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普通車と軽自動車、どちらが安全?

 人はそれぞれ、価格、燃費、デザイン、安全性などを基準に車を選ぶが、軽自動車は普通車と比べ、交通事故後の院内死亡率が上昇するという研究結果が報告された。また軽自動車では、頭頸部、胸部、腹部、骨盤および四肢に重度の外傷、重傷を負うリスクが高かったという。神戸大学大学院医学研究科外科系講座災害・救急医学分野の大野雄康氏らによるこの研究結果は、「PLOS One」に2月5日掲載された。 軽自動車は「ミニカー」とも呼ばれ、日本だけでなく海外での人気も高まっている。人気の理由の1つとして、車体のコンパクトさが挙げられるが、それは車内空間が狭まることも意味する。車内空間が狭くなると、衝突時の衝撃による変形に対して乗員がダイレクトに危険に晒されることになる。しかしながら、車内空間の狭さが生存率の低下や、重度の外傷にあたえる影響については十分に検証されてこなかった。こうした背景から、大野氏らは過去に自動車事故で負傷・入院した患者を対象とした単施設の後ろ向きコホート研究を行った。主要評価項目は事故後の院内死亡率とした。 本研究の対象患者は、2002年1月1日~2023年12月31日の間に、太田西ノ内病院(福島県郡山市)にて受け入れた交通事故で負傷したすべての車両乗員とした。普通車と軽自動車以外の車両(自転車、オートバイ、大型トラックなど)に乗っていた外傷患者は除外し、5,331名(普通車群2,947名、軽自動車群2,384名)を対象に含めた。最終的に1対1の傾向スコア(PS)マッチングを行い、1,947組を解析対象とした。 PSマッチングを行い、事故後の院内死亡率を比較した結果、軽自動車群で院内死亡率の上昇が認められた(2.6 vs 4.0%、p=0.019)。院内死亡のリスクについても軽自動車群で上昇していた(オッズ比1.53〔95%信頼区間1.07~2.19〕)。また、軽自動車群の院内死亡率の上昇は、シートベルトをしていた患者、運転席にいた患者、エアバッグが展開した事故に巻き込まれた患者のサブグループで特に顕著だった。 次に車両の種類と、特異的な外傷の部位の関連について解析を行った。PSマッチング後、軽自動車群で、外傷重症度スコア(ISS)>15で定義される重症外傷を負うリスクが高くなり、部位別では頭頸部、胸部、腹部および骨盤内臓器、四肢および骨盤に重症外傷を負うリスクが高まっていた。この傾向は、シートベルトをしていた患者、エアバッグの展開した患者のサブグループで特に顕著だった。 生理学的重症度については、軽自動車群で昏睡、ショック(収縮期血圧90mmHg未満に低下)のリスク増加が認められた。また、救急のための気管内挿管、緊急手術を必要とした患者の割合も軽自動車群で有意に増加することが示された(各p=0.046、p=0.001)。 研究グループは、本研究について、「軽自動車の乗員は、有害な転帰のリスクが高く、緊急の外科的介入や追加の医療資源が必要になる可能性がある。シートベルトを着用していた患者、エアバッグの展開した患者で、院内死亡率と部位特異的な外傷が増加していたが、この結果は、軽自動車の乗員に対してより安全な拘束システムの必要性を示唆している。今回の研究データは、購入する側とメーカーの両者に、車両の安全性に関する客観的事実を考えてもらうために利用されるべきだ」と総括した。 また、本研究の限界点については、単一施設での観察研究であり結果の一般化には限界があること、搬送患者は重症患者に偏っていた可能性があることなどを挙げている。

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第5回 あなたのDNA情報が売られる?―米23andMeの破綻と「遺伝情報」のリスク

米国の大手遺伝子検査サービス「23andMe(トゥエンティスリー・アンド・ミー)」が2025年3月、連邦破産法第11条の適用を申請し、売却を前提とした再建手続きを開始しました。これにより、これまで同社が収集してきた1,500万人分以上の顧客の遺伝情報が、第三者の手に渡る可能性が現実のものとなっています1)。このニュースは、アメリカだけの問題ではありません。日本でも広まりつつある「民間の遺伝子検査サービス」のリスクと、個人情報保護のあり方を見直すきっかけとなるかもしれません。「面白そう」で提供したDNAが、誰かの商品になる日23andMeは、唾液を送るだけで祖先のルーツや将来的な病気リスク、食生活の適性などがわかるとして人気を集めた企業です。しかし今回の破綻により、企業そのものが売却対象となるだけでなく、個人の「遺伝情報」という非常に機微なデータも、取引の一部として扱われかねない状況です。同社はこれまで「ユーザーが同意しない限り、個人を特定できるデータは第三者に販売しない」とするプライバシーポリシーを掲げてきました。しかし、今回のように企業が他社に買収されれば、その方針が守られる保証はありません。実際、同社のプライバシーポリシーには「方針は予告なく変更される可能性がある」との記載もあります。カリフォルニア州のロブ・ボンタ司法長官は、生命保険会社や医療保険会社がこうしたデータに興味を持っていると明言し、「ユーザーは速やかにデータを削除するべき」と警告しています。日本でも拡大中、民間遺伝子検査サービスの落とし穴日本でもここ数年、国内外発の遺伝子検査サービスが浸透してきました。「自宅で簡単」「未来の病気リスクがわかる」といった魅力的なキャッチコピーで、健康意識の高い層を中心に利用が広がっています。しかし、こうしたサービスの多くは個人情報保護法やゲノム医療推進法の対象となっている一方で、「遺伝子情報」特有のリスクに十分対応しているとは言い切れません。たとえば、DNAは文字通り「究極の個人情報」であり、名前や住所がなくても個人を特定できる可能性があります。また、データが研究開発や提携企業との連携に使われる可能性があり、どこまで情報が共有されるか把握しきれない場合があります。さらには、保険会社による査定利用といった問題も、今後浮上する可能性があります。今からでもできる「自分のDNAを守る方法」今回の23andMeの件では、すでに登録している顧客が自らデータを削除するための手続きが案内されています。具体的にはアカウント設定から「23andMe Data」→「View」→「Permanently Delete Data」と進めば、自分の遺伝情報を削除できるようです。また、保存されている唾液サンプルの破棄や、研究利用への同意撤回も同じ画面から可能だということです。今回の事件は日本企業のものではありませんが、過去に日本国内のサービスを利用された方がいれば、プライバシーポリシーに「販売しない」「第三者に提供しない」旨が明記されているか、データ削除や利用停止の手続きが簡単にできるか、国外のクラウドサーバーに保存されていないか、などといった点を確認することが重要でしょう。そして何より、「楽しそうだから」「安いから」と安易にDNAを提供しない慎重な判断が求められます。企業の広告ではそのメリットばかりが前面に出される傾向がありますから、しっかりとリスクの理解を進めておきたいものです。メールアドレスやクレジットカード番号は変更できますが、遺伝子情報は自ら修正することはできません。たとえ匿名で保存されたとしても、「誰のDNAか」を突き止めることはできてしまうというのが現実でしょう。利便性と引きかえに、自分や家族の将来のリスクを差し出していないか。今一度立ち止まって考えるリテラシーが求められています。 参考文献・参考サイト 1) Duffy C,et al. 23andMe is looking to sell customers’ genetic data. Here’s how to delete it. CNN Business. 2025 Mar 25. 経済産業省「経済産業分野のうち個人遺伝情報を用いた事業分野における個人情報保護ガイドライン」

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執筆三昧の日々【Dr. 中島の 新・徒然草】(574)

五百七十四の段 執筆三昧の日々昔から「暑さ寒さも彼岸まで」と言われます。でも、今年は彼岸を過ぎたら途端に暑くなりました。これだったら「暑さ寒さは彼岸から」じゃないか、と文句を言いたくなります。ところが、3月末になると冬みたいな寒さに逆戻り。三寒四温とはまさにこのことかもしれません。さて、定年後の話です。以前にも触れましたが、あらためて簡単にお話ししましょう。週に2回の外来をやっており、その日にはカンファレンスにも出席しています。脳外科と総合診療科ですね。これは現役時代から続けてきました。患者さんとのやり取りや医療現場の空気に触れることで、医師としての自分を保っているような気がします。そして、残りの5日間は……執筆三昧!現役の頃は、忙し過ぎて1日1,000字ほど書くのがせいぜいでした。でも今は時間に余裕がありますから、ずいぶん捗っています。ひたすら机に向かい、心に浮かんだ物語を文字にしていく。よく飽きもせずに続けていられるもんだ、と自分でも感心しています。その内容ですが、誰でも「自伝」を書くことは可能なことでしょう。私自身も最初は自伝的なものを書いていました。しかし、だんだん「自伝」や「医療」を離れてこそ、と思い始めたのです。で、あえて医療や自分の体験から距離を置いたフィクションに挑戦することにしました。異世界ライフ、ラブコメ、ミステリーなど、カテゴリーはさまざま。1万字程度の短編や、10万字を超える長編などを書いては、小説投稿サイト「カクヨム」にアップしています。このサイトには週間ランキングというものがあり、読者の投票に応じて上がったり下がったり。毎朝7時頃に発表され、「ラブコメ部門:732位」みたいな表示がされます。ランキングが上がるのはありがたいけど、それにしても732位って……。「自分の上にまだ731人もいるのか」と気が遠くなってしまいます。一方、こういったサイトの便利なところは、自分の作品に「第32回電撃小説大賞」のようなタグをつけるだけで、小説コンテストに応募したことになる、というところです。2月にも「カクヨムコンテスト10」に4作品を応募しました。残念ながら「これはいけるぞ!」と思った作品が落とされ、逆にあまり期待していなかったものが中間選考を通過しました。しかも、それは童話です。自分でも出したことを忘れていたくらいで「どんな話かな?」と思ってしまいました。ただ、応募総数1万7,956作品のうち、中間選考を通過した1,545作品に入ったのですから、やはり嬉しいものです。それにしても日々の執筆で難しいのは「どう書くか」という部分。小説指南の本は数多くありますが、よくあるアドバイスは「設定をしっかり固めろ」「キャラクターを詳細に作り込め」というもの。しかしこのやり方だと、序盤はスムーズでも中盤あたりから行き詰まることが多いのです。そんな中、あるYouTube動画「物語の才能チャンネル」で紹介されていた「クライマックスから書き始めろ」「ストーリーの進行とともに主人公の間違いが正される必要がある」という異色のアドバイスが妙に腑に落ちました。実際にそのやり方を試してみたところ、久々に手応えを感じています。今、私が書いているのは、モテない男子高校生が、従姉の特訓によって少しずつ成長していく「いざ出陣!~輝け、非モテ男子~」という物語。2年前に応募して落選したコンテスト「電撃小説大賞」に再挑戦すべく、執筆を始めました。主人公の成長とともに、自分自身も成長したいものだと思っています。もし自分も小説を書いてみようという読者がおられたら、ぜひ私の体験を参考にしてみてください。最後に1句 彼岸過ぎ 非モテの男が 成長す

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兵庫医科大学 呼吸器・血液内科学(血液)【大学医局紹介~がん診療編】

吉原 哲 氏(教授)吉原 享子 氏(臨床講師)寺本 昌弘 氏(助教)熊本 友子 氏(レジデント)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴私たちの医局のモットーは、すべての血液疾患の患者さんに最良の治療を提供することです。血液疾患には、白血病、リンパ腫、骨髄腫といった造血器腫瘍のほか、血友病、凝固異常症といった出血性疾患があります。兵庫医大には、ハプロ移植やCAR-T療法のイメージが強いかもしれませんが、血友病やHIVの診療施設としても関西での重要な拠点となっています。地域のがん診療における医局の役割兵庫県の特徴は、大学の系列などに関係なく、各病院間の血液内科医の横のネットワークが非常に強いことです。その結果として、兵庫県内の多数の病院から移植やCAR-T症例のご紹介をいただいています。また、ハプロ移植やCAR-T療法については、県外からも多数の患者さんをご紹介いただいています。医師の育成方針まずは血液内科医として、どんな疾患でもひととおり診られるようになってもらいたいと考えています。実際、白血病から血友病まで非常に症例数が多いですので、化学療法だけでなく移植やCAR-T療法、そして血友病等の治療についても効率的に研修可能です。その後は専門性を高めていってもらうことになりますが、その際には医師それぞれのライフプランに合わせて無理のない働き方をして欲しいと考えています。子育てをしながら働く女性医師も多いため、女性医師にとって相談しやすい環境だと思います。同医局でのがん診療のやりがい、魅力私たちの医局でのがん診療チームは、白血病、悪性リンパ腫、骨髄腫といった疾患に対し、化学療法のみならず、同種造血幹細胞移植やCAR‐T療法など、最先端の治療法を幅広く実施しています。日々進歩していく血液内科診療の劇的な変化を肌で感じることができ、また大学病院ならではの高度な医療現場で、他院では診断が困難な症例や治療が難しいケースも積極的に受け入れており、その度に多くの発見とやりがいを感じる毎日です。医局の雰囲気少人数制のチーム体制で、アットホームな雰囲気です。タスクシフトを積極的に取り入れ、一人ひとりが豊富な症例経験を積み自らの専門性を高めていけるよう支援しています。さらに、当医局には出産後も現場で活躍している女性医師たちが多数在籍しています。私自身は2人の子育て中でもありますが、自身の経験より家庭と仕事の両立の困難さを誰よりも理解しているつもりです。そのような若手医師たちを支援するため、各医師のライフプランに合わせた柔軟なサポート体制を整えるよう尽力しています。医学部生/初期研修医へのメッセージ医学部生/初期研修医の皆さまが、当医局で最先端の医療技術と充実した臨床経験を学びながら、自身の成長と挑戦を続けていただけることを心より願っております。ぜひ一緒に働きましょう!力を入れている治療/研究テーマ兵庫医科大学病院 血液内科(当科)では血液疾患に対するさまざまな研究に取り組んでいますが、これまでとくに力を入れてきた研究テーマの1つに、血液がんに対する同種造血幹細胞移植(同種移植)があります。私自身はこれまで、同種移植後の副作用を抑えるための、免疫抑制剤の投与方法に関する研究や、同種移植を受けた患者さんの生存率に影響を与えるリスク因子の解析を行ってきました。また、白血病の治療ターゲットとなるような分子標的を見つけるための基礎研究にも取り組み、新しい治療薬の開発を目指しています。さらに、当科ではキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)に関する基礎研究も開始しており、より効果的な細胞療法を実現するために頑張っています。医学生/初期研修医へのメッセージ当科では、同種移植やCAR-T療法を含めた細胞治療の分野はもちろん、血液学に関する臨床研究、基礎研究の両方に挑戦できる環境が整っています。研究に興味がある方は、ぜひ気軽にご相談ください。一緒に新しい治療法を探していきましょう。これまでの経歴もともと2008年に筑波大学を卒業しましたが、その後海外でスポーツ活動に取り組んでいました。海外にいる頃に医師になりたいと奮起、2013年に兵庫医科大学に入学し、2019年に卒業、同大学で初期研修を行い血液内科に入局しました。1年半、外病院で一般内科・一般血液を学び今は大学で血液内科医として日々勉強しています。同医局を選んだ理由学生の頃から血液内科に入局しようと思っていましたが、兵庫医科大学病院は西日本でも有数の移植施設で、今ではCAR-T療法なども含め、大学でしかできない治療がたくさんあることと、腫瘍とは別にHIVや血友病など専門の先生がいることも大きな理由です。また、どんなに忙しくても質問すると上級医の先生は優しく丁寧に教えて下さったことも理由の1つです。最初の頃は勿論、今でも分からないことは沢山ありますし、自分の行為が患者様の命にも関わる仕事ゆえ、どんな些細なことでも気がねなく何でも聞ける医局の雰囲気、指導体制は大事だと思います。現在学んでいることCAR-T療法、臍帯血移植、ハプロ移植など、市中病院ではなかなか経験できない症例をたくさん受け持っております。一方で、市中病院でも診ることの多いITPやリンパ腫の症例も多数あります。血液疾患は新規薬剤やガイドラインについても年々アップデートが必要ですが、症例が多数あるため知識だけではなく実症例として経験することができます。今後のキャリアプラン出産・育児を挟んだこともあり、目の前の目標は内科専門医の取得です。兵庫医科大学 呼吸器・血液内科学(血液)住所〒663-850 兵庫県西宮市武庫川町1-1問い合わせ先ketsueki@hyo-med.ac.jp医局ホームページ兵庫医科大学 血液内科教室専門医取得実績のある学会日本内科学会日本血液学会日本造血・免疫細胞療法学会(認定医)日本輸血・細胞治療学会(認定医)日本再生医療学会(認定医)研修プログラムの特徴(1)造血器腫瘍だけでなく血栓・止血やHIV診療も研修可能(2)子育てなどライフプランに合わせた柔軟なサポート体制を整えている(3)造血細胞移植やCAR-T療法など最新の治療を経験できる

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メトロニダゾール処方の際の5つの副作用【1分間で学べる感染症】第23回

画像を拡大するTake home messageメトロニダゾールを使用する際には、神経症状を含む5つの重要な副作用を覚えておこう。メトロニダゾールは、嫌気性菌や原虫感染症に対して広く使用される抗菌薬です。しかしその使用に伴っては、いくつかの重大な副作用が報告されています。とくに、長期間の使用に関連する神経学的副作用には注意が必要です。今回は、メトロニダゾールの代表的な5つの副作用について解説します。1. 消化器症状メトロニダゾールの副作用として一般的なものに、消化器症状があります。とくに悪心や嘔気が約12%の患者に発生します。2. 味覚変化(金属味)メトロニダゾールの服用により、口の中で金属のような味覚異常を来すことがあります。これは約15%にみられるもので、食欲低下につながる患者さんも少なくありません。3. 脳症メトロニダゾールは中枢神経系に影響を及ぼすことがあり、とくに長期使用や高用量投与において脳症を引き起こすことがあります。典型的な症状には、運動失調、構音障害、めまい、混乱などが含まれます。MRI検査では、小脳歯状核にT2高信号が認められることがあります。メトロニダゾール使用中に小脳症状を来した場合は、メトロニダゾール脳症を疑う必要があります。4. 末梢神経障害メトロニダゾールの長期使用により、末梢神経障害を引き起こすことがあります。手足のしびれが最も頻度が高い神経学的症状です。多くの場合、薬剤の中止により症状は改善しますが、不可逆的なケースも報告されており、注意が必要です。5. ジスルフィラム様反応メトロニダゾールはアルコールと併用すると、ジスルフィラム様反応(顔面紅潮、頭痛、悪心、嘔吐など)を引き起こすことがあります。メトロニダゾール服用中はアルコール摂取を避けるよう指導することが重要です。以上、メトロニダゾールは一般的に安全に使用される抗菌薬ですが、上記の5つの副作用を念頭に置いておく必要があります。長期的な使用による影響はもちろんですが、なかには短期使用でも脳症や末梢神経障害を来す報告もあるため、注意が必要です。1)Daneman N, et al. Clin Infect Dis. 2021;72:2095-2100.2)Matsuo T, et al. Int J Infect Dis. 2019;89:112-115.3)Sobel R, et al. Expert Opin Pharmacother. 2015;16:1109-1115.4)Karrar HR, et al. J Pharma Res Int. 2021;33:307-317.

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非専門医とはすでに同等!?医師vs.生成AIの診断能力を比較

 生成AIと医師の診断能力を比較した系統的レビューおよびメタアナリシスの結果、非専門医と比較した場合の正確度の差はわずか0.6%ほどにとどまった(p=0.93)。さらに、一部の最新モデルでは、統計学的な有意差は認められなかったものの非専門医をわずかに上回る性能を示していた。大阪公立大学の田北 大昂氏らによる、NPJ Digital Medicine誌2025年3月22日号掲載の報告より。 本研究では、診断業務における生成AIモデルの妥当性を検証した研究を対象に、2018年6月~2024年6月までに発表された文献の系統的レビューおよびメタアナリシスを実施した。 主な結果は以下のとおり。・複数のデータベースから計1万8,371件の文献を抽出し、重複や基準を満たさないものを除外したうえで、最終的に83件の研究を対象にメタアナリシスを行った。・最も多く評価されていたモデルはGPT-4(54件)およびGPT-3.5(40件)であった。・レビュー対象の診療科は、一般内科が最も多く(27件)、放射線科(16件)、眼科(11件)、救急科(8件)、神経科(4件)、皮膚科(4件)、耳鼻咽喉科(2件)、精神科(2件)と続き、消化器科、循環器科、小児科、泌尿器科、内分泌科、婦人科、整形外科、リウマチ科、形成外科が各1件であった。・生成AIモデルの全体的な正確度は52.1%(95%信頼区間[CI]:47.0~57.1%)であった。・生成AIモデル全体の診断性能は、医師全体(医師の正確度が9.9%高[95%CI:-2.3~22.0%]、p=0.10)および非専門医(非専門医の正確度が0.6%高[95%CI:-14.5~15.7%]、p=0.93)との間に有意な差は示されなかった一方、専門医と比較すると有意に劣っていた(正確度の差:15.8%[95%CI:4.4~27.1%]、p=0.007)。・GPT-4、GPT-4o、Llama 3 70B、Gemini 1.0 Pro、Gemini 1.5 Pro、Claude 3 Sonnet、Claude 3 Opus、Perplexityなどいくつかのモデルは、非専門医と比較してわずかに高い診断性能を示したが、その差は統計学的に有意ではなかった。・一般内科と多くのその他の診療科との間に有意な診断性能の差は認められなかったが、泌尿器科および皮膚科においては有意な差がみられた(p<0.001)。 著者らは、多くの対象論文がバイアスリスクを抱えていること、異なる患者集団やより複雑な現実のシナリオを反映した場合は生成AIの性能が下がる可能性があることなど本研究の限界を挙げたうえで、生成AIは現時点では専門医のレベルには達していないものの、非専門的な分野での活用や教育ツールとして有益な可能性があると結論付けている。

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PTSDに対するブレクスピプラゾール治療、単剤療法と併用療法の有効性

 心的外傷後ストレス障害(PTSD)に対するブレクスピプラゾールのセルトラリン併用療法および単剤療法の有効性、安全性、忍容性を評価するため、米国・Otsuka Pharmaceutical Development & Commercialization Inc.のMary Hobart氏らは、ランダム化比較試験を実施し、その結果を報告した。The Journal of Clinical Psychiatry誌2025年2月19日号の報告。 本試験では、1週間のプラセボ導入期間とその後11週間のランダム化二重盲検実薬参照プラセボ対照並行群間治療期間(フォローアップ期間14日間を含む)で構成された。米国の48の臨床試験施設において2017年1月〜2018年11月に実施された。対象は、PTSD成人外来患者321例(DSM-V基準)。経口ブレクスピプラゾール+セルトラリン(併用群)82例、ブレクスピプラゾール+プラセボ(ブレクスピプラゾール単剤群)75例、セルトラリン+プラセボ(セルトラリン単剤群)81例、プラセボ+プラセボ(対照群)83例にランダムに割り付けられた。用量はフレキシブルドーズ(ブレクスピプラゾール:1〜3mg/日、セルトラリン:100〜200mg/日)を採用した。主要エンドポイントは、ランダム化後(1週目)から10週目までのClinician-Administered PTSD Scale for DSM-5(CAPS-5)合計スコアの変化とした。安全性評価には、有害事象を含めた。 主な結果は以下のとおり。・治験完了率は、併用群70.7%(58例)、ブレクスピプラゾール単剤群66.7%(50例)、セルトラリン単剤群72.8%(59例)、対照群77.1%(64例)。・10週目において、併用群は、セルトラリン単剤群と比較し、CAPS-5合計スコアのより大きな改善が認められた(最小二乗[LS]平均差:−5.08、95%信頼区間:−8.96〜−1.20、p=0.011)。また、ブレクスピプラゾール単剤群および対照群との比較においても、同様であった。【併用群】77例、ランダム化後CAPS-5合計スコア:35.7、LS平均変化:−16.4【ブレクスピプラゾール単剤群】69例、ランダム化後CAPS-5合計スコア:33.9、LS平均変化:−12.2【セルトラリン単剤群】75例、ランダム化後CAPS-5合計スコア:36.5、LS平均変化:−11.4【対照群】78例、ランダム化後CAPS-5合計スコア:35.1、LS平均変化:−10.5・ブレクスピプラゾール単剤群およびセルトラリン単剤群は、対照群と比較し、統計学的に有意な差は認められなかった。・治療中に発生した有害事象のうち、発生率が10%以上であった有害事象は、併用群で体重増加(12.5%)および傾眠(10.0%)、ブレクスピプラゾール単剤群でアカシジア(13.3%)、セルトラリン単剤群で嘔気(20.3%)および口渇(12.7%)。 著者らは「ブレクスピプラゾールとセルトラリンとの併用療法は、PTSDの新たな治療法として有効である可能性があり、安全性プロファイルは、これまでのブレクスピプラゾールの報告と一致していた」と結論付けている。

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造血幹細胞移植後のLTFUを支える試み/日本造血・免疫細胞療法学会

 2025年2月27日~3月1日に第47回日本造血・免疫細胞療法学会総会が開催され、2月28日のシンポジウム「未来型LTFU:多彩なサバイバーシップを支える次世代のケア」では、がん領域におけるデジタルセラピューティクス(Digital Therapeutics:DTx)の有用性および造血幹細胞移植治療におけるDTx開発の試みや、移植後長期フォローアップ(Long Term Follow Up:LTFU)の課題解決のためのICT(Information and Communication Technology)活用と遠隔LTFUの取り組み、さらに主に小児・思春期・若年成人(Children, Adolescent and Young Adult:CAYA)世代の造血幹細胞移植における妊孕性温存と温存後生殖補助医療についての話題が紹介された。造血器腫瘍は多彩なサバイバーシップケアの重要性が増しており、次世代ケアの試みが着々と進められている。同種造血幹細胞移植後のDTx DTxは、治療用アプリによるデジタル技術を用いて、個々の患者の病状に見合った情報をリアルタイムで提供し、患者の行動変容を促して医療効果や医療プロセスの改善を得ることである。新たな介入手段であり情報薬ともいわれ、次回の外来受診までの治療空白をアプリの使用によりフォローし、治療効果を狙う考え方である。 DTxアプリの使用は、QOL、全生存期間(OS)の改善効果が多数報告されており、ドイツではヘルスリテラシーや家族の負担軽減などの改善効果も認められれば薬事承認される。日本では2020年ごろからニコチン依存症や高血圧症、アルコール依存症などを対象疾患としたDTxアプリの使用効果が認められ、薬事承認されている。 固形がん領域では患者の健康状態をアンケート方式で電子的に収集するelectronic Patient Reported Outcome(ePRO)アプリの使用が疾患再発の早期発見・治療につながり、QOL・生命予後の改善が複数のランダム化試験で報告されている。欧州臨床腫瘍学会では2022年のガイドラインでePROアプリのがん診療への導入をGrade 1Aで推奨し、重症や悪化症状に対する臨床医への自動アラート機能を有するePROシステムの使用も推奨している。 岡村 浩史氏(大阪公立大学大学院 医学研究科 血液腫瘍制御学/臨床検査・医療情報医学)らは、2021年に移植患者用アプリを開発し、同種造血幹細胞移植(allogeneic Hematopoietic stem Cell Transplantation:allo-HCT)後の外来通院中患者99例にHCTアプリを導入し、和歌山県立医科大学と共にPilot Studyを実施した。その結果、体温、脈拍数、SpO2、体重、修正Leeスコア(ePRO)、およびこれらの最近の悪化傾向などが移植後重症合併症を早期に予測しうる因子であった。移植後合併症での緊急入院例では入院約10日前から脈拍、SpO2、修正Leeスコアが悪化する体調の変化がみられ、早期探知が可能と考えられた。岡村氏らはHCTアプリのsecond stepとして重症化モデルの精度改善を行い、データ入力1週以内の合併症緊急入院予測モデルの開発を構築する多施設移植後見守りアプリ研究(第II相)を行っている(2025年9月まで約200例を登録する見込み)。患者が装着しているスマートウォッチで収集された身体情報およびePRO(22項目・週1回)への入力データと、医療機関からの診療情報(今後マイナポータルから提供の予定)を集約し、患者の同意の下にデータを解析している。 岡村氏は患者入力によるePROに基づき、将来的には個別症状に合わせた生成AIの利用や、電子カルテとの情報連携、地域医療連携ネットワーク(Electronic Health Record:EHR)、パーソナルヘルスレコード(Personal Health Record:PHR)としての情報連携の強化(病診連携や成人移行時の病院間の連携など)も可能であると考えており、「病院診療情報やePRO、ウエアラブルデバイスによる情報を研究利用し、HCT診療の質を向上させる連携を深めたい」と述べた。医療情報連携、PHRを用いた遠隔LTFUの未来 allo-HCT後の長期生存者の増加に伴い、LTFUの重要性が高まっている。しかし移植実施施設への通院や、非移植実施施設の医療スタッフ教育、移植後合併症に対する総合的な診療体制の構築、小児からのトランジションと継続的フォローアップなど課題は多い。ICTアプローチはLTFUの課題解決において不可欠であり、遠隔医療、およびEHR、PHRをいかに活用するかが重要である。 遠隔医療はICTを用いたリアルタイムのオンライン診療を活用した医療であり、Doctor to Doctor(D to D:専門医→主治医)、Doctor to Patient(D to P:主治医→患者)、Doctor to Patient with Nurse(D to P with N:主治医→患者・看護師)、Doctor to Patient with Doctor(D to P with D:専門医→患者・主治医)の4つのカテゴリーがある。 EHRは、患者同意の下に、患者の基本情報、処方・検査・画像データ等を電子的に共有・閲覧できる。病院間での診療情報の共有が可能になれば、近医での検査結果をあらかじめ医療情報連携で参照してもらい、自宅でD to PのオンラインLTFU受診が可能になる。また紹介先の医療機関から移植実施施設の診療情報にアクセスできることで転医や就職で他県に引っ越す場合、成人科へのトランジションでも切れ目のない医療が提供できる。 全県単位の医療情報ネットワークとして、和歌山県では2013年から、きのくに医療連携システム「青洲リンク」を運用している。平時は、参加病院の電子カルテ、参加診療所の検査結果、参加薬局の調剤情報、画像をインターネットで情報共有し診療を支援する。災害時は、県外にバックアップしている共有情報を活用し災害医療を支援する。参加医療機関は2024年12月25日現在、病院11施設、診療所49施設、同意患者数は約2,700例であり、青洲リンクを利用して相互にデータを参照しながら医療連携を取っている。 和歌山県立医科大学では2020年から紀南病院(和歌山県)とテレビ会議システムで接続する遠隔LTFU外来を開始した。患者は、紀南病院(地域基幹病院)で診察を受け、問診票の記入やバイタルサイン測定、各種検査を行い、その結果を診療情報提供書と共に和歌山県立医科大学(移植実施施設)にFAXで送付する。大学病院の医師はFAXの情報、および青洲リンク活用による紀南病院の診療情報(検査結果、処方、画像)を参照したうえで診療を行う。EHRで診療情報を共有するこの形式は、D to P with Dに該当する。連携先にも医師がいることで対面と遜色ない診察ができ、患者満足度も高く、質の高い遠隔LTFU達成が可能となる。 PHRはスマートウォッチなどデバイスから収集できる日常的な医療情報(脈拍、体重、運動量など)と医療機関での診療情報(検査結果、処方、画像など)、および患者自身が入力する健康情報(血圧、食事量など)を一元化し、デジタルデータとして患者が管理するものである。 青洲リンクではEHRに加えPHRの取り組みも進めており、参加医療機関の診療情報を提供し、患者がスマートフォンで病院の検査結果や処方情報をいつでも見ることが可能なアプリを導入した。PHRを利用した情報提供は、スマートフォンにダウンロードした近隣クリニックでの診療データを、移植実施施設への通院時に見てもらうことができ、またオンライン診療でデータを共有することで遠隔LTFUも可能になる。 西川 彰則氏(和歌山県立医科大学附属病院 医療情報部)は今後、自治体の医療情報連携を基盤としたPHR、移植後ePRO、医療情報、バイタル情報を統合的に集約提供するプラットフォームの構築が望ましいと考えており、allo-HCT後の患者にとっては、利便性が高く連続的なLTFUの体制構築が必須であり、ICTの活用は未来のLTFUにつながる可能性があるとした。妊孕性温存から次のステップへ―がん・生殖医療との協働で目指す造血幹細胞移植後の妊娠・出産 造血器腫瘍は小児がんの約40%を占め、AYA世代では約7%と、成人がんの増加に伴い全体の割合が低下する。CAYA世代の造血器腫瘍の生命予後は改善傾向にあり、長期生存例が増えることで、相対的に妊孕性を含むサバイバーシップケアの重要性が増している。 LTFUのテーマでもある晩期合併症(Late effects)としての性腺障害や不妊はAYA世代にとってがん治療中・治療後の大きな課題であり、2023年の「第4期がん対策推進基本計画」では取り組むべき施策として、CAYA世代の妊孕性温存療法を取り上げている。 がん治療前の妊孕性温存については、2022年8月から対象となる患者への情報提供や意思決定支援ががん診療連携拠点病院の必須要件となった。2024年12月に改訂された『小児・AYA世代がん患者等の妊孕性温存に関する診療ガイドライン』でも造血器腫瘍治療前のすべての患者に情報提供・意思決定支援を行うことが推奨され、GnRHアゴニストによる卵巣保護や未授精卵子の体外成熟、移植前処置の全身放射線治療時の卵巣・精巣遮蔽についても記載されている。 妊孕性温存における患者の負担は大きく、2021年・2022年には妊孕性温存・温存後生殖補助医療を対象とする助成金制度が全国で均てん化され、研究助成事業も運用されている。全国レジストリである日本がん・生殖医療登録システム(Japan OncoFertility Registry:JOFR)では、本邦におけるがん生殖医療の有効性や実態を調査する目的で、スマートフォン向け患者用アプリFSリンク(Fertility & Survivorship Linkage)をPatient Reported Outcome(PRO)として用い、パートナーシップの状況や挙児の状況を患者自身に提供・更新してもらっている。ただ、AYA世代は身体的・心理的・社会経済的に未自立であり、温存した生殖子の管理やFSリンクの管理は、子供の成長過程のさまざまなトランジションの一環として、成人を迎える頃合いを見計らい親から子へ移行する必要があり、生殖医療担当医と小児がん治療に携わる医師が協働して移行を支援している。妊孕性温存やFSリンクの周知はYouTubeで解説動画を配信し、AYA世代にはLINEを用いて情報提供を行っている。 がん治療後の妊娠可能時期については、厚生労働省から抗がん剤など遺伝毒性のある医薬品の最終投与後の避妊期間に関してのガイダンスが発出されている。造血幹細胞移植後のさまざまな薬剤も妊娠・出産に関わるため、妊娠可能時期についてがん専門薬剤師と共に症例ごとに情報提供している。 移植後の安全な妊娠・出産を検討する際には、胎児や母体のリスクへの対処として適切なワクチン接種と共に移植片対宿主病(Graft Versus Host Disease:GVHD)の管理が必要である。治療薬や放射線治療による合併症にも注意し、妊娠希望例ではLTFUからプレコンセプションケア(妊娠前相談)外来につなげることが重要である。妊孕性喪失後のケアでは、看護師、心理士など多職種による心理・社会的支援を行う。近年、雄のマウスiPS細胞からの卵子生成、またヒトiPS細胞由来の受精卵作製など、生命倫理学的な課題も含め生殖子生成研究の進展が注目されている。 セクシュアリティとパートナーシップ、性機能障害など、患者のさまざまなニーズや悩みに対応するには、地域や院内で患者・家族と生殖医療をつなぐ窓口の一元化が必要である。大阪国際がんセンターではAYA世代サポートチームが妊孕性温存や温存後生殖補助医療の相談窓口になり、効率的な意思決定の支援を行っている。意思決定支援にたけた医療従事者の配置や育成も必要であり、日本がん・生殖医療学会認定ナビゲーター制度も開始された。多田 雄真氏(大阪国際がんセンター 血液内科・AYA世代サポートチーム)は、「日進月歩の生殖医療や移植を受けたサバイバーのアンメットニーズにつなげるために、生殖医療の医師との連携は血液内科移植医やLTFUの看護師にとって重要であり、全国のがん・生殖医療ネットワークを通して顔の見える関係を構築していきたい」と述べた。 allo-HCTではLTFUが不可欠であり、ICTのアプローチをいかに活用するかが重要である。また、移植を受けたサバイバーのニーズはより高度になり、QOLを保ち生きることを目標とした治療が求められている。

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ARDSの鎮静、セボフルラン対プロポフォール/JAMA

 急性呼吸窮迫症候群(ARDS)患者の管理では機械換気が重要とされ、多くの場合鎮静を要するが、至適な鎮静法は依然として不明だという。フランス・Universite Clermont AuvergneのMatthieu Jabaudon氏らSESAR Trial Investigatorsは「SESAR試験」において、中等症~重症のARDS患者では、プロポフォール静脈内投与と比較してセボフルラン吸入による鎮静は、28日の時点での換気を必要としない日数(無換気日数)が少なく、90日生存率が低いことを示した。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2025年3月18日号に掲載された。フランスの無作為化第III相試験 SESAR試験は、ARDS患者の鎮静におけるセボフルラン吸入の有効性と安全性の評価を目的とする医師主導型の非盲検評価者盲検無作為化第III相試験であり、2020年5月~2023年10月にフランスの37の集中治療室(ICU)で患者を登録した(French Ministry of Healthなどの助成を受けた)。 年齢18歳以上の中等症~重症の早期ARDS患者(PaO2/吸入酸素分画<150mmHg、呼気終末陽圧≧8cm H2Oと定義)を対象とした。これらの患者を、鎮静管理としてセボフルラン吸入療法を受ける群(介入群)またはプロポフォール静脈内投与療法を受ける群(対照群)に無作為に割り付け、最長で7日間投与した。 主要エンドポイントは28日までの無換気日数とし、主な副次エンドポイントは90日生存率であった。無換気日数、生存率ともに不良 687例(平均[SD]年齢65[12]歳、女性30%)を登録し、セボフルラン群に346例、プロポフォール群に341例を割り付けた。総鎮静期間中央値は両群とも7日間(四分位範囲[IQR]:4~7)であった。 28日までの無換気日数は、セボフルラン群0.0日(IQR:0.0~11.9)、プロポフォール群0.0日(0.0~18.7)であり、セボフルラン群で短かった(群間差中央値:-2.1[95%信頼区間[CI]:-3.6~-0.7]、標準化ハザード比[HR]:0.76[95%CI:0.50~0.97])。 また、90日生存率は、セボフルラン群47.1%、プロポフォール群55.7%と、セボフルラン群で低かった(HR:1.31[95%CI:1.05~1.6])。7日死亡率、ICU非入室日数も劣る 4つの副次エンドポイントのうち、セボフルラン群はプロポフォール群と比較して、7日死亡率が高く(19.4%vs.13.5%、相対リスク:1.44[95%CI:1.02~2.03])、28日までのICUに入室していなかった日数が少なかった(日数中央値:0.0日[IQR:0.0~6.0]vs.0.0[0.0~15.0]、群間差中央値:-2.5日[95%CI:-3.7~-1.4])。 著者は、「セボフルラン群における臨床アウトカムの悪化を説明する仮説がいくつか考えられ、たとえば長期使用と急性腎障害の増加の関連が知られていることから、その影響の可能性も考慮する必要があるだろう」「吸入鎮静法は、ARDSやそのリスクのあるICU患者において注目を集めているため、今回の知見は臨床的に重要な意味を持つ可能性がある」としている。

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日本人へのbempedoic acid、LDL-C20%超の低下を認める(CLEAR-J)/日本循環器学会

 スタチンで効果不十分あるいはスタチン不耐の高コレステロール血症の日本人患者に対する12週後のbempedoic acidの安全性と有効性が明らかになった―。3月28~30日に開催された第89回日本循環器学会学術集会のLate Breaking Clinical Studies2において山下 静也氏(りんくう総合医療センター 理事長)が発表し、Circulation Journal誌2025年3月28日号に同時掲載された。 本研究は、bempedoic acid 180mgを12週投与した場合のプラセボに対する優位性を確認したプラセボ対照無作為化二重盲検並行群間第III相試験(NCT05683340)。高コレステロール血症患者のうち、18~85歳、スタチンで効果不十分あるいはスタチン不耐、アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)リスクを有し2017年のLDLコレステロール(LDL-C)基準を達成していない、日本人患者を対象(ホモ接合体家族性高コレステロール血症[FH]、妊娠または授乳中、3ヵ月以内にASCVDを発症した患者は除外)とし、国内28施設の96例をbempedoic acid群あるいは対照群に1:1に割り付けた。主要評価項目はベースラインから12週のLDL-Cの変化率。副次評価項目は有効性(非HDLコレステロール[non-HDL]、総コレステロール[TC]、apoB、高感度C反応性蛋白[hsCRP]の12週の変化率、およびLDL-C目標達成率)と安全性であった。 主な結果は以下のとおり。・両群の患者特性は、平均年齢64歳、約50%が男性、平均BMIは約24kg/m2、約20%はヘテロ接合体FH、約30%がASCVDであった。また、スタチンで効果不十分な患者は75%、スタチン不耐は25%であった。・12週時のLDL-C変化率はbempedoic acid群で-25.25%、対照群で-3.46%となり、その群間差(95%信頼区間[CI])は-21.78%(-26.71~16.85)で統計学的に有意差が認められ(p<0.001)、その変化は投与2週目から有意な低下が認められ、12週まで持続した。・スタチン効果不十分例(-20.17%[95%CI:-25.82~-14.53])とスタチン不耐例(-25.77%[-36.61~-14.92])のいずれにおいてもその効果が認められた。・副次評価項目の1つであるhsCRPの群間差(95%CI)は-26.6%(-47.8~-5.4)で統計学的に有意差が認められた。これは既知の報告と一貫性のある結果となった。・安全性について、治療中に発現した有害事象(TEAE)はbempedoic acid群で3例、対照群で2例が報告されたが、両群で死亡または重篤なTEAEはみられなかった。bempedoic acid(ベムペド酸)とは bempedoic acidは肝臓中のクエン酸分解酵素であるATPクエン酸リアーゼに作用することでコレステロール合成経路を阻害してLDL-Cを低下させる。この薬剤を活性化体へ変化させるACSVL1は、主に肝臓に発現し、筋肉への発現がないことから、スタチンのように筋症状が出現しない点が特徴である。日本国内では、2024年11月26日に大塚製薬が「高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症」の適応で製造販売承認申請を行っており、国内での承認・発売が待たれるところである。(ケアネット 土井 舞子)そのほかのJCS2025記事はこちら

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5価髄膜炎菌ワクチン、単回接種で良好な免疫応答/Lancet

 生後9~15ヵ月の乳幼児における通常小児ワクチンに併用接種する髄膜炎菌ワクチンについて、血清型A、C、Y、W、Xを標的とする5価髄膜炎菌結合ワクチン(NmCV-5)の併用接種は、承認済みの4価髄膜炎菌結合ワクチン(MenACWY-TT)の併用接種と比較して安全性に問題はなく、非劣性の免疫応答が惹起されたことが、マリ・Centre pour le Developpement des Vaccins-MaliのFatoumata Diallo氏らNmCV-5 EPI study teamによる第III相単施設二重盲検無作為化対照非劣性試験の結果で示された。侵襲性髄膜炎菌感染症は、アフリカのセネガルからエチオピアにかけて広がるmeningitis belt(髄膜炎ベルト)と呼ばれる国々において、壊滅的な被害をもたらす公衆衛生上の問題となっている。2020年の世界保健総会(World Health Assembly)で導入・承認された「2030年までに髄膜炎を克服するための世界的なロードマップ」では、蔓延している髄膜炎菌血清群に対する予防拡大の必要性が、5つの血清型に対する手頃なワクチンを導入するための戦略目標とともに示されていた。Lancet誌2025年3月29日号掲載の報告。NmCV-5 vs. MenACWY-TTの免疫応答を比較 試験は、マリの首都で最大都市のバマコにあるワクチン開発センター(Centre pour le Developpement des Vaccins)で、現地乳児拡大予防接種プログラム(Expanded Program on Immunization:EPI)を完了した生後9~11ヵ月の乳児を募集して行われた。 参加者は9-month EPI受診時に、髄膜炎菌ワクチンを9-month EPI受診時(9ヵ月時接種群)または15-month EPI受診時(15ヵ月時接種群)に接種するよう無作為に1対1.2の割合で割り付けられ、それぞれの指定接種群でNmCV-5またはMenACWY-TTのいずれかの接種を受けるように無作為に割り付けられた。 試験ワクチンと指定されたEPIワクチンは、割り付けを盲検化されていない試験担当者によって準備・接種された。親または保護者、研究者およびその他すべての試験スタッフは、髄膜炎菌ワクチンの割り付けを盲検化された。 髄膜炎菌ワクチンは、生後9ヵ月で麻疹・風疹ワクチン(1回目)および黄熱病ワクチンと同時に接種、または生後15ヵ月で麻疹・風疹ワクチン(2回目)と同時に接種された。 主要エンドポイントの免疫応答(seroprotective response)はウサギ補体血清殺菌抗体価が8以上と定義し、ワクチン接種後28日目にこの反応を示した5つの髄膜炎菌血清群それぞれの参加者割合の差を推定した。評価はper-protocol集団で行った。 事前に規定した非劣性マージンは、両年齢群の5つの血清群すべてで-10%とした。血清型X群に関するNmCV-5の免疫応答の非劣性は、MenACWY-TTの最も低い血清型群(A群、C群、W群、Y群間で)の免疫応答と比較し評価した。安全性は副次エンドポイントであり、修正ITT集団(無作為化された髄膜炎菌ワクチンを接種された全参加者)で6ヵ月間にわたり評価した。NmCV-5の5つの血清型すべてでMenACWY-TTに対して非劣性 2022年3月24日~8月15日に1,325例が登録され、9ヵ月時接種群に602例が、15ヵ月時接種群に723例が無作為化された。髄膜炎菌ワクチンは、9ヵ月時接種群では602例のうち600例が同一期間に接種された。15ヵ月時接種群600例への髄膜炎菌ワクチンは、2022年9月27日~2023年2月6日に接種された。また両群で、400例がNmCV-5を、200例がMenACWY-TTの接種を受けた。 非劣性を評価したper-protocol集団には、9ヵ月時接種群564例(NmCV-5接種373例、MenACWY-TT接種191例)と15ヵ月時接種群549例(NmCV-5接種367例、MenACWY-TT接種182例)が含まれた。9ヵ月時接種群のper-protocol集団において、NmCV-5接種とMenACWY-TT接種の免疫応答率の差は、血清型A群で0.0%(95%信頼区間[CI]:-1.0~2.0)、C群で-0.5%(-2.3~1.9)、W群で-3.0%(-6.3~0.8)、Y群で-3.0%(-5.4~-0.4)であった。X群については、MenACWY-TT接種のW群との比較で非劣性が評価され、免疫応答率の差は2.3%(95%CI:0.3~4.7)であった。 15ヵ月時にNmCV-5接種を受けた参加者とMenACWY-TT接種を受けた参加者の免疫応答率の差は、血清型A群で0.8%(95%CI:-0.6~3.7)、C群で-0.8%(-3.3~2.5)、W群で0.3%(-1.8~3.5)、Y群で1.4%(-0.6~4.8)であった。X群については、MenACWY-TT接種のY群との比較で非劣性が評価され、免疫応答率の差は1.9%(95%CI:0.0~4.4)であった。 両群のNmCV-5の免疫応答率は、5つすべての血清型について、MenACWY-TTの免疫応答率に対して非劣性であった。 6件の重篤な有害事象が記録されたが、ワクチン接種に関連するものとはみなされなかった。

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母乳育児は子どもの血圧低下に関連

 母乳育児には、子どもの血圧を下げる効果があるようだ。最新の研究で、生後1週間と1カ月時点で腸内細菌の多様性が高く、特にビフィズス菌に代表されるBifidobacterium属が多く存在する場合、6カ月以上にわたる母乳育児が6歳時の血圧に対して保護的に働く可能性のあることが明らかになった。米コロラド大学アンシュッツメディカルキャンパスのNoel Mueller氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of the American Heart Association」に2月27日掲載された。Mueller氏は、「われわれの研究結果は、幼児期の腸内細菌叢が小児期の心血管の健康に潜在的に重要な意味を持つことを示唆している」と話している。 この研究でMueller氏らは、デンマークの小児喘息に関する研究(Copenhagen Prospective Studies on Asthma in Childhood 2010)に参加した526人の子どもを対象に、乳児期の腸内細菌の多様性や組成と小児期の血圧との関連と、その関連に母乳育児が与える影響について検討した。生後1週間、1カ月、1年時点に対象児から採取された便検体の分析により腸内細菌に関するデータを得た。また血圧は、3歳時と6歳時に測定した。 解析の結果、全体的には腸内細菌の多様性と血圧との間に関連は認められなかったが、母乳育児の期間が関連に大きく影響することが示された。具体的には、腸内細菌の多様性が高い場合、母乳育児期間が6カ月以上だった子どもでは血圧が低くなる傾向が認められたのに対し、6カ月未満だった子どもでは血圧が高くなる傾向が認められた。また、生物の多様性の指標であるシャノン指数が1上昇するごとに、母乳育児期間が6カ月以上だった子どもでは6歳時の収縮期血圧が1.86mmHg低下していたのに対し、6カ月未満だった子どもでは0.73mmHg上昇していた。さらに、生後1週間および1カ月の時点で2種類のBifidobacterium属(Bifidobacterium-a976、Bifidobacterium-78e)の量が多い場合、6カ月以上の母乳育児は、6歳時の収縮期血圧の低下と関連していることも示された。 研究グループは、腸内細菌が、特に母乳で育てられた子どもの血圧を改善する可能性のあることに対しては、いくつかの理由が考えられると話す。例えば、特定の腸内細菌は、乳児の母乳の消化を助けるように進化したことが考えられるという。これらの細菌は、分解する母乳がなければ、代わりに乳児の腸の内壁を餌にしてしまうことがあり、その場合、細菌や脂肪が血流に入りこむ「リーキーガット(腸管壁浸漏症候群)」と呼ばれる症状を引き起こす可能性があるという。また研究グループは、リーキーガットは、成人の血圧上昇や炎症と関連があると指摘する。 研究グループは、「小児期の血圧が成人期まで持続するパターンは明らかになっており、それが長期的には健康に影響することを考えると、この発見は公衆衛生にとって重要な意味を持つ」と話す。その上で、「われわれの研究結果は、腸内細菌叢の最適な発達のためだけでなく、生涯にわたる心血管の健康を改善するためにも、乳児期を通して母乳育児を促進することの重要性を強調している」と付言している。

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金欠でもクレジットカードで豪遊!? 【臨床留学通信 from Boston】第10回

金欠でもクレジットカードで豪遊!?今回は、気になるお金の話。米国では物価高や1ドル150~160円の円安のため、どうしても金欠になりがちな留学ですが、クレジットカードを上手にやりくりすることで、旅行などを楽しむことができます。渡米後は国内アメリカン・エキスプレス(アメックス)のUSA版カードを使用していましたが還元率はあまりよくありませんでした。そこで途中から、アメックスのJPMorgan Chase(チェイス銀行)のクレジットカードを皮切りに、ヒルトン、ハイアットなどのホテル系カード、さらにはデルタ航空、ジェットブルー(アメリカの格安航空会社)など、次々とクレジットカードを作っていきました。中には年会費が掛かるものがありましたが、アメリカのクレジットカードは入会ボーナスが非常に魅力的なことで知られています。たとえば、年会費が100ドル程度のカードでも、入会から3ヵ月以内に5,000~8,000ドル、場合によっては1万ドルほど利用することで、アメックスポイントが10万~15万ポイントも貯まることがあります。家族で日本に一時帰国するための飛行機代や専門医試験などの大きな出費があるタイミングで新しいカードを作り、それで航空券などを購入するのがコツです。こうして貯めたポイントは、ホテルや飛行機のチケットに使うことができ、10万ポイントで約20万円相当の価値になることもあります。もちろん、渡米してすぐにはクレジットカードを作るのは難しく、「クレジットスコア」が良くないと審査に通りません。そのため、日々の買い物でクレジットスコアを上げながら、ポイントも貯めていきました。家族で渡米すると何かと必要なものが多く、とくに物価の高いニューヨークやボストンでは生活費を節約しても、家賃を除いて月に2,000ドル近く必要になったりします。こうした出費でスコアを高め、新しいカードを作るわけですが、あまりにも多く申し込むと審査でストップがかかり、申請が拒否されることもあります。それでも諦めず、別のカードに申し込んだり、時には年会費500ドルほどを払うカードも利用したりしましたが、それでも十分に元が取れるのです。ちなみに、カードを作るとクレジットスコアは下がってしまい、下がり過ぎるとアパートを借りる時の弊害になったりすることもあり、引っ越す直前にはカード作成を控えていました。また、米国には今も「チェック(小切手)文化」が根強く残っていますが、家賃などの支払いの際に「Bilt」というカードを経由してチェックを郵送することで、ポイントが貯まる仕組みもあります。家賃は約3,000ドルするので、それによるポイントも毎月積み重ねることができ、貯まったポイントをホテルや飛行機のチケットに交換できます。最初の3年間はあまりこの仕組み理解しておらず、知ってから3年ほどで得た成果の一部をご紹介します。プエルトリコ(4泊):リゾートホテルアリゾナ(大谷選手のキャンプ)、グランドキャニオン旅行:家族四4人分の航空券とホテルカンクン(5泊):航空券とオールインクルーシブのホテルマイアミ(5泊):リゾートホテルディズニーリゾート(5泊):航空券とホテル(ただしディズニー直営ホテルではありません)ワシントンD.C.、ナイアガラなどの旅行(計10泊ほど):シティホテルiPad、iPhoneの購入というわけで、渡米する際にはぜひクレジットカードの情報をしっかり調べておくと、より充実した留学生活を楽しめると思います。

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全身性強皮症診療ガイドライン 2025年版

7年ぶりに全身性強皮症のみ独立させ改訂新版として刊行!本ガイドラインは2017年発行「全身性強皮症・限局性強皮症・好酸球性筋膜炎・硬化性萎縮性苔癬の診断基準・重症度分類・診療ガイドライン」から全身性強皮症のみ独立させて改訂し、新版として刊行したものである。新たに骨関節病変と小児の2項目が追加され、CQ数は各項目で増減があり、全体として26個増えた。診断基準・重症度分類は変更がないが、CQでは新規治療薬に関するエビデンスが記載されている。全身性強皮症診療に関わるすべての医師必読の1冊。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する全身性強皮症診療ガイドライン 2025年版定価4,400円(税込)判型B5判頁数228頁発行2025年1月編集厚労科研 強皮症研究班ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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第257回 乳腺外科医わいせつ裁判、無罪確定。改めて考える冤罪回避のために医師、医療機関が心掛けるべきこととは

東京高裁、差し戻し控訴審の判決で検察側の控訴を棄却、東京高検は上告断念こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末、関東は日曜だけは好天で、テレビで野球ばかり観ているのもなんなので、近所の公園に花見に出かけました。この連載もちょうど丸5年、今回から6年目に入ります。2020年4月1日掲載の、「第1回 医療関係者が医療関係者を『バイ菌』扱いしちゃダメだろ」では、コロナ禍真っ只中にもかかわらず、パンデミックを一瞬忘れたかのような東京・目黒川の花見客の浮かれ具合について、「1~2週間後、東京が危ないかも」と書いたものです。日曜のNHKニュースでは、その目黒川の花見の様子を報道していました。あれから5年、外国人の花見客だらけで大混雑の目黒川の様子を見て、5年の月日の長さと変化の大きさを実感した週末でした。さて今回は、本連載でも幾度か取り上げた、準強制わいせつ罪で逮捕・起訴され、一審無罪、二審有罪となった東京都足立区の医療法人財団健和会・柳原病院の医師・関根 進氏(49)に対する差し戻し控訴審について書いてみたいと思います。3月12日、東京高等裁判所(齊藤 啓昭裁判長)は差し戻し控訴審の判決で、一審の無罪判決について「事実の誤認は認められない」として、検察側の控訴を棄却しました。そして3月25日、東京高等検察庁は関根氏を無罪とした東京高裁判決に対し上告しないと発表しました。これによって、最高裁まで行ったこの事件において関根氏の無罪が確定しました。事件から実に9年、あまりにも長かった裁判がやっと終わりを迎えました。女性の術後せん妄の有無および程度、女性の体の付着物のDNA型の鑑定結果の信用性が争われるこの事件の経緯については、「第82回 わいせつ裁判で逆転有罪の医師、来年上告審弁論へ。性犯罪厳罰化の中、対応模索の医師・医療機関」、「第98回 まだまだ終わらない乳腺外科医わいせつ裁判、最高裁が高裁判決を破棄し差し戻し」でも詳しく書きましたが、改めておさらいしておきます。事件は2016年5月に起きました。乳腺外科が専門の関根氏は、働く柳原病院で、女性の右胸から乳腺腫瘍を摘出する手術を実施。術後に、病室で女性にわいせつな行為をしたとして起訴されました。関根氏は同年8月に逮捕、105日間勾留されました。起訴事実は、手術後で抗拒不能状態にあり、ベッドに横たわる女性患者に対して、診察の一環と誤信させ、着衣をめくり左乳房を露出させた上で、その左乳首を舐めるなどのわいせつ行為をした、というものです。公判では全身麻酔手術を終えた女性の被害証言の信用性、女性の術後せん妄の有無と程度、女性の体の付着物から被告のDNA型が検出されたとする鑑定結果の信用性が争われました。一審無罪、「術後せん妄」が主な争点となった二審は逆転有罪に2019年2月20日の一審・東京地裁判決は、被害を受けたと証言する女性が「(麻酔の影響で)性的幻想を体験していた可能性がある」と指摘。付着物の鑑定結果については「会話時の唾液の飛沫や触診で付着した可能性が排斥できない」として無罪(求刑懲役3年)と結論づけました。これに対し、2020年7月13日の二審・東京高裁判決は真逆の判決となりました。二審では「術後せん妄」が主な争点となり、弁護側、検察側双方が推薦する精神科医2人が証言。結果、高裁判決は女性の証言について、「具体的かつ詳細であり、特に、わいせつ被害を受けて不快感、屈辱感を感じる一方で、医師が患者に対してそのようなことをするはずがないとも思って、気持ちが揺れ動く様子を極めて生々しく述べている。上司に送ったLINEのメッセージの内容とも符合する。A(被害者)の証言は、本件犯行の直接証拠として強い証明力を有する」と判断。付着物を巡る一審の判断についても、手術室での位置関係などの実験結果などから不合理だったとして、一審判決を破棄し、「被害者の精神的、肉体的苦痛は大きい」として逆転有罪、関根氏に懲役2年を言い渡しました。日本医師会、日本医学会は「控訴審判決は学術的にも問題が多い」と強く非難この二審の逆転判決は、医療関係者に大きな衝撃を与え、日本医師会、日本医学会は「控訴審判決は学術的にも問題が多い」として関根氏を守る立場を鮮明に打ち出しました。日本医学会の門田 守人会長(当時)は、「行為に蓋然性がないこと」「せん妄の有無に関する科学的根拠」「検査結果の正確性」の3つの問題点を挙げ、とくに「せん妄」については、今回採用されたと思われる、せん妄状態に関する検察側の証人の意見に対し、その根拠が果たして科学的なものであるのかと指摘、「推測だとしたら許されるものではない」と強く批判しました。関根氏は上告、最高裁は2022年1月21日に上告審弁論を開き、2月18日、懲役2年を命じた二審・東京高裁判決を破棄し、同高裁に差し戻す判決を下しました。最高裁は、せん妄の可能性を否定する根拠とされた専門家の証言について「医学的に一般なものではない」と疑義を呈し、DNA定量検査の信頼性についても、証拠鑑定を行った科学捜査研究所がDNAの増幅曲線や検量図のデータを残していないこと、DNA抽出液を証拠鑑定後に破棄したことなどその手法に問題が多く、「信頼性に不明確な部分がある」と判断しました。それから約3年、東京高裁は3月12日の差し戻し控訴審の判決で、麻酔学や精神医学の知見を踏まえ、女性が麻酔から覚醒する際に術後せん妄に陥り幻覚を体験した可能性を排除できないとするとともに、DNA定量検査についても「結果自体が相当の変動幅を含む可能性を否定できない」と指摘、胸に多量の男性医師のDNAが付着していたとしてもわいせつ行為を証明するには不十分と結論付け、一審の無罪判決を支持、検察側の控訴を棄却しました。そして検察は上告を断念、無罪が確定したのです。「警察と検察は、片方の言い分を過剰に信じ、客観的な物の見方ができない、そして一度決めたら振り返りや修正することのない組織」3月12日付の日経メディカルなどの報道によれば、同日開かれた記者会見で関根氏は、「この裁判の結果については当然であり、何の疑いもないと考えています。警察と検察は、片方の言い分を過剰に信じ、客観的な物の見方ができない、そして一度決めたら振り返りや修正することのない組織だと思いました。まるで戦前の軍隊のようです。これらに私の生活や仕事そして家族を奪われたこと、警察と検察に対して強く憤りを感じます。警察による尾行・不法侵入によるゴミあさり、恫喝。長期間にわたる身柄拘束による日常からの断絶。こうした人権侵害について問題としない裁判所の態度も大きな問題だと感じます。マスコミに対しても疑問を感じます。逮捕後に警察署入り口で待ち構えていたテレビカメラ。中身をよく吟味せずに衝撃度の強い内容を、より視聴者受けするやり方で情報を垂れ流すやり方について、大きな問題であると考えます」と語ったとのことです。「『不当な有罪判決』や『遅すぎる無罪判決』が今後も形を変えて繰り返されることを強く危惧している」と弁護団一方、弁護団は、9年もの年月がかかった要因として、「最大の原因は二審。今日の判決は一審判決を全面的に是認したもの。差し戻し審での証言も多少は吟味されたが、基本的には2020年7月に言い渡すことができた判決だった」と指摘するとともに、「捜査機関は、せん妄の可能性を認識しながらも、再現性の乏しいDNA定量検査により、医師が患者の乳頭を『なめた』と強弁し続けた。DNA抽出液、定量データを破棄し、検査記録の原本まで書き換えた。捜査官は、証拠隠滅罪に問われることもなく、科捜研の閉ざされた検査室では今もあしき慣行が続いている。また、有罪を言い渡した高裁判事は、せん妄に関するでたらめな見解を正しいものとして採用した。DNA定量検査についても、科学の本質を理解せず、『えせ科学』を見分ける能力を欠いていた。差し戻し審も、弁護団の追加実験などの科学的証拠を多数却下し、改ざんされた検査記録の検証を拒んだ。裁判所は、虚心坦懐に真実と向き合う熱意や覚悟が欠けている。(中略)医師は職業上、人体との接触が避けられない。弁護団は、『不当な有罪判決』や『遅すぎる無罪判決』が今後も形を変えて繰り返されることを強く危惧している」と、捜査方法や裁判の問題点を強く批判しました。医師の診察には必ず医療職の同席者を、誤解を受けそうな診察に際しては説明を尽くし同意を取るでは、こうした冤罪の被害者とならないために、医師・医療機関側はどんな対策を取ればいいのでしょうか。そもそも性犯罪は、加害者と被害者の2人のときに起こることが多く、通常の事件と比べ目撃者や証拠が少ないと言われています。結果、裁判は加害者、被害者双方の証言や提出証拠に頼らざるを得ず、その信用性が争点となります。そんな中、近年、裁判所は被害を訴える側の証言を重く見る傾向が強くなっている、という声も聞きます。医師や医療機関は、あらぬ誤解を患者や家族などから受けないような対策を、今まで以上にしっかりと取る必要が出てきています。交通事故では、ドライブレコーダーの活用が一般的になってきましたが、診察室や病室に画像レコーダーを設置することはもちろんできません。ゆえに、現状では、医師の診察には必ず看護師など医療職を同席させる、わいせつ行為の誤解を受けそうな診察に際しては説明を尽くし同意を取る、といった対策がまず基本となるでしょう。医療機関は術中、術後だけでなく広く薬剤によるせん妄への対策をそしてこの事件で特に教訓として指摘されているのが、患者のせん妄対策です。この事件に関して、谷口医院院長の谷口 恭氏は毎日新聞の医療記事サイト、医療プレミアに3月24日「無罪判決まで8年半--「乳腺外科医冤罪事件」はなぜ生まれたか」と題する記事を寄稿、「女性が『ウソ』を言っているわけではないと私は考えています。では、なぜ女性はこのような証言をしたのでしょうか。それは、手術で使用された麻酔薬や鎮静剤のせいです。術後にはこれらが体内に残っているため、意識や記憶が曖昧になり、自分が言ったことや聞いたことを覚えていないことがよくあります。また、手術を受けていなくても、睡眠薬の服用だけで自身の行動や言動を覚えていないことは日常診療でもしばしば経験します」と書くとともに、「医師として私が言いたいことは、『術中や術後に使用される麻酔薬、鎮静剤、鎮痛剤のみならず、外来患者に処方される睡眠薬や抗不安薬、さらには薬局で簡単に買える風邪薬やせき止めでさえも、意識や記憶が曖昧になり、ときには錯乱が生じることもある』ということです」と、広く薬剤によるせん妄に対する注意喚起をしています。なお、3月12日付の日経メディカルなどの報道によれば、同日の記者会見で弁護団も「麻酔科や外科などにとって術後せん妄や覚醒時せん妄は珍しいことではない。しかし、今回のような症例は医師にとってのリスクでもあり、回避するための仕組みが十分だったとは言えない。本件の弁護側証人にも、医療の現場において術後せん妄などの存在を患者にきちんと説明すること、医療者側もリスクとして知っておき予防策を取ることが必要だと証言された先生が複数いた」と、患者がせん妄下における幻覚による被害の訴えをした場合の対策や予防策の必要性を訴えています。2020年度診療報酬改定では、「せん妄ハイリスク患者ケア加算(入院中1回、100点)」も新設されています。医療機関は、本事件のような冤罪を避けるためにも患者のせん妄対策に本腰を入れるべきだと言えるでしょう。

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非薬物的睡眠介入でせん妄発生率が低下。術後ICU患者への効果を徹底検証!【論文から学ぶ看護の新常識】第9回

非薬物的睡眠介入でせん妄発生率が低下。術後ICU患者への効果を徹底検証!薬を使わない「非薬物的睡眠介入」が術後ICU患者のせん妄予防と睡眠障害に与える影響を調べた研究が行われ、複合的な非薬物的睡眠介入が、術後ICU患者のせん妄発生率を最も低下させることが示された。Jiaqi Li氏らの研究で、Intensive and Critical Care Nursing誌2025年4月号に掲載された。非薬物的睡眠介入が術後ICU患者のせん妄予防と睡眠改善に与える影響:システマティックレビューおよびネットワークメタアナリシス研究チームは、世界中の医学データベースから、術後ICU患者におけるせん妄予防と睡眠改善に対する非薬物的介入を評価したランダム化比較試験(RCT)を検索し、17件の研究を分析対象とした。非薬物的介入を以下の3つのカテゴリーに分類して効果を比較した。概日リズム調整介入(CR):光療法、アイマスク、耳栓など、体内時計の調整を目的とするものストレス軽減介入(RS):音楽療法、マッサージ、経穴刺激など、心身のリラックスを促すもの複合的介入(MI):上記の2つ以上を組み合わせたもの主な結果は以下の通り。せん妄予防効果は、複合的介入(リスク比[RR]:0.32、95%信頼区間[CI]:0.20~0.51)、ストレス軽減(RR:0.60、95%CI:0.41~0.89)、概日リズム調整(RR:0.61、95%CI:0.39~0.96)であり、複合的介入が最も効果的にせん妄発生率を低下させることが明らかになった。睡眠の質の改善効果は、概日リズム調整で有意に睡眠の質を改善する効果(標準化平均差[SMD]:−0.99、95%CI:−1.88~−0.11)が認められた。他の介入では有意な影響は示されなかった。ICU滞在期間は、7つの研究を解析した結果、介入間で有意な差は認められなかった。手術タイプ別解析では、心血管手術後の患者では、非薬物的介入のせん妄予防への効果を見出すことができなかった。非心血管手術患者では概日リズム調整が有効(RR:0.42、95%CI:0.20~0.87)だった。手術時間別解析では、手術時間200.5分未満では、複合的介入(RR:0.01、95%CI:0.00~0.20)とストレス軽減(RR:0.54、95%CI:0.33~0.89)が有効だった。手術時間200.5分以上では、複合的介入のみ有効(RR:0.39、95%CI:0.20~0.76)だった。本研究により、複合的な非薬物的睡眠介入が、術後ICU患者のせん妄発生率を低下させることが明らかになった。また、概日リズム調整に焦点を当てた介入は、患者の睡眠の質を大幅に向上させることが示された。今回の研究で、術後ICU患者さんに対するせん妄予防には、薬を使わない「複合的介入」が効果的である可能性が示されました。これは、現場の看護師が日々実践しているケアに、しっかりとした科学的根拠(エビデンス)があることを意味します。この研究で示された複合的介入とは、具体的には、環境調整(光や騒音の管理、時計の設置など)、見当識の維持(声かけ、家族の面会促進)、リラクゼーション(音楽療法、マッサージなど)、早期離床の促進などを組み合わせたケアを指します。これらの多くは、患者さんに最も身近な看護師が中心となって、日々のケアに取り入れることができます。とくに重要なのは、患者さん一人ひとりの状態やニーズに合わせて、これらのケアを柔軟に組み合わせることです。オーダーメイドのケアを提供することが、せん妄予防の効果を高めると考えられます。なお、今回の論文のようなシステマティックレビューやメタアナリシスは、ある程度研究が蓄積されたテーマを対象とするため、近年注目されているAI技術の活用などは、今回の研究ではまだ取り上げられていません。しかし、AI技術は、今後の医療の発展に大きく貢献する可能性を秘めています。小規模ながらも研究が進められていますので、私たちもぜひ個別に注目し、その可能性について情報を発信していきたいと考えています。論文はこちらLi J, et al. Intensive Crit Care Nurs. 2025;87:103925.

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「血痰は喀血」、繰り返す喀血は軽症でも精査を~喀血診療指針

 本邦初となる喀血診療に関する指針「喀血診療指針」が、2024年11月に日本呼吸器内視鏡学会の学会誌「気管支学」に全文掲載された。そこで、喀血ガイドライン作成ワーキンググループ座長の丹羽 崇氏(神奈川県立循環器呼吸器病センター 呼吸器内科 医長 兼 喀血・肺循環・気管支鏡治療センター長)に、本指針の作成の背景やポイントなどを聞いた。喀血を体系的にまとめた指針は世界初 「喀血診療の現場では、長年にわたって公式な診療指針が存在せず、個々の医師が経験と知識を基に対応していたことに、大きなジレンマを感じていた」と丹羽氏は述べる。自身でカテーテル治療や内視鏡治療を行うなかで、より体系的な診療指針の必要性を実感していたところ、日本呼吸器内視鏡学会の大崎 能伸理事長(当時)より「ガイドラインを作ってみないか」と声をかけられたことから、喀血ガイドライン作成ワーキンググループが立ち上がり、作成が始まったとのことである。 「喀血という症候に焦点を当てて体系的にまとめているものは、本指針が世界で初めてである」と強調する。本指針は、日本IVR学会の協力のもとで作成されており、放射線科、呼吸器外科、呼吸器内科、救急集中治療の専門医が集まり、集学的に作成されたことから、非常に大作となっている。 なお「ガイドライン」ではなく「指針」となっている点について、「エビデンスが不足している領域が多く、Mindsのガイドライン作成方法に則った作成が困難であったことから、エキスパートオピニオンとして指針という形で作成した」と述べた。軽症喀血を「ティシューで処理可能」とするなど、わかりやすい表現に 本指針では、「血痰」や「小喀血」と表現されるものも「喀血」としている。これについては、「血痰」という表現は日本独自のものであり国際的には用いられていないこと、本指針を英文誌にも掲載して国際的なスタンダードを作成していきたい意向があることなどから、すべて「喀血」として統一したとのことである。 「本指針は専門医だけでなく、非専門医や看護師、救急相談センターの方々にも使っていただくことを想定して作成した」と丹羽氏は語る。そのため、喀血の重症度の表現を軽症喀血であれば「大さじ1杯」「ティシューで処理可能」など、わかりやすい表現としている。このような表現を用いることで「患者にわかりやすく説明可能となり、患者からの話を重症度に結びつけることができるほか、トリアージの場面などにも活用できるのではないか」と述べた。重症度の定義は以下のとおり。<重症喀血>200mL以上(コップ1杯)、または酸素飽和度90%以下<中等症喀血>15mL/日以上200mL/日未満、またはティシューで処理できない量<軽症喀血>15mL/日未満(大さじ1杯)、ティシューで処理可能 本指針では、重症度分類に入院適応と気管支動脈塞栓術(BAE)の適応をリンクさせていることも特徴である。中等症喀血であれば入院は相対適応、BAEも相対適応となっており、軽症喀血では入院については外来レベルとしているが、BAEは慎重適応とし、軽症喀血でもBAEを否定していない。肺非結核性抗酸菌症が増加 喀血というと、結核の印象を持たれる方もいるのではないだろうか。しかし、現在は肺非結核性抗酸菌症(NTM症)が増加している。喀血の原因疾患としては、肺NTM症、肺アスペルギルス症、気管支拡張症が多く、喫煙者にも多いという。本指針では、これらの疾患の概要や治療方法などと共に、喀血との関係についても記載しているため、ぜひ一読されたい。喀血患者は開業医のもとに眠っている 「喀血患者は開業医の先生方のところに多く眠っている」と丹羽氏は語る。「喀血をみたら、原因を精査していただきたい。胸部X線検査ではわからないような微細な変化で喀血を繰り返している人も多いため、喀血を繰り返す場合は、軽症であっても経過観察ではなく精査・加療の対象になると考えてほしい。軽症であってもQOLにも影響し、患者は外出が億劫になったり、お風呂に入るのを控えたりする場合もある」。 また、喀血が原因で抗血小板薬や抗凝固薬などの服用を中断しているケースも散見されるという。これについて「喀血が原因で本来必要な薬剤の服用をやめてしまわないように、BAEなども考慮してほしい。そのため、本指針では軽症喀血であってもBAEを適応なしとせず、慎重適応としている」と述べた。「開業医の先生方にこそ読んでいただきたい」 本指針は、日本呼吸器内視鏡学会の学会誌「気管支学」にフリーアクセスで全文掲載されているほか、2025年4月に書籍として発刊される予定である。書籍版には、重症度分類と治療方針に関する早見表も掲載予定とのことだ。丹羽氏は、本指針の活用法について「喀血患者は開業医の先生方のもとを訪れることが多いため、ぜひ、開業医の先生方にこそ読んでいただきたい。また、喀血患者の紹介を受ける呼吸器科の先生方にも読んでほしい。喀血の原因疾患についても詳しく記載しており、患者への説明にも役立てられると考えている。喀血治療にはカテーテル治療や内視鏡治療のオプションがあるといった気付きを得たり、手術適応の判断に活用したりするなど、本指針を1施設に1冊おいて喀血診療に役立てていただきたい」と話した。

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OTC薬の乱用と精神症状発症リスクとの関係

 市販(OTC)薬の入手しやすさは、現代の医療システムにおいて重要な役割を果たしており、個人が軽度の健康課題を自身で管理できるようになっている。しかし、覚醒剤、下剤、鎮痛薬、麻薬の含有製剤など、一部のOTC薬には、誤用や乱用につながりやすい薬理学的特性がある。不適切な用量、期間、適応症に伴う誤用、精神活性作用やその他の違法な目的のための非治療的な使用に伴う乱用は、依存症や中毒につながるリスクがある。イタリア・G. D'Annunzio UniversityのAlessio Mosca氏らは、既存のエビデンスを統合し、抗ヒスタミン薬、鎮咳薬、充血除去薬の誤用と精神症状の発症との関係を包括的に検討した。Current Neuropharmacology誌オンライン版2025年2月18日号の報告。 PubMed、Scopus、Web of Scienceのデータベースを用いて関連研究を特定し、システマティックレビューを実施した。検索ワードには、ジフェンヒドラミン、プロメタジン、クロルフェニラミン、ジメンヒドリナート、デキストロメトルファン、プソイドエフェドリン、コデインベースの鎮咳薬、乱用、誤用、渇望、依存症を用いた。レビューおよび動物実験の研究は除外した。PRISMAガイドラインに従い、データを収集した。 主な結果は以下のとおり。・2,677件中46件の関連研究を分析した。・抗ヒスタミン薬、デキストロメトルファン、その他のOTC薬を乱用すると、妄想、幻覚、思考障害などの精神症状を引き起こす可能性が示唆された。・とくにデキストロメトルファンは、精神疾患の慢性傾向と関連していた。・他の薬剤は、一般的に急性の薬剤誘発性精神症状を引き起こした。 著者らは「OTC薬の乱用は、公衆衛生に幅広い影響を及ぼす。OTC薬の乱用およびそれが重大な精神疾患を引き起こす可能性に対処するために、意識向上や具体的な介入の必要性が示唆された」と結論付けている。

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腸管GVHDの発症・重症化および予防・治療における腸内細菌叢の役割/日本造血・免疫細胞療法学会

 腸管移植片対宿主病(GVHD)は同種造血幹細胞移植における特徴的な合併症で、予後を左右するだけでなく、移植後の生活の質も低下させる。近年、腸管GVHDと腸内細菌叢との関連に注目した研究は増えているが、まだ不明な点も多い。 2025年2月27日~3月1日に開催された第47回日本造血・免疫細胞療法学会総会では、「腸内細菌叢とGVHD:治療への新たな道を切り開く」と題したシンポジウムが行われ、腸内細菌叢とGVHDとの関連についての研究が4名から報告された。急性GVHDのpathobiontの同定とファージ由来酵素を用いた新規治療法 植松 智氏(大阪公立大学大学院 医学研究科 ゲノム免疫学/東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター メタゲノム医学分野)らのグループは同種移植患者46例の腸内細菌叢の16SrRNA解析を行い、30例でEnterococcus属細菌が増加していることを確認した。また、患者糞便由来のE. faecalisを単離し、これが外分泌毒素サイトライシンを産生する強毒株で、バイオフィルム関連遺伝子群を豊富に有する系統と明らかにした。さらに、マウスを用いた実験で患者糞便由来E. faecalisが急性GVHD関連死亡を増加させることを確認した。 植松氏らのグループは以上の結果から、E. faecalisがGVHDの発症と関わるpathobiontであり、前処理で他の細菌が死滅するなか、サイトライシンを産生する強毒株のE. faecalisがバイオフィルムを形成することによって腸管に濃縮し、増殖した後、産生されたサイトライシンによる上皮細胞障害が腸管GVHDの増悪に寄与していると考え、E. faecalisの排除によりGVHD関連死亡を抑えられるのではないかと推測した。 そこで、患者糞便由来E. faecalisのゲノムを網羅的に解析し、E. faecalisに特異的に感染するバクテリオファージ由来のエンドライシン配列を抽出した後、多種類の株で共通に検出されたエンドライシンを合成。このE. faecalis特異的エンドライシンの溶菌効果とバイオフィルム溶解作用をin vitroで確認した後、マウスを用いた実験でGVHD関連死亡率が大幅に改善すること、さらに患者糞便を移植したマウスでもGVHD関連死亡率が大幅に改善することを確認した。 植松氏はこうした結果について、「実臨床でも使えるようなデータが得られたと感じた」と述べ、「今後、E. faecalis特異的エンドライシンは、GVHDの新規治療薬として期待される」とまとめた。造血幹細胞移植患者の移植早期から長期における腸内細菌叢に関する解析結果 福島 健太郎氏(大阪大学大学院 医学系研究科 血液・腫瘍内科学)は、造血幹細胞移植領域で近年行われた腸内細菌叢と予後の関連についての複数の研究に関し、「既報の多くは移植後のある一時点において多様性を評価していて、菌叢を構成する菌成分の違いや経時的な菌叢の変化についてはあまり着目した研究がなかった」と指摘した。 福島氏らのグループは、大阪大学医学部附属病院で造血幹細胞移植を行った患者から糞便を連日採取して16SrRNAメタゲノム解析を行った。その結果、移植前後で腸内細菌叢に変化がなく、多様性が保持された群は予後良好、菌叢に変化があり多様性が失われた群は予後不良であることが明らかになった。「菌叢の安定化が非常に重要である」ことがわかってきたと福島氏は述べ、とくに移植後1ヵ月のEnterococcus増加が予後の悪化に関連すると報告した。 また、移植後長期にわたって生存し、日常生活に戻った患者群の腸内細菌叢は健常人に近づいているという仮説を立てたが、移植後長期生存者の腸内細菌叢を実際に調べたところ、移植後3年未満、3~10年、10年以上のいずれでも、菌叢の多様性が回復しないということがわかったと報告した。 さらに、同種移植後にクローン病様の病変が認められた患者に糞便移植(FMT)を実施し、3ヵ月後に粘膜が正常化した症例を紹介したほか、移植前に腸内においてEnterococcusが優勢であった患者はFMT後1日目にドナーと同様の菌叢になるが、その後にEscherichiaなどが優勢になるという非常に興味深い結果となったと報告した。また、プロバイオティクスにも注目していると述べ、進めている研究について紹介した。 最後に、腸内細菌叢への介入として、先に講演した植松氏のファージについて「非常に魅力的な選択」と述べたほか、「FMT、プロバイオティクスなどさまざまなアプローチの可能性があって、産学連携が重要と考えている」とまとめた。移植前の口腔環境の改善が慢性GVHDの改善につながる可能性 藤原 英晃氏(岡山大学病院 血液・腫瘍内科)らのグループは、自院において2010~15年に造血細胞移植を行った273例を解析し、重症口内炎は慢性GVHDの発症率を上昇させるという関連を認めたほか、PTCyハプロ移植の71例のみの解析でも同様の関連を認めた。さらに、こうした患者の移植前後の口腔粘膜検体31例の解析で、慢性GVHD発症群では移植前から菌叢の多様性が低下し、生着後もそれが継続していたことがわかったと報告した。 そこでマウスによる検討のために、マウスの歯間に糸を留置して口腔内に歯周炎を引き起こすOLPという手法で口腔内dysbiosisを誘発し、骨髄移植を行った。その結果、慢性GVHDに関してはOLPマウスで慢性GVHDスコアが明らかに悪くなり、PTCyを用いたマウスモデルでも同様の結果が認められた。こうしたOLPマウスでは移植後における口腔内細菌叢の多様性が低下し、口腔内および糞便中細菌量の増加が認められ、とくにEnterococcusは移植前から口腔内・糞便中ともに増加していたと述べ、口腔内のEnterococcusが腸管に流れていき、定着するのではないかと指摘した。 また、OLPマウスでは移植前から所属リンパ節(頸部リンパ節)における抗原提示細胞の活性化が認められ、頸部リンパ節の免疫染色および培養検査によりEnterococcusの影響が強いことが明らかになったと述べた。さらに、OLP後にEnterococcusを塗布したマウスで移植後に慢性GVHDが悪化したこと、OLPを除去し歯周炎が改善した状態で移植を行うとOLPを維持した群より重症度が低下したことを示し、OLPの除去による口腔環境の改善が慢性GVHDの改善につながると述べた。なお、抗生剤による口腔炎症の改善で一定の効果が期待できることも実験で明らかになったと報告した。 最後に、「口腔内でdysbiosisが起きる状況にあると局所(頸部リンパ節)での反応が増幅し、それが全身の慢性GVHDに影響する。同様に腸管にも影響することにより長期的な予後に影響するのではないか」とまとめ、「移植前後の徹底した口腔ケアや歯科介入の重要性を確認することができた」と述べた。炎症記憶と腸内細菌によるGVHD重症化のメカニズム 橋本 大吾氏(北海道大学大学院医学研究院 血液内科)は、免疫寛容の破綻後に組織の恒常性を維持するメカニズムとして概念的に提唱されている「組織寛容」について冒頭で紹介し、豊嶋 崇徳氏(北海道大学)らのグループの研究から、腸幹細胞が腸の組織寛容を維持しているシステムではないかと指摘した。一方、GVHD回復後のFlareで腸管GVHDの発症が増加することが示されており、炎症後の組織幹細胞にエピジェネティックな変化が生じて炎症記憶として残るからではないかと考えられている。 そこで橋本氏らのグループは、同系造血細胞移植(syn-HCT)または同種造血幹細胞移植(allo-HCT)後のマウスの陰窩から作成したオルガノイド(「Syn」または「Allo」)のクロマチン構造をATACシーケンスで解析し、アクセシビリティに関してAlloがSynより有意に高い遺伝子457個を特定した。橋本氏は、この中で重要な領域として抗原処理と提示(とくにMHCクラスII[MHC-II])に関与する遺伝子とインターフェロン(IFN)-γに対する反応に関与する遺伝子を挙げ、転写の準備ができているこれらのプロモーター領域が判明したことについて「まさに炎症記憶が本当にできていると知った瞬間だった」と述べた。なお、フローサイトメトリーによるタンパク質レベルでの確認でも、IFN-γ刺激による腸管上皮MHC-II発現が炎症記憶により亢進したうえ、オルガノイドを継代しても記憶が継承されることが明らかになったと述べた。 さらに、小山 幹子氏(米国・フレッド・ハッチンソンがん研究センター)のマウスを用いた研究で、レシピエントの腸管上皮MHC-IIの欠損でGVHDが軽減すること、腸内細菌がIFN-γ産生を誘導し、腸管上皮MHC-IIを発現させること、MHC-II誘導性細菌と抑制性細菌が存在し、抑制性細菌のマウスへの経口投与で上皮MHC-II発現が低下することなどが示されたと紹介した。 最後に、腸管のMHC-II発現は、腸内細菌叢の差により定常状態である程度の差があるうえ、GVHD後には炎症記憶の存在によりIFN-γ刺激によるMHC-II発現がさらに高まり、GVHD Flareにつながると考えられるとまとめた。今後は「組織寛容を上げて急性GVHDや慢性GVHDを起こさないようにし、移植片対白血病/リンパ腫(GVL)効果を誘導するのが究極的な目標」だと述べた。

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