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人類の存続に必要な出生率とは?

 テスラ社のCEOで、少なくとも14人の子どもの父親であるイーロン・マスク(Elon Musk)氏は、出生率の低下は「人類存続の危機である」と警告し、話題を呼んだ。新たな研究によれば、この脅威はマスク氏の警告よりさらに深刻かもしれない。人口が長期的に増減することなく一定に保たれる水準(人口置換水準〔replacement level fertility;RLF〕)はこれまで女性1人当たり2.1人と考えられていたが、新たな研究で、それよりも高い2.7人であることが示唆された。フィリピン大学ロスバニョス校のDiane Carmeliza Cuaresma氏らによるこの研究の詳細は、「PLOS One」に4月30日掲載された。 Cuaresma氏は、「人口の持続可能性を確保するには、標準的なRLFよりも高い出生率が必要だ」と話す。上述のように、現状では、RLFは2.1とされているが、研究グループによると、G7加盟国の出生率は、イタリア1.29、日本1.30、カナダ1.47、ドイツ1.53、英国1.57、米国1.66、フランス1.79であり、いずれの国も2.1を大きく下回っているという。また、出生率が最も低いのは韓国(0.87)であることや、出生率がRLFを下回ったままである場合、日本の人口は世代ごとに31%ずつ減少すると予測されていることも付け加えている。 ただし研究グループは、この2.1という数字は低い死亡率や出生時の性比が1対1であることを前提に算出されたものであり、個体のランダムな出生や死亡などにより生じる偶然の変動(人口学的確率性)を考慮していないと指摘している。人口学的確率性は、特に小規模集団では影響が極めて大きく、絶滅の要因となることもあるという。このことを踏まえて研究グループは今回、人口学的確率性や性別特異的死亡率を考慮した上で、生殖可能年齢の女性の出生率に関する絶滅の閾値を検討した。具体的には、出産する女性の割合、出生時の性比、生殖年齢前の死亡率などの要素が考慮された。 その結果、人類の存続に必要なRLFは約2.7であり、従来考えられていた2.1よりはるかに高いことが明らかになった。また、男児よりも女児の出生数の方が多くなると、絶滅の閾値は2.7よりも低くなることも示された。 こうした結果から研究グループは、戦争や飢饉、疫病などの過酷な状況下では男児よりも女児の方が多く生まれる傾向が観察されているが、この現象は、本研究結果により説明できる可能性があると主張する。 研究グループは、「ほとんどの先進国は人口が多いため、絶滅は差し迫った問題ではない」と話す。ただし、ほとんどの家系は子孫が途絶えることを示唆する結果ではあると指摘し、「今回の結果は、個人の視点で見ると重大な意味合いを持つ。ほぼ全ての人の家系は途絶える運命にあり、ごく少数の例外のみが何世代にもわたって生き残る可能性がある」と述べている。 さらに研究グループは、「言語もまた消滅の危機に瀕している。世界には6,700以上の言語があるが、そのうち少なくとも40%が今後100年以内に消滅する可能性がある。言語の消滅は、文化、芸術、音楽、口承伝統の消滅につながる」と話している。

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中年期に運動量を増やすとアルツハイマー病のリスクが低下する

 中年期に運動量を増やすことが、後年のアルツハイマー病(AD)のリスク低下につながることを示唆するデータが報告された。バルセロナ国際保健研究所(スペイン)のMuge Akinci氏らの研究によるもので、詳細は「Alzheimer’s & Dementia」に4月30日掲載された。 運動習慣がADのリスクを低下させる可能性のあることは既に知られていて、ADの13%は運動不足が関与して発症するという報告もある。しかし、中年期の運動習慣の変化が高齢期のADのリスクに、どのような影響を及ぼすのかは明らかになっていない。Akinci氏らはこの点について、スペインにおけるADの患者と家族に関する研究(ALFA研究)のデータを用いた縦断的解析を行った。 解析対象者は、年齢が45~65歳でADリスク(家族歴など)を有しており、研究参加時点(ベースライン)で認知機能障害がなく、ベースラインと追跡調査時における脳画像検査データや運動習慣に関するデータに欠落のない337人(ベースライン年齢60.5±4.78歳、女性62%)。ベースラインと追跡調査の間隔は、平均4.07±0.84年だった。 運動を行っているか否か、および、世界保健機関(WHO)が推奨する運動量(週に中強度運動を150~300分または高強度運動を75~150分)を満たしているか否かにより、全体を以下のように分類した。一つ目の群は、ベースラインと追跡調査の2時点ともに運動を行っていない「座位行動維持群」で29.4%。二つ目は、2時点ともに運動はしていたもののWHOの推奨を満たしていない「非遵守群」24.3%。三つ目は、2時点ともにWHOの推奨を満たしていた「遵守群」16.9%。四つ目は、遵守から非遵守または運動せずに変化した「非遵守への変化群」13.6%。五つ目は、非遵守または運動せずから遵守に変化した「遵守への変化群」15.7%。 年齢、性別、教育歴、遺伝的リスク因子(ApoE4)の影響を調整後、「座位行動維持群」を基準として、ADの発症にかかわるアミロイドβというタンパク質の脳内の蓄積量を比較すると、「遵守への変化群」はその増加量が有意に少ないことが分かった(P=0.014)。また、「遵守群」を基準とする比較では、「非遵守への変化群」はアミロイドβの増加量が有意に多いことが分かった(P=0.014)。 論文の上席著者である同研究所のEider Arenaza-Urquijo氏は、「われわれの研究結果は、AD予防のための公衆衛生戦略として、中年期の運動を推奨することの重要性を裏付けるものだ。運動量の増加を促す介入が、将来のAD罹患率を低下させる鍵となる可能性がある」と話している。

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糖尿病関連腎臓病、日本人の病的バリアントが明らかに

 糖尿病関連腎臓病(DKD)は2型糖尿病の長期合併症であり、心血管系合併症や死亡率の高さに関連している。今回、日本国内におけるDKD患者の病原性変異について明らかにした研究結果が報告された。研究は東京大学医学部附属病院腎臓・内分泌内科の羽柴豊大氏らによるもので、詳細は「Journal of Diabetes Investigation」に4月8日掲載された。 DKDは、長期の糖尿病罹病期間と糖尿病網膜症の合併に基づき、腎生検を必要とせずに臨床的に診断される。糖尿病患者の中には、同様に血糖コントロールを行っているにもかかわらず、腎機能障害を発症する患者としない患者がいることから、遺伝的要因が糖尿病およびDKD発症の根底にある可能性がある。実際、2021年には米国の1型および2型糖尿病を患うDKD患者370名を対象とした研究から、白人患者の22%で病原性変異が特定されている。しかし、この割合は民族やデータベースの更新状況によって異なっている可能性も否定できない。このような背景を踏まえ、著者らは最新のデータベースを用いて、日本の2型糖尿病を伴うDKD患者のサンプルから全ゲノム配列解析(WGS)を実施し、病原性変異を持つ患者の割合を決定することとした。 本研究には、東京大学糖尿病性腎疾患コホートよりWGSの検体提供に同意した79人(平均年齢72歳)のDKD患者が組み入れられた。全体の25名(31.6%)に糖尿病網膜症が認められ、9名(11.4%)に腎臓病の家族歴があった。 WGSの結果、27人(34.1%)の患者で、24の遺伝子(29の部位)に位置する病原性変異が同定された。すべての変異はヘテロ接合型であり、ホモ接合型は検出されなかった。同定されたヘテロ接合型病原性変異は、大きく、糸球体症関連(23.7%)、尿細管間質性腎炎関連(36.8%)、嚢胞性腎疾患/繊毛病関連(10.5%)、その他疾患関連(28.9%)に分類された。 27人の患者で同定された変異のうち、常染色体顕性(優性)遺伝パターンに関連し、疾患の発症に潜在的に影響を及ぼすものを「診断的変異」と定義した。診断的変異は7つの遺伝子(ABCC6、ALPL、ASXL1、BMPR2、GCM2、PAX2、WT1)において10人(12.7%)の患者で認められた。これらの遺伝子はすべて常染色体顕性遺伝性疾患と関連していた。 本研究の結果について著者らは、「日本では、相当数のDKD患者において腎臓関連のヘテロ接合型病原性変異が特定された。これらの知見は、この変異に民族間の差異が存在する可能性を示唆しており、データベースの更新が変異検出に与える影響を浮き彫りにしている」と述べている。今回、DKD患者で認められた変異の臨床的意義については、「依然として不明であり、その意義をさらに検討するためにはより大規模なコホート研究が必要」と付け加えた。 本研究の限界点として、サンプル数が少なく、日本国内の単一施設のコホート研究であったことから、一般化に制約があることが挙げられる。また、WGS解析はDKD集団のみを対象としており、健常者や腎障害のない糖尿病患者との比較が行われなかったため、本研究は記述的研究にとどまるものとされている。

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昭和の理不尽【Dr. 中島の 新・徒然草】(582)

五百八十二の段 昭和の理不尽と卓球部の記憶しばらく雨が降っては、また晴れるという日々が続いています。知らない間に梅雨が近づいているのでしょうか。さて、今回は昭和の理不尽について述べましょう。というのも、ごく最近、中学校時代の卓球部の集まりがあって、いろいろと思い出したからです。当日は同学年の10人ほどが近くのうどん屋に集まりました。これまでも数年に1回くらいは集まりがあったようですが、私が出席したのは40年ぶり。盛り上がったのは当時のいろいろな出来事。今の価値観に照らしてみると、無茶苦茶でした。まず口火を切ったのはT君。T「体育館を入って右側にマットが丸めて置いてあったやろ」一同「あった、あった」T「それでお前らが下級生を簀巻きにして遊んどったら、監督のB先生に見つかってな」一同「覚えてへんなあ」T「全員が並んで殴られたんや。たまたま遅れて行った俺まで『ちょうどええ所に来た』とかいって殴られて……理由を知ったのは後からや」一同「そうやったんか」T「B先生は小さかったからな、中島には『ちょっと低くなれ』と言って殴ってたぞ」中島「なんじゃ、そりゃ?」T「俺もお前も巻き添えになったんや!」確かに簀巻は危険。でも、そんなことがあったなんて、全然覚えていません。K「Tが皆にバッジを配って『今日から俺らはT組やからな』と言ったのを覚えているか?」T「そんなことを俺が言ったんか?」K「そや。でも、後で担任に死ぬほど怒られたのは俺やぞ。配ったのはTやのに……」T「覚えてないなあ」神戸という土地柄のせいか、担任の先生も子供の悪ふざけで済ませるわけにいかなかったのでしょう。K「俺が○○で所長をしとった時にな。Aがアルバイトに応募してきよったんや。皆、Aを覚えているか?」忘れるはずもありません。Aはとんでもないド不良でした。K「こりゃまずい、と思ったんでオレは身を隠したんや。『あいつだけは絶対に採用するなよ』と担当者に言ってな」一同「当然、不採用やな」K「後で家の留守電にAからのメッセージが入っていてな。『K、お前は冷たい奴っちゃのう』とあって、ゾッとしたで」一同「ひゃ~!」1学年が15クラスもあった時代、AがKの名前を知っていたことも驚きですが、立場や自宅の電話番号まで割れていたんですね。なんといっても理不尽なのはY君のこと。中島「2年生の春、個人戦の出場選手を決めた時のことを覚えているか?」一同「覚えてないなあ」中島「部内で試合して、2年生のYが勝って3年生のNさんが負けたんや。そやからYが出るのかと思ったら、監督が『Yは遠慮しろ。代わりにNを出す』とか言い出してな」Y「そんなことがあったんか」中島「お前、ワンワン泣いとったのに、覚えてないんか?」Y「いや、全然」人間、本当に辛かった記憶は消し去るようにできているのかもしれません。そんなことがありながらも、Yは辞めずに最後まで卓球部を続けました。話は他校にも及びます。H「それにしてもミナチューのC監督は怖かったな」一同「あれは無茶苦茶やった!」ミナチューというのは当時のライバル中学の別称です。残念ながら、少子化で閉校になってしまいました。C監督は気に食わないことがあったら、試合中でもベンチを飛び出して選手を殴っていたのです。H「あの人、何で怒り出すかわからんからな。俺、心から『ポンチューで良かった!』と思ったぞ」一同「確かに」H「俺らも監督に殴られとったけど、ちゃんとした理由はあったからな」ポンチューというのは、われわれが通っていた中学の別称です。あまりにもミナチューの監督が怖かったので、いつも対戦相手のほうが泣きそうになっていました。もっとも、当時の男子中学生のアホさ加減を考えてみると、殴って言うことをきかせる方が早かったのかもしれません。もちろん昭和の話ですけどね。H「それにしてもTの家に遊びに行ったら、お祖母ちゃんが厳しかったなあ」T「明治生まれで11人の子供を育てたからな。頑固そのものやぞ」H「お前のお祖母ちゃんに『玄関では脱いだ靴をキチンと揃えろ!』と言われてたんで、今でも俺はそのクセが抜けへんぞ」一同「そりゃ、お祖母ちゃんの躾の成果や!」そんなこんなで閉店時間まで盛り上がった宴会。改めて思い返してみると、昭和というのは何かと大変な時代でした。ということで、昔の俳人・中村 草田男の代表作に敬意を表しつつ最後に1句降る雨や 昭和は遠く なりにけり

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副作用の徐脈性不整脈、QT延長症候群を考えよう(3)【モダトレ~ドリルで心電図と不整脈の薬を理解~】第3回

副作用の徐脈性不整脈、QT延長症候群を考えよう(3)Question通常の心拍数(正常の洞結節の活動電位)の方へアドレナリンとジギタリス製剤をそれぞれ投与した場合、活動電位はどのような変化を起こすでしょうか?

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第13回 コロナ・インフル「同時予防ワクチン」、その実力とは?

毎年、冬になると猛威を振るう季節性インフルエンザ。未だ世界中で散発的な流行を起こす新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。これら2つの感染症は、とくに50歳以上の人や基礎疾患を持つ人にとって、重症化や入院、時には死に至る危険性もはらんでいます。現在、これらの感染症を予防するためには、それぞれ別のワクチンを接種する必要があります。世界保健機関(WHO)やアメリカ疾病予防管理センター(CDC)は、2つのワクチンの同時接種を推奨しており、これにより接種率の向上が期待されています。しかし、その推奨にもかかわらず、両方のワクチンの接種率は必ずしも高くないのが現状です。もし、1回の注射でインフルエンザと新型コロナの両方に対応できるワクチンがあれば、接種を受ける人の負担が減り、より多くの人が予防接種を受けやすくなるかもしれません。そんな期待を背負って開発が進められてきたのが、新しい混合ワクチンです。この記事では、季節性インフルエンザと新型コロナウイルスの両方に対応するmRNAワクチン「mRNA-1083」の安全性と免疫反応を評価した最新の研究論文1)について解説します。新しいmRNA多価ワクチン「mRNA-1083」とは?今回報告された「mRNA-1083」は、mRNAワクチンの一種です。mRNAワクチンは、ウイルスのタンパク質を作るための設計図(mRNA)を体内に送り込み、それをもとに体内でタンパク質の一部が作られます。すると、私たちの免疫システムがそのタンパク質を「異物」と認識し、それに対する抗体などを作り出すことで、本物のウイルスが侵入してきた際に備えることができる仕組みです。mRNA-1083には、インフルエンザウイルスの表面にあるヘマグルチニンというタンパク質と、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の一部の設計図が含まれています。これらは、それぞれインフルエンザワクチン(mRNA-1010)と新型コロナワクチン(mRNA-1283)の成分であり、過去の研究でそれぞれ良好な安全性と免疫反応が確認されています。ワクチンの効果と安全性をどうやって調べたのか?この研究は、mRNA-1083の有効性と安全性を評価するための第III相臨床試験として、アメリカ国内146施設で実施されました。参加者は50歳以上の成人で、「65歳以上」と「50~64歳」の2つの年齢層に分けられました。これは、推奨されるインフルエンザワクチンの種類がこれらの年齢層で異なるためです。参加者は、ランダムに2つのグループに分けられました。mRNA-1083群新しい多価ワクチンmRNA-1083と、プラセボ(生理食塩水)を接種(比較群が2つのワクチン接種を受けるため、あえてプラセボを1本接種しています)比較群インフルエンザワクチンと既存の新型コロナワクチンを同時接種試験は盲検化して行われました。これにより、結果に対する先入観を排除することができます。主な目的は、接種29日後に、mRNA-1083が既存のワクチンと同等以上の免疫反応(非劣性)を示すかどうか、そして安全性を評価することでした。この研究で何がわかったのか?合計8,015人がこの試験に参加し、ワクチンを接種しました。結果として、mRNA-1083は、対象となったすべての型のインフルエンザウイルスおよび新型コロナウイルス(XBB.1.5)に対して、既存のワクチンと同等以上の免疫反応を示し、非劣性基準を達成しました。さらに、mRNA-1083はいくつかの点で、既存のワクチンよりも優れた免疫反応(優越性)を示しました。50歳~64歳mRNA-1083は、標準用量のインフルエンザワクチンと比較して、4種類すべてのインフルエンザウイルスに対してより高い免疫反応を示しました。また、新型コロナウイルスに対しても同様の結果でした。 65歳以上mRNA-1083は、高用量のインフルエンザワクチンと比較して、3種類のインフルエンザウイルス(A/H1N1、A/H3N2、B/Victoria)に対してより高い免疫反応を示しました。ただし、B/Yamagata株に対する免疫反応は、優越性の基準には達しませんでした。新型コロナウイルスに対しても、mRNA-1083はより高い免疫反応を示しました。 なお、インフルエンザB/Yamagata株は、近年の流行がみられないため2024~25年シーズンのワクチンからは除外することがWHOから推奨されています。この点を考慮すると、mRNA-1083は重要な3種類のインフルエンザウイルス(A/H1N1、A/H3N2、B/Victoria)と新型コロナウイルスの両方に対して、既存の推奨ワクチンよりも優れた免疫反応を50歳以上の成人に誘導したといえます。安全性は?ワクチンの安全性は非常に重要です。この研究では、mRNA-1083接種後の副反応も詳しく調べられました。その結果、mRNA-1083を接種した群では、既存のワクチンを接種した群と比較して、副反応を報告した人の割合や重症度がわずかに高い傾向がみられました。たとえば、65歳以上では、mRNA-1083群の83.5%に対し、比較群では78.1%が副反応を報告しました。50~64歳では、それぞれ85.2%と81.8%でした。しかし、報告された副反応のほとんどは、軽度(Grade1)または中等度(Grade2)であり、短期間で回復するものでした。最も多かった副反応は、注射部位の痛み、倦怠感、筋肉痛、頭痛でした。重篤な副反応(Grade4、すべて発熱)は非常にまれで、両年齢層のmRNA-1083群で合計4人(0.1%未満)でした。試験期間を通じて、新たな安全性の懸念は確認されませんでした。また、この研究では、ワクチン接種後の数日間の生活の質(QOL)への影響も調査されています。その結果、mRNA-1083を接種したグループでは、接種後2日目に一時的なQOLスコアの低下が見られましたが、3日目には回復しました。この低下の度合いは、既存のインフルエンザワクチンや新型コロナワクチンで報告されているものと同程度か、それ以下であり、臨床的に意味のある大きな変化ではありませんでした。研究の限界この研究は重要な知見をもたらしましたが、いくつかの限界も認識しておく必要があります。まず、この研究では、ワクチンが実際にインフルエンザや新型コロナの発症をどの程度防ぐかという「有効性」は直接評価されていません。ただし、評価された免疫反応の指標(抗体価)は、それぞれインフルエンザと新型コロナワクチンの有効性と関連する信頼性の高い指標とされています。また、試験参加者はアメリカ国内の住民で、人種構成はアメリカの一般人口を反映していますが、他の地域や人種グループにそのまま結果を当てはめられるかはさらなる検討が必要です。今後の展望今回の第III相臨床試験の結果は、mRNA多価ワクチン「mRNA-1083」が、50歳以上の成人において、4種類のインフルエンザ株と新型コロナウイルス(XBB.1.5)に対して、既存の推奨ワクチンと同等以上の免疫反応を誘導し、安全性も許容範囲であることを示しました。とくに、臨床的に重要なインフルエンザウイルスと新型コロナウイルスに対しては、既存ワクチンよりも優れた免疫反応が確認された点は注目に値します。1回の接種で2つの主要な呼吸器感染症を予防できる可能性を秘めたこの新しいワクチンは、公衆衛生の観点からも大きな期待が寄せられます。今後の実用化に向けた取り組みが注目されます。参考文献・参考サイト1)Rudman Spergel AK, et al. Immunogenicity and Safety of Influenza and COVID-19 Multicomponent Vaccine in Adults ≥50 Years: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2025 May 7. [Epub ahead of print]

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肥満体型の若い女性の健康状態は良好か

 体型と健康状態に相関はあるのだろうか。このテーマについて、オーストラリア・クイーンズランド大学公衆衛生学部オーストラリア女性少女健康研究センターのAnnette J. Dobson氏らの研究グループは、若年女性に多くみられる健康状態の年齢別有病率とBMIカテゴリーとの関連性が世代間で異なるかどうかを検討するため、18~30歳の女性の体重と身長を解析した。その結果、低体重・過体重の女性では、健康状態が良好ではないことが判明した。この結果は、Obesity誌オンライン版2025年5月13日号に掲載された。低体重でも過体重でも健康状態に影響 研究グループは、1973~78年と1989~95年生まれの参加者で、それぞれ1996年と2013年に募集された“Australian Longitudinal Study on Women's Health”からのデータを基に、18~23、22~27、25~30歳の各年齢で体重と身長を報告した女性を対象とした。評価項目は、自己評価による健康状態、一般的な疾患の有病率、月経症状、妊娠合併症。オッズ比(OR)は、反復測定を考慮した一般化推定方程式を用いたロジスティック回帰モデルを用いて推定した。 主な結果は以下のとおり。・自己評価による健康状態が「普通」または「不良」の場合、低体重域の女性(OR:1.51、95%信頼区間[CI]:1.30~1.74)または過体重域の女性(OR:1.47、95%CI:1.34~1.60)でORが高かった。 ・標準体重の女性と比較して、肥満の女性(OR:3.04、95%CI:2.76~3.35)で最もORが高く、より最近のコホートでもORが高かった(OR:1.50、95%CI:1.38~1.63)。 ・上記と同じパターンがすべての評価項目でみられた。 以上の結果から研究グループは、「BMIの増加による健康への影響は、近年においても軽減されていない。この結果は、若い女性に正常なBMIの利点を広めるために利用できる」と結論付けている。

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定年後も働きたい?医師が望むセカンドキャリア/医師1,000人アンケート

 近年、医師の定年後の過ごし方は多様化している。今回、CareNet.comでは、「医師の定年後の過ごし方」と題したアンケートを実施し、何歳まで働き続けたいかや、希望するセカンドキャリアなどを聞いた。対象はケアネット会員医師のうち、50代の勤務医が中心の1,002人で、内科系(545人)、外科系(282人)、その他診療科(175人)の3群に分けて傾向を調査した。何歳まで働くか? Q1では「何歳まで働きたいか」を聞いた。全体で最も多かった回答は「66~70歳まで」で28%、「61~65歳まで」が21%、「71~75歳まで」が22%だった。診療科系別にみると、「60歳まで」と回答した割合はその他診療科が12%で最も高く、「生涯現役」と回答した割合は内科系が13%でほかより若干高かった。定年後は非常勤の希望が最多 Q2では「定年後はどのような働き方を希望するか」を単一回答で聞いた。全体では、「非常勤・アルバイト」を希望する医師が65%と最も多く、「常勤」は24%、「就業は希望しない」は10%だった。診療科系別にみると、「常勤」を希望する割合は外科系がやや高く、「就業を希望しない」割合はその他診療科がやや高い傾向にあった。現勤務先か、ほかの医療機関に転職か Q3では「定年後に就業するなら、どのような仕事を希望するか」を複数回答で聞いた。全体では、「ほかの医療機関に転職」したい医師が52%、「現勤務先で継続」したい医師が49%と、この2つの選択肢が回答の上位を占めている。次いで、「産業医」11%、「僻地医療」8%、「就業は希望しない」8%、「医療コンサルタント」7%、「医療関連以外」7%と続いた。診療科系別にみると、「ほかの医療機関に転職」を希望する割合は外科系が最も高く、「現勤務先で継続」を希望する割合はその他診療科が最も高い傾向にあった。働く理由は「経済的な理由」だけではない Q4では「定年後も就業する理由」を複数回答で聞いた。「経済的な理由」が52%と最も多く、次いで「社会貢献」34%、「生涯現役」31%、「医師不足解消に貢献」22%となっている。診療科系別にみると、「経済的な理由」を挙げる割合はその他診療科と外科系がやや高く、「社会貢献」「生涯現役」「医師不足解消に貢献」を挙げる割合は、内科系がやや高い傾向にあった。「家族・周囲からの期待」の割合は、その他診療科でやや高い結果となった。仕事以外では旅行や趣味が人気 Q5では「就業以外で定年後にやりたいこと」を複数回答で聞いた。全体では、「旅行」が65%、「趣味」が61%と、この2つがとくに多い回答であった。そのほか、「健康維持活動」42%、「家族や友人と過ごす」32%などが上位に挙げられた。診療科系別にみると、「旅行」と回答した割合は外科系が最も高く、「健康維持活動」「家事」「医学以外の学習・資格取得」と回答した割合は、その他診療科で比較的高い結果となった。 Q6では、自由回答として「定年後にセカンドキャリアとして挑戦したいこと」を聞いた。医師の定年後のセカンドキャリアは、医療への貢献継続意向と異分野への挑戦意欲が共存しており、多岐にわたるユニークな回答が寄せられた。 回答を分類すると、「医療関連」「研究」「教育」が65件、「学び」「語学」が35件、「趣味」が33件、「社会貢献」が31件、「旅行」が23件、飲食業や不動産業などの「事業」が21件、「のんびり過ごしたい」というものが21件など、これらのカテゴリーに多くの回答が寄せられた。このほかより具体的なものとして、農業、創作活動、スポーツ、投資などの意見も少なくなかった。アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。医師の定年後の過ごし方/医師1,000人アンケート

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日本における片頭痛患者の市販薬使用状況調査〜OVERCOME第2回研究

 片頭痛患者は、さまざまな理由で市販薬(OTC)を好む傾向があるが、OTC頭痛薬の過剰使用は、薬物乱用性頭痛を引き起こす可能性がある。京都府立医科大学の石井 亮太郎氏らは、片頭痛の疫学、治療、ケアに関する観察研究であるOVERCOME(Japan)第2回研究を分析し、日本における片頭痛患者のOTC頭痛薬の実際の使用状況が適切な医療の妨げとなっている可能性について、考察を行った。The Journal of Headache and Pain誌2025年5月7日号の報告。 本研究は、成人片頭痛患者を対象に、横断的地域住民ベースの全国オンライン調査として実施された。調査内容には、片頭痛に対する処方薬およびOTC薬の使用経験、片頭痛薬の認知度、片頭痛に対する態度についての報告を含めた。1ヵ月当たりの頭痛日数(MHD)および1ヵ月当たりのOTC頭痛薬の使用頻度に基づきサブグループ解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・片頭痛患者1万9,590例(女性の割合:68.8%、平均年齢:40.5±13.1歳)の平均MHDは3.5±5.2であり、過去1年間で片頭痛のために医師の診察を受けた患者は29.0%にとどまった。・過去1年間のOTC頭痛薬の使用は、医師の診断やMHD数に関わらず、62.1%以上と高かった。・片頭痛発作時に処方薬を使用すると回答した患者のうち、通常OTC頭痛薬も使用すると回答した割合は35.2%であった。・過去1年間で医師の診察を受けた患者の51.3%は、OTC頭痛薬の使用頻度が処方薬の使用頻度と同等もしくはそれ以上であると回答した。・過去1年間で医師とOTC頭痛薬について話し合ったのは、わずか14.6%であった。・OTC頭痛薬を1ヵ月当たり10日以上使用している患者でも、片頭痛薬へのアクセスや認知度は限定的であった。18.2%がトリプタンを使用している一方で、65.5%はトリプタンについて聞いたことがないと回答した。・医師の診察を躊躇したことがあると回答した37.1%の患者において、躊躇する理由として最も多かった回答は「OTC頭痛薬で対処可能」であった(34.9%)。 著者らは「片頭痛患者は、OTC頭痛薬を頻繁に使用するが、そのことについて医師と話し合う機会は少ないことが明らかとなった。OTC頭痛薬を頻繁に使用している患者でも、片頭痛へのアクセスや認知度は低かった。片頭痛に対する薬物濫用を防ぐためにも、OTC薬の使用について話し合い、管理していく必要性が示唆された」と結論付けている。

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乳がん家族歴のある女性の検診、3D vs.2D/JAMA Oncol

 乳がんの家族歴のある女性を対象とした大規模コホート研究において、デジタル乳房トモシンセシス(DBT)を用いた乳がん検診が、従来のデジタルマンモグラフィ(DM)と比べ再検査率が大幅に低下し、特異度が向上したことをオーストラリア・シドニー大学のTong Li氏らが報告した。とくに、第1度近親者に乳がん患者がいる女性や乳腺散在乳房の女性でその効果が顕著で、きわめて高濃度乳房の女性では進行がん率を低下させることが示唆された。JAMA Oncology誌オンライン版2025年5月22日号に掲載。 本研究では、2011~18年に米国・Breast Cancer Surveillance Consortiumの加盟施設でDBTまたはDMによる検診を受けた、18歳以上の乳がん家族歴のある女性20万8,945人、延べ50万2,357件の検診データを解析した。主要評価項目は、治療の逆確率重み付けを行った再検査率、がん発見率、中間期がん(検診と次回の検診の間に発見されるがん)率、進行がん率、生検率、陽性反応的中度、感度、特異度におけるDBTとDMの絶対リスク差(ARD)であった。 主な結果は以下のとおり。・全体として、DBTはDMより再検査率が有意に低く(調整後ARD:-1.51%)、特異度が有意に高かった(同:1.56%)。とくに第1度近親者に1人の乳がん患者がいる女性では、DBTはDMより再検査率が有意に低く(同:-1.72%)、特異度が有意に高かった(同:1.75%)。・乳腺密度別にみると、脂肪性乳房の女性ではDBTの非浸潤性乳管がん(DCIS)発見率はDMより有意に低かった(-0.71/1,000検査)。乳腺散在乳房の女性では、DBTの再検査率はDMより有意に低く(ARD:-1.90%)、特異度が有意に高かった(同:1.93%)。不均一高濃度乳房の女性では、DBTの再検査率はDMより有意に高かった(同:1.75%)。きわめて高濃度乳房の女性は、DBTの生検率はDMより有意に高く(同:0.48%)、進行がん率が有意に低かった(-0.61/1,000検査)。・DBTによる検診ではDMよりも早期の浸潤がんで発見される割合が高かった。

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COPDの新たな診断スキーマが有用/JAMA

 呼吸器症状、呼吸器QOL、スパイロメトリーおよびCT画像所見を統合した新たなCOPD診断スキーマによりCOPDと診断された患者は、COPDでないと診断された患者と比較して全死因死亡および呼吸器関連死亡、増悪、急速な肺機能低下のリスクが高いことが、米国・アラバマ大学バーミンガム校のSurya P. Bhatt氏らCOPDGene 2025 Diagnosis Working Group and CanCOLD Investigatorsの研究で明らかとなった。著者は、「この新たなCOPD診断スキーマは、多次元的な評価を統合することで、これまで見逃されてきた呼吸器疾患患者を特定し、呼吸器症状や構造的肺疾患所見のない気流閉塞のみを有する患者を除外できる」とまとめている。JAMA誌オンライン版2025年5月18日号掲載の報告。主要基準として気流閉塞、副基準に症状および画像所見5項目を設定 研究グループは、COPDの新たな多次元的診断スキーマを開発し、2つの大規模な前向きコホート、Genetic Epidemiology of COPD(COPDGene)およびCanadian Cohort Obstructive Lung Disease(CanCOLD)を用いてその有用性を検証した。 COPDGeneコホートは、2007年11月9日~2011年4月15日に米国の21施設において、現在または過去に喫煙歴のある45~80歳の1万305例を登録したもので、2022年8月31日まで追跡が行われた。 CanCOLDコホートは、2009年11月26日~2015年7月15日にカナダの9施設において、40歳以上(喫煙歴は問わない)の1,561例を登録したもので、2023年12月31日まで追跡が行われた。 新しいスキーマでは、気流閉塞(FEV1/FVCが<0.70または<正常下限値)を「主要基準」、CT画像での軽度以上の肺気腫、気道壁肥厚の2つを「副基準:CT画像所見」、呼吸困難(mMRCスコア≧2)、呼吸器QOL低下(SGRQ≧25またはCAT≧10)、慢性気管支炎の3つを「副基準:呼吸器症状」として、(1)主要基準を満たし、5つの副基準のうち1つ以上を認める、または(2)副基準のうち3つ以上を認める(他の疾患が呼吸器症状の原因と考えられる場合はCT画像所見2つが必要)場合にCOPDと診断した。 主要アウトカムは、新スキーマを用いて診断した場合の全死因死亡、呼吸器疾患特異的死亡、COPD増悪、FEV1の年間変化であった。気流閉塞を認めないCOPDで予後不良 COPDGeneコホート(解析対象9,416例、登録時平均[±SD]年齢59.6±9.0歳、男性53.5%、黒人32.6%、白人67.4%、現喫煙者52.5%)では、気流閉塞を認めない5,250例中811例(15.4%)が副基準により新たにCOPDと診断され、気流閉塞を認めた4,166例中282例(6.8%)は非COPDとされた。新たにCOPDと診断された群は、非COPD群と比較して、全死因死亡(補正後ハザード比[HR]:1.98、95%信頼区間[CI]:1.67~2.35、p<0.001)、呼吸器特異的死亡(補正後HR:3.58、95%CI:1.56~8.20、p=0.003)、増悪(補正後発生率比:2.09、95%CI:1.79~2.44、p<0.001)がいずれも有意に多く、FEV1の低下(-7.7mL/年、95%CI:-13.2~-2.3、p=0.006)が有意に大きかった。 スパイロメトリーで気流閉塞が認められたが新スキーマで非COPDとされた群は、気流閉塞がない集団と同様のアウトカムであった。 CanCOLDコホート(解析対象1,341例)においても同様に、新たにCOPDと診断された群は増悪頻度が高かった(補正後発生率比:2.09、95%CI:1.25~3.51、p<0.001)。

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脳梗塞発症後4.5時間以内、tenecteplase+血栓除去術vs.血栓除去術単独/NEJM

 発症後4.5時間以内に来院した大血管閉塞による脳梗塞患者において、血管内血栓除去術単独と比較し、tenecteplase静注後血管内血栓除去術は90日時点の機能的自立の割合が高かった。中国・Second Affiliated Hospital of Army Medical University(Xinqiao Hospital)のZhongming Qiu氏らが、同国の39施設で実施した医師主導の無作為化非盲検評価者盲検試験「BRIDGE-TNK試験」の結果を報告した。大血管閉塞による脳梗塞急性期における血管内血栓除去術施行前のtenecteplase静注療法の安全性と有効性のエビデンスは限られていた。NEJM誌オンライン版2025年5月21日号掲載の報告。90日後のmRSスコア0~2の割合を比較 研究グループは、18歳以上、最終健常確認後4.5時間以内の内頸動脈、中大脳動脈M1/M2部または椎骨脳底動脈閉塞による脳梗塞患者で、中国の脳卒中ガイドラインに基づき静脈内血栓溶解療法の適応となる患者を、tenecteplase静注後血管内血栓除去術施行群(tenecteplase+血栓除去術群)、血管内血栓除去術単独群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、90日時点の機能的自立(修正Rankinスケール[mRS]スコア0~2[範囲:0~6]、高スコアほど障害が重度)、副次アウトカムは血栓除去術前後の再灌流成功率などであった。 安全性は、無作為化後48時間以内の症候性頭蓋内出血、90日以内の死亡などについて評価した。機能的自立は53%vs.44%でtenecteplase+血栓除去術が良好 2022年5月9日~2024年9月8日に554例が無作為化され、同意撤回の4例を除く550例がITT集団に組み入れられた(tenecteplase+血栓除去術群278例、血栓除去術単独群272例)。 90日時点の機能的自立は、tenecteplase+血栓除去術群で52.9%(147/278例)、血栓除去術単独群で44.1%(120/272例)に観察された(調整前リスク比:1.20、95%信頼区間:1.01~1.43、p=0.04)。 tenecteplase+血栓除去術群では6.1%(17/278例)、血栓除去術単独群では1.1%(3/271例)が血栓除去術前に再灌流に成功していた。また、血栓除去術後の再灌流成功率はそれぞれ91.4%(254/278例)、94.1%(255/271例)であった。 48時間以内の症候性頭蓋内出血は、tenecteplase+血栓除去術群で8.5%(23/271例)、血栓除去術単独群で6.7%(18/269例)に認められ、90日死亡率はそれぞれ22.3%(62/278例)、19.9%(54/272例)であった。

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高リスク前立腺がんにおいてテストステロン濃度回復は全生存率と関連

 放射線治療と長期アンドロゲン除去療法(ADT)を受けている高リスク前立腺がん患者において、血清テストステロン(T)濃度が正常レベルまで回復することは、全生存率の有意な改善と関連するという研究結果が、米国臨床腫瘍学会年次泌尿生殖器がんシンポジウム(ASCO GU25、2月13〜15日、米サンフランシスコ/オンライン開催)で報告された。 シェルブルック大学病院センター(カナダ)のAbdenour Nabid氏らは、高リスク前立腺がん患者630人を、骨盤放射線治療に加えて36カ月間のADTを行う群と18カ月間のADTを行う群にランダムに割り付けた(それぞれ310人、320人)。血清T濃度は、ベースライン時とその後も定期的に測定された。T濃度の回復は、各試験実施医療機関で正常範囲とされる範囲内に対象者のT濃度が戻ることと定義した。解析対象として、22年間(追跡期間中央値17.4年間)に測定された、515人の患者の6,587のT濃度データが利用可能であった。 解析の結果、患者の52.4%でT濃度が正常レベルまで回復した。18カ月間のADTコホートでは57.0%、36カ月間のADTコホートでは44.3%であった。T濃度が正常レベルまで回復しなかった患者は、年齢が高く、ステージが進行しており、糖尿病を有していた。T濃度が正常レベルまで戻った患者において、T濃度回復までの時間の中央値は、3.6年であった。10年および15年の全生存率は、T濃度が回復した患者でそれぞれ76%、44%、回復しなかった患者で55%、30%であった。全体的なハザード比を考慮すると、T濃度が回復した患者では死亡リスクが有意に低下した(ハザード比0.54)。 著者らは、「T濃度が回復しない患者での死亡率上昇は、前立腺がんとは無関係な原因によるものである可能性が高い」と述べている。 なお複数人の著者が、製薬企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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COVID-19パンデミック中と、その前後でのICU入室患者の治療と予後(解説:名郷直樹氏)

 アメリカの入院医療の26%をカバーする電子データを解析した後ろ向きコホート研究である。ICU入室の成人患者を対象とし、COVID-19パンデミック前、流行期、その後における院内死亡、ICU入室期間、人工呼吸器や昇圧薬など生命維持治療をアウトカムとして検討している。 曝露を研究開始時に測定し、同時期にアウトカムを追跡する通常のコホート研究ではなく、観察期間中のCOVID-19の流行の前後でアウトカムを比較した曝露前後コホート研究である。 結果は、流行前の院内死亡10%に対する、入院年・月、年齢、性別、カールソンの併存疾患インデックススコア、COVID-19感染状況、疾患重症度で調整後のオッズ比(95%信頼区間[CI])は、パンデミック中のCOVID陰性患者で1.3(1.2~1.3)、陽性患者で4.3(3.8~4.8)、2022年半ばには10%に戻っている。またICU入室期間の中央値は2.1日で、パンデミック期間中で2.2日、その差(95%CI)は0.1日(0.1~0.2)、COVID陰性患者で2.1日、陽性患者で4.1日、その差(95%CI)は2.2日(1.1~4.3)、パンデミック後2.2日、その差(95%CI)は0.1日(0.1~0.1)と報告されている。またICU入室中の昇圧薬治療が14.4%に、侵襲的人工呼吸器が23.7%に行われ、その変化は、昇圧薬使用に関し2014年の7.2%から2023年の21.6%と増加、人工呼吸器について、パンデミック前で23.2%、パンデミック中で25.8%、パンデミック後で22%と大きな変化がないことが報告されている。 曝露前後研究で厳密な因果を問うことは困難だが、何が起こったかは明確である。COVID-19のパンデミック後は、ICUでのCOVID-19感染者による死亡率のみならず、それ以外の死亡率も増加したが、その後死亡率は元のレベルに戻っている。治療内容としては昇圧薬の使用が3倍と大幅に増えたが、人工呼吸器について大きな変化はなかったということである。 この研究から言えることはそこまでである。この研究から「ワクチン接種が最も多く行われた時期にCOVID-19以外の死亡も増えている。これはワクチンによる過剰死亡だ」と言い出すような人がいるかもしれないが、それは単に仮説に過ぎず、重要なことは、こうした曝露前後の変化を検討した生態学研究から因果を取り出してはいけないということのほうである。

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記念日「多様な性にYESの日」(その3)【逆になんで女性スポーツではNOなの?どうすればいいの?(競技の公平性)】Part 1

今回のキーワード西洋化病理化人権意識性別二元制テストステロン逆ドーピング前回(その2)、同性愛が遺伝しないはずなのに遺伝している謎を、進化心理学の視点から検討しました。現在、世の中では性の多様性を自然に受け入れる流れが加速しているわけですが、一方で、女性スポーツの世界では、そうではないようです。たとえば、オリンピックの女性の種目に出場する選手が、元男性のトランスジェンダー女性の場合です。また、遺伝的には男性でありながら性分化疾患による性器の見た目から女性とされてきた人の場合です。なぜなのでしょうか?今回(その3)も、5月17日の「多様な性にYESの日」に合わせて、「記念日セラピー」と称して、多様な性がNOであった歴史を踏まえて、この理由を掘り下げます。そこから、男性と女性のカテゴリーに代わる、新しいスポーツ競技の枠組みをご提案します。なんで多様な性はNOだったの?まず、性の多様性が人々にどう受け止められてきたかの歴史を、3つの時期に分けて、振り返ってみましょう。(1)原始の時代-社会に溶け込むもともとアフリカや太平洋の島々では、同性愛行動が、男性の通過儀礼の1つになっていました。アフリカの一夫多妻制の社会では、同じ夫を持つ妻たちの同性愛行動がごく日常的に行われていました1)。また、日本を含むアジア太平洋地域では、トランスジェンダーは人々に神の祝福を授けるシャーマンとして畏敬されていました2)。日本では、平安時代から、天皇、将軍、貴族、僧侶における、それぞれの同性愛関係についての記録が残っています。記録には残っていませんが、武士においても、主君と若い家来の間での同性愛はあったと考えられています。そして、江戸時代には、庶民の間での同性愛が浮世絵で描かれています。このように、原始の時代からごく最近まで同性愛は社会に溶け込んで受け入れられていました。(2)西洋化-異常扱い、病気扱いところが、紀元前1世紀以降、文明化が進んだ欧州や中東においては、当時に誕生したユダヤ教と、その後に派生したキリスト教やイスラム教によって、同性愛は「異常」として厳しく取り締まられるようになりました。その理由は、宗教はその教えによって人々の価値観を1つ(一様性)にして、社会秩序を維持する役割があったわけですが、同性愛という多様性はその価値観にそぐわなかったからです。そして、同性愛は、「異端」「魔女」などと呼ばれ、人々の結束力(同調性)を高めるための共通の敵(スケープゴート)として利用されるようになり、同性愛を死刑にする法律までもつくられました。19世紀後半になると、同性愛は、精神障害として治療・保護の対象とされ、精神科病院に強制入院させられるようになりました。その理由は、当時の産業革命によって合理的な価値観が広がり、「普通」(マジョリティ)ではない状態には原因があり、「病」としてその治療をするべきであると考えられるようになったからです(病理化)。日本でも明治になって、このような西洋的な価値観が入り込んでいきました。こうして、西洋化によって、同性愛は異常扱い、病気扱いされ、差別と偏見が文化的に刷り込まれるようになったのでした。(3)現代-人権意識の高まり20世紀後半から、米国を中心に、女性やアフリカ系米国人などへのさまざまな人権意識が高まったことで、同性愛の人たちの人権運動も活発になりました。その社会的なムーブメントから、その1の冒頭でも触れたように、1990年に同性愛、両性愛という名称がWHO(世界保健機関)の国際疾病分類(ICD-10)から除外されたのでした。その後、2018年の国際疾病分類(ICD-11)への改訂に伴い、トランスジェンダーは、「性同一性障害」から「性別不合」へと名称が変更され、さらに「精神および行動の障害」から「性の健康に関連する状態」(健康の章)へと分類が変更され、障害とはみなされなくなったのでした。なお、トランスジェンダーがこの「健康の章」に新しい名称で残された理由は、妊娠出産と同じように、ホルモン治療や性別適合手術などを引き続き保険適応にするためです。また、その1でも紹介した異性の服を着るクロスドレッシングは、DSM(米国の診断基準)ではDSM-5で異性装障害として残っていますが、ICD(WHOの診断基準)ではICD-11への改訂に伴い削除されました。これは、クロスドレッシングを受け入れるようになった現代社会では、本人たちが苦痛を感じる状況がもはや想定できなくなったからです。この点で、次のDSMの改訂で「異性装障害」という名称も削除されることが予測されます。こうして、現代では、人権意識の高まりによって再び性の多様性が受け入れられるようになってきたのです。次のページへ >>

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記念日「多様な性にYESの日」(その3)【逆になんで女性スポーツではNOなの?どうすればいいの?(競技の公平性)】Part 2

じゃあなんで現代でも女性スポーツでは受け入れられないの?性の多様性が現代社会の学問、政治、ビジネスにおいて広く受け入れられるようになってきた一方で、スポーツの世界ではあまり受け入れられていません。たとえば、2021年の東京オリンピックの女性重量挙げに出場した、元男性のトランスジェンダー女性が、IOCが定めた男性ホルモンの基準値を満たしていたにもかかわらず、非難を浴びました。また、2024年のパリオリンピックの女性ボクシングで金メダルを取った2人の選手は、生まれた時から性別は女性とされパスポートも性別は女性と明記されていましたが、性分化疾患(5α還元酵素欠損症)であることが判明して、遺伝的には男性であったことから議論を呼びました。なぜなのでしょうか? 大きく2つの理由を挙げてみましょう。(1)競技の公平性たとえば、性分化疾患の女性(遺伝的には男性)は、男性ホルモンが高ければ圧倒的に有利になってしまいます。また、トランスジェンダー女性(元男性)は、性別適合手術のあとで男性ホルモンがつくられなくなっても、以前の男性ホルモンの影響が骨格の大きさには残っていて有利になってしまう可能性があります。1つ目の理由は、男性と女性ではそれぞれの男性ホルモンの働きの違いから明らかな身体能力の差があり、身体的(遺伝的)に男性であるのに、女性競技に参加するのは不公平だと思われているから、つまり競技の公平性です。(2)性別二元制の価値観その1でも説明したように、体(身体的性)においても心(性自認)においても、人は、性スペクトラムとして連続しています。すると、どうしても男女の区別をオーバーラップする、つまり乗り越える人が現れます。しかし、現代まで続く近代オリンピックは、人間は男性と女性しかいないという19世紀当時の価値観を受け継ぎ、男女別々に行うという方式を踏襲してきました。そして、これを維持するために、かつてはトランスジェンダーや性分化疾患の選手を失格にして排除してきました。2つ目の理由は、トランスジェンダーや性分化疾患の選手たちの存在は、人間は男性と女性しかいないという固定観念を揺さぶり都合が悪いから、つまり、性別二元制の価値観です。じゃあどうすればいいの?トランスジェンダーや性分化疾患が女性スポーツで受け入れられない理由は、競技の公平性と性別二元制の価値観であることがわかりました。そして、そのような選手が非難にさらされるジレンマがあることもわかりました。それでは、どうすればいいでしょうか?その答えは、競技をもはや男女で分けるのではなく、男女の身体能力の違いを決定づける男性ホルモン(テストステロン)の数値で分けるのです。テストステロンの数値で分けると、クリアカットで曖昧な余地はありません。これは、競技によって体重で分けるのと同じです。「アンダー○○」や「マスターズ」など、年齢で分けるのとも同じです。そして、パラリンピックで障害の重症度で分けるのとも同じです。また、テストステロンの検査方法は、唾液検査と毛髪検査で代用できて、ドーピングの尿検査と同じくらい簡単に行えます。そして、唾液や毛髪の検査でテストステロンが基準値を超えていると疑われる場合はさらに血液検査を行います。このようにすると、もはや女性であるかどうかを確かめるための性器の目視検査(性分化疾患が疑われる場合はその計測や形状の評価)や性染色体検査は不要になります。そもそも、選手の性器がどうか、染色体がどうかという評価はとてもプライベートなことであり、このような検査を強制すること自体が時代遅れであり、とんでもない人権侵害です。どの数値で分けるの?テストステロンの血中の値は、男性10~30nmol/L(中央値15nmol/L)、女性0.4~2.0nmol/L(中央値0.7nmol/L)で、男性は女性の約10倍以上あり、その間に開きがあります3,4)。このグラフから、テストステロンの数値で分けるその線引き(カットオフ値)は、男性の下限、女性の上限、男女の中央値の差分から、7nmol/Lあたりが公正で妥当なのではないでしょうか?たとえばこの数値を以下のように新しいカテゴリーとして、そのまま表示するのです。男性の種目→テストステロン制限なしの種目女性の種目→テストステロン制限あり(7nmol/L以下)の種目ちなみに、現在、トランスジェンダー女性や性分化疾患の選手が女性の種目に参加するためのテストステロンの基準値は、オリンピック(IOCの規定)で10nmol/L以下、陸上競技(世界陸連の規定)と水泳競技(世界水泳連盟の規定)で2.5nmol/Lです。男女で分けるのではなく、テストステロンの数値だけで分けるとすると、IOCの基準(10nmol/L)では、その数値以下に入り込める男性が出てしまい、その選手は「制限あり」のカテゴリーでも出場できることになり、不公平です。一方で、世界陸連や世界水泳連盟の基準(2.5nmol/L)では、その数値に引っかかる女性が出てしまい、その選手は「制限なし」のカテゴリーでしか出場できなくなり、同じく不公平です。もちろん、今回ご提案する「7nmol/L」という数値の妥当性は、今後に議論されるでしょう。ただ少なくとも、3nmol/Lから9nmol/Lの間に収まるでしょう。また、テストステロンのみを指標とする妥当性についても、議論の余地があるでしょう。ただ現時点で、男女で分けるよりは公平であるということだけは言えます。今後に、テストステロンよりもさらに公平な指標のエビデンスが出てくるのなら、その時に具体的に提案されて比較検討されるべきでしょう。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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記念日「多様な性にYESの日」(その3)【逆になんで女性スポーツではNOなの?どうすればいいの?(競技の公平性)】Part 3

新しいカテゴリー分けにすると出てくる新たな問題とは? その解決策は?ただし、実際に「テストステロン制限なし」と「テストステロン制限あり」というカテゴリー分けにすることで、新たな問題が出てくることが想定されます。2つ挙げて、その解決策を検討しましょう。(1)「逆ドーピング」への取り締まり1つ目は、「制限あり」のカテゴリーで出場するために、テストステロンを下げる薬を使う男性が出てくることです。テストステロンなどを上げる薬(ドーピング)の逆、つまり「逆ドーピング」です。この解決策としては、ドーピングだけでなく、この「逆ドーピング」も取り締まりの対象にする必要があります。この点で、トランスジェンダー女性が「制限あり」のカテゴリーで出場する場合、見た目の女性らしくするホルモン療法は、テストステロンを下げる「逆ドーピング」になるため不可になります。一方で、トランスジェンダー男性が「制限なし」のカテゴリーで出場する場合でも、見た目を男性らしくするホルモン療法は、テストステロンを上げるドーピングになるため、当然不可になります。つまり、テストステロンに関係する薬は厳正に取り締まる必要があるわけです。あくまで、その選手本人の持つテストステロンのレベルを重要視するという公正さと一貫性が必要になります。よくよく考えると、もはや男女で分けないので、「女性として出場する」「男性として出場する」という概念がなくなります。すると、もはや男性らしいか女性らしいかという見た目がどうかよりも、個人個人の身体能力がどうかということに重きが置かれる必要がありますし、そうなっていくでしょう。(2)精巣と身体能力の関係への理解2つ目は、性別適合手術(テストステロンをつくる精巣の除去)をしたトランスジェンダー女性だけでなく、病気(両側の精巣がんなど)や交通事故によって精巣を失った男性も、「制限あり」のカテゴリーで堂々と出場することができるわけですが、それに最初は理解が追い付かない人が出てくることです。この解決策としては、精巣と身体能力の関係への理解を広げる取り組みをする必要があります。確かに、手術をしても、骨格自体は以前のテストステロンの影響が残ります。しかし、精巣をなくして一定期間を経れば、筋力をはじめとする身体能力はやはり精巣がなくなった(テストステロン濃度が下がった)影響を強く受けます。また、彼らは、競技に有利になるために、精巣をなくしたわけではありません。この点で、彼らが元男性または男性だからというだけで、「制限なし」のカテゴリーにとどめるのは、「男性差別」に当たります。そして、これは、依然として性別二元制にとらわれていることになります。先ほどと同じように、もはや競技種目を男女で分けないので、「女性として出場する」「男性として出場する」という概念がなくなるため、男性かどうか、元男性かどうかという属性よりも、やはり個人個人の身体能力がどうかということに重きが置かれる必要がありますし、そうなっていくでしょう。スポーツ競技にも「多様な性にYESの日」が来た時これまで、男女別にしてきかたらこそ、男女の違いに目が行ってしまっていました。これからは、男女の違いではなく、トランスジェンダーや性分化疾患かどうかでもなく、性別適合手術をしたかどうかでもなく、シンプルに血中テストステロン濃度が基準値以下か以上かだけでカテゴリー分けをして、選手個人個人の身体能力の違いとしてスポーツ競技を楽しむという新しい時代の転換期に来ているのではないでしょうか? そんなスポーツにおいても「多様な性にYESの日」が来た時こそ、再びかつてのように性の多様性をありのままに受け入れ、特別視しない世の中になっているのではないでしょうか?1)「同性愛の謎」pp.84-88:竹内久美子、文春新書、20122)「LGBTを正しく理解し、適切に対応するために」p.982:精神科治療学、星和書店、2016年8月3)「パリ・オリンピック女子ボクシング問題から考える誤解だらけの「性分化疾患」」:谷口恭、医療プレミア、20244)「血液検査用テストステロンキット ケミルミ テストステロンII」(添付文書)p.3:シーメンスヘルスケア・ダイアグノスティクス株式会社、2024<< 前のページへ■関連記事記念日「多様な性にYESの日」(その1)【なんで性は多様なの?(性スペクトラム)】Part 1記念日「多様な性にYESの日」(その2)【だから遺伝しないはずなのに遺伝してるんだ(同性愛)】Part 1

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第265回 “米騒動”で農水相更迭、年金法案修正、医療法改正案成立困難を招いた厚労相の責任は?

まさか本当に“令和の米騒動”が起こるとはこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。一昨年夏、本連載で中日ドラゴンズの立浪 和義前監督の采配に関連して起きた“令和の米騒動”(第177回 「令和の米騒動」と神戸・甲南医療センター専攻医自殺・労災認定で感じた共通する“病根”)について書きましたが、まさか本当に“令和の米騒動”が起こるとは思ってもみませんでした。「米は買ったことがない」発言で江藤 拓農林水産大臣があっという間に“更迭”され、小泉 進次郎農水相が誕生しました。就任直後からテレビ番組にも積極的に出演、「備蓄米は随意契約で売り渡す」「米は5キロ2,000円にする」など、大胆発言を続けています。元々、発言の内容はともかく、パフォーマンスが上手な政治家だけに、野党やマスコミも少なからぬ興味と期待を持って米政策の行方を注視しているようです。その成否はさておいて、大臣が最前線に出てリーダーシップを発揮しながら政策を進めることはいいことですね。失敗した時の責任の所在も明確になりますし。重要法案である医療法改正案の今国会での成立が困難な状況にさて、大臣のリーダーシップでは、福岡 資麿厚生労働大臣は大丈夫なのでしょうか。今国会が始まってすぐに高額療養費制度の見直しのドタバタがありました(「第254回 またまた厚労省の見通しの甘さ露呈?高額療養費制度、8月予定の患者負担上限額の引き上げも見送り、政省令改正で済むため患者団体の声も聞かず拙速に進めてジ・エンド」参照)。基金設立を巡っていろいろ問題があった(「第251回 “タカる”厚生労働省(前編) 「課税のような形で製薬企業に拠出義務」の創薬支援基金(仮称)構想、最終的に財源は国費と『任意』の寄付で決着」参照)薬機法等改正法案(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律案)はなんとか成立にこぎ着けたものの、年金制度改正法案(社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案)は、政府・与党が法案提出時に削除した厚生年金の積立金を活用して基礎年金を底上げする仕組みを、立憲民主党の修正案を受け入れる形で復活させることになりました。少数与党ゆえの政権運営の難しさは理解できますが、厚労政策の一連の動きの中で、福岡厚労相が前面に出て何か大きなアクションを起こしたという報道は目にしません。さらに、厚労省としては重要法案である医療法改正案(医療法等の一部を改正する法律案)の今国会での成立が困難な状況になっています。地域医療構想の見直しや医師偏在是正に向けた総合対策、医療DXの推進など、一刻も早く進めなければならない政策を盛り込んだ法案だけに、「米は買ったことがない」発言並に大臣の力量、リーダーシップが問われる事態だと言えるでしょう。立憲民主が医療法改正案と野党提出の議員立法の同時審議を求め、自民党がこれに難色5月17日付のMEDIFAX Webは、「与野党の駆け引き激化で『棚ざらし』 医療法改正案」と題するニュースを配信、医療法改正案が「議員立法との同時審議を求める野党と、難色を示す与党との間で折り合いが付かず、衆院厚生労働委員会での実質的な審議にさえ入れていない」と書いています。厚労省は今国会に6本の法案を提出、特別弔慰金支給法改正案を最初に審議し、続いて薬機法、医療法、国民年金法の各改正案、2本の労働関連法案(労働施策総合推進法改正案、労働安全衛生法改正案)という順番で、衆院で審議する予定だったそうです。それが、同記事によれば、「薬機法までは予定通りの順番で審議が進んでいた。しかし立憲民主党が、次に審議する予定だった医療法改正案と野党提出の議員立法の同時審議を求め、自民党がこれに難色を示したため、衆院厚労委は開催のめどが立たない状況となった」とのことです。立憲民主が同時審議を求めた議員立法とは、「介護・障害福祉従事者の賃金の処遇改善法案」(立憲民主、日本維新の会、国民民主党が提出)と「訪問介護事業者を支援する法案」(立憲民主と国民民主が提出)で、厚労省提出法案と議員立法を同等の取り扱いで審議すべきと主張していました。自民党は、医療法改正案と内容に関連がないことなどを理由に、同時審議を認めませんでした。医療法改正案から1ヵ月半遅れで提出の年金法改正案を優先審議同時審議を認めない自民党に対し、立憲民主が抗議の姿勢を示した結果、自民党は審議の順番を調整、医療法改正案と年金法改正案に先行して、労働関連法案を審議することとなりました。このあたりの事情についてMEDIFAXは、立憲民主は「安衛法改正案を先に審議することを認めることで後の日程に余裕をつくり、提出が遅れていた年金制度改正法案の審議の時間切れを阻止する狙いもあった」と書いています。ということで衆院厚生労働委員会は労働関連法案を先行して審議し可決、現在は年金制度改正法案の審議に入っています。医療法改正案の衆院へ付託が4月3日、年金制度改正法案の衆院への付託はそれより1ヵ月半も遅い5月20日ですから、医療法改正案はまさに「棚ざらし」だったと言えるでしょう。今国会の会期末は6月22日で、もう1ヵ月を切っています。年金制度改正法案の審議ではこれから修正を行うことになり、もうひと悶着くらいありそうなことを考えると、医療法改正案の衆院での審議や参院への送付は極めて難しい状況になったと言えるでしょう。ちなみに、「医療法改正案を今国会で成立させるのは難しい」という情報は、私自身、5月半ばころ厚労省のある審議官を取材した知人の記者からも聞いていました。夏の参院選への影響を懸念するあまり、自民党内で年金制度改正法案の了承を得るのに時間がかかり、法案提出が予定より2ヵ月ほど遅れたことも致命的だったようです。医療提供体制整備や医師確保が喫緊の課題となっている地方には大ダメージ医療法改正案よりも年金法改正案がより重要であることは理解できます。野党にとっても「年金法改正案を修正させた」という事実は夏の参院選にプラスに働くため、そこに注力したい気持ちもわかります。ただ、医療法改正案の成立が今国会以降に先送りされる影響は極めて大きいでしょう。今回の医療法改正案には、前述のように、新たな地域医療構想の制度化に加え、昨年盛んに議論された医師偏在是正のための総合的な対策や、社会保険診療報酬支払基金を医療DX運営母体に改組するなど重要な政策が盛り込まれています。これらの重要政策のスタート時期も大幅に遅れる可能性が出てきたわけで、医療提供体制の整備や医師確保が喫緊の課題である地方にとって、そのダメージは決して小さくありません。とは言え、こうした負の影響は、「米は買ったことがない」といったわかりやすい失言ほどには、一般の人はもちろん、医療関係者にも理解しにくいものです。自民党厚労部会長や参院厚労委理事などを歴任し、「医療や介護に強い」という評判とともに昨年11月に就任した福岡厚労相ですが、厚労官僚の言い分を右から左へ流す(高額療養費制度の見直しはまさにそうでした)だけではなく、もう少し大臣らしい動き、リーダーシップを見せて欲しいと思うのは私だけでしょうか。

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