21763.
あるとき誰かが思った。 「MRIは強力な磁場を発生させるから、電子機器であるペースメーカーやICDには当然よくないだろう」 MRIでは磁場を発生させてプロトンの「回転」を計測する。しかし、体内に金属性のペースメーカーがあると、強力な磁場を周囲で発生させて先端のリード部分が熱を持ってしまう。すると「心筋への電気伝導に問題がおきるのではないか?」という危惧は当然出ることになる。また、ペースメーカーやICDのジェネレーターは、実は磁石を上に置くとスイッチオフ(※)できるようになっているので、「ジェネレーター部分のプログラムに異常が発生するのではないか?」という心配もある。※機種によって微妙に仕様が異なり、VVIという心室のみのペーシングに切り替わる設定の製品もある。 こういった経緯から、永らくペースメーカーやICDが植え込まれた患者に対するMRIは禁忌とされてきた(一部の最新の機種を除く)。しかし、かねてよりやってみればそれほど危険なものでもないのではないかということも言われており、その実証に挑んだのが、Johns Hopkins大学のNazarian医師らで、このグループはまず50例程度のペースメーカー・ICD患者を安全に行いえたということを2006年Circulation誌(循環器領域で最もインパクトのある雑誌)に報告した。その後、さらに症例データの蓄積を進め、数百という単位の報告を2011年Annals of Internal Medicine誌(一般内科領域で最もインパクトのある雑誌)に報告した。そして今回、1,509例での報告をNEJM誌(医学全領域で最もインパクトのある雑誌)に行ったという運びである。 1,509例(MRIの実施は2,103件)で安全性を担保したプロトコール下でMRIを行った結果として、最新型でないペースメーカーやICDであったとしてもMRIを行ってトラブルを起こしたのは0.4%(2,103件中9件)にとどまり、その内容はその設定がリセットされたというものであった。この9件のうち1件を除きすべてのケースで再設定可能であり、大きなトラブルとはならなかった(再設定できなかった1例はバッテリーが切れる直前のデバイス)。さらに1%でP波の減高がみられたが、長期的にはまったく影響がなかったという。 「誰か」がMRIとペースメーカーやICDの危険性について想像し、そのことをひっくり返すのに2006年の最初のNazarian医師らによる報告から10年以上を要したことになる。脳梗塞などさまざまな病態でMRIは命を救いうる検査であり、このことは多くの循環器患者にとっては朗報となる。 なお、注意事項として、すべてのMRIはすぐにペースメーカーやICDのプログラム変更を行うことができる技師か不整脈専門医の監督下で行われた。MRIの撮影を行う際のモードは、ペーシング依存の患者では非同期モード、それ以外の患者はVVI[レート40]と設定され、ICDの頻脈性不整脈の治療機能も撮影時は無効と設定された。