サイト内検索|page:21

検索結果 合計:35095件 表示位置:401 - 420

401.

手術低リスク重症大動脈弁狭窄症、TAVR vs.手術の7年追跡結果/NEJM

 手術リスクの低い症候性重症大動脈弁狭窄症患者を対象に、経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)と外科的大動脈弁置換術を比較した「PARTNER 3試験」の7年追跡解析の結果、死亡、脳卒中および再入院の複合エンドポイントを含む2つの主要エンドポイントについて、いずれも両群に有意差は認められなかったことが示された。米国・New York-Presbyterian HospitalのMartin B. Leon氏らが報告した。本試験の5年追跡解析でも同様の結果が得られていたが、臨床アウトカムと弁の耐久性に関して、より長期の評価が求められていた。NEJM誌オンライン版2025年10月27日号掲載の報告。5年追跡と同じ2つの主要複合エンドポイントを比較 研究グループは、症候性大動脈弁狭窄症を有し、米国胸部外科医学会の予測死亡リスク(STS-PROM)スコア(範囲:0~100%、高スコアほど術後30日以内の死亡リスクが高い)が4%未満で、臨床的・解剖学的評価に基づき手術リスクが低いと判断された患者1,000例を、経大腿動脈アプローチでバルーン拡張型人工弁(SAPIEN 3)を留置するTAVR群(503例)、または外科的大動脈弁置換術を行う手術群(497例)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。治療群にはTAVR群496例、手術群454例が含まれ、臨床アウトカムおよび心エコーアウトカムを経時的に評価した。 7年追跡解析に関する事前に規定された主要エンドポイントは、5年追跡解析と同一である。すなわち、第1主要エンドポイントは、死亡、脳卒中、手技・弁・心不全に関連した再入院の非階層的複合エンドポイント、第2主要エンドポイントは、死亡、後遺症のある脳卒中、後遺症のない脳卒中、手技・弁・心不全に関連した再入院日数の階層的複合エンドポイントであった。7年追跡結果においても、TAVRと外科的大動脈弁置換術で差はなし 第1主要エンドポイントのイベントは、TAVR群で496例中165例(Kaplan-Meier推定値34.6%)、手術群で454例中156例(同37.2%)に発生した(群間差:-2.6%、95%信頼区間[CI]:-9.0~3.7、ハザード比:0.87、95%CI:0.70~1.08)。第2主要エンドポイントのwin比は1.04(95%CI:0.84~1.30)であった。 第1主要エンドポイントの各構成要素の発生率(Kaplan-Meier推定値)は、死亡がTAVR群19.5%、手術群16.8%、脳卒中がそれぞれ8.5%、8.1%、再入院が20.6%、23.5%であった。 7年時の平均大動脈弁圧較差(平均±SD)は、TAVR群13.1±8.5mmHg、手術群12.1±6.3mmHgであった。生体弁機能不全は、TAVR群で6.9%、手術群で7.3%に認められた。

402.

糖尿病前症の生活改善、AI介入が人間に非劣性/JAMA

 糖尿病前症の過体重または肥満の成人に対する糖尿病予防プログラム(DPP)について、人工知能(AI)主導による介入は人間主導による介入に対して、体重減少、身体活動およびHbA1cに基づく複合アウトカムの達成に関して非劣性であることが示された。米国・Johns Hopkins University School of MedicineのNestoras Mathioudakis氏らAI-DPP Study Groupが、Johns Hopkins Hospital(メリーランド州ボルティモア)およびReading Hospital Tower Health(ペンシルベニア州レディング)の2施設で実施したプラグマティックな第III相無作為化非盲検非劣性試験の結果を報告した。糖尿病前症を有する人は多数に上るが、現状エビデンスに基づくライフスタイル介入は十分に活用されていない。JAMA誌オンライン版2025年10月27日号掲載の報告。12ヵ月時点での体重減少、身体活動、HbA1cの複合アウトカムを比較 研究グループは、2021年10月11日~2024年12月16日(最終追跡調査日)に、糖尿病前症と診断された過体重または肥満を有する18歳以上の成人を、AI主導DPP群と人間主導DPP群に1対1の割合で無作為に割り付け、両介入を研究チームから独立して12ヵ月間提供した。他の構造化プログラムへの参加や、血糖ならびに体重に影響を与える薬剤の使用は禁止とした。 AI主導DPP群では、モバイルアプリとBluetooth対応体重計を介し、収集されたデータに基づき体重管理、身体活動、栄養に関する指導が個別に配信された。人間主導DPP群では、4種類の生活改善プログラムのうち1つを紹介し、当初は週1回を16回、その後は隔週~月1回、集団ビデオ会議形式の遠隔指導で行った。 主要アウトカムは、試験期間を通してHbA1cが6.5%未満に維持され、かつ12ヵ月時点において(1)5%以上の体重減少、(2)4%以上の体重減少に加え週150分以上の中~高強度の身体活動、(3)HbA1cの絶対値が0.2%以上低下、のいずれかの達成で定義される複合アウトカムであった。非劣性マージンは、リスク群間差の片側95%信頼区間(CI)下限が-15%と事前に規定された。AI主導DPPは人間主導DPPに対して非劣性 427例がスクリーニングされ、このうち適格基準を満たした368例が無作為化された(AI主導DPP群183例、人間主導DPP群185例)。年齢中央値は58歳(四分位範囲[IQR]:50~65)、女性が71%、黒人27%、ヒスパニック6%、白人61%、BMI中央値32.3(IQR:28.5~37.1)であった。AI主導DPP群では183例中171例(93.4%)が、人間主導DPP群では185例中153例(82.7%)が介入を開始した。 主要アウトカムの達成割合は、AI主導DPP群31.7%(58/183例)、人間主導DPP群31.9%(59/185例)、リスク群間差は-0.2%(片側95%CI:-8.2%)であり、非劣性基準を満たした。複合アウトカムの各構成要素の達成割合および感度解析においても、結果は一貫していた。 なお著者は、非盲検試験であること、糖尿病の発症ではなく代替アウトカムが使用されたこと、人間主導DPPの提供は施設によって異なっていた可能性があることなどを研究の限界として挙げている。

403.

ホスピスでよく使われる薬は認知症患者の死亡リスクを増加させる

 ホスピスでケアを受けているアルツハイマー病および関連認知症(ADRD)患者に対するベンゾジアゼピン系薬剤(以下、ベンゾジアゼピン)および抗精神病薬の使用は、患者の死を早めている可能性のあることが新たな研究で示された。ホスピス入所後にベンゾジアゼピンまたは抗精神病薬の使用を開始したADRD患者では、使用していなかった患者と比べて180日以内に死亡するリスクがそれぞれ41%と16%高いことが示されたという。米ミシガン大学の老年精神科医であるLauren Gerlach氏らによるこの研究の詳細は、「JAMA Network Open」に10月14日掲載された。 ホスピスケアは、もともとは死期の近いがん患者の精神的・身体的苦痛を緩和するために作り出されたが、今ではその対象は認知症などの他の末期疾患患者にも広がっている。研究グループによると、ホスピスに入所するADRD患者の割合は、1995年の1%未満から2023年には25%にまで増加している。しかし、ADRDはがんと比べると、長期にわたり予測不可能な経過をたどるため、ホスピス入所患者が必ずしもすぐに死亡するわけではない。実際、これらの患者の約20%は、ホスピス入所条件である予後6カ月を超えて生存し、ケアプログラムを終えていると研究グループは述べている。 研究グループによると、ホスピス入所患者の興奮、不安、せん妄の管理ではベンゾジアゼピンや抗精神病薬が処方されることが多い。しかし、これらの薬の使用は、転倒や混乱、鎮静のリスクを高め、患者の生活の質(QOL)に影響を及ぼす可能性がある。 この研究でGerlach氏らは、ホスピス施設に処方箋の報告が義務付けられていた2014年7月1日から2018年9月30日までの間の全国のメディケアデータを分析した。対象は、ホスピス入所前の6カ月間にベンゾジアゼピンや抗精神病薬の使用歴がないADRD患者13万9,103人(平均年齢87.6歳、女性75.8%)とした。ホスピス入所時にベンゾジアゼピンおよび抗精神病薬の使用リスクが高いとされた患者はそれぞれ10万58人と11万4,933人で、入所後、4万7,791人(47.8%)と1万5,314人(13.4%)で実際に薬の使用が開始されていた。患者のホスピス滞在日数の平均は130日を超えていた(ベンゾジアゼピン使用患者で136.4日、抗精神病薬使用患者で154.0日)。 ベンゾジアゼピンと抗精神病薬の使用患者と非使用患者を1対1でマッチングしたペア(ベンゾジアゼピンで2万6,872ペア、抗精神病薬で1万240ペア)を抽出して、それぞれの薬の使用と死亡との関連を検討した。その結果、使用患者では非使用患者と比べて、薬の使用開始後180日以内に死亡するリスクが、ベンゾジアゼピンでは41%、抗精神病薬では16%、有意に上昇することが示された。 Gerlach氏は、「こうした早期の処方パターンは、これらの薬が個々の患者に合わせて調整されるのではなく、標準的なホスピスケアの実践の一部として使用されているケースがあることを示唆している」と述べている。その上で同氏は、「ホスピス滞在期間中に認知症患者に使用する薬は、QOLを低下させるのではなく、向上させるものでなければならない」と話す。さらに同氏は、「メディケアのホスピス給付は、加入者のほとんどががん患者で、病状の経過が短く予測可能であることを想定して設計されている。病気の進行が何年にもわたることがあるADRD患者に適したケアモデルと処方ガイドラインが必要だ」と指摘している。

404.

慢性便秘の改善にキウイが有効

 キウイは健康的なおやつ以上のものかもしれない。英国栄養士会(BDA)が新たに作成した慢性便秘に関する包括的な食事ガイドラインによれば、キウイ、ライ麦パン、特定のサプリメントは、薬に頼らずに慢性便秘を管理するのに役立つ可能性があるという。英キングス・カレッジ・ロンドン(KCL)准教授で登録栄養士でもあるEirini Dimidi氏らが作成したこのガイドラインは、「Journal of Human Nutrition and Dietetics」に10月13日掲載された。 Dimidi氏は、「本ガイドラインは医薬品ではなく、食事療法による便秘治療に焦点を当てている」と説明する。同氏は、「便秘に悩む人が、科学的エビデンスに基づいた情報を得ることで、自分で症状をコントロールして、生活の質(QOL)に多大な影響を及ぼしている症状を改善することができると感じてくれることを願っている」と話している。 慢性便秘とは、週3回未満の排便が3カ月以上続く状態と定義されている。慢性便秘の一般的な症状は、硬い便や塊状の便、膨満感、腹部不快感、吐き気などである。慢性便秘は世界人口の10%以上に影響を与えている。米国消化器病学会によると、米国だけでも年間約250万人が便秘を理由に医療機関を受診している。慢性便秘の状態では、お腹の張りや痛み、倦怠感から体を動かすことができなかったり気分に影響したりする可能性がある」と米栄養と食事のアカデミー(AND)の広報担当者で管理栄養士のSue-Ellen Anderson-Haynes氏はNBCニュースに語っている。 この研究でDimidi氏らは、慢性便秘に対する食事による介入の効果を検討した75件のランダム化比較試験(RCT)を対象に4件のシステマティックレビューとメタアナリシスを行い、その結果に基づいて、GRADEアプローチ(エビデンスの確実性と推奨の強さを評価する手法)によりガイドライン(推奨事項)を作成した。主な推奨事項は以下の通り。・キウイ:毎日3個(皮付きまたは皮なし)食べると便通が改善する。・ライ麦パン:1日6〜8枚食べると排便回数を増やすことができる。ただし、これは全ての人にとって現実的とはいえない可能性があることをDimidi氏らは指摘している。・食物繊維サプリメント:サイリウム(オオバコ)などのサプリメントを1日当たり10g以上摂取すると排便回数が増え、いきみが楽になる。・酸化マグネシウムのサプリメント:1日0.5〜1.5g摂取することで排便回数が増え、腹部膨満感や痛みが軽減される。・プロバイオティクス:プロバイオティクス全体としては一部の人で効果のある可能性があるが、個々の種または菌株ごとの効果は不明である。・ミネラル豊富な水:マグネシウムを豊富に含む水の1日0.5~1.5Lの摂取を他の治療法と組み合わせることで、効果を高めることができる。 Dimidi氏は、「このガイドラインは、『食物繊維や水の摂取量を増やしましょう』というような漠然とした既存の助言を、より具体的で研究に裏打ちされた助言に置き換えることを目的としている」と述べている。同氏らによると、慢性便秘の既存の治療計画のほとんどは薬物療法に依存しているという。Dimidi氏は、「高繊維食は、健康全般や大腸がんのリスク軽減など、腸の健康にも非常に有益であるというエビデンスはいくつもある。しかし便秘に関しては、それが便秘を改善すると断言できるほどの十分なエビデンスは存在しない」とNBCニュースに対して語っている。 このガイドラインの作成には関与していない米ミシガン大学の消化器専門医であるWilliam Chey氏は、本ガイドラインを、「主治医の診察を待つ間に自分で試すことのできることについてまとめた貴重なロードマップだ」と評している。

405.

肺動脈性肺高血圧症〔PAH : pulmonary arterial hypertension〕

1 疾患概要■ 概念・定義肺高血圧症(pulmonary hypertension:PH)は、肺動脈圧が上昇する一連の疾患の総称である。欧州の肺高血圧症診断治療ガイドライン2022では、右心カテーテルで安静時の平均肺動脈圧(mPAP)が20mmHgを超える状態と定義が変更された。さらに肺動脈性肺高血圧症(PAH)に関しても、mPAP>20mmHgかつ肺動脈楔入圧(PAWP)≦15mmHg、肺血管抵抗(PVR)>2 Wood単位(WU)と診断基準が変更された。しかし、わが国において、厚生労働省が指定した指定難病PAHの診断基準は2025年8月の時点では「mPAP≧25mmHg、PVR≧3WU、PAWP≦15mmHg」で変わりない。この数字は現在保険収載されている肺血管拡張薬の臨床試験がmPAP≧25mmHgの患者を対象としていることにある。mPAP 20~25mmHgの症例に対する治療薬の臨床的有用性や安全性に関する検証が待たれる。■ 疫学特発性PAHは一般臨床では100万人に1~2人、二次性または合併症PAHを考慮しても100万人に15人ときわめてまれである。従来、特発性PAHは30代を中心に20~40代女性に多く発症する傾向があったが、最近の調査では高齢者かつ男性の新規診断例の増加が指摘されている。小児は成人の約1/4の発症数で、1歳未満・4~7歳・12歳前後に発症のピークがある。男女比は小児では大差ないが、思春期以降の小児や成人では男性に比し女性が優位である。厚生労働省研究班の調査では、膠原病患者のうち混合性結合織病で7%、全身性エリテマトーデスで1.7%、強皮症で5%と比較的高頻度にPAHを発症する。■ 病因主な病変部位は前毛細血管の細小動脈である。1980年代までは血管の「過剰収縮ならびに弛緩低下の不均衡」説が病因と考えられてきたが、近年の分子細胞学的研究の進歩に伴い、炎症-変性-増殖を軸とした、内皮細胞機能障害を発端とした正常内皮細胞のアポトーシス亢進、異常平滑筋細胞のアポトーシス抵抗性獲得と無秩序な細胞増殖による「血管壁の肥厚性変化とリモデリング」 説へと、原因論のパラダイムシフトが起こってきた1, 2)。肺血管平滑筋細胞などの血管を構成する細胞の異常増殖は、細胞増殖抑制性シグナル(BMPR-II経路)と細胞増殖促進性シグナル(ActRIIA経路)のバランスの不均衡により生じると考えられている3)。遺伝学的には2000年に報告されたBMPR2を皮切りに、ACVRL1、ENG、SMAD9など、TGF-βシグナル伝達に関わる遺伝子が次々と疾患原因遺伝子として同定された4)。これらの遺伝子変異は家族歴を有する症例の50~70%、孤発例(特発性PAH)の20~30%に発見されるが、浸透率は10~20%と低い。また、2012年にCaveolin1(CAV1)、2013年にカリウムチャネル遺伝子であるKCNK3、2013年に膝蓋骨形成不全の原因遺伝子であるTBX4など、TGF-βシグナル伝達系とは直接関係がない遺伝子がPAH発症に関与していることが報告された5-7)。■ 症状PAHだけに特異的なものはない。初期は安静時の自覚症状に乏しく、労作時の息切れや呼吸困難、運動時の失神などが認められる。注意深い問診により診断の約2年前には何らかの症状が出現していることが多いが、てんかんや運動誘発性喘息、神経調節性失神などと誤診される例も少なくない。進行すると易疲労感、顔面や下腿の浮腫、胸痛、喀血などが出現する。■ 分類『ESC/ERS肺高血圧症診断治療ガイドライン2022』に示されたPHの臨床分類を以下に示す8)。1群PAH(肺動脈性肺高血圧症)1.1特発性PAH1.1.1 血管反応性試験でのnon-responders1.1.2 血管反応性試験でのacute responders(Ca拮抗薬長期反応例)1.2遺伝性PAH1.3薬物/毒物に関連するPAH1.4各種疾患に伴うPAH1.4.1 結合組織病(膠原病)に伴うPAH1.4.2 HIV感染症に伴うPAH1.4.3 門脈圧亢進症に伴うPAH(門脈肺高血圧症)1.4.4 先天性心疾患に伴うPAH1.4.5 住血吸虫症に伴うPAH1.5 肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症(PVOD/PCH)の特徴をもつPAH1.6 新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)2群PH(左心疾患に伴うPH)2.1 左心不全2.2.1 左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)2.2.2 左室駆出率が低下または軽度低下した心不全2.2 弁膜疾患2.3 後毛細血管性PHに至る先天性/後天性の心血管疾患3群PH(肺疾患および/または低酸素に伴うPH)3.1 慢性閉塞性肺疾患(COPD)3.2 間質性肺疾患(ILD)3.3 気腫合併肺線維症(CPFE)3.4 低換気症候群3.5 肺疾患を伴わない低酸素症(例:高地低酸素症)3.6 肺実質の成長障害4群PH(肺動脈閉塞に伴うPH)4.1 慢性血栓塞栓性PH(CTEPH)4.2 その他の肺動脈閉塞性疾患5群PH(詳細不明および/または多因子が関係したPH)5.1 血液疾患5.2 全身性疾患(サルコイドーシス、肺リンパ脈管筋腫症など)5.3 代謝性疾患5.4 慢性腎不全(透析あり/なし)5.5 肺腫瘍血栓性微小血管症(PTTN)5.6 線維性縦郭炎5.7 複雑先天性心疾患■ 予後1990年代まで平均生存期間は2年8ヵ月と予後不良であった。わが国では1999年より静注PGI2製剤エポプロステノールナトリウムが臨床使用され、また、異なる機序の経口肺血管拡張薬が相次いで開発され、併用療法が可能となった。近年では5年生存率は90%近くに劇的に改善してきている。一方、最大限の内科治療に抵抗を示す重症例も一定数存在し、肺移植施設への照会、肺移植適応の検討も考慮される。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)右心カテーテル検査による「肺動脈性のPH」の診断とともに、臨床分類における病型の確定、他のPHを来す疾患の除外(鑑別診断)、および重症度評価が行われる。症状の急激な進行や重度の右心不全を呈する症例はPH診療に精通した医師に相談することが望ましい。PHの各群の鑑別のためには、まず左心性心疾患による2群PH、呼吸器疾患/低酸素による3群PHの存在を検索し、次に肺換気血流シンチグラムなどにより肺血管塞栓性PH(4群)を否定する。ただし、呼吸器疾患/低酸素によるPHのみでは説明のできない高度のPHを呈する症例では1群PAHの合併を考慮すべきである。わが国の『肺高血圧症診療ガイダンス2024』に示された診断手順(図1)を参考にされたい9)。図1 PHの鑑別アルゴリズム(診断手順)画像を拡大する■ 主要症状および臨床所見1)労作時の息切れ2)易疲労感3)失神4)PHの存在を示唆する聴診所見(II音の肺動脈成分の亢進など)■ 診断のための検査所見1)右心カテーテル検査(指定難病PAHの診断基準に準拠)(1)肺動脈圧の上昇(安静時肺動脈平均圧で25mmHg以上、肺血管抵抗で3単位以上)(2)肺動脈楔入圧(左心房圧)は正常(15mmHg以下)2)肺血流シンチグラム区域性血流欠損なし(特発性または遺伝性PAHでは正常または斑状の血流欠損像を呈する)■ 参考とすべき検査所見1)心エコー検査にて、右室拡大や左室圧排所見、三尖弁逆流速度の上昇(>2.8m/s)、三尖弁輪収縮期移動距離の短縮(TAPSE<18mm)、など2)胸部X線像で肺動脈本幹部の拡大、末梢肺血管陰影の細小化3)心電図で右室肥大所見3 治療 (治験中・研究中のものも含む)『ESC/ERSのPH診断・治療ガイドライン2022』を基本とし、日本人のエビデンスと経験に基づいて作成されたPAH治療指針を図2に示す9,10)。図2 PAHの治療アルゴリズム画像を拡大するこれはPAH症例にのみ適応するものであって、他のPHの臨床グループ(2~5群)に属する症例には適応できない。一般的処置・支持療法に加え、根幹を成すのは3系統の肺血管拡張薬である。すなわち、プロスタノイド(PGI2)、ホスホジエステラーゼ 5型阻害薬(PDE5-i)、エンドセリン受容体拮抗薬(ERA)である。2015年にPAHに追加承認された、可溶性guanylate cyclase(sGC)刺激薬リオシグアトはPDE5-iとは異なり、NO非依存的にNO-cGMP経路を活性化し、肺血管拡張作用をもたらす利点がある。初期治療開始に先立ち、急性血管反応性試験(AVT)の反応性を確認する。良好な反応群(responder)には高用量のCa拮抗薬が推奨される。しかし、実臨床においてCa拮抗薬長期反応例は少なく、3~4ヵ月後の血行動態改善が乏しい場合には他の薬剤での治療介入を考慮する。AVT陰性例には重症度に基づいた予後リスク因子(表)を考慮し、リスク分類に応じて3系統の肺血管拡張薬のいずれかを用いて治療を開始する。表 PAHのリスク層別化画像を拡大する低~中リスク群にはERA(アンブリセンタン、マシテンタン)およびPDE5-i(シルデナフィル、タダラフィル)の2剤併用療法が広く行われている。高リスク群には静注・皮下注投与によるPGI2製剤(エポプロステノール、トレプロスチニル)、ERA、PDE5-iの3剤併用療法を行う。最近では初期から複数の治療薬を同時に併用する「初期併用療法」が主流となり良好な治療成績が示されているが、高齢者や併存疾患(高血圧、肥満、糖尿病、肺実質疾患など)を有する症例では、安全性を考慮しERAもしくはPDE5-iによる単剤治療から慎重に開始すべきである。右心不全ならびに左心還流血流低下が著しい最重症例では、体血管拡張による心拍出量増加・右心への還流静脈血流増加に対する肺血管拡張反応が弱く、かえって肺動脈圧上昇や右心不全増悪を来すことがあり、少量から開始し、急速な増量は避けるべきである。また、カテコラミン(ドブタミンやPDEIII阻害薬など)の併用が望まれ、体血圧低下や脈拍数増加、水分バランスにも十分留意する。初期治療開始後は3~4ヵ月以内に血行動態の再評価が望まれる。フォローアップ時において中リスクの場合は、経口PGI2受容体刺激薬セレキシパグもしくは吸入PGI2製剤トレプロスチニルの追加、PDE5-iからsGC刺激薬リオシグアトへの薬剤変更も考慮される。しかし、経口薬による多剤併用療法を行っても機能分類-III度から脱しない難治例には時期を逸さぬよう非経口PGI2製剤(エポプロステノール、トレプロスチニル)の導入を考慮すべきである。すでに非経口PGI2製剤を導入中の症例で用量変更など治療強化にも抵抗を示す場合は、肺移植認定施設に紹介し、肺移植適応を検討する。2025年8月にアクチビンシグナル伝達阻害薬ソタテルセプト(商品名:エアウィン 皮下注)がわが国でも保険収載された。これまでの3系統の肺血管拡張薬とは薬理機序が異なり、アクチビンシグナル伝達を阻害することで細胞増殖抑制性シグナルと細胞増殖促進性シグナルのバランスを改善し、肺血管平滑筋細胞の増殖を抑制する新しい薬剤である11)。ソタテルセプトは、既存の肺血管拡張薬による治療を受けている症例で中リスク以上の治療強化が必要な場合、追加治療としての有効性が期待される。3週間ごとに皮下注射する。主な副作用として、出血や血小板減少、ヘモグロビン増加などが報告されている。PHに対して開発中の薬剤や今後期待される治療を紹介する。吸入型のPDGF阻害薬ソラルチニブが成人PAHを対象とした第III相臨床試験を国内で進捗中である。トレプロスチニルのプロドラッグ(乾燥粉末)吸入製剤について海外での第II相試験が完了し、1日1回投与で既存の吸入薬に比べて利便性向上が期待できる。内因性エストロゲンはPHの病因の1つと考えられており、アロマターゼ阻害薬であるアナストロゾールの効果が研究されている。世界中で肺動脈自律神経叢を特異的に除神経するカテーテル治療開発が進められており、国内でも先進医療として薬物療法抵抗性PH対する新たな治療戦略として期待されている。4 今後の展望近年、肺血管疾患の研究は急速に成長をとげている。PHの発症リスクに関わる新たな遺伝的決定因子が発見され、PHの病因に関わる新規分子機構も明らかになりつつある。とくに細胞の代謝、増殖、炎症、マイクロRNAの調節機能に関する研究が盛んで、これらが新規標的治療の開発につながることが期待される。また、遺伝学と表現型の関連性によって予後転帰の決定要因が明らかとなれば、効率的かつテーラーメイドな治療戦略につながる可能性がある。5 主たる診療科循環器内科、膠原病内科、呼吸器内科、胸部心臓血管外科、小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 肺動脈性肺高血圧症(指定難病86)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本肺高血圧・肺循環学会合同ガイドライン(日本循環器学会)(2025年改訂された日本循環器学会および日本肺高血圧・ 肺循環学会の合同作成による肺高血圧症に関するガイドライン)肺高血圧症診療ガイダンス2024(日本肺高血圧・肺循環学会)(欧州ガイドライン2022を基とした日本の実地診療に即したガイダンス)2022 ESC/ERS Guidelines for the diagnosis and treatment of pulmonary hypertension(2022年に発刊された最新版の欧州ガイドライン、英文のみ)患者会の情報NPO法人 PAHの会(肺高血圧症患者と家族が運営している全国組織の患者会)Pulmonary Hypertension Association(世界最大かつ最古の肺高血圧症協会で16,000人以上の患者・家族・医療専門家からなる国際的なコミュニティ、日本語選択可) 1) Michelakis ED, et al. Circulation. 2008;18:1486-1495. 2) Morrell NW, et al. J Am Coll Cardiol. 2009;54:S20-31. 3) Guignabert C, et al. Circulation. 2023; 147: 1809-1822. 4) 永井礼子. 日本小児循環器学会雑誌. 2023; 39: 62-68. 5) Austin ED, et al. Circ Cardiovasc Genet. 2012;5:336-343. 6) Ma L, et al. N Engl J Med. 2013;369:351-361. 7) Kerstjens-Frederikse WS, et al. J Med Genet. 2013;50:500-506. 8) Humbert M, et al. Eur Heart J. 2022;43:3618-3731. 9) 日本肺高血圧・肺循環学会. 肺高血圧症診療ガイダンス2024. 10) Chin KM, et al. Eur Respir J. 2024;64:2401325. 11) Sahay S, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2024;210:581-592. 公開履歴初回2013年07月18日更新2025年11月06日

407.

今、ブラジルが熱い!【Dr. 中島の 新・徒然草】(605)

六百五の段 今、ブラジルが熱い!2025年11月2日(日本時間)、ロサンゼルス・ドジャースがワールド・シリーズを制しました。第7戦の舞台はカナダ・トロントのロジャーズ・センター。延長11回裏、トロント・ブルージェイズの攻撃で一打逆転のピンチを迎えましたが、最後はダブルプレーで5対4のリードを守り切りました。まさに薄氷の勝利。ワールド・シリーズの名にふさわしい試合でした。YouTubeの素人実況者は感極まって泣いていましたが、あまりにも劇的な幕切れに私の目からも涙が……。大谷 翔平はもちろんのこと、ワールド・シリーズで3勝を挙げてMVPに輝いた山本 由伸、今季から加わった佐々木 朗希ら日本人選手らの活躍も見事でした。さて、話題をブラジルに移します。ちょうど国際学会に出席していた女房が35時間かかって帰国したので、現地での体験を聞きました。学会でもなければ訪れることのなかった国ですが、見るもの聞くものすべてが驚きの連続だったそうです。1. ブラジル人は日本人より働き者日本人同行者のスーツケースがサンパウロ空港で出てこず、ロストバゲージになりました。空港職員に届けると、気のいいオッチャンが調べてくれて「お前のスーツケースは……まだシカゴだな。オレが手配してやるから、メールアドレスとホテルを教えてくれ」と対応してくれたそうです。その後、オッチャンからは「今はサンパウロだ」「ポルト・アレグレに着いたよ」と逐一メールが届き、翌日の深夜11時に無事スーツケースがホテルへ届けられました。日本の宅配業者でもそんな時間まで配送したりはしないはず。それだけでなく、ホテルのレストランの従業員たちも昼夜問わず一生懸命に働いていたのだとか。女房はその働きぶりに驚かされたそうです。2. 意外にもブラジルは先進国「ブラジル=貧しい国」という印象を抱きがちですが、実際には階層社会で、上層の人々は教育熱心でキチンとしており、実は日本以上に豊かな暮らしをしているのではないかという印象がありました。サンパウロから飛行機で2時間の地方都市ポルト・アレグレの空港は伊丹より大きく、鉄道がないせいか飛行機がひっきりなしに発着していたのだそうです。その規模と活気、そしてインフラには圧倒されっぱなしだったとのこと。3. 国の底力がすごいブラジルの人口は2億人を超え、国土は日本の20倍以上。森林だけでなく石油も採れる資源大国で、今回の学会スポンサーにも石油会社が名を連ねていました。意外にも彼らが強調していたのは地球温暖化対策で、実際に学会においてもプラスチック・カップは使わないというのがルールとなっていたそうです。あらゆる点から見て潜在力の塊だといえましょう。4. 若者が多く、国に勢いがある何しろ若者が多く、街全体に活気があります。通りでは若者の2人乗りバイクが走っており、後席の人はもっぱらスマホを見ているのだとか。そのせいか交通事故は日本の約6倍にも及び、殺人事件に至っては約100倍という驚くべき数字です。ブラジルが多いというより、日本の殺人事件が極端に少ないのかもしれません。学会が行われた地方都市カネラはのんびりした雰囲気でしたが、土地柄のせいか食事は塩辛いか甘いか。一方、日本人同行者が立ち寄ったサンパウロでは、治安が悪い代わりに食事が驚くほど美味しかったそうです。5. 英語がほとんど通じないブラジルでは学校であまり英語が教えられていないためか、ほとんどの人がポルトガル語しか話しません。「ワン・ツー・スリー」や「イエス・ノー」ですら通じないとのこと。カネラの高級レストランでも、英語のできるスタッフが1人いるかどうか。ホテルのスタッフに英語で話しかけると「あわわ!」と慌てながらGoogle翻訳を出してくるのだそうです。もちろん大都市に行くと多少は事情が異なるのかもしれません。6. コーヒーよりマテ茶ブラジルといえばコーヒーのイメージですが、実際には「マテ茶」を日常的に飲んでいます。茶葉を入れたマイカップ(シマホン)を持ち歩き、あちこちでお湯を注ぎ足して金属ストローで飲むのが一般的。他人のカップの茶を飲む光景も珍しくなく「そりゃあコロナも広がるわ」というのが女房の感想。さらにブラジルの人々は声が大きく、よくしゃべり、ハグを欠かしません。マスクなど誰もしておらず、この人たちに言うことを聞かせるにはロックダウンしか方法がなかったのかも。一方、日本人は声が小さく、箸で食べ、マスクをしているせいか、ロックダウンなしで感染が抑えられたのも、今となっては当然という気がします。というわけで、今ブラジルが熱い!急成長するグローバルサウスの一角を占めるのも当然のこと。「住みたい」とまでは思いませんが、友好的な関係を築いておくべきでしょう。それだけでなく、日本がブラジルから学ぶところもたくさんありそうです。そういえば、女房が土産に買ってきたのは、黄色と緑のブラジル国旗カラーのサンダル。これを見ると、ブラジル出身のF1ドライバー、故アイルトン・セナのヘルメットの色を思い出します。改めて、あれは国旗を象徴するデザインだったのか、と納得いたしました。最後に1句深秋の 日本で語る ブラジルを

408.

映画「エクソシスト」【その1】どうやって憑依するの?-「ニューラルネットワーク分離作動説」

今回のキーワードトランス憑依アイデンティティ暗示「解離=ローカルスリープ」説統合情報理論分離脳エイリアンハンド症候群ローカル・アウェイクニング[目次]1.憑依の特徴とは?2.どうやって憑依するの?-「ニューラルネットワーク分離作動説」憑依の特徴とは?何かに憑りつかれている、悪霊が乗り移った…いわゆる憑依現象は、昔から世界中でみられます。そして、お祈りやお祓いなどの儀式は今でもごく自然に行われています。しかしながら、まったく科学的ではありません。いったい、憑依とは何なんでしょうか? どうやって憑依するのでしょうか? そして、そもそもなぜ憑依は「ある」のでしょうか?今回は、オカルト映画の金字塔「エクソシスト」を取り上げ、精神医学の視点から憑依の特徴を説明し、脳科学の視点からそのメカニズムを解明します。エクソシストとは、悪魔祓いをする神父のことで、日本では祈祷師とも呼ばれます。このストーリーでは、ある少女リーガンが悪魔に憑りつかれたとされます。対応した精神科医もお手上げとなり、悪魔祓いをする神父が決死の覚悟で彼女を救おうとします。それでは、まず彼女の状況を踏まえて、精神医学の視点から憑依の特徴を大きく3つ挙げてみましょう。(1)自分をコントロールできない―トランスリーガンは、ベッドの上で、急に激しく起き上がったり反り返ったりするなか、「ママ助けて!(何かが)私を殺す気よ」と叫び続けます。彼女が首を180度後ろに向けるシーンもあります。このシリーズの別の映画では、いわゆるスパイダーウォークなどのありえない動きをするシーンもあります。1つ目の特徴は、自分の発言や動きをコントロールできないことです。精神医学では、トランス(意識変容)と呼ばれます。なお、リーガンには見られませんでしたが、ぶつぶつと同じ言葉を口癖のように言う場合もあります。ちなみに、ベッドや棚などが勝手に動き出すのは、この映画の悪魔の仕業であるという演出であり、このトランスとは無関係です。(2)憑依されたものになりきる-憑依アイデンティティやがてリーガンは、白目をむいて近くにいた精神科医を殴りつけます。そして、野太い声で「このメ〇豚はおれのものだ」「ファッ〇してみろ」とあざ笑うのです。2つ目の特徴は、憑依されたものになりきることです。精神医学では、憑依アイデンティティ(自我障害)と呼ばれます。なお、憑依の対象は、悪魔だけでなく、神、死者の霊、動物、架空のキャラクターなど人間が想像できうるすべてのものになります。とくにこれまで日本では、狐憑きなど動物が憑依の対象となることが多くありました1)。また、霊媒師のように死者の霊が憑依の対象となることもよく見られました。(3)宗教儀式に誘発される-暗示当初リーガンは、精神科医による催眠療法を受けました。精神科医は厳かに「リーガンの中にいる者に言う。この催眠に反応して、すべて答えるのだ。進み出ろ」「中にいる者か?」「何者だ?」と問い詰めます。すると、リーガンは鬼の形相になってにらみつけ、いきなりその精神科医の股間を両手で握りつぶし押し倒すのでした。その後、神父が登場し、聖水をかけたり、聖書を朗読して、何とか悪魔を退散させようとしますが、そのたびに悪魔が憑依しているリーガンは激しく抵抗するのです。3つ目は、宗教儀式に誘発されることです。精神医学では、暗示と呼ばれます。催眠療法にしても宗教儀式にしても、本人に悪魔が憑依していることを強く認識させることで、実はますます憑依状態を引き起こして助長しています。つまり、周りから悪魔が「いる」と言われることで、ますます本人自身がその悪魔になりきってしまうのです。これは、役者が、他の役者との相互作用でその役に入り込んでしまい、役が抜けなくなり、日常生活でもその役の振る舞いをしてしまうことに似ています。なお、催眠療法は、現在は精神科で行われることはありませんが、この映画が製作された1970年代は有効とされ行われていました。どうやって憑依するの?-「ニューラルネットワーク分離作動説」憑依の特徴とは、自分をコントロールできない(トランス)、憑依されたものになりきる(憑依アイデンティティ)、宗教儀式に誘導される(暗示)であることがわかりました。このような憑依の状態は、精神医学では、憑依トランス症と診断され、解離症の1つと分類されています。それでは、どうやって憑依するのでしょうか?脳科学の視点から、憑依のメカニズムは、同じく解離症に分類される記憶喪失や腰抜けのメカニズムを発展させて解き明かすことができます。そこで、まず記憶喪失と腰抜けのメカニズムを理解する必要があります。この詳細については、関連記事1をご覧ください。記憶喪失と腰抜けのメカニズムは、ローカルスリープという概念を使って、「解離=ローカルスリープ」説を提唱して、解き明かしました。ただし、この仮説は、意識から特定の精神機能または身体機能だけが分離して不活性化する病態のメカニズムを説明することができますが、意識から精神機能や身体機能が分離して逆に活性化する憑依のメカニズムを説明することはできません。それではさらに、このメカニズムをどう説明すればいいでしょうか?これは、統合情報理論を使って説明することができます2)。この理論を簡単に言うと、意識とは、脳のある部位で生まれるのではなく脳全体のネットワークで生まれる、つまり脳内のニューラルネットワーク(神経のつながり)の情報が統合される状態であるということです。逆に言えば、意識とは、まさに私たちが実感しているような1つの魂という存在として体に宿っているわけではなく、脳がつくり出している世界をただ「見ている」にすぎないことになります。つまり、意思決定は、意識による「独裁政治」(トップダウン)ではなく、脳全体の活動のせめぎ合いの調整(統合)による「民主主義」(ボトムアップ)であるということになります。たとえば、これがうまくいかなくなったのが、分離脳です。分離脳とは、左右の大脳半球をつなぐ部位である脳梁を、難治性てんかんの治療として切断(分離)した脳の状態を意味します。分離脳になると、完全に切り離された左右の大脳半球が独立して見聞きすることができます。さらに、「他人」の手のように勝手に物を取ろうとしている片方の手を、もう片方の「自分」の手が押さえ込んで、もみ合いになってしまう病態(エイリアンハンド症候群)になることがあります。これは、脳梁の部位でのネットワークが途切れてしまったために、連携のアルゴリズムがうまく働かなくなってしまったと説明することができます。このアルゴリズムは、ちょうどSNSのアドワーズ広告がユーザーの検索ワードの傾向などの情報に合わせて広告を自動的に表示するのと同じように、脳が外界刺激に最適化された反応をしていると言えます。このような意思決定をする意識の時間的な連続性(一貫性)を、私たちは人格(アイデンティティ)と呼んでいるにすぎません。つまり、意識にしても、人格にしても、最初から1つであるという前提が私たちの思い込みであったという衝撃の事実がこの理論からわかります。なお、意思決定と分離脳の詳細については、関連記事2をご覧ください。この理論を踏まえると、分離脳が右脳と左脳にそれぞれ分かれて独立しているのと同じように、憑依は、憑依アイデンティティが影響を及ぼす特定のニューラルネットワークがもともとの人格のニューラルネットワークから暗示の影響(ストレス)によって分離し活性化する一方で、もともとの人格のニューラルネットワークが不活性化(ローカルスリープ)してしまったと仮定することができます。この記事では、これを「ニューラルネットワーク分離作動説」と名付けます。これは、特定のニューラルネットワークだけがローカルスリープになる記憶喪失や腰抜けとは逆に、特定のニューラルネットワークだけが活性化している点で、真逆の病態です。ローカルスリープの逆、「ローカル・アウェイクニング(局所覚醒)」と言えます。ちょうど、脳がまだ未発達な子供が深く眠っている最中(ノンレム睡眠中)に、一部のニューラルネットワークが活性化する「夜泣き」(睡眠時驚愕症)や「夢遊病」(睡眠時遊行症)の病態に似ています。実際に、宗教儀式で夜通し同じ聖書の文言やお経(歌)を唱え続けたり、同じ仕草や振り付け(ダンス)を繰り返して疲れ果てて意識レベルが下がっている極限状態や、催眠療法でまさに眠りが催されている状態は、特定のニューラルネットワークの「ローカル・アウェイクニング」とそれ以外のローカルスリープを誘発していることになり、理に適っています。また、演技派俳優が役に完全になりきるために、肉体的にも精神的にも極端に自分を追い込む行動も、理に適っています。なお、リーガンがベッドの上で不自然な動きをしながら助けを呼ぶトランスのシーンは、分離脳によるエイリアンハンド症候群の病態に通じる点で、そこまで不思議な現象でもないと理解することができます。しかしながら、それではなぜ暗示ごときで分離脳と同じように特定のニューラルネットワークが分離してしまうのでしょうか? もっと根本的な原因があるのではないでしょうか? 1) 祈祷性精神病 憑依研究の成立と展開、p12:大宮司信、日本評論社、2022 2) 意識はいつ生まれるのか、p122:マルチェッロ・マッスィミーニ、ジュリオ・トノーニ、亜紀書房、2015 3) 心の解離構造、p196:エリザペス・F・ハウエル、金剛出版、2020 ■関連記事米国ドラマ「24」【その1】なんでショックで記憶喪失になるの? なんで恐怖で腰が抜けるの?-「解離=ローカルスリープ」説インサイド・ヘッド(続編・その1)【やったのは脳のせいで自分のせいじゃない!?】

409.

お腹の張りも奥が深いのです【非専門医のための緩和ケアTips】第111回

お腹の張りも奥が深いのです「お腹の張り」を訴える患者さん、内科診療をしている方であればしばしば遭遇するでしょう。皆さんはこうしたケースにどのように対応していますか? ちょっと曖昧な訴えにも感じられ、ついつい便秘と決めがちではないでしょうか。今回の質問肝臓がんでお腹の張りを訴える患者さんがいます。毎日というわけではないですが排便はあるようで、腹水が原因かと思っています。ただ、そこまで緊満しているわけではなく、対応を悩んでいます。これは腹水が溜まっている患者さんなどでよく遭遇する状況かと思います。患者さんの訴えも曖昧で、詳しく聞いてみても「とにかくお腹が張ってつらいんです」といった訴えが続くこともよくあります。緩和ケアは高齢患者も多く、詳細な情報収集が難しいのはよくあることなので、診察や検査といった客観的な情報と総合して、アプローチを考えるのが基本です。こういった時、我々の思考プロセスとしてまず考えたいのは、「緊急性の高い疾患がないか」という点です。とくに消化管穿孔、絞扼性イレウスといったところは見逃したくないですね。私の経験上では、普段から腹痛を訴えることの多い患者さんだったものの、痛みがいつもより強いようであることに違和感を覚え、検査をしました。その結果、腫瘍破裂による、腹腔内出血でした。血液は腹膜への刺激となるため、腹痛の原因となります。その典型的な例が子宮外妊娠ですが、がん患者にも同じような機序の痛みが起こりえます。「いつもの腹痛」と片付けていれば、対応が遅れるところでした。さて、上記のような緊急性の高い疾患がないことが確認できた後は、便秘や腹水貯留といった頻度の高い病態や症状であるの可能性を念頭に置いて、排便コントロールと腹水に対する介入を複数試すことになるでしょう。腹水であれば減塩、輸液量の調整、利尿薬を追加し、それでもコントロールが難しい場合は腹腔穿刺をして排液を試みます。それでも改善が乏しければ、NSAIDsやステロイドなどで腹膜の炎症を軽減しつつ、オピオイドの使用も検討します。その経過中に便秘が生じないように、緩下薬なども調整します。いずれにしても、患者さんの主観的な症状を否定せず、可能性のある病態に対し、安全な範囲で介入しながら様子を見る、という地道な診療が続きます。看護師にも観察してもらい、ケアで工夫できることを発見してもらったり、良い変化があれば小さいことでも患者と医師に共有してもらったりすることも重要です。なかなかすっきりしない症状ではありますが、私自身はこのような対応をすることが多いです。皆さんの工夫もぜひ教えてください。今回のTips今回のTips腹部の張りは鑑別に立ち返り、試行錯誤しながら対応しましょう。

410.

第35回 コロナワクチンが「がん治療」の効果を劇的に向上させる可能性

がん治療の切り札として登場した「免疫チェックポイント阻害薬」は、多くの患者さんの命を救う一方で、すべての人に効果があるわけではありません。とくに、免疫細胞ががんを敵として認識していない「冷たいがん」と呼ばれるタイプの腫瘍には効果が薄いことが、大きな課題でした。しかし、この状況を一変させるかもしれない驚くべき研究結果が、Nature誌に発表されました1)。なんと、私たちが新型コロナウイルス対策で接種したmRNAワクチンが、がん細胞を標的とするものではないにもかかわらず、がんを免疫チェックポイント阻害薬に反応しやすい「熱いがん」に変え、治療効果を劇的に高める可能性が示されたのです。ワクチン接種と生存期間の延長が関連この研究では、米国のがん専門病院であるMDアンダーソンがんセンターの臨床データが分析されています。研究チームは、非小細胞肺がんや悪性黒色腫(メラノーマ)の患者さんで、免疫チェックポイント阻害薬を開始する前後100日以内にコロナのmRNAワクチンを接種したグループと、接種しなかったグループの予後を比較しました。すると、非小細胞肺がんの患者さんを比較したところ、ワクチンを接種したグループの3年生存率が55.7%であったのに対し、未接種のグループでは30.8%と、明らかな差がみられました。同様の生存率の改善は、メラノーマの患者でも確認されました。この効果は、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンを免疫チェックポイント阻害薬の前後で接種した患者さんではみられませんでした。このことは、観察された生存率の改善が、単に「ワクチンを接種する」という行為や、健康意識の高さだけによるものではなく、mRNAワクチンが持つ特有の強力な免疫反応によって引き起こされている可能性を示唆しています。なぜコロナワクチンががんに効くのか?では、なぜがんとは無関係のコロナウイルスを標的とするワクチンが、がんに対する免疫療法の効果を高めるのでしょうか? 研究チームは、動物モデルや健常人の血液サンプルを用いて、そのメカニズムを詳細に解明しました。鍵を握っていたのは、「I型インターフェロン」という物質でした。まず、mRNAワクチンが体内に投与されると、ウイルスに感染した時と似たような「偽の緊急事態」が引き起こされます。これにより、体内でI型インターフェロンが爆発的に放出されます。このI型インターフェロンの急増が、全身の免疫細胞、とくに「抗原提示細胞」と呼ばれる偵察役の細胞を「覚醒」させます。覚醒した偵察役の細胞は、リンパ節などの免疫器官に移動し、そこでT細胞(免疫の実行部隊)に対し、「敵(抗原)」の情報を伝達します。この時、偵察役の細胞はウイルスの情報(スパイクタンパク)だけでなく、体内に存在する「がん抗原」の情報も同時にT細胞に提示し始めることがわかりました。がんの情報をキャッチしたT細胞は、増殖して腫瘍組織へと侵入していきます。これにより、これまでT細胞が存在しなかった「冷たいがん」が、T細胞が豊富に存在する「熱いがん」へと変化します。しかし、T細胞の攻撃にさらされたがん細胞は、生き残るために「PD-L1」というバリアを表面に出して、T細胞の攻撃を無力化しようとします。しかし実際、ワクチンを接種した患者さんのがん組織では、このPD-L1の発現が著しく増加していることが確認されました。ここで免疫チェックポイント阻害薬が登場します。免疫チェックポイント阻害薬は、まさにこのPD-L1のバリアを無効化する薬剤です。つまり、mRNAワクチンがT細胞をがんへ誘導し、免疫チェックポイント阻害薬がそのT細胞が働けるように「最後のバリア」を取り除く。この見事な連携プレーによって、がんに対する強力な免疫応答が引き起こされ、治療効果が飛躍的に高まると考えられます。今後の展望と研究の限界この研究の最大の意義は、がん患者さんごとに製造する必要がある高価な「個別化mRNAがんワクチン」でなくても、すでに臨床で広く利用可能な「既製のmRNAワクチン」が、がん免疫療法を増強する強力なツールになりうることを示した点にあります。とくに、これまで免疫チェックポイント阻害薬が効きにくかったPD-L1陰性の「冷たいがん」の患者さんに対しても、生存期間を改善する可能性が示されたことは大きな希望です。一方で、この研究の限界も認識しておく必要があります。最も重要なのは、患者さんを対象とした解析が「後ろ向き観察研究」である点です。つまり、過去のデータを集めて解析したものであり、「mRNAワクチン接種」と「生存期間の延長」の間に強い関連があることは示せましたが、mRNAワクチンが原因となって生存期間が延びたという因果関係を完全に証明したわけではありません。たとえば、「治療中にあえてコロナワクチンも接種しよう」と考える患者さんは、全般的に健康意識が高く、それ以外の要因(たとえば、栄養状態や運動習慣など)が生存期間に影響した可能性(交絡因子)も否定できません。研究チームは、インフルエンザワクチンなど他のワクチンとの比較や、さまざまな統計的手法(傾向スコアマッチングなど)を用いて、これらの偏りを可能な限り排除しようと試みていますが、未知の交絡因子が残っている可能性があります。この発見をさらに確実なものとするためには、今後、患者さんをランダムに「mRNAワクチン接種+免疫チェックポイント阻害薬群」と「免疫チェックポイント阻害薬単独群」に分けて比較するような、前向きの臨床試験で有効性を確認することが不可欠です。とはいえ、mRNAワクチンががん治療の新たな扉を開く可能性を示した本研究のインパクトは大きいでしょう。感染症予防という枠を超え、がん免疫療法の「増強剤」として、既製のmRNAワクチンが活用されるという場面も、今後訪れるのかもしれません。 参考文献・参考サイト 1) Grippin AJ, et al. SARS-CoV-2 mRNA vaccines sensitize tumours to immune checkpoint blockade. Nature. 2025 Oct 22. [Epub ahead of print]

411.

日本人男性、認知機能と関連する肥満指標は?

 地域在住の日本人中高年男性において、さまざまな肥満指標と認知機能との関連を調査した結果、腹部の内臓脂肪面積/皮下脂肪面積比(VSR)が低いと認知機能が低いことが示された。滋賀医科大学の松野 悟之氏らがPLoS One誌2025年10月23日号で報告した。 これまでの研究では、内臓脂肪組織が大きい人は認知症リスクが高く、内臓脂肪組織が認知機能低下と関連していたという報告がある一方、内臓脂肪組織と認知機能の関係はなかったという報告もあり一貫していない。この横断研究では、滋賀県草津市在住の40~79歳の日本人男性を対象とした滋賀動脈硬化疫学研究(Shiga Epidemiological Study of Subclinical Atherosclerosis)に参加した853人のうち、Cognitive Abilities Screening Instrument(CASI)に回答し、CTで腹部の内臓脂肪面積と皮下脂肪面積を測定した776人のデータを解析した。参加者をVSRの四分位で分け、共分散分析を用いて各四分位群のCASI合計スコアおよび各ドメインスコアの粗平均値および調整平均値を潜在的交絡因子を調整して算出した。 主な結果は以下のとおり。・776人の平均年齢は68.4歳であった。・BMI、内臓脂肪面積、皮下脂肪面積の四分位群間でCASI合計スコアに有意差は認められなかったが、多変量調整モデルでは、VSRが最も低い第1四分位群(Q1)の参加者のCASI合計スコアの平均(89.5)は、第3四分位群(Q3)の参加者の平均(90.9)より有意に低く、低いVSRが低い認知機能と独立して関連していた。 著者らは「本研究の結果は、比較的肥満度の低い日本人男性においては、内臓脂肪組織と皮下脂肪組織を個別に評価するのではなく、VSRに注目する必要があることを示唆する」と結論している。

412.

鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎、テゼペルマブの日本人データ(WAYPOINT)/日本アレルギー学会

 鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎(CRSwNP)に対し、生物学的製剤の適応拡大が進んでいるが、生物学的製剤使用患者の約40%は全身性ステロイド薬を用いていたという報告があるなど、依然としてコントロール不十分な患者が存在する。そこで、抗TSLP抗体薬のテゼペルマブのCRSwNPに対する有用性が検討され、国際共同第III相試験「WAYPOINT試験」において、テゼペルマブは鼻茸スコア(NPS)と鼻閉重症度スコア(NCS)を有意に改善したことが、NEJM誌ですでに報告されている1)。本試験の結果を受け、テゼペルマブは米国およびEUにおいて2025年10月にCRSwNPに対する適応追加承認を取得した。 そこで、WAYPOINT試験の日本人集団の解析結果について、櫻井 大樹氏(山梨大学大学院総合研究部医学域 耳鼻咽喉科・頭頸部外科講座)が第74回日本アレルギー学会学術大会(10月24~26日)で発表した。本解析の結果、日本人集団においてもテゼペルマブの有効性・安全性は全体集団と一貫していたことが示された。試験デザイン:国際共同第III相無作為化二重盲検比較試験対象:既存治療でコントロール不十分(NPS 5以上、各鼻腔のスコア2以上)の18歳以上のCRSwNP患者408例(日本人33例)試験群(テゼペルマブ群):テゼペルマブ210mgを4週に1回皮下投与+鼻噴霧用ステロイド薬※ 203例(日本人17例)対照群(プラセボ群):プラセボ+鼻噴霧用ステロイド薬※ 205例(日本人16例)評価項目:[共主要評価項目]投与52週時のNPSのベースラインからの変化量、投与52週時のNCSのベースラインからの変化量[副次評価項目]鼻茸に対する手術決定/全身性ステロイド薬投与までの期間、嗅覚障害重症度スコア、22項目の副鼻腔に関する評価質問票(SNOT-22)合計スコア、LMKスコア(副鼻腔混濁度の指標)、全症状スコア(TSS)、喘息合併患者における気管支拡張薬投与前の1秒量(FEV1)など※:日本人集団では併用を必須としない 日本人集団における主な結果は以下のとおり。・日本人集団の患者背景は、性別を除いて両群間でバランスがとれていた。日本人集団は65歳以上の割合が多い(テゼペルマブ群23.5%、プラセボ群25.0%)、BMI(kg/m2)が低い(25.8、25.4)、手術歴ありの割合が少ない(52.9%、56.3%)、総IgE(IU/mL)が高い(260.8、362.6)、アレルギー性鼻炎の合併が多い(29.4%、37.5%)などの特徴があった。・ベースライン時のNPS(平均値±標準偏差)は、テゼペルマブ群6.2±1.0、プラセボ群6.5±1.3であった。同様に、NCSはそれぞれ2.5±0.6、2.5±0.5であった。・NPSの改善は初回評価時点(投与4週時)から認められ、投与52週時のNPSのベースラインからの変化量(平均値)は、テゼペルマブ群-2.30(全体集団:-2.46)、プラセボ群-1.24(同:-0.38)であった(群間差[最小二乗平均値]:-1.063、95%信頼区間[CI]:-2.315~0.190)。・投与52週時のNCSのベースラインからの変化量(平均値)は、テゼペルマブ群-1.63(全体集団:-1.74)、プラセボ群-1.08(同:-0.70)であった(群間差[最小二乗平均値]:-0.548、95%CI:-1.097~0.002)。・日本人集団においても、テゼペルマブ群はプラセボ群と比較して、嗅覚障害重症度スコア、SNOT-22合計スコア、LMKスコア、TSSが改善していた。各スコアの投与52週時のベースラインからの変化量の群間差(95%CI)は以下のとおり。 嗅覚障害重症度スコア:-0.652(-1.176~-0.128) SNOT-22合計スコア:-20.300(-36.152~-4.448) LMKスコア:-5.524(-7.444~-3.604) TSS:-3.512(-7.040~0.015)・日本人集団では、テゼペルマブ群で手術決定/全身性ステロイド薬投与に至った患者は0例であった(プラセボ群は2例)。・投与52週時の喘息合併患者の気管支拡張薬投与前のFEV1のベースライン時からの変化量(平均値±標準偏差)は、テゼペルマブ群369±544mL、プラセボ群-57±197mLであった。同様に、6項目の喘息コントロール質問票(ACQ-6)スコアの変化量は、それぞれ-0.94±1.415、-0.46±1.172であった。・有害事象はテゼペルマブ群58.8%、プラセボ群68.8%に発現した。両群とも投与中止に至った有害事象や死亡に至った有害事象は認められなかった。 本結果について、櫻井氏は「WAYPOINT試験で得られた日本人集団の結果は、日本人CRSwNP患者におけるテゼペルマブの良好なベネフィット・リスクプロファイルを支持するものであった」とまとめた。

413.

がんと心房細動、合併メカニズムと臨床転帰/日本腫瘍循環器学会

 がん患者では心房細動(AF)が高率に発症する。がん患者の生命予後が改善していく中、その病態解明と適切な管理は喫緊の課題となっている。第8回日本腫瘍循環器学会学術集会では、がん患者におけるAFの発症メカニズムおよび活動性がん合併AF患者の管理について最新の大規模臨床研究の知見も含め紹介された。がん患者におけるAFの発症メカニズム 東京科学大学の笹野 哲郎氏はがん患者におけるAF発症について、がん治療およびがん自体との関連を紹介した。 肺がんや食道がんに対する心臓近傍への手術や放射線照射では、術後炎症や心筋の線維化がAF発症と関連している。AF発症が高率な薬剤としてドキソルビシンなどのアントラサイクリン系薬剤やイブルチニブなどのBTK阻害薬が代表的である。これらの抗がん剤は心筋細胞の脱落や線維化など構造的な変化と電気生理的な変化によってAFを発症する。 また、腫瘍細胞の直接浸潤は催不整脈性を有し、AF発症の原因となる。これには腫瘍によるギャップ結合チャネルの低下や心房の線維化によるAF誘発の可能性が示唆されている。しかし、発症メカニズムについては未解明な部分も多い。大規模レジストリで明らかになったAF患者へのがん合併の影響 東邦大学大学院医学研究科の池田 隆徳氏は、全国的に実施された高齢者の心房細動のANAFIE(All Nippon AF in Elderly)レジストリのサブスタディとして、活動性がんの合併がAF患者の血栓塞栓症や出血性イベントおよび死亡に与える影響を発表した。 ANAFIEレジストリに登録された3万例を超える高齢患者のうち11%に活動性がんの合併が確認された。非がん群と比較してがん群ではCHADS2スコアおよびHAS-BLEDスコアが高く、ハイリスク例が多かった。経口抗凝固薬(OAC)の投与実態を見ると、がん群においてDOACの使用率が高いことが明らかになった。 臨床転帰を見ると、がん群と非がん群における有効性イベント(脳卒中、全身性塞栓症)の発現率は同程度であったが、安全性イベント(大出血、頭蓋内出血、全死亡、ネットクリニカルアウトカム)はがん群で高率であった。OACの投与は非がん群、がん群ともに7割がDOACであった。DOACとワルファリンの臨床イベントを比較すると、非がん群ではDOACのワルファリンに対し優位性が認められた。一方、がん群ではDOACのワルファリンに対する優位性は認められなかった。

414.

境界性パーソナリティ障害患者における摂食障害の有病率は?

 フランス・Universite Bourgogne EuropeのTheo Paudex氏らは、境界性パーソナリティ障害(BPD)患者における摂食障害の有病率を調査するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Clinical Psychology & Psychotherapy誌2025年9〜10月号の報告。 PubMed/MEDLINE、PsycINFO、Web of Science よりBPD患者サンプルにおける1つ以上の摂食障害(ED)の有病率を評価した論文をシステマティックに検索した。バイアスリスクは、有病率データを報告する研究のためのジョアンナ・ブリッグス研究所(JBI)チェックリストを用いて推定し、ランダム効果メタ解析モデルを用いて評価した。本研究は、PRISMA 2020ステートメントに基づき実施した。 主な結果は以下のとおり。・合計34件の論文を解析に含めた。そのうち20件(4,107例)は区別なくEDに関する報告であり、神経性やせ症(AN)、神経性過食症(BN)、過食性障害(BED)、特定不能の摂食障害(EDNOS)に関する報告はそれぞれ20件(3,901例)、20件(4,369例)、7件(766例)、6件(1,773例)であった。・BPDにおけるEDの全体的な有病率は29.7%(95%信頼区間[CI]:21.6〜38.4)と推定された。・AN、BN、BED、EDNOSの頻度はそれぞれ9.98%(95%CI:5.6〜15.3)、16.3%(12.1〜21.1)、16.3%(6.0〜30.0)、18.8%(10.6〜28.6)と推定された。・全体的なバイアスリスクは中等度であり、出版バイアスは認められず、エビデンスの確実性は低かった。 著者らは「本研究により、BPD患者ではEDおよびそのサブタイプの有病率が高いことが明らかとなった。この結果は、BPD患者におけるこれら併存疾患の決定因子を探るためのベースとなる可能性がある」と結論付けている。

415.

HER2陽性進行乳がんの1次治療、T-DXd+ペルツズマブvs.THP/NEJM

 HER2陽性の進行または転移を有する乳がんの1次治療として、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)+ペルツズマブの併用療法は、標準治療のタキサン+トラスツズマブ+ペルツズマブ(THP)併用療法と比べて進行または死亡のリスクが有意に低く、新たな安全性に関する懸念はみられなかった。米国・ダナファーバーがん研究所のSara M. Tolaney氏らDESTINY-Breast09 Trial Investigatorsが、第III相の「DESTINY-Breast09試験」の中間解析の結果を報告した。T-DXdは、既治療のHER2陽性の進行または転移を有する乳がん患者に対する有効性が示されているが、未治療の同患者に対するT-DXdの有効性および安全性は明らかになっていなかった。NEJM誌オンライン版2025年10月29日号掲載の報告。国際共同第III相無作為化試験、PFSを評価 DESTINY-Breast09試験は、国際共同第III相無作為化試験で、HER2陽性の進行または転移を有する乳がんで、進行・転移病変に対する化学療法またはHER2標的療法の治療歴がない患者を対象に、T-DXd単剤療法とT-DXd+ペルツズマブ併用療法の有効性および安全性を評価した。術前・術後化学療法と全身性の抗がん剤治療終了後の再発までの期間が6ヵ月超の患者は対象とされ、進行・転移病変への内分泌療法歴は1ラインまで許容された。 T-DXd+ペルツズマブまたはT-DXd+プラセボ併用療法とTHP併用療法が比較された。被験者は、T-DXd+ペルツズマブ併用療法群(盲検化)、T-DXd+プラセボ併用療法群(盲検化)、THP併用療法群(非盲検化)に1対1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、盲検下独立中央判定による無増悪生存期間(PFS)。副次評価項目は、奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、および安全性であった。 2021年4月26日~2023年10月26日に、279施設で1,157例が登録・無作為化された。 本報告では、事前規定の中間解析であるT-DXd+ペルツズマブ併用療法とTHP併用療法のデータが報告された。T-DXd+プラセボ併用療法のデータは、PFSの最終解析まで盲検化される。T-DXd+ペルツズマブ群のPFSのハザード比0.56 T-DXd+ペルツズマブ群(383例)とTHP群(387例)のベースラインの人口動態学的および疾患特性は均衡が取れていた。この2群において、被験者の年齢中央値は54歳(範囲:20~85)、アジア人が約半数(49.6%と50.6%)で、de novoが400例(51.9%)、ホルモン受容体陽性が416例(54.0%)、PIK3CA変異陽性が237例(30.8%)などであった。 データカットオフ時点(2025年2月26日)で、T-DXd+ペルツズマブ群で174/380例(45.8%)、THP群で128/383例(33.4%)が治療を継続していた。 主要評価項目であるPFSは、T-DXd+ペルツズマブ群40.7ヵ月(95%信頼区間[CI]:36.5~推定不能[NC])、THP群26.9ヵ月(21.8~NC)であり、T-DXd+ペルツズマブ群が有意に改善した(進行または死亡のハザード比:0.56、95%CI:0.44~0.71、p<0.00001[事前規定の優越性のp値閾値は0.00043])。 ORRは、T-DXd+ペルツズマブ群85.1%(95%CI:81.2~88.5)、THP群78.6%(74.1~82.5)であり、完全奏効率はそれぞれ15.1%および8.5%であった。DOR中央値は39.2ヵ月(95%CI:35.1~NC)と26.4ヵ月(22.3~NC)であった。安全性は既知のプロファイルと一致 安全性は、各治療法の既知のプロファイルと一致していた。 Grade3以上の有害事象は、T-DXd+ペルツズマブ群63.5%、THP群62.3%に発現した。最も多くみられたのは、T-DXd+ペルツズマブ群では好中球減少症、低カリウム血症、貧血であり、THP群では好中球減少症、白血球減少症、下痢であった。 薬剤関連有害事象と判定された間質性肺疾患または肺臓炎は、T-DXd+ペルツズマブ群で12.2%(46例:44例がGrade1/2、2例がGrade5[死亡])、THP群で1.0%(4例:すべてGrade1/2)に発現した。

416.

PCI後のDAPT、出血高リスク患者の最適期間は?/Lancet

 出血リスクが高い(HBR)患者における経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後の抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)の投与期間について、1ヵ月間の投与は3ヵ月間の投与に対して全臨床的有害事象(NACE)に関する非劣性は示されなかった。一方、非HBR患者では、3ヵ月間の投与は12ヵ月間の投与に対してNACEおよび主要心血管/脳血管イベント(MACCE)に関して非劣性が示され、出血に関して優れることが示された。韓国・Seoul National University HospitalのJeehoon Kang氏らが、同国の50ヵ所の心臓病センターで行った非盲検無作為化試験「HOST-BR試験」の結果を報告した。出血リスクに応じたPCI後のDAPT投与の最適期間は十分に確立されていなかった。Lancet誌オンライン版2025年10月23日号掲載の報告。PCIによるDES留置成功後の患者をHBRと非HBRに層別化し最適期間を評価 HOST-BR試験は、出血リスクに応じたPCI冠動脈ステント留置後のDAPTの最適期間を評価した研究者主導の非盲検無作為化試験。対象は、PCIによる薬剤性溶出ステント(DES)留置に成功した19歳以上の患者で、登録後、Academic Research Consortium for High Bleeding Risk(ARC-HBR)基準に基づきHBRまたは非HBRに層別化された。 研究グループは、HBR群の患者をDAPT投与1ヵ月群または同3ヵ月群に1対1の割合で無作為に割り付け、非HBR群の患者をDAPT投与3ヵ月群または同12ヵ月群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、NACE(全死因死亡、非致死的心筋梗塞、definite/probableステント血栓症、脳卒中、または大出血)、MACCE(心臓死、非致死的心筋梗塞、definite/probableステント血栓症、または虚血性脳卒中)、および無作為化後1年間のあらゆる非外科的出血の3つであった。主要エンドポイントはITT集団において階層的に評価が行われた。HBR群:1ヵ月DAPT群の3ヵ月DAPT群に対する非劣性は認められず 2020年7月24日~2023年9月25日に、4,897例の患者が登録された(HBR群1,598例、非HBR群3,299例)。HBR群(1ヵ月DAPT群798例、3ヵ月DAPT群800例)の年齢中央値は76歳(四分位範囲:68~81)、女性が33.5%であり、非HBR群(3ヵ月DAPT群1,649例、12ヵ月DAPT群1,650例)の年齢中央値は64歳(57~70)、女性が20.9%であった。 HBR群において、1ヵ月DAPT群の3ヵ月DAPT群に対するNACEに関する非劣性は示されなかった(144/798例[18.4%]vs.110/800例[14.0%]、ハザード比[HR]:1.337、95%信頼区間[CI]:1.043~1.713、非劣性のp=0.82)。MACCEは、1ヵ月DAPT群で74例(9.8%)、3ヵ月DAPT群で44例(5.8%)に発現した。出血は、1ヵ月DAPT群で105例(13.8%)、3ヵ月DAPT群で122例(15.8%)に発現した。非HBR群:3ヵ月DAPT群の12ヵ月DAPT群に対する非劣性が認められる 非HBR群では、3ヵ月DAPT群の12ヵ月DAPT群に対するNACE(47/1,649例[2.9%]vs.72/1,650例[4.4%]、HR:0.657、95%CI:0.455~0.949、非劣性のp<0.0001)およびMACCE(36/1,649例[2.2%]vs.37/1,650例[2.3%]、0.984、0.622~1.558、非劣性のp=0.0082)に関する非劣性がいずれも認められ、3ヵ月DAPT群が12ヵ月DAPT群よりも出血に関して優れることが認められた(120/1,649例[7.4%]vs.190/1,650例[11.7%]、0.631、0.502~0.793、p<0.0001)。

417.

世界中で薬剤耐性が急速に拡大

 抗菌薬が効かない危険な感染症が世界中で急速に広がりつつあるとする報告書を、世界保健機関(WHO)が発表した。この報告書によると、2023年には、世界の感染症の6件に1件が、尿路感染症や淋菌感染症、大腸菌による感染症などの治療に使われている一般的な抗菌薬に耐性を示したという。 2018年から2023年の間に、監視対象となった病原体と抗菌薬の組み合わせの40%以上で薬剤耐性が増加し、年平均5~15%の増加が見られた。2021年には、このような薬剤耐性はおよそ114万人の死亡と関連付けられていた。WHO薬剤耐性部門ディレクターのYvan Hutin氏は、「薬剤耐性は広く蔓延し、現代医療の未来を脅かす存在となっている。端的に言えば、質の高い医療へのアクセスが乏しいほど、薬剤耐性菌感染症に苦しむ可能性が高くなる」と、New York Times紙に語っている。 薬剤耐性の問題は、特に東南アジアと東地中海地域で深刻である。これらの地域では現在、感染症の3件に1件(東南アジア31.1%、東地中海地域30.0%)が抗菌薬に耐性を示している。これは世界平均(17.2%)の約2倍、ヨーロッパ(10.2%)や西太平洋地域(9.1%)の3倍以上の頻度である。また、医療体制が十分に整っていない低中所得国では感染症の追跡や予防、治療が難しいため、薬剤耐性菌感染症の発生率が高く、その状況は悪化しているという。 さらに報告書では、重篤な感染症の原因となり得る大腸菌や肺炎桿菌といったグラム陰性菌で耐性が広がりつつあることも強調されている。グラム陰性菌は抗菌薬が侵入しにくい保護膜を持つため、特に治療が難しいとされている。アフリカでは、第3世代セファロスポリン系抗菌薬に耐性を示す症例が70%を超えており、第一選択薬が使えない例が少なくない。 専門家らは、対策を講じなければ医療費の増大や生産性の低下によって2050年までに世界経済の損失が1兆7,000億ドル(1ドル153円換算で約2600兆円)に達する可能性があると警鐘を鳴らしている。最近、「The Lancet」に掲載された研究では、今後25年間に薬剤耐性菌感染症によって3900万人が死亡する可能性があると推定されている。 その一方で、希望もある。WHOは2015年に薬剤耐性の監視システム「GLASS」を導入した。その後、2024年末までに195のWHO加盟国・地域のうち130の国・地域がGLASSへの参加を表明した。WHOのAMR監視プログラムを率いるSilvia Bertagnolio氏は、「薬剤耐性菌感染症に関する世界的な認識が高まっていること、またデータを共有する国が増加していることは心強い」と述べている。 その一方でBertagnolio氏は、依然として参加国の約半数がデータを提出しておらず、また、提出した国・地域の中にも薬剤耐性を正確に追跡するためのツールを十分に備えていない国が多いことも指摘している。2023年にデータを提出したのは104の国・地域にとどまっており、その中で信頼できるデータを作る体制が整っていたのは46.2%(48/104国・地域)であった。

418.

動脈内血栓溶解療法は血栓回収療法後の補助的治療として有効か?(解説:内山真一郎氏)

 PEARL試験は、機械的血栓回収療法により再灌流に成功した、急性期前循環系大血管閉塞性脳梗塞の中国人324例においてアルテプラーゼ動脈内投与群と標準的治療群とを比較した多施設共同非盲検無作為化試験であるが、90日後の転帰良好(改変ランキンスケールスコア0または1)がアルテプラーゼ動脈内投与群で標準的治療群より有意に多かった。 血栓回収療法は大血管閉塞性脳梗塞に対する標準的治療となったが、長期の転帰良好例は依然として半数以下であり、転帰を改善するための補助的治療が必要とされている。血栓回収療法による神経症状改善効果が不十分な理由の1つとして、血栓回収療法後の遠位動脈や微小循環の残存血栓によるno-reflow現象の関与が考えられることから、血栓回収療法後の動脈内血栓溶解療法は血栓回収療法の補助的治療として転帰改善効果が期待できるかもしれない。ただし、これまでに行われた同様な臨床試験の結果は一致しておらず、現在進行中の他の試験もあるので、それらの結果やメタ解析によるさらなるエビデンスの集積が必要なように思われる。

419.

心不全に伴う体液貯留管理(2):下大静脈のエコーの見かた・VMTスコアの出し方【Dr.わへいのポケットエコーのいろは】第8回

心不全に伴う体液貯留管理(2):下大静脈のエコーの見かた・VMTスコアの出し方前回、心不全に伴う体液貯留管理において評価する2つの指標(下大静脈、VMTスコア)について解説しました。今回は、前回紹介した手技の到達目標に基づいて、手技を学んでいきましょう。手技の到達目標を以下に再掲します。【下大静脈(IVC)】さまざまなアプローチで描出できる肝静脈との合流部を意識できる右房への流入を観察できる【VMTスコア】心窩部で4腔像を描出できるシネを用いてVMTを評価できる心尖部で4腔像を描出できるプローブの選択ポケットエコーによって、プローブはさまざまな形がありますが、平らな形のリニア型、コンベックス型、セクタ型の3種類が基本となります。ここでは、肋間の間を覗いて心臓を観察していくため、セクタという少し飛び出た形のものを使っていきます(図1)。図1 コンベックス型・セクタ型プローブ画像を拡大する下大静脈のエコーの見かたそれでは、下大静脈のエコーの見かたのコツを示します。下大静脈については、心窩部からアプローチする方法が一般的だと思います。その際ですが、縦に一気に当ててしまう方も多いのではないでしょうか。これで下大静脈が見える場合はよいのですが、大動脈を下大静脈と見間違えてしまう場合があります。では、おすすめの方法を動画で見ていきましょう。心窩部からの下大静脈の見かたいかがでしょうか。「でも、心窩部からよく見えない場合がある」という方もいると思います。そのようなときは、下大静脈も肋間から見ていくことで見えるようになります。それでは、今度はその見かたを動画で見ていきましょう。肋間からの下大静脈の見かたどうでしょうか? 肋間は見やすい部分、見にくい部分があるため上部の肋間から下部の肋間に動かしながら見ていくことが重要です。以上が下大静脈のエコーの見かたのコツになります。VMTスコアの出し方続いて、前回紹介したVMTスコアの出し方を紹介します。VMTスコアを出す際は、IVCの拡張の有無、僧帽弁と三尖弁の開き方を見ていく必要があります。それでは、早速動画を見ていきましょう。VMTスコアを出す際の手技三尖弁と僧帽弁の見かたは理解できたでしょうか。今回の場合は、生理的に三尖弁のほうが早く開くため、血行動態としては正常という判断となります。傍胸骨像を用いたVMTスコアの出し方こちらはオプションになりますが、VMTスコアの傍胸骨像での出し方についても紹介します。心窩部から下大静脈が観察できてVMTスコアを出すことができる場合はよいのですが、よく見えない場合もあります。そのような場合には、傍胸骨像を見るとうまくVMTスコアを出すことができます。それでは、動画で見ていきましょう。傍胸骨像を用いたVMTスコアの出し方まとめ手技の動画はいかがでしたか? 下大静脈とVMTスコアの2つを測ることで血行動態を推定し、治療方針に役立てることができます。たとえば、下大静脈の拡張がある場合は右心不全の要素が、VMTスコアが高い場合は左心不全の要素が強いと推定できます。両方が高値であれば両心不全が示唆されます。一方で、両方とも正常範囲内であれば、代償性心不全であるか、心不全の可能性は低いと考えることができます(図2)。図2 ポケットエコー所見と心不全の関係画像を拡大するもちろん診断だけではなく、治療効果判定にもこの2つの指標を用いることができます。エコーだけで勝負する必要はないため、たとえば下腿のむくみがどうか、体重の変化がどうか、そして患者の症状がどうかということなどを指標にしながら、治療効果判定していくことも重要です。

420.

病院の電力が尽きると何が起きる?【実例に基づく、明日はわが身の災害医療】第9回

病院の電力が尽きると何が起きる?日本は、世界でも有数の「災害大国」です。地震、台風、豪雨……。毎年どこかで自然災害が発生し、そのたびに医療機関は大きな試練にさらされています。では、もし災害によって病院の電力が途絶えてしまったら、一体どうなるでしょうか?病院に電気がなければ、ほとんど何もできない病院は「電気があって当たり前」の場所です。停電と聞いて、多くの人がまず思い浮かべるのは、人工呼吸器や透析装置といった医療機器でしょう。もちろんそれらが止まれば、命の危機に直結します。しかし、問題はそれだけにとどまりません。実際の病院全体の電力消費を見てみると、空調が34.7%、照明が32.6%を占めるのに対し、医療機器は6.6%にすぎません1)。空調が止まれば、真夏には熱中症、真冬には低体温症の患者さんが増えます。手術室やICUの温度・湿度管理もできなくなり、感染リスクが高まります。照明が消えれば、夜間の救急対応や処置がきわめて困難になります。さらに、電力供給が止まると、水や下水処理にも影響が及びます。電子カルテや検査システムも使えなくなり、診療は著しく制限されてしまいます。命に直結するのは、医療機器だけではありません。2018年7月豪雨で被災した岡山県のまび記念病院は、電源設備が浸水エリアの1階にあったことが被害を拡大させた一因とされました。そのため、新病院では電源を高所に移す設計がなされています。この事例は、「電源の確保」がいかに病院機能の継続に直結するかを示す教訓といえるでしょう。非常用電源はどれくらい持つのか?「非常用の発電機があるから安心」と思うかもしれません。ですが、現実はそう甘くありません。災害拠点病院では、業務継続計画(BCP)の策定が義務付けられており2)、一定の備蓄を整えています。ところが私たちの調査では3)、中核病院や一般病院では備蓄の水準に大きな差があり、燃料備蓄が1日未満という病院も少なくありません。厚生労働省のガイドラインでは「通常時の6割程度の電力をまかなえる自家発電機と、最低3日分の燃料備蓄」が目安とされています4)。しかし、2018年の北海道胆振東部地震では、災害拠点病院でさえ燃料不足に直面し、十分に機能を維持できなかった例が報告されています5)。平時からの備えをどうするか?では、どう備えればよいのでしょうか。答えは「平時からの準備」に尽きます。自院の非常用電源がどれくらい持つのかを確認しておく燃料の補給ルートをあらかじめ自治体や業者と相談しておく電力や燃料の残量を定期的にチェックする地域の病院同士で助け合える仕組みを平時に作っておく余談ですが、院内にある赤と緑のコンセントの意味を正しく理解することも大切です。赤いコンセントは非常用電源、緑のコンセントはUPS(無停電電源装置)に接続されており、停電時でも使用できる系統です(図)。人工呼吸器など生命維持に直結する機器は、必ずこれらのコンセントに接続する必要があります。さらに、非常時の電力には限りがあるため、供給可能な時間や容量を把握しておくこと、不必要な機器を接続しないことなど、平時からの準備と停電時の訓練が欠かせません。図. 電源の種類と特徴「必ず来る災害」に備えるために災害は「いつか来るかもしれないもの」ではなく、「必ず来るもの」です。そのとき、病院が機能を失うのか、最低限の医療を続けられるのかは、平時の備えにかかっています。医療従事者一人ひとりが「自分の病院の電源や燃料がどれくらい持つのか」を把握し、行動を起こすこと。そして、一つの病院だけでなく地域全体で電源や医療機器の稼働状況を「見える化」し、情報を共有すること。自治体や地域と協力して「助け合える仕組み」を作ること。その積み重ねこそが「防ぎえた死」を減らし、未来の患者さんの命を守る力になります。 1) 夏季の省エネ・節電メニュー. 経済産業省 資源エネルギー庁. 2) 病院の業務継続計画(BCP)の策定状況について.厚生労働省 第14回救急・災害医療提供体制等の在り方に関する検討会. 令和元年5月23日. 3) 平山隆浩、他. 病院機能に応じた災害時医療機器供給体制の最適化戦略 ―岡山県内病院の実態調査に基づく段階的 BCP 体制の提案―.医療機器学. 2025;95:392-400. 4) 災害拠点病院の燃料の確保について. 厚生労働省 第14回救急・災害医療提供体制等の在り方に関する検討会. 令和元年5月23日. 5) Youichi Y, et al. Field Study in Hokkaido Prefecture after the 2018 Hokkaido Eastern Iburi Earthquake. Sch J App Med Sci. 2018;6:3961-3963.

検索結果 合計:35095件 表示位置:401 - 420