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2型糖尿病の低血糖入院が減少傾向、その背景を紐解く

 近年、2型糖尿病患者の低血糖入院が漸減傾向であることが明らかになった―。2017年に日本糖尿病学会の糖尿病治療に関連した重症低血糖の調査委員会が調査報告1)を行ってから8年、この間に低血糖による入院が減少したのには、いったいどんな対策や社会変化が功を奏したのだろうか。今回、この研究結果を報告し、日本糖尿病学会第9回医療スタッフ優秀演題賞を受賞した社会人大学院生の影山 美穂氏(東京薬科大学薬学部 医療薬物薬学科)と指導教官の堀井 剛史氏(武蔵野大学薬学部臨床薬学センター)から研究に至った経緯や考察などを聞いた。重症低血糖の現状、患者指導の影響は? 本研究のきっかけについて、影山氏は「薬剤師として糖尿病患者への低血糖予防指導はごく当たり前のこと。だがその一方で、低血糖発症リスクの現状や日頃の患者指導の効果が不明瞭であったため、薬剤師をはじめ医療者が頑張っている患者指導の可視化を目指した」と説明した。 実際、この20年における2型糖尿病治療薬や血糖コントロール目標値の変化は著しい。たとえば、治療薬に関しては、2009年よりDPP-4阻害薬が、2014年よりSGLT2阻害薬が発売され、2021年以降はGLP-1受容体作動薬の経口薬発売や肥満症治療薬としての適応拡大などが糖尿病治療薬市場の地殻変動を起こしている。それ故、低血糖リスクが高いとされるスルホニル尿素(SU)などの処方率は減少傾向にある。血糖目標値においては、2013年の糖尿病合併症予防のための血糖コントロール目標値に関する「熊本宣言」(HbA1c 7%未満)や2017年の高齢者糖尿病ガイドライン発刊(高齢者糖尿病の目標値が患者の特徴や健康状態を考慮した目標値「7.0~8.5%未満」)、「重症低血糖への提言」が周知されてきたことで、非専門医にも血糖値を下げ過ぎるリスクへの理解が進んできている。これについて堀井氏は「高齢者糖尿病ガイドライン2)において、HbA1cの具体的数値のみならず下限値も示されたことで糖尿病専門医ではなくても、患者へリスクをわかりやすく伝えることができるようになったのではないか。さらに、2024年の診療報酬改定では糖尿病治療薬の適正使用推進の観点から“調剤後薬剤管理指導加算”が新設されたことで、薬剤師の立場からもインスリンやSU薬服用中のフォローアップが手厚くなり、重症低血糖の減少につながっている可能性がある」と推測した。 ここで補足するが、「重症低血糖」とは、“回復に他者の援助を必要とする低血糖”と定義され、70歳以上、慢性腎臓病(CKD)ステージ3~5、SU薬内服中などの特徴を有する患者で発症しやすいとされる。その発症は主要心血管イベントや認知症の発症リスク増加にも関連することから、以前より日本糖尿病学会は警鐘を鳴らし、前述の調査委員会報告でも重症低血糖で救急搬送されるのは2型糖尿病が60%を占め、1型糖尿病患者よりも多く、処方薬剤別では、インスリン使用が約60%、SU薬使用が約30%であった3)。重症低血糖の患者推移、影響度が高い因子とは そこで、治療薬や血糖目標値の変遷、薬剤師指導の教育変化による“低血糖入院患者数推移や患者像”を捉えるために、同氏らはメディカル・データ・ビジョンの2009年1月1日~2022年12月31日までの診療データベースを活用し、2型糖尿病かつ初発低血糖患者を対象とした入院加療が必要な低血糖の発症リスクや使用薬剤について調査。主要評価項目は入院を必要とする低血糖発症に関連する要因の探索で、副次評価項目は夜間・早朝低血糖入院に関する要因、救急搬送による低血糖入院に関連する要因であった。 その結果、入院加療を必要とする低血糖発症率は、2型糖尿病患者全体では0.4→0.2%、75歳以上では0.85→0.3%、75歳未満では約0.2%微減、で推移していることが明らかになった。とはいえ、とくに高齢者では長期にDo処方が継続され、SU剤を使用している患者も一定数みられる。HBA1cが悪化すると他剤併用よりSU薬の増量が検討されるケースもあるため、「薬剤師も患者の低血糖リスクを意識して対応することで、重症低血糖の回避につながるのではないか」と影山氏はコメントした。 そして、低血糖入院の約6割が75歳以上であったことや低BMI患者(18.5kg/m2未満)での発症率の高さも示唆された。これについて、同氏は「低BMI患者にはインスリン分泌能低下者が多い、糖尿病歴が長い、グルカゴンの働きが悪くなっていることなどが推測される」と述べ、「高齢により低血糖の対応を自身ができない」「糖尿病歴が長くなることで痩せが生じ、インスリン分泌能が低下する。加えてフレイルにより低血糖を来しやすい」ことなどを挙げ、低BMI・低体重の関連性を考察した。 なお、本研究にはDPCデータを活用していることから、患者を夜間入院や救急入院などで層別化をすることができたものの、研究限界として「継続性が長くない、施設が代わると患者を追えなくなる」などを示し、「入院前データがない患者は除外」などの注意を払ったと堀井氏は説明した。 最後に両氏は「将来的に低血糖入院の因果関係を統計学的に示していきたい。そして、在宅ケアを受けている患者、低血糖を訴えられないような患者まで研究対象を掘り下げて解析していきたい」と今後の展望を語った。

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EGFR陽性NSCLCへのオシメルチニブ+化学療法、日本人でもOS良好(FLAURA2)/日本肺学会

 国際共同第III相無作為化比較試験「FLAURA2試験」において、EGFR遺伝子変異陽性の進行・転移非小細胞肺がん(NSCLC)に対する1次治療として、オシメルチニブ+化学療法はオシメルチニブ単剤と比較して無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)を改善したことが報告されている1)。ただし、本試験のサブグループ解析において、中国人を除くアジア人集団のOSのハザード比(HR)は1.00(95%信頼区間[CI]:0.71~1.40)であったことから、日本人集団の結果が待ち望まれていた。そこで、第66回日本肺学会学術集会において、小林 国彦氏(埼玉医科大学国際医療センター)が本試験の結果を報告するとともに、日本人集団のOS解析結果を報告した。また、本報告の追加資料において、日本人集団の患者背景とPFS解析結果も示された。試験デザイン:国際共同第III相非盲検無作為化比較試験対象:EGFR遺伝子変異陽性(exon19欠失/L858R)でStageIIIB、IIIC、IVの未治療の非扁平上皮NSCLC成人患者557例試験群:オシメルチニブ(80mg/日)+化学療法(ペメトレキセド[500mg/m2]+シスプラチン[75mg/m2]またはカルボプラチン[AUC 5]を3週ごと4サイクル)→オシメルチニブ(80mg/日)+ペメトレキセド(500mg/m2)を3週ごと(併用群、279例)対照群:オシメルチニブ(80mg/日)(単独群、278例)評価項目:[主要評価項目]RECIST 1.1を用いた治験担当医師評価に基づくPFS[副次評価項目]OSなど 既報の主要な結果は以下のとおり。・OS中央値(併用群vs.単独群)47.5ヵ月vs.37.6ヵ月(HR:0.77、95%CI:0.61〜0.96、p=0.02)・2/3/4年OS率(同上)80%/63%/49%vs.72%/51%/41%・PFS中央値(同上)25.5ヵ月vs.16.7ヵ月(HR:0.62、95%CI:0.49〜0.79、p<0.001)・1/2年PFS率(同上)80%/57%vs.66%/41% 日本人集団の解析結果は以下のとおり。・解析対象は併用群47例、単独群47例であった。男性の割合はそれぞれ34%、51%であり、年齢中央値はそれぞれ68歳(範囲:39~83)、65歳(同:33~79)であった。EGFR遺伝子変異の内訳は、exon19欠失変異/L858R変異が、併用群49%/51%、単独群66%/34%であった。・OS中央値は併用群48.3ヵ月、単独群34.3ヵ月であり、日本人集団でも併用群が良好であった(HR:0.60、95%CI:0.36~1.03)。・2年、3年、4年時のOS率は、併用群がそれぞれ85%、65%、52%であり、単独群がそれぞれ65%、41%、33%であった。・PFS中央値は併用群24.8ヵ月、単独群16.4ヵ月であり、日本人集団でも併用群が良好であった(HR:0.49、95%CI:0.28~0.86)。・1年、2年時のPFS率は、併用群がそれぞれ83%、64%であり、単独群がそれぞれ63%、30%であった。

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ROS1陽性NSCLCに対するタレトレクチニブを発売/日本化薬

 日本化薬は「ROS1融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺(NSCLC)」の適応で、厚生労働省より製造販売承認を取得したタレトレクチニブ(商品名:イブトロジー)について、2025年11月12日に発売したことを発表した。タレトレクチニブは、同適応症に対する薬剤として4剤目となる。 ROS1を標的とするチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)を用いた治療において、耐性変異としてG2032R変異などが発現することが報告されている。そこで、これらの耐性変異体への活性を有する薬剤の開発が望まれていた。 タレトレクチニブは、ROS1変異体(G2032R、L2026M、L1951Rなど)に対しても阻害活性を有するTKIである。タレトレクチニブの承認は、ROS1融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発NSCLCを対象とした2つの第II相試験(TRUST-I試験[中国]およびTRUST-II試験[国際共同])などに基づく。2試験の統合解析1)において、未治療集団および既治療集団の確定奏効率は、それぞれ88.8%、55.8%であった。また、未治療集団および既治療集団の頭蓋内奏効率は、それぞれ76.5%、65.6%であった。 なお、タレトレクチニブのコンパニオン診断としては、AmoyDx肺マルチ遺伝子PCRパネルが承認されている。<製品概要>販売名:イブトロジーカプセル200mg一般名:タレトレクチニブアジピン酸塩製造販売承認日:2025年9月19日薬価基準収載日:2025年11月12日効能又は効果:ROS1融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺用法及び用量:通常、成人にはタレトレクチニブとして1日1回600mgを空腹時に経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する。薬価:9,711.20円(200mg 1カプセル)製造販売元:日本化薬株式会社

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夜間照明が心疾患リスク上昇に影響

 夜間の光曝露は概日リズムの乱れを引き起こし、心血管疾患における予後不良の危険因子として知られている。今回、オーストラリア・フリンダース大学のDaniel P. Windred氏らの研究で、夜間の光曝露は40歳以上の心血管疾患発症の有意な危険因子であることが示唆された。JAMA Network Open誌2025年10月23日号掲載の報告。 研究者らは、昼夜の光曝露による心血管疾患発症の関連、および光曝露と心血管疾患関連に影響する因子(遺伝的感受性、性別、年齢など)を評価するため、前向きコホート研究を実施。UKバイオバンク参加者の心血管疾患の記録を9.5年間(2013年6月~2022年11月)にわたり追跡調査し、2024年9月~2025年7月にデータ解析を行った。 光センサーは手首に装着するタイプで、約1,300万時間(各参加者の1週間分)から得られたデータを基に、光曝露環境をパーセンタイルで4グループに分類した(最も暗い:0~50、やや明るい:51~70、比較的明るい:71~90、非常に明るい:91~100)。また、各疾患(冠動脈疾患、心筋梗塞、心不全、心房細動、脳卒中)の発症率データは、英国・国民保健サービス(NHS)より得たもので、疾患リスクをCox比例ハザードモデルで評価し、ハザード比(HR)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・研究参加者は、40代以上の成人8万8,905人(平均年齢±SD:62.4±7.8歳、女性:5万577例[56.9%])であった。・夜間照明が非常に明るい環境の人(91~100パーセンタイル)は、最も暗い人(0~50パーセンタイル)と比較して、さまざまな疾患発症リスクが有意に高かった。 ●冠動脈疾患…調整ハザード比(aHR):1.32、95%信頼区間(CI):1.18~1.46 ●心筋梗塞…aHR:1.47、95%CI:1.26~1.71 ●心不全…aHR:1.56、95%CI:1.34~1.81 ●心房細動…aHR:1.32、95%CI:1.18~1.46 ●脳卒中…aHR:1.28、95%CI:1.06~1.55・これらの関連性は、既存の心血管リスク因子(身体活動、喫煙、アルコール、食事、睡眠時間、社会経済的地位、多遺伝子リスク)調整後も有意であった。・夜間の光曝露と心不全(交互作用のp=0.006)および冠動脈疾患(交互作用のp=0.02)リスクとの関連は女性でより大きかった。また、参加者のうち若年者では、夜間の光曝露と心不全(交互作用のp=0.04)および心房細動(交互作用のp=0.02)リスクとの関連が大きかった。 同氏らは「既存の予防対策に加え、夜間の光曝露を避けることが心血管疾患リスクを低減するための有用な戦略となる可能性がある」としている。 なお、11月7~10日に米国・ニューオリンズで開催されたAmerican Heart Association Scientific Sessions 2025(AHA2025、米国心臓学会)でも米国・ハーバード大学のShady Abohashem氏らにより同様の報告がなされた。

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頭痛は妊娠計画に影響を及ぼすのか?

 頭痛は、生殖年齢の人にとって社会経済的な負担となる一般的な神経疾患である。しかし、妊娠計画への影響についてはほとんど知られていない。埼玉医科大学の勝木 将人氏らは、日本における学齢期の子供を持つ保護者を対象に、頭痛の特徴と妊娠計画との関連性を調査した。The Journal of Headache and Pain誌2025年7月4日号の報告。 2024年に新潟県燕市の学校に通う生徒の保護者を対象に、学校を拠点としたオンライン調査をプロスペクティブコホートに実施した。調査項目には、年齢、性別、頭痛の特徴、急性期治療薬および予防薬の使用状況、1ヵ月当たりの頭痛日数(MHD)、1ヵ月当たりの急性期治療薬の使用日数(AMD)、頭痛影響テスト(HIT-6)、Migraine Interictal Burden Scale(MIBS-4)、子供の数を含めた。また、「頭痛のために妊娠を避けているまたは避けたことがありますか」という質問を通して、頭痛が妊娠計画に及ぼす影響についても調査した。この質問に対し「はい」と回答した人は、妊娠回避群と定義された。 主な結果は以下のとおり。・5,227世帯のうち1,127世帯(21.6%)から回答が得られ、そのうち頭痛を有する保護者からの回答599件を分析した。・回答者の年齢中央値は43歳(第1四分位数~第3四分位数:40~48歳)、562例(93.8%)が女性であった。・回答者は、MHD中央値が3日(第1四分位数~第3四分位数:1~4日)、AMD中央値が3日(1~6)、HIT-6中央値が60(58~68)、MIBS-4中央値が4(2~8)であった。・50例(8.3%)が予防薬を使用しており、492例(82.1%)が頭痛発作時に急性期治療薬を使用していると回答した。・子供の数の中央値は2人(第1四分位数~第3四分位数:2~2)。・女性回答者562例のうち、22例(3.9%)が、頭痛のために妊娠を避けている、または避けていたと回答した。・妊娠回避群では、HIT-6スコア(中央値:58[第1四分位数~第3四分位数:53~64]vs.63[59~66]、p=0.033)、MIBS-4スコア(4[2~7]vs.6[4~7]、p=0.012)が有意に高かった。・多変量解析では、妊娠回避群は、高齢(オッズ比[OR]:1.16、95%信頼区間[CI]:1.05~1.29、p=0.004)、頭痛持続時間の短さ(OR:0.91、95%CI:0.85~0.98、p=0.016)、MHDの多さ(OR:1.08、95%CI:1.01~1.16、p=0.031)、悪心または嘔吐(OR:6.11、95%CI:1.46~25.60、p=0.013)、音過敏(OR:6.40、95%CI:1.71~23.99、p=0.006)との有意な関連が認められた。・妊娠回避群では、妊娠中、育児、薬剤による潜在的リスクに関する懸念がより多かった。 著者らは「頭痛のために妊娠を避けているまたは避けたことがある女性は、一部であった。しかし、このような女性は、発作時および発作間欠期共に重度の頭痛負担を抱えており、頭痛疾患が妊娠計画に悪影響を及ぼしていると感じていた」とまとめている。

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中等症~重症シェーグレン病、ニポカリマブが有用/Lancet

 中等症~重症の活動期シェーグレン病患者において、ニポカリマブ(本邦では全身型重症筋無力症の適応で承認)の15mg/kgの投与はプラセボと比較して臨床疾患活動性を有意に改善し、安全かつ良好な忍容性が認められた。米国・カンザス大学のGhaith Noaiseh氏らが、フランス、ドイツ、イタリア、日本、オランダ、ポーランド、ポルトガル、スペイン、台湾および米国の69施設で実施した第II相無作為化二重盲検プラセボ対照試験「DAHLIAS試験」の結果を報告した。ニポカリマブは、自己抗体を含む循環IgGを減少させる胎児性Fc受容体(FcRn)阻害薬である。シェーグレン病は、粘膜乾燥、疲労、慢性疼痛、全身臓器病変、自己反応性IgG抗体の上昇を特徴とし、これまでに承認された疾患修飾薬はなかった。Lancet誌オンライン版2025年10月24日号掲載の報告。ニポカリマブ2用量とプラセボで、24週時のClinESSDAIスコア変化量を比較 研究グループは、ACR/EULAR分類基準(2016)で定義された診断基準を満たし、疾患活動性指標(Clinical European League Against Rheumatism Sjogren's Syndrome Disease Activity Index:ClinESSDAI)が6以上で、抗Ro60抗体および/または抗Ro52抗体が血清学的陽性のシェーグレン病患者を、ニポカリマブ5mg/kg群、15mg/kg群、またはプラセボ群に1対1対1の割合で無作為に割り付け、2週ごと22週間にわたり静脈内投与した。 主要エンドポイントは、24週時のClinESSDAIスコアのベースラインからの変化であった。有効性および安全性の解析対象集団は無作為化され治験薬を少なくとも1回投与された患者とし、主要エンドポイントの主要解析には反復測定混合モデルを用いた。ニポカリマブ15mg/kgは、プラセボと比較して疾患活動性を有意に改善 2021年9月21日~2023年4月3日に、361例がスクリーニングを受け、適格患者163例が無作為化された(ニポカリマブ5mg/kg群53例、15mg/kg群54例、プラセボ群56例)。患者背景は、平均年齢48.1歳(SD 12.12、範囲:20~73)、女性が151例(93%)、男性が12例(7%)であった。 24週時におけるClinESSDAIスコアのベースラインからの変化量(最小二乗平均値)は、ニポカリマブ15mg/kg群-6.40(90%信頼区間[CI]:-7.43~-5.36)、ニポカリマブ5mg/kg群-4.08(-5.10~-3.07)、プラセボ群-3.74(-4.74~-2.75)であり、ニポカリマブ15mg/kg群ではプラセボ群と比較して減少量が有意に大きかったが(最小二乗平均群間差:-2.65、90%CI:-4.03~-1.28、p=0.0018)、ニポカリマブ5mg/kg群ではプラセボ群との間に有意差は認められなかった(-0.34、-1.71~1.03、p=0.68)。 ニポカリマブ群は良好な忍容性を示し、重大な安全性シグナルは認められなかった。最も発現頻度の高い有害事象は感染症および寄生虫症であった(ニポカリマブ5mg/kg群32例[60%]、15mg/kg群28例[52%]、プラセボ群24例[43%])。 また、ニポカリマブ治療中にIgG自己抗体の減少がみられたことについて、著者は「IgG自己抗体のシェーグレン病の病態形成への関与を裏付けるものである」と述べている。

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敗血症性ショック、CRTに基づく個別化蘇生法が有用/JAMA

 敗血症性ショックの初期治療に、毛細血管再充満時間(CRT)を目標とした個別化血行動態蘇生プロトコール(CRT-PHR)を用いることで、全死因死亡、バイタルサポート継続期間および入院期間の複合アウトカムが通常ケアより優れることが示された。チリ・Pontificia Universidad Catolica de ChileのGlenn Hernandez氏らが、北米・南米、欧州およびアジアの19ヵ国86施設で実施した無作為化試験「ANDROMEDA-SHOCK-2試験」の結果を報告した。敗血症性ショックに対する血行動態蘇生の最適な戦略は依然として明らかではないが、ANDROMEDA-SHOCK試験では、CRTを目標とした蘇生は乳酸値に基づく蘇生と比較し、臓器機能障害の回復が速く、蘇生輸液量が少なく、生存率が高いことが示唆されていた。JAMA誌オンライン版2025年10月29日号掲載の報告。敗血症性ショック発症後4時間以内の患者が対象、CRT-PHRと通常ケアを比較 研究グループ(ANDROMEDA-SHOCK-2 Investigators:ANDROMEDA Research Network、Spanish Society of Anesthesiology、Reanimation and Pain Therapy[SEDAR]、Latin American Intensive Care Network[LIVEN])は、2022年3月~2025年4月に、敗血症性ショック発症後4時間以内(敗血症性ショックは、疑いまたは確定された感染症に加え、≧2.0mmol/Lの高乳酸血症、1,000mL以上の輸液負荷後も平均動脈圧65mmHg以上維持のためノルエピネフリンを必要とする状態と定義)の患者を、CRT-PHR群または通常ケア群に1対1の割合で無作為に割り付けた(最終追跡調査は2025年7月)。 CRT-PHR群では、6時間の試験期間中に、CRT正常化を目標とした循環動態蘇生、脈圧・拡張期血圧とベッドサイド心エコーによる心機能障害の同定とそれに続く特定介入、輸液蘇生前の輸液反応性評価、2種類の急性(1時間)血行動態試験による段階的および多層的な個別化蘇生を実施した。 通常ケア群では、各施設のプロトコールまたは国際ガイドラインに従って治療し、CRT測定はベースラインと6時間後のみ実施した。 主要アウトカムは、28日時点の全死因死亡、バイタルサポート(血管作動薬投与、人工換気、腎代替療法)の継続期間、および入院期間の階層的複合アウトカムとし、APACHE(Acute Physiology and Chronic Health Evaluation)IIスコア中央値で層別化したwin ratioで解析した。複合アウトカムに関してCRT-PHRは通常ケアと比較し優れる 1,501例が登録され、CRT-PHR群744例、通常ケア群757例に無作為化された。このうち、同意撤回などを除く1,467例が解析対象集団となった。平均年齢66歳、女性が43.3%であった。 階層的複合主要アウトカムについて、CRT-PHR群は13万1,131勝(48.9%)、通常ケア群は11万2,787勝(42.1%)、win ratioは1.16(95%信頼区間:1.02~1.33、p=0.04)であった。 個々のアウトカムにおける勝率は、CRT-PHR群vs.通常ケア群でそれぞれ、全死因死亡が19.1%vs.17.8%、バイタルサポート継続期間が26.4%vs.21.1%、入院期間が3.4%vs.3.2%であった。

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左心耳閉鎖手技(LAAO)の行く末を占う(OPTION試験)(解説:香坂俊氏)

 このOPTION試験は、心房細動(AF)アブレーションを受け、かつCHA2DS2-VAScが高い患者を対象に、「その後もふつうに抗凝固薬を飲み続けるか」「左心耳閉鎖手技(LAAO)に切り替えるか」を1:1で比較した国際RCTとなります。1,600例を組み入れ、LAAO群はWATCHMANで閉鎖した後所定期間だけ抗血栓を行い、その後半年ほどで中止し、対照群はDOACを含む標準的な内服抗凝固薬を続けるという設計で行われました。結果として、主要安全エンドポイント(手技に直接関係しない大出血+臨床的に問題となる非大出血)は36ヵ月でLAAO 8.5%vs.OAC 18.1%でLAAO群に少なく(p<0.001)、主要有効性エンドポイント(全死亡・脳卒中・全身性塞栓の複合)は5.3%vs.5.8%で非劣性となりました。 アブレーション後にLAAOまで一緒にやってしまう発想は現実的です。ただ、自分が考える問題点は大きく2つあります。第一に、本試験のOAC群の出血率が実臨床のDOAC単剤よりやや高めで、近年のリアルワールドで見られる年間1%以下の大出血とは開きがあります。※OPTION試験の主要安全エンドポイントは「手技に関係しない大出血+臨床的に問題となる非大出血(CRNM)」で、36ヵ月でLAAO 8.5%vs.OAC 18.1%。一方、同試験での「大出血(手技関連も含めて)」という副次安全エンドポイントは3.9%vs.5.0%/36ヵ月で、これは年間に直すとおおむね1.3%/年vs.1.7%/年程度。 第二に、LAAOにはperidevice leak(閉じ残り)という固有の弱点が残ります。最近の報告でも、WATCHMANでも20〜30%、一部シリーズでは30〜40%近くで遅発性のリークが見つかり、このリークがあると脳梗塞・全身塞栓が増えるという相関がはっきりしてきています(このことはOPTION試験に関するNEJMのCorrespondenceでも強調されています)。OPTIONでは36ヵ月までで有効性はOACと同等でしたが、リークが増えてくるのはそれ以降となる可能性があり、すると「閉じたはずの左心耳からまた血栓が…」ということが起こりえます。また、第一の問題点と逆で、DOACのような「単純化された介入(ワルファリンと比較して)」に対して、LAAOのような「より複雑な介入」はRCTよりもリアルワールドでの成績が悪くなる傾向にある、というところも気掛かりな点となります。 この領域では今回のOPTION試験のほかに、PRAGUE-17(Osmancik P, et al. J Am Coll Cardiol. 2020;75:3122-3135.)という高出血リスクのAFでLAAOとOACを直接ぶつけた試験があります(4年フォローで非劣性)。このPRAGUE-17とOPTIONで少しずつ「どういう患者群にLAAO?」というところは埋まってきていますが、オーソドックスなコメントとなりますが、より大規模・長期の試験結果を待つ必要があるかと感じます(2026年以降、CHAMPION-AF試験など本当に大きな規模のRCTの結果が公表されてくる予定です。Rationale and design of a randomized study comparing the Watchman FLX device to DOACs in patients with atrial fibrillation - ScienceDirect)。それまでは、LAAOの実施に当たっては、(1)リークのリスク、(2)DOAC最適投与と比べたときの安全性、(3)高齢化・心不全合併などリアルな患者群でのpreference、というところがカギとなるでしょう。

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『赤毛のアン』を語る【Dr. 中島の 新・徒然草】(606)

六百六の段 『赤毛のアン』を語る先日、オンラインで参加した第84回日本脳神経外科学会総会。学会ではいろいろな先進技術が紹介されていましたが、とくに仰天したのはAIを使った手術支援システム EUREKA α です。リアルタイムの手術動画で剥離層の結合組織をブルー、臓器をとりまく自律神経をグリーンで表示するもの。術者がどこを剥離すべきかを正確に表示してくれます。膨大な手術動画をもとに、どれが結合織でどれが自律神経かを教え込まれたAIが偉くなって、逆に術者に教えるようになったのでしょう。AIの得意不得意をうまく利用したやり方に感心させられました。話は変わって、先日のこと。ちょっと女房に尋ねてみました。 中島 「つかぬことを伺いますけどね」 女房 「ん?」 中島 「『赤毛のアン』って読んだことあるかな」 女房 「読んだことあるけど、中身は忘れた」 実は最近、私は勉強のために英語の小説を読んでいるのです。が、やはり児童書といえども英語で読むのは難しいのが現実。最初に挑戦した『ハリー・ポッターと賢者の石』(Harry Potter and the Philosopher's Stone)は1ページの中に知らない単語がいくつも出てくるので、読み進めるのが難しくて挫折してしまいました。この小説については、あちこちの出版社に断られた持ち込み原稿を、ブルームスベリー社の会長の8歳の娘が読んで "I think it is possibly one of the best books an eight- or nine-year-old could read."(これは8歳か9歳の子供が読むのに最適な本の一つだと思うわ)と書いた父親宛のメモが残っているそうです。そういうエピソードを知ると「オレは8歳に負けたのか!」と思わざるを得ません。で、次に挑戦したのが『赤毛のアン』(Anne of Green Gables)です。なにしろ100年以上前、日本でいえば夏目 漱石の頃の作品なので、使われている言葉も現代とはずいぶん違っており、原書を読むのは最初から諦めて、1,600語の語彙の範囲でリライトされたものに挑戦しました。が、これまた知らない単語だらけ。1,600語といえば英語圏の8~10歳の子供を対象にしているとのことで、再び私は8歳に負けてしまいました。これに懲りずに、さらに700語の語彙の範囲でのリライト版(Oxford Bookworms Library: Level 2: 700-Word Vocabulary)に挑戦。さすがに6~7歳を対象にしているだけあって、今度はストレスなく読むことができました。しかし、大学受験を経験し医学論文も読んできた私が、英語圏の6~7歳と同じ程度とは!やはり子供といえども、母国語でのリーディング能力というのは大したものです。リライト版では、とくに捻った言い回しなどは見当たらないので、難しいと感じる要素はもっぱら馴染のない英単語によるものなのでしょう。それはさておき、100年以上も全世界の読者を引き付けてきただけあって「赤毛のアン」は面白い、面白過ぎる!小学生の頃に読書少年だった私が読んでいなかったのが残念です。その内容ですが、700語版では11歳の孤児であったアンが、カスバート家の養女になったところが物語の始まり。そして、泣いたり笑ったりの生活を送ったアンが、学校を卒業する16歳頃に物語が終わります。このような話を、英語では coming-of-age story(成長物語)と呼ぶそうで、「赤毛のアン」はその典型だといえましょう。で、この話を読みながら深く感動した私は、早速ChatGPTとその素晴らしさを語り合いました。ChatGPTによれば『赤毛のアン』は非常に巧妙に子供向けの構成がされているのだとか。たとえば時系列が一直線で行ったり来たりしないこと、降りかかってきた困難をアンが解決するたびに少しずつ成長することなどです。ところが……私が最後まで読んでいないのにもかかわらず、ChatGPTから爆弾発言が!「アンは最終章でxxxという選択をします。この自己決定によって物語は成長の円を閉じるのです」とChatGPTが口を滑らせてしまったのです。思わず私は「えっ、まだ最後まで読んでいないのに。それ、ネタバレじゃん(泣)」と抗議しました。すると「うわっ、それは申し訳ありません……! 思いがけずネタバレになってしまいましたね。でも安心してください――その選択に至るまでの過程こそ、この物語の一番の醍醐味です」とか何とか。結局、巧くごまかされてしまいました。というわけで、現在の私は700語のシリーズを次々に読んでいるところ。ある程度読めるようになったら、1,000語、1,600語と少しずつ読む範囲を広げたいと思っています。子供の頃に小学校の図書館で夢中になって読んだシャーロック・ホームズとか、トム・ソーヤとか。あの時の興奮を再び新鮮な気持ちで味わえるのですから、今からわくわくしているところです。定年後の趣味にはぴったりかもしれません。よかったら読者の皆さまも挑戦してみてください。最後に1句 行く秋に 赤毛のアンを 語り合う

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ESMO2025 レポート 乳がん(転移再発乳がん編)

レポーター紹介2025年10月17~21日にドイツ・ベルリンで開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)では、3万7,000名を超える参加者、3,000演題弱の発表があり、乳がんの分野でも、現在の標準治療を大きく変える可能性のある複数の画期的な試験結果が発表された。とくに、抗体薬物複合体(ADC)、CDK4/6阻害薬、およびホルモン受容体陽性乳がんに対する新規分子標的治療に関する発表が注目を集めた。臨床的影響が大きい主要10演題を早期乳がん編・転移再発乳がん編に分けて紹介する。[目次]転移再発乳がん編ホルモン受容体陽性HER2陰性乳がん1.evERA2.VIKTORIA-1HER2陽性乳がん3.DESTINY-Breast09トリプルネガティブ乳がん4.ASCENT-035.TROPION-Breast02ホルモン受容体陽性HER2陰性乳がん1.evERA:ESR1陽性HR+/HER2-転移乳がんに対するgiredestrant(経口SERD)+エベロリムス併用療法の有効性の報告evERAは、ホルモン受容体(ER)陽性、HER2陰性の進行/転移乳がん患者に対する新規経口SERD「giredestrant(ギレデストラント)」にエベロリムス(mTOR阻害薬)併用の、対照群として医師選択の内分泌療法(エキセメスタン/タモキシフェン/フルベストラント)+エベロリムスに対する、有効性と安全性を検証した国際第III相臨床試験である。対象は、CDK4/6阻害薬による治療歴があるER陽性/HER2陰性進行/転移乳がん患者(ESR1変異陽性も含む)であった。373例が参加し、日本人患者も参加していた。ITT集団において、giredestrant+エベロリムス群の無増悪生存期間(PFS)中央値は8.77ヵ月(95%信頼区間[CI]:6.60~9.59)に対し、対照群(内分泌療法+エベロリムス)では 5.49ヵ月(95%CI:4.01~5.59)(ハザード比[HR]:0.56、95%CI:0.44~0.71、p<0.0001)であり、統計学的有意にgiredestrant群のPFSが良好であった。ESR1変異陽性サブ集団では、PFS中央値が9.99ヵ月(95%CI:8.08~12.94)に対し、対照群で5.45ヵ月(95%CI:3.75~5.62)、PFSのHR:0.38(95%CI:0.27~0.54、p<0.0001)であり、統計学的有意にgiredestrant群のPFSが良好であった。全生存期間(OS)データは未成熟だが、ITT集団ではHR:0.69(95%CI:0.47~1.00、p=0.0473)、ESR1変異陽性ではHR:0.62(95%CI:0.38~1.02、p=0.0566)と、良好な傾向であった。安全性については、giredestrant+エベロリムス併用群は、既知の薬剤プロファイルに準じた有害事象(AE)が観察され、新たな安全信号は確認されていないと報告。主要な有害事象としては、口内炎(stomatitis)、下痢、貧血など、エベロリムスでよく知られた有害事象が中心であり、giredestrantに特徴的な有害事象としてはGrade 1/2の徐脈(3.8%)であり、忍容性は良好と報告されていた。日本ではあまり積極的に使用されていないエキセメスタンなどの内分泌療法とエベロリムスの併用療法であるが、欧米ではCDK4/6阻害薬治療後の2次治療での主要な選択肢になっている。このため、evERAの結果を受けて、今後のCDK4/6阻害薬による治療で病勢進行した場合の主要な選択肢としてgiredestrantとエベロリムスが期待される結果となった。PFSとOSのトレンドとしては、ESR1変異のある症例での有効性に、ITTも引っ張られている様子で、ESR1変異のない集団では試験治療群と対照群のPFSやOSの差はほとんどない様子であった。このため、これまでのほかの経口SERD同様に、ESR1変異のある症例での承認を目指していくことと思われる。2.VIKTORIA-1:PAM経路(PI3K/AKT/mTOR)阻害によるホルモン耐性乳がんの克服VIKTORIA-1は、CDK4/6阻害薬とアロマターゼ阻害薬による治療後に進行したHR+/HER2-/PIK3CA野生型進行乳がん患者を対象とした第III相ランダム化試験である。VIKTORIA-1にはPIK3CA変異コホートもあるが、今回は報告されていない。392例の患者が、「gedatolisib(ゲダトリシブ)」(PI3K/mTORC1/mTORC2阻害薬、点滴)+パルボシクリブ+フルベストラント(3剤併用群)、gedatolisib +フルベストラント(2剤併用群)、またはフルベストラント単独群にランダム割付された。3剤併用群は、フルベストラント単独群と比較して、HR:0.24、95%CI:0.17~0.35、p<0.0001と、PFSを改善させた。PFSの中央値は3剤併用群9.3ヵ月に対してフルベストラント単独群2.0ヵ月(差:+7.3ヵ月)であった。2剤併用群は、フルベストラント単独群と比較して、HR:0.33(95%CI:0.24~0.48、p<0.0001)と、PFSを改善させた。PFSの中央値は2剤併用群7.4ヵ月に対してフルベストラント単独群2.0ヵ月であった。gedatolisibベースの治療は良好に忍容され、治療関連有害事象により中止した患者はごく少数であった。これまでも、CDK4/6阻害薬耐性HR+乳がん患者に対して、PAM経路標的化は新しい治療戦略を提供することを示唆してきた。gedatolisibの二重特異的阻害特性により、より強力な細胞周期制御と耐性機序の同時阻害が期待されるが、VIKTORIA-1の結果は、トリプレット療法がこの高度に耐性のある患者集団に対してとくに有望であることを示唆した。CDK4/6阻害薬の治療後にCDK4/6阻害薬のbeyond progressionの使用の有効性を示したpostMONARCHやMAINTAINは別のCDK4/6阻害薬からの変更が主体であったが、VIKTORIA-1で3剤併用群のパルボシクリブ併用の症例のうち約4割はパルボシクリブによる前治療歴があり、パルボシクリブのシークエンスでもある程度上乗せ効果が期待できる可能性を示唆している。また、VIKTORIA-1は日本では実施されておらず、今後はドラッグロスの1つとなる可能性が懸念される。来年度以降の1次、2次内分泌療法のシークエンス(予想)は以下のとおり。画像を拡大するHER2陽性乳がん3.DESTINY-Breast09サブグループ解析:サブグループによらずT-DXd+PERが標準治療にDESTINY-Breast09(第III相、トラスツズマブ デルクステカン[T-DXd]+ペルツズマブ[T-DXd+PER群]vs.標準療法:タキサン+トラスツズマブ+ペルツズマブ[THP群])は、ASCO2025で、すでにその主要評価項目が発表され、T-DXd+PER群のTHP群に対するPFSの優越性が検証された。今回ESMO Congress 2025では、すべてのサブグループでT-DXd+ペルツズマブがPFSを大きく延長したことが報告された。T-DXd+PER群のPFSのHRや中央値は既存標準治療を大きく上回る結果で、今後、1次治療の標準になる可能性が示された。サブグループ解析結果のまとめを以下に示す。画像を拡大するトリプルネガティブ乳がん4.ASCENT-03:PD-L1陰性のTNBCの初回治療にサシツズマブ ゴビテカンが名乗りを上げるASCENT-03は、免疫療法が適応とならないPD-L1陰性またはPD-1/PD-L1阻害薬不適格の未治療転移トリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者を対象とした第III相ランダム化試験である。558例が、サシツズマブ ゴビテカン(SG)群または化学療法(パクリタキセル、アルブミン懸濁パクリタキセル、またはゲムシタビン+カルボプラチン)群にランダム割付された。中央値13.2ヵ月のフォローアップで、PFSの中央値はSG群で9.7ヵ月、化学療法群で6.9ヵ月(HR:0.62、p<0.0001)であり、統計学的有意にPFSの改善を示した。奏効期間(DOR)の中央値はSG群で12.2ヵ月、化学療法群で7.2ヵ月で、SG群で著しく長かった。奏効率(ORR)は両群で同程度であった(48%vs.46%)。発表時点でOSデータはまだ未成熟であったが、試験としては、対照群では2次治療以降で希望者は企業提供によりSG治療のクロスオーバーが可能であった。このため、82%が2次治療以降でSGを受けたとされる。有害事象は、SG群の好中球数減少など、これまでに知られている内容から大きな違いはなかった。約40~60%の転移TNBC患者はPD-L1陰性であり、そういった患者に対するより有効な治療が期待されている。本試験結果は、現在2次治療以降で使用されているSGが初回治療の標準治療となりうる可能性を示した重要な結果であった。5.TROPION-Breast02:もう1つのADC TNBC初回治療成績TROPION-Breast02は、免疫療法が適応とならない未治療の転移・局所再発TNBC患者644例を対象に、抗TROP2 ADC「ダトポタマブ デルクステカン(Dato-DXd)」の1次治療としての有効性・安全性を主治医選択の化学療法と比較した国際第III相試験である。主要評価項目はPFSとOSであった。結果として、PFS中央値はDato-DXd群10.8ヵ月、化学療法群5.6ヵ月であり、PFSのHR :0.57(95%CI:0.47~0.69、p<0.0001)、OS中央値はDato-DXd群23.7ヵ月、化学療法群18.7ヵ月であり、OSのHR:0.79(95%CI:0.64~0.98、p=0.0291)と、いずれも統計学的有意にDato-DXd群が良好であった。ORRもDato-DXd群62.5%、化学療法群29.3%と、Dato-DXd群が良好であった。安全性としては主なGrade3以上有害事象は口内炎・粘膜炎、視覚障害であり、これまでの報告に比べて新たな有害事象報告は認めなかった。以下に、ASCENT-03とTROPION-Breast02の違いをまとめる。なお、対照群の治療内容が異なるため、奏効率も各試験で異なっている。ASCENT-03は人道的配慮から、企業が対照群の病勢進行後のSGを提供することでクロスオーバーを許容しており、OSの差が検出されづらくなっていた。一方でTROPION-Breast02はクロスオーバーが実質的に不可能であるため、OSの差が中間解析の段階で検証されたと思われる。奏効率に関しては、試験治療群の結果を見る限りでは、Dato-DXdのほうが高いように思われた。来年以降将来的には、PD-L1陽性群ではSG+ペムブロリズマブがASCENT-04に基づいて初回治療として検討され、PD-L1陰性群ではSGまたはDato-DXdが検討される時代になると想定される。その際には、SGまたはDato-DXdのいずれを優先するか、次治療で別のTROP2 ADCへのシークエンスをどうするか、HER2低発現でT-DXdへのシークエンスをどうするか、などの検討が生まれるだろう。現時点でのデータの状況であれば、SGまたはDato-DXdのいずれを優先するかについては、有害事象の違いを考慮する必要があるが、OS利益がはっきりしているDato-DXdのほうに分があるように思われる。画像を拡大する終わりに今回のESMO Congress2025では、数多くのランダム化第III相試験の結果が報告され、実臨床を大きく変える研究結果が報告された。各試験の限界や問題点を考慮しつつ、来年以降の標準治療のあるべき姿と、生まれてきた新たなクリニカルクエスチョンに関して、創出すべきエビデンスを考えていきたいと思う。

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ESMO2025 レポート 泌尿器がん

レポーター紹介2025年10月17~21日に、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)がドイツ・ベルリンで開催され、後の実臨床を変えうる注目演題が複数報告された。虎の門病院の竹村 弘司氏が泌尿器がん領域における重要演題をピックアップし、結果を解説する。ここ数年、泌尿器腫瘍領域の薬物治療における重要な研究成果はESMOで報告されることが多く、ESMO2023ではEV-302試験、ESMO2024ではNIAGARA試験の結果が報告されたことが記憶に新しい。いずれも大きな話題となり、本邦においてもこれらの臨床試験の結果が今日の日常臨床を変えた。ESMO2025では、泌尿器領域から4演題がPresidential Symposiumに採択された。いずれも近い将来の日常臨床や治療開発の方向性を変える可能性のある臨床試験である。本レポートでは、これら4演題の内容についての詳細を解説する。(表)ESMO2025 GU領域の注目演題のQuick Check画像を拡大する[目次]1.【膀胱がん】LBA22.【膀胱がん】LBA83.【前立腺がん】LBA64.【尿路上皮がん】LBA7【膀胱がん】LBA2Perioperative (periop) enfortumab vedotin (EV) plus pembrolizumab (pembro) in participants (pts) with muscle-invasive bladder cancer (MIBC) who are cisplatin-ineligible: The phase 3 KEYNOTE-905 study1.背景筋層浸潤性膀胱がん(MIBC)の標準治療はシスプラチンを含む術前化学療法後の根治的膀胱全摘除術(RC)であるが、腎機能障害や併存疾患のためにシスプラチン不適格となる患者が約半数を占める。このような患者群に対しては (周術期化学療法なしの)膀胱全摘術が現在の標準治療であるが、再発率が高く、予後が悪い。本試験(KEYNOTE-905)は、シスプラチン不適格または拒否例のMIBC患者を対象に、EV+ペムブロリズマブ(以下EVP療法)による周術期化学療法の有効性および安全性を検証した第III相無作為化比較試験である。2.試験デザインデザイン多施設共同、第III相、無作為化比較試験対象シスプラチン不適格または拒否したMIBC患者治療:治療EVP群:EVP療法3コース後に膀胱全摘術、術後にEV 6コース、ペムブロリズマブ14コース対照群(標準治療/膀胱全摘術±リンパ節郭清のみ)主要評価項目無イベント生存期間(EFS)副次評価項目全生存期間(OS)、病理学的完全奏効率(pCR)、安全性など3.結果EVP群170例、対照群174例に無作為割り付けされた。観察期間中央値は25.6ヵ月(範囲:11.8~53.7)。EVP群の患者の年齢中央値は74.0歳(範囲:47~87)であり、75歳以上の高齢者は45.9%含まれていた。ECOG PS 0が60%、男性が80.6%であった。シスプラチン不適格例が83.5%、拒否例が16.5%であった。病期別ではT2N0が17.6%、T3/T4が78.2%、N1症例が4.1%であった。両群間で背景に大きな差はなかった。主要評価項目であるEFS中央値はEVP群で未到達、対照群で15.7ヵ月であり、ハザード比(HR)は0.40(95%信頼区間[CI]:0.28~0.57、p<0.0001)と、EVP群で有意なリスク低減が認められた。12ヵ月時点のEFS率は77.8%vs. 55.1%、24ヵ月時点では74.7%vs.39.4%であった。EFS改善効果は事前に設定されたサブグループ解析でも一貫しており、年齢、性別、PS、PD-L1発現、腎機能などにかかわらずEVP群で良好であった。OS中央値は、EVP群で未到達、対照群で41.7ヵ月であり、HR:0.50(95%CI:0.33~0.74、p=0.0002)とEVP群で有意な生存延長を認めた。12ヵ月時点での生存率は86.3%vs.75.7%、24ヵ月時点で79.7%vs.63.1%であった。pCR率は57.1%vs.8.6%(95%CI:39.5~56.5、p<0.000001)であった。本試験において、pCRは手術検体における腫瘍残存なし(pT0N0)と定義されており、手術未施行例は非奏効(non-responder)として解析されている。周術期EVP療法の安全性プロファイルは既報の進行期尿路上皮がん(UC)治療での報告とおおむね一致し、新たな安全性シグナルは認められなかった。また、本併用療法は根治的手術施行率を低下させなかったことも示された。4.結論周術期EVP療法は、シスプラチン不適格または拒否したMIBC患者において、EFS、OS、pCR率を有意に改善した。手術実施率への悪影響はなく、安全性も許容範囲内であった。本試験は、MIBCに対する周術期治療としてEVP療法が新たな標準治療となる可能性を初めて示した第III相試験である。5.筆者コメントEVP療法はすでに転移を有する再発UCの領域でパラダイムシフトを起こしており、予想はしていたが、KEYNOTE-905試験もpositiveな結果であった。文句なくpractice changeであるが、今後検証・確認しないといけないこととして以下が挙げられる。シスプラチン適格の患者を対象に、シスプラチンベースのレジメンと比較してもEVPが優れるかどうか。→EV-304試験の結果が待たれる。術後のEVP療法は全例に必要なのか。→術後EVP、ペムブロリズマブのみ、経過観察のみ、の3群比較ではどうなるか。今後リアルワールドデータの報告なども待たれる。周術期にEVが合計9コース投与されるため、末梢神経障害も懸念される。周術期EVP療法におけるctDNAステータスを絡めた探索的解析の結果が待たれる。【膀胱がん】LBA8IMvigor011: a Phase 3 trial of circulating tumour (ct)DNA-guided adjuvant atezolizumab vs placebo in muscle-invasive bladder cancer1.背景MIBCの術後アテゾリズマブ療法の有効性を検証したランダム化第III相試験であるIMvigor010試験はnegative studyであったが、探索的研究でctDNAが予後予測因子であることに加えてアテゾリズマブの効果予測因子であることが示唆された。そのような背景から、ctDNA-guided selectionされたコホートにおけるアテゾリズマブの有効性を検証したのがIMvigor011試験である。IMvigor011試験は、MIBC患者のうち術後ctDNAが陽性であるコホートのみを対象としたアテゾリズマブ術後療法の有効性を評価したランダム化第III相試験である。2.試験デザインデザイン多施設共同、第III相、無作為化比較試験対象膀胱全摘術後6〜24週以内のMIBC(pT2-T4aN0M0またはpT0-T4aN+M0)。術前化学療法の実施は許容された。介入:介入6週ごとのctDNA評価、12週ごとの画像評価を実施。ctDNA陽性→アテゾリズマブ(1,680mg IV 4週ごと×最大1年)vs.プラセボ(2:1)ctDNA陰性→無治療・経過観察群主要評価項目治験医師評価の無病生存期間(DFS)副次評価項目OS3.結果登録患者756例(ctDNA陽性:379例、ctDNA陰性:377例)。このうち、ctDNA陽性例250例がランダム化(アテゾリズマブ:167例、プラセボ:83例)。患者の年齢中央値は69歳(範囲:42~87)、ほぼ全例がECOG PS 0~1であった。病理学的ステージはpT3/4が約7割、リンパ節転移陽性が約6割であった。初回ctDNA評価で陽性判定されたのは約6割、フォローアップ中のctDNA評価で陽性判定されたのは約4割であった。主要評価項目である治験医師評価のDFS中央値は、アテゾリズマブ群9.9ヵ月、プラセボ群4.8ヵ月であり、HR:0.64(95%CI:0.47~0.87、p=0.0047)と統計学的に有意にアテゾリズマブ群が良好であった。12ヵ月DFS率は44.7%vs.30.0%、24ヵ月DFS率は28.0%vs.12.1%であった。OSは32.8ヵ月vs.21.1ヵ月(HR:0.59、95%CI:0.39~0.90、p=0.0131)であり、24ヵ月時点のOS率は62.8%vs.46.9%と、アテゾリズマブ群で明確な上乗せ効果を示した。なお、1年間のctDNAフォロー期間においてctDNA陰性で経過したコホートでは、24ヵ月時点のDFSは88.4%、OSは97.1%で無イベントで経過していた。4.結論ctDNAガイド下アテゾリズマブ術後療法は、ctDNA陽性のMIBC患者においてDFSおよびOSを有意に改善した。非選択集団で有効性を示せなかったIMvigor010試験と異なり、ctDNAを用いた層別化戦略により免疫療法の効果を享受できるコホートを抽出することができる可能性が示唆された。5.筆者コメントMIBCの術後化学療法において、ctDNAをベースとした免疫チェックポイント阻害薬による治療戦略を構築することに成功した重要な臨床試験である。周術期における免疫チェックポイント阻害薬を含む治療の有効性を検証している他の大規模比較試験においても同様の傾向がみられるか、今後再現性の評価も重要である。一方で、ctDNA陽性の場合、介入群でも多くの患者が再発しており、今後このコホートに対するより強度の高い治療の有効性が検証されるべきであると感じた。【前立腺がん】LBA6Phase 3 trial of 177Lu-PSMA-617 combined with ADT + ARPI in patients with PSMA-positive metastatic hormone-sensitive prostate cancer (PSMAddition)1.背景177Lu-PSMA-617は、VISION試験において転移を有する去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)に対する生存延長効果を示した。PSMAddition試験は、ホルモン感受性転移を有する前立腺がん(mHSPC)を対象に、177Lu-PSMA-617をアンドロゲン除去療法(ADT)+アンドロゲン受容体経路阻害薬(ARPI)に併用する有効性と安全性を検証した第III相無作為化試験である。2.試験デザインデザイン国際多施設共同、無作為化、第III相試験対象PSMA PET/CTで陽性のmHSPC男性(ECOG PS 0~2)介入群177Lu-PSMA-617(7.4GBq 6週ごと×最大6コース)+ADT+ARPI対照群ADT+ARPI無増悪確認後のクロスオーバー許可(BIRC評価)主要評価項目画像評価による無増悪生存期間(rPFS)副次評価項目全生存期間(OS)などESMO2025ではrPFSの第2回中間解析、OSの第1回中間解析の結果が発表された。3.結果1,529例がスクリーニングされ、PSMA陽性1,232例のうち1,144例が無作為化割り付け(177Lu-PSMA-617群572例、対照群572例)された。年齢中央値68歳(範囲:36~91歳)、70歳以上が43%、ECOG PS 0~1が97%以上であった。high volumeが68%、de novo症例が52.1%を占めた。使用ARPIはアビラテロン37.6%、アパルタミド32.9%、エンザルタミド22.1%、ダロルタミド6%であった。主要評価項目であるrPFS中央値は両群とも未到達であったが、HR:0.72(95%CI:0.58~0.90、p=0.002)と統計学的有意差をもって併用群で改善がみられた。事前に設定されたサブグループ(年齢、腫瘍量、PSA値、PSなど)によらず、一貫して併用群が優位であった。OSは中間解析時点で未到達(HR:0.84、95%CI:0.63~1.13、p=0.125)ながら、併用群で生存延長傾向を示した。その他の主要な副次評価項目の結果は以下のとおりである。奏効率(ORR) 85.3%vs.80.8%(CR:57.1%vs.42.3%)PSA進行までの期間 HR:0.42(95%CI:0.30~0.59)48週時点でのPSA<0.2ng/mL達成率 87.4%vs.74.9%mCRPCへの進行時間 HR:0.70(95%CI:0.58~0.84)有害事象(AE)は既知の177Lu-PSMA-617関連毒性とおおむね一致しており、主な毒性プロファイルを以下に示す。Grade≧3 AE 50.7%vs.43.0%177Lu-PSMA-617群でみられた主なAE:口渇(45.7%)、疲労(34.8%)、悪心(34.2%)、便秘(17.9%)、食欲低下(14.4%)、嘔吐(13.8%)、下痢(12.2%)、味覚異常(11.9%)。血液毒性:貧血(28%)、好中球減少(14.7%)、血小板減少(11.2%)と軽度の骨髄抑制がみられたが、治療関連死亡はなし。4.結論177Lu-PSMA-617をADT+ARPIに併用することにより、PSMA陽性mHSPCにおけるrPFSを有意に改善し、主要評価項目を達成した。OSは未成熟ながら改善傾向を示しており、副次評価項目(PSA応答、mCRPC進行時間など)も一貫して併用群が優れていた。安全性は既知の範囲内で、新たな毒性シグナルは認められなかった。5.筆者コメントcontrol armがARPI doubletであり、現在の標準治療に一致した治療が行われている。PFS benefitがあることは今回の結果で判明したが、OSの長期フォローアップデータが気になるところである。本邦ではmCRPCに対する177Lu-PSMA-617が保険承認されたが、日常臨床で広く利用可能になるには、まだまだ時間がかかりそうである。【尿路上皮がん】LBA7Disitamab vedotin (DV) plus toripalimab (T) versus chemotherapy (C) in first-line (1L) locally advanced or metastatic urothelial carcinoma (la/mUC) with HER2-expression1.背景これまでに、HER2陽性UCに対して、HER2抗体薬物複合体(ADC)であるdisitamab vedotin(DV)が有効性を示し、さらに抗PD-1抗体toripalimab(T)との併用は前治療歴を問わずORR76%、PFS中央値9.3ヵ月と有望な結果が報告されている。RC48-C016試験は、未治療のHER2発現(IHC 1+以上)局所進行または転移を有するUCを対象に、DV+T併用療法の1次治療における有効性と安全性を化学療法と比較した第III相試験である。2.試験デザインデザイン中国で実施された多施設共同、オープンラベル、無作為化第III相試験対象切除不能局所進行または転移を有するHER2 IHC 1+/2+/3+ UC、ECOG 0~1介入群(DV+T群)DV(2.0mg/kg)+T(3.0mg/kg)併用療法対照群(化学療法群)シスプラチンまたはカルボプラチン+ゲムシタビン主要評価項目BIRC評価によるPFSおよびOS副次評価項目治験医師評価PFS、ORR、奏効期間(DOR)、安全性など3.結果811例がスクリーニングされ、484例が無作為化割り付けされた。年齢中央値66歳、ECOG 0~1が97%以上であった。HER2発現はIHC 1+が22.6%、IHC 2+/3+は77.4%であった。内臓転移あり、上部尿路原発、シスプラチン適格性ありの患者は、いずれも半分程度であった。PFS中央値はBIRC評価でDV+T群13.1ヵ月vs.化学療法群6.5ヵ月であり、HR:0.36(95%CI:0.28~0.46、p<0.0001)と統計学的に有意にDV+T群で良好であった。12ヵ月PFS率は54.5%vs.16.2%であった。すべての事前に設定されたサブグループ(HER2発現、PD-L1、臓器転移、年齢、PS)で一貫した有効性を示した。OSはDV+T群31.5ヵ月vs.化学療法群16.9ヵ月(95%CI:14.6~21.7)であり、HR:0.54(95%CI:0.41~0.73、p<0.0001)と統計学的に有意にDV+T群で良好であった。ランドマークOSは12ヵ月OS率79.5%vs.62.5%、18ヵ月64.6%vs.48.1%であった。ORRは76.1%vs.50.2%(CR:4.5%vs.1.2%)、DoR中央値は14.6ヵ月vs.5.6ヵ月であり、DV+T群で良好な傾向にあった。化学療法群の64.7%が後治療を受け、そのうち40.2%が抗HER2療法、50.2%がPD-1/PD-L1阻害薬を使用していた。DV+T群では27.2%が後治療を受けており、主に殺細胞性抗がん剤による治療であった。安全性についてのプロファイルは以下のとおりである。治療関連有害事象(TRAE):DV+T群98.8%、化学療法群100%Grade≧3 TRAE:55.1%vs.86.9%主なAEトランスアミナーゼ上昇(43~49%)、貧血(42%)、末梢神経障害(18%)、発疹(21%)など免疫関連AE18.9%がGrade≧3、重篤な毒性増加はなし治療中止率12.3%vs.10.4%総じてDV+T併用は化学療法より有害事象が少なく、許容可能な安全性を示した。4.結論RC48-C016試験は、HER2発現mUCにおいて、抗HER2 ADCと抗PD-1抗体の併用が化学療法と比較して有効性を示した初めての第III相試験である。DV+T療法は1次治療HER2陽性進行尿路上皮がんの新たな標準治療候補として位置付けられる。5.筆者コメント本試験はHER2発現1+以上が参加可能となっており、今後プラクティスで使用可能となった場合は適格性を有する患者の割合はそれなりに多いことが想定される。本試験は中国のみで実施されたPhaseIIIであるが、SGNDV-001試験(DV+ペムブロリズマブのPhaseIII)でも同様の有効性が実証されるか、結果が期待される。HER2発現UCの1次治療として今後標準治療に組み込まれることが期待され、EV+ペムブロリズマブ療法との使い分けなど、今後検討が必要となる。直接比較はできないが、DVは比較的毒性がマイルドである可能性があり、プラクティスを大きく変化させる可能性がある。また、DV後のEV(またはEV後のDV)といったADC製剤の逐次的治療のデータなどの蓄積も今後期待される。

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第36回 1日5,000歩で認知機能の低下が遅れる可能性、「歩行」と「タウ」の意外な関係

「認知症予防のために運動が良い」ということは、多くの人が耳にしたことがあるでしょう。とくにアルツハイマー病のリスク要因のうち、運動不足は自らの力で改善できる(修正可能な)重要な要素の一つとされています。しかし、「具体的にどれくらい歩けばいいのか?」「運動が脳の中で一体何をしているのか?」という核心的な部分は、これまでハッキリとはわかっていませんでした。 この疑問に対し、一つの答えを示す研究が、医学誌Nature Medicine誌に発表されました1)。この研究は、従来の曖昧な自己申告による運動量ではなく、「歩数計」で客観的に測定した歩数と、最新の脳画像診断(PET検査)を組み合わせています。その結果、アルツハイマー病の進行を遅らせるために必要な「歩数の目安」と、運動が脳を守る「メカニズム」が、具体的にみえてきました。脳に「アミロイド」が溜まった人ほど、歩く効果は絶大この研究は、ハーバード大学加齢脳研究に参加した、認知機能が正常な296人の高齢者(50~90歳)を対象に行われました。参加者は研究開始時に歩数計を7日間装着し、1日の平均歩数を測定されました。その後、最大14年間にわたり、毎年認知機能テストを受け、定期的に脳のPETスキャンでアルツハイマー病の原因物質とされる「アミロイドβ(Aβ)」と「タウタンパク質」の蓄積量を追跡しました。そして、分析の結果、興味深い事実が判明しました。それは、「歩く」ことによる認知機能低下の抑制効果は、研究開始時点ですでに脳内にAβが溜まっていた人(つまり、アルツハイマー病の初期段階)においてのみ、顕著にみられたのです。脳がきれいな状態(Aβが溜まっていない)の人では、歩数と将来の認知機能低下との間に明確な関連は見られませんでした。つまり、「歩く」という行為は、すでに病気のリスクを抱えている人にとって、認知症の発症を遅らせる強力な「防御因子」として働いていたのです。研究報告によると、Aβが溜まっている人が3,001~5,000歩程度歩くだけでも、座りがちな人(3,000歩以下)に比べて認知機能の低下が平均で約3年遅くなり、5,001~7,500歩歩く人では、低下が平均で約7年も遅くなる可能性が示されました。歩行がブレーキをかけるのは「タウ」の蓄積では、なぜ歩くことが認知機能の低下を遅らせるのでしょうか? 多くの人が「運動がAβの蓄積を減らすのではないか」と考えるかもしれません。しかし、今回の研究結果で、歩数(身体活動)は、Aβの蓄積量とは無関係であることが示されました。よく歩く人でも、歩かない人でも、脳内のAβは同じように蓄積し続けたのです。では、何が違ったのか? それは「タウタンパク質」でした。Aβが溜まっている人において、よく歩く人ほど、タウタンパク質が脳に蓄積するスピードが有意に遅かったのです。アルツハイマー病は「Aβが引き金となり、タウが実行犯となって神経細胞を壊す」という流れで進行すると考えられています。今回の研究は、Aβという「引き金」がすでに引かれてしまっている人でも、「歩く」ことによって「タウ」という実行犯の暴走にブレーキをかけられる可能性を示したのです。そして、この「タウの蓄積を遅らせる効果」こそが、認知機能の低下を遅らせる主な理由であることも示されました。目標は1万歩でなくて良いこの研究が示すもう一つの重要なメッセージは、必要な歩数の目標値です。健康のために「1日1万歩」という目標がよく掲げられますが、高齢者にとってこれはかなりハードルの高い目標です。しかし、今回の研究では、認知機能の低下やタウの蓄積を遅らせる効果は、1日の歩数が「5,001~7,500歩」の範囲で頭打ち(プラトー)になることが示されました。それ以上、たとえば1万歩歩いても、追加の効果はあまりみられなかったのです。さらに言えば、最も活動量が少ない「非活動的」なグループ(1日3,000歩以下)と比較した場合、その次の「低活動」グループ(1日3,001~5,000歩)でも、認知機能低下の速度は有意に遅くなっていました。この結果は、座りがちな生活を送っている高齢者にとって、「まずは5,000歩を目指す」という、より現実的で達成可能な目標が、認知症予防の観点からも重要であることを示しています。研究の限界と今後の課題この研究は強力なデータを提供するものですが、いくつかの限界点も理解しておく必要があります。第一に、これは「観察研究」であり、因果関係を完全に証明するものではありません。「歩くからタウが減った」のではなく、「タウが溜まり始めている人は、症状に出ないまでも活動性が低下し、結果的に歩数が減った」(逆の因果関係)という可能性を完全には否定できません。ただし、研究チームは、研究開始時点で認知機能に差がなかったことや、さまざまな統計的調整を行うことで、その可能性は低いとしています。第二に、歩数は研究開始時点でのみ測定されており、長期間の活動量の変化は追跡されていません。また、歩数計では水泳やサイクリング、筋力トレーニングといった「歩行以外」の運動や、運動の「強度」は測定できていません。第三に、研究参加者は主に高学歴の白人であり、この結果がより多様な人種や社会的背景を持つ人々にも当てはまるかどうかは、さらなる検証が必要です。とはいえ、これらの限界を考慮しても、客観的な歩数計のデータと長期的な脳のPET検査を組み合わせて、「適度な身体活動(1日5,000歩程度)が、Aβリスクを持つ人のタウ蓄積を遅らせ、認知機能低下を抑制する」という具体的なメカニズムを示唆した意義は大きいと思います。「Aβが陽性の座りがちな人」を対象に運動介入を行うことの重要性を示す、力強いエビデンスとなるでしょう。 参考文献・参考サイト 1) Yau WYW, et al. Physical activity as a modifiable risk factor in preclinical Alzheimer’s disease. Nat Med. 2025 Nov 3. [Epub ahead of print]

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水分摂取量が日本人の認知症リスクに及ぼす影響

 適切な水分摂取は、高齢者の認知機能の維持に不可欠である。しかし、水分摂取量の促進を推奨する前に、解決しなければならない課題が残存している。まず、水分摂取量と認知機能の改善との関係は線形であるのか、そしてもう1つは、この関連性を媒介する根本的なメカニズムは何かという点である。これらの課題を解決するため、北海道・北斗病院の保子 英之氏らは、日本人高齢者を対象に、水分摂取量が認知症リスクに及ぼす影響を検討した。PloS One誌2025年10月6日号の報告。 対象は、高齢者向け介護施設に入所し、看護を受けている日本人高齢者33例。水分摂取量は、日常的な臨床診療の一環として記録した。認知機能は、入所期間中にミニメンタルステート検査日本語版(MMSE-J)を用いて2回評価した。さらに、超音波検査を用いて左右の総頸動脈の血流を測定し、約82.6±14.9日の間隔で評価した。除脂肪体重(LBM)当たりの水分摂取量、MMSE-Jスコアの変化、超音波検査パラメーター間の関係は、ノンパラメトリックブートストラップ法を用いたスピアマンの線形相関分析により解析した。 主な結果は以下のとおり。・相関分析の結果、1日当たりの水分摂取量が42mL/LBM(kg)未満の場合、水分摂取量とMMSE-Jスコア改善との間に正の線形相関が認められた(p[FDR]=0.012)。・さらに、水分摂取量は右総頸動脈の抵抗指数と負の相関が認められ(p[FDR]=0.046)、脳血行動態の変化が示唆された。 本研究の主な限界として、臨床上の制約により、施設入所前の水分摂取量や水分状態を評価できなかったこと、観察研究であるため、水分摂取量、認知機能の変化、脳血流パラメーター間の因果関係を推論できないことが挙げられる。 著者らは「適度な水分摂取は、認知機能改善と線形の関連が認められており、この効果は、脳血行動態により媒介される可能性が示唆された」としている。

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進行扁平上皮NSCLCの1次治療、ivonescimab併用がICI併用と比較しPFS改善(HARMONi-6)/Lancet

 未治療の進行扁平上皮非小細胞肺がん(NSCLC)患者において、ivonescimab+化学療法はチスレリズマブ+化学療法と比較して、PD-L1の発現状態を問わず無増悪生存期間(PFS)を有意に改善させ、安全性プロファイルは管理可能なものであった。中国・上海交通大学のZhiwei Chen氏らが、同国50病院で実施した第III相無作為化二重盲検比較試験「HARMONi-6試験」の結果で示された。扁平上皮NSCLCは非扁平上皮NSCLCと比べて臨床アウトカムが不良で、治療選択肢は限られている。今回の結果を踏まえて著者は、「本レジメンは扁平上皮NSCLC患者集団における1次治療として使用できる可能性がある」とまとめている。Lancet誌2025年11月1日号掲載の報告。臨床病期(IIIB/IIIC期vs.IV期)、PD-L1発現(TPS≧1%vs.<1%)で層別化 HARMONi-6試験では、進行扁平上皮NSCLC患者に対する1次治療として、ivonescimab+化学療法(ivonescimab群)の有効性と安全性をチスレリズマブ+化学療法(チスレリズマブ群)と比較した。対象は、年齢18~75歳、未治療・切除不能な病理組織学的に確認されたStageIIIB/IIICまたはStageIVの扁平上皮NSCLCで、ECOG PSスコア0または1の患者とした。 被験者は、ivonescimab群またはチスレリズマブ群に1対1の割合で無作為に割り付けられ、ivonescimab(20mg/kg)またはチスレリズマブ(200mg)+パクリタキセル(175mg/m2)およびカルボプラチン(AUC 5mg/mL/分)をいずれも静脈内投与で3週ごとに4サイクル受けた後、維持療法としてivonescimab(20mg/kg)またはチスレリズマブ(200mg)の単独療法を受けた。臨床病期(IIIB/IIIC期vs.IV期)、PD-L1発現(TPS≧1%vs.<1%)によって層別化された。 主要評価項目は、無作為化された全被験者におけるPFS(RECIST v1.1に基づく独立画像判定委員会判定)であった。また、安全性(治療に関連した有害事象および重篤な有害事象ならびに免疫またはVEGF阻害に関連した有害事象と定義)は、割り付け治療の試験薬を少なくとも1回投与された全被験者を対象に解析が行われた。PFS中央値はivonescimab群11.1ヵ月、チスレリズマブ群6.9ヵ月 2023年8月17日~2025年1月21日に761例が適格性についてスクリーニングを受け、532例(70%)が試験に登録・無作為化された(ivonescimab群266例、チスレリズマブ群266例)。ベースライン特性は両群間でバランスが取れており、被験者は、ほとんどが現在または元喫煙者で(92%と86%)、両群ともPD-L1 TPS<1%は39%であった。 データカットオフ日の2025年2月28日時点で、ivonescimab群で162例(61%)、チスレリズマブ群で134例(50%)が割り付け治療を継続していた。追跡期間中央値は10.3ヵ月(95%信頼区間[CI]:9.5~11.0)で、PFS中央値は、ivonescimab群11.1ヵ月(95%CI:9.9~評価不能)、チスレリズマブ群6.9ヵ月(5.8~8.6)であった(ハザード比[HR]:0.60、95%CI:0.46~0.78、片側p<0.0001)。ivonescimab群のPFS改善、PD-L1発現状態にかかわらず ivonescimab群におけるPFSベネフィットは、PD-L1の発現状態にかかわらず一貫して認められた(TPS≧1%群のHR:0.66[95%CI:0.46~0.95]、<1%群:0.55[0.37~0.82])。 ivonescimab群で170例(64%)、チスレリズマブ群で144例(54%)にGrade3以上の治療関連有害事象が認められ、ivonescimab群で24例(9%)、チスレリズマブ群で27例(10%)にGrade3以上の免疫関連有害事象が認められた。Grade3以上の治療関連出血は、ivonescimab群で5例(2%)、チスレリズマブ群で2例(1%)に認められた。

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心房中隔欠損に対する閉鎖栓、生体吸収性vs.金属製/JAMA

 経皮的心房中隔欠損(ASD)閉鎖術に用いる閉鎖栓について、生体吸収性閉鎖栓は金属製閉鎖栓に対して非劣性であり、2年でほぼ完全に分解されたことが、中国・Chinese Academy of Medical Sciences and Peking Union Medical CollegeのWenbin Ouyang氏らによる多施設共同非盲検非劣性無作為化試験の結果で示された。ASD閉鎖術に使用される永久的な金属製閉鎖栓は、晩期合併症のリスクと関連しており、左房へのアクセスの妨げとなる。生体吸収性閉鎖栓は、これらの課題に対処できる可能性を有しているが、これまで無作為化試験での検証は行われていなかった。JAMA誌オンライン版2025年10月23日号掲載の報告。中国の10病院で非劣性を評価 研究グループは、経皮的ASD閉鎖術における有効性と安全性を基に、生体吸収性閉鎖栓は金属製閉鎖栓に対し非劣性であるかどうかを評価した。2021年5月8日~2022年8月3日に中国の10病院で被験者(二次孔型ASD)が登録され、経皮的ASD閉鎖術に生体吸収性閉鎖栓を用いる群または金属製閉鎖栓を用いる群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、6ヵ月時点におけるASD閉鎖成功率。閉鎖成功は、残存シャント径2mm以下の手技成功と定義し、経胸壁心エコーで評価した。また、2年の追跡調査時点で、両群のASD閉鎖成功率およびデバイス関連有害事象を比較し、生体吸収性閉鎖栓の分解プロファイルを評価した。2年の追跡調査期間は2024年9月に終了した。生体吸収性閉鎖栓の非劣性を確認、2年時点の分解率は約99.8% 230例が無作為化された(生体吸収性閉鎖栓群116例、金属製閉鎖栓群114例)。このうち生体吸収性閉鎖栓群の1例は大腿静脈径が小さく、229例(年齢中央値:14.1歳[四分位範囲:7.0~37.3]、女性68%)に留置が試みられた。 6ヵ月時点のASD閉鎖成功率は、生体吸収性閉鎖栓群96.5%(111/115例)、金属製閉鎖栓群97.4%(111/114例)であった(群間差:-0.8%ポイント、95%信頼区間:-5.0~3.7、非劣性のp<0.001)。 2年時点のASD閉鎖成功率(生体吸収性閉鎖栓群94.8%[109/115例]vs.金属製閉鎖栓群96.5%[110/114例]、p=0.75)、デバイス関連有害事象(2.6%[3/115例]vs.3.5%[4/114例]、p=0.72)について、両群間で統計学的に有意な差はみられなかった。 2年時点の生体吸収性閉鎖栓の分解率は約99.8%であった。

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HER2変異陽性NSCLCに対するゾンゲルチニブを発売/ベーリンガーインゲルハイム

 日本ベーリンガーインゲルハイムは「がん化学療法後に増悪したHER2(ERBB2)遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺(NSCLC)」の適応で、厚生労働省より製造販売承認を取得したゾンゲルチニブ(商品名:ヘルネクシオス)を2025年11月12日に発売した。ゾンゲルチニブは、同適応症に対する分子標的薬として、国内初の経口薬となる。 HER2遺伝子変異は、NSCLC患者の約2~4%に認められるとされており、非喫煙者や女性、腺がんで多くみられる。また、HER2遺伝子変異陽性のNSCLCは予後不良であり、脳転移のリスクも高いことが知られている。 ゾンゲルチニブは、野生型EGFRを阻害せず、HER2のチロシンキナーゼドメイン以外の変異(HER2 exon20挿入変異など)を含む広範なHER2変異体に対して阻害活性を有するHER2選択的チロシンキナーゼ阻害薬である。また、共有結合型の不可逆的な結合様式を有する。 ゾンゲルチニブの承認の根拠となった国際共同第I相非盲検用量漸増試験「Beamion LUNG-1試験」1)では、既治療のNSCLC患者における奏効率は71%(完全奏効率7%、部分奏効率64%)であり、病勢コントロール率は96%であった。最も多く報告された有害事象はGrade1の下痢(48%)であり、治験薬との因果関係のあるGrade3以上の有害事象の発現割合は17%であった。<製品概要>販売名:ヘルネクシオス60mg錠一般名:ゾンゲルチニブ製造販売承認日:2025年9月19日薬価基準収載日:2025年11月12日効能又は効果:がん化学療法後に増悪したHER2(ERBB2)遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺用法及び用量:通常、成人には、ゾンゲルチニブとして1日1回120mgを経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する。製造販売元:日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社

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野菜くずを捨ててはいけない――捨てる部分は思っている以上に役立つ可能性

 これまで食卓に上ることなく捨てられてきた、野菜の皮や芯などの「野菜くず」が、近い将来、食糧生産の助けになったり、人々の健康のサポートに使われたりする可能性のあることが、新たな研究で示された。米化学会(ACS)が発行する3種類の学術誌に掲載された4報の研究論文で科学者らは、テンサイのパルプからココナッツの繊維に至るまで、幅広い食品廃棄物を農業および栄養源の貴重な素材として利用する方法を提案している。 「Journal of Agricultural and Food Chemistry」に9月15日に掲載された研究によると、テンサイ(サトウダイコン)のパルプ(砂糖を抽出した後に残る副産物)が、化学合成農薬の代替品として使える天然素材である可能性が示された。研究者らは、パルプに豊富に含まれているペクチンという繊維を、小麦の一般的な病気である「うどんこ病」に対する抵抗力を高める働きを持つ炭水化物に変えることに成功した。この方法を用いることで、合成農薬の散布量を減らすことができるという。 「ACS Omega」に9月13日に掲載された別の研究では、ヤスデによってココナッツ繊維の分解を促すことで作り出す資材が、植物の苗を育成させる際に必要な苗床の資材として広く使われているピートモスの代替になり得ることが報告された。ピートモスは脆弱な生態系から採取される希少性の高い資材で、採取に伴う環境負荷が懸念されている。新たに開発された資材は、ピーマンの苗の育成において、ピートモスと同等の性能を持つことが示された。研究者らは、この資材の利用によって、地下水の保全に重要な役割を果たすピートの使用量を減らすことができ、種苗生産の持続可能性向上に寄与できるのではないかと述べている。 1番目の報告と同じ「Journal of Agricultural and Food Chemistry」に、9月1日に掲載された別の論文では、使わずに捨てられることの多いダイコンの葉は、人々が普段食べている根よりも栄養価が高い可能性が報告されている。食物繊維および抗酸化作用を持つ生理活性物質などを豊富に含むダイコンの葉が、試験管内の研究や動物実験において、腸内細菌叢の健康をサポートすることが確認された。これらの結果から、将来的にはダイコンの葉を、腸の健康を促進する食品やサプリメントの開発に活用できる可能性があるという。 さらに、「ACS Engineering Au」に9月10日に掲載された4番目の論文では、やはり廃棄されることの多い、ビートの葉に含まれる栄養素の保存に焦点を当てている。この研究では、抗酸化作用を有するビートの葉の抽出物を、特殊な乾燥処理でマイクロ粒子として、微小なカプセルのように加工し、化粧品や食品、医薬品に利用する技術の開発が進められている。このような加工によって、抽出物の安定性を高め、かつ有効性も高められるという。

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街路樹の多さは歩行者の転倒を防ぐ?

 街路樹は、木の成長に伴い根が隆起して歩道を押し上げ(いわゆる根上がり)、歩行者がつまずいて転倒する危険性を高める。そのため、訴訟リスクへの懸念から植樹運動に消極的な建物所有者もいる。しかし新たな研究で、街路樹が多い地域ほど歩行者の転倒事故が少なく、街路樹が転倒防止に役立つ可能性が示唆された。米コロンビア大学メイルマン公衆衛生大学院教授のAndrew Rundle氏らによるこの研究結果は、「American Journal of Epidemiology」に10月14日掲載された。 Rundle氏は、「歩道関連の負傷は、公衆衛生上の大きな負担となっている。屋内での転倒は個人の健康要因と関連付けられることが多いのに対し、屋外での転倒は環境条件に左右される。この研究結果は、樹木が周囲の気温を下げることで転倒リスクを軽減する可能性があることを示唆している」と同大学のニュースリリースの中で述べている。 この研究では、緊急医療サービス(EMS)のデータを用いて、樹冠被覆率(ある土地の面積に対して木の枝や葉が覆っている面積の割合)と歩行者の転倒の発生場所との関連を調べる多都市・位置情報に基づくケースコントロール研究を実施できるかが検討された。調査対象は、2019年4月から9月の間にEMSが転倒事故で負傷した歩行者に対応した497地点と、対照として転倒事故が発生しなかった994地点とした。 その結果、転倒発生地点の樹冠被覆率の中央値は8%であるのに対し、対照地点は14%であり、樹冠被覆率が高いと転倒が発生する確率は低くなることが示された(調整オッズ比0.57、95%信頼区間0.45〜0.74)。 研究グループは、「われわれの知る限り、本研究は、樹冠被覆率と歩行者の転倒との間の逆相関関係を示す2番目の研究だ。これら2件の研究における樹冠被覆率の転倒防止効果は、最終的には樹木の気温を下げる効果により説明できる可能性がある。というのも、近年の文献では、気温の上昇が屋外での転倒リスクを高めることを示唆しているからだ」と述べている。 では、なぜ高温が転倒リスクを高めるのか。研究グループは、「高温は、人体の生理機能に悪影響を及ぼすだけでなく、道路や歩道の表面を劣化させる。高温によりアスファルトが軟化し、歩道の舗装材がずれて転倒の危険を生じさせる」と説明している。その上で研究グループは、「木陰はその危険性を軽減する可能性がある」と述べるとともに、「歩くことは健康にさまざまな恩恵をもたらすが、この研究結果は、都市の緑がおそらく周辺環境を冷却することで歩行者の安全性に寄与している可能性を示す新たなエビデンスとなるものだ」との見方を示している。 Rundle氏は、「今後の研究では、樹冠の冷却効果がどのように転倒リスクに直接影響するのかを調べるべきだ」と話している。

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尿検査+SOFAスコアでコロナ重症化リスクを早期判定

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のオミクロン株の多くは軽症だが、重症化する一部の患者をどう見分けるかは医療現場の課題だ。今回、東京都内の病院に入院した842例を解析した研究で、尿中L型脂肪酸結合蛋白(L-FABP)とSOFA(Sequential Organ Failure Assessment score)スコアを組み合わせた事前スクリーニングが、重症化リスク判定の精度を高めることが示された。研究は国立国際医療センター腎臓内科の寺川可那子氏、片桐大輔氏らによるもので、詳細は9月11日付けで「PLOS One」に掲載された。 世界保健機関(WHO)が2020年3月にCOVID-19のパンデミックを宣言して以来、ウイルスは世界中に広がり、変異株も多数出現した。現在はオミクロン株の亜系統が主流となっており、症状は多くが軽症にとどまる一方、一部の患者は酸素投与や入院を必要とし、死亡する例も報告されている。そのため、感染初期の段階で重症化リスクを予測する方法の確立が求められている。 著者らは以前、L-FABPの測定がCOVID-19重症化予測に有用であることを示したが、症例数が少なく、他の指標との併用は検討されていなかった。そこで本研究では、COVID-19患者の入院前スクリーニングとして、L-FABP値と血液検査から多臓器の機能障害を評価するSOFAスコアを組み合わせ、重症化リスクのある患者を特定する併用アプローチの有用性を評価した。 本研究は単施設の後ろ向き観察研究で、2020年1月29日から2022年4月6日までに国立国際医療センターに入院したCOVID-19陽性患者842名を対象とした。L-FABP値とSOFAスコアは、入院時および入院7日目に評価した。人工呼吸器管理を要した患者、または入院中に死亡した患者を「重症」と定義し、酸素療法を受けるが人工呼吸器を必要としない患者を「中等症」、それ以外を「軽症」と分類した。主目的は、入院時のL-FABP値から7日目の重症度を予測できるかどうかを評価することである。さらに、入院時のL-FABP値とSOFAスコアの予測性能を検討するため、ROC(受信者動作特性)曲線解析を実施した。 入院時の重症度分類は軽症536名、中等症299名、重症7名であった。入院中に32名が死亡した。入院7日目には、入院時中等症だった55名が軽症に改善する一方で、重症患者は7名から34名に増加した。解析対象患者全員のL-FABP値を入院時と入院7日目の2時点でプロットし、疾患重症度の経過を可視化したところ、入院時にL-FABP値が高かった患者の一部は、軽症から中等症、あるいは中等症から重症へと進行していた。同様に、SOFAスコアでも、入院時にスコアが高かった患者は7日後に重症化する傾向が認められた。 次にROC曲線解析を行い、L-FABP値とSOFAスコアの組み合わせが、重症例および重症・中等症例の識別にどの程度有効かを評価した。L-FABP値はカットオフ値11.9で重症例を特定する感度が94.1%と高く、SOFAスコアの82.4%を上回り、効果的なスクリーニングツールとなる可能性が示された。さらに、L-FABP値(AUC 0.81)とSOFAスコア(AUC 0.90)を組み合わせると、重症例検出のAUCは0.92に上昇した。このAUCの向上は、SOFAスコア単独との比較では統計学的に有意ではなかったが、L-FABP値単独との比較では有意であった(P<0.001)。一方、重症・中等症例の検出においては、L-FABP値(AUC 0.83)とSOFAスコア(AUC 0.83)の組み合わせによりAUCは0.88となり、いずれか単独の指標よりも有意にAUCを向上させた(それぞれP<0.001)。 著者らは、本予測モデルにさらなる検証と改良が必要と指摘しつつ、「まず低侵襲な尿検査でL-FABP値を測定し、低リスクの患者は不要な入院を回避する。次にL-FABP値が高い患者を対象にSOFAスコアで重症化リスクを精査し、入院が必要な患者を特定する。これにより、不要な入院の削減や重症化リスクの早期把握が期待され、医療資源の効率的な配分にもつながる」と述べ、二段階のスクリーニング戦略を提案している。

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