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アルツハイマー病に伴うアジテーションに対するブレクスピプラゾールの有効性と安全性

 米国・Ohio State University Wexner Medical CenterのJared Stroud氏らは、アルツハイマー型認知症患者に伴うアジテーションの治療に対するブレクスピプラゾールの有効性および安全性を検討するため、2つの臨床試験を統合し、事後解析を実施した。Current Medical Research and Opinion誌2025年9月5日号の報告。 軽度から重度の認知機能低下およびアジテーションを有するアルツハイマー病患者を対象とした2つの国際共同無作為化二重盲検試験において、ブレクスピプラゾール(2mg/日または3mg/日)およびプラセボによる治療のデータを統合した。12週間にわたるアジテーション頻度の変化は、Cohen-Mansfield Agitation Inventory(CMAI)を用いて測定した。安全性評価には、治療中に発現した有害事象(TEAE)を含めた。本事後解析では、ケア環境(施設入所、非施設入所)、認知機能低下の重症度(軽度/中等度、重度)、併発する行動症状(精神病、うつ病、不安症、易刺激性、睡眠障害)、認知症治療薬(アセチルコリンエステラーゼ阻害薬、メマンチン)、精神疾患治療薬(抗うつ薬、ベンゾジアゼピン系薬剤)の併用の有無に基づき、臨床的に関連する13のサブグループについて調査した。 主な結果は以下のとおり。・ランダム化サンプル621例の平均年齢は74歳(範囲:55~90歳)、女性は344例(55.4%)、男性は277例(44.6%)であった。・13のサブグループのうち12において、ブレクスピプラゾールは、プラセボと比較し、12週間にわたるアジテーション頻度の減少率において有意な有効性を示した。・ベンゾジアゼピン系薬剤の併用のサブグループは唯一の例外であったが、本結果は症例数が少なかった(71例)。なお、2次解析では、ブレクスピプラゾールの有効性が示された。・ブレクスピプラゾールとプラセボを比較した場合の最も大きな差が認められたサブグループは、抗うつ薬の併用、睡眠障害の併発、精神疾患の併発であった。・TEAEの全体的な発現率は、サブグループ間でおおむね一貫していた。 著者らは「本探索的解析において、ブレクスピプラゾールは、アルツハイマー型認知症に伴うアジテーションに対し有効であることが、あらためて示唆された」としている。

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肺炎は認知症リスクを高めるか~メタ解析

 肺炎が認知症や認知機能低下のリスクの上昇と関連するかいまだ不明である。今回、中国・Hangzhou Geriatric HospitalのZhen Yan氏らが系統的レビューとメタ解析で検討した結果、肺炎と認知症リスクの関連が示唆され、高齢者でより顕著であった。Annals of Medicine誌2025年12月号に掲載。 本研究は、MEDLINE(PubMed経由)、EMBASE(Excerpta Medica Database)、Cochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL)、Web of Science、Scopus、ClinicalTrials.gov、World Health Organization International Clinical Trials Registry Platform(WHO ICTRP)データベースを用いて、2024年2月29日までに発表され、成人肺炎患者における認知症または認知機能低下に関するアウトカムを報告した研究を対象とした。統合ハザード比(HR)およびオッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)は、ランダム効果モデルを用いて算出した。年齢、地域、研究デザイン、肺炎のタイプによるサブグループ解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・さまざまな母集団を対象とした10研究が含まれた。・プール解析により、肺炎と認知症リスク増加との間に有意な相関が示された(HR:1.738、95%CI:1.358~2.225)が、研究間でかなりの異質性が認められた(I2=97.1%)。・サブグループ解析では、この関連は高齢者においてより顕著であり、地域や研究デザインによって若干異なることが示された。細菌性肺炎と非定型肺炎でリスクに有意差はなかった。 著者らは、「これらの結果は、肺炎から回復した患者、とくに高齢者において、潜在的な認知機能低下を軽減するための注意深いモニタリングと予防戦略の必要性を強調するもの」と結論している。

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10月24日開催『第7回ヘルスケアベンチャー大賞』最終審査会【ご案内】

 日本抗加齢協会は2025年10月24日(金)、医療・ヘルスケア分野で革新的な挑戦を続けるスタートアップを応援する「第7回ヘルスケアベンチャー大賞」最終審査会を日本橋ライフサイエンスハブにて開催する。 本アワードは、医療・学術界と産業界をつなぎ、新しい価値を創出するヘルスケアスタートアップを発掘・支援することを目的に2017年から開催しており、毎回大きな注目を集めている。過去の受賞者には、世界的イノベーションコンペティション「XPRIZE」のセミファイナリストが輩出されるなど、国内外から高く評価される企業も生まれており、本アワードはグローバルに羽ばたく登竜門としての役割を担っている。 今回、厳正なる審査を経て選出されたファイナリスト5社が最終ピッチに挑む。世界を舞台に活躍する次世代のヘルスケアスタートアップを目にするまたとない機会であるため、ぜひご覧いただきたい。【最終審査会 開催概要】開催日時:2025年10月24日(金)15:00~17:00(懇親会 17:00~)開催形式:会場開催とオンライン配信のハイブリッド参加方法:無料(事前参加登録制)会場:日本橋ライフサイエンスハブ(東京都中央区日本橋室町1-5-5 室町ちばぎん三井ビルディング8階)申込締切:10月23日(木)参加登録はこちら【プログラム】1.実行委員長あいさつ2.当日の進行についての説明3.ファイナリストによるプレゼンテーション <ファイナリスト5社>※五十音順アイリス株式会社 「のど年齢AIによるアンチエイジングプラットフォーム」TIME TRAVELER株式会社 「老化抑制に資する革新的治療薬の開発」株式会社TCNプライム 「加齢による大動脈弁狭窄症の新治療『DIVE』-ADLが低下し、治療を諦めていた患者様へ低侵襲で効果的な選択肢」株式会社マイトジェニック 「ミトコンドリア活性化による抗加齢ソリューション『マイトルビン』事業」株式会社ライフクエスト 「がんサバイバーシップ支援プラットフォーム『Life Quest Resilience』」4.特別講演 「日本発バイオベンチャーがアメリカで成長するためのSGG:SNBL Global Gateway」 永田 良一氏(株式会社新日本科学 代表取締役会長兼社長)5.審査結果発表と各賞表彰式6.審査委員長より総評7.閉会の挨拶【主催】日本抗加齢協会【共催】日本抗加齢医学会【後援】日本医師会、三井不動産、LINK-J、読売新聞社「第7回ヘルスケアベンチャー大賞」ホームページはこちら【お問い合わせ先】ヘルスケアベンチャー大賞事務局E-mail:healthcare-v@anti-aging.gr.jpTEL:03-5651-7503※審査に関するお問い合わせにはお答えできません。

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喘息合併の鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎、デュピルマブvs.オマリズマブ(EVEREST)/ERS2025

 鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎と喘息は、病態の中心に2型炎症が存在することが多く、両者の合併も多い。また、合併例は重症例が多く全身性ステロイド薬による治療が必要となる場合もある。そこで、喘息を合併する鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎患者を対象に、デュピルマブとオマリズマブ(本邦で鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎への適応を有するのはデュピルマブのみ)を比較する海外第IV相無作為化二重盲検比較試験「EVEREST試験」が実施された。その結果、デュピルマブがオマリズマブと比較して鼻茸スコア(NPS)や嗅覚障害などを改善した。欧州呼吸器学会(ERS Congress 2025)において、Enrico Marco Heffler氏(イタリア・IRCCS Humanitas Research Hospital)が本試験の結果を報告した。なお、本結果はLancet Respiratory Medicine誌オンライン版2025年9月27日号に同時掲載された1)。試験デザイン:海外第IV相無作為化二重盲検比較試験対象:低~高用量のICSを用いてもコントロール不良(喘息コントロール質問票[ACQ]スコア1.5以上)の喘息を有し、NPS 5以上の両側性鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎患者360例試験群:デュピルマブ300mgを2週に1回皮下投与(181例)対照群:オマリズマブを試験実施国の承認用量で投与(179例)投与方法:4週間のrun-in期間にモメタゾンフランカルボン酸エステル点鼻液を毎日噴霧し、2群に無作為に割り付けた。無作為化後は割り付けられた治療を24週間実施した。24週間の治療期間中もモメタゾンフランカルボン酸エステル点鼻液を毎日噴霧し、全身性ステロイド薬の使用や手術による救済治療も可能とした。評価項目:[主要評価項目]投与24週時のNPS、ペンシルベニア大学嗅覚識別検査(UPSIT)スコアのベースラインからの変化量[副次評価項目]投与24週時の嗅覚障害重症度スコア、鼻閉重症度スコアなど 主な結果は以下のとおり。・患者背景は両群間でバランスがとれており、全体集団の鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎の罹病期間(平均値)は13.3年、手術歴を有する割合は79.4%であった。ベースライン時のICSの用量は低用量が35%、中/高用量が65%であった。非ステロイド性抗炎症薬過敏喘息の病歴を有する割合は40%であった。・主要評価項目である投与24週時のNPSのベースラインからの変化量(最小二乗平均値)は、デュピルマブ群-2.65、オマリズマブ群-1.05であり、デュピルマブ群が有意に改善した(群間差:-1.60、95%信頼区間[CI]:-1.96~-1.25、p<0.0001)。・もう1つの主要評価項目である投与24週時のUPSITスコアのベースラインからの変化量(最小二乗平均値)は、デュピルマブ群12.7、オマリズマブ群4.7であり、デュピルマブ群が有意に改善した(群間差:8.0、95%CI:6.3~9.7、p<0.0001)。なお、デュピルマブ群のUPSITスコア(平均値)は無嗅覚の閾値である18を超えて改善した。・投与24週時の嗅覚障害重症度スコアのベースラインからの変化量、鼻閉重症度スコアのベースラインからの変化量もデュピルマブ群が有意に改善した(いずれもp<0.0001)。・投与24週時の気管支拡張薬投与前の1秒量(FEV1)のベースラインからの変化量(最小二乗平均値)は、デュピルマブ群0.29L、オマリズマブ群0.14Lであった(群間差:0.15L、95%CI:0.05~0.26、名目上のp=0.003)。・投与24週時のACQ-7スコアのベースラインからの変化量(最小二乗平均値)は、デュピルマブ群-1.92、オマリズマブ群-1.44であった(群間差:-0.48、95%CI:-0.65~-0.31、名目上のp<0.0001)。・安全性に関して、両群に差はみられなかった。 本試験結果について、Heffler氏は「本試験は呼吸器領域で初の生物学的製剤の直接比較試験である。本試験において、事前に規定した階層的検定のすべての評価項目で、デュピルマブがオマリズマブと比較して改善を示した。この結果は、2型炎症を伴う呼吸器疾患を併存する患者におけるデュピルマブの有効性を支持するものである」とまとめた。

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小児・青年期の医用画像による被曝、血液がんリスクへの影響は?/NEJM

 小児・青年期における医用画像診断による放射線曝露は、わずかではあるが血液がんのリスク増加と有意に関連していることが、米国・カリフォルニア大学のRebecca Smith-Bindman氏らによる後ろ向きコホート研究「Risk of Pediatric and Adolescent Cancer Associated with Medical Imaging retrospective cohort study:RICコホート研究」で示された。小児・青年期における医用画像診断による放射線誘発性血液がんのリスクを評価することは、画像検査の実施に関する意思決定を支援することにつながる。NEJM誌2025年9月17日号掲載の報告。米国・カナダの小児約370万人で医用画像診断と血液がんの関連性を評価 研究グループは、1996年1月1日~2016年4月30日に出生し、米国の6つの統合医療システム(Kaiser Permanente北カリフォルニア・北西部・ワシントン・ハワイ、Marshfield Clinic、Harvard Pilgrim Health Care)またはカナダ・オンタリオ州健康保険制度のいずれかに生後6ヵ月間継続加入しており、生後3ヵ月以内に1回以上受診し、生後6ヵ月時点で生存かつがんを発症していない372万4,623例の小児を対象とした。 対象児を、出生時からがんまたは良性腫瘍の診断、死亡、オンタリオ州からの転出または米国医療システムからの脱退後6ヵ月、21歳、または研究終了(2017年12月31日)のいずれか早い時点まで追跡調査した。 医用画像診断による活性骨髄の放射線被曝量を定量化し、6ヵ月のラグを設けて累積被曝線量を算出して、層別Cox比例ハザードモデルを用い時間依存性累積放射線量と血液がんとの関連を、被曝なしとの比較において推定した。骨髄への累積放射線量は血液がんのリスクと有意に関連 3,571万5,325人年(1人当たり平均10.1年)の追跡期間中、2,961件の血液がんが診断された。内訳は主にリンパ腫(2,349例、79.3%)、骨髄系または急性白血病(460例、15.5%)、組織球または樹状細胞腫瘍(129例、4.4%)であった。 1mGy以上の放射線に被曝した小児の平均(±SD)被曝量は、全体で14.0±23.1mGy(参照として、頭部CTスキャン1回当たりの被曝量は13.7mGy)、血液がんを発症した小児では24.5±36.4mGyであった。 累積線量の増加とともにがんのリスクが増加し、相対リスク(被曝なしと比較)は1以上5mGy未満で1.41(95%信頼区間[CI]:1.11~1.78)、15以上20mGy未満では1.82(1.33~2.43)、50以上100mGy未満では3.59(2.22~5.44)であった。 骨髄への累積放射線量は、すべての血液がんのリスク上昇と関連しており(100mGy当たりの過剰相対リスク:2.54[95%CI:1.70~3.51]、p<0.001、30mGy vs.0mGyの相対リスク比:1.76[95%CI:1.51~2.05])、ほとんどの腫瘍サブタイプでも同様であった。 30mGy以上(平均57mGy)被曝した小児では、21歳までの血液がんの過剰累積発生率は、1万人当たり25.6であった。 本コホート研究では、血液がんの10.1%(95%CI:5.8~14.2)が医用画像診断による放射線被曝に起因する可能性があり、とくにCTなどの高線量医用画像診断によるリスクが高いと推定された。

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2型糖尿病合併HFpEF、セマグルチドとチルゼパチドが入院・死亡リスクを低減/JAMA

 心代謝性(2型糖尿病合併)の左室駆出率が保持された心不全(HFpEF)患者において、セマグルチドとチルゼパチドはいずれもプラセボと比較し、心不全による入院または全死亡の複合リスクを40%以上減少させたが、チルゼパチドとセマグルチドとの間に有意差は示されなかった。米国・ブリガム&ウィメンズ病院のNils Kruger氏らが、5件のコホート研究から得られた結果を報告した。HFpEFは、肥満や2型糖尿病などの心代謝合併症を有する患者に多くみられ、入院の主な原因となっている。セマグルチドとチルゼパチドの初期試験では、これらの患者における症状改善に有望な結果が示されたが、これらの知見は臨床イベント数が少なく、治療の推奨は確実とはいえないままであった。JAMA誌オンライン版2025年8月31日号掲載の報告。5件のコホート研究でHFpEFに対するセマグルチドとチルゼパチドの有効性と安全性を評価 研究グループは2018~24年に、米国の医療保険請求データ(Medicare Part A、B、D[2018~20年]、Optum Clinformatics Data Mart[2018年~2024年11月]、Merative MarketScan[2018~22年])を用い5件のコホート研究を実施した。 まず、2件のコホート研究で、セマグルチドのSTEP-HFpEF DM試験およびチルゼパチドのSUMMIT試験を模倣し、結果のベンチマークとした。その後、臨床現場で一般的に治療される患者における治療効果を評価するために適格基準を拡大し、プラセボの代用としてシタグリプチンを用い、セマグルチド、チルゼパチドそれぞれと比較する、いずれも新規使用者を対象とする2件の研究を行った。最後に、チルゼパチドとセマグルチドの直接比較試験を実施し、最長52週間追跡した。 主要エンドポイントは心不全による入院または全死因死亡の複合とし、陰性対照アウトカム、副次エンドポイント、サブグループ解析および感度解析を事前に規定。ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)は、治療前の患者特性で補正を行い、傾向スコア重み付け比例ハザードモデルにより算出した。心不全による入院または全死因死亡のリスクが40%以上減少 2件のベンチマーク研究では、事前に規定されたすべての指標において高い一致が示された。 適格基準を拡大した解析では、セマグルチドvs.シタグリプチンコホートに5万8,333例、チルゼパチドvs.シタグリプチンコホートに1万1,257例、チルゼパチドvs.セマグルチドコホートに2万8,100例が組み入れられた。 シタグリプチンと比較し、セマグルチド開始群(HR:0.58、95%CI:0.51~0.65)、チルゼパチド開始群(0.42、0.31~0.57)の主要エンドポイントのリスクは大きく低下した。一方、チルゼパチドはセマグルチドと比較し、有意なリスク低下を示さなかった(HR:0.86、95%CI:0.70~1.06)。 陰性対照アウトカム、副次エンドポイント、サブグループ解析および感度解析においても、いずれも一貫した結果が示された。 安全性エンドポイントにおいて、顕著なリスク増加は認められなかった。

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TAVR用デバイス「Evolut FX+」発売/メドトロニック

 日本メドトロニックは、重度の大動脈弁狭窄症患者を対象とした経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVR)に用いられる「Evolut FX+(エボリュート エフエックスプラス)」(以下、Evolut FX+)を10月1日に発売した。 Evolut FX+は、第6世代の自己拡張型経カテーテル的大動脈弁置換術用デバイスで、従来のEvolut TAVRプラットフォームが持つ優れたバルブ性能を維持しながら、冠動脈へのアクセス性を支援するよう設計されている。フレームデザインの改良により、従来製品の4倍の大きさの冠動脈アクセスウィンドウが提供できる。これにより、カテーテル操作のスペースが拡大され、患者の多様な解剖学的特性に配慮しながら、優れた血行動態やバルブ性能を損なうことなく、よりスムーズに冠動脈へアクセスできるという。

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さまざまなリスクの左室駆出率の低下した心不全へのベルイシグアトの効果―VICTORIA・VICTOR試験統合解析より(解説:加藤貴雄氏)

 VICTORIA試験は、直近の心不全増悪があった左室駆出率の低下した心不全(HFrEF)患者に対する試験であり(Armstrong PW, et al. N Engl J Med. 2020;382:1883-1893.)、2025年8月の欧州心臓病学会で発表されたVICTOR試験は、6ヵ月以内の入院歴や3ヵ月以内の外来での利尿薬静注の「最近増悪した症例」を除外し、NT-proBNP 600~6,000pg/mL(心房細動は900~6,000pg/mL)を組み入れ基準とした試験で、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬であるベルイシグアトの二重盲検ランダム化比較試験である(Butler J, et al. Lancet. 2025;406:1341-1350.)。 VICTORIA試験では、プラセボ群よりも心血管死または心不全による入院の発生率が低かったが、VICTOR試験では、主要評価項目イベント(心血管死または心不全入院)はハザード比(HR)0.93(95%信頼区間[CI]:0.83~1.04、p=0.22)とプラセボ群との有意差は認めなかった。心血管死と全死亡(および、事後的に解析された突然死)はプラセボ群に比して低下を示したものの、心不全による入院はプラセボ群との差を認めなかった。 今回取り上げた論文(Zannad F, et al. Lancet. 2025;406:1351-1362.)は、そのVICTOR試験とVICTORIA試験の事前規定された統合解析である。アジア人が20%弱含まれ、過去の心不全入院歴のない患者が26%、NYHA心機能分類ではII度70%の背景であった。β遮断薬は94%、RAS系阻害薬も90%超(ARNIを含む)、MRAは74%で、SGLT2阻害薬はVICTORIA試験時代は投与率が低かったため、全体で34%であった。ICDは31%に入っていた。主要評価項目の心血管死または心不全入院は、ベルイシグアト群で低く(HR:0.91、95%CI:0.85~0.98)、心血管死・全体および初回心不全入院・全死亡の副次評価項目もベルイシグアト群でリスクを低下させた。治療効果は、ベースラインのNT-proBNPが低いほど大きく認められた。 この結果から、どのような患者がベルイシグアトの好適例となるかを考察する。心不全増悪や過去の心不全入院歴があってもなくてもGDMTが処方されたうえでも、HFrEFにとどまり、NYHA II度以上の症状があり、NT-proBNPが600pg/mLを超える患者は、心血管死または心不全入院の発生率がプラセボでも0.21/年であり、ベルイシグアトの投与対象となりうる患者と考えられる。したがって、外来通院中でも直近の悪化歴がなかったとしても、外来で入院していない=「安定している」とは考えず、BNP/NT-proBNPや症状の出現や増悪に注意しながら、常にGDMTの最適化や治療の見直しを行いつつ、上に記したようにHFrEFでNYHA II度以上の症状があり、NT-proBNPが600pg/mLを超える事態は、心不全診療において要注意のフェーズと考えられる。

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製薬会社も破産する時代に…【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第159回

製薬会社のいわゆるM&A(合併と買収)は多く聞かれますが、破産というのはあまりなかったかと思います。9月5日付で輸液をはじめとする各種注射剤(ガラスアンプル製剤、ソフトバッグ製剤など)の製造を得意とするネオクリティケア製薬が破産手続きを開始しました。医薬品の供給についてはすでに限定出荷などが始まっています。同社は1941年に創業者の小林 清秀氏が有理医薬研究所を設立し、1947年に小林製薬を設立しました。資本元の変遷により会社名を「アイロム製薬」「共和クリティケア」と変え、2019年にアラブ首長国連邦国籍のネオファーマグループに所属したことから「ネオクリティケア製薬」となりました。前身の共和クリティケア時代である2020年7月の社内調査において、ソフトバッグ製剤の製造工程における環境モニタリングに不備が確認され、製品の自主回収と3ヵ月間の製造ラインの停止をしました。その後、製剤ラインの稼働を再開し、品質体制の再構築と経営体制の刷新による信頼回復を目指していたものの、ソフトバッグの代替品対応などで業績が大きく悪化したと報じられています。株主の変更による経営方針の変更や品質問題による回収など、この5年ほどは綱渡りの経営だったのかもしれません。ネオクリティケア製薬が破産手続きに入ったことを受け、9月22日に厚生労働省医政局医薬産業振興・医療情報企画課は、仲介的ではありますが製薬各社に対して同社の製品を承継するための手続きなどの案内を出しました。薬価制度上の基礎的医薬品18品目、安定確保医薬品13製品(重複あり)を含む同社の製品一覧を添付したうえで、承継を希望する企業に「ご活用いただければ」と呼びかけています。しかしながら、「そもそも承継に耐えうる製造ラインがないのでは」など業界では懐疑的な意見があるようです。また、安定確保医薬品や感染症薬などの増産を支援する「医薬品安定供給支援補助金」の第4次公募を開始しました。今回はネオクリティケア破産の影響で供給不安に陥ったケースも「補助対象とする」としています。このような場合、ネオクリティケア製薬自身が製造販売元となっている製品については明らかになりやすいですが、同社は受託製造を得意としてきた会社ですので、ネオクリティケア製薬に製造委託していた他社製造販売品にも徐々に影響が及ぶと考えられます。医療用医薬品は薬価で販売されます。販売価格が保証されているので安定的でよいというのは一昔前の話かもしれません。材料費や人件費の高騰、円安などさまざまな環境の変化によって、自社で販売価格を決められないことが経営を圧迫する世の中になってしまいました。今回の件、「一社の破産の話」で済まない気がするのは私だけでしょうか。

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総合診療の実際【Dr. 中島の 新・徒然草】(600)

六百の段 総合診療の実際涼しくなりましたね。先日、朝のゴミ出しをしに行った時のこと。屋外駐車場に並んでいる車のフロントガラスが結露していたので驚きました。知らないうちに気温が下がっていたのでしょう。さて今回は、われわれの病院における総合診療科の現実についてお話ししたいと思います。総診というと、他の診療科の先生方が困っている症例をスパッと診断するというイメージがあるのではないでしょうか。例を挙げれば…… ○○内科医 「うーん、診断が難しいな」 ××外科医 「困ったなあ、よくわからんぞ」 総合診療医 「先生方、これは△△病ですよ」 ○○内科医&××外科医「おおーっ、そうだったのか! ひとつ賢くなったぞ」こうなったらカッコいいのですが、実際はこんな感じです。 ○○内科医 「これ、ウチの疾患じゃないですよ」 ××外科医 「オレのとこでもないな」 ○○内科医&××外科医「そうだ、総診に診てもらおう」 総合診療医 「わかりました。ウチで引き受けさせていただきます」 ○○内科医&××外科医「よろしくー」簡単にいえばスキマ産業です。実際、専門診療科は、ナントカクリーゼとかカントカがんと戦うのに忙しいはず。だから患者さんのちょっとした症状に対応する余裕がないのでしょう。病院が大きくなるほど皆が専門に走ってしまって、スキマが大きくなりがちです。そこを埋めるのが総診。皆がやりたがらない仕事を引き受け、そっと患者さんの不具合を解決する。なんと立派な志でしょう!ここまでは誰でも想像できる総診の役割ですが、実際にやっていると、ちょっと違う景色も見えてきたりします。1つは壁打ちの相手。よくある総診への院内コンサルが、入院患者さんの発熱の相談です。とくにマイナー診療科からのもの。 マイナー科医 「入院患者さんの発熱で困っているんです」 総合診療医 「発熱だったら、感染症内科のほうが専門だと思いますけど」 マイナー科医 「抗菌薬を使っても良くならないんですよ」 総合診療医 「なるほど、膠原病とか腫瘍とか、ひょっとして薬剤熱もあるかな」 マイナー科医 「それに、培養も採らずに適当な抗菌薬を使ってしまったんで、ちょっと相談しにくくて……」 総合診療医 「わかりました。じゃあ一緒に考えましょう」 マイナー科医 「助かります(喜)」 もう1つが人間関係のあれこれ。せっかく専門診療科の先生にも一緒に診てもらっているのに、つい「ちょっと違うんでねーの」と思ってしまうこともあるわけです。とくに研修医も参加している総診のカンファレンスでは、苦労が絶えません。 研修医 「○○内科のご指導をいただいて、薬剤Aを使っています」 中島 「僭越ながら、薬剤Aより薬剤Bのほうが良さそうな気がするけど」 総合診療医 「えっ、中島先生もそう思う? 薬剤Aって、あり得ないでしょう」 研修医 「じゃあ、どうしたらいいんですか?」 中島 「先生が○○内科に行って『薬剤Aは間違っています!』と言ったらどうかな」 研修医 「無理です、できません(泣)」 中島 「失礼にならない形で相手に伝えるのも研修のうちやぞ」 研修医 「そんな馬鹿な……」 総合診療医 「『僕は○○内科に行きたいです』と言ったら、たいていのことは許してもらえるわよ」 研修医 「○○内科なんか興味ないです」 中島&総合診療医「それが一番失礼や!」こういう話が総合診療科の先生方に共感してもらえるのか、それはわかりません。おそらく、立場によっていろいろな形の総合診療があることでしょう。ともあれ、読者の皆さんにそれぞれの立場で笑っていただければ幸いです。最後に1句 結露みて 季節を感じる 駐車場

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第30回 なぜトランプ氏は「タイレノールが自閉症の原因」と発言したのか?専門家報酬、訴訟、SNS…科学的根拠なき主張の裏側を徹底解剖

トランプ大統領と保健福祉長官であるロバート・F・ケネディ・ジュニア氏は、世界中の妊婦やその家族を震撼させる警告を発しました1)。「タイレノールを飲んではいけない」「それを避けるために必死で戦ってほしい」。その理由は、妊娠中のタイレノール(主成分:アセトアミノフェン)の使用と、子供の自閉症との間に因果関係があるというものでした。 この発言は、長年、妊娠中の痛みや発熱に対して最も安全な選択肢の一つとされてきたアセトアミノフェンへの信頼を根底から揺るがし、大きな混乱と不安を引き起こしました。しかし、彼らが「科学的根拠」として提示した証拠は、信頼に足るものだったのでしょうか。本記事では、これまでの報道内容を基に、この主張がいかにして構築され、なぜ発せられたのか、その裏側を掘り下げていきたいと思います。「ハーバード大学学部長」の研究が根拠? 覆された「科学的証拠」の実態トランプ政権が主張の最大の拠り所としたのは、ハーバード大学公衆衛生大学院の学部長であるアンドレア・バッカレッリ氏らによるレビュー論文でした2)。現役のハーバード大学学部長の名前が挙がったことで、多くの人々がその主張に一定の信憑性を感じたかもしれません。しかし、その背景を調べると、単純な科学的見解とは言い難い複雑な事情が浮かび上がってきます。バッカレッリ氏は、タイレノールの製造元を相手取った集団訴訟で、原告側の「専門家証人」として、少なくとも15万ドル(約2,250万円)の報酬を受け取っていたことが、裁判資料から明らかになっています3)。彼は訴訟のための専門家報告書の中で、アセトアミノフェンと自閉症などの神経発達障害との間に「因果関係がある」と断定的な見解を記していました。しかし、最も重要な事実は、彼が関わったこれらの訴訟が、連邦裁判所の判事によって「信頼できる科学的証拠の欠如」を理由に棄却されていたことです。判事は判決の中で、バッカレッリ氏が「研究結果を都合よく抜き出し(チェリー・ピッキング)、誤って伝えている」とさえ指摘しています。つまり、トランプ政権が「根拠」とした専門家の意見は、司法の場においてすでにその信頼性を否定されていたのです。事実、これまで因果関係を明確に示した研究は報告されていません。また興味深いことに、ホワイトハウスでの会見後、バッカレッリ氏自身が出した声明は、訴訟での断定的な態度から一転し、「因果関係を決定するためにはさらなる研究が必要」と、非常に慎重なトーンに変わっていました。この一貫性のなさは、彼の見解が置かれた立場によって揺れ動く可能性を示唆しています。世論を揺さぶる情報戦――古いSNS投稿の利用と専門家たちの反論科学的根拠が揺らぐ中、政権側は世論を味方につけるための情報戦を仕掛けます。保健福祉省やホワイトハウスの公式Xアカウントは、タイレノールの公式アカウントが2017年に行った「妊娠中に我々の製品を摂取することはお勧めしません」という古い投稿を、「キャプションは不要」という一言と共に再投稿しました4)。これは、あたかも製造会社自身が2017年からすでに危険性を認めているかのような印象を与える巧みな手法でした。しかし、タイレノールの親会社であるKenvue社は即座に声明を発表。この投稿は、ある顧客からの問い合わせに対する断片的な返信であり、「文脈から切り離されている」と反論しました。そして、「アセトアミノフェンは妊娠全期間を通じて、妊婦にとって最も安全な解熱鎮痛薬の選択肢」であるという公式見解を改めて示し、ただし「どんな市販薬であっても、使用前には医師に相談すべき」という、医学の基本原則を付け加えました5)。つまり、過去の投稿はあくまで、医師に相談せずに買える市販薬(=「われわれの製品」)を自己判断で摂取することをお勧めしないという内容だったのです。この騒動に対し、米国の産科婦人科学会(ACOG)をはじめとする専門学会は、トランプ政権の主張に強く反発しました6)。「信頼できるデータに裏付けられていない」「妊娠中のアセトアミノフェン使用が神経発達障害を引き起こすと結論づけた信頼できる研究は一つもない」と断言。さらに、妊娠中の高熱を放置すること自体が、胎児の神経管閉鎖障害などの先天異常リスクを高めることは何十年もの研究で知られており、アセトアミノフェンはそのリスクを管理するための数少ない安全な手段であると強調しました。科学より「個人の信念」――トランプ氏の発言の背景にあるもの信頼できる科学的証拠が乏しく、医学界の総意とも異なる主張を、なぜトランプ氏はこれほど強く推し進めるのでしょうか。その答えは、彼の個人的な信条と政治スタイルにありそうです。報道によれば、この問題はトランプ氏にとって「個人的な関心ごと」であり、彼は以前から自閉症やワクチンに対して、科学的コンセンサスとは異なる強い持論を持っていたことで知られています7)。そして、今回、保健福祉長官に任命されたロバート・F・ケネディ・ジュニア氏は、長年にわたりワクチンと自閉症の関連を主張してきた、反ワクチン運動の最も著名な活動家の一人です。この人選自体が、政権の方向性を物語っています。つまり、今回の発言は、特定の科学論文を客観的に評価した結果というよりも、トランプ氏とケネディ氏が共有する「既存の医療や科学の権威に対する不信感」という世界観の表れと見るのが自然でしょう。彼らの言動は、科学的データよりも個人の信念や逸話を重視し、複雑な問題を単純な「敵」と「味方」の構図に落とし込むことで支持者からの共感を呼ぶ、という政治戦略の一環なのです。このような単純化は、このSNS時代に共感を呼びやすいことをよく理解したうえでやっていると思います。結論として、タイレノールに関するトランプ政権の警告は、司法に退けられた「専門家」の意見を根拠とし、文脈を無視したSNS情報を利用して増幅され、医学界の明確な反対を押し切る形で行われました。この一件は、科学的真実が、個人の強い信念や政治的思惑によっていかに歪められ、公衆の健康をいたずらに危険にさらしうるかを示す、象徴的な事例といえるのではないでしょうか。 参考文献・参考サイト 1) BBC. Trump makes unproven link between autism and Tylenol. 2) Prada D, et al. Evaluation of the evidence on acetaminophen use and neurodevelopmental disorders using the Navigation Guide methodology. Environ Health. 2025;24:56. 3) The New York Times. Harvard Dean Was Paid $150,000 as an Expert Witness in Tylenol Lawsuits. 4) The White House. X投稿. 2025 Sep 24. 5) Kenvue. Should I be concerned about acetaminophen and autism? 6) ACOG Affirms Safety and Benefits of Acetaminophen during Pregnancy. 2025 Sep 22. 7) The New York Times. Trump Issues Warning Based on Unproven Link Between Tylenol and Autism.

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日本人男性のCVDリスク、最適な予測指標はBMIではなかった

 日本人男性の将来の心血管疾患(CVD)リスクの評価において、従来広く用いられてきたBMIよりも腹囲身長比(waist-to-height ratio)や体の丸み指数(body roundness index)のほうが有用で、欧米での報告と同様に日本人男性でも腹囲が身長の約半分に達するとCVD発症リスクが上昇することが、京都府立医科大学の市川 貴博氏らによって明らかになった。The American Journal of Clinical Nutrition誌オンライン版2025年8月23日号掲載の報告。 肥満は世界的に重要な公衆衛生上の課題であり、とくに中心性肥満はさまざまな代謝疾患の発症に関連することが報告されている。日本では主にBMIを用いて肥満を判定しているが、BMIでは内臓脂肪の蓄積を正確に反映することができないという限界がある。そこで研究グループは、大規模な日本人集団のデータをもとに、5つの異なる体格指標が肥満の重大な合併症であるCVDの発症にどのように関連するのかを13年間にわたって比較・検証した。 対象は、2008~21年にパナソニック健康保険組合が実施した健康診断を受診した16万656人(男性11万9,510人、女性4万1,146人)であった。身体測定、血液検査、問診結果を縦断的に収集し、BMI、腹囲、体型指数(a body shape index)、体の丸み指数、腹囲身長比の5つの体格指標のCVD発症予測能を比較した。主要評価項目は、心血管死、非致死性冠動脈疾患、非致死性脳卒中の主要心血管イベント(MACE)の発症率であった。Cox比例ハザードモデルを用いて5つの体格指標とMACE発症リスクとの関連を性別ごとに評価し、time-dependent ROC解析により各指標の予測能を比較した。 主な結果は以下のとおり。・参加者の平均年齢は44.5±8.3歳であった。13年間の追跡期間中、男性では4,027例(3.4%)、女性では372例(0.9%)がMACEを発症した。・多変量解析の結果、男性では5つすべての体格指標がMACE発症と関連していた。1SD増加ごとのハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)は以下のとおり。 -BMI HR:1.15(95%CI:1.11~1.18) -腹囲 HR:1.15(95%CI:1.12~1.19) -体型指数 HR:1.06(95%CI:1.02~1.09) -体の丸み指数 HR:1.16(95%CI:1.13~1.20) -腹囲身長比 HR:1.17(95%CI:1.13~1.21)・女性では、いずれの体格指標もMACE発症と有意な関連は認められなかった。・男性における各指標の予測精度を比較したところ、腹囲身長比と体の丸み指数のAUC値は他の3つの体格指標よりも高く、より高い予測能を持つことが明らかになった。 -BMI AUC値:0.586(95%CI:0.576~0.596) -腹囲 AUC値:0.598(95%CI:0.588~0.608) -体型指数 AUC値:0.563(95%CI:0.552~0.573) -体の丸み指数 AUC値:0.608(95%CI:0.598~0.618) -腹囲身長比 AUC値:0.608(95%CI:0.598~0.618)・CVD発症の予測のための最適なカットオフ値は、腹囲身長比が0.494、体の丸み指数が3.250であった。 これらの結果より、研究グループは「13年以上の追跡調査を受けた日本人男性において、体の丸み指数と腹囲身長比はBMI、腹囲、体型指数よりもCVD発症のより重要な予測因子であった。特定されたカットオフ値は、リスク層別化の改善とCVDリスク低減のための早期予防介入に役立つ可能性がある」とまとめた。

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統合失調症患者の平均寿命が17年も短い理由とは

 統合失調症患者の死亡率は、一般人口に比べて有意に高く、平均余命が15~20年短縮するといわれている。ルーマニア・Transilvania University of BrasovのAndreea-Violeta Popa氏らは、ルーマニアの統合失調症患者コホートにおける10年間の全死亡率とその臨床的相関関係を、実際の臨床記録、病院記録、法医学記録を用いて調査した。Schizophrenia (Heidelberg, Germany)誌2025年8月29日号の報告。 2010〜13年に入院した統合失調症患者635例を対象に、10年間フォローアップ調査を実施した。死亡率、死因、リスク因子は、Cox回帰モデルおよび標準化死亡比(SMR)を用いて評価した。 主な内容は以下のとおり。・フォローアップ期間中に死亡した患者は123例(19.37%)、1,000人年当たり21.3例であった。・ルーマニアの一般人口と比較したSMRは1.58であり、統合失調症患者の死亡リスクが有意に高いことが示唆された。・死因は、非暴力的な死因が優勢で、心血管疾患(27.64%)および感染症(17.07%)が最も多かった。・自殺や事故を含む暴力的な死因は、全死亡率の17.07%を占めた。・死亡時の平均年齢は58.97歳であり、平均寿命の17年短縮が認められた。・年齢は死亡率の最も強い独立予測因子であった(ハザード比[HR]:1.07、p<0.001)。・第2世代抗精神病薬の使用(HR:0.37、p<0.001)および入院頻度の低さ(HR:0.09、p<0.001)は、全死亡率および原因別死亡率の低下と有意な関連が認められた。 著者らは「統合失調症は、主に予防可能な身体疾患や暴力的な死因により、早期死亡率の有意な上昇と関連していることが示唆された。生存転帰を改善するためには、早期介入、持続的な治療順守、統合的な医療ケアが不可欠である」としている。

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HER2変異陽性肺がんにゾンゲルチニブ承認/ベーリンガーインゲルハイム

 日本ベーリンガーインゲルハイムは、2025年9月19日、ゾンゲルチニブ(商品名:ヘルネクシオス)について、「がん化学療法後に増悪したHER2(ERBB2)遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺」を適応として、日本国内における製造販売承認を取得した。 本剤は、同適応症に対する分子標的薬として国内初の経口薬となる。今回の承認は、活性型HER2遺伝子変異陽性の切除不能または転移のある固形腫瘍患者を対象に、ゾンゲルチニブの単剤療法を評価した第I相非盲検用量漸増試験Beamion-LUNG-1の結果に基づくもの。 治療歴のある患者における奏効率(ORR)は71%で、完全奏効率は7%、部分奏効率は64%であり、病勢コントロール率(DCR)は96%であった。さらに、ゾンゲルチニブは治療歴のある脳転移を有する患者(n=27)で頭蓋内奏効を示し、ORRは41%、DCRは81%であった。 HER2チロシンキナーゼドメイン(TKD)変異を有する患者(n=75)において最も多く報告された有害事象はGrade1の下痢(48%)であり、治験薬との因果関係のあるGrade3以上のすべての有害事象は17%であった。

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60歳以上への2価RSVワクチン、全心肺疾患による入院も抑制/JAMA

 60歳以上の高齢者における呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染症に対する2価RSV融合前Fタンパク(RSVpreF)ワクチン接種は、同ワクチンを接種しなかった場合と比較し、全心肺疾患による入院を有意に減少させた。デンマーク・Copenhagen University Hospital-Herlev and GentofteのMats C. Hojbjerg Lassen氏らが、DAN-RSV試験の事前に規定された2次解析の結果を報告した。RSV感染は、とくに心血管疾患(CVD)の既往を有する患者で心血管リスクの上昇と関連している。最近、RSVpreFワクチンがRSV関連下気道疾患の予防として承認されたが、心血管アウトカムに対する有効性を評価した無作為化試験はなかった。著者は、「今回の結果は、全CVDによる入院に対する効果は有意ではなかったものの、RSVワクチン接種が心肺疾患に対しても有用である可能性を示唆している」とまとめている。JAMA誌オンライン版2025年8月30日号掲載の報告。デンマークの60歳以上、約13万例をRSVpreFワクチン接種群と未接種群に無作為化 DAN-RSV試験は、研究者主導のプラグマティックな第IV相無作為化非盲検並行群間比較試験で、2024~25年冬季シーズンにデンマーク在住で市民登録番号を有する60歳以上の高齢者を、RSVpreFワクチン接種群(単回筋肉内投与、RSVpreF群)またはワクチン未接種群(対照群)に1対1の割合で無作為に割り付け追跡評価した。 主要エンドポイントはRSV関連呼吸器疾患による入院で、結果は別途報告されている(ジャーナル四天王「60歳以上への2価RSVワクチン、RSV関連呼吸器疾患による入院を抑制/NEJM」)。 本論では、副次エンドポイントである全心肺疾患による入院について評価し、さらに、RSVpreFワクチンの有効性を全心肺疾患の2つの構成要素(全呼吸器疾患による入院[副次エンドポイント]、全CVDによる入院[探索的エンドポイント])と、全CVDの各項目(心不全、心筋梗塞、心房細動、脳卒中による入院)に関して評価した。 ベースラインデータおよびアウトカムデータは、デンマーク登録番号を介し各種全国医療レジストリから収集した。2024年11月18日に最初の参加者が登録され、初回試験来院予定日の14日後から2025年5月31日まで追跡調査が行われた。 DAN-RSV試験のITT集団は13万1,276例(RSVpreF群6万5,642例、対照群6万5,634例、平均年齢69.4[SD 6.5]歳、男性50.3%)で、このうち2万8,662例(21.8%)(RSVpreF群1万4,377例、対照群1万4,285例、平均年齢71.8[SD 6.9]歳、男性64.3%)がベースラインでCVD既往であった。1,000人年当たりの全心肺疾患入院26.3 vs.29.2、全CVD入院16.4 vs.17.7 ITT集団において、全心肺疾患による入院の発生率は、1,000人年当たりRSVpreF群26.3、対照群29.2であり、RSVpreF群で有意に低かった(絶対発生率減少:1,000人年当たり2.90[95%信頼区間[CI]:0.10~5.71]、ワクチン有効率9.9%[95%CI:0.3~18.7]、p=0.04)。この効果は、ベースラインにおけるCVDの有無による有意な相互作用は認められなかった(ワクチン有効率:CVDあり5.0%[95%CI:-11.2~16.7]、CVDなし15.2%[2.2~27.1]、相互作用のp=0.27)。 全CVDによる入院の発生率は1,000人年当たりRSVpreF群16.4、対照群17.7(ワクチン有効率7.4%、95%CI:-5.5~18.8、p=0.24)、脳卒中による入院の発生率は1,000人年当たりそれぞれ3.0と3.8(19.4%、-8.6~40.4、p=0.14)であった。心筋梗塞、心不全ならびに心房細動による入院についても統計学的な有意差はなかった。

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チルゼパチド、血糖コントロール不良の若年2型糖尿病患者に有効/Lancet

 メトホルミンや基礎インスリンで血糖コントロール不十分の若年発症2型糖尿病患者において、GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドの週1回投与はプラセボと比較し、血糖コントロールおよびBMIを有意に改善し、その効果は1年間持続した。米国・Indiana University School of MedicineのTamara S. Hannon氏らがオーストラリア、ブラジル、インド、イスラエル、イタリア、メキシコ、英国および米国の39施設で実施した、第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験「SURPASS-PEDS試験」の結果で示された。若年発症2型糖尿病に対する治療選択肢は限られており、成人発症2型糖尿病と比較し血糖降下作用が低いことが知られている。若年発症2型糖尿病患者に対するチルゼパチドの臨床エビデンスは不足していた。Lancet誌オンライン版2025年9月17日号掲載の報告。チルゼパチド(5mg、10mg)群とプラセボ群を比較 SURPASS-PEDS試験の対象は、10歳以上18歳未満、体重50kg以上、BMI値が当該国または地域の年齢・性別集団の85パーセンタイル超の2型糖尿病患者で、メトホルミン(1,000mg/日以上)や基礎インスリンによる治療で血糖コントロールが不十分(スクリーニング時のHbA1c値6.5%超11%以下)の患者であった。 研究グループは、最長4週間のスクリーニング期の後、適格患者をチルゼパチド5mg群、10mg群またはプラセボ群に1対1対1の割合で無作為に割り付け、30週間の二重盲検投与期にそれぞれ週1回皮下投与した。無作為化では、年齢層(14歳以下、14歳超)および血糖降下薬使用状況(メトホルミン、基礎インスリン、その両方)で層別化した。 チルゼパチドは2.5mgから開始し、割り付けられた用量まで4週ごとに2.5mgずつ増量した。二重盲検投与期に引き続き、22週間の非盲検延長期に移行し、プラセボ群の患者にはチルゼパチド5mgを投与した。 主要エンドポイントは、チルゼパチド併合(5mgおよび10mg)群とプラセボ群との比較におけるベースラインから30週時までのHbA1c値の変化量であった。 主要な副次エンドポイント(第1種過誤を制御)は同HbA1c値の変化量のチルゼパチド各用量群とプラセボ群の比較、ベースラインから30週時までのBMI値の変化率(チルゼパチド各用量群および併合群とプラセボ群との比較)などであった。主要エンドポイントおよび副次エンドポイントは52週時においても評価した。30週時のHbA1c値変化量は-2.23%vs.+0.05%、BMI値変化率は-9.3%vs.-0.4% 2022年4月12日~2023年12月27日に146例がスクリーニングされ、99例が無作為化された(チルゼパチド5mg群32例、10mg群33例、プラセボ群34例)。患者背景は、女性60例(61%)、男性39例(39%)、平均年齢14.7歳(SD 1.8)、ベースラインの平均HbA1c値は8.04%(SD 1.23)であった。 30週時におけるHbA1c値の変化量は、チルゼパチド併合群で平均-2.23%に対し、プラセボ群では+0.05%であり、チルゼパチド併合群の優越性が検証された(推定群間差:-2.28%、95%信頼区間:-2.87~-1.69、p<0.0001)。チルゼパチドの血糖降下作用は52週まで持続し、52週時におけるHbA1c値の変化量は、チルゼパチド5mg群で-2.1%、10mg群で-2.3%であった。 30週時におけるBMI値の変化率は、チルゼパチド併合群-9.3%、5mg群で-7.4%、10mg群で-11.2%、プラセボ群-0.4%であり、チルゼパチド群はいずれもプラセボ群より有意な減少であった(対プラセボ群の併合群のp<0.0001、5mg群のp=0.0001、10mg群のp<0.0001)。 二重盲検期における有害事象の発現率は、プラセボ群44%(15/34例)、チルゼパチド5mg群66%(21/32例)、10mg群70%(23/33例)であった。チルゼパチド群で最も頻度の高かった有害事象は胃腸障害で、いずれも軽度~中等度であり、用量漸増期に発現し、経時的に減少した。投与中止に至った有害事象はチルゼパチド5mg群で2例(6%)に認められた。チルゼパチドの安全性プロファイルは成人での報告と一致した。試験期間中の死亡例は報告されなかった。

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睡眠不足・睡眠障害は緑内障リスクに関連か

 多くの人が悩まされる睡眠障害。しかし、放置すると思わぬ疾患を引き起こす可能性がある。短い睡眠時間や不眠症、睡眠時無呼吸症候群(SAS)といった睡眠障害が、視神経の変性や緑内障の発症リスクと関連することが、大規模研究で明らかになった。睡眠の質を整えることが、緑内障予防につながる可能性があるという。研究は京都大学大学院医学研究科眼科学教室の赤田真啓氏、畑匡侑氏らによるもので、詳細は8月15日に「American Journal of Ophthalmology」に掲載された。 緑内障は、世界中の高齢者における重度の視覚障害や失明の主な原因の一つである。緑内障の主な危険因子は加齢であるものの、その発症機序は多因子的であり、眼科的要因と全身的要因の双方が関与している。全身的要因の中では、近年の研究により、異常な睡眠パターンが緑内障の発症に関与する可能性があることが指摘されている。著者らは以前、滋賀県長浜市で実施された地域ベースの前向きコホート研究(長浜コホート研究)より、SASが緑内障進行の指標である網膜神経線維層(RNFL)の菲薄化と関連する可能性を示した。しかし、全国規模の大規模調査は不足しており、睡眠時間がRNFL厚や緑内障リスクに与える影響も十分に検討されていない。このような背景から、著者らは睡眠不足、不眠症、SASが成人のRNFLの菲薄化および緑内障の発症と関連しているかどうかを検証するために、地域ベースの横断研究と全国規模の後ろ向きコホート研究を実施した。 地域ベースの横断研究には、長浜コホート研究から40~80歳の成人5,958人が参加した。睡眠は手首装着型アクティグラフィーで評価され、RNFL厚は光干渉断層計(OCT)で測定された。睡眠パラメータとRNFL厚との関連を検討するため、多変量線形モデルを用いた横断解析が行われた。一方、全国規模の後ろ向きコホート研究には、厚生労働省が運用するNDBデータベースが利用された。解析対象は、40歳以上の不眠症患者98万5,136人、SAS患者7万2,075人、そしてこれらの疾患をもたない対照群であった。最大7.5年間追跡し、Cox比例ハザードモデルを用いて緑内障発症の調整ハザード比(aHR)が推定された。 地域ベースの横断研究では、参加者の睡眠時間と睡眠効率をそれぞれ4群、5群に分類し一元配置分散分析を実施した。その結果、睡眠時間(P=0.021)および睡眠効率(P<0.001)のいずれにおいてもRNFL厚に有意差がみられた。RNFL厚は6~7時間睡眠群で最も高く、睡眠時間が短くなるほど減少する傾向を示した。さらに年齢、性別、眼圧、および全身因子で調整後も、睡眠時間が6時間未満であることはRNFLの菲薄化と独立して関連していた(β=-0.76、95%信頼区間〔CI〕 -1.33~-0.19、P=0.008)。 全国コホートでは、追跡期間中に、不眠症患者98万5,136人のうち1万8,954人、SAS患者7万2,075人のうち1,276人が新たに緑内障と診断された。年齢、性別、既存の併存疾患で調整したCox比例ハザード回帰分析の結果、不眠症(aHR 1.30、95%CI 1.28~1.32、P<0.001)およびSAS(aHR 1.43、95%CI 1.35~1.51、P<0.001)は、いずれも緑内障リスクの上昇と独立して関連していた。 本研究について著者らは、「今回の結果は、臨床的に診断された不眠症や睡眠時無呼吸症候群と、緑内障の発症との間に有意な関連があることを裏付けている。睡眠評価と管理を眼科診療に取り入れることは、緑内障の予防に役立つ可能性がある」と述べている。 なお、不眠症とSASが緑内障リスクを高める機序について、著者らは、不眠症は網膜の老廃物排出システム(脳のグリンパティック系に類似する仕組み)の不調を介してリスクを高め、SASではこの不調に加えて低酸素、酸化ストレスや炎症などが関与し、さらにリスクを高めているのではないかと考察している。

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化学療法の副作用にVRが有効か、婦人科がん患者のRCTで有効性を示唆

 婦人科がんの治療に使われる化学療法は、吐き気や気分の落ち込みなどの副作用が大きな課題となっている。今回、無作為化比較試験で、患者が没入型VRを用いることで副作用の悪化を防ぎ、制吐剤の追加を減らせる可能性が示された。研究は大阪大学大学院薬学研究科医療薬学分野の仁木一順氏、大阪大学大学院医学系研究科産科学婦人科学教室の上田豊氏、中川慧氏らによるもので、詳細は「Journal of Medical Internet Research(JMIR)」に8月14日掲載された。 卵巣がんの第一選択化学療法であるパクリタキセル/カルボプラチン(TC)療法または、TC+ベバシズマブ(TC+Bev)療法は、悪心や倦怠感、筋肉痛、関節痛などの副作用を伴い、患者の不安や治療中断につながることがある。薬剤追加による副作用増加や医療費の上昇も課題であり、安全で経済的な非薬物的手段が求められている。近年、デジタルセラピューティクス(DTx)が注目される中で、VRは疼痛や不安、抑うつの軽減に有効性が示されてきたが、従来の評価は単回使用による一時的な効果に限られていた。本研究では、婦人科がんの患者に対し、TCまたはTC+Bev療法中に7日間連続でVRを用い、その持続的効果を無作為化比較試験で検証した。 対象は、大阪大学医学部附属病院の産科婦人科に入院し、TCまたはTC+Bev療法を受けている患者とした。介入群の患者は、通常の支持療法に加え、治療初日から7日間連続で、1日あたり約10分間のVRを実施した。主要評価項目は、エドモントン症状評価システム改訂版(日本語版)(ESAS-r-J)を用いて測定した身体的および精神的症状の重症度の変化量であった。副次評価項目には、追加制吐剤の使用割合、悪心に対する完全奏効(CR)率、そして日本版状態-特性不安検査(STAI)Y-1を用いた不安の重症度が含まれた。非介入群の患者は、通常の支持療法および対症療法を受けた。VRヘッドマウントディスプレイとしてOculus Go(Meta Platforms, Inc)が使用された。VRに投影されるコンテンツはWander(Parkline Interactive, LLC)、Ocean Rift(Picselica Ltd)、YouTube VR(Google LLC)など8種類が用意された。効果量0.8を有意水準5%、検出力80%で検出するために、必要最小サンプル数を1群あたり26人と算出した。さらに約10%の脱落を考慮し、最終的なサンプルサイズは各群30人、合計60人と設定した。 7日間の試験期間を完了した介入群28人、非介入群30人を解析に含めた。ESAS-r-Jスコアの1日目から7日目までの変化量について、悪心においては、介入群では4日目のみ有意に悪化した(P<0.001)が、非介入群では3日目、4日目、5日目に有意な悪化がみられた(各P<0.001、P=0.001、P=0.035)。抑うつは、介入群では1日目以外に有意な悪化は認められなかったが、非介入群では4日目に有意な悪化を示した(P=0.036)。 2日目から7日目に追加の制吐剤を使用した患者の割合は、介入群で非介入群よりも有意に低かった(P=0.02)。また、TCまたはTC+Bev療法1日目におけるSTAI Y-1(状態不安の程度)の変化については、介入群ではVR体験前の平均43.8から体験後34.8へと有意に低下した(P<0.001)のに対し、非介入群では抗がん剤投与前後で有意差は認められなかった(44.9から43.9、P=0.54)。 試験終了時(7日目)にVR体験後のアンケートを行ったところ、操作の容易さについては回答者の89.3%(25/28人)がプログラムの簡便さを支持していた。また、「同じ状況を経験している友人に自信をもってこのVRプログラムを勧められるか?」という質問に対しては、回答者の92.9%(26/28人)が「ぜひ勧めたい」「機会があれば体験させたい」などと肯定的に回答した。 本研究について、著者らは「化学療法に伴う悪心・嘔吐の予防には不安の管理が有効であることが報告されている。さらなる検討は必要ではあるが、今回の研究では、VRを用いて不安を軽減し、遅発性悪心を防ぐとともに患者に前向きな感情をもたらす新たな治療法を提示したと考える」と述べている。

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京都大学医学部 乳腺外科【大学医局紹介~がん診療編】

増田 慎三 氏(教授)福井 由紀子 氏(特定助教)石井 慧 氏(助教)服部 響子 氏(医員)樋上 明音 氏(大学院生)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴私たちの診療科は、先進的な乳腺診療を推進し、一人ひとりに寄り添う信頼の医療を目指しています。乳がんは最も罹患率が高く、検診、ブレストアウェアネスの普及により、早期の非浸潤がんの段階で発見される機会も増えています。生物学的特徴に関する研究、薬物療法を中心とした集学的かつ個別化治療の進歩から、治療成績は向上しています。乳腺専門医は、診断から手術、薬物療法、フォローアップと長年にわたり、患者さんのトータルヘルスケアを担います。ガイドラインに準拠した標準治療の枠を超え、さまざまなエビデンスに、多様な経験と知識の涵養により、その考動プロセスを実際の診療に適応し、コンセンサスを構築する姿勢もまさしく私たちの特徴です。“よりよい生活“を目標とした臨床試験や、新規薬剤の開発治験を進めるとともに、大学院生はスタッフとのチーム制で、診療に有益なシーズ(種)を求めて、自由な発想で基礎研究にも取り組んでいます。斬新かつ安心感のある診療を通して、多くの方に笑顔をお届けできればと願っています。次世代の育成に貢献患者数増、複雑化する乳がん治療を担う乳腺専門医やそれを支えるメディカルスタッフがまだまだ不足している状況です。京都大学医学部の「自由の学風」にあるように、全国からbreast oncologyに興味を持つ個性豊かな若い世代が集うことを期待しています。新しい柔軟なアイデアを取り込みながら、ぜひ一緒に未来の乳腺診療を創造していきましょう。次世代育成を通して、がん医療の進歩に少しでも貢献したいと思います。同医局でのがん診療/研究のやりがい、魅力関連病院での臨床、大学院での研究生活を経て、現在は大学病院で臨床と研究を行っています。臨床、研究の両方の面から乳がん医療に取り組めることに、大きな充実感を得ています。臨床カンファレンスでは、乳腺外科に加え、病理診断科、放射線診断科、放射線治療科、腫瘍内科の先生方と検査所見や治療方針を1例1例検討しています。標準治療にとどまらず、最新のエビデンスや臨床試験を取り入れた治療が可能な環境です。また骨転移や脳腫瘍、irAE、cardio-oncology、遺伝性腫瘍、リンパ浮腫などの専門ユニットも充実しており、病院全体で最適な医療提供を目指せることも魅力です。そして、臨床で得た課題を研究に展開しています。総合大学だからこそ分野横断的な研究アプローチも可能で、研究成果を患者さんに還元できることに非常にやりがいを感じています。医局の雰囲気は和やかでありながら、互いに高め合える素晴らしいチームです。患者さんに寄り添い、最適な乳がん医療を目指す仲間をお待ちしています。カンファレンスの様子力を入れている治療/研究テーマ乳腺再生に関する基礎的な実験を行っています。また、AIを活用した高精度の画像診断や、医師の診療を支援するシステムの構築にも取り組んでいます。古典的な基礎実験から最先端のシステム開発まで幅広い領域を扱い、さまざまな角度から新しい世界にアプローチしています。医局の雰囲気・魅力カンファレンスではスタッフ・若手を問わず、自由に意見を述べられる雰囲気があります。根拠や考え方を建設的に精査しながら議論を深めています。臨床試験の結果をただ当てはめるのではなく、分子レベルの考察や臨床試験の背景まで踏まえ、「この患者さんに最適かどうか」を分け隔てなく話し合える土壌があります。また、多くの臨床試験を経験できる数少ない医局の1つであり、乳がん診療の最前線に触れることができます。医学生/初期研修医へのメッセージ女性の罹患率が最も高いにもかかわらず、専門医が非常に少ない乳腺外科。治療開発は日進月歩で進み、専門性はますます高くなっています。やりがいだけでなく、クリニック外来や中核病院勤務、緩和治療など、ライフイベントや希望に合わせて多様な働き方が可能です。京大乳腺外科で共に世界の最先端を走りましょう!これまでの経歴と同医局を選んだ理由これまでは大学病院で専攻医として研鑽を積んだ後、福井赤十字病院、京都市立病院で勤務してきました。同医局を選んだ理由としては、大学病院と都市部・地域の基幹病院の両方で、医師として幅広い経験ができる環境が整っているからです。大学病院の研修の特徴としては、乳がんユニット、病理・画像診断、乳房再建、骨転移、HBOC、cardio-oncologyなど多彩な専門カンファレンスを通じて、各分野のエキスパートから実践的な研修を受けることが可能です。また、プロジェクションマッピングによる蛍光ガイド下リンパ節生検や乳房専用PET、FES PETなどの最先端の手術手技や画像診断装置に触れることもできます。治験や臨床試験にも積極的に関わり、新薬に早期から触れることも可能です。都市部・地域の基幹病院でも、診断から治療、緩和ケアまで一貫した研修を受けることができます。いずれの研修先も診療科が充実しており、薬物療法に伴う副作用にも安心して対応できる体制が整っています。来年は大学院進学予定で、臨床で感じた疑問を深く探究し、今後の診療に活かしていければと考えております。これまでの経歴と同医局を選んだ理由京都大学でレジデントとして経験を積んだ後、市中病院で多くの患者さんと向き合ってきました。主治医として診療を重ねる中、一定の臨床経験を積んだ今、自分の知見をさらに広げ、より広い視野で乳がん診療に取り組む力を身につけたいと考え、大学院進学を決意しました。京都大学を選んだ理由は、臨床で抱いた疑問を基礎と臨床の両面から深く探求できる恵まれた研究環境があると感じたためです。入学後は、専門性の高い先生方のご指導のもと、自分の興味を形にする機会に恵まれ、大変充実した日々を送っています。昨年出産し、現在は育児中ですが、医局の理解ある環境で柔軟に対応いただき、安心して研究に専念できています。臨床とは異なる難しさと面白さを感じながら学びを深めており、この経験を活かして将来的には臨床と研究をつなぐ役割を果たしたいと考えています。京都大学大学院医学研究科 乳腺外科学(附属病院 乳腺外科)住所〒606-8507 京都市左京区聖護院川原町54問い合わせ先nyusen@kuhp.kyoto-u.ac.jp医局ホームページ京都大学医学部附属病院 乳腺外科京都大学大学院医学研究科 乳腺外科学専門医取得実績のある学会日本外科学会日本乳学会日本臨床腫瘍学会日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会日本リンパ浮腫学会研修プログラムの特徴(1)豊富なエキスパートによる専門カンファレンスでのトレーニングとフィードバックが可能です。(2)研究活動・学会発表の支援体制が充実しています。(3)大学病院と地域連携施設の両方で幅広い臨床経験を積むことができます。(4)近畿各府県および静岡県主幹の乳腺カリキュラムと、京都大学乳腺カリキュラムの協働により、体系的かつ包括的な専門研修を受けることができます。画像を拡大する

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災害時に不眠を訴える避難者への対応【実例に基づく、明日はわが身の災害医療】第7回

災害時に不眠を訴える避難者への対応大地震の後、余震が続く避難所において、不眠を訴える高齢の避難者がいます。本人はこれまで睡眠障害を経験したことはないものの、慣れない避難生活により睡眠が十分に取れず、体調を崩すことへの不安を口にしています。こうした状況にどのように対応すればよいでしょうか?災害時の不眠私自身、東日本大震災の医療支援として南三陸町に入った際、小学校の校舎を避難所として使用しました。当時は灯油が不足し、暖房が使えない中、寝袋にくるまっても寒さでまったく眠れなかった経験があります。避難者は、住居の損壊、親族の安否への不安、さまざまな環境要因により、十分な睡眠が得られないことは容易に想像できます。事実、東日本大震災後には、東京において不眠を訴える人が普段の1.5~2倍に増加し、被害の少なかった大阪でも、繰り返される被災映像の影響で急性ストレス障害に似た症状が現れ、不眠が増加したことが報告されています1)。避難所や車中泊は、自宅と比較して、睡眠環境(騒音・寒冷/暑熱・硬い寝具・プライバシー欠如)が悪く、睡眠連続性を悪化させ、自律神経・血糖変動にも影響することが示されました2)。今回は、災害時の睡眠障害について、その対応を概説します。DPATの介入が必要な不眠避難者に対して、まずせん妄や精神病症状の有無を確認することが大切です。強い不眠を訴え、その後、朦朧状態になったり、不穏・興奮状態のほか、手の震えや発汗、動悸などがみられればせん妄を疑います。習慣的に飲酒のある方が震災後に急に断酒した後、せん妄が出現することがあります(振戦せん妄)。また、大切な人を亡くして自殺念慮がある場合もあります。これらの症状がみられた場合には、DPAT(災害派遣精神医療チーム)へ相談が必要です3)。DPATは、被災地域の支援を目的とした専門的な研修・訓練を受けた災害派遣精神医療チームであり、私は何度も一緒に活動したことがありますが、とても親身になり専門的な介入をしてくれます。非薬物療法が原則せん妄や精神症状でない場合には、原則、非薬物療法が最優先されます。「眠れないから薬がほしい」と希望される方もいますが、災害など大きな精神的ストレスがかかった直後の睡眠問題は一般的であり、決して珍しいことではないこと、自然軽快が多いことを説明します。避難所の管理者と相談し、環境を整えるように努めることも大切です。具体的には、マットや毛布など寝具の整備、夜間の騒音・光の低減、就寝スペースの区画、耳栓・アイマスク配布などが推奨されています2)。夜間に消灯して眠る、というのは実は容易ではなく、逆に目がさえることもあり、寝なくてはいけない、という強迫観念も不眠を助長します。そのようなときは、昼寝を取り入れる、夜中起きていられるスペースを作ってあげることも有効です。不眠には、睡眠に対する考え方(認知)が関与しているといわれています。睡眠に対する考え方を指導してくれるCognitive Behavior Therapy for Insomnia(CBT-I)と呼ばれる不眠症に対する認知行動療法があり4)、これもDPATに相談してもいいでしょう。実際の例として、私自身も不眠を感じるときにはYouTubeで漫才を聴くようにしています。すると条件反射のように眠りにつくことができ、漫才を最後まで聴き終えたことはほとんどありません。やむを得ない場合の薬物療法もともと不眠で睡眠薬が処方されている場合、離脱症状が出現する場合があるので継続することが必要です。残量が少ない場合には錠剤を半分に割るといった工夫をするように指導します。どうしてもやむを得ない場合には、短期間のベンゾジアゼピン系の睡眠剤を短期間使用することもありますが、依存性・転倒のリスクもあり、例外的です。小児や思春期には原則処方しないこととされています5)。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の三島 和夫先生が書かれた「震災時の睡眠マニュアル6)」はわかりやすく、とても読みやすいので参考にしていただければ幸いです。また、非専門家や一般の方向けに、被災者や犯罪の被害を受けた方などと関わる時の対応として、「サイコロジカルファーストエイド(心理的応急処置)」を知っておくことが推奨されています7)。WHOが中心となって開発したものが最も広く用いられています。 1) Sugiura H, et al. Prevalence of Insomnia Among Residents of Tokyo and Osaka After the Great East Japan Earthquake: A Prospective Study. Interact J Med Res. 2013;2:e2. 2) Ogata H, et al. Evaluation of Sleep Quality in a Disaster Evacuee Environment. Int J Environ Res Public Health. 2020;17:4252. 3) DPAT(災害派遣精神医療チーム) 4) Edinger JD, et al. Behavioral and psychological treatments for chronic insomnia disorder in adults: an American Academy of Sleep Medicine clinical practice guideline. J Clin Sleep Med. 2021;17:255-262. 5) Sateia MJ, et al. Clinical Practice Guideline for the Pharmacologic Treatment of Chronic Insomnia in Adults: An American Academy of Sleep Medicine Clinical Practice Guideline. J Clin Sleep Med. 2017;13:307-349. 6) 三島和夫. 震災に関連した不眠・睡眠問題への対処について. 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 7) 国立精神・神経医療研究センター ストレス・災害時こころの情報支援センター. WHO版PFAマニュアル

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