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第272回 希少疾患の専門医が抱える本当の課題~患者レジストリ維持の難しさ

昨今、「希少疾患」という単語を耳にする機会は増えた。そもそも希少疾患の定義は、国によってもまちまちと言われるが、概して言えば患者数が人口1万人当たり1~5人未満の疾患を指すと言われる。また、日本国内の制度で言うと、こうした希少疾患の治療薬は、通称オーファン・ドラッグと言われ、患者数が少ないために製薬企業が開発に二の足を踏むことを考慮し、オーファン・ドラッグとして指定を受けると公的研究開発援助を受けられる制度が存在する。同制度での指定基準は国内患者数が5万人未満である。この希少疾患に関する情報に触れる機会が増えたのは、製薬企業の新薬研究開発の方向性が徐々にこの領域に向いているからである。背景には、これまで多くの製薬企業の研究開発に注力してきたメガマーケットの生活習慣病領域でそのターゲット枯渇がある。そして希少疾患への注目が集まり始まるとともに新たに指摘されるようになったのが、「診断ラグ」。希少疾患は、患者数・専門医がともに少なく、多くは病態解明が途上にあるため、患者が自覚症状を認めてもなかなか確定診断に至らない現象である。そして取材する私たちも希少疾患の情報に触れる機会が増えながらも、ごく一般論的なことしか知らないのが現状だ。正直、わかるようなわからないようなモヤモヤ感をこの数年ずっと抱え続けてきた。そこで思い切って希少疾患の診療の最前線にいる専門医にその実態を聞いてみることにした。話を聞いたのは聖マリアンナ医科大学脳神経内科学 主任教授の山野 嘉久氏。山野氏が専門とするのは国の指定難病にもなっている「HTLV-1関連脊髄症(HAM)」。HTLV-1はヒトT細胞白血病ウイルス1型のことで、九州地方にキャリアが集中している。HAMはHTLV-1キャリアの約0.3%が発症すると言われ、全国に約3,000人の患者がいると報告されている。HAMはHTLV-1感染をベースに脊髄で炎症が起こる疾患で、初期症状は▽足がもつれる▽走ると転びやすい▽両足につっぱり感がある▽両足にしびれ感がある▽尿意があってもなかなか尿が出にくい▽残尿感がある▽夜間頻尿、など。急速に進行すると、最終的には自力歩行が困難になる。現在、HAMに特異的な治療薬はなく、主たる治療は脊髄の炎症をステロイドにより抑えるぐらいだ。以下、山野氏とのやり取りを一問一答でお伝えしたい。INDEX―まずHAMの診断では、どれほど困難が伴うのか教えてください―確定診断までの期間がこの20年ほどで半分に短縮されています―それでも初発から確定診断まで2~3年を要するのですね―山野先生の前任地・鹿児島はHAMが発見された地域で、患者さんが多いと言われています―関東に赴任してHAM診療の地域差を感じますか?―ガイドラインができたのはいつですか?―HAMの早期段階の症状から考えれば、事実上のゲートキーパーは整形外科、泌尿器科あるいは一般内科の開業医になると思われます―では、診断ラグや治療の均てん化を考えた場合、現状の医療体制をどう運用すれば最も望ましいとお考えでしょう?―そのうえで非専門の医療機関・医師が希少疾患を見つけ出すとしたら何が必要でしょう―もっとも日本国内では開業医の電子カルテ導入率も最大60%程度と言われ、必ずしもデジタル化は進んでいません― 一方、希少疾患全体で見ると、新薬開発は活発化していますが、従来の大型市場だった生活習慣病領域で新薬開発ターゲットが枯渇したことも影響していると思われますか―その意味で国の希少疾患の研究に対する支援についてどのようにお考えでしょう?―まずHAMの診断では、どれほど困難が伴うのか教えてくださいHAMでは疾患と症状が1対1で対応しておらず、複数の症状が重なり、かつ症状や進行に個人差があります。このような状況だと、医療に不案内な患者さんはそもそもどの診療科を受診するべきかがわからないという問題が生じます。高齢の患者さんでありがちな事例を挙げると、まず歩行障害や下肢のしびれを発症すると、老化のせいにし、医療機関は受診せず、鍼灸院に通い始めます。それでも症状が改善しなければ整形外科を受診します。また、排尿障害が主たる患者さんは最終的に泌尿器科に辿り着きます。しかし、半ば当然のごとく受診段階で患者さんも医師もHAMという疾患は想定していません。結果としてなかなか症状が改善せず、医療機関を何軒か渡り歩き、最終的に運よく診断がつくのが実際です。私たちはHAMの患者さんの症状や検査結果などの臨床情報や、血液や髄液などの生体試料を収集し、今後の医学研究や創薬へ活用する患者レジストリ「HAMねっと」を運営していますが、そのデータで見ると1990年代は初発から確定診断まで平均7~8年を要していました。それが2010年代には2~3年に短縮されています。―確定診断までの期間がこの20年ほどで半分に短縮されています2008年にHAMが国の指定難病となったこと、前述の「HAMねっと」の充実、専門医による全国の診療ネットワーク構築など、さまざまな周辺環境が整備され、それとともに啓発活動が進展してきたことなど複合的な要素があると考えています。―それでも初発から確定診断まで2~3年を要するのですねまさに今日受診された患者さんでもそれを経験したばかりです。他県の大学病院で診断がつき、治療方針決定のため紹介を受けた患者さんですが、2018年に排尿障害、2020年から歩行障害が認められ、車いすで来院されました。この患者さんは2年程前に脊髄小脳変性症との診断を受けていました。HAMは脊髄が主に障害されますが、実は亜型として小脳でも炎症を起こす方がいます。こうした症例は数多く診療している専門医でなければ気付けないものです。こういうピットホールがあるのだと改めて実感したばかりです。―山野先生の前任地・鹿児島はHAMが発見された地域で、患者さんが多いと言われていますおっしゃる通りで、加えて神経内科医が多い地域でもあるため、大学病院ではHAMの患者さんを診療した経験のある医師が少なくありません。そうした医師が県内各地の病院に赴任しているので、HAMの初期症状と同じ症状の患者さんが来院すると、HAMを半ば無意識に疑う癖がほかの地域よりも付いています。そのため確定診断までの期間が短いと思います。―関東に赴任してHAM診療の地域差を感じますか?2006年に赴任しましたが、当初はかなり感じました。具体例を挙げると、診断ラグよりも治療ラグです。HAMの患者さんの約2割は急速に進行しますが、一般的な教科書的記述では徐々に進行する病気とされています。その結果、HAMと診断された患者さんが、どんどん歩けなくなってきていると訴えても、主治医がゆっくり進行する病気だから気にしないよう指示し、リハビリ療法が行われていた患者さんを診察したことがあります。この患者さんは髄液検査で脊髄炎症レベルが非常に高く、進行が早いケースで早急にステロイド治療を施行すべきでした。また、逆に炎症がほとんどなく、極めて進行が緩やかなタイプにもかかわらず大量のステロイドが投与され、ステロイドせん妄などの副作用に苦しんでいる事例もありました。当時は診療ガイドラインもない状態だったのですが、このように診断ラグを乗り越えながら、鹿児島などで行われていた標準治療の恩恵を受けていない患者さんを目の当たりにすることが多かったのをよく覚えています。HAMの患者数は神経内科専門医よりはるかに少ない、つまりHAMを一度も診療したことがない神経内科専門医もいます。そのような中で確定診断に至る難易度が高いうえに、適切な情報が不足している結果として主治医によって治療に差があるのは、患者さん、医師の双方にとって不幸なことです。だからこそ絶対にガイドラインを作らなければならないと思いました。―ガイドラインができたのはいつですか?2019年1)とかなり最近です。2016年から3年間かけて作成しました。実はガイドライン作成自体は、エビデンスが少ないことに加え、ガイドラインという響きが法的拘束力を想起させるなどの誤解から反対意見もありました。実際のガイドラインではエビデンスに基づき、わかっていることわかっていないことを正確に記述し、現時点で専門家が最低限推奨した治療を記述し、医師の裁量権を拘束するものでもないということまで明記しました。―HAMの早期段階の症状から考えれば、事実上のゲートキーパーは整形外科、泌尿器科あるいは一般内科の開業医になると思われます一般内科医の場合、日常診療では新型コロナウイルス感染症を含む各種呼吸器感染症全般、腹痛など多様な疾患を診療している中に神経疾患と思しき患者さんも来院している状況です。その中でHAMの患者さんが来院したとしても、限られた診療時間でHAMを思い浮かべることはかなり困難です。最終的には自分の範囲で手に負えるか、負えないかという線引きで判断し、手に負えないと判断した患者さんを大学病院などに紹介するのが限界だと思います。―では、診断ラグや治療の均てん化を考えた場合、現状の医療体制をどう運用すれば最も望ましいとお考えでしょう?希少疾患の場合、数少ない患者さんが全国に点在し、疾患によっては専門医が全国に数人しかいないこともあります。極論すれば、現状では専門医がいる地域の患者さんだけが専門的医療の恩恵を受けやすい状況とも言えます。その意味でまず優先すべきは、各都道府県に希少疾患を診療する拠点を整備することです。そのことを体現しているのが、2018年から整備が始まった難病診療連携拠点病院の仕組みです。一方で希少疾患に関しては、従来から専門医が軸になったネットワークが存在します。手前味噌ですが、先ほどお話しした「HAMねっと」もその1つです。HAMの場合、確定診断に必要な検査のうちいくつかは保険適用外のため、全国各地にある「HAMねっと」参加医療機関では研究費を利用し、これらの検査を無料で実施できる体制があります。現状の参加医療機関は県によっては1件あるかないかの状況ですが、それでも40都道府県をカバーできるところまで広げることができました。ただ、前述した難病診療連携拠点病院と「HAMねっと」参加医療機関は必ずしも一致していません。その意味では希少疾患専門医、国の研究班、難病診療連携拠点病院がより緊密に連携する体制構築を目指していくことがさらに重要なステップです。このように受け皿を整備すれば、ゲートキーパーである開業医の先生方も診断がつきにくい患者をどこに紹介すればよいかが可視化されます。それなしに「ぜひ患者さんを見つけてください」と疾患啓蒙だけをしても、疑わしい患者の発見後、どうしたらいいかわからず、現場に変な混乱を招くリスクもあると思います。―そのうえで非専門の医療機関・医師が希少疾患を見つけ出すとしたら何が必要でしょうやはり昨今の技術革新である人工知能(AI)を利用した診断支援ツールの実用化が進めば、非常に有益なことは間違いないと思います。そもそもAIには人間のような思い込みがありませんから、たとえば脊髄障害があることがわかれば、自動検索で病名候補がまんべんなく上がってくるというシンプルな仕組みだけで見逃しが減ると思います。そのようになれば、迅速に専門医に紹介される希少疾患患者さんも増えていくでしょう。―もっとも日本国内では開業医の電子カルテ導入率も最大60%程度と言われ、必ずしもデジタル化は進んでいません国がどこまで医療DXを推進しようとしているかは、率直に言って私にはわかりません。ただ、医療DXが進展しやすい土俵・環境を作る責任は国にあると思います。その意味では先進国の中で日本がやや奥手となっている医療機関同士での患者情報共有の国際標準規格「FHIR」の導入推進が非常に重要です。それなしでAIによる診断支援ツールの普及は難しいとすら言えます。また、こうした診断支援ツールの開発では、開発者がきちんとメリットを得られるルール作りも必要でしょう。― 一方、希少疾患全体で見ると、新薬開発は活発化していますが、従来の大型市場だった生活習慣病領域で新薬開発ターゲットが枯渇したことも影響していると思われますか 率直に言って、希少疾患領域に関わっていると今でも太陽の当たる場所ではないと思うことはあります(笑)。その意味で新薬開発が進んでこなかった背景には技術的な問題とともに企業側の収益性に対する考えはあったと思います。もっとも昨今では技術革新により新規化合物デザインも進化し、希少疾患でも遺伝子へのアプローチも含め新たな創薬ターゲットが解明されつつあります。その意味ではむしろ新薬開発も今後は希少疾患の時代となり、30年後くらいは多くの製薬企業が希少疾患治療薬で収益を上げる時代が到来しているのではないかと予想しています。HAMについて言えば、いまだ特異的治療薬はありませんが、もし新薬が登場すれば診断ラグもさらに短縮されると思います。やはり治療薬があると医師側の意識が変わります。端的に言えば「より良い治療があるのだから、より早く診断をつけよう」というインセンティブが働くからです。そして、先程来同じことを言ってしまうようですが、やはりこの点でも、新薬開発が進む方向への誘導や希少疾患の新薬開発の重要性に対する国民の理解促進のために、国のサポートは重要だと思うのです。―その意味で国の希少疾患の研究に対する支援についてどのようにお考えでしょう?そもそも希少疾患は数多くあるため、公的研究費の獲得は競争的になりがちです。一般論では投じられる資金が多いほど、病態解明や新規治療開発は進展しやすいとは思いますが、ただ湯水のように資金を投じればよいかと言えばそうではありません。あくまで私見ですが、日本での希少疾患研究支援は、有力な治療法候補が登場した際の実用化に向けた支援枠組みは整いつつあると思っています。反面、基盤的な部分、HAMの例で言えば、患者レジストリ構築のような部分への支援は弱いと考えています。私たちは臨床データを電子的に管理すると同時に患者検体もバンキングしています。これらがあって初めてゲノム解析などによって病態解明や治療法開発の研究が可能になるからです。つまり患者レジストリは研究者にとって一丁目一番地なのです。しかし、その構築と維持は非常にお金がかかります。一例を挙げれば、「HAMねっと」で検体保管に要している液体窒素代は年間約500万円です。しかも、患者レジストリの構築と維持の作業からは直接成果が得られるわけではないのです。このために製薬企業などの民間企業が資金を拠出することは考えにくいです。結局、私も当初は外来終了後にポチポチとExcelの表を作成し、検体を遠心分離機にかけるという作業をやっていました。こうした患者レジストリを国によるコストや労力の支援で構築できるようになれば、多くの希少疾患でレジストリが生み出され、日本が世界に誇る財産にもなり得ます。もっとも先程来、「国」に頼り過ぎているきらいもあるので、国だけでなく企業、患者さんとも共同でこうした基盤を育てていく活動が必要なのではないかと考えています。恥ずかしながら、診断ラグのみならず治療ラグが存在すること、患者レジストリ構築の苦労やその重要性などについては私にとっては目からウロコだった。山野氏への取材を通じ、私個人はこの希少疾患問題をかなり狭くきれいごとの一般論で捉えていたと反省しきりである。 1) 日本神経学会:HTLV-1関連脊髄症(HAM)診療ガイドライン2019

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マッチング直前!採用者が本当に求める○○ない人【研修医ケンスケのM6カレンダー】第4回

マッチング直前!採用者が本当に求める○○ない人さて、お待たせしました「研修医ケンスケのM6カレンダー」。この連載は、普段は初期臨床研修医として走り回っている私、杉田研介が月に1回配信しています。私が医学部6年生当時の1年間をどう過ごしていたのか、月ごとに振り返りながら、皆さんと医師国家試験までの1年をともに駆け抜ける、をテーマにお送りして参ります。この原稿を書いているただいまは2025年7月中旬で、久しぶりの雨の数日間を経て、ようやく晴れの日が戻ってきました。余談ですがやはり雨が続くと救急外来のWalk-Inは減りますね。皆さまいかがお過ごしでしょうか。連載がスタートして4本目。何となく私の言葉やリズム感に慣れてきた読者の方がいらっしゃると嬉しいです。改めて、この連載では当時を懐かしみながら、あの時の自分へ何を話しかけるのか、皆さんの6年生としての1年間が少しでも良い思い出になる、そんなお力添えができるように頑張って参りますので、ぜひ引き続き応援のほどよろしくお願い申し上げます。(雨上がりのじめっとした夏の日には、やっぱりジェラートでしょ!)7月にやること:採用者視点に必ず立つさて、7月は先月の予告通りマッチング、とくに面接試験について徹底攻略したいと思います。卒業資格を得て医師国家試験に合格すれば医師免許を取得できる。しかし、研修医として働くには社会人・労働者として臨床研修指定病院に雇ってもらわなければならない。当然の話ですが、この前提がマッチング攻略の基本中の基本で、大切な考え方です。毎月準備すべきことをお伝えしていますが、面接を控える方への7月のメッセージはたった1つです。「自分が選ぶ」という視点だけでなく、「選ばれる側である」という視点を忘れないこの視点で面接準備を進めてほしいです。初期臨床研修マッチングの仕組みまず、皆さんが挑むマッチング制度についておさらいから。学生は全国の臨床研修指定病院を第1〜第n希望まで登録する。病院側も「採用したい学生の順番」を提出し、Gale-Shapleyという安定マッチングのアルゴリズムを用いて、コンピューターが相互希望順位に基づいて組み合わせを決定します。これにより「お互いに最も納得できる組み合せ」が成立する仕組みです。ここからが本題です。仕組みから考えると、(とくに人気病院の)マッチングで勝つには、「応募者がどんな人か」以上に「応募者が病院にフィットするか」 が重視されることが推察されます。そこから逆算して、採用する側の視点を盛り込むことが対策には欠かせません。人を雇うリスク(みなさんは土用の丑の日に鰻に並びますか?)マッチングの仕組みをおさらいしましたが、少し脱線します。世間一般的な話として終身雇用が厳しい、と言われているのは周知の事実と思います。実際に人を雇ったことがないので綺麗な一次情報ではないのですが、株式投資をしていると学ぶことがあります。株式を保有するということはその企業のオーナーの1 人になるということです。そして簡潔に話すと、その保有した株の価格は企業の利益に応じて上下することがほとんどです。利益=売上-経費とすると、高い売上に、低い経費、という状況が最も利益が上がる時です。経費が低ければ利益は増える方に傾きますし、固定費を下げれば増える利益は安定化しやすいのは算数ですね。せっかく保有した株価が増えてほしいと思うなら、算数として固定費は下げてほしいはず。では株式会社とは誰のものでしょうか。社長?理事長?いいえ、株主のものです。話が深くなるので簡単に説明しますが、経費の中には人件費が含まれます。皆さんが研修医として働いた場合に給料を貰いますが、その給料こそが病院にとっての人件費の一部です。周りくどくなりましたが、病院にとって皆さんを採用することはリスクとも言えます。ここが学生と研修医で大きく異なるところで、マッチングにおいて重要なことです。つい昨日まで現場を知らない学生だった研修医は当然教育コストもかかり、そのための指導医の時間も必要です。なのに「せっかく採用したのに、すぐ辞めた」「まったくチームに馴染まなかった」──そんな事態は避けたい。だからこそ、病院は「辞めない人」「組織にフィットする人」を選びたいのです。「この人なら、うちでやっていけそうだ」と思ってもらうことが、面接突破には欠かせません。自分の将来像と病院の研修方針をリンクさせるこの視点を持っていると、自ずと病院の理念や研修方針を見直して面接準備をすることにつながるはずです。受験する病院ごとに必ず確認・見直しましょう。しかし、今更ではありますが病院ごとにすべてを迎合する必要はありません。医師キャリア・人生において大切な初期臨床研修の2年間なのですから、面接突破のためだけに自らの価値観や理念を我慢することはありません。きっとこれまで多くの病院を見比べたり、実習に臨む中で「手にした医師免許をどのように活用するのか/社会に役立てるか」「どんな医師になりたいのか」を考える機会があったはずです。そのプロセスとして「初期研修で何を学びたいのか」を言語化することが重要です。どの病院を受験する時も、自分の今現在として主張しましょう。その上で、それぞれの病院の方針が、自分の初期研修での目標や医師として目指すキャリアにどう当てはまりそうと期待しているのか、逆に自らは病院に対してどのような貢献ができるのかを述べるとかなり筋が通ります。表現の仕方は工夫が必要ですが、何を感じ考えているのか、は皆さんのオリジナリティで正解不正解はありません。どんな目標でも構いませんし、まだ決まっていない悩んでいる状況なら、それを主張すれば良いのです。見た目が9割!?(先日の外科学会にて。スーツはネイビー、と決めています)ここまで何を考え、主張すべきか、について述べましたが、最後にもう1つ。とくに男性の皆さん、見た目に気を配りましょう。面接時間はせいぜい15分程度。入室した瞬間の第一印象は非常に重要です。内容がどれほど充実していても、第一印象でマイナスとなれば聞いてもらえる耳を失いかねません。フェア会場や見学時、実際の面接会場でもそうでしたが、男子学生の方の身嗜みで気になってしまうことが多々ありました。面接なので当然ネクタイを締めたスーツスタイルですが、こんな方が少なくなかったのが今でも衝撃的です。そもそもネクタイをしていない/ネクタイがきちんと締まっていない着ているシャツがヨレヨレ/パンツからはみ出ているパンツが黒デニム革靴ではなくスニーカー靴下がスポーツ用/左右で色が反対髪の毛がボサボサ/唇がガサガサ猫背で声がハッキリと聞こえない同じ就職活動でも、他学部の方ほど厳しくはないのがマッチング/医学部界隈であるのはそうですが、上記は流石にあんまりです。皆さん、面接へ行くときには必ず鏡をチェック、内容+見た目の両輪を意識しましょう。今月のまとめいかがだったでしょうか。緊張することと思いますが、しっかり準備していれば大丈夫です。面接では無理に迎合する必要はないとお伝えしましたが、むしろ働き始めてからこそ、自分らしさと職場との相性が問われる重要な時期です。迎合して面接を突破したとしても結局馴染めなかった、なんて悲し過ぎます。合格したい、しなければという焦る気持ちはよくよくわかりますが、主張した方針が病院と合致しないことや、その年の受験生のキャラクターのバランスなどで、どうしても合格に至らないことだってあります。当日はまず朝きちんと起きて、遅刻なく会場に到着し、入室時にはノックを忘れず、「失礼します!」と言い忘れず、指示される前に着席しなければヨシ、としましょう。あとは天命に任せて。みなさんのご健闘をお祈り申し上げます!!

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スタチンはくも膜下出血リスクを下げる?~日本のレセプトデータ

 スタチン使用によるくも膜下出血予防効果は、実験動物モデルやいくつかの臨床試験で検討されているが結論は得られていない。今回、東京理科大学の萩原 理斗氏らが日本のレセプトデータベースを用いて症例対照研究を実施したところ、スタチン使用がくも膜下出血リスクの減少と有意に関連していたことがわかった。Stroke誌オンライン版2025年7月8日号に掲載。 本研究では、2005年1月~2021年8月に新たにくも膜下出血(ICD分類第10改訂コードI60)と診断されて入院した患者を症例とし、症例1例につき4例の対照を無作為に選択し、incidence density samplingを用いて年齢、性別、追跡期間でマッチングした。スタチン曝露(使用頻度、期間)はくも膜下出血発症前に評価した。患者特性で調整された条件付きロジスティック回帰を使用して、スタチン使用とくも膜下出血リスクの関連を評価し、さらに、この関連が高血圧・糖尿病・脳血管疾患・未破裂頭蓋内動脈瘤の既往、降圧薬の使用によって差があるかどうか調査した。 主な結果は以下のとおり。・症例3,498例と対照1万3,992例が同定され、症例群の12.2%と対照群の12.7%でスタチンを使用していた。・患者特性による調整後、スタチン使用はくも膜下出血リスクの有意な低下と関連していた(調整オッズ比:0.81、95%信頼区間:0.69~0.95)。・この関連は高血圧と脳血管疾患の既往歴により有意な影響があった(相互作用のp値:どちらも0.042)。 著者らは「これらの結果は、スタチンがくも膜下出血予防に役割を果たす可能性を示唆しており、とくに高血圧または脳血管疾患既往歴のある患者においてその効果が顕著であった」と結論している。

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抗精神病薬の早期処方選択が5年後の体重増加に及ぼす影響

 英国・マンチェスター大学のAdrian Heald氏らは、精神疾患1年目における抗精神病薬による治療が、その後5年間の体重増加に及ぼす影響を分析した。Neurology and Therapy誌2025年8月号の報告。 対象は、精神症、統合失調症、統合失調感情障害、妄想性障害、情動精神症と初めて診断された患者1万7,570例。5年間の体重変化を調査し、診断1年目に処方された抗精神病薬との関連を30年にわたり評価した。 主な結果は以下のとおり。・初回抗精神病薬処方時の年齢は、大半が20〜59歳(65%)であった。・ベースライン時の平均BMIは、男女共に同様であった。・BMIの大幅な増加が認められた。とくに肥満患者(BMI:30kg/m2以上)では、体重カテゴリーの変化が最も大きく、女性では30〜43%、男性では26〜39%に増加した。一方、対象患者の42%では、体重の有意な増加は認められなかった。・ペルフェナジン、フルフェナジン、amisulprideを処方された患者は正常BMIを維持する可能性が最も高く、アリピプラゾール、クエチアピン、オランザピン、リスペリドンを処方された患者は、最初の1年間で正常BMIから体重増加、過体重(BMI:25.0〜29.9 kg/m2)、肥満(BMI:30.0kg/m2以上)に移行する可能性が最も高かった。・定型抗精神病薬であるthioridazine、クロルプロマジン、flupenthixol、trifluoperazine、ハロペリドールは、BMIカテゴリーの変化の可能性が中程度であると評価された。・多変量回帰分析では、体重増加と関連する因子は、若年、女性、1年目に処方された抗精神病薬数、アリピプラゾール併用(75%併用処方または第2/第3選択薬としての使用を含む)オランザピン併用、thioridazine併用(各々、p<0.001)、リスペリドン併用、クエチアピン併用(各々、p<0.05)であった。・体重増加7%以上の多変量ロジスティック回帰分析では、特定の薬剤は類似しており、薬剤のオッズ比はクエチアピンの1.09(95%信頼区間[CI]:1.00〜1.21)からthioridazineの1.45(95%CI:1.20〜1.74)の範囲であった。 著者らは「診断1年目に複数の抗精神病薬を処方された患者および若年女性では、体重増加リスクが高かった。一部の定型抗精神病薬は、非定型抗精神病薬と同程度の体重増加との関連が認められた。なお、40%以上で体重増加は認められなかった」と結論付けた。

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臨床研究への患者・市民参画のいまとこれから/日本リンパ腫学会

 2025年7月3日~5日に第65回日本リンパ腫学会学術集会・総会/第28回日本血液病理研究会が愛知県にて開催された。 7月4日、山口 素子氏(三重大学大学院医学系研究科 先進血液腫瘍学)、丸山 大氏(がん研究会有明病院 血液腫瘍科)を座長に行われたシンポジウム2では、勝井 恵子氏(国立研究開発法人日本医療研究開発機構[AMED])、木村 綾氏(国立がん研究センター中央病院 JCOG運営事務局)、棟方 理氏(国立研究開発法人 国立がん研究センター中央病院 血液腫瘍科)、天野 慎介氏(一般社団法人グループ・ネクサス・ジャパン、一般社団法人全国がん患者団体連合会)が講演を行い、近年国内でも進みつつある研究の立案段階から研究計画に患者が参画する試み(Patient and Public Involvement:PPI)について、AMED、臨床研究グループ、研究者、および患者・市民の各々の立場から発表がなされた。 臨床試験は、科学的根拠に基づいて新たな治療法や新規治療薬を開発し、臨床導入することを目的として実施される。これまでの臨床試験は、研究者が立案、計画、実行のすべてに関わり、その結果の公表は、学会発表や論文に限られていた。そのため、被験者である患者や市民は、臨床試験に参加し、その試験結果を受け入れるのみであった。近年、研究計画に患者が参画するPPIの取り組みが始まっている。研究開発におけるPPI、「やらなくてはいけない」から「やって当然」へ 2015年4月、医療分野の研究開発およびその環境整備、助成などの業務を担う組織として国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が設立された。AMEDでは、患者さん一人ひとりに寄り添いながら、医療分野研究を早期に実用化し、患者およびその家族に届けるため、PPIをはじめとする社会共創(Social Co-Creation)の推進を目指している。 現在、PPIは2023年に閣議決定された第4期がん対策推進基本計画において柱の1つとなっており、2025年に閣議決定された第3期健康・医療戦略においても、研究開発における社会共創の取り組み推進においてPPIの充実および普及が明記されるようになった。実際、AMEDの公募の際、PPIの取り組みについて聴取されている事業の割合は、5年間で55%(2019年)から89%(2024年)へ増加しており、2024年度以降、研究開発提案書に記載欄が常設されるようになっている。 しかし、まだまだ課題が残っている。記載欄にPPIでない取り組みを記載するなど研究者の理解不足や医療職でない研究者による取り扱いの難しさなどが挙げられる。また「PPIは研究費を取るための手段ではなく、より良い研究開発およびその加速化を実現するための手段であることを忘れてはならない」と勝井氏は強く訴えている。今後、医療分野における研究開発において、PPIは「やらなくてはいけないこと」から「やって当然のこと」となることが期待される。研究参加者に結果を伝える「Lay summary」 次に、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)における患者、市民参画の取り組みについて木村氏より発表がなされた。JCOGは、1978年にリンパ腫および食道がんの2つのグループから始まった日本最大の多施設臨床研究グループであり、16の疾患領域別研究グループを有している。2025年4月現在、107試験(登録中:50試験、追跡中:37試験、準備中:20試験)の支援を担っている。 近年、研究の立案段階からPPIが進められており、2018年には患者参画小委員会を発足し、セミナーやグループごとの意見交換会を定期的に実施し、患者、市民の意見を取り入れた患者ニーズに合致した研究を行うことを目指している。また、患者参画ポリシーを策定し、研究終了後に研究者が結果の情報や知識を社会に共有するため、学会発表、広報、プレスリリースの推進を行っている。 その取り組みの1つとして、研究の主たる解析結果の発表時に研究参加者向けの結果説明を行うため「Lay summary」の作成を始めている。これまでに、14試験の「Lay summary」が公開されている。「Lay summary」の主な目的は研究参加者への試験結果の説明であり、研究事務局を通じて各参加施設の担当者より直接説明を行うとともに、JCOGのWebサイトでも公開している。PPIを根付かせる課題は「成功事例の共有」と「負担軽減体制の構築」 研究者の視点より発表された棟方氏は「PPIは、研究者にとってこれまで気づかなかった患者ニーズの側面から新たな視点を与えてくれる可能性が期待される」と述べている。臨床試験の最終目標は、現在の治療法よりも優れた治療法を開発し、日常診療に導入することである。これまでの臨床研究は、研究者の視点のみで行われていたため、実際に治療を受ける患者のニーズと必ずしも一致しないことがあった。このような場合、試験への患者登録が順調に進まない、あるいは試験結果が実際の臨床現場で選択されにくいなどの問題が生じる可能性もある。そのため、研究の計画段階から患者、市民の意見を反映させることは、研究促進を図るうえで重要である。棟方氏が所属するJCOGのリンパ腫グループは、JCOGの中でも早期にPPI活動を開始したグループの1つであり、これまで6回の家族会との意見交換を行っている。しかし、悪性リンパ腫は多数の病理組織型が存在するため、より深い意見交換を行うためには、意見交換会の開催頻度を増やし、参加者に対象疾患患者を含める必要があるなどの課題もある。また、すべての参加者が十分な知識を有しているわけではないため、わかりやすい事前資料の作成やさまざまな配慮が求められる。 また「Lay summary」を配布して感じた課題についても言及された。「疾患の特徴、試験デザイン、その結果から配布のしやすさに違いがあると感じている。たとえば、大部分の患者が非再発で外来通院中の場合や非ランダム化試験、結果が良かった場合には説明しやすい一方、逆の場合には患者に配布しづらい。また、その結果の説明が研究者の役割となってしまった場合、時間的および心理的負担の増大につながることも懸念される。そして、試験デザインや結果によっては、試験参加の同意を得る際の説明と同等かそれ以上の説明力、配慮を要するのではないかと感じている」と述べている。 最後に「今後、PPIを当たり前の文化にしていくためには、成功事例の積極的な共有が重要であり、これを根付かせていくことが求められる」としたうえで、「研究者と患者双方の負担を軽減し、PPI活動を継続的に行える体制を構築していくことが必要である」とまとめている。今後の研究者に求められるスキルは「わかりやすく伝える」 患者の立場からの期待について、全国がん患者団体連合会の天野氏が最後に登壇された。がん関連学会では、かねてより学術集会などで患者参画プログラムを設けており、日本学会では「サバイバー・科学者プログラム」、日本治療学会では「がん患者・支援者プログラム」、日本臨床腫瘍学会では「ペイシェント・アドボケイト・プログラム」などが設けられている。ほかにも、日本乳学会学術総会や日本肺学会学術集会においても、患者・市民参画プログラムが設けられている。このように、とくにがん関連学会では、患者参画が推進されていることから、血液悪性腫瘍関連学会においても、PPIは今後ますます重要になると考えられる。 天野氏は「PPIは、研究者と患者の対話の過程であり、相互理解の過程でもある。そのため、患者や市民が研究について理解を深めることも必要である」とし、「そのためには、研究者にも医学や研究に関する情報や言葉をよりわかりやすく伝える努力をお願いしたい」と語られた。

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“早期乳”の定義を変更、「乳取扱い規約 第19版」臨床編の改訂点/日本乳学会

 2025年6月、7年ぶりの改訂版となる「乳取扱い規約 第19版」が発行された。第33回日本乳学会学術総会では委員会企画として「第19版取扱い規約の改訂点~臨床編・病理編~」と題したセッションが行われ、各領域の改訂点が解説された。本稿では、臨床編について解説した静岡がんセンターの高橋 かおる氏による講演の内容を紹介する。腫瘍占居部位の略号表記、T4所見について再整理 日本の取扱い規約で用いられている腫瘍の局在を示すA~Eの略号について、日本独自の略号のため海外では通じず、不要ではないかという議論が以前から行われてきた。今回の改訂でも議論されたが、日本では長く使われており、簡潔で記載にも便利なことから引き続き規約に掲載することとし、対応する英語表記(UICCのAnatomical Subsites)を明記、ICDコードと齟齬のあったC‘~E‘が修正され、E、E’の区別がわかる記載も追加された(下線部分が変更点):C‘:腋窩尾部(C50.6/Axillary tail)E:中央部(C50.1/Central portion)  乳頭乳輪の下に位置する乳房中央部E‘:乳頭部および乳輪(C50.0/Nipple)  乳頭乳輪部の皮膚 臨床所見については、第18版まではT4の定義について解釈が分かれる記載となっていた。そこで今版では、「T4所見は浮腫、潰瘍、衛星皮膚結節の3つであり、皮膚固定や発赤はT4に入らない」ということがわかるような記載に変更された。またT4所見としての潰瘍について、クレーター形成の有無は問わないという意図で「潰瘍(皮膚が欠損して病変が露出した状態)」と追記された。病理編でPaget病の定義が変更、臨床医も注意が必要 臨床T因子の表について変更はなく、注釈の表現が下記のとおりいくつか整理された。・原発巣の評価方法(注1):T因子の判断材料として、従来の視触診、画像診断に、針生検を追加・Tis(注4):病理編のPaget病の定義が「乳頭・乳輪部および周囲表皮に限局したものをPaget病と主診断、乳房内に連続性に非浸潤を伴う場合は非浸潤と主診断し、Paget病の存在は所見に記入する」と変更されたことを受け、臨床編の注釈も「Paget病のほとんどはTisに分類される。まれに乳頭・乳輪部の真皮に微小浸潤もしくはそれを越える浸潤を伴うものがあり、その場合は浸潤径に応じたT分類を採用する」と変更された。・T0(注5):「視触診、画像診断で原発巣を確認できない場合。腋窩リンパ節転移で発見され乳房内に原発巣を認めない潜在性乳などがこれに相当する」と記載を整理・T4(注7):臨床所見と同様、T4の定義をわかりやすくするために、「真皮への浸潤のみではT4としない、T4b~T4d以外の皮膚のくぼみ、乳頭陥没、その他の皮膚変化は、T1、T2またはT3で発生してもT分類には影響しない」というUICCの注にある内容が追加された。・T4d(注8):第18版までの注釈では冒頭に「炎症性乳は通常腫瘤を認めず」とあったことから、腫瘤を認めないことが炎症性乳の必須要件のように読めてしまうという指摘があったため、「炎症性乳は、皮膚のびまん性発赤、浮腫、硬結を特徴とし、その下に明らかな腫瘤を認めないことが多い」と表現を変更 高橋氏はPaget病の定義の変更について、これまでPaget病と診断していた病変のうち、多くが今後は非浸潤性乳管(Paget病変を伴う)と診断されることとなり、Paget病の診断は減るであろうと指摘し、病理編の変更について臨床医も一度は目を通してほしいと話した。 臨床N因子についても表の変更はなく、T因子と同様に、判定材料として、従来の視触診、画像診断に、細胞診や針生検が追加されたほか、内胸リンパ節について第何肋間かを表記する場合の簡略な方法として、「Imの次に()で数字を記載する」こととした。「早期乳は切除可能乳(Stage 0~IIIA)を指す」と定義 第18版までは「Stage 0・Iを早期乳とする」と定義していた。これは、検診等における早期発見の概念には適していたと思われるが、国際的な臨床試験や乳診療ガイドラインとの整合性を考慮し、第19版では「早期乳は切除可能乳(Stage 0~IIIA)を指す」と定義が変更された。高橋氏は私見として「検診が目的とする“早期発見”は、“早期乳の発見”ではなく、乳を0期やI期などの早い段階で見つけることだと考えればよいのではないか」と話した。ただし、検診成績の評価などの際には、“早期乳の比率”といった表現は誤解を招く恐れがあり、今後は“0期・I期の比率”などの表現に変えていく必要があるとした。治療の進歩に合わせて第2章を変更 第2章の治療の記載法については、乳房の術式の1つとして新たに保険適用されたラジオ波焼灼術(RFA)が追加された。 リンパ節の切除範囲の表については、英語表記を追加するなど整備し、新たな項目として腋窩リンパ節サンプリング(AxS)を加えた。また、「Rotterリンパ節は郭清しない場合でもレベルIIまで郭清、Ax(II)としてよい」という注釈が加わり、新たな手法であるTargeted Axillary Dissection(TAD)およびTailored Axillary Surgery(TAS)についても、“付記”という形で追加されている。 再建の術式については、日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会の用語委員からの助言を受けて、再建方法として腹直筋皮弁(有茎)、腹直筋皮弁(遊離)、深下腹壁動脈穿通枝皮弁、大腿深動脈穿通枝皮弁を加え、英語表記も追加された。 手術以外の治療法では、免疫療法が、薬物療法の一項目として追加された。

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ミトコンドリアDNA疾患女性、ミトコンドリア置換で8児が健康出生/NEJM

 ミトコンドリアDNA(mtDNA)の病的変異は、重篤でしばしば致死的な遺伝性代謝疾患の主要な原因である。子孫の重篤なmtDNA関連疾患のリスクを低減するための生殖補助医療の選択肢として着床前遺伝学的検査(PGT)があるが、高レベルのmtDNAヘテロプラスミーまたはホモプラスミー病原性mtDNA変異を有する女性についてはミトコンドリア提供(mitochondrial donation:MD)が検討されてきた。英国・ニューカッスル大学のRobert McFarland氏らは、英国におけるミトコンドリア生殖医療パスウェイにおいて、MDによる前核移植により8人の子供が誕生したことを報告した。NEJM誌オンライン版2025年7月16日号掲載の報告。英国で導入されたミトコンドリア生殖医療パスウェイ 英国では2017年に、英国在住の病原性mtDNA変異を有する女性に、規制環境下で実施可能な情報に基づく生殖選択肢を提供することを基本原則とした「NHSミトコンドリア生殖医療パスウェイ」が導入された。 パスウェイは、ミトコンドリア生殖アドバイスクリニック(MRA-C)とミトコンドリア生殖補助技術クリニック(MART-C)で構成されており、利用を希望する女性とそのパートナーは詳細な臨床評価を受ける。 これまでに196例がMRA-Cに紹介され、紹介情報不足または誤診の4例を除く192例が適格とされた。このうち診察予約前に23例が離脱し、評価保留中の6例を除く163例の女性がMRA-Cで評価され、希望しなかったまたは選択しなかった30例を除く133例の女性がMART-Cで診察を受けた。 70例がMART-Cで生殖医療の選択を行い、うち36例にPGTが提案され、PGTを実施し得た28例において13人の生児が生まれた。また、32例がMD提供を選択し当局で承認されたが、3例は胚の遺伝子検査でヘテロプラスミーが高かったため移植が行われなかった。ミトコンドリア提供で誕生した8人の子は健康で、現時点で正常に発達 これまでに、22例が前核移植を開始または完了し、8人の生児が生まれ(1卵性双生児1組を含む)、1例が妊娠継続中。 8人の子供は出生時、全例健康で、血中mtDNAヘテロプラスミーは臨床的に閾値未満(多くは検出限界以下)であった。1人に高脂血症と不整脈が発生したが、妊娠中に母親が高脂血症であったことに関連しており、いずれの症状も治療が奏効した。他の1人に乳児ミオクロニーてんかんが発生したが、自然寛解した。 本報告時点では、すべての子供が正常に発達していることが確認されている。

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母体HIVウイルス量、母子感染に与える影響は?/Lancet

 米国・マサチューセッツ総合病院のCaitlin M. Dugdale氏らは、システマティックレビューおよびメタ解析において、母体HIVウイルス量(mHVL)が50コピー/mL未満の場合、周産期感染は全体で0.2%以下であり、とくに妊娠前から抗レトロウイルス療法(ART)を受け出産直前にmHVLが50コピー/mL未満の女性では感染は認められなかったが、授乳期の感染リスクはきわめて低いもののゼロではなかったことを示した。持続的なウイルス学的抑制状態にある人からの性行為によるHIV感染リスクはゼロであることを支持するエビデンスは増加傾向にあり、「U=U(undetectable[検出不能]= untransmittable[感染不能])」として知られるが、これが垂直感染(母子感染)にも当てはまるかを判断するにはデータが不十分であった。著者は、「妊娠と出産におけるU=Uを支持する結果が示されたが、現在のデータは主に、頻回のmHVLモニタリングや最新の1次ARTレジメンを実施していない研究から得られたものであり、授乳中のU=Uを評価するには不十分である」とまとめている。Lancet誌オンライン版2025年7月10日号掲載の報告。mHVLと母子感染リスクに関するシステマティックレビューとメタ解析 研究グループは、PubMed、Embase、Web of Science、Cochrane Library、Cumulative Index of Nursing and Allied Health Literature、WHO Global Health Library、ならびに国際エイズ学会およびレトロウイルス・日和見感染症会議(2016~24年)の抄録を検索し、1989年1月1日~2024年12月31日に発表された、出生直後(出生後6週以内の周産期感染リスクを推定するため)または授乳中(過去6ヵ月間のmHVLに基づく月間感染リスクを推定するため)のmHVLと母子感染の関連について報告した研究を検索した。 事前に定義したmHVLカテゴリーごとに周産期および出生後の感染リスクを統合した。また、ポアソンメタ回帰を用いて比較分析を行い、mHVL別の感染の補正後相対リスク(aRR)も算出した。mHVL<50コピー/mLで周産期感染の統合リスクは0.2% 147件の研究が解析に組み入れられた。138件が周産期解析に、13件が出生後解析に寄与した。全体で8万2,723組の母子データが含まれた。 周産期感染の統合リスクは、mHVLが<50コピー/mLで0.2%(95%信頼区間[CI]:0.2~0.3)、50~999コピー/mLで1.3%(1.0~1.7)、≧1,000コピー/mLで5.1%(2.6~7.9)であった。周産期感染のaRRは、mHVL<50コピー/mLとの比較において、mHVLが50~999コピー/mLで6.3(95%CI:3.9~10.3)、≧1,000コピー/mLで22.5(13.9~36.5)であった。 サブグループ解析では、妊娠前からARTを受け、出産直前のmHVLが50コピー/mL未満の女性4,675例を対象とした5件の研究において、周産期感染はゼロ(0%、95%CI:0.0~0.1)であった。 授乳期の月間感染リスクは、直近のmHVLが<50コピー/mLで0.1%(95%CI:0.0~0.4)、≧50コピー/mL以上で0.5%(0.1~1.8)であった。

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経尿道的高周波治療が間質性膀胱炎患者の骨盤痛を緩和

 経尿道的高周波治療(transurethral fulguration;TUF)が間質性膀胱炎(IC)患者の骨盤痛緩和に有効であるという研究結果が、「Neurourology and Urodynamics」に4月3日掲載された。 ソウル大学校医科大学(韓国)のHyun Ju Jeong氏らは、2005年10月~2019年12月までのIC管理の結果を分析するため、骨盤痛を主訴として外来受診したIC患者の電子カルテを後ろ向きに解析した。疼痛管理のため、膀胱潰瘍に対するTUFを用いた膀胱鏡手術が行われ、難治性の骨盤痛に対しては膀胱全摘除術が行われていた。 解析の結果、IC患者275人のうち240人が1回目の膀胱鏡手術を受け、中央値21.0カ月の追跡期間中に受けたTUFの回数は、全体として平均1.0回であった。膀胱鏡手術を受けた患者240人のうち71人(29.6%)では、それ以上の外科的治療を必要としなかったが、64人(26.7%)では骨盤痛が再発したため2回目のTUFが必要となった。再発までの期間の中央値は12.0カ月であった。2回目のTUFを受けた64人のうち15人(23.4%)は、中央値12.0カ月後に3回目のTUFを受けた。3回目のTUFを受けた15人のうち5人は、疼痛の再発により4回目のTUFを受けた。1人の患者は7回目のTUFを受けていた。全体として、TUFによる疼痛管理に成功したのはIC患者240人のうち168人(70.0%)であった。18人(7.5%)は膀胱全摘除術を受けた。 著者らは、「本研究の結果により、TUFを用いた膀胱鏡手術は、IC患者の骨盤痛を管理するための効果的な基本治療であることが示された」と述べている。

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バレット食道の悪性度リスク層別化に対する非内視鏡的検査法の有用性:日本と欧米の大きな違い(解説:上村直実氏)

 食道がんには主に扁平上皮がんと腺がんがあるが、日本を含む東アジアと欧米における両者の有病率は大きく異なっている。わが国では、食生活の欧米化や肥満の増加に伴って食道腺がんが増加傾向を示す報告が多くなってきたが、飲酒・喫煙と強い関連を認める扁平上皮がんが90%以上を占めるのに対して食道腺がんはせいぜい6〜7%であり、食道腺がんが60%以上を占める欧米とは決定的な違いがある。さらに、医療保険制度の違いにより、欧米では内視鏡検査の待機時間が数ヵ月間と長いことや医療費(コスト)および費用対効果に対する考え方がまったく違っている。さらには、バレット食道に関しては疾患の定義に関する違い(CLEAR!ジャーナル四天王「新たな擦過細胞診法によるBarrett食道の診断の有用性」)が存在することも念頭に消化器領域の研究論文を読む必要がある。 胃食道逆流症に伴って発生することが多いバレット食道は食道腺がんの前駆病変とされているが、欧米ではバレット食道のサーベイランスに関して内視鏡検査による早期発見が、きわめて難しいと報告されている。このような背景から内視鏡検査に代わる新たなサーベイランス法が模索されている英国で、今回、臨床マーカー(年齢と性別およびバレット食道の長さ)とオフィスベースの手順で看護師主導によるカプセルスポンジ検査法で得られたバイオマーカーの組み合わせにより、バレット食道の悪性度リスクを低・中・高の3つに層別化する新たな方法の有用性が2025年6月のLancet誌に報告された。バレット食道の経過観察中である910例を対象としたコホート研究の結果、低リスクに分類された場合は悪性度リスクがきわめて低く、バレット食道のサーベイランスとしての内視鏡検査の期間を柔軟に変更できる可能性を示唆する成績が得られている。 欧米では、この新たな非内視鏡的な悪性度評価法が、食道腺がんの早期発見に大きな革命をもたらす可能性が期待されている。しかし、日本の消化器専門医からみると、確かに本検査法はバレット食道の悪性度分類に対する有用性を示しているが、わが国で圧倒的に多い扁平上皮がんを検出できない弱点とバレット食道から食道腺がんへ進行する頻度がきわめて低い点から、本邦の日常診療における本検査法の有用性は低いと思われる。 現時点において、内視鏡診療体制が充実しているわが国では狙撃生検により正確な診断ができる可能性が高い。しかしながら、ピロリ菌感染率の著明な低下に伴う胃酸分泌の亢進により胃食道逆流症が増加しつつある現況を考慮すると、今後、食道腺がんに進展する可能性を秘めたShort Segmentバレット食道に対するサーベイランス法の確立が必要と思われる。さらには、今後、欧米に倣って内視鏡検査以外のサーベイランス法を模索することも重要と思われた。

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レントゲンは誰のため?【Dr. 中島の 新・徒然草】(590)

五百九十の段 レントゲンは誰のため?ついにやって来ました、蝉の鳴く日本の夏!あまりにもうるさいので、来日した外国人が驚くのだとか。でも、蝉の声がなかったら物足りないですよね。さて先日の外来にやって来たのは、80代の女性です。名前を仮に渡辺 絹江(わたなべ きぬえ)さんとでもしておきましょう。絹江さんはしっかりしているのですが、やはり高齢者には違いありません。話が回りくどいのです。彼女は最近、近所のクリニックで胸部レントゲンを撮ったとのこと。患者「2~3ミリの影があるって言われたんです」中島「なるほど」患者「クリニックの先生がね、あまり自信がなさそうなんで……」そもそも2~3ミリの影というのが、胸部単純レントゲンで判別できるものなのかどうか。少なくとも私には「わからない自信」があります。患者「その先生が『国立ではレントゲンを撮ってくれないのかなあ』って言ってましてね」絹江さんの気持ちを私はズバリと言いました。中島「渡辺さん、要するにクリニックじゃ頼りないから、こちらでレントゲンを撮ってくれってことですか?」すると、絹江さんは困ったような顔になって「いや、頼りないとは言ってないんですけど……」という曖昧な返事。中島「でも、そういうことですよね。わかりました、撮影しましょう」こうしてようやく、結論にたどり着くことができました。ところが、ウチの病院で前回いつレントゲンを撮っているのかなと、電子カルテで確認すると、思わぬ事実が出てきました。なんと、毎年8月に外科で胸部レントゲンと血液検査を受けているのです。がんの手術後に、外科の先生が定期的にフォローしていました。この外科の先生にも、名前を付けておいたほうがいいですね。がんを治療しているので、玩地 凌(がんち りょう)先生とでもしておきましょう。中島「あれ、渡辺さん。毎年8月にレントゲンを撮ってますよ。玩地先生の外来で」患者「えっ、そうなんですか?」中島「そうですよ。ちゃんと血液検査とレントゲンをやってます。玩地先生が、毎年ちゃんと診てくれていてるじゃないですか」患者「知らなかったです」いやいやいや、それはないでしょう。中島「知らなかったって……服を脱いで機械の前に立って『はい、息止めて』ってやつ、あれですよ。あれがレントゲンですけど」患者「え、ええ……」中島「玩地先生がこのことを聞いたら泣いてしまいますよ。せっかく時間かけて診てるのに、患者さんが『知らなかった』って言うんだから」患者「そんなあ、先生が泣くだなんて」中島「今度、玩地先生の顔を見たら言っておきましょうか。『レントゲンを撮ってくれないって、渡辺さんが文句言ってました』って」患者「やめてください、玩地先生は本当にいい先生なんです!」絹江さんはビョーンと椅子から飛び上がって、電子カルテの前に立ちはだかります。もうキーボードも打てません。中島「だったら、ちゃんと覚えておきましょうよ、レントゲンを撮ってるってことを。クリニックの先生にも『国立で定期的に診てもらってます』って伝えないと……」患者「わかりました」中島「ほんとにわかりましたか。診察室を出て30分もしたら、全部忘れてしまうのでは?」患者「そんなことありません。次はちゃんと覚えておきます」高齢者の「わかりました」くらい当てにならないものはありません。だから私は念押しをしました。中島「じゃあ、こうしましょう。8月に玩地先生の外来があるから、9月にもう一度私の外来に来てください。ちゃんとレントゲンの結果を聞いたのか、クリニックには報告したのか、それを確認します」患者「わかりました。お願いします」そう言って、絹江さんはホッとした表情で診察室を出ていきました。さて、次の外来はどうなるやら。絹江さんは本当に玩地先生の話を覚えているのでしょうか。また、クリニックの先生には「国立で定期的にレントゲンを撮っています」と伝えてくれているのでしょうか。それに加えて、指摘されたという2~3ミリの影とやらも気になります。果たして画像診断AIはどう診断するのか、前年と比べてどうなっているのか、場合によってはCTを追加したほうがいいのか。興味は尽きません。それにしても、高齢者の思い込みというのは恐ろしいものです。常に疑ってかかったほうが良さそうですね。「そういうお前も立派な高齢者じゃないか!」と言われたら、私も返す言葉がないのですけど。ということで最後に1句蝉が鳴き 事実はいずこ 高齢者

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ST合剤処方の際の5つのポイント【1分間で学べる感染症】第30回

画像を拡大するTake home messageST合剤、特徴的な副作用を理解して、慎重に使用しよう。ST合剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリム)は、幅広い抗菌スペクトラムを持つ重要な抗菌薬です。便利な反面、使用方法や副作用について十分理解しておくことが重要です。今回は、ST合剤処方で重要な5つのポイントを一緒に勉強していきましょう。成分ST合剤は、「トリメトプリム80mg」と「スルファメトキサゾール400mg」を含有しています。1対5の固定比率で調整されており、これに基づいて用量を計算します(後述)。スペクトラムメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を含むグラム陽性菌およびグラム陰性桿菌に対して有効です。また、ニューモシスチスやトキソプラズマ、サイクロスポラなどもカバーします。適応疾患ST合剤は、MRSA感染症、膀胱炎、尿路感染症、ニューモシスチス肺炎(予防・治療)などに適応があります。ステロイド長期使用患者ではニューモシスチス肺炎の予防で使用されることも多いため、なじみのある方が多いかもしれません。また、リステリア感染症、ノカルジア症に対する選択肢として検討されることもあります。副作用見掛け上のクレアチニンの上昇が報告されていますが、これは実際の腎機能悪化を反映していない場合もあります。ST合剤の成分のうち、トリメトプリムは尿細管上皮細胞の「有機アニオントランスポーター」を阻害します。これにより尿細管クレアチニンの分泌が阻害され、血清クレアチニンが上昇するといわれています。しかし、ST合剤は真の急性腎障害(AKI)を来すこともあり注意が必要です。機序としては間質性腎炎や急性尿細管壊死などが報告されています。また、カリウムの上昇も認められ、とくにACE阻害薬やARBを併用している患者、重度腎障害がある患者では、高カリウム血症のリスクが高まるために注意が必要です。そのほか、食思不振、皮疹、消化器症状がみられることもあります。用量計算ST合剤の用量はトリメトプリムの含有量を基準に計算されます。感染症の重症度や患者の腎機能に応じて調整が必要です。たとえば、ニューモシスチス肺炎に対する治療として用いる場合、トリメトプリム換算で15~20mg/kgを1日に3~4回に分けて投与するため、体重65kgの患者さんの場合であれば、65kg×15mg=975mg(80mg×12錠=960mg)が必要です。以上、ST合剤は一般的に安全に使用される抗菌薬ですが、副作用を含めた上記のポイントを十分に念頭に置いておく必要があります。1)Gleckman R, et al. Pharmacotherapy. 1981;1:14-20.2)Cockerill FR 3rd, et al. Mayo Clin Proc. 1987;62:921-929.3)Nakada T, et al. Drug Metab Pharmacokinet. 2018;33:103-110.4)Fralick M, et al. BMJ. 2014;349:g6196.5)UpToDate. Trimethoprim-sulfamethoxazole: An overview. (last updated: Apr 25, 2025.)

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NHKドラマ「心の傷を癒すということ」【その2】地震ごっこは人類進化の産物だったの!? だから楽しむのがいいんだ!-プレイセラピー

今回のキーワードポストトラウマティック・プレイミラーリング象徴機能心の理論(社会脳)心理的ディブリーフィングPTG(心的外傷後成長)[目次]1.なんで地震ごっこは「ある」の?-人類の演じる心理の進化2.子供のPTSDにどうすればいいの?3.プレイセラピーとは?4.「心の傷を癒すということ」とは?前回(その1)、子供の演じる心理の発達から、地震ごっこをするのは、子供たちが地震に対して助け合うためのコミュニケーションの練習をしようとしているからであることがわかりました。それでは、なぜトラウマ体験のごっこ遊び(ポストトラウマティック・プレイ)は子供に普遍的に見られる現象なのでしょうか? 言い換えれば、なぜ地震ごっこは「ある」のでしょうか? そして、どう接したらいいのでしょうか?この謎の答えを解くために、今回は、引き続き、NHKドラマ「心の傷を癒すということ」を取り上げ、人類の演じる心理の進化を明らかにして、トラウマ体験のごっこ遊びの起源を掘り下げます。そこから、子供のPTSD(心的外傷後ストレス症)への真の対応のヒントを導きます。さらに、子供への心理療法の1つであるプレイセラピーをご紹介します。なんで地震ごっこは「ある」の?-人類の演じる心理の進化子供の演じる心理の発達は、まず目の前の人の動きをそのまま演じる(まね遊び)、次に目の前にいない人の動きを演じる(ふり遊び)、最後に周りの人とのかけ合いによって演じる(ごっこ遊び)であることがわかりました。ここで、進化心理学の視点から、「個体発生は系統発生を繰り返す」という考え方を、体だけでなく心(脳)にも応用して、心の発達(個体発生)の順番から心の進化(系統発生)の順番を推測します。さらに、人類が演じる心理をどう進化させたのかを明らかにして、トラウマ体験のごっこ遊びの起源を掘り下げてみましょう。大きく3つの段階に分けられます。(1)目の前の相手の動きを演じる―ミラーリング約700万年前に人類が誕生し、約300万年前には男性は女性と一緒に生活して子育てに参加するようになりました。当然ながら、当時はまだ言葉を話せません。そのため、男女がお互いの唸り声や動きをまねすることで、一緒にいたい気持ちを伝え合っていたでしょう。同時に、このようにまねをすることで、相手への親近感(共感性)が高まるように進化したでしょう。1つ目は、ミラーリングです。これは、目の前の相手の動きをそのまま演じる能力と言い換えられます。これは、子供の心理発達のまね遊びに重なります。なお、ミラーリングの起源の詳細については、関連記事1の後半をご覧ください。(2)目の前にいない人の様子を演じる―象徴機能約300万年前に、人類はさらに部族集団をつくるようになりました。まだ言葉を話せないなか、メンバーの誰かがけがをして助けが必要であることや猛獣が近くに来ていてみんなで追い払う必要があることなどを何とか身振り手振りや表情などの非言語的コミュニケーション(サイン言語)で伝えたでしょう。2つ目は、象徴機能です。これは、目の前にいない人やものの様子を体全体で演じる能力と言い換えられます。これは、子供の心理発達のふり遊びに重なります。なお、象徴機能の起源の詳細については、関連記事2をご覧ください。(3)周りの人とのかけ合いによって演じる―心の理論約300万年前以降、人類は、かつて部族のメンバーがどうやってけがをして助けられたか、近くに来ていた猛獣をどうやって追い払ったかをメンバー同士で演じて再現すること(ごっこ遊び)で伝え合ったでしょう。名付けるなら、「救助ごっこ」「猛獣撃退ごっこ」です。そして、地震が起きたあとは、そのエピソードを伝える「地震ごっこ」もやっていたでしょう。こうして、人類は相手の気持ちを推し量り、周りと助け合ってうまくやっていく能力を進化させていったでしょう。3つ目は、心の理論(社会脳)です。これは、周りの人とのかけ合いによって演じる能力と言い換えられます。これは、子供の心理発達のごっこ遊びに重なります。なお、心の理論(社会脳)の起源の詳細については、関連記事3をご覧ください。その後、約20万年前に現生人類(ホモサピエンス)が言葉を話すようになると、その状況を言葉によって次世代に伝えるようになりました(伝承)。こうして、もはや演じること(ごっこ遊び)によって伝える必要が日常的にはなくなったのでした。約10万年前に原始宗教が誕生してから、演じることは、神の教えという儀式(宗教的祭祀)として残り、紀元前5世紀ごろには古代ギリシアで演劇という娯楽として発展していきました。以上より、地震ごっこが「ある」のは、さまざまなごっこ遊び(現実世界のコミュニケーションの再現)のレパートリーの1つとして、人類がとくに災害に対して助け合うためのコミュニケーション能力を進化させたからと言えます。つまり、トラウマ体験のごっこ遊びは、人類の心の進化の歴史のなかで、生存のために必要な原始的な機能であり能力であったというわけです。この進化の産物は、言葉を話す現代の社会では必要がなくなったのですが、その名残りが子供に見られるのです。だから、子供に普遍的なのです。なお、現代の社会で大人はトラウマ体験のごっこ遊びをしなくなりましたが、実は好んで見ています。それが、人気コンテンツである災害映画(ディザスタームービー)です。これは、大がかりで壮大な「災害ごっこ」と言えるでしょう。ちなみに、トラウマ体験のごっこ遊びと同じように、その1でご紹介したそのほかの子供のPTSDの症状であるフラッシュバックや赤ちゃん返り(解離)も、進化の歴史で獲得した機能であると説明することができます。たとえば、言葉や文字によって時間の概念がなく、その瞬間だけを生きていた原始の時代、二度と同じような危険な目(トラウマ体験)に遭わないようにするために唯一頼りになったのは、フラッシュバックだったでしょう。つまり、フラッシュバックという現象は、記憶を強化するために必要な能力(心理機能)だったと言い換えられます。また、常に死と隣り合わせの原始の時代、自力で生き残れない幼児は、危険な目(トラウマ体験)に遭ったあとに、ほかのきょうだいよりも親の目をかけてもらうために唯一できることは、無意識に赤ちゃんを演じることでしょう。つまり、赤ちゃん返りという現象は、保護者から援助行動をより引き出すために必要な能力(心理戦略)だったと言い換えられます。なお、PTSD(トラウマ)の起源の詳細については、関連記事4をご覧ください。子供のPTSDにどうすればいいの?地震ごっこが「ある」のは、さまざまなごっこ遊び(現実世界のコミュニケーションの再現)のレパートリーの1つとして、人類がとくに災害に対して助け合うためのコミュニケーション能力を進化させたからであることがわかりました。そして、フラッシュバックも赤ちゃん返りも、進化の歴史で獲得した機能であることがわかりました。この点を踏まえて、子供のPTSDにどうすればいいでしょうか? その対応を大きく3つ挙げてみましょう。(1)ただ一緒にいるその1でも触れましたが、「今、揺れとぅ?」「なんかな、ずっと揺れとぅ気がすんねん」というフラッシュバックの症状を訴えた小学生の男の子に対して、安先生は、「大丈夫や。揺れてへん」と力強くも温かく言います。そして、一緒に荷物を運ぶのです。1つ目の対応は、ただ一緒にいることです。そして、助け合うことです。これは、原始の時代に進化した社会脳に通じます。逆に言えば、何か特別なことをする必要はありません。安静にすることでもありません。一番大事なことは、なるべく普段と変わらない日常生活のなかで、体が安全であること、そして心が安全であることを、時間をかけて感じてもらうことです。(2)自然な気持ちを促す安先生は、その男の子に「ちゃんと眠れてるんか?」「何か話したいことあったら、何でもいいな」と問いかけると、「ええわ、僕よりつらい目に遭うた人いっぱいおるし」と返されます。すると、安先生は「お~我慢して偉いな…って言うと思ったら大間違いや。こんなつらいことがあった。こんな悲しいことがあった。そういうこと、話したかったら、遠慮せんと話してほしいねん」「言いたいこと我慢して飲み込んでしもうたら、ここ(子供の心臓を指して)、あとで苦しくなんで」と言います。男の子から「おじいちゃんに男のくせにそんなに弱いかって笑われる」と漏らされると、安先生は「弱いってええことやで。弱いから、ほかの人の弱いとこがわかって助け合える。おっちゃんも弱いとこあるけど、全然恥ずかしいと思うてへん」と力強く言います。2つ目の対応は、我慢せずに自然な気持ちを促すことです。この点で、地震ごっこに対しては、やはりまず見守ることです。実際に、東日本大震災のあとに観察された多くの地震ごっこでは、子供たちが楽しんでやっていることがわかっています1)。もちろん、けがや暴力になりそうなら止める必要がありますが、基本的には見守るだけで十分です。逆に言えば、話したくないのに、話すように促すことはしないことです。これは、心理的ディブリーフィングと呼ばれ、トラウマ体験をできるだけ早い時期に語らせて、気持ちを吐き出させることで、かつてアメリカの9.11の同時多発テロによるトラウマ体験への治療として注目されました。しかし、その後に実際には有効ではないという研究結果が相次いで報告され、トラウマ反応を強化させる可能性までも指摘されました1)。これは、PTSDを心の進化における機能として捉えたら、当然でしょう。これは、子供だけでなく、大人にも当てはまります。安全が確認されていないのに避難訓練をやらないのと同じように、心の安全(心の準備)が保たれていないタイミングで、語らせたり、演じさせたりは絶対にしないようにする必要があります。この点を踏まえて、東日本大震災の被災地の学校で、震災当時の絵を描かせたり、作文を書かせたり、語りをさせるなどの震災体験の表現の取り組み(防災教育)が行われましたが、それにあたって、少なくとも震災から1年が経っていること、事前に生徒たちに伝えて心の準備をしてもらうこと、嫌だったらやらなくていい(ほかにやりたいことをしてもいい)という選択肢を示すことなどのきめ細かい配慮がなされました1)。(3)楽しめることを促すその後、小学校の避難所でのまとめ役でもある校長先生が、安先生に「子供らの遊ぶ場所、作られへんかなと思てな」「毎日、枕元で地震ごっこされたらかなわんからな」と笑いながら、「キックベース、どうですか?」と誘います。なんと、校長先生が、子供たちのために、キックベースのイベントを開いたのでした。3つ目の対応は、楽しめることを促すことです。これは、地震ごっこだけでなく、子供が楽しめるポジティブなことなら何でもありです。なぜなら、何もしないと、トラウマ体験の記憶が頭のなかを占めてしまい、フラッシュバックをより引き起こしてしまうからです。そうではなくて、代わりに楽しい記憶を頭のなかに占めて、フラッシュバックを起こしにくくするのです。なお、大人のPTSD(トラウマ)への対応の詳細については、関連記事4をご覧ください。プレイセラピーとは?もしも、子供が1人で地震ごっこをやっている場合は、どうでしょうか? もちろん、見守ることができます。さらに、PTSDへの対応の観点から、セラピスト、さらには家族や親しい人たちがその遊びに加わり、自然な気持ちを促し、一緒に楽しむことができます。これは、プレイセラピー(遊戯療法)と呼ばれています。たとえば、子供が「地震だー」と言い、体を揺らしていたら、一緒にいる人は「逃げろー」と合いの手を入れ、一緒に走り回ります。一通り走り回ったら、最後は「逃げれたー。助かったー。良かったねー」というセリフを言うのです。途中で、近所の人を助ける演技を入れるのもいいでしょう。こうして、助け合っていることを一緒に喜び合うことで、地震があっても助かったストーリーを一緒につくることができます。ただし、あくまで子供が自然に遊んでいる状況に乗っかるのがポイントです。逆に、「地震ごっこをしよう」などと最初から誘導しないことです。これは、先ほどの心理的ディブリーフィングと同じく、トラウマ反応を強化させるリスクがあります。また、ごっこ遊びのテーマとなるトラウマ体験が、災害ではなく、虐待・誘拐・殺人などの犯罪の場合はより専門的な介入が必要になり、場合によっては止める必要があります2)。その理由は、「虐待ごっこ」「誘拐ごっこ」「殺人ごっこ」になってしまうからです。これは、災害の環境と同じように、虐待・誘拐・殺人などの環境に子供が無意識に適応しようとするわけなのですが、相手に傷つけられるまたは傷つけるという不適切なコミュニケーションの練習をしてしまうおそれがあるからです。これは、子供が傷つけられる人を繰り返し演じることで自己肯定感を低くして、さらに傷つける人を繰り返し演じることで攻撃性を高めるリスクがあります。「心の傷を癒すということ」とは?ラストシーンで、安先生が「心のケアって何かわかった。誰も、ひとりぼっちにさせへん、てことや」と悟ったように言うシーンがあります。このセリフから私たちは、子供にしても大人にしても、PTSDの症状は、単に困ったネガティブなものではなく、お互いの援助行動を引き出し、連帯感を促すポジティブな機能であり、能力であると捉え直すことができます。そうして、子供も大人もトラウマを乗り越えて成長した状態は、PTG(心的外傷後成長)と呼ばれます。じつは、このドラマは実話をもとにしたストーリーです。実在した人物である故・安 克昌先生のドキュメンタリーでもあり、なんと阪神淡路大震災で実際に被災した人たちがこのドラマの避難所のエキストラとして出演していました。このドラマに関連した番組3)では、エキストラに参加したある元被災者の女性について、「自らの記憶をたどり、心の奥にしまっていた感情に気づき、折り合いをつける。ドラマ作りに参加することが心の傷を癒す小さなきっかけになったのかもしれません」とナレーションで説明されていました。このように、大人もトラウマ体験を再演することで、PTGになることができるでしょう。人類が長らく演じることでコミュニケーションをしてきた進化の歴史を踏まえると、その子孫である現代の私たちは、言葉によって普段抑制している感情(演じる心理)を体全体でもっと自由に解放することができるのではないでしょうか? つまり、私たち大人も、子供と同じようにもっと「ごっこ遊び」(演技)を生活のなかで生かすことができるのではないでしょうか?なお、演技の効果(機能)の詳細については、関連記事5をご覧ください。1)「災害後の時期に応じた子どもの心理支援」p.19、p.126、p.212:冨永良喜ほか、誠信書房、20182)「子どものポストトラウマティック・プレイ」p.27:エリアナ・ギル、誠信書房、20223)「100分de名著 安克昌 “心の傷を癒すということ” (4)心の傷を耕す」:宮地尚子、NHKテキスト、2025年1月■関連記事映画「RRR」【なんで歌やダンスがうまいとモテるの?(ラブソング・ラブダンス仮説)】伝記「ヘレン・ケラー」(前編)【何が奇跡なの? だから子どもは言葉を覚えていく!(象徴機能)】映画「アバター」【私たちの心はどうやって生まれたの?(進化心理学)】アメリカン・スナイパー【なぜトラウマは「ある」の?どうすれば良いの?】映画「シンシン」(その1)【なんで演じると癒されるの?(演技の心理)】

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第20回 血液でわかる「臓器年齢」とは?長寿の鍵は脳と免疫、そして生活習慣にあり?

「○○歳だけど、それより若く見られる」、「実年齢より老けて見られるけれど、健康には自信がある」。私たちの「年齢」は、暦通りの年齢(実年齢)や外見だけでは測れない部分があります。近年の研究では、体の中にある臓器一つひとつに、実年齢とは異なる「生物学的な年齢」があり、それは臓器ごとにも異なることがわかってきています。そしてこのほど、イギリスの研究機関が報告した研究1)により、血液検査だけで11もの臓器の「年齢」を推定し、それが将来の病気のリスクや寿命と深く関わっていることが示唆されました。約4万5,000人もの大規模なデータを解析したこの研究は、私たちが健康で長生きするためのヒントを与えてくれます。「推定臓器年齢」が予測する未来の病気研究チームは、血液中に含まれる約3,000種類のタンパク質をAIで分析し、脳、心臓、肺、腎臓といった11の主要な臓器の生物学的な年齢、すなわち「臓器年齢」を推定するモデルを開発しました。この「臓器年齢」と実年齢との差(年齢ギャップ)を調べたところ、興味深い知見が次々と判明しました。たとえば、この研究で推定された「心臓年齢」が実年齢より1歳高いごとに、将来の心不全のリスクは83%も上昇していました。同様に、研究内で推定された「脳年齢」が高いことは、アルツハイマー病の強力な予測因子となっていました。とくに、脳が実年齢より著しく老化している人は、アルツハイマー病のリスクが3.1倍にもなり、これは病気の遺伝的リスクを持つ人(APOE4を1コピー持つ人)と同程度でした。逆に、脳が若い人はリスクが74%も減少し、これは遺伝的に病気になりにくい人と同等の保護効果でした。さらに、老化している臓器の数が増えれば増えるほど、死亡リスクは雪だるま式に増加して見られることもわかりました。「老化」臓器が8個以上ある人は、そうでない人に比べて死亡リスクが8.3倍にも跳ね上がっていたのです。あなたのライフスタイルが「推定臓器年齢」を大きく左右するでは、研究で推定されたこれらの「臓器年齢」は変えられない運命なのでしょうか?答えは「ノー」だと考察されています。この研究の中で評価された最も重要な知見の一つは、「推定臓器年齢」が日々のライフスタイルに密接に関連すると明らかにしたことです。研究では、以下のようなライフスタイルと推定臓器年齢の関連が示されました。臓器を「老化」させる習慣喫煙:多くの臓器の老化と関連していました。過度な飲酒:こちらも複数の臓器の老化を促進する要因でした。加工肉の摂取:日常的にソーセージやハムといった加工肉を食べる習慣は、臓器年齢を高める傾向がありました。不眠:睡眠不足や不眠の悩みは、臓器の老化にもつながっているようです。臓器を「若々しく」保つ習慣活発な運動:とくに、息が上がるような活発な運動は、多くの臓器を若々しく保つのに効果的な可能性があると考えられました。油の多い魚の摂取:いわしやサバなどの青魚に含まれる脂は、健康のアウトカムに関連すると知られていますが、臓器年齢の若返りにも貢献する可能性が示されました。鶏肉の摂取:赤身肉よりも鶏肉を選ぶことが、臓器の若さを保つ秘訣なのかもしれません。高学歴:教育レベルの高さも、臓器の若々しさと関連していました。これは、健康に対する知識やヘルスリテラシーの高さが反映されているのかもしれません。また、興味深いことに、グルコサミン、肝油(タラの肝油)、マルチビタミン、ビタミンCといったサプリメントや市販薬を摂取している人は、とくに腎臓、脳、膵臓が若い傾向にあることもわかりました。ただし、これらはあくまで関連性を示したもので、直接的な因果関係を証明するものではない点には注意が必要です。たとえば、こうしたものを飲んでいる人は普段から健康への意識が高い傾向があり、そうした傾向が臓器を若々しく維持するのに貢献していたのかもしれません。長寿の秘訣は「若い脳」と「若い免疫能」にあり?最後に、この研究は「どの臓器の若さが長寿に最も貢献するのか?」という問いにも答えようとしています。分析の結果、数ある臓器の中でも、「脳」と「免疫能」の推定年齢が、長寿と特に強く関連していることが示唆されました。脳だけ、あるいは免疫能だけが若い人でも死亡リスクは40%以上低下しましたが、脳と免疫の両方が若い人は、死亡リスクが56%低下することと関連していたのです。脳は全身の働きをコントロールする司令塔であり、免疫システムは病気から体を守る防御機構です。この2つのシステムの若さを保つことが、健康寿命を延ばすための鍵となりそうです。この研究は、血液という身近なサンプルから、私たちの体の内部で起きている老化のサインを読み解く新たな扉を開きました。「臓器年齢」を推定し、ライフスタイルを見直すことで、病気を未然に防ぎ、より健康な未来を自ら作り出す。そんな時代が、もうすぐそこまで来ているのかもしれません。参考文献・参考サイト1)Oh HSH, et al. Plasma proteomics links brain and immune system aging with healthspan and longevity. Nat Med. 2025 Jul 9. [Epub ahead of print]

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緑茶摂取量が多い日本人は認知症リスクが低下

 緑茶は、コーヒーと同様、認知症を予防する可能性が示唆されているが、それを裏付けるエビデンスは不十分である。新潟大学のRikuto Kaise氏らは、日本人中高年における緑茶摂取と認知症リスクとの独立した関連性および緑茶とコーヒー摂取の相互作用を明らかにするため、12年間のコホート研究を実施した。The Journal of Nutrition誌2025年8月号の報告。 同研究は、加齢性疾患に関する村上コホート研究の12年間フォローアップ調査として実施した。対象は、地域在住の40〜74歳の日本人1万3,660人(男性:6,573人[48.1%]、平均年齢:59.0±9.3歳)。ベースライン調査は、2011〜13年に行った。自己記入式質問票を用いて、性別、年齢、婚姻状況、教育、職業、体格、身体活動、喫煙、アルコール摂取、紅茶・コーヒーの摂取、エネルギー摂取量、病歴などの予測因子と関連する情報を収集した。緑茶摂取量は、検証済み質問票を用いて定量的に測定した。認知症発症は、介護保険データベースを用いて特定した。 主な結果は以下のとおり。・緑茶摂取量が多いほど、認知症のハザード比(HR)の低下が認められた(多変量p for trend=0.0178)。最高四分位群のHRは、最低四分位群よりも低かった(調整HR:0.75)。・緑茶1杯(150mL)摂取による認知症の調整HRは0.952(95%信頼区間:0.92〜0.99)であり、1杯増加するごとに4.8%の減少が認められた。・緑茶とコーヒーの両方の摂取量が多いことと認知症リスク低下との関連性は認められなかった(p for interaction=0.0210)。 著者らは、「緑茶摂取量の多さと認知症リスク低下は、独立して関連していることが示唆された。緑茶の有益性は示されたが、緑茶とコーヒーの両方を過剰に摂取することは、認知症予防に推奨されないと考えられる」と結論付けている。

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次世代技術が切り拓くリンパ腫の未来/日本リンパ腫学会

 2025年7月3日~5日に第65回日本リンパ腫学会総会/第28回日本血液病理研究会が愛知県にて開催された。 7月4日、遠西 大輔氏(岡山大学病院 ゲノム医療総合推進センター)、島田 和之氏(名古屋大学医学部附属病院 血液内科)を座長に行われたシンポジウム1では、国内外の最新の解析手法を用いたリンパ腫研究に携わる第一線の研究者であるClementine Sarkozy氏(Institut Curie, Saint Cloud, France)、杉尾 健志氏(Stanford University, Division of Oncology)、冨田 秀太氏(岡山大学病院 ゲノム医療総合推進センター)、中川 雅夫氏(北海道大学大学院医学研究院 血液内科)より、次世代技術が切り拓くリンパ腫の未来と題し、最新の研究結果について講演が行われた。形質転換FLにおける悪性B細胞とTMEのco-evolution 濾胞性リンパ腫(FL)の形質転換は、予後不良と関連している。しかし、遺伝的進化や表現型との関係はほとんどわかっておらず、形質転換が変換遺伝子型を有する既存の遺伝子から発生するのか、診断時には存在しない遺伝的および表現型の形質転換によるものなのかは不明である。これらの課題を明らかにするために、単細胞トランスクリプトーム(scWTS)と全ゲノムシーケンシング(scWGS)を用いて、変換中の悪性B細胞のクローナルおよび表現型転換を特徴付け、腫瘍微小環境(TME)内における相互作用の解明が試みられた。 scWGSを用いた系統解析は、形質転換FLペア全体で不均一な進化パターンが認められ、scWTSデータを用いた形質転換FLペアからの悪性B細胞のクラスタリングは、FLとびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)サンプルの転写類似性が、以前の治療歴とは無関係に、サンプリング間の時間と逆相関していることが示唆され、Sarkozy氏は、とくに重要なのは、FLクラスターとDLBCLクラスターが十分に分離されたペアでは、一部のFL細胞が常にDLBCLクラスター(DLBCL様細胞)内にあり、その逆も同様である可能性が示された点であるとしている。 scWGSとscWTSの統合は、クローン腫瘍転換中にアップレギュレートされた悪性細胞経路を識別可能であるが、形質転換プロセスのすべての形質転換FLペアに当てはまるわけではない。実際、悪性B細胞表現型の変化と共進化(co-evolution)する、新たなTMEランドスケープも発見されている。これらの結果は、悪性B細胞とTMEの間の転換とシフトクロストーク中の悪性細胞のゲノムと表現型を組み合わせた新たな包括的な手法の可能性を示唆している。TCLの正確な病勢モニタリングのためのリキッドバイオプシー リキッドバイオプシーは、血液や体液を採取して得た検体を解析して、遺伝子異常の有無や種類などを調べる検査技術である。近年、cfDNA(cell-free DNA)を用いた病勢モニタリングの有用性が進展し、DLBCLに対するNCCNガイドラインにも記載されるようになった。DLBCLに限らず、ctDNA(circulating tumor DNA)を用いた病勢モニタリングの有用性は、多くのがんでも報告されている。杉尾氏らは、遺伝子変異だけでなく、コピー数異常、エピジェネティック変化、免疫レセプター解析を組み合わせたマルチモーダル解析を開発し、単なる病勢モニタリングにとどまらず、治療抵抗性や免疫逃避のメカニズムを包括的に評価する試みを進めている。本発表では、主にT細胞リンパ腫(TCL)におけるcfDNA/cfRNA解析の結果について報告した。 TCLに対するcfDAN解析用パネルを開発し、さまざまな解析手法を用いて530検体の解析を行った。その結果、TCL患者において、腫瘍組織のみの解析では腫瘍性TCRクロノタイプを同定できなかった症例の約30%において、cfDNA解析による同定が可能であった。また、治療終了時に血漿cfDNAから遺伝子変異や腫瘍性クロノタイプが検出されなかった症例では1年以上無再発生存率が100%であった。PET CR達成患者においても、ctDNAで予後の層別化が可能であった。さらに、ベースライン時のctDNA量も予後と関連しており、とくに未分化大細胞リンパ腫(ALCL)以外のTCLサブタイプでは化学療法後の予後との有意な関連が認められた。杉尾氏は「新たな病勢評価の手法は、とくにgermlineサンプルやtumorサンプルが利用できないまたはパネル検査においてマーカー遺伝子を特定できない場合、病勢をより正確に評価するための補助的役割を果たすと考えられる」と結論付けている。革新的な進展を遂げるデジタル空間プロファイリング解析技術 がんやリンパ腫などの疾患研究において、GeoMxやVisiumなどのデジタル空間プロファイリング(DSP)解析技術が革新的な進展を遂げている。この技術は、従来の網羅的な遺伝子発現プロファイリング(RNA-seq)解析、免疫組織化学染色解析、単一細胞RNAシーケンスでは困難であった。組織内の位置情報を保持したまま網羅的な遺伝子プロファイルを取得できる点において、従来の解析手法とは一線を画している。 岡山大学病院 ゲノム医療総合推進センターでは、いち早く空間解析プラットフォームGeoMxを導入し、さまざまな疾患やがん種の解析を通して、データ取得からデータ解析までの環境の整備、構築を進めてきた。冨田氏らはGeoMxのメリットとして「任意の場所からトランスクリプトームの情報が取得できる点」「形態学的マーカーで染色できる点」などを挙げている。Yixing Dong氏らの報告によると、いずれのDSPでも高品質な再現性の高いデータが得られているとしながらも、腫瘍の不均一性と潜在的な薬物ターゲットの発見においてGeoMxよりもVisiumおよびChromiumがより優れていることが示唆されており、GeoMxではより専門的な作業が必要となる可能性があるとしている。これら各手法の長所、短所などがより明らかとなることで、精度の高い治療の推進に役立つことが期待される。解明が進むTCLにおける治療標的分子 複数の新規治療薬が導入されているにもかかわらず、TCLは依然として予後不良であり、その分子病態のさらなる理解と新規治療標的の探索は課題である。一方、近年のゲノム編集技術の進展により、疾患特異的な分子メカニズムや治療応答性の基盤解明が飛躍的に進んでいる。 これまで北海道大学では、genome-wide CRISPR library screeningを活用し、TCLにおける治療標的分子の解明に取り組んできた。その結果、最も予後不良なTCLである成人T細胞白血病/リンパ腫(ALTT)におけるPD-L1発現メカニズムを解明し、CRISPRスクリーニングによりPD-L1の発現が特定の分子ネットワークにより制御されていることを報告した。 さらに、CD30陽性TCLにおける抗CD30モノクローナル抗体の感受性メカニズムを解明し、CRISPRスクリーニングによる感受性に寄与する遺伝子として有糸分裂チェックポイント複合体(MCC)の阻害因子であるMAD2L1BPおよびANAPC15を同定した。加えて、これらの遺伝子による感受性調節メカニズムを解明し、MCC-APC/Cを標的とする新規治療戦略の可能性を明らかにした。 中川氏らは「これらの研究成果は、難治性疾患であるTCLにおける未解明の分子メカニズムを明らかにし、臨床応用に向けた新たな方向性を示すものである」とまとめている。

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高リスク早期TN乳がんへの術前・術後ペムブロリズマブ追加、日本のサブグループにおけるOS解析結果(KEYNOTE-522)/日本乳学会

 高リスク早期トリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者において、ペムブロリズマブ+化学療法による術前療法およびペムブロリズマブによる術後療法は、術前化学療法単独と比較して、病理学的完全奏効(pCR)割合および無イベント生存期間(EFS)を統計学的有意に改善し、7回目の中間解析報告(データカットオフ:2024年3月22日)において全生存期間(OS)についてもベネフィットが示されたことが報告されている(5年OS率:86.6%vs.81.7%、p=0.002)。今回、7回目の中間解析の日本におけるサブグループ解析結果を、がん研究会有明病院の高野 利実氏が第33回日本乳学会学術総会で発表した。・対象:T1c、N1~2またはT2~4、N0~2で、治療歴のないECOG PS 0/1の高リスク早期TNBC患者(18歳以上)・試験群:ペムブロリズマブ(200mg、3週ごと)+パクリタキセル(80mg/m2、週1回)+カルボプラチン(AUC 1.5、週1回またはAUC 5、3週ごと)を4サイクル投与後、ペムブロリズマブ+シクロホスファミド(600mg/m2)+ドキソルビシン(60mg/m2)またはエピルビシン(90mg/m2)を3週ごとに4サイクル投与し、術後療法としてペムブロリズマブを3週ごとに最長9サイクル投与(ペムブロリズマブ群)・対照群:術前に化学療法+プラセボ、術後にプラセボを投与(プラセボ群)・評価項目:[主要評価項目]pCR(ypT0/Tis ypN0)、EFS[副次評価項目]OS、安全性など 主な結果は以下のとおり。・日本で登録されたのは76例で、ペムブロリズマブ群に45例、プラセボ群に31例が割り付けられた。・ベースラインの患者特性は、全体集団と比較してPD-L1陽性の患者が若干少なく(日本:ペムブロリズマブ群71.1%vs.プラセボ群74.2%/全体集団:83.7%vs.81.3%)、毎週投与のカルボプラチンの使用割合が高かった(日本:80.0%vs.77.4%/全体集団:57.3%vs. 57.2%)。また日本では、T3/T4の症例(24.4%vs.16.1%)およびリンパ節転移陽性の症例(53.3%vs.41.9%)がペムブロリズマブ群で多い傾向がみられた。・5年EFS率は、ペムブロリズマブ群84.4%vs.プラセボ群73.2%、ハザード比(HR):0.54、95%信頼区間(CI):0.20~1.50であった(全体集団では81.2%vs.72.2%、HR:0.65、95%CI:0.51~0.83)。・5年OS率は、ペムブロリズマブ群88.9%vs.プラセボ群86.5%、HR:0.82、95%CI:0.22~3.04であった(全体集団では86.6%vs.81.7%、HR:0.66、95%CI:0.50~0.87)。・5年EFS率について、pCRが得られた症例ではペムブロリズマブ群95.8%(24例)vs.プラセボ群100%(15例)、pCRが得られなかった症例では71.4%(21例)vs.46.7%(16例)であった。・5年OS率について、pCRが得られた症例ではペムブロリズマブ群95.8%vs.プラセボ群100%、pCRが得られなかった症例では81.0%vs.73.7%であった。・Grade3~4の治療関連有害事象の発現率は、ペムブロリズマブ群82.2%vs.プラセボ群76.7%(全体集団では77.1%vs.73.3%)、うち治療中止に至ったのは24.4%vs.16.7%であった。プラセボ群と比較して多くみられたのは(全Grade)、貧血(75.6%vs.63.3%)、味覚障害(44.4%vs.23.3%)、皮疹(40.0%vs.10.0%)などであった。・Grade3~4の免疫関連有害事象の発現率は、ペムブロリズマブ群20.0%vs.プラセボ群3.3%であった(全体集団では13.0%vs.1.5%)。 高野氏は、日本のサブグループ解析結果について、症例数が少ないためこの結果をもって統計学的な判断はできないが、OSはグローバルの全体集団と同様にペムブロリズマブ群で良好な傾向を示したとし、EFSについても6年以上のフォローアップで引き続き有効な傾向を示しているとまとめた。また安全性についても、既知のプロファイルと同様の結果が確認されたとしている。

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18歳未満の嘔吐を伴う急性胃腸炎、オンダンセトロンは有益か/NEJM

 胃腸炎に伴う嘔吐を呈する小児において、救急外来受診後のオンダンセトロン投与はプラセボ投与と比べて、その後7日間の中等症~重症の胃腸炎リスクの低下に結び付いたことが示された。カナダ・カルガリー大学のStephen B. Freedman氏らPediatric Emergency Research Canada Innovative Clinical Trials Study Groupが、二重盲検無作為化優越性試験の結果を報告した。オンダンセトロンは、救急外来を受診した急性胃腸炎に伴う嘔吐を呈する小児への単回投与により、アウトカムを改善することが報告されている。症状緩和のために帰宅時に処方されることも多いが、この治療を裏付けるエビデンスは限られていた。NEJM誌2025年7月17日号掲載の報告。嘔吐への対応として6回投与分を処方、中等症~重症の胃腸炎発生を評価 研究グループは、カナダの3次医療を担う6施設の小児救急外来で、急性胃腸炎に伴う嘔吐を呈する生後6ヵ月~18歳未満を対象に試験を行った。 救急外来からの帰宅時に、被験者には経口オンダンセトロン液剤(濃度4mg/5mL)またはプラセボ液剤が6回分(それぞれ0.15mg/kg、最大投与量8mg)提供された。介護者には0.1mL単位で調整された投与量が伝えられ、投与後15分以内に嘔吐が再発した場合は再投与し、試験登録後48時間で液剤は廃棄するよう指示された。介護者は7日間の試験期間中、液剤投与および関連した症状を日誌に記録した。 主要アウトカムは、中等症~重症の胃腸炎(試験登録後7日間における修正Vesikariスケール[スコア範囲:0~20、高スコアほどより重症であることを示す]のスコア9以上の胃腸炎発生で定義)。副次アウトカムは、嘔吐の発現、嘔吐の持続期間(試験登録から最終嘔吐エピソードまでの期間で定義)、試験登録後48時間の嘔吐エピソード回数、試験登録後7日間の予定外受診、静脈内輸液の投与などであった。中等症~重症の胃腸炎はオンダンセトロン群5.1%、プラセボ群12.5%、有害事象発現は同程度 2019年9月14日~2024年6月27日に合計1,030例の小児が無作為化された。解析対象1,029例(1例はWebサイトエラーのため無作為化できなかった)は、年齢中央値47.5ヵ月、女児521例(50.6%)、体重中央値16.1kg(四分位範囲[IQR]:12.2~22.5)、ロタウイルスワクチン接種済み562/782例(71.9%)、ベースラインでの嘔吐の持続期間13.9時間(IQR:8.9~25.7)、修正Vesikariスケールスコア中央値9(IQR:7~10)などであった。 主要アウトカムの中等症~重症の胃腸炎は、オンダンセトロン群5.1%(データが入手できた452例中23例)、プラセボ群12.5%(同441例中55例)であった(補正前リスク差:-7.4%ポイント、95%信頼区間[CI]:-11.2~-3.7)。試験地、体重、欠失データを補正後も、オンダンセトロン群はプラセボ群と比べて中等症~重症の胃腸炎のリスクが低かった(補正後オッズ比:0.50、95%CI:0.40~0.60)。 嘔吐の発現や持続期間中央値について、あらゆる意味のある群間差は認められなかったが、試験登録後48時間の嘔吐エピソード回数は、オンダンセトロン群がプラセボ群と比べて低減した(補正後率比:0.76、95%CI:0.67~0.87)。予定外受診および試験登録後静脈内輸液の投与は、試験群間で大きな差はなかった。 有害事象の発現も試験群間で意味のある差は認められなかった(オッズ比:0.99、95%CI:0.61~1.61)。

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