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尿ナトカリ比に日本人のための目標値を設定~ステートメント公表/日本高血圧学会

 日本高血圧学会は10月8日、日本人のための尿ナトカリ比の目標値と適切な評価方法を提唱するため、尿ナトリウム/カリウム(尿ナトカリ比)ワーキンググループによる『コンセンサスステートメント』をHypertension Research誌で公表した。尿ナトカリ比の目標値として、まずは実現可能な“4”を目指し、将来的に至適な“2”へ段階的に設定していくという。ポイントは以下のとおり。―――――――――――――――――――・尿ナトカリ比と血圧値との間に連続した正の関連・尿ナトカリ比は、ナトリウム、カリウム単独よりも、より強く血圧高値と関連・健常日本人における目標値として、「日本人の食事摂取基準」の食塩とカリウムの摂取目標量に相当する2未満を至適目標に、日本人の平均値未満に相当する4未満を実現可能目標に設定・随時尿を用いて尿ナトカリ比を測定する場合、週に4日以上、異なる時間帯に採取した尿の測定値から平均を算出することを強く推奨・尿ナトカリ比は、日本全国の健診・医療機関で安価かつ簡便に測定可能であり、減塩とカリウム摂取増加の指標として、高血圧の予防と管理、脳卒中、心臓病、腎臓病の予防に活用されることを期待――――――――――――――――――― 同日に開催された日本高血圧学会のプレスセミナーで本ステートメントについて解説した三浦 克之氏(滋賀医科大学社会医学講座公衆衛生学部門 教授/日本高血圧学会 理事)は、「摂取目標量に加え、国内の4つの研究結果(INTERMAP研究、ながはまスタディ、東北メディカル・メガバンク機構コホート、NIPPON DATA2010)などを参考に健康な人における平均ナトリウム/カリウム比の目標値を決定した。来年に改訂される高血圧診療ガイドラインにも本ステートメント内容が反映される予定」とコメントした。尿ナトカリ比を測定する意義とは 食事から摂取したナトリウム・カリウムの直接的な評価は難しいが、ナトリウムは摂取した量の90%以上が、カリウムは摂取した70~80%が尿中に排泄される。尿ナトカリ比はこれを活かし、尿中に排泄されたナトリウムとカリウムそれぞれの濃度(mmol/L)を比で示したもので、日本人でも高血圧や循環器病リスクとの関連が明らかにされている。たとえば、宮城県登米市において高血圧有病リスクとの関連を調査1)した結果、尿ナトカリ比値が3.0未満の群と比べ、尿ナトカリ比が高いほど高血圧になる危険度が高かった。10日間の尿ナトカリ比平均値と家庭血圧値の関連をみた研究2)でも尿ナトカリ比が高いグループほど家庭血圧(収縮期血圧)の平均値が高かった。また、三浦氏らが行ったNIPPON DATE803)によると、食事のナトカリ比が高くなるにつれて脳卒中死亡リスクも高まることが示唆されている。これらの研究を踏まえ、「血圧はもちろんのこと、将来の循環器病予防のためにも測定しておくことが重要」と同氏は説明した。尿ナトカリ比の測定、患者個人でも可能だが… 尿ナトカリ比の測定方法には随時尿を用い、(1)医療機関や健診で採尿し検査機関で測定、(2)医療機関や自治体の特定健診、職域健康管理などで活用されるナトカリ計で測定、(3)郵送により個人が自宅で測定などの方法がある。しかし、「食後や朝晩は高く、日中は低い傾向にあるため、さまざまな状況の尿を採取することが必要。医療機関で週に4日以上、無作為に異なる時間帯に採取した随時尿での測定値から平均値を算出する方法を推奨する」と同氏はコメントした。 最後に同氏は「尿ナトカリ比は、日本全国の健診機関やかかりつけ医を含む医療機関において、安価かつ簡便に測定が可能である。高血圧の予防と管理、脳卒中、心疾患や腎機能障害の予防のためにも減塩とカリウム摂取増加の指標として、尿ナトカリ比がさらに活用されることを期待する。ただし、現時点で健診事業でも医療施設でも測定件数は少ないため、これらが普及するには少し時間がかかるだろうと」と締めくくった。

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非造影CT評価の広範囲脳梗塞、血栓除去術併用は優越性示せず/JAMA

 発症後24時間以内で非造影CTにより広範囲脳梗塞が認められた患者では、内科的治療のみと比較し血栓除去術の併用は90日時の機能的アウトカム改善に関して優越性は示されなかった。米国・Texas Stroke InstituteのAlbert J. Yoo氏らTESLA Investigatorsが、米国47施設で実施された非盲検評価者盲検、ベイジアン・アダプティブ・デザインの第III相無作為化試験「Thrombectomy for Emergent Salvage of Large Anterior Circulation Ischemic Stroke:TESLA試験」の結果を報告した。最近の広範囲脳梗塞の血栓除去術に関する臨床試験は、患者の選択に関して画像診断法や時間枠が不均一であった。非造影CTは最も一般的な脳卒中画像診断法であるが、発症後24時間以内に非造影CTのみで確認された広範囲脳梗塞に対する血栓除去術の有効性は不明であった。JAMA誌オンライン版2024年9月23日号掲載の報告。90日時の機能的アウトカムを内科的治療のみと比較 研究グループは、症状発現から24時間以内で、NIHSSスコアが6以上、内頸動脈または中大脳動脈M1セグメントの閉塞を認め、修正Rankinスケール(mRS)スコアが0~1、非造影CTでASPECTSスコア2~5の大きな梗塞を呈する18~85歳の患者を、血栓除去術+内科的治療群(介入群)または内科的治療単独群(対照群)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 有効性の主要エンドポイントは、効用加重修正Rankinスケール(UW-mRS、範囲:0[死亡または重度障害]~10[症状なし]、臨床的に意義のある最小変化量0.3)の平均スコアを用いて測定した90日時の機能的アウトカムの改善で、事前に規定した優越性の事後確率閾値は片側0.975以上とした。 安全性の主要エンドポイントは90日死亡率、副次エンドポイントは症候性頭蓋内出血および画像による頭蓋内出血であった。 2019年7月16日~2022年10月17日に302例が無作為化された(最終追跡調査は2023年1月25日)。UW-mRSスコア平均値は2.93 vs.2.27で有意差なし 無作為化された302例のうち、同意撤回などにより治療前に2例が除外され、解析対象は300例(介入群152例、対照群148例)で、女性が138例(46%)、年齢中央値は67歳であった。297例が90日間の追跡調査を完了した。 90日時のUW-mRSスコア平均値(±SD)は、介入群2.93±3.39、対照群2.27±2.98で、補正後群間差は0.63(95%信用区間[CrI]:-0.09~1.34、優越性の事後確率0.96)であった。 90日死亡率は、介入群35.3%(53/150例)、対照群33.3%(49/147例)であり、両群で同程度であった。24時間以内の症候性頭蓋内出血は、介入群で4.0%(6/151例)、対照群で1.3%(2/149例)に発現した。また、脳実質内出血タイプ1が介入群で9.5%(14/148例)、対照群で2.7%(4/146例)、脳実質内出血タイプ2がそれぞれ9.5%(14例)、3.4%(5例)、くも膜下出血が16.2%(24例)、6.2%(9例)に認められた。

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血友病B、AAVベクターfidanacogene elaparvovecが有効/NEJM

 血友病B患者において、fidanacogene elaparvovecによる治療は定期補充療法より優れており、出血の減少と安定した血液凝固第IX因子(FIX)発現が認められた。米国・ペンシルベニア大学のAdam Cuker氏らが、13ヵ国27施設で実施した非盲検単群第III相臨床試験「BENEGENE-2試験」の結果を報告した。fidanacogene elaparvovecは、高活性のFIX-R338L変異体(FIX-Padua)を発現する遺伝子組み換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターで、第I/IIa相試験においてFIX活性の維持が示されていた。NEJM誌2024年9月26日号掲載の報告。血友病B患者45例にfidanacogene elaparvovecを単回投与 研究グループは、FIX製剤による定期補充療法を6ヵ月以上行うBENEGENE-1導入試験を完了した患者で、FIX活性が2%以下、FIXインヒビター陽性歴がない18~65歳の血友病B患者に、fidanacogene elaparvovecを体重1kg当たり5×1011ベクターゲノムの用量で単回静脈内投与した。 主要エンドポイントは、投与後12週から15ヵ月までの年間出血率(治療した出血エピソードおよび未治療の出血エピソード)で、定期補充療法を受けていた導入期間と比較し、非劣性が達成された場合は優越性を評価することが事前に規定された。安全性についても評価した。 BENEGENE-1導入試験でスクリーニングを受けた316例のうち、抗AAV中和抗体が陽性であった188例(59.5%)を含む不適格患者計204例(64.6%)を除外し102例を登録した。このうち51例がBENEGENE-1導入試験を完了し、BENEGENE-2試験のスクリーニングを受け、適格患者45例がfidanacogene elaparvovecを投与された。年間出血率は定期補充療法に対し71%減少、非劣性および優越性を検証 45例の患者背景は平均年齢33.2歳、73%が白人で、29%が標的関節を有していた。45例中、44例が15ヵ月以上の追跡調査を完了した。 すべての出血エピソードの年間出血率は、導入期間が4.42(95%信頼区間[CI]:1.80~7.05)、投与後12週から15ヵ月までの期間が1.28(95%CI:0.57~1.98)、治療差は-3.15(95%CI:-5.46~-0.83、p=0.008)で、fidanacogene elaparvovec投与により71%減少し、fidanacogene elaparvovecの定期補充療法に対する非劣性および優越性が示された。 15ヵ月時の凝固一段法SynthASilで測定した平均FIX活性は26.9%(中央値:22.9%、範囲:1.9~119.0)であった。 安全性については、38例(84%)に有害事象が認められ、主な事象はアミノトランスフェラーゼ増加であった。アミノトランスフェラーゼ増加またはFIX活性低下に対し、28例(62%)がグルココルチコイドの投与を受けた。 グルココルチコイドの投与開始までの期間は中央値37.5日(範囲:11~123)であり、投与期間中央値は95.0日(範囲:41~276)であった。投与に関連する重篤な有害事象、血栓性イベント、FIXインヒビターの発現、悪性疾患は確認されなかった。

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「声の変化」からCOPD増悪を予測

 慢性閉塞性肺疾患(COPD)の増悪を、患者の声の変化から予測できることを示した新たな研究結果が報告された。患者の声は、増悪が始まる直前には高くなり、増悪が始まるとかすれることが判明したという。この研究を実施したマーストリヒト大学医療センター呼吸器内科学(オランダ)のLoes van Bemmel氏らは、これらのサインを使ってCOPDの増悪に備えられるようにするためのスマートフォン(以下、スマホ)のアプリの開発に取り組んでいる。この研究結果は、欧州呼吸器学会(ERS Congress 2024、9月7~11日、オーストリア・ウィーン)で発表された。 Van Bemmel氏は、「アプリの開発に成功すれば、家庭でCOPDの増悪を早期に検知し、診断につなげられる可能性がある。そうすれば、患者自身が自宅で増悪を管理できるようになるだろう」と言う。 COPDは肺気腫や慢性気管支炎を含む呼吸器疾患の総称で、肺への気流が妨げられるため呼吸しにくくなる。COPDの増悪が始まった場合には、早期段階で治療しない限り、入院や死亡リスクの上昇につながり得るという。 今回の研究でvan Bemmel氏らは、28人のCOPD患者に12週間にわたって毎日、スマホのアプリで自分の音声を録音してもらった。患者は、まず、息が続く限り「あー」と声を出し続けたときの音声を録音し、その後、物語の中の短い文章を読むか、質問に回答したときの音声の録音も行った。また、研究参加者は、COPDの症状に関する質問票に毎日回答した。 最終的に11人が毎日の音声の録音を完了し、総計1,691件の音声データが収集された。このデータを分析して音声の変化とCOPDの増悪との関係を調べた。その結果、増悪が始まる直前には患者の声が高くなることが明らかになった。また、増悪が始まった際には、声帯の振動の乱れの指標である「ジッター(jitter)」が高くなり、声の安定性が低下してかすれ声になることも明らかになった。 Van Bemmel氏は、「録音された患者の音声は、平常時と増悪の初日の間で明らかな違いがあった。これによって、増悪のごく初期でも音声が大きく変化するというわれわれの仮説が裏付けられた」と話す。 この結果は、より多くのCOPD患者を対象とした研究で確認する必要があるが、van Bemmel氏らはすでに患者の呼吸器疾患の管理の向上に役立つアプリに今回得られた知見を取り入れる計画を立てている。同氏は、「病気によって違いはあるが、音声の分析は、他の呼吸器疾患にも有用な可能性はある。われわれは、多くの呼吸器疾患に音声バイオマーカーが存在するのではないかと見ている」と言う。 研究グループの一員である、マーストリヒト大学医療センター呼吸器内科学部長でERS年次学術集会事務局のFrits Franssen氏は、COPDの増悪に早期の段階で気付くことの重要性を指摘し、「症状が増悪すると、長期にわたる健康状態の悪化につながり、命に関わることさえある。症状の増悪に早期の段階で気付いて治療すれば、重篤な合併症を回避できる場合が多い」とERSのニュースリリースで説明している。 さらにFranssen氏は、「今後、この結果が検証されれば、治療の必要性を患者とその担当医に警告する、迅速かつ効率的なシステムが構築される可能性がある。このようなスマホを介した音声分析は、時や場所を問わず誰でも利用でき、最終的には費用や時間の節約と患者の救命につながる可能性がある」と述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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金融詐欺に遭うのはアルツハイマー病の初期兆候?

 金融詐欺に引っかかりやすくなっている高齢者では、アルツハイマー病発症の高リスクと関連付けられている脳領域に変化が生じている可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。論文の上席著者である、米南カリフォルニア大学心理学および家庭医学教授のDuke Han氏は、「高齢者の金銭的搾取に対する脆弱性を評価することは、軽度認知障害やアルツハイマー病などの認知症の初期段階にある人の特定に役立つ可能性がある」と述べている。この研究の詳細は、「Cerebral Cortex」9月号に掲載された。 米国のアルツハイマー病の患者数は700万人近くに上り、アルツハイマー病は65歳以上の成人における死因としては5番目に多い。米アルツハイマー病協会によると、2024年だけでアルツハイマー病にかかる医療費は3600億ドル(1ドル140円換算で50兆4000億円)に達すると推定されている。 Han氏らは今回、高性能MRIを用いて、認知障害の明らかな兆候は認められない52〜83歳の試験参加者97人の脳を調査し、初期のアルツハイマー病と金銭的搾取に対する脆弱性の関連を検討した。MRIでは、脳の「嗅内皮質」に焦点が当てられた。嗅内皮質は、学習や記憶を司る海馬と、感情や動機付けなどの認知機能を調整する内側前頭前皮質の間の中継点として機能する脳領域であるが、アルツハイマー病において最初に変化が現れる部分でもあり、通常、病気の進行とともに菲薄化していくことが知られている。さらに、「Perceived Financial Exploitation Vulnerability Scale(PFVS)」と呼ばれる標準化されたツールを用いて、参加者の金銭的な認識力や金銭に関わる不適切な判断に対する脆弱性(財務的搾取脆弱性〔financial exploitation vulnerability;FEV〕)を評価した。 Han氏らが、FEVと嗅内皮質の厚さを比較した結果、金融詐欺に遭いやすい人ほど、嗅内皮質の薄いことが明らかになった。この結果は、特に70歳以上の人で顕著だった。 過去の研究では、FEVは軽度認知障害、認知症およびアルツハイマー病と関連する脳内の分子レベルの変化と関連付けられている。Han氏は、「過去の研究結果を踏まえて実施された本研究結果は、FEVが、高齢者の認知機能の変化を見つけ出すための新たな臨床ツールになり得るという考えを支持する重要なエビデンスとなるものだ」との見方を示している。さらに同氏は、「金銭的搾取に対する脆弱性だけが、アルツハイマー病やその他の認知機能低下の決定的な指標となるわけではない。しかし、FEVの評価は、さまざまなリスクプロファイルの一部となり得る」と付け加えている。 その一方でHan氏は、本研究は嗅内皮質の厚さとFEVとの関連を示したが、因果関係を証明するものではない点も強調している。同氏は、より多様な人を対象に、より長期的に追跡する研究を実施して、FEVが認知機能の評価において信用できるツールとなり得るかを検討する必要があるとしている。

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DPP-4iとBG薬で糖尿病性合併症発生率に差はない――4年間の後方視的解析

 血糖管理のための第一選択薬としてDPP-4阻害薬(DPP-4i)を処方した場合とビグアナイド(BG)薬を処方した場合とで、合併症発生率に差はないとする研究結果が報告された。静岡社会健康医学大学院大学(現在の所属は名古屋市立大学大学院医学研究科)の中谷英仁氏、アライドメディカル株式会社の大野浩充氏らが行った研究の結果であり、詳細は「PLOS ONE」に8月9日掲載された。 欧米では糖尿病の第一選択薬としてBG薬(メトホルミン)が広く使われているのに対して、国内ではまずDPP-4iが処方されることが多い。しかし、その両者で合併症の発生率に差があるかは明らかでなく、費用対効果の比較もほとんど行われていない。これを背景として中谷氏らは、静岡県の国民健康保険および後期高齢者医療制度のデータを用いた後方視的解析を行った。 2012年4月~2021年9月に2型糖尿病と診断され、BG薬またはDPP-4iによる治療が開始された患者を抽出した上で、心血管イベント・がん・透析の既往、糖尿病関連の入院歴、インスリン治療歴、遺伝性疾患などに該当する患者を除外。性別、年齢、BMI、HbA1c、併存疾患、腎機能、肝機能、降圧薬・脂質低下薬の処方、喫煙・飲酒・運動習慣など、多くの背景因子をマッチさせた1対5のデータセットを作成した。 主要評価項目は脳・心血管イベントと死亡で構成される複合エンドポイントとして、イベント発生まで追跡した。副次的に、糖尿病に特異的な合併症の発症、および1日当たりの糖尿病治療薬剤コストを比較した。追跡開始半年以内に評価対象イベントが発生した場合はイベントとして取り扱わなかった。 マッチング後のBG薬群(514人)とDPP-4i群(2,570人)の特徴を比較すると、平均年齢(68.39対68.67歳)、男性の割合(46.5対46.9%)、BMI(24.72対24.67)、HbA1c(7.24対7.22%)、収縮期血圧(133.01対133.68mmHg)、LDL-C(127.08対128.26mg/dL)、eGFR(72.40対72.32mL/分/1.73m2)などはよく一致しており、その他の臨床検査値や併存疾患有病率も有意差がなかった。また、BG薬、DPP-4i以外に追加された血糖降下薬の処方率、通院頻度も同等だった。 中央値4.0年、最大8.5年の追跡で、主要複合エンドポイントはBG薬群の9.5%、DPP-4i群の10.4%に発生し、発生率に有意差はなかった(ハザード比1.06〔95%信頼区間0.79~1.44〕、P=0.544)。また、心血管イベント、脳血管イベント、死亡の発生率を個別に比較しても、いずれも有意差はなかった。副次評価項目である糖尿病に特異的な合併症の発生率も有意差はなく(P=0.290)、糖尿病性の網膜症、腎症、神経障害を個別に比較しても、いずれも有意差はなかった。さらに、年齢、性別、BMI、HbA1c、高血圧・脂質異常症・肝疾患の有無で層別化した解析でも、イベント発生率が有意に異なるサブグループは特定されなかった。 1日当たり糖尿病治療薬剤コストに関しては、BG薬は60.5±70.9円、DPP-4iは123.6±64.3円であり、平均差63.1円(95%信頼区間56.9~69.3)で前者の方が安価だった(P<0.001)。 著者らは、本研究が静岡県内のデータを用いているために、地域特性の異なる他県に外挿できない可能性があることなどを限界点として挙げた上で、「2型糖尿病患者に対して新たに薬物療法を開始する場合、BG薬による脳・心血管イベントや死亡および糖尿病に特異的な合併症の長期的な抑制効果はDPP-4iと同程度であり、糖尿病治療薬剤コストは有意に低いと考えられる」と総括している。

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自分の機嫌を取る方法【Dr. 中島の 新・徒然草】(550)

五百五十の段 自分の機嫌を取る方法10月になると急に肌寒くなってきました。皆さまいかがお過ごしでしょうか?さて、読者の皆さまも、時には腹が立って仕方がないとか、イライラが止まらない、ということがあるのではないでしょうか。今回は脳外科外来の通院患者さんから聞いた、イライラ対処法を紹介したいと思います。この方は、交通事故による頭部外傷で、高次脳機能障害になってしまいました。とはいえ、物忘れがひどいとか計算が遅くなったとか、そういうことは目立ちません。それよりも、喜怒哀楽が激しくなってしまったのです。とくに「怒」の部分が問題。職場でも家でも怒ってばかり。それで何かと差し支えが目立つようになってきました。このままではイカン!ということで、この患者さんはいろいろと怒らない工夫をしました。その1つが音楽です。患者「イヤホンで音楽を聴きながら、秋の大阪城公園を1周すると、いつの間にかイライラが消えているんです」この患者さんは「自分で自分の機嫌を取る方法」と名付けていました。言われてみれば、この方法は有効かもしれません。というのも、私も職場でいろいろあった時には、無意識のうちに帰りの車の中で音楽を聴いているからです。多くの場合、家に到着する頃にはすっかり気分も良くなっていることが多い気がします。この患者さんも、試行錯誤の結果、同じような結論に行きついたのでしょう。ほかにいろいろ調べてみると「自分の機嫌を取る方法」には以下のものがありました。感情的になりそうな時は5秒数える自分を俯瞰する、客観的に見るなるべく非利き手を使う腹の立ったことを片っ端から紙に書く怒りの原因をとことん分析する人と話す、愚痴をこぼす怒りをギャグに変えるこの中で「怒りをギャグに変える」というのは大変効果的ですが、大阪の人間にとっても非常に高度な技と言えましょう。1例を挙げましょう。女房「先に帰ったら米を炊いといてって言ったじゃない!」(怒)中島「コメなさい」瞬間的に場を和ませることができるので、きわめて効果的です。機会があったら皆さまどうぞお使いください。ところで、怒りへの対処法で最も驚かされたのは「ブラジリアン柔術の稽古をする」というものです。ブラジリアン柔術は1993年にUFC(Ultimate Fighting Championship)という格闘技大会で優勝したブラジル出身のホイス・グレイシーによって一躍有名になりました。イメージとしては寝技だけの柔道みたいな感じですね。で、先日、YouTubeを見ていたら、東京にあるブラジリアン柔術の道場の1つが紹介されていました。何がいいのかと尋ねられて、ある中年道場生は「夫婦喧嘩が増えた時に、柔術にはまったんですよ。目の前の相手のことしか考えないんで、終わったら疲れてしまって、ほかのことをまったく考えなくなるんです」と。別の中年道場生も「スパーリングやっている時は、完全にほかのことを忘れて目の前に集中できるんで、めちゃめちゃいいリフレッシュなんですよね」と言っていました。何事によらず身体を動かして極端に疲れると、腹が立つとか何とかという邪念が、頭の中から全部吹っ飛んでしまうのかもしれません。今度、あの患者さんが来たら「ブラジリアン柔術もいいらしいですよ」と勧めてみましょうかね?最後に1句腹立てど 自分の機嫌 とる秋ぞ

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GNEミオパチー〔GNE myopathy〕

1 疾患概要■ 概念・定義GNEミオパチーは、常染色体潜性遺伝形式をとる進行性の筋疾患である。主に遠位筋から障害されるため、遠位型ミオパチーに分類される。筋病理所見では、縁取り空胞(図1)が特徴的に認められる。図1 GNEミオパチー患者でみられる縁取り空胞を伴う筋線維(mGT染色)画像を拡大する1981年にわが国で「縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー(distal myopathy with rimmed vacuoles:DMRV)」として最初に報告された。同じ頃、欧米では「遺伝性封入体ミオパチー(hereditary inclusion body myopathy:hIBM)」として報告された。2001年にはGNE遺伝子の変異が原因であることを特定され、「GNEミオパチー」という名称に統一された。■ 疫学わが国には約400人の患者がいると推定されるまれな疾患である。本症は世界的にも珍しいが、日本人、中東のペルシャ系ユダヤ人、インド人、中国人、北アイルランド人、ブルガリアのロマ人など、特定の民族や地域で高頻度の遺伝子変異(創始者バリアント)がみつかっており、これらの集団で患者が多くみられる。■ 病因GNE遺伝子の変異(アロステリック部位以外)が原因であり、9割以上がミスセンス変異である。GNE遺伝子は、シアル酸生合成経路の律速酵素であるウリジン二リン酸-N-アセチルグルコサミン(UDP-GlcNAc)2-エピメラーゼ/N-アセチルマンノサミンキナーゼ(GNE/MNK)をコードしている。GNE遺伝子変異によりこれらの酵素活性が低下し、シアル酸の産生が減少する。これにより、組織中の糖タンパク質や糖脂質の低シアル化を引き起こされ、筋力が低下すると考えられる(図2)。図2 GNE遺伝子変異によるシアル酸生合成の低下画像を拡大する■ 症状平均発症年齢は28歳で、多くの患者は20~30歳代で発症する。ただし、一部若年発症例や高齢発症例も存在し、国内の患者登録データによれば、発症年齢は12~62歳にわたる。初期症状としては、歩き方の変化やつまずき易さ、スリッパが履けないなどの症状が多くみられる。中殿筋や内転筋の筋力低下による腰椎前彎や股関節外転、前脛骨筋の筋力低下による下垂足が特徴的な歩容として現れる。病気の進行に伴い、下腿全体、手指、頸部前屈の筋力が低下し、その後上肢全体や体幹の筋力も低下する。大腿四頭筋の筋力は長期間よく保たれ、歩行不能となってからも膝を伸なす力が保たれることが特徴的である。疾患の進行速度は患者によってさまざまであるが、全体としては、発症年齢が若いほど進行が速い傾向がある。たとえば、10歳代で発症した患者の歩行喪失までの平均期間は9年、20歳代では15年、30歳代では27年と報告されている。わが国の患者の9割は、p.D207Vとp.V603Lという2つの創始者変異のいずれかまたは両方を有している。p.D207V保有例は比較的軽症であり、p.V603L保有例はやや重症の臨床経過をたどる傾向がある。たとえば、p.V603Lのホモ接合体では平均10年で歩行能力を失うのに対し、p.D207V/p.V603L複合ヘテロ接合体では発症から20年経過しても90%以上が歩行可能であると推定されている。p.D207Vホモ接合例はこれまで数例しかみつかっておらず、大半が無症状のまま生涯を終えるのではないかと推定されている。また、歩行喪失してから呼吸機能が低下する例がみられるため、呼吸機能の定期的な評価が重要である。とくにp.V603Lホモ接合体の患者では呼吸機能障害のリスクが高く、一方でp.D207V/p.V603L複合ヘテロ接合体ではほとんどみられない。近年の研究では、GNEミオパチー患者において血小板減少症や睡眠時無呼吸症候群の合併が一般集団より高頻度で報告されている。血小板減少症の機序として、血小板膜はシアル酸に富んでいるが、患者の血小板は脱シアリル化した糖鎖を発現しており、肝臓で除去されるためと考えられている。睡眠時無呼吸症候群については、その病態メカニズムはまだ解明されていない。妊娠・出産に関しては、GNEミオパチー患者でもおおむね良好な経過をたどることが報告されている。しかし、切迫流産のリスクがやや高く、約2割の患者が出産後に筋力低下の進行を自覚している。また、出産後1年以内に発症した例も報告されており、出産が病気の進行に影響を与える可能性も示唆されている。ただし、育児による身体的負担の増加が症状の自覚を促した可能性もあり、さらなる研究が必要である。■ 予後呼吸機能障害も比較的軽症で、重症例でも夜間の非侵襲的人工呼吸のみで維持できる例がほとんどであり、その他、明らかな心機能障害や嚥下障害の合併はみられず、生命予後は良好と考えられる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)GNE遺伝子にホモ接合型または複合ヘテロ接合型変異があり、臨床的特徴が一致する場合、もしくは筋生検所見で縁取り空胞を伴う筋線維を認めた場合、診断が確定する。遺伝子診断がついていない例に関しては、通常の遺伝学的診断では検出できない変異を有する可能性があることから、臨床的特徴および筋生検所見の両方が本症と一致した場合はGNEミオパチー疑い例とする。■ 各種検査所見(1)血液検査クレアチンキナーゼ(CK)上昇が症状の自覚がない時点から観察され、2,500IU/L以下の軽度高値を示すことが多い。筋肉の萎縮に伴い低下し、歩行喪失後はむしろ低値となる。(2)針筋電図筋原性変化を示す。ただし、随意収縮では一見神経原性を思わせる高振幅の運動単位がみられることがある。(3)骨格筋画像中殿筋・大腿屈筋群の脂肪置換が著明な一方、大腿四頭筋が保たれる。体幹では肩甲下筋が早期から脂肪置換される。(4)筋生検縁取り空胞を伴う大小不同の萎縮筋線維が特徴的である(図1)。筋線維内のβアミロイド沈着、ユビキチン陽性封入体、p62陽性凝集体、リン酸化タウなどの所見も認めるが、通常強い炎症反応は伴わない。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ シアル酸補充療法(シアル酸徐放錠承認、ManNAc/シアリル乳糖海外治験実施中)モデルマウスへの実験で、シアル酸の経口投与が発症前から行われると発症が予防され、発症後からの投与でも筋症状が改善することが明らかになった。この結果を受け、シアル酸補充療法の臨床試験が各国で実施された。まず、シアル酸は速やかに尿中に排泄されるため、その効果を持続させるために徐放錠が開発された。シアル酸徐放錠の第III相国際共同治験では有意な差が得られず、海外では開発が中止されたが、同様の臨床試験デザインで実施された国内第II/III相試験では上肢筋力の維持が確認された。その結果、2024年3月、アセノイラミン酸(商品名:アセノベル徐放錠500mg)がわが国で承認され、GNEミオパチーに対する世界初の承認薬となった。また、海外ではシアル酸代謝産物のManNAcやシアリル乳糖の臨床試験が行われており、筋力低下や筋の脂肪置換に対する一定の効果が認められ、今後の臨床応用が期待されている。■ 抗酸化剤(モデルマウスで効果実証)モデルマウスへの実験で、低シアリル化により活性酸素種(Reactive Oxygen Species:ROS)の産生が増加すること、シアリル化が改善することでROSやプロテインS-ニトロシル化が減少すること、さらには抗酸化剤であるN-アセチルシステインをモデルマウスに経口投与することで筋萎縮が改善することが報告され、酸化ストレスの軽減が治療ターゲットとなりうることが明らかになった。■ 遺伝子治療(研究中)本症は、1種類の遺伝子の変異により発症する単一遺伝子疾患であり、遺伝子治療による治癒が期待されている。アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター8型を用いたモデルマウスへの治療では、シアル酸の増加が確認されており、その有効性が期待されている。しかし、本症の患者の約半数がAAV中和抗体を持っているとの報告があり、その場合、AAVベクターの治療効果が得られない可能性が懸念されている。さらに、本症の標的臓器が全身の骨格筋という広範囲にわたるため、遺伝子治療においては染色体への遺伝子挿入のリスクや増殖性ウイルスの出現の可能性を最大限に減らす工夫が必要である。このため、低用量で骨格筋特異的なベクターの開発が試みられている。4 今後の展望GNEミオパチーの治療において、重要な進展があった。先述のシアル酸徐放錠であるアセノイラミン酸が世界初の治療薬として承認され、これにより早期診断・治療介入の重要性が高まっている。しかし、この治療薬の効果は十分とは言えず、より効果的な治療法の開発が進められている。具体的には、より効果的なシアル酸補充療法の研究に加え、抗酸化薬や遺伝子治療などのシアル酸補充療法以外のアプローチも試みられている。これらの新しい治療法の開発により、GNEミオパチー患者のためのさらなる治療法選択肢が増えることが期待されている。また、GNEミオパチーの患者レポジトリを用いた実態調査研究により、本症の理解が深まってきた。今後は、長期的な経過の解明や合併症の病態メカニズムの解明が期待されている。5 主たる診療科脳神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 遠位型ミオパチー(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本神経学会 GNEミオパチー 診療の手引き(医療従事者向けのまとまった情報)国内レジストリ 神経筋疾患患者登録Remudy(GNEミオパチー)(医療従事者向けのまとまった情報。国内患者登録サイトおよび最新情報のニュースレター)患者会情報遠位型ミオパチー患者会(患者とその家族及び支援者の会)遠位型ミオパチーガイドブック(2018年8月刊行)(患者会が作成したガイドブック)1)難治性疾患等政策研究事業 希少難治性筋疾患に関する調査研究班編集. GNEミオパチー診療の手引き.2)Yoshioka W, et al. J Neurol. 2024;271:4453-4461.3)Yoshioka W, et al. Curr Opin Neurol. 2022;35:629-636.4)Suzuki N, et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2024:jnnp-2024-333853.5)Yoshioka W, et al. Sci Rep. 2022;12:21806.公開履歴初回2024年10月10日

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10月10日 世界精神保健デー【今日は何の日?】

【10月10日 世界精神保健デー】〔由来〕世界精神保健連盟が、メンタルヘルス問題に関する世間の意識を高め、偏見をなくし、正しい知識を普及することを目的として1992年に制定。世界保健機関(WHO)も協賛し、国際記念日とされて、「シルバーリボン運動」として全世界でイベントが開催されている。関連コンテンツ不安や恐怖心が強いときの症状チェック【患者説明用スライド】炭水化物カロリー比が高いとうつ病リスク上昇うつ病や双極症、季節性と日光曝露は初回使用の診断や薬剤使用量に影響するのか成人のうつ病や不安症と関連する幼少期の要因とは境界性パーソナリティ障害、思春期?成人期の経過

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確定診断に至らないのは過失?【医療訴訟の争点】第5回

症例受診した患者の病態を確定診断するには、種々の検査を重ねて鑑別疾患を絞っていく必要がある。そして、前の検査結果を踏まえて次の検査を行うこともあり、同日にすべての検査を実施することができるわけではないため、確定診断までに時間を要することも多い。本件では、がんの疑いで診療中の患者につき、確定診断に至るまでに時間を要し、後にがんの診断に至るも、転院先でがんを原因として死亡した事案において、がんを見落とした(確定診断に至らなかった)過失があるか等が争われた東京地裁令和4年5月26日判決を紹介する。<登場人物>患者63歳・男性既往歴はとくになし。他院の尿細胞診検査でClass IIIaと診断され、血尿精査のCT検査のため受診。原告患者の妻子被告総合病院(二次救急病院、地域医療支援病院)事案の概要は以下の通りである。平成24年7月17日通院していたクリニックの尿細胞診検査でClass IIIa。8月16日上記クリニックの尿細胞診検査で再度Class IIIa。8月21日上記クリニックより、血尿精査目的で腹部CT撮影の依頼がなされ、被告病院の放射線科で腹部造影CT検査を実施(=本件CT)。被告病院の放射線科医は、明らかな異常は認められないと診断。なお、同医師は、画像所見について泌尿器科医に相談していなかった。9月13日上記クリニックの医師は、本件CT画像上、右の下腎杯の映りが悪く見え、尿細胞診検査の結果はClass IIIaが続いていたため、被告病院の医師に診察を依頼。9月19日被告病院の泌尿器科において腹部超音波検査を実施。被告病院の泌尿器科医は、腹部超音波検査で右腎に腫瘤の疑いが認められたため、腎盂がんの疑いがあることを説明。10月3日被告病院の泌尿器科において造影MRI検査を実施。被告病院の泌尿器科医は、右腎下極に23×23×40mmの腫瘤性病変が認められるため、腎盂がんが疑われると診断。10月15日被告病院の泌尿器科医は、MRI検査にて腎盂がんの疑いが強まったため、入院して腎盂内視鏡による検査(腎盂鏡検査)を受けるよう説明。11月14日被告病院の泌尿器科医は、本件患者と妻に対して、腎盂がんが疑われ、放置すれば進行すること、腎盂鏡検査の方法や合併症として出血、発熱、尿管穿孔等があること、腎盂鏡検査の代替手段として針生検があること等を、腎盂や尿管などを手書きで図示しながら説明。11月15日被告病院において、腎盂鏡検査を実施。腎盂鏡検査では右腎下極の不整が認められ、逆行性腎盂造影検査では本来描出されるべき右腎の下極が描出されなかった。被告病院の泌尿器科医は、画像上は腎盂がんが強く疑われること、検査の際に採取したカテーテル尿の細胞診結果が陽性であった場合には腎尿管全摘術を実施し、細胞診結果が陰性であった場合でも針生検を実施することを説明。11月26日被告病院の泌尿器科医は、11月15日の検査の際に採取したカテーテル尿の細胞診結果はいずれも陰性であったが、腎盂がんに罹患している場合でも細胞診で異常が認められないこと(偽陰性)があること、11月15日検査の結果、画像上は腎盂がんが強く疑われることを伝えた上、開腹手術での針生検およびそれに続く腎尿管全摘術(術中迅速病理診断で悪性と診断される場合)を受けるよう説明。患者は、重要な用事があり年末まで休むことができないと述べ、経過観察を希望。平成25年1月4日被告病院において造影MRI検査を実施。被告病院の泌尿器科医は、MRI画像上、右腎下極の腫瘤に明らかな増大は認められなかったものの、軽度の増大が認められたこと、11月15日検査の画像上も腎盂がんが強く疑われたことから、開腹手術での針生検およびそれに続く腎尿管全摘術を受けるように再度提案したが、患者は経過観察を希望。2月25日被告病院において腹部超音波検査を実施。被告病院泌尿器科医は、腎盂がんが疑われたことから、開腹手術での針生検及びそれに続く腎尿管全摘術を受けるように再度提案したところ、患者は同意した。そこで、リンパ節や多臓器への転移の有無等を確認するため、同年3月6日に造影CT検査を実施した上で、4月15日に腎尿管全摘術が予定された。3月6日被告病院において造影CT検査を受け、右腎盂がんおよびリンパ節転移と診断。3月15日他院(大学病院)受診を希望し、他院にて抗がん剤治療等が開始。平成28年2月6日右腎盂がんにより死亡。実際の裁判結果本件では、(1)平成24年11月26日頃に造影MRI検査を行わなかった注意義務違反があるか、(2)平成25年1月4日の造影MRI検査の後、直ちに針生検を行って右腎盂がんを確定診断すべき注意義務違反があるか等が争われた。裁判所は、(1)につき、被告病院の泌尿器科医が10月3日MRI画像から右腎盂がんを疑っていたこと、11月15日検査の画像でも右腎盂がんを強く疑っていたものの、同日の尿細胞診の結果が陰性であったため確定診断に至らず、針生検によらなくては確定診断ができなかったことを指摘し、11月26日頃に「再度の造影MRI検査を行うことにより右腎盂がんの確定診断ができたといえるかは疑問」として、注意義務違反を否定した。また、裁判所は、(2)につき、被告病院の泌尿器科医が、11月15日の検査後に画像上は右腎盂がんが疑われたため、開腹手術での針生検を実施すべき旨を説明していたこと、11月26日の検査後にも開腹手術での針生検およびそれに続く腎尿管全摘術を受けるよう提案していたこと、1月4日にも検査後に開腹手術での針生検及びそれに続く腎尿管全摘術を受けるよう提案していたこと、患者が経過観察を希望してこれらを受け入れなかったことを指摘し、「開腹手術での針生検およびそれに続く腎尿管全摘術を受けるよう提案したにもかかわらず、患者の承諾が得られなかったためにこれを実施することができなかったのであるから、泌尿器科医が、11月15日以降、遅くとも平成25年1月4日までに針生検を実施すべき注意義務を怠ったとはいえない」とした。なお、患者家族は、本件患者が針生検を受け入れなかったとしても、一刻を争う状態であった患者に対し、針生検を受けるよう説得すべきであったと主張したが、裁判所は「泌尿器科医師は、本件患者に対し、針生検を受けることの必要性を十分に説明しているというべきである」とした。なお、以上のほか、本件では、(3)平成24年8月21日に撮影された本件CT画像について、被告病院の放射線科医が泌尿器科医に相談していればその時点で右腎盂がんの所見に気付くことができたとの主張もされた。しかし、裁判所は、泌尿器科医が本件CT画像や腹部超音波検査の結果から腎盂がんを疑い、造影MRIを行っているも、確定診断に至らず、確定診断のためにさらに針生検を要したことを指摘し、「被告病院の放射線科の医師が、本件CT画像について泌尿器科医師に相談することなく、明らかな異常所見は認められないと判断したことによって、右腎盂がんの確定診断が遅れたとはいえない」と判断した。注意ポイント解説本件では、各種検査により患者ががんであることが疑われたものの、それを確定する検査結果が得られなかった。そして、医師は、検査の結果を踏まえて疑われる疾患や、原因疾患の確定および治療のために行うべき検査・処置につき説明をしていたが、患者側の事情でそれを進めることができず、確定診断に至らなかったことから、上記の判断となった。これはいわば治療法の選択(治療の前提となる原因疾患を確定するための検査のタイミング)に関する患者の自己決定権を尊重した結果であり、裁判所の判断自体は妥当と言える。しかし、裁判所がこのように判断したのは、医師らが、然るべき検査を行っていたうえで、患者に対し、がんが疑われることや確定診断のための検査の必要性についてしっかりと説明していたこと、および、その説明の記録が残っていたことが大きい。がんという重大疾患が疑われることの説明がなされていなかったり、確定診断のための検査の必要性についての説明がなされていなかったり、それらの説明をした記録が残っておらず説明したことの立証ができなかったりする場合には、患者が治療法選択に関する自己決定権の行使に必要な情報の提供が与えられていない(説明義務違反がある)ということとなり、本判決と異なる判断となる可能性があることに留意する必要がある。医療者の視点がんをはじめとする生死に関わる疾患では、その診断と治療のタイミングが非常に重要です。昨今では画像診断技術が飛躍的に発達したため、画像検査のみでもがんを疑うことが多いかと思います。しかしながら、確定診断はあくまでも病理学検査の結果でなされます。がん診断のための病理学検査において、感度が100%とならない生検検査も多いため、注意が必要です。がんを疑いながらも確定診断がされない場合に、その旨をどのように患者さんやその家族に説明するかが重要です。どのような追加検査がいつ必要なのか、どの程度の時間的余裕があるのか、あるいは未確診であっても治療に臨むべきかなど、事細かに説明する必要があります。このような説明は主に外来でなされるでしょうから、短い診察時間の中で詳細な説明を行い、さらにその内容をカルテにもしっかりと記載するのは大変な作業です。しかしながら、本件のような事案は多数報告されていますので、とくに生死に関わる疾患を診療する場合には細心の注意を払うべきといえます。また、本件のように患者理由で検査や治療が遅れるような場合も、その旨をしっかりとカルテに記載しておくことが肝要です。追加検査や治療がなされなかった場合には、単に「経過観察となった」ではなく、どうして経過観察となったのか(医師の判断なのか、患者の希望なのか)を明記しておくと良いでしょう。Take home message検査結果を踏まえて確定診断に至らなくとも、それまでの検査により疑われる疾患名、確定診断のために必要な追加検査(診断が確定しなくとも行うことができる治療があるのであればその治療法、診断が確定しないまま治療を行うことによるリスク)等、患者が治療法の選択(治療の前提となる原因疾患を確定するための検査のタイミングを含む)につき判断するのに足りる説明を行い、その記録を残しておくことが重要である。キーワード自己決定権憲法第13条の保障する「幸福追求権」に基づくものであり、自らの生き方に関する事柄は自らが決定するという権利である。この自己決定権の保障を、医療分野において現実化するためには、どのような医療が、いつ行われるかにつき、患者は十分理解した上で自らにとって最善の選択をなしうる権限と機会が与えられる必要がある。そして、この自己決定権の保障が、医療行為による身体への侵襲の同意とともに、医師の説明義務の根拠となっている。

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第117回 結核再増加、「3年間限定の低蔓延国」となるか?

結核の集団感染最近、「結核の集団感染」のニュースが多くなっています。保健所が察知したクラスターが増加したことが多かったためですが、日本で高齢者や施設入所者の割合が増えていることも影響しているかもしれません。このまま忘れられていくのかと思っていましたが、結核についてざわざわしてきました。国立感染症研究所の集計によると、9月22日までの患者数は1万1,015人とされています1)。驚くべきことに、この数字は昨年の累計新規報告数をすでに超えており、このまま推移すると、数年ぶりの罹患率に逆戻りする可能性も出てきました(図)。図. 結核新規登録者数と罹患率(筆者作成)コロナ禍に結核が減少した理由は、軽症で受診する人が減ったことによる「過少診断」が一因かもしれません。実際に『結核の統計2024』2)では、診断が遅れた(受診から結核診断までの期間が1ヵ月以上)人の割合は、22.5%と高い数値です。コロナ禍で受診控えが続いたので、2020年以降結核登録者が減った印象はあります。そのため、いつかはリバウンドに転じるのではないかと懸念していました。マイコプラズマやRSウイルスのように、アフターコロナですぐにリバウンドしてくる感染症もあれば、結核のように少し遅れてリバウンドする感染症もあるということでしょう。外国出生者の結核への対策が急務2024年に報告された2023年のデータでは、20~30代の若い結核患者さんのほとんどが外国出生者です。外国出生者の割合は、20~29歳で84.8%と大部分を占めています。外国出生者の結核登録者数は1,619人と前年から405人増加しています。入国して5年以内の外国出生者にしぼると、前年比+73.1%と急増しています。かつての「咳が長引く大学生が受診」といったケースは減少し、代わりに「日本語学校の学生クラスター」や「技能実習生が職場健診で異常を指摘」といったパターンが増加しています。日本における外国出生者の結核のうち、多くを占めるフィリピン、ベトナム、中国、インドネシア、ネパール、ミャンマーの6ヵ国を対象として、現在入国前結核スクリーニングを開始する見込みです。いずれにせよ、2024年の結核罹患率は今年より上昇することは確実で、「低蔓延国」の地位を失い、再び「中蔓延国」に逆戻りする可能性も出てきました。参考文献・参考サイト1)国立感染症研究所. IDWR速報データ 2024年第38週(2024年10月1日)2)公益財団法人 結核予防会編. 結核の統計2024.

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誤嚥性肺炎に関連する抗コリン薬~日本医薬品副作用データ

 日本の超高齢化社会は、とくに高齢者の誤嚥性肺炎のマネジメントに関して、大きな課題を呈している。大阪・藤立病院の上田 章人氏らは、主に日本医薬品副作用(JADER)データベースを用いて、抗コリン薬使用と誤嚥性肺炎の発生率との関連を調査した。Respiratory Investigation誌2024年11月号の報告。 2004年第1四半期〜2023年第3四半期のJADERデータベースより抽出した、60歳以上の誤嚥性肺炎2,367例のデータを分析に用いた。シグナル検出による報告オッズ比を用いて、誤嚥性肺炎と抗コリンリスクスケールに記載されている49の薬剤との関連を評価した。これらの関連性を検証するため、MEDLINEとコクランライブラリーの調査結果を組み込んだスコープレビューが実施された。 主な結果は以下のとおり。・一次解析では、クロザピン、ハロペリドール、リスペリドン、クエチアピン、オランザピンなど特定の薬剤に関連する誤嚥性肺炎リスクの増加が認められた。・20の薬剤が、誤嚥性肺炎リスク増加と有意に関連していた。・とくに高齢者などの高リスク集団や統合失調症、パーキンソン病などの患者において、これらの薬剤のドーパミンブロック作用を考慮することの重要性が示唆された。 著者らは「誤嚥性肺炎リスクを軽減するためには、クロザピン、ハロペリドール、リスペリドン、クエチアピン、オランザピンなどの強力なドーパミンブロック作用を有する抗コリン薬を注意深くモニタリングする必要がある。これらの関連をさらに調査するためにも、今後の観察研究や介入研究が求められる」と結論付けている。

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NSAIDs、心筋梗塞や胎児動脈管収縮に関して使用上の注意改訂/厚労省

 2024年10月8日、厚生労働省はNSAIDsの添付文書の改訂指示を発出した。全身作用が期待されるNSAIDs(医療用)の添付文書には重大な副作用の項に「心筋梗塞、脳血管障害」を、シクロオキシゲナーゼ阻害作用を有するNSAIDs※の添付文書には特定の背景を有する患者に関する注意として、妊婦に対し「シクロオキシゲナーゼ阻害剤の使用により胎児動脈管収縮を疑う所見を適宜確認する」旨の追記がなされる。※すべての妊婦が禁忌とされている薬剤を除く重大な副作用の項に「心筋梗塞、脳血管障害」 匿名医療保険等関連情報データベース(NDB)を用いたNSAIDsの心筋梗塞および脳血管障害リスクに関する調査(以下、本調査)結果から、全身作用が期待されるNSAIDs(アスピリンを除く)の心筋梗塞および脳血管障害リスクが示唆されたと判断。なお、アスピリンについては本調査において心血管系事象の発現リスクが高い患者に対して予防的に処方されていた可能性が否定できなかったことなどから、本調査結果からアスピリンの心筋梗塞および脳血管障害リスクについて結論付けることは困難と判断された。 対象医薬品は以下のとおり。◯ アセメタシン、インドメタシン(坐剤)、インドメタシン ファルネシル、オキサプロジン、チアラミド塩酸塩、プログルメタシンマレイン酸塩、メロキシカム◯ アンピロキシカム、イブプロフェン、エトドラク、ナプロキセン、ピロキシカム(経口剤)、フルルビプロフェン(経口剤)、フルルビプロフェン アキセチル、ロキソプロフェンナトリウム水和物(経口剤)、ロルノキシカム◯ ケトプロフェン(注射剤、坐剤)◯ ザルトプロフェン◯ ナブメトン、ブコローム、メフェナム酸◯ フルフェナム酸アルミニウム◯ エスフルルビプロフェン・ハッカ油「胎児動脈管収縮を疑う所見」の確認を 妊娠中期のシクロオキシゲナーゼ阻害作用を有するNSAIDsの曝露に関する観察研究、系統的レビューなどの公表論文、妊娠中期の当該薬剤の曝露による胎児動脈管収縮関連症例を評価し、使用上の注意の改訂要否および措置範囲の検討がなされた。NSAIDsによる妊娠後期の胎児動脈管収縮は知られており、今般、妊娠中期のNSAIDs(低用量アスピリン製剤を除く)の曝露による胎児動脈管収縮について、公表論文が複数報告されていること、因果関係が否定できない症例が認められたことから、低用量アスピリン製剤を除くNSAIDsについて、使用上の注意を改訂することが適切と判断された。 なお、局所製剤については、全身作用を期待する製剤と比較し相対的に曝露量が低いことから、胎児動脈管収縮を疑う所見を適宜確認する旨の注意喚起は不要と判断された。 また、低用量アスピリン製剤については、妊娠中期の当該製剤の曝露は胎児動脈管の収縮および心拡張能に影響がないことを示唆する公表論文が複数報告されていること、当該製剤と胎児動脈管収縮の因果関係が否定できない症例が認められていないことから、現時点で安全対策措置は不要と判断された。 対象医薬品は以下のとおり。◯ アスピリン(解熱鎮痛消炎の効能を有する製剤)◯ アンピロキシカム、イブプロフェン、エトドラク、ナプロキセン、ピロキシカム(経口剤)、フルルビプロフェン(経口剤)、フルルビプロフェン アキセチル、ロキソプロフェンナトリウム水和物(経口剤)、ロルノキシカム◯ イソプロピルアンチピリン・アセトアミノフェン・アリルイソプロピルアセチル尿素・無水カフェイン[SG配合顆粒]、サリチルアミド・アセトアミノフェン・無水カフェイン・クロルフェニラミンマレイン酸塩[ペレックス配合顆粒]、サリチルアミド・アセトアミノフェン・無水カフェイン・プロメタジンメチレンジサリチル酸塩[PL配合顆粒ほか]◯ エテンザミド、スルピリン水和物◯ ケトプロフェン(注射剤、坐剤)◯ ザルトプロフェン◯ ジブカイン塩酸塩・サリチル酸ナトリウム・臭化カルシウム[ネオビタカイン注ほか]◯ セレコキシブ◯ ナブメトン、ブコローム、メフェナム酸◯ フルフェナム酸アルミニウム◯ イブプロフェンピコノール、インドメタシン(貼付剤)、ジクロフェナクナトリウム(外皮用剤)、ピロキシカム(外皮用剤)、フルルビプロフェン(外皮用剤)、ロキソプロフェンナトリウム水和物(外皮用剤)◯ インドメタシン(塗布剤)◯ エスフルルビプロフェン・ハッカ油◯ ケトプロフェン(外皮用剤)◯ サリチル酸グリコール・l-メントール、サリチル酸メチル、サリチル酸メチル・dl-カンフル・トウガラシエキス[MS温シップほか]、サリチル酸メチル・dl-カンフル・l-メントール[MS冷シップ「タイホウ」ほか]、サリチル酸メチル・l-メントール・dl-カンフル・グリチルレチン酸[スチックゼノールA]、フェルビナク、ヘパリン類似物質・副腎エキス・サリチル酸[ゼスタッククリーム]、サリチル酸◯ ジクロフェナクエタルヒアルロン酸ナトリウム

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乳がん術後放射線療法、最適な分割照射法は?/BMJ

 乳がん術後放射線療法において、中等度寡分割照射(MHF)は通常分割照射(CF)と比較して腫瘍学的な治療アウトカムが同等でありながら安全性、美容およびQOLを改善し、超寡分割照射(UHF)はMHFやCFと比較した無作為化比較試験は少ないものの、短期間の追跡ではその安全性と腫瘍学的有効性は同程度であった。シンガポール国立大学のShing Fung Lee氏らが、システマティックレビューおよびメタ解析の結果を報告した。結果を踏まえて著者は、「治療期間の短縮、患者の利便性の向上ならびに費用対効果などを考慮すると、MHFおよびUHFは適切な臨床状況ではCFよりも好ましい選択肢とみなされなければならない。これらの知見を確かなものにするためにはさらなる研究が必要である」とまとめている。BMJ誌2024年9月11日号掲載の報告。CF、MHF、UHFのRCTをメタ解析 研究グループは、Ovid MEDLINE、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trialsを用い、2023年10月23日までに発表された乳がん術後放射線療法の有効性および安全性に関する文献について、システマティックレビューおよびメタ解析を行った。 対象試験の適格基準は、CF(総線量50~50.4Gy/25~28回[1日1.8~2Gy、5~6週間])、MHF(1回2.65~3.3Gyを13~16回[3~5週間])、またはUHF(5回のみ)について評価した無作為化比較試験であった。 2人の研究者が独立してデータ抽出とチェックを行い、コクランバイアスリスクツール(バージョン2)およびGRADE(Grading of Recommendations, Assessment, Development, and Evaluations)を用いて、バイアスリスクおよびエビデンスの質、確実性を評価した。 メタ解析では、ランダム効果モデルを用いてリスク比(RR)およびハザード比(HR)とその95%信頼区間(CI)を算出し、コクランQ検定とI2統計量を用いて異質性を分析した。また、頻度論的(frequentist)ランダム効果モデルを用いてネットワークメタ解析も行った。 主要アウトカムは、Grade2以上の急性放射線皮膚炎および晩期放射線障害、副次アウトカムは美容、QOL、局所再発、無病生存期間、全生存期間などであった。MHFはCFより急性放射線皮膚炎のリスクが低い 検索の結果、1,754本の文献が特定され、適格基準を満たした59本の文献に含まれる臨床試験35件(被験者計2万237例)が解析対象となった。全体として、評価項目の21.6%はバイアスリスクが低かったが、78.4%はバイアスリスクが中または高と評価された。 MHFによるGrade2以上の急性放射線皮膚炎のCFに対するRRは、乳房温存術を受けた患者のみを対象とした8件の臨床試験で0.54(95%CI:0.49~0.61、p<0.001)、乳房切除術を受けた患者のみを対象とした10件の臨床試験で0.68(0.49~0.93、p=0.02)であった。 乳房温存術と乳房切除術を合わせた場合、色素沈着およびGrade2以上の乳房縮小はCF後よりMHF後のほうが低頻度で、RRはそれぞれ0.77(0.62~0.95、p=0.02)および0.92(0.85~0.99、p=0.03)であった。しかし、乳房温存術のみの試験では、色素沈着(RR:0.79、95%CI:0.60~1.03、p=0.08)および乳房縮小(0.94、0.83~1.07、p=0.35)に関する差は統計学的に有意ではなかった。 UHFのMHFに対するGrade2以上の急性放射線皮膚炎のRRは、乳房温存術と乳房切除術を合わせた場合0.85(0.47~1.55、p=0.60)であった。 MHFはCFと比較して、美容およびQOLの改善と関連していたが、UHFとの比較では関連はみられなかった。再発および生存に関しては、UHF、MHF、CFで同様であった。

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脳梗塞発症後4.5時間以内、tenecteplase vs.アルテプラーゼ/JAMA

 発症後4.5時間以内の静脈内血栓溶解療法が適応となる急性虚血性脳卒中患者において、90日後の機能的アウトカムに関してtenecteplaseはアルテプラーゼに対して非劣性であることが認められ、安全性プロファイルも同様であった。中国・National Clinical Research Center for Neurological DiseasesのXia Meng氏らが、同国の55施設で実施した無作為化非盲検(評価者盲検)第III相非劣性試験「ORIGINAL試験」の結果を報告した。tenecteplaseはアルテプラーゼの遺伝子組み換え体で、フィブリン特異性が高く半減期が長いことから、単回ボーラス投与が可能である。tenecteplaseはアルテプラーゼと比較して、90日後の機能的アウトカム、死亡率、症候性頭蓋内出血の発生率が同等であることが報告されているが、中国人の急性虚血性脳卒中患者に対するtenecteplase 0.25mg/kgの有効性に関するエビデンスは限られていた。著者は、「本試験の結果は、脳梗塞発症後4.5時間以内の静脈内血栓溶解療法として、tenecteplaseはアルテプラーゼに代わる適切な治療法であることを支持するものである」とまとめている。JAMA誌オンライン版2024年9月12日号掲載の報告。90日後のmRSスコア0または1の割合を比較 研究グループは、脳卒中重症度評価スケール(NIHSS)スコアが1~25で測定可能な神経学的欠損を有し、症状が30分以上持続しており、症状発現後4.5時間以内の18歳以上の急性虚血性脳卒中患者を、tenecteplase(0.25mg/kg静注)群とアルテプラーゼ(0.9mg/kg静注)群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、90日時に修正Rankinスケール(mRS)スコア0または1を達成した患者の割合で、非劣性マージンはリスク比(RR)の95%信頼区間(CI)の下限が0.937とした。安全性アウトカムは、試験薬投与終了後36時間以内の症候性頭蓋内出血、90日以内の全死亡、90日時のmRSスコア5または6であった。 2021年7月14日~2023年7月14日に1,504例がスクリーニングされ、このうち1,489例が無作為化された(tenecteplase群744例、アルテプラーゼ群745例)。tenecteplaseの非劣性を検証、症候性頭蓋内出血および90日全死亡は同等以下 1,489例のうち、治療を受けなかった21例と、無作為化手続き完了前に治療を開始したことが判明した3例を除く、計1,465例が有効性の解析対象集団となった。患者背景は、年齢中央値66.0歳、女性446例(30.4%)であった。 90日時にmRSスコア0または1を達成した患者の割合は、tenecteplase群72.7%(532/732例)、アルテプラーゼ群70.3%(515/733例)で、tenecteplaseのアルテプラーゼに対する非劣性が検証された(RR:1.03、95%CI:0.97~1.09、p=0.003)。 症候性頭蓋内出血は、各群で9例(1.2%)に発生し(RR:1.01、95%CI:0.37~2.70)、そのうち、tenecteplase群の3例、アルテプラーゼ群の5例が死亡した。 90日死亡率は、tenecteplase群4.6%(34/732例)、アルテプラーゼ群5.8%(43/733例)であった(RR:0.80、95%CI:0.51~1.23)。

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糖尿病患者は喘息リスクが2倍近く高い可能性

 2型糖尿病患者は喘息を発症する可能性がほぼ2倍であり、一方で喘息患者の糖尿病リスクも高いことを示唆する研究結果が報告された。台北医学大学(台湾)のNam Nguyen氏らが、欧州糖尿病学会(EASD 2024、9月9~13日、スペイン・マドリード)で発表した。 糖尿病や喘息は、世界規模で重大な健康課題となっているが、両者の関連性については十分研究されていない。Nguyen氏らは、2型糖尿病と喘息の関連の実態と、その関連の潜在的な原因やメカニズムの探求を目指すステップとして、システマティックレビューとメタ解析を実施した。 PubMed、EMBASE、Scopus、Web of Scienceという4件の文献データベースに2023年10月31日までに収載された論文を対象として、このトピックに関する報告を検索。ヒットした3万8,861報から重複削除後の3万2,707報をスクリーニングし、81報に絞り込み全文精査を行い、14件の研究報告をレビュー対象として抽出。そのうち11件をメタ解析の対象とした。研究対象者数は合計約1700万人だった。なお、糖尿病の病型が明確でない報告は除外した。 解析の結果、両者に強固な相関が認められ、いずれかの疾患を診断した際には、もう一方の疾患のスクリーニングと予防的な介入を行うことの重要性が示された。 具体的には、2型糖尿病患者における喘息リスクを検討していた5件の研究は全て有意な結果を報告しており、メタ解析からは、2型糖尿病患者ではそうでない人よりも喘息のオッズが83%高いことが示された(オッズ比〔OR〕1.83〔95%信頼区間1.08~3.10〕)。また、喘息患者における2型糖尿病リスクを検討していた6件の研究のうち4件が有意な結果を報告しており、メタ解析からは、喘息患者はそうでない人よりも2型糖尿病のオッズが28%高いことが示された(OR1.28〔同1.00~1.63〕)。 Nguyen氏は、「2型糖尿病や喘息の患者、およびそれらの患者に接する医療従事者の双方が、この関連性に対する認識を深めるべきだ」と述べている。研究グループでは、「明らかになったこの事実は、喘息と糖尿病に同一の原因があるか、または共通の修飾因子が関係している可能性がある。両者の潜在的な関連について、今後より深く研究を進める必要がある」としている。 またNguyen氏は、「喘息患者の2型糖尿病リスクを下げるための予防戦略を探るべきだ。例えば、喘息患者が2型糖尿病を発症してしまう前に、前糖尿病の検査や予防的介入を速やかに行うことが推奨される。ほかにも、喘息管理のためにステロイドを全身投与することは、一時的な高血糖だけでなく2型糖尿病リスクの上昇にもつながるため、慎重に検討すべきだろう」と付け加えている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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CAR-T細胞療法により二次がんリスクは上昇しない

 自家キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)療法製品の添付文書には、CAR-T細胞療法後に二次性のT細胞性悪性腫瘍が発生するリスクがあるとの警告が記載されている。しかし、新たな研究で、CAR-T細胞療法後のそのような二次がんの発生頻度は、標準治療後の二次がん発生頻度と同程度であることが示された。米メモリアル・スローン・ケタリングがんセンター(MSKC)成人骨髄移植サービス分野のKai Rejeski氏らによるこの研究の詳細は、「Clinical Cancer Research」に9月11日掲載された。 米国がん協会(ACS)の説明によると、CAR-T細胞療法は、患者の血液から採取したT細胞にキメラ抗原受容体(CAR)を発現させるための遺伝子を導入し、特定のがん細胞を攻撃できるようにした上で患者の体内に戻す治療法である。ACSは、「CAR-T細胞療法は、ある種のがんに対して、たとえ他の治療法が効かなくなった場合でも、非常に有効な可能性がある」と述べている。 しかし、米食品医薬品局(FDA)は2024年1月、FDAの有害事象報告システムのデータに基づき、CAR-T細胞療法製品の添付文書に、治療対象となったB細胞リンパ腫や多発性骨髄腫などとは無関係に新たなT細胞性悪性腫瘍(二次がん)が発生する可能性について警告を表示するよう要求した。これに対し、Rejeski氏らは、FDAのデータでは、二次がん発生に影響を及ぼす可能性のある他の因子、例えば年齢、他に受けた治療、追跡期間などが考慮されていない点を指摘する。同氏は、「患者は、この警告の追加についてのニュースを読んでおり、当然のことながら、医療提供者に安全性について質問している。われわれは、潜在的なリスクを理解するとともに、データを慎重に解釈して患者に説明する必要がある」と話す。 今回の研究でRejeski氏らは、リンパ腫または多発性骨髄腫の患者5,517人を対象とした18件の臨床試験と7件のリアルワールド研究のデータの分析を行った。対象者は、現在承認されている6種類のCAR-T細胞療法のうちのいずれかを受けていた。 中央値21.7カ月に及ぶ追跡期間中に5.8%の患者に326件の二次がんが発生していた。解析の結果、CAR-T細胞療法前に受けた別の治療の回数が3回以上だった患者では、3回以下だった患者に比べて二次がんリスクの高いことが示された。CAR-T細胞療法を受けた患者と標準治療を受けた患者の転帰を比較した4件の研究(対象者の総計1,253人)を対象にした解析では、二次がんが発生した患者の割合は、CAR-T細胞療法を受けた患者で5%、標準治療を受けた患者で4.9%であり、両群間に有意な差は認められなかった。また、二次がんリスクは、治療対象となるがんの種類や受けたCAR-T細胞療法の種類によって変わらないことも明らかになった。さらに、326件の二次がんのサブタイプを調べたところ、T細胞性悪性腫瘍はわずか5件(0.09%)を占めるに過ぎず、T細胞性悪性腫瘍と患者のCAR-T細胞療法で使用されたT細胞との遺伝的関連については、3件のうちの1件でのみ陽性と判定されていた。 こうした結果を受けてRejeski氏は、「これらの結果は、標準治療に比べてCAR-T細胞療法が二次がんリスクを上昇させることを示唆するものではない」と結論付けている。同氏はさらに、「CAR-T細胞療法により患者の生存期間は延びるが、それは同時に新たながんが発生する期間も延びることを意味する」と指摘し、「CAR-T細胞療法は、自身の成功の犠牲になっている可能性がある」と述べている。 Rejeski氏は、「過去20年以上を振り返ると、難治性の大細胞型B細胞リンパ腫に対する治療法で、標準治療以上に患者の生存率を向上させたのはCAR-T細胞療法だけだ。CAR-T細胞療法での二次がんリスクは極めて低いため、この治療を決して控えるべきではない」とアドバイスしている。

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染毛剤の成分が網膜症を引き起こすことも

 使用した染毛剤の成分により視力低下を伴う網膜症を発症したフランス人女性の症例が、エドゥアール・エリオ病院(フランス)のNicolas Chirpaz氏らにより、「JAMA Ophthalmology」に9月12日報告された。網膜症の原因となった成分は芳香族アミンと呼ばれる化合物で、女性がこの成分を含まない染毛剤の使用に切り替えると、視覚機能は回復したという。 Chirpaz氏らは、「この症例はまれなケースかもしれないが、芳香族アミンの危険性に対する認識を広めることで、すぐにこの成分を含む染毛剤の使用を控えることを考える人も出てくるだろう。そうなれば、目は恒久的な損傷を受けずに済む」と述べている。 研究グループが報告書の中で指摘しているように、染毛剤と網膜症とが関連付けられたのは、今回が初めてではない。2022年には、芳香族アミン含有の染毛剤に曝露した3人の中年女性が網膜症を発症したことが報告されている。 今回の症例は、病歴のない61歳の女性に関するもの。この女性は、染毛剤で髪を染めた数日後に両目の視界が徐々にぼやけてきたため、医師の診察を受けたという。女性の使用した染毛剤は市販のもので、パラフェニレンジアミンと呼ばれる芳香族アミンを含有していた。 検査の結果、両目の後極部を中心に複数の漿液性網膜剥離が確認された。また、OCT(光干渉断層計)画像では、複数の漿液性網膜剥離と神経網膜のびまん性肥厚が認められた。網膜の黄斑部の中心に位置する中心窩での脈絡膜の厚さは250μmで、網膜色素上皮剥離や中心性漿液性脈絡網膜症と関連付けられている異常に拡張した脈絡膜血管は認められなかった。眼底自家蛍光検査では、漿液性網膜剥離が低蛍光領域として映し出された。 漿液性網膜剥離の原因を特定するために、血液検査や胸部CTスキャン、脳MRIなど広範な検査が行われたが、結果は全て正常であった。女性の症状が染毛剤の使用と時間的に一致することやOCT検査などの結果から、女性は染毛剤に関連する再発性急性血管障害(recurrent acute hair dye-associated angiopathy;RAHDAA)と診断された。 その後、女性は染毛剤のブランドを変えた。4カ月後の検査で、女性の視力は正常(20/20)に戻っていた。4年後の時点で、女性は芳香族アミンを含まない染毛剤を使用しており、RAHDAAの再発は生じていないという。 研究グループは、芳香族アミンが、網膜色素上皮細胞と呼ばれる細胞の健康に不可欠な神経化学経路を「破壊する」ことで、網膜症が引き起こされたのではないかと考えている。また、「RAHDAA症例は依然としてまれではあるが、患者に原因が容易に突き止められない網膜症が認められた場合には、医師はRAHDAAの可能性に注意する必要がある」と述べている。

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2剤併用の新レジメンで腎細胞がん患者の生存期間が倍増

 進行性腎がんに対する治療において、パゾパニブ(商品名ヴォトリエント)にベバシズマブ(商品名アバスチン)を組み合わせることで患者の生存期間を延長できる可能性が、第2相臨床試験で示された。米ロズウェルパーク総合がんセンターのSaby George氏らが実施したこの試験の結果は、欧州臨床腫瘍学会(ESMO 2024、9月13〜17日、スペイン・バルセロナ)で発表された。 パゾパニブは、チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)として知られる抗がん薬の一種である。血管内皮細胞表面に存在する血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)とがん細胞が分泌する血管内皮増殖因子(VEGF)が結合すると、シグナルが血管内皮細胞内に伝達され、血管新生が促される。TKIは、VEGFRの働きを阻害してVEGFRとVEGFの結合を抑制することにより血管新生を阻止し、がん細胞の増殖を抑制する。米食品医薬品局(FDA)がパゾパニブ承認の根拠とした以前の臨床試験では、腎がんと診断された患者の無増悪生存期間(PFS)は平均11カ月強であることが示されていた。 今回の研究では、治療歴のない淡明細胞型の転移性腎細胞がん患者51人(年齢中央値65.6歳、男性70.6%)に、新規レジメンであるパゾパニブとベバシズマブによる治療を行い、12カ月後の臨床的有効率(clinical benefit rate;CBR、完全奏効、部分奏効、安定の割合を合計したもの)を調べた。治療方法は、1〜28日目にパゾパニブ800mgを1日1回投与し、10週間サイクルの36日目と50日目にベバシズマブ10mg/kgを投与するというものだった。研究グループによると、パゾパニブによる治療ではVEGFが増加し、それによりがん細胞が薬剤に耐性を持つ可能性があるという。そこで、治療サイクルの中程でVEGFを中和する作用のあるベバシズマブを投与する治療法を考え出したと説明する。 治療の結果、12カ月時点で51人中40人(78%)にCBRが認められた。中央値33.1カ月の追跡期間における客観的奏効率(完全奏効+部分奏効)は54.9%、CBRは98%、PFS中央値は22.1カ月、全生存期間(OS)中央値は62.9カ月であった。副作用としては、下痢(70%)、高血圧(54%)、疲労(69%)、吐き気(51%)が認められた。 進行性腎細胞がん患者の中には強力な免疫療法を提案される人もいるが、研究グループは、一部の患者にとっては免疫療法よりもパゾパニブとベバシズマブによる併用療法の方が安全性の高い選択肢となり得ると指摘する。 George氏は、「他のリスクグループの患者には免疫療法の選択肢もあったため、今回の第2相臨床試験には、より低リスクのカテゴリーに属する患者が多く含まれていた。この有望な結果は、パゾパニブとベバシズマブの交互投与が、低リスクの腎細胞がん患者に対して有望な治療レジメンとなり得ることを示唆している」と話している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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ESMO2024レポート 肺がん

レポーター紹介2024年9月13日から17日にかけて、ESMO2024がスペインのバルセロナで開催された。肺がん領域でも多くの注目される内容が発表されたが、その中でもとくに現在や近未来の日常臨床に影響を与えそうなものについていくつか紹介したい。すでに報告されているpositive試験のアップデート内容がある一方で、期待された第III相試験のnegativeデータも複数報告されていたことも印象的であった。LBA48:CCTG BR.31試験試験概要BR.31試験は、完全切除された非小細胞肺がん(NSCLC)患者に対する補助療法としてのデュルバルマブの有効性と安全性を評価する第III相二重盲検プラセボ対照試験である。試験デザイン患者は完全切除後に原則プラチナベースの化学療法を受けた後、2:1の割合でデュルバルマブ(20mg/kgを4週ごとに1年間)またはプラセボの投与を受けた。PD-L1発現が25%以上の患者で、EGFRおよびALKの遺伝子変異を持たない患者での無病生存期間(DFS)が主要評価項目であり、副次評価項目として全生存期間(OS)、生活の質(QOL)、および安全性が評価された。結果PD-L1発現が25%以上の患者群では、デュルバルマブを投与された群とプラセボ群でDFSに有意な差は認められなかった。DFS中央値はデュルバルマブ群で69.9ヵ月、プラセボ群で60.2ヵ月であり、ハザード比は0.935(p=0.642)であった。また、安全性プロファイルは従来の知見と一致しており、重大な有害事象(Grade3/4)の発生率は23.5%であった。結論完全切除後のNSCLC患者に対して、デュルバルマブはDFSの延長に寄与しないことが示された。治療関連有害事象(TRAE)は発生したものの、全体的な安全性は許容範囲内とされた。コメント本試験は、本邦も西日本がん研究機構(WJOG)を介して参加したグローバル試験であり、その結果も注目されたが、結果はnegativeであり残念であった。NSCLCの術後補助療法では、これまでにアテゾリズマブやペムブロリズマブの良好な結果が示されていたが、それらとの結果の違いの原因については明らかではない。デュルバルマブについては後述の術前・術後にデュルバルマブを使用するAEGEAN試験は良好な結果であったため、やはり免疫療法は術後投与よりも術前投与のほうが有利であることが示唆された。LBA49:AEGEAN試験研究概要AEGEAN試験において、血中循環腫瘍DNA(ctDNA)のクリアランスが術前治療中の病理学的効果および無イベント生存期間(EFS)に与える影響を評価することを目的とした。研究デザインこの研究では、手術可能なNSCLC患者(IIA~IIIB期)が対象となり、デュルバルマブ1,500mgとプラチナベースの化学療法を4サイクル行い、その後、12サイクルのデュルバルマブまたはプラセボを投与した。試験の探索的エンドポイントとして、ctDNAクリアランスと病理学的完全奏効(pCR)、EFSとの関連が評価された。結果ctDNAクリアランスが得られた患者では、pCR率が大幅に改善した。とくに、術前治療4サイクル後にctDNAがクリアされた患者では、EFSが有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.23、p<0.05)。また、ctDNAクリアランスが得られた患者の5年EFS率は73.4%に達し、予後良好な患者群であることが示された。結論手術可能なNSCLC患者において、術前のctDNAクリアランスはpCRおよびEFSの改善と強く関連しており、治療効果の早期予測指標として有望である。コメントAEGEANレジメンは本邦ではまだ承認されていないが、今後承認が期待されている。ctDNAクリアランスを含めた術前治療後の評価により高率にpCRを予測できるようになれば、術前療法のみで治癒し、手術を必要としない患者も将来的には予測できるようになるかもしれない。また、リキッドバイオプシーにより術後療法の必要性も判断できるようになることを期待したい。1208MO:NEJ034試験試験概要この第III相試験は、特発性肺線維症(IPF)を伴う肺がん患者に対する周術期ピルフェニドン療法の有効性と安全性を評価することを目的とした。ピルフェニドンは抗線維化および抗炎症作用を持つ薬剤であり、術後の急性増悪を予防できるかどうかが検証された。試験デザイン患者は、周術期にピルフェニドンを4週間投与された群と投与されなかった群に無作為に割り付けられた。主要評価項目は、術後30日以内に発生した急性増悪の割合であった。結果ピルフェニドン群で急性増悪の発生率は6.1%、対照群では10.3%と報告されたが、この差は統計学的に有意ではなかった(p=0.339)。ピルフェニドンの投与が急性増悪の予防に明確な効果を示すことはできなかった。結論日本人患者を対象としたこの試験では、ピルフェニドンが術後の急性増悪を防ぐ効果は示されなかった。コメント本邦における肺がん手術では手術関連死はほとんどなく、世界的にもきわめて良好であるが、間質性肺炎合併肺がん患者においては術後急性増悪が発生するとその致死率は約50%とされているため、本試験の結果は注目されていた。結果はnegativeであり残念であった。間質性肺炎合併肺がん患者に対する、より安全な治療法の開発が期待される。1243MO:JCOG1914試験試験概要この第III相試験は、切除不能な局所進行NSCLCを有する高齢者(75歳以上)に対する週1回のカルボプラチン(CBDCA)+nab-パクリタキセル(nab-PTX)療法と毎日の低用量CBDCA療法を比較したものである。試験デザイン患者はCBDCA+nab-PTXまたは低用量CBDCAを放射線療法と併用して投与された。化学放射線療法(CRT)後はデュルバルマブによる維持療法が推奨された。主要評価項目はOSであり、副次評価項目として無増悪生存期間(PFS)、奏効率、患者報告アウトカム(PROs)、および安全性が評価された。結果PFSの結果では、1年PFS率はCBDCA+nab-PTX群で55.5%、低用量CBDCA群で59.0%と報告され、OSに関してもCBDCA+nab-PTX群で79.6%、低用量CBDCA群で87.3%であり、ともに有意差は確認されなかった。TRAE(Grade3/4)は両群ともに比較的多く報告され、CBDCA+nab-PTX群での治療関連死も観察された。結論高齢の日本人患者において、CBDCA+nab-PTX療法は、低用量CBDCA療法に対して優位性を示さなかった。コメント本試験は中間解析の結果、将来的にもCBDCA+nab-PTX群のOSでの優越性が示される可能性はきわめて低いと判断され、無効中止となった。本邦においては、高齢者に対するcCRTにおいて標準的な化学療法レジメンは引き続き低用量CBDCAということになる。LBA54:MARIPOSA-2試験試験概要この第III相試験は、EGFR遺伝子変異を有する進行NSCLC患者において、オシメルチニブ治療後のアミバンタマブ+化学療法併用に与える影響を評価することを目的としており、今回はアップデートされたOSが発表された。試験デザイン患者は、アミバンタマブ+化学療法、または化学療法単独の群に無作為に割り付けられた。主要評価項目はPFS、副次評価項目としてOS、治療後の症状進行までの時間(TTSP)、治療中断までの時間(TTD)、および安全性が評価された。結果2回目の中間解析では、アミバンタマブ+化学療法併用群は化学療法単独群と比較してOSの延長傾向が示された(HR:0.73)。また、TTSPやTTDの観点からもアミバンタマブ併用群のほうが優れており、副作用プロファイルは既存のデータと一致していた。結論オシメルチニブ治療後の進行EGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者に対して、アミバンタマブ+化学療法は全体的な生存率を改善し、今後の標準治療の1つとなる可能性がある。コメントMARIPOSA-2試験におけるアミバンタマブ+化学療法併用群と化学療法単独群の比較について報告された。2回目の中間解析でOSの延長傾向が報告された。オシメルチニブ治療後増悪時の治療選択は課題であり、本レジメンの本邦での承認が期待される。LBA55:MARIPOSA試験(抵抗性メカニズムの解析)研究概要この試験は、進行NSCLC患者に対する1次治療としてのアミバンタマブ+lazertinibの併用療法と、オシメルチニブ単独療法における獲得抵抗性メカニズムを比較することを目的としている。試験デザインEGFR変異陽性の局所進行または転移のあるNSCLC患者を対象に、アミバンタマブ+lazertinib群(429例)とオシメルチニブ群(429例)で比較した。主要評価項目はPFSであり、副次評価項目としてOS、客観的奏効率(ORR)、奏効期間(DoR)、および安全性が評価された。結果ctDNAを用いたGuardant360 CDx がん遺伝子パネルにより、アミバンタマブ+lazertinib群とオシメルチニブ群では抵抗性メカニズムの違いが明らかになった。とくに、MET増幅がオシメルチニブ群では9.3%の患者に認められたのに対し、アミバンタマブ+lazertinib群では1.8%と低かったことが確認された。さらに、EGFRの二次性耐性変異発生率も、アミバンタマブ+lazertinib群のほうが低かったことが報告された。結論EGFR変異を有する進行NSCLC患者において、アミバンタマブ+lazertinibはオシメルチニブと比較して、EGFRおよびMETに関連した耐性メカニズムの発生率を有意に低下させた。コメントアミバンタマブの作用機序として期待通りの結果である。とくに、治療前と治療終了時のctDNAの比較により獲得耐性メカニズムを研究した点は興味深い。アミバンタマブ+lazertinib療法も本邦での承認が期待されている。LLBA81:ADRIATIC試験研究概要ADRIATIC試験は、限局型小細胞肺がん(LS-SCLC)患者を対象に、デュルバルマブ療法の有効性を評価したものである。とくに、cCRTの使用レジメンおよび予防的頭蓋照射(PCI)の影響に焦点を当てた。試験デザイン限局型SCLC患者において、cCRT後にデュルバルマブを投与した群と標準治療を比較した。PCIの使用も含めて、治療後のOSおよびPFSに与える影響が検討された。結果デュルバルマブ併用療法は、cCRT後の生存率を改善することが示されたが、PCIの有無やcCRTの内容にかかわらず、その効果は持続した。TRAE(Grade3/4)は両群で同様に発生し、安全性において大きな差は認められなかった。結論限局型SCLC患者に対するデュルバルマブ併用療法は、標準治療に比べて統計学的に有意な生存利益をもたらした。とくに、PCIの使用にかかわらず良好な結果が示されており、今後の標準治療として採用される可能性がある。コメント現在、限局型SCLCに対して免疫チェックポイント阻害薬は本邦では承認されていないが、ADRIATIC試験の結果により本邦での承認も期待される。今回の内容は限局型SCLCに対する本レジメンの標準的な使用をサポートすることになると考えられる。

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