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急性心筋梗塞のPCI、完全血行再建vs.責任病変のみ/Lancet

 多枝病変を有する急性心筋梗塞患者において、完全血行再建を行う戦略は責任病変のみを対象としたPCI戦略と比較し、心血管死または新規心筋梗塞の複合アウトカム、および心血管死単独のリスクを減少させ、全死因死亡率も低いことが、カナダ・McMaster UniversityのShamir R. Mehta氏らComplete Revascularisation Trialists' Collaborationによるメタ解析の結果で示された。著者は、「今回のデータは、完全血行再建が心血管疾患の重要な臨床アウトカムを改善するという、これまでで最強かつ頑健なエビデンスである」と述べている。Lancet誌オンライン版2025年11月9日号掲載の報告。完全血行再建vs.責任病変のみPCIの無作為化試験をメタ解析 研究グループは、急性ST上昇型心筋梗塞(STEMI)または非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)の患者を対象としており、250例以上の患者が登録され、完全血行再建戦略(PCIを含む)と責任病変のみのPCI戦略を比較した無作為化試験を適格として、個々の患者データのメタ解析を行った。 試験の見落としがないように、Ovid MEDLINE、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL)を用いて、1996~2025年9月15日に発表された無作為化比較試験を検索した。 主要アウトカムは、心血管死または新規心筋梗塞の複合、ならびに心血管死単独の2つであった。これらは階層的検定手順を用い、心血管死または新規心筋梗塞の複合について有意水準0.04で検定し、有意であることが認められた場合に心血管死単独について有意水準0.05で検定を行うことが事前に規定された。 メタ解析は、個別患者データをプールし、試験をランダム効果としたCoxフレイルティモデル(1段階解析)を用いた。 全死因死亡を副次アウトカム、非心血管疾患死および新規心筋梗塞を追加のアウトカムとした。完全血行再建は「心血管死または新規心筋梗塞の複合」「心血管死単独」のリスクをいずれも24%減少 計6件の無作為化比較試験(合計8,836例)が解析対象となった。年齢中央値は65.8歳(四分位範囲[IQR]:57.0~76.0)、女性2,088例(23.6%)、男性6,748例(76.4%)であった。また、7,768例(87.9%)がSTEMI、1,068例(12.1%)がNSTEMIであった。 追跡期間中央値36.0ヵ月(IQR:30.6~48.0)において、心血管死または新規心筋梗塞は、完全血行再建群で4,259例中382例(9.0%)に発生したのに対し、責任病変のみ群では4,577例中528例(11.5%)に発生した(ハザード比[HR]:0.76、95%信頼区間[CI]:0.67~0.87、p<0.0001)。 心血管死単独は、完全血行再建群で155例(3.6%)、責任病変のみ群で209例(4.6%)にみられた(HR:0.76、95%CI:0.62~0.93、p=0.0091)。 全死因死亡は、完全血行再建群では308例(7.2%)、責任病変のみ群では370例(8.1%)であった(HR:0.85、95%CI:0.73~0.99、p=0.039)。非心血管疾患死は両群で同程度であった(完全血行再建群153例[3.6%]vs.責任病変のみ群161例[3.5%]、HR:0.98、95%CI:0.78~1.22、p=0.85)。 完全血行再建群では、責任病変のみ群と比較して新規心筋梗塞が減少した(255例[6.0%]vs.357例[7.8%]、HR:0.76、95%CI:0.65~0.90、p=0.0011)。

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経口抗凝固薬の重大な副作用、脾破裂に至る脾臓出血が追加/厚労省

 2025年11月26日、厚生労働省より添付文書の改訂指示が発出され、経口抗凝固薬5成分の「重大な副作用」の項に「脾破裂に至る脾臓出血」が追加された。 対象製品は以下のとおり。アピキサバン(商品名:エリキュース錠)エドキサバントシル酸塩水和物(同:リクシアナ錠)ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(同:プラザキサカプセル)リバーロキサバン(同:イグザレルト錠)ワルファリンカリウム(同:ワーファリン錠ほか) 今回の改訂は、経口抗凝固薬の脾破裂リスクについて、国内外症例、WHO個別症例安全性報告グローバルデータベース(VigiBase)を用いた不均衡分析結果を評価し、専門委員の意見も聴取した上で判断されたものである。抗凝固薬の中和剤や免疫チェックポイント阻害薬などにも改訂指示 また、直接作用型第Xa因子阻害薬の中和薬アンデキサネット アルファ(同:オンデキサ静注用)にも改訂指示が発出され、「重要な基本的注意」の項に「シミュレーション結果に基づき、本剤投与終了4時間後の時点で、直接作用型第Xa因子阻害剤又は低分子ヘパリンによる本来の抗凝固作用が期待できる」の一文が追加された。これは、承認取得者より提出された薬物動態/薬力学モデルを用いたシミュレーションの結果を評価し、専門委員の意見も聴取した結果、本シミュレーション結果に基づく情報提供は臨床上有用と判断されたためである。 このほか、抗PD-L1ヒト化モノクローナル抗体のアテゾリズマブ(同:テセントリク点滴静注)では「重大な副作用」が新設され、「溶血性貧血」が追加。ニューキノロン系抗菌薬のトスフロキサシン(同:オゼックス錠ほか)では、本剤を成分とする結晶尿が現れ、とくに小児で急性腎障害や尿路結石を来すことが多く報告されていることから、「重大な副作用」に「尿路結石」が追加された。また、エンドセリン受容体拮抗薬ボセンタン水和物(同:トラクリアほか)では、「警告」と「用法及び用量に関連する注意」の項において、「自己免疫性肝炎」が追加。ゴーシェ病治療薬イミグルセラーゼ(同:セレザイム静注用)には、「重要な基本的注意」の項に「Infusion reaction」が、「重大な副作用」の項に「Infusion reaction」と「高血圧」が追加された。

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家族の録音メッセージがICU入室患者のせん妄を防ぐ

 人工呼吸器を装着している集中治療室(ICU)入室患者では、5人中4人にせん妄が生じる。せん妄とは、治療による体への負担が原因で生じる異常な精神状態のことをいい、パニック、動揺、怒りなどの症状が現れる。新たな研究で、ICU入室患者に家族からの録音メッセージを聞かせることで、患者の意識を安定させ、せん妄を予防できる可能性のあることが明らかになった。米マイアミ大学看護健康学部のCindy Munro氏らによるこの研究結果は、「American Journal of Critical Care」に11月1日掲載された。 この研究でMunro氏らは、2018年4月から2020年11月にかけて(ただし、新型コロナウイルス感染症パンデミック中の3カ月間は中断)、南フロリダの2カ所の大規模病院の9つのICUで、人工呼吸器を装着している178人の患者を対象に、せん妄予防のための非薬理学的介入の有効性を検討した。 対象者は、家族からの録音メッセージを聞く群(89人)と通常のケアを受ける群(89人)にランダムに割り付けられた。計10種類の録音メッセージはいずれも2分間の長さで、午前9時から午後4時までの時間帯に、1時間ごとに再生された。内容は、医療従事者と家族が定期的に患者の様子を見に来ていることを思い出させることを意図したもので、患者の名前を呼び、今いる場所を思い出させ、人工呼吸器を装着していることや、回復を助けるためにワイヤーやチューブ類が設置されている可能性があることが伝えられた。 Munro氏は、「家族の関与がせん妄の予防と介入において重要な要素であることは、以前よりエビデンスによって示されている。しかし、家族がケアに全面的に関わるには、しばしば困難を伴うのが現状だ。そこでわれわれは、家族がそばにいなくても患者が家族の声を聞けるようにし、家族の存在感を補うための介入を考案した」と話している。 介入の結果、録音メッセージを聞いた群では通常のケアを受けた群と比べて、せん妄のない日数が有意に多いことが明らかになった。また、患者がメッセージを聞く頻度が高ければ高いほど、せん妄のない日数が有意に増えた(P<0.001)。 こうした結果を受けて研究グループは、「台本を使って家族が録音した音声メッセージは、人工呼吸器を装着しているICU入室患者のせん妄予防に役立つ、潜在的に効果が高く低コストの非薬理学的介入であることが明らかになった」と結論付けている。

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糖尿病治療、継続の鍵は「こころのケア」と「生活支援」

 病気の治療を続けたいと思っていても、気持ちの落ち込みや生活の負担が重なると、通院や服薬をやめてしまうことがある。今回、全国の糖尿病患者を対象にした調査で、心理的苦痛や先延ばし傾向がある人ほど治療を中断しやすいことが明らかになった。その背景として、経済的困難や介護・家事の負担、糖尿病治療への燃え尽き症候群(糖尿病バーンアウト)がみられたという。研究は鳥取大学医学部環境予防医学分野の桑原祐樹氏らによるもので、詳細は9月30日付けで「BMJ Open Diabetes and endocrinology」に掲載された。 世界的に糖尿病の有病率は増加しており、合併症による健康への影響が大きな課題となっている。適切な血糖管理により、多くの合併症は予防または遅らせることが可能である。しかし、治療を継続し、医療機関を受診し続けることは容易ではなく、治療中断やアドヒアランスの低下は血糖管理の不良、合併症の進行、死亡リスク、医療コストの増大につながる。過去の研究では、治療継続に関わる心理・社会的要因(抑うつや薬剤費など)が限定的に検討されてきたが、患者の体験と治療中断の関係については十分に解明されていない。本研究は、心理・社会的要因と患者体験が糖尿病治療の中断にどのように関連するかを明らかにすることを目的とした。 この横断研究では、220万人のパネル会員を持つ楽天リサーチ(現:楽天インサイト)株式会社を通じて、構造化オンラインアンケートを実施した。登録されている糖尿病患者1万8,000人のうち、40〜79歳の1万人を便宜的に抽出した。参加者には「現在、糖尿病の治療を受けていますか?(医療機関での定期的な血液検査や生活指導を含む)」と尋ね、「はい」と答えた者を治療継続群、「いいえ」と回答し、かつ「過去に定期的に治療を受けていたが、現在は医療機関を受診していない」を選択した者を治療中断群に分類した。群分けに続いて、参加者の心理的要因(気分障害・不安障害、自己肯定感、先延ばし傾向)および社会的要因(孤独感、逆境的な幼少期経験:ACE)を測定した。群間の割合の差はカイ二乗検定で評価し、糖尿病治療の中断と心理・社会的要因との関連は、潜在的交絡因子を調整したロジスティック回帰分析で検討した。 適格性を検証後、最終的な解析対象は4,715人(男性86.8%、女性13.2%)となった。69人の参加者が糖尿病治療の中断を報告し、51人が3カ月以上治療を中断していた。 次に、ロジスティック回帰分析により、心理・社会的要因と糖尿病治療中断との関連を検討した。性別、年齢、学歴、世帯収入、糖尿病の型で調整後、心理的苦痛(調整オッズ比〔AOR〕 1.87、95%信頼区間〔CI〕 1.06~3.30、P=0.032)および先延ばし傾向が強いこと(AOR 2.64、95%CI 1.25~5.56、P=0.011)は、治療中断と有意に関連していた。 さらに、治療継続群と治療中断群との患者体験を比較した。全体として、参加者のうち9.7%が経済的困難を訴えていた。また、12.1%が糖尿病バーンアウトを報告していた。経済的困難(9.5%対21.7%、P=0.002)、育児または介護の困難(1.5%対10.0%、P<0.001)、および糖尿病バーンアウト(11.9%対26.7%、P=0.001)を報告した人の割合は、治療継続群に比べて治療中断群で有意に高かった。 著者らは、「潜在的な交絡因子を調整した後も、心理的苦痛および強い先延ばし傾向は治療中断と有意に関連していた。いくつかの心理社会的要因の経験は、治療継続群と比較して治療中断群で有意に多く認められた。医療従事者および医療システムは、糖尿病患者の転帰不良を最小限に抑えるために、これらの要因への対応を優先すべきだ」と述べた。 なお、本研究の限界として、選択バイアスが避けられなかった点、自己申告式の質問票であったため情報バイアスが存在していた可能性がある点などを挙げている。

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ハンズフリーでも油断禁物、会話が運転中の目の動きを妨げる

 道路交通法上、運転中のハンズフリー通話に問題はないが、脳には一定の負荷がかかる可能性があるようだ。最新の研究で、健常成人に眼球運動課題を行ってもらったところ、話しながら課題を行った場合に反応開始時間や眼球移動時間に遅れが生じる傾向があることがわかった。研究は、藤田医科大学病院リハビリテーション部の鈴木卓弥氏、藤田医科大学保健衛生学部リハビリテーション学科の鈴木孝治氏(現所属:金城大学医療健康学部作業療法学科)、上原信太郎氏によるもので、詳細は10月6日付けで「PLOS One」に掲載された。 注意の分散は運動行動に影響を与え、正確な動作や協調が必要なタスクで遅れや誤差を生じることが知られている。特に運転中の通話は、手に持つかハンズフリーかに関わらず周囲の視覚情報への反応を遅らせ、事故リスクを高めることが報告されている。これは、会話による認知的負荷が運転に必要な注意資源(attentional resources)を奪い合うためと考えられる。運転には眼球運動、物体認識、動作の準備、実行といった視覚運動処理が必要であり、会話はこれら、特に周辺視野への眼球運動に干渉する可能性がある。本研究では、健常成人に中心から周辺への眼球運動課題を実施し、会話をする、音声クリップを聞く、課題のみの3つの条件で比較し、会話による眼球運動の反応遅延を検討した。 本研究では、2019年7月11日から2020年8月13日の間に合計30人の健常成人が募集された。参加者は、21インチのコンピュータディスプレイの前に座り、画面中央から周辺に現れる8か所のターゲットに対して、できるだけ速く正確に視線を向けてもらう眼球運動課題を行った。目の動きはアイ・トラッカーで精密に記録した。参加者は、眼球運動課題を3つの条件で実施した。会話条件では、WAIS-IIIやオリジナルの質問計45問(「イタリアの首都はどこですか?」や「昨日の夜は何時に寝ましたか?」など)に答える形式をとった。聴覚条件では、夏目漱石の小説「吾輩は猫である」の朗読音声を聞き、その内容の理解に集中した。対照条件では、眼球運動課題のみを行い、追加の認知的負荷は課さなかった。3つの実験条件が眼球運動に与える影響を調べるため、各運動パラメータについて、条件(会話、聴覚、対照)および方向(8方向)を被験者内要因とした反復測定分散分析(ANOVA RM)を適用した。 3つの実験条件を比較した結果、ターゲットの位置にかかわらず、会話条件では他の条件より反応開始時間が長いことが分かった。事後比較では、会話条件(平均279.7ミリ秒〔ms〕、標準偏差〔SD〕32.8)は、聴覚条件(平均260.4 ms、SD 29.7、P=0.07、効果量〔d〕=0.62)および対照条件(平均261.3 ms、SD 32.8、P=0.09、d=0.56)と比べて、反応時間が長くなる傾向を示した。 視線移動に要する時間についても同様で、会話条件(平均260.1 ms、SD 107.6)は、聴覚条件(平均141.5 ms、SD 58.9、P<0.05、d=1.37)および対照条件(平均160.8 ms、SD 102.1、P<0.05、d=0.95)より有意に長かった。 さらに、視線調整に要する時間も同様の傾向を示し、会話条件(平均1226.5 ms、SD 723.3)は、聴覚条件(平均493.2 ms、SD 361.5、P<0.05、d=1.28)および対照条件(平均548.9 ms、SD 461.2、P<0.05、d=1.12)より有意に延長していた。 著者らは、「本研究では、迅速かつ正確な視線移動と会話を同時に求められる負荷の高い状況において、視線行動の時間的パラメータが遅れることを示した。これらの結果は、会話に伴う認知的負荷が、視覚運動処理の最初のステップである視線行動の開始や制御に関わる神経プロセスに影響を与える可能性を示唆している」と述べている。 なお、本研究の限界点として、個人ごとの認知負荷を定量化できず、会話そのものか負荷の影響かの区別もつかないため、干渉の閾値や程度は明らかでない点を挙げており、今後の取り組むべき研究課題であるとした。

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物忘れ対策あれこれ【Dr. 中島の 新・徒然草】(608)

六百八の段 物忘れ対策あれこれ寒くなりました。部屋の中でも寒いくらいなので、外はもっと寒い。いつの間にか、日課にしていた散歩もサボってしまっています。とはいえ、患者さんには「運動しましょう、散歩しましょう」などと言っているわけですけどね。さて、脳外科外来で尋ねられる質問の多くに「物忘れがひどい。何を食べたら治るのか?」というものがあります。食べて治すとか、それは無茶というもの。そもそも他人様にアドバイスするどころか、こちらも記憶力が心許なくなっています。さらに聞かれるのは「脳トレをしたらいいのか、数独をやったらいいのか」ということ。そりゃあ、やらないよりはマシだと思いますけど。結局、「公共交通機関を使って1人で外来通院できている間は大丈夫ですよ」とか何とか、適当にお茶を濁しています。実際のところ、年を取るほど覚えておかなくてはならないことが増えるし、一方で記憶力のほうは落ちていくし。いまさら脳を鍛えて記憶力を向上させようというのも無謀な話。なので、私は記憶力に頼らない方法を伝授しています。自分自身が日々実行している工夫の数々。 中島 「何でも覚えようとせずに、文明の利器を使いましょう。たとえば私は出先の広い駐車場に車を停めたときには、必ずスマホで写真を撮っています」 地下3階まである大きな駐車場になると、そもそも何階に停めたかも忘れてしまいがちです。そんなときにはスマホの写真が便利。「地下2階のB-56か」とすぐに確認ができます。 中島 「また何か込み入った話をしたら、その直後にスマホに要点を録音していますよ。たとえば生命保険の説明とか、その場ではわかったつもりになっていても、1週間もしたら忘れてしまっているでしょ」 生命保険に限らず、聞いたときには理解したはずなのに後で「何だったかな?」と思うことなんかたくさんありますよね。でも、直後に自分の声で5分ほどの録音を残しておけば、たとえ半年後であっても再生するだけで「なるほど、そうだったわい」と簡単に思い出すことができます。その他、私自身が実行している物忘れ対策の数々。・役所や職場の書類は、写真を撮ってから提出するiPhoneに元から入っている「メモ」というアプリを長押しすると「書類をスキャン」という機能があるので、それを使うと何枚かの書類を「カチャン、カチャン、カチャン、カチャン」と連続で記録し、写真フォルダに残してくれます。他人様に教えてもらったライフハックですが、人生が変わりました!・物の置き場所を固定する鍵とかフックとか小銭とか、私はいつも同じ場所に置いています。こうしておくと、必要なときはいつでも使用可能。片付けるときも迷わずにすみます。・物を減らす物がたくさんあるから探してばかりいるわけで、そもそも物が少なければ何でもすぐに出てきます。このことを患者さんにお勧めしても抵抗する人が多いのが現実。そんなときは「物を捨てられなくなるのが認知症の初期症状ですよ。認知症になりたくなかったら物を捨てましょう」と因果関係不明の説教をしています。・雑用こそ朝のうちに行う片付けたり掃除したりという雑用は思ったより頭を使うもの。なので、疲れる前に取り掛かるほうが効率的です。・使いかけのノートをメモとして使う掃除していると、その昔に最初の2~3枚だけ使ったノートがたくさん出てきます。そんなときは、使ったページを破り捨てれば残りの部分をメモ用紙として活用可能。私はオンライン英会話の予習復習や買い物メモなどに使っています。小さなメモ用紙だとすぐに使い切ってしまいますが、ノートならそんなことはありません。そもそもが廃物利用なので、殴り書きしようが余白ができようが自由自在。終わりのページまで行ったら、達成感に浸りつつ次のノートに取り掛かることができます。・アラームを利用するスマホを使えば、むこう24時間の予定のアラームを複数設定することができます。出掛ける時刻などに鳴るようにしておくと忘れることがありません。以前、ある会合の途中に抜ける必要があったので、アラームを設定しておきました。ちょうど話が盛り上がっている最中に鳴りだして助かったのですが、もし設定していなかったら忘れていたことでしょう。・エアタグを使う私自身は使った経験はないのですが、記憶障害のある高次脳機能障害の患者さんに、愛用のエアタグを見せてもらいました。これを財布に入れておくと、どこかに置き忘れてもすぐに見つけることができるそうです。使い始めてから、財布をなくすことがすっかりなくなったのだとか。というわけで、自ら実行している物忘れ対策の数々。こういった工夫を楽しむのもまた面白いですね。自分自身の経験を外来患者さんにアドバイスする日々を送っています。最後に1句 冬が来て 頭の中も 寒くなる

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ESMO2025 レポート 肺がん(前編)

レポーター紹介2025年10月17~21日に、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)がドイツ・ベルリンで開催された。善家 義貴氏(国立がん研究センター東病院)が肺がん領域における重要演題をピックアップし、結果を解説。前編として、ドライバー陽性非小細胞肺がん(NSCLC)1次治療で注目の3演題を取り上げ、解説する。後編はこちら[目次]HER2遺伝子変異陽性1.Beamion Lung-12.SOHO-01ALK融合遺伝子陽性3.ALEXHER2遺伝子変異陽性1.進行HER2陽性NSCLCに対するHER2-TKI(ゾンゲルチニブ)の初回治療の報告:Beamion Lung-1本試験の第IB相において、未治療HER2遺伝子変異陽性NSCLCに対するゾンゲルチニブ120mg QDの有効性、安全性が確認された。計74例が登録され、75歳以上が13例(18%)、女性が37例(50%)、非アジア人が33例(45%)、喫煙者が26例(35%)であった。HER2遺伝子変異は、チロシンキナーゼドメイン(TKD)変異のみが対象であり、A775_G776insYVMAが49例(66%)であった。主要評価項目である奏効割合(ORR)は77%(95%CI:66~85)であり、6ヵ月奏効持続割合および6ヵ月無増悪生存(PFS)割合はそれぞれ80%、79%であった。主な有害事象は、下痢40例(3%)、皮疹17例(23%)、ALT上昇13例(18%)、AST上昇12例(16%)であった。Grade3の有害事象は13例(18%)に認められ、Grade3の下痢は2例(3%)であった。<結論>ゾンゲルチニブは、進行HER2遺伝子変異陽性NSCLCの初回治療において、有望な治療成績を示した。現在、初回治療でゾンゲルチニブと化学療法を比較するBeamion Lung-2試験(NCT06151574)が進行中である。<コメント>ゾンゲルチニブは、既治療の進行HER2陽性NSCLCの適応で承認されているが、今後は進行HER2遺伝子変異陽性NSCLCの初回治療での使用が期待される。他剤との使い分けが今後の議論となるが、毒性のマネジメントがしやすいことは良い点である。2.進行HER2陽性NSCLCに対するHER2-TKI(sevabertinib[BAY 2927088])の治療成績:SOHO-01進行HER2遺伝子変異陽性NSCLCを対象に、3つのコホート(コホートD:既治療かつHER2標的治療未治療、コホートE:既治療かつHER2標的抗体薬物複合体[ADC]既治療、コホートF:全身治療未治療)における有効性、安全性を確認する第Ib相拡大コホート試験が実施された。コホートD/E/Fでは、それぞれ81例/55例/73例が登録された。女性が50例(52%)/36例(65%)/46例(63%)、アジア人が57例(70%)/32例(58%)/51例(70%)、非喫煙者が50例(62%)/35例(64%)/57例(78%)、HER2-TKD変異が 73例(90%)/52例(95%)/71例(97%)であった。主要評価項目であるORRは、コホートDが64%(95%信頼区間[CI]:53~75)、コホートEが38%(同:25~82)、コホートFが71%(同:59~81)であった。奏効期間(DoR)中央値およびPFS中央値は、コホートDがそれぞれ9.2ヵ月(95%CI:6.3~13.5)、8.3ヵ月(同:6.9~12.3)、コホートEがそれぞれ8.5ヵ月(同:5.6~16.4)、8.3ヵ月(同:4.3~8.3)、コホートFがそれぞれ11.0ヵ月(同:8.1~推定不能)、未到達(同:9.6~推定不能)であった。主な有害事象は全体で下痢(87%)、皮疹(49%)、爪囲炎(26%)、胃炎(19%)、悪心(18%)であった。Grade3以上の下痢は、コホートD/E/Fでそれぞれ23%/11%/5%に発現した。間質性肺炎(ILD)は認められていない。<結論>sevabertinibも進行HER2遺伝子変異陽性NSCLCの初回治療例、既治療例ともに有望な治療成績を示した。現在、初回治療でsevabertinibと化学療法と比較するSOHO-02試験(NCT06452277)が進行中である。<コメント>sevabertinibもゾンゲルチニブ同様に有望なHER2-TKIである。全体的に下痢の頻度は高いが、初回治療例ではGrade3以上の下痢の頻度は少なかった。ILDの発現がないことも特徴的であり、今後、HER2-ADC、ゾンゲルチニブとの使い分けが焦点となる。ALK融合遺伝子陽性3.進行ALK陽性NSCLCに対するアレクチニブとクリゾチニブの比較のOS最終解析:ALEX本試験は、進行ALK融合遺伝子陽性NSCLCに対するアレクチニブとクリゾチニブを比較する海外第III相試験であり、すでにPFSが有意に改善したことが報告されている。今回はOSの最終解析の報告である。未治療の進行ALK融合遺伝子陽性NSCLCを対象として、アレクチニブ(600mg BID)群とクリゾチニブ(250mg BID)群に、152/151例を割り付けた。アレクチニブ群/クリゾチニブ群における脳転移を有する割合は42.1%/38.4%、脳転移に対する放射線治療歴を有する割合は17.1%/13.9%であった。クロスオーバーは本試験では許容されていない。最終解析のOS中央値は、アレクチニブ群/クリゾチニブ群で81.1ヵ月/54.2ヵ月(ハザード比[HR]:0.78[95%CI:0.56~1.08]、p=0.132)であった。脳転移の有無によらずアレクチニブの治療成績は良好であった。後治療を受けた割合は37.5%/47.7%であり、アレクチニブ群で最も多かったのはロルラチニブ(18.4%)、クリゾチニブ群ではアレクチニブ(25.2%)であった。Grade3以上の主な有害事象として、アレクチニブ群では貧血(7.2%)、AST上昇(5.3%)を認めた。<結論>アレクチニブは81.1ヵ月(中央値)という臨床的に意義のあるOSを示し、引き続き初回治療の標準治療であることを支持するデータであった。<コメント>現状では分子標的薬治療では最長のOSである。今後、ロルラチニブのOSが出たときには、どちらを選択するかさらなる議論が予想される。アレクチニブの日本の承認用量は海外の半分であることも記載しておく。

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統計が苦手でも大丈夫!ChatGPTで研究デザインと統計解析を相談する方法【誰でも使えるChatGPT】第6回

皆さん、こんにちは。近畿大学皮膚科の大塚です。さて、今回は多くの臨床医が苦手意識を持つ「統計解析」にChatGPTを活用する方法についてお話しします。「統計の教科書を読んでも難しくてわからない」「どの統計手法を使えばいいのか判断できない」「サンプルサイズが小さいけど、どう対処すればいいのか」こうした悩みを抱えている先生方は多いのではないでしょうか。今回ご紹介するのは、ChatGPTを「統計の家庭教師」として活用する方法です。ただし重要なのは、ChatGPTに実際の計算をさせるのではなく、研究デザインの相談や統計手法の選択といった「方針決定」の段階で活用するということです。実際のデータ解析は統計ソフトで行い、ChatGPTはその前段階での相談相手として使う。この使い分けが成功のカギとなります。関連サイトChatGPTINDEX臨床研究における統計相談の3つの段階この相談から得られること統計手法選択での重要なポイント論文記載での活用ChatGPTに「させてはいけないこと」統計相談の5つのルールTake-Home Message臨床研究における統計相談の3つの段階ChatGPTを統計相談で活用する場面は、大きく3つに分けられます。段階1:研究デザインの検討データを集める前の段階で、どのような研究デザインが適切か、どんな評価項目を設定すべきかを相談します。この段階での相談が最も効果的で、後からの修正は困難なため、研究の成否を左右します。段階2:統計手法の選択データを収集した後、どの統計手法を使うべきかを相談します。データの性質(連続変数かカテゴリカル変数か、正規分布するか、対応があるかなど)に応じて、適切な検定方法を提案してもらいます。段階3:結果の解釈支援統計ソフトで解析した結果をどう解釈し、論文にどう記載するかを相談します。p値の意味、効果サイズの解釈、適切な図表の選び方などをアドバイスしてもらえます。それでは、それぞれの段階での具体的な活用例を見ていきましょう。実践例1:研究デザインの相談【研究を始める前】シナリオ「当院のアトピー性皮膚炎患者さんに新しい治療を始めたが、その効果を客観的に評価して学会発表したい。でも、どんな研究デザインが適切なのか、わからない…」多くの先生が、日常診療の中で「この治療効果を論文にできないだろうか」と考えることがあるでしょう。しかし、研究デザインをどう組み立てるか、評価項目をどう設定するか、サンプルサイズはどのくらい必要かなど、わからないことだらけです。こうした初期段階での疑問に、ChatGPTは具体的な提案をしてくれます。研究計画の立案支援あなたは臨床研究の方法論に詳しい統計の専門家です。以下の研究課題について、適切な研究デザインを提案してください。【研究課題】「当院皮膚科外来のアトピー性皮膚炎患者に対するデュピルマブ導入後の治療効果と患者QOLの変化を評価したい」【現状】- 対象過去1年間にデュピルマブを開始した患者、約30例- 評価項目EASI、DLQI、VAS(かゆみ)- データカルテから後方視的に収集可能- 比較対照なし(単群での評価)以下の項目について具体的に提案してください:1.適切な研究デザイン(後ろ向きvs.前向き、など)2.主要評価項目と副次評価項目の設定3.評価時点の設定(ベースライン、フォローアップ)4.除外基準の設定5.必要なサンプルサイズの考え方6.この研究の限界と対処法ChatGPTからの回答例 【提案する研究デザイン】後ろ向きコホート研究(Single-arm observational study)【詳細な設計】1.研究デザイン- 後ろ向き観察研究(Retrospective cohort study)- 単群での治療前後比較- 理由:すでにデータが蓄積されており、介入を加えない観察研究として実施可能2.評価項目主要評価項目:EASI(Eczema Area and Severity Index)- 投与開始時と16週後の変化量- 50%以上の改善率(EASI-50)副次評価項目:- DLQI(生活の質)の変化- VAS(かゆみ)の変化- 治療継続率- 有害事象の発現率3.評価時点の設定- ベースライン(投与開始時)- 4週後- 16週後(主要評価時点)- 52週後(長期効果の評価)※データがあれば4.除外基準- 他の生物学的製剤の使用歴がある患者- 重症な併存疾患がある患者- 評価時点でのデータ欠損が多い患者5.サンプルサイズ30例は小規模だが、記述統計と効果サイズの報告としては妥当- 検出力計算は困難だが、探索的研究として位置付ける- 可能であれば40~50例まで増やすことを推奨6.研究の限界と対処法限界:- 対照群がない- 後ろ向き研究のため、データ欠損の可能性- 選択バイアス(デュピルマブを選択した患者特性)対処法:- ベースライン特性を詳細に記述- 欠損データの扱いを明記- 既報告の他施設データとの比較を考察で言及この相談から得られることこのように、ChatGPTに相談することで、研究の全体像が見えてきます。とくに重要なのは「研究の限界」を先に把握できることです。後ろ向き研究であること、対照群がないこと、サンプルサイズが小さいことなど、あらかじめ限界を理解したうえで研究を進めれば、論文執筆時の考察でも適切に言及することができます。また、倫理審査を申請する際にも、この提案内容は非常に参考になります。評価項目や評価時点が明確になっていれば、倫理審査委員会での質問にも的確に答えられるでしょう。ただし、注意すべきは、ChatGPTの提案はあくまで「たたき台」であるということです。実際には、自施設の状況や利用可能なリソースに応じて調整が必要ですし、可能であれば生物統計の専門家に相談することをお勧めします。実践例2:統計手法の選択相談【データ収集後】シナリオ「データは集まったけど、どの統計手法を使えばいいのかがわからない…」研究計画どおりにデータを収集したものの、いざ統計解析をしようとすると、どの検定方法を使えばいいのかわからなくなることはよくあります。対応のあるt検定か、対応のないt検定か。正規分布しない場合はどうするのか。多重比較の補正は必要なのか。こうした具体的な疑問に、ChatGPTは明確な答えを提示してくれます。統計手法の選択あなたは医学統計の専門家です。以下のデータに対して、適切な統計解析手法を提案してください。【研究内容】アトピー性皮膚炎患者30例のデュピルマブ治療前後の比較【データの種類】- EASIスコア(連続変数、正規分布を仮定) - 治療前:平均28.5±標準偏差10.2 - 16週後:平均12.3±標準偏差8.5- DLQIスコア(連続変数、やや右に偏った分布) - 治療前:中央値15(四分位範囲12~20) - 16週後:中央値6(四分位範囲3~10)- 治療効果(カテゴリカル変数) - 著効:12例 - 有効:15例 - 無効:3例【質問】1.治療前後のEASIスコアの比較に適した検定方法2.DLQIスコアの比較に適した検定方法3.治療効果の割合を示す適切な方法4.多重比較の補正が必要か5.効果サイズ(Effect Size)の計算方法ChatGPTからの回答例 【統計解析の提案】1.EASIスコアの比較推奨:対応のあるt検定(Paired t-test)理由:- 同一患者の治療前後比較- 連続変数- 正規分布を仮定できる- サンプルサイズが30で中心極限定理が適用可能代替法:- 正規性が怪しい場合はWilcoxon符号順位検定2.DLQIスコアの比較推奨:Wilcoxon符号順位検定(Wilcoxon signed-rank test)理由:- 分布が偏っている(ノンパラメトリック検定が適切)- 対応のあるデータ- 中央値と四分位範囲で記述されている3.治療効果の割合推奨:記述統計として割合と95%信頼区間を提示- 著効率:40.0%(95%CI:22.7~59.4%)- 有効以上の割合:90.0%(95%CI:73.5~97.9%)検定は不要(単群での評価のため)4.多重比較の補正今回は不要理由:- 主要評価項目はEASI(1つ)- 副次評価項目は探索的な位置付け- ただし、考察では多重性の問題に言及すべき5.効果サイズの計算推奨:Cohen's d計算式:d=(平均の差)/(標準偏差のプール値)d=(28.5~12.3)/ √[(10.22+8.52)/2]d ≒1.73(非常に大きな効果サイズ)解釈:- d>0.8:大きな効果- あなたの研究:d=1.73(非常に強い治療効果を示唆)統計手法選択での重要なポイントこの例で注目すべきは、ChatGPTが「なぜその検定方法を選ぶのか」という理由も説明してくれる点です。単に「対応のあるt検定を使いなさい」と言われるより、「同一患者の前後比較だから対応のあるt検定」という理由がわかれば、次回以降の研究でも応用できます。また、効果サイズ(Cohen's d)の計算式まで提示してくれるのも便利です。統計学的有意差だけでなく、効果サイズを報告することは、最近の医学雑誌では標準的になってきています。p値だけでは臨床的な意義はわかりませんが、効果サイズを見れば「どのくらい強い効果なのか」がわかります。ただし、ここでも注意が必要です。ChatGPTが提案する計算式や数値は、必ず統計ソフトで再計算して確認してください。手計算での誤りやバージョンによる違いがある可能性があるためです。実践例3:結果の解釈とグラフ作成の相談シナリオ「統計ソフトで解析したけど、p値の解釈や図表のつくり方で悩んでいる」統計ソフトを使って検定を実行すると、p値やt値などの数値が出力されます。しかし、これをどう解釈し、論文にどう記載すればいいのかがわからないという声をよく聞きます。また、結果を図表で示す際に、どの種類のグラフが適切かも悩ましい問題です。結果の解釈支援あなたは統計結果をわかりやすく説明する専門家です。以下の解析結果について、論文に記載すべき内容と適切な図表の形式を提案してください。【解析結果】対応のあるt検定(EASIスコア)- 治療前:28.5±10.2- 16週後:12.3±8.5- 平均差:16.2(95%CI:12.5~19.9)- t値=8.95、p<0.001- Cohen's d=1.73【質問】1.この結果を論文に記載する際の文例2.適切な図表の形式(グラフの種類)3.p値の解釈で注意すべき点4.臨床的意義の考察ポイントChatGPTからの回答例 【論文記載の文例】Results部分:「デュピルマブ投与開始から16週後、EASIスコアは治療前の28.5±10.2から12.3±8.5へ有意に改善した(平均差:16.2点、95%CI:12.5~19.9、p<0.001)。効果サイズはCohen's d=1.73であり、非常に大きな治療効果が認められた」【推奨する図表】図1:Box plot(箱ひげ図)+Individual data points- X軸:治療前、16週後- Y軸:EASIスコア- 個別症例の変化を線で結ぶ- 理由:個々の患者の変化が視覚的にわかる図2:Bar graph(棒グラフ)with error bars- 平均値と標準誤差を表示- マーク(p<0.001)を追加- シンプルでわかりやすい【p値の解釈での注意点】適切な解釈:「治療前後で統計学的に有意な差が認められた(p<0.001)」避けるべき表現:「治療前後で有意差があったため、治療効果が証明された」理由:統計学的有意差と臨床的重要性は別物【臨床的意義の考察ポイント】1.MCID(臨床的に意味のある最小変化量)との比較- EASIのMCIDは一般的に6~7点- 今回の改善幅16.2点はMCIDを大きく上回る2.EASI-50、EASI-75の達成率- 50%以上改善した患者の割合を計算- 他の研究との比較が可能3.効果サイズ(d=1.73)の解釈- 非常に大きな効果- 単群研究でもこの効果サイズは臨床的に重要論文記載での活用この例でとくに役立つのは、具体的な文例を提示してくれる点です。統計の専門用語を適切に使いながら、医学論文として自然な表現で記載する方法がわかります。また、「避けるべき表現」も示してくれるので、よくある誤りを防ぐことができます。グラフの種類についても、単に「箱ひげ図がいい」と言うだけでなく、「個別症例の変化を線で結ぶ」という具体的な提案があるため、実際に作図する際のイメージが湧きやすくなります。ChatGPTに「させてはいけないこと」ここまで、ChatGPTの有効な活用法を見てきましたが、逆に「させてはいけないこと」も明確にしておく必要があります。実際のデータ解析をさせないChatGPTに患者データを入力して、「この30例のデータを解析してください」と依頼することは避けてください。その理由は3つあります。1)個人情報保護の問題です。たとえ氏名を伏せても、年齢、性別、検査値などの組み合わせで個人が特定される可能性があります。2)計算の正確性が保証されません。ChatGPTは統計ソフトではなく、計算ミスのリスクがあります。3)再現性の担保が困難です。同じデータで同じ質問をしても、異なる結果が返ってくる可能性があります。統計ソフトの代わりにしないChatGPTはあくまで「アドバイザー」であり、実際の計算は必ずR、SPSS、JMP、Excelなどの統計ソフトで行ってください。「どの統計手法を使うべきか」はChatGPTに相談し、「実際の計算」は統計ソフトで行う、という役割分担が重要です。p-hackingの相談をしない「有意差が出る方法を教えて」「p値を0.05未満にする方法は?」といった質問は、研究不正につながります。統計手法は研究デザインの段階で決めるべきであり、結果を見てから手法を変えることは許されません。統計相談の5つのルールChatGPTを統計相談で活用する際は、以下の5つのルールを守ってください。ルール1:実データは入力しない患者の個人情報保護のため、実際のデータは入力せず、サマリー統計(平均値、標準偏差など)や仮想データのみを使用してください。ルール2:提案は必ず検証するChatGPTの提案内容は、必ず統計の教科書や専門家に確認してください。複数の情報源でクロスチェックすることが重要です。ルール3:計算は専用ソフトでChatGPTは方針決定まで。実際の解析は必ず統計ソフトで行ってください。ルール4:研究デザインは早めに相談データ収集前の研究デザイン段階で相談するのが最も効果的です。後から修正するのは困難です。ルール5:限界を明記するサンプルサイズの制約、研究デザインの限界、AIで相談したことなどは、研究ノートに記録しておきましょう。Take-Home Message今回ご紹介した統計相談でのChatGPT活用法は、統計が苦手な臨床医にとって心強い味方となるはずです。しかし、重要なのは「使い方を間違えない」ことです。ChatGPTを統計の家庭教師として活用する3原則を、もう一度確認しておきましょう。原則1:相談相手として使う計算機ではなく、考え方を学ぶツールとして使いましょう。「どんな統計手法が適切か」の方針決定に活用してください。原則2:研究の早い段階からデータ収集前の研究デザイン相談が最も効果的です。後からの修正は困難ですから、計画段階でしっかり相談しましょう。原則3:必ず専門家の確認を統計の専門書で裏付けを取り、可能なら生物統計家への相談も検討してください。重要な判断はAIだけに頼らないでください。統計が苦手でも、AIを使えば一歩を踏み出すことができます。統計の専門家に相談する前の「予習」として、ChatGPTで基本的な方向性をつかむことで、より実りある議論が可能になります。研究の質を高めながら、効率的に進めるために、ChatGPTを「あなたの理解度に合わせて解説してくれる優しい統計の先生」として活用してみてください。

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十二指腸診療ガイドライン 2025年版 第2版

十二指腸診療の指標となるガイドラインを4年ぶりに改訂十二指腸診療における本邦初のガイドラインとして作成された初版を4年ぶりに改訂した。腹腔鏡・内視鏡合同手術のCQなどを新たに追加した他、治療手技や薬物療法の進歩に伴い集積された最新のエビデンスを取り入れて、全面的にCQをアップデートしている。十二指腸は希少に属するが、近年の診断モダリティの進歩により、発見される機会の増加が予想される。初版に引き続き、専門医のみならず十二指腸診療に携わるすべての臨床医に対し、広く十二指腸診療の指標を示した。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する十二指腸診療ガイドライン 2025年版 第2版定価3,630円(税込)判型B5判頁数132頁(図数:6枚、カラー図数:7枚)発行2025年9月編集十二指腸診療ガイドライン作成委員会ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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第38回 食卓を支配する「超加工食品」の正体とは? 世界的権威が警告する健康リスクと、今日からできる見分け方

スーパーマーケットやコンビニに並ぶ、色鮮やかで手軽な食品たち。袋を開ければすぐに食べられ、味も見た目にもおいしく、しかも安価だったりします。私たちの生活に欠かせない存在となったこれらの食品ですが、その多くが「超加工食品」と呼ばれるカテゴリーに属することをご存じでしょうか。近年、この超加工食品が私たちの健康に深刻な悪影響を及ぼしているという科学的証拠が次々と明らかになっています。そして今回、医学誌The Lancet誌が、超加工食品に関する大規模な特集シリーズを組み、その健康リスクについて警鐘を鳴らしました1)。本記事では、この最新の論文に基づき、超加工食品とはいったい何なのか、具体的にどのようなリスクがあるのか、そして私たちはどう向き合えばよいのかを考えていきたいと思います。キッチンにはない「謎の成分」が目印? 超加工食品の定義と見分け方まず、私たちが普段口にしている食品は、加工の度合いによって4つのグループに分けられます。これを「Nova分類」と呼びます。 1.未加工・最小限の加工食品 野菜、果物、肉、卵、牛乳など、素材そのものや、乾燥・粉砕・加熱などの単純な加工しかしていないもの 2.加工食材 料理に使う油、バター、砂糖、塩など 3.加工食品 缶詰の野菜、チーズ、焼きたてのパンなど、素材に塩や油を加えて保存性を高めたりおいしくしたりしたもの 4.超加工食品 ここが今回の主役です超加工食品とは、単に加工された食品というわけではありません。最大の特徴は、「家庭のキッチンには通常置いていないような工業的な成分」が含まれていることです。具体的には、カゼイン、乳糖、乳清などの抽出物や、加水分解タンパク質、異性化糖(高果糖コーンシロップ)、硬化油などが挙げられます。さらに、風味を良くしたり、見た目を整えたりするための「化粧品のような添加物」、たとえば香料、着色料、乳化剤、甘味料、増粘剤などがふんだんに使われています。身近な例で言えば、炭酸飲料、スナック菓子、大量生産された袋入りのパン、チキンナゲットなどの再構成肉製品、インスタントスープ、そして「ヘルシー」をうたうダイエットシェイクや一部の植物性代替肉なども、実は多くがこのカテゴリーに含まれます。「ヘルシー」な「超加工食品」がこの世の中にはたくさん存在するのです。しかし、実際には見分け方はシンプルです。パッケージの表側に騙されてはいけません。見分けるには、パッケージの裏側にある原材料名を見る必要があります。もしそこに、あなたの家のキッチンにない、見慣れない名前(たとえば「○○抽出物」「○○色素」「乳化剤」「スクラロース」など)が並んでいたら、それは超加工食品である可能性が高いと言えます。なぜ「超加工」されると体に悪いのか? 栄養バランスだけではない複合的なリスクそれでも、「カロリーや栄養バランスに気をつければ、加工食品でも問題ないのでは?」と思うかもしれません。しかし、今回の論文は、問題がそれほど単純ではないことを指摘しています。第一に、栄養の質が劇的に低下します。超加工食品の割合が増える食事は、糖分、脂肪、塩分が高くなりやすく、逆に健康維持に不可欠な食物繊維、タンパク質、ビタミン、ミネラルが不足する傾向があります。第二に、「食べ過ぎ」を引き起こす構造になっています。超加工食品は、企業が利益を最大化するために、消費者が「もっと食べたい」と感じるように設計されています。柔らかくて噛む必要があまりない、心地よい食感、絶妙に調整された味と香りなど、私たちの満腹中枢を麻痺させるのです。実際、米国国立衛生研究所(NIH)が行った実験では、栄養価をそろえた食事であっても、超加工食品中心の食事をしたグループは、そうでない食事をしたグループに比べて、1日当たり約500kcalも多く摂取し、体重が増加したというデータがあります。第三に、食品添加物や汚染物質のリスクです。パッケージから溶け出す化学物質や、加工過程で生成される有害物質、そして乳化剤や人工甘味料などが腸内環境(マイクロバイオーム)を乱し、体に炎症を引き起こす可能性が指摘されています。つまり、超加工食品は、単に栄養が偏っているだけでなく、物理的な構造や化学的な組成そのものが、私たちの体のシステムを狂わせる可能性があるのです。がん、心臓病、うつ病まで… データが示す深刻な健康リスクでは、実際に超加工食品を食べ続けると、どのような病気のリスクが上がるのでしょうか。論文では、世界中の100以上の長期的な追跡調査の結果を統合し、解析しています。その結果、超加工食品の摂取量が多いグループは、少ないグループに比べて、以下のような病気のリスクが統計的に有意に高くなることが明らかになりました。 肥満・過体重:リスクが21%増加 2型糖尿病:リスクが25%増加 心血管疾患(心臓病や脳卒中など)による死亡:リスクが18%増加 うつ病:リスクが23%増加 クローン病:リスクが90%増加 全死亡リスク(あらゆる原因による死亡):リスクが18%増加 とくに注目すべきは、これらのリスク上昇の度合いが、健康に良いとされる「地中海食」がもたらす病気予防効果と、ほぼ同程度のインパクト(ただし逆方向、つまり悪影響として)を持っているという点です。つまり、超加工食品を食べることは、健康的な食事のメリットを相殺し、さらにマイナスに突き落とすほどの力を持っていると言えます。ただし、すべての超加工食品が同じように悪いわけではないでしょう。たとえば、全粒粉を使った大量生産のパンやヨーグルトなどは、清涼飲料水や加工肉に比べればリスクが低い可能性があります。しかし、全体として見れば、加工されていない食品(普通のヨーグルトや手作りの肉料理)の方が、超加工されたバージョン(甘味や香料入りのヨーグルトやソーセージ)よりも健康的であるという大原則は変わりません。私たちはどうすればいいのか?この論文の結論として、超加工食品の蔓延は、世界的な慢性疾患の増加の「主要な推進要因」であると断定されています。イギリスやアメリカでは、すでにカロリー摂取量の半分以上が超加工食品で占められています。日本や韓国などのアジア諸国はまだそこまで高くはありませんが、その消費量は年々増加傾向にあります。私たち消費者ができることは、まず「知ること」です。買い物の際、時々パッケージの裏を見て、なじみのない添加物が入っていないか確認することが第一歩です。そして、無理のない範囲で「素材」に近い食品を選び、自宅で調理する頻度を増やすことが、最善の防衛策といえます。もちろん、忙しい現代社会において、超加工食品を完全にゼロにすることは現実的ではないでしょう。しかし、「便利さ」の裏側に、私たちの健康を蝕むリスクが潜んでいることを理解し、日々の選択を少しずつ変えていくことが、自分や家族の未来を守ることにつながるのではないでしょうか。 参考文献・参考サイト 1) Monteiro CA, et al. Ultra-processed foods and human health: the main thesis and the evidence. The Lancet. 2025 Nov 18. [Epub ahead of print]

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糖尿病、非肥満者は発症前に体重減少の傾向

 東アジア人は白人よりも低い体重で糖尿病を発症することが知られており、その背景には異なる発症メカニズムが存在する可能性がある。日本人の健康診断データを用いた後ろ向き観察縦断コホート研究により、非肥満者では糖尿病発症前に体重減少が先行する一方、肥満者では糖尿病発症前に体重増加がみられることが明らかになった。富山大学・四方 雅隆氏らによるこの研究成果は、Endocrine Journal誌オンライン版2025年9月25日号に発表された。 この研究は、日本人9,260例の健康診断データを用いた後ろ向き観察縦断コホート研究として実施された。対象者の61.4%が男性で、観察期間中に259例が糖尿病を発症した。観察期間開始から3年以内に糖尿病を発症した者は除外した。参加者を肥満群(BMI 25 kg/m2以上)と非肥満群(BMI 25kg/m2未満)の2つのサブタイプに分類し、糖尿病発症に至るまでの体重変化のパターンを評価した。 主な結果は以下のとおり。・肥満群では糖尿病発症前にBMIが増加し、その後減少するパターンが観察された。一方、非肥満群では糖尿病発症前にBMIが減少し、その後安定するという対照的なパターンが示された。・非肥満群では糖尿病発症前に年間BMI変化が-0.15kg/m2以下(体重減少)を示す参加者が、+0.15kg/m2以上(体重増加)を示す参加者よりも有意に多かった(p=0.003)。これらの結果は、非肥満群では体重減少が糖尿病発症に先行することを示している。 研究者らは、「非肥満でありながら血糖値が上昇している人(ただし、糖尿病の診断基準は満たさない)は、糖尿病発症の高リスク群として考慮すべきだ。従来、体重増加が糖尿病リスクとして注目されてきたが、この研究結果は、非肥満者においては体重減少が糖尿病発症の前兆となる可能性を示唆している。これらのハイリスク層を早期に特定し、体重減少に焦点を当てない生活指導を提供することが糖尿病発症予防において重要だ。この知見は、とくに東アジア人における糖尿病の予防戦略に新たな視点をもたらすものである」としている。

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乳がん化学療法中の頭皮冷却で発毛が回復しにくい患者の因子は?

 頭皮冷却は化学療法誘発性脱毛症(CIA)を軽減する効果的な介入として注目されており、脱毛抑制に加えて治療後の発毛促進も期待されている。しかし、一部の患者では頭皮冷却を実施しても持続性化学療法誘発性脱毛症(pCIA)が生じることがある。今回、韓国・成均館大学校のHaseen Lee氏らは、乳がん患者を対象に、頭皮冷却を実施してもpCIAが生じる患者の臨床的・遺伝的因子を解析し、NPJ Breast Cancer誌2025年11月12日号で報告した。 研究グループは、韓国・ソウルのサムスンメディカルセンターで、アントラサイクリン系および/またはタキサン系抗がん剤による化学療法と頭皮冷却を併用したStageI~IIIの乳がん女性123例を解析した。主要評価項目はpCIAで、化学療法6ヵ月後に発毛が認められない、または不完全と定義した。 主な結果は以下のとおり。・化学療法中に頭皮冷却を受けた患者123例(平均年齢45.6歳)が解析に含まれた。主な化学療法はTAC療法(40例)およびTCHP療法(34例)であった。・化学療法中、患者の58.5%がベースライン時の毛髪の太さの75%以上を維持し、CIAを発症しなかった。・アントラサイクリン系レジメンは、非アントラサイクリン系レジメンよりもCIAの発症率が高かった。・化学療法の6ヵ月後に15例(12%)がpCIAを発症した。・内分泌療法を受けなかった患者と比較した結果、タモキシフェン単独療法はpCIAの独立したリスク因子として特定された(調整オッズ比:11.66、95%信頼区間:1.87~120.20)。・chr20p11(男性型脱毛症遺伝子)およびHLA-DQB1(円形脱毛症遺伝子)の変異はpCIAとの関連性がわずかに認められたが有意ではなかった。・化学療法6ヵ月後、タモキシフェン単独療法群では毛髪の太さはベースライン時より減少したままであったが、タモキシフェン単独療法を除く内分泌療法群では毛髪の太さに有意差を認めなかった。・毛髪密度は、内分泌療法群間で有意差を認めなかった。 研究グループは「これらの結果は、タモキシフェンが化学療法後の毛包の回復を損なう可能性があることを示唆しており、頭皮冷却を受けている患者に対する個別カウンセリングと綿密な皮膚科的フォローアップの重要性を強調している」とまとめた。

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子宮体がん再発後も妊孕性温存に挑戦~GL改訂も視野にクラウドファンディング実施/婦人科悪性腫瘍研究機構

 婦人科悪性腫瘍研究機構(JGOG)の子宮体がん委員会副委員長や『子宮体がん治療ガイドライン 2023年版』の作成委員を務める山上 亘氏(慶應義塾大学医学部産婦人科学教室 教授)は、「子宮体/子宮内膜異型増殖症に対する任孕性温存治療後の子宮内再発に対する反復高用量黄体ホルモン療法に関する第II相試験」を継続するため、2025年10月16日よりクラウドファンディングを実施。第一目標金額680万円、第二目標金額980万円を達成し、現在、追加支援を募集している。一刻も早く、妊孕性温存希望者の子宮全摘回避を 『子宮体がん治療ガイドライン 2023年版』第6章のCQ29「妊孕性温存療法施行時に病変遺残がある、あるいは妊孕性温存療法後の子宮内再発に対して、保存的治療は勧められるか?」において、子宮内再発で妊孕性温存を強く希望する患者には、厳重な管理のもとに再度の黄体ホルモン療法(MPA療法)を提案することが示されている(推奨の強さ:2、エビデンスレベル:C)。しかし、本来再発例には子宮全摘出術を勧め、保存的治療を行わないことが推奨されているため、妊孕性温存を強く希望する患者であっても、子宮摘出されている例が全国的に散見されるという。そこで、山上氏らはこの状況を食い止めるため黄体ホルモン療法のエビデンス創出を目指し、再発後の子宮体がん・異型子宮内膜増殖症に対する再度の黄体ホルモン療法の有効性と安全性を検証する多施設前向き臨床試験(JGOG2051/KGOG2031)をスタートさせた。全国81施設および韓国・Korean Gynecologic Oncology Group(KGOG)協力のもと、2024年12月までに国内外から目標症例数115例の集積が完了している。 あとは経過観察、統計解析を残すところまできた本研究だが、ここに来て公的資金による継続的支援が困難となり、試験中止を余儀なくされている状況である。今後、ガイドラインに本試験結果を反映して若年者の子宮全摘出を回避する推奨を創出するためには、試験結果の論文化に向けてデータ解析をする必要があるため、追加の支援募集を始めた。これについて山上氏は、「本研究結果で再度のMPA療法の有効性が認められれば、安心して患者さんに治療選択肢を提案できるようになる。再発後も妊孕性温存を諦めないための新しい治療選択肢を確立していきたい」とし、「皆さまのお力をお借りして、本臨床試験により子宮体がん妊孕性温存療法の限界を見極めていきたい。その成果を患者さんに届け、1人でも多くの妊娠の希望を叶えたいと考える」と思いを述べた。【プロジェクト概要】・目標金額:第一目標680万円、第二目標980万円、現在追加支援募集中・募集期間:12月14日(日)午後11時まで・プロジェクトの目的:再発後の子宮体がん・子宮内膜異型増殖症に対する再度の黄体ホルモン療法の有効性と安全性を検証し、妊孕性温存希望患者への保存的治療を早期に普及させる・寄付金の使徒:データセンター費用、論文化に向けたデータ解析費用、成果発信のための国内外学会発表、論文化費用など

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認知症リスクを低下させるコーヒー、紅茶の摂取量は1日何杯?

 コーヒーと紅茶の摂取量と認知症の長期リスクとの関連性は、これまで十分に解明されていなかった。さらに、これらの関連性における循環炎症バイオマーカーの潜在的な媒介的役割についても、ほとんど研究されていない。中国・浙江大学のMinqing Yan氏らは、コーヒーと紅茶の摂取量と循環炎症バイオマーカーおよび認知症の長期リスクとの関連を明らかにするため、2つの縦断的研究を評価した。European Journal of Epidemiology誌オンライン版2025年10月27日号の報告。 対象は、Health and Retirement Study(HRS、2013~20年、6,001例)およびFramingham Heart Study Offspringコホート(FOS、1998~2018年、2,650例)に参加したベースライン時点で認知症でない人。コーヒーと紅茶の摂取量は、両コホートにおいて半定量的な食物摂取頻度調査票を用いて評価した。認知症の診断は、検証済みのアルゴリズムと臨床審査パネルを用いて確定した。コーヒーと紅茶の摂取量と認知症との関連性を評価するために、Cox比例ハザードモデルを用いた。循環炎症バイオマーカーがこれらの関連性を媒介しているかどうかを検討するため、媒介分析を実施した。 主な内容は以下のとおり。・フォローアップ期間中央値は、HRSで7.0年、FOSで11.1年。認知症を発症した人は、HRSで231例、FOSで204例であった。・コーヒー摂取が1日2杯以上の場合は、1日1杯未満と比較し、認知症リスクの28~37%低下が認められた。【HRS】ハザード比(HR):0.72、95%信頼区間(CI):0.52~0.99、p-trend=0.045【FOS】HR:0.63、95%CI:0.45~0.90、p-trend=0.015・適度な紅茶摂取は、非摂取者と比較して、HRSにおいて認知症リスクの低下と関連していたが、FOSでは有意な関連性は認められなかった。【HRS:1日0~1杯未満】HR:0.65、95%CI:0.48~0.89【HRS:1日1~2杯未満】HR:0.53、95%CI:0.30~0.94・媒介分析の結果、コーヒー摂取量と認知症との関連性は、インターロイキン-10(IL-10、29.30%)、シスタチンC(24.45%)、C-反応性蛋白(CRP、16.54%)、インターロイキン-1受容体拮抗薬(IL-1RA、11.06%)、可溶性腫瘍壊死因子受容体-1(sTNFR-1、10.78%)によって部分的に媒介されていることが示唆された。 著者らは「コーヒーの摂取量が多いほど、認知症リスクの低さに関連しており、この関連性は一連の炎症性バイオマーカーによって部分的に媒介されていると考えられる。適量の紅茶摂取も、認知症のリスク低下と関連している可能性がある。これらの知見を検証するためにも、今後さらに大規模な観察研究および介入研究が求められる」と結論付けている。

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balcinrenone/ダパグリフロジン配合薬、CKD患者のアルブミン尿を減少/Lancet

 疾患進行リスクの高い慢性腎臓病(CKD)患者において、balcinrenone/ダパグリフロジン配合薬はアルブミン尿の減少においてダパグリフロジン単独投与に対する優越性が示され、忍容性は良好で、カリウムへの影響も軽微であり、予期せぬ安全性の懸念は認められなかった。オランダ・フローニンゲン大学のHiddo J. L. Heerspink氏らMIRO-CKD study investigatorsが、北米・南米、アジア、欧州の15ヵ国106施設で実施した第IIb相無作為化二重盲検実薬対照用量設定試験「MIRO-CKD試験」の結果を報告した。新規ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)であるbalcinrenoneは、小規模な臨床試験においてSGLT2阻害薬ダパグリフロジンとの併用によりアルブミン尿を減少させる傾向が示されていた。Lancet誌2025年11月22日号掲載の報告。12週時の尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)の相対変化量を評価 研究グループは、推定糸球体濾過量(eGFR)が25mL/分/1.73m2以上60mL/分/1.73m2未満、尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)が100mg/g超5,000mg/g以下、および血清カリウム値が3.5mmol/L以上5.0mmol/L以下の成人患者を、balcinrenone 15mg/ダパグリフロジン10mg(balcinrenone 15mg併用)群、balcinrenone 40mg/ダパグリフロジン10mg(balcinrenone 40mg併用)群またはプラセボ/ダパグリフロジン10mg(ダパグリフロジン単独)群のいずれかに1対1対1の割合で無作為に割り付けた。 いずれも12週間投与した後、8週間休薬し投与中止後の効果も評価した。 ACE阻害薬またはARBの投与を受けている場合、スクリーニング前の少なくとも4週間、安定用量を投与されている患者は参加可能であった。 有効性の主要エンドポイントは、無作為化され少なくとも1回以上試験薬の投与を受けた患者における、ベースラインから投与12週時までのUACRの相対変化量とした。15mg併用および40mg併用ともダパグリフロジン単独に対して優越性を示す 2024年5月1日~12月18日に、613例がスクリーニングされ、適格基準を満たした324例が無作為化された(balcinrenone 15mg併用群108例、balcinrenone 40mg併用群110例、ダパグリフロジン単独群106例)。患者背景は、平均年齢64.6歳(SD 12.4)、女性110例(34%)、男性214例(66%)、アジア系103例(32%)、黒人またはアフリカ系アメリカ人23例(7%)、白人183例(56%)、平均eGFRは42.2mL/分/1.73m2(SD 10.5)、UACR中央値365mg/g(四分位範囲:157~825)で、56%がSGLT2阻害薬を服用していた。 主要エンドポイントにおいて、balcinrenone 15mg併用およびbalcinrenone 40mg併用のダパグリフロジン単独に対する優越性が認められた。ダパグリフロジン単独群に対する12週時におけるベースラインからのUACRの相対変化量は、balcinrenone 15mg併用群で-22.8%(90%信頼区間[CI]:-33.3~-10.7、p=0.0038)、balcinrenone 40mg併用群で-32.8%(90%CI:-42.0~-22.1、p<0.0001)であった。 高カリウム血症の有害事象は、balcinrenone 15mg併用群で6%(7/108例)、balcinrenone 40mg併用群で7%(8/110例)、ダパグリフロジン単独群で5%(5/106例)に発現した。低血圧および腎イベントの有害事象は少なく、治療群間で類似しており、重篤な事象は認められなかった。死亡が2例報告されたが、いずれも最終投与から28日以上経過後であった。

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GLP-1/GCG作動薬pemvidutide、MASH改善も肝線維化は改善せず/Lancet

 肝線維化ステージF2またはF3の代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)患者において、GLP-1受容体およびグルカゴン受容体のデュアルアゴニストであるpemvidutideは、24週時において肝線維化の悪化を伴わないMASH改善という第1の主要エンドポイントは達成したが、MASH悪化を伴わない肝線維化の改善という第2の主要エンドポイントは達成しなかった。米国・Houston Methodist HospitalのMazen Noureddin氏らが、米国およびオーストラリアの83施設で実施した第IIb相無作為化二重盲検プラセボ対照用量設定試験「IMPACT試験」の結果を報告した。pemvidutideは第I相試験で、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)における肝臓脂肪量および体重への有望な効果が示されていた。Lancet誌オンライン版2025年11月11日号掲載の報告。1.2mg群、1.8mg群、プラセボ群で24週時のMASH改善と肝線維化改善を評価 研究グループは、肝生検にてMASHおよび肝線維化(ステージF2またはF3)が確認され、非アルコール性脂肪性肝疾患活動性スコア(NAS)が4以上、BMI値27以上、MRIによるプロトン密度脂肪分画測定(MRI-PDFF)による評価で肝脂肪化率≧8%、肝硬度測定(LSM)≧8.5kPaの18~75歳の成人を、pemvidutide 1.2mg群、同1.8mg群またはプラセボ群に1対2対2の割合で無作為に割り付け、週1回48週間皮下投与した。 主要エンドポイントは、24週時における肝線維化の悪化を伴わないMASH改善(NASスコアが2以上改善、かつ風船様変性を認めず小葉炎症のスコアが0または1)、ならびに24週時におけるMASH悪化を伴わない肝線維化改善(NASスコアの悪化を伴わない肝線維化ステージ1段階以上の改善)とした。MASH改善率は58%、52%、20%、肝線維化改善率は33%、36%、28% 2023年7月27日~2025年4月29日に1,557例がスクリーニングされ、適格基準を満たした212例が無作為化された(pemvidutide 1.2mg群41例、1.8mg群85例、プラセボ群86例)。 第1の主要エンドポイントである24週時の肝線維化の悪化を伴わないMASH改善を達成した患者の割合は、プラセボ群20%(18/86例)に対し、pemvidutide 1.2mg群58%(24/41例)(群間差:38%、95%信頼区間[CI]:21~56、p<0.0001)、1.8mg群52%(45/85例)(32%、19~46、p<0.0001)であった。 一方、第2の主要エンドポイントである24週時のMASH悪化を伴わない肝線維化改善を達成した患者の割合は、プラセボ群28%(24/86例)に対し、pemvidutide 1.2mg群33%(13/41例)(群間差:5%、95%CI:-13~22、p=0.59)、1.8mg群36%(30/85例)(8%、-6~22、p=0.27)であった。 有害事象は、pemvidutide 1.2mg群で41例中32例(78%)、1.8mg群で85例中69例(81%)、プラセボ群で86例中58例(67%)に報告された。また、有害事象による投与中止はそれぞれ41例中0例、85例中1例(1%)、86例中2例(2%)であり、pemvidutideは良好な忍容性を示した。 なお、これらの結果を受けて、より長期の追加試験が計画されている。

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歯周病は脳にダメージを与え脳卒中のリスクを高める

 歯周病が脳の血管にダメージを与えたり、脳卒中のリスクを高めたりする可能性のあることが、2件の研究で明らかになった。歯周病と虫歯の両方がある場合には、脳卒中のリスクが86%上昇することや、習慣的なケアによってそのリスクを大きく抑制できる可能性があることも報告された。いずれも、米サウスカロライナ大学のSouvik Sen氏らの研究の結果であり、詳細は「Neurology Open Access」に10月22日掲載された。 一つ目の研究は、歯周病のある人とない人の脳画像を比較するというもの。解析対象は、一般住民のアテローム性動脈硬化リスク因子に関する大規模疫学研究「ARIC研究」のサブスタディーとして実施された、口腔状態の詳細な検査も行う「Dental ARIC」の参加者のうち、脳画像データのある1,143人(平均年齢77歳、男性45%)。このうち800人が歯周病ありと判定された。結果に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、人種、喫煙、高血圧、糖尿病など)を調整後、歯周病のある人は脳の白質高信号域(認知機能低下リスクの高さと関連のある部分)の体積が有意に大きく(P=0.012)、その体積と歯周病の重症度との有意な関連も認められた(ρ=0.076、P=0.011)。 二つ目の研究もDental ARICのデータが用いられた。解析対象5,986人(平均年齢63±5.6歳、男性48%)のうち、1,640人は口腔の健康状態が良好、3,151人は歯周病があり、1,195人は歯周病と虫歯が併存していた。そして、それら両者が併存していると、虚血性脳卒中のリスクが86%有意に高く(ハザード比〔HR〕1.86〔95%信頼区間1.32~2.61〕)、主要心血管イベントのリスクも36%有意に高いことが分かった(HR1.36〔同1.10~1.69〕)。また虚血性脳卒中の病型別の検討では、血栓性脳梗塞(HR2.27〔1.22~4.24〕)、および心原性脳塞栓(HR2.58〔1.27~5.26〕)のいずれも、有意なリスク上昇が認められた。 一方、希望につながるデータも示された。歯磨きやデンタルヘルスで日常的な口腔ケアを行い、定期的に歯科へ通院している人は、歯周病が約3割少なく(オッズ比〔OR〕0.71〔0.58~0.86〕)、歯周病と虫歯の併存が約8割少ないという(OR0.19〔0.15~0.25〕)、有意な関連が観察された。 報告された2件の研究結果は、口腔衛生状態が良くないことが脳卒中を引き起こすという直接的な因果関係を証明するものではない。しかし、口腔内の炎症が心臓と脳の健康に悪影響を及ぼす可能性があるとする、近年増加しているエビデンスを裏付けるものと言える。これらのデータを基に研究者らは、「歯と歯茎の健康を維持することが、脳卒中リスクを軽減する簡単な方法の一つになる可能性がある」と述べている。 なお、世界保健機関(WHO)は、世界中で35億人が歯周病や虫歯を有していると報告している。また米国心臓協会(AHA)によると、米国では毎年79万5,000人以上が脳卒中を発症しているという。

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パーキンソン病患者の“よだれ”が示すもの、全身的な神経変性との関連を示唆

 パーキンソン病でよく見られる“よだれ(流涎)”は、単なる口腔のトラブルではないかもしれない。日本の患者を対象とした新たな研究で、重度の流涎がある患者では、運動・非運動症状がより重く、自律神経や認知機能にも異常がみられることが示された。流涎は、全身的な神経変性の進行を映す新たな臨床的サインとなる可能性があるという。研究は順天堂大学医学部脳神経内科の井神枝里子氏、西川典子氏らによるもので、詳細は9月30日付けで「Parkinsonism & Related Disorders」に掲載された。 パーキンソン病は、動作の遅れや震えなどの運動症状に加え、自律神経障害や認知機能低下など多彩な非運動症状を伴う進行性の神経変性疾患である。その中でも流涎(唾液の排出障害)は、生活の質や誤嚥性肺炎リスクに影響するにもかかわらず、軽視されがちで、標準的な評価方法も確立されていない。本研究は、この見過ごされやすい症状の臨床的重要性を明らかにするため、日本のパーキンソン病患者を対象に、流涎の有病率や特徴を調べ、運動・非運動症状との関連を検討することを目的とした。 本横断研究では、2015年11月~2022年8月の間に順天堂大学医学部附属順天堂医院脳神経内科でパーキンソン病と診断された患者811人を初期スクリーニングした。運動症状および非運動症状は、MDS-UPDRSパートI〜IV、MMSE、MoCA-J、FAB、PDSS-2、JESS、およびPDQ-39を用いて評価した。心臓の自律神経機能は、メタヨードベンジルグアニジン(MIBG)心筋シンチグラフィーによる遅延心・縦隔比(H/M比)で評価した。ドパミン作動性神経の機能は、ドパミントランスポーター単光子放射断層撮影(DaT SPECT)を用い、年齢調整済み基準データベースを基にzスコアを算出した。流涎の重症度は、MDS-UPDRSパートIIの項目2で評価した。群間比較には、連続変数に対してt検定、カテゴリ変数に対してカイ二乗検定を用いた。 本研究の最終的な解析対象は513人で、そのうち341人(66.5%)が流涎症を有しており、144人(28.1%)が重度と診断された。流涎はMDS-UPDRSの全領域(パートI〜IV)で有意に高いスコアと関連し、運動症状・非運動症状のいずれも重症であることを示した(P<0.001〜P=0.011)。流涎群ではMMSE(P=0.010)およびFAB(P=0.006)のスコアが低く、より顕著な認知機能障害を認めた。また、PDSS-2スコアおよびPDQ-39総合スコアはいずれも有意に高値であり(ともにP<0.001)、睡眠の質および生活の質(QoL)の低下が示唆された。さらに、MIBG心筋シンチグラフィー(対象は402例)では心・縦隔比(H/M比)の低下がみられ(P=0.047)、心臓自律神経機能障害の進行が示された。加えて、DaT SPECT(対象は431例)では線条体のzスコアが有意に低下しており(P=0.001)、シナプス前ドパミン作動性神経活動の低下を反映していた。 年齢・罹病期間・性別を調整した多変量回帰解析の結果、流涎の重症度は、より重度の運動症状・非運動症状、高いレボドパ換算用量、より強い認知機能障害、日中過眠の増加、より重度の睡眠障害、生活の質の低下、そしてDaT取り込み量のzスコア低下と有意に関連していた。 著者らは、「流涎を伴うパーキンソン病患者は、運動症状・非運動症状がより重く、認知機能や自律神経機能にも影響がみられ、生活の質も低下していた。これらの結果は、流涎が単独の末梢的症状ではなく、パーキンソン病における全身的な病態進行の臨床マーカーとして機能する可能性があるという仮説を支持するものである」と述べている。 なお、本研究は帝人ファーマ株式会社の支援を受けて実施された。

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心不全に伴う体液貯留管理(4):症例2(79歳男性)Dr.わへいのポケットエコーのいろは】第10回

心不全に伴う体液貯留管理(4):症例2(79歳男性)今回は、後縦靭帯骨化症の影響により寝たきりで、足のむくみのある79歳男性を例に、ポケットエコーの有用性を考えていきましょう。足のむくみがある79歳男性【今回の症例】79歳男性主訴足がすれて、むくんでいる現病歴意識疎通は明瞭だが、ベッド上の生活で、ほぼ全介助の状態1日30本喫煙。常に息苦しい感じがある禁煙ができないため、家族はCOPDとしての治療介入に消極的内服薬(服薬管理者:配偶者)プレガバリン75mg 1×、リマプロスト アルファデクス15μg 3×、メコバラミン1.5mg 3×、レボチロキシン62.5μg 1×、酪酸菌製剤錠3T 3×、ロキソプロフェン180mg 3×、ガバペンチン600mg 3×、L-カルボシステイン1,500mg 3×、レバミピド300mg 3×、アンブロキソール45mg 3×、ジメチコン120mg 3×、ラメルテオン8mg 1×、トラゾドン25mg 1×、クロナゼパム0.5mg 1×、スボレキサント15mg 1×併存症後縦靭帯骨化症、甲状腺機能低下症、糖尿病、C型慢性肝炎治療後バイタル体温36.0℃、血圧140/80mmHg、脈拍65回/分 整、SpO2 97%(room air)今回は79歳男性で、意思疎通は明瞭に取れますが、後縦靭帯骨化症の影響でベッド上の寝たきりの生活です。タバコが大好きで1日30本吸っていて「なんか息苦しい感じがある」と本人は言っています。家族は「タバコをやめられないんだったら治療する意味がない」と言い、家族のほうが治療に消極的でした。薬剤を見るとわかるのですが、とくに心不全の指摘はなく、肺気腫の要素があるのかもしれないといったところです。治療経過まず心エコーを見てみましょう。治療介入前の心エコー像1回当てただけでわかりますが、胸水がかなり溜まっていて、下大静脈(IVC)は27mm、呼吸性変動は消失していました。僧帽弁と三尖弁は同時に開いていたため、VMTスコアは2aでした。胸水が溜まっていて、VMTスコアから慢性心不全の非代償寄りで、右心不全の要素が強めと判断しました。そのため、治療はフロセミド20mgから開始しました。治療経過を見ていくと、治療介入から1ヵ月後にはむくみがかなり減っていました。IVCは23mmでしたが呼吸性変動が出てきていました。僧帽弁と三尖弁が開くのはほぼ同時です(図1)。少し改善が観察されているということで、フロセミド20mgはそのまま継続しました。図1 治療開始1ヵ月後のNT-proBNP・症状・VMTスコア画像を拡大する続いて、治療開始2ヵ月後のエコー像を見てみましょう。治療介入後の心エコー像最終的に、NT-proBNP値に著変はなかったですが、心エコー所見は改善しました。三尖弁と僧帽弁の開放はほぼ同時ながらも三尖弁がやや先行するようになり、胸水も初回と比べて著明に減少。VMTスコアは1点、IVCは16mmで呼吸性変動も認められました。フロセミド20mgの介入で2ヵ月後には、このような状況になりました(図2)。図2 治療開始2ヵ月後のNT-proBNP・症状・VMTスコア画像を拡大する治療介入2ヵ月後には「先生、すごく調子がいい」「よく寝られる」「タバコがうまいわ」と言っていて、タバコに対する介入はできなかったのですが、心不全を発見してQOLの向上に寄与することができたケースでした。まとめ4回にわたって、心不全に伴う体液貯留管理へのポケットエコーの応用を紹介しました。そのなかで、心不全の治療介入の判断にVMTスコアが非常に有用であることが、理解いただけたのではないでしょうか。VMTスコアは繰り返して用いることで、診断だけではなく治療効果の判定にも使えます。そして、エコーは我々だけではなく、患者やその家族も絵として見ることができます。たとえば「胸水がこんなに減っている」「心臓の動きが良くなっている」という画像を共有することで、家族も「先生のおかげで、本人も楽になっているようだ」と治療効果を視覚的に実感し、より協力的になっていただけるという利点もあります。

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