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2025年の米国臨床腫瘍学会(ASCO 2025)で発表されたCHALLENGE試験は、大腸がん術後患者に対する構造化運動プログラムが生存期間を延長することを示し、NEJM誌に同時掲載されるなど大きな注目を集めた。 CHALLENGE試験では、StageIIIまたは高リスクStageIIの大腸腺がんで切除術を受け、術後補助化学療法を完了した患者を対象に、標準的な経過観察と健康教育資料の提供のみを受ける群、健康教育資料+3年間の構造化運動プログラム(structured exercise program:SEP)を受ける運動群に1対1の割合で割り付けた。主要評価項目である無病生存期間(DFS)は運動群で有意に改善(ハザード比[HR]:0.72)し、全生存期間(OS)も有意に改善(HR:0.63)した。この結果を受け、SEPはNCCNおよびESMOガイドラインに採用された。 今年の米国臨床腫瘍学会(2026 ASCO Annual Meeting)では、本試験の費用対効果解析の結果が報告された。Odette Cancer Centre (カナダ・トロント)のKelvin K. Chan氏による発表において、3年間のSEPは、生存期間を延長するだけでなく医療費削減にもつながり、高い費用対効果を示すことが報告された。今回の解析結果はJournal of Clinical Oncology誌に同時掲載された。 今回の費用対効果解析は、試験開始前から計画されていた副次解析であり、試験参加者全員 (n=889) から前向きに収集されたデータを使用して実施された。カナダの公的医療保険制度の視点から、運動プログラムと対照群を比較し、増分費用、質調整生存年(QALY)、増分費用効用比(ICER)を算出した。主な費用にはSEPの実施費用、再発または新規原発がんの管理費用、薬剤費、入院費が含まれた。不確実性はブートストラップ解析(1,000サンプル)によって評価した。 主な結果は以下のとおり。・3年間のSEP導入に伴う費用は、患者1人当たり2,917カナダドル(約33.5万円、1カナダドル=115円換算)であった。しかし、再発や新規がんに対する治療費および薬剤費の減少によって相殺され、SEP群の総医療費は3万1,957ドル(約367万円)で、対照群よりも1,589ドル(約18万円)低かった。さらにSEP群は生命年(LY)が0.05年、QALYが0.10増加した。すなわちSEPは費用を削減しながら治療効果を高める「dominant strategy(優越戦略)」と評価された。・ブートストラップ解析では、SEPは53%の反復で「費用を削減しながら効果を高める」優越戦略と判定された。また、1QALY当たり5万ドルを費用対効果の閾値とした場合、80%で費用対効果が認められた。・10年間の長期シナリオ解析では、SEP群のコスト削減額は3,938ドル(約45万円)に拡大した。・労働生産性損失を加味した社会的視点からの解析でも、増分費用効用比(ICUR)は1QALY当たり4,405ドル(約51万円)ときわめて良好な値を示した。 発表後のディスカッションにおいて、Alan P. Venook氏(米国・カリフォルニア大学)は、本試験の臨床的意義を強調した。同氏は、CHALLENGE試験が大きな反響を呼んだ背景には、薬剤ではなく運動介入によって生存利益を示した点にあるとし、SEPによる8年OS改善率7.1%は、FOLFOXによる術後補助化学療法を確立したMOSAIC試験における長期OS改善率8.1%に匹敵すると指摘した。また、「患者は診察室で必ず『自分にできることはあるか』と尋ねる。運動はその問いに対するエビデンスに基づいた回答である」とも述べた。 今回の費用対効果解析により、CHALLENGE試験が示した生存利益に加え、運動介入が医療システムにとっても合理的な投資であることが裏付けられた。多くの新規抗がん薬が高額な医療費を伴うなか、SEPは生存延長と医療費削減を同時に実現し得る介入となる。今後は日本においても、運動療法をどのように日常診療へ実装するか、また保険償還の枠組みをどう整備するかが課題となりそうだ。