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ペスト治療、経口治療は注射+経口治療に非劣性/NEJM

 ペストの症例数は過去100年にわたり着実に減少し、2018年にWHOに報告された症例数は248件である(うち98%はマダガスカルとコンゴ)。しかし、ペストは広範囲に分布するげっ歯類を媒介としてエピデミックとなる可能性やバイオテロに利用される可能性があり、頻度は低いが重大な被害を引き起こす感染症である。マダガスカル・パスツール研究所のRindra Vatosoa Randremanana氏らIMASOY Study Groupは、現行の治療ガイドラインでは複数の治療レジメンが推奨されているが、裏付けとなるエビデンスは弱く、成功裏に完了した重要な(pivotal)無作為化対照試験はないことから、2つの治療選択肢を比較する無作為化対照試験を実施した。NEJM誌2025年8月7日号掲載の報告。シプロフロキサシン単独vs.アミノグリコシド系薬+シプロフロキサシン マダガスカルにおける2018年の腺ペスト成人治療ガイドラインでは、アミノグリコシド系注射薬(第1選択薬ストレプトマイシン、第2選択薬ゲンタマイシン)の3日間投与に次いで経口シプロフロキサシンの7日間投与が推奨され、第3選択薬として経口シプロフロキサシンの10日間投与が推奨されている。これら治療レジメンを支持する質の高いエビデンスの不足と、アミノグリコシド系薬の短所(注射投与であること、許容できない副作用、細胞膜透過性不良など)から、研究グループはこれらを比較する無作為化対照試験を行った。 2020年2月~2024年3月にマダガスカルで腺ペストと臨床的に疑われた人(妊婦は除外)を登録した。非盲検非劣性デザインを用いて、経口シプロフロキサシンの10日間投与(シプロフロキサシン単独)とアミノグリコシド系注射薬3日間投与+経口シプロフロキサシン7日間投与(アミノグリコシド系薬+シプロフロキサシン)の2つのガイドライン推奨治療を比較した。 主要エンドポイントは11日時点の治療失敗とし、死亡、発熱、2次性肺ペストまたはペスト治療の変更または長期化の複合エンドポイントとして定義した。 感染を検査で確認またはほぼ確実とされた患者におけるシプロフロキサシン単独治療の非劣性マージンは、リスク群間差の95%信頼区間(CI)の上限が15%ポイント未満とした。ITT感染集団における治療失敗、シプロフロキサシン単独群の非劣性を確認 933例がスクリーニングを受け、腺ペストが疑われた450例が登録・無作為化された。220例(各群110例)で感染が確認され、2例(各群1例)で感染がほぼ確実とされた。これら222例のITT感染者集団において、男性は53.2%、年齢中央値は14歳(範囲:2~72)であった。 ITT感染集団における治療失敗は、シプロフロキサシン単独群9.0%(10/111例)、アミノグリコシド系薬+シプロフロキサシン群8.1%(9/111例)であり、シプロフロキサシン単独群のアミノグリコシド系薬+シプロフロキサシン群に対する非劣性が示された(群間差:0.9%ポイント、95%CI:-6.0~7.8)。 非劣性は、その他の事前規定の解析集団(per-protocol感染集団[ITT感染集団のうち重要なプロトコール逸脱基準に該当したシプロフロキサシン単独群1例を除く]、ITT集団[ペスト感染状態を問わない全被験者]、per-protocol集団[ペスト感染状態を問わず、重要なプロトコール逸脱基準を満たした患者を除く全被験者]など)でも一致していた。 死亡は、シプロフロキサシン単独群5例、アミノグリコシド系薬+シプロフロキサシン群4例で報告され、2次性肺ペストは両群とも3例で発症が報告された。 ITT感染集団における有害事象の発現頻度は両群で同程度であり、全有害事象の発現率はシプロフロキサシン単独群18.0%、アミノグリコシド系薬+シプロフロキサシン群18.9%であり、重篤な有害事象の発現率はそれぞれ7.2%と5.4%であった。

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ワクチンの追加接種はがん患者のCOVID-19重症化を防ぐ

 がん患者は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が重症化しやすいとされるが、新型コロナワクチンの追加接種を受けることで重症化を予防できる可能性があるようだ。新たな研究で、COVID-19によるがん患者の入院リスクは、新型コロナワクチンの追加接種によって、未接種の患者と比べて29%低下することが示された。米シダーズ・サイナイ医療センター地域保健・人口研究部長のJane Figueiredo氏らによるこの研究結果は、「JAMA Oncology」に7月17日掲載された。 この研究では、シダーズ・サイナイ、カイザー・パーマネンテ北カリフォルニア、ニューヨークのノースウェル・ヘルス、および退役軍人保健局でがん治療を受けたがん患者を対象に、従来型の新型コロナ1価ワクチン(2022年1月までに接種)、および変異株に対応した2価ワクチン(2022年9月1日〜2023年8月31日の間に接種)の追加接種がもたらす効果を検討した。 1価ワクチンの追加接種の効果についての検討で対象とされたがん患者は7万2,831人(女性24.6%)で、そのうちの69%が2022年1月1日までに追加接種を受けていた。3万4,006人年の追跡期間におけるCOVID-19による入院率(1,000人年当たり)は、追加接種群で30.5件、未接種群で41.9件であった。入院予防に対する調整済みのワクチン有効性(VE)は29.2%であり、COVID-19による入院を1件防ぐには166人にワクチンを接種する必要があると推定された。また、COVID-19罹患の予防に対するVEは8.5%、COVID-19関連の集中治療室(ICU)入室予防に対するVEは35.6%であった。 2価ワクチンの追加接種の効果についての検討で対象とされたがん患者は8万8,417人(女性27.8%)で、そのうちの38%が2価ワクチンの追加接種を受けていた。8万1,027人年間の追跡期間におけるCOVID-19による入院率(1,000人年当たり)は、追加接種群で13.4件、未接種群で21.7件であった。入院予防に対する調整済みのVEは29.9%であり、COVID-19による入院を1件防ぐには451人にワクチンを接種する必要があると推定された。また、COVID-19関連のICU入室予防に対するVEは30.1%であった。 Figueiredo氏は、「ワクチン接種群での入院患者数の減少は顕著であり、追加接種の効果を得るために接種が必要な患者数は少なかった。この結果は、がん患者にとってワクチン接種には大きなベネフィットがあることを示しており、接種について医療提供者と相談するきっかけになるだろう」とシダーズ・サイナイ医療センターのニュースリリースで述べている。 Figueiredo氏は、今回の研究では1価ワクチンの接種率が69%、2価ワクチンの接種率がわずか38%であったことについて、「これがワクチンの安全性に対する患者の懸念によるものなのか、それとも医療提供者ががん治療中に接種すべきか迷ったためなのかは明らかではない。確かなのは、がん患者を含む脆弱な集団がこれらのワクチンを接種できるよう強く訴えていく必要があるということだ」と述べている。 さらにFigueiredo氏は、「今回の研究は、新型コロナワクチンの有効性に関する理解を大きく深めるものであり、ワクチンの組成が変更されたり新たな変異株が出現したりしても、患者の健康を守るための最善の勧告を行えるよう、追加研究を実施していくつもりだ」と話している。同氏らは、今後の研究で自己免疫疾患患者や臓器移植を受けた患者などを対象にワクチンの有効性を調べる予定だとしている。

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脳に歯が生えていた1例【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第288回

脳に歯が生えていた1例今回取り上げるのは、BMJ Case Reportsに掲載された、アイルランドのコーク大学病院からの症例報告です。O'Grady J, et al. 'Teeth in the brain' - a case of giant intracranial mature cystic teratoma. BMJ Case Rep. 2012;2012:bcr0320126130.患者は16歳の女性で、3年間にわたって「片頭痛」と診断されていた頭痛の既往がありました。今回、側頭後頭部の頭痛が急激に悪化し、嘔吐、めまい、見当識障害を伴って受診。その後、意識消失、眼球上転、四肢の痙攣、尿失禁を呈したということです。この時点で、単なる片頭痛ではないことは明らかですよね。興味深いのは、神経学的検査では明らかな異常所見を認めなかったことです。GCS 15/15で、視野や視力、眼底所見も正常。認知機能検査も正常範囲でした。ただし、年齢に比して身長が低いという所見がありました。CTでは、5.6×9.3cmの巨大な正中脳室内病変が描出されました。部分的に石灰化し、主に脂肪成分からなる病変で、水頭症を合併していました。どうやら、石灰化部分は病変内に歯があることを示していました。脳に、歯。MRIでは、破裂したデルモイド嚢胞として矛盾しない画像でした。デルモイド嚢胞は、妊娠中に皮膚組織の原基が迷入することで発生し、毛髪、皮脂腺、汗腺などの皮膚付属物を含みます。歯も例外ではありません。経胼胝体アプローチで開頭術が施行され、デルモイド嚢胞の減量術が行われました。術中所見では、確かに石灰化した塊の中に歯が確認できたということです。軟らかい内容物は除去できましたが、石灰化部分は脳組織との癒着が強固で残存させざるを得ませんでした。退院時は、移動に介助が必要で、日常生活動作にも支障があり、短期記憶障害と軽度の失語症状を認めていました。MMSEは24/30でした。リハビリテーションの効果もあり、6ヵ月後には短期記憶は改善し、失語症状も著明に改善していました。自立歩行も可能となり、MMSEは28/30まで改善しました。理学療法士と作業療法士の介入により、全体的な術後状態は良好に経過したということです。若年者の慢性頭痛においても、器質的疾患の可能性を常に念頭に置く必要があります。3年間「片頭痛」として経過観察されていましたが、結果的に巨大な頭蓋内腫瘍が存在していたのですから。

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BIDMCでの新生活、40代で挑む最先端カテーテルの現場【臨床留学通信 from Boston】第14回

BIDMCでの新生活、40代で挑む最先端カテーテルの現場Beth Israel Deaconess Medical Center(BIDMC)での新生活も1ヵ月が過ぎ、ようやく環境に慣れてきました。最初の1~2週間は業務内容がよくわからず落ち着かない日々が続きましたが、仕事の流れが読めるようになり、少し楽になってきました。7月からフェローが従来の1人から2人体制になり、業務負担が楽になるかと思いきや、ナース・プラクティショナーなどのサポートが手薄なため、手技以外のクリニック業務、コンサルテーション、病棟管理などに多くの時間を取られてしまいます。カテーテルの手技は、たとえ自分が直接触っていなくても、他の人がどうしているのかをよく観察することが大事だと心掛けています。そのため、自分が第1フェローとして手技を行うだけでなく、第2フェローとして参加し、さまざまなTipsを学びたいと思っています。ただし、第2フェローの業務は手技以外のものが多く、なかなか思うようにいかないのがつらいところです。それでも、週に10件あるTAVR(経カテーテル大動脈弁留置術)の半分を担当するとだんだん慣れてきます。さらに、Valve-in-Valveにおいて、冠動脈閉塞を予測しleaflet modification(弁をカテーテルで切開し冠動脈閉塞を予防)といった複雑な手技にも参加できるのは大きなメリットです。デバイスについても、少しずつ慣れてきています。構造や操作方法など、ほとんどの手技にデバイスメーカーの担当者が立ち会ってくれるので、その場で直接教えてもらうことができます。ただし、日本語で習うのとは違い、細かいニュアンスがわかりにくく、聞き直すこともあります。あらかじめ動画で確認しておかないと、理解が遅れてしまうと自分でも感じています。それでも人生初の心房中隔穿刺など、40代になっても若干の緊張をしながらやるのは、とても面白い経験だと感じています。全米随一のオペレーターであるRoger Laham氏が私の上司なのですが、10月からはワシントン大学の同レベルのオペレーターであるJamie McCabe氏も加わることになり、かなりエキサイティングな日々になりそうです。就職活動も見据えつつ、業務量は増え続けていますが、引退を控えているベテラン医師もいるため、チャンスは十分にあると信じています。気を緩めることなく、必死に食らいついていきたいと思っています。Column写真はBIDMCの病院です。いくつもの建物が複雑につながっていて迷路のようです。カテーテル室は5階にあり、開胸手術へのコンバージョンにも対応できる体制が整っています。循環器病棟は8階と9階にあり、病棟はすべて個室になっています。広さは日本のCCUの2倍ほどで、1フロアに64床もあるため、端から端まで回診するだけでもそれなりの距離になります。平日はなかなか運動する時間が取れないので、健康維持のために上りは階段を使うようにしています。画像を拡大する

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第275回 医療系議員の得票数減少、国民に職能が届いていない可能性

INDEX政治史に名を刻んだある政治家の言葉と今の自民党参院選2025、医療系候補者の結果当落の分かれ目医療系組織候補の生きる道政治史に名を刻んだある政治家の言葉と今の自民党「戸別訪問は3万軒、辻説法は5万回、雨の日も風の日もやれ。聴衆の数で手抜きはするな。流した汗と、ふりしぼった知恵だけの結果しか出ない。選挙に僥倖(思いがけない幸運)などあるものか」上記は元首相だった故・田中 角栄氏の言葉である。中選挙区時代の新潟3区で戦後初の衆議院選挙(以下、衆院選)から16回連続当選、うち13回はトップ当選という田中氏の実績からすれば頷けるものがある。しかも、1976年にはロッキード事件が発覚し、田中氏本人は総理経験者ながらも逮捕される異例の事態に陥りながら、同年の衆院選も含め、政界引退までの5回の衆院選も連続トップ当選している。最後の選挙となった1986年衆院選時は、前年に脳梗塞を発症し、自身の後援会「越山会」の関係者だけが選挙戦を戦い抜き勝利した。まさに圧巻というほかない。とはいえ、ここまでの王国を築けるのは政治家の中でも一握りだ。多くの政治家は“風”の影響を受ける。先月、投開票が行われた参院選も同様だ。すでに多くの方がご存じの通り、与党・自民党は歴史的惨敗を喫した。自民党が衆参両院で少数与党になったのは1955年の結党以来初のことである。参院選2025、医療系候補者の結果今回の選挙で自民党では比例代表に医療・介護系候補7名が出馬していたが、各人がどのような結果になったかを改めておさらいしておきたい。結果は以下の通りだ。釜萢 敏氏(日本医師連盟):17万4,434票(当選)石田 昌宏氏(日本看護連盟):15万2,649票(当選)本田 顕子氏(日本薬剤師連盟):15万2,518票(当選)比嘉 奈津美氏(日本歯科医師連盟):10万1,975票(落選)田中 昌史氏(日本理学療法士連盟):8万8,432票(落選)斉藤 正行氏(全国介護事業者連盟):5万2,988票(落選)畦元 将吾氏(日本診療放射線技師連盟):1万9,540票(落選)今回の選挙は裏金問題以降の自民逆風が続き、序盤情勢での自民党比例代表の獲得議席は12~15議席と予想され、しかも終盤までにさらに情勢が悪化したため、12議席獲得も厳しいと囁かれた。巷の選挙雀らからは「比例の当選ラインは20万票」との声も出たほどだ。最終的には序盤情勢予想の最低ライン、かつ自民党の比例代表獲得議席数として史上最低タイの12議席で、12議席目(特定枠も含む)に滑り込んだ鈴木 宗男氏の得票が13万2,633票だった。過去の同党の参院比例の最低当選得票数だけで見れば、3年前の2022年参院選が11万8,710票、6年前の2019年参院選が13万1,727票であり、思ったほど当選ラインは上がっていないように見える。しかし、同党の比例代表の得票数は3年前と比較して500万票以上減少し、獲得議席数は2019年参院選の19議席、2022年参院選の18議席から大きく減らすことになった。今回、私は約20年ぶりに国政選挙そのものの取材をする羽目になり、関係各方面を駆けずり回った。選挙前に各方面から漏れ伝わってきた情勢では、医療・介護系候補は日本医師連盟の釜萢氏以外はかなり厳しいと言われていた。とくに日本看護連盟の石田氏、日本薬剤師連盟の本田氏は当落線上の下位、つまり当選が相当危ぶまれていた。しかし、蓋を開けてみれば医療・介護系候補は前述のような3勝4敗で、ほぼ過去の選挙結果と同様だった。当落の分かれ目この背景に何があったのか? あくまで推測しかできないが、ほぼ同じ顔ぶれが比例候補だった6年前の2019年参院選の結果と比べると、ぼんやりながらも一定の推測はできる。まず、6年前と同一の候補者の中で、当時は得票数で第5位だった和田 政宗氏(参議院内閣委員長)と第6位だった佐藤 正久氏(同党幹事長代理)が今回は落選した。しかも、和田氏は前回から20万票以上、佐藤氏も10万票以上を減らしての落選。両氏ともこの間に目立った不祥事もなく、通常ならばこれほどの得票減はあり得ない。ただ、この2人には共通することがある。政策・主張では▽憲法改正に賛成▽第二次世界大戦に関する村山談話・河野談話は見直すべき▽選択的夫婦別姓制度導入・同性婚法制化に反対、などいわばタカ派である。また、密接な関係がある支持組織がない点も共通している。ここから推察するに、おそらく今回の選挙最大のムーブメントとも言えるタカ派色の強い参政党の躍進により、彼ら自民党のタカ派政策支持者の票が参政党に流れたのだろう。結果として医療・介護系組織内候補でも支持基盤に歴史があり、空気に流されにくい基礎票を持つ候補が当選圏内に浮上したと考えられる。ただ、この「強さ」は同時に「弱さ」の裏返しになる懸念も含んでいる。まず、釜萢氏の場合、医療だけでなく介護・福祉分野の労働者にとっても「生活がかかった選挙」との訴えを前面に出すことで介護・福祉関係の票を取り込み、これまでの医療系組織内候補が獲得したことがない高得票を目指すとしていた。また、薬剤師連盟の本田氏に関しても、連盟側は20万票獲得を目標に掲げた。しかし、いずれもその目標には及ばなかった。さらに過去との比較で今回の各候補の得票を見ていきたい。医師連盟の釜萢氏は、6年前の参院選で同連盟組織内候補の羽生田 俊氏が獲得した15万2,807票を2万票以上上回る票を獲得した。しかし、当時の羽生田氏の得票はさらに6年前の2013年参院選で同氏の初当選時の得票から10万票弱も下回ったものだ。さらに今回の釜萢氏の得票数は2022年の参院選で医師連盟組織内候補・自見 英子氏の21万3,369票からも4万票弱も下回っている。自見氏の場合、2016年の初当選時の得票数も21万票強であり、この票数は医師連盟組織票+自見氏個人基礎票とみられる。これらからかなり大雑把に見積もると、現在の医師連盟基礎票は15~18万票程度なのだろう。また、看護連盟の石田氏は6年前の18万9,893票から大きく減らしての当選。3年前の2022年参院選の同連盟組織内候補・友納 理緒氏の得票が17万4,335票を考えれば、現在の同連盟基礎票も医師連盟とほぼ同程度だろう。さらに薬剤師連盟の本田氏の得票は前回より若干減少し、2022年参院選での同連盟組織内候補・神谷 政幸氏の得票12万7,172票を踏まえれば、同連盟の基礎票は12~16万票と考えられる。医療系組織候補の生きる道ただ、各連盟とも先行きは決して明るいとは言えない。若年世代では各連盟の表裏一体組織である医師会、看護協会、薬剤師会の活動には熱心でも連盟とは距離を置く層も少なくない。つまるところ今後は各連盟の高齢化による基礎票減も念頭に置かねばならない。厳しい言い方をすれば、どの組織もあくまで内輪の高齢者による盛り上がりに留まり、国民への幅広い浸透には欠けており、このままではジリ貧が目に見えているのだ。それゆえに今回とは逆に、もし自民党比例候補にタレント候補のような組織力はないものの知名度がある人物が多数登場し、ここに風が吹いた場合はそうしたタレント候補が容易に上位に浮上し、医療系組織内候補が相対的に沈下してしまう可能性は十分にある。となると組織内候補の生きる道は2つしかない。1つは組織内候補の立場を徹底し、組織そのものの裾野を広げて構成員を増やし、得票増につなげる最も古典的な手法だ。しかし、前述のように政治組織である連盟はもちろんのこと、昨今では職能団体そのものに距離を置く層も増えているため、現実的な戦略とは言えない。もう1つは組織の枠を超えた支持基盤の構築である。各組織内候補はあくまで“組織内”の候補であるがゆえに、どうしても支持基盤である職能団体中心の訴えをしがちである。「いや、国民の医療を守るためにこそ各職能が有する専門性の正しい評価が必要」との主張もあるだろう。しかし、あえて私見を言わせてもらえば「国民の医療を守る」が単なるお題目と化し、国民にはほとんど響いていないのが現状ではないだろうか? そのことは各連盟の推定基礎票からもうかがえる。秋以降は2026年度診療報酬改定と一時凍結した高額療養費問題の議論が本格化する。その場で各医療系議員とそのバックにつく職能団体がどのようなスタンスを取るか? そこが国民の幅広い支持獲得に向けた一里塚となるだろう。

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患者の“〇〇〇〇”で見極める、尿失禁、介入のタイミング【こんなときどうする?高齢者診療】第13回

CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロンアーカイブズ」から、高齢者診療に役立つトピックをお届けします。今回は高齢者診療で大切にしたい『5つのM』のうち、“身体機能(Mobility)”に関するテーマとして、尿失禁を取り上げます。まず考えてみましょう。この2つの症例、どちらに介入が必要でしょうか?症例A85歳女性 ADL自立。認知機能正常。独居。今までなかった外出中の尿漏れを訴えて来院。症例B75歳女性 進行したアルツハイマー型認知症。夫・子どもたちによる在宅介護。3年前から尿失禁あり。本人は尿漏れに気付くが不快感はない様子。ベッド・床・衣服などを工夫しシーツや衣類の取り換え回数は最小限で済んでいる。皮膚荒れはなく、家族も尿失禁のケアに慣れたといっている。2つ目のM-身体機能の中で、尿失禁はきわめて重要な項目です。答えを急がず、まずは尿失禁の重要性とアセスメントのポイントを確認していきましょう。尿失禁、軽視してはいけない3つの理由尿失禁は「自分の意思とは関係なく、または意思に反して尿が漏れること」です。高齢者診療において、尿失禁に注目すべき理由は以下の3つです。ひとつめは、高い頻度です。尿失禁は排泄機能障害のなかで最もコモンで、65歳以上の女性では約30~50%が何らかの形で尿失禁を経験しているといわれています。ふたつめは、患者のQOLに与える深刻な影響です。例えばADLが自立している高齢者では、尿失禁を心配して外出が億劫になると、活動量の低下につながります。抑うつを助長したり、転倒リスクを高めたりする可能性もあります。認知症患者では、尿失禁による不快感をうまく言葉で表現できないため、不穏やせん妄につながることもあります。最後に、見落とされやすい失禁症状です。医師が診察で聞きそびれていることが多く、簡易高齢者アセスメント「DEEP-IN」では、“失禁(Incontinence)”が独立した評価項目となっています。効果的な問診のコツ:ノーマライゼーションの視点と失禁の時間軸尿失禁について話しにくいと感じる患者・聞きにくいと感じる医療者双方のハードルを下げるコツは、「誰にでも起こりうること」として扱うノーマライゼーションの視点を持つことです。問診にノーマライゼーションを取り入れると「尿漏れは若い方にもとても多いのですが、相談する機会がなく困っている方がたくさんいるようです。たとえば○○さんもお困りのことはありますか?」のようになります。このように聞くことで、本人の自尊感情への配慮も可能になります。失禁があることが問診で明らかになったら、次に重要なのは時間軸の把握です。聴取時は以下の分類を意識しましょう。新規発症の尿失禁長期継続している慢性の尿失禁急性増悪した慢性の尿失禁例えば、1日1~2回程度だった尿失禁が急に回数増加した場合、背後に特定の原因があることを疑う必要があります。治療可能な尿失禁を見逃さない:DIAPPERS鑑別高齢者の新しい症状は、まず薬の副作用を疑う。この原則は尿失禁でも同様です。薬剤以外の原因も含めて、以下の鑑別疾患をチェックしましょう。尿失禁の鑑別疾患 DIAPPERS画像を拡大する介入の見極めは、患者・家族が「ごきげん」かどうかDIAPPERSによる急性原因を除外しても尿失禁が続く場合、あるいは原因が除去できない場合に介入するかどうかを決めるポイントは、患者・家族・介護者が「ごきげんかどうか」です。ここで冒頭のクイズの答えに移りましょう。ここまで読んでくださった皆さんは、冒頭のクイズの回答がおわかりですね。Bの患者は“ごきげん”に過ごせているため、積極的な介入は不要と考えることができるのです。もちろん長期に繰り返す尿失禁では、陰部の清潔が保てなくなることや、褥瘡リスクが増加してしまうことがあるため、継続的なモニタリングは必要です。しかし、尿失禁があっても患者や周囲の人の負担が許容範囲に収まるようであれば、「無理に介入をする必要がない場合もある」という視点を持つことで、失禁診療の幅が広がります。一方、Aの患者は、尿漏れが主訴に挙がっている時点でごきげんではありません。DIAPPERSのような鑑別疾患の除外あるいは介入からはじめ、それでも尿失禁が続く場合は失禁があっても「ごきげん」でいられるようなケアを考えることが治療になります。その場合は、ごきげんでいられるために何が必要かをすり合わせるために、何がその方にとって大切なのか、耐えられること、耐えられないことといった、価値観や優先順位(Matters Most)を丁寧に聞き取ることから始めましょう。 ※今回のトピックは、2022年6月度、2023年度3月度、2024年4月度の講義・ディスカッションをまとめたものです。より詳しい解説、実際のケースディスカッション、Dr.樋口との質疑応答は、CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロンアーカイブズ」でご覧いただけます。

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目標なき模擬試験は罪【研修医ケンスケのM6カレンダー】第5回

目標なき模擬試験は罪さて、お待たせしました「研修医ケンスケのM6カレンダー」。この連載は、普段は初期臨床研修医として走り回っている私、杉田研介が月に1回配信しています。私が医学部6年生当時の1年間をどう過ごしていたのか、月ごとに振り返りながら、皆さんと医師国家試験までの1年をともに駆け抜ける、をテーマにお送りして参ります。この原稿を書いているただいまは2025年8月。お盆休みの方も多い…学生の皆さんはとうに夏休みに入っていたでしょうか(笑)決して皮肉ではなく、先刻に自分で「お盆休み」と書いたことで「ああ、世間は休みなのだ」と気づいたのでした。夏休みといえども、東西医体や休み明けの試験対策など医学生はそれでも多忙な休暇をお過ごしのことでしょう。みなさまいかがお過ごしでしょうか。先月はマッチングに特化した記事を執筆させていただきました。嬉しいことに直接感想をいただく機会に恵まれました。「厳しい現実を突きつけられた気分になりました笑」「ネクタイをキュッとしようと思いました」「ニーズにも応える、視点が目から鱗でした」などなど、読者の皆さまいつもありがとうございます。今もなおマッチングシーズンの最中と思いますが、ご健闘を心よりお祈り申し上げます。改めて、この連載では当時を懐かしみながら、あの時の自分へ何を話しかけるのか、みなさんの6年生としての1年間が少しでも良い思い出になる、そんなお力添えができるように頑張って参りますので、ぜひ引き続き応援のほどよろしくお願い申し上げます。(マッチング後の息抜きに卒業旅行計画はオススメです!)8月にやること:模擬試験を軸に、学習計画を立て、修正するマッチングが終わると、9月以降はいよいよ卒業試験、模擬試験、そして本番の医師国家試験と続きます。今月皆さんにお伝えしたいのは、医師国家試験対策において模擬試験は非常に重要である、ということです。模擬試験を軸に、自分の試験対策計画を都度修正する力を持ってほしいと思います。多くの医学部医学科6年生のこれからの課題は2つ、卒業試験と医師国家試験です。皆さんは2月の医師国家試験で必修8割、一般臨床でおおよそ7割5分以上を正答しなければなりません。そのための試験対策を日頃取り組まれていることと思いますが、本番までの短期・中期的な目標となるのが外部模擬試験です。卒業試験は医師国家試験対策と試験範囲が重複するため、国家試験対策にもなり得ますが、点数や出来栄えとして適切な指標とするにはオススメしません。各大学ごとにスケジュールや出題形式、出題範囲が異なるので、標準化しにくいのが主な理由です。話を戻して、外部模擬試験をおそらく2〜3個受験すると思いますが、いずれも目標を持って受験してほしいです。目標に対してどれほどの手応えだったのかを振り返り、2月に合格ラインを突破するための学習計画を都度練り直す、そんな手段として模擬試験を活用してほしい。これが今月のメッセージです。なぜ模擬試験が重要なのか?医師国家試験は実に試験範囲の広い試験です。しかし、大学受験のような競争試験、というよりやはり資格試験要素が強いのものです。試験対策としては1つを極める、というよりも満遍なく減点を減らしていく方がまずは得策だと思います。2月を最終ゴールとした時に、どの分野が今どれほどの完成度なのか、を定点把握すべきでしょう。自分の進捗を確認するには(1)問題演習や講義視聴がどれほど進んでいるか(2)模擬試験でどれほど得点できているのかが主な手段かと思います。(1)についてはわかりやすいですね。やっていないものはやっていない、ただそれだけのことです。皆さんに大切にしてほしいのは(2)です。6年生はこれまでの学習の中である程度の基礎知識は身につけています。新しく会得すべき知識が圧倒的に足りないというよりも、これまで学んだことが正しく身に付いているのか、が今現在の得点を表している、という方が自然でしょう。理想としては、模擬試験の結果を見て、自分に今何が足りていないかを把握する→ 足りないところを確実に問題演習や講義視聴で補う→ 次回の模擬試験で知識が身についたかを確認するというサイクルで、学習を進めてほしいです。問題演習や講義視聴は不可欠ですが、盲目的に全てをこなすことはしなくて良いと思います。私自身は過去問全てを解いたわけでもなく、対策講義を全て視聴したわけでもありませんが、合格ラインは危なげなく突破しました。問題演習はアウトプット要素が含まれているのでまだ良いですが、とくに講義視聴を軸にしている学生は要注意です。講義視聴はインプットのための手段です。(1)を盲目的に進めることの最大のデメリットは「やった気になってしまう」ことです。繰り返しになりますが、CBTを突破している皆さんはある程度の基礎知識が身についています。その知識が正しく使えるか、が国家試験対策では(卒業試験でも)重要です。実力をつけられる模試は2回(計画を立てた旅行だからこそ、想定外の予定が楽しめます)2月に皆さんは医師国家試験を合格しなければなりません。 それまでに2〜3回の模擬試験を受験する方がほとんどです。最初の1回はすでに6〜8月時点で受けた方もいるかもしれませんが、9〜10月に1回、12〜1月に2回受けるスケジュールを多く目にします。1月は直前期の調整の意味合いが強く、実力を錬成する試験は9〜10月の1回と12月の1回の合計2回と言えます。この2回を皆さんはどのように感じますか?「勉強が模試に間に合わなくて、適当に受験。だから復習する気なんて出ない」というのが模試の最低な受け方なのですが、実はこれが一度起きてしまうと癖になってしまうものです(身に覚えがあるかもしれません)。模試についてはその結果ではなく、それに向けて何をやるのか、そして実際に何をやったかどうかこそが大切です。大学によっては9月以降も卒業試験解説などの講義や実習が予定されていることも珍しくなく、国家試験対策は個人に任されるところも多いです。受け身の勉強、言われたことしかやらない勉強法が染み付いている学生は、本番までに範囲を終えられるはずがありません。改めて、数少ない模擬試験を、皆さんはどんな価値ある機会だと捉えますか。折角受験するからには意義のある時間にしましょう。結果が全てでないことは前提ですが、メジャー分野については8割死守する産婦人科領域の産科領域については9割取るといった各分野ごとの完成度を見据えた具体的な目標を持って臨んでください。そうすれば何ができたのか、やったつもりだったのになぜ到達できなかったのか、トータルで見たときにあとどれくらい足りなくて、どれから手をつけて良いのか、など次の一手が明確になります。模擬試験に向けての取り組みが具体的であったからこそ、成功も失敗も自分の糧となります。その実感こそ収穫です。メジャー科の立て直しは危機感を持て模擬試験の重要性と、必ず具体的な目標を立ててから受験することの意義についてお話しました。この後は具体的に直近の到達目標や学習計画の進捗の観点で、話を進めていきます。これまでの回でメジャー科は夏までに、と繰り返してきました。皆さん、進捗はいかがですか?(笑)公衆衛生とメジャー科が医師国家試験の試験範囲のほぼ5割を占めます。いずれも失点は最小限に留めたいものですが、メジャー科は単純暗記だけでは通用せず、病態を理解するといった時間を要する分野が多いことが公衆衛生領域と異なるところです。メジャー科において、正答率9割超の問題を落としていたなら危機感を感じましょう。7〜8割の問題を落としたなら早めに見直して、なぜ誤答へ結びついたのか、類似問題も徹底的に演習しましょう。得点差がつくテーマについては各予備校がしのぎを削って作成した素晴らしいコンテンツがリリースされた際に、注意深く見てみるのはよいと思いますが、敢えて、通常の講義視聴はする必要はありません。公衆衛生は最もコスパが良い(ルーブル美術館にて。皆さん、野菜摂っていますか?笑)さて、公衆衛生は2月本番も含めて満点を目指しましょう。公衆衛生は単体分野としては最も出題範囲が広いテーマです。 必修・一般臨床ともに満遍なく出題されます。そして近年出題数が増えてきているのが実情です。そして公衆衛生は「やっておけば取れる」領域です。公衆衛生は当時の学生時代を振り返っても考えることが多く、奥が深いなと感じました。ただ医師国家試験においてはメジャー科のように判断力に悩む問題は少なく、知っているか否かが得点できるかを左右する問題が多いのも事実です。すべての分野に言えることですが、「やっておけば取れる」=努力テストの部分で水をあけられては勝機が遠のきます。本題から逸れますが、公衆衛生は医師国家試験合格後に臨床医として現場に立つ上でも非常に役に立ちます。医療現場で仕事をするようになると、医学的なことを知っているだけでは通用しません。社会的な要素も含めて包括的な視点を持たねば、医療として成り立たないからです。そもそも皆さんが臨床現場で働くことができるのも、公衆衛生あってこそのことです。医師国家試験における公衆衛生は現状単純暗記をひたすら制した者が勝つ、そんな構成かと思います(試験なのでそうなるのも当然のことかな)。ただ出題範囲が膨大なので早目に手をつけましょう。単純暗記の無味乾燥な学習は嫌、と感じる方も多いと思うので、学習のコツについて2つ紹介して終わりにします。1つ目は法律から学ぶことです。色んな制度が登場しますが、すべて定める法律があります。法律を学ぶことは制度の概要を把握することです。個人的にはQ-Assist公衆衛生の1コマ目がテンポもよくわかりやすいと思います。2つ目は勉強会内でクイズを出し合うことです。単純暗記こそ、団体戦です。1人でのインプットに飽きたならみんなで出し合いっこしましょう。出題側も回答側も記憶に残りやすいです。今月のまとめいかがだったでしょうか。模擬試験の目標は具体的であればあるほど良いです。それこそ勉強会でシェアして、一緒に計画するのも大いにアリです。マッチングを終えてひと息つくことも重要ですが、次はもう始まっています。進捗状況はさまざまだと思いますが、諦めるのは早すぎます。同様に安心するにも早すぎます。毎日勝つ必然性を高めましょう。

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腰痛の重症度に意外な因子が関連~日本人データ

 主要な生活習慣関連因子と腰痛の重症度・慢性度との関連について、藤田医科大学の川端 走野氏らが日本の成人の全国代表サンプルで調査したところ、脂質異常症が腰痛重症度に関連し、喫煙が腰痛の重症度および慢性度の両方に関連していることが示された。PLoS One誌2025年7月30日号に掲載。 本研究では、無作為に抽出した20~90歳の日本人5,000人を対象に全国横断調査を実施。2,188人から有効回答を得た。現在の腰痛の有無、腰痛の重症度(痛みなし/軽度または中等度/重度)、慢性腰痛の有無により層別解析を行った。主な生活習慣関連因子は、BMI、飲酒、喫煙、運動習慣、併存疾患(脂質異常症、糖尿病、高血圧)、体型に関する自己イメージなどで、多変量ロジスティック回帰分析により各因子との関連の有無を評価した。 主な結果は以下のとおり。・現在腰痛ありは、BMI(オッズ比[OR]:1.04、95%信頼区間[CI]:1.00~1.07)、飲酒(OR:1.37、95%CI:1.04~1.80)、喫煙(OR:1.63、95%CI:1.21~2.20)、脂質異常症(OR:1.51、95%CI:1.06~2.13)と関連していた。・腰痛の重症度は、喫煙(OR:1.77、95%CI:1.19~2.64)、運動不足(OR:1.55、95%CI:1.10~2.15)、脂質異常症(OR:1.64、95%CI:1.06~2.55)と関連していた。・慢性腰痛ありは、喫煙(OR:1.70、95%CI:1.23~2.34)のみ有意に関連していた。

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母親の産前、産後うつ病と子供の自閉スペクトラム症との関係〜メタ解析

 母親の産前、産後うつ病や周産期うつ病と子供の自閉スペクトラム症(ASD)との関係については、相反する結果が報告されている。オーストラリア・カーティン大学のBiruk Shalmeno Tusa氏らは、母親の産前、産後うつ病や周産期うつ病と小児および青年期におけるASDリスクとの関連についての既存のエビデンスを検証し、統合するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。BJPsych Open誌2025年6月4日号の報告。 2024年2月21日までに公表された研究を、PubMed、Medline、EMBASE、Scopus、CINAHL、PsycINFOよりシステマティックに検索した。ランダム効果モデルを用いてメタ解析を実施し、サマリー効果推定値はオッズ比(OR)、95%信頼区間(CI)として算出した。異質性の評価には、Cochranの Q検定およびI2検定を用いた。対象研究における潜在的な異質性の要因を特定するため、サブグループ解析を行った。出版バイアスの評価には、ファンネルプロットとEggerの回帰検定を用いた。 主な結果は以下のとおり。・最終分析には、160万組超の母子を対象とした12件の研究が含まれた。・ランダム効果メタ解析では、子供におけるASD発症リスクは、妊娠前にうつ病を経験した母親の場合52%(OR:1.52、95%CI:1.13〜1.90)、産前うつ病の場合48%(OR:1.48、95%CI:1.32〜1.64)、産後うつ病の場合70%(OR:1.70、95%CI:1.41〜1.99)それぞれ増加していることが明らかとなった。 著者らは「メタ解析の結果、出産前、周産期、出産後にうつ病を経験した母親から生まれた子供は、ASD発症リスクが高いことが判明した。ASDリスクの子供に対する早期スクリーニングおよびターゲットを絞った介入プログラムの必要性が示唆された」と結論付けている。

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進展型小細胞肺がんへの免疫化学療法、日本の実臨床データ

 進展型小細胞肺がん(ED-SCLC)に対する1次治療として、抗PD-L1抗体とプラチナ製剤を含む化学療法の併用療法(免疫化学療法)が標準治療となっているが、実臨床における報告は限定的である。そこで、平林 太郎氏(信州大学)らの研究グループは、実臨床において免疫化学療法を受けたED-SCLC患者と、化学療法を受けたED-SCLC患者の臨床背景や治療成績などを比較した。その結果、免疫化学療法が選択された患者は、化学療法が選択された患者よりも全生存期間(OS)が良好な傾向にあったが、免疫化学療法が選択された患者は約半数であり、実臨床におけるED-SCLC治療にはさまざまな課題が存在することが示された。本研究結果は、Respiratory Investigation誌2025年9月号に掲載された。 本研究は、日本の11施設が参加した多施設共同後ろ向き研究である。2019年8月~2023年6月に、1次治療として免疫化学療法または化学療法を受けたED-SCLC患者181例を対象とした。対象患者を、免疫化学療法を受けた群(免疫化学療法群、96例)と、プラチナ製剤を含む化学療法のみを受けた群(化学療法群、85例)に分け、患者背景、治療成績、免疫化学療法が選択されなかった理由などを後ろ向きに調べた。 主な結果は以下のとおり。・免疫化学療法群は化学療法群と比較して、75歳以上の割合(28.1%vs.56.5%、p<0.001)、間質性肺炎(IP)合併の割合(9.4%vs.41.2%、p<0.001)が有意に低かった。・OS中央値は、免疫化学療法群15.0ヵ月(95%信頼区間[CI]:12.3~17.6)、化学療法群9.7ヵ月(同:7.3~12.2)であった。1年OS率は、それぞれ59.9%、34.5%であり、2年OS率は、それぞれ17.7%、2.9%であった。・無増悪生存期間中央値は、免疫化学療法群5.1ヵ月(95%CI:4.7~5.5)、化学療法群4.9ヵ月(同:4.5~5.3)であった。・奏効率は、免疫化学療法群80.2%、化学療法群64.7%であり、病勢コントロール率は、それぞれ90.6%、88.2%であった。・1次治療で免疫化学療法が選択されなかった理由として多かったのは、IP合併(18.8%)、高齢(14.9%)、PS不良(13.3%)であった。・治療中止に至った有害事象は、免疫化学療法群12.5%、化学療法群9.4%に発現した。肺臓炎による治療中止の割合は、それぞれ7.3%、1.2%であった。 本研究結果について、著者らは「ED-SCLC患者に対する免疫化学療法の有効性が実臨床でも示唆されたものの、実際にこの治療法が選択されているのは約半数にとどまっていた」と指摘し「IP合併、高齢、PS不良といった背景を有する患者に対して、免疫化学療法と化学療法のいずれを選択すべきか明確な結論は得られておらず、臨床背景や併存疾患に応じた治療選択にはさまざまな課題があり、今後の検証が必要である」と結論付けている。

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再発/難治性の多発性⾻髄腫治療薬トアルクエタマブを発売/J&J

 Johnson & Johnson(法人名:ヤンセンファーマ)は2025年8月14日、再発/難治性の多発性骨髄腫治療薬として、多発性骨髄腫細胞表面に高発現するGPRC5D(Gタンパク質共役型受容体ファミリーCグループ5メンバーD)およびT細胞表面に発現するCD3を標的とする二重特異性抗体トアルクエタマブ(遺伝子組換え)(商品名:タービー皮下注)を発売したことを発表した。本剤は、2025年6月24日に「再発又は難治性の多発性骨髄腫(標準的な治療が困難な場合に限る)」を効能又は効果として承認され、8月14日に薬価収載された。Johnson & Johnsonとしては、テクリスタマブ(遺伝子組換え)(商品名:テクベイリ皮下注)に続き、再発/難治性の多発性骨髄腫に対する2剤目の二重特異性抗体となる。 本剤は、国際共同第I/II相MMY1001試験(MonumenTAL-1試験)および国内第I相MMY1003試験の結果に基づき承認を取得している。これらの試験では、再発/難治性多発性骨髄腫の成人患者を対象に有効性及び安全性を評価し、T細胞リダイレクト治療薬による治療歴の有無にかかわらず、深く持続的な奏効および良好な安全性プロファイルを示した。また、MonumenTAL-1試験における承認申請後の追加カットオフ時点の日本人コホート解析では、追跡期間中央値13.4ヵ月における全奏効率は77.8%で、55.6%が完全奏効以上を達成した。<製品概要>・製品名:タービー皮下注3mg、同40mg・一般名:トアルクエタマブ(遺伝子組換え)・効能又は効果:再発又は難治性の多発性骨髄腫(標準的な治療が困難な場合に限る)・用法及び用量:通常、成人にはトアルクエタマブ(遺伝子組換え)として、以下のA法又はB法で投与する。A法:漸増期は、1日目に0.01mg/kg、その後は2〜4日の間隔で0.06mg/kg、0.4mg/kgの順に皮下投与する。その後の継続投与期は、0.4mg/kgを1週間間隔で皮下投与する。B法:漸増期は、1日目に0.01mg/kg、その後は2〜4日の間隔で0.06mg/kg、0.4mg/kg、0.8mg/kg の順に皮下投与する。その後の継続投与期は、0.8mg/kgを2週間間隔で皮下投与する。・薬価:タービー皮下注3mg:3mg1.5mL1瓶146,284円、同40mg:40mg1mL1瓶1,879,962円・製造販売承認日:2025年6月24日・薬価基準収載日:2025年8月14日・発売日:2025年8月14日・製造販売元:ヤンセンファーマ株式会社

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妊娠中のST合剤予防投与、出生アウトカムを改善せず/NEJM

 ジンバブエ・Zvitambo Institute for Maternal and Child Health ResearchのBernard Chasekwa氏らが、同国で実施した無作為化二重盲検プラセボ対照試験「Cotrimoxazole for Mothers to Improve Birthweight in Infants(COMBI)試験」において、妊娠中のトリメトプリム・スルファメトキサゾール(ST合剤)の予防投与は、児の出生時体重を有意に増加させなかったことを報告した。有害な出生アウトカムの根底には、母体感染がある。妊娠中の抗菌薬投与は出生アウトカムを改善する可能性があるが、エビデンスにはばらつきがあり、また、試験の多くは高所得国で行われ、投与は特定の妊娠期間の短期間に限定され、検討されている薬剤も限られている。ST合剤は、サハラ以南のアフリカ諸国、とくにHIV感染者に使用され、薬剤耐性が広がっているものの有効性を維持している。しかし、妊娠中の予防投与が出生アウトカムを改善するかどうかは不明であったことから、研究グループは本検討を行った。NEJM誌2025年6月5日号掲載の報告。HIV感染の有無にかかわらず妊婦をST合剤群とプラセボ群に無作為化 試験は、マラリアが流行していないジンバブエ中央部に位置するシュルグウィ地区の産婦人科クリニック3施設において実施された。尿妊娠検査が陽性で、HIV感染状況が判明しており、ST合剤を現在投与されていないまたは適応のない妊婦を募集し、適格者をST合剤(960mg/日)群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、妊娠14週以降出産または流産まで1日2回投与した。 主要アウトカムは出生時体重で、ITT解析を実施した。副次アウトカムは、低出生体重児(<2,500g)の割合、妊娠期間、早産(在胎37週未満)の割合、在胎不当過小児の割合、胎児死亡(流産または死産)、母親の入院または死亡、新生児の入院または死亡、および出生後6週時の年齢別体重・身長・頭囲のzスコアであった。出生時体重、その他の副次アウトカムに差はなし 2021年12月17日~2023年4月23日に計1,860例がスクリーニングを受け、適格者1,428例(76.8%)のうち1,000例が登録・無作為化された。ITT集団は、超音波検査で非妊娠子宮であることが確認された7例を除く993例(ST合剤群495例、プラセボ群498例)であった。 参加者のベースライン特性は、年齢中央値24.5歳、登録時妊娠週数中央値は20.4週、HIV感染者は131例(13.2%)で、ST合剤群495例中458例、プラセボ群498例中458例が試験薬の投与を受け、初回投与時の妊娠週数中央値は21.7週(四分位範囲:17.3~26.4)であった。 ITT集団において、出生時体重(平均値±SD)はST合剤群3,040±460g、プラセボ群3,019±526gであった(平均群間差:20g、95%信頼区間:-43~83、p=0.53)。副次アウトカムも、ほとんどが両群で同等であった。 有害事象の発現は両群で同程度であった。重篤な有害事象は、母親においてST合剤群31件(死亡例なし)、プラセボ群33件(死亡2例)、乳児においてそれぞれ22件(死亡14例)、20件(死亡12例)が報告された。

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ジャガイモ、調理法によって糖尿病リスクに違い/BMJ

 ジャガイモの摂取と2型糖尿病のリスクとの関連について、フライドポテトの摂取量の多さは2型糖尿病のリスク増加と関連していたが、ベイクドポテト・ボイルドポテト・マッシュポテトを組み合わせた場合は関連していなかった。また、ジャガイモを全粒穀物に置き換えるとリスクが低下する一方、白米に置き換えるとリスクが増加したという。米国・Harvard T.H. Chan School of Public HealthのSeyed Mohammad Mousavi氏らが、同国の看護師および医療従事者を対象とした大規模前向きコホート研究等のデータを用いて行った解析の結果を報告した。BMJ誌2025年8月6日号掲載の報告。米国NHS、NHS II、HPFSのデータを解析 研究グループは、米国で行われている3つの前向きコホート研究、Nurses' Health Study(NHS)の1984~2020年、Nurses' Health Study II(NHS II)の1991~2021年、Health Professionals Follow-Up Study(HPFS)の1986~2018年のデータを用い、ベースラインで糖尿病、心血管疾患またはがんの既往がない男女合計20万5,107例を対象として、ジャガイモの摂取と2型糖尿病発症との関連について解析した。 ジャガイモの摂取は2~4年ごとの食物摂取頻度調査票(FFQ)、2型糖尿病の発症は2年ごとの質問票から得た自己報告による疾患の診断、リスク因子、薬剤の使用および生活習慣については情報を収集する質問票を用いて評価した。 ジャガイモの摂取と2型糖尿病発症との関連は、ジャガイモの総摂取量ならびに摂取形態(ベイクドポテト・ボイルドポテト・マッシュポテトの組み合わせ、フライドポテト、ポテト/コーンチップ)別に、多変量Cox比例ハザードモデルを用いて解析した。フライドポテトを全粒穀物に置き換えるとリスクは低下 追跡期間517万5,501人年において、2型糖尿病の新規診断が2万2,299例確認された。最新のBMI値およびその他の糖尿病関連リスク因子で調整後、ジャガイモ総摂取量ならびにフライドポテト摂取量の多さは2型糖尿病のリスク増加と関連することが示された。総摂取量が3サービング/週増加するごとに2型糖尿病発症リスクは5%(ハザード比[HR]:1.05、95%信頼区間[CI]:1.02~1.08)、フライドポテトが3サービング/週増加するごとに20%(1.20、1.12~1.28)それぞれ増加した。一方、ベイクドポテト・ボイルドポテト・マッシュポテトの組み合わせ(統合HR:1.01、95%CI:0.98~1.05)およびポテト/コーンチップ(1.02、0.98~1.06)の摂取量3サービング/週増加は、2型糖尿病との有意な関連は認められなかった。 置換解析の結果、ジャガイモ3サービング/週を全粒穀物に置き換えると、2型糖尿病発症率がジャガイモ全体で8%(95%CI:5~11)、ベイクドポテト・ボイルドポテト・マッシュポテトの組み合わせでは4%(1~8)、フライドポテトでは19%(14~25)低下すると推定された。一方、白米に置き換えると、ジャガイモ全体、またはベイクドポテト・ボイルドポテト・マッシュポテトの組み合わせで2型糖尿病の発症リスク増加がみられた。 なお、本研究の3コホートと、PubMed/Medline、ISI Web of ScienceおよびEmbaseを用いて特定したジャガイモの摂取量と2型糖尿病との関連に関するコホート研究の合計13コホート(合計58万7,081例、2型糖尿病診断4万3,471例)を対象としたメタ解析の結果、3サービング/週増加ごとの2型糖尿病発症リスクの統合HRは、ジャガイモ全体で1.03(95%CI:1.02~1.05)、フライドポテトで1.16(1.09~1.23)であり、置換メタ解析では、ジャガイモ全体、非フライドポテト、フライドポテトの3サービング/週を全粒穀物に置き換えると、2型糖尿病のリスクがそれぞれ7%(95%CI:5~9)、5%(3~7)、17%(12~22)低下すると推定された。

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糖尿病女性の診察では毎回、妊娠希望の意思確認を

 糖尿病既往のある女性の妊娠に関する、米国内分泌学会と欧州内分泌学会の共同ガイドラインが、「The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism」に7月13日掲載された。糖尿病女性患者には、診察の都度、子どもをもうけたいかどうかを尋ねるべきだとしているほか、妊娠前のGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)の使用中止などを推奨している。 ガイドラインの筆頭著者である米ミシガン大学アナーバー校のJennifer Wyckoff氏はガイドライン策定の目的を、「生殖年齢の女性の糖尿病有病率が上昇している一方で、適切な妊娠前ケアを受けている糖尿病女性はごくわずかであるため」とした上で、「本ガイドラインは、計画的な妊娠の方法に加え、糖尿病治療テクノロジーの進歩、出産の時期、治療薬、食事・栄養についても言及したものだ」と特色を強調している。 ガイドラインの推奨には、以下のような内容が含まれている。・出産可能年齢の糖尿病女性全員に妊娠の意思があるかどうかを尋ねる。・糖尿病妊婦では妊娠継続に伴うリスクが早産に伴うリスクを上回ることがあるため、39週より前に出産を計画する。・妊娠前にGLP-1RAの使用を中止する。・すでにインスリンを使用している妊婦では、メトホルミンの使用を避ける。・1型糖尿病の妊婦には、連続血糖測定(CGM)機能を備えたハイブリッド・クローズドループのインスリンポンプを使用する。アルゴリズムを利用していないCGM対応インスリンポンプや、CGMに基づく頻回のインスリン注射は推奨しない。・2型糖尿病の妊婦には、CGMまたは血糖自己測定(SMBG)のいずれかの使用を推奨する。・糖尿病の女性が妊娠を希望する場合、妊娠の準備が整うまでは避妊を継続する。 著者の1人であるパドヴァ大学(イタリア)のAnnunziata Lapolla氏は、「われわれはランダム化比較試験から得られたエビテンスに基づいて、これらの推奨事項を策定した。現在、世界中で肥満に関連する2型糖尿病が増加し、2型糖尿病を持つ妊婦が増加しているが、本ガイドラインの推奨事項は、そのような女性に対する適切な栄養と治療アプローチに関する課題にも対処している」と述べている。 なお、本ガイドラインの策定には、前記2団体のほかに、米国糖尿病学会、米国産科婦人科学会、母体胎児医学会、国際糖尿病・妊娠研究グループ、欧州糖尿病学会、糖尿病ケア・教育専門家協会、米国薬剤師会などが関与した。

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救急診療所では不適切な処方が珍しくない

 救急診療所では、抗菌薬、ステロイド薬、オピオイド鎮痛薬(以下、オピオイド)が効かない症状に対してこれらの薬を大量に処方している実態が、新たな研究で示された。研究論文の筆頭著者である米ミシガン大学医学部のShirley Cohen-Mekelburg氏は、「過去の研究では、ウイルス性呼吸器感染症など抗菌薬が適応とならない疾患に対しても抗菌薬が処方され続けており、特に、救急診療所でその傾向が顕著なことが示されている」と述べている。この研究の詳細は、「Annals of Internal Medicine」に7月22日掲載された。 この研究では、2018年から2022年の間に行われた2242万6,546件の救急診療に関する医療データが分析された。これらの診療において、抗菌薬が278万3,924件(12.4%)、ステロイド薬のグルココルチコイドが203万8,506件(9.1%)、オピオイドが29万9,210件(1.3%)処方されていた。 これらの処方を検討した結果、相当数が、患者の診断を考慮すると「常に不適切」または「通常は不適切」な処方であることが判明した。抗菌薬の処方が「常に不適切」とされる診断のうち、中耳炎の30.7%、泌尿生殖器症状の45.7%、急性気管支炎の15.0%において同薬剤が処方されていた。また、グルココルチコイドの処方が「通常は不適切」とされる診断のうち、副鼻腔炎の23.9%、急性気管支炎の40.8%、中耳炎の7.9%において同薬剤が処方されていた。一方、オピオイドについては、処方が「通常は不適切」とされる背部以外の筋骨格系の痛みの4.6%、腹痛・消化器症状の6.3%、捻挫・筋挫傷などの4.0%において処方されていた。 Cohen-Mekelburg氏らは、「これらの結果は、ウイルス性呼吸器感染症の治療としての不適切な抗菌薬処方が最も多いのは救急医療であることを示した最近の研究結果と一致している」と述べている。同氏らによると、これらの薬が不適切に処方されるのは、救急医療スタッフの知識不足、患者による特定の薬剤の要求、処方を決める際のバックアップサポート体制の欠如などが原因になっている可能性が高いという。 これらの処方がもたらす影響は広範囲に及ぶ可能性がある。例えば、抗菌薬の過剰使用により、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などの耐性菌が大きな脅威となりつつある。また、米国でのオピオイド危機は、あいまいな理由で大量の鎮痛薬が処方されてきたことによって悪化してきた。 こうしたことからCohen-Mekelburg氏らは、救急診療所が適切な病状に適切な薬を処方していることを確認するために、薬剤管理プログラムが必要であると結論付けている。「抗菌薬、グルココルチコイド、オピオイドの不適切な処方を減らすには、多角的なアプローチが必要だ。救急医療センターの医療従事者がこうした薬剤の処方について判断を下す際には、より多くの支援とフィードバックが役立つだろう」と述べている。

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画期的AI活用法!【Dr. 中島の 新・徒然草】(593)

五百九十三の段 画期的AI活用法!8月7日の立秋を境に、厳しい暑さが少し和らいできました。まもなく迎える終戦記念日は、戦後80年の節目でもあります。太平洋戦争をアメリカ側から見れば、真珠湾への奇襲攻撃を行った日本を正義の鉄槌で無条件降伏させ、占領後に民主国家へと生まれ変わらせた……そんな「美しい物語」ではないでしょうか。しかし、日本には日本の正義があったはず。敗者になったがために戦勝国に言われ放題なのは、やはり複雑な思いがあります。とはいえ、これはあくまでも私の感じていることであり、他の人に自分の考えを押しつけるつもりは毛頭ありません。ただ一つ心掛けたいのは、あの戦争で命を落とした先祖に恥じない生き方をしなくては、ということです。さて、本題の「画期的AI活用法」に移ります。私は以前からChatGPTを利用してきましたが、最近になって臨床現場での非常に有効な使い方を見つけました。それは、薬剤処方のチェックです。高齢患者に10種類前後の薬を処方することは珍しくありません。いわゆるポリファーマシーですね。しかし多剤併用には大きく2つの課題があります。1つは薬物相互作用による副作用リスク。たとえば10種類の薬なら、2剤間の組み合わせは10C2=45通りにものぼります。もう1つは、副作用が疑われた際に原因薬を特定する難しさ。外来の限られた診察時間内でこれを突き止めるのは、きわめて困難です。ここでAIの出番!たとえば、ある80代男性(架空症例)に以下の薬を処方していたとします。アムロジピン、ワルファリン、アトルバスタチン、メコバラミン、ソリフェナシン、ゾルピデム、プレガバリン、レボドパ・ベンセラジド、ブロモクリプチン、ミコナゾールChatGPTに「この中でリスクの高い薬剤の組み合わせは?」と尋ねると瞬時に以下の回答が返ってきました(簡略化しています)。高リスクワルファリン+ミコナゾール(重篤な出血リスク)中リスクゾルピデム+プレガバリン(転倒・せん妄・呼吸抑制)、ゾルピデム+レボドパ・ベンセラジド/ブロモクリプチン(認知機能悪化・転倒)、ソリフェナシン+パーキンソン薬(便秘・尿閉・せん妄)実際、私はワルファリン+ミコナゾールで口腔内出血や血尿を来した症例を経験したことがあります。次に「この患者さんの言動が急におかしくなって薬剤有害事象を疑った場合の被疑薬をリスクで順位付けしてください」と尋ねると、これまた即座に以下の結果が返ってきました。1位:ゾルピデム(せん妄・幻覚・記憶障害)2位:プレガバリン(めまい・傾眠・意識変容)3位:レボドパ・ベンセラジド/ブロモクリプチン(幻覚・妄想・衝動制御障害)4位:ソリフェナシン(せん妄・記憶障害)5位:ワルファリン+ミコナゾール(脳出血による意識変容)これらの副作用は私も実際に経験したことがあり、いずれも薬剤中止によって改善しました。プレガバリンやソリフェナシンの中枢神経症状は意外に思われるかもしれませんが、私はそれぞれ複数症例で見たことがあります。なので決して珍しいものではありません。また、このように被疑薬の候補が多い場合でも、症状出現と薬剤開始の時期を照らし合わせることによって、絞り込むことが可能かと思います。このような形でAIを使う時に注意すべきは、薬剤名を商品名でなく一般名で入力すること。商品名で試してみると、似た名称のまったく異なる薬が他国にあるためか、しばしば見当外れの答えが返ってきたからです。ということで、ポリファーマシーが避けられない現代、AIは非常に心強い味方ですね。読者の皆さまも、どうぞご活用ください。最後に一句 盆来たる AI我らの 戦友ぞ

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認知症患者の緩和ケア【非専門医のための緩和ケアTips】第105回

認知症患者の緩和ケア非がん疾患の緩和ケアとして、最近では「心不全」や「末期腎不全」に対する緩和ケアが注目されていますが、「認知症」への緩和ケアも重要なトピックです。今回は高齢者を中心とした認知症患者への緩和ケアのポイントを考えてみましょう。今回の質問訪問診療をしていると、認知症の高齢者を多く担当するのですが、大半の方は人生の最終段階にあります。こうした方に対する緩和ケアは、どのような点に注意すればよいのでしょうか?先日、がん治療医と食事をする機会があったのですが、「非がん患者の緩和ケアというのが、どうもイメージできないのですよね」とおっしゃっていました。その先生は診療のほぼ100%ががん患者なので、無理もないことだと思います。しかし、緩和ケアを必要とするさまざまな病状のうち、認知症の患者が人数としては最も多いのではないでしょうか。認知症患者の緩和ケアにはどのような特徴があるのでしょうか?「認知症患者の緩和ケア」といっても、まずは「認知症の高齢者」に対する一般的なアセスメントと介入、そしてケアが基本となります。認知症の「中核症状」とされる記憶障害、実行機能障害、見当識障害が日常生活にどの程度影響しているのかを評価しましょう。また、家族などケア提供者にとって大きな負担になるのが「周辺症状」です。周辺症状とは、徘徊、妄想・幻覚、攻撃的な行動などで、在宅療養が難しくなる要因の1つです。これらの症状に対し、認知症治療薬が有効である可能性があれば、投与を検討します。しかし、緩和ケアを必要とする患者は、薬物療法による認知症改善があまり期待できない方が大半です。そこで大切になるのが、本人と家族に対するケアとACP(アドバンス・ケア・プランニング)です。今回はこのケアの部分について述べたいと思います。認知症患者へのケアは、認知症という病名でひとくくりにするのではなく、患者ごとの認知症の特徴や、生活・人生レベルでの背景を理解することに努めましょう。中核症状および周辺症状の程度と合わせ、これまでどのような仕事をしてきたのか、家族との関係がどうなのか、などについて理解します。こういったプロセス自体が、患者と家族の「大切にされている」という感覚につながり、患者の個別性に合わせたケア提供に役立ちます。「ユマニチュード」と呼ばれるケア手法があります。この手法は「あなたは大切な存在である」と伝え続けることの大切さを説いています。私自身はこの分野のプロではないですが、ユマニチュードについて学んだ際に、非常に多くの部分が緩和ケアに通じると感じました。先ほど述べた「患者を人生レベルで理解する」ということは、この「大切にする」ことにつながるのですね。もう1つ大切なのは、認知症の疾患経過を共有することです。患者や家族は、「認知症は根本的には治らない疾患である」「緩やかな経過の中で寝たきりになっていく」といった事柄を理解していないことが多いです。がんのような確立された疾患イメージがないので、ACPに取り組むことがより重要になるのです。認知症患者の緩和ケアでは、本人が「大切にされている」という感覚を失うことなく、将来に備えた対話に取り組むことが重要です。普段、緩和ケアを実践している方は、「特別なことは求められていない」のだと理解いただけるでしょう。ぜひ、患者ごとの最適なケアを実践してください。今回のTips今回のTips認知症の緩和ケア、「本人が大切にされている」と感じられるケアを提供しよう。

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房室結節を抑制する薬剤を考えてみよう!【モダトレ~ドリルで心電図と不整脈の薬を理解~】第8回

房室結節を抑制する薬剤を考えてみよう!(抗不整脈薬)QuestionもともとΔ波を有するウォルフ・パーキンソン・ホワイト(Wolf-Parkinson-White;WPW)症候群で突然心房細動となった方がいました(心電図は以下のとおり)。画像を拡大する

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生存時間分析 その3【「実践的」臨床研究入門】第57回

Cox比例ハザード回帰モデルによる交絡因子の調整前回まで、Cox比例ハザード回帰モデルの基本的な考え方を説明しました。今回は、Cox比例ハザード回帰モデルによる交絡因子(連載第45回参照)の調整について、前回に引き続き筆者らが出版した実際の臨床研究論文1)のリサーチ・クエスチョン(RQ)を例にして解説します。Cox比例ハザード回帰モデルは、イベント発生までの時間(生存時間)に対する多変量解析手法です(連載第50回参照)。このモデルにより、特定の要因がハザード(ある瞬間におけるイベント発生のリスク、すなわち瞬間的なイベント発生率)に与える影響を評価できます(連載第55回参照)。Cox比例ハザード回帰モデルの基本的な形は以下のような積(かけ算)の式で表されます(連載第56回参照)。h(t|X)=h0(t)×exp(β1X1+β2X2・・・+βnXn)h(t|X):特定の説明変数のセットXを持つ個体の時点tにおけるハザードh0(t):基準ハザード関数X1、X2、…、Xn:交絡因子を含む説明変数β1、β2、…、βn:各説明変数に対応する回帰係数上記のように、Cox比例ハザード回帰モデルを用いた交絡因子の調整は、回帰モデルの式に交絡因子を説明変数として含めることで行われます。たとえば、事例論文1)の要因である透析導入前腎専門医診療(Pre-Nephrology Visit:PNV)の有無という変数X1が透析導入後早期(1年以内)の死亡のハザード(アウトカム)に与える影響を評価する際に、糖尿病(DM)の有無(X2)が交絡因子であるとします。この場合、回帰モデルの式は以下のようになります。h(t|X1、X2)=h0(t)×exp(β1X1)×exp(β2X2)=h0(t)×exp(β1X1+β2X2)X1:PNVの有無(あり=1、なし=0)X2:DMの有無(あり=1、なし=0)この回帰モデルでは、回帰係数β1は、DMの有無(X2)の効果であるexp(β2X2)を調整したうえでの、PNVの有無(X1)がハザードに与える影響を推定します(連載第55回、第56回参照)。DMという交絡因子の影響を取り除いたPNVの調整ハザード比(adjusted hazard ratio:aHR)は exp(β1)となります。事例論文1)では、交絡因子として、年齢、性別、血液検査データ(ヘモグロビンや血清アルブミンなど)やDMを含む14の並存疾患などの要因を交絡因子として調整したと記載されています。したがって、この研究で実際に使用されたCox比例ハザード回帰モデルの簡略化された概念的な式は、以下のようになります。h(t|PNV、Age、Sex、…、DM)=h0(t)×exp(βPNV・PNV+βAge・Age+βSex・Sex+・・・+βDM・DM)βPNVの指数変換 exp(βPNV)がPNVのaHRとなり、事例論文1)で点推定値は0.57と報告されています 。95%信頼区間(95%confidence interval:95%CI)は0.50〜0.66と1をまたいでおらず、p<0.0001と統計学的にも有意差を認めました。これは、すべての交絡因子を統計的に調整した後でも、PNVを受けた患者群はPNVを受けなかった患者群と比較して、透析導入後早期(1年以内)死亡のリスクが43%低いことを意味します(1-0.57=0.43)。腎臓内科医の存在意義? の1つを示す解析結果を出せた、と安堵しました。1)Hasegawa T et al. Clin J Am Soc Nephrol. 2009;4:595-602.

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第23回 「個人の頑張り」ではない!科学が解き明かす、ストレス社会を生き抜く「レジリエンス」

私たちは、ストレスの多い現代社会で、しばしば「もっと強くならなければ」「精神力を鍛えなければ」と考えがちです。しかし、その「強さ」は、個人の気力や根性だけではなく、食事や人とのつながり、社会のあり方そのものによって育まれるものではないか――。医学雑誌Nature Medicine誌に掲載された論文1)は、逆境から回復し、健やかに生きる力、すなわち「レジリエンス」の概念を根底から見直すよう迫っています。この論文は、世界中の多様な環境における脳の健康をテーマにしています。その多角的な視点は、私たち日本人が自分たちの社会や生活を見つめ直し、脳をストレスから守るためのヒントを与えてくれています。レジリエンスの新常識:個人の「頑張り」ではなく複数領域の「バランス」伝統的に、「レジリエンス」は個人の心理的な強さと見なされがちでした。しかし、この論文は、その見方を「断片的だ」と指摘し、レジリエンスをより包括的なものとして捉え直しています。なぜなら、これまでの研究の蓄積により、レジリエンスは複数の領域が相互に作用し合って成り立つ、動的な能力だとわかってきたからです。その「複数の領域」というのは、以下のようなものです。生物学的領域脳の予備能や遺伝的要因、後天的に遺伝子の働きを変えるエピジェネティクスなどが含まれる認知的領域生涯を通じた教育、知的好奇心を刺激する職業、学習習慣などが、柔軟性を高める心理学的領域感情をうまく調整する力、ストレスへの対処法、自分を客観的に見るメタ認知などが、精神的な安定を支える社会的領域家族の絆、友人関係、コミュニティとのつながりといった社会的支援が、強力な防波堤となる環境的領域経済状況、地域社会の安全性なども、私たちのレジリエンスを左右するこの視点は、ともすれば「自己責任」や「個人の努力」が強調されがちな日本社会にとって、意識転換を促すものかもしれません。不調を感じたとき、それは単にその人の「心が弱い」からではなく、社会的・環境的な要因を含めたバランスが崩れているサインなのかもしれません。現代社会の「見えないストレス」と脳の摩耗 「アロスタティック負荷」この論文で中心的な役割を果たすのが、「アロスタシス」と「アロスタティック負荷」という概念です。アロスタシスとは、ストレスに反応して心拍数やホルモンなどを変化させ、体を適応させようとする重要な生命維持システムです。しかし、ストレスが慢性的に続くと、システムは常にフル稼働状態となり、やがて心身に「摩耗・損傷」が蓄積していきます。これが「アロスタティック負荷」です。アロスタティック負荷は、心血管疾患や代謝異常、そして認知機能の低下といったさまざまな病気のリスクを高めます。論文では、貧困や社会不安などがアロスタティック負荷を高める要因として挙げられていますが、これを日本の文脈で考えてみましょう。長時間労働、過度な受験競争、息苦しい同調圧力、そして近年深刻化する介護負担。これらは、まさに現代日本社会が抱える慢性的なストレス要因そのものです。私たちは気づかぬうちに脳と身体をすり減らし、アロスタティック負荷を溜め込んでいる可能性があります。興味深いことに、論文は「逆境に耐えること」を美徳とする文化的な価値観でさえ、感情の抑制を強いることで慢性的なストレスにつながる可能性があると示唆しています。「我慢」や「忍耐」を重んじる文化は、一歩間違えれば、それ自体がストレスにつながるリスクをはらんでいるのです。私たちの暮らしに眠る「レジリエンスの資源」を再発見するでは、私たちはストレス社会の中で、ただ摩耗していくしかないのでしょうか。決してそうではありません。この論文は、私たちが自分たちの文化や生活の中に眠る「レジリエンスの資源」を再発見することの重要性を教えてくれています。1. 日本版「社会的つながり」の価値を見直す論文では、アフリカの相互扶助の精神「Ubuntu」やラテンアメリカの家族の結束「Familismo」を文化的なレジリエンスの例として挙げています。日本では、かつての「ご近所付き合い」や地域のお祭り、会社や組合といった共同体が、人々の精神的な安定を支える重要な「社会的リソース」でした。近年、こうしたつながりは希薄化していますが、家族や親しい友人との関係、趣味のサークルなど、意識的に社会的ネットワークを見直すことが、アロスタティック負荷を軽減する助けになるでしょう。2. 伝統的な日本食に秘められた可能性栄養がレジリエンスに与える影響も無視できません。論文では、西洋化された食生活が伝統的な食事の保護的な役割を侵食していると警鐘を鳴らしています。これは、食の欧米化が進んだ日本にもそのまま当てはまるのではないでしょうか。魚介類(オメガ3脂肪酸)、大豆製品、野菜、発酵食品などを豊富に含む伝統的な和食は、生物学的なレジリエンスを支える優れた食事法であったかもしれません。日本食のような伝統的な食の価値を見直し、日々の食卓に取り入れることもまた、レジリエンスを高める上で重要なのかもしれません。3. 生涯を通じた学びと活動の役割高齢期におけるレジリエンスは、身体的な活動、知的な活動への参加、そして社会参加によって促進されます。これは、日本で重要視される「生きがい」の概念にも通じます。定年後も学び続けたり、地域の活動に参加したり、趣味に打ち込んだりすることは、単なる楽しみだけでなく、ストレス耐性を高め、脳の健康を維持するための科学的根拠のある実践なのです。この論文が示しているのは、レジリエンスとは「不屈の精神で耐え忍ぶこと」ではなく、心と身体、そしてそれを取り巻く社会や環境との間で、しなやかな「バランス」を保ち続ける動的なプロセスであるという健康観です。私たちの社会が抱える構造的なストレス(アロスタティック負荷)から目をそらさず、同時に、私たちの文化や生活の中に根付いているレジリエンスの資源(社会的つながり、伝統的な日本食、生きがい)を最大限に活用する。その両輪を意識することが、変化の激しい時代を健やかに生き抜くための道筋なのかもしれません。参考文献・参考サイト1)Udeh-Momoh CT, et al. Resilience and brain health in global populations. Nat Med. 2025 Jul 29. [Epub ahead of print]

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