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心房細動患者に対するapixaban vs. ワルファリン

心房細動患者の脳卒中または全身性塞栓症のイベント抑制効果について検討された「ARISTOTLE」試験の結果、新規経口直接Xa阻害薬apixabanはワルファリンと比較して、同イベント発生を約2割低下し、予防に優れることが明らかにされた。大出血発生については約3割低く、全死因死亡率は約1割低かった。ワルファリンに代表されるビタミン拮抗薬は、心房細動患者の脳卒中の予防に高い効果を示すが、一方でいくつかの限界もあることが知られる。apixabanについては、これまでにアスピリンとの比較で、同等の集団において脳卒中リスクを抑制したことが示されていた。米国・デューク大学医療センターのChristopher B. Granger氏を筆頭著者とする、NEJM誌2011年9月15日号(オンライン版2011年8月28日号)掲載報告より。18,201例を対象とした国際多施設共同無作為化二重盲検試験ARISTOTLE(Apixaban for Reduction in Stroke and Other Thromboembolic Events in Atrial Fibrillation)試験は、39ヵ国1,034施設から登録された1つ以上の脳卒中リスクを有する心房細動患者18,201例を対象に行われた、国際多施設共同無作為化二重盲検試験であった。被験者は無作為に、apixaban投与群(5mgを1日2回)かワルファリン投与群(目標INR:2.0~3.0)に割り付けられ、中央値1.8年の間追跡された。主要アウトカムは、脳梗塞、脳出血、全身性塞栓症のいずれかの発生とされた。試験は非劣性を検討するようデザインされ、副次評価において主要アウトカムに関する優位性、大出血や全死因死亡に関する優位性が検討された。主要アウトカム発生について、apixaban群の非劣性、優位性が認められる結果、主要アウトカムの発生は、apixaban群1.27%/年、ワルファリン群1.60%/年、ハザード比0.79(95%信頼区間:0.66~0.95)で、apixaban群の非劣性(p<0.001)、優位性(p=0.01)が認められた。大出血の発生は、apixaban群2.13%/年、ワルファリン群3.09%/年、ハザード比0.69(同:0.60~0.80)で、apixaban群の優位性が認められた(p<0.001)。全死因死亡についても、apixaban群3.52%/年、ワルファリン群3.94%/年、ハザード比0.89(同:0.80~0.99)で、apixaban群の優位性が認められた(p=0.047)。また、脳出血の発生は、apixaban投与群0.24%/年に対し、ワルファリン群0.47%/年(ハザード比:0.51、95%CI:0.35~0.75、p<0.001)、脳梗塞または病型不明の脳卒中発生については、apixaban群0.97%/年、ワルファリン群1.05%/年(ハザード比:0.92、95%CI:0.74~1.13、p=0.42)であった。(朝田哲明:医療ライター)

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頭蓋内動脈狭窄症に対するPTAS vs. 積極的薬物治療

頭蓋内動脈狭窄症患者に対するステント治療と積極的薬物治療とを比較検討した試験「SAMMPRIS」の結果、積極的薬物治療単独のほうが予後が優れることが明らかになった。検討されたのはWingspanステントシステム(米国ボストンサイエンス社製)を用いた経皮的血管形成術・ステント留置術(PTAS)であったが、その施術後の早期脳梗塞リスクが高かったこと、さらに積極的薬物治療単独の場合の脳梗塞リスクが予測されていたより低かったためであったという。PTASは、脳梗塞の主要な原因であるアテローム硬化性頭蓋内動脈狭窄症の治療として施術が増えているが、これまで薬物療法との無作為化試験による比較検討はされていなかった。米国・南カリフォルニア大学のMarc I. Chimowitz氏を筆頭著者とする、NEJM誌2011年9月15日号(オンライン版2011年9月7日号)掲載報告より。頭蓋内動脈狭窄症患者451例を積極的薬物治療単独群とPTAS併用群に無作為化SAMMPRIS(Stenting and Aggressive Medical Management for Preventing Recurrent Stroke in Intracranial Stenosis)試験は、米国神経疾患・脳卒中研究所(NINDS)から資金提供を受けた50施設から登録された、直近の一過性脳虚血発作または主要頭蓋内動脈径の70~99%狭窄を原因とする脳梗塞患者を対象とした無作為化試験であった。被験者は、積極的薬物治療単独群(アスピリン、クロピドグレル、各種降圧薬、rosuvastatinなどによる)か、積極的薬物治療に加えてPTASを併用する群に割り付けられ前向きに追跡された。主要エンドポイントは、「試験登録後30日以内の脳梗塞または死亡」「追跡調査期間中に施行された適格病変部位への血管再生処置後30日以内の脳梗塞または死亡」「30日超での適格動脈領域における脳梗塞」とした。積極的薬物治療単独群がPTAS併用群を上回る好成績本試験は、脳梗塞または死亡の30日発生率が、PTAS併用群14.7%(非致死的脳梗塞12.5%、致死的脳梗塞2.2%)、薬物治療単独群5.8%(非致死的脳梗塞5.3%、脳梗塞と関連しない死亡0.4%)となったため(P=0.002)、無作為化された被験者数451例(PTAS併用群224例、薬物治療単独群227例)で登録中止となった。追跡期間は11.9ヵ月であった(2011年4月28日現在)。事前予想では、主要エンドポイントの評価には追跡期間2年が必要と推定していた。また過去の同様の試験結果からPTAS併用群の主要エンドポイント発生は29%、一方、薬物治療単独群の同発生は24.7%とそれぞれ推定し、必要被験者数各群382例と試算して試験をデザインされていた。追跡調査は、本論発表現在も続けられているという。30日超での適格動脈領域における脳梗塞は、両群ともに13例の発生であった。1年時点の主要エンドポイントのイベント発生率は、PTAS併用群20.0%に対し薬物治療単独群は12.2%で、時間経過とともに有意に異なっていた(P=0.009)。(朝田哲明:医療ライター)

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戸田克広先生「「正しい線維筋痛症の知識」の普及を目指して! - まず知ろう診療のポイント-」

1985年新潟大学医学部卒業。現在、廿日市記念病院リハビリテーション科勤務。2001年1月~2004年2月までアメリカ国立衛生研究所に勤務した際、線維筋痛症に出会い、日本の現状を知る。帰国後、線維筋痛症を中心とした中枢性過敏症候群などの治療にあたっている。日本線維筋痛症学会評議員。著書に『線維筋痛症がわかる本』(主婦の友社)。線維筋痛症の現状先進国の線維筋痛症(fibromyalgia : FM)の有病率はわずか2%だが、グレーゾーンを含めると約20%になる。そのため、患者数が多いと予想される。また、先進国や少なくない非先進国ではFMは常識だが、日本ではまだよく知られていない。この疾患特有の愁訴を訴える患者さんを、プライマリ・ケア医や勤務医が診察する機会が多いと予測される。今回、FMの標準的な診療について、正しく理解していただくために診療のサマリーと診療スライドを公開させていただく。よりよい治療成績を求めることが臨床医の努めと考えているので、是非実践していただきたい。線維筋痛症の疫学・病態画像を拡大する腰痛症や肩こりから慢性局所痛症(chronic regional pain: CRP)や慢性広範痛症(chronic widespread pain: CWP)を経由してFMは発症するが、それまで通常10~20年かかる(図1)。FMの有病率は先進国では約2%、FMを含むCWPの有病率は約10%、CRPの有病率はCWPのそれの1-2倍である*1。FMの原因は不明だが、中枢神経の過敏状態(中枢性過敏)が原因であるという説が定説である*1。中枢性過敏によって起こった中枢性過敏症候群(central sensitivity syndrome)にはうつ病、不安障害、慢性疲労症候群、むずむず脚症候群などが含まれるが、FMはその代表的疾患である(図2)。画像を拡大する女性がFM患者の約8割を占める。未就学児にも発生するが、絶対数としては30歳代~60歳代が多数を占める。線維筋痛症の症状全身痛、しびれ、疲労感、感覚異常(過敏や鈍麻)、睡眠障害、記憶力や認知機能の障害などいわゆる不定愁訴を呈する。中枢性過敏症候群に含まれる疾患の合併が多い。痛みや感覚異常の分布は神経分布とは一致せず、痛みやしびれの範囲は移動する。天候が悪化する前や月経前後に症状がしばしば悪化する。症状の程度はCRP<CWP<FMとなる(図1)。線維筋痛症の検査・診断(2012年1月30日に内容を更新)画像を拡大する圧痛以外の他覚所見は通常存在せず、理学検査、血液検査、画像検査も通常正常である。従来はアメリカリウマチ学会(ACR)による1990年の分類基準(図3)が実質的に唯一の診断基準となっていたが、2010年(図4)*2と2011年*3に予備的診断基準が報告された。ACRが認めた2010年の基準は臨床基準であり、医師が問診する必要がある。ACRが現時点では認めていない2011年の基準は研究基準であり、医師の問診なしで患者の回答のみでも許容されるが、患者の自己診断に用いてはならない。2011年の基準は2010年の基準とほぼ同じであるが、「身体症状」が過去6カ月の頭痛、下腹部の痛みや痙攣、抑うつの3つになった。共に「痛みを説明できる他の疾患が存在しない」という条件がある*2、*3。1990年の分類基準は廃止ではなく、使用可能である*2、*3。CRPやCWPにFMと同じ治療を行う限り、FMの臨床基準には存在意義がほとんどない。どの診断基準がどのくらいの頻度で、どのように使用されるのかは現時点では不明である。画像を拡大する1990年の分類基準によると、身体5カ所、つまり、左半身、右半身、腰を含まない上半身、腰を含む下半身、体幹部(頚椎、前胸部、胸椎、腰部)に3カ月以上痛みがあり、18カ所の圧痛点を約4kgで圧迫して11カ所以上で患者が「痛い」といえば他にいかなる疾患が存在しても自動的にFMと診断される*1(図3)。つまり、圧痛以外の理学検査、血液検査、画像検査の結果は、診断基準にも除外基準にもならない。通常、身体5カ所に3カ月以上痛みがあれば広義のCWPと、CWPの基準を満たさないが腰痛症のみや肩こりのみより痛みの範囲が広い場合にはCRPと診断される。FMとは異なり他の疾患で症状が説明できる場合には、通常CRPやCWPとは診断されない。~~ ここまで2012年1月30日に内容を更新~~従来の基準を使う限り、FMには鑑別疾患は存在しないが、合併する疾患を見つけることは重要である。従来、身体表現性障害(疼痛性障害、身体化障害)、心因性疼痛、仮面うつ病と診断されたかなりの患者はCRP、CWP、FMに該当する。線維筋痛症の治療(2012年7月24日に内容を更新)画像を拡大する世界ではCWPに対して通常FMと同じ治療が行われており、CRPやCWPにFMと同じ治療を行うとFM以上の治療成績を得ることができる*1。FMの治療は肩こり、慢性腰痛症、慢性掻痒症、FM以外の慢性痛にもしばしば有効である。他の疾患を合併している場合、一方のみの治療をまず行うのか、両方の治療を同時に行うのかの判断は重要である。FMの治療の基本は薬物治療と非薬物治療の組み合わせである。非薬物治療には認知行動療法、有酸素運動、減量、禁煙(受動喫煙の回避を含む)、人工甘味料アスパルテームの摂取中止*4が含まれる(図5)。鍼の有効性の根拠は弱く高額であるため、週1回合計5回行っても一時的な効果のみであれば、中止するか一時的な効果しかないことを了解して継続すべきである。薬物治療の基本は一つずつ薬の効果を確認することである。一つの薬を少量から上限量まで漸増する必要がある。効果と副作用の両面から最適量を決定し、それでも不十分な鎮痛効果しか得られなければ次の薬を追加する。上限量を1-2週間投与しても無効であれば漸減中止すべきで、上限量を使用せず無効と判断してはならない。メタ解析や系統的総説により有効性が示された薬はアミトリプチリン〔トリプタノール〕、ミルナシプラン〔トレドミン〕、プレガバリン〔リリカ〕、デュロキセチン〔サインバルタ〕である*1、4。二重盲検法により有効性が示された薬はガバペンチン〔ガバペン〕、デキストロメトルファン〔メジコン〕、トラマドールとアセトアミノフェンの合剤〔トラムセット配合錠〕などである*1、4。ノルトリプチリン〔ノリトレン〕は体内で多くがアミトリプチリンに代謝され、有効性のエビデンスは低いが実際に使用すると有効例が多い。ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液〔ノイロトロピン〕、ラフチジン〔プロテカジン〕は対照群のない研究での有効性しか示されていないが、有効例が多く副作用が少ない。抗不安薬はFMに有効という証拠がないばかりか常用量依存を引き起こしやすいため、鎮痛目的や睡眠目的で使用すべきではない*1、4。また、ステロイドが有効な疾患を合併しない限りステロイドはFMには有害無益である*1。非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)は通常無効であるが、個々の患者では有効なことがある。個々の薬物の有効性のレベルは文献*1、4を参照していただきたい。論文上の効果や副作用、私自身が経験した効果や副作用、費用の点を総合的に考慮した私の個人的な優先順位は〔ノイロトロピン〕、アミトリプチリン、デキストロメトルファン、ノリトレン、メコバラミンと葉酸の併用、イコサペント酸エチル、ラフチジン、ミルナシプラン、ガバペンチン、デュロキセチン、プレガバリンである。これには科学的根拠はないが、薬物治療が単純になる。不都合があれば各医師が優先順位を変更すればよい。日本のガイドラインにも科学的根拠がないことはガイドラインに記載されている*5。筋付着部炎型にステロイドやサラゾスフファピリジン〔アザルフィジン〕が推奨されているが、それらはFMに有効なのではなくFMとは別の疾患に有効なのである。肺炎型FMに抗生物質を推奨することと同じである。線維筋痛症の治療成績画像を拡大する2007年4月の時点で3カ月以上私が治療を行った34人のFM患者のうち薬物を中止できた人は5人(15%)、痛みが7割以上改善した人が4人(12%)、痛みが1割以上7割未満改善した人が17人(50%)、不変・悪化の人が8人(24%)であった*1。CRPやCWPにFMとまったく同じ治療を行えば、有意差はないがFMよりはよい治療成績であった*1(図6)。※〔 〕内の名称は商品名です文献*1 戸田克広: 線維筋痛症がわかる本. 主婦の友社, 東京, 2010.*2 Wolfe F, Clauw DJ, Fitzcharles MA et al: The American College of Rheumatology preliminary diagnostic criteria for fibromyalgia and measurement of symptom severity. Arthritis Care Res (Hoboken) 62: 600-610, 2010. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20461783*3 Wolfe F, Clauw DJ, Fitzcharles MA et al: Fibromyalgia Criteria and Severity Scales for Clinical and Epidemiological Studies: A Modification of the ACR Preliminary Diagnostic Criteria for Fibromyalgia. J Rheumatol 38: 1113-1122, 2011. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21285161*4 戸田克広: エビデンスに基づく薬物治療(海外の事例を含む). 日本線維筋痛症学会編, 線維筋痛症診療ガイドライン2011. 日本医事新報, 東京, 2011; 93-105.*5 西岡久寿樹: 治療総論. 日本線維筋痛症学会編, 線維筋痛症診療ガイドライン2011. 日本医事新報, 東京, 2011; 82-92.質問と回答を公開中!

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戸田克広 先生の答え

麻薬の使用法治療としていわゆる麻薬はどのような状況、症状の時に使うべきなのでしょうか。また、投与中止はどのようにおこなうべきでしょうか。非性慢性痛に麻薬を使用することは依存を引き起こすのではないかと危惧する意見があります。しかし、痛みがある患者さんに適切に使用する限りは、依存は起こらないと考えられています。後者の仮説には明確なデータはないため麻薬の使用は慎重におこなうべきです。しかし、適切な治療を1年以上おこなっても鎮痛効果が不十分な場合や、初診時に激烈な痛みがあり、自殺の恐れがある場合には麻薬を使用してもよいと思います。喫煙者などの物質依存者や約束を守らない人格と判断される場合には麻薬を使用しないことが望ましいと思います。モルヒネには「天井効果がないため上限量はない」という考えもありますが、「200mg / 日を超える場合にはさらに十分な評価が必要」という意見もあります。ペインクリニック専門医ではない場合には200mg / 日を超えるモルヒネは査定される可能性が高いという非公式の制度があるため注意が必要です。ブプレノルフィン、ペンタゾシンは使用すべきではありません。トラマドール塩酸塩〔トラムセット〕またはコデイン、モルヒネ、フェンタニル〔デュロテップパッチ〕の順で使用することが一般的です。モルヒネは薬価が高いため、1回量が20mgになれば薬価の安い散剤にした方が良いと思います。麻薬が有効な場合、その他に有効な薬を見つけて麻薬を減量または中止する努力が必要です。減量とは1回量の減量であって、投与間隔を延長してはいけません。モルヒネであれば1回量を2-4週間ごとに10mgずつ減量し、痛みが悪化すれば再び増量することが望ましいと思います。※〔 〕内の名称は商品名です 中枢性過敏についてこの概念と定義はどなたが提唱したものなのでしょう。概念をもう少し詳しくお聞かせください。御多忙中とは存じますが、どうぞ宜しくお願いいたします。Woolfが中枢性過敏(central sensitization: CS)を提唱しました。CSにはさまざまな定義があります。Woolfは「侵害受容刺激により中枢の侵害受容経路のシナプス効果と興奮性が長期間ではあるが可逆的に増加すること」と定義していますが、国際疼痛学会は「正常あるいは閾値下の求心性入力に対する中枢神経系内の侵害受容ニューロンの反応性の増加」と定義しています。私は次のように考えています。侵害受容性疼痛や末梢性神経障害性疼痛という痛み刺激のみならず、精神的ストレスなどの刺激が繰り返し脳に送られ続けると、中枢神経に機能障害が起こってしまいます。機能障害ではなく器質的障害なのかもしれませんが、現時点の医学レベルではよくわかっていません。中枢神経に機能障害が起こるとさまざまな刺激に対して過敏になり、痛みを感じない程度の刺激が中枢神経に入っても痛みを感じさせてしまいます。また、中枢神経に起こった機能障害の部位そのものが痛みなどの症状の原因になる、つまり機能障害の部位から痛みなどの情報が流れてしまうと推測しています。一方、Yunusが中枢性過敏症候群(central sensitivity syndrome: CSS)を提唱しました。CSSの主な原因はCSと推測されています。CSは主に痛みに関する理論ですが、CSSには痛みを主訴とするFM以外にも、慢性疲労症候群、異常感覚を主訴とするむずむず脚症候群、化学物質過敏症、うつ病、外傷後ストレス障害なども含まれます。CSSの代表疾患の一つがFMなのです。CSは日本でも知られていますが、CSSはFM以上に日本では知られていません。CSSに含まれる疾患は定まっていません。不安障害、皮膚掻痒症、機能性胃腸障害、更年期障害、慢性広範痛症、慢性局所痛症などもCSSに含まれると私は考えています。(日本医事新報No4553, 84-88, 2011)FMの症状について口の中が痛くて、硬いものがかめない症状や、下肢痛があり車や電車に乗ると悪化するような症状はFMに該当するでしょうか?口の症状はFMの症状です。FMでは身体のどこにでもアロジニア(通常痛みを引き起こさない程度の刺激により痛みが起こること)が起こります。口腔内にそれが起これば、硬いものをかめない症状が生じます。口の症状のみがある場合には舌痛症と診断すべきかもしれませんが、舌痛症はFMの部分症状と考えることも可能です。自動車や電車に乗ると下肢痛が悪化すると訴えるFM患者を私は知りませんが、FMの症状と考えても矛盾はありません。FMでは、歩行時より下肢を動かさない状態の時に痛みが強い場合が多いからです。自動車や電車に乗ると下肢痛が悪化する場合には、むずむず脚症候群の可能性もあります。むずむず脚症候群では歩行時よりも安静時に下肢のむずむず感が強くなるため、自動車や電車に乗るとそれが強くなる場合があります。むずむず感などの違和感を痛みと表現する患者さんもいます。FMとむずむず脚症候群はしばしば合併するため注意が必要です。者の性差について患者で女性が8割を占める理由について病態の解明は進んでおりますでしょうか。現在わかっている範囲でお教えください。FMの原因は脳の機能障害という説が定説ですが、厳密にはわかっていません。そのため、女性が8割を占める理由も当然わかっていません。FMの原因解明が進めば、その理由もわかるのではないかと期待しています。FMを含むFMよりも広い概念の慢性広範痛症においては双子を用いた研究により半分が遺伝要因、半分が環境要因と報告されています。性ホルモンはFMに影響を及ぼす要因の一つと考えられています。ただし、性ホルモンは遺伝子により大きな影響を受けるため、性ホルモンの差と遺伝子の差を厳密に区別することは困難です。なお、FM患者の中で女性と男性でどちらの症状が強いかに関しては、男女差はないという報告、女性の症状が強いという報告、男性の症状が強いという報告があり、何ともいえません。治療選択について非薬物療法を患者さんが選択し、希望する場合、一番効果的なものはどれでしょうか。先生の私見でも結構ですのでご教示願えますか。非薬物療法の中では禁煙、有酸素運動、認知行動療法、温熱療法、減量、患者教育が有用です。激しい受動喫煙を含めた喫煙者では、禁煙が一番有効と考えていますが、非喫煙者では有酸素運動が一番有効と考えています。患者本人の喫煙継続は論外ですが、間接受動喫煙防止のため配偶者には禁煙、その他の家族には屋外喫煙が必要です。有酸素運動は、技術や人手が不要、安価で、誰でもできるという長所があるため、非喫煙者では最も有効と考えています。散歩や水中歩行のみならずヨガ、太極拳も有効です。歩行すると痛みが悪化する人では、深呼吸で代用も可能です。安静が有効な場合もありますが、これは痛みが起こらない程度の安静を保つことを意味するのであって、過度な安静は逆に有害です。痛みに対する認知行動療法は、論文上有効なのですが、実際に何をすれば良いのかよくわからないこと、適切な治療を行う施設が少ないこと、費用が高いことが欠点です。欧米を中心にしたインターネットによる調査では約8%の人しか認知行動療法を受けておらず、患者さんが自己評価した有効性もあまりよくありませんでした。温熱療法には、温泉療法、温水中の訓練、遠赤外線サウナ、近赤外線の照射などが含まれます。FMは心因性疼痛ではなく、恐らく脳の機能障害が原因であろうことの説明や痛いときには無理をしないことの説明などが患者教育です。星状神経節ブロックを含む交感神経ブロックが有効という根拠はありません。対照群のない研究では鍼は有効なのですが、適切な対照群のある研究では鍼の有効性が証明されていません。交感神経ブロックも鍼も、5回行って一時的な鎮痛効果しかなければ、それ以上継続しても一時的な効果しかないと私は考えています。トリガーポイントブロックの長期成績は不明です。非薬物治療は組み合わせて行うことが望ましく、さらに言えば、非薬物治療は薬物治療と併用することが望ましいと報告されています。線維筋痛症の患者とうつ病同症の患者では精神疾患(特にうつ病)を併発されている方も多いと聞きます。その場合のケアと薬剤の処方のポイントについてご教示ください。抑うつ症状あるいはうつ病に痛みが合併した場合、痛みはうつ病の一症状であるという理論は捨てる必要があります。痛みと、抑うつや不安症状は対等の症状と見なすことが重要です。FMとうつ病(または不安障害)が合併した場合、当初はより重症な症状のみを治療することをお勧めします。一方の症状がある程度軽減した後に、他方の症状を治療した方が治療は容易です。抗うつ作用がまったくない薬で痛みが軽減しても、抑うつ症状が軽減することはありふれたことです。しかし、両症状とも強い場合には、両方を同時に治療せざるを得ないこともあります。その場合には抑うつ症状に対する治療と、痛みに対する治療は分けた方がよいと思います。SSRIと短期間の抗不安薬を抑うつ症状に対する治療と考え、その他の薬は痛みに対する治療と考えた方がよいと思います。三環系抗うつ薬とSNRIは抑うつにも痛みにも有効ですが、痛みのみに有効と見なし、抑うつがついでに軽減すれば「儲け物」という程度に考えた方がよいと思います。なお、三環系抗うつ薬では鎮痛効果を発揮する投与量より抗うつ効果を発揮する投与量の方が多いのですが、SNRIでは両効果を発揮する投与量は同程度です。SSRIも痛みに対する薬も通常漸増する必要があります。それらを同日投与や同日増量すると副作用が生じた場合に、原因薬物の特定が困難になる場合があります。そのため、投与開始や増量は少なくとも中2日は空けたほうがよいと思います。抗不安薬は、SSRIが抗うつ効果や抗不安効果を発揮するまでの一時しのぎとして抗不安薬を使用すべきです。抗不安薬を半年以上投薬する場合には、転倒や骨折の増加、運動機能の低下、理解力の低下、認知機能の低下、抑うつ症状の悪化、新たな骨粗鬆症の発症、女性での死亡率の増加を説明する必要があります。抗不安薬を半年以上使用すると常用量依存が起こりやすく、その場合中止が困難になります。薬物療法とガイドライン解説の中で薬物療法について「ガイドラインでは科学的根拠がない」と記されていますが、近々に発表される、または欧米のものが翻訳される見込みはございますか。教えていただける範囲でお願いします。「線維筋痛症のガイドライン」は、アメリカ、ドイツ、ヨーロッパ、カナダ、スペインから発表されています。日本語に翻訳されて発表される見込みは現在不明です。日本のガイドラインの改訂版は今後発表される予定ですが、いつになるのか未定です。アメリカ、ドイツ、ヨーロッパのガイドラインは各治療方法の有効性のエビデンスを記載しています。カナダのガイドラインはエッセイ様式です。スペインと日本のガイドラインはサブグループに分けています。スペインのガイドラインは修正デルフィ法(参加者の匿名のアンケートとそれに対する評価を繰り返し一つの結論を出す方法)によりGieseckeらの分類方法を採用しています。日本のガイドラインの最大の特徴はFMをサブグループに分けて、サブグループごとに治療方法を変える点です。世界では、FMのサブグループ分けは多くの研究者により行われています。痛み、抑うつ状態などのさまざまな指標により得られたデータによりサブグループ分けが行われていますが、報告により異なるサブグループに分けられています。ただし、日本のガイドラインに含まれる「筋付着部炎型」は私が知る限り、報告された分類方法のどのサブグループにも存在しません。また、前回と今回の日本のガイドラインでは同じサブグループの推奨薬物が異なっていますが、その変更の根拠が記載されていません。「分類の根拠、およびサブグループごとに推奨する薬物が異なる根拠は論文化されていない」由が、今回のガイドラインに記載されています。日本のガイドラインでは各執筆者は自分自身の執筆した部分のみに責任を持つことも特徴の一つです。睡眠薬との関連痛みがひどくて眠れない患者さんに睡眠薬を処方することもあるかと思います。その場合、注意する点などご教示ください。FMに限らず、痛みのために不眠の患者さんの睡眠改善目的にまず処方する薬は、睡眠薬ではなく鎮痛薬です。もちろん非ステロイド性抗炎症薬ではなく神経障害性疼痛に対する鎮痛薬です。鎮痛薬が主で、睡眠薬は従の関係です。当初は睡眠薬を処方せず、鎮痛薬を私は処方しています。三環系抗うつ薬、ガバペンチン〔ガバペン〕、プレガバリン〔リリカ〕は鎮痛効果が強い上に、眠気の副作用が強いのでその副作用を睡眠改善に使用することも可能です。しかし、眠気の副作用がほとんどないワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液〔ノイロトロピン〕やデキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物〔メジコン〕により痛みが改善すれば、結果的に睡眠が改善することもあります。FMの不眠に有効な睡眠薬はゾピクロン〔アモバン〕、ゾルピデム酒石酸塩〔マイスリー〕ですが、副作用報告の少ないゾピクロンを私は優先使用しています。FMの睡眠障害に対して抗不安薬を使用することは避けるべきです。常用量依存を作りやすいからです。特に、作用時間が短く抗不安作用が強いため常用量依存を作りやすいエチゾラム〔デパス〕を睡眠薬として使用することは避けるべきです。※〔 〕内の名称は商品名です。日本での患者数わが国における患者の推定数はどのくらい見積もられておりますでしょうか、また、欧米の患者数、人種差、性差なども合わせてお教え下さい。日本における地域住民の有病率は約1.7%と報告されていますが、その報告には調査人数や具体的な調査方法が記載されていません。今後、科学的根拠の高い日本人の有病率が世界に知られることを期待しています。日本の病院敷地内での女性就労者の2.0%、男性就労者の0.5%がFMと報告されています。アジア、欧米を中心とした報告によるとFMの有病率は約2%、そのグレーゾーンの有病率は約20%と推測されます。圧痛点の数は経時的に変動することや論文上の有病率は一時点の有病率であることを考えると、真の有病率は約2%、日本では250万人程度のFM患者がいると推測しています。中国での有病率は0.05%という報告がありますが、調査方法や診断能力に原因があるのかもしれません。同一の研究チームが異人種を調べた研究は3つあり、ブラジル(非白人2.65%と白人2.26%)とイラン(Caucasians0.6%とトルコ人0.7%)では人種差がなく、マレーシア(マレー系1.19%、インド系2.58%、中国系0.33%)では人種差がありました。そのため有病率に人種差があるのかどうかは不明です。FM患者の約8割は女性であり、性比には大きな人種差はないようです。医師以外の関与線維筋痛症について、ナースやコメディカルが介入できる余地はありますでしょうか。例えば理学療法士がストレッチを指導する、ナースが話を聞くなどで患者の日常生活から改善していくなどです。その際の保険点数など参考になるものがございましたらご教示お願いします。薬物治療以外では、コメディカルが介入できる余地がたくさんあります。ただし、FMという病名では保険点数はつきません。理学療法士や作業療法士は、有酸素運動、筋力増強訓練、ストレッチ、水中訓練などを指導できます。しかし、FMなどの痛みを引き起こす疾患では保険点数は取れません。関節の変性疾患、関節の炎症性疾患、運動器不安定症などが合併していれば運動器リハビリテーション料を請求することができます。ナースが患者の話を聞いたり、患者の痛みや生活の質を評価するアンケートの記載方法の説明を行うことができます。ただし、ナースが患者の話を聞いても保険点数を請求できません。うつ病に対する認知行動療法に対して、厳しい条件はあるものの2010年から保険点数が取れるようになりました。しかし、FMなどの痛みに対する認知行動療法では保険点数を請求できません。総括FMが知られていない日本医学は世界の標準医学から大きく乖離しています。FM以上に中枢性過敏症候群は、日本では知られていません。FMのみならず中枢性過敏症候群を認めて世界の標準医学に追いつく必要があります。FMの治療はFMのみならずそのグレーゾーン、つまり人口の約20%に有効です。グレーゾーンにもFMの治療を行うのですから、臨床の観点ではFMの診断は厳密に行う必要はありません。心因性疼痛、仮面うつ病、身体表現性障害(疼痛性障害、身体化障害)と診断するより、FMやそのグレーゾーンと診断する方が、有効な治療方法が多いためほぼ間違いなく治療成績が向上します。異なる医学理論が衝突した場合には、「脚気論争」と同様に治療成績がよい医学理論を採用すべきです。自分が長年信じていた医学理論を捨てることは困難ですが、臨床医は自分が信じる医学理論を守ることより、よりよい治療成績を求めるべきです。戸田克広先生「「正しい線維筋痛症の知識」の普及を目指して! - まず知ろう診療のポイント-」

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米国18歳未満対象の段階的運転免許制度、死亡事故抑制には機能しておらず

米国の18歳未満を対象とする段階的運転免許(graduated driver licensing:GDL)制度の効果について検証したCalifornia Department of Motor VehiclesのScott V. Masten氏らは、16歳ドライバーの死亡事故はかなり低かったが、18歳ドライバーの死亡事故がやや高くなっており、「18歳ドライバー死亡事故の原因解明とGDL制度を改善すべきかを検証する必要がある」とまとめた報告を、JAMA誌2011年9月14日号で発表した。米国では自動車事故死が10代若者の主要な死因となっており、2000~2008年の16~19歳自動車死亡事故者は、ドライバー2万3,000人、同乗者1万4,000人以上に上った。また、事故発生は18~19歳で最も多かったが、走行距離補正後の死亡事故発生はより若い年齢で高く、18~19歳と比べて16歳は150%増、17歳は90%増であったという。GDL制度と1986~2007年の16~19歳自動車死亡事故との関連を調査現在全米50州とワシントンD.C.で導入されているGDL制度は、18歳未満を対象とした、無制限の運転免許を与える前に低リスク下での運転経験を十分に積んでもらうことを目的としたもので、最初の段階では3ヵ月以上の成人運転熟達者の同乗が必要とされ、続く段階として運転熟達者の同乗は不要だが夜間運転の禁止もしくは10代同乗者の禁止(またはいずれも禁止)が特徴となっている。Masten氏らは、GDL制度と16~19歳自動車死亡事故との関連を調べるため、1986~2007年の四半期ごとの自動車死亡事故についてプール横断時系列解析を行った。主要評価項目は、年齢ごとの対人口でみた死亡事故発生率と、GDL制度を取り入れていない州-地域と比較した、規制が強い州-地域(夜間運転と10代同乗者のいずれも禁止されている)、規制が緩い州-地域(どちらか一方のみが禁止されている)それぞれの割合および95%信頼区間とした。解析は、22年間で4地域・51州の4,488州-地域を対象に含んだ。規制が強い州-地域とGDL制度なし州-地域との、全年齢複合死亡事故発生率比は0.97結果、死亡事故発生率はおおよそ年齢とともに増加する傾向にあり、人口10万人当たり、16歳ドライバー28.2、17歳ドライバー36.9、18歳ドライバー46.2、19歳ドライバー44.0だった。16歳が最も低く、18歳が高かった。潜在的交絡因子で補正後、16歳ドライバー死亡事故発生率の低さと、GDL制度の特徴である規制との関連が認められた。規制のない州-地域との比較でみた、規制が強い州-地域の発生割合(RR)は0.74(95%信頼区間:0.65~0.84)だった。しかしながら一方で、18歳ドライバーの死亡事故発生率の高さと、GDL制度規制の強さとの関連も認められ、規制のない州-地域との比較でみた、規制が強い州-地域のRRは1.12(同:1.01~1.23)だった。また、その他の年齢および全年齢複合の規制との関連については、統計的な格差が認められなかった。RRはそれぞれ、17歳ドライバー0.91(95%信頼区間:0.83~1.01)、19歳ドライバー1.05(同:0.98~1.13)、16~19歳ドライバー複合0.97(同:0.92~1.03)だった。(武藤まき:医療ライター)

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大動脈二尖弁患者の大動脈解離発生率は、一般住民に比べて有意に高率

先天性心疾患で多くみられる大動脈二尖弁(BAV)を有する人の長期大動脈解離発生率は、1万患者・年当たり3.1例と低かったものの、一般住民の8.4倍と有意に高率であることが明らかにされた。未診断だった人も含めた発生率は同1.5例であった。報告は、米国・メイヨークリニックのHector I. Michelena氏らによる後ろ向きコホート研究の結果による。これまで、BAVを有する人は重度の大動脈解離が起きやすいとされていたが、長期にわたる住民ベースのデータはなかったという。JAMA誌2011年9月14日号掲載より。一般住民に対する年齢補正後相対リスクは8.4Michelena氏らは、ミネソタ州オルムステッド郡住民でBAVを有していた大動脈合併症患者の総合的な評価を行った。1980~1999年に心エコーでBAVと診断されていた全住民を長期にわたり追跡し、またBAV未診断で大動脈合併症だった人を探し出し解析に加えた。最終フォローアップは2008~2009年までで、主要評価項目は、胸部大動脈解離、上行大動脈瘤、大動脈の手術とした。心エコーでBAVと診断されていた人は416例で、平均16(SD 7)年追跡された(6,530患者・年)。それら416例の大動脈解離の発生は、2例であった。発生率は1万患者・年当たり3.1例(95%信頼区間:0.5~9.5)、一般住民に対する年齢補正後相対リスクは8.4(95%信頼区間:2.1~33.5)だった(p=0.003)。また、基線で50歳以上だった人の発生率は1万患者・年当たり17.4例(同:2.9~53.6)、大動脈瘤を有していた人は同44.9(同:7.5~138.5)だった。診断の有無にかかわらない大動脈解離発生率は1万患者・年当たり1.5例一方、BAV未診断だった人を含めた総合的評価において、新たに2例の大動脈解離発生患者が現出した。BAV診断の有無にかかわらず二尖弁を有した人の大動脈解離発生率は1万患者・年当たり1.5例(95%信頼区間:0.4~3.8)で、BAVと診断されていた人と同等であった。また、基線で大動脈瘤が認められなかった384例について解析した結果、49例が大動脈瘤を発生していた。1万患者・年当たり発生率は84.9(同:63.3~110.9)で、一般住民に対する年齢補正後相対リスクは86.2(同:65.1~114)だった(p<0.001)。大動脈手術の25年発生率は25%(同:17.2~32.8)だった。(武藤まき:医療ライター)

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30年の長期追跡研究で明らかになった頭痛持ちの実態

タイプ別にみた頭痛症候群と長期転帰との関連について調べるため、一般住民を長期追跡した結果、各頭痛タイプが重複して発生していることが明らかになった。米国NIHのKathleen R Merikangas氏らが、スイス・チューリッヒ州の住民を若年成人の段階から30年間追跡した、国際頭痛分類第2版(ICHD-2)の初の長期前向き研究の結果による。国際研究の多くが、片頭痛の高い有病率と重大な機能障害との関連について報告しているが、Merikangas氏は「本研究は、頭痛持ちの人を前向きに追跡することは重要であることを際立たせるものとなった」と述べるとともに「一般住民における頭痛の本質は、タイプ別差異に基づく頭痛の診断名適用では正確には捉えられないだろう」と結論している。BMJ誌2011年9月10日号(オンライン版2011年8月25日号)掲載報告より。タイプ別にみた累積有病率は前兆のない片頭痛36.0%が最も高い研究は、スイス・チューリッヒ州の住民で、1978年に男性19歳(徴兵義務で登録)、女性20歳(選挙名簿に登録)であった4,547例を対象とした。対象を30年間追跡し、その間に行われた7回のインタビューに回答した591例について、頭痛の有病率、頭痛タイプ別割合の時間的変遷、発症年齢、重症度、影響、家族歴、医療サービスの利用、薬の服用について評価が行われた。結果、各頭痛タイプの年間平均有病率は、前兆のある片頭痛が0.9%[女/男比:2.8(女1.4%、男0.5%)]、前兆のない偏頭痛が10.9%[2.2(15.1%、6.8%)]、緊張型頭痛が11.5%[1.2(12.5%、10.4%)]であった。各頭痛タイプの30年間の累積有病率は、前兆のある片頭痛3.0%、前兆のない片頭痛36.0%、緊張型頭痛29.3%であった。各頭痛タイプはかなり重複、優勢的な頭痛タイプを捉えることは困難しかし前兆のない片頭痛の有病率は高率にもかかわらず、大半の人が一過性で、追跡期間の半分以上の期間中、片頭痛を有していたのは約20%に過ぎなかった。被験者27~28歳時までに行われた3回のインタビューで、片頭痛を有した人がその後に片頭痛単独もしくは他の頭痛タイプとの複合を再発していた割合は69%であった。同じく緊張型頭痛を有した人での同再発は58%だった。なお、それぞれ単独再発の割合はいずれも12%であった。また、片頭痛を有した人のうち、その後は片頭痛を伴わずに緊張型頭痛を発症した人の割合は約19%であった。緊張型頭痛を有した人で、その後は緊張型頭痛を伴わずに片頭痛を発症した人の割合は約22%であった。これらの各頭痛タイプの重複がかなりあることや非特異的な進行パターンにより、優勢的な頭痛タイプの安定性はきわめて低かった。一方、臨床関連の重症度(苦痛の強さ、仕事への障害など)および医療サービスの使用(受診、治療、処方など)については、傾向があることが認められた。すなわちいずれも指数が最も高かったのは前兆のある片頭痛で、以下、前兆のない片頭痛、緊張型頭痛、非分類頭痛の順に続いていた。

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アデノイド切除、小児の反復性上気道感染症にベネフィットを認めず

小児の反復性上気道感染症に対する治療戦略について、即時のアデノイド切除が、経過観察群を上回る臨床的ベネフィットを示さなかったことが報告された。オランダ・ユトレヒト大学医療センターのM T A van den Aardweg氏らが行った、非盲検無作為化試験の結果による。アデノイド切除は、小児中耳炎ではいくつかの臨床的ベネフィットをもたらしており、反復性上気道感染症も一般的に適応となるが、そのエビデンスは不足していた。BMJ誌2011年9月10日号(オンライン版2011年9月6日号)掲載報告より。1~6歳児111例を対象に、即時vs. 経過観察について非盲検無作為化試験Aardweg氏らは、2007年4月~2009年4月の間に、11の総合病院と2つの教育研究病院から集められた、反復性上気道感染症でアデノイド切除適応となった1~6歳児111例を対象に非盲検無作為化試験を行った。被験児を、即時にアデノイド切除を行う戦略群(鼓膜切開あり・なし含む)、初期は経過観察とする戦略群に無作為化し、主要アウトカムを最長24ヵ月間追跡期間中の上気道感染症発生数/人・年とし、副次アウトカムには上気道感染症を呈した日数/人・年、発熱を伴う中耳炎エピソード回数および日数、発熱を有した日数、上気道感染症有病率、健康関連QOLなどを含み評価を行った。24ヵ月追跡期間中の上気道感染症エピソード、アデノイド切除群7.91、経過観察群7.84追跡期間中央値24ヵ月間の上気道感染症エピソードは、アデノイド切除群7.91件/人・年、経過観察群7.84件/人・年で、発生率差は0.07(95%信頼区間:-0.70~0.85)であった。意味のある両群差は、上気道感染症を呈した日数(発生率差についてアデノイド切除群が-1.27)、発熱を伴う中耳炎回数(同0.05)および日数(同0.01)、また健康関連QOLについて認められなかった。上気道感染症の有病率は追跡期間中、両群ともに低下した。一方で、アデノイド切除群は発熱を有した日数が、経過観察群より有意に長かった[20.00 vs. 16.49日/人・年(差:3.51、2.33~4.69)]。手術関連の合併症の発生は2例であった。

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妊婦の喘息コントロール、FeNO濃度ベースのアルゴリズムが増悪を有意に減少

妊娠中の喘息コントロールについて、呼気一酸化窒素(FeNO)濃度ベースの治療アルゴリズムが、増悪を有意に減少する可能性があることが示された。オーストラリア・ニューカッスル大学喘息・呼吸器疾患センターのHeather Powell氏らが行った二重盲検無作為化試験の結果による。妊娠中は喘息増悪が起きやすく、母体や胎児の重大疾患と関連する可能性が高い。これまでの研究で、妊娠していない女性での、喀痰中好酸球に基づく治療決定が喘息増悪を減らすことは知られるが、FeNO濃度に基づく治療アルゴリズムの成果については不確かであった。Lancet誌2011年9月10日号掲載報告より。220例の非喫煙喘息妊婦を、臨床症状もしくはFeNO濃度で管理する群に無作為化Powell氏らは、妊娠中の喘息管理アルゴリズムについて、FeNOと症状に基づくものが喘息増悪を減少するとの仮説を検証するため、2007年6月~2010年12月にオーストラリアの2つのマタニティクリニック(antenatal clinics)で被験者を募り、無作為化二重盲検平行群間コントロール試験を行った。220例の非喫煙、喘息を有する妊婦が、妊娠22週までに、月1回の外来受診の際にコンピュータにて作成した乱数表に基づき、臨床症状によるか(対照群)、FeNO濃度により吸入コルチコステロイド投与を行う群(FeNO値が>29ppbでは増量、<16ppbでは減量)のいずれかに無作為化された。割り付けについて、被験者、ケア担当者、アウトカム評価者には知らされなかった。FeNO値が上昇しない場合、長時間作用型吸入β2刺激薬と低用量吸入コルチコステロイドによる治療が行われた。主要評価項目は、喘息増悪(中等度または高度)の総数とされ、intention to treat解析にて行われた。FeNO群と対照群の発生率比0.496、FeNO群ではQOL改善、新生児入院も減少被験者220例のうち、111例がFeNO群に(試験完了は100例)、109例が対照群に(同103例)無作為化された。 増悪率は、FeNO群のほうが対照群より低かった。妊婦当たり0.288対0.615、発生率比0.496(95%信頼区間:0.325~0.755、p=0.001)であった。治療必要数(NNT)は6であった。 またFeNO群では、QOLが改善し[SF-12メンタルサマリーのスコアが、FeNO群56.9(95%信頼区間:50.2~59.3) vs. 対照群54.2(同:46.1~57.6)、p=0.037]、新生児入院が減少していた[8(8%) vs. 18(17%)、p=0.046)。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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重度肺気腫への気管支バイパス術、持続的ベネフィットは確認されず

重度肺気腫患者に対する気管支バイパス術は、安全であり一過性の改善は認められたが、持続的なベネフィットは認められなかったことが報告された。英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのP L Shah氏らが有効性と安全性を検討したEASE(Exhale airway stents for emphysema)試験の結果による。気管支バイパスは、気管支鏡下肺容量減少療法で、パクリタキセル・コート・ステントで肺への通気性を確保し呼吸を容易にする手術療法である。Lancet誌2011年9月10日号掲載報告より。過膨張が認められる315例を対象に無作為化二重盲検シャム対照試験試験は、2006年10月~2009年4月に、世界38ヵ所の呼吸器専門医療センターから被験者を募り行われた無作為化二重盲検シャム対照試験であった。 1,522例がスクリーニングされ、重度の過膨張[全肺気量(TLC)に対する残気量(RV)の割合が≧0.65)が認められた315例が、コンピュータにて作成した乱数表に基づき2対1の割合に、気管支バイパス術群(208例)またはシャム対照群(107例)に割り付けられた。また本試験では、研究者がチームA(マスキングされた群、処置前後の評価を完了)とチームB(マスキングされなかった群、患者とさらなる交互作用なしで気管支鏡検査をするだけ)に分けられ、それぞれが評価を行った。 共通主要有効性エンドポイントは6ヵ月時点での、基線からの、努力肺活量(FVC)12%以上の改善と改訂英国MRCスコア(Medical Research Council dyspnoea score)1ポイント以上の低下とされた。複合主要安全性エンドポイントには、5つの重度有害事象(重大喀血、24時間以上の人工換気を要した呼吸不全、肺感染症またはCOPD増悪、7日以上ドレナージを要した気胸、処置または初回入院から30日以内での死亡)が組み込まれた。解析は、ベイズ法を用いて、気管支バイパス術のシャム対照に対する優越性の事後確率を示し(成功閾値0.965)評価した。事前規定事後確率0.965に対し、共通主要有効性0.749、複合主要安全性は1.00被験者は12ヵ月間追跡され、intention to treat解析された。 6ヵ月時点での共通主要有効性エンドポイントについて、両群間に差は認められなかった。気管支バイパス術群30/208例、シャム対照群12/107例であり、事後確率は0.749で優越性の規定値を下回った。一方、6ヵ月時点での複合主要安全性エンドポイントは、気管支バイパス術群の非劣性が認められた。気管支バイパス術群14.4%(30/208例)、シャム対照群11.2%(12/107例)で、事後確率は1.00であった。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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心房細動患者の脳卒中、全身性塞栓症予防に、rivaroxabanはワルファリンに対して非劣性

心房細動患者の脳卒中または全身性塞栓症予防に関して、経口第Xa因子阻害薬rivaroxabanはワルファリンに対して非劣性であることが明らかにされた。重大出血のリスクについては両者間に有意差はなく、頭蓋内および致死的出血の頻度はrivaroxabanのほうが少なかった。米国・Duke Clinical Research InstituteのManesh R. Patel氏らROCKET AF治験グループによる二重盲検無作為化試験の結果、報告した。NEJM誌2011年9月8日号(オンライン版2011年8月10日号)掲載報告より。脳卒中リスクの高い非弁膜症性心房細動患者1万4,264例を対象に試験は、脳卒中リスクの高い非弁膜症性心房細動患者1万4,264例を、rivaroxaban投与群(20mg/日)または用量調整(目標INR:2.0~3.0)したワルファリン投与群に無作為に割り付け行われた。主要エンドポイントは、脳卒中または全身性塞栓症の発生であった。主要解析はper-protocol、as-treatedで、rivaroxabanのワルファリンに対する非劣性を検討するようデザインされ解析が行われた。rivaroxabanの非劣性と頭蓋内・致死的出血の抑制を確認主要解析の結果、主要エンドポイント発生は、rivaroxaban群188例(1.7%/年)、ワルファリン群241例(2.2%/年)で、rivaroxaban群の非劣性が認められた(rivaroxaban群のハザード比:0.79、95%信頼区間:0.66~0.96、非劣性に関するP<0.001)。intention-to-treat解析では、主要エンドポイント発生は、rivaroxaban群269例(2.1%/年)、ワルファリン群306例(2.4%/年)であった(ハザード比:0.88、95%信頼区間:0.74~1.03、非劣性に関するP<0.001、優越性に関するP=0.12)。重大出血または重大ではないが臨床的意義のある出血は、rivaroxaban群で1,475例(14.9%/年)、ワルファリン群で1,449例(14.5%/年)発生した(ハザード比:1.03、95%信頼区間:0.96~1.11、P=0.44)。頭蓋内出血(0.5%対0.7%、P=0.02)と致死的出血(0.2%対0.5%、P=0.003)は、rivaroxaban群のほうが有意に少なかった。(朝田哲明:医療ライター)

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黒人女性によくみられる腹部肥満と死亡リスク

米国・ボストン大学Slone疫学センターのDeborah A. Boggs氏らはBMI値と腹囲、死亡リスクとの関連について、これまで入手データが限られていた黒人女性5万人超を対象とする大規模な前向き調査を行った。結果、白人でみられる傾向と同じように、BMI 25.0以上で、死亡リスクが数値増大とともに上昇することが認められたという。また、黒人女性では腹囲肥満がよくみられ、非肥満(BMI 30.0未満)でのみ腹囲が死亡リスク上昇と関連している特性も明らかになった。NEJM誌2011年9月8日号掲載報告より。BMI、腹囲と死亡リスクの関係を前向き評価本研究の対象となった黒人女性以外のBMIと死亡リスクとの関連については、最近のプール解析の結果で、ヨーロッパ系集団ではBMI 25.0以上で死亡リスクが上昇すること、東アジア人ではBMI増加と死亡リスク上昇との関連はより弱く、また南アジア人ではBMI増加と死亡リスク上昇には関連が認められないことが示されている。一方、黒人については、BMI 35.0以上で死亡リスクが上昇するという非常に高値での関連が示唆されているにすぎなかった。Boggs氏らは、研究登録時に21~69歳で、がんまたは心血管疾患の既往歴がない5万1,695人の黒人女性について、BMIおよび腹囲と死亡リスクの関係を前向きに評価した。解析は「黒人女性の健康研究」(Black Women's Health Study)の1995年から2008年までの追跡調査データに基づいて行われ、多変量比例ハザードモデルにてハザード比と95%信頼区間を推定し評価された。BMI 25.0以上で腹囲と死亡リスク上昇と関連追跡調査期間中、確認された1,773例の死亡のうち770例は喫煙歴のない3万3,916人の集団においての発生だった。この非喫煙者での死亡リスクは、BMI 20.0~24.9で最も低く、それより上のBMIの人では、その値が増加するほど死亡リスクは上昇した。BMI基準カテゴリーを「22.5~24.9」とした場合の、多変量補正後ハザード比は、「25.0~27.4」で1.12(95%信頼区間:0.87~1.44)、「27.5~29.9」で1.31(同:1.01~1.72)、「30.0~34.9」で1.27(同:0.99~1.64)、「35.0~39.9」で1.51(同:1.13~2.02)、「40.0~49.9」で2.19(同:1.62~2.95)であった(傾向のP<0.001)。また、BMI 30.0未満の女性では、腹囲の増大が、全死因死亡リスクの上昇と相関していた。(朝田哲明:医療ライター)

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内科レジデント、精神的・肉体的疲弊が強い実態が明らかに:全米調査

内科レジデントに関する全米調査の結果、そのQOLは最適状態にはほど遠く、燃え尽き症候群が一般的にみられることが明らかになった。メイヨークリニックのColin P. West氏らの調査結果による。燃え尽き症候群は、高額な負債と関連しており、海外医学部卒業生ほどその頻度が高く、また、低QOL、情緒的疲弊、学費の負債は、内科知識に関する自己評価「IM-ITE」が低スコアであることも認められたという。これまでの医師の精神的・肉体的疲弊は、患者の治療にネガティブな影響をもたらすことが明らかになっているが、全米レベルでの実態調査は行われていなかった。JAMA誌2011年9月7日号掲載報告より。2008~2009年度の全米内科レジデント1万6,394人の「well-being」を調査調査は、内科レジデントの「well-being」を全米サンプリング調査により測定し、実態的人口統計学に、また学費の負債および医学知識との関連を評価することを目的とし、2008~2009年のIM-ITE(Internal Medicine In-Training Examination)スコアと2008年のIM-ITE調査のデータを用いて行われた。被験者総数は1万6,394人で、2008~2009年度の全米内科レジデントの74.1%に相当した。またそのうち米国の医学部卒業生は7,743人、海外の医学部卒業生は8,571人だった。QOL、燃え尽き症候群について、修学年、性、医学校の所在地、学費の負債、IM-ITEスコアとの関連を割り出し評価した。学費の負債、燃え尽き症候群の少なくとも1つの理由にQOLが「相当悪い」「やや悪い」と回答したのは、2,402人/1万6,187人(14.8%)だった。また、燃え尽き症候群は8,343人/1万6,192人(51.5%)、高度な情緒的疲弊は7,394人/1万6,154人(45.8%)、喪失感は4,541人/1万5,737人(28.9%)がそれぞれあると回答していた。多変量モデル解析で、燃え尽き症候群は、米国医学部卒業生よりも海外医学部卒業生のほうが少なかった[45.1%対58.7%、オッズ比:0.70、99%信頼区間(CI):0.63~0.77、p<0.001]。学費の負債は、燃え尽き症候群の少なくとも1つの理由となっていた(61.5%対43.7%、オッズ比:1.72、99%CI:1.49~1.99、20万ドル超の負債の負債なしに対するp<0.001)。QOLが「相当悪い」と回答したレジデントのIM-ITEスコアは、QOLが「相当よい」と回答したレジデントと比べ2.7ポイント(99%CI:1.2~4.3、P<0.001)低く、また「情緒的疲弊が毎日ある」と回答したレジデントの同スコアは、「情緒的疲弊がない」と回答したレジデントと比べて4.2ポイント(同:2.5~5.9、P<0.001)低かった。「20万ドル超の負債がある」と回答したレジデントの同スコアは、「負債がない」と回答したレジデントよりも5.0ポイント(同:4.4~5.6、P<0.001)低かった。スコア差は学年が進むにつれて有意な増大が認められた。レジデント1年目から2年目への増大は4.1ポイント(99%CI、3.9~4.3、P<0.001)、2年目から3年目へは2.6ポイント(同、2.4~2.8、P<0.001)であった。(武藤まき:医療ライター)

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1997~2000年卒業の医学生、87.3%が専門医資格を取得:全米調査

米国専門医認定機構(ABMS)の専門医資格取得について、1997~2000年に医学校を卒業した医師の取得状況と、その背景因子について調査した結果、取得率は87.3%に上り、人種による取得率の違いや、抱えている負債と取得領域との関連などの実態が明らかになった。ABMS取得は米国で医師のクオリティ尺度となっている。調査は、ワシントン大学医学校のDonna B. Jeffe氏らにより行われ、JAMA誌2011年9月7日号で発表された。4万2,440人のABMS専門医資格の取得について後ろ向きに調査Jeffe氏らは、1997~2000年に米国の医学校を卒業した4万2,440人の、卒業時の専門領域選択によってグループ化し、2009年3月2日現在までのABMS専門医資格の取得について後ろ向きに調査した。また専門分野ごとの多変量ロジスティック回帰モデルにて、取得に関連する因子を調べた。結果、調査対象4万2,440人のうち、3万7,054人(87.3%)がABMS専門医資格を取得していた。取得背景は、専門分野ごとに異なる専門医取得率は、すべての専門分野で、米国医師国家試験(USMLE)のSTEP 2臨床医学試験を最高位の三分位得点で、1回で合格した人で高い傾向(1回目は不合格だった人と比べて)が認められた。同取得格差(最高位得点1回で合格vs. 1回目不合格)の補正後オッズ比(AOR)は、専門領域で異なっており、救急専門医取得の格差は最も小さく(87.4%対73.6%、AOR:1.82、95%信頼区間:1.03~3.20)、一方、最も大きかったのは放射線専門医の取得だった(98.1%対74.9%、同:13.19、5.55~31.32)だった。家庭医を除き、マイノリティと自認している卒業生の専門医取得は低率だった(白人との比較で)。同取得格差(マイノリティvs. 白人)が最も小さかったのは小児科専門医でAORは0.44(95%信頼区間:0.33~0.58)、最も大きかったのはその他非一般専門医で同0.79(0.64~0.96)だった。負債額5万ドル単位区分別にみた、最高位群(≧15万ドル)と負債なし群との取得格差が小さかったのは、卒業時に産婦人科/婦人科を選択した群だった(AOR:0.89、95%信頼区間:0.83~0.96)。一方で格差が大きかったのは家庭医を選択した群だった(同:1.13、1.01~1.26)。(武藤まき:医療ライター)

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進行がん末期の緩和ケアを改善する新たな予後予測モデル「PiPS」が開発

 英国・St George’s University of LondonのBridget Gwilliam氏らは、進行がんの緩和ケアを改善可能な、新たな予後予測モデル「PiPS(Prognosis in Palliative care Study)」を開発したことを発表した。臨床変数と検査変数を組み合わせた同モデルは、もはや治療がなされない進行がん患者について、2週生存および2ヵ月生存を確実に予測できるという。BMJ誌2011年9月3日号(オンライン版2011年8月25日号)掲載報告より。2週と2ヵ月の予後を、臨床家の推定よりも有意に良好に予測する因子を開発 モデルの開発は、前向き多施設観察コホート研究にて行われ、臨床家が推定する生存よりも、有意に良好に予後を予測する指標を新たに開発することを目標とした。 研究は、英国内の18の緩和ケアサービス(ホスピス、病院サポートチーム、コミュニティチームなど)を拠点に、今後がん治療はなされず緩和ケアサービスに一任されることになった局所進行型転移性がん患者1,018例が対象であった。患者が生存した「日数」(0~13日)または「週数」(14~55日)あるいは「月数+」(55日超)について、新たに開発した複合モデルの予測と、実際の生存、臨床家の予測とを比較した。 核となるのは11の変数 多変量解析の結果、11の変数(脈拍、健康状態、メンタルテスト、パフォーマンス状態、摂食障害の有無、あらゆる部位の転移性疾患、肝転移の有無、CRP、白血球数、血小板数、尿素値)が、2週生存および2ヵ月生存の独立した予後予測因子であった。 2週生存についてのみの有意な予後予測因子は、4つ(呼吸困難、嚥下障害、骨転移、ALT)であった。また、2ヵ月生存についてのみの有意な予後予測因子は8つ(原発性乳がん、男性生殖器がん、疲労、体重減少、リンパ球数、好中球数、ALP、アルブミン)であった。 これらを踏まえ、研究グループは、血液検査結果がある患者(PiPS-A)と、ない患者(PiPS-B)とに分けた2つの予測モデルを開発した。それらモデルは、曲線下面積(AUC)0.79~0.86であった。 実際の生存とPiPS予測との完全な一致率は、57.3%(超オプティミス的補正後で)であった。 PiPS-A分類における生存期間の中央値は5日、33日、92日であった。PiPS-B分類での生存期間中央値は、7日、32日、100.5日であった。 開発したすべてのモデルは、臨床家の推定とほぼ同等、またはよりよく生存を推定していた。

30696.

うつ病スクリーニングツールの精度研究に潜む患者バイアスの危険性

うつ病スクリーニングの潜在的ベネフィットを判定するために行われる診断精度研究には、被験者として、すでにうつ病と診断された患者やうつ病治療中の患者がほとんど除外されずに含まれており、それら被験者バイアスが診断精度研究に与える影響が、システマティックレビューやメタ解析では評価されていないことが明らかにされた。カナダ・マックギル大学Jewish総合病院のBrett D Thombs氏らによる研究報告で、BMJ誌2011年9月3日号(オンライン版2011年8月18日号)にて発表された。うつ病と診断または治療中の患者は適切に除外されているのかを調査研究グループは、うつ病スクリーニングツールの診断精度に関するシステマティックレビューとメタ解析に含まれるオリジナル研究について、すでにうつ病と診断を受け治療中の患者を適切に除外している割合と、システマティックレビューとメタ解析が、そうした患者からのバイアスの可能性を評価しているかどうかを調べた。Medline、PsycINFO、CINAHL、Embase、ISI、SCOPUS、Cochraneをデータベースとし、2005年1月1日~2009年10月29日の間を検索対象とした。試験適格基準は、うつ病スクリーニングツールの診断精度について報告したものとし、言語は問わなかった。除外されているのは4%のみ、ツールがガイドラインで過大評価されている?17のシステマティックレビューとメタアナリシスから抽出した特色のある197本のうち、うつ病と診断されたか、またはうつ病治療中の患者を明確に除外したものは、わずか8本(4%)だけだった。システマティックレビューやメタ解析で、そのような患者が含まれているかを評価しているものはなかった。患者サンプルからバイアスのリスクを評価する項目を備えた質評価ツールを使用していたのは10本のレビューだけであった。これらから研究グループは、「うつ病スクリーニングツールの精度研究では、すでに診断を受けたか、または治療中の患者は除外されておらず、システマティックレビューとメタアナリシスは潜在的バイアスについては評価していない」と結論、「そのため、診断・予防ガイドラインで診断ツールの精度が誇張されている可能性があり、また、うつ病の診断・治療割合が過大に評価されている可能性がある」と指摘している。

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9.11後9年、救助・復旧作業従事者の健康問題が浮き彫りに

2001年9月11日のニューヨーク市、世界貿易センター(WTC)での同時多発テロによる襲撃後9年の間、現場で救助・復旧作業に従事した人々には身体的、精神的な障害という重い負担が継続的に課せられている実態が、マウントサイナイ医科大学(同市)のJuan P Wisnivesky氏らの調査で明らかとなった。WTC襲撃後に現場で救助や復旧に当たった人員は5万人以上に上る。被災後早期から、これらの作業従事者にはさまざまな健康問題の発生が報告されているという。Lancet誌2011年9月3日号掲載の報告。救助・復旧作業員の健康障害を評価するコホート試験研究グループは、WTCの被災後9年間における救助・復旧作業員の身体的、精神的な健康障害の発生率および罹病率を調査して、その職業的な曝露との関連を評価し、さらに身体的障害と精神的障害の併存状況を定量的に検討することを目的に、大規模な縦断的コホート試験を行った。WTC Screening, Monitoring, and Treatment Programに参加した2万7,449人の救助・復旧作業員(警察官、消防士、建設作業員、市職員など)のデータを収集した。Kaplan-Meier法を用いて、身体的障害(喘息、副鼻腔炎、胃-食道逆流症)、精神的障害(うつ状態、心的外傷後ストレス障害[PTSD]、パニック障害)、スパイロメトリー上の肺機能障害について評価した。曝露の程度別(WTCの現場での作業日数や粉塵への曝露状況)の障害の発生率についても検討を行った。継続的なモニタリングや治療が必要9年間の身体的障害の累積発生率は、喘息が27.6%(7,027人)、副鼻腔炎が42.3%(5,870人)、胃・食道逆流症は39.3%(5,650人)であった。警察官の7.0%(3,648人)にうつ状態を認め、PTSDは9.3%(3,761人)、パニック障害は8.4%(3,780人)にみられた。警察官以外では、うつ状態が27.5%(4,200人)、PTSDが31.9%(4,342人)、パニック障害は21.2%(4,953人)に認められた。9年間で41.8%(5,769人)にスパイロメトリー上の肺機能異常が確認され、その4分の3は努力性肺活量の低下であった。障害の多くは、WTCでの曝露時間が最も長い作業員で発生率が最も高かった。複数の身体的障害や複数の精神的障害が併存する者、また身体的障害と精神的障害を併発する者が多いことも示された。著者は、「2001年9月11日のWTC襲撃後9年の間、救助・復旧作業従事者には身体的、精神的な健康問題という重い負担が課せられていることがわかった。今回の知見により、これらの人々には継続的なモニタリングや治療が必要なことが浮き彫りとなった」と結論している。(菅野守:医学ライター)

30698.

イラクの自爆攻撃による死亡、一般市民が連合軍兵士より多い

イラクにおける自爆攻撃事件による死亡者数は、連合軍兵士よりもイラク人の一般市民で有意に多く、負傷者が死亡する確率は成人よりも子どもで高いことが、イギリス・キングス・カレッジ・ロンドンのMadelyn Hsiao-Rei Hicks氏らの調査で示された。イラクでは、自爆攻撃が重大な保健医療上の問題となっている。1980~2003年までの研究では、自爆攻撃は国際的テロリズムの中で最も死亡率の高いものであることが示され、2003年以降のイラクにおける自爆攻撃は宗派および反乱組織の戦闘員そのものを大量破壊兵器とみなしているという。Lancet誌2011年9月3日号掲載の報告。自爆攻撃の犠牲者の実態を調査する記述的研究研究グループは、2003~2010年にイラクで起きた自爆攻撃によるイラク人の一般市民および連合軍兵士の犠牲者の実態を調査する目的で記述的研究を行った。2003年3月20日~2010年12月31日までの調査に基づく2つのデータセット(自爆攻撃による連合軍兵士の死亡に関する報告と、武力行為によるイラク人の一般市民の死傷に関する報告)に記載されたイラクにおける自爆攻撃事件の犠牲者について解析した。攻撃のタイプ(徒歩、自動車を利用)や死傷者の身元(性別、年齢など)の情報に基づいて死傷の状況を経時的に解析した。武力行為による全イラク市民死傷者の19%が自爆攻撃犠牲者2003~2010年に記録された自爆攻撃事件は1,003件であった。武力行為による全イラク市民死傷者の19%(4万2,928/22万5,789人)を自爆攻撃の犠牲者が占め、そのうち負傷者は26%(3万644/11万7,165人)、死亡者は11%(1万2,284/10万8,624人)であった。イラク市民の自爆攻撃による負傷対死亡比(injured-to-killed ratio、1人が死亡するのに要する負傷者数、数値が小さいほど負傷が死亡につながりやすいことを示す)は2.5であった。徒歩での自爆攻撃による死亡者は自爆攻撃死亡者全体の43%(5,314/1万2,284人)を占めた。自動車を利用した自爆攻撃で負傷した市民は全負傷市民の40%(1万2,224/3万644人)に上った。身元の特定が可能であった自爆攻撃による死亡者3,963人のうち、男性が2,981人(75%)、女性が428人(11%)で、子どもは554人(14%)であった。身元が特定された子どもの自爆攻撃死は、一般的な武力行為による死亡よりも有意に多かった(9%、3,669/4万276人、p<0.0001)。全自爆攻撃における負傷対死亡比は、男性よりも女性で有意に高く(p=0.02)、男性は女性よりも負傷によって死亡につながりやすいことがわかった。子どもの負傷対死亡比は女性(p<0.0001)および男性(p=0.0002)よりも有意に低く、負傷が死亡につながる確率が高いことが示された。2003~2010年の間に、79件の自爆攻撃によって200人の連合軍兵士が死亡した。1回の自爆攻撃による死亡者数は連合軍兵士よりもイラク人の一般市民のほうが有意に多かった(12 vs. 3人、p=0.004)。著者は、「自爆攻撃事件による死亡者数は、連合軍兵士よりもイラクの一般市民で有意に多く、一般市民の負傷者が死亡する確率は成人よりも子どもで高かった」と結論している。(菅野守:医学ライター)

30699.

院外心停止での心調律解析前のCPR実施時間、長短でアウトカムに差は生じず

院外心停止で心調律解析前に行う救急医療サービス(EMS)隊員管理下での心肺蘇生法(CPR)は、短時間(30~60秒間)でも、長時間(180秒間)でも、その後のアウトカムに有意差は認められないことが報告された。カナダ・オタワ大学のIan G. Stiell氏らROC(Resuscitation Outcomes Consortium)研究グループによる。米国心臓協会国際連絡協議会(AHA-ILCOR)が蘇生ガイドライン2005で、それまでの即時除細動を行う戦略を改め、EMS隊員がまず心調律解析前に2分間、CPRを行うことを推奨する内容に改訂した。しかし、その後の試験で、試行を支持する知見と否定する知見が報告され、蘇生ガイドライン2010では、「エビデンスは相矛盾している」という内容に再修正されているという。NEJM誌2011年9月1日号掲載報告より。CPR実施時間を30~60秒と180秒に無作為割り付けStiell氏らは、CPR施行時間は短い戦略がよいのか、比較的長めに行う戦略がよいのかについてクラスタ無作為化比較試験を行った。米国とカナダ合わせて10大学とその関連EMSシステムの施設が共同参加し、院外心停止を来した成人患者を、最初の心電図解析の前にEMS管理下で、30~60秒間CPRを受ける群と、同180秒間CPRを受ける群に割り付けた。主要アウトカムは、良好な機能状態(改変ランキン・スケール・スコアが≦3、同スコアは0~6の範囲で値が高いほど障害が重い)での生存退院とした。両群のアウトカムに有意差なし対象とした9,933例の患者のうち、5,290例は心調律の早期解析群に、4,643例は遅めの解析群に割り付けられた。結果、主要アウトカムの基準を満たしたのは、遅めの解析群計273例(5.9%)、早期解析群計310例(5.9%)で、クラスタ補正後の差は-0.2ポイントだった(95%信頼区間:-1.1~0.7、P=0.59)。交絡因子補正後、両群とも生存に関するベネフィットが示されなかった(クラスタ補正後の差:-0.3ポイント、95%信頼区間:-1.3~0.7、P=0.61)。サブグループ解析(事前特定解析、事後解析)においても同様であった。(朝田哲明:医療ライター)

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院外心停止での標準的CPR時のITD使用、良好な機能状態の生存退院に結びつかず

院外心停止での、標準的な心肺蘇生(CPR)施行時のインピーダンス閾値弁装置(ITD)の使用は、良好な機能状態生存の改善には結びつかないことが報告された。米国・ウィスコンシン医科大学のTom P. Aufderheide氏らROC(Resuscitation Outcomes Consortium)研究グループによる。ITDは、CPR施行時に胸腔内圧を低下させ、心臓への静脈環流量と心拍出量を増加させるよう設計されている。これまでの研究で、CPR施行時のITD使用が、心停止後の生存率を改善する可能性が示唆されていた。米国心臓協会ガイドライン2005では、血行動態および心拍再開改善のためITDの活用をIIaクラスの推奨として勧告している。しかし長期生存率の上昇については実証されていなかった。NEJM誌2011年9月1日号掲載報告より。8,718例を、標準的CPR時ITD活用群とプラセボ群に無作為化しアウトカムを比較Aufderheide氏らは、米国とカナダ合わせて10大学とその関連EMSシステムの施設共同参加の下、院外心停止での標準的CPR時に、ITDを活用する群と偽ITD(プラセボ)使用群とを比較する大規模無作為化試験(解析対象8,718例)を行った。患者、研究者、試験コーディネーター、すべての医療提供者に、治療割り付け情報は知らされなかった。主要アウトカムは、良好な機能状態(改変ランキン・スケール・スコアが≦3、同スコアは0~6の範囲で値が高いほど障害が重い)での生存退院とした。病院到着時の心拍再開、入院生存、退院生存も有意差なし解析対象となった8,718例のうち、4,345例がプラセボ群に、4,373例がITD活用群に無作為に割り付けられた。結果、主要アウトカムの基準を満たしたのは、プラセボ群260例(6.0%)、ITD群254例(5.8%)で、リスク差(逐次モニタリングで補正後)は-0.1ポイント(95%信頼区間:-1.1~0.8、P=0.71)だった。副次アウトカムの、救急治療部門への到着時における心拍再開率(P=0.51)、入院生存率(P=0.84)、退院生存率(P=0.99)なども有意差は認められなかった。(朝田哲明:医療ライター)

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