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日本のプライマリケア受診の蕁麻疹患者、約3分の1が罹患期間3年以上

 日本の9つの皮膚科プライマリケアクリニックを受診した蕁麻疹患者約千例において、36.1%が罹患期間3年以上であることが明らかになった。罹患期間は、高齢患者、皮膚描記症(dermographism)およびコリン性蕁麻疹患者でより長い傾向がみられた。広島大学の齋藤 怜氏らによる、The Journal of Dermatology誌オンライン版2025年10月31日号への報告より。 本研究では、蕁麻疹の予後に関連する因子を検討するため、2020年10月1日~11月11日に9つの皮膚科プライマリケアクリニックを受診した蕁麻疹患者1,061例を対象に、罹患期間についての横断的解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・216例(20.4%)は急性蕁麻疹であり、蕁麻疹の罹患期間3年以上が383例(36.1%)、10年以上が125例(11.8%)であった。・罹患期間について、男女間で有意差は認められなかった。・20歳未満の患者では75例(38.9%)が急性蕁麻疹であった一方、50歳超の患者では20%超が罹患期間10年以上であった。・皮膚描記症およびコリン性蕁麻疹患者における罹患期間3年以上の患者の割合は、それぞれ42%および45.3%であった。

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1型糖尿病の高リスク乳児、経口インスリンの1次予防効果は?/Lancet

 膵島関連自己抗体発現リスクが高い乳児において、ヒト亜鉛インスリン結晶から製造された経口インスリンの高用量投与はプラセボと比較し、膵島関連自己抗体の発現を予防しなかった。ドイツ・Helmholtz MunichのAnette-Gabriele Ziegler氏らが、Global Platform for the Prevention of Autoimmune Diabetes(GPPAD)の7施設(ドイツ3施設、ポーランド・スウェーデン・ベルギー・英国各1施設)で実施した研究者主導の無作為化二重盲検プラセボ対照試験「Primary Oral Insulin Trial:POInT試験」の結果を報告した。1型糖尿病はインスリンを含む膵島抗原に対する自己免疫反応により発症するが、膵島関連自己抗体や疾患症状発現前の自己免疫反応予防を目的とした経口自己抗原免疫療法の有効性を評価する臨床試験は行われていなかった。Lancet誌オンライン版2025年11月11日号掲載の報告。主要アウトカムは、膵島関連自己抗体発現(2種類以上)または糖尿病発症 研究グループは、GPPAD遺伝子スクリーニングプログラムにより6歳までに2種類以上の膵島関連自己抗体発現リスクが10%超の、離乳食を開始している生後4~7ヵ月の乳児を特定し、経口インスリン群またはプラセボ群に、1対1の割合で、施設で層別化して無作為に割り付けた。すべての参加者とその家族、研究者、検査室スタッフは、研究期間中割り付けを盲検化された。 参加者には経口インスリンまたはプラセボが1日1回、7.5mgを2ヵ月間、その後22.5mgを2ヵ月間、その後67.5mgを3歳時まで投与し、ベースライン、投与開始後2ヵ月時、4ヵ月時、8ヵ月時、生後18ヵ月時、その後2024年6月28日の最終外来受診日まで6ヵ月ごとに検査を実施した。 主要アウトカムは、2種類以上の膵島関連自己抗体(IAA、GADA、IA-2A、ZnT8A)の発現(2つの中央検査施設において2回連続で陽性および少なくとも1検体で2種類目の自己抗体が確認された場合に陽性と定義)または糖尿病発症とした。副次アウトカムは、糖代謝異常または糖尿病発症であった。 適格基準を満たし割り付けられた全参加者のうち、ベースラインで主要アウトカムの要件を満たさなかった参加者を主要解析の対象とした。試験薬を少なくとも1回投与された参加者を安全性解析に含めた。経口インスリン群とプラセボ群で主要アウトカムの有意差なし 2017年7月24日~2021年2月2日に乳児24万1,977例がスクリーニング検査を受け、2,750例(1.14%)で膵島関連自己抗体発現リスクの上昇がみられ、このうち適格基準を満たした1,050例(38.2%)が2018年2月7日~2021年3月24日に無作為化された(経口インスリン群528例、プラセボ群522例)。年齢中央値6.0ヵ月(範囲:4.0~7.0)、男児531例(51%)、女児519例(49%)であった。 経口インスリン群で2例(1型糖尿病の家族歴に関する情報の誤り1例、ベースラインで2種類以上の膵島関連自己抗体を保有していた1例)が除外され、主要解析対象集団は経口インスリン群526例、プラセボ群522例であった。 主要アウトカムのイベントは経口インスリン群で52例(10%)、プラセボ群で46例(9%)に発現した。ハザード比(HR)は1.12(95%信頼区間[CI]:0.76~1.67)で両群間に有意差は認められなかった(p=0.57)。 事前に規定されたサブ解析の結果、主要アウトカムおよび副次アウトカムに関して治療とINS rs1004446遺伝子型の相互作用が認められた。非感受性INS遺伝子型を保有する経口インスリン群の参加者はプラセボ群と比較して、主要アウトカムのイベントが増加し(HR:2.10、95%CI:1.08~4.09)、感受性INS遺伝子型を保有する経口インスリン群の参加者はプラセボ群と比較して、糖尿病または糖代謝異常の発症が低下した(HR:0.38、95%CI:0.17~0.86)。 安全性については、血糖値50mg/dL未満は、インスリン群で7,210検体中2件(0.03%)、プラセボ群で7,070検体中6件(0.08%)に観察された。有害事象は、インスリン群で96.0%(507/528例)に5,076件、プラセボ群で95.8%(500/522例)に5,176件発現した。インスリン群で死亡が1例認められたが、独立評価により試験薬との関連はなしと判定された。

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乳房切除後の胸壁照射、10年OSを改善せず/NEJM

 乳房切除術+現在推奨される補助全身療法を受けた中間リスクの早期乳がん患者において、胸壁照射は胸壁照射を行わない場合と比較し全生存期間(OS)を改善しないことが、第III相多施設共同無作為化試験「Selective Use of Postoperative Radiotherapy after Mastectomy:SUPREMO試験」で示された。英国・エディンバラ大学のIan H. Kunkler氏らが報告した。腋窩リンパ節転移が1~3個のpN1、あるいは病理学的リンパ節陰性のpN0に分類され、かつその他のリスク因子を有する乳がん患者に対する乳房切除術後の胸壁照射がOSに及ぼす影響は、現在推奨される周術期薬物療法下では不明であった。NEJM誌2025年11月6日号掲載の報告。中間リスクの早期乳がん患者が対象、胸壁照射群と非照射群に無作為化 研究グループは、中間リスク(pT1N1、pT2N1、pT3N0、またはpT2N0かつ組織学的Grade3±リンパ管浸潤)の乳がん患者を、胸壁照射(40~50Gy)群または胸壁照射を行わない群(非照射群)に1対1の割合で無作為に割り付け、10年間追跡した。 アントラサイクリン系薬剤を含む術後または術前化学療法が推奨され、トラスツズマブは各施設の方針に従って投与された。エストロゲン受容体陽性患者には、最低5年間の術後内分泌療法が推奨された。 主要評価項目はOS、副次評価項目は胸壁再発、領域再発、無病生存期間(DFS)、無遠隔転移生存期間(DMFS)、乳がんによる死亡、放射線関連有害事象などであった。 2006年8月4日~2013年4月29日に計1,679例が無作為化され、同意撤回等を除いた胸壁照射群808例、非照射群799例がITT解析対象集団に含まれた。10年OS率81.4%vs.81.9%、有意差認められず 追跡期間中央値9.6年において、295例の死亡が確認された(胸壁照射群150例、非照射群145例)。Kaplan-Meier法により推定された10年OS率は、胸壁照射群81.4%、非照射群81.9%で、群間差は認められなかった(死亡のハザード比[HR]:1.04、95%信頼区間[CI]:0.82~1.30、p=0.80)。死亡例の多く(194/295例、65.8%)は乳がんによるものであった。 胸壁再発は29例(胸壁照射群9例[1.1%]、非照射群20例[2.5%])に認められ、群間差は2%未満であった(HR:0.45、95%CI:0.20~0.99)。10年DFS率は胸壁照射群76.2%、非照射群75.5%(再発または死亡のHR:0.97、95%CI:0.79~1.18)、10年DMFS率はそれぞれ78.2%、79.2%(遠隔転移または死亡のHR:1.06、95%CI:0.86~1.31)であった。

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未治療CLL、オビヌツズマブとベネトクラクスの併用が可能に/中外・日本新薬

 中外製薬および日本新薬は2025年11月20日、ヒト化抗CD20モノクローナル抗体オビヌツズマブ(遺伝子組換え)(商品名:ガザイバ)において、電子添文改訂により、未治療の「CD20陽性の慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)」に対してBCL-2阻害薬ベネトクラクス(商品名:ベネクレクスタ)との併用療法が可能になったことを発表した。 今回の電子添文改訂は、未治療の「慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)」を対象に、ベネトクラクスとオビヌツズマブの併用投与による有効性および安全性を評価した、国内第II相試験(M20-353、アッヴィ合同会社実施)、海外第III相試験(CLL14/BO25323、ロシュ社/アッヴィ社/ケルン大学実施)などの結果に基づいている。

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注射薬のデュピルマブが喘息患者の気道閉塞を改善

 抗炎症作用のある注射薬のデュピルマブ(商品名デュピクセント)が、喘息患者の粘液の蓄積を減らし、喘息発作時の気道の閉塞を改善するのに有効であることが、新たな臨床試験で示された。この試験の結果によると、デュピルマブを使用した患者では、粘液による気道閉塞が見られる割合が半減したという。ビスペビアウ病院(デンマーク)のCeleste Porsbjerg氏らによるこの臨床試験の詳細は、「American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine」に10月27日掲載された。 Porsbjerg氏は、「中等症から重症の喘息では、肺の中にたまった粘液により気道が塞がれて呼吸が制限され、重度の喘息発作が生じたり、死に至ることもある」とニュースリリースの中で述べている。同氏らによると、体内に少量の粘液があるのは普通のことであり、風邪やインフルエンザに罹患したときを除けば、それが問題になることはない。しかし、喘息患者の場合、炎症によって気道が狭まり、粘液が気道を塞ぐと命に関わる恐れがあるという。 今回の臨床試験には関与していない専門家の1人で、アレルギー&喘息ネットワークのチーフ・リサーチ・オフィサーのDe De Gardner氏は、「喘息発作時に粘液の分泌量が増える患者にとっては、それが強いストレスや不安の原因になる。粘液が喉に詰まり、うまく咳で出せなかったりすると、吐き気を催すこともある」とニュースリリースの中でコメントしている。 Drugs.comによると、デュピルマブはもともと免疫に関連した疾患であるアトピー性皮膚炎の治療薬として2017年に承認され、その後、喘息、副鼻腔炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの治療にも用いられるようになった。デュピルマブは、炎症に関わるサイトカイン(インターロイキン〔IL〕-4、IL-13)の働きを直接抑えることで作用する。 今回報告された臨床試験では、109人の中等症から重症の喘息患者を24週間にわたって、2週間ごとにデュピルマブ(300mg)を注射投与する群(72人)とプラセボを注射投与する群(37人)にランダムに割り付けた。 その結果、デュピルマブ群では重度の粘液による気道の閉塞が認められる患者の割合が治療開始前の67.2%から試験終了時には32.8%に低下し、大幅な改善が見られた。一方、プラセボ群での割合は試験開始前(76.7%)と試験終了時(73.3%)で、ほとんど変化が認められなかった。また、呼気の分析でも、デュピルマブ群ではプラセボ群と比べて、炎症の指標である呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)が25ppb未満まで減少した患者の割合が有意に多く、さらに、肺機能も有意に改善したことが示された。 Porsbjerg氏らは、「これらの結果は、デュピルマブが中等症から重症の喘息患者において、治療開始からわずか4週間で粘液による気道の閉塞と炎症を軽減することを示している」と結論付けている。ただし、デュピルマブは安価な薬ではない。Drugs.comによると、同薬の1カ月分(300mgの注射を2回分)の価格は約3,900ドル(1ドル154円換算で約60万円)に上るという。 なお、今回報告された臨床試験は、デュピルマブを製造するSanofi/Regeneron Pharmaceuticals社の資金提供を受けて実施された。

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網膜の血管から心臓病リスクを予測可能か

 「目は心の窓」とよく言われるが、新たな研究によると、目は心臓の健康状態を知るための窓としても機能する可能性があるようだ。新たな研究で、網膜の血管から心臓病のリスクや老化の加速の有無を予測できる可能性のあることが明らかになった。マクマスター大学(カナダ)医学部のMarie Pigeyre氏らによるこの研究結果は、「Science Advances」に10月24日掲載された。研究グループは、「将来的には、医師は定期検診の一環として網膜スキャンを実施するようになるかもしれない」と述べている。 Pigeyre氏は、「網膜スキャン、遺伝学、血液バイオマーカーを結び付けることで、われわれは、老化が血管系にどのような影響を与えるかを説明する分子経路を発見した」と語っている。また同氏は、「目は、体内の循環器系を非侵襲的に観察できるという点で他に類を見ない。網膜血管の変化は、全身の微小血管に起こる変化を反映することが多い」と付け加えている。 網膜の血管の複雑性は血管老化の指標とされており、眼底写真から網膜血管のフラクタル次元(Df)を測定することで評価できる。Dfの値が大きいほど、血管構造の複雑性が高いことを示す。Pigeyre氏らはこのことを踏まえて、カナダ、スコットランド、英国の3つの大規模コホート研究のいずれかに参加した7万4,434人を対象に、マルチモーダル手法に基づいて、Dfに関するゲノムワイド関連解析(GWAS)を行った。 その結果、Dfの値と心血管疾患リスクとの間に負の関連が認められ、Dfの値が低いほど心血管疾患、脳卒中、および炎症のリスクは上昇することが明らかになった。一方、Dfの高値は寿命が長いことと関連していた。 次に、Prospective Urban and Rural Epidemiological(PURE)コホート研究参加者から得られた1,159種類の血中タンパク質を対象に、プロテオーム全体にわたるメンデルランダム化解析を行い、血管の老化に因果的に関与する可能性のあるタンパク質を探索した。その結果、8つの因果的媒介因子が特定された。その中でも、MMP12とIgG-Fc receptor IIbは、炎症が強いほどDfが低下し、心血管疾患リスクが上昇し、寿命が短くなることに関係していた。 Pigeyre氏は、「この研究結果は、MMP12とIgG-Fc receptor IIbの2つのタンパク質が、血管の老化を遅らせ、心血管疾患の負担を軽減し、最終的には寿命を延ばすための潜在的な薬剤ターゲットとなり得ることを示唆している」と話している。

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第270回 財政データは語る、日本の医療保険はどこまで持続可能か

国民皆保険制度が迎える転換点現在、中央社会保険医療協議会(中医協)では、2026年度の診療報酬改定に向けた話し合いが行われていますが、これまでの議論からは外来点数の抑制を含む改定が予想され、とくに中小病院・診療所には大きな影響を受けるところも出てくると思われます。病気になったときに、夜間・休日でもすぐに受診できる国民皆保険制度の持続については国民総意で支持すると思われますが、その一方で、医療提供側である医師会や病院団体からはインフレの影響を受け、人件費や物価高騰のため苦境を報じられています。しかし、財政を管理する財務省からは厳しい現状を突きつけられており、かなり厳しい改定内容となる見込みで、リソースが限られる医療機関によっては病床再編のきっかけとなり、従来から行ってきた入院医療や外来診療が困難になることも予想されます。市町村国保・健保組合に広がる財政危機実際にどれほど深刻なのかは、厚生労働省が10月に発表した「令和5年度国民健康保険(市町村国保)の財政状況について」を見てみるとよくわかります。一昨年度のデータでも、2023年度は1,288億円の赤字決算、さらに万が一に備える基金積立金は1兆3,375億円に減少しており、対前年度比4.4%(621億円)減など、厳しい健康保険財政が見て取れます。さらに、健康な働き盛りの会社員が加入する健康保険組合なども影響を受けており、先日、産経新聞が「健康保険組合、存続の危機 高齢者医療費負担増で半数赤字『もう限界に達している』」と報道しているように、高齢者医療への拠出金が年々増加しており、その負担が保険料率の引き上げや赤字の拡大につながっている。結果として、健康保険組合としての存続自体が危ぶまれる状況にあります。(引用:https://www.kenporen.com/include/press/2025/2025092505.pdf)(引用:https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202209/1.html)2025年問題:団塊世代が後期高齢者入りする現実「2025年問題」とは、戦後の昭和22~25年の3年の第1次ベビーブーム中に生まれた団塊の世代(出生数平均260万人)が全員75歳以上となる年です。後期高齢者になると、複数の疾病を持つため医療機関に頻回に受診しがちでもあり、そのため医療費が増加します。(引用:https://www.kenporen.com/include/press/2025/2025092505.pdf)経済協力開発機構(OECD)の“Health at a Glance 2023”によれば、OECD加盟国で患者1人当たり年間外来受診は平均6回/年のところ、わが国では11.1回/年と医療機関の受診回数も多い上に、そのたびに医療機関でさまざまな検査や投薬を受けています。これに加えて、高齢者になると医療費は増える傾向があり、わが国の人口1人当たり国民医療費は65歳未満では21万8,000円、65歳以上は79万7,200円、後期高齢者は95万3,800円となっており、高齢化の進行で、75歳以上の割合が今後も増え続け、支える世代である65歳以下の人口が減少していくため、医療費の増加には、ある程度やむを得ない面があります。(引用:https://www.oecd.org/content/dam/oecd/en/publications/reports/2023/11/health-at-a-glance-2023_e04f8239/7a7afb35-en.pdf)財務省が示す“現役世代の限界”こういった中、財務省が11月になって2回の財政制度等審議会の財政制度分科会で出した資料は非常に印象的でした。一部には、開業医の給与水準の高さを強調するなど恣意的と受け取られかねない記述もある一方、現状の振り返りの中では、医療費が雇用者報酬の伸びを上回るペースで増加しており、現役世代1人当たりの高齢者医療支援金は2008年2,980円→2024年5,950円と倍増した現状から、今後も生産年齢人口が年0.7%減る中、負担増をこれ以上続けることは「賃上げ効果を相殺し家計と企業活力を奪う」との危機感が明示されており、“現役世代の限界”が明確化され、負担増ではなく給付抑制・制度改革を最優先する局面に突入したことを示しています。こういった状況で、かかりつけ医機能が弱いままでいると患者さんが大病院に紹介状もないままに直接受診され、無駄な検査が繰り返されれば、医療費は増大し続け、ひいては保険料引き上げにつながりかねません。また、適正な範囲内であれば問題はないのですが、患者さんが求めるままに、ドラッグストアでも市販されている湿布などを大量に処方し続ければ保険財政が厳しいため、保険償還から外されていくように思います。(引用:https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia20251105/03.pdf)保険者が示した「ポスト2025」提言のメッセージさて、そういう意味では、医療費の支払い側(保険者)からのメッセージを今回は見てみようと思います。今年の9月に健康保険組合連合会(健保連)が提言を出していました。やや量が多いのですが、目を通すとわかりやすい資料になっています。この中で「2025年以降も危機的な状況が続くものと見込まれます。さらに2040年にかけては、高齢者人口がピークに向かい、少子化により現役世代が減少していくなかで、医療費と現役世代の負担が急激に増大していくと見込まれています。これに備え、全世代で支え合う制度へ転換するための改革を急がなければなりません。そうしなければ、国民の安心の礎である国民皆保険制度を将来世代に引き継ぐことができなくなってしまいます」とあり、提言がまとめられています。そして、まずは国民に向けて、「加入者(国民)の皆さまへの3つのお願い」として、(1)医療費のしくみや国民皆保険制度の厳しい状況についてもっと知ってください(2)自分自身で健康を守る意識をもってください。健診をきちんと受けてください(3)軽度な身体の不調は自分で手当てするセルフメディケーションを心がけてくださいと提言しています。「自己負担が無料で医療が受けられる場合(子供の医療費など)であっても、その医療費の大部分は健康保険の保険料で賄われていることをご理解ください」といった、従来では言われてこなかった内容も含まれており、それらの仕組みについての理解を求めています。さらに、われわれ医療機関への要請としても、「医療提供者に対してお願いすること」として、(1)地域医療構想の着実な推進(2)かかりつけ医機能の充実(3)適切な受診の支援(4)経済性も考慮した医療サービスの提供(5)医療DXの積極的な取り組みと記載しています。厚労省の取り組みに対して協力を保険者側が求めていることが明らかになっています。具体的には「医療機関の機能分化に向けて地域医療構想の実現を着実に推進するとともに、かかりつけ医機能の充実に取り組み、患者の日頃からの予防やセルフメディケーション、適切な受診の支援をお願いします。また、かかりつけ医と健康保険組合との連携についても検討することをお願いします。さらに、費用対効果や経済性も考慮した医療サービスを提供するとともに、医療情報プラットフォームによる患者情報の共有・活用など、スピード感をもって医療DXを進めるため、積極的な医療DXの取り組みもお願いします」とあります。(引用:https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia20251105/03.pdf)(引用:https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001281024.pdf)医療DXと全国医療情報プラットフォームという現実医療機関側にとって医療DXの促進のためとはいえ、マイナ保険証の導入や電子カルテの導入などコスト増につながり、頭の痛い問題でもありますが、この1~2年で、市中の診療所や調剤薬局など隅々にまでマイナ保険証のリーダーの設置に向けて補助金が投入されたことからわかるように、全国医療情報プラットフォームは国の政策でもあり、参画が求められています。無駄な医療費を削減するには、このプラットフォームを積極的に活用し、医師や薬剤師が患者1人ひとりに意義を説明していく必要があります。国民皆保険制度の価値と、再構築が困難である理由生活インフラでもある医療と介護は、国民皆保険制度によって成り立っています。「国民皆保険制度など破綻すればいい」という意見や「厳格な利用規制」を求める声も上がっていますが、民間保険が主体であるアメリカでは医療費の支払いが破産の主な原因の1つとされているように、保険制度を民間保険などにすべて委ねることは病気がちな貧困層や人々の暮らしに大きな影響が出ます。持続可能な医療のために何をすべきか戦後80年、国民皆保険制度が整備されて64年、諸外国と比較して比較的安価な医療費で、健康長寿が約束されるわが国は、羨望の眼差しで見られています。また、厚労省が新薬を承認すれば、ほぼすべての薬が保険償還で認められるという国はなかなかありません。現行の社会保障制度を廃止して、新たに国民が満足できる制度を再び構築するのは困難です。現行の国民皆保険制度をなんとか持続させることが国民にとってメリットが多いと考えます。もちろん、一部の事業者によって問題となった訪問看護ステーション付きの介護住宅のように頻回な訪問を行って過剰請求をするような逸脱した行為は排除されるべきです。今後、厳しい財源事情が続く中、どういった形で持続可能性を高めていくか、大きな課題となっていると考えます。参考 1) 令和5年度国民健康保険(市町村国保)の財政状況について(厚労省) 2) 『ポスト2025』健康保険組合の提言(健保連) 3) 健康保険組合、存続の危機 高齢者医療費負担増で半数赤字 「もう限界に達している」産経新聞[2025/11/14](産経) 4) Health at a Glance 2023(OECD) 5) かかりつけ医機能報告制度にかかる研修(日本医師会)

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サラッとStat初級編:カプランマイヤー周辺がワカる【Oncologyインタビュー】第53回

出演岐阜大学泌尿器科学講座 古家 琢也氏京都大学医学統計生物情報学 森田 智視氏医療者にとって臨床統計の解釈は大きな課題である。岐阜大学泌尿器科学講座の古家琢也氏と京都大学医学統計生物情報学の森田智視氏が臨床目線で送る“ワカる”臨床統計解説。

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事例36 外来管理加算の査定と復活【斬らレセプト シーズン4】

解説事例の「A001再診料 注8外来管理加算」が、D事由(告示・通知の算定要件に合致していないと認められるもの)にて査定になりました。「D217 骨塩定量検査」は超音波検査などに分類され、同日に外来管理加算と一緒に算定できない検査です。事例では、7月7日に骨塩定量検査のみ行われており、その後の7月18日に再診と外来管理加算が算定されていることが読み取れます。カルテを確認すると前月6月の受診時に「骨塩定量検査の指示」と予約が記録されており、同月のレセプトには外来管理加算は算定されていませんでした。レセプトの算定に誤りはありません。同月の骨塩定量検査をみて外来管理加算が査定となったのではないかと推測できました。骨塩定量検査の指示は前月であり、指示日の外来管理加算は算定していないと、カルテの写しを添えて再審査請求を行いました。その結果、復活となりました。コンピュータ審査が行われているとしても、まだまだ不備ではないかと疑うような査定を目にします。積極的に再審査請求を行い、その多くが復活しています。なお、今回のような査定を避けるため、類似の請求を行う場合にはあらかじめ「検査指示日:○月○日、同日外来管理加算算定なし」と記入するようにしたところ、以後同様の査定はなくなっています。ただし、3ヵ月を超える同様の事例は、審査機関により判断が異なるようですのでご留意下さい。

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小児の急性陰嚢症【すぐに使える小児診療のヒント】第8回

小児の急性陰嚢症腹痛を訴えて受診する男児の中には、急性陰嚢症が隠れている可能性があります。発症頻度は高くありませんが、診断や治療の遅れにより精巣機能を失うと将来の精神的・肉体的・妊孕性に及ぼす影響は非常に大きいため、適切な対応が求められます。症例9歳、男児。起床時からの下腹部痛と嘔吐を主訴に受診した。下痢はない。児は「吐きそう、お腹が痛い」と訴えるのみで、陰嚢の症状は問われなければ言及しなかった。診察時に左陰嚢の発赤・腫脹・圧痛を認めた。左陰嚢は挙上し横位で、精巣挙筋反射は消失していた。症状や超音波検査から精巣捻転症が強く疑われ、緊急で外科的介入が行われた。急性陰嚢症は、急性発症の陰嚢の疼痛や腫脹を主訴とする病態の総称であり、精巣捻転症、付属小体捻転症、急性精巣上体炎をはじめ多くの鑑別疾患が挙がります。原因として最も注意すべき精巣捻転症を中心にまとめてみましょう。精巣捻転症精巣捻転症は、急性陰嚢症の中でもとくに診断・治療が遅れると精巣壊死・精巣機能消失に陥る可能性のある緊急疾患です。病因として重要なのは、解剖学的な精巣の懸垂異常(suspension anomaly)です。精巣鞘膜が通常より高い位置で精索に付着していると、精巣が鞘膜腔内でぶら下がっている状態が釣り鐘のように見えるbell-clapper deformityと呼ばれる状態となり、捻転しやすくなります。左:正常、右:鞘膜腔の異常拡大(bell-clapper deformity)思春期にはアンドロゲンによって精巣容積が思春期前の5~6倍に急激に増加するため、より捻転が生じやすくなるとされています。発症は夜間や早朝に多く、寒冷刺激が誘引となるという説もあります。左右で比較すると左側に多く発症すると言われ、これは左側の精索が右側に比べて長いことが関係しているとされています。精巣温存には、発症から6時間(少なくとも12時間)以内の整復が望まれます。特徴的な症状としては、腹腔神経節が刺激されることによる悪心・嘔吐が26~69%に伴います。画像を拡大する診断のポイント「腹痛」「嘔吐」の症例も陰嚢をチェック!症状が「いつから」を明確に!精巣血流の有無だけで判断してはいけない!強く疑われる場合にはためらわず泌尿器科医に相談を!問診突然の発症か? 徐々に増悪してきたか? 朝方か日中か? 痛みが先か腫れが先か? など詳しく聴取しましょう。不完全捻転や捻転の自然解除を繰り返していることがあるため、これまでに同様のエピソードがないかも確認しておきます。また、精巣温存には6時間以内の介入が望ましいとされており、発症がいつなのかはカギになるため、はっきりさせておくことも重要です。診察精巣捻転症は「思春期の男子が陰嚢痛で受診する」と認識されがちですが、前述のとおり腹痛・悪心・嘔吐など非特異的な症状で始まることも少なくなく、初診時に陰嚢痛を訴えない例も多くみられます。とくに小児では「恥ずかしい」「うまく説明できない」ことがあり、医療者が意識的に陰嚢を診なければ見逃されることがあるので注意が必要です。腹痛や嘔吐を主訴に受診したとしても、陰嚢を確認する習慣をつけましょう。診察の手順としては、まず視診、精巣挙筋反射の確認、陰嚢皮膚および内容物の触診の順で行うのが良いとされています。1.視診まず、陰皮膚の色調、腫脹の有無、精巣の位置を確認します。皮膚の所見として、陰嚢の発赤・腫脹は精巣捻転症、付属小体捻転症、急性精巣上体炎のそれぞれにおいて起こり得る所見であり、鑑別に有用ではありません。しかし、発症から12~24時間経過していても陰嚢皮膚が比較的正常である場合には精巣捻転症である確率は低いと言えます。後述しますが、付属小体捻転症の特徴的皮膚所見として、梗塞を起こした精巣付属小体が皮膚を通して青黒い点(blue dot sign)として認める場合もあります。また、位置も重要です。一般的には左精巣は右に比べてやや低位に存在しますが、「横位・挙上」は精巣捻転症の診断において感度83%、特異度90%とともに良好であることが知られています。2.精巣挙筋反射精巣捻転症においては、精巣挙筋反射(大腿内側を刺激すると精巣が上昇する反射)は90~100%欠如するため有用です。精巣挙筋反射が同定されれば精巣捻転は否定的ですが、精巣挙筋反射が消失しているからと言って精巣捻転とは言い切れず、その他の鑑別が必要であることには注意が必要です。3.触診精巣の触診は、親指と人差し指、中指で愛護的に行います。腫脹、疼痛の有無や部位、拳上の有無、方向などを確認します。精巣上体についても腫脹、疼痛、位置を確認しましょう。TWIST(Testicular Workup for Ischemia and Suspected Torsion)スコアは身体所見と病歴のみで精巣捻転症らしさを予測できるという点が魅力です。5点以上なら精巣捻転症を強く疑い、逆に2点以下なら精巣捻転症の可能性は低いと判断されます。これのみで診断することは推奨されませんが、補助的な評価として非常に有用であると考えられます。冒頭の症例は、TWISTスコア7点と高値で、症状のみでもいかに精巣捻転症らしいかを物語っています。超音波検査精巣捻転症の最も有用な検査は超音波検査です。精索から精巣・精巣上体へのつながりを観察して、捻転部の精索がcoilingする、いわゆるwhirlpool signの有無を検索することが最も重要です。カラードプラ超音波検査で精巣血流の有無を評価することも多いですが、血流の温存された精巣捻転症も存在するため、精巣血流の有無だけで判断してはいけません(感度63~90%)。精巣上体の血流が亢進している場合においては、精巣上体炎などが疑わしく、精巣捻転は否定的です。診察時の説明と心理的配慮患者の多くは思春期であり、プライバシーへの配慮は不可欠です。診察室のドアやカーテンを閉め、バスタオルなどを準備しておくといった環境づくりを心がけましょう。保護者が同席している場合も、本人の気持ちを尊重する必要があります。腹痛のみを訴えて受診した患者に対して下着の中を確認するのは、医療者にとっても心理的ハードルが高い場面かもしれません。その際には、診察の意図を率直に伝えることが大切です。「とても大事なことなので、見逃したくないと思っていること」「早い段階では本人も気がついていないことがあること」の説明を添え、本人や保護者の理解を得てから診察を行う姿勢が望まれます。精巣温存のためには、早期診断・早期治療が何より重要です。その実現には、発症直後に受診してもらうための社会的啓発も欠かせません。近年では、学校教育における男子生徒や保護者への啓発、SNSを通じた情報発信も行われつつあります。適切な危機感と正しい知識が広まり、安心して受診できる環境が整うことを願います。今回は、いつも穏やかでいるように心掛けている小児科医たちでもピリッと緊張感が走る疾患の1つである急性陰嚢症についてお話しました。寒さも深まる今日このごろですが、暖かくしてお過ごしください。ひとことメモ:中心となる鑑別疾患■付属小体捻転症精巣垂(ミュラー管由来)や精巣上体垂(ウォルフ管由来)などの付属小体が捻転するもので、学童期や思春期に好発します。長さは1~8mm程度で有茎性のものが捻転を起こしやすく、90%が精巣垂、10%が精巣上体垂の捻転と報告されています。特徴的な皮膚所見として、10~32%でblue dot signとして観察されることがあり、同定された場合には非常に特異度の高い所見であるとされています。思春期に起きやすい理由としては、エストロゲン分泌が亢進してミュラー管由来である精巣垂が増大することなどが挙げられます。付属小体捻転症であれば原則手術の必要はなく、鎮痛薬での対応が可能です。捻転した付属小体が虚血性に壊死すれば症状は消失しますが、数週間以上かかる場合もあり、疼痛や不快感が長期に続く場合には付属小体の外科的切除を行うこともあります。■急性精巣上体炎一般的には尿路からの感染が、射精管から精管を経由して精巣上体に達し発症します。細菌性尿路感染のほかに、無菌尿の射精管への逆流による化学的刺激、ウイルス感染、外傷などの関与が指摘されています。最近の研究では、膿尿や尿培養陽性率は0~4.1%と非常に低いと言われており、検尿異常を認めないものの大半は全身のウイルス感染が先行した後の炎症性変化と考えられています。細菌性尿路感染が原因となっているものでは、乳児ではE.coliやE.faecalisなど、性活動期以降になると淋菌やクラミジアなどが起因菌となることが多く、それらを念頭に置いて治療内容を選択します。ただし繰り返す場合には、異所性尿管、尿道狭窄、後部尿道弁、膀胱尿管逆流、神経因性膀胱などの泌尿生殖器の器質的・機能的異常がないか立ち返って確認することが重要となります。参考資料 1) 急性陰嚢症診療ガイドライン2014年版 2) Pogorelic Z, et al. J Pediatr Urol. 2013;9:793-797. 3) Takeshita H, et al. Int J Urol. 2022;29:42-48. 4) Choudhury P, et al. Pediatr Surg Int. 2023;39:137.

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11月24日 いい尿の日【今日は何の日?】

【11月24日 いい尿の日】 〔由来〕 寒さが本格化してくる時期である11月の「いい(11)にょう(24)」(いい尿)と読む語呂合わせからクラシエ製薬が制定。寒さが増すと頻尿・夜間尿などの排尿トラブルが増えることから、その啓発や症状に合った治療を広く呼び掛けることが目的。関連コンテンツ 完治しづらい尿路感染症の見分け方【Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャー】 「10日間続く緑色尿」…原因は?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】 患者の“〇〇〇〇”で見極める、尿失禁、介入のタイミング【こんなときどうする?高齢者診療】 病気が潜む「尿の泡立ち」を理解【患者説明用スライド】 病院受診すべき尿の色【患者説明用スライド】

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「総合医育成プログラム」で広がる医師のキャリアと医療機関の未来【ReGeneral インタビュー】第1回

「総合医育成プログラム」で広がる医師のキャリアと医療機関の未来2024年、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」1)において、医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ2)が示されました。その中で「総合的な診療能力を学び直すリカレント教育の推進」3)が掲げられ、全日本病院協会(全日病)と日本プライマリ・ケア連合学会(JPCA)が運営する総合医育成プログラムもこの補助対象になりました。これを機に、同プログラムは医師個人・医療機関の双方に恩恵を与える「総合医リカレント実践事業ReGeneral」に進化しました。今回は、全日本病院協会会長・神野正博氏と、日本プライマリ・ケア連合学会理事長・草場鉄周氏にこの狙いと価値を伺います。専門だけ診られても診療が立ち行かない――プログラム発足の背景から教えてください。神野私は2025年6月から全日病の会長を務めていますが、それ以前から当協会に設置しているプライマリ・ケア検討委員会でJPCAの先生方と議論を重ねてきました。わたしたちは中小病院が多く所属する団体です。ですから「わたしは循環器専門だ」「僕は呼吸器専門だ」と自身の専門領域にとどまっては診療が立ち行かない医療機関が多く、総合的に診療できる医師のニーズは非常に高いのです。草場私たちの学会では長らく若手医師向けの総合診療研修に力を入れてきましたが、全日病の先生方との意見交換を通じて、専門を極めた先生方がある時点で総合診療を学び直したいというニーズを持つことがわかりました。そこで両団体で議論を重ね、2018年に「総合医育成プログラム」を立ち上げました。神野このようにJPCAと全日病は、医師偏在対策やリカレント教育が政策によって本格化するより前から活動しており、今年で8年目です。カリキュラム設計は学術団体であるJPCAが担い、私たちは当協会会員病院へのプロモーションと受け入れ体制づくりを進めてきました。完全オンラインで“臨床で働ける総合診療能力”が得られるプログラム――ほかのリカレント教育と比べた、このプログラムの特徴は?神野ノンテクニカルスキルコースと診療実践コースの二本柱の学習内容が特徴です。ノンテクニカルスキルコースでは、コミュニケーションの取り方や人の動かし方など、臨床の技術の手前にあるヒューマンスキルを体系的に学べます。リカレント教育でここまで踏み込むものは珍しく、ほかにない実用的な内容です。草場総合診療は多職種連携が前提です。看護師、薬剤師、ケアマネジャーなど、専門性の異なるメンバーとともに治療やケアを行うための 「組織人としての技術」たとえばリーダーシップを発揮する方法、グループをどう組織するか、会議を円滑に運営する方法などを実践的に学習します。現場ですぐ使えて応用できる形で提供しているのがポイントです。また診療実践コースでは、難しいケースの対応といった高度なものではなく、日常的に遭遇するさまざまな健康問題に標準的な対応ができる力を養います。具体的にいえば、当直で適切に初期対応し、必要なら翌日に専門医へ紹介する―こうした判断とマネジメント力を身に付けるイメージです。さらにプログラムは完全オンラインで、eラーニングによる自己学習と土日中心のWebスクーリングを組み合わせています。当初オンサイトでの対面にこだわっていたのですが、コロナ禍でオンラインにせざるを得なくなり、やってみるとそれでも学習効果を十分担保できることを逆に確信しました。資料や動画での自己学習に加え、双方向のディスカッションや質疑応答を重視して現在の形になっています。時間数は決して少なくありませんが、臨床で確実に使えるレベルに到達するための必要量だと考えています。学びを支える「GMネットワーク」―医療機関の協力で時間の壁を崩す――厚生労働省補助を受け、同プログラム受講を応援する医療機関のネットワークを整備中と伺いました。神野はい、GMネットワークと名付けたこの取り組みでは、当プログラムの受講を希望する医師に対して、学びながら働けるよう配慮する医療機関を全国から募っている最中です。趣旨に賛同する施設を検索できる情報サイトを整備し、学びと診療が一気通貫で実現できる医療機関を探すことができるよう準備を進めています。GMネットワーク構築の背景のひとつに、再学習ニーズを阻む最大の障害が、時間の制約であるという点があります。リカレント教育の受講に関するアンケート調査4)では、「時間が確保できる体制整備がなされるなら受講したい」が35.3%、「教育内容が充実していれば受講したい」が38.9%、「経済的負担への配慮があれば受講したい」が29.7%という結果がでています。別の調査5)でも時間の確保がリカレント教育を阻む最大のハードルであることが示されています。土日中心のスクーリングであっても、医療機関の協力がなければ難しい場面はあります。だからこそ、学びに配慮する意思を示す医療機関が見える化される意義は大きいと考えています。GMネットワークは、医師個人に対してはプログラム受講のハードルを下げ、病院にとっては総合診療能力を持つ医師を育成し、即戦力としても活躍を期待できるwin-winの仕組みです。このネットワークを医師・医療機関ともに活用することで、医師偏在の解消に寄与すると考えています。受講料は約半額 「今がチャンス」――経済的負担への配慮については?神野ここも重要なポイントです。2025年度のリニューアルを機に受講料の大幅な減額を行いました。草場厚労省の補助を受けたこともあり、受講料を約40万円から約20万円に引き下げました。金銭的理由で見送っていた先生にとっても現実的な選択になったのではないかと思います。さらに厚労省補助事業に採択されたことで、GMネットワークの構築が進んでおり、JPCA関連の医療機関も積極的に実践の機会を提供します。2団体が協力して、座学に留まらず学んだことを実践する場を示せることもわれわれの強みです。JPCA認定医筆記試験免除-修了後も認定医更新を生涯学習として活用――プログラム修了後はどのようなフォローがありますか?草場診療実践コース12単位以上、ノンテクニカルスキルコース6単位以上を取得してプログラムを修了すると、全日本病院協会認定総合医が取得でき、JPCAのプライマリ・ケア認定医試験の筆記試験が免除になります。当学会では、診療科横断的に最新エビデンスに基づいた疾患・治療を学び、現場の実践報告を持ち寄ってディスカッションする場を用意しており、5年ごとに認定医を更新する間に、知識と実践を積み上げることができる設計です。神野JPCAの生涯教育制度は手厚く、この制度を活用しないのは大変もったいない。同学会の皆さん・講師と関係を保つことが最良の継続学習になろうかと思います。今がチャンスです。これからの医療機関が生き残るカギは総合診療能力で「生命」と「生活」の谷を埋めること――お二人が描く、日本の医療のこれからとは?神野QOL(Quality of Life)の「Life」は、急性期の現場では「生命」と解釈しますが、一般の方や介護の現場では「生活」と捉えます。同じ「life」でも、どのセッティングで医療やケアを行うかで、ギャップ-谷があるのです。わたしはこの谷を橋渡しするのが総合診療医だと思っています。これから人口は減り、「病気を治して退院させる」だけでは医療は立ち行かなくなります。病院にも診療所にも、医師個人にとっても 「病気の後、生活のLifeにどう関わるか」が重要です。誰と手を携えて一緒に働くのかが医療に携わるすべての人に当てはまる生き残り戦略になります。「総合的に物事を診る、総合的に医療を見る、総合的に人間を診る、総合的に生活を診る」という感覚がない人には将来がない、そのくらい大きな時代の変わり目に私たちはいると強く思っています。草場とくに人口減少地域で、医療のあり方は確実に変わっています。ワンストップで幅広く診られる医師への需要は高く、そうした医師がいないと医療機関の経営自体が厳しいという声も届いています。専門医は必要不可欠ですが、専門とジェネラルの両輪で診られる先生が地域にいることは、すでに必須になっています。当学会の会員は約1万人、総合診療専門医は1,000人ほどです。医師全体の3~4%程度にすぎず、地域の需要に応えるには程遠い数です。だからこそ、リカレント教育で総合診療能力を身に付ける先生方と専門医が連携し、地域を“面”で診る。これが今後10〜20年のスタンダードになるはずです。診療と経営のカギは 救急・初診のファーストタッチ――医療費の増加や社会保険負担の拡大、医師の過重労働など、日本の医療全体が抱える課題に対して、このプログラムはどのように貢献できるとお考えですか?草場大きな総合病院でも、救急外来の幅広い対応が難しいケースが増えているという声を聞きます。小児から成人まで当直対応できる総合診療能力を持つ医師がいると、地域住民がその後も安心して医療機関を受診するきっかけになります。ジェネラルに診る医師がファーストタッチを担い、その後の受診につなげることができると、患者数の確保や経営改善にも寄与するでしょう。当プログラムを活用し総合診療能力を身に付けることは、医師個人だけでなく病院の実力を底上げになります。神野高度急性期病院や拠点病院といった専門的な施設にはスペシャリティをもった診療科が多数必要であることは変わりません。ですが、大多数の病院はもはやデパートのように各診療科の専門医を並べる時代ではありません。患者のニーズも人員の確保状況も変化しています。医師は自分の思いと社会から必要とされている役割の乖離がないかを自覚し、総合的に診るマインドへシフトしなければ、日本の医療は保てない――私はそう考えています。このプログラムは、その最前線を走っています。専門×総合診療能力でキャリアの再設計を――最後に、受講を迷う先生方へメッセージをいただけますか?神野このプログラムには医師人生を変えるほどのインパクトがあります。2026年以降、若年人口が減り、医療の需給構造は大きく変わります。社会の変化を敏感に感じ、問題意識を持つ先生にとって、総合診療能力を身に付けることはご自身ができる課題解決の手段になります。また専門だけでなく幅広く診られることで、医師としての視野が広がり、キャリアの選択肢も増えるでしょう。総合診療能力は、「生命」だけでなく「生活」まで支える、これからの医療のカギです。今、動くことで人生が変わります。草場受講者からは「専門にこだわらず、医師として大事なことを体系的に学び直せた」「わかったつもりだった領域を、標準化された基準で再確認できた」といった声が多く寄せられています。現場で使える実際的な知識と技術を提供できている手応えを感じています。完全オンラインで受講のハードルが低く、受講料は従来の約半額で、さらに身に付けた能力を発揮できる場も整いました。専門医としての強みに、総合診療能力を加えることで、先生のキャリアは確実に広がります。ぜひ、一歩を踏み出してください。 引用 1) 経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2024 2) 医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ 3) 総合的な診療能力を持つ医師養成のためのリカレント教育推進事業 4) 一般社団法人日本医学会連合「地域医療の向上と研究力向上に関する意識調査(中間報告)」(2024) 5) 令和6年度厚生労働科学研究費補助金(政策科学総合研究事業)「総合的な診療能力を有する医師の活躍推進方策に関する調査研究」のアンケート結果(医政局医事課作成)

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統合失調症の陰性症状に対する補助的抗うつ薬の有効性~ネットワークメタ解析

 統合失調症の陰性症状に対する治療反応は必ずしも十分ではない。また、陰性症状に対する抗うつ薬の効果については、依然として議論の余地がある。中国・Affiliated Hospital of Southwest Medical UniversityのYuting Li氏らは、厳格な選択基準に基づき、統合失調症の陰性症状に対する補助療法としての抗うつ薬の有効性を評価するため、システマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。Psychological Medicine誌2025年10月24日号の報告。 2025年4月16日までに公表され、統合失調症の陰性症状に対する補助療法として抗うつ薬とプラセボを比較したランダム化二重盲検比較試験をPubMed、Web of Scienceよりシステマティックに検索した。主要アウトカムは陰性症状とした。対象研究よりデータを抽出し、標準化平均差(SMD)を用いて全体的なエフェクトサイズを算出した。 主な結果は以下のとおり。・合計15件の研究(655例)を本レビューに含めた。・プラセボと比較し、陰性症状に対して有意に優れた効果を示した抗うつ薬は、ミルタザピン(2研究、48例、SMD:-1.73、95%信頼区間[CI]:-2.60~-0.87)およびデュロキセチン(1研究、64例、SMD:-1.19、95%CI:-2.17~-0.21)であった。・抗うつ薬間での直接比較では、ミルタザピンはreboxetine、エスシタロプラム、bupropionと比較し、統計学的に有意な差が認められたが、その他の抗うつ薬間あるいは抗うつ薬とプラセボの間に有意な差は認められなかった。・有病率に関する出版バイアスは認められなかった。 著者らは「抗精神病薬治療を受ける安定期統合失調症患者において、ミルタザピンまたはデュロキセチンの併用が陰性症状の改善に有効である可能性が示唆された。統合失調症の陰性症状に対する今後の治療計画に抗うつ薬を組み込むことは、さらなる検討に値する有望な戦略と考えられる」としている。

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ダラツムマブ、「高リスクのくすぶり型多発性骨髄腫における進展遅延」に承認/J&J

 Johnson & Johnson(法人名:ヤンセンファーマ)は 2025年11月20日、ダラツムマブ(遺伝子組換え)・ボルヒアルロニダーゼ アルファ(遺伝子組換え)(商品名:ダラキューロ配合皮下注)が「高リスクのくすぶり型多発性骨髄腫における進展遅延」に承認を取得したと発表した。この適応ではわが国で初めての承認で、多発性骨髄腫への進展前や臓器障害発現前における新たな治療選択肢となる。 今回の承認は、高リスクのくすぶり型多発性骨髄腫患者を対象とした国際共同第III相AQUILA試験(日本人28例を含む)に基づく。本試験では、ダラツムマブ単独投与群(194例)が経過観察群(196例)と比較し、追跡期間中央値65.2ヵ月(範囲:0~76.6)で主要評価項目である無増悪生存期間を有意に改善した(ハザード比:0.49、95%信頼区間:0.36〜0.67、p<0.001)。また、日本人集団においても全体集団と一貫した結果が示され、2025年10月に開催された第87回日本血液学会学術集会で発表された。

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インフルにかかりやすい人の5つの特徴/弘前大学

 インフルエンザ感受性に関連する複数の背景因子とそれらの関連性を明らかにするため、大規模な健康診断データを解析した結果、インフルエンザにかかりやすい人の傾向として、高血糖、肺炎の既往、多忙・睡眠不足、栄養不良、アレルギーの5つの特徴パターンが特定されたことを、弘前大学の寺田 明秀氏らが明らかにした。Scientific Reports誌2025年8月21日号掲載の報告。 インフルエンザ感受性の生物学的および環境的リスク要因は広く研究されているが、これらの要因間の複雑な関係を包括的に分析した研究は存在しないという。そこで研究グループは、複数の要因とその因果関係を明らかにするため、岩木健康増進プロジェクトの健診データ(2019年分)を解析した。 岩木健康増進プロジェクトでは、血液検査、生活習慣、職業、既往歴、体組成など3,000項目以上の健康データを収集しており、今回の研究ではインフルエンザ発症に関連する165項目を抽出して解析した。 ロジスティック回帰分析でインフルエンザ発症に関連する因子を抽出し、ベイジアンネットワーク解析でそれらの因果関係を可視化した。さらに相対的寄与(RC)値に基づくクラスタリングにより、インフルエンザに罹患しやすい参加者の特徴パターンを抽出した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象は1,062人(平均年齢52.7±15.3歳、女性59%)であった。121人が過去1年間にインフルエンザに罹患していた。・ロジスティック回帰分析では、肺炎の既往、睡眠不足、生活環境(同居人数や通勤環境など)、栄養状態、糖代謝異常、アレルギーなどがインフルエンザ発症に関連する因子として抽出された。・ベイジアンネットワーク解析では、「既往歴・心肺機能」と「睡眠」がインフルエンザ発症に直接関与する主要因子として抽出された。また、「栄養・食品」から「血液検査」「アレルギー」「生活習慣」などを介して発症に至る間接経路も示された。・全参加者を対象としたクラスタリングでは、肺炎の既往、睡眠障害、高血糖関連指標が高い集団におけるインフルエンザ罹患率のオッズ比は3.6であった。・インフルエンザ罹患者を対象としたクラスタリングでは、高血糖、肺炎の既往、多忙・睡眠不足、栄養不良、アレルギーの組み合わせが、インフルエンザにかかりやすい人の特徴パターンであることが明らかになった。 研究グループは「本研究は、より高度で個別化された疾病予防および治療戦略の構築に貢献する可能性がある」とまとめた。

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新規作用機序の高コレステロール血症治療薬ベムペド酸を発売/大塚

 大塚製薬の新規作用機序の高コレステロール血症治療薬ベムペド酸(商品名:ネクセトール)が2025年11月21日に発売された。効能・効果は「高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症」で、スタチン効果不十分またはスタチンによる治療が適さない高コレステロール血症患者への新たな治療選択肢とされる。 本剤は、肝臓中のコレステロール合成経路においてスタチンの作用点よりも上流にあるATPクエン酸リアーゼに作用し、血中のLDLコレステロールの低下をもたらす。すでに米国や欧州をはじめ、世界の複数国・地域で高コレステロール血症治療薬として販売されており、国内においては、大塚製薬が2020年4月に本剤の独占的開発販売権を米国・エスペリオンから取得、2025年9月に製造販売承認を取得していた。<製品概要>販売名:ネクセトール錠180mg一般名:ベムペド酸製造販売承認日:2025年9月19日薬価基準収載日:2025年11月12日効能又は効果:高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症用法及び用量:通常、成人にはベムペド酸として180mgを1日1回経口投与する。 薬価:371.50円製造販売元:大塚製薬株式会社

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NTRK陽性固形がんへのレポトレクチニブ承認/BMS

 ブリストル マイヤーズ スクイブは2025年11月20日、レポトレクチニブ(商品名:オータイロ)について「NTRK融合遺伝子陽性の進行・再発の固形」に対する効能・効果の追加に係る製造販売承認事項一部変更承認を取得したことを発表した。 本承認は、成人患者を対象とした国際共同第I/II相試験(TRIDENT-1試験)および小児・若年成人患者を対象とした海外第I/II相試験(CARE試験)の参加者のうち、NTRK融合遺伝子陽性固形がん患者から得られた結果に基づくものである。両試験のNTRK融合遺伝子陽性固形がん患者の結果は欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)で報告されており、主な結果は以下のとおりであった。【TRIDENT-1試験(TRK阻害薬未治療60例、既治療87例)】 ・確定奏効率:未治療58%、既治療52% ・PFS中央値:未治療未到達、既治療7.4ヵ月 ・1年PFS率:未治療61%、既治療29% ・OS中央値:未治療55.6ヵ月、既治療16.9ヵ月 ・1年OS率:未治療80%、既治療59%【CARE試験(TRK阻害薬未治療5例、既治療15例)】 ・確定奏効率:未治療60%、既治療27% なお、レポトレクチニブの「NTRK融合遺伝子陽性の進行・再発の固形」の適応判定に必要なNTRK1/2/3融合遺伝子を検出するコンパニオン診断には、FoundationOne CDx がんゲノムプロファイルを使用する。

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糖尿病治療薬がアルツハイマー病初期の進行を抑制する可能性

 糖尿病治療薬がアルツハイマー病の初期段階の進行を抑制する可能性のあることが報告された。米ウェイクフォレスト大学アルツハイマー病研究センターのSuzanne Craft氏らの研究によるもので、詳細は「Alzheimer’s & Dementia」に10月7日掲載された。この研究では、既に広く使われているSGLT2阻害薬(SGLT2-i)のエンパグリフロジンと、開発が続けられているインスリン点鼻スプレー(経鼻インスリン)という2種類の薬剤が、記憶力や脳への血流、および脳機能の検査値などの点で、有望な結果を示したという。 論文の上席著者であるCraft氏は、「糖尿病や心臓病の治療薬としての役割が確立されているエンパグリフロジンが、脳の重要な領域の血流を回復させ、かつ、脳のダメージを意味する検査指標の値を低下させることを初めて見いだした。われわれのこの研究の成果は、代謝に対する治療によって、アルツハイマー病の進行速度を変えることができることを示唆している」と解説。また経鼻インスリンについては、「新開発の機器を用いてインスリンを鼻から投与することで、インスリンが脳に直接的に送り届けられ、認知機能、神経血管の健康状態、そして免疫機能が向上することも確認された」と述べ、「これらの知見を合わせて考えると、代謝への働きかけという視点が、アルツハイマー病治療における、有力な新しい展開につながり得るのではないか」と期待を表している。 この研究で示された結果が、今後の研究でも確認されたとしたら、アルツハイマー病の進行抑制に効果的な治療法がないという現状の打開につながる可能性がある。最近、アルツハイマー病の原因と目されている、脳内に蓄積するタンパク質(アミロイドβ)を除去する薬が登場したものの、研究者らによると、その効果は限定的だという。また、副作用のためにその薬を服用できない人も少なくなく、さらに、アミロイドβの蓄積以外のアルツハイマー病進行のメカニズムとされている、代謝異常や血流低下の問題は残されたままだとしている。 報告された研究では、軽度認知障害または初期のアルツハイマー病の高齢者47人(平均年齢70歳)を無作為に、インスリン点鼻スプレー、エンパグリフロジン、それらの併用、およびプラセボのいずれかの群に割り付けた。なお、エンパグリフロジンはSGLT2-iの一種で、腎臓での血糖の吸収を阻害して尿の中に排泄することで血糖値を下げる薬。 研究参加者の97%が、4週間の試験期間を通じて、割り付けられた通りに薬を使用した。解析の結果、インスリン点鼻スプレーを使用した群では、記憶や思考の検査指標の改善が見られ、画像検査からは、脳の白質という部分の構造を保ったり、認知機能にとって重要な領域への血流低下を防いだりする効果が示唆された。またエンパグリフロジンを服用した群でも、アルツハイマー病に関連するアミロイドβとは別のタンパク質(タウ)が減少し、病気の進行を反映する神経・血管関連の指標も低下して、さらに脳の主要な領域の血流が変化し、善玉コレステロールが上昇した。 全体として、両薬剤によって生じる変化は炎症の軽減と免疫反応の活性化につながることを示唆しており、どちらも脳の健康をサポートする可能性が考えられた。Craft氏は、「これらの有望な結果に基づき、より大規模で長期にわたる臨床試験を実施していきたい」と述べている。

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特発性頭蓋内圧亢進症で視力を失いやすい人とは?

 頭蓋骨内で脳を保護する髄液に原因不明の圧力上昇が生じた状態を指す「特発性頭蓋内圧亢進症(idiopathic intracranial hypertension;IIH)」によって、視力障害が起こる可能性が高い患者を予測する方法を見出したと、南デンマーク大学神経内科学臨床教授のDagmar Beier氏らが報告した。眼内の視神経が網膜につながっている部分(視神経乳頭)の変化に基づき、将来的に視野に暗点(見えない部分)が現れる人や視覚の鮮明さが低下する人を予測できる可能性が示されたという。この研究の詳細は、「Neurology」に10月29日掲載された。 IIHは、出産可能年齢の肥満女性に多く見られ、未治療のまま放置すると失明につながることがある。米国眼科学会(AAO)によると、IIHに関連する症状には日常生活に支障をきたす慢性の頭痛や複視、視力低下、聴覚障害、吐き気などがある。Beier氏は、「IIHの症例数は増加傾向にあり、若い女性がその主な患者層となっている。それゆえ、どのような人が視覚障害を起こしやすいのか、また、どのような過程を経て進行するのかについて、より多くの情報が必要だ」とニュースリリースの中で述べている。 今回報告された研究では、デンマークの2施設の頭痛治療センターで、2018年1月から2022年9月までに治療を受けた18歳以上のIIH患者154人(平均年齢28歳、女性96.8%)のデータが分析された。網膜関連データがそろった124人のうち94%(117人)はうっ血乳頭を発症していた。また、69%(37/54人)の患者で、一時的または永続的な視野欠損をもたらす暗点が発生していた。さらに26%(17/66人)で視覚の鮮明さの低下(視力低下)が見られた。全ての患者が高い頭蓋内圧を下げる薬剤を使用しており、寛解に関するデータが113人で得られた。薬剤により頭蓋内圧が正常に戻った後も、半数の患者で暗点が残り、13%の患者で視力低下が続いていたが、完全な失明に至った患者はいなかった。 解析の結果、乳頭浮腫の重症度に応じ、網膜損傷には二つメカニズムがあることが明らかになった。一つは、網膜神経線維層および神経節細胞層の萎縮によるもので、周辺視野に暗点が生じるが中心視力は保たれるというもの。もう一つは、重度の乳頭浮腫が黄斑に影響を及ぼし、黄斑浮腫や滲出物、内網膜層の乱れを伴う場合に、中心視力の持続的低下を引き起こすというもの。 この結果に基づき、Beier氏らは、医師が視力障害を発症しやすいIIH患者を予測できるスコアシートを開発した。Beier氏は、「このスコアについては、実際に使用可能であると判断する前に別の集団で検証する必要があるが、われわれはうっ血乳頭の重症度と網膜内層の構造の乱れが持続的な視力障害が生じる患者を予測する主要な指標であることを突き止めたと考えている」と述べている。

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