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「知らんがな」カード【Dr. 中島の 新・徒然草】(626)

六百二十六の段 「知らんがな」カード今年は桜の開花が早かったようです。先日、4月5日の日曜日にちょっとした花見に出かけました。前日の雨で多少は散っていたものの、何とか踏みとどまった花びらでほぼ満開。例によって、朝からビニールシートで場所取りをしている方々もおられました。さて、今回は外来診療の話です。私の場合、1日に20〜25人ほど。診察後にまだ余力が残る日もあれば、ぐったりと消耗する日もあります。では、その差はどこにあるのか。振り返ってみると、どうやら患者さんからの愚痴の量が関係しているようなのです。患者さんが訴える症状に対して、医師が答えるべきことは大きく2つ。「なぜ起こっているのか」と「どうやって解決するのか」です。前者が診断、後者が治療、と言い換えてもよいでしょう。ところが、外傷後の不調となると話は単純です。原因は明白、車にはねられたから。治療も慢性期に入れば、薬物療法とリハビリが中心になります。ということは、外来での会話はシンプルなもの。「調子はいかがですか」「薬を調整しましょう」「リハビリ、頑張りましょうね」この3つで十分に完結するはずなのです。しかし現実はそう簡単ではありません。どうしても「なぜ」に執着される患者さんが何人かおられます。「こっちは青信号だったのに」「保険会社が障害を認めない」「裁判所がこの辛さをわかってくれない」「相手の弁護士が嘘をつく」気持ちはわかります。わかるのですが、それは医療の守備範囲外です。少なくとも外来の限られた時間で扱う話ではありません。本来、焦点を当てるべきは「これからどうするか」です。たとえばリハビリであれば、ゴールを設定し、現状を評価し、介入を続けて再評価する。この一連の流れは、どこか大学受験にも似ています。模擬試験を受け、勉強を続け、あらためて模擬試験を受けて本番に備える。過去にこだわる患者さんは、いくらこちらが未来志向の話をしても、いつのまにか元に戻ってしまいます。話題はループし、時間だけが浪費される。さすがにこれでは生産性がありません。そこで思い付いたのが、「知らんがな」カードです。愚痴モードに入ったなと思った瞬間に黙って提示する。 患者 「向こうが信号無視しよったんですよ」 中島 「……」(カード提示) 患者 「うっ」 患者 「裁判所が全然わかってくれなくて」 中島 「……」(カード提示) 患者 「ぐぬぬ」 説明する代わりに、カード1枚で要点を示す。最短最速のコミュニケーションです。その上で、強引に未来の話に持っていく。外来診療での医師の役割は、愚痴の聞き役ではありません。もっとも、このカードが実際に機能するかどうかは未知数です。本当に患者さんが過去への執着から抜け出せるでしょうか。逆に火に油を注ぐ可能性もあります。ひょっとすると、診察室が修羅場になるかも。そう考えると、ちょっと怖いですね。それでも、試してみたい気持ちもあります。うまくいくのか、相手を怒らせてしまうのか。あるいは予想外の展開になるかもしれません。医学そのものと同じで、対人関係も仮説と検証の繰り返しです。ということで、次にこのような場面に遭遇したら……ご本人に軽く説明したうえで「知らんがな」カードを試してみたいと思います。とはいえ、本当にできるかどうか、ちょっと心配ですね。最後に1句 桜花(さくらばな) 過去を散らせる 潔さ

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4月9日 子宮頸がんを予防する日【今日は何の日?】

【4月9日 子宮頸がんを予防する日】〔由来〕「し(4)きゅう(9)」(子宮)の語呂合わせから、「子宮頸がん」予防の啓発活動を行っている「子宮頸がんを考える市民の会」(東京)が制定。この日を中心に「子宮頸がん」についてのセミナーなどを開催している。関連コンテンツ乳がんと婦人科がん、診断の多い年齢層と検診内容【患者説明用スライド】4価HPVワクチン、浸潤性子宮頸がんリスクを長期抑制/BMJ月経血によるHPV検査、子宮頸がん検診に有望/BMJ女性のがん、39ヵ国の診断時期・治療を比較/LancetHPVワクチンのHPV16/HPV18感染予防効果、1回接種vs.2回接種/NEJM

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第56回 406万人の命が「食事」で防げる。世界204ヵ国のデータが突きつける、私たちの食卓への警告

先月、Nature Medicine誌に、食事と心臓病の関係を世界規模で解析した大規模研究が発表されました1)。世界204ヵ国からのデータをもとに、虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)の死亡・障害負担のうち、食事リスクに起因する割合を包括的に推計したものです。虚血性心疾患は、数十年にわたり世界の死因第1位であり続けています。「心臓病は生活習慣病」とよく言われますが、では実際にどの食習慣がどれほどのインパクトを持っているのか。この研究は、その問いに対してこれまでで最も精緻な答えを示しています。年間406万人の命を奪う「食卓のリスク」研究の結果、2023年に世界で食事リスクに起因する虚血性心疾患の死亡者数は約406万人と推計されました。これは虚血性心疾患による全死亡のかなりの割合を占めています。ただし明るい兆しもあります。1990年から2023年にかけて、食事に起因する虚血性心疾患の年齢調整死亡率は約43.9%低下しました。これは世界的な食生活改善や医療の進歩を反映していると考えられます。しかし、人口増加と高齢化の影響で、絶対的な死亡者数は約41.6%増加しており、問題の深刻さが解消されたわけではありません。「足りないもの」が心臓を蝕むこの研究で特に注目すべきは、心臓病リスクを高める食事要因の顔ぶれです。13の食事要因を個別に評価した結果、最も大きな死亡寄与を示したのは、ナッツ・種子類の摂取不足(10万人当たり9.87人の死亡に寄与)、全粒穀物の摂取不足(同9.22人)、果物の摂取不足(同7.25人)、そして食塩の過剰摂取(同7.15人)でした。つまり、「何を摂りすぎているか」よりも「何が足りていないか」のほうが、実は心臓にとってはより大きな脅威となっているようなのです。加工肉や砂糖入り飲料の過剰摂取ももちろんリスクではありますが、それ以上に、ナッツ、全粒穀物、果物、豆類といった「守るための食材」を日常的に食べていないことが、世界中で多くの命を奪っています。「減塩」だけでは不十分うれしいニュースとして、日本を含むアジア太平洋地域は、この研究で食事関連の虚血性心疾患負担が最も低い地域の一つでした(10万人当たり12.20人の死亡)。これは日本の食文化が持つ優位性を示唆するデータと言えるかもしれません。しかし、安心するのは早計です。日本では食塩の過剰摂取が依然として深刻な問題であり、地域別ランキングでも高い順位を占めています。加えて、全粒穀物やナッツ・種子類の摂取量は欧米と比べて少ない傾向にあります。白米中心の食事は日本の食文化の根幹ですが、精白米は全粒穀物の健康効果を享受できないという点では、改善の余地があるでしょう。これまで日本の循環器疾患対策では「減塩」が柱とされてきましたが、このデータは、それだけでは不十分であることを示唆しています。ナッツや全粒穀物、果物、豆類といった「心臓を守る食材」を意識的に食卓に加えていくことが、今後の日本における心疾患予防の新たな柱となる可能性があります。所得格差が「食の格差」を生むこの研究ではさらに、社会開発指標(SDI)の低い国ほど食事関連の虚血性心疾患負担が重いことも示されました。低所得国では、野菜、果物、全粒穀物、ナッツ、豆類といった保護的な食材へのアクセスが限られているために、心疾患のリスクが高くなっています。一方、高所得国では加工食品や砂糖入り飲料の過剰摂取が問題です。つまり、所得水準によってリスクの顔つきが異なるのです。この知見は、日本国内にも当てはまります。経済的に余裕のない世帯では、安価で高カロリーな加工食品に頼りがちになり、新鮮な果物やナッツ、全粒穀物といった食品の摂取が不足する傾向があることは、国内の研究でも指摘されています。食事による健康格差は、決して遠い国の話ではありません。研究の限界と、それでも揺るがない価値もちろん、この研究にも限界はあります。まず、各国の食事データの質にばらつきがあり、一部の国では推計モデルに依存しています。また、ここで示された食事の影響は、因果関係を保証するものではありません。さらに、各食事要因間の複合的な相互作用(たとえば、全粒穀物の摂取が多い人は全体的に食事の質が高い傾向にある、など)を完全には考慮できていません。しかし、204ヵ国を対象に13の食事要因を網羅的に評価し、33年間の推移を追跡したこの研究の規模と包括性は、他に類を見ません。「食事を変えることで心臓病の相当部分を予防できる」というメッセージは、これらの限界を踏まえてもなお、揺るぎないものです。明日から始められること最後に、この研究が示す教訓。それは、「減らす」ことだけでなく「加える」「替える」ことも大切だということです。食塩を減らす、砂糖を減らす、だけではなく、毎日の食事に一握りのナッツを添える、白米の一部を玄米や雑穀米に替える、果物を意識的に増やす。こうした小さな積み重ねが、10年後、20年後の心臓の健康を大きく左右する可能性があります。世界406万人の死というデータは衝撃的ですが、裏を返せば、それだけの命が「食卓を変えること」で守れる余地があるということ。壮大なデータが教えてくれたのは、毎日の食事の力がいかに大きいかということだったのです。 1) GBD 2023 IHD & Dietary Risk Factors Collaborators. Global, regional and national burden of ischemic heart disease attributable to suboptimal diet, 1990-2023: a Global Burden of Disease study. Nat Med. 2026 Mar 30. [Epub ahead of print]

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第111回薬剤師国家試験の合格率は?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第167回

3月26日に第111回薬剤師国家試験の合格発表が行われ、新しく8,749人の薬剤師が誕生しました。しかし、不安になるような流れも顕著で…。厚生労働省は26日までに、第111回薬剤師国家試験について、合格率は68.49%(前年度比0.36ポイント減)だったと発表した。合格者数は8749人で、前年から415人減。新卒に限った合格率は86.25%、合格者数は6711人だった。新卒と既卒を合わせた合格率の最下位は、前年に引き続き姫路獨協大学の22.32%。同大は、すでに25年度から薬学部の入学募集を停止している。次いで合格率が低かったのは、第一薬科大学の35.16%、青森大学の35.53%だった。(2026年3月27日付 RISFAX)全体の合格率が68.49%、新卒の合格率は86.25%でした。おおむね最近の合格率の推移と同様の合格率となりました。一方、今回の合格者は8,749人で、9,000人を切りました。今後も合格者が極端に増えることは考えづらく、また急に薬局などが減ることもないと思われるため、薬局をはじめとする薬剤師争奪戦は、今後もっと厳しい戦いになると想像できます。この状況に追い打ちをかけるように、城西国際大学は薬学部医療薬学科の2027年度以降の学生募集を停止すると発表しました。ここ最近、薬学部への志願者数の減少により、薬学部の定員削減や募集停止の動きが相次いでいます。すでに姫路獨協大学と医療創生大学の薬学部は新入生募集を停止しています。単なる少子化、薬剤師合格者数減少、また薬学部の志望者減少というだけでは終わらず、この流れは薬剤師数の確保や質の担保にも影響してくると思われます。薬局の業務や採用にも影響してくると考えると、時給や働き方、極端なところは開業時間や店舗展開など、皆さんの業務そのものにも関わってくると想像できます。ここ20年ほどずーっと薬剤師が足りないと言われていましたが、その足りなさとはちょっと違う流れが始まった感じがします。ここ何年かで在宅業務や地域医療などへの薬剤師の関わりが増えてきて、地域医療における薬剤師の活躍の話題が耳に入ってくることが増えてきました。国家試験の問題でも、最近の地域医療や実際の臨床業務を意識した出題が目立ったそうです。ここで流れが止まったり、変わったりするとどうなるかとちょっと心配になります。皆さんが行っている薬剤師業務は魅力的なものでしょうか。また、身近な中学生や高校生に「こうなりたい!」と思われる薬剤師になっているでしょうか。総力戦で考える必要がありそうです。

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日本の乳がん・子宮頸がん・卵巣がんの5年純生存率の推移:2000~14年(CONCORD-3)

 日本の乳がん、子宮頸がん、卵巣がんの女性の5年純生存率は2000~14年に改善し、この期間を通じて世界的に高い水準を維持したことが世界的ながん生存率調査プログラムであるCONCORD-3の日本人データを用いた分析により示された。神奈川県立がんセンターの渡邉 要氏らがJapanese Journal of Clinical Oncology誌2026年3月号で報告した。 本研究は、国内16の地域がん登録データから、2000~14年に乳房、子宮頸部、卵巣に原発する腫瘍と診断された15~99歳の女性のデータを分析した。追跡期間は診断後5年間、もしくは2014年12月31日までとした。上皮内がんや死亡診断書のみの登録は除外した。5年純生存率は、診断の暦年、形態、および病期別にPohar-Perme法を用いて推定し、International Cancer Survival Standard(ICSS)の重み付けを用いて年齢を調整した。 主な結果は以下のとおり。・2000年から2014年の間に、乳がんの5年純生存率は、85.9%(95%信頼区間:85.2~86.6)から89.4%(同:88.9~89.9)に、子宮頸がんの5年純生存率は67.5%(同:66.3~68.7%)から71.4%(同:70.4~72.3)に、卵巣がんの5年純生存率は35.5%(同:33.8~37.%)から46.3%(同:44.9~47.7)に改善した。・局所のStageで診断された腫瘍の5年生存率は一貫して高く(乳がんは98%超、子宮頸がんは90%超)、卵巣がんの生存率は形態によって大きく異なった。 著者らは「この改善は、乳がんおよび子宮頸がんの早期発見と、あらゆるがんに対する集学的治療の進歩によるものと考えられる。遠隔転移を伴う子宮頸がんおよび卵巣がんの生存率は依然として課題であり、検診と治療戦略の強化の必要性が改めて浮き彫りになった」と結論している。

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日本の精神科診療におけるデキストロメトルファン乱用者の特徴

 近年、日本の精神科臨床現場において、市販薬(OTC)の乱用が増加している。千葉病院の谷渕 由布子氏らは、日本におけるコデイン(COD)乱用者とデキストロメトルファン(DXM)乱用者を比較することにより、DXM乱用者の臨床的特徴を明らかにし、この集団に必要な支援策を検討するため、本研究を実施した。Neuropsychopharmacology Reports誌2026年3月号の報告。 本研究では、2024年の精神科入院施設における薬物関連障害に関する全国調査のデータを使用した。データベースから、主にCODを含むOTC薬(COD群)とDXMを含むOTC薬(DXM群)を乱用している患者を抽出した。人口統計学的特性、ICD-10のサブカテゴリー、併存する精神疾患を調査し、Fisherの正確確率検定を用いて両群間の比較を行った。DXM乱用に関連する因子は、多変量ロジスティック回帰を用いてさらに分析した。 主な結果は以下のとおり。・COD群160例、DXM群72例を分析に含めた。・COD群と比較し、DXM群では女性と若年層の割合が高く、過去1年以内の薬物使用率、自傷行為または自殺企図の既往歴も高かった。・また、DXM群では、ICD-10に基づく「急性中毒」および「気分障害(F3)」の併存率が有意に高かった。・多変量ロジスティック回帰分析では、若年(調整オッズ比[aOR]:2.558、95%信頼区間[CI]:1.218〜5.371)、急性中毒(aOR:2.73、95%CI:1.254〜5.942)、併存する気分障害(aOR:2.201、95%CI:1.146〜4.227)がDXM乱用と有意に関連していた。 著者らは「これらの知見は、DXM乱用者を支援するうえで、急性期管理、併存する精神疾患の評価、そして自殺リスク評価を含む介入の重要性を浮き彫りにしている。さらに、メンタルヘルスに焦点を当てた自殺予防の視点を取り入れた予防教育および市販薬の販売に関する規制措置が緊急に必要である」と結論付けている。

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リアルワールドにおけるチルゼパチドの減量効果

 減量治療を行っている肥満患者への薬物治療において、チルゼパチドの効果はどのくらいあるのであろうか。このテーマについて米国・Weill Cornell MedicineのSarah R. Barenbaum氏らの研究グループは後ろ向きコホート研究を実施し、チルゼパチド治療を受けた成人の6ヵ月間の減量の転帰を分析した。その結果、チルゼパチドは全群において有意な体重減少をもたらすことがわかった。この結果はObesity誌オンライン版2026年3月28日号で公開された。減量停滞時に治療薬の切り替えを行うと効果が上がる可能性 研究グループは、2022年5月~2023年1月の間にチルゼパチド治療を受けた成人の6ヵ月間の減量転帰を後ろ向きコホート研究として分析した。チルゼパチド開始前に総体重(TBW)が10%以上減少していた患者を「減量済み」と分類し、セマグルチド(週1.7mg以上を1ヵ月以上投与)から切り替えた患者については、切り替え理由を「無効(3ヵ月以上経過後の減量率5%未満)」、「停滞(5%以上の減量後に体重が安定)」、または「その他」に分類した。 主な結果は以下のとおり。・941例のカルテのうち、293例(31.1%)が選択基準を満たした(女性65%、平均年齢52歳、平均BMI値36.1)。・チルゼパチド開始前にすでに減量していた患者133例のTBW減少率は7.2%であったのに対し、減量していなかった患者160例では10.3%だった(p<0.001)。・2型糖尿病の有無で層別化して解析した結果、糖尿病を有しない患者群においても体重減少の差は統計的に有意であった。・無効または停滞を理由にセマグルチドから切り替えを行った61例の患者ではTBWが5.3%減少した。・停滞時に切り替えを行った患者28例では8.1%の減少がみられたのに対し、無効例33例では2.9%の減少にとどまった(p<0.001)。 以上の結果から研究グループは、「チルゼパチドは全群において有意な体重減少をもたらしたが、その効果は減量状況、2型糖尿病の有無、およびセマグルチドへの過去の反応性によって異なる」と結論付けている。

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胃がん周術期、デュルバルマブ+FLOTは日本人でも有効性を再現(MATTERHORN)/日本臨床腫瘍学会

 MATTERHORN試験は、切除可能な胃がん/胃食道接合部がん患者を対象に、周術期のデュルバルマブ+FLOT(フルオロウラシル、ロイコボリン、オキサリプラチン、ドセタキセル)療法の有用性を検討した試験である。昨年の米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)で、デュルバルマブ+FLOT群がプラセボ+FLOT群と比較して無イベント生存期間(EFS)、病理学的完全奏効(pCR)、全生存期間(OS)を有意に改善したことが報告され、欧米の多くの国ではすでに標準治療となっている。第23回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2026)のPresidential Sessionで愛知県がんセンターの室 圭氏が本試験の日本人集団の結果を報告した。・国際共同二重盲検ランダム化第III相試験・対象:切除可能なStageII~IVA期局所進行胃がん/食道胃接合部がん 948例・試験群:術前FLOT(2サイクル)+デュルバルマブ1500mgを併用、術後FLOT(2サイクル)+デュルバルマブ、その後デュルバルマブ単剤を最大10サイクル(D+FLOT群)474例・対照群:デュルバルマブに代えてプラセボ投与(FLOT群)474例・評価項目:[主要評価項目]EFS[副次評価項目]OS、pCR、安全性など・データカットオフ:2024年12月20日 既報の主要な結果は以下のとおり。・D+FLOT群はFLOT群と比較して、統計学的に有意なEFSの改善を示した(ハザード比[HR]:0.71、95%信頼区間[CI]:0.58~0.86)。・EFS中央値はD+FLOT群は未到達(95%CI:40.7~未到達)、FLOT群で32.8ヵ月(95%CI:27.9~未到達)だった。2年EFS率は、D+FLOTでFLOT群よりも高かった(67%対59%)。・OS中央値は、両群とも未到達であった(HR:0.78、95%CI:0.63~0.96、p=0.025)。・pCR率はD+FLOT群で19.2%、FLOT群で7.2%だった。・Grade3/4の有害事象の発現率は両群で類似していた。 日本人集団の解析結果は以下のとおり。・全体集団の20%がアジア人で、うち日本人は86例(D+FLOT群:40例、FLOT群:46例)だった。それぞれ38例対42例が手術を完了し、35例対39例がD+FLOT群およびFLOT群で補助療法を開始した。・全体集団同様に、D+FLOT群はFLOT群と比較してEFSを改善(HR:0.32、95%CI:0.13~0.72)し、24ヵ月EFS率はD+FLOT群で84.1%、FLOT群で54.5%であった。EFS改善は年齢、PD-L1発現率などいずれのサブグループでも共通していた。・pCRは、D+FLOT群で17.5%、FLOT群で6.5%であった(オッズ比:2.98、95%CI:0.71~12.43)。・OSも、D+FLOT群がFLOT群に比べて改善した(ハザード比:0.25、95%CI:0.08~0.63)。・Grade3/4の有害事象はD+FLOT群の85%、FLOTの84.8%で報告された。最も頻度の高いのは好中球減少症(好中球数減少含む)であり、両群で発現率は同程度であった(75.0%対73.9%)。 室氏は「日本人患者における有効性および安全性の結果は全体集団と一致していた。D+FLOT群はFLOT群と比較してEFS、pCR、OSを改善し、安全性のプロファイルは各薬剤と一致していた」とまとめた。 本発表のディスカッサントを務めた国立がん研究センター東病院の坂東 英明氏は「現在の日本の『胃治療ガイドライン2025年版』では、“切除可能な進行胃がん・食道胃接合部がんに対する術前補助化学療法については明確な推奨ができない”とされており、本レジメンを臨床導入するにあたってはガイドライン改訂の議論が必要になるだろう。日本国内の多くの施設ではFLOT療法に関する経験が限られているが、日本人サブグループ解析の結果はこのレジメンが十分に管理可能であり、有効性もきわめて高いことを示唆している」とした。 これを受けて室氏は「FLOTの毒性について懸念の声が多いが、予防的にG-CSF製剤を使うことで十分に管理可能だと考える。すでに食道がんで使われているDCF療法のほうが毒性の強いレジメンであり、がん診療連携拠点病院であればFLOTは問題なく投与・管理できるはずだ。胃がん術前療法は各国で異なるレジメンが使われているのが問題だったが、今回の結果を基にD-FLOTに統一されていくことが望ましいと考える。私見になるが、日本人集団のEFSの成績が全体集団より良好だったのは、日本の優れた手術と適切な周術期管理が一因だと考える。日本においても胃がん周術期療法が早期に普及することを期待している」とした。

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『大型血管炎診療ガイドライン』改訂、治療のCQ推奨が新設/日本循環器学会

 大血管炎の高安動脈炎(TAK)や巨細胞性動脈炎(GCA)、そしてバージャー病に関する治療エビデンスや診断基準などをまとめた『2026年改訂版 大型血管炎診療ガイドライン』1,2)が8年ぶりに改訂された。第90回日本循環器学会学術集会(3月20~23日)会期中の3月20日に発刊され、本ガイドラインの研究班長を務めた中岡 良和氏(国立循環器病研究センター研究所副所長/血管生理学部長)が本学術集会プログラム「ガイドラインに学ぶ2」において、改訂点などを解説した。CHCC 2012における疾患分類と本ガイドラインで扱う疾患 血管炎は血管壁に炎症を認める疾患の総称で、多臓器を障害するため診療科横断的に多くの専門医の関与が必要とされる領域である。疾患分類は「CHCC 2012 血管炎の分類基準」に基づき、大型血管炎(TAKとGCA)、中型血管炎(結節性多発動脈炎[PAN]、川崎病)、小型血管炎(免疫複合体型小型血管炎、IGA血管炎ほか)3)とされる。一方で、バージャー病はこの分類には記載されていないが、「難治性血管炎の医療水準・患者QOL向上に資する研究」4)の大型血管炎臨床分科会の調査対象であること、循環器医が関与する疾患であること、そして前版(2017年版)でも対象範囲としていたことから、本書でも大型血管炎の2疾患とともにバージャー病を対象疾患とした。ステロイド抵抗性症例に対するCQ推奨を設定 今回、本書で取り扱う大血管炎(TAK、GCA)の2疾患は、希少疾患であるもののエビデンス収集という難しい局面を乗り越え、治療レジメンに対する全9項目のクリニカルクエスチョン(CQ)とそれに対する推奨がPart1(診療ガイドライン)の項で取り扱われている。TAKとGCAはいずれもステロイド(グルココルチコイド:GC)により一時的な寛解に至るものの、減量過程で半数以上に再燃がみられるため、GC治療抵抗性症例の治療選択肢を明らかにするため、ステロイド抵抗性症例に対するCQ推奨が設定された。中岡氏は、「システマティック・レビュー(SR)チームがTAKとGCAのRCT論文をMindsのGRADEシステムに準拠した最新研究などのSR結果をガイドライン発刊に先駆けて論文報告した5)。そして、近年ではステロイド治療に加えて、IL-6阻害薬トシリズマブなどが汎用されるようになったため、エビデンスの確実性や益と害について各CQと推奨で言及している」と説明した。 なお、中型血管炎であるPANも循環器医が臨床現場で遭遇する可能性があること、『ANCA関連血管炎診療ガイドライン2023』での記載がないことを踏まえ、本書第6章で取り上げている。また、バージャー病はPart2(各疾患の基礎と臨床)でのみの取り扱いであることには注意したい。 次に、本書を手に取るうえで理解しておきたい各疾患の特徴を以下のように示す。―――――――――――――――――――【高安動脈炎(TAK)】・病名:高安動脈炎に統一(大動脈炎症候群、高安病、脈なし病などと呼ばれているため)・患者数:4,642例(2022年度難病受給者証所持者数)・男女比:1対8~9と女性が圧倒的に多い・発症年齢:女性は20歳前後にピーク、男性ははっきりしたピークがない・年齢分布:50代が多い・患者背景:HLA-B52陽性患者が多く、陽性者はグルココルチコイド治療抵抗性症例が多い・合併症:潰瘍性大腸炎罹患者が8%前後存在・地域差:アジアに多く、欧米に少ない【巨細胞性動脈炎(GCA)】・病名:以前は側頭動脈炎、Horton病などが使用されていた・患者数:2,850例(2023年度医療費受給者証所持者数)・男女比:1対2~3で女性がやや多い・年齢分布:50歳以上にみられ、70~80代でピーク・合併症:リウマチ性多発筋痛症が約30~40%にみられる・地域差:欧米に多く、アジアに少ない【バージャー病】・病名:閉塞性血栓血管炎とも呼ばれる・患者数:2,259例(2019年度特定医療費[難病]受給者証所持者数)で、近年減少傾向・男女比:若年発症でヘビースモーカーの男性に好発する・原因:作用機序などは不明だが、喫煙との関連が推察される―――――――――――――――――――TAKでのトシリズマブ併用、GCAの大動脈瘤リスク 上記を踏まえ、TAKの治療について、「治療アルゴリズムでは、まず疾患活動性を評価したうえでステロイド治療を開始する。欧米のガイドラインでは初期から免疫抑制薬を併用することが推奨されているが、本書CQ1(TAKの治療ではどのようなレジメンが有用か?)では、GCの早期減量が必要な症例に対し、トシリズマブ併用を選択肢とする推奨を示した」と強調した。 続いてGCAについて、「全身症状に加え、血管分布に応じて症状が出現する。外頸動脈の領域では血管狭窄に伴い、側頭部の痛み(顎跛行、舌跛行など)がみられる。内頚動脈の領域では失明や脳梗塞の原因になるほか、近年では大動脈瘤などを来すため、循環器領域でも注目されている」と指摘。診断基準は、現状、国内では1990年ACR分類基準が利用されているが、2022年ACR/EULARベースに日本語版の策定を進めているため、従来の1990年ACR分類基準と欧米で用いられている2022年ACR/EULAR分類基準が併記されている。さらに、トシリズマブの適応について「(確定診断ならびに疾患活動性の評価後に)トシリズマブを併用することでステロイドが減量できる点は50歳以上の患者でステロイドによる副作用を回避できるメリットがあるため、治療アルゴリズムにおいて、矢印を太字で示した。なお、昨年のNEJM誌において有用性が示されたJAK阻害薬ウパダシチニブは今回のアルゴリズムには反映されておらず、改めて検討される予定となっている」と説明した。 バージャー病については、「早期診断のため、診断基準の改訂を望む意見が多くあったため、2024年に一度改訂を行っている。本疾患として相違ない症状を呈し、血管画像検査所見が本疾患の特徴と合致し、ほかの疾患と鑑別できれば、診断可能」と解説した。「妊娠・出産」に関するコラムを新設 本書はわが国の大型血管炎の診療レベルを標準化し、日本全国どこにおいても患者が同じような治療を受けられるようにすること、患者の生活の質(QOL)と予後を改善させることを目的とし、大型血管炎の診療に関わる医師、医療専門職および大型血管炎の患者を利用者と想定して作成された。 最後に、今回新たに盛り込まれたコラムのうちTAK患者の妊娠・出産の項目を例に挙げ、「TAKの発症は10~20代の若年女性に多く見られるため、患者に妊娠をすること自体がリスクを伴う現実を伝えることも必要と判断されたため、コラムで妊娠・出産にも触れている。TAKを有する患者では妊娠が禁忌とされていたが、妊娠前に炎症をコントロールすることで妊娠・出産が可能であることや管理の軸について記した」と締めくくった。日本循環器学会(JCS)学術集会まとめページはこちら

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KRAS p.G12D変異あり既治療進行固形がん、setidegrasibの安全性確認/NEJM

 KRAS p.G12D変異を有する既治療進行非小細胞肺がん(NSCLC)および膵管腺がん(PDAC)の患者において、開発中のsetidegrasib(KRAS G12D変異体を標的とするファーストインクラスの標的タンパク質分解誘導薬)は抗腫瘍活性を示し、治療中止に至った有害事象の発現は低頻度であったことが、米国・Memorial Sloan Kettering Cancer CenterのWungki Park氏らによる、第I相試験の結果で報告された。KRAS p.G12D変異は、NSCLC患者の5%にみられる。PDAC患者では40%にみられ、最も頻度の高い変異型であるが、KRAS p.G12D変異を標的とする承認薬は現状では存在していない。NEJM誌オンライン版2026年3月25日号掲載の報告。5ヵ国28施設で、NSCLCおよびPDAC患者を対象に実施 研究グループは、KRAS p.G12D変異を有する既治療の進行固形がん患者において、setidegrasibの安全性、薬物動態、薬力学、および抗腫瘍活性を評価する国際共同非盲検多施設共同第I相試験(用量漸増コホートおよび用量拡大コホートを含む)を実施した。setidegrasibは、10~800mgの用量で週1回静脈内投与された。 本試験の主要目的は、安全性プロファイル(主要評価項目とした用量制限毒性および有害事象)の評価、および第II相の試験用量を確定することであった。 2022年6月21日~2025年4月24日に、日本を含む5ヵ国28施設で203例(NSCLC 59例、PDAC 124例、その他固形がん20例)が登録された。2025年10月9日(安全性評価のデータのカットオフ日)時点で、計24例(NSCLC 20例、PDAC 4例)が治療を継続していた。治療中止の理由としては病勢進行が最も多かった(152/179例[85%])。第II相の推奨試験用量は600mg、Grade3以上の有害事象の発現は42% 安全性、薬物動態、薬力学および有効性の解析に基づき、第II相の推奨試験用量として選択されたのは、76例(NSCLC 45例、PDAC 31例)が受けていた週1回600mg静脈内投与であった。76例の年齢中央値は、NSCLC群68歳(範囲:36~81)、PDAC群65歳(36~79)であり、NSCLC群の30%、PDAC群の57%がアジア人であった。前治療ライン数中央値は、両群とも2(範囲:1~5)であった。前治療として、NSCLC群の93%がプラチナベース化学療法+免疫チェックポイント阻害薬を、PDAC群では84%がゲムシタビン+パクリタキセルまたはnab-パクリタキセルを、52%がmFOLFIRINOXを受けていた。 週1回600mg静脈内投与された76例の安全性解析の結果、Grade3以上の有害事象は32例(42%)に発現した。治療関連有害事象は71例(93%)で報告され、最も多くみられたのは注入に伴う反応(80%)および悪心(30%)であった。治療中止に至った有害事象は2例であった。 600mgの投与を受けたNSCLC患者45例において、36%(95%信頼区間[CI]:22~51)が部分奏効を示し、無増悪生存期間(PFS)中央値は8.3ヵ月(95%CI:4.1~推定不能)、推定12ヵ月全生存率は59%(95%CI:40~74)であった。 2次治療または3次治療として600mgの投与を受けた転移のあるPDAC患者21例(うち67%が3次治療)において、24%(95%CI:8~47)で部分奏効が認められ、PFS中央値は3.0ヵ月(95%CI:1.4~6.9)、全生存期間中央値は10.3ヵ月(95%CI:4.2~13.0)であった。

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尿路結石の再発予防、水分摂取への介入は無効/Lancet

 尿路結石再発予防のための水分摂取を促す行動介入プログラムは、ガイドラインベースのケアと比較して、2年間の追跡期間中、症候性の結石再発を減少させず、尿量増加もわずかだった。米国・セントルイス・ワシントン大学のAlana C. Desai氏らUrinary Stone Disease Network Investigatorsが、アドヒアランス介入に関する無作為化試験の結果を報告した。尿路結石の再発リスク減少のために水分摂取量を増やすことが広く推奨されているが、アドヒアランスが課題となっている。水分摂取量を維持するための介入効果について、これまで十分に試験されていなかった。Lancet誌2026年3月21日号掲載の報告。多要素行動介入群vs.ガイドライン準拠ケア群で症候性結石再発を評価 研究グループは、水分摂取量を増やすことを促す多面的な行動介入プログラムが、対照と比較して尿路結石の再発を減らすかどうかを明らかにする検討を行った。米国の6つの大学医療センターで、12歳以上、尿路結石の既往があり、現行ガイドラインに基づく24時間尿量が少ない被験者を登録した。 被験者は、水分摂取量を増やすことを促すようデザインされた多要素行動介入群、またはガイドラインに準拠したケアを受ける対照群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。介入は、目標水分摂取量の設定、目標水分摂取量を順守するための金銭的インセンティブ、水分摂取量を増やすことに対する障壁を克服するための健康指導、そして患者の選択に基づくアプローチ(水分摂取量増加を維持するためのテキストメッセージなど)で構成された。 無作為化割り付けは、遠隔的にコンピュータで生成され、治験担当医師、治療担当医師、アウトカム評価者、および判定者はグループ割り付けを知らされなかった。 主要アウトカムは、症候性の結石再発(2年間の追跡期間中の結石排出または結石に対する処置介入として定義)で、ITT集団を対象として解析した。副次アウトカムは、24時間尿量の変化、尿路症状、画像上の新規結石形成または既存結石の増大、および症候性の結石再発・新規結石形成・既存結石の増大の複合などであった。安全性エンドポイントとして、入院を要した低ナトリウム血症を評価した。追跡期間中央値738日時点で症候性の結石再発、介入群19%、対照群20% 2017年10月26日~2022年2月18日に、1,658例が介入群(826例)または対照群(832例)に無作為化された。被験者は、年齢中央値44歳(四分位範囲[IQR]:29~59)、女性が946例(57%)であった。 追跡期間中央値738日(IQR:711~778)時点で、症候性の結石再発は、介入群154例(19%)、対照群165例(20%)で発生した(ハザード比[HR]:0.96、95%信頼区間[CI]:0.77~1.20)。1,658例のうち1,104例(66.6%)が結石再発患者であった。 24時間尿量は、両群ともベースラインから増加したが、6ヵ月、12ヵ月、18ヵ月、24ヵ月時点でいずれも、対照群と比較して介入群で尿量が多かった。 頻尿、尿意切迫および夜間頻尿の尿貯留症状は、介入群では対照群と比較して6ヵ月および12ヵ月時点では多かったが、その後の時点では差はなかった。 ベースラインから試験終了時の画像検査までに、既存結石の2mm以上の増大または新規結石形成について両群間で差は認められず、症候性の結石再発・新規結石形成・既存結石の2mm以上の増大の複合アウトカムについても両群間で統計学的有意差は認められなかった。 入院を要した低ナトリウム血症エピソードは報告されなかったが、無症候性の低ナトリウム血症が介入群12例(1%)、対照群2例(<1%)で報告された。

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脳ケアスコア「BCS」が高いほど脳卒中発症リスクが低い

 米マサチューセッツ総合病院のEvy M. Reinders氏らは、脳卒中リスクの地理的・人種的差異を探る前向きコホート研究(Reasons for Geographic and Racial Differences in Stroke;REGARDS)のデータを解析。修正可能な12項目の因子を評価する「脳ケアスコア(Brain Care Score;BCS)」が良好であるほど、脳卒中発症リスクが低いことを見いだした。詳細は「Neurology」に12月18日掲載された。 この研究では、REGARDS参加者のうち、ベースラインで脳卒中の既往がなく、BCSスコア算出に必要なデータに欠落のない1万861人(平均年齢63.2±8.4歳、女性57.4%、黒人30.6%)を解析対象とした。解析に際しては、米国では脳卒中リスクに人種差があることから、黒人と白人を層別化して比較検討した。 BCSスコアは、脳卒中や認知症、老年期うつ病のリスクに関連している、BMI、血圧、血糖値、コレステロール、喫煙・飲酒・食事・運動・睡眠習慣、ストレスなど、修正可能な12項目を評価する。スコア範囲は0~21点で、スコアが高いほど脳ケアが優れていることを意味する。本研究の解析対象者のベースライン値は14.4±2.4で、黒人(13.8±2.5)は白人(14.7±2.3)より低値だった(P<0.001)。 中央値15.9年の追跡で696件の脳卒中(虚血性、出血性、およびくも膜下出血)が発生した。カプランマイヤー解析での脳卒中累積発生率は全体で6.2%であり、人種別でも黒人・白人ともに6.2%であった。交絡因子(年齢、性別、収入、教育歴、医療保険、居住地域など)を調整した解析からは、黒人ではBCSスコアが5点高いごとに脳卒中リスクが53%低い(ハザード比〔HR〕0.47〔95%信頼区間0.36~0.61〕)という有意な関連が認められた。それに対して白人では25%のリスク低下にとどまり(HR0.75〔同0.62~0.92〕)、関連の強さに有意差があった(P=0.0045)。 脳卒中のタイプ別の解析では、虚血性脳卒中では全体解析と同様の傾向が観察された。一方、出血性脳卒中に関しては症例数が少ないため不確実性が大きく、統計学的に有意な関連が見られなかった。 Reinders氏は、「身体的要因、生活習慣要因、および社会心理学的要因を統合して脳の健康状態を測るBCSスコアを用いた検討により、特に黒人などの脳卒中リスクの高い集団で、生活習慣の改善がより大きなリスク抑制につながる可能性が示唆された」と総括している。 なお、1人の著者が製薬企業との利益相反(COI)に関する情報を開示している。

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経口GLP-1受容体作動薬orforglipronの期待と課題―セマグルチドを置き換えるか?(解説:永井聡氏)

 経口GLP-1受容体作動薬であるorforglipronは、もともと中外製薬が開発した中分子化合物で、細胞内でG蛋白依存性シグナルを特異的に活性化する“バイアスリガンド”という新しい機序の非ペプチド製剤である。経口セマグルチドと異なり、胃内で分解されにくく、吸収を助ける添加剤を必要としない。そのため、空腹時の服用や飲水制限といった条件を課さず、日常生活における服薬の自由度が格段に向上することが特徴である。 これまで本剤を用いた2型糖尿病を対象とするRCTは、プラセボとの比較であるACHIEVE-1、ATTAIN-2試験が発表されている。いずれの試験でも体重およびHbA1c値の改善は、週1回セマグルチド注射製剤に匹敵する効果が報告されている。 ACHIEVE-3試験は、日本人を含むメトホルミンでコントロール不十分な2型糖尿病患者を対象に、orforglipron(12mg/36mg)と経口セマグルチド(7mg/14mg)を比較したオープンラベル試験である。初の実薬との比較試験であり、本邦での承認用量である経口セマグルチドとの比較である。まさに「知りたかった」試験である。結果は、orforglipronは低用量(12mg)でも経口セマグルチド14mgよりも有意にHbA1c値を改善し、さらに高用量(36mg)では、7割でHbA1c値6.5%以下を達成し、4割が10%以上の減量を達成しており、orforglipronが「勝利」したのである。 では、今後すぐに経口セマグルチドはorforglipronに置き換わるのか? それには次に挙げる課題の解決が必要である。第1に、orforglipronは経口セマグルチドと同じペプチドのGLP-1受容体作動薬ではない。このため長期の安全性や心腎保護のエビデンスについては、orforglipronの心血管アウトカム試験(CVOT)が判明するまでは、経口セマグルチドに軍配が上がる1,2)。第2に、今回は、中等量の経口セマグルチドとの比較でorforglipronが優位だったが、薬剤としての優劣は別である。海外では、より高用量である経口セマグルチド25mgが肥満症に承認されている。高用量の経口セマグルチドでは臨床効果の差が縮まる可能性にも留意する。本試験のorforglipronは高頻度な消化器症状を呈しており、実臨床では治療中止例が多発する可能性がある(もちろん高用量セマグルチドも同様だが)。 そして最後に、何よりも本試験デザインは、発表されているorforglipronのこれまでの臨床試験とは異なる“オープンラベル試験”である。本試験の経口セマグルチドの消化器症状は既存のRCTよりも明らかに低頻度であり、医療者・患者ともに処方内容を知っている。既知の副作用が予測されると副作用が過小報告される可能性がある。では、orforglipronという「新薬」にはどう影響するのか…? もし「強い期待」が医療者にも患者にもあれば、臨床効果も副作用報告も新薬に都合の良いものにならないだろうか。とくに主観的な「副作用報告」や「QOL」には注意を要する。 とはいえ、orforglipronの登場により、他の血糖降下薬、降圧薬や脂質異常症治療薬と「一包化」も可能になり、個々のライフスタイルに合わせた処方が可能となることは喜ばしい。肥満を有する糖尿病へ早期介入が促進され、糖尿病寛解も増えることが期待されるだろう。しかし何事も「期待しすぎ」には注意してほしい…。

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最適な輸液ルート選択の考え方 その壱【ケースで学ぶ輸液オーダー】第2回

最適な輸液ルート選択の考え方 その壱これから集中治療を行う患者さんに対して、「どこから、何のために、どんなルートを確保するのが安全か」ということをあまり考えずに、先輩医師のやり方を見てなんとなく慣習で選んでいたということは少なくないかもしれません。今一度、輸液ルート選択の思考回路を一緒に整理してみましょう。症例肺炎によるI型呼吸不全、敗血症性ショックでICUに入室した患者さんに対応するよう、指導医とともに緊急呼び出しされた初期研修医A君。酸素10L/分(マスク)、両側肘正中皮静脈から18Gを1本ずつ確保、両側とも細胞外液補充液を急速投与中、それでも血圧80/40mmHg、脈拍120/分、呼吸回数30回/分、SpO2 88%、ショックと低酸素血症が持続しています。迅速導入気管挿管(rapid sequence intubation)を行い、人工呼吸管理となりました。指導医は「あとは頼んだよ」と言って去っていきました。挿管後、患者さんは強い体動を認め、上肢をばたつかせています。ショックの治療と並行して持続的な鎮静・鎮痛が必要です。併存症に糖尿病があり血糖800mg/dL、さらに播種性血管内凝固症候群(DIC)も合併しています。さて、A君は次に何を行うべきでしょうか?考えかたの整理集中治療では、複数の薬剤・輸液を同時並行で安全に投与する必要があります。想定される投与内容は、ショックに対する細胞外液補充液・昇圧薬、人工呼吸中の鎮静薬・鎮痛薬、抗菌薬、維持輸液(将来的に栄養輸液に移行する可能性あり)、インスリンなどです。ここで大切なことが3つあります。1. 流量変動の影響を受けてはいけない薬剤がある例:昇圧薬、鎮静薬・鎮痛薬、インスリン持続投与などこれらは流量が変わると、血圧や鎮静レベル、血糖値が一気に変動するため、急速に注入するラインと同じラインにすべきではありません。2. 配合変化がありうる例:オメプラゾール、セフトリアキソン、アミオダロンなど他剤との混合で沈殿・失活が起こる薬剤があるため、不明な場合は必ず薬剤師に相談しましょう。ちなみに輸血と同一ラインで流せるのは生理食塩液のみです。3. 末梢で理論上可能でも現実的ではないことがある理論上、すべて末梢静脈から投与可能な薬剤でも、必要な薬剤が多すぎて、メイン点滴ルートの側管などを駆使しても現実的にすべて末梢から行えない場合もあります。その場合は、ルートの本数かせぎに複数のルーメンを持つトリプルやクワッドルーメンの中心静脈カテーテル挿入が必要です。中心静脈カテーテル挿入の主な適応は、(1)末梢静脈の確保困難、(2)薬剤の多剤併用、(3)刺激性、腐食性、高浸透圧性の薬剤投与(抗がん剤、昇圧薬、50%ブドウ糖、高カロリー輸液など)、(4)血行動態のモニタリング(スワンガンツカテーテル挿入、中心静脈圧測定などの圧モニター)です。本症例は、(2)多剤併用、(3)昇圧薬投与が該当します。本症例の対応本症例には以下の輸液、薬剤の投与が必要です。ショック:細胞外液補充液、ノルアドレナリン人工呼吸中の鎮静、鎮痛:プロポフォール、フェンタニル敗血症:抗菌薬維持輸液(将来的に中心静脈栄養に移行する可能性あり)インスリン(持続投与)本患者は強い体動を認めているため、現在の両側肘静脈ラインは今にも抜けそうで不安定であり、流量管理が困難かつ薬剤が組織侵襲性のある薬剤を投与すると血管外へ漏出する恐れがあります。以上から、組織侵襲性のある薬剤や一定の流量で投与すべき薬剤を複数かつ安全に投与する目的で、マルチルーメン中心静脈カテーテル挿入が必須です。中心静脈カテーテルの挿入部位はさまざまでそれぞれ長所・短所がありますが、本症例はDICを合併していることから止血の確実性が重要であり、動脈誤穿刺時の圧迫止血の容易さを考えると、内頸静脈または大腿静脈が有利です。ただし、清潔性・感染管理・将来の離床を考えると、右内頸静脈が第1選択となることも多いでしょう。もちろん、超緊急時は理想に固執せずに最も得意な部位から確実に挿入することも許容されます。図1 中心静脈カテーテル各挿入部位の利点、欠点1)画像を拡大する本症例はベテランICUナースによって図2で示す投与経路が組み立てられました。医師が投与経路の組み立てを自ら行うことはまれですが、たとえば昇圧薬、鎮静薬や鎮痛薬、時間をかけて静注する必要のある薬剤にグループ分けするなど、看護師が多くの薬剤を限られたルートからいかに工夫して投与しているか、そのオキテに着目するのは勉強になります。図2 本症例における輸液・薬剤投与経路の実際2)画像を拡大する目的に見合う最適な輸液ルートやカテーテルを選択しましょう。混ぜても大丈夫?注射薬は単独での使用を想定し開発されていますが、臨床現場では輸液バッグやルート内で配合されて投与される場合が多く、配合変化の危険が存在します。配合変化とは、2種類以上の注射薬を混合した際に生じる変化であり、物理的配合変化(例:混濁・沈殿)と化学的配合変化(例:有効成分の力価低下)に分けられます。配合変化による影響としては、力価の低下やルート閉塞、まれではありますが国外において死亡例が報告されています3)。ICUでは複数の静注薬を限られたルートの中で同時投与せざるを得ない状況があります。そのため、最適なルート選択をする上で配合変化の有無の確認は欠かせません。施設によっては配合変化表を作成し、ICUに配置していると思います。ルート選択の際に活用することにより、配合変化の頻度を下げる可能性が報告されており4)、有用なツールです。最後に、ルート管理において注射薬から内服薬への変更や不要な薬剤の中止を検討することも大事な視点になります。安易に継続処方とせず、薬剤の投与方法についても検討するようにしましょう。図3 (左)坂総合病院ICUの配合変化の問い合わせ記録集、(右)坂総合病院救急室の配合変化の有無の一覧表画像を拡大する1)Marino PL. ICUブック第4版. MEDSI;2015.p15-33.2)濱野繁. 10薬剤投与. In:道又元裕. これならわかるICU看護:照林社;2018.p.159.3)セフトリアキソンナトリウム 添付文書4)Kondo M, et al. J Nippon Med Sch. 2022;89:227-232.

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第310回 診療所の開業規制いよいよスタート、厳密な意味での「規制」となっておらず実効性に疑問

私立医大の入試女子一律減点をモチーフにしたドラマこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。年度変わりの日曜日(4月5日)からNHK BSで興味深い連続ドラマが始まりました。夜10時から放送の「対決」です。私立医大の入試女子一律減点疑惑を、検察担当の女性記者が追うというストーリー。2018年の東京医大一般入試で発覚した文科省の前局長の子息への不正な点数加点事件と、それをきっかけに次々と明らかになった複数大学での女子や複数年浪人生に対する不利な選抜がモチーフになっています。女子差別や医師偏在、パワハラ・セクハラなど、多くの要素を詰め込み過ぎた感はありますが、ヒーローばかりが登場する民放の医療ドラマとは一線を画する作品になりそうです。有名俳優演じる医大の理事たちのダメさぶりも見どころです。原作は月村 了衛、新聞記者を松本 若菜、事務方上がりの医大理事を鈴木 保奈美が演じています。第1回の再放送は4月11日(土)午後6時15分からあるようなので、興味のある方はぜひ。さて今回は、4月から外来診療を担う医師が多い東京都心や大阪市など、9つの二次医療圏を対象候補とする「開業規制」がスタートしたので、それについて書いてみたいと思います。先のNHK BSのドラマも、事件の根本的な背景に「医師偏在」があります。「開業規制」は都市部と地方の医師の偏在是正につなげるというのが制度の趣旨ですが、本当に偏在是正に効果があるのでしょうか?武見元厚労相の発言をきっかけにまとめられた「医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージ」の中の一策2026年4月1日から、改正医療法と改正健康保険法を組み合わせた制度として、外来医師過多区域での診療所の開業規制がスタートしました。元々は、武見 敬三・元厚生労働大臣が2024年4月のNHKの番組で「医師の偏在を規制によってきちんと管理していくことをわが国もやらなければならない段階に入ってきた」と突如発言したことをきっかけに検討が始まり、厚生労働省が突貫工事で改革案をまとめ上げ、2024年12月に公表した「医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージ」の中の一策です。「パッケージ」には「外来医師過多区域における新規開業希望者への地域で必要な医療機能の要請等」と記されていました。公表当時、本連載「第245回 『医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージ』まとまる、注目された『規制的手法』は大甘、『経済的インセンティブ』も実効性に疑問」ではこの制度について、「武見前厚労相が強調していたいわゆる『規制的手法』です。しかし、既存の医療機関はそのままに、新規だけを対象としている点に対策の限界を感じます。また、訪問診療など足りない医療機能の提供を求めると言っても、そうした機能を“外部委託”するなどして、いくらでも抜け道はできそうです」と書きました。武見元厚労相の発言からちょうど丸2年、実効性のある制度に仕上がったのでしょうか。都道府県知事の要請や勧告に従わない場合、施設名の公表や保険医療機関の指定期間短縮も「開業規制」の根拠条文は、医療法第30条の18の6で、都道府県知事が「外来医師過多区域」を指定し、その区域で無床診療所を開設する者に対して事前届出(6ヵ月前までに都道府県へ)や協議・要請を行えるとしています。届出時に、地域でとくに必要とされている外来医療を提供する意向や、提供しない場合はその理由などを示さなければなりません。提供しない意向の場合、都道府県知事は協議の場への参加や説明を求めることになります。さらに、都道府県知事の要請や勧告に従わない診療所は施設名を公表できるとしています。施設名の公表は、全国の医療機関等情報を掲載する「医療情報ネット(ナビイ)」でも行われる予定です。あわせて健康保険法第68条の2により、都道府県知事の要請や勧告に従わない診療所について、保険医療機関の指定期間を短縮できるとしています。指定期間は通常6年のところ、要請・勧告を受けた場合や保険医療機関の再指定時に勧告に従わない状態が続いた場合は3年、再々指定時以降も勧告に従わない状態が続いた場合は2年に短縮できるとしています。厚労省は9つの二次医療圏を候補として提示「外来医師過多区域」の基準は省令で、外来医師偏在指標が「全国平均値+標準偏差の1.5倍」以上、かつ可住地面積あたり診療所数が全国の上位10%以上に該当する場合とされており、厚労省からはすでに以下の9つの二次医療圏が候補として示されています。1)東京都の区中央部(該当区市町村:千代田区、中央区、港区、文京区、台東区)2)東京都の区西部(新宿区、中野区、杉並区)3)東京都の区西南部(目黒区、世田谷区、渋谷区)4)京都府の京都・乙訓(京都市、向日市、長岡京市、大山崎町)5)大阪府の大阪市(大阪市)6)福岡県の福岡・糸島(福岡市、糸島市)7)東京都の区南部(品川区、大田区)8)東京都の区西北部(豊島区、北区、板橋区、練馬区)9)兵庫県の神戸(神戸市)兵庫県は区域指定に向け神戸市や医師会と協議を始めるこれらはあくまで厚労省が示した「候補」です。都道府県が最終的に区域指定をするかどうか、対象区域を二次医療圏内でさらに狭めるかどうかは、各都道府県の判断となります。また、各都道府県はあらかじめ各地域において「とくに必要とされる外来医療(地域外来医療)」について、協議の場で定め公表しなければなりません。候補となった地区では、今後それらの検討が進められることになります。3月28日付の神戸新聞は、「厚生労働省は神戸市を医師が過剰に多い『外来医師過多区域(医師過多区域)』の候補に選んだ。兵庫県は区域指定に向け、神戸市や医師会と協議を始めた。指定区域で開業を希望する医師は、救急や在宅医療など不足している機能を提供することが要請される」と、兵庫県がすでに協議に入ったことを報じています。各地域において「とくに必要とされる外来医療」は、専門診療科というよりは、兵庫県のように「一次救急」や「在宅医療」などが入ってくることになりそうです。「外来医師過多区域」での規制、「重点医師偏在対策支援区域」での経済的インセンティブともに「制度のための制度」にしか見えない制度の詳細を読んでわかることは、今回の「開業規制」は厳密な意味での「規制」にはなっていない点です。「外来医師過多区域」であっても、診療所の開業を全面禁止はしていないからです。外来医師が集中している地域で、開業前に地域医療への対応を求め、従わない場合に保険診療上の不利益を課すだけです。全面禁止にすると、日本国憲法第22条1項が規定する「職業選択の自由」に抵触するためかもしれません。となると、「外来医師過多区域」で開業する際、各地域においてとくに必要とされる外来医療を示された場合、とりあえず「やります」と答え、それなりの体制を整えた風を装うだけで、問題なく開業できることになります。また、都道府県知事の要請や勧告を受けたとしても、「対応する」風を装うことも難しくはなさそうです。「医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージ」には医師不足地域向けの対策も盛り込まれています。都道府県が指定する「重点医師偏在対策支援区域」で診療所を開業しようとする場合に、施設整備費、設備整備費、開業後の定着支援費などを補助する仕組みです。しかし、そもそもこれからも患者が激減していくであろう地域で、敢えて開業する医師が現れるでしょうか。こちらの施策の実効性にも疑問符がつきます。「外来医師過多区域」での規制、「重点医師偏在対策支援区域」での経済的インセンティブ、ともに設計が甘く、制度のための制度にしか見えないと感じるのは私だけでしょうか。

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初期研修を終えた今みなさんに伝えたい大切なこと【研修医ケンスケのM6カレンダー】第12回

初期研修を終えた今みなさんに伝えたい大切なことさて、お待たせしました「研修医ケンスケのM6カレンダー」。この連載は、普段は初期臨床研修医として走り回っている私、杉田研介が月に1回配信しています。私が医学部6年生当時の1年間をどう過ごしていたのか、月ごとに振り返りながら、皆さんと医師国家試験までの1年をともに駆け抜ける、をテーマにお送りして参ります。医師国家試験後1本目は研修生活が始まる前に準備すること、というタイトルで、「学生」という立場をフル活用してほしい、準備するなら初期臨床研修医向けの書籍を活用せよ、という2つのメッセージをお届けしました。2本目となる今回は、研修が始まるに当たって何を大切にしてほしいか、をテーマに進めて参ります。前提として、私が初期臨床研修を行った環境は、313床/救急車台数10台/日(もっと来ていた気がする…)の2次救急病院でした。同期は6名、2学年で合計12名の初期臨床研修医がいます。日当直は月4〜5回。総合診療科の研修を十分に行うことができること、主治医制で自分の裁量権が多いため様々なスキル獲得を見込むことができたこと、比較的自由に自分の休みをコントロールできることなどが選んだ理由でした。上記のような環境で過ごした2年間と、他の病院で研修を終えた同級生たちからの話も含めて、振り返りたいと思います!ぜひ2本目もお楽しみください!自分のバリューを意識しよう!(上手に休むこともお忘れなく!)前回も書きましたが、初期臨床研修医とは何かにつけて初期の状態です。臨床も初心者なことはもちろん、社会人としても初期の人がほとんどだと思うのですが、何科の研修であれ「自身のバリューをいかに出すか」を意識することが大事です。初期臨床研修医、というよりも社会人基礎に近い話で、よく自己啓発本にも取り上げられていることですね。初期臨床研修医は皆さんが思っている以上に大事に、重宝されていると思います。初期臨床研修は大学生活:学校生活とは異なるため、現場で実際に戦力となることが求められますが、一方で医療者として未熟な初心者であるため、何かと教えてもらえる機会に恵まれます。実感が湧きにくいかもしれませんが、実際の症例を通して、指導医からのフィードバックのみならず、同期や先輩後輩が経験した症例、そして何より他職種から学ぶことが多くあるのです。学部学生の講義や国家試験対策の中では医学を中心に学んできましたが、これから皆さんが関わることは医学を実践する場としての医療です。教科書通りに物事が進むわけでもなく、また、教科書で学んだ知識を実践するにはどれだけの人やリソースが関わるのか、それが体感できます。やや話が逸れましたが、医療は皆さん個人のみでは決して成立しません。医学部入学の際にたくさん練習したチームワークや協調性が試されます。組織やチームの一員として動くのに、自分がどんなバリューを提供できるか、を意識することは非常に重要です。例えば、転倒後の圧迫骨折の症例を担当することになったとしましょう。正直、心不全急性増悪や脳血管障害などと比較すると、医学的にできることは地道で、面白みにやや欠けるかもしれません。多くの併存疾患の慢性管理を見直す、なども、初期臨床研修医成り立ての頃は知識・スキル不足から気付けないことも多いでしょう。皆さんならこんな症例を担当した時に、チームにどのように貢献したいと思いますか?一例ですが、私なら、スムーズな退院調整を進めるのに、どんな情報が必要か、どんな連携が必要かを考えます。初期臨床研修医は指導医ほどの経験・スキルはないですが、比較的時間にゆとりがあります。研修医室で暇を持て余すのではなく、本人のリハビリの様子を見学したり、面会時間に病棟へ待機して家族から情報収集をしたり。医学的なスキル不足を、自分の足で稼いだ情報資源として還元できる余地は大いにあるはずです。上記は臨床現場の一例ですが、もともと持っているスキルを活かして研修体制を見直したり、そもそも研修医だからこそ気づくことができる研修環境へのフィードバックなど、バリューを見出す場面は探せばいくらでもあります。ぜひ積極的に自分を売り込みましょう!経験した症例からの学びを最大化する(同期、先輩後輩はプライスレスな宝物です)初期臨床研修では入院症例、外来症例、救急外来症例など、さまざまな患者さんに出会うことでしょう。そして1人1人の患者さんから学ぶことは多いです。その機会を無駄にせず、ぜひ最大化することに努めてください。最大化するには振り返る仕組みを作ることが有効です。手段は自身で運用しやすいようにカスタマイズして良いですが、どんな症例であったのか、何を意識して臨んだか、気づいたことや感想が一目で見たときに思い出すことができる症例ログを作っておくと、後々振り返りやすいです。初めのうちは医学的な視点ばかり追いかけてしまいますが、タイムマネジメントやチームワークという観点も学びになります。診察をしながら問診をする、カルテ上でショートカットを活用する、というのも立派な学びの1つです。医学的なこと以外の仕事に慣れてくると、余裕が生まれるからでしょうか、不思議と医学的な視点もより広がってきます。この病態をより早く察知するには、この疾患で入院になるならのちにこんな項目が必要になるな、など、診療の厚みが増していきます。私自身は医学的な学びと、それ以外のマネジメント術のようなことで分けてまとめていました。初めは何をまとめたら良いのか、上手くデザインすることができませんが、知識・スキルの向上とともに徐々に自分の軸が作られていくので、その都度柔軟にまとめ方も変えていけば良いです。この連載の1番初めにお伝えした内容でしたが、研修医になっても学習会をすることは非常に有用です。自分1人だと経験できる症例が限られるほか、他の人の視点も取り入れることができる分、学びが深くなるのは学生と同様です。自分で学んだことをぜひ積極的に同期や先輩後輩にもシェアしてくださいね。そして慣れてきた方はぜひ他職種にも共有して、それぞれの立場からどんなケアが必要なのか、といったことを学び合いましょう!感染症と医療安全はどの診療科に行っても必要な座学初期臨床研修医の大きな特徴の1つは、様々な診療科をローテーションすることです。専攻医以降で外科や産婦人科、はたまた眼科や耳鼻咽喉科の現場に立つことはありません。その中で、臓器横断的な感染症と医療安全の2つは、どの診療科へ行っても確実に必要なことで、医師だからこそ知っておくと、コマンダーとしての厚みが増す大事な知識です。感染症も医療安全も、単科として研修することはない、そんな病院が多いと思います。ここでは、それぞれの専門を極める、ではなく、知識を座学として学びやすく、かつ、専門家でなくてもある程度の知識は知っておく必要があることに注目していただきたいです。イメージしやすいのは感染症でしょうか。国試対策でもそうだったように、診療科ごとに感染症のカテゴリーがあったはずです。そして必ず細菌感染を鑑別する必要がありました。細菌感染症では関与する細菌の種類は多いものの、グラム染色上で分けると4つにしか分類されません。代表的な菌を覚えて、どの臓器でメジャーな感染症を引き起こすのかを押さえておきましょう。骨折の診断で整形外科に入院していても、入院期間中に肺炎を発症してしまった、なんてことは珍しくありません。医療安全は注目されにくいですが、スーパーローテーションをする初期臨床研修医という立場を大いに活かすチャンスです。医療安全の基本概念の1つですが、Human is Error、人間同士が仕事をしている限りどうしてもエラーは付きものです。その上でいかにエラーを減らすことができるか、起きたエラーから何を学ぶかが重要です。初期臨床研修医はさまざまな診療科へ足を運ぶため、その科ごとにエラーを探知することができます。どの診療科にも共通することだけでなく、この診療科ではこのフローで行うが、ここでは違う、だからコミュニケーションエラーに繋がる、という発見は、色んな診療科を経験できる初期臨床研修医だからこそ気付きやすいと思います。上記の考え方は、冒頭に述べたバリューを出す、に繋がる話ですね。勘づかれた方、鋭いです。最後に(連載をお楽しみいただきありがとうございました!)いかがだったでしょうか。初期臨床研修医は何かと板挟みになったり、スキル・経験不足で打ちひしがれることも多いですが、伸びしろが大きい分、成長が実感できたときはとても嬉しいものです。社会人として自分で稼いだお金で、自分の人生やキャリアを拡張できるのも面白みの1つです。そして、今回がこの連載の最終回です。これまで応援いただいた皆さま、制作の方々、この場をお借りしてお礼申し上げます。連載企画という初めての機会をこうしていただけたことが嬉しいですし、企画を通して自分自身の振り返りとなり、少しでも皆さまのお役に立つことができたら本望です。今後の皆さまのご活躍を心よりお祈り申し上げます。ぜひ学会やイベントでお会いしたときはよろしくお願いいたします!

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EGFR変異陽性NSCLC、オシメルチニブに局所療法を追加すべき患者は?(NorthStar)/ELCC2026

 EGFR遺伝子変異陽性の局所進行または転移を有する非小細胞肺がん(NSCLC)において、局所地固め療法(LCT)の有効性や、LCTのベネフィットを受ける集団は、十分に検討されていない。そこで、未治療のEGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者を対象に、導入療法後のオシメルチニブ+LCTの有用性を検討する海外第II相無作為化比較試験「NorthStar試験」が実施されている。本試験の1次解析では、LCTの追加により主要評価項目の無増悪生存期間(PFS)が改善したことが示された。また2次解析の結果、導入療法後のリンパ節転移の消失や胸水の消失が、LCTの有効性の予測因子となる可能性が示された。欧州肺がん学会(ELCC2026)において、Saumil N. Gandhi氏(米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンター)が本試験の2次解析の結果を報告した。・試験デザイン:海外第II相無作為化比較試験・対象:未治療の局所進行または転移を有するEGFR遺伝子変異(exon19欠失またはL858R)陽性のNSCLC患者のうち、導入療法としてオシメルチニブ(6~12週間)が投与され、病勢進行が認められなかった患者・試験群(LCT群):LCT(放射線療法または手術)+オシメルチニブ継続(56例)・対照群:オシメルチニブ継続(63例)・評価項目:[主要評価項目]PFS[2次解析の評価項目]安全で効果的な放射線療法の実施方法、LCTによるベネフィットが得られる患者の予測因子、LCT後の再発パターン など 主な結果は以下のとおり。・対象患者のうち、ベースライン時(導入療法開始前)に転移数が3以下であった割合は29%、3超であった割合は71%であった。LCT群に割り付けられた患者のうち、ベースライン時の転移数が3超であった患者の59%がLCTを完遂した。・1次解析においてPFS中央値はLCT群25.3ヵ月、対照群17.5ヵ月であり、LCT群でPFSが改善した(ハザード比[HR]:0.66、片側90%信頼区間[CI]:0.50~0.87)。・LCT群のうち、放射線療法を受けた患者の約80%が放射線療法の期間もオシメルチニブを継続していたが、Grade1~3の肺臓炎の発現割合は約17%と許容可能であった。肺V20Gy(20Gy以上の線量が照射される肺の体積割合)が25%以上の患者では肺臓炎が44%(4/9例)に発現したのに対し、25%未満の患者では7%(2/29例)であり、肺V20Gy 25%以上で肺臓炎リスクが高かった(p<0.007)。・原発巣に対する放射線の生物学的実効線量(BED)が高い場合、PFSが良好であった。PFS中央値はBED 75Gy以上の集団49.1ヵ月、BED 75Gy未満の集団22.3ヵ月であった(HR:0.31、90%CI:0.14~0.70、p=0.006)。・導入療法後のPET/CTまたはCTに基づくリンパ節転移の消失は、LCT群の良好なPFSと関連していた。PFS中央値はリンパ節転移消失の集団49.1ヵ月、リンパ節転移残存の集団22.3ヵ月であった(HR:0.34、90%CI:0.15~0.76、p=0.011)。・導入療法後にリンパ節転移が残存していた集団では、LCTの追加によるPFSの延長は認められなかった。この集団のPFS中央値はLCT群19.0ヵ月、対照群15.9ヵ月であった(HR:0.93、90%CI:0.60〜1.43)。一方、リンパ節転移が消失した患者では、LCT群でPFSの改善がみられた(41.5ヵ月vs.19.6ヵ月、HR:0.43、90%CI:0.23~0.78、p=0.008)。・導入療法後に胸水が残存していた集団では、LCTの追加によるPFSの延長は認められなかった。この集団のPFS中央値はLCT群15.3ヵ月、対照群12.9ヵ月(HR:0.90、90%CI:0.52〜1.55)であった。無作為化時点で胸水がない集団では、LCT群でPFSが良好な傾向がみられた(32.7ヵ月vs.22.3ヵ月、HR:0.63、90%CI:0.39~1.02)。・LCT群における再発は、局所領域のみの再発は約20%であり、大部分が遠隔転移であった。

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ベンゾジアゼピン使用は自殺リスクに影響しているのか

 ベンゾジアゼピン(BZD)は、精神疾患の治療に広く用いられているが、BZD使用開始が自殺行動に及ぼす影響については、これまでの研究で明らかにされていない。米国・インディアナ大学のMarianne G. Chirica氏らは、BZD使用開始前後の自殺行動の時間的ダイナミクスを調査し、患者のサブグループにおけるリスクパターンを検証した。Psychiatry Research誌2026年3月号の報告。 2016~19年の匿名化されたデータベースであるOptum Clinformatics Data Martから得られたBZD使用歴のある患者69万1,517例(年齢範囲:13~64歳)を対象に調査を行った。開始直前(60日前)および薬物治療期間中(開始後1~30日および31~365日)の自殺行動リスクを、開始前3~12ヵ月のベースライン期間と比較した。これにより、すべての時間的に安定した交絡因子が考慮された。自殺行動は、救急外来受診時および入院中の自殺企図および意図的な自傷行為とし、ICD-10-CMで定義した。他の薬剤や心理社会的治療など、測定された時間変動性共変量について統計的に調整した。さらに、異なる患者集団におけるリスクを評価するため、精神医学的診断別に層別化した解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・ベースライン時と比較し、BZD使用開始前の期間における自殺行動リスクは上昇していた(オッズ比[OR]:3.54、95%信頼区間[CI]:3.23~3.89)。・自殺行動リスクは、BZD使用開始後30日間でさらに増加し(OR:5.05、95%CI:4.41~5.77)、開始後31~365日の間でも高水準を維持した(OR:3.62、95%CI:3.08~4.26)。・診断別に層別化しても、同様の時間的パターンが認められた。 著者らは「自殺行動リスク上昇は、BZD使用開始前に発生していたことが明らかになった。その後、リスクは短期治療中に最も高かったが、長期治療中でも高水準を維持していた。BZD使用開始の薬理学的効果や開始理由に関連する要因など、その根底にあるメカニズムを理解するためには、さらなる研究が必要である」と結論付けている。

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AFアブレーション後のDOAC、Apple Watchで服用日数を95%削減/日本循環器学会

 心房細動(AF)に対するカテーテルアブレーション術後において、ガイドラインでは脳梗塞・全身塞栓症リスク(CHA2DS2-VAScスコア)に基づいて長期的な抗凝固療法の継続が推奨されている1)。しかし、術後にAFが抑制されている患者においても一律に直接経口抗凝固薬(DOAC)を継続することは、出血リスクの増加や医療コストの増大を招く懸念がある。そこで、アブレーション術後の患者において、Apple Watchを用いてAFをリアルタイムで検出することで、必要な時だけDOACを服用する「イベント駆動型」戦略について、安全性と有効性を検証する多施設共同研究「Up to AF Trial」が実施された。その結果、DOACの服用日数を約95%削減しつつ、追跡期間中に脳梗塞や重大な出血イベントは発生しなかったことが示された。3月20〜22日に開催された第90回日本循環器学会学術集会のLate Breaking Clinical Trials 1にて、大阪大学の須永 晃弘氏が発表した。なお、本結果はCirculation Journal誌オンライン版2026年3月20日号に同時掲載された2)。 本研究は、2023年8月~2024年4月の期間に、関西9施設における前向き単群介入試験として実施された。アブレーション術後3ヵ月以上経過し、洞調律を維持しているCHA2DS2-VAScスコア3以下の患者50例(平均年齢63歳、女性10%)を対象とした。Apple Watchによる30日間の先行モニタリングでAFがないことを確認してDOACを休薬、その後はApple Watchの通知(高心拍または不規則な心拍)や患者自身による心電図(ECG)記録でAFが疑われた場合のみ服用を再開し、7日以内に医師を受診するという「イベント駆動型」プロトコルを採用した。受診の結果、AFが否定されれば再び休薬し、確認されれば試験終了まで服用を継続した。主要評価項目は、追跡期間31~360日目における、従来の継続服用と比較した「DOAC服用日数の削減率」とした。副次評価項目は、全死亡、脳梗塞、全身塞栓症、重大な出血イベント、およびデバイスの不具合とした。 主な結果は以下のとおり。・Apple Watchを用いた心調律モニタリングにより、合計1万5,865人日の観察において、DOAC服用日数は856人日分にとどまり、従来の継続服用群と比較して94.6%(95%信頼区間[CI]:89.8~98.4)削減された。・Apple Watch装着(wear-days)の順守率の中央値は100%(95%CI:99.7~100)に達した。・追跡期間中、死亡、脳梗塞、全身塞栓症、重大な出血イベントは、いずれも発生しなかった。デバイスの不具合によるECG記録不可が1件認められた。・医師の診断を基準としたApple Watch ECGの性能は、感度100%、特異度93.3%、正確度95.8%ときわめて高い値を示した。 本研究の結果、アブレーション術後の低〜中等度リスク患者において、Apple Watchを活用した個別化戦略は、DOACを安全に大幅に削減できる可能性が示された。須永氏は、今回の知見がリスクスコアに基づく静的な管理から、心調律に基づいた「動的な管理」へのパラダイムシフトを促進するものであると指摘した。本研究の限界として、サンプルサイズの少なさや、塞栓症リスクの比較的低い集団を対象としている点に触れ、今後より大規模な無作為化比較試験による検証が必要であると結論付けた。 日本循環器学会(JCS)学術集会まとめページはこちら

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早期アルツハイマー病、経口セマグルチドは進行を抑制せず/Lancet

 2型糖尿病患者などでは、GLP-1受容体作動薬の投与により認知症およびアルツハイマー病のリスクが低下することを示唆する実臨床研究のエビデンスがある。米国・ネバダ大学のJeffrey L. Cummings氏らは、「evoke試験」および「evoke+試験」において、経口セマグルチドは早期の症候性アルツハイマー病の臨床的な進行を遅らせる効果を有さず、安全性や忍容性は他の適応症を対象とした試験の結果と一致することを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2026年3月19日号で報告された。2つの無作為化プラセボ対照試験 evoke試験およびevoke+試験は、40ヵ国566施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2021年5月~2024年9月に参加者を登録した(Novo Nordiskの助成を受けた)。 年齢55~85歳、アミロイド病変が確認されたアルツハイマー病で、軽度認知障害(MCI)またはアルツハイマー病に起因する軽度認知症を有する患者を対象とした。evoke+試験では、顕著な小血管病変を有する患者も対象に含めた。 被験者を、セマグルチド14mg(可変用量)またはプラセボを1日1回、最長で156週間経口投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、無作為化された全患者における臨床的認知症評価尺度-Sum of Box(CDR-SB)スコアのベースラインから104週までの変化量とした。CDR-SB、ADCS-ADL-MCIスコアの変化量に差はない 3,808例を登録した。このうち1,855例(セマグルチド群928例、プラセボ群927例)がevoke試験、1,953例(976例、977例)がevoke+試験の参加者だった。ベースラインの全体の平均年齢は72.2(SD 7.1)歳、女性が1,998例(52.5%)で、平均CDR-SBスコアは3.7(SD 1.6)点だった。2,746例(72.1%)がMCI、1,034例(27.2%)が軽度のアルツハイマー型認知症であった。evoke+試験では、54例(2.8%)が小血管病変を有していた。 evoke試験およびevoke+試験における、ベースラインから104週までのCDR-SBスコアの平均変化量は、セマグルチド群で2.3(SE 0.1)点および2.2(0.1)点、プラセボ群で2.3(0.1)点および2.1(0.1)点で、推定群間差は、evoke試験が-0.08(95%信頼区間[CI]:-0.35~0.20、p=0.57)、evoke+試験が0.10(95%CI:-0.17~0.38、p=0.46)であり、両試験とも両群間に有意な差を認めなかった。 また、同期間におけるAlzheimer’s disease Cooperative Study Activities of Daily Living-MCI(ADCS-ADL-MCI)スコアの平均変化量の両群間の差は、evoke試験が-0.25(95%CI:-1.22~0.72)、evoke+試験は-0.03(95%CI:-0.97~0.91)と、いずれも有意差を示さなかった。消化器症状と体重減少が多い 試験治療下での有害事象は、両試験を合わせたセマグルチド群では1,896例中1,729例(91.2%)に、プラセボ群では1,902例中1,613例(84.8%)に発現した。セマグルチド群で頻度の高い有害事象は、体重減少(36.5%)、食欲減退(33.1%)、悪心(24.3%)であった。 試験薬の恒久的な投与中止に至った有害事象の割合は、セマグルチド群で16.9%とプラセボ群の8.4%に比べて高く、重篤な有害事象はそれぞれ20.4%および23.8%にみられた。担当医判定による治療関連死は5例に発生し、セマグルチド群で1例(出血性脳卒中)、プラセボ群で4例であった。 著者は、これらの結果と実臨床のエビデンスの乖離の説明として、(1)全原因による認知症ではなく、生物学的に定義されたアルツハイマー病患者を対象としたこと、(2)治療開始時に無症状の2型糖尿病患者集団におけるアルツハイマー病の発症率の低下ではなく、症状のあるアルツハイマー病患者集団における進行遅延を調査したことなどを挙げ、「アルツハイマー病の病変がより軽度で、無症状の患者に、より早期の段階で同様の介入を行うことで、治療効果が期待できる可能性がある」と指摘している。

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