするため、レトロスペクティブに解析を行った。PCN Reports誌2025年10月30日号の報告。 2023年4月〜2024年3月に、600床の地域総合病院を受診したすべての精神科外来患者を対象に、レトロスペクティブカルテレビューを実施した。全対象患者2,525例のうち、頭痛関連の保険診断を受けた360例(14.3%)を特定し、頭痛のラベル、治療科、処方薬に関するデータを抽出した。カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)を標的としたモノクローナル抗体について、追加の処方を含む探索的症例集積を行うため、観察期間を2025年3月まで延長した。 主な結果は以下のとおり。・頭痛関連の保険診断を受けた360例において、頻度の高い病名は、頭痛(203例、56.4%)、片頭痛(92例、25.6%)、緊張型頭痛(46例、12.8%)であった。群発頭痛と薬物乱用性頭痛はそれぞれ1例(0.3%)であった。・頭痛治療は、精神科(153例、42.5%)で最も多く行われており、次いで神経内科(42例、11.7%)、脳神経外科(40例、11.1%)、一般内科(28例、7.8%)、リウマチ科/膠原病科(15例、4.2%)の順であった。・使用された薬剤クラスは、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)(40例、11.1%)、アセトアミノフェン(38例、10.6%)、トリプタン系薬剤(23例、6.4%)、漢方薬(16例、4.4%)、抗CGRPモノクローナル抗体(6例、1.7%)などであった。・薬剤レベルでは、アセトアミノフェン(38例)が最も多く、次いでロキソプロフェン(33例)、ゾルミトリプタン(14例)、五苓散(8例)、スマトリプタン(6例)、葛根湯(6例)、ジクロフェナク(4例)、バルプロ酸(4例)、ナラトリプタン(3例)の順であった。・2025年3月までの患者7例を対象とした探索的CGRP解析では、6例が女性で、平均年齢は48.4±9.2歳であった。・精神疾患の併存疾患は多様であり、摂食障害、双極症、心的外傷後ストレス障害、社会不安障害を伴う気分変調症、統合失調症、自閉スペクトラム症、神経症性うつ病などが併存疾患として挙げられた。・すべての症例において頭痛の改善が認められた。2例は再発性発作のため、他の抗CGRPモノクローナル抗体への切り替えを必要としたが、その効果は維持された。1例は発疹のため一時的に投与を中止したが、その後、他の抗CGRPモノクローナル抗体を再開した。なお、気分/不安の中期的変化は限定的であった。 著者らは「精神科外来において、1次性頭痛は一般的であり、精神科で頻繁にマネジメントされていることが明らかとなった。抗CGRPモノクローナル抗体は、精神疾患が併存している患者においても頭痛の緩和をもたらすが、精神症状は改善したわけではなく、頭痛に特化したケアと並行してメンタルヘルス介入を行う必要性が示唆された。精神科における専門分野横断的な連携と早期の頭痛評価を強化することが重要であると考えられる」と結論付けている。

76.

BRAF変異陽性大腸がん、最適な分子標的療法レジメンは?/BMJ

 中国・海軍軍医大学のBao-Dong Qin氏らは、BRAF遺伝子変異を有する切除不能大腸がんに対する分子標的療法ベースのレジメンの有効性と安全性について、システマティックレビューとネットワークメタ解析を行い、1次治療については、2剤併用化学療法+抗EGFR/BRAF療法が最善の生存ベネフィットをもたらすことを、また2次治療以降では、抗EGFR/BRAF療法をベースとしたレジメン(MEK阻害薬あるいはPI3K阻害薬併用あり・なし)が、最も高い有効性および良好な忍容性を有する選択肢であることを示した。BRAF遺伝子変異を有する切除不能大腸がん患者の予後は不良であり、従来療法に対して十分な効果が得られない場合が多い。これまで複数の分子標的レジメンが検討され、抗EGFR/BRAF療法ベースのレジメンの臨床導入後、治療効果は大幅な改善が認められた。しかしながら、BRAF遺伝子変異を有する大腸がんの発生率は比較的低く、レジメンの有効性および安全性の直接比較は限られていた。BMJ誌2025年11月19日号掲載の報告。メタ解析でレジメンの1次治療および2次治療以降のOSを評価 研究グループは、BRAF遺伝子変異を有する切除不能大腸がんの分子標的薬ベースの治療戦略について、レジメン別およびレジメンの直接比較による有効性と安全性を評価するシステマティックレビューとネットワークメタ解析を行った。 PubMed、Embase、Cochrane Library、ClinicalTrials.gov(データベース開始~2025年5月31日)および国際学会抄録を検索。BRAF遺伝子変異を有する切除不能大腸がんに対する分子標的療法の有効性と安全性を検討し、少なくとも1つの対象臨床アウトカムを含む臨床試験および多施設共同リアルワールド研究を適格とした。 主要評価項目は、1次治療および2次治療以降の全生存期間(OS)とした。副次評価項目は、無増悪生存期間(PFS)、奏効率(ORR)、病勢コントロール率(DCR)、およびGrade3以上の有害事象などであった。 シングルアームメタ解析、ペアワイズメタ解析およびネットワークメタ解析を行い、OSとPFSのハザード比(HR)および95%信用区間(CrI)を統合し、ORRとDCRと有害事象のオッズ比および95%CrIを統合した。順位確率と累積順位曲線下面積(SUCRA)により、ネットワークメタ解析でレジメンの相対的優位性を評価した。1次治療では、2剤併用化学療法+抗EGFR/BRAF療法が最も良好 60試験、BRAF遺伝子変異を有する患者4,633例が対象に含まれた。 統合推定値により、患者は抗EGFR/BRAF療法をベースとしたレジメンからベネフィットを得られる可能性が示唆された。 1次治療では、2剤併用化学療法+抗EGFR/BRAF療法のOSが最も良好で、2剤併用化学療法+抗VEGF療法(HR:0.49、95%CrI:0.36~0.66)、3剤併用化学療法+抗VEGF療法(0.51、0.33~0.80)、抗EGFR/BRAF療法(0.70、0.51~0.96)と比較して有意な有益性を示した。 1次治療のすべての分子標的療法戦略において、化学療法+抗EGFR/BRAF療法のOSが最も優れており(2剤併用化学療法+抗EGFR/BRAF療法のSUCRA=0.94、単剤化学療法+抗EGFR/BRAF療法のSUCRA=0.90)、またPFSも最も優れていた(2剤併用化学療法+抗EGFR/BRAF療法のSUCRA=0.93、単剤化学療法+抗EGFR/BRAF療法のSUCRA=0.92)。2次治療以降では、抗EGFR/BRAF療法±阻害薬が最上位 2次治療以降では、抗EGFR/BRAF療法が阻害薬(MEK阻害薬あるいはPI3K阻害薬)の併用あり・なしにかかわらず、他の代替戦略と比較して有効性が高く、順位確率とSUCRAに基づく試験の順位がエンドポイント全体で最上位であった。 著者は、「今回の試験結果は、BRAF遺伝子変異を有する切除不能大腸がん患者に対する、ライン別の治療方針決定の必要性を強調するとともに、抗EGFR/BRAF療法ベースの治療戦略の役割を明確にし、現行ガイドラインを補完する可能性がある」とまとめている。

77.

IgA腎症、sibeprenlimabは蛋白尿を有意に減少/NEJM

 IgA腎症患者において、sibeprenlimabはプラセボと比較して蛋白尿を有意に減少させたことが、オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学のVlado Perkovic氏らVISIONARY Trial Investigators Groupが行った、第III相多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照試験「VISIONARY試験」の中間解析の結果で示された。IgA腎症の病態形成には、a proliferation-inducing ligand(APRIL)というサイトカインが深く関わると考えられている。sibeprenlimabはヒト化IgG2モノクローナル抗体で、APRILに選択的に結合して阻害する。第II相のENVISION試験では、sibeprenlimabの4週ごと12ヵ月間の静脈内投与により、蛋白尿の減少と推算糸球体濾過量(eGFR)の安定がみられ血清APRIL値の抑制に伴いガラクトース欠損IgA1値が低下した。安全性プロファイルは許容範囲内であった。NEJM誌オンライン版2025年11月8日号掲載の報告。sibeprenlimab 400mg vs.プラセボ、4週ごと100週間皮下投与を評価 VISIONARY試験は31ヵ国240施設で行われ、IgA腎症患者における腎機能温存能の評価を目的に、支持療法との併用によるsibeprenlimab 400mgの4週ごと皮下投与の有効性と安全性を評価した。 生検でIgA腎症と確認された成人患者を、sibeprenlimab 400mgまたはプラセボを4週ごと100週間にわたり皮下投与する群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 今回の中間解析における主要有効性エンドポイントは、ベースラインと比較した9ヵ月時点の24時間尿蛋白/クレアチニン比であった。 重要な副次エンドポイント(試験完了時に評価)は、24ヵ月にわたるeGFRスロープ(年率換算)であった。その他の副次エンドポイントは、血清免疫グロブリン値の変化、安全性などだった。また、探索的エンドポイントとして、ガラクトース欠損IgA1値および血清APRIL値の変化、随時尿の尿蛋白/クレアチニン比、血尿、および蛋白尿の寛解などが含まれた。24時間尿蛋白/クレアチニン比、sibeprenlimab群がプラセボ群より51.2%低下 計510例が無作為化された(sibeprenlimab群259例、プラセボ群251例)。事前に規定された中間解析(データカットオフ日:2024年9月4日)には、9ヵ月時点の24時間尿蛋白/クレアチニン比の評価を完了した試験登録当初の320例(sibeprenlimab群152例、プラセボ群168例)が包含された。 両群のベースライン特性は類似していた。320例のうち男性が62.5%、アジア人が59.1%を占め、97.5%がRA系阻害薬を、40.0%がSGLT2阻害薬をそれぞれ試験前に服用していた。年齢中央値は42歳、平均eGFRは63.4mL/分/1.73m2、24時間尿蛋白/クレアチニン比中央値は1.25であった。初回腎生検から無作為化までの期間中央値は1.5年で、おおむねIgA腎症と診断された患者を代表する試験集団であった。 9ヵ月時点で、24時間尿蛋白/クレアチニン比は、sibeprenlimab群では顕著な低下(-50.2%)が認められた一方、プラセボ群では上昇(2.1%)が認められた。24時間尿蛋白/クレアチニン比の補正後幾何最小二乗平均値は、sibeprenlimab群がプラセボ群と比較して51.2%(96.5%信頼区間:42.9~58.2)有意に低かった(p<0.001)。 またsibeprenlimab群では、血清APRIL値が95.8%、病原性ガラクトース欠損IgA1値が67.1%、それぞれベースラインから低下していた。 安全性プロファイルは両群で類似していた。死亡例の報告はなく、治療期間中に報告された重篤な有害事象の発現頻度は、sibeprenlimab群3.5%、プラセボ群4.4%であった。

78.

ビタミンDの個別化投与で心筋梗塞リスクが半減

 成人の心臓病患者では、血中ビタミンD濃度が最適域に達するように患者ごとに用量を調整して投与すると、そうでない場合に比べて心筋梗塞の発症リスクが5割以上低下することが示された。米インターマウンテン・ヘルスの疫学者Heidi May氏らによるこの研究結果は、米国心臓協会(AHA)年次総会(Scientific Sessions 2025、11月7〜10日、米ニューオーリンズ)で発表された。 過去の研究では、血中ビタミンD濃度の低下は心臓の健康状態の悪化につながることが示されている。今回のランダム化比較試験(TARGET-D)では、急性冠症候群の成人患者630人(平均年齢63歳、男性78%)を対象に、血中ビタミンD濃度が最適(40ng/mL超〜80ng/mL以下)になるように、患者ごとに用量を調整してビタミンD投与することで、心筋梗塞の再発、脳卒中、心不全による入院、または死亡を予防できるかどうかを検証した。試験参加者の48%に心筋梗塞の既往歴があった。参加者は、3カ月ごとに血液検査で血中ビタミンD濃度を確認して投与量を調整する治療群か、ビタミンD濃度のモニタリングや用量調整を行わない標準治療群のいずれかにランダムに割り付けられた。 この研究手法についてMay氏は、「ビタミンDに関するこれまでの臨床試験では、参加者全員に同量のビタミンDを投与し、事前に血中濃度を確認せずにその潜在的な影響を検証していた」と指摘する。その上で、「われわれの取ったアプローチはこうした研究とは異なる。登録時と研究期間を通して各参加者の血中ビタミンD濃度を確認し、必要に応じて投与量を調整することで、血中ビタミンD濃度を40~80ng/mLの範囲に維持した」と説明している。なお、参加者全体の85%、治療群の52%は試験開始時のビタミンD濃度が40ng/mL未満であり、治療群が最適な血中ビタミンD濃度を達成するためには、FDAの1日当たりの推奨量である800IU(20μg)を大幅に上回る5,000IU(125μg)が必要であったという。 平均4.2年間の追跡期間中に、心筋梗塞、心不全による入院、脳卒中、死亡を含む主要心血管イベントが107件発生した(治療群15.7%、標準治療群18.4%)。解析の結果、治療群では標準治療群に比べて、心筋梗塞の発症リスクが52%低いことが示された。一方で、死亡、心不全による入院、脳卒中の発生に関しては、両群間で有意な差は認められなかった。 こうした結果からMay氏は、「心臓病に罹患している人は、自分に必要なビタミンDの量を決めるために、血液検査による血中ビタミンD濃度の測定やその投与量について、医療従事者と相談することを勧める」とニュースリリースで述べている。 研究グループは、心筋梗塞の既往歴がある人とない人の両方に対するビタミンD補充の有効性を検証するには、さらなる臨床試験が必要だと述べている。  なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

79.

膵管拡張は膵臓がんの警告サイン

 膵臓がんは、進行して致命的となるまで症状が現れにくいことから「サイレントキラー」とも呼ばれる。こうした中、新たな研究で、膵臓がんリスクの高い無症状患者では、膵臓と胆管をつなぐ膵管の拡張が、がんの進行リスクを高める独立したリスク因子であることが示された。米ジョンズ・ホプキンス大学医学部医学・腫瘍学教授のMarcia Irene Canto氏らによるこの研究結果は、「Gastro Hep Advances」に9月12日掲載された。Canto氏は、「この知見によりがんが早期発見されれば、生存率の向上につながる可能性がある」とニュースリリースの中で述べている。 膵臓は消化酵素やインスリンなどを産生することで、消化と血糖値の調節に重要な役割を果たしている。膵臓は体の奥深くに位置するため、定期的な健康診断で腫瘍を早期発見することは難しく、診断時にはすでに進行しているケースが多い。膵臓がんの5年生存率は3〜16%とされている。米国がん協会(ACS)によると、膵臓がんは米国のがん全体の約3%、がんによる死亡全体の8%を占めているという。 この研究では、症状はないが、膵臓がんの家族歴を有するか遺伝的に膵臓がんリスクが高い641人を対象に、膵管拡張が膵管内の高度異形成や膵臓がんへの進行リスクと関連するのかが評価された。膵臓がんの家族歴とは、膵臓がんに罹患した第一度近親者(親、兄弟姉妹、子どもなど遺伝子を50%共有している人)が1人以上存在し、膵臓がんを発症した第一度近親者のペアが1組以上存在する家系に属する人の場合を指す。一方、遺伝的リスクとは、遺伝性膵臓がんに関わるATM(ataxia telangiectasia mutated)、やBRCA1、BRCA2などの遺伝子に変異を持っていることと定義された。膵管は、直径が頭部で4mm以上、体部で3mm以上、尾部で2mm以上の場合を膵管拡張と見なし、軽度(頭部4〜5mm、体部3〜4mm、尾部2〜3mm)、中等度〜重度(頭部6mm以上、体部5mm以上、尾部4mm以上)に分類した。 追跡期間中(中央値3.6年)、97人(15%)に腫瘍を伴わない膵管拡張が認められた。このうちの10人(10.3%)では、膵管拡張が確認されてから中央値で2年以内に高度異形成または膵臓がんへの進行が確認された。解析からは、試験開始時に膵管拡張が認められた対象者が高度異形成または膵臓がんに進行する累積リスクは5年後で16%、10年後で26%と推定された。膵管拡張がある高リスク患者では進行リスクが約2.6倍高く、さらに膵嚢胞が3個以上ある場合にはリスクが約9倍に増加することも示された。 Canto氏は、「われわれは、膵管拡張という警告サインを早期に特定することで、より迅速に介入することができた。介入方法は、手術か、より頻繁な画像検査を行うかのいずれかになる」と話す。同氏はまた、膵管拡張は、腎結石や腹痛など他の健康問題を調べるための画像検査時に発見される可能性があると指摘し、「医療提供者は、膵管拡張が早急に対処すべき問題であることを認識する必要がある」と述べている。 またCanto氏は、本研究の次の段階は、膵臓スキャン画像を分析して、がんリスクをより具体的かつ正確に予測できるようAIを訓練することだと語っている。

80.

日常生活のルーティンの乱れが片頭痛を誘発か

 片頭痛を回避したいなら、退屈な日常生活のルーティンを守る方が良いようだ。新たな研究で、日々のルーティンを大きく乱す予想外の出来事(サプライザル)は、その後12〜24時間以内の片頭痛の発生リスクの上昇に強く関連していることが明らかになった。食べ過ぎや飲み過ぎ、夜更かし、ストレスフルな出来事、予想外のニュース、急激な気分の変化などは、身体に予想外の負荷を与え、片頭痛を引き起こす可能性があるという。米ハーバード大学医学大学院麻酔・救急・疼痛医学分野のDana Turner氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に11月11日掲載された。 今回の研究では、2021年4月から2024年12月にかけて登録された片頭痛患者109人(年齢中央値35歳、女性93.5%)のデータが分析された。研究参加者は、片頭痛の発作と考えられる誘因を日記に記録した。Turner氏らは、参加者ごとに片頭痛の行動・感情・環境的誘因の平均値を算出し、そこから予想外のずれが見られた日を調べた。 その結果、サプライザルの程度が大きい出来事は、その他の要因や個人差を調整した後でも、12時間以内の片頭痛リスクを56%、24時間以内のリスクを88%高めることが示された。 こうした結果を受けてTurner氏らは、「この研究結果は、個人の経験が通常のパターンからどの程度逸脱しているかが、近い将来の片頭痛リスクを予測する指標となり得ることを示している。この研究結果は、片頭痛の治療では、考えられる一連の原因にとどまらず、日常生活の予測不可能で状況依存的な特徴を考慮したパーソン・センタード・アプローチが重要であることを支持している」と結論付けている。 米ノースウェル頭痛センター所長のNoah Rosen氏は、この結果について、「その大部分が私も含めた多くの人々が抱いている片頭痛のイメージ、すなわち刺激の変化に対する過剰な反応として現れることが多いというイメージに一致している」とニュースリリースの中で述べている。また、同氏は「われわれの身体は、適切な量の食事、睡眠、水分補給により恒常性(ホメオスタシス)を維持している。片頭痛はその一部が乱れたときに作動する警報システムのようなものかもしれない」と付け加えている。 このことは、片頭痛患者のうち特定の誘因を特定できている人の割合が70%にとどまる理由かもしれないとRosen氏は言う。片頭痛患者は通常からのずれではなく、特定の要因を見つけようとしているのだ。同氏は、「サプライザルとは、日常の活動から外れていたり、普段とは異なる反応が求められたりすることと言えるだろう。突然のストレスフルな出来事には、トラウマになる経験や喧嘩、予想外の悪いニュース、あるいは良いニュースも含まれる。仕事、学校、家庭での日常の活動が他の出来事によって中断されるような状況もこれに該当する」と説明している。 Turner氏らは今後の研究で、「予想外の出来事を調査するためのより精度の高い方法を探るべきである」と述べている。また、こうした方法が見つかれば、片頭痛患者が発作に備える助けになる可能性があるとの見方を示している。

検索結果 合計:35095件 表示位置:61 - 80