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医師のキャリアを支える「休息力」――働き方改革の先に必要なセルフケア【医師のパフォーマンス向上術】第1回

医師のキャリアを支える「休息力」――働き方改革の先に必要なセルフケア医師のキャリアは、知識や技術を積み上げるだけでは長く続きません。診察、カルテ入力、画像読影、手術、カテーテル操作、論文閲覧――医師の日常業務の多くは、集中力と判断力、そして視機能を絶えず使い続ける仕事です。だからこそ、これからの医師のキャリア形成においては、「どれだけ働けるか」だけでなく、「どのように休み、どのように回復するか」が重要なテーマになります。外科医の3割が手術時に「眼の支障」を実感ケアネットが30代以上の会員医師1,024人を対象に実施した「眼の健康問題」に関するアンケートでは、医師たちの深刻な視覚負担が浮き彫りになりました1)。視力矯正の割合眼鏡を使用している医師76.5%コンタクトレンズを使用している医師25.0%現在困っている眼疾患や症状近視49.8%・老眼44.9%・乱視20.8%・眼精疲労17.3%日々の業務で「支障」を感じる場面カルテ入力や文書作成など文字を見る場面41.4%論文閲覧29.7%検査・処置24.2%診療科別では、外科系医師の約30%が「手術時」に支障を来している。「疲労」が及ぼす手技への悪影響この結果は、医師のパフォーマンス低下が「気合い」や「年齢」の問題だけでは片付けられないことを示しています。医師の仕事は、視覚・認知・身体操作を同時に用いる複合的な専門職です。眼精疲労、睡眠不足、慢性的な疲労の蓄積は、判断の遅れ、文書作成の負担増、細かな手技の精度低下につながり得ます。実際、外科医の疲労と手術成績に関するシステマティックレビュー2)では、疲労が手術パフォーマンスに影響し得る重要な問題として検討されています。シミュレーション研究では約半数、実臨床研究では約3分の1で、疲労が手術パフォーマンスやアウトカムに悪影響を及ぼす可能性が報告されています。ただし、実臨床研究では疲労の直接測定やアウトカム評価に限界があり、著者らもさらなる標準化の必要性を指摘しています。「休む必要があるのに、休めていない」医師のジレンマでは、休息は本当にパフォーマンス維持に役立つのでしょうか。病院勤務医を対象とした研究では、勤務中の自発的な休憩が医師の急性疲労を軽減することが示されています。一方で、医師の勤務中の休憩は頻度が十分とはいえず、「休む必要があるにもかかわらず、休めていない」現実も浮かび上がります3)。つまり休息は、単なる気分転換ではありません。診療の質を保つための、意識的に設計すべき行動なのです。働き方改革の本質:制度の整備 × 個人のセルフケア日本では2024年4月から医師の働き方改革の新制度が施行され、長時間労働の是正、健康確保、地域医療の持続可能性が制度上の重要課題として位置付けられています4)。私自身も医師の働き方改革に関わる議論に委員として参加する中で、医師のパフォーマンスを支えるものは、個人の努力や使命感だけではなく、休息を確保できる仕組みそのものであると実感してきました。ただし、制度が整うだけで、医師一人ひとりの疲労が自動的に解消されるわけではありません。勤務時間の管理、タスクシフト、勤務間インターバルといった仕組みに加えて、日々の診療の中で自分の疲労、眼の負担、集中力の低下に気付き、短時間でも効果的に回復する方法を身に付けることが必要です。働き方改革の先にあるべきものは、単に労働時間を短くすることではなく、医師がよい状態で診療を続けられる環境をつくることです。医療安全と持続可能性のために、まずは「自分の疲労」に気付くセルフケアは、医師個人の「余裕があれば行うもの」ではありません。医師のバーンアウトに関するBMJのメタ解析5)では、バーンアウトは医師のキャリア離脱や離職意向、仕事満足度の低下、さらには患者ケアの質の低下と関連することが示されています。医師の健康は、医師自身の問題であると同時に、医療機関の持続可能性や患者安全にも関わる問題なのです。本連載では、医師が長く高いパフォーマンスを発揮するために、睡眠、眼の休息、身体の使い方、デジタル環境、集中力の回復、バーンアウト予防などを取り上げていきます。休息は怠けることではありません。患者の前で最良の判断と手技を行うための、専門職としてのメンテナンスです。キャリアを「長く続ける」だけでなく、「よい状態で続ける」ために、まずは自分の眼と疲労に気付くことから始めましょう。1)手術時、視力低下で困っている外科医の割合は?/医師1,000人アンケート2)Reijmerink IM, et al. Impact of fatigue in surgeons on performance and patient outcome: systematic review. Br J Surg. 2024;111:znad397.3)Blasche G, et al. The impact of rest breaks on subjective fatigue in physicians of the General Hospital of Vienna. Wien Klin Wochenschr. 2022;134:156-161.4)厚生労働省. 医師の働き方改革に関する検討会.5)Hodkinson A, et al. Associations of physician burnout with career engagement and quality of patient care: systematic review and meta-analysis. BMJ. 2022;378:e070442.

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ASCO2026 レポート 消化器がん

レポーター紹介[目次]RASolute 302試験FIGHT-302試験BREAKWATER Cohort3試験EPISODE-III/JCOG1503C試験欧州CIRCULATE/日本発GALAXY試験ONO-4578-08試験PANKU-Esophagus01試験膵がんRASolute 302試験:daraxonrasibが膵がん薬物療法の地図を塗り替える可能性RASolute 302は、前治療歴を有する転移のある膵管腺がん(PDAC)を対象に、経口RAS(ON) multi-selective inhibitorであるdaraxonrasibと医師選択化学療法(GnP、mFOLFIRINOX、Nal-IRI+5FU/LV、FOLFOX)を比較した国際共同非盲検第III相試験である。主要評価項目はRAS G12変異例における全生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)で、全体集団500例のうち91.8%がRAS G12変異例であった。RAS G12変異例では、OS中央値が13.2ヵ月vs.6.6ヵ月(ハザード比[HR]:0.40)、PFS中央値が7.3ヵ月vs.3.5ヵ月(HR:0.45)と、daraxonrasib群で有意に改善した。全体集団でもOS中央値13.2ヵ月vs.6.7ヵ月(HR:0.40)、PFS中央値7.2ヵ月vs.3.6ヵ月(HR:0.49)と一貫した効果が示され、RAS G12以外やRAS変異未同定例を含めた広い集団で有効性が確認された。客観的奏効率(ORR)もRAS G12変異例で33.2%vs.11.8%(p<0.0001)、全体集団で31.6%vs.11.2%(p<0.0001)と改善した。QOLも改善し、有害事象は発疹(全Grade:85%、Grade3以上:14%)・口内炎(全Grade:53%、Grade3以上:12%)などが中心である。臨床的インパクトは非常に大きく、主要評価項目であるOSの有意な結果が報告されたタイミングでスタンディングオベーションが起き、発表と同時にNEJM誌にも掲載された1)点も注目される。daraxonrasibはFDAからBreakthrough Therapy designationおよびOrphan Drug designationを受けており、膵がんで長く創薬困難とされてきたRASを、G12C単独ではなくG12D/V/Rを含む広いRAS変異に対して標的化できることを第III相試験で示した意義は大きく、PDACの治療体系を大きく変えると思われる。RAS阻害薬はほかにも多数の薬剤が開発中であり、初回治療例を対象にdaraxonrasib単剤vs.daraxonrasib+GnP vs.GnPを検証するRASolute 303試験をはじめ、術後補助療法におけるエビデンス創出など、今後の拡大が期待される。1)O'Reilly EM, et al. N Engl J Med. 2026 May 31. [Epub ahead of print]目次に戻る胆道がんFIGHT-302試験:FGFR2融合・再構成陽性胆管がんで1次治療FGFR阻害の可能性を検証FGFR2融合・再構成陽性胆管がんでは、既治療例を対象とした第II相FIGHT-202試験でペミガチニブの有効性が示され、最終解析ではORR 37.0%、PFS中央値7.0ヵ月、OS中央値17.5ヵ月、奏効期間(DoR)中央値9.1ヵ月であった2)。これを背景に、ペミガチニブは既治療のFGFR2融合・再構成陽性胆管がんで承認されており、FIGHT-302試験では1次治療への前倒しが検証された。FIGHT-302は、未治療の切除不能・転移FGFR2再構成陽性胆管がんを対象に、ペミガチニブ単剤とゲムシタビン+シスプラチン(GC)を比較した国際共同非盲検第III相試験である。希少な分子サブタイプを対象とするため登録は難航し、4,000例超を事前スクリーニングしたものの、最終的なランダム化例数は167例で、試験は早期終了となった。主要評価項目のPFS中央値は8.3ヵ月vs.6.8ヵ月(HR:0.58、nominal p=0.0078)とペミガチニブ群で延長し、ORRも47.0%vs.15.5%、DoR中央値も14.2ヵ月vs.6.3ヵ月と良好であった。一方、OS中央値は24.4ヵ月vs.25.0ヵ月と同程度であった。化学療法群では進行後に42例がペミガチニブへクロスオーバーしており、OS解釈には注意を要する。本試験は、FGFR2陽性胆管がんで1次治療から標的治療を用いる可能性を示した点で重要であり、同時にJournal of Clinical Oncology誌にも掲載された3)。とくにORRはペミガチニブ群47.0%と、胆道がん全体を対象としたTOPAZ-1/KEYNOTE-966のGC+免疫チェックポイント阻害薬(ICIs)におけるORRが約27~29%であったことを踏まえると、クロストライアル比較ながら腫瘍縮小を重視するFGFR2再構成陽性例では魅力的に映る。一方で、FIGHT-302の対照群はGC単独であり、現在の1次治療標準であるGC+ICIsとの直接比較ではない。また、OS非改善、早期終了による検出力の限界、クロスオーバーの影響、FGFR阻害薬後の耐性変異を踏まえると、ただちに1次治療を置き換えるというより、診断時からFGFR2検査を行い、FGFR2陽性例における1次治療・2次治療の最適なシーケンスを考えるデータと整理するのが妥当である。2)Abou-Alfa GK, et al. Lancet Oncol. 2020;21:671-684.3)Bekaii-Saab TS, et al. J Clin Oncol. 2026 Jun 1. [Epub ahead of print]目次に戻る大腸がんBREAKWATER Cohort3試験:FOLFIRIバックボーンでも良好な治療効果BRAF V600E変異陽性転移性大腸がんは予後不良な分子サブタイプであり、1次治療からBRAF/EGFR阻害を組み込む治療開発が進められてきた。第III相BREAKWATER試験では、エンコラフェニブ+セツキシマブ(EC)+mFOLFOX6が標準治療に対し、ORR:65.7%vs.37.4%、PFS中央値12.8ヵ月vs.7.1ヵ月、OS中央値30.3ヵ月vs.15.1ヵ月と良好な結果を示した。これを受け、本邦でも2025年11月にエンコラフェニブが1次治療へ適応拡大され、FOLFOX+ECはBRAF V600E変異陽性切除不能進行・再発大腸がんにおける初回治療の標準的選択肢として位置付けられている。一方、ASCO GI 2026では、BREAKWATERの別コホートとして、EC+FOLFIRIをFOLFIRI±BEV(ベバシズマブ)と比較した成績が報告され、BICR評価のORRは64.4%vs.39.2%(片側p=0.0011)と有意に改善していた。今回のASCO 2026ではPFSおよびOS解析が発表され、PFS中央値は15.2ヵ月vs.8.3ヵ月(HR:0.44、片側p=0.0002)と有意に延長した。OS中央値も、未到達vs.20.3ヵ月(HR:0.56)であり、OSも良好な傾向を示した。本結果はASCO 2026で発表されるとともに、Annals of Oncology誌に同時掲載された4)。FOLFOX+ECが本邦でも1次治療標準として位置付けられた一方、今回のFOLFIRIコホートは、オキサリプラチン不適例や末梢神経障害を避けたい症例における将来的な代替バックボーンとしての可能性を示した。ただし、EC+FOLFIRIの国内実装には薬事・ガイドライン上の位置付けの整理が必要である。4)Kopetz S, et al. Ann Oncol. 2026 May 31. [Epub ahead of print]目次に戻る大腸がん・日本発EPISODE-III/JCOG1503C試験:アスピリン補助療法は“全例投与”から“分子選択”か?術後大腸がんに対するアスピリン/COX阻害薬は、非選択集団では明確な上乗せ効果に乏しい一方、PI3K経路異常例では有望な可能性が示されている。非選択大腸がんを対象としたASCOLT試験では、アスピリン200mgを3年間投与しても5年DFSは77.0%vs.74.8%(HR:0.91)で主要評価項目は未達であった5)。また、PI3K経路異常を有する局所大腸がんを対象としたALASCCA試験では、アスピリン160mg・3年間によりPIK3CA exon 9/20変異例、その他PI3K経路異常例のいずれでも再発リスク低下が示された6)。COX-2阻害薬セレコキシブについても、CALGB/SWOG 80702試験の解析でPIK3CA gain-of-function変異例におけるDFS/OS改善が報告されている7)。EPISODE-III/JCOG1503Cは、下部直腸がんを除くR0切除後StageIII大腸がん882例を対象に、標準的な術後補助化学療法へ低用量アスピリン100mgを3年間上乗せする意義を検証した、日本発の二重盲検プラセボ対照第III相試験である。ASCO 2026では、国立がん研究センター中央病院の高島 淳生氏により、主要解析結果がLate-Breaking Abstract(LBA3508)として発表された。主要評価項目の3年DFSは、アスピリン群78.8%vs.プラセボ群75.4%と数値上はアスピリン群で良好であったが、HR:0.84、片側p=0.0987で統計学的有意差には至らなかった。RFSも79.5%vs.77.2%(HR:0.87)と同方向の傾向にとどまり、OSは未成熟であった。安全性はおおむね許容範囲であったが、下部消化管出血はアスピリン群でやや多かった(全Grade:2%vs.0.2%)。アスピリンによる再発抑制機序としては、COX-1/COX-2阻害を介したプロスタグランジン産生低下、血小板凝集抑制による循環腫瘍細胞の転移形成阻害、炎症性腫瘍微小環境の抑制などが想定される。JCOG1503Cは、非選択のStageIII大腸がん全例にアスピリンを追加する方針を支持する結果ではなかった。一方で、本試験は当時のエビデンス状況を踏まえた重要な全例対象試験であり、今後のPI3K/PIK3CA解析により、COX阻害薬を分子選択的な術後補助療法として再評価する足掛かりになる可能性がある。5)Chia JWK, et al. Lancet Gastroenterol Hepatol. 2025;10:198-209.6)Martling A, et al. N Engl J Med. 2025;393:1051-1064.7)Meyerhardt JA, et al. JAMA. 2021;325:1277-1286.目次に戻る大腸がん欧州CIRCULATE/日本発GALAXY試験:本邦におけるMRD元年大腸がん術後のctDNA/MRD検査は、再発リスクを高精度に層別化する手法として期待されており、ASCO 2026ではctDNAを単なる予後予測マーカーにとどめず、術後補助化学療法(ACT)の要否や期間を決める“治療設計ツール”としての可能性が示された。StageII pMMR/MSS結腸がんを対象とした欧州CIRCULATE(AIO-KRK-0217/ABCSG)試験では、tumor-informed型のアカデミックMRDアッセイを用い、術後ctDNA陽性例をACT群と観察群にランダム化した。本試験はドイツ・オーストリアで実施された前向きランダム化第III相試験で、ctDNA陽性例は41例、ITT解析対象はACT群26例、観察群15例であった。主要評価項目の3年DFSは、ACT群61%vs.観察群38%(HR:0.55、p=0.12)で、統計学的有意差には至らなかった。一方、事前規定のper-protocol解析では、ACT群に割り付けられたものの治療を開始しなかった5例を除外し、実際にACTを受けた21例と観察群15例を比較した。その結果、3年DFSは77%vs.38%(HR:0.31、p=0.021)、3年再発率はACT群19%vs.観察群62%(HR:0.23、p=0.009)と、ACT群で良好であった。本試験ではctDNA陽性率が2.9%と低く、早期終了により検出力が限られた点には注意が必要であるが、ctDNA陽性StageII結腸がんにおいて、術後補助化学療法による再発抑制が期待できることを示した前向きランダム化データとして意義は大きい。さらに日本発のCIRCULATE-Japan/GALAXY解析では、SignateraによるACT中のctDNA変化とACT期間との関係について、九州大学の沖 英次氏により報告された。対象は、ACTを受け、術後6ヵ月以内に2回以上ctDNA測定が行われた1,028例であり、ACT期間は90日以上をlong ACT、90日未満をshort ACTとして比較された。ctDNAが一貫して陰性であった症例では、long ACTによる明確なDFS改善は認められなかった(HR:0.71、95%CI:0.46~1.09)。また、ACT治療中にctDNAが陰転化した症例でも、ACT延長の上乗せ効果は明確ではなかった(HR:1.06、95%CI:0.57~1.97)。一方、ctDNAは低下したものの陽性が残るpartial molecular response例では、DFS中央値がlong ACT群5.9ヵ月vs.short ACT群1.7ヵ月と、long ACT群で良好であった(short vs.long:HR:3.64、95%CI:1.33~9.97、p=0.008)。この結果から、ctDNAが残存する一部の症例では、ACT期間の延長が有益となる可能性が示された。ただし、本解析は観察研究であり、現時点ではctDNA動態のみでACT期間を決定する段階ではなく、今後の前向き試験による検証が求められる。CIRCULATE-Japan/GALAXYではNatera社のSignateraが用いられており、術後ctDNAは再発リスクや補助化学療法効果の予測に有用であることがすでに報告されている。2026年5月に本邦でMRD検査の薬事承認が了承された8)ことで、2026年は「MRD実装元年」ともいえる局面を迎えたが、実臨床での普及には、保険適用時期、算定要件、測定タイミング、MRD陽性例に対する介入の整理が今後の課題と考える。8)日経バイオテク(2026年6月3日付)目次に戻る胃がんONO-4578-08試験:EP4阻害でPD-1阻害薬+化学療法の効果を高める新戦略ONO-4578は、PGE2受容体の1つであるEP4を阻害する経口EP4拮抗薬で、腫瘍微小環境における免疫抑制を解除し、PD-1阻害薬の効果を高めることが期待される。ONO-4578-08試験は、HER2陰性の未治療切除不能進行・再発胃がん/食道胃接合部がんを対象に、ONO-4578+ニボルマブ+SOX/CAPOXを、プラセボ+ニボルマブ+SOX/CAPOXと比較した、日本・韓国・台湾の多施設二重盲検プラセボ対照ランダム化第II相試験であり、ASCO 2026での発表に合わせてJCO誌オンライン版に掲載された9)。主要評価項目である治験担当医評価PFS中央値は9.0ヵ月vs.6.9ヵ月(HR:0.67、p=0.040)と、事前規定の統計設定で有意に延長した。OS中央値は未到達vs.12.7ヵ月(HR:0.60)と未成熟ながらONO-4578群で良好であり、ORRも62.0%vs.48.7%と上回った。とくにPD-L1 CPS≧1集団では、PFS中央値9.9ヵ月vs.5.7ヵ月(HR:0.52)、OS HR:0.44、ORR:70.9%vs.50.9%と、より明瞭なベネフィットが示された。一方で、CPS<1/判定不能例では明確な上乗せ効果は示されておらず、今後の患者選択が重要となる。安全性ではGrade3以上の有害事象が79.2%vs.69.3%とONO-4578群で多く、下痢、貧血、低アルブミン血症、消化管潰瘍などには注意を要する。消化管潰瘍の予防目的でPPI投与が推奨され、ONO-4578群内ではPPI使用例で消化管潰瘍が少なかった(3.4%vs.10.0%)。第II相試験であり、ただちに標準治療を変える段階ではないが、PD-1阻害薬+化学療法が標準となったHER2陰性胃がん1次治療に、免疫微小環境制御を上乗せする新しい戦略として重要である。今後は、PD-L1陽性例を中心とした第III相試験での検証が注目される。9)Nakayama I, et al. J Clin Oncol. 2026 Jun 1. [Epub ahead of print]目次に戻る食道扁平上皮がんPANKU-Esophagus01試験:中国発新規EGFR×HER3二重特異性ADCizalontamab brengitecan(iza-bren/BL-B01D1)は、EGFRとHER3を標的とする二重特異性抗体薬物複合体(ADC)である。ASCO 2026では、再発・転移性食道扁平上皮がんを対象とした中国の第III相PANKU-Esophagus01の中間解析結果が報告された。対象は、1次治療のPD-1/PD-L1阻害薬+プラチナ系化学療法後に進行した患者で、iza-bren群249例もしくは医師選択化学療法(イリノテカン、パクリタキセル、ドセタキセル)群248例に割り付けられた。主要評価項目であるOS中央値は9.8ヵ月vs.7.2ヵ月(HR:0.64)、PFS中央値は4.2ヵ月vs.2.0ヵ月(HR:0.50)と、いずれもiza-bren群で有意に改善した。ORRも35.3%vs.13.1%と良好であった。安全性では、Grade3以上の治療関連有害事象は85.1%vs.60.2%とiza-bren群で多く、主に血液毒性が中心であった。一方、治療関連有害事象による中止は2.0%vs.3.3%、治療関連死亡は1.2%vs.1.6%であり、間質性肺疾患の頻度も低かった(全Grade:1.6%vs.0.4%、Grade3以上:0.8%vs.0%)。1次治療で免疫チェックポイント阻害薬+化学療法が標準化した後の食道扁平上皮がんでは、2次治療の選択肢が限られており、iza-brenは新たな標準治療候補として注目される。ただし、中国の試験の結果であり、医師選択化学療法の詳細も未発表である。今後、日本を含むグローバルでの開発・承認動向を見極める必要がある。目次に戻る

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J-CLEAR特別座談会(9)「GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬―その適正使用を巡って」

J-CLEAR特別座談会(9)「GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬―その適正使用を巡って」GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬といったインクレチン関連薬をめぐり、肥満症治療における副作用などの安全性を軽視した自由診療や個人売買が多発し、厚生労働省も注意喚起を強める事態になっています。そのため、医療者は処方が適切とされる患者像や、論文で報告されている有効性・安全性などを改めて理解・整理することが求められています。今回のJ-CLEAR特別座談会では、糖尿病専門医4名がインクレチン製剤の歴史的背景、現時点での適正使用と実処方における課題など、さまざまな問題に踏み込んだディスカッションを展開します。なお、この番組は2026年5月19日に収録したもので、当時の情報に基づく内容であることをご留意ください。GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬―その適正使用を巡って出演    吉岡 成人 氏NTT東日本札幌病院 院長住谷 哲 氏大阪府済生会泉尾病院 糖尿病・内分泌内科 部長小川 大輔 氏おかやま内科 糖尿病・健康長寿クリニック 院長永井 聡 氏NTT東日本札幌病院 糖尿病内分泌内科 部長オブザーバー桑島 巌 氏臨床研究適正評価教育機構 理事長

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第323回 眼の細胞を若返らせる遺伝子治療が初の患者投与に漕ぎ着けた

眼の細胞を若返らせてより働けるようにする遺伝子治療が、第I相試験で被験者に初めて投与されました1,2)。組織を不調にしてやがて個体の死をもたらす老化の原因の一端は、ゲノムのDNA修飾(エピゲノム)の乱れが蓄積して、組織の機能や再生能が低下していくことにあるとみられています。その名のとおりメチル基がDNAに付加されることで生じるDNAメチル化はエピゲノムの主だった変化の1つで、細胞がそれぞれの個性に応じた遺伝子一揃いを発現できるようにする役割を担っています。胚発達期に確立するDNAメチル化のおかげで多様な細胞が生み出されます。そのような若かりし頃のDNAメチル化の特徴は年を経るごとに失われ、発現すべき遺伝子が沈黙したり逆に不必要な遺伝子が発現したりするなどの混乱(noise)が蓄積して細胞の機能を損なわせ、やがては組織の機能や再生能の衰えなどの生物学的老化を招くようです。生物学的老化の指標としてDNAメチル化特徴の変遷が用いられますが、はたして若かりし頃のDNAメチル化特徴を取り戻すことは可能でしょうか? 可能だとして、それが組織の機能改善をもたらすでしょうか?ハーバード大学医学部教授のDavid Sinclair氏らの2020年のNature誌報告3)によると、どうやらどちらも可能なようです。ノーベル賞科学者の山中 伸弥氏の成果にちなんで山中因子と呼ばれる転写因子4つが、エピゲノムを初期化して原始の胚のときの状態に逆戻りさせることが知られています。山中因子はいわば若返り因子でもありますが、マウスでの検討で腫瘍を生じさせる懸念が示唆されています4)。また、細胞の個性(identity)を完全に消し去ってしまいます5)。そこでSinclair氏らのチームは腫瘍促進や細胞個性消失の懸念を払拭するべく、山中因子からc-Mycを差し引いた残りの3つの転写因子のOct4、Sox2、Klf4を使ってDNAメチル化を若返らせる手段を生み出しました。その3つはそれぞれの頭文字をとってOSKと呼ばれます。アデノ随伴ウイルス(AAV)を運搬役としてOSK遺伝子をマウスの視神経の網膜神経節細胞(RGC)に届けたところ、DNAメチル化や遺伝子転写特徴が若い頃のようになり、損傷後の軸索再生が促進しました。また、治療効果もあり、緑内障や老齢マウスの視力が回復しました。その結果から哺乳類の組織は若い頃のエピゲノム情報を残しており、組織機能の改善や再生の促進のために必要とあらば引き出せると示唆されました。今回第I相試験で初めて患者に投与された遺伝子治療はER-100と呼ばれ、ほかでもないSinclair氏らが設立した米国・ボストン拠点のバイオテクノロジー企業Life Biosciencesによって開発されています。マウスでの検討と同様に、ER-100はAAVに託してOSK遺伝子をRGCに届けてよい塩梅に発現させることを目指します。眼と脳を繋ぐRGCはそもそも再生できず、ゆえにRGCが傷むと永続的な視力障害に陥ります。ER-100が生み出すOSKはRGCを再生させてその機能が回復するようにします。第I相試験でER-100はRGCが傷つくことを特徴とする開放隅角緑内障患者の片眼に注射され、安全性や許容のほど、それに視力も検査されます。開放隅角緑内障と同様にRGC損傷を特徴とする非動脈炎性虚血性視神経症患者もやがて試験に参加する見込みです2)。試験には多ければ18例が参加します6)。 参考 1) Life Biosciences Announces First Patient Dosed in Phase 1 Trial of ER-100 for Optic Neuropathies / GLOBE NEWSWIRE 2) World-first: therapy to make cells young again trialled in a person / Nature 3) Lu Y, et al. Nature. 2020;588:124-129. 4) Abad M, et al. Nature. 2013;502:340-345. 5) Scientists Reverse Age-Related Vision Loss, Eye Damage from Glaucoma in Mice / Harvard Medical School 6) Evaluating ER-100 for Safety in People With Glaucoma or Non-Arteritic Anterior Ischemic Optic Neuropathy(Optic Nerve Conditions) / NCT07290244

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ALK陽性NSCLC、術前ロルラチニブでpCR 46.9%(LORIN)/ASCO2026

 ALK融合遺伝子陽性非小細胞肺がん(NSCLC)において、StageIB~IIIAに対する術後アレクチニブの有効性が示されている。一方、局所進行例や切除不能StageIIIに対する周術期治療のエビデンスは限定的である。第3世代ALKチロシンキナーゼ阻害薬のロルラチニブは、ALK融合遺伝子陽性の進行NSCLCで高い有効性を示しており、術前治療としての有用性も注目される。 そこで、Chao Zhang氏(中国・Guangdong Lung Cancer Institute)らの研究グループは、ALK融合遺伝子陽性のStageIII NSCLCに対する術前ロルラチニブの有効性と安全性を検討する海外第II相試験「LORIN試験」を実施した。その結果、術前ロルラチニブは高い病理学的奏効率(MPR)を示し、切除不能StageIII患者のうち75%でコンバージョン手術が可能となった。本結果は、米国臨床腫瘍学会年次総会(2026 ASCO Annual Meeting)で発表された。・試験デザイン:海外第II相単群試験(中国3施設で実施)・対象:未治療のALK融合遺伝子陽性のStageIII NSCLC患者で、potentially resectableまたは切除不能の患者43例(potentially resectable 19例、切除不能24例)・治療方法:ロルラチニブ100mg 1日1回を3サイクル(12週間)→手術または化学放射線療法などの局所治療→ロルラチニブ100mg 1日1回を最長2年間・評価項目:[主要評価項目]病理学的完全奏効率(pCR)[副次評価項目]MPR、奏効率(ORR)、無イベント生存期間(EFS)、全生存期間(OS)、安全性など 主な結果は以下のとおり。・年齢中央値は52歳で、男性の割合は27.9%であった。StageIIIAが37.2%、IIIBが51.2%、IIICが11.6%であった。・43例中32例が手術を受けた。potentially resectable群では74%が手術を受け、切除不能群では75%がコンバージョン手術を受けた。・病理学的奏効は、手術を受けた32例で評価された。pCRは46.9%に認められ、主要評価項目を達成した。MPRは81.3%であった。・potentially resectable群と切除不能群に分けると、pCR/MPRはpotentially resectable群50%/86%、切除不能群44%/78%であった。・MPRが得られた集団では、非MPR集団と比較して、腫瘍組織におけるPD-L1発現の中央値が高かった(MPR/pCR集団25%、非MPR集団1%、p<0.01)。・画像評価による術前治療後のORRは84%(すべてPR)であった。・追跡期間中央値13ヵ月時点において、局所再発が3例に認められたが、遠隔転移は認められなかった。・1年EFS率は97.1%であり、OSイベントは認められなかった。・術前治療期におけるGrade3/4の治療関連有害事象(TRAE)は23%に発現した。減量に至ったTRAEは16%、中止に至ったTRAEは2%に認められた。・術後または地固め療法期におけるGrade3/4のTRAEは21%に発現した。減量に至ったTRAEは24%、治療変更に至ったTRAEは12%に認められた。治療変更例はいずれもアレクチニブへ変更された。

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うつ病の再発を予測する残存症状は?

 うつ病の急性期治療が成功した後の再発予防は、依然として臨床上の課題となっている。残存する抑うつ症状は、再発の信頼できる予測因子であると考えられる。しかし、特定の残存症状が再発リスクにどの程度影響を及ぼしているかをシステマティックに評価した研究は、これまであまりなかった。ベルギー・ルーベン大学のDavid Borghgraef氏らは、うつ病の急性期治療が成功した後に残存する抑うつ症状と再発リスクとの関連を調査するため、スコーピングレビューを実施した。Canadian Journal of Psychiatry誌オンライン版2026年5月6日号の報告。 本スコーピングレビューは、システマティックレビューおよびメタ解析のための優先報告項目(PRISMA)拡張版ガイドラインに準拠して実施した。うつ病、残存症状、再発に関連する用語を用いて、システマティックな文献検索を行った。 主な結果は以下のとおり。・11研究を分析に含めた。・残存する睡眠障害と不安症状は、これらの症状を評価したほとんどの研究において、再発リスクの増加と統計学的に有意な関連を示した。・残存する疲労、食欲不振、体重変化、抑うつ症状、興味減退を評価したほとんどの研究では、再発リスクとの統計学的に有意な関連は認められなかった。・焦燥感や落ち着きのなさ、性欲減退に関する結果も一貫性がなく、統計学的に有意な関連を報告した研究もあれば、そうでない研究もあった。・残存する抑うつ症状の評価には、さまざまな症状評価尺度が用いられており、結果に大きなばらつきが認められた。 著者らは「特定の残存するうつ病症状、とくに睡眠障害と不安症状は、再発リスク増加の予測因子となりうるため、臨床医は注意を払うべきであることが示唆された。しかし、研究間のばらつきは大きく、これらの結果の一貫性と一般化可能性が制限された。残存症状の負担を包括的に把握し、再発リスクの予測精度を改善するためには、臨床医による評価と自己申告による評価の両方を統合した標準化された多次元的な評価戦略が必要とされる」としている。

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アルツハイマー病のバイオマーカー、中年期にも検出可能か/Lancet

 アミロイドβ(Aβ)およびリン酸化タウ(p-tau)タンパク質の蓄積を特徴とするアルツハイマー病の神経病理学的所見は、主に高齢者の検体のバイオマーカーを用いて評価しており、中年期の血漿バイオマーカーの状態や、その認知機能との関連はほとんど知られていないという。米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のXiaqing Jiang氏らは、これらの血漿バイオマーカーによって定義されるアルツハイマー病の神経病理学的陽性所見は、相対的に頻度は低いものの、中年期にも検出可能であり、認知能力の低下やその加速と関連し、特定の集団においてより強い関連性を持つ可能性があることを示した。研究の成果はLancet誌2026年5月30日号で報告された。米国の前向きコホート研究 研究グループは、中年期におけるアルツハイマー病の神経病理学的所見を示す血漿バイオマーカーの特徴と認知能力との関連を検証する目的で、地域ベースの前向きコホート研究を実施した(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]などの助成を受けた)。 解析には、Coronary Artery Risk Development in Young Adults(CARDIA)研究の参加者のデータを用いた。CARDIA研究では、1985~86年に米国の4市で年齢18~30歳の黒人と白人5,115人を登録した。 認知機能は、30年目と35年目に5つの標準化された検査で測定した。また、血漿中のAβ42、Aβ40、p-tau217濃度を測定し、p-tau217/Aβ42比とAβ42/Aβ40比を算出した。 アルツハイマー病の神経病理学的状態(陰性、中間的、陽性)は、各バイオマーカー(p-tau217/Aβ42、p-tau217、Aβ42/40)について、アミロイドPETで検証したカットオフ値に基づいて定義した。 アルツハイマー病の神経病理学的所見と、認知機能(Zスコア)および認知機能の急速な低下との関連を、多変量線形回帰とロジスティック回帰を用いて評価した。処理速度と実行機能の能力低下と関連 1,350人が解析の対象となった。平均年齢は61(SD 3.6)歳(範囲:53.0~69.0)、779人(58%)が女性、613人(45%)が黒人、737人(55%)が白人であった。 アルツハイマー病の神経病理学的所見の、バイオマーカー別の陽性者は、p-tau217/Aβ42で86人(6%)、Aβ42/40で196人(15%)、p-tau217で48人(4%)であった。 これは、処理速度に関する能力低下と関連し(アルツハイマー病の神経病理学的所見の陽性群と陰性群を比較した標準化認知機能差が、Aβ42/40、p-tau217、p-tau217/Aβ42で-0.54~-0.25の範囲、p=0.0001~0.0048)、実行機能の能力低下とも関連した(-0.42~-0.19の範囲、p=0.0070~0.049)。 また、アルツハイマー病の神経病理学的所見の陽性者は陰性者と比較して、言語性記憶(Aβ42/40のオッズ比[OR]:4.31[95%信頼区間[CI]:1.71~10.9]、p-tau217/Aβ42のOR:2.44[1.16~5.13])、処理速度(p-tau217のOR:3.98[95%CI:1.71~9.3]、p-tau217/Aβ42のOR:3.35[1.77~6.35])の加速度的低下のオッズが上昇していた。早期発見での価値を強調する知見 一方、これらの血漿バイオマーカーは、全般的認知機能(global cognition)や流暢性(fluency)とは関連しなかった。 また、一貫性はみられなかったが、血漿バイオマーカーと認知機能の関連にはいくつかの効果修飾が観察され、女性や黒人の参加者、およびAPOEε4保有者においてより強い関連性を認めた。 著者は、「これらの知見は、アルツハイマー病は臨床症状が現れる数十年前に始まっているという概念を裏付けており、一般住民における早期発見のための血漿バイオマーカーの潜在的な価値を強調するものである。血漿バイオマーカーを用いたアルツハイマー病の神経病理学的所見の早期検出は、リスクの低減や薬物療法などによる、中年期の成人に対する時宜にかなった予防や介入を可能にすると考えられる」としている。 また、「手軽な血液検査によってアルツハイマー病の初期の神経病理学的変化を有する個人を特定できれば、認知症の発症の遅延や予防を目的とした戦略や臨床試験の対象を絞り込むのに役立ち、臨床現場と公衆衛生施策の両方に重要な示唆を与える」と指摘している。

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術後の歩数は回復を左右する?

 手術から回復中の患者にとって、散歩は順調な術後回復を促す簡単な方法となるかもしれない。新たな研究で、術後の1日当たりの歩数が術前と比べて1,000歩増加するごとに、入院期間が短縮し、合併症リスクが低下することが示された。このような歩数の増加と転帰改善との関連は、患者の全身状態にかかわりなく、さまざまな種類の手術で認められたという。米オハイオ州立大学ウェクスナー医療センターのTimothy Pawlik氏らによるこの研究結果は、「Journal of the American College of Surgeons」に5月6日報告された。 この研究では、入院手術を受けた成人患者のうち、術前および術後30日以上のデータが取得可能な1,965人(平均年齢50.4歳、女性69.5%)を対象に、術後の1日当たりの歩数および心拍変動(HRV)の変化と、入院期間、合併症の発生、および再入院との関連を検討した。さらに、自己申告による健康状態(ウェルネス)についても、感度分析として術後転帰との関連を検討した。歩数とHRVは、患者が所有するウェアラブルデバイスで測定された。 その結果、年齢、性別、手術リスクなどの因子を調整後も、術前と比べて術後の歩数が1日当たり1,000歩増えるごとに、合併症リスクは30日以内で17%(調整オッズ比0.83、95%信頼区間0.69~1.00)、90日以内で18%(同0.82、0.70~0.96)低下した。さらに、再入院リスクは30日以内で15%(同0.85、0.76~0.96)、90日以内で16%(同0.84、0.75~0.94)低下し、入院期間は6%短縮した(発生率比0.94、95%信頼区間0.90~0.99)。一方、術後のHRVの変化と自己申告によるウェルネスは、いずれの術後転帰とも有意な関連を認めなかった。 こうした結果からPawlik氏は、「本結果には、『鶏が先か、卵が先か』という側面はある。体調が良ければ自然と活動的になるからだ。しかし、歩数と術後回復との関連は非常に強く、歩数は単なる体調の良さの指標ではなく、回復そのものを左右する重要な要素である可能性を示している。患者の歩数低下は、理学療法の導入や経過観察の頻度増加など、早期介入の必要を示すサインとなり得る」と述べている。 またPawlik氏は、「われわれ医師は、術後は起き上がって歩く必要があると患者に伝えているが、実際に、患者がどの程度動いているのかについては把握できていない。ウェアラブルデバイスを用いれば、客観的かつ継続的に活動量を把握できる。患者に気分を尋ねる代わりに、実際に起き上がって動いているかを確認できるため、回復状況を把握する上で非常に有用な指標となる」とニュースリリースで述べている。 さらにPawlik氏は、患者と医師はこのデータを手術前後の目標設定に役立てられると指摘する。「例えば、手術前は8,000歩、術後3日目には6,000歩を目標に設定すれば、患者自身が目標を達成できているかを確認できる。患者にとって具体的な目標となるだけでなく、医師にとっても、退院可能か、あるいは在宅でさらなる支援が必要かを判断するための客観的なデータとなる」と同氏は述べている。

250.

テレビや映画の偏った自閉症の描写が診断の遅れを招く可能性

 映画やテレビに登場する自閉スペクトラム症(ASD)の男性のステレオタイプな描写の影響で、女性やノンバイナリーの人の間でASDの診断が遅れがちになっている可能性が、新たな研究で示唆された。ドラマ『ビッグバン★セオリー ギークなボクらの恋愛法則』(原題:The Big Bang Theory)のシェルドン・クーパーや、映画『レインマン』(原題: Rain Man)のレイモンド・バビットといった登場人物は、ひと目でASDだと分かるように描かれている。しかし、こうした描写は過度に誇張され単純化されているため、ASDの人には共感しにくいものになっていることが判明したという。英スターリング大学のSarah Dantas氏らによるこの研究の詳細は、「Societies」に4月29日掲載された。 Dantas氏は、「この研究は、表象がいかに大きな力を持ち得るかを示している。ASDが偏ったイメージで描かれると、社会の理解だけでなく、当事者の自己理解までもが妨げられる可能性がある。研究参加者は、ステレオタイプな描写が自分自身や自分の子どもを含む他者の診断の遅れにつながったと語っていた」とニュースリリースで説明している。 今回の研究でDantas氏らは、ASDのある4人(女性2人、ノンバイナリーの女性1人、ノンバイナリーの人1人)を対象に、対面式のフォーカスグループ・セッションを実施した。このうち3人は臨床的にASDと診断されており、残る1人は自身をASDと認識していた。参加者は、セッションの中で「ジン(Zine)」と呼ばれる自主制作の小冊子を共同で作成した。この小冊子には、メディアでの描写が自分たちの経験やASDの理解にどのような影響を与えたかを表現した絵やコラージュ、詩などが掲載された。 参加者は、メディアで描かれるASDの人が、概して多面性や自律性、感情の深みなどの人間性を欠いた、限られた特徴や問題点のみで表象されていることを指摘した。参加者の1人であるAndreaさんは、「一般的な登場人物は、立場も性格も居場所もさまざまで、多様に描かれている。一方で、ASDなど何らかの障害を持つ登場人物の場合、皆がこの『小さな箱』の中に押し込められてしまう。ニューロダイバージェントの人(脳や神経の機能の仕方が定型とは異なる人)は、単に“ニューロダイバージェント”として存在しているわけではなく、それを超えた多面性を有する人間なのです」。 別の参加者であるIslaさんは、「私が読んだことや学んだことのせいで(中略)私は自分がASDであり、娘もASDであることに気が付きませんでした。もし事実に基づく正しい知識があり、異なる見方ができていれば、状況は違っていたかもしれません」と話し、メディアのステレオタイプな描写が自分と娘のASD診断の遅れにつながったとした。 研究参加者によると、リアリティ番組でさえASDが極端に固定化されたイメージで示されているという。Netflixのリアリティ番組『ラブ・オン・スペクトラム~自閉症だけど恋したい!』(原題:Love on the Spectrum)について、Andreaさんは次のように指摘している。「この番組では、いつも出演者の母親や父親など保護者のような立場の人が登場します。他の恋愛リアリティ番組で、出演者の母親があれほど頻繁に出てくることがあるでしょうか?」。 Dantas氏は、従来のASDの定義が、主にASDではない専門家によって、しばしば医学的、あるいは「欠陥」に焦点を当てた視点から形作られてきたと指摘する。同氏は、「必ずしもASDの人が語る実体験が、同等に正当で重要なものとして扱われてこなかったということだ。ASDの人の意見を取り入れずに形作られた表現は、人間味を欠き、現実の生活からかけ離れたものになりかねない。一方で、ASDの人が自分の経験を定義し共有できれば、その表現はより多面的で正確かつ意味のあるものになる」と述べている。 参加者は、ASDについて最も有益で、人生を変えるほど重要な気付きを与えてくれたのは他のASDの人だったと繰り返し強調した。Dantas氏は、「このことは、研究だけでなくメディアや公の議論においても実体験を重視することの重要性を改めて示している」と指摘している。

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膵臓がんの発症リスク、血糖と生活習慣で予測可能か

 膵臓がんは早期発見が難しく、診断時にはすでに進行していることが少なくない。今回、静岡県の健診データとレセプトデータを統合した約64万人規模の解析により、血糖指標であるHbA1cや生活習慣が膵臓がんリスクと関連することが明らかになった。研究は、静岡県立総合病院消化器内科の佐藤辰宣氏、名古屋市立大学大学院医学研究科の中谷英仁氏(現・名古屋医療センター臨床研究センター)、静岡社会健康医学大学院大学の田中仁啓氏らのグループによるもので、その詳細は4月6日付で「Pancreatology」に掲載された。 膵臓がんは予後不良ながんとして知られる。一方で、早期に発見できれば5年生存率は80%を超えるとされるが、実際には多くの患者が進行期で診断される。これは、初期には自覚症状に乏しく、血液検査や画像検査でも小さな病変を捉えにくいためである。そのため、症状出現前に発見するには、高リスク者を特定し、重点的に経過観察する戦略が重要となる。しかし、これまでのリスク因子研究では、単独の因子に着目したものが多く、生活習慣や代謝指標を含めて包括的に評価した報告は限られていた。日本では全国規模の健診制度により、血圧、BMI、血液検査、HbA1cなどの情報が広く収集されているが、これらをレセプトデータと統合して膵臓がんリスクを検討した研究は多くない。そこで本研究では、健診データを活用して膵臓がんに関連する因子を再評価し、高リスク者の抽出や将来の早期発見につなげることを目的とした。 著者らは、静岡県国保データベース(SKDB)の2023年度版データ(2012年4月1日~2021年9月30日)を用い、後ろ向き地域住民コホート研究を実施した。対象はコホート期間中に健診を受診した成人で、インデックス日はコホート登録から1年以上経過後に受けた初回健診日とした。膵臓がんまたは他の悪性腫瘍の既往がある者、観察期間が1年未満の者は除外した。主要アウトカムはICD-10コードに基づく膵臓がん発症とし、生活習慣、BMI、血圧、薬剤使用、併存疾患は、健診データ、質問票、処方情報、ICD-10コードをもとに定義した。膵臓がん発症との関連はcause-specific Coxモデルで評価し、モデルの妥当性や多重共線性も確認した。さらに、逆因果の影響を減らすため、インデックス日から2年以内の発症例を除外した感度解析と、年齢・性別によるサブグループ解析も行った。 解析対象は64万1,979人で、追跡期間中央値6.8年の間に4,313人が膵臓がんを発症した。年間発症率は1000人年あたり1.124(95%信頼区間 1.091~1.158)だった。解析の結果、膵臓がんリスクは男性で高く、加齢とともに大きく上昇していた。さらに、代謝異常、膵疾患関連因子、生活習慣のそれぞれが膵臓がん発症と関連していた。特に高血糖との関連では、糖尿病の診断の有無そのものよりも、HbA1c値が膵臓がんリスクとより明瞭な用量反応関係を示した。HbA1c 8%以上ではハザード比(HR)2.85(95%信頼区間 2.29~3.56)に達し、HbA1c 6.0~6.5%程度でもHR 1.37とリスク上昇が認められた。加えて、慢性膵炎、膵嚢胞性病変、高血圧、鉄欠乏性貧血、AST高値、習慣的喫煙も独立したリスク因子だった。一方、脂質異常症やLDLコレステロール高値は膵臓がんリスクと逆相関を示した。 その一方で、糖尿病の診断自体、BMI、大量飲酒は多変量解析では有意な関連を示さなかった。代謝関連因子や生活習慣因子の影響は60歳以上でより顕著であり、インデックス日から2年以内の発症例を除外した感度解析でも、結果は概ね一貫していた。 著者らは、行政請求データと健診データを統合した大規模解析により、日本の一般住民において、代謝因子、生活習慣、膵疾患関連因子が膵臓がん発症に関与することが示されたと述べている。特に、糖尿病の有無そのものではなくHbA1cがリスクと関連したことから、血糖管理の状態がより重要な指標となる可能性が示唆された。また、膵嚢胞性病変は特に強い関連を示しており、画像検査で偶然発見された膵嚢胞もサーベイランス対象として重要である可能性がある。こうした因子を組み合わせてリスク層別化を行うことで、膵臓がんの早期発見戦略の構築につながることが期待される。 ただし、本研究には限界もある。保険請求データに基づく解析であるため診断誤分類の可能性があり、また潜在する膵臓がんそのものによる代謝変化など、逆因果の影響を完全には排除できない点が挙げられる。

252.

不眠症と心房細動の関連、全国178万人データで検証

 不眠症は多くの人が経験する身近な症状であり、生活の質の低下に加え、さまざまな健康リスクとの関連も指摘されている。今回、日本の全国規模データを用いた解析から、不眠症は心房細動の発症リスク上昇と有意に関連することが示され、特に若年層や女性でその傾向が強いことが明らかになった。睡眠の状態が心臓のリズム異常と関連する可能性を示した研究として注目される。研究は、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科循環器内科学分野の増田拓郎氏、江尻健太郎氏、東京大学医学部附属病院循環器内科先進循環器病学講座の金子英弘氏らによるもので、詳細は4月20日付の「Journal of the American Heart Association(JAHA)」に掲載された。 不眠症は臨床現場で頻繁にみられる疾患の一つで、死亡リスクの増加や幅広い慢性疾患との関連が指摘されている。一方、心房細動は高齢者に多くみられる代表的な不整脈で、脳梗塞や心不全などのリスクにもつながる重要な疾患だ。不眠症と心血管疾患との関連を検討した研究は多いものの、心房細動との関連を検討した研究は比較的少なく、一般集団における影響は十分に明らかになっていない。そこで著者らは、日本の全国規模のリアルワールドデータを用いて、不眠症とその後の心房細動発症との関連を検証した。 解析対象は、2014年4月~2023年8月にDeSCデータベースへ登録された、心房細動を含む心血管疾患の既往がない約178万人で、不眠症と診断されていた人とそうでない人に分けて、その後の新規心房細動の発症リスクを比較した。DeSCデータベースには、診療報酬請求情報に加え、健診データや処方情報などが含まれる。主要評価項目は心房細動の新規発症とし、不眠症の有無による発症リスクをCox比例ハザードモデルで比較した。解析では、年齢や性別に加え、高血圧や糖尿病、睡眠時無呼吸症候群、喫煙、飲酒、身体活動などの影響も調整した。 対象者178万764人のうち、21万6,919人(12.2%)に不眠症が認められた。追跡期間中央値3.7年の間に、2万5,779人(1.4%)が新たに心房細動を発症した。不眠症のある人では、ない人に比べて心房細動発症率が高く(10,000人年当たり57.8 vs 35.4)、各種因子を調整した解析でも、心房細動の発症リスクは有意に高かった。調整後ハザード比は1.14(95%信頼区間1.10~1.18)で、リスクは14%上昇していた。サブグループ解析でも全体と同様の傾向がみられたが、65歳未満および女性では、不眠症と心房細動発症との関連がより強い傾向が示された(P for interaction=0.01、0.03)。 著者らは、本研究により、不眠症を単なる睡眠の悩みにとどまらず、心房細動のリスク因子として捉える重要性が示されたと述べている。その上で、心房細動予防の観点から睡眠管理にも目を向ける必要があり、さらなる研究が求められるとしている。また、不眠症に伴う自律神経の乱れや炎症、ホルモンバランスの変化が、心房細動発症に関与する可能性も指摘している。 本研究の限界点として、日本人中心の保険・健診データを用いた観察研究であり、診断がICD-10コードに依存している点や残余交絡の可能性などが挙げられる。

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冠微小循環障害と予後―CFR・IMRによる評価の妥当性を巡って(解説:野間重孝氏)

 本論文は、虚血性心疾患が疑われ侵襲的冠動脈造影を受けた患者を対象に、冠微小循環障害(coronary microvascular dysfunction:CMD)の有病率と予後的意義を検討した韓国7施設による前向き多施設コホート研究である。著者らは、冠動脈造影に加えて冠血流予備量比(fractional flow reserve:FFR)、冠血流予備能(coronary flow reserve:CFR)、微小循環抵抗指数(index of microcirculatory resistance:IMR)を系統的に評価し、CFR<2.0かつIMR≧25をCMDと定義した。その結果、CMDは非閉塞性冠動脈疾患のみならず、閉塞性心外膜冠動脈疾患を有する患者にも認められ、さらに全死因死亡、心筋梗塞、臨床的再血行再建術、または心不全入院から成る主要複合エンドポイントの増加と関連したと報告している。本研究は、心外膜冠動脈狭窄を中心として理解されてきた虚血性心疾患に、冠微小循環評価を組み込もうとする研究であるが、その解釈には後述するようにいくつかの慎重な検討を要する。 CMDとは、冠動脈造影で可視化される心外膜冠動脈狭窄だけでは説明しきれない心筋虚血、胸痛、あるいは予後不良を、細動脈・毛細血管レベルの冠循環異常として捉えようとする概念である。従来、虚血性心疾患は主として心外膜冠動脈狭窄の有無とその重症度によって理解されてきたが、実際の冠循環は心外膜冠動脈から微小循環、さらに心筋灌流へと連続した系として働いている。したがって、冠動脈造影で明らかな高度狭窄を認めない場合、あるいは心外膜冠動脈病変を治療した後にも症状や虚血が残存する場合には、微小循環レベルの異常が関与する可能性が考えられる。ただし、CMDは単一の疾患単位ではなく、構造的微小血管障害、血管反応性異常、内皮機能障害、微小血管攣縮などを含む広い病態概念である。 現時点において、CMDを臨床的に正確かつ直接的に評価する標準的指標は、なお確立されているとは言い難い。そのため実臨床および臨床研究では、CFRやIMRなどの冠循環生理学的指標が、いわば代替的指標として用いられている。CFRは、安静時冠血流に対して最大充血時に冠血流がどの程度増加しうるかを示す指標であり、冠循環全体としての血流予備能を反映する。一方、IMRは、最大充血時の遠位冠動脈圧と平均通過時間から算出され、微小循環抵抗を推定する指標とされる。しかし、CFRは心外膜冠動脈狭窄、びまん性冠動脈硬化、血圧、心拍数、左室拡張末期圧、薬剤などの影響を受け、IMRも測定血管、最大充血の程度、PCI前後の状態、手技条件などに左右される。したがって、CFRやIMRはCMDを考えるうえで有用な生理学的指標ではあるものの、微小循環障害そのものを直接可視化し、その存在を確定的に評価しうるものではない。 本研究の意義は、CMDを非閉塞性冠動脈疾患に限られた病態としてではなく、閉塞性心外膜冠動脈疾患にも併存しうる予後関連因子として、前向き多施設コホートで検討した点にある。従来、CMDは有意な心外膜冠動脈狭窄を認めないにもかかわらず、胸痛や虚血を呈する患者群において注目されることが多かった。しかし本研究では、虚血性心疾患が疑われ侵襲的冠動脈造影を受けた患者を対象にFFR、CFR、IMRを系統的に評価し、CFR<2.0かつIMR≧25と定義されるCMDが、閉塞性心外膜冠動脈疾患を有する患者にも認められること、さらにCMD群において主要複合エンドポイントが高率であったことを示した。 ただし、この結果を解釈する際には、本研究におけるCMDの定義そのものに立ち返る必要がある。考察の冒頭で著者らは、本研究が「CMDが心外膜冠動脈疾患としばしば併存することを示した」と述べている。しかし、本研究におけるCMDはCFR<2.0かつIMR≧25という冠循環生理学的指標に基づく操作的定義であり、微小循環障害そのものを直接証明したものではない。また、閉塞性心外膜冠動脈疾患を有する患者におけるCMDの頻度は21.5%であり、これを「しばしば併存する」と表現すること自体は可能であるとしても、その病態学的意味についてはより慎重な考察が必要であったと思われる。 加えて、本研究ではCMD群がベースラインの時点で高齢であり、高血圧、慢性腎不全、NT-proBNP高値、FFR≦0.80、PCI施行率なども高かったことから、この群がもともとより重い全身性血管障害ないし冠動脈疾患を有する集団であった可能性を否定できない。多変量解析による補正は行われているものの、観察研究である以上、残余交絡を完全に排除することは困難であり、主要エンドポイントの増加をCMDそのものに帰するには慎重であるべきである。 また、CFRおよびIMRという指標そのものの信頼性についても留意が必要である。生理学的評価は抗狭心症薬や血管作動薬の標準的washoutなしに行われており、測定値が薬剤影響下の冠循環反応を反映している可能性がある。さらに、閉塞性冠動脈疾患を有するCMD例の一部ではPCI後のCFR・IMR測定値に基づいてCMDが分類されているが、PCI後のCFRやIMRは手技に伴う微小循環への影響、distal embolisation、slow flow、血管拡張反応の変化などを受けうるため、必ずしもPCI前の微小循環状態をそのまま反映するものではない。加えて、CMDの定義に用いられたCFR<2.0という閾値自体も操作的であり、カットオフ値の設定はCMDの有病率や予後との関連に影響しうる。さらに、CMDには空間的不均一性が存在しうるにもかかわらず、評価は主として限られた冠動脈領域で行われており、その測定値を患者全体の微小循環状態の代表として扱うことにも限界がある。このように見れば、本研究でCMDと分類された群は、微小循環障害そのものを特異的に示す集団というより、より広範な冠動脈疾患重症度や冠循環予備能低下を反映する高リスク集団であった可能性がある。 この点は、主要複合エンドポイントの内訳からも示唆される。主要複合エンドポイントはCMD群で18.8%、非CMD群で10.5%と有意に増加していたが、個別項目では心筋梗塞および心不全入院の明確な増加は認められず、むしろ臨床的再血行再建、とくに非標的血管再血行再建やdeferred vessel revascularisationの増加が目立つ。したがって、本研究の結果を、CMDそのものが直接心筋梗塞や心不全を増加させたことの証明として読むのは適切ではない。むしろ、CFR低下とIMR上昇を併せ持つ患者群が、より広範な冠動脈疾患進展リスク、再評価・再治療リスク、あるいは残余リスクを有する可能性を示したものと解釈するほうが妥当であろう。 本研究は、CMDという病態概念を虚血性心疾患全体の中に位置付け直そうとする意義ある試みである。しかし、著者らがCMDと呼ぶ病態は、CFR<2.0かつIMR≧25という冠循環生理学的指標に基づく操作的定義であり、微小循環障害そのものを直接可視化し、病理学的に確定したものではない。したがって本研究は、CMDそのものの因果的意義を確定した研究というより、本研究で定義されたCMD表現型が、虚血性心疾患患者における残余リスクを識別しうる可能性を示した研究として読むべきであろう。

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「給料が上がらない…」と悩む先生へ。歴史的な実質金利マイナスで資産形成する方法【医師のためのお金の話】第105回

医師の給与所得が頭打ちとなる一方、加速するインフレが着実に私たちの収入や資産を蝕んでいます。他業界のように給与が上がらない医師は、かつてない転換点に立っていると言えるでしょう。そして、今後の命運を分ける鍵は「実質金利」にあります。医師の多くは経済に馴染みが薄いですが、現在はインフレ率が名目金利を上回る「実質金利マイナス」の状態です。実質金利マイナスとは、借金が実質的な価値を生むという驚くべき逆転現象の世界です。デフレ期とは180度異なる、実質金利マイナスという状況をどう捉えるべきでしょうか。結論から言うと、実質金利マイナスの恩恵を存分に受けるためには、銀行融資を受けて不動産投資を実践するのが有効です。インフレによる収入や資産の目減りを座して待つのか、それとも歴史的な好機をチャンスに変えるのか…。金利上昇という予測できないリスクを睨みつつ、インフレ下でも購買力を守り抜くための生存戦略を考えてみましょう。資産形成の鍵を握る「実質金利」私が資産形成において最も注視している指標の1つに、「実質金利」があります。実質金利とは、中央銀行が操作する政策金利(名目金利)から、物価の上昇率(インフレ率)を差し引いた数値のことです。計算式は以下のように非常にシンプルです。実質金利=名目金利-インフレ率たとえば、2026年3月現在の状況を見てみましょう。名目金利は0.75%であるのに対して、インフレ率は約1.8%に達しています。この場合、実質金利は「マイナス1.05%」となります。ずいぶん金利が上がったように思えますが、実質金利は水面下に沈んでいるのです。「借金でお金がもらえる」という逆転現象実質金利がマイナスであるとは、一体どういう意味でしょうか。わかりやすく言えば、「100円を借りた時、年間1.05円もらっている」という状態です。お金を借りている側が、融資されたお金の価値の目減りという形で実質的に利息を受け取っています。一見すると「そんなバカな話があるはずない」と感じるかもしれません。しかし、インフレ下の現代社会では、この逆転現象が現実のものとなっています。こうした状況下で最も経済的に合理性がある行動は「借りられるだけのお金を借りること」にほかなりません。とはいえ、銀行は使途が不明な資金を簡単には貸してくれません。もし消費者金融で借りると、年利17%なので実質金利はプラス15.2%です。これでは何の意味もありませんね。個人が低金利で巨額の融資を受けるには、不動産購入が最も現実的な手段となります。インフレ率と並行して物件価格が上昇していくと仮定すれば、不動産投資を通じて融資を受けることは「実質的に銀行から金利をもらいながら、資産が自分の物になっていくこと」です。こんな美味しい話はないですね。じつは、日本においても実質金利がこれほど有利に働く期間はまれです。かつてのデフレ期は名目金利こそゼロでしたが、物価上昇率がマイナス(=物価が下落)だったため、実質金利はむしろプラスでした。つまり、お金を借りる側にとって厳しい時代だったのです。ところが、コロナ禍を経てインフレ率が3%前後に上昇した現在、政策金利は上昇していますが、インフレ率に追いついていません。むしろ実質金利のマイナス幅は拡大しています。投資家にとって、今はまさに千載一遇の追い風が吹いている状況と言えるでしょう。「金利上昇」リスクと「座して待つ」リスクもちろん、巨額の融資を引いて不動産投資に邁進することには、相応のリスクも伴います。その筆頭が、金利の上昇です。インフレや円安を抑えるために政府が利上げを加速させて、実質金利がプラスに転じれば、不動産投資には一転して強い逆風が吹きます。金利の上昇幅を正確に予測することは誰にもできません。そのため、不動産投資に取り組む際は、常にこの外部要因を冷静に観察し続ける必要があります。また、急激な利上げ局面では物件価格が下落しやすく、思うような価格で売却できないリスクと隣り合わせです。しかし現在、私たち医師の給与所得は頭打ちの傾向にあります。一方でインフレが継続しているということは、実質的な購買力が毎年目減りしていることにほかなりません。このままインフレを傍観して、少しずつ収入や資産を削っていくのか。それとも、金利上昇リスクを適切に管理しながら、マイナス金利という歴史的な恩恵を資産形成に取り込むのか。この特殊な状況をどう活かすかは、あなた次第と言えるでしょう。なお、不動産投資のリスクが高いのはご存じのとおりです。投資は自己責任でお願いします!

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第299回 子供の軽症時、保護者の7割が「まず医療機関」 医療費構造の認知に課題/健保連

<先週の動き> 1.子供の軽症時、保護者の7割が「まず医療機関」 医療費構造の認知に課題/健保連 2.令和5年度病院立入検査、医師・看護師・薬剤師の人員適合率が低下/厚労省 3.高額療養費見直しでパブコメ開始、2026年8月から月額上限引き上げへ/厚労省 4.病院の情報管理に警鐘、研究用PC端末と廃棄媒体から患者データ流出か/九大ほか 5.チルゼパチド製剤の不適切使用に注意喚起、違法流通にも警鐘/リリー 6.髄腔内注射後に死亡、事故調が報告書概要 混入経路は特定できず/埼玉県 1.子供の軽症時、保護者の7割が「まず医療機関」 医療費構造の認知に課題/健保連健康保険組合連合会は6月3日、全国の20~80代3,000人を対象に2026年1月に実施した「医療・介護に関する国民意識調査」の速報版を公表した。医療費・介護費の増加と支え手の減少が進む中、保険料負担を「非常に重い」「やや重い」と感じる人は62.7%に上り、健保連は保険料のさらなる引き上げには限界感があるとみている。医療保険の給付と負担のあり方では、「給付を大幅に絞り込み、負担を軽減」が15.0%、「給付を絞り込み、負担の水準を維持」が25.0%で、給付範囲の見直しを求める回答が計40.0%となった。増加する医療費を賄う方法としては、「自己負担の増加(患者本人の窓口負担)」を選んだ人が30.2%に上り、税金の引き上げまたは新設(12.0%)や保険料の引き上げ(10.8%)を上回った。ただし「わからない」が44.1%と最多で、制度や財源構造への理解不足も示された。世代間負担では、「高齢者の負担増はやむを得ない」が37.1%で、「高齢者負担増は難しく、現役世代の負担増はやむを得ない」の18.1%を大きく上回った。75歳以上でも40.0%が高齢者自身の負担増を容認していた。高齢者医療では、70~74歳の原則2割負担の対象年齢を5歳引き上げる案に賛成35.7%、反対22.5%。将来的に高齢者の窓口負担を原則3割に見直す案も賛成34.2%が反対29.9%を上回ったが、60代以上では慎重姿勢が目立った。その一方で、軽度の体調不良時の受診行動では、大人で「まず医療機関を受診する」は30.6%にとどまるのに対し、18歳未満の子どもでは69.2%に達した。自治体の子供医療費助成について、自己負担が無料でも残りの多くは保険料で賄われることを「知らない」は全体で67.1%、子育て世帯でも54.4%だった。小児の軽症受診には不安軽減という側面がある一方で、時間外受診や小児科・救急外来の負荷にもつながる。健保連は、「無償化の下でも必要性に応じた適切な受診を考えて欲しい」としている。2026年度の健保組合収支は2,890億円の赤字見通しで、約7割の組合が赤字とされる。現役世代の保険料負担、高齢者医療への拠出、子供・子育て支援金の上乗せが重なる中、制度改革には国民への丁寧な説明が欠かせない。医療現場には、単なる受診抑制ではなく、救急性の見極め、家庭での観察、市販薬の活用、適正受診を患者・家族に伝える役割が一段と求められる。 参考 1) 医療・介護に関する国民意識調査-速報版-(健保連) 2) 医療費が増加する中で「患者の窓口負担増で対応すべき」「高齢者の負担増もやむなし」と考える国民が比較的多い-健保連(Gem Med) 3) 体調不良、子ども7割すぐ受診 「無償でも適切利用を」-健保連(時事通信) 4) 健康保険組合 2026年度は「2,890億円赤字」の見通し 加盟組合の約7割が赤字 高齢者医療費への拠出増などで 健保連が集計(TBSテレビ) 2.令和5年度病院立入検査、医師・看護師・薬剤師の人員適合率が低下/厚労省厚生労働省は、2023年度の「医療法第25条に基づく病院に対する立入検査結果」を公表した。対象は全国8,138病院で、7,587病院に検査を実施。実施率は93.2%と前年度から5.4ポイント上昇し、コロナ禍前に近い水準まで回復した。検査は、病院が医療法上の人員、構造設備、管理体制を満たしているかを確認するものだ。その一方で、医療法に基づく医療従事者の標準数への適合率は、主要職種でそろって低下した。医師数は97.9%で前年度比0.4ポイント減、看護師・准看護師数は99.4%で0.1ポイント減、薬剤師数は97.7%で0.4ポイント減だった。医師数では、北海道・東北が94.2%、北陸・甲信越が97.1%と低く、東海99.0%、近畿99.6%との差が目立った。病床規模別では、20~49床の一般病院で医師95.3%、看護師など98.1%、薬剤師93.9%と、小規模病院ほど人材確保の厳しさが示された。医師と看護師などの双方が標準数を満たした病院は全体の97.0%で、前年度の97.5%から低下。医師のみ不足する病院は155施設、看護師などのみ不足する病院は65施設、双方不足は5施設だった。薬剤師は中国地方95.2%、九州96.2%などで低く、病院薬剤師不足の地域差も浮き彫りとなった。管理面では、最も適合率が低かった項目が「サイバーセキュリティの確保」の91.1%だった。次いで職員の健康管理92.1%、医療法許可事項の変更92.7%が低かった。医療情報システムへの攻撃が診療継続を脅かす中、サイバー対策は医療安全上の重要課題として、立入検査でも確認が強まっている。人員不足と情報セキュリティの遅れは、地域医療提供体制と病院運営の持続性に直結する論点となる。人員適合率は医師の働き方改革、地域医療構想、薬剤師確保計画とも重なる課題として、各病院には自院だけでなく地域単位での人材配置と安全管理の再点検が求められる。 参考 1) 医療法第25条に基づく病院に対する立入検査結果について[令和5年度](厚労省) 2) 医療法に基づく人員の適合率、医師、看護職員、薬剤師とも低下-23年度病院立入検査(日本医事新報) 3) 病院の医師配置適合率は97.9%、看護師等は99.4%に低下、サイバーセキュリティ確保が遅れている-2023年度立入検査結果(Gem Med) 3.高額療養費見直しでパブコメ開始、2026年8月から月額上限引き上げへ/厚労省厚生労働省は6月6日、高額療養費制度の見直しに伴う健康保険法施行令等の改正案について、パブリック・コメントの募集を開始した。意見提出の期限は7月6日で、政令案と省令案の双方が対象となる。改正案は、2026年8月から月額負担上限額を1人当たり医療費の伸びに応じて見直し、2027年8月からは応能負担の観点で所得区分を細分化する内容で、公布は2026年7月、施行は同年8月1日を予定している。高額療養費制度は、重い疾病や高額な治療を受ける患者にとって、医療費負担を一定範囲に抑える公的医療保険の中核的なセーフティネットである。今回の見直しでは、低所得者や長期療養者への配慮として、多数回該当の限度額は原則維持し、年収約200万円未満の課税世帯では2027年8月から引き下げる。また、2026年8月から新たに年間上限を設け、長期にわたり継続治療を受ける患者への負担軽減を図るとしている。見直しを巡っては、2025年3月に当時の石破 茂首相がいったん実施見合わせを表明し、その後、社会保障審議会医療保険部会の専門委員会で患者団体、保険者、医療者、有識者へのヒアリングを重ねてきた経緯がある。その一方で、患者団体や保険医協会からは、月額上限の引き上げが治療継続や生活に与える影響を懸念する声が出ている。全国がん患者団体連合会と日本難病・疾病団体協議会の共同声明は、制度の一定の見直し自体には理解を示しつつ、月ごとの限度額については十分に抑制されていないと指摘している。例として、70歳未満で年収約650~770万円の区分では、現行の月額8万100円に医療費超過分の1%を加える水準から、見直し案では11万400円となり、37%増になるとしている。医療現場では、高額薬剤、がん治療、難病治療、透析、免疫疾患治療など、継続的に高額医療を必要とする患者への説明が重要になる。制度変更は、単なる「上限額の引き上げ」にとどまらず、月額負担、多数回該当、年間上限、所得区分の変更を組み合わせて患者ごとの実負担が変わる点に注意が必要となる。受診抑制や治療中断を避けるため、医療機関には、医療ソーシャルワーカーや医事課と連携し、限度額適用認定証、付加給付、自治体制度、分割払い相談などを含めた支援体制の再確認が求められる。 参考 1) 健康保険法施行令等の一部を改正する政令案に関するご意見の募集について(厚労省) 2) 健康保険法施行規則等の一部を改正する省令案に関するご意見の募集について(同) 3) 高額療養費見直し、厚労省が意見募集 7月5日まで(CB news) 4) 今年8月からの高額療養費「値上げ」 厚労省が意見募集開始(保団連) 5) 【募集】高額療養費制度の見直しについてのパブリック・コメント(日本難病・疾病団体協議会) 4.病院の情報管理に警鐘、研究用PC端末と廃棄媒体から患者データ流出か/九大ほか九州大学は6月10日、九州大学病院の患者43人分の氏名と手術動画データが外部に流出した可能性が否定できないと発表した。病院キャンパス内の研究室が管理する研究用端末1台が5月25日に不正アクセスを受け、ランサムウェアに感染したとみられる。教員が端末を起動した際、金銭を求める脅迫文が表示され、大学は直ちにネットワークから遮断した。端末は診療用ネットワークとは分離されており、電子カルテや診療業務への影響は確認されていない。情報の公開や悪用も現時点では確認されておらず、対象患者には個別に連絡し、謝罪している。大学では福岡県警とも連携し、侵入経路や被害範囲を調査する。その一方で、国立病院機構は6月8日、北海道医療センターと北海道がんセンターで廃棄処理を委託したハードディスクがインターネットオークションに転売され、患者や職員の個人情報が流出した可能性があると発表した。回収した90点のうち、31点が北海道医療センター、2点が北海道がんセンターで電子カルテシステムなどに使われていた。少なくとも約18万6,900人分、最大で約51万人分の氏名、住所、疾患名などが含まれる可能性がある。現時点で不正利用は確認されていないが、同機構は処分を受託した石狩市の産業廃棄物処理業者を廃棄物処理法違反の疑いで刑事告発した。2つの事案は、医療情報の漏えいリスクが電子カルテ本体へのサイバー攻撃だけではないことを示す。研究室端末に保存された手術動画、廃棄予定媒体に残った電子カルテ情報のいずれも、診療・研究・教育・廃棄の周辺工程で発生した。医療機関には、端末のアクセス管理、研究データの匿名化、ネットワーク分離、外部記録媒体の暗号化、廃棄時の物理破壊確認、委託先監査まで含めた情報管理体制の再点検が求められる。 参考 1) 九州大学 病院の患者データ 外部流出の可能性否定できない(NHK) 2) 手術動画流出の可能性、九大病院患者43人分 ランサムウェア感染か(朝日新聞) 3) 不正アクセスで手術動画データなど流出か 九州大病院 診療業務は通常通り(CB news) 4) 北海道がんセンターなどの患者情報が流出、最大51万人分…処分予定のHDDがネットオークションに転売(読売新聞) 5.チルゼパチド製剤の不適切使用に注意喚起、違法流通にも警鐘/リリー日本イーライリリーは6月10日、2型糖尿病治療薬チルゼパチド(商品名:マンジャロ)の不適切使用に関する声明を公表した。SNSや広告で、美容・痩身・ダイエット目的の使用を推奨していると受け取れる情報が拡散し、さらに許可なく同薬を売買した疑いで男女3人が書類送検されたことを受けた対応。上野 賢一郎厚生労働大臣も、個人間売買は違法であり、適応外使用では思わぬ副作用につながる可能性があるとして、適正使用を呼びかけている。同社は、「国内で承認されているチルゼパチドの効能・効果は『2型糖尿病』のみであり、医師の診断、管理、指導のもと、電子添付文書に則って使用される処方箋医薬品だ」と強調した。2型糖尿病以外の人が美容目的などで使用した場合の有効性・安全性は医学的に確認されていない。また、医薬品を許可なく個人間で売買・転売する行為は薬機法違反であり、管理されていない流通経路で入手した製品は品質や安全性が担保されず、本来の効果が得られないだけでなく、重篤な健康被害を招くリスクがあると警告した。その一方で、同一成分のチルゼパチド製剤には、肥満症治療薬「ゼップバウンド」もある。ただし、対象は高血圧、脂質異常症、耐糖能障害などを伴い、食事療法・運動療法で十分な効果が得られない肥満症患者などに限られ、単なる美容目的の減量とは異なる。医師による客観的診断と適切な処方プロセスが前提となる。報道では、使用済み注射針の不適切廃棄も問題化している。公共トイレなどへの投棄は清掃員らの針刺し事故や血液媒介感染のリスクにつながる。医療機関には、適応、禁忌、副作用説明に加え、入手経路や廃棄方法まで含めた患者教育が求められる。GIP/GLP-1受容体作動薬の需要が急拡大する中、適正使用、違法流通対策、供給管理は、糖尿病診療と肥満症治療の信頼性を守る医療安全上の課題となっている。 参考 1) 当社製品の適正使用に関する取り組み(日本イーライリリー) 2) 美容目的「マンジャロ」使用、製造元日本法人が警告 不適切使用や違法売買「容認できず」(J-CASTニュース) 3) 2型糖尿病治療薬「マンジャロ」の適正使用を推進 日本イーライリリーが不適切使用や違法転売に注意喚起(糖尿病ネットワーク) 4) 「マンジャロ注射針」不法投棄が横行で感染リスクへの懸念も…東京メトロが明かした“針刺し事故”の実例(女性自身) 6.髄腔内注射後に死亡、事故調が報告書概要 混入経路は特定できず/埼玉県埼玉県立小児医療センターは6月12日、白血病患者が抗がん剤の髄腔内注射後に神経症状を発症し、1人が死亡、2人が重体となった問題で、医療事故調査委員会の報告書概要を公表した。センターでは2025年1~10月、髄腔内化学療法を受けた患者5人に発熱、四肢疼痛、意識障害、呼吸障害などの神経症状が出現。死亡した10代男性を含む一部症例の保存髄液から、髄腔内に投与されるはずのない抗がん剤ビンクリスチンが検出された。委員会は、ビンクリスチンが通常の静脈内投与で中枢神経系へ移行する可能性は限定的であることなどから、「髄注薬に混入した状態で投与された可能性が極めて高い」と判断した。その一方で、混入経路を直接示す客観的証拠は確認されず、具体的な工程の特定には至らなかった。搬送、病棟保管、投与の各工程では、専用接続部品が注射筒に装着されていたことなどから、混入は極めて考えにくいと評価した。焦点となったのは無菌調製室での薬剤調製工程だ。報告書は、髄注薬とビンクリスチンが同じ空間に存在し得る運用で、空間的・時間的分離が十分とは言えなかったと指摘。調製完了時刻を客観的に確認できる記録や映像記録がなく、複数名によるリアルタイムの相互確認体制も整備されていなかったため、「調製時に混入した可能性を否定できない」と結論付けた。再発防止策として、髄注薬とビンカアルカロイド系抗がん剤の空間的・時間的分離、薬剤師2人によるダブルチェック、在庫・廃棄管理の強化、監視カメラ設置、マニュアル改定、投与前確認や廃棄工程の標準化、シリンジ払い出し廃止とミニバッグ化、定期監査、継続的な安全教育の9項目を提言した。センターは現在、髄腔内化学療法を中止しており、岡 明病院長は「まずは再発防止策を徹底して安全確保を図る」と述べ、再開時期は県や保健所と協議して検討する考えを示している。 参考 1) 使われるはずない薬「調製時混入の可能性」 埼玉・小児医療センター(朝日新聞) 2) 劇薬管理強化へ9項目 事故調報告書 小児医療センター(毎日新聞) 3) 埼玉の病院の医療死亡事故、調査報告「調剤時の混入否定できず」(日経新聞)

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【GET!ザ・トレンド】脳血管内治療の新分野「脳血管内電極」の最前線

脳血管内治療の技術を応用して、脳活動を血管内から記録または刺激する「endovascular neural interface(血管内神経インターフェース)」の現状と臨床応用の可能性を整理した総説論文がJournal of NeuroInterventional Surgery(JNIS)に掲載された1)。本記事ではこの論文を紹介する。血管内神経インターフェースの概要と意義脳活動の記録には、従来から頭皮脳波が広く用いられている。頭皮脳波は安全で非侵襲的であり、日常診療でも実施しやすい。一方で、頭蓋骨や頭皮を介して信号を記録するため、信号は減弱し、空間分解能にも限界がある。特に、深部や脳溝内、限局した皮質領域に由来する活動は捉えにくい。これに対して、硬膜下電極や定位的頭蓋内脳波(SEEG)は、より高品質な信号を得ることができるが、開頭や穿頭、脳実質内への電極挿入を伴うため、出血や感染などの侵襲性が課題となる。脳血管内神経インターフェースは、この「低侵襲だが信号に限界がある頭皮脳波」と、「高品質だが侵襲的な頭蓋内電極」の中間に位置する新しいアプローチである。この技術の基本的な発想は、静脈洞や皮質静脈など、脳表に近接する血管内に電極を留置し、血管の内側から脳活動を記録する点にある。脳血管内治療で日常的に用いられているカテーテル操作を応用できるため、開頭を避けながら脳に近い位置から信号を取得できる可能性がある。とくに静脈系は、脳表に近い走行を取るうえ、比較的拍動の影響が少ないことから、電極留置の標的として有望である。ただし、血管内にデバイスを置く以上、血栓形成、血管閉塞、デバイス移動、血管解剖の個人差、抗血栓療法の必要性など、脳血管内治療に共通する管理上の課題を避けて通ることはできない。したがって、この分野では「信号が取れるか」だけでなく、「血管内デバイスとして安全に留置・管理できるか」が臨床応用の鍵となる。臨床応用のフロントランナー:StentrodeとEP-01現在、臨床応用に近い代表的なプラットフォームとして、StentrodeとEP-01が挙げられる。・Stentrode(本邦未承認品)Stentrodeは、Synchronが開発するステント状電極で、主に筋萎縮性側索硬化症の患者に対するbrain–computer interface(BCI)を目的とした慢性留置型デバイスである。上矢状静脈洞に留置し、運動野近傍から長期的に脳活動を記録する。初期のヒト臨床研究では、重度麻痺患者がBCIとしてのStentrodeを用いて、考えるだけでデジタル機器操作が可能となり、12ヵ月時点で重篤なデバイス関連有害事象、静脈閉塞、明らかなデバイス移動は報告されていない。一方で、慢性留置型であるため、抗血小板療法の期間、長期開存性、内皮化、リードやコネクタの耐久性、将来的な再治療や抜去の可否などが、今後の重要な検討課題である。・EP-01(本邦未承認品)EP-01は日本で開発された、難治性てんかんの術前評価を念頭に置いた一時留置型の脳血管内脳波デバイスである。両側内頸静脈からアプローチし、横静脈洞、海綿静脈洞、上矢状静脈洞など複数の静脈内に電極を配置できる点が特徴である。従来の頭皮脳波では検出できないてんかん性放電を、脳表に近い静脈内から検出できる可能性が前臨床・初期臨床研究で示されている。とくに、左右どちらの半球にてんかん焦点があるかを判断する「側方診断」への応用が期待されている。現在進行中のEPSILON IE試験では、従来の頭蓋内脳波との診断一致を主要評価項目として、難治性焦点てんかん患者における有効性と安全性を検証中である。デバイスの使用方法とチーム医療の必要性EP-01はStentrodeとは異なり、長期留置を目的とした完全植込み型ではなく、最大約2週間の一時留置と抜去を前提としている。そのため、既存のてんかんモニタリング環境に接続しやすい一方で、体外に出るリードの固定、感染予防、留置中の血栓リスク管理が重要となる。血管内デバイスでありながら、脳波モニタリング機器でもあるという二面性を持つため、脳血管内治療医、てんかん専門医、臨床神経生理・看護・検査部門を含めたチーム医療が不可欠である。今後の展望:既存技術を補完する新しい選択肢へ本論文の重要なメッセージは、血管内神経インターフェースが既存の頭皮脳波、硬膜下電極、SEEGを直ちに置き換える技術ではなく、症例に応じて補完的に用いられる可能性のある新しい選択肢だという点である。今後の臨床導入には、信号検出の実証だけでなく、診断や治療方針を実際に変える臨床的有用性、安全な手技の標準化、血管開存性の長期評価、デバイス不具合や感染への対応を明確にする必要がある。将来的には、てんかん診断、BCI、ニューロモデュレーション、さらには集中治療領域での脳モニタリングなどへ応用が広がる可能性があり、脳血管内治療と神経科学を結びつける新しいトランスレーショナル分野として注目される。 1) Hosoo H, et al. J NeuroIntervent Surg 2026;0:1-7

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第98回 ターゲット・トライアル・エミュレーションとは?【統計のそこが知りたい!】

第98回 ターゲット・トライアル・エミュレーションとは?近年、医療分野における因果推論の手法として「ターゲット・トライアル・エミュレーション(Target Trial Emulation:TTE)」が注目を集めています。これは、「観察研究のデータを用いてランダム化比較試験(RCT)の結果を模倣し、因果関係を明らかにしよう」とするアプローチです。今回は、なぜこの手法が注目されているのか、具体的にどのようなものかについて解説します。■なぜTTERCTは、治療や介入の効果を評価するうえで最も信頼性の高い方法とされています。しかし、倫理的・時間的・金銭的な制約から、すべての臨床疑問に対してRCTを実施することは現実的ではありません。その一方で、観察研究は既存のデータを活用できるため、これらの制約を回避できますが、交絡因子やバイアスの影響を受けやすく、因果関係の推定には限界があります。このような背景から、観察データを用いてRCTのような厳密な因果推論を可能にするTTEが注目されるようになりました。■TTEとはTTEとは、「観察研究において、理想的なRCT(ターゲット・トライアル)を仮想的に設計し、その試験を模倣する形でデータ解析を行う手法」です。具体的には、以下の手順で進められます。1)仮想RCTの設計研究者が明らかにしたい因果関係に基づき、適格基準、治療戦略、割り当て手順、追跡期間、アウトカムの設定、効果の種類、分析計画などを明確に定義します。2)観察データでの模倣1)で設計した仮想RCTに対応する形で、観察データから適切な対象者を選び出し、治療群と対照群を設定し、解析を行います。この方法により、観察研究であってもRCTに近い形で因果関係を推定することが可能となります。■TTEで何ができるのかTTEの手法を用いることで、以下のことが可能となります。(1)因果関係の推定観察データから、交絡因子やバイアスの影響を最小限に抑えつつ、因果関係を推定することができる。(2)倫理的・実践的制約の克服倫理的にRCTが難しい場合や時間・費用の制約がある場合でも、観察データを活用して効果の推定が可能となる。(3)既存データの有効活用電子カルテや保険データなど、既存の大規模データベースを活用して、新たな知見を得ることができる。■TTEのメリットTTEの手法には以下のメリットがあります。(1)柔軟性:観察データを用いるため、さまざまな状況や集団に適用可能。(2)コスト効率:新たなRCTを実施するよりも、費用や時間が節約できる。(3)リアルワールドデータの活用:日常診療で収集されたデータを活用することで、より一般化可能な結果が得られる。■注意すべきポイントTTEの手法を用いる際には以下の点に注意が必要です。(1)バイアスの可能性観察データには未測定の交絡因子や選択バイアスが存在する可能性があり、結果の解釈には慎重さが求められる。(2)時間依存交絡時間とともに変化する交絡因子の影響を適切に調整しないと、推定結果にバイアスが生じる可能性がある。(3)モデルの適切性統計モデルの選択や仮定が結果に大きく影響するため、適切なモデル設定が重要。TTEは、観察研究の限界を克服し、因果関係を推定するための有力な手法として注目されています。しかし、その適用には慎重な設計と解析が求められます。論文を読む際には、この手法の利点と限界を理解し、結果の解釈に役立ててください。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ「わかる統計教室」第3回 理解しておきたい検定セクション4 仮説検定の意味と検定手順セクション12 t検定の種類と選び方統計のそこが知りたい!第31回 検定の落とし穴とは?第32回 推定の落とし穴とは?第45回 因果関係とは?

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英語で「肝炎」、患者に説明するには?【患者と医療者で!使い分け★英単語】第64回

医学用語紹介:肝炎 hepatitis「肝炎」について説明する際、患者さんにhepatitis(発音はヘパタイティス)と言って通じなかったら、何と言い換えればよいでしょうか?「hepatitis A(A型肝炎)」などの用語はニュースなどで耳にする機会があるものの、hepatitisという単語そのものの意味を正確に理解している方はそれほど多くはありません。講師紹介

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無意識に使う「ピクつき」【脳がととのう 神経内科学講座】第2回

<今回のモヤっとPoint>ピクっとする動きはなんと表現する?けいれんと振えの違いは?はじめに「ピクつき」は臨床ではよく見聞きする表現ですが、実は、標準的な医学用語ではありません。少なくとも日本神経学会の用語集には収載されていません。では、臨床で使ってはいけないのかと言われると、見たままの様子を表現しているという前提であればかまいません。もちろんその場合には、どのような病態を想定して「ピクつき」と表現しているのかも意識しておく必要があります。たとえば、てんかん発作としてのけいれんなのか、あるいは振戦やシバリングなど何を想定しているのかが重要です。そこで、このような少しややこしい「ピクつき」という表現について、本日はととのえていきましょう。ピクつきはどんなときに使う表現?脳神経内科医の立場として、「ピクついていました」という報告を臨床ではよく受けます。「ぴくつく」は国語辞典に載っている一般語であり、意味としては「小刻みに動く」や「ぴくぴくする」だそうです。では、このような用語を神経学領域にどのように当てはめられるのか、整理していきましょう。日常的に、一瞬の動きを「ピクッとなる動き」と表現することがあります。この場合に該当しやすい用語の代表として「ミオクローヌス」があります。ミオクローヌスとは“不随意運動の一つで、自分の意思と無関係に瞬発的な筋収縮が生じる症候”をさします*。たとえば、授業中にうとうとしていて、全身をビクッとさせることがあると思いますが、あれは(生理的な)入眠時のミオクローヌスです。ミオクローヌスは非常に持続時間が短い症候であり、しばしば「電気的な筋収縮」に例えられます。*厳密には、ミオクローヌスには、急な筋収縮による陽性ミオクローヌスと、持続的な筋活動が一瞬途切れる陰性ミオクローヌスがあります。けいれん発作や不随意運動の振戦とどのように違うのかというと、ポイントは持続時間と律動性です。けいれん発作はガクガクと力強い収縮を繰り返す点で持続性があり、強直相に続いて律動性の間代運動がしばしば出現します。また、振戦は比較的一定のリズムで持続するふるえで、律動的かつ持続的です。これに対して、ミオクローヌスは「ビクッ」と1回1回は瞬発的な短時間の症候です。もちろん、ミオクローヌスが断続的に群発することもありますので、その場合は「持続的」に見えることもあります。なお、けいれん発作や振戦には一定のリズムがあるのに対して、ミオクローヌスではイレギュラーであることから、出現様式も異なります。<脳がととのう具体例>「蘇生後脳症の方ですが、昨日からピクつきのけいれんが出ています」「蘇生後脳症の方ですが、昨日からビクッとした一瞬の、ミオクローヌスのような動きが断続的に出ています」ミオクローヌスはあくまでも「症候名」ここまで説明したように、ミオクローヌスとはあくまでも症候を表現する用語です。そのため、その病態(原因)までは説明ができません。なお、ややこしいのですが、ミオクローヌスという症候が、てんかん発作として出現することがあり、この場合は「ミオクロニー発作(myoclonic seizure)」と呼びます。一方で、てんかん発作ではなく、不随意運動として認めるものはそのままミオクローヌスと表現します。ミオクローヌスの判定が難しいときはこのように説明すると、そもそもけいれんなのかミオクローヌスなのか非専門医にはわからないという当然の指摘があると思います。それはごもっともで、専門医ですら診察しても判定に悩むことがあります。よって、そのようなときは変に断定せずに、「ミオクロニー様の動きがありました」や「myoclonicな動きが右上肢に断続的に出現していました」などと表現すれば、解像度を維持できるでしょう。ミオクローヌスの代表的疾患は?ミオクローヌスがどのようなものか、なんとなくイメージはできたかと思います。これより、ミオクローヌスを呈する代表的な3つの疾患を提示します。1)代謝性脳症代謝性脳症では不随意運動として陰性ミオクローヌスを認めます。これは手関節背屈などの姿勢を保たせたときに、筋収縮が一瞬途切れて、手がはばたくようにカクッと落ちる所見です。肝性脳症の所見として有名ですが、尿毒症や高二酸化炭素血症などでもみられます。したがって、代謝性脳症では「ミオクローヌスそのもの」だけでなく、意識変容や陰性ミオクローヌスを捉える必要があります。なお陰性ミオクローヌスは薬剤性として出現することもあるので、とくに神経系の薬剤を新規追加した際には注意します。2)Lance-Adams症候群(LAS)心肺停止などによる低酸素脳症のイベントを経て、意識が回復してくる過程で顕在化してくるミオクローヌスがLASのミオクローヌスです。その診察ポイントとしては、安静時/静止時よりも動作時や姿勢保持時に悪化する点です。刺激でも誘発されるため、「体位変換や吸引処置によってピクつきが出るんです」と看護師から報告を受けたときは、文脈を確認した上でミオクローヌスを想起しましょう。3)若年ミオクロニーてんかん(JME)10代(後半)の発症のてんかんの代表格に若年ミオクロニーてんかん(Juvenile Myoclonic Epilepsy:JME)があります。JMEは主に思春期から若年成人期に発症し、原則として知能が正常で、発作型としてミオクロニー発作と強直間代発作(GTCS)があるという年齢依存性のてんかん症候群です。臨床では、初回のGTCSでERに搬送され、初期対応を終えたのちに専門外来へ紹介されてJMEの診断に至るというパターンが多いのですが、ぜひERの段階で(GTCSの初期対応を終えたのちに)、JMEの可能性も問診で探ってみてください。ポイントは普段から朝のミオクロニー発作があるかどうかです。JMEのミオクロニー発作は、寝不足が誘発因子となるため、とくに朝の起床後が好発時間帯です。具体的には「朝の寝起きの時間帯に、持っているお箸とかスマホを投げ飛ばしたことがあるか?」とクローズドに聞くとよいでしょう。今回のスッキリ「ピクつき」は診断名ではなく、見た目を表す観察用語「ピクつき」では、ミオクローヌスの特徴があるかを意識するとよい次回は、“取扱注意の「けいれん」”について、ととのえていきましょう。お楽しみに!1)Vellieux G, et al. Brain Commun. 2025;7:fcaf329.2)Agarwal R, et al. J Postgrad Med. 2016;62:115-117.

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DOACに併用するNSAIDs、出血リスクが低いのは?

 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)に関連する消化管出血について、関節リウマチや変形性関節症などでは、COX-2選択的NSAIDsを用いたほうがリスクが低いと報告されている。しかし、直接経口抗凝固薬(DOAC)による治療を受けている非弁膜症性心房細動(NVAF)など、出血リスクが高い集団におけるCOX-2選択的NSAIDsの有益性は明らかになっていない。そこで、ドイツ・シャリテー-ベルリン医科大学のFabian Maximilian Meinert氏らの研究グループは、NVAF患者におけるDOACとNSAIDsの併用について、NSAIDsをCOX-2選択性で分類し、出血リスクを比較した。その結果、COX-2選択的NSAIDsは消化管出血および非消化管出血リスク低下と関連していた。本研究結果は、JAMA Network Open誌2026年5月26日号に掲載された。 研究グループは、英国のClinical Practice Research Datalink(CPRD)Aurumデータベースおよびカナダ・ケベック州の医療請求データを用いてコホート研究を実施した。対象は、2011~20年に、DOACとNSAIDsの併用を開始した成人NVAF患者とした。DOACはアピキサバン、ダビガトラン、エドキサバン、リバーロキサバンを対象とした。NSAIDsは、COX-2選択的NSAIDs(エトドラク、ジクロフェナク、セレコキシブ、メフェナム酸、メロキシカム、rofecoxib)※と非選択的NSAIDs(イブプロフェン、インドメタシン、オキサプロジン、ケトプロフェン、ナプロキセンなど)に分類した。主要評価項目は消化管出血による入院、副次評価項目は非消化管出血による入院とした。傾向スコアに基づく逆確率重み付けを用いて、Cox比例ハザードモデルでデータベース別のハザード比(HR)を推定した後、ランダム効果モデルで統合した。※:本研究では既報の分類に従いCOX-2選択的NSAIDsとして扱われたが、ジクロフェナクやメフェナム酸、メロキシカムといったCOX-1阻害作用を一定程度有する薬剤も含まれた 主な結果は以下のとおり。・解析対象は、DOACとNSAIDsの併用を開始したNVAF患者3万240例(英国のデータベース1万335例、カナダのデータベース1万9,905例)であり、3万7,833件の併用エピソードを対象とした。平均年齢は72.1歳、男性は56.7%であった。・英国では、COX-2選択的NSAIDsとしてジクロフェナクが最も多く使用され、非選択的NSAIDsではナプロキセンが最も多かった。カナダでは、COX-2選択的NSAIDsとしてセレコキシブが最も多く、非選択的NSAIDsではナプロキセンが最も多かった。・消化管出血の粗発生率(1,000人年当たり)は、英国ではCOX-2選択的NSAIDs群20.47、非選択的NSAIDs群34.77であった。カナダでは、それぞれ27.04、52.52であった。データを統合すると、COX-2選択的NSAIDsの併用は非選択的NSAIDsの併用と比較して、消化管出血リスク低下と関連していた(重み付けHR:0.63、95%信頼区間[CI]:0.46~0.87)。・非消化管出血の粗発生率(1,000人年あたり)は、英国ではCOX-2選択的NSAIDs群17.92、非選択的NSAIDs群34.82であった。カナダでは、それぞれ31.31、66.92であった。データを統合すると、COX-2選択的NSAIDsの併用は非選択的NSAIDsの併用と比較して、非消化管出血リスク低下と関連していた(重み付けHR:0.54、95%CI:0.40~0.74)。・サブグループ解析において、女性ではCOX-2選択的NSAIDs併用に伴う消化管出血リスク低下がより大きい可能性が示された。女性の重み付けHRは0.50(95%CI:0.31~0.80)、男性では0.85(95%CI:0.55~1.32)であった。

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