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統合失調症における中枢コリン作動系の変化

 統合失調症では、コリン作動系のさまざまな変化がみられることが報告されているが、これらのエビデンスのシステマティックレビューおよびサマライズは行われていなかった。カナダ・オタワ大学のZacharie Saint-Georges氏らは、統合失調症およびまたは統合失調感情障害における中枢コリン作動系に関するイメージング研究および剖検研究についてのシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Molecular Psychiatry誌2025年7月号の報告。 統合失調症およびまたは統合失調感情障害患者と対照集団を比較した横断的ケースコントロール研究をEmbase、Medlineより検索した。バイアスリスクの評価には、ケースコントロール研究の品質評価のためのNIH/NHLBIツールを用いた。本研究は、PRISMA2020ガイドラインに準拠し実施した。 主な結果は以下のとおり。・スクリーニング対象研究3,259件のうち、適格基準を満たした61件の研究をシステマティックレビューに含めた(イメージング研究:8件、剖検研究:53件)。・これらの研究の約74%において、統合失調症およびまたは統合失調感情障害における中枢コリン作動系の変化が報告されていた。・統合失調症におけるムスカリン性受容体またはニコチン性受容体レベルのいずれかの減少が最も多く報告されていた。・3件のメタ解析を実施し、線条体(g=−0.809、3件、108例)、海馬(g=−0.872、4件、84例)、前頭帯状皮質(g=−0.438、4件、295例)におけるM1/M4ムスカリン性受容体の減少が示唆された。・イメージング研究の6件で臨床症状の重症度と関連が報告されており、認知機能障害との関連が4件で報告されていた。 著者らは「イメージング研究および剖検研究の両方で、統合失調症患者におけるムスカリン受容体およびニコチン受容体の広範な低下が明らかとなった。メタ解析では、線条体、海馬、前頭帯状皮質におけるM1/M4ムスカリン受容体の低下による大〜中程度の影響が認められた」と結論付けている。

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左右の肺がんで死亡リスクに差~日本のがん登録データ

 肺がん罹患率は、解剖学的、遺伝的、環境的要因の影響により右肺と左肺で異なる可能性がこれまでの研究で示唆されている。今回、千葉県がんセンターの道端 伸明氏らが日本のがん登録データで調べたところ、右側肺がんが左側肺がんより多く、死亡リスクは男性では右側肺がんが高かったが、女性では差がなかったという。Cancer Epidemiology誌オンライン版2025年6月24日号に掲載。 本コホート研究では、千葉県がん登録(2013~20年)のデータを用いて、原発性肺がん3万6,502例を対象とし、患者特性を右側肺がんと左側肺がんで比較した。年齢、性別、病期、組織型、その他の共変量で調整した死亡率の左右差を、カプランマイヤー生存曲線、ログランク検定、Cox比例ハザードモデルを用いて評価した。  主な結果は以下のとおり。・右側肺がん(60%)は左側肺がん(40%)よりも多かった。・右側肺がんの死亡率は左側肺がんよりわずかに高かった(ハザード比[HR]:1.05、95%信頼区間[CI]:1.02~1.08、p=0.003)。・男女別に分析すると、男性では右側肺がんの死亡リスクが高かったが(HR:1.08、95%CI:1.04~1.12、p<0.001)、女性では左右差は有意ではなかった。 著者らは「右側肺がんの有病率が高いのは、解剖学的な違いやL858R変異の割合が高いなどの遺伝的要因によるのかもしれない」と考察し、「左右差による臨床的な影響は小さいものの、これらの結果は肺がんの病態に関する見識を提供し、個別化医療の進展に寄与する可能性がある」としている。

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「終末期」を「人生の最終段階」へ変更、その定義とは/日本老年医学会

 日本老年医学会は6月27日のプレスリリースにおいて、「終末期」から「人生の最終段階」への変更における定義などを示した『高齢者の人生の最終段階における医療・ケアに関する立場表明2025』を発表した。この立場表明は同学会が21世紀初頭に初版を発表、2012年の第1改訂から10年以上が経過したため、現在を見据えつつ近未来を展望して今回の改訂がなされた。今回開催された記者会見では、立場表明のなかで定義付けされた用語とその理由について、本改訂委員会委員長を務めた会田 薫子氏(東京大学大学院人文社会系研究科 附属死生学・応用倫理センター 特任教授/同学会倫理委員会 エンドオブライフ小委員会委員長)を中心に解説が行われた。『立場表明2025』の目的 立場表明は、臨床現場においてさまざまな難問に直面しつつ、本人のために最期まで最善の医療・ケアを提供しようと尽力している専門職の行動指針となり、同時に、日本で生きる人々の心の安寧を支えることを願っている専門職の職業倫理として作成されている。また、すべての人が有する権利(すべての人は最期まで、医学的に適切な判断を土台に、それぞれの思想・信条・信仰を背景とした価値観・人生観・死生観を十分に尊重され、「最善の医療およびケア」を受ける権利を有する)を擁護・推進するために、日本老年医学会として「高齢者の人生の最終段階における医療・ケア」に関する立場を表明した。 2015年に厚生労働省が『人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン』を改訂した際に、「終末期」という表現を「人生の最終段階」としていたが、その言葉の定義付けなどは各領域や学会に一任されていたことから、今回、国内で初めて日本老年医学会がこの用語の定義を示した。「人生の最終段階」の定義 厚生労働省が「終末期医療」を「人生の最終段階における医療」に替えると発表した際、これが「最期まで尊厳を尊重した、人間の生き方に着目した医療を目指す」という考え方に寄っていると説明していたことを踏まえ、日本老年医学会は、「人生の最終段階」を以下のように定義付けした。(1)【医学的見込み】 病状や老衰が不可逆的で、更なる治療によっても状態の好転や進行の阻止は見込めず、遅かれ早かれ死に至ることが避けられない。(2)【人生についての見方】 (1)を踏まえ、医療・ケアチームが本人の人生全体を眺める視点で、本人は人生の物語りの最終章を生きていると考えられ、本人が表明してきた人生に関する意向を尊重したうえでも、そう考えることができる。以上の(1)と(2)が満たされている時、本人は「人生の最終段階」にある。「最善の医療およびケア」とは 次に、最善の医療およびケアについて、「緩和ケア(palliative care)の考え方と技術を中核とし、単に診断・治療のための医学的な知識・技術のみならず、他の自然科学や人文科学、社会科学を含めた、すべての知的・文化的成果を統合した、適切な医療およびケア」としている。会田氏は、「日本では非がん領域における緩和ケアが不十分な状態にある。WHOは1990年に緩和ケアの考え方を、2002年にはその定義を示している。国内でもそれらを踏まえて苦痛の予防・緩和に注力していくため、最善の医療およびケアを緩和ケアの考え方で進めていく」とし、「高齢者にとって侵襲性の高い高度医療はリスクとなる。また、薬物療法についても同様で、とくにポリファーマシーの有害性の認識は重要。よって、高齢者への医療やケアは一般成人とは異なる考え方をすることを社会にも広く知っていただきたい」と強調した。10の立場表明 この立場表明には、本学会における10個の立場表明が示されており、「日本老年医学会はこれらの立場が実現できるようにたゆまぬ努力を傾注する」と同氏はコメントした。・立場1:年齢による差別(エイジズム)に反対する・立場2:緩和ケアを一層推進する・立場3:本人の意思と意向を尊重する・立場4:人権と尊厳および文化を尊重する意思決定支援を推進する・立場5:多職種のチームによる医療・ケアの提供を推進する・立場6:臨床倫理に関する取り組みを推進する・立場7:在宅医療および地域包括ケアシステムを推進する・立場8:死への準備教育を推進する・立場9:不断の研究の進歩を医療・ケアに反映させる・立場10:高齢者の人権と尊厳を擁護する医療・介護・福祉制度の構築を求める医療界で汎用される「尊厳」とは 本表明にも頻出する「尊厳」。この言葉は多くの法令や医学会の提言、ガイドラインでも頻繁に利用されているが、「その割に意味が不明確。辞書で意味を調べてみると、“尊く厳かで犯し難いこと”と書いてあり、どのように医療現場で本人の尊厳を尊重すればいいのかわかりにくい」と同氏は指摘。そこで同学会は医療における尊厳についても定義付けを行った。(1)「現在のありのままの自分を価値ある存在だとする思い」:この場合は自尊感情や自己肯定感と同義的であるとし、本人が自己肯定できるよう医療とケアを提供すること(2)「尊厳に値するという価値」:本人に何かを押し付けたり支配したりすることを否定すること これに対して同氏は「他学会や政府にも、この尊厳の考え方について参照してもらいたい」と思いを示した。 第67回日本老年医学会学術集会の会期中に開かれた本記者会見において、大会長の神﨑 恒一氏(杏林大学医学部高齢医学教室 教授)は、「本表明にはセンシティブな内容も含まれる。しっかり目を通してもらいたい」と締めくくった。

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心房細動を伴う脳梗塞のDOAC開始、早期vs.遅延~メタ解析/Lancet

 急性虚血性脳卒中と心房細動を有する患者において、直接経口抗凝固薬(DOAC)の遅延開始(5日以降)と比較して早期開始(4日以内)は、30日以内の再発性虚血性脳卒中、症候性脳内出血、分類不能の脳卒中の複合アウトカムのリスクを有意に低下させ、症候性脳内出血を増加させないことが、英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのHakim-Moulay Dehbi氏らが実施した「CATALYST研究」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2025年6月23日号に掲載された。DOAC開始の早期と遅延をメタ解析で比較 研究グループは、急性虚血性脳卒中発症後におけるDOACの早期開始と遅延開始の有効性の評価を目的に、無作為化対照比較試験の系統的レビューと、個別の患者データのメタ解析を行った(英国心臓財団などの助成を受けた)。 医学関連データベースを検索し、2025年3月16日までに発表された無作為化対照比較試験を選出した。対象は、事前登録を行い、無作為化され、臨床アウトカムを評価し、急性虚血性脳卒中と心房細動を有する患者を、承認を受けた用量のDOACの早期開始(4日以内)または遅延開始(5日以降)に割り付けた臨床試験であった。 主要アウトカムは、無作為化から30日以内の再発性虚血性脳卒中、症候性脳内出血、分類不能の脳卒中の複合とした。早期開始で再発が有意に少なく、症候性脳内出血は増加しない 4つの臨床試験(TIMING、ELAN、OPTIMAS、START)を同定した。データ共有に応じなかった参加者や、DOACの開始が4日以内または5日以降に割り付けられなかった参加者を除外したうえで、5,441例(平均年齢77.7[SD 10.0]歳、女性2,472例[45.4%]、NIHSSスコア中央値5点)をメタ解析に含めた。主要アウトカムのデータは5,429例から得た。 30日の時点における主要アウトカムの発生率は、遅延開始群が3.02%(83/2,746例)であったのに対し、早期開始群は2.12%(57/2,683例)と有意に低かった(オッズ比[OR]:0.70[95%信頼区間[CI]:0.50~0.98]、p=0.039)。絶対リスクの群間差は-0.0093(p=0.039)であった。また、1件の主要アウトカムを防止するための治療必要数は108(95%CI:55~2,500)だった。 30日時の再発性虚血性脳卒中は早期開始群で有意に少なく(1.68%[45/2,683例]vs.2.55%[70/2,746例]、OR:0.66[95%CI:0.45~0.96]、p=0.029)、症候性脳内出血は早期開始群で増加しなかった(0.37%[10/2,683例]vs.0.36%[10/2,746例]、1.02[0.43~2.46]、p=0.96)。また、早期開始群では頭蓋外の大出血の増加も認めなかった。90日後の主要アウトカムには差がない 一方、90日後の主要アウトカムの発生率は、早期開始群で低かったが、両群間に有意な差はなかった(3.10%[83/2,678例]vs.3.51%[96/2,738例]、OR:0.88[95%CI:0.65~1.19]、p=0.40)。 著者は、「これらの知見は、実臨床におけるDOACの早期の投与開始を支持するものである」「本研究のデータは、脳内出血への懸念から、脳卒中の重症度を問わず、抗凝固療法を最大で2週間遅らせるという一般的に行われている治療法を支持しない」「今後のCATALYSTサブグループ解析では、DOACの早期開始のリスクとベネフィットについて、さらに検討を進める予定である」としている。

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食事インスリン併用2型DM、efsitora vs.グラルギン/Lancet

 食事インスリンを併用している2型糖尿病患者の基礎インスリンとして、insulin efsitora alfa(efsitora)の週1回投与はインスリン グラルギンU100の1日1回連日投与と比較して、糖化ヘモグロビン(HbA1c)値の低下効果に関して非劣性で、臨床的に重要または重症の低血糖の発生率も同程度であり、連日投与に代わる基礎インスリンとして忍容性が良好で有効な治療法であることが、米国・Texas Diabetes & EndocrinologyのThomas Blevins氏らが実施した「QWINT-4試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌2025年6月22日号で報告された。7ヵ国の第III相無作為化非劣性試験 QWINT-4試験は、7ヵ国78施設が参加した26週間の第III相並行デザイン非盲検無作為化treat-to-target非劣性試験であり、2022年8月~2024年2月に患者のスクリーニングを行った(Eli Lilly and Companyの助成を受けた)。 年齢18歳以上で、2型糖尿病(HbA1c値7.0~10.0%)と診断され、基礎インスリンと食事インスリンを併用し、0~3種のインスリン製剤以外の血糖降下薬を使用している患者を対象とした。これらの患者を、基礎インスリンとしてefsitora(500単位/mL、週1回、efsitora群)またはグラルギンU100(100単位/mL、1日1回連日、グラルギン群)を投与する群に1対1の割合で無作為に割り付けた。全例に、食事インスリンとしてインスリン リスプロを投与した。 主要エンドポイントは、ベースラインから26週目までのHbA1c値の変化量とし、非劣性マージンを0.4%に設定した。低血糖は、全体、夜間とも差がない 730例(平均年齢58.9[SD 10.5]歳、女性369例[51%]、平均BMI値31.85[SD 5.47])を登録し、efsitora群に365例、グラルギン群にも365例を割り付けた。試験治療レジメン推定値を用いたベースラインの最小二乗平均HbA1c値は、それぞれ8.18(SE 0.04)%および8.18(0.04)%だった。 26週時点での最小二乗平均HbA1c値は、efsitora群7.17(SD 0.05)%、グラルギン群7.18(0.05)%であった。試験治療レジメン推定値を用いたベースラインから26週目までの変化量はそれぞれ-1.01%ポイントおよび-1.00%ポイントであり、変化量の推定群間差は-0.01%ポイント(95%信頼区間[CI]:-0.14~0.12)と、efsitora群のグラルギン群に対する非劣性が示された。 投与期間中に発生した臨床的に重要(レベル2:血糖値<54mg/dL)または重症(レベル3:治療に他者の介助を要する精神的、身体的状態)の低血糖は、全体(efsitora群6.6件/人年vs.グラルギン群5.9件/人年、推定率比:1.11[95%CI:0.85~1.44]、p=0.44)および夜間(0.67 vs.1.00、0.67[0.44~1.01]、p=0.058)のいずれにおいても両群間に有意な差を認めなかった。 レベル1(血糖値<70mg/dL、≧54mg/dL)の低血糖は、全体(efsitora群25.3件/人年vs.グラルギン群19.0件/人年、推定率比:1.33[95%CI:1.13~1.55]、p=0.0004)ではefsitora群で高率に発生したが、夜間(1.8 vs.2.4、0.75[0.57~0.98]、p=0.037)ではefsitora群で低率だった。また、ベースラインから26週目までの体重の変化量(efsitora群2.67kg vs.グラルギン群2.53kg、p=0.54)は両群で同程度であった。鼻咽頭炎と尿路感染症が多い 試験薬投与期間中の有害事象の発現は、efsitora群で196例(54%)、グラルギン群で189例(52%)と両群で同程度だった。重篤な有害事象は、それぞれ25例(7%)および23例(6%)にみられた。最も頻度の高い有害事象は、鼻咽頭炎(efsitora群23例[6%]vs.グラルギン群21例[6%])と尿路感染症(17例[5%]vs.19例[5%])であった。 注目すべき有害事象のうち、糖尿病性ケトアシドーシスは両群とも発現せず、過敏反応はefsitora群の11例(3%)およびグラルギン群の4例(1%)に、注射部位反応はefsitora群の1例(<1%)にのみ認めた。また、efsitoraの週1回投与を受けた337例中312例(93%)は、試験前の連日の治療よりも本試験の治療を「好む」「強く好む」と回答し、334例中274例(82%)は、efsitora週1回投与の日常的な治療への導入について「可能性が高い」「可能性がたいへん高い」と答えた。 著者は、「持続血糖測定器(CGM)による評価では、ベースラインから26週目までに、24時間における血糖値が目標範囲(70~180mg/dL)内にある時間が両群とも約4時間増加したのに対し、目標範囲外の低血糖域(<70mg/mL)にある時間は約10分増加しただけだった」「他の第II・III相試験の結果と合わせて、今回の結果は2型糖尿病の治療におけるefsitoraの有効性と安全性を強調するとともに、週1回投与の基礎インスリンが糖尿病患者の負担を軽減する可能性を強く示唆するものである」としている。

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SGLT2阻害薬で糖尿病患者の転倒リスク上昇

 SGLT2阻害薬(SGLT2-i)が、2型糖尿病患者の転倒リスクを高めることを示唆するデータが報告された。筑波大学システム情報系の鈴木康裕氏らが行った研究の結果であり、詳細は「Scientific Reports」に3月17日掲載された。 転倒やそれに伴う骨折や傷害は、生活の質(QOL)低下や種々の健康リスクおよび死亡リスクの増大につながる。糖尿病患者は一般的に転倒リスクが高く、その理由として従来、神経障害や網膜症といった合併症の影響とともに、血糖降下薬使用による低血糖の影響が指摘されていた。さらに比較的近年になり、血糖降下以外の多面的作用が注目され多用されるようになった、SGLT2-iやGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)に関しては、体重減少とともに筋肉量を減少させることがあり、その作用を介して転倒リスクを高める可能性も考えられる。ただし、実際にそのようなリスクが生じているか否かはこれまで検証されていなかった。 鈴木氏らは、同大学附属病院内分泌代謝・糖尿病内科に血糖管理のために入院した2型糖尿病患者471人を中央値2年(四分位範囲1~3)追跡し、転倒発生率を比較した。解析対象者の主な特徴は、年齢中央値63歳(四分位範囲51~71)、女性42.3%、HbA1c9.6±1.9%、転倒の既往あり21.2%で、退院時に全体の19.3%に対してSGLT2-i、14.9%に対してGLP-1RAが処方されていた。 1,013人年の追跡で1回以上の転倒を報告した患者は173人で、15人が転倒により骨折を来していた。転倒発生率は100人年当たり17.1であり、年齢、性別、身長、BMI、転倒の既往、処方薬、握力、体重変化、下肢筋力、増殖網膜症の存在などを調整後、転倒の独立したリスク因子として、SGLT2-iの使用と年齢、転倒の既往が特定された。 SGLT2-i、GLP-1RAがともに処方されていなかった群を基準とする転倒発生オッズ比(OR)は以下の通り。SGLT2-iの処方(GLP-1RAの併用なし)では1.90(1.13~3.15)、SGLT2-iとGLP-1RAの併用は3.13(1.29~7.55)。また年齢は1歳高齢であるごとに1.02(1.00~1.04)、転倒の既往は2.19(1.50~3.20)だった。 一方、GLP-1RAの処方(SGLT2-iの併用なし)は1.69(0.89~3.09)であり、転倒リスクの有意な上昇は認められなかった。また、インスリン、SU薬/グリニド薬、ビグアナイド薬、DPP-4阻害薬、α-グルコシダーゼ阻害薬、チアゾリジン薬についても、転倒リスクへの有意な影響は認められなかった。 著者らは、「SGLT2-iの処方は転倒の独立したリスク因子であり、一方でGLP-1RAの処方の影響は統計的に非有意だった。ただし、SGLT2-iとGLP-1RAが併用されていた場合の転倒リスクは、SGLT2-i単独よりも高かった。従って、2型糖尿病患者にこれらの薬剤を処方する際には、転倒リスクを考慮することが重要である」と述べている。

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乾癬性関節炎では関節リウマチよりも診断が遅れる

 乾癬性関節炎(PsA)患者は関節リウマチ(RA)患者と比較して診断が遅れるという研究結果が、「Annals of the Rheumatic Diseases」に3月29日掲載された。 英バース大学のRachel A. Charlton氏らは、PsA患者とRA患者の診断に至るまでの期間を比較した。解析対象となったのは、PsA患者2,120人と、年齢と性別でマッチさせたRA患者2,120人であった。 解析の結果、症状が発現してから専門医に紹介されるまでの期間は、PsA患者の方がRA患者よりも長かった。PsA患者の方が、かかりつけ医を受診してから診断を受けるまでの期間が長く(平均112日対89日、ハザード比〔HR〕0.87)、二次医療機関に紹介された後の診断の遅れも認められた(HR 0.86)。多発性関節炎を有する患者において、ベースライン時における疾患修飾性抗リウマチ薬の処方率は、PsA患者の方がRA患者よりも低かった(それぞれ54.0%、69.0%)。28関節を対象とする疾患活動性スコアは、ベースライン時ではRA患者の方が高かったが、3カ月後にはPsA患者の平均スコアの方が高くなった。 著者らは、「本研究の結果から、早期診断・早期治療を促進し、患者の長期転帰を改善するためには、患者と医療チームの両方に対する教育が重要であることが示唆される」と述べている。 なお複数の著者が、製薬企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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スタチンは敗血症の治療にも効果あり?

 スタチン系薬剤(以下、スタチン)は、高LDLコレステロール(LDL-C)血症の治療における第一選択薬であるが、この安価な薬剤は、別の病態において救命手段となる可能性があるようだ。新たな研究で、敗血症患者の治療において、抗菌薬、点滴、昇圧薬による通常の治療にスタチンを加えることで死亡リスクが低下する可能性のあることが明らかになった。天津医科大学総合病院(中国)のCaifeng Li氏らによるこの研究結果は、「Frontiers in Immunology」に6月6日掲載された。 敗血症は、感染症に対する過剰な免疫反応によって全身に炎症が広がり、複数の重要な臓器に機能不全が生じる病態である。研究グループによると、米国では毎年約75万人が敗血症で入院し、そのうち約27%が死亡している。敗血症患者の約15%には、血圧が危険なレベルまで低下する敗血症性ショックが生じる。敗血症性ショックの死亡リスクは30〜40%に上ると報告されている。 スタチンには、「悪玉コレステロール」とも呼ばれるLDL-Cとトリグリセライド(中性脂肪)の値を下げる一方で、「善玉コレステロール」とも呼ばれるHDLコレステロール(HDL-C)の値を上げる作用がある。しかしLi氏によると、スタチンには炎症を抑制し、免疫反応を調整し、血栓形成を抑制する効果があることも示されているという。 この研究でLi氏らは、2008年から2019年の間にボストンのベス・イスラエル・ディーコネス医療センターの集中治療室(ICU)で収集されたデータ(Medical Information Mart for Intensive Care-IV;MIMIC-IV)を用いて、スタチンにより敗血症患者の転帰が改善するのかを検討した。対象はこのデータから抽出した敗血症患者2万230人で、うち8,972人(44.35%)はスタチンを投与されていた。傾向スコアマッチングを行い、最終的に1万2,140人(スタチン群と非スタチン群が6,070人ずつ)を対象に解析を行った。 その結果、28日間での全死因死亡率はスタチン群で14.3%(870/6,070人)、非スタチン群で23.4%(1,421/6,070人)であり、スタチン投与は28日間の全死因死亡リスクの44%の低下と関連していた(ハザード比0.56、95%信頼区間0.52〜0.61、P<0.001)。また、スタチン群ではICU死亡リスク(オッズ比0.43、95%信頼区間0.37〜0.49、P<0.001)および院内死亡リスク(同0.50、0.45〜0.57、P<0.001)も有意に低かった。ただし、スタチン群では、人工呼吸器の装着期間と持続的腎機能代替療法を受ける期間が、非スタチン群よりも有意に長かった。 Li氏は、「これらの結果は、スタチンが敗血症患者に保護効果をもたらし、臨床転帰を改善する可能性があることを強く示唆している」と述べている。同氏は、本研究結果が過去の臨床試験の結果と矛盾していることを指摘し、その理由について、「これまでのランダム化比較試験では、敗血症の診断の報告不足、サンプル数の少なさ、スタチン投与と患者特性との複雑な相互作用を考慮していないことなどが原因で、敗血症患者に対するスタチンの有効性が認められなかった可能性がある」と考察している。 ただし研究グループは、本研究は観察研究であり、本格的な臨床試験で得られるような、スタチンと敗血症による死亡リスクの低下との間の直接的な因果関係を示すことはできないとしている。Li氏は、「これらの結果は、理想的には、大規模なサンプル数の敗血症患者を対象とし、スタチンの種類、投与量、治療期間に関する詳細な情報を含めたランダム化比較試験で検証されるべきだ。また、スタチン投与の開始時期と潜在的な交絡因子について慎重に検討することも必要だ」と述べている。

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エイリアンハンド症候群【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第285回

エイリアンハンド症候群皆さんは、エイリアンハンド症候群という病名をご存じでしょうか。Panikkath R, et al. The alien hand syndrome. Proc (Bayl Univ Med Cent) . 2014 Jul;27(3):219-20.静かな夕方、テレビを見ていた77歳の女性に突然異変が起こりました。左手が意思に反して勝手に動き出し、顔や髪を撫で回すように動き続けたのです。まるで誰かに操られているかのような手の動きに、患者さんは恐怖を感じました。右手で左手を抑えようとしても、まったく制御することができません。この奇妙な現象は30分間も続きました。その後、左手の制御は戻りましたが、今度は左上肢の麻痺と脱力が現れ、歩行時には左足を引きずるような状態になっていました。この患者さんは慢性心房細動を患っており、脊椎手術のために抗凝固薬を一時的に中止していました。頭部MRIの結果、両側頭頂葉に急性梗塞が確認され、心原性脳塞栓症による「エイリアンハンド症候群」と診断されました。「エイリアンハンド症候群」は、手が意思に反して複雑で目的のある動きをする、まれな神経症状です。脳梁、頭頂皮質、運動前野、前帯状皮質の異常が原因とされ、通常は脳腫瘍や動脈瘤、神経外科手術後に見られますが、脳梗塞による発症はまれとされています。機能的MRIの研究では、正常な人では運動開始時に広範な神経ネットワークが活性化されるのに対し、エイリアンハンド症候群では対側の一次運動皮質のみが孤立して活性化されることがわかっています。頭頂皮質の損傷により、意図的な運動計画システムから解放された一次運動野が単独で活性化し、さらに固有受容感覚のフィードバックの喪失や左半側空間無視が組み合わさることで、患者の意識や意志なしに自発的な運動が開始されると考えられています。エイリアンハンド症候群に対する確立された治療法は現在のところありません。症状は数日から数年間続くことが報告されており、この症例のように30分間という短い持続時間は、まれだそうです。

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第269回 某党のもう1人の爆弾候補、反ワク発言はノリなのか!?

連休ど真ん中の参院選挙7月3日、ついに参議院選挙が告示された。政治が流動化する中で、報道で政党として注目を浴びているのは、最大与党である自民党と昨年の衆院選で躍進した野党の国民民主党ぐらいである。国民民主党は国政でキャスティングボードを握り始めていたが、NHKの世論調査による政党支持率では、今年3月調査で最大野党の立憲民主党(以下、立民)を超えたものの、その後は緩やかに支持率が低下し、5月調査では立民に再逆転を許した。6月調査では前月比0.4%増の5.8%だったが、立民の2.6%増の8.4%に比べ停滞している。ここ最近の停滞については、旧民進党時代に不倫疑惑が持ち上がった山尾 志桜里氏を今回の参議院選挙の比例代表候補として公認することを5月に発表したものの、6月に山尾氏が開いた釈明会見に批判が集まり、その直後に山尾氏の公認を見送ったというドタバタが影響しているとも伝わる。国民民主党、世間を賑わすもう1人の公認実は国民民主党が今回の参議院選挙に際して、もう1つの“爆弾”を抱えていたことは、医療者の間では知っている人も少なくないだろう。過去に立憲民主党の比例代表で当選経験があり、山尾氏と同じく5月に同党の比例代表候補として公認された元格闘家の須藤 元気氏である。須藤氏はコロナ禍後、mRNAワクチンに懐疑的な発信をSNSのX(旧Twitter)で続けてきたことで知られる。たとえば以下のような感じだ。「世界中でストップしたワクチン接種をわが国だけが続けていると言う異常事態」(2023年10月26日)「透明性を示さないのにどうやってコロナワクチンの安全性を国民に理解してもらうんでしょうか。これ以上被害を増やさないためにも中止すべきです」(2023年12月12日)「ワクチン接種前に、そのリスクについてきちんとした説明を受けた方はいらっしゃるでしょうか。国が説明責任を果たしていなかったと考える方は少なくないでしょう。ワクチン接種から超過死亡数が急増したいま、国家が賠償責任を問われても当然だと思います」(2024年4月18日)「風邪に対してリスクのあるワクチンは、もはや不要なのではないでしょうか」(2024年8月31日)「報告されている健康被害の数を考えると、現在も接種が継続されている状況には疑問を感じざるを得ません」(2025年4月5日)ざっと並べただけでも以上である。すべてを書き出せば、本連載10回分はゆうに超えるだろう。その須藤氏を国民民主党が公認したゆえに、代表である玉木 雄一郎氏のXにも批判が相次いだ。須藤氏は公認発表当日、以下のような内容をX上で公表している。「2. ワクチンなど医療分野について 『副反応への懸念』を発信していましたが、ワクチンの重症化予防効果等を含めて科学的根拠を否定する立場ではありません。党の“科学的知見と透明性重視”の方針に従います。 その決意の証として、国民民主党から提示された確認書にサインして、党に提出しました。党として決定した事項に反する行動は取りません」コロナワクチンの反対姿勢はいずこへ須藤氏はこの件についてメディアからの直撃を受けたこともあったが、真正面からの回答は避けてきた。しかし、6月30日、都内での同党の街頭演説会終了後のぶら下がり会見と同日公開された同党衆院議員で救急医の福田 徹氏のYouTubeチャンネル「救急医政治家・福田とおるチャンネル」に動画「【国民民主党】須藤元気さんに科学の大切さを伝えました」で初めてワクチンについて釈明した。前者のぶら下がり会見について、ネット上で公開されていた動画では以下のようなやり取りが行われている。今、玉木代表におっしゃっていただいたように私自身のコロナ禍におけるワクチンについて(の発言は)科学的根拠に乏しいというご指摘を頂きました。その点については本当に深く反省しております。そして私の発信によりその当時本当に一生懸命働いてきた医療従事者の方々に心身ともに大きな負担をおかけしたことを、心からお詫び申し上げます。私自身、ちょっと経緯をお話ししますと、当時コロナ禍はまだよくわからない、いろいろなことがよくわからない状況下の中で、(ワクチンの?)リスクに対しては不安を持っていたのは確かです。その不安を持っている中、因果関係はわからないんですが、私自身の友人が接種後に職場で倒れて亡くなるという、残念でしたし、本当に悔しかったです。その不安がより強化され、その後ワクチン接種後の健康被害に遭われた方にお会いしたり、リスクに対して警鐘を鳴らす学者の方にお話を聞いたりして、私自身、その問題に対して一層深まった(?)のは事実であります。そうした中で国会議員として、やはり中立な立場でいなきゃいけない、何事もリスクとベネフィットがある中で、発信していかなければいけないというのは、自分なりには認識しつつ、ニュース記事の引用であったり、学者の方の言葉を引用して発信していたつもりですが、私自身の言葉足らずであったり、その中には事実と反するものがあるということは、改めて反省しております。国民民主党は、科学的根拠に基づいた実効性の高い感染症対策、公衆衛生政策というものを追求する党だと認識しております。私自身もその党の一員としてしっかりと国民の健康と命を守れるように、今後頑張っていきたいと思います。【記者】須藤さんは反ワク、反原発と言ったことは一度もないというふうにずっとおっしゃり続けていますが、そう捉えても仕方がないような発言が過去はありました。国民民主から出るにあたって、そして専門家の話を聞いた後で、その考えは完全に改まった、今はまったく違う考え方だとおっしゃっているんでしょうか。【須藤】そうですね。反ワクでも私はコロナ禍におけるワクチン以外のすべてのワクチンに対して反対だといったこと、自分は一度もありません。【記者】ワクチンに関しては、世の中にはまだ不安を抱く人、陰謀論とかいろんなものがあると思いますけど、今後再び国会議員という立場になった時には、そういう物の見方に対してはどのように対応していかれますか?【須藤】国民民主党の一員として科学的根拠に基づいた実効性のある感染症対策をやっていくべきだというのを認識しているので、党の仲間と共に発信していきたいと思います。【記者】須藤さんは過去にSNS上にコロナウイルスのワクチン接種で死者が急増したなどの書き込みがありましたが、そうした過去の発信については取り消されるということでよろしいでしょうか?【須藤】そうですね。ただ、決してなかったことにするということはするつもりはありません。もちろん説明責任が必要だと思いますので、ツイートに対しては今後どういうふうにしていくか検討していきたいと思います。【記者】須藤さんが発信したことによって何万リツイートもされているようなものもあるのですが、そういった情報発信をしたことに対しての責任についてはどのようにお考えですか?【須藤】事実に基づいていないものに関しては反省しています。二度とそういうことをしないように党の仲間と共に前に進んでいきたいと思います。この中で語られた友人の件については、一定程度理解はしようと思うのだが、ならばそれほど強い思いがあったのにここまで180度転換すると、個人的にはちょっと理解不能である。約8ヵ月前には、米国・保健福祉省長官にケネディ氏が就任したニュースを引用しながら、こんなつぶやきもXで披露している。「ケネディさんは長年、ワクチンの安全性に関する懸念を提起してきたので、(米国において)政策の見直しやワクチンに対する透明性と安全性が今まで以上に厳しく問われるはずです」立民の比例代表候補として6年前に当選してからこれまで彼が勉強していたことは、一夜にしてガラッと変わるほどのものだったのか?これは極めつきの私見なのだが、須藤氏のSNS発信、とくに最近国民民主党入りしてからの選挙活動の手伝いの映像を見ていると思うことがある。彼自身は元々格闘家だっただけあって、その名の通り映像で見える活動は元気いっぱいでノリがいい。それゆえにワクチンに懐疑的なスタンスも、国民民主党入りとその後の“転向”もすべてノリで動いていないか? と思ってしまうのだ。さてこうした須藤氏をどう評価するかは有権者次第である。いずれにせよ2週間強で結果は判明する。

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ASCO2025 レポート 泌尿器科腫瘍

レポーター紹介米国臨床腫瘍学会(ASCO)の年1回の総会は、今年も米国イリノイ州のシカゴで行われ、2025年は5月30日から6月3日まで行われた。昨今の円安(5月30日時点で1ドル=143円台)および物価高は現地参加に対するモチベーションを半減させるほどの勢いであり、今年もOn-lineでの参加を選択した。泌尿器腫瘍の演題は、Oral abstract session 18(前立腺9、腎4、膀胱5)、Rapid oral abstract session18(前立腺8、腎4、膀胱5、陰茎1)、Poster session 221で構成されており、昨年と比べて多くポスターに選抜されていた。毎年の目玉であるPlenary sessionは、Practice changingな演題が5演題選出されるが、昨年に引き続き今年も泌尿器カテゴリーからは選出がなかった。Practice changingな演題ではなかったが、他領域に先駆けてエビデンスを創出した免疫チェックポイント阻害薬関連の研究の最終成績が公表されたり、新規治療の可能性を感じさせる報告が多数ありディスカッションは盛り上がっていた。今回はその中から4演題を取り上げ報告する。Oral abstract session 前立腺#LBA5006 相同組み換え修復遺伝子(HRR)変異を有する去勢感受性前立腺がんに対するニラパリブ+アビラテロン、rPFSを延長(AMPLITUDE試験)Phase 3 AMPLITUDE trial: Niraparib and abiraterone acetate plus prednisone for metastatic castration-sensitive prostate cancer patients with alterations in homologous recombination repair genes.Gerhardt Attard, Cancer Institute, University College London, London, United Kingdomニラパリブは、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)-1/2の選択性が高く強力な阻害薬であり、日本では卵巣がんで使用されている。HRR遺伝子変異を有する転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)ではMAGNITUDE試験で、ニラパリブ+アビラテロン+prednisone併用(Nira+AP)による画像上の無増悪生存期間(rPFS)の延長が示されている。ASCO2025において、HRR遺伝子変異を有する転移性去勢感受性前立腺がん(mHSPC)に対するNira+AP療法の有効性を検証したAMPLITUDE試験(NCT04497844)の結果が報告された。この試験のHRR遺伝子変異の定義は、BRCA1、BRCA2、BRIP1、CDK12、CHEK2、FANCA、PALB2、RAD51B、RAD54Lの生殖細胞系列または体細胞変異が含まれていた。患者はアビラテロン1,000mg+prednisone 5mgに加えて、ニラパリブ200mgあるいはプラセボを内服する2群にランダム化され、主要評価項目はrPFS、副次評価項目に症候性進行までの期間、全生存期間(OS)、安全性などが設定されていた。ランダム化された696例のうち、BRCA1/2変異は55.6%、High volume症例は78%であった。追跡期間中央値30.8ヵ月時点のrPFS中央値はNira+AP群で未到達、プラセボ+AP群で29.5ヵ月であり、ハザード比(HR)は0.63、95%信頼区間(CI):0.49~0.80、p=0.0001であった。BRCA1/2変異群でもHR=0.52(95%CI:0.37~0.72)、p<0.0001であった。OSは中間解析であるがHR=0.79(95%CI:0.59~1.04)、p=0.10と報告された。重篤な有害事象は、Nira+AP群で75.2%、プラセボ+AP群で58.9%であり、非血液毒性では貧血(29.1%vs.4.6%)、高血圧(26.5%vs.18.4%)が多く、治療中止割合はそれぞれ11.0%と6.9%であった。AMPLITUDE試験は、HRR遺伝子を有する症例に絞って実施した第III相ランダム化比較試験で、mHSPCにおいてもNira+AP併用療法はrPFSを有意に改善し、OSにおいても良好な傾向を示した。日本は本試験に参加しておらず、Nira+AP療法が保険適用を取得する可能性はないが、同じくmHSPCを対象に実施中のTALAPRO-3試験(タラゾパリブ+エンザルタミドvs.プラセボ+エンザルタミド)の結果に期待が広がる内容であった。#5003 転移性前立腺がんにおけるPTEN遺伝子不活化はADT+DTX治療の効果予測因子(STAMPEDE試験付随研究)Transcriptome classification of PTEN inactivation to predict survival benefit from docetaxel at start of androgen deprivation therapy (ADT) for metastatic prostate cancer: An ancillary study of the STAMPEDE trials.Emily Grist, University College London Cancer Institute, London, United Kingdomドセタキセル(DTX)は転移性の前立腺がんに対して有効な治療法であるが、その効果が得られる症例にはばらつきがある。STAMPEDE試験のプロトコルに参加し(2005年10月〜2014年1月)ADT単独vs.ADT+DTX±ゾレドロン酸またはADT単独vs.ADT+アビラテロン(Abi)に1:1でランダム化された転移性前立腺がん患者の腫瘍サンプルを用いて、全トランスクリプトームデータによりPTENの不活化が治療アウトカムに与える影響を検討した報告である。PTENの不活化は、既報のスコアリング手法(Liuら, JCI, 2021)に基づいて定義された(活性あり:スコア≦0.3、活性なし:スコア>0.3)。また、Decipherスコアは高リスク>0.8、低リスク≦0.8と定義した。Cox比例ハザードモデルを用い、治療割り付けとPTEN活性との交互作用を評価し、年齢、WHO PS、ADT前PSA、Gleasonスコア、Tステージ、Nステージ(N0/N1)、転移量(CHAARTED定義によるHigh volume/ Low volume)で調整した。主要評価項目はOSであり仮説の検定には部分尤度比検定を用いた。全トランスクリプトームプロファイルを832例の転移性前立腺がん患者から取得し、これは試験全体の転移性前立腺がんコホート(n=2,224)と代表性に差はなかった。PTEN不活性腫瘍は419例(50%)に認められ、PTEN mRNAスコアの分布はHigh volumeとLow volumeで差はなかった(p=0.310)。ADT+Abi群(n=182)では、PTEN不活性はOS短縮と有意に関連(HR=1.56、95%CI:1.06~2.31)し、ADT+DTX群(n=279)では、有意な差は認められなかった(HR=0.93、95%CI:0.70~1.24)。PTEN不活化とDTX感受性は有意な交互作用(p=0.002)があり、PTEN不活性腫瘍ではDTX追加により死亡リスクが43%低下(HR=0.57、95%CI:0.42~0.76)し、PTEN活性腫瘍では有意差なし(HR=1.05、95%CI:0.77~1.43)であった。この傾向は転移量にかかわらず一貫しており、Low volume患者(n=244)ではPTEN不活性:HR=0.53、PTEN活性:HR=0.82、High volume患者(n=295)ではPTEN不活性:HR=0.59、PTEN活性:HR=1.23であった。一方、アビラテロン群ではPTENの状態によらず治療効果は一定であり、PTEN不活性:HR=0.52、PTEN活性:HR=0.55(p=0.784)であった。また、PTEN不活性かつDecipher高リスク腫瘍にDTXを追加した場合、死亡リスクが45%低下(HR=0.55、99%CI:0.34~0.89)と推定された。このバイオマーカーの併用による層別化は、ADT+アビラテロン+ドセタキセルの3剤併用療法の適応を検討する際の指標として今後の臨床応用が期待されると演者は締めくくった。日本ではmHSPCへのupfront DTXはダロルタミドとの併用に限られるが、PTEN遺伝子に注目した戦略が重要と考えられ、ますます診断時からの遺伝子パネル検査の保険償還が待たれる状況となってきた。Oral abstract session 腎/膀胱#4507 VHL病関連悪性腫瘍におけるベルズチファンの長期効果 (LITESPARK-004試験)Hypoxia-inducible factor-2α(HIF-2α)inhibitor belzutifan in von Hippel-Lindau(VHL)disease-associated neoplasms: 5-year follow-up of the phase 2 LITESPARK-004 study.Vivek Narayan, Hospital of the University of Pennsylvania, Philadelphia, PAHIF-2α阻害薬のベルズチファンは、VHL病に関連する腎細胞がん(RCC)、中枢神経血管芽腫、膵神経内分泌腫瘍(pNET)を対象に、即時の手術が不要な症例に対して治療薬として日本でも2025年6月に承認された。これは、非盲検第II相試験のLITESPARK-004試験(NCT03401788)の結果に基づくものであるが、ASCO2025では5年以上の追跡期間を経た最新の結果が報告された。対象は以下を満たす症例であった:生殖細胞系列のVHL遺伝子異常を有する測定可能なRCCを1つ以上有する即時の手術が必要な3 cm超の腫瘍なし全身治療歴なし転移なしPS 0~1治療はベルズチファン120mgを1日1回経口投与で、病勢進行、不耐容、または患者自身の希望による中止まで継続された。主要評価項目は、VHL病関連RCCにおける奏効率(ORR)であった。追跡期間中央値は61.8ヵ月、ベルズチファンの投与を受けた61例中35例(57%)が治療継続中であった。ORRは、RCCで70%、中枢性神経血管芽腫で50%、pNETで90%、網膜血管芽腫(18眼/14例)では100%の眼において眼科的評価で改善を確認。奏効期間中央値は未到達(範囲:8.5~61.0ヵ月)であった。重篤な治療関連有害事象は11例(18%)に認められた。最も多かった貧血はAny gradeで93%、Grade 3以上で13%と報告された。そのマネジメントとしてエリスロポエチン製剤(ESA)のみを使用したのは11例(18%)、輸血のみは2例(3%)、ESAと輸血を用いたのは5例(8%)であり、その他の治療が39例(64%)で選択されていた。5年間の追跡後も、ベルズチファンは持続的な抗腫瘍効果と管理可能な安全性プロファイルが報告され、多数の患者が治療を継続していた。即時手術を要しないVHL病関連のRCC、中枢神経血管芽腫、pNET患者において有用な治療選択肢であり、今後われわれも使いこなさなければいけない薬剤である。Rapid Oral abstract session 腎/膀胱#4518 MIBCに対する術前サシツズマブ ゴビテカン+ペムブロリズマブ併用療法と効果に応じた膀胱温存療法(SURE-02試験)First results of SURE-02: A phase 2 study of neoadjuvant sacituzumab govitecan (SG) plus pembrolizumab (Pembro), followed by response-adapted bladder sparing and adjuvant pembro, in patients with muscle-invasive bladder cancer (MIBC).Andrea Necchi,Department of Medical Oncology, IRCCS San Raffaele Hospital,Vita-Salute San Raffaele University, Milan, Italy筋層浸潤性膀胱がん(MIBC)の標準治療は、術前化学療法を伴う膀胱全摘除術(RC)である。術前ペムブロリズマブ(Pem)やサシツズマブ ゴビテカン(SG)の単剤療法は、それぞれPURE-01試験およびSURE-01試験においてMIBCに対する有効性を示している。SURE-02試験(NCT05535218)は、術前SG+Pem併用療法および術後Pemを用いた第II相試験であり、臨床的奏効に応じた膀胱温存の可能性も含んでいる。ASCO2025ではその中間解析の結果が報告された。cT2~T4N0M0のMIBCと病理診断され、化学療法の適応がない、もしくは化学療法を拒否し、RC予定の患者を対象に、Pem 200mgをDay1に、SG 7.5mg/kgをDay1およびDay8に3週間間隔で4サイクル投与した。手術後はPemを3週間間隔で13サイクル投与した。臨床的完全奏効(cCR)を達成した患者(MRI陰性かつ再TUR-BTでviableな腫瘍が検出されない[ypT0]症例)については、RCの代わりに再TUR-BTが許容され、その後Pem 13サイクルを投与した。主要評価項目はcCR割合で、閾値30%、期待値45%としてα=0.10、β=0.20で検出するための症例数は48例と設定された。2段階デザインであり、1段階目を23例で評価し、cCR7例以上であれば2段階目に進む計画であった。ASCO2025では、SURE-02試験の中間報告がなされた。2023年10月~2025年1月までに40例が治療を受け、31例が有効性評価対象となった。cCR割合は12例(38.7%)、95%CI:21.8~57.8であり、全員が再TUR-BTを施行された。ypT≦1N0-x割合は16例(51.6%)であった。重篤な有害事象は4例(12.9%)で、SGの投与中止2例、1週間の投与延期1例があったが、SGの減量は不要であった。23例でトランスクリプトーム解析が行われ、病理学的完全奏効(ypT0)について、Luminal腫瘍では非Luminal腫瘍に比べてypT0率が高かった(73%vs.25%、p=0.04)。Lund分類においては、ゲノム不安定型では67%、尿路上皮型では57%、基底/扁平上皮型では20%、神経内分泌型では0%であった。間質シグネチャーが高い症例では非ypT0である割合が高く(p=0.004)、一方でTrop2(p=0.15)およびTOP1(p=0.79)の発現はypT0との関連を示さなかった。周術期におけるSG+Pembro療法は、良好なcCR率と許容可能な安全性プロファイルを示し、約40%の症例で膀胱温存が可能であった。本試験において、このまま主要評価項目を達成するかどうかは現時点で期待値以下であるため少し不安はあり、また得られる結果も決して確定的なものではない。しかしながら、中間報告の時点で膀胱温存の可能性を40%の症例で達成していることは非常に興味深い内容であった。今後、検証的な第III相試験においても膀胱温存が重要なアウトカムとして設定され、再発や死亡といった腫瘍学的に重要なアウトカムを損なわない結果が達成できる日が訪れることを期待したい。

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オピオイド使用がん患者へのナルデメジン、便秘予防にも有用~日本のRCTで評価/JCO

 オピオイドは、がん患者の疼痛管理に重要な役割を果たしているが、オピオイド誘発性便秘症を引き起こすことが多い。オピオイド誘発性便秘症に対し、ナルデメジンが有効であることが示されているが、オピオイド誘発性便秘症の予防方法は確立されていない。そこで、濵野 淳氏(筑波大学医学医療系 緩和医療学・総合診療医学 講師)らの研究グループは、ナルデメジンのオピオイド誘発性便秘症の予防効果を検討した。その結果、ナルデメジンはオピオイド誘発性便秘症に対する予防効果を示し、QOLの向上や悪心・嘔吐の予防効果もみられた。本研究結果は、Journal of Clinical Oncology誌2024年12月号に掲載された。試験デザイン:国内多施設共同二重盲検無作為化比較試験対象:初めて強オピオイドを使用するがん患者99例試験群:ナルデメジン(0.2mg、1日1回)を朝食後14日間内服(ナルデメジン群、49例)対照群:プラセボを朝食後14日間内服(プラセボ群、50例)評価項目:[主要評価項目]14日目におけるBowel Function Index(BFI)※28.8未満の患者割合[副次評価項目]自発排便(SBM)の頻度、QOL(EORTC QLQ-C15-PAL、PAC-QOL、PAC-SYM)、オピオイド誘発性悪心・嘔吐(OINV)の頻度など※:排便の困難さ、残便感、便秘の個人的評価について、VAS(0~100)で評価。28.8未満を便秘なしとする。 主な結果は以下のとおり。・ナルデメジン群、プラセボ群の年齢中央値はそれぞれ67.8歳、66.4歳であり、女性の割合はそれぞれ51.0%、68.0%であった。・がん種の内訳は、肝がん・胆道がん・膵がん(35例)、消化管がん(18例)、婦人科がん(10例)、乳がん(8例)、泌尿器がん(8例)、肺がん(7例)などであった。・主要評価項目の14日目におけるBFI 28.8未満の患者割合は、ナルデメジン群64.6%、プラセボ群17.0%であり、ナルデメジン群が有意に良好であった(p<0.0001)。・14日目における1週間当たりのSBM回数が3回以上の割合は、ナルデメジン群87.5%、プラセボ群53.2%であり、ナルデメジン群が有意に多かった(p=0.0002)。14日目における1週間当たりの完全自発排便回数が3回以上の割合は、それぞれ70.8%、36.2%であり、ナルデメジン群が有意に多かった(p=0.0007)。・14日目におけるQOLは、いずれの指標もナルデメジン群が有意に良好であった。・3日目までの制吐薬の使用割合は、ナルデメジン群10.6%、プラセボ群51.1%であり、ナルデメジン群が有意に少なかった(p<0.0001)。・1~3日目の悪心・嘔吐の発現は、いずれの日においてもナルデメジン群が有意に少なかった(いずれの日もp<0.0001)。・有害事象の発現割合はナルデメジン群29.2%、プラセボ群61.7%であった。嘔吐の発現割合はナルデメジン群12.5%、プラセボ群40.4%であり、ナルデメジン群が有意に少なかった(p=0.0072)。

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双極性うつ病に対する抗うつ薬使用と躁転リスク

 双極性うつ病治療における抗うつ薬の使用は、気分極性の転換を引き起こす可能性が懸念され、依然として議論の的となっている。中国・首都医科大学のLei Feng氏らは、双極性うつ病患者に対する抗うつ薬使用と軽躁/躁転リスクとの関連を検証するため、リアルワールドにおける多国籍観察研究を実施した。Health Data Science誌2025年6月3日号の報告。 2013年1月〜2017年12月の4つの電子医療記録データベース(IQVIA Disease Analyzer Germany、IQVIA Disease Analyzer France、IQVIA US Hospital Charge Data Master、北京安定医院)と1つの行政請求データベース(IQVIA US Open Claims)より得られた双極性うつ病患者の治療パターンに関するデータを収集し、分析した。抗うつ薬を投与された患者(AD群)と投与されなかった患者(非AD群)における双極性うつ病の初回診断日から730日後の軽躁/躁転リスクの発生率を比較し、ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・対象は、5つのデータベースより抽出された12万2,843例。・双極性うつ病に対し抗うつ薬を投与された患者の割合は60.6%。・双極性うつ病の初回診断日における平均年齢の範囲は37.50±15.72〜52.10±16.22歳。・傾向スコアマッチングにより潜在的交絡因子で調整した後、AD群の躁転リスクは、非AD群と比較し、有意な差は認められなかった(HR:1.04、95%CI:0.96〜1.13、p=0.989)。・また、躁病治療薬の投与の有無に関わらず、差は認められなかった(HR:0.69、95%CI:0.38〜1.25、p=0.535)。 著者らは「双極性うつ病のマネジメントにおいて、抗うつ薬が実臨床で広く使用されていたが、抗うつ薬使用は、躁転リスクと関連していなかった。そのため、抗うつ薬は双極性うつ病の治療選択肢の1つとして考えられる」と結論付けている。

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1日1回の経口orforglipron、早期2型DMのHbA1c改善/NEJM

 早期の2型糖尿病成人患者において、GLP-1受容体作動薬orforglipronの1日1回40週間経口投与はプラセボと比較して、HbA1c値を有意に低下させた。米国・Velocity Clinical Research Center at Medical City DallasのJulio Rosenstock氏らACHIEVE-1 Trial Investigatorsが、中国、インド、日本、メキシコおよび米国で実施した第III相国際共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験「ACHIEVE-1試験」の結果を報告した。orforglipronは、2型糖尿病および体重管理を適応症として臨床開発中の、経口投与可能な低分子非ペプチドGLP-1受容体作動薬であり、有効性と安全性に関する追加データが必要とされていた。NEJM誌オンライン版2025年6月21日号掲載の報告。orforglipronの3用量をプラセボと比較、1日1回40週間投与 研究グループは、食事療法および運動療法のみでは血糖コントロールが不十分な2型糖尿病を有し、登録前3ヵ月以内に他の血糖降下薬(経口または注射)の投与を受けていない18歳以上の患者(インスリン未治療、HbA1c値7.0~9.5%、BMI値23.0以上)を、orforglipron 3mg群、12mg群、36mg群またはプラセボ群に1対1対1対1の割合で無作為に割り付け、1日1回40週間投与した。 orforglipron群は、いずれも1mgより投与を開始し、4週ごとに各群の規定用量まで漸増(3mg、6mg、12mg、24mg、36mg)した。 主要エンドポイントは、40週時におけるHbA1c値のベースラインからの変化量、重要な副次エンドポイントは、40週時における体重のベースラインからの変化率とした。HbA1c値の推定平均変化量、orforglipron群は-1.48~-1.24%ポイント 2023年8月9日~2025年4月3日に559例が無作為化された(orforglipron 3mg群143例、12mg群137例、36mg群141例、プラセボ群138例)。患者背景は、平均罹病期間4.4年、平均HbA1c値8.0%、平均体重90.2kg、女性が48.1%であった。 40週時におけるHbA1c値のベースラインからの推定平均変化量は、3mg群-1.24%ポイント、12mg群-1.47%ポイント、36mg群-1.48%ポイント、プラセボ群-0.41%ポイントであり、orforglipronの3群すべてでプラセボ群よりもHbA1c値が有意に低下した。 推定平均変化量のプラセボ群との差は、3mg群-0.83%ポイント(95%信頼区間[CI]:-1.10~-0.56)、12mg群-1.06%ポイント(-1.33~-0.79)、36mg群-1.07%ポイント(-1.33~-0.81)であり(すべてp<0.001)、40週時の平均HbA1c値はorforglipron群で6.5~6.7%であった。 40週時における体重のベースラインからの変化率は、3mg群-4.5%、12mg群-5.8%、36mg群-7.6%、プラセボ群-1.7%であった。 主な有害事象は軽度~中等度の胃腸障害で、そのほとんどは用量漸増中に発現した。重症低血糖は報告されなかった。投与中止に至った有害事象は、orforglipron群4.4~7.8%、プラセボ群1.4%であった。

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心エコーの自動解析AIシステム「PanEcho」、精度は?/JAMA

 米国・テキサス大学オースティン校のGregory Holste氏らは、経胸壁心エコー(TTE)において39項目(診断分類タスク18項目、パラメーター推定タスク21項目)を自動解析する人工知能(AI)システム「PanEcho」を開発し、内部および外部検証の結果、地理的および時間的な違いにかかわらず高い精度が得られることを報告した。心エコー検査は心血管診療の基盤であるが、一連の動画の専門家による読影と手作業によるレポート作成に依存している。著者は、「マルチタスクディープラーニングを用いて心エコー読影を自動化したAIシステム(PanEcho)は、心エコー検査室における補助的な読影ツールとして、あるいはポイントオブケアにおけるAI対応スクリーニングツールとして活用できる可能性があり、各臨床ワークフローにおける前向き評価が望まれる」と述べている。JAMA誌オンライン版2025年6月23日号掲載の報告。心エコー動画120万本を用いてAIシステムを開発し精度を検証 本研究には、イェール・ニューヘイブン・ヘルス・システム(YNHHS)傘下の病院および診療所において、患者2万4,405例への日常診療で実施されたTTE検査3万2,265件から得られた心エコー動画120万本が用いられた。 YNHHSの2016年1月~2022年6月のデータを用いて「PanEcho」を開発し、YNHHSの2022年7月~12月の別のコホートで内部検証するとともに、4つの他のコホート(RVENet+[ハンガリー]、POCUS、EchoNet-Dynamic、EchoNet-LVH[3つはいずれも米国])で外部検証を行った。 主要アウトカムは、診断分類タスクの受信者動作特性曲線下面積(AUC)およびパラメーター推定タスクの平均絶対誤差とし、AIによる予測と読影担当の心臓専門医の評価を比較した。診断分類タスク18項目、パラメーター推定タスク21項目で高精度 AIシステムは、内部検証において18項目の診断分類タスクでAUC中央値0.91(四分位範囲[IQR]:0.88~0.93)、21項目のパラメーター推定タスクで正規化平均絶対誤差の中央値0.13(0.10~0.18)を示した。 具体例としては、本モデルは左室駆出率を正確に推定し(平均絶対誤差:内部4.2%、外部4.5%)、中等度以上の左室収縮不全(AUC:内部0.98、外部0.99)、右室収縮不全(AUC:内部0.93、外部0.94)、および重度大動脈弁狭窄(AUC:内部0.98、外部1.00)を検出した。 AIシステムは、限られた画像プロトコールにおいても優れた性能を維持し、簡略化されたTTEコホートにおいて15項目の診断分類タスクをAUC中央値0.91(IQR:0.87~0.94)で実行し、YNHHS救急部門の実際のポイントオブケアエコー検査でも14項目のタスクをAUC中央値0.85(0.77~0.87)で実行した。 なお、著者は研究の限界として、2Dグレースケールとカラードップラー心エコーの動画データに限定されており、静止画、スペクトルドップラー、ストレイン画像、3D心エコーなどのデータは含まれていなかったこと、本研究で定義された39項目のタスクに限定されるため一部のタスクにおいて患者ケアの個別的な指針となるには解釈が不十分な場合があることなどを挙げている。

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賃金・物価上昇、診療報酬改定が直撃!診療所の経営は?/医師1,000人アンケート

 2024年の診療報酬改定は、診療報酬本体は+0.88%、薬価・材料価格引き下げは-1.00%で、全体ではマイナス改定となった。「医療従事者の賃上げ」「医療DX等による質の高い医療の実現」「医療・介護・障害福祉サービスの連携強化」という3つの目標が掲げられ、関連する項目が加算・減算された。診療報酬改定のほか、ここ数年の急激な物価上昇や人件費高騰もクリニックの経営に影響を与えていることが予想される。ケアネットでは「自身でクリニックを経営し、開業後3年以上が経過している医師」(40代以上)を対象に、直近の経営状況についてWebアンケートで聞いた。患者数は「増えた」が2割に対し、「減った」が4割 「1ヵ月の延べ患者数」について2023年度と2024年度を比較すると、「やや減った」と回答したのは25%、「大きく減った」は13%に上り、全体の38%が患者減少を報告した。一方で、「やや増えた」(17%)、「大きく増えた」(3%)は合わせて20%に留まった。「大きく減った」との回答は小児科(27%)、産婦人科(18%)、消化器内科(15%)、耳鼻咽喉科(15%)で目立った。一方で、耳鼻咽喉科は「大きく増えた」も最多の9%で、コロナ禍の収束後に経営状況の二極化が進んでいるようだ。診療報酬単価、精神科は5割強が「減った」 2023年度と2024年度の「患者1人当たりの診療単価の平均」については、「やや減った」(34%)、「大きく減った」(11%)を合わせると45%が減少したと回答した。「やや増えた」(8%)、「大きく増えた」(2%)としたクリニックは全体の1割に過ぎなかった。とくに精神科(「大きく減った」と「やや減った」の合計55%)、呼吸器内科(同52%)、循環器内科(同52%)などで「減った」との回答が目立った。精神科は2024年の診療報酬改定で30分未満の診療報酬が減額(精神保健指定医は330点→315点、非指定医は315点→290点)されたことが大きく響いたようだ。ほかの診療報酬改定の項目としては「特定疾患療養管理料から糖尿病・脂質異常症・高血圧を除外」も内科系クリニックの経営に与えた影響が大きかったようだ。「患者数」と比較して、「診療報酬単価」は「増えた」という回答の割合が一層低く、「減った」という回答の割合が高かった。患者数減少よりも診療報酬単価低下が、診療所の収益をより圧迫している状況が伺える。増えた費用としては「人件費」がトップ 費用面で、2023年度と2024年度を比較して増えた項目(複数回答)としては、(経営者以外の)人件費(588人)が最多で、以下医薬品・医療消耗品費(504人)、水道光熱費・通信費(475人)の回答が多かった。賃上げ圧力が強まり、マイナンバーカードや電子処方箋への対応など医療DXへの投資も求められ、固定費の上昇が利益を一層圧迫している状況が見える。5割以上が「減益」と回答 患者数と診療報酬単価の減少傾向、そして費用の上昇は、結果として最終利益の変動にも明確に表れた。2023年度と2024年度の「最終利益(自身の給与を含む)」について、「やや減った」が36%、「大きく減った」が20%で、過半数を超える56%が減益と回答した。「変わらない」は22%、「やや増えた」(12%)、「大きく増えた」(2%)は合わせて14%だった。とくに小児科は4割近く、産婦人科も3割超が「大きく減った」と回答した。今後の経営方針は「攻め」と「守り」に二極化 「今後の経営方針」(複数回答)では、「攻め」「守りor撤退」と明暗が分かれた。自由診療やDX化などの拡大路線に舵を切る選択肢を選んだのは、腎臓内科、呼吸器内科、消化器内科などの医師に多かった。一方、「減益」との診療所が多かった産婦人科、小児科、耳鼻咽喉科などは診察日縮小や閉院を視野に入れるとの回答が多かった。年代別では、40代の比較的若い医師は「DX化」「自由診療」などの「攻め」の志向が強かったが、この割合は年代とともに減少した。60代以上では2割、70代以上では3割が「閉院」または「事業譲渡」を検討していると回答した。 経営や診療報酬に関する自由回答では、物価高、人件費高騰の中での診療報酬単価の据え置きや減額に対する不満や抗議の声一色となった。「物価上昇に連動しない診療報酬の改定は違法だと思う」(内科・東京都・60代)「物価上昇に応じた診療報酬の増額が不可欠」(眼科・大阪府・50代)「診療報酬は下げられる中で、スタッフの給料は上げてやりたい。となると自分の取り分を減らすしかない」(耳鼻咽喉科・宮城県・60代)「売り上げが減って自身の給与を大幅に減らした」(消化器内科・大阪府・60代)「利益が前年に比べて半減。本当の話です。閉院も検討中です」(内科・京都府・50代)「コロナ禍の『医療者に感謝』という言葉は何だったのか。次のパンデミック時に、末端の診療所が閉院していたら誰が患者を診るのか? 中小病院に患者が集中して混乱が起きることは目に見えている」(内科・福井県・50代)アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。クリニックの経営動向/医師1,000人アンケート

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乳児期の犬への曝露は幼少期のアトピーリスクを低下させる?

 犬を飼っている家庭の乳児は、幼少期にアトピー性皮膚炎(AD)を発症するリスクが、犬を飼っていない家庭の児よりも低い傾向があるようだ。新たな研究で、乳児期に犬に曝露することで、ADの発症に関与する遺伝子の影響が軽減される可能性が示された。英エディンバラ大学皮膚科教授のSara Brown氏らによるこの研究結果は、「Allergy」に6月4日掲載された。 Brown氏は、「遺伝子の組み合わせが小児のAD発症リスクに影響を与えることは分かっていたし、過去の研究でも、犬を飼うことがAD発症の予防に有効な可能性が示されている。しかし、分子レベルでその仕組みを示したのはこの研究が初めてだ」と述べている。 ADは、皮膚のバリア機能が低下することで刺激物やアレルゲンが侵入しやすくなり、それによって免疫反応が引き起こされ、湿疹、かゆみ、炎症などの症状が生じる疾患で、遺伝的要因と環境要因が関与するとされている。研究グループによると、遺伝的にADを発症しやすい人がいることは判明しているものの、遺伝子と環境がどのように相互作用してADリスクを増大させたり低下させたりしているのかは明確になっていないという。 Brown氏らは今回、ヨーロッパで実施された16件の研究データを分析し、ADに関連する既知の24種類の遺伝的バリアントと、母親の妊娠中および児の生後1年間における18種類の環境要因の相互作用を調べた。 その結果、犬の飼育を含む7つの環境要因と少なくとも1つのAD関連遺伝的バリアントとの間に14の相互関係が示唆された。また、25万4,532人を対象とした追加解析から、犬への曝露と第5染色体に位置する遺伝的バリアント「rs10214237」との間に統計学的に有意な相互作用が認められた(相互作用のオッズ比0.91、95%信頼区間0.83〜0.99、P=0.025)。rs10214237は、免疫応答の調節に関与するインターロイキン(IL)-7受容体をコードする遺伝子の近傍に位置する。 次いで、実験室でのテストにより、rs10214237と犬アレルゲン曝露との相互作用がADの発症リスクにどのように影響するのかを検討した。その結果、犬への曝露はこの遺伝的バリアントの影響を変化させて皮膚の炎症を抑え、AD発症リスクを抑制している可能性が示唆された。 研究グループは、今回の研究で得られた結果を確認し、今後の研究で犬が人間の遺伝子に与える影響についての理解を深める必要があるとしている。Brown氏は、「われわれの研究は、臨床の現場で問われる『なぜうちの子はADなのか』『赤ちゃんを守るために何ができるのか』などの最も難しい質問に答えることを目的としている」と話す。同氏はさらに、「さらなる研究が必要だが、本研究結果は、アレルギー疾患の増加に介入し、将来の世代を守るチャンスがあることを意味する」と述べている。

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先行的腎移植にベネフィットはあるのか

 将来、腎移植が必要になる可能性がある人は、どの時点で移植を受けるべきなのだろうか。その答えの手がかりとなり得る研究結果が発表された。この研究では、腎機能がある程度保たれている段階で腎移植(先行的腎移植)を受けても、透析が必要となるほど悪化してから移植を受けた場合と比べて死亡リスクに有意な差は認められないことが示された。米イェール大学医学部生体腎臓ドナープログラムの医療ディレクターを務めるAbhishek Kumar氏らによるこの研究結果は、「Transplantation Proceedings」5月号に掲載された。 Kumar氏は、「この研究結果は、腎移植は本当に必要になるまで待ってから受けるべきであることを示している。そうでなければ、自分の腎臓が機能する期間を無駄にしてしまうことになる」と述べている。 透析は、機能不全に陥った腎臓に代わって血流から余分な水分や老廃物を排出する治療法だが、透析を受けている患者に身体的・精神的負担を伴い、免疫機能の低下も起こりやすい。このため、一般的に末期腎不全患者は透析が必要になる前に腎移植を受けた方が良いと考えられている。 Kumar氏は、「献腎移植リストに登録されている場合、いつ移植を受けるかを自分で決めることはできない。一方、生体ドナー臓器を移植する場合には、移植のタイミングについてある程度は自分で決められるが、問題は、いつ移植を受けるのが最善かということだ」と話す。 この点を明らかにするためにKumar氏らは、2000年から2020年の間に成人に実施された28万8,309件の腎移植データの分析を行った。これらの腎移植のうち、5万2,018件(18%)は先行的腎移植であった(献腎移植33%、生体腎移植67%)。これらのレシピエントは、移植時のeGFR(推算糸球体濾過量)の値に応じて、4群(10mL/分/1.73m2未満、10以上15mL/分/1.73m2未満、15以上20mL/分/1.73m2未満、20mL/分/1.73m2以上)に分類された。 先行的腎移植を受けた患者は、白人、高学歴、民間保険加入者が多い傾向が認められた。eGFRに応じた4群間で死亡率を比較したところ、統計学的に有意な差は認められなかった。また、生体ドナーからの先行的腎移植を受けた患者のみを対象にしたサブグループ解析でも、死亡率に統計学的に有意な差はなかった。 Kumar氏は、「私は患者に、移植を受けるのに最適なタイミングは透析が必要になったときだと伝えることがある」と話す。ただし同氏は、透析や移植に最適なタイミングは人によって異なり、予測するのは難しいことを指摘し、「可能であれば透析は避けるべきだが、早期に移植を受けることがその解決策になるわけではない」と述べている。

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内側側頭葉切除術は薬剤抵抗性てんかんの発作を高率に抑制する

 内側側頭葉(MTL)病変は薬剤抵抗性てんかんの主な原因の一つであり、MTL切除が転帰を改善し得る。しかし実臨床では、外科治療が提案されないまま複数の抗てんかん薬(AED)により長年治療されている患者が少なくなく、より強固なエビデンスの提示が求められている。これを背景に、アル=アズハル大学(エジプト)のSameh M. Salama氏らは、前向きコホート研究によりMTL切除術の有用性を検討。「Cureus」に3月6日論文が掲載された。 この研究は、2022~2024年に薬剤抵抗性側頭葉てんかんのため同大学病院に入院した3~50歳の患者20人を対象に行われた。薬剤抵抗性は2剤以上のAEDで発作をコントロールできない、または副作用のためAEDを使用できないことで定義した。MTL以外に病変を有する患者は除外された。術前の所見に合わせて患者ごとに、選択的扁桃体海馬切除を行うか否かなどが決定された。 術後の追跡期間は平均1.49±0.48年で、最終追跡調査におけるEngel分類による評価は、クラスI(発作の完全な消失)が15人(75%)、クラスII(機能障害を来さない発作がまれに発生)が5人(25%)だった。 20人のうち5人は、術後の行動の変化、対側片麻痺、残存病変などが合併症として報告された。合併症あり群となし群の病変を比較すると、多形神経膠芽腫(GBM)の存在のみ有意差があり、合併症あり群に多かった(60対0%、P=0.001)。術後のEngel分類は、合併症なし群はクラスIが86.7%、クラスIIが13.3%であるのに対して、合併症あり群は同順に40.0%、60.0%であって、群間差が有意だった(P=0.037)。これらから、GBMを有していることが合併症の発生に関連すること、転帰改善には病変の完全切除が重要であることが示唆された。 このほか、サブグループ解析から、女性および右側病変は転帰良好と、経シルビウス裂アプローチは転帰不良と関連していた。 Salama氏らは、「われわれの研究結果は、AEDによる管理が困難なてんかんでは外科的治療が治療選択肢として欠かせないことを支持するものであり、手術適応を早期に評価することの重要性を浮き彫りにしている」と結論付けた上で、「患者選択基準の明確化と最適なアプローチの確立のため、さらなる研究が必要」と付け加えている。

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