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第318回 マンジャロ問題、なぜ厚労省は“名指し”で呼びかけた?

INDEX厚労省よ、やっと本腰入れたかSNSに商品名で言及、なぜ?本当に恐ろしい副作用は…厚労省よ、やっと本腰入れたか【マンジャロは糖尿病のお薬です】マンジャロは「糖尿病」の治療を目的に承認された薬です。ダイエットなど、本来の目的以外で使用した場合、思わぬ健康被害が生じるおそれがあり危険です。医療者から薬のリスクについて十分な説明を受け、薬について正しく理解することが重要です。上記は厚生労働省(以下、厚労省)のX(旧Twitter)アカウントが6月16日に行ったポストである。同アカウントのフォロワー数は101万3,000アカウント超だが、このポストに関しては、19日午前の表示件数は1,970万1,000件以上である。同アカウントのポストの表示件数が万単位なことはごく普通だが、これだけの表示件数はきわめてまれだ。正確な分析ツールは使用していないが、同アカウントのなかでも間違いなくトップ10に入るポストだろう。この日、厚労相の上野 賢一郎氏は閣議後の記者会見冒頭で以下のように語った。「私から冒頭1点申し上げます。マンジャロ等の適正使用についてです。マンジャロは、2型糖尿病のみを効能・効果として承認されており、臨床試験ではダイエットなどの効果は証明されておらず、本来の目的以外で使用した場合、思わぬ健康被害が生じる可能性があります。お使いになる方には正しく理解して適正に使用いただくことが必要ですので、医療者の方からのリスクについての十分な説明を改めてお願いしたいと考えています。このため、本日、XなどのSNSを通じて国民の皆様向けにも改めて注意喚起を行うとともに、マンジャロ等の治療薬の適正使用を徹底するために、改めて医療機関等に通知を発出します」実際、この日、同省は都道府県・保健所設置市・特別区の衛生主管部(局)長宛の「GLP-1受容体作動薬及びGIP/GLP-1受容体作動薬の適正使用について」と各製造販売業者代表取締役社長宛の「GLP-1受容体作動薬及びGIP/GLP-1受容体作動薬の適正使用に係る対応の徹底について」という2件の通知を発出した。要は2型糖尿病や肥満症の治療目的ではなく、自由診療を通じた適応外の美容、痩身目的のGLP-1受容体作動薬関連製品の使用に対して注意喚起をした通知である。そして、この日の夜の民放のニュースではやたらと「マンジャロ」という個別商品名が飛び交う、やや異常な状態となった。SNSに商品名で言及、なぜ?もはや言うまでもないが、GLP-1受容体作動薬関連薬(以下、GLP-1製剤)では、2型糖尿病治療薬として発売された当初から美容目的の適応外使用が問題視されてきた。これまで厚労省がこの問題に関連して発出した通知は、美容目的の使用が原因の1つとみられる在庫ひっ迫や自由診療での広告規制をフックにしたもので、適正使用だけにフォーカスした通知は今回が初である。この件の適応外使用について苦々しく思っていた医療者にとっては、遅きに失した対応と受け止められていることだろう(私個人も同様である)。改めて整理すると、国内で承認されている主なGLP-1製剤は以下の表のようになる。ご存じのように体重減少に重きを置いた肥満症の適応症があるのは現在2種類のみ。成分として体重減少効果が顕著とされているのは表の上位5製品だが、美容・痩身目的の自由診療では、表にあるそれ以外のGLP-1製剤も使われている。(表)国内で承認されているGLP-1製剤画像を拡大するはっきり言って、どの製剤であっても自由診療での美容・痩身目的での使用は適応外、あえて言えば「不適切使用」である。ただ今回、厚労省がわざわざマンジャロという商品名を挙げた理由は、肥満症の適応を有する同一成分のゼップバウンドが、同じく肥満症の適応を有するウゴービより体重減少効果が高いとされ、美容・痩身目的の人たちの間では人気があり、かつマンジャロは2型糖尿病のみが適応症であることを踏まえたからと考えられる。本当に恐ろしい副作用は…さて、これらの適応外使用が問題となるのは、何よりも副作用の観点からだろう。これまた周知の通り、GLP-1製剤では悪心・嘔吐、下痢、便秘などの消化器症状の副作用発現率は大まかに言えば20~40%ほどとかなり高頻度である。多くの場合、これ自体が生命の危険には直結しないものの、実際私の周囲で使用している人(適応症に対して使用)のSNS投稿を見ても、相当苦しそうなことだけはよくわかる。そして副作用の中でもとくに問題なのは、実は頻度の低い重篤な副作用である。世界的に美容・痩身目的の使用がかなり広まっている現実を考えれば、ごくわずかな頻度の副作用でもそれ相応の発生件数を記録することになる。例を挙げると、GLP-1製剤による低血糖、膵炎が該当する。ゼップバウンド、ウゴービともに過去の臨床試験結果を見ると、軽症も含めた低血糖の発生頻度は5%未満であり、重度低血糖になると1%未満といわれている。もちろんこの数字は、2型糖尿病患者の場合には併用薬もある前提でのものなので、美容・痩身目的ならば理論上の発生頻度は相当低いはずである。ただ、保険診療下で定期的な受診をし、医師の管理下に置かれている人と自由診療で処方されてフォローアップがほぼなしという人では、この理論上の発生頻度も大きく異なってくるだろう。前者の場合は主治医が低血糖への最大限の警戒を行っているのに対し、後者はよほど危険な兆候を本人が自覚しない限り事実上野放しである。さらに言えば、美容・痩身目的の人の場合、自己判断による過度な食事制限をしている場合もあるだろう。となると、こうした人での真の低血糖発生頻度は掴めないということになる。発生頻度が1%に満たない急性膵炎でも、美容・痩身目的の人では膵臓機能自体が2型糖尿病や肥満症の人に比べ、より健康に近いと考えられるため、本来であれば、この発生頻度はほぼ無視できるかもしれない。とはいえ、肥満かつ2型糖尿病での事例ではあるが、米国ではGLP-1製剤の関与が否定できない重症急性膵炎による死亡例の報告1)もある。そして何よりも恐ろしいのは、まだ既知とはいえない副作用のリスクである。実際、そうした事例は報告されている。これも米国での報告で、2型糖尿病がない高度肥満患者に横紋筋融解症が出現した事例2)である。GLP-1製剤の中止で改善し、投与再開で症状が再出現したというもの。このため、GLP-1製剤の使用が因果関係の可能性として示唆されている。このようにしてみると、改めて美容・痩身目的の自由診療における安全管理の甘さに強い危機感を抱かざるを得ない。今回、厚労省は今までよりは一歩踏み込んだが、どれだけ注意喚起の通知を出したところで、現状では自由診療で処方する一部の医師による不適切な処方の横行を止める有効な手立てにはなっていない。「約2,000万回以上表示のポスト」というSNS上の数字の裏で、いつ深刻な健康被害が顕在化してもおかしくない薄氷の状況が続いている。今求められているのは、単なるアナウンスメントではなく、不適切な自由診療に対する実効性のある規制ではないか?厚生労働省:GLP-1受容体作動薬及びGIP/GLP-1受容体作動薬の適正使用に係る 対応の徹底について1)Dagher C, et al. Cureus. 2024;16:e69704.2)Billings SA, et al. Cureus. 2023;15:e50227.

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猛暑への長期曝露、認知症発症リスクを高める可能性

 猛暑は熱中症や心血管イベントのリスク因子として知られているが、認知症発症に対する長期的影響については十分なエビデンスが蓄積されていない。日本の大規模高齢者コホートを用いて、長期にわたる極端な暑熱曝露と認知症発症および全死亡との関連を検討した結果が発表された。東京科学大学・公衆衛生学分野の森田 彩子氏らによる本研究は、Alzheimer's & Dementia誌2026年1月4日号に掲載された。 2016~19年に実施された日本老年学的評価研究(Japan Gerontological Evaluation Study:JAGES)の縦断データを用いた。対象は、同一自治体に30年以上居住し、認知症がなく自立して生活している65歳以上の高齢者5万7,178例であった。認知症発症および死亡は、公的な介護保険データから特定した。極端な暑熱曝露は、地域ごとの気候分布に基づく90パーセンタイルまたは99パーセンタイルを超える高温日数として定義し、曝露指標には、複数年の影響を捉える累積曝露(1~3年間の合計日数)と各年の独立した影響を評価する単年曝露を用いた。 評価項目は認知症発症、全死亡のオッズ比(OR)であった。年齢、性別、社会経済的要因、健康状態などの交絡因子を調整した上で、暑熱曝露と転帰との関連を検討した。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中、2,454例(4.3%)が認知症を発症し、2,375例(4.2%)が死亡した。・1~3年間の曝露量が多いほど、すべての結果におけるORは高くなった。1年間の累積曝露の場合、認知症発症のORは1.081、全死因死亡率は同1.135、複合結果は同1.241だった。また、極端高温日が7日間増加するごとに、認知症発症のオッズは9%、全死亡のオッズは13%上昇した。・さらに著者らは、2016~18年に観測されたレベルの猛暑曝露は、認知症発症のオッズを1.43倍、死亡のオッズを1.63倍に高めたと試算した。 研究者らは、「生物学的メカニズムとしては、熱による神経変性、アポトーシス、記憶に重要な脳領域である海馬におけるアミロイドβプラークの沈着などが考えられる。また、熱ストレスはさまざまなストレス要因をもたらし、運動能力を低下させる可能性がある。これは社会的孤立や運動量の減少、睡眠不足、慢性疾患の不適切な管理といった不健康な行動につながり、これらはすべてその後の数年間で認知機能の低下や死亡を加速させる可能性がある。高齢者診療においては、熱中症予防だけでなく、長期的な脳健康維持の観点からも暑熱対策が重要となる」としている。

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自殺企図と関連する睡眠薬使用、状況や時間に応じてどう変化するか?

 近年の睡眠薬の処方は、ベンゾジアゼピン系薬剤から、デュアルオレキシン受容体拮抗薬(DORA)やメラトニン受容体作動薬などの非GABA作動性睡眠薬へと移行している。獨協医科大学の佐々木 太郎氏らは、自殺企図に関与する睡眠薬の影響が状況依存的、経時的に変化するかどうかを調査した。Neuropsychopharmacology Reports誌2026年6月号の報告。 本研究は、多施設共同レトロスペクティブコホート研究として実施された。日本の3つの医療機関に2020年4月〜2025年3月の間に自殺企図で受診した患者を連続して登録した。受診時に回収した空の薬剤パッケージから、自殺企図に関与した睡眠薬を特定した。ベンゾジアゼピン系薬剤および非GABA作動性睡眠薬(DORAおよびメラトニン受容体作動薬)の年間使用割合を、すべての自殺企図、過剰摂取に関連する自殺企図、睡眠薬が関与した過剰摂取に関連する自殺企図の3つの条件でコクラン・アーミテージ傾向検定を用いて分析した。さらに、DORAとメラトニン受容体作動薬を分けて、それぞれ分析した。 主な結果は以下のとおり。・自殺企図1,111件のうち、648件が過剰摂取に関連するものであった。・非GABA作動性睡眠薬の使用は、3つのすべての条件において、経時的に有意な増加を認めた。・一方、ベンゾジアゼピン系薬剤の使用は、過剰摂取に関連する自殺企図においてのみ有意な減少が認められた。・非GABA作動性睡眠薬を細分化すると、DORAの関与は、過剰摂取に関連する自殺企図(χ2=7.3048、p=0.006877)およびすべての自殺企図(χ2=7.6384、p=0.005714)の両方で有意な増加傾向を示した。・メラトニン受容体作動薬(ラメルテオン)の関与は、いずれの分析においても有意な経時的変化を示さなかった。・全体として、非GABA作動性睡眠薬の関与の増加は主にDORAによるものであった。 著者らは「研究期間中、自殺企図に関与した睡眠薬は状況依存的に変化した。非GABA作動性睡眠薬の増加はDORAによって引き起こされたが、ベンゾジアゼピン系薬剤の関与の減少は過剰摂取関連の状況でのみ検出された。これらの結果は、睡眠薬の入手可能性の変化が、self-poisoningに関与する薬剤のプロファイルに影響を与える可能性を示唆している」と結論付けている。

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がん診療初心者でも学べる!楽しめる!第16回亀田総合病院腫瘍内科セミナー【ご案内】

 2026年7月19日(日)に、第16回亀田総合病院腫瘍内科セミナーが御茶ノ水での現地開催とWeb上のLIVE配信のハイブリッド形式で開催される。白井 敬祐氏(ダートマス大学腫瘍内科)、池田 貞勝氏(東京科学大学病院がんゲノム診療科)、小山 隆文氏(国立がん研究センター中央病院先端医療科)を講師として迎え、がん診療総論、がん患者の救急対応、チーム医療のTipsやコミュニケーション方法、そしてゲノム診療など幅広い領域を扱う。また、亀田総合病院腫瘍内科スタッフによる「実臨床における思考過程」を解説する講座も用意されているほか、同科の日常診療を体験できるワークショップも企画されている。 開催概要は以下のとおり。開催日時:2026年7月19日(日)9:30~17:00※セミナー終了後には、御茶ノ水周辺で懇親会を予定(現地参加者のみ対象)場所:御茶ノ水ソラシティ対象:医学生、初期研修医、後期研修医、総合内科医のほか、がん診療に興味を持っているすべての医療従事者 定員:現地40人(数席追加予定)、オンライン200人受講料:現地参加・オンライン参加いずれも2,000円※現地参加の方には、昼食(お弁当)を用意※懇親会は無料で参加可能※いずれも事前振り込み申込締切:7月10日(金)※キャンセルポリシー 7月10日(金)まで:全額返金(手数料申込者負担)7月11日(土)から:返金不可■参加登録はこちら◆セミナー参加者への特典◆・開催後に期間限定でオンデマンド配信が視聴可能・大山氏、白井氏、小山氏、池田氏が現地で講演予定。今後のキャリアなどに関する相談も可能(現地参加者のみ)。【プログラム】※スケジュールや講演内容は、一部変更になる可能性があります。9:00 開場9:30~10:30 やさしくわかるがん診療総論(亀田総合病院腫瘍内科 部長 大山 優)10:40~11:40 チーム医療の31のTipsとがん診療&他分野でも使える裏技(仮)(米国ダートマス大学腫瘍内科 教授 白井 敬祐)11:40~12:40 研修プログラム説明12:40~14:20 腫瘍内科ワークショップ ~実践! 亀田流がん診療!(仮)~(亀田総合病院腫瘍内科 スタッフ・レジデント)※現地参加のみ 14:30~15:30 がん患者の症状への系統的アプローチ ~救急外来で困らないために~(国立がん研究センター中央病院先端医療科 医長 小山 隆文)15:40~16:40 歴史が動いたASCO 2026:がんゲノム医療が開く新境地(東京科学大学病院 がんゲノム診療科 教授 診療科長 池田 貞勝)17:00 閉会17:30~19:30 懇親会(途中参加・退室可能)@御茶ノ水付近【お問い合わせ先】亀田総合病院腫瘍内科事務局e-mail:oncology.medical@kameda.jp

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病理像とゲノムをつなぐ空間統合解析の最前線/日本臨床腫瘍学会

 がんの病態は、腫瘍細胞そのものの遺伝子異常だけでなく、それを取り巻く微小環境や、組織内で細胞がどう配置されているかといった“空間情報”にも大きく左右される。こうした背景から、複雑な組織情報をこれまで以上に精緻かつ統合的に捉えることの重要性が高まっている。 2026年3月26~28日に開催された第23回日本臨床腫瘍学会学術集会のシンポジウム「がん組織の空間情報の抽出と基盤AIモデル」において、中岡 博史氏(鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 先端治療科学専攻 医療情報解析学講座 データサイエンス分野)により、がんや関連病変の多様性を空間的視点から読み解く最新研究が紹介された。正常子宮内膜に潜む変異とクローン進化 近年、正常組織にもがん関連遺伝子変異が広く存在することがわかってきたものの、変異クローンの組織内での広がりは不明であった。中岡氏によると、「子宮内膜症や婦人科がんの病因理解に向け、正常子宮内膜のゲノム異常の解明が重要である」という。 そこで、21~53歳の女性32例から約900本の単一子宮内膜腺を採取し、標的遺伝子シーケンシングを実施した。その結果、半数以上の正常子宮内膜腺においてPIK3CA、KRAS、ARID1A、TP53などに変異を認め、変異数は年齢と累積月経周期数に正の相関を示した。とくに累積月経回数との関連が強く、月経に伴う反復的な組織再生が変異蓄積に関与するとともに、dN/dS(非同義変異/同義変異)比が1を上回ったことは、正常子宮内膜においてもがん関連遺伝子変異を持つクローンの選択的な拡大を示唆した。 そして空間情報を保持した解析から、一部のクローンが広範囲に広がり、あるクラスターでは若年期に生じたPTEN両アレル喪失が長時間静止した後、中年期に大きく増殖することが示された。つまり、変異の成立とクローンの顕在化には大きな時間差があると示唆されたのである。 さらに3Dイメージングでは、子宮内膜基底層で筋層に沿って水平に伸びる上皮ネットワーク構造が見いだされ、中岡氏らは植物の地下茎になぞらえて“地下茎構造”と名付けた。この地下茎でつながる腺は同じ変異プロファイルを共有し、同一祖先クローンに由来することから、正常子宮内膜における変異クローンの空間的増殖に地下茎構造が関与していることが明らかになった。また、機能層上皮に比べて地下茎構造を含む基底層上皮ではWntシグナル伝達の負の制御や幹細胞関連遺伝子の発現が高いこともわかった。 地下茎構造は月経のない哺乳類では認められず、月経による組織再生を繰り返すことで形成されると考えられる。この構造は子宮内膜の再生や機能維持を支える幹細胞・前駆細胞ニッチとして有用な一方、選択的優位性を呈する変異クローン増殖の足場となり、子宮内膜症や子宮腺筋症、子宮内膜がん、卵巣がんの発症リスクに関与することも示唆されるため、中岡氏はこの地下茎構造を“諸刃の剣”と表現した。

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iPS細胞の心不全へのカテーテル投与、治験1例目を完了/Heartseed

 Heartseedは2026年6月12日、虚血性心疾患または拡張型心筋症による重症心不全を対象とした、他家iPS細胞由来心筋球のカテーテル投与治療(HS-005)の国内第I/II相治験(EMERALD試験)において、1例目への投与に成功したことを発表した。iPS細胞由来の心筋球をカテーテルで投与する臨床試験としては世界初となる。治験の進捗状況 2026年3月下旬に信州大学医学部附属病院にて、拡張型心筋症による心不全患者1例目への投与が実施された。患者の術後経過はおおむね順調で、すでに退院している。また、独立安全性評価委員会が4週間のデータを評価し、拡張型心筋症群における本治験の継続を承認している。次世代治療プログラム「HS-005」の特徴 HS-005は、同社の基盤技術で作製された他家iPS細胞由来の心筋細胞の微小組織(心筋球)を使用する治療プログラムである。開胸下で心臓の外側から投与する先行の「HS-001」に対し、HS-005は専用カテーテルシステムを用いて心臓の内側から投与する低侵襲なアプローチを採用しており、身体への負担を軽減できる次世代の治療法として位置付けられている。投与された心筋球は、患者の心筋と結合して再筋肉化することで心収縮力を改善するほか、血管新生因子を分泌して投与部位周辺に新たな血管を形成する作用が期待されている。 1例目の投与を担当した桑原 宏一郎氏(信州大学医学部附属病院循環器内科 教授)は、手技が合併症なく短時間で終了したこと、術後経過が良好であることを報告。また、「増加している心不全患者に対し、身体への負担が少ない新たな治療法の実現に向けた重要な一歩になった」とコメントした。同社代表取締役社長の福田 惠一氏は、カテーテル投与による低侵襲性に言及するとともに、新たに対象疾患に加わった「拡張型心筋症」の患者への投与成功が「より多くの重症心不全患者を救うという当社の目標において極めて重要なマイルストーンである」と述べている。EMERALD試験(国内第I/II相試験)の概要 本試験は、安全性および有効性の評価を目的とした非盲検、多施設共同の試験である。・対象疾患:虚血性心疾患または拡張型心筋症による左室駆出率の低下した心不全(HFrEF)・予定症例数:14例(各群7例)・投与量:患者1例当たり1億5,000万個の心筋細胞・投与デバイス:日本ライフラインと共同開発した専用の投与カテーテルシステム・主要評価項目:投与後26週目の安全性・副次的有効性評価項目:52週目の安全性・有効性(局所心筋壁運動評価、心臓の縮小、心機能・マーカー改善など) 現在、国内だけで120万例、世界で6,500万例以上が心不全に罹患しており、心不全パンデミックとも呼ばれる状況にある。重症心不全に対する心臓移植以外の抜本的な治療手段が不足する中、心筋再生医療の新たな選択肢として今後の臨床開発の進展が期待される。

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新規診断AML、経口decitabine-cedazuridine+ベネトクラクスが有用/NEJM

 新たに診断された75歳以上または強力な寛解導入療法非適応の急性骨髄性白血病(AML)患者において、経口decitabine-cedazuridineとベネトクラクスの併用療法により、骨髄抑制作用が認められたものの、薬物相互作用を起こすことなく約半数の患者で完全寛解が認められた。米国・New York Presbyterian HospitalのGail J. Roboz氏らが、第I/II相多施設共同非盲検非無作為化臨床試験「ASCERTAIN-V(ASTX727-07)試験」の結果を報告した。75歳以上または強力な寛解導入療法非適応のAML患者に対しては、アザシチジンまたはdecitabineとベネトクラクスの併用療法が標準治療であるが、非経口投与は患者と医療従事者の双方に負担となっている。経口配合薬であるdecitabine-cedazuridineはAML治療薬として欧州で承認されており、静脈内投与のdecitabineと同等の薬物動態特性を有するが、単剤療法での生存期間延長効果は限定的であった。NEJM誌2026年6月4日号掲載の報告。第I/II相試験で、薬物動態と完全寛解率を評価 研究グループは、75歳以上の患者または18歳以上で強力な化学療法が非適応の、新たにAMLと診断された患者に、decitabine-cedazuridineおよびベネトクラクスを経口投与した。 全例に、1サイクルを28日として、1日目から5日目までdecitabine-cedazuridine(decitabine 35mg、cedazuridine 100mg)を経口投与し、ベネトクラクス400mgを1日1回経口投与した。ベネトクラクスは、腫瘍崩壊症候群を軽減するため第1サイクルに用量漸増投与(1日目100mg、2日目200mg、3日目以降400mg)を行った。 第IIb相では、第I相で観察された骨髄抑制を軽減するため、骨髄芽球の消失が確認された場合、decitabine-cedazuridineおよびベネトクラクスの投与期間を短縮することが推奨された。 主要評価項目は、第I相では第2サイクルの5日目および15日目に評価したベネトクラクスの血中濃度曲線下面積(AUC0-24)および最高血中濃度(Cmax)(decitabine-cedazuridine併用不問)とし、第IIa相では第2サイクルの5日目および15日目のベネトクラクスのAUC0-24およびCmax、ならびに完全寛解とし、第IIb相では完全寛解とした。薬物相互作用は認められず、完全寛解率は47% 2021年1月~2022年2月に30例(第I相)、2021年11月~2024年3月に58例(第IIa相)および101例(第IIb相)の、計189例が登録された。 第I相および第IIa相の薬物動態解析の結果、decitabine-cedazuridineとベネトクラクスの間に薬物相互作用は認められなかった。 第IIb相において、完全寛解は47%(95%信頼区間[CI]:36~57)に認められた。また、副次評価項目である完全寛解または血液学的回復が不完全な完全寛解の患者の割合は63%(95%CI:53~73)で、全生存期間中央値は15.5ヵ月(95%CI:7.6~推定不能)であった。 第IIb相におけるGrade3以上の有害事象の発現率は、貧血30%、好中球減少症26%、発熱性好中球減少症25%で、30日時点の死亡率は3%、60日時点の死亡率は10%であった。

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リウマチ性多発筋痛症、セクキヌマブが有用/NEJM

 再発したリウマチ性多発筋痛症の患者において、完全ヒト型モノクローナル抗体のセクキヌマブと24週間のグルココルチコイド漸減療法の併用療法は、グルココルチコイド漸減療法単独と比較し、完全寛解を達成した患者の割合が高く、累積グルココルチコイド投与量も少ないことが、米国・マサチューセッツ総合病院のJohn H. Stone氏らREPLENISH Investigatorsが28ヵ国148施設で実施した第III相国際共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験「REPLENISH試験」の結果で示された。リウマチ性多発筋痛症は、肩や股関節の痛みとこわばりを特徴とする炎症性疾患で、グルココルチコイドが第1選択薬であるが、再発やグルココルチコイド関連の副作用がよくみられるため、有効な代替治療薬の必要性が高まっていた。NEJM誌オンライン版2026年6月3日号掲載の報告。セクキヌマブ2用量とグルココルチコイド漸減の併用療法の有効性と安全性を評価 研究グループは、リウマチ性多発筋痛症と診断され、ベースライン前12週以内にグルココルチコイド漸減中でprednisoneまたはprednisone換算5mg/日以上を投与中に少なくとも1回再発した50歳以上の患者を、セクキヌマブ300mg群(SEC-300群)、セクキヌマブ150mg群(SEC-150群)、またはプラセボ群に1対1対1の割合で無作為に割り付け52週間投与した。全例に24週間のprednisone漸減療法を行った。 主要アウトカムは、52週時の持続的寛解を達成した患者の割合であった。持続的寛解は、12週目に寛解を達成し52週目まで寛解(リウマチ性多発筋痛症に起因するエスケープ治療またはレスキュー治療を必要とする徴候または症状の再発がなく、かつエスケープ治療またはレスキュー治療を必要とする巨細胞性動脈炎の新規診断がない)が持続した状態と定義した。副次アウトカムは年間累積グルココルチコイド投与量などで、安全性についても評価した。52週時の持続的寛解率、セクキヌマブ300mg群41.2%、150mg群40.6%、プラセボ群20.4% 2023年3月~2024年7月にスクリーニングを受けた474例中、381例が無作為化された(各群127例)。 52週時の持続的寛解率は、SEC-300群41.2%(95%信頼区間[CI]:32.8~49.7)、SEC-150群40.6%(95%CI:32.2~49.0)、プラセボ群20.4%(95%CI:13.6~27.2)であった(各セクキヌマブ群とプラセボ群との比較でp<0.001)。 52週時の補正後年間累積グルココルチコイド投与量の平均値は、プラセボ群2,093.0mgに対し、SEC-300群1,603.7mg(プラセボ群との平均差:-489.4mg、95%CI:-734.47~-244.25、p<0.001)、SEC-150群1,683.2mg(プラセボ群との平均差:-409.9mg、95%CI:-661.8~-157.9、p=0.002)であった。 有害事象の発現割合は、SEC-300群91.3%(115/126例)、SEC-150群88.1%(111/126例)、プラセボ群89.8%(114/127例)で、重篤な有害事象はそれぞれ13.5%、15.9%、14.2%に認められた。鼻咽頭炎、過敏症反応、尿路感染、真菌感染および背部痛は、プラセボ群よりセクキヌマブ群で発現割合が高かった。

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歯周病とMASLDの関連、女性で顕著――閉経前後で差

 歯周病は口腔内の慢性炎症として知られ、全身の代謝異常との関連も指摘されている。今回、健診受診者を対象に歯周病と代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)の関連を検討した結果、女性では両者に有意な関連が認められ、特に閉経前後の年代でその傾向が顕著であることが示された。研究は愛知学院大学歯学部口腔衛生学講座の齋藤瑞季氏、嶋崎義浩氏らによるもので、詳細は4月8日付で「Clinical and Experimental Dental Research」に掲載された。 脂肪性肝疾患は、一部で肝硬変や肝細胞がんへ進行する可能性があるほか、脳卒中や虚血性心疾患など心血管疾患リスクの上昇とも関連することが知られている。MASLDは従来「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」と呼ばれていたが、近年、代謝異常との関連性をより反映した名称へと改訂された。その診断には肥満や糖尿病、高血圧などの代謝異常の有無が考慮される。生活習慣とMASLDの関連は広く報告されており、MASLDの発症や進展に歯周病が関与する可能性も示唆されている。しかし、近年までは主にNAFLDを対象とした研究が中心であり、MASLDとの関連や性差を含めた検討は十分ではなかった。こうした背景のもと、本研究では健診受診者を対象に、歯周病とMASLDの関連および性差について検討が行われた。 本研究は、愛知県の健康診断受診者を対象とした横断研究である。2014年4月~2015年3月に一般社団法人愛知健康増進財団の健康診断を受けた40~74歳を解析対象とした。肝疾患既往、B型肝炎表面抗原(HBs抗原)陽性、摂取アルコール量が20g/日以上の参加者などは除外した。脂肪肝は腹部超音波で判定し、心代謝リスク因子の基準を満たす例をMASLDと定義した。歯周病は地域歯周疾患指数(CPI)で評価し重症度別に分類した。喫煙や運動習慣などを調整し、MASLDとの関連をロジスティック回帰分析で検討、男女別解析や女性の年齢層別解析、性差の交互作用も評価した。 解析対象は6,184人で、このうち1,431人(23.1%)がMASLDと診断された。女性では、歯周病が中等度および重度の群で、歯周病がない群に比べてMASLDのオッズ比がそれぞれ1.40(95%信頼区間:1.04~1.89)、1.64(同1.04~2.59)と有意に高かった。 一方、男性では歯周病とMASLDの関連は調整後に有意ではなかった。女性では50~59歳でのみ有意な関連が認められ、他の年齢層では認められなかった。さらに、非飲酒者に限定した解析でも同様に女性で有意な関連が確認された。 また、性別と歯周病の影響には乗法的交互作用が認められたが、加法的交互作用は認められなかった。これは、歯周病とMASLDの関連の強さには性差があったが、リスクそのものには明確な差は認められなかったことを示す。 著者らは、こうした性差の背景として女性ホルモンの影響を挙げている。特に50~59歳は閉経移行期に相当し、エストロゲンの低下が代謝機能や炎症反応に影響を及ぼす可能性があるとされ、この時期に関連がより強く認められた可能性が示唆されている。 なお、本研究の限界として、横断研究であるため因果関係を明らかにできないことに加え、歯周病評価の精度や超音波による脂肪肝診断の限界、社会経済因子の未調整、単施設データによる一般化可能性の制約などを挙げている。

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心臓MRI遅延造影とNT-proBNP値が肥大型心筋症の予後予測に有用(解説:佐田政隆氏)

 現在の肥大型心筋症のガイドラインは必ずしも完全ではなく(著者のコメント)、避けられたはずの突然死や不必要なICD(植込み型除細動器)植込みにつながっていると言われている。 本研究では、北米ならびに欧州の44施設から2,750例の肥大型心筋症が前向きに登録され、平均6.9年追跡された。注目すべきことには、全例で、造影剤を用いた心臓MRI(CMR)、遺伝子検査、各種バイオマーカー測定が行われた。主要評価項目は、肥大型心筋症関連死、持続性心室頻拍、左室補助装置植込みもしくは心移植であった。CMRで検出された遅延造影(心筋線維化)の割合、左室重量指数、左室収縮末期容量係数およびNT-proBNP値が予後規定因子であった。 欧州心臓病学会の肥大型心筋症突然死リスクスコアには、年齢、最大壁厚、左房径、左室流出路圧格差が含まれているが、今回はどれも予後予測因子にならなかった。本研究で、従来、補助的に用いられてきたCMRの重要性が明らかとなった。しかし、とくに本邦では、CMRは簡単に施行できず、解析にも高度な技量と時間が必要で、多くの施設で頻回に行われている検査ではない。 一方、NT-proBNPは日常臨床で頻用され保険適用もされている。他に、cTnT、ST2、MMP1、TIMP1、CICP、BAPなどが測定されているが、予後予測にはNT-proBNPが最も有効であったことは注目すべきである。 また、9例は遺伝子検査などで、肥大型心筋症の表現型模写(phenocopies)で肥大型心筋症でないと判断されて除外された。Fabry病やアミロイドーシスとして診断されているが、これらの疾患は、最近、有効な治療薬が開発されている。「心肥大」をみたら2次性心肥大を鑑別することの重要性を再認識した。

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英検を受けてみた【Dr. 中島の 新・徒然草】(636)

六百三十六の段 英検を受けてみた雨ばかりの毎日。そろそろ梅雨かなと思っていたら、大阪ではすでに6月4日に梅雨入りしていたのですね。知らんかった。まるで260万年前に氷河期が始まっていたのに、それに気付いていなかったみたい。地球温暖化と言われていますが、現代は紛れもなく氷河期です。第四紀氷河期という名称なのだとか。さて、先日のこと。私は実用英語技能検定(いわゆる英検)の2級を受けてきました。「中島先生は留学していたこともあるんでしょう。何で1級じゃないんですか?」とか聞かれそうですね。2級を受けるのにはわけがあります。つまり、自分の英語の実力を冷静に見ると、準1級に受かるかどうかくらいでしょう。で、もし最初から準1級に挑戦して落ちてしまったら、後には何も残りません。それでは悲しすぎるので、まずは手堅く2級から、と思ったわけです。それにキーボードとヘッドセットを使うS-CBTという試験形式に慣れておきたかったこともあります。そんなわけで某月某日、英検のテストセンターに行ってきました。試験内容は漏らしてはならないということなので今回は省略しておきます。やはり自分で受けてみないとわからないことだらけ。まず、不正行為防止対策のため、スマホはそれぞれ割り当てられた鍵付きロッカーに預けなくてはなりません。スマホだけでなく、財布も腕時計もハンカチもです。そんなわけで、試験会場の部屋には丸腰で入ることになりました。次に試験会場。おおよそ半分くらいの席が埋まっていたように思います。各ブースは左右を半透明パーティションで区切られ、目の前にはドンッと大きめのモニターがありました。頭上には不正行為防止用の監視カメラまであります。英検は大学入試にも使われることがあるので、このくらい厳重なほうが受験生にとっても安心ですね。試験監督からいろいろな注意事項が述べられた後に、いよいよ本番開始。スピーキング、リスニング、リーディング、ライティングの順に進みます。私が心配していたのは、いかにヘッドセットをつけていたとしても、隣の受験生の声が聞こえてくるのではないか、ということ。逆にスピーキングで喋っている私の声が世間さまの邪魔にならないだろうか、という懸念もあります。が、これらは杞憂でした。確かに他のブースの声が聞こえてきますが、それを気にする余裕はありません。会場の外を通る救急車の音も同様です。ひたすら試験に集中するのみ。ライティングについては80~100語みたいな制限があります。なので、自分で語数をカウントしなくてはならないのかと心配していました。が、実際には解答欄にキーボードで打ち込んでいくと同時に、語数が右上に表示されるというシステムです。微妙な語数調整ができる分、紙と鉛筆で解答を書くより楽でした。こういったシステムは洗練されています。終わったら早く出てもよいとのことだったので、先に退出しました。昼食時の飲食店の競争率を考えたら、そのほうが賢いからですね。11時過ぎに出たものの、会場周囲はもう観光客でごった返していました。あと、細かいことですが、注意しておいたことを述べます。自分の朝の定期内服薬のうち、利尿作用のあるものはスキップしました。試験中にトイレに行きたくなったら大変ですから。年を取ると、こういうことまで注意しなくてはなりません。ということで、今回の受験体験記が読者の皆さまの参考になれば幸いです。次はTOEICか、はたまた準1級か!でも、結果が悪かったら知らん顔をしておきますので、そこはご理解ください。最後に1句 梅雨の中 試験をすませて 昼メシだ

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最適な輸液ルート選択の考え方 その参【ケースで学ぶ輸液オーダー】第4回

はじめに「点滴ラインを何度も自己抜去してしまう認知症の患者さん」「その都度ルート再確保に奔走する看護師」「内心心苦しさを感じながら点滴を指示する医師」は、病棟「あるある」な光景でしょう。しかし、たとえ1日500mLの維持輸液だけだったとしても、必要な治療であればやめるわけにはいきません。そんなとき、全員をwin-winの関係にしてくれるのが、古くて新しい存在の「皮下輸液」です。症例特別養護老人ホームから誤嚥性肺炎で入院した90代女性。総合診療科に配属されたばかりの研修医A君が担当になりました。施設では普通食だったとのことですが、いざ服薬してみると明らかにむせています。言語聴覚士(ST)が介入し、嚥下訓練をしながら少しずつ嚥下調整食を試すことになりました。段階的にカロリーを上げていく間、どうしても経口以外からの水分補給が必要です。とはいえ、経鼻胃管の留置は自己抜去のリスクが高すぎます。そこでA君は、末梢静脈路から維持輸液500mLを1日2時間ほどかけて、まずは1週間行う計画を立てました。しかし、患者さんの末梢血管は細くて見えにくく脆弱です。看護師がなんとか確保したルートは、あえなく2日連続で自己抜去されてしまいました。「もう刺せる血管がありません」と看護師に詰められるA君。中心静脈カテーテルを留置するなら自己抜去対策に身体拘束が避けられない状況です。ほかに優しくて安全な方法はないのでしょうか?考えかたの整理19世紀中頃に登場した古典的治療法である皮下輸液は、経静脈栄養の発展・普及により廃れかかっていました。しかし近年では、高齢者の脱水治療や終末期ケアにおける「低侵襲で安全なルート」として見直されています。「血管が見つからなくて針が刺せない」「どうしても点滴を抜いてしまう」という場面において、皮下輸液は重篤な合併症がほとんどない、極めて安全な選択肢です。緩和ケア領域では、持続注入ポンプを用いた鎮痛薬の持続皮下注射も普及しています。『終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン 2013年版1)』『症状緩和のためのできる!使える!皮下投与 改訂2版2)』を参考に、皮下輸液の方法、注意点、皮下投与可能な薬剤例(表1)をまとめてみました。皮下輸液の方法投与速度60~500mL/時間1日投与量1,500mLまで(2ヵ所の場合は3,000mLまで)管理1~4日ごとの針・チューブ交換と、刺入部の観察(浮腫、発赤、痛み、感染、液漏れがないか)注意点静脈と違って効果発現までに時間がかかる。浮腫がある場所は吸収されにくいため穿刺に向かない。皮膚障害が起こることがある。出血傾向がある患者さんには禁忌。表1 皮下投与可能な薬剤例1,2)※添付文書上、皮下投与が可能なもの。その他は文献や経験的使用に基づく。画像を拡大するベテラン看護師に聞きました<皮下輸液の実際>当院で高齢者の皮下輸液を日常的に行っている病棟看護師に、現場のリアルを聞いてみました。準備するもの普段の点滴に使う24Gの静脈留置針と点滴セット。特別な道具は不要。点滴の落とし方たとえば維持輸液(ソリタT3など)500mLなら、約4時間かけてゆっくり落とすように重力滴下でクレンメを調整する。おすすめの穿刺部位頻用するのは腹部で、腹壁の厚みが少ない場合は大腿部を選択する。自己抜去のリスク管理リスクが極めて高い患者さんは点滴終了ごとに抜針する。また、大腿部に穿刺し、衣服のズボンの裾からこっそりラインを外へ誘導すると、患者さんの視界に入らず抜かれにくくなる。 痛みを訴えたら?もし注入開始後に痛みの訴えがあった場合は、刺入部をカイロや蒸しタオルで温めると痛みが和らぐ。図2 当院で入院患者に行われる皮下輸液の実際画像を拡大する保険適用上の注意点今回参照した本邦の文献1,2)では、海外文献や成書での使用例や国内での臨床経験に基づいた豊富な実例を紹介しているとともに、皮下投与が添付文書上の適応外に該当する場合は、「患者・家族に対する十分な説明を行い、場合によっては説明文書や同意書を作成したうえで、院内の手続きを経て適応外申請を行うなど、より厳格な対応が求められていく可能性がある2)」との認識も示しています。海外では、セファゾリンやセフトリアキソンなど、本邦では皮下投与の適応外となっている抗菌薬の皮下投与の安全性を示す報告3,4)や、皮下投与実施ガイドライン5)も存在し、皮下投与の安全性や有益性のよりどころになりますが、本邦で実施する場合は、医学的な正しさと制度の順守の両輪を念頭におきましょう。本症例の対応A君は、当面の輸液ルートとして皮下輸液を選択しました。腹部の皮下に24G静脈留置針を刺入し、ソリタT3 500mLを1日1本4時間程度で点滴しました。患者さんは刺入部を気にすることなく穏やかに過ごされ、鎮静薬の投与や身体拘束は必要ありませんでした。「末梢が見えない」「自己抜去のリスクがある」患者さんに維持輸液を500mL行わざるを得ない場合、皮下輸液を選択肢に入れましょう。皮下輸液に適する製剤、適さない製剤皮下組織への輸液投与は、静脈内投与と比較して薬剤の希釈および全身への拡散が起こりにくく、投与部位において一時的に高濃度で滞留する可能性があります。そのため、浸透圧、pH、局所刺激性といった薬剤の物理化学的特性の影響を強く受ける点に留意が必要です。皮下輸液に使用する輸液製剤は、原則として等張(浸透圧比約1)であり、かつ生体に近いpHであることが求められます。皮膚のpHは、表面では弱酸性(pH4~6)、角質下では中性から弱塩基性(pH6~7)とされており、これらの範囲から逸脱する製剤は局所刺激や組織障害のリスクを高める可能性があります。この観点から、生理食塩液、5%ブドウ糖液、1・3号液、リンゲル液は皮下投与が可能とされています。一方で、末梢静脈栄養輸液、高カロリー輸液は浸透圧比が3以上と高く、皮下投与には適しません。また、脂肪乳剤は浸透圧比が約1でありpHも6.5~8.5に調整されていますが、血管外漏出時に壊死や潰瘍形成を引き起こした症例が報告されています6)。このため、安全性の観点から皮下投与は推奨されません。1)日本緩和医療学会緩和医療ガイドライン委員会編. 終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン 2013年版. 金原出版;2013.2)梶山 徹ほか編. 症状緩和のためのできる!使える!皮下投与 改訂2版. 診断と治療社;2023.3)Moreal C, et al. New Microbiol. 2024;47:227-242.4)Forestier E, et al. Infect Dis Now. 2026;56:105232.5)Broadhurst D, et al. J Infus Nurs. 2023;46:199-209.6)Lu YX, et al. World J Clin Cases. 2021;9:4599-4606.

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第66回 SNSが広げる「合成ペプチド」ブーム。米国で何が起きているのか

筋肉を付けたい、けがを早く治したい、若さを保ちたい。そうした願いに応える「特効薬」として、いま米国で急速に広がっているのが、注射で使う「合成ペプチド」です。BPC-157やipamorelinといった成分が、SNSを通じて若者を中心に人気を集めています。2026年5月時点で、ペプチド関連の投稿はInstagramで13万件を超え、TikTokでは2億3,000万回も再生されているといいます1)。しかし、その大半は有効性も安全性も十分に確かめられていません。2026年6月、JAMA誌に掲載された論考は、この現象の裏にある「規制の穴」を指摘しています1)。今回は、その内容をかみ砕いてご紹介します。揺れ動く規制が、かえって混乱を生んでいるまず押さえておきたいのは、これらのペプチドの多くが、効果のはっきりした根拠を欠いているという点です。逆に、動物実験などからは、異常な血管新生(本来できるべきでない血管がつくられること)や、毒性をもつ代謝産物の発生といったリスクも指摘されており、ヒトでの安全性データはほとんどないのが現状です2)。それにもかかわらず、米国の規制は一貫していません。米国食品医薬品局(FDA)は安全性への懸念からBPC-157などを「調剤」の対象から外す動きを見せる一方3)、政界からは規制を緩めようという声も上がっています。ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏の掲げる「Make America Healthy Again」には、ペプチドへのアクセスを広げる提案も含まれているのです4)。こうした「締めては緩める」の繰り返しが、医師にも消費者にも混乱をもたらしています。そして規制が厳しくなっても需要そのものは消えず、むしろ管理の及ばない闇ルートへと利用者を押しやってしまう。これが大きな問題だと論考の著者は警鐘を鳴らします1)。「薬」と「サプリ」の境界が溶けているペプチドのやっかいさは、その立ち位置の曖昧さにあります。たとえば肥満症治療で広く使われるセマグルチドやチルゼパチド(GLP-1受容体作動薬)のように、正式に承認された医薬品もペプチドの1種です。その一方で、まったく同じ「ペプチド」という言葉のもとに、オンライン専門のクリニックや「研究用試薬」を称する業者が、未承認の製品を売りさばいています。つまり、承認薬・調剤品・健康増進グッズ・違法な増強薬が、すべて「ペプチド」として地続きにつながってしまっているのです。販売サイトは「高純度」「即日発送」「まとめ買い割引」といった宣伝文句を並べ、用途別に商品を並べています。これでは、どこからが医療でどこからが違法なのか、その線引きがきわめて難しくなります。とりわけ心配なのが若い世代です。SNSで理想の体型をあおられた10代の男の子や若い男性が、リスクを軽く見たまま、こうした商品に出会ってしまう。従来の規制は製造や流通の一点を狙い撃ちするだけで、需要を生み出すデジタル空間そのものには手が届いていないのです。いま求められる「しなやかな」対策禁止や輸入規制といった従来型の手法だけでは不十分でしょう。必要なのは、システム全体を見据えた柔軟な対応です。具体的には、FDAによる承認前の評価基準の強化、根拠の乏しい成分の調剤制限、違法な業者への警告や輸入差し止め、そしてインフルエンサーの誇大広告への取り締まりなどが挙げられています。販売後の副作用を追う監視体制の拡充も欠かせません。加えて見過ごせないのが、研究の不足です。これらの物質は比較的調べやすいにもかかわらず、利用実態や健康被害についてのデータがほとんどありません1)。この問題は米国だけのものではありません。オーストラリア5)やカナダ6)でも、オンラインで購入した未承認ペプチドへの安全性勧告がすでに出されています。日本でも、SNS発の健康情報が国境を越えて入ってくる時代です。「みんなが使っているから安全」とは限らない。この視点は、私たち一人ひとりが持っておきたいものです。1)Piatkowski T, et al. Illicit injectable peptides and regulatory gaps. JAMA. 2026 Jun 15. [Epub ahead of print]2)McGuire FP, et al. Regeneration or risk? a narrative review of BPC-157 for musculoskeletal healing. Curr Rev Musculoskelet Med. 2025;18:611-619.3)US Food and Drug Administration. Certain bulk drug substances for use in compounding that may present significant safety risks. 2026 Apr 22.4)Jewett C, Blum D. Heeding Kennedy's wishes, FDA is expected to lift restriction on peptides. New York Times. 2026 Mar 31.5)Australian Government Therapeutic Goods Administration. Understanding your responsibilities when importing, compounding and supplying unapproved peptide products. 2026 Apr 13.6)Government of Canada. Think twice before injecting peptides bought online: unauthorized products can seriously harm you. 2026 Apr 9.

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うつ病に対する5つの抗精神病薬補助療法、その有効性と忍容性は?

 うつ病成人の多くは、従来の抗うつ薬では寛解に至ることが困難である。米国食品医薬品局(FDA)は、有効性と安全性に関する十分なエビデンスに基づき、うつ病の治療薬として5種類の非定型抗精神病薬を承認している。カナダ・トロント大学のRoger S. McIntyre氏らは、うつ病に対するFDA承認の非定型抗精神病薬併用療法の有効性および忍容性を比較し、医療従事者および当事者への意思決定支援を提供することを目的として、システマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。JAMA Psychiatry誌オンライン版2026年5月6日号の報告。 データベースの創設時から2025年7月15日までに公表された研究をPubMed/MEDLINE、PsycINFO、Cochrane Library、Embaseの各データベースよりシステマティックに検索した。6人の独立した評価者が、適格性に基づいて研究をスクリーニングした。選択基準は、うつ病の補助療法としてFDA承認の非定型抗精神病薬を評価した研究とした。2人の独立した評価者によりデータを収集し、コクラン基準に従ってバイアスのリスクを評価した。エフェクトサイズは、ランダム効果モデルを用いて統合した。データ分析は、2025年8~9月に実施した。主要アウトカムは、有効性(Montgomery Asbergうつ病評価尺度[MADRS]合計スコアのベースラインから50%以上の減少)および忍容性(すべての原因による中止)とした。主な結果は以下のとおり。・合計22件(1万962例)の短期試験を解析対象に含めた(アリピプラゾール群:1,297例、ブレクスピプラゾール群:1,973例、cariprazine群:1,894例、lumateperone群:483例、クエチアピン徐放製剤群:719例、プラセボ群:4,596例)。・lumateperoneは、有効性において最も高い効果量を示した(リスク比[RR]:1.72、95%信用区間[CrI]:1.40~2.15)。次いで、アリピプラゾール(RR:1.53、95%CrI:1.32~1.77)、ブレクスピプラゾール(RR:1.38、95%CrI:1.18~1.65)、cariprazine(RR:1.20、95%CrI:1.07~1.36)、クエチアピン徐放製剤(RR:1.15、95%CrI:0.96~1.35)の順であった。・忍容性の階層構造が観察され、アリピプラゾールが最も高い忍容性を示した(RR:1.16、95%CrI:0.89~1.50)。次いで、cariprazine(RR:1.44、95%CrI:1.15~1.82)、ブレクスピプラゾール(RR:1.47、95%CrI:1.18~1.85)、クエチアピン徐放製剤(RR:1.56、95%CrI:1.14~2.12)、lumateperone(RR:2.30、95%CrI:1.45~3.84)の順であった。・副次的アウトカム(症状寛解など)および探索的アウトカム(臨床的に有意な体重増加など)は、主要アウトカムと同様であった。 著者らは「うつ病治療における非定型抗精神病薬併用療法には、全体的な有効性と忍容性に関して差異が存在することが示され、これらの差異は同時に考慮されるべきであることが示唆された。うつ病における非定型抗精神病薬併用療法の維持効果を実証した、適切かつ十分な試験が不足していることが、依然として知識のギャップにつながっていることも明らかとなった」としている。

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糖代謝異常者における循環器病の診断・予防・治療に関するコンセンサスステートメント改訂版の概要/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会の第69回年次学術集会(会長:下村 伊一郎氏[大阪大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学 教授])が、5月21~23日の日程で、大阪国際会議場、リーガロイヤルホテル大阪をメイン会場に開催された。 今回の学術集会は「IMAGINE いのち輝く 糖尿病の医療・医学を共に目指して」をテーマに、41のシンポジウム、143の口演、ポスターセッション、会長特別企画による講演、特別企画「糖尿病とともに生活する人々の声をきく」などが開催された。 糖尿病患者の生命予後を左右するリスクに心血管障害がある。そこで、日本糖尿病学会(JDS)と日本循環器学会(JCS)は、2017年より合同委員会を立ち上げ、臨床知見の情報交換などを行ってきた。また、2020年にはこれらを成書化した『糖代謝異常者における循環器病の診断・予防・治療に関するコンセンサスステートメント』が刊行された。今回、6年ぶりにその内容が更新されたことから、本稿ではシンポジウム14より「JDS・JCSコンセンサスステートメントについて」の概要をお届けする。前心不全の早期からの治療介入を記載 「JDS・JCS合同コンセンサスステートメント改訂のオーバービュー」をテーマにJCS側を代表し田中 敦史氏(佐賀大学医学部循環器内科)が今回の改訂のポイントを説明した。 全体の改訂としては、循環器疾患、高血圧に関連する最新の診療ガイドラインの内容を盛り込んだほか、慢性腎臓病(CKD)のセクションを新たに設け、口腔管理についても記載した。また、専門医への紹介基準や両科の連携についてもより内容を充実させている。 今回の改訂では目次は2020年の前版と変更なく、1章では「診断」、2章では「予防・治療」、3章では「紹介(連携)基準」を踏襲している。診断対象は糖代謝異常と循環器疾患(アテローム性動脈硬化性心血管疾患、心不全、不整脈)であり、循環器疾患は3つの軸で記載されている。 2章では、糖代謝異常患者の大血管障害の予防・治療に対応する非薬物療法について、ライフスタイル介入として運動療法や食事療法、禁煙指導などのほかに、今回は口腔(歯)衛生についても記載された。 同じく薬物療法では、血圧、脂質のほかに、近年エビデンスが集積してきたCKDについても1つのセクションとして取り上げた。また、糖尿病治療薬が、心血管疾患の治療や予防にどの程度寄与するのか、内容をアップデートした。そのほか、糖尿病患者の経皮的冠動脈形成術(PCI)について、どのような患者を対象にするかを記載している。 糖代謝異常患者の心不全の予防・治療、心房細動の治療についても同様に記載し、エビデンスなどアップデートしている。 3章では「紹介(連携)基準」として、今改訂ではあえて「専門医」という言葉を使わずに「診療する医師」と幅広くとらえる変更を行った。対象を広げて糖尿病、循環器疾患、それぞれを診療する医師からの紹介とした。 心不全のフローチャートについて、今回は早期に心不全のリスクを検出する目的で、BNP(35pg/mL以上)/NT-proBNP(125pg/mL以上)の数値基準を記載し、ステージA・B・C・Dで分類。とくにステージBは前心不全ということで早期介入での進行予防を、ステージCとDでは循環器専門医へ紹介するように示している。また、糖代謝異常者に対する心不全の予防および治療については、『心不全診療ガイドライン2025』(日本循環器学会/日本心不全学会)に準拠した記載に改訂されている。 高血圧では『高血圧管理・治療ガイドライン2025』(日本高血圧学会)を反映し、糖尿病患者の目標値も診察室で130/80mmHg未満、家庭(自宅)で125/75mmHg未満で新たに記載し、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)、MR拮抗薬が第2段階では同列などの記載がされている。 脂質異常症へのアプローチは、基本的には糖尿病患者の高LDL-C血症、低HDL-C血症、高TG血症などの1・2次予防として薬物治療やそのエビデンスなどについて『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』(日本動脈硬化学会)から引用している。 大血管障害に対する糖尿病治療については、特定の薬剤推奨は前回版では見送りとなっていたが、その後、薬剤の個別化が欧米を中心に普及しエビデンスも蓄積されてきたことを受け、とくに2次予防のためにGLP-1受容体作動薬もしくはGIP/GLP-1受容体作動薬、ならびにSGLT2阻害薬の推奨がされている。 本ステートメントの目次は次のとおり。【I 診断】1 糖代謝異常2 循環器疾患  2-1 アテローム性動脈硬化性心血管疾患(とくに冠動脈疾患)  2-2 心不全  2-3 不整脈(心房細動と心臓突然死)【II 予防・治療】 1 糖代謝異常者における大血管障害(冠動脈疾患・末梢動脈疾患)の予防・治療  1-1 Lifestyle介入  1-2 薬物療法  1-3 糖尿病患者における冠血行再建術 2 糖代謝異常者における心不全の予防・治療  2-1 Lifestyle介入  2-2 薬物療法 3 糖代謝異常者における心房細動の治療【III 紹介(連携)基準】 1 糖尿病を診療する医師から循環器疾患を診療する医師(とくに専門医)への紹介(連携)基準 2 循環器疾患を診療する医師から糖尿病を診療する医師(とくに専門医)への紹介(連携)基準 3 循環器疾患・糖尿病を診療する両医師間で糖尿病治療について連携する場面での留意点

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EGFR遺伝子変異陽性肺がんの耐性機序と新規治療から見た今後の展望/日本臨床腫瘍学会

 EGFR遺伝子変異陽性肺がんの治療は、分子標的薬の登場によって大きく進歩してきた。一方で、治療経過で生じる薬剤耐性、EGFRエクソン20挿入変異やHER2変異をはじめとするuncommon変異への対応、さらに治療シークエンスや併用療法に伴う有害事象の管理など、なお多くの課題が残されている。 2026年3月26〜28日に開催された第23回日本臨床腫瘍学会学術集会のシンポジウム「EGFR遺伝子変異陽性肺の治療課題と新規治療の展望」では、EGFR変異陽性肺がん診療が直面する近年の課題を踏まえ、その解決に向けた最新のエビデンスや治療戦略について幅広い議論が交わされた。EGFR変異陽性肺がんの耐性機序と後治療開発 James Chih-Hsin Yang氏(台湾・国立台湾大学)は、EGFR変異陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)における一次治療後の耐性機序に着目し、第3世代EGFR-チロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)であるオシメルチニブ単剤、オシメルチニブ+化学療法、EGFRとMETを標的とする二重特異性抗体であるアミバンタマブ+第3世代EGFR-TKIであるラゼルチニブでは、耐性化のパターンが異なることを示した。とくに、オシメルチニブによる治療ではMET増幅が重要な耐性機序となる一方、METも同時に抑制するアミバンタマブ併用では、その出現頻度が低い傾向が示された。初回治療の選択が、その後の腫瘍進化の方向性を規定しうる点は重要な示唆といえる。 また、MET関連耐性に対する治療戦略として、バイオマーカーに基づく症例選択の重要性を強調した。オシメルチニブによる一次治療後に病勢進行したEGFR変異陽性でMET過剰発現かつ/またはMET増幅を有するNSCLC患者を対象に、オシメルチニブ+新規MET阻害薬の併用療法を評価した国際共同第II相試験「SAVANNAH試験」では、MET過剰発現またはMET増幅を基準とした患者選択により、一定の奏効率と奏効期間が得られたことから、今後の第III相試験の結果が注目されるとした1)。 さらに、既治療EGFR変異陽性NSCLC患者に対する後治療として、抗TROP2抗体薬物複合体やPD-1/VEGF二重特異性抗体など、複数の新規薬剤の開発状況を紹介した。その中で、EGFRエクソン20挿入変異やその他の希少EGFR変異を標的とする低分子薬の開発も進んでいるが、薬剤ごとに活性に差があり、EGFR野生型への作用に伴う有害事象が治療強度を制限しうる点が課題として挙げられた。加えて、EGFRを分解させる抗体や、がん細胞に毒素を送達する抗体ベースの治療も有望視される一方、副作用への十分な配慮が必要だとした。Yang氏は、「EGFR変異陽性肺がんにおける二重標的治療やPD-1/PD-L1阻害薬の位置付けについても、なお活発な検討が続いている」とまとめた。EGFR変異陽性肺がんにおけるアミバンタマブの位置付け Byoung Chul Cho氏(韓国・延世がんセンター/延世大学医学部)は、アミバンタマブの臨床的意義を最新データとともに総括した。まず、本剤はEGFRとMETを同時に標的とするだけでなく、抗体依存性細胞傷害(ADCC)や抗体依存性細胞貪食(ADCP)といった免疫学的作用も有する点を特徴として挙げた。このような作用により、単なるシグナル阻害にとどまらず、腫瘍微小環境にも働きかけうることが長期にわたる有効性の背景にあるとの見方を示した。 MARIPOSA試験については、一次治療におけるアミバンタマブ+ラゼルチニブが、無増悪生存期間(PFS)だけでなく全生存期間(OS)も改善した点を強調した2)。また、アジア人集団においても一貫したOSの改善が見られたことを重視し、EGFR変異陽性肺がんにおいてアジアは単なるサブセットではなく、世界的な中心集団として捉えることも可能かもしれないと論じた。さらに、本試験は脳MRIを全例で継続的に評価した唯一の第III相試験であり、頭蓋内PFSや頭蓋内奏効期間の持続性という観点からも高く評価できるとした。 加えて、アミバンタマブ併用ではMET増幅や二次EGFR変異が減少し、耐性機序の複雑化そのものを抑制しうることを示した。Cho氏は、「アミバンタマブベースの二次治療の有用性を評価した複数の臨床試験成績を踏まえると、こうした治療はcommon変異、EGFRエクソン20挿入変異、atypical変異にわたり幅広い有効性が示唆され、EGFR変異陽性NSCLC全体の治療を変える基盤となりうる」と述べた。EGFRエクソン20挿入変異とuncommon変異に挑む新規治療開発 EGFRエクソン20挿入変異は、EGFR変異の中で3番目に多いサブタイプでありながら、従来のEGFR-TKIの効果が乏しいことが課題となっている。宇田川 響氏(国立がん研究センター東病院)は、その分子構造的背景としてP-loopやαC-helixの位置変化により薬剤結合ポケットが狭くなり、TKIの結合が妨げられていることを解説した。 こうした課題に対し、EGFRエクソン20挿入変異に高い選択性を有する新規TKIの開発が進んでいる。前臨床試験では複数の薬剤が有望視されており、臨床試験でも一定の奏効率と奏効期間が報告されていることから、今後の第III相試験の結果に期待が寄せられるとした。 さらに、G719X、S768I、L861Qなどのuncommon変異については、PACC(P-loop αC-helix compressing)変異という構造分類の考え方が紹介された。これらに対しては第2世代EGFR-TKIであるアファチニブが標準治療とされる一方、変異ごとの立体構造に応じて薬剤感受性が異なるため、今後はより広い変異スペクトラムに対応した次世代TKIの開発が重要になるとの見解を示した。融合遺伝子、多ドライバー化で生じるTKI耐性の克服に向けて 小林 祥久氏(国立がん研究センター研究所)は、EGFR-TKI耐性克服に向けた基礎研究を取り上げた。CRISPRゲノム編集技術を用いてEGFR変異細胞にKRAS変異やALK、RET、BRAF、FGFR3融合を導入し、耐性化を人工的に再現することで併用療法の最適化を検討したところ、BRAF融合モデルではBRAF阻害薬よりもMEK阻害薬であるトラメチニブの併用が有効であり、この知見が実臨床への応用にもつながった経緯が紹介された。 一方で、がんは併用療法に対してもさらに耐性を獲得しうる。RET融合モデルではRET G810S変異やRET融合増幅、FGFR3融合モデルではKRAS点突然変異など、多様な二次耐性の出現が認められたという。小林氏は、「単一ドライバーではなく、複数の腫瘍ドライバーが同時に存在する“多ドライバー腫瘍”という視点は、今後の耐性克服戦略においてきわめて重要である」と述べた。

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ST合剤に「急性汎発性発疹性膿疱症」の重大な副作用追加/厚労省

 2026年6月16日、厚生労働省より添付文書の改訂指示が発出され、抗菌薬のスルファメトキサゾール・トリメトプリム(商品名:バクタ配合錠、バクトラミン配合錠ほか、通称:ST合剤)の「重大な副作用」の項に「急性汎発性発疹性膿疱症」が追加された。急性汎発性発疹性膿疱症の発生状況と改訂の理由 急性汎発性発疹性膿疱症の症例を評価し、専門委員の意見も聴取した結果、本剤と事象との因果関係が否定できない症例が集積したことから、使用上の注意を改訂することが適切と判断された。なお、国内症例は12例で、うち医薬品と事象との因果関係が否定できない症例は4例(死亡0例)であった。その他、添付文書が改訂された薬剤 同日、ほかの医薬品についても使用上の注意の改訂指示が出されており、主な変更点は以下のとおり。◯炭酸リチウム 「禁忌」の項から「妊婦又は妊娠している可能性のある女性」が削除された。これに伴い、「特定の背景を有する患者に関する注意」において、妊婦には「治療上やむを得ないと判断される場合を除き、投与しないこと」に改められ、新たに「生殖能を有する者」への注意喚起(催奇形性に関する十分な説明など)が新設された。◯カルボキシマルトース第二鉄、含糖酸化鉄 「重大な副作用」の項に「低リン血症、骨軟化症」が新設・追加された。また、重要な基本的注意として、投与開始前や投与中の定期的な血清リン値の測定と、骨軟化症を疑う症状が現れた際の処方医への相談を患者に指導する旨が追記された。◯バレメトスタットトシル酸塩 「重要な基本的注意」の項に、「急性骨髄性白血病や骨髄異形成症候群などの二次性悪性腫瘍が発現する可能性」について追記され、患者の状態を十分に観察することが求められている。

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タウPET検査、トレーサー選択がアルツハイマー病診断の精度に影響/Lancet

 アルツハイマー病の診断、進行ステージおよび治療の選択において重要なバイオマーカーとして注目されるタウPET画像について、検査で使用する放射性医薬品(トレーサー)の選択により、年齢やアルツハイマー病の進行段階を問わず、タウ病理の検出頻度に違いが生じることが、米国・ピッツバーグ大学のGuilherme Povala氏らによる「HEAD試験」の結果で示された。トレーサーとして、[18F]MK6240はフロルタウシピル(18F)(商品名:タウヴィッド)と比較して、認知機能正常例および認知障害例のいずれにおいても、タウ病理を有する人をより多く特定した。著者らは、「この結果は、臨床試験における患者層別化やより精度の高い治療方針決定に、直接的な影響を与えるものである」とまとめている。Lancet誌2026年5月30日号掲載の報告。フロルタウシピル(18F)と[18F]MK6240の認知障害判別精度とMTL・大脳新皮質のタウ陽性頻度を評価 研究グループは、米国および欧州の臨床現場で現在使用されているフロルタウシピル(18F)と、開発段階のPETトレーサーである[18F]MK6240について、多施設共同前向き非無作為化被験者内比較試験を行った。 被験者は、北米の8施設で募集され、タウPET検査、アミロイドβ(Aβ)PET検査、および詳細な認知機能評価を受けた。両薬剤を用いたタウPET検査は、45日以内に実施された。 主要アウトカムは2つで、アルツハイマー病関連認知障害の判別精度と、内側側頭葉部(MTL)および大脳新皮質領域におけるタウ陽性の頻度であった。 2022年3月2日~2025年8月27日に775例が登録され、682例がすべての試験手順を完了した。 被験者は、女性373例(55%)、男性309例(45%)で、19~27歳38例(6%)、50~65歳214例(31%)、65~89歳430例(63%)であった。また、32例(5%)がヒスパニック/ラテン系、637例(93%)が白人、24例(4%)が黒人/アフリカ系米国人、16例(2%)がアジア人、5例(1%)がその他として、さらに49例(7%)が農村地域出身として特定された。[18F]MK6240のほうがアルツハイマー病と非アルツハイマー病の障害を区別する精度が高い  [18F]MK6240はフロルタウシピル(18F)よりも、アルツハイマー病と非アルツハイマー病の障害を区別する精度が有意に高かった(曲線下面積[AUC]:0.93[95%信頼区間[CI]:0.89~0.95]vs.AUC:0.86[95%CI:0.75~0.91]、p<0.0001)。 高齢の被験者において、両トレーサーでタウ陽性/陰性判定が一致したのは、MTLでは560例(87%)、大脳新皮質領域では603例(94%)であった。また、認知障害のない被験者において、[18F]MK6240はフロルタウシピル(18F)よりも、MTLにおけるタウ陽性例を2倍以上多く特定した(54例[15%]vs.23例[6%])。Aβ陽性の有病率比(PR)は2.43(95%CI:1.50~3.94、p=0.0003)であり、100例につき23例の追加症例が同定された。 不一致症例において、[18F]MK6240のみ陽性であったのは75例(89%)であり、両トレーサーで陰性であった症例よりもAβ負荷(p<0.0001)、APOEε4保有(p<0.0001)、認知障害(p=0.0043)の割合が有意に高かった。 認知障害のある被験者では、大脳新皮質領域のタウ陽性の頻度は、[18F]MK6240がフロルタウシピル(18F)よりも高かった(80例[28%]vs.46例[16%])。Aβ陽性のPRは1.74(95%CI:1.32~2.29、p<0.0001)であり、100例につき15例の軽度認知障害例、21例の認知症例が新たに同定された。

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