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第1/2世代EGFR-TKI後にCNS進行したNSCLCへのオシメルチニブ(WJOG12819L/KISEKI)/日本肺学会

 EGFR遺伝子変異陽性の進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者の1次治療の標準治療として、第3世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)のオシメルチニブが用いられているが、第1/2世代のEGFR-TKIが用いられる場合もある。ただし、本邦では第1/2世代EGFR-TKIを用いた1次治療で進行が認められた場合、EGFR T790M変異が確認されないとオシメルチニブは適応とならない。そこで、第1/2世代EGFR-TKIを用いて治療を開始し、進行時にEGFR T790M変異が陰性(もしくは検出不能/検査困難)となったNSCLC患者に対するオシメルチニブの有用性を検討する医師主導の国内第II相試験「WJOG12819L/KISEKI試験」が実施された。第66回日本肺学会学術集会において、本試験の中枢神経系(CNS)単独の進行がみられた患者集団(コホート1)の結果を高濱 隆幸氏(近畿大学病院 腫瘍内科)が報告した。なお、第1/2世代EGFR-TKIおよびプラチナ製剤による治療後に進行を認めたEGFR T790M変異陰性集団(コホート2)の結果はすでに報告されている。コホート2における奏効割合(ORR)は29.1%、無増悪生存期間(PFS)中央値は4.07ヵ月であり、主要評価項目が達成された1)。・対象:以下の適格基準を満たすEGFR-TKI既治療のEGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者17例<主な適格基準>(1)20歳以上(2)初回EGFR-TKI投与前にEGFR-TKI感受性変異を検出(3)ECOG PS0~2(4)第1/2世代EGFR-TKI治療開始後にCNS進行のみを確認(5)CNS進行後に採取した組織もしくは血漿サンプルでEGFR T790M変異陰性(もしくは検出不能/検査困難)・介入:オシメルチニブ80mg/日・評価項目:[主要評価項目]CNS ORR[副次評価項目]安全性[探索的評価項目]CNS PFSなど・解析計画:CNS ORRの95%信頼区間(CI)の下限が20%を上回った場合に、主要評価項目達成とした。 主な結果は以下のとおり。・対象患者の年齢中央値は69歳(範囲:47~84)、PS0/1の割合は47.1%/52.9%であった。1次治療開始前のEGFR遺伝子変異の内訳(exon19欠失変異/L858R変異)は、47.1%/52.9%であった。・CNS ORRは47.1%(95%CI:23.0~72.2)であり、95%CIの下限値が20%を上回ったことから、主要評価項目が達成された。・CNS PFS中央値は14.6ヵ月であった。 本結果について、高濱氏は「組織検体が得られていない患者では、EGFR T790M変異が陰性であることを証明することが難しいというリミテーションが存在する」としつつ、「EGFR T790M変異陰性もしくは不明の患者において、オシメルチニブはCNSへの一定の奏効を示した」と結論をまとめた。

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医師の約3割が肥満度1以上の肥満に該当/医師1,000人アンケート

 わが国にはBMIが25以上の「肥満」と定義される人は、約2,800万人と推計され、BMIが35以上の高度肥満者の増加も報告されている。従来、肥満症の治療では、食事療法、運動療法、認知行動療法、外科的療法が行われてきたが、近年、治療薬も登場したことで「肥満」・「肥満症」にスポットライトが当たっている。一方で、診療する側の医師も、診療や論文作成やカンファレンスなどで座位の時間が多く、運動不足となり、体型も気になるところである。CareNet.comでは、2025年10月15~21日にかけて、会員医師1,000人(うち糖尿病・代謝・内分泌科の医師100人を含む)に「医師の肥満度とその実態」について聞いた。肥満で困ることは服選びや購入場所が制限されること 質問1で「BMIはいくつか(肥満度は『肥満症診療ガイドライン2022』に準拠)」(単回答)」を聞いたところ、18.5以上25未満(普通体重)が61%、25以上30未満(肥満度1度)が25%、18.5未満(低体重)が6%の順で多く、肥満でない医師が約7割を占めた。 質問2で肥満度1以上の医師に「実施している肥満解消法や予防法」(複数回答)を聞いたところ、「食事や飲み物への配慮」が68%、「定期的な運動、意識的な運動」が64%、「何もしていない」が12%の順で多かった。診療科による比較では、糖尿病・代謝・内分泌科以外の医師で「市販薬の使用」が7%と肥満の予防法に差があった。 質問3で肥満度1以上の医師に「肥満の原因は何か」(複数回答)を聞いたところ、「食事や飲料の摂取カロリーが多すぎる」が75%、「運動不足」が66%、「ストレスなどの影響」が26%の順で多かった。なお、診療科による比較では、糖尿病・代謝・内分泌科の医師で「運動不足」を挙げる医師が一番多かった。 質問4で肥満度1以上の医師に「肥満、肥満体型で困ること」(複数回答)を聞いたところ、「衣服のデザインやサイズ、購入場所が限られる」が30%、「仕事や日常生活の動作に支障」が28%、同順位で「周囲の人からの視線」、「運動が困難」、「とくに困ることはない」が24%の順で多かった。また、診療科による比較では、糖尿病・代謝・内分泌科の医師で「運動が困難」、「周囲の人からの視線」の順で多かった。 質問5で「今後、肥満解消や肥満予防法で試してみたいもの」(複数回答)を聞いたところ、「運動療法」が57%、「食事療法」が48%、「とくにない」が23%の順で多かった。また、診療科による比較では、「食事療法」、「運動療法」、「薬物療法」で回答が分かれていた。 質問6で「肥満/肥満症」にまつわるエピソードについて聞いたところ以下のような回答があった。【ダイエット成功のエピソード】 ・カロリーのある飲料水、とくに果糖ブドウ糖の含まれているものは制限するようにしている(50代/呼吸器内科) ・運動を生活の中に取り入れて、実践することで自然に体型維持が今もできている(40代/消化器内科)【ダイエット失敗のエピソード】 ・過去に15kg程度の減量に成功したが、5~6年をかけて20kgリバウンドして太った(50代/麻酔科) ・適度な運動はかえって食事やビールを美味しくし、より太る(60代/耳鼻咽喉科)【肥満/肥満症での課題など】 ・ダイエットのアドバイスが奏功しても、患者さんが必ずリバウンドする。リバウンドをどうするかが、肥満症治療の最大のポイント(60代/病理診断科) ・「フルーツは体に良いので控える必要がない」と思っている患者さんが多い(60代/糖尿病・代謝・内分泌内科)【患者さんへの指導例】 ・ステロイド服薬中の患者さんには、炭水化物の摂取と体重の増加の関係についてよく説明している(60代/内科) ・少し痩せてからウォーキングなどの軽い運動から開始させる。突然激しい運動はさせない(60代/精神科)■参考医師の肥満度とその実態について

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プライマリ・ケア医が「意味」を感じる仕事は何か/筑波大・慶應大

 身近で医療を受診できるクリニックや診療所などでプライマリ・ケア医(PCP)の活躍のフィールドは広い。患者さんやその家族全般を知る家庭医としての役割も大きい。では、PCPは、どのような仕事に「意味」を感じることができているのだろうか。このテーマに関して筑波大学医学医療系地域総合診療医学講座の山本 由布氏らの研究グループは、慶應義塾大学と共同でPCPにアンケートを実施した。その結果、PCPは「多様な健康問題の管理」など6つの項目について「意味」を感じていることがわかった。この内容はBMC Primary Care誌2025年10月28日オンライン版に掲載された。プライマリ・ケア医が「意味」を感じる仕事には時間、地域も関係 研究グループは、2021年10月~2022年2月にかけてわが国の診療所や小規模病院に勤務する日本プライマリ・ケア連合会(JPCA)認定家庭医またはプライマリ・ケア専門医を対象に、「医師としての仕事において意味を感じた経験」について半構造化インタビューを実施した。面接は、対面またはビデオ通話で行い、得られたデータは逐語的に書き起こし、帰納的テーマ分析を用いてデータ分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・14人の医師がインタビュー調査に参加した。・「意味」を感じると思う仕事は以下の6つだった。(1)多様な健康問題への対応(2)患者・家族・問題への包括的アプローチ(3)継続性によって築かれる患者との信頼関係(4)専門職間連携による複雑な問題を抱える患者の支援経験(5)医療従事者・医学生教育への貢献(6)地域社会・社会への貢献 研究グループは、この結果から「PCPは主に2つの経路を通じて仕事に意味を見いだしている。第一に、実践を通じ自身の臨床能力を向上させること、第二に、患者さんやより広い地域社会への貢献を通じて充実感を経験することである。仕事の意味に関連するPCPの具体的な経験を明らかにすることは、さまざまな環境で働くPCPを鼓舞する可能性がある」と結論付けている。

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小児インフルワクチン、初回2回接種の有効性は3歳未満で顕著/メタ解析

 世界保健機関(WHO)は、インフルエンザワクチン未接種の生後6ヵ月~9歳未満の小児に対し、少なくとも4週間の間隔を空けて2回接種し、その後は毎年1回接種することを推奨している。オーストラリア・メルボルン大学のJessie J. Goldsmith氏らは、既接種歴のない小児を対象に、1回と2回接種の効果の違いをメタ解析により検証した。JAMA Network Open誌2025年10月3日号掲載の報告。 研究者らは、MEDLINE、EMBASE、CINAHLで創刊から2025年3月24日までに発表された論文を対象に検索を行った。研究対象シーズン以前にインフルエンザワクチンを接種したことがない9歳未満の小児を対象に、1回接種と2回接種におけるワクチン有効性(VE)とその差を推定した。 主な結果は以下のとおり。・本メタ分析では51研究、41万5,050例の参加者が対象となった。・不活化インフルエンザワクチンにおいて、2回目接種による追加的VEは、9歳未満では15パーセントポイント(pp)(95%信頼区間[CI]:−2.8~33)であった一方、3歳未満では28pp(95%CI:4.7~51)であった。3歳未満の小児では、統計的に有意なワクチン有効性の向上が推定されたが、対象年齢を9歳未満の児童に拡大した場合、有意な増加は認められなかった。・生ワクチンの2回目接種に伴う追加的効果を評価するには、十分な推定値が得られなかった。 研究者らは「われわれの知見は、不活化インフルエンザワクチンの2回接種が、3歳未満のインフルエンザワクチン未接種児に対して追加的な保護効果をもたらすものの、その効果は年齢と共に減弱することを示唆している。2回接種が有益な年齢層を特定するためには、両ワクチンタイプにおける年齢別の2回接種の影響を評価する高品質の研究が追加で必要である」とまとめた。

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平均気温の変化により誘発される精神疾患は?

 気温変化や緯度勾配といった潜在的な環境要因が精神疾患に及ぼす影響は、これまで十分に研究されていなかった。キプロス大学のSofia Philippou氏らは、地理的緯度と気温が精神疾患の罹患率にどのように関連しているかを調査するため、本プロジェクトを実施した。Brain and Behavior誌2025年10月号の報告。 201ヵ国を対象に、年間平均気温と7つの主要な精神疾患(うつ病、気分変調症、双極症、不安症、摂食障害、自閉スペクトラム症、統合失調症)の年齢調整罹患率(有病率)を分析し、線形回帰分析を実施した。また、これらの相関データがすでに発表されている原著論文によって裏付けられているかどうかを検証するため、系統的レビューも実施した。 主な結果は以下のとおり。・線形回帰分析では、摂食障害、自閉スペクトラム症、統合失調症の3つの精神疾患において、年間平均気温と年齢調整罹患率の間に有意な相関関係が認められた(p<0.0001)。・系統的レビュー分析では、自閉スペクトラム症と統合失調症の罹患率は地理的要因および気候要因の影響を受ける可能性が示唆された。・しかし、摂食障害に関する今回の知見を裏付ける既発表データは確認されなかった。 著者らは「これらの知見は、精神疾患における環境要因、遺伝的要因、社会経済的要因間の複雑な相互作用を浮き彫りにしている。精神疾患の発症機序に関与するいまだに明らかとなっていない疫学的要因を解明するためには、気温と精神疾患の罹患率との関連性について、さらなる研究が必要とされる」とまとめている。

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ウォートンジェリー由来間葉系幹細胞、心筋梗塞後の心不全を予防か/BMJ

 急性心筋梗塞発症後の患者において、ウォートンジェリー由来の間葉系幹細胞(WJ-MSC)の冠動脈内注入により、心不全の発症および心不全による再入院のリスクが有意に低減し、心血管死と心不全/心筋梗塞による再入院の複合エンドポイントが有意に改善した。イラン・Shiraz University of Medical SciencesのArmin Attar氏らが行った第III相試験「PREVENT-TAHA8試験」の結果で示された。研究の成果は、BMJ誌2025年10月29日号で報告された。なお、本論文はBMJ誌のウェブサイトに掲載後、いくつかの問題点(データの不整合、年齢基準を満たさない参加者の組み入れの懸念、未申告の利益相反の懸念など)が指摘され、これらの解決と掲載後の内容の変更に必要な措置の検討が進められている。イランの無作為化対照比較優越性試験 PREVENT-TAHA8試験は、イラン・シーラーズ市の3つの病院で実施した単盲検無作為化対照比較優越性試験であり、2021年9月~2022年11月に参加者を募集した(Office of the Vice-Chancellor for Research of Shiraz University of Medical Sciencesの助成を受けた)。 年齢18~65歳、試験登録日前の3~7日以内に初回のST上昇型急性前壁心筋梗塞を発症し、心エコー検査で左室駆出率<40%であり、プライマリPCIが成功した患者396例を対象とした。 これらの参加者を、1対2の割合で介入群(136例、平均年齢57.8[SD 10.7]歳、男性85%)または対照群(260例、59.2[10.9]歳、79%)に無作為に割り付けた。介入群では標準治療に加え、同種WJ-MSCを冠動脈内に注入した。対照群は標準治療のみを受けた。 主要エンドポイントは心不全の発症とした。副次エンドポイントは、心不全による再入院、全死因死亡、心血管死、心筋梗塞による再入院などであった。また、心筋梗塞発症から6ヵ月までの左室駆出率の変化を両群で比較した。心筋梗塞による再入院、全死因死亡、心血管死には差がない 追跡期間中央値33.2ヵ月の時点における心不全の発症率は、対照群が100人年当たり6.48であったのに対し、介入群は2.77と有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.43、95%信頼区間[CI]:0.21~0.89、p=0.024)。 また、心不全による再入院(介入群0.92 vs.対照群4.20/100人年、HR:0.22、95%CI:0.06~0.74、p=0.015)、心血管死と心筋梗塞/心不全による再入院の複合エンドポイント(2.80 vs.7.16/100人年、0.39、0.19~0.82、p=0.012)は、いずれも介入群で有意に優れた。 一方、心筋梗塞による再入院(介入群1.23 vs.対照群3.06/100人年、HR:0.40、95%CI:0.14~1.19、p=0.10)、全死因死亡(1.81 vs.1.66/100人年、1.10、0.40~3.02、p=0.86)、心血管死(0.91 vs.1.33/100人年、0.68、0.18~2.57、p=0.57)については、両群間に有意差を認めなかった。左室駆出率の改善度も優れる 左室駆出率はベースラインから6ヵ月までに、介入群で14.28%(32.97%から47.14%へ)、対照群で8.16%(33.58%から41.66%へ)、それぞれ有意に上昇した。この左室駆出率の改善は、対照群に比べ介入群で有意に良好だった(β=5.88%、95%CI:4.00~7.76、p<0.001)。 入院期間中に、不整脈、過敏反応、再梗塞を含むあらゆる有害事象の監視を厳重に行い、腫瘍形成の監視を中心に長期の追跡調査を実施したが、有害事象の報告はなかった。 著者は、「本試験をこの分野の他の試験と明確に区別する特徴として、(1)左室駆出率などの代替マーカーではなく臨床エンドポイントに焦点を当てたこと、(2)骨髄由来単核細胞ではなくウォートンジェリー由来間葉系幹細胞を使用したことが挙げられる」「この技法は、心筋梗塞後の有用な補助的処置として、心筋梗塞誘発性の心不全の発症を予防し、将来の有害事象のリスク低減に寄与する可能性が示唆される」としている。

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小児のアトピー性皮膚炎、特発性慢性蕁麻疹の在宅治療に期待(デュピルマブ皮下注200mgペン発売)/サノフィ

 サノフィは、小児のアトピー性皮膚炎および特発性の慢性蕁麻疹の治療薬デュピルマブ(商品名:デュピクセント)の皮下注200mgペンを11月17日に発売した。 デュピルマブは、2型炎症において中心的な役割を果たすタンパク質であるIL-4およびIL-13の作用を阻害する、完全ヒト型モノクローナル抗体製剤。気管支喘息などのすでに承認された適応症に加え、原因不明の慢性そう痒症、慢性単純性苔癬などの開発も行っている。わが国では2025年2月に小児の気管支喘息、2025年4月に水疱性類天疱瘡に対して適応追加申請を行っている。 今回発売された「200mgペン」は、「デュピルマブ製剤」として在宅自己注射指導管理料の対象薬剤として指定されている。「あてる、押す」の2ステップによる簡便な操作で、200mgシリンジ製剤と同一組成の薬液を自動的に注入するペン型の注射剤。同社では、小児患者の在宅自己注射時の利便性向上が期待でき、新たな治療選択肢になると期待を寄せている。<製品概要>※今回の発売製品の情報のみ記載一般名:デュピルマブ(遺伝子組換え)商品名:デュピクセント皮下注200mgペン効能または効果:・既存治療で効果不十分な下記皮膚疾患 アトピー性皮膚炎 特発性の慢性蕁麻疹※最適使用推進ガイドライン対象用法および用量:〔アトピー性皮膚炎〕通常、生後6ヵ月以上の小児にはデュピルマブ(遺伝子組換え)として体重に応じて以下を皮下投与する。5kg以上15kg未満:1回200mgを4週間隔15kg以上30kg未満:1回300mgを4週間隔30kg以上60kg未満:初回に400mg、その後は1回200mgを2週間隔60kg以上:初回に600mg、その後は1回300mgを2週間隔〔特発性の慢性蕁麻疹〕通常、12歳以上の小児にはデュピルマブ(遺伝子組換え)として体重に応じて以下を皮下投与する。30kg以上60kg未満:初回に400mg、その後は1回200mgを2週間隔60kg以上:初回に600mg、その後は1回300mgを2週間隔薬価:デュピクセント皮下注200mgペン:3万9,706円(キット)製造販売承認日:2023年9月25日薬価基準収載日:2025年11月12日発売日:2025年11月17日製造販売元:サノフィ株式会社

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抗胸腺細胞グロブリンは発症直後の1型糖尿病患者のβ細胞機能低下を抑制する(解説:住谷哲氏)

 膵島関連自己抗体が陽性の1型糖尿病は正常耐糖能であるステージ1、耐糖能異常はあるが糖尿病を発症していないステージ2、そして糖尿病を発症してインスリン投与が必要となるステージ3に進行する1)。抗CD3抗体であるteplizumabはステージ2からステージ3への進行を抑制することから、8歳以上のステージ2の1型糖尿病患者への投与が2022年FDAで承認された。現在わが国でも承認のための臨床試験が進行中である。さらにステージ3に相当する発症直後の1型糖尿病患者のβ細胞機能の低下もteplizumabの投与により抑制されることが報告された2)。 抗胸腺細胞グロブリンantithymocyte globulin(ATG)は、わが国でも、抗ヒト胸腺細胞ウマ免疫グロブリン製剤が商品名アトガム、抗ヒト胸腺細胞ウサギ免疫グロブリン製剤が商品名サイモグロブリンとして薬価収載されて使用可能である。アトガムの適応は中等症以上の再生不良貧血のみであるが、サイモグロブリンはそれに加えて種々の臓器移植後のGVHDに対して適応を有している。ATGは通常の投与量では免疫抑制作用 immunosuppressionを発揮するが、低用量では免疫調節作用immunomodulationを発揮し、発症直後の1型糖尿病患者のβ細胞機能低下を抑制する可能性が示唆されている3)。 そこでATGの適切な投与量を決定するために第II相用量設定試験である本試験が実施された。本試験ではadaptive designが用いられたが、adaptive designは中間解析の結果に基づき、各群への被験者の割り付け割合の変更、特定の群の中止、目標症例数の見直しなど、進行中の臨床試験のデザインに変更を加える多段階試験の総称である4)。試験の結果、これまでの臨床試験に主として用いられてきた2.5mg/kgと比較して、低用量である0.5mg/kgは同様に有効であり有害事象の発生がより少ないことが明らかにされた。 今回の第II相の結果に基づいて第III相試験が遠からず実施されることになると思われる。ATGは異種抗体であり、頻回投与による効果の減弱や有害事象としての種々のアレルギー反応は避けられない。コストとベネフィット、およびリスクとベネフィットとのバランスの追求が今後の課題となるだろう。

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サンフランシスコのTCT2025で大きな収穫【臨床留学通信 from Boston】第17回

サンフランシスコのTCT2025で大きな収穫先日、TCT(Transcatheter Cardiovascular Therapeutics)2025に参加してきました。今年は例年と異なり土日も含むスケジュールだったためか、参加者が多い印象を受けました。TAVR vs.SAVRの7年データ1)を筆頭に、昨今のTCTはさまざまなLate breaking trialが発表されます。とくにコロナ禍以降、AHA(米国心臓協会学術集会)の開催に近づけて、より多くのLate breakingをTCTで発表させようという学会側の意図が感じられます。開催場所は、2年前と同様のサンフランシスコでした。今回は私たちのチーム内で5つの発表があり、そのうち1つはCirculation: Cardiovascular Intervention誌との同時発表ができたことは、大きな収穫でした2)。とはいえ、サンフランシスコを訪れるのもこれで3回目。正直なところ少々飽きてしまい、3時間の時差ぼけも体に結構応えます。また、これまたコロナ以降よく言われることですが、サンフランシスコの治安は悪化しており、ホームレスや薬物中毒者を多く見かけます。そのため、あまり夜遅くは出歩かないようにしていました。学会では、MGH(マサチューセッツ総合病院)でお世話になったKenneth Rosenfield先生(通称ケニー、もしくはケン)にもお会いしました。彼は多分70歳くらいなのですが、今も元気にカテーテルを施術されています。そんなケニーがTCTのMaster Operator Awardで表彰されている姿を見ると、素晴らしいと思うと同時に、自分も70~75歳くらいまでは頑張りたいなと改めて思いました。そのためには、少しは筋トレして、放射線防護服による腰痛を予防しないといけませんね。ColumnTCTの後、オレゴンの河田 宏先生の病院にお邪魔させていただきました。河田先生は、以前ケアネットで「米国臨床留学記」を連載されていました。これまで数年にわたり何かと相談に乗っていただいていたのですが、実はお会いするのは今回が初めて。共通の友人もいたため話に花が咲きました。美味しいステーキまでご馳走になってしまいました。画像を拡大する参考1)Leon MB, et al. Transcatheter or Surgical Aortic-Valve Replacement in Low-Risk Patients at 7 Years. N Engl J Med. 2025 Oct 27. [Epub ahead of print]2)Kiyohara Y, Kuno T, et al. Comparison of Limus and Paclitaxel Drug-Coated Balloons, Second-Generation or Newer Drug-Eluting Stents, and Balloon Angioplasty: A Network Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. Circ Cardiovasc Interv. 2025 Oct 27. [Epub ahead of print]

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老いの心、寂しさと怒りの二人三脚【外来で役立つ!認知症Topics】第35回

認知症医療は「知」に偏っていないか?認知症のことを以前は「痴呆」といった。「痴」とは病ダレに「知」と書くことから、これは知性の病を意味している。しかし、この病気には感情や意志・意欲面の症状もみられる。それなのに認知症医療においては、この「知」ばかりが重視され過ぎているのではないかと、筆者は思うようになった。心理学や精神医学の領域では、人間の基本的な精神活動を意味する「知情意」という言葉が使われる。「知」とは「知性や知恵」を、「情」とは「喜怒哀楽などの感情」で、「意」は「意欲や意志」を指す。哲学者カントによれば、この3要素は相互に関係し合っており、それらのバランスを保ち調和させることが、人格形成や人間性の向上をもたらすとされる。この考え方が「知情意」にまとめられている。ところで認知症に関する情報媒体は、主に2つに分けられると思う。まずは本稿もその1つだが、症状や検査、治療法などを扱う医学的な記述である。これは知能とか記憶という「知」を主として扱うから、当事者や家族の「情」や「意」からみた認知症の記載は概して乏しい。もう1つは、『恍惚の人』(有吉 佐和子著)のような文学、『ケアニン』シリーズ、『毎日がアルツハイマー』(関口 祐加監督)のような映画という芸術媒体もある。こうした芸術は当事者や家族の「情」や「意」を描くが、そう多いものではないから、社会一般に浸透するのは難しい。「老い≒寂しさ」という本質筆者は、高齢者や認知症者の臨床活動において、心得るべき根本は「老≒寂しさ」ではないかと思う。この「寂しさ」とは、高齢者が経験する退職、死別、病、老いなどがもたらす活動範囲の狭まりや社会的孤立と捉えられがちだ。しかしその本質は、「相手が期待するほど自分のことを思ってくれていない」と感じることかもしれない。逆に、この寂しさを癒すポイントは、高齢者が「次世代から受け入れられたと感じること」、つまり承認欲求が満たされることだろう。高齢者の二面性:「老の知」と「不機嫌」敬老の日があるように、高齢者は敬うべき対象とされている。敬われる理由は、高齢者には実経験や「老の知」があるからだといわれてきた。たとえば40年前に活躍したジャーナリスト草柳 大蔵氏は、老人の価値を次のようにまとめている。「老人には老人の値打ちがある。成功と失敗の情報を実例として蓄積している。後輩の失敗を温かく見守り、才能を伸ばしてやり、対立や抗争のエネルギーを修復してもっと有効な対象に向けさせることができるのも老人であればこそである」ところが、その裏の面もある。要約すれば「寂しさ」と「怒り・不機嫌」だろう。医師の日野原 重明氏は、75歳頃に次のように述べている1)。「人は老いるにつれ、心の柔軟性がなくなって頑なになり、他との妥協を許さず、気も短くなって、怒りやすくなる。一方、何でもマイペースでしたくなる。人間が老いるまでに平素から自制心と協調心を十分に身につけていない限り、老人は社会や家庭から孤立する」筆者の穿った見方ながら、後期高齢の域に達した日野原氏が、自戒を込めて著された言葉かもしれない。また、宗教評論家のひろ さちや氏は、これに関して、「店で少しでも待たされると腹が立つ」というご自身の経験を踏まえて、次のように述べている2)。「年を取ると欲望(支配欲や性欲等)は小さくなる。しかしたとえば、『他人から大事にされたい』といった老人特有の小さな欲望が常に膨れ上がっている。だから逆に少しでもないがしろにされると、すぐにかっとなる」老人が不機嫌であったり怒りっぽかったりする理由はさまざまだろう。できないことが増える現実を受け入れたくない、ふがいない情けない自分に腹が立っている、などである。筆者自身は、とくに男性の場合、十把一絡げに扱われたと感じたときなど、「『この誇り高き俺』に対するリスペクトが足りない!」と反射的な怒りが炸裂しやすいと見てきた。寂しさと怒りの「悪循環」さて、本稿が注目するのは、「寂しさ」と「怒り」の関係だ。このポイントは、両者が互いに相乗効果を持つことである。逆説的かもしれないが、怒りは心の奥底にある寂しさを、自分にも他人にも隠す「仮面」のようだ。というのは、いつも寂しさを感じている人は、それを恥じたり、満たされない思いに沈んだり、さらに「自分は除け者にされている」と感じている。こうした負の感情を、「怒る」ことで隠すから仮面である。また怒りは、自分に束の間のパワーを感じさせ、征服感をもたらすこともある。そうなれば、刹那であっても、孤独感に伴う孤立無援の気持ちや無力感から救われる。その反面、怒りは、寂しい本人と周囲との間に「壁」を作り、寂しさを増強する。つまり人は寂しさを感じるとき、「自分は世間から軽蔑されていないか?」あるいは「自分は誤解されているのではないか?」と過敏になるものだ。その結果、イライラしやすく、憎まれ口を利き、喧嘩腰にもなる。こうなると他人との間の溝はさらに広がり、寂しい人はその孤独感をより深めてしまう。以上が、寂しさと怒りの相乗効果あるいは悪循環である。問題は、この寂しさや怒りの気持ちを抑えるために、本人はどうするか?そして、われわれはどう対応するか?である。紙面の関係で今回はここで終了とするが、次回につなぐ接点を挙げておく。俳優の山本 學氏は、対談の中で、ご自身の寂しさへの対応法として次のように語っている3)。「歳を重ねて一人暮らしをしていると、急に寂しくなるときがあります。そういう時にはね、思い切って泣く。声を上げておいおいと泣くんですよ。」参考文献1)日野原 重明. 老いの意味するもの 老いのパラダイム(老いの発見2). 岩波書店;1986.2)ひろ さちや. 諸行無常を生きる(角川oneテーマ21). 角川書店;2011.3)山本 學, 朝田 隆. 老いを生ききる 軽度認知障害になった僕がいま考えていること. アスコム;2025.

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進行性家族性肝内胆汁うっ滞症のそう痒治療薬「ビルベイ顆粒200μg/600μg」【最新!DI情報】第51回

進行性家族性肝内胆汁うっ滞症のそう痒治療薬「ビルベイ顆粒200μg/600μg」今回は、回腸胆汁酸トランスポーター阻害薬「オデビキシバット水和物(商品名:ビルベイ顆粒200μg/600μg、製造販売元:IPSEN)」を紹介します。本剤は、進行性家族性肝内胆汁うっ滞症に伴うそう痒の治療薬であり、そう痒に苦しむ本症患者のQOL改善が期待されています。<効能・効果>進行性家族性肝内胆汁うっ滞症に伴うそう痒の適応で、2025年9月19日に製造販売承認を取得しました。なお、ABCB11遺伝子変異を有する患者のうち、胆汁酸塩排出ポンプ蛋白質(BSEP)の機能を完全に喪失する変異を有する患者では本剤の効果は期待できません。<用法・用量>通常、オデビキシバットとして40μg/kgを1日1回朝食時に経口投与します。なお、効果不十分な場合には、120μg/kgを1日1回に増量することができますが、1日最高用量として7,200μgを超えないようにします。体重別の1日投与量は下表を参考にします(40μg/kg/日の場合)。<安全性>副作用として、血中ビリルビン増加、ALT増加、下痢、嘔吐、腹痛、ビタミンD欠乏(いずれも10%以上)、肝腫大、AST増加、ビタミンE欠乏(いずれも1%以上10%未満)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、回腸胆汁酸トランスポーター阻害薬です。進行性家族性肝内胆汁うっ滞症に伴うそう痒を改善します。2.小腸に作用して、胆汁酸の再取り込みを減少させ、血液中の胆汁酸濃度を低下させます。3.朝食(1日の最初の食事)時に、飲食物とともに飲んでください。4.カプセルは容器なのでカプセルごと飲まず、飲む直前にカプセル型容器を開けて顆粒剤のみを服用してください。<ここがポイント!>進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC)は、胆汁酸の分泌および輸送に関与する遺伝子の変異によって引き起こされる希少疾患であり、一般に乳児期および小児期初期に発症します。胆汁うっ滞により、ビリルビンや胆汁酸などの胆汁成分が肝臓内に蓄積すると、肝障害が進行し、肝硬変や肝不全、さらには肝細胞がんを発症することがあります。PFICと診断された小児では、黄疸に加えて重度のそう痒が認められることが多く、とくに重度のそう痒の緩和はQOL(生活の質)向上の観点からも重要な治療目標となります。PFICは、日本では厚生労働省の指定難病(#338)に指定されています。本剤の有効成分であるオデビキシバットは、腸管に存在する回腸胆汁酸トランスポーター(IBAT)に可逆的に結合し、門脈系への胆汁酸の再取り込みを減少させます。これにより、肝臓への胆汁酸負荷および血清中胆汁酸濃度が低下し、胆汁うっ滞に伴うそう痒の改善が期待されます。本剤はカプセル型容器に封入された顆粒剤です。カプセルは容器であることから、投与はカプセルごとではなく容器内の顆粒剤のみを全量投与します。PFIC-1およびPFIC-2の小児患者(生後6ヵ月以上18歳以下、体重5kg超)を対象としたプラセボ対照二重盲検海外第III相試験(A4250-005試験)において、主要評価項目である「24週時までに空腹時血清中胆汁酸濃度がベースラインから70%以上低下または24週時に70μmol/L以下に達した患者の割合」は、本剤群全体で33.3%であり、本剤40μg/kg/日群および120μg/kg/日群でそれぞれ43.5%および21.1%でした。片側検定によるプラセボ群との比較では、いずれの本剤群でも高く、本剤群のプラセボ群に対する優越性が検証されました(本剤群全体:片側p=0.0015、40μg/kg/日群:片側調整p=0.0015、120μg/kg/日群:片側調整p=0.0174)。

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足底の潰瘍【日常診療アップグレード】第43回

足底の潰瘍問題73歳男性。3日前、右足底に10日前にはなかった潰瘍ができているのに気が付き受診した。外傷歴はない。3週間前、新しい靴を購入して使用し始めた。既往歴は2型糖尿病、糖尿病性神経障害、高血圧である。内服薬はメトホルミン、デュラグルチド、ガバペンチン、アトルバスタチン、リシノプリルである。発熱や悪寒はない。バイタルサインは正常で、身体診察では右足底の前中央部に直径約1cmの浅い潰瘍を認める。熱感や発赤、浸出液、腫脹、圧痛はない。両足底の痛覚は低下している。足の単純X線撮影をオーダーした。

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第293回 脳の超音波洗浄がマウスで有効

脳の超音波洗浄がマウスで有効スタンフォード大学の研究者らが開発したいわば脳の超音波洗浄法が脳出血マウスで効果を示し1)、近々臨床試験が始まる運びとなっています2,3)。脳脊髄液(CSF)循環の障害は種々の神経疾患の発生と関連します。CSFや細胞間の間質液に散らばったくずの除去が滞ることは神経を傷害し、虚血性脳卒中、出血性脳卒中、外傷性脳損傷、神経変性疾患などの神経病変や症状に寄与するようです。髄膜リンパ管を薬で後押しして神経毒のくずの除去を促す治療の効果がマウス実験で示されていますが、頭蓋内の水はけをよくする薬物治療はいまだ承認されていません。くも膜下出血(SAH)のCSF排出や脳内出血(ICH)の血腫除去の手術は有効ですが、対象は最も重症な患者に限られます。薬も外科処置も不要の集束超音波(FUS)が脳の神経炎症を抑制するなどの有益な効果をもたらしうることが知られています。たとえば低強度のFUS法がアルツハイマー病を模すマウスの記憶を改善しうること4)やCSF循環を促すことが示されています。それらの先立つ研究を踏まえると、低強度FUSが中枢神経系(CNS)の病原性成分を除去して病気を治す効果を担うかもしれません。そこでスタンフォード大学のRaag Airan氏らは神経を害するくず(neurotoxic debris)の除去を促すことに特化した非侵襲性の低強度FUS法を開発し、出血性脳卒中を模すマウスでその効果を確かめました。尾から採取した血液を脳の右側の線条体に注入することでマウス一揃いを出血性脳卒中のようにし、その後3日間にそれらの半数の頭蓋には開発した方法で超音波を照射し、残り半数は超音波なしの偽治療を受けました。超音波は毎日10分間照射されました。続いて四つ角の容器にそれらのマウスを入れて感覚運動の正常さが検査されました5)。正常なマウスは角で向きを変えるときに使う脚が左右でおよそ偏りがなく、左脚を使う割合が右脚を使う割合とほぼ同じ51%でした。一方、超音波照射なしの出血性脳卒中マウスが角で向きを変えるときに左脚を使った割合は正常なマウスに比べてほど遠い27%でした。しかし超音波が頭蓋に毎日照射された出血性脳卒中マウスのその割合は正常マウスにより近い39%であり、振る舞いの改善が見て取れました。超音波照射マウスは身体機能もより保っており、非照射マウスに比べて鉄棒をより強く握れました。さらには死を防ぐ効果もあるらしく、超音波なしのマウスは脳への血の注入から1週間におよそ半数が絶命したのに対して、超音波照射マウスの死は5分の1ほどで済みました。すなわち1日わずか10分ばかりの超音波照射3回で生存率が30%ほども改善しました。安楽死させたマウスの脳組織を解析したところ、超音波は脳の免疫担当細胞のマイクログリアの圧感知タンパク質を活性化し、場違いな赤血球がより貪食されて取り除かれていました。加えて、脳のCSF循環をよくし、首のリンパ節へと不要な細胞が捨てられるのを促しました。開発された低強度FUS法は脳出血以外の脳病変も治療できそうです。超音波がだいぶ大ぶりの赤血球を脳から除去するのを促すことが確かなら、パーキンソン病やアルツハイマー病などに関係するより小ぶりなタウなどの有毒タンパク質も脳から除去できそうだとAiran氏は述べています。話が早いことにAiran氏らの低強度FUS法は米国FDAの安全性要件を満たしており、臨床試験での検討に進むことが可能です。研究チームは人が被れるヘルメット型装置を作っており、一刻を争う出血性脳卒中ではなく、まずはアルツハイマー病患者を募って試験を実施する予定です5)。スタンフォード大学の先週11日のニュースには早くも向こう数ヵ月中に臨床試験が始まるとの見通しが記されています2)。 参考 1) Azadian MM, et al. Nat Biotechnol. 2025 Nov 10. [Epub ahead of print] 2) A new ultrasound technique could help aging and injured brains / Stanford University 3) Preclinical Research: Focused Ultrasound to Noninvasively Clear Debris from the Brain / Focused Ultrasound Foundation 4) Leinenga G, et al. Mol Psychiatry. 2024;29:2408-2423. 5) Ultrasound may boost survival after a stroke by clearing brain debris / NewScientist

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睡眠障害のタイプ別、推奨される不眠症治療薬

 不眠症治療には、デュアルオレキシン受容体拮抗薬(DORA)、ベンゾジアゼピン系薬剤(BZD)、Z薬、メラトニン受容体作動薬などの薬剤が用いられるが、これらの薬剤の有効性と安全性に関する包括的な比較は、依然として十分に行われていない。中国・長春中医薬大学のHui Liu氏らは、不眠症治療薬の有効性と安全性のプロファイルを調査し、特定の交絡因子を調整して得られた「time window」に基づき、不眠症のタイプに応じた臨床アルゴリズムを確立するため、本研究を実施した。Sleep Medicine誌オンライン版2025年10月10日号の報告。 2025年4月15日までに公表された関連するランダム化比較試験(RCT)を、PubMed、Embase、Scopus、Cochrane Library、Web of Science、ClinicalTrials.govより検索した。中途覚醒時間(WASO)、持続睡眠潜時(LPS)、総睡眠時間(TST)、睡眠効率(SE)などの連続変量について、フォローアップ期間と年齢で調整したベイジアンネットワークメタ回帰(NMR)分析によるペアワイズ比較を行い、RStudio 4.4.2を用いて標準平均差(SMD)を算出した。ファーマコビジランス(PV)は米国食品医薬品局の有害事象報告システム(FAERS)データベースを活用して調査し、二値変数および順序変数についてペアワイズ比較を行い、STATA 18.0 MPを用いて、オッズ比(OR)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・最終解析には、10種類の治療法を評価した合計15件(2,408例)の研究を含めた。・WASOに関して、プラセボ群と比較して、有意に優れていた薬剤は次のとおりであった。【dimdazenil:2.5mg/日】SMD=-0.388、95%信頼区間(CI):-0.608~-0.166【レンボレキサント:10mg/日】SMD=-0.624、95%CI:-0.894~-0.355【レンボレキサント:5mg/日】SMD=-0.612、95%CI:-0.88~-0.342【ダリドレキサント:25mg/日】SMD=-0.957、95%CI:-1.436~-0.479【メラトニン:6mg/日】SMD=-0.741、95%CI:-1.423~-0.044【ゾルピデム:10mg/日】SMD=-0.348、95%CI:-0.61~-0.068【doxepin:3mg/日】SMD=-0.497、95%CI:-0.713~-0.282・これらの治療法の中で、レンボレキサント10mg/日、レンボレキサント5mg/日、ダリドレキサント25mg/日、メラトニン6mg/日、doxepin 3mg/日は同等の効果を示した。・しかし、dimdazenil 2.5mg/日(SMD=0.568、95%CI:0.046~1.096)およびゾルピデム10mg/日(SMD=0.608、95%CI:0.074~1.171)は、ダリドレキサント25mg/日よりも有意に劣っていた。・フォローアップ期間で調整後においても、メラトニン6mg/日(SMD=-0.727、95%CI:-1.48~0.01)のプラセボに対する有意な優位性が失われたことを除いて、未調整解析の結果と同様であった。・しかし、メラトニン6mg/日は、10~40週目にかけて対照群と比較し、有意な優位性を示す「time window」を示した。・年齢で調整後、dimdazenil 2.5mg/日(SMD=-0.355、95%CI:-0.652~-0.1)、レンボレキサント10mg/日(SMD=-0.508、95%CI:-0.9~-0.114)、ゾルピデム10mg/日(SMD=-0.526、95%CI:-0.84~-0.158)はプラセボに対して有意な優位性を示した。・安全性に関して、神経系障害は、スボレキサント(IC025=0.212、95%CI:1.214~1.334)、レンボレキサント(IC025=0.221、95%CI:1.236~1.567)、ダリドレキサント(IC025=0.205、95%CI:1.21~1.427)、doxepin(IC025=0.066、95%CI:1.091~1.411)で安全性のシグナルが検出された。・呼吸困難については、エスゾピクロン(OR:0.556~0.669)は、ダリドレキサント、メラトニン、ゾルピデムよりも有意に低かった。一方、メラトニン(OR=1.568、95%CI:1.192~2.061、p=0.001)およびゾルピデム(OR=1.302、95%CI:1.026~1.653、p=0.03)は、スボレキサントよりも有意に高かった。・ダリドレキサントによる重度の呼吸困難の患者の割合(OR=0.256、95%CI:0.096~0.678、p=0.006)は、スボレキサントおよびレンボレキサントよりも有意に低かった。・有害事象の転帰については、zaleplon(OR=9.888、95%CI:1.124~86.944、p=0.039)は、ダリドレキサントよりも重度の呼吸困難に対する影響が有意に高かった。 著者らは「不眠症の薬剤選択は、不眠症のタイプと薬剤の安全性に基づいて行うべきである」とし、「総合的に有効性のエフェクトサイズ、time window(フォローアップ期間、年齢、不眠症のタイプ)、PV値、重篤な有害事象の発生率などを考慮すると、中途覚醒および睡眠不足を特徴とする不眠症には、ダリドレキサント25mg/日、入眠障害には、レンボレキサント10mg/日またはゾルピデム10mg/日、全体的な睡眠効率の低下には、レンボレキサントの使用が推奨される」としている。これらの知見を検証するためには、さらなる直接比較臨床試験が必要とされるとまとめている。

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SMA治療薬ヌシネルセンの高用量剤形を発売/バイオジェン

 バイオジェン・ジャパンは、脊髄性筋萎縮症(SMA)治療薬であるヌシネルセン(商品名:スピンラザ)の高用量投与レジメンでの剤形追加(28mg製剤、50mg製剤)について、2025年11月12日薬価収載と同時にわが国で販売を開始した。 高用量投与レジメンについては、2025年9月19日に新用量医薬品/剤形追加(28mg製剤、50mg製剤)に係る医薬品として承認を取得していた。なお、高用量投与レジメンでの剤形追加は、承認、販売ともにわが国が世界で最初となる。高用量投与で筋力の維持や呼吸機能などの改善に効果 SMAは、主に乳児期から小児期に発症する進行性の神経筋疾患で、運動神経細胞の変性・消失により筋力低下や筋萎縮を引き起こす。SMAは遺伝性疾患であり、SMN1遺伝子の欠失や変異が主な原因とされている。わが国を含む世界各国で患者が報告され、重症度や発症年齢によりI~IV型に分類される。SMAは、近年、治療法の進歩により患者さんの予後は大きく改善しているが、依然として「筋力の改善」、「呼吸・嚥下機能の改善」など、満たされていない医療ニーズが存在する。 SMA治療薬のヌシネルセンは、体内で生成される完全長Survival Motor Neuron(SMN)タンパクの量を継続的に増やすことで、運動ニューロン喪失の根本原因を標的にするアンチセンス・オリゴヌクレオチド(ASO)。SMAの発症部位に到達できるように運動ニューロンが存在する中枢神経系に直接投与される。ヌシネルセンは、最長10年間治療を受けた参加者データと他に類のないリアルワールドの経験に基づき、十分に確立された安全性プロファイルを有し、さまざまな年齢や異なるタイプのSMAに持続した有効性を示してきた。 今回発売されるヌシネルセンの高用量投与レジメンは、承認済みのヌシネルセン投与レジメンと比較し、より迅速な初期投与レジメン(50mgを14日間隔で2回投与)と、より高用量の維持投与レジメン(4ヵ月ごとに28mg投与)で構成されている。製剤は、既発売の12mg製剤に加え、28mgおよび50mgの高用量製剤を新たに加えたもので、より高い運動機能改善を期待するSMA患者さんに対する治療選択肢の拡充を目的としている。<製品概要>一般名:ヌシネルセン販売名:スピンラザ髄注 12mg/28mg/50mg効能または効果:脊髄性筋萎縮症用法および用量:・スピンラザ髄注 28mg/50mg通常、ヌシネルセンとして、初回および初回投与2週間後に50mgを投与し、以降4ヵ月の間隔で28mgの投与を行うこととし、いずれの場合も1~3分かけて髄腔内投与すること。・スピンラザ髄注 12mg(乳児型SMA、臨床所見は発現していないが遺伝子検査により発症が予測されるSMA)通常、ヌシネルセンとして、1回につき下記の用量(省略)を投与する。初回投与後、2週、4週および9週に投与し、以降4ヵ月の間隔で投与を行うこととし、いずれの場合も1~3分かけて髄腔内投与すること。・スピンラザ髄注 12mg(乳児型以外のSMA)通常、ヌシネルセンとして、1回につき下表の用量(省略)を投与する。初回投与後、4週および12週に投与し、以降6ヵ月の間隔で投与を行うこととし、いずれの場合も1~3分かけて髄腔内投与すること。薬価(いずれも1瓶):スピンラザ髄注12mg:932万424円 同28mg:966万1,483円 同50mg:977万8,481円製造販売承認日:スピンラザ髄注12mg:2017年7月3日 同28mg/50mg:2025年9月19日販売開始日:スピンラザ髄注12mg:2017年8月30日 同28mg/50mg:2025年11月12日製造販売元:バイオジェン・ジャパン株式会社

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全身型重症筋無力症の治療薬ニポカリマブを発売/J&J

 Johnson & Johnson(法人名:ヤンセンファーマ)は、2025年11月12日に全身型重症筋無力症の治療薬として、ヒトFcRn阻害モノクローナル抗体ニポカリマブ(商品名:アイマービー)を発売した。 重症筋無力症(MG)は、免疫系が誤って各種の抗体(抗アセチルコリン受容体抗体、抗筋特異的キナーゼ抗体など)を産生する自己抗体疾患。神経筋接合部のタンパク質を標的として、正常な神経筋シグナル伝達を遮断または障害することで、筋収縮を障害もしくは妨げる。MGは全世界で70万人の患者がいると推定され性差、年齢、人種差を問わず発症するが、若い女性と高齢の男性に最も多くみられる。初発症状は眼症状であることが多く、MG患者の85%は、その後、全身型重症筋無力症(gMG)に進行する。gMGの主な症状は、重度の骨格筋の筋力低下、発話困難、嚥下困難であり、わが国には約2万3,000人のgMG患者がいると推定されている。 今回発売されるニポカリマブは、モノクローナル抗体であり、FcRnを阻害し、gMGを引き起こす循環免疫グロブリンG(IgG)抗体の濃度を下げつつ、他の適応免疫系および自然免疫系にほとんど影響を与えないよう設計されている。 承認の基になったVivacity-MG3試験では、日常生活動作(Myasthenia Gravis-Activities of Daily Living:MG-ADL)総スコアのベースラインからの平均変化量において、ニポカリマブと標準治療の併用群では、プラセボと標準治療の併用群と比較し、24週間の二重盲検期間において有意な改善が認められた。これは咀嚼、嚥下、発話、呼吸などの基本的な機能が改善したことを意味する。また、現在進行中の非盲検継続試験において、ニポカリマブ+標準治療群は、追跡期間48週まで症状の改善を示し、ニポカリマブは、初回投与から24週間のモニタリング期間を通して、IgG抗体濃度を迅速かつ持続的に最大75%低下させた。<製品概要>一般名:ニポカリマブ(遺伝子組換え)商品名:アイマービー点滴静注1,200mg/300mg効能または効果:全身型重症筋無力症(ステロイド剤またはステロイド剤以外の免疫抑制剤が十分に奏効しない場合に限る)用法および用量:通常、成人および12歳以上の小児には、ニポカリマブとして初回に30mg/kgを点滴静注し、以降は1回15mg/kgを2週間隔で点滴静注する。薬価(いずれも1瓶):アイマービー点滴静注 1,200mg 6.5mL:196万7,291円 同 300mg 1.62mL:49万1,823円製造販売承認日:2025年9月19日薬価基準収載日:2025年11月12日発売日:2025年11月12日(アイマービー点滴静注1,200mgのみ発売、同300mgの発売日は未定)製造販売元:ヤンセンファーマ株式会社

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肥満とがん死亡率、関連する血液腫瘍は

 肥満は血液腫瘍を含む各種がんによる死亡率の上昇と関連しているが、アジア人集団、とくに日本人成人におけるこの関連のエビデンスは限られている。今回、北海道大学の若狭 はな氏らが、わが国の多施設共同コホート研究(JACC Study)で肥満と血液腫瘍による死亡の関連を検討した結果、日本人成人において肥満が多発性骨髄腫および白血病(とくに骨髄性白血病)による死亡率の上昇と有意に関連していることが示された。PLoS One誌2025年10月30日号に掲載。 本研究では、わが国の多施設共同コホート研究であるJACC Studyの参加者9万7,073人を対象に、平均17年間追跡調査した。自己申告の身長および体重からBMI(kg/m2)を算出し、低体重(18.5未満)、正常体重(18.5~24.9)、過体重(25.0~29.9)、肥満(30.0以上)の4群に分けた。血液腫瘍による死亡データは死亡診断書から取得した。人口統計学的要因、生活習慣、社会経済的要因を調整したCox比例ハザードモデルを用いて、原因疾患別のハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中に479例が血液腫瘍により死亡し、うちリンパ腫が200例、多発性骨髄腫が107例、白血病が166例(骨髄性白血病106例を含む)であった。・死亡リスクが正常体重群より肥満群で有意に高かったのは、血液腫瘍全体(HR:1.78、95%CI:1.02~3.11)、多発性骨髄腫(HR:2.75、95%CI:1.09~6.94)、白血病(HR:2.47、95%CI:1.07~5.69)、とくに骨髄性白血病(HR:3.89、95%CI:1.66~9.11)であった。・BMIとリンパ腫による死亡率との間には有意な関連は認められなかった。 今回の結果は、この集団において肥満が特定の血液腫瘍における修正可能なリスク因子であることを強調している。

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既治療のEGFR陽性NSCLC、sac-TMTがOS改善(OptiTROP-Lung04)/NEJM

 上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)による前治療後に病勢が進行したEGFR遺伝子変異陽性の進行・転移のある非小細胞肺がん(NSCLC)において、抗TROP2抗体薬物複合体sacituzumab tirumotecan(sac-TMT)はペメトレキセド+白金製剤ベースの化学療法と比較して、無増悪生存期間(PFS)とともに全生存期間(OS)をも改善し、新たな安全性シグナルの発現は認められなかった。中国・Guangdong Provincial Clinical Research Center for CancerのWenfeng Fang氏らが、第III相試験「OptiTROP-Lung04試験」の結果で示した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年10月19日号に掲載された。中国の無作為化試験 OptiTROP-Lung04試験は、中国の66施設で実施した非盲検無作為化試験であり、2023年7月~2024年4月に参加者のスクリーニングが行われた(Sichuan Kelun-Biotech Biopharmaceuticalの助成を受けた)。 年齢18~75歳、局所進行(StageIIIBまたはIIIC)または転移のある(StageIV)の非扁平上皮NSCLCと診断され、治癒切除術または根治的化学放射線療法が非適応で、EGFR変異(exon19delまたはexon21 L858R置換)陽性であり、1次または2次治療においてEGFR-TKI(第1・2世代はT790M変異陰性例、第3世代はT790M変異の有無を問わない)の投与を受けたのち病勢が進行した患者376例(年齢中央値60歳[範囲:31~75]、男性39.6%)を対象とした。  参加者を、sac-TMT群(188例)またはペメトレキセド+白金製剤ベースの化学療法群(188例)に無作為に割り付けた。sac-TMT群は、28日を1サイクルとして1および15日目に5mg/kg体重を静脈内投与した。化学療法群は、21日を1サイクルとして1日目にペメトレキセド(500mg/m2体表面積)+担当医の選択によりカルボプラチン(AUC 5mg/mL/分)またはシスプラチン(75mg/m2)の投与を最大で4サイクル行い、その後ペメトレキセドによる維持療法を施行した。客観的奏効割合、奏効期間も優れる 登録時に、74.5%が非喫煙者で、97.6%がStageIVであった。全身状態の指標(ECOG PSスコア)は、0が20.7%、1が79.3%で、94.7%が前治療で第3世代EGFR-TKIの投与(62.5%は1次治療として)を受けていた。  追跡期間中央値18.9ヵ月の時点における、独立審査委員会が盲検下に評価したPFS中央値(主要エンドポイント)は、化学療法群よりもsac-TMT群で延長した(8.3ヵ月vs.4.3ヵ月、病勢進行または死亡のハザード比[HR]:0.49、95%信頼区間[CI]:0.39~0.62)。12ヵ月時のPFS率は、sac-TMT群が32.3%、化学療法群は7.9%だった。  また、OS中央値(主な副次エンドポイント)は、化学療法群が17.4ヵ月であったのに対し、sac-TMT群は推定不能(95%CI:21.5~推定不能)であり有意に優れた(死亡のHR:0.60、95%CI:0.44~0.82、両側p=0.001)。18ヵ月時のOS率は、sac-TMT群が65.8%、化学療法群は48.0%だった。  独立審査委員会が盲検下に評価した客観的奏効(完全奏効+部分奏効)の割合は、sac-TMT群が60.6%、化学療法群は43.1%であった(群間差:17.0%ポイント、95%CI:7.0~27.1)。奏効期間中央値はそれぞれ8.3ヵ月および4.2ヵ月であり、奏効期間中央値が1年以上の患者の割合は36.3%および8.1%だった。口内炎が高頻度に sac-TMT関連の新たな安全性シグナルは認めなかった。Grade3以上の治療関連有害事象は、sac-TMT群で58.0%、化学療法群で53.8%に発現し、最も頻度が高かったのは好中球数の減少(39.9%、33.0%)であった。Grade3以上の貧血(11.2%vs.14.3%)、血小板減少(2.1%vs.16.5%)はsac-TMT群で少なく、重篤な治療関連有害事象の頻度もsac-TMT群で低かった(9.0%vs.17.6%)。また、sac-TMT群では、治療関連有害事象による投与中止の報告はなかった。  とくに注目すべき薬剤関連有害事象については、sac-TMT群で口内炎(64.4%vs.4.9%)の頻度が高かった。sac-TMT群の口内炎の内訳は、Grade1が42例(22.3%)、同2が70例(37.2%)、同3が9例(4.8%)で、Grade4/5は認めなかった。19例(10.1%)が口内炎のため減量したが、投与中止例はなく、Grade3の9例はいずれも適切な介入と減量により診断から中央値で10日以内にGrade2以下に改善した。  著者は、「近年の治療の進歩は主に、化学療法と免疫チェックポイント阻害薬、抗血管新生薬、二重特異性抗EGFR/c-Met抗体、HER3を標的とする抗体薬物複合体を組み合わせた多剤併用療法が中心となっているが、主要な臨床試験ではOSの有益性に関して有意差は達成されていないことから、本試験においてsac-TMTが単剤でOSを有意に改善したことは注目に値する」「EGFR-TKI抵抗性のNSCLCでは、ペメトレキセド+白金製剤ベースの化学療法の前に、sac-TMTが考慮すべき好ましい治療選択肢となる可能性がある」としている。

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どんな量でも飲酒は血圧を高める可能性あり

 量に関係なく、飲酒は血圧を上昇させる可能性があるようだ。新たな研究で、たとえわずかであっても飲酒量の増加は血圧の上昇と関連していることが明らかになった。この研究結果を報告した聖路加国際病院の鈴木隆宏氏らは、「飲酒をやめる、または飲酒量を減らすことで血圧が下がり、脳卒中や心疾患のリスクが低下する可能性がある」と述べている。この研究の詳細は、「Journal of the American College of Cardiology(JACC)」に10月22日掲載された。 これまで、少しの飲酒なら血圧に大きな影響はないと考えられていたが、この研究結果はそうした考えに疑問を投げかけるものだ。鈴木氏は、「血圧に関しては、飲酒量が少なければ少ないほど良好な状態になることが、われわれの研究で示された。そして、飲酒量が多いと血圧は高くなる」と指摘。「これまでは、少量のアルコールであれば問題はないだろうと考えられてきた。しかし、われわれの研究結果は、アルコールは全く摂取しないのがベストであることを示している。つまり、たとえ少量の飲酒であっても、禁酒することが男女を問わず心臓の健康に有益な可能性がある」と米国心臓病学会(ACC)のニュースリリースの中で述べている。 鈴木氏らは今回の研究で、2012年10月から2024年3月までの間に聖路加国際病院で実施された35万9,717件の定期健康診断(以下、健診)のデータを分析した。受診者は健診の中で自身の飲酒量について報告していた。鈴木氏らはその回答に基づき受診者を、初回の健診の時点で飲酒の習慣がある群とない群の2群に分け、飲酒者が禁酒した場合と非飲酒者が飲酒を始めた場合のそれぞれが血圧に与える影響を調べた。鈴木氏は、「われわれの研究は、飲酒習慣のある人が禁酒することは血圧の改善に関連するのか、また飲酒習慣のない人が飲酒を始めた場合に血圧に影響があるのかを明らかにすることを目的としていた」と説明している。 その結果、飲酒量を減らすと血圧が低下することが示された。1日1~2ドリンク(1ドリンク=純アルコール10g)の飲酒をやめた女性では、収縮期血圧が−0.78mmHg、拡張期血圧が−1.14mmHg低下することが示された。また、同量の飲酒をやめた男性では、収縮期血圧が−1.03mmHg、拡張期血圧が−1.62mmHg低下していた。一方、新たに1ドリンクの飲酒を始めた人では血圧の上昇が見られ(収縮期血圧は0.78mmHg増加、拡張期血圧は0.53mmHg増加)、こうした傾向は男女いずれにおいても確認された。飲酒に伴う血圧の上昇は、ビール、ワイン、蒸留酒などアルコール飲料の種類にかかわらず認められ、重要なのは摂取量であることも示された。 今回の研究には関与していない米イェール大学医学部教授のHarlan Krumholz氏は、「この結果は、少量であったとしても飲酒をやめることで高血圧の予防や治療につながる可能性があることを示している」とニュースリリースの中で述べている。同氏はさらに、「このことは血圧の治療目標値が以前よりも低く設定されている現在において特に重要である」と付け加えている。

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スタチンでケモブレインを防げる?

 最も一般的なコレステロール治療薬であるスタチン系薬剤(以下、スタチン)が、がん患者を「ケモブレイン」から守るのに役立つかもしれない。新たな研究で、スタチンは乳がんやリンパ腫の患者の認知機能を最大2年間保護する可能性のあることが示された。米バージニア・コモンウェルス大学パウリー心臓センターのPamela Jill Grizzard氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に10月21日掲載された。 Grizzard氏は、「がん治療は患者を衰弱させる可能性があり、化学療法による認知機能の低下は治療終了後も長期間続くことがある」と話す。その上で、「この研究結果は、スタチン投与群に割り付けられたがん患者において、治療開始から2年間にわたり認知機能に予想外の改善傾向が認められたことを示している。がん治療中に知性を守ることは、心臓を守るのと同じくらい重要だ」と述べている。 化学療法を受ける患者の多くは、記憶力、問題解決能力、自制心、計画力の低下など、頭がぼんやりするブレインフォグや思考力の低下を訴える。これらの副作用は一般に「ケモブレイン」と呼ばれている。研究グループによると、ケモブレインの原因は医師にもはっきりと分かっておらず、化学療法薬が脳細胞に直接作用している可能性や、化学療法の副作用として知られている疲労感や貧血が原因となっている可能性が示唆されているという。 今回、Grizzard氏らは、スタチンが化学療法による心毒性から心臓を保護できるのかどうかを調べた過去の臨床試験のデータの2次解析を行った。対象者である、ドキソルビシンによる治療中でステージI~IVのリンパ腫、またはステージI~IIIの乳がんの患者238人(平均年齢49歳、女性91.2%)は、ドキソルビシン治療開始前から最長で24カ月間にわたり、アトルバスタチン(40mg/日)を投与する群(118人)とプラセボを投与する群(120人)に割り付けられていた。今回の研究では、対象者の注意機能(Trail Making Test Part A〔TMT-A〕で評価)、実行機能(TMT-Bで評価)、言語流暢性(Controlled Oral Word Association Testで評価)が評価された。 その結果、治療前と比べて治療開始から24カ月時点の実行機能は、アトルバスタチン投与群では平均10.2秒有意に改善したのに対し、プラセボ群では平均0.2秒の改善にとどまり、統計学的に有意ではなかった。ただし、時間の経過による変化の仕方に両群間で有意な差はなかった。注意力と言語流暢性の改善度についても、両群で同程度であった。 研究グループは、「このような認知スキルは、治療の選択と日常生活のさまざまな課題を両立させようと努力しているがんサバイバーにとって不可欠である」と述べている。Grizzard氏は、「今後の研究で有益な効果が確認されれば、スタチンはがんサバイバーが治療中も認知機能と生活の質(QOL)を維持する上で貴重なツールとなる可能性がある」と結論付けている。

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